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特表2022-529955マイクロ又はナノ結晶セルロースの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(54)【発明の名称】マイクロ又はナノ結晶セルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/08 20060101AFI20220620BHJP
   C08B 15/00 20060101ALI20220620BHJP
   C13K 1/02 20060101ALI20220620BHJP
   C13K 13/00 20060101ALI20220620BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220620BHJP
   D01F 2/00 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
C08B15/08
C08B15/00
C13K1/02
C13K13/00
A23L33/105
D01F2/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021561725
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(85)【翻訳文提出日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2020060933
(87)【国際公開番号】W WO2020212616
(87)【国際公開日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】19169838.0
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521452566
【氏名又は名称】セリコン・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】CELLICON B.V.
【住所又は居所原語表記】Hogebrinkerweg 15e,3871 KM Hoevelaken,The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】オコナー、ポール
(72)【発明者】
【氏名】バビッチ、イゴール
(72)【発明者】
【氏名】ヘイネルマン、ヤコブス・ヨハネス・レオナルドゥス
【テーマコード(参考)】
4B018
4C090
4L035
【Fターム(参考)】
4B018MD28
4B018MD31
4B018ME11
4B018MF01
4C090AA01
4C090AA04
4C090BA24
4C090BC10
4C090BD19
4C090BD23
4C090CA06
4C090CA07
4C090CA11
4C090CA21
4C090DA08
4C090DA10
4C090DA11
4C090DA27
4C090DA28
4C090DA31
4L035GG04
(57)【要約】
本発明は、非晶質及び結晶セルロース相を有するバージンセルロースからのマイクロ又はナノ結晶セルロース組成物の製造方法であって、下記の工程:(A)バージンセルロースを第1の溶媒と接触させる工程であって、第1の溶媒が、ZnClと水の総重量に対して40~65重量%のZnClを含む水溶液であることを特徴とする、接触させる工程、(B)非晶質セルロース相を溶解させ、それにより非晶質セルロース相を結晶質のセルロース相に対して優先的に溶解させる工程、(C)溶解した非晶質セルロースを結晶セルロースから分離する工程を含み、好ましくは、工程Cで得られたマイクロ又はナノセルロースはXRD-I型構造を有し、これは、次いで65~90重量%のZnClを水中に含む第2の溶媒と接触させて、XRD-II型構造の層間剥離セルロースを生成することができる、方法に関する。本発明はまた、結晶化度及び純度が高い、XRD-I型構造のマイクロ若しくはナノ結晶セルロース及びXRD-II型構造のナノ結晶セルロース、又はこれらの混合物、並びにその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質セルロース相及び結晶セルロース相を有するバージンセルロースからマイクロ又はナノ結晶セルロースを製造する方法であって、下記の工程:
(A)バージンセルロースを、ZnClと水の総重量に対して40~65重量%のZnClを含む水溶液であることを特徴とする第1の溶媒と接触させる工程であって、好ましくは、バージンセルロースの量が前記第1の溶媒の量の1~10重量%である工程、
(B)前記結晶セルロース相に対して前記非晶質セルロース相を優先的に溶解させる工程、
(C)前記溶解した非晶質セルロースと前記結晶セルロースを分離する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記工程A及びBの温度が、80℃未満、好ましくは70℃未満、より好ましくは60℃未満、さらには50℃未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の溶媒がプロトン酸を含まず、かつ、好ましくは、プロトン捕捉剤、好ましくはZnO又はZn(OH)を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程Bで得られた結晶セルロースがXRD-I型構造のセルロースを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程B又はCで得られた結晶セルロースのXRD結晶化度が、前記バージンセルロースのものよりも高く、好ましくは、前記得られた結晶セルロースのXRD結晶化度が、前記バージンセルロースよりも少なくとも5、好ましくは少なくとも10%高く、かつ、好ましくは、前記得られた結晶セルロースのXRD結晶化度が少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程Cで得られた溶解した非晶質セルロースに凝固剤を添加して前記非晶質セルロースを沈殿させて、好ましくは前記沈殿した非晶質セルロースを分離する工程Eをさらに含み、好ましくは、逆溶媒が、C1~C8アルコール、ケトン又は水からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程Cで得られた結晶セルロースを第2の溶媒と接触させて層間剥離セルロースを生成する工程Dをさらに含み、前記第2の溶媒が、水中に65~90重量%、好ましくは70~85重量%のZnClを含み、前記第2の溶媒が、好ましくはプロトン酸を含まず、かつ、好ましくはプロトン捕捉剤、好ましくはZnO又はZn(OH)も含み、好ましくは、前記層間剥離セルロースが、ZnClの濃度を10~30重量%、好ましくは15~25重量%に希釈する量の逆溶媒、好ましくは水の添加よる沈殿で前記第2の溶媒から分離される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程Dで得られた層間剥離セルロースがXRD-II型構造のセルロースを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記バージンセルロースが、バージンセルロース及びリグニン並びに任意にヘミセルロースを含むバイオマス中に存在し、
a)工程Bでは、前記非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースを前記第1の溶媒に溶解させ、
b)分離工程Cでは、前記溶解した非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースと、前記結晶セルロース及びリグニンを分離し、
c)必要に応じて工程Hでは、前記結晶セルロース及びリグニンを溶媒、好ましくは塩基性溶媒で処理し、リグニンを溶解させて前記結晶セルロース相は溶解させず、前記溶解したリグニンと前記結晶セルロースを好ましくはろ過によって分離する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記バージンセルロースが、バージンセルロース及びリグニン並びに任意にヘミセルロースを含むバイオマス中に存在し、
・工程Bでは、非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースを前記第1の溶媒に溶解させ、
