(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(54)【発明の名称】セラミック絶縁体を有する電気機械アクチュエータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 41/187 20060101AFI20220620BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20220620BHJP
H01L 41/318 20130101ALI20220620BHJP
H01L 41/43 20130101ALI20220620BHJP
H01L 41/333 20130101ALI20220620BHJP
C04B 35/491 20060101ALI20220620BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/09
H01L41/318
H01L41/43
H01L41/333
C04B35/491
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563317
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(85)【翻訳文提出日】2021-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2020059887
(87)【国際公開番号】W WO2020216612
(87)【国際公開日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】102019206018.8
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521353539
【氏名又は名称】ピーアイ・セラミック・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】PI CERAMIC GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュペーア,ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ダーガッツ,ベンヤミン
(57)【要約】
本発明は、電気機械特性を有するセラミックベース材料および電極(2)で作製されたスタック配置(1)と、湿った環境におけるアクチュエータの使用のためのセラミック絶縁体(5)とを備える、電気機械アクチュエータに関する。本発明の目標は、アクチュエータが増加された電気機械伸張を伴って長い耐用寿命を有することを保証することである。この目標は、本発明にしたがって、セラミック絶縁体(5)の構造がセラミックベース材料の構造よりも低い平均粒径を有することにおいて達成される。本発明はさらに、セラミック絶縁体を有するアクチュエータを製造するための方法、およびこのようなアクチュエータを作動するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械アクチュエータであって、電気機械特性を有するセラミック基礎材料および電極(2)で作製されたスタック配置(1)と、湿潤環境における前記アクチュエータの使用のためのセラミック絶縁体(5)とを備え、前記セラミック絶縁体(5)の構造が前記セラミック基礎材料の構造よりも小さい平均粒径を有することを特徴とする、アクチュエータ。
【請求項2】
セラミック基礎材料に対する絶縁体(5)の前記平均粒径の比率は、3/4以下、好ましくは1/2以下、特に好ましくは1/3以下であることを特徴とする、請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記絶縁体の前記平均粒径は、20μm以下、好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下であることを特徴とする、先行請求項の一項に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記セラミック基礎材料の前記平均粒径は、前記絶縁体(5)に向かって、好ましくは前記絶縁体(5)を超えて、好ましくは連続的に減少することを特徴とする、先行請求項の一項に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記絶縁体(5)は、電気機械材料、好ましくは