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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(54)【発明の名称】暗放電の診断
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20220620BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563061
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(85)【翻訳文提出日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2020061194
(87)【国際公開番号】W WO2020216785
(87)【国際公開日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】19171171.2
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジムカ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】テッパティ,バレリア
【テーマコード(参考)】
2G015
2G036
【Fターム(参考)】
2G015AA10
2G015AA30
2G015BA04
2G015BA10
2G015CA01
2G015CA21
2G036AA21
2G036AA24
2G036BA05
2G036BB06
2G036BB07
2G036BB10
2G036CA06
2G036CA10
(57)【要約】
パワーデバイス、たとえばガス絶縁スイッチギア(gas insulated switchgear:GIS)の健全性状態を診断するための方法、および、当該方法を実行するように適合された測定デバイスが開示される。当該方法は、パワーデバイス上の複数の第1接続点においてDC高電圧を印加して、パワーデバイス内の表面上に電荷を印加するステップを含む。さらに、パワーデバイス内の誘電体に関連する漏れ電流レベルが判定され、当該漏れ電流レベルが閾値電流レベルとして設定される。当該方法はさらに、パワーデバイスにおける複数の第2接続点において電流測定デバイスを接続するステップを含み、当該複数の第2接続点の間の経路が第1電流戻り経路として存在しており、当該方法はさらに、当該第1電流戻り経路にわたって流れる第1電流を測定し、当該第1電流戻り経路にわたる電流の高さに関連する第1汚染を識別するステップを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーデバイス(130)の健全性状態を診断するための方法であって、
前記パワーデバイス(130)上の複数の第1接続点においてDC高電圧を印加して、前記パワーデバイス(130)内の表面上に電荷を印加するステップと、
前記パワーデバイス(130)内の誘電体に関連する漏れ電流レベルを判定し、前記漏れ電流レベルを閾値電流レベルとして設定するステップと、
前記パワーデバイス(130)における複数の第2接続点において電流測定デバイスを接続するステップとを含み、前記複数の第2接続点の間の経路は第1電流戻り経路(310)として存在するものであり、前記方法はさらに、
前記第1電流戻り経路(310)にわたって流れる第1電流を測定し、前記第1電流戻り経路(310)にわたる電流の高さに関連する第1汚染を識別するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記パワーデバイス(130)はガス絶縁スイッチギア(Gas Insulated Switchgear:GIS)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電流測定デバイスを複数の第3接続点に接続し、前記複数の第3接続点を第2電流戻り経路(320)として設定するステップと、
前記第2電流戻り経路(320)にわたって流れる第2電流を測定し、前記第2電流戻り経路(320)にわたる電流の高さに関連する第2汚染(300)を識別するステップとをさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1電流戻り経路と前記第2電流戻り経路(310、320)との間で切替えて、前記電流経路(310、320)にわたる前記第1電流と第2電流との間の時間遅延を測定するステップをさらに含み、測定された電流の前記時間遅延は、前記デバイスにおける電流の源の位置を示す、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記電流戻り経路(310、320)は、前記パワーデバイス(130)における別々の区画によって表わされる、