(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(54)【発明の名称】改良された測定範囲を持つ磁気素子
(51)【国際特許分類】
H01L 43/08 20060101AFI20220620BHJP
H01L 43/02 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
H01L43/08 P
H01L43/08 Z
H01L43/02 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021555820
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(85)【翻訳文提出日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 IB2020053837
(87)【国際公開番号】W WO2020217195
(87)【国際公開日】2020-10-29
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509096201
【氏名又は名称】クロッカス・テクノロジー・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】ドゥニア・サリム
(72)【発明者】
【氏名】バラデュク・クレール
(72)【発明者】
【氏名】ディエニー・ベルナール
【テーマコード(参考)】
5F092
【Fターム(参考)】
5F092AA15
5F092AA20
5F092AB01
5F092AC12
5F092AD22
5F092BC03
5F092BC42
5F092FA08
(57)【要約】
【課題】測定範囲を改良した磁気素子を提供する。
【解決手段】磁性要素(10)は、渦コア(211)を持つ安定な磁化渦構成を備える第1磁化(210)を有する第1強磁性層(21)を備える。第1強磁性層(21)は、渦コア(211)が実質的にインデント(50)で核形成するように構成されたインデント(50)を備える。第1磁場方向(-Hx)に外部磁場(42)を与えると、渦コア(211)は第1経路(212)に沿って動き、第1磁化(210)は渦コア(211)の周りを反時計回りの方向に回転する。第1磁場方向とは反対の第2磁場方向(Hx)に外部磁場(42)を与えると、渦コア(211)は第2経路(212)に沿って動き、第1磁化(210)は渦の周りを時計回りの方向に回転する。第1及び第2磁場の経路(212、213)は両方とも実質的に同一であり、渦コア(211)をインデント(50)から遠ざける。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1磁化(210)を持つ第1強磁性層(21)と第2磁化(230)を持つ第2強磁性層(23)との間に挟まれたトンネルバリア層(22)を備える磁気トンネル接合要素(2)と、
第2磁化(230)の配向を変えることなく第1磁化(210)の配向を変えるように適合された外部磁場(42)を与えるように構成された磁場装置(40)と、
第1磁化(210)が安定した磁化渦構成を備えるように構成された第1強磁性層(21)と
を備える磁気センサにおいて、
渦の核形成又は再核形成の際に、磁化渦の渦コア(211)が実質的にインデント(50)に位置するように、第1強磁性層(21)がインデント(50)を備えるようにさらに構成されていることと、
外部磁場(42)が第1磁場方向(-Hx)に与えられると、渦コア(211)は第1経路(212)に沿って動き、第1磁化(210)は渦コア(211)の周りを反時計回りの方向に回転することと、
外部磁場(42)が第1磁場方向とは反対の第2磁場方向(Hx)に与えられると、渦コア(211)は第2経路(212)に沿って動き、第1磁化(210)は渦の周りを時計回りの方向に回転することと、
第1磁場経路及び第2磁場経路(212、213)が、両方とも実質的に同一であり、渦コア(211)をインデント(50)から遠ざけることと
を特徴とする、磁気素子。
【請求項2】
インデント(50)は、第1強磁性層(21)の周辺に沿った実質的に平坦な周辺部分(51)を備える、請求項1に記載の磁気素子。
【請求項3】
インデント(50)は、第1強磁性層(21)の周辺に沿った凸状の周辺部分(51)を備える、請求項1に記載の磁気素子。
【請求項4】
インデント(50)は、第1強磁性層(21)の周囲に沿った円形のノッチを備える、請求項1に記載の磁気素子。
【請求項5】
インデント(50)は、第1強磁性層(21)の周囲に沿った長方形又は長方形状のノッチを備える、請求項1に記載の磁気素子。
【請求項6】
前記磁気素子は1つより多いインデント(50)を備え、各インデント(50)の形状は、他のインデント(50)の形状に対して非対称である、請求項1から5のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項7】
インデントの深さ(D)は、第1強磁性層(21)の平面内で、比較的小さい寸法の約10%から約30%の間の値である、請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項8】
第1磁化(201)の平面において、第1強磁性層(21)は、1から2の間のアスペクト比(AR)を持つ楕円形を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項9】
第1強磁性層(21)は、約1.5のアスペクト比(AR)を有する、請求項8に記載の磁気素子。
【請求項10】
インデントの深さ(D)は、第1強磁性層(21)の短軸(PA)の長さの約10%から約30%の間である、請求項8又は9に記載の磁気素子。
【請求項11】
インデント(50)の深さ(D)は、楕円の短軸(PA)の約0.1である、請求項8から10のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項12】
周辺部(51)の半径(Rd)は深さ(D)の約0.5である、請求項3及び11に記載の磁気素子。
【請求項13】
周辺部分(51)は、外部磁場(42)の配向と実質的に平行に配向されている、請求項1から12のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項14】
前記磁場装置は、外部磁場(42)を生成するべく磁場電流(41)を通過させるように配置された磁力線(40)を備える、請求項1から13のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項15】
複数の前記磁気素子(10)を備える、請求項1から14のいずれか一項に記載の磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改良された測定範囲を持つ磁気トンネル接合を備える磁気素子に関する。本開示はさらに、複数の前記磁気素子を備える磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁化渦は、磁気構造の表面の横断方向の寸法に比較し得る長さの規模での磁化回転を伴う磁気構造の平面内の磁化を持つ、マイクロ又はナノ磁気構造における、可干渉性の磁気構成である。磁化渦は、静磁気エネルギーと、半径と厚さが十分に大きい磁性層内の円筒形又は近似的に円筒形のマイクロ又はナノ構造の交換エネルギーとの間の平衡から生じる。磁気構造の形状に応じて、渦構成は、残留状態での最低エネルギーを持つ安定したスピン構成になる。
【0003】
安定した渦構成では、渦はキャンセル(打ち消)されることなく可逆的に変形可能である。より具体的には、渦は中程度の磁場の下で可逆的に変形する可能性がある。与えられている磁場に平行な渦磁化の部分は大きくなる傾向があり、与えられている磁場に逆平行な磁化の部分は小さくなる傾向がある。これにより、与えられている磁場の方向を横切る方向に沿って渦コアが変位する。磁場が減少すると、渦コアは徐々にゼロ磁場の平衡位置に戻る。円盤状のマイクロ構造又はナノ構造の場合の渦コアの平衡位置は、円盤の中心にある。
