IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシーの特許一覧

特表2022-530398ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーを含む粉末材料(P)及びその付加製造のための使用
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(54)【発明の名称】ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーを含む粉末材料(P)及びその付加製造のための使用
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20220622BHJP
   C08G 75/20 20160101ALI20220622BHJP
   C08G 75/029 20160101ALI20220622BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20220622BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20220622BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20220622BHJP
【FI】
C08L81/02
C08G75/20
C08G75/029
B29C64/314
B29C64/153
B29C64/112
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021562891
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(85)【翻訳文提出日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 EP2020059940
(87)【国際公開番号】W WO2020216615
(87)【国際公開日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】62/838,993
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】19178736.5
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ウォード, クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ジェオル, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ギルケンソン, ブリタニー
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ホン
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
4J030
【Fターム(参考)】
4F213AA34
4F213AB06
4F213AB07
4F213AB11
4F213AB12
4F213AB17
4F213AC04
4F213AR06
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL23
4F213WL25
4F213WL96
4J002CN011
4J002DJ016
4J002FD206
4J002GC00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GT00
4J002HA09
4J030BA03
4J030BA08
4J030BA10
4J030BA49
4J030BC34
4J030BC36
4J030BD02
4J030BG34
(57)【要約】
本発明は、式(I)に従って繰り返し単位p、q、及びrを含む少なくとも1種のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)を含む粉末材料(M)に関する:
(式中、
、n、及びnはそれぞれ、各繰り返し単位p、q、及びrのモル%であり;
繰り返し単位p、q、及びrは、ブロックの中で交互に又はランダムに配置されており;
2≦(n+n)/(n+n+n)≦9であり;
≧0%且つn≧0%であり;
jはゼロ又は1~4で変化する整数であり;
は、ハロゲン原子、C~C12アルキル基、C~C24アルキルアリール基、C~C24アラルキル基、C~C24アリーレン基、C~C12アルコキシ基、及びC~C18アリールオキシ基からなる群から選択される)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造のための粉末材料(M)であって、
- 式(I)に従って繰り返し単位p、q、及びrを含む少なくとも1種のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーを含む少なくとも1種のポリマー成分(P):
(式中、
、n、及びnはそれぞれ、各繰り返し単位p、q、及びrのモル%を表し;
