(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(54)【発明の名称】1,6-ジブロモ-1,6-ジデオキシ-ズルシトールとの併用治療レジメン
(51)【国際特許分類】
A61K 31/047 20060101AFI20220620BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220620BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220620BHJP
A61K 31/4188 20060101ALI20220620BHJP
A61K 31/69 20060101ALI20220620BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20220620BHJP
A61K 51/00 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
A61K31/047
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K31/4188
A61K31/69
A61K31/506
A61K51/00
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021562308
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(85)【翻訳文提出日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 US2020029350
(87)【国際公開番号】W WO2020219566
(87)【国際公開日】2020-10-29
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522158317
【氏名又は名称】エレイソン ファーマシューティカルズ,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】ELEISON PHARMACEUTICALS, LLC
【住所又は居所原語表記】100 Overlook Center, 2nd Floor, Princeton, NJ 08540, USA
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】マグワイヤ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ジョンストン,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】レーダーマン,セス
【テーマコード(参考)】
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086CB05
4C086DA43
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA05
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】
脳腫瘍に罹患している対象を治療する方法が本明細書に記載され、前記方法は、治療有効量の1,6-ジブロモ-1,6-ジデオキシ-ズルシトール(DBD)の結晶性多形を投与することを含み、相乗的な第2の癌治療との併用療法を含む。結晶性DBD多形に感受性のある対象をスクリーニングし、感受性を示す対象を治療する方法も開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌に罹患している対象を治療する方法であって、治療有効量の1,6-ジブロモ-1,6-ジデオキシ-ズルシトール(DBD)の結晶性多形を投与することを含む方法。
【請求項2】
前記癌が、腺癌、肉腫、皮膚癌、黒色腫、膀胱癌、脳癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、または肺癌から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脳癌が、星状細胞腫、髄膜腫、乏突起神経膠腫、混合神経膠腫および上衣腫から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記脳腫瘍が多形性膠芽腫である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記対象がヒトである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
