(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-28
(54)【発明の名称】活性成分として単離されたミトコンドリアを含む、筋炎を予防又は治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20220621BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220621BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
A61K35/12
A61P29/00
A61P21/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563663
(86)(22)【出願日】2020-04-29
(85)【翻訳文提出日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 KR2020005769
(87)【国際公開番号】W WO2020222566
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】10-2019-0050527
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521466954
【氏名又は名称】パエアン バイオテクノロジー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PAEAN BIOTECHNOLOGY INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ハン, キュボム
(72)【発明者】
【氏名】キム, チュン‐ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ユ, シン‐ヘ
(72)【発明者】
【氏名】リー, ソ‐ユン
(72)【発明者】
【氏名】リム, サン‐ミン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン, ハンスン
(72)【発明者】
【氏名】ナ, クァンミン
(72)【発明者】
【氏名】ハン, ユン ミ
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ジュン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】リー, ユン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジョン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ヨン ウク
(72)【発明者】
【氏名】ペン, ジン チュル
(72)【発明者】
【氏名】リー, ユン サン
(72)【発明者】
【氏名】ファン, ド ウォン
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB45
4C087BB47
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZA94
(57)【要約】
本発明は、筋炎を予防又は治療するための医薬組成物に関する。より詳細には、本発明は、ミトコンドリアを有効成分として含む、筋炎を予防又は治療するための医薬組成物に関する。外来性ミトコンドリアを有効成分として含む本発明の医薬組成物を筋炎に罹患した対象に投与すると、対象の筋細胞に浸潤した炎症細胞を減少させることができる。さらに、本発明の医薬組成物は、IL-1β、TNF-α、及びIL-6、炎症性サイトカインの発現を効果的に阻害する。したがって、本発明による医薬組成物は、筋炎を予防又は治療するために有用に使用することができる。
【選択図】
図20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリアを有効成分として含む、筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項2】
ミトコンドリアが細胞又は組織から単離される、請求項1に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項3】
ミトコンドリアがインビトロで培養された細胞から単離される、請求項2に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項4】
細胞が、体細胞、生殖細胞、幹細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項2に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項5】
体細胞が、筋細胞、肝細胞、神経細胞、線維芽細胞、上皮細胞、脂肪細胞、骨細胞、白血球、リンパ球、血小板、又は粘膜細胞及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項4に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項6】
生殖細胞が、精子、卵子、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項4に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項7】
幹細胞が、間葉系幹細胞、成体幹細胞、人工多能性幹細胞、胚性幹細胞、骨髄幹細胞、神経幹細胞、輪部幹細胞、組織由来の幹細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項4に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項8】
間葉系幹細胞が、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、胎盤、滑液、精巣、骨膜、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つから得られる、請求項7に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項9】
ミトコンドリアが、医薬組成物に対して、0.1μg/mL~1000μg/mLの濃度で含まれる、請求項1に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項10】
ミトコンドリアが、医薬組成物に対して、1×10
5~5×10
8ミトコンドリア/mLの含有量で含まれる、請求項1に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物を対象に投与するステップを含む、筋炎を予防又は治療するための方法。
【請求項12】
筋炎を予防又は治療するための、単離されたミトコンドリアの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリアを有効成分として含む、筋炎を予防又は治療するための医薬組成物に関する。
【0002】
[背景技術]
筋炎は、筋肉に炎症が起こり、筋線維が損傷する、筋肉痛をもたらし、筋肉が収縮する能力が低下する疾患である。筋炎は、皮膚筋炎、多発性筋炎、封入体筋炎に分けられ、とりわけ多発性筋炎及び皮膚筋炎は、体幹に近い四肢の筋力低下、筋酵素レベルの上昇、炎症性サイトカインの発現上昇、筋電図の異常、筋生検の異常等の症状が現れる炎症性筋疾患である。
【0003】
さらに、多発性筋炎及び皮膚筋炎による筋力低下は、主に数週間から数ヶ月かけて徐々に進行するものの、ごくまれに急速に進行する。重度の筋力低下を治療しなければ、筋肉の喪失につながる。多発性筋炎を患っている患者の約15%から30%は、悪性腫瘍を伴い、皮膚筋炎が高齢者に発生すると、共に癌を発症することが報告されている。
【0004】
ステロイド、免疫抑制剤、又は免疫調節剤は、多発性筋炎及び皮膚筋炎の治療に使用される。ステロイドは早期治療に最もよく使用される薬であり、ステロイド治療への反応及び副作用に依存して免疫抑制剤を使用するかどうかが決定される。筋炎患者の約75%は、ステロイドに加えて追加の免疫抑制剤が処方される。最近、免疫調節剤として、静脈内投与のための免疫グロブリンが、皮膚筋炎の筋力や筋生検で見られる兆候を改善する効果があることが示されており、皮膚筋炎に使用されている。しかし、免疫抑制剤及び免疫調節剤には、免疫系に直接関与するため副作用があり、薬の効果が長期間持続せず、6~8週間ごとに薬の注射を繰り返す必要があるという短所がある。
【0005】