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記戻り経路(310、320)における電流が低域フィルタ(110)でフィルタリングされることで、前記電流戻り経路(310、320)からの測定された電流信号から周波数を除去する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記戻り経路(310、320)の数は、前記パワーデバイス(130)における別々の区画の数に関係する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記DC高電圧の電圧定格は、前記パワーデバイス(130)の電圧定格以下である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記パワーデバイス(130)の別々の区画における特定の汚染を、前記電流戻り経路(310、320)にわたって測定された電流値に割当てるステップをさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記パワーデバイス(130)の別々の区画における汚染は、湿度、塵埃粒子、金属粒子の群のうちの1つ以上である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
パワーデバイス(130)における健全性状態を判定するための測定デバイスであって、当該デバイスは、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法のステップを実行するように構成される、測定デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、高電圧デバイス、特にいわゆるガス絶縁スイッチギア(Gas Insulated Switchgear:GIS)における粒子検出の分野に関する。より具体的には、本発明は、ガス絶縁スイッチギア(GIS)のハウジング内におけるさまざまな粒径およびさまざまな種類の粒子の汚染を識別することを目的とする。特に、本開示の実施形態は、いわゆる暗放電の測定によりこのような粒子汚染を測定および診断するための方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ガス絶縁スイッチギア(GIS)のための設計は電界の正確な予測に依拠している。後者は、さらには、印加される電圧、電極の形状および長さ、ならびに電極間に配置される材料の特性によって第1の近似で決定される。
【0003】
金属または絶縁粒子の存在、表面上の微視的欠陥、誘電材料/コーティング上の体積または表面電荷などの多くの要因により、電界が標準的な電界モデルから逸脱することとなる。
【0004】
HVDC絶縁用途において最も関連性のある「歪み」のうちの1つ(または、DC電界成分が存在する場合にはACシステム、たとえば、断路器スイッチングまたはHV回路遮断器を用いた容量性スイッチング)は、高抵抗誘電体材料上への表面電荷の蓄積である。
【0005】
DC高電圧が印加された状態では、ピコアンペア(pico-Ampere:pA)範囲(1pA=1E-12A)の極めて小さい電流が生成されることが分かっている。
【0006】
これらの電流は、いわゆる暗放電レジームにおいて、部分放電開始レベルを下回る電圧レベルの場合、これにより、破壊開始レベルをはるかに下回る電圧レベルの場合にも現われる。暗放電とは、このような影響がアークまたはグローの影響のような目に見える影響をもたらさないことを意味する。
【0007】
暗放電レジームでは、このような電流は、たとえ非常に小さい場合であっても、高抵抗誘電体表面上に連続的に蓄積する電荷の主な源となる。これにより、一定の極性の印加電圧が想定されるが、これは、AC電圧がないことを意味している。
【0008】
これらの前駆破壊電流を引き起こすかまたはこれらの前駆破壊電流に影響を及ぼす可能性のある最も関連性のある物理プロセスは熱イオンおよび電界の放出であり得る。この場合、電子は金属カソード(露出面)によって放出される。
【0009】
このメカニズムは、強電界における鋭利な物体または尖った物体からの放電のような表面上の微小突起における電界増強と、一般にその特性(たとえば、金属の種類、粗さ、塗料、清浄度)とに、強く依存している。
【0010】
ガスが存在する状態では、宇宙放射によるイオン化により、自由電子および正のSF6イオンが生成される。電子が別のSF6分子によって付着される場合、イオン対(ion pair:IP)が形成される。
【0011】
このプロセスは、通常、自然イオン化と称されており、典型的には、地理的位置およびガス圧力に応じて20IP/(s・cm3)~50IP/(s・cm3)となる。このプロセスは電圧印加とは無関係に起こる。
【0012】
逆のプロセスであるイオン間の再結合、すなわち異極性の電荷キャリア(イオン)間の電荷中和衝突は、ガスをその中性状態に戻す傾向がある。
