(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(54)【発明の名称】ガンの処置及び予後のための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/713 20060101AFI20220620BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220620BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220620BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20220620BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220620BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220620BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
A61K31/713
C12Q1/68
A61P35/00
A61K38/20
A61P43/00 121
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560988
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(85)【翻訳文提出日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2020060888
(87)【国際公開番号】W WO2020212586
(87)【国際公開日】2020-10-22
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】509319214
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ-エスト・クレテイユ・ヴァル・ドゥ・マルヌ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-EST CRETEIL VAL DE MARNE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ラフディル,フアド
(72)【発明者】
【氏名】パウロスキー,ジャン-ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】マシュー,カミラ
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ52
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
4C084AA18
4C084DA46
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
ガンは、身体の他の部位に浸潤し又は広がる可能性がある異常な細胞増殖を伴う疾患群である。特に、肝細胞ガン(HCC)は最も一般的な原発性肝悪性腫瘍となっている。現在の治療法は現在満足のいくものであり、したがって、新しい治療手段を特定するための重要な必要性がある。IL-27は肝臓の微小環境で産生されるサイトカインであるが、HCCの病因におけるその役割はこれまで調査されてこなかった。本発明者らは、ここで、IL-27がHCC細胞系において抗増殖活性を発揮することを示す。しかしながら、本発明者らは、HCCを患っている患者において、WSX-1(すなわち、IL-27受容体)の発現の低下がより悪い予後と関連し、腫瘍増殖に寄与することを示す。次に、本発明者らは、WSX-1の発現を抑制可能ないくつかのマイクロRNA(miR)を同定し、当該miRの過剰発現が患者におけるより悪い予後と関連していることを示す。最後に、本発明者らは、アンタゴミルがWSX-1の発現を回復し、それによりIL-27特性に対する腫瘍細胞の感作を回復できることを実証する。したがって、本発明は、ガン、特に肝細胞ガン(HCC)の処置及び予後のための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガンの処置を必要とする対象においてガンを処置する方法であって、
治療上有効量のmiR-324インヒビター及び/又はmiR-129インヒビターを患者に投与することを含む、方法。
【請求項2】
ガンが、肝細胞ガン(HCC)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
miRインヒビター化合物が、miR-324又はmiR-129とハイブリダイズするか又はmiR-324もしくはmiR-129の配列と相補的な配列を有する核酸等の化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
miRインヒビター化合物が、二本鎖RNA(例えば、短鎖又は低分子干渉RNAすなわち「siRNA」)、アンタゴミル、アンチセンス核酸、酵素性RNA分子、例えば、リボザイム並びにCRISPR関連エンドヌクレアーゼ及びガイドRNAを含む遺伝子編集システムからなる群より選択され、ここで、ガイドRNAが、miR-324又はmiR-129をコードする遺伝子内のターゲット核酸配列に相補的である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
miRインヒビターがIL-27と併用して患者に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ガンを患っている患者の生存期間を予測するための方法であって、
i)患者から得られたサンプル中のmiR-324の発現レベルを決定することと、
ii)工程iii)で決定された発現レベルを所定の基準値と比較することとを含み、
ここで、決定された発現レベルと該所定の基準値との間の差は、患者が長い又は短い生存期間を有するかどうかを示す、方法。
【請求項7】
ガンが、肝細胞ガン(HCC)である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
i)WSX-1の発現レベルを決定する工程と、ii)決定された発現レベルを対応する所定の値と比較する工程とを更に含む、請求項6記載の方法。
【請求項9】
miRNA(miR-324)の発現レベルが、所定の基準値より高い場合、患者は、短い生存期間を有する(「予後不良」)と結論付けられる、請求項6記載の方法。
【請求項10】
miRNA(miR-324)の発現レベルが、所定の基準値より低い場合、患者は、長い生存期間を有する(「良好な予後」)と結論付けられる、請求項6記載の方法。
【請求項11】
予後不良であると特定された患者に、請求項1記載のmiR阻害剤を投与する、請求項6記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ガン、特に、肝細胞ガンの処置及び予後のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ガンは、身体の他の部位に浸潤し又は広がる可能性がある異常な細胞増殖を伴う疾患群である。
【0003】
特に、肝細胞ガン(HCC)は、最も一般的な原発性肝悪性腫瘍となっている。現在、全悪性腫瘍中で、世界6位に位置付けられ、世界的にガンに起因する死亡原因の第3位に寄与している。HCC診断の顕著な進歩及び治癒戦略の改善にもかかわらず、HCC発生率は、1970年代以降連続的に上昇し、3倍になっている。HCCは、依然として生命を脅かす疾患であり、5年生存率は、西洋諸国では10%未満である。HCCの主なリスク因子は、B型肝炎又はC型肝炎ウイルス(それぞれHBV又はHCV)による慢性感染である。慢性肝炎は、肝硬変(線維化や異常な結節を伴う非ガン性肝疾患)に進行する場合があり、肝硬変は、HCCの発症リスクを高めてしまう。高齢、男性、肥満、アルコール乱用、糖尿病及び家族歴も、HCCの発症リスクの上昇と関連する変数である。先進国では、HCCの主な寄与因子としての非アルコール性脂肪肝炎(NASH)がますます見られるようになってきた。肥満の流行と糖尿病の有病率は、重要な役割を果たしていると想定される。
【0004】
HCCの現在の管理は、外科的切除/肝切除、肝臓移植(死体及び生体)、温アブレーション又は化学的アブレーション、化学塞栓療法及び医学的処置を含む。HCC進行の病態生理学的複雑さは、HCCの医学的処置を困難にしている。十分な腫瘍療法を提供することは困難であったが、同時に、肝機能及び患者の全身状態を維持していた。経口チロシンキナーゼインヒビターであるソラフェニブは、進行したHCCのためのゴールドスタンダードの処置選択肢であったが、生存期間中央値をわずか3か月延長させる、進行性HCCの生存率に軽度の改善しか示さなかった。一方、ソラフェニブに応答しなかった患者は依然として多く、副作用も著しい。現在、進行したHCCを有する患者のコホートにおける第三相ランダム化比較試験を受けた新規なキナーゼインヒビターであるレンバチニブも提唱されており、ソラフェニブと比較した場合、全生存期間に関して非劣性が示された。利用可能なセカンドライン薬剤は存在せず、したがって、新たな治療手段を見出す必要がある。HCCの病態生理は、進展中の話題であり、多因子性であると考えられる。HCCは、主に、硬変肝を生じ、線維形成を伴って炎症が繰り返され、その後、肝臓が悪性化しやすくなる。このように、炎症性微小環境は、HCCへの進行を開始する際に顕著な役割を果たす。過去10年間に、幾つかのタイプのガンの微小環境における一部の免疫細胞及びサイトカインが、抗腫瘍特性又は腫瘍促進特性について記載されている。
【0005】
これらのサイトカインの中でも、EBI3とIL-27p28サブユニットとから構成される二本鎖サイトカインであるIL-27は、IL-12ファミリーに属し、gp130とIL-27レセプターアルファ(WSX-1)サブユニットとから構成されるそのヘテロ二量体受容体を介してシグナル伝達する。前臨床腫瘍モデルにおいて得られた幾つかの証拠から、IL-27は、腫瘍特異的Th1及び細胞傷害性Tリンパ球(CTL)反応の誘引だけでなく、腫瘍細胞増殖、生存、浸潤性及び血管新生能に対する直接的な阻害作用に関連する強力な抗腫瘍活性を有することを示された(Fabbi M. et al. Mediators Inflamm. 2017;2017:3958069)。それにもかかわらず、その免疫レギュラトリー機能を考慮すると、ガンに対するIL-27の作用は二重である可能性があり、腫瘍促進作用も生じる可能性がある(Fabbi M. et al. Mediators Inflamm. 2017;2017:3958069)。HCCにおけるその役割は未だに調査されていない。文献には、IL-27は、主に、免疫細胞及び肝臓再生に寄与する肝細胞を含む上皮細胞により、肝臓において発現されることのみが報告されている(Guillot A. et al. Hepatol Commun. 2018 Jan 30;2(3):329-343)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の概要
特許請求の範囲により定義されたように、本発明は、ガンの処置及び予後のための方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の詳細な説明
ガンは、身体の他の部位に浸潤し又は広がる可能性がある異常な細胞増殖を伴う疾患群である。特に、肝細胞ガン(HCC)は、最も一般的な原発性肝悪性腫瘍となっている。HCCの治療選択肢及び診断における顕著な進歩にもかかわらず、より効果的な治療手段を特定するための重要な必要性が依然として存在する。IL-27は、肝臓微小環境において産生されるサイトカインであるが、HCCの病因におけるその役割は未だに調査されていない。ここで、本発明者らにより、IL-27がHCC細胞系統において抗増殖活性を発揮することが示される。一方、発明者らにより、HCCを患っている患者において、WSX-1(すなわち、IL-27レセプター)の発現の減少がより悪い予後と関連し、腫瘍細胞増殖に寄与することが示される。次いで、本発明者らにより、WSX-1の発現をレプレッション可能な幾つかのマイクロRNA(miR)が特定され、前記miRの過剰発現が患者のより悪い予後と関連することが示される。最後に、本発明者らにより、選択的アンタゴミルによりWSX-1の発現が回復し、これにより、IL-27特性に対する腫瘍細胞感作を回復させることができることが実証される。
【0008】
ガンの処置のための方法
したがって、本発明の第1の目的は、ガンの処置を必要とする患者においてガンを処置する方法であって、治療上有効量のmiR-324インヒビター及び/又はmiR-129インヒビターを患者に投与することを含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1.HCC患者における無病生存(DFS)及び全生存(OS)に対するWSX-1発現の影響 HCC患者における無病生存又は全生存の割合を腫瘍におけるWSX-1の強発現(高発現、n=40)又は低発現(n=71)に従って分析した。対数順位検定を使用して、統計的有意差(p値)を決定した。単変量Coxモデルを使用して、HR及びCI95%を推定した。略語:HR、ハザード比;CI95%、信頼区間(95%);HCC、肝細胞ガン。
【
図1B】
図1.HCC患者における無病生存(DFS)及び全生存(OS)に対するWSX-1発現の影響 HCC患者における無病生存又は全生存の割合を腫瘍におけるWSX-1の強発現(高発現、n=40)又は低発現(n=71)に従って分析した。対数順位検定を使用して、統計的有意差(p値)を決定した。単変量Coxモデルを使用して、HR及びCI95%を推定した。略語:HR、ハザード比;CI95%、信頼区間(95%);HCC、肝細胞ガン。
【
図2】
図2.WSX-1の発現欠如はヒトHCCにおける高い腫瘍増殖と相関する 高(MIB-1
high)又は低(MIB-1
low)腫瘍増殖のHCC患者におけるWSX-1の強い発現又は弱い発現の割合。カイ二乗検定を使用して、統計的有意差を決定した。
【
図3A】
図3.IL-27はHepG2においてin vitroで腫瘍細胞増殖を阻害するが、Hep3B細胞系統では阻害しない A.HepG2及びHep3B細胞における増殖細胞の定量化を、IL-27(50ng/mL)又はIL-27なしでの24時間、48時間又は72時間処理後のKi-67免疫染色を使用して決定した。
【
図3B】B.HepG2及びHep3B増殖を、IL-27処理(50ng/mL)の有無において、低付着条件下で培養7、13、17及び20日目にスフェロイド直径測定を使用して評価した。
**P<0.01、
***P<0.001 未処理対IL-27処理。データは、平均+/-SEMを表わす。
【
図4】
図4.WSX-1発現はHCC系統では減少する HepG2及びHep3B細胞系統と比較した初代ヒト肝細胞(PHH)におけるWSX-1発現の平均蛍光強度(MFI)レベルを示すフローサイトメトリーヒストグラム。
【
図5】
図5.HCCにおけるWSX-1発現の喪失をもたらすマイクロRNAの特定 HCC系統における選択されたマイクロRNA候補の検証。mir-129及びmir-324の絶対定量を初代ヒト肝細胞(PHH)、HepG2及びHep3B細胞においてqRT-PCRにより行った。
**P<0.01、
***P<0.001;PHH対HCC系統;HepG2対Hep3B細胞。データは、平均+/-SEMを表わす。略語:qRT-PCR、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応。
【
図6】
図6.mir-324及びmir-129の阻害によりin vitroでのHep3B細胞におけるWSX-1発現及びIL-27抗増殖効果が回復した WSX-1発現についての免疫細胞蛍光ラベルを陰性対照アンタゴミル(25nM)、アンタゴミル-324(25nM)又はアンタゴミル-129(25nM)で処理されたHep3B細胞において行った。核をDAPI.Cで対比染色した。Hep3B増殖を、IL-27処理(50ng/mL)、アンタゴミル-324(25nM)及びアンタゴミル-129(25nM)の有無において、低付着条件下で培養7、13、17及び20日目にスフェロイド直径測定を使用して評価した。
**P<0.01、
***P<0.001 未処理対IL-27処理。データは、平均+/-SEMを表わす。略語:A-129、アンタゴミル-129;A-324、アンタゴミル-324。
【
図7A】
図7.HCC患者におけるMir-324過剰発現はHCC再発のより高いリスクと関連する A)HCC患者由来のサンプルにおける選択されたマイクロRNA候補の検証。mir-129及びmir-324の絶対定量をHCC患者におけるqRT-PCRにより評価した。
*P<0.05、
**P<0.01;健康対WSX-1
low及びWSX‐1
high患者。データは、平均+/-SEMを表わす。
【
図7B】HCC患者の無病生存(DFS)の割合を腫瘍におけるB)mir-129強発現(高発現、n=31)又は低発現(n=37)及び
【
図7C】C)mir-324高発現(n=25)又は低発現(n=25)発現に従って決定した。
【
