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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(54)【発明の名称】心臓保護的活性のあるタンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220620BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220620BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220620BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220620BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220620BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20220620BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20220620BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20220620BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220620BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20220620BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220620BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220620BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220620BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220620BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/86 Z
C07K14/47
C07K16/00
C07K19/00
C12P21/02 C
A61K38/16
A61K31/711
A61P9/10
A61P9/12
A61P9/00
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564417
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(85)【翻訳文提出日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 EP2020062156
(87)【国際公開番号】W WO2020221906
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】1906052.4
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500092114
【氏名又は名称】インターナショナル センター フォー ジェネティック エンジニアリング アンド バイオテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャッカ,マウロ
(72)【発明者】
【氏名】ルオッツィ,ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】ボルトロッツィ,フランチェスカ
【テーマコード(参考)】
4B064
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA53
4C084DC50
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA36
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA36
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA23
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
心疾患の処置又はリスク低減における使用のための、Chrdl1、Fam3c、Fam3b及びその断片からなる群から選択されるタンパク質、又はそれをコードするポリヌクレオチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心疾患の処置又はリスク低減における使用のための、Chrdl1、Fam3c、Fam3b及びその断片からなる群から選択されるタンパク質、又はそれをコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
心筋細胞生存能の維持における使用のための、Chrdl1、Fam3c、Fam3b及びその断片からなる群から選択されるタンパク質、又はそれをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記タンパク質が、配列番号1、2又は3に少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載の使用のためのタンパク質又はポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号4、5又は6に少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項1又は2に記載の使用のためのタンパク質又はポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記心疾患が心虚血又は心筋細胞の喪失に関連している、請求項1、3又は4のいずれか一項に記載の使用のためのタンパク質又はポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記心疾患が、心筋梗塞、心筋梗塞の結果、経皮的冠動脈形成の後の再灌流傷害、心筋炎、高血圧、心毒性損傷(特に、化学療法による)、又は心筋症から選択される、請求項1又は3から5のいずれか一項に記載の使用のためのタンパク質又はポリヌクレオチド。
【請求項7】
心臓が心筋梗塞から保護される、心機能が心筋梗塞若しくは経皮的冠動脈形成の後に維持される、又は梗塞の後の線維化が低減される、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのタンパク質又はポリヌクレオチド。
【請求項8】
心不全が予防される、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのタンパク質又はポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記タンパク質がグリコシル化されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのタンパク質。
【請求項10】
前記タンパク質が融合タンパク質、好ましくはFc融合タンパク質である、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のためのタンパク質。
【請求項11】
前記ポリヌクレオチドが、ベクター、任意選択的に、ウイルスベクター、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの形態である、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項1から8又は11のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む、心疾患の処置又はリスク低減における使用のためのベクター。
【請求項13】
前記ベクターがウイルスベクターであり、任意選択的に、前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項12に記載の使用のためのベクター。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか一項に記載のタンパク質並びに薬学的に許容されるビヒクル及び/又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項15】
注射用に製剤化されている、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項12又は13に記載のベクター並びに薬学的に許容されるビヒクル及び/又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項17】
請求項1から13のいずれか一項に記載の使用のための請求項14から16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心疾患の処置又はリスク低減のための、例えば、遺伝子治療という文脈で又は組換え若しくは合成タンパク質などのタンパク質としての投与を通じて、医薬としてのChrdl1、Fam3c及びFam3bの使用に関する。特に、本発明は、心筋細胞生存能を維持することによる、心不全(HF)の発症に対する心臓の保護に関する。この医薬が有効である状態には、心虚血(心筋梗塞及び再灌流傷害)、心毒性損傷及び遺伝的原因の心筋症が含まれるがこれらに限定されない。
【背景技術】
【0002】
心臓血管手術及び治療の最近の進歩にもかかわらず、心血管障害(CVD)は依然として世界中の死亡の約30%を占めており、そのうちのおおよそ50%は虚血性心疾患により、WHOによれば増加傾向にあり2030年までに2300万人を超える(www.who.int/cardiovascular_diseases/en/)。冠動脈疾患及び心筋梗塞は、心不全の主原因(症例の65~70%)に相当する。この状態の予後は依然として悪く、死亡率は診断から4年目で患者の40%と推定される(Owan, T.E.ら、Trends in prevalence and outcome of heart failure with preserved ejection fraction. N Engl J Med 355、251-259 (2006))。HFの流行負担(epidemic burden)の根底にある重要な構成要素は、心筋が成体期においては再生をすることができないことである。虚血、高血圧、感染、炎症又は中毒性損傷の結果としての心外傷は典型的には、心筋細胞(CM)の不可逆的喪失をもたらし、結果として線維化及び瘢痕を伴う(Laflamme, M.A. & Murry, C.E. Heart regeneration. Nature 473、326-335 (2011);Xin, M.、Olson, E.N. & Bassel-Duby, R. Mending broken hearts: cardiac development as a basis for adult heart regeneration and repair. Nat Rev Mol Cell Biol 14、529-541 (2013))。
【0003】
この領域での創薬は1990年代中頃以降効能の点ではわずかであり、利用可能な薬物はすべて小さな化学分子である。駆出率が低減した慢性HFについての現在のESCガイドラインを考慮すると(Ponikowski, P.ら、2016 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure: The Task Force for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure of the European Society of Cardiology (ESC). Eur J Heart Fail 18、891-975 (2016))、すべての患者に推奨される三種の薬物(ACE阻害薬、β-ブロッカー及びミネラルコルチコイド/アルドステロン受容体アンタゴニスト)はすべて1970年代又はそれ以前に臨床診察に導入されている(Gavras, H.、Faxon, D.P.、Berkoben, J.、Brunner, H.R. & Ryan, T.J. Angiotensin converting enzyme inhibition in patients with congestive heart failure. Circulation 58、770-776 (1978);Swedberg, K.、Hjalmarson, A.、Waagstein, F. & Wallentin, I. Prolongation of survival in congestive cardiomyopathy by beta-receptor blockade. Lancet 1、1374-1376 (1979);Goldberger, E. Aldosterone and the Edema of Congestive Heart Failure. Am J Cardiol 15、274 (1965));選択された患者にのみ推奨される薬物のうち、アンジオテンシンII受容体ブロッカー-ARBは1990年代中頃に遡り(Gottlieb, S.S.ら、Hemodynamic and neurohormonal effects of the angiotensin II antagonist losartan in patients with congestive heart failure. Circulation 88、1602-1609 (1993))、より最近のLCZ6969は古いARB(バルサルタン)とネプリライシン阻害薬クラスに属するサクビトリルの組み合わせに基づいており、これらの薬剤も1980年代後半に開発された(Jhund, P.S. & McMurray, J.J. The neprilysin pathway in heart failure: a review and guide on the use of sacubitril/valsartan. Heart 102、1342-1347 (2016))。推奨される最後の薬物、心臓リズムを制御するIfチャネル阻害薬であるイバブラジンも、1990年代中頃に開発された(Thollon, C.ら、Electrophysiological effects of S 16257, a novel sino-atrial node modulator, on rabbit and guinea-pig cardiac preparations: comparison with UL-FS 49. Br J Pharmacol 112、37-42 (1994))。
【0004】