圧電材料、特に好ましくは圧電セラミック材料で作製されることを特徴とする、先行請求項の一項に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記絶縁体(5)が水蒸気/湿気に対して不浸透性であることを特徴とする、先行請求項の一項に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記絶縁体(5)は、少なくとも1つの層、好ましくは2つまたは3つの層で作製され、前記絶縁体(5)の総厚が500μm以下、好ましくは100μm以下、特に好ましくは60μm以下であることを特徴とする、先行請求項の一項に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記絶縁体(5)は、前記セラミック基礎材料と実質的に同じまたは前記セラミック基礎材料とは異なる材料組成を有することを特徴とする、先行請求項の一項に記載のアクチュエータ。
【請求項9】
2つの外部電極(3)が前記スタック配置(1)における前記電極(2)に接触するために提供され、前記アクチュエータの同じ外面上または2つの異なる外面上に設けられ、前記アクチュエータの少なくとも1つの電極のない外面は前記セラミック絶縁体(5)を備えることを特徴とする、先行請求項の一項に記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記セラミック基礎材料および前記電極(2)はスタック軸に沿って設けられ、前記スタック配置(2)は、前記スタック軸に垂直に位置合わせされる2つの端面と、前記端面間に延在する少なくとも1つの側面とを備え、前記少なくとも1つの側面上における前記セラミック絶縁体(5)は一方の端面から他方の端面まで延在する、先行請求項の一項に記載のアクチュエータ。
【請求項11】
電気機械アクチュエータ、好ましくは先行請求項の一項に記載の前記アクチュエータの製造方法であって、
A:電極(2)から、および電気機械特性を有するセラミック基礎材料からスタック配置(1)を形成するステップと、
B:絶縁体(5)の構造が前記セラミック基礎材料の構造よりも小さい平均粒径を有するように、前記スタック配置(1)にセラミック絶縁体(5)を提供するステップとを含む、方法。
【請求項12】
以下の部分ステップ:
A1:前記電極(2)から、および前記セラミック基礎材料で作製されたグリーンテープから前記スタック配置(1)を形成する部分ステップ、
A2:前記セラミック基礎材料が固体セラミック構造に転化されるように、前記スタック配置(1)を焼結する部分ステップ
のうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
以下の部分ステップ:
B1:好ましくはグリーンテープを有する、コーティング、射出成形、プラズマ溶射、好ましくはセラミックスラリーにおける、浸漬コーティング、溶射によって、および/または、ゾル-ゲル法によって、前記スタック配置(1)上に、前記絶縁体(5)の少なくとも1つ、いくつか、またはすべての層を適用する部分ステップ、
B2:前記セラミック絶縁体(5)、および場合によっては前記セラミック基礎材料が固体セラミック構造へと転化するように、前記セラミック絶縁体(5)、および場合によっては前記セラミック基礎材料を焼結する部分ステップ、
B3:前記セラミック基礎材料および前記セラミック絶縁体(5)について異なる材料を選択することによって、および/または、焼結中における処理パラメータを選択することによって、前記絶縁体(5)の平均粒径、および場合によっては前記セラミック基礎材料の平均粒径を設定する部分ステップ
のうちの少なくとも1つを含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
C:前記セラミック基礎材料、および好ましくは前記セラミック絶縁体(5)を分極させて前記アクチュエータの電気機械特性を設定するステップを含む、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップAにおける前記スタック配置は、スタック軸に沿って電極(2)およびセラミック基礎材料から形成されて、前記スタック配置(1)が前記スタック軸に垂直に配向される2つの端面と、前記端面間に延在する少なくとも1つの側面とを備えるとともに、ステップBにおける前記スタック配置(1)は、前記セラミック絶縁体(5)を有して提供されて、後者が前記少なくとも1つの側面上において一方の端面から他方の端面まで延在する、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械特性を有するセラミック基礎材料および電極で作製されたスタック配置と、湿潤環境におけるアクチュエータの使用のためのセラミック絶縁体とを備える、請求項1の序文に記載の電気機械アクチュエータに関する。