IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サムスン ライフ パブリック ウェルフェア ファウンデーションの特許一覧

特表2022-530086プロテアーゼ活性化受容体媒介シグナル伝達経路の活性を用いた細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞の選別方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(54)【発明の名称】プロテアーゼ活性化受容体媒介シグナル伝達経路の活性を用いた細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞の選別方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0735 20100101AFI20220620BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220620BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20220620BHJP
   C07K 14/745 20060101ALN20220620BHJP
【FI】
C12N5/0735
C12Q1/02
C12N5/0775
C07K14/745
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563128
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(85)【翻訳文提出日】2021-10-22
(86)【国際出願番号】 KR2020005599
(87)【国際公開番号】W WO2020222503
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】10-2019-0049898
(32)【優先日】2019-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0050893
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】512250119
【氏名又は名称】サムスン ライフ パブリック ウェルフェア ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】ユン・シル・チャン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・ソン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ドン・キュン・スン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR77
4B063QS33
4B065AA90X
4B065AC20
4B065CA24
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA65
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、プロテアーゼ活性化受容体(PAR)媒介シグナル伝達経路の活性を測定する段階を含む細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞の選別方法と、当該方法によって選別された幹細胞、および細胞外小胞の生成誘導剤のスクリーニング方法に関する。本発明によれば、幹細胞にトロンビンを前処理すると、PAR(Protease-activated receptors)媒介シグナル伝達経路を通じて前記幹細胞で細胞外小胞の生成および前記小胞内タンパク質のレベルが顕著に増加するところ、幹細胞にトロンビンを処理し、PAR媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定することによって、細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞を効率的に選別することができ、このような方法によって選別された幹細胞は関連研究および臨床分野において有用に活用されうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ活性化受容体(Protesase activated receptors;PAR)媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定する段階を含む、細胞外小胞(extracellular vesicle)の高効率生成能を有する幹細胞の選別方法。
【請求項2】
前記PAR媒介シグナル伝達経路の活性レベルの測定段階は、下記の段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の選別方法:
(a)幹細胞の培養後、トロンビンを処理する段階;
(b)前記トロンビンが処理された幹細胞でRab-5(Ras-related protein Rab-5)、EEA-1(Early endosome antigen-1)、p-ERK1/2(Phospho-Extracellular signal-regulated kinases 1/2)およびp-AKT(Phospho-Protein kinase B)からなる群から選択される1種以上の発現レベルを測定する段階;および
(c)前記発現レベルが増加した幹細胞を細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞として選別する段階。
【請求項3】
前記PARが、PAR1またはPAR3であることを特徴とする請求項1に記載の選別方法。
【請求項4】
前記細胞外小胞の高効率生成能は、細胞外小胞の生産量または細胞外小胞内タンパク質のレベルが増進されるものであることを特徴とする請求項1に記載の選別方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)、肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor;HGF)、アンジオジェニン(angiogenin)およびアンジオポエチン-1(angiopoietin-1)からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項4に記載の選別方法。
【請求項6】
前記幹細胞が、胚性幹細胞または成体幹細胞であることを特徴とする請求項1に記載の選別方法。
【請求項7】
前記成体幹細胞が、間葉系幹細胞、ヒト組織由来間葉系ストローマ細胞、ヒト組織由来間葉系幹細胞、および多分化能幹細胞からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項6に記載の選別方法。
