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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(54)【発明の名称】波長変換装置用の高温耐性反射層
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20220620BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20220620BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/02 B
G02B5/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021552730
(86)(22)【出願日】2019-04-19
(85)【翻訳文提出日】2021-09-03
(86)【国際出願番号】 CN2019083523
(87)【国際公開番号】W WO2020211091
(87)【国際公開日】2020-10-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519362767
【氏名又は名称】マテリオン プレシジョン オプティクス (シャンハイ) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヂャン ウェンボ
(72)【発明者】
【氏名】リャン アンシェン
【テーマコード(参考)】
2H042
2H148
【Fターム(参考)】
2H042AA02
2H042AA28
2H042BA02
2H042BA18
2H148AA01
2H148AA07
2H148AA18
2H148AA25
2H148AA26
(57)【要約】
波長変換装置(100)は、基板(110)と、前記基板(110)上の反射層(120)と、前記反射層(120)上の波長変換層(130)と、を備える。前記反射層(120)は、バインダー(121)と、反射性二酸化チタンナノ粒子(122)を含む。前記ナノ粒子(122)は、約200ナノメートル~約500ナノメートルの粒子サイズを有する。前記反射層(120)は熱安定性が高い。前記波長変換装置の製造方法も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上の反射層であって、(A)バインダーと、(B)約200ナノメートル~約500ナノメートルの粒子サイズを有する反射性二酸化チタン(TiO)ナノ粒子と、を含む前記反射層と、
前記反射層上の波長変換層と、を備えており、
前記反射層が250℃において熱安定性であることを特徴とする、波長変換装置。
【請求項2】
前記反射性TiOナノ粒子が、有機アルコール、シロキサン、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ジルコニウム(ZrO)または二酸化ケイ素(SiO)で表面改質されている、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項3】
前記反射層が、約0.05mm~約0.15mmの厚さを有する、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項4】
前記(A)バインダーに対する前記(B)反射性ナノ粒子の質量比が約1:2.5~約1:0.8である、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項5】
前記バインダー(A)が、二酸化ケイ素または酸化アルミニウムから作られた無機ゾルゲルを含む、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項6】
前記バインダー(A)がオクタメチルトリシロキサンを含む、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項7】
前記反射層が、約420nm~約680nmの波長を有する光に対して少なくとも95%の反射率を有する、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項8】
前記蛍光体層が、ガラス中、結晶中またはセラミック材料中に分散された蛍光体粒子を含む、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項9】
前記基板が円盤形状を有する、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項10】
さらに前記基板を回転させるためのモータを備える、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項11】
前記基板が、金属、非金属材料または複合材料である、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項12】