このようなアクチュエータは、多層アクチュエータまたはリニアアクチュエータとも呼ばれる。本発明のさらなる局面は、セラミック絶縁体を有するアクチュエータの製造方法およびこのようなアクチュエータを制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機械アクチュエータの耐用寿命は、とりわけ、静的または準静的な用途において使用されるときに空気の湿気を介した劣化機構によって制限される。特に、スタック配置内への水蒸気分子の拡散または浸透は、アクチュエータの電気挙動および弾性挙動の悪化をもたらすため、アクチュエータの機能の部分的または全体的な損失の原因となる。増大された耐用寿命は、特にセラミック材料を有するまたはセラミック材料で作製された、アクチュエータの絶縁体によって得ることができる。このようなセラミック絶縁体を有する電気機械的または圧電性のアクチュエータは、DE 100 21 919 C2から知られている。ポリマー絶縁体を有するアクチュエータと比較して、直流電流(DC)で制御されるときのセラミック絶縁されたアクチュエータは、2~3桁分高い耐用寿命(平均故障間隔(Mean Time To Failure)MTTF)を有し得る。
【0003】
圧電アクチュエータは、EP 2 530 756 A1からも知られており、その側面上にたとえばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で作製された無機層が設けられる。US7,065,846B2は、また、セラミック絶縁体を有する圧電アクチュエータを開示している。
【0004】
しかしながら、このタイプのセラミック絶縁体は物理的な制約を有する。セラミックコーティングされたアクチュエータは、これまで、典型的には、2kV-DC/mmの電界強度で制御されたとき、アクチュエータの有効長の約1.0‰~1.1‰の電気的に誘発された圧電膨張を示してきた。たとえば電気機械材料システムであるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を最適化することによって、電気的に誘発された圧電膨張が、たとえば有効長の>1.25‰まで増加すると、セラミック絶縁体における制御されない亀裂の形成および成長をもたらし、これはアクチュエータの耐用寿命に悪影響を及ぼす。リニアアクチュエータの設計により、電極が湿気から精密に保護されるように、電極は絶縁体内へ延在しない。その結果、セラミック絶縁体は電気漂遊場によって励起される可能性があるのみであり、結果として必然的にセラミック絶縁体の圧電的に誘発された膨張は低下する、またはなくなることさえある。このような理由から、アクチュエータの作動または膨張の間に機械引張応力が生じ、これは連続的または交互の負荷によって亀裂の形成をもたらして、アクチュエータの故障または機能の損失を引き起こしたり、湿潤環境においてその耐用寿命を低減させたりし得る。
【0005】
WO2017/032868A1は、気流堆積によってアクチュエータ表面上に製作された保護層(第4頁第14~16行を参照)、および分裂したセラミック粒子で作製され、たとえばアニーリングによって互いに接続される保護層(第4頁第28行~第5頁第2行を参照)を有する圧電多層アクチュエータを開示している。
【0006】
この保護層は非常に高密度であり、細孔がなく、焼結処理によって形成されるような「結晶粒界」を含まないものであるため、保護層はアクチュエータが小さい厚さを有する場合であっても動作中に亀裂のない状態を維持すると考えられる(第5頁第5~10行を参照)。EP 2 667 425 B1は、金属粒子が分散された無機コーティングを有する圧電要素を開示している。金属粒子によって、特に欠陥においてコーティングに導電経路が形成されるリスクがあり、これは故障機構を加速させ得る。本発明は、焼結されたセラミック絶縁体における亀裂の形成が防止されるという点において、延長された耐用寿命を有し、さらには電気機械膨張の増加を伴う、電気機械アクチュエータを提供するという目的に基づく。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、請求項1に記載の電気機械アクチュエータ、および請求項10に記載の電気機械アクチュエータの製造方法、および請求項14に記載の電気機械アクチュエータを制御するための方法によって満足される。本発明の有利な発展は従属請求項において主張される。
