(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(54)【発明の名称】インテグリンα10および侵攻性癌型
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20220622BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220622BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20220622BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220622BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220622BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20220622BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20220622BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20220622BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20220622BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20220622BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220622BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220622BHJP
A61K 31/537 20060101ALI20220622BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20220622BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220622BHJP
A61K 38/07 20060101ALI20220622BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220622BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N5/09
C12N15/13
A61K39/395 Y
A61K51/10 200
A61K49/00
A61K38/05
A61K31/704
A61K38/12
A61K38/02
A61P35/04
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K31/537
G01N33/531 A
G01N33/574 A
G01N33/574 D
A61K38/07
A61K47/68
A61K31/405
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021560972
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(85)【翻訳文提出日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2020060582
(87)【国際公開番号】W WO2020212416
(87)【国際公開日】2020-10-22
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522021343
【氏名又は名称】タルギンタ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ルンドグレン アーケランド,エヴィー
(72)【発明者】
【氏名】ケミラスカ マソウミ,カタルジーナ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,シャオリ
(72)【発明者】
【氏名】トーレン,マチルダ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BB19
4B065BB40
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA02
4C084BA14
4C084BA17
4C084BA23
4C084BA41
4C084CA04
4C084DA32
4C084DA33
4C084NA13
4C084ZB26
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085AA26
4C085AA27
4C085BB11
4C085EE01
4C085HH03
4C085HH11
4C085KA03
4C085KA04
4C085KA05
4C085KA27
4C085KA29
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC13
4C086CB22
4C086EA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、ならびに転移癌を含む侵攻性癌型を治療するための組成物であって、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片を含む組成物に関する。本発明はまた、該侵攻性癌型を診断および治療する方法に関する。本発明はまた、該侵攻性癌型に罹患した個体の生存率を予測する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体またはその抗原結合断片はインテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合し、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される侵攻性癌型の治療および/または予防に用いられる抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該侵攻性乳癌が、三重陰性乳癌および炎症性乳癌から成る群から選択される、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該三重陰性乳癌が、基底細胞様1型乳癌、基底細胞様2型乳癌、クローディン低乳癌、化生性乳癌(MBC)、高インターフェロン型乳癌、免疫調節型乳癌、間葉型乳癌、間葉系幹細胞様乳癌、管腔アンドロゲン受容体型乳癌および不安定乳癌から成る群から選択される、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該侵攻性肺癌が、扁平上皮型肺癌、肺腺癌、大細胞肺癌および小細胞肺癌から成る群から選択される、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該侵攻性前立腺癌が小細胞神経内分泌癌(SCNC)である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該侵攻性膵癌が神経内分泌腫瘍である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該侵攻性膵癌および/または神経内分泌腫瘍がグレードI、グレードIIまたはグレードIIIの膵癌である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該インテグリンα10ポリペプチドが悪性細胞の表面および/または腫瘍関連細胞の表面で発現する、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体またはその断片である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体が非ヒト抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項11】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体がマウスモノクローナル抗体である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項12】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体がヒトモノクローナル抗体である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項13】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体がIgA、IgD、IgG、IgEおよびIgMから成る群から選択されるアイソタイプである、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項14】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体が:
(a)アクセッション番号DSM ACC2583として、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されているハイブリドーマ細胞株によって生成するモノクローナル抗体;
または
(b)アクセッション番号DSM ACC2583として、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されているハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体が結合するエピトープと同一のエピトープに対する結合に関して競合する抗体;
または
(c)インテグリンα10ポリペプチド鎖の細胞外Iドメインに特異的に結合可能な(a)もしくは(b)の断片
である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項15】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体または抗原結合断片が:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-H1;
(b)配列番号5のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-H2;
および
(c)配列番号6のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-H3、
を含む重鎖可変領域;
および/または
(d)配列番号7のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-L1;
(e)配列番号8のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-L2;
および
(f)配列番号9のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-L3、
を含む軽鎖可変領域;
あるいは
配列番号4~9のいずれか1つの変異体(改変体)、
を含み、
ここで該変異体は、いずれか1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されており、ただしそのような変更がたかだか3アミノ酸未満であることが前提であり、例えば、ここで2アミノ酸または1アミノ酸が置換されている、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項16】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体または抗原結合断片が配列番号10のアミノ酸配列を含む、またはから成る重鎖可変領域を含む、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項17】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体または抗原結合断片が配列番号11のアミノ酸配列を含む、またはから成る軽鎖可変領域を含む、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項18】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体またはその抗原結合断片が付加的な部分と複合体を形成している、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項19】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該付加的な部分が蛍光色素分子、酵素および放射性トレーサーまたは放射性同位体から成る群から選択される検出可能部分などの検出可能部分を含む、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項20】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該付加的な部分が細胞傷害性部分を含む、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項21】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該細胞傷害性部分が毒素、化学療法剤および放射性物質、またはそれらの組み合わせから成る群から選択される、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項22】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該細胞傷害性部分が毒素である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項23】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該毒素が微小管毒素類、DNA毒素類および転写毒素類から選択される群から選択される、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項24】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該微小管毒素類がアウリスタチンを基礎とする毒素類、メイタンシノイドを基礎とする毒素類、ツブリシン類を基礎とする毒素類およびエリブリンから成る群から選択される、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項25】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該転写毒素がRNAポリメラーゼII阻害物質である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項26】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該転写毒素がドキソルビシン、ドキソルビシン誘導体およびアマニチンから成る群から選択される、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項27】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該転写毒素が志賀毒素および志賀毒素様毒素;I型リボソーム不活性化蛋白質、II型リボソーム不活性化蛋白質およびサポリン、またはそれらの組み合わせから成る群から選択される、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項28】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該I型リボソーム不活性化蛋白質がトリコサンチンおよび/またはルフィンである、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項29】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該II型リボソーム不活性化蛋白質がリシン、凝集素および/またはアブリンである、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項30】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該インテグリンα10ポリペプチドが、インテグリンα10ポリペプチドの天然の変異体(改変体)またはインテグリンα10ポリペプチドのイソ型である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項31】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体が、インテグリンα10ポリペプチドを発現する細胞の細胞死を誘導することができる、および/または増殖を阻害することができる、および/または増生を阻害することができる、および/または遊走を阻害することができる、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項32】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該細胞が悪性細胞および/または腫瘍関連細胞である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項33】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該悪性細胞または腫瘍関連細胞が、癌関連線維芽細胞(CAF)、間質細胞、幹細胞および/または幹細胞様細胞である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項34】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該インテグリンα10ポリペプチドがインテグリンα10β1ヘテロ二量体の一部である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項35】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該治療が予防的、改善的または治癒的である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項36】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該対象の腫瘍の侵攻性癌細胞にインテグリンα10ポリペプチドが検出されることにより該治療が開始されるものである、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項37】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで癌の放射線療法および/または外科的除去と組み合わせて、該抗体またはその抗原結合断片をそれが必要な個体に投与する、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項38】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで癌の放射線療法および/または外科的除去に先だって該抗体またはその抗原結合断片をそれが必要な個体に投与する、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項39】
前記の請求項のいずれか1項に記載の用途の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで癌の放射線療法および/または外科的除去後に、該抗体またはその抗原結合断片をそれが必要な個体に投与する、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項40】
抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該抗体またはその抗原結合断片がインテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合し、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される侵攻性癌の診断に用いられる、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項41】
請求項40に記載の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで同一種類の健常および/または良性組織に観察されるインテグリンα10抗原のレベルと同一レベルであるか、またはより高いレベルを示す細胞を該癌が含む、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項42】
請求項40の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで同一組織種の癌のタイプではあるが、診断される癌のタイプと比較して低侵攻性の癌のタイプに観察されるインテグリンα10抗原のレベルと同一またはより高いレベルを示す細胞を該癌が含む、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項43】
侵攻性癌を治療する方法であって、ここで該侵攻性癌型が、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌から成る群から選択される、あるいは該侵攻性癌型が転移癌であり、該方法がインテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する薬学的有効量の抗体またはその抗原結合断片をそれが必要な対象に投与することを含む、方法。
【請求項44】
対象において侵攻性癌細胞を検出する方法であって、該方法が:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が該組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)インテグリンα10抗原の発現レベルを判定する工程;および
(d)工程(c)で判定した該発現レベルを対照レベルと比較する工程、
を含み、
ここで該対照レベルが、単離した試料と同一組織種の健常および/または良性細胞に観察される抗原の発現レベルの平均値であり、
ここで対照レベルより高い抗原の発現レベルは、対象において侵攻性癌型が存在することの指標であり、ここで該侵攻性癌型が侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【請求項45】
対象において侵攻性癌細胞を検出する方法であって、該方法が:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)任意に、癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が該組織中に存在するか否かを分析する工程;
(d)任意に、インテグリンα10抗原の発現レベルを判定する工程、
を含み、
ここで癌形態を有する1個または複数個の細胞が存在することおよびインテグリンα10抗原を発現することの組み合わせは、対象において侵攻性癌型が存在することの指標であり、ここで該侵攻性癌型は侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【請求項46】
対象において侵攻性癌型を診断する方法であって、該方法が:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が該組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)インテグリンα10抗原の発現レベルを判定する工程;および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが抗原発現レベルの平均値である、工程、
を含み、
ここで対照レベルよりも高い抗原発現レベルは、試料中に侵攻性癌型が存在することの指標であり、それによって対象の侵攻性癌型を診断するが、ここで該侵攻性癌型は侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択されるか、あるいは該侵攻性癌型のいずれかの転移癌である、方法。
【請求項47】
対象において侵攻性癌型を診断する方法であって、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)任意に、癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が試料中に存在するか否かを分析する工程;
(d)任意に、インテグリンα10抗原の発現レベルを判定する工程;
を含み、
ここで癌形態を有する1個または複数個の細胞が存在することおよびインテグリンα10抗原を発現することの組み合わせは、試料中に侵攻性癌型が存在することの指標であり、それによって対象の侵攻性癌型を診断するが、ここで該侵攻性癌型が侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【請求項48】
対象の三重陰性乳癌腫瘍試料を分類する方法であって、該方法は:
(a)癌細胞を含むことが疑われる対象の乳房組織を提供する工程;
(b)ER陰性、PR陰性かつHER2陰性であると特徴づけられる乳癌細胞を単離する工程;
(c)単離した細胞におけるインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原の発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが健常および/または良性乳房組織に観察される抗原発現レベルの平均値である、工程;
を含み、
ここで対照レベルより高い乳癌細胞の抗原発現レベル、およびER陰性、PR陰性およびHER2陰性である発現状態は、基底細胞様三重陰性乳癌または管腔型三重陰性乳癌の指標であり、それにより三重陰性乳癌腫瘍試料を基底細胞様三重陰性乳癌腫瘍または管腔型三重陰性乳癌腫瘍に属するものとして分類する、方法。
【請求項49】
対象において侵攻性癌型の予後を判定する方法であって、該方法が:
(a)対象の癌腫瘍組織を提供する工程;
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が試料中に存在するか否かを分析する工程;
(c)インテグリンα10抗原の発現レベルを判定する工程;
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが、試料と同一の組織種の健常および/または良性組織に観察される抗原発現レベルの平均値である、工程;
(e)インテグリンα10抗原の発現レベルが対照レベルよりも高いときに、侵攻性癌型の予後が不良であると判定する工程、
を含み、
ここで該侵攻性癌型が、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【請求項50】
対象において侵攻性癌型の予後を判定する方法であって、該方法が:
(a)対象の癌腫瘍組織を提供する工程;
(b)任意に、癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が試料中に存在するか否かを分析する工程;
(d)任意に、インテグリンα10抗原の発現レベルを判定し、判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが、試料と同一の組織種の健常および/または良性組織に観察される抗原発現レベルの平均値である工程;
(e)癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在し、かつインテグリンα10抗原が発現している、