図7D】D)DFSをHCC患者(n=68)におけるWSX-1及びmir-324発現の両方にも従って決定した。対数順位検定を使用して、統計的有意差(p値)を決定した。単変量Coxモデルを使用して、HR及びCI95%を推定した。
【
図8】
図8.慢性DEN誘引HCCマウスモデルにおけるIL-27処理の有無でのアンタゴミル-324-5pの実験設計 C57Bl/6マウスに、生後2週目にDEN(25mg/kg)の初回注射を受けさせた。5週目から、DENを週2回、14週間(10mg/kg)慢性投与した。殺処分前4週間で、マウスにA324(5mg/kg、静脈内)を週2回処置し又は処置しなかった。また、マウスに、媒体又はIL-27の送達のための浸透圧ポンプを最後の4週間皮下移植した。略語:DEN:ジエチルニトロソアミン;A324:アンタゴミル-324-5p。
【
図9A】
図9.慢性DEN誘引HCCマウスモデルにおけるアンタゴミル-324-5p及びIL-27処置の影響 A.慢性DEN投与に伴ったマウス体重の追跡調査。
【
図9C】C.免疫組織化学後のWSX-1タンパク質発現分析及び半定量的スコア(0:発現なし~3:最高強度の染色)。データは、平均+/-SEMを表わす。略語:DEN:ジエチルニトロソアミン;CT neg アンタゴミル:アンタゴミル陰性対照;A324:アンタゴミル-324-5p。
【
図10A】
図10.慢性DEN誘引HCCマウスモデルにおける腫瘍及び線維症発症に対するアンタゴミル-324-5p及びIL-27処置の影響 A.IL-27及び/又はA324で処置し又は処置しなかったDEN注射マウス由来の肝臓におけるqPCRによるHCCマーカーのmRNA発現の分析。
【
図10B】B.IL-27及び/又はA324で処置し又は処置しなかったDEN注射マウスにおける半定量的スコアを使用する免疫染色によるRed Sirius発現の分析及びqPCRによる線維症マーカー発現のqPCRによる分析。データは、平均+/-SEMを表わす。略語:DEN:ジエチルニトロソアミン;PCR:ポリメラーゼ連鎖反応;CT neg アンタゴミル:アンタゴミル陰性対照;A324:アンタゴミル-324-5p。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で使用する場合、「ガン」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、造血ガン(例えば、血液由来腫瘍)及び非造血ガン(例えば、固形腫瘍)を含むが、これらに限定されない。ガンという用語は、皮膚、組織、臓器、骨、軟骨、血液及び血管の疾患を含む。「ガン」という用語は、原発性ガン及び転移性ガンの両方を更に包含する。本発明の方法及び組成物により処置することができるガンの例は、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、胃腸、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、頸部、卵巣、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌又は子宮由来の腫瘍細胞を含むが、これらに限定されない。加えて、ガンは、具体的には、下記組織型:新生物、悪性腫瘍;ガン;未分化ガン;巨細胞及び紡錘細胞ガン;小細胞ガン;乳頭ガン;扁平細胞ガン;リンパ上皮ガン;基底細胞ガン;石灰化上皮腫;移行上皮ガン;乳頭移行上皮ガン;腺ガン;悪性ガストリノーマ;胆管ガン;肝細胞ガン;複合肝細胞ガン及び胆管ガン;小柱腺ガン;腺様嚢胞ガン;腺腫性ポリープにおける腺ガン;家族性ポリポーシス腺ガン;固形ガン;悪性カルチノイド腫瘍;細気管支肺胞性腺ガン;乳頭腺ガン;色素嫌性ガン;好酸性ガン;好酸性腺ガン;好塩基性ガン;明細胞腺ガン;顆粒細胞ガン、濾胞腺ガン;乳頭及び濾胞腺ガン;非被包性硬化ガン;副腎皮質ガン;子宮内膜ガン;皮膚付属器ガン;アポクリン腺ガン;皮脂腺ガン;耳垢腺ガン;粘表皮ガン;嚢胞腺ガン;乳頭嚢胞腺ガン;乳頭状漿液性嚢胞腺ガン;粘液性嚢胞腺ガン;粘液性腺ガン;印環細胞ガン;浸潤性導管ガン;髄様ガン;小葉ガン;炎症性ガン;乳房パジェット病;腺房細胞ガン;腺扁平上皮ガン;異形成w/扁平腺ガン;悪性胸腺腫;悪性卵巣間質腫;悪性卵巣膜細胞腫;悪性顆粒膜細胞腫瘍及び悪性神経芽腫(roblastoma);セルトリ細胞ガン;悪性ライディッヒ細胞腫;悪性脂質細胞腫;悪性パラガングリオーマ;悪性乳房外パラガングリオーマ;褐色細胞腫;血管球血管肉腫;悪性メラノーマ、無色素性メラノーマ;表在拡大型メラノーマ;巨大色素性母斑における悪性メラノーマ;類上皮細胞メラノーマ;悪性青色母斑;肉腫;線維肉腫、悪性線維性組織球腫;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児性横紋筋肉腫;卵巣型横紋筋肉腫;間質性肉腫;悪性混合腫瘍;ミュラー管混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;ガン肉腫;悪性間葉腫;悪性ブレナー腫瘍;悪性葉状腫瘍;滑膜肉腫;悪性中皮腫;未分化胚細胞腫;胚性ガン;悪性奇形腫;悪性卵巣甲状腺腫;絨毛ガン;悪性中腎腫;血管肉腫;悪性血管内皮腫;カポジ肉腫;悪性血管外皮腫;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨性骨肉腫;軟骨肉腫;悪性軟骨芽細胞腫;間葉性軟骨肉腫;骨の巨細胞腫瘍;ユーイング肉腫;悪性歯原性腫瘍;エナメル上皮歯牙肉腫;悪性エナメル上皮腫;エナメル上皮線維肉腫;悪性松果体腫;脊索腫;悪性神経膠腫;上衣腫;星状細胞腫;原形質性星状細胞腫;線維性星状細胞腫;星芽細胞腫;膠芽腫;乏突起膠腫;乏突起膠芽腫;原始神経外胚葉性腫瘍;小脳肉腫;神経節芽細胞腫;神経芽細胞腫;網膜芽細胞腫;嗅神経原性腫瘍;悪性髄膜腫;神経線維肉腫;悪性神経鞘腫;悪性顆粒細胞腫瘍;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキンリンパ腫;側肉芽腫;悪性小細胞型リンパ球性リンパ腫;悪性びまん性大細胞型リンパ腫;悪性濾胞性リンパ腫;菌状息肉腫;その他の特定の非ホジキンリンパ腫;悪性組織球症;多発性骨髄腫;マスト細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ球性白血病;形質細胞白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞白血病;骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;マスト細胞白血病;巨核芽球性白血病;骨髄性肉腫及び有毛細胞白血病であることができるが、これらに限定されない。
【0011】
一部の実施態様では、本発明の方法は、肝細胞ガンの処置に特に適している。本明細書で使用する場合、「肝細胞ガン」又は「HCC」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、アルコール乱用、ウイルス性肝炎及び代謝性肝疾患を含むリスク因子を有する患者において発症する可能性がある肝細胞由来の悪性腫瘍を指す。HCCは、肝臓ガンの一種である。HCCは、線維性間質を欠いているため、出血及び壊死を起こす可能性がある。特に、門脈系の血管侵入がよくみられる。侵襲性HCCは、肝破裂及び腹腔内出血を引き起こす場合がある。
【0012】
本明細書で使用する場合、「処置」又は「処置する」は、臨床結果を含む有益な又は所望の結果を得るためのアプローチである。本発明の目的で、有益な又は所望の臨床結果は、下記:疾患から生じる1つ以上の症状を軽減すること、疾患の程度を減少させること、疾患を安定化させること(例えば、疾患の悪化を予防し又は遅延させること)、疾患の広がり(例えば、転移)を予防しもしくは遅延させること、疾患の再発を予防しもしくは遅延させること、疾患の進行を遅延させもしくは遅らせること、疾患状態を改善すること、疾患の寛解(部分的又は全体的)を提供すること、疾患を処置するのに必要な1種以上の他の薬剤の用量を減少させること、生活の質を向上させること及び/又は生存を延長することのうちの1つ以上を含むが、これらに限定されない。また、「処置」には、ガンの病理学的結果の減少も包含される。本発明の方法は、処置のこれらの態様うちのいずれか1つ以上を企図する。一部の実施態様では、「処置する」又は「処置」という用語は、治療的処置及び予防的(prophylactic)又は予防的(preventative)処置の両方を指す。ここで、本目的は、ターゲット疾患を予防し又は鈍化させる(軽減する)ことである。したがって、一部の実施態様では、治療を必要とするものは、既に障害を有するもの及び障害を有する傾向があるもの又は障害が予防されるものを含む場合がある。
【0013】
本明細書で使用する場合、「マイクロRNA」又は「miRNA」という用語は、長さが約21~23ヌクレオチド(nt)であるRNAi剤を指す。miRNAは、長さが18~26ヌクレオチドの範囲であることができる。典型的には、miRNAは、一本鎖である。ただし、種々の実施態様では、miRNAは、少なくとも部分的に二本鎖であることができる。特定の実施態様では、miRNAは、RNA二重鎖(本明細書において、「二重鎖領域」と呼ばれる)を含むことができ、場合により、1つ又は2つの一本鎖オーバーハングを更に含むことができる。種々の実施態様では、RNAi剤は、長さが15~29の範囲の二重鎖領域を含み、場合により、1つ又は2つの一本鎖オーバーハングを更に含む。miRNAは、一緒にハイブリダイズする2つのRNA分子から形成することができ又は代替的に、自己ハイブリダイズする部分を含む単一のRNA分子から生成することができる。一般的には、miRNA分子の遊離5’末端は、リン酸基を有し、遊離3’末端は、ヒドロキシル基を有する。miRNAの二重鎖部分は、通常、ただし必ずしも必要ではないが、1つ以上の不対ヌクレオチドからなる1つ以上の膨らみを含む。miRNAの一方の鎖は、ターゲットRNAとハイブリダイズする部分を含む。本発明の特定の実施態様では、miRNAの一方の鎖は、ターゲットRNAの領域と正確に相補的ではない。これは、miRNAが1つ以上のミスマッチでターゲットRNAにハイブリダイズすることを意味する。本発明の他の実施態様では、miRNAの一方の鎖は、ターゲットRNAの領域と正確に相補的である。これは、miRNAがミスマッチなしにターゲットRNAにハイブリダイズすることを意味する。典型的には、miRNAは、ターゲット転写物の翻訳を阻害することにより、遺伝子発現の阻害を媒介すると考えられる。ただし、種々の実施態様では、miRNAは、ターゲット転写物の分解を引き起こすことにより、遺伝子発現の阻害を媒介することができる。
【0014】
本明細書で使用する場合、「miR-324」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、miRBaseアクセッション番号MI0000813でデータベースhttp://mirbase.orgから入手可能なmiR(hsa-miR-324)を指す。この用語は、成熟配列hsa-miR-324-5p(MIMAT0000761、配列番号:1)及びhsa-miR-324-3p(MIMAT0000762、配列番号:2)を包含する。
【0015】
【0016】
本明細書で使用する場合、「miR-129」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、miRBaseアクセッション番号MI0000252でデータベースhttp://mirbase.orgから入手可能なmiR(hsa-miR-129-1)を指す。この用語は、成熟配列hsa-miR-129-5p(MIMAT0000242、配列番号:3)及びhsa-miR-129-1-3p(MIMAT0004548、配列番号:4)を包含する。
【0017】
【0018】
本明細書で使用する場合、「miRインヒビター化合物」という用語は、miR-324又はmiR-129の作用を妨害可能な任意の化合物を指す。本発明のmiRインヒビター化合物は、miR-324又はmiR-129の活性を阻害し又は低下させる化合物である。ただし、miR-324又はmiR-129の発現を阻害することにより、miR-324又はmiR-129の活性を低下させかつ/又は減少させることもできる。「miR-324又はmiR-129の発現を阻害する」という用語は、処置後の腫瘍細胞におけるmiR-324又はmiR-129の産生が処置前に産生される量より少なくし又は既存の量の活性を中和することを意味する。当業者であれば、例えば、miRNA転写物レベルを決定するための技術を使用して、miR-324又はmiR-129発現が腫瘍細胞において阻害されたかどうかを容易に決定することができる。
【0019】
一部の実施態様では、本発明のmiRインヒビター化合物は、miR-324もしくはmiR-129とハイブリダイズするか又はmiR-324もしくはmiR-129の配列と相補的な配列を有する核酸等の化合物である。一部の実施態様では、本発明のmiRインヒビター化合物は、miR-324又はmiR-129の配列に対して少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列相補性を有する核酸等の化合物である。
【0020】
適切なmiRインヒビター化合物は、二本鎖RNA(例えば、短鎖又は低分子干渉RNAすなわち「siRNA」)、アンタゴミル、アンチセンス核酸及び酵素性RNA分子、例えば、リボザイムを含む。これらの化合物はそれぞれ、所定のmiRNAをターゲットとし、ターゲットmiRNAを破壊し又はターゲットmiRNAの破壊を誘引することができる。例えば、所定のmiRNAの発現を、miRNA少なくとも一部と少なくとも90%、例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列相同性を有する単離された二本鎖RNA(「dsRNA」)分子により、miRNAのRNA干渉を誘引することにより阻害することができる。一部の実施態様では、dsRNA分子は、「短鎖又は低分子干渉RNA」すなわち「siRNA」である。
【0021】
本発明の方法に有用なsiRNAは、長さが約17ヌクレオチド~約29ヌクレオチド、好ましくは、長さが約19~約25ヌクレオチドの短い二本鎖RNAを含む。siRNAは、標準的なワトソン-クリック塩基対形成相互作用(以下、「塩基対形成」)により互いにアニーリングされたセンスRNA鎖と相補的なアンチセンスRNA鎖とを含む。センス鎖は、ターゲットmiRNA内に含まれる核酸配列と実質的に同一である核酸配列を含む。
【0022】
本明細書で使用する場合、ターゲットmRNA内に含まれるターゲット配列と「実質的に同一」であるsiRNA中の核酸配列は、ターゲット配列と同一であるか又はターゲット配列と1つもしくは2つのヌクレオチドが異なる核酸配列である。siRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖は、2つの相補的な一本鎖RNA分子を含むことができ又は2つの相補的部分が塩基対形成し、一本鎖の「ヘアピン」領域により共有結合された一本鎖分子を含むことができる。また、siRNAは、1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は改変により、天然RNAとは異なる改変されたRNAであることもできる。このような改変は、例えば、siRNAの末端もしくはsiRNAの1つ以上の内部ヌクレオチドへの非ヌクレオチド物質の付加又はsiRNAをヌクレアーゼ消化に対して耐性にする修飾又はsiRNA中の1つ以上のヌクレオチドのデオキシリボヌクレオチドによる置換を含むことができる。
【0023】
また、siRNAの一方又は両方の鎖は、3オーバーハングを含むこともできる。本明細書で使用する場合、「3’オーバーハング」は、二重RNA鎖の3’末端から延びる少なくとも1つの不対ヌクレオチドを指す。このため、一部の実施態様では、siRNAは、長さ1~約6ヌクレオチド(リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを含む)、好ましくは、長さ1~約5ヌクレオチド長、より好ましくは、長さ1~約4ヌクレオチド、特に好ましくは、長さ約2~約4ヌクレオチドの少なくとも1つの3’オーバーハングを含む。一部の実施態様では、3’オーバーハングは、siRNAの両方の鎖上に存在し、長さ2ヌクレオチドである。例えば、siRNAの各鎖は、ジチミジル酸(「TT」)又はジウリジル酸(「uu」)の3’オーバーハングを含むことができる。
【0024】
siRNAを化学的もしくは生物学的に産生することができ又は上記されたように、リコンビナントプラスミドもしくはウイルスベクターから発現させることができる。dsRNA又はsiRNA分子を産生し、試験するための例示的な方法は、Gewirtzの米国特許出願公開第2002/0173478号明細書及びReich et al,.の米国特許出願公開第2004/0018176号明細書に記載されている。これらの文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。
【0025】