【0008】
本発明にしたがう電気機械アクチュエータは、電気機械特性を有するセラミック基礎材料および電極で作製されたスタック配置と、湿潤環境におけるアクチュエータの使用のためのセラミック絶縁体とを備え、セラミック絶縁体の構造がセラミック基礎材料の構造よりも小さい平均粒径を有する。その構造がセラミック基礎材料の構造よりも小さい平均粒径を有するセラミック絶縁体の特定的な選択は、セラミック絶縁体の強度(降伏強度、ホール・ペッチの関係を参照)および形成する亀裂に対する耐性を増大させる。この耐性を増大させることによって、電気機械膨張がより高い場合であっても、アクチュエータの延長された耐用寿命を得ることができ、これはセラミック基礎材料の構造におけるより大きな平均粒径によって達成可能である。これは、材料の使用に適した電気的に誘発された膨張が、増加する粒径に伴って増加するためである。セラミック基礎材料は、好ましくは、圧電基礎材料である。アクチュエータの電気機械特性は、好ましくは、たとえばセラミック基礎材料の成形後における分極によって変更または設定される。
【0009】
セラミック基礎材料に対する絶縁体の平均粒径の比率は、3/4以下、好ましくは1/2以下、特に好ましくは1/3以下であることが有利であり得る。絶縁体の平均粒径が小さいほど、亀裂の成長に対する絶縁体の強度および耐性は基本的には増大する。述べられた比率は、基礎材料と絶縁体との間における機械的相互作用を考慮すると、有利な結果を達成する。
【0010】
さらに、絶縁体の平均粒径は、20μm以下、好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下であることが有益であり得る。
【0011】
加えて、セラミック基礎材料の平均粒径は、絶縁体に向かって、好ましくは絶縁体を超えて、好ましくは連続的に減少することが実用的であり得ることがわかっている。絶縁体がセラミック基礎材料に隣接する領域における、平均粒径の連続的な減少によって、この領域における膨張または引張亀裂は回避され得る。
【0012】
絶縁体が電気機械材料、好ましくは圧電材料、特に好ましくは圧電セラミック材料で作製されることが有益であり得ることがわかっている。
【0013】
加えて、絶縁体が水蒸気/湿気に対して不浸透性であることが有利であり得る。これは、水蒸気分子がスタック配置内へ拡散または浸透することを防止する。
【0014】
絶縁体が少なくとも1つの層、好ましくは2つまたは3つの層で作製され、絶縁体の総厚が500μm以下、好ましくは100μm以下、特に好ましくは60μm以下であることが有益であり得る。いくつかの層を提供することによって、個々の層における穴または細孔などの製造欠陥を他の層によってカバーすることができ、これは絶縁性の向上をもたらす。このとき、絶縁体の厚さ全体にわたる端から端までの欠陥の可能性は、各追加の層によって低減される。
【0015】
さらに、絶縁体がセラミック基礎材料と実質的に同じまたはセラミック基礎材料とは異なる材料組成を備えることが有利であり得る。
【0016】
加えて、2つの外部電極がスタック配置における電極に接触するために提供され、アクチュエータの同じ外面上または2つの異なる外面上に設けられ、アクチュエータの少なくとも1つの電極のない外面がセラミック絶縁体を備えることが有益であり得る。アクチュエータは、外部電極を取り付けること、および電極のない外面上にセラミック絶縁体を設けることによって確実に絶縁されることができる。
【0017】
セラミック基礎材料および電極がスタック軸に沿って設けられ、スタック配置がスタック軸に垂直に位置合わせされる2つの端面と、端面間に延在する少なくとも1つの側面とを有し、少なくとも1つの側面上におけるセラミック絶縁体が一方の端面から他方の端面まで延在することが有益であり得る。これらの側面上にセラミック絶縁体を提供することは、電極とセラミック基礎材料との間における水蒸気分子の拡散または浸透を防止する。
【0018】
本発明の別の局面は、電気機械アクチュエータ、特に先行する構成の1つに係るアクチュエータの製造方法であって、
A:電極から、および電気機械特性を有するセラミック基礎材料からスタック配置を形成するステップと、