請求項1に記載の波長変換装置を備えた光投影システム。
【請求項13】
(A)バインダーと、(B)約200ナノメートル~約500ナノメートルの粒子サイズを有する反射性二酸化チタン(TiO)ナノ粒子と、を含む組成物を基板に塗布し、基板上に反射層を形成するステップと、
前記反射層上に波長変換層を形成するステップと、を含み、
前記反射層が250℃において熱安定性であることを特徴とする、波長変換装置の製造方法。
【請求項14】
前記組成物が、約0センチポアズ(cP)~約1500cPの粘度を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物を約85℃~約150℃の温度で硬化させるステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記バインダー(A)が、二酸化ケイ素または酸化アルミニウムから作られた無機ゾルゲルを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が、吐出、噴霧、刷毛塗り、フローイング、コーティングまたはシルク印刷によって塗布される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
請求項13に記載の方法によって製造された波長変換装置。
【請求項19】
請求項18に記載の波長変換装置を備えた光投影システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高温に耐性のある反射層を有する蛍光体ホイールなどの波長変換装置に関する。したがって、これらは、光源として固体レーザーを使用する投影表示システムおよび可視光変換装置での使用に特に適している。
【背景技術】
【0002】
蛍光体ホイールは、単一の光源から異なる波長を有する光を生成するために使用することができる。ホイールは、異なる色の表面セグメントを有する円形基板を備える。(光源からの)光がホイールに入射した状態でホイールを回転させると、表面セグメントは光を異なる波長に変換する。
【0003】
反射型蛍光体ホイールの場合、基板は光を反射するので、基板の反射率を最大にすることが望ましい。アルミニウム(Al)被覆基板は、通常、約420nm~約680nmの波長に対して94%の平均反射率を有するが、銀(Ag)被覆基板は、98%の平均反射率を有する。
【0004】
しかし、安定性と耐久性は反射型波長変換装置にとっても懸念される。高温(150℃より高い)で数百時間作動した後、Ag被覆基板上にレーザー入射領域での焼損が観察される。高温での被覆層中の銀イオンの移動が、この効果の原因である可能性がある。これにより、光学性能が約9%低下する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高い反射率(>95%)を有する有機シリコーンは、波長変換装置の反射層を形成するために使用されてきた。しかしながら、それらは熱安定性に乏しい。200℃を超える温度では、シリコーンは劣化し、通常は黄変し始め、徐々に燃焼し始める。195℃を超える温度では、反射層上の蛍光体層も約1000時間後に亀裂が入る。これにより、望ましくないことに、蛍光体ホイールの耐用年数が短くなり、熱消光により光変換効率が急激に低下する(>10% @200℃)ことが観察されている。高輝度(例えば、300Wのレーザー出力)の用途では、蛍光体ホイールの動作温度は一般に200℃を超えると予想されるため、シリコーンの使用は望ましくない。
【0006】
その寿命全体にわたって高い反射率を有する基板が望ましい。低コストで信頼できる寿命性能を維持および向上させながら、基板の反射率を向上させることも望ましい。そのような基板および反射コーティング/層は、ライトトンネル、投影表示システム、およびそのようなシステムで使用される蛍光体ホイールなどの可視光変換装置などの様々な用途で有利に使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、蛍光体ホイールまたはカラーホイールなどの波長変換装置において反射層を形成するために使用される組成物;特定の材料を含有する反射層;およびこのような反射層を備えた波長変換装置に関する。このような反射層は、高い動作温度(例えば、200℃を超え250℃まで)での温度劣化に耐える。このような組成物、層、および装置を製造および使用するための方法もまた、本明細書中に開示される。
【0008】
本明細書の様々な実施形態では、基板と、前記基板上の反射層と、前記反射層上の波長変換層と、を備えた波長変換装置が開示される。前記反射層は、(A)バインダーと、(B)約200ナノメートル~約500ナノメートルの粒子サイズを有する反射性ナノ粒子とを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、前記反射性ナノ粒子は、純粋な二酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)または酸化マグネシウム(MgO)である。他の実施形態では、前記反射性ナノ粒子は、有機アルコール、シロキサン、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ジルコニウム(ZrO)、または二酸化ケイ素(SiO)で表面改質された二酸化チタン(TiO)である。
