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特表2022-529652MEMSベースの光偏向デバイスおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-23
(54)【発明の名称】MEMSベースの光偏向デバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/00 20060101AFI20220616BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
H02N1/00
G02B26/10 104
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021561794
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(85)【翻訳文提出日】2021-11-22
(86)【国際出願番号】 IL2020050443
(87)【国際公開番号】W WO2020212984
(87)【国際公開日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】266127
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518068844
【氏名又は名称】アイウェイ ビジョン リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EyeWay Vision Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】エフラティ,シュロミ
(72)【発明者】
【氏名】ブロンフマン,アルカディ
(72)【発明者】
【氏名】コフマン,セミオン
(72)【発明者】
【氏名】マルジエ,ファレス
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン,ヤロン
(72)【発明者】
【氏名】グリーンバーグ,ボリス
【テーマコード(参考)】
2H045
【Fターム(参考)】
2H045AB24
2H045AB26
2H045AB44
2H045BA12
(57)【要約】
アクチュエータユニットは、各々がステータとロータを備え、前記ステータとロータの間の電位に応じてペイロードの位置を定義するように構成されている1つ以上のMEMSアクチュエータを備える。前記ペイロードの位置を選択的に変化させるために、前記1つ以上のMEMSアクチュエータに電気制御信号を提供するように構成された1つ以上の増幅器を備える電気回路と、を備える。前記電気回路は、交番キャリア信号を提供し、前記キャリア信号を監視して、前記1つ以上のMEMSアクチュエータのステータに対するロータの位置を示す前記1つ以上のMEMSアクチュエータのインピーダンスに関するデータを生成するように構成された検知回路を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がステータとロータを備え、前記ステータとロータの間の電位に応じてペイロードの位置を定義するように構成されている1つ以上のMEMSアクチュエータを含むMEMSベースのアクチュエータユニットと、前記ペイロードの位置を選択的に変化させるために、前記1つ以上のMEMSアクチュエータに電気制御信号を提供するように構成された1つ以上の増幅器を備える電気回路と、を備え、前記電気回路は、交番キャリア信号を供給し、前記キャリア信号を監視して、前記1つ以上のMEMSアクチュエータのステータに対するロータの位置を示す、前記1つ以上のMEMSアクチュエータのインピーダンスに関するデータを生成するように構成された検知回路を備える、システム。
【請求項2】
前記電気回路は、少なくとも1つの制御信号を前記1つ以上のMEMSアクチュエータに提供して、前記1つ以上のMEMSアクチュエータの位置を選択的に変化させように構成されたドライバユニットをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記交番キャリア信号は、前記制御信号の最大帯域幅の周波数よりも高い周波数を選択して交番させる、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記ドライバユニットは、前記制御信号の電圧を数KHzまでの速度で変化させるように構成される、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記ドライバユニットは、選択されたペイロードを搬送する際に、前記MEMSベースのアクチュエータユニットの共振周波数を超える速度で前記制御信号の電圧を変化させるように構成される、請求項2~4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記交番キャリア信号は、100KHz~100MHzの範囲の周波数を有する交番信号である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記交番キャリア信号は、正弦波信号である、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記交番キャリア信号は、矩形交番パルス列である、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記電気回路は、少なくとも1つの電圧接続および少なくとも1つの接地接続によって前記1つ以上のMEMSアクチュエータに接続されてもよく、前記電気回路は、前記少なくとも1つの電圧接続を通じて制御信号を提供し、前記少なくとも1つの接地接続を通じて前記交番キャリア信号を提供するように構成される、請求項1~8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記1つ以上のMEMSアクチュエータの前記インピーダンスは、前記1つ以上のMEMSアクチュエータの前記ロータおよびステータの相対的な位置によって決定される、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記1つ以上のMEMSアクチュエータは、ステータとロータの間の相対的な位置関係の変化に伴って前記ステータとロータの間の重複面積を変化させるように配置された櫛形構成を有する前記ステータとロータで構成されている、請求項1~10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
少なくとも1つのプロセッサユニットとメモリユーティリティを含む制御ユニットをさらに備え、前記メモリユーティリティには、所与の電圧プロファイルに応答する前記1つ以上のMEMSアクチュエータの推定応答を示すアクチュエータ応答モデルがプリロードされており、前記少なくとも1つのプロセッサユニットが、前記電気回路から前記1つ以上のMEMSアクチュエータのインピーダンスを示す入力データを受信し、前記1つ以上のMEMSアクチュエータの所望の位置を提供するための制御信号のデータを生成するために、前記アクチュエータ応答モデルに従って前記入力データを処理するように構成されている、請求項1から11のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記制御ユニットは、前記少なくとも1つのプロセッサユニットによって実装されたときに、前記少なくとも1つのプロセッサユニットに、前記1つ以上のMEMSアクチュエータに搭載されたペイロードの位置を予測するための1つ以上の技術を利用させるコードを含む前記メモリユーティリティに予め記憶された操作命令を含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記キャリア信号は、前記MEMSベースのアクチュエータユニットおよび対応するペイロードの第1の共振周波数を超える更新周波数で、前記1つ以上のMEMSアクチュエータの制御位置を提供する、請求項1~13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記1つ以上のMEMSアクチュエータは、光偏向面で形成された共通のペイロードに接続されており、前記1つ以上のMEMSアクチュエータの位置が変動すると、前記光偏向面の向きが変化して、そこに入射する光を選択された所望の位置に導く、光偏向システムとして構成された請求項1~14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