B:絶縁体の構造がセラミック基礎材料の構造よりも小さい平均粒径を有するように、スタック配置にセラミック絶縁体を提供するステップとを含む方法に関する。
【0019】
さらに、方法が以下の部分ステップのうちの少なくとも1つを含むことが有益であり得る:
A1:電極から、およびセラミック基礎材料で作製されたグリーンテープからスタック配置を形成する部分ステップ、
A2:セラミック基礎材料が固体セラミック構造に転化されるように、スタック配置を焼結する部分ステップ。
【0020】
しかしながら、方法が以下の部分ステップのうちの少なくとも1つを含むことも有益であり得る:
B1:好ましくはグリーンテープを有する、コーティング、射出成形、プラズマ溶射、好ましくはセラミックスラリーにおける、浸漬コーティング、溶射によって、および/または、ゾル-ゲル法によって、スタック配置上に、絶縁体の少なくとも1つ、いくつか、またはすべての層を適用する部分ステップ、
B2:セラミック絶縁体、および場合によってはセラミック基礎材料が固体セラミック構造へと転化するように、セラミック絶縁体、および場合によってはセラミック基礎材料を焼結する部分ステップ、
B3:セラミック基礎材料およびセラミック絶縁体について異なる材料を選択することによって、および/または、焼結中における処理パラメータを選択することによって、絶縁体の平均粒径、および場合によってはセラミック基礎材料の平均粒径を設定する部分ステップ。
【0021】
方法が以下のステップを含むことも有益であり得る:
C:セラミック基礎材料、および好ましくはセラミック絶縁体を分極させてアクチュエータの電気機械特性を設定するステップ。
【0022】
ステップAにおけるスタック配置がスタック軸に沿って電極およびセラミック基礎材料から形成されて、スタック配置がスタック軸に垂直に配向される2つの端面と、端面間に延在する少なくとも1つの側面とを備えるとともに、ステップBにおけるスタック配置がセラミック絶縁体を有して提供されて、後者が少なくとも1つの側面上において一方の端面から他方の端面まで延在することも有益であり得る。既に上述されたように、これらの側面上にセラミック絶縁体を提供することは、電極とセラミック基礎材料との間における水蒸気分子の拡散または浸透を防止する。
【0023】
本発明の別の局面は、電気機械アクチュエータ、特に先行する構成のうちの1つに係るアクチュエータを制御する方法であって、室温、かつ好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも92%の湿度において、少なくとも2kV-DC/mmの電界強度で、アクチュエータの有効長の1.25‰以上の準静的膨張および10,000時間以上のアクチュエータの平均耐用寿命(MTTF)が達成される方法に関する。
【0024】
本発明の追加の局面は、電気機械アクチュエータ、特に先行する構成のうちの1つに係るアクチュエータを制御するための方法であって、90℃、かつ好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも92%の湿度において、少なくとも2kV-DC/mmの電界強度で、アクチュエータの有効長の1.25‰以上の準静的膨張および500時間以上のアクチュエータの平均耐用寿命(MTTF)が達成される方法に関する。
【0025】
用語および定義
セラミック材料で作製されたグリーンテープ
テープキャスティングプロセスによってセラミックスラリーから製作された可撓性テープは、セラミック材料で作製されたグリーンテープと呼ばれる。
【0026】
絶縁体
絶縁体は、湿気がスタックアクチュエータ内に浸透することを防止する保護層である。
【0027】
アクチュエータ
アクチュエータという用語は、スタックアクチュエータ、多層アクチュエータ、またはリニアアクチュエータに対して同義的に用いられる。
【0028】
電気機械特性を有するセラミック基礎材料
電気機械特性を有するセラミック基礎材料は、電圧が印加されるときに機械(弾性)変形を生じる材料である。この材料の出発点は、成形のために焼結されるセラミック粉末であり得る。焼結されたセラミックの微細構造は多結晶材料であり、その微結晶は双極子を伴う磁区を有しており、その配向は材料にわたって統計的に分配されている。アクチュエータの電気機械特性を設定するために、双極子は、好ましくは分極によって整流される。
【0029】
分極