繰り返し単位p、q、及びrは、ブロックの中で交互に又はランダムに配置されており;
2%≦(n+n)/(n+n+n)≦9%であり;n≧0%且つn≧0%であり;
jはゼロ又は1~4で変化する整数であり;
は、ハロゲン原子、C~C12アルキル基、C~C24アルキルアリール基、C~C24アラルキル基、C~C24アリーレン基、C~C12アルコキシ基、及びC~C18アリールオキシ基からなる群から選択される)と、
- 任意選択的な1種以上の流動剤(F)と、
- 潤滑剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、顔料、加工助剤、染料、充填剤、ナノフィラー、又は電磁吸収剤、及び難燃剤からなる群から選択される任意選択的な1種以上の添加剤(A)と、
を含む、粉末材料(M)。
【請求項2】
前記PASが、n+n+n≧50%になるものである、請求項1に記載の粉末材料(M)。
【請求項3】
前記PASが、繰り返し単位pと、繰り返し単位q及び/又はrとからなるか、又はこれらから本質的になるものである、請求項1又は2に記載の粉末材料(M)。
【請求項4】
前記PASが、式(I)中のjがゼロであるものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉末材料(M)。
【請求項5】
前記PASが、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を使用する示差走査熱量計(DSC)の2回目の加熱スキャンで決定される20J/g超の融解熱を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末材料(M)。
【請求項6】
前記PASが、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を使用する示差走査熱量計(DSC)の2回目の加熱スキャンで決定した場合に最大280℃、好ましくは最大278℃、より好ましくは最大275℃、及び/又は少なくとも240℃、好ましくは少なくとも248℃、より好ましくは少なくとも250℃の融点を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の粉末材料(M)。
【請求項7】
前記流動剤(F)が、シリカ、アルミナ、及び酸化チタンからなる群から選択される無機顔料である、請求項1~6のいずれか一項に記載の粉末材料(M)。
【請求項8】
前記流動剤(F)がヒュームドシリカである、請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末材料(M)。
【請求項9】
前記材料(M)が、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される15~80μmの範囲のd0.5-値を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末材料(M)。
【請求項10】
三次元(3D)物品、部品、又は複合材料を製造する方法であって、
a)請求項1~9のいずれか一項に記載の粉末材料(M)の連続する層を堆積すること、及び
b)後続の層の堆積前に層を印刷すること、
を含む方法。
【請求項11】
前記工程b)が粉末の電磁放射による選択的焼結を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の粉末材料(M)から付加製造によって得られる三次元(3D)物品、部品、又は複合材料であって、前記付加製造が選択的レーザー焼結(SLS)、複合材料に基づく付加製造技術(「CBAM」)、又はマルチジェットフュージョン(MJF)である、三次元(3D)物品、部品、又は複合材料。
【請求項13】
付加製造、好ましくは選択的レーザー焼結(SLS)、複合材料に基づく付加製造技術(「CBAM」)、又はマルチジェットフュージョン(MJF)を使用して三次元(3D)物体を製造するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の粉末材料(M)の使用。
【請求項14】
任意選択的に1種以上の流動剤(F)及び/又は1種以上の添加剤(A)と組み合わされた、式(I)による繰り返し単位p、q、及びrを含む少なくとも1種のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマー
(式中、
、n、及びnはそれぞれ、各繰り返し単位p、q、及びrのモル%であり;
繰り返し単位p、q、及びrは、ブロックの中で交互に又はランダムに配置されており;
2%≦(n+n)/(n+n+n)≦9%であり;n≧0%且つn≧0%であり;
jはゼロ又は1~4で変化する整数であり;
は、ハロゲン原子、C~C12アルキル基、C~C24アルキルアリール基、C~C24アラルキル基、C~C24アリーレン基、C~C12アルコキシ基、及びC~C18アリールオキシ基からなる群から選択される)
を含むポリマー成分(P)の、
付加製造用の、好ましくは選択的レーザー焼結(SLS)、複合材料に基づく付加製造技術(「CBAM」)、又はマルチジェットフュージョン(MJF)用の粉末材料(M)製造のための使用。