また、所定のmiRNAの発現をアンチセンス核酸によっても阻害することができる。本明細書で使用する場合、「アンチセンス核酸」は、ターゲットRNAの活性を変化させる、RNA-RNAもしくはRNA-DNA又はRNA-ペプチド核酸相互作用によりターゲットRNAに結合する核酸分子を指す。本方法に使用するのに適したアンチセンス核酸は、miRNA中の連続的な核酸配列に相補的な核酸配列を一般的に含む一本鎖核酸(例えば、RNA、DNA、RNA-DNAキメラ、PNA)である。好ましくは、アンチセンス核酸は、miRNA中の連続的な核酸配列に50~100%相補的であり、より好ましくは、75~100%相補的であり、最も好ましくは、95~100%相補的である核酸配列を含む。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、アンチセンス核酸は、miRNA/アンチセンス核酸二重鎖を消化するRNase H又は一部の他の細胞ヌクレアーゼを活性化すると考えられる。
【0026】
一部の実施態様では、miRインヒビターは、アンタゴミル及び/又はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0027】
本明細書で使用する場合、「アンタゴミル」という用語は、miR-324又はmiR-129をサイレンシングするのに使用される化学的に操作された低分子RNAを指す。アンタゴミルは、誤対合又はある種の塩基修飾のいずれかを有して特定のmiRNAターゲットに対して相補的である。また、アンタゴミルは、それらを分解に対してより耐性にするために、ある種の修飾も含むことができる。一部の実施態様では、アンタゴミルは、化学的に操作されたコレステロールコンジュゲート一本鎖RNAアナログである。
【0028】
また、miR-324又はmiR-129の阻害をアンチセンス2’-O-メチル(2’-O-Me)オリゴリボヌクレオチド、2’-O-メトキシエチル(2’-O-MOE)、ホスホロチオアート、ロックド核酸(LNA)、モルホリノオリゴマーにより又はレンチウイルスもしくはアデノウイルス発現アンタゴミルの使用により達成することもできる(Stenvang and Kauppinen (2008), Expert Opin. Biol. Ther. 8(1):59-81)。更に、一本鎖RNAアナログのMOE(2’-O-メトキシエチルホスホロチオアート)又はLNA(ロックド核酸(LNA)ホスホロチオエート化学)-修飾を使用して、miRNA活性を阻害することができる。
【0029】
また、アンチセンス核酸は、ターゲット特異性、ヌクレアーゼ耐性、送達又は分子の効力に関連する他の特性を増強するために、核酸骨格又は糖部分及び塩基部分(又はそれらの同等物)の修飾も含むことができる。このような修飾は、コレステロール部分、二重鎖インターカレーター、例えば、アクリジン又は1つ以上のヌクレアーゼ耐性基の包含を含む。
【0030】
アンチセンス核酸を化学的もしくは生物学的に産生することができ又は以下に記載されるように、リコンビナントプラスミドもしくはウイルスベクターから発現させることができる。産生及び試験のための例示的な方法は、当業者の範囲内である。例えば、Stein and Cheng (1993), Science 261:1004及びWoolf et al,.の米国特許第5,849,902号明細書を参照のこと。これらの文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。
【0031】
また、所定のmiRNAの発現を酵素性核酸によっても阻害することができる。本明細書で使用する場合、「酵素性核酸」は、miRNAの連続的な核酸配列に対する相補性を有し、miRNAを特異的に開裂可能な基質結合領域を含む核酸を指す。好ましくは、酵素性核酸の基質結合領域は、miRNA中の連続的な核酸配列に対して50~100%相補的であり、より好ましくは、75~100%相補的であり、最も好ましくは、95~100%相補的である。また、酵素性核酸は、塩基、糖及び/又はホスファート基に修飾も含むことができる。本発明の方法に使用するための例示的な酵素性核酸は、リボザイムである。
【0032】
酵素性核酸を化学的もしくは生物学的に産生することができ又は以下に記載されるように、リコンビナントプラスミドもしくはウイルスベクターから発現させることができる。dsRNA又はsiRNA分子を産生し、試験するための例示的な方法は、Werner and Uhlenbeck (1995), Nucl. Acids Res. 23:2092-96;Hammann et al. (1999), Antisense and Nucleic Acid Drug Dev. 9:25-31及びCech et alの米国特許第4,987,071号明細書に記載されている。これらの文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。
【0033】
本発明のmiRインヒビター化合物を、多くの標準的な技術を使用して得ることができる。例えば、本発明のmiRインヒビター化合物を、当技術分野において公知の方法を使用して化学的に合成し又はリコンビナントに産生することができる。典型的には、本発明のmiRインヒビター化合物は、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホロアミダイト及び従来のDNA/RNA合成機を使用して化学的に合成される。合成RNA分子又は合成試薬の商業的供給者は、例えば、Proligo(Hamburg, Germany)、Dharmacon Research(Lafayette, Colo., USA)、Pierce Chemical(part of Perbio Science, Rockford, 111., USA)、Glen Research(Sterling, Va., USA)、ChemGenes(Ashland, Mass., USA)及びCruachem(Glasgow, UK)を含む。
【0034】
本発明の一部の実施態様では、本発明の合成miRインヒビター化合物は、1つ以上の設計要素を含有する。これらの設計要素は、(i)相補領域の5’末端におけるヌクレオチドのホスファート又はヒドロキシルのための置換基;(ii)1つ以上の糖修飾を含むが、これらに限定されない。特定の実施態様では、本発明の合成miRインヒビター化合物は、リン酸基及び/又はヒドロキシル基が別の化学基で置き換えられている(「置換設計」と呼ばれる)相補領域のその5’端にヌクレオチドを有する。ある場合には、リン酸基が置き換えられ、一方他の場合には、ヒドロキシル基が置き換えられている。特定の実施態様では、置換基は、ビオチン、アミン基、低級アルキルアミン基、アセチル基、2’O-Me(2’酸素-メチル)、DMTO(酸素を含む4,4’-ジメトキシトリチル)、フルオレセイン、チオール又はアクリジンであるが、他の置換基も、当業者に周知であり、同様に使用することができる。特定の実施態様では、糖修飾は、2’O-Me修飾である。更なる実施態様では、相補領域の最初もしくは最後の2~4残基又は相補領域の最初又もしくは最後の4~6残基に1つ以上の糖修飾が存在する。
【0035】
一部の実施態様では、本発明のmiRインヒビター化合物は、ヌクレアーゼによる分解に対して耐性である。当業者であれば、例えば、2’位で修飾された1つ以上のリボヌクレオチドをmiRNAに組み込むことにより、ヌクレアーゼ耐性の核酸を容易に合成することができる。適切な2’-修飾リボヌクレオチドは、2’-位がフルオロ、アミノ、アルキル、アルコキシ及びO-アリルで修飾されたものを含む。
【0036】
或いは、本発明のmiRインヒビター化合物を、任意の適切なプロモーターを使用して、リコンビナント線状又は環状DNAプラスミドから発現させることができる。プラスミドからRNAを発現させるのに適したプロモーターは、例えば、U6プロモーター配列又はサイトメガロウイルスプロモーターを含む。他の適切なプロモーターの選択は、当業者の範囲内である。また、本発明のリコンビナントプラスミドは、腫瘍細胞における本発明のmiRインヒビター化合物の発現のための誘引性又はレギュレーション可能なプロモーターも含むことができる。
【0037】
リコンビナントプラスミドから発現される本発明のmiRインヒビター化合物を標準的な技術により培養細胞発現系から単離することができる。また、リコンビナントプラスミドから発現される本発明のmiRインヒビター化合物を腫瘍細胞中に送達し、腫瘍細胞中で直接発現させることもできる。本発明のmiRインヒビター化合物を腫瘍細胞に送達するためのリコンビナントプラスミドの使用は、以下により詳細に検討されている。
【0038】
本発明のmiRインヒビター化合物は、別個のリコンビナントプラスミドから発現させることができ又は固有のリコンビナントプラスミドから発現させることができる。好ましくは、本発明のmiRインヒビター化合物は、単一のプラスミドから核酸前駆体分子として発現され、この前駆体分子は、腫瘍細胞内に存在するプロセシング系を含む適切なプロセシング系により、機能的miRインヒビター化合物にプロセシングされる。他の適切なプロセシング系は、例えば、Tuschl et alの米国特許出願公開第2002/0086356号明細書に記載されているin vitro Drosophila細胞ライゼート系及びYang et alの米国特許出願公開第2004/0014113号明細書に記載されているE. coli RNAse III系を含む。これらの文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。
【0039】
本発明のmiRインヒビター化合物を発現させるのに適したプラスミドの選択、核酸配列をプラスミドに挿入して遺伝子産物を発現させる方法及びリコンビナントプラスミドを目的の細胞に送達する方法は、当業者の範囲内である。例えば、Zeng et al. (2002), Molecular Cell 9:1327-1333;Tuschl (2002), Nat. Biotechnol, 20:446-448;Brummelkamp et al. (2002), Science 296:550-553;Miyagishi et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:497-500;Paddison et al. (2002), Genes Dev. 16:948-958;Lee et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:500-505及びPaul et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20:505-508を参照のこと。これらの文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。
【0040】
一部の実施態様では、本発明のmiRインヒビター化合物を発現するプラスミドは、CMV中間初期プロモーターの制御下でmiRインヒビター化合物前駆体をコードする配列を含む。本明細書で使用する場合、プロモーターの「制御下」は、核酸配列がプロモーターの3’に位置し、その結果、このプロモーターがmiRインヒビター化合物コード配列の転写を開始することができることを意味する。
【0041】
また、本発明のmiRインヒビター化合物をリコンビナントウイルスベクターからも発現させることができる。本発明のmiRインヒビター化合物を別個のリコンビナントウイルスベクターから又は固有のウイルスベクターから発現させることができることが意図される。リコンビナントウイルスベクターから発現されるmiRインヒビター化合物を標準的な技術により培養細胞発現系から単離することができ又は腫瘍細胞において直接発現させることができるかのいずれかである。miRインヒビター化合物を腫瘍細胞に送達するためのリコンビナントウイルスベクターの使用は、以下により詳細に検討されている。
【0042】
本発明のリコンビナントウイルスベクターは、本発明のmiR-324又はmiR-129インヒビター化合物をコードする配列と、miRインヒビター化合物配列を発現させるための任意の適切なプロモーターとを含む。適切なプロモーターは、例えば、U6もしくはHI RNA pol IIIプロモーター配列又はサイトメガロウイルスプロモーターを含む。他の適切なプロモーターの選択は、当業者の範囲内である。また、本発明のリコンビナントウイルスベクターは、腫瘍細胞におけるmiRインヒビター化合物の発現のための誘引性又はレギュレーション可能なプロモーターも含むことができる。
【0043】
本発明のmiRインヒビター化合物のためのコード配列を受容可能な任意のウイルスベクター、例えば、アデノウイルス(AV);アデノ随伴ウイルス(AAV);レトロウイルス(例えば、レンチウイルス(LV)、ラブドウイルス、マウス白血病ウイルス);ヘルペスウイルス等に由来するベクターを使用することができる。ウイルスベクターの親和性を、他のウイルス由来のエンベロープタンパク質もしくは他の表面抗原でベクターをシュードタイピングすることにより又は必要に応じて、種々のウイルスカプシドタンパク質を置換することにより改変することができる。例えば、本発明のレンチウイルスベクターを水疱性口内炎ウイルス(VSV)、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、Mokolaウイルス等に由来する表面タンパク質によりシュードタイピングすることができる。本発明のAAVベクターを、種々のキャプシドタンパク質血清型を発現するようにベクターを操作することにより、種々の細胞をターゲットとするように調製することができる。例えば、血清型2のゲノム上で血清型2のカプシドを発現するAAVベクターは、AAV 2/2と呼ばれる。AAV 2/2ベクター中のこの血清型2カプシド遺伝子を血清型5カプシド遺伝子に置き換えて、AAV 2/5ベクターを作製することができる。種々のカプシドタンパク質血清型を発現するAAVベクターを構築するための技術は、当業者の範囲内である。例えば、Rabinowitz J. E. et al. (2002), J Virol 76:791801を参照のこと。この文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。
【0044】
本発明での使用に適したリコンビナントウイルスベクターの選択、本発明の前記miRインヒビター化合物を発現させるための核酸配列をベクター内に挿入するための方法、ウイルスベクターを目的の細胞に送達する方法及び発現されたmiRインヒビター化合物産物の回収は、当業者の範囲内である。例えば、Dornburg (1995), Gene Therap. 2:301-310;Eglitis (1988), Biotechniques 6:608-614;Miller (1990), Hum. Gene Therap. 1:5-14及びAnderson (1998), Nature 392:25-30を参照のこと。これらの文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。
【0045】
好ましいウイルスベクターは、AV及びAAVに由来するものである。本発明のmiRインヒビター化合物を発現させるのに適したAVベクター、リコンビナントAVベクターを構築するための方法及びこのベクターをターゲット細胞内に送達するための方法は、Xia et al. (2002), Nat. Biotech. 20:1006-1010に記載されている。この文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。本発明のmiRインヒビター化合物を発現させるのに適したAAVベクター、リコンビナントAAVベクターを構築するための方法及びこのベクターをターゲット細胞内に送達するための方法は、Samulski et al. (1987), J. Virol. 61:3096-3101;Fisher et al. (1996), J. Virol., 70:520-532;Samulski et al. (1989), J. Virol. 63:3822-3826;米国特許第5,252,479号明細書;同第5,139,941号明細書;国際公開第94/13788号及び同第93/24641号に記載されている。これらの文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。好ましくは、本発明のmiRインヒビター化合物は、CMV中間初期プロモーターを含む単一のリコンビナントAAVベクターから発現される。
【0046】
一部の実施態様では、本発明のリコンビナントAAVウイルスベクターは、ヒトU6 RNAプロモーターの制御下でポリT終結配列と操作可能に連結させたmiRインヒビター化合物前駆体をコードする核酸配列を含む。本明細書で使用する場合、「ポリT終結配列と操作可能に連結させた」は、センス鎖又はアンチセンス鎖をコードする核酸配列がポリT終結シグナルに5’方向ですぐ隣り合うことを意味する。miRインヒビター化合物配列をベクターから転写する間、ポリT終結シグナルは、転写を終結させるように機能する。
【0047】
一部の実施態様では、miRインヒビターは、CRISPR関連エンドヌクレアーゼとガイドRNAとを含む遺伝子編集複合体からなり、ここで、ガイドRNAは、miR-324又はmiR-129をコードする遺伝子内のターゲット核酸配列に相補的である。
【0048】
