IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本住友製薬株式会社の特許一覧

<>
  • 特表-ジスキネジア治療薬 図1
  • 特表-ジスキネジア治療薬 図2
  • 特表-ジスキネジア治療薬 図3
  • 特表-ジスキネジア治療薬 図4
  • 特表-ジスキネジア治療薬 図5
  • 特表-ジスキネジア治療薬 図6
  • 特表-ジスキネジア治療薬 図7
  • 特表-ジスキネジア治療薬 図8
  • 特表-ジスキネジア治療薬 図9
  • 特表-ジスキネジア治療薬 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-23
(54)【発明の名称】ジスキネジア治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/506 20060101AFI20220616BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220616BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20220616BHJP
【FI】
A61K31/506
A61P25/16
A61K9/70 401
A61P21/00
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K31/198
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021561833
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(85)【翻訳文提出日】2021-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2020017652
(87)【国際公開番号】W WO2020218487
(87)【国際公開日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】16/395,531
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】栗田 光將
(72)【発明者】
【氏名】池田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】中塔 充宏
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA72
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB31
4C076CC01
4C076FF70
4C084AA22
4C084MA32
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA94
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA32
4C086MA55
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA94
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA56
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA52
4C206MA75
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA94
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、パーキンソン病のレボドパ誘発性ジスキネジアに対して有用な治療薬を提供する。特に、本発明は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、パーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症、特にレボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)の治療、改善、進展抑制又は予防のためのタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグであって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする組成物および方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、パーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症の治療、改善、進行抑制又は予防のための組成物であって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記非経口投与は、経皮投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与及びそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記非経口投与は、持続性を有すること、又は持続的に投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記非経口投与は、経皮投与を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記運動合併症は、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、パーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症の治療、改善又は予防のための組成物であって、リバウンド症状を生じることなくレボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を改善することを特徴とし、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが経皮投与されることを特徴とする組成物。
【請求項7】
レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)は、ピークドーズジスキネジア、二相性ジスキネジア、及びそれらの組合せを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記運動合併症の治療、改善、進行抑制又は予防は、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善、進行抑制、又は予防、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)発現時間の短縮、又はそれらの組合せを含む、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善、進行抑制、又は予防、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)発現時間の短縮、又はそれらの組合せを達成するための組成物であって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項10】
前記レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善は、臨床的に意義のある改善以上である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善は、臨床効果が得られるのに十分なレベルである、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物は、経皮吸収製剤である、請求項9から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物は、貼付製剤である、請求項9から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
経皮吸収製剤が、テープ/パッチ剤である、請求項9から13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの薬物投与量が、タンドスピロンのフリー体として一日あたり0.1~100mgである、請求項9から14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの薬物移行量が、タンドスピロンのフリー体として一日あたり0.1~20mgである、請求項9から15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、経皮吸収製剤であり、1回あたりの貼付面積の合計が1~100cmである、請求項9から16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、一日あたり12時間以上、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が0.05~20ng/mLとなるように投与されることを特徴とする、請求項9から17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの投与後8時間から16時間の間、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が0.05~20ng/mLとなるように投与されることを特徴とする、請求項9から18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、レボドパの助剤である、請求項9から19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
レボドパとともに固定用量の製剤又は別々の製剤で併用して用いられる、請求項9から20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための医薬であって、該医薬は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグと(1)レボドパ、又は(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤との組合せを含み、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、医薬。
【請求項23】
PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための医薬であって、該医薬は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含み、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが、(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤と組み合わせて投与され、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、医薬。
【請求項24】
PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための医薬であって、該医薬は、(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤を含み、該(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグと組み合わせて投与され、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、医薬。
【請求項25】
タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、ジスキネジアを伴うパーキンソン病患者のレボドパ治療に対する応答の質の悪化を改善するための組成物であって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項26】
前記タンドスピロンまたはその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、タンドスピロンのフリー体である、請求項1から25のいずれか一項に記載の医薬または組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬として有用なタンドスピロン及びその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを有効成分として含有し、パーキンソン病のレボドパ誘発性ジスキネジアを非経口投与(例えば、経皮投与)により治療する製剤、又はその治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病は、錐体外路機能の異常を主症状とする進行性の神経変性疾患の一つである。病理学的には、黒質緻密部におけるドパミン神経細胞脱落及びAlphaシヌクレインの沈着が見られる。臨床的には、無動症(akinesia)、静止時振戦(tremor)、筋強剛(rigidity)、姿勢保持障害(loss of postural reflexes)等の様々な運動症状を呈する。
【0003】
パーキンソン病治療の基本は脳内ドパミンの補充を目的とした薬物療法であり、ドパミン前駆物質であるレボドパ(L-dopa,levodopa)を含有する薬物が、パーキンソン病初期治療の第一選択薬として使用される。しかしながら、病態進行とともに、レボドパ治療を行っているほぼ全ての患者において、パーキンソン病におけるレボドパ誘発性ジスキネジア(以下、「PD-LID」(Parkinson’s Disease Levodopa induced dyskinesia)と称することがある。)といった運動合併症(motor complications)が出現する。
【0004】
PD-LIDは、レボドパ治療開始後5年における発症頻度は30~50%であり、病態進行に伴って上昇し、治療開始後10年で50~100%になる。PD-LIDの代表的症状としては、ピークドーズジスキネジア(peak-dose dyskinesia)が知られており、レボドパ血中濃度の高い時期に、顔面、舌、頸部、四肢、体幹等に現れる不随意運動である。
【0005】
特許文献1には、タンドスピロンの経皮吸収剤に関する開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-228414号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを非経口投与(例えば、経皮投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与等)することによって、経口投与と比較して、パーキンソン病のレボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)等の改善効果が高い、有用な治療、改善、進行抑制及び予防の技術を提供できることを見出した。本発明によれば、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、PD-LIDを改善する経皮吸収型の医薬組成物、及びタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含む非経口投与によるパーキンソン病の運動合併症の治療法、改善法、進行抑制及び予防法が提供される。
【0008】
すなわち、本発明は、以下を含む。
【0009】
[項1]タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、パーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症(motor complications)の治療、改善、進行抑制又は予防のための組成物であって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口(parenteral)投与されることを特徴とする組成物。
[項2]前記非経口投与は、経皮投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与及びそれらの組合せから選択される、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項3]前記非経口投与は、持続性を有すること、又は持続的に投与されることを特徴とする、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項4]前記非経口投与は、経皮投与を含む、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項5]前記運動合併症は、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を含む、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項6]タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、パーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症(motor complications)の治療、改善又は予防のための組成物であって、リバウンド症状を生じることなくレボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を改善することを特徴とし、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが経皮投与されることを特徴とする組成物。
[項7]レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)は、ピークドーズジスキネジア(peak-dose dyskinesia)、二相性ジスキネジア(diphasic dyskinesia)、及びそれらの組合せを含む、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項8]前記運動合併症の治療、改善、進行抑制又は予防は、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善、進行抑制、又は予防、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)発現時間の短縮、又はそれらの組合せを含む、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項9]タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善、進行抑制、又は予防、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)発現時間の短縮、又はそれらの組合せを達成するための組成物であって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、組成物。