テモゾロミド、放射線、ABT-888、ボルテゾミブ、イマチニブ、パノビノスタット、またはBIBR-1532から選択される第2の癌治療を投与することをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記放射線療法が、ガントリベースのシステム、ロボット放射線外科システム、皮下インプラント、または放射性同位体を含む放射線送達システムによって提供される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記DBDの結晶性多形が、前記第2の癌治療と相乗的に作用する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
a.前記対象から神経膠腫細胞を入手すること、または入手されたこと、
b.前記DBDの結晶性多形に対する感受性についてインビトロで前記神経膠腫細胞を試験すること、または試験されたこと、および
c.工程(b)で感受性を示した前記対象に前記DBD結晶性多形を投与することをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
治療有効量の前記DBDの結晶性多形を投与することを含む、癌を有する患者を治療するために使用される組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
結晶性の1,6-ジブロモ-1,6-ジデオキシ-ズルシトール(ジブロモズルシトールまたはDBD)多形を含むDBDを特定の抗癌成分(moiety)と組み合わせて投与することによる癌の治療方法は、安全性および有効性が向上したことが示されている。
【背景技術】
【0002】
米国において癌は、心臓病に次いで2番目に多い死因である。癌の診断および治療における最近の進歩にもかかわらず、癌が早期に発見されれば手術および放射線療法で治癒し得るが、転移性疾患のための現在の薬物療法のほとんどが緩和的であり、長期の治癒をもたらすことはほとんどない。新しい化学療法が市場に参入しているにもかかわらず、耐性腫瘍の治療における一次療法として、二次および三次療法として、単独療法または既存の薬剤との組み合わせで有効な新しい薬物の必要性が引き続き求められている。
【0003】
癌を治療するために使用される可能性のある化学療法剤の一例は、1,6-ジブロモ-1,6-ジデオキシ-ズルシトール(ジブロモズルシトールまたはDBD)である。DBDの結晶構造は、SimonおよびSasvariによって、Acta.Cryst.(1971)B27,806-815において初めて公開された。Kellner et al.は、DBDが選択的に強力な抗腫瘍効果を有することを報告した。Kellner et al.、「1,6-Dibromo-1,6-Dideoxy-Dulcitol:A New Antitumoral Agent、」Nature(1967)28;213(5074):402-3。しかしながら、これらの研究では、DBDは、ズルシトールを気体臭化水素で飽和した水性臭化水素酸で、0℃未満の温度で処理することによって調製された。このプロセスは、DBDを製造する安全な方法とはもはや考えられていない。さらに、DBDは難溶性であることが文献に報告されている。
【0004】
本発明は、より安全かつ有効なプロファイルを有する新規の癌治療を改善および開発するため、この継続的な必要性を対処するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Simon and Sasvari、Acta.Cryst.(1971)B27,806-815
【非特許文献2】Kellner et al.、「1,6-Dibromo-1,6-Dideoxy-Dulcitol:A New Antitumoral Agent、」Nature(1967)28;213(5074):402-3
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
この概要では、さらに詳細な説明で後述される概念の選択を、簡略化して紹介する。この概要では、特許請求される主題の重要な特徴または本質的な特徴を特定することを意図しておらず、特許請求される主題の範囲を決定する際の補助として使用されることも意図していない。
【0007】
本明細書には、結晶性DBD多形を含む、1,6-ジブロモ-1,6-ジデオキシ-ズルシトールの、癌を治療するために特定の抗癌成分と組み合わせた使用が記載される。DBDは、307.98g/molの分子量、分子式C
6H
12Br
2O
4、および以下の構造を有する:
【化1】
。
【0008】
具体的には、好ましい実施形態は、癌腫瘍に罹患している対象を治療する方法を含み、前記方法は、治療有効量の1,6-ジブロモ-1,6-ジデオキシ-ズルシトール(DBD)の結晶性多形を投与することを含む。本明細書に記載されるように治療され得るそのような癌の例には、腺癌、肉腫、皮膚癌、黒色腫、膀胱癌、脳癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、または肺癌が含まれるが、これらに限定されない。
【0009】
好ましい実施形態では、脳癌は、星状細胞腫、髄膜腫、乏突起神経膠腫、混合神経膠腫および上衣腫から選択される。さらに好ましい実施形態では、脳腫瘍は多形性膠芽腫である。