本明細書で使用する場合、「CRISPR関連エンドヌクレアーゼ」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、塩基配列の短い反復を含有する原核生物DNAのセグメントに関連するクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピートを指す。細菌では、CRISPR/Casローカスにより、可動遺伝因子(ウイルス、転移因子及び接合性プラスミド)に対するRNA誘導適応免疫系がコードされる。CRISPR関連エンドヌクレアーゼCas9及びCpf1は、II型及びV型CRISPR/Cas系に属し、ターゲットDNAを切断するための強力なエンドヌクレアーゼ活性を有する。Cas9は、固有のターゲット配列(スペーサーと呼ばれる)の約20ヌクレオチドを含有する成熟crRNAと、プレcrRNAのリボヌクレアーゼIII補助プロセシングのためのガイドとして機能するトランス活性化低分子RNA(tracrRNA)とにより誘導される。crRNA:tracrRNA二重鎖により、crRNA上のスペーサーとターゲットDNA上の相補的配列(プロトスペーサーとよばれる)との間での相補的塩基対形成を介して、Cas9をターゲットDNAに向けられる。Cas9は、切断部位(PAMからの第3又は第4のヌクレオチド)を特定するために、トリヌクレオチド(NGG)プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する。crRNAとtracrRNAとを別々に発現させ又は合成ステムループを介して人工的な融合スモールガイドRNA(sgRNA)内に操作して、天然のcrRNA/tracrRNA二重鎖を模倣することができる。このようなsgRNA、例えば、shRNAを直接RNAトランスフェクションのために合成しもしくはin vitroで転写することができ又はU6もしくはH1促進RNA発現ベクターから発現させることができる。
【0049】
一部の実施態様では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼである。Cas9ヌクレアーゼは、野生型Streptococcus pyrogenes配列と同一のヌクレオチド配列を有することができる。一部の実施態様では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、他の種、例えば、他のStreptococcus種、例えば、thermophilus;Pseudomona aeruginosa、Escherichia coli又は他の配列決定された細菌ゲノム及び古細菌又は他の原核微生物由来の配列であることができる。或いは、野生型Streptococcus pyogenes Cas9配列を改変することができる。核酸配列は、ほ乳類細胞における効率的な発現に最適化された、すなわち、「ヒト化された」コドンであることができる。ヒト化Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、Genbankアクセッション番号KM099231.1 GL669193757;KM099232.1 GL669193761又はKM099233.1 GL669193765に列記されている発現ベクターのいずれかによりコードされるCas9ヌクレアーゼ配列であることができる。或いは、Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、市販のベクター、例えば、Addgene(Cambridge, MA)からのpX330、pX260又はpMJ920内に含まれる配列であることができる。一部の実施態様では、Cas9エンドヌクレアーゼは、Genbankアクセッション番号KM099231.1 GL669193757;KM099232.1 GL669193761もしくはKM099233.1 GL669193765のCas9エンドヌクレアーゼ配列のいずれかの変異体もしくはフラグメントであるアミノ酸配列又はpX330、pX260もしくはpMJ920(Addgene, Cambridge, MA)のCas9アミノ酸配列を有することができる。
【0050】
一部の実施態様では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、Cpf1ヌクレアーゼである。本明細書で使用する場合、「Cpf1タンパク質」という用語は、V型CRISPR-Cpf1系に由来するCpf1野生型タンパク質、Cpf1タンパク質の改変、Cpf1タンパク質の変異体、Cpf1オルソログ及びそれらの組み合わせを指す(to)。cpf1遺伝子は、Cas9の各ドメインと相同なRuvC様ヌクレアーゼドメインを有するが、Cas9タンパク質に存在するHNHヌクレアーゼドメインを欠くタンパク質であるCpf1をコードする。V型系は、Parcubacteria細菌 GWC2011_GWC2_44_17(PbCpf1)、Lachnospiraceae細菌 MC2017(Lb3 Cpf1)、Butyrivibrio proteoclasticus(BpCpf1)、Peregrinibacteria細菌 GW2011_GWA 33_10(PeCpf1)、Acidaminococcus亜種 BV3L6(AsCpf1)、Porphyromonas macacae(PmCpf1)、Lachnospiraceae細菌 ND2006(LbCpf1)、Porphyromonas crevioricanis(PcCpf1)、Prevotella disiens(PdCpf1)、Moraxella bovoculi 237(MbCpf1)、Smithella亜種 SC_K08D17(SsCpf1)、Leptospira inadai(LiCpf1)、Lachnospiraceae細菌 MA2020(Lb2Cpf1)、Franciscella novicida U112(FnCpf1)、Candidatus methanoplasma termitum(CMtCpf1)及びEubacterium eligens(EeCpf1)を含む幾つかの細菌において特定されてきた。近年、Cpf1は、RNase活性も有し、プレcrRNAプロセシングに関与することが実証されている(Fonfara, I., et al., 「The CRISPR-associated DNA-cleaving enzyme Cpf1 also processes precursor CRISPR RNA,」 Nature 28; 532(7600):517-21 (2016))。
【0051】
miRインヒビター化合物を、これらの化合物を腫瘍細胞に送達するのに適した任意の手段により、患者に投与することができる。例えば、miRインヒビター化合物を、これらの化合物で又はこれらの化合物をコードする配列を含む核酸で患者の細胞をトランスフェクションするのに適した方法により投与することができる。好ましくは、細胞は、少なくとも1種のmiRインヒビター化合物をコードする配列を含むプラスミド又はウイルスベクターでトランスフェクションされる。
【0052】
miRインヒビター化合物を任意の適切な経腸又は非経口投与経路により患者に投与することができる。本方法に適した経腸投与経路は、例えば、経口、直腸又は鼻腔内送達を含む。適切な非経口投与経路は、例えば、血管内投与(例えば、静脈内ボーラス注射、静脈内注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入及び血管系へのカテーテル注入);組織周囲及び組織内注射(例えば、網膜内注射又は網膜下注射);皮下注射又はデポジション(皮下注入を含む)(例えば、浸透圧ポンプによる);例えば、カテーテル又は他の配置装置(例えば、多孔性、非多孔性又はゼラチン状物質を含むインプラント)による目的の組織への直接適用;並びに吸入を含む。好ましい投与経路は、腫瘍組織への注射、注入及び直接注射である。
【0053】
本方法において、miRインヒビター化合物をネイキッドなRNAとして、送達試薬と組み合わせて又はmiRインヒビター化合物を発現する配列を含む核酸(例えば、リコンビナントプラスミド又はウイルスベクター)としてのいずれかで、患者に投与することができる。適切な送達試薬は、例えば、Minis Transit TKO親油性試薬;リポフェクチン;リポフェクタミン;セルフェクチン;ポリカチオン(例えば、グルコース溶液と混合されるとナノ粒子(50nm未満)になるポリエチレンイミン又は例えば、ポリリシン)及びリポソームを含む。
【0054】
miRインヒビター化合物を発現する配列を含むリコンビナントプラスミド及びウイルスベクター並びにこのようなプラスミド及びベクターを送達するための技術は上記検討されている。
【0055】
一部の実施態様では、リポソームは、miR阻害化合物(又はそれをコードする配列を含む核酸)を患者に送達するのに使用される。また、リポソームは、遺伝子産物又は核酸の血中半減期を延長させることもできる。本発明に使用するのに適したリポソームを、一般的には中性又は負に荷電したリン脂質及びステロール、例えば、コレステロールを含む標準的な小胞形成脂質から形成することができる。脂質の選択は、一般的には、所望のリポソームサイズ及び血流中でのリポソームの半減期等の要因を考慮することにより導かれる。
【0056】
各種の方法が、例えば、Szoka et al. (1980), Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467並びに米国特許第4,235,871号明細書、同第4,501,728号明細書、同第4,837,028号明細書及び同第5,019,369号明細書に記載されているように、リポソームを調製するのに公知である。これらの文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。本方法に使用するためのリポソームは、リポソームを腫瘍細胞にターゲット化するリガンド分子を含むことができる。腫瘍細胞に存在するレセプターに結合するリガンド、例えば、ガン細胞抗原に結合するモノクローナル抗体が好ましい。また、本方法に使用するためのリポソームを、単核マクロファージ系(「MMS」)及び細網内皮系(「RES」)によるクリアランスを回避するように改変することもできる。このような改変リポソームは、表面にオプソニン化阻害部分を有するか又はリポソーム構造に組み込まれる。特に好ましい実施態様では、本発明のリポソームは、オプソニン化阻害部分及びリガンドの両方を含むことができる。
【0057】
本発明のリポソームを調製するのに使用するためのオプソニン化阻害部分は、典型的には、リポソーム膜に結合される大きな親水性ポリマーである。本明細書で使用する場合、オプソニン化阻害部分は、例えば、膜自体への脂質可溶性アンカーのインターカレーションにより又は膜脂質の活性基に直接結合することにより、膜に化学的又は物理的に付着すると、リポソーム膜に「結合」される。これらのオプソニン化阻害親水性ポリマーは、例えば、米国特許第4,920,016号明細書に記載されているように、MMS及びRESによるリポソームの取り込みを顕著に減少させる保護表面層を形成する。この文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。リポソームを改変するのに適したオプソニン化阻害部分は、好ましくは、約500~約40,000ダルトン、より好ましくは、約2,000~約20,000ダルトンの数平均分子量を有する水溶性ポリマーである。このようなポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリプロピレングリコール(PPG)誘導体;例えば、メトキシPEG又はPPG及びPEG又はPPGステアラート;合成ポリマー、例えば、ポリアクリルアミド又はポリN-ビニルピロリドン;直鎖、分枝鎖又は樹状ポリアミドアミン;ポリアクリル酸;ポリアルコール、例えば、カルボキシル基又はアミノ基が化学的に結合しているポリビニルアルコール及びポリキシリトール)並びにガングリオシド、例えば、ガングリオシドGM1を含む。PEG、メトキシPEGもしくはメトキシPPG又はそれらの誘導体のコポリマーも適切である。加えて、オプソニン化阻害ポリマーは、PEGと、ポリアミノ酸、多糖類、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン又はポリヌクレオチドのいずれかとのブロックコポリマーであることができる。また、オプソニン化阻害ポリマーは、アミノ酸もしくはカルボン酸を含有する天然多糖類、例えば、ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラギーナン;アミノ化(animated)多糖類もしくはオリゴ糖類(線状又は分枝状)又は例えば、カルボン酸の誘導体と反応し、カルボキシル基の結合を生じるカルボキシル化多糖類もしくはオリゴ糖類であることができる。好ましくは、オプソニン化阻害部分は、PEG、PPG又はそれらの誘導体である。PEG又はPEG誘導体で改変されたリポソームは、「PEG化リポソーム」と呼ばれることもある。
【0058】
オプソニン化阻害部分を多くの周知の技術のいずれか1つによりリポソーム膜に結合させることができる。例えば、PEGのN-ヒドロキシスクシンイミドエステルをホスファチジル-エタノールアミン脂溶性アンカーに結合させ、次いで、膜に結合させることができる。同様に、デキストランポリマーを、ステアリルアミン脂溶性アンカーにより、Na(CN)BH3及び溶媒混合物、例えば、テトラヒドロフラン及び水(30:12の比率)を使用する還元的アミノ化(animation)を介して、60℃で誘導体化することができる。
【0059】
オプソニン化阻害部分で改変されたリポソームは、未改変リポソームよりはるかに長く循環中に残る。このため、このようなリポソームは、「ステルス」リポソームと呼ばれることがある。ステルスリポソームは、多孔性又は「漏出性」微小血管系により供給される組織に蓄積することが公知である。このため、このような微小血管系の欠陥により特徴付けられる組織は、これらのリポソームを効率的に蓄積する。Gabizon, et al. (1988), Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 18:6949-53を参照のこと。加えて、RESによる取り込みの減少は、肝臓及び脾臓におけるリポソームの著しい蓄積を妨げることにより、ステルスリポソームの毒性を低下させる。このため、オプソニン化阻害部分で改変されたリポソームは、miRインヒビター化合物(又はそれをコードする配列を含む核酸)を腫瘍細胞に送達するのに特に適している。
【0060】
当業者であれば、患者のサイズ及び体重;疾患浸透の程度;患者の年齢、健康及び性別;投与経路;並びに投与が局所的である又は全身的であるかどうか等の要因を考慮することにより、所定の患者に投与されるべき前記化合物の治療上有効量を容易に決定することができる。前記化合物の有効量は、処置される患者のおおよその体重又は推定体重に基づくことができる。好ましくは、このような有効量は、本明細書に記載されたように、非経口的又は経腸的に投与される。例えば、患者に投与される化合物の有効量は、約5~10000マイクログラム/kg 体重の範囲であることができ、好ましくは、約5~3000マイクログラム/kg 体重であり、好ましくは、約700~1000マイクログラム/kg 体重であり、より好ましくは、約1000マイクログラム/kg 体重超である。また、当業者であれば、所定の患者への化合物の投与のための適切な投与計画も容易に決定することができる。例えば、該化合物を患者に1回(例えば、単回注射又はデポジションとして)投与することができる。
【0061】
一部の実施態様では、本発明のmiRインヒビターは、化学療法と組み合わせて患者に投与される。「化学療法剤」又は「化学療法剤」という用語は、本明細書において互換的に使用され、ガン及び新生物の処置に使用することができる薬剤を指す。一部の実施態様では、化学療法剤は、細胞傷害性形態に活性化させることができるプロドラッグの形態にあることができる。化学療法剤は、当業者に一般的に公知であり、本発明での使用に包含される。
【0062】
一部の実施態様では、本発明のmiRインヒビターは、ソラフェニブ(すなわち、ソラフェニブトシラート並びにソラフェニブの他の薬学的に許容し得る形態である塩及びエステル)と組み合わせて患者に投与される。ソラフェニブは、ソラフェニブのトシラート塩であるNEXAVAR(登録商標)として市販されている。ソラフェニブトシラートの化合物名は、4-(4-{3-[4-クロロ-3(トリフルオロメチル)フェニル]ウレイド}フェノキシ)N-メチルピリジン-2-カルボキサミド 4-メチルベンゼンスルホナートである。
【0063】
一部の実施態様では、本発明のmiRインヒビターは、単独で又はIL-27と組み合わせて、患者に投与される。本明細書で使用される場合、「IL-27」という用語は、本明細書において、サブユニットp28及びEBI3を含むヘテロ二量体サイトカインを指す。p28及びEBI3の例示的なアミノ酸配列はそれぞれ、配列番号:5及び配列番号:6により表わされる。この用語は、全長の未処理のIL-27及び細胞におけるプロセシングにより生じる任意の形態のIL-27又はその任意のフラグメントを包含する。また、この用語は、IL-27の天然の変異体、例えば、スプライス変異体又はアレル変異体を包含する。一部の実施態様では、IL-27は、配列番号:5のアミノ酸配列を有するp28(IL-27Aとも呼ばれる)及び配列番号:6のアミノ酸配列を有するEB13(IL-27Bとも呼ばれる)を含むヒトIL-27である。
【0064】
【0065】
