(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(54)【発明の名称】溶融浸透セラミックマトリックス複合材料(CMC)物品の緻密化
(51)【国際特許分類】
C04B 35/84 20060101AFI20220622BHJP
C04B 35/80 20060101ALI20220622BHJP
C04B 41/85 20060101ALI20220622BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20220622BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
C04B35/84
C04B35/80
C04B41/85 C
F01D25/00 L
F01D25/00 X
F02C7/00 C
F02C7/00 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021559103
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(85)【翻訳文提出日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 US2020028284
(87)【国際公開番号】W WO2020219315
(87)【国際公開日】2020-10-29
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【氏名又は名称】小倉 博
(72)【発明者】
【氏名】パロリニ、ジェイソン ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ハードウィック、カナン ウスル
(72)【発明者】
【氏名】コッティリンガム、シリカンス チャンドゥルドゥ
(72)【発明者】
【氏名】マレー、ジェイムズ ジョセフ 3世
(57)【要約】
さまざまな実施形態が、溶融浸透セラミックマトリックス複合材料(CMC)物品を緻密化する方法、およびそれによって形成された緻密化溶融浸透CMC物品を含む。特定の実施形態は、鋳造装置の第1の領域内に多孔質CMCプリフォームを供給するステップと、第1の領域に動作可能に接続された鋳造装置の第2の領域の圧力ヘッド領域内に、ケイ素の少なくとも1つの供給源を含む溶融した緻密化剤を供給するステップと、圧力ヘッド内の溶融した緻密化剤に第1の圧力を印加することにより、溶融した緻密化剤を多孔質CMCプリフォーム内の空隙に浸透させ、緻密化された溶融浸透CMC物品を形成するステップとを含む方法を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融浸透セラミックマトリックス複合材料(CMC)物品の緻密化のための方法であって、
鋳造装置(100、200、300)の第1の領域(120、220、320)内に多孔質CMCプリフォーム(110、210、310)を供給するステップと、
前記第1の領域(120、220、320)に動作可能に接続された前記鋳造装置(100、200、300)の第2の領域(140、240、340)の圧力ヘッド領域内に、ケイ素の少なくとも1つの供給源を含む溶融した緻密化剤(130、230、330)を供給するステップと、
前記圧力ヘッド内の前記溶融した緻密化剤(130、230、330)に第1の圧力を印加することにより、前記溶融した緻密化剤(130、230、330)を前記多孔質CMCプリフォーム(110、210、310)内の空隙に浸透させ、緻密化された溶融浸透CMC物品を形成するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記溶融した緻密化剤(130)に印加される前記第1の圧力は、大気圧であり、前記鋳造装置(100)の前記第1および第2の領域(120、140)は、前記圧力ヘッド領域内の前記溶融した緻密化剤(130)の重量によって前記溶融した緻密化剤(130)を前記多孔質CMCプリフォーム(110)に浸透させることができるように互いに配向されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鋳造装置(100)の前記第1の領域(120)は、前記多孔質CMCプリフォーム(110)を収容するダイセットを含み、前記ダイセットは、お互いに対して移動して、ダイ開口部(125)を間に生成することができる少なくとも2つの部分(121、122)を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の圧力の印加の最中に前記ダイ開口部(125)の開口幅を調整するステップをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