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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-23
(54)【発明の名称】新型の酵素組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20220616BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 15/869 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220616BHJP
   C12N 9/06 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220616BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220616BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220616BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20220616BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220616BHJP
【FI】
C12N15/53
C12N15/60 ZNA
C12N15/861 Z
C12N15/869 Z
C12N15/864 100Z
C12N7/01
C12N5/10
C12N9/06 B
A61P25/00
A61P25/16
A61K35/76
A61K48/00
A61K38/46
A61K35/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021562101
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(85)【翻訳文提出日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 CN2020085366
(87)【国際公開番号】W WO2020211843
(87)【国際公開日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】201910322504.8
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521456210
【氏名又は名称】ビリーフ・バイオメド・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【弁理士】
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チェン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ジーン
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B050CC05
4B050DD11
4B050EE10
4B050GG06
4B050LL01
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084AA13
4C084DC22
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA21
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA24
4C084MA31
4C084MA32
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA60
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA021
4C084ZA022
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087BB64
4C087BC83
4C087MA13
4C087MA16
4C087MA21
4C087MA22
4C087MA23
4C087MA24
4C087MA31
4C087MA32
4C087MA43
4C087MA52
4C087MA55
4C087MA56
4C087MA58
4C087MA59
4C087MA60
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA02
(57)【要約】
N末端において60~120個のアミノ酸残基を欠くチロシンヒドロキシラーゼ(TH)バリアント、ならびにN末端において60~120個のアミノ酸残基を欠くTHバリアントおよび芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)を含む医薬組成物を提供する。さらに、該THバリアントまたは該医薬組成物を含む、ヌクレオチド構築物、ベクタープラスミド、細胞またはウイルス、および神経変性疾患、例えばパーキンソン病を治療するための医薬品の製造における、該ウイルスの使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
60~120個のアミノ酸残基のN末端欠失を除く、配列番号1に記載されるアミノ酸配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその断片、誘導体もしくは類似体を含むチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【請求項2】
80~100個のアミノ酸残基のN末端欠失を除く、配列番号1に記載されるアミノ酸配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその断片、誘導体もしくは類似体を含む、請求項1に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【請求項3】
80~90個のアミノ酸残基のN末端欠失を除く、配列番号1に記載されるアミノ酸配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその断片、誘導体もしくは類似体を含む、請求項2に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【請求項4】
配列番号2に記載されるアミノ酸配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその断片、誘導体もしくは類似体を含む、請求項2または3に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【請求項5】
N末端またはC末端に付着したタグタンパク質をさらに含む、請求項4に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【請求項6】
前記タグタンパク質が、HA、MycまたはFlagである、請求項5に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【請求項7】
配列番号3に記載されるアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアントを含む組成物。
【請求項9】
芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素をさらに含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素が、配列番号4~9のいずれかに記載されるアミノ酸配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその断片、誘導体もしくは類似体を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素がさらに、N末端またはC末端に付着したタグタンパク質を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記タグタンパク質が、HA、MycまたはFlagである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素が、配列番号10に記載されるアミノ酸配列を有する、請求項8~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか1項に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアントをコードする第1のポリヌクレオチドおよび/または請求項9~13のいずれか1項に定義される芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素をコードする第2のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド構築物。
【請求項15】
前記第1のポリヌクレオチドが、配列番号12もしくは13に記載されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号12もしくは13に対する少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する、請求項14に記載のポリヌクレオチド構築物。
【請求項16】
前記第2のポリヌクレオチドが、配列番号14~21のいずれかに記載されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号14~21のいずれかに対する少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する、請求項14または15に記載のポリヌクレオチド構築物。
【請求項17】
前記第1のポリヌクレオチドおよび/または前記第2のポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモータをさらに含む、請求項14~16のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド構築物。
【請求項18】
前記プロモータが、ニューロン特異的プロモータを含む、請求項17に記載のポリヌクレオチド構築物。
【請求項19】
請求項14~18のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド構築物を含むベクター。
【請求項20】
前記第1のポリヌクレオチドおよび前記第2のポリヌクレオチドが、1つのベクター中または異なるベクター中に構築されている、請求項19に記載のベクター。
【請求項21】
前記第1のポリヌクレオチドおよび前記第2のポリヌクレオチドが、1つのベクター中に構築されており、かつ前記ベクターがさらに、前記第1のポリヌクレオチドと前記第2のポリヌクレオチドとの間に挿入された第3のポリヌクレオチドを含む、請求項20に記載のベクター。
【請求項22】
前記第3のポリヌクレオチドが、自己切断可能配列および/または内部リボソーム進入部位(IRES)をコードする、請求項21に記載のベクター。
【請求項23】
単純ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターからなる群から選択される、請求項19~22のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項24】
請求項19~23のいずれか1項に記載のベクターを含むか、または請求項19~23のいずれか1つに記載のベクターでトランスフェクトされた宿主細胞。
【請求項25】
請求項14~18のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド構築物を含むか、または請求項14~18のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド構築物から発現される核酸を含むウイルスゲノムを含むウイルス。
【請求項26】
請求項25に記載のウイルス、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項27】
対象において神経変性疾患を治療するための医薬品の製造における、請求項1~7のいずれか1項に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント、請求項8~13のいずれか1項に記載の組成物、請求項14~18のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド構築物、請求項19~23のいずれか1項に記載のベクター、請求項24に記載の宿主細胞、請求項25に記載のウイルス、または請求項26に記載の医薬組成物の使用。
【請求項28】
前記神経変性疾患がパーキンソン病である、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記対象が、哺乳類、好ましくはヒト、ラットまたはマウスである、請求項27または28に記載の使用。
【請求項30】