【0010】
前記反射層は、約0.05mm~約0.15mmの厚さを有することができる。前記(B)反射性ナノ粒子の前記(A)バインダーに対する質量比は、約1:2.5~約1:0.8であり得る。
【0011】
前記バインダーは、有機バインダーまたは無機バインダーであり得る。有機バインダーの例としては、オクタメチルトリシロキサンなどのシリコーンが挙げられる。無機バインダーの例としては、ケイ酸ナトリウムが挙げられる。
【0012】
前記反射層は、約420nm~約680nmの波長を有する光に対して少なくとも95%の反射率を有することが望ましい。前記蛍光体層は、ガラス中、結晶中、またはセラミック材料中に分散された蛍光体粒子を含むことができる。前記基板は、円盤形状を有することができる。前記波長変換は、さらに前記基板を回転させるためのモータを備えてもよい。前記基板は、金属、非金属材料、または複合材料とすることができる。
【0013】
また、本明細書に記載された波長変換装置を備える光投影システムも開示される。
【0014】
(A)バインダーと、約200ナノメートル~約500ナノメートルの粒子サイズを有する(B)反射性ナノ粒子と、を含む組成物を基板に塗布し、前記基板上に反射層を形成するステップと、前記反射層上に波長変換層を形成するステップと、を含む、波長変換装置の製造方法もまた、様々な実施形態において開示される。
【0015】
前記組成物は、前記基板に塗布されるように、約0センチポアズ(cP)~約1500 cPの粘度を有し得る。前記方法は、前記組成物を約85℃~約150℃の温度で硬化させるステップをさらに含むことができる。前記組成物は、吐出、噴霧、刷毛塗り、フローイング、コーティング、またはシルク印刷によって塗布することができる。
【0016】
本開示のこれらおよび他の非限定的な特徴は、以下により詳細に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下は、図面の簡単な説明であり、図面は、本明細書に開示される例示的な実施形態を例示する目的で提示され、図面を限定する目的で提示されるものではない。
【0018】
図1A】基板、高反射層、および蛍光体層を含む、本開示による例示的な可視光変換装置の概略図である。
【0019】
図1B図1Aの例示的な可視光変換装置の側断面図である。
【0020】
図1C】可視光変換装置の各層の分解図である。
【0021】
図2A】本開示の第1の蛍光体ホイールについての反射率と反射層の厚さとの関係を示すグラフである。
【0022】
図2B】本開示の第2の蛍光体ホイールについての反射率と反射層の厚さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書で開示される部品、プロセス、および装置のより完全な理解は、添付の図面を参照することによって得ることができる。これらの図は、本開示を実証する便宜および容易さに基づく単なる概略的な表現であり、したがって、装置またはその部品の相対的なサイズおよび寸法を示すこと、および/または例示的な実施形態の範囲を定義または限定すること、を意図するものではない。
【0024】
特定の用語は、明確化のために以下の説明で使用されるが、これらの用語は、図面での例示のために選択された実施形態の特定の構造のみを指すことを意図しており、本開示の範囲を定義または限定することを意図していない。図面および以下の説明では、同様の番号表示は同様の機能の構成要素を指すことを理解されたい。
【0025】
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに他の指示をしない限り、複数の対象を含む。
【0026】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、用語「備える(comprise(s))」、「含む(include(s))」、「有する(having)」、「有する(has)」、「できる(can)」、「含む(contain(s))」、およびそれらの変形は、本明細書において用いられているように、指定された成分/ステップの存在を必要とし、他の成分/ステップの存在を可能にする、オープンエンドの移行フレーズ、用語または単語であることが意図されている。しかしながら、そのような記述は、組成物またはプロセスを列挙された成分/ステップ「からなる」および「実質的にからなる」としても記述するものと解釈されるべきであり、これにより、指定された成分/ステップのみの存在が可能になり、それから生じる可能性のある不可避の不純物が含まれ、他の成分/ステップは除外される。
