(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-28
(54)【発明の名称】硬質炭素含有材料の調製方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20220621BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20220621BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/587
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021559816
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(85)【翻訳文提出日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 GB2020050872
(87)【国際公開番号】W WO2020208341
(87)【国際公開日】2020-10-15
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514065058
【氏名又は名称】ファラディオン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】バーカー,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】メイサミ,セイド シャヤン
(72)【発明者】
【氏名】マッザリ,フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】レニー,アンソニー
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146AC07A
4G146AC27A
4G146AD23
4G146AD24
4G146BA34
4G146BC03
4G146BC32A
4G146BC33A
4G146BC33B
5H050AA19
5H050BA15
5H050CA01
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5H050GA14
5H050HA01
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、1つ以上の動物由来の材料の使用を含む、比表面積が100m2/g以下である硬質炭素含有材料を調製する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の動物廃棄物由来の材料の利用を含む、硬質炭素含有材料を調製する方法。
【請求項2】
以下の:
a)1つ以上の動物由来の材料を含む組成物の提供;
b)前記工程(a)の前記組成物が、1つ以上のチャーリングされていない動物由来の材料を含む場合、前記組成物を150℃~700℃の温度で加熱して、前記1つ以上の動物由来の材料をチャーリングして、チャーリングされた動物由来の材料を生成し;
c)前記工程(a)又は工程(b)のいずれか由来のチャーリングされた動物由来の材料を含む組成物を処理して、不要な金属-イオン含有不純物及び/又は非金属-イオン含有不純物を除去し、かつ、前記金属-イオン含有不純物及び/又は非金属-イオン含有不純物の含有量が10質量%未満である、処理済みの炭化動物由来の材料を獲得する;かつ、
d)前記工程c)で処理されたチャーリングされた動物由来の材料を700℃~2500℃の温度で熱分解し、比表面積が100m
2/g以下の硬質炭素含有材料を製造する;
工程を含む、硬質炭素含有材料を調製する方法。
【請求項3】
前記工程a)で提供される前記1つ以上の動物由来の材料を含む組成物に含まれる鉱物含有不純物は、10質量%未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程c)の処理には、アルカリ性及び/又は酸性条件を用いる化学的消化を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記動物由来の材料のうちの1つ以上が動物性廃棄物由来の材料である、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
BET (N
2)比表面積が100m
2/g以下の硬質炭素含有材料を調製するための、1つ以上の動物由来の材料の使用。
【請求項7】
得られた硬質炭素含有材料の炭素含有量が、少なくとも90質量%である、請求項6に記載の1つ以上の動物由来の材料の使用。
【請求項8】
得られた硬質炭素含有材料が、金属-イオン及び/又は非金属-イオン含有成分を50質量%まで含む、請求項6に記載の1つ以上の動物由来の材料の使用。
【請求項9】
前記1つ以上の動物由来の材料は、1つ以上の動物性廃棄物由来の材料を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質炭素含有材料の製造用のある種の炭素含有材料の新規な使用、硬質炭素含有材料の新規な製造方法、当該方法で製造される硬質炭素含有材料、当該硬質炭素含有材料を含有する電極、かつ、例えば電池(特に再充電可能電池)、電気化学装置及びエレクトロクロミック装置等のエネルギー蓄積装置における当該電極の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウムイオン電池は、今日一般に用いられているリチウムイオン電池と多くの点で類似するが、ともにアノード(負極)、カソード(正極)、電解質材料を含む再利用可能な二次電池であり、ともにエネルギーを蓄積することができ、同様の反応機構を介して充放電することができる。ナトリウムイオン(又はリチウムイオン)蓄電池が充電されると、Na+(又はLi+)イオンがカソードから脱インターカレートし、アノードに挿入される。一方、充電バランス電子は、カソードから充電器を含む外部回路を通って電池のアノードに入る。放電中には、同じプロセスが発生するが、逆方向である。
【0003】
近年、リチウムイオン電池技術は著しく注目され、今日用いられているほとんどの電子装置に好ましい携帯用電池を提供するが、リチウムは安価な金属ではなく、大規模用途に用いるには高価すぎると考えられている。対照的に、ナトリウムイオン蓄電池技術は未だ比較的初期段階ではあるが、利点があると考えられている。ナトリウムはリチウムよりもはるかに豊富であるため、研究者によっては、特に電力系統においてエネルギーを貯蔵するような大規模用途で、エネルギーを貯蔵する安価で耐久性のある方法の将来的な提供を予測する。しかしながら、ナトリウムイオン蓄電池が商業的に実用化されるには、まだ多くの開発が必要である。