治療を必要とする対象において神経変性疾患を治療する方法であって、請求項1~7のいずれか1項に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント、請求項8~13のいずれか1項に記載の組成物、請求項14~18のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド構築物、請求項19~23のいずれか1項に記載のベクター、請求項25に記載のウイルス、または請求項26に記載の医薬組成物の治療有効量を前記対象に投与する工程を含む方法。
【請求項31】
前記神経変性疾患がパーキンソン病である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記対象が、哺乳類、好ましくはヒト、ラットまたはマウスである、請求項30または31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本開示は、チロシンヒドロキシラーゼバリアントおよび芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素を含む医薬組成物に関する。本開示はさらに、該チロシンヒドロキシラーゼバリアントをコードするポリヌクレオチドまたは前記の組成物をコードするポリヌクレオチドを含むヌクレオチド構築物、該ヌクレオチド構築物を含むベクター、該ベクターでのトランスフェクションにより調製された細胞、および前記のヌクレオチド構築物を含むウイルスに関する。本開示はさらに、神経変性疾患(例えばパーキンソン病、PD)を治療するための医薬品の製造における、ウイルスの使用に関し、該使用は、遺伝子工学技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
[0002]パーキンソン病(PD)は、振戦、固縮およびジスキネジアを含む主症状を特徴とする重度神経変性疾患である。PDの病理学的特徴は、脳の黒質(SN)中のドパミン作動性ニューロンの進行性退化であり、ドパミン作動性ニューロンの神経支配障害およびその線条体中でのドパミン濃度の低下をもたらす。したがって、線条体へのドパミン送達を高め得る薬理学的方法が、PDに対する効果的な治療的介入である。ドパミン補充療法(すなわち、経口レボドパ、L-ドパ)が、目下、PDに対する主要医薬治療である。このドパミン補充療法はPD患者の生活の質を短期的には著しく改善するものの、その有効性は、経時的に次第に低下する。5年超から10年まで経過すると、ほぼすべてのPD患者は、最終的に、経口L-ドパによりほぼ治療不可能な状態へと進行する。
【0003】
[0003]酵素補充療法の目的は、SN中でのドパミン作動性ニューロンの変性によって引き起こされる、ドパミンの合成および分泌の低下を補償することである。この治療方法の基礎となる機構は、線条体中のGABA作動性ニューロンへの、ドパミン合成に必要な酵素をコードする遺伝子の送達であり、それが、それらのGABA作動性ニューロン中でのドパミンの持続するde novo合成、およびその合成されたドパミンの、線条体への放出をもたらす。この療法は、ジスキネジアを改善し得て、かつ大脳基底核外部でのドパミンのレベル上昇により引き起こされる副作用を制限し得る。しかしながら、ドパミン濃度の上昇は、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)の活性を負に調節することにより、THによる異所性ドパミン合成能を限定する。
【0004】
[0004]したがって、PD治療用のより優れた治療効果を有する酵素補充療法を見出す実質的な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
[0005]一態様では、本開示は、60~120個のアミノ酸残基のN末端欠失を除くと配列番号1に記載されるアミノ酸配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその断片、誘導体もしくは類似体を含むチロシンヒドロキシラーゼバリアントを提供する。
【0006】
[0006]特定の実施形態では、該チロシンヒドロキシラーゼバリアントが、80~100個のアミノ酸残基のN末端欠失を除くと、配列番号1に記載されるアミノ酸配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその断片、誘導体もしくは類似体を含む。
【0007】
[0007]特定の実施形態では、該チロシンヒドロキシラーゼバリアントが、80~90個のアミノ酸残基のN末端欠失を除くと、配列番号1に記載されるアミノ酸配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその断片、誘導体もしくは類似体を含む。
【0008】
[0008]特定の実施形態では、該チロシンヒドロキシラーゼバリアントが、配列番号2に記載されるアミノ酸配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその断片、誘導体もしくは類似体を含む。
【0009】
[0009]特定の実施形態では、該チロシンヒドロキシラーゼバリアントがさらに、N末端またはC末端に付着したタグタンパク質を含む。
【0010】
[0010]特定の実施形態では、該タグタンパク質が、HA、MycまたはFlagである。
【0011】
[0011]特定の実施形態では、該チロシンヒドロキシラーゼバリアントが、配列番号3に記載されるアミノ酸配列を含む。
【0012】
[0012]別の態様では、本開示は、前記のチロシンヒドロキシラーゼバリアントを含む組成物を提供する。
【0013】
[0013]特定の実施形態では、該組成物がさらに、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素を含む。
【0014】
[0014]特定の実施形態では、該芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素が、配列番号4~9のいずれかに記載されるアミノ酸配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するその断片、誘導体もしくは類似体を含む。
【0015】
[0015]特定の実施形態では、該芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素がさらに、N末端またはC末端に付着したタグタンパク質を含む。
【0016】
[0016]特定の実施形態では、該タグタンパク質が、HA、MycまたはFlagである。
【0017】
[0017]特定の実施形態では、該芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素が、配列番号10に記載されるアミノ酸配列を有する。
【0018】
[0018]別の態様では、本開示は、前記のチロシンヒドロキシラーゼバリアントをコードする第1のポリヌクレオチドおよび/または前記で定義した芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素をコードする第2のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド構築物を提供する。
【0019】
[0019]特定の実施形態では、該第1のポリヌクレオチドが、配列番号12もしくは13に記載されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号12もしくは13に対する少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する。
【0020】
[0020]特定の実施形態では、該第2のポリヌクレオチドが、配列番号14~21のいずれかに記載されるヌクレオチド配列を有するか、または配列番号14~21のいずれかに対する少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する。
【0021】
[0021]特定の実施形態では、該ポリヌクレオチド構築物がさらに、第1のポリヌクレオチドおよび/または第2のポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモータを含む。
【0022】
[0022]特定の実施形態では、該プロモータが、ニューロン特異的プロモータを含む。
【0023】
[0023]別の態様では、本開示は、前記のポリヌクレオチド構築物を含むベクターを提供する。
【0024】
[0024]特定の実施形態では、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが、1つのベクター中または異なるベクター中に構築されている。
【0025】
[0025]特定の実施形態では、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドが、1つのベクター中に構築されており、かつ該ベクターがさらに、第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドとの間に挿入された第3のポリヌクレオチドを含む。
【0026】
[0026]特定の実施形態では、該第3のポリヌクレオチドが、自己切断可能配列および/または内部リボソーム進入部位(IRES)をコードする。
【0027】
[0027]特定の実施形態では、ベクターが、単純ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターからなる群から選択される。
【0028】
[0028]特定の実施形態では、ベクターがプラスミドを含む。
【0029】
[0029]別の態様では、本開示は、前記のベクターを含むか、または前記のベクターでトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。
【0030】
[0030]別の態様では、本開示は、前記のポリヌクレオチド構築物を含むか、または前記のポリヌクレオチド構築物から発現される核酸を含むウイルスゲノムを含むウイルスを提供する。
【0031】
[0031]別の態様では、本開示は、前記のウイルスおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0032】
[0032]別の態様では、本開示は、対象(subject)において神経変性疾患を治療するための医薬品の製造における、前記のチロシンヒドロキシラーゼバリアント、前記の組成物、前記のヌクレオチド構築物、前記のベクター、前記の宿主細胞、前記のウイルス、または前記の医薬組成物の使用を提供する。
【0033】
[0033]特定の実施形態では、該神経変性疾患がパーキンソン病である。
【0034】
[0034]特定の実施形態では、該対象が、哺乳類、好ましくはヒト、ラットまたはマウスである。
【0035】
[0035]別の態様では、本開示は、治療を必要とする対象において神経変性疾患を治療する方法であって、前記のチロシンヒドロキシラーゼバリアント、前記の組成物、前記のヌクレオチド構築物、前記のベクター、前記のウイルスまたは前記の医薬の治療有効量を該対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0036】
[0036]特定の実施形態では、該神経変性疾患がパーキンソン病である。
【0037】
[0037]特定の実施形態では、該対象が、哺乳類、好ましくはヒト、ラットまたはマウスである。
【0038】
[0038]本開示はさらに、以下の実施形態を提供する。
【0039】
[0039]実施形態1。配列番号1に記載されるアミノ酸配列を有するが、N末端において60~120個のアミノ酸残基を欠くチロシンヒドロキシラーゼを含むチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【0040】
[0040]実施形態2。配列番号1に記載されるアミノ酸配列を有するが、N末端において80~100個のアミノ酸残基を欠くチロシンヒドロキシラーゼを含む、実施形態1に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【0041】
[0041]実施形態3。配列番号1に記載されるアミノ酸配列を有するが、N末端において80~90個のアミノ酸残基を欠くチロシンヒドロキシラーゼを含む、実施形態2に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【0042】
[0042]実施形態4。配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質または配列番号2に記載されるアミノ酸配列に対する80%の配列同一性を有するチロシンヒドロキシラーゼ誘導体を含む、好ましくは場合によりさらに、N末端またはC末端にタグタンパク質を含む、さらに好ましくは該タグタンパク質がHA、MycまたはFlagである、実施形態2または3に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【0043】
[0043]実施形態5。配列番号3に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質を含む、実施形態4に記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント。
【0044】
