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特表2022-529680線維芽細胞増殖因子23関連低リン血症性疾患の遺伝子療法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-23
(54)【発明の名称】線維芽細胞増殖因子23関連低リン血症性疾患の遺伝子療法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220616BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20220616BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220616BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220616BHJP
   A61K 35/407 20150101ALI20220616BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20220616BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220616BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/11 Z
C12N15/85 Z
C12N15/86 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N15/113 Z
A61K31/7088
A61K48/00
A61P19/08
A61P1/02
A61P7/00
A61P17/00
A61P13/12
A61P43/00 111
A61K35/76
A61K35/407
A61K35/34
A61K35/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021561984
(86)(22)【出願日】2020-04-20
(85)【翻訳文提出日】2021-11-02
(86)【国際出願番号】 EP2020061015
(87)【国際公開番号】W WO2020212626
(87)【国際公開日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】19305518.3
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19305768.4
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュセッペ・ロンツィッティ
(72)【発明者】
【氏名】ルイーサ・ジョゼ
(72)【発明者】
【氏名】セヴリーヌ・シャルル
(72)【発明者】
【氏名】フェデリコ・ミンゴッツィ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA51
4C084ZA67
4C084ZA81
4C084ZA89
4C084ZA96
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA51
4C086ZA67
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA96
4C086ZC02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA51
4C087ZA67
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZA96
4C087ZC02
(57)【要約】
本発明は、FGF-23関連低リン血症性疾患の遺伝子療法、特に筋肉、肝臓、又は造血組織、より特定には肝臓組織に向けられた遺伝子療法のための核酸構築物に関する。本発明は、遺伝子療法によるFGF-23関連低リン血症性疾患、特にXLHの治療のための、核酸構築物を含むベクター及びそれらの使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シグナルペプチド、
(b)FGFR/klotho複合体に結合するFGF23 C末端ペプチド、
(c)切断可能なリンカー、及び
(d)タンパク質安定化部分
を含むFGF23融合タンパク質をコードする、FGF-23関連低リン血症性疾患の遺伝子療法のための核酸構築物であって、前記シグナルペプチドは、前記融合タンパク質のN末端にあり、前記FGF23 C末端ペプチド及び前記タンパク質安定化部分は、前記切断可能なリンカーによって分離されている、核酸構築物。
【請求項2】
前記FGF23 C末端ペプチドは、配列番号1の175~189位のいずれか1つから203~251位のいずれか1つまでの配列、又は前記配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含む、請求項1に記載の核酸構築物。
【請求項3】
前記FGF23 C末端ペプチドは、配列番号1の176~179位におけるRXXRモチーフを含む、請求項1又は2に記載の核酸構築物。
【請求項4】
前記FGF23 C末端ペプチドは、配列番号2の配列、又は前記配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項5】
前記シグナルペプチドは、配列番号3~8からなる群から選択される配列、好ましくは配列番号7を含み、及び/又は前記切断可能なリンカーは、配列番号10の配列を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項6】
前記タンパク質安定化部分は、好ましくは配列番号9の配列を含むヒト血清アルブミンである、請求項1から5のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項7】
配列番号12若しくは52の配列、又は前記配列のいずれか1つと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含むFGF23タンパク質をコードする、請求項1から6のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項8】
ヒトにおける発現のためにコドン最適化されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項9】
配列番号13、51、若しくは57の配列、又は前記配列のいずれか1つと少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含む、請求項7又は8に記載の核酸構築物。
【請求項10】
コード配列が、筋肉、肝臓、又は造血細胞又は組織において機能的である少なくとも1つのプロモーター、特に肝臓特異的プロモーター、好ましくはヒトアルファ-1アンチトリプシンプロモーターに作動可能に連結されている発現カセットを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項11】
前記プロモーターに関連付けられたエンハンサー、好ましくはヒトApoE制御領域;前記プロモーターと前記コード配列との間に置かれたイントロン、好ましくは配列番号17の改変HBB2イントロン又は配列番号19の改変FIXイントロン;及び転写終結シグナル、好ましくはウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルからなる群から選択される1つ又は複数の制御エレメントを更に含む、請求項10に記載の核酸構築物。
【請求項12】
DNA又はRNAである、請求項1から11のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の核酸構築物を含む、遺伝子療法のためのベクター。
【請求項14】
ウイルスベクター、特にAAV又はレンチウイルスベクター、好ましくは、AAV1、AAV2、AAV5、AAV8、AAV2i8、AAV9、AAVrh10、AAVrh39、AAVrh43、AAVrh74、AAV-LK03、AAV2G9、AAV.PHP、AAV-Anc80、AAV3Bカプシド、及びそのキメラカプシド、より好ましくはAAV8カプシドからなる群から選択されるカプシドを含むAAVベクターである、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
好ましくは請求項12に規定のRNA構築物を含む、粒子又は小胞、特に脂質に基づくマイクロ又はナノ小胞又は粒子である、請求項13に記載のベクター。
【請求項16】
請求項1から12のいずれか一項に記載の核酸構築物又は請求項13から15のいずれか一項に記載のベクターによって遺伝子改変された細胞であって、特に筋肉、肝臓、又は造血細胞、好ましくは肝臓細胞である、細胞。
【請求項17】
請求項1から12のいずれか一項に記載の核酸構築物、請求項13から15のいずれか一項に記載のベクター、又は請求項16に記載の細胞から選択される少なくとも1種の活性剤、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項18】
遺伝子療法又は細胞療法による、FGF-23関連低リン血症性疾患の治療における使用のためであり、前記FGF-23関連低リン血症性疾患は、好ましくは、X連鎖性低リン血症、常染色体優性低リン血症性くる病、常染色体劣性低リン血症性くる病1、常染色体劣性低リン血症性くる病2、骨空洞性骨異形成症、ヤンセン型骨幹端軟骨異形成症、低リン血症、歯異常及び局所石灰化、マッキューン・オルブライト症候群/線維性骨異形成症、並びに低リン血症、皮膚及び骨病変を含む群から選択される遺伝性疾患、又は腫瘍誘導性骨軟化症、低リン血症性骨軟化症、腎臓移植若しくは非経口鉄療法による合併症、慢性腎疾患及び副甲状腺機能亢進症等のその合併症を含む群から選択される後天性疾患;好ましくはX連鎖性低リン血症である、請求項17に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FGF-23関連低リン血症性疾患、特にX連鎖性低リン血症(XLH)の遺伝子療法の分野にある。本発明は、FGF-23関連低リン血症性疾患の遺伝子療法、特に筋肉、肝臓、又は造血組織、より特定には肝臓組織に向けられた遺伝子療法のための核酸構築物に関する。本発明は、遺伝子療法によるFGF-23関連低リン血症性疾患、特にXLHの治療のための、核酸構築物を含むベクター及びそれらの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞増殖因子23(FGF-23又はFGF23)は、骨によって産生されるリン酸塩尿性(phosphaturic)ホルモンであり、それはKlotho-FGF受容体複合体に結合することによって働く。FGF23の過剰な活性は、X連鎖性低リン血症(XLH)及び常染色体優性又は劣性低リン血症性くる病(ADHR、ADHR1、ADHR2)等の様々な遺伝性疾患、並びに腫瘍誘導性骨軟化症(TIO)及び慢性腎疾患に伴う骨ミネラル代謝異常(chronic kidney disease-mineral and bone disorder)(CKD-MBD)等の後天性疾患を含めた、低リン血症性疾患をもたらす(Seiji Fukumoto、Calcif. Tissue Int.、2016、98、334~340頁に概説される)。
【0003】
X連鎖性低リン血症(XLH、OMIM #307800)の臨床兆候は、単独の(isolated)低リン血症から重度の下肢変形に及ぶ。該疾患は、下肢変形を有して生後2年以内に現れる。成人では、関節痛を伴う筋腱付着部症(enthesopathy)(腱の石灰化)、自然発生的歯性膿瘍、及び感音性難聴が報告されている。XLHは、FGF23循環レベルの増加を誘導するリン酸調節中性エンドペプチダーゼ(PHEX)遺伝子における変異に起因する。FGF23機能の増加は、腎臓におけるリン酸ナトリウム共輸送体の下方調節につながる。腎近位尿細管に位置する共輸送体は、尿からのリン酸の再吸収(re-adsorption)を媒介する。その下方調節は、リン酸の不十分な再吸収及び血中におけるより低いリン酸レベルをもたらす。加えて、FGF23の増加は、1,25(OH)2ビタミンD合成の欠損及び分解の増加と関連している。血中リン酸レベルの減少及び低いビタミンDレベルは、欠陥のある骨鉱化及び骨折につながる。
【0004】
古典的なXLH治療は、経口リン酸とビタミンDの活性型である高用量のカルシトリオールとからなる。実際には、i.v.リン酸療法に対する応答は予測不可能であることもあり、合併症には、「行き過ぎた」高リン血症、低カルシウム血症、及び転移性石灰化が含まれ、非経口レジメンは慢性障害に対して実用的ではない。しかしながら、経口療法は、高頻度で下痢又は胃刺激につながる高用量を要し、置き換え療法単独は、重大な腎リン酸消耗がある場合には決して十分ではない。それ故、FGF23関連低リン血症の治療のための新規なストラテジーが必要とされる。
【0005】
PHEX遺伝子の天然欠失に由来する疾患の動物モデルであるHypDukモデルが存在する。このモデルは、血中におけるより低いリン酸レベル及び骨成長の欠損を有して、疾患兆候のほとんどを再現する。種々の治療的ストラテジーがHypDukマウスにおいて試験されている。1つの手法は、抗FGF23中和抗体を使用する。最近、モノクローナル抗体抗FGF23が、小児型のXLHの治療に対して承認された(Crysvita(登録商標)、Ultragenyx社)。別のストラテジーは、受容体とFGF23との間の機能的相互作用により生じる活性化の細胞内カスケードを誘導することなく、FGF23受容体に結合し得る短縮型のヒトFGF23の使用で構成される。この短縮されたFGF23は、XLHにおいて観察されるFGF23機能の増加を低下させる競合因子として使用され得る(Goetz R.ら、PNAS、2009、107、407~412頁)。
【0006】
XLH等のFGF-23関連低リン血症性疾患に対する遺伝子療法は、今までのところ報告されていない。それ故、FGF-23関連低リン血症性疾患、特にXLHの治療のための遺伝子療法手法の必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許公報第US 2003/0157064号
【特許文献2】WO2015110449
【特許文献3】WO2009130208
【特許文献4】WO2017/182607
【特許文献5】WO2015013313
【特許文献6】WO2005/118792
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Seiji Fukumoto、Calcif. Tissue Int.、2016、98、334~340頁
【非特許文献2】Goetz R.ら、PNAS、2009、107、407~412頁
【非特許文献3】Goetzら、PNAS、2010、107、407~410頁
【非特許文献4】Garringerら、Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab.、2008、295、E929~E937頁
【非特許文献5】Altschulら、J. Mol. Biol.、1990、215、403頁~
【非特許文献6】Puzzoら、Sci. Transl. Med.、2017、9(418): doi:10.1126
【非特許文献7】Sternら、BMC Proc.、2011、5 (suppl 8):013
【非特許文献8】Sven Berger、Peter Lowe、及びMichael Tesar (2015) Fusion protein technologies for biopharmaceuticals: Applications and challenge、mAbs、7:3、456~460頁、DOI:10.1080/19420862.2015.1019788
【非特許文献9】Beattie及びDugaiczyk、Gene 1982、20、415~422頁
【非特許文献10】Lichensteinら、J. Biol. Chem.、1994、269、18149~18154頁
【非特許文献11】Cooke及びDavid, J. Clin. Invest.、1985、76、2420~2424頁
【非特許文献12】http://www.genscript;com/cgi-bin/rare_codon_analysis
【非特許文献13】https://eu.idtdna.com/site/account/login?returnurl=%2FCodonOpt
【非特許文献14】Charles R.ら、Blood Coag. Fibrinol、1997、8: S23~S30頁
【非特許文献15】http://rulai.cshl.edu/LSPD/
【非特許文献16】Wangら、Gene Therapy、2008、15、1489~99頁
【非特許文献17】Salvaら、Mol Ther.、2007、15、320~9頁
【非特許文献18】Weintraubら、Science、251、761 (1991)
【非特許文献19】Wangら、2008 doi: 10.1038/gt.2008.104
【非特許文献20】Boshartら、Cell、41:521~530頁(1985)
【非特許文献21】Rinconら、Mol Ther.、2015、23、43~52頁
【非特許文献22】Chuahら、Mol Ther. 2014、22、1605~13頁
【非特許文献23】Nairら、Blood、2014 123、20、3195~9頁
【非特許文献24】Lingら、2016年7月18日、Hum Gene Ther Methods.