【0010】
さらに好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0011】
さらに好ましい実施形態では、方法は、テモゾロミド、放射線、ABT-888、ボルテゾミブ、イマチニブ、パノビノスタット、またはBIBR-1532から選択される第2の癌治療を投与することをさらに含む。そのような実施形態では、DBDの結晶性多形は、第2の癌治療と相乗的に作用する。さらなる実施形態では、請求項6に記載の方法は、放射線療法が、ガントリベースのシステム、ロボット放射線外科システム、皮下インプラント、または放射性同位体を含む放射線送達システムによって提供される。
【0012】
他の好ましい実施形態では、方法は、(A)対象から神経膠腫細胞を入手すること、または入手したこと、(b)DBDの結晶性多形に対する感受性についてインビトロで神経膠腫細胞を試験すること、または試験したこと、および(c)工程(b)で感受性を示した対象にDBDの結晶性多形を投与することをさらに含む。この方法を実施することにより、低減できる可能性のある用量で活性が向上し有効性が増強し結果として安全性の改善および副作用の軽減につながる、DBDの結晶性多形と組み合わせる薬剤を特定し得る。
【0013】
実施形態は、添付の図面の図に例として(限定ではなく)示し、図中、同様の参照符号は同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1はT98細胞培養物からのヒストグラムであって、結晶性DBD多形処理の5日後および8日後の、100%生存率とみなす非処理細胞と比較した生細胞の百分率を示している。
【
図2】
図2はU373細胞培養物からのヒストグラムであって、結晶性DBD多形処理の5日後および8日後の、100%生存率とみなす非処理細胞と比較した生細胞の百分率を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のある特定の実施形態を本明細書に示し説明しているが、そのような実施形態が例としてのみ提供されることは、当業者には自明のことである。本発明から逸脱することなく、多数の変形、変更、および置換が当業者により想到される。本明細書に記載の実施形態に対する様々な代替形態が、状況によって、本発明の実施において使用されることを理解すべきである。以下の特許請求の範囲が本発明の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲内の方法および構造、ならびにそれらの均等物がそれによって包含されることが意図される。
【0016】
本明細書で使用されるセクションの見出しは、構成上の目的のためだけであり、記載された主題を限定するものと解釈されるべきではない。これらに限定されないが、特許、特許出願、説明書、書籍、マニュアル、および論文を含む、本出願で引用されたすべての文書または文書の一部は、任意の目的のためにその全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0017】
定義
別段の定義がなされていない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、ペプチド化学、細胞培養、化学および生化学の分野などの当業者によって通常理解される同じ意味を有する。標準的な技術が、分子生物学、遺伝学および生化学の方法に使用され(Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,2001,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;Ausubel et al.,Short Protocols in Molecular Biology(1999)4th ed.,John Wiley&Sons,Inc.を参照のこと)、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。例えば、「化学療法剤(単数)」への言及は、2つ以上のそのような化学療法剤または複数のそのような化学療法剤の混合物を含む。
【0019】
本明細書で使用される場合、「含む(comprise)」という用語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などのその変形は、任意の列挙された整数(例えば、特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)または整数群(例えば、複数の特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)を含むが、他の任意の整数または整数群を除外しないことを示すと解釈されるべきである。したがって、本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」という用語は包括的であり、追加の列挙されていない整数または方法/プロセス工程を排除しない。