【0004】
特にナトリウムイオン蓄電池用の新規なアノード電極材料の開発が注目されている。
【0005】
グラファイトの形態の炭素は、質量容量及び体積容量が高く、最近まで好ましいリチウムイオン蓄電池のアノード材料であったが、グラファイト電極は、理論容量372mAh/gに匹敵する360mAh/g以上の可逆容量を供給する。電気化学的還元プロセスには、Li+イオンがグラフェン層の間に挿入され、LiC6を生成する工程が含まれる。しかしながら、残念ながら、グラファイトは、ナトリウムに対して電気化学的に活性がはるかに低く、さらにナトリウムの原子半径がリチウムの原子半径と比較して有意に大きいという事実のため、グラファイトアノード内のグラフェン層間のインターカレーションは、ナトリウムイオンセルでは著しく制限される。
【0006】
一方、硬質炭素材料を用いて作製されたアノード(特許文献1~3等に記載されている)の機能は、ナトリウムイオン電池ではるかに良好であることが見出されている。硬質炭素は無秩序構造であり、ナトリウムイオンの挿入時の多くの問題が克服される。硬質炭素材料の正確な構造はまだ解明されていないが、一般に硬質炭素は、長距離結晶秩序がない非黒鉛化性炭素材料と報告されている。硬質炭素には層があるが、長軸範囲できちんと積み重ねられておらず、微孔性材料である。巨視的レベルでは、硬質炭素は等方性である。硬質炭素の普遍的構造モデルを構築することが難しい理由は、詳細な構造、ドメインサイズ、炭素層の比率及び微細孔が炭素源及び炭化温度等の合成条件に依存するからである。二次電池用の電極に用いることができる硬質炭素材料を製造する通常の方法としては、例えば石油コークス及びピッチコークス等の鉱物等の炭素富化である出発原料;スクロース及びグルコース等の二次植物系材料;ポリマー炭化水素及びレゾルシノールホルムアルデヒド等のより小さな有機化合物等の人工有機材料;並びにココナッツ殻、コーヒー豆、わら、竹、もみ殻、バナナ皮等の一次植物由来の材料を無酸素雰囲気中で500℃より高温で加熱することがあげられる。植物由来原料を加熱する場合、「バイオチャー(biochar)」又はバイオマス炭を製造し、これをさらに加工して硬質炭素材料を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0192553号明細書
【特許文献2】米国特許第9,899,665号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2018/0287153号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ある種の炭素含有出発原料の新規用途新たな用途を提供し、硬質炭素含有材料を製造することである。さらに、本発明は、ある種の炭素含有出発原料を利用する硬質炭素含有材料を調製する新規な方法を提供することを目的とする。このプロセスは、特に商業規模で、費用効果が高く、容易に入手可能な材料を用いて、電気化学的性能及び純度の点で、少なくとも公知の硬質炭素含有材料に匹敵し、好ましくはこれを上回る硬質炭素含有材料を製造する。得られた硬質炭素含有材料は、電池(特に二次(再充電可能)電池)、アルカリ金属イオンセル(ナトリウムイオンセルを含む)、電気化学装置及びエレクトロクロミック装置等のエネルギー蓄積装置用の電極活性材料(特にアノード又は正極電極活性材料)として有用であろう。重要なことに、当該硬質炭素含有材料により、優れた第1の放電比容量を提供し、かつ、電池から抽出された全充電量と電池に投入された全充電量との比率として計算される、高い第1の放電容量効率(クーロン効率)を示すエネルギー蓄積装置が作製される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの目的を達成するため、本発明は、動物由来の材料を含む炭素含有出発原料を用いる。本明細書中で用いられる用語「動物由来の材料」は、1つ以上の動物源に由来することができる材料をいい、例えば、「動物由来の材料」には、食品が通過した後に残留し、動物の消化管から排泄された廃棄物(以下「動物由来廃棄物」という)が含まれる。すなわち、炭素含有材料には、動物の糞便が含まれる。あらゆる動物由来の糞便を用いることができるが、最も豊富に存在する動物由来の老廃物としては、ニワトリ、ヒツジ、馬、牛、豚及びヒトの糞便があげられる。後者に由来する糞は、下水汚泥又は下水汚泥バイオチャーの形であるのが理想的である。動物由来の廃棄物としては、単一の動物源又はその混合物から得ることができ、さらに、糞便のみか、又は、例えば、干し草、わら、木屑、トウモロコシの穂軸及び殻、及びマッシュルーム堆肥等の他の物質と併用してよい。「動物由来の材料」としてはまた、死体、骨、皮膚、皮、羽毛、毛髪、角及び動物乳等の材料があげられ、これらの全てはいかなる動物由来のものがあげられる。
【0010】
動物由来の材料は、上記のように、本発明の方法を用いて、非黒鉛化性非結晶構造である硬質炭素材料に変換される炭素源を提供する。
【0011】
本発明により製造される「硬質炭素含有材料」を含むアノードは、上記の1つ以上の動物由来の材料を用いて製造される硬質炭素材料のみを含むか、又は1つ以上の元素及び/又は化合物と併用された1つ以上の硬質炭素含有材料を含むことができる。好ましい例の組合せとしては、硬質炭素(本発明により作製される)/X材料があげられ、ここでXは、アンチモン、錫、リン、硫黄、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、鉛、ヒ素、ビスマス、チタン、モリブデン、セレン、テルル、シリコン、又は炭素等の1つ以上の元素であってよい。硬質炭素/Sb、硬質炭素/Sn、硬質炭素/Sbx Sny、硬質炭素/シリコン、硬質炭素/シリコンカーバイド(HC/SiC)、又は硬質炭素/ケイ酸ナトリウムが、適当な硬質炭素含有材料である。硬質炭素材料と併用された1つ以上の元素及び/又は化合物は、硬質炭素材料の製造中に誘導されてよく、あるいは、1つ以上の元素及び/又は化合物は、本発明の方法によって製造された後に硬質炭素含有材料に添加されてよい。
【0012】
従って、本発明は、少なくとも1つの動物由来の材料を利用する硬質炭素含有材料を調製する方法を提供する。
【0013】
