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特表2022-529766熱サイクル疲労と耐硫化性の優れたTBC用の高度なボンドコート材料
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  • 特表-熱サイクル疲労と耐硫化性の優れたTBC用の高度なボンドコート材料 図1
  • 特表-熱サイクル疲労と耐硫化性の優れたTBC用の高度なボンドコート材料 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-24
(54)【発明の名称】熱サイクル疲労と耐硫化性の優れたTBC用の高度なボンドコート材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/073 20160101AFI20220617BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20220617BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20220617BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20220617BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20220617BHJP
   F02C 7/24 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
C23C4/073
C23C26/00 A
C22C19/05 B
F01D25/00 L
F02C7/00 C
F02C7/24 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549481
(86)(22)【出願日】2019-03-07
(85)【翻訳文提出日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 US2019021091
(87)【国際公開番号】W WO2020180325
(87)【国際公開日】2020-09-10
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515195347
【氏名又は名称】エリコン メテコ(ユーエス)インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘ、チャンホン
(72)【発明者】
【氏名】シャロベム、ティモシー
(72)【発明者】
【氏名】キース、ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ディアンニン
【テーマコード(参考)】
4K031
4K044
【Fターム(参考)】
4K031AA02
4K031AA08
4K031AB08
4K031AB09
4K031CB22
4K031CB42
4K031DA01
4K031DA04
4K044AA06
4K044AB10
4K044BA02
4K044BA06
4K044BA10
4K044BA12
4K044BA13
4K044BB03
4K044BB04
4K044BC05
4K044BC11
4K044BC12
4K044CA11
4K044CA12
4K044CA13
4K044CA14
(57)【要約】
硫黄の存在の有無にかかわらず、ガスタービンエンジン部品の高温環境で予想外に高い熱サイクル疲労耐性と耐硫化性、および予想外に長い熱サイクル寿命を提供するボンドコーティング材料は、a)10重量%~30重量%のクロムと、b)総量が3重量%~15重量%のタンタルおよびモリブデンのうちの少なくとも1つと、c)5重量%~13重量%のアルミニウムと、d)0.1重量%~1.4重量%のケイ素と、e)0.1重量%~0.8重量%のイットリウムと、f)0重量%~1.2重量%の炭素と、g)0重量%~1重量%のジスプロシウムと、h)0重量%~1重量%のセリウムと、i)残部であるニッケルとを含み、a)~i)の成分割合は合計で100重量%になる。タンタルとモリブデンの総量、およびアルミニウムとケイ素の量はそれぞれ、ボンドコートからのトップコートの層間剥離を回避するために重要である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)10重量%~30重量%の量のクロムと、
b)タンタルおよびモリブデンの総量が3重量%~15重量%である、タンタルおよびモリブデンのうちの少なくとも1つと、
c)5重量%~13重量%の量のアルミニウムと、
d)0.1重量%~1.4重量%の量のケイ素と、
e)0.1重量%~0.8重量%の量のイットリウムと、
f)0重量%~1.2重量%の量の炭素と、
g)0重量%~1重量%の量のジスプロシウムと、
h)0重量%~1重量%の量のセリウムと、
i)残部であるニッケルとを含み、
a)~i)の成分割合が合計100重量%になる、ボンドコーティング材料。
【請求項2】
粉末、合金、ワイヤー、バー、ロッド、プレート、ボンドコート、およびボンドコーティングからなる群から選択される、請求項1に記載のボンドコーティング材料。
【請求項3】
タンタルの量が4重量%~11重量%である、請求項1に記載のボンドコーティング材料。
【請求項4】
タンタルの量が0重量%~12重量%であり、モリブデンの量が0重量%~12重量%である、請求項1に記載のボンドコーティング材料。
【請求項5】
請求項1に記載のボンドコーティング材料を含む溶射粉末。
【請求項6】
遮熱コーティング(TBC)材料、摩耗性金属、摩耗性合金、または摩耗性セラミックスのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項5に記載の溶射粉末。
【請求項7】
b)タンタルおよびモリブデンのうちの少なくとも1つは、タンタルおよびモリブデンの総量が5重量%~12重量%である、請求項1に記載のボンドコーティング材料。