【請求項15】
石油及びガス用途、自動車用途、電気及び電子用途、又は航空宇宙及び消費財における請求項12に記載の物品、部品、又は複合材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年4月26日出願の米国特許第62/838,993号及び2019年6月6日出願の欧州特許第19178736.5号に基づく優先権を主張するものであり、これらの出願のそれぞれの全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、少なくとも1種のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーを含む粉末材料(M)、及びそのような粉末材料(M)から三次元(3D)物品、部品、又は複合材料を製造するための方法に関する。本発明は、そのようなプロセスから得られる3D物品、部品、又は複合材料、並びに石油及びガス用途、自動車用途、電気及び電子用途、又は航空宇宙及び消費財における物品、部品、又は複合材料の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
家庭用品からモーター部品に至るまで多くの物体は、単一の材料の塊から製造されるか、又はそれらは材料のより大きなブロックから粉砕又は彫刻される。物体を製造する別のアプローチは、材料の薄層を粉末として堆積し、次いでその上に別の層を付加し、続いて別の層を付加し、以降同様にしていくことである。この付加プロセスにより、より一般的には3D印刷として知られる付加製造(AM)という名前が生まれた。モーター部品から歯科インプラントに至るまで、市場に出回っている特別に設計された3D印刷製品の範囲は現在かなりの量である。それらは特にプラスチックを使用して製造することができる。付加製造は、確立された慣行を崩し、遠方の工場での大量生産に関する従来の仮定を覆すことが見込まれる。エンドユーザーに近い、少量の、又は更には単一の物品の現地製造が実行可能になるであろう。
【0004】
粉末の形態でポリマー部品材料を使用する既知のAM方法に関連する基本的な制限の1つは、許容可能な密度及び機械的特性で3D部品/物体を印刷するために適切な一連の特性を示す材料の識別の欠如に基づいている。
【0005】
ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーは、高い引張弾性率及び高い引張強度などの顕著な機械的特性と、熱分解及び化学反応性に対する並外れた安定性とを有する半結晶性熱可塑性ポリマーである。これらは、射出成形などの優れた溶融加工も特徴とする。
【0006】
この幅広い特性のため、PASポリマーは、例えば自動車、電気、電子、航空宇宙、及び電化製品の市場における多数の用途に適している。
【0007】
上述した利点にもかかわらず、PASポリマーは、低い耐衝撃性及び低い破断点伸び、言い換えると不十分な延性及び不十分な靭性を示すことが知られている。
【0008】
したがって、高い引張強度を維持しながらも延性及び靭性が改善された、付加製造で使用するためのPASポリマーが必要とされている。
【0009】
国際公開第2017/1226484号パンフレット(Toray)は、粉末焼結で3Dプリンターによって3Dモデルを製造するための粉末としてのPAS樹脂の使用について記載している。
【0010】
国際公開第2020/011991号パンフレット(Solvay)は、AMで使用可能なPASポリマーに関する。このPASは、主要な技術的特徴として、ICP-OESにより標準で校正された蛍光X線(XRF)分析によって測定される200ppm未満のカルシウム含有量を示すものである。
【0011】
国際公開第2020/011990号パンフレット(Solvay)には、レーザー焼結に基づくAMシステムを使用する3D物体の製造などの用途によく適した粉末になるような流動性を示すPASポリマーが記載されており、このシステムの中では粉末は、印刷プロセス中の粉末のパッキングを容易にするために良好な流動挙動を示さなければならない。
【0012】
これらの文献には、本明細書に記載されるようなPASポリマーを含むAMで使用するための粉末材料は記載されていない。そのような材料の使用は、従来技術の粉末よりも優れた印刷特性及び改善された最終部品の特徴(機械的及び部品の美観)をもたらすことが示されている。
【0013】
発明の開示
本明細書では、粉末材料(M)、並びに「ポリ(アリーレンスルフィド)」又はPASとも呼ばれる、少なくとも1種のポリ(アリーレンスルフィド)ポリマーを含む粉末材料(M)から3D物体(すなわち物品、部品、又は複合材料)を製造する方法が本明細書に開示される。ポリ(アリーレンスルフィド)ポリマーへの言及は、本明細書で「ポリフェニレンスルフィド」又はPPSとも呼ばれるポリフェニレンスルフィドポリマーを具体的に含むが、これに限定されない。
【0014】
本発明の粉末材料(M)は、球形などの規則的な形状を有することができ、或いはポリマー成分(P)、すなわち少なくともPASポリマーをペレット若しくは粗い粉末の形態で粉砕/破砕することによって得られる複雑な形状を有することができる。
【0015】