[項10]前記レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善は、臨床的に意義のある改善以上である、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項11]前記レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善は、臨床効果が得られるのに十分なレベルである、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項12]前記組成物は、経皮吸収製剤である、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項13]前記組成物は、貼付製剤である、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項14]経皮吸収製剤が、テープ/パッチ剤である、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項15]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの薬物投与量が、タンドスピロンのフリー体として一日あたり0.1~100mgである、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項16]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの薬物移行量が、タンドスピロンのフリー体として一日あたり0.1~20mgである、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項17]前記組成物が、経皮吸収製剤であり、1回あたりの貼付面積の合計が1~100cmである、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項18]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、一日あたり12時間以上、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が0.05~20ng/mLとなるように投与されることを特徴とする、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項19]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの投与後8時間から16時間の間、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が0.05~20ng/mLとなるように投与されることを特徴とする、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項20]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、レボドパの助剤(adjunct)である、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項21]レボドパとともに固定用量の製剤又は別々の製剤で併用して用いられる、上記項のいずれか一項に記載の組成物。
[項22]PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための医薬であって、該医薬は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグと(1)レボドパ、又は(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤との組合せを含み、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、医薬。
[項23]PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための医薬であって、該医薬は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含み、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが、(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤と組み合わせて投与され、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、医薬。
[項24]PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための医薬であって、該医薬は、(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤を含み、該(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグと組み合わせて投与され、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、医薬。
[項25]タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、ジスキネジアを伴うパーキンソン病患者のレボドパ治療に対する応答の質の悪化を改善するための組成物であって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、組成物。
[項26]前記タンドスピロンまたはその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、タンドスピロンのフリー体である、上記項のいずれか一項に記載の医薬または組成物。
【0010】
[項1A]タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの有効量を被験者に非経口的に(parenterally)投与する工程を含む、パーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症(motor complications)を治療、改善又は予防するための方法。
[項2A]前記非経口投与は、経皮投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与及びそれらの組合せから選択される、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項3A]前記非経口投与は、持続性を有する、又は持続的な投与である、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項4A]前記非経口投与は、経皮投与を含む、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項5A]前記運動合併症は、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を含む、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項6A]パーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症(motor complications)の治療、改善又は予防のための方法であって、該方法は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの有効量を被験者に経皮的に投与することにより、リバウンド症状を生じることなくレボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を改善する工程を包含する方法。
[項7A]レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)は、ピークドーズジスキネジア(peak-dose dyskinesia)、二相性ジスキネジア(diphasic dyskinesia)、及びそれらの組合せを含む、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項8A]前記運動合併症の治療、改善、進行抑制又は予防は、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善、進行抑制、又は予防、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)発現時間の短縮、又はそれらの組合せを含む、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項9A]レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善、進行抑制、又は予防、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)発現時間の短縮、又はそれらの組合せを達成するための方法であって、該方法は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの有効量を被験者に非経口的に投与する工程を含む、方法。
[項10A]前記レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善は、臨床的に意義のある改善以上である、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項11A]前記レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善は、臨床効果が得られるのに十分なレベルである、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項12A]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、経皮吸収製剤として提供される、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項13A]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、貼付製剤として提供される、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項14A]経皮吸収製剤が、テープ/パッチ剤である、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項15A]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの薬物投与量が、タンドスピロンのフリー体として一日あたり0.1~100mgである、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項16A]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの薬物移行量が、タンドスピロンのフリー体として一日あたり0.1~20mgである、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項17A]前記投与は、経皮吸収製剤により達成され、1回あたりの貼付面積の合計が1~100cmである、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項18A]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、一日あたり12時間以上、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が0.05~20ng/mLとなるように投与されることを特徴とする、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項19A]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの投与後8時間から16時間の間、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が0.05~20ng/mLとなるように投与されることを特徴とする、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項20A]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、レボドパの助剤(adjunct)である、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項21A]レボドパと同一の製剤又は別々の製剤で併用して用いられる、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項22A]被験体においてPD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための方法であって、該方法は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの有効量と(1)レボドパの有効量、又は(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤との組合せの有効量を該被験体に投与する工程を包含し、ここで、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの有効量が非経口投与されることを特徴とする、方法。
[項23A]
前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグと、前記(1)又は(2)とは、同時又は異時に投与される、上記項のいずれか一項に記載の方法。
[項24A]タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、ジスキネジアを伴うパーキンソン病患者のレボドパ治療に対する応答の質の悪化を改善するための組成物であって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの有効量が非経口投与されることを特徴とする、組成物。
[項25A]前記タンドスピロンまたはその薬学的に許容される塩は、タンドスピロンのフリー体である、上記項のいずれか一項に記載の方法。

[項1B]タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの、パーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症(motor complications)の治療、改善又は予防のための医薬の製造における使用であって、該医薬が非経口(parenteral)投与されることを特徴とする、使用。
[項2B]前記非経口投与は、経皮投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与及びそれらの組合せから選択される、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項3B]前記非経口投与は、持続性を有すること、又は持続的に投与されることを特徴とする、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項4B]前記非経口投与は、経皮投与を含む、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項5B]前記運動合併症は、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を含む、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項6B]タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、パーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症(motor complications)の治療、改善又は予防のための医薬の製造における使用であって、リバウンド症状を生じることなくレボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を改善することを特徴とし、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが経皮投与されることを特徴とする使用。
[項7B]レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)は、ピークドーズジスキネジア(peak-dose dyskinesia)、二相性ジスキネジア(diphasic dyskinesia)、及びそれらの組合せを含む、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項8B]前記運動合併症の治療、改善、進行抑制又は予防は、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善、進行抑制、又は予防、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)発現時間の短縮、又はそれらの組合せを含む、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項9B]タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善、進行抑制、又は予防、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)発現時間の短縮、又はそれらの組合せを達成するための医薬の製造における使用であって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、使用。
[項10B]前記レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善は、臨床的に意義のある改善以上である、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項11B]前記レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善は、臨床効果が得られるのに十分なレベルである、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項12B]前記医薬は、経皮吸収製剤である、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項13B]前記医薬は、貼付製剤である、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項14B]経皮吸収製剤が、テープ/パッチ剤である、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項15B]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの薬物投与量が、タンドスピロンのフリー体として一日あたり0.1~100mgである、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項16B]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの薬物移行量が、タンドスピロンのフリー体として一日あたり0.1~20mgである、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項17B]前記医薬が、経皮吸収製剤であり、1回あたりの貼付面積の合計が1~100cmである、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項18B]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、一日あたり12時間以上、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が0.05~20ng/mLとなるように投与されることを特徴とする、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項19B]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの投与後8時間から16時間の間、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が0.05~20ng/mLとなるように投与されることを特徴とする、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項20B]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、レボドパの助剤(adjunct)である、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項21B]前記医薬はレボドパと同一の製剤又は別々の製剤で併用して用いられる、上記項のいずれか一項に記載の使用。