【請求項8】
b)タンタルおよびモリブデンのうちの少なくとも1つは、タンタルおよびモリブデンの総量が9重量%~11重量%である、請求項1に記載のボンドコーティング材料。
【請求項9】
アルミニウムが、6重量%~10重量%の量であり、
ケイ素が、0.3重量%~1.1重量%の量であり、
炭素が、0.3重量%~1.1重量%の量である、請求項7に記載のボンドコーティング材料。
【請求項10】
アルミニウムが、6重量%~10重量%の量であり、
ケイ素が、0.3重量%~1.1重量%の量であり、
炭素が、0.3重量%~1.1重量%の量である、請求項8に記載のボンドコーティング材料。
【請求項11】
a)クロムは、20重量%~26重量%の量であり、
b)タンタルおよびモリブデンのうちの少なくとも1つは、タンタルおよびモリブデンの総量が5重量%~12重量%であり、
c)アルミニウムが、6重量%~10重量%の量であり、
d)ケイ素が、0.3重量%~1.1重量%の量であり、
e)イットリウムが、0.3重量%~0.75重量%の量であり、
f)炭素が、0.3重量%~1.1重量%の量であり、
g)ジスプロシウムが、0.1重量%~0.5重量%の量であり、
h)セリウムが、0.1重量%~0.5重量%の量であり、
i)残部がニッケルである、請求項1に記載のボンドコーティング材料。
【請求項12】
a)10重量%~30重量%の量のクロムと、
b)タンタルおよびモリブデンの総量が3重量%~15重量%である、タンタルおよびモリブデンのうちの少なくとも1つと、
c)5重量%~13重量%の量のアルミニウムと、
d)0.3重量%~1.1重量%の量のケイ素と、
e)0.1重量%~0.8重量%の量のイットリウムと、
f)0.3重量%~1.1重量%の量の炭素と、
g)0重量%~1重量%の量のジスプロシウムと、
h)0重量%~1重量%の量のセリウムと、
i)残部であるニッケルとを含み、
a)~i)の成分割合が合計100重量%になる、合金。
【請求項13】
a)クロムが、20重量%~26重量%の量であり、
b)タンタルとモリブデンのうちの少なくとも1つは、タンタルおよびモリブデンの総量が5重量%~12重量%であり、
c)アルミニウムが、6重量%~10重量%の量である、請求項12に記載の合金。
【請求項14】
請求項12に記載の合金を含むボンドコートまたはコーティング。
【請求項15】
トップコートおよび請求項14に記載のボンドコートまたコーティングを含む遮熱コーティングシステム。
【請求項16】
基板および請求項15に記載の遮熱コーティングシステムを含む、コーティングされた基板であって、前記ボンドコートまたはコーティングによって前記基板に接合されている、コーティングされた基板。
【請求項17】
基板からのトップコートの層間剥離を低減する方法であって、
ボンドコートとして請求項12に記載の合金を用いて前記トップコートを前記基板に接合するステップと、
前記トップコートと前記ボンドコートとの間で熱成長酸化物(TGO)を核形成および成長させ、酸素がさらに内側に拡散することを阻止し、前記基板の酸化を防ぐステップとを含む、方法。
【請求項18】
前記トップコートは遮熱コーティング(TBC)を含み、前記基板はガスタービンエンジン部品を含み、前記TGOはアルファアルミナを含み、硫黄の存在下での熱内部応力からの層間剥離を低減する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
基板からのトップコートの層間剥離を低減する方法であって、
ボンドコートとして請求項1に記載のボンドコーティング材料を用いて前記トップコートを前記基板に接合するステップと、
前記トップコートと前記ボンドコートとの間で熱成長酸化物(TGO)を核形成および成長させ、酸素がさらに内側に拡散することを阻止し、前記基板の酸化を防ぐステップとを含む、方法。
【請求項20】
前記トップコートは遮熱コーティング(TBC)を含み、前記基板はガスタービンエンジン部品を含み、前記TGOはアルファアルミナを含み、硫黄の存在下での熱内部応力からの層間剥離を低減する、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱サイクル疲労耐性および耐硫化性に優れたた遮熱コーティング(TBC:Termal Barrier Coating)用の高度なボンドコート(接合被覆)材料に関するものである。高度なボンドコート材料は、粉末、合金、ボンドコート、またはコーティングの形態とすることができ、トップコート材料を有する溶射粉末に使用されて、遮熱コーティング(TBC)システムを得ることができる。本発明は、ガスタービンエンジン部品などの基板からのトップコートの層間剥離を低減するための方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
完全な遮熱コーティングシステムには、遮熱コーティング(TBC)などのトップコートと、ボンドコートまたはボンド層(接合層)が含まれる。一般的なボンドコートはMCrAlY合金でできており、MはNi、Co、Fe、またはそれらの組み合わせを表す。ボンドコートの性能を向上させるために、Hf、Re、Pt、およびその他の様々な希土類元素がしばしば高度なボンドコートに添加される。一般的なトップコートは、酸化イットリウム、酸化イテルビウム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ランタン、または酸化ジスプロシウムのうちの1つまたは複数によって安定化されたジルコニア(ZrO)、またはジルコニア酸ガドリニウム(GdZr)でできている。
【0003】
TBCシステムは、超合金などの基板に塗布および接着され、ガスタービンエンジン環境などの高温で過酷な環境で基板を保護する。ボンドコートまたはボンド層は、トップコートと基板の間にあり、トップコートを基板に接合する。