光偏向面を搬送し、印加される電圧に応じて前記光偏向面の向きを変化させるとともに、第1の電気接続部を介して第1の特性周波数範囲を有する制御信号を、そして、第2の電気接続部を介して第2の特性周波数範囲を有するキャリア信号を、前記少なくとも1つの櫛形MEMSアクチュエータに供給するように構成された電気回路と、前記キャリア信号に影響を与える前記第2の特性周波数に対する前記少なくとも1つのMEMSアクチュエータのインピーダンスを示す検知データを決定することによって、前記少なくとも1つのMEMSアクチュエータの向きを監視するように構成された少なくとも1つの櫛形MEMSアクチュエータを備え、前記第2の特性周波数範囲は、前記第1の特性周波数範囲よりも高い、光偏向システム。
【請求項17】
前記光偏向面に接続され、第1および第2の制御電圧信号にそれぞれ応じて前記光偏向面の向きを変化させるように構成された、少なくとも第1および第2の櫛形MEMSアクチュエータを備える、請求項16に記載の光偏向システム。
【請求項18】
少なくとも1つの処理ユーティリティとメモリユーティリティを含む制御ユニットをさらに備え、前記メモリユーティリティは、前記少なくとも1つのMEMSアクチュエータに提供される制御電圧プロファイルに応じた1つ以上のMEMSアクチュエータの推定応答に関する予め記憶されたモデルデータを担持し、前記処理ユーティリティは、前記少なくとも1つのMEMSアクチュエータの向きを決定するために検知データと前記予め記憶されたモデルデータを利用するように構成されている、請求項16から17のいずれか1項に記載の光偏向システム。
【請求項19】
前記少なくとも1つの処理ユーティリティは、前記光偏向面の向きを周期的に決定するために、前記予め記憶されたモデルデータに従って、前記検知データのカルマンフィルタリングを利用する、請求項18に記載の光偏向システム。
【請求項20】
前記少なくとも1つのMEMSアクチュエータは、ステータコームとロータコームを備え、前記ステータコームに対する前記ロータコームの向きを変化させるときに、前記ロータコームとステータコームの有効重複面積を変化させるように構成されている、請求項16~19のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記電気回路は、前記少なくとも1つのMEMSアクチュエータの前記第1の電気接続部を介して前記制御電圧を提供するとともに、前記第2の電気接続部を介してキャリア信号を提供するように構成されたドライバユニットを備える、請求項16~20のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
前記ドライバユニットは、DCから数十kHzの範囲の速度で制御電圧を変化させるように構成されている、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記ドライバユニットは、前記光偏向面を搬送する際に、前記少なくとも1つの櫛型MEMSアクチュエータの第1の共振周波数を超える速度で制御電圧を変化させるように構成されている、請求項21に記載のシステム。
【請求項24】
前記キャリア信号は、100KHz~100MHzの前記範囲の周波数を有する交番信号である、請求項16~23のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項25】
前記キャリア信号は、正弦波信号である、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記キャリア信号は、矩形交番パルス列である、請求項24に記載のシステム。
【請求項27】
MEMSベースのアクチュエータユニットの動作を制御する方法であって、入力制御信号に応じた前記アクチュエータユニットの動作を示す予め記憶されたモデルを提供することと、交番キャリア信号を生成し、前記キャリア信号を前記アクチュエータユニットに提供することと、前記アクチュエータユニットから検知データを収集し、前記アクチュエータユニットの1つ以上のアクチュエータのインピーダンスを決定することと、前記アクチュエータユニットの1つ以上のアクチュエータのインピーダンスに関するデータを、前記予め記憶されたモデルとの閉ループフィードバックで使用することと、所望の所与の制御信号に対する前記アクチュエータユニットの予想される応答を決定することと、前記閉ループフィードバックに従って、さらなる制御信号プロファイルを決定することと、さらなる制御信号を前記アクチュエータユニットに提供することと、を含む、方法。
【請求項28】
前記方法が、選択された動作速度でステップを繰り返すことを定義している、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
コンピュータプロセッサによって操作されると、前記プロセッサにMEMSベースのアクチュエータユニットの動作を制御するための方法を実行させる命令を担持するコンピュータコードを含む、非一時的なコンピュータ可読媒体であって、前記方法は、入力制御信号に応じた前記アクチュエータユニットの動作を示す予め記憶されたモデルを提供することと、交番キャリア信号を生成し、前記キャリア信号を前記アクチュエータユニットに提供することと、前記アクチュエータユニットから検知データを収集し、前記アクチュエータユニットの1つ以上のアクチュエータのインピーダンスを決定することと、前記アクチュエータユニットの1つ以上のアクチュエータのインピーダンスに関するデータを、前記予め記憶されたモデルとの閉ループフィードバックで使用し、所望の所与の制御信号に対する前記アクチュエータユニットの予期される応答を決定することと、前記閉ループフィードバックに従って、さらなる制御信号プロファイルを決定することと、さらなるステップ制御信号をアクチュエータユニットに提供することと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速で動作するMEMSベースのシステムの制御に関し、特にMEMSベースの光偏向システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファストステアリングミラー(FSM)は、光スイッチ、レーザ系投影システム、ビームの位置決め、トラッキングなど、さまざまな光学用途に使用されている。一般的にFSMユニットは、ねじれ屈曲部に取り付けられたミラーをベースにしており、ミラーの向きを変えたり、光の偏向方向を選択したりできるように構成されている。向きを選択的に変動させるねじれ屈曲部の作動は、マクロスケールのFSMでは電磁式、またはマイクロスケールユニットのマイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)では静電式が一般的である。
【0003】
FSMユニットの動作は、閉ループまたは開ループでよく、ミラーの位置/向きの制御には、時に非線形計算が必要になることがある。これは、ミラーの慣性で相殺される、ねじりばねの役割を果たすことが多いねじれ屈曲部と、ミラーに作用する作動トルクによるものである。その結果、弱く減衰した極と特定の共振周波数を持つ2次システムダイナミクスが発生する。
【0004】
FSMの共振ダイナミクスは、スキャン用途に利用されることもある。このような構成では、FSMは、エネルギーを低減してスキャンを行う場合と等しいスキャンおよび共振周波数を提供するように構成してもよい。しかし、両スキャン用途、具体的には、位置決めやトラッキング用途では、共振周波数がFSMの制御や動作に帯域制限をかけてしまう。
【発明の概要】
【0005】
当技術分野では、スキャンの位置に対する高い制御性を提供しながら高速スキャン動作を可能にする技術およびそれに対応するシステムが必要とされている。本発明は、作動デバイスとそれに対応するペイロード(ミラー素子など)の位置や向きを正確かつ直接的に測定することで、作動デバイスの共振周波数を超える高速でのスキャンを可能にするシステムを提供するものである。
【0006】
より具体的には、本技術は、1つ以上のアクチュエータを備え、ペイロードを搬送するように構成されたアクチュエータユニットを備えるシステムを提供するものである。アクチュエータユニットは、電気回路から供給される電気信号に応じて、ペイロードの位置または向きを決めるために動作する。言い換えれば、電気回路は、ペイロードの位置または向きを選択的に変化させるために、アクチュエータに電気制御信号を提供するように構成されている。本技術によれば、電気回路はさらに、アクチュエータの位置を直接監視できるキャリア信号を提供するように構成されている。そのために、電気回路は、キャリア信号を提供し、キャリア信号をアクチュエータに送信し、前記キャリア信号を監視して、1つ以上のアクチュエータの相対的な位置を示す検知データを生成するように適合された検知回路を備える。アクチュエータの位置を直接監視することで、システムが、選択した時間枠でのペイロードの位置や向きを正確に把握し、直接的な閉ループ制御方式で動作させることができ、動作速度の向上を実現している。キャリア信号は、一般的に、最大制御帯域幅の周波数よりも高い周波数を持つCW(定波)高周波信号(正弦波や矩形波信号など)である。より具体的には、キャリア信号は、制御信号の更新周波数よりも高い、すなわち最大帯域幅対応周波数よりも高い一定の周波数(定波)を持つ交互の正弦波信号で形成されていてもよい。このようなキャリア信号は、例えば、100kHzから数MHzの範囲の周波数を持ち、一方で、制御信号はDC(直流)から10KHzまでの帯域幅を持つことができる。