ほとんどの電気機械アクチュエータの製作のために、材料は外部単一指向性場を印加することによって焼結後に分極され、双極子が全体的に整流されることとなる。したがって、分極はアクチュエータの所望の電気機械特性を設定することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明にしたがうアクチュエータの頂面図、ならびに線A-Aおよび線B-Bに沿った断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
好ましい実施形態の詳細な説明
図1は、電気機械特性を有するセラミック基礎材料と、アクチュエータの両側面上に交互に繋がれる電極2とで作製されたロッド形状のスタック配置1からなる電気機械アクチュエータを示す。これらの2つの側面の各々には、電極2に接触するための外部電極3が付けられる。外部電極3は、各々、接続リード4に接続される。外部電極に覆われていないアクチュエータの側面には、セラミック絶縁体5が設けられる。
【0032】
このスタック配置の基本的な構造は、DE 100 21 919 C2から知られており、この点については詳細に説明しない。その代わり、既知のスタック配置との本発明に係る差異を以下説明するものとし、主に議論するものとする。
【0033】
本発明によれば、セラミック絶縁体5の構造は、セラミック基礎材料の構造よりも小さい平均粒径を有する。小さな平均粒径によって、セラミック絶縁体5の構造には小さな細孔径または多孔率が生じ、その結果として構造中の欠陥サイズが減少し、亀裂の形成または成長を妨げる。
【0034】
セラミック基礎材料および電極は、好ましくは、スタック軸に沿って配置される。セラミック基礎材料と電極とで構成されるスタック配置は、スタック軸に垂直に位置合わせされる2つの端面と、端面間に延在する少なくとも1つの側面とを有し、少なくとも1つの側面上におけるセラミック絶縁体は、一方の端面から他方の端面まで延在する。セラミック絶縁体がないと、電極は周側面上において露出されることとなり得る。これらの側面上にセラミック絶縁体を設けることは、電極とセラミック基礎材料との間における水蒸発分子の拡散または浸透を防止する。
【0035】
好ましい実施形態において、セラミック基礎材料に対する絶縁体の平均粒径の比率は、3/4以下、好ましくは1/2以下、特に好ましくは1/3以下である。絶縁体の平均粒径は、20μm以下、好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下あり得る。
【0036】
セラミック基礎材料は、好ましくは、たとえばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電セラミック材料である。しかしながら、ほかに、電歪材料または磁歪材料であってもよい。セラミック絶縁体5は、同様にPZTまたは酸化物セラミック材料で作製され、好ましくは同様に圧電特性を有する。
【0037】
セラミック絶縁体5は単層で構成され得る。しかしながら、好ましい実施形態においては、セラミック絶縁体5は、1つの単層において製造技術によって生じる欠陥を別の層でカバーするために、いくつかの、特に2つまたは3つの層を有する。これは、2つの絶縁体層間の境界における亀裂の成長を防止し得る。結果として、セラミック絶縁体5は、スタック配置内への水蒸気分子の浸透または拡散に対して確実に不浸透性となるように作製され得る。個々の層は、それらの組成またはそれらの平均粒径において互いに異なっていてもよい。個々の層の厚さは、この層における平均粒径の倍数、好ましくは5~20倍である。一般に、セラミック基礎材料の膨張は薄い絶縁体によって制限されることはほとんどないため、セラミック絶縁体の全体の厚さが小さいことが目指される。好ましい実施形態においては、絶縁体の全体の厚さは、500μm以下、好ましくは100μm以下、特に好ましくは60μm以下である。
【0038】
アクチュエータ、特に上記の実施形態に係るアクチュエータの製造のための本発明にしたがう方法を以下で説明する。
【0039】
電気機械特性を有するセラミック基礎材料および電極からのスタック配置の製作は、原理的にはDE 100 21 919 C2から知られているが、本発明にしたがう方法の理解を向上させるためにもう一度簡単に概略を述べることとする。
【0040】
スタック配置1の製作のための出発点は、セラミック粉末材料、好ましくはバインダ溶液および溶媒とともに提供されるPZT粉末材料である。方法のさらなる過程において、粉末材料およびバインダ溶液で作製されたセラミックスラリーがセラミック基礎材料で作製されたいわゆるグリーンテープを形成するために注がれ、溶媒は蒸発する。その後、可撓性のグリーンテープは所定サイズにカットされて積層される。所定の数のグリーンテープの各2つの層の間に電極2が挿入される。この目的のため、スクリーン印刷法を用いてそれぞれのグリーンテープ上へ金属ペーストが印刷される。このように製作されるスタック配置1は、その後、均衡にプレスされる。
