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特表2022-529940凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの安定性および生存性を評価するためのサイトフルオロメトリー法の使用
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  • 特表-凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの安定性および生存性を評価するためのサイトフルオロメトリー法の使用 図1
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  • 特表-凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの安定性および生存性を評価するためのサイトフルオロメトリー法の使用 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(54)【発明の名称】凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの安定性および生存性を評価するためのサイトフルオロメトリー法の使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20220620BHJP
【FI】
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021561636
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(85)【翻訳文提出日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 IB2020053664
(87)【国際公開番号】W WO2020212934
(87)【国際公開日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】102019000006066
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512233329
【氏名又は名称】プロバイオティカル・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】PROBIOTICAL S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】モーニャ,ヴェラ
(72)【発明者】
【氏名】パーネ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】アッレジーナ,セレーナ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QS32
4B063QX01
(57)【要約】
凍結乾燥した細菌細胞のバイオマス(凍結乾燥バイオマス)に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用であって、該サイトフルオロメトリー法が、該凍結乾燥細菌細胞の安定性を評価するためのものである、使用。本発明はさらに、凍結乾燥バイオマスの製造方法に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用、および凍結乾燥細菌細胞に存在する細胞壁の完全性を評価するためのサイトフルオロメトリー法の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結乾燥した細菌細胞のバイオマス(凍結乾燥バイオマス)に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用であって、該サイトフルオロメトリー法が、該凍結乾燥細菌細胞の安定性を評価するためのものであり、該凍結乾燥バイオマスが、下記工程:
(i)細菌細胞の少なくとも1つの株を含む、先に製造した細菌細胞のバイオマス(細菌バイオマス)を発酵させて、発酵させた細菌細胞のバイオマス(発酵バイオマス)を得る工程;
(ii)1×106細胞/mlの液体バイオマスから1×1012細胞/mlの液体バイオマスに含まれる細菌細胞の濃度を有する濃縮した細菌細胞のバイオマス(濃縮バイオマス)を得るまで、工程(i)から得られた発酵バイオマスを濃縮する工程;
(iii)工程(ii)から得られた濃縮バイオマスを、(a)リン酸イオン塩またはリン酸、亜リン酸イオン塩または亜リン酸、リン酸一水素イオン塩、リン酸二水素イオン塩、ピロリン酸イオン塩またはピロリン酸、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのリン塩、および(b)スクロース、フルクトース、ラクトース、ラクチトール、トレハロースまたはマンニトール、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのポリヒドロキシ物質、および好ましくは(c)L-システインを含むかまたはそれらからなる溶液と混合して、凍結保護した細菌細胞のバイオマス(凍結保護バイオマス)を得る工程;
(iv)工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスを凍結乾燥して、凍結乾燥バイオマスを得る工程
を含む、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法により製造される、使用。
【請求項2】
該サイトフルオロメトリー法が、工程(i)から得られた発酵バイオマス、工程(ii)から得られた濃縮バイオマスおよび/または工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスにおける細菌細胞の生存性/完全性を評価するために、該発酵バイオマス、該濃縮バイオマスおよび/または該凍結保護バイオマスにさらに適用される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
該細菌細胞における生存性/完全性の評価が、工程(i)、工程(ii)および/または工程(iii)、および工程(iv)をコントロールするプロセスパラメーターをモニターおよび/または調節するために用いられる、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
方法が、工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)に加えて、下記工程:
(viii)工程(i)から得られた発酵バイオマス、工程(ii)から得られた濃縮バイオマス、工程(iii)から得られた凍結保護バイオマス、および/または工程(iv)から得られた凍結乾燥バイオマスを、2つの異なる蛍光色素と接触させて、蛍光発酵バイオマス、蛍光濃縮バイオマス、蛍光凍結保護バイオマスおよび/または蛍光凍結乾燥バイオマスを得る工程;
(ix)工程(viii)に続いて、フローサイトフルオロメトリーにより、蛍光発酵バイオマス、蛍光濃縮バイオマス、蛍光凍結保護バイオマスおよび/または蛍光凍結乾燥バイオマス中の完全な細胞膜を有する細菌細胞の量を検出する工程
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
該量が、下記相関関係:
TFU=AFU+nAFU
[式中、
TFU(総蛍光単位)は、全ての蛍光細菌単位または細胞であり;