動物由来の材料、特に動物由来の廃棄物は、通常、乾燥又は半乾燥のペレットの形態で輸送され、必要に応じて、好ましくは、固体(非炭素)不純物の最小粒子サイズ以下の粒子サイズに粉砕することができる。通常、動物由来の材料の粒子サイズは5mm未満であり、好ましくは1mm以下である。商業的に入手可能な動物由来の材料は、炭化又は未炭化の形態であってよく、例えば、ヒト由来の廃棄物の場合、好ましくは下水汚泥の形態(すなわち、水性懸濁液)であり、通常「炭化」形態で入手可能で、輸送を容易にすることができる。
【0014】
動物由来の材料の中には、比較的純粋なものもあるが、不要な不純物を30質量%も含む場合がある(これらは非炭素系材料である)。通常、これらは、鉱物、金属イオン及び非金属イオン含有不純物から選択される1つ以上の不純物である。以下、「鉱物」、「金属イオン」及び「非金属イオン」という表現は、元素や化合物の形をした鉱物、金属、非金属を含むものと解釈される。このことは、最終的な硬質炭素含有材料をアノード活物質として用いた場合、そのコランビズム効率、サイクル寿命及び/又は絶対的な比容量性能に悪影響を及ぼすため、できるだけ多くの不要な不純物が最終的な硬質炭素含有材料に残存したり、さもなければ最終的な硬質炭素含有材料に他の不純物が形成されたりするのを防止するのが重要である。従って、本発明の主目的は、不要な非炭素系不純物を全く含まないか、又は含んでも極めて低濃度の質量%である動物由来の材料を用いて製造された、最終硬質炭素含有材料の提供である。ある場合、本発明の方法により製造された最終硬質炭素含有材料は、0~50質量%の望ましい非炭素系材料(例えば、1つ以上の動物由来出発原料組成物中に見出される成分から誘導される選択された金属イオン含有材料及び非金属イオン含有材料)を含んでよい。好ましくは、最終硬質炭素含有材料は、0質量%~20質量%、理想的には0質量%~10質量%の所望の非炭素系材料を含有することができる。
【0015】
従って、好ましい態様では、本発明は、最終硬質炭素含有材料の形成前に、1つ以上の動物由来の材料を含む組成物を精製する工程を用いる方法を提供する。
【0016】
本発明の方法で用いられる動物由来の出発原料は、不要な無機不純物、例えば、岩石形成酸化物及びケイ素含有不純物(例えば、シリカ及び/又はケイ酸塩含有物質)等の不要な鉱物含有不純物を、例えば、土壌、砂及び砂から、動物由来の出発原料の20質量%までの量で含有する場合がある。これは、特に、例えば、堆肥が地面(土壌/砂)に接触した結果として得られる動物由来の廃棄物の場合に当てはまる。不要な鉱物含有不純物の他の発生源(例えば、二酸化ケイ素(SiO2))は、飼育舎からアンモニアの放出を減らすために動物に一般的に与えられるサプリメントに由来する場合がある。これは家禽の落葉落枝の場合に特に当てはまる。
【0017】
不要な鉱物含有不純物(特に、炭素含有成分及び動物由来の材料中に存在する他の金属及び/又は非金属含有化合物よりも高密度の不純物)は、洗浄及び濾過、遠心分離、並びに「重媒体分離(heavy media
separation)」又は「沈降及びフロート分離」技術によって簡便に除去することができる。「重媒体分離」又は「沈降フロート分離」技術は、出発原料組成物の体積の少なくとも2倍、好ましくは最大8倍、及び理想的には少なくとも4倍の体積の液体分散剤(例えば、水)中に1種以上の動物由来物質を含む出発原料組成物を分散させることを含む。出発原料組成物の体積の6倍の体積の水が特に好ましい。出発原料の分散液(例えば、水性分散液)を理想的に攪拌し(例えば、攪拌)、動物由来物質を含む出発組成物中に存在する分散剤(例えば、水)及び有機(炭素含有)物質よりも密度が高い固体の不要な鉱物不純物の沈殿を誘発する。有機物富化上清(水を分散剤として用いる場合は、水性)液は、固体の無機鉱物含有底質から分離され、液体(水を分散剤として用いる場合は、水)は、上清液から除去され、好ましくは10質量%未満の鉱物不純物を含む粉末化された動物由来の物質が得られる。このようにして得られた物質を、本明細書では、「(動物由来の出発原料の残渣と比較して)高密度の無機不純物が還元された動物由来物質」という。極めて望ましくは、鉱物不純物が還元された粉末状の動物由来の材料には、鉱物含有不純物が0質量%~<5質量%の、さらに好ましくは0質量%~<2質量%、そして極めて好ましくは0質量%~0.5質量%含まれる。ここで、水で例示される分散剤は、再利用可能であり、好ましくは濾過され、分離容器に戻される。
【0018】
出発組成物が1種以上の非炭化動物由来の材料を含む場合、好ましくは加熱して「炭化(チャーリング;charing)」(「炭化(carbonisation)」)を行ってから、例えば金属イオン及び非金属イオン不純物を除去するさらなる精製工程を行う。理想的には、「炭化」としては、鉱物不純物が還元された動物由来の材料を用いて行い、高密度の鉱物不純物が還元された動物由来の材料を、好ましくは残りの鉱物含有不純物の結晶化温度より低温で加熱することがあげられる。本明細書では、用語「チャーリング」は、「炭化する(carbonized)」と互換的に用いられる。炭化工程は、無炭化の動物由来の材料中に存在する水素、窒素及び酸素のレベルと比較して、炭素含有量が豊富で、かつ、水素、窒素及び酸素が還元されている、炭化動物由来の材料を生じる。炭化の重要な目的は、炭素を不溶性のマトリクスに効果的に固定することである。
【0019】
好ましくは、炭化プロセスは、150℃以上700℃以下の温度、さらに好ましくは150℃以上650℃以下の温度、特に好ましくは200℃以上600℃以下の温度、理想的には150℃以上550℃以下の温度で行われる。明らかに、当該温度は、炭化を生じさせる温度である必要があるが、過剰な炭化温度は避けるべきである。これは、a)動物由来の材料に含まれるあらゆる非晶質不純物(例えば、ろ過、遠心分離、沈殿等で除去されなかった岩石形成酸化物又はケイ素含有鉱物、並びに他の金属及び非金属含有材料)が、結晶化されず、除去がより困難になる(及び費用がかさむ)こと、かつb)高温加熱の結果である不要なエネルギー費用を確実に低減するためである。
【0020】