・分離工程Cでは、前記溶解した非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースと、前記結晶セルロース及びリグニンを分離し、
・工程Dでは、前記結晶セルロース及びリグニンを、前記第2の溶媒と接触させて層間剥離結晶セルロースを生成し、
・必要に応じて工程Gでは、前記リグニンと前記層間剥離結晶セルロースを、好ましくは遠心分離及び/又はろ過によって分離する、
請求項7~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~6、9のいずれか一項に記載の方法によって得ることができるXRD-I型構造のマイクロ又はナノ結晶セルロース含有生成物P1であって、XRD結晶化度が少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%で、(ポリ)糖含有量が10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満で、重合度DPが好ましくは少なくとも200で、アスペクト比が10未満である、マイクロ又はナノ結晶セルロース含有生成物P1。
【請求項12】
請求項7~8、10のいずれか一項に記載の方法によって得ることができるXRD-II型構造のナノ結晶セルロース含有生成物P2であって、XRD結晶化度が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%で、(ポリ)糖含有量が15重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、最も好ましくは2重量%未満で、重合度DPが好ましくは100~200で、アスペクト比が少なくとも20である、ナノ結晶セルロース含有生成物P2。
【請求項13】
XRD-I型構造のマイクロ又はナノ結晶セルロースと、請求項7~8、10のいずれか一項に記載の方法によって得られたXRD-II型構造のナノ結晶セルロースの混合物を含むセルロース組成物であって、好ましくは、
- 前記混合物が、好ましくは請求項1~6、9のいずれか一項に記載の方法によって得られたXRD-I型構造のマイクロ若しくはナノ結晶セルロースと、請求項7~8、10のいずれか一項によって得られたXRD-II型構造のナノ結晶セルロースを混合することを含む方法Aによって得られるか、又は
- 前記混合物が、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法における工程Dでは、XRD-I型構造のセルロースからXRD-II型構造のセルロースに部分的に変換され、部分的な変換は、好ましくは、逆溶媒の添加前により低い温度若しくはより短い接触時間、若しくはそれらの組合せを選ぶことによって達成される、方法Bによって得られる、
組成物。
【請求項14】
リグニンをさらに含む、請求項13に記載のセルロース組成物。
【請求項15】
請求項11に記載のXRD-I型構造のマイクロ若しくはナノセルロース、請求項12に記載のXRD-II型構造のナノセルロース、又は請求項13若しくは14に記載のセルロース組成物の、コーティング材料、賦形剤としての、セルロース成形品、好ましくは、包装フィルム、糸、布地の製造に好ましくは使用される繊維若しくはフィルムを製造するための材料としての、又は炭素繊維を製造するための出発材料としての、使用。
【請求項16】
好ましくはプレバイオティクス食品添加物として使用するための、請求項6に記載の工程Eで得られた溶解した非晶質セルロースの沈殿物から製造されるオリゴマー糖及びモノマー糖を含むポリ糖。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化度が高いマイクロ又はナノ結晶セルロースの製造方法に関する。本発明はまた、結晶化度が高いマイクロ又はナノ結晶セルロース及びその混合物、並びにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、自然界で最も豊富な天然ポリマーであり、最も有望なポリマー資源の1つであって、再生可能で生分解性であり、生体適合性を有する。しかし、セルロースは、部分的に結晶質の構造と多数の分子間及び分子内水素結合を介した密な鎖パッキングのため、溶融せず、水や一般的な溶媒中に溶解しないので、一般に化学的処理が極めて困難である。
【0003】
過去数十年、セルロースを溶解又は反応させるいくつかのセルロース溶媒系、例えばビスコース法(CS2)、LiCl/N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、DMSO/パラホルムアルデヒド(PF)及び一部の金属錯体の水溶液が利用できた。
【0004】
しかし、これらの従来のセルロース溶媒系には、限られた溶解能力、毒性、高コスト、溶媒回収、制御不能な副反応、並びにセルロースの処理及び/又は誘導体化時の不安定さといった欠点がある。
【0005】
リヨセル法は、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)を使用してセルロースを直接溶解させるものであるが、これも、副生成物の形成、セルロースの分解及び高コストを含むいくつかの欠点を有する。
【0006】
近年、セルロースをNaOH/尿素水溶液に溶解させるための別の方法が開発され、この方法では2分以内にセルロースを溶解させ、-12℃に予冷することができる。しかし、この溶解方法は、セルロースの濃度と重合度(DOP)の点で限定的である。
【0007】
最近では、イオン液体(IL)が、その高い電気化学的及び熱的安定性、不燃性並びに調節可能な溶解特質のために大きな注目を集めている。イオン液体は多くの場合、室温で流動性があって全体がイオン種からなり、極性の高い新しい種類の溶媒を代表するものである。蒸気圧が低く、有毒ガスや爆発性のガスが形成されないため、イオン液体は、「低公害型溶媒」と見なされている。さらに、イオン液体は、セルロースに対して優れた溶解能力を示し、そのため、セルロースの包括的な利用を拡大する。沈殿及び/又は凝固後に、これらの溶液から良好な物理的強度を示す成形材料、例えば糸、繊維、シート、フィルム、粒子などを形成することができる。
【0008】
Research Journal of Nanoscience and Engineering Volume 2, Issue 4, 2018, PP10-13において報告されたIoelovich及びLeykinは、バージンセルロースと濃酸との接触と、それに続く機械的処理を含む、マイクロ又はナノ結晶セルロース組成物の製造方法を記載している。
【0009】
Ioelovich及びLeykinは、Cellulose Chemistry and Technology, 40(5), 2006, 313-317において、希薄な沸騰硫酸でのセルロースの処理とそれに続く超音波処理を含む方法を記載している。
【0010】
Tanらは、Biomass and Bioenergy 81(2015)584-591において、バージンセルロースを溶媒としてのイオン液体硫酸水素1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(BmimHSO)と接触させることを含む、ナノ結晶セルロース組成物の製造方法を記載している。
【0011】
言及した先行技術の方法の欠点は、非常に高価な新奇の溶媒を使用し、反応を完了するのに非常に長時間を要することである。TanのBmimイオン液体とIoelovichの酸は、最大10時間という長時間を要する。酵素的経路は、さらに長い時間がかかり;最大20~40時間である。
【0012】
WO2017/055407は、バージンセルロースを溶解させず、イオン液体、例えば水和塩化亜鉛中で層間剥離させる方法で得られるナノ結晶セルロース組成物から、改善された特質を得ることができることを記載している。
【0013】
CN102433786は、機械力化学法によってマイクロナノセルロースの製造方法を記載しており、これは、塩化亜鉛の塩溶液とすることができる溶液中での混合及び磨砕によって得られるものである。
【0014】
CN102093484は、セルロース原料を塩化亜鉛溶液中で解離させ、加熱条件下で高速かつ均一に分散させ、希酸を添加して沈殿させ、超音波分散処理又は湿式粉砕に付してナノ結晶セルロース得る、ナノ結晶セルロースの製造方法を記載している。
【0015】