【0007】
一般的に、本発明の技術は、各々がステータとロータを有する1つ以上のMEMSアクチュエータを利用することができ、ステータに対するロータの相対的な位置は、それらの間の静電ポテンシャルによって決定される。さらに、いくつかの構成では、本技術は、ロータとステータに関連付けられた電極間の重複面積が、相対的な位置の変化に応じて線形に変化するような、櫛形構造を有するMEMSアクチュエータを利用する。これらの重複面積の変化により、前記1つ以上のMEMSアクチュエータのインピーダンスを測定し、ステータに対するロータの位置に関する指標を示すことができる。
【0008】
一般的に、本技術によれば、アクチュエータユニットは、1つ以上の自由度でペイロードの位置または向きを制御するように構成されていてもよい。いくつかの例では、アクチュエータユニットは、1つまたは2つの軸に沿ってペイロードの角度の向きを制御するように構成されている。異なる自由度を切り離して独立して制御するように構成することも可能であり、例えば、x軸およびy軸に沿った角度の向きなどが考えられるが、本技術は単一の自由度に関して、すなわち1次元制御を提供すると、本明細書に記載されている。本明細書に記載されているように、2つ以上のアクチュエータユニットを様々に組み合わせて使用して、2つ以上の自由度を制御することができることは、(機械構造物および設計の)当業者にとっては周知の技術であろう。なお、さらに、自由度間の結合を提供する中間的な組み合わせも、様々な構成で使用することができる。
【0009】
電気回路には、通常、アクチュエータに電気信号を供給するように構成された1つ以上のアンプユニットが含まれている。静電制御されたMEMSアクチュエータの例では、電気制御信号の電圧変動により、1つ以上のアクチュエータの位置または向きが決定される。また、電気回路は、制御信号のデータを1つ以上のアクチュエータに選択的に提供するように構成されたドライバユニットを利用してもよい。ドライバユニットは、一般的に、電気回路の1つ以上の増幅器を制御して、選択された電圧プロファイルを提供し、それに提供されるデータに従って、アクチュエータの位置を決定することによって、所望のペイロード位置を決定する。制御信号の更新周波数は、アクチュエータユニットおよびアクチュエータユニットの動作に関連付けられたシステムの動作速度を規定する。本技術によれば、キャリア信号は、制御帯域幅の周波数よりも大きい周波数である。例えば、上述したように、キャリア信号は、100kHzから数MHzの範囲の周波数を有する正弦波または矩形波の信号であってもよく、制御信号を用いてアクチュエータユニットおよびその負荷を作動させるための周波数帯域幅は、実質的にDC(すなわち、実質的な期間、制御信号の更新がない)から数kHzの範囲であってもよい。なお、本技術により、アクチュエータユニットとペイロードで定義される機械システムの共振周波数よりも高い制御帯域幅の周波数を使用することができるので、アクチュエータシステムの動作帯域幅を向上させることができる。一般的に、機械的な共振周波数以上の動作では、フィードバックセンサに低ノイズが求められる。このように、本技術では、ペイロードの位置を直接測定することで、閉ループ動作での効果的なフィードバックを可能にしている。
【0010】
このように、本技術のいくつかの実施形態によるフィードバックループベースの制御により、一般的に、システムの共振周波数よりも大きい制御帯域幅周波数の使用ができ、それにより、制御信号の変動に対するシステムの挙動の予測ができる、改善された制御が可能になる。
【0011】
この目的のために、本技術は、任意の選択された時間におけるペイロードの位置または向きの正確な測定を提供する。これは、キャリア信号を使用して、アクチュエータのインピーダンス(すなわち、ロータとステータの間)を測定することによって行われる。ペイロードの位置に関するデータにより、ペイロードの制御を改善でき、その結果、ドライバユニットは、アクチュエータユニット(すなわち、機械的な振動システムとしてのアクチュエータ(複数可)およびペイロード)の共振周波数を超える速度で制御信号の更新ができる。
【0012】
一般的に、本技術は、ロータとステータの間に相対的な重複があり、静電制御を利用するあらゆるアクチュエータ、好ましくは櫛形MEMSアクチュエータに実装することができ、追加の接続を必要としない。より具体的には、制御信号とキャリア信号は、共通の電気接続を介して、同様の方向(キャリア信号が、共通の接続、すなわち電源/電圧接続を介して制御信号上に乗る)、または逆方向(キャリア信号が、接地接続で入力され、入力された電源/電圧接続からフィルタリングして読み出される)で、アクチュエータに送られてもよい。具体的には、ステータポートとロータポートを持つアクチュエータユニットの場合、これらの電気ポートを制御信号の電源/電圧およびグランドポートとして使用してもよい。一方、キャリア信号は、電源/電圧や接地接続を介して提供される追加の交番信号を提供してもよい。
【0013】
高速スキャンミラーなどの高速スキャンシステムや他のスキャンシステムは、通常、スキャン特性を選択し、ペイロード(ミラーなど)の位置を他のシステムに伝達して選択したタスクを実行するように構成された、関連付けられた制御ユニットとともに使用される。このため、制御ユニットは、一般的に少なくとも1つのプロセッサとメモリユーティリティを含むコンピュータシステムであってもよいし、そのコンピュータシステムを含んでいてもよい。本技術では、検知回路が提供するペイロードの現在の位置を示す検知データを利用してスキャン特性を判定し、所望のペイロードパスを提供する信号プロファイルをより正確に推定する。このため、制御ユニットは、例えばメモリユーティリティに予め記憶された、アクチュエータの位置モデルに関するデータを含んでもよい。このようなデータには、制御信号の所与のプロファイルに基づいて、1つ以上のアクチュエータの推定位置を提供するモデルを含んでもよい。少なくとも1つのプロセッサは、電気回路からの検知データを含む入力データに応答し、制御信号プロファイルを最適化するために検知データを使用するように構成されている。より具体的には、処理することは、受信した検知データに基づいてペイロードの現在の位置を決定することと、ペイロードを次の所望の位置に導くための制御信号プロファイルを決定するために予め記憶されたモデルを使用することと、選択された制御プロファイルを提供するためにドライバユニットにコマンドを生成することと、必要に応じて制御信号プロファイルを更新するために経路に沿ってペイロードの軌跡を監視することと、を含んでもよい。制御ユニットは、選択された制御信号プロファイルを生成するために、1つ以上の最適化および予測技術(例えば、カルマンフィルタ)を利用してもよい。また、制御ユニットは、異なる制御信号プロファイルに対するアクチュエータの応答の変動に従って、予め記憶されたモデルを定期的に更新してもよい。
【0014】
いくつかの構成によれば、本明細書に記載されたシステムおよび技術は、光偏向システムの制御に使用することができる。より具体的にいくつかの構成では、上述のように、ペイロードは、1つ以上の選択された波長範囲の光を反射するように構成された光反射ミラーであってもよく、光反射ミラーの向きは、照明または光収集の所望のパターンを提供するように選択される。例えば、本明細書に記載されているシステムは、スキャン型レーザ投影システムの光コンポーネントを導くためのラスタとして使用してもよい。
【0015】
したがって、1つの広範な態様によれば、本発明は、各々がステータとロータを備え、前記ステータとロータの間の電位に応じてペイロードの位置を定義するように構成されている1つ以上のMEMSアクチュエータを含むMEMSベースのアクチュエータユニットと、前記ペイロードの位置を選択的に変化させるために、前記1つ以上のMEMSアクチュエータに電気制御信号を提供するように構成された1つ以上の増幅器を備える電気回路と、を含み、前記電気回路は、交番キャリア信号を供給し、前記キャリア信号を監視して、前記1つ以上のMEMSアクチュエータのステータに対するロータの位置を示す、前記1つ以上のMEMSアクチュエータのインピーダンスに関するデータを生成するように構成された検知回路を備えるシステムを提供する。
【0016】
電気回路は、少なくとも1つの制御信号を前記1つ以上のMEMSアクチュエータに提供して、前記1つ以上のMEMSアクチュエータの位置を選択的に変化させように構成された少なくとも1つのドライバユニットをさらに備えてもよい。
【0017】