本発明のmiRインヒビター化合物は、好ましくは、当技術分野において公知の技術に従って、患者に投与する前に、医薬組成物として製剤化される。本発明の医薬組成物は、少なくとも無菌かつ発熱物質を含まないことを特徴とする。本明細書で使用する場合、「医薬製剤」は、ヒト及び獣医学的使用のための製剤を含む。本発明の医薬組成物を調製するための方法は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1985)に記載されているように、当業者の範囲内である。この文献の開示全体は、参照により本明細書に援用される。
【0066】
本医薬製剤は、薬学的に許容し得る担体と混合されたmiRインヒビター化合物(例えば、0.1~90重量%)又はその生理学的に許容し得る塩を含む。また、本発明の医薬製剤は、リポソーム及び薬学的に許容し得る担体によりカプセル化されたmiRインヒビター化合物も含むことができる。好ましい薬学的に許容し得る担体は、水、緩衝水、通常の生理食塩水、0.4% 生理食塩水、0.3% グリシン、ヒアルロン酸等である。
【0067】
また、本発明の医薬組成物は、従来の医薬賦形剤及び/又は添加剤も含むことができる。適切な医薬賦形剤は、安定剤、酸化防止剤、浸透圧調整剤、バッファー及びpH調整剤を含む。適切な添加剤は、例えば、生理学的に生体適合性のバッファー(例えば、塩酸トロメタミン)、キレート剤(例えば、DTPA又はDTPAビスアミド等)又はカルシウムキレート錯体(例えば、DTPAカルシウム、CaNaDTPA-ビスアミド)の添加又は場合により、カルシウムもしくはナトリウム塩(例えば、塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム又は乳酸カルシウム)の添加を含む。本発明の医薬組成物は、液体形態で使用するために包装することができ又は凍結乾燥させることができる。
【0068】
ガンの予後のための方法
本発明の第1の目的は、ガンを患っている患者の生存期間を予測する方法であって、i)患者から得られたサンプル中のmiR-324の発現レベルを決定することと、ii)工程i)で決定された発現レベルを所定の基準値と比較することとを含み、ここで、決定された発現レベルと前記所定の基準値との間の差が、患者が長い生存期間又は短い生存期間を有するかどうかを示す、方法に関する。
【0069】
一部の実施態様では、該方法は、肝細胞ガン(HCC)を患っている患者の生存期間を予測するのに特に適している。
【0070】
本発明の方法は、ガン患者の全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)及び/又は無病生存期間(DFS)を予測するのに特に適している。当業者であれば、OS生存期間が一般的には、特定の時間量についての特定のタイプのガンを生き残る人々の割合に基づいており、その割合として表わされることを認識する。ガンの統計では、多くの場合、全体の5年生存率が使用される。一般的には、OS率では、ガン生存者が5年時点で依然として処置を受けているかどうか又はガンを患っていなくなった(寛解を達成した)かどうかは特定されていない。DFSは、より具体的な情報を提供し、寛解を達成した特定のガンを有する患者の数である。また、無増悪生存(PFS)率(ガンを未だに有するが、その疾患が進行しない人々の数)は、処置がある程度成功した可能性があるが、ガンは完全には消えていない人々を含む。本明細書で使用する場合、「短い生存期間」という表現は、患者が前記ガンを患っている患者の一般的な集団において観察される中央値(又は平均値)より短い生存期間を有することを示す。患者が、短い生存期間を有する場合、その患者は、「予後不良」を有することを意味する。逆に、「長い生存期間」という表現は、患者が前記ガンを患っている患者の一般的な集団において観察される中央値(又は平均値)より長い生存期間を有することを示す。患者が、長い生存期間を有する場合、その患者は、「良好な予後」を有することを意味する。
【0071】
本明細書で使用する場合、「サンプル」という用語は、in vitroでの評価の目的から得られる任意の生体サンプルを指す(to)。
【0072】
一部の実施態様では、生体サンプルは、体液サンプルである。体液の例は、血液、血清、血漿、羊水、脳/脊髄液、髄液、脳脊髄液、痰、咽喉及び咽頭分泌物並びに他の粘膜分泌物、滑液、腹水、涙液、リンパ液及び尿である。とりわけ、サンプルは、血液サンプルである。本明細書で使用する場合、「血液サンプル」という用語は、患者から得られた全血サンプルを意味する。
【0073】
一部の実施態様では、サンプルは、組織腫瘍サンプルである。「腫瘍組織サンプル」という用語は、患者に由来する任意の組織腫瘍サンプルを意味する。前記組織サンプルは、in vitro評価の目的で得られる。一部の実施態様では、腫瘍サンプルを患者から切除された腫瘍から得ることができる。一部の実施態様では、腫瘍サンプルを患者の原発性腫瘍に行われるか又は患者の原発性腫瘍から離れた転移サンプルに行われる生検から得ることができる。一部の実施態様では、腫瘍組織サンプルは、(i)原発性腫瘍全体(全体として)、(ii)腫瘍の中心からの組織サンプル、(iii)腫瘍に近接したリンパ島(lymphoid islet)、(iv)腫瘍に最も近位に位置するリンパ節、(v)(例えば、処置後の患者の追跡のために)手術前に収集された腫瘍組織サンプル及び(vi)遠隔転移を包含する。一部の実施態様では、腫瘍組織サンプルは、特に組織学又は免疫組織化学法により、フローサイトメトリー法により並びにゲノム及びプロテオミクス分析を含む遺伝子又はタンパク質発現分析の方法によりmiRNAの幾らかの発現レベルを更に定量するための、外科的腫瘍切除後又は生検のための組織サンプルの収集後を含む、腫瘍から取り出された組織の断片又はスライスを包含する。腫瘍組織サンプルは、当然、各種の周知の収集後の調製及び保存技術(例えば、固定、保存、凍結等)に耐えることができる。サンプルは、新鮮なもの、凍結させたもの、固定されたもの(例えば、ホルマリン固定)又は包埋されたもの(例えば、パラフィン包埋)であることができる。
【0074】
本発明によれば、患者から得られたサンプル中の本発明のmiRNAの発現レベルの測定を各種の技術により行うことができる。例えば、サンプルに含まれる核酸は、まず、標準的な方法に従って、例えば、溶解酵素もしくは化学溶液を使用して抽出され又は製造業者の指示に従って核酸結合樹脂により抽出される。サンプルからRNAを単離するための従来の方法及び試薬は、Qiasymphony RNAキット(Qiagen)、High Pure miRNA単離キット(Roche)、Trizol(Invitrogen)、グアニジンチオシアナート-フェノール-クロロホルム抽出、PureLink(商標)miRNA単離キット(Invitrogen)、PureLink マイクロ~ミディ全RNA精製システム(Invitrogen)、RNeasyキット(Qiagen)、miRNeasyキット(Qiagen)、Oligotexキット(Qiagen)、フェノール抽出、フェノール-クロロホルム抽出、TCA/アセトン沈殿、エタノール沈殿、カラム精製、シリカゲル膜精製、PureYield(商標)RNA Midiprep(Promega)、PolyATtractシステム1000(Promega)、Maxwell(登録商標)16システム(Promega)、SV Total RNA Isolation(Promega)、geneMAG-RNA/DNAキット(Chemicell)、TRI試薬(登録商標)(Ambion)、RNAqueousキット(Ambion)、ToTALLY RNA(商標)キット(Ambion)、Poly(A)Purist(商標)キット(Ambion)及び市販されているか又はそうでないかに関わらず当業者に当業者に公知の任意の他の方法を含む。サンプル中の1種以上のmiRNAの発現レベルを任意の適切な方法により決定することができる。サンプル中のmiRNAのレベル又は量を測定するための任意の信頼できる方法を使用することができる。一般的には、miRNAを例えば、増幅に基づく方法(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)、ローリングサークル増幅等)、ハイブリダイゼーションに基づく方法(例えば、ハイブリダイゼーションアレイ(例えば、マイクロアレイ)、NanoString分析、ノーザンブロット分析、分岐DNA(bDNA)シグナル増幅、in situハイブリダイゼーション等)及び配列決定に基づく方法(例えば、Illumina又はIonTorrentプラットフォーム等を使用する次世代配列決定方法)を含む、mRNAについて公知の種々の方法により、単離されたRNAのサンプル等のサンプル(その画分を含む)から検出し、定量することができる。他の例示的な技術は、リボヌクレアーゼ保護アッセイ(RPA)及び質量分光法を含む。
【0075】
一部の実施態様では、RNAは、分析前にDNA(cDNA)に変換される。cDNAを、従来技術を使用して、単離されたmiRNAの逆転写により生成することができる。miRNA逆転写キットは公知であり、市販されている。適切なキットの例は、mirVana TaqMan(登録商標)miRNA転写キット(Ambion, Austin, TX)及びTaqMan(登録商標)miRNA転写キット(Applied Biosystems, Foster City, CA)を含むが、これらに限定されない。ユニバーサルプライマー、又はmiRNA特異的ステム-ループプライマーを含む特異的プライマーは公知であり、例えば、Applied Biosystemsから市販されている。一部の実施態様では、miRNAは、測定前に増幅される。一部の実施態様では、miRNAの発現レベルは、増幅プロセスの間に測定される。一部の実施態様では、miRNAの発現レベルは、測定前に増幅されない。サンプル中のmiRNAの発現レベルを決定するのに適した幾つかの例示的な方法は、以下により詳細に記載される。これらの方法は、例示のためにのみ提供され、他の適切な方法を同様に使用することができることは当業者に明らかである。
【0076】
miRNA核酸配列の発現レベルを検出するための多くの増幅に基づく方法が存在する。これは、PCR、RT-PCR、qPCR及びローリングサークル増幅を含むが、これらに限定されない。他の増幅に基づく技術は、例えば、リガーゼ連鎖反応(LCR)、多重連結可能プローブ増幅、in vitro転写(IVT)、鎖置換増幅(SDA)、転写媒介増幅(TMA)、核酸配列に基づく増幅(NASBA)、RNA(Eberwine)増幅及び当業者に公知の他の方法を含む。典型的なPCR反応は、ターゲット核酸種を選択的に増幅する複数の工程又はサイクル:ターゲット核酸が変性される変性工程;PCRプライマーのセット(すなわち、順方向プライマー及び逆方向プライマー)が相補的DNA鎖にアニーリングするアニーリング工程;及び熱安定性DNAポリメラーゼによりプライマーを伸長させる伸長工程を含む。これらの工程を複数回繰り返すことにより、DNAプラグメントを増幅して、ターゲット配列に対応するアンプリコンを生成する。典型的なPCR反応は、20サイクル以上の変性、アニーリング及び伸長を含む。多くの場合、アニーリング工程及び伸長工程を同時に行うことができ、この場合、サイクルは、2つの工程のみを含有する。逆転写反応(miRNAに相補性を有するcDNA配列を産生する)をPCR増幅前に行うことができる。逆転写反応は、例えば、RNAベースのDNAポリメラーゼ(逆転写酵素)及びプライマーの使用を含む。miRNAの定量的リアルタイムPCRのためのキットは公知であり、市販されている。適切なキットの例は、TaqMan(登録商標)miRNAアッセイ(Applied Biosystems)及びmirVana(商標)qRT-PCR miRNA検出キット(Ambion)を含むが、これらに限定されない。miRNAを、逆転写酵素の前に、ユニバーサルプライマー配列、ポリアデニル化配列又はアダプター配列を含有する一本鎖オリゴヌクレオチドにライゲーションさせることができ、ユニバーサルプライマー配列に相補的なプライマー、ポリ(T)プライマー又はアダプター配列に相補的な配列を含むプライマーを使用して増幅することができる。一部の実施態様では、カスタムqRT-PCRアッセイをmiRNAレベルの決定のために開発され得る。サンプル中のmiRNAを測定するためのカスタムqRT-PCRアッセイを、例えば、伸長された逆転写プライマー及びロックド核酸改変PCRを含む方法を使用して開発することができる。カスタムmiRNAアッセイを、ターゲット配列に対応する化学合成されたmiRNAの希釈系列でアッセイを行うことにより試験することができる。これにより、各アッセイの検出限界及び定量の線形範囲の決定が可能となる。更に、検量線として使用される場合、これらのデータにより、サンプル中で測定されたmiRNAの絶対存在量の推定が可能となる。増幅曲線を場合によりチェックして、Ct値が各増幅プロットの線形範囲で評価されるのを検証することができる。典型的には、線形範囲は、数桁にわたる。アッセイされる各候補miRNAについて、化学合成されたバージョンのmiRNAを取得し、希釈系列で分析して、アッセイの感度限界及び定量の線形範囲を決定することができる。相対発現レベルを例えば、Livak et ah, Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and 2(-ΔΔ C(T))Method. Methods (2001) Dec;25(4):402-8に記載されている2(-ΔΔC(T))法に従って決定することができる。
【0077】
一部の実施態様では、2種以上のmiRNAが、単一の反応容量において増幅される。例えば、多重q-PCR、例えば、qRT-PCRにより、2対以上のプライマー及び/又は2種以上のプローブを使用することにより、1つの反応容量において、目的の少なくとも2種のmiRNAの同時増幅及び定量が可能となる。プライマー対は、各miRNAに特異的に結合する少なくとも1つの増幅プライマーを含み、プローブは、それらが互いに区別可能であるようにラベルされるため、複数のmiRNAの同時定量が可能となる。
【0078】
ローリングサークル増幅は、等温条件下で線形又は幾何学的動力学のいずれかで環状オリゴヌクレオチドプローブを複製することができるDNAポリメラーゼ駆動反応である(例えば、Lizardi et al., Nat. Gen. (1998) 19(3):225-232;Gusev et al, Am. J. Pathol. (2001) 159(l):63-69;Nallur et al, Nucleic Acids Res. (2001) 29(23):E118を参照のこと)。DNAの(+)鎖にハイブリダイズするプライマーと(-)鎖にハイブリダイズするプライマーとの2つのプライマーの存在下で、鎖置換の複雑なパターンにより、90分以内に各DNA分子の109コピーを超える生成が生じる。閉環DNA分子のタンデム連結コピーを、単一のプライマーを使用することにより形成することができる。また、このプロセスを、マトリックス結合DNAを使用して行うこともできる。ローリングサークル増幅に使用されるテンプレートを逆転写することができる。この方法を非常に低いmiRNA濃度でのmiRNA配列及び発現レベルの高感度インジケーターとして使用することができる(例えば、Cheng et al., Angew Chem. Int. Ed. Engl. (2009) 48(18):3268-72;Neubacher et al, Chembiochem. (2009) 10(8): 1289-91を参照のこと)。
【0079】
miRNA定量は、逆転写(RT)のためのステムループプライマー、続けて、リアルタイムTaqMan(登録商標)プローブを使用することにより行うことができる。典型的には、前記方法は、ステムループプライマーがmiRNAターゲットにアニーリングされ、逆転写酵素の存在下で伸長される第1の工程を含む。次いで、miRNA特異的フォワードプライマー、TaqMan(登録商標)プローブ及びリバースプライマーがPCR反応に使用される。miRNAの定量は、測定されたCT値に基づいて推定される。多くのmiRNA定量アッセイは、Qiagen(S. A. Courtaboeuf, France)、Exiqon(Vedbaek, Denmark)又はApplied Biosystems(Foster City, USA)から市販されている。
【0080】
miRNAの発現レベルを、絶対発現レベル又は正規化された発現レベルとして表現させることができる。典型的には、発現レベルは、その発現と、急性重症大腸炎(ASC)を患っている患者がコルチコステロイド、インフリキシマブ及びシクロスポリンに対する応答者又は非応答者であるかどうかを決定するのに関連するマーカーでないmRNA、例えば、構成的に発現されるハウスキーピングmRNAの発現とを比較することにより、miRNAの絶対発現レベルを補正することにより正規化される。正規化に適したmRNAは、ハウスキーピングmRNA、例えば、U6、U24、U48及びS18を含む。この正規化により、あるサンプル、例えば、患者サンプルにおける発現レベルを、別のサンプルに対して比較することが可能となり又は異なるソースからのサンプル間の比較が可能となる。特定の実施態様では、発現レベルは、その発現を参照mRNAの発現と比較することにより、miRNAの絶対発現レベルを補正することにより正規化される。
【0081】