ダイ開口部(125)の前記開口幅を調整するステップは、前記開口幅を選択された開口幅へと調整することを含み、前記選択された開口幅は、前記多孔質CMCプリフォーム(110)の多孔質マトリックスの損傷を低減または防止する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記溶融した緻密化剤(130)に印加される前記第1の圧力は、大気圧よりも高く、前記鋳造装置(100)の前記第1および第2の領域(120、140)は、大気圧よりも高い前記第1の圧力における前記溶融した緻密化剤(130)の前記多孔質CMCプリフォーム(110)への浸透が、前記多孔質CMCプリフォーム(110)の多孔質マトリックスを損傷させることなく実行されるように、互いに動作可能に結合している、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記鋳造装置(200)の前記第1の領域(220)および前記第2の領域(240)の少なくとも一方が、前記溶融した緻密化剤(230)を前記多孔質CMCプリフォーム(210)へと通すための入口(260)を含み、前記入口(260)は、前記多孔質CMCプリフォーム(210)との接触時の前記溶融した緻密化剤(230)の速度を下げるように構成されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記多孔質CMCプリフォーム(210)を内部に有する前記鋳造装置(200)の前記第1の領域(220)は、大気圧よりも低い第2の圧力を有し、前記鋳造装置(200)の前記第1および第2の領域(220、240)は、大気圧よりも低い前記第2の圧力によって前記溶融した緻密化剤(230)を前記多孔質CMCプリフォーム(210)に浸透させることができるように互いに配向されている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記鋳造装置(200)の前記第1の領域(220)は、前記第2の圧力を選択された第2の圧力に設定するための圧力設定装置を含み、前記選択された第2の圧力は、大気圧よりも低く、かつ前記多孔質CMCプリフォーム(210)の多孔質マトリックスに損傷が生じる最小圧力よりも高い、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記鋳造装置(300)は、第3の領域(370)を含み、前記多孔質CMCプリフォーム(310)は、前記第2および第3の領域(340、370)の間にまたがる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の領域(340)の前記第1の圧力は、前記第3の領域(370)の圧力よりも高く、前記第2の領域(340)の前記第1の圧力と前記第3の領域(370)の前記圧力との間の差により、前記溶融した緻密化剤(330)を前記多孔質CMCプリフォーム(310)に浸透させることができる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
溶融浸透セラミックマトリックス複合材料(CMC)物品の緻密化のための方法であって、
鋳造装置(100、200、300)の第1の領域(120、220、320)内に多孔質CMCプリフォーム(110、210、310)を供給するステップと、
前記第1の領域(120、220、320)に動作可能に接続された前記鋳造装置(100、200、300)の第2の領域(140、240、340)の圧力ヘッド領域内に、ケイ素の少なくとも1つの供給源を含む溶融した緻密化剤(130、230、330)を供給するステップと、
第1の時間期間にわたって、前記圧力ヘッド内の前記溶融した緻密化剤(130、230、330)に、前記多孔質CMCプリフォーム(110、210、310)の第1の深さ(410d、510d)にわたって前記溶融した緻密化剤(130、230、330)の第1の浸透速度(410v、510v)を確立させるために充分な第1段階の圧力を、印加するステップと、
第2の時間期間にわたって、前記圧力ヘッド内の前記溶融した緻密化剤(130、230、330)に、前記第1段階の圧力と異なり、前記多孔質CMCプリフォーム(110、210、310)の前記第1の深さ(410d、510d)を含まない第2の深さ(420d、520d)にわたって前記溶融した緻密化剤(130、230、330)の第2の浸透速度(420v、520v)を確立させるために充分な第2段階の圧力を、印加するステップと
を含む方法。
【請求項13】