【0027】
本出願の明細書および請求の範囲における数値は、同じ数の有効数字に減少させたときに同じ数値と、記載された値とは従来の測定技術の実験誤差よりも少ない数値だけ異なる数値と、を含み、その値を決定するものと理解されるべきである。
【0028】
本明細書に開示される全ての範囲は、列挙された端点を含み、独立して組み合わせ可能である(例えば、「2グラム~10グラム」の範囲は、端点、2グラムおよび10グラム、ならびに全ての中間値を含む)。
【0029】
「約」および「およそ」という用語は、その値の基本的な機能を変更することなく変化し得る任意の数値を含むために使用され得る。範囲と共に使用される場合、「約」および「およそ」は2つの端点の絶対値によって規定される範囲も開示し、例えば、「約2~約4」は「2~4」の範囲も開示する。一般に、「約」および「およそ」という用語は、示された数のプラスマイナス10%を指し得る。
【0030】
本明細書で使用される「励起光」および「励起波長」という用語は、後に変換される入力光、例えば、レーザーベースの照明源または他の光源によって生成される光を指す。「放射光」および「発光波長」という用語は、変換された光、例えば、励起光に曝された蛍光体によって生成された結果として生じる光を指す。
【0031】
本明細書で使用される「無機」という用語は、「無機」物が炭素を含有しないことを意味する。誤解を避けるために、本開示の「無機バインダー」、「無機接着剤」、「無機コーティング」、および「無機接着剤」という用語は、炭素を含有しない。
【0032】
参考までに、赤色は、通常、約780ナノメートル~約622ナノメートルの波長を有する光を指す。緑色は、通常、約577ナノメートル~約492ナノメートルの波長を有する光を指す。青色は、通常、約492ナノメートル~約455ナノメートルの波長を有する光を指す。黄色は、通常、約597ナノメートル~約577ナノメートルの波長を有する光を指す。しかしながら、これは文脈に依存し得る。例えば、これらの色は、様々な部分にラベルを付し、それらの部分を互いに区別するために使用されることがある。
【0033】
本開示は、特定の組成を有する反射層を含む波長変換装置に関する。特に、前記反射層は、(A)有機または無機であり得るバインダーと、(B)約350ナノメートル~約450ナノメートルを含む、約200ナノメートル~約500ナノメートルの粒子サイズを有する反射性ナノ粒子と、を備えている。これらの反射層は、全反射率などの他の光学的および機械的パラメータを維持しながら、高温(例えば、200℃または250℃を超える)で動作する。
【0034】
反射層が高い安定性を維持するかどうかは、2つの方法のいずれかによって決定することができる。第1の方法では、反射層を用いた蛍光体ホイールをオーブン中に置き、250℃でエイジングする。反射率は100時間ごとに最低500時間テストされ、反射層に亀裂がないかどうかの観察が行われる。300、400、500時間の測定間で反射率の変化が2%未満であり、反射層に亀裂がない場合、反射層は高い安定性を維持していると見なされる。第1の方法では、反射層を用いた蛍光体ホイールをオーブン中に置き、250℃でエイジングする。蛍光体ホイールの変換効率は100時間ごとに最低500時間テストされ、反射層に亀裂がないかどうかの観察が行われる。300、400、500時間の測定間で変換効率の変化が2%未満であり、反射層に亀裂がない場合、反射層は高い安定性を維持していると見なされる。反射層が高い安定性を維持していると見なされるには、これら2つの方法のうちの1つだけを通過する必要がある。
【0035】
次に、図1Aおよび図1Bを参照すると、本開示の波長変換装置が描かれている。この波長変換装置は、蛍光体ホイール100の形態で示されている。図1Aは、蛍光体ホイール100の概略図であり、図1Bは、蛍光体ホイール100の側断面図である。蛍光体ホイール100は、反射層120が形成された基板110と、反射層120の上に塗布された蛍光体層130と、を含む。反射層は、本明細書でさらに説明される組成物から形成される。ここに示されるように、反射層120は、参照符号121で示される無機バインダーまたは有機シリコーン(A)、および参照符号122で示される反射性ナノ粒子から形成される。
【0036】
基板110は、典型的には、高い熱伝導性を有する金属であり、例えば、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、銅若しくは銅合金、銀若しくは銀合金、または高い熱伝導性を有する他の金属である。基板は、例えば、ガラス、サファイアまたはダイヤモンドなどの非金属材料または複合材料からできていてもよい。基板は、典型的には、円盤または環の形状である。基板表面の滑らかさまたは粗さは重要ではない。しかしながら、反射層120が形成される基板の表面は、清浄であり、その上に汚れ、油、有機残留物または生物学的残留物がないことが望ましい。低表面エネルギーの表面の場合、接着性は、下塗りによって、または化学的若しくはプラズマエッチングやオゾン洗浄などの特別な表面処理によって、改善することができる。