【請求項8】
前記間葉系幹細胞が、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、皮膚、羊膜および胎盤からなる群から選択される1種以上の組織に由来するものであることを特徴とする請求項7に記載の選別方法。
【請求項9】
前記トロンビンが1~10U/mLで処理されることを特徴とする請求項2に記載の選別方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の選別方法によって選別された、細胞外小胞(extracellular vesicle)の高効率生成能を有する幹細胞。
【請求項11】
下記の段階を含む、幹細胞の細胞外小胞(extracellular vesicle)生成増進誘導剤のスクリーニング方法:
(a)幹細胞に候補物質を処理する段階;
(b)プロテアーゼ活性化受容体(Protesase activated receptors;PAR)媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定する段階;および
(c)前記PAR媒介シグナル伝達経路の活性を増加させる物質を細胞外小胞の生成増進誘導剤として選定する段階。
【請求項12】
前記PAR媒介シグナル伝達経路の活性レベル測定は、Rab-5(Ras-related protein Rab-5)、EEA-1(Early endosome antigen-1)、p-ERK1/2(Phospho-Extracellular signal-regulated kinases 1/2)およびp-AKT(Phospho-Protein kinase B)からなる群から選択される1種以上の発現レベルを測定するものであることを特徴とする請求項11に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
前記幹細胞が、胚性幹細胞または成体幹細胞であることを特徴とする請求項11に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記成体幹細胞が、間葉系幹細胞、ヒト組織由来間葉系ストローマ細胞、ヒト組織由来間葉系幹細胞、および多分化能幹細胞からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項13に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
前記間葉系幹細胞が、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、皮膚、羊膜および胎盤からなる群から選択される1種以上の組織に由来するものであることを特徴とする請求項14に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテアーゼ活性化受容体(PAR)媒介シグナル伝達経路の活性を測定する段階を含む細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞の選別方法と、当該方法によって選別された幹細胞、および細胞外小胞の生成誘導剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞外小胞(Extracellular vesicles;EVs)は、40~150nmの直径を有し、様々な細胞から分泌される分泌膜小胞である。細胞外小胞は、起源細胞に存在するものと類似した多くの種類のタンパク質、脂質およびRNAを含有し、内部に含まれた様々な因子の伝達を通じて細胞間コミュニケーションのための重要なメッセンジャーとして認識されてきた。最近の研究によれば、心血管系疾患、肺損傷、急性腎障害、胎児の低酸素性虚血性脳障害、皮膚傷治療および低酸素血症による肺高血圧症のような様々な疾患において間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells;MSCs)の治療効能が、間葉系幹細胞由来の細胞外小胞を通したmRNAs、マイクロRNA(miRNA)、およびタンパク質の伝達によって主に媒介されると報告されてきた(Circulation 2012,126,2601-2611.)。間葉系幹細胞自体を移植する治療法に比べて間葉系幹細胞由来の細胞外小胞を用いた療法の主なメリットは、細胞外小胞が細胞自体を用いた治療の限界点を克服できるということである。また、間葉系幹細胞と比較して、細胞外小胞は、生物学的機能の消失なしで保管が可能で、「off the shelf」医薬品として使用するのにさらに適している。しかしながら、このような細胞外小胞の長所にもかかわらず、間葉系幹細胞から少量のみが分泌され、結果的に、低い治療効能は、細胞外小胞の臨床適用のために克服すべき問題と指摘される。
【0003】
このような観点から、本発明者らは、以前の研究を通じて間葉系幹細胞にトロンビンを前処理した結果、細胞外小胞の生合成および内部物質の濃度が増加する効果を確認した。しかしながら、トロンビン処理がいかなる分子的機序を通じて上記のような効果を誘導するかについては明確に糾明されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、間葉系幹細胞においてトロンビン処理がいかなる経路を通じて細胞外小胞の生成能を向上させるかを糾明するために研究を重ねた結果、トロンビン処理が、PAR(Protease-Activated Receptor)媒介シグナル伝達経路を通じて上記のような効果を誘導することを具体的に確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0005】
これより、本発明は、幹細胞内プロテアーゼ活性化受容体(Protesase activated receptors;PAR)媒介シグナル伝達経路の活性化レベルを測定する段階を含む、細胞外小胞(extracellular vesicle)の高効率生成能を有する幹細胞の選別方法を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、前記方法によって選別された、細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞を提供することを他の目的とする。
【0007】
また、本発明は、幹細胞の細胞外小胞(extracellular vesicle)生成増進誘導剤のスクリーニング方法を提供することをさらに他の目的とする。
(a)幹細胞に候補物質を処理する段階;
(b)プロテアーゼ活性化受容体(Protesase activated receptors;PAR)媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定する段階;および