出発原料を加熱するチャーリングは、例えば、電気オーブン、ガスオーブン、又は他の適当な加熱装置中で行うか、又は火炎を用いて燃焼させることができる。電子レンジはまた、追加手段として、又は炭化の代替手段として用いられてよい。チャーリングは、好ましくは、無機不純物が還元された粉末状の動物由来の材料の全て、又は少なくとも大部分(すなわち、50質量%を超える)が、確実に炭化又は炭化される期間にわたって実施される。通常、これは、無機不純物が低減された粉末状の動物由来の材料の色が、好ましくは黒色に変色することで示される。好ましくは、観察された色の変化は、無機不純物が還元された粉末状の動物由来の材料全体にわたり実質的に均一である。さらに好ましくは、炭化工程は、少なくとも30分間、理想的には1~4時間にわたって実施される。例えば、窒素、二酸化炭素、別の非酸化性ガス、及びアルゴン等の不活性ガスから選択されうるガスの1つ又は混合物を含む雰囲気を用いて、酸素の不存在下で炭化を行うと燃焼の防止に有利である。あるいは、真空又は部分真空を用いて、炭化反応器中の酸素存在量を最小限にすることができる。上記のように、ヒト由来の廃棄物は、一般に「都市ごみバイオチャー」又は「下水汚泥バイオチャー」という炭化物の形態で入手可能である。炭化又は炭化工程は、組成物が炭化された動物由来の材料を含む場合には不要である。
【0021】
従って、本発明は、以下の:
a)好ましくは10質量%未満の鉱物含有不純物を含有する1種以上の動物由来の材料を含む組成物を提供する工程;
b)ここで、前記工程(a)の組成物は、1つ以上の未共有の動物由来の材料を含み、組成物を150℃~700℃の温度で加熱して、1つ以上の動物由来の材料を炭化して、炭化した動物由来の材料を生成する;
c)前記工程(a)又は工程(b)のいずれか由来の炭化動物由来の材料を含む組成物を処理して、不要な金属-イオン及び/又は非金属-イオン含有不純物を除去し、10質量%未満の金属-イオン及び/又は非金属-イオン含有不純物を含有する処理済みの炭化動物由来の材料を得る工程;及び
d)前記工程c)で処理した炭化した動物由来の材料を700℃~2500℃の温度で熱分解し、比表面積が100m2/g以下である硬質炭素含有材料を製造する工程;
を含む硬質炭素含有材料を製造する方法を提供する。
【0022】
鉱物含有不純物を10質量%未満含有する1つ以上の動物由来の材料を含む組成物は、1つ以上の動物由来出発原料に、上記のように洗浄及び濾過、遠心分離、「重媒体分離」又は「沈降フロート分離」技術を行って、不要な鉱物不純物、特に1つ以上の動物由来出発原料よりも密度が高い鉱物を除去することによって製造することができる。
【0023】
前記処理工程c)としては、好ましくは、炭化した動物由来の材料に含まれる炭素含有材料から、不要な金属、非金属及び鉱物含有不純物を分離及び除去するための、当業者に公知のいかなる適当な処理工程又はいかなる適当な装置を用いてよい。非金属及び金属含有不純物は、例えば、上記のろ過、遠心分離及び沈殿技術を用いた場合に除去されなかった鉱物不純物由来であったり、動物由来出発原料中に見出された他の非鉱物源由来であったりする。適当には、工程c)としては、イオン交換材料の使用、クロマトグラフィー分離技術、電気泳動分離技術、錯化剤の使用、又は化学的沈殿技術があげられる。当該工程(c)で製造される処理済みの炭化動物由来の材料は、好ましくは少なくとも90%の純度、すなわち、不純物を含有する金属イオン(例えば、遷移金属、アルカリ金属又はアルカリ土類金属)及び非金属イオン(例えば、リン、酸素、水素)を全く含有しないか(0%)又は含有しても低濃度(<10質量%)レベルである。極めて好ましくは、当該工程(c)で製造される化学的に処理された炭化材料中の金属イオン及び非金属イオン含有不純物の量は、<5質量%、好ましくは<2質量%、極めて好ましくは0~0.5質量%である。しかしながら、ある実施形態では、動物由来の材料中の金属及び/又は非金属元素、及び/又は金属-イオン及び/又は非金属-イオン含有化合物のうちの1つ以上を選択的に保持し、最終的な硬質炭素材料中のドーパントとして作用させることが望ましく、従って、硬質炭素材料と併用された1つ以上の元素及び/又は化合物は、上記のように、硬質炭素材料の製造中に誘導することができる。
【0024】
本発明の方法で、処理工程c)では、炭化された動物由来の材料に対して実施された後、熱分解工程d)が実施される。
【0025】
非常に好ましい実施形態では、本発明の方法は、炭化動物由来の材料に存在する、可溶性の金属-イオン及び/又は非金属-イオン含有不純物、例えば、元素遷移金属及び/又は遷移金属酸化物等の遷移金属-イオン含有化合物を溶解するために、炭化動物由来の材料を化学的に処理する化学消化工程を含む、処理工程c)を含む。下記の特定の実施例に示されるように、炭化前の化学的処理の機能により、極端なpH値での有機成分の消化のために大量の動物由来の材料が失われる結果となる一方で、熱分解後の化学的処理により、材料上に残留水分及び表面官能性がもたらされると予想され、これらにより、得られる硬質炭素含有材料の電気化学的機能が低下する。
【0026】
この好ましい化学的処理工程c)としては、pH値が8以上及び/又は6以下、好ましくは9以上及び/又は4以下の溶液中で行われ、その結果、炭化した動物由来の材料をアルカリ性溶液及び/又は酸性溶液を用いて処理することがあげられる。
【0027】
工程c)における化学的処理の好ましい温度は、少なくとも10℃~650℃未満、さらに好ましくは50℃~≦550℃である。
【0028】
炭化した動物由来の材料中に存在する不純物に応じて、化学的処理工程c)はアルカリ処理及び/又は酸処理を含んでよい。アルカリ処理及び酸処理をともに用いる場合、酸処理の前にアルカリ処理を行うことが推奨される。
【0029】
アルカリ処理は、適当な溶媒(好ましくは水)に溶解したアルカリ性試薬の濃縮溶液中で行う。好ましくは、溶液は、少なくとも2.0M(28.0Mまで)のアルカリ性溶液、又は溶融浴(好ましくは、純粋な溶融浴)である。極めて好ましいアルカリ性溶液のアルカリ性試薬濃度は、3.0M以上、好ましくは少なくとも3.0M、そして理想的には約4.0Mである。1つ以上のアルカリ性試薬、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア及び水溶性水酸化物から選択される1つ以上のアルカリ性試薬を用いることができる。水酸化カリウム及び水酸化ナトリウム、又はこれらの混合物は、好適なアルカリ試薬であり、アルカリ金属水酸化物、例えばNaOH及び/又はKOHを含む溶融浴が特に理想的である。アルカリ処理は、好ましくは少なくとも4時間の期間にわたって行われ、6時間の期間が特に好ましい。アルカリ処理は、常圧、理想的には約450℃~約550℃の間の温度、特に最大500℃までの空気中で行うことができる。高温のアルカリ精製温度では、非常に高い第一サイクル損失値につながる開放マイクロポアが豊富に生成され、炭素が「活性化」されるため、アルカリ精製温度を高温にすべきでない。当該問題は、以下、比較例3で実証される。