本明細書において、別段の指示がない限り、以下の用語は、以下の意味を有するものとする。
【0016】
「スルフィド部位」という表現は、式(I)の繰り返し単位pの-S-架橋を意味することが意図されている。
【0017】
「スルホキシド部位」という表現は、式(I)の繰り返し単位qの-SO-架橋を意味することが意図されている。
【0018】
「スルホン部位」という表現は、式(I)の繰り返し単位rの-SO-架橋を意味することが意図されている。
【0019】
「酸化された部位」という表現は、より一般的であり、スルホキシド部位とスルホン部位の両方を意味することが意図されている。
【0020】
本出願では、
- いずれの記載も、特定の実施形態に関連して記載されているとしても、本開示の他の実施形態に適用可能であり、且つそれらと交換可能であり;
- 要素若しくは成分が、列挙された要素若しくは成分のリストに含まれる及び/又はリストから選択されると言われる場合、本明細書で明示的に企図される関連実施形態では、要素若しくは成分はまた、個別の列挙された要素若しくは成分のいずれか1つであることができるか、又は明示的にリストアップされた要素若しくは成分の任意の2つ以上からなる群からまた選択することができ;要素若しくは成分のリストに列挙されたいかなる要素若しくは成分も、このようなリストから省略され得ることが理解されるべきであり;
- 端点による数値範囲の本明細書でのいかなる列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び同等物を含む。
【0021】
第1の態様では、本発明は、ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーを含む粉末材料(M)に関し、前記PASポリマーは、式(I)に従って繰り返し単位p、q、及びrを含む:
(式中、
、n、及びnはそれぞれ、各繰り返し単位p、q、及びrのモル%を表し;
繰り返し単位p、q、及びrは、ブロックの中で交互に又はランダムに配置されており;
2%≦(n+n)/(n+n+n)≦9%であり;
≧0%且つn≧0%であり;
jはゼロ又は1~4で変化する整数であり;
は、ハロゲン原子、C~C12アルキル基、C~C24アルキルアリール基、C~C24アラルキル基、C~C24アリーレン基、C~C12アルコキシ基、及びC~C18アリールオキシ基からなる群から選択される)。
【0022】
粉末ポリマー材料(M)
本発明の粉末材料(M)は、少なくとも1種のポリマー成分(P)を含む。粉末材料(M)のポリマー成分(P)は、以下に記載される1種以上のPASを含み得る。これは、本明細書に記載のPASポリマーとは異なる少なくとも1種の追加のポリマー材料、すなわち少なくとも1種のポリマー又はコポリマーも含み得る。この追加のポリマー材料は、例えば、ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)ポリマー、例えば、ポリ(ビフェニルエーテルスルホン)(PPSU)ポリマー又はポリスルホン(PSU)ポリマー、及びポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマー、例えば、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)ポリマーからなる群から選択されることができる。この追加のポリマー材料は、本明細書に記載のPASとは異なるポリ(硫化アリーレン)(PAS*)、例えばポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)ポリマーのホモポリマーであってもよい。
【0023】
本明細書に記載のPASは、式(I)による繰り返し単位p、q、及びrを含む:
(式中、繰り返し単位p、q、及びrは、ブロックの中で交互に又はランダムに配置されている)。
【0024】
式(I)において、jは、ゼロ又は1~4で変化する整数である)。
【0025】
好ましくは、式(I)においてjはゼロであり、これは、芳香環が無置換であることを意味する。したがって、繰り返し単位p、q、及びrは、それぞれ以下の式(II)、(III)、及び(IV)に従う:
【0026】
jが1から4の間で変化する場合、Rは、ハロゲン原子、C~C12アルキル基、C~C24アルキルアリール基、C~C24アラルキル基、C~C24アリーレン基、C~C12アルコキシ基、及びC~C18アリールオキシ基からなる群から選択することができる。
【0027】
式(I)において、それぞれn、n、及びnで表される繰り返し単位p、q、及びrのモルパーセントは、2%≦(n+nr)/(n+n+nr)≦9%になるような割合であり、これは、式(I)のPASポリマーが、ポリマー中の繰り返し単位p、q、及びrの総数を基準として2~9モル%の酸化された繰り返し単位q及びrを含むことを意味する。
【0028】
本明細書に記載のPASポリマーは繰り返し単位pを含み、且つこれは繰り返し単位q及び/又はrを含む。PASポリマーが繰り返し単位p、q、及びrを含む場合、上記の式のnとnは共に>0%である。或いは、本明細書に記載のPASポリマーは、繰り返し単位p及びqを含み得るが、繰り返し単位rを含まない場合がある。この場合、nは≧2%であるが、n=0%である。第3の可能性によれば、本明細書に記載のPASポリマーは、繰り返し単位p及びrを含み得るが、繰り返し単位qを含まない場合がある。この場合、nは≧2%であるが、n=0%である。