および/または
インテグリンα10抗原の発現レベルが対照レベルよりも高い場合に、該侵攻性癌型の予後が不良であると判定する工程、
を含むが、
ここで該侵攻性癌型が、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【請求項51】
請求項49~50のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該予後が総生存率または無再発生存率である、方法。
【請求項52】
請求項44~51のいずれか1項に記載の方法であって、ここでインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が試料中に存在するか否かを分析する該工程が組織および/または組織試料のイメージングを含む、方法。
【請求項53】
請求項44~52のいずれか1項に記載の方法であって、ここでインテグリンα10抗原の発現レベルを判定する工程が組織および/または組織試料のイメージングを含む、方法。
【請求項54】
侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌から成る群から選択される侵攻性原発癌の転移を予防する方法であって、該方法が治療有効量の抗体またはその抗原結合断片をそれが必要な患者に投与することを含み、ここで該抗体がインテグリンα10ポリペプチドに特異的である、方法。
【請求項55】
請求項54に記載の方法であって、ここで原発癌が検出された場合に該抗体または抗原結合断片が投与される、方法。
【請求項56】
少なくとも1個の癌細胞のインテグリンα10媒介性シグナル伝達を阻害する方法であって、該方法が少なくとも1個の癌細胞をインテグリンα10ポリペプチドに特異的な有効量の抗体またはその抗原結合断片に接触させることを含み、ここで該少なくとも1個の癌細胞は、侵攻性乳癌細胞、侵攻性肺癌細胞、侵攻性前立腺癌細胞、侵攻性膵癌細胞、および転移性腫瘍細胞から成る群から選択される、方法。
【請求項57】
少なくとも1個の癌細胞の細胞機能を阻害する方法であって、該方法が少なくとも1個の癌細胞をインテグリンα10ポリペプチドに特異的な有効量の抗体または抗原結合断片に接触させることを含み、ここで該少なくとも1個の癌細胞は、侵攻性乳癌細胞、侵攻性肺癌細胞、侵攻性前立腺癌細胞、侵攻性膵癌細胞、および転移性腫瘍細胞から成る群から選択される、方法。
【請求項58】
請求項44~57のいずれか1項に記載の方法であって、ここでインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む該抗原が細胞表面上に発現する、方法。
【請求項59】
少なくとも1個の癌細胞の細胞機能を阻害する、請求項57~58のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該少なくとも1個の癌細胞が侵攻性および/または転移性腫瘍に存在し、阻害することが、
(a)少なくとも1個の癌細胞の増生を阻害すること;
(b)少なくとも1個の癌細胞の自己複製を阻害すること;
(c)少なくとも1個の癌細胞の足場非依存性増殖を阻害すること;
(d)少なくとも1個の癌細胞の遊走を阻害すること;
(e)少なくとも1個の癌細胞の浸潤を阻害すること;
(f)少なくとも1個の癌細胞の生存を阻害すること;
(g)少なくとも1個の癌細胞の接着を阻害すること;
および/または
それらの組み合わせ、
から成る群から選択される、方法。
【請求項60】
少なくとも1個の癌細胞の細胞機能を阻害する、請求項57~59のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該少なくとも1個の癌細胞が侵攻性および/または転移性腫瘍に存在し、少なくとも1個の癌細胞の細胞機能を阻害することが:
(a)侵攻性および/または転移性腫瘍の増殖を阻害すること;
(b)侵攻性および/または転移性腫瘍の増生を阻害すること;
(c)侵攻性および/または転移性腫瘍の移動を阻害すること;
(d)侵攻性および/または転移性腫瘍の浸潤を阻害すること;
(e)新しい侵攻性および/または転移性腫瘍の広がりを阻害すること;
(f)新しい侵攻性および/または転移性腫瘍の発生を阻害すること;
(g)新しい侵攻性および/または転移性腫瘍の浸潤を阻害すること;
および/または
それらの組み合わせ、
のうちの少なくとも1つである、方法。
【請求項61】
請求項56~60のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該少なくとも1個の癌細胞は、インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原の発現レベルが対照レベルよりも高いことによって特徴付けられ、
ここで該対照レベルが該癌細胞と同一組織種の健常および/または良性細胞に観察される該抗原の発現レベルの平均値である、方法。
【請求項62】
請求項40~61のいずれか1項に記載の方法または抗体であって、ここで該抗体またはその抗原結合断片が請求項1~39のいずれか1項に記載されるものである、方法または抗体。
【請求項63】
請求項43~62のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該方法が請求項1~39のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片を該対象に投与することをさらに含む、方法。
【請求項64】
請求項44~63のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該方法がインビトロ法であって、該組織が対象から取得する組織試料である、方法。
【請求項65】
請求項40に記載の抗体またはその抗原結合断片であって、ここで該診断がインビトロ診断である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項66】
抗体またはその抗原結合断片の用途であって、ここで該抗体はインテグリンα10ポリペプチドに特異的であり、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される侵攻性癌の治療および/または予防のための薬剤の製造に用いられる、抗体またはその抗原結合断片の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、ならびに転移癌を含む侵攻性癌を治療するための組成物であって、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片を含む組成物に関する。本発明はまた、該侵攻性癌型を診断および治療する方法に関する。本発明はまた、該侵攻性癌型に罹患した個体の生存率を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は複雑な疾患であり、動的に発達する細胞外マトリックス(ECM)中で進行するが、腫瘍および腫瘍関連細胞はほぼあらゆる面でECMによって制御される。インテグリンはECMの構成成分に対する主要な細胞接着受容体であり、18種のαインテグリン・サブユニットおよび8種のβインテグリン・サブユニットの組み合わせによって形成される24種類の膜貫通型ヘテロ二量体から成るファミリーである。異なる種類の組織は典型的には、その細胞表面上に特定の組み合わせのインテグリンを発現する。インテグリンの異なる発現パターンが多様な種類の癌に関連付けられている(Moschosら、2007)。インテグリンαβヘテロ二量体の種類の、利用に応じた切り替えから、インテグリンの異常発現、およびインテグリン・シグナル伝達の下流のエフェクターの構成的活性化ならびに他のシグナル伝達経路との相互作用にいたるまでインテグリン・シグナル伝達の変化は発癌のほぼ全プロセスに関与する。
【0003】
侵攻性癌型は増生速度が速く、および/または離れた部位および他の組織へ急速に転移する腫瘍であるため、浸潤性腫瘍でもあり得る。さらに、侵攻性癌型は通常、生命予後が不良である。
【0004】
組織学的分類にもとづく最も一般的な乳癌亜型分類によれば、最も一般的である組織学的乳癌亜型は浸潤性腺管癌であり浸潤性乳癌の80%を占め、その次は浸潤性小葉癌であり浸潤性乳癌のおおよそ10%を占める(Xiaofengら、2015)。特異的蛋白質マーカーの発現(または発現の欠如)は乳癌の悪性度に関連する(特に、ホルモン受容体の状態[エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PR)の発現]ならびにヒト上皮成長因子受容体2(HER2)(Arpinoら、2015;Haririら、2019)。三重陰性乳癌(TNBC、ER-/PR-/HER2-)は侵攻性挙動を示す可能性が高いため、他の乳癌亜型と比較して予後不良となることが多い(Rakhaら、2007;Malorniら、2012)。TNBCが転移すれば、それは肺、肝臓および脳などの主要な内臓器官に至る可能性が高く、最終的には他の亜型に比べ中央値総生存期間が有意に短くなる(Bianchiniら、2016)。TNBCは6つの亜型に分類されている:すなわち、基底細胞様(BL1およびBL2)、免疫調節型(IM)、間葉型(M)、間葉系幹細胞様(MSL)、および管腔アンドロゲン受容体型(LAR)亜型である(Maら、2018)。したがって、早期TNBCを治療するための最適治療方略を開発することは、TNBCによる負担を軽減するために重要である。組織学的分類と分子論的分類の間には重複がある。例えば、浸潤性腺管癌は異なる分子発現プロフィールを有することもあり、三重陰性、HER2陽性、管腔Aまたは管腔Bの可能性がある。三重陰性基底細胞様腫瘍は以下によってさらに特徴付けられる:50%を超える頻度で変異TP53を有すること、RB1の欠損により増生性が高いこと、BRCA-1変異を有していること、高度に異数性であること、およびサイトケラチン5、6または17のいずれか1つについて特有の発現があること。TNBCに加えて、ほかの侵攻性乳癌型も存在する。炎症性乳癌(IBC)は稀であるが侵攻型の乳癌である。IBCは急速に増殖して広がる傾向があり、その症状は数日あるいはわずか数時間で悪化する。したがって、侵攻性タイプの乳癌の新規標的治療法を開発することが必要であり、その生命予後を改善するためには最も重要なことである。
【0005】
前立腺癌は男性において2番目に多い癌であり、世界全体で4番目に多い癌である。限局性癌または局所癌と診断された患者の5年生存率はほぼ100%である。しかし、遠隔転移癌と診断された患者の5年生存率は28%でしかない。健常な前立腺上皮は、管腔上皮細胞、基底細胞、および前立腺全体にわたって散在する小型の構成細胞である神経内分泌(NE)細胞を含む。大部分の前立腺癌は、基底細胞の欠如、および管腔分化の特徴(腺形成およびアンドロゲン受容体(AR)および前立腺特異抗原(PSA)の発現を含む)を有する悪性腫瘍細胞の制御逸脱した増生によって特徴付けられる腺癌に分類される。興味深いのは、いずれの前立腺腺癌の症例においても小集団(通常~1%)のNE腫瘍細胞を含むことである。腺癌のNE細胞は、多くの重要な特徴が良性前立腺の特徴と共通している。例えば、非NE管腔型腫瘍細胞とは対照的に、良性前立腺および腺癌のNE細胞はARとPSAを発現しない(Einsteinら、2019)。前立腺上皮悪性腫瘍のうち少数のものは異型であり、導管型腺癌、粘液(膠様)癌、印環細胞癌、および小細胞(神経内分泌)癌(SCNC)などが挙げられる。良性前立腺および前立腺腺癌におけるNE細胞と同様に、SCNCの腫瘍細胞はARおよびPSAを発現しない;これは、腺癌とは異なり、このような腫瘍がアンドロゲン産生を止めることによってAR機能を阻害するホルモン療法には反応しないという臨床所見を説明するものである。大部分の前立腺腫瘍とは対照的に、SCNCは高度に侵攻性であり、一般的に局所進行性疾患または遠隔転移があり、そのため患者は通常、診断から数ヶ月以内に死亡する(Saadら、2019)。
【0006】
男性においても女性においても、肺癌は世界の癌死の主要な原因である(GLOBOCAN、2018)。肺に限局性腫瘍を有する患者の5年生存率は56%である。しかし、ほとんどの患者は後期になって診断されるので、遠隔腫瘍を有する患者の5年生存率は5%でしかない(SEER Cancer Statistics Review、2015)。組織学的には、肺癌を2つの主要なタイプに分類する:すなわち、小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)である。これらの腫瘍の大部分はNSCLCに分類され約85%を占め、残り15%の腫瘍がSCLCに分類される。NSCLCは不均一な腫瘍群を含み、さらに3つの主要な組織学的亜型に細分される;すなわち、腺癌、扁平上皮癌および大細胞癌である。腺癌および扁平上皮癌は、NSCLCの主要な亜型である。SCLCに比して、NSCLCは化学療法および放射線療法に対し比較的非感受性である。近年では、分子亜群を標的とする特異性のより高い治療法によって、期待できる結果が得られている。しかし、バイオマーカーで識別したごく一部の患者のみが治療応答に対して相関を示した(Bombardelliら、2016)。したがって、他の肺腫瘍と区別して、NSCLCおよびSCLCを早期発見可能な新規バイオマーカー、ならびに新規治療標的が必要である。
【0007】
膵癌は主要な2つの群に分けられ得る:外分泌腫瘍および神経内分泌腫瘍である。外分泌腫瘍は全膵癌の94%を占め、消化酵素を産生する外分泌細胞から発生する。この群は導管腺癌(全膵癌の90%を占める最も多いタイプの膵癌)、腺房細胞癌、膵管内乳頭粘液性腫瘍などを含む。神経内分泌腫瘍は島細胞腫ともよばれ、膵癌の6%を占める。膵癌は一般に比較的無症候性に発生し、通常、診断時には進行している。診断されるのが遅く化学療法および放射線療法に対する応答性が不良であるため、膵癌患者の5年生存率は5%未満である(Milenaら、2016)。したがって、この侵攻性疾患を診断および治療する新規の方法を開発する必要性は非常に高いのである。
【0008】
肉腫は、複数の組織系譜(脂肪、筋肉、線維、軟骨および骨)に分化し得る間葉由来の細胞から発生する広範な癌のファミリーである。肉腫は癌と診断された全癌および癌関連死の1%を占める。小児期および思春期で有病率が高く、これらの群において肉腫は癌関連死の19%~21%を占める。組織学的にも分子論的にも不均一性が高いため、この悪性腫瘍群は特に診断が困難である。癌と比較して、これらの腫瘍は大変稀で通常、限局的に増殖し隣接組織への浸潤が起こる。限局性で早期段階の腫瘍であれば、外科的摘出後の長期生存に関しては良好であるが、この腫瘍は10年から15年後でも再発する高リスクがある。軟組織肉腫に対する現在の治療方略としては、外科手術、放射線および化学療法が挙げられるが、毒性とあまり高くない応答性のために限定的である。今のところ5年までの生存率は60%であり、これは年齢、腫瘍の種類、病期および組織学的悪性度(グレード)を反映するものであるが、転移腫瘍を有するハイリスク患者では生存率がかなり低下して10%~17%である。肉腫癌型分類については、軟組織および骨の腫瘍に関するWHO分類(WHO classification of tumors of soft tissue and bone、2013)に説明がある。
【0009】
したがって、本明細書中、前記したような侵攻性腫瘍の早期診断を可能にする新規手段、ならびに新規治療標的および治療法が必要であり、それによって予後および生存率の改善が可能である。
【発明の概要】
【0010】
意外なことではあったが、本発明者らは、最も高侵攻性の複数の癌型を細胞表面のインテグリンα10高発現によって特徴付けられることを見いだした。これによって、本発明者らは、癌の罹患が疑われる組織の細胞におけるインテグリンα10の発現レベルをもとに、個体において侵攻性癌型が存在するか否かを迅速検出することが可能であることを見いだした。したがって、現在の診断手段を用いる場合よりさらに早期において、より特異的な診断が可能であり、このことによって検査中の個体に対して早期介入および予後改善が可能となる。
【0011】
さらに、本発明者らは、インテグリンα10を侵攻性癌型およびその転移型に対する新規治療標的とした。具体的には、本発明者らは、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片に、該細胞を接触させることによって、侵攻性癌型に属する腫瘍細胞の増殖と遊走を阻害し得ることを明らかにした。インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片を含む好適な抗体薬剤複合体に、腫瘍細胞を接触させることによって、細胞死を誘導することも可能である。さらに、本発明者らは、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片を投与し、該抗体またはその断片に該腫瘍細胞を接触させることによって、腫瘍増殖を低下させることが可能であることも明らかにした。
【0012】
したがって、本開示の一局面は、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される侵攻性癌型の治療および/または予防に用いる抗体またはその抗原結合断片に関するものであり、ここで該抗体またはその抗原結合断片はインテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する。
【0013】
本開示の他の一局面は、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される侵攻性癌の診断に用いられる抗体またはその抗原結合断片に関するものであり、ここで該抗体またはその抗原結合断片はインテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する。
【0014】
本開示のさらなる一局面は、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する薬学的有効量の抗体またはその抗原結合断片を、それを必要とする対象に投与することを含む、侵攻性癌の治療法に関するものであり、ここで該侵攻性癌型は侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌から成る群から選択される、あるいは該侵攻性癌型は転移癌である。
【0015】
また本開示のさらなる一局面は、対象において侵攻性癌細胞を検出する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が該組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)インテグリンα10抗原の発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した該発現レベルを対照レベルと比較する工程;
を含み、
ここで該対照レベルは、単離した試料と同一組織種の健常および/または良性細胞に観察した該抗原の発現レベルの平均値であり、対照レベルよりも高い抗原発現レベルは、対象において侵攻性癌型が存在することの指標であり、ここで該侵攻性癌型は侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される。
【0016】
本開示のさらなる一局面は、対象において侵攻性癌細胞を検出する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)組織中に癌形態を有する1個または複数個の細胞が存在するか否かを任意に分析する工程;
(c)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が該組織中に存在するか否かを分析する工程;
(d)任意にインテグリンα10抗原の発現レベルを判定する工程;
を含み、
ここで癌形態を有する1個または複数個の細胞が存在することおよびインテグリンα10抗原を発現することの組み合わせは、対象において侵攻性癌型が存在することの指標であり、ここで該侵攻性癌型は侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される。
【0017】
本開示の他の一局面は、対象において侵攻性癌型を診断する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が該組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)インテグリンα10抗原の発現レベルを判定する工程;および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが抗原発現レベルの平均値である、工程、
を含み、
ここで対照レベルよりも高い抗原発現レベルは、試料中に侵攻性癌型が存在することの指標であり、それによって対象の侵攻性癌型を診断するが、ここで該侵攻性癌型は侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択されるか、あるいは該侵攻性癌型のいずれかの転移癌である。
【0018】
本開示のさらなる一局面は、対象において侵攻性癌型を診断する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在するか否かを任意に分析する工程;
(c)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が試料中に存在するか否かを分析する工程;
(d)任意にインテグリンα10抗原の発現レベルを判定する工程;
を含み、
ここで癌形態を有する1個または複数個の細胞が存在することおよびインテグリンα10抗原を発現することの組み合わせは、試料中に侵攻性癌型が存在することの指標であり、それによって対象の侵攻性癌型を診断するが、ここで該侵攻性癌型は侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される。
【0019】
本開示のさらなる一局面は、対象の三重陰性乳癌腫瘍試料を分類する方法に関するものであり、該方法は:
(a)癌細胞を含むことが疑われる対象の乳房組織を提供する工程;
(b)ER陰性、PR陰性かつHER2陰性であると特徴づけられる乳癌細胞を単離する工程;
(c)単離した細胞におけるインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原の発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが健常および/または良性乳房組織に観察される抗原発現レベルの平均値である、工程;
を含み、
ここで対照レベルより高い乳癌細胞の抗原発現レベル、およびER陰性、PR陰性およびHER2陰性である発現状態は、基底細胞様三重陰性乳癌または管腔型三重陰性乳癌の指標であり、それにより三重陰性乳癌腫瘍試料を基底細胞様三重陰性乳癌腫瘍または管腔型三重陰性乳癌腫瘍に属するものとして分類する。
【0020】
一つの実施態様においては、該管腔型三重陰性乳癌は管腔アンドロゲン受容体型三重陰性乳癌である。
【0021】
本開示のさらなる一局面は、対象において侵攻性癌型の予後を判定する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象の癌腫瘍組織を提供する工程;
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が試料中に存在するか否かを分析する工程;
(c)インテグリンα10抗原の発現レベルを判定する工程;
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが試料と同一組織種の健常および/または良性組織に観察される抗原発現レベルの平均値である、工程;
(e)インテグリンα10抗原の発現レベルが対照レベルよりも高いときに、侵攻性癌型の予後が不良であると判定する工程、
を含み、
ここで該侵攻性癌型は、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される。
【0022】
本開示の他の一局面は、対象において侵攻性癌型の予後を判定する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象の癌腫瘍組織を提供する工程;
(b)癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在するか否かを任意に分析する工程;
(c)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が試料中に存在するか否かを分析する工程;
(d)任意にインテグリンα10抗原の発現レベルを判定し、判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが試料と同一組織種の健常および/または良性組織に観察される抗原発現レベルの平均値である、工程;
(e)癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在し、かつインテグリンα10抗原が発現している、
および/または
インテグリンα10抗原の発現レベルが対照レベルよりも高い場合に、侵攻性癌型の予後が不良であると判定する工程;
を含むが、
ここで該侵攻性癌型は、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される。
【0023】
本開示のさらなる局面は、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌から成る群から選択される侵攻性原発癌の転移を予防する方法に関するものであり、該方法は治療有効量の抗体またはその抗原結合断片を、それを必要とする患者に投与することを含み、ここで該抗体はインテグリンα10ポリペプチドに特異的な抗体である。
【0024】
本開示のさらなる一局面は、少なくとも1個の癌細胞のインテグリンα10媒介性シグナル伝達を阻害する方法に関するものであり、該方法は少なくとも1個の癌細胞に、インテグリンα10ポリペプチドに特異的な抗体またはその抗原結合断片を有効量で接触させることを含むが、ここで該少なくとも1個の癌細胞は、侵攻性乳癌細胞、侵攻性肺癌細胞、侵攻性前立腺癌細胞、侵攻性膵癌細胞、および転移性腫瘍細胞から成る群から選択される。
【0025】
また本開示のさらなる一局面は、少なくとも1個の癌細胞の細胞機能を阻害する方法に関するものであり、該方法は少なくとも1個の癌細胞に、インテグリンα10ポリペプチドに特異的な抗体または抗原結合断片を有効量で接触させることを含むが、ここで該少なくとも1個の癌細胞は、侵攻性乳癌細胞、侵攻性肺癌細胞、侵攻性前立腺癌細胞、侵攻性膵癌細胞、および転移性腫瘍細胞から成る群から選択される。
【0026】
また本開示のさらなる一局面は、抗体またはその抗原結合断片の用途に関するものであり、ここで該抗体はインテグリンα10ポリペプチドに特異的であり、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌および侵攻性膵癌、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される侵攻性癌の治療および/または予防のための薬剤の製造に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】インテグリンα10は乳癌組織の浸潤性腺管癌(IDC)細胞に発現する。インテグリンα10に対する抗体を用いた免疫組織学的分析。乳癌組織においてインテグリンα10はIDC細胞(矢印)に特異的に高発現するが、間質(星印)ではわずかな細胞にしか発現しないことを示している(A)。形態学的には正常な良性乳房組織ではインテグリンα10の発現は微弱だった(B)。
【
図2】インテグリンα10は三重陰性乳癌腫瘍組織に発現する。インテグリンα10に対する抗体を用いた免疫組織学的分析。インテグリンα10は三重陰性乳癌細胞(矢印)に特異的に高発現することを示している。
【
図3】インテグリンα10は未分化多形肉腫組織の細胞に発現する。インテグリンα10に対する抗体を用いた免疫組織学的分析。未分化多形肉腫組織ではインテグリンα10が未分化多形肉腫細胞(矢印)に特異的に高発現することを示している。