【0030】
次いで、得られたアルカリ処理された炭化された動物由来の粉末をアルカリ性溶液から除去し、少なくとも1回(好ましくは複数回)、不要な金属及び/又は金属-イオン含有不純物、並びに炭化された動物由来の物質からの残留アルカリ試薬の除去を溶解しかつ促進する少なくとも1つの溶媒で洗浄する。好ましくは、洗浄溶媒は熱く、好ましくは沸騰水である。脱イオン水が理想的である。工程(c)で得られたアルカリ処理材料は、所望により、以下に記載されるように、加熱(好ましくは最大150℃まで、さらに好ましくは50℃~120℃)及び所望によりさらに減圧下(好ましくは動的真空)で、それが以下に記載されるように処理されるか、又は工程(d)で熱分解される前に、所望により、乾燥される。
【0031】
理想的には、空気中及び大気圧条件下で、工程cにおいて実施される酸処理としては、温度が、少なくとも60℃、及び理想的には、酸性試薬を1つ以上含む酸性溶液中で80℃~120℃で、(実施される場合には、アルカリ処理される)炭化動物由来の材料を処理することがあげられる。この酸処理により、(アルカリ処理された)炭化動物由来の材料に存在し得る、カルシウム、カリウム、リン及びマグネシウム化合物等の不要な無機物、並びに一般的な遷移金属及びそれらの酸化物、例えば鉄及びマンガンを選択的に除去することができる。適切な酸には、塩酸、フッ化水素酸、硝酸及び硫酸から選択される1つ以上が含まれる。酸性溶液は好ましくは希釈され;1.0M~3.0M未満の溶液が良好に機能し、2.0M溶液、好ましくは2.0M HCl溶液が特に好ましい。酸処理は、好ましくは、少なくとも4時間にわたって行われ、6時間が特に好ましい。
【0032】
次いで、得られた酸処理された炭化動物由来の材料を工程c)の終了時に分離し、好ましくは、少なくとも1つの溶媒で洗浄して、酸処理中に形成されたイオンを再溶解する。好ましくは、洗浄溶媒は熱く、さらに好ましくは沸騰水である。脱イオン水も理想的である。工程(c)から得られた酸処理材料は、工程(d)で熱分解される前に、場合によっては、加熱(好ましくは最大150℃まで、さらに好ましくは50℃~120℃)かつ、場合によっては、減圧下(好ましくは動的真空)で、場合によっては、乾燥される。
【0033】
熱分解工程d)は、化学的に処理された炭化動物由来の材料の表面から酸素含有化合物を除去するのに必要であり、当該酸素基は、流入する電荷担体の永久的なアンカーポイントとして作用し、第一サイクル損失に寄与することが知られている。さらに、最終硬質炭素含有材料の比表面積により、その不可逆容量のレベルが決まり、この不利な点は、比表面積(100m2/g未満)が低い材料で低減すること;熱分解は、最終硬質炭素含有材料の比表面積を50m2/g未満、好ましくは約10m2/gに低下させる効果があることが判明した。
【0034】
本出願で与えられた全ての比表面積値は、BET N2分析で決定された。
【0035】
熱分解としては、工程d)から得られたアルカリ及び/又は酸処理された炭化動物由来の粉末状の動物由来の材料を、700℃以上、好ましくは800℃以上、2000℃以下、さらに好ましくは1000℃以上、1800℃以下、理想的には1200℃程度の温度まで、30分~8時間(ランプ時間)にわたって加熱することがあげられる。次いで、高温条件は、場合によっては、少なくとも10分間、好ましくは30分~2時間(滞留時間)にわたって維持される。酸素は、有利には、熱分解プロセスには存在せず、好ましくは、窒素、二酸化炭素、別の非酸化性ガス、及びアルゴン等の不活性ガスから選択されるガスの1つ又は混合物で置換される。理想的な熱分解条件としては、1L/分のアルゴン気流下で、約1200℃、2℃/分のランプ速度で3時間の加熱があげられ、場合によっては、1000℃で1時間の滞留があげられる。
【0036】
熱分解後、冷却/放冷条件により、得られた熱分解物質を処理できる。得られた熱分解材料は硬質炭素含有材料である。
【0037】
得られた硬質炭素含有材料を電極活性材料として用いる前に、好ましくは、約8~25μmのd50に粉砕し、15~25μmのふるいを通して濾過して、より大きな粒子を排除する。
【0038】
本発明はさらに、二次電池用途、特にナトリウムイオン電池を含むアルカリ金属イオン電池における電極活性材料とした、動物由来の材料を用いて製造された硬質炭素含有材料の使用を提供する。
【0039】
本発明はさらに、動物由来の材料に由来する少なくとも1つの硬質炭素含有材料を含む、少なくとも1つの負極(アノード)を含むアルカリ金属イオン電池を提供する。また、アルカリ金属イオン電池は正極(カソード)も含み、この正極(カソード)は、好ましくは、酸化物系材料、ポリアニオン材料、プルシアンブルーアナログ系材料、及びカソード変換系材料(正極ホスト材料の有意な結合破壊伴う再構成または置換メカニズムによって主にナトリウムを貯蔵する材料であり、例として、CuSO4、Cu2P2O7、FeF3、NaFeF3等があげられるが、これらに限定されない)から選択される1つ以上の正極活物質を含む。特に好ましくは、1つ以上の正極活性材料は、アルカリ金属含有酸化物系材料から選択された1つ以上のアルカリ金属含有ポリアニオン性材料を含み、アルカリ金属は、ナトリウム及び/又はカリウムから選択された1つ以上のアルカリ金属であり、場合によっては、リチウムと併用されてよい。特定の正極活物質は、アルカリ金属の少量成分としてリチウムを含有する。すなわち、リチウムの量は、総アルカリ金属含有量の50質量%未満、好ましくは10質量%未満、理想的には5質量%未満である。
【0040】
最も好ましい正極活性材料は、以下の一般式:
A1±δM1
VM2
WM3
XM4
YM5
ZO2-c
(式中、
Aは、ナトリウム及び/又はカリウムから選択される1つ以上のアルカリ金属であり、かつ、場合によっては、リチウムを含む;
M1は、酸化状態+2で1つ以上の酸化還元活性金属を含み、
M2は、0~+4以下の酸化状態の金属を含む;
M3は、酸化状態+2の金属を含む;
M4は、0~+4以下の酸化状態の金属を含む;
M5は、酸化状態+3の金属を含み;
ここで、
0≦δ≦1であり;
Vは0より大きく;
W≧0であり;
X≧0であり;
Y≧0であり;
WとYの少なくとも1つが0より大きく;
Z≧0であり;
Cは、0≦c<2の範囲であり;
ここで、V、W、X、Y、Z及びCは、電気化学的中性を維持するように選択される)
で表される化合物である。
疑義を避けるために、用語「ナトリウム及び/又はカリウムから選択され、かつ、場合によっては、リチウムと共に1つ以上のアルカリ金属」は、Na、K、Na+K、Na+Li、K+Li及びNa+K+Liを含むと解釈されるべきである。