nAFU(非活性蛍光単位)は、細胞膜が損傷した非活性な蛍光細菌単位または細胞である]
が適用される、活性蛍光単位または細胞(AFU)として表される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
凍結乾燥バイオマス中の細菌細胞が、外層を欠く裸細胞である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
凍結乾燥バイオマス中の細菌細胞が、脂質マトリックスまたは糖タンパク質マトリックス中のマイクロカプセル化細胞である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用であって、細菌細胞が細胞壁を有し、該サイトフルオロメトリー法が、請求項1~7のいずれか一項に従って製造された該凍結乾燥細菌細胞の該細胞壁の完全性を評価するためのものである、使用。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に従った凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法で製造された凍結乾燥細菌細胞に存在する細胞壁の完全性を評価するためのサイトフルオロメトリー法の使用。
【請求項10】
凍結乾燥細菌細胞の細胞壁の完全性を評価するための方法であって、細菌細胞が細胞壁を有し、該方法が、請求項1~7のいずれか一項に従って凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスに適用されるサイトフルオロメトリー法を使用することを特徴とする方法。
【請求項11】
該凍結乾燥した細菌細胞のバイオマス(凍結乾燥バイオマス)が、下記工程:
(i)細菌細胞の少なくとも1つの株を含む、先に製造した細菌細胞のバイオマス(細菌バイオマス)を発酵させて、発酵させた細菌細胞のバイオマス(発酵バイオマス)を得る工程;
(ii)1×106細胞/mlの液体バイオマスから1×1012細胞/mlの液体バイオマスに含まれる細菌細胞の濃度を有する濃縮した細菌細胞のバイオマス(濃縮バイオマス)を得るまで、工程(i)から得られた発酵バイオマスを濃縮する工程;
(iii)工程(ii)から得られた濃縮バイオマスを、(a)リン酸イオン塩またはリン酸、亜リン酸イオン塩または亜リン酸、リン酸一水素イオン塩、リン酸二水素イオン塩、ピロリン酸イオン塩またはピロリン酸、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのリン塩、および(b)スクロース、フルクトース、ラクトース、ラクチトール、トレハロースまたはマンニトール、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのポリヒドロキシ物質、および好ましくは(c)L-システインを含むかまたはそれらからなる溶液と混合して、凍結保護した細菌細胞のバイオマス(凍結保護バイオマス)を得る工程;
(iv)工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスを凍結乾燥して、凍結乾燥バイオマスを得る工程
を含む、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法により製造される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
凍結乾燥した細菌細胞のバイオマス(凍結乾燥バイオマス)に適用されるサイトフルオロメトリー法であって、該サイトフルオロメトリー法が、該凍結乾燥細菌細胞の安定性を評価するためのものである、方法。
【請求項13】
該安定性が、該凍結乾燥細菌細胞の細胞壁の完全性を決定することにより評価される、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの安定性および生存性を評価するためのサイトフルオロメトリー法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な疾患の予防および処置を目的としたプロバイオティクス菌株の製造の分野、ならびに様々な治療分野に固有のプロバイオティクスおよびシンバイオティクスの最終製品の設計および製造では、プロバイオティクス細菌の細胞が安定かつ生存していることが重要である。安定かつ生存している細菌細胞は有用であるため、一方では、ゾーンIV.AおよびゾーンIV.B.に属する気候条件の国においてさえも、経時的な細菌細胞の崩壊を最小限に抑えることができ、他方では、細菌細胞は、対象に投与されると有効である。
【0003】
ビフィズス菌および乳酸菌の細胞は原核細胞であり、真核細胞とはサイズが異なり、真核細胞では核膜が存在することにより異なっており、遺伝物質であるDNAが細胞の残りの部分から明確に分離されており、それ故に明確な核を形成する。原核生物の細胞構造は、内側から外側に向かって細胞膜、細胞壁、莢膜の3つの同心円状の外皮を含む。後者は真核細胞には存在しない。したがって、ビフィズス菌および乳酸菌の細胞は、とりわけ、その完全性が維持されなければならない細胞壁の存在によって特徴付けられる。
【0004】
CFU(コロニー形成単位)で生存性を表すプレートカウントによって実施される細菌細胞をカウントする現在の方法には、凍結乾燥細菌細胞バイオマスの製造方法に関してもそれを適用することを強く制限する限界および欠点がある。
【0005】
実際のところ、プレート細胞カウント法には次の欠点がある:1)種間および同じ種の株間でのばらつきが大きいため、すべてのプロバイオティクス生物体に適用できる単一の方法論がない;2)プレート細胞カウント法は極めて手間がかかり、観察すべきインキュベート時間があるため、通常72時間後に結果が得られる;3)特に酸素感受性種に関して、各種の適切な増殖条件を決定するのに、しばしば相当な技術的困難がある;4)方法の精度、および異なる実験室で異なる操作者間で実施された実験結果の再現性が低い;5)CFUでの細菌の定量は、定義上生存しているが培養不可能な細胞(VBNC)がコロニーを生じさせないことを考えると、そして微生物細胞の凝集体または鎖が1つのコロニーしか生じないという事実のために、試料中に存在する生存細胞の現実(real)または実際(actual)の数と比較して、著しく過小評価され得る。
【0006】
また、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスを製造するための現在の方法にはまだ多くの制限が残っており、それにより、製造工程中に厳しく試験される細胞壁を良好な生理学的状態で保存および維持できない。
【0007】
さらに、一方では細菌数を決定するために利用できるISO法がほとんど存在せず、そして他方ではプロバイオティクス細菌株の市場における業界の企業によって開発された幅広い内部カウント法の存在が、最終製品に存在する細菌株の量/濃度を比較または確認することを困難にする。
【0008】
例えば、WO97/17463は、細胞生存性について実施された研究を開示している。H.L Alakomiら(Journal of microbiological methods 62, (2005) 25-35)も同様である。
【0009】
しかしながら、今日まで、凍結乾燥細菌細胞の細胞壁の完全性を評価するための、凍結乾燥乳酸菌およびビフィズス菌の培養物に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用は知られていない。
【0010】