本明細書における目的のmiRNAに対して配列相補性又は相同性を示す核酸は、ハイブリダイゼーションプローブ又は増幅プライマーとしての有用性が見出される。このような核酸は同一である必要はないが、典型的には、匹敵するサイズの相同領域と少なくとも約80%同一であり、より好ましくは、85%同一であり、更により好ましくは、90~95%同一であると理解される。特定の実施態様では、ハイブリダイゼーションを検出するために、適切な手段、例えば、検出可能なラベルと組み合わせて核酸を使用するのが有利である。蛍光リガンド、放射性リガンド、酵素リガンド又は他のリガンド(例えば、アビジン/ビオチン)を含む広い各種の適切なインジケーターが当技術分野において公知である。
【0082】
プローブ及びプライマーは、それらがハイブリダイズするmiRNAに「特異的」である、すなわち、それらは、好ましくは、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする(例えば、50% ホルムアミド、5×又は6×SCCの最高融解温度Tmに対応する。SCCは、0.15M NaCl、0.015M Na-シトラートである)。
【0083】
miRNAを、ハイブリダイゼーションに基づく方法を使用して検出することができる。ハイブリダイゼーションに基づく方法は、ハイブリダイゼーションアレイ(例えば、マイクロアレイ)、NanoString分析、ノーザンブロット分析、分岐DNA(bDNA)シグナル増幅、及びin situハイブリダイゼーションを含むが、これらに限定されない、
【0084】
マイクロアレイを使用して、多数のmiRNAの発現レベルを同時に測定することができる。マイクロアレイを、ガラススライド上への微細な尖ったピンによる印刷、プレメイドマスクを使用するフォトリソグラフィー、ダイナミックマイクロミラー装置を使用するフォトリソグラフィー、インクジェット印刷又はマイクロ電極アレイ上の電気化学を含む、各種の技術を使用して製造することができる。微小流体qRT-PCR反応のアレイに基づく微小流体TaqMan低密度アレイ及び関連する微小流体qRT-PCRに基づく方法も有用である。マイクロアレイ検出の一例では、ヒトセンスmiRNA配列に対応する種々のオリゴヌクレオチド(例えば、200+5’アミノ改変-C6オリゴ)を、3次元CodeLinkスライド(GE Health/ Amersham Biosciences)上に約20μMの最終濃度でスポットし、製造業者の推奨に従って処理する。20μg TRIzol精製全RNAから合成された第1の鎖cDNAは、Enzo BioArray末端ラベルキット(Enzo Life Sciences Inc.)を使用してビオチン化ddUTPでラベルされる。ハイブリダイゼーション、染色及び洗浄を改変されたAffymetrixアンチセンスゲノムアレイプロトコルに従って行うことができる。Axon B-4000スキャナ及びGene-Pix Pro 4.0ソフトウェア又は他の適切なソフトウェアを使用して、画像をスキャンすることができる。バックグラウンドを差し引いた後の非陽性スポット及びESD手法により検出された異常値が除去される。得られたシグナル強度値は、チップあたりの中央値に対して正規化され、次いで、各miRNAについての幾何学的平均及び標準誤差を得るのに使用される。各miRNAシグナルをログベース2に変換することができ、1サンプルt検定を行うことができる。各サンプルについての独立したハイブリダイゼーションをデータの堅牢性を向上させるために、各miRNAが複数回スポットされたチップ上で行うことができる。
【0085】
マイクロアレイをmiRNAの発現プロファイリングに使用することができる。例えば、RNAをサンプルから抽出することができ、場合により、miRNAは、全RNAからサイズ選択される。オリゴヌクレオチドリンカーをmiRNAの5’及び3’端に付着させることができ、得られたライゲーション産物は、RT-PCR反応のための鋳型として使用される。センス鎖PCRプライマーは、その5’端に付着したフルオロフォアを有することができ、それにより、PCR産物のセンス鎖をラベルする。PCR産物は変性され、次いで、マイクロアレイにハイブリダイゼーションされる。アレイ上の対応するmiRNA捕捉プローブ配列に相補的なターゲット核酸と呼ばれるPCR産物は、塩基対形成を介して、捕捉プローブが固定されたスポットにハイブリダイズする。次いで、マイクロアレイレーザスキャナを使用して励起させると、スポットは蛍光する。次いで、各スポットの蛍光強度が、特定のmiRNAのコピー数に関して、多数の陽性対照及び陰性対照並びにアレイデータ正規化法を使用して評価され、その結果、特定のmiRNAの発現レベルが評価される。また、サンプルから抽出されたmiRNAを含有する全RNAをmiRNAのサイズ選択なしに直接使用することができる。例えば、RNAを、T4 RNAリガーゼ及びフルオロフォアラベルされた短いRNAリンカーを使用して、3’端ラベルすることができる。アレイ上の対応するmiRNA捕捉プローブ配列に相補的なフルオロフォアラベルmiRNAは、塩基対形成を介して、捕捉プローブが固定されたスポットにハイブリダイズする。次いで、各スポットの蛍光強度は、特定のmiRNAのコピー数に関して、多数の陽性対照及び陰性対照並びにアレイデータ正規化法を使用して評価され、その結果、特定のmiRNAの発現レベルが評価される。幾つかのタイプのマイクロアレイを使用することができる。このマイクロアレイは、スポットされたオリゴヌクレオチドマイクロアレイ、予め製造されたオリゴヌクレオチドマイクロアレイ又はスポットされた長いオリゴヌクレオチドアレイを含むが、これらに限定されない。
【0086】
したがって、核酸プローブは、例えば、開示されたプローブを使用してターゲット核酸分子の検出を可能にするために、1つ以上のラベルを含む。種々の用途、例えば、in situハイブリダイゼーション手法において、核酸プローブは、ラベル(例えば、検出可能なラベル)を含む。「検出可能なラベル」は、サンプル中のプローブ(特に、結合し又はハイブリダイゼーションしたプローブ)の存在又は濃度を示す検出可能なシグナルを生成するのに使用することができる分子又は物質である。このため、ラベルされた核酸分子は、サンプル中のターゲット核酸配列(例えば、ゲノムターゲット核酸配列)(それにラベルされた固有に特異的な核酸分子が結合し又はハイブリダイズする)の存在又は濃度のインジケーターを提供する。1つ以上の核酸分子(例えば、開示された方法により生成されるプローブ)に関連するラベルを直接的又は間接的のいずれかで検出することができる。ラベルを光子(無線周波数、マイクロ波周波数、赤外線周波数、可視周波数及び紫外線周波数光子を含む)の吸収、放出及び/又は散乱を含む、任意の公知又は未だに発見されていないメカニズムにより検出することができる。検出可能なラベルは、着色、蛍光、リン光及び発光分子及び物質、ある物質を別の物質に変換して、検出可能な差異を提供する触媒(例えば、酵素)(例えば、無色物質を着色物質に変換することもしくはその逆により又は沈殿物を生成しもしくはサンプル濁度を増加させることによる)、抗体結合相互作用により検出することができるハプテン並びに常磁性及び磁性分子又は物質を含む。
【0087】
検出可能なラベルの特定の例は、蛍光分子(又は蛍光色素)を含む。多数の蛍光色素は、当業者に公知であり、例えば、Life Technologies(以前はInvitrogen)から選択することができる。例えば、The Handbook-A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologiesを参照のこと。核酸分子(例えば、固有に特異的な結合領域)に付着する(例えば、化学的にコンジュゲートする)ことができる特定のフルオロフォアの例は、Nazarenko et alの米国特許第5,866、366号明細書に提供されており、例えば、4-アセトアミド-4’-イソチオシアナトシルベン-2,2’ジスルホン酸、アクリジン及び誘導体、例えば、アクリジン及びアクリジンイソチオシアナート、5-(2’-アミノエチル)アミノナフタレン-1-スルホン酸(EDANS)、4-アミノ-N-[3ビニルスルホニル)フェニル]ナフタルイミド-3,5ジスルホナート(Lucifer Yellow VS)、N-(4-アニリノ-1-ナフチル)マレイミド、Brilliant Yellow、クマリン及び誘導体、例えば、クマリン、7-アミノ-4-メチルクマリン(AMC、クマリン120)、7-アミノ-4-トリフルオロメチルクマリン(クマリン151);シアノシン;4’,6-ジアミジノ(diarninidino)-2-フェニルインドール(DAPI);5’,5’’ジブロモピロガロールスルホンフタレイン(Bromopyrogallol Red);7-ジエチルアミノ-3-(4’-イソチオシアナトフェニル)-4-メチルクマリン;ジエチレントリアミンペンタアセタート;4,4’-ジイソチオシアナトジヒドロ-スチルベン-2,2’-ジスルホン酸;4,4’-ジイソチオシアナトスチルベン-2,2’-ジスルホン酸;5-[ジメチルアミノ]ナフタレン-1-スルホニルクロリド(DNS、ダンシルクロリド);4-(4’-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL);4-ジメチルアミノフェニルアゾフェニル-4’-イソチオシアナート(DABITC);エオシン及び誘導体、例えば、エオシン及びエオシンイソチオシアナート;エリスロシン及び誘導体、例えば、エリスロシンB及びエリスロシンイソチオシアナート;エチジウム;フルオレセイン及び誘導体、例えば、5-カルボキシフルオレセイン(FAM)、ジクロロトリアジニルアミノフルオレセイン(DTAF)、2’7’ジメトキシ-4’5’-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)及びQFITC Q(RITC);2’,7’-ジフルオロフルオレセイン(OREGON GREEN(登録商標);フルオレスカミン;IR144;IR1446;マラカイトグリーンイソチオシアナート;4-メチルウンベリフェロン;オルトクレゾールフタレイン;ニトロチロシン;パラロザニリン;フェノールレッド;B-フィコエリスリン;o-フタルジアルデヒド;ピレン及び誘導体、例えば、ピレン、ピレンブチラート及びスクシンイミジル 1-ピレンブチラート;Reactive Red 4(Cibacron Brilliant Red 3B-A);ローダミン及び誘導体、例えば、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、6-カルボキシローダミン(R6G)、リスサミンローダミンBスルホニルクロリド、ローダミン(Rhod)、ローダミンB、ローダミン123、ローダミンXイソチオシアナート、ローダミングリーン、スルホローダミンB、スルホローダミン101及びスルホローダミン101のスルホニルクロリド誘導体(Texas Red);N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA);テトラメチルローダミン;テトラメチルローダミンイソチオシアナート(TRITC);リボフラビン;ロソール酸及びテルビウムキレート誘導体である。他の適切なフルオロフォアは、約617nmで発光するチオール反応性ユーロピウムキレート(Heyduk and Heyduk, Analyt. Biochem. 248:216-27, 1997;J. Biol. Chem. 274:3315-22, 1999)及びGFP、LissamineTM、ジエチルアミノクマリン、フルオレセインクロロトリアジニル、ナフトフルオロセイン、4,7-ジクロロローダミン及びキサンテン(Lee et al.の米国特許第5,800,996号明細書に記載されている)並びにそれらの誘導体を含む。当業者に公知の他のフルオロフォア、例えば、Life Technologies(Invitrogen;Molecular Probes(Eugene, Oreg.))から入手可能なもの及びALEXA FLUOR(登録商標)シリーズの染料(例えば、米国特許第5,696,157号明細書、同第6,130,101号明細書及び同第6,716,979号明細書に記載されている)、BODIPYシリーズの染料(ジピロメテンホウ素ジフルオリド染料、例えば、米国特許第4,774,339号明細書、同第5,187,288号明細書、同第5,248,782号明細書、同第5,274,113号明細書、同第5,338,854号明細書、同第5,451,663号明細書及び同第5,433,896号明細書に記載されている)、Cascade Blue(米国特許第5,132,432号明細書に記載されているスルホン化ピレンのアミン反応性誘導体)及びMarina Blue(米国特許第5,830,912号明細書)も使用することができる。
【0088】
上記された蛍光色素に加えて、蛍光ラベルは、蛍光ナノ粒子、例えば、半導体ナノ結晶、例えば、QUANTUM DOTTM(例えば、Life Technologies(QuantumDot Corp, Invitrogen Nanocrystal Technologies, Eugene, OR)から得られる)であることができる。また、米国特許第6,815,064号明細書;同第6,682,596号明細書及び同第6,649,138号明細書も参照のこと。半導体ナノ結晶は、サイズ依存性の光学的及び/又は電気的特性を有する微視的粒子である。半導体ナノ結晶に一次エネルギー源が照射されると、半導体ナノ結晶に使用される半導体材料のバンドギャップに対応する周波数のエネルギーの二次発光が生じる。この発光は、特定の波長又は蛍光の着色光として検出することができる。異なるスペクトル特性を有する半導体ナノ結晶は、例えば、米国特許第6,602,671号明細書に記載されている。半導体ナノ結晶を例えば、Bruchez et al., Science 281 :20132016, 1998;Chan et al., Science 281:2016-2018, 1998及び米国特許第6,274,323号明細書に記載されている技術により、各種の生体分子(dNTP及び/又は核酸を含む)又は基質に結合させることができる。種々の組成の半導体ナノ結晶の形成が、例えば、米国特許第6,927,069号明細書;同第6,914,256号明細書;同第6,855,202号明細書;同第6,709,929号明細書;同第6,689,338号明細書;同第6,500,622号明細書;同第6,306,736号明細書;同第6,225,198号明細書;同第6,207,392号明細書;同第6,114,038号明細書;同第6,048,616号明細書;同第5,990,479号明細書;同第5,690,807号明細書;同第5,571,018号明細書;同第5,505,928号明細書;同第5,262,357号明細書;米国特許出願公開第2003/0165951号明細書及び国際公開第99/26299号(1999年5月27日に公開)に開示されている。それらの異なるスペクトル特性に基づいて識別可能な半導体ナノ結晶の個別の集団を製造することができる。例えば、その組成、サイズ又はサイズ及び組成に基づいて異なる色の光を発する半導体ナノ結晶を製造することができる。例えば、本明細書に開示されたプローブにおける蛍光ラベルとして適切なサイズ(565nm、655nm、705nm又は800nmの発光波長)に基づいて、異なる波長で光を発する量子ドットは、Life Technologies(Carlsbad, Calif.)から入手可能である。
【0089】
RT-PCRは、典型的には、特定の波長の光ビームで各サンプルを照射し、励起されたフルオロフォアにより発せられた蛍光を検出する能力を有するサーマルサイクラー中で行われる。また、サーマルサイクラーは、サンプルを急速に加熱しかつ冷却することもでき、それにより、核酸及び熱ポリメラーゼの物理化学的特性を利用する。現在市販されているサーモサイクラーの大部分は、同様の特性を提供している。典型的には、サーモサイクラーは、ガラスキャピラリー、プラスチックチューブ、96ウェルプレート又は384ウェルプレートの形式を含む。また、サーモサイルサーは、ソフトウェア分析も含む。
【0090】
