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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-28
(54)【発明の名称】擦弦楽器
(51)【国際特許分類】
   G10D 3/13 20200101AFI20220621BHJP
   G10D 1/02 20060101ALI20220621BHJP
   G10D 3/22 20200101ALI20220621BHJP
【FI】
G10D3/13
G10D1/02
G10D3/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021560301
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(85)【翻訳文提出日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 HU2020000010
(87)【国際公開番号】W WO2020194002
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P1900095
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(31)【優先権主張番号】P2000031
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521438548
【氏名又は名称】トート、カロリ
(71)【出願人】
【識別番号】521438559
【氏名又は名称】ヴァルダイ、イストヴァン
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トート、カロリ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルダイ、イストヴァン
【テーマコード(参考)】
5D002
【Fターム(参考)】
5D002AA01
5D002CC14
5D002CC38
5D002DD03
5D002DD07
(57)【要約】
本発明の対象は、本体(2)とネック(1)とを備える擦弦楽器であり、本体(2)の上面がトッププレート(4)であり、その下部でテールピースが楽器の下部に固定され、弦(14)が、前記テールピースと前記ネック(1)のスクロール(8)との間に、ブリッジによって下から支持され、張力をかけられた状態で配置される。本発明に関する擦弦楽器は、弦(14)の底部を保持するように適合され、弧状の三角形を有し、多層材料で作られた非対称形状の本体を有し、その周囲に沿って丸みを帯びているテールピース(16)を備え、弦(14)を受けるように適合されるボア(20)は底部の角部(a)と2つの上部の角部(b,c)の間に延びる弧状部(9)に沿って配置される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体(2)とネック(1)とを備え、前記本体(2)の上面がトッププレート(4)であり、その下部でテールピースが楽器の下部に固定され、弦(14)が、前記テールピースと前記ネック(1)のスクロール(8)との間に、ブリッジによって下から支持され、張力をかけられた状態で配置され、
前記弦(14)の底部を保持するように適合され、弧状の三角形を有し、多層材料で作られた非対称形状の本体を有し、その周囲に沿って丸みを帯びているテールピース(16)を備え、
前記本体では、擦弦楽器の底部に前記テールピース(16)を固定するボア(18)が設けられ、2つの上部の角部(b、c)の間に延びる弧状部(9)に沿って異なる長さの前記弦(14)を受けるボア(20)が配置されることを特徴とする擦弦楽器。
【請求項2】
前記テールピース(16)の多層本体が、コア部(21)と、両側のコア部分を境界付けるように適合された少なくとも1つの補強層(22)とで形成され、両側の補強層(23)を境界付けるように適合された少なくとも1層のカバー層(23)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の擦弦楽器。
【請求項3】
前記テールピース(16)のコア部分(21)の材料が、黒檀、マホガニー、メンガ、イロコ、アフロモシア、カブレウーヴァ、ラパチョ、チーク、ローズウッド、ジャトバ、メルバウ、ムテニエ、ウェンジ、パンガパンガ、ケンパス、バンキライ、カヤの木材材料のうちの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の擦弦楽器。