したがって、世界中で認められ、信頼性が高く、正確で再現性のある、最終製品に存在する細菌株の量または濃度を決定するための一般的な方法がないことは、プロバイオティック細菌株の生産者および購入者が必要なチェックを行う手段を持たず、その有効性の関数としての重量測定法で最終製品の量を投与できないという事実により、プロバイオティック細菌株ベースの製品の分野で多くの不確実性を生み出していることは明らかである。
【0011】
したがって、凍結乾燥プロバイオティクス細菌株のバイオマスの製造方法であって、バイオマス中に存在する細菌株の量および濃度を信頼性が高く、正確で再現可能な方法で確立および決定できる方法を有することが望ましい。
【0012】
同時に、ゾーンIV.A(高温多湿の気候-長期保管条件:30℃/65%RH)およびゾーンIV.B.(高温超多湿の気候-長期保管条件:30℃/75%RH)の気候条件の国でも、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスが安定し、生存していて、高濃度(生存性の点で測定可能)で、かつ製造が容易であることも望ましい。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用であって、細菌細胞が細胞壁を有し、該サイトフルオロメトリー法が、製造された該凍結乾燥細菌細胞の該細胞壁の完全性を評価することを可能にする、使用に関する。
【0014】
本発明の主題である凍結乾燥細菌細胞は、良好な生理学的状態にある良好に保存された細胞壁(または細胞膜壁)を有する細胞であり、それ故に完全で生存している細胞である。細胞壁(または細胞膜壁)の完全性は、細菌細胞のバイオマスを製造するための方法のすべての工程に適用されるサイトフルオロメトリー法によって測定および評価される。細胞壁の完全性は、AFUで表現され、サイトフルオロメトリー法によって決定される生存性に関して、より高い安定性を細胞に与える。当該安定性は、プレートカウントによって同一細胞で決定され、CFUで表される安定性よりも高くなる。より高い安定性により、細菌細胞のバイオマスの保存期間を延長でき、一方、より高い細胞生存性により、処置される対象に使用または投与されると、活性および有効性を高めることができる。さらに、バイオマス中の生存細胞の量および濃度を測定および決定することができることにより、再現性があり、信頼性が高く、体系的な製造方法が可能になる。
【0015】
本発明の一の目的は、特許請求の範囲に示される特徴を有する、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスに適用されるサイトフルオロメトリー法である。
【0016】
本発明の一の目的は、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマス(凍結乾燥バイオマス)に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用であって、該サイトフルオロメトリー法が、該凍結乾燥細菌細胞の安定性を評価するためのものであり、該凍結乾燥バイオマスが、下記工程:
(i)細菌細胞の少なくとも1つの株を含む、先に製造した細菌細胞のバイオマス(細菌バイオマス)を発酵させて、発酵させた細菌細胞のバイオマス(発酵バイオマス)を得る工程;
(ii)1×106細胞/mlの液体バイオマスから1×1012細胞/mlの液体バイオマスに含まれる細菌細胞の濃度を有する濃縮した細菌細胞のバイオマス(濃縮バイオマス)を得るまで、工程(i)から得られた発酵バイオマスを濃縮する工程;
(iii)工程(ii)から得られた濃縮バイオマスを、(a)リン酸イオン塩またはリン酸、亜リン酸イオン塩または亜リン酸、リン酸一水素イオン塩、リン酸二水素イオン塩、ピロリン酸イオン塩またはピロリン酸、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのリン塩、および(b)スクロース、フルクトース、ラクトース、ラクチトール、トレハロースまたはマンニトール、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのポリヒドロキシ物質、および好ましくは(c)L-システインを含むかまたはそれらからなる溶液と混合して、凍結保護した細菌細胞のバイオマス(凍結保護バイオマス)を得る工程;
(iv)工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスを凍結乾燥して、凍結乾燥バイオマスを得る工程
を含む、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法により製造される、使用である。
【0017】
本発明の別の目的は、特許請求の範囲に示される特徴を有する、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用である。
本発明の別の更なる目的は、特許請求の範囲に示される特徴を有する、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法で製造された凍結乾燥細菌細胞に存在する細胞壁の完全性を評価するためのサイトフルオロメトリー法の使用である。
【0018】
本発明の別の目的は、特許請求の範囲に示される特徴を有する、凍結乾燥細菌細胞の細胞壁の完全性を評価するための方法である。
【0019】
本発明の別の目的は、特許請求の範囲に定義される特徴を有する、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマス(凍結乾燥バイオマス)に適用されるサイトフルオロメトリー法である。
【0020】
本発明の好ましい実施態様を、いかなる方法であれ、本発明の保護の範囲を制限することを意図することなく、以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
ここで、本発明を、非限定的な例としてのみ提供される図面を参照して説明する。
図1図1は、工程(i)、工程(ii)または工程(iii)で得られたバイオマスなどの液体バイオマスにおけるAFU/ml対CFU/mlの相関関係を示す。
図2図2は、様々な細菌細胞濃度における工程(iv)から得られた凍結乾燥バイオマスについてのCFU/gの相関関係(図2)を示す。
図3図3は、様々な細菌細胞濃度における工程(iv)から得られた凍結乾燥バイオマスについてのAFU/gの参照方法(図3)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
長期の集中的な研究開発活動の後、出願人は、バイオマス(一連の細菌細胞)に存在する細菌の細胞壁(細胞壁)の完全性を決定および評価することの重要性を見出した。基本的には、出願人は、細胞壁の完全性(より高い完全性はより低い透過性に対応する)および再現性があり、信頼性が高く、正確な方法でのその決定/測定により、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの安定性および生存性を定量できることを見出した。
【0023】
実験結果は、サイトフルオロメトリー法の使用により、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスを製造するすべての工程中の細胞壁の保存状態および完全性を決定および評価することができ、AFUで表され、サイトフルオロメトリー法で測定/決定される生存性に関して、プレートカウント法によって細胞上で測定され、CFUで表された安定性より優れた安定性を有する細菌細胞を製造することができることを確認した。