【0029】
いくつかの実施形態では、式(I)における繰り返し単位p、q、及びrのモルパーセントは:
2.2%≦(n+nr)/(n+n+nr)≦8.8%又は
2.5%≦(n+nr)/(n+n+nr)≦8.5%又は
2.8%≦(n+nr)/(n+n+nr)≦8.2%又は
3.0%≦(n+nr)/(n+n+nr)≦7.0%
になるような割合である。
【0030】
一実施形態によれば、合計n+n+nは少なくとも50%であり、これは、PASが、PASポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として少なくとも50モル%の繰り返し単位p、q、及びrを含むことを意味する。例えば、合計n+n+nは、PASポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は更には少なくとも95%であってよい。
【0031】
本明細書に記載の実施形態によれば、PASは、繰り返し単位p、並びに繰り返し単位q及び/又はrからなるか、本質的にこれらからなる。「から本質的になる」という表現は、PASが、繰り返し単位p、並びに繰り返し単位q及び/又はrと、同様にPASポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として10モル%未満、好ましくは5モル%未満、より好ましくは3モル未満、更により好ましくは1モル%未満の、繰り返し単位p、q、及びrとは異なる他の繰り返し単位とを含むことを意味する。
【0032】
一実施形態によれば、本明細書に記載のPASポリマーは、式(V)及び/又は(VI)のそれぞれ繰り返し単位s及び/又はtを更に含む。
(式中:
jはゼロ又は1~4で変化する整数であり;
は、ハロゲン原子、C~C12アルキル基、C~C24アルキルアリール基、C~C24アラルキル基、C~C24アリーレン基、C~C12アルコキシ基、及びC~C18アリールオキシ基からなる群から選択される)。
【0033】
式(V)及び(VI)において、iは好ましくはゼロであり、これは芳香環が無置換であることを意味する。
【0034】
合計n+nは、PASポリマーの繰り返し単位の総モル数を基準として10モル%未満、好ましくは5モル%未満、より好ましくは3モル%未満、更により好ましくは1モル%未満である。
【0035】
一実施形態によれば、合計n+n+nは100%であり、nとnのうちの少なくとも1つは0モル%よりも多い。
【0036】
一実施形態によれば、合計n+n+nは100%未満である。この実施形態では、PASポリマーは、p、r及びqとは異なる少なくとも1種の繰り返し単位、例えば、式(V)及び/又は(VI)による繰り返し単位を含む。
【0037】
別の実施形態によれば、合計n+n+n+n+nは100%であり、nとnのうちの少なくとも1つは0モル%よりも多く、nとnのうちの少なくとも1つは0モル%よりも多い。
【0038】
好ましくは、PASは、最大700g/10分、より好ましくは最大500g/10分、更により好ましくは最大200g/10分、なおより好ましくは最大50g/10分、実により好ましくは最大35g/10分のメルトフローレート(ASTM D1238、手順Bによる1.27kgの荷重下、315.6℃において)を有する。
【0039】
好ましくは、PASは、少なくとも1g/10分、より好ましくは少なくとも5g/10分、更により好ましくは少なくとも10g/10分、なおより好ましくは少なくとも15g/10分のメルトフローレート(ASTM D1238、手順Bによる1.27kgの荷重下、315.6℃において)を有する。
【0040】
好ましくは、PASは、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を使用する示差走査熱量計(DSC)の2回目の加熱スキャンで決定した場合に少なくとも240℃、より好ましくは少なくとも248℃、更により好ましくは少なくとも250℃の融点を有する。
【0041】
好ましくは、PASは、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を使用する示差走査熱量計(DSC)の2回目の加熱スキャンで決定した場合に最大280℃、より好ましくは最大278℃、更により好ましくは最大275℃の融点を有する。
【0042】
いくつかの実施形態では、PASは、ASTM D3418に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を使用する示差走査熱量計(DSC)の2回目の加熱スキャンで決定される20J/g超、好ましくは21J/g超、又は22J/g超の融解熱を有する。
【0043】