【非特許文献25】Vercauterenら、2016、Mol. Ther. Vol. 24(6)、1042頁
【非特許文献26】Rosarioら、2016、Mol Ther Methods Clin Dev. 3、16026頁
【非特許文献27】Shenら、Molecular Therapy、2007
【非特許文献28】Tenneyら、Virology、2014
【非特許文献29】McCartyら、Gene Therapy、2003
【非特許文献30】Allayら、2011、Hum. Gene Ther、2011年5月; 22(5):595~604頁
【非特許文献31】Matsushitaら、Gene Therapy、1998、5、938~945頁
【非特許文献32】Ayusoら、Gene Therapy、2010、17、503~510頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、FGF-23関連低リン血症性疾患の遺伝子療法のための核酸構築物及び派生AAVベクターを操作した。HypDukマウスにおけるこのAAVベクターの単回注射後、処理された動物において、体重、身体サイズ、尾部長、及び循環リン酸の正常化された増大が観察された。このAAVベクターの単回注射後に観察された生化学的、肉眼的、及び機能的レベルでの該疾患の補正は、FGF-23関連低リン血症性疾患の治療のための、この核酸構築物及び派生ベクター、特にAAVベクターに基づく遺伝子療法手法の増強した有効性を実証する。
【0010】
それ故、本発明は、
(a)シグナルペプチド、
(b)FGFR/klotho複合体に結合するFGF23 C末端ペプチド、
(c)切断可能なリンカー、及び
(d)タンパク質安定化部分
を含むFGF23融合タンパク質をコードする、FGF-23関連低リン血症性疾患の遺伝子療法のための核酸構築物であって、シグナルペプチドは、融合タンパク質のN末端にあり、FGF23 C末端ペプチド及びタンパク質安定化部分は、切断可能なリンカーによって分離されている、核酸構築物に関する。
【0011】
一部の実施形態において、FGF23 C末端ペプチドは、配列番号1の175~189位のいずれか1つから203~251位のいずれか1つまでの配列、又は前記配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含む。
【0012】
一部の実施形態において、FGF23 C末端ペプチドは、配列番号1の176~179位におけるRXXRモチーフを含む。
【0013】
一部の好ましい実施形態において、FGF23 C末端ペプチドは、配列番号2の配列、又は前記配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含む。
【0014】
一部の実施形態において、シグナルペプチドは、配列番号3~8からなる群から選択される配列、好ましくは配列番号7を含む。
【0015】
一部の実施形態において、タンパク質安定化部分は、好ましくは配列番号9の配列を含むヒト血清アルブミンである。
【0016】
一部の実施形態において、切断可能なリンカーは、配列番号10の配列を含む。
【0017】
一部の好ましい実施形態において、核酸構築物は、配列番号12若しくは52の配列、又は前記配列のいずれか1つと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含むFGF23タンパク質をコードする。
【0018】
一部の実施形態において、核酸構築物は、ヒトにおける発現のためにコドン最適化されている。
【0019】
一部の好ましい実施形態において、核酸構築物は、配列番号13、51、若しくは57の配列、又は前記配列のいずれか1つと少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含む。
【0020】
一部の実施形態において、核酸構築物は、コード配列が、個体の標的細胞又は組織、特に筋肉、肝臓、又は造血細胞又は組織において機能的である少なくとも1つのプロモーターに作動可能に連結されている発現カセットを含む。一部の特定の実施形態において、プロモーターは、肝臓特異的プロモーター、好ましくはヒトアルファ-1アンチトリプシンプロモーターである。
【0021】
一部の実施形態において、核酸構築物は、プロモーターに関連付けられたエンハンサー、好ましくはヒトApoE制御領域;プロモーターとコード配列との間に置かれたイントロン、好ましくは配列番号17の改変HBB2イントロン又は配列番号19の改変FIXイントロン;及び転写終結シグナル、好ましくはウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルからなる群から選択される1つ又は複数の制御エレメントを更に含む。
【0022】
一部の実施形態において、核酸構築物はDNAを含む又はそれからなる。
【0023】
他の実施形態において、核酸構築物はRNAを含む又はそれからなる。
【0024】
本発明は、本発明に従った核酸構築物を含む、遺伝子療法のためのベクターにも関する。
【0025】
一部の実施形態において、ベクターはウイルスベクター、特にAAV又はレンチウイルスベクター、好ましくは、AAV1、AAV2、AAV5、AAV8、AAV2i8、AAV9、AAVrh10、AAVrh39、AAVrh43、AAVrh74、AAV-LK03、AAV2G9、AAV.PHP、AAV-Anc80、AAV3Bカプシド、及びそのキメラカプシド、特にAAV8又はAAV9カプシド等のAAV8、AAV9、又はAAVrh74カプシド、より好ましくはAAV8カプシドからなる群から選択されるカプシドを含むAAVベクターである。
【0026】
一部の他の実施形態において、ベクターは粒子又は小胞、特に脂質に基づくマイクロ又はナノ小胞又は粒子である。
【0027】
本発明は、本発明に従った核酸構築物又は本発明に従ったベクターによって遺伝子改変された細胞であって、好ましくは肝臓、筋肉、又は造血細胞、より好ましくは肝臓細胞である、細胞に関する。
【0028】
本発明は、本発明に従った核酸構築物、本発明に従ったベクター、又は本発明に従った細胞から選択される少なくとも1種の活性剤、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物に更に関する。
【0029】
本発明は、遺伝子療法又は細胞療法による、FGF-23関連低リン血症性疾患の治療における使用のための、本発明に従った医薬組成物に関する。
【0030】
前記使用の一部の実施形態において、FGF-23関連低リン血症性疾患は、X連鎖性低リン血症(XLH)、常染色体優性低リン血症性くる病(ADHR)、常染色体劣性低リン血症性くる病1(ADHR1)、常染色体劣性低リン血症性くる病2(ADHR2)、骨空洞性骨異形成症、ヤンセン型骨幹端軟骨異形成症、低リン血症、歯異常及び局所石灰化、マッキューン・オルブライト症候群/線維性骨異形成症、並びに低リン血症、皮膚及び骨病変を含む群から選択される遺伝性疾患、又は腫瘍誘導性骨軟化症、低リン血症性骨軟化症、腎臓移植若しくは非経口鉄療法による合併症、慢性腎疾患及び副甲状腺機能亢進症等のその合併症を含む群から選択される後天性疾患;好ましくはX連鎖性低リン血症性くる病である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に従った短縮されたFGF23融合タンパク質に対する核酸構築物及びAAV発現ベクターの略図である。A.本発明に従った短縮されたFGF23融合タンパク質に対する核酸構築物。ヒトFGFタンパク質のC末端アミノ酸(aa 175~251、cFGF)を、ヒト凝固因子IX(hFIX)のアミノ酸182~200に由来する切断可能なリンカーを通じて、シグナルペプチドなしのヒト血清アルブミン(aa 25~609)と融合した。最後に、キモトリプシノーゲンB2の最初の18個のアミノ酸に由来するシグナルペプチドを、構築物のN末端で融合した(CTRB2)。B.本発明に従った短縮されたFGF23融合タンパク質に対するAAV発現ベクター。核酸構築物を、肝臓特異的プロモーター(アポリポタンパク質E(ApoE)エンハンサー-ヒトアルファ1アンチトリプシン(hAAT)プロモーター)、改変HBB2イントロン、及びウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナルを含むAAV発現ベクターに挿入した。
図2】アルブミン融合による、インビトロでのFGF23 c末端部の安定化の図である。ヒト肝臓ヘパトーマ細胞(Huh-7)に、Table 1(表1)に記載される種々の型のヒトFGF23を発現するプラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、培地を収集し、抗FGF23抗体を用いたウェスタンブロットによって解析した。(A)種々の構築物の相対的発現、及びFGF23-Cとアルブミン部分との融合タンパク質を用いて達成されたより高い発現レベルを示した、すべての構築物の比較。FGF23、FGF23-C、又はFGF23-Cとヒトアルブミンとの融合タンパク質(FGF-23-アルブミン)の場所が左に示されている。(B)Huh-7細胞におけるFGF23-Cアルブミン融合タンパク質を発現するプラスミドの三つ組でのトランスフェクションの後に達成された発現レベルの比較。
図3】アルブミン融合による、インビボでのFGF23のc末端部の安定化の図である。RRHTRモチーフ(構築物7、9、及び12のみ)、sp7シグナルペプチドを含有し、アルブミン部分と融合した(構築物9、11、及び12)又は融合していない(構築物7)、FGF23のc末端部のコドン最適化型(coFGF23-C、アミノ酸175~251)を発現する1×1012vg/マウスのAAV8ベクターを、野生型C57BL6/Jマウスに注射した。構築物12は、ヒト凝固因子IXのアミノ酸182~200から構成されるリンカーを含み、一方で構築物9及び11はリンカーを有しなかった。ベクター注射の1ヶ月後、マウスを屠殺し、血漿及び肝臓を回収して、種々のAAVベクターを用いて達成されたリン血症及び発現のレベルを測定した。(A)血中において測定されたリン血症。(B)肝臓において測定された2倍体ゲノムあたりのベクターゲノムコピー数(VGCN)。(C)抗FGF23抗体を用いた、血漿において実施されたウェスタンブロット解析。(D)ヒストグラムは、パネルCにおいて描写されるバンドの相対的強度を示した。統計解析をt検定によって実施した(*PBSで処理されたマウスに対してP<0.05、群あたりn=4~5)。
図4-1】Hypdukマウスにおける成長遅滞のAAV媒介性レスキュー。1ヶ月齢のHypdukマウスを、PBS(KO、PBS)、又はhFIXリンカーを通じてsp7及びアルブミンと融合し、RRHTRモチーフを含有するFGF23-Cを発現する1×1012vg/マウスのAAVベクター(KO、AAV)のいずれかで処理した。PBSで処理された野生型マウスを対照として使用した(WT、PBS)。A~C。ベクター注射の1、2、及び3ヶ月後にマウスを測定した。(A)体重、(B)尾部長、及び(C)身体サイズにおいて、3ヶ月間にわたる増大を示した。統計解析をANOVAによって実施した(*KO、PBSに対してP<0.05;#WT、PBSに対してP<0.05;群あたりn=9~11)。
図4-2】Hypdukマウスにおける成長遅滞のAAV媒介性レスキュー。1ヶ月齢のHypdukマウスを、PBS(KO、PBS)、又はhFIXリンカーを通じてsp7及びアルブミンと融合し、RRHTRモチーフを含有するFGF23-Cを発現する1×1012vg/マウスのAAVベクター(KO、AAV)のいずれかで処理した。PBSで処理された野生型マウスを対照として使用した(WT、PBS)。A~C。ベクター注射の1、2、及び3ヶ月後にマウスを測定した。(A)体重、(B)尾部長、及び(C)身体サイズにおいて、3ヶ月間にわたる増大を示した。統計解析をANOVAによって実施した(*KO、PBSに対してP<0.05;#WT、PBSに対してP<0.05;群あたりn=9~11)。
図5】Hypdukマウスにおける低リン血症のAAV媒介性レスキュー。1ヶ月齢のHypdukマウスを、PBS(KO、PBS)、又はhFIXリンカーを通じてsp7及びアルブミンと融合し、RRHTRモチーフを含有するFGF23-Cを発現する1×1012vg/マウスのAAVベクター(KO、AAV)のいずれかで処理した。PBSで処理された野生型マウスを対照として使用した(WT、PBS)。ベクター注射の3ヶ月後に、血中におけるリン酸レベルを測定した。統計解析をANOVAによって実施した(表示されるように*=P<0.05、NS有意でない)。