ボンドコートまたはボンド層は、基板に塗布するための粉末形態とすることができるボンドコーティング材料から形成される。ボンドコーティング材料から形成されたボンドコートまたはボンド層は、TBCなどのトップコートの熱サイクル疲労および耐硫化性に影響を与え、それは、硫黄が存在する場合と存在しない場合のTBCの炉サイクル寿命によって有効性を評価できる。TBCは、高温や硫黄の存在などの過酷な環境によって劣化する可能性がある。例えば、TBCを有する産業用ガスタービンの燃料として高い硫黄含有量を含む油を使用することは、TBCの寿命を縮める重要な要因の1つである。
【0004】
完全なTBCシステムの1つの重要な障害は、ボンドコート/トップ界面で発生する。TBCシステムが高温にさらされると、熱成長酸化物(TGO:Termal Grown Oxide)と呼ばれる酸化物層が核形成してボンドコートとトップコートの間で成長し、酸素がさらに内側に拡散することを阻止して、基板の酸化を防ぐ。TGOの高密度のアルファアルミナ層は、酸素の内部拡散を効果的に防止し、それ自体もゆっくりと成長するため、望ましい。しかしながら、トップコート、ボンドコート、およびTGOの熱膨張係数には大きな違いがある。TBCシステムが熱サイクル(室温から動作温度から室温)を経験している間、温度変化によって引き起こされる重大な内部応力がトップコート/TGO界面とTGO/ボンドコート界面に蓄積される。TGO層が厚くなると、熱内部応力がますます高くなり、最終的には、熱内部応力による層間剥離のために、TBCなどのトップコートが破損する。性能とエネルギー効率を高めるために、最新のジェットエンジンと産業用ガスタービンはより高い作動温度を求めているため、TBCシステムのより高い耐熱衝撃性が求められている。
【0005】
Wolflaらの特許文献1に開示されているように、多くの環境での摩耗または腐食から金属合金基板を保護するために、多種多様なコーティングが利用可能である。これらのコーティングは、純金属コーティングから純セラミックスコーティングまでの範囲であり、金属マトリックス中にセラミックス相の体積分率が高いサーメットタイプのコーティングを含む。特許文献1に開示されているように、金属基板を保護するのに最も困難な環境の1つは、高温の酸化または硫化攻撃とフレッチングまたは衝撃の性質の摩耗を組み合わせた環境である。特許文献1によると、このタイプの環境で成功したコーティングはごくわずかであり、温度が約1800°Fを超える場合は、事実上無い。比較的低い温度範囲、つまり最大1000°または1200°Fでは、コバルトバインダーを用いた炭化タングステンのサーメットコーティングは、一般的にかつ非常にうまく使用されている。しかしながら、この温度を超えると、このタイプのコーティングはあまりにも急速に酸化されて、長期間使用できなくなる。一般的なクラスのサーメットも、耐疲労性と耐衝撃性の欠如に悩まされている。特許文献1は、コーティング組成物、耐食性および耐摩耗性のコーティングされた物品、およびコーティングされた物品がコーティングされた層を有する基板からなり、前記層が、すべて重量パーセントで、17~35パーセントのクロムと、5~20パーセントのタンタルと、0~2パーセントのイットリウムと、0~2.5パーセントのケイ素と、0~3.0パーセントのマンガンと、0.5~3.5パーセントの炭素と、0~5または14パーセントのアルミニウムと、0~50体積パーセントの少なくとも1つの金属酸化物とを含むコバルト基の合金から構成される物品を製造するためのプロセスを開示している。特許文献1の組成物はボンドコートではなく、高温での耐摩耗性と耐食性を高めるための(トップコートなしの)オーバーレイコートである。
【0006】
Jacksonらの特許文献2は、(a)炭化物強化相を含む超合金基板、および(b)クロム、アルミニウム、炭素と、鉄、コバルトまたはニッケルから選択される少なくとも1つの元素と、任意選択で、イットリウムまたは希土類元素から選択される元素とからなるコーティングを含む、改善された高温酸化および耐食性を有する製品を開示している。別の一実施形態は、コーティングされた超合金のアルミニウム化されたオーバーコーティングを含む。特許文献2によれば、コーティングの炭素含有量は、すべてのMCrAlY相を炭素で完全に飽和させるのに十分でなければならないが、コーティング組成物内に過剰な量の炭化物を形成するには不十分であり、超合金の使用条件下でのコーティングの耐酸化性および耐食性に悪影響を与える。
【0007】
Lugscheiderの特許文献3は、マトリックス金属としてのタイプMCrAlYの合金と、合金元素としての白金および/またはロジウムを5~15重量%の量でベースにして、バナジウム、ニオブ、タンタル、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、モリブデン、および/またはタングステンの元素の炭化物、および/またはそれらの混合物が、高温複合材料に基づいて、0.01~75重量%、好ましくは5~75重量%の量でマトリックス金属に含まれる形態の機械的耐性物質の粒子を含む、耐食性および耐摩耗性の高温複合材料を開示している。
【0008】
McComasらの特許文献4は、耐摩耗性、耐酸化性、および耐食性のコーティング合金と、クロム、アルミニウム、イットリウム、および炭素から構成され、残りが、ニッケル、コバルト、鉄、またはそれらの混合物からなる群から選択される、最高1000℃以上の温度で有用なコーティングされた超合金物品を開示している。特許文献4によれば、本発明は、1~2ミクロンサイズのオーダーの微細金属炭化物および12ミクロンのオーダーの炭化クロムを含む炭素富化MCrAlYマトリックスから本質的になるコーティングをもたらす。一実施形態は、重量で、18~80%のクロムと、1.2~29%のアルミニウムと、最大4.8%のイットリウムと、0.6~11%の炭素と、ニッケル、コバルト、および鉄、またはそれらの混合物からなる群から選択される残りから本質的に構成されるコーティングを含む。特許文献4によると、Wolfaらの特許文献1は、高温での摩耗に耐性を示すCo-Cr合金コーティングを含む炭化タンタルを開示しており、これは、17~35重量パーセントのCr、5~20重量パーセントのTa、0.5~3.5重量パーセントのCから本質的になり、残りはCoであり.他の実施形態は希土類金属、Al、Si、および様々な金属酸化物を含む。タンタルTaの使用に関して、特許文献4は、Taが高温合金の固溶体強化剤であるという特許文献1に同意している。しかしながら、特許文献4によると、WおよびMoよりも耐酸化腐食性に優れているが、高融点金属としてTaは、よくてもCoCrAlY合金の耐酸化性を改善せず、システム内の他の元素を交換するだけでは劣化する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,124,737号明細書