【0004】
図1は、磁化210を持つ強磁性層21の平面図を示す。矢印で表される磁化210は磁化渦を含むものである。より具体的には、磁化渦は、渦中心、又は渦コア211を備え、渦コア211の周りを時計回り又は反時計回りに回転する平面外の磁化及び平面内の磁化を伴うものである。
【0005】
特に、
図1aは、外部磁場42がない場合の第1磁化渦を表していて、渦コア211は、実質的に第1強磁性層断面の中心にある。この構成では、第1強磁性層21は、実質的にゼロ(H=0)である純の磁気モーメントを有する。
【0006】
第1強磁性層21の簡便軸線に沿って(
図1のx方向に沿って)外部磁場Hxを与えると、渦コア211は、第1強磁性層21の簡便軸線に実質的に垂直な方向に移動する。
図1bでは、渦コア211は、この図中左向きの第1磁場方向-Hxに外部磁場を与えると、第1変位方向(
図1bでは上向き)に移動する。渦コア211(
図1b)の第1変位方向(矢印212で示す)の変位は、第1強磁性層21において純の磁気モーメントH<0の結果となる。
図1cは、第1磁場方向-Hxとは反対に、第2磁場方向Hxに外部磁場を与えると、第2変位方向(
図1cでは下向き)に移動する渦コア211を示す。(矢印213で示される)第2変位方向での渦コア211の変位は、第1強磁性層21において純の磁気モーメントH>0の結果となる。
【0007】
図2は、
図1の第1強磁性層21の磁化曲線M-Hを表していて、これは外部磁場Hの影響下での第1強磁性層21の磁化210における変化を示す。
【0008】
-HsとHsの間にある外部磁場(Hsは渦キャンセル場)に渦構成が存在し、その渦コア211は 第1強磁性層21の平面内で弾性的かつ可逆的に移動する。Hsより強い又は(Hsの反対方向にある)-Hsより強い磁場の場合、渦がキャンセル(打ち消)され、磁性層は本質的に単一ドメイン構成に変化する。外部磁場が飽和を下回ると、渦の構成が再核化する。このように、渦構成のキャンセルと核形成にはある程度のヒステリシスがあるが、渦の弾性変形に対応する部分の全体は完全に可逆的である。
【0009】
図1及び
図2は、それぞれ、磁化210の渦マイクロ磁気構成及び第1強磁性層21に欠陥がない理想的な場合の対応する磁化曲線M-Hを表す。このような理想的なケースでは、R-H曲線にずれ(オフセット)は見られない。換言すると、第1及び第2変位方向212、213における渦コア211の変位の経路は、磁化曲線M-H上に影響しない。
【0010】
図3は、欠陥30を含む第1強磁性層21の平面図を示す。渦コア211が第1変位方向212に移動すると、変位経路で遭遇した欠陥30にひっかかる(それから、欠陥30から解放される)。同様に、第2変位方向213に移動する渦コア211は、変位経路で遭遇する欠陥30にひっかかる(その後欠陥30から解放される)。核形成におけるその位置に応じて、渦コア211は、第1変位方向212に移動するとき、第2変位方向213に移動するときとは異なる欠陥30に、ひっかかりそこから解放されるおそれがある。異なる欠陥へのこのひっかかりと解放を原因として、渦コア211は、(
図3に示されるように)第1及び第2変位方向212、213において異なる経路をたどることがある。第1強磁性層21と第2磁化を有する第2強磁性層との間に挟まれたトンネル障壁層を備える磁気トンネル接合において、第1及び第2変位方向212、213において異なる経路をたどる渦コア211は、異なる磁化分布をもたらして、これにより、外部磁場Hの各値での磁気トンネル接合の異なる抵抗をもたらす結果となる。
【0011】
図4は、
図3の強磁性層21の磁化曲線M-Hを表し、これは、外部磁場42の影響下での第1強磁性層21の磁化210内の変化を示す。第1及び第2変位方向212、213において異なる経路をたどる渦コア211は、外部磁場42が第2磁場方向Hxに与えられるときと比較して、外部磁場42が第1磁場方向-Hxに与えられるときM-H曲線の間のずれΔMに推移する。ずれΔMも再現可能ではないことがある。さらに、ずれは、R-H曲線、すなわち、外部磁場42の関数としての磁気トンネル接合の抵抗の変化においても、観察され得る。
【0012】
このずれは、許容される測定範囲を狭めるため、センサの適用上有害である。この再現性のない影響に対する現在の取り組みは、適用範囲を小さくしたり、センサの実施性能を制限したりしている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、
第1磁化を持つ第1強磁性層と第2磁化を持つ第2強磁性層との間に挟まれたトンネルバリア層を備える磁気トンネル接合要素と、
第2磁化の配向を変えることなく第1磁化の配向を変えるように適合された外部磁場を与えるように構成された磁場装置と、
第1磁化が安定した磁化渦構成を備えるように構成された第1強磁性層と
を備える磁気センサにおいて、
渦の核形成又は再核形成の際に、磁化渦の渦コアが実質的にインデントに位置するように、第1強磁性層がインデントを備えるようにさらに構成されていて、
外部磁場が第1磁場方向に与えられると、渦コアは第1経路に沿って動き、第1磁化は渦コアの周りを反時計回りの方向に回転し、
外部磁場が第1磁場方向とは反対の第2磁場方向に与えられると、渦コアは第2経路に沿って動き、第1磁化は渦の周りを時計回りの方向に回転し、
第1磁場経路及び第2磁場経路が、両方とも実質的に同一であり、渦コアをインデントから離れるように動かす
磁気素子に関する。
【0014】
本開示はさらに、複数の前記磁気素子を備える磁気センサに関する。
【0015】
前記磁気素子は、測定範囲が改善された測定範囲を持っている。磁気素子はさらに、高磁場バイアスをかけた後の応答の良好な再現性を有する。
【0016】
1つ又はいくつかカット(平坦な縁部、ノッチ)を有する1つ又は複数の磁気ドットに基づき、この形状により、ドット内の渦コアの経路を制御できるため、再現性が高くなる。
【0017】
本発明は、例として与えられ、図によって示される実施形態の説明を助けとして、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、渦構成における第1磁化の平面図を示す。
【
図2】
図2は、
図2の第1強磁性層の外部磁場の影響下での第1磁化の変化を示す。
【
図3】
図3は、第1強磁性層が欠陥を含む場合の渦構成における第1磁化の平面図を示す。
【
図4】
図4は、
図3の第1強磁性層の外部磁場の影響下での第1磁化の変化を示す。
【
図5】
図5は、第1磁化を持つ第1強磁性層と、第2強磁性層と間に挟まれたトンネルバリア層を備える、従来の磁気素子の断面図を示す。
【
図6】
図6は、一実施形態による、第1強磁性層の平面図を示す。
【
図7】
図7は、
図6の第1強磁性層の外部磁場の影響下での第1磁化の変化を示す。
【
図8】
図8は、複数の実施形態による第1強磁性層を示す。
【
図9】
図9は、別の実施形態による第1強磁性層の平面図を示す。
【
図11】
図11は、短軸の様々な値に対する第1強磁性層のアスペクト比の関数としての核形成場を報告するものである。
【
図12】
図12は、短軸の様々な値に対する第1強磁性層のアスペクト比の関数としての渦キャンセル場を報告するものである。
【
図13】
図13は、実質的に平坦な周辺部分を有するインデントの深さの関数としての核形成場を報告するものである。
【
図14】
図14は、実質的に平坦な周辺部分を有するインデントの深さの関数としての渦キャンセル場を報告するものである。
【
図15】