【0024】
驚くべきことに、サイトフルオロメトリー法の適用により、プロセスの(i)、(ii)および/または(iii)、および(iv)の様々な工程において「培養性」細胞パラメーター(CFU)、すなわち細菌細胞がプレート中で複製する能力を、細胞の完全性および生存性(AFU)の物理的/生理学的パラメーター、すなわち活性蛍光単位と相関させることができる。
【0025】
本発明は、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマス(凍結乾燥バイオマス)に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用であって、該サイトフルオロメトリー法が、該凍結乾燥細菌細胞の安定性を評価するためのものであり、該凍結乾燥バイオマスが、下記工程:
(i)細菌細胞の少なくとも1つの株を含む、先に製造した細菌細胞のバイオマス(細菌バイオマス)を発酵させて、発酵させた細菌細胞のバイオマス(発酵バイオマス)を得る工程;
(ii)1×106細胞/mlの液体バイオマスから1×1012細胞/mlの液体バイオマスに含まれる細菌細胞の濃度を有する濃縮した細菌細胞のバイオマス(濃縮バイオマス)を得るまで、工程(i)から得られた発酵バイオマスを濃縮する工程;
(iii)工程(ii)から得られた濃縮バイオマスを、(a)リン酸イオン塩またはリン酸、亜リン酸イオン塩または亜リン酸、リン酸一水素イオン塩、リン酸二水素イオン塩、ピロリン酸イオン塩またはピロリン酸、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのリン塩、および(b)スクロース、フルクトース、ラクトース、ラクチトール、トレハロースまたはマンニトール、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのポリヒドロキシ物質、および好ましくは(c)L-システインを含むかまたはそれらからなる溶液と混合して、凍結保護した細菌細胞のバイオマス(凍結保護バイオマス)を得る工程;
(iv)工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスを凍結乾燥して、凍結乾燥バイオマスを得る工程
を含む、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法により製造される、使用に関する。
【0026】
一実施態様によれば、凍結乾燥バイオマス中の細菌細胞は、裸細胞であり、すなわち外層を欠く。
【0027】
別の一実施態様によれば、凍結乾燥バイオマス中の細菌細胞は、好ましくは脂質マトリックスまたは糖タンパク質マトリックス中の、マイクロカプセル化細胞である。
【0028】
凍結乾燥バイオマスは、下記工程:
(i)細菌細胞の少なくとも1つの株を含む、先に製造した細菌細胞のバイオマス(細菌バイオマス)を発酵させて、発酵させた細菌細胞のバイオマス(発酵バイオマス)を得る工程;
(ii)1×106細胞/mlの液体バイオマスから1×1012細胞/mlの液体バイオマスに含まれる細菌細胞の濃度を有する濃縮した細菌細胞のバイオマス(濃縮バイオマス)を得るまで、工程(i)から得られた発酵バイオマスを濃縮する工程;
(iii)工程(ii)から得られた濃縮バイオマスを、(a)リン酸イオン塩またはリン酸、亜リン酸イオン塩または亜リン酸、リン酸一水素イオン塩、リン酸二水素イオン塩、ピロリン酸イオン塩またはピロリン酸、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのリン塩、および(b)スクロース、フルクトース、ラクトース、ラクチトール、トレハロースまたはマンニトール、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのポリヒドロキシ物質、および好ましくは(c)L-システインを含むかまたはそれらからなる溶液と混合して、凍結保護した細菌細胞のバイオマス(凍結保護バイオマス)を得る工程;
(iv)工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスを凍結乾燥して、凍結乾燥バイオマスを得る工程
を含む、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法により製造される。
【0029】
本発明の一実施態様による凍結乾燥バイオマスの製造方法は、細菌細胞の少なくとも1つの株を含む先に製造した細菌バイオマスを、発酵させて、発酵バイオマスを得る工程(i)を含む。
【0030】
一実施態様によれば、工程(i)を対象とする細菌バイオマスは、Firmicutes、Actibacteria、Bacteroidetes、Proteobacteriaのファミリーに属する細菌細胞の株、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される少なくとも1つの細菌細胞の株を含む。該少なくとも1つの細菌細胞の株は、Lactobacillus、Bifidobacterium、Streptococcus、Lactococcus、Akkermansia、Intestinimonas、Eubacterium、Faecalibacterium、Neisseria、Roseburia、Cutibacteriumの属に属する細菌細胞の株、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される。該少なくとも1つの細菌細胞の株は、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus buchneri、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus salivarius subsp. salivarius、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus paracasei subsp. paracasei、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus pentosus、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus brevis、Lactobacillus casei、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus johnsonii、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium animalis subsp. lactis、Bifidobacterium breve、Bifobacterium catenulatum、Bifobacterium pseudocatenulatum、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium lactis、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium longum、Akkermansia munichipila、Intestinimonas butyriciproducens、Eubacterium hallii、Faecalobacterium prausnitzii、Neisseria lactamica、Roseburia hominis、Cutibacterium acnesの属に属する細菌細胞の株、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される。