前記第1の深さ(410d、510d)領域および前記第2の深さ(420d、520d)領域の一方が、密集したCMC繊維を含み、前記第1の深さ(410d、510d)領域および前記第2の深さ(420d、520d)領域の他方が、あまり密集していないCMC繊維を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記密集したCMC繊維(450)および前記あまり密集していないCMC繊維(440)は、実質的に同じ方向に配向している、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記密集したCMC繊維(450)および前記あまり密集していないCMC繊維(440)は、お互いに対して実質的に直角に配向している、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の深さ(510d)領域および前記第2の深さ(520d)領域の両方が、実質的に同程度に密集したCMC繊維(540、550)を含み、前記第1の深さ(510d)領域のCMC繊維(540)は、前記第2の深さ(420d、520d)領域のCMC繊維(550)に対して実質的に直角に配向している、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
第3の時間期間にわたって、前記圧力ヘッド内の前記溶融した緻密化剤(130、230、330)に、第3段階の圧力を印加するステップをさらに含み、前記第3段階の圧力は、前記第1段階の圧力および前記第2段階の圧力の少なくとも一方とは異なり、前記多孔質CMCプリフォーム(110、210、310)の前記第1および第2の深さ(410d、420d)を含まない第3の深さ(430d)にわたって前記溶融した緻密化剤(130、230、330)の第3の浸透速度(430v)を確立させるために充分である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
少なくともケイ素を内部に浸透させて有している多孔質セラミックマトリックスと、
前記セラミックマトリックスに埋め込まれたセラミック繊維と
を含んでおり、
実質的に均一な密度を有している、緻密化溶融浸透セラミックマトリックス複合材料(CMC)物品。
【請求項19】
前記物品はガスタービンエンジンの構成部品である、請求項18に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広くには、セラミックマトリックス複合材料(CMC)物品の緻密化に関し、より詳細には、ガスタービンエンジンの溶融浸透CMC構成部品の緻密化に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックマトリックス複合材料(CMC)物品は、一般に、例えばその耐熱性、高温強度、および化学的安定性ゆえに、タービンエンジンの構造構成部品によく適していると考えられている。しかしながら、タービンエンジンにおけるCMC物品は、過大な応力、損傷(例えば、割れ)、不適切な形成、などによる損傷に悩まされる可能性がある。CMC物品の損傷しやすさに対処するための1つの技術は、緻密化である。しかしながら、溶融浸透CMCを緻密化するための従来からの技術の成功は、緻密化剤の浸透(例えば、ケイ素の浸透)の結果として生じ得る無数の欠陥に起因して制限される。ケイ素の浸透におけるそのような欠陥は、例えば、緻密化プロセスの最中に閉塞、亀裂、および/または材料浸透の少ない領域を生じさせ、したがって結果として得られる緻密化されたCMC物品内に弱点を引き起こす可能性がある。従来の緻密化されたCMC物品におけるこれらの欠点は、CMC物品が厚くなるほど悪化する傾向がある。
【0003】
部品を鋳造するための従来からの技術(例えば、金属の鋳造)として、射出成形、高圧ダイカスト、および低圧ダイカストが挙げられる。射出成形は、30~200ミリメートル/秒(mm/s)の速度で、300~800Barの注入圧力の下で、部品を形成するために材料を注入することができる。高圧ダイカストは、金属材料(例えば、アルミニウム(Al)合金)を、200mm/sを超える速度で、1000Bar以上の注入圧力の下で注入して、部品を形成することができる。低圧ダイカストは、例えば注入速度10mm/s、注入圧力5~10Barなど、より低い動作パラメータを使用して実施される。しかしながら、これらの従来からの鋳造技術はいずれも、これらの技術を実施するための動作パラメータが、緻密化プロセスの実施時にCMC物品を損傷させる可能性を高める可能性があり、さらには/あるいはCMC物品に損傷を引き起こす可能性があるため、CMC物品について緻密化プロセスを実施するためには利用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/007515号明細書
【発明の概要】
【0005】