交番キャリア信号は、制御信号の最大帯域幅の周波数よりも高い周波数を選択して交番させてもよい。ドライバユニットは、前記制御信号の電圧を数KHzまでの速度で変化させるように構成されていてもよい。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、ドライバユニットは、選択されたペイロードを搬送する際に、前記MEMSベースのアクチュエータユニットの共振周波数を超える速度で前記制御信号の電圧を変化させるように構成されている。
【0019】
いくつかの実施形態によると、交番キャリア信号は、10KHz~100MHzの範囲、または好ましくは100KHz~100MHzの範囲の周波数で交番する。交番キャリア信号は、正弦波信号や矩形の交番パルス列であってもよい。いくつかの実施形態では、交番キャリア信号は、一般的なパルス構成のパルス列の形態であってもよい。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、電気回路は、少なくとも1つの電圧接続および少なくとも1つの接地接続によって前記1つ以上のMEMSアクチュエータに接続されてもよく、前記電気回路は、前記少なくとも1つの電圧接続を通じて制御信号を提供し、前記少なくとも1つの接地接続を通じて前記交番キャリア信号を提供するように構成される。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、前記1つ以上のMEMSアクチュエータのインピーダンスは、前記1つ以上のMEMSアクチュエータのロータおよびステータの相対的な位置によって決定されてもよい。
【0022】
いくつかの実施形態によれば、1つ以上のMEMSアクチュエータは、ステータとロータの間の相対的な位置関係の変化に伴ってステータとロータの間の重複面積を変化させるように配置された櫛形構成を有するステータとロータで構成されている。
【0023】
いくつかの実施形態によれば、システムは、少なくとも1つのプロセッサユニットとメモリユーティリティを備える制御ユニットをさらに備え、前記メモリユーティリティには、所与の電圧プロファイルに応答する前記1つ以上のMEMSアクチュエータの推定応答を示すアクチュエータ応答モデルがプリロードされており、前記少なくとも1つのプロセッサユニットが、前記電気回路から前記1つ以上のMEMSアクチュエータのインピーダンスを示す入力データを受信し、1つ以上のMEMSアクチュエータの所望の位置を提供するための制御信号のデータを生成するために、前記アクチュエータ応答モデルに従って前記入力データを処理するように構成されている制御ユニットをさらに含んでいてもよい。
【0024】
制御ユニットは、例えばそのメモリユーティリティに予め記憶された操作命令であって、少なくとも1つのプロセッサユニットが実装すると、前記少なくとも1つのプロセッサユニットに、前記1つ以上のMEMSアクチュエータに搭載されたときにペイロードの位置を予測するための1つ以上の技術を利用させるコードを含む操作命令を含んでもよい。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、キャリア信号は、前記MEMSベースのアクチュエータユニットおよび対応するペイロードの第1の共振周波数を超える更新周波数で、前記1つ以上のMEMSアクチュエータの制御位置を提供してもよい。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、システムは、光偏向システムとして構成され、前記1つ以上のMEMSアクチュエータが、光偏向面で形成された共通のペイロードに接続され、1つ以上のMEMSアクチュエータの位置の変動により、前記光偏向面の向きがシフトし、それによってそこに衝突する光を選択された所望の位置に導くようになっている。
【0027】
他の1つの広範な態様によれば、本発明は、光偏向面を有し、印加される電圧に応じて光偏向面の向きを変化させるとともに、第1の電気接続部を介して第1の特性周波数範囲を有する制御信号を、そして、第2の電気接続部を介して第2の特性周波数範囲を有するキャリア信号を、前記少なくとも1つの櫛形MEMSアクチュエータに供給するように構成された電気回路と、前記キャリア信号に影響を与える第2特性周波数に対する少なくとも1つのMEMSアクチュエータのインピーダンスを示す検知データを決定することによって、少なくとも1つのMEMSアクチュエータの向きを監視するように構成された少なくとも1つの櫛形MEMSアクチュエータを備え、前記第2特性周波数範囲は、前記第1特性周波数範囲よりも高い、光偏向システムを提供する。
【0028】
いくつかの実施形態によれば、光偏向システムは、前記光偏向面に接続され、第1および第2の制御電圧信号にそれぞれ応じて前記光偏向面の向きを変化させるように構成された、少なくとも第1および第2の櫛形MEMSアクチュエータを備えていてもよい。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、光偏向システムは、少なくとも1つの処理ユーティリティおよびメモリユーティリティを含む制御ユニットをさらに備え、前記メモリユーティリティは、前記少なくとも1つのMEMSアクチュエータに提供される制御電圧プロファイルに応じた1つ以上のMEMSアクチュエータの推定応答に関する予め記憶されたモデルデータを担持し、前記処理ユーティリティは、少なくとも1つのMEMSアクチュエータの向きを決定するために検知データおよび前記予め記憶されたモデルデータを利用するように構成される。
【0030】
少なくとも1つの処理ユーティリティは、光偏向面の向きを周期的に決定するために、前記予め記憶されたモデルデータに従って、前記検知データのカルマンフィルタリングを利用してもよい。
【0031】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも1つのMEMSアクチュエータは、ステータコームとロータコームを備え、ステータコームに対するロータコームの向きを変化させるときに、前記ロータコームとステータコームの有効重複面積を変化させるように構成されていてもよい。
【0032】
いくつかの実施形態によれば、電気回路は、少なくとも1つのMEMSアクチュエータの第1の電気接続部を介して前記制御電圧を提供するとともに、第2の電気接続部を介してキャリア信号を提供するように構成されたドライバユニットを備えていてもよい。システムドライバユニットは、DCから数十kHzの範囲の速度で制御電圧を変化させるように構成されていてもよい。
【0033】
いくつかの実施形態によれば、ドライバユニットは、前記光偏向面を搬送する際に、前記少なくとも1つの櫛型MEMSアクチュエータの第1の共振周波数を超える速度で制御電圧を変化させるように構成されている。
【0034】
いくつかの実施形態によれば、キャリア信号は、10KHz~100MHzの範囲、好ましくは100KHz~100MHzの範囲の周波数の交番信号である。交番キャリア信号は、正弦波信号や矩形の交番パルス列であってもよい。いくつかの実施形態では、交番キャリア信号は、一般的なパルス構成のパルス列の形態であってもよい。
【0035】
さらに別の広い態様によれば、本発明は、MEMSベースのアクチュエータユニットの動作を制御する方法を提供する。方法は、入力制御信号に応じたアクチュエータユニットの動作を示す予め記憶されたモデルを提供することと、交番キャリア信号を生成し、前記キャリア信号をアクチュエータユニットに提供することと、アクチュエータユニットから検知データを収集し、アクチュエータユニットの1つ以上のアクチュエータのインピーダンスを決定することと、前記予め記憶されたモデルとの閉ループフィードバックにおいて、アクチュエータユニットの1つ以上のアクチュエータのインピーダンスに関するデータを使用し、所望の所与の制御信号に対するアクチュエータユニットの予期される応答を決定することと、前記閉ループフィードバックに従って、さらなる制御信号プロファイルを決定することと、さらなる制御信号をアクチュエータユニットに提供することと、を含む。
【0036】
いくつかの実施形態によれば、この方法は、選択された動作速度でステップを繰り返すよう定義している。
【0037】
さらに別の広い態様によれば、本発明は、コンピュータプロセッサによって操作されると、プロセッサにMEMSベースのアクチュエータユニットの動作を制御するための方法を実行させる命令を担持するコンピュータコードを含むコンピュータ可読媒体(例えば、非一時的なコンピュータ可読媒体)を提供する。前記方法は、入力制御信号に応じたアクチュエータユニットの動作を示す予め記憶されたモデルを提供することと、交番キャリア信号を生成し、前記キャリア信号をアクチュエータユニットに提供することと、アクチュエータユニットから検知データを収集し、アクチュエータユニットの1つ以上のアクチュエータのインピーダンスを決定することと、アクチュエータユニットの1つ以上のアクチュエータのインピーダンスに関するデータを、前記予め記憶されたモデルとの閉ループフィードバックで使用し、所望の所与の制御信号に対するアクチュエータユニットの予期される応答を決定することと、前記閉ループフィードバックに従って、さらなる制御信号プロファイルを決定することと、さらなるステップ制御信号をアクチュエータユニットに提供することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本明細書に開示されている主題をよりよく理解し、それが実際にどのように実施され得るかを例示するために、単なる非限定的な例として、添付の図面を参照して、実施形態を説明する。