生化学研究により示されたこれらの状態についての候補生体因子(例えば、リラキシン、ナトリウム利尿ペプチド、AVPアンタゴニスト)に関する研究はすべて第三相臨床試験で失敗している(Teerlink, J.R.ら、Serelaxin in addition to standard therapy in acute heart failure: rationale and design of the RELAX-AHF-2 study. Eur J Heart Fail 19、800-809 (2017);O'Connor, C.M.ら、Effect of nesiritide in patients with acute decompensated heart failure. N Engl J Med 365、32-43 (2011);Matsuzaki, M.、Hori, M.、Izumi, T. & Fukunami, M. Efficacy and safety of tolvaptan in heart failure patients with volume overload despite the standard treatment with conventional diuretics: a phase III, randomized, double-blind, placebo-controlled study (QUEST study). Cardiovasc Drugs Ther 25 Suppl 1、S33-45 (2011);Wang, G.ら、Efficacy and Safety of 1-Hour Infusion of Recombinant Human Atrial Natriuretic Peptide in Patients With Acute Decompensated Heart Failure: A Phase III, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Multicenter Trial. Medicine (Baltimore) 95、e2947 (2016))。
【0005】
特に、急性虚血中並びに心筋梗塞の後は心臓を保護するいかなる種類の薬物も処置も存在しない。患者が心筋梗塞になると、心細胞は、冠動脈の閉塞に起因する酸素の突然の欠乏のために次第に死滅する。梗塞の後、最初の数時間で患者に血流改善手術(経皮的冠動脈形成、血管形成)を行う場合、心筋のかなりの部分が温存されるが、それでも多数の心筋細胞が不可逆的に死滅する。血管形成それ自体は、血液灌流を回復させた後に起きる突然酸素の流れにより、さらなる損傷を促進する。成体期においては収縮を起こす心筋細胞が著しい再生をすることができないために、心筋の失われた部分は瘢痕の形成を通じて不可逆的に修復されるが、この瘢痕の形成が長期的には心不全の大きな決定的な要因となる。
【0006】
したがって、心筋細胞の喪失を引き起こす損傷及び結果として生じる心臓の病理学的組織修復直後に心筋細胞を救うことができる薬物、特に内在的生存過程を模倣する生物学的製剤を提供する痛切に感じられる必要性が依然として存在する。特に、この必要性は、心筋梗塞、血管形成後の再灌流傷害、がん化学療法による心毒性損傷、心筋炎、遺伝的及び非遺伝的原因の心筋症を含む、HFを生じるいくつかの状態の処置に関連がある。
【0007】
心筋細胞を死滅から保護することは極めて有効である。なぜならば、それは心筋を温存させ、心臓の完全性及び機能の長期維持を可能にして、HFを生じる心機能の悪化の発生を回避すると考えられるからである。
【0008】
根治的治療法の欠如にもかかわらず、組織変性をもたらす細胞及び分子機序を理解するのに顕著な前進が遂げられてきた。
【0009】
したがって、特に疾患発症及び進行の異なる機序を妨げ、治療機会を提供することができる新規の生物学的治療法の必要性も存在する。
【0010】
1982年の組換えインスリン(ヒューマリン(登録商標))の承認以降、生物工学的薬物の数はこの30年で指数関数的に増えてきた。モノクローナル抗体、酵素、受容体モジュレーター、サブユニットワクチン及びペプチドを考慮すると、優に350を超える生物工学的薬物が現在では臨床承認を得ており、400を超える生物工学的薬物が臨床試験に入っている(Kinch, M.S. An overview of FDA-approved biologics medicines. Drug Discov Today 20、393-398 (2015);Rader, R.A. (Re)defining biopharmaceutical. Nat Biotechnol 26、743-751 (2008))。
【0011】
遺伝子研究では、スクリーニングアプローチを通じていくつかの草分け的な発見が得られている。1980年代に始まって、遺伝子同定は最初、ハイブリダイゼーションによるゲノムDNAライブラリーの選択により、続いてファージライブラリーでの抗体スクリーニングによるcDNAの同定により促進されてきた。1980年代後半に及び1990年代に、培養細胞でのライブラリーの機能的スクリーニングにより、いくつかのがん遺伝子及び動物ウイルスについての細胞受容体が同定された。最も初期のアプローチはプールされたライブラリー(典型的にはcDNAライブラリー)の使用に基づいており、所望の因子が表現型ベースの選択により同定された。2000年代には、ロボット工学の進歩と共に、ライブラリースクリーニングは、アレイ化されたライブラリーの使用に基づいて、次第にハイスループットスクリーニング(HTS)分析のほうに進んでいった。HTSは、cDNAライブラリーの使用だけでなく、ペプチド、核酸(Eulalio, A.ら、Functional screening identifies miRNAs inducing cardiac regeneration. Nature 492、376-381 (2012))及び小分子のライブラリーの使用にも道を開いた。今日では、遺伝子導入の進歩のおかげで、この分野はさらに一歩前に進み、すなわち、動物において直接ライブラリーをスクリーニングし、したがって、インビトロでの生化学的又は表現型的選択からインビボでの真の機能的選択へと進むことが可能である。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、心臓保護効果のある因子を同定するため、所望の機能を発揮する因子のインビボ機能的選択(FunSel)に基づく独特な手順を利用してきた。本発明者らの手順は、AAVベクターのライブラリーの使用に基づいており、このベクターは高度に効率的な心臓遺伝子導入のための精巧なツールである。
【0013】
注目すべきことに、FunSelによる因子同定は、選択された因子が、正常な生理機能中所与の組織において役割を果たすことを必要とせず、したがって、潜在的な治療タンパク質の範囲をゲノムによりコードされるすべての分泌された因子まで広げる。
【0014】
驚くべきことに、3つの因子Chrdl1(コーディン様タンパク質1)、Fam3c及びFam3bは、全く異なる生物活性を発揮するが、共通して心臓保護効果を共有することを本発明者らは見出した。
【0015】
3つの新規の心臓保護タンパク質Chrdl1、Fam3c及びFam3bは、マウスとヒトの間で高度に相同である(それぞれ93%、94%及び79%)。
【0016】
これら3つの因子は、虚血、及び化学療法薬を用いた処置を含む、他の種類の損傷により誘導される心細胞死から保護する。
【0017】
したがって、本発明は、医薬としての使用のための因子Chrdl1、Fam3c及びFam3bに関する。
【0018】
ある態様では、本発明は、心疾患の処置又はリスク低減における使用のための、Chrdl1、Fam3c、Fam3b及びその断片からなる群から選択されるタンパク質、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、心疾患の処置又はリスク低減における使用のための、Chrdl1又はその断片、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。別の態様では、本発明は、心疾患の処置又はリスク低減における使用のための、Fam3c又はその断片、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。別の態様では、本発明は、心疾患の処置又はリスク低減における使用のための、Fam3b又はその断片、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0020】
ある態様では、本発明は、心疾患の処置又はリスク低減の方法であって、Chrdl1、Fam3c、Fam3b及びその断片からなる群から選択されるタンパク質、又はそれをコードするポリヌクレオチドを、それを必要とする被験体に投与することを含む方法を提供する。
【0021】
いくつかの実施形態では、その使用は、心不全のリスクを低減する。いくつかの実施形態では、心疾患に罹患している被験体において、心不全のリスクが低減される。いくつかの実施形態では、心疾患のリスクのある被験体において、心不全のリスクが低減される。
【0022】
ある態様では、本発明は、心不全のリスク低減における使用のための、Chrdl1、Fam3c、Fam3b及びその断片からなる群から選択されるタンパク質、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0023】
別の態様では、本発明は、心不全のリスク低減における使用のための、Chrdl1又はその断片、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。別の態様では、本発明は、心不全のリスク低減における使用のための、Fam3c又はその断片、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。別の態様では、本発明は、心不全のリスク低減における使用のための、Fam3b又はその断片、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、心不全のリスク低減の方法であって、Chrdl1、Fam3c、Fam3b及びその断片からなる群から選択されるタンパク質、又はそれをコードするポリヌクレオチドを、それを必要とする被験体に投与することを含む方法を提供する。
【0025】
いくつかの実施形態では、心疾患に罹患している被験体において、心不全のリスクが低減される。いくつかの実施形態では、心疾患のリスクのある被験体において、心不全のリスクが低減される。
【0026】
別の態様では、本発明は、心筋細胞生存能の維持における使用のための、Chrdl1、Fam3c、Fam3b及びその断片からなる群から選択されるタンパク質、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0027】
別の態様では、本発明は、心筋細胞生存能の維持における使用のための、Chrdl1又はその断片、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。別の態様では、本発明は、心筋細胞生存能の維持における使用のための、Fam3c又はその断片、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。別の態様では、本発明は、心筋細胞生存能の維持における使用のための、Fam3b又はその断片、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0028】
別の態様では、本発明は、心筋細胞生存能を維持する方法であって、Chrdl1、Fam3c、Fam3b及びその断片からなる群から選択されるタンパク質、又はそれをコードするポリヌクレオチドを、それを必要とする被験体に投与することを含む方法を提供する。
【0029】
いくつかの実施形態では、心疾患に罹患している被験体において、心筋細胞生存能が維持される。いくつかの実施形態では、心疾患のリスクのある被験体において、心筋細胞生存能が維持される。
【0030】
Chrdl1のアミノ酸配列の1例は、配列番号1である。Chrdl1のヌクレオチド配列の1例は、配列番号4である。
【0031】
Fam3cのアミノ酸配列の1例は、配列番号2である。Fam3cのヌクレオチド配列の1例は、配列番号5である。
【0032】
Fam3bのアミノ酸配列の1例は、配列番号3である。Fam3bのヌクレオチド配列の1例は、配列番号6である。
【0033】
いくつかの実施形態では、タンパク質が、配列番号1に少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、タンパク質が、配列番号2に少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、タンパク質が、配列番号3に少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、タンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、タンパク質が、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、タンパク質が、配列番号3のアミノ酸配列を含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドが、配列番号4に少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドが、配列番号5に少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドが、配列番号6に少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドが、配列番号4のヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドが、配列番号5のヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドが、配列番号6のヌクレオチド配列を含む。
【0037】
心疾患は、例えば、心筋梗塞、経皮的冠動脈形成(冠動脈血管形成術(coronary angioplasty))の後の再灌流傷害、高血圧、心毒性損傷(特に、がん化学療法による)、心筋炎、遺伝的及び非遺伝的原因の心筋症の結果としての心筋細胞の喪失によるものであり得る。
【0038】
いくつかの実施形態では、心疾患は心虚血に関連している。いくつかの実施形態では、心疾患は心筋細胞の喪失に関連している。
【0039】
いくつかの実施形態では、心疾患は、心筋梗塞、心筋梗塞の結果、経皮的冠動脈形成(冠動脈血管形成術)の後の再灌流傷害、心筋炎、高血圧、心毒性損傷(特に、がん化学療法による)、又は心筋症から選択される。
【0040】
いくつかの実施形態では、心疾患は心室機能不全である。
【0041】
いくつかの実施形態では、心臓が心筋梗塞から保護される。いくつかの実施形態では、心機能は、心筋梗塞若しくは経皮的冠動脈形成(冠動脈血管形成術)の後に維持される。いくつかの実施形態では、梗塞の後の線維化が低減される。
【0042】
いくつかの実施形態では、タンパク質又はポリヌクレオチドは、結果として、心筋梗塞及び/又は心筋細胞の喪失を生じる他の状態から心臓を保護し、好ましくは、心機能を維持し、修復性線維症(reparative fibrosis)を低減させる。