[項22B]PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための医薬の製造における使用であって、該医薬は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグと(1)レボドパ、又は(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤との組合せを含み、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、使用。
[項23B]PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための医薬の製造における使用であって、該医薬は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含み、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤と組み合わせて投与され、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、使用。
[項24B]PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための医薬の製造における使用であって、該医薬は、(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤を含み、該(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤は、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグと組み合わせて投与され、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、使用。
[項25B]タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する、ジスキネジアを伴うパーキンソン病患者のレボドパ治療に対する応答の質の悪化を改善するための医薬の製造における使用であって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、使用。
[項26B]前記タンドスピロンまたはその薬学的に許容される塩は、タンドスピロンのフリー体である、上記項のいずれか一項に記載の使用。

[項1C]パーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症(motor complications)の治療、改善又は予防のためのタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグであって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口(parenteral)投与されることを特徴とする、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項2C]前記非経口投与は、経皮投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与及びそれらの組合せから選択される、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項3C]前記非経口投与は、持続性を有すること、又は持続的に投与されることを特徴とする、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項4C]前記非経口投与は、経皮投与を含む、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項5C]前記運動合併症は、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を含む、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項6C]パーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症(motor complications)の治療、改善又は予防のためのタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグであって、リバウンド症状を生じることなくレボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を改善することを特徴とし、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが経皮投与されることを特徴とするタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項7C]レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)は、ピークドーズジスキネジア(peak-dose dyskinesia)、二相性ジスキネジア(diphasic dyskinesia)、及びそれらの組合せを含む、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項8C]前記運動合併症の治療、改善、進行抑制又は予防は、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善、進行抑制、又は予防、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)発現時間の短縮、又はそれらの組合せを含む、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項9C]レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善、進行抑制、又は予防、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)発現時間の短縮、又はそれらの組合せを達成するためのタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグであって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項10C]前記レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善は、臨床的に意義のある改善以上である、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項11C]前記レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善は、臨床効果が得られるのに十分なレベルである、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項12C]経皮吸収製剤である、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項13C]貼付製剤である、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項14C]経皮吸収製剤が、テープ/パッチ剤である、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項15C]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの薬物投与量が、タンドスピロンのフリー体として一日あたり0.1~100mgである、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項16C]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの薬物移行量が、タンドスピロンのフリー体として一日あたり0.1~20mgである、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項17C]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが、経皮吸収製剤であり、1回あたりの貼付面積の合計が1~100cmである、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項18C]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、一日あたり12時間以上、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が0.05~20ng/mLとなるように投与されることを特徴とする、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項19C]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの投与後8時間から16時間の間、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が0.05~20ng/mLとなるように投与されることを特徴とする、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項20C]前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、レボドパの助剤(adjunct)である、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項21C]レボドパと同一の製剤又は別々の製剤で併用して用いられる、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項22C]PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するためのタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグと(1)レボドパ、又は(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤との組合せであって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、組合せ。
[項23C]PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグであって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤と組み合わせて投与され、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項24C]PD-LIDを伴わず又は最小限化して、パーキンソン病を治療又は予防するための(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤の組合せであって、該(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤の組合せは、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグと組み合わせて投与され、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、(1)レボドパ、若しくは(2)レボドパ及びレボドパの代謝酵素阻害剤の組合せ。
[項25C]ジスキネジアを伴うパーキンソン病患者のレボドパ治療に対する応答の質の悪化を改善するためのタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグであって、該タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグが非経口投与されることを特徴とする、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
[項26C]フリー体である、上記項のいずれか一項に記載のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ。
【0011】
具体的な実施形態では、本発明は、貼付剤(テープ剤ともいう。)として提供される。本発明のテープ剤を貼付すると、パーキンソン病のレボドパ治療に伴うジスキネジア症状をより好ましく予防又は改善できる。また、本発明のテープ剤を貼付し、パーキンソン病のレボドパ治療に伴うジスキネジア症状をより好ましく予防又は改善すると、ジスキネジアを悪化せずに、本発明のテープ剤を用いた治療を行う前に比べて、レボドパの1回あたり及び/又は1日あたりの投与量を増量するという、パーキンソン病の治療が実臨床の場では行われ得る。
現在の治療においては、ジスキネジアを発現しているパーキンソン病患者に対しては、低用量かつ頻繁な用量でのレボドパで治療することが試みられている(パーキンソン病診療ガイドライン2018年バージョン(第III編 パーキンソン病診療に関するQ&A 第3章 運動症状の治療))。
本発明により提供されるタンドスピロンの非経口投与製剤を投与することにより、ジスキネジアの発現を抑制し、レボドパ含有製剤を至適用量に調整することができる。つまり、ジスキネジアを発現している、もしくは発現の恐れのあるパーキンソン病患者に対して、レボドパの1回量を増量して投与回数を軽減したり、レボドパの1日投与量を増量しても、ジスキネジア症状は悪化せず、パーキンソン病症状のより好ましい治療が可能となる。
本発明のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ及び治療法により、日本神経学会発行のパーキンソン病診療ガイドライン2018年バージョンあるいは米国や欧州における対応するガイドラインに記載されたレボドパ治療の通常1日投与量に伴う、レボドパ誘発性の運動合併症、レボドパ誘発性のジスキネジアが低減された治療又は予防が可能となる。
また、本発明により提供されるタンドスピロンの非経口投与製剤を投与することにより、経口投与と比較して、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)等のより好ましい改善効果を提供できる。
本発明者らは、ジスキネジアの改善効果を期待してタンドスピロンを経口投与すると、一時的には、逆にジスキネジアが悪化した状態になることを初めて見出した。つまりタンドスピロンの経口投与は、ジスキネジアの「リバウンド症状」を伴うため、ジスキネジアの改善治療薬としては好ましくないことを見出したのである。尚、本発明における「リバウンド症状」とは、[0036]に記載の症状である。また、タンドスピロンの経口投与は、「リバウンド症状」が生じるため、レボドパ含有製剤の投与量を増量することも好ましくない。
本発明者らは、本願発明のタンドスピロン非経口組成物は、「リバウンド症状」を伴うことなくジスキネジアを改善できることを見出した。尚、ジスキネジアのスコアは[0038]に記載の方法により「AIMsスコア」(AIMsとは、“abnormal involuntary movements”の略称である)として測定が可能である。
従って、本発明は、以下の特定の実施形態で実施され得る。
(1)
(A)タンドスピロンの非経口投与ステップと、
(B)レボドパを従来投与量より増量して投与するステップと
を包含する、パーキンソン病を予防または治療する方法、ジスキネジアを改善する方法、あるいはジスキネジアが改善されたパーキンソン病を予防または治療する方法。
(2)
(A)タンドスピロンの非経口投与ステップと、
(B)レボドパを従来の1回投与量より増量し、1日あたりの服用回数を調整するステップと
を包含する、パーキンソン病を予防または治療する方法、ジスキネジアを改善する方法、あるいはジスキネジアが改善されたパーキンソン病を予防または治療する方法。
(3)
(A)タンドスピロンの非経口投与ステップと、
(B)レボドパ投与量を維持若しくは増量して投与するステップと
を包含する、ジスキネジアが発現している、または発現の恐れがある患者において、パーキンソン病を予防または治療する方法、ジスキネジアを改善する方法、あるいはジスキネジアが改善されたパーキンソン病を予防または治療する方法。
(4)
(A)従来のレボドパ治療に、タンドスピロンの非経口投与を追加するステップと、
(B)レボドパ投与量をジスキネジアが悪化しない範囲で増量し、タンドスピロンの非経口投与を併用するステップと
を包含する、ジスキネジアが発現している、または発現の恐れがある患者において、パーキンソン病を予防または治療する方法、ジスキネジアを改善する方法、あるいはジスキネジアが改善されたパーキンソン病を予防または治療する方法。
(5)
(A)タンドスピロンの血漿中濃度が0.05~20ng/mLに維持された状態とするステップと、
(B)レボドパを投与するステップと
を包含する、パーキンソン病を予防または治療する方法、ジスキネジアを改善する方法、あるいはジスキネジアが改善されたパーキンソン病を予防または治療する方法。
(6)
(A)タンドスピロンの血漿中濃度が0.05~20ng/mLに維持された状態とするステップと、
(B)レボドパを投与するステップと
を包含する、ジスキネジアが発現している、または発現の恐れがある患者において、パーキンソン病を予防または治療する方法、ジスキネジアを改善する方法、あるいはジスキネジアが改善されたパーキンソン病を予防または治療する方法。
根拠は以下のとおりである
・レボドパは半減期が短く、効果も持続しないため、1日に複数回服用することが通常であるところ、本発明のタンドスピロンはテープ剤で投与すると、すなわち、1日1枚貼付すると、24時間タンドスピロンの血中濃度は維持される。そのため、経皮吸収製剤の場合は、レボドパをどのようなタイミングで投与しても、タンドスピロンの曝露がある状態で、レボドパを服用することになる。他方で、例えば、セディール錠とレボドパを1日3回、同じタイミングで服用(経口投与)すると、タンドスピロン濃度が低下した状態でレボドパを服用することになる。つまり、経口剤とは異なる点が、特長づけられるといえる。また、レボドパ投与時に、タンドスピロンの血中濃度が維持されている方が好ましいと考えられる。