【特許文献2】米国特許第4,117,179号明細書
【特許文献3】米国特許第5,141,821号明細書
【特許文献4】米国特許第4,275,124号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高温ガスタービンエンジン部品における遮熱コーティング(TBC)用途などのトップコート用の高度なボンドコートを提供する。超合金などの基板に接合するためにボンドコートを使用するTBCは、硫黄の存在の有無にかかわらず、ガスタービンエンジン部品の高温環境で予想外に高い熱サイクル疲労耐性と耐硫化性、および予想外に長い熱サイクル寿命を示す。
完全なTBCシステムは、TBCなどのボンドコートとトップコートの界面にTGOの望ましい高密度のアルファアルミナ層を形成し、これは、酸素がさらに内側に拡散することを阻止し、基板の酸化を防ぐのに十分である。形成されたTGOは、予想外に長時間の熱内部応力による層間剥離による破損を引き起こすほど厚くはない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、硫黄の存在の有無にかかわらず、ガスタービンエンジン部品の高温環境において予想外に高い熱サイクル疲労耐性と耐硫化性、および予想外に長い熱サイクル寿命を提供するボンドコーティング材料は、
a)10重量%~30重量%、好ましくは20重量%~26重量%の量のクロムと、
b)タンタルおよびモリブデンの総量が3重量%~15重量%、好ましくは5重量%~12重量%、より好ましくは9重量%~11重量%である、タンタルおよびモリブデンのうちの少なくとも1つと、
c)5重量%~13重量%、好ましくは6重量%~10重量%の量のアルミニウムと、
d)0.1重量%~1.4重量%、好ましくは0.3重量%~1.1重量%、より好ましくは0.5重量%~1.0重量%の量のケイ素と、
e)0.1重量%~0.8重量%、好ましくは0.3重量%~0.75重量%の量のイットリウムと、
f)0重量%~1.2重量%、好ましくは0.3重量%~1.1重量%、より好ましくは0.5重量%~1.0重量%の量の炭素と、
g)0重量%~1重量%、例えば、0.1重量%~0.5重量%の量のジスプロシウムと、
h)0重量%~1重量%、例えば0.1重量%~0.5重量%の量のセリウムと、
i)残部であるニッケルとを含み、a)~i)の成分割合は合計で100重量%になる。タンタルおよびモリブデンのうちの少なくとも1つの総量と、アルミニウムおよびケイ素の量はそれぞれ、ボンドコートまたはコーティングからのトップコートの層間剥離を回避し、硫黄の存在の有無にかかわらず、ガスタービンエンジン部品などの高温環境での、予想外に高い熱サイクル疲労耐性および耐硫化性と、予想外に長い熱サイクル寿命とを達成するために重要である。
【0012】
本発明の態様では、ボンドコーティング材料は、粉末形態とすることができるか、合金とすることができるか、またはボンドコートまたはコーティングとすることができる。合金は、粉末形態、またはワイヤー、バーまたはロッド形態とすることができるか、またはボンドコートまたはコーティングとすることができる。それぞれの場合において、化学組成は、ボンドコーティング材料について記載された通りとすることができる。
【0013】
本発明の別の一態様では、溶射粉末は、ボンドコーティング材料を単独で、または遮熱コーティング(TBC)材料または摩耗性コーティング材料のうちの少なくとも1つなどのトップコート材料と共に含むことができる。
【0014】
本発明の別の一態様では、遮熱コーティング(TBC)システムは、トップコートおよびボンドコートまたはボンドコーティングを含み、トップコートは、ボンドコートまたはボンドコーティングに接合されている。コーティングされた基板は、基板と、ボンドコートまたはコーティングによって基板に接合された遮熱コーティングシステムとを含む。遮熱コーティングシステムは、溶射粉末から製造することができる。遮熱コーティングシステムは、トップコートと基板との間にあるボンドコートまたはボンドコーティングによって、超合金などの基板に接合される。完全なTBCシステムは、ボンドコートとTBCなどのトップコートとの界面に、熱成長酸化物(TGO)の望ましい、成長の遅い高密度のアルファアルミナ層を形成し、これは、酸素がさらに内側に拡散することを防止し、基板の酸化を防ぐのに十分である。形成されたTGOは、予想外に長時間の熱内部応力による層間剥離による破損を引き起こすほど過度に厚くはない。
【0015】
本発明の追加の一態様では、基板からのトップコートの層間剥離は、トップコートを、本発明の合金などのボンドコートまたはコーティングで基板に接合し、トップコートとボンドコートの間に熱成長酸化物(TGO)を核形成および成長させて、酸素がさらに内側に拡散することを阻止し、基板の酸化を防ぐことによって低減される。トップコートは遮熱コーティング(TBC)を含むことができ、基板はガスタービンエンジン部品を含むことができる。TGOはアルファアルミナを含み、硫黄の存在下または非存在下での熱内部応力による層間剥離を低減する。
【0016】
本発明は、添付の図面によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るボンドコートまたはコーティングに接合された遮熱コーティング(TBC)などのトップコートを含む遮熱コーティング(TBC)システムを有するコーティングされた基板を概略的に示す。