[0044]実施形態6。実施形態1~5のいずれか1つに記載の少なくとも1つのチロシンヒドロキシラーゼバリアントを含む組成物。
【0045】
[0045]実施形態7。芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素をさらに含む、実施形態6に記載の組成物。
【0046】
[0046]実施形態8。該芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素が、配列番号4~9のいずれかに記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質を含む全長芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素または配列番号4~9のいずれかに記載されるアミノ酸配列と80%の配列同一性を有する芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素誘導体であり、好ましくは場合によりさらに、N末端またはC末端にタグタンパク質を含む、さらに好ましくは該タグタンパク質がHA、MycまたはFlagである、実施形態7に記載の組成物。
【0047】
[0047]実施形態9。芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素が、配列番号10に記載されるアミノ酸配列を有する、実施形態8に記載の組成物。
【0048】
[0048]実施形態10。実施形態1~5のいずれか1つに記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアントをコードするポリヌクレオチドまたは実施形態6~9のいずれか1つに記載の組成物をコードするポリヌクレオチドを含むヌクレオチド構築物。
【0049】
[0049]実施形態11。チロシンヒドロキシラーゼバリアントをコードするポリヌクレオチドが、配列番号12もしくは13に記載されるヌクレオチド配列または配列番号12もしくは13に対する80%超の同一性を有するヌクレオチド配列を有する、および/または芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドが、配列番号14~21のいずれかに記載されるヌクレオチド配列または配列番号14~21のいずれかに対する80%超の同一性を有するヌクレオチド配列を有する、実施形態10に記載のヌクレオチド構築物。
【0050】
[0050]実施形態12。実施形態10または11に記載のヌクレオチド構築物を含むベクタープラスミド。
【0051】
[0051]実施形態13。チロシンヒドロキシラーゼバリアントをコードするポリヌクレオチドと芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドとが、1つのベクタープラスミド中または異なるベクタープラスミド中に構築されている、実施形態12に記載のベクタープラスミド。
【0052】
[0052]実施形態14。単純ヘルペスウイルスベクタープラスミド、アデノウイルスベクタープラスミドおよびアデノ随伴ウイルスベクタープラスミドからなる群から選択される、実施形態12に記載のベクタープラスミド。
【0053】
[0053]実施形態15。実施形態12~14のいずれか1つに記載のベクタープラスミドでのトランスフェクションにより調製された細胞。
【0054】
[0054]実施形態16。そのゲノムとして、実施形態10または11に記載のヌクレオチド構築物を含むウイルス。
【0055】
[0055]実施形態17。実施形態16に記載のウイルスおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【0056】
[0056]実施形態18。対象において神経変性疾患を治療するための医薬品の製造における、実施形態1~5のいずれか1つに記載のチロシンヒドロキシラーゼバリアント、実施形態6~9のいずれか1つに記載の医薬組成物、実施形態10または11に記載のヌクレオチド構築物、実施形態12~14のいずれか1つに記載のベクタープラスミド、実施形態15に記載の細胞、実施形態16に記載のウイルスまたは実施形態17に記載の医薬組成物の使用。
【0057】
[0057]実施形態19。該神経変性疾患がパーキンソン病である、実施形態18に記載の使用。
【0058】
[0058]実施形態20。該対象が、哺乳類、好ましくはヒト、ラットまたはマウスである、実施形態18に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】[0059]本開示の特定の実施形態に記載される、ヒトシナプシンプロモータと、ヒトチロシンヒドロキシラーゼ(TH)のHAタグ付きバリアント、T2Aペプチド、およびMycタグ付きヒト芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)をコードするポリヌクレオチドと、WPRE配列と、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリ(A)シグナルとを含む発現カセットを有する組換えAAVベクターの構築を示す。
図2】[0060]高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した、293細胞株中でのドパミンde novo合成を促進するための、N末端での欠失を有するTHおよび全長AADCを含む一連の酵素組成物の発現に関する統計的定量化グラフを示す。GFPは、陰性対照を示す。WTは、二酵素組成物(dual-enzyme composition)中の全長または野生型のTHを示す。Isobは、THの別のアイソフォームを示す。40は、N末端で40個のアミノ酸を欠失させたTHを示す。60は、N末端で60個のアミノ酸を欠失させたTHを示す。80は、N末端で80個のアミノ酸を欠失させたTHを示す。90は、N末端で90個のアミノ酸を欠失させたTHを示す。100は、N末端で100個のアミノ酸を欠失させたTHを示す。120は、N末端で120個のアミノ酸を欠失させたTHを示す。150は、N末端で150個のアミノ酸を欠失させたTHを示す。164は、N末端で164個のアミノ酸を欠失させたTHを示す。190は、N末端で190個のアミノ酸を欠失させたTHを示す。エラーバーはSEMを表す。Ns、有意ではない。*p<0.05および****p<0.0001、一元配置分散分析。
図3】[0061]PD症状の効果的なモデルである片側6-OHDA病変マウスにおける脳切片の黒質/腹側被蓋野(SN/VTA)領域(上図)中および尾状核被殻(CP)領域(下図)中での抗TH染色の代表的な免疫細胞染色画像を示す。右側は6-OHDA病変側であり、左側は対照側であった。スケールバー、1mm。
図4】[0062]図4aは、定位手術およびアポモルフィン回転試験のタイムコースの略図を示す。片側6-OHDA病変から2週間後に、対側回転として表される、アポモルフィン誘発性の著しい運動非対称性に関してマウスを選別した。両群とも、1分間当たり正味回転(同側に対する対側)として計算して、統計的に同等の回転頻度を示した。2週間後、選別したマウスに、N末端での90個のアミノ酸の欠失を有するヒトTHバリアントおよび全長ヒトAADC(TH90del/AADC)を含む組成物を発現するウイルスベクターを線条体内注入した。GFP発現ウイルスを対照として注入した。ウイルス注入から4週間後、治療の機能的利益を評価するためにアポモルフィン誘発回転試験を再び行った。図4bは、TH90del/AADCウイルス注入を伴う群における著しい行動回復を示す。ただし、番号記号は、対照群(GFP)と比べたTH90del/AADCウイルス注入群における、運動非対称性表現型からの著しい回復を示す。アスタリスク記号は、TH90del/AADC群における、ウイルス注入後の、運動非対称性表現型からの著しい回復を示す。エラーバーはSEMを表す。###p<0.001および****p<0.0001、スチューデントのt検定。
【発明を実施するための形態】
【0060】
[0063]本開示を、以下、特定の実施形態および実験データによりさらに記載する。明確性を目的に、以下では特定用語を使用するが、それらの用語は、本開示の範囲を定義または限定するとは意図されない。
【0061】
[0064]本明細書で使用する「a」、「an」または「the」は、1つまたは2つ以上を意味し得る。例えば、「a」細胞は、単一細胞または複数の細胞を意味し得る。
【0062】
[0065]特に異なる指定がない限り、本明細書で使用する単語「または(or)」は、「いずれか一方(either/or)」の排他的な趣旨ではなく「および/または(and/or)」の包括的な趣旨で使用する。
【0063】
[0066]特に異なる指定がない限り、本明細書に記載される数値範囲は、その範囲内の各々の数値、および各々の部分範囲を含み得る。
【0064】
[0067]本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、および別の参考文献は、参照により本明細書にその全体が組み込まれている。
【0065】
[0068]本開示は、チロシンヒドロキシラーゼバリアントを提供する。
【0066】
[0069]一態様では、本開示は、60~120個のアミノ酸残基のN末端欠失を除く、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むチロシンヒドロキシラーゼ(TH)バリアントを提供する。言い換えると、本明細書中で提供されるTHバリアントは、配列番号1のアミノ酸配列を有する全長THのN末端欠失バリアントである。THバリアントは、配列番号1のアミノ酸配列のN末端において60~120個のアミノ酸残基を欠く。
【0067】
[0070]特定の実施形態では、N末端欠失が、60~120個、70~120個、80~120個、90~120個、100~120個、60~110個、60~100個、60~90個、70~110個、80~100個、または80~90個のアミノ酸残基の範囲の長さを有する。特定の実施形態では、N末端欠失が、80個、81個、82個、83個、84個、85個、86個、87個、88個、89個、90個、91個、92個、93個、94個、95個、96個、97個、98個、99個または100個のアミノ酸の長さを有する。特定の実施形態では、N末端欠失が、配列番号1の1番目のアミノ酸残基から始まり、言い換えると、60個のアミノ酸残基のN末端欠失とは、配列番号1の1番目から60番目までのアミノ残基の欠失を意味する。
【0068】
[0071]特定の実施形態では、THのN末端欠失バリアントが、THの生物活性断片である。本明細書で使用する用語「生物活性断片」は、特定タンパク質の完全機能または少なくとも部分的機能を維持し得る、該特定タンパク質のポリペプチド断片に関する。概して、THの生物活性断片は、THの少なくとも50%の生物活性、好ましくは60%、70%、80%、90%、95%、99%または100%の生物活性を有する。
【0069】
[0072]本開示は、チロシンヒドロキシラーゼ(THとも呼ばれる)バリアントを提供し、該THバリアントは、60~120個のアミノ酸残基のN末端欠失を除く、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を有するヒトTHである。好ましくは、該THバリアントが、80~100個のアミノ酸残基のN末端欠失を除く、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を有するヒトTHである。さらに好ましくは、該THバリアントが、80~90個のアミノ酸残基のN末端欠失を除く、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を有するヒトTHであり、例えば、配列番号1における80個、81個、82個、83個、84個、85個、86個、87個、88個、89個、90個、91個、92個、93個、94個、95個、96個、97個、98個、99個または100個のアミノ酸残基のN末端欠失を有するヒトTHである。
【0070】
[0073]一実施形態では、THバリアントが、90個のアミノ酸残基のN末端欠失を有するTHである。一実施形態では、THバリアントが、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。
【0071】
[0074]本開示はさらに、本明細書中で提供されるTHバリアントの断片、誘導体または類似体を提供し、かつそのような断片、誘導体または類似体は、THバリアントの生物学的機能または生物活性を実質的に維持する。ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列に関する用語「断片」は、その配列の一部を意味する。本明細書中で提供されるポリペプチド(例えば、本明細書中で提供されるTHバリアントおよびAADC)に関する用語「誘導体」または「類似体」は、(i)1つ以上の保存的もしくは非保存的なアミノ酸残基置換(好ましくは保存的アミノ酸残基置換)を有するカウンターパートポリペプチド、または(ii)1つ以上のアミノ酸残基が置換基を有するカウンターパートポリペプチド、または(iii)ポリペプチドが別の化合物(例えば、ポリペプチドの半減期を延長させる化合物、例えばポリエチレングリコール)と融合しているもしくは別の化合物に付着しているカウンターパートポリペプチド、または(iv)追加アミノ酸配列(例えば、リーダー配列、分泌配列、そのポリペプチドの精製に使用する配列、タンパク質構成(proteinogen)配列または融合タンパク質)とのポリペプチドの融合により形成されたカウンターパートポリペプチドを含むがそれらに限定されない。本明細書に定義される、それらの断片、誘導体および類似体は、当業者には公知の範囲内にある。