【0012】
詳細な実施形態では、本発明は種々の用途(インディケーション・効能効果)で使用することができ、例えば、ジスキネジアの改善(抗ジスキネジア薬)<PD-LID改善薬>、レボドパで治療されるパーキンソン病患者におけるジスキネジア(不随意運動)の治療(脳内でのドパミンの効果を増大させる医薬と併用又は併用なし)[Treating dyskinesia (involuntary movements) in Parkinson’s disease patients treated with levodopa therapy, with or without other medicines that increase the effects of dopamine in the brain.]などの効能効果、使用上の注意、ラベル(添付文書)を付すことができる。
【0013】
本発明において、上記1又は複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態及び利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
本明細書において、特に記載のない場合、運動合併症やジスキネジアは、パーキンソン病のレボドパ治療に伴う症状を意味し、他の疾患由来の症状やレボドパ以外の治療に伴う症状は含まない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医薬組成物は、パーキンソン病のレボドパ誘発性の運動合併症(motor complications)(例えば、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)等)を治療、改善、進行抑制又は予防薬として期待できる。具体的には、リバウンド症状のないPD-LIDの治療、改善、進行抑制又は予防薬として期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、タンドスピロンテープ剤を正常ラットに貼付した場合の血漿中濃度推移を示す図である。詳細には、正常ラットへのタンドスピロンテープ剤の貼付(9cm:31±2cm/kg)により得られた血漿中タンドスピロン濃度の推移を平均値±標準偏差で示した。x軸は貼付からの時間を示し、y軸はタンドスピロン血漿中濃度を示す。
図2図2は、投与条件1でタンドスピロンテープ剤をPD-LIDモデルラットに貼付した場合の、ジスキネジア様症状の評価結果を示す図である。詳細には、PD-LIDモデルラットにタンドスピロンテープ剤を経皮投与し、その4時間後にレボドパを投与してジスキネジア様症状を評価し、結果を平均値±標準誤差で示した。**はp<0.01を示し、プラセボテープ剤貼付群に比べて有意差があることを意味する(Wilcoxonの順位和検定)。図中、グラフAは、レボドパ投与後の経時的なAIMsスコアの推移を示す。グラフBは、180分間のAIMsスコアの合計を示す。グラフCは、100-180分のAIMsスコアの合計を示す。
図3図3は、投与条件2でタンドスピロンテープ剤をPD-LIDモデルラットに貼付した場合の、ジスキネジア様症状の評価結果を示す図である。詳細には、テープ剤貼付部位の角質ストリッピング処置を実施したPD-LIDモデルラットにタンドスピロンテープ剤を経皮投与し、その4時間後にレボドパを投与してジスキネジア様症状を評価し、結果を平均値±標準誤差で示した。**はp<0.01を示し、プラセボテープ剤貼付群に比べて有意差があることを意味する(Wilcoxonの順位和検定)。図中、グラフAは、レボドパ投与後の経時的なAIMsスコアの推移を示す。グラフBは、180分間のAIMsスコアの合計を示す。グラフCは、100-180分のAIMsスコアの合計を示す。
図4図4は、タンドスピロンをPD-LIDモデルラットに皮下持続投与した場合の、ジスキネジア様症状の評価結果を示す図である。詳細には、PD-LIDモデルラットにタンドスピロンを皮下持続投与し、その4時間後にレボドパを投与してジスキネジア様症状を評価し、結果を平均値±標準誤差で示した。*はp<0.05を示し、溶媒投与群に比べて有意差があることを意味する(Steel検定)。図中、グラフAは、レボドパ投与後の経時的なAIMsスコアの推移を示す。グラフBは、180分間のAIMsスコアの合計を示す。グラフCは、100-180分のAIMsスコアの合計を示す。
図5図5は、タンドスピロンクエン酸塩をPD-LIDモデルラットに皮下持続投与した場合の、ジスキネジア様症状の長期の評価結果を示す図である。詳細には、PD-LIDモデルラットにタンドスピロンクエン酸塩を皮下持続投与し、投与開始日、投与13日目にジスキネジア様症状を評価して、180分間のAIMsスコアの合計を平均値±標準誤差で示した。**はp<0.01を示し、溶媒投与群に比べて有意差があることを意味する(Wilcoxonの順位和検定)。図中、グラフAは、ポンプ埋め込み0日目における結果を示し、グラフBは、ポンプ埋め込み13日目における結果を示す。
図6図6は、タンドスピロンクエン酸塩を6-ヒドロキシドパミン脳内片側処置ラットに皮下持続投与した場合の、ジスキネジア発症に対する効果を示す図である。詳細には、6-ヒドロキシドパミン脳内片側処置ラットに、レボドパを反復投与、タンドスピロンクエン酸塩を皮下持続投与し、レボドパ反復投与誘発性のジスキネジア様症状出現に対する効果を評価し、結果を平均値±標準誤差で示した。*はp<0.05、**はp<0.01を示し、溶媒投与群に比べて有意差があることを意味する(Steel検定)。図中、グラフAは、レボドパ反復投与の経時的結果を示し、グラフBは、タンドスピロンクエン酸塩の投与を終了した翌日(16日目)における結果を示す。
図7図7は、タンドスピロンクエン酸塩をPD-LIDモデルラットに経口投与した場合の、ジスキネジア様症状の評価結果を示す図である。詳細には、PD-LIDモデルラットにタンドスピロンクエン酸塩(クエン酸塩濃度として、10mg/kg、30mg/kg)を経口投与し、その5分後にレボドパを投与してジスキネジア様症状を評価し、結果を平均値±標準誤差で示した。*はp<0.05を示し、溶媒投与群に比べて有意差があることを意味する(Steel検定)。図中、グラフAは、レボドパ投与後の経時的なAIMsスコアの推移を示す。グラフBは、180分間のAIMsスコアの合計を示す。グラフCは、100-180分のAIMsスコアの合計を示す。
図8図8は、タンドスピロンクエン酸塩をPD-LIDモデルラットに経口投与した場合の、ジスキネジア様症状の評価結果を示す。詳細には、PD-LIDモデルラットにタンドスピロンクエン酸塩(クエン酸塩濃度として、30mg/kg、100mg/kg)を経口投与し、その5分後にレボドパを投与してジスキネジア様症状を評価し、結果を平均値±標準誤差で示した。図中、グラフAは、レボドパ投与後の経時的なAIMsスコアの推移を示す。グラフBは、180分間のAIMsスコアの合計を示す。グラフCは、100-180分のAIMsスコアの合計を示す。
図9図9は、タンドスピロンフリー体、タンドスピロンクエン酸塩(水和物)及びタンドスピロンクエン酸塩(無水物)の粉末X線回折パターンを示す図である。
図10図10は、1-PP二塩酸塩をPD-LIDモデルラットに皮下投与した場合の、ジスキネジア様症状の評価結果を示す。詳細には、PD-LIDモデルラットに1-PP二塩酸塩(10mg/kg、30mg/kg)を皮下投与し、その5分後にレボドパを投与してジスキネジア様症状を評価し、結果を平均値±標準誤差で示した。図中、グラフAは、レボドパ投与後の経時的なAIMsスコアの推移を示す。グラフBは、180分間のAIMsスコアの合計を示す。グラフCは、100-180分のAIMsスコアの合計を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語及び科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0017】
(定義等)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義及び/又は基本的技術内容を適宜説明する。
【0018】
本明細書において「タンドスピロン[化学名:(1R,2S,3R,4S)-N-[4-{4-(ピリミジン-2-イル)ピペラジン-1-イル}ブチル]-2,3-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンジカルボキシイミド]は、下記の構造を有する。
【化1】
有効成分として、タンドスピロンのクエン酸塩を含有するセディール錠は、セロトニン作動性抗不安薬として治療に用いられている(例えば、セディール添付文書 2016年4月改訂 第14版)大日本住友製薬株式会社;特開昭58-126865号公報を参照)。タンドスピロンについては、慢性統合失調症の記憶力に有益な効果を有し、特にハロペリドール等の定型抗精神病薬による維持療法を継続しながら、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩を投与して認知機能障害を改善し得ることが知られている(特開2002-20291号公報を参照)。
【0019】
本発明の医薬組成物に用いられる有効成分としては、タンドスピロン(フリー体)が好ましくタンドスピロンの薬学的に許容される塩やタンドスピロンのプロドラッグもまた、タンドスピロンと同様に使用することができる。タンドスピロンの薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグとしては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、燐酸塩などの無機酸との塩、酢酸塩、酪酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩などの有機酸との塩が含まれる。
【0020】
タンドスピロンのプロドラッグは、タンドスピロンの構造とは異なるが、投与後に代謝によりタンドスピロンまたはそれに基づく有効成分へと変換して薬効を発揮し得る任意の成分をいう。
【0021】
タンドスピロンのプロドラッグは、生体内における生理条件下で酵素等による反応によりタンドスピロンに変換する化合物、すなわち酵素的に酸化、還元、加水分解等を起こしてタンドスピロンに変化する化合物、酸等により加水分解などを起こしてタンドスピロンに変化する化合物をいう。また、タンドスピロンのプロドラッグは、広川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻分子設計163頁から198頁に記載されているような、生理的条件でタンドスピロンに変化するものであってもよい。
本発明のタンドスピロンまたはその塩あるいはそのプロドラッグ(以下タンドスピロン類とも称する)は優れたセロトニン5-HT1A受容体活性化作用を有する。
また、本発明のタンドスピロンは、毒性が低く、安全である。
【0022】
「タンドスピロンクエン酸塩」を有効成分とする薬物は、(1)神経症における抑うつ、恐怖、及び(2)心身症(自律神経失調症、本態性高血圧症、消化性潰瘍)における身体症候並びに抑うつ、不安、焦燥、睡眠障害に対する治療剤として、経口剤として臨床応用されている。タンドスピロンは、各種神経伝達物質受容体に対するin vitro受容体結合評価では、セロトニン(serotonin)1A受容体(以下、「5-HT1A受容体」とも称される。)に対し選択性が高く、一方、ドパミン(dopamine)2受容体(「D2受容体」とも称される。)に対して親和性が低い。このことから、タンドスピロンは、5-HT1A受容体を活性化し、セロトニン神経に選択的に作用することで神経症などに奏効すると考えられている。
【0023】
本明細書において「レボドパ」(広義)は、狭義のレボドパ(L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(IUPAC名は(S)-2-アミノ-3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)プロパン酸)であり、L-ドパとも称される。)の他、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニンと同等の薬効を奏する任意の他の薬剤を包含する。このような他の薬剤としては、例えば、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニンのエステル及びその塩を包含するが、これらに限定されない。L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニンのエステルの例はレボドパエチルエステル(LDEE;エチル(2S)-2-アミノ-3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)プロパノエート)、レボドパプロピルエステル;レボドパプロピルエステル(プロピル(2S)-2-アミノ-3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)プロパノエート)、レボドパメチルエステル(メチル(2S)-2-アミノ-3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)プロパノエート)等を挙げることができ、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニンのエステルは例えば水和塩を含む塩であり得る。レボドパエステルの塩は、オクタン酸塩、ミリスチン酸塩、コハク酸塩、コハク酸塩二水和物、フマル酸塩、フマル酸塩二水和物、メシル酸塩、酒石酸塩及び塩酸塩のいずれかを含み得るが、これらに限定されない。例えば、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニンのエステルのコハク酸塩又はコハク酸塩二水和物は、レボドパエチルエステルスクシネート(LDEE-S)又はレボドパエチルエステルスクシネート二水和物(LDEE-S-二水和物又はLDEE-S(d))を挙げることができる。
【0024】
本明細書において、「レボドパの代謝酵素阻害剤」とは、広義のレボドパの作用を強めるようにその代謝を阻害する作用を有する任意の薬剤を指し、レボドパが腸、肝臓、血管内でドパミンに変わるのを防ぐドパ脱炭酸酵素(デカルボキシラーゼ)阻害薬(DCI)(カルビドパ、α-メチルドパ、ベンゼラジド(Ro4-4602)、α-ジフルオロメチル-DOPA(DFMD)又はそれらの塩等が例示される)、同様にレボドパが脳に入る前に分解されるのを防ぐカテコラミン-O-メチル基転移酵素阻害薬(COMT-I)(エンタカポンが例示される)、脳内でドパミンが分解されるのを防ぐモノアミン酸化酵素阻害薬(MAO-I)(セレギリンが例示される)等を挙げることができる。
【0025】
(疾患・障害)
【0026】
本明細書において、「運動合併症(motor complications)」とは、進行期パーキンソン病患者において認められる治療上の問題点となる任意の運動症状をいい、レボドパ治療に伴う不随意運動であるジスキネジア(レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID))等を挙げることができる。運動合併症は、レボドパの過剰作用に基づくと解釈されているが、そのメカニズムは必ずしも明らかになっていない。
【0027】
本明細書において、「レボドパ誘発性ジスキネジア<不随意運動>(PD-LID)」とは、レボドパの過剰投与によって誘発される手足や体が勝手にくねくねと動くような不随意運動をいう。ジスキネジアは、病初期からレボドパを必要以上に大量に服用し続けると出現しやすくなることや、一度出現したジスキネジアは、その後レボドパの投与量をいろいろと加減してもコントロールが非常に困難であることなどが知られている。PD-LIDの代表的症状としては、ピークドーズジスキネジア(peak-dose dyskinesia)が知られており、レボドパ血中濃度の高い時期に、顔面、舌、頸部、四肢、体幹等に症状が現れる。
【0028】
不随意運動(ジスキネジア)は、体の一部が勝手に動き、止まらない、口唇をかむ、しゃべりにくい、じっとできない、手足を思ったように動かしにくいことをいい、四肢及び/又は口腔顔面部分及び/又は体の軸部分の不随意運動がみられるようになる運動障害である。レボドパでの治療を受けているPD患者において観察されるジスキネジアは、レボドパ誘発性ジスキネジア(LID)と呼ばれ、レボドパでの治療を始めて5から10年が経過したPD患者の半数超において生じ、LIDに冒される患者の比率(%)は時間の経過と共に上昇している(総説として、例えば、Encarnacion及びHauser、(2008)、「Levodopa-induced dyskinesias in Parkinson’s disease: etiology, impact on quality of life, and treatments.」、Eur Neurol、60(2)、57~66ページを参照)。
【0029】
ピークドーズジスキネジア(peak-dose dyskinesia)とは、抗パーキンソン病薬が過剰になった状態で生じる不随意運動である。二相性ジスキネジア(diphasic dyskinesia)とは、抗パーキンソン病薬の効果の出始めと切れかけの二つのフェイズに出るジスキネジアである。
【0030】
本明細書において使用される「薬学的に許容される塩」としては、無機及び/又は有機の酸及び塩基によって形成される酸及び/又は塩基塩を含み、酸付加塩及び塩基付加塩が挙げられる。例えば、酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、又はクエン酸塩、シュウ酸塩、フタル酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。また、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩等の無機塩基塩、又はトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6-ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン]、tert-ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジベンジルエチルアミン、の有機塩基塩等が挙げられる。さらに、「薬学的に許容される塩」としては、アルギニン、リジン、オルニチン、アスパラギン酸、又はグルタミン酸等の塩基性アミノ酸又は酸性アミノ酸とのアミノ酸塩も挙げられる。薬学的に許容される塩は従来技術で良く知られている。例えば、Bergeらは、J.Pharmaceutical Sciences(1977)66:1-19で薬学的に許容される塩を詳細に説明している。
【0031】
本発明のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグや医薬は、必要に応じて、担体を含んでいてもよい。本明細書で使用される用語「担体」(carrier)は、例えば、対象医薬化合物を体の1つの器官・組織又は部分から体の別の器官・組織又は部分に運搬又は輸送することに関する、又はそれを可能とする、液体又は固体増量剤、希釈剤、添加剤、溶媒、基剤又は皮膚浸透促進剤などのような、薬学的に許容可能な物質、組成物、又は賦形剤をいう。「薬学的に許容可能」であるとは、製剤における他の原料と適合性があり、被検体に有害でないということを指す。
【0032】
本発明において治療可能な疾患は、パーキンソン病の任意のレボドパ誘発性の運動合併症を含む。