この先行技術の方法の欠点は、結晶化度が高く、高純度のマイクロ又はナノセルロースを生じないことである。セルロースの溶解では、バージンセルロース中に存在するアスペクト比が低く、重合度の低い非晶質材料及びオリゴマーも、再生セルロースの形成とそれに続く成形工程中に溶解し、部分的に沈殿する。これは、得られる生成物の特質、例えば化学的安定性や、機械的特質などの低下に繋がることがある。
【0016】
先行技術の溶解方法はまた、セルロースXRD-I型結晶構造のセルロースXRD-II型への不可逆的変換に繋がることもあり、これは、得られるセルロース生成物の物理的特質の観点からは、特定の用途(例えば高品質繊維)では望ましくない。
【0017】
本発明の根底にある課題は、上述した欠点の少なくとも1つがない方法、特に、単純で安価な方法、及び、特に高い結晶化度と純度といった改善された性質を有するセルロースをもたらす方法を提供することである。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、非晶質セルロース相及び結晶セルロース相を有するバージンセルロースからのマイクロ又はナノ結晶セルロースの製造方法であって、下記の工程:
(A)バージンセルロースを第1の溶媒と接触させる工程であって、第1の溶媒が、ZnClと水の総重量に対して40~65重量%、好ましくは40~60重量%、より好ましくは40~55重量%のZnClを含む水溶液であることを特徴とし、好ましくは、バージンセルロースの量が第1の溶媒の量の1~10重量%である、接触させる工程、
(B)非晶質セルロース相を溶解させ、それにより非晶質セルロース相を結晶セルロース相に対して優先的に溶解させる工程、
(C)溶解した非晶質セルロースを結晶セルロースから分離する工程
を含む、方法を提供することによって、これらの問題に対処する。
【0019】
本方法においては、セルロースの完全性と結晶構造への影響を回避しながら天然セルロース中の非晶質材料(非晶質質及びオリゴマー)の含有量を低減することができる。本方法は、低温で行うことができ、高速であるため、費用対効果が高く、環境に優しい方法でもあり、マイクロセルロース及び/又はナノセルロース材料、具体的には、純度と結晶化度(XRDによる)が高く、平均重合度(DOP)が高く、高い平均アスペクト比を示す結晶の含有量が高いマイクロ及びナノセルロース材料を得ることができる。これは、セルロース生成物の物理的特質の向上をもたらす。
【0020】
本発明の特徴及び利点は、下記の図面を参照することで理解される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明による方法の概略図であり、結晶セルロースCxと非晶質セルロースAを含むセルロース含有供給原料Fを第1の溶媒Z1と接触させ、結晶化度の高いセルロースXRD-I型を含む生成物流P1と、溶解した非晶質生成物流[A]とを生成する第1の工程ST-1を含み、非晶質生成物流[A]は、逆溶媒Z3の添加を含む分離工程SEPに供され、(ポリ)糖、特に糖モノマー及びオリゴマー(例.グルコース及びC6オリゴマー)を含む沈殿物を含む生成物流P3と、使用済溶媒流Zを生じ、使用済溶媒流Zは、溶媒精製/濃縮工程PURに送られる。
図2図2は、第2の方法態様の概略図であり、図1aに記載の方法における生成物流P1を第2の溶媒Z2と接触させ、溶解したセルロースを含む生成物流[Cx]を生成する。溶解したセルロース流[Cx]は続いて、成形又は粒子形成工程SPと、成形工程SPの前、最中、又は後の高XRDセルロースII型(生成物P2)を生成するための沈殿工程に供することができる。
図3図3は、第3の方法態様の概略図であり、第3の方法工程ST-3が図2に記載の方法に追加されており、溶解したセルロース生成物流[Cx]を逆溶媒Z3と接触させ、沈殿した高XRDセルロースII型を含む生成物流P2と、使用済溶媒流Z0を生じさせ、使用済溶媒流Z0は、工程PURの溶媒精製に送られる。
図4図4は、第4の方法態様の概略図であり、供給原料Fが結晶セルロースCx、非晶質セルロースA、ヘミセルロースHC及びリグニンLを含む。この供給原料では、ST-1は、未溶解結晶セルロースCxI型及びリグニンLを含む生成物流[Cx,L]と、溶解した非晶質セルロースA及びヘミセルロースHCを含む生成物流[A、HC]とを生じる。生成物流[A、HC]は、逆溶媒Z3の添加による分離工程SEPに供され、キシロース、C5オリゴマー、グルコース及びC6オリゴマーを含む生成物流P4を生じ、使用済溶媒Z0は、PURに送られる。工程ST-2で生成物流[Cx,L]を第2の溶媒Z2と接触させ、溶解した結晶セルロース[Cx]と未溶解リグニンLを生じさせる。ST-3では、溶解した結晶セルロースCxを逆溶媒Z3と接触させ、高XRDセルロースIIを含む生成物流P2と、使用済溶媒Z0が生じ、使用済溶媒Z0は、PURに送られる。
図5図5は、第5の方法態様の概略図であり、図4Aに記載の方法においては、工程ST-2で塩基性溶媒Z4(例.NaOH、KOH)が第2の溶媒Z2に代えて使用され、溶解したリグニン[L]と溶解した結晶セルロース[Cx]の分離した相を生成する。溶解したリグニン[L]は分離することができ、溶解したセルロース[Cx]を含む生成物流は、次の工程で高XRDセルロースIを含む生成物流P1に変換される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明による方法において、工程A(図1に示す工程ST-1)でバージンセルロースを第1の溶媒と接触させ、第1の溶媒が、ZnClと水の総重量に対して40~65重量%、好ましくは40~60重量%、より好ましくは40~55重量%のZnClを含む水溶液であることを特徴とする。
【0023】
第1の溶媒は、水で希釈して非晶質相を効果的かつ優先的に溶解できる穏やかな溶媒としたZnClベースの溶融塩であり、それは、結晶相を実質的に溶解させることなく比較的短時間で溶解が達成できることを意味する。水和無機溶融塩とは、希釈されていない形態では、100℃未満の溶融温度を有する塩を意味する。水和溶融塩は、好ましくはZnCl.nHOであり、n=2~6、好ましくはn=4であり、これは、比較的安価で非常に効果的である。これを希釈し、希釈水溶液が40~65重量%のZnClを水中に含むようにする。例えば、ZnCl.4HOを20又は30重量%の水で希釈して、52.4及び45.8重量%のZnClを含む溶媒を形成することができる。必要なZnCl濃度は、リサイクルされてより希釈されたZnCl溶液に濃縮したZnCl溶液を添加することでも得られる。濃度が高い方が非晶質セルロース相の溶解の迅速化に有利であるが、濃度は、65重量%より高くすべきではない。バージンセルロースはXRD-I型結晶構造を有する。第1の溶媒が65重量%未満の比較的低いZnCl濃度を有すると、結果としてバージンセルロースのXRD-I型結晶構造は維持されるが、非晶質相の選択的除去によって結晶化度を向上させることができることが見いだされた。約65重量%を超えるZnCl濃度では、XRD-I型結晶構造からXRD-II型結晶構造への移行が観察された。
【0024】
バージンセルロースは、バイオマスに見られるような、XRD-I型結晶構造を有するセルロースを意味する。非常に純粋なバージンセルロース、例えば綿リンターとすることもできるが、それよりも純度の低いバイオベースの材料とすることもできる。バージンセルロースは、リグニン及び/又はヘミセルロースをさらに含むバイオマスに含有されていてもよい。その場合、バージンセルロースとリグニン及び/又はヘミセルロースとを含むバイオマスを第1の溶媒と接触させ、以下に記載するようにさらに処理する。
【0025】
バイオマスに由来するバージンセルロースは遊離水を含有してもよい。本明細書で特定するZnCl溶媒中の水の量には、バイオマス供給原料中の遊離水も考慮しなければならない。そのため、遊離水を含有するバイオマスは、より濃縮したZnCl溶液と接触させることができるが、バイオマス中の水を含めた水中のZnCl濃度は、65重量%を超えるべきではない。バイオマス中の水含有量が高すぎて適切なZnCl濃度を得ることができない場合は、バイオマスの乾燥を行う。乾燥は、通常約120℃で、7重量%以下、好ましくは5重量%以下の遊離水の残留量が達成されるまで行う。
【0026】