【0039】
図1】本発明のいくつかの実施形態による、ペイロードの位置または向きを制御するシステムを模式的に示す図である。
図2】本発明のいくつかの実施形態によるMEMSアクチュエータユニットの構成を例示した図である。
図3図1に例示したMEMSアクチュエータユニットに対する光学機械的な周波数応答を、外部計測と数学モデルを比較して示したボード線図である。
図4】本発明のいくつかの実施形態によるキャリア信号を用いた測定と数学モデルを比較したMEMSアクチュエータユニットのボード線図である。
図5】5Aは、バイアス電圧がMEMSアクチュエータユニットの共振周波数およびばね剛性に及ぼす影響を例示する図である。5Bは、バイアス電圧がMEMSアクチュエータユニットの共振周波数およびばね剛性に及ぼす影響を例示する図である。
図6】本発明のいくつかの実施形態による、アクチュエータユニットの制御手法を例示するフローチャートである。
図7】本発明のいくつかの実施形態による、例えばコンピュータシステムによって形成される制御ユニットを例示する図である。
図8】本発明のいくつかの実施形態による、推定技術を用いた開ループの周波数応答を示すボード線図である。
図9】本発明のいくつかの実施形態による推定技術と比例速度制御を用いた閉制御ループの周波数応答を示すボード線図である。
図10】10Aは、開ループ制御におけるアクチュエータのステップ応答の例を示している。10Bは、閉ループ制御におけるアクチュエータのステップ応答の例を示している。
図11】2次元アクチュエータユニットの電気的等価回路とそれに対応する検知回路の例示的な構成を模式的に示したものである。
図12】12Aは、外部の光学センサを用いて得られた制御電圧入力の関数として、アクチュエータユニットとそのペイロードがX軸およびY軸の周りを機械的に移動する際に測定した角度位置(ΘMech)を示す図である。12Bは、X軸およびY軸まわりの機械的な移動によるアクチュエータユニットとそのペイロードのインピーダンスの変化に関連する検知回路の出力信号(Vcap)の測定値を、キャリア信号を用いて得られた制御電圧入力の関数として示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以上のように、本発明は、1つ以上の作動デバイスの位置と向きに関するデータを、高い速度と精度で提供する新規の技術を提供する。作動ユニットは、一般的に、各々がステータとロータで形成され、それらの間の相対的な位置を変化させることができる1つ以上のアクチュエータで形成されている。アクチュエータは、対応するペイロードに接続されており、1つ以上のビームを使ってアクチュエータに取り付けられている。いくつかの例では、アクチュエータユニットとそのペイロードは、作動デバイスとそれに応じたスキャンプロセスに対する高いリアルタイム制御を維持しながら、高速スキャン動作を行わせる(または、ペイロードの位置が入力関数に基づいて決定されるように、選択的にスキャンする)ように構成されている。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態に従って構成されたシステム100を模式的に示す図1を参照する。システム100は、ペイロード120の位置/向きを担いで制御する第1のアクチュエータ112aおよび第2のアクチュエータ112b(一般的に1つ以上のアクチュエータ)で構成されたアクチュエータユニット110と、電気信号を用いてアクチュエータユニット110の動作を制御するように構成された電気回路130とを含む。また、システム100は、通常、コンピュータシステムとして構成され、例えば、定義された用途を有するより大きなシステムを形成する1つ以上の要素に関連して、アクチュエータユニット110の動作方式を決定するように構成された制御ユニット500を含むか、またはこれと関連付けられていてもよい。
【0042】
図1に示すいくつかの具体例では、第1および第2のアクチュエータ112aおよび112bは、向きを示す矢印122で示される回転軸に関するペイロード120(例えば、ミラー)の向きを変化させるように構成されている。上述したように、この構成は、1つの軸に沿って傾動するように図示されている。なお、本技術は、2次元的な傾きを提供するために用いてもよいし、選択された自由度に従って配置された追加のアクチュエータを用いて一般的な数の自由度を制御するために用いてもよい。さらに、傾動の例では、第1のアクチュエータユニットに対して垂直な位置に別のアクチュエータユニット110を追加することで、2次元の傾動構成を形成することができる。さらに、またはその代わりに、アクチュエータユニットは、傾動動作間の一定の結合を維持しながら、2つの軸に対して傾動する3つ以上のアクチュエータを含んでもよい。
【0043】
アクチュエータユニット110は、例えば、MEMSアクチュエータユニットであってもよく、すなわち、静電作動により動作可能な第1および第2のアクチュエータ112aおよび112bなどの1つ以上のMEMSアクチュエータを含む。しかし、本技術の原理は、この特定の例に限定されるものではなく、任意のタイプのアクチュエータユニットを用いて実装することができることを理解すべきである。本明細書で例示するように、アクチュエータユニット110は、コネクタビーム118aおよび118bを用いて取り付けられたペイロード120の位置または向きを一括して変化させるように構成された、第1のMEMアクチュエータ112aおよび第2のMEMSアクチュエータ112bを含む。本明細書で例示するアクチュエータ112aおよび112bの各々は、ペイロード120の位置を規定するように構成された、例えば電極114a~114dによって形成されるステータと、例えば電極116aおよび116bによって形成されるロータとを含む。より具体的には、アクチュエータ112aおよび112bは、ステータ電極114a~114dとロータ電極116aおよび116bとの間の電位の変動に従って、ロータ電極116aおよび116bの向きを変化させるように構成されている。図1に示すように、アクチュエータ112aは、ロータ電極116aとステータ電極114a~114bに関連付けられている。アクチュエータ112bは、ロータ電極116bとステータ電極114c~114dに関連付けられている。
【0044】
いくつかの好ましい実施形態では、第1のアクチュエータ112aおよび第2のアクチュエータ112bは、櫛状のMEMSアクチュエータとして構成されており、ステータおよびロータがインタディジタル電極として構成され、相対的な向きの変動により、電極間の重複面積が変化し、それにより、交番電流に対するMEMSアクチュエータのインピーダンスに影響を与えるようになっている。このように、MEMSアクチュエータ112aまたは112bのインピーダンスを決定することで、ロータ電極とステータ電極の相対的な向きを決定することができる。
【0045】
電気回路130は、第1のアクチュエータ112aおよび第2のアクチュエータ112bに電圧を供給するように構成されており、電圧を制御して、ペイロード120の位置を選択的に変化させるための制御電圧信号を供給する。これに関連して、電気回路130は、1つ以上の増幅器132と、1つ以上の増幅器132の出力電圧を制御するように構成されたドライバユニット136とを含んでもよい。本発明のいくつかの実施形態によれば、電気回路130は、交番キャリア信号をアクチュエータユニット110に提供するように構成された検知回路135も含んでもよい。キャリア信号は、電圧接続を介して電圧信号の上に交番信号として提供されてもよいし、接地接続Grを介して反対のルートで提供されてもよい。検知回路は、さらに、1つ以上のアクチュエータを通過した後のキャリア信号の出力振幅(および可能な位相遅延)を測定し、1つ以上のアクチュエータ112aおよび112bのインピーダンスを示すデータを決定するように構成される。
【0046】
制御ユニット500は、電気回路130(すなわち、検知回路135およびドライバユニット136)に接続可能であり、ペイロード120の選択された1つ以上の所望の位置/向きに関するデータを送信し、その現在の位置/向きに関するデータを受信するように構成されている。制御ユニット500は、通常、1つ以上のプロセッサで構成された処理ユーティリティ600と、メモリ550とを含むコンピュータシステムとして構成されてもよく、ここでは具体的には図示していない入力/出力通信モジュールを含んでもよい。本技術のいくつかの実施形態によれば、メモリ550は、それに提供される制御信号の電圧プロファイルに応じたアクチュエータの推定位置を示すモデルデータを含む、予め記憶されたデータを有する1つ以上のセクタを含んでもよい。さらに、処理ユーティリティ600は、所望の経路を決定するための1つ以上の処理アクティビティを動作させて、ペイロードをスキャンし、対応するデータをドライバユニット136に提供してもよい。