(c)前記PAR媒介シグナル伝達経路の活性を増加させる物質を細胞外小胞の生成増進誘導剤として選定する段階。
【0008】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、以下の記載から当業者が明確に理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、プロテアーゼ活性化受容体(Protesase activated receptors;PAR)媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定する段階を含む、細胞外小胞(extracellular vesicle)の高効率生成能を有する幹細胞の選別方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記方法を通じて選別された、細胞外小胞(extracellular vesicle)の高効率生成能を有する幹細胞を提供する。
【0011】
前記PAR媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定する段階は、下記の段階を含んでいてもよい。
(a)幹細胞の培養後、トロンビンを処理する段階;
(b)前記トロンビンが処理された幹細胞でRab-5(Ras-related protein Rab-5)、EEA-1(Early endosome antigen-1)、p-ERK1/2(Phospho-Extracellular signal-regulated kinases 1/2)およびp-AKT(Phospho-Protein kinase B)からなる群から選択される1種以上の発現レベルを測定する段階;および
(c)前記発現レベルが増加した幹細胞を細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞として選別する段階。
【0012】
本発明の他の具現例として、前記PARが、PAR1またはPAR3であってもよい。
【0013】
本発明のさらに他の具現例として、前記細胞外小胞の高効率生成能は、細胞外小胞の生産量または細胞外小胞内タンパク質の含有量が増進されるものであってもよい。
【0014】
本発明のさらに他の具現例として、前記タンパク質が、血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)、肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor;HGF)、アンジオジェニン(angiogenin)およびアンジオポエチン-1(angiopoietin-1)からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0015】
本発明のさらに他の具現例として、前記幹細胞が、胚性幹細胞または成体幹細胞であってもよい。
【0016】
本発明のさらに他の具現例として、前記成体幹細胞が、間葉系幹細胞、ヒト組織由来間葉系ストローマ細胞、ヒト組織由来間葉系幹細胞、および多分化能幹細胞からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0017】
本発明のさらに他の具現例として、前記間葉系幹細胞が、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、皮膚、羊膜および胎盤からなる群から選択される1種以上の組織に由来したものであってもよい。
【0018】
本発明のさらに他の具現例として、前記トロンビンが1~10U/mLで処理されるものであってもよい。
【0019】
また、本発明は、下記の段階を含む、幹細胞の細胞外小胞(extracellular vesicle)生成増進誘導剤のスクリーニング方法を提供する。
(a)幹細胞に候補物質を処理する段階;
(b)プロテアーゼ活性化受容体(Protesase activated receptors;PAR)媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定する段階;および
(c)前記PAR媒介シグナル伝達経路の活性を増加させる物質を細胞外小胞の生成増進誘導剤として選定する段階。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、幹細胞にトロンビンを前処理すると、PAR(Protease-activated receptors)媒介シグナル伝達経路を通じて前記幹細胞で細胞外小胞の生成および前記小胞内タンパク質のレベルが顕著に増加するところ、幹細胞にトロンビンを処理し、PAR媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定することによって、細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞を効率的に選別することができ、このような方法によって選別された幹細胞は、関連研究および臨床分野において有用に活用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1a】間葉系幹細胞にトロンビンを処理しないか(naive)、濃度別に処理(1、2、4U/mL)した群において細胞外小胞の生産レベルを分析した結果である。
図1b】間葉系幹細胞にトロンビンを処理しないか(naive)、濃度別に処理(1、2、4U/mL)した群において細胞外小胞の内部に含まれたタンパク質(VEGF、Angiogenin、Angiopoietin-1およびHGF)のレベルを分析した結果である。
図1c】間葉系幹細胞内初期エンドソームをGFPで標識してトロンビン処理の有無による初期エンドソームの差異を分析した蛍光イメージおよびその定量結果である。
図1d】トロンビンが処理されない間葉系幹細胞(naive)およびトロンビンを前処理した間葉系幹細胞(Thrombin)からそれぞれ分離した細胞外小胞を走査電子顕微鏡(SEM)および透過電子顕微鏡(TEM)で観察した結果である。
図1e図1dと同じ群から分離した各細胞外小胞の直径および数を測定した結果である。
図1f図1dと同じ群から分離した各細胞外小胞でエキソソーム特異的マーカーであるCD9、CD63およびCD81、ミトコンドリアマーカーであるシトクロムc(Cytochrome c)、核マーカーであるフィブリラリン(Fibrillarin)およびゴルジ体マーカーであるGM130の発現の有無を免疫ブロッティング分析を通じて確認した結果である。
図2a】トロンビンが処理されない間葉系幹細胞およびトロンビンを前処理した間葉系幹細胞でPAR1、PAR2、PAR3およびPAR4の発現レベルを測定した結果およびPAR1とPAR3の定量結果である。