【0031】
発酵工程(i)の終わりに、工程(ii)による濃縮に供される細菌バイオマスが得られる。
【0032】
一実施態様によれば、工程(ii)は、液体画分を、正確に工程(i)の液体発酵基質(または発酵ブロス)で増殖した細菌細胞からなる固体または細胞画分から分離する、分離工程によって実施される。一実施態様において、該分離工程は、遠心分離によって実施し得る。
【0033】
分離工程は、溶液の物理的状態にある細菌バイオマスから、そこに含まれる液体画分を分離することを可能にし、その結果、バイオマスは、例えば細菌細胞などの他の成分に集中するようになる。
【0034】
工程(iii)において、工程(ii)から得られた濃縮バイオマスを、リン塩(a)およびポリヒドロキシ物質(b)(すなわち、スクロース、フルクトース、ラクトース、ラクチトール、トレハロースまたはマンニトール、およびそれらの混合物)、および好ましくは(c)L-システインを含むかまたはそれらからなる溶液と混合する。
【0035】
そのような溶液(または凍結保護溶液)は、細菌バイオマスが凍結保護されるという点で、濃縮バイオマスに凍結保護を与えることができる。これは、該細菌バイオマスに含まれる、使用される細菌株の細胞が凍結保護されていることを意味する。細胞凍結保護は、細菌株の細胞の生物組織(例えば細胞膜)が、凍結保護バイオマスを凍結乾燥する工程(iv)での凍結によって生じる可能性のある損傷から保護されることを意味する。例として、細胞への損傷は、膜の透過性が増加する可能性を伴う、細胞膜の裂傷または損傷を含み得る。
【0036】
一実施態様によれば、少なくとも1つのリン塩(a)は、リン酸カリウム(K3PO4)、リン酸一水素カリウム(K2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)および/またはピロリン酸カリウム(K4P2O7;CAS No.7320-34-5)の化合物より選択される。
【0037】
一実施態様によれば、スクロースは、ポリヒドロキシ物質(b)として用い得る。
【0038】
一実施態様によれば、スクロースは、25%W/V~45%W/Vに含まれ、好ましくは40%W/Vの濃度で存在し得て、ここで、%W/Vは、凍結保護溶液(工程(iii)で細菌バイオマスと混合する前のこのような溶液を想定)の総容量に対するスクロースの重量(すなわち、グラム)パーセントを示すために使用される。
【0039】
一実施態様によれば、工程(iii)で用いる溶液中のリンの一または複数の塩(a)の濃度は、6%W/V~20%W/V、好ましくは6%W/V~15%W/V、さらにより好ましくは10%W/V~14%W/Vに含まれ得て、ここで、%W/Vは、溶液の総容量に対する上記化合物の重量(すなわち、グラム)パーセントを示すために使用される。
【0040】
一実施態様によれば、工程(iii)で用いる溶液中のL-システインは、溶液1L当たり0.5gのL-システインから5gのL-システイン、好ましくは溶液1L当たり1g~4gのL-システイン、さらにより好ましくは溶液1L当たり2g~3gのL-システインに含まれる量で存在し得る。
【0041】
具体的には、L-システイン(CAS No.52-90-4)は酸素封鎖剤として機能し、それ故に溶液に添加すると、活性酸素種(ROS)の形成を制限または阻止する。さらに、L-システインは低分子量により特徴付けられ、それ故に細菌細胞の細胞膜に容易に浸透し、これにより酸素フリーラジカルによる損傷からの保護を強化し、膜構造の完全性を向上させる。
【0042】
工程(iv)において、工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスを、凍結乾燥して、凍結乾燥バイオマスを得る。
【0043】
他に断らない限り、「凍結乾燥する」または「凍結乾燥」という表現は、予め凍結した凍結保護バイオマスの制御された脱水を示すために用いられ、そしてそれは、凍結乾燥プロセス全体(凍結、一次乾燥および二次乾燥)を示すために用いられる。
【0044】
一実施態様によれば、凍結乾燥工程(iv)は、工程(iii)後に、下記工程:
(iv.a)工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスを凍結して、凍結バイオマスを得る工程;
(iv.b)工程(iv.a)から得られた凍結バイオマスの氷を昇華(または乾燥)させて、凍結乾燥バイオマスを得る工程
を含む。
【0045】
好ましくは、工程(iv.b)の昇華は、凍結乾燥バイオマスを得るための、工程(iv.a)から得られた凍結バイオマスの一次乾燥工程(iv.b.1)、および工程(iv.b.1)から得られたバイオマスに対するその後の二次乾燥(または脱着)を含む。
【0046】
一次乾燥工程(iv.b.1)において、工程(iv.a)から得られた凍結バイオマスを、最初に減圧に供して、凍結溶液の一部を昇華させて、減圧下でバイオマスを得て、続いて、二次乾燥工程(iv.b.2)において、減圧下のバイオマスを加熱して、凍結乾燥バイオマスを得る。
【0047】
好ましくは、前の一次乾燥工程(iv.b.1)における減圧下のバイオマスからすべての氷が昇華したとき、二次乾燥工程(iv.b.2)は開始する。二次乾燥工程(iv.b.2)において、一次乾燥工程(iv.b.1)から得られた減圧下のバイオマスに吸着した溶液を、減圧下でバイオマス温度を上げることにより脱着させる。
【0048】
一実施態様によれば、バイオマスの湿度が、バイオマス重量に対して0.5重量%~2.5重量%、好ましくは0.75重量%~2.0重量%、より好ましくは0.9重量%~1.5重量%、さらにより好ましくは0.95重量%~1.1重量%に含まれるとき、二次乾燥工程(iv.b.2)は終了する。
【0049】
一実施態様によれば、サイトフルオロメトリー法は、発酵バイオマス、濃縮バイオマスおよび/または凍結保護バイオマスにおける細菌細胞の生存性/完全性を評価するために、好ましくはすべてのバイオマス、すなわち発酵バイオマス、濃縮バイオマスおよび凍結保護バイオマスにおける細菌細胞の生存性/完全性を評価するために、工程(i)から得られた発酵バイオマス、工程(ii)から得られた濃縮バイオマスおよび/または工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスに適用される。
【0050】
好ましい実施態様によれば、発酵バイオマス、濃縮バイオマス、および/または凍結保護バイオマスおよび凍結乾燥バイオマスにおける細菌細胞の生存性/完全性の評価は、工程(i)、工程(ii)および/または工程(iii)、および工程(iv)を支配するプロセスパラメーターをモニターおよび/または制御するために用いられ得る。
【0051】
言い換えれば、細菌細胞のバイオマスの製造方法の工程の少なくとも一部、好ましくはすべてにおいて行われる細菌細胞の生存性/完全性をモニターおよび評価することにより、再現性があり、信頼性が高く、最適化されたプロセスによって、凍結乾燥され、安定し、生存していて、高濃度の細菌細胞のバイオマスを得るための、製造プロセスの個々の工程のそれぞれにおけるプロセスを最適化することができる。
【0052】
工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)に加えて、一実施態様によれば、方法は、工程(iv)に続く工程(v)を含み得る。
【0053】
好ましい工程(v)において、工程(iv)から得られた凍結乾燥バイオマスを破砕して、破砕バイオマスを得る。