【0013】
電界の存在に依存する典型的なプロセスはたとえば以下の通りである。
・衝突により誘発されるイオン化:自由電子および正のSF6イオンが生成される。
【0014】
・衝突による付着:自由電子がSF6分子に付着し、SF6を生成する。
・衝突による分離:自由電子が再びSF6から放出され得る。
【0015】
これらのメカニズムはまた、ガスの種類、ガスの圧力またはその温度のようなガス特性に依存し得る。
【0016】
別の電流発生メカニズムとして電気泳動と呼ばれるものがある。誘電体または金属粒子は、金属電極と接触すると電荷を蓄積し得る。結果として、これらの粒子は、異極性の電極に向かって加速される。これらの粒子が対向電極に到達すると、プロセスが反転されて、システム内に正味電流をもたらし得る。
【0017】
このメカニズムは、粗さ、塗料の存在、清浄度、ならびに、当然ながら、粒子汚染の種類および量のような表面特性および状態に依存し得る。
【0018】
さらに、当該プロセスは、圧力、ガスの種類、湿度含有量、および電界などのガス特性に依存する。
【0019】
現在、高電圧装置の場合、一般に、いわゆる「部分放電」(Partial-Discharge:PD)測定は、絶縁体における問題を特定するための唯一の非破壊診断技術である。
【0020】
GISにおける汚染の検出は、標準化された一般に公知の部分放電測定技術により競合者によって解決されているが、当該技術は、DC条件下では使用するのが困難であり感度が低くなってしまう。部分放電(PD)測定は広く用いられている測定方法であり、主な測定技術(結合キャパシタまたはUHF)はIEC規格によって規定されている。これは感度が低く、パルス放電を呈する欠陥しか検出することができず、このため、目下の問題を評価する役割を果たすことができない。
【0021】
PD分析では絶縁材料中の汚染を指摘することができる。しかし、最初に小さな粒子(塵埃、フィラメント(たとえば、綿)、金属、湿度)のような微少な汚染の位置を特定することは不可能である。
【0022】
現在用いられているPD技術は、GISにおいて粒子によってもたらされる微小な汚染を確実に検出することができないので、ガス絶縁スイッチギアにおいて動作中に問題を引起こすこのような小さな粒子の汚染を検出することが求められている。特に、設置済みのGISにおける故障の検出は複雑で費用がかかるので、上述のような汚染は、好ましくは、このようなスイッチギアを設置する前に検出されるべきである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
発明の概要
上述および他の潜在的な問題に対処するために、本開示の実施形態は以下を提案する。
【0024】
第1の局面では、パワーデバイスの健全性状態を診断するための方法が開示される。当該方法は、パワーデバイス上の複数の第1接続点においてDC高電圧を印加して、当該パワーデバイス内の表面上に電荷(電子)を印加するステップを含み得る。当該方法はさらに、当該パワーデバイス内の固体誘電体に関連する漏れ電流レベルを判定し、当該漏れ電流レベルを閾値電流レベルとして設定するステップと、当該パワーデバイスにおける複数の第2接続点において電流測定デバイスを接続するステップとを含み得る。当該複数の第2接続点の間の経路は第1電流戻り経路として存在する。当該第1電流戻り経路にわたって流れる第1電流が測定され得る。当該方法はさらに、当該第1電流戻り経路にわたる電流の高さに関連する第1汚染を識別するステップを含み得る。
【0025】
別の局面では、パワーデバイスにおける健全性状態を判定するための測定デバイスが開示され得る。当該デバイスは、本願の主題である方法に従って上記ステップを実行するように構成され得る。
【0026】
図面の簡単な説明
本開示の実施形態は例示の観点で提示されるものであり、それらの利点が添付の図面を参照して以下においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】ガス絶縁のためのさまざまな放電レジームにおける電圧/電流の挙動を示す図である。
図2】本願の実施形態に従った測定構成をより詳細に示す概略図である。
図3】本願に従った測定方法の実施形態を示す図である。
図4】パワーデバイスをスイッチギアの形態で例示的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施形態の詳細な説明
以下、例示的な実施形態を参照して、本開示の原理および精神を説明する。これらの実施形態はすべて、当業者が本開示をよりよく理解し、さらに本開示を実施するために与えられるものにすぎず、本開示の範囲を限定するためのものではないことを理解されたい。たとえば、一実施形態の一部として図示または説明される特徴は、さらに別の実施形態をもたらすように別の実施形態とともに用いられてもよい。
【0029】