【0033】
具体的な実施形態において、本発明において治療可能な患者は、レボドパ誘発性の運動合併症がある、若しくは、レボドパ誘発性の運動合併症を発現する可能性のあるパーキンソン病患者を含む。レボドパ誘発性の運動合併症は、レボドパ誘発性のジスキネジアを含む。
【0034】
本発明におけるパーキンソン病のレボドパ誘発性ジスキネジアに対する改善効果は、臨床的にはUnified Dyskinesia Rating Scale(UDysRS)、Clinical Dyskinesia Rating Scale(CDRS)、Abnormal Involuntary Movement Scale(AIMS)等の臨床評価スケールや患者日誌により確認することができる。また、非臨床モデルPD-LIDモデルラットでは、ジスキネジア様の異常不随意運動行動評価によりジスキネジアの改善効果を確認することができる。この手法を用いることで、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状の改善、進行抑制又は予防のほか、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)発現時間の短縮を測定することができる。
【0035】
本発明において、PD-LID症状を悪化させているかは、タンドスピロンによる治療前に比べて、UDysRS、CDRS、AIMS等のジスキネジアの臨床評価スケールが有意に悪化しているかどうかによって、確認することができる。また、患者日誌によりジスキネジアに関連する症状の明らかな悪化が見られるかどうかによっても確認することができる。本明細書においてレボドパ誘発性ジスキネジア症状が苦痛を伴うかどうかは、患者日誌などの臨床記録によって確認することができる。
【0036】
本発明において、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)の「リバウンド症状」とは、ジスキネジアを改善するための治療薬により、一時的に、ジスキネジアスコアがむしろ悪化する現象を意味する。「リバウンド症状」は、ジスキネジア改善薬による治療中、レボドパの抗パーキンソン病作用のピーク時間(例えば1時間)以降に、ジスキネジア改善薬による治療を行わなかった場合よりもジスキネジアが悪化する現象であり、レボドパ投与後1~6時間後に現れると想定される。
【0037】
本発明において、リバウンド症状を生じることなくレボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を改善するとは、レボドパ投与後、ジスキネジア改善薬による治療を行わなかった場合と比較し、一次的であってもジスキネジアが悪化することなく、ジスキネジアの総スコアが改善することを意味する。「ジスキネジアが悪化することなく」とは、ジスキネジアがあり(非臨床PD-LIDモデルラットのAIMs評価系において、AIMsスコアが2以上)、かつ、ジスキネジア改善薬による治療を行わなかった場合と比較し、ジスキネジアスコアが有意に悪化することがない状態を意味する。
【0038】
非臨床PD-LIDモデルラットのAIMs評価系において、レボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)のリバウンド症状は、例えば、レボドパ投与後120-140分時点で認められる明確なジスキネジア様症状(AIMsスコアが2以上)や100-180分の合計AIMsスコア等を指標として評価することができる。ジスキネジアの改善は、レボドパ投与後180分間の総AIMsスコアで評価することができる。本PD-LIDモデルラットのAIMs評価系において、AIMsスコアが2以上のときジスキネジアがあると判断され、数字が大きいほどジスキネジアが重症であることを意味する。また、AIMsスコアが2より小さいときジスキネジアはないと判断される。
【0039】
本発明者らは、タンドスピロンの経口投与の場合には、リバウンド症状を生じるため、PD-LIDの治療に適さないことを見出した。一方、本発明のように、タンドスピロンを非経口投与することにより、リバウンド症状を生じることなくレボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)を改善することを見出した。治療形態としては、タンドスピロンを持続的に非経口投与するか、若しくは、持続性製剤を非経口投与することが好ましく、タンドスピロンを経皮投与することがさらに好ましい。
【0040】
本明細書において「助剤(adjunct)」とは、主な作用をする薬剤以外の薬剤をいい、本発明においては、レボドパが主剤であるとすると、タンドスピロン等は助剤であるということができる。
【0041】
本明細書において、主剤であるレボドパの1日あたりの投与量は、パーキンソン病診療ガイドライン2018年バージョンあるいは米国や欧州における対応するガイドラインに記載されたレボドパ治療の通常用量である。一般的には、1日あたりのレボドパ通常用量は、末梢性ドパ脱炭酸酵素阻害薬(decarboxylase inhibitor;DCI)の併用もしくは配合剤として、50~1200mg/日であり、好ましくは100mg~600mg/日である。例えば、FDAで承認されているSINEMET(登録商標)(Carbidopa-Levodopa配合錠)(New Drug Application(NDA)#017555)は、1:4比率配合錠(Carbidopa 25mg-Levodopa 100mg)、及び1:10比率配合錠(Carbidopa 10mg-Levodopa 100mg、Carbidopa 25mg-Levodopa 250mg)として提供される。1日維持量は、Carbidopaが70mgから100mgとなるようSINEMET(登録商標)が投与され、1日最大量は、Carbidopaとして200mgまでSINEMET(登録商標)が投与される。
本明細書のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ又は治療法は、レボドパ治療の通常用量の投与に伴う運動合併症の低減された治療、又は運動合併症の予防が可能となる。
【0042】
本発明のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを投与することによって、レボドパ投与量を適宜調整できるようになる。例えば、日本神経学会発行のパーキンソン病診療ガイドライン2018年バージョンあるいは米国や欧州における対応するガイドラインに定められた1回投与量及び1日投与量の範囲で増加することができる。
【0043】
本明細書において「持続性を有する」とは、当業者が本明細書における説明を考慮し、当該分野で公知の知見を利用して、決定することができる。具体的には、血中薬物濃度を長時間維持し、生物学的半減期の延長効果が示される場合は、持続性を有すると定義することができる。持続性を有する組成物としては、[0051]に記載される各種経皮吸収製剤、[0089]に記載される各種持続性注射剤、[0090]に記載の各種埋め込み剤等が挙げられる。また、本願発明において、「持続的に投与される」とは、本願発明における有効成分を体外から体内に持続的に投与することを意味する。[0048]に記載の非経口の投与経路がら選択でき、経皮吸収、注射もしく注入などで達成することができる。
【0044】
本明細書において、「臨床的に意義のある時間」は、当業者が本明細書における説明を考慮し、当該分野で公知の知見を利用して、決定することができる。具体的には、本発明が対象とする運動合併症の予防、治療又は軽減などに有意な効果が示される場合は、その時間は、臨床的に意義のある時間であると定義することができる。同様に、本明細書において「臨床的に意義のある改善」は、本発明が対象とする運動合併症の予防、治療又は軽減などに有意な効果が示される場合は、その状態は、臨床的に意義のある改善であると定義することができる。そのような時間や改善の測定手法は、当該分野の当業者にとっては、適宜選択することができる事項であり、例えば、本明細書に記載される任意の方法が考慮されるが、これに限定されず、例えば、日本神経学会発行のパーキンソン病診療ガイドライン2018年バージョンを用いることもできる。あるいは、ジスキネジアの臨床評価指標(MDS UDysRS Part III)2.32点との報告があり(Parkinsonism Relat Disord 21:1349, 2015))、(1)プラセボとの比較、(2)各患者の治療前後などの事項を考慮して適宜決定することができる。
【0045】
本明細書において、「臨床効果が得られるのに十分な時間」及び「臨床効果が得られるのに十分なレベル」もまた、当業者は、本明細書における説明を考慮し、当該分野で公知の知見を利用して、決定することができる。具体的には、本発明が対象とする運動合併症の予防、治療又は軽減などの臨床効果を得ることができる時間やレベルを測定することができれば、その時間やレベルは、臨床効果が得られるのに十分な時間であると評価することができる。そのような時間やレベルの測定手法は、当該分野の当業者にとっては、適宜選択することができる事項であり、例えば、本明細書に記載される任意の方法が考慮されるが、これに限定されず、例えば、日本神経学会発行のパーキンソン病診療ガイドライン2018年バージョンあるいは米国や欧州における対応するガイドラインを用いることもできる。
【0046】
本明細書において「パーキンソン病患者においてレボドパ誘発性ジスキネジア(PD-LID)症状を悪化させること」が「ない」とは、既に発症しているジスキネジア症状を臨床的に意義のある程度悪化させない、又は有意に悪化させないこと、ジスキネジア発現時間を延長しないこと、ジスキネジアのリバウンド症状のように一次的であっても有意に悪化させないこと、新たにジスキネジア症状を発症しないことを意味する。ジスキネジア症状は例えばUPDRS、UDysRS、CDRS、AIMS等によって測定、或いは、患者日誌などの臨床記録によって確認することができる。
【0047】
本明細書において、「パーキンソン病患者のレボドパ治療に対する応答の質の悪化」とは、レボドパ治療に対する患者の応答性の任意の低下をいい、このような応答の質の悪化は、ジスキネジア症状などから測定することができる。また、「パーキンソン病患者のレボドパ治療に対する応答の質の悪化」の「改善」とは、各患者のレボドパ治療におけるジスキネジア症状の程度が改善することを言い、UPDRS、UDysRS、CDRS、AIMS等で測定、或いは、患者日誌などの臨床記録によって確認することができる。
【0048】
本明細書において「非経口(parenteral)投与」とは、経口投与ではない任意の経路の投与形態を言い、好ましくはタンドスピロンがパーキンソン病のレボドパ誘発性の運動合併症に有効な形態及びレベルで投与される任意の形態が採用され、非経口投与の手段としては、経皮吸収若しくは経粘膜吸収による投与が挙げられ、注射若しくは注入、それらの組合せを含む。例えば、経皮吸収若しくは経粘膜吸収による投与としては、塗布剤、貼付剤、スプレー剤などの経皮吸収製剤を皮膚又は粘膜に接触させ、皮膚又は粘膜を通じて製剤中の薬物が体内に移行することによって効果が発揮される。注射もしく注入による投与としては、静脈内、皮内、皮下、筋肉内、経腸(注腸)投与が挙げられ、ボーラス投与及び/若しくは持続注入してもよい。それらは、懸濁化剤、安定化剤及び/又は分散剤などの他の製剤物質を含む、油性又は水性媒体中の懸濁剤、液剤、乳液、埋め込み剤を用いてもよい。経腸(注腸)投与としては、経皮的内視鏡的胃瘻造設術により、チューブ及び携帯型注入ポンプを用いて近位小腸へ持続的に送達することができる。一つの好ましい実施形態では、非経口投与は持続的投与の形態で実施され得る。そのような持続的投与は、パッチ剤、注射もしく注入などで達成することができる。
【0049】
本発明において、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、血中薬物濃度を長時間維持できる方法で投与されることが好ましく、代謝体の生成を抑制できる方法で投与されることがさらに好ましい。投与方法としては、経皮投与や皮下、皮内及び筋肉内などの注射投与が挙げられる。皮下、皮内及び筋肉内などの注射投与の場合は、血中濃度が持続化する投与法であることが好ましい。中でも、経皮投与は、通院が不要で侵襲性が少ない投与方法であることから最も好ましい。
【0050】
本発明において、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する非経口(parenteral)投与によるパーキンソン病のレボドパ治療に伴う運動合併症(motor complications)の治療、改善、進行抑制又は予防は、レボドパ作用時間(ON時間)に悪影響を及ぼさない、パーキンソン症状(UPRDS等により評価が可能)に悪影響を及ぼさない、繰り返し投与においても本願発明の効果が減弱しない、運動合併症を悪化させることなくレボドパ製剤を至適用量まで増加させることによって1日あたりのレボドパ製剤の投与回数を減らすことができる等の観点から、本願発明以外の有効成分による治療や本願発明以外の治療法及び組成物と比較して、好ましい。
【0051】
「経皮吸収製剤」としては、塗布剤、貼付剤、スプレー剤(エアゾール剤)であるものをいう。具体的には、貼付剤としてはテープ剤(パッチ剤)、パップ剤、プラスター剤などが、塗布剤としては軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、リニメント剤、液剤、ゲル剤等が挙げられる。好ましくは貼付剤である。さらに好ましくはテープ剤(パッチ剤)である。本発明において、「テープ剤」は、「パッチ剤」と同義であるため本明細書では、「テープ/パッチ剤」(tape/patch)と称することもある。
【0052】
経皮吸収製剤は、薬学的に許容される添加剤を用いて、公知の方法で製造される。1つの実施形態では、本発明で使用される経皮吸収製剤は、支持体上に設けられた粘着剤層を有し、当該粘着剤層は熱可塑性エラストマー等を含めることで製造することができる。「熱可塑性エラストマー」とは、熱を加えると軟化して流動性を示し、冷却すればゴム状弾性体に戻る熱可塑性を示すエラストマーであり、ウレタン系、アクリル系、スチレン系、オレフィン系など各種の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0053】
本発明の経皮吸収製剤の場合、粘着剤層は不揮発性炭化水素油を含有してもよい。不揮発性炭化水素油としては、炭素数が20~40程度の鎖式飽和炭化水素又は炭素数20~40程度の鎖式不飽和炭化水素が好ましく、たとえば、流動パラフィン、スクアレン、スクアラン、プリスタン等が挙げられる。なかでも入手のしやすさの観点において、流動パラフィンがより好ましい。流動パラフィンは、無色無臭の液状の炭素数20以上のアルカンの混合物であるが、本発明においては、日本薬局方、米国薬局方等に規定する規格に適合するもの等を好ましく用いることができる。不揮発性炭化水素油は粘度の高いものが好ましく、特に粘度の高い流動パラフィンを用いることが、粘着性の観点から好ましい。
【0054】
また、粘着剤層には、必要に応じて粘着付与剤を含有させてもよい。粘着付与剤とは、通常貼付剤の分野で皮膚粘着性を付与するために汎用される樹脂であって、たとえばロジン系樹脂、ポリテルペン樹脂、クマロン-インデン樹脂、石油系樹脂、テルペン-フェノール樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂等が挙げられ、これらより1種又は2種以上を選択して用いることができる。
【0055】
なお、経皮投与を想定する場合、軟膏を皮膚に塗布することによっても実現することができる。
【0056】
テープ/パッチ剤以外の本開示のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの非経口投与(例えば、経皮投与)のための投与剤形には、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ジェル、及び溶液を含むことができる。
【0057】
軟膏、ペースト、クリーム、及びジェルは、本開示のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグに加えて、動物及び植物脂肪、オイル、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルク、並びに酸化亜鉛、又はこれらの混合物などの添加剤を含むことができる。
【0058】
粉末及びスプレーは、本開示の医薬組成物に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、及びポリアミド粉末などの添加剤、又はこれらの物質の混合物を含むことができる。さらに、スプレーはクロロフルオロヒドロカーボンのような一般的な高圧ガス、並びにブタン及びプロパンのような揮発性非置換炭化水素を含むことができる。
【0059】
軟膏の他、粉末、溶液なども非経口投与に適する限り、本開示の範囲内であると解釈される。
【0060】
非経口投与に適した組成物は、少なくとも1種類の医薬品として許容可能な無菌等張性水性若しくは非水性溶液、分散液、懸濁液、エマルション、埋め込み剤、又は使用直前に無菌注射用溶液若しくは分散液に再構成され得る無菌粉末を含むことができる。
【0061】
本明細書で開示される組成物は、直腸又は膣投与のために坐薬とすることができ、本開示による1種類以上の化合物を、ココアバター、ポリエチレングリコール、坐薬ワックス、又はサリチレートなどを含む1種類以上の適切な非刺激性添加剤又は担体とともに混合して調製することができ、室温では固体だが体温で液体であり、従って直腸又は膣腔で融解して本開示の化合物を放出する。膣投与に適した医薬組成物は、従来技術で適切であることが知られている担体を含むペッサリー、タンポン、クリーム、ジェル、ペースト、フォーム、又はスプレー製剤も含み得る。
【0062】
本発明において、「薬物投与量」とは組成物に含まれる薬物量である。また、本発明において、「薬物移行量」とは体内に取り込まれた薬物量である。組成物が経皮吸収製剤である場合、「薬物移行量」とは、経皮吸収製剤から皮膚に移行した薬物量であり、以下の式により算出される値である。「薬物残存量」とは貼付後に剥離した経皮吸収製剤に残存する薬物量であり、実施例(参考製造例)([0098]~[0101])に記載の方法等により定量できる。
薬物移行量(mg/日)=薬物投与量(mg/日)―薬物残存量(mg/日)
【0063】
本発明において、薬物投与量、薬物移行量、薬物残存量及び血中(血漿中)タンドスピロン濃度は、特に記載がない場合は、タンドスピロンフリー体に換算された量である。
【0064】
本発明において、タンドスピロン又はその塩の薬物投与量や薬物移行量は、化合物の種類、患者の症状・年齢・体重・腎肝機能等により適宜調整することができる。例えば、一日あたりの薬物投与量は、0.1~100mg、好ましくは0.2~50mg等を挙げることができ、その上限としては、100mg、80mg、50mg、30mg、15mg等を挙げることができ、下限としては、0.1mg、0.2mg、1mg、2mg、3mg等を挙げることができ、好ましい範囲としては、これらの上限及び下限の両者の任意の組合せを挙げることができる。一日あたりの薬物移行量は、0.1~20mg、好ましくは0.2~10mgとすることができ、その上限としては、20mg、10mg、8mg、7mg、5mg、3mg等を挙げることができ、下限としては、0.1mg、0.2mg、1mg、1.5mg等を挙げることができ、好ましい範囲としては、これらの上限及び下限の両者の任意の組合せを挙げることができる。投与頻度は、組成物の特性により適宜調整することができる。組成物が経皮吸収製剤の場合、例えば、12時間毎に1回~7日毎に1回であり、これらの間の任意の頻度も可能であり、例えば、2日に1回、3日に1回、4日に1回なども可能である。組成物が、注射用製剤の場合、例えば、1日毎に1回~3か月に1回であり、これらの間の任意の頻度も可能であり、例えば、1週間に1回、2週間に1回、4週間に1回、3か月に1回なども可能である。また、ポンプ式の自動注入装置により、24時間持続的に投与したり、覚醒時のみ投与したり、症状に応じて投与時間を調整することも可能である。本剤はレボドパを含む製剤と混合して、持続的に投与することも可能である。