【0054】
実際のところ、工程(iv)から得られた凍結乾燥バイオマスがコンパクトな塊(ケーキ)である場合、破砕バイオマスを得るために、この塊を、破砕するか、すりつぶすかまたは粉砕しなければならない。好ましくは、工程(v)の破砕は、メッシュまたは篩によって実施する。
【0055】
より正確には、好ましい工程(v)において、工程(iv)から得られたコンパクトな塊またはケーキを、コンパクトな塊を破砕するか、すりつぶすかまたは粉砕するために、上記メッシュまたは篩に通す。
【0056】
工程(v)の終わりに得られた破砕バイオマスは、粉末または顆粒の形態であり、工程(iv)の凍結乾燥バイオマスに対して管理および取り扱いが容易である。例えば、このような取り扱い性の改善は、その後の秤量および/または包装作業において有用であり得る。
【0057】
工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)に加えて、一実施態様によれば、方法は、工程(v)に続く工程(vi)を含み得る。
【0058】
好ましい工程(vi)において、工程(v)から得られた破砕バイオマスを、好ましくは水分がない状態で、滅菌容器に包装して、包装バイオマスを得る。
【0059】
一実施態様において、工程(vi)から得られた包装バイオマスを、滅菌容器内のヘッドスペースの量(具体的には、包装バイオマスと容器の上部との間の空気の量)が極めて小さくなるように、滅菌容器に包装する。好ましくは、ヘッドスペースの量は無視できるほどである(すなわちほぼゼロ)。
【0060】
一実施態様によれば、包装バイオマスは、工程(vi)の終わりに得られた包装バイオマス1g当たり、1×108細胞/g~1×1011細胞/gに含まれる細菌細胞濃度、好ましくは1×109細胞/g~1×1010細胞/gに含まれる濃度を有する。
【0061】
工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)に加えて、一実施態様によれば、方法は、工程(vi)に続く工程(vii)を含み得る。
【0062】
好ましい工程(vii)において、工程(vi)から得られた包装バイオマスを、所定の時間後に水で再構成して、再構成バイオマスを得る。
【0063】
異なる実施態様によれば、工程(vi)で用いられる水は、純水、生理食塩水または緩衝溶液を含むかまたはそれらからなる群より選択される。
【0064】
工程(vii)の所定の時間に関して、このような時間は、ゾーンIV.AおよびゾーンIV.B.(世界保健機関により特定される地理的ゾーン)の条件下でも、好ましくは1分~10年、好ましくは1日~5年、より好ましくは4か月または12か月から48か月、さらにより好ましくは18か月~32か月、さらに好ましくは24か月~30か月に含まれる。
【0065】
一実施態様によれば、工程(vi)の再構成は、典型的には、必ずしもではないが、工程(iv)の凍結乾燥中に減少した量と同等である、ある量の水を工程(vi)から得られた包装バイオマスへ再添加することを提供する。
【0066】
一実施態様によれば、工程(vi)から得られた包装されている凍結乾燥バイオマスは、好ましくは等張水溶液であって、さらにより好ましくは実質的に中性のpH値、またはいずれの場合も6.0~7.0に含まれるpH値の水溶液によって、水溶液として工程(vi)において再構成(水和)され得る。6.0~7.0に含まれるこのようなpH値は、細菌細胞が、裸細胞であり、すなわち外層を欠く、工程(vi)から得られた包装バイオマスについて特に好ましい。
【0067】
一実施態様によれば、工程(vi)から得られた包装されている凍結乾燥バイオマスは、pH8.4のホウ酸緩衝溶液の水溶液として、工程(vii)において再構成(水和)され得る。このようなpH値8.4は、細菌細胞が、好ましくは脂質マトリックスまたは糖タンパク質マトリックス中の、マイクロカプセル化細胞である、工程(vi)から得られた包装バイオマスについて特に好ましい。
【0068】
一実施態様によれば、工程(vii)の再構成において、工程(vi)から得られた包装バイオマスは、105~107細胞/mlに含まれ、好ましくは約106細胞/mlの再構成バイオマス中の細菌細胞濃度を得るまで希釈される。
【0069】
これに関して、105~107細胞/mlに含まれ、好ましくは約106細胞/mlの再構成バイオマス中の細菌細胞濃度は、好ましくは、その後の水での希釈によって得られる。
【0070】
別の一実施態様によれば、方法は、工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)に加えて、下記工程:
(viii)工程(i)から得られた発酵バイオマス、工程(ii)から得られた濃縮バイオマス、工程(iii)から得られた凍結保護バイオマス、および/または工程(iv)から得られた凍結乾燥バイオマスを、2つの異なる蛍光色素と接触させて、蛍光発酵バイオマス、蛍光濃縮バイオマス、蛍光凍結保護バイオマスおよび/または蛍光凍結乾燥バイオマス(全体として「蛍光バイオマス」という表現で示される)を得る工程;
(ix)工程(viii)に続いて、フローサイトフルオロメトリーにより、(蛍光発酵バイオマス、蛍光濃縮バイオマス、蛍光凍結保護バイオマスおよび/または蛍光凍結乾燥バイオマス中の完全な細胞膜を有する(したがって、生存しているかまたは安定している)細菌細胞の量を検出する工程
を含む。
【0071】
一実施態様によれば、工程(ix)の検出工程において、そしてISO 19344:2015(E)規格に記載された方法に従って、細胞膜を透過する第1色素(好ましくはチアゾールオレンジ、または(登録商標)SYTO 24-緑色スペクトルの蛍光色素)は、すべての細菌細胞に浸透でき、蛍光バイオマスの総蛍光単位または細胞(TFU)を提供する。第2色素(好ましくはヨウ化プロピジウム)は、細胞膜が損傷した細菌細胞にのみ浸透でき、蛍光バイオマスの非活性または非生存蛍光単位または細胞(nAFU)を提供する。
【0072】
一実施態様によれば、工程(i)から得られた発酵バイオマス、工程(ii)から得られた濃縮バイオマス、工程(iii)から得られた凍結保護バイオマス、または工程(iv)から得られた凍結乾燥バイオマス(後者の場合、凍結乾燥バイオマスは工程(vii)から再構成バイオマスとして得られる)中の第1色素の量は、105~107細胞/mlに含まれ、好ましくは106細胞/mlの細菌細胞濃度を有する分析すべきバイオマス1L当たり、0.1μmol/L~1μmol/Lに含まれる。
【0073】
一実施態様によれば、工程(i)から得られた発酵バイオマス、工程(ii)から得られた濃縮バイオマス、工程(iii)から得られた凍結保護バイオマス、または工程(iv)から得られた凍結乾燥バイオマス(後者の場合、凍結乾燥バイオマスは工程(vii)から再構成バイオマスとして得られる)中の第2色素の量は、105~107細胞/mlに含まれ、好ましくは106細胞/mlの細菌細胞濃度を有する分析すべきバイオマス1L当たり、1μmol/L~50μmol/Lに含まれる。
【0074】
一実施態様によれば、蛍光色素の製造方法は、ISO 19344:2015(E)規格の段落5.3.1.3および5.3.2(Protocol B)に従って実施される。このような蛍光色素を、分析すべきバイオマスに加え、同規格の段落9.2.2に記載の量で希釈し、その後37℃の温度で15分間バイオマスをインキュベートして、分析すべき蛍光バイオマスを得る。その後、蛍光バイオマスを、フローサイトフルオロメトリーによる検出工程(ix)に供する。
【0075】