図2b】間葉系幹細胞にトロンビンを処理しない群(naive)、PAR3特異的siRNAを処理した群(PAR3 siRNA)および対照群siRNAを処理した群(Scrambled siRNA)においてそれぞれPAR1およびPAR3発現レベルを測定した結果およびこれを定量した結果である。
図3a】間葉系幹細胞でトロンビン処理の有無によるエンドソームマーカー(Rab-5、EEA-1)の発現レベルを測定して示した結果である。
図3b】間葉系幹細胞でトロンビン処理の有無によるERK1/2、AKT、およびそのリン酸化形態であるpERK1/2、pAKTタンパク質の発現レベルを測定して示した結果である。
図4a】それぞれ、間葉系幹細胞にトロンビンを処理しない群(naive)、トロンビンを前処理した群(Thrombin)、トロンビンを前処理した後、PAR1特異的抑制剤であるSCH79797を処理した群(Thrombin+SCH79797)、トロンビンを前処理した後、PAR3特異的siRNAを処理した群(Thrombin+PAR3 siRNA)およびトロンビンを前処理した後、SCH79797とPAR3 siRNAを全部処理した群(Thrombin+SCH79797+PAR3 siRNA)においてエンドソームマーカー(Rab-5、EEA-1)の発現レベルを分析した結果である。
図4b図4aと同じ群においてpERK1/2、pAKT、ERK1/2、およびAKTタンパク質の発現レベルをそれぞれ分析した結果である。
図5a】間葉系幹細胞内エンドソームをGFPで標識し、核はDAPIで染色した後、それぞれ図4aと同じ群においてエンドソームの数を測定した蛍光イメージおよびその定量結果である。
図5b図4aと同じそれぞれの群において細胞外小胞の数を測定した結果である。
図5c図4aと同じそれぞれの群において細胞外小胞のサイズおよび数の分布を測定した結果である。
図5d図4aと同じそれぞれの群においてELISAを通じて細胞外小胞内タンパク質(VEGF、Angiogenin、Angiopoietin-1およびHGF)のレベルを測定して示した結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明者らは、間葉系幹細胞においてトロンビン処理がいかなる経路を通じて細胞外小胞の生成能を向上させるかを糾明するために研究を重ねた結果、トロンビン処理が、PAR(Protease-Activated Receptor)媒介シグナル伝達経路を通じて上記のような効果を誘導することを具体的に確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0023】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0024】
本発明は、プロテアーゼ活性化受容体(Protesase activated receptors;PAR)媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定する段階を含む、細胞外小胞(extracellular vesicle)の高効率生成能を有する幹細胞の選別方法を提供する。
【0025】
また、本発明は、前記方法によって選別された、細胞外小胞(extracellular vesicle)の高効率生成能を有する幹細胞を提供する。
【0026】
本発明において、前記PAR媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定する段階は、(a)幹細胞の培養後、トロンビンを処理する段階と、(b)前記トロンビンが処理された幹細胞でRab-5(Ras-related protein Rab-5)、EEA-1(Early endosome antigen-1)、p-ERK1/2(Phospho-Extracellular signal-regulated kinases 1/2)およびp-AKT(Phospho-Protein kinase B)からなる群から選択される1種以上の発現レベルを測定する段階と、(c)前記発現レベルが増加した幹細胞を細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞として選別する段階と、を含んでいてもよい。
【0027】
本発明において使用される用語、「プロテアーゼ活性化受容体(Protesase activated receptors;PAR)」は、細胞外ドメインの一部切断によって活性化する関連Gタンパク質共役受容体のサブファミリーであり、血小板、内皮細胞、筋細胞およびニューロンで高度で発現すると知られている。PARは、PAR1、PAR2、PAR3およびPAR4の4種類の類型があり、これを活性化させることができる主な酵素によって分類される。内皮細胞においてPARは、血管緊張度および透過性の調節に関与し、血管平滑筋では、収縮、増殖および肥大を媒介する。内皮細胞のPARは、VCAM-1、ICAM-1およびE-selectinのような内皮接着分子に対するポジティブシグナルを提供し、また、炎症反応にも寄与すると知られていて、最近では、筋肉の成長と骨細胞の分化および増殖に関連していることが報告されている。本発明では、PARは、幹細胞において細胞外小胞の高効率生成能を媒介し、好ましくは、PAR1またはPAR3媒介シグナル伝達経路が関与し、より好ましくは、PAR1がPAR3よりも幹細胞の細胞外小胞の高効率生成能にさらに大きい影響を及ぼすことを具体的な実施例を通じて確認した。
【0028】
本発明は、具体的な実施例においてPAR媒介シグナル伝達経路が幹細胞の細胞外小胞の高効率生成能に重要な影響を及ぼすことを確認した。
【0029】
本発明の一実施例では、トロンビンの前処理が、幹細胞で細胞外小胞の生成、細胞外小胞内タンパク質のレベルおよびその特性に及ぼす影響を様々な実験を通じて分析した。その結果、トロンビンが処理されない場合と比較して、トロンビン処理濃度に比例して細胞外小胞の生産量は5倍以上、細胞外小胞内部タンパク質の含有量レベルは2倍以上増加した。また、トロンビン処理は、幹細胞内初期エンドソームのレベルを顕著に増加させることを確認した(実施例2参照)。
【0030】
本発明の他の実施例では、間葉系幹細胞が、トロンビンの処理有無に関係なく、PAR1およびPAR3受容体を発現することを確認した(実施例3参照)。
【0031】
本発明のさらに他の実施例では、トロンビンが前処理された間葉系幹細胞で初期エンドソームマーカー(Rab-5およびEEA1)の発現レベルが有意に増加し、ERK1/2、AKTのリン酸化が増加したことを確認した(実施例4参照)。
【0032】
本発明のさらに他の実施例では、PARシグナル伝達経路が、トロンビン処理によって誘導された細胞外小胞の生産と内部タンパク質含有量の増加およびエンドソームマーカーとERK1/2、AKTのリン酸化増加を媒介するか否かを確認するために、PAR1特異的抑制剤およびPAR3 siRNAをそれぞれまたは共に細胞に処理して分析した結果、PAR1とPAR3媒介シグナル伝達経路が前記効果を誘導することに関与しており、特にPAR3よりもPAR1がさらに重要な影響を及ぼすことを確認した(実施例5参照)。