図15は、周辺部分の半径の関数としての核形成場と渦キャンセル場を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図5は、磁気トンネル接合部2を備える磁気素子10の断面図を示す。磁気トンネル接合部は、トンネル障壁層22を備える。トンネル障壁層22は、第1磁化210を持つ第1強磁性層21と、第2磁化230を持つ第2強磁性層23との間に挟まれている。磁気素子10は、磁力線40をさらに備え、磁力線40は、外部磁場42を生成するように磁場電流41を通過させるため配置されている。第1磁化210は、第2磁化230の配向が変化しないままでありながら、外部磁場42内で配向可能であるように構成し得る。そのような構成では、外部磁場42が(外部磁場42の極性に応じて)、第1磁化210を第2磁化230に平行な配向から第2磁化230に逆平行(平行であるがベクトルの方向が逆)な配向への切替、そしてその反対への切替に、使用可能である。第1磁化210が第2磁化230に平行であるとき、MRAMセル10の抵抗は低い(論理状態「0」)。第1磁化210が第2磁化230に逆平行であるとき、MRAMセル10の抵抗は高い(論理状態「1」)。外部磁場42は、磁力線を使用して生成する必要はないが、永久磁石構成(非図示)又は外部磁場42を生成するように適合された他の任意の適切な磁場装置を使用して生成されるようにしてもよい。
【0020】
図6は、一実施形態による、第1強磁性層21の平面図を示している。第1磁化201の平面において、第1強磁性層21は、0から1未満の間の離心率を有する楕円形をしている。第1強磁性層21の周辺部の周辺部分51は、第1強磁性層21の周辺にて、第1強磁性層21の半径方向に延在するインデント50(下がり部分50)をなすように、部分的に切り出されている。この構成では、磁化渦はインデント50から核形成する。よって、外部磁場42がない場合、渦コア211は、インデント50の近く(磁場方向に垂直な軸線内)に位置する。インデント50は、磁化渦の制御された核形成部位の役割をしている。
【0021】
第1強磁性層21は、必ずしも楕円形である必要はないが、第1磁化が安定した渦構成を備えるものとなる形状を有する必要がある。
【0022】
周辺部分51の接線に実質的に平行であり、第1強磁性層21に平行な平面に沿って(
図6では「-x」と「x」の間の軸線で表されている)ある方向に外部磁場42を印加することで、渦コア211を、周辺部分51の接線に対して実質的に垂直なある方向に移動させる。ある観点では、外部磁場42が核形成場Hnに対応するとき、渦コア211は、インデント50の近くの(又は実質的にインデント50における)渦コア211の初期位置から第1強磁性層21内に移動する。核形成場Hnは、渦構成が核形成するか又は周辺部分51の接線に実質的に垂直な方向に再核形成するところである。換言すると、外部磁場42を第1磁場方向-Hxにかけると、渦コア211が第1変位方向212に移動する。第1磁化210は、第1強磁性層21の平面内で、渦コア211の周りを反時計回りの方向に回転する。第1磁場方向-Hxとは反対に、第2磁場方向Hxに外部磁場42をかけると、渦コア211が第2変位方向213に移動する。第1磁化210は、第1強磁性層21の平面内で、渦コア211の周りを時計回りに回転する。渦コア211の第1及び第2変位方向212、213の両方は、インデント50の近くの渦コア211の初期位置から離れていて、周辺部分51の接線に実質的に垂直である。
【0023】
別の観点では、渦の核形成又は再核形成時(核形成場Hnで)の渦コア211のインデント50の近く(又は実質的にインデント50で)の初期位置は、第1及び第2磁場方向-Hx、Hxにおいて外部磁場42が与えられているときの初期位置と実質的に同一である。渦コア211が第1及び第2変位方向212、213に移動するとき、それは実質的に同じ欠陥30に遭遇し、実質的に同じ欠陥30にひっかかりそこから解放される。よって、第1及び第2変位方向212、213における渦コア211の変位の経路は、(
図6に見られるように)実質的に同一である。
【0024】
図7は、
図6の第1強磁性層21の磁化曲線M-Hを表し、これは、外部磁場42の影響下での第1強磁性層21の第1磁化210における変化を示す。第1及び第2変位方向212、213における渦コア211の実質的に同一の変位経路は、外部磁場42を第1方向-Hx及び第2方向Hxに与えているとき、第1磁化210磁化分布と同様の磁化分布の結果となる。外部磁場42を第2磁場方向Hxに与えているときと比較して外部磁場42を第1磁場方向-Hxに与えているときのM-H曲線間のずれΔMは、インデント50のない強磁性層に比べて大幅に減少する(
図4参照)。実は、ずれΔMは実質的に無値になる場合がある。
【0025】
図8は、実施形態による第1強磁性層21の平面図を示す。第1磁化201の平面において、第1強磁性層21は、約1.3の楕円形のアスペクト比を有し、ここで、アスペクト比は、長軸と短軸との比を示す。第1強磁性層21の周辺部分51は、第1強磁性層21の周囲にて、第1強磁性層21の半径方向に延在するインデント50を形成するように、部分的に切り取られている。
【0026】
より具体的には、
図8a及び
図8bにおいて、インデント50は、概ね円弧形状の第1強磁性層21の周囲を部分的に切り抜いて形成されたノッチを備える。
図8aでは、インデント50は、実質的に平坦な周辺部分51の結果となっている。
図8bでは、ノッチは、わずかに凸形状の周辺部分51をもたらすように形成されている。平坦な周辺部分51は、外部磁場42の配向に実質的に平行な配向であり得る。
【0027】
別の例が
図8cに示され、この
図8cでインデント50は、円い溝の形状を持つノッチを備える。さらに別の例が
図8dに示され、この
図8dでインデント50は、長方形の溝の形状を持つノッチを備える。
図6に示された第1強磁性層21は、V字形状のインデント50を備える。先に論じたように、インデント50は、磁化渦にインデント50の近くで核形成させ、渦コア211の第1変位方向212及び第2変位方向213が実質同一となる結果となる。対応する磁化曲線M-HのずれΔMは、これにより、大幅に減少する(ずれΔMは実質的に無値であることがある)。磁気素子10は、これにより、インデント50のない強磁性層を持つ磁気素子と比較して、拡大された測定範囲を持てるようになる。
【0028】
図8eに示されるように、第1強磁性層21は、実質的に平坦な周辺部分51をもたらして互いに対向している2つのインデント50を備える。平坦な周辺部分51は、外部磁場42の配向に実質的に平行な配向であり得る。第1及び第2変位方向212、213における渦コア211の実質的に同一の変位経路を得るために、2つのインデント50は非対称に配置されるべきである。
図8eの例では、非対称性は、異なる大きさとなっている平坦な周辺部分51(複数)の提供によって達成されている。
【0029】
より一般的には、第1強磁性層21は、1つより多いインデント50を備えてよい。複数のインデント50は非対称に配置されるべきである。
【0030】
図9は、別の実施形態による第1強磁性層21の平面図を示す。第1磁化201の平面において、第1強磁性層21は、1.5超の楕円形のアスペクト比を持つ。この図では、長軸はGAで示され、短軸はPAで示されている。インデント50は、実質的に平坦な周辺部分51(実線)の頂点の1つで第1強磁性層21の周辺を部分的に切り抜くことによって形成されたノッチを備える。また、図には、若干凸状の周辺部分51(破線)になるように形成されたノッチを備えるインデント50が示されている。インデント50の深さDは、約0.1PAであり得る。凸状の周辺部分51の場合、半径Rdは周辺部分51の半径Rdは、約0.5Dである。周辺部分51は、外部磁場42の配向に実質的に平行な配向であり得る。例えば、第1強磁性層21は、外部磁場42が短軸PAに実質的に平行に配向されるように配置してよい。第1強磁性層21のこの構成は、短軸PAに実質的に平行に与えられる外部磁場42に直交する外部磁場の直交成分42yが50mTを下回るのを可能にする。
【0031】
図10は、
図9の第1強磁性層21の変形例を示し、この図で第1強磁性層21は、別のインデント50を備える。他のインデント50は、実質的に平坦な周辺部分51(実線)において、他の頂点で第1強磁性層21の周辺を部分的に切り出すことによって形成されたノッチを備える。また、図には、若干凸状の周辺部分51(破線)になるように形成されたノッチを備える他のインデント50も示されている。2つのインデント50は、互いに反対方向で向かい合っている。第1及び第2変位方向212、213において渦コア211の実質的に同一の変位経路を得るために、2つのインデント50は非対称に配置されるべきである。