【請求項4】
前記テールピース(16)の補強層の材料が、ケブラー、炭素繊維、グラフェンのいずれかの材料であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の擦弦楽器。
【請求項5】
前記テールピース(16)の本体の複数の層(21、22、23)の間が粘着性の接着剤で接着されることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項記載の擦弦楽器。
【請求項6】
前記テールピース(16)の接着剤で接着された層間の結合が、シアン化物含有接着剤及び/または熱硬化性樹脂接着剤によって形成されることを特徴とする、請求項5に記載の擦弦楽器。
【請求項7】
前記弦を受け入れるように適合された前記テールピース(16)の前記ボア(20)が面取りされた縁の構成を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の擦弦楽器。
【請求項8】
前記弧状部の角(b、c)の間に延びる弧状部分を記述する関数が、以下の式及び値によって定義される関数部分であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の擦弦楽器。
【数1】
【請求項9】
前記ブリッジ(25)と前記テールピース(16)との間に配置され、上下に変位するように適合された1つまたは複数のスペーサー部材をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の擦弦楽器。
【請求項10】
前記スペーサー部材(26)がブロック状の形状で、その側面の1つに配置された前記弦(14)を受け入れるように適合された溝(27)を有することを特徴とする、請求項9に記載の擦弦楽器。
【請求項11】
前記テールピース(16)と前記ネック(1)の前記スクロール(8)との間に配置された前記弦(14)が表Iに指定された長さを有することを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の擦弦楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、ボディとネックを備えた擦弦楽器であり、ボディの上面はトッププレートであり、その底部には、テールピースが楽器の底部に固定され、弦はテールピースとネックのスクロールの間で、ブリッジによって下から支えられ、張力をかけられた状態で配置される。
【背景技術】
【0002】
従来の擦弦楽器にはいくつかの種類がある。バイオリン族のメンバーでは、テールピースは、エボニーまたはローズウッドで彫られた部品であり、弦の力によって下部の端受に固定されたボタンに連結される。マンドリンや金属弦のある特定のアコースティックギターやエレキギターでは、テールピースは金属製で、下部の端受または楽器のボディにねじ込まれる。ギターでは、例えばクラシックギターやフラメンコギターの場合、テールピースとブリッジが一体となって(単一のピースとして)実装されることがよくある。古い時代のピック楽器や民族楽器では、(ノットタイプの)ストリングブリッジもテールピースを形成する。
【0003】
弦は、擦弦楽器の主要な音生成部品である。
弦は細くてしなやかなコードで、伸ばした状態で横の振動が可能である。これは通常、動物の腸、絹、プラスチック、または金属でできている(ハンガリー語で文字列を表す「hur」の元の意味は「gut(腸)」であった)。擦弦楽器の音の特徴は基本的に弦によって決まるが、弦によって生成される音は楽器のボディから放射されるため、楽器の構造にも依存する。
【0004】
弦の振動は、次のようなさまざまな方法で引き起こされる。
-プラッキング(手動で-指を利用する-または手動ピックまたはハープシコードの場合のようなメカニズムを適用する)、
-ヒッティング(ピアノのように、手動で、またはツィンバロムの場合のように、叩くメカニズムを適用する)、
-ラビング(擦弦楽器の場合のように弓を適用するか、ハーディ・ガーディの場合のようにメカニズムを適用する)、
-弦の振動が空気の流れ(エオリアンハープ)によって引き起こされる特殊なケース。
【0005】
一定のピッチの音を発する弦では、定在波が発生する:弦の振動のサイクル時間は、その自由長によって決まる。振動の大きさまたは振幅が音量を決定し、振動の周波数が生成される音のピッチを決定する。弦の他の特性、例えばその素材、太さなど、及び演奏家による弦のタッチは、音色に影響を与える。弦が発する音の高さの調整(「チューニング」)は、ほとんどの楽器の場合、弦の伸び具合を変えることで行われる。