【
図4】インテグリンα10は侵攻性癌細胞株に発現する。T47D細胞およびBT549細胞(侵攻性乳癌、単層培養)ならびにPC-3細胞(侵攻性前立腺癌、球体培養)におけるインテグリンα10の免疫蛍光染色。T47D細胞(A)、BT549細胞(B)およびPC-3細胞(C)の共焦点イメージは、インテグリンα10が細胞膜上に染まることを示している。
【
図5】インテグリンα10は単層培養の侵攻性癌細胞株、特に球体培養の同株に発現する。A~D:単層乳癌細胞(AおよびB)および球体様構造の乳癌細胞(マンモスフェア)(CおよびD)におけるインテグリンα10発現の分析。(A)フローサイトメトリーの散布図で判定した場合には、低侵攻性癌細胞株184A1、HCC1428およびMDA-MB-231(インテグリンα10陽性細胞の数が少ないことが示される)と比較して、侵攻性乳癌細胞株BT549およびT47Dではインテグリンα10陽性細胞の数が多い。(B)独立した5回の実験(n=5)によって得られた、各細胞株におけるインテグリンα10陽性細胞の存在割合(%)に関する概要。(C)フローサイトメトリーの散布図は、マンモスフェアとして増殖させた三重陰性細胞株MDA-MB-231およびBT549の細胞では、単層培養に比較してインテグリンα10発現が高度に増強するが、184A1、HCC1428およびT47Dでは、単層培養条件と比較してインテグリンα10発現の増加が全く起こらないか、起こってもわずかであることを示している。(D)独立した5回の実験(n=5)によって得られた、各細胞株におけるインテグリンα10陽性細胞の存在割合(%)に関する概要。E~H:単層前立腺癌細胞(EおよびF)および球体様構造の前立腺癌細胞(プロスタスフェア)(GおよびH)におけるインテグリンα10発現の分析。最も高侵攻性の前立腺癌細胞株PC-3において、インテグリンα10の発現が最大であることが示された。PC-3細胞では球体培養条件によってインテグリンα10の発現が顕著に増加したが、低侵攻性細胞株22Rv1またはDU145ではそのような増加は起こらなかった。代表的なフローサイトメトリー散布図から、単層状(E)および球体状(G)に培養した各細胞株におけるインテグリンα10陽性細胞の割合が分かる。前立腺癌細胞全株について単層(F)および球体(H)培養の、異なる培養実験の平均として求めたインテグリンα10陽性細胞の存在割合(%)に関する概要。データを平均値±標準偏差で表す(n≧3)。I~J:単層(I)および球体様構造(J)の膵臓細胞におけるインテグリンα10発現に関する分析。最も高浸潤性の細胞株MiaPaCa-2細胞(グレードIII)では、球体培養条件によってインテグリンα10蛋白質の発現レベルが顕著に増加したが、低浸潤性細胞株BxPC-3およびAsPC-1(グレードII)ではそのような増加は起こらなかった。K~L:単層(K)および球体様構造(L)の肺癌細胞におけるインテグリンα10発現の分析。単層培養条件(L)と比較して、球体(K)として増殖させた侵攻性肺癌細胞株では、インテグリンα10蛋白質の発現が大幅に増加した。M:単層および球体様構造(M)の肉腫細胞におけるインテグリンα10発現の分析。未分化多形肉腫癌細胞では、球体培養条件によってインテグリンα10発現が顕著に増加した。
【
図6】インテグリンα10(ITGA10)は単層、および特に三次元(3D)培養(球体)の侵攻性癌細胞株に発現する(mRNA分析)。A~B:マンモスフェア培養した乳癌細胞におけるインテグリンα10の発現増加。特に癌細胞を球体として培養した場合に、最も高侵攻性の癌細胞株、例えば、三重陰性乳癌(BT549、MDA-MB-231)ではITGA10発現が最大であり、最も低侵攻性の癌細胞株T47Dでは発現が最低であった。C~D:プロスタスフェア培養した前立腺癌細胞におけるインテグリンα10の発現増加。特に癌細胞を球体として培養した場合に、最も高侵攻性の癌細胞株PC-3ではITGA10発現が最大であり、最も低侵攻性の癌細胞株22RV1では発現が最低であった。E~F:浸潤性膵癌細胞株グレードIIIにおけるインテグリンα10の発現増加。最も高浸潤性の細胞株MiaPaCa-2およびPANC-1(グレードIII)では、球体培養条件によってインテグリンα10のmRNAレベルが顕著に増加したが、低浸潤性細胞株BxPC-3およびAsPC-1(グレードII)ではそのような増加は起こらなかった。データを平均値±標準偏差で表す(n≧3)。
【
図7】異なる侵攻性癌の徴候を有する患者において、ITGA10の高発現は低い総生存率と関係する。異なる侵攻性癌を有する患者におけるITGA10遺伝子発現と総生存率曲線。生存率分析およびログランク検定を行うために、中央値カットオフにもとづいて、患者をITGA10高発現群(実線)と低発現群(点線)に分けた。P値は総生存率の差異のログランク検定に関するものである。記載の癌型全てについて、ITGA10高発現患者群ではITGA10低発現患者群に比較して生存率が低い。
【
図8】インテグリンα10モノクローナル抗体は侵攻性癌細胞のコラーゲンへの接着をブロックする。A~D:三重陰性乳癌細胞。BT549を単層(AおよびB)およびマンモスフェア(CおよびD)として培養した。細胞を抗インテグリンα10ブロッキング・モノクローナル抗体mAbα10(5μg/ml)またはアイソタイプ対照抗体IgG2a(5μg/ml)と共に30分間、前保温した。次に、I型コラーゲン(AおよびC)、IV型コラーゲン(BおよびD)または対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)でコーティングした培養皿に、抗体の存在下または非存在下で細胞を接着させた。データは3回繰り返した測定の平均であり、各データ点において誤差棒は標準偏差を表す。細胞接着は、非処理細胞(NT)の接着を100%として、相対的に表されている。E~F:侵攻性前立腺癌細胞。PC-3細胞は、機能阻害抗体である抗インテグリンα10モノクローナル抗体mAbα10(5μg/ml)と共に30分間、前保温した。対照は非処理細胞である。次に、細胞を接着アッセイに供し、抗体の存在下または非存在下で、I型コラーゲン(E)およびIV型コラーゲン(F)に接着させた。データは3回繰り返した測定の平均であり、誤差棒は標準偏差を表す。細胞接着は、非処理細胞(NT)の接着を100%として、相対的に表されている。
【
図9】インテグリンα10をモノクローナル抗体でブロッキングした後の遊走低下。A:乳癌細胞:乳癌細胞BT549を5μg/mlの抗インテグリンα10ブロッキング・モノクローナル抗体mAbα10(マウス)またはTh101(ヒト)、あるいは5μg/mlの対照抗体IgG2a(マウス)またはTh301(ヒト)と共に30分間、前保温した。次に、IV型コラーゲンでコーティングしたチャンバーから成るトランスウェルアッセイを用いて、細胞遊走をアッセイした。細胞遊走は、対照細胞の遊走(NT=非処理)を100%として、相対的に表されている。B:前立腺癌細胞:インテグリンα10のブロッキングによる前立腺癌細胞の遊走低下。この図は、トランスウェルアッセイにおける抗インテグリンα10抗体mAbα10のPC-3細胞遊走に対する効果を示している。I型コラーゲンでコーティングした24穴プレートのトランスウェルチャンバーにPC3細胞を播種し、抗インテグリンモノクローナル抗体mAbα10(5μg/ml)と共にインキュベートした。細胞遊走(アッセイは、24時間または48時間)は、アイソトープ対照抗体IgG2aと共にインキュベートした細胞の遊走を100%として、相対的に表されている。C:肺癌細胞:24穴プレートに取り付けたトランスウェルチャンバーに肺癌細胞を播種し、抗インテグリンモノクローナル抗体mAbα10と共にインキュベートした。細胞遊走は、アイソトープ対照抗体IgG2aと共にインキュベートした細胞の遊走を100%として、相対的に表されている。
【
図10】薬剤MMAEと複合体化したインテグリンα10抗体(抗α10-MMAE)は乳癌細胞の生存率を低下させる。漸増濃度のADC(抗α10-MMAE)または陰性対照(対照抗体-MMAE)と共にBT549細胞を4日間インキュベートした。細胞生存率はWST-1比色アッセイで判定した。細胞生存率(%)は、陰性対照である対照抗体-MMAEの場合を100%とし、この陰性対照と比較して算出した。結果は、抗α10-MMAEがBT549の細胞生存率を低下させることを示している。
【
図11】インテグリンα10抗体は球体状の乳癌細胞、前立腺癌細胞、膵癌細胞および肺癌細胞の細胞増殖を低下させる。(A)乳癌細胞(BT549)、(B)前立腺癌細胞(PC-3)および(CおよびD)膵癌細胞(MiaPaCa-2およびPANC-1)は、球体培養条件の細胞播種と同時に5μg/mlのインテグリンα10抗体mAbα10または対照抗体(IgG2a)で処理した。該抗体を14日間、2日毎にさらに添加した。次に、球体にBrdUを加えて24時間インキュベートし、増殖を判定するためにフローサイトメトリー分析を行った。データを平均蛍光強度であらわす。(E)同様に、乳癌細胞を抗インテグリンα10モノクローナル抗体mAbα10またはTh101、あるいは陰性対照抗体(Th301、IgG2a)と共にインキュベートした。BrdUの取り込みで判定した増殖は、抗体非存在下(NT=非処理)でインキュベートした細胞を100%として、相対的に表されている。(F)肺癌では、対照抗体(IgG2a)による処理と比較して、インテグリンα10抗体(mAbα10)処理が細胞増殖を阻害するが、これは細胞周期をG0/G1期で停止させることによる。肺癌細胞(A549)を球体として播種し、5μg/mlのインテグリンα10抗体(mAb 10)または対照抗体(IgG2a)で処理した。該抗体を14日間、2日毎にさらに添加した。細胞をBrdUおよび7-AADで染色し、細胞周期をフローサイトメトリーで分析した。データは細胞集団全体の割合(%)で表す。
【
図12】インテグリンα10抗体による処理は乳癌腫瘍の増殖を抑制する。陰性対照抗体(IgG2aおよびTh301)で処理したマウスと比較して、インテグリンα10抗体mAbα10またはTh101で処理したマウスでは、総フラックス読み取り値(腫瘍サイズに相当する)が減少した。(A)異なる実験群(アイソタイプ対照抗体IgG2a対mAbα10、および陰性対照抗体Th301対Th101)における9回の抗体処理(9X)後の総フラックス読み取り値(=腫瘍サイズ)に基づく腫瘍増殖の進行を示すボックスプロット。侵攻性乳癌BT549細胞をルシフェラーゼおよびGFP発現レンチウイルスに感染させた(BT549 Luc/GFP)。マウスの右脇腹に2x10
6個のBT549 Luc/GFP細胞を注入した。IVIS-CTスペクトラムを用いた生物発光イメージングにより腫瘍増殖を毎週、測定した。各マウスについての光子フラックス(光子数/s)およびそれらの平均を、腫瘍細胞注入後9週(9X)の期間にわたって示す。総光子フラックス(秒当たりの光子数)の平均±標準誤差をデータとして示す。(B)マウスの体重は、実験期間を通じて毎週記録した。処置実施前では、病的徴候も増殖速度の低下も認められなかった。
【
図13】モノクローナル抗体mAbα10およびTh101はインテグリンα10の異なるエピトープに結合する。抗体mAbα10およびTh101の結合競合アッセイは、インテグリンα10過剰発現C2C12細胞株であるC2C12α10(A)および三重陰性乳癌細胞株BT549(B)によって実施し、フローサイトメトリー分析を行った。細胞は表記の濃度(μg/ml)の抗体と共に30分間、インキュベートし、次に2次抗体と共にさらに30分間、インキュベートした。データを100,000細胞の平均蛍光強度(MFI)として表す。灰色のバー:抗体TH101(ヒト抗インテグリンα10)の結合強度を判定するロバ抗ヒトAlexa 488の蛍光強度;黒色のバー:抗体mAbα10(マウス抗インテグリンα10)の結合強度を判定するロバ抗マウスAlexa 647の蛍光強度。図の左部分:反応ウェルに添加する抗体Th101の濃度を増加(0~9μg/ml)させても(灰色のバー)、抗体mAbα10を表すシグナルは(3μg/mlの一定濃度で)変わらなかった(黒色のバー)。図の右部分:反応ウェルに添加する抗体mAbα10の濃度を増加(0~9μg/ml)させても(黒色のバー)、抗体Th101を表すシグナルは(3μg/mlの一定濃度で)変わらなかった(灰色のバー)。
【0028】
定義
本明細書中において、「インテグリンα10」または「インテグリンα10サブユニット」または「インテグリンα10ポリペプチド」は、ヘテロ二量体蛋白質インテグリンα10β1のα10サブユニットを意味する。この表記はα10サブユニットに結合してインテグリンα10β1ヘテロ二量体を形成するβ1サブユニットの存在を除外するものではない。「アルファ」と「α」、ならびに「アルファ10」と「α10」はそれぞれ同義語である。
【0029】
本明細書中において、「インテグリンα10」は、ヘテロ二量体蛋白質インテグリンα10β1のα10サブユニット、ならびにヘテロ二量体蛋白質インテグリンα10β1のα10サブユニットをコードする転写物ポリヌクレオチド、およびそれらの断片を指すことがある。
【0030】
本明細書中において、「抗インテグリンα10抗体」または「インテグリンα10抗体」または「抗インテグリンα10サブユニット抗体」とは、ヘテロ二量体蛋白質インテグリンα10β1の少なくともα10インテグリンを認識し、これに結合することのできる抗体を意味する。これら抗体はヘテロ二量体蛋白質インテグリンα10β1のエピトープを認識する抗体であってもよく、ここで該エピトープは、α10およびβ1インテグリン両方のポリペプチドのアミノ酸残基を含む。モノクローナル抗体に関して、「mAba10」および「mAbα10」は同義語である。
【0031】
本明細書中において、単数表現の「a」、「an」および「the」は、文脈において特に明示しない限り、複数形のものをも包含するものである。したがって、例えば、「一抗体」という表現はそのような抗体を複数含む。
【0032】
本明細書中において、「対象」はげっ歯類、ネコ、イヌ、ウマおよび霊長類などの哺乳動物を意味する。好ましくは、本発明の対象はヒトである。
【0033】
本明細書中において、「試料」は任意の対象および対象から得られる多様な試料の種類を含む。本開示の方法に有用な試料の例としては、対象、液体組織試料(血液など)、または固体組織試料(生検材料または組織培養またはそれに由来する細胞およびその子孫細胞など)が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。例えば、生体試料は対象から採取される組織試料より得られる細胞を含む。したがって、試料としては、臨床試料、培養細胞、細胞上清、細胞溶解物、および組織試料(例えば、乳房組織、肺組織、前立腺組織、膵臓組織、卵巣組織、骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋肉組織および結合組織由来の組織試料)が挙げられる。
【0034】
本明細書中において、「侵攻性癌型」とは増生速度が速く、および/または離れた部位および他の組織へ急速に移動する腫瘍を意味する。侵攻性癌型は、浸潤性腫瘍および/または転移しやすい腫瘍および/または高悪性度(高グレード)腫瘍および/または高増生性腫瘍であってもよい。侵攻性癌型は通常、生命予後が不良である。侵攻性癌型の例としては、三重陰性乳癌、炎症性乳癌、扁平上皮型肺癌、肺腺癌、小細胞肺癌、前立腺癌、膵癌、卵巣癌および肉腫が挙げられる。癌のタイプが異なれば、侵攻性の度合いも異なり得る。
【0035】
本明細書中において、「癌」は悪性および/または浸潤性増殖または異常な細胞増殖によって起こる腫瘍を意味する。本明細書中において、「癌」は腫瘍を形成する細胞の種類にもとづいて命名された腫瘍を意味する。癌または腫瘍は腫瘍細胞または癌細胞から成る。癌または腫瘍の一部は間質細胞、例えば、線維芽細胞などの結合組織細胞であり得る。固形腫瘍の例としては、肉腫および癌腫が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。用語「癌」としては、身体の特定の部位から発生する原発癌、最初に発生した部位から身体の他の部分へ広がる転移癌、寛解の後に元々の原発癌が再発したもの、および以前癌に罹患した病歴を有するヒトにおいて以前の癌とは異なる種類の、新規に発生する原発癌である二次原発癌が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0036】
本明細書中において、「検出」、「検出する」、「検出すること」は、対照を参照する、または対照を参照しない定性的および/または定量的検出(値を測定する)を含み、特定標的、具体的にはインテグリンα10サブユニットの標的の存在を、非存在を、または量を特定することをさらに意味する。
【0037】
本明細書中において、「阻害」は、本発明の抗体の存在が受容体へのリガンド結合および/またはリガンド結合によって生じ得る受容体シグナル無効化を、完全にもしくは部分的に阻害することを意味する。その例としては、細胞挙動および細胞プロセスに影響を与える下流のシグナル伝達が挙げられる。本明細書中において、「阻害」および「ブロッキング」は同義語として用いられる。
【0038】
本明細書中において、「ADCC活性」または「抗体依存性細胞毒性活性」は、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞、活性化マクロファージなどのエフェクター細胞の表面に存在するFc受容体に抗体のFc領域が結合することによってエフェクター細胞が活性化し、それによって標的細胞(例えば、腫瘍細胞)を傷害する活性を意味する。本発明の抗体の活性はADCC活性を含む。ADCC活性測定および抗腫瘍実験は、当該技術分野で公知のいずれのアッセイを用いて実施してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0039】
意外なことではあったが、本発明者らは、ITGA10遺伝子のコードするインテグリンα10ポリペプチド(Uniprot:O75578)が侵攻性腫瘍の生検から得られた組織、特に三重陰性乳癌、炎症性乳癌、扁平上皮型肺癌、肺腺癌、小細胞肺癌、前立腺癌、膵癌、卵巣癌および肉腫から得られた組織において過剰発現することを明らかにした。さらに、本発明者らは、ITGA10遺伝子のコードするインテグリンα10ポリペプチド(Uniprot:O75578)が上記の癌に由来する転移癌に過剰発現することを明らかにした。
【0040】
本所見にもとづいて、本発明者らは癌型を検出する、および/または診断する、および/または治療する、および/または予防する方法および手段を開発したが、ここで該癌型は乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫、または上記癌型の転移癌である該癌型のいずれかである。
【0041】
一つの実施態様においては、該癌型は侵攻性癌型である。
【0042】
インテグリンα10ポリペプチド
インテグリンは、αおよびβポリペプチドから成るヘテロ二量体である。インテグリンα10β1ヘテロ二量体は、抗インテグリンα10特異抗体ならびにインテグリンα10結合ペプチドおよび蛋白質によって検出され得る。
【0043】
本開示の一つの実施態様においては、該インテグリンα10ポリペプチドはインテグリンα10β1ヘテロ二量体の一部である。
【0044】
本開示の一つの実施態様においては、該インテグリンα10ポリペプチドは細胞表面に発現する。
【0045】
インテグリンα10β1は、1998年に軟骨細胞上のII型コラーゲン結合受容体として同定された(Camperら、1998)。発生中の組織および成体の組織の免疫組織学的分析によって、該マーカーの局在は軟骨含有組織に限定されることがわかっている(Camperら、1998;Camperら、2001)。該マーカーを欠失するノックアウトマウスでは、成長板が無秩序で、マトリックス中のコラーゲンは減少しており、また長管骨が短く、このことは該マーカーが細胞構造にとって重要であることをさらに支持する(Bengtssonら、2005)。そのアミノ酸配列、変異体、イソ型および配列アノテーションについては、Uniprotアクセッション番号O75578(ITA10_HUMAN)によって調べることができる。
【0046】
インテグリンα10β1は、軟骨組織に存在する最も豊富なコラーゲン結合性インテグリンであり、その発現パターンは他のコラーゲン結合性インテグリンの発現パターンと異なる。インビトロおよびインビボ研究により、インテグリンα10β1が、軟骨細胞分化に特有の表現型マーカーであり、また適切な軟骨分化に必要な細胞-マトリックス相互作用にとって重要なメディエータであることが分かっている(Lundgren AkerlundおよびAszodi、2014)。
【0047】
さらに、インテグリンα10β1は間葉系幹細胞(MSC)に存在し、培養間葉系幹細胞を線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)で処理するとインテグリンα10β1の発現が増加し、凝集培養においてインビトロ軟骨形成を改善する。したがって、インテグリンα10β1は間葉系幹細胞の細胞表面上バイオマーカーであって、軟骨形成能を有するバイオマーカーである(Varasら、2007)。
【0048】
全脳を含むマウス脳の複数の異なる構造物におけるインテグリンα10発現については以前に分析がなされており、健常な脳組織のいずれにおいてもインテグリンα10の発現は低いか全く発現しないことが分かっている(WO99/51639)。しかし最近になって、中枢神経系の悪性新生物から得られた組織、ならびに脳室下帯(SVZ)、脳の幹細胞ニッチにおいてインテグリンα10β1蛋白質が発現することが明らかにされた(WO2016/133449)。
【0049】
インテグリンα10の健常組織における分布が限局的であるため、インテグリンα10は疾病に関して優れたバイオマーカーとなる。したがって、本開示は抗原としてのインテグリンα10ポリペプチドの検出、例えば、配列番号1(インテグリンα10)、配列番号2(インテグリンα10の細胞外ドメイン)または配列番号3(インテグリンα10の細胞外Iドメイン)に対して特異的な抗体を利用した検出に関する。
【0050】
本開示の一つの実施態様においては、インテグリンα10はインテグリンα10ポリペプチドの天然の変異体、インテグリンα10ポリペプチドのイソ型またはインテグリンα10ポリペプチドのスプライス変異体である。
【0051】
一つの実施態様においては、インテグリンα10抗原の該変異体は、配列番号1、2または3に対して少なくとも70%同一であり、例えば、配列番号1、2または3に対して少なくとも75%同一である変異体であり、これは配列番号1、2または3に対して少なくとも80%同一である変異体などであり、例えば、配列番号1、2または3に対して少なくとも85%同一である変異体であり、これは配列番号1、2または3に対して少なくとも90%同一である変異体などであり、例えば、配列番号1、2または3に対して少なくとも95%同一である変異体であり、これは配列番号1、2または3に対して少なくとも96%同一である変異体などであり、例えば、配列番号1、2または3に対して少なくとも97%同一である変異体であり、例えば、配列番号1、2または3に対して少なくとも98%同一である変異体であり、例えば、配列番号1、2または3に対して少なくとも99%同一である変異体であり、これは配列番号1、2または3に対して少なくとも99.5%同一である変異体などである。
【0052】
一つの実施態様においては、インテグリンα10の断片は、配列番号1の連続する少なくとも100アミノ酸、好ましくは配列番号1の連続する少なくとも200アミノ酸、好ましくは配列番号1の連続する少なくとも300アミノ酸、好ましくは配列番号1の連続する少なくとも400アミノ酸、好ましくは配列番号1の連続する少なくとも500アミノ酸、好ましくは配列番号1の連続する少なくとも600アミノ酸、好ましくは配列番号1の連続する少なくとも700アミノ酸、好ましくは配列番号1の連続する少なくとも800アミノ酸、好ましくは配列番号1の連続する少なくとも900アミノ酸、好ましくは配列番号1の連続する少なくとも1000アミノ酸を含む。
【0053】
インテグリンα10はヌクレオチドレベルでも検出することが可能であるが、このような検出は、例えば、本明細書中の上記にあるように、翻訳によってインテグリンα10抗原を生成するmRNA転写物が存在するか否かについて試料を分析することによってなされる。
【0054】
医薬組成物およびその投与
一つの実施態様においては、本開示は医薬組成物などの組成物に関するものであり、該組成物は:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片、
または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチド、
を含み、
ここで該組成物は本明細書中に定義されるような癌型の診断および/または治療に用いられるものである。
【0055】
本開示の一つの実施態様においては、本明細書中に定義されるような侵攻性癌型の診断および/または治療に用いる該組成物は、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する薬学的有効量の抗体またはその断片を含む。
【0056】
本開示の一つの実施態様においては、本明細書中に定義されるような侵攻性癌型の診断および/または治療に用いる該組成物は、インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合する薬学的有効量のポリヌクレオチドを含む。
【0057】
本明細書中において、薬学的有効量は典型的には、抗インテグリンα10抗体の量またはインテグリンα10ポリペプチドをコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチドの量であって、該医薬組成物を受容した個体において所望の応答を誘導する量である。
【0058】
インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片、ならびにインテグリンα10ポリペプチドをコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチドおよびその断片ならびに変異体(改変体)については、本明細書中で詳細に説明される。
【0059】
本開示の一つの実施態様においては、本明細書中に定義されるような癌型の診断および/または治療に用いる該組成物は、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する薬学的有効量の抗体またはその断片を含むが、ここで該抗体またはその断片は付加的な部分と複合体を形成している。
【0060】
本開示の一つの実施態様においては、明細書中に定義されるような侵攻性癌型の診断および/または治療に用いる該組成物は、インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合する薬学的有効量のポリヌクレオチドを含むが、ここで該ポリヌクレオチドまたはその断片あるいはその変異体(改変体)は付加的な部分と複合体を形成している。
【0061】
例えば、該付加的な部分は検出可能部分であってもよい。インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体であって、検出可能部分と複合体を形成した抗体は、細胞上のインテグリンα10発現の検出に有用であり、該細胞が悪性細胞および/または腫瘍関連細胞であるか否かの判定に有用であり得る。例えば、該付加的な部分は細胞傷害性部分であってもよい。インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体であって、細胞傷害性部分と複合体を形成した抗体(インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体を含む抗体薬剤複合体(ADC)など)は、インテグリンα10を発現する細胞であって、それが悪性細胞および/または腫瘍関連細胞である細胞に、特定の細胞傷害性部分および/または薬剤を特異的に誘導するために有用であり得る。