【0043】
いくつかの実施形態では、心不全が予防される。
【0044】
いくつかの実施形態では、タンパク質は直接的なタンパク質送達により投与される。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは遺伝子治療において使用される。
【0045】
いくつかの実施形態では、タンパク質は組換えタンパク質である。
【0046】
いくつかの実施形態では、タンパク質は、細菌の、酵母の、又は哺乳動物の細胞培養物から得られる。いくつかの実施形態では、タンパク質は、大腸菌(E. coli)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)又はチャイニーズハムスター卵巣細胞から得られる。
【0047】
いくつかの実施形態では、タンパク質はグリコシル化されている。
【0048】
いくつかの実施形態では、タンパク質は融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、タンパク質はFc融合タンパク質である。
【0049】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドはベクターの形態である。
【0050】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドはウイルスベクターの形態である。
【0051】
いくつかの実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はアデノウイルスベクターである。好適な実施形態では、ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0052】
いくつかの実施形態では、ベクターはAAV2ベクターである。
【0053】
いくつかの実施形態では、ベクターはAAV9ベクターである。
【0054】
いくつかの実施形態では、ベクターはAAV8ベクターである。
【0055】
別の態様では、本発明は、本明細書に開示されるポリヌクレオチドを含む、心疾患の処置又はリスク低減における使用のためのベクターを提供する。別の態様では、本発明は、本明細書に開示されるポリヌクレオチドを含む、心不全のリスク低減における使用のためのベクターを提供する。別の態様では、本発明は、本明細書に開示されるポリヌクレオチドを含む、心筋細胞生存能の維持における使用のためのベクターを提供する。
【0056】
いくつかの実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。
【0057】
いくつかの実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はアデノウイルスベクターである。好適な実施形態では、ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0058】
いくつかの実施形態では、ベクターはAAV2ベクターである。
【0059】
いくつかの実施形態では、ベクターはAAV9ベクターである。
【0060】
いくつかの実施形態では、ベクターはAAV8ベクターである。
【0061】
いくつかの実施形態では、タンパク質は非経口的に投与される。いくつかの実施形態では、タンパク質は心筋内に投与される。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは非経口的に投与される。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは心筋内に投与される。
【0062】
別の態様では、本発明は、本明細書に開示されるタンパク質並びに薬学的に許容されるビヒクル及び/又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0063】
別の態様では、本発明は、本明細書に開示されるベクター並びに薬学的に許容されるビヒクル及び/又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0064】
いくつかの実施形態では、組成物は注射用に製剤化されている。好適な実施形態では、組成物は心筋内注射用又は静脈注射用に製剤化されている。
【0065】
別の態様では、本発明は、心疾患の処置又はリスク低減における使用のための本明細書に開示される医薬組成物を提供する。別の態様では、本発明は、心不全のリスク低減における使用のための本明細書に開示される医薬組成物を提供する。別の態様では、本発明は、心筋細胞生存能の維持における使用のための本明細書に開示される医薬組成物を提供する。
【0066】
別の態様では、本発明は、医薬として使用するためのChrdl1、Fam3c、Fam3b及びその断片からなる群から選択されるタンパク質、又はそれをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1A-B】FunSel、心筋梗塞(MI)用の新規の心臓治療薬を同定するためのインビボ選択手順。A:セレクトームライブラリー作成のために使用されるpGiベクタープラスミドの配置図。B:心筋梗塞(MI)の後の心臓作用性因子を同定するための機能的選択(FunSel)手順の概要。手短に言えば、50のベクターのプールを使用して心臓左室に形質導入し、それぞれのベクターは異なる心筋細胞に入る。次に、MIが誘導され、これにより心筋細胞の大半は死滅するが、心臓保護因子を発現する心筋細胞は死滅しない。3週間後、PCR増幅により心臓からバーコードDNAを回収し、次世代シーケンシング(NGS)によりベクターの頻度を決定する。次に、梗塞あり又はなしでのベクターのシーケンシングリードの数を比較し、濃縮された因子は心臓保護活性を発揮する因子である。
図1C-D】FunSel、心筋梗塞(MI)用の新規の心臓治療薬を同定するためのインビボ選択手順。C:24のAAV9プールにまとめられ、それぞれのプールが同様のサイズの50のインサートで構成された、ライブラリーの1198のAAVベクターのインビボ競合的スクリーニングから得た累積的結果。梗塞の後に心臓から回収したそれぞれの因子の頻度(n=MI群ではプールあたり9マウス)は、AAVプール注射の3週間後にNGSバーコード定量化により検出した場合、選択性の処置(selective treatment)なしでの同じ因子の頻度(n=対照群ではプールあたり6マウス)との比として報告する。D:第1巡目の選択で濃縮された上位200の因子のインビボスクリーニングから得た累積的結果。この追加巡目の選択から、これまで心機能とは関連がなかった3つの因子、すなわち、Chrdl1、Fam3c及びFam3bをさらなる個別研究のために選択した。濃縮の倍数は未損傷心臓に対するZスコアとして表される(0=選択なし)(Z>1.96又はZ<-1.96;p<0.05)。
図2A-B】心筋梗塞のマウスモデルにおけるChrdl1、Fam3c及びFam3bの過剰発現。AAV2/9-Chrdl1、AAV2/9-Fam3c、AAV2/9-Fam3b又はAAV2/9-対照を形質導入された成体CD1マウス(1×1011vg/動物;n=群あたり8匹の動物)でのMIの15、30及び60日後の心臓機能を評価する心エコー分析。AAV9ベクターにより媒介される3つの分泌される因子の心臓過剰発現は、AAV2/9-対照動物と比べた場合、左心室駆出率(LVEF)を維持し(A)、心拡張(Vd-拡張期での左心室容積)を低減する(B)。
図2C-D】心筋梗塞のマウスモデルにおけるChrdl1、Fam3c及びFam3bの過剰発現。C:MIの2カ月後、マウスは、組織学的分析のために屠殺され、マッソン・トリクローム染色の後に瘢痕サイズを定量化した(梗塞サイズは左心室の%として表される)。3つの因子を用いた心臓処置により瘢痕サイズは著しく低減した。D:MIの60日後のAAV2/9-Chrdl1、AAV2/9-Fam3c、AAV2/9-Fam3b又はAAV2/9-対照処置マウスにおける心臓切片のコムギ胚芽凝集素(WGA)染色後のCM断面積の測定。3つの因子を用いた処置によりMIの後の心筋細胞肥大は相殺され、心機能の改善を示していた。データは平均±SEMとして示される;*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。
図3】Chrdl1、Fam3c及びFam3bは病理学的LV組織修復と関連がある遺伝子発現のパターンを相殺する。非梗塞動物における及びMIの60日後のAAV2/9-対照又はAAV2/9-Chrdl1、AAV2/9-Fam3若しくはAAV2/9-Fam3b処置をした心臓におけるα-MHC(A)、β-MHC(B)、SERCA2a(C)及びRYR2(D)遺伝子の心臓発現レベルのリアルタイムPCR定量化。値はGAPDHに対して正規化し、未処置に対する倍数として表す(n=6)。3つの因子のそれぞれは病理学的LV修復に対して心臓を維持するのに効果的であった。Untr:未処置対照、Ctr:MIのある対照。データは平均±SEMとして示される;*P<0.05;**P<0.01。
図4】Chrdl1、Fam3c及びFam3bのAAV媒介心臓過剰発現は、MIの後に細胞死を低減し有益なオートファジーを促進する。A:梗塞境界域におけるTUNEL陽性核の評価(全体の%)によるアポトーシスの定量化。動物は、MIの後にChrdl1、Fam3c又はFam3bを発現するAAV2/9ベクターで形質導入した。アポトーシス細胞のTUNEL染色は凍結心臓切片上で2日後に実施した(n=群あたり5)。アポトーシス死に対して心筋細胞を保護するのに3つの因子すべてが効果的であった。いかなるタンパク質も発現しないAAV2/9ベクターはこれらの実験では対照として使用した。B~C:オートファジーの誘導は、MIの2日後に採取した形質導入された心臓の左室においてLC3タンパク質脂質付加(LC3-IからLC3-IIへの変換)を分析することにより評価した。代表的なウェスタンブロット(B)及び濃度測定分析。AAV2/9-Chrdl1とAAV2/9-Fam3cの両方がオートファジーを誘導できた(C)。D:オートファジーフラックス(autophagic flux)をインビボで分析するため、成体CD1マウスに、Chrdl1、Fam3c、Fam3bを発現するAAV2/9又はAAV2/9対照と一緒にAAV2/9-mRFP-EGFP-LC3で形質導入した(n=群あたり5)。オートファゴソーム(黄色)及びオートリソソーム(赤色)は、黄色及び赤色LC3+ドットを数えることによりMIの2日後に凍結心臓切片上で定量化した。AAV2/9-Chrdl1とAAV2/9-Fam3cの両方がオートファジーフラックスをインビボで著しく増加させた。データは平均±SEMである;*P<0.05;**P<0.01。
図5A-C】心筋梗塞の後の循環Chrdl1、Fam3c及びFam3bの治療効果。A:組換えタンパク質の全身投与を模倣するために肝臓から循環中に放出された因子の治療効果を評価する戦略の概要。肝細胞特異的ヒトα-1アンチトリプシン(hAAT)プロモーターの制御下でChrdl1、Fam3c及びFam3bを発現するAAV2/8ベクターを、直接実質内接種を経て肝臓中に注射し(n=7;肝臓あたり3注射部位で総量5×1011vg/動物);7日後、動物は冠動脈結紮によりMIを受けた。B:AAV2/8実質内送達から7日目、循環Chrdl1、Fam3c及びFam3bタンパク質はウェスタンブロッティングにより動物血清で検出された。C:MIの15、30及び60日後、循環Chrdl1、Fam3c及びFam3bは左心室駆出率(EF)を維持し(C)、心拡張を低減した(拡張期容積として測定した、μL)(D)。
図5D-E】心筋梗塞の後の循環Chrdl1、Fam3c及びFam3bの治療効果。D:MIの15、30及び60日後、循環Chrdl1、Fam3c及びFam3bは左心室駆出率(EF)を維持し(C)、心拡張を低減した(拡張期容積として測定した、μL)(D)。E:瘢痕サイズは、マッソン・トリクローム染色によりLVの%として測定した。3つの因子すべてが、梗塞サイズを低減した。データは平均±SEMとして示される;*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。
図6】組換えChrdl1、Fam3c及びFam3bは、ドキソルビシン誘導性の細胞死に対して心筋細胞を保護する。ラット心筋細胞は、指示された用量のドキソルビシンで処置し、次に、100ng/mLの指示された因子を投与した。20時間後、アポトーシスは、カスパーゼ3/7活性化のレベルを評価することにより測定した。3つの組換えタンパク質すべてが細胞を保護した。データは平均±SEMとして示される;*P<0.05;**P<0.01。
図7A-C】心筋損傷の後の線維芽細胞活性化及び心臓線維化を予防する上でのChrdl1の効果。A:線維化促進筋線維芽細胞への初代成熟線維芽細胞のTgfβ1誘導性の転換に対するChrdl1の効果を評価するための実験概要。B:成熟線維芽細胞は、組換えChrdl1(100ng/mL)の存在下又は非存在下で漸増投与量のTgfβ1(1-10-50ng/mL)で処置した。処置の3日後、Col1a1及びα-Smaレベルを免疫蛍光により評価した。C:MIにより誘導される線維化応答へのChrdl1の調節(modulate)は、トランスジェニックCollα1(I)-EGFPマウスにおいてインビボで確かめた。AAV2/9-Chrdl1過剰発現している心臓は、線維化瘢痕の並びにCol1a1及びα-Sma活性化のレベルの低減を示した。
図7D】心筋損傷の後の線維芽細胞活性化及び心臓線維化を予防する上でのChrdl1の効果。D:MIの3日後のCD1マウスの心臓組織におけるqPCRによるCol1a1、α-Sma、Tgfβ1及びMMP9の転写レベルの定量化。まとめると、これらの結果は、Chrdl1がMIの後に抗線維化効果を発揮することを示している。データは平均±SEMとして示される;*P<0.05;**P<0.01。
図8】Chrdl1、Fam3c及びFam3bの発現はマウスをドキソルビシン誘導性の心毒性及び死亡から保護する。CD1マウス(n=8)に3つのタンパク質(Chrdl1、Fam3c又はFam3b)を発現するAAV9ベクターを心筋内に注射し、続いて輸液ポンプを使用して80日間ドキソルビシンで処置した。A:薬物誘導性の死亡に対するChrdl1、Fam3c及びFam3bの強い保護活性を示すカプラン・マイヤー生存曲線。B及びC:それぞれ、処置中の異なる時間での、左心室(LV)駆出率及び収縮末期内径、LVEF及びLVID。データは、3つの因子のいずれを用いても処置の著しい心臓保護効果を示している。データは平均±SEMとして示される;*P<0.05;**P<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0068】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「構成される(comprised of)」は、「含む(including)」若しくは「含む(includes)」;又は「含有する(containing)」若しくは「含有する(contains)」と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、追加の列挙されていないメンバー、要素又はステップを排除しない。用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「構成される(comprised of)」は用語「からなる(consisting of)」も含む。