【0047】
このため、処理ユーティリティ600は、1つ以上のフィードバックループ構成を利用して検知回路135からの入力データを利用して、ペイロード120の位置に対する制御を最適化してもよい。より具体的には、処理ユーティリティ600は、1つ以上のアクチュエータ112aおよび112bのインピーダンスに関するデータを検知回路から受信し、このデータを使用して、ペイロード120の現在の位置/向きに関するデータを決定するように構成される。さらに、処理ユーティリティ600は、制御信号の電圧プロファイルに応じたアクチュエータの推定位置の予め記憶されたモデルに従って、ペイロード120の現在の位置に関するデータを利用してもよい。したがって、処理ユーティリティ600は、ペイロードを所望の位置(関心のある位置)に導くための制御信号プロファイルを最適化するために、1つ以上の予測モデルを利用することができる。
【0048】
本技術のいくつかの構成では、上述したように、アクチュエータユニット110は、2つ以上の櫛形MEMSアクチュエータ112aおよび112bを含んでもよい。そのために、いくつかの実施形態によるアクチュエータ112aおよび112bへの電気接続を例示する図2を参照する。図示するように、アクチュエータ112aおよび112bの各々は、ロータ電極116aおよび116bをそれぞれ含み、ステータ電極114a~114dを含む。この例では、電気信号Vは、ロータ116aが電位VB-Vを備え、ロータ116bが電位VB+Vを備えるように、選択されたバイアス電位Vにわたってロータ電極116aおよび116bに差動的に提供される。制御信号は、制御信号Vによって提供され、ペイロードの向きを選択的に変化させるために使用される。制御信号は、数十KHzまでの更新周波数で更新される。一般的に、2つのアクチュエータ112aおよび112bのステータ電極セットまたはロータ電極セットの少なくとも一方は、共通して接地電位に接続されていてもよい。このような構成では、検知回路を接続して、共通の接地を介してステータまたはロータの電極にキャリア信号を提供し、電圧接続を介してキャリア信号の変動の読み出しを(例えば、フィルタリングおよび復調によって)収集してもよい。なお、キャリア信号は、制御信号の更新周波数よりもはるかに高い周波数(例えば100KHz~100MHzの範囲)を持ち、比較的低い振幅を持つ交番信号(例えば正弦波や矩形波シングル)である。したがって、キャリア信号は、アクチュエータ112aおよび112bの向きを変化させることはない。しかし、キャリア信号の振幅は、アクチュエータ112aおよび112bの向きが変わったときのインピーダンスに影響され、それによって、インピーダンスの監視に使用される検知信号を生成し、アクチュエータの相対的な位置の指標を示す。より具体的には、検知信号の振幅は、アクチュエータ112aおよび112bのインピーダンス変化の影響を受ける。検知の振幅の変化は、アクチュエータの相対的な位置の変動に比例する。
【0049】
検知回路135は、さらに電圧接続部に接続され、検知信号の出力振幅を監視する。例えば、検知回路は、高域通過フィルタ、差動増幅器、復調器、および低域通過フィルタのカスケード配列を利用して、検知信号をフィルタリングし、アクチュエータを通過した後にその振幅を監視することができる。検知信号の振幅変動させることにより、それぞれのアクチュエータのインピーダンスの指標を示す。なお、ここでは具体的に図示しないが、コンデンサ、ならびに高域通過フィルタ、低域通過フィルタなどの様々な電子素子は、電気および電子回路の技術を有する当業者には一般的に知られている。また、本技術は、制御電圧に加えて検知信号を供給する場合にも使用できる。すなわち、制御電圧信号と同じ電気接続を介してアクチュエータに供給される。しかし、一般的に、共通のペイロードに接続された2つ以上のアクチュエータを使用する場合、共通の接地接続を介してキャリア信号を提供することで、単一のキャリア信号発生器を使用して、異なるアクチュエータのインピーダンスを独立して監視することができる。
【0050】
アクチュエータ、具体的には、典型的なMEMSアクチュエータの機構は、多くの場合、誘引静電力Vを伴う減衰した強制的なばねモデルで記述されており、よって、
の形で操作可能なモデルを提供している。
式中、mは直線運動のための質量、cは減衰係数、kはばね定数、xはばねが静止している位置を表す。このモデルは、適切な定電圧Vで設定できるx=xの静止点をサポートしている。アクチュエータの構成によっては、入力電圧Vに対する式1の非線形性の結果、このような静止位置が不安定になることがある。この制限を克服するために、本技術では、ロータが面内運動に制限されている櫛形アクチュエータを使用することが好ましい。よって、ロータとステータの電極間の距離は維持されるが、重複面積はロータの動きに応じて変化し、その結果、
の形で有効静電気力が発生する。式中、Wはロータの一定幅、dはそれらの間の距離である。
【0051】
図1および図2に例示されているように、2つ以上のアクチュエータを使用することで、電圧Vに対する非線形依存性をさらに除去することができる。アクチュエータ112aおよび112bは、それぞれ電圧V=VB+Vおよび電位V=VB-Vを受信するように構成されており、式中、Vは制御信号であり、時間とともに変化する。この電圧入力方式を用いると、アクチュエータに加わる総合的な力は制御信号に対して線形となり、
の形で力が加えられる。したがって、図2に関して前述したように、2つ(またはそれ以上)のアクチュエータの電気接続で、共通の接地接続と、個別のV+およびV接続を提供できる(あるいは、キャリア信号をバイアス電圧Vの上に提供してもよい)。このような電気的構成により、アクチュエータユニットの位置/向きを変化させるための低周波制御信号Vと、アクチュエータユニットの位置を検出するための高周波キャリア信号との間を切り離すことができる。高周波検知信号は、関連する周波数帯の出力を復調することで測定され、検知信号に対するアクチュエータの応答を測定し、そのインピーダンスの指標を示す。
【0052】
いくつかの構成では、本明細書に記載された技術およびシステムは、光学システムのスキャンミラーとして使用することができる。例えば、光学システムは、スキャンミラー(ペイロード)120の向きによって、レーザ光が導かれる画素またはラインを決定する、スキャン型レーザ投影システムであってもよい。これらの実施形態では、ペイロードは、ミラー素子であってもよく、アクチュエータユニット110によって決定されるミラーの向きは、スキャンの行と列、またはその両方を決定してもよい。
【0053】
上に示したように、本技術では、1つ以上のアクチュエータの位置/向きを直接かつリアルタイムで決定することにより、ペイロード(ミラーなど)の位置を高度に制御することができる。アクチュエータの現在の位置に関するデータを、電圧プロファイルに関する推定位置付与データの予め記憶されたモデルと組み合わせて使用することにより、本技術のシステムは、1つ以上の予測技術を利用して、アクチュエータ速度を変化させる必要性に関連するオーバーシュートの影響を最小限に抑えながら、ペイロードを高速で所望の位置に導くための、選択された電圧プロファイルを最適化することができる。そのためには、選択された周波数範囲内の、アクチュエータユニットの周波数応答を示す正確なデータが必要となる場合がある。この周波数応答データを用いることで、制御信号の変動に応じてアクチュエータの動作を推定することができる。上に示したように、様々なアクチュエータシステムを操作して、ペイロードを備えたアクチュエータユニットの共振周波数に近い周波数で制御信号を更新させることがしばしばある。これは、高周波数では、おそらく周波数応答が予測しにくく、エネルギー的にも効率が悪いためである。本技術により、制御信号の周波数帯域幅を拡大して動作させることができ、アクチュエータユニットやペイロードの機械的共振周波数よりも大きな周波数で制御信号を変化させることができる。このため、本技術では、閉ループ制御を利用して、アクチュエータを時間的に所望の位置に導くための、選択された制御信号プロファイルを決定することができる。本技術によるシステムに適切な閉ループ制御方式を提供するために、本発明者らは、上述のようなシステムの動作とその制御を示すモデルを構築した。このモデルを使用することで、検知信号によるアクチュエータの位置の監視に加えて、システムの周波数応答を適切に測定することができ、システムの共振周波数以上の周波数での動作が可能になる。
【0054】