【0037】
蛍光体層130は、少なくとも1つの蛍光体を含有する。適切な蛍光体の例としては、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)、ケイ酸塩および窒化物が挙げられる。蛍光体は、約10~約30ミクロンの粒子サイズを有することができる。蛍光体層は、通常、環状蛍光体セグメントの形態であり、励起光を緑色、黄色または赤色に変換するための様々なタイプの蛍光体が含まれている。典型的には、青色光レーザー(約440nm~約460nmの波長を有する)が、蛍光体ホイール上の蛍光体セグメントを励起するために使用される。蛍光体ホイールは、青色光源光を変換されずに通過させるための1つ以上の間隙を有することもできる。
【0038】
図1Aおよび図1Bの蛍光体ホイール100は、前記基板をモータに取り付けて高速回転させることによって使用することができる。通常、使用中に前記基板を回転させるが、この装置は静的(非回転)構成でも使用することができる。この場合、蛍光体ホイールとは呼ばれないことがある。蛍光体ホイールの回転は、図1Aにおいて、基板110を通過し、基板110の平面に垂直な軸A-Aの周りを回転する矢印によって示される。その結果、様々な波長の光が順次生成される。
【0039】
図1Aおよび図1Bに見られるように、光源(図示せず)(例えば、レーザーベースの照明源)からの励起波長の励起光123(すなわち、励起する光または入力光)は、蛍光体層上に集束される。発光波長の放射光124(すなわち、放射または変換された光)は、蛍光体層によって生成される。このようにして、前記蛍光体層は、スペクトル波長の第1の範囲の励起光からの光スペクトルを、スペクトル波長の第2の異なる範囲の放射(または再放射)光に変換する。前記励起波長の光123(例えば、レーザービーム青色光)が蛍光体層に焦点を合わせると、発光波長の光124(例えば、黄色光)は、前記基板の方向を含むすべての方向に放射される。反射層120は、前記基板上の前記励起光が受光されると同じ側に放出されるように、この放射光を反射し、前記基板から遠ざかるように方向を変えるために使用される。前記放射光は(例えば、レンズによって)集光され、後続の下流プロセスで使用され得る。
【0040】
反射層120は、(A)有機または無機であり得るバインダーと、(B)約200ナノメートル~約500ナノメートルの粒子サイズを有する反射性ナノ粒子と、を備えている。より具体的な実施形態では、前記反射性ナノ粒子は約350ナノメートル~約450ナノメートルの粒子サイズを有する。
【0041】
前記バインダー(A)については、適切な材料は、-45℃~250℃(-49°F~+482°F)の温度範囲にわたって、長期間(少なくとも20,000時間)動作する必要がある。望ましくは、前記バインダーは、200℃を超える温度で、そのような長期間にわたって動作し得るものである。前記バインダー(A)は、有機バインダーまたは無機バインダーとすることができる。
【0042】
有機バインダーの一例は反射性樹脂であるオクタメチルトリシロキサンなどの有機シリコーンである。このようなシリコーンはダウまたは住友化学から市販されている。前記有機シリコーンはコーティング前に有機溶媒と混合することができ、これはメチルシロキサンを含むことができる。有機溶媒の一例は、ダウコーニングコーポレーションによりOS-20の名称で販売されている。これは揮発性溶媒であり、溶液粘度を調整するための希釈剤として使用される。混合されたシリコーン/溶媒は、プロセス要件に従って均質にされ、前記混合物を混合のために混合機に入れる前に、シリコーンオイルシンナーを添加して粘度を調整することができる。
【0043】
あるいは、前記バインダー(A)は特定の特性を有する無機バインダーであってもよい。望ましくは、前記無機バインダーは約0.5~約25ppm/℃の熱膨張係数(CTE)を有する。特定の実施形態では、前記無機バインダーはケイ酸ナトリウムである。ケイ酸ナトリウムは、式(NaSiOの化合物の一般名であり、あるいは、以下の式(I)に示すように、ポリマーと見なすこともできる。
【化1】
【0044】
ケイ酸ナトリウムは、無水形態および水和形態NaSiO・nHOの両方を有し、ここで、n=5、6、8、または9である。ケイ酸ナトリウムは、二酸化ケイ素(SiO)の酸化ナトリウム(NaO)に対する質量比によって特徴付けることができる。SiO:NaOの質量比は、2:1~3.75:1の範囲で変えることができる。特定の実施形態では、SiO:NaOの質量比は、約2.5:1~約3.75:1、または約2:1~約3:1である。ケイ酸ナトリウムは、典型的には水溶液として提供される。
【0045】
他の実施形態では、前記無機バインダーはケイ酸ナトリウム以外の他の無機材料から作られたものであってもよい。それらの無機材料は、ケイ酸塩、アルミン酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩または無機ゾルゲルであり得る。無機ゾルゲルの例としては、二酸化ケイ素(SiO)または酸化アルミニウム(Al)から作られたゾルゲルが挙げられる。