明確にするために、実際の実現例の特徴はすべてが本明細書に記載されるわけではない。当然ながら、任意のこのような実際の実施形態の開発時に、実現例毎に異なるであろうシステム関連およびビジネス関連の制約の遵守などの開発者の特定の目標を達成するために、多数の実現例特有の判断がなされるべきであることが理解されるだろう。さらに、このような開発努力は複雑で時間がかかる可能性があるものの、本開示の利益を受ける当業者にとっては日常的な取り組みであることが理解されるだろう。
【0030】
ここで、開示される主題を添付の図面を参照して説明する。さまざまな構造、システム、およびデバイスが、説明のみを目的として、当業者にとって周知である詳細でその説明を不明瞭にしないように、添付の図面に概略的に示されている。しかしながら、添付の図面は、開示される主題の具体的な例を記述および説明するために含まれている。本明細書で用いられる単語および語句は、当業者によるそれらの単語および語句の理解と一致する意味を有するものと理解および解釈されるべきである。
【0031】
用語または語句の特別な定義、すなわち、当業者によって理解される従来の一般的な意味とは異なる定義はいずれも、本明細書における用語または語句の一貫した使用によって暗示されるものではないことが意図されている。用語または語句が特別な意味、すなわち当業者によって理解されるもの以外の意味、を有することが意図される限りにおいて、このような特別な定義は、用語または語句についての特別な定義を直接的かつ明確に提供する定義的な形式で明細書中に明示的に記載されるだろう。
【0032】
本願は、絶縁システムの問題および状態を評価するために、部分放電(Partial Discharge:PD)、特に暗放電、を測定するための分析手法を開示し得る。「暗放電の診断」は、はるかに高い感度を有するとともに連続放電の検出時の問題を解決する、根本的に異なる測定手法を用いる。
【0033】
したがって、本願は、電界強度が比較的低い(すなわち、0kV/mm~2kV/mm)電界において高電圧ガス絶縁スイッチ(Gas Insulated Switch:GIS;SF6)における電荷キャリアを定量化するための手法を提供し得る。このために、圧力容器、高電圧DC源100、および低域DC電流測定110、120が用いられてもよい(図4を参照)。図4の容器は、スイッチギア、特にガス絶縁スイッチギアについての例である。
【0034】
自然イオン化、電極電界放出またはタウンゼント(Townsend)イオン化のような標準的な物理的モデル(図1のさまざまな放電レジームの概要を参照)は、この電流測定について説明することができない。したがって、代替的な説明が探し求められている。
【0035】
したがって、高DC電圧によって影響を受けるGISにおける(GIS内の)汚染に電流で対処しなければならないという説明もあり得る。
【0036】
(GISのような)ガス絶縁機器における汚染/欠陥(すなわち、汚染を識別することが重要であり得るスイッチギアまたは他のパワーデバイス内の粒子)を識別するための技術的解決策は、機器の定格電圧以下の範囲のDC電圧でシステムを励起することである。励起の結果、電流の流れは、対応する(高感度の)直流電流測定によって判定され得る。
【0037】
本願に従った提案されている「暗放電の診断」は、電圧定格が被試験機器(DUT)の定格電圧付近である高電圧DC電源100と、高感度直流電流測定デバイスとで構成され得る。
【0038】
高電圧低域フィルタは、測定された信号の品質を改善するために設置され得る。すべての外部電気的外乱は、特定の周波数成分を有するので、低域測定のためにフィルタリングされ得ることで、有利な信号対雑音比(signal to noise ratio:SNR)を与え得る。
【0039】
当該機器は、GIS中の固体誘電体材料に起因する特定の「漏れ」電流を有する可能性がある。この電流レベルを「健全性閾値」と設定する必要がある。上述の任意の電流レベルは、汚染(誘電体、金属粒子、湿度)の指標となるだろう。電流戻り経路を変更することによって、汚染を保持する区画を局所化することができる。
【0040】
したがって、第1の実施形態では、本願は、パワーデバイス130の「健全性状態」を診断するための方法を開示し得る。この点に関して、図2を参照すると、当該方法は、パワーデバイス130上の複数の第1接続点においてDC高電圧100を印加して、要素130によって表わされているパワーデバイス内の表面330、340上に電荷を印加するステップを含み得る。
【0041】
当該方法はさらに、パワーデバイス内の誘電体に関連し得る漏れ電流レベルを判定するステップを含み得る。漏れ電流レベルは閾値電流レベルとして設定され得る。
【0042】
漏れ電流は周波数依存でなくてもよい。当該方法は、「平滑化された」DC電流を測定することが好ましい。
【0043】