さらに、最近、筋炎誘導マウスモデルが開発され、筋炎治療薬の開発に使用されている。特には、2007年に組換え骨格筋ファストタイプCタンパク質を単回投与することで、C57BL/6マウスに多発性筋炎を誘導することができ、筋炎の疾患特異的治療法の研究を試みる可能性が示唆された(Sugihara Tら、Arthritis Rheum.2007、56(4):1304~14)。筋炎誘導マウスモデルは、多発性筋炎の筋肉組織において発現が増加するケモカインであるCXCL10(C-X-Cモチーフケモカイン10)に対する筋炎治療における免疫抑制剤の効果を評価するために使用されている(Kimら、Arthritis Research&Therapy 2014、16:R126)。
【0006】
一方、ミトコンドリアは、細胞内エネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)の合成及び調節に関わる真核細胞の細胞小器官である。ミトコンドリアは、例えば、細胞内シグナル伝達、細胞分化、細胞死、並びに細胞周期及び細胞増殖の制御などの様々な生体内代謝経路に関連している。
【0007】
[発明の詳細な説明]
[技術課題]
筋炎の治療についての研究が行われているものの、開発された薬剤は副作用を生じ、定期的な注射が必要であるという問題があり、これまで革新的な治療法が開発されていなかった。したがって、安全で効果的な筋炎の治療薬の継続的な研究開発が必要である。
【0008】
したがって、本発明の目的は、筋炎を治療するための医薬組成物及びそれを使用して筋炎を治療するための方法を提供することである。
【0009】
[課題の解決手段]
上記の問題を解決するための、本発明の一態様は、ミトコンドリアを有効成分として含む、筋炎を予防又は治療するための医薬組成物を提供することである。
【0010】
本発明の別の態様は、対象に医薬組成物を投与するステップを含む、筋炎を予防又は治療するための方法を提供することである。
【0011】
[発明の効果]
ミトコンドリアを有効成分とする本発明の医薬組成物を、筋炎に罹患している対象に投与すると、対象の筋細胞に浸潤する炎症細胞を減少させることができる。さらに、本発明の医薬組成物は、筋炎を発症している筋組織の炎症性サイトカインの発現を効果的に減少させることができる。したがって、筋炎を予防又は治療するために、本発明による医薬組成物を有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】臍帯由来の間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアにおけるATPの合成量の測定を示す図である。
【
図2】臍帯由来の間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアにおける膜電位活性の測定値を示す図である。
【
図3】臍帯由来の間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアにおける活性酸素種の測定を示す図である。
【
図4】筋炎誘導マウスを用いたミトコンドリアの投与による筋炎治療の効果を確認するための一次動物実験計画の概略を示す図である。
【
図5】筋線維に浸潤した炎症細胞を同定するために、陰性対照群、陽性対照群、及び外因性ミトコンドリアを投与した実験群のH&E(ヘマトキシリン及びエオシン)で染色した大腿四頭筋とハムストリング筋の写真を示す図である。
【
図6】陰性対照群、陽性対照群、及び外因性ミトコンドリアを投与した実験群において、大腿四頭筋をH&Eで染色した後の、筋線維に浸潤した炎症細胞の数の測定及びスコアリングを示す図である。
【
図7】正常群、陰性対照群、陽性対照群、及びミトコンドリアを投与した実験群における、マウスの血中のIL-6の濃度を示す図である。
【
図8】陰性対照群、陽性対照群、及び外因性ミトコンドリアを投与した実験群における、マウスのPET/MRIの写真を示す図である。
【
図9】筋炎誘導マウスモデルにおいて、ミトコンドリアの移植後にミトコンドリアの活性が上昇したことを示す図である。
【
図10】筋炎誘導マウスを用いた外因性ミトコンドリアの投与による筋炎治療の効果を確認するための二次動物実験計画の概略を示す図である。
【
図11】筋線維に浸潤した炎症細胞を同定するために、陰性対照群、陽性対照群、及び外因性ミトコンドリアを投与した実験群においてH&Eで染色された大腿四頭筋の写真を示す図である。
【
図12】筋線維に浸潤した炎症細胞を同定するために、陰性対照群、陽性対照群、及び外因性ミトコンドリアを投与した実験群においてH&Eで染色されたハムストリング筋の写真を示す図である。
【
図13】陰性対照群、陽性対照群、及び外因性ミトコンドリアを投与した実験群における、大腿四頭筋をH&Eで染色した後に筋線維に浸潤した炎症細胞の数の測定とスコアリングを示す図である。
【
図14】正常群、陰性対照群、陽性対照群、及び外因性ミトコンドリアを投与した実験群におけるマウスの血中のIL-1βの濃度を示す図である。
【
図15】正常群、陰性対照群、陽性対照群、及び外因性ミトコンドリアを投与した実験群におけるマウスの血中のIL-6の濃度を示す図である。
【
図16】正常群、陰性対照群、陽性対照群、及び外因性ミトコンドリアを投与した実験群におけるマウスの血中のTNF-αの濃度を示す図である。
【
図17】正常群、陰性対照群、陽性対照群、及び外因性ミトコンドリアを投与した実験群におけるマウスの筋肉内のIL-6のmRNAの発現量を示す図である。
【
図18】筋炎誘導マウスを用いた外因性ミトコンドリアの投与による筋炎治療の効果を確認するための三次動物実験計画の概略を示す図である。
【
図19】筋炎誘導マウスモデルにおいて、H&E(ヘマトキシリン及びエオシン)で染色された炎症細胞の数が、ミトコンドリアの移植後に減少したことを確認する図である。
【
図20】筋炎誘導マウスモデルにおいて、スコアリングシステムによる組織学的スコアが、ミトコンドリアの移植後に減少したことを確認する図である。
【
図21】筋炎誘導マウスモデルにおいて、炎症性サイトカインの数が、ミトコンドリアの移植後に減少したことを示す図である。
【
図22】筋炎誘導マウスモデルにおいて、ミトコンドリアの活性が、ミトコンドリアの移植後に増加したことを示す図である。
【
図23】筋炎誘導マウスモデルにおける、ミトコンドリア移植後のメタボローム分析による筋肉プロファイルヒートマップの分析の結果としての骨格筋の総代謝物の増加及び減少を示す図である。
【
図24】筋炎誘導マウスモデルにおいて、ミトコンドリアを移植した後、メタボローム分析により、リンゴ酸及びアスパラギン酸の相対定量値比が有意に増加し、対照群のレベルに回復したことを確認する図である。
【
図25】筋炎誘導マウスモデルにおいて、ミトコンドリアを移植した後、メタボローム分析により、リンゴ酸及びアスパラギン酸の相対定量値比が有意に増加し、対照群のレベルに回復したことを確認する図である。
【
図26】筋炎誘導マウスモデルにおいて、ミトコンドリアを移植した後、メタボローム分析により、リンゴ酸及びアスパラギン酸の相対定量値比が有意に増加し、対照群のレベルに回復したことを確認する図である。
【
図27】筋炎誘導マウスモデルにおいて、ミトコンドリアを移植した後、メタボローム分析により、リンゴ酸及びアスパラギン酸の相対定量値比が有意に増加し、対照群のレベルに回復したことを確認する図である。
【
図28】臍帯由来の凍結保存間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアのATP活性と、臍帯由来の培養間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアのATP活性との比較を示す図である。
【
図29】臍帯由来の凍結保存間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアの膜電位と、臍帯由来の培養間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアの膜電位との比較を示す図である。
【
図30】臍帯由来の凍結保存間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリア及び臍帯由来の培養間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアにおける活性酸素種の測定を示す図である。
【
図31】粒子カウンター(Multisizer 4e、Beckman Coulter)を使用した、1μg/mLの濃度のミトコンドリアを含む溶液中のミトコンドリアの数の測定を示す図である。
【
図32】粒子カウンターを使用した、2.5μg/mLの濃度のミトコンドリアを含む溶液中のミトコンドリアの数の測定を示す図である。
【
図33】粒子カウンターを使用した、5μg/mLの濃度のミトコンドリアを含む溶液中のミトコンドリアの数の測定を示す図である。
【
図34】LPSで活性化されたRAW264.7細胞における数種類の細胞に由来するミトコンドリアによるTNF-α、IL-1β、IL-6のmRNAの発現を阻害する能力を確認する図である。