第1の溶液中のバージンセルロースの量は、好ましくは第1の溶媒の量の1~10重量%、好ましくは2~9重量%、より好ましくは3~8重量%である。生産性の観点からは大量のセルロースが一般に好ましいが、量が多すぎると、粘性が高すぎる溶液が生じ、例えば沈殿したセルロース結晶の分離のための取り扱いが困難になることがある。セルロースとヘミセルロース及び/又はリグニンを含むバイオマスを使用する場合、工程Aにおいて第1の溶媒と接触させるバイオマスの量は、好ましくはその中のバージンセルロースの量が1~10重量%となるように選ばれる。
【0027】
工程Bでの優先的溶解という用語は、結晶相よりも非晶質相から実質的に多くのセルロースを溶解させることを意味する。結晶相は、好ましくは実質的に溶解せず、好ましくはバージンセルロースのXRD結晶化度の70、80、85、さらには90%が維持される。結晶セルロースの溶解は、溶媒のさらなる希釈、比較的低い温度、クエンチ及び/又はプロトン捕捉剤の添加によって防止する。
【0028】
本方法において、工程Bの温度が80℃未満、好ましくは70、60、さらには50℃未満であることが好ましい。温度が低いほど条件が穏やかとなり、非晶質相のみを溶解させる優先傾向が高まるが、完了までに必要な時間も長くなる。通常、より高い濃度のZnClは好ましくはより低い温度と組み合わされ、又はその逆に、より低い濃度のZnClはより高い温度と組み合わせることができる。或いは、接触させる工程Aをより高い温度、例えば50~80℃で行い、その後、予め決められた最適な接触時間後にクエンチして結晶セルロースのさらなる溶解を防止することが好ましい場合がある。クエンチは、温度を急速に低下させることを意味する。代替的又は追加的措置は、水で迅速に希釈することである。
【0029】
第1の溶媒がプロトン酸を含まず、好ましくはプロトン捕捉剤も含むことがさらに好ましい。プロトン酸が存在せず、プロトン捕捉剤が存在すると、生成物の重合度低下が防止され、II型結晶への転換が防止され、及び/又はより高温とより高濃度の塩の使用が可能となることが見いだされた。好適なプロトン捕捉剤としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、並びに非貴金属遷移金属の酸化物及び水酸化物が挙げられる。対応する溶融塩の酸化物又は水酸化物の使用が望ましい。例えば、塩化亜鉛の水和物を無機溶融塩として使用する場合、好ましいプロトン捕捉剤は、ZnO及びZn(OH)である。留意すべきことであるが、プロトン捕捉剤、好ましくはZnO又はZn(OH)を添加すると、ZnCl溶液と接触して変換されることがあるため、プロトン捕捉剤を含む溶液という用語は、プロトン捕捉剤が添加された溶液も包含することを意味する。
【0030】
工程B又は工程Cで得られるマイクロ又はナノ結晶セルロースは、XRD-I型構造のセルロースを含み、初期のバージンセルロース材料よりも高い純度及びXRD結晶化度を有する。工程Bで得られるセルロースは、主にセルロースXRD-I型構造を含む。本明細書において、主にという用語は、少なくとも50、60、70、80、85、さらには理想的には90%を意味する。好ましくは、得られる結晶セルロースのXRD結晶化度は、バージンセルロースよりも少なくとも5、好ましくは少なくとも10%高く、より好ましくは、得られる結晶セルロースのXRD結晶化度は、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%である。得られる生成物は、繊維若しくはシートの生成に、コーティングでの使用に、又は賦形剤としての使用にとりわけ有用な生成物である。留意すべきことであるが、本明細書では、マイクロ又はナノセルロースという用語は、工程1から得られる生成物に使用され、ナノセルロースという用語は、工程2から得られる生成物に使用される。工程1で得られるXRD-I型構造のセルロース結晶は、ナノ範囲のサイズを有することも可能で、本文献では、マイクロセルロース及びナノセルロースの両者で呼ばれることもある。
【0031】
セルロース粒子のサイズ及び形状、特にアスペクト比ARは、走査電子顕微鏡法によって調べることができる。試料のXRD結晶化度は、以下に説明するX線回折法によって求めることができる。平均重合度DPは、セルロースのカドキセン希釈溶液を使用する粘度法によって測定することができる。言及した測定法の説明は、Research Journal of Nanoscience and engineering Vol2, Issue4, 2018, PP10-13(M. Ioelovich)に記載の参照文献に見いだすことができる。
【0032】
好ましくは、本方法は、工程Cで得られる溶解した非晶質セルロースに凝固剤を添加して非晶質セルロースを沈殿させ、その後、任意に、好ましくは沈殿した非晶質セルロースを分離する工程E(図1の工程SEP)をさらに含む。この分離した生成物は、C6に加えて任意にC5の糖オリゴマー及びモノマーを含む、オリゴマー及びモノマー糖を含むポリ糖を含有する。本発明はまた、方法工程Eで得られる溶解した非晶質セルロースの沈殿物から調製されるオリゴマー糖及びモノマー糖を含むポリ糖に関する。このポリ糖はプレバイオティクス食品添加物として使用することができる。
【0033】
好適な凝固剤は、逆溶媒であり;特にC1~C8アルコール及びケトン、特に直鎖及び分枝鎖C1~C4アルコールの群のアルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールが使用できる。特に好適なケトンとしては、C3~C5ケトン、例えばアセトン及びメチルエチルケトン(MEK)が挙げられる。好ましい凝固剤は、アセトン、エタノール、t-ブチルアルコールである。固体の分離と洗浄は、遠心分離又はろ過のいずれかで行うことができる。冷水を使用することもでき、これは、ポリ糖を沈殿させるには効果的であるが、小さなポリ糖及び糖モノマーを完全に沈殿させるにはあまり効果的ではない。
【0034】
記載したように、工程1で得られるマイクロ又はナノ結晶は、それ自体有用であるが、続く工程2で、非常に高い純度と高い結晶化度を有するXRD-II型構造のナノセルロースを生成するための出発材料として使用することも可能である。この態様において、方法は、工程Cで得られる結晶セルロースを、65~90重量%、好ましくは70~85重量%のZnCl、好ましくは溶融塩水和物ZnCl.nHO(n=1~4)を水中に含む第2の溶媒と接触させるさらなる工程D(図2に示す工程ST-2)を含み、この第2の溶媒は、好ましくはプロトン酸を含まず、最も好ましくは、上記のようなプロトン捕捉剤、好ましくはZnO又はZn(OH)も含む。
【0035】
工程Dでは、第2の溶媒は、ZnCl濃度がより高いため、第1の溶媒よりも高い溶解力を有する、即ち、第1の溶媒よりも強力である。マイクロセルロースXRD-I型構造は、層のスタックを含みアスペクト比が低いマイクロ結晶構造であり、工程Dでその層が層間剥離されてアスペクト比が高いナノセルロース結晶が形成されると考えられる。工程Dで得られる層間剥離セルロースは、XRD-II型構造のセルロースを含み、好ましくは主に含む。XRD-II型を有するナノセルロースは、例えば紙のコーティングに有利に使用することができる。WO2017/055407の方法に対する本発明の方法の利点は、より良好な機械的特質及び化学的安定性に繋がる、より高い純度及びより高い結晶化度を有するナノセルロースXRD-II型を生成することである。
【0036】
第2の溶媒との接触中、糖及び低DPオリゴマーに対する加水分解を最小限に抑え、セルロースナノ結晶の溶解を最小限に抑えながら、層間剥離が発生する。セルロースの加水分解は、糖と低DPオリゴマーの形成をもたらし、そうした組成物からの成形物品は、結果的に特質が低下し、分解の結果としての茶色がかった色を引き起こすことがあるため、好ましくは最小限に抑えられる。したがって、酸を含まない第2の溶媒と、最も好ましくはプロトン捕捉剤とが使用される。ただし、プロトン捕捉剤と共に酸を含まない溶媒を使用する場合も、セルロースの溶解を最小限に抑えながら層間剥離が達成されるように、第2の溶媒中の塩濃度、接触温度及び接触時間を適切に選ぶことでセルロースの溶解及び加水分解を防止するための注意が必要である。第2の溶媒との接触は、より高い温度、例えば約70℃で行ってもよいが、結晶II型ナノセルロースの溶解及び/又は加水分解を防止するため、予め決められた最適接触時間後にクエンチを行わなければならない。
【0037】