図3は、上記で例示したアクチュエータユニット110の光学機械的な周波数応答を示すボード線図である。図3は、「測定値」と書かれた外部の光学センサ(例えば4象限センサ)で測定したシステムの周波数応答と、ばね‐質量‐ダンパモデルと適合パラメータ(モデル)に従ったアクチュエータユニットの予想モデルを表示している。一般的に、機械的なアクチュエータシステムの共振周波数Rsに近い更新周波数で、このようなアクチュエータユニットを動作させることが好ましい。これにより、より少ない入力エネルギーでユニットの所望の動作が可能となる、高い動作効率を実現している。図4は、追加のボード線図を示しており、検知信号が、MEMSアクチュエータ(例えば、図1および図2の112aおよび112b)のインピーダンスを示す、上述したような測定データを提供する。図4に示すように、検知信号は、約1000Hzの周波数まで、アクチュエータとペイロードの応答を正確に測定する。測定値の振幅応答は、周波数が高くなると比較的フラットになり、測定値の位相はモデルに対して低くなる。一般的に、位置決めやトラッキングなどの様々な用途では、共振周波数によって動作周波数帯域幅が制限されがちである。これは、共振周波数以上の周波数では、ペイロード(ミラーなど)の位置の制御に限界があるためである。このような周波数では、ペイロードの軌道がノイズになる可能性がある。
【0055】
図3および図4の周波数応答を示すアクチュエータユニット110の予想モデルは、一般的に知られているばね‐質量‐ダンパモデルの変動で、周波数応答方程式を満たすようにパラメータを適合させたものである。
【0056】
式2は、sをラプラス変数とした周波数応答P(s)の伝達関数として機能する。本発明者らが、所与の例示的なシステムの測定された周波数応答に適合すると判断したパラメータは、ばね剛性g=1、固有振動数ω=365・2πrad/秒、減衰比ζ=0.03、減衰係数c、サンプリング周波数F=16000Hz、サンプル時間単位の遅延n=2で、特性時間τを提供する、というものであった。
【0057】
アクチュエータユニットに供給されるオフセット(バイアス)電圧Vは、その性能や特性に影響を与える。図5Aおよび図5Bを参照すると、アクチュエータユニット110に供給されるオフセット電圧(V)の変化による共振周波数(図5A)およびばねの剛性(図5B)の変動が示されている。一般的に、オフセット電圧は、アクチュエータの静止位置、すなわち制御信号Vがゼロのときの位置を決定する。より具体的には、オフセット電圧は、対応するステータ(14a~14d)に対するロータ(16aおよび16b)の静止の向きを決定する。図5Aおよび図5Bに示すように、システムの共振周波数ωと剛性gは、バイアス/オフセット電圧Vに依存する。これにより、周波数伝達関数にバイアス電圧の変動bを示すパラメータが追加され、応答関数は次のようになる。
本技術では、検知信号の振幅に関するデータによって提供されたデータと組み合わされた、こうして決定されたモデルに基づいて、アクチュエータユニットの応答の予測を利用して、制御信号の所与の変動に応じたアクチュエータユニットの動作の予測を改善する。したがって、本発明では、1つ以上の予測処理技術を利用して、以下に詳述するように、アクチュエータユニットの応答とそのバイアス電圧への依存性の推定が可能になる。
【0058】
検知回路135が提供する検知データを使用して、アクチュエータ(例えば112aおよび112b)の相対的な位置を決定する。本発明のいくつかの実施形態によれば、制御ユニット500が使用する予測技術は、アクチュエータの状態に関するこのデータを利用して、アクチュエータユニット110をペイロード120の所望の位置に向けるための、選択された制御信号プロファイルを決定する。検知データは、サンプリング間隔nとサンプリング周波数Fで示される測定の時間枠を提供する選択されたサンプリング速度で処理してもよい。受信した検知データは、通常、予め記憶されたモデルと組み合わせて使用して、ペイロード120の所望の位置にアクチュエータユニット110を導く制御信号プロファイルを決定して生成してもよい。制御信号は、選択された更新周波数で更新されるが、これは、応答伝達関数P(s)の離散的な表現によってより詳しく説明することができ、その角度位置を制御する提供された制御信号インパルスに対するアクチュエータユニット110の応答を表す離散的な伝達関数P(z)を提供する。
および
導き出されたフィッティングパラメータβ,β,β,α、α、γを使用して、式4を簡略化する。モデルの物理的パラメータω、g、およびζは連続モデルと同様に維持され、サンプリング時間はT=1/F=1/16000秒を提供するサンプリング周波数によって定義される。このモデルにより、双線形変換を使用して、選択された制御信号と、対応する更新周波数に応じてペイロード120の速度(または角速度)を決定することができる。
【0059】
アクチュエータユニットの動作速度は、連続的な伝達関数にバイリニア変換を用いて決定される速度パルス伝達関数によって記述することができる。
導き出されたフィッティングパラメータ
α、αは、式5と同様に定義される。
【0060】
パルス応答関数および速度応答関数を用いて、本技術による予測モデルは、アクチュエータユニット110の状態空間表現に基づくものでもよい。状態空間表現は、角度の向きや角速度などの1つ以上の定義されたパラメータ(または、アクチュエータユニットの特定の設計に従った他のパラメータのセット)に関するアクチュエータユニットの状態を示す。例示的な状態空間表現は、離散時間インデックスkに基づく低次モデルを用いて提供されることもある。
式中、xは時間kにおける状態のベクトル,yは時間ステップkにおいて検知回路から提供されるアクチュエータの測定位置,vは測定位置に基づいて決定されるアクチュエータユニットの速度,uは時間ステップkにおいて提供される制御信号、A、CおよびCは状態空間パラメータ変動行列、wおよびvはそれぞれプロセスノイズおよび位置測定ノイズである。一般的に、プロセスノイズはモデルの不確実性および/または外乱を表し、測定ノイズはセンサの電気的ノイズである。なお、速度データvは直接測定せずに決定する場合もあるため、対応するノイズは省略している。
【0061】
式7で示されるモデルを使用して、所与の時間ステップにおける制御信号に応じてアクチュエータの状態を推定することができる。これにより、選択された制御信号の変動(または変化のない連続した制御信号)の場合のアクチュエータユニットの状態を判断することができる。したがって、本技術は、予測モデルに基づくゲイン演算子を示すデータの決定を利用することにより、制御ユニット500が次の時間ステップの制御信号プロファイルを選択して、アクチュエータユニットの所望の動作を得ることができる。図6は、カルマンフィルタリング技術に基づく例示的な予測モデルの基本的な実装形態を示している。図示されているように、この技術は、制御信号に関するデータ(例えば読み出しによる)を受信して、共振周波数およびばね定数6010を決定することと、例えば式7に示されるように状態空間行列6020を決定することと、モデルステップ6040に基づいて制御信号を更新するために状態空間行列を使用することとを含む。また、この技術は、ゲイン行列演算子6030の決定と、検知データ6050の受信を含む。ゲイン演算子と検知データは、制御信号予測6060を補正し、アクチュエータユニット6070の推定位置と速度を決定するために使用する。補正された制御信号の予測データは、通常、予測モデルの基礎として次のタイムステップで使用するためにメモリに記憶される。
【0062】
本技術のいくつかの実施形態によれば、制御ユニット500は、異なる制御電圧振幅に対する選択された数のカルマンマトリックスKを含む、そのメモリユニット550に予め記憶されたデータを含む。これらの行列は、現在の制御信号の振幅に従ってゲイン行列を決定するために使用することができる。プロセッサは、制御信号の振幅に従って、対応するカルマン行列Kのデータを取得するように動作し、それによって、制御信号の変動に対する状態空間行列や予測を処理して決定するための計算を簡素化する。
【0063】
本技術のいくつかの実施形態による、制御ユニット500で使用される処理ユーティリティ600の選択された要素を例示する図7を参照する。上に示したように、処理ユーティリティ600は、通常、ローカルまたはリモート(例えば、ネットワーク通信を使用して)で動作する1つ以上のプロセッサで形成され、選択された機能性を提供する1つ以上のソフトウェアおよび/またはハードウェアモジュールを含む。図7に例示されるように、処理ユーティリティ600は、制御信号の変動(周波数または時間ステップの長さ)および大きさを含む制御信号プロファイル、uに関するデータを受信し、アクチュエータユニット110の推定周波数応答関数を決定するように構成された周波数応答推定モジュール610を含んでもよい。また、周波数応答推定モジュール610は、メモリ550の選択されたセクタに記憶された、制御信号プロファイルに関する受信データの場合の予め計算された応答関数を含むデータを取り出すように動作してもよい。制御信号生成部620は、現在の時間ステップに対する所望の制御信号uを決定するように動作する。所望の制御信号uは、アクチュエータユニット110の動作のために、周波数応答機能モジュール610に送信、ならびに電気回路のドライバ136に直接送信されてもよい。また、予測最適化モジュール630は、制御信号u上のデータ、ならびに検知回路135から提供される検知データyを利用して、予測ゲイン演算子(例えば、ゲイン行列K)を決定してもよく、この予測ゲイン演算子は、周波数応答モジュールによって使用されて、応答関数を更新し、次の時間ステップで制御信号をどのように更新するかについて、制御信号生成器620に指標を示す。