【0065】
本発明において、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、レボドパを作用させたい時間の間、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度がフリー体換算量として、0.05~20ng/mLとなるように投与されることが好ましい。具体的には、一日あたり12時間以上、好ましくは16時間以上である。
【0066】
ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度はフリー体換算量として、0.05~20ng/mL等を挙げることができ、その上限としては、20ng/mL、15ng/mL、10ng/mL、8ng/mL、5ng/mL等を挙げることができ、下限としては、0.05ng/mL、0.1ng/mL、0.2ng/mL、0.5ng/mL、1ng/mL等を挙げることができる。好ましい範囲としては、これらの上限及び下限の両者の任意の組合せを挙げることができる。上記のヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度は単回投与で達成されてもよいし、反復投与による維持濃度として達成されてもよい。
【0067】
本発明において、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度の最高値(Cmax)は、フリー体換算量として、0.1~20ng/mL等を挙げることができ、その上限としては、20ng/mL、15ng/mL、10ng/mL、8ng/mL、5ng/mL等を挙げることができ、下限としては、0.1ng/mL、0.2ng/mL、0.5ng/mL、1ng/mL等を挙げることができる。好ましい範囲としては、これらの上限及び下限の両者の任意の組合せを挙げることができる。
【0068】
本発明において、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度-時間曲線下面積(AUC)は、フリー体換算量として、3~700ng・h/mL等を挙げることができ、その上限としては、700ng・h/mL、600ng・h/mL、400ng・h/mL、300ng・h/mL、200ng・h/mL等を挙げることができ、下限としては、3ng・h/mL、5ng・h/mL、10ng・h/mL、30ng・h/mL等を挙げることができる。好ましい範囲としては、これらの上限及び下限の両者の任意の組合せを挙げることができる。
【0069】
本発明において、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する組成物は、前記タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグの投与後8時間から16時間の間、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が0.05~20ng/mLとなるように投与されることを特徴とする組成物である。
【0070】
本発明において、タンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグを含有する組成物が経皮吸収製剤の場合、その製剤適用面積は通常適宜調整が可能であるが、好ましくは、1回あたりの貼付面積の合計が1~100cmである。その上限としては、100cm、50cm、40cm、30cm、20cm等を挙げることができる。下限としては、1cm、2cm、4cm、9cm等を挙げることができる。好ましい範囲としては、これらの上限及び下限の両者の任意の組合せ、好ましい治療効果を得ることができる。
【0071】
本発明のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグは、単回投与後8時間以内、好ましくは6時間以内、さらに好ましくは4時間以内に、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度の下限値を上回り、単回投与後16時間まで、好ましくは18時間まで、さらに好ましくは20時間まで、ヒト血中(血漿中)タンドスピロン濃度が上限と下限の範囲に維持される。
【0072】
本発明において、タンドスピロン経皮吸収製剤はレボドパ含有製剤と併用によりパーキンソン病の治療に供される。本発明におけるタンドスピロン経皮吸収製剤は、タンドスピロン経皮吸収製剤を貼付後6時間以降、好ましくは8時間以降、さらに好ましくは12時間以降にレボドパ含有製剤を投与するとより好ましい効果が期待できる。また、タンドスピロン経皮吸収製剤を所定時間毎に貼り替えて反復投与することにより、レボドパ含有製剤の投与タイミングによらず、安定した治療効果が得られる。
【0073】
以下に本発明の経皮吸収製剤の製造法を説明するが、本発明はもとよりこれらに限定されるものではない。
【0074】
本発明の経皮吸収製剤は、一般的に知られている方法で製造可能である。本発明のテープ剤は、例えば、下記の製造例1により製造することができる。
【0075】
(製造例1)
テープ剤の一般的な製造法を記載する。
本発明のテープ剤(パッチ剤)は通常の方法で製造することができる。例えば、「経皮適用製剤開発マニュアル」松本光男監修(1985)に記載のプラスター剤の製造に関する項に従って製造することができる。また、例えば、「経皮治療システム用貼付剤製造装置の開発(膜, 32(2), 116-119(2007))」に記載の装置、方法などにより製造することができる。
【0076】
具体的には、本発明のテープ剤の製造において、粘着剤層を形成するには、通常の粘着テープの製造方法が適用できる。その代表例は溶剤塗工法であるが、これ以外にもホットメルト塗工法、電子線硬化エマルジョン塗工法などを用いることができる。
【0077】
粘着剤層を溶剤塗工法で形成するには、例えば、タンドスピロン、粘着剤を含む混合液、及び透過促進剤、硬化剤などの製剤化成分と、有機溶媒とを混合して粘着剤層混合液を調製し、該混合液を支持体又は剥離ライナーの片面に塗布し、乾燥させて有機溶媒を除去し、乾燥の前後のいずれかのタイミングで剥離ライナー又は支持体を貼り合わせることによって製造することができる。テープ剤の粘着剤層の厚さは、特に限定されず、好ましくは約10μm~約400μmであり、より好ましくは約20μm~約200μmであり、さらに好ましくは約50μm~約180μmであり、特に好ましくは約70μm~約150μmである。
【0078】
(製造例2)
他の非経口投与製剤の調製
【0079】
軟膏剤は、一般的に知られる方法で製造することができる。油脂性軟膏剤を製するには,通例、油脂類、ろう類、パラフィンなどの炭化水素類などの油脂性基剤を加温して融解し、有効成分を加え、混和して溶解又は分散させ、全体が均質になるまで混ぜて練り合わせて製造することができる。水溶性軟膏剤を製するには、通例、マクロゴールなどの水溶性基剤を加温して融解し、有効成分を加え、全体が均質になるまで混ぜて練り合わせることにより製造することができる。
【0080】
例えば、タンドスピロンに、セタノールやステアリルアルコールなどの高級アルコール類、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの高級脂肪酸又はそのエステル、精製ラノリン、鯨ロウなどのロウ類、ソルビタン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステルなどの界面活性剤、親水ワセリン、流動パラフィン、プラスチベースなどの炭化水素類を配合して製造することができる。この軟膏剤の製剤処方は、例えば、タンドスピロン0.5~10重量%、高級アルコール0.1~5%、高級脂肪酸又はそのエステル1~15重量%、界面活性剤1~10重量%、ロウ類4~10重量%、炭化水素50~80重量%である。製造方法としては、例えば、タンドスピロン及び前記の添加剤成分を加え、加温下で混合し、50~100℃に保ち、全成分が透明溶解液になった後、ホモミキサーで均一に混和する。その後、冷却、放冷しながら撹拌することによって軟膏剤を得ることができる。
【0081】
皮下、皮内、筋肉内投与用の注射剤は、一般的に知られる方法で製造することができる。通例、次の方法により製造することができる。
(i) 有効成分をそのまま、又は有効成分に添加剤を加えたものを注射用水、ほかの水性溶剤又は非水性溶剤などに溶解、懸濁若しくは乳化して均質としたものを注射剤用の容器に充填して密封し、滅菌する。
(ii) 有効成分をそのまま,又は有効成分に添加剤を加えたものを注射用水、ほかの水性溶剤又は非水性溶剤などに溶解、懸濁若しくは乳化して均質としたものを無菌ろ過するか、無菌的に調製して均質としたものを注射剤用の容器に充填して密封する。
【0082】
上記の注射剤は、有効成分が溶液中で分解又は失活することを防ぐために、凍結乾燥注射剤又は粉末注射剤として製してもよい。
【0083】
凍結乾燥注射剤は、通例、有効成分をそのまま、又は有効成分及び賦形剤などの添加剤を注射用水に溶解し、無菌ろ過し、注射剤用の容器に充填した後に凍結乾燥するか、又は専用容器で凍結乾燥した後に直接の容器に充填して製することができる。
【0084】
粉末注射剤は、通例、無菌ろ過により処理した後、晶析により得た粉末又はその粉末に滅菌処理した添加剤を加えて注射剤用の容器に充填して製することができる。
【0085】
例えば、タンドスピロンを界面活性剤とともに、水、有機溶媒、又は有機溶媒と水の混合溶媒に溶解して、活性成分溶液を調製する。得られる該溶液を滅菌用フィルターによりろ過滅菌して、無菌の活性成分溶液を調製することができる。ここで溶解に用いる溶媒(水、有機溶媒、又は有機溶媒と水の混合溶媒)としては、有機溶媒、又は有機溶媒と水の混合溶媒が好ましく、有機溶媒と水の混合溶媒がより好ましい。滅菌用フィルターは、ろ過滅菌のほか、原料由来の異物あるいは製造工程中に混入する外来性の異物の除去に効果的である。
【0086】
界面活性剤としては、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポロクサマー188、ポリキシエチレンヒマシ油、塩化ベンザルコニウム及びラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられ、これらを2種類以上用いてもよい。好ましくは、ポリソルベート80である。界面活性剤は、約0.005%(w/v)~約10%(w/v)用いるのが好ましい。
水は、精製水、精製水と同等以上のグレードの水、又は注射用水が用いられる。
有機溶媒は、アルコール溶媒(例えば、メタノール、エタノール等)、非プロトン性溶媒(例えば、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド等)等が挙げられ、また2種類以上の溶媒を用いてもよい。好ましくは、1-プロパノール、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、又はN,N-ジメチルアセトアミドである。
【0087】
本発明の注射剤は、製剤の充填されたプレフィルドシリンジに注射針を取り付けた後筋肉内若しくは皮下へ注射投与することできる。また、製剤の充填されたバイアル等の容器より注射針を介して本製剤を注射シリンジ内へ吸引後、筋肉内若しくは皮下へ排出して注射投与することができる。さらに、製剤は、本製剤をバイアル等の容器へ充填した後に凍結乾燥して得られる凍結乾燥製剤とすること、及び本製剤中の活性成分結晶を単離した後に乾燥して得られる乾燥粉末結晶をバイアル等の容器へ粉末充填して粉末充填製剤とすることも可能である。凍結乾燥製剤及び粉末充填製剤では、懸濁用液により容器内で用時懸濁して調製した懸濁液を、容器より注射針を介して注射シリンジ内へ吸引後、筋肉内若しくは皮下へ注射投与することができる。本発明の注射剤は、製剤の充填された容器を無針注射器(注射器デバイスに組み込まれたガス、起爆剤及びバネ等により発生する圧力を利用し、容器に充填された薬液を排出させる機構を有し、注射針を用いずに投与可能な形態のもの。)に設置した後、筋肉内若しくは皮下へ注射投与することもできる。
【0088】
持続注入ポンプの調整例
本発明の注射剤は、市販の持続皮下注入ポンプを使用して持続的に投与することができる。持続皮下注入ポンプとは、薬物貯蔵部と、薬物を持続注入するためのポンプを有し、薬物を注入チューブを介して患者の皮下に持続的に注入するための装置である。この装置には、通常時計と、一定時間毎に注入量を変化させることができるプログラムが内蔵されている。薬物貯蔵部とは、ポンプと接続するために薬液出入り口を備えた薬効に必要な薬物濃度に調整された薬液が充填された密閉容器のことである。ポンプとは、この薬液を微量精密持続注入することのできるポンプのことであり、0.1mL/日から10mL/時間程度の微量な液量を注入できる装置のことである。薬物貯蔵部には、無菌的に保証されたタンドスピロン溶液を充填し保管する。
【0089】
持続性注射剤は、長期にわたる有効成分の放出を目的として、皮下、皮内、筋肉内などに適用する注射剤である。持続性注射剤は、一般的に知られる方法により製造することができる。通例、有効成分を植物油などに溶解若しくは懸濁するか、又は生分解性高分子化合物を用いたマイクロスフェアの懸濁液とすることにより製造することができる。
【0090】
埋め込み剤としては、長期にわたる有効成分の放出を目的として、皮下、筋肉内などに埋め込み用の器具を用いて、又は手術により適用する固形又はゲル状の注射剤である。埋め込み剤は一般的に知られる方法により製造することができる。通例、生分解性高分子化合物を用い、ペレット、マイクロスフェア又はゲル状の製剤とすることにより得ることができる。
【0091】
(併用薬)
本発明の経皮吸収製剤は、レボドパ以外の既存のパーキンソン病治療薬と併用することができる。このような既存のパーキンソン病治療薬としては、例えば、ドパミンアゴニスト(例えば、ブロモクリプチン、ペルゴリド、タリペキソール、カベルゴリン、プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン(rotigotine)など)、モノアミン酸化酵素B(MAOB)阻害薬(例えば、セレギリン、ラサギリン(rasagiline)、サフィナミド(Safinamide))、カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬(例えば、エンタカポン)、アマンタジン、アポモルヒネ、イストラデフィリン、抗コリン薬(例えば、ビペリデン、トリヘキシフェニジル、プロフェナミン、マザチコール)、チアプリド、ドロキシドパ、カルビドパ、ゾニサミド等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0092】
以下に本発明を、参考例、実施例及び試験例により、さらに具体的に説明するが、本発明はもとよりこれに限定されるものではない。尚、以下の参考例、実施例などにおいて示された化合物名は、必ずしもIUPAC命名法に従うものではない。
【実施例
【0093】
以下に実施例を記載する。
【0094】
試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライテスク、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0095】
(製造例)
参考製造例1:タンドスピロンの製造
タンドスピロン((1R,2S,3R,4S)-N-[4-[4-(ピリミジン-2-イル)ピペラジン-1-イル]ブチル]-2,3-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンジカルボキシイミド)は、以下に示す化学式を有しており、その製造方法等は特開昭58-126865号公報に記載されており、この記載は本明細書において参考として援用される。
【化2】
【0096】
(参考製造例:タンドスピロンテープ剤の製造)
(タンドスピロンテープ剤の製造)
アクリル系粘着剤(MAS683、コスメディ製薬社製、固形分35.6重量%、12.5068g)、酢酸エチル(1.5mL)、及びポリオキシエチレンラウリルエーテル(0.2530g)を混合した。タンドスピロン(0.32512g)の酢酸エチル(5.5mL)溶液を作製し、粘着剤の混合液に添加し、十分に攪拌した。得られた混合液を支持体の上に延展し、室温で1日乾燥した。その後、剥離ライナーを貼り合わせて、タンドスピロンテープ剤を製造した。
(プラセボテープ剤の製造)
アクリル系粘着剤(MAS683、コスメディ製薬社製、固形分35.6重量%、18.6962g)、酢酸エチル(5.5mL)、及びポリオキシエチレンラウリルエーテル(0.3520g)を混合し、十分に攪拌した。得られた混合液を支持体の上に延展し、室温で1日乾燥した。その後、剥離ライナーを貼り合わせて、プラセボテープ剤を製造した。
【0097】
支持体には、スリーエムヘルスケア株式会社製の50.8μmポリエチレンテレフタレート、及び/又はエチレン酢酸ビニル共重合体ラミネートフィルム(Scotchpak#9732)を使用した。剥離ライナーには、藤森工業株式会社製のバイナシート64S-018Bを使用した。
【表1】
【0098】
テープ剤中の薬物量(薬物投与量)及び薬物残存量の測定
尚、薬物投与量及び薬物残存量の測定条件の例を以下に記載するが、タンドスピロンの薬物投与量若しくは薬物残存量を測定できることが検証された他の測定方法に代替することが可能である。
<測定条件例>
標準溶液の調整
タンドスピロン溶液(約4, 20, 100μg/mL)を調整する。
製剤溶液の調製
(1)テープ剤を容器に入れ、アセトンを10mL加えて超音波約30分間照射する。
(2)(1)の抽出液1mLに、メタノール1mLを加え混合する。
(3)フィルター(ミリポア社製:Millex-FH(0.45um、PTFE))でろ過する。
【0099】
高速液体クロマトグラム(HPLC)条件
カラム:YMC-Pack ODS-AM 250 x 4.6mm(粒子径5μm)カラムオーブン:40℃
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:240nm)
流速:0.9mL/分
注入量:10μL
移動相:10mMリン酸塩緩衝液(pH6.8)・アセトニトリル混液(35:65)
【0100】
血漿中濃度評価)
1.試験方法
1.1.前処理操作方法
ポリプロピレン製マイクロチューブにラット血漿試料50μLを分取し、メタノール50μL(検量線試料には標準溶液50μL)、内標準溶液200μL(Bezafibrateメタノール溶液:200nmol/L、ブランク試料にはメタノール200μL)を添加し、ミキサーにて約10秒間撹拌する。これを遠心分離(4℃、4500rpm、10分)した後、上清を濾過フィルター(FastRemover MF 0.2μm)にて吸引濾過する。得られたろ液70μLに10mmol/L酢酸アンモニウム水溶液 70μLを加えミキサーにて約10秒間撹拌し、測定用試料とする。
液体クロマトグラム-質量分析法により、タンドスピロン濃度を測定する。
【0101】
1.2.測定条件
カラム:XSELECT CSH C18, 3.5μm, 100×3.0mm I.D.