【0020】
本明細書で提供される組成物および方法のいずれかの実施形態では、「含む(comprising)」は、「から本質的になる(consisting essentially of)」または「からなる(consisting of)」で置き換えられ得る。「から本質的になる(consisting essentially of)」という語句は、本明細書では、特定の整数(もしくは複数の整数)または複数の工程、ならびに特許請求される発明の特徴または機能に実質的に影響を及ぼさないものを要求するために使用される。本明細書で使用される場合、「からなる(consisting)」という用語は、列挙された整数(例えば、特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)または整数群(例えば、複数の特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)のみの存在を示すために使用される。
【0021】
本明細書で使用される場合、「DBD」は、Acta.Cryst.(1971)B27,806-815の文献に報告されている結晶構造を有する1,6-ジブロモ-1,6-ジデオキシ-ズルシトールを指す。
【0022】
「結晶性DBD多形」または「結晶性多形」または「DBDの結晶性多形」という用語は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2016/205299号および米国特許第2018/0362427号に記載されている、1,6-ジブロモ-1,6-ジデオキシ-ズルシトールの結晶形態を指す。
【0023】
「対象」という用語は、癌に罹患している個体に関して本明細書で使用される場合、哺乳動物および非哺乳動物を包含する。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0024】
本明細書で使用される「有効量」、「治療有効量」または「薬学的有効量」という用語は、投与されている少なくとも1つの薬剤または化合物の、癌を治療するのに十分な量を指す。その結果は、そのような疾患の徴候、症状、もしくは原因の軽減および/もしくは緩和、または生物系における任意の他の所望の変化である。例えば、治療的使用のための「有効量」は、疾患の臨床的に有意な軽減をもたらすために必要な、本明細書に開示される化合物を含む組成物の量である。任意の個別のケースにおける適切な「有効」量は、用量漸増研究などの技術を使用して決定される。さらに、「有効量」、「治療有効量」または「薬学的有効量」は、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしに、合理的なベネフィット/リスク比に見合って、対象(例えば、ヒト)の組織に接触させて使用するのに、健全な医学的判断の範囲内で適した化合物、材料、組成物、および/または剤形を意味する。各担体、賦形剤などはまた、製剤の他の成分と適合するという意味で「許容可能」でなければならない。
【0025】
本発明では、「腫瘍」または「癌」は、悪性癌細胞の異常な増殖に起因して、対象において集合的に組織の塊を形成する不均一な細胞の集団として定義される。したがって、「腫瘍」は、正常細胞または「非癌性」細胞および「癌」細胞または「癌性」細胞の両方を含む。
【0026】
本明細書で使用される場合、「および/または」は、他のものの有無にかかわらず、2つの指定された特徴または構成要素のそれぞれの具体的な開示として解釈されるべきである。例えば、「Aおよび/またはB」は、それぞれが個別に記載されているかのように、各(i)A、(ii)B、ならびに(iii)AおよびBの具体的な開示として解釈されるべきである。
【0027】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、記載された量におおよそ、ほとんど、大体またはほぼ等しい量、または等しい量、例えば、状態量プラス/マイナス約5%、約4%、約3%、約2%または約1%を指すために使用される。
【0028】
本出願は、文脈上別段の要求がない限り、上記の態様および実施形態のいずれかの互いの組み合わせをすべて開示していることを理解されたい。同様に、本出願は、文脈上別段の要求がない限り、好ましい特徴および/または任意選択の特徴のすべての組み合わせを単独で、または他の態様のいずれかと共に開示する。
【実施例】
【0029】
本発明を、以下の実施例を参照してさらに説明する。以下は単なる例示にすぎず、本発明の範囲内で、細部の変更が行われ得ることが理解されよう。
【0030】
以下の実施例では、以下の略語を使用する。
定義および略語
・A2,5 ABT-888濃度2,5μM
・A10 ABT-888濃度10μM
・B1 ボルテゾミブ濃度1nM
・B2,5 ボルテゾミブ濃度2,5nM
・B5 BIBR1532濃度5μM
・B10 BIBR1532濃度10μM
・CTG CellTiter-Glo(生存率アッセイ)
・DBD ジブロモズルシトール