第2の溶媒へのI型セルロースの溶解後、溶解し層間剥離したII型ナノ結晶の透明な液体が形成される。溶解し層間剥離したII型ナノ結晶は、好ましくは逆溶媒の添加により沈殿させる。好ましくは、水を逆溶媒として使用し、好ましくはZnCl濃度を10~30重量%、好ましくは15~25重量%、最も好ましくはおよそ20重量%の濃度に希釈する量で添加する。好ましくは、溶解した糖オリゴマーの沈殿を回避し、第1又は第2の溶媒への溶液の再生を容易にするため、水を添加して少なくとも10、好ましくは少なくとも15重量%の濃度に希釈する。好ましくは、希釈は、25又は30重量%以下の濃度まで行い、これは、それより濃度が高いと沈殿が遅くなりすぎてセルロースII型結晶の収率が低下するためである。II型結晶の沈殿を可能とするには、通常、少なくとも10分の十分な時間をかけるべきである。セルロースナノ結晶は、ろ過又は遠心分離によって溶液から分離することができ、その後(脱イオン)水で洗浄してZnClを除去する。
【0038】
バージンセルロースは、好ましくはバイオベースの材料に由来するものである。バイオベースの材料は、バージンセルロースの他に、リグニン及び/又はヘミセルロースも含有してもよい。リグニン及び/又はヘミセルロースは、本発明の方法の前にバージンセルロースから除去及び分離してもよいが、本方法で使用する出発材料を、バージンセルロースの他にリグニン及び/又はヘミセルロースも含有するバイオベースの材料とすることも可能である。その場合、工程Bで非晶質セルロースと任意のヘミセルロースを溶解させ、分離工程Cでは、溶解した非晶質セルロースと任意のヘミセルロースとをマイクロ又はナノセルロースとリグニンを含む相から、例えばろ過によって分離する。リグニンは水性ZnCl溶媒に実質的に不溶であり、工程Cで、得られるXRD-I型構造の固体マイクロ又はナノセルロースと共に固体として分離される。
【0039】
XRD-I型構造の純粋なマイクロ又はナノセルロース生成することを目的とする場合、リグニンは、得られるセルロースから分離することができる。したがって、任意の工程Hでは、リグニンが溶解し、結晶セルロース相が溶解しない溶媒で結晶セルロースとリグニンを処理し、溶解したリグニンを固体結晶セルロース相から分離する。次いで、結晶セルロースは、上記のように処理することができる。リグニンの溶解に好適な溶媒は、当技術分野で公知の塩基性溶媒又は有機溶媒であり、好ましくは、水にKOH又はNaOHを含む塩基性の溶媒が使用される。しかし、例えば以下に記載するように、リグニン-セルロースXRD-I型複合体材料を生成するために、又は続く工程Dを以下に記載するように行う場合には、リグニンを得られるセルロースに残すことができる。
【0040】
高い結晶化度及び純度を有するXRD-II型セルロースを有するナノセルロースは、バージンセルロースとリグニン、及び任意のヘミセルロースを含有するバイオマスから、工程Cの後に結晶セルロース及びリグニンを第2の溶媒と接触させて層間剥離結晶セルロースを生成する工程Dを含む上記のような方法で得ることができる。工程Dは、層間剥離ナノセルロース結晶の透明な溶液を生じ、ナノセルロース結晶を含む溶液と未溶解リグニンの分離が可能となる。任意の工程Gでは、リグニンを層間剥離結晶セルロースから、好ましくは遠心分離及び/又はろ過によって分離することができる。
【0041】
本方法において、工程A及び工程Dで使用する第1及び第2の溶媒は、好ましくは不純物及び/又は希釈剤を除去し、再生溶媒を方法にリサイクルすることによって再生される。第1の溶液及び第2の溶液が同じ再生工程で容易に再生できるように、両者の工程で塩化亜鉛を異なる強度で使用することが、本方法の特に有利な点である。
【0042】
本発明はまた、上記の本発明の態様のいずれかによって得ることができるマイクロ又はナノ結晶セルロース含有生成物P1に関し、それは、XRD-I型結晶構造、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%のXRD結晶化度、及び10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満の(ポリ)糖含有量を有し、好ましくは少なくとも200の重合度DP及び10未満のアスペクト比を有する。
【0043】
本発明はまた、上記の本発明の態様のいずれかによって得ることができるナノ結晶セルロース含有生成物P2に関し、それは、XRD-II型構造、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%のXRD結晶化度、及び15重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、最も好ましくは2重量%未満の(ポリ)糖含有量を有し、好ましくは100~200の重合度DP及び少なくとも20のアスペクト比を有する。留意すべきことであるが、I型及びII型結晶の結晶化度の値は、比較できない。II型生成物はXRD検出から漏れる非常に小さい結晶を含むことがあるため、II型の結晶化度は、I型の結晶化度よりも低く計測される可能性がある。
【0044】
本発明はまた、本発明の方法によって得られる、I型構造のマイクロ又はナノ結晶セルロースと、II型構造のナノ結晶セルロースとの混合物を含むセルロース組成物に関し、それは、高い結晶化度と純度を有し、好ましくは、混合物は、好ましくは上記のような工程A、B及びCを含む本発明による方法によって得られるXRD-I型構造のマイクロ又はナノ結晶セルロースと、工程Dを含む上記の方法において得られるようなXRD-II型構造のナノ結晶セルロースとを混合することを含む方法Aによって得られる。或いは、混合物は、上記のような工程A、B、C及びDを含む本発明による方法Bによって得られ、工程Dでは、XRD-I型構造のセルロースからXRD-II型構造のセルロースへの部分的な変換がなされ、部分的な変換は、好ましくは逆溶媒の添加前により低い温度若しくはより短い接触時間又はそれらの組合せを選ぶことによってなされる。約65重量%より低いZnCl濃度は、II型変換をもたらさないため、好ましくない。
【0045】
任意に、セルロース組成物は、リグニンを追加で含む。リグニンは、上記のXRD-I型セルロース及びXRD-II型セルロースと別々に混合することができ、或いは、上記のようなリグニンを含むバイオベースの材料から出発する場合は、上記のI型及び/又はII型の生成方法からリグニンを分離しない、又は完全に分離しないことによって混合することができる。
【0046】
本発明はまた、本発明のXRD-I型構造の結晶化度が高く、高純度のマイクロ又はナノセルロース、本発明のXRD-II型構造の結晶化度が高く、高純度のナノセルロース、又は両者の混合物を含む本発明のセルロース組成物の、コーティング材料、賦形剤としての、セルロース成形品、好ましくは包装フィルム、糸、布地の製造に好ましく使用される繊維若しくはフィルムの製造用材料としての、又は炭素繊維の調製のための出発材料としての使用に関する。
【0047】
したがって、先に検討した特定の態様を参照して本発明を説明した。認識されることであるが、これらの態様は、当業者に周知のさまざまな修正及び代替的な形態を受け入れる余地がある。
【0048】
上記のものに加えて、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載する構造及び技法に、さらなる修正を加えてもよい。したがって、特定の態様を説明したが、これらは例に過ぎず、本発明の範囲に対する限定ではない。本発明を以下の実施例によってさらに説明する。
【実施例
【0049】
実験方法
XRDによる結晶型の測定
実験で得られたセルロース生成物は、XRDにより特性を明らかにする。XRDの測定は、Z. Man, N. Muhammand, A. Sarwono, M.A. Bustam, M. Vignesh Kumar, S. RafiqによりJ. Polym. Environ 19 (2011) 726-731: Preparation of cellulose nanocrystals using an Ionic liquidに記載された方法に従って行う。結晶のI型又はII型をピーク位置によって識別し、ピーク位置は、I型は2θが22.6°([200]反射)で、II型は20°及び22°の2θ([110]及び[020]反射)である。
【0050】
XRD結晶化度の測定
生成物の結晶化度(上記文献では結晶化度指数)を、シーガルの式:
CrI=(I002-Iam)/I002
(式中、I002は、I型セルロースの場合2θが22.6°又はII型の場合22°でのピークの全体強度で、Iamは、2θが約18°でのベースラインの強度である)
で算出した。