図10の例では、非対称性は、インデント50のうちの1つの周辺部分51に、より小さな(又はより大きな)深さを提供することによって達成される。
【0032】
2つのインデント50の周辺部分51は、外部磁場42の配向に実質的に平行な配向であり得る。例えば、第1強磁性層21は、外部磁場42が短軸PAに実質的に平行に配向されるように配置してよい。
【0033】
図11のグラフは、400nm、500nm、及び600nmの短軸PAを持つ第1強磁性層21のアスペクト比ARの関数としての核形成場Hnを報告するものである。核形成場Hnは、外部磁場42が渦キャンセル場又は放出場Hs(
図7参照)を下回るときに、渦構成が核形成又は再核形成する外部磁場42の値に対応する。
【0034】
図12のグラフは、400nm、500nm、及び600nmの短軸PAを持つ第1強磁性層21のアスペクト比ARの関数としての渦キャンセル場Hsを報告するものである。
図11及び12の両方のグラフについて、外部磁場42は、周辺部分51及び短軸PAに実質的に平行に与えられている(
図9及び
図10参照)。直交成分42yは無値であると仮定されている。
【0035】
図11及び
図12は、第1強磁性層21のアスペクト比ARを増加させると、(第1強磁性層21のサイズに関係なく)核形成場Hn及び渦キャンセル場Hsのより高い値が得られることを示している。磁気素子10の広い測定範囲を得るには、核生成場Hnと渦キャンセル場Hsの値を高くすることが望まれる。第1強磁性層21の異なるサイズのための同様の渦キャンセル場Hsは、第1強磁性層21のアスペクト比ARの調整によって取得できる。しかしながら、アスペクト比ARは、渦構成よりも安定している他の磁化構成によって制限される。例えば、高アスペクト比にはマクロスピン構成が好まれる。
【0036】
図13のグラフは、実質的に平坦な周辺部分51を持つインデント50の深さの関数としての核形成場Hnを報告するものである。実質的に平坦な周辺部分51を持つインデント50は、(周辺部分51での)核形成位置及び渦の真円度、すなわち、第2磁場方向Hxに与えられる外部磁場42に対して時計回り、及び第1磁場方向-Hxに与えられる外部磁場42に対して反時計回りの制御を可能にする。
【0037】
図14にて、グラフは、実質的に平坦な周辺部分51を持つインデント50の深さの関数としての渦キャンセル場Hsを報告するものである。
図13及び
図14の両方に示されるように、値は、600nmの短軸PAを有する第1強磁性層21、及び2つのアスペクト比AR、すなわち、AR=1(円)及びAR=2(円環)について報告されている。
図13及び
図14の両方のグラフについて、外部磁場42は周辺部分51及び短軸PAに実質的に平行に与えられている(
図9及び
図10を参照)。直交成分42yは無値であると仮定されている。
【0038】
図13と
図14は、アスペクト比ARが高いとパス制御が良好になることを示している。高い核形成場Hn及び高い渦キャンセル場Hsに対して、より良い経路制御が得られる。特に、アスペクト比AR=2の場合はインデントの深さD>10nmで、アスペクト比AR=1の場合はインデントの深さD>100nmで良好なパス制御が得られる。より具体的には、アスペクト比AR=1の場合、インデントの深さDが増加すると、核形成場Hn及び渦キャンセル場Hsの減少が観察される。アスペクト比AR=2の場合、インデントの深さD<60nmの場合、核生成場Hnと渦キャンセル場Hsで高い一定値とほぼ一定の値が得られる。核形成場Hnと渦キャンセル場Hsの最適値は、インデントの深さDが短軸PAの長さの約10%のときに得られる。
【0039】
より一般的には、核形成場Hn及び渦キャンセル場Hsの最適値は、インデントの深さDが、第1強磁性層21の寸法の中で比較的小さい寸法の約10%から約30%の間の値であり、この小さい方の寸法は第1強磁性層21の平面内で測定されて得られる。例えば、楕円形を持つ第1強磁性層21の場合、インデントの深さDは、第1強磁性層21の短軸PAの長さの約10%から約30%の間である。円形を持つ第1強磁性層21の場合、インデントの深さDは、第1強磁性層21の直径の約10%から約30%の間である。第1強磁性層21のより小さな寸法が10%よりも小さいインデントの深さDは、キラリティー制御を失う結果になる。換言すると、インデントの深さDは、磁化渦をインデント50で実質的に核形成不能にするおそれがあり、渦コア211の変位の経路の良好な制御が妨げられるおそれがある。第1強磁性層21のより小さな寸法が30%より大きいインデントの深さDは、低い核形成場Hnの結果となって、それにより磁気素子10の狭い測定範囲の結果となる。狭い測定範囲は、磁気素子10のセンサ適用に問題である。例えば、第1強磁性層21を半分(D>50%)に切断する平らなインデントを使うと、実質的に測定範囲がゼロの結果となる。
【0040】
図15に示されるグラフは、600nmの短軸PA、2のアスペクト比AR及び80nmのインデントの深さDについて、周辺部分51の半径Rdの関数としての核形成場Hn及び渦キャンセル場Hsを報告するものである。直交成分42yは無値であると仮定されている。周辺部分51の半径Rdは、半楕円でモデル化されている。この図は、第1変位方向212及び第2変位方向213における渦コア211の変位経路が実質的に同一(渦コア211の「単一の」経路)であるが、インデントの深さDの約50%の半径Rd、すなわち、半径Rd<40nmで得られることを示している。これらの値の外側に、2つの渦構成が現れる。インデントの深さDの50%以下の半径Rdについて、核形成場Hn及び渦キャンセル場Hsの概ね一定の値が得られる。
【0041】
無値ではない直交成分42yの存在に対する第1強磁性層21内の渦コア211の「単一」経路のロバスト性は、磁化渦がすでに渦キャンセル場Hsから核形成されているときに無値でない直交成分42yを適用することによって試験された。最初の分布を観察することによって無値でない直交成分42yの適用中及び適用後の第1磁化210において、渦コア211の「単一の」経路は、450Oe以下の直交成分42yに対して維持されることが示された。
【0042】
一実施形態では、磁気センサ(図示せず)は、複数の磁気素子10を備える。
【符号の説明】
【0043】
10 磁気装置
2 磁気トンネル接合
21 第1強磁性層
210 第1磁化
211 渦コア
212 渦コアの第1方向の変位
213 渦コアの第2方向の変位
22 トンネルバリア層
23 第2強磁性層
230 第2磁化
30 欠陥
40 磁力線
41 磁場電流
42 外部磁場
42y 外部磁場の直交成分
50 インデント
51 周辺部分
ΔM オフセット
AR アスペクト比
D インデントの深さ
GA 長軸
Hn 核生成場
Hs 渦キャンセル場
-Hx 第1磁場方向
Hx 第2磁場方向
PA 短軸
Rd 半径周辺部分
【手続補正書】
【提出日】2021-10-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改良された測定範囲を持つ磁気トンネル接合を備える磁気素子に関する。本開示はさらに、複数の前記磁気素子を備える磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁化渦は、磁気構造の表面の横断方向の寸法に比較し得る長さの規模での磁化回転を伴う磁気構造の平面内の磁化を持つ、マイクロ又はナノ磁気構造における、可干渉性の磁気構成である。磁化渦は、静磁気エネルギーと、半径と厚さが十分に大きい磁性層内の円筒形又は近似的に円筒形のマイクロ又はナノ構造の交換エネルギーとの間の平衡から生じる。磁気構造の形状に応じて、渦構成は、残留状態での最低エネルギーを持つ安定したスピン構成になる。
【0003】