【0062】
例えば、該付加的な部分は生物反応修飾物質を含んでもよい。生物反応修飾物質は、免疫応答を促進する、あるいは抑制することのいずれかによって免疫応答を修飾する物質である。生物反応修飾物質は、内因性(通常、身体内で自然に産生される部分など)であっても、外因性であってもよい。
【0063】
一つの実施態様においては、該付加的な部分は生物反応修飾物質(サイトカイン、リンホカイン、インターフェロン、またはそれらの組み合わせなど)を含んでもよい。
【0064】
検出可能部分
本開示の用途の組成物は、検出可能部分を含んでもよく、例えば、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片および/またはインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチドは検出可能部分に共有結合していてもよい。
【0065】
一つの実施態様においては、該検出可能部分は、蛍光色素分子、酵素または放射性トレーサーまたは放射性同位体から成る群から選択される。一つの実施態様においては、該検出可能部分は、陽電子放射体およびガンマ放出体から選択される放射性トレーサーである。一つの実施態様においては、該放射性同位体は、99mTc、111In、67Ga、68Ga、72As、89Zr、123Iおよび201Tlから成る群から選択される。
【0066】
一つの実施態様においては、該抗体は、86Y/90Yまたは124I/211Atなどの検出可能放射性核種および細胞傷害性放射性核種の対を含む。
【0067】
一つの実施態様においては、該放射性同位体は、検出可能部分として、および細胞傷害性部分としても複合的に同時作用が可能である。
【0068】
一つの実施態様においては、該検出可能部分は、157Gd、55Mn、162Dy、52Crおよび56Feから成る群から選択されるような常磁性同位体を含む、またはその常磁性同位体から成る。一つの実施態様においては、該検出可能部分は、SPECT、PET、MRI、光学的画像診断または超音波画像診断などのイメージング技術で検出することができる。
【0069】
一つの実施態様においては、該細胞傷害性部分および/または検出可能部分は、連結部分を介して間接的に抗体またはその抗原結合断片に連結される。
【0070】
細胞傷害性部分
本開示の用途の組成物は、細胞傷害性部分を含んでもよく、例えば、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片および/またはインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチドは細胞傷害性部分に共有結合していてもよい。
【0071】
一つの実施態様においては、該細胞傷害性部分は、毒素、化学療法剤および放射性物質、またはその組み合わせから成る群から選択される。
【0072】
一つの実施態様においては、該細胞傷害性部分は毒素である。例えば、一つの実施態様においては、該細胞傷害性部分は、微小管毒素類、DNA毒素類および転写毒素類から選択される群から選択される毒素である。
【0073】
一つの実施態様においては、該細胞傷害性部分は、アウリスタチンを基礎とする毒素類、メイタンシノイドを基礎とする毒素類、ツブリシン類を基礎とする毒素類およびエリブリンから成る群から選択される微小管毒素である。
【0074】
一つの実施態様においては、該細胞傷害性部分はDNAの副溝に結合する物質、DNAの副溝に結合するアルキル化薬、DNAアルキル化薬およびDNA開裂剤から成る群から選択されるDNA毒素である。例えば、一つの実施態様においては、該細胞傷害性部分は、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)、デュオカルマイシン、デュオカルマイシン類似体、インドリノ-ベンゾジアゼピン、カリケアマイシン類、イリノテカンおよびエキサテカン誘導体から成る群から選択されるDNA毒素である。
【0075】
一つの実施態様においては、該細胞傷害性部分は、リボソーム不活性化蛋白質(RNAポリメラーゼII阻害物質など)などの転写毒素である。
【0076】
一つの実施態様においては、該細胞傷害性部分はドキソルビシン、ドキソルビシン誘導体およびアマニチンから成る群から選択される転写毒素である。
【0077】
一つの実施態様においては、該細胞傷害性部分は、志賀毒素および志賀毒素様毒素;I型リボソーム不活性化蛋白質、II型リボソーム不活性化蛋白質およびサポリン、またはそれらの組み合わせから成る群から選択される転写毒素である。例えば、該I型リボソーム不活性化蛋白質はトリコサンチンおよび/またはルフィンであってもよい。例えば、該II型リボソーム不活性化蛋白質はリシン、凝集素および/またはアブリンであってもよい。
【0078】
一つの実施態様においては、該細胞傷害性部分は化学療法剤である。例えば、一つの実施態様においては、該化学療法剤はアルキル化薬、代謝拮抗物質、微小管阻害薬、トポイソメラーゼ阻害剤または細胞傷害性抗生物質であってもよい。例えば、一つの実施態様においては、該化学療法剤はアントラサイクリン類、タキサン類および白金薬剤から成る群から選択されてもよい。例えば、一つの実施態様においては、該化学療法剤は、シスプラチン、パクリタキセル、アルブミン結合パクリタキセル、ドセタキセル、シクロホスファミド、エリブリン、エピルビシン、ドキソルビシン、カルボプラチン、ゲムシタビン、ブレオマイシン、フルオロウラシル、シクロホスファミド、ビノレルビン、カペシタビン、イキサベピロンおよびイキサベピロン、またはそれらの組み合わせから成る群から選択されてもよい。
【0079】
製剤
本開示の用途の組成物は、非経口投与に好適な医薬組成物であってもよい。そのような組成物は好ましくは、湿潤剤または乳化試薬、抗酸化剤、pH緩衝剤、静菌化合物、および製剤を、個体の体液、好ましくは血液と等張にする溶質を含んでいてもよい水性および非水性滅菌注射溶液;および懸濁化剤または増粘剤を含んでいてもよい水性および非水性滅菌懸濁液を含む。該医薬組成物は単位用量または複数用量の容器(例えば、密封アンプルおよびバイアル)に入った形態でもよく、使用直前に唯一条件として、滅菌液性媒体の添加を必要とする凍結乾燥状態で保存することができる。
【0080】
一つの実施態様においては、本開示の用途の組成物は、少なくとも1種類の薬学的に許容可能な希釈剤、担体または賦形剤をさらに含む。
【0081】
好ましくは、本発明の組成物は、非滅菌または滅菌状態であり得る1種類または複数種類の好適な薬学的賦形剤を含み、ここで該薬学的賦形剤は細胞、組織または生体に用いる薬学的賦形剤(個体への投与に好適な薬学的賦形剤など)である。このような賦形剤としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、ブドウ糖、水、グリセロール、エタノールおよびこれらの賦形剤を様々な量で含む組み合わせを挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。該製剤は投与方法に適合させるべきである。
【0082】
好ましくは、本発明の医薬組成物は注射可能な形態、液体溶液または懸濁液のいずれかとして調製される;さらに、注射前の、溶液または懸濁液のための液体に好適である固形形態もまた本発明の範囲に含まれる。該調製物はまた、乳化されていても、あるいはリポソームに封入されていてもよい。
【0083】
該抗インテグリンα10ポリペプチド抗体または該インテグリンα10ポリペプチドをコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチドは、単独でまたは他の化合物と組み合わせて、同時にあるいは任意の順序で逐次的に投与してもよい。
【0084】
投与は例えば、注射または点滴による非経口投与でもよい。非経口投与は、例えば、脳室内、髄腔内、腫瘍内、静脈内、筋肉内、皮内または皮下注射でもよい。好ましくは、該投与は注射または点滴による非経口投与である。
【0085】
病態
本開示の一つの実施態様においては、治療する、および/または予防する、および/または検出する、および/または診断する、および/または分類する、および/または予後を判定する、および/または転移を予防する該癌型は、乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌、卵巣癌および肉腫から成る群から選択される。
【0086】
本開示の別の一つの実施態様においては、治療する、および/または予防する、および/または検出する、および/または診断する、および/または分類する、および/または予後を判定する、および/または転移を予防する該癌型は、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌、侵攻性膵癌、卵巣癌および侵攻性肉腫から成る群から選択される侵攻性癌型である。
【0087】
本明細書中において、「侵攻性癌型」とは増生速度が速く、および/または離れた部位および他の組織へ急速に移動する腫瘍を意味する。侵攻性癌型は、浸潤性腫瘍および/または転移しやすい腫瘍および/または高悪性度(高グレード)腫瘍および/または高増生性腫瘍であってもよい。侵攻性癌型は通常、生命予後が不良である。侵攻性癌型の例としては、三重陰性乳癌、炎症性乳癌、扁平上皮型肺癌、肺腺癌、小細胞肺癌、前立腺癌、膵癌、卵巣癌および肉腫が挙げられる。癌のタイプが異なれば、侵攻性の度合いも異なり得る。
【0088】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性乳癌が三重陰性乳癌および炎症性乳癌から成る群から選択される。
【0089】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型が三重陰性乳癌型であり、該三重陰性乳癌が基底細胞様1型乳癌、基底細胞様2型乳癌、クローディン低乳癌、化生性乳癌(MBC)、高インターフェロン型乳癌、免疫調節型乳癌、間葉型乳癌、間葉系幹細胞様乳癌、管腔アンドロゲン受容体型乳癌および不安定乳癌から成る群から選択される。
【0090】
侵攻性乳癌の特徴は当業者に公知である(例えば、Arpinoら、2015;Daiら、2016;およびMaら、2018を参照のこと)。
【0091】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性乳癌型は三重陰性乳癌型であり、浸潤性腺管癌の形態学的特徴を有する。
【0092】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性乳癌型は三重陰性乳癌型であり、基底細胞様三重陰性乳癌の形態学的特徴を有する。
【0093】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性乳癌型は基底細胞様乳癌型であり、浸潤性腺管癌の形態学的特徴を有する。
【0094】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は前立腺癌であり、該前立腺癌は小細胞(神経内分泌)癌(SCNC)である。
【0095】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は肺癌であり、該肺癌は扁平上皮型肺癌、肺腺癌、小細胞肺癌または大細胞肺癌である。
【0096】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は肺癌であり、該肺癌は扁平上皮型肺癌である。
【0097】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は膵癌であり、該侵攻性膵癌は神経内分泌腫瘍である。
【0098】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は膵癌であり、該侵攻性膵癌はグレードI、グレードIIまたはグレードIIIの膵癌である。
【0099】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性肉腫が未分化多形肉腫、粘液線維肉腫、脱分化脂肪肉腫、異型脂肪腫様腫瘍、粘液炎症性線維芽細胞肉腫、低悪性度(低グレード)線維粘液性肉腫、硬化性類上皮線維肉腫、偽筋原性血管内皮腫および間葉性軟骨肉腫から成る群から選択される。
【0100】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は転移癌であり、例えば、該侵攻性癌型は、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌、侵攻性膵癌、卵巣癌および侵攻性肉腫のいずれかの転移癌であってもよい。
【0101】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は転移癌であり、例えば、三重陰性乳癌および炎症性乳癌のいずれかの転移癌である。
【0102】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は転移癌であり、例えば、三重陰性乳癌の転移癌である(基底細胞様1型乳癌、基底細胞様2型乳癌、クローディン低乳癌、化生性乳癌(MBC)、高インターフェロン型乳癌、免疫調節型乳癌、間葉型乳癌、間葉系幹細胞様乳癌、管腔アンドロゲン受容体型乳癌および不安定乳癌から成る群から選択される三重陰性乳癌など)。
【0103】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は転移癌であり、例えば、侵攻性肺癌の転移癌である。本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は転移癌であり、例えば、扁平上皮型肺癌、肺腺癌、小細胞肺癌または大細胞肺癌の転移癌である。
【0104】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は転移癌であり、例えば、侵攻性膵癌の転移癌である。
【0105】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は転移癌であり、例えば、侵攻性前立腺癌の転移癌である。
【0106】
本開示の一つの実施態様においては、該侵攻性癌型は転移癌であり、例えば、侵攻性肉腫の転移癌である。
【0107】
侵攻性癌型の治療
一局面においては、本発明は組成物の用途に関するものであり、ここで該組成物は:
(a)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体;
または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチド
を含み、該組成物は侵攻性癌型治療のための薬剤の製造に用いられるものであり、ここで該侵攻性癌型は侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌、侵攻性膵癌および侵攻性肉腫から成る群から選択される、あるいは該侵攻性癌型は転移癌である。
【0108】
本開示の一局面は、侵攻性癌型を治療する方法に関するものであり、ここで該侵攻性癌型は侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌、侵攻性膵癌および侵攻性肉腫から成る群から選択される、またはここで該侵攻性癌型は転移癌であり、該方法は薬学的有効量の組成物をそれが必要な対象に投与することを含み、該組成物は:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片、
または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチド、
を含む。
【0109】
本開示の一局面は、少なくとも1個の癌細胞のインテグリンα10媒介性シグナル伝達を阻害する方法に関するものであり、該方法は該少なくとも1個の癌細胞を組成物に接触させることを含み、該組成物は有効量の:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的な抗体または抗原結合断片;
および/または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
を含み、
ここで該少なくとも1個の癌細胞は、侵攻性乳癌細胞、侵攻性肺癌細胞、侵攻性前立腺癌細胞、侵攻性膵癌細胞、侵攻性肉腫細胞および転移性腫瘍細胞から成る群から選択される。
【0110】
当業者であれば、細胞のシグナル伝達は細胞が外部刺激を検出して反応する分子機序を含むことを理解する。細胞のシグナル伝達は、シグナル伝達機序ならびに転写および翻訳の制御および機序をも含む。
【0111】
本開示の一局面は、少なくとも1個の癌細胞の細胞機能を阻害する方法に関するものであり、該方法は該少なくとも1個の癌細胞を組成物に接触させることを含み、該組成物は有効量の:
(a)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
を含み、
ここで該少なくとも1個の癌細胞は、侵攻性乳癌細胞、侵攻性肺癌細胞、侵攻性前立腺癌細胞、侵攻性膵癌細胞、侵攻性肉腫細胞および転移性腫瘍細胞から成る群から選択されるものである。
【0112】
一つの実施態様においては、本発明は、インテグリンα10発現細胞の増殖および/または増生を阻害する方法に関するものであり、該方法は組成物を投与することを含み、該組成物は有効量の:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片、
または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチド、
を含む。
【0113】
本開示の一つの実施態様においては、少なくとも1個の癌細胞を阻害することは:
(a)少なくとも1個の癌細胞の増生を阻害すること;
(b)少なくとも1個の癌細胞の自己複製を阻害すること;
(c)少なくとも1個の癌細胞の足場非依存性増殖を阻害すること;
(d)少なくとも1個の癌細胞の遊走を阻害すること;
(e)少なくとも1個の癌細胞の浸潤を阻害すること;
(f)少なくとも1個の癌細胞の接着を阻害すること;
および/または
それらの組み合わせ;
から成る群から選択される。
【0114】
別の一つの実施態様においては、(i)インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体または(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチドを用いて少なくとも1個の癌細胞を阻害することによって、該少なくとも1個の癌細胞の足場依存性増殖を阻害する。
【0115】
一つの実施態様においては、本開示は、少なくとも1個の癌細胞を阻害する方法に関するものであり、ここで該癌細胞は侵攻性および/または転移性腫瘍中に存在し、該阻害は:
(a)侵攻性および/または転移性腫瘍の増殖の阻害;
(b)侵攻性および/または転移性腫瘍の増生の阻害;
(c)侵攻性および/または転移性腫瘍の移動の阻害;
(d)侵攻性および/または転移性腫瘍の浸潤の阻害;
(e)新規の侵攻性および/または転移性腫瘍の発生の阻害;
(f)新規の侵攻性および/または転移性腫瘍の浸潤の阻害;
および
それらの組み合わせ;
のうちの少なくとも1つである。
【0116】
該細胞は、本明細書中において定義するようなマーカーをさらに1種類または複数種類、発現してもよい。一つの実施態様においては、該細胞は悪性細胞および/または腫瘍関連細胞である。別の一つの実施態様においては、該細胞は、癌関連線維芽細胞(CAF)、間質細胞、幹細胞および/または幹細胞様細胞である。該方法はインビトロまたはインビボで実施してもよい。
【0117】
本開示の一つの実施態様においては、該組成物は有効量の:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片、
または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチド、
を含む該組成物は、インテグリンα10発現細胞の細胞死を誘導する、および/または増殖を阻害する、および/または増生を阻害する、および/または遊走を阻害することができる。
【0118】
本開示の一つの実施態様においては、該対象の腫瘍の癌細胞にインテグリンα10ポリペプチドおよび/または転写物ポリヌクレオチドが検出された場合に該治療を開始する。
【0119】
本開示の一つの実施態様においては、癌の放射線療法および/または外科的除去と組み合わせて、侵攻性癌型の治療のための本開示の該組成物をそれが必要な個体に投与する。例えば、一つの実施態様においては、癌の放射線療法および/または外科的除去に先だって、侵攻性癌型の治療のための本開示の該組成物をそれが必要な個体に投与する。それとは別に、またはそれに加えて、一つの実施態様においては、癌の放射線療法および/または外科的除去後に、侵攻性癌型の治療のための本開示の該組成物をそれが必要な個体に投与する。
【0120】
本開示の一つの実施態様においては、該治療は予防的、改善的または治癒的である。
【0121】
本開示の一つの実施態様においては、本開示の該方法は細胞表面に発現するインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原を標的とする。
【0122】
当業者であれば、侵攻性癌に由来する転移を予防する可能性について理解するであろう。
【0123】
本開示の一局面は、乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫から成る群から選択される癌型である原発癌の転移を予防する方法に関するものであり、ここで該方法は治療有効量の:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的な抗体またはその抗原結合断片;および/または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
をそれが必要な患者に投与することを含む。
【0124】
当業者であれば、原発癌が検出された場合に原発癌の転移を予防する方法を実施可能であることを理解するであろう。
【0125】
侵攻性癌型の検出および診断
本開示の一局面は、インテグリンα10ポリペプチドに対して特異性を有する抗体またはその断片を含む、あるいはそれから成る物質であって、哺乳動物の侵攻性癌型に関連する細胞を検出するために用いる物質に関するものであり、ここで該細胞はインテグリンα10ポリペプチドを発現し、該侵攻性癌型は侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌、侵攻性膵癌および侵攻性肉腫、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される。
【0126】
本開示の一局面は、組成物に関するものであって、該組成物は:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片、
または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチド、
を含み、
乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌、および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される癌型の診断に用いるための組成物である。
【0127】
疾患の生物学的マーカー(例えば、本発明におけるようなインテグリンα10)を検出するプロセス、または疾患を診断するプロセス(例えば、本発明におけるようにインテグリンα10の発現を分析することによる)は、分析組織を健常組織、非悪性組織または非罹患組織と比較することを含み得ることは、当業者であれば理解するであろう。例えば、乳癌試料を同一組織試料の非罹患部または健常乳房組織の試料と比較することができる。肺癌試料を同一組織試料の非罹患部または健常肺組織の試料と比較することができる。前立腺癌試料を同一組織試料の非罹患部または健常前立腺組織の試料と比較することができる。膵癌試料を同一組織試料の非罹患部または健常膵臓組織の試料と比較することができる。肉腫試料を同一組織試料の非罹患部または健常結合組織の試料と比較することができる。
【0128】
癌診断のプロセスでは、癌細胞におけるインテグリンα10ポリペプチドまたはポリヌクレオチドのレベルを対照細胞と比較することが有用であり得ることを、当業者なら理解するであろう。
【0129】
一つの実施態様においては、同一種類の健常組織および/または良性組織に観察される(i)インテグリンα10抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドのレベルと同一であるか、またはより高いレベルを示す細胞を、該診断される癌が含む。
【0130】
別の一つの実施態様においては、同一組織種の癌のタイプではあるが、診断される癌のタイプと比較して低侵攻性の癌のタイプに観察される(i)インテグリンα10抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドのレベルと同一であるか、またはより高いレベルを示す細胞を、該診断される癌が含む。
【0131】
別の一つの実施態様においては、(i)インテグリンα10抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルが対照細胞株のレベルと同一であるか、またはより高いレベルを示す細胞を、該診断される癌が含む。
【0132】
これらの細胞株が初代細胞と比較して遺伝子型および表現型において安定性を有しているので、標準化診断方法においてはこれらを対照細胞株として用い得ることは、当業者であれば理解するであろう。対照細胞株は健常組織から、あるいは癌組織からも確立され得るが、ここで該癌は増殖傾向および転移傾向に応じて高侵攻性または低侵攻性の癌のタイプであり得る。確立した細胞株は、細胞培養で継代可能に不死化する必要がある。本明細書中において、非悪性細胞株とは、悪性の徴候を示さず、表現型において健常組織細胞に類似する確立細胞株であると理解される。
【0133】
対照細胞株は、例えば、表1に示される細胞株であり得る。
【0134】
【0135】
一つの実施態様においては、診断に用いる該対照細胞株は、健常組織に由来する(健常乳房組織に由来する対照細胞株、健常前立腺組織に由来する対照細胞株、健常肺組織に由来する対照細胞株、健常膵臓組織に由来する対照細胞株および健常結合組織に由来する対照細胞株から成る群から選択される対照細胞株など)。
【0136】
一つの実施態様においては、乳癌診断に用いる該対照細胞株は、健常組織に由来する(健常乳癌組織に由来する対照細胞株184A1など)。
【0137】
他の一つの実施態様においては、診断に用いる該対照細胞株は、同一組織種の癌のタイプではあるが、診断される癌のタイプに比較して低侵攻性の癌のタイプに由来する(低侵攻性乳癌に由来する対照細胞株、低侵攻性前立腺癌に由来する対照細胞株、低侵攻性肺癌に由来する対照細胞株、低侵攻性膵癌に由来する対照細胞株、および低侵攻性肉腫に由来する対照細胞株から成る群から選択される対照細胞株など)。
【0138】
一つの実施態様においては、侵攻性癌の診断に用いる該対照細胞株は、低侵攻性乳癌に由来する細胞株HCC1428、低侵攻性乳癌に由来する細胞株T47D、低侵攻性前立腺癌に由来する細胞株22Rv1、低侵攻性前立腺癌に由来する細胞株DU145、低侵攻性膵癌に由来する細胞株BxPC-3および低侵攻性膵癌に由来する細胞株AsPC-1から成る群から選択される。
【0139】
本開示の一局面は、対象において侵攻性癌細胞を検出する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)該組織において:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した該発現レベルを対照レベルと比較する工程;
を含み、
ここで該対照レベルは、単離した試料と同一組織種の健常および/または良性細胞に観察される平均レベルであり、