【0072】
[0075]一実施形態では、THバリアントの断片、誘導体または類似体が、配列番号1に記載されるアミノ酸配列に対する少なくとも80%(例えば、少なくとも80%、90%、95%または99%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。「配列同一性パーセント(%)」は、配列をアライメントしてから必要であればギャップを導入して同一アミノ酸(または核酸)数の最大値を達成した後に、参照配列中のアミノ酸(または核酸)残基と同じである、候補配列中のアミノ酸(または核酸)残基の百分率と定義される。言い換えると、アミノ酸配列(または核酸配列)の配列同一性パーセント(%)は、比較対象である参照配列と比べて同一であるアミノ酸残基(または塩基)の数を、参照配列中のアミノ酸残基(または塩基)の総数で割ることにより計算できる。アミノ酸残基の保存的置換は、同一残基とは見なされない。アミノ酸(または核酸)配列同一性パーセントを特定する目的でのアライメントは、例えば、一般的に利用可能なツール、例えば、BLASTN、BLASTp(U.S. National Center for Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイト上で利用可能、S.F. Altschul等、J. Mol. Biol.、215:403~410頁(1990年);F. Stephen等、Nucleic Acids Res.、25:3389~3402頁(1997年)も参照)、ClustalW2(European Bioinformatics Instituteのウェブサイト上で利用可能、D.G. Higgins等、Methods in Enzymology、266:383~402頁(1996年);M.A. Larkin等、Bioinformatics (Oxford、英国)、23(21):2947~8頁(2007年)も参照)、およびALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを使用して達成可能である。当業者は、ツールが提供するデフォルトパラメータを使用してもよく、またはアライメントに適切であるように、例えば、適切なアルゴリズムを選択することによりパラメータをカスタマイズしてもよい。
【0073】
[0076]特定の実施形態では、本明細書中で提供されるTHバリアントの断片、誘導体または類似体が、配列番号2に記載されるアミノ酸配列に対する少なくとも80%(例えば、少なくとも80%、90%、95%または99%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0074】
[0077]特定の実施形態では、THバリアントの断片、誘導体または類似体が、配列番号1または配列番号2に記載されるアミノ酸配列中の1つまたはいくつか(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つまたは10個)のアミノ酸残基の置換、欠失または付加により形成される。特定の実施形態では、THバリアントの断片、誘導体または類似体が、配列番号1または配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質として機能する。THバリアント、およびその断片、誘導体または類似体は、配列番号1または配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質の少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、95%、99%)の活性を有する。
【0075】
[0078]特定の実施形態では、THバリアントが、場合によりさらにタグタンパク質を含んでもよい。本明細書で使用する用語「タグタンパク質」および「タンパク質タグ」は交換可能であり、かつ標的タンパク質の発現、検出、追跡または精製を容易にするために、in vitro DNA組換え技術により該標的タンパク質と融合させたポリペプチドまたはタンパク質に関する。タンパク質タグは、His6、Flag、GST、MBP、HA、GFPまたはMycを含むが、それらに限定されない。特定の実施形態では、該タグタンパク質が、HA、MycまたはFlagを含むがこれらに限定されない。特定の実施形態では、HAが、配列番号22のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、Mycが、配列番号24のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、Flagが、配列番号26のアミノ酸配列を含む。タグタンパク質は、THバリアント、またはその断片、誘導体もしくは類似体のN末端またはC末端に付着され得る。特定の実施形態では、本明細書中で提供されるTHバリアントが、配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3に対する少なくとも80%の配列同一性を有するその断片、誘導体もしくは類似体を含む。
【0076】
[0079]別の態様では、本開示がさらに、前記のTHバリアント、またはその断片、誘導体もしくは類似体を含む組成物を提供する。
【0077】
[0080]一実施形態では、該組成物がさらに、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)、例えば、全長AADC、または該全長AADCの断片、誘導体もしくは類似体を含む。一実施形態では、全長AADCが、配列番号4~9のいずれかに記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。一実施形態では、全長AADCの断片、誘導体または類似体が、配列番号4~9のいずれかに記載されるアミノ酸配列に対する少なくとも80%(例えば、少なくとも80%、90%、95%または99%)の配列同一性を有する。一実施形態では、全長AADCの断片、誘導体または類似体が、配列番号4~9のいずれかに記載されるアミノ酸配列中の1つまたは限られた数(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つまたは10個)のアミノ酸残基の置換、欠失または付加により形成される。当業者は、全長AADCの断片、誘導体および類似体が、全長AADCの生物学的機能または生物活性を実質的に維持することを理解するであろう。一実施形態では、全長AADCの断片、誘導体または類似体が、配列番号4~9のいずれかに記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質として機能する。全長AADCの断片、誘導体または類似体は、配列番号4~9のいずれかに記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質の、少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、95%、99%)の活性を有する。
【0078】
[0081]特定の実施形態では、AADCが、場合によりさらに、N末端またはC末端にタグタンパク質を含んでもよく、そのタグタンパク質は、好ましくはHA、MycまたはFlagを含むがそれらに限定されない。該タグタンパク質は、AADCのN末端またはC末端に付着され得る。特定の一実施形態では、AADCが、配列番号10に記載されるアミノ酸配列を有するか、または配列番号10に対する少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0079】
[0082]特定の一実施形態では、AADCが、DDC遺伝子またはそのバリアントによってコードされる天然型アイソフォームのいずれかであり得る。異なるAADCアイソフォームをコードするいくつかの選択的スプライシング転写バリアントが、当該技術分野で同定された。特に、DDC遺伝子は、6つの異なるタンパク質アイソフォームをコードする7つの異なる転写バリアントを産生する。DDC遺伝子から転写されるバリアント1および2の両方とも、AADCアイソフォーム1をコードする。好ましい一実施形態では、全長AADCが、DDC遺伝子の転写バリアント1または2のコード領域であるポリヌクレオチドによりコードされるAADCアイソフォーム1(NCBI参照配列:NP_000781.1)である。当業者は、先行技術に基づき、それらすべての天然に存在するアイソフォーム(例えば、配列番号4~9のいずれかに記載されるアミノ酸配列を有するAADC)が本開示において適用可能であり、かつ同一または類似の効果を達成し得ることを当然ながら予想できる。
【0080】
[0083]特定の実施形態では、本明細書中で提供される組成物が医薬組成物である。特定の実施形態では、本明細書中で提供される組成物がさらに、薬学的に許容される担体を含む。特定の実施形態では、本明細書中で提供される組成物が治療用途用である。
【0081】
[0084]特定の実施形態では、本明細書中で提供される組成物が酵素組成物である。本明細書で使用する用語「酵素組成物」は、AADCおよび60個超かつ120個未満のアミノ酸残基(例えば、80個、90個または100個のアミノ酸残基)のN末端欠失を有するTHバリアントを含む組成物に関する。一実施形態では、90個のアミノ酸残基のN末端欠失を有するTHバリアントのアミノ酸配列が、配列番号2に記載される。AADCは、そのアミノ酸配列が配列番号4に記載される全長AADCであり得る。本開示および先行技術の教示を考慮して、当業者はさらに、本開示で使用される、90個のアミノ酸残基のN末端欠失を有するTHバリアントまたは全長AADCが、それらの変形型も含み、かつそのような変形型は、アミノ酸配列においていくつかの相違を有するにもかかわらず、90個のアミノ酸残基のN末端欠失を有するTHまたは全長AADCの機能と同一または類似の機能を有することを理解するであろう。それらの変形型は、1つ以上(例えば、1~5個)のアミノ酸残基の欠失、挿入および/または置換、ならびにC末端および/またはN末端での1つ以上(通常は20個以内、好ましくは10個以内、さらに好ましくは5個以内)のアミノ酸残基の付加を含むが、それらに限定されない。類似または近い特性を有するアミノ酸残基による置換、例えば、イソロイシンとロイシンとの間での置換は、得られるタンパク質の機能を変化させないということが当業者には周知である。別の例として、1つ以上のアミノ酸を含み、かつ精製または検出のために都合よいタグの、C末端および/またはN末端での追加は、通常、得られるタンパク質の機能に影響を及ぼし得ない。特定の一実施形態では、本開示で使用する「酵素組成物」が、N末端にHAタグが付いた、N末端において90個のアミノ酸を欠くTHおよびC末端にMycタグを有する全長AADCを含み得る。
【0082】
[0085]ポリヌクレオチド構築物
[0086]別の態様では、本開示がさらに、THバリアントまたはその断片、誘導体もしくは類似体をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド構築物を提供する。特定の実施形態では、該ポリヌクレオチド構築物がさらに、AADCまたはその誘導体をコードするポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、本開示が、前記の医薬組成物または酵素組成物をコードするポリヌクレオチド構築物を提供する。
【0083】
[0087]本明細書で使用する用語「ポリヌクレオチド」は、DNA分子またはRNA分子に関する。該DNA分子は、cDNA、ゲノムDNAまたは合成DNAを含む。該DNA分子は、一本鎖または二本鎖であってもよい。成熟ポリペプチドをコードする配列は、特定のタンパク質またはその縮重バリアントのコード配列と同一であり得る。縮重バリアントは、あるタンパク質をコードするが、遺伝暗号縮重により該タンパク質のコード配列とは異なるポリヌクレオチド配列に関する。
【0084】
[0088]一実施形態では、THバリアントをコードするポリヌクレオチドが、配列番号12もしくは13に記載されるヌクレオチド配列または配列番号12もしくは13に対する少なくとも80%、好ましくは少なくとも80%、90%、95%、99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する、および/またはAADCをコードするポリヌクレオチドが、配列番号14~21のいずれかに記載されるヌクレオチド配列または配列番号14~21のいずれかに対する少なくとも80%、好ましくは80%、90%、95%、99%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する。一実施形態では、ポリヌクレオチドが、配列番号12または13の縮重バリアントであり、かつ同一THバリアントをコードする。一実施形態では、ポリヌクレオチドが、配列番号14~21の1つの縮重バリアントであり、かつ同一AADCをコードする。
【0085】