図2】本発明に係る、酸素がさらに内側に拡散することを阻止し、基板の酸化を防ぐのに十分である、ボンドコートとTBCなどのトップコートとの界面に熱成長酸化物(TGO)の望ましい高密度のアルファアルミナ層を形成するガスタービンエンジンのように高温および過酷な環境にさらされた後の図1のコーティングされた基板を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、高温ガスタービンエンジン部品に使用される超合金などの基板に遮熱コーティング(TBC)などのトップコートを接合するボンドコートまたはボンドコーティングを形成するための高度なボンドコーティング材料を提供する。超合金などの基板に接合するためにボンドコートを使用するTBCは、硫黄の存在の有無にかかわらず、ガスタービンエンジン部品の高温環境で、予想外に高い熱サイクル疲労耐性と耐硫化性、および予想外に長い熱サイクル寿命を示す。
完全なTBCシステムは、ボンドコートとTBCなどのトップコートとの界面にTGOの望ましい高密度のアルファアルミナ層を形成し、これは、酸素がさらに内側に拡散することをブロックし、基板の酸化を防ぐのに十分である。形成されたTGOは、予想外に長時間の熱内部応力による層間剥離による破損を引き起こすほど過度に厚くはない。
【0019】
ボンドコーティング材料はニッケル基であり、タンタルとモリブデンのうちの少なくとも1つの臨界総量を含むクロムと、ボンドコートまたはコーティングからのトップコートの層間剥離を回避し、硫黄の存在の有無にかかわらず、ガスタービンエンジン部品などの、予想外に高い熱サイクル疲労耐性と耐硫化性、および高温環境での予想外長い熱サイクル寿命を達成するための臨界量のアルミニウムを含む。高価な材料であるコバルト、レニウム、ハフニウム、および白金の存在は、ボンドコーティング材料、またはボンドコートまたはボンドコーティングには必要ない。また、アメリカ合衆国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)によると、コバルトへの職業的曝露は、目、皮膚、心臓、および肺に害を及ぼす可能性があり、癌を引き起こす可能性がある。粉末状のコバルトの使用量を削減することは、世界的な環境および健康に関するポリシーおよび規制に準拠している。
【0020】
本発明のニッケル基のボンドコート材料を使用する遮熱コーティング(TBC)などのトップコーティングの炉サイクル寿命は、CoNiCrAlYボンドコート、例えばDiamalloy(登録商標)4700などのコバルト基のボンドコートの炉サイクル寿命と比較して、予想外に2倍または3倍にさえなる可能性がある。本発明のTBCシステムは、硫黄の存在の有無にかかわらず、982℃(1800°F)を超える温度、例えば1093℃‘(2000°F)を超える温度で予想外に優れた安定性を示す。
【0021】
例えば、70分のサイクル時間(室温から1135℃(2075°F)の動作温度まで10分で加熱して、50分間保持し、10分で室温まで冷却する)の炉サイクル試験(FCT)では、硫黄が存在しない場合、コバルト基のDiamalloy 4700ボンドコートまたはコーティングを使用したTBCシステムの破損までの平均サイクルを基準として使用できる。本発明の実施形態では、本発明のNi基のボンドコートまたはコーティングを備えたTBCシステムは、添付の実施例に示されているように、基準のDiamalloy 4700ボンドコートの寿命と比較して、少なくとも75%、例えば少なくとも125%、またはさらには少なくとも200%サイクルの寿命を延ばして、破損までの予想外に高い平均サイクルを提供する。本発明の実施形態では、添付の実施例に示されているように、本発明のNi基のボンドコートまたはコーティングを用いて、1150℃(2102°F)のさらに高い試験温度で、基準のディアマロイ4700ボンドコートの寿命と比較して、サイクルの寿命が少なくとも55%、少なくとも80%、またはさらには少なくとも150%増加した、予想外に長い寿命サイクルも得られる。
【0022】
硫黄の存在下で、60分のサイクル時間(室温から1121℃(2050°F)の動作温度まで10分で加熱し、40分間保持し、10分で室温まで冷却する)の炉サイクル試験(FCT)において、コバルト基のDiamalloy 4700ボンドコートまたはコーティングを備えたTBCシステムの破損までの平均サイクルは、硫黄が存在しない場合と比較して、硫黄が存在する場合で約33%低下する可能性がある。しかしながら、本発明の実施形態では、本発明のNi基のボンドコートまたはコーティングを備えたTBCシステムは、添付の実施例に示されているように、硫黄の非存在下での基準のDiamalloy 4700ボンドコートの寿命と比較して、硫黄の存在下で、少なくとも65%、例えば少なくとも100%のサイクル寿命の増加を伴う、予想外に高い破損までの平均サイクルを提供することができる。また、硫黄の非存在下で得られるのとほぼ同じ硫黄の存在下での予想外に高い破損までの平均サイクル数および寿命の増加が、添付の実施例に示されているように、本発明の実施形態における本発明のNi基のボンドコートまたはコーティングで得られる。
【0023】
本発明によれば、硫黄の存在の有無にかかわらず、ガスタービンエンジン部品の高温環境において、予想外に高い熱サイクル疲労耐性と耐硫化性、および予想外に長い熱サイクル寿命を提供するボンドコーティング材料は、
a)10重量%~30重量%、好ましくは20重量%~26重量%の量のクロムと、
b)タンタルおよびモリブデンの総量が3重量%~15重量%、好ましくは5重量%~12重量%、より好ましくは9重量%~11重量%である、タンタルおよびモリブデンのうちの少なくとも1つ、例えば、
1)Ta無しで、5重量%~15重量%のMo、または、
2)3重量%~7重量%のMoおよび3重量%~7重量%のTa、または、
3)Mo無しで、5重量%~15重量%のTaと、
c)5重量%~13重量%、好ましくは6重量%~10重量%の量のアルミニウムと、
d)0.1重量%~1.4重量%、例えば0.5重量%~1.4重量%、好ましくは0.3重量%~1.1重量%、より好ましくは0.5重量%~1.0重量%の量のケイ素と、