【0033】
前記段階(b)で発現レベルを測定する方法は、当該技術分野においてタンパク質の発現レベルを測定できる公知の方法を当業者が適宜選択して用いることができ、具体的にウェスタンブロッティング(western blotting)、放射免疫測定法(radioimmunoassay;RIA)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、酵素免疫測定法(ELISA)、免疫沈降法(immunoprecipitation)、フローサイトメトリー(flow cytometry)、免疫蛍光染色法(immunofluorescence)、オクタロニー(ouchterlony)、補体固定分析法(complement fixation assay)およびタンパク質チップ(protein chip)からなる群から選択される1種以上の方法を通じて測定できるが、これらに制限されるものではない。
【0034】
本発明において使用される用語、「細胞外小胞の高効率生成能」は、好ましくは幹細胞から細胞外小胞の生成量が増加することおよび/または前記幹細胞から生産された細胞外小胞内タンパク質のレベルが増加することを意味する。
【0035】
前記細胞外小胞内タンパク質は、血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)、肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor;HGF)、アンジオジェニン(angiogenin)およびアンジオポエチン-1(angiopoietin-1)からなる群から選択される1種以上であってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0036】
本発明において「幹細胞(stem cell)」は、未分化細胞であり、自己複製能を有し、かつ、2つ以上の異なる種類の細胞に分化する能力を有する細胞をいう。
【0037】
本発明の幹細胞は、自己由来または同種由来の幹細胞であってもよく、ヒトおよび非ヒト哺乳類を含む任意の類型の動物由来であってもよく、前記幹細胞が成体に由来したものであっても、胚性に由来したものであってもよく、これらに限定されない。本発明の幹細胞は、胚性幹細胞または成体幹細胞を含み、好ましくは、成体幹細胞である。前記成体幹細胞は、間葉系幹細胞、ヒト組織由来間葉系ストローマ細胞(mesenchymal stromal cell)、ヒト組織由来間葉系幹細胞、多分化能幹細胞であってもよく、好ましくは、間葉系幹細胞であるが、これらに限定されない。
【0038】
前記間葉系幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、皮膚、羊膜または胎盤などに由来した間葉系幹細胞であってもよく、好ましくは、臍帯血由来であってもよいが、これらに限定されない。
【0039】
前記幹細胞の培養は、当該技術分野において公知となった方法によって当業者が適切に選択して用いることができる。本発明では、具体的に臍帯血由来間葉系幹細胞をα-MEM培地で培養したが、これに制限されるものではない。
【0040】
前記トロンビンの処理方法は、具体的に限定されないが、好ましくは、培地に添加し、前記培地で幹細胞を2~10時間、好ましくは、4~8時間、より好ましくは、5~7時間、最も好ましくは、6時間培養することによって行われ得る。トロンビンは、前記培地内に1~10U/mlの濃度で含まれ得、好ましくは、1~5U/mlの濃度、より好ましくは、2~4U/mLで含まれ得る。
【0041】
本発明の他の様態として、本発明は、(a)幹細胞に候補物質を処理する段階と、(b)プロテアーゼ活性化受容体(Protesase activated receptors;PAR)媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定する段階と、(c)前記PAR媒介シグナル伝達経路の活性を増加させる物質を細胞外小胞の生成増進誘導剤として選定する段階と、を含む、幹細胞の細胞外小胞(extracellular vesicle)生成増進誘導剤のスクリーニング方法を提供する。
【0042】
本発明において、前記候補物質は、化合物、微生物培養液または抽出物、天然物抽出物、核酸、およびペプチドからなる群から選択されるものであってもよく、前記核酸は、siRNA、shRNA、microRNA、アンチセンスRNA、アプタマー(aptamer)、LNA(locked nucleic acid)、PNA(peptide nucleic acid)、およびモルホリノ(morpholino)からなる群から選択されるものであってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0043】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【0044】
[実施例]
実施例1.実験準備および実験方法
1-1.間葉系幹細胞の培養および前処理
ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell;MSC)は、Medipost Co.,Ltd.(ソウル、韓国)から購入して本研究に用いた。前記細胞は、事前の同意を得た単一供与者から分離したものであり、6継代で優れた製造工程を厳格に遵守して製造された。前記間葉系幹細胞は、CD105(99.6%)およびCD73(96.3%)を発現し、CD34(0.1%)、CD45(0.2%)またはCD14(0.1%)を発現しないことを確認し、また、ヒト白血球抗原(HLA)-AB(96.8%)に対して陽性であり、HLA-DR(0.1%)に対しては陽性でないことを確認した。
【0045】
前記臍帯血由来間葉系幹細胞にトロンビンを前処理するために、まず、前記間葉系幹細胞を10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS,Gibco)、100units/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)が補充されたα-MEM(Gibco,Grand Island,NY,USA)で標準培養の条件下に培養した。前記細胞が培養プレート面積の約90%を占めるとき、細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で3回洗浄して、汚染されたFBS由来エキソソームを除去した後、ヒト組換えトロンビン(1、2および4U/mL;Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)が補充された新しい無血清α-MEMで6時間培養した。以後、培地を回収し、Luna-FLTMsystem(Logos Biosystems,Anyang-si,Korea)を用いて100mm培養皿当たり約2×10細胞を計数した。