【
図35】LPSで活性化されたTHP-1細胞における数種類の細胞に由来するミトコンドリアによるIL-6のmRNAの発現を阻害する能力を観察する図である。
【
図36】LPSで活性化されたTHP-1細胞中のいくつかの種類の細胞に由来するミトコンドリアによるIL-6のタンパク質の発現を阻害する能力の観察を示す図である。
【
図37】メタボローム分析で使用される筋肉の情報を示す図である。
【0013】
[発明を実施するための最良の形態]
以下に本発明を詳細に記載する。
【0014】
本発明の一態様は、ミトコンドリアを有効成分として含む、筋炎を予防又は治療するための医薬組成物を提供することである。
【0015】
本明細書で使用される場合、「筋炎」という用語は、筋肉に炎症が生じ、筋線維が損傷する疾患を指す。特には、筋炎は皮膚筋炎、多発性筋炎、封入体筋炎に分かれ、その中でも多発性筋炎及び皮膚筋炎は炎症性筋疾患に属する。多発性筋炎又は皮膚筋炎の筋肉組織においては、CXCL10、IL-1β、TNF-α、IL-6などの炎症性サイトカイン又はケモカインの発現が増加している。CXCL10、IL-1β、TNF-α又はIL-6を阻害する免疫抑制剤又は免疫調節剤が、筋炎の治療薬として開発されている。しかしながら、免疫抑制剤又は免疫調節剤の場合、免疫系に直接関与することで副作用が発生するという問題がある。
【0016】
さらに、筋炎誘導マウスモデルは、筋炎の治療薬の開発に使用できる。筋炎誘導マウスモデルは、Cタンパク質断片及び熱殺菌したマイコバクテリウム・ブティリカム(Mycobacterium butyricum)を含むCFA(完全フロイントアジュバント)を皮内注射し、PT(百日咳毒素;pertussis toxin)を腹腔内注射することによって作製できる。この場合、CD8 T細胞は、薬剤の注射後7日から移動し、筋肉への浸潤が起きて炎症を引き起こす可能性がある。この場合、筋炎患者の筋肉で炎症及び炎症細胞が観察される組織は、大腿四頭筋及びハムストリング筋であるため、大腿四頭筋及びハムストリング筋の組織は筋炎誘導マウスにも使用される可能性がある。
【0017】
本明細書において特に記載がない限り、「有効成分」という用語は、単独で、又はそれ自体は活性を有さないアジュバント(担体)と組み合わせて活性を示す成分を指す。
【0018】
実験例に示すように、Cタンパク質誘導性筋炎マウスモデル(CIM)の筋肉においてCE-TOFMSを使用して、大腿四頭筋、白筋、及びヒラメ筋、赤筋、の両方の代謝プロファイルを解析した。筋炎誘導群では、リンゴ酸とアスパラギン酸の比率が低下し、上記に基づいて、ミトコンドリア損傷があることが確認された。実験の結果、いくつかの投与量での外因性ミトコンドリア注射の効力を確認するための試験により、CIMマウスモデルにおいて炎症が改善され、ミトコンドリア損傷が回復したことが確認された。
【0019】
ミトコンドリアは、哺乳動物から得られてもよく、ヒトから得られてもよい。特には、ミトコンドリアは、細胞又は組織から単離されてもよい。例えば、ミトコンドリアは、インビトロで培養された細胞から単離されてもよい。さらに、ミトコンドリアは、体細胞、生殖細胞、血液細胞、又は幹細胞から得ることができる。さらに、ミトコンドリアは血小板から得ることができる。ミトコンドリアは、ミトコンドリアの生物学的活性が正常である細胞から得られる正常なミトコンドリアであってもよい。さらに、ミトコンドリアは、インビトロで培養してもよい。
【0020】
さらに、ミトコンドリアは、自家、同種、又は異種の対象から得られてもよい。特には、自家ミトコンドリアとは、同じ対象の組織又は細胞から得られるミトコンドリアを指す。さらに、同種ミトコンドリアとは、対象と同じ種に属し、対立遺伝子の遺伝子型が異なる対象から得られたミトコンドリアを指す。さらに、異種ミトコンドリアとは、対象とは異なる種に属する対象から得られたミトコンドリアを指す。
【0021】
特には、体細胞は、筋細胞、肝細胞、神経細胞、線維芽細胞、上皮細胞、脂肪細胞、骨細胞、白血球、リンパ球、血小板、又は粘膜細胞であってもよい。さらに、生殖細胞は、減数分裂及び有糸分裂を起こす細胞であってもよく、精子又は卵子であってもよい。さらに、幹細胞は、間葉系幹細胞、成体幹細胞、人工多能性幹細胞、胚性幹細胞、骨髄幹細胞、神経幹細胞、輪部幹細胞、及び組織由来の幹細胞からなる群から選択される任意のものであってもよい。この場合、間葉系幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、及び胎盤からなる群から選択される任意のものであってもよい。
【0022】
一方、ミトコンドリアが特定の細胞から単離される場合、ミトコンドリアは、例えば、特定の緩衝液を使用するか、又は電位差及び磁場を使用するなど、様々な既知の方法によって単離することができる。
【0023】
ミトコンドリアの単離は、ミトコンドリアの活性を維持するという点で、細胞を粉砕及び遠心分離することによって得ることができる。一実施形態では、細胞を培養し、細胞を含む医薬組成物の第1の遠心分離を行ってペレットを生成するステップ、ペレットを緩衝液に再懸濁してホモジナイズするステップ、ホモジナイズした溶液の第2の遠心分離を行って上清を生成するステップ、及び上清の第3の遠心分離を行ってミトコンドリアを精製するステップによって実行することができる。この場合、細胞活性を維持するという点で、第2の遠心分離を行う時間は、第1の遠心分離及び第3の遠心分離を行う時間よりも短く調整することが好ましく、第1の遠心分離から第3の遠心分離まで速度が上昇してもよい。
【0024】
特には、第1から第3の遠心分離は、0℃から10℃、好ましくは3℃から5℃の温度で行ってもよい。さらに、遠心分離を行う時間は、1分から50分であってもよく、遠心分離の回数及びサンプルの含有量などに応じて適切に調整することができる。
【0025】
さらに、第1の遠心分離は、100×g~1,000×g、又は200×g~700×g、又は300×g~450×gの速度で行うことができる。さらに、第2の遠心分離は、1×g~2000×g、又は25×g~1800×g、又は500×g~1600×gの速度で行うことができる。さらに、3回目の遠心分離は、100×g~20000×g、又は500×g~18000×g、又は800×g~15000×gで行うことができる。
【0026】
単離されたミトコンドリアは、タンパク質を定量することで定量できる。特には、単離されたミトコンドリアは、BCA(ビシンコニン酸アッセイ)分析で定量できる。この場合、医薬組成物中のミトコンドリアは、0.1μg/mL~1000μg/mL、1μg/mL~750μg/mL、又は25μg/mL~500μg/mLの濃度で含まれている可能性がある。本発明の一例では、25μg/mL、50μg/mL及び100μg/mLの濃度で使用された。
【0027】
さらに、単離されたミトコンドリアの数は、粒子カウンター(Multisizer 4e、Beckman Coulter)によって測定してもよく、ミトコンドリアの数は、James D. McCullyによって執筆された論文(J Vis Exp.2014;(91):51682)を参照して、下記の表1のようにしてもよい。
【0028】
【0029】
本発明の実施例9に示すように、粒子カウンターを用いて1μg/mL、2.5μg/mL、及び5μg/mLの濃度のミトコンドリアの数を測定した結果、1.96×106±0.98×106、5.97×106±0.19×106、1.01×107±0.32×107と測定された。上記の表1と比較して、10μg/mLの濃度のミトコンドリアの数は2.16×107±0.08×107であると確認され、これは5μg/mLの濃度のミトコンドリアの数に2を掛けて得られる2.02×107±0.64×107に類似している。この場合、医薬組成物中のミトコンドリアは、1×105ミトコンドリア/mLから5×109ミトコンドリア/mLの含有量で含まれ得る。特には、医薬組成物中のミトコンドリアは、1×105ミトコンドリア/mL~5×109ミトコンドリア/mL、2×105ミトコンドリア/mL~2×109ミトコンドリア/mL、5×105ミトコンドリア/mL~1×109ミトコンドリア/mL、1×106ミトコンドリア/mL~5×108ミトコンドリア/mL、2×106ミトコンドリア/mL~2×108ミトコンドリア/mL、5×106ミトコンドリア/mL~1×108ミトコンドリア/mL、又は1×107ミトコンドリア/mL~5×107ミトコンドリア/mLの含有量で含まれ得る。医薬組成物には、上記の範囲の濃度及び含有量のミトコンドリアが含まれている可能性があるため、投与時のミトコンドリアの投与量は簡単に調整でき、患者の筋炎症状の改善度をさらに上昇させることができる。
【0030】