「クリーンな」システム、すなわち粒子300の汚染のないシステムは、含有される絶縁ガス(たとえば、SF6)と固体絶縁材料とによる電荷の自然な「マイグレーション」によって、常に特定の漏れ電流を有する可能性がある。この漏れ電流のレベルを測定または計算することで当該レベルからのずれを認識することができる。「クリーンな」システムは、何らかのピコアンペア(pico Ampere:pA)の範囲の漏れ電流を有し得る。
【0044】
電流測定デバイス120は、パワーデバイス130における複数の第2接続点において接続されてもよく、当該複数の第2接続点の間の経路は、図3にも示される第1電流戻り経路を形成し得る。第1電流戻り経路にわたって流れる第1電流が測定され得るとともに、次いで、第1電流戻り経路にわたる電流の高さに関連する第1汚染が識別され得る。
【0045】
高電圧DC源は、パワーデバイス130の表面だけを帯電させるものではない。パワーデバイス130内に含有されるとともに、好ましくは表面と接触している粒子も、基本的にそのまま、コンデンサ表面同士の間の粒子300で帯電される。
【0046】
印加された電界における荷電粒子、たとえば図3の300、上の静電気引力が重力よりも大きくなる場合、荷電粒子300が逆電位の表面に移動し始め得るとともに、粒子300上の電荷が逆電位(たとえば、逆帯電された表面)において再結合する。
【0047】
図3a/図3bにおける粒子300のような粒子は、対極において放電されると、重力により他方の電極に落下し得る。他方の電極に到達するとプロセスが再び始まる。これは連続的に繰り返されてもよい。粒子300の連続的な充電/放電により、測定され得る非常に小さな電流が生成される。
【0048】
好ましくは、電極(極/対極)は、放出された粒子300がそれらの開始点に戻るように配置される。これは、電極の表面330、340が接地に実質的に平行であることを意味する。
【0049】
パワーデバイス130の健全性状態を診断するための方法の別の実施形態では、測定されるパワーデバイス130は好ましくはガス絶縁スイッチギア(GIS)であり得る。
【0050】
好ましくは、当該方法は、ガス絶縁スイッチギアの製造プロセスにおいて用いられる。汚染が製造中または組立て中に検出されることで、スイッチギアの汚染された区画が故障する可能性がある場合に、高価なパワープラントの運転停止を回避する際の多大な労力が省かれる。
【0051】
パワーデバイス130の健全性状態を診断するための方法はさらに、図3に示されるように、電流測定デバイスを第3接続点に接続し、これらの第3接続点を第2電流戻り経路310、320として設定するステップを含み得る。
【0052】
次いで、第2電流戻り経路320にわたって流れる第2電流が測定され得るとともに、第2電流戻り経路にわたる電流の高さに関連する第2汚染300が識別され得る。
【0053】
汚染粒子300のサイズ(金属、湿度、塵埃など)に応じて電流の値が変化する。設定によって塵埃(約10μmの粒子)の移動を解消することができるので、ガス絶縁スイッチギア130(GIS、DUT(Device Under Test:被試験デバイス)に多大な脅威をもたらすおそれのあるより大きい粒子(約100μm)も、開示される方法によって検出され得ることが想定され得る。
【0054】
金属汚染(粒子300)の場合、漏れ電流と比較してはるかに高い電流値が予想され得る。当該方法はまた、高電圧100を掃引することを必要とする可能性がある。どれくらい大きな粒子300が格納部(GIS)内にあるのか、および、粒子300がどのような材料(たとえば、粒子はフィラメント、エアロゾル液滴、金属塵埃などであり得る)でできているのかは分かっていない。
【0055】
たとえば、より大きな金属粒子(たとえば、100μm)は、放電のために1つの電極表面から第2電極に移動させるために、より高い静電界を必要とする可能性もある。金属粒子は、たとえば、清掃材料または環境空気からの綿フィラメントまたは塵埃と比べてはるかに重い。
【0056】
逆帯電した対極上で放電する金属粒子は、より高い電圧で大幅に高い電流を引起こす可能性があることが予想され得る。すなわち、このような相関関係は金属粒子を示し得る。
【0057】
別々の電流経路、たとえば第1電流経路および第2電流経路は、パワーデバイス130内の別々の区画によって表わされ得る。電流戻り経路が別々であることにより、パワーデバイス130の健全性状態を診断するための開示された方法の測定結果が改善される。印加された電圧は、概して、パワーデバイス130内の汚染を全体的に検出することを可能にするだろう。言換えれば、粒子300による汚染がパワーデバイス130内に存在するかどうかが示され得る。
【0058】
しかしながら、パワーデバイス130内の汚染がどこに位置しているかを知ることも有利である。なぜなら、このようなデバイスの物理的寸法が数メートルの範囲内であるからである。
【0059】
汚染がパワーデバイス130内のどこに位置しているか、または、より適切には、粒子300の源がパワーデバイス130内のどこに位置しているかを評価するために、当該測定方法は、別々の電流戻り経路とともに用いられ得る。