【0006】
両端が固定されている引き伸ばされた弦が、特定のポイントで基本状態から振れられた場合、それは細長い三角形の形をとり、それが解放された後は、三角形の角が弦に沿って両方向に動き始め、弦がその元の基本状態に戻ろうとしている間、前後に走り、終点で方向が逆になる。弦の動きの特性は、励起の位置に大きく依存することに注意することが重要であるが、これは音の周波数には影響しない。プラッキングの場合、内部摩擦により振動は収まるが、弓を弾くことにより、プラッキングの瞬間の状態特性を継続的に維持することができる。
【0007】
弦が音楽目的に適するように、つまり、できるだけ長く音楽的な音を出すことができるようにするには、次の条件を満たす必要がある:
-チューニングに必要な張力に耐えられるだけの、十分な張力が必要であり、
-振動する柔軟なロッドとしてではなく、実際に弦として動作できるように、十分に柔軟である必要があり、
-故に、素材がより硬いまたはより堅固な場合(例えば、鋼)、長さ対直径の比率が十分に大きいことが重要であるが、例えば、ブロンズのコードで包まれたシルクの弦は、比較的、長さ対直径の比率が小さい、
-その縦方向の質量分布は均一でなければならない。これは、異なる密度の材料の組み合わせを排除するものではない。
【0008】
最初の擦弦楽器は、おそらく「イディオコード」と呼ばれる楽器であった。これらは、さまざまな植物の茎から作られたもので、その茎には縦方向のスリットが切られ、このように分離された繊維状の束が端部で小さな楔によって伸びるように作られた。
【0009】
次の改良のステージは、ヘテロコードの楽弓であった。この楽器には、より厳しい音楽的要件を満たす、動植物由来の繊維を撚り合わせて作られた弦が含まれる。
擦弦楽器の改良中において、世界中の様々な地域で、音楽的な弦を作るために利用できる様々な材料が存在していた:東部では絹、アジアの遊牧民の馬の文化では馬の毛、熱帯地域では様々な植物繊維、そして西部では動物の腸(「腸線」)が、主にその目的のために利用されていた。
【0010】
高品質のガット(腸線)の弦は羊、山羊、または子羊の腸で作られているが、より適度の目的には、子牛、ウサギ、または猫の腸も適している。腸は主に筋線維で構成されており、その並外れた弾力性を説き明かす。洗浄、漂白などを行った後、腸を細い紐に切り、必要な数の紐を撚り合わせて希望の直径の紐を作り、乾燥、磨き、艶を出す。
【0011】
何千年もの間、ガット弦は最も普及しているタイプの弦であったが、20世紀半ばに、それらはプラスチックに置き換えられ始めた。ナイロン弦の音質はガット弦の音と同等であり、より耐久性を有している。
【0012】
金属弦にも長い歴史がある。それらを作るための主要な材料は、以前は銅と青銅であった。スチール弦は19世紀に普及し始め、最初はピアノに、次にバイオリンに使用された。20世紀には、アルミニウムも弦を作るための材料になった。
【0013】
バイオリンは、擦弦楽器のバイオリン族の中で最小かつ最高域にチューニングされたメンバーであり、4本の弦が完全5度ずつ離れてチューニングされる。このバイオリン族には、ビオラ、チェロ(またはバイオリンチェロ)及びダブルベースも含まれる。
【0014】
最も低いピッチの弦は「small g」、すなわちGにチューニングされ、その後に「単線D」(D)、「単線A」(A)、「二線E」(E)が続く。
バイオリンの音は通常、バイオリンキー(または、別の言い方をすればGキー)で表記される。
【0015】
楽器にはこれまで以上に厳しい要件が設定されるため、楽器の製作において最も複雑な専門知識を必要とする楽器の1つになった。慎重な製作慣行と非常に洗練された楽器技術の開発との組み合わせにより、他の擦弦楽器を凌駕する妙技、ダイナミック、音色の範囲を可能にする高性能な楽器が生まれた。バイオリンは、全擦弦楽器のうち、おそらく最もポピュラーで、確かに最も普及していて、最も人気がある。
【0016】
バイオリンの現在の形は15世紀頃に開発された。その主要な部品は、リブ(側面)、弧状のトッププレート、フロントプレートとバックプレート、終端がスクロールのネック、指板、テールピース、ブリッジ、及びペグである。黄金比に基づくバイオリンの形状とサイズのデザインは、非常に完璧であることが証明されているため、現在でも同じ構成が使用されている。
【0017】
バイオリンの形状、構成、構造部品は過去300年間ほとんど変わっておらず、さらに、部品を組み立てるために塗布された接着剤の組成、及び材料の表面処理に使用された染色やワニスの組成も同じままである。
【0018】