特に、医薬組成物に含まれるミトコンドリアの治療有効量は、投与される対象の体重に基づいた1回の投与量として、3×105ミトコンドリア/kg~1.5×1010ミトコンドリア/kgであり得る。特には、医薬組成物に含まれるミトコンドリアの治療有効量は、投与対象の体重に基づいた1回の投与量として、3×105ミトコンドリア/kg~1.5×1010ミトコンドリア/kg、6×105ミトコンドリア/kg~6×109ミトコンドリア/kg、1.5×106ミトコンドリア/kg~3×109ミトコンドリア/kg、3×106ミトコンドリア/kg~1.5×109ミトコンドリア/kg、6×106ミトコンドリア/kg~6×108ミトコンドリア/kg、1.5×107ミトコンドリア/kg~3×108ミトコンドリア/kg又は3×107ミトコンドリア/kg~1.5×108ミトコンドリア/kgであり得る。すなわち、ミトコンドリアを含む医薬組成物は、筋炎の対象の体重に基づいて投与される上記のミトコンドリア投与量の範囲で投与されることが、細胞活性の点から最も好ましい。
【0031】
さらに、医薬組成物は、1~10回、3~8回、又は5~6回投与することができ、好ましくは5回投与することができる。この場合、投与間隔は1~7日又は2~5日、好ましくは3日であり得る。
【0032】
さらに、本発明による医薬組成物は、筋炎にかかりやすいか、又はそのような疾患又は障害に罹患しているヒト又は他の哺乳動物に投与することができる。さらに、医薬組成物は、静脈内、筋肉内、又は皮下に投与することができる注射液であってよく、好ましくは注射可能な調製物であってよい。
【0033】
したがって、本発明による医薬組成物は、処方された注射液の流通に従った製品安定性を確保するために、注射に使用できる酸性水溶液又はリン酸塩などの緩衝液を用いてpHを調整することにより、物理的又は化学的に非常に安定な注射液として製造することができる。
【0034】
特には、本発明の医薬組成物は、注射用水を含んでもよい。注射用水は、固体注射液を溶解するか、又は水溶性注射液を希釈するために作られた蒸留水を指す。
【0035】
さらに、本発明の医薬組成物は、安定剤又は可溶化剤を含んでもよい。例えば、安定剤は、ピロ亜硫酸、クエン酸、又はエチレンジアミン四酢酸であってもよく、可溶化剤は、塩酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、又は水酸化カリウムであってもよい。
【0036】
本発明の別の態様では、本発明は、上記のような医薬組成物を対象に投与するステップを含む、筋炎を予防又は治療するための方法を提供する。ここで、対象は哺乳動物であってもよく、好ましくはヒトであってもよい。
【0037】
この場合、投与は、静脈内、筋肉内、又は皮内投与であってもよい。したがって、本発明による医薬組成物は、筋炎に罹患した対象の静脈に正常な活性を持つ外因性ミトコンドリアを供給することができ、したがって、それはミトコンドリア機能が低下した細胞の活性を上昇させるため、又はミトコンドリア機能が異常な細胞を再生するために、有用であり得、筋炎の予防又は治療に使用することができる。
【0038】
本発明の別の態様において、本発明は、筋炎を予防又は治療するための単離されたミトコンドリアの使用を提供する。ミトコンドリア及び筋炎の詳細は、上に記載したとおりである。
【0039】
[発明を実施するための形態]
以下に、本発明の理解を助けるため、好ましい例を提示する。しかしながら、以下の例は、本発明をより理解しやすくするためのものであり、本発明の内容は、以下の例に限定されない。
【0040】
I.ミトコンドリアを含む組成物の調製
調製例1.ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアを含む組成物の調製I
ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞を、10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS、Gibco)、100μg/mLストレプトマイシン、及び100U/mLアンピシリンを含むアルファ-MEM(アルファ最小必須培地;Alpha-Minimum Essential Medium)培地に接種し、72時間培養した。培養終了後、DPBS(ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水、Gibco)を用い、洗浄を2回行った。洗浄した細胞を0.25%(v/v)トリプシン-EDTA(TE、Gibco)で処理し、細胞を得た。
【0041】
ミトコンドリアを単離するために、得られた細胞を、血球計算盤を使用して1×107細胞/mLの濃度で回収した。細胞株を350×gの速度で4℃の温度、10分間、第1の遠心分離に供した。この時に、得られたペレットを回収し、緩衝液に再懸濁し、10~15分間のホモジナイズに供した。その後、ペレットを含む組成物を、1100×gの速度で、3分間、4℃の温度で第2の遠心分離に供し、上清を取得した。上清を12,000×gの速度、15分間、4℃の温度で第3の遠心分離に供し、ミトコンドリアを細胞株から単離した。このようにして得られたミトコンドリアを、PBSと混合し、次いでシリンジに充填した。
【0042】
調製例2.ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアを含む組成物の調製II
ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞(UC-MSC)を、10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco)、100μg/mLストレプトマイシン、及び100U/mLアンピシリンを含むアルファ-MEM(アルファ最小必須培地、Gibco)培地に接種し、72時間培養した。細胞の培養が完了した後、DPBSを用いて2回洗浄した。その後、0.25%トリプシン/EDTAで処理することにより、細胞を得た。細胞の濃度を1×107細胞/mLになるように、細胞を再懸濁した後、細胞は、350×gの速度で、10分間、4℃の温度で第1の遠心分離に供した。
【0043】
洗浄した細胞をミトコンドリア単離液で再浮遊させた後、1mlシリンジを用いて破砕した。その後、破砕した細胞を含む溶液を1500×gで、5分間、4℃で遠心分離して不純物を除去し、ミトコンドリアを含む上清を回収した。回収した上清を20000×gで、5分間、4℃で遠心分離して、沈殿したミトコンドリアを回収し、単離したミトコンドリアをTris緩衝液に浮遊させ、BCA法でタンパク質を定量した後、実験に使用した。
【0044】
調製例3.ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアを含む組成物の調製
ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞(BM-MSC)を、10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco)、100μg/mLストレプトマイシン、及び100U/mLアンピシリンを含むDMEM(Gibco)培地に接種し、72時間培養した。
【0045】
細胞の培養が完了した後、ミトコンドリアを回収し、調製例2に記載の方法のように定量し、次いで実験に使用した。
【0046】
調製例4.ヒト線維芽細胞から単離されたミトコンドリアを含む組成物の調製
ヒト線維芽細胞(CCD-8LU、ATCC)を、10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco)、100μg/mLストレプトマイシン、及び100U/mLアンピシリンを含むDMEM(Gibco)培地に接種し、72時間培養した。
【0047】
細胞の培養が完了した後、ミトコンドリアを回収し、調製例2に記載の方法のように定量し、次いで実験に使用した。
【0048】
調製例5.ヒト人工多能性幹細胞から単離されたミトコンドリアを含む組成物の調製
ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)は、10μg/mlのビトロネクチン(幹細胞07180)でコートされた細胞培養容器内のTeSR(商標)-E8(商標)(幹細胞05990)培地で培養され、使用された。
【0049】
細胞の培養が完了した後、ミトコンドリアを回収し、調製例2に記載の方法のように定量し、次いで実験に使用した。
【0050】
調製例6.血小板ミトコンドリアから単離されたミトコンドリアを含む組成物の調製
ミトコンドリアを血小板から単離するために、ブタ全血を500×gで、3分間、周囲温度で遠心分離し、その後、多血小板血漿(PRP)を含む上清を回収した。回収した上清を1,500×g、5分間遠心分離して、上清を除去し、血小板を含む沈殿物を回収した。PBSを使用して、濃縮した血小板沈殿物を再浮遊させた後、1500×gで5分間遠心分離し、洗浄した。洗浄した血小板をミトコンドリア単離溶液で再浮遊させ、1mlシリンジを使用して破砕した。その後、破砕した血小板を含む溶液を1,500×gで、5分間、4℃で遠心分離して不純物を除去し、ミトコンドリアを含む上清を回収した。回収した上清を20000×gで、5分間、4℃で遠心分離して沈殿したミトコンドリアを回収し、単離したミトコンドリアをTris緩衝液中に浮遊させ、タンパク質を定量した後、実験に使用した。