【0046】
別の例示的な実施形態では、前記無機バインダーは第1および第2の成分から形成される。使用した無機バインダーの総溶解固形分(TDS)特性を以下の表に示す。
【表1】
【0047】
この特定の無機バインダーは、第1成分と第2成分とを混合し、約25~約30℃の温度で約2~約3時間撹拌することによって調製される。第1成分と第2成分との比は約1:1~約7:3である。
【0048】
望ましくは、前記無機バインダー(A)は、実質的に光学的に透明である(例えば、前記無機バインダーは、90%から最大98%を含む、少なくとも80%の光透過率を有する)。これは、例えばアイデア・オプティクス社(Idea optics)から入手可能な分光光度計を用いて、約0.1~約0.2ミリメートルの厚さで測定される。対照的に、多くの無機バインダーは不透明である。
【0049】
特定の実施形態では、本開示の前記無機バインダーは、高温(例えば、300℃以上を含む200℃超、かつ400℃まで)に耐えることができ、高い光透過率(例えば、少なくとも98%)を有し、高い引張せん断強度(例えば、300℃で少なくとも100psi)を有し、柔軟性コーティングプロセス(例えば、吐出、シルク印刷、噴霧)によって塗布することができ、かつ、低い硬化温度(例えば、185℃未満)を有する。
【0050】
前記反射層には反射性ナノ粒子(B)も含まれる。前記反射性ナノ粒子の存在は、前記バインダー(A)の収縮率を低下させ、亀裂および気泡の形成を低下させると考えられる。これにより、組み立て中の応力が回避され、前記反射層の前記基板への接着強度が向上する。理想的には、前記反射性ナノ粒子の熱膨張係数は、前記バインダー(A)の熱膨張係数にできるだけ近くなければならず、前記成分の層状化を回避するために、それらの密度もできるだけ近くなければならない。
【0051】
前記反射性ナノ粒子は、約300nm~約500nmおよび約350nm~約450nmを含む、約200ナノメートル~約500ナノメートルの粒子サイズを有する。前記反射性ナノ粒子は、純粋な二酸化チタン(TiO)または改質TiOから作られたものであり得る。前記改質TiOナノ粒子は、有機アルコール、シロキサン、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ジルコニウム(ZrO)または二酸化ケイ素(SiO)で表面改質したものであり得る。好ましい実施形態では、前記反射性ナノ粒子は純粋なTiOである。
【0052】
前記(B)反射性ナノ粒子の前記(A)バインダーに対する質量比は、約1:2~約1:1を含む、約1:2.5~約1:0.8であってもよい。前記反射性ナノ粒子(B)は前記バインダー(A)と混合される必要があり、その後、この混合物は使用前に冷蔵され得る。例えば、前記ナノ粒子は、前記バインダーと2回、各回800rpmで約2分間、混合されてから、約4℃で約24時間冷蔵され得る。望ましくは、前記反射性ナノ粒子はこの混合物全体にわたって均一に分散され、その結果、前記反射性ナノ粒子もまた、前記反射層全体にわたって均一に分散される。
【0053】
前記反射層は、バインダー(A)と反射性ナノ粒子(B)との混合物を前記基板に塗布することによって形成することができる。前記混合物は、吐出、噴霧、刷毛塗り、フローイング、パターンコーティングまたはシルク印刷によって塗布することができる。
【0054】
前記混合物が吐出またはシルク印刷によって塗布される用途では、前記混合物は、約100~約800cPまたは約100cP~約600cP、約200~約500 cP、または約1,000cP~約1,500cPを含む、約0~約1,500センチポアズ(cP)の適切な粘度を有するべきである。前記粘度は、ブルックフィールドDVE SLVTJ0粘度計を使用して、またはASTM D1084に従って測定される。前記無機バインダー自体(すなわち、TiOナノ粒子なし)も、約0~約800cPまたは約100cP~約800cPを含む、約0~約1,500センチポアズ(cP)の適切な粘度を有し得る。
【0055】
いくつかの例では、前記反射層は複数の塗布ラウンドにわたって構築されることが企図される。例えば、第1ラウンドでは、バインダー(A)と反射性ナノ粒子(B)との前記混合物を撹拌し、その後前記基板上に噴霧して、約0.025mm~約0.075mmの厚さを有する反射層を形成する。次に、この第1の層を室温で約0.5時間置き、その後約85℃で約0.5時間硬化させる。第2ラウンドでは、バインダー(A)と反射性ナノ粒子(B)の前記混合物を再び撹拌し、次に第1の層の上に噴霧した後、室温で約0.5時間置き、次いで約85℃で約0.5時間硬化させる。これにより、合計厚さが約0.05mm~約0.15mmである最終反射層が得られる。
【0056】