[0089]特定の実施形態では、THバリアントの断片、誘導体または類似体をコードするポリヌクレオチドが、配列番号12または13に対する少なくとも80%、好ましくは少なくとも80%、90%、95%、99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する。特定の実施形態では、AADCの断片、誘導体または類似体をコードするポリヌクレオチドが、配列番号14~21のいずれかに対する少なくとも80%、好ましくは少なくとも80%、90%、95%、99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する。
【0086】
[0090]特定の一実施形態では、THのポリヌクレオチドが、配列番号12または13に記載されるヌクレオチド配列中の1つまたは限られた数(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つまたは10個)のヌクレオチド残基またはコドンの置換、欠失または付加により形成されるバリアントであり、かつ配列番号12または13に記載されるポリヌクレオチドとして機能する。該バリアントは、配列番号12もしくは13に記載されるポリヌクレオチドに対する少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、99%)の配列同一性、または配列番号12もしくは13に記載されるポリヌクレオチドの少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、99%)の生物活性を有する。
【0087】
[0091]特定の一実施形態では、AADCをコードするポリヌクレオチドが、配列番号14~21のいずれかに記載されるヌクレオチド配列中の1つまたは限られた数(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個)のヌクレオチド残基またはコドンの置換、欠失または付加により形成されるバリアントであり、かつ配列番号14~21のいずれかに記載されるポリヌクレオチドとして機能する。該バリアントは、配列番号14~21のいずれかに対する少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、99%)の配列同一性、または配列番号14~21のいずれかの少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、99%)の生物活性を有する。
【0088】
[0092]特定の一実施形態では、ポリヌクレオチド構築物がさらにプロモータを含む。当業者は、外来遺伝子の発現には適切なプロモータが必要であることを認識し、その適切なプロモータは、種特異的、誘導性、組織特異的、または細胞周期特異的なプロモータを含むがそれらに限定されない。遺伝子発現の精密調節は、通常、RNA転写の開始を誘導するプロモータに依存する。該プロモータは、構成的または誘導性のいずれか一方であり得る。該プロモータは、すべての細胞型中で発現されてもよく(例えばCMV)、または特定の細胞型中で発現されてもよい。中枢神経系(CNS)に関して、ニューロン特異的プロモータは、ニューロフィラメント、シナプシンまたはセロトニン受容体を含むが、それらに限定されず、グリア特異的プロモータは、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、S100またはグルタミン合成酵素を含むが、それらに限定されない。特定の実施形態では、本開示のベクタープラスミド中のポリヌクレオチドを転写するためにヒトシナプシンプロモータを使用し、前記のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質は、特異的にニューロン中で発現する。当業者は、別のニューロン特異的プロモータが、対応する機能を有することを当然ながら予想できる。
【0089】
[0093]ベクター
[0094]別の態様では、本開示は、前記のポリヌクレオチド構築物を含むベクターを提供する。
【0090】
[0095]一実施形態では、THバリアントがヒトTHバリアントであり、AADCがヒトAADCである。
【0091】
[0096]一実施形態では、組成物の、THバリアント(またはその誘導体)をコードするポリヌクレオチドとAADC(またはその誘導体)をコードするポリヌクレオチドとが、1つのベクタープラスミド中または異なるベクタープラスミド中に構築され得る。
【0092】
[0097]特定の一実施形態では、該ベクターが、(5’から3’へと)以下に示す3つの部分を含む:
[0098]1)本明細書中で提供されるTHバリアント、またはその誘導体をコードするポリヌクレオチド、
[0099]2)自己切断可能なペプチドをコードするT2A配列、および
[00100]3)本明細書中で提供されるAADCバリアント、またはその誘導体をコードするポリヌクレオチド。
【0093】
[00101]特定の一実施形態では、該ベクターが、(5’から3’へと)以下に示す3つの部分を含む:
[00102]1)90個のアミノ酸残基のN末端欠失を有するTHをコードするポリヌクレオチド、
[00103]2)自己切断可能なペプチドをコードするT2A配列、および
[00104]3)全長AADCをコードするポリヌクレオチド。
【0094】
[00105]特定の実施形態では、T2A配列が、配列番号28のヌクレオチド配列を含む。
【0095】
[00106]特定の一実施形態では、90個のアミノ酸残基のN末端欠失を有するTHをコードするポリヌクレオチドと全長AADCをコードするポリヌクレオチドとが同一ベクタープラスミド中にある場合に、その2つのポリヌクレオチド間に、自己切断可能なペプチドをコードするT2A配列を付加することにより、2つのタンパク質を同期的に発現するモノシストロンを構築する。
【0096】
[00107]別の特定の実施形態では、90個のアミノ酸残基のN末端欠失を有するTHをコードするポリヌクレオチドと全長AADCをコードするポリヌクレオチドとの間に、内部リボソーム進入部位(IRES)を付加する。IRESヌクレオチド配列が、mRNAの停止コドンの下流に存在する場合、リボソームの再進入が起こり得ることにより、第2のオープンリーディングフレーム(ORF)の翻訳が開始する。
【0097】
[00108]特定の一実施形態では、90個のアミノ酸残基のN末端欠失を有するTHをコードするポリヌクレオチドとAADC(例えば、全長、またはその断片、誘導体もしくは類似体)をコードするポリヌクレオチドとが、それぞれ、異なるベクター中に構築されることも可能である。
【0098】
[00109]本明細書で使用する用語「ベクター」は、外来標的遺伝子(例えば、本開示に記載されるポリヌクレオチド)を標的細胞内へと輸送および形質導入するための分子ツールに関する。ベクターの例は、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)またはP1由来人工染色体(PAC)のような人工染色体、ラムダファージまたはM13ファージのようなバクテリオファージ、および動物ウイルスを含む。ベクターは、DNAベクター、RNAベクター、ウイルスベクター、非ウイルス性ベクター、組換えベクターまたは発現ベクターであり得る。本明細書で使用する用語「発現ベクター」は、標的細胞内へと輸送または形質導入された後に外来標的遺伝子の発現を可能にするベクターに関する。発現ベクターは、標的細胞内において転写の開始を可能にする適切なヌクレオチド配列(すなわち、プロモータ)を提供し得る。本明細書で使用する用語「ウイルスベクター」は、ウイルス配列、例えば、ウイルス末端反復配列を有する発現ベクターに関する。当業者は、遺伝子療法の分野では、ウイルスベクターにより、外来標的遺伝子を標的細胞内へと形質導入して標的細胞内で発現させることが好ましい方法であることを理解するであろう。
【0099】
[00110]一実施形態では、本明細書中で提供されるベクターがプラスミドベクターを含む。
【0100】
[00111]一実施形態では、ベクターがウイルスベクターである。一実施形態では、ベクターが、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクター、アデノウイルス(Ad)ベクターおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターからなる群から選択される。一実施形態では、ベクターが、中枢神経系において発現可能である。中枢神経系(CNS)での効果的な発現ベクターは、HSV、AdまたはAAVを含むが、それらに限定されず、好ましくはAAVを含む。
【0101】
[00112]特定の実施形態では、ベクターが、AAVベクターを含むか、またはAAVベクターである。AAVは、そのゲノムが約4.7キロベース(kb)のサイズを有する一本鎖ヒトDNAパルボウイルスである。AAVゲノムは、5’末端逆位反復配列(ITR)および3’ITRが隣接する2つの主遺伝子、つまりrepタンパク質(Rep76、Rep68、Rep52およびRep40)をコードするrep遺伝子ならびにAAV構造タンパク質(VP-1、VP-2およびVP-3)をコードするcap遺伝子を含有する。本明細書で使用する用語「AAVベクター」は、少なくとも1つ、または2つのAAV末端逆位反復配列が隣接する1つ以上の異種配列を含む任意のベクター(例えばプラスミド)を含む。当該技術分野では十分に理解されている用語「AAV ITR」は、天然一本鎖AAVゲノムの両末端に存在する約145個のヌクレオチド配列である。ITRの最も外側の125個のヌクレオチドは、2つの選択的向きのいずれか一方で存在し得て、異なるAAVゲノム間での、および単一AAVゲノムの2つの末端間での異種性をもたらす。最も外側の125個のヌクレオチドは同じく、いくつかの短い自己相補性領域を含有し、ITRのその部分内において鎖内塩基対形成を可能にする。
【0102】
[00113]AAV ITRは、任意のAAVに由来し得て、AAV血清型1(AAV1)、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、鳥類AAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、および現在公知または後に見出される任意の別のAAVを含むがそれらに限定されない。詳細については、例えば、NF BERNARD等、VIROLOGY、第2巻、第69章(第4版、Lippincott-Raven Publishers);Gao等(2004年)、J. Virol. 78:6381~6388頁を参照。AAV ITR領域のヌクレオチド配列は公知である。例えば、R. M. Kotin(1994年)、Human Gene Therapy 5:793~801頁;K. I. Berns「Parvoviridae and their Replication」(Fundamental Virology中)、第2版(B. N. FieldsおよびD. M. Knipe編)を参照。AAV1、AAV2およびAAV3末端反復配列の初期の記載は、X. Xiao(1996年)、「Characterization of adeno-associated virus (AAV) DNA replication and integration」(博士論文)、University of Pittsburgh、Pittsburgh、Pa.(本明細書にその全体が組み込まれている)により提供される。
【0103】
[00114]AAV ITRは、天然AAV ITRであってもよく、またはその代わりに、変更ITRが、望ましい生物学的機能、例えば、複製、ウイルスパッケージング、組込み等をなおも仲介できる限り、例えば、変異、欠失もしくは挿入によって、天然AAV ITRから変更されていてもよい。AAVベクター中の、選択されたヌクレオチド配列に隣接する5’ITRおよび3’ITRは、例えば、目的の配列を受容細胞ゲノムから切除およびレスキューすることならびに受容細胞ゲノムへの組込みを可能にするために、意図したとおりに機能する限り、必ずしも同一である、または同一AAV血清型由来である必要はない。
【0104】
[00115]特定の実施形態では、本明細書中で提供されるAAVベクターが、AAVウイルス粒子内へとパッケージングされるために適切なサイズを有する発現カセットを含む。例えば、AAVベクター中の該発現カセットのサイズは、使用するAAVのゲノムサイズのサイズ限度まで、例えば、5.2kbまでであり得る。特定の実施形態では、AAVベクター中の該発現カセットが、5.2kb以下、約5kb以下、約4.5kb以下、約4kb以下、約3.5kb以下、約3kb以下、約2.5kb以下のサイズを有する、例えば、J. Y. Dong等(1996年11月10日)を参照。特定の実施形態では、本明細書中で提供されるAAVベクタープラスミドが、5000bp未満(例えば、約4500bp)であり、かつITR、プロモータ、WPREおよびポリ(A)を含む導入遺伝子発現カセットを含む。該導入遺伝子は、本明細書中で提供されるヌクレオチド構築物を含む。いくつかの実施形態では、AAVベクターが、組換えであってもよい。組換えAAV(rAAV)ベクターは、同一ウイルス起源ではない(例えば、非AAVウイルス由来、またはAAVの異なる血清型由来、または部分的合成配列もしくは完全合成配列由来の)1つ以上の異種配列を含み得る。特定の実施形態では、本明細書中で提供されるヌクレオチド構築物に、少なくとも1つのAAV ITRが隣接する。