・DMSO ジメチルスルホキシド(薬物用溶媒、対照として使用)
・GBM 多形性膠芽腫
・GBM(rec) 再発性多形性膠芽腫
・GSC’s 神経膠腫無血清幹様細胞培養物
・IC50 最大半量阻害濃度
・I4 イマチニブ濃度4μM
・I15 イマチニブ濃度15μM
・MGMT O6-メチルグアニン-メチルトランスフェラーゼ
・NT 非処理対照細胞培養物
・P5 パノビノスタット濃度5nM
・P20 パノビノスタット濃度20nM
・RLU 相対発光量
・RTX 放射線療法
・TMZ テモゾロミド
・T50 TMZ濃度50μM
・T100 TMZ濃度100μM
・1/2 IC50 IC50の半分濃度
・3Gy 3グレイ放射線
・6Gy 6グレイ放射線
【0031】
概要
結晶性DBD多形を、細胞生存率を低減させるDBDの能力を特定し、他の化合物との相乗効果を特定する試みで、2つのヒト神経膠腫細胞株を使用したインビトロシステムにて研究した。以下の研究実施例1~3を実施した。以下の結果を提示する。
a.他の細胞研究に使用することができる多形のDBD薬物の適切なインビトロ濃度範囲の実証(実施例1);
b.20種を超える患者由来無細胞培養物の5日目および8日目のIC50(最大半量阻害濃度)値の決定(実施例2);および
c.20種の初代無血清細胞培養物のパネルにおいて、DBD(IC50用量の1/2、およびIC50用量)の効果が、TMX(テモゾロミド)、放射線療法、または他の標的療法との組み合わせによって増強されるかどうかの決定(実施例3)。
【0032】
実施例1:2つの神経膠腫細胞株を使用した、結晶性DBD多形のDBDの適切な濃度範囲の決定
患者由来の無血清神経膠腫細胞培養物において効果を実証する結晶性DBD多形の濃度範囲はまだ知られていないため、2つの神経膠腫細胞株について広範囲の濃度で試験した。これらの株を、500細胞/ウェルの希釈度で、96ウェルプレートに三連で播種した。ATPベースのCell Titer-Glo(登録商標)(CTG)アッセイを5日目および8日目に実施して、細胞増殖、および細胞生存率の低下をもたらすDBDの効率を監視した。
図1および2は、使用された2つの神経膠腫細胞株、T98およびU373のヒストグラム結果を示す。
【0033】
具体的には、ヒストグラムを百分率で正規化し、この場合非処理細胞は100%の生存率を有する。0.1μMおよび0.3μMの2つの最低濃度は、効果がなかった。さらに、300μMのDBD用量で処理したほとんどすべての細胞は、生存不可能である。しかしながら、1~100μMの濃度範囲を選択し、次に患者由来の20種の無血清細胞培養物で試験した。
【0034】
実施例2:患者由来の20種の初代無血清細胞培養物のパネルにおける結晶性DBD多形のDBDのIC50値の決定
患者由来GSC(神経膠腫無血清幹細胞様培養物)の増殖に対する結晶性DBD多形の効果を評価するために、20種の培養物に対して用量反応アッセイを実施した。
【0035】
結晶性DBD多形のIC50を決定するために、1μM~100μMの濃度を適用した。用量依存的な生存率の低下が見出され、線形回帰分析を使用してIC50値を計算することができた。5日目および8日目の両方の分析からの、20種の細胞培養物に対するDBDのすべてのIC50値(μM)の概要を表1に示す。具体的には、表1を見ると、患者由来GSCのこのパネルでは、大きく変動した様々なIC50値が見られる。さらに、MGMTプロモーターメチル化状態とIC50値の量との間に相関は見られない。(MGMTメチル化状態は予後診断であり得、いくつかの研究では、放射線療法およびテモゾロミドを併用投与された、切除不能多形性膠芽腫患者の生存率を有意に改善した。)
【0036】
しかしながら、時間の経過と共に、5~8日の間に、細胞の薬物に対する感受性が高くなり、より低いIC50値が観察される。例えば、5日目のIC50は41.77であるが、8日目のIC50が11.94に低下した、GS102periを参照されたい。特定の化学療法剤に対する腫瘍細胞の応答性の低下の既知の機構は、(1)薬剤の細胞への取り込みの減少または細胞からの排出の増加、(2)細胞内での薬剤の不活性化の増加、(3)アルキル化剤によって生じるDNA損傷の修復の強化、および(4)DNA損傷に応答して細胞毒性をもたらす細胞機構の不存在、を含むので、これは驚くべきことである。したがって、記載された化学療法剤の1つを組み合わせたDBD多形の治療に対して、細胞殺滅に対する癌細胞の感受性の増加を観察することは驚くべきことである。
【表1】
【0037】
実施例2:20種の初代無血清細胞培養物のパネルにおける、DBD多形(IC50用量の1/2およびIC50用量)の効果が、TMZ(テモゾロミド、神経膠腫に対する治療に使用される化学療法アルキル化剤)、RTX(放射線療法)または他の任意の化合物と組み合わせて増強されるかどうかの決定
結晶性DBD多形治療を化学療法、放射線療法および標的阻害剤と組み合わせて、結晶性DBD多形形態が、従来の治療法の有効性を増強することができるか、より新しい「標的」療法と組み合わせた場合に有効性を増強することができるか、またはこの処理に対する培養物(のサブセット)の感受性を高めるかどうかを決定した。