【0041】
ここで、本発明にしたがう方法は、セラミック絶縁体5の構造がセラミック基礎材料の構造よりも小さい平均粒径を有するようにセラミック絶縁体5が設けられることとなる、このようなスタック配置1を提供する。この目的のために、スタック配置1の少なくとも1つの側面には、好ましい実施形態において、セラミック基礎材料のグリーンテープとは異なる材料組成を有するまたは異なる材料特性を有する1つ以上のグリーンテープが付けられる。スタック配置1およびセラミック絶縁体5は、次いで接合的に焼結され、その結果、セラミック基礎材料およびセラミック絶縁体5のグリーンテープは固体セラミック構造に転化される。セラミック基礎材料およびセラミック絶縁体5の出発材料の組成および/または特性を選択的に設定することによって、セラミック基礎材料の構造よりも小さい平均粒径をセラミック絶縁体5の固体構造において得ることができる。焼結後、アクチュエータの側面には外部電極3が付けられ、外部電極3はスタック配置1における電極2との電気的接触を確立し、セラミック絶縁体5を有しない。外部電極が付けられた後、セラミック基礎材料および好ましくはセラミック絶縁体5を分極するための極性を生成するために、単一指向性の電場が印加される。
【0042】
上記に記載された方法は、スタック配置1およびセラミック絶縁体5がともに焼結されるため、一段階プロセスである。加えて、スタック配置1がまず焼結され、その後セラミック絶縁体5の1つ以上の層が焼結されたスタック配置1上へ付けられ、セラミック絶縁体5が設けられるスタック配置が再び焼結される、二段階プロセスを実行することも可能である。セラミック絶縁体5およびセラミック基礎材料の構造における異なる平均粒径は、特に個々の焼結段階における処理パラメータの選択的選択によって設定可能であり、セラミック基礎材料およびセラミック絶縁体5の出発材料の組成または特性は実質的に同じであってもよい。
【0043】
上記の実施形態によれば、一段階プロセスにおけるそれぞれの微細構造の平均粒径は、実質的に、セラミック基礎材料およびセラミック絶縁体5の出発材料の異なる組成または特性によって設定されるが、二段階プロセスにおいては、実質的に、個々の焼結プロセスにおける処理パラメータの選択によって設定される。しかしながら、本発明にしたがう方法は、このような一段階または多段階の方法に制限されない。
【0044】
加えて、それぞれの微細構造における所望の平均粒径は、一段階プロセスにおいて、処理パラメータの好適な選択によって設定されてもよい。以下により詳細に記載されることとなるマイクロ波焼結は、スタック配置における不均一な熱分布をもたらし、スタック配置の表面を介して発せられるエネルギによって絶縁体の縁領域において低温が生じるため、中央部の粒成長は絶縁体よりも大きくなる。
【0045】
焼結プロセス中のスタック配置における不均一な温度分布は、好適な電圧をアクチュエータに印加することによっても可能である。これは、結果として生じる電流フローが熱を生じるとともに、スタック配置の表面におけるエネルギ放射によって、それがその核領域よりも低い温度を有するためである。電圧から生じるスタック配置の内部における電場は、さらに、スタックおよび絶縁体における粒成長または粒径分布に好影響を与え得る。
【0046】
加えて、粒成長は、アクチュエータとの導電性接触が存在することなく、上述された意味(セラミック絶縁体における粒径の漸進的な発達)において外部電場によって影響を受け得る。
【0047】
さらに、二段階プロセスにおいては、個々の焼結プロセスにおける異なる処理パラメータに加えて、異なる材料組成または材料特性が用いられてもよい。
【0048】
それぞれの構造において異なる平均粒径を設定するのに寄与し得る出発材料の異なる組成または特性の実現についてのいくつかの例が、以下に説明される。
【0049】
まず、典型的な焼結を伴う平均粒径が膨張>1.1‰を達成するのに十分なほど大きい、セラミック基礎材料のための出発材料を用いることが妥当である。セラミック絶縁体5のために、この材料には、後に続く焼結プロセスにおいてセラミック絶縁体5の構造における粒成長をセラミック基礎材料における構造の粒成長と比較して抑制するために、粒成長抑制剤がドープされてもよい。
【0050】