本発明の粉末材料(M)は、上述した少なくとも1種のPASポリマーを含む1種のポリマー成分(P)を含む。本発明の粉末材料(M)は、1種以上のポリマーから本質的に構成されていてもよく、例えばこれは、本明細書に記載の1種のPASポリマーから本質的に構成されていてもよく、或いはこれは追加の成分、例えば後述する流動助剤/薬剤(F)及び/又は1種以上の添加剤(A)も更に含んでいてもよい。本発明の粉末材料(M)が追加の成分を含む場合、それらは、粉砕工程の前、最中、又は後に、本明細書に記載のポリマー成分に添加又はブレンドすることができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態によれば、粉末材料(M)は、イソプロパノール中でのレーザー散乱で測定される、150μm未満のd90値を有する。一実施形態によれば、粉末材料(M)は、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される、120μm未満、好ましくは110μm未満又は100μm未満のd90値を有する。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態によれば、粉末材料(M)は、イソプロパノール中でのレーザー散乱で測定される、0.1μmより大きいd10値を有する。好ましい実施形態によれば、粉末材料(M)は、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される、1μmより高い、好ましくは5μmより高い又は10μmより高いd10値を有する。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態によれば、粉末材料(M)は、イソプロパノール中でのレーザー散乱により測定される、40~70μm、好ましくは40~60μm、又は43~58μm、又は45~55μmに含まれるd50値を有する。そのような粒子サイズ分布を有する粉末材料(M)は、例えば選択的レーザー焼結(SLS)に適している。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態では、粉末材料(M)は、イソプロパノール中でのレーザー散乱で測定される195μm未満のd99値を有する。好ましい実施形態によれば、粉末材料(M)は、イソプロパノール中でのレーザー散乱によって測定される、190μm未満、好ましくは180μm未満又は170μm未満のd99値を有する。
【0048】
本発明の粉末材料(M)は、最大で25℃の浸漬/排気温度を使用してISO 9277により測定される、0~30m/g、好ましくは0.5~20m/g、より好ましくは0.8~15m/gの範囲のBET表面積を有し得る。
【0049】
本開示の粉末材料(M)は、少なくとも0.35、好ましくは少なくとも0.45、最も好ましくは少なくとも0.50のかさ密度(又は注ぎ込みかさ密度(poured bulk density))を有し得る。かさ密度は最大5である。
【0050】
一実施形態によれば、本発明の粉末材料(M)は、粉末材料(M)の総重量を基準として少なくとも50重量%のポリマー成分(P)、例えば少なくとも60重量%のポリマー成分(P)、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、又は少なくとも99重量%の、本明細書に記載のポリマー成分(P)を含む。
【0051】
一実施形態によれば、ポリマー成分(P)は、粉末の総重量を基準として少なくとも50重量%の本明細書に記載のPAS、例えば少なくとも60重量%の本明細書に記載のPAS、少なくとも70重量%、少なくともの80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、又は少なくとも99重量%の本明細書に記載のPASを含む。
【0052】
ポリマー成分(P)の粉砕工程、特に本明細書に記載のPASの粉砕工程の前、最中、又は後に、付加製造のために粉末を使用する前に、追加の成分をポリマー成分(P)に特に添加することができる。例えば、更なる成分は流動剤(F)であり得る。この流動剤(F)は例えば、親水性であり得る。親水性流動助剤の例は、シリカ、アルミナ及び酸化チタンからなる群からとりわけ選択される無機顔料である。ヒュームドシリカを挙げることができる。ヒュームドシリカは、商標名Aerosil(登録商標)(Evonik)及びCab-O-Sil(登録商標)(Cabot)で市販されている。ヒュームドアルミナは、商標名SpectraAl(登録商標)(Cabot)で市販されている。
【0053】
本発明の一実施形態によれば、粉末材料(M)は、粉末の総重量を基準として0.01~10重量%の流動剤(F)、例えば0.05~8重量%、0.1~6重量%、又は0.15~5重量%の少なくとも1種の流動剤(F)、例えば少なくともヒュームドシリカ又はフュームドアルミナを含む。
【0054】
これらのシリカ又はアルミナは、ナノメートルの一次粒子(ヒュームドシリカ又はアルミナについては通常、5~50nm)で構成される。これらの一次粒子は、結合して凝集体を形成する。流動剤としての使用において、シリカ又はアルミナは、様々な形態(基本粒子及び凝集体)で見出される。
【0055】