溶融浸透セラミックマトリックス複合材料(CMC)物品を緻密化する方法、およびそれによって形成された緻密化CMC物品が開示される。本開示の第1の態様において、溶融浸透CMC物品の緻密化のための方法が、鋳造装置の第1の領域内に多孔質CMCプリフォームを供給するステップと、第1の領域に動作可能に接続された鋳造装置の第2の領域の圧力ヘッド領域内に、ケイ素の少なくとも1つの供給源を含む溶融した緻密化剤を供給するステップと、圧力ヘッド内の溶融した緻密化剤に第1の圧力を印加することにより、溶融した緻密化剤を互いにつながった多孔質CMCプリフォーム内の空隙に浸透させ、緻密化された溶融浸透CMC物品を形成するステップとを含む。
【0006】
本開示の第2の態様において、溶融浸透CMC物品の緻密化のための方法が、鋳造装置の第1の領域内に多孔質CMCプリフォームを供給するステップと、第1の領域に動作可能に接続された鋳造装置の第2の領域の圧力ヘッド領域内に、ケイ素の少なくとも1つの供給源を含む溶融した緻密化剤を供給するステップと、第1の時間期間にわたって、圧力ヘッド内の溶融した緻密化剤に、多孔質CMCプリフォームの第1の深さにわたって、溶融した緻密化剤の第1の浸透速度を確立させるために充分な第1段階の圧力を、印加するステップと、第2の時間期間にわたって、圧力ヘッド内の溶融した緻密化剤に、第1段階の圧力と異なり、多孔質CMCプリフォームの第1の深さを含まない第2の深さにわたって、溶融した緻密化剤の第2の浸透速度を確立させるために充分な第2段階の圧力を、印加するステップとを含む。
【0007】
本開示の第3の態様において、緻密化溶融浸透CMC物品が、少なくともケイ素を内部に浸透させて有している多孔質セラミックマトリックスと、セラミックマトリックスに埋め込まれたセラミック繊維とを含み、この緻密化溶融浸透CMC物品は、実質的に均一な密度を有している。
【0008】
本開示のこれらの特徴および他の特徴は、本開示のさまざまな態様に関する以下の詳細な説明を、本開示のさまざまな実施形態を示す添付の図面と併せて検討することで、さらに容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】浸透前の状態および浸透後の状態の両方を含む本開示の緻密化溶融浸透セラミックマトリックス複合材料(CMC)物品を形成するための例示的な鋳造装置の概略図を示している。
【
図2】本開示の緻密化溶融浸透CMC物品を形成するための別の例示的な鋳造装置の概略図を示している。
【
図3】本開示の緻密化溶融浸透CMC物品を形成するためのさらに別の例示的な鋳造装置の概略図を示している。
【
図4】本開示の緻密化溶融浸透CMC物品を形成するための面内浸透に関する相対の速度および深さを示している。
【
図5】本開示の緻密化溶融浸透CMC物品を形成するための交差面浸透に関する相対の速度および深さを示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の図面が、必ずしも一定の比率ではないことに留意されたい。図面は、本開示の典型的な態様だけを図示することを意図しており、したがって、本開示の範囲を限定するものと考えられるべきではない。図面において、類似する番号は、図面間で類似する要素を表す。
【0011】
本開示は、広くには、セラミックマトリックス複合材料(CMC)物品の緻密化に関し、より詳細には、ガスタービンエンジンの溶融浸透CMC構成部品の緻密化に関する。上述のように、溶融浸透CMCを緻密化するための従来からの技術の成功は、緻密化剤の浸透(例えば、ケイ素の浸透)の結果として生じ、次いで緻密化プロセスにおいて障害物(浸透の欠如)および/または亀裂をもたらす可能性がある無数の欠陥に起因して制限される。したがって、そのような従来からの技術によってもたらされる緻密化CMC物品は、不均一な密度(例えば、ドライスポット、多孔性)および内部の弱点箇所を有し、どちらもCMC物品の厚さが増加するにつれて悪化する可能性がある(例えば、密度の極端な不均一性および/または弱点箇所の増加)。従来とは対照的に、本開示のさまざまな態様は、浸透の際に溶融ケイ素源の圧力ヘッドを作成し、鋳造装置を使用して浸透を達成することによって、溶融浸透CMC物品を緻密化する方法を含む。本開示の方法に従って製造された緻密化溶融浸透CMC物品は、たとえCMC物品の厚さが厚くても、実質的に均一な密度を有することができる。溶融浸透CMC物品を緻密化するための本開示の方法が、理解を容易にするために
図1~
図5を参照して以下で説明される。
【0012】