【0069】
タンパク質
Chrdl1は骨形成タンパク質(BMP)細胞外阻害薬であり、主に間充織由来細胞型、網膜の周皮細胞において及び神経系細胞において発現される(Sakuta, H.ら、Ventroptin: a BMP-4 antagonist expressed in a double-gradient pattern in the retina. Science 293、111-115 (2001);Nakayama, N.ら、A novel chordin-like protein inhibitor for bone morphogenetic proteins expressed preferentially in mesenchymal cell lineages. Dev Biol 232、372-387 (2001);Chandra, A.ら、Neurogenesin-1 differentially inhibits the osteoblastic differentiation by bone morphogenetic proteins in C2C12 cells. Biochem Biophys Res Commun 344、786-791 (2006);Coffinier, C.、Tran, U.、Larrain, J. & De Robertis, E.M. Neuralin-1 is a novel Chordin-related molecule expressed in the mouse neural plate. Mech Dev 100、119-122 (2001))。
【0070】
Chrdl1の名称は、アフリカツメガエル(Xenopus)胚を背側化する因子として同定された別のBMP阻害薬であるコーディンとの配列類似性に由来する。Chrdl1はコーディンとは異なる時間と空間の発現パターンを有するが、両方の遺伝子ともプロコラーゲンリピートと呼ばれるシステインリッチなユニット(CR)を含有し、このリピートは種々の細胞外マトリックスタンパク質にも存在している。CR1及びCR3はChrdl1-BMP結合の原因である。このタンパク質はBMP4に高い親和性で結合し、BMP5、BMP6及びBMP7に結合する親和性は低い。
【0071】
Fam3b及びFam3cは配列類似性保有ファミリー3(the family with sequence similarity 3)、FAM3の2つのメンバーである(Zhu, Y.ら、Cloning, expression, and initial characterization of a novel cytokine-like gene family. Genomics 80, 144-150 (2002))。Fam3bは、PANDERとしても知られ、膵臓において高度に発現され、そこでは、Fam3bはグルコース恒常性及びβ-細胞機能の調節に関与している(Robert-Cooperman, C.E., Wilson, C.G. & Burkhardt, B.R. PANDER KO mice on high-fat diet are glucose intolerant yet resistant to fasting hyperglycemia and hyperinsulinemia. FEBS Lett 585、1345-1349 (2011);Robert-Cooperman, C.E.ら、Targeted disruption of pancreatic-derived factor (PANDER, FAM3B) impairs pancreatic beta-cell function. Diabetes 59、2209-2218 (2010);Yang, J.ら、Mechanisms of glucose-induced secretion of pancreatic-derived factor (PANDER or FAM3B) in pancreatic beta-cells. Diabetes 54、3217-3228 (2005))。
【0072】
Fam3cは、ILEIとしても知られ、遍在的に発現される。Fam3cは、内耳細胞増殖を誘導し(Pilipenko, V.V.、Reece, A.、Choo, D.I. & Greinwald, J.H., Jr. Genomic organization and expression analysis of the murine Fam3c gene. Gene 335、159-168 (2004))、骨分化を調節し(Bendre, A.、Buki, K.G. & Maatta, J.A. Fam3c modulates osteogenic differentiation by down-regulating Runx2. Differentiation 93、50-57 (2017))、がん進行中の上皮間充織転換(EMT)に役割を有する(Waerner, T.ら、ILEI: a cytokine essential for EMT, tumor formation, and late events in metastasis in epithelial cells. Cancer Cell 10、227-239 (2006);Lahsnig, C.らILEI requires oncogenic Ras for EMT of hepatocytes and liver carcinoma progression. Oncogene 28、638-650(2009))。肥満した糖尿病マウスの肝臓におけるFam3cのレベルが回復するとインスリン抵抗性が改善され、脂肪肝が低減する(Chen, Z.ら、Hepatic Activation of the FAM3C-HSF1-CaM Pathway Attenuates Hyperglycemia of Obese Diabetic Mice. Diabetes 66、1185-1197 (2017);Chen, Z.ら、FAM3C activates HSF1 to suppress hepatic gluconeogenesis and attenuate hyperglycemia of type 1 diabetic mice. Oncotarget 8、106038-106049 (2017))。
【0073】
Chrdl1のアミノ酸配列の1例は配列番号1(ヒト)-UniProt ID:Q9BU40-1である。
(配列番号1)
【0074】
Fam3cのアミノ酸配列の1例は配列番号2(ヒト)-UniProt ID:Q92520-1である。
(配列番号2)
【0075】
Fam3bのアミノ酸配列の1例は配列番号3(ヒト)-UniProt ID:P58499-1である。
(配列番号3)
【0076】
Chrdl1(ヒト)をコードするヌクレオチド配列の1例は配列番号4(Chrdl1)-Seq ID:NM_001143981.1(コード配列)である。
(配列番号4)
【0077】
Fam3cをコードするヌクレオチド配列の1例は配列番号5(Fam3c)-Seq ID:NM_014888.3(コード配列)である。
(配列番号5)
【0078】
Fam3bをコードする例となるヌクレオチド配列の1例は配列番号6(Fam3b)-Seq ID:NM_058186.3(コード配列)である。
(配列番号6)
【0079】
上記のタンパク質をコードするいかなる他のポリヌクレオチドも本発明に含まれる。
【0080】
本開示のタンパク質及びその断片の活性は当業者であれば容易に決定することができる。例えば、適切なインビトロアッセイは:(a)例えば、TUNELアッセイ若しくはカスパーゼ活性化アッセイを使用した、過酸化水素誘導性の細胞死若しくはドキソルビシン誘導性の細胞死からの保護;(b)オートファジーの誘導、例えば、LC3陽性オートファジー小胞の形成をアッセイする;並びに/又は(c)Chrdl1では:BMP及びTGFβ活性の低減、例えば、組換えTGFβを用いた処置における心臓線維芽細胞でのαSMA発現の活性化、若しくは組換えBMP4を用いた処置におけるSMAD1/5/8リン酸化の低減を含む。
【0081】
本発明者らは、驚くべきことに、心筋細胞生存の促進でのChrdl1、Fam3c及びFam3bのこれまで知られていなかった役割を発見しており、このことは、虚血及び他の形態の心臓障害を相殺し、したがって、心不全を予防するその治療活性を示している。
【0082】
本発明によれば、Chrdl1、Fam3c及びFam3bは、これらの因子を発現するウイルスベクターの心臓内注射の後、心臓機能を効果的に高め、梗塞サイズを低減する。
【0083】
本発明者らは、理論又は作用機序に縛られたくはないが、タンパク質Chrdl1、Fam3c及びFam3bは、心筋細胞アポトーシスを予防し心筋細胞オートファジーを誘導することにより心臓において治療効果を発揮すると考えられる。総合すると、これは、心機能の予防、線維化及び左心室病理学的組織修復の低減並びに病理学的心臓組織修復と関連する遺伝子の有益な発現パターンの誘導、例えば、Serca2a(筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ2a)及びRYR2(リアノジン受容体2)の増加並びにα-ミオシン重鎖(αMHC)とβ-ミオシン重鎖(βMHC)比の維持をもたらす。
【0084】
Chrdl1、Fam3c及びFam3bが虚血心に対して心臓保護効果を発揮する機序は、例えば、因子を発現するウイルスベクターの心臓内注射の後における、アポトーシス細胞死を予防することによる筋細胞生存能の維持である。
【0085】
Chrdl1及びFam3cは、心筋梗塞後の心筋細胞の細胞死を相殺する有益なオートファジーを促進する可能性がある。
【0086】
Chrdl1、Fam3c及びFam3bは、ドキソルビシン処置後のアポトーシス細胞死を予防することにより筋細胞生存能を維持する可能性がある。
【0087】
Chrdl1の追加の正の効果は、心臓線維芽細胞活性化及び心臓線維化を予防することである。
【0088】
心臓は、成体期においては著しい再生をすることができない器官であり、したがって、心筋細胞の完全性は、ミトコンドリアを含む特定の細胞内成分の再生を可能にする機序であるオートファジーにより維持される。この機序は心筋梗塞の後に特に関連が深い。なぜならば、突然の虚血又は虚血とそれに続く経皮的血管再生後の再灌流はミトコンドリアに著しい損傷を与え、ミトコンドリアは酸素を使用して損傷を与える化学種を生成し始めるからである(Yellon, DM.、Hausenloy DJ. Myocardial reperfusion injury. N. Engl. J. Med. 357、1121-1135 (2007);Gustafsson AB.、Gottlieb RA. Circ. Res. 104(2)、150-158 (2009))。したがって、オートファジーとアポトーシスは高度に相互接続しており、前者の機序は、アポトーシス細胞死を回避する保護的応答として損傷を受けた細胞小器官を取り除くために、発作後に活性化される。
【0089】
したがって、Chrdl1、Fam3c及びFam3bは、心臓保護のために使用され、こうして心疾患又は心不全のリスクを低減し得る。心臓保護は、心筋細胞生存能を維持することによるものでもよい。
【0090】
タンパク質送達
ポリヌクレオチドの送達の代替案として、本発明のタンパク質は直接的なタンパク質送達により送達してもよい。
【0091】
タンパク質は被験体に直接投与してもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質は融合タンパク質、好ましくは、被験体中においてタンパク質の寿命を増やすことができる第2のタンパク質との融合物である。例えば、タンパク質は、免疫グロブリンFcドメイン融合タンパク質でもよい。
【0092】
タンパク質送達は、ベクター送達によるものでもよい(Cai, Y.ら、(2014) Elife 3: e01911;Maetzig, T.ら、(2012) Curr. Gene Ther. 12: 389-409)。ベクター送達は、細胞に送達されるタンパク質を含むようにウイルス粒子(例えば、レンチウイルス粒子)を操作することを含む。したがって、操作されたウイルス粒子がその天然の生活環の一部として細胞に入ると、粒子に含まれるタンパク質は細胞内に運ばれる。
【0093】
タンパク質送達(Gaj, T.ら、(2012) Nat. Methods 9: 805-7)は、例えば、ビヒクル(例えば、リポソーム)を利用することにより達成してもよい。
【0094】
ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドはDNA又はRNA、好ましくはDNAを含んでもよい。本発明のポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖でもよい。数多くの異なるポリヌクレオチドが、遺伝コードの縮重の結果として同じポリペプチドをコードできることは当業者であれば理解する。さらに、当業者であれば、常用の技法を使用して、本発明のポリペプチドが発現されることになる任意の特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映するように、本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド配列に影響を与えないヌクレオチド置換を行ってもよいことは理解されるべきである。
【0095】
本明細書で開示される本発明のヌクレオチド配列は、例えば、バイシストロニックベクター中でのその位置に応じて、その3'末端に終止コドンを含んでも又は欠いてもよい。したがって、本開示は、終止コドンが存在する又は存在しない本明細書で開示される配列番号を包含する。
【0096】
ポリヌクレオチドは当技術分野で利用可能であるいかなる方法によってでも改変してよい。そのような改変を、本発明のポリヌクレオチドのインビボ活性又は寿命を増強するために実行してもよい。
【0097】
ポリヌクレオチド、例えばDNAポリヌクレオチドは、組換え的に、合成的に、又は当業者であれば利用可能ないかなる手段によっても作製し得る。ポリヌクレオチドは標準技法によりクローニングしてもよい。
【0098】
より長いポリヌクレオチドは、一般的には、組換え手段を使用して、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング技法を使用して作製される。これは、クローニングするのが望ましい標的配列に隣接している一対のプライマー(例えば、約15~30ヌクレオチドの)を作製し、プライマーを動物細胞又はヒト細胞から得たmRNA又はcDNAに接触させ、所望の領域の増幅を引き起こす条件下でポリメラーゼ連鎖反応を実施し、増幅された断片を単離し(例えば、アガロースゲルを用いて反応混合物を精製することにより)、増幅されたDNAを回収することを含む。プライマーは、増幅されたDNAを適切なベクター中にクローニングできるように、適切な制限酵素認識部位を含有するように設計し得る。