【0038】
したがって、培養物を以下で処理した。
a.IC50および1/2 IC50用量(5日目に決定)での結晶性DBD多形;および
b.2つの異なる濃度での、テモゾロミド、放射線療法、ABT-888(PARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)阻害剤)、ボルテゾミブ(プロテアソーム阻害剤)、イマチニブ(Bcr-Abl、PDGFおよびc-KIT受容体チロシンキナーゼ阻害剤)、パノビノスタット(汎HDAC(ヒストンデアセチラーゼ阻害剤)またはBIBR1532(テロメラーゼ阻害剤)のいずれか。
【0039】
表2(5日目)および表3(8日目)は、すべての治療の組み合わせについて、使用した20種すべての細胞培養物の増強係数(最も有効な単独療法の生存率を、テモゾロミドまたは放射線療法と組み合わせた生存率で割ったもの)を示す。いくつかのケースにおいて、単独療法テモゾロミド、放射線、ABT-888、ボルテゾミブ、イマチニブ、パノビノスタットまたはBIBR1532と比較して、結晶性DBD多形処理の効果(細胞生存率の低下)が見られた。
【0040】
「ヒートマップ」(ヒートマップ=データ値が様々な色として表示される表形態によるデータの表示)は、表のセル内の「より濃い灰色」が、より大きい整数値を表し、データの視覚化をより容易にする。データセルが「濃い」ほど、両方の療法の併用が、最も効果的な単独療法と比較してより効果的である。表2および表3に示されるように、イマチニブおよびパノビノスタットの両方が、全体として最も高い増強係数を有する。
【表2】
【表3】
【0041】
要約および結論
治療薬を含む化学成分(moiety)は、異なる結晶構造を得るために合成し得る。多くの場合、これらの異なる「多形」は、その結晶構造によって、異なる物理化学的特性を有し得る。
【0042】
物理化学的特性の変化により、多形はまた異なる治療プロファイルを有し得、ヒトでの治療的使用の際に送達される化合物の安全性および有効性を変更し得る。これは、他のアジュバントまたは併用薬および療法との多形の使用に影響を及ぼすかもしれない。これは、腫瘍学的状態のための併用療法において特に重要である。
【0043】
提示された方法および結果は、患者由来神経膠腫細胞培養物におけるインビトロ治療用量範囲を特定し、国際公開第2016/205299号および米国特許第2018/0362427号に記載されているように、結晶性DBD多形で処置した場合、これらの効果がMGMT状態によって影響されないことを実証した。
【0044】
さらに、他の併用療法に関して、DBD多形による治療は、別のアルキル化剤であるテモゾロミド(50%)および放射線治療(30%)と組み合わせた場合に細胞毒性効果を増強した。
【0045】
より新しい標的療法(後述)と組み合わせた場合、DBD多形とより新しい標的療法との併用は、インビトロでの患者由来細胞研究において増強した有効性が示された。具体的には、標的薬物の選択をDBDと組み合わせて、20種の患者由来細胞培養物のパネルにおいて試験した。この選択は、悪性ヒト神経膠芽腫の初発および継続的な成長における最も重要な経路、例えば、以下を網羅した。
a.bcr/abl、c-kitおよびpdgfRチロシンキナーゼ
b.HDAC
c.テロメラーゼ阻害
d.プロテアソーム阻害
e.DNA修復(PARP)阻害
【0046】
これらの結果(ほとんどの場合、高い増強係数)は、チロシンキナーゼ阻害剤イマチニブを使用して、HDAC阻害(パノビノスタット)と、Ras/MapK経路、Src/Pax/Fak/Rac経路、PI/PI3K/AKT/BCL-2経路およびJAK/STAT経路の阻害とを組み合わせて(Bcr-Abl経路の下流効果)達成された。
【0047】
実施例3:国際公開第2016/205299号(米国特許第20180362327号)開示の組み込み
国際公開第2016/205299号(米国特許第20180362327号)のパラグラフ[007-010]に記載されているように、DBD多形は、307.98g/molの分子量および分子式C6H12Br2O4を有する。
【0048】
一態様では、本明細書に記載される1,6-ジブロモ-1,6-ジデオキシ-ズルシトールの結晶性多形は、2θ±0.1°における19.59°(100,00)および24.380°(79,52)および31.260°(8,32)および34.500°(25,56)および34.810°(22,83)および39.260°(23,63)のピークを特徴とする。さらなる実施形態では、そのような結晶性多形は、2θ±0.1°において、19.59°(100,00)および24.380°(79,52)および31.260°(8,32)および34.500°(25,56)および34.810°(22,83)および39.260°(23,63)から選択される、少なくとも2つのピークをさらに特徴とする。