一実施形態において、溶融浸透CMC物品を緻密化するための本開示の方法は、最初に多孔質CMCプリフォームを用意することを含む。本明細書において使用されるとき、「CMC」は、セラミック繊維がセラミックマトリックスに埋め込まれているセラミックマトリックス複合材料を指す。CMC物品は、セラミック繊維で連続的または不連続に強化されたセラミックマトリックスを含むことができる。セラミックマトリックスは、炭素(C)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、および/またはケイ酸アルミニウム(Al2O3-SiO2)を含むことができる。セラミック繊維は、炭素(C)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、および/またはケイ酸アルミニウム(Al2O3-SiO2)を含むことができる。セラミックマトリックスおよびセラミック繊維は、同じ材料から構成されてよく、あるいは異なってもよい。例えば、セラミックマトリックスおよびセラミック繊維が同じ材料から構成される場合、CMC物品は、例えば、炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素(SiC/SiC)物品であってよい。セラミックマトリックスとセラミック繊維とが異なる材料から構成される場合、CMC物品は、例えば、炭素繊維強化炭化ケイ素(C/SiC)物品であってよい。典型的には、CMC物品を、例えば、射出成形、スリップキャスティング、テープキャスティング、浸透法(例えば、化学蒸気浸透、溶融浸透、など)、ならびにさまざまな他の適切な方法および/またはプロセスなど、当技術分野で知られている任意の適切な製造プロセスから製作することができる。本開示は、溶融浸透CMC物品の緻密化に関する。したがって、本明細書において使用されるとき、「CMCプリフォーム」は、緻密化剤による溶融浸透の前のCMC物品を指す。
【0013】
図1を参照すると、CMCプリフォーム110が、鋳造装置100の第1の領域120内に供給される。CMCプリフォーム110は、上記で説明した浸透前のCMC物品である。
図1は、鋳造装置100の浸透前の状態(矢印の左側)および浸透後の状態(矢印の右側)の両方の図を含む。
【0014】
本開示の方法は、鋳造装置100の第2の領域140の圧力ヘッド領域内に溶融した緻密化剤130を供給することをさらに含む。第2の領域140の溶融した緻密化剤130を供給することは、第1の領域120の多孔質CMCプリフォーム110の供給の前、供給の後、または供給と同時に行うことができる。装置100の第1および第2の領域120,140は、溶融した緻密化剤130をCMCプリフォーム110に適用できるように互いに動作可能に接続される。溶融した緻密化剤130は、多孔質CMCプリフォーム110の密度を増加させることができる化合物または組成物の任意の適切な溶融した供給源を含むことができる。例えば、溶融した緻密化剤130は、ケイ素の1つ以上の溶融した供給源を含むことができる。
【0015】
CMCプリフォーム110および溶融した緻密化剤130の両方を供給した後に、本開示の方法は、溶融した緻密化剤130に第1の圧力を印加することをさらに含むことができる。第1の圧力は、大気圧(例えば、1Bar)または大気圧よりもわずかに高い圧力(例えば、3Bar未満)を含むことができる。別の例においては、これに限られるわけではないが、溶融した緻密化剤130への第1の圧力の印加を、例えば約1.33×10
-6Barなどの大気圧よりも低い圧力の真空中または真空下で実行してもよい。他の例においては、これに限られるわけではないが、第1の圧力を、緻密化プロセスの最中にCMCプリフォーム110に約1ミリバール~1バールの範囲内で印加してもよい。第1の圧力は、溶融した緻密化剤130による多孔質CMCプリフォーム110内の空隙(細孔)の浸透を可能にする。
図1(矢印の右側)に示されるように、緻密化溶融浸透CMC物品150が、この浸透によって形成される。
【0016】
さらに、
図1は、第1の圧力が大気圧であってよい実施形態を示している。図示のように、装置100の第1および第2の領域120,140は、溶融した緻密化剤130自体の重量が溶融した緻密化剤130によるCMCプリフォーム110の浸透を引き起こすことができるように互いに配向される。この形式の大気圧に基づく配置は、重力式供給システムと呼ばれることもある。
【0017】
高い圧力が関心事でない重力式供給システムであっても、CMCプリフォーム110の材料特性を装置100によって考慮する必要があり得る。一実施形態において、装置100の第1の領域120は、少なくとも2つの部分121,122を有するダイセットであってよい。部分121,122は、ダイ開口部125を間に生成することができるように、お互いに対して移動することができる。したがって、浸透前(矢印の左側-
図1)に、CMCプリフォーム110の多孔質マトリックスの損傷(例えば、割れ)を回避するために、CMCプリフォーム110への圧力を低減または排除するようにダイ開口部125を設定(調整)することができる。ダイ開口部125の幅を、CMCプリフォーム110の密度が増加するにつれて、浸透中に調整でき、例えば減少させることができる。浸透の完了時(矢印の右側-