ここで対照レベルよりも高い(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルは、対象において侵攻性癌型が存在することの指標であり、ここで該侵攻性癌型は、侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌、侵攻性膵癌および侵攻性肉腫、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される。
【0140】
本開示の他の一局面は、対象において癌型を診断する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)該組織において:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが同一組織種の健常および/または良性組織に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程;
を含み、
ここで対照レベルよりも高い(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルは、試料中に癌型が存在することの指標であり、それによって対象における癌型を診断するが、ここで該癌型は乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される。
【0141】
本開示のさらに他の一局面は、対象において癌型を診断する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)試料中に:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
任意に(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程、
を含み、
ここで(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)インテグリンα10転写物ポリヌクレオチドの発現と組み合わせて、癌形態を有する1個または複数個の細胞が存在することは、試料中に癌型が存在することの指標であり、それによって対象における癌型を診断するが、ここで該癌型は乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される。
【0142】
本開示の一つの実施態様においては、工程(b)においてインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原が存在するか否かを分析することは、侵攻性癌細胞を含むことが疑われる組織を本開示の組成物と接触させることを含む。例えば、本開示の一つの実施態様においては、癌細胞を含むことが疑われる該組織を、インテグリンα10ポリペプチドに対して特異性を有する抗体を含む、またはそれから成る組成物に接触させてもよい。
【0143】
試料中にインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片;および/またはインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドを含む抗原が存在するか否かを分析すること、および対照レベルよりも高いインテグリンα10発現レベルであるか否かを判定することに加えて、対象における侵攻性癌型を診断する該方法および/または対象において侵攻性癌細胞を検出する該方法は侵攻性癌型に属する癌細胞を含む試料を形態学的に特徴付ける工程をさらに含んでいてもよく、ここで該侵攻性癌型は侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌、侵攻性膵癌および侵攻性肉腫、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される。
【0144】
癌組織、または癌性であることが疑われる組織の形態学的特徴付けは、当業者に公知であり、現在、癌細胞を検出するため、および癌が存在するか否かを診断するために利用されている。しかし、形態学的特徴付けは、それ単独では癌細胞を同一組織種の健常および/または良性細胞と区別することにおいてのみ有用ではあり得るが、癌細胞が侵攻性癌型に属するか否かを判定するため(対象において侵攻性癌型が存在するか否かを診断するためなど)には充分とはいえない。
【0145】
したがって、一局面において、本開示は対象において侵攻性癌細胞を検出する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)該組織において:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
(d)任意に(i)インテグリンα10抗原の発現レベルおよび/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程、
を含み、
ここで(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)インテグリンα10転写物ポリヌクレオチドの発現と組み合わせて、癌形態を有する1個または複数個の細胞が存在することは、対象において侵攻性癌型が存在することの指標であり、ここで該侵攻性癌型が侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌、侵攻性膵癌および侵攻性肉腫、または侵攻性癌型のいずれかの該転移癌から成る群から選択される。
【0146】
一つの実施態様においては、本開示は対象において乳癌細胞の存在を検出する、または対象の乳癌を診断する方法に関するものであり、ここで該乳癌は三重陰性乳癌および炎症性乳癌から成る群から選択される侵攻性乳癌型であり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる乳房組織を提供する工程;
(b)該組織において:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程、
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが健常および/または良性乳房組織に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程;
を含み、
ここで対照レベルよりも高い(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルは、乳癌が存在することの指標であり、それにより対象において乳癌細胞の存在を検出するおよび/または乳癌を診断する。
【0147】
一つの実施態様においては、本開示は、対象において肺癌の存在を検出する、または対象において肺癌を診断する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる肺組織を提供する工程;
(b)該組織において:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが健常および/または良性肺組織に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程、
を含み、
ここで対照レベルよりも高い(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルは、肺癌が存在することの指標であり、それにより対象において扁平上皮肺癌を検出する、および/または診断する。
【0148】
一つの実施態様においては、本開示は、対象において扁平上皮肺細胞癌の存在を検出する、または対象の扁平上皮肺細胞癌を診断する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる肺組織を提供する工程;
(b)該組織において:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが健常および/または良性肺組織に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程、
を含み、
ここで対照レベルよりも高い(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルは、扁平上皮肺細胞癌が存在することの指標であり、それにより対象において扁平上皮肺細胞癌を検出する、および/または診断する。
【0149】
一つの実施態様においては、本開示は、対象において肺腺癌の存在を検出する、または対象において肺腺癌を診断する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる肺組織を提供する工程;
(b)該組織において:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが健常および/または良性肺組織に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程、
を含み、
ここで対照レベルよりも高い(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルは、肺腺癌が存在することの指標であり、それにより対象において肺腺癌を検出する、および/または診断する。
【0150】
一つの実施態様においては、本開示は、対象において前立腺癌細胞の存在を検出する、または対象の前立腺癌を診断する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる前立腺組織を提供する工程;
(b)試料中に:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド;
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが健常および/または良性前立腺組織に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程、
を含み、
ここで対照レベルよりも高い(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルは、前立腺癌が存在することの指標であり、それにより対象において前立腺癌を検出する、および/または診断する。
【0151】
一つの実施態様においては、本開示は、対象において膵癌細胞の存在を検出する、または対象の膵癌を診断する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌を含むことが疑われる膵臓組織を提供する工程;
(b)試料中に:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド;
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが健常および/または良性膵臓組織に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程;
を含み、
ここで対照レベルよりも高い(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルは、膵癌が存在することの指標であり、それにより対象において膵癌を検出する、および/または診断する。
【0152】
一つの実施態様においては、本開示は、対象において肉腫細胞の存在を検出する、または対象の肉腫を診断する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象において癌を含むことが疑われる結合組織を提供する工程;
(b)試料中に:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド;
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが健常および/または良性結合組織に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程、
を含み、
ここで対照レベルよりも高い(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルは、肉腫が存在することの指標であり、それにより対象において肉腫を検出する、および/または診断する。
【0153】
本発明者らは、インテグリンα10の発現レベルが侵攻性乳癌の亜型間(三重陰性乳癌の亜型間など)の識別に有用であることを明らかにしている。
【0154】
したがって、本開示の一局面は、対象の三重陰性乳癌腫瘍試料を分類する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象の乳房組織試料を提供する工程;
(b)ER陰性、PR陰性かつHER2陰性であると特徴づけられる乳癌細胞を単離する工程;
(c)単離した細胞における:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
の発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが健常および/または良性乳房組織に観察されるインテグリンα10ポリペプチドを含む抗原の発現レベルの平均値である、工程、
を含み、
ここで対照レベルより高い乳癌細胞における(i)抗原発現レベルおよび/または(ii)転写物ポリヌクレオチド発現レベル、およびER陰性、PR陰性およびHER2陰性である発現状態は、基底細胞様三重陰性乳癌または管腔型三重陰性乳癌の指標であり、それにより三重陰性乳癌腫瘍試料を基底細胞様三重陰性乳癌腫瘍または管腔型三重陰性乳癌腫瘍に属するものとして分類する。
【0155】
別の一つの実施態様においては、該管腔型三重陰性乳癌は管腔アンドロゲン受容体型三重陰性乳癌である。
【0156】
一つの実施態様においては、三重陰性乳癌腫瘍試料を分類する本開示の方法は、該試料におけるクローディンの発現レベルを分析することをさらに含み、ここで対照レベルよりも高い、乳癌細胞における(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベル、およびER陰性、PR陰性、HER2陰性の発現状態、ならびにクローディンのレベルが低いことは、基底細胞様三重陰性乳癌の指標であり、それにより三重陰性乳癌腫瘍試料を基底細胞様三重陰性乳癌腫瘍に属するものとして分類する。
【0157】
クローディン低乳房腫瘍は、三重陰性乳房腫瘍の亜型の一つである。この腫瘍では、クローディン3、クローディン4、およびクローディン7を含むクローディン遺伝子の多くが低発現である。クローディン低腫瘍のその他の重要な特徴としては、ほぼ常に強度の免疫細胞浸潤を受けていること、および幹細胞の特徴および上皮間葉転換(EMT)の特徴を有することが挙げられる。
【0158】
一つの実施態様においては、
(i)該インテグリンα10抗原の発現レベル、
および/または
(ii)該転写物ポリヌクレオチドの発現レベル
が対照レベルよりも高い場合に、
三重陰性乳癌腫瘍試料を分類する本開示の該方法は、三重陰性乳癌腫瘍試料を基底細胞様2型三重陰性乳癌腫瘍に属するものとして分類することをさらに含む。
【0159】
一つの実施態様においては、三重陰性乳癌腫瘍試料を分類する本開示の方法は、サイトケラチン7、サイトケラチン8、サイトケラチン18およびサイトケラチン19から成る群から選択される1種類または複数種類のポリペプチドの発現の有無を判定することをさらに含み、ここでインテグリンα10の発現およびサイトケラチン7、サイトケラチン8、サイトケラチン18およびサイトケラチン19から成る群から選択される1種類または複数種類のポリペプチドの発現は管腔型三重陰性乳癌の指標である。
【0160】
一つの実施態様においては、三重陰性乳癌腫瘍試料を分類する本開示の方法は、サイトケラチン5/6、サイトケラチン14、サイトケラチン17、p63、EGFRおよびc-kit/CD117から成る群から選択される1種類または複数種類のポリペプチドの発現の有無を判定することをさらに含み、ここでインテグリンα10の発現およびサイトケラチン5/6、サイトケラチン14、サイトケラチン17、p63、EGFR、34BE12およびc-kit/CD117から成る群から選択される1種類または複数種類のポリペプチドの発現は基底細胞様三重陰性乳癌の指標である。
【0161】
意外なことではあったが、本発明者らは、本明細書中に定義するような侵攻性癌型に属する細胞におけるインテグリンα10の高発現レベルは、不良な予後に直接相関し、またその指標であることを発見した。
【0162】
したがって、本開示の一局面は、対象において侵攻性癌型の予後を判定する方法に関するものであり、ここで該侵攻性癌型が侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌、侵攻性膵癌および侵攻性肉腫、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択され、該方法は:
(a)対象の癌腫瘍組織を提供する工程;
(b)試料中に:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド;
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)インテグリンα10抗原の発現レベルおよび/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが試料と同一組織種の健常および/または良性組織に観察される(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)インテグリンα10転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程;
(e)(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルが対照レベルよりも高い場合に、該侵攻性癌型が予後不良であることを判定する工程、
を含む。
【0163】
本開示の他の一局面は、対象において侵攻性癌型の予後を判定する方法に関するものであり、該方法は:
(a)対象の癌腫瘍組織を提供する工程;
(b)癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)試料中に
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
(d)任意に(i)インテグリンα10抗原の発現レベルおよび/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
(e)(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)インテグリンα10転写物ポリヌクレオチドが発現し、かつ癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在する場合に、該侵攻性癌型が予後不良であることを判定する工程、
を含むが、
ここで該侵攻性癌型が侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌、侵攻性膵癌および侵攻性肉腫、または該侵攻性癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される。
【0164】
対象において侵攻性癌型の予後を判定する該方法は、本明細書中に記載の侵攻性癌型のいずれにも用いることができる(例えば、「病態」の節を参照のこと)。
【0165】
一つの実施態様においては、本開示は対象において侵攻性癌型の予後を判定する方法に関するものであるが、ここで該予後は総生存率または無再発生存率である。
【0166】
本開示の一つの実施態様においては、本開示の該方法は細胞表面に発現するインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原を標的とする。
【0167】
本開示の該方法はインビボで実施してもよく、またはインビトロで実施してもよい。
【0168】
一つの実施態様においては、本明細書中に開示されるような、対象において侵攻性癌細胞を検出する方法はインビボで実施される。一つの実施態様においては、本明細書中に開示されるような、対象において侵攻性癌型を診断する方法はインビトロで実施され、該組織は対象から取得した組織試料である。
【0169】
一つの実施態様においては、本明細書中に開示されるような、対象における侵攻性癌型を診断する方法はインビボで実施される。一つの実施態様においては、本明細書中に開示されるような、対象における侵攻性癌型を診断する方法はインビトロで実施され、該組織は対象から取得した組織試料である。
【0170】
一つの実施態様においては、本明細書中に開示されるような、対象における侵攻性癌の予後を判定する方法はインビボで実施される。一つの実施態様においては、本明細書中に開示されるような、対象における侵攻性癌の予後を判定する方法はインビトロで実施され、該組織は対象から取得した組織試料である。
【0171】
本開示の一つの実施態様においては、試料中に:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する該工程は、組織および/または組織試料のイメージングを含む。
【0172】
本開示の一つの実施態様においては、(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程は、組織および/または組織試料のイメージングを含む。
【0173】
イメージングは、例えば、インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原に結合可能な標識部分を対象および/または組織試料に投与することによって実施してもよい。例えば、イメージングは本明細書中に定義されるような標識抗インテグリンα10抗体を対象および/または組織試料に投与することによって実施してもよい。
【0174】
インテグリンα10ポリペプチドに対する抗体
一つの実施態様においては、侵攻性癌型の診断および/または治療および/または予防に用いる本開示の組成物は抗インテグリンα10特異抗体を含み、ここで該抗体は免疫反応においてインテグリンα10ポリペプチドに結合する。好ましくは、該抗体はインテグリンα10ポリペプチドの細胞外ドメインに結合するが、特定の実施態様においては、該抗インテグリンα10抗体は、ヘテロ二量体のインテグリンα10β1複合体そのものに対して重複性の特異性を有する。このことは、例えば、本発明の抗体はα10ポリペプチドおよびβ1ポリペプチドの両方にわたるエピトープに結合することを意味し得る。
【0175】
該抗体およびその機能的同等物は、当業者に公知の好適な方法によって作成することができる。
【0176】
一つの実施態様においては、本発明の抗体はハイブリドーマ細胞株(例えば、アクセッション番号DSM ACC2583として、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されているハイブリドーマ細胞株mAb 365)によって産生されるので、これにより細胞外インテグリンα10ドメインに結合する抗体を作成する。該ハイブリドーマの作成には、インテグリンα10β1の遺伝子ノックアウトマウスを用いてもよい。該ノックアウトマウスについては、WO03/101497に説明されており、参照として本明細書に組み入れられる。
【0177】
一つの実施態様においては、本発明の抗体は:
(a)アクセッション番号DSM ACC2583として、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されているハイブリドーマ細胞株が産生するモノクローナル抗体;
または
(b)アクセッション番号DSM ACC2583として、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されているハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体が結合するエピトープと同一のエピトープに対する結合に関して競合する抗体;
または
(c)インテグリンα10ポリペプチド鎖の細胞外Iドメインに特異的に結合可能な(a)もしくは(b)の断片
である。
【0178】
別の一つの実施態様においては、本発明の抗インテグリンα10抗体は抗体パニング法によって同定されている。
【0179】
配列番号4~11のアミノ酸配列で識別される本発明の抗体は、本明細書中でTh101と表記される。抗体Th101の6つのCDR(相補性決定領域)(配列番号4~9)、重鎖可変領域(配列番号10)および軽鎖可変領域(配列番号11)を本明細書中に開示する。実施例で用いられるような、抗体Th101の同定および作成については、WO08/075038に記載されており、参照として本明細書に組み入れられる。
【0180】
一つの実施態様においては、本発明の該抗インテグリンα10抗体は:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-H1;
(b)配列番号5のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-H2;および
(c)配列番号6のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-H3、
を含む重鎖可変領域;
および/または
(d)配列番号7のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-L1;
(e)配列番号8のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-L2;および
(f)配列番号9のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-L3、
を含む軽鎖可変領域;
あるいは
配列番号4~9のいずれか1つの変異体(改変体)、
を含み、
ここで該変異体は、いずれか1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されており、ただしそのような変更がたかだか3アミノ酸未満であることが前提であり、例えば、ここで2アミノ酸または1アミノ酸が置換されている。
【0181】
別の一つの実施態様においては、本発明の抗インテグリンα10抗体は、配列番号10のアミノ酸配列を含む、またはから成る重鎖可変領域を含む。
【0182】
別の一つの実施態様においては、本発明の抗インテグリンα10抗体は、配列番号11のアミノ酸配列を含む、またはから成る軽鎖可変領域を含む。
【0183】
該インテグリンα10抗体は、該哺乳動物に2回以上(2回など、例えば、3回、3回~5回など、例えば、5回~10回、10回~20回など、例えば、20回~50回、50回を超える回数など)投与してもよい。同一の哺乳動物に異なる複数のインテグリンα10抗原を同時に、あるいは任意の順序で逐次的に投与することも可能である。
【0184】
通常、インテグリンα10抗体は投与前に水性溶液または懸濁液にする。さらに、該インテグリンα10抗原は、1種類または複数種類の他の化合物と混合してもよい。例えば、該インテグリンα10抗原は、1種類または複数種類の好適なアジュバントおよび/または1種類または複数種類の担体と混合してもよい。
【0185】
アジュバントは、投与抗原との混合物が該抗原に対する免疫応答を増強するまたは修飾する物質である。好適なアジュバントは当業者に周知である。
【0186】
担体は骨格構造である(例えば、抗原が結合することのできるポリペプチドまたは多糖)。担体はアジュバントとは独立に存在してもよい。好適な担体は当業者に周知である。
【0187】
モノクローナル抗体、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の混合物を調製する方法は、当該技術分野で公知であり、例えば、抗体:実験室マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual、By Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory Press、1988)に記載されている。
【0188】
一つの実施態様においては、本発明の該抗インテグリンα10抗体は、インテグリンα10ポリペプチドの生物学的活性および機能的活性を阻害可能な抗体である。