さらなる実施形態では、そのような結晶性多形は、2θ±0.1°において、19.59°(100,00)および24.380°(79,52)および31.260°(8,32)および34.500°(25,56)および34.810°(22,83)および39.260(23,63)から選択される、少なくとも3つのピークをさらに特徴とする。さらなる実施形態では、そのような結晶性多形は、2θ±0.1°において、19.59°(100,00)および24.380°(79,52)および31.260°(8,32)および34.500°(25,56)および34.810°(22,83)および39.260°(23,63)から選択される、少なくとも4つのピークをさらに特徴とする。さらなる実施形態では、そのような結晶性多形は、2θ±0.1°において、19.59°(100,00)および24.380°(79,52)および31.260°(8,32)および34.500°(25,56)および34.810°(22,83)および39.260°(23,63)から選択される、少なくとも5つのピークをさらに特徴とする。
【0049】
またさらなる実施形態では、結晶性多形は、国際公開第2016/205299号(米国特許第20180362327号)の
図1に示されるX線粉末回折パターンと実質的に同じX線粉末回折パターンを示す。さらなる実施形態では、結晶性多形は、国際公開第2016/205299号(米国特許第20180362327号)の
図2に示されるX線粉末回折パターンと実質的に同じX線粉末回折パターンを示す。またさらなる実施形態では、結晶性多形は、国際公開第2016/205299号(米国特許第20180362327号)の表1に記載されるX線粉末回折パターンと実質的に同じX線粉末回折パターンを示す。またさらなる実施形態では、結晶性多形は、文献に報告されている98°のベータ角と比較して96°のベータ角を示す。
【0050】
ある関連する態様では、本明細書に記載される1,6-ジブロモ-1,6-ジデオキシ-ズルシトールの結晶性多形は、示差走査熱量測定によって決定される場合、吸熱開始点が約184.4
oC、ピークが約191
oCであることを特徴とする。さらなる実施形態では、結晶性多形は、国際公開第2016/205299号(米国特許第20180362327号)の
図3および/または
図4に示される示差走査熱量測定パターンと実質的に同じ示差走査熱量測定パターンを特徴とする。
参考文献
1.Chang,A.Y.,et al.,Induction chemotherapy of dibromodulcitol,Adriamycin,vincristine,tamoxifen,and Halotestin with methotrexate in metastatic breast cancer:an Eastern Cooperative Oncology Group Study(E1181).Am J Clin Oncol,1998.21(1):p.99-104
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3.Berghauser Pont,L.M.,et al.,The Bcl-2 inhibitor Obatoclax overcomes resistance to histone deacetylase inhibitors SAHA and LBH589 as radiosensitizers in patient-derived glioblastoma stem-like cells.Genes Cancer,2014.5(11-12):p.445-59
4.Lee,J.,et al.,Tumor stem cells derived from glioblastomas cultured in bFGF and EGF more closely mirror the phenotype and genotype of primary tumors than do serum-cultured cell lines.Cancer Cell,2006.9(5):p.391-403
5.Fael Al-Mayhani,T.M.,et al.,An efficient method for derivation and propagation of glioblastoma cell lines that conserves the molecular profile of their original tumours.J Neurosci Methods,2009.176(2):p.192-9
6.Nikanjam,M.,S.Liu,and R.Kurzrock,Dosing targeted and cytotoxic two-drug combinations:Lessons learned from analysis of 24,326 patients reported 2010 through 2013.Int J Cancer,2016.139(9):p.2135-41
【国際調査報告】