【0046】
1-2.細胞外小胞(Extracellular Vesicle;EVs)の分離および定量化
前記実施例1-1の方法によってトロンビンが前処理された臍帯血由来間葉系幹細胞から分泌された細胞外小胞(以下、EVsという)を分離するために、下記過程によって実験を進めた。具体的に、上記で回収した培地を3000rpm、4℃で30分間遠心分離して細胞残渣を除去した後、さらに4℃で100,000rpmで120分間遠心分離してEVsを沈殿させた。以後、前記沈殿したペレットを2回洗浄し、滅菌されたPBSに再懸濁した後、使用時まで-80℃で保管した。
【0047】
EVsの分布は、速いビデオキャプチャーおよび粒子追跡ソフトウェアが装着されたNanoSight(NanoSight NS300;Malvern,Worcestershire,UK)を使ってブラウン運動(Brownian motion)速度を測定することによって分析した。収得したEVsをPBS(500μl、1mg/mL総タンパク質)に再懸濁させ、サイズおよび多分散性を測定した。また、単一細胞によるEVs生産量を定量化するために、上記で回収した培地を用いて製造社のプロトコルに基づいてLUNA-FLシステムを使って細胞を計数した。単一細胞により生成されたEVsの数は、EVsの総個数を細胞数で割って計算した。
【0048】
1-3.透過電子顕微鏡(TEM)および走査電子顕微鏡(SEM)観察
EVs(5μl)を2%グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)で固定させ、200メッシュのホルムバール(formvar)/炭素がコーティングされた電子顕微鏡グリッド(Electron Microscopy Sciences,Washington,PA,USA)にローディングした後、10分間培養した。次に、濾過した蒸留水で洗浄し、1分間水で2%ウラニルアセテート(uranyl acetate)で染色した。以後、120kVで作動するTecnai Spirit G2透過電子顕微鏡(FEI,Hillsboro,OR,USA)を用いて観察後、イメージを得た。
【0049】
一方、分離したEVsを走査電子顕微鏡で観察するために、EVsを2.5%グルタルアルデヒドで固定させ、ポリカーボネート膜上にローディングした。次に、前記膜をPBSおよび水で1回洗浄した後、アセトンで脱水させた。次に、液体二酸化炭素を使って臨界点乾燥によりアセトンを除去した。サンプルをカーボンテープでアルミニウムスタブにマウントし、SEMスタブにマウントした。3~5nmの白金でスパッタコーティングした後、走査電子顕微鏡(Zeiss Auriga Workstation,Oberkochen,Germany)でサンプルを観察し、イメージを得た。
【0050】
1-4.PAR1特異的抑制剤の処理およびPAR3ノックダウン
選択的PAR1拮抗剤であるSCH79797(N3-シクロプロピル-7-[[4-(1-メチルエチル)フェニル]メチル]-7H-ピロロ[3,2-f]キナゾリン-1,3-ジアミンジヒドロクロリド)(N3-cyclopropyl-7-[[4-(1-methylethyl)phenyl]methyl]-7H-pyrrolo[3,2-f]quinazoline-1,3-diamine dihydrochloride)をTocris(Bristol,UK)から得た。以後、前記物質を臍帯血由来間葉系幹細胞に処理するために、トロンビン処理1時間前に、前記SCH79797を培養培地に1μMの濃度で添加した。
【0051】
一方、PAR3をノックダウン(knockdown)させるために、製造社のプロトコルに基づいてLipofectamine(登録商標)RNAiMAX形質感染試薬(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を用いてRAR3を標的するsiRNAを間葉系幹細胞に形質感染させた。この際、陰性対照群としては、scrambled siRNAを同じ方法および条件で処理した。対照群siRNAおよびPAR3 siRNAは、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz,CA,USA)から購入した。
【0052】
1-5.初期エンドソームの標識化
初期エンドソーム(Early endosomes)は、製造社の指示によってCell Light(登録商標)試薬-緑色蛍光タンパク質(GFP)、BacMam 2.0(Thermo Fisher Scientific,San Jose,CA,USA)を用いて標識した。簡略に、間葉系幹細胞を12ウェルプレートにウェル当たり1.5×10の密度で分注し、細胞が付着した後に、BacMam 2.0試薬を細胞当たり40個の粒子濃度(particles per cell;PPC)で添加した。次に、Rab5a-GFP発現を測定するために、Cell Light(登録商標)Early endosomes-GFP、BacMam 2.0を使って初期エンドソームを標識した。以後、GFPで標識されたエンドソームの数を推定するために、緑色免疫蛍光の光学密度をImageJ(National Institutes of Health,Bethesda,MD,USA)を用いて測定した。
【0053】
1-6.Bioplexアッセイ
EVsのサイトカインレベルをELISAを用いて分析するために、下記方法で実験を進めた。具体的に、単離したEVsの均質物をELISAキットで0.1mLの溶解緩衝液が含有されたウェルに添加した。以後、Bradford方法を通じてEVs内タンパク質を定量化した後、1μgのタンパク質をそれぞれのウェルにローディングした。次に、Human Angiogenesis Custom Premix Kit A(R & D Systems,Minneapolis,MN,USA)であるFluorokine(登録商標)MAPを用いてEVs内に存在するアンジオジェニン(Angiogenin)、アンジオポエチン-1(Angiopoietin-1)、VEGFおよびHGFレベルを定量化した。
【0054】
1-7.免疫ブロット分析