【0099】
ベクター
ベクターは、1つの環境から別の環境への物質の導入を可能にする又は促進するツールである。
【0100】
ある態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。好ましい実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はアデノウイルスベクター、好ましくはAAVベクターである。
【0101】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
ある態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むAAVベクターを提供する。
【0102】
好ましくは、前記AAVベクターはAAVベクター粒子の形態である。
【0103】
いくつかの実施形態では、AAVベクター粒子はAAV2ゲノムを含む。いくつかの実施形態では、AAVベクター粒子はAAV9ゲノムを含む。いくつかの実施形態では、AAVベクター粒子はAAV8ゲノムを含む。
【0104】
いくつかの実施形態では、AAVベクター粒子はAAV9キャプシドタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、AAVベクター粒子はAAV8キャプシドタンパク質を含む。
【0105】
いくつかの実施形態では、AAVベクター粒子はAAV2ゲノム及びAAV9キャプシドタンパク質を含む(AAV2/9)。他の実施形態では、AAVベクター粒子はAAV2ゲノム及びAAV8キャプシドタンパク質を含む(AAV2/8)。
【0106】
ウイルスベクター及びウイルスベクター粒子、例えばAAV由来のものを調製及び改変する方法は、当分野で周知である。
【0107】
前記AAVベクターは、AAVゲノム又はその断片若しくは誘導体を含んでいてもよい。
【0108】
AAVは、5.2kbまでのサイズのゲノムをパッケージング可能であることが公知である(Dong, J.Y. et al. (1996) Human Gene Therapy 7: 2101-2112)。
【0109】
AAVゲノムはポリヌクレオチド配列であり、前記配列はAAV粒子の生成に必要とされる機能をコードし得る。これらの機能としては、宿主細胞におけるAAVの複製及びパッケージングサイクルにおいて作動する機能、例えばAAV粒子へのAAVゲノムのキャプシド形成が挙げられる。天然に存在するAAVは複製欠損性であり、複製及びパッケージングサイクルの完了に関してはトランスのヘルパー機能の供給に依存している。したがって、本発明のAAVベクターのAAVゲノムは典型的には複製欠損性である。
【0110】
前記AAVゲノムは、ポジティブセンス又はネガティブセンスのいずれかの一本鎖形態であっても、あるいは二本鎖形態であってもよい。二本鎖形態の使用により、標的細胞におけるDNA複製段階の迂回が可能となり、そのため導入遺伝子の発現を促進することができる。
【0111】
前記AAVゲノムは、AAVの任意の天然由来の血清型、単離物(isolate)又はクレードから得たものであってもよい。したがって、前記AAVゲノムは、天然に存在するAAVの全ゲノムであってもよい。当業者には公知であるように、天然に存在するAAVは、様々な生物学的システムに応じて分類することができる。
【0112】
一般に、AAVはそれらの血清型の点から言及される。血清型はAAVの変異体亜種に対応しており、前記変異体亜種は、そのキャプシド表面抗原の発現プロファイルにより、他の変異体亜種と区別するために利用できる特有の反応性を有する。典型的には、特定のAAV血清型を有するウイルスは、任意の他のAAV血清型に特異的な中和抗体とは効率的に交差反応しない。
【0113】
AAV血清型にはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10及びAAV11が含まれ、また組換え血清型、例えば、霊長類の脳から近年同定されたRec2及びRec3も含まれる。これらのAAV血清型はいずれも本発明に使用することができる。
【0114】
いくつかの実施形態では、前記AAVベクター粒子はAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、Rec2又はRec3 AAVベクター粒子である。
【0115】
いくつかの実施形態では、前記AAVは、AAV1、AAV2、AAV5、AAV7、AAV8又はAAV9血清型であってもよい。
【0116】
いくつかの実施形態では、前記AAVは、AAV9又はAAV8血清型であってもよい。
【0117】
いくつかの実施形態では、前記AAVはAAV9血清型である。他の実施形態では、前記AAVはAAV8血清型である。
【0118】
前記キャプシドタンパク質は、WO 2008/124724(参照により本明細書中に組み込まれるものとする)に開示されているような変異体キャプシドタンパク質であってもよい。
【0119】
いくつかの実施形態では、前記AAVベクターは、Y733F変異を有するAAV8キャプシドを含む。
【0120】
AAV血清型の概説は、Choiら (2005) Curr. Gene Ther. 5:299-310 及びWuら (2006) Molecular Therapy 14:316-27中に見出すことができる。本発明に使用するためのAAVゲノム、又はITR配列、rep若しくはcap遺伝子を含むAAVゲノムの要素の配列は、AAV全ゲノム配列に関する次のアクセッション番号:アデノ随伴ウイルス1 NC_002077、AF063497;アデノ随伴ウイルス2 NC_001401;アデノ随伴ウイルス3 NC_001729;アデノ随伴ウイルス3B NC_001863;アデノ随伴ウイルス4 NC_001829;アデノ随伴ウイルス5 Y18065、AF085716;アデノ随伴ウイルス6 NC_001862;トリAAV ATCC VR-865 AY186198、AY629583、NC_004828;トリAAV株DA-1 NC_006263、AY629583;ウシAAV NC_005889、AY388617に由来するものであってもよい。
【0121】
AAVは、クレード又はクローンの点から言及される場合もある。これは天然由来のAAVの系統発生関係を指しており、また典型的には、共通祖先まで遡及することが可能であり、かつそのすべての子孫を含むAAVの系統発生群を指す。さらに、AAVは、特定の単離物、すなわち自然界に見出される特定のAAVの遺伝子単離物(genetic isolate)の点で言及される場合がある。遺伝子単離物という用語は、他の天然に存在するAAVとの遺伝子混合が限定的に行われたAAVの集団を説明するものであり、それによって遺伝子レベルで認識できる程度に異なる集団が定義される。
【0122】
当業者であれば、本発明に使用するためのAAVの適当な血清型、クレード、クローン又は単離物を、それらの共通の一般知識に基づいて選択することができる。例えば、AAV5キャプシドは、遺伝性の色覚異常の矯正の成功(Mancusoら (2009) Nature 461:784-7)により証明されているように、霊長類の錐体光受容体を効率的に形質導入することが示されている。
【0123】
前記AAV血清型は、AAVの感染(又は親和性)の組織特異性を決定する。したがって、本発明に従って患者に投与するAAVに使用するための好適なAAV血清型は、心臓内の標的細胞に対して天然の親和性を有するものか、又は心臓内の標的細胞の高い感染効率を有するものである。
【0124】
典型的には、AAVの天然由来の血清型、単離物又はクレードのAAVゲノムは、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)を含む。ITR配列はシスに作用することにより機能的な複製起点を提供し、細胞のゲノムからのベクターの組み込み及び切り取りを可能にする。好適な実施形態では、1つ以上のITR配列が、本発明のタンパク質をコードするヌクレオチド配列に隣接している。前記AAVゲノムは、典型的には、パッケージング遺伝子、例えばAAV粒子のパッケージング機能をコードするrep及び/又はcap遺伝子も含む。前記rep遺伝子は、タンパク質Rep78、Rep68、Rep52及びRep40又はその変異体のうちの1つ以上をコードしている。前記cap遺伝子は、1つ以上のキャプシドタンパク質、例えばVP1、VP2及びVP3又はその変異体をコードしている。これらのタンパク質はAAV粒子のキャプシドを構成している。キャプシド変異体については以下で論じる。
【0125】
プロモーターは、前記パッケージング遺伝子の各々に機能しうる形で連結されている。かかるプロモーターの具体例としては、p5、p19及びp40プロモーター(Laughlinら (1979) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:5567-5571)が挙げられる。例えば、p5及びp19プロモーターは、通常は前記rep遺伝子を発現させるために使用するが、p40プロモーターは通常は前記cap遺伝子を発現させるために使用する。
【0126】
先に論じた通り、本発明のAAVベクターに使用するAAVゲノムは、それ故に天然に存在するAAVの全ゲノムであってもよい。例えば、全AAVゲノムを含むベクターを使用することにより、AAVベクター又はベクター粒子をインビトロで調製してもよい。しかし、かかるベクターは原理上は患者に投与しうるものの、これは実際には滅多に実施されない。好ましくは、AAVゲノムを患者への投与のために誘導体化する。かかる誘導体化は当分野では標準的であり、本発明はAAVゲノムの任意の公知の誘導体、及び当分野で公知の技術を適用することにより作製しうる誘導体の使用を包含する。AAVゲノム及びAAVキャプシドの誘導体化は、Coura及びNardi (2007) Virology Journal 4:99、並びにChoiら、及びWu ら(上述)に概説されている。
【0127】
AAVゲノムの誘導体は、インビボで本発明のAAVベクターからの導入遺伝子の発現を可能にする、AAVゲノムの任意の末端切断形態又は修飾形態を含む。典型的には、最小限のウイルス配列を含むが上記機能は保持するようにAAVゲノムを大きく切断することが可能である。これは、ベクターと野生型ウイルスとの組換えのリスクを低減し、また標的細胞においてウイルス遺伝子タンパク質の存在による細胞性免疫応答の誘発を回避する安全上の理由から好ましい。
【0128】
典型的には、誘導体は、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)、好ましくは1つを超えるITR、例えば2つのITR又はそれ以上を含む。前記ITRのうちの1つ以上は、異なる血清型を有するAAVゲノムに由来していてもよく、又はキメラITR若しくは変異体ITRであってもよい。好適な変異ITRは、trs(末端分解部位)の欠失を有するものである。この欠失により、コード配列と相補配列の両方を含有する一本鎖ゲノム、すなわち自己相補型AAVゲノムを作製するためのゲノムの連続複製が可能となる。これにより、標的細胞におけるDNA複製の迂回が可能となり、またそのために加速された導入遺伝子の発現が可能となる。
【0129】
1つ以上のITRは、好ましくは本発明のタンパク質をコードするヌクレオチド配列に両端で隣接している。1つ以上のITRの包含は、例えば宿主細胞DNAポリメラーゼの作用による一本鎖ベクターDNAの二本鎖DNAへの変換後に、宿主細胞の核における本発明のベクターのコンカテマー形成を促進することが好ましい。かかるエピソームコンカテマーの形成により宿主細胞の生存期間中のベクター構築物が保護され、それによりインビボでの導入遺伝子の持続発現が可能となる。
【0130】
好適な実施形態では、ITRエレメントは、前記誘導体において天然AAVゲノムから保持される唯一の配列である。したがって、誘導体は、好ましくは天然ゲノムのrep及び/又はcap遺伝子並びに前記天然ゲノムの任意の他の配列を含まない。これは、先に記載した理由のため、また宿主細胞ゲノムへのベクターの組み込みの可能性を低減するためにも好ましい。さらに、AAVゲノムのサイズを縮小することで、導入遺伝子に加えて、ベクター内に他の配列要素(例えば、調節エレメント)を組み込む際の柔軟性を高めることができる。
【0131】
したがって、次の部分:1つの逆方向末端反復(ITR)配列、複製(rep)及びキャプシド(cap)遺伝子、は本発明の誘導体では除去されていてもよい。しかし、いくつかの実施形態では、誘導体は、1つ以上のrep及び/若しくはcap遺伝子又はAAVゲノムの他のウイルス配列をさらに含んでいてもよい。天然に存在するAAVはヒト第19染色体上の特定の部位に高頻度で組み込み、また前記ベクターの組み込み能力の保持が治療環境において許容されうるような、無視できる頻度のランダムな組み込みを示す。
【0132】
誘導体がキャプシドタンパク質、すなわちVP1、VP2及び/又はVP3を含む場合、前記誘導体は、1つ以上の天然に存在するAAVのキメラ、シャッフル(shuffled)又はキャプシド改変誘導体であってもよい。特に、本発明は、同一ベクター内へのAAVの異なる血清型、クレード、クローン、又は単離物由来のキャプシドタンパク質配列の提供(すなわちシュードタイプベクター)を包含する。
【0133】
キメラ、シャッフル又はキャプシド改変誘導体は、典型的には、前記AAVベクターに1つ以上の所望の機能性を提供するように選択される。したがって、これらの誘導体は、天然に存在するAAVゲノム、例えばAAV2のAAVゲノムを含むAAVベクターと比較して、遺伝子送達の効率の向上、免疫原性(体液性若しくは細胞性)の低減、親和性範囲の変更及び/又は特定の細胞型の標的化の改善を示す場合がある。遺伝子送達の効率の向上は、細胞表面での受容体又は共受容体の結合の改善、内部移行の改善、細胞内及び核内への輸送の改善、ウイルス粒子の脱殻の改善並びに一本鎖ゲノムの二本鎖形態への変換の改善により達成してもよい。また、効率の向上は、前記ベクター用量が、これを必要としない組織への投与により希釈されないような、変更された親和性範囲又は特定の細胞集団の標的化に関係している場合もある。
【0134】
キメラキャプシドタンパク質には、天然に存在するAAV血清型の2つ以上のキャプシドコード配列間の組換えにより作製されるものが含まれる。これは、例えば1つの血清型の非感染性キャプシド配列を異なる血清型のキャプシド配列とコトランスフェクトし、指向性選択(directed selection)を利用して所望の特性を有するキャプシド配列について選択するマーカーレスキュー法により実施してもよい。この異なる血清型のキャプシド配列は、新規キメラキャプシドタンパク質を作製するために、細胞内で相同組換えにより変更することができる。
【0135】
またキメラキャプシドタンパク質には、特定のキャプシドタンパク質ドメイン、表面ループ又は特定のアミノ酸残基を、2つ以上のキャプシドタンパク質間、例えば異なる血清型の2つ以上のキャプシドタンパク質間で移動させるためのキャプシドタンパク質配列の操作により作製されるものも含まれる。