【0051】
XRDによる結晶サイズの測定
セルロースの結晶サイズは、シェラーの式:
【0052】
【数1】
【0053】
(式中、βは微結晶サイズ、λは入射X線の波長、τはXRDのピークの半値全幅(FWHM)、θは平面に対応する回折角である)
によりXRDの結果から算出した。
【0054】
セルロースの収率及びセルロース加水分解の測定
可溶性の(ポリ)糖を、
(ポリ)糖の質量バランス%=1-Mprec cel/Min cel
(式中、Mprec celは実験で得られた乾燥マイクロ又はナノセルロースの重量であり、Min celは反応器に入れた乾燥セルロースの重量である)
に基づいて測定した。(ポリ)糖という用語は、糖及びオリゴマー糖のようなポリ糖を意味する。得られたセルロースを、NRELラボ手順に従い、乾燥バイオマス重量が1時間に1重量%を超えて変化しなくなるまで定期的(通常3時間ごと)に重量をチェックしながら、バイオマスの対流炉乾燥を45℃で24時間~48時間、行った。
【0055】
使用した材料
以下に記載する実験全てにおいて、セルロース基材は、綿リンターマイクロ結晶セルロース(MCC)ex-Sigma C6288である。XRDによる特性評価は、XRD-I型が±80%であることを示す。ZnCl及びZnOもSigmaから入手した。
【0056】
実施例1
工程1
0.5gのZnO粉末を100gの60重量%ZnCl水溶液に添加することよって第1の溶媒を調製し、混合物を撹拌(120rpm/分)下一晩室温に保った。残った未反応のZnO固体を溶液からろ過により除去した。得られた100gの溶媒を、5gの綿ライナーセルロースと撹拌下(480rpm/分)で混合し、撹拌下30分間室温に保った。得られたセルロース結晶を、溶液からガラスフィルターでろ過して分離し、脱イオン水で8回洗浄してZnClを除去した。水の中にセルロースマイクロ結晶が含まれる20重量%懸濁液が得られた。
【0057】
XRDの測定の前に、生成物を室温で真空乾燥した。XRDの測定により、XRD-I材料の結晶化度は、初期セルロース(80%)と比較して高い(>85%)ことが示された。
【0058】
セルロースXRD-I材料をさらに水で洗浄することにより、(ポリ)糖の量を検討した。試料中に(ポリ)糖はほとんど存在せず(5重量%未満)、このことは、(ポリ)糖は、その後の処理中に分解する可能性があり、また、実際に分解するので、望ましい。
【0059】
工程2
工程2で使用する第2の溶媒は、0.5gのZnO粉末を100gの65%ZnCl水溶液と混合することにより調製し、撹拌下一晩室温に保った。残った固体は溶液からろ過により除去した。100gの液体を5gのXRD-I相材料と混合し、室温で30分間、溶液が透明になるまで撹拌した。225gの脱イオン水を撹拌下で溶液に添加して、ZnClの濃度を20重量%まで低下させ、第2の溶液からセルロースを沈殿させた。試料を20分間撹拌し、セルロースナノ結晶を沈殿させた。セルロースナノ結晶を溶液から遠心分離(6000rpm/分;10分)で分離し、ZnClの痕跡がなくなるまで脱イオン水で洗浄し、ナノセルロースの水中20重量%懸濁液として保存した。
【0060】
XRDの測定の前に、試料を真空乾燥により室温で一晩乾燥させた。XRDの測定により、セルロースXRD-I相がセルロースXRD-II相に変換されることが示された。得られた結晶化度は80%を超え、(ポリ)糖の形成は5重量%未満であった。第2の工程では、工程1からのXRD-I相材料が、65%ZnCl溶媒で処理することによってXRD-IIに変換される。結晶化度の高いII型セルロースの収率は、バージンセルロースの約75~80%である。
【0061】
実施例2
手順は実施例1と同じであるが、工程1及び2をより高温のT=70℃で行う。温度が高いほど処理時間が短くなる。70℃では、処理時間は工程1及び2の両者で15分に短縮されるが、生成物の結晶化度は実質的に変化しない。また、70℃では、工程1でI型セルロースが生じ、工程2でII型セルロース結晶が生じた。
【0062】
実施例3
手順は実施例1と同じであるが、工程1又は2を、温度を上げてT=70℃で行う。温度が高いほど処理時間が短くなり、70℃では処理時間は15分に短縮されるが、生成物の結晶化度は実質的に変化しない。
【0063】
実施例4
手順は実施例2と同じであるが、工程1及び2で、セルロース及びセルロースXRD-Iの量を8gとした。混合物の粘度の上昇と処理時間の延長(30分)が生じたが、生成物の結晶化度は実質的に変化しなかった。
【0064】
高いセルロース濃度(工程1で10重量%超、工程2で8重量%超)は、この実験設定では溶液粘度が高くなりすぎて良好な混合及び分離が得られないため、好ましくなかった。さらに、ZnClの濃度が62.5重量%未満では非常に少量のセルロースしか溶解せず、60重量%未満ではほとんど溶解せず、約62.5~65重量%を超える濃度では30分で溶解することが見いだされた。75重量%を超える濃度では、溶媒の粘性が非常に高くなっており、この実験設定では、セルロースを適度な量で混合し溶解させることは困難である。
【0065】
比較実験A(先行技術CN102433786の例5に準拠)
ナノセルロースを生成するための方法は、下記の工程を含む;1gの綿リンターマイクロ結晶セルロース(MCC)ex-Sigma C6288に20gの70%ZnCl水溶液を添加し、180分間バスケットミルに入れ、続いて、50gの水をセルロース/ZnCl混合物に添加し、最終ZnCl濃度を20重量%としてセルロースを沈殿させ、次いで、結果として得られる混合物を遠心分離(遠心分離速度:4000rpm、15分)し、上層溶液を除去し、セルロースゼリーの下層を分離してナノセルロースを得る。
【0066】
比較実験B(先行技術CN102093484の例5に準拠)
この比較実験のナノセルロースを生成するための方法は、下記の工程を含む;5gの綿リンターを150gの65%ZnCl水溶液に添加し、混合物を油浴中90℃で1時間加熱し、高速(12000回転/分)で均質化して透明なセルロース/ZnCl溶液を得る。次いで、450mlの0.5%塩酸をセルロース/ZnCl溶液に添加してセルロースを沈殿させ、遠心分離で層を分け、ZnClと酸溶液の上層を除去し、セルロースガムの下層を水と共に8回遠心分離し、下層を5時間湿式ボールミルで粉砕してナノ結晶セルロースを得る。
【0067】
比較実験A及びBで得られたナノセルロースの特性をXRDで明らかにする。綿リンターのXRD-I構造からXRD-II結晶構造への移行が生じたことを観察できる。生成物の結晶化度は40~50%である。生成物は10~25重量%の(ポリ)糖を含んでいた。
【0068】
比較実験C(先行技術WO2017055407に準拠)
溶媒を、下記の方法で調製した:0.5gのZnO粉末を100gの70重量%ZnCl水溶液に添加し、混合物を撹拌下(120rpm/分)一晩室温に保った。残った固体は溶液からろ過により除去した。得られた溶媒100gを5g綿のライナーセルロースと撹拌(480rpm/分)下で混合し、室温で30分間、溶液が透明になるまで撹拌し続けた。次いで、250gの脱イオン水を撹拌下で溶液に添加した。試料を20分間撹拌し、セルロースナノ結晶を沈殿させた。セルロースナノ結晶を溶液から遠心分離(6000rpm/分;10分)で分離し、脱イオン水で8回洗浄してZnClを除去した。水中にナノセルロースが含まれる20重量%懸濁液が得られた。
【0069】
XRDの測定の前に、試料を室温で真空乾燥した。XRDの測定により、XRD-IがXRD-II結晶構造に移行することが示された。結晶化度は50~70%である。(ポリ)糖に変換された綿ライナーは、その10重量%未満であった。比較的低結晶化度のII型セルロースの収率は、バージンセルロースの約75~80%である。
【0070】
比較実験D
比較実験Dは、Xiao Yun Tan, Sharifah Bee Abd Hamid, Chin Wei Laiによる先行技術Biomass and Bioenergy 81 (2015) 584-591;「Preparation of high crystallinity cellulose nanocrystals (CNCs) by ionic liquid solvolysis」に沿って行った。
【0071】