カラム温度:50℃
移動相A:10mmol/L酢酸アンモニウム水溶液
移動相B:メタノール
流量:0.6mL/分
グラジエント条件:
【表2】
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法
検出法:multiple reaction monitoring、positive ion detection mode
モニターイオン:384.2/122.1(タンドスピロンQ1/Q3、m/z)、362.02/138.9(Bezafibrate Q1/Q3、m/z)
【0102】
(実施例1:タンドスピロンテープ剤を正常ラットに貼付した場合の血漿中濃度推移の評価)
(試験方法)
Wistar系雄性ラット(14週齢、日本エスエルシー)を使用した。テープ剤の評価日前にラット腹部の毛刈りを実施し、評価日に製剤1のテープ剤を腹部へ貼付した(サイズは9cm)。貼付投与2、4、6、24時間後に経時的に採血し、血漿中のタンドスピロンの濃度分析を実施した。結果は平均値±標準偏差で示した。
【0103】
(結果)
タンドスピロンテープ剤の貼付(9cm:31±2cm/kg)により、図1に示すような血漿中タンドスピロン濃度の推移である。テープ剤はタンドスピロンの血中濃度を平滑化し、持続化することを確認した。
【0104】
(実施例2:タンドスピロンテープ剤のジスキネジア改善効果の評価)
PD-LIDに対する代表的な実験モデルとしては、6-ヒドロキシドパミン(6-hydroxydopamine)(以下「6-OHDA」と称することがある。)の脳内片側への局所投与によるラット線条体ドパミン神経破壊モデルが知られている(6-OHDA片側処置ラット(6-OHDA傷害ラット))。当該モデルでは、レボドパの反復投与により、ジスキネジア様の異常不随意運動(AIMs)が出現する(Lundblad et al.,European Journal of Neuroscience,2002,15:120-132、Winkler et al.,Neurobiology of Disease,2002,10:165-186)。
【0105】
(試験方法)
モデル動物の作製には、Wistar系雄性ラット(12週齢、日本エスエルシー)を用いた。デシプラミン塩酸塩(25mg/kg;和光純薬)を腹腔内投与し、投与30分後、実験動物用全身麻酔器を使用し、イソフルランの吸入麻酔を行った。イソフルラン麻酔下、脳定位固定装置にラットを固定し、頭部の皮膚を外科用メスで切開することにより頭骨を露出させ、起点(AP:0、ML:0、DV:0)となるbregmaの座標を確認し、右内側前脳束の座標(AP:-4.4mm、ML:1.5mm、DV:7.8mm from bregma)を測定した。測定座標に投与用インジェクションチューブを挿入後、ドパミン神経変性作用を有する6-OHDA(9μg/4μL;Sigma-Aldrich)を局所注入した。手術から2週間後、アポモルフィン塩酸塩0.5水和物(0.5mg/kg;和光純薬)を皮下投与し、6-OHDAを注射した部位に対する反対側への回転運動を観察し、1分間に7回転以上したラットを6-OHDA片側処置ラットとして用いた。
【0106】
PD-LIDモデルを作製するため、生理食塩水に溶解させたレボドパメチルエステル塩酸塩(6mg/kg;Sigma-Aldrich)とベンセラジド塩酸塩(15mg/kg;Sigma-Aldrich)の混合液(以下、「レボドパ配合液」と称することがある。)を、6-OHDA傷害ラットに1日1回腹腔内投与した。レボドパ配合液の反復投与を3週間以上行い、行動観察評価を実施した。行動観察評価は、レボドパ配合液の腹腔内投与20分後から、20分おきに1分間、透明なアクリルケージ内で行い、投与3時間後まで行った。行動観察は、Limb AIMs(障害反対側前肢の不随意な曲げ伸ばしや、掌の開閉、手首の上下、舞踏病様の振え、ジストニア様の硬直)、Axial AIMs(障害反対側へ上半身・首をねじり、バランスを崩して倒れる、あるいは、その不安定な姿勢を維持し続ける)、Orolingual AIMs(顎をガクガクさせる、あるいは、舌を前方へ激しく突き出す)、Locomotive behavior(破壊反対側への回転行動)に分類し、0から4(0;全くなし、1;30秒未満発現、2;30秒以上発現、3;常時だが、音などの刺激によって止める、4;常時発現し、音などの刺激によっても止めない)のスコア付けを行った。3時間のLimb AIMs、Axial AIMs、Orolingual AIMsのスコアの合計を総AIMsスコアとした。総AIMsスコアが10未満の個体はジスキネジア様症状が出現していないとして、試験から除外した。薬物評価日前に行動観察評価を実施し、3時間のAIMsスコア、Locomotive behaviorスコア、ラットの体重を指標に各投与群への割付を行い、薬物評価に用いた。
【0107】
(経皮投与(条件1))
テープ剤を評価する場合、評価日前にラット腹部の毛刈りを実施した。評価日に製剤2のテープ剤を60cm/kg(37mg/kg)となるようにラット腹部へ貼付し、貼付4時間後にレボドパ配合液を腹腔内投与して行動観察評価を実施した。試験中にテープ剤が5割以上はがれた個体は解析から除外した。行動観察評価終了後に血漿を採取し、血漿中のタンドスピロンの濃度を分析した。
【0108】
(経皮投与(条件2))
テープ剤を角質ストリッピング条件(タンドスピロン高暴露条件)で評価する場合は、評価日にトランスポアサージカルテープ(3M)を用いてラット腹部のストリッピングを10回行った後、製剤3のテープ剤を60cm/kg(45mg/kg)となるように貼付し、貼付4時間後にレボドパ配合液を腹腔内投与して行動観察評価を実施した。試験中にテープ剤が5割以上はがれた個体は解析から除外した。行動観察評価終了後に血漿を採取し、血漿中のタンドスピロンの濃度を分析した。
【0109】
ジスキネジア様症状の評価においては、各評価時点におけるLimb AIMs、Axial AIMs、Orolingual AIMsの合計をAIMsスコアとした。試験結果の統計解析は、3時間のAIMsスコアを合計した総AIMsスコア、100-180分の合計AIMsスコアを指標にWilcoxonの順位和検定により行った。**はp<0.01を示し、プラセボテープ剤貼付群に比べて有意差があることを意味する。図中の結果は平均値±標準誤差で示した。
【0110】
(結果)
経皮投与(条件1)により、タンドスピロンテープ剤(製剤2:薬物投与量37mg/kg)を貼付し、タンドスピロンを経皮吸収させた場合、総AIMsスコアは12.6であった。タンドスピロンを含まないプラセボテープ剤を貼付した場合に比べて総AIMsスコアは17.7低下し、ジスキネジア様症状の有意な改善が認められた(図2-A、B)。また、レボドパ投与後120-140分の時点において、プラセボテープ剤貼付群、タンドスピロンテープ剤貼付群ともに明確なジスキネジア様症状(平均AIMsスコアが2以上)は認められず、100-180分の合計AIMsスコアにおいてその2群で有意な差は認められなかった(図2-C)。なお、行動観察評価終了後に測定した血漿中タンドスピロン濃度の平均値は、71.8ng/mLであった。
【0111】
経皮投与(条件2)により、角質ストリッピング条件にて、タンドスピロンテープ剤(製剤3:薬物投与量45mg/kg)を貼付し、高曝露のタンドスピロンを経皮吸収させた場合、総AIMsスコアは5.8であった。タンドスピロンを含まないプラセボテープ剤を貼付した場合に比べて総AIMsスコアは27.1低下し、ジスキネジア様症状の有意な改善が認められた。投与条件2では、投与条件1よりも高い改善効果が認められた(図3-A、B)。また、角質ストリッピング条件のレボドパ投与後120-140分の時点において、プラセボテープ剤貼付群、タンドスピロンテープ剤貼付群ともに明確なジスキネジア様症状(平均AIMsスコアが2以上)は認められず、100-180分の合計AIMsスコアにおいてその2群で有意な差は認められなかった(図3-C)。なお、行動観察評価終了時後に測定した血漿中タンドスピロン濃度の平均値は、269ng/mLであった。投与条件2の血漿中タンドスピロン濃度の平均値は、投与条件1より3倍以上の高かった。
【0112】
以上の結果から、タンドスピロン経皮投与製剤は、リバウンド症状を生じることなくPD-LID症状を改善した。
また、非臨床モデルにおいて、タンドスピロンの抗不安作用とPD-LIDに対する効果は、同等の投与量において効果を発現することがわかった。尚、抗不安作用はラットVogel conflict testsモデル、PD-LIDに対する効果は6-OHDA傷害ラットにおいて評価した。したがって、本願発明における治療効果は、抗不安薬として市販されているクエン酸タンドスピロン錠(セディール錠)と同等の血中濃度で効果を発現すると考えられる。
【0113】
(実施例3:タンドスピロン皮下持続投与のジスキネジア改善効果の評価)
PD-LIDモデルラットにタンドスピロンを皮下持続投与することにより、ジスキネジア様症状に対するタンドスピロンの薬効を評価した。
【0114】
(試験方法)
実施例2と同様に、6-OHDA傷害ラットにレボドパ配合液の反復投与を3週間以上行い、行動観察評価を実施した。薬物評価日前に行動観察評価を実施し、3時間のAIMsスコア、Locomotive behaviorスコア、ラットの体重を指標に各投与群への割付を行い、薬物評価に用いた。ただし、総AIMsスコアが10未満の個体はジスキネジア様症状が出現していないとして、試験から除外した。また、個体ごとの投与量のばらつきを抑えるために、平均体重から10%以上外れた個体も試験から除外した。
【0115】
タンドスピロン(フリー体)は、1M塩酸(ナカライテスク)に溶解させて生理食塩水で希釈し、0.05、0.25、1.25mg/kg/時間となるように調製した。その調製液を、ALZET(登録商標) Osmotic Pump MODEL2ML1(9.68μL/時間;DURECT)に注入して、使用した。
【0116】
タンドスピロンあるいは溶媒を注入した浸透圧ポンプを、各群n=6でラットの皮下に埋め込み、その4時間後にレボドパ配合液を投与し、行動観察評価を実施した。また、行動観察評価後に、タンドスピロン投与群のラットから血液を採取し、血漿中のタンドスピロンの濃度を分析した。
【0117】
図中の結果は平均値±標準誤差で示した。3時間の総AIMsスコア、100-180分の合計AIMsスコアを指標にして、Steel検定により溶媒投与群と比較することで、試験結果の統計解析を実施した。*はp<0.05を示し、有意差があることを意味する。
【0118】
(結果)
タンドスピロンの皮下持続投与により、用量依存的にジスキネジア様症状が改善し、1.25mg/kg/時間では有意な改善が認められた(図4-A、B)。また、レボドパ投与後120-140分の時点において、溶媒投与群、タンドスピロン投与群ともに明確なジスキネジア様症状(平均AIMsスコアが2以上)は認められなかった。さらに、100-180分の合計AIMsスコアにおいて、タンドスピロンの皮下持続投与により、用量依存的に合計AIMsスコアが低下し、1.25mg/kg/時間では有意な改善が認められた(図4-C)。なお、行動観察評価終了後に測定した血漿中タンドスピロン濃度の平均値は、0.05mg/kg/時間で23.5ng/mL、0.25mg/kg/時間で119ng/mL、1.25mg/kg/時間で541ng/mLであった。
【0119】
以上の結果から、タンドスピロンの皮下持続投与は、用量依存的にジスキネジア様症状を改善した。また、いずれの投与量においても、リバウンド症状を生じなかった。
【0120】
(実施例4:タンドスピロン皮下持続投与の長期のジスキネジア改善効果の評価)
PD-LIDモデルラットにタンドスピロンを2週間に亘って、皮下持続投与することにより、ジスキネジア様症状に対するタンドスピロンの薬効持続性を評価した。
【0121】
(試験方法)