図6】Hypdukマウスにおける筋機能のAAV媒介性レスキュー。1ヶ月齢のHypdukマウスを、PBS(KO、PBS)、又はhFIXリンカーを通じてsp7及びアルブミンと融合し、RRHTRモチーフを含有するFGF23-Cを発現する1×1012vg/マウスのAAVベクター(KO、AAV)のいずれかで処理した。PBSで処理された野生型マウスを対照として使用した(WT、PBS)。ベクター注射の3ヶ月後に、反転格子(Inverted grid)遂行能を測定した。統計解析をANOVAによって実施した(表示されるように*=P<0.05、NS有意でない)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
核酸構築物
本発明は、FGF-23関連低リン血症性疾患の遺伝子療法のための核酸構築物を提供する。
【0033】
本発明の核酸構築物は、少なくとも
(a)シグナルペプチド、
(b)FGFR/klotho複合体に結合するFGF23 C末端ペプチド、
(c)切断可能なリンカー、及び
(d)タンパク質安定化部分
を含むFGF23融合タンパク質をコードし、シグナルペプチドは融合タンパク質のN末端にあり、FGF23 C末端ペプチド及びタンパク質安定化部分は切断可能なリンカーによって分離されている。
【0034】
本明細書において使用するとき、ホスファトニン(Phosphatonin)又は腫瘍由来低リン血症誘導因子としても知られる線維芽細胞増殖因子23(FGF-23又はFGF23)という用語は、哺乳類ゲノムにおけるFGF23遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。ヒトFGF23は、251アミノ酸配列のUniProtKB/Swiss-Prot受託番号Q9GZV9.1又はNCBI受託番号NP_065689(配列番号1)を有する。FGF23は、N末端シグナルペプチド(24個のアミノ酸)を含有する前駆体として発現され、それは切断されて成熟タンパク質(FGF23)を産出する。そのリン酸塩尿性活性を発揮するために、FGF23は、2成分のFGF受容体(FGFR)-Klotho複合体を要する。加えて、FGF23活性は、FGFコア相同ドメインとFGF23の72残基長C末端尾部との間の境界に位置する176RXXR179モチーフにおけるタンパク質分解切断によって調節される。タンパク質分解切断は、不活性N末端フラグメント(Y25~R179)、FGFコア相同ドメイン、及びC末端フラグメント(S180~I251)を生み出す。FGF23 C末端フラグメントは、FGFR-Klotho複合体への結合を全長リガンドと競合し且つFGF23シグナル伝達を遮断する、FGF23の内因性阻害剤又はアンタゴニストである。FGF23 C末端フラグメント(180~251)は、インビボでFGF23のリン酸塩尿性活性をアンタゴナイズすることが示された。より小さなC末端フラグメント(FGF 180~205)も、FGF23アンタゴニスト活性を呈することが示された(Goetzら、PNAS、2010、107、407~410頁)。成熟251残基FGF23における残基189~203はFGF23活性に要され、一方でFGF23アミノ酸3'~残基203は、FGF23依存性細胞内シグナル伝達を開始するのに必要ではない(Garringerら、Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab.、2008、295、E929~E937頁)。
【0035】
以下の説明において、残基は、標準的な1文字アミノ酸コードによって指定され、表示される場所は、配列番号1とのアラインメントによって決定される。
【0036】
文脈により別様にはっきりと示されない限り、「a」、「an」、及び「the」は、複数の指示対象を含む。そのため、「a」(又は「an」)、「1つ又は複数」、又は「少なくとも1つ」という用語は、本明細書において互換可能に使用され得;別様に定められない限り、「又は」は「及び/又は」を意味する。
【0037】
核酸構築物は、個体の標的細胞又は組織において発現可能であるDNA、RNA、又は合成若しくは半合成核酸を含み得る又はそれからなり得る。
【0038】
FGF23融合タンパク質のインビボでの切断によって産生されるFGF23 C末端ペプチドは、FGFR/klotho複合体に結合する。成熟FGF23融合タンパク質(そのシグナルペプチドなしの)も、FGFR/klotho複合体に結合し得る。この結合は、FGFR-klotho複合体を通じたFGF23シグナル伝達を阻害する。FGFR/klotho複合体へのFGF23融合タンパク質及び派生C末端ペプチドの結合活性、並びにFGFR-klotho複合体を通じたFGF23シグナル伝達の阻害は、当技術分野において周知であり、例えばGoetzら、PNAS、2010、107、407~410頁に開示される標準的アッセイによって検証され得る。本発明に従ったFGF23融合タンパク質のインビボでの切断によって産生されるFGF23 C末端ペプチドは、FGF23のFGFR-klotho依存的機能の特異的阻害剤又はアンタゴニストである。本発明に従ったFGF23融合タンパク質も、FGF23のFGFR-klotho依存的機能の特異的阻害剤又はアンタゴニストであり得る。FGF23のKlotho依存的機能を中和するFGF23 C末端ペプチドの能力及び場合により融合タンパク質の能力にも起因して、本発明のFGF23融合タンパク質は、FGF23関連低リン血症性疾患の治療のための治療法として有用である。
【0039】
FGF23 C末端ペプチドは、FGFR/klotho複合体に結合する、配列番号1の175~189位のいずれか1つから203~251位のいずれか1つまでの配列、又は前記配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含む又はそれからなる。FGF23 C末端ペプチドは、配列番号1の175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、若しくは189位から203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、若しくは251位までの配列、又は前記配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含み得る。好ましくは、FGF23 C末端ペプチドは、FGFR/klotho複合体に結合する、配列番号1の175~180位のいずれか1つから205~251位のいずれか1つまでの配列、又は前記配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含む又はそれからなる。
【0040】
一部の特定の実施形態において、本発明のFGF23 C末端ペプチドは、176RXXR179モチーフ(配列番号1の176~179位)を含む。一部の特定の実施形態において、本発明のFGF23 C末端ペプチドは、配列番号1の203位で終結する。一部の他の特定の実施形態において、本発明のFGF23 C末端ペプチドは、例えば配列番号1の232又は251位で等、配列番号1の204位又はそれ以降の位置で終結する。一部の好ましい実施形態において、本発明のFGF23 C末端ペプチドは、FGFR/klotho複合体に結合する、配列番号2の配列(配列番号1の175~251位)、又は前記配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含む又はそれからなる。一部の実施形態において、本発明のFGF23 C末端ペプチドは、変異、特にFGFR/klotho複合体に対するその結合親和性を増加させる変異を含む。
【0041】
本発明に従ったFGF23 C末端ペプチドは、FGF23の15~77個のアミノ酸のC末端フラグメントを含む又はそれからなる。それ故、前記FGF23 C末端ペプチドは、全長FGF23タンパク質とは異なり、FGF23のN末端領域(配列番号1の25~174位)由来のいかなる配列も含まない。一部の実施形態において、本発明に従ったFGF23 C末端ペプチドは、FGF23の少なくとも20、25、30個、又はそれより多くのアミノ酸のC末端フラグメントを含む又はそれからなる。
【0042】
アミノ酸配列又はヌクレオチド配列同一性パーセントは、最大配列同一性を達成するように配列をアラインし及び必要であればギャップを導入し、アミノ酸配列に関するいかなる保存的置換も配列同一性の部分として見なさない後に、参照配列と同一である、比較配列におけるアミノ酸残基又はヌクレオチドのパーセントとして定義される。配列同一性は、参照配列の長さ全体にわたって算出される。アミノ酸配列同一性パーセントを判定する目的のためのアラインメントは、例えばBLAST(Altschulら、J. Mol. Biol.、1990、215、403頁~)等の公的に利用可能なコンピューターソフトウェアを使用して、当業者に公知の様々なやり方で達成され得る。そのようなソフトウェアを使用する場合、例えばギャップペナルティ及び伸長ペナルティに対して、初期設定パラメーターが好ましくは使用される。BLASTPプログラムは、3というワード長(W)及び10という期待値(E)を初期設定として使用する。
【0043】
FGF23融合タンパク質は、そのN末端にシグナルペプチドを含む。シグナルペプチド(SP)とは、分泌物(secretory)のN末端に存在し、タンパク質を分泌の標的にするために使用される短いペプチド配列である。シグナルペプチドは、厳密なコンセンサス配列からなるわけではないが、正に帯電したN末端領域(N領域、1~5残基)、疎水性中央領域(H領域、7~15残基)、及び中性の極性C末端領域(C領域、3~5残基)からなる3領域設計を有する。多数のシグナルペプチドが当技術分野において公知であり、公的に入手可能である(特にSignal Peptide Website及びSPdb配列データベース;Puzzoら、Sci. Transl. Med.、2017、9(418): doi:10.1126を参照されたい)。加えて、効率的なタンパク質分泌のための適切なSP配列を選択する方法が当技術分野において公知である(特にSternら、BMC Proc.、2011、5 (suppl 8):013を参照されたい)。
【0044】
シグナルペプチドは、FGF23内因性若しくは天然シグナルペプチド(配列番号3;配列番号1の1~24位)又は異種シグナルペプチドであり得る。本明細書において使用するとき、異種シグナルペプチドとは、FGF23シグナルペプチド、特にヒトFGF23シグナルペプチドとは異なるシグナルペプチドを指す。本発明において使用され得る異種シグナルペプチドの例には、限定されることなく、アルファ-1アンチトリプシン(配列番号4);合成mut1(配列番号5);合成mut3(配列番号6);キモトリプシノーゲンB2(CTRB2)、(Uniprot受託番号Q6GPI1若しくはNCBI受託番号NP_001020371の1~18位、又は配列番号7)、及び血漿プロテアーゼ阻害剤C1(Uniprot受託番号P05155の1~22位、又は配列番号8)が含まれる。
【0045】
一部の実施形態において、シグナルペプチドは異種シグナルペプチド、好ましくはキモトリプシノーゲンB2シグナルペプチド(配列番号7)である。
【0046】
FGF23 C末端ペプチドは、切断可能なリンカーを介してタンパク質安定化部分に連結される。タンパク質安定化部分とは、それに付着される治療用タンパク質/ペプチドの半減期又は作用の継続期間を増加させ且つ治療的適用に適している、任意のタンパク質部分である。治療用タンパク質を安定化させるために使用されている様々なタンパク質安定化部分が当技術分野において公知である(例えば、Sven Berger、Peter Lowe、及びMichael Tesar (2015) Fusion protein technologies for biopharmaceuticals: Applications and challenge、mAbs、7:3、456~460頁、DOI:10.1080/19420862.2015.1019788を参照されたい)。本発明において使用され得るタンパク質安定化部分の例には、限定されることなく、血清アルブミン、特にヒト血清アルブミン;免疫グロブリンFcフラグメント;ヒト絨毛性ゴナドトロピンカルボキシ末端ペプチド(CTP);そのリガンドに融合した受容体(GHに融合したGHR);及びTGF-ベータの潜在関連ペプチド(latency-associated peptide)(メタロプロテアーゼに対する切断部位に連結した)が含まれる。
【0047】
一部の実施形態において、タンパク質安定化部分は、免疫グロブリンFcフラグメントとは異なる。
【0048】