前記反射層は、望ましくは約380nm~約800nm、より好ましくは約420nm~約680nmの波長範囲にわたって反射するように構成される。前記反射性樹脂層の反射率は、典型的には、少なくとも90%(またはそれより大きい)、より好ましくは少なくとも94%(またはそれより大きい)、または95%、または96%、または97%、または98%、または99%である。
【0057】
前記反射層は約0.05mm~約0.15mmの合計厚さを有することができる。特定の実施形態では、前記反射層は約0.7mm~約0.12mmの厚さを有する。前記厚さは、所望の波長範囲で出力される光の反射率を最大にするために設定されることになる。より厚い層は、より高い反射率を提供するが、例えば、反射層の剥離または亀裂に起因して、長期間の故障を引き起こす可能性もある。したがって、最適な厚さは、最適な反射率および/または前記反射率と耐久性との間のある程度の妥協によって決定され得る。
【0058】
前記反射層は一般に、その組成および/または構造によって前記蛍光体層とは異なる(かつ区別可能である)。特に前記反射層は、通常、前記蛍光体層よりも著しく反射性が高い。前記蛍光体層は通常、反射性ではない。通常、前記反射層は波長変換材料(例えば、蛍光体)を含まない。
【0059】
反射性ナノ粒子を含む本開示の前記反射層は、200℃を超える温度で少なくとも95%の全反射率を維持することができる。それらは、85℃~150℃の比較的低い温度で硬化させることができる。それらは、高いレーザー放射照度と温度下で信頼性の高い動作を示す。それらはまた、様々なサイズ、形状および厚さに柔軟に作製することができる。それらはまた、高い作業温度、すなわち200℃を超え250℃までの作業温度に耐えることができる。それらは、前記固体レーザープロジェクターが、100ワット超を含む、約60ワット~約300ワットのレーザー出力を備えることができる、高出力レーザー投影表示システムに使用することができる。このような装置の作業温度は200℃超に達して、高い発光輝度を実現することができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、前記反射層120は、前記基板110と蛍光体層130との間の接着層としても機能することができる。その代わりにまたはそれに加えて、第2の接着層(例えば、接着剤またはテープ)を使用して、前記蛍光体層を前記反射層に接着することもできる。これは、例えば、ガラス中、結晶中またはセラミック材料中に分散された蛍光体粒子から作製された特定の固体蛍光体層に有用であり得る。
【0061】
図1Aおよび図1Cに戻って参照すると、前記反射層120の幅(前記基板上で半径方向に測定される)は、変化し得ることに留意されたい。図1Aにおいて、前記反射層120の幅は前記蛍光体層130の幅よりもはるかに大きい。しかし、図1Cに例示されているように、前記反射層120の幅は前記蛍光体層130の幅とほぼ等しくすることもできる。一般に、前記反射層120の幅は、最小でも前記蛍光体層130の幅に等しく、前記蛍光体層の幅よりも大きくすることができる。
【0062】
本明細書に記載する前記反射層は、蛍光体ホイールおよびレーザー投影表示システムにおいて使用することができると考えられる。それらは、例えば自動車のヘッドライトにおいて、固体照明源と併せて使用することもできる。
【0063】
以下の実施例は、本開示のプロセスを例示するために提供される。本実施例は、単に例示的なものであり、本開示を、本明細書に記載される材料、条件またはプロセスパラメータに限定することを必ずしも意図しない。
【実施例
【0064】
(実施例1)無機バインダーとTiOナノ粒子からなる反射層を有する2つの蛍光体ホイールを作製した。反射層の無機バインダーは、第1および第2の成分から形成された。使用した無機バインダーの総溶解固形分(TDS)特性を以下の表に示す。
【表2】
【0065】
TiOナノ粒子に対する無機バインダーの質量比は1:1.7であった。PT01と表示された第1のホイールは、粒子サイズ0.4~0.45μm(すなわち400~450nm)のTiOナノ粒子を使用した。PT02と表示された第2のホイールは、粒子サイズ0.36μm(すなわち360nm)のTiOナノ粒子を使用した。
【0066】
無機バインダーとTiOナノ粒子を混合機で2回、それぞれ800rpmで2分間混合し、無機散乱層材料(ISLM)を調製した。
【0067】
興味深いことに、ISLMはせん断減粘性流体として作用し、つまりそれを撹拌するとその粘度は小さくなった。PT02粉末も容易に凝集し、接着剤が完全に吸収されない原因となる。従って、ISLMを4℃の冷蔵庫に24時間入れ、無機バインダーがPT02粉末によって完全に吸収されるようにした。24時間後、ISLMを手で穏やかに撹拌して、混合材料が均一であることを確認した。ISLMの粘度は1000~1500センチポアズ(cP)であった。
【0068】