実験では、純粋な硫酸水素1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(BmimHSO)を加溶媒分解触媒及び溶媒として使用する。実験は、質量分率10%の綿リンターを激しく撹拌しながらBmimHSOに添加する工程、磁気的ホットプレート攪拌器上で90℃で1.5時間加熱し、その後20cmの冷脱イオン水を反応混合物に添加してクエンチする工程を含む。セルロースのオフホワイト色の沈殿物が形成された後、混合物を室温で15分間超音波処理し、遠心分離を繰り返すことにより懸濁液を脱イオン水で洗浄して、ナノ結晶セルロースを単離する。沈殿物を凍結乾燥し、使用まで4℃の冷蔵庫に保管した。
【0072】
XRDの測定により、XRD結晶化度が85%のI型結晶が示された。ポリ糖(オリゴマー)及び糖はほとんど形成されていない(10%未満)。
【0073】
BmimHSO溶媒中では、I型セルロース結晶をII型セルロース結晶に転換することが不可能であることが見いだされた。BmimHSO溶媒はあらかじめ希釈されておらず、温度を120℃及び140℃に上昇させると、おそらくは分解が原因で、褐色になる。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2021-12-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質セルロース相及び結晶セルロース相を有するバージンセルロースからマイクロ又はナノ結晶セルロースを製造する方法であって、下記の工程:
(A)バージンセルロースを、ZnClと水の総重量に対して40~65重量%のZnClを含む水溶液であることを特徴とする第1の溶媒と接触させる工程であって、好ましくは、バージンセルロースの量が前記第1の溶媒の量の1~10重量%である工程、
(B)前記結晶セルロース相に対して前記非晶質セルロース相を優先的に溶解させる工程、
ここで、前記工程A及びBの温度は80℃未満であり、
(C)前記溶解した非晶質セルロースと前記結晶セルロースを分離する工程
を含み、
前記工程Bで得られた結晶セルロースがXRD-I型構造のセルロースを含む、方法。
【請求項2】
前記工程A及びBの温度が、70℃未満、より好ましくは60℃未満、さらには50℃未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の溶媒がプロトン酸を含まず、かつ、好ましくは、プロトン捕捉剤、好ましくはZnO又はZn(OH)を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の溶媒がプロトン酸を含まず、かつ、プロトン捕捉剤、好ましくはZnO又はZn(OH) を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記工程B又はCで得られた結晶セルロースのXRD結晶化度が、前記バージンセルロースのものよりも高く、好ましくは、前記得られた結晶セルロースのXRD結晶化度が、前記バージンセルロースよりも少なくとも5、好ましくは少なくとも10%高く、かつ、好ましくは、前記得られた結晶セルロースのXRD結晶化度が少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程Cで得られた溶解した非晶質セルロースに凝固剤を添加して前記非晶質セルロースを沈殿させて、好ましくは前記沈殿した非晶質セルロースを分離する工程Eをさらに含み、好ましくは、逆溶媒が、C1~C8アルコール、ケトン又は水からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程Cで得られた結晶セルロースを第2の溶媒と接触させて層間剥離セルロースを生成する工程Dをさらに含み、前記第2の溶媒が、水中に65~90重量%、好ましくは70~85重量%のZnClを含み、前記第2の溶媒が、好ましくはプロトン酸を含まず、かつ、好ましくはプロトン捕捉剤、好ましくはZnO又はZn(OH)も含み、好ましくは、前記層間剥離セルロースが、ZnClの濃度を10~30重量%、好ましくは15~25重量%に希釈する量の逆溶媒、好ましくは水の添加よる沈殿で前記第2の溶媒から分離される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程Dで得られた層間剥離セルロースがXRD-II型構造のセルロースを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記バージンセルロースが、バージンセルロース及びリグニン並びに任意にヘミセルロースを含むバイオマス中に存在し、
a)工程Bでは、前記非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースを前記第1の溶媒に溶解させ、
b)分離工程Cでは、前記溶解した非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースと、前記結晶セルロース及びリグニンを分離し、
c)必要に応じて工程Hでは、前記結晶セルロース及びリグニンを溶媒、好ましくは塩基性溶媒で処理し、リグニンを溶解させて前記結晶セルロース相は溶解させず、前記溶解したリグニンと前記結晶セルロースを好ましくはろ過によって分離する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記バージンセルロースが、バージンセルロース及びリグニン並びに任意にヘミセルロースを含むバイオマス中に存在し、
・工程Bでは、非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースを前記第1の溶媒に溶解させ、
・分離工程Cでは、前記溶解した非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースと、前記結晶セルロース及びリグニンを分離し、
・工程Dでは、前記結晶セルロース及びリグニンを、前記第2の溶媒と接触させて層間剥離結晶セルロースを生成し、
・必要に応じて工程Gでは、前記リグニンと前記層間剥離結晶セルロースを、好ましくは遠心分離及び/又はろ過によって分離する、
請求項7~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~6、9のいずれか一項に記載の方法によって得ることができるXRD-I型構造のマイクロ又はナノ結晶セルロース含有生成物P1であって、XRD結晶化度が少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%で、(ポリ)糖含有量が10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満で、重合度DPが好ましくは少なくとも200で、アスペクト比が10未満である、マイクロ又はナノ結晶セルロース含有生成物P1。
【請求項12】
請求項7~8、10のいずれか一項に記載の方法によって得ることができるXRD-II型構造のナノ結晶セルロース含有生成物P2であって、XRD結晶化度が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%で、(ポリ)糖含有量が15重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、最も好ましくは2重量%未満で、重合度DPが好ましくは100~200で、アスペクト比が少なくとも20である、ナノ結晶セルロース含有生成物P2。
【請求項13】
XRD-I型構造のマイクロ又はナノ結晶セルロースと、請求項7~8、10のいずれか一項に記載の方法によって得られたXRD-II型構造のナノ結晶セルロースの混合物を含むセルロース組成物であって、好ましくは、
- 前記混合物が、好ましくは請求項1~6、9のいずれか一項に記載の方法によって得られたXRD-I型構造のマイクロ若しくはナノ結晶セルロースと、請求項7~8、10のいずれか一項によって得られたXRD-II型構造のナノ結晶セルロースを混合することを含む方法Aによって得られるか、又は
- 前記混合物が、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法における工程Dでは、XRD-I型構造のセルロースからXRD-II型構造のセルロースに部分的に変換され、部分的な変換は、好ましくは、逆溶媒の添加前により低い温度若しくはより短い接触時間、若しくはそれらの組合せを選ぶことによって達成される、方法Bによって得られる、
組成物。
【請求項14】
リグニンをさらに含む、請求項13に記載のセルロース組成物。
【請求項15】