次に、出発材料はセラミック絶縁体5のために用いられることができ、その平均粒径は、典型的な焼結を伴って、絶縁体のための強度要求を満たすほど十分に小さい。セラミック基礎材料のために、この材料には、後に続く焼結プロセスにおいてセラミック基礎材料の構造における粒成長をセラミック絶縁体5の構造における粒成長と比較して加速させるために、粒成長加速剤がドープされてもよい。
【0051】
さらに、セラミック基礎材料およびセラミック絶縁体5の出発材料の初期粒径は異なっていてもよい。これは、特に細かく挽かれた粉末がセラミック基礎材料と比較してセラミック絶縁体5のために用いられることができ、これは焼結の後であってもセラミック絶縁体5の構造における平均粒径をより小さくすることを意味する。
【0052】
加えて、特にPZT材料の場合、鉛に対する相性が異なるセラミック基礎材料およびセラミック絶縁体5のための出発材料を選択する可能性がある。セラミック絶縁体5のための出発材料よりも鉛に対する相性が高い出発材料がセラミック基礎材料のために選択された場合、セラミック基礎材料は、セラミック絶縁体から、含まれる鉛の一部を除去する。この除去はセラミック絶縁体5における粒成長動力学を遅くする。
【0053】
それぞれの微細構造における平均粒径の所望の差異を設定するために、それぞれ異なる材料組成または材料特性を実現するための上述された選択肢は、単独でまたは組み合わせで用いられ得る。
【0054】
温度または経時的な温度プロファイル、保持時間、環境中の電場、ならびに外部雰囲気、特に酸素含有量および大気圧は、それぞれの焼結プロセスについて設定され得る処理パラメータを実質的に表し、単独でまたは組み合わせで、それぞれの微細構造において異なる平均粒径を実現することに寄与し得る。
【0055】
加えて、それぞれの構造における平均粒径の差は、マイクロ波焼結の使用によっても得ることができる。圧電セラミックの双極子構造によって、マイクロ波焼結の間に構成要素の体積において熱が発達する。熱は構成要素の表面からより冷たい環境、すなわち大気および焼結アセンブリの壁へ放散されるため、表面の、したがってセラミック絶縁体5の焼結温度はセラミック基礎材料の核温度未満となる。この温度差の結果、セラミック絶縁体5における粒成長はより遅く進行する。
【0056】
本方法は、グリーンテープの形態のセラミック絶縁体5の層の適用に制限されない。射出成形、プラズマ溶射、セラミックスラリーにおける浸漬コーティング、溶射によって、またはゾルゲル法によってセラミック絶縁体5の出発材料を適用する可能性もある。プラズマ溶射を除いて、層適用の前述の方法のすべてが、上記に記載されたような一段階焼結プロセスおよび二段階焼結プロセスの両方に使用可能である。プラズマ溶射された層は再び焼結される必要はなく、層が適用されると既にそれらの所望の特性を有し得る。しかしながら、後に続く温度処理は有利であり得る。
【0057】
層適用の上述の方法の各々は、異なる材料組成または材料特性および焼結中の処理パラメータについて既に述べられた選択肢と組み合わせ可能である。さらに、セラミック絶縁体5の1つ以上の層は、述べられた方法のすべてによって実現可能である。
【0058】
セラミック絶縁体5の各層において異なる材料組成または材料特性を選択することによって、またはこれらの層の各々を個々に焼結することによって、セラミック絶縁体5を介して、粒径勾配が設定され得る。さらに、異なる材料組成または材料特性を有する層の層境界における相互作用、特に拡散の結果、これらの層境界において粒径勾配が生じる。このような粒径勾配によって、膨張または引張亀裂が防止される。
【0059】
本発明にしたがう既に分極されたアクチュエータは、定電圧(DC)における静的寿命試験を受けた。同時に、セラミック絶縁体を有する先行技術のアクチュエータが調査された。制御電圧は、アクチュエータが1.47‰の活性領域の膨張を示すように選択された。アクチュエータの平均耐用寿命MTTFは、各試験群についてアクチュエータの故障までの時間に基づいて決定された。決定された値および試験条件は表1から把握することができる。
【0060】
それぞれの製造者の耐用寿命式を用いて、ポリマーコーティングされたアクチュエータについてのMTTFが計算された。
【0061】
一連の試験に基づく外挿法によって、25℃かつ30%の相対湿度における本発明にしたがうアクチュエータのMTTFが決定された。
【0062】
【符号の説明】
【0063】
1 スタック配置
2 電極
3 外部電極
4 接続リード
5 セラミック絶縁体
【国際調査報告】