一部の実施形態において、タンパク質安定化部分は、血清輸送タンパク質由来のものである。血清輸送タンパク質には、限定されることなく、例えばアルブミン、アルファ-フェトプロテイン(AFP;Beattie及びDugaiczyk、Gene 1982、20、415~422頁)、アファミン(afamin)(AFM;Lichensteinら、J. Biol. Chem.、1994、269、18149~18154頁)、及びビタミンD結合タンパク質(DBP;Cooke及びDavid, J. Clin. Invest.、1985、76、2420~2424頁)等、タンパク質のアルブミンファミリー及び進化的に関係した血清輸送タンパク質が含まれる。血清輸送タンパク質は、哺乳類、鳥類、魚類、及びその他を含めた任意の脊椎動物由来のものであり得る。本発明は、血清輸送タンパク質の天然に存在する多型バリアント等の機能的バリアント、並びに機能的フラグメントを包含する。血清輸送タンパク質の機能的フラグメント又はバリアントは、それに付着される治療用タンパク質/ペプチドの半減期又は作用の継続期間を増加させ得且つ治療的適用に適している、バリアント又はフラグメントを指す。
【0049】
一部の特定の実施形態において、タンパク質安定化部分は、上で規定されるその機能的フラグメント又はバリアントを含めたアルブミンである。アルブミンは、任意の脊椎動物、とりわけ任意の哺乳類、例えばヒト、ウシ、ヒツジ、又はブタに由来し得る。非哺乳類アルブミンには、雌鶏及びサケが含まれるが、それらに限定されるわけではない。アルブミン連結ポリペプチドのアルブミン部は、治療用ポリペプチド部とは異なる動物由来のものであり得る。特に、本発明のアルブミン融合タンパク質は、ヒトアルブミン(HA)の天然に存在する多型バリアント及びヒトアルブミンのフラグメントを含み得る。アルブミン融合タンパク質のアルブミン部は、好ましくはシグナルペプチドなしのヒト血清アルブミン(NCBI受託番号NP_000468の25~609位、又は配列番号9)を含む、HA配列の全長(NCBI受託番号NP_000468)を含み得る、又は治療活性を安定化させ得る若しくは引き延ばし得るその1つ若しくは複数のフラグメントを含み得る。そのようなフラグメントは、長さが10個若しくはそれより多くのアミノ酸のものであり得る、又はHA配列由来の約15、20、25、30、50、70個、若しくはそれより多くの連続アミノ酸を含み得る、又はHAの特異的ドメインの一部若しくはすべてを含み得る。
【0050】
一部の好ましい実施形態において、タンパク質安定化部分は、好ましくはシグナルペプチドなしのヒト血清アルブミン(NCBI受託番号NP_000468の25~609位、又は配列番号9)を含む、ヒト血清アルブミン(NCBI受託番号NP_000468)である。
【0051】
切断可能なリンカーとは、インビボで切断可能である任意のペプチドリンカーである。治療用タンパク質構築物において使用されている様々な切断可能なペプチドリンカーが当技術分野において公知である。本発明において使用され得る切断可能なペプチドリンカーの例には、限定されることなく、凝固因子活性化配列、特にFIX活性化配列(NCBI受託番号NP_000124のaa 182~200又は182~203):配列番号10又は配列番号11が含まれる。
【0052】
一部の好ましい実施形態において、切断可能なリンカーは、配列番号10の配列を含む又はそれからなる。
【0053】
一部の実施形態において、シグナルペプチド、FGF23 C末端ペプチド、切断可能なリンカー、及びタンパク質安定化部分は、FGF23融合タンパク質のNからC末端にあり、それは、タンパク質安定化部分が、FGF23 C末端ペプチドのC末端に融合されていることを意味する。
【0054】
一部の実施形態において、核酸構築物はDNAを含む又はそれからなる。
【0055】
一部の他の実施形態において、核酸構築物はRNA、特にmRNAを含む又はそれからなる。
【0056】
本発明の好ましい核酸構築物の例には、
- Table 1(表1)における構築物番号12に相当する、本出願の実施例に及び図1Aに示される配列番号12の配列を含むFGF23タンパク質をコードする核酸構築物、
- Table 1(表1)における構築物番号10に相当する、本出願の実施例に示される配列番号52の配列を含むFGF23タンパク質をコードする核酸構築物、並びに
- 配列番号12又は52の配列のいずれかと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有する配列;好ましくは、前記配列のいずれか1つと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有する配列;より好ましくは、前記配列のいずれか1つと少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有する配列を含むFGF23タンパク質をコードする核酸構築物
が含まれる。
【0057】
配列番号12は、そのNからC末端に、キモトリプシノーゲンB2シグナルペプチド(配列番号7)、配列番号2のFGF23 C末端ペプチド、配列番号10の切断可能なリンカー、及び配列番号9のヒト血清アルブミンを含む。配列番号52は、そのNからC末端に、キモトリプシノーゲンB2シグナルペプチド(配列番号7)、配列番号1の180~251位由来の配列からなるFGF23 C末端ペプチド、配列番号10の切断可能なリンカー、及び配列番号9のヒト血清アルブミンを含む。
【0058】
一部の実施形態において、核酸構築物は、遺伝子療法によって治療される個体、好ましくはヒト個体における発現のためにコドン最適化されている配列を含む。所望の個体におけるコドン最適化のための適当なソフトウェアは当技術分野において周知であり、公的に利用可能である(例えば、http://www.genscript;com/cgi-bin/rare_codon_analysis;又はhttps://eu.idtdna.com/site/account/login?returnurl=%2FCodonOptを参照されたい)。
【0059】
一部の好ましい実施形態において、核酸構築物は、配列番号12のFGF23融合タンパク質をコードする、ヒトにおける発現のためのコドン最適化された配列である配列番号13若しくは配列番号57のヌクレオチド配列、配列番号52のFGF23融合タンパク質をコードする、ヒトにおける発現のためのコドン最適化された配列である配列番号51のヌクレオチド配列、又は前記配列のいずれか1つと少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列;好ましくは、前記配列のいずれか1つと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列;より好ましくは、前記配列のいずれか1つと少なくとも95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有する配列を含む。前記配列は、有利には、ヒトにおける発現のためのコドン最適化された配列である。
【0060】
一部の実施形態において、核酸構築物は、コード配列が、個体の標的細胞又は組織における導入遺伝子の発現のために適当な調節配列に作動可能に連結されている発現カセットを含む。一部の特定の実施形態において、標的組織は、筋肉若しくは肝臓細胞若しくは組織、又は造血細胞、より特定には肝臓細胞又は組織である。当技術分野において周知であるそのような配列には、特にプロモーター、並びに限定されることなく、エンハンサー、ターミネーター、イントロン、サイレンサー、特に組織特異的サイレンサー、及びマイクロRNA等、導入遺伝子の発現を更に制御し得る更なる調節配列が含まれる。
【0061】
プロモーターは、個体の標的細胞又は組織、特に筋肉、肝臓、又は造血細胞又は組織、より特定には肝臓細胞又は組織において機能的である組織特異的な、普遍的な、構成的な、又は誘導性のプロモーターであり得る。本発明において使用され得る構成的プロモーターの例には、限定されることなく、ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(PGK)、前記プロモーターの短い型(EFS)を含めた伸長因子-1アルファ(EF-1アルファ)プロモーター、ウイルスプロモーター、例えばサイトメガロウイルス(CMV)最初期エンハンサー及びプロモーター、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリベータアクチン(CAG)プロモーター、SV40初期プロモーター、並びにハイブリッドLTRプロモーターを含めたレトロウイルス5'及び3' LTRプロモーターが含まれる。好ましい普遍的プロモーターはCAGプロモーターである。本発明において使用され得る誘導性プロモーターの例には、テトラサイクリン調節性プロモーターが含まれる。プロモーターは、有利にはヒトプロモーター、すなわちヒト細胞又はヒトウイルス由来のプロモーターである。そのようなプロモーターは当技術分野において周知であり、それらの配列は公的な配列データベースにおいて入手可能である。
【0062】
一部の特定の実施形態において、プロモーターは肝臓特異的プロモーターである。本発明において使用され得る肝臓特異的プロモーターの非限定的な例には、ヒトアルファ-1アンチトリプシンプロモーター(hAAT)(配列番号14)、トランスサイレチンプロモーター、アルブミンプロモーター、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、LSPプロモーター(甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター配列、アルファ1-ミクログロブリン/ビクニンエンハンサー配列の2つのコピー、及びリーダー配列を含む;Charles R.ら、Blood Coag. Fibrinol、1997、8: S23~S30頁)、及びその他が含まれる。他の有用な肝臓特異的プロモーター、例えばCold Spring Harbor LaboratoryにまとめられたLiver Specific Gene Promoter Database(http://rulai.cshl.edu/LSPD/)に挙げられるものが当技術分野において公知である。本発明の文脈において好ましい肝臓特異的プロモーターはhAATプロモーターである。
【0063】
他の特定の実施形態において、プロモーターは筋肉特異的プロモーターである。筋肉特異的プロモーターの非限定的な例には、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーターが含まれる。適切な筋クレアチンキナーゼプロモーターの非限定的な例は、ヒト筋クレアチンキナーゼプロモーター及び短縮されたマウス筋クレアチンキナーゼ[(tMCK)プロモーター](Wangら、Gene Therapy、2008、15、1489~99頁);(代表的なGenBank受託番号AF188002)である。ヒト筋クレアチンキナーゼは、Gene ID番号1158(2012年12月26日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NC_000019.9)を有する。筋肉特異的プロモーターの他の例には、spC5.12又はspC5.12プロモーター(Wangら、Gene Therapy、2008、15、1489~99頁に開示される)等の合成プロモーターC5.12(spC5.12、或いは本明細書において「C5.12」と称される);MHCK7プロモーター(Salvaら、Mol Ther.、2007、15、320~9頁);ミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、例えばMLC2(Gene ID番号4633;2012年12月26日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NG_007554.1);ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、例えばアルファ-MHC(Gene ID番号4624;2012年12月26日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NG_023444.1);デスミンプロモーター(Gene ID番号1674;2012年12月26日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NG_008043.1);心臓トロポニンCプロモーター(Gene ID番号7134;2012年12月26日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NG_008963.1);トロポニンIプロモーター(Gene ID番号7135、7136、及び7137;2012年12月26日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NG_016649.1、NG_011621.1、及びNG_007866.2);myoD遺伝子ファミリープロモーター(Weintraubら、Science、251、761 (1991);Gene ID番号4654;2012年12月26日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NM_002478);アルファアクチンプロモーター(Gene ID番号58、59、及び70;2012年12月26日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NG_006672.1、NG_011541.1、及びNG_007553.1);ベータアクチンプロモーター(Gene ID番号60;2012年12月26日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NG_007992.1);ガンマアクチンプロモーター(Gene ID番号71及び72;2012年12月26日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NG_011433.1及びNM_001199893);Pitx3の眼球形態(ocular form)のイントロン1内にある筋肉特異的プロモーター(Gene ID番号5309)(Coulonら;2012年12月26日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NG_008147の残基11219~11527に相当する筋肉選択的プロモーター);及び米国特許公報第US 2003/0157064号に記載されるプロモーター、並びにCK6プロモーター(Wangら、2008 doi: 10.1038/gt.2008.104)が含まれる。