【0060】
図4はパワーデバイス130(ガス絶縁スイッチギア)の例を示す。電流戻り経路は、測定された物体(表面/電極340、330)から電流測定デバイスを通って高電圧源100(ここでは図示せず)に戻る接続を示している。
【0061】
このような経路のうち少なくとも2つを、たとえばパワーデバイス130の第1端部および第2端部に備えることができる。2つの経路間で切替えることにより、電流経路にわたる電流間の時間遅延が測定され得る。入来する(測定された)電流の時間遅延は、電流がパワーデバイス130内のどの位置から生じるかを示している。これは汚染の源でもある。言換えれば、電流の発生源は汚染300の源を示し得る。
【0062】
図3a/図3bにおける参照番号330は、ガス絶縁スイッチギアの内部の第1表面を表わし/示し得るとともに、参照番号340は、ガス絶縁スイッチギアの内部の第2表面を表わし/示し得る。特に、340は、スイッチギアのハウジングの内側(金属)表面であり得るとともに、330は、スイッチの表面またはスイッチギア内のデバイスの別の金属表面であり得る。表面330および340の間には電気的接続はない。
【0063】
図3aおよび図3bの破線310および320は、それぞれ異なる長さを有する別々の電流戻り経路310、320を表わす。要素300は単一の粒子を表わし得る。(帯電された)粒子300が第1電極から第2電極に移動する場合、粒子300は、第2表面330(対極、逆帯電電極)と接触した瞬間に放電され得る。
【0064】
ここで、非常に小さい放電電流は、2つの異なる経路のうちの1つを通って流れて高電圧源に戻り得る。これらの経路は切替えることができる。これらの経路はともに異なる長さを有するので、電流は、より短い経路310内を移動する場合よりも、よりも長い経路320内を移動する場合の方が、より多くの時間を必要とするだろう。この時間差を測定することができる。測定された時間差dtにより、汚染がGIS内に位置し得る箇所を示すことが可能になり得る。
【0065】
パワーデバイス130の健全性状態を診断するための方法の一実施形態では、別々の戻り経路における測定された電流は、特別に設計された低域フィルタでフィルタリングされ得る。これは、妨害周波数、特にバックグラウンドノイズ、「リップル」、HFノイズまたは50Hzスプリアス、不要な信号を除去するのに役立ち得る。
【0066】
理論的には、電流は一種の「パルス形状」であるだろう。この場合、これらパルスは対極上の電荷の再結合によって起こり得る(変位電流:この配置は原則としてキャパシタの特性を有する)。時間分解測定では、これをバックグラウンドノイズと区別することはできないだろう。
【0067】
したがって、入力電圧(高電圧源100)および出力電流(戻り経路320、310において測定された電流)は、リップル/ピークが電流信号から除去されるとともにDC電流のみが測定可能となるようにフィルタ/積分器110(図2を参照)でフィルタリングされる。
【0068】
開示される方法の一実施形態では、戻り経路の数は、パワーデバイス130内の別々の区画の数に関連し得る。別々の区画は、組立て前に当該開示の方法で測定され得る。
【0069】
さらに、別の実施形態では、前述の実施形態に従った方法は、パワーデバイス130の区画内に存在し得る特定の汚染を、電流戻り経路310、320にわたって測定される特定の電流に割当てるステップを含み得る。
【0070】
言換えれば、別々の電流戻り経路310、320にわたって測定される特定の電流は、パワーデバイス130の区画内の特定の汚染300を示し得る。これは、電流が、塵埃、特に区画内の塵埃粒子300、の存在を表わし得ることを意味している。
【0071】
他の電流値は、ガス絶縁スイッチギアの区画内の湿度、または、パワーデバイス130の内面から生じる金属粒子300もしくは粒子、が存在していることを表わし得る。
【0072】
別の局面では、測定機器を含む測定デバイスが開示され得る。測定デバイス内の測定機器は、パワーデバイス130、たとえばガス絶縁スイッチギア、における健全性状態を判定するように構成され得る。測定デバイスは、前述の実施形態で提示された方法に従って測定ステップを実行することができるように解釈されてもよい。
【0073】
要約すると、開示される本願の実施形態は、概して、格納部内の粒子汚染を認識するための測定方法に関する。格納部は、高電圧スイッチの内部、特に、図4に例示的に示されるようなガス絶縁スイッチギア(GIS)の内部、であってもよい。
【0074】
格納部内の電界強度が高いので、高電圧パワーグリッドに接続されると、ガス絶縁スイッチギアの製造時またはその洗浄プロセス時から当該ガス絶縁スイッチギアに残っている粒子300(洗浄機器からのフィラメント)が電界分布に悪影響を及ぼす可能性がある。これは、動作中にガス絶縁スイッチギア内に不所望なアーク放電をもたらす可能性がある。