工程(viii)の別の実施態様によれば、工程(i)から得られた発酵バイオマス、工程(ii)から得られた濃縮バイオマス、工程(iii)から得られた凍結保護バイオマス、および/または工程(iv)から得られた凍結乾燥バイオマスは、使用準備済みのキットであるBDTM Cell viability Kit(Cat.No.349480)と、提供されている指示書に従って接触させて配置して、蛍光発酵バイオマス、蛍光濃縮バイオマス、蛍光凍結保護バイオマスおよび/または蛍光凍結乾燥バイオマスを得ることができる。
【0076】
特に好ましい実施態様によれば、完全な細胞膜を有する生存細菌細胞の量は、下記相関関係:
TFU=AFU+nAFU
[式中、
TFU(総蛍光単位)は、全ての蛍光細菌単位または細胞であり;
nAFU(非活性蛍光単位)は、細胞膜が不完全であるかまたは損傷した非活性な蛍光細菌単位または細胞単位(すなわち、第2色素、好ましくはヨウ化プロピジウムに対して陽性である単位)である]
が適用される、活性蛍光単位または細胞(AFU)、すなわち蛍光分析における第1色素(好ましくはチアゾールオレンジ、またはSYTO(登録商標)24)に対してのみ陽性である単位として表され得る。
【0077】
一実施態様によれば、工程(ix)のフローサイトフルオロメトリーを、分析される蛍光バイオマスの体積測定を実施し、細胞濃度(AFUおよびTFU)を直接計算するように、構成および/または較正する。
【0078】
別の一実施態様によれば、蛍光バイオマスにおけるAFUおよびTFUの値を得るために、工程(ix)のフローサイトフルオロメトリーは、蛍光バイオマスに添加された少なくとも1つの内部蛍光標準を使用する。
【0079】
一実施態様によれば、内部蛍光標準は、蛍光ボールまたはビーズの形態であり、既知の濃度で分析すべき各蛍光バイオマスに加えられる。その後、分析される蛍光バイオマスにおけるAFUとTFUの値は、内部標準の既知の量に比例して計算できる。
【0080】
一実施態様によれば、内部蛍光標準の量は、分析すべき各蛍光バイオマスに、0.100ml~1.000mlに含まれ、好ましくは0.500mlの分析すべき希釈バイオマスの容量に対して、20μl~100μlに含まれ、好ましくは50μlの既知の濃度の容量で加えられ、ここで、「希釈バイオマス」という表現は、105~107細胞/mlに含まれ、好ましくは106細胞/mlの細菌細胞濃度を有する分析すべきバイオマスを指すために用いられる。
【0081】
さらに、本発明は、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマス(凍結乾燥バイオマス)の製造方法に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用であって、細菌細胞が細胞壁を有し、該サイトフルオロメトリー法が、製造された該凍結乾燥細菌細胞の該細胞壁の完全性を評価するためのものである、使用に関する。
【0082】
最後に、本発明は、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法で製造された凍結乾燥細菌細胞に存在する細胞壁の完全性を評価するためのサイトフルオロメトリー法の使用に関する。
【0083】
凍結乾燥バイオマスの製造方法に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用、または凍結乾燥バイオマスの製造方法により製造される凍結乾燥細菌細胞の細胞に存在する細胞壁の完全性を評価するためのサイトフルオロメトリー法の使用の好ましい特徴は、少なくとも上記説明の工程(i)、(ii)、(iii)、(iv)に関連して示されている。
【0084】
工程(i)、工程(ii)または工程(iii)で得られたバイオマスなどの液体バイオマスにおけるAFU/ml対CFU/mlの相関関係を図1に示す。
【0085】
様々な細菌細胞濃度における、工程(iv)から得られた同じ凍結乾燥バイオマスで得られたCFU/g相関とAFU/g相関をそれぞれ図2および図3に示す。
【0086】
このような図2図3から観察できるように、細菌細胞カウントは、プレートカウントによって得られた細胞数とフローサイトフルオロメトリー法によって得られた細胞数の間に有意差を示す。
【0087】
2つの方法間の相違は、実験的に認識されており、細胞型、2つの方法が暗黙的に強調する生理学的状態に由来する。プレートカウントは、個々の細胞がその生理学的状態および採用されたインキュベーションパラメーターに従って培養培地中で増殖および複製する能力に依存する。これに対し、フローサイトフルオロメトリーは、インキュベートパラメーターとは無関係に、各試料内の完全かつ生存している各細胞を読み取る。
【0088】
この相違は、AFU/g(図3)に対するCFU/g(図2)の結果の分析的表現から明らかである。図2および図3の結果を用いて、1.25~1.3に含まれる、2つの方法間の相関係数CF(AFU/CFU比として定義)を計算することができる。
【0089】
観察できるように、相関係数CFは、同じ容量(ml)のバイオマスを有する工程(i)、工程(ii)および工程(iii)から得られた液体バイオマスでは、驚くほど1に近く、平均で≧1である。
【0090】
工程が、必然的に細胞を弱らせ、細菌細胞が生存したままで膜の完全性を維持しながらその複製能力を失い得るような損傷を引き起こす場合、このようなCF係数は、凍結乾燥バイオマスの製造方法の後続の工程中で徐々に増加する。この細胞画分は、生存しているが培養不可能な細胞(VBNC)とみなす。
【0091】
工程(iv)から得られた凍結乾燥バイオマスにおいて計算されたCFは、係数1.2を超え得て(平均で≧1.25)、分析される細胞集団が過小評価されるプレート中の単一コロニーを生じさせないマトリックス(好ましくは脂質または糖タンパク質)の溶解および個々の細胞の分離を考えると、細菌細胞がマイクロカプセル化されているバイオマスの場合はさらに大きくなる。
【0092】
凍結乾燥バイオマスに適用されるサイトフルオロメトリー法の使用によって、良好な生理学的状態の良好に保存された細胞壁を有する細菌細胞、したがって完全かつ生存している細胞を有する、安定なバイオマスを得ることができる。
【0093】
凍結乾燥バイオマスの製造方法に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用によって、このような製造方法のパラメーターをモニターし、調整を可能とするように、凍結乾燥バイオマスの製造方法の一部またはすべての工程で細菌細胞の完全性/生存性を測定および評価することができる。
【0094】
有利には、本使用によって、凍結乾燥形態で得られる細菌細胞のタイプの関数として、広い自由度で広くモデル化し得る方法に適用可能な方法を提供することができる。
【0095】
有利には、サイトフルオロメトリー法の本使用は、工業規模での凍結乾燥バイオマスの技術的生産時間に適合性があり、プレートカウントによる情報の検索よりも大幅に短くなければならない。
【0096】
有利には、サイトフルオロメトリー技術が液相および固相(再構成後)のバイオマスに利用できることを考えると、サイトフルオロメトリー法の本使用は、分析すべきバイオマス試料の物理的状態に依存しない。
【0097】
有利には、サイトフルオロメトリー法の本使用は、本明細書で論じられる製造方法で得られる中間または最終バイオマスに関する極めて正確な情報を提供する。
【0098】