実施例2と同様に、6-OHDA傷害ラットにレボドパ配合液の反復投与を3週間以上行い、行動観察評価を実施した。総AIMsスコアが15未満の個体はジスキネジア様症状が出現していないとして、試験から除外した。薬物評価日前に行動観察評価を実施し、3時間のAIMsスコア、Locomotive behaviorスコア、ラットの体重を指標に各投与群への割付を行い、薬物評価に用いた。
【0122】
タンドスピロンクエン酸塩は、1M塩酸(ナカライテスク)に溶解させて生理食塩水で希釈し、60mg/mLの濃度(クエン酸塩の濃度)に調製した。その調製液を、2週間安定した速度で薬液を放出するALZET(登録商標) Osmotic Pump MODEL2ML2(4.53μL/時間;DURECT)に注入して、使用した。
【0123】
タンドスピロンクエン酸塩あるいは溶媒を注入した浸透圧ポンプを、各群n=8でラットの皮下に埋め込み、その4時間後にレボドパ配合液を投与し、行動観察評価を実施した(ポンプ埋め込み0日目)。その後も1日1回レボドパ配合液の反復投与を続け、ポンプ埋め込み13日目にも行動観察評価を実施した。また、各行動観察評価後に、タンドスピロン投与群の半数のラット(n=4)から血液を採取し、血漿中のタンドスピロンの濃度を分析した。
【0124】
図中の結果は、3時間の総AIMsスコアの平均値±標準誤差で示した。総AIMsスコアを指標にして、Wilcoxonの順位和検定により、試験結果の統計解析を実施した。溶媒投与群と比較し、**はp<0.01を示し、有意差があることを意味する。
【0125】
(結果)
タンドスピロンクエン酸塩の皮下持続投与(タンドスピロンクエン酸塩として、60mg/mL:平均0.78mg/kg/時間)により、ポンプ埋め込み0日目において、溶媒群と比較してジスキネジア様症状の有意な改善が認められた(図5-A)。なお、行動観察評価終了後に測定した血漿中タンドスピロン濃度(フリー体換算値)の平均値は、281ng/mLであった。さらに、ポンプ埋め込み13日目においても、溶媒群と比較してジスキネジア様症状の有意な改善が認められた(図5-B)。なお、行動観察評価終了後に測定した血漿中タンドスピロン濃度(フリー体換算値)の平均値は、143ng/mLであった。
【0126】
以上の結果から、タンドスピロンの皮下持続投与を13日間継続しても、PD-LID症状の改善効果は持続した。
【0127】
(実施例5:タンドスピロン皮下持続投与のジスキネジア発現の予防・抑制効果の評価)
6-OHDA傷害ラットにレボドパを反復投与すると、ジスキネジア様の異常不随意運動が出現するようになる。そこで、レボドパ反復投与開始直後からタンドスピロンを皮下持続投与することにより、ジスキネジア様症状出現に対するタンドスピロンの予防効果を評価した。
【0128】
(試験方法)
タンドスピロンクエン酸塩は、1M塩酸(ナカライテスク)に溶解させて生理食塩水で希釈し、60mg/mLあるいは30mg/mLの濃度に調製した。その調製液を、ALZET(登録商標) Osmotic Pump MODEL2ML2(4.53μL/時間;DURECT)に注入して、使用した。
【0129】
6-OHDA傷害ラットにおける、アポモルフィン塩酸塩0.5水和物誘発回転数、体重を指標に各投与群への割付を実施した。実施例2と同組成のレボドパ配合液反復投与開始翌日に、タンドスピロンクエン酸塩あるいは溶媒を注入した浸透圧ポンプをラットの皮下に埋め込んだ。レボドパ反復投与開始3日目、5日目、9日目、15日目に、実施例2と同様の方法を用いて行動観察評価を実施した。また、15日目の行動観察評価後に、皮下に埋め込んだ浸透圧ポンプを取り出し、その翌日(レボドパ反復投与16日目)にも、行動観察評価を実施した。
【0130】
図中の結果は、3時間の総AIMsスコアの平均値±標準誤差で示した。レボドパ反復投与16日目における総AIMsスコアを指標にして、Steel検定により溶媒投与群と比較することで、試験結果の統計解析を実施した。溶媒投与群と比較し、*はp<0.05、**はp<0.01を示し、有意差があることを意味する。
【0131】
(結果)
タンドスピロンクエン酸塩の皮下持続投与(30mg/mL:平均0.41mg/kg/時間あるいは60mg/mL:平均0.83mg/kg/時間)により、溶媒群と比較して、レボドパ反復投与に伴う総AIMsスコアの増加が抑制された(図6-A)。さらに、タンドスピロンクエン酸塩の投与を終了した翌日においても、溶媒群と比較して、タンドスピロンクエン酸塩を投与していた群では総AIMsスコアが有意に低下していた(図6-B)。
以上の結果から、タンドスピロンの皮下持続投与は、PD-LIDの発症を予防し、その効果はタンドスピロンの最終投与の翌日も持続していた。
【0132】
(比較例1:タンドスピロン経口投与のジスキネジア症状に対する評価)
【0133】
(試験方法)
実施例2と同様の方法を用いて、行動観察評価を実施した。タンドスピロンクエン酸塩は0.5%メチルセルロース溶液に懸濁してラットに経口投与し、5分後にレボドパ配合液を腹腔内投与して行動観察評価を実施した。図中の結果は平均値±標準誤差で示した。3時間の総AIMsスコア、100-180分の合計AIMsスコアを指標にして、Steel検定により溶媒投与群と比較することで、試験結果の統計解析を実施した。*はp<0.05を示し、有意差があることを意味する。
【0134】
(結果)
(1)ジスキネジア様症状
タンドスピロンクエン酸塩(クエン酸塩濃度として、10、30、100mg/kg)の経口投与群では、溶媒投与群と比較して、総AIMsスコアの有意な変化は認められなかった(図7、8-A、B)。この結果から、タンドスピロン経口投与製剤では、PD-LIDを改善できないことが示唆された。
【0135】
レボドパ投与後120-140分の時点において、溶媒投与群ではジスキネジア様症状が治まってくるが、タンドスピロンクエン酸塩の経口投与群(30、100mg/kg)では明確なジスキネジア様症状(平均AIMsスコアが2以上)が認められた。さらに、100-180分の合計AIMsスコアを指標に、溶媒投与群とタンドスピロンクエン酸塩の経口投与群を比較したところ、溶媒投与群と比較してタンドスピロンクエン酸塩経口投与群(30、100mg/kg)では、合計AIMsスコアの有意な増加が認められた(図7、8-C)。以上の結果から、タンドスピロンの経口投与製剤では、ジスキネジア様症状が遅れて出現し増悪する現象(ジスキネジアのリバウンド症状)が出現する可能性が示唆された。
【0136】
以上のように、タンドスピロン経口投与群では、PD-LIDモデルラットに対して、ジスキネジア症状の改善は認められなかった(表3-(i))。また、経口投与の高投与量群にはジスキネジアのリバウンド症状が認められた(表3-(ii))。これらの結果から、タンドスピロンの経口投与は、ジスキネジアの改善効果が不十分であり、さらにリバウンド症状発現の懸念があるため、レボドパ製剤と組み合わせた治療法は適切でない可能性が考えられる。
【0137】
【表3】
投与量は、タンドスピロンフリー体換算での数値を記入した。ジスキネジア症状の改善度の指標として、3時間の総AIMsスコアの差(#1)、ジスキネジアのリバウンド症状の指標として、100-180分の合計AIMsスコアの差(#2)を記入した。
(#1)3時間の総AIMSsスコアの差=(プラセボテープ剤あるいは溶媒投与群の総AIMsスコア)-(タンドスピロン投与群の総AIMsスコア)
(#2)100-180分の合計AIMsスコアの差=(プラセボテープ剤あるいは溶媒投与群の100-180分の合計AIMsスコア)-(タンドスピロン投与群の100-180分の合計AIMsスコア)
**:有意差あり(p<0.01)、*:有意差あり(p<0.05)
【0138】
表3のように、レボドパ誘発性ジスキネジア症状の改善においては、経口投与では有意差が認められなかったのに対して、経皮投与では有意な改善が認められた。
また、経口投与の場合はジスキネジアのリバウンド症状があることが新たに見出され、タンドスピロンの経口投与による治療は好ましくないことが判明した。一方、経皮投与の場合はジスキネジアのリバウンド症状は認められなかった。
以上のように、タンドスピロン経口投与のレボドパ誘発性ジスキネジア症状の治療効果は限定的であり、タンドスピロン経皮投与の方が好ましいことが示唆された。
【0139】
(比較例2:タンドスピロン代謝体のジスキネジア症状に対する評価)
【0140】
タンドスピロンの代謝体である1-(2-Pyrimidyl)piperazine(以下、「1-PP」と称することがある。)のジスキネジア様症状に対する作用を評価した。
【0141】
(試験方法)
実施例2と同様の方法を用いて、行動観察評価を実施した。1-PP二塩酸塩(東京化成工業)は生理食塩水に溶解させてラットに皮下投与し、5分後にレボドパ配合液を腹腔内投与して行動観察評価を実施した。図中の結果は平均値±標準誤差で示した。3時間の総AIMsスコア、100-180分の合計AIMsスコアを指標にして、Steel検定により溶媒投与群と比較することで、試験結果の統計解析を実施した。
【0142】
(結果)
1-PP二塩酸塩(10、30mg/kg)の皮下投与群では、溶媒投与群と比較して、総AIMsスコアの有意な変化は認められなかった(図10-A、B)。
【0143】
レボドパ投与後120-140分の時点において、1-PP二塩酸塩の皮下投与群(10、30mg/kg)では明確なジスキネジア様症状(平均AIMsスコアが2以上)が認められた。さらに、100-180分の合計AIMsスコアを指標に、溶媒投与群と1-PP二塩酸塩の投与群を比較したところ、溶媒投与群と比較して1-PP二塩酸塩投与群では、有意ではないが合計AIMsスコアの増加傾向が認められた(図10-C)。この結果から、タンドスピロンの代謝体1-PPがジスキネジアのリバウンド症状を引き起こす可能性が示唆された。
【0144】
以上の結果から、タンドスピロンの代謝体1-PPが生成する投与条件においては、ジスキネジアのリバウンド症状が生じる可能性が示唆された。つまり、タンドスピロンは、1-PPの生成を抑制できる投与方法の方が、ジスキネジアのリバウンド症状への影響が少なく好ましい。
【0145】
(実施例6:臨床プロトコルにおける実証)
PD-LIDを評価しうる適切なデザインの臨床試験として、以下の参考文献1(アマンタジンP3)に記載された方法に準ずる臨床試験により、本発明の化合物、若しくは本願発明の併用薬について、PD-LIDに関して改善効果を確認することができる(参考文献1:JAMA Neurology 2017; 74 (8) 941-949;参考文献2:Movement Disorders 2015; 30 (19) 1343-1350)
【0146】
より具体的には、例えば、20歳以上のパーキンソン病と診断された患者において、一定の投与期間(例えば8~12週間が挙げられるが、これに限定されるものではない)本発明のタンドスピロン又はその薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ、若しくは本願発明の併用薬を投与し、投与期間前後のUPDRS、UDysRS、CDRS、AIMS等のスコアや患者日誌等に基づくジスキネジア発現時間を比較することにより、PD-LIDに関して改善効果を確認できる。
【0147】
上記試験において、対象患者、投与期間、薬剤の投与量、評価方法等の条件は適宜変更可能である。
【0148】
(注記)
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本出願は、米国特許出願第16/395,531号の優先権を主張し、その全内容は、参考として本明細書に援用される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0149】
タンドスピロンの非経口投与製剤は、PD-LIDを改善する治療薬として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】