【0189】
他の一つの実施態様においては、該抗インテグリンα10抗体を抗体薬剤複合体(ADC)の一部として投与する。抗体薬剤複合体では、該抗体は部分(例えば、疾患を修飾する薬剤または毒素)に連結されている。インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合すると、該ADCは細胞内部に移行して、細胞内に該部分が送達される。
【0190】
一つの実施態様においては、侵攻性癌型の診断および/または治療に用いる本開示の組成物に含まれる該抗体は、IgA、IgD、IgG、IgEおよびIgMから成る群から選択されるアイソタイプである。さらなる実施態様においては、該抗体は、IgG1、IgG2(例えば、IgG2a)、IgG3およびIgG4から成る群から選択されるIgGアイソタイプなどのIgGアイソタイプである。
【0191】
一つの実施態様においては、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する本開示の該抗体は一本鎖抗体である。
【0192】
本開示は、インテグリンα10ポリペプチドに結合可能なモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体の両方を意図し、さらにその断片、抗原結合断片ならびにその組換え蛋白質をも意図する。
【0193】
一つの実施態様においては、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する本開示の該抗体であって、診断および/または治療に用いる抗体は、ポリクローナル抗体である。
【0194】
一つの実施態様においては、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する本開示の該抗体は、ヒト化抗体またはヒト抗体である。
【0195】
一つの実施態様においては、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する本開示の該抗体は、マウス抗体である。
【0196】
一つの実施態様においては、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する本開示の該抗体は、モノクローナル抗体である。
【0197】
一つの実施態様においては、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する本開示の該抗体は、ポリクローナル抗体である。
【0198】
一つの実施態様においては、侵攻性癌型の診断および/または治療に用いる本開示の組成物に含まれる該抗体は、抗体断片である。抗体の抗原結合断片は、抗原に特異的に結合する能力を保持している抗体断片である。本発明の抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片およびFv断片(一本鎖可変断片(scFv)など)および単一ドメイン抗体から成る群から選択される抗体断片が挙げられる。
【0199】
侵攻性癌型の診断および/または治療に用いる本開示の組成物に含まれる該抗体は、キメラ抗体(すなわち、異なる種に由来する領域を含む抗体)であってもよい。該キメラ抗体は、例えば、ある動物種に由来する可変領域とそれとは別の動物種に由来する定常領域を含んでいてもよい。例えば、キメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体に由来する可変領域とヒトの定常領域を有する抗体であってもよい。このような抗体はヒト化抗体とよばれることもある。例えば、キメラヒト化抗体は完全ヒト型であってもよい。
【0200】
一つの実施態様においては、侵攻性癌型の診断および/または治療に用いる本開示の組成物に含まれる該抗体は、ヘテロ特異抗体(蛋白質またはポリペプチドであり、異なる特異性を有する2カ所の異なる抗原結合部位を含む二重特異性抗体など)である。例えば、該二重特異性抗体は、インテグリンα10上の(a)ある一つのエピトープおよびインテグリンα10上の(b)別の一つのエピトープを認識して結合するものでもよい。したがって、該抗体は、同一抗原内の2つの異なるエピトープを認識して結合し得る。用語「ヘテロ特異抗体」は、異なる特異性を有する3つ以上の抗原結合部位をもつ蛋白質またはポリペプチドを含むものであることが意図される。したがって、本発明は、インテグリンα10ポリペプチドに対する二重特異抗体、三重特異抗体、四重特異抗体、およびその他の多重特異抗体を含むが、これらのみに限定されるものではない。
【0201】
いくつかの実施態様においては、インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する本開示の該抗体またはその断片は、付加的な部分などの部分と複合体化してもよい。該複合体化によって、侵攻性癌型の治療および診断の両方が改善および向上し得る。
【0202】
一つの実施態様においては、該抗体は検出可能部分(蛍光色素分子、酵素、放射性トレーサーまたは放射性同位体から成る群から選択される検出可能部分など)に共有結合している。インテグリンα10ポリペプチド以外の他のペプチド、蛋白質またはポリペプチドを検出することによって、インテグリンα10抗原を検出してもよいが、ここで該他のペプチド、蛋白質またはポリペプチドはインテグリンα10抗原に特異的に結合可能なものである。一つの実施態様においては、該ペプチド、蛋白質またはポリペプチドは、酵素、蛍光色素分子または放射性トレーサーに連結されている。放射性トレーサーは、例えば、陽電子放射体またはガンマ放射体から選択されてもよい。抗体の検出可能部分との複合体化は、該抗体の検出を向上あるいは改善し、それによって試料中のインテグリンα10発現細胞の検出を促進することができ、またそれによって侵攻性癌型の診断も向上し得る。
【0203】
当業者であれば、試料の状況および物理的な状態に応じて、抗インテグリンα10抗体を検出するための標準的な実験設備を選択することができる。
【0204】
一つの実施態様においては、当業者であれば蛍光活性化セルソーティング(FACS)などのフローサイトメトリーを用いて検出工程を実施するであろう。
【0205】
当該技術分野で周知の通常の免疫学的方法としては、ウエスタンブロット法、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫測定(RIA)、免疫組織化学(IHC)、免疫蛍光アッセイ(IF)、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0206】
インテグリンα10の検出は、当該技術分野で周知の検出法および臨床イメージングなどのイメージング法(通常の蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡、二光子顕微鏡、誘導放出抑制顕微鏡(STED)など)を用いて実施できる。
【0207】
一つの実施態様においては、該抗インテグリンα10抗体は、インテグリンα10発現細胞の遊走および/または増殖を阻害および/またはブロックすることの可能な抗体などの機能阻害抗体である。
【0208】
インテグリンα10検出のための分子プローブ
インテグリンα10抗原またはインテグリンα10をコードするポリヌクレオチドの存在に関する生体試料の分析は、生体試料中の発現を検出するためのインテグリンα10 mRNA、cDNAまたは蛋白質に結合可能またはハイブリダイズ可能な分子プローブ(蛋白質またはポリヌクレオチド)を利用することによって、あるいはPCR、好ましくはQ-PCRを用いることによって、実施することもできる。
【0209】
一つの実施態様においては、該インテグリンα10特異的ポリヌクレオチドプローブは検出可能部分に連結されるが、該検出可能部分は任意に光子放出可能である。本実施態様を用いる場合には、該検出可能部分(例えば、蛍光色素分子)を励起することが可能な光源を用いて、診断するまたは調べる対象に光照射してもよい。光子を検出する方法としては、PETスキャンおよびSPECTスキャンが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0210】
特定の実施態様においては、該検出可能部分は、蛍光色素分子、酵素または放射性トレーサーから成る群から選択される。
【0211】
転写物ポリヌクレオチドは、PCR、好ましくはQ-PCRを用いて検出してもよい。
【0212】
さらなる実施態様においては、生体試料中にインテグリンα10が存在するか否かを、ハイブリダイゼーション反応によってインテグリンα10RNAまたはcDNAに結合するインテグリンα10核酸プローブを用いて検出する。
【0213】
インテグリンα10を特異的標的とする核酸構成成分の例としては、DNAプローブ、アンチセンスRNAまたはRNAi(マイクロRNA、低分子干渉RNA(siRNA)および低分子ヘアピン型RNA(shRNA)など)が挙げられる。
【0214】
当該技術分野で周知の典型的な核酸検出法としては、ノーザンブロット法、サザンブロット法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、マイクロアレイ、in situハイブリダイゼーションなどが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0215】
さらなる実施態様においては、生体試料中にインテグリンα10が存在するか否かを、インテグリンα10結合ペプチドまたは蛋白質を用いて検出する。このようなペプチドまたは蛋白質は、組換え体として作成することができ、化学合成することもでき、または天然源から精製することもできる。
【0216】
さらなる実施態様においては、生体試料中のインテグリンα10の存在は、インテグリンα10特異抗体、あるいはインテグリンα10結合ペプチドまたは蛋白質、あるいはハイブリダイゼーション反応においてインテグリンα10RNAまたはcDNAに結合するインテグリンα10核酸プローブを用いることによってインビボで検出される。
【0217】
細胞表面抗原およびポリヌクレオチドの典型的なインビボ検出法については、当該技術分野で周知であり、陽電子放出断層撮影法、X線コンピュータ断層映像法(CT)、核磁気共鳴画像法(MRI)および磁気共鳴機能画像法(fMRI)、超音波検査法および単一光子放出型コンピュータ断層撮影法(SPECT)が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。特に、細胞表面抗原は、抗体またはその他の特異的に結合する蛋白質に連結させた放射性トレーサーによる免疫標識を用いてインビボでイメージ化することができる。
【0218】
好ましくは、インビボイメージングに用いる抗体は、抗体断片(Fab断片など)、および一本鎖抗体であり、その理由はこれらのサイズが小型であることとエフェクター機能を欠いていることである。
【0219】
項目
項目1:組成物であって、
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片;
または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチド、
を含み、
乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される癌型の治療および/または予防に用いる組成物。
【0220】
項目2:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該乳癌が三重陰性乳癌および炎症性乳癌から成る群から選択される、組成物。
【0221】
項目3:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該三重陰性乳癌が基底細胞様1型乳癌、基底細胞様2型乳癌、クローディン低乳癌、化生性乳癌(MBC)、高インターフェロン型乳癌、免疫調節型乳癌、間葉型乳癌、間葉系幹細胞様乳癌、管腔アンドロゲン受容体型乳癌および不安定乳癌から成る群から選択される、組成物。
【0222】
項目4:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該肺癌が扁平上皮型肺癌、肺腺癌、大細胞肺癌および小細胞肺癌から成る群から選択される、組成物。
【0223】
項目5:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該前立腺癌が小細胞神経内分泌癌(SCNC)である、組成物。
【0224】
項目6:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該膵癌が神経内分泌腫瘍である、組成物。
【0225】
項目7:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該膵癌および/または神経内分泌腫瘍がグレードI、グレードIIまたはグレードIIIの膵癌である、組成物。
【0226】
項目8:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該肉腫が未分化多形肉腫、粘液線維肉腫、脱分化脂肪肉腫、異型脂肪腫様腫瘍、粘液炎症性線維芽細胞肉腫、低悪性度線維粘液性肉腫、硬化性類上皮線維肉腫、偽筋原性血管内皮腫および間葉性軟骨肉腫から成る群から選択される、組成物。
【0227】
項目9:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該インテグリンα10ポリペプチドが悪性細胞および/または腫瘍関連細胞の表面に発現する、組成物。
【0228】
項目10:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該抗体がモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体またはそれらの断片である、組成物。
【0229】
項目11:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該抗体が非ヒト抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である、組成物。
【0230】
項目12:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該抗体がマウスモノクローナル抗体である、組成物。
【0231】
項目13:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該抗体がヒトモノクローナル抗体である、組成物。
【0232】
項目14:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該抗体がIgA、IgD、IgG、IgEおよびIgMから成る群から選択されるアイソタイプである、組成物。
【0233】
項目15:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該抗体が:
(a)アクセッション番号DSM ACC2583として、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されているハイブリドーマ細胞株が産生するモノクローナル抗体;
または
(b)アクセッション番号DSM ACC2583として、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されているハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体が結合するエピトープと同一のエピトープに対する結合に関して競合する抗体;
または
(c)インテグリンα10ポリペプチド鎖の細胞外Iドメインに特異的に結合可能な(a)もしくは(b)の断片
である、
組成物。
【0234】
項目16:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該抗体またはその抗原結合断片は:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-H1;
(b)配列番号5のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-H2;および
(c)配列番号6のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-H3、
を含む重鎖可変領域;
および/または
(d)配列番号7のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-L1;
(e)配列番号8のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-L2;および
(f)配列番号9のアミノ酸配列を含む、またはから成るCDR-L3、
を含む軽鎖可変領域;
あるいは
配列番号4~9のいずれか1つの変異体(改変体)、
を含み、
ここで該変異体は、いずれか1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されており、ただしそのような変更がたかだか3アミノ酸未満であることが前提であり、例えば、ここで2アミノ酸または1アミノ酸が置換されている、組成物。
【0235】
項目17:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該抗体またはその抗原結合断片が配列番号10のアミノ酸配列を含む、またはから成る重鎖可変領域を含む、組成物。
【0236】
項目18:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該抗体またはその抗原結合断片が配列番号11のアミノ酸配列を含む、またはから成る軽鎖可変領域を含む、組成物。
【0237】
項目19:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該抗体またはその抗原結合断片および/または該ポリヌクレオチドまたはその断片またはその変異体(改変体)が付加的な部分と複合体を形成している、組成物。
【0238】
項目20:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該付加的な部分が蛍光色素分子、酵素および放射性トレーサーまたは放射性同位体から成る群から選択される検出可能部分などの検出可能部分を含む、組成物。
【0239】
項目21:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該付加的な部分が細胞傷害性部分を含む、組成物。
【0240】
項目22:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該細胞傷害性部分が毒素、化学療法剤および放射性物質、またはそれらの組み合わせから成る群から選択される、組成物。
【0241】
項目23:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該細胞傷害性部分が毒素である、組成物。
【0242】
項目24:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該毒素が微小管毒素類、DNA毒素類および転写毒素類から選択される群から選択される、組成物。
【0243】
項目25:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該微小管毒素類がアウリスタチンを基礎とする毒素類、メイタンシノイドを基礎とする毒素類、ツブリシン類を基礎とする毒素類およびエリブリンから成る群から選択される、組成物。
【0244】
項目26:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該DNA毒素類がDNAの主溝に結合する物質、DNAの副溝に結合するアルキル化薬、DNAアルキル化薬およびDNA開裂剤から成る群から選択される、組成物。
【0245】
項目27:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該DNA毒素類がピロロベンゾジアゼピン(PBD)、デュオカルマイシン、デュオカルマイシン類似体、インドリノ-ベンゾジアゼピン、カリケアマイシン類、イリノテカンおよびエキサテカン誘導体から成る群から選択される、組成物。
【0246】
項目28:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該転写毒素がRNAポリメラーゼII阻害物質である、組成物。
【0247】
項目29:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該転写毒素がドキソルビシン、ドキソルビシン誘導体およびアマニチンから成る群から選択される、組成物。
【0248】
項目30:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、該転写毒素が、志賀毒素および志賀毒素様毒素;I型リボソーム不活性化蛋白質、II型リボソーム不活性化蛋白質およびサポリン、またはそれらの組み合わせから成る群から選択される、組成物。
【0249】
項目31:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該I型リボソーム不活性化蛋白質がトリコサンチンおよび/またはルフィンである、組成物。
【0250】
項目32:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該II型リボソーム不活性化蛋白質がリシン、凝集素および/またはアブリンである、組成物。
【0251】
項目33:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該付加的な部分が生物反応修飾物質を含む、組成物。
【0252】
項目34:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該生物反応修飾物質はサイトカイン、リンホカイン、インターフェロンまたはそれらの組み合わせである、組成物。
【0253】
項目35:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該化学療法剤がアルキル化薬、代謝拮抗物質、微小管阻害薬、トポイソメラーゼ阻害剤または細胞傷害性抗生物質である、組成物。
【0254】
項目36:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該化学療法剤はアントラサイクリン類、タキサン類および白金薬剤から成る群から選択される、組成物。
【0255】
項目37:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該化学療法剤は、シスプラチン、パクリタキセル、アルブミン結合パクリタキセル、ドセタキセル、シクロホスファミド、エリブリン、エピルビシン、ドキソルビシン、カルボプラチン、ゲムシタビン、ブレオマイシン、フルオロウラシル、シクロホスファミド、ビノレルビン、カペシタビン、イキサベピロンおよびイキサベピロン、またはそれらの組み合わせから成る群から選択される、組成物。
【0256】
項目38:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該組成物が少なくとも1種類の薬学的に許容可能な希釈剤、担体または賦形剤をさらに含む、組成物。
【0257】
項目39:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該インテグリンα10ポリペプチドがインテグリンα10ポリペプチドの天然の変異体、インテグリンα10ポリペプチドのイソ型またはインテグリンα10ポリペプチドのスプライス変異体である、組成物。
【0258】
項目40:上記項目のいずれかに記載の用途の組成物であって、ここで該抗体および/またはポリヌクレオチドが、インテグリンα10ポリペプチドおよび/または転写物ポリヌクレオチドを発現する細胞の細胞死を誘導可能である、および/または増殖を阻害可能である、および/または増生を阻害可能である、および/または遊走を阻害可能である、組成物。
【0259】
項目41:上記項目のいずれかに記載の用途の組成物であって、ここで該細胞が悪性細胞および/または腫瘍関連細胞である、組成物。
【0260】
項目42:上記項目のいずれかに記載の用途の組成物であって、ここで該悪性細胞または腫瘍関連細胞が癌関連線維芽細胞(CAF)、間質細胞、幹細胞および/または幹細胞様細胞である、組成物。
【0261】
項目43:上記項目のいずれか1項に記載の用途の組成物であって、ここで該インテグリンα10ポリペプチドがインテグリンα10β1ヘテロ二量体の一部である、組成物。
【0262】
項目44:上記項目のいずれかに記載の用途の組成物であって、ここで該治療は予防的、改善的または治癒的である、組成物。
【0263】
項目45:上記項目のいずれかに記載の用途の組成物であって、ここで該対象の腫瘍の癌細胞においてインテグリンα10ポリペプチドおよび/または転写物ポリヌクレオチドが検出されることにより該治療が開始されるものである、組成物。
【0264】
項目46:上記項目のいずれかに記載の用途の組成物であって、ここで癌の放射線療法および/または外科的除去と組み合わせて、該組成物をそれが必要な個体に投与する、組成物。
【0265】
項目47:上記項目のいずれかに記載の用途の組成物であって、ここで癌の放射線療法および/または外科的除去に先だって該組成物をそれが必要な個体に投与する、組成物。
【0266】
項目48:上記項目のいずれかに記載の用途の組成物であって、ここで癌の放射線療法および/または外科的除去後に、該組成物をそれが必要な個体に投与する、組成物。
【0267】
項目49:組成物であって、ここで該組成物が:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片;
または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチド、
を含み、
乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌、および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される癌型の診断に用いる、組成物。
【0268】
項目50:項目49に記載の組成物であって、ここで同一種類の健常および/または良性組織に観察される(i)インテグリンα10抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドのレベルと同一またはより高いレベルを示す細胞を該癌が含む、組成物。
【0269】
項目51:項目49に記載の組成物であって、ここで同一組織種の癌のタイプではあるが、診断される癌のタイプと比較して低侵攻性の癌のタイプに観察される(i)インテグリンα10抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドのレベルと同一またはより高いレベルを示す細胞を該癌が含む、組成物。
【0270】
項目52:項目49に記載の組成物であって、ここで対照細胞株における(i)インテグリンα10抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルと同一またはそれよりも高いレベルを示す細胞を該癌が含む、組成物。
【0271】
項目53:項目52に記載の組成物であって、ここで該対照細胞株が健常組織に由来する、組成物。
【0272】
項目54:項目52~53のいずれか1項に記載の組成物であって、ここで該対照細胞株が、健常乳房組織に由来する対照細胞株、健常前立腺組織に由来する対照細胞株、健常肺組織に由来する対照細胞株、健常膵臓組織に由来する対照細胞株および健常結合組織に由来する対照細胞株から成る群から選択される、組成物。
【0273】
項目55:項目52~54のいずれか1項に記載の組成物であって、ここで該対照細胞株が健常乳癌組織に由来する細胞株184A1である、組成物。
【0274】
項目56:項目52に記載の組成物であって、ここで該対照細胞株が、同一組織種の癌のタイプではあるが、診断される癌のタイプと比較して低侵攻性の癌のタイプに由来する、組成物。