【0051】
調製例7.ラットの骨格筋由来の筋芽細胞から単離されたミトコンドリアを含む組成物の調製
ラットの骨格筋に由来する筋芽細胞株であるL6細胞(アメリカンタイプカルチャーコレクション、ATCC、CRL-1458)を、10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco)を含むDMEM-高グルコース(ダルベッコ改変イーグル培地-高グルコース、Gibco)培地に接種し、72時間培養した。
【0052】
細胞の培養が完了した後、ミトコンドリアを回収し、調製例2に記載の方法のように定量し、次いで実験に使用した。
【0053】
II.ミトコンドリアの特性の確認
実施例1.ミトコンドリアATP合成の確認
調製例1で単離したミトコンドリアが正常にATPを合成するかどうかを確認するため、単離したミトコンドリアのミトコンドリアタンパク質濃度を、BCA(ビシンコニン酸アッセイ)分析により定量し、5μgのミトコンドリアを調製した。その後、CellTiter-Glo発光キット(Promega、Madison、WI)を製造業者のマニュアルに従って使用して、ATPの量を定量した。
【0054】
特には、実験群として、5μgの調製したミトコンドリアを100μLのPBS中に混合し、次いで、96ウェルプレートに分注した。さらに、対照群として、ミトコンドリアを含まない100μLのPBSを、96-ウェルプレートに分注した。その後、各ウェルをCellTiter-Glo発光キットに含まれる100μLの試験溶液で処理し、その後、スターラーで2分間反応させ、十分に混合した。その後、周囲温度で10分間反応させ、その後、ルミネセンスマイクロプレートリーダーを使用して560nmの波長で吸光度を測定した。
【0055】
その結果、ミトコンドリアを含む実験群のATPの量は対照群のATPの量の約3倍以上であることが確認された(
図1)。上記から、調製例1で単離されたミトコンドリアが、正常にATPを合成していることが確認された。
【0056】
実施例2.ミトコンドリアの膜電位の測定
調製例1で単離したミトコンドリアの膜電位を測定するために、単離したミトコンドリアのミトコンドリアタンパク質濃度をBCAで定量し、5μgのミトコンドリアを調製した。ミトコンドリアの膜電位は、JC-1(molecular probes、カタログ番号1743159)色素を使用して測定した。
【0057】
特には、実験群として、5μgの調製したミトコンドリアを50μLのPBSに混合し、96ウェルプレートに分注した。さらに、対照群として、ミトコンドリアを含まない50μLのPBSを96ウェルプレートに分注した。さらに、追加の実験グループとして、5μgのミトコンドリアを50μLのCCCP(R&D systems、CAS 555-60-2)に混合し、室温で10分間反応させた後、96ウェルプレートに分注した。この場合、CCCPはミトコンドリアのイオントランスポーターであり、ミトコンドリアの膜電位を脱分極させ、それによってミトコンドリアの機能を阻害する。
【0058】
その後、各ウェルを濃度が2μMになるようにJC-1色素で処理し、反応させた後、蛍光マイクロプレートリーダーを使用して吸光度を測定した。このとき、JC-1色素は、低濃度ではモノマーとして存在して緑色の蛍光を示し、高濃度では、JC-1色素が凝集して赤色の蛍光を示す(モノマー:Ex 485/Em 530、J-凝集体:Ex 535nm/Em 590nm)。ミトコンドリアの膜電位は、赤色蛍光の吸光度に対する緑色蛍光の吸光度の比を計算することによって分析した。
【0059】
その結果、ミトコンドリアを含む実験群は高い膜電位活性を示した。他方、ミトコンドリアをCCCPで処理した追加の実験群は、低い膜電位活性を示した(
図2)。上記から、調製例1で単離されたミトコンドリアは、正常な膜電位活性を示すことが確認された。
【0060】
実施例3.ミトコンドリアの活性酸素種の測定
調製例1で単離したミトコンドリアの損傷を確認するために、単離したミトコンドリアのミトコンドリアタンパク質濃度をBCAにより定量し、5μgのミトコンドリアを調製した。ミトコンドリア内のミトコンドリア活性酸素種(ROS)は、MitoSOXレッドインジケーター(Invitrogen、カタログ番号M36008)色素を用いて測定した。
【0061】
特には、実験群として、調製したミトコンドリア5μgを50μLのPBSに混合し、96ウェルプレートに分注した。さらに、対照群として、ミトコンドリアを含まない50μLのPBSを96ウェルプレートに分注した。その後、MitoSOXレッドインジケーター色素を50μLのPBSに、濃度が10μMになるように混合した後、各ウェルを混合物で処理し、37℃、5%CO
2の条件でインキュベーター中に20分間反応させた。反応終了後、蛍光マイクロプレートリーダー(Ex 510nm/Em 580nm)を用いて吸光度を測定した。その結果、ミトコンドリア内のミトコンドリア活性酸素種が、対照群と実験群の両方で低いことが確認された(
図3)。上記から、調製例1で単離されたミトコンドリアの損傷がないことが確認された。
【0062】
III.インビボでの筋炎の治療に対するミトコンドリアの効果の確認
実施例4.筋炎誘導マウスモデルにおける外因性ミトコンドリアの投与による筋炎の治療に対する効果の確認:一次実験
実施例4.1.筋炎誘導マウスモデルの構築及びミトコンドリアの投与(n=3)
200μgのCタンパク質断片と100μgの熱殺菌したマイコバクテリウム・ブティリカムを含むCFA(完全フロイントアジュバント)を、C57BL/6雌8週齢マウスに皮内注射し、2μgのPT(百日咳毒素)を皮内注射した。
【0063】
筋炎誘導後1日目又は7日目に調製例1(5μg)で単離されたミトコンドリアの静脈内単回投与を行った群を実験群とした。さらに、100μLのPBSの腹腔内投与を行った群を陰性対照群として設定し、筋炎誘導後1日目~14日目まで連日投与量0.8mg/kgのデキサメタゾンの腹腔内投与を行った群を陽性対照群として設定した(
図4)。
【0064】
実施例4.2.炎症が浸潤した筋線維の確認
実施例4.1の各群のマウスを14日目に犠牲にし、大腿四頭筋及びハムストリング筋の組織を採取し、H&E(ヘマトキシリン及びエオシン)で染色した後、炎症細胞の浸潤を光学顕微鏡で観察した。
【0065】
その結果、陽性対照群及び実験群においては、筋線維に浸潤した炎症細胞の数が、陰性対照群に比べて減少していることが確認された(
図5)。さらに、14日目に各群のマウスを犠牲にし、大腿四頭筋及びハムストリング筋の組織を採取してH&Eで染色した後、スコアリングシステムを使用して、炎症細胞が浸潤した筋線維の数を評価した。スコアリングシステムのスコア測定法は、以下の表2に示されている。この場合、大腿四頭筋及びハムストリング筋の左右の筋肉の平均値を比較した。
【0066】
【0067】
結果として、陽性対照群及び実験群においては、炎症が浸潤した筋線維のスコアが、陰性対照群に比べて減少した(
図6)。
【0068】
実施例4.3.血中のサイトカイン濃度の確認
14日目の正常マウス及び実施例4.1の各群のマウスの血液中のIL-6の濃度を確認するために、各群のマウスの血液から血清を単離し、次いで、IL-6 ELISAキット(R&D Systems、MN、USA)を製造業者のマニュアルに従って使用して、血液中のIL-6を測定した。
【0069】
その結果、対照群では血中のIL-6濃度が増加し、陽性対照群と実験群では血中のIL-6濃度が減少していることが確認された(
図7)。
【0070】
実施例4.4.PET/MRI分析による炎症反応の確認
まず、実施例4.1の各群のマウスの組織におけるグルコース摂取効率を増加させるために、画像化の8時間前から食物を与えなかった。8時間後、200uci18F-FDG(サイクロトロン室、核医学部、ソウル国立大学病院)をマウスの静脈から注射し、1時間後にPET/MR画像を撮影した。
【0071】
その結果、陰性対照群のマウスの脚に強い放射性核種シグナルが観察された。
18F-FDG放射性医薬品は、多くの場合、炎症細胞であるマクロファージに選択的に摂取される。したがって、核医学イメージング技術により、炎症反応を容易に監視でき得る(
図8)。
【0072】
実施例4.5.ミトコンドリアの酸化的リン酸化複合体の発現の変化の確認
陰性対照群(CIM)の大腿四頭筋における酸化的リン酸化複合体IIの発現は、対照群と比較して減少し、実験群(CIM+Mito 7日目)の発現は、陽性対照群(DEXA)と比較して増加した。陰性対照群(CIM)の足底筋におけるTOM20の発現は、対照群と比較して減少し、実験群(CIM+Mito 1日目、CIM+Mito 7日目)の発現は、陽性対照群(DEXA)と比較して増加した(