図1で従来のバイオリンの構成を説明する。バイオリンは、楽器の共鳴体を形成するボディ2を備える。その機能は、弦の振動を伝達し、それを音として周囲の空間に放射することである。正面から見ると、独特の砂時計の形をしており、「ウエスト」が狭くなっているため、弦のいずれかを鳴らすための弓の動きは妨げられない。
【0019】
ボディ2のアッパープレートは、好ましくは「4分の1」に切断され、中央で対称的に一緒に取り付けられ、わずかにアーチ型に彫られた2つのトウヒ片からなるトッププレート4である。これは、素材、形状、厚さ、仕上げが楽器の音質に最も大きな影響を与える部品である。ブリッジ13は、特に精巧な構成要素で、弦14の振動をトッププレートに伝達するように適応され、中央近くの後部に取り付けられる。いわゆるFホール10は、一方で、ブリッジ13のより自由な振動が可能となるようにトッププレートを軽量化するために設けられ、他方で、空洞にある程度の開放性を提供するように共振体、すなわちボディ2に設けられ、ブリッジ13の両側に対称的に配置される。トッププレート4は、縦方向に延びるロッド、いわゆるバスバーによって内側が補強されており、これは、低音の弦の下がわずかに非対称に配置される。
【0020】
後部から、ボディ2は、トッププレート4と同様の構成を有するバックプレート6によって終端されるが、それは、より硬い材料、すなわちメープルウッドでできており、穴または補強筋を有していない。それは一体的に、またはトッププレート4のような2つの対称的な部分を結合することによって作成することができる。
【0021】
トッププレート4とバックプレートは、リブ5によって相互に接合され、バイオリンの特殊な形状により、リブは様々な形状に曲げられ、いわゆるブロックによって相互に固定されるように、6つの個別のメープルウッドのプレートで構成される。それらの両方の縁の内側には、トッププレート4及びバックプレート6を取り付けるための接着表面積を増加させる、いわゆるライニングが延設される。広葉樹製のボタン24-その上にテールピース9(任意選択で微調整治具も含まれる)が垂れ下がる-が下端ブロックに装着される。この部品は、弦のプレーヤーに面する端を固定するために適用される。
【0022】
バイオリンのサウンドポスト(ヨーロッパ大陸では「ame」または「soul」とも呼ばれる)は、楽器の内部に配置された小さな円筒形のロッドで、トッププレート4とバックプレート6の間に挟まれ、ブリッジ13の側部の下の、高音の弦の下の位置にある。接着によって固定されていないため、Fホール10に挿入された専用工具を使用して位置を調整することができる。取り外すと、楽器は完全に無音になるが、1ミリでもずらすと音質が大きく変化する。この部品は、ほとんどの擦弦楽器に見られる。その主な機能は、弦14の弓によって引き起こされる振動(トッププレート4の平面にほぼ平行)を、トッププレート4に垂直な平面を持つ振動に変換することである。これは、ブリッジ13の「足」の1つの下に比較的しっかりしたサポート(ピボットポイント)を提供することにより、サウンドポストによって実現され、ほとんど全ての振動エネルギーがもう一方の「足」に伝達され、そのエネルギーはバスバーによってトッププレート4の全体に分配される。
【0023】
ネック1は、本体2の上端ブロックに取り付けられており、本体の長手方向軸に対してわずかに傾いている。それはカエデ材でできており、その上面には、トッププレート4の上方に長く伸びるフィンガーボード3が配置される。一方の端には、スクロール8と共に、チューニングヘッド及びペグ12を備えたペグボックス7が配置される。フィンガーボード3に対して弦を下向きに押すことにより、プレーヤーが異なるピッチの音を生成するため、ネック1は、人間工学的にプレーヤーの手のひらに収まるように形作られている。フィンガーボード3は黒檀でできており、ブリッジ13の曲率に対応するわずかに凸状の断面を有する。弦14の振動終端点の1つを形成するナット11は、フィンガーボード3の遠位端に配置される。
【0024】
端部のチューニングヘッドは、スクロール形に彫刻され、楽器製作者の「署名」と見なすことができる。これは、貴重な楽器のネック1を交換する必要がある場合に、チューニングヘッドを元のネック1から切り離して、交換用に取り付けるという点で尊重される。弦は、ナット11からペグボックス7のトラフのような窪みまで張られ、そこで、横方向に挿入されたペグ12に巻かれる。後者は、黒檀またはグレナディラの木でできており、ヘッドの穴に非常に正確にフィットする(円錐フィットを適用する)ことが重要である。これは、楽器の正確なチューニングがこのフィットの品質に依存するためである。円錐形は、ペグを適切に固定するために重要である。