また、miRNAを、nCounter分析システム(NanoString Technologies, Seattle, WA)を使用して、増幅させることなく検出することもできる。この技術は、溶液中でハイブリダイズする2つの核酸ベースのプローブ(例えば、レポータープローブ及び捕獲プローブ)を利用する。ハイブリダイゼーション後、過剰のプローブが除去され、プローブ/ターゲット複合体が、製造業者のプロトコルに従って分析される。nCounter miRNAアッセイキットは、NanoString Technologiesから入手可能であり、これにより、高い特異性を有する高度に類似したmiRNAを区別可能である。nCounter(登録商標)分析システムの基礎は、アッセイされる各核酸ターゲットに割り当てられた固有のコードである(国際公開第08/124847号、米国特許第8,415,102号明細書及びGeiss et al. Nature Biotechnology. 2008. 26(3): 317-325;これらの文献の内容はそれぞれ、その全体が参照により本明細書に援用される)。コードは、順序付けられた一連の着色蛍光スポットから構成され、これらのスポットは、アッセイされる各ターゲットについて固有のバーコードを生成する。一対のプローブが、各オリゴヌクレオチドターゲット、ビオチン化捕捉プローブ及び蛍光バーコードを有するレポータープローブについて設計される。このシステムは、本明細書において、ナノレポーターコードシステムとも呼ばれる。特異的レポータープローブ及び捕捉プローブは、各ターゲットについて合成される。レポータープローブは、第1のシグナルを構成する光を発する1つ以上のラベルモノマーが付着する少なくとも第1のラベル付着領域と、第1のラベル付着領域と重ならず、第2のシグナルを構成する光を発する1つ以上のラベルモノマーが付着する少なくとも第2のラベル付着領域であって、第1のターゲット特異的配列とを含むことができる。好ましくは、各配列特異的レポータープローブは、わずか1つの遺伝子にハイブリダイゼーション可能なターゲット特異的配列を含み、場合により、少なくとも3つ又は少なくとも4つのラベル付着領域を含み、前記付着領域は、少なくとも第3のシグナル又は少なくとも第4のシグナルそれぞれを構成する光を発する1つ以上のラベルモノマーを含む。捕捉プローブは、第2のターゲット特異的配列と第1の親和性タグとを含むことができる。一部の実施態様では、また、捕捉プローブは、1つ以上のラベル付着領域も含むことができる。好ましくは、レポータープローブの第1のターゲット特異的配列及び捕捉プローブの第2のターゲット特異的配列は、検出される同じ遺伝子の異なる領域にハイブリダイズする。レポータープローブ及び捕捉プローブは全て、単一のハイブリダイゼーション混合物である「プローブライブラリー」にプールされる。各ターゲットの相対的存在量は、単一の多重化ハイブリダイゼーション反応において測定される。この方法は、サンプル中のターゲットの存在がプローブペア-ターゲット複合体を生成するように、サンプルをプローブライブラリーと接触させることを含む。次いで、複合体が精製される。より具体的には、サンプルは、プローブライブラリーと組み合わせられ、ハイブリダイゼーションが溶液中で生じる。ハイブリダイゼーション後、3部分ハイブリダイゼーション複合体(プローブペア及びターゲット)が、捕捉プローブ及びレポータープローブ上に存在するユニバーサル配列に相補的なオリゴヌクレオチドに連結された磁性ビーズを使用する2工程手順で精製される。この二重精製プロセスにより、ハイブリダイゼーション反応が大過剰のターゲット特異的プローブにより完了するように駆動されることが可能となる。それらは、最終的に除去されるため、サンプルの結合及び画像化を妨害しないためである。ハイブリダイゼーション後の全ての工程は、特注の液体処理ロボット(Prep Station, NanoString Technologies)上でロボット的に処理される。精製された反応物は、典型的には、Prepステーションにより、サンプルカートリッジの個々のフローセルに堆積され、捕捉プローブを介してストレプトアビジン被覆表面に結合され、レポータープローブを伸長させるために電気泳動され、固定化される。処理後、サンプルカートリッジは、完全に自動化された画像化及びデータ収集装置(Digital Analyzer, NanoString Technologies)に移される。ターゲットの発現レベルは、各サンプルを画像化し、そのターゲットについてのコードが検出された回数をカウントすることにより測定される。各サンプルについて、典型的には、600視野(FOV)が画像化され(1376×1024ピクセル)、約10mm2の結合表面を表わす。典型的な画像化密度は、多重化の程度、サンプル入力の量及び全体的なターゲット存在量に応じて、視野あたり100~1200カウントされたレポーターである。データは、ターゲットごと、サンプルごとのカウント数をリストした単純なスプレッドシート形式で出力される。このシステムをナノレポーターと共に使用することができる。ナノレポーターに関する更なる開示を国際公開第07/076129号及び同第07/076132号並びに米国特許出願公開第2010/0015607号明細書及び同第2010/0261026号明細書に見出すことができる。これら文献の内容は、その全体が本明細書に援用される。更に、核酸プローブ及びナノレポーターという用語は、国際公開第2010/019826号及び米国特許出願公開第2010/0047924号明細書に記載された合理的に設計された配列(例えば、合成配列)を含むことができる。これらの文献は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0091】
質量分光法を使用し、RNaseマッピングを使用してmiRNAを定量することができる。単離されたRNAをMS又はタンデムMS(MS/MS)アプローチによる分析の前に、高い特異性を有するRNAエンドヌクレアーゼ(RNase)(例えば、全ての未改変グアノシン残基の3’側で開裂させるRNase Tl)で酵素的に消化することができる。開発された最初のアプローチは、ESTMSに直接結合した逆相HPLCによるエンドヌクレアーゼ消化物のオンラインクロマトグラフ分離を利用した。転写後改変の存在をRNA配列に基づいて予想されるものからの質量シフトにより明らかにすることができる。次いで、異常な質量/電荷値のイオンをタンデムMS配列決定のために単離して、転写後改変ヌクレオシドの配列配置を位置決定することができる。また、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分光法(MALDI-MS)も、転写後改変ヌクレオシドに関する情報を得るための分析アプローチとして使用されている。MALDIベースのアプローチを、分離工程によりESTベースのアプローチと区別することができる。MALDI-MSでは、質量分析計を使用して、miRNAを分離する。インタクトなmiRNAの限られた量を分析するために、ナノESI-MSと結合したキャピラリーLCのシステムを、リニアイオントラップ-オービトラップハイブリッド質量分析計(LTQ Orbitrap XL, Thermo Fisher Scientific)又は特注のナノスプレーイオン源、Nanovolume Valve(Valco Instruments)及びスプリットレスナノHPLCシステム(DiNa, KYA Technologies)を装えたタンデム四重極飛行時間型質量分析計(QSTAR(登録商標)XL, Applied Biosystems)を使用することにより利用することができる。分析物/TEAAをナノLCトラップカラムにロードし、脱塩し、次いで、濃縮する。インタクトなmiRNAをトラップカラムから溶出し、CI 8キャピラリーカラムに直接注入し、極性を増加させる溶媒の勾配を使用するRP-HPLCによりクロマトグラフィー分析する。クロマトグラフィー溶出液を、イオンが負極性モードで走査されるのを可能にするイオン化電圧を使用して、キャピラリーカラムに取り付けられた噴霧器チップから噴霧する。
【0092】
miRNAの検出及び測定のための更なる方法は、例えば、ストランド侵入アッセイ(Third Wave Technologies, Inc.)、表面プラズモン共鳴(SPR)、cDNA、MTDNA(金属DNA(metallic DNA);Advance Technologies, Saskatoon, SK)及び単一分子法、例えば、US Genomicsにより開発されたものを含む。複数のmiRNAを、表面酵素反応とナノ粒子増幅SPRイメージング(SPRI)とを組み合わせた新規なアプローチを使用して、マイクロアレイ形式で検出することができる。ポリ(A)ポリメラーゼの表面反応により、ロックド核酸(LNA)マイクロアレイ上にハイブリダイゼーションされたmiRNAにポリ(A)テイルが形成される。次いで、DNA改変ナノ粒子をポリ(A)テイルに吸着させ、SPRIで検出する。この超高感度ナノ粒子増幅SPRI法をアトモルレベルでmiRNAプロファイリングに使用することができる。また、miRNAを、分岐DNA(bDNA)シグナル増幅を使用して検出することができる(例えば、Urdea, Nature Biotechnology(1994), 12:926-928を参照のこと)。bDNAシグナル増幅に基づくmiRNAアッセイは市販されている。1つのこのようなアッセイは、QuantiGene(登録商標)2.0 miRNAアッセイ(Affymetrix, Santa Clara, CA)である。また、ノーザンブロット及びin situハイブリダイゼーションも、miRNAを検出するのに使用することができる。ノーザンブロット及びin situハイブリダイゼーションを行うのに適した方法は、当技術分野において公知である。進歩した配列決定法も同様に、利用可能なものとして使用することができる。例えば、miRNAを、Illumina(登録商標)次世代配列決定(例えば、Sequencing-By-Synthesis又は例えば、HiSeq、HiScan、GenomeAnalyzerもしくはMiSeqシステム(Illumina, Inc., San Diego, CA)を使用するTruSeq法)を使用して検出することができる。また、miRNAを、Ion Torrent Sequencing(Ion Torrent Systems, Inc., Gulliford, CT)又は半導体配列決定の他の適切な方法を使用して検出することができる。
【0093】
一部の実施態様では、miRNAの発現レベルは、RNA-seqにより決定される。使用する場合、「RNA-Seq」又は「トランスクリプトーム配列決定」という用語は、DNAの代わりにRNA(又はcDNA)に行われる配列決定を指す。この場合、典型的には、主な目標は、発現レベルを測定し、融合転写産物、選択的スプライシング及びRNAからよりよく評価することができる他のゲノム改変を検出することである。RNA-Seqは、典型的には、全トランスクリプトーム配列決定を含む。本明細書で使用する場合、「全トランスクリプトーム配列決定」という用語は、サンプルのRNA含量に関する情報を得るために、トランスクリプトーム全体を配列決定するための高スループット配列決定技術の使用を指す。全トランスクリプトーム配列決定を各種のプラットフォーム、例えば、Genome Analyzer(Illumina, Inc., San Diego, Calif.)及びSOLiD(商標)Sequencing System(Life Technologies, Carlsbad, Calif.)により行うことができる。ただし、全トランスクリプトーム配列決定に有用な任意のプラットフォームを使用することができる。典型的には、米国特許出願公開第2011/0111409号明細書に記載されているように、RNAを抽出し、リボソームRNAを欠失させることができる。市販のキット、例えば、ScriptSeq(商標)M mRNA-Seq Library Preparationキット(Epicenter Biotechnologies, Madison, WI)を使用して、方向性及び単一又は対末端であるcDNA配列決定ライブラリーを調製することができる。また、ライブラリーを、市販のバーコードプライマー、例えば、Epicenter Biotechnologies(Madison, Wis.)からのRNA-Seq Barcode Primerを使用して、多重配列決定のためにバーコード化することができる。次いで、PCRを行って、cDNAの第2の鎖を生成し、バーコードを組み込み、ライブラリーを増幅する。ライブラリーを定量した後、配列決定ライブラリーを配列決定することができる。核酸配列決定技術は、発現分析に適した方法である。これらの方法の基礎をなす原理は、DNA配列がサンプル中で検出される回数がその配列に対応する相対RNAレベルに直接関係しているということである。これらの方法は、得られるデータの離散的な数値特性を反映するために、デジタル遺伝子発現(DOE)という用語で呼ばれることがある。この原理を適用する初期の方法は、遺伝子発現の連続分析(SAGE)及び大規模並列サイン配列決定(MPSS)であった。例えば、S. Brenner et al., Nature Biotechnology 18(6):630-634(2000)を参照のこと。典型的には、RNA-seqは、次世代配列決定又はNGSを使用する。本明細書で使用する場合、「次世代配列決定」(NGS)という用語は、古典的なサンガー配列決定技術と比較して、比較的新しい配列決定技術を指す。レビューについては、Shendure et al., Nature Biotech., 26(10): 1135-45(2008)を参照のこと。この文献は、本開示に参照により援用される。本開示の目的で、NGSは、とりわけ、サイクリックアレイ(cyclic array)配列決定、マイクロ電気泳動配列決定、ハイブリダイゼーションによる配列決定を含むことができる。例として、サイクリックアレイ法を使用する典型的なNGSにおいて、ゲノムDNA又はcDNAライブラリーを最初に調製し、次いで、共通のアダプターをフラグメント化されたゲノムDNA又はcDNAにライゲーションすることができる。種々のプロトコルを使用して、制御可能な距離分布を有する対になったタグのジャンピングライブラリーを生成することができる。何百万もの空間的に固定化されたPCRコロニー又は「ポロニー」のアレイが、単一のショットガンライブラリーフラグメントの多くのコピーからなる各ポロニーにより生成される。ポロニーは、平面アレイに繋がれているため、例えば、プライマーハイブリダイゼーション又は酵素伸長反応のために、単一マイクロリットルスケールの試薬容量を適用して、アレイ機構を平行して操作することができる。各伸長に組み込まれた蛍光ラベルの画像化に基づく検出を、全ての機構についての配列決定データを並行して取得するのに使用することができる。また、酵素的照合及び画像化の連続的な反復も、各アレイ機構についての連続的な配列決定読み取りを構築するのに使用することができる。
【0094】
一部の実施態様では、本発明の方法は、i)WSX-1の発現レベルを決定することと、ii)決定された発現レベルを対応する所定の値と比較することとを更に含む。
【0095】
本明細書で使用する場合、「WSX-1」という用語は、当技術分野においてその一般的な意味を有し、インターロイキン-27レセプターサブユニットアルファを指す。この用語は、L27RA、CRL1又はTCCRとしても公知である。WSX-1についての例示的なアミノ酸配列は、配列番号:7により表わされる。
【0096】
【0097】
一部の実施態様では、所定の基準値は、閾値又はカットオフ値である。典型的には、「閾値」又は「カットオフ値」を実験的に、経験的に又は理論的に決定することができる。また、閾値を当業者により認識されるように、既存の実験条件及び/又は臨床条件に基づいて任意に選択することができる。例えば、適切にバンクされた過去の患者サンプルにおけるスコアの遡及的測定を所定の基準値を確立するのに使用することができる。試験の機能及び利益/リスクバランス(偽陽性及び偽陰性の臨床的結果)に応じた最適な感度及び特異性を得るためには、閾値を決定しなければならない。典型的には、最適な感度及び特異性(したがって閾値)を、実験データに基づく受信者動作特性(ROC)曲線を使用して決定することができる。例えば、参照グループにおけるスコアを決定した後、試験されるサンプルにおける遺伝子の測定された発現レベルの統計的処理のためのアルゴリズム分析を使用することができ、このため、サンプル分類のための有意性を有する分類標準を得ることができる。ROC曲線のフルネームは、受信者動作特性曲線であり、これは、受信者動作特性曲線としても公知であり、主に、臨床生化学的診断試験に使用される。ROC曲線は、真陽性率(感度)及び偽陽性率(1-特異性)の連続変数を反映する包括的な指標である。画像合成法による感度と特異性との間の関係が明らかになる。一連の異なるカットオフ値(閾値又は臨界値、診断試験の正常結果と異常結果との間の境界値)を連続変数として設定して、一連の感度及び特異性値を計算する。次いで、感度を垂直座標として使用し、特異性を、曲線を描くために水平座標として使用する。曲線下面積(AUC)が大きいほど、診断の精度が高くなる。ROC曲線上で、座標図の左上に最も近い点は、高感度値及び高特異性値の両方を有する臨界点である。ROC曲線のAUC値は、1.0~0.5である。AUC>0.5の場合、診断結果はより良好であり、AUCが1に近づくにつれてより良好になる。AUCが、0.5~0.7の間にある場合、精度は低い。AUCが、0.7~0.9の間にある場合、精度は中程度である。AUCが、0.9より大きい場合、精度は非常に高い。このアルゴリズム法は、好ましくは、コンピュータにより行われる。ROC曲線の描画には、当技術分野における既存のソフトウェア又はシステム、例えば、MedCalc 9.2.0.1医学統計ソフトウェア、SPSS 9.0、ROCPOWER.SAS、DESIGNROC.FOR、MULTIREADER POWER.SAS、CREATE-ROC.SAS、GB STAT VI0.0(Dynamic Microsystems, Inc. Silver Spring, Md, USA)等を使用することができる。
【0098】