安定した渦構成では、渦はキャンセル(打ち消)されることなく可逆的に変形可能である。より具体的には、渦は中程度の磁場の下で可逆的に変形する可能性がある。与えられている磁場に平行な渦磁化の部分は大きくなる傾向があり、与えられている磁場に逆平行な磁化の部分は小さくなる傾向がある。これにより、与えられている磁場の方向を横切る方向に沿って渦コアが変位する。磁場が減少すると、渦コアは徐々にゼロ磁場の平衡位置に戻る。円盤状のマイクロ構造又はナノ構造の場合の渦コアの平衡位置は、円盤の中心にある。
【0004】
図1は、磁化210を持つ強磁性層21の平面図を示す。矢印で表される磁化210は磁化渦を含むものである。より具体的には、磁化渦は、渦中心、又は渦コア211を備え、渦コア211の周りを時計回り又は反時計回りに回転する平面外の磁化及び平面内の磁化を伴うものである。
【0005】
特に、
図1aは、外部磁場42がない場合の第1磁化渦を表していて、渦コア211は、実質的に第1強磁性層断面の中心にある。この構成では、第1強磁性層21は、実質的にゼロ(H=0)である純の磁気モーメントを有する。
【0006】
第1強磁性層21の簡便軸線に沿って(
図1のx方向に沿って)外部磁場Hxを与えると、渦コア211は、第1強磁性層21の簡便軸線に実質的に垂直な方向に移動する。
図1bでは、渦コア211は、この図中左向きの第1磁場方向-Hxに外部磁場を与えると、第1変位方向(
図1bでは上向き)に移動する。渦コア211(
図1b)の第1変位方向(矢印212で示す)の変位は、第1強磁性層21において純の磁気モーメントH<0の結果となる。
図1cは、第1磁場方向-Hxとは反対に、第2磁場方向Hxに外部磁場を与えると、第2変位方向(
図1cでは下向き)に移動する渦コア211を示す。(矢印213で示される)第2変位方向での渦コア211の変位は、第1強磁性層21において純の磁気モーメントH>0の結果となる。
【0007】
図2は、
図1の第1強磁性層21の磁化曲線M-Hを表していて、これは外部磁場Hの影響下での第1強磁性層21の磁化210における変化を示す。
【0008】
-HsとHsの間にある外部磁場(Hsは渦キャンセル場)に渦構成が存在し、その渦コア211は 第1強磁性層21の平面内で弾性的かつ可逆的に移動する。Hsより強い又は(Hsの反対方向にある)-Hsより強い磁場の場合、渦がキャンセル(打ち消)され、磁性層は本質的に単一ドメイン構成に変化する。外部磁場が飽和を下回ると、渦の構成が再核化する。このように、渦構成のキャンセルと核形成にはある程度のヒステリシスがあるが、渦の弾性変形に対応する部分の全体は完全に可逆的である。
【0009】
図1及び
図2は、それぞれ、磁化210の渦マイクロ磁気構成及び第1強磁性層21に欠陥がない理想的な場合の対応する磁化曲線M-Hを表す。このような理想的なケースでは、R-H曲線にずれ(オフセット)は見られない。換言すると、第1及び第2変位方向212、213における渦コア211の変位の経路は、磁化曲線M-H上に影響しない。
【0010】
図3は、欠陥30を含む第1強磁性層21の平面図を示す。渦コア211が第1変位方向212に移動すると、変位経路で遭遇した欠陥30にひっかかる(それから、欠陥30から解放される)。同様に、第2変位方向213に移動する渦コア211は、変位経路で遭遇する欠陥30にひっかかる(その後欠陥30から解放される)。核形成におけるその位置に応じて、渦コア211は、第1変位方向212に移動するとき、第2変位方向213に移動するときとは異なる欠陥30に、ひっかかりそこから解放されるおそれがある。異なる欠陥へのこのひっかかりと解放を原因として、渦コア211は、(
図3に示されるように)第1及び第2変位方向212、213において異なる経路をたどることがある。第1強磁性層21と第2磁化を有する第2強磁性層との間に挟まれたトンネル障壁層を備える磁気トンネル接合において、第1及び第2変位方向212、213において異なる経路をたどる渦コア211は、異なる磁化分布をもたらして、これにより、外部磁場Hの各値での磁気トンネル接合の異なる抵抗をもたらす結果となる。
【0011】
図4は、
図3の強磁性層21の磁化曲線M-Hを表し、これは、外部磁場42の影響下での第1強磁性層21の磁化210内の変化を示す。第1及び第2変位方向212、213において異なる経路をたどる渦コア211は、外部磁場42が第2磁場方向Hxに与えられるときと比較して、外部磁場42が第1磁場方向-Hxに与えられるときM-H曲線の間のずれΔMに推移する。ずれΔMも再現可能ではないことがある。さらに、ずれは、R-H曲線、すなわち、外部磁場42の関数としての磁気トンネル接合の抵抗の変化においても、観察され得る。
【0012】
このずれは、許容される測定範囲を狭めるため、センサの適用上有害である。この再現性のない影響に対する現在の取り組みは、適用範囲を小さくしたり、センサの実施性能を制限したりしている。
【0013】
特許文献1(KR101728508)には、ディスクに多くの情報を格納するパーマロイ製の非対称ナノディスクと、電流又は磁界を印加してナノディスクに水平方向の磁化を形成する第1ワイヤと、第1ワイヤと垂直に配置され、電流又は磁界を印加してナノディスクに垂直方向の磁化を形成する第2ワイヤとを用いた単位情報記憶装置が開示されている。
【0014】
非特許文献1(Chao-Hsien Huang,et.al.,“Study of One-Side-Flat Edge on Vortex in Submicro-Scaled Permalloy Disks”, IEEE Transactions on Magnetics,Vol.46,No.6,June 2010)には、サブマイクロ規模のパーマロイ円盤に片側の平坦な縁部を設けることが記載されている。円盤の等方性を崩すことで,渦の核生成と消滅の制御を実現している。ディスクの切断率が異なる一連の片面が平坦な磁気円盤アレイが記載されている。
【0015】
非特許文献2(Schneider M et al.,“Magnetic switching of single vortex permalloy elements”,Applied Physics Letters, Vol.79,No.19,5 November 2001)には、円形ドットの幾何学的形状にわずかな非対称性を導入することで、渦(のような)構成の回転検知を制御できる単一渦素子が記載されている。
【0016】
特許文献2(US2018003776)には、少なくとも1つの磁気抵抗構造を有する磁気センサ装置が記載されている。この磁気抵抗構造は、自由層に閉磁束磁化パターンを生成するように構成された磁気自由層と、非閉磁束参照磁化パターンを有する磁気参照層と、磁気自由層における外部磁界の磁束密度を増加させるように構成された磁束集中器とを備える。
【0017】
非特許文献3(V.Cambelet al.,“Micromagnetic Simulations of Pac-Man-Like Nanomagnets for Memory Applications”,Physical Review B 84,014424(2011))には、100nm以下のパーマロイナノ磁石のサイズに依存した磁気状態が記載されている。この形状は、面内磁場のみを与えることで、渦の極性やキラリティーを独立に設定及び読み出しするのに適している。
【0018】
特許文献3(WO03032336)には、残留磁束の閉塞感を有する磁化パターンを備える磁気素子が記載されている。この磁気素子は非対称であり、磁化の回転検知は、与える磁界によって制御可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1728508号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/003776号明細書