本発明の粉末材料(M)は、1種以上の添加剤(A)、例えば、充填剤(炭素繊維、ガラス繊維、粉砕炭素繊維、粉砕ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスミクロスフェア、ウォラストナイト、シリカビーズ、タルク、炭酸カルシウムなど)、着色剤、染料、顔料、潤滑剤、可塑剤、難燃剤(ハロゲン及びハロゲンフリー難燃剤など)、造核剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、加工助剤、融着剤、及び電磁吸収剤からなる群から選択される添加剤も含んでいてもよい。これらの任意選択的な添加剤(A)の具体的な例は、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、シリカ又は硫化亜鉛、ガラス繊維、炭素繊維である。
【0056】
本発明の粉末材料(M)は、ハロゲン難燃剤及びハロゲンフリー難燃剤などの難燃剤も含み得る。
【0057】
本発明の別の実施形態では、粉末材料(M)は、粉末の総重量を基準として0.01~30重量%の少なくとも1種の添加剤(A)、例えば0.05~25重量%、0.1~20重量%、又は0.15~10重量%の少なくとも1種の添加剤(A)を含む。
【0058】
一実施形態によれば、本発明の粉末材料(M)は、
- 少なくとも50重量%のポリマー成分(P)と、
- 0.01重量%~10重量%、0.05~8重量%、0.1~6重量%、又は0.15~5重量%の少なくとも1種の流動剤(F)と、
- 任意選択的な少なくとも1種の添加剤(A)、例えば、充填剤(炭素繊維、ガラス繊維、粉砕炭素繊維、粉砕ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスミクロスフェア、ウォラストナイト、シリカビーズ、タルク、炭酸カルシウムなど)、着色剤、染料、顔料、潤滑剤、可塑剤、難燃剤(ハロゲン及びハロゲンフリー難燃剤など)、造核剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、加工助剤、融着剤、及び電磁吸収剤からなる群から選択される添加剤と、
を含み、%は粉末の総重量基準である。
【0059】
本明細書に記載のPASポリマーは、式(VII)のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS-p):
(式中:
jはゼロ又は1~4で変化する整数であり;
は、ハロゲン原子、C~C12アルキル基、C~C24アルキルアリール基、C~C24アラルキル基、C~C24アリーレン基、C~C12アルコキシ基、及びC~C18アリールオキシ基からなる群から選択される)
の固体粒子を酸化する工程を含む方法によって調製することができ、前記酸化工程は、酸化剤を含む液体の中で行われる。
【0060】
酸化剤は、PAS-pのスルフィド部位の2~9モル%がスルホキシド部位及び/又はスルホン部位へと酸化されるような量で使用され、その結果上述したPASが得られる。液体は、有利には、PAS-pポリマー中のスルフィド部位の2~9モル%の量の酸化剤を含む。前記液体は、例えば酢酸を含み得る。前記酸化剤は、例えば過酸化水素であってもよい。前記液体は、例えば酢酸と過酸化水素との反応によって形成される過酸も含み得る。
【0061】
本発明は、微粉末が粉砕、溶媒からの析出プロセス、粗い粉末又は顆粒からの溶融噴霧又は噴霧乾燥によって製造される、三次元部品を層ごとに製造する方法で使用するための粉末材料(M)の製造方法にも関する。
【0062】
本発明の付加製造方法で使用される粉末材料(M)は、
工程1’)ポリマー成分(P)を粉砕する、特に本明細書に記載のPASポリマーを粉砕する工程と、
工程2’)工程1’)からのポリマー成分(P)を任意選択的な成分、例えば少なくとも1種の流動剤(F)とブレンドする工程と、
によって得ることができる。
【0063】
或いは、本発明の付加製造方法で使用される粉末材料(M)は、
工程1’’)ポリマー成分(P)を任意選択的な成分、例えば少なくとも1種の流動剤(F)とブレンドする工程と、
工程2’’)工程1’’)からのブレンドを粉砕する、特に本明細書に記載のPASポリマーを粉砕する工程と、
によって得ることができる。
【0064】
粉砕工程は、ピン付きディスクミル、分級機付きジェットミル/流動化ジェットミル、インパクトミル及び分級機、ピン/ピン-ビーターミル若しくは湿式粉砕ミル又はこうした装置の組み合わせで行うことができる。
【0065】
粉砕された粉末材料は、好ましくは、空気分離器又は分級機で分離又はふるい分けされて、所定の画分スペクトルを得ることができる。粉末材料(M)は、好ましくは、プリンターで使用する前にふるい分けされる。ふるい分けは、適切な装置を使用して、200μm、150μm、140μm、130μm、120μm、110μm又は100μmを超える粒子を除去することを含む。
【0066】
別の態様によれば、本発明は、三次元(3D)物品、部品、又は複合材料を製造する方法であって、粉末材料(M)の連続する層を堆積することと、例えば粉末の電磁放射によって後続の層を堆積する前に各層を選択的に焼結することとを含む方法に関する。
【0067】
本発明の付加製造方法は、好ましくは、選択的レーザー焼結(SLS)、複合材料に基づく付加製造技術(「CBAM」)、又はマルチジェットフュージョン(MJF)からなる群から選択される。
【0