図9)。
【0073】
上記実施例4.2~4.5の実験結果を考慮し、ミトコンドリア投与の時点を筋炎誘導後7日目に設定して二次実験を行った。
【0074】
実施例5.筋炎誘導マウスモデルにおける外因性ミトコンドリアの投与による筋炎の治療に対する効果の確認:二次実験
実施例5.1.筋炎誘導マウスモデルの構築及びミトコンドリアの投与(n=10)
200μgのCタンパク質断片及び100μgの熱殺菌したマイコバクテリウム・ブティリカムを含むCFAをC57BL/6雌8週齢マウスに皮内注射し、2μgのPTを腹腔内注射した。
【0075】
筋炎誘導後7日目に調製例1(5μg)で単離されたミトコンドリアの静脈内単回投与を行った群を実験群とした。さらに、100μLのPBSの腹腔内投与を行った群を陰性対照群と設定し、筋炎誘導後7日目から14日目まで連日投与量0.8mg/kgのデキサメタゾンを腹腔内投与した群を陽性対照群とした(
図10)。
【0076】
実施例5.2.炎症が浸潤した筋線維の確認
実施例5.1の各群のマウスを14日目に犠牲にし、大腿四頭筋及びハムストリング筋の組織を採取してH&Eで染色した後、光学顕微鏡を用いて炎症細胞の浸潤を観察した。その結果、陽性対照群及び実験群では、筋線維に浸潤した炎症細胞の数が、陰性対照群と比較して減少していることが確認された(
図11及び12)。
【0077】
さらに、14日目に各グループのマウスを犠牲にし、大腿四頭筋及びハムストリング筋の組織を採取してH&Eで染色し、スコアリングシステムを使用して、炎症細胞が浸潤した筋線維の数を評価した。スコアリングシステムのスコア測定方法は、実施例4.2と同じように行った。この場合、大腿四頭筋及びハムストリング筋の左右の筋肉の平均値が比較された。その結果、陽性対照群及び実験群での炎症が浸潤した筋線維のスコアは、陰性対照群と比較して有意に減少した(
図13)。
【0078】
実施例5.3.血中のサイトカイン濃度の確認
正常マウス及び実施例5.1の各群のマウスの14日目の血中のIL-1β、IL-6、及びTNF-αの濃度を確認するために、各群のマウスの血液から血清を単離し、その後、製造業者のマニュアルに従って、IL-1β ELISAキット(R&D Systems、MN、米国)、IL-6 ELISAキット、及びTNF-α ELISAキット(R&D、Systems、MN、米国)をそれぞれ使用して、血中のIL-1β、IL-6、及びTNF-αの濃度を測定した。
【0079】
その結果、陽性対照群において、血中のIL-6濃度が陰性対照群と比較して増加しているのに対し、実験群においては、血中のIL-6、IL-1β、TNF-αの濃度が陰性対照群と比較して減少していた(
図14、15、及び16)。
【0080】
実施例5.4. IL-6のmRNAの発現の変化の確認
IL-6のmRNAの発現レベルは、正常マウス及び実施例5.1の各群のマウスの筋肉から14日目にRT-qPCRにより単離されたmRNAにおいて確認された。特には、TRIzol試薬(Invitrogen)を用いて筋肉から全RNAを単離し、SYBR Green(Perkin Elmer、MA、米国)及び7,500 Fast Real-Time PCRシステム(Applied Biosystems)を用いてqPCRを行った。実験結果はβ-アクチンmRNAの量に対して正規化された。この場合における、使用プライマーを以下の表3に示す。
【0081】
【0082】
その結果、実験群ではIL-6のmRNAの発現が減少していることが確認された。他方、陽性対照群ではIL-6のmRNAの発現が減少していないことが確認され、IL-6のmRNAの発現を減少させる効果に関して、実験群は、陽性対照群よりも効果的であった(
図17)。
【0083】
実施例5.5.メタボローム分析によるミトコンドリア機能の変化の確認
筋炎動物モデル(CIM)を誘導した後、対照群、陰性対照群(CIM)、陽性対照群(DEXA)、及び5μgのミトコンドリアを移植した群の大腿四頭筋及びヒラメ筋において、陽イオン及び陰イオンモードのCE-TOFMSに基づくメタボローム分析で、ミトコンドリア機能を測定した。CE-MS分析の分析品質を向上させることによる測定のために、サンプルを
図37に示すように希釈した。
【0084】
筋肉のプロファイルヒートマップの分析からわかるように、対照群と比較して、陰性対照群(CIM)の骨格筋の代謝物プロファイルに有意な影響を及ぼしたことが示された(
図23)。陽性対照群(DEXA)と比較して、ミトコンドリア移植群の代謝物プロファイルが、対照群の代謝物プロファイルと同様に回復したことを確認した。リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル(時には短く、リンゴ酸シャトル、リンゴ酸アスパラギン酸シャトル欠損)は、糖分解プロセス間に生成された電子をミトコンドリアの半透過性内膜を横切って移動させ、真核生物の酸化的リン酸化を行う生化学的システムである。
【0085】
筋炎モデルにおいて見られるミトコンドリア機能障害は、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルと関連しており、リンゴ酸及びアスパラギン酸の相対定量値の比が減少することにより確認された。リンゴ酸とアスパラギン酸の相対定量値の比率は、ミトコンドリア移植後、陰性対照群(CIM)及び陽性対照群(DEXA)と比較して有意に増加し、対照群と同様のレベルにまで回復したことが確認された(
図24~27)。
【0086】
結論として、CIMマウスモデルにおいて、5μgのミトコンドリアの移植の治療効果が確認された。
【0087】
実施例6.筋炎誘導マウスモデルにおける外因性ミトコンドリアの投与による筋炎の治療に対する効果の確認:三次実験
実施例6.1.実験方法(n=5)
200μgのCタンパク質断片及び100μgの熱殺菌したマイコバクテリウム・ブティリカムを含むCFA(完全フロイントアジュバント)をC57BL/6雌8週齢マウスに皮内注射し、2μgのPT(百日咳毒素)を腹腔内注射した。
【0088】
筋炎誘導後7日目に、調製例1で単離したミトコンドリアを0.2μg、1μg、又は5μgの投与量で単回静脈内投与した群を実験群とした。さらに、100μLのPBSの腹腔内投与を行った群を陰性対照群とし、筋炎誘導後7日目から14日目まで、デキサメタゾン(DEXA)を連日投与量0.8mg/kgで腹腔内投与した群を陽性対照群とした(
図18)。炎症評価法として、H&E染色後の筋炎を組織学的重症度に応じてスコアを1から6に分けて評価した。
【0089】
筋肉から単離されたmRNAにおける炎症性サイトカインの発現レベルをRT-qPCRにより観察した。ミトコンドリアの移植後、ミトコンドリア酸化的リン酸化複合体(OXPHOS複合体)の発現のウエスタンブロット分析によってミトコンドリアの活性レベルを評価した。動物試験群の情報を以下の表4に示す。
【0090】
【0091】
実施例6.2.炎症が浸潤した筋線維の確認
各群のマウス(表4)を14日目に犠牲にし、大腿四頭筋及びハムストリング筋の組織を採取してH&E(ヘマトキシリン及びエオシン)で染色した後、光学顕微鏡で炎症細胞の浸潤を観察した。その結果、陽性対照群と実験群では、陰性対照群に比べて筋線維に浸潤した炎症細胞の数が減少していることが確認された(
図19)。さらに、各群のマウスを14日目に犠牲にし、大腿四頭筋及びハムストリング筋の組織を採取してH&Eで染色した後、炎症細胞が浸潤した筋線維の数を、4スコアリングシステムを使用して評価した。スコアリングシステムのスコア測定方法を以下の表5に示す。この場合、大腿四頭筋及びハムストリング筋の左右の筋肉の平均値を比較した。
【0092】
【0093】
その結果、陽性対照群及び5μgのミトコンドリアを移植した群では、陰性対照群と比較して、筋線維に浸潤した炎症細胞の数が有意に減少していることが確認された(
図20)。
【0094】
実施例6.3. IL-6及びTNF-αのmRNAの発現の変化の確認
炎症性サイトカインであるIL-6及びTNF-αのmRNAの発現レベルは、RT-qPCRにより、対照群、陰性対照群(CIM)、陽性対照群(DEXA)、実験群(ミトコンドリア移植群)の各群のマウスの筋肉から単離されたmRNAで確認された。特には、TRIzol試薬(Invitrogen)を使用して筋肉から全RNAを単離し、SYBR Green(Perkin Elmer、MA、米国)及び7,500 FastリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を使用してqPCRを行った。実験結果は、β-アクチンmRNAの量に対して正規化した。この場合、RT-qPCRで使用したプライマーを以下の表6に示す。
【0095】
【0096】