【特許文献3】国際公開第03/032336号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Chao-Hsien Huang,et.al.,“Study of One-Side-Flat Edge on Vortex in Submicro-Scaled Permalloy Disks”,IEEE Transactions on Magnetics, Vol.46,No.6,June 2010
【非特許文献2】Schneider M et al.,“Magnetic switching of single vortex permalloy elements”,Applied Physics Letters,Vol.79,No.19, 5 November 2001
【非特許文献3】V.Cambelet al.,“Micromagnetic Simulations of Pac-Man-Like Nanomagnets for Memory Applications”,Physical Review B 84,014424、2011
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本開示は、
第1磁化を持つ第1強磁性層と第2磁化を持つ第2強磁性層との間に挟まれたトンネルバリア層を備える磁気トンネル接合要素と、
第2磁化の配向を変えることなく第1磁化の配向を変えるように適合された外部磁場を与えるように構成された磁場装置と、
第1磁化が安定した磁化渦構成を備えるように構成された第1強磁性層と
を備える磁気センサにおいて、
渦の核形成又は再核形成の際に、磁化渦の渦コアが実質的にインデントに位置するように、第1強磁性層がインデントを備えるようにさらに構成されていて、
外部磁場が第1磁場方向に与えられると、渦コアは第1経路に沿って動き、第1磁化は第1強磁性層の平面内で渦コアの周りを反時計回りの方向に回転するものであり、
外部磁場が第1磁場方向とは反対の第2磁場方向に与えられると、渦コアは第2経路に沿って動き、第1磁化は第1強磁性層の平面内で渦コアの周りを時計回りの方向に回転するものである。第1磁場経路及び第2磁場経路が、両方とも実質的に同一であり、渦コアをインデントから遠ざけるものである。第1強磁性層は、アスペクト比が1と2の間の楕円形をしていて、インデントのインデントの深さは、楕円の短軸の約0.1倍である。インデントは、第1強磁性層の外周に沿った凸状の周縁部を備え、周縁部の半径は、インデントの深さの約0.5倍である。
【0022】
本開示はさらに、複数の前記磁気素子を備える磁気センサに関する。
【0023】
前記磁気素子は、測定範囲が改善された測定範囲を持っている。磁気素子はさらに、高磁場バイアスをかけた後の応答の良好な再現性を有する。
【0024】
1つ又はいくつかカット(平坦な縁部、ノッチ)を有する1つ又は複数の磁気ドットに基づき、この形状により、ドット内の渦コアの経路を制御できるため、再現性が高くなる。
【0025】
本発明は、例として与えられ、図によって示される実施形態の説明を助けとして、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、渦構成における第1磁化の平面図を示す。
【
図2】
図2は、
図2の第1強磁性層の外部磁場の影響下での第1磁化の変化を示す。
【
図3】
図3は、第1強磁性層が欠陥を含む場合の渦構成における第1磁化の平面図を示す。
【
図4】
図4は、
図3の第1強磁性層の外部磁場の影響下での第1磁化の変化を示す。
【
図5】
図5は、第1磁化を持つ第1強磁性層と、第2強磁性層と間に挟まれたトンネルバリア層を備える、従来の磁気素子の断面図を示す。
【
図6】
図6は、一実施形態による、第1強磁性層の平面図を示す。
【
図7】
図7は、
図6の第1強磁性層の外部磁場の影響下での第1磁化の変化を示す。
【
図8】
図8は、複数の実施形態による第1強磁性層を示す。
【
図9】
図9は、別の実施形態による第1強磁性層の平面図を示す。
【
図11】
図11は、短軸の様々な値に対する第1強磁性層のアスペクト比の関数としての核形成場を報告するものである。
【
図12】
図12は、短軸の様々な値に対する第1強磁性層のアスペクト比の関数としての渦キャンセル場を報告するものである。
【
図13】
図13は、実質的に平坦な周辺部分を有するインデントの深さの関数としての核形成場を報告するものである。
【
図14】
図14は、実質的に平坦な周辺部分を有するインデントの深さの関数としての渦キャンセル場を報告するものである。
【
図15】
図15は、周辺部分の半径の関数としての核形成場と渦キャンセル場を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図5は、磁気トンネル接合部2を備える磁気素子10の断面図を示す。磁気トンネル接合部は、トンネル障壁層22を備える。トンネル障壁層22は、第1磁化210を持つ第1強磁性層21と、第2磁化230を持つ第2強磁性層23との間に挟まれている。磁気素子10は、磁力線40をさらに備え、磁力線40は、外部磁場42を生成するように磁場電流41を通過させるため配置されている。第1磁化210は、第2磁化230の配向が変化しないままでありながら、外部磁場42内で配向可能であるように構成し得る。そのような構成では、外部磁場42が(外部磁場42の極性に応じて)、第1磁化210を第2磁化230に平行な配向から第2磁化230に逆平行(平行であるがベクトルの方向が逆)な配向への切替、そしてその反対への切替に、使用可能である。第1磁化210が第2磁化230に平行であるとき、MRAMセル10の抵抗は低い(論理状態「0」)。第1磁化210が第2磁化230に逆平行であるとき、MRAMセル10の抵抗は高い(論理状態「1」)。外部磁場42は、磁力線を使用して生成する必要はないが、永久磁石構成(非図示)又は外部磁場42を生成するように適合された他の任意の適切な磁場装置を使用して生成されるようにしてもよい。
【0028】
図6は、一実施形態による、第1強磁性層21の平面図を示している。第1磁化201の平面において、第1強磁性層21は、0から1未満の間の離心率を有する楕円形をしている。第1強磁性層21の周辺部の周辺部分51は、第1強磁性層21の周辺にて、第1強磁性層21の半径方向に延在するインデント50(下がり部分50)をなすように、部分的に切り出されている。この構成では、磁化渦はインデント50から核形成する。よって、外部磁場42がない場合、渦コア211は、インデント50の近く(磁場方向に垂直な軸線内)に位置する。インデント50は、磁化渦の制御された核形成部位の役割をしている。
【0029】
第1強磁性層21は、必ずしも楕円形である必要はないが、第1磁化が安定した渦構成を備えるものとなる形状を有する必要がある。
【0030】
周辺部分51の接線に実質的に平行であり、第1強磁性層21に平行な平面に沿って(
図6では「-x」と「x」の間の軸線で表されている)ある方向に外部磁場42を印加することで、渦コア211を、周辺部分51の接線に対して実質的に垂直なある方向に移動させる。ある観点では、外部磁場42が核形成場Hnに対応するとき、渦コア211は、インデント50の近くの(又は実質的にインデント50における)渦コア211の初期位置から第1強磁性層21内に移動する。核形成場Hnは、渦構成が核形成するか又は周辺部分51の接線に実質的に垂直な方向に再核形成するところである。換言すると、外部磁場42を第1磁場方向-Hxにかけると、渦コア211が第1変位方向212に移動する。第1磁化210は、第1強磁性層21の平面内で、渦コア211の周りを反時計回りの方向に回転する。第1磁場方向-Hxとは反対に、第2磁場方向Hxに外部磁場42をかけると、渦コア211が第2変位方向213に移動する。第1磁化210は、第1強磁性層21の平面内で、渦コア211の周りを時計回りに回転する。渦コア211の第1及び第2変位方向212、213の両方は、インデント50の近くの渦コア211の初期位置から離れていて、周辺部分51の接線に実質的に垂直である。
【0031】