【0041】
理想的には、金属M2は、1つ以上の遷移金属を含み、好ましくは、マンガン、チタン及びジルコニウムから選択され;M3は、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、銅、スズ、亜鉛及びコバルトから選択される1つ以上の遷移金属を含み;M4は、好ましくは、マンガン、チタン及びジルコニウムから選択される1つ以上の遷移金属を含み;M5は、好ましくは、アルミニウム、鉄、コバルト、スズ、モリブデン、クロム、バナジウム、スカンジウム及びイットリウムから選択される1つ以上の遷移金属を含む。いかなる結晶構造を有するカソード活性材料を用いることができ、好ましくは、当該構造はO3又はP2又はその誘導体であるが、具体的には、カソード材料が相の混合物を含む、すなわち、幾つかの異なる結晶形態で構成される不均一構造であってもよい。
【0042】
非常に好ましい正極活性材料は、ナトリウム及び/又はカリウム含有遷移金属含有化合物を含み、ナトリウム遷移金属ニッケル化合物が特に好ましい。特に好ましい例は、O3/P2-Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2、O3-Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2、P2型Na2/3Ni1/3Mn1/2Ti1/6O2、P2-Na2/3(Fe1/2Mn1/2)O2、P’2-Na2/3MnO2、P3又はP2-Na0.67Mn0.67Ni0.33O2、Na3V2(PO4)3、NaVPO4F、KVPO4F、Na3V2(PO4)2F3、K3V2(PO4)2F3、NaxFeyMny(CN)6.nH2O(0≦x.y)z≦2;0≦n≦10)、KxFeyMny(CN)6≦H2O(0≦x,y,z≦2;0≦n≦10)、O3、P2及び/又はP3-KxMnyNizO2(0≦x≦1)及び0≦y,z≦1))を含む。
【0043】
有利には、本発明によるアルカリ金属イオン電池は、いかなる形態の電解質を用いることができ、すなわち、固体、液体又はゲル組成物を用いることができ、好適な例としては、1,3-プロパンジオール環状硫酸塩(PCS)、P123界面活性剤、トリス(トリメチルシリル)リン酸塩(TMSP)、トリス(トリメチルシリル)ホウ酸塩(TMSB)、1-プロペン1,3スルトン、1,3プロパンスルトン等の電解質添加剤含有/非含有の、エチレンカーボネート、EC:ジエチルカーボネート、DEC:プロピレンカーボネート、PC=1:2:1 wt/wt又はPC(HFE(1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル)又はD2(1,1,2,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル)等の希釈剤含有/非含有)におけるx m NaPF6(0≦x≦10)等の液体電解質;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)又はカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)等の単独又は併用して用いられ、かつ、に、上記液体電解質が含浸された、以下のマトリクス材料のいずれかに基づくゲル電解質;又は、Na3Zr2Si2PO12等のNASICON型、Na3PS4又はNa3SbS4等の硫化物系、Na2B10-Na2B12H12等の水素化物系、又はNa2O.(8-11)Al2O3等のβ-アルミナ系、又はNa2O.(5-7)Al2O3等の関連するβ”-アルミナ系を含む、固体電解質があげられる。
以下、以下の図面を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明の好ましいプロセスを説明するフローチャートを示す図である。
【
図2】実施例1で説明した本発明の方法を用いて、ニワトリ糞尿由来の硬質炭素含有材料のXRDパターンを示すグラフである。
【
図3】C/20~1Cの速度能力試験を受けた実施例1に記載された硬質炭素材料のソーダ化(sodiation)/脱ソーダ化(desodiation)電圧(対ナトリウム)プロファイルを示すグラフである。
【
図4】C/50からC/10までの速度能力試験を受けた実施例1に記載された硬質炭素材料のソーダ化/脱ソーダ化電圧(対ナトリウム)プロファイルを示すグラフである。
【
図5】実施例1に従って作製された動物由来の硬質炭素含有アノード活性物質を、1.0~4.2Vの間で形成されたフルナトリウムイオン電池で2サイクル実施後、1.0~4.0Vの間でC/5の充放電レート、C/50のCVステップで長期サイクルを実施した場合のサイクル寿命性能を示したグラフである。
【
図6】実施例1に従って作製されたアノード材料を用いて、3電極セルから得られた電圧-容量曲線を示すグラフである。
【
図7】実施例2における脱鉱化前の酸洗浄下水汚泥のXRDパターンを示すグラフである。
【
図8】実施例2における熱分解前の脱鉱化下水汚泥から抽出された炭素材料のXRDパターンを示すグラフである。
【
図9】
図9Aは、比較例3(CN107887602Aに記載の方法)に従って調製した、比表面積(500~1000m2/gの範囲)が高い比較硬質炭素材料について得られた、ソーダ化/脱ソーダ化電圧(対ナトリウム)プロファイルを示すグラフである。
図9Bは、本発明の方法に従って調製された硬質炭素材料のソーダ化/脱ソーダ化(対ナトリウム)プロファイルを示すグラフである。
【
図10】
図10Aは、CN107887602Aから再現された、比較例3に従って調製された硬質炭素含有材料の電子顕微鏡写真である。
図10Bは、本発明に従って調製された硬質炭素含有材料の電子顕微鏡写真を示し、この材料には可視微小孔がないことを実証する。
【発明を実施するための形態】
【0045】
硬質炭素材料は、以下の実施例1及び2に詳述するように、本発明の前処理に従って作製された。比較例3は、先行技術文献CN107887602Aに開示されているような方法に従う。
【実施例1】
【0046】
鶏糞由来の材料を用いて、本発明のプロセスに従って調製された硬質炭素含有材料
得られたペレット状の鶏糞を1mm未満に粉砕し、体積比1:6で水中に分散させる。この水性分散液を撹拌板上で撹拌し、鶏糞にしばしば含まれる造岩性無機化合物の密度が水やバイオマスのいずれよりも高いことから、無機不純物(一次ケイ酸塩等)を沈降により混合物から少なくとも部分的に分離した(重媒体分離)。その後、バイオマスを多く含む上澄み液を別容器で減圧抽出し、無機不純物が還元された粉末状の鶏糞を得る。