その結果、IL-6のmRNAの発現が、ミトコンドリア移植群の筋肉で減少する傾向が確認された。さらに、TNF-αのmRNAの発現が、5μgのミトコンドリアを移植した群において有意に減少していることが確認された。一方、IL-6及びTNF-αのmRNAの発現が、陽性対照群(DEXA)の筋肉では減少しておらず、ミトコンドリア移植群は、IL-6及びTNF-αのmRNAの発現を減少させる効果に関して、陽性対照群(DEXA)よりも効果的であったことが確認された(
図21)。
【0097】
実施例6.4.ミトコンドリアの酸化的リン酸化複合体の発現の変化の確認
対照群、陰性対照群(CIM)、陽性対照群(DEXA)、実験群(ミトコンドリア移植群)の各群のマウスの筋肉から単離されたタンパク質における酸化的リン酸化複合体の発現の変化は、ウエスタンブロッティングにより確認された(全OXPHOSマウスWB抗体カクテル、abcam)。酸化的リン酸化複合体I及びIIの発現が、対照群と比較して陰性対照群(CIM)で減少しており、酸化的リン酸化複合体I及びIIの発現が、陽性対照群(DEXA)と比較して、実験群(ミトコンドリア移植群)で全ての投与量において増加していることが確認された(
図22)。
【0098】
結論として、5μgのミトコンドリアの移植の治療効果及び投与量依存性が、CIMマウスモデルにおいて確認された。
【0099】
IV.ミトコンドリアを含む組成物の毒性及び物理的特性の確認
実施例7.毒性実験
ミトコンドリア投与に際して毒性が示されることを確認するため、調製例1で調製したミトコンドリアをICRマウスに1回静脈内投与した後、剖検等により体重の変化や臓器の変化を確認した。12匹の雄及び雌の7週齢のICRマウスを以下の表7に示すように4つのグループに分け、実験を行った。
【0100】
【0101】
上記の表7に示すように、G1グループには賦形剤を投与した。G2からG4グループには、25μg、50μg、又は100μgのミトコンドリアをそれぞれ投与した。このとき、G4グループには、ミトコンドリアを近似致死投与量(ALD)以上の量で投与した。この時点で、投与部位を70%アルコール綿で消毒し、その後、賦形剤又はミトコンドリアを1mL/minの速度で尾静脈から26ゲージの注射針を備えたシリンジを用いて投与した。
【0102】
まず、全てのマウスで1日1回以上一般症状を観察し、飼育期間中の死亡を含む一般症状の種類及び程度を各対象について記録した。しかしながら、投与日においては、投与後1時間まで観察を続け、その後、1時間間隔で5時間観察を行った。瀕死の動物及び死亡した動物を計画した剖検動物に従って処置した。賦形剤又はミトコンドリアの投与開始日を1日目に設定した。
【0103】
一般症状を観察した結果、全試験期間中、全ての群で死亡動物は観察されず、ミトコンドリア投与後1日目に観察された異常症状は、その後の試験期間中に観察されなかったため、それはミトコンドリアによって引き起こされた一時的な変化と考えられる。さらに、投与前、投与後2日目、4日目、8日目、15日目に、全てのマウス対象の体重を測定した。測定結果を以下の表8に示す。
【0104】
【0105】
表8に示すように、G1群からG4群において、体重に有意な変化は見られなかった。さらに、15日目に全てのマウス対象を麻酔し、腹部を切り開いて全ての臓器を目視検査した。その結果、G1群からG4群においては臓器の変化は観察されなかった。
【0106】
以上の結果から、これらの試験条件下でICRマウスにおいて、ミトコンドリアの単回静脈内投与を行ったところ、100μg/頭までのミトコンドリアの濃度で雄及び雌の両方ともに毒性を示さないことが確認された。
【0107】
実施例8.臍帯由来の凍結保存幹細胞から単離されたミトコンドリアと臍帯由来の培養幹細胞から単離されたミトコンドリアの特性の比較
臍帯由来の間葉系幹細胞を、10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS)、100μg/mLストレプトマイシン、100U/mLアンピシリンを含むアルファ-MEM培地に接種し、72時間培養した。培養細胞を0.25%トリプシン-EDTA(TE)で処理して細胞を得た。血球計算器を用いて1×107細胞/mLの濃度で得られた細胞を再懸濁し、凍結チューブに入れ、凍結保存容器に移し、その後、-80℃で24時間凍結し、液体窒素凍結保存バンクに保存した。臍帯由来の凍結保存幹細胞から単離したミトコンドリアは、上記の調製例1と同様の方法で単離し、ATP活性、膜電位、及びミトコンドリア活性酸素種の特性に関して、調製例1で単離された培養細胞由来のミトコンドリアと比較した。
【0108】
その結果、臍帯由来の凍結保存幹細胞から単離されたミトコンドリアと臍帯由来の培養幹細胞から単離されたミトコンドリアとの間のATP合成能力を比較するために、基質(ADDP)が加えられ、ATP活性が、基礎エネルギー代謝と比較して、両方の条件で同様の比率に回復したことを確認した。さらに、両方の条件において膜電位活性が類似しており、ミトコンドリアの活性酸素種の生成も類似していることが確認された(
図28~30)。
【0109】
実施例9.粒子カウンターを使用したミトコンドリアの数の測定
調製例1で単離されたヒト臍帯由来の間葉系幹細胞から単離されたミトコンドリアの各溶液を、1μg/mL、2.5μg/mL、及び5μg/mLの濃度で調製し、次いで、ミトコンドリアの数を粒子カウンター(Multisizer 4e、Beckman Coulter)により測定した。このとき、各濃度について2回測定し、下記の表9及び
図31~33に測定結果を示す。
【0110】
【0111】
V.インビトロでのミトコンドリアによる抗炎症効果の確認
実施例10. RAW264.7細胞における、いくつかの種類の細胞に由来するミトコンドリアによる定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を使用した抗炎症活性の比較
実施例2、実施例3、実施例4、及び実施例7の方法により様々な細胞から得られたミトコンドリアによる抗炎症活性を比較し、分析するために、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を使用する細胞ベースの分析実験を行った。
【0112】
マウス由来のマクロファージ細胞株であるRAW264.7細胞を、10%FBSを含むDMEM培地で培養した。約3×105細胞/ウェルを6ウェルプレートに接種し、24時間培養した後、FBSが除去されたDMEM培地における欠乏状態を約24時間の間、維持させた。
【0113】
24時間後、1μg/mLの濃度のサルモネラ由来リポ多糖(LPS)で6時間処理し、マクロファージ細胞株に炎症反応を誘導した。6時間のリポ多糖処理後、細胞をPBS緩衝液で2回洗浄し、その後、各細胞から得られたミトコンドリアで処理し、さらに18時間培養した。この場合、陰性対照群はリポ多糖とミトコンドリアで処理されていない群であり、陽性対照群は1μg/mLの濃度のリポ多糖のみで処理した群である。さらに、実験群は1μg/mLの濃度のリポ多糖で処理され、6時間後、30μgの量の骨髄由来の間葉系幹細胞(BM-MSC)、臍帯由来の間葉幹細胞(UC-MSC)、ラット筋芽細胞(L6筋芽細胞)、及びヒト肺由来の線維芽細胞(CCD-8LU)から得られたミトコンドリアでそれぞれ処理された。
【0114】
18時間のミトコンドリア処理後、培養液を除去し、PBS緩衝液を細胞に加えて細胞を2回洗浄し、0.5mLのRNA抽出物(Trizol試薬、Thermo Fisher Scientific)を直接加え、その後、10分間、周囲温度に放置した。次に、0.1mLのクロロホルムを加えて15秒間撹拌し、約12000×gで10分間遠心分離した。
【0115】
分離した上澄み液を取得し、同量のイソプロピルアルコールを加え、その後、12000×gで10分間遠心分離した。その後、液体を除去し、75%エタノールを用いて1回洗浄し、周囲温度で乾燥させた。乾燥後、約50μLのRNAaseフリー精製蒸留水を加え、得られたRNAの量と純度を、分光光度計を使用して測定した。
【0116】
得られたRNAを使用してcDNAを合成するために、2μgの精製全RNAをオリゴdTと70℃で5分間結合反応させた後、10X逆転写緩衝液、10mM dNTP、RNAse阻害剤、M-MLV逆転写酵素(Enzynomics、韓国)を加え、42℃で60分間cDNA合成反応を行った。
【0117】
cDNA合成反応が完了した後、72℃で5分間加熱することにより逆転写酵素を失活させ、その後、RNase Hを加えて一本鎖RNAを除去し、最終的なcDNAを取得した。炎症反応の特徴的な遺伝子であるTNF-α遺伝子、IL-1β遺伝子、及びIL-6遺伝子の発現変化は、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応によって観察された。GAPDH遺伝子は、発現の差異を較正するためにそれらの遺伝子と共に定量化された。定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応で使用される遺伝子の塩基配列は、以下の表10に記載されているとおりである。