別の観点では、渦の核形成又は再核形成時(核形成場Hnで)の渦コア211のインデント50の近く(又は実質的にインデント50で)の初期位置は、第1及び第2磁場方向-Hx、Hxにおいて外部磁場42が与えられているときの初期位置と実質的に同一である。渦コア211が第1及び第2変位方向212、213に移動するとき、それは実質的に同じ欠陥30に遭遇し、実質的に同じ欠陥30にひっかかりそこから解放される。よって、第1及び第2変位方向212、213における渦コア211の変位の経路は、(
図6に見られるように)実質的に同一である。
【0032】
図7は、
図6の第1強磁性層21の磁化曲線M-Hを表し、これは、外部磁場42の影響下での第1強磁性層21の第1磁化210における変化を示す。第1及び第2変位方向212、213における渦コア211の実質的に同一の変位経路は、外部磁場42を第1方向-Hx及び第2方向Hxに与えているとき、第1磁化210磁化分布と同様の磁化分布の結果となる。外部磁場42を第2磁場方向Hxに与えているときと比較して外部磁場42を第1磁場方向-Hxに与えているときのM-H曲線間のずれΔMは、インデント50のない強磁性層に比べて大幅に減少する(
図4参照)。実は、ずれΔMは実質的に無値になる場合がある。
【0033】
図8は、実施形態による第1強磁性層21の平面図を示す。第1磁化201の平面において、第1強磁性層21は、約1.3の楕円形のアスペクト比を有し、ここで、アスペクト比は、長軸と短軸との比を示す。第1強磁性層21の周辺部分51は、第1強磁性層21の周囲にて、第1強磁性層21の半径方向に延在するインデント50を形成するように、部分的に切り取られている。
【0034】
より具体的には、
図8a及び
図8bにおいて、インデント50は、概ね円弧形状の第1強磁性層21の周囲を部分的に切り抜いて形成されたノッチを備える。
図8aでは、インデント50は、実質的に平坦な周辺部分51の結果となっている。
図8bでは、ノッチは、わずかに凸形状の周辺部分51をもたらすように形成されている。平坦な周辺部分51は、外部磁場42の配向に実質的に平行な配向であり得る。
【0035】
別の例が
図8cに示され、この
図8cでインデント50は、円い溝の形状を持つノッチを備える。さらに別の例が
図8dに示され、この
図8dでインデント50は、長方形の溝の形状を持つノッチを備える。
図6に示された第1強磁性層21は、V字形状のインデント50を備える。先に論じたように、インデント50は、磁化渦にインデント50の近くで核形成させ、渦コア211の第1変位方向212及び第2変位方向213が実質同一となる結果となる。対応する磁化曲線M-HのずれΔMは、これにより、大幅に減少する(ずれΔMは実質的に無値であることがある)。磁気素子10は、これにより、インデント50のない強磁性層を持つ磁気素子と比較して、拡大された測定範囲を持てるようになる。
【0036】
図8eに示されるように、第1強磁性層21は、実質的に平坦な周辺部分51をもたらして互いに対向している2つのインデント50を備える。平坦な周辺部分51は、外部磁場42の配向に実質的に平行な配向であり得る。第1及び第2変位方向212、213における渦コア211の実質的に同一の変位経路を得るために、2つのインデント50は非対称に配置されるべきである。
図8eの例では、非対称性は、異なる大きさとなっている平坦な周辺部分51(複数)の提供によって達成されている。
【0037】
より一般的には、第1強磁性層21は、1つより多いインデント50を備えてよい。複数のインデント50は非対称に配置されるべきである。
【0038】
図9は、別の実施形態による第1強磁性層21の平面図を示す。第1磁化201の平面において、第1強磁性層21は、1.5超の楕円形のアスペクト比を持つ。この図では、長軸はGAで示され、短軸はPAで示されている。インデント50は、実質的に平坦な周辺部分51(実線)の頂点の1つで第1強磁性層21の周辺を部分的に切り抜くことによって形成されたノッチを備える。また、図には、若干凸状の周辺部分51(破線)になるように形成されたノッチを備えるインデント50が示されている。インデント50の深さDは、約0.1PAであり得る。凸状の周辺部分51の場合、半径Rdは周辺部分51の半径Rdは、約0.5Dである。周辺部分51は、外部磁場42の配向に実質的に平行な配向であり得る。例えば、第1強磁性層21は、外部磁場42が短軸PAに実質的に平行に配向されるように配置してよい。第1強磁性層21のこの構成は、短軸PAに実質的に平行に与えられる外部磁場42に直交する外部磁場の直交成分42yが50mTを下回るのを可能にする。
【0039】
図10は、
図9の第1強磁性層21の変形例を示し、この図で第1強磁性層21は、別のインデント50を備える。他のインデント50は、実質的に平坦な周辺部分51(実線)において、他の頂点で第1強磁性層21の周辺を部分的に切り出すことによって形成されたノッチを備える。また、図には、若干凸状の周辺部分51(破線)になるように形成されたノッチを備える他のインデント50も示されている。2つのインデント50は、互いに反対方向で向かい合っている。第1及び第2変位方向212、213において渦コア211の実質的に同一の変位経路を得るために、2つのインデント50は非対称に配置されるべきである。
図10の例では、非対称性は、インデント50のうちの1つの周辺部分51に、より小さな(又はより大きな)深さを提供することによって達成される。
【0040】
2つのインデント50の周辺部分51は、外部磁場42の配向に実質的に平行な配向であり得る。例えば、第1強磁性層21は、外部磁場42が短軸PAに実質的に平行に配向されるように配置してよい。
【0041】
図11のグラフは、400nm、500nm、及び600nmの短軸PAを持つ第1強磁性層21のアスペクト比ARの関数としての核形成場Hnを報告するものである。核形成場Hnは、外部磁場42が渦キャンセル場又は放出場Hs(
図7参照)を下回るときに、渦構成が核形成又は再核形成する外部磁場42の値に対応する。
【0042】
図12のグラフは、400nm、500nm、及び600nmの短軸PAを持つ第1強磁性層21のアスペクト比ARの関数としての渦キャンセル場Hsを報告するものである。
図11及び12の両方のグラフについて、外部磁場42は、周辺部分51及び短軸PAに実質的に平行に与えられている(
図9及び
図10参照)。直交成分42yは無値であると仮定されている。
【0043】
図11及び
図12は、第1強磁性層21のアスペクト比ARを増加させると、(第1強磁性層21のサイズに関係なく)核形成場Hn及び渦キャンセル場Hsのより高い値が得られることを示している。磁気素子10の広い測定範囲を得るには、核生成場Hnと渦キャンセル場Hsの値を高くすることが望まれる。第1強磁性層21の異なるサイズのための同様の渦キャンセル場Hsは、第1強磁性層21のアスペクト比ARの調整によって取得できる。しかしながら、アスペクト比ARは、渦構成よりも安定している他の磁化構成によって制限される。例えば、高アスペクト比にはマクロスピン構成が好まれる。
【0044】
図13のグラフは、実質的に平坦な周辺部分51を持つインデント50の深さの関数としての核形成場Hnを報告するものである。実質的に平坦な周辺部分51を持つインデント50は、(周辺部分51での)核形成位置及び渦の真円度、すなわち、第2磁場方向Hxに与えられる外部磁場42に対して時計回り、及び第1磁場方向-Hxに与えられる外部磁場42に対して反時計回りの制御を可能にする。
【0045】
図14にて、グラフは、実質的に平坦な周辺部分51を持つインデント50の深さの関数としての渦キャンセル場Hsを報告するものである。
図13及び
図14の両方に示されるように、値は、600nmの短軸PAを有する第1強磁性層21、及び2つのアスペクト比AR、すなわち、AR=1(円)及びAR=2(円環)について報告されている。
図13及び
図14の両方のグラフについて、外部磁場42は周辺部分51及び短軸PAに実質的に平行に与えられている(
図9及び
図10を参照)。直交成分42yは無値であると仮定されている。
【0046】
図13と