【0075】
このようなスイッチが電界(たとえばパワープラント)に設置されており、動作中に汚染粒子300がガス絶縁スイッチギア内に存在する可能性があると判断されると、スイッチギアが設置されているプラントまたは少なくともその一部を運転停止させなければならない。
【0076】
汚染物質は、多くの場合、ガス絶縁スイッチギア内に、または他のパワーデバイス130のハウジング内に入り込む可能性がある。内部が汚染される可能性が最も高い機会の1つとして、GISのさまざまな部分を製造して組立てる製造プロセスが挙げられ得る。
【0077】
たとえスイッチギアの内部が完全に洗浄されたとしても、製造プロセスからの塵埃粒子、残留湿度または金属粒子がスイッチギア内に残る可能性がある。粒子の数は非常に少ないかもしれないが、少数の粒子300であっても電界に悪影響を及ぼす恐れがある。スイッチギアの寸法は非常に大きい可能性もあるので、汚染が視覚的に検出される可能性が低くなる。
【0078】
したがって、上記に開示された方法は、スイッチギアをパワープラントに設置する前に当該スイッチギアをテストするための非常に有利な方法として役立ち得るとともに、不必要な保全労力を不要にし得る。
【0079】
第一に、開示された方法を用いて、GIS内に汚染があるかどうかを検出することができる。このために、GIS内の導電性表面上にあると想定される粒子300が帯電される(汚染粒子の表面上に電子を集める)ように、高DC電圧がスイッチギアに接続される。
【0080】
荷電粒子300は、静電力によって駆動されると、1つの電極から逆帯電された電極へ(GIS内の1つの表面からGIS内の別の表面へ)と移動し始め得る。粒子300は重力に対抗して移動する。静電力および逆向きの重力がともに、粒子に影響を及ぼす。粒子が他方の電極(ガス絶縁スイッチギア内の帯電表面)上で放電すると、粒子は重力によってその「開始」点まで押し戻される。
【0081】
この充電/放電プロセスが繰返されて、多少の程度はあるものの一定のパルス流を与えることで、フィルタリングされてDC電流として測定可能となる。
【0082】
第二に、当該方法はまた、測定された電流のために別々の電流戻り経路を選択することによって汚染の位置を判定する可能性を提供する。経路長が異なっていることに起因する電流パルスの時間差は、ガス絶縁スイッチギア内の汚染の箇所を突き止めることを可能にすることで、製造中または組立て中の洗浄を容易にする。
【0083】
本発明の局面は、特に、パワーデバイス、特に、好ましくは周囲空気よりも大きい誘電率でガスを絶縁するガス絶縁パワーデバイス、の健全性状態を診断するための方法に関する。健全性状態は特に、絶縁体の健全性状態、特に汚染度を含む。漏れ電流レベルを判定して、当該漏れ電流レベルを閾値電流レベルとして設定する場合、当該漏れ電流レベルは、基準システムとしての健全なシステムまたはクリーンなシステム(粒子の著しい汚染がないことが分かっているパワーデバイス/スイッチギアなど)に関連するものである。これにより、自然なマイグレーションによって生じる回避不可能な電流が判定される。このステップは、1回だけ、たとえば最初に実行されてもよい。判定された回避不可能な漏れ電流が「閾値電流レベル」として設定される。
【0084】
次いで、測定方法の後続のステップa)~c)が、使用済みのシステムまたは汚染されたシステムであり得るパワーデバイス/スイッチギアに対して実行される。このパワーシステムは、その健全性が判定されるものであり、基準パワーデバイスと同じタイプのシステムである。このパワーシステムは、後の時点(保守点検された後)のパワーデバイスであってもよく、または、同じタイプの別のパワーデバイスであってもよい。これらの後続のステップa)~c)は繰返し実行されてもよい。
【0085】
ある局面に従うと、ガス絶縁スイッチギアなどのパワーデバイスの健全性状態を診断するための方法が提案される。当該方法は、
a)ガス絶縁スイッチギア(130)上の複数の第1接続点においてDC高電圧を印加して、ガス絶縁スイッチギア(130)内の表面上に電荷を印加するステップと、
b)電流測定デバイスをガス絶縁スイッチギア(130)における複数の第2接続点において接続するステップとを含み、当該複数の第2接続点の間の経路は第1電流戻り経路(310)として存在するものであり、当該方法はさらに、
c)当該第1電流戻り経路(310)にわたって流れる第1電流を測定するステップと、
d)ガス絶縁スイッチギア(130)内の電荷に関連する漏れ電流レベルを判定し、当該漏れ電流レベルを当該閾値電流レベルとして設定するステップと、
e)ガス絶縁スイッチギア(130)を別のガス絶縁スイッチギア(130)と置換え、a)~c)を繰返すステップと、
ステップd)で判定された閾値電流レベルと第1電流戻り経路にわたる電流の高さとの関係から、ガス絶縁スイッチギア(130)内の第1汚染を識別するステップとを含む。
【0086】