【0118】
【0119】
実験結果に示されるように、マウスマクロファージ細胞株であるRAW264.7細胞をリポ多糖で処理すると、TNF-α、IL-1β、IL-6遺伝子の発現が増加することがわかった。さらに、骨髄由来の間葉系幹細胞、臍帯由来の間葉系幹細胞、ラット筋芽細胞、ヒト肺由来の線維芽細胞から得られたミトコンドリアで処理した場合、リポ多糖によって誘導されるTNF-α、IL-1β、及びIL-6遺伝子の発現が有意なレベルまで阻害されることが確認された。以上のことから、本発明で使用した細胞から得られたミトコンドリアは、著しく優れた抗炎症活性を示すことが確認された(
図34)。
【0120】
実施例11.ヒト単核細胞(THP-1)中のいくつかの種類の細胞に由来するミトコンドリアによる抗炎症活性の比較
ヒト由来単核細胞であるTHP-1細胞を、10%FBSを含むRPMI培地で培養した。4×105細胞/ウェルを24ウェルプレートに接種し、1%FBSを含むRPMI培地で15~16時間培養した。
【0121】
細胞を2μg/mLの濃度のサルモネラ由来リポ多糖(LPS)で6時間処理し、THP-1細胞株に炎症反応を誘導した。6時間のリポ多糖処理後、各々の細胞から得られたミトコンドリアで細胞を処理し、24時間さらに処理した。この場合、陰性対照群は、リポ多糖及びミトコンドリアで処理されていない群であり、陽性対照群は、2μgの濃度のリポ多糖で処理された群である。さらに、実験群は2μg/mLの濃度のリポ多糖で処理され、6時間後に、実施例2、実施例4、実施例5、及び実施例6の方法により得られた臍帯由来の間葉系幹細胞(UC-MSC)、ヒト肺由来の線維芽細胞(CCD-8LU)、ヒト人工多能性幹細胞(IPS)、及びブタ血小板から得られたミトコンドリアを、それぞれ40μgの量で処理された。反応後の抗炎症活性を比較するために、細胞を定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応に使用し、培養液をELISAに使用した。
【0122】
実施例11.1定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を使用した抗炎症活性の比較
その後、培養液を除去し、PBS緩衝液を細胞に加えて2回洗浄し、RNA抽出物(Trizol試薬、Thermo Fisher Scientific)0.5mLを直接加えた。周囲温度で10分間静置した後、0.1mLのクロロホルムを加え、15秒間撹拌した後、12000×gで10分間遠心分離した。分離した上清を取り、同量のイソプロピルアルコールを加え、12000×gで10分間遠心分離した後、上清を除去し、75%エタノールで1回洗浄し、周囲温度で乾燥させた。
【0123】
50μLのRNAaseフリー精製蒸留水を加え、得られたRNAの量及び純度を分光光度計で測定した。cDNAを合成するために、2μgの精製全RNAをオリゴdTとの5分間、70℃の結合反応に供し、その後、10X逆転写緩衝液、10mM dNTP、RNAse阻害剤、及びM-MLV逆転写酵素(Enzynomics、韓国)を加え、cDNA合成反応を42℃で60分間行った。反応後、72℃で5分間加熱することにより逆転写酵素を失活させ、次いで、RNase Hを加え、一本鎖RNAを除去して、cDNAを得た。
【0124】
以下の表11に示すプライマーを使用して定量的ポリメラーゼ連鎖反応(定量的RT-PCR)を行い、炎症性サイトカインの発現が変化したか否かを決定した。この場合、補正遺伝子として18Sを用いた定量で、発現の差を補正した。
【0125】
【0126】
実験結果に示されるように、ヒト単核細胞であるTHP-1細胞をリポ多糖で処理した場合、IL-6遺伝子の発現が増加することがわかった。さらに、臍帯由来の間葉系幹細胞、ヒト肺由来の線維芽細胞、ヒト人工多能性幹細胞、及びブタ血小板から得られたミトコンドリアで処理した場合、リポ多糖で誘導されるIL-6遺伝子の発現が、有意なレベルで阻害されることが確認された。以上のことから、様々な細胞から得られたミトコンドリアは、著しく優れた抗炎症活性を示すことが確認された(
図35、* P<0.05)。
【0127】
実施例11.2.ELISA法を使用した抗炎症活性の比較
得られた上清でTHP-1細胞の炎症性サイトカインであるIL-6の発現量を確認するために、ヒトIL-6(R&D Systems)を使用して、製造業者のマニュアルに従って実験を行った。
【0128】
100μLのコーティング溶液を96ウェルプレートに入れ、周囲温度で一晩反応させ、3回洗浄し、次いで試薬希釈液と周囲温度で1時間反応させ、3回洗浄した。10倍希釈した上清と標準溶液を周囲温度で2時間反応させ、次いで、3回洗浄した後、各ウェルを標識抗体(検出抗体)で処理した後、周囲温度で2時間反応させた。3回洗浄した後、ストレプトアビジン溶液(ストレプトアビジン-HRP)を周囲温度で20分間反応させ、次いで、3回洗浄した後、暗室内、周囲温度で20分間カラー溶液(基質溶液)と反応させた後、反応停止溶液を加え、450nmの波長で吸光度を測定した。
【0129】
実験結果に示されるように、ヒト単核細胞であるTHP-1細胞をリポ多糖で処理した場合、IL-6タンパク質が増加することがわかった。さらに、臍帯由来の間葉系幹細胞、ヒト肺由来の線維芽細胞、ヒト人工多能性幹細胞、及びブタ血小板から得られたミトコンドリアで処理した場合、リポ多糖で誘導されるIL-6タンパク質が、有意なレベルで阻害されることが確認され、このことは遺伝子発現の結果と一致していた。以上のことから、様々な細胞から得られたミトコンドリアは、著しく優れた抗炎症活性を示すことが確認された(
図36、*P<0.05)。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2021-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリアを有効成分として含む、筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項2】
ミトコンドリアが細胞又は組織から単離される、請求項1に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項3】
ミトコンドリアがインビトロで培養された細胞から単離される、請求項2に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項4】
細胞が、体細胞、生殖細胞、幹細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項2に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項5】
体細胞が、筋細胞、肝細胞、神経細胞、線維芽細胞、上皮細胞、脂肪細胞、骨細胞、白血球、リンパ球、血小板、又は粘膜細胞及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項4に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項6】
生殖細胞が、精子、卵子、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項4に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項7】
幹細胞が、間葉系幹細胞、成体幹細胞、人工多能性幹細胞、胚性幹細胞、骨髄幹細胞、神経幹細胞、輪部幹細胞、組織由来の幹細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項4に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項8】
間葉系幹細胞が、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、胎盤、滑液、精巣、骨膜、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つから得られる、請求項7に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項9】
ミトコンドリアが、医薬組成物に対して、0.1μg/mL~1000μg/mLの濃度で含まれる、請求項1に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項10】
ミトコンドリアが、医薬組成物に対して、1×10
5~5×10
8ミトコンドリア/mLの含有量で含まれる、請求項1に記載の筋炎を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物を対象に投与するステップを含む、筋炎を予防又は治療するための方法。
【請求項12】
筋炎を予防又は治療するための
医薬の製造のための、単離されたミトコンドリアの使用。
【国際調査報告】