一部の実施態様では、所定の基準値は、a)サンプルの収集を提供する工程と、b)工程a)で提供された各サンプルについて、対応する患者の実際の臨床アウトカム(すなわち、生存期間)に関する情報を提供する工程と、c)一連の任意の定量化値を提供する工程と、d)工程a)で提供された収集に含まれる各サンプルについてのmiRNAの発現レベルを決定して、上記されたスコアを計算する工程と、e)工程c)で提供された1つの特定の任意の定量化値について、前記サンプルを2つの群それぞれ:(i)前記一連の定量化値に含まれる前記任意の定量化値より低いスコアについての定量化値を示すサンプルを含む第1の群;(ii)前記一連の定量化値に含まれる前記任意の定量化値より高い前記スコアについての定量化値を示すサンプルを含む第2の群に分類することにより、2つのサンプル群が前記特定の定量化値についての得られる工程であって、各サンプル群が別個に列挙される工程と、f)(i)工程e)で得られた定量化値と(ii)工程f)で定義された第1及び第2の群に含まれるサンプルが得られる患者の実際の臨床アウトカムとの間の統計的有意性を計算する工程と、g)工程d)で提供された任意の定量化値が全て試験されるまで、工程f)及びg)を繰り返す工程と、h)工程g)で最も高い統計的有意性(最も有意)が計算された任意の定量化値からなるものとして前記所定の基準値を設定する工程とを含む、方法を行うことにより決定される。
【0099】
例えば、スコアを100名の患者の100個のサンプルについて評価する。100個のサンプルを決定されたスコアに従ってランク付けする。サンプル1は、最高スコアを有し、サンプル100は、最低スコアを有する。第1のグループ化により、2つのサブセットが提供され、一方の側では、サンプルNr1が提供され、他方の側では、99個の他のサンプルが提供される。次のグループ化により、一方の側では、サンプル1及び2が提供され、他方の側では、98個の残りのサンプルが提供される等、最後のグループ化により、一方の側では、サンプル1~99が提供され、他方の側では、サンプルNr100が提供される。対応する患者についての実際の臨床アウトカムに関する情報に従って、2つのサブセットの99個の群それぞれについて、カプランマイヤー曲線を作成する。また、99個の群それぞれについて、両方のサブセット間のp値を計算した。次いで、所定の基準値を最小p値が最も強いという基準に基づく判別のように選択する。すなわち、p値が最小となる両サブセットの境界に対応するスコアを所定の基準値とみなす。
【0100】
このため、一部の実施態様では、所定の基準値により、患者についての予後不良と良好な予後との間の識別が可能となる。実際には、高い統計的有意値(例えば、低いP値)は、一般的には、単一の任意の定量化値だけでなく、連続する任意の定量化値の範囲について得られる。このため、本発明の1つの代替的な実施態様では、一定の所定の基準値を使用する代わりに、ある範囲の値が提供される。したがって、最小統計的有意値(有意の最小閾値、例えば、最大閾値P値)が任意に設定され、工程g)で計算された統計的有意値がより高い(より有意な、例えば、より低いP値)ある範囲の複数の任意の定量化値が保持され、その結果、ある範囲の定量化値が提供される。この範囲の定量化値は、上記された「カットオフ」値を含む。例えば、「カットオフ」値のこの特定の実施態様によれば、アウトカムを、発現レベルを特定される値の範囲と比較することにより決定することができる。このため、一部の実施態様では、カットオフ値は、例えば、最高統計的有意値が見出される定量値(例えば、一般的には、見出される最小p値)を中心とする定量化値の範囲からなる。例えば、1~10の仮定スケールにおいて、理想的なカットオフ値(最高統計的有意差を有する値)が5である場合、適切な(例示的な)範囲は、4~6であることができる。例えば、患者を、発現レベルを測定することにより得られた値を比較することにより評価することができる。この場合、5より高い値は、予後不良を示し、5未満の値は、良好な予後を示す。一部の実施態様では、患者を、発現レベルを測定し、値をスケールで比較することにより得られた値を比較することにより評価することができる。この場合、4~6の範囲を超える値は、予後不良を示し、4~6の範囲未満の値は、良好な予後を示し、4~6の範囲内に入る値は、中間の発生(又は予後)を示す。
【0101】
一部の実施態様では、miRNA(すなわち、miR-324)の発現レベルが、所定の基準値より高い場合、患者は、短い生存期間を有する(「予後不良」)と結論付けられる。逆に、miRNA(すなわち、miR-324)の発現レベルが、所定の基準値より低い場合、患者は、長い生存期間を有する(「良好な予後」)と結論付けられる。このように、miR-324の発現レベルの上昇は、生存期間の短さと相関する。更に、WSX-1の発現レベルの決定を組み合わせることにより、miR-324の発現レベルの上昇は、WSX-1の発現レベルの低下と組み合わさって、生存期間の短さと相関する。
【0102】
一部の実施態様では、ガン管理のための現在限られた選択肢を考慮して、本明細書に開示されたバイオマーカー群は、予後不良の患者、特に、転移する可能性が高い患者を特定するのに有用である。
【0103】
したがって、予後不良であると特定された患者に、特定の治療を投与することができる。一部の実施態様では、予後不良であると特定された患者に、上記されたmiRインヒビターを投与することができる。
【0104】
一部の実施態様では、本発明の方法は、ガン疾患の進行をモニターするために、医師又は臨床医による頻繁な追跡を必要とする患者を特定するのに使用される。また、予後不良の患者を特定するための患者のスクリーニングは、ガンの治療を評価するための臨床試験に登録するのに最も適しているか又は登録しやすい患者を特定するのにも有用であり、これにより、より効果的なサブグループ分析及び追跡研究が可能となる。更に、本明細書において、発現レベルを、臨床試験に寛容な(patient to)治療法の治療効果のための定量的尺度を提供するために、臨床試験に登録された患者においてモニターすることができる。
【0105】
また、本発明は、本明細書に開示された方法により特定されたように、予後不良を有すると特定された患者に対して、治療計画を選択するための方法又は特定の治療計画がより適切であるかどうかを決定するための方法も提供する。例えば、積極的な抗ガン治療計画を予後不良の患者について精査することができる。この場合、この患者には、ガンを処置するために治療上有効量の抗ガン剤が投与される。一部の実施態様では、患者を、本明細書に開示された方法及びバイオマーカーを使用して、ガンについてモニターすることができ、第1の(すなわち、最初の)試験において、患者が、予後不良であると特定された場合、この患者には、抗ガン療法を投与することができ、第2の試験(すなわち、追跡試験)において、患者が、良好な予後を有すると特定された場合、この患者には、維持用量で抗ガン療法を投与することができる。本発明の方法は、どの患者が処置に対して反応性であり又は陽性の処置アウトカムを経験するかを決定するのに特に適している。一般的には、下記処置アウトカム:生存期間中央値の延長又は転移の減少の1つ以上が提供される場合には、その治療法は、ガンを「処置」すると考えられる。一部の実施態様では、抗ガン療法は、例えば、化学療法剤の投与、放射線療法等であるが、これらに限定されない。このような抗ガン療法は、本明細書に開示されており、当業者に周知であり、本発明における使用のために包含される他の抗ガン療法も開示されている。
【0106】
本発明を下記図面及び実施例により更に説明するものとする。ただし、これらの実施例及び図面は、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【実施例】
【0107】
方法
患者及びサンプル
切除処置された肝細胞ガン(HCC)患者からの合計114個の腫瘍サンプルをこの研究に含ませた。これらの患者は全て、手術前にHCC処置を受けなかった。切除されたHCC由来の腫瘍の凍結され、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルを、Henri Mondor University Hospital(Creteil, France)からの病理学部により与えた。地域倫理委員会Ile de Franceにより、フランスの法律で要求されているように、この研究は承認された。
【0108】
腫瘍標本における免疫組織化学
WSX-1免疫染色。WSX-1発現を、抗WSX-1抗体(Novus)を使用してHCC腫瘍のパラフィン包埋切片上での免疫組織化学により評価した。ヘマトキシリンを使用して、核を対比染色した。WSX-1の生理学的発現を決定するために、非病理学的肝臓の3つの最初のスライドを研究し、肝臓疾患の専門病理学者を含む2名の異なる科学者により、50のHCCスライドトレーニングセットの最初のレビューを行った。次いで、コホート全体を、患者を染色細胞の低密度対高密度の2群に分ける半定量的スコアを使用して、2名の科学者により独立して分析した。WSX-1発現を、染色された腫瘍細胞が強い強度染色を示しかつ染色された腫瘍細胞の数が50%を超える場合、高いとみなした。
【0109】
MIB-1発現。MIB-1免疫組織化学をHenri Mondor University hospital(Creteil, France)Pathology Department on Leica Bondmax automatにおいて、抗MIB-1抗体(Sigma Aldrich)を使用して自動的に行った。MIB-1増殖指数を、染色された細胞が視野(×400)あたりに10個の陽性細胞を超える場合、高いとみなした。
【0110】
細胞系統
HCC系統を、10% ウシ胎仔血清(FBS)、100U/mL ペニシリン/ストレプトマイシン(PS)及び4mM グルタミンを補充したDMEM培地中において、37℃、5% CO2を含有する加湿大気中で維持した。
【0111】
IL-27抗増殖作用アッセイ
Ki-67。HCC系統におけるKi-67免疫蛍光染色のために、細胞をリコンビナントヒトIL-27(rhIL-27、R&D systems)で24、48又は72時間処理し又は処理しなかった。細胞を2% パラホルムアルデヒド(PFA)中に固定し、次いで、0.3% Triton X-114で透過させた。Ki-67免疫染色を、抗Ki-67モノクローナル抗体(LifeTechnologies)を使用して行った。核をDAPIで対比染色した。視野(×200)あたりのKi-67陽性細胞数を、ImageJソフトウェアを使用してカウントした。
【0112】
スフェア。細胞を、100U/mL PS、1×B27補体、20ng/mL リコンビナントヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(rhbFGF)及び20ng/mLのリコンビナントヒト上皮増殖因子(rhEGF)を補充したDMEM-F12培地中において、24ウェルの低細胞付着表面プレートに播種した。細胞をrhIL-27で21日間処理し又は処理しなかった。球径を、ImageJソフトウェアを使用して測定した。
【0113】
WSX-1発現分析
フローサイトメトリー。HCC系統をAlexaFluor488抗WSX-1抗体(Novus)と共にインキュベーションした。WSX-1発現を、FACSDivaソフトウェア(BD Biosciences)を使用して、Cyan ADPフローサイトメーター(Beckman Coulter)で分析した。オーバーレイを、FlowJoソフトウェアを使用することにより構築した。
【0114】
免疫細胞化学。細胞をメタノールで固定し、非特異的部位のブロッキングをPBS/1% BSA溶液で行った。HCC系統に対するWSX-1免疫細胞蛍光染色を抗WSX-1抗体(Novus)により行った。核をDAPIで対比染色し、カバーガラスをかけた。
【0115】
WSX-1をターゲットとしたマイクロRNAの予測及びHCCにおいて過剰発現されたマイクロRNAの特定
WSX-1をターゲットとする予測されたmiRNAの検索を、miRanda(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)、TargetScan Human(Whitehead Institute for Biomedical Research)及びMicroCosm Targets(European Bioinformatic InstiteにおけるEnright Labにより開発された)を含む3つのオンラインソフトウェアを使用して行った。HCC患者及び種々のHCC系統におけるmiRNA発現プロファイルを、Gene Expression Omnibus(GEO)データベースを使用して、National Center for Biotechnology Information(NCBI)から検索した。次いで、マイクロアレイデータを分析し、下記適切なデータセット:GSE74618、GSE57555、GSE31164、GSE74618、GSE20077、GSE71107及びGSE41077において行い、GEOデータベースにおけるGEO2Rツールを使用して差次的に発現されたmiRNAを特定した。差次的に発現されたmiRNAを、0.05未満の調整済みp値(adj.P)及び閾値として少なくとも1.5の倍数変化(>1.5-FC)を使用してスクリーニングした。ベン図を使用して、WSX-1をターゲットとする予測されたmiRNAとHCC患者及びHCC細胞系統でアップレギュレーションされたmiRNAとを一致させた。合計4つの候補miRNA(miR-324、miR-129、miR-371、miR-140)を更なる調査に選択した。
【0116】
マイクロRNAの検出及び絶対定量
全RNAをHCC系統及びHCC患者の凍結腫瘍から抽出し、合計10ng RNAを、miScript RTキット(Qiagen)を使用してcDNA調製に使用した。miR-129及びmiR-324の検出を、LightCycler480(Roche)上でのqRT-PCRにより、miScript SYBR Green PCRキット(Qiagen)を使用して、製造業者の説明書に従って行った。マイクロRNA発現を絶対定量として決定した。miR-129及びmiR-324コピーの絶対数を決定するために、標準レンジを、miR-129及びmiR-324模倣体(Dharmacon)の10希釈(miRNAの1.36×1014~1.36×105コピー)を使用して、各マイクロRNAについて確立した。検量線を、半対数スケールを使用するCt値をピックアップすることにより確立し、各未知サンプル中のmiRNAコピー数を決定するのに使用した。
【0117】
オリゴヌクレオチドトランスフェクション
アンタゴミル-129、アンタゴミル-324、アンタゴミル陰性対照(全てDharmaconから購入)を製造業者の説明書に従ってHep3B細胞にトランスフェクションした。Dy547ラベルアンタゴミル陰性対照を使用して、トランスフェクション効率を評価した。トランスフェクションされた細胞をトランスフェクション後少なくとも3日間維持した。
【0118】
統計的分析
GraphPad Prismソフトウェアを使用して、統計的分析を行った。結果を、平均+/-SEMとして表わす。患者から得られた分析データについて、値を、カイ二乗検定を使用して比較した。カプランマイヤー分析を無病生存率及び全生存率について、対数順位検定(Mantel-Cox)により行った。WSX-1、miR-129及びmiR-324生存曲線について、分析をそれらの低発現又は高発現に従って行った。in vitro及びPCR研究について、2群間の統計的有意差をスチューデントt検定により決定した。P<0.05を、データの有意差とみなした。
【0119】
実施例1
肝細胞ガン(HCC)は、最も一般的な原発性肝臓悪性腫瘍となっている。ここで、現在の治療法は十分であり、したがって、新しい治療手段を特定するのに重要な必要性がある。IL-27は、肝臓微小環境で産生されるサイトカインであるが、HCCの病因におけるその役割は未だに研究されていない。ここで、本発明者らにより、IL-27がHCC細胞系統において抗増殖活性を発揮することが示される。一方で、発明者らにより、HCCを患っている患者において、WSX-1(すなわち、IL-27レセプター)の発現の低下がより悪い予後と関連し、腫瘍増殖に寄与することが示される。次いで、本発明者らにより、WSX-1の発現をレプレッション可能であり、前記miRの過剰発現が患者におけるより悪い予後と関連することを示す幾つかのマイクロRNA(miR)が特定された。最後に、本発明者らにより、アンタゴミルによりWSX-1の発現が回復し、それにより、腫瘍細胞のIL-27特性への感作を回復させることができることが実証される。とりわけ、結果を表1及び
図1~
図7に示す。
【0120】
表1.WSX-1発現とHCC予後因子との関連。種々のHCC予後因子を有する腫瘍におけるWSX-1の強発現(高発現、n=72)又は低発現(n=42)間の相関を、カイ二乗検定を使用して研究した。相関パラメーターを太字で強調表示する。略語:AFP、アルファフェトプロテイン
【表1】
【0121】
実施例2
図8に、慢性DEN誘引HCCマウスモデルにおけるIL-27処置の有無でのアンタゴミル-324-5pについての実験設計を示す。DEN慢性処置により、肝臓におけるWSX-1発現の急激な低下がもたらされる。IL-27を伴うか又は伴わないアンタゴミル-324-5p処置により、WSX-1タンパク質発現の部分的な回復が可能となった(
図9A~
図9C)。IL-27を伴うか又は伴わないアンタゴミル-324-5p処置により、HCC mRNAマーカー発現の低下が可能となった。IL-27を伴うか又は伴わないアンタゴミル-324-5p処置により、DEN注射マウスにおける線維症関連遺伝子マーカー発現及びsirius red染色の低下が導かれた(
図10A及び
図10B)。
【0122】
参考文献
本願全体を通して、種々の参考文献には、本発明が属する最新技術が記載されている。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に援用される。
【配列表】
【国際調査報告】