【0047】
次いで、無機不純物が還元された粉末状の鶏糞を、有機溶媒、例えばアセトンで洗浄し、100℃で一晩乾燥する。有機溶媒は、乾燥を促進し、悪臭を低減するために用いられるが、必須ではない。乾燥粉末の無機不純物含有量は、乾燥粉末の一部(約100mg)を大気圧下の1000℃で焼成し、残留灰を秤量することで推定される。乾燥粉末の灰分は9.9質量%であり、これは受入時の鶏糞の初期灰分26.9質量%よりも有意に少ない。無機不純物が還元された粉末状の鶏糞を、1L/分のアルゴン気流下で、600℃で4時間炭化したところ、得られた収率は約40質量%であった。より高い炭化温度は回避して、残留シリカの結晶化を最小限に抑える。得られたチャーリング化(炭化)鶏糞を、4.0M NaOHの沸騰溶液中で空気中6時間還流処理して、不純物の含有量を最小限にする。熱い脱イオン水で粉末をすすいだ後、沸騰させた2.0M HCl溶液を用いて6時間化学的消化を続けて、カルシウム、カリウム、リン及びマグネシウム化合物並びに一般的な遷移金属及びそれらの酸化物、例えば鉄及びマンガンの含有量をさらに最小限にする。得られた粉末を沸騰した脱イオン水で再度洗浄し、乾燥させた後、1200℃で3時間、1L/分のアルゴン気流下で2℃/分の昇降速度で熱分解し、1000℃で1時間滞留させると、約77質量%の収率となる。この粉末を約10μmのd50まで粉砕し、25μmのふるいを通して濾過して、より大きな粒子を排除する。
XRDによる製品分析
所望の標的材料が調製されたことを確認し、生成物材料の相純度を確立し、存在する不純物のタイプを決定するために、Siemens (RTM) D5000粉末回折計を用いてX線回折技術による分析を実施する。この情報から単位格子の格子パラメータを決定することができる。
材料を分析するために用いられる一般的なXRD動作条件は以下の通りである:
スリットサイズ:2mm、2mm、0.2mm
範囲:2θ =10°~60°
X線波長=1.5418Å(オングストローム)(Cu Kα)
速度:1.0秒/ステップ
増分:0.025°
下記の表1は、
図2に示すXRDパターンからの情報を用いて、黒鉛結晶子の間隔及びそれらのドメインサイズ(面内:La及び積層:Lc)の推定の詳細を示す。
【0048】
【実施例2】
【0049】
ヒト由来廃棄物材料(下水汚泥)を用いて本発明の方法により調製された硬質炭素含有材料
通常のリサイクルプロセスでは、湿った下水汚泥を脱水し、乾燥し、炭化して、リン富化肥料として直接利用できるリンとミネラルが豊富なバイオチャーが得られる。硬質炭素合成に適するバイオチャー前駆体を得るためには、さらなる処理が必要である。下水汚泥バイオチャーの脱無機化と脱リン化は溶融アルカリ浴中で行われる。このプロセスでは、乾燥した下水汚泥のバイオチャーをガラス容器中のNaOH粉末と等量の比率で混合する。次いで、混合物を、空気下、オーブン中、500℃で3時間加熱する。溶融アルカリ消化後に回収された生成物を脱イオン水で数回すすぎ、消化された金属含有不純物及び残留NaOHをすべて除去する。
図8に、脱鉱化後に得られた精製炭素のX線回折パターンを示すが、この精製下水汚泥バイオチャーから、不活性雰囲気下での熱分解により硬質炭素が得られる。通常、精製された下水汚泥バイオチャーは、1000℃で1時間の中間滞留時間で2℃/分のランプ速度で1300℃まで加熱され、1300℃で3時間保持され、その後、回収のために室温まで冷却される。
【0050】
電気化学的結果
実施例1及び2に従って作製された硬質炭素含有材料を含むアノードは、熱分解された動物由来の材料(上記のように)、バインダー及び溶媒由来の硬質炭素材料を含むスラリーを質量比92:6:2で溶媒キャスティングすることによって調製される。C65TMカーボン(Timcal) (RTM)等の導電性カーボンがスラリー中に含まれてもよい。PVdFは適当な結合剤であり、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として用いることができる。次いで、スラリーを集電体箔(例えば、アルミニウム箔)にキャストし、溶媒の大部分が蒸発し、電極膜が形成されるまで加熱する。次いで、アノード電極を約120℃の動的真空下でさらに乾燥させる。
【0051】
セル試験
ハーフセル試験のために、硬質炭素電極は、基準となるナトリウム金属と対極の1つのディスクと対にする。ガラス繊維GF/Aがセパレータとして用いられ、適当な電解質も用いられる。いかなる適当なNa-イオン電解質を用いてよく、好ましくは、1つ以上の塩、例えば、NaPF6、NaAsF6、NaClO4、NaBF4、NaSCN及びNaトリフラートを、1つ以上の有機溶媒、例えば、EC、PC、DEC、DMC、EMC、グリム、エステル、アセテート等と併用して含むことができる。ビニレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネート等のさらなる添加剤もまた、混入され得る。好ましい電解質組成物としては、0.5M NaPF6/EC:PC:DECがあげられる。
【0052】
全てのセルを、サイクリングの前に24時間休止させた。3電極試験では、アノードとして硬質炭素、正極として標準酸化物、基準としてナトリウムを用いて、3電極はすべて同じ電解質で湿潤させる。セパレータとしては、厚さ24.5μmの2つのポリエチレン膜を用いた。
【0053】
半電池は定電流サイクル法を用いて試験し、3つの電極電池は定電流定電圧法を用いて試験する。
【0054】
セルは、予め設定された電圧限界の間の、所定の電流密度で循環される。市販の電池サイクラー(MTI Inc.(米国カリフォルニア州リッチモンド)を用いた。充電時には、アルカリイオンが硬質炭素含有カソード材料に挿入される。アルカリイオンがアノードから抽出され、カソード活性材料に再度挿入される。
【0055】
セル循環の結果は、この適用ではより有益であるため、(正極比容量よりもむしろ)アノード比容量の関数として示されている。アノード比容量は、測定された容量をアノード中の活性成分の質量で除して計算する。
【0056】
結果:例1に従った硬質炭素材料の電気化学試験
得られた硬質炭素の比容量を、ハーフセルから得た。結果を以下の表2に要約する。
表2:可逆的なソーダ化/脱ソーダ化比容量と金属ナトリウムの比率が異なる鶏糞バイオチャー由来の硬質炭素
【0057】
【表2】
図3及び