【0275】
項目57:項目56に記載の組成物であって、ここで該対照細胞株が、低侵攻性乳癌に由来する対照細胞株、低侵攻性前立腺癌に由来する対照細胞株、低侵攻性肺癌に由来する対照細胞株、低侵攻性膵癌に由来する対照細胞株、および低侵攻性肉腫に由来する対照細胞株から成る群から選択される、組成物。
【0276】
項目58:項目56~57のいずれか1項に記載の組成物であって、ここで該対照細胞株が、低侵攻性乳癌に由来する細胞株HCC1428、低侵攻性乳癌に由来する細胞株T47D、低侵攻性前立腺癌に由来する細胞株22Rv1、低侵攻性前立腺癌に由来する細胞株DU145、低侵攻性膵癌に由来する細胞株BxPC-3および低侵攻性膵癌に由来する細胞株AsPC-1から成る群から選択される、組成物。
【0277】
項目59:癌型を治療する方法であって、ここで該癌型が乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫から成る群から選択され、あるいは該癌型が転移癌であり、該方法が:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその断片、
または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチド、
を含む薬学的有効量の組成物を、それが必要な対象に投与することを含む、方法。
【0278】
項目60:対象において癌細胞を検出する方法であって、該方法が:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)該組織において:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した該発現レベルを対照レベルと比較する工程、
を含み、
ここで該対照レベルが、単離した試料と同一組織種の健常および/または良性細胞に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値であり、
ここで対照レベルより高い(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルは対象において癌型が存在することの指標であり、ここで該癌型が乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【0279】
項目61:対象において癌細胞を検出する方法であって、該方法は:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)該組織において:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
(d)任意に(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
を含み、
ここで(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)インテグリンα10転写物ポリヌクレオチドの発現と組み合わせて、癌形態を有する1個または複数個の細胞が存在することは、対象において癌型が存在することの指標であり、ここで該癌型は乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【0280】
項目62:対象において癌型を診断する方法であって、該方法が:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)該組織において:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが同一組織種の健常および/または良性組織に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程、
を含み、
ここで対照レベルより高い(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルは、試料において癌型が存在することの指標であり、それによって対象における癌型を診断するが、ここで該癌型が乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【0281】
項目63:対象において癌型を診断する方法であって、該方法が:
(a)対象において癌細胞を含むことが疑われる組織を提供する工程;
(b)癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)試料中に:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド;
が存在するか否かを分析する工程;
(d)任意に(i)インテグリンα10抗原の発現レベルおよび/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程、
を含み、
ここで(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)インテグリンα10転写物ポリヌクレオチドの発現と組み合わせて、癌形態を有する1個または複数個の細胞が存在することは、試料中に癌型が存在することの指標であり、それによって対象における癌型を診断するが、ここで該癌型が乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【0282】
項目64:項目60~63のいずれか1項に記載の方法であって、ここで工程(b)が項目1~58のいずれか1項に記載の組成物またはその断片を該対象に投与することをさらに含む、方法。
【0283】
項目65:項目60~64のいずれか1項に記載の方法であって、癌型に属する癌細胞を含むものとして試料を形態学的に特徴付けることをさらに含み、ここで該癌型が乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌、および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【0284】
項目66:項目60~65のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該方法が対象において乳癌の存在を検出する方法または対象において乳癌を診断する方法であって、ここで該乳癌が乳癌型三重陰性乳癌および炎症性乳癌から成る群から選択され、ここで該方法が工程(b)において判定したインテグリンα10ポリペプチドの発現レベルを対照レベルと比較することを含み、ここで該対照レベルが健常および/または良性乳房組織細胞に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値であり、インテグリンα10ポリペプチドを含む抗原のレベルが対照レベルよりも高いことが、対象において乳癌が存在することの指標である、方法。
【0285】
項目67:項目60~65のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該方法が対象において肺癌の存在を検出する方法または対象において肺癌を診断する方法であって、ここで該方法が工程(b)において判定したインテグリンα10ポリペプチドの発現レベルを対照レベルと比較することを含み、ここで該対照レベルが非癌性肺細胞に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値であり、インテグリンα10ポリペプチドを含む抗原のレベルが対照レベルよりも高いことが、対象において肺癌が存在することの指標である、方法。
【0286】
項目68:項目60~65のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該方法が対象において扁平上皮肺細胞癌の存在を検出する方法または対象において扁平上皮肺細胞癌を診断する方法であって、ここで該方法が工程(b)において判定したインテグリンα10ポリペプチドの発現レベルを対照レベルと比較することを含み、ここで該対照レベルが非癌性肺細胞に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値であり、インテグリンα10ポリペプチドを含む抗原のレベルが対照レベルよりも高いことが、対象において扁平上皮肺細胞癌が存在することの指標である、方法。
【0287】
項目69:項目60~65のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該方法が対象において肺腺癌の存在を検出する方法または対象において肺腺癌を診断する方法であって、ここで該方法が工程(b)において判定したインテグリンα10ポリペプチドの発現レベルを対照レベルと比較することを含み、ここで該対照レベルが非癌性肺細胞に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値であり、インテグリンα10ポリペプチドを含む抗原のレベルが対照レベルよりも高いことが、対象において肺腺癌が存在することの指標である、方法。
【0288】
項目70:項目60~65のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該方法が対象において前立腺癌細胞の存在を検出する方法または対象において前立腺癌を診断する方法であって、ここで該方法が工程(b)において判定したインテグリンα10ポリペプチドの発現レベルを対照レベルと比較することを含み、ここで該対照レベルが非癌性前立腺細胞に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値であり、インテグリンα10ポリペプチドを含む抗原のレベルが対照レベルよりも高いことが、対象において前立腺癌の癌型が存在することの指標である、方法。
【0289】
項目71:項目60~65のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該方法が対象において膵癌細胞の存在を検出する方法または対象において膵癌を診断する方法であって、ここで該方法が工程(b)において判定したインテグリンα10ポリペプチドの発現レベルを対照レベルと比較することを含み、ここで該対照レベルが非癌性膵臓細胞に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値であり、インテグリンα10ポリペプチドの発現レベルが対照レベルよりも高いことが、対象において膵癌の癌型が存在することの指標である、方法。
【0290】
項目72:項目60~65のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該方法が対象において肉腫の存在を検出する方法または対象において肉腫を診断する方法であって、ここで該方法が工程(b)において判定したインテグリンα10ポリペプチドの発現レベルを対照レベルと比較することを含み、ここで該対照レベルが非癌性肉腫細胞に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値であり、インテグリンα10ポリペプチドを含む抗原のレベルが対照レベルよりも高いことが、対象において肉腫が存在することの指標である、方法。
【0291】
項目73:対象の三重陰性乳癌腫瘍試料を分類する方法であって、該方法は:
(a)癌細胞を含むことが疑われる対象の乳房組織を提供する工程;
(b)ER陰性、PR陰性かつHER2陰性であると特徴づけられる乳癌細胞を単離する工程;
(c)単離した細胞における:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
の発現レベルを判定する工程;
および
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが健常および/または良性乳房組織に観察される(i)抗原または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程;
を含み、
ここで対照レベルより高い乳癌細胞における(i)抗原発現レベルおよび/または(ii)転写物ポリヌクレオチド発現レベル、およびER陰性、PR陰性およびHER2陰性である発現状態は、基底細胞様三重陰性乳癌または管腔型三重陰性乳癌の指標であり、それにより三重陰性乳癌腫瘍試料を基底細胞様三重陰性乳癌腫瘍または管腔型三重陰性乳癌腫瘍に属するものとして分類する、方法。
【0292】
項目74:項目73に記載の方法であって、ここでインテグリンα10の発現ならびにサイトケラチン7、サイトケラチン8、サイトケラチン18およびサイトケラチン19から成る群から選択される1種類または複数種類のポリペプチドの発現が管腔型三重陰性乳癌の指標である、方法。
【0293】
項目75:項目73に記載の方法であって、ここでインテグリンα10の発現ならびにサイトケラチン5/6、サイトケラチン14、サイトケラチン17、p63、EGFR、34BE12およびc-kit/CD117から成る群から選択される1種類または複数種類のポリペプチドの発現が基底細胞様三重陰性乳癌の指標である、方法。
【0294】
項目76:対象における癌型の予後を判定する方法であって、該方法が:
(a)対象の癌腫瘍組織を提供する工程;
(b)試料中に:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド;
が存在するか否かを分析する工程;
(c)(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する工程;
(d)工程(c)で判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが試料と同一組織種の健常および/または良性組織に観察される(i)抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、工程;
(e)(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)インテグリンα10転写物ポリヌクレオチドの発現レベルが対照レベルよりも高い場合に、該癌型の予後が不良であると判定する工程、
を含むが、
ここで該癌型が乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【0295】
項目77:対象における癌型の予後を判定する方法であって、該方法が:
(a)対象の癌腫瘍組織を提供する工程;
(b)任意に癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在するか否かを分析する工程;
(c)試料中に:
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド;
が存在するか否かを分析する工程;
(d)任意に(i)インテグリンα10抗原の発現レベルおよび/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定し、判定した発現レベルを対照レベルと比較する工程であって、ここで該対照レベルが試料と同一の組織種の健常および/または良性組織に観察される(i)抗原の発現レベルおよび/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である工程;
(e)癌形態を有する1個または複数個の細胞が組織中に存在し、かつ(i)インテグリンα10の抗原および/または(ii)インテグリンα10の転写物ポリヌクレオチドが発現している、
および/または
(i)インテグリンα10抗原の発現レベルおよび/または(ii)インテグリンα10転写物ポリヌクレオチドの発現レベルが対照レベルよりも高い場合に、
該癌型の予後が不良であると判定する工程、
を含むが、
ここで該癌型が乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される、方法。
【0296】
項目78:項目76~77のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該予後が総生存率または無再発生存率である、方法。
【0297】
項目79:項目60~78のいずれか1項に記載の方法であって、ここで試料中に
(i)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(ii)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド;
が存在するか否かを分析する該工程が組織および/または組織試料のイメージングを含む、方法。
【0298】
項目80:項目60~79のいずれか1項に記載の方法であって、ここで(i)インテグリンα10抗原および/または(ii)転写物ポリヌクレオチドの発現レベルを判定する該工程が、組織および/または組織試料のイメージングを含む、方法。
【0299】
項目81:乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌および肉腫から成る群から選択される癌型である原発癌の転移を予防する方法であって、ここで該方法は:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的な抗体またはその抗原結合断片;
および/または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
をそれが必要な患者に治療有効量で投与することを含む、方法。
【0300】
項目82:項目81に記載の方法であって、ここで原発癌が検出された場合に、(a)抗体または抗原結合断片および/または(b)転写物ポリヌクレオチドが投与される、方法。
【0301】
項目83:少なくとも1個の癌細胞のインテグリンα10媒介性シグナル伝達を阻害する方法であって、該方法が少なくとも1個の癌細胞を、有効量の:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的な抗体または抗原結合断片;
および/または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
を含む組成物に接触させることを含み、
ここで該少なくとも1個の癌細胞が乳癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、膵癌細胞、肉腫細胞および転移性腫瘍細胞から成る群から選択される、方法。
【0302】
項目84:少なくとも1個の癌細胞の細胞機能を阻害する方法であって、ここで有効量の:
(a)インテグリンα10ポリペプチドに特異的な抗体または抗原結合断片;
および/または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
を含む組成物に少なくとも1個の癌細胞を接触させることを該方法が含み、
ここで該少なくとも1個の癌細胞が乳癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、膵癌細胞、肉腫細胞および転移性腫瘍細胞から成る群から選択される、方法。
【0303】
項目85:項目60~84のいずれか1項に記載の方法であって、ここでインテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む該抗原が細胞表面上に発現する、方法。
【0304】
項目86:少なくとも1個の癌細胞の細胞機能を阻害する、項目84~85のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該少なくとも1個の癌細胞が腫瘍および/または転移性腫瘍中に存在し、阻害することが:
(a)少なくとも1個の癌細胞の増殖を阻害すること;
(b)少なくとも1個の癌細胞の自己複製を阻害すること;
(c)少なくとも1個の癌細胞の足場非依存性増殖を阻害すること;
(d)少なくとも1個の癌細胞の遊走を阻害すること;
(e)少なくとも1個の癌細胞の浸潤を阻害すること;
(f)少なくとも1個の癌細胞の生存を阻害すること;
(g)少なくとも1個の癌細胞の接着を阻害すること;
および/または
それらの組み合わせ、
から成る群から選択される、方法。
【0305】
項目87:少なくとも1個の癌細胞の細胞機能を阻害する、項目84~86のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該少なくとも1個の癌細胞が腫瘍および/または転移性腫瘍中に存在し、該少なくとも1個の癌細胞の細胞機能を阻害することが:
(a)腫瘍および/または転移性腫瘍の増殖を阻害すること;
(b)腫瘍および/または転移性腫瘍の増生を阻害すること;
(c)腫瘍および/または転移性腫瘍の移動を阻害すること;
(d)腫瘍および/または転移性腫瘍の浸潤を阻害すること;
(e)新規の腫瘍および/または転移性腫瘍の広がりを阻害すること;
(f)新規の腫瘍および/または転移性腫瘍の発生を阻害すること;
(g)新規の腫瘍および/または転移性腫瘍の浸潤を阻害すること;
および/または
それらの組み合わせ、
のうちの少なくとも1つである、方法。
【0306】
項目88:項目83~87のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該少なくとも1個の癌細胞は:
(a)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片を含む抗原;
および/または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチド、
の発現レベルが対照レベルよりも高いことによって特徴付けられ、
ここで該対照レベルが癌細胞と同一組織種の健常および/または良性細胞に観察される(a)抗原および/または(b)ポリヌクレオチドの発現レベルの平均値である、方法。
【0307】
項目89:項目49~88のいずれか1項に記載の方法および/または組成物であって、ここで該組成物が項目1~48のいずれか1項に記載の組成物である、方法および/または組成物。
【0308】
項目90:項目59~89のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該方法が項目1~48のいずれか1項に記載の組成物、またはその断片を該対象に投与することをさらに含む、方法。
【0309】
項目91:項目60~90のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該方法がインビトロ法であり、該組織が対象から取得される組織試料である、方法。
【0310】
項目92:請求項49の組成物であって、ここで該診断がインビトロ診断である、組成物。
【0311】
項目93:組成物の用途であって、ここで該組成物が、
(a)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片に特異的に結合する抗体、
または
(b)インテグリンα10ポリペプチドまたはその断片またはその変異体(改変体)をコードする転写物ポリヌクレオチドに特異的に結合するポリヌクレオチド
を含み、該組成物が、乳癌、肺癌、前立腺癌および膵癌、または該癌型のいずれかの転移癌から成る群から選択される癌型の治療および/または予防のための薬剤の製造に用いられる、用途。
【0312】
項目94:項目1~93のいずれか1項に記載の組成物、用途または方法であって、ここで該癌型が侵攻性乳癌、侵攻性肺癌、侵攻性前立腺癌、侵攻性膵癌および侵攻性肉腫から成る群から選択される侵攻性癌型である、組成物、用途または方法。
【0313】
実施例
実施例1:非罹患組織領域における発現と比較した、乳房腫瘍、肺腫瘍、膵臓腫瘍および肉腫を含む侵攻性腫瘍の組織における、免疫組織化学的に可視化したインテグリンα10の蛋白質発現
材料と方法
乳房組織、肺組織、膵臓組織および肉腫組織検体から成るヒト材料を用いた。免疫組織化学の標準プロトコル(Renshaw 2007、ISBN10:1 904842 038、Scion Publishing Ltd、UKを参照のこと)はHRPポリマー共役2次抗体(DAKO Envision 抗ウサギ、DK)を用いて最適化し(下記を参照のこと)、次にジアミノベンジジンおよび過酸化水素による反応を行った。
【0314】
乳房組織および膵臓組織について:パラフィン切片(4または8μm)を用いた。
標準プロトコルにしたがい、スライドをキシレンに浸漬することによって切片を脱パラフィンし、エタノールと水の系列溶液を用いて再水和した。標識プロトコル最適化のために実施した処置としては、抗原回復のためのパラフィン切片処理が挙げられ、この処理では、酸性緩衝溶液(クエン酸緩衝液:10mMクエン酸ナトリウム、0.05%Tween20、pH6.0)にスライドを浸漬した後、熱処理(92~95°C)を行った。
【0315】
肺組織および肉腫組織について:
凍結切片(8μm)および上記と同一のプロトコルを用いた。標識プロトコル最適化のために実施した処置としては、アセトン(100%)による凍結切片の後固定(-20℃)および0.3%過酸化水素によるクエンチングが挙げられるが、これらはブロッキング(1%BSAおよび0.05%Triton-X100を含むPBS)の前に実施した。前処理とインキュベーション工程の間で、PBSによる3分間のすすぎを3回実施した。
【0316】
Triton-X100(0.05%)を1次抗体希釈緩衝液に添加した。前処理とインキュベーション工程の間で、PBSによる3分間のすすぎを3回実施した。マイヤーヘマトキシリン溶液を用いて切片を対比染色することにより、核を可視化した。
【0317】
用いた1次抗体は、3μg/ml濃度のウサギ抗インテグリンα10ポリクローナル抗体である。
【0318】
結果
インテグリンα10は浸潤性腺管癌を含む複数の侵攻性癌型(
図1A)および三重陰性乳癌組織(
図2)において特異的に高発現するが、形態学的には正常である乳房組織(
図1B)ではインテグリンα10発現は無視できる程度である。予想通り、インテグリンα10は細胞膜(矢印)に局在した。
【0319】
さらに、扁平上皮型肺癌細胞(データ非提示)および膵癌細胞ならびに膵管腺癌組織中の増殖膵島細胞(データ非提示)においてインテグリンα10が顕著に発現していたが、周囲の形態学的に健常な組織ではそのような発現は認められなかった。未分化多形肉腫細胞(
図3)においてインテグリンα10が顕著に発現していた。
【0320】
結論
最も高侵攻性であると見なされる複数の異なる癌型において得られた患者組織に、インテグリンα10が顕著に発現することを、この結果は示している。
【0321】
実施例2:乳癌および前立腺癌細胞株において、免疫蛍光によって可視化したインテグリンα10の発現
材料と方法
三重陰性乳癌細胞株BT549および管腔A乳癌細胞株T47Dの細胞(もともとは、American Type Culture Collection-ATCCから取得したものである)を単層で増殖させ、一方、前立腺癌細胞株PC-3の細胞はIbidiマイクロスライド8ウェル顕微鏡スライド(Ibidi Labware、Germany)上で球体に増殖させた。PCT/EP2017/070838の実施例2に記載の免疫蛍光プロトコルにしたがって実施した。用いた1次抗体は、インテグリンα10に対するマウスモノクローナル代替抗体であり、1.7μg/mlで用いた。2次抗体は、蛍光色素分子共役抗体(抗マウスAF488またはAF647共役および/または抗ウサギAF488またはRodRX、いずれもロバで作成したものであり、Jackson Immunoresearch、USAから入手した)であった。2次抗体はいずれも1%BSAを含むPBSで1:200に希釈し、インキュベーションは30分間実施した。
【0322】
結果
免疫蛍光を共焦点顕微鏡法によって観察したところ、インテグリンα10は異なる2種類の乳癌細胞株(
図4A~B)および前立腺癌細胞株(
図4C)のそれぞれにおいて細胞膜に特異的に高発現することが明らかになった。
【0323】
結論
この結果は、インテグリンα10が異なる侵攻性癌由来の細胞株において顕著に発現することを実証している。
【0324】
実施例3:ヒト非悪性および癌細胞株の単層培養およびインテグリンα10蛋白質発現のフローサイトメトリー分析
材料と方法