有利には、サイトフルオロメトリー法の本使用により、バイオマス試料中の生存しているが培養不可能な細胞(VBNC)を同定することもできる。実際のところ、細菌細胞の従来のプレートカウントによって得られるCFUの値は、休止状態または非コロニー生成細胞を考慮していないが、いずれの場合も代謝活性を示すか、適切な環境条件下で(例えば腸管系との接触時)、亜致死的損傷から回復する可能性がある。
【0099】
本発明による好ましい実施態様を以下に示す。
【0100】
E1. 凍結乾燥した細菌細胞のバイオマス(凍結乾燥バイオマス)に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用であって、該サイトフルオロメトリー法が、該凍結乾燥細菌細胞の安定性を評価するためのものであり、該凍結乾燥バイオマスが、下記工程:
(i)細菌細胞の少なくとも1つの株を含む、先に製造した細菌細胞のバイオマス(細菌バイオマス)を発酵させて、発酵させた細菌細胞のバイオマス(発酵バイオマス)を得る工程;
(ii)1×106細胞/mlの液体バイオマスから1×1012細胞/mlの液体バイオマスに含まれる細菌細胞の濃度を有する濃縮した細菌細胞のバイオマス(濃縮バイオマス)を得るまで、工程(i)から得られた発酵バイオマスを濃縮する工程;
(iii)工程(ii)から得られた濃縮バイオマスを、(a)リン酸イオン塩またはリン酸、亜リン酸イオン塩または亜リン酸、リン酸一水素イオン塩、リン酸二水素イオン塩、ピロリン酸イオン塩またはピロリン酸、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのリン塩、および(b)スクロース、フルクトース、ラクトース、ラクチトール、トレハロースまたはマンニトール、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのポリヒドロキシ物質、および好ましくは(c)L-システインを含むかまたはそれらからなる溶液と混合して、凍結保護した細菌細胞のバイオマス(凍結保護バイオマス)を得る工程;
(iv)工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスを凍結乾燥して、凍結乾燥バイオマスを得る工程
を含む、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法により製造される、使用。
【0101】
E2. 該サイトフルオロメトリー法が、工程(i)から得られた発酵バイオマス、工程(ii)から得られた濃縮バイオマスおよび/または工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスにおける細菌細胞の生存性/完全性を評価するために、該発酵バイオマス、該濃縮バイオマスおよび/または該凍結保護バイオマスにさらに適用される、E1に記載の使用。
【0102】
E3. 該細菌細胞における生存性/完全性の評価が、工程(i)、工程(ii)および/または工程(iii)、および工程(iv)をコントロールするプロセスパラメーターをモニターおよび/または調節するために用いられる、E2に記載の使用。
【0103】
E4. 方法が、工程(i)、(ii)、(iii)および(iv)に加えて、下記工程:
(viii)工程(i)から得られた発酵バイオマス、工程(ii)から得られた濃縮バイオマス、工程(iii)から得られた凍結保護バイオマス、および/または工程(iv)から得られた凍結乾燥バイオマスを、2つの異なる蛍光色素と接触させて、蛍光発酵バイオマス、蛍光濃縮バイオマス、蛍光凍結保護バイオマスおよび/または蛍光凍結乾燥バイオマスを得る工程;
(ix)工程(viii)に続いて、フローサイトフルオロメトリーにより、蛍光発酵バイオマス、蛍光濃縮バイオマス、蛍光凍結保護バイオマスおよび/または蛍光凍結乾燥バイオマス中の完全な細胞膜を有する細菌細胞の量を検出する工程
を含む、実施態様E1~E3のいずれかに記載の使用。
【0104】
E5. 該量が、下記相関関係:
TFU=AFU+nAFU
[式中、
TFU(総蛍光単位)は、全ての蛍光細菌単位または細胞であり;
nAFU(非活性蛍光単位)は、細胞膜が損傷した非活性な蛍光細菌単位または細胞である]
が適用される、活性蛍光単位または細胞(AFU)として表される、E4に記載の使用。
【0105】
E6. 凍結乾燥バイオマス中の細菌細胞が、外層を欠く裸細胞である、先行する実施態様のいずれかに記載の使用。
【0106】
E7. 凍結乾燥バイオマス中の細菌細胞が、脂質マトリックスまたは糖タンパク質マトリックス中のマイクロカプセル化細胞である、実施態様E1~E5のいずれかに記載の使用。
【0107】
E8. 凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法に適用されるサイトフルオロメトリー法の使用であって、細菌細胞が細胞壁を有し、該サイトフルオロメトリー法が、先行する実施態様のいずれかに従って製造された該凍結乾燥細菌細胞の該細胞壁の完全性を評価するためのものである、使用。
【0108】
E9. 先行する実施態様のいずれかに従った凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法で製造された凍結乾燥細菌細胞に存在する細胞壁の完全性を評価するためのサイトフルオロメトリー法の使用。
【0109】
E10. 凍結乾燥細菌細胞の細胞壁の完全性を評価するための方法であって、細菌細胞が細胞壁を有し、該方法が、先行する実施態様のいずれかに従って凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスに適用されるサイトフルオロメトリー法を使用することを特徴とする方法。
【0110】
E11. 該凍結乾燥した細菌細胞のバイオマス(凍結乾燥バイオマス)が、下記工程:
(i)細菌細胞の少なくとも1つの株を含む、先に製造した細菌細胞のバイオマス(細菌バイオマス)を発酵させて、発酵させた細菌細胞のバイオマス(発酵バイオマス)を得る工程;
(ii)1×106細胞/mlの液体バイオマスから1×1012細胞/mlの液体バイオマスに含まれる細菌細胞の濃度を有する濃縮した細菌細胞のバイオマス(濃縮バイオマス)を得るまで、工程(i)から得られた発酵バイオマスを濃縮する工程;
(iii)工程(ii)から得られた濃縮バイオマスを、(a)リン酸イオン塩またはリン酸、亜リン酸イオン塩または亜リン酸、リン酸一水素イオン塩、リン酸二水素イオン塩、ピロリン酸イオン塩またはピロリン酸、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのリン塩、および(b)スクロース、フルクトース、ラクトース、ラクチトール、トレハロースまたはマンニトール、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群より選択される、少なくとも1つのポリヒドロキシ物質、および好ましくは(c)L-システインを含むかまたはそれらからなる溶液と混合して、凍結保護した細菌細胞のバイオマス(凍結保護バイオマス)を得る工程;
(iv)工程(iii)から得られた凍結保護バイオマスを凍結乾燥して、凍結乾燥バイオマスを得る工程
を含む、凍結乾燥した細菌細胞のバイオマスの製造方法により製造される、E10記載の方法。
【0111】
E12. 凍結乾燥した細菌細胞のバイオマス(凍結乾燥バイオマス)に適用されるサイトフルオロメトリー法であって、該サイトフルオロメトリー法が、該凍結乾燥細菌細胞の安定性を評価するためのものである、方法。
【0112】
E13. 該安定性が、該凍結乾燥細菌細胞の細胞壁の完全性を決定することにより評価される、E12に記載の方法。
図1
図2
図3
【国際調査報告】