図1)に、ダイ開口部125の幅はほぼゼロであってよい。これに加え、あるいはこれに代えて、このプロセスを実行し、さらには/あるいはダイ開口部125の幅をほぼゼロへと閉じることにより、CMCプリフォームの減量および/または部品間の寸法/サイズ/特徴の一貫性を改善することができる。
【0018】
装置100が重力式供給システム(例えば、
図1)として形成される例において、溶融した緻密化剤130を、制御された速度でもたらすことができる。例えば、溶融した緻密化剤130を、1ミリメートル/秒(mm/s)以下の制御された速度でもたらすことができる。この速度で(さらには、本明細書で特定される圧力の下で)溶融した緻密化剤130をもたらすとき、溶融した緻密化剤130は、緻密化プロセスの最中に望ましくない応力/歪み、損傷(例えば、割れ)、および/または不適切な形成を引き起こすことなく、CMCプリフォーム110に浸透することができる。
【0019】
重力式供給システムに加えて、
図1の装置100は、圧力に基づくシステムにも使用することができる。換言すると、溶融した緻密化剤130に印加される第1の圧力が、大気圧よりも高くてよい。そのような圧力に基づくシステムにおいて、ダイ開口部125の幅を制御および調整することが、CMCプリフォーム110の損傷を回避するために重要となり得る。
【0020】
図2が、第1の圧力が大気圧よりも高くてよい別の実施形態を示している。この実施形態において、多孔質CMCプリフォーム210が、鋳造装置200の第1の領域220内に供給される。第1の領域220への多孔質CMCプリフォーム210の供給の前、供給の後、または供給と同時に、溶融した緻密化剤230を、鋳造装置200の第2の領域240の圧力ヘッド領域内に供給することができる。プリフォーム210および溶融した緻密化剤230は、上述したもの(110,130)と同じであってよい。
【0021】
この実施形態の高い圧力(すなわち、大気よりも高い)を考慮して、高い圧力での溶融した緻密化剤230によるプリフォーム210の浸透が、プリフォーム210の多孔質マトリックスを損傷させることなく実行されるように、鋳造装置200の第1および第2の領域220,240を、互いに動作可能に結合させることができる。例えば、装置200の第1および第2の領域220,240の一方または両方が、溶融した緻密化剤230をプリフォーム210へと通すための入口260を含むことができる。入口260は、プリフォーム210との接触における溶融した緻密化剤230の速度を低下させるように構成することができる。1つの入口260が図示されているが、任意の数および任意の構成の入口260を利用することができる。この例(ただし、これに限られるわけではない)においては、
図1と同様に、溶融した緻密化剤230を装置200にもたらす圧力を制御および/または調整することによって、溶融した緻密化剤230を1mm/s以下の制御された速度でもたらすことができる。
【0022】
本開示の方法は、上述したように、システムに印加される第1の圧力(例えば、重力式供給システムの場合は大気圧であり、圧力に基づくシステムの場合は大気圧よりも高い)に依存して実行することが可能である。本開示の方法を、複数の圧力を利用して実行することも可能である。
【0023】
図1に戻ると、プリフォーム110を内部に保持する鋳造装置100の第1の領域120に、第2の圧力を関連付けることができる。例えば、第2の圧力は、溶融した緻密化剤130に印加される第1の圧力よりも低くてもよい。例えば、第2の圧力は、大気圧未満であってよい。重力式供給システムの場合のように、第1の圧力が大気圧である場合、大気圧未満である第2の圧力は、溶融した緻密化剤130をプリフォーム110へと引き込む(または、吸い上げる)ことによって浸透プロセスを支援することができる。この溶融した緻密化剤130のプリフォーム110への引き込みを、溶融した緻密化剤130の重量によるプリフォーム110への押し込みに追加することができる。
【0024】
第2の圧力は、大気圧よりも低くてよいが、第2の圧力は、プリフォーム110の多孔質マトリックスの損傷が生じる最小圧力よりも高くてもよい。例えば、最小圧力を下回る第2の圧力が、CMCプリフォーム110内の空隙(細孔)のつぶれを引き起こす可能性がある。したがって、鋳造装置100の第1の領域120の第2の圧力を制御するという利益に関して、圧力設定装置(図示せず)をシステムに追加してもよい。
【0025】