e)0.1重量%~0.8重量%、例えば0.3重量%~0.8重量%、好ましくは0.3重量%~0.75重量%の量のイットリウムと、
f)0重量%~1.2重量%、例えば0.5重量%~1.2重量%、好ましくは0.3重量%~1.1重量%、より好ましくは0.5重量%~1.0重量%の量の炭素と、
g)0重量%~1重量%、例えば、0.1重量%~0.5重量%の量のジスプロシウムと、
h)0重量%~1重量%、例えば0.1重量%~0.5重量%の量のセリウムと、
i)残部であるニッケルとを含み、a)~i)の成分割合は合計で100重量%になる。
【0024】
本発明の実施形態では、タンタルおよびモリブデンの両方がボンドコーティング材料中に存在することができるか、またはタンタルまたはモリブデンの一方のみが存在することができ、他方は存在せず、ただし、
1)タンタルとモリブデンの総量は、3重量%~15重量%であり、
2)好ましくは、5重量%~12重量%であり、
3)より好ましくは、9重量%~11重量%である。
例えば、本発明の実施形態では、ボンドコーティングまたはボンドコーティング材料に対して、
1)タンタルの量は0重量%~12重量%とすることができ、モリブデンの量は0重量%~12重量%とすることができるが、タンタルとモリブデンの総量は3重量%~15重量%でなければならない。
2)タンタル含有量は、モリブデン無し(モリブデン含有量0%)またはモリブデンありで使用される場合、4重量%~11重量%とすることができる。しかしながら、後者の場合、モリブデンを使用する場合、タンタル含有量が11重量%の範囲の上限にあるとき、その量は最大4重量%になり得るので、タンタルとモリブデンの総量は15重量%となる。
3)モリブデンの量は、タンタル無しでまたはタンタルありで使用される場合、4重量%~11重量%とすることができる。しかしながら、後者の場合、タンタルを使用する場合、モリブデン含有量が11重量%の範囲の上限にあるとき、その量は最大4重量%になり得るので、タンタルとモリブデンの総量は15重量%となる。好ましい実施形態では、タンタルは、モリブデンの有無にかかわらず使用される。
【0025】
本発明の実施形態では、ボンドコーティング材料は、粉末形態またはバルク形態、例えば、ワイヤー、バー、ロッド、またはプレート形態で製造することができる。ボンドコーティング材料粉末は、ボンドコーティング材料の成分の各々の別々の粉末の均一な混合物とすることができる。ボンドコーティング材料粉末はまた、それぞれがボンドコーティング材料の成分のすべてまたは一部を含む粒子から構成することができる。例えば、ボンドコーティング材料のすべての成分の合金を粉砕して粉末を得ることができる。ボンドコーティング材料の粒子サイズは、使用されるコーティング方法に依存する可能性がある。所与のコーティング方法で従来使用されている従来の粒子サイズ分布は、本発明のボンドコーティング材料で使用することができる。
【0026】
他の実施形態では、ボンドコーティング材料は合金とすることができるか、または基板に塗布および接合される場合、ボンドコーティング材料は、ボンドコートまたはボンドコーティング、あるいは基板上の層とすることができる。合金は、粉末形態、またはワイヤー、バー、ロッド、またはプレート形態とすることができるか、または塗布されて基板に接合される場合、ボンドコートまたはボンドコーティングまたは層とすることができる。いずれの場合も、合金の化学組成は、その各形態で、またはボンドコートまたはボンドコーティングまたは基板上の層として基板に塗布および接合された場合、ボンドコーティング材料に対して説明した通りとすることができる。本明細書で使用される場合、合金は、従来定義されている通りであり、金属の特性を保持する不純物(混合物)を形成する化学元素の混合物である。合金は、合金を使用すると、添加される元素が十分に制御されて望ましい特性が得られるのに対し、錬鉄などの不純物金属はより制御されないが、しばしば有用であると見なされるという点で不純な金属とは異なる。合金は、2つ以上の元素を混合することによって作られ、そのうちの少なくとも1つは金属である。これは通常、一次金属またはベースメタルと呼ばれ、この金属の名前はまた合金の名前でもあり得る。他の成分は、金属である場合と、炭素などのそうでない場合があるが、溶体基体と混合すると、それらは可溶性となり、混合物に固溶する。本明細書で使用される場合、合金は、金属および少なくとも1つの他の元素、通常は他の金属の固溶体とすることができ、単結晶相を形成する。合金は、金属の組み合わせ、または1つまたは複数の金属と1つまたは複数の他の元素との組み合わせとすることができる。合金は、金属結合特性によって定義することができ、合金は、金属元素の固溶体(単一相)または金属相の混合物(2つ以上の固溶体)とすることができる。
【0027】
本発明の別の一態様では、溶射粉末は、ボンドコーティング材料を単独で、または遮熱コーティング(TBC)材料、摩耗性金属、摩耗性合金、または摩耗性セラミックスのうちの少なくとも1つなどのトップコート材料と共に含むことができる。
【0028】
トップコート材料は、米国特許出願公開第2018-0099909号に開示されているようなガスタービンエンジン部品のコーティング用に使用されるものなど、任意の従来型または既知のトップコート材料または遮熱コーティング(TBC)材料とすることができ、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。使用できるトップコート材料の他の非限定的な例には、市販の研磨剤で現在使用されているアルミニウム合金(例えば、AlSi):典型的な粒子サイズ30~150μm、市販の研磨剤で現在使用され、典型的な粒子サイズ5~100μmを利用しているニッケル合金(例えば、NiCrFe、NiCrAl、NiCrAlY、およびNiCoCrAlY)およびコバルト合金(例えば、CoNiCrAlY)が含まれる。トップコート材料には、典型的な粒子サイズが10~150μmの現在市販の研磨剤およびTBCで使用されているジルコニア基のセラミックス(例えば、ジスプロシア安定化ZrO2およびイットリア安定化ZrO2)、ならびに典型的な粒子サイズが5~100μmのFeCrAlおよびFeCrAlYなどの鉄基合金も含まれ得る。トップコート材料は、PCT国際公開第WO2018152328号に開示されているように、トップコート材料の空孔率を制御するための従来のまたは既知の繊維または繊維材料を含むことができ、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0029】