図14は、アスペクト比ARが高いとパス制御が良好になることを示している。高い核形成場Hn及び高い渦キャンセル場Hsに対して、より良い経路制御が得られる。特に、アスペクト比AR=2の場合はインデントの深さD>10nmで、アスペクト比AR=1の場合はインデントの深さD>100nmで良好なパス制御が得られる。より具体的には、アスペクト比AR=1の場合、インデントの深さDが増加すると、核形成場Hn及び渦キャンセル場Hsの減少が観察される。アスペクト比AR=2の場合、インデントの深さD<60nmの場合、核生成場Hnと渦キャンセル場Hsで高い一定値とほぼ一定の値が得られる。核形成場Hnと渦キャンセル場Hsの最適値は、インデントの深さDが短軸PAの長さの約10%のときに得られる。
【0047】
より一般的には、核形成場Hn及び渦キャンセル場Hsの最適値は、インデントの深さDが、第1強磁性層21の寸法の中で比較的小さい寸法の約10%から約30%の間の値であり、この小さい方の寸法は第1強磁性層21の平面内で測定されて得られる。例えば、楕円形を持つ第1強磁性層21の場合、インデントの深さDは、第1強磁性層21の短軸PAの長さの約10%から約30%の間である。円形を持つ第1強磁性層21の場合、インデントの深さDは、第1強磁性層21の直径の約10%から約30%の間である。第1強磁性層21のより小さな寸法が10%よりも小さいインデントの深さDは、キラリティー制御を失う結果になる。換言すると、インデントの深さDは、磁化渦をインデント50で実質的に核形成不能にするおそれがあり、渦コア211の変位の経路の良好な制御が妨げられるおそれがある。第1強磁性層21のより小さな寸法が30%より大きいインデントの深さDは、低い核形成場Hnの結果となって、それにより磁気素子10の狭い測定範囲の結果となる。狭い測定範囲は、磁気素子10のセンサ適用に問題である。例えば、第1強磁性層21を半分(D>50%)に切断する平らなインデントを使うと、実質的に測定範囲がゼロの結果となる。
【0048】
図15に示されるグラフは、600nmの短軸PA、2のアスペクト比AR及び80nmのインデントの深さDについて、周辺部分51の半径Rdの関数としての核形成場Hn及び渦キャンセル場Hsを報告するものである。直交成分42yは無値であると仮定されている。周辺部分51の半径Rdは、半楕円でモデル化されている。この図は、第1変位方向212及び第2変位方向213における渦コア211の変位経路が実質的に同一(渦コア211の「単一の」経路)であるが、インデントの深さDの約50%の半径Rd、すなわち、半径Rd<40nmで得られることを示している。これらの値の外側に、2つの渦構成が現れる。インデントの深さDの50%以下の半径Rdについて、核形成場Hn及び渦キャンセル場Hsの概ね一定の値が得られる。
【0049】
無値ではない直交成分42yの存在に対する第1強磁性層21内の渦コア211の「単一」経路のロバスト性は、磁化渦がすでに渦キャンセル場Hsから核形成されているときに無値でない直交成分42yを適用することによって試験された。最初の分布を観察することによって無値でない直交成分42yの適用中及び適用後の第1磁化210において、渦コア211の「単一の」経路は、450Oe以下の直交成分42yに対して維持されることが示された。
【0050】
一実施形態では、磁気センサ(図示せず)は、複数の磁気素子10を備える。
【符号の説明】
【0051】
10 磁気装置
2 磁気トンネル接合
21 第1強磁性層
210 第1磁化
211 渦コア
212 渦コアの第1方向の変位
213 渦コアの第2方向の変位
22 トンネルバリア層
23 第2強磁性層
230 第2磁化
30 欠陥
40 磁力線
41 磁場電流
42 外部磁場
42y 外部磁場の直交成分
50 インデント
51 周辺部分
ΔM オフセット
AR アスペクト比
D インデントの深さ
GA 長軸
Hn 核生成場
Hs 渦キャンセル場
-Hx 第1磁場方向
Hx 第2磁場方向
PA 短軸
Rd 半径周辺部分
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1磁化(210)を持つ第1強磁性層(21)と第2磁化(230)を持つ第2強磁性層(23)との間に挟まれたトンネルバリア層(22)を備える磁気トンネル接合要素(2)と、
第2磁化(230)の配向を変えることなく第1磁化(210)の配向を変えるように適合された外部磁場(42)を与えるように構成された磁場装置(40)と、
第1磁化(210)が安定した磁化渦構成を備えるように構成された第1強磁性層(21)と
を備える磁気センサにおいて、
渦の核形成又は再核形成の際に、磁化渦の渦コア(211)が実質的にインデント(50)に位置するように、第1強磁性層(21)がインデント(50)を備えるようにさらに構成されてい
て、
外部磁場(42)が第1磁場方向(-Hx)に与えられると、渦コア(211)は第1経路(212)に沿って動き、第1磁化(210)は
第1強磁性層(21)の平面内で渦コア(211)の周りを反時計回りの方向に回転する
ものであり、
外部磁場(42)が第1磁場方向とは反対の第2磁場方向(Hx)に与えられると、渦コア(211)は第2経路(212)に沿って動き、第1磁化(210)は
第1強磁性層(21)の平面内で渦コア(211)の周りを時計回りの方向に回転する
ものであり、
第1磁場経路及び第2磁場経路(212、213)が、両方とも実質的に同一であり、渦コア(211)をインデント(50)から遠ざける
ものであり、
第1強磁性層(21)は、アスペクト比(AR)が1と2の間の楕円形をしていて、インデント(50)のインデントの深さ(D)は、楕円の短軸(PA)の約0.1倍であり、
インデント(50)は、第1強磁性層(21)の外周に沿った凸状の周縁部(51)を備え、周縁部(51)の半径(Rd)は、インデントの深さ(D)の約0.5倍である、磁気素子。
【請求項2】
インデント(50)は、第1強磁性層(21)の周辺に沿った実質的に平坦な周辺部分(51)を備える、請求項1に記載の磁気素子。
【請求項3】
インデント(50)は、第1強磁性層(21)の周囲に沿った円形のノッチを備える、請求項1に記載の磁気素子。
【請求項4】
インデント(50)は、第1強磁性層(21)の周囲に沿った長方形又は長方形状のノッチを備える、請求項1に記載の磁気素子。
【請求項5】
前記磁気素子は1つより多いインデント(50)を備え、各インデント(50)の形状は、他のインデント(50)の形状に対して非対称である、請求項1から
4のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項6】
インデントの深さ(D)は、第1強磁性層(21)の平面内で、比較的小さい寸法の約10%から約30%の間の値である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項7】
第1強磁性層(21)は、約1.5のアスペクト比(AR)を有する、請求項
1から6のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項8】
インデントの深さ(D)は、第1強磁性層(21)の短軸(PA)の長さの約10%から約30%の間である、請求項
7に記載の磁気素子。
【請求項9】
周辺部分(51)は、外部磁場(42)の配向と実質的に平行に配向されている、請求項1から
8のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項10】
前記磁場装置は、外部磁場(42)を生成するべく磁場電流(41)を通過させるように配置された磁力線(40)を備える、請求項1から
9のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項11】
第1強磁性層(21)が、別のインデント(50)を少なくとも1つ備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の磁気素子。
【請求項12】
複数の前記磁気素子(10)を備える、請求項1から
10のいずれか一項に記載の磁気センサ。
【国際調査報告】