【0105】
[00116]AAVベクターは、当該技術分野で公知の方法を使用して構築可能である。rAAVベクター構築の一般的原理は、当該技術分野において公知である。例えば、Carter、1992年、Current Opinion in Biotechnology、3:533~539頁;およびMuzyczka、1992年、Curr. Top. Microbiol. Immunol.、158:97~129頁を参照。例えば、異種配列を、Rep遺伝子および/またはCap遺伝子を欠失させたAAVゲノムのITR間に直接挿入してもよい。複製およびパッケージングの機能を可能にするためにITRの十分な部分が残存する限り、AAVゲノムの別の部分を欠失することも可能である。そのような構築物は、当該技術分野において周知の技術を使用して設計できる。例えば、米国特許第5173414号明細書および米国特許第5139941号明細書;国際公開第92/01070号(1992年1月23日公開)および国際公開第93/03769号(1993年3月4日公開);Lebkowski等(1988年)、Molec. Cell. Biol. 8:3988~3996頁;Vincent等(1990年)、Vaccines 90(Cold Spring Harbor Laboratory Press);B. J. Carter(1992年)、Current Opinion in Biotechnology 3:533~539頁;N. Muzyczka(1992年)、Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁;R. M. Kotin (1994年)、Human Gene Therapy 5:793~801頁;ShellingとSmith(1994年)、Gene Therapy 1:165~169頁;ならびにZhou等(1994年)、J. Exp. Med. 179:1867~1875頁を参照。
【0106】
[00117]その代わりに、AAV ITRを含有するウイルスゲノムまたはAAVベクターから、AAV ITRを切除して、例えば、前記のSambrook等に記載される標準的ライゲーション技術を使用して、異種配列の5’および3’に融合してもよい。AAV ITRを含有するAAVベクターは、市販入手可能であり、例えば米国特許第5139941号に記載されている。
【0107】
[00118]特定の一実施形態では、ドパミンの異所性合成および酵素組成物の発現を、本開示中のAAVベクターにより行う。しかしながら、本開示および先行技術の開示を考慮して、当業者はさらに、本開示で使用するAAVベクターは、その変形形態も含み得ることを理解し、その変形形態は、AAVベクターの基本機能に影響を及ぼさないDNA配列変種、またはAAV血清型の変化を含むが、それらに限定されない。
【0108】
[00119]本明細書で使用する用語「異所性合成」または「de novo合成」は、いくつかの技術を利用した、元来はその化合物を合成しない細胞、組織または器官中での特定化合物産生の開始に関する。特定の一実施形態では、本開示で使用する酵素組成物が、線条体中の元来はドパミンを合成しない中型有棘ニューロン(MSN)中で機能してもよく、その脳領域でのドパミンの合成および分泌を促進し得て、PD関連表現型の緩和において重要な役割を果たし得る。
【0109】
[00120]ウイルス粒子
[00121]別の態様では、本開示は、前記のベクター(例えば、プラスミドまたはウイルスベクター)でのトランスフェクションにより調製された細胞を提供する。
【0110】
[00122]本開示は、前記のヌクレオチド構築物を、そのゲノムとして含むウイルス粒子を提供する。
【0111】
[00123]AAVウイルス粒子は、前記のAAVベクターから産生され得る。AAV粒子は、公知の技術を使用して、例えばトランスフェクションにより、本明細書中で提供されるAAVベクターを、別の必要な機構、例えば、AAV cap/rep遺伝子をコードするプラスミド、およびアデノウイルスまたはヘルペスウイルスのいずれか一方により供給されるヘルパー遺伝子と共に、適切な宿主細胞内へと導入することにより産生可能である(例えば、本明細書にその全体が組み込まれているM. F. Naso等、BioDrugs、31(4):317~334頁(2017年)を参照)。AAVベクターは、宿主細胞中で発現可能であり、ウイルス粒子内へとパッケージされ得る。
【0112】
[00124]本明細書中で提供されるAAVウイルス粒子は、cap遺伝子によりコードされるカプシドタンパク質を有する。いくつかの実施形態では、該カプシドタンパク質が、天然であっても組換えであってもよい。いくつかの実施形態では、該カプシドタンパク質が、改変されていてもキメラまたは合成であってもよい。改変カプシドは、挿入、付加、欠失または変異のような改変を含み得る。例えば、改変カプシドは、検出または精製のタグを組み込んでもよい。キメラカプシドは、2つ以上のカプシド配列の部分を含む。合成カプシドは、合成配列または人為的に設計された配列を含む。AAVのカプシド構造も当該技術分野において公知であり、前記のNF Bernard等においてより詳細に記載される。
【0113】
[00125]いくつかの実施形態では、cap遺伝子またはカプシドタンパク質が、2つ以上のAAV血清型に由来する。本明細書で使用する、AAVに関する用語「血清型」は、定義された抗血清とのカプシドタンパク質反応性に関する。様々なAAV血清型が、機能的および構造的に、遺伝子レベルでさえも関連することが当該技術分野において公知である(例えば、Blacklow、「Parvoviruses and Human Disease」J. R. Pattison編(1988年)の165~174頁;およびRose、Comprehensive Virology 3:1、1974年を参照)。しかしながら、異なる血清型のAAVウイルス粒子は、異なる組織指向性を有し得て(詳細は、M Nonnenmacher等、Gene Ther.、2012年6月、19(6):649~658頁を参照)、標的組織向けの遺伝子療法に適切であるとして選択され得る。いくつかの実施形態では、cap遺伝子またはカプシドタンパク質が、特異的指向性プロファイルを有し得る。用語「指向性プロファイル」は、1つ以上の標的細胞、標的組織および/または標的器官の形質導入のパターンに関する。例えば、カプシドタンパク質は、脳、肝臓(例えば肝細胞)、眼、筋肉、肺、腎臓、腸、膵臓、唾液腺もしくは滑膜、または任意の別の適切な細胞、組織もしくは器官に特異的な指向性プロファイルを有し得る。
【0114】
[00126]いくつかの実施形態では、cap遺伝子またはカプシドタンパク質が、任意の適切なAAVカプシド遺伝子またはタンパク質に由来し、例えば、制限なしに、AAVカプシド遺伝子またはタンパク質は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV12、AAV843、AAVbb2、AAVcyS、AAVrh10、AAVrh20、AAVrh39、AAVrh43、AAVrh64、AAVhu37、AAV3B、AAVhu48、AAVhu43、AAVhu44、AAVhu46、AAVhu19、AAVhu20、AAVhu23、AAVhu22、AAVhu24、AAVhu21、AAVhu27、AAVhu28、AAVhu29、AAVhu63、AAVhu64、AAVhu13、AAVhu56、AAVhu57、AAVhu49、AAVhu58、AAVhu34、AAVhu45、AAVhu47、AAVhu51、AAVhu52、AAVhu T41、AAVhu S17、AAVhu T88、AAVhu T71、AAVhu T70、AAVhu T40、AAVhu T32、AAVhu T17、AAVhu LG15、AAVhu9、AAVhu10、AAVhu11、AAVhu53、AAVhu55、AAVhu54、AAVhu7、AAVhu18、AAVhu15、AAVhu16、AAVhu25、AAVhu60、AAVch5、AAVhu3、AAVhu1、AAVhu4、AAVhu2、AAVhu61、AAVrh62、AAVrh48、AAVrh54、AAVrh55、AAVcy2、AAVrh35、AAVrh37、AAVrh36、AAVcy6、AAVcy4、AAVcy3、AAVcy5、AAVrh13、AAVrh38、AAVhu66、AAVhu42、AAVhu67、AAVhu40、AAVhu41、AAVrh40、AAVrh2、AAVbb1、AAVhu17、AAVhu6、AAVrh25、AAVpi2、AAVpi3、AAVrh57、AAVrh50、AAVrh49、AAVhu39、AAVrh58、AAVrh61、AAVrh52、AAVrh53、AAVrh51、AAVhu14、AAVhu31、AAVhu32、AAVrh34、AAVrh33、AAVrh32、鳥類AAV ATCC VR-865、鳥類AAV株DA-1またはウシAAVに由来する。AAV843のカプシドは、国際公開第2019/241324号(本明細書にその全体が組み込まれている)に開示される合成カプシドAAVXL32と同一であり、AAV843は、例えば、J. Xu等、Int J Clin Exp Med、2019年、12(8):10253~10261頁にも開示される。
【0115】
[00127]AAVカプシドの遺伝子配列およびタンパク質配列のさらなる例は、GenBankデータベースに見出され得る、GenBank登録番号:AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、NC 001358、NC 001540、AF513851、AF513852、AY530579、AY631965、AY631966; AF063497、AF085716、AF513852、AY530579、AAS99264.1、AY243022、AY243015、AY530560、AY530600、AY530611、AY530628、AY530553、AY530606、AY530583、AY530555、AY530607、AY530580、AY530569、NC 006263、NC 005889、NC 001862、AY530609、AY530581、AY530563、AY530591、AY530562、AY530584、AY530622、AY530601、AY530586、AY243021、AY530570、AY530589、AY530595、AY530572、AY530588、AY530575、AY530565、AY530590、AY530602、AY530566、AY530587、AY530585、AY530564、AY530592、AY530623、AY530574、AY530593、AY530560、AY530594、AY530573、AF513852、AY530624、AY530561、AY242997、AY530625、AY530567、AY530556、AY530578、AY530568、AY530618、AY243020、AY530579、AY530619、AY530596、AY530612、AY243000、AY530597、AY530620、AY242998、AY530598、AY242999、AY530599、AY243016、NC 001729、NC 001401、AY243018、NC 001863、AY530608、AY243019、NC 001829、AY530610、AY243017、AY243001、AY530613、AY243013、AY243002、AY530614、AY243003、AY695378、AY530558、AY530626、AY695376、AY695375、AY530605、AY695374、AY530603、AY530627、AY695373、AY695372、AY530604、AY695371、AY530600、AY695370、AY530559、AY695377、AY243007、AY243023、AY186198、AY629583、NC 004828、AY530629、AY530576、AY243015、AY388617、AY530577、AY530582、AY530615、AY530621、AY530617、AY530557、AY530616またはAY530554を参照。
【0116】
[00128]特定の実施形態では、AAVウイルス粒子が、AAV9由来のカプシドタンパク質を含むため、AAV9の血清型を有する。AAV9のカプシド遺伝子配列は、当該技術分野において、例えば、GenBankデータベースから公知である、GenBank登録番号AY530579を参照。
【0117】
[00129]特定の実施形態では、AAVウイルス粒子が、あるAAV血清型由来のカプシドタンパク質および第2の血清型由来のAAV ITRを含む。特定の実施形態では、AAVウイルス粒子が、シュードタイプAAVを含む。「シュードタイプ」AAVは、ある血清型由来のカプシドタンパク質および第2の血清型の、5’~3’ITRを含むウイルスゲノムを含有するAAVに関する。シュードタイプAAVは、カプシドタンパク質が由来する血清型の細胞表面結合特性およびITRが由来する血清型と一致する遺伝的特性を有すると予想される。
【0118】