請求項11に記載のXRD-I型構造のマイクロ若しくはナノセルロース、請求項12に記載のXRD-II型構造のナノセルロース、又は請求項13若しくは14に記載のセルロース組成物の、コーティング材料、賦形剤としての、セルロース成形品、好ましくは、包装フィルム、糸、布地の製造に好ましくは使用される繊維若しくはフィルムを製造するための材料としての、又は炭素繊維を製造するための出発材料としての、使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0073
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0073】
BmimHSO溶媒中では、I型セルロース結晶をII型セルロース結晶に転換することが不可能であることが見いだされた。BmimHSO溶媒はあらかじめ希釈されておらず、温度を120℃及び140℃に上昇させると、おそらくは分解が原因で、褐色になる。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 非晶質セルロース相及び結晶セルロース相を有するバージンセルロースからマイクロ又はナノ結晶セルロースを製造する方法であって、下記の工程:
(A)バージンセルロースを、ZnCl と水の総重量に対して40~65重量%のZnCl を含む水溶液であることを特徴とする第1の溶媒と接触させる工程であって、好ましくは、バージンセルロースの量が前記第1の溶媒の量の1~10重量%である工程、
(B)前記結晶セルロース相に対して前記非晶質セルロース相を優先的に溶解させる工程、
(C)前記溶解した非晶質セルロースと前記結晶セルロースを分離する工程
を含む、方法。
[2] 前記工程A及びBの温度が、80℃未満、好ましくは70℃未満、より好ましくは60℃未満、さらには50℃未満である、[1]に記載の方法。
[3] 前記第1の溶媒がプロトン酸を含まず、かつ、好ましくは、プロトン捕捉剤、好ましくはZnO又はZn(OH) を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記工程Bで得られた結晶セルロースがXRD-I型構造のセルロースを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記工程B又はCで得られた結晶セルロースのXRD結晶化度が、前記バージンセルロースのものよりも高く、好ましくは、前記得られた結晶セルロースのXRD結晶化度が、前記バージンセルロースよりも少なくとも5、好ましくは少なくとも10%高く、かつ、好ましくは、前記得られた結晶セルロースのXRD結晶化度が少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記工程Cで得られた溶解した非晶質セルロースに凝固剤を添加して前記非晶質セルロースを沈殿させて、好ましくは前記沈殿した非晶質セルロースを分離する工程Eをさらに含み、好ましくは、逆溶媒が、C1~C8アルコール、ケトン又は水からなる群から選ばれる1種以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記工程Cで得られた結晶セルロースを第2の溶媒と接触させて層間剥離セルロースを生成する工程Dをさらに含み、前記第2の溶媒が、水中に65~90重量%、好ましくは70~85重量%のZnCl を含み、前記第2の溶媒が、好ましくはプロトン酸を含まず、かつ、好ましくはプロトン捕捉剤、好ましくはZnO又はZn(OH) も含み、好ましくは、前記層間剥離セルロースが、ZnCl の濃度を10~30重量%、好ましくは15~25重量%に希釈する量の逆溶媒、好ましくは水の添加よる沈殿で前記第2の溶媒から分離される、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記工程Dで得られた層間剥離セルロースがXRD-II型構造のセルロースを含む、[7]に記載の方法。
[9] 前記バージンセルロースが、バージンセルロース及びリグニン並びに任意にヘミセルロースを含むバイオマス中に存在し、
a)工程Bでは、前記非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースを前記第1の溶媒に溶解させ、
b)分離工程Cでは、前記溶解した非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースと、前記結晶セルロース及びリグニンを分離し、
c)必要に応じて工程Hでは、前記結晶セルロース及びリグニンを溶媒、好ましくは塩基性溶媒で処理し、リグニンを溶解させて前記結晶セルロース相は溶解させず、前記溶解したリグニンと前記結晶セルロースを好ましくはろ過によって分離する、
[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[10] 前記バージンセルロースが、バージンセルロース及びリグニン並びに任意にヘミセルロースを含むバイオマス中に存在し、
・工程Bでは、非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースを前記第1の溶媒に溶解させ、
・分離工程Cでは、前記溶解した非晶質セルロース及び任意のヘミセルロースと、前記結晶セルロース及びリグニンを分離し、
・工程Dでは、前記結晶セルロース及びリグニンを、前記第2の溶媒と接触させて層間剥離結晶セルロースを生成し、
・必要に応じて工程Gでは、前記リグニンと前記層間剥離結晶セルロースを、好ましくは遠心分離及び/又はろ過によって分離する、
[7]~[8]のいずれかに記載の方法。
[11] [1]~[6]、[9]のいずれかに記載の方法によって得ることができるXRD-I型構造のマイクロ又はナノ結晶セルロース含有生成物P1であって、XRD結晶化度が少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%で、(ポリ)糖含有量が10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満で、重合度DPが好ましくは少なくとも200で、アスペクト比が10未満である、マイクロ又はナノ結晶セルロース含有生成物P1。
[12] [7]~[8]、[10]のいずれかに記載の方法によって得ることができるXRD-II型構造のナノ結晶セルロース含有生成物P2であって、XRD結晶化度が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%で、(ポリ)糖含有量が15重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、最も好ましくは2重量%未満で、重合度DPが好ましくは100~200で、アスペクト比が少なくとも20である、ナノ結晶セルロース含有生成物P2。
[13] XRD-I型構造のマイクロ又はナノ結晶セルロースと、[7]~[8]、[10]のいずれかに記載の方法によって得られたXRD-II型構造のナノ結晶セルロースの混合物を含むセルロース組成物であって、好ましくは、
- 前記混合物が、好ましくは[1]~[6]、[9]のいずれかに記載の方法によって得られたXRD-I型構造のマイクロ若しくはナノ結晶セルロースと、[7]~[8]、[10]のいずれかによって得られたXRD-II型構造のナノ結晶セルロースを混合することを含む方法Aによって得られるか、又は
- 前記混合物が、[7]~[10]のいずれかに記載の方法における工程Dでは、XRD-I型構造のセルロースからXRD-II型構造のセルロースに部分的に変換され、部分的な変換は、好ましくは、逆溶媒の添加前により低い温度若しくはより短い接触時間、若しくはそれらの組合せを選ぶことによって達成される、方法Bによって得られる、
組成物。
[14] リグニンをさらに含む、[13]に記載のセルロース組成物。
[15] [11]に記載のXRD-I型構造のマイクロ若しくはナノセルロース、[12]に記載のXRD-II型構造のナノセルロース、又は[13]若しくは[14]に記載のセルロース組成物の、コーティング材料、賦形剤としての、セルロース成形品、好ましくは、包装フィルム、糸、布地の製造に好ましくは使用される繊維若しくはフィルムを製造するための材料としての、又は炭素繊維を製造するための出発材料としての、使用。
[16] 好ましくはプレバイオティクス食品添加物として使用するための、[6]に記載の工程Eで得られた溶解した非晶質セルロースの沈殿物から製造されるオリゴマー糖及びモノマー糖を含むポリ糖。
【国際調査報告】