【0025】
楽器の製造に使用される材料に関して、トッププレート、バスバー、サウンドポスト、ブロック、ライニングは針葉樹、すなわちトウヒの木で作られるが、バックプレート、リブ、ネック、スクロール付のペグボックス、ブリッジは落葉樹、すなわちカエデによる半硬材で作られる。フィンガーボードには、高荷重や磨耗が発生するため、エボニーを使用している。ペグ、テールピース、ボタン、顎当ては、ローズウッド、ツゲの木、黒檀、またはその他の熱帯産の木材で作ることができる。
【0026】
楽器の弦はテールピースとチューニングヘッドの間に配置される。
弦14の下部取り付け点を形成する従来のテールピース9の構成を図2に示す。テールピース9は、もともとは小さくて硬い金属板であり、4つの穴15が上部のより広い端部に沿って配置されている。そして、小さくて狭いスリット(図示せず)が穴に接続されている。弦14を受け入れるように適合された穴15及びスリット(GDAE)は、弦14の取り付け及び取り扱いを容易にするために、比較的狭くなるように構成される。従来のテールピース9のナットは、半球形に機械加工されたエッジを備える。テールピースの全ての部分を丸めることが重要である。
【0027】
何世紀にもわたって、テールピースは何度も変更されてきた。例えば、そのような変更を受けて、テールピースの上端を固定し、スリットを穴に置き換え、それらを通過する弦を結び目で固定するようにした。
その意図は、弦の抵抗を増やして、弦の規則的な振動を実現することにあった。
【0028】
テールピース9をボタンに取り付けるために、太い弦の断片が従来から適用されていた(O.P. PainBennewithを参照:A hegedii epftes alapismeretei(バイオリン製作に必要不可欠)、Emh Friedr Voight Kiado 1892、ハンガリー語訳は1992年に再発行され、2004年に個人で公開)。
【0029】
擦弦楽器のテールピースをさらに改善するために、多くの技術的解決策が提案されてきた。そのような解決策は、文書DE 19515166 Al、EP0242221 A2、DE 29712635 U1、US 5883318、DE 2845241 Al、WO 2012/150616、及びEP 0273499 Alに開示されている。
【0030】
EP 1,260,963及びHU 225,320の発明は、図2に示す形状を本質的に保持するテールピースを開示する。テールピースには、楽器に固定するように適合された係合アーチを形成する係合ループを備える弦保持機構が配置されたテールピース本体が取り付けられている。
【0031】
操作を簡単にするために、テールピースの本体は、テールピースからの係合弦の係合アーチの頂点の距離を調整するように適合された調整機構を備え、調整機構は、テールピースの側面の方向から操作することができる。
【0032】
文書US 2012/0285311に開示されているテールピースの場合、弦を受け入れるように適合された開口部は、非対称の弧状の開口部に沿って配置されており、その結果、弦は異なる長さを有する。
【0033】
文書US 2017/0278489は、主に、多層の中空テールピースとして構成される撥弦楽器用のテールピースを開示しており、弦を受け入れるように適合された開口部は、弧状の側面に沿って配置されている。
弦の張りはペグを使って調整する。
【0034】
文書US 2003/0217633は、楽器のトッププレート上に配置され、楽器の下部の取組でトッププレートに固定され、弦の下部を受け入れるように適合された擦弦楽器用のテールピースを開示している。この既知のテールピースは、従来のテールピースのより短い変形と見なすことができ、従来のテールピースの細長い足部分(その上部は、器具の弦を受け入れる穴を含む)が省略されている。
【0035】
既知の技術的解決策は、一方では複雑な構成を有し、他方では、それらは本質的に従来のテールピースの変形であるが、楽器の音に大きな影響を与えない。
【発明の開示】
【0036】
本発明の目的は、既知の技術的解決策の欠点を排除し、より容易な取り扱い、及び著しく改善された、より楽しい音を提供するテールピースを含む擦弦楽器を提供することである。
【0037】
本発明は、テールピースの弦を受け入れるように適合された従来の細長い上部の弧状構成を提供すると共に弦を異なる高さでテールピースの上部に固定することによって、共振器本体と弦の自由な動きを改善することができ、その結果、楽器の音がより「敏感な」音になる。なぜならば、弦の抵抗が大幅に減少し、弦の共鳴を制御できるようになり、それに加えて、伸びの異なる弦の動作(振動)がより均一になることで、楽器の音が大幅に向上するからである。