図3が、本開示の方法を複数の圧力を利用して実行することができる別の例示的な実施形態を示している。この実施形態において、多孔質CMCプリフォーム310が、鋳造装置300の第1の領域320内に供給される。第1の領域320への多孔質CMCプリフォーム310の供給の前、供給の後、または供給と同時に、溶融した緻密化剤330を、鋳造装置300の第2の領域340の圧力ヘッド領域内に供給することができる。プリフォーム310および溶融した緻密化剤330は、上述したもの(110,130および/または210,230)と同じであってよい。この実施形態は、鋳造装置300の第3の領域370が利用されるという点で、上述した実施形態から相違する。
【0026】
第3の領域370は、第2の領域340の第1の圧力とは異なる自身の圧力を有する。より具体的には、第2の領域340の第1の圧力は、第3の領域370の圧力よりも高くてよく、多孔質CMCプリフォーム310は、第2の領域340と第3の領域370との間に位置する(例えば、両者の間にまたがる)ことができる。第2の領域340の第1の圧力と第3の領域370の圧力との間の差が、溶融した緻密化剤330によるプリフォーム310の浸透を可能にする。第2の領域340の第1の圧力が第3の領域370の圧力よりも高い上記の例においては、第1の圧力が溶融した緻密化剤330に力(矢印を参照)を及ぼし、多孔質CMCプリフォーム310へと押し込む。
【0027】
図4が、本開示の1つ以上の実施形態に関連する相対速度および深さを示しており、本開示の方法が、溶融した緻密化剤に複数の段階にて印加される複数の圧力を利用して実施されている。より具体的には、本開示の方法は、第1段階の圧力を溶融した緻密化剤に第1の時間期間にわたって印加し、次いで第2段階の圧力を溶融した緻密化剤に第2の時間期間にわたって印加することを含むことができる。
図4に示されるように、第1段階の圧力は、多孔質CMCプリフォーム400の第1の深さ410dにわたって、溶融した緻密化剤の第1の浸透速度410vを確立させることができる。同様に、第2段階の圧力は、多孔質CMCプリフォーム400の第2の深さ420dにわたって、溶融した緻密化剤の第2の浸透速度420vを確立させることができる。本開示の方法を、任意の数の圧力段階を利用して実行することができる。
図4は、3つの段階、すなわち第3の深さ430dにわたる第3の浸透速度430vを示しているが、本開示はそのように限定されない。さらに、これに限られるわけではない一例において、浸透速度410v、420v、430vは、本明細書において説明されるように、1mm/s以下であってよい。
【0028】
図4に示されるように、プリフォーム400は、セラミック繊維440,450を含む。セラミック繊維440は、第1の深さ410dの範囲に位置するセラミック繊維であり、セラミック繊維450は、第2の深さ420dの範囲に位置するセラミック繊維である。セラミック繊維440は、セラミック繊維450と比べて密集していなくてもよい。したがって、プリフォーム400の全体への溶融した緻密化剤の充分な浸透を保証するために、第1の浸透速度410vは、第2の浸透速度420vより低くてもよい。別の実施形態において、セラミック繊維440およびセラミック繊維450は、実質的に同程度に密集していてもよい。したがって、第1および第2の浸透速度410v、420vの間の差を、小さくすることができる。さらに
図4に示されるように、セラミック繊維440,450は、浸透の際に実質的に同じ方向に配向されてもよい。これは、面内浸透と呼ばれることがある。
【0029】
図5が、CMCプリフォームのセラミック繊維が互いに実質的に直交するように配向している交差面浸透を示している。
図5に示されるように、第1段階の圧力は、多孔質CMCプリフォーム500の第1の深さ510dにわたって、溶融した緻密化剤の第1の浸透速度510vを確立させることができる。同様に、第2段階の圧力は、多孔質CMCプリフォーム500の第2の深さ520dにわたって、溶融した緻密化剤の第2の浸透速度520vを確立させることができる。本開示の方法を、任意の数の圧力段階を利用して実行することができる。
図5は2つの段階を示しているが、本開示はそのように限定されない。さらに、これに限られるわけではない一例において、浸透速度510v、520vは、本明細書において説明されるように、1mm/s以下であってよい。
【0030】
プリフォーム500は、セラミック繊維540,550を含む。セラミック繊維540は、プリフォーム500の第1の深さ510dの範囲に位置するセラミック繊維であり、セラミック繊維550は、プリフォーム500の第2の深さ520dの範囲に位置するセラミック繊維である。セラミック繊維540は、セラミック繊維550に対して実質的に直交して配向され、繊維540は浸透方向(矢印を参照)にあり、繊維550はそれに対して実質的に直交している。したがって、プリフォーム500の全体への溶融した緻密化剤の充分な浸透を保証するために、第1の浸透速度510vは、第2の浸透速度520vより低くてもよい。
【0031】