同じ体積のRIPA緩衝液(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)を添加して、臍帯血由来間葉系幹細胞およびEVsを溶解させた。Bradford方法で溶解物のタンパク質量を定量し、10μgのタンパク質が含まれたサンプルをβ-メルカプトエタノールが含有されたローディング緩衝液と混合した後、10分間加熱し、12%SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を用いてタンパク質をサイズ別に分離した。次に、分離したタンパク質をニトロセルロースメンブレンに移した後、0.5%Tween 20が含まれた1x PBS-Tで5%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液を製造し、前記メンブレンに処理して、室温でブロッキング過程を実施した後、1次抗体を処理し、室温で1時間培養した。培養後、1x PBS-Tでメンブレンを洗った後、抗マウスまたは抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼが接合された免疫グロブリンG(1:2000)2次抗体とともに室温で1時間撹拌しつつ培養した。次に、PBS-Tで洗浄した後、ECL Select chemiluminescence reagent(GE Healthcare Life Sciences,Piscataway,NJ,USA)を用いてタンパク質バンドを検出し、X線フィルムでバンドイメージを得た。
【0055】
1-8.統計分析
すべての定量的結果は、3回反復実験結果から導き出した。データは、平均±標準偏差(SD)で示し、統計分析は、2個のグループの場合には、t検定を用いて比較し、3個のグループに対しては、一元配置分散分析(ANOVA)を統計分析した。p値が0.05未満の場合、統計的に有意なものと見なした。
【0056】
実施例2.トロンビン前処理がEVsの合成、タンパク質レベルおよび特性に及ぼす影響の分析
本発明者らは、間葉系幹細胞に対するトロンビン前処理が、EVs合成およびEVs内に存在するタンパク質レベル、およびEVs特性に及ぼす影響を分析するために、下記実験を進めた。
【0057】
2-1.EVs生産量およびタンパク質レベルの分析
まず、前記実施例1-1の方法によってトロンビンを1~4U/mLで濃度を異ならせて間葉系幹細胞に処理し、実施例1-2の方法によってEVsの量を分析した。その結果、図1aに示されたように、トロンビン濃度に依存的にEV生産量が増加し、特に2および4U/mLの濃度でEV生産量が大きく増加したことが示された。
【0058】
また、EVs内タンパク質レベルを分析した結果、図1bに示されたように、トロンビンを処理しない間葉系幹細胞と比較して、2および4U/mLのトロンビンを処理した群において血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)、アンジオジェニン(Angiogenin)、アンジオポエチン-1(Angiopoietin-1)および肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor;HGF)のレベルが顕著に増加したことを確認した。ひいては、前記結果に基づいてヒトトロンビンの最適処理濃度を2U/mLと選定し、後続実験を進めた。
【0059】
2-2.初期エンドソームの分析
本発明者らは、前記幹細胞内初期エンドソームをCellLight Early Endosomes-GFPキットを用いて緑色蛍光で標識して、トロンビンを処理しない間葉系幹細胞(Naive)とトロンビンを前処理した間葉系幹細胞(Thrombin)を比較した。具体的に、蛍光イメージおよびその定量結果を通じて前記二つの細胞間のエンドソーム差異を比較した結果、図1cに示されたように、トロンビンを前処理した幹細胞で顕著に高いレベルの初期エンドソームが観察された。
【0060】
2-3.電子顕微鏡を通したEVs観察
また、トロンビン前処理によるEVs差異を比較するために、前記実施例1-3の方法によって走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡で分離したEVsを観察した。その結果、図1dから分かるように、トロンビンを処理しない間葉系幹細胞と比較して、トロンビンを前処理した間葉系幹細胞でさらに多くのEVsが観察された。
【0061】
2-4.EVsの特性の確認
トロンビンが処理されない間葉系幹細胞およびトロンビンが前処理された間葉系幹細胞から分離したそれぞれのEVsに対してサイズを測定した。その結果、図1eに示されたように、いずれも、100nmでピークを示し、前記各細胞から分離したEVsのサイズが同一であることを確認した。しかしながら、分離したEVの数は、トロンビンが前処理された間葉系幹細胞において非常に高いことを確認できた。
【0062】
また、前記二つの間葉系幹細胞から分離したEVsに対して免疫ブロッティングを通じて様々なマーカーの発現レベルを分析した。その結果、図1fから分かるように、トロンビン処理の有無に関係なく、すべてのEVsは、エキソソーム特異的マーカーであるCD9、CD63およびCD81を全部発現し、ミトコンドリアマーカーであるシトクロム c(Cytochrome c)、核マーカーであるフィブリラリン(Fibrillarin)およびゴルジ体マーカーであるGM130は発現しないことを確認した。
【0063】
実施例3.間葉系幹細胞のPARs発現の確認
本発明者らは、前記実施例2の結果に基づいて、間葉系幹細胞がトロンビンに対する受容体を発現するか否かを調べてみるために、前記実施例1-7の方法によって免疫ブロッティング分析を行った。具体的に、トロンビンを処理しない間葉系幹細胞およびトロンビンが前処理された間葉系幹細胞それぞれに対してPAR1、PAR2、PAR3およびPAR4タンパク質の発現レベルを分析した。その結果、図2aに示されたように、間葉系幹細胞は、トロンビンの処理有無に関係なく、PAR1およびPAR3を発現し、PAR2およびPAR4は発現しないことが示された。これは、トロンビン前処理がPAR1およびPAR3を通じて間葉系幹細胞に影響を及ぼすことができることを示唆するのである。
【0064】
ひいては、PAR3に特異的なsiRNA(PAR3 siRNA)がPAR3の発現を特異的に阻害するか否かを検証しようとした。このために、対照群siRNA(Scrambled siRNA)を前記間葉系幹細胞に形質感染させ、免疫ブロッティング分析を実施した。その結果、図2bから分かるように、PAR3 siRNAを処理した場合には、PAR1の発現レベルは変化せず、PAR3の発現のみが特異的に阻害され、対照群siRNAを処理した場合には、PAR1およびPAR3は両方とも発現レベルに変化が現れないことを確認した。これを通じて、本実施例において利用したPAR3 siRNAは、PAR3の発現のみを特異的に阻害することが分かった。
【0065】
実施例4.トロンビン前処理による初期エンドソームマーカーのタンパク質レベル、およびERK1/2およびAKT経路のリン酸化増加の確認
本発明者らは、前記実施例2の結果に基づいて間葉系幹細胞でトロンビン前処理の有無による初期エンドソームマーカー(Rab-5およびEEA-1)の発現レベルの変化を免疫ブロッティングで分析した。その結果、図3aに示されたように、トロンビンが処理された場合、初期エンドソームマーカーであるRab-5およびEEA-1の発現レベルが有意に増加したことを確認した。