垂直亀裂を伴うものを含むよく知られている他の遮熱コーティングもまた、トップコートとして使用することができる。垂直亀裂を伴う遮熱コーティングを開示している多数の刊行物および特許があり、例えば、テイラーの米国特許第5,073,433号およびテイラーらの米国特許第8,197,950号は、セグメント化されたコーティングを開示している。これらの米国特許のそれぞれの開示は、その全体が参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
【0030】
基板は、トップコートまたはバリアコーティング(TBC)を必要とする任意の既知のまたは従来の材料または物品とすることができる。基板の非限定的な例には、Wolfaらの特許文献1に開示されているようなHastelloy(登録商標)Xなどのガスタービンエンジン部品の製造に使用される合金または超合金が含まれ、その開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。特許文献1によって開示されているように、Hastelloy(登録商標)Xは、22.0重量%のクロムと、9.0重量%のモリブデンと、18.5重量%の鉄と、1.5重量%のコバルトと、0.6重量%のタングステンと、1.0重量%のケイ素と、1.0重量%のマンガンと、0.1重量%の炭素と、残部であるニッケルとの公称組成を有する。本発明のボンドコートまたはボンドコーティングでコーティングすることができる既知のおよび従来の基板の他の非限定的な例には、鋼、ステンレス鋼、低合金含有量の他の鉄基合金、クロムおよびクロム基合金、および耐火性金属および耐火性金属基合金が含まれる。本発明のボンドコートまたはボンドコーティングでコーティングすることができる超合金基板の非限定的な例は、特許文献2に開示されているような共晶合金ならびに耐火合金などを含む、ニッケル基およびコバルト基超合金、方向性凝固ニッケル基およびコバルト基超合金などの既知の炭化物強化超合金であり、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本発明のボンドコートまたはコーティングでコーティングすることができる基板または物品の非限定的な例には、ガスタービンエンジンのタービンブレードおよびベーンが含まれる。
【0031】
本発明の別の一態様では、図1に概略的に示されているように、遮熱コーティング(TBC)システム1は、トップコート2およびボンドコートまたはボンドコーティング3を含み、TBCなどのトップコート2は、トップコート/ボンドコート界面5でボンドコートまたはボンドコーティング3に接合される。コーティングされた基板10は、基板15と、基板/ボンドコート界面20でボンドコートまたはコーティング3によって基板15に接合された遮熱コーティングシステム1とを含む。遮熱コーティングシステム1は、溶射粉末から製造される。遮熱コーティングシステム1は、トップコート2と基板15との間にあるボンドコートまたはボンドコーティング3によって、超合金またはガスエンジンタービン部品などの基板15に接合される。
【0032】
図2に概略的に示されるように、ガスタービンエンジン内のように高温および過酷な環境にさらされた後の図1のコーティングされた基板10の完全なTBCシステム1は、ボンドコート3とTBCなどのトップコート2との界面5に、熱的に成長した酸化物(TGO)25の望ましい、成長の遅い高密度のアルファアルミナ層を形成し、これは、酸素がさらに内側に拡散することを阻止し、基板15が酸化するのを防ぐのに十分である。形成されたTGO25は、予想外に長時間の熱的内部応力によるボンドコートまたはボンドコーティング3および基板15からのトップコート2の層間剥離による破損を引き起こすほど過度に厚くはない。本発明の実施形態では、TGOは、サブミクロン~12ミクロン、または0<X<12μm、好ましくは0<X<10μmの厚さXを有することができる。
【0033】
本発明の実施形態では、複数のボンドコートまたはボンドコーティング3および複数のトップコート2を使用することができ、各トップコート2は、交互にボンドコート3の上にあり、最下部のボンドコート3が基板15に接合された状態で、複数のTBCシステム1を互いに積み重ねて接合されて提供する。
【0034】
本発明の追加の一態様では、トップコートを、本発明の合金などのボンドコートまたはコーティングで基板に接合し、トップコートとボンドコートの間に熱成長酸化物(TGO)を核形成および成長させて、酸素がさらに内側に拡散することを阻止し、基板の酸化を防ぐことによって、基板からのトップコートの層間剥離を低減する方法が提供される。トップコートは遮熱コーティング(TBC)を含むことができ、基板はガスタービンエンジン部品を含むことができる。TGOはアルファアルミナを含むことができ、硫黄の存在下または非存在下での熱内部応力による層間剥離を低減する。
【0035】
ボンドコートまたはボンドコーティングまたはボンディング層、およびTBCなどのトップコートは、空気プラズマ溶射、懸濁プラズマ、高速フレーム溶射(HVOF)、低圧プラズマ溶射(LPPS)、真空プラズマ溶射(VPS)、化学蒸着(CVD)、プラズマ物理蒸着(PS-PVD)、スパッタリングや蒸着などの真空蒸着法を含む物理蒸着(PVD)、および燃焼ワイヤー溶射などの従来のフレーム溶射プロセス、燃焼粉末溶射、電気アークワイヤー溶射、粉末フレーム溶射、および電子ビーム物理蒸着(EBPVD)を使用して、基板上に堆積、塗布、または積層することができる。従来の既知のコーティング層の厚さは、ボンドコートまたはコーティング、およびトップコートまたはTBCに使用することができる。