【0038】
本発明では、さらに、本発明のテールピースを含む擦弦楽器の場合、弦は異なる長さを有し、テールピースの構成により、それらの伸びはより均一であり、したがって弦はより簡単に音を出すことができ、よりリラックスした音になる。
【0039】
本発明による目的は、ボディとネックを備え、ボディの上面がトップフレートであり、その底面にテールピースが楽器の底部に固定されて配置されている擦弦楽器を提供することによって達成され、弦は、テールピースとネックのスクロールとの間で、ブリッジによって下から支えられて張力をかけられた状態で配置され、弦の底部を保持するように適合されたテールピースを含む擦弦楽器は、弧状の三角形を有し、多層材料で作られた非対称形状のボディで、ボディの周囲に沿って丸みを帯びており、擦弦楽器の底部にテールピースを固定するのに適した穴が下隅に配置され、その2つの上隅の間に延びる弧状部分に沿って配置されている弦を受け入れるように適合されている。
【0040】
本発明による擦弦楽器の好ましい実施形態では、テールピースは、コア部分で形成された多層本体であり、両側のコア部分を境界付けるように適合された少なくとも1つの補強層、及び両側の補強層を境界付けるように適合された少なくとも1層のカバー層を備え、ここで、コア部分は少なくとも次の木材、すなわち、黒檀、マホガニー、メンガ、イロコ、アフォルモシア、カブレウーヴァ、ラパチョ、チーク、ローズウッド、ジャトバ、メルバウ、ムテニエ、ウェンジ、パンガパンガ、ケンパス、バンキライ、カヤでできており、補強層は次の材料、すなわちケブラー、炭素繊維、グラフェンの少なくとも1つでできている。
【0041】
本発明による擦弦楽器の別の好ましい実施形態では、テールピースの多層本体の層間に接着結合があり、接着結合層は、シアン化物含有接着剤、及び/または熱硬化性樹脂接着剤で形成される。
【0042】
本発明による擦弦楽器のさらに好ましい実施形態では、弦を受け入れるように適合されたテールピースの穴は、面取りされたエッジ構成を有する。
【0043】
本発明による擦弦楽器の好都合な実施形態では、弦の下端を受け入れるように適合されたテールピースの上部の弧状部分の角の間に延びる弧状部分を説明する機能は、次の式と値で定義される関数部分である:
【0044】
【数1】
【0045】
本発明による擦弦楽器のさらに好都合な実施形態は、ブリッジとテールピースとの間に配置され、弦に沿って上下に変位するように適合された1つまたは複数のスペーサー部材をさらに含む。ここで、スペーサー部材はブロック状の構成を有し、ブロックの側面に形成されている弦を受け入れるように適合された溝を備えている。
本発明による擦弦楽器に適用可能な弦の長さの値は、表Iに指定されている。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1は、図1は、既知のテールピースで構成されている擦弦楽器-バイオリンの正面図(a)と側面図(b)である。
図2図2は、図1に示したテールピースの拡大図である。
図3図3は、本発明による擦弦楽器、特にバイオリンの側面図である。
図4図4は、図3による擦弦楽器の部分正面図である。
図5図5は、本発明による擦弦楽器で適用されたテールピースの斜視図である。
図6図6は、図5によるテールピースの正面図である。
図7図7は、図5によるテールピースの背面図である。
図8図8は、図5によるテールピースの上面図である。
図9図9は、図5によるテールピースの下側面図である。
図10図10は、図5による断面I-Iに沿って取られた図である。
図11図11は、図5によるテールピースの上部を表す曲線を示す図である。
図12図12は、本発明による擦弦楽器で適用されるスペーサー部材を示す図である。
図13図13は、図12によるスペーサー部材の側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
図3は、本発明による擦弦楽器-この場合はバイオリンの側面図を示している。
本発明による擦弦楽器の構成は、図1に示される従来の楽器の構成と本質的に同一であり、特にボディ2及びネック3の構成は変更されていない。
【0048】
ブリッジ13の役割は、ブリッジ25によって引き継がれている。しかしながら、楽器の底部に位置するテールピース16の構成は、既知の技術的解決策とは完全に異なる。テールピース16の構成については、以下で詳細に説明する。
テールピース16は、弦14の下端を受け入れるように適合されており、テールピース16は、ボタン24によって一点で楽器の底部に取り付けられる。
【0049】