【0136】
シャッフル又はキメラキャプシドタンパク質は同様に、DNAシャッフリングにより、又はエラープローンPCRにより作製してもよい。ハイブリッドAAVキャプシド遺伝子は、関連するAAV遺伝子の配列、例えば複数の異なる血清型のキャプシドタンパク質をコードする配列をランダムに断片化し、その後続いて、配列相同性を有する領域では交差も生じうるセルフプライミングポリメラーゼ反応で前記断片を再構成することにより、作製できる。この方法でいくつかの血清型のキャプシド遺伝子をシャッフルすることにより作製したハイブリッドAAV遺伝子のライブラリーは、所望の機能性を有するウイルスクローンを同定するためにスクリーニングすることができる。同様に、エラープローンPCRを利用してAAVキャプシド遺伝子をランダムに変異させることで、変異体の多様なライブラリーを作製してもよく、その後これを所望の特性について選択してもよい。
【0137】
前記キャプシド遺伝子の配列を同様に遺伝的に改変することにより、天然の野生型配列に関して特定の欠失、置換又は挿入を導入してもよい。特に、キャプシド遺伝子は、キャプシドコード配列のオープンリーディングフレーム内への、又はキャプシドコード配列のN-及び/若しくはC-末端での非関連タンパク質又はペプチドの配列の挿入により改変してもよい。
【0138】
前記非関連タンパク質又はペプチドは、有利には、特定の細胞型に対するリガンドとして作用し、それにより標的細胞への改善された結合を与えるか、又は特定の細胞集団に対する前記ベクターの標的化の特異性を改善するものでありうる。また、前記非関連タンパク質は、産生過程の一環としてのウイルス粒子の精製を促進するもの、すなわちエピトープ又はアフィニティータグであってもよい。挿入の部位は、典型的には、ウイルス粒子の他の機能、例えばウイルス粒子の内部移行、輸送に干渉しないように選択される。当業者であれば、それらの共通の一般知識に基づいて挿入のための適切な部位を同定することができる。特定の部位は、Choiら(上記)に開示されている。
【0139】
本発明はさらに、天然AAVゲノムの配列とは異なる順序及び配置のAAVゲノムの配列の提供を包含する。本発明は、1つ以上のAAV配列又は遺伝子と、別のウイルス由来の配列又は2つ以上のウイルスに由来する配列からなるキメラ遺伝子との置換もまた包含する。かかるキメラ遺伝子は、異なるウイルス種の2つ以上の関連ウイルスタンパク質に由来する配列からなるものであってもよい。
【0140】
本発明のAAVベクターは、AAVゲノム又はその誘導体並びに本発明のタンパク質をコードする配列を含むヌクレオチド配列の形態をとっていてもよい。
【0141】
本発明のAAV粒子は、ある血清型のITRを有するAAVゲノム又は誘導体が異なる血清型のキャプシド内にパッケージングされている、トランスキャプシド化形態を含む。本発明のAAV粒子は、2つ以上の異なる血清型に由来する非改変キャプシドタンパク質の混合物がウイルスのキャプシドを構成しているモザイク形態も含む。またAAV粒子は、キャプシド表面に吸着したリガンドを担持する化学改変形態も含む。例えば、かかるリガンドとしては、特定の細胞表面受容体を標的化するための抗体を挙げることができる。
【0142】
前記AAVベクターは、本明細書中で言及したヌクレオチド配列の複数コピー(例えば、2、3など)を含んでいてもよい。
【0143】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは1以上のAAV ITRをさらに含む。好適な実施形態では、ポリヌクレオチドは2つのAAV ITRをさらに含む。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、その5'末端に1つのAAV ITRを含み、その3'末端に1つのAAV ITRをさらに含む。いくつかの実施形態では、AAV ITRは、AAV2、AAV9又はAAV8のITRである。
【0144】
プロモーター及び調節配列
本発明のポリヌクレオチド又はベクターは、インビトロ又はインビボでの本発明のタンパク質をコードするヌクレオチド配列の発現を可能にするエレメントもまた含みうる。これらは発現制御配列と称される場合がある。したがって、前記ポリヌクレオチド又はベクターは、典型的には、本発明のタンパク質をコードするヌクレオチド配列に機能しうる形で連結された(例えばプロモーター配列を含む)発現制御配列を含む。
【0145】
任意の適切なプロモーターを使用してもよく、その選択は当業者により容易に為される。前記プロモーター配列は、構成的に活性(すなわち任意の宿主細胞バックグラウンドにおいて操作可能)であってもよいし、あるいは特定の宿主細胞環境においてのみ活性であってもよく、結果として特定の細胞型における導入遺伝子の標的化発現が可能となる(例えば組織特異的プロモーター)。前記プロモーターは、別の因子、例えば宿主細胞に存在する因子の存在に応答して誘導発現を示す場合がある。いずれにしても、ベクターを治療のために投与する場合、前記プロモーターは標的細胞バックグラウンドにおいて機能的であることが好ましい。
【0146】
好適な実施形態では、プロモーターは、肝臓特異的プロモーターである。好適な実施形態では、プロモーターは、肝臓特異的hAATプロモーターである。
【0147】
肝臓特異的hAATプロモーターは、肝細胞に対する選択的特異性を与え得る。本発明では、門脈を通じてベクターを投与した場合に、肝臓から分泌される各循環性因子が損傷後の心臓を保護し得ることが示される。
【0148】
適切なプロモーターは、ニワトリβアクチン(CBA)プロモーターを、場合によってはサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーエレメントと組み合わせて含む。本発明に使用するためのプロモーターの1例は、CAGプロモーターである。
【0149】
いくつかの実施形態では、プロモーターはCMVプロモーターである。
【0150】
本発明のポリヌクレオチド又はベクターは同様に、転写前又は転写後に作用しうる1つ以上の追加の調節配列を含んでいてもよい。前記調節配列は、天然導入遺伝子の遺伝子座の一部であっても、又は異種調節配列であってもよい。本発明のポリヌクレオチド又はベクターは、天然導入遺伝子転写産物に由来する5’-UTR又は3’-UTRの一部を含んでいてもよい。
【0151】
調節配列は、導入遺伝子の発現を容易にする、すなわち転写産物の発現を増大させるように、mRNAの核外輸送を改善するように、又はその安定性を強化するように作用する、任意の配列である。かかる調節配列としては、例えばエンハンサーエレメント、転写後調節エレメント及びポリアデニル化部位が挙げられる。
【0152】
適切なエンハンサーには、WPRE調節エレメントが含まれる。適切なポリAシグナルには、ウシ成長ホルモンポリAシグナルが含まれる。
【0153】
追加の調節配列は、当業者により容易に選択されうる。
【0154】
投与の方法
様々な投与経路及び技術を利用することができるが、中でも、静脈内、心臓内、動脈内注射、カテーテル挿入などの非経口的な技術を利用することができる。活性剤の平均的な量は様々であり、特に資格のある医師の推奨及び処方に基づいて行われるべきである。
【0155】
本発明のタンパク質、ポリヌクレオチド又はベクターは、全身的に(例えば、末梢静脈注入によって)投与されてもよいし、局所的(locally)又は領域的(regionally)に投与されてもよい。
【0156】
好ましくは、タンパク質は非経口的経路、特に静脈内、動脈内、又は心筋内の経路で投与される。
【0157】
本明細書において開示されたタンパク質をコードするポリヌクレオチドの投与は、遺伝子治療(例えばWO 2013/093870を参照されたい)によって達成され得る。
【0158】
本発明によれば、Chrdl1、Fam3c及びFam3bは、梗塞した心臓に全身循環を通じて到達した場合にも活性がある。
【0159】
医薬組成物及び注入溶液
本発明の医薬、例えばタンパク質、ポリヌクレオチド又はベクターは、製剤化して医薬組成物としてもよい。これらの組成物は、前記医薬に加えて、製薬上許容しうる担体、希釈剤、賦形剤、緩衝剤、安定剤又は当分野で周知の他の物質を含んでいてもよい。かかる物質は、毒性のないものとすべきであり、また活性成分の効果を妨げるべきではない。前記担体又は他の物質の正確な性質は、投与の経路に応じて当業者が決定することができる。
【0160】
選択される投与経路に応じて、本組成物は、経口、非経口、静脈内、動脈内投与に適した固体又は液体の形態であり得る。前記医薬組成物は、典型的には液体形態である。液体医薬組成物は、通常は液体担体、例えば、水、石油、動物油若しくは植物油、鉱油又は合成油を含む。生理食塩水、塩化マグネシウム、デキストロース若しくは他の糖類溶液、又はグリコール類、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコールが含まれていてもよい。場合によっては、界面活性剤、例えばプルロン酸(PF68)0.001%を使用してもよい。
【0161】
罹患部位での注入の場合、前記活性成分は、発熱物質を含まず、かつ適切なpH、等張性及び安定性を有する水溶液の形態であってもよい。当業者であれば、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液又は乳酸加リンゲル注射液などの等張ビヒクルを使用して適切な溶液を上手く調製することができる。防腐剤、安定剤、緩衝剤、抗酸化剤及び/又は他の添加剤を必要に応じて含めてもよい。
【0162】
遅延放出の場合、前記医薬を、持続放出のために製剤化した医薬組成物、例えば生体適合性ポリマーから形成したマイクロカプセル又は当分野で公知の方法によるリポソーム担体システムに含めてもよい。
【0163】
そのような組成物は当分野で周知である(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences; last edition, Mack Pubを参照のこと)。
【0164】
治療の方法
本発明との関連において、予防への言及は、より一般的には予防的治療を連想させるが、治療に関する本明細書中での言及はすべて、治癒的、対症的(palliative)及び予防的治療を含むことが理解されよう。治療には疾患の重症度の進行を阻止することも含まれる場合がある。
【0165】
哺乳動物、特にヒトの治療が好ましい。しかし、ヒト及び動物の治療はいずれも本発明の範囲内にある。
【0166】
投与レジメン、投与量及びポソロジーは、医師の経験、治療すべき疾患及び患者の状態に応じて決定される。
【0167】
本発明のタンパク質及び/又はポリヌクレオチドは、単独で、又はそれらを組み合わせて投与することができる。
【0168】
本明細書で使用される「組み合わせ」という用語、又は「組み合わせて」、「組み合わせて使用される」、若しくは「組み合わせた調製物」という用語は、2つ以上の薬剤を同時に、逐次的に、又は別々に組み合わせて投与することを意味し得る。
【0169】
本明細書で使用される「同時(simultaneous)」という用語は、薬剤が同時に(concurrently)、すなわち同じ時に投与されることを意味する。
【0170】
本明細書で使用される「逐次」という用語は、薬剤が次々と投与されることを意味する。
【0171】
本明細書で使用される「別々」という用語は、薬剤が互いに独立して投与されるが、薬剤が組み合わされた、好ましくは相乗的な効果を示すことができる時間間隔内に投与されることを意味する。したがって、「別々の」投与では、1つの薬剤を他方の後、例えば、1分以内、5分以内、10分以内に投与することができる。
【0172】
変異体、誘導体、類似体、相同体及び断片
本明細書中に記載した特定のタンパク質及びヌクレオチドに加えて、本発明はその変異体、誘導体、類似体、相同体及び断片の使用もまた包含する。
【0173】
本発明との関連においては、任意の所与の配列の変異体は、その特定の配列の残基(アミノ酸残基又は核酸残基)が、問題のポリペプチド又はポリヌクレオチドが実質的にその機能を保持するように修飾されている配列である。変異体配列は、天然に存在するタンパク質中に存在する少なくとも1つの残基の付加、欠失、置換、修飾、交換(replacement)及び/又は変異により取得することができる。
【0174】
本明細書中で使用する用語「誘導体」は、本発明のタンパク質又はポリペプチドに関しては、その配列からの、又はその配列への1つ(又はそれ以上)のアミノ酸残基の任意の置換、変異、修飾、交換、欠失及び/又は付加を含むが、結果として生じるタンパク質又はポリペプチドは、その内因性機能のうちの少なくとも1つを実質的に保有しているものとする。
【0175】
本明細書中で使用する用語「類似体」は、ポリペプチド又はポリヌクレオチドに関しては、任意の模倣物、すなわち、模倣されるポリペプチド又はポリヌクレオチドの内因性機能のうちの少なくとも1つを保有する化学化合物を含む。
【0176】
典型的には、アミノ酸置換は、例えば1、2若しくは3~10個又は20個の置換としてもよいが、その修飾された配列は、所要の活性又は能力を実質的に保持しているものとする。アミノ酸置換は、天然には存在しない類似体の使用を含んでいてもよい。
【0177】
本発明に使用するタンパク質は同様に、サイレント変化を生じて機能的に同等のタンパク質をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入又は置換を有していてもよい。計画的なアミノ酸置換は、その内因性機能が保持される限りは、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/又は両親媒性という点での類似性に基づいて実施することができる。例えば、負の電荷をもつアミノ酸にはアスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれ、正の電荷をもつアミノ酸にはリジン及びアルギニンが含まれ、また同様の親水性値を有する非荷電極性頭部基をもつアミノ酸にはアスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン及びチロシンが含まれる。
【0178】
保存的置換は、例えば下記表に従って実施することができる。2列目の同一ブロック内のアミノ酸、及び好ましくは3列目の同一行内のアミノ酸は、互いに置換することができる:
【0179】
本明細書中で使用する用語「相同体(ホモログ)」は、野生型アミノ酸配列及び野生型ヌクレオチド配列と一定の相同性を有する物質を意味する。用語「相同性」は、「同一性」と同等とみなすことができる。
【0180】
相同配列は、対象配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%同一、好ましくは少なくとも95%又は97%又は99%同一でありうるアミノ酸配列を含みうる。典型的には、前記相同体は対象アミノ酸配列と同じ活性部位などを含む。相同性を類似性(すなわち類似した化学的特性/機能を有するアミノ酸残基)の点から考えることもできるが、本発明との関連においては、相同性を配列同一性の点から表現することが好ましい。