ある局面に従うと、漏れ電流レベルは、含有される絶縁ガスおよび/または固体絶縁材料による電荷の自然なマイグレーションに関連している。
【0087】
ある局面に従うと、a)におけるガス絶縁スイッチギアは、実質的に粒子の汚染がなく、e)におけるガス絶縁スイッチギアは、潜在的に粒子の汚染がある状態でその健全性状態が判定されるべきガス絶縁スイッチギアである。
【0088】
一局面に従うと、ガス絶縁スイッチギアにおける健全性状態を判定するための測定デバイスが提案される。当該測定デバイスは、高電圧DC源、低域DC電流測定構成を含む。当該測定デバイスは、本明細書に記載の方法に従って上記ステップを実行するように構成される。ある局面に従うと、当該測定デバイスは、方法クレームのステップを自動的に実行するように構成される。
図1
図2
図3a)】
図3b)】
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-01-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーデバイス(130)の健全性状態を診断するための方法であって、
前記パワーデバイス(130)上の複数の第1接続点においてDC高電圧を印加して、前記パワーデバイス(130)内の表面上に電荷を印加するステップと、
前記パワーデバイス(130)内の誘電体に関連する漏れ電流レベルを判定し、前記漏れ電流レベルを閾値電流レベルとして設定するステップと、
前記パワーデバイス(130)における複数の第2接続点において電流測定デバイスを接続するステップとを含み、前記複数の第2接続点の間の経路は第1電流戻り経路(310)として存在するものであり、前記方法はさらに、
前記第1電流戻り経路(310)にわたって流れる第1電流を測定し、前記第1電流戻り経路(310)にわたる電流の高さに関連する第1汚染を識別するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記パワーデバイス(130)はガス絶縁スイッチギア(Gas Insulated Switchgear:GIS)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電流測定デバイスを複数の第3接続点に接続し、前記複数の第3接続点を第2電流戻り経路(320)として設定するステップと、
前記第2電流戻り経路(320)にわたって流れる第2電流を測定し、前記第2電流戻り経路(320)にわたる電流の高さに関連する第2汚染(300)を識別するステップとをさらに含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1電流戻り経路と前記第2電流戻り経路(310、320)との間で切替えて、前記電流経路(310、320)にわたる前記第1電流と第2電流との間の時間遅延を測定するステップをさらに含み、測定された電流の前記時間遅延は、前記デバイスにおける電流の源の位置を示す、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記電流戻り経路(310、320)は、前記パワーデバイス(130)における別々の区画によって表わされる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記戻り経路(310、320)における電流が低域フィルタ(110)でフィルタリングされることで、前記電流戻り経路(310、320)からの測定された電流信号から周波数を除去する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記戻り経路(310、320)の数は、前記パワーデバイス(130)における別々の区画の数に関係する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記DC高電圧の電圧定格は、前記パワーデバイス(130)の電圧定格以下である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記パワーデバイス(130)の別々の区画における特定の汚染を、前記電流戻り経路(310、320)にわたって測定された電流値に割当てるステップをさらに含む、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記パワーデバイス(130)の別々の区画における汚染は、湿度、塵埃粒子、金属粒子の群のうちの1つ以上である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
パワーデバイス(130)における健全性状態を判定するための測定デバイスであって、当該デバイスは、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法のステップを実行するように構成される、測定デバイス。
【国際調査報告】