【0066】
これに加えて、本発明による間葉系幹細胞においてトロンビン処理の有無によるERK1/2およびAKTシグナル伝達経路の活性化の有無を調査するために、ERK1/2およびAKTのリン酸化レベルを分析した。その結果、図3bから分かるように、トロンビンが処理されない間葉系幹細胞と比較して、トロンビンが前処理された間葉系幹細胞においてpERK1/2およびpAKTタンパク質の発現が有意に増加したことを確認した。また、リン酸化しない形態のERK1/2およびAKTの場合には、統計的に有意しないが、トロンビン処理によって若干発現が増加する傾向を示した。
【0067】
実施例5.PAR抑制によるRab-5およびEEA1発現、ERK1/2およびAKTリン酸化およびEV生産抑制の確認
5-1.Rab-5およびEEA1発現、およびERK1/2およびAKTリン酸化抑制の確認
本発明者らは、トロンビンがどのように初期エンドソームマーカーであるRab-5およびEEA-1の発現を誘導するかを調査するために、トロンビンが前処理された間葉系幹細胞にPAR1特異的拮抗剤であるSCH79797を処理したり、PAR3特異的siRNAを形質感染させたり、または前記二つの物質を共に処理した後、Rab-5およびEEA-1の発現レベルをそれぞれ分析した。その結果、図4aに示されたように、それぞれ、SCH79797を処理した群(Thrombin+SCH79797)およびPAR3 siRNAを処理した群(Thrombin+PAR3 siRNA)が、いずれも、トロンビンのみを前処理した群(Thrombin)に比べて、Rab-5およびEEA-1の発現レベルが有意に減少したことが示された。この際、SCH79797を処理した群が、PAR3 siRNAを処理した群よりも発現レベルがさらに減少したことが示された。また、SCH79797およびPAR3 siRNAを共に処理した群(Thrombin+SCH79797+PAR3 siRNA)において各タンパク質の発現レベルが最も大きく減少したことを確認した。
【0068】
これに加えて、トロンビンがERK1/2およびAKT経路の活性化をどのように誘導するかを調査するために、トロンビンが前処理された間葉系幹細胞にSCH79797および/またはPAR-3特異的siRNAを処理した。その結果、図4bから分かるように、トロンビン前処理によるERK1/2およびAKTのリン酸化の増加は、それぞれ、SCH79797およびPAR3 siRNAを処理した群において有意的に抑制され、PAR-3特異的siRNAを処理した場合よりも、SCH79797を処理した場合、さらに有意なレベルで抑制された。さらに前記二つの物質を共に処理した場合、最も大きく抑制されたことを確認した。このような結果は、トロンビン前処理によるRab-5、EEA-1、ERK1/2およびAKTの活性化にPAR-1シグナル伝達がさらに大きく関与しており、これに対して、PAR-3シグナル伝達は部分的に関与していることを示唆するのである。
【0069】
5-2.EVsの生産およびEVs内部タンパク質レベル増加抑制の確認
間葉系幹細胞でEVsの生産がPARにより調節されるか否かを確認するために、トロンビンが前処理された間葉系幹細胞にPAR1特異的拮抗剤SCH79797および/またはPAR3特異的siRNAを形質感染させた。
【0070】
まず、各対照群および実験群において初期エンドソームを比較するために、トロンビンの前処理後、CellLight Early Endosomes-GFPキットを使って緑色蛍光でエンドソームを標識した。以後、蛍光イメージおよびその定量結果を分析した結果、図5aに示されたように、トロンビン処理による初期エンドソーム数の増加は、それぞれ、SCH79797およびPAR3 siRNAを処理した群において有意的に抑制された。また、PAR3 siRNA形質感染によるものよりも、SCH79797処理によってさらに有意に抑制され、SCH79797およびPAR3 siRNAを共に処理した場合、最も高いレベルで抑制されたことを確認した。
【0071】
ひいては、上記と同じ群の臍帯血由来間葉系幹細胞の培養培地で細胞外小胞の数の増加程度を比較した。その結果、図5bおよび図5cに示されたように、トロンビン処理による細胞外小胞の数の増加は、それぞれ、SCH79797およびPAR3 siRNAを処理した群において有意的に抑制され、PAR3 siRNAを形質感染させた場合よりも、SCH79797を処理した場合、さらに高いレベルで抑制され、前記二つの物質を共に処理した場合、最も高いレベルで抑制されたことを確認した。
【0072】
また、上記と同じ群においてPAR抑制剤の処理によるEVs内タンパク質のレベルの変化を分析した。具体的に、VEGF、アンジオジェニン、アンジオポエチン-1およびHGFレベルをそれぞれ測定した結果、図5dから分かるように、それぞれ、SCH79797およびPAR3 siRNAを処理した群において前記タンパク質のレベル増加が有意的に抑制され、PAR3 siRNAを形質感染させた場合よりも、SCH79797を処理した場合、さらに高いレベルで抑制され、前記二つの物質を共に処理した場合、最も高いレベルで抑制されたことを確認した。このような結果は、PAR-1媒介シグナル伝達が、トロンビン前処理刺激によるEV生産およびカーゴタンパク質のレベルの増加に強く関与し、PAR3シグナル伝達は部分的に関与することを示唆するのである。
【0073】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で容易に変形が可能であることを理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、幹細胞にトロンビンを処理し、プロテアーゼ活性化受容体(Protesase activated receptors;PAR)媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定することによって、細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞を効率的に選別できるところ、このような方法によって選別された幹細胞は、基礎研究および臨床分野において様々な用途に有用に活用されうる。また、幹細胞において特定物質の処理後、PAR媒介シグナル伝達経路の活性レベルを測定する方法を通じて細胞外小胞の生成増進誘導剤をスクリーニングして新しい物質を発掘できるところ、前記発掘された物質を基礎研究および臨床分野に用いられる細胞外小胞の高効率生成能を有する幹細胞を製造するのに有用に用いることができる。
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b
図5c
図5d
【国際調査報告】