【0036】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明され、ここで、すべての部品、成分割合、比率、および比は重量によるものであり、すべての温度は℃であり、すべての圧力は、特に明記しない限り大気圧である。
【実施例
【0037】
本発明の3つのニッケル基合金サンプルと、コーティングされる基板用のボンドコートを作製するために使用される比較のまたは基準のコバルト基合金サンプルDiamalloy(登録商標)4700(ボンドコーティング材料)の組成を表1に示す。表1に記載された材料は、高速フレーム溶射(HVOF:High Velocity Oxy-Fuel spray)プロセスによってHastelloy X基板上に溶射され、4つの異なるボンドコートを形成する。特許文献1によって開示されているように、Hateslloy(登録商標)Xは、22.0重量%のクロムと、9.0重量%のモリブデンと、18.5重量%の鉄と、1.5重量%のコバルトと、0.6重量%のタングステンと、1.0重量%のケイ素と、1.0重量%のマンガンと、0.1重量%の炭素と、残部がニッケルの公称組成を有する。次に、7重量%のY部分安定化ZrO(Amdry(登録商標)204NS-1、Oerlikon Metco製)の同一のトップコート(TBC)をボンドコート上にエアプラズマ溶射して、4つの異なるTBCシステムを形成し、比較TBC-D4700、およびTBC実施例1、TBC実施例2、およびTBC実施例3と名付けた。
【0038】
ボンドコート/トップコート界面を強調した完全なTBCシステムの性能比較のためのFCT(Furnace Cyclic Test:炉サイクル試験)を、70分のサイクル時間(室温から1135℃まで10分で加熱し、1135℃で50分間保持し、10分で室温まで冷却する)で合成されたTBCのそれぞれに対して実施した。FCTは、1135℃の代わりに1150℃の温度を使用しても実施された。結果を表2に示す。
【0039】
TBCは、過酷な環境によって劣化する可能性があり、TBC内の硫黄の存在(つまり、工業用ガスタービンの燃料として硫黄含有量の高いオイルの使用)は、TBCの寿命を低下させる重要な要因である。硫黄の影響を評価するために、40mg/cmのNaSO塩粉末を、比較のD4700TBCの表面および本発明のTBC実施例3の表面に配置する。次に、サンプルを室温から920℃(NaSOの融点は約880℃)に加熱し、その温度で24時間保持して、溶融塩がTBCシステムに浸透するようにする。次に、加塩サンプルと(FCT試験の前に同じく920℃に24時間さらした)非加塩サンプルに対して、60分のサイクル時間(室温から1121℃まで10分間加熱し、1121℃で40分間保持し、10分で室温まで冷却する)でFCT試験を実行し、結果を表3に示す。
【0040】
試験したサンプルの表1の組成、非加塩サンプルの炉サイクル試験(FCT)の表2の結果、および加塩サンプルの炉サイクル試験(FCT)の表3の結果は次の通りである。
【表1】

【表2】

【表3】
【0041】
表2にリストされたデータは、本発明の合金が、遮熱コーティング業界で一般的に使用されている比較基準合金Diamalloy(登録商標)4700(TBC D4700)のTBC寿命と比較して、破損までの平均サイクル数の増加%によって測定されたときに、1135℃の試験温度で、TBC寿命を予想外に80%~207%を超えて増加させることができることを示している。表2にリストされたデータはまた、本発明の合金が、比較基準合金Diamalloy(登録商標)4700のTBC寿命と比較して、破損までの平均サイクル数の増加%によって測定されたときに、1150℃の試験温度で、TBC寿命を予想外に59%~158%を超えて増加させることができることを示している。
【0042】
表3の結果は、加塩の比較基準合金TBC(TBC D4700)が、非加塩のサンプルのTBC寿命までの302.5サイクルと比較して、加塩のサンプルのTBC寿命が33%低下することを示している。表3の結果は、本発明の加塩合金TBC-1が、比較非加塩基準TBC D4700の寿命よりも68%長い、予想外に長い寿命を有することを示している。表3の結果はまた、本発明の加塩合金TBC-2が、比較非加塩基準TBC D4700の寿命よりも少なくとも107.6%(停止点で)長い、予想外に長い寿命を有することを示している。また、表3の結果は、本発明の加塩合金TBC-3が、比較加塩基準TBC D4700の寿命よりも少なくとも101.6%(停止点で)長い、予想外に長い寿命を有することを示している。また、表3に示すように、本発明のTBC-3サンプルの停止点での寿命は、加塩であろうとなかろうと予想外に同じであり、また、比較非加塩基準合金TBC D4700の寿命よりも予想外に少なくとも101.6%長い。
【0043】
さらに、少なくとも、本発明は、単純化または効率化のためなど、特定の例示的な実施形態の開示により、本発明を実施および使用することを可能にする方法で本明細書に開示されるため、本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意のステップ、追加の要素、または追加の構造が無くても実施することができる。
【0044】
前述の例は、単に説明の目的で提供されたものであり、本発明を限定するものとして解釈されるものではないことに留意されたい。本発明は例示的な実施形態を参照して説明されてきたが、本明細書で使用された単語は、限定の単語ではなく、説明および例示の単語であることが理解される。添付の特許請求の範囲内で、本発明のその態様における範囲および趣旨から逸脱することなく、現在述べられ、補正されたように、変更を行うことができる。本発明は、特定の手段、材料、および実施形態を参照して本明細書に記載されてきたが、本発明は、本明細書に開示された詳細に限定されることを意図するものではなく、むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲内にあるような、すべての機能的に均等な構造、方法、および使用に及ぶ。
図1
図2
【国際調査報告】