以下の癌細胞株は、もともとはAmerican Type Culture Collection(ATCC)から取得したものである:乳癌細胞株184A1、HCC1428、T47D、MDA-MB-231およびBT549;肺癌細胞株A549(腺癌)およびU-1752(扁平上皮型肺癌);前立腺癌細胞株:22Rv1、Du145およびPC-3;膵癌細胞株BxPC-3、AsPC-1、PANC-1およびMiaPaCa-2。
【0325】
細胞株184A1は、乳房縮小術で得られた健常乳房組織から確立した。該組織に由来する細胞をベンゾ(a)ピレンに曝露して形質転換株を確立した。この細胞株では、細胞は不死化状態であるが悪性ではないと思われる。その他の細胞株はいずれも、悪性腫瘍に由来する悪性細胞である(下の表を参照のこと)。
【0326】
暗所4℃で30分間、細胞を1.0μg/ml濃度のマウス抗インテグリン10モノクローナル代替抗体(Alexa Fluor 647複合体)と共にインキュベートすることによって、細胞を免疫染色した。1次抗体と共に30分間インキュベートした後、細胞を1%FBSおよび0.1%アジ化ナトリウムを含むDPBS(Hyclone、SH3002802)で2回洗浄してから、BD Accuri C6フローサイトメーターを用いたフローサイトメトリーにより分析した。
【0327】
【0328】
結果
乳癌の結果から、単層培養したT47Dではインテグリンα10が中程度に発現し、三重陰性細胞株BT549ではインテグリンα10が高度に発現する(
図5Aおよび5B)ことが分かる。単層培養では、侵攻性前立腺癌細胞PC-3のインテグリンα10発現が最も高かった(
図5Eおよび5F)。さらに、最も高浸潤性の高悪性度膵癌細胞株(グレードIII)であるMiaPaCa-2およびPANC-1もまた、インテグリンα10発現が最も高かった(
図5I)。対照的に、低侵攻性膵癌細胞株であるBxPC-3およびAsPC-1では、インテグリンα10が発現していないか、していてもより低いレベルであり、このことは特に球体培養で明らかである(実施例4、
図5Jを参照のこと)。単層培養肺癌細胞では発現がかなり低かった(
図5K)が、同細胞を球体培養した場合には発現が上昇した(
図5Lおよび実験4)。
【0329】
結論
この結果は、最も高侵攻性の癌のタイプでインテグリンα10の発現が最大であることを示している。このことは、異なる癌の悪性度とインテグリンα10との間に相関があることを示唆し、したがって多分、細胞遊走や侵襲性とも相関するであろうと考えられる。このような所見は、単培養系において容易に認められ得、三次元(3D)培養系(実施例4を参照のこと)ではさらに明らかである。三次元細胞培養モデルは細胞間相互作用、細胞-ECM相互作用、および細胞集団、ならびにインビボ構築に類似した構造に関しても改善されているため、従来型の二次元単層培養よりも良いモデルである。
【0330】
実施例4:球体形成アッセイにおけるインテグリンα10蛋白質の検出と分析
材料と方法
乳房細胞株184A1、HCC1428、T47D、MDA-MB-231およびBT549の細胞、または肺癌細胞株A549およびU-1752、または前立腺癌細胞株22Rv1、DU145およびPC-3細胞、または膵癌細胞株BxPC-3、AsPC-1、PANC-1およびMiaPACa-2、または肉腫細胞株MFH152は、自己複製能を有する非接着性球体(乳癌ではマンモスフェアと称し、前立腺癌ではプロスタスフェアと称する)を形成させるため、超低接着表面プレート(ultra-low attachment plates、CLS3471、Corning)中の血清不含培地に播種した。非足場型培養物は一般的にスフェロイドまたは球体として知られる細胞凝集体によって形成される。球体形成のためのプレーティング培地は、B27(12587-010、Gibco)、20ng/mlヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(Miltenyi Biotec)、20ng/mlヒト上皮成長因子(Miltenyi Biotec)および100U/mlペニシリン、100U/mlストレプトマイシンを添加したDMEM/F12(1:1)w/Glutamax(31331-08、Gibco)培地から成るものであった。細胞は恒温装置中で約10日間、恒温静置したが、特に最初の5日間は静置状態を保った。免疫染色およびフローサイトメトリー分析は、マウス抗インテグリンα10モノクローナル代替抗体を用いて実施例3に記載のように実施した。三次元培養系は優れたインビトロモデルを提供するので、インビボ環境に類似した状況での細胞応答研究が可能になる。
【0331】
結果
腫瘍増殖をインビトロで模倣する三次元(球体)条件下で侵攻性三重陰性乳癌細胞MDA-MB-231およびBT549を培養した場合には、インテグリンα10の発現が有意に増加する(
図5C~D)ことが、乳癌の実験結果により実証された。非悪性または低侵攻性乳房細胞株184A1およびHCC1428では、いずれも球体培養によってインテグリンα10が増加することはなかった。前立腺癌由来の侵攻性癌細胞株PC-3においてもまた、(単層培養(
図5E~F)と比較して)細胞を球体に増殖させた(
図5G~H)場合には、いずれもインテグリンα10の蛋白質の発現が上方制御された。同様に、侵攻性膵癌細胞PANC-1およびMiaPaCa-2も容易に球体を形成し、単層培養と比較してインテグリンα10の蛋白質の発現は有意に増加した(
図5I~J)。対照的に、細胞株BxPC-3およびAsPC-1ではインテグリンα10の発現増加は認められず、さらに、AsPC-1の培養では球体が形成されなかった。球体に増殖した肺癌細胞A549およびU-1752では、インテグリンα10蛋白質のレベルが顕著に増加した(
図5K~L)。同様に、侵攻性肉腫細胞株MFH152も容易に球体を形成し、単層培養と比較してインテグリンα10の発現が蛋白質のレベルで顕著に増加した(
図5M)。
【0332】
結論
本結果は、最も高侵攻性の癌のタイプにおいてインテグリンα10発現が最大であることを実証する。インビボ腫瘍増殖を模倣する優れた方法である球体培養(三次元細胞培養)では、侵攻性癌細胞のインテグリンα10発現がさらに増加する。このことは、インテグリンα10と侵攻性癌との間の相関をさらに支持する。
【0333】
実施例5:単層または球体に培養したヒト乳癌、前立腺癌、および膵癌細胞株におけるインテグリンα10 mRNA(ITGA10)発現の検出と分析
材料と方法
単層で、あるいは腫瘍増殖を模倣する球体のいずれかで培養した異なる細胞株について、RNA抽出および定量PCRを行った。RNeasy Plusミニキット(Qiagen)を用いて細胞から全RNAを抽出し、SuperScript cDNA合成キット(Life Technologies)を用いた逆転写によってcDNAに変換した。定量PCRには、TaqMan遺伝子発現マスターミックス(Life Technologies)およびTaqManプローブ(Thermo Fisher Scientific)を用いた:GAPDH(Mm99999915_g1)およびITGA10(Mm01265767_m1)。ΔCtを得るためにハウスキーピング遺伝子GAPDHの幾何平均に対して標的遺伝子の閾値到達サイクル数を正規化した。最終分析において、2の-ΔCt乗(2-ΔCt)を算出した。
【0334】
結果
それぞれの図に示されるように、低浸潤性かつ低侵攻性である細胞株、すなわち非悪性乳房細胞184A1、ならびに乳癌細胞HCC1428およびT47D、前立腺癌細胞22RV1およびDU145、ならびに膵癌細胞BxPC-3およびAsPC-1と比較して、高浸潤性かつ高侵攻性である癌細胞、すなわち三重陰性乳癌細胞MDA-MB-231およびBT549(
図6A~B)、前立腺癌細胞PC-3(
図6C~D)、ならびに膵癌細胞PANC-1およびMiaPaCa-2(
図6E~F)では、インテグリンα10 mRNA(ITGA10)のレベルがより高かった。さらに、単層条件に比較して、細胞を球体条件で培養した場合には、インテグリンα10 mRNA(ITGA10)のレベルが有意に増加した(
図6A対6B、
図6C対6D、および
図6E対6Fを参照のこと)。
【0335】
結論
本結果は、最も高侵攻性の癌のタイプにおいてインテグリンα10 mRNAの発現が最も高いことを実証している。インビボ腫瘍増殖を模倣する優れた方法である球体培養(三次元細胞培養)では、侵攻性癌細胞におけるインテグリンα10発現がさらに増加する。このことは、インテグリンα10と侵攻性癌との間の相関をさらに支持する。
【0336】
実施例6:症状の異なる癌における総生存率曲線とITGA10遺伝子発現
材料と方法
三重陰性乳癌患者255名(Gyorffy Bら、2010)について、その総生存率曲線とITGA10遺伝子発現(A)を分析した。中央値カットオフにもとづいて、患者をITGA10低発現およびITGA10高発現コホートに分けた。カプラン・マイヤーのプロットを作成し、無再発生存率間の差異を判定するためにログランク検定を用いた。分析に用いたカットオフ値は224であった。
【0337】
扁平上皮型肺癌(データベースGSE4573、88試料)、前立腺腺癌(データベースTCGA-前立腺腺癌、413試料)、限局性の膵管腺癌(データベースGSE211501、102試料)、および肉腫(データベースTCGA-肉腫、234試料)に関する総生存率曲線を、中央値で分けたITGA10高発現群およびITGA10低発現群についてPROGgeneV2ツールを用いて分析した。本分析により、対応するマイクロアレイ・データセットにおいて、ITGA10の遺伝子発現が予後にどのように相関するのかを調べることができる(Goswami CPら、2013)。
【0338】
結果
生存率曲線は、高ITGA10発現(実線)と低ITGA10発現(点線)の患者間における総生存率の差異を示している(
図7)。生存率分析およびログランク検定を行うために、中央値カットオフにもとづいて患者を高ITGA10発現群と低ITGA10発現群に分けた。P値は総生存率の差異のログランク検定に関するものである。記載の癌型すべてについて、ITGA10高発現の患者群ではITGA10低発現患者群に比較して生存率が低い。
【0339】
結論
記載の癌のタイプにおいて、ITGA10の高発現は低総生存率と相関する。
【0340】
実施例7:抗体によるインテグリンα10ブロッキング後の細胞接着阻害
材料と方法
接着アッセイの前日に、48穴プレートをI型コラーゲン(Sigma、C7661-5MG)、IV型コラーゲン(Sigma、C5533-5MG)またはウシ血清アルブミン(BSA)でコーティングした。実験の当日に、非特異的結合をブロックするためにプレートを37℃で30分間、0.25%BSAと共にインキュベートした。同時に、癌細胞(乳癌細胞BT549および前立腺癌細胞PC-3)を回収し、HBSSに懸濁して単一の細胞懸濁液とした。インテグリンα10ポリペプチドに対する、10μg/ml濃度のマウスモノクローナル抗体mAbαの存在下または非存在下で、細胞を30分間、予備定温静置した。アイソトープマウス対照モノクローナル抗体IgG2aを陰性対照として用いた。次に、細胞を60分間、接着させ、HBSSで洗浄することによって非接着細胞を除去した。96%エタノールで接着細胞を固定し、0.1%クリスタルバイオレットで染色した。プレート読み取り装置により、590nmの波長で吸光度を測定した。
【0341】
結果
インテグリンα10ポリペプチドに対する機能ブロッキング・モノクローナル抗体を用いた乳房細胞BT549の処理によって、BT549細胞のI型コラーゲンおよびIV型コラーゲンに対する細胞接着が有意に増加した(
図8)。単層培養(
図8A~B)およびマンモスフェア培養(
図8C~D)した細胞を、非処理またはIgG2a処理細胞と比較した場合のいずれにおいても、この効果が認められた。同様に、機能ブロッキング・インテグリンα10モノクローナル抗体を用いた処理によって、球体培養したPC-3細胞のI型コラーゲンおよびIV型コラーゲンに対する細胞接着は、対照としての非処理細胞と比較して有意に減少した(
図8E~F)。BSAでコーティングしたウェルを陰性対照として用いたが、その理由はインテグリン受容体が細胞外マトリックス(ECM)への細胞接着を媒介するので、BSAでコーティングしたウェルには細胞が接着しないからである。
【0342】
結論
本結果は、インテグリンα10機能阻害抗体は接着をブロックすることが可能であり、それによって腫瘍細胞の主要な機能(増生、遊走および増殖など)に影響を与える可能性があることを明らかにした。
【0343】
実施例8:モノクローナル抗体でインテグリンα10をブロッキングした後の細胞遊走低下
材料と方法
乳癌細胞BT549、肺癌細胞A549および前立腺癌PC-3の癌細胞に対して、孔径8μmのポリカーボネート・フィルターを有するボイデンチャンバー(Corning)を用いて細胞遊走アッセイを実施した。乳癌細胞BT549についてはフィルターをIV型コラーゲン(Sigma、C5533-5MG)のコラーゲンでコーティングし、前立腺癌細胞PC-3についてはI型コラーゲン(Sigma、C7661-5MG)のコラーゲンでコーティングしたが、肺癌細胞A549に関しては無コーティングとした。細胞遊走アッセイのコラーゲン希釈標準溶液(0.01mg/ml)は、原液(1mg/ml)からPBSを用いて調製した。下槽を化学誘引物質としての10%FBS含有培地で満たし、インテグリンα10に対するモノクローナル抗体も添加した。ボイデンチャンバーの上槽に細胞を加える前に、癌細胞を5μg/mlの抗体と共に30分間インキュベートした。24時間後または48時間後に下槽の細胞を固定して、クリスタルバイオレットで染色した。プレート読み取り装置(SpectraMax ABS、Molecular Devices)で、OD590nmの測定を行った。
【0344】
乳癌細胞の細胞遊走アッセイ:インテグリンα10の異なるエピトープに結合する、マウス抗インテグリンα10モノクローナル抗体(mAbα10)またはヒト抗インテグリンα10抗体であるTh101のいずれかと共に細胞をインキュベートした(実施例12を参照のこと)。陰性対照として、陰性対照抗体Th301(ヒトIgG1 VH/ラムダ)または陰性/アイソトープ対照抗体IgG2a(マウスモノクローナルIgG2a、κ)と共に細胞をインキュベートした、あるいは抗体処理を完全に省略した(NT=非処理)。
【0345】
前立腺癌細胞の細胞遊走アッセイ:細胞をマウス抗インテグリンα10モノクローナル抗体(mAbα10)と共にインキュベートし、24時間または48時間、遊走させた。陰性対照として、細胞をアイソトープ対照抗体IgG2aと共にインキュベートした。
【0346】
肺癌の細胞遊走アッセイ:細胞をマウス抗インテグリンα10モノクローナル抗体(mAbα10)と共に24時間または48時間インキュベートした。陰性対照として、細胞をアイソトープ対照抗体IgG2aと共にインキュベートした。
【0347】
結果
乳癌細胞:抗インテグリンα10モノクローナル抗体mAbα10とのインキュベーションまたはTh101とのインキュベーションのいずれにおいても、非処理細胞または対照抗体と共にインキュベートした細胞と比較して細胞遊走が低下した(
図9A)。両方の抗インテグリンα10抗体が類似の効果を発揮した。
【0348】
前立腺癌細胞:抗インテグリンα10抗体mAbα10とのインキュベーションでは、対照抗体と共にインキュベートした細胞と比較して細胞遊走が低下した(
図9B)。24時間に比較して細胞を48時間アッセイした場合には、この効果が増強した。
【0349】
肺癌細胞:同様に、抗インテグリンα10モノクローナル抗体mAbα10とのインキュベーションでは、対照抗体と共にインキュベートした細胞と比較して細胞遊走が低下した(
図9C)。
【0350】
結論
インテグリンα10モノクローナル抗体はインテグリンα10をブロック可能であり、乳癌細胞および前立腺癌細胞の遊走(それぞれ、
図9Aおよび
図9B)ならびに肺癌細胞の遊走(
図9C)を阻害することが、本結果によって実証される。
【0351】
実施例9:インテグリンα10抗体薬剤複合体で処理した乳癌細胞の生存率低下
材料と方法
乳癌細胞BT549を96穴プレートで単層培養し、抗インテグリンα10-MMAE ADC(抗体薬剤複合体または抗対照-MMAE ADC)で処理した。ADCはインテグリンα10マウスモノクローナル代替抗体(IgG1(kappa))またはアイソタイプ対照抗体IgG1(anti-ctrl)に微小管阻害剤であるモノメチルアウリスタチンE(MMAE)を結合した複合体である。細胞を23nM、69nMまたは207nMのADCと共に、37℃で4日間インキュベートした。細胞生存率の判定は、WST-1アッセイ(Roche、Mannheim、Germany)を用いて製造元の推奨にしたがって実施した。
【0352】
結果
強力な細胞毒素であるMMAE(抗α10-MMAE)と複合体化したインテグリンα10抗体から成る抗体薬剤複合体(ADC)は、乳癌細胞に細胞死を誘導した(
図10)。対照的に、MMAEを複合体化したアイソタイプ対照抗体IgG1(対照抗体-MMAE)で細胞を処理した場合には、細胞死は観察されなかった。抗体薬剤複合体の濃度が高くなるにしたがい、乳癌細胞の生存率は低下した。
【0353】
結論
本結果は、インテグリンα10抗体複合体による特異的細胞傷害性効果を実証している。
【0354】
実施例10:抗α10モノクローナル抗体処理は侵攻性乳癌細胞、侵攻性膵癌細胞、および侵攻性肺癌細胞のインビトロ細胞増殖を抑制する
材料と方法
球体アッセイ(
図11A~DおよびF):乳癌細胞(BT549)、前立腺癌細胞(PC-3)、膵癌細胞(MiaPaCa-2およびPANC-1)および肺癌細胞(A549)は、非接着球体を形成させるために超低接着表面6穴プレート(CLS3471、Corning)中の血清不含培地に播種した。播種と同時に、細胞を10μg/mlの抗インテグリンα10モノクローナル抗体mAbα10または対照抗体(IgG2a)のいずれかで処理した。該抗体を14日間、2日毎にさらに添加した。14日間の処理後に、球体にBrdU(最終濃度10μM)を添加して細胞を24時間インキュベートした。次に、BrdU分析を実施するために、フローサイトメトリーを用いて、BD Pharmigen APC BrdUフローキット(カタログ番号:552598)の説明書にしたがい細胞を回収した。BrdU染色の平均蛍光強度を算出した。肺癌細胞(A549)に関しては、BrdU染色に加え、全DNAを染色するために7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)を添加した。BrdU染色および7-AAD染色の両方にもとづいて、細胞周期分析を実施した。
【0355】
単層アッセイ(
図11E):接着性乳癌細胞BT549を、IV型コラーゲンでコーティングした96穴プレートに播種し、細胞播種直後に最終濃度が5μg/mlになるように抗インテグリンα10モノクローナル抗体(mAbα10またはTh101)で処理した。24時間の抗体処理後に、BrdUを添加して2.5時間経過してから、Cell Proliferation ELISA BrdUキット(Roche Diagnostics GmbH)を用い製造元の説明書にしたがって増殖を判定した。
【0356】
細胞周期分析(
図11F):取り込まれたブロモデオキシウリジン(BrdU)の免疫蛍光染色およびフローサイトメトリー分析によって、DNAを合成した個々の細胞の割合と性質を判定した。本方法では、細胞周期のS(DNA合成)期に入りその期を進行している細胞が新規に合成したDNAにBrdU(DNA前駆体チミジンの類似体)が取り込まれる。特異的な抗BrdU蛍光抗体を用いて、取り込まれたBrdUを染色する。次に、細胞のBrdUレベルをフローサイトメトリーで測定する。全DNAに結合する色素(7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)など)を用いた染色を免疫蛍光BrdU染色と組み合わせることも多い。この組み合わせを利用すれば、二重染色フローサイトメトリー分析によって、活発にDNA合成(BrdUの取り込み)を行っている細胞の計数と細胞周期上の位置(すなわち、7-AAD染色強度で特定されるG0/G1期、S期、またはG2+M期)に関する特徴付けを行うことができる。
【0357】
結果
球体アッセイ:機能ブロッキングα10モノクローナル抗体が、侵攻性乳癌(
図11A)、侵攻性前立腺癌(
図11B)および侵攻性膵癌細胞(
図11C~D)の増殖を低下することが、本結果によって実証される。これを対照抗体IgG2aによる処理後の増殖と比較した。対照的に対照抗体では増殖の低下は全く認められなかった。肺癌細胞株A549では、対照抗体IgG2aによる処理と比較して、α10モノクローナル抗体処理が細胞をG0/G1期で停止させ、それによって細胞増殖を阻害する(
図11F)ことが、細胞周期分析によって分かった。
【0358】
単層アッセイ:対照抗体の存在下または抗体非存在下でのインキュベーションと比較して、抗インテグリンα10抗体(mAbα10およびTh101)は単層培養乳癌細胞の細胞増殖をブロックしたことが、
図11Eから分かる。
【0359】
結論
本結果によって、インテグリンα10が細胞増殖プロセスに関与することが確認され、このことは抗インテグリンα10抗体が癌増殖抑制治療薬としての能力を有することを示す。
【0360】
実施例11:インテグリンα10抗体による処理は乳房腫瘍のインビボ増殖の進行を抑制する
材料と方法
インビボ実験はいずれも、Janvier Labs(France)から購入した6~8週齢の雌NMRI-nu免疫不全マウス(群当たりn=5)を用いて実施した。動物福祉および実験手順は、国際的な基準に基づいて実施し、動物は特定病原体感染防止条件(SPF)の下で維持した。全実験方法はマルメ(Malmo)およびルンド(Lund)動物倫理委員会(スエーデン)の承認を受けたものである。腫瘍の誘導に関しては、2x106個の侵攻性乳癌BT549細胞を含むマトリゲルをマウスの右脇腹領域に皮下注射で接種した。注射後2~3週間後に、IVIS-CTスペクトラム(PerkinElmer、MA、USA)を用いた非侵襲性の二次元生物発光(BLI)イメージングによって、腫瘍増殖を追跡した。腫瘍増殖の徴候を示したマウスを、平均の総フラックス値(光子数/s)と共に特定される目的領域(ROI)に記録されたBLIシグナル強度の平均値に基づいて無作為に2群(対照および治療)に分けた。本実験ではインテグリンα10に対する複数の異なる抗体を用いた:すなわち、マウスモノクローナル抗体mAb α10およびヒトモノクローナル抗体Th101である。マウスに注射する各抗体の濃度を算出して5mg/kgとし、腹腔内注射により抗体をエンドポイントまで動物に投与した。腫瘍増殖は生物発光2Dおよび3DマイクロCTイメージングを用いて追跡した。簡単に説明すると、イメージング前にマウスを3%イソフルレンガスで麻酔し、PBSに溶かしたD-ルシフェリンを150mg/体重kgで腹腔内に注射した。異なる露光セグメント間で5間隔を逐次的に撮像することによって2Dイメージを得た(発光:open filter、f/stop:1、binding:8)。目的領域(ROI)の測定から生体イメージ分析ソフトウエア(PerkinElmer、MA、USA)を用いて平均の背景シグナル(Bkg)を推定した後、BLIシグナル強度を総フラックス(光子数/s)として定量した。マウスの体重は毎週、抗体処置の前に記録した。病的徴候および増殖速度の低下は全く認められなかった。
【0361】
結果
インテグリンα10抗体mAbα10またはTh101で処置したマウスでは、陰性対照抗体(IgG2aおよびTh301)で処置したマウスと比較して総フラックス読み取り値が減少した(
図12A)ことが、本結果から分かる。このことは腫瘍増殖が低減したことを示している。動物の体重は処置の開始から追跡したが、各抗体で処置した動物においては病的徴候も体重減少も認められなかった(
図12B)。
【0362】
結論
インテグリンα10に対する異なる抗体(ここではmAbα10(=Ab365)またはTh101)がインビボ腫瘍増殖を低減し、抗インテグリンα10抗体の癌増殖抑制治療薬としての有用性を示唆し得ることが、本結果によって示される。
【0363】
実施例12:モノクローナル抗体mAbα10およびTh101はインテグリンα10の異なるエピトープに結合する
材料と方法
インテグリンα10を過剰発現するC2C12α10細胞および三重陰性乳癌BT549細胞におけるマウスモノクローナル抗体mAbα10およびヒトモノクローナル抗体Th101の結合競合アッセイを行った。細胞を表記の濃度(μg/ml)の単一の抗体または混合抗体と共に30分間インキュベートした後、2回洗浄し、次に2次抗体で30分間染色した。ヒトモノクローナル抗体Th101に対する2次抗体としては、ロバ抗ヒトAlexa 488を用いた。マウスモノクローナル抗体mAba10に対する2次抗体としては、ロバ抗マウスAlexa 647を用いた。抗体結合をフローサイトメトリーで分析し、2次抗体の蛍光シグナルを検出した。
【0364】
データを100,000個の細胞の平均蛍光強度として表す。
【0365】
結果
フローサイトメトリーのデータは、Th101抗体の濃度を増加させても抗体mAbα10の結合強度は有意には変化しない(
図13A~B)ことを示している。反応ウェルに添加した抗体Th101の濃度が増加(0~9μg/ml)しても(灰色のバー)、抗体mAbα10(3μg/mlの一定濃度で)に対応するシグナルは安定したままであった(黒色のバー)(各図の左部分)。
【0366】
逆も同様に、Th101の結合強度は、mAbα10の濃度の増加に影響されなかった(
図13A~B)。反応ウェルに添加した抗体mAbα10の濃度が増加(0~9μg/ml)しても(黒色のバー)、抗体Th101(3μg/mlの一定濃度)に対応するシグナルは安定したままであった(灰色のバー)(各図の右部分)。
【0367】
C2C12α10細胞株(
図13A)およびBT549細胞株(
図13B)のそれぞれについても同様の結果が得られた。
【0368】
結論
もし抗体が同一のエピトープに結合するのであれば、同一の結合部位への競合により一方の抗体の濃度を増加させると他方の抗体の結合が低下するはずである。これは除外されるので、本結果は、2種のインテグリンα10モノクローナル抗体mAbα10およびTh101がインテグリンα10抗原の異なるエピトープに結合することを示唆している。
【0369】
実施例13:配列
ヒトインテグリンα10ポリペプチドの配列情報
配列番号1
ヒトインテグリンα10の完全長ポリペプチド
配列リストを参照のこと。
配列番号2
ヒトインテグリンα10の細胞外ドメイン
配列リストを参照のこと。
配列番号3
ヒトインテグリンα10のIドメイン
配列リストを参照のこと。
【0370】
抗インテグリンα10抗体Th101の配列情報
配列番号4:
重鎖可変領域の相補性決定領域1(CDR-H1)
FTFSDYGMN
配列番号5:
重鎖可変領域の相補性決定領域2(CDR-H2)
VISYDGSNKYYADSVKG
配列番号6:
重鎖可変領域の相補性決定領域3(CDR-H3)
GGNWGVFDY
配列番号7:
軽鎖可変領域の相補性決定領域4(CDR-L1)
SGSSSNIGSNPVH
配列番号8:
軽鎖可変領域の相補性決定領域5(CDR-L2)
ENNKRPS
配列番号9:
軽鎖可変領域の相補性決定領域6(CDR-L3)
AAWDDSLSGQGV
配列番号10:
重鎖可変領域
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSDYGMNWVRQAPGKGLEWVAVISYDGSNKYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARGGNWGVFDYWGQGTLVTVSS
配列番号11:
軽鎖可変領域
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCSGSSSNIGSNPVHWYQQLPGTAPKLLIYENNKRPSGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLRSEDEADYYCAAWDDSLSGQGVFGGGTKLTVLG
【0371】
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