【0181】
相同配列は、対象配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%同一、好ましくは少なくとも95%又は97%又は99%同一でありうるヌクレオチド配列を含みうる。相同性を類似性の点から考えることもできるが、本発明との関連においては、相同性を配列同一性の点から表現することが好ましい。
【0182】
好ましくは、本明細書中で詳述する配列番号のうちのいずれか1つに対してパーセント同一性を有する配列と言う時は、言及した配列番号の全長にわたって、記載したパーセント同一性を有する配列を指す。
【0183】
相同性比較は、目視で、又はより一般的には、容易に入手可能な配列比較プログラムを用いて実行することができる。これらの市販のコンピュータープログラムは、2つ以上の配列間のパーセント相同性又はパーセント同一性を算出することができる。
【0184】
パーセント相同性は、連続した配列に対して算出してもよい、すなわち、ある配列を他の配列と整列させて、ある配列中の各アミノ酸を他の配列中の対応アミノ酸と一度に1残基ずつ直接比較する。これは「ギャップのない」アラインメントと呼ばれている。典型的には、かかるギャップのないアラインメントは、比較的少ない数の残基に対してのみ実施する。
【0185】
これは非常に単純で一貫した方法であるが、例えば、他の点では同一である配列対において、ヌクレオチド配列中の1つの挿入又は欠失により次に続くコドンがアラインメントから排除される場合があり、したがってグローバルアラインメントを実施するとパーセント相同性の大幅な減少が生じる可能性があるということを考慮していない。その結果、大抵の配列比較方法は、全体の相同性スコアに過度にペナルティーを与えることなく考えうる挿入及び欠失を考慮した最適なアラインメントを生成するように設計される。これは、配列アラインメントに「ギャップ」を挿入して局地的相同性を最大化しようと試みることにより達成される。
【0186】
しかし、これらのより複雑な方法は、同じ数の同一アミノ酸に関して、可能な限り少ないギャップ(2つの比較配列間のより高い関連性を反映する)を有する配列アラインメントが多くのギャップを有する配列アラインメントより高いスコアを達成するように、アラインメントに生じる各ギャップに「ギャップペナルティー」を割り当てる。典型的には、ギャップの存在に対して比較的高いコストを課し、前記ギャップ中のその後の各残基に対してより小さいペナルティーを課す「アフィンギャップコスト」を使用する。これは最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティーは、当然ながら、より少ないギャップを含む最適化されたアラインメントを生成する。殆どのアラインメントプログラムは、ギャップペナルティーを修正できる。しかし、配列比較のためにかかるソフトウェアを使用する場合は、デフォルト値を使用することが好ましい。例えばGCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する場合、アミノ酸配列のデフォルトギャップペナルティーは、ギャップについては-12であり、各伸長については-4である。
【0187】
最大パーセント相同性の算出は、それ故に、第1にギャップペナルティーを考慮した最適なアラインメントの生成を必要とする。かかるアラインメントを実行するための適切なコンピュータープログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin, U.S.A.;Devereuxら (1984) Nucleic Acids Res. 12:387)である。配列比較を実施できる他のソフトウェアの例としては、比較ツールのBLASTパッケージ(Ausubelら (1999) ibid - Ch. 18を参照されたい)、FASTA(Atschulら (1990) J. Mol. Biol. 403-410)及びGENEWORKS比較ツール集が挙げられるが、これらに限定されない。BLAST及びFASTAは共に、オフライン及びオンライン検索に利用可能である(Ausubelら (1999) ibid, pages 7-58 to 7-60を参照されたい)。しかし、一部の適用については、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。BLAST 2 Sequencesと称される別のツールもまた、タンパク質及びヌクレオチド配列の比較に利用できる(FEMS Microbiol. Lett. (1999) 174:247-50;FEMS Microbiol. Lett. (1999) 177:187-8を参照されたい)。
【0188】
最終的なパーセント相同性は同一性の点から測定できるが、アラインメントプロセス自体は、典型的には、全か無かの対比較に基づくものではない。その代わりに、スコアを化学的類似性又は進化距離に基づく各ペアワイズ比較に割り当てる、スケール変換(scaled)類似性スコア行列を通常は使用する。一般的に使用されるかかる行列の例は、BLOSUM62行列(BLASTプログラム集のプログラム用のデフォルト行列)である。GCG Wisconsinプログラムは、通常は、パブリックデフォルト値、又はカスタムシンボル比較表(custom symbol comparison table)が供給されていればこれを使用する(さらなる詳細についてはユーザーマニュアルを参照されたい)。一部の適用については、GCGパッケージにはパブリックデフォルト値を、又は他のソフトウェアにはBLOSUM62などのデフォルト行列を使用することが好ましい。
【0189】
前記ソフトウェアにより最適なアラインメントが生成されれば、パーセント相同性、好ましくはパーセント配列同一性を算出することが可能である。前記ソフトウェアは、典型的には、配列比較の一環としてこれを行い、数値結果をもたらす。
【0190】
Chrdl1、Fam3c又はFam3bの「断片」もまた変異体であり、前記用語は典型的には、機能的に、又は例えばアッセイにおいて重要なポリペプチド又はポリヌクレオチドの選択された領域を指す。したがって、「断片」は、全長ポリペプチド又は全長ポリヌクレオチドの一部であるアミノ酸配列又は核酸配列を指す。
【0191】
かかる変異体は、標準的な組換えDNA技術、例えば部位特異的突然変異誘発を利用して調製してもよい。挿入を行う場合は、挿入部位の両側の天然に存在する配列に対応する5'及び3'隣接領域と共に挿入物をコードする合成DNAを作製してもよい。前記隣接領域は、天然に存在する配列中の部位に対応する都合のよい制限部位を含有しており、そのため前記配列を適当な酵素(複数可)で切断し、合成DNAを前記切断部に連結することができる。前記DNAをその後本発明に従って発現させることにより、コードされたタンパク質を作製する。これらの方法は、DNA配列を操作するための当分野で公知の多くの標準的技術の単なる例示であって、他の公知技術も同様に利用可能である。
【0192】
当業者であれば、開示された本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書に開示された本発明のすべての特徴を組み合わせることができることを理解するであろう。
【0193】
本発明の種々の好適な特徴及び実施形態を、本明細書中に非限定例として記載する。
【0194】
本発明の実践には、特に指示しない限り、化学、生化学、分子生物学、微生物学及び免疫学の従来の技術を用いるが、これらは当業者の能力の範囲内である。かかる技術は文献で説明されている。例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F.及びManiatis, T. (1989) Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel, F.M.ら (1995及び定期増刊) Current Protocols in Molecular Biology, Ch. 9, 13及び16, John Wiley及びSons;Roe, B., Crabtree, J. 及びKahn, A. (1996) DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques, John Wiley及びSons;Polak, J.M.及びMcGee, J.O’D (1990) In Situ Hybridization:Principles and Practice, Oxford University Press;Gait, M.J. (1984) Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach, IRL Press;並びにLilley, D.M.及びDahlberg, J.E. (1992) Methods in Enzymology:DNA Structures Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA, Academic Pressを参照されたい。これらの一般テキストは、各々が参照により本明細書中に組み込まれるものとする。
【0195】
[実施例]
[実施例1]
FunSel、心筋梗塞に対する新規の心臓治療薬を同定するためのインビボ選択手順
発明者らは最近、心筋梗塞(MI)の後に心臓保護を確実にする因子を同定する目的で、ここに発明者らが適用した変性状態に対する新規の治療因子のインビボ機能的同定のための新規の手順であるFunSel(1,2)を開発した。これはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの使用に基づいており、高度に効率的な心臓遺伝子導入のための精巧なツールである(3)。
【0196】
手短に言えば、発明者らは、細胞の細胞外環境中に分泌されるタンパク質のサブセットとして定義される、セクレトームに対応する遺伝子のアレイ化させたライブラリーを作製した。コンピュータを使用したアプローチにより、シグナルペプチドを抱えいかなる膜貫通ドメイン又は細胞内局在化シグナルも欠き、したがって、潜在的に細胞から分泌される2033の独特なタンパク質がゲノム中で同定されている。クローニングを4.5kbに制限するAAVゲノムのサイズ、及びcDNAクローンの利用可能性により、クローニングに適したcDNAの数は1198に制限された。これらの遺伝子のコード領域は、構成的CMV IEプロモーターの制御下でpAAV pGi骨格プラスミド中に個別にクローニングされ、シーケンシングにより確かめられた。PCR増幅し配列決定することができる独特な10-ntのバーコードにより、それぞれのクローンは単意に同定される(図1A)。
【0197】
FunSelは以下の戦略に基づいている。それぞれが1つの特定の因子をコードし独特なバーコードにより同定される、ライブラリー由来のAAVプラスミドのプールを、AAV血清型9(AAV9)ベクターのバッチ生産に使用した(それぞれが類似するサイズの50の因子で構成されている、総数24のプールについて)。8週齢のCD1マウス(n=それぞれのAAV9プールについて9匹の動物)に、左下行冠動脈の永久結紮により誘導される心筋梗塞を受けさせ、これはこの状況では選択性の刺激を表す。MI直後、ベクターのそれぞれのAAV9プールを、それぞれのベクターが原則として異なる細胞に入る多重度(動物あたり10^10ウイルスゲノム)で左心室(LV)梗塞周囲領域(peri-infarctual region)中にインビボで注射した。3週間後、ベクターインサートは生存しているLV組織から回収し、それぞれのベクターの頻度をバーコードの次世代シーケンシング(NGS)により決定し、同じAAV9プールを注射されているがMIを受けていない対照動物(n=プールあたり6匹の動物)で見出された頻度と比較した。梗塞の後に大半の筋細胞は死滅するが、細胞が保護因子を発現する場合は、選択的に生存し、したがって、バーコードの濃縮は正の遺伝子選択(有益な効果)を示し、低減した表示は負の選択(中性又は有害効果)を示す(図1Bでの実験計画)。
【0198】
図1Cは、1198因子のインビボスクリーニングから得られた累積的結果を報告している。グラフでは、MI後の心臓から回収されたそれぞれの因子の頻度は、選択性の処置なしでの同じ因子の頻度との比として報告されている。Zスコア計算に基づいて、発明者らは上位200のパフォーマーを選択し、これらの因子について4つのさらなるスクリーニングを実行した(50ベクターの4プール)。生じた11の因子は1.96 Zスコア又はそれよりも多く、競争力をもって(competitively)濃縮された(P<0.05)(図1D)。FunSelアプローチの頑健性を支持するように、この2巡目のスクリーニングのヒットの中で、発明者らは、少数の既知の心臓保護因子及び心筋細胞生物学に何らかの形で関係している未知の因子を見出した。これらの因子には、心外傷に対して保護的役割を果たす多面的分子であるMdk、及び梗塞心臓においてROS産生、アポトーシス及び炎症を低減することができる、よく説明された抗線維化剤であるRin1が含まれる。しかし、特に、上位のパフォーマーには、心臓保護に関連して現在いかなる情報も入手不可能であり、研究も実施されていない3つの新しいタンパク質が含まれていた。これらは、コーディン様1(Chrdl1)並びに配列類似性保有ファミリー3の2つのメンバー、すなわち、Fam3b及びFam3cである。これらの因子は、有効性及び作用機序を評価するさらなる個別の調査のために選ばれた。
【0199】
[実施例2]
マウスにおける心筋梗塞の後の心臓完全性及び機能を維持する上でのChrdl1、Fam3c及びFam3bの有効性
FunSel結果に基づいて、発明者らは、虚血損傷を相殺又は低減し心機能を促進するそれぞれの因子の能力を評価するという特定の目的で、マウス心臓での心筋梗塞に対する個々のAAV2/9ベクターとして発現される選択された上位の分泌因子(Chrdl1、Fam3c及びFam3b)の効果を検証し特徴付けることを決定した。
【0200】
8週齢のCD1マウスにMIを受けさせ、同時に、LV梗塞周囲領域にChrdl1、Fam3c、Fam3bを発現するAAV2/9ベクター又は対照空ベクター(1×1011vg/動物;n=群あたり8)を注射した。発明者らの以前の経験から、この手順は効率的な心筋形質導入及びトランス遺伝子の1カ月続く発現をもたらすことが示されている(1,5)。動物の心機能は、MIの後15、30及び60日目に心エコーによりモニターした。
【0201】
図2に報告されているように、Chrdl1、Fam3c又はFam3bのAAV2/9媒介過剰発現により、対照処置動物と比べた場合、梗塞マウスのLV駆出率(LVEF)は首尾よく維持された(図2A)。LVEF値はMIの後15日目に著しく改善されはじめ、経時的に維持された(MIの60日後:対照ベクターを受けた動物での19.86±0.98%と比べて、AAV9-Chrdl1 39.96±2.67%、AAV2/9-Fam3c 39.02±2.53%及びAAV2/9-Fam3b 32.50±2.70%、すべての処置でP<0.001)。MIの後30日目と60日目の両方で、拡張期LV容積(Vd)は、処置マウスと比べた場合、対照動物において、心不全が起こり始めるころに、予想された通りに有意に大きかった(図2B)(MIの60日後:対照ベクターを受けた動物での168.64±7.47μLと比べて、AAV2/9-Chrdl1 101.22±10.31μL、AAV2/9-Fam3c 107.31±8.85μL及びAAV2/9-Fam3b 115.16±11.03μL、すべての処置でP<0.001)。