ISLMは自動噴霧機(PVA350)を用いて塗布した。噴霧空気圧は3.5MPaに調整した。ISLMをAIディスク上に2回噴霧し、湿潤反射層を得た。湿潤層を室温で0.5時間置き、85°Fで0.5時間硬化させて、0.045mmの厚さを有する反射層を得た。この第一層の上部に第二層を塗布し、全厚さが0.09mmの反射層を得た。反射層を185°Fで0.5時間硬化させて、層が完全に硬化したことを確認した。
【0069】
最初に、PT01およびPT02蛍光体ホイールの拡散反射率を様々な反射層の厚さで測定した。PT01蛍光体ホイールについての結果を図2Aおよび以下の表Aに示す。PT02蛍光体ホイールについての結果を図2Bおよび以下の表Bに示す。これらの結果から分かるように、反射率は、0.08mm(PT01)または0.07mm(PT02)を超える厚さで、94%を超えて安定した。
【表3】
【表4】
【0070】
次に、2つの蛍光体ホイールPT01およびPT02を、他の2つの蛍光体ホイールと比較した。G1と表示された第1の比較ホイールは、反射層において無機バインダーのみ(すなわち、TiOナノ粒子なし)を使用した。G1.5と表示された第2の比較ホイールは、反射層中に有機バインダーのみ(TiOナノ粒子を含まない)を使用した。
【0071】
出力試験を異なる厚さで実施して、PT02ホイールとG1ホイールを比較した。PT02ホイールの結果を表Cに示す。最後の列において、100%がG1蛍光体ホイールによって得られた結果である。
【表5】
【0072】
次に、信頼性試験を実施し、100Wおよび50WでPT02ホイールとG1ホイールを比較した。試験条件を表Dに示す。各試験につき3つの試料を供試した。PT02ホイールの結果を表Eに示す。ここでも、100%はG1蛍光体ホイールによって得られた結果である。
【表6】
【表7】
【0073】
最後に、PT02ホイールを100Wおよび50WでG1ホイールと比較した。試料を250℃のマッフル炉に入れ、出力性能を経時的に試験した。PT02ホイールの結果を表Fに示す。ここでも、100%はG1蛍光体ホイールによって得られた結果である。その結果、PT02ホイールは安定であり、反射層と蛍光体層の間に亀裂は生じなかった。
【表8】
【0074】
出力試験を異なる厚さで実施して、PT01ホイールとG1ホイールを比較した。PT01ホイールの結果を表Gに示す。最後の列では、100%がG1蛍光体ホイールによって得られた結果である。
【表9】
【0075】
次に、信頼性試験を実施し、100Wおよび50WでPT01ホイールとG1ホイールを比較した。試験条件を上記表Dに示す。各試験につき3つの試料を供試した。PT01ホイールの結果を表Hに示す。ここでも、100%はG1蛍光体ホイールによって得られた結果である。
【表10】
【0076】
最後に、PT01ホイールを100Wおよび50WでG1ホイールと比較した。試料を250℃のマッフル炉に入れ、出力性能を経時的に試験した。PT01ホイールの結果を表Iに示す。ここでも、100%はG1蛍光体ホイールによって得られた結果である。その結果、PT01ホイールは安定であり、反射層と蛍光体層の間に亀裂は生じなかった。
【表11】
【0077】
(実施例2)拡散率試験は、TiO、AlおよびAlの異なるタイプのナノ粒子を用いて実施した。バインダーは無機バインダーであった。異なる厚さの層を作製し、拡散率(すなわち拡散反射率)について試験した。表Jは5つの異なる混合物を示し、表Kは3つの混合物の拡散率の結果を提供する。所与の層は、混合物の手動噴霧のために、異なる厚さを有する可能性があることに留意されたい。
【表12】
【表13】
【0078】
表Kの結果は、Alナノ粒子の拡散率は、層の厚さが0.15mmを超えるとき、94%を超えることを示している。しかしながら、Alの反射率は安定しておらず(すなわち、大きく変動する)、同じ反射率を得るにはTiOナノ粒子よりも大きな厚さを必要とする。Alも割れやすい。従って、TiOは高反射層で使用するのに最適なナノ粒子であると結論付けられた。
【0079】
(実施例3)拡散率試験は、Al(OH)およびMgOと同様に、異なる供給者からの異なるTiOナノ粒子を用いて実施した。バインダーは無機バインダーであった。異なる厚さの層を作製し、拡散率について試験した。表Lは6つの異なる混合物を示し、表Mは5つの混合物の拡散率の結果を提供する。MgO粒子は大きく、均一に混合することができなかったことに留意されたい。
【表14】
【表15】
【0080】
混合物#5は、94%を超える拡散率を得ることができた。また、結果は、0.2μmおよび0.5μmのTiOナノ粒子を使用すると、90%を超える拡散反射率を得ることができることを示した。
【0081】
本開示について、好ましい実施形態を参照して説明した。修正および変更は、先の詳細な説明を読んで理解すると、他者に思い浮かぶであろう。本開示は、添付の特許請求の範囲またはその均等物の範囲内に入る限り、そのようなすべての修正および変更を含むものと解釈されることが意図される。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
【国際調査報告】