[00130]AAVのゲノム配列と同様にAAVのrep遺伝子およびcap遺伝子は当該技術分野において公知であり、文献および公開データベース、例えばGenBankデータベースに見出され得る。以下の表1は、AAVゲノムのいくつかの模範配列またはAAVカプシド配列を示し、さらなる例は、NF Bernard等、VIROLOGY、第2巻、第69章(第4版、Lippincott-Raven Publishers);Gao等、(2004年)J. Virol. 78:6381~6388頁;MF Naso等、BioDrugs.、2017年、31(4):317~334頁に概説される。
【0119】
[00131]
【表1】
【0120】
[00132]医薬組成物
[00133]別の態様では、本開示は、前記のウイルス粒子、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0121】
[00134]本明細書で使用する用語「薬学的に許容される担体」は、本開示のウイルス粒子の貯蔵および対象への投与を容易にし得るあらゆる医薬担体に関し、例えば、溶媒、分散媒、被覆材、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等に関する。該薬学的に許容される担体は、任意の適切な成分、例えば、制限なしに、食塩水を含み得る。食塩水の実例は、制限なしに、緩衝食塩水、生理食塩水、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、重炭酸緩衝液、ショ糖溶液、塩溶液、およびポリソルベート溶液を含む。
【0122】
[00135]特定の実施形態では、医薬組成物がさらに、添加剤、例えば、制限なしに、安定剤、保存剤、および薬剤の細胞取込みを援助するトランスフェクション促進剤を含んでもよい。適切な安定剤は、制限なしに、グルタミン酸一ナトリウム、グリシン、EDTAおよびアルブミン(例えばヒト血清アルブミン)を含み得る。適切な保存剤は、制限なしに、2-フェノキシエタノール、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ヒドロキシ安息香酸メチル、フェノール、チメロサールおよび抗生物質を含み得る。適切なトランスフェクション促進剤は、制限なしに、カルシウムイオンを含み得る。
【0123】
[00136]医薬組成物は、当該技術分野において公知の任意の適切な経路を介する投与に適切であり得て、その投与経路は、制限なしに、非経口、経口、経腸、バッカル、経鼻、局所、直腸、経膣、経粘膜、表皮、経皮、真皮、経眼、肺内、心臓内、皮下、実質内、脳室内、または脊髄内の投与経路を含む。
【0124】
[00137]医薬組成物は、各投与経路に適切な製剤または調合の形で、対象に投与可能である。医薬組成物の投与に適切な製剤は、制限なしに、液剤、分散剤、乳剤、散剤、懸濁剤、エアロゾル、スプレー、点鼻剤、リポソームベース製剤、パッチ、植込剤、および座剤を含み得る。
【0125】
[00138]製剤は、都合よく単位剤形で提示されてもよく、かつ薬学の当該技術分野で周知の任意の方法により調製され得る。それらの製剤または組成物を調製する方法は、本開示の外来核酸を、1つ以上の薬学的に許容される担体および場合により1つ以上のアジュバントに供給する工程を含む。そのような製剤を準備する方法は、例えば、参照により本明細書にその全体が組み込まれている、Remington's Pharmaceutical Sciences (Remington: The Science and Practice of Pharmacy、第19版、A. R. Gennaro(編)、Mack Publishing Co.、N.J.、1995年;R. Stribling等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:11277~11281頁(1992年);T. W. Kim等、The Journal of Gene Medicine、7(6):749~758頁(2005年);S.F. Jia等、Clinical Cancer Research、9:3462(2003年);A. Shahiwala等、Recent patents on drug delivery and formulation、1:1~9頁(2007年);A. Barnes等、Current Opinion in Molecular Therapeutics 2000 2:87~93頁(2000年)に見出され得る。
【0126】
[00139]治療の方法
[00140]別の態様では、本開示は、対象において、前記のTHバリアント、医薬組成物、ヌクレオチド構築物、ベクター(例えば、プラスミドまたはウイルスベクター)、細胞、ウイルス粒子または組成物を使用して(例えば、治療有効量の投与により)神経変性疾患を治療する方法を提供する。
【0127】
[00141]特定の実施形態では、本開示は、対象において神経変性疾患を治療する方法であって、本明細書中で提供されるウイルス粒子の治療有効量を該対象に投与する工程を含む方法を提供する。本明細書で使用する、ウイルス粒子に関する用語「治療有効量」は、該対象に送達されるウイルス粒子の量が、該対象において治療利益を生み出すため、例えば、該対象における少なくとも1つの臨床症状におけるいくらかの緩和、鎮静または軽減を提供するために十分であることを意味する。例えば、外来核酸の治療有効量は、治療利益を生み出すために、該対象において、THバリアント(またはその誘導体)およびAADC(またはその誘導体)の、十分な数の細胞への送達および発現を可能にし得る。該治療利益は、例えば、パーキンソン病を有する対象の運動症状の回復を含み得る。
【0128】
[00142]特定の実施形態では、本明細書中で提供されるウイルス粒子、ベクターまたは組成物の治療利益を、PD動物モデルにおいて試験し得る。本明細書で使用する用語「PD動物モデル」は、PD病理(例えば、脳の黒質領域中のドパミン作動性ニューロンの神経変性)と一致する重大な表現型をシミュレーションできる動物モデルに関する。特定の一実施形態では、本開示で使用するPD動物モデルは、片側黒質/腹側被蓋野(SN/VTA)領域中のドパミン作動性ニューロンが有毒試薬(例えば、6-ヒドロキシドパミン、6-OHDA)によって特異的に殺滅されている、C57BL/6と呼ばれるマウス株である。しかしながら、当業者はさらに、あるPD動物モデルの確立は、ヒトPDの治療用の手引きおよび方法を提供することを理解する。したがって、遺伝的関係において進化的にヒトにより近い非ヒト霊長類のPDモデルは、理論的に、臨床変換(clinical transformation)の目標を達成する助けとなり得る。該特定の実施形態において使用するマウスモデルは、本開示の酵素組成物がPDジスキネジアを改善し得ることの例証を意図するのみで、マウスにのみ効果的であることは意味しない。当業者は、先行技術の理解に基づき、本開示の酵素組成物が、別の種(例えばヒト)のPDジスキネジアを改善できることを当然ながら予想できる。
【0129】
[00143]特定の実施形態では、本明細書中で提供されるウイルス粒子を、対象の脳の線条体に投与する。
【0130】
[00144]本明細書で使用する用語「対象」は、任意のヒトまたは非ヒト動物に関する。用語「非ヒト動物」は、すべての脊椎動物、例えば、哺乳類および非哺乳類、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、ラット、マウス、両生類、および爬虫類に関する。特に指定がない限り、用語「患者」および「対象」は交換可能に使用する。
【0131】
[00145]本明細書で使用する用語「治療」または「治療する方法」は、両方とも療法および予防法に関する。治療を必要とする者は、特定疾患をすでに患う個人またはそのような疾患をやがて患うかもしれない個人を含み得る。
【0132】
[00146]一実施形態では、THバリアントおよびAADCのヌクレオチドを発現させるために、THバリアントおよびAADCをコードするポリヌクレオチドを含むヌクレオチド構築物を含むウイルス粒子を、対象の脳の線条体に投与し、それが次いで、線条体中でのドパミンの異所性合成を引き起こし、パーキンソン病を有する対象の運動症状をやがて効果的に回復する。
【0133】
[00147]特定の実施形態では、線条体が、尾状核被殻(CP)領域である。
【0134】
[00148]一実施形態では、本開示は、対象において神経変性疾患を治療するための医薬品の製造における、前記のTHバリアント、医薬組成物、ヌクレオチド構築物、ベクタープラスミド、細胞、ウイルスまたは組成物の使用を開示する。
【0135】
[00149]特定の実施形態では、該神経変性疾患がパーキンソン病である。
【0136】
[00150]特定の実施形態では、該対象が、哺乳類、好ましくはヒト、ラットまたはマウスである。
【0137】
[00151]本発明の利点
[00152]本開示の利点は、本開示により提供される治療方法を利用して、ドパミンの異所性合成用の酵素組成物が、細胞により放出されるドパミンの濃度を著しく上昇させ得ることであり、その濃度は、別の酵素組成物よりも著しく高い。さらに、前記の外来遺伝子を送達するためのAAVベクターの使用は、標的酵素組成物をコードするヌクレオチド構築物の、脳の線条体中での効果的な発現をもたらし、それにより、PDの疾患表現型を著しく改善する。それは、遺伝子療法での適用向けの、本開示の発現ベクターとしてのAAVを含む酵素組成物の大きな価値を示唆する。
【0138】
[00153]以下の実施例における実験方法は、特に指定がない限り、従来どおりである。
【0139】
[00154]実施例
[00155]方法および材料
[00156]1.酵素組成物を発現するAAVベクターの構築
[00157]本開示の酵素組成物を発現するポリヌクレオチドとAAVベクター(Addgene:26972)とを、エンドヌクレアーゼBamHIとEcoRIとを用いて、37℃で1時間消化して、対応する付着末端を得た。ゲル回収により精製した標的断片を、T4 DNAリガーゼを用いて16℃で一晩ライゲーションした。形質転換後に培養用に単一細菌コロニーをピッキングし、ベクタープラスミドを抽出し、配列検証に向けてサンガー法シーケンシングの対象とした。
【0140】
[00158]2.in vitroでの293細胞株の培養およびトランスフェクション
[00159]293細胞株を、GlutaMAXならびに二重抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)を補足したDMEM中、37℃、5%COで培養した。293細胞の密度が、6ウェルプレートの面積の約80%に達したら、リポソーム型トランスフェクション(リポフェクタミン3000試薬)を行った。各ウェル中の293細胞を、対応するプラスミド3μgでトランスフェクトし、続く実験に向けて48時間にわたり連続的に培養した。
【0141】
[00160]3.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
[00161]293細胞の培地を吸い取った後、細胞を、温かいPBSで1回洗浄してから、PBS(1mL)中で1時間培養した。ライセートを収穫してから、3,000rpmおよび4℃で10分間遠心分離した。上清をHClO(0.6M)と1:1の比率で混合して、HClOの最終濃度を0.3Mとした。十分に混合したサンプルを、20,000rpm、4℃で15分間遠心分離し、上清を、ESA Coulochem III電気化学検出器(ESA Analytical)を搭載したHPLCシステムにアプライした。0.2mL/分の速度のフロー状態(flow phase)で平衡化したEclipse Plus C18逆相カラム(3.5μm、2.1×150mm)を使用してカテコールアミンを分離してから、電気化学検出を行い、特定のピークの積分によりドパミン濃度を計算した。
【0142】
[00162]4.定位的注入
[00163]C57BL/6マウスの遺伝的背景の片側黒質/腹側被蓋野領域(SN/VTA)への6-OHDAの注入によりPDマウスモデルを構築した。片側SN/VTA領域において6-OHDA(8mg/mL)500nLを注入するために、定位的注入を行った。有毒試薬として、6-OHDAは、ドパミン作動性ニューロンを特異的に殺滅する。6-OHDAを、50nL/分の速度でゆっくりと注入し、AP-3.6、ML-0.5およびDV-4.3において送達した。
【0143】
[00164]PDモデルマウスの運動非対称性の救済における本開示の酵素組成物の役割を検証する実験において、本発明者は、標的二酵素組成物を発現するベクタープラスミドを含む、AAV血清型9のウイルス粒子(力価:1.95×1013vg/mL)を、線条体の尾状核被殻(CP)内に注入した。GFP発現ウイルスベクター(力価:7.78×1012vg/mL)を対照として使用した。マウス標準脳アトラスに基づいて、3つの適切な注入部位:(1)AP0.5、ML-2.0およびDV-3.6;(2)AP0.5、ML-2.0およびDV-3.6;(3)AP-0.6、ML-2.7およびDV-3.3を選択した。各部位での注入量は500nLであり、注入速度は、注入ポンプを使用して50nL/分であった。
【0144】
[00165]5.アポモルフィン回転試験
[00166]試験前に、PDマウスモデルの頸部にアポモルフィンを、体重で計った投与量(10mg/kg)で皮下投与した。マウスを、馴化のために直径10cmのシリンダ内に置いてから、回転試験を行った。結果は、6-OHDA病変と反対側のアポモルフィン誘発回転の1分間当たり正味回転で表し、対側回転と同側回転との間の差異を、60分間の記録時間で割って計算した。