【0202】
心筋梗塞が起きると、心臓線維芽細胞は増殖し、筋線維芽細胞に分化し、細胞外マトリックスを生成して、心筋細胞喪失により生み出された間隙に取って代わる瘢痕を作り出す。これにより、心筋が硬直し、左心室の病理学的組織修復、拡張及び機能障害が起こることが多い。60日目のトリクローム染色心臓切片での形態計測的分析により、AAV2/9-Chrdl1、AAV2/9-Fam3c及びAAV2/9-Fam3b処置マウスは、LV収縮性組織の有意な維持及び線維化領域の低減を見せることが示された(梗塞サイズ:AAV9-Chrdl1 6.88±1.60%、AAV2/9-Fam3c 10.19±2.05%、AAV2/9-Fam3b 13.35±1.79%、対対照動物におけるLVの26.26±2.35%;図2C)。
【0203】
最後に、コムギ胚芽凝集素(WGA)染色により、線維断面積は対照と比べて処置動物では増加しなかったので、心筋細胞肥大応答はChrdl1、Fam3c又はFam3b過剰発現により誘導されなかったことが明らかにされた(図2D)。
【0204】
まとめると、これらの結果により、急性虚血の後のChrdl1、Fam3c又はFam3bのAAV2/9媒介心臓過剰発現が、心筋梗塞の後に筋細胞生存能を促進し、梗塞サイズを低減し、心機能を維持することが示される。
【0205】
[実施例3]
Chrdl1、Fam3c又はFam3bのAAV2/9媒介発現は、マウスにおける心不全の発症に関連する病理学的左心室組織修復を相殺する
MIの2カ月後、発明者らは、LV病理学的組織修復にこれまで関連していた遺伝子のセットの発現(β-ミオシン重鎖(βMHC)の過剰発現並びにα-ミオシン重鎖(αMHC)、筋小胞体/小胞体Ca2+-ATPアーゼ2a(SERCA2a)及びリアノジン受容体2(RYR2)の減少したレベルにある(consist in))に対するそれぞれの分泌された因子の効果も調べた。
【0206】
全RNAをLV組織から抽出し、調べた遺伝子に特異的なTaqManプローブを使用してqRT-PCRにより分析した。心エコー及び形態計測の所見と一致して、AAV2/9-Chrdl1、AAV2/9-Fam3c及びAAV2/9-Fam3bは、AAV2/9対照マウスで観察される病理学的LV組織修復に典型的に関連する遺伝子発現の特徴的パターンを相殺し、β-MHCのレベルを低減し、α-MHC、SERCA2a及びRYR2のレベルを増やした(図3、パネルA~D)。
【0207】
[実施例4]
3つの因子すべてが細胞死から心筋細胞を保護する組織生存能を維持し、Chrdl1とFam3cの両方がMIの後の心臓の有益なオートファジーを促進する
今まで、Chrdl1、Fam3c及びFam3b因子に関する入手可能な情報は不十分であり、これらの因子が心筋梗塞の後に心臓保護効果を発揮する理由は全く説明できない。したがって、発明者らは、その活性を媒介する可能性がある考えられる生物学的機序の調査に着手した。FunSelアプローチは心筋細胞生存を根拠とする因子選択に基づいているので、実験の最初のセットは、3つのAAVベクター(1×1011vg/動物;n=群あたり5)で処置された梗塞性の成体CD1マウスの心臓を対照と比較して、アポトーシス(通常、冠動脈閉塞の2日後に極めて多い(6))からの細胞死のレベルを試験することにより実施した。Fam3b、Fam3c及び、特に、Chrdl1は、MIの2日後瞬間凍結心臓切片上での核TUNEL(TdT媒介dUTPニック末端標識)染色により評価した場合、梗塞性心臓でのアポトーシス細胞死を予防するのに極めて効果的であった(陽性TUNEL核の%: AAV2/9-Chrdl1 4.01±1.21%、AAV2/9-Fam3c 10.33±1.43%、AAV2/9-Fam3b 19.83±3.01%、対、対照動物における30.67±4.38%)(図4Aでの定量化)。
【0208】
心臓は成体期においては著しい再生をすることができない器官であり、したがって、心筋細胞の完全性は、特定の細胞内成分、特にミトコンドリアの再生を可能にする機序であるオートファジーにより維持される。この機序は心筋梗塞の後に特に関連が深い。なぜならば、突然の虚血又は虚血とそれに続く経皮的血管再生の後の再灌流はミトコンドリアに著しい損傷を与え、ミトコンドリアは酸素を使用して損傷を与える化学種を生成し始めるからである(7)。驚くにあたらないが、したがって、オートファジーとアポトーシスは高度に相互接続しており、前者の機序は、アポトーシス細胞死を回避する保護的応答として損傷を受けた細胞小器官を取り除くため損傷の後に活性化される(8)。
【0209】
急性心虚血の後のオートファジーの誘導を評価するため、別の群の成体梗塞性CD1マウスにChrdl1、Fam3c、Fam3bを発現するAAV2/9ベクター又は対照ベクター(1×1011vg/動物;n=処置あたり5)を注射した。MIの2日後、特にChrdl1及びFam3c処置マウスの心臓において、可溶性LC3-Iタンパク質の脂質結合LC3-IIへの変換の増加を発明者らは見出し、これはオートファゴソームの形成と関連していた(それぞれ、図4B及び4Cでの、AAV2/9-Chrdl1、AAV2/9-Fam3c、AAV2/9-Fam3b及びAAV2/9-対照の心臓についての代表的ブロット、及び定量化)。
【0210】
梗塞性の心臓でのオートファジーフラックスを直接可視化するため、発明者らは以前、緑色蛍光は中性オートファゴソームと酸性オートファゴソームの間のpH差に感受性であるが赤色蛍光は感受性ではない、ptfLC3プラスミド由来の、単量体赤色蛍光タンパク質(mRFP)-増強緑色蛍光タンパク質(EGFP)直列型蛍光タグ付きLC3タンパク質を発現するAAV2/9ベクターを作製した(9)。このベクターは、MIの直後に、AAV2/9-Chrdl1、AAV2/9-Fam3c、AAV2/9-Fam3b又はAAV2/9-対照(1×1011vg/動物;n=処置あたり5)と一緒に投与された。2日後、黄色、LC3-陽性小胞の数、及び特に赤色蛍光のみを示す小胞の数は、AAV9-Chrdl1及びFam3cを注射した心臓のLV梗塞周囲領域において有意に増加しており、これら2つの因子がオートファジーフラックスをインビボで刺激することを示している(図4Dではそれぞれの処置について黄色及び赤色斑点の定量化が報告されている)。
【0211】
まとめると、これらの結果により、Chrdl1、Fam3c、Fam3bのAAV2/9媒介心臓過剰発現が、アポトーシス細胞死を予防することにより、そして、特に、Fam3c及びChrdl1が心臓の有益なオートファジーを促進することにより心筋細胞生存能を維持することが示される。
【0212】
[実施例5]
AAV8媒介組織特異的発現時、肝臓により産生され分泌される循環Chrdl1、Fam3c及びFam3bは心筋梗塞の後の病理学的左心室組織修復を相殺する
ウイルスベクターを使用して内因的に発現されることとは対照的に、循環Chrdl1、Fam3b及びFam3cが循環から心臓に到達した後に活性があるかどうかを評価するため、発明者らは、3つの因子のそれぞれが肝臓により発現され心筋梗塞前に循環中に分泌される戦略を立案した(図5A)。より詳細には、発明者らは、成体CD1マウスでのAAVベクター血清型8(AAV2/8)を用いた実質内注射(5×1011vg/動物;n=群あたり6)を実施し、このベクターは遺伝子を肝細胞中に選択的に導入させ、これらのベクターでは、因子はヒトα-1アンチトリプシン(hAAT)プロモーターの制御下で発現され、このプロモーターは肝実質細胞だけで特異的な発現を保証する(10)。投与の7日後、肝臓がそれぞれの因子を活発に産生し、その投与可能量を循環中に放出していた(図5B)ころに、左下行冠動脈を結紮することにより心筋梗塞を誘導した。
【0213】
図5Cに報告されているように、Chrdl1、Fam3c又はFam3bのAAV2/8媒介肝臓産生により、対照処置マウスと比べて梗塞性マウスのLV駆出率(LVEF)は首尾よく維持された。LVEF値はMIの後15日目に著しく改善されはじめ、経時的に維持された(MIの60日後:対照ベクターを受けた動物での20.05±1.47%と比べて、AAV2/8-Chrdl1 28.77±1.66%、AAV2/8-Fam3c 28.09±1.61%及びAAV8-Fam3b 31.22±1.40%)。MIの2カ月後、予想通り、拡張期LV容積は処置マウスと比べて対照動物では有意に大きかった(図5D)(MIの60日後:対照ベクターを受けた動物での193.2±11.6μLと比べて、AAV2/8-Chrdl1 150.2±10.2μL、AAV2/8-Fam3c 137.9±16.8μL及びAAV2/8-Fam3b 134.7±9.2μL)。
【0214】
最後に、この実験においても、トリクローム染色された60日目の心臓切片での形態計測的分析により、AAV8-Chrdl1、AAV2/8-Fam3c及びAAV2/8-Fam3b処置マウスは、線維化領域の有意な低減を見せることが示された(梗塞サイズ: AAV2/8-Chrdl1 13.6±3.1%、AAV2/8-Fam3c 15.0±3.4%、AAV2/8-Fam3b 13.2±2.7%、対、対照動物におけるLVの28.7±3.3%;図5E)。
【0215】
まとめると、これらの結果により、それぞれの循環因子は、肝臓から治療的に発現されるが、MI後の虚血損傷から心筋細胞を保護し、心機能を改善することが証明される。これは、組換えタンパク質としてのChrdl1、Fam3c及びFam3bの注射に先立っての有効性試験を表す。
【0216】
[実施例6]
組換えChrdl1、Fam3c及びFam3bはドキソルビシン誘導性の細胞死に対して心筋細胞を保護する
毒性損傷時に細胞生存能を維持する上でのChrdl1、Fam3c及びFam3bの潜在的効果を評価するため、対応する組換えタンパク質を、化学療法薬ドキソルビシンで処置した一次新生仔ラット心室心筋細胞で試験した(図6)。
【0217】
100ng/mLのChrdl1、Fam3c又はFam3b組換えタンパク質での処置により、ドキソルビシン処置(1及び1.5μM)の20時間後にカスパーゼ3/7活性化(アポトーシス細胞死を尺度として)は有意に相殺された。
【0218】
[実施例7]
Chrdl1は心筋梗塞の後の線維芽細胞活性化及び心臓線維化を予防する
MIが起こると、心臓線維芽細胞が増殖し、筋線維芽細胞に分化し、コラーゲン沈着を刺激して、心筋細胞喪失により生まれる間隙に取って代わる瘢痕を作り出す。興味深いことに、Chrdl1を過剰発現する梗塞性心臓は非常に小さな瘢痕を有するだけではなく、MIの2カ月後に病理学的組織修復及び拡張も受けなかった。これは、心筋細胞生存に対する効果に加えて、瘢痕形成に対するChrdl1の特異的効果を示唆していた。
【0219】
形質転換成長因子-β1(Tgfβ1)は、MIの後の瘢痕において高レベルで発現されるが、コラーゲン沈着及び線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化の重要な誘導原である(11)。Chrdl1がTgfβ1により誘導される線維芽細胞分化転換を調節することができるかどうかを評価するため、初代成体マウス心臓線維芽細胞を、組換えChrdl1の存在下(100ng/mL)又は非存在下、異なるTgfβ1投与量(1-10-50ng/mL)で3日間処置した(図7A)。Tgfβ1は、コラーゲンα-1(I)(Col1α1)及びα-Sma発現の大幅な用量依存性増加を誘導し、Chrdl1はこの効果を鈍らせた(図7B)。
【0220】
インビボでの線維化応答におけるChrdl1の効果をさらに調べるため、Collα1(I)-EGFPマウス(EGFPが線維芽細胞でのみ発現されるトランスジェニックマウスモデル(12))の心臓にAAV2/9-対照又はAAV2/9-Chrdl1を形質導入し、MIを誘導した。Chrdl1を過剰発現しているCol1α1(I)-EGFPマウスの心臓は、有意に減衰された心臓線維化を示し、コラーゲン1α1及びα-SMA発現を低減した(図7C)。これらのデータは、梗塞の3日後にCD1マウスにおいてCol1α1、α-SMA、Tgfβ1及びMMP9の転写物レベルを定量化するq-PCRによっても確かめた(図7D)。
【0221】
[実施例8]
Chrdl1、Fam3c及びFam3bの発現は、ドキソルビシン誘導性の心毒性及び死亡からマウスを保護する
抗がん薬としてのその有効性にもかかわらず、アントラサイクリン(ドキソルビシンを含む)は急性と慢性両方の心毒性を誘導することができる(Swain, S.M.ら、(2003) Cancer 97: 2869-2879)。特に、これらの薬物の蓄積量は左心室収縮不全及び心不全を引き起こすことがある。これらの薬物を用いた処置の結果としての心室機能不全の報告されている発生率は、患者のおおよそ10%もあり(Cardinale, D. (2015) Circulation 131: 1981-1988)、大多数の症例が処置の初年目以内に起きている。現在、アントラサイクリン誘導性の心毒性を予防する標準的治療法はない(Zamorano, J.L.ら、(2016) Eur Heart J 37: 2768-2801)。
【0222】
6週齢の雌C57/BL6マウスに、30G針注射器を使用してChrdl1、Fam3c又はFam3bを発現する30μLのAAV9ベクター製剤を心筋内注射した。1週間後、ドキソルビシンを、慢性処置について確立されたプロトコルに従って、0、2、5、8、10及び12日目に4mg/kgの濃度(蓄積量:24mg/kg)で腹腔内に投与した(Li M.ら、(2018) Circulation 138: 696-711)。マウスは、0、6及び8週目に心エコーで追跡した。
【0223】
Chrdl1、Fam3c及びFam3bのそれぞれが、薬物誘導性の死亡に対して強い保護活性を示した(図8A)。左心室(LV)駆出率の悪化(図8B)とLV内径に対する有害作用(図8C)の両方に対する有意な保護により示されるように、顕著な心臓保護効果は、3つの因子のいずれを用いた処置でも続いて観察される。
【0224】
参考文献
【0225】
上記明細書で言及されるすべての出版物は参照により本明細書に組み込まれる。本発明の開示された薬剤、組成物、使用及び方法の種々の改変及び変動は、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、当業者には明らかである。本発明は特定の好ましい実施形態に関連して開示されてきたが、特許請求される本発明はそのような特定の実施形態に不当に制限されるべきでないことは理解されるべきである。実際、本発明を実行するための開示された様式の種々の改変は、当業者には明白であるが、以下の特許請求の範囲内であることが意図されている。
図1A-B】
図1C-D】
図2A-B】
図2C-D】
図3
図4
図5A-C】
図5D-E】
図6
図7A-C】
図7D
図8
【配列表】
2022530168000001.app
【国際調査報告】