図4は、図3による擦弦楽器の正面図で、弦を示しており、弦14に沿って上下に移動するように適合されたスペーサー部材26が、望ましくない調子外れの音を排除する目的で、テールピース16とブリッジ25との間の部分に配置されている。
スペーサー部材26は、任意選択でのみ含まれるもので、それらは省略可能である。
【0050】
図5は、本発明による擦弦楽器のテールピース16の構成を斜視図で示している。
テールピース16は、本体が上向きに広がる構成を有する形状であり、その右上端は、軸17に対して対称に成形され、より長い長さを有する。テールピース16は、本来、本体が非対称の弧状の三角形の形状を有しており、その角部cは角部aよりも高く位置し、角部b及びcは弧状部19(図6を参照)によって相互に連結され、弧状部19はテールピース16の上側を構成する。
【0051】
ボア18は、擦弦楽器-例えばバイオリンの底部のボタン24にテールピース16を取り付けるように適合された、その底部角の上のテールピース16上に配置されている(図3参照)。
【0052】
通常、テールピース9を単一のボアによって楽器に取り付けることで十分であることに留意する必要があるが、場合によっては、2つのボアを適用する取り付けも考慮され得る。このようなアタッチメントは、スルーボアまたは隠しボアを適用して実装できる。
【0053】
シングルポイントのアタッチメントは、楽器の共振に対してより好ましい効果がある。二点取り付けの場合、上記の共振を低減することができ、その結果、弦の下部(ブリッジ25の下に位置する)の振動がより支配的になる。
【0054】
テールピース16の上部の角部b及びcを相互接続する弧状部19に沿って、弦を受け入れるように適合された4つのボア20が配置されている(後者は図示されていないが、図6を参照)。ボア20は、面取りされた/面取りされたエッジ構成を有する。
【0055】
G弦及びE弦は、それぞれ、角部bの下に位置するボア20、及び角部cの下に位置するボア20に取り付けられ、D弦及びA弦は、角部b及びcを相互連結する弧状部19に沿って、軸17の両側に沿って取り付けられる。
【0056】
図7には、本発明による擦弦楽器のテールピース16の背面図が示されている。楽器の特性によって許容される場合、テールピース16は、この構成でも楽器に取り付けることができることに注意を要する。その場合、勿論、G弦及びE弦は、テールピース16の最上部の角部cの下に位置するボア20、及び角部bにそれぞれ取り付けられる。
【0057】
図8及び図9において、テールピース16は、それぞれ上面図及び下面図で示されている。
図1及び図2に見られるように、図5図9では、テールピース16の側面に沿って鋭いエッジ及び角がない、すなわち、全ての面が面取りされた構成を有する。テールピース16は、凸状または平坦な構成を有することができることに注意を要する。
【0058】
図10は、図6の断面I-Iに沿って取られた断面図を示している。
テールピース16は、複数の層からなる固体である。適用される材料の種類と楽器の特性に応じて、層の数は7から14の間で異なる。
【0059】
この実施形態では、テールピース16はバイオリンのテールピースであり、テールピース16は、内部コア部分21、補強層22、カバー層23で構成され、内部コア部分21は黒檀でできている。コア21は、両側がそれぞれ好ましくはケブラーでできている補強層22によって囲まれ、その両側が黒檀、マホガニー、アフゼリア、イロコ、アフロモシア、カブレウーヴァ、ラパチョ、チーク、ローズウッド、ジャトバ、メルバウ、ムテニエ、ウェンジ、パンガパンガ、ケンパス、バンキライ、カヤでできている2つのカバー層23によって覆われている。
【0060】
ケブラーによる補強の代わりに、カーボンファブリックとグラフェンを適用することもできる。
層は、シアン化物含有接着剤、及び/または熱硬化性樹脂接着剤を適用して一緒に結合することができる。
【0061】
テールピース16を含む楽器の場合、テールピース16は、楽器の底部のボタン24に一点で取り付けられ、その結果、テールピース16は、弦14に対して傾斜することができる。
【0062】
バイオリンの場合、この傾斜の軸は弦に平行であるが、ダブルベースとビオラの場合、傾斜角は3.7°、チェロの場合は7.8°が好ましい。
この傾きは楽器の音に良い影響を与える。
【0063】
図11は、テールピース16の点Y及びZを相互に繋ぐ弧状部を説明する関数(多項式関数)の曲線を示している。
【0064】
【数2】
【0065】
【数3】
【0066】
弧状部19の値を定義する関数の部分は、近似点(x,y)に対して計算された値によって取得される。