【0145】
[00167]6.免疫細胞染色
[00168]マウスを、PBS中の4%PFAで経心的に灌流した。単離した脳を約1週間、4%PFA中で固定してから、続いて、15%ショ糖溶液および30%ショ糖溶液で脱水した。解析対象の脳領域(SN/VTAおよびCP)を含有する厚さ40μmの脳切片を得るために、クリオスタット切片化を使用した。PBS中で洗浄後、脳切片を、室温で2時間、ブロックバッファ(PBS中の5%BSA、0.3% TritonX-100)中でインキュベートした。次いで、切片を4℃で一晩、一次抗体(抗TH)とインキュベートしてから、該一次抗体の起源に対応し、かつ発色団(吸収波長488nm)を有する二次抗体のインキュベーションを室温で2時間行った。全画像は、Olympus VS120ハイスループット蛍光イメージングシステムを用いて獲得した。
【0146】
[00169]7.実験に関与した配列情報
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0147】
[00170]実施例1。二酵素組成物を発現するAAVベクターの構築
[00171]図1に示すように、N末端での90個のアミノ酸の欠失を有するTHバリアントおよび全長AADCを含む二酵素組成物を発現する組換えAAVベクターを構築した。下流遺伝子の発現は、シナプシンプロモータによって調節された。該二酵素組成物を発現するポリヌクレオチドは、(5’から3’へと)以下に示す3つの部分を含む。
[00172]1)配列番号13に記載される、N末端にHAタグが付いた、N末端で90個のアミノ酸を欠失させたTHをコードするポリヌクレオチド;
[00173]2)自己切断ペプチドをコードする、配列番号28に記載されるT2Aヌクレオチド配列;
[00174]3)配列番号21に記載される、C末端にMycタグが付いた全長AADCをコードするポリヌクレオチド。
【0148】
[00175]本開示の酵素組成物を発現するポリヌクレオチドを、エンドヌクレアーゼBamHIとEcoRIとで消化して、AAVベクター(Addgene:26972)にサブクローニングした。
【0149】
[00176]対照として、本発明者は同時に、GFP発現を誘導するシナプシンプロモータを有するAAVベクターを構築した。
【0150】
[00177]293細胞株において、その各々が、N末端で特定数のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む一連の組成物間で、de novoドパミン合成能を都合よく比較できるよう、293細胞株中での標的配列のより良好な発現を目指して、本発明者は、プロモータとしてのユビキチンを有する一群のベクタープラスミドを同時に構築し、その各々は、全長THおよび全長AADCを含む組成物、THの別の異性体および全長AADCを含む組成物、N末端で40個のアミノ酸を欠失させたTH(すなわち、配列番号1の41~528番目のアミノ酸残基)および全長AADC(配列番号4)を含む組成物、N末端で60個のアミノ酸を欠失させたTH(すなわち、配列番号1の61~528番目のアミノ酸残基)および全長AADCを含む組成物、N末端で80個のアミノ酸を欠失させたTH(すなわち、配列番号1の81~528番目のアミノ酸残基)および全長AADCを含む組成物、N末端で90個のアミノ酸を欠失させたTH(すなわち、配列番号1の91~528番目のアミノ酸残基もしくは配列番号2)および全長AADCを含む組成物、N末端で100個のアミノ酸を欠失させたTH(すなわち、配列番号1の101~528番目のアミノ酸残基)および全長AADCを含む組成物、N末端で120個のアミノ酸を欠失させたTH(すなわち、配列番号1の121~528番目のアミノ酸残基)および全長AADCを含む組成物、N末端で150個のアミノ酸を欠失させたTH(すなわち、配列番号1の151~528番目のアミノ酸残基)および全長AADCを含む組成物、N末端で164個のアミノ酸を欠失させたTH(すなわち、配列番号1の165~528番目のアミノ酸残基)および全長AADCを含む組成物、またはN末端で190個のアミノ酸を欠失させたTH(すなわち、配列番号1の191~528番目のアミノ酸残基)および全長AADCを含む組成物を発現する。N末端アミノ酸欠失を有する一連のTHはすべて、N末端においてHAタグと付着させ、かつ全長AADCのC末端は、Mycタグと付着させた。プロモータとしてユビキチンを有するGFP発現ウイルスベクターを、対照として構築した。
【0151】
[00178]実施例2。in vitro培養細胞株中での酵素組成物の機能検証
[00179]ドパミンde novo合成に関して最も効率よい二酵素組成物を見出すために、本発明者は、前記の、N末端でのアミノ酸欠失を有するTHおよび全長AADCを含む一連の二酵素組成物をコードするベクタープラスミドをそれぞれ、リポソーム(リポフェクタミン3000試薬)を用いて293細胞株内にトランスフェクトした。陰性対照として、GFP発現ベクターも293細胞株内にトランスフェクトした。培養細胞を、37℃、5%CO中で48時間インキュベーション後、細胞培養培地をPBSで交換した。PBS中での1時間のインキュベーション後、上清PBSおよび細胞サンプルをそれぞれ収穫した。
【0152】
[00180]前記のPBSサンプル中のドパミン濃度、すなわち293細胞によって分泌されたドパミン濃度を検出するために、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を行った。その結果は、N末端でのアミノ酸欠失を有するTHおよび全長AADCを含む一連の二酵素組成物を発現する293細胞から収穫した全サンプル中においてドパミンが検出されたが、GFP発現サンプル中では検出されなかったことを示した(図2)。これは、293細胞株それ自体は、ドパミンを合成および分泌できないが、機能性のTHとAADCとを同時に導入すると、細胞がドパミンの合成および分泌を開始することを示唆し、本発明者が設計した様々な二酵素組成物が、正常に機能し得る、すなわち、ドパミンのde novo合成を触媒し得ることを証明する。
【0153】
[00181]この結果はさらに、N末端で90個のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む組成物(90)を発現する293細胞からのサンプル中でのドパミン濃度は、全長THおよび全長AADCを含む組成物(WT)、THの別の異性体および全長AADCを含む組成物(Isob)、N末端で40個のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む組成物(40)、N末端で60個のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む組成物(60)、N末端で100個のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む組成物(100)、N末端で120個のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む組成物(120)、N末端で150個のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む組成物(150)、N末端で164個のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む組成物(164)、ならびにN末端で190個のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む組成物(190)を発現する293細胞からのいずれかのサンプルよりも著しく高かったことを示した。しかしながら、N末端で80個のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む組成物(80)を発現する293細胞サンプル中でのドパミン濃度と比べた場合、差異は著しくはなかった(図2を参照)。このデータは、ドパミン濃度の上昇が、THの活性を負に調節することにより、その異所性ドパミン合成能を限定し、かつこのジレンマが、N末端で特定アミノ酸残基を欠失させた、構成的に活性化させたバージョンのTHの使用により解決され得ることを確証した。さらに重要なことに、本発明者は、比較により、N末端での特定アミノ酸の欠失を有する、構成的に活性化させた最適な型のTH、すなわちN末端で80個または90個のアミノ酸を欠失させたTHを見出した。本開示により提供される二酵素組成物は、N末端で80個または90個のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む組成物である。この結果は、この二酵素組成物が、N末端での特定欠失を有するTHおよび全長AADCを含む、別の型の組成物よりも優れたde novoドパミン合成能を有することを示唆する。要約すると、本開示により提供される二酵素組成物は、最良のde novoドパミン合成を果たし得る。N末端での特定欠失を有するTHは、構成的活性化状態にあることが公知であるとは言え、本開示は、構成的に活性化されたTHバリアントの最適な型を提供する。
【0154】
[00182]実施例3。PDモデルマウスの構築
[00183]PDモデルを構築するために8週齢のC57BL/6マウス株を選択した。マウス標準脳アトラスに従って、片側SN/VTA領域に6-OHDA(8mg/mL)500nLの定位的注入を行った。6-OHDAは、ドパミン作動性ニューロンを特異的に殺滅する毒性薬剤である。2週間後、マウスの頸部にアポモルフィンを、体重で計った投与量(10mg/kg)で皮下注射し、次いで回転試験を行った。6-OHDA病変と反対側の回転を示した、アポモルフィン誘発性運動非対称性の表現型を有するマウスを、続く実験用に選択した。
【0155】
[00184]運動非対称性を有するマウスからのクリオスタット脳切片の免疫細胞染色アッセイを行った。このアッセイでは、TH陽性染色シグナルが、PDマウスにおける対照としての、6-OHDA病変と反対側の、SN/VTA領域および線条体CP領域の両方ともで検出されたが、病変と同側の領域では検出されなかったことが示された(図3を参照)。この結果は、6-OHDAが、CPへと投射する、SN/VTA中のドパミン作動性ニューロンに対して効果的な病変を引き起こしたことを示した。
【0156】
[00185]要約すると、続く救済実験用に、PDマウスモデルの構築に成功した。
【0157】
[00186]実施例4。二酵素組成物による、PDマウスモデルの表現型の救済
[00187]PDマウス中でのin vivo発現用に、N末端で90個のアミノ酸を欠失させたTHおよび全長AADCを含む組成物(TH90del/AADC)を発現するベクタープラスミドを、AAV血清型9のウイルス粒子(力価:1.95×1013vg/mL)内にパッケージした。対照として、GFP発現プラスミドを、AAV粒子(GFP、力価:7.78×1012vg/mL)内にパッケージした。
【0158】
[00188]図4aに示すワークフローに従って表現型救済実験を行うために、実施例3において構築に成功したPDマウスモデルを使用した。TH90del/AADCまたはGFPのAAVパッケージングを、定位固定装置を用いて、マウス標準脳アトラスに基づいて選択した3つの適切な割り当てられた注入部位で線条体内注入した。各部位で、ウイルス500nLを注入した。ウイルス投与から4週間後、用量を体重で計った(10mg/kg)、頸部でのアポモルフィン皮下注射により、アポモルフィン誘発回転試験を行った。救済有効性は、6-OHDA病変と反対側のアポモルフィン誘発回転の1分間当たり正味回転の低下として示され、その正味回転は、対側回転と同側回転との間の差異を、60分間の記録時間で割って計算した。この結果は、ウイルス投与から4週間後のアポモルフィン誘発運動非対称性試験において、ウイルス注入前の正味回転および対照群(GFP)の正味回転と比べた、TH90del/AADCウイルスベクターを注入したPDマウスの対側回転の1分間当たり正味回転の著しい低下を示した(図4b)。まとめると、本開示の特定の二酵素組成物(すなわち、TH90del/AADC)は、in vivoにおいて効果的に機能し得て、SN中のドパミン作動性ニューロンにより神経支配される線条体CP領域中でのドパミン濃度を高め得ることにより、PDマウスモデルにおけるアポモルフィン誘発運動非対称性を著しく改善することが示された。したがって、本開示により提供される二酵素組成物(TH90del/AADC)は、PDに対して潜在的な治療効果を有する。
【0159】
[00189]実施形態および/または実施例で使用した酵素組成物はヒト由来であるが、当業者は、ヒトまたはマウスの二酵素組成物が、マウスモデルまたはヒト臨床試験に関して優れた治療効果を有することを当然ながら予想する。なぜなら、本開示の開示に基づくと、ヒトとマウスとの間のTHまたはAADCのタンパク質ホモロジーは、それぞれ83%または89%であるからである。
【0160】
[00190]要約すると、本発明者は、本開示の詳細な記載を説明したが、本開示の範囲は、その記載を越える。当業者は、本開示の範囲が、変形および改変された実施形態を含み、それらの実施形態が本開示の保護範囲内に入ることを理解する。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2022529701000001.app
【国際調査報告】