本開示の上述の方法のうちの任意の1つ以上を利用して、緻密化溶融浸透CMC物品を得ることができる。本開示の緻密化CMC物品は、緻密化剤(例えば、少なくともケイ素)を内部に浸透させた多孔質セラミックマトリックスと、セラミックマトリックスに埋め込まれたセラミック繊維とを含むことができる。本開示の緻密化されたCMC物品は、実質的に均一な密度を有することができる。本開示のCMC物品の実質的に均一な密度は、CMC物品の厚さが厚い場合および/またはCMC物品が他の部分と比べて厚さがより厚い部分(例えば、不均一な厚さ)を含む場合でも、達成および/または維持することが可能である。本開示の冒頭で述べたように、本開示のそのような緻密化されたCMC物品は、それらの低密度、耐熱性、高温強度およびクリープ特性、ならびに化学的安定性ゆえに、ガスタービンエンジンの構成部品として使用することができる。
【0032】
本明細書で使用される専門用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、本開示を限定しようとするものではない。本明細書において使用されるとき、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「この(the)」は、文脈からそのようでないことが明らかでない限り、複数形も含むことを意図している。さらに、「含む(comprises)」および/または「含んでいる(comprising)」という用語が、本明細書において使用される場合に、そこで述べられる特徴、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成部品が存在することを規定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成部品、および/またはこれらのグループの存在または追加を排除するものではないことを、理解できるであろう。
【0033】
本明細書および特許請求の範囲のあらゆる場所において使用される近似を表す文言は、関連の基本的機能に変化をもたらすことなく差し支えない程度に変動できる任意の量的表現を修飾するために適用され得る。したがって、「約」、「おおむね」、および「実質的に」などの1つまたは複数の用語によって修飾された値は、明記された厳密な値に限定されるものではない。少なくともいくつかの場合に、近似を表す文言は、値を測定するための計測器の精度に対応することができる。ここで、本明細書および特許請求の範囲の全体を通して、範囲の限定は組み合わせおよび/または置き換えが可能であり、文脈または文言によってとくに指示されない限り、そのような範囲が認定され、そこに含まれるすべての部分範囲を含む。範囲の特定の値に適用される「約」は、両端の値に適用され、値を測定する機器の精度にとくに依存しない限り、記載された値の+/-10%を示すことができる。「実質的に」は、大部分は、ほとんど、完全に指定された、または本開示の技術的利益と同じ技術的利益をもたらすわずかな逸脱を指す。
【0034】
添付の特許請求の範囲におけるすべてのミーンズプラスファンクションまたはステッププラスファンクションの要素について、対応する構造、材料、動作、および均等物は、具体的に請求された他の請求項に記載の要素と組み合わせてその機能を遂行するための一切の構造、材料、または動作を含むように意図されている。本開示の記述は、例示および説明の目的で提示されており、網羅的であることも、本開示を開示された形態に限定することも、意図していない。多数の修正および変形が、本開示の範囲および趣旨から逸脱することなく、当業者にとって明らかであろう。上述の実施形態は、本開示の原理および実際の用途を最も上手く説明するとともに、想定される特定の使用に適するようなさまざまな修正を伴うさまざまな実施形態に関して、本開示の理解を当業者にとって可能にするために、選択されて説明されている。
【符号の説明】
【0035】
100 鋳造装置
110 多孔質CMCプリフォーム
120 第1の領域
121 部分
122 部分
125 ダイ開口部
130 溶融した緻密化剤
140 第2の領域
150 緻密化溶融浸透CMC物品
200 鋳造装置
210 多孔質CMCプリフォーム
220 第1の領域
230 溶融した緻密化剤
240 第2の領域
260 入口
300 鋳造装置
310 多孔質CMCプリフォーム
320 第1の領域
330 溶融した緻密化剤
340 第2の領域
370 第3の領域
400 多孔質CMCプリフォーム
410d 第1の深さ
410v 第1の浸透速度
420d 第2の深さ
420v 第2の浸透速度
430d 第3の深さ
430v 第3の浸透速度
440 セラミック繊維
450 セラミック繊維
500 多孔質CMCプリフォーム
510d 第1の深さ
510v 第1の浸透速度
520d 第2の深さ
520v 第2の浸透速度
540 セラミック繊維
550 セラミック繊維
【国際調査報告】