【0064】
なお、アクチュエータユニットの高率かつ高精度な動作を可能にするためには、プロセスノイズデータwと位置ノイズデータvを考慮することが好ましいとされている。より具体的には、本技術は、決定された(または予め提供された所定の)共分散ノイズ行列を利用し、そのようなノイズデータを予測処理に含めることができる。例えば、式7では、状態空間モデルにノイズデータが考慮されていることがわかる。図8は、数学モデル(モデル)、光学的監視(光学)、検知信号(検知)、および検知信号を含む予測処理(予測)に基づくアクチュエータユニットの動作に関するボード線図を示している。この図からわかるように、ノイズの影響は低周波よりも高周波数の方が大きく、システムの動作に影響を与える。したがって、本発明者らは、本明細書に記載されているような予測モデルの使用、すなわち、システムの動作をノイズ除去することで、更新周波数を上げても正確な動作が可能になることを発見した。ノイズ除去は、システムの応答の推定を向上させるために、測定ノイズの高域通過フィルタリングやプロセスノイズの低域通過フィルタリングなど、いくつかの手法でモデル化することができる。より具体的には、高域通過フィルタは、高周波検知信号を、ここでは測定ノイズとして定義される低周波制御信号から分離するために使用する。低域通過フィルタは、復調された検知信号から発生するプロセスノイズをフィルタリングするために使用する。
【0065】
さらに、図8からわかるように、本明細書に記載されているような予測処理を使用することで、高周波数におけるアクチュエータユニットの予測応答の精度が大幅に向上する。具体的には、この予測処理により、システムの共振周波数よりも高い周波数における周波数応答の推定値が改善される。これにより、このような高い更新周波数でもアクチュエータユニット110の予測可能な動作が可能となり、スキャンや動作速度の向上が期待できる。これにより、システムは、閉ループ制御の帯域幅を広げて動作させることができる。
【0066】
制御信号の変動に対するアクチュエータユニット110の応答の予測は、参照制御信号と比較して明確にわかる。これに関連して、参照制御信号は、白紙の状態のアクチュエータユニットに提供されるであろう制御信号、すなわち応答関数がフラットな線であるという仮定の下での制御信号を記述する。図9は、参照信号の変動に応じて制御信号の変動を決定するために、推定処理と比例速度制御を用いた、本明細書に記載されているアクチュエータユニットの閉ループ周波数応答を示すボード線図である。このように、推定処理を行うことで、応答における共振周波数のフラット化(一般的に応答振幅の増加を予測することで)、ならびに、高周波数での応答ノイズの低減が可能となる。追加の時間応答測定値は、図10Aおよび図10Bに示されており、制御ループが開いた状態および閉じた状態で、ステップ参照信号に対するアクチュエータユニット110のステップ応答を比較するものである。図10Aは、閉ループ制御を行わない場合(すなわち、参照信号が制御信号となる場合)のアクチュエータユニットの動作を示しており、図10Bは、参照信号とフィードバック信号を変換し、最適な制御信号を決定するための推定処理によって閉ループ制御が可能となった場合のアクチュエータの応答を示している。図のように、選択された時間(t=0.5秒)に、参照信号Rfがステップ変動で0.1Vまで増加する。本技術の推定処理は、上述したように、検知信号から得られるフィードバックデータを利用して、制御信号の変動を最適化することにより、オーバーシュートの影響を補正する。その結果、アクチュエータユニットの位置yは、0.005秒以内に所望の位置に落ち着く。図10Aの例では、参照信号Rfの変動が直接アクチュエータユニットに伝わり、応答yが振動する結果となる。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態による、2次元アクチュエータユニット110とそれに対応する検知回路135の例示的な構成のための簡略回路図を示す図11を参照する。制御信号に応じてペイロードを2つの回転軸(X、Y)で回転させるように構成されたアクチュエータを有するMEMSアクチュエータユニットの電気的等価性を示す図である。アクチュエータの静電容量は、この図ではCx+、Cx-、Cy+、Cy-で示されており、簡易的に、ステータ-ロータ間の静電容量、すなわち、図1および図2を参照して上述したようなアクチュエータ112aおよび112bの電極114a~114dおよび116a~116b(図1に示す)間の静電容量として表されている。2つのアクチュエータ112aと112bは、各々、選択された軸に関するペイロードの向きを制御するために一緒に配置されており、それによって位置に関する制御を可能にしている。アクチュエータは、上述のように差動入力制御電圧V-VまたはVとV+VまたはVによって制御される。軸Xのアクチュエータ112aおよび112bにそれぞれ供給される入力制御電圧Vx+およびVx-と、軸Yのアクチュエータ112aおよび112bにそれぞれ供給される入力制御電圧Vy-およびVy+である。また、検知回路135は、接地接続に平行な入力検知接続と、当該アクチュエータのインピーダンスを示す電気信号を収集するための出力検知端子X-、X+、Y-、Y+を有するアクチュエータユニット110にも接続されている。上述したように、各アクチュエータのインピーダンスは、アクチュエータの向きの変動に関連付けられている。検知回路135は、接地接続Gを介してアクチュエータユニット110に接続され、選択された周波数(例えば、矩形波または正弦波)の交番キャリア信号をアクチュエータユニット110に提供するように構成された検知信号発生器Gと、電気信号から検知振幅を抽出するように構成された検知測定回路とを含む。本明細書では、各回転軸X、Yに対応した個別の検知回路を含む検知測定回路を例示している。検知回路は、低電圧・高周波の検知信号を高電圧・低周波制御信号から分離するために使用する高域通過フィルタ(HPFxおよびHPFy)と同一軸上にあるアクチュエータのインピーダンスデータ、すなわち静電容量の差を増幅するために使用される高周波差動増幅器(HFAxおよびHFAy)と、信号を復調し、そのインピーダンス差の包絡線を決定するために使用されるバランス同期復調器(DMxおよびDMy)と、復調関連ノイズを除去するためのローパスフィルタ(LPFxおよびLPXy)と選択された電圧範囲で信号を供給する差動低周波増幅器(LFAxおよびLFAy)と、によって形成されてもよい。したがって、検知回路は、アクチュエータの機械的な動きに一致する出力信号を提供し、対応する作動ペア(この例では、112aと112bまたはCx+とCx-など)の現在の位置を示す。出力された検知信号は、さらに処理ユニットに導かれ、上述のようにアクチュエータの応答の予測を最適化することで、フィードバックループを形成する。
【0068】
図12Aおよび図12Bは、選択された制御電圧の差動入力に応じて、アクチュエータユニットとそのペイロードの位置を測定した実験結果を示している。図12Aは、外部の光学センサを用いた測定値、図12Bは、キャリア信号を用いて上述したようなアクチュエータユニットのインピーダンスの変動によって得られた測定値である。2つの測定方法を比較すると、外部の光学センサと検知回路の測定値には緊密な相関関係があり、ペイロードの位置制御に提供される検知回路の出力データの信憑性が証明された。
【0069】
したがって、本技術は、集積された電気回路によって動作するアクチュエータユニットを含み、高周波検知回路を使用してアクチュエータの位置の直接的な測定ができる、作動システムの新しい構成を提供する。アクチュエータの位置を直接測定することで、閉ループ制御方式によるアクチュエータユニットの動作や、アクチュエータユニットの応答推定の改善が可能となり、動作帯域の制限を効果的に除去することができる。
【符号の説明】
【0070】
100 システム
110 アクチュエータユニット
112a 第1のアクチュエータ
112b 第2のアクチュエータ
114a~114d ステータ電極
116aおよび116b ロータ電極
118aおよび118b コネクタビーム
120 ペイロード
130 電気回路
132 増幅器
135 検知回路
136 ドライバユニット
500 制御ユニット
550 メモリ
600 処理ユーティリティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】