図4は、代表的なソーダ化/脱ソーダ化電圧(対ナトリウム)プロファイルを示し、数値はまた表2に報告されている。1Cで用いられる等価電流率は190mA/gである。セル2(
図3)は、C/20と1Cの間の速度能力(C/20でのソーダ化、電流速度の増加での脱ソーダ化)を示す。セル4(
図4)は、C/50とC/10の間の速度能力(C/50でソーダ化/脱ソーダ化、C/10でソーダ化、C/20で脱ソーダ化)を示す。電圧プロファイルから、特に低電流レートでは、2つのセクションを識別することができる。第1の部分は、層内のアルカリイオン貯蔵及び/又は欠陥に起因する傾斜領域であり、第2の部分は、孔及び空隙内のアルカリイオン貯蔵に起因するプラトー領域である。動物由来の硬質炭素(特に鶏糞バイオチャー由来)の電圧プロファイル及び速度能力は、以前に報告されたハードカーボン材料と一致することが証明された。
【0058】
図5は、C/100までの定電圧ステップでC/10の定電流で1.0~4.2Vの間で形成された完全なナトリウムイオン電池における代表的な動物由来の硬質炭素含有アノード活性材料のサイクル寿命性能を示し、C/50までの定電圧ステップでC/5の充放電速度で1.0~4.0Vの間での長期サイクルを行った。放電容量の79%がC/5の電流速度で130サイクル後に保持され、良好な可逆的アルカリイオン貯蔵が動物由来の硬質炭素内で達成できることが証明された。
【0059】
図6は、3電極セルから得られた代表的な電圧-容量曲線を示す。容量は、硬質炭素の活性質量に基づく。ナトリウムイオンフルセル性能により、動物由来廃棄物であるバイオチャー材料が、硬質炭素アノード材料の合成のための前駆体として適することが証明された。
【実施例3】
【0060】
比表面積(580m
2
/g以上)が高い硬質炭素材料との比較
バイオチャー試料を水酸化ナトリウムと混合し、650℃まで加熱した。その後、中和工程を行い、比表面積が500~1000m2/gと高い硬質炭素含有材料を得た。
【0061】
図9Aに示すように、得られた硬質炭素材料は、不可逆容量が大きいこの材料のソーダ化及び脱ソーダ化挙動を示し、最初のサイクルのクーロン効率はわずか23.3%であった。
【0062】
対照的に、
図9Bに示すように、本発明に従って製造された(すなわち、表面積がはるかに低い)硬質炭素材料の第1サイクルクーロン効率は、80.9%である。FCCEは、キャリアの在庫が固定されている二次電池の場合に特に重要である。
【0063】
第1サイクルのクーロン効率が悪いのは、アルカリ処理工程で用いられる高温により、製造された材料の表面積が過度に大きくなった(500~1000m
2/g)こと、ii)アルカリ/酸消化による酸素基と窒素基が硬質炭素含有材料の表面に保持される二次高温(700℃以上)熱処理(本発明のプロセスでは「熱分解」という)が行われなかったことが原因であると考えられる。
比較例3及び本発明に従って製造された硬質炭素含有材料の電子顕微鏡写真を各々、
図10A及び10Bに示す。
図10Aは、高度に多孔質な硬質炭素含有材料を示し、
図10Bは、本質的に非多孔質な硬質炭素含有材料を示す。
【実施例4】
【0064】
本発明のプロセスにおけるチャーリング、化学的処理、熱分解工程の必要性を示す実験
本発明の方法によって提供される主な利点は、動物由来の材料から製造される硬質炭素材料の量及び/又は品質(純度を含む)を最大化することである。これが達成される方法としては、熱分解の前の処理により様々な不純物が選択的に除去された初期の炭化材料を用いる、すなわち、炭化、不純物除去及び熱分解の全3工が必要であり、これらをこの特定の順序で行う必要がある。これは、以下の表3に詳述されている反復によって実証される:
【0065】
【表3】
表3に示すように、化学的処理工程(酸消化、NaOHへの浸出等)は動物由来の出発原料の精製(無機/金属/非金属不純物の除去)に有効であるが、チャーリングしていない(無炭化)動物由来の原料で当該化学的処理工程を行うと、動物由来の出発原料の有機成分が著しく溶解し、熱分解後の収率が低下する。さらに、熱分解の前に化学的処理工程を実施して、最終硬質炭素含有材料の表面から酸素基を除去するのが好ましい。さらに、炭素原子を(最初の無機化合物ではなく)炭素マトリクス中に固定するためには、炭素含有量が以降の化学的処理で保存されるように、初期炭化が必須である。反復3は、最高の熱分解収率及び許容可能な純度レベルを提供することが分かった。
【手続補正書】
【提出日】2021-01-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の動物
糞便由来の材料の利用を含む、硬質炭素含有材料を調製する方法。
【請求項2】
以下の:
a)1つ以上の動物
糞便由来の材料を含む組成物の提供;
b)前記工程(a)の前記組成物が、1つ以上のチャーリングされていない動物
糞便由来の材料を含む場合、前記組成物を150℃~700℃の温度で加熱して、前記1つ以上の動物
糞便由来の材料をチャーリングして、チャーリングされた動物
糞便由来の材料を生成し;
c)前記工程(a)又は工程(b)のいずれか由来のチャーリングされた動物
糞便由来の材料を含む組成物を処理して、不要な金属-イオン含有不純物及び/又は非金属-イオン含有不純物を除去し;かつ、
d)前記工程c)で処理されたチャーリングされた動物
糞便由来の材料を700℃~2500℃の温度で熱分解する;
工程を含む、
請求項1に記載の硬質炭素含有材料を調製する方法。
【請求項3】
前記工程a)で提供される前記1つ以上の動物
糞便由来の材料を含む組成物に含まれる鉱物含有不純物は、10質量%未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程c)の処理には、アルカリ性及び/又は酸性条件を用いる化学的消化を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
BET (N
2)比表面積が100m
2/g以下の硬質炭素含有材料を調製するための、1つ以上の動物
糞便由来の材料の使用。
【請求項6】
得られた硬質炭素含有材料の炭素含有量が、少なくとも90質量%である、請求項
5に記載の1つ以上の動物
糞便由来の材料の使用。
【請求項7】
得られた硬質炭素含有材料が、金属-イオン及び/又は非金属-イオン含有成分を50質量%まで含む、請求項
5に記載の1つ以上の動物
糞便由来の材料の使用。
【請求項8】
前記1つ以上の動物
糞便由来の材料は、
ヒト糞便由来の材料を含む、請求項
1に記載の
方法。
【国際調査報告】