弧状部19を記述する関数もパラメトリック関数の一群であることに注意する必要がある。
【0067】
ここで、テールピース16の構成に戻ると、すでに述べたように、テールピース16には鋭い角または縁がなく、その全ての面が面取り(任意角度)/面取り(規定角度)されている。そして、図1を見てわかるように、擦弦楽器自体と同様に、それを構成する層を「見えない」ようにしている。その外側部分には、一体にすることも、複数の相互接続された部品で構成することもできるカバーが付いている。
【0068】
ここで、デフォルトでは、テールピースはファインチューナーなしで取り付けることができるが、特定の楽器の特性によって必要になった場合は、ファインチューナーを含めることもできる。
【0069】
微調整のために、そして起こり得る調子外れの音を排除するために、本発明による擦弦楽器は、弦14の間に配置され、テールピース16とブリッジ24との間で上下に変位することができるスペーサー部材(または複数のスペーサー部材)26を備える(図4を参照)。
【0070】
スペーサー部材26の構成は、図12及び図13で観察することができる。
スペーサー部材26は、本質的に長方形のブロック形状の部材であり、その側面に形成され、弦14を受け入れるように適合された溝27を備えている。
【0071】
本発明による擦弦楽器のテールピース16の構成から分かるように、従来のテールピースが取り付けられた楽器(図1を参照)とは異なり、弦は異なる長さを有する。角部Cのボア20に取り付けられた弦の下部(E弦)の長さは最小であるが、特定の弦の長さは、従来のテールピースを備えた楽器に適用される弦の長さとは異なる。
これにより、音に大きな違いが生じ、楽器の取り扱いが容易になる。
【0072】
本発明による楽器の構成及びそれに適用されるテールピースについて、従来のバイオリンでの適用を参照して説明したが、テールピースは、他の擦弦楽器に適用することができ、弦の長さは、特定の楽器の特性に応じて変化することに注意を要する。
【0073】
擦弦楽器の弦のチューニング配置は次の通りである(太い弦から細い弦へ)。
-バイオリン:GDAE
-ビオラ:CGDA
-チェロ:CGDA, 5弦バロックチェロの場合:CGDAE
-ダブルベース:EADG, 5弦ダブルベースの場合:EADGB
【0074】
本発明によるテールピース16を構成する擦弦楽器に適用される弦の長さの値は、以下の表に要約されている。
【0075】
【表I】
【0076】
本発明による擦弦楽器のテールピースには、以下の利点がある:
-それは共振制御手段として機能し、
-その適用によって、より大きく、より共鳴する音響とより広い音域を実現でき、
-音の減衰時間は従来のテールピースに比べてそれほど長くはないが、適切な弓の技巧を適用することで、はるかに豊かでダイナミックなサウンドを実現でき、その印象は音を形作るために利用できる共鳴の追加の「層」があったかのようであり、
-それは毎日の楽器の練習をより楽しくし、
-楽器の演奏中に生成される半音の抵抗感が減少してより均一になり、音量の差が大きくなり、
-下部の弦セクション(ブリッジから下側に位置する)の振動は、新しい周波数範囲の形成に役立ち、それに加えて、自然に相容れない振動を低減または完全に排除することで、「ウルフトーン」(ほとんど全ての高品質の擦弦楽器に見られる)を管理しやすくし、
-主観的には、楽器の演奏がはるかに簡単になり、これは、何よりもまず、左手で弦をより柔軟に加えることで現れ、右手(弓の手)の場合は、弓を利用した弦の振動をより簡単に達成することができる、
-ビブラート(つまり、演奏者の左手によって演奏される音のピッチを定期的に変更する)もよりダイナミックになる-振動する音のスペクトル範囲が広くなる-これまでにない追加の品質を示し、音響の制作に全く新しい可能性を開くことになり。それはまた、楽器の練習のための新しい進歩の方向性をもたらすかもしれず、
-擦弦楽器を演奏するための教育中に、生徒にとって楽器のチューニングがより簡単に(より聞き取りやすく)なる。
【0077】
参照番号のリスト
1 ネック
2 ボディ
3 フィンガーボード
4 トップフレート
5 リブ
6 バックプレート
7 ペグボックス
8 スクロール
9 テールピース
10 Fホール
11 ナット
12 ペグ
13 ブリッジ
14 弦
15 穴
16 テールピース
17 軸
18 ボア
19 弧状部
20 ボア
21 コア部
22 補強層
23 カバー層
24 ボタン
25 ブリッジ
26 スペーサー部材
27 溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】