別の特定の実施形態において、筋肉特異的プロモーターは、MCK由来エンハンサーとspC5.12プロモーターとの組み合わせを含む、Wangら(Gene Therapy、2008、15、1489~99頁)に記載されるE-Synプロモーターである。本発明の特定の実施形態において、筋肉特異的プロモーターは、spC5.12プロモーター、MHCK7プロモーター、E-synプロモーター、筋クレアチンキナーゼミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、心臓トロポニンCプロモーター、トロポニンIプロモーター、myoD遺伝子ファミリープロモーター、アルファアクチンプロモーター、ベータアクチンプロモーター、ガンマアクチンプロモーター、Pitx3の眼球形態のイントロン1内にある筋肉特異的プロモーター、及びCK6プロモーターからなる群において選択される。特定の実施形態において、筋肉特異的プロモーターは、spC5.12、デスミン、及びMCKプロモーターからなる群において選択される。更なる実施形態において、筋肉特異的プロモーターは、spC5.12及びMCKプロモーターからなる群において選択される。特定の実施形態において、筋肉特異的プロモーターはspC5.12プロモーターである。
【0064】
一部の他の特定の実施形態において、プロモーターは普遍的プロモーターである。代表的な普遍的プロモーターには、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリベータアクチン(CAG)プロモーター、サイトメガロウイルスエンハンサー/プロモーター(CMV)(任意でCMVエンハンサーを有する)[例えば、Boshartら、Cell、41:521~530頁(1985)を参照されたい]、PGKプロモーター、SV40初期プロモーター、レトロウイルスラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(任意でRSVエンハンサーを有する)、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、及びEF1アルファプロモーターが含まれる。
【0065】
一部の他の特定の実施形態において、プロモーターは、アルファ-グロビン又はベータ-グロビンプロモーターである。ベータ-グロビンプロモーターは、赤血球系細胞でのみ発現される。
【0066】
更に他の特定の実施形態において、プロモーターは、アルブミンプロモーター又はGDE(グリコーゲン脱分枝酵素)プロモーター等の内因性プロモーターである。GDEは、ヒトGene ID:178(2018年9月16日にアクセスした、代表的なGenBank受託番号NG_012865)に相当する、アミロ-1,6-グルコシダーゼ 4-アルファ-グルカノトランスフェラーゼ又はAGLである。
【0067】
特定の実施形態において、プロモーターは、シス調節モジュール(CRM)又は人工エンハンサー配列等のエンハンサー配列に関連付けられている。本発明の実践において有用なCRMには、Rinconら、Mol Ther.、2015、23、43~52頁、Chuahら、Mol Ther. 2014、22、1605~13頁、又はNairら、Blood、2014 123、20、3195~9頁に記載されるものが含まれる。特に、遺伝子の筋肉特異的発現、特に心筋及び/又は骨格筋における発現を増強し得る他の調節エレメントは、WO2015110449に開示されるものである。人工配列を含む核酸調節エレメントの特定の例には、WO2015110449に開示される配列に存在する転写因子結合部位(TFBS)を再編成することによって獲得される調節エレメントが含まれる。前記再編成は、TFBSの順序を変えること、及び/又は他のTFBSに対して1つ若しくは複数のTFBSの場所を変えること、及び/又はTFBSの1つ若しくは複数のコピー数を変えることを包含し得る。例えば、筋肉特異的遺伝子発現、特に心筋及び骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントは、E2A、HNH1、NF1、C/EBP、LRF、MyoD、及びSREBPに対する;又はE2A、NF1、p53、C/EBP、LRF、及びSREBPに対する;又はE2A、HNH1、HNF3a、HNF3b、NF1、C/EBP、LRF、MyoD、及びSREBPに対する;又はE2A、HNF3a、NF1、C/EBP、LRF、MyoD、及びSREBPに対する;又はE2A、HNF3a、NF1、CEBP、LRF、MyoD、及びSREBPに対する;又はHNF4、NF1、RSRFC4、C/EBP、LRF、及びMyoDに対する、又はNF1、PPAR、p53、C/EBP、LRF、及びMyoDに対する結合部位を含み得る。例えば、筋肉特異的遺伝子発現、特に骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントは、E2A、NF1、SRFC、p53、C/EBP、LRF、及びMyoDに対する;又はE2A、NF1、C/EBP、LRF、MyoD、及びSREBPに対する;又はE2A、HNF3a、C/EBP、LRF、MyoD、SEREBP、及びTal1_bに対する;又はE2A、SRF、p53、C/EBP、LRF、MyoD、及びSREBPに対する;又はHNF4、NF1、RSRFC4、C/EBP、LRF、及びSREBPに対する;又はE2A、HNF3a、HNF3b、NF1、SRF、C/EBP、LRF、MyoD、及びSREBPに対する;又はE2A、CEBP、及びMyoDに対する結合部位も含み得る。更なる例では、これらの核酸調節エレメントは、前に列挙されたTFBSの1つ又は複数の2、3、4つ、又はそれより多くのコピー等、少なくとも2つを含む。特に、遺伝子の肝臓特異的発現を増強し得る他の調節エレメントは、WO2009130208に開示されるものである。本発明において使用され得るエンハンサーの更なる例には、ApoE制御領域、特にヒトApoE制御領域(又はヒトアポリポタンパク質E/C-I遺伝子座、肝制御領域HCR-1;Genbank受託番号U32510、配列番号15)が含まれる。一部のより特定の実施形態において、ApoE制御領域、好ましくはヒトApoE制御領域等のエンハンサー配列は、上で挙げられたもの等、特にhAATプロモーター等の肝臓特異的プロモーターに関連付けられている。
【0068】
特定の実施形態において、核酸構築物は、イントロン、特にプロモーターとコード配列との間に置かれたイントロンを含む。イントロンを導入して、mRNA安定性及びタンパク質産生を増加させる。加えて、前記イントロンに見い出される代替オープンリーディングフレーム(ARF)の数を減少させるように、又は更に完全に除去するように設計された改変イントロンは、導入遺伝子の発現を有意に向上させ得る。更に、本発明の構築物内に含まれるイントロン内のARFの数を減少させることによって、構築物免疫原性も減少すると考えられる。好ましくは、長さが50bp超に及び、開始コドンとインフレームにある終止コドンを有するARFが除去される。ARFは、ヌクレオチド置換、挿入、又は欠失によって、好ましくはヌクレオチド置換によって除去され得る。例えば、関心対象のイントロンの配列内にある、開始コドンではないATG又はGTGは、CTGによって置き換えられ得る。本発明において使用され得るイントロンの例には、ヒトベータグロビンb2(又はHBB2;配列番号16)イントロン、改変HBB2イントロン(配列番号17)、特に第1イントロンに由来する凝固因子IX(FIX)イントロン(配列番号18)及びその改変イントロン(配列番号19)、ニワトリベータ-グロビンイントロン(配列番号20)及びその改変イントロン(配列番号21)、並びにSV40イントロンが含まれる。好ましいイントロンは、改変HBB2イントロン(配列番号17)及び改変FIXイントロン(配列番号19)である。
【0069】
特定の実施形態において、核酸構築物は、コード配列に(すなわち、コード配列の3'末端に)作動可能に連結された転写終結シグナル(ポリアデニル化シグナル)を更に含む。本発明において使用され得るポリAの例には、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリA(配列番号22)が含まれる。
【0070】
一部の好ましい実施形態において、発現カセットは、5'~3'方位に、肝臓特異的プロモーター、好ましくはhAATプロモーター;コード配列;及び(bGH)ポリA(配列番号22)等のポリアデニル化シグナルを含む。一部のより好ましい実施形態において、発現カセットは、エンハンサー、好ましくはヒトApoE制御領域(配列番号15)、及びイントロン、好ましくは改変HBB2イントロン(配列番号17)から選定される、1つ又は複数の更なる調節エレメントを更に含む。好ましい発現カセットの例は実施例に及び図1Bに開示されており、5'~3'方位に、ApoE制御領域(配列番号15)、アルファ-1アンチトリプシンプロモーター(hAAT)(配列番号14)、改変HBB2イントロン(配列番号17)、コード配列(配列番号13)、及び(bGH)ポリA(配列番号22)を含む、配列番号23の配列を含む。実施例に開示される好ましい発現カセットの別の例は、5'~3'方位に、ApoE制御領域(配列番号15)、アルファ-1アンチトリプシンプロモーター(hAAT)(配列番号14)、改変HBB2イントロン(配列番号17)、コード配列(配列番号51)、及び(bGH)ポリA(配列番号22)を含む。より好ましい発現カセットは、配列番号23の配列を含む。
【0071】
ベクター
本発明は、上で記載される核酸構築物を含むベクターにも関する。
【0072】
本発明は、個体の細胞内への核酸の送達及び発現に適した、特に遺伝子療法、より特定には個体における標的組織又は細胞に向けられた標的遺伝子療法に適した任意のベクターを使用し得る。当技術分野において周知であるそのようなベクターにはウイルス及び非ウイルスベクターが含まれ、前記ベクターは、組み込み型又は非組み込み型;複製性又は非複製性であり得る。一部の特定の実施形態において、遺伝子療法は、筋肉、肝臓、又は造血細胞又は組織、より特定には肝臓細胞又は組織に向けられる。
【0073】
本明細書において使用するとき、「個体」又は「患者」という用語は哺乳類を表す。好ましくは、本発明に従った患者又は個体はヒトである。「個体」又は「患者」には、成人、子ども、幼児、及び高齢者が含まれる。
【0074】
非ウイルスベクターには、個体の細胞内に核酸を導入する又は維持するために一般に使用される様々な(非ウイルス)作用物質が含まれる。様々な手段によって個体の細胞内に核酸を導入するために使用される作用物質には、限定されることなく、カチオン性ポリマー、デンドリマー、ミセル、リポソーム、エクソソーム、微粒子、及び脂質ナノ粒子(LNP)を含めたナノ粒子;並びに細胞透過性ペプチド(CPP)等、特にポリマーに基づく、粒子に基づく、脂質に基づく、ペプチドに基づく送達ビヒクル又はその組み合わせが含まれる。CPPは、ポリ-L-リジン(PLL)、オリゴ-アルギニン、Tatペプチド、ペネトラチン(Penetratin)又はトランスポータン(Transportan)ペプチド、及び例えばPip等のその誘導体等、特にカチオン性ペプチドである。個体の細胞内に核酸を維持する(染色体に組み込まれる、そうでなければ染色体外形態にある)ために使用される作用物質には、特に、プラスミド、トランスポゾン、及びミニサークル等の裸の核酸ベクター、並びに遺伝子編集及びRNA編集システムが含まれる。トランスポゾンには、特にhyperactive Sleeping Beauty(SB100X)トランスポゾンシステム(Matesら、2009)が含まれる。遺伝子編集及びRNA編集システムは、Casヌクレアーゼ、TALEN、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ等の任意の部位特異的エンドヌクレアーゼを使用し得る。加えて、これらの手法を有利に組み合わせて、個体の細胞内に本発明の核酸を導入し得及び維持し得る。
【0075】
ウイルスベクターは、本来的に、ウイルス形質導入と名付けられた過程に従って、細胞に透過し得及び細胞内に関心対象の核酸を送達し得る。
【0076】
本明細書において使用するとき、「ウイルスベクター」という用語は、細胞内への遺伝物質の送達のために操作された非複製性非病原性ウイルスを指す。ウイルスベクターにおいて、複製及び毒性に必須のウイルス遺伝子は、関心対象の導入遺伝子に対する発現カセットで置き換えられる。故に、ウイルスベクターゲノムは、ウイルスベクター産生に要されるウイルス配列によって隣接された導入遺伝子発現カセットを含む。
【0077】
本明細書において使用するとき、「組み換えウイルス」という用語は、当技術分野において公知である標準的な組み換えDNA技術の技法によって産生されるウイルス、特にウイルスベクターを指す。
【0078】
本明細書において使用するとき、「ウイルス(virus)粒子」又は「ウイルス(viral)粒子」という用語は、カプシドと呼ばれるタンパク質被膜によって、ある場合には宿主細胞膜の一部分に由来し及びウイルス糖タンパク質を含むエンベロープによって取り囲まれたDNA又はRNAから作られる遺伝物質から構成される、非病原性ウイルスの細胞外形態、特にウイルスベクターを意味することを意図される。
【0079】
本明細書において使用するとき、ウイルスベクターはウイルスベクター粒子を指す。
【0080】
本発明の核酸(核酸構築物)を送達するための好ましいベクターは、特に遺伝子療法、より特定には、筋肉、肝臓、又は造血細胞又は組織、より特定には肝臓細胞又は組織等、個体における標的組織又は細胞に向けられた遺伝子療法に適したウイルスベクターである。特に、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)等の非病原性パルボウイルス、ガンマレトロウイルス、スプーマウイルス、及びレンチウイルス等のレトロウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルス、並びにヘルペスウイルスに由来し得る。ウイルスベクターは、好ましくはAAV又はレンチウイルスベクター等の組み込み型ベクター、好ましくはAAVベクターである。レンチウイルスベクターは、筋肉細胞、肝臓細胞、又は造血細胞等の関心対象の細胞/組織を標的にするために、別のウイルス由来のエンベロープ糖タンパク質で偽型され得る。一部の実施形態において、レンチウイルスは、WO2017/182607に開示されるようにシンシチン(syncytin)で偽型される。
【0081】
ベクターは、発現カセットに隣接するレンチウイルスLTR配列又はAAV ITR配列等、ウイルスベクター産生に要されるウイルス配列を含む。
【0082】
特定の実施形態において、ベクターは粒子又は小胞、特にリポソーム又は脂質ナノ粒子(LNP)等の脂質に基づくマイクロ又はナノ小胞又は粒子である。より特定の実施形態において、核酸はRNAであり、ベクターは、上で記載される粒子又は小胞である。
【0083】
別の特定の実施形態において、ベクターはレンチウイルスベクター、特に上で記載される偽型レンチウイルスベクターである。
【0084】
別の特定の実施形態において、ベクターはAAVベクターである。ヒトパルボウイルスのアデノ随伴ウイルス(AAV)は、天然に複製に欠陥があるディペンドウイルスであり、それは感染細胞のゲノムに組み込まれて潜伏感染を確立し得る。組み込みは、第19染色体(19q13.3-長腕末端(qter))に位置するAAVS1と呼ばれる、ヒトゲノムにおける特異的部位で生じるため、最後の特性は哺乳類ウイルスの間で固有であるように思われる。それ故、AAVベクターは、ヒト遺伝子療法のためのベクターとして大きな関心を集めている。該ウイルスの望ましい特性の中には、それがいかなるヒト疾患とも関連がないこと、分裂及び非分裂細胞の両方に感染するその能力、並びに感染され得る、種々の組織に由来する幅広い細胞株がある。
【0085】
AAVウイルスは、従来の分子生物学技法を使用して操作され得、核酸配列の細胞特異的送達のために、免疫原性を最小限に抑えるために、安定性及び粒子寿命を調整するために、効率的な分解のために、核への正確な送達のために、これらの粒子を最適化することを可能にする。
【0086】
当技術分野において公知であるように、機能的なウイルスベクターを獲得するために、付加的な適切な配列が本発明の核酸構築物に導入され得る。適切な配列にはAAV ITRが含まれる。ベクターへの組み立てのための望ましいAAVフラグメントには、vp1、vp2、vp3、及び超可変領域を含めたcapタンパク質、rep 78、rep 68、rep 52、及びrep 40を含めたrepタンパク質、並びにこれらのタンパク質をコードする配列が含まれる。これらのフラグメントは、多様なベクターシステム及び宿主細胞において容易に利用され得る。Repタンパク質を欠く、AAVに基づく組み換えベクターは、宿主のゲノム内に低い効力で組み込まれ、標的細胞において何年も持続し得る安定な環状エピソームとして主に存在する。
【0087】
本発明の文脈において、AAVベクターは、関心対象の標的細胞、特に筋肉、肝臓、又は造血細胞又は組織、より特定には肝臓細胞又は組織に形質導入し得るAAVカプシドを含む。AAVカプシドは、1つ又は複数のAAV天然又は人工血清型由来のものであり得る。
【0088】
ヒト又は非ヒト霊長類(NHP)から単離され、十分に特徴付けされたAAVの血清型の中で、ヒト血清型2は、遺伝子移入ベクターとして開発された最初のAAVである。現在使用される他のAAV血清型には、AAV-1、AAV-2バリアント(Lingら、2016年7月18日、Hum Gene Ther Methods.に開示される、Y44+500+730F+T491V変化を有する操作されたカプシドを含む4重変異体カプシド最適化AAV-2等)、-3及びAAV-3バリアント(Vercauterenら、2016、Mol. Ther. Vol. 24(6)、1042頁に開示される、2つのアミノ酸変化S663V+T492Vを有する操作されたAAV3カプシドを含むAAV3-STバリアント等)、-3B及びAAV-3Bバリアント、-4、-5、-6及びAAV-6バリアント(Rosarioら、2016、Mol Ther Methods Clin Dev. 3、16026頁に開示される、3重変異したAAV6カプシドY731F/Y705F/T492V形態を含むAAV6バリアント等)、-7、-8、-9、-2G9、cy10及び-rh10等の-10、rh39、-rh43、-rh74、-dj、Anc80、LK03、AAV.PHP、AAV2i8、AAVpo4及びAAVpo6等のブタAAV血清型、並びにAAV血清型のチロシン、リジン、及びセリンカプシド変異体が含まれる。
【0089】
AAV天然血清型を使用する代わりに、限定されることなく、キメラAAVカプシド、組み換えAAVカプシド、又は「ヒト化」AAVカプシドを含めた、人工の、すなわち天然に存在しないカプシドタンパク質を有する人工AAV血清型が本発明の文脈において使用され得る。そのような人工カプシドは、異なる選択AAV血清型、同じAAV血清型の非連続部から、非AAVウイルス供給源から、又は非ウイルス供給源から獲得され得る異種配列と組み合わせた選択AAV配列(例えば、vp1カプシドタンパク質のフラグメント)を使用して、任意の適切な技法によって作り出すことができる。改変カプシドは、エラープローンPCR及び/又はペプチド挿入によって挿入されたカプシド改変にも由来し得る(例えば、Bartelら、2011に記載される)。加えて、カプシドバリアントは、チロシン変異体等の単一アミノ酸変化を含み得る(例えば、Zhongら、2008に記載される)。本発明の文脈において、「改変カプシド」は、キメラカプシド、又は1つ若しくは複数の野生型AAV VPカプシドタンパク質に由来する1つ若しくは複数のバリアントVPカプシドタンパク質を含むカプシドであり得る。
【0090】
一部の実施形態において、AAVベクターはキメラベクターであり、すなわちそのカプシドは、少なくとも2つの異なるAAV血清型に由来するVPカプシドタンパク質を含む、又は少なくとも2つのAAV血清型に由来するVPタンパク質領域若しくはドメインを組み合わせた少なくとも1つのキメラVPタンパク質を含む。肝臓細胞に形質導入するのに有用なそのようなキメラAAVベクターの例は、Shenら、Molecular Therapy、2007及びTenneyら、Virology、2014に記載される。例えば、キメラAAVベクターは、AAV8カプシド配列と上で具体的に言及されたもののいずれか等のAAV8血清型とは異なるAAV血清型の配列との組み合わせに由来し得る。他の実施形態において、AAVベクターのカプシドは、WO2015013313に記載されるもの、特に高い肝臓指向性を提示するRHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6カプシドバリアント等、1つ又は複数のバリアントVPカプシドタンパク質を含む。
【0091】
更なる実施形態において、AAVベクターは偽型ベクターであり、すなわちそのゲノム及びカプシドは、上で言及されたAAV血清型等、異なる血清型のAAVに由来する。加えて、AAVベクターのゲノムは、一本鎖又は自己相補的二本鎖ゲノムであり得る(McCartyら、Gene Therapy、2003)。自己相補的二本鎖AAVベクターは、AAV末端反復の1つから末端分解部位(terminal resolution site)を欠失させることによって作り出される。複製ゲノムが野生型AAVゲノムの長さの半分であるこれらの改変ベクターは、DNA二量体をパッケージする傾向を有する。
【0092】
一部の実施形態において、AAVベクターは、個体における標的組織又は細胞、特に筋肉、肝臓、又は造血細胞又は組織、より特定には肝臓細胞又は組織に向けられた遺伝子療法に適している。特定の実施形態において、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV2i8、AAV5、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAVrh39、AAVrh43、AAVrh74、AAV-LK03、AAV2G9、AAV.PHP、AAV-Anc80、AAV3Bカプシド、及びそのキメラカプシドからなる群から選択されるカプシドを含む。一部の好ましい実施形態において、AAVベクターは、AAV8、AAV9、AAVrh74、又はAAV2i8カプシド、特にAAV8又はAAV9カプシド等のAAV8、AAV9、又はAAVrh74カプシド、より特定にはAAV8カプシドを含む。AAVベクターのゲノムは、異なる血清型に由来し得(偽型ベクター)、有利には一本鎖である。
【0093】
本発明は、本発明の核酸又はベクターで遺伝子改変されている又は形質転換されている、単離された細胞、特に個体由来の細胞にも関する。個体は、有利には、治療される対象となる患者である。一部の実施形態において、細胞は肝臓細胞、好ましくは患者の肝臓細胞である。
【0094】
本明細書において使用するとき、「肝臓細胞」には、成人若しくは胎児肝臓由来のもの等の初代肝細胞;インビトロで成熟した肝細胞、肝細胞細胞株;肝前駆細胞;又は誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞、胎生幹細胞、及び成体幹細胞等の多能性幹細胞が含まれる。
【0095】
本明細書において使用するとき、「造血細胞」という用語は、造血幹細胞(1つ又は複数のHSC)の分化によって産生される細胞を指す。造血細胞には、HSC、複能性で且つ系統に関係した前駆細胞、前駆細胞、及び成熟細胞が含まれる。成熟造血細胞には、限定されることなく、リンパ球(B、T)、NK細胞、単球、マクロファージ、顆粒球、赤血球、血小板、形質細胞様及び骨髄系樹状細胞、並びにミクログリア細胞が含まれる。
【0096】
本明細書において使用するとき、「造血幹細胞(HSC)」という用語は、移植後に短期又は長期造血を再構成し得る自己再生細胞を指す。
【0097】
本明細書において使用するとき、「遺伝子改変」という用語は、ゲノム配列内への1つ又は複数のヌクレオチドの挿入、欠失、及び/又は置換を指す。
【0098】
本明細書において使用するとき、筋肉組織には、特に心筋及び骨格筋組織が含まれる。
【0099】
本明細書において使用するとき、「筋肉細胞」という用語は、筋細胞、筋管、筋芽細胞、及び/又は衛星細胞を指す。
【0100】
医薬組成物及び治療的使用
本発明の別の態様は、本発明の核酸、本発明のベクター、又は本発明の細胞から選択される少なくとも1種の活性剤、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物である。
【0101】
本発明の核酸、ベクター、及び派生医薬組成物は、遺伝子療法、特に筋肉、肝臓、又は造血細胞又は組織、より特定には肝臓細胞又は組織に向けられた標的遺伝子療法によって疾患を治療するために使用され得る。本発明の細胞及び派生医薬組成物は、細胞療法、特に筋肉、肝臓、又は造血細胞に向けられた細胞療法、好ましくは肝臓に向けられた細胞療法によって疾患を治療するために使用され得る。
【0102】
本明細書において使用するとき、「遺伝子療法」とは、疾患を治療する目的のための、個体の細胞内への関心対象の核酸の送達を伴う、個体の治療を指す。核酸の送達は、一般的に、ベクターとしても知られる送達ビヒクルを使用して達成される。ウイルス及び非ウイルスベクターを採用して、患者の細胞に遺伝子を送達し得る。
【0103】
本明細書において使用するとき、「細胞療法」とは、本発明の核酸(nucleic)又はベクターによって改変された細胞を、例えば静脈内注射(注入)、又は関心対象の組織における注射(埋め込み又は移植)等による任意の適当な手段によって、それを必要とする個体に送達する過程を指す。特定の実施形態において、細胞療法は、個体から細胞を回収する工程、本発明の核酸又はベクターで個体の細胞を改変する工程、及び改変された細胞を患者に投与する工程を含む。本明細書において使用するとき、「細胞」とは、単離された細胞、天然又は人工の細胞凝集体、バイオ人工の細胞足場、及びバイオ人工の臓器又は組織を指す。
【0104】
「薬学的に許容される担体」とは、その中に治療法が施され、必要に応じて哺乳類、とりわけヒトに投与された場合に、有害な、アレルギー性の、又は他の厄介な反応をもたらさないビヒクルを指す。薬学的に許容される担体とは、非毒性の固体又は液体の充填剤、希釈剤、アジュバント、賦形剤、封入材料、又は任意のタイプの製剤補助剤を指す。標準的手順に従って製剤化される医薬組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、持続放出製剤、埋め込み物、及びその他の形態を取り得る。
【0105】
本発明の医薬組成物は、対象への適正な投与のための形態を提供するために適切な量の担体とともに、好ましくは精製された形態の治療有効量の核酸、ベクター、又は細胞治療法を含む。
【0106】
本発明の文脈において、治療有効量とは、そのような用語が適用される障害若しくは病状の進行を逆転させる、緩和する、若しくは阻害するのに、又はそのような用語が適用される障害若しくは病状の1つ若しくは複数の症状の進行を逆転させる、緩和する、若しくは阻害するのに十分な用量を指す。
【0107】
有効用量は、使用される組成物、投与の経路、性別、年齢、及び体重等の検討中の個体の身体的特徴、併用医薬等の要素、並びに医学の技術分野における当業者が認識するであろうその他の要素に応じて決定され及び調整される。有効用量は、標準的な臨床技法によって決定され得る。加えて、インビボ及び/又はインビトロアッセイを任意で採用して、最適な投薬量域を予測するのを助け得る。対象にAAVベクター等のウイルスベクターを投与する工程を含む治療の場合、ベクターの典型的な用量は、少なくとも1×108キログラム体重あたりのベクターゲノム(vg/kg)、例えば少なくとも1×109vg/kg、少なくとも1×1010vg/kg、少なくとも1×1011vg/kg、少なくとも1×1012vg/kg、少なくとも1×1013vg/kg、少なくとも1×1014vg/kgである。
【0108】
一部の実施形態において、医薬組成物は、特にヒト個体に注射され得る製剤にとって薬学的に許容されるビヒクルを含有する。これらには、特に、生理食塩液(リン酸一ナトリウム若しくは二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウム、若しくはマグネシウム等、又はそのような塩の混合物)等の無菌の等張水溶液若しくは懸濁液、又は場合に応じて滅菌水若しくは生理学的食塩水の添加があると注射液の構成を可能にする、乾燥した、とりわけ凍結乾燥した組成物が含まれる。溶液又は懸濁液は、核酸及びウイルスベクターと適合性であり、標的細胞内への核酸又はウイルスベクター粒子進入を妨げない添加物を含み得る。すべての場合において、形態は無菌でなければならず、容易なシリンジ能が存在する程度流動性でなければならない。それは、製造及び保管の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌等の微小生物の汚染作用から守られなければならない。適当な溶液の例は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は乳酸リンゲル等の緩衝液である。
【0109】
一部の特定の実施形態において、本発明の核酸、ベクター、又は細胞は、リン酸緩衝生理食塩水を含み及び0.25%ヒト血清アルブミンを補充された組成物に製剤化される。他の特定の実施形態において、本発明の核酸、ベクター、又は細胞は、乳酸リンゲル、及び総組成物の0.001質量%の濃度等、0.01~0.0001%の最終濃度のプルロニックF68等の非イオン性界面活性剤を含む組成物に製剤化される。製剤は、血清アルブミン、特に0.25%のヒト血清アルブミン等のヒト血清アルブミンを更に含み得る。保管又は投与のいずれかに対して他の適当な製剤は、当技術分野において、特にWO2005/118792又はAllayら、2011、Hum. Gene Ther、2011年5月; 22(5):595~604頁から公知である。
【0110】
一部の他の実施形態において、医薬組成物は埋め込み物として製剤化される。埋め込み物は、シリコンゴム(sialastic)膜等の膜、又は繊維を含めた、多孔質の、無孔質の、又はゼラチン質の材料のものであり得る。埋め込み物は、治療を必要とするエリア、とりわけ肝臓に本発明の医薬組成物を局所的に投与するのに有用である。
【0111】
更に他の実施形態において、医薬組成物は制御放出システムとして製剤化される。
【0112】
医薬組成物は付加的な治療剤、特に、FGF-23関連疾患、特にFGF-23関連低リン血症性疾患の治療に有用な作用物質、例えば特にカルシトリオールも含み得る。
【0113】
本発明の別の態様は、医薬としての使用のための、本発明の核酸、ベクター、細胞、医薬組成物に関する。
【0114】
本発明の更なる態様は、上で記載される遺伝子療法又は細胞療法、好ましくは肝臓に向けられた遺伝子療法又は細胞療法による、FGF-23関連疾患、特にFGF-23関連低リン血症性疾患の治療における使用のための、本発明の核酸、ベクター、細胞、医薬組成物に関する。
【0115】
本発明の更に別の態様は、上で記載される遺伝子療法又は細胞療法、好ましくは肝臓に向けられた遺伝子療法又は細胞療法による、FGF-23関連疾患、特にFGF-23関連低リン血症性疾患の治療のための医薬の製造における、本発明の核酸、ベクター、細胞、医薬組成物の使用に関する。
【0116】
本発明に従った核酸構築物、ベクター、組成物は、FGF23の過剰な作用によって引き起こされる、特にFGF23とFGF23-FGF受容体(FGFR)/klotho複合体との相互作用によって媒介される疾患等、FGFR-Klotho複合体形成の阻害によって治療され得る疾患を治療するために使用される。
【0117】
治療され得る疾患は、特にFGF-23関連低リン血症性疾患である。他の原因による低リン血症患者においてFGF23レベルは低いため、これらの疾患は、低リン血症の存在下における高いFGF23レベルによって診断され得る。
【0118】
治療され得るFGF-23関連低リン血症性疾患の例には、PHEX遺伝子における変異によって引き起こされるX連鎖性低リン血症(XLH);FGF23遺伝子における変異によって引き起こされる常染色体優性低リン血症性くる病(ADHR);DMP1遺伝子における変異によって引き起こされる常染色体劣性低リン血症性くる病1(ADHR1);ENPP1遺伝子における変異によって引き起こされる常染色体劣性低リン血症性くる病2(ADHR2);FRFR1遺伝子における変異によって引き起こされる骨空洞性骨異形成症;PTH1R遺伝子における変異によって引き起こされるヤンセン型骨幹端軟骨異形成症;FAM20C遺伝子における変異によって引き起こされる低リン血症、歯異常、及び局所石灰化;GNAS1遺伝子における変異によって引き起こされるマッキューン・オルブライト症候群/線維性骨異形成症;HRAS又はNRAS遺伝子における変異によって引き起こされる低リン血症、皮膚及び骨病変等の遺伝性疾患が含まれる。
【0119】
治療され得るFGF-23関連低リン血症性疾患の他の例は、腫瘍誘導性骨軟化症(TIO)、含糖酸化鉄又は鉄ポリマルトースによる低リン血症性骨軟化症、腎臓移植又は非経口鉄療法による合併症、慢性腎疾患及び副甲状腺機能亢進症等のその合併症等の後天性疾患である。
【0120】
一部の好ましい実施形態において、前記FGF-23関連低リン血症性疾患は遺伝性疾患、好ましくはXLHである。前記疾患は、好ましくは、特に筋肉、肝臓、若しくは造血細胞若しくは組織、より特定には肝臓細胞若しくは組織に向けられた標的遺伝子療法によって、又は細胞療法によって、より好ましくはAAV又はレンチウイルスベクター、特にAAV8ベクターを使用して治療される。
【0121】
本発明の別の態様は、上で記載される核酸、ベクター、細胞、又は医薬組成物の治療有効量を患者に投与する工程を含む、上で記載されるFGF-23関連低リン血症性疾患を治療する方法に関する。
【0122】
本発明の文脈において、本明細書で使用される「治療すること」又は「治療」という用語は、そのような用語が適用される障害若しくは病状の進行を逆転させる、緩和する、若しくは阻害すること、又はそのような用語が適用される障害若しくは病状の1つ若しくは複数の症状の進行を逆転させる、緩和する、若しくは阻害することを意味する。
【0123】
本発明の核酸、ベクター、細胞、又は医薬組成物は、一般的に、患者において治療効果を誘導するのに有効な投薬量及び期間で、公知の手順に従って投与される。本発明の核酸は、ベクター化されているか否かにかかわらず、注入若しくはボーラス注射による、上皮層若しくは皮膚粘膜層(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜、及び腸粘膜等)を通じた吸収による非限定的な様式等で、任意の好都合な経路によって投与され得る。投与は全身性又は局所性であり得;全身性には非経口及び経口が含まれ、局所性には局所性及び局所領域性が含まれる。非経口投与は、有利には、皮下(SC)、筋肉内(IM)、静脈内(IV)、動脈内等の血管内、腹腔内(IP)、皮内(ID)、鼻腔内、硬膜外、又はその他等、注射又は灌流によるものである。加えて、任意の適切な経路によって、対象の肝臓に本発明の医薬組成物を導入することが望ましくあり得る。
【0124】
本発明の核酸、ベクター、細胞、又は医薬組成物は、他の生物学的活性剤と組み合わせて使用され得、組み合わせた使用は、同時の、別個の、又は逐次的な投与によるものである。
【0125】
本発明の実践は、別様に示されない限り、当技術分野の技能の範囲内にある従来の技法を採用するであろう。そのような技法は、文献において十分に説明されている。
【0126】
本発明は、ここで、添付の図面を参照して、限定的ではない以下の実施例を用いて例示されるであろう。
【実施例
【0127】
材料及び方法
短縮されたFGF23をコードする核酸の構築
R175(RRHTRモチーフ;ヒトFGF23タンパク質のアミノ酸175~179)が先行するRXXRモチーフ(ヒトFGF23タンパク質のアミノ酸175~179)を含むヒトFGF23タンパク質のアミノ酸175~251(NP_065689のaa 175~251;配列番号2)、又は配列番号1のヒトFGFタンパク質のアミノ酸180~251(前記RXXRモチーフを含まない)と、シグナルペプチドなしのヒト血清アルブミン(NP_000468のaa 25~609又は配列番号9)とを、ヒト凝固因子IXに由来する切断可能なリンカー(cFIX;NP_000124のaa 182~200;配列番号10)を通じて融合することによって、短縮されたFGF23をコードする核酸構築物を作り出した。最後に、キモトリプシノーゲンB2の最初の18個のアミノ酸に由来するシグナルペプチド(sp7;NP_001020371のaa 1~18又は配列番号7)を構築物のN末端に挿入して、効率的な分泌を媒介した(配列番号12(図1A);配列番号52)。これらの(Thes)配列を商業的アルゴリズムによってコドン最適化した。結果として生じた配列は、MluI/Kozakと5'において隣接された、配列番号12の融合タンパク質をコードする配列番号13のCDSを含む配列番号57(Table 1(表1)における構築物番号12);及びMluI/Kozakと5'において隣接された、配列番号52の融合タンパク質をコードするCDSを含む配列番号51(Table 1(表1)における構築物番号10)である。コドン最適化された配列を、肝臓発現のために最適化された導入遺伝子発現カセット内にクローニングした(図1B)。
【0128】
比較のために、他の構築物を作り出した(Table 1(表1))。野生型の又はコドン最適化されたヒトFGF23配列を、肝臓発現のために最適化された導入遺伝子発現カセットにクローニングすることによって、天然ヒトFGF23(配列番号1)をコードする核酸構築物を作り出した(図1B)。
【0129】
RXXRモチーフを含有する又は含有しないFGF23-C(ヒトFGF23タンパク質のアミノ酸175~251又は180~251)と、天然FGF23又はsp7シグナルペプチドとを融合することによって、短縮されたC末端FGF23構築物(FGF23-C)を作り出した。これらの配列を商業的アルゴリズムによってコドン最適化し、肝臓発現のために最適化された導入遺伝子発現カセット内にクローニングした。
【0130】
ヒト凝固因子IXに由来する切断可能なリンカーなしでの、RXXRモチーフを含有しないFGF23-Cとヒト血清アルブミン(シグナルペプチドなし)との融合によって、又はヒト凝固因子IXに由来する切断可能なリンカーなしでの、RXXRモチーフを含有するFGF23-Cとヒト血清アルブミン(シグナルペプチドなし)との融合によって、キメラタンパク質を作り出した。キモトリプシノーゲンB2の最初の18個のアミノ酸に由来するシグナルペプチド(sp7)を構築物のN末端に挿入して、効率的な分泌を媒介した。これらの配列を商業的アルゴリズムによってコドン最適化し、肝臓発現のために最適化された導入遺伝子発現カセット内にクローニングした(図1B)。
【0131】
AAVベクター産生
AAVベクターを、アデノウイルス不含一過性トランスフェクション法(Matsushitaら、Gene Therapy、1998、5、938~945頁)を使用して産生し、以前に記載されるように精製した(Ayusoら、Gene Therapy、2010、17、503~510頁)。AAVベクターストックの力価を、定量リアルタイムPCR(qPCR)を使用して判定し、SDS-PAGE、それに続くSYPRO(登録商標)Rubyタンパク質ゲル染色及びバンド濃度測定によって確認した。
【0132】
インビトロでの調査
70~80%コンフルエンスのHuh-7に、Table 1(表1)に示される構築物をリポフェクタミンによってトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、培地を収集し、FGF23のレベルをウェスタンブロットによって解析した。
【0133】
ウェスタンブロット
トランスフェクション後のHuh-7培地、及び種々のAAVベクターを注射されたマウス由来の血清を、4~15%勾配ポリアクリルアミドゲルにロードして、SDS-PAGEを実施した。ニトロセルロース上に移した後、膜をブロッキングし、抗FGF23抗体とともにインキュベートした。膜を適当な二次抗体とともにインキュベートし、Odysseyイメージングシステムによって可視化した。
【0134】
マウス調査
AAVベクターを、6週齢のC57BL6/Jマウスに尾静脈を介して静脈内投与した。ベクター注射の1ヶ月後、循環中のFGF23-Cのレベルをウェスタンブロットによって解析した。肝臓を収集し、ベクターゲノムコピー数をqPCRによって測定した。
【0135】
AAVベクターを、1ヶ月齢の雄Hypdukマウスに尾静脈を介して静脈内投与した。PBSを注射された野生型及びHypdukの同腹兄弟を対照として使用した。ベクター注射後の3ヶ月間月1回マウスの重さを量り測定して、肉眼的レベルでの疾患の補正を評価した。ベクター注射の3ヶ月後に、血中リン血症の測定及び筋力の機能的評価を実施した。
【0136】
リン血症
循環リン酸レベルを測定するために、マウスをベクター注射の3ヶ月後に採血した。10000×gで10分間の遠心分離後、血清中の無機リン酸含有量を標準的な商業的キットを使用して測定した。
【0137】
反転格子試験
マウスを格子上に置き、格子を反転させる前に3~5秒間順応させ、5~7cmの柔らかい寝具を含有するマウスケージの少なくとも35cm上に保った。落下の回数を3分間の期間にわたって測定し、1分間あたりの落下として報告した。
【0138】
結果
ヒトFGF23のC末端部(FGF23-C)は天然FGF23と競合し、受容体結合後の細胞内シグナル伝送を低下させる。
【0139】
XLHに対する療法としてのFGF23-Cの使用における1つの重要な制約は、このペプチドが循環中で非常に不安定であることである。このペプチドを肝臓から分泌し、その安定性を向上させるように、遺伝子療法手法を開発した。R175(RRHTRモチーフ;ヒトFGF23タンパク質のアミノ酸175~179)が先行するRXXRモチーフを含むヒトFGFタンパク質のアミノ酸175~251(配列番号2)、又は配列番号1のヒトFGFタンパク質のアミノ酸180~251(前記RXXRモチーフを含まない)を、ヒト凝固因子IXに由来する切断可能なリンカー(配列番号10)を通じて、シグナルペプチドなしのヒト血清アルブミン(配列番号9)と融合した。最後に、キモトリプシノーゲンB2の最初の18個のアミノ酸に由来するシグナルペプチド(配列番号7)を構築物のN末端に挿入して、効率的な分泌を媒介した(配列番号12(図1A);配列番号52)。これらの配列を商業的アルゴリズムによってコドン最適化した。結果として生じた配列は、MluI/Kozakと5'において隣接された、配列番号12の融合タンパク質をコードする配列番号13のCDSを含む配列番号57(Table 1(表1)における構築物番号12);及びMluI/Kozakと5'において隣接された、配列番号52の融合タンパク質をコードするCDSを含む配列番号51(Table 1(表1)における構築物番号10)である。コドン最適化された配列を、肝臓発現のために最適化された導入遺伝子発現カセット内にクローニングした(図1B)。配列番号57に含まれる配列番号13を含む導入遺伝子発現カセットは、配列番号23の配列を有した。AAV ITRによって隣接された配列番号23の発現カセットを含むAAV移入ベクターは、配列番号24の配列を有した。
【0140】
FGF23-Cの低い安定性を確認するために、並びにその分泌及び安定性を向上させるストラテジーを試験するために、本発明者らは、ヒト肝臓ヘパトーマ細胞に、hAATプロモーターの転写制御下で天然FGF23及びFGF23-Cの両方を発現する種々の構築物をトランスフェクトした(Table 1(表1)及び図1)。
【0141】
【表1A】
【0142】
【表1B】
【0143】
FGF-23及びFGF23-C遺伝子の野生型及びコドン最適化型を、天然FGF23及びキモトリプシノーゲンB2の異種シグナルペプチド(配列番号7、sp7)と融合した型とともに試験した。試験された種々の配列において、ヒトFGF23に存在し、FGF23 N末端及びC末端ペプチドへのその切断に関与するRRHTRモチーフが含まれた又は含まれなかった。
【0144】
天然FGF23、並びにそのコドン最適化型は、トランスフェクトされたHuh-7細胞の培地において効率的に産生され及び分泌された(構築物番号1及び2、図2A)。RHTRモチーフなしのsp7融合FGF23-Cを除いて、FGF23-Cバリアントのいずれも培地において産生されなかった(構築物番号8、図2A)。興味深いことに、アルブミン部分との融合(配列番号9)は、キメラタンパク質の組成に関係なく、FGF23-Cの分泌を増強した(構築物番号9~12、図2A)。RHTRモチーフ及びヒト凝固因子IXに由来する切断可能なリンカーの非存在下におけるFGF23-Cとアルブミンとの融合(構築物番号11)は、アルブミン部分を含有する他のキメラタンパク質と比較した場合、インビトロでのより高いレベルの分泌につながった(構築物番号9、番号10、及び番号12、図2B)。
【0145】
構築物番号7、番号9、番号11、及び番号12を発現するAAV8ベクターを調製した:i)sp7と融合し、RRHTRモチーフを含有するFGF23-C(構築物番号7)、ii)sp7及びアルブミンと融合し、RRHTRモチーフを含有するFGF23-C(構築物番号9)、iii)RRHTRモチーフなしの、sp7及びアルブミンと融合したFGF23-C(構築物番号11)、並びにiv)hFIXリンカーを通じてsp7及びアルブミンと融合し、RRHTRモチーフを含有するFGF23-C(構築物番号12、Table 1(表1)及び図1A)。AAV8ベクターを産生し、6週齢のC57BL6/Jマウスに1×1012vg/マウスの用量で注射した。ベクター注射の1ヶ月後、マウスを採血して、リン血症及びウェスタンブロットによるFGF23-Cのレベルを測定した。重要なことに、他の構築物を用いて達成された同程度のレベルの肝臓形質導入(図3B)及び構築物番号11を用いてインビトロで達成されたより高い発現レベルにもかかわらず、構築物番号12を発現するAAV8ベクターを注射されたマウスにおいてのみ、血中におけるリンレベルの増加が観察された(図3A)。
【0146】
FGF23-C-アルブミンキメラタンパク質の分子量に相当するバンドは、構築物番号9及び番号12を肝臓において特異的に発現するAAV8ベクターを注射されたマウスのみで明らかになった。反対に、FGF23-Cと適合するサイズを有するバンドは、構築物番号7、すなわちsp7と融合したFGF23-Cを発現するAAV8ベクターを注射されたマウスにおいて検出不能であり、インビボでのFGF23-Cの不安定性を裏付けた(図3C)。重要なことに、切断可能なリンカー(hFIX;配列番号10)を含む構築物番号12を注射されたマウスは、構築物番号9(リンカーなし;図3D)と比較した場合、細胞あたりのベクターゲノムコピー数によって実証される同程度の肝臓形質導入(図3B)及び構築物番号11を用いてインビトロで達成されたより高い発現レベルにもかかわらず、有意により高いレベルの循環FGF-23-C融合タンパク質を示した。これらのデータは、FGF23のC末端部(FGF23-C)が、アルブミン部分との融合体としてのみ肝臓によって発現され得ることを表す。それらにより、融合タンパク質の組成は循環中でのその安定性及び機能に影響し、それは、FGF23-Cが、特にヒト凝固因子IXに由来する切断可能なリンカー(配列番号10)を通じてアルブミン部分と融合された場合に増加することも示唆される。
【0147】
本発明に従った、FGF23-Cから構成され、hFIX由来のリンカーを通じてsp7及びアルブミンと融合されたキメラタンパク質(構築物番号12、Table 1(表1)及び図1A)がインビボで活性であるかどうかを検証するために、この構築物を発現するAAV8ベクターを1ヶ月齢のHypdukマウスに1×1012vg/マウスの用量で注射した(KO、AAV)。PBSを注射されたHypduk(KO、PBS)及び野生型の同腹兄弟(WT、PBS)を対照として使用した。ベクター注射の1ヶ月後に開始する、体重並びに身長及び尾部長を月1回測定することによって、表現型補正を評価した(図4)。概して、PBSで処理されたHypdukマウスは、野生型動物と比較した場合、より低い体重並びに身長及び尾部長を有した(図4A図4C)。本発明に従ったFGF23-Cキメラタンパク質を発現するAAV8ベクターで処理されたHypdukマウスは、3ヶ月の期間にわたって体重並びに身長及び尾部長の増大を示し、それは、PBSで処理されたHypdukマウスのものよりも高く、野生型動物において観察されたものと同程度であった(図4A図4C)。身長増大の完全なレスキューが、AAVで処理された動物において観察されたものの(図4B)、体重及び尾部長は部分的にのみレスキューされた(図4A図4C)。処理の3ヶ月後、血清中のリン酸のレベルを測定した。AAVで処理されたHypdukマウスにおいて、リン酸レベルは、PBSで処理されたHypdukマウスにおいて測定されたものと有意に異なり、野生型動物におけるリン酸レベルとは区別ができなかった(図5)。骨成長の減退及び腱の石灰化は、運動機能及び筋力の減少をもたらし得る。Hypdukマウスにおける表現型についての機能的評価を反転格子試験によって実施した。本発明者らは、野生型と比較してHypdukマウスにおける1分間あたりの落下の回数の増加を観察し、それはAAV遺伝子療法によって完全にレスキューされた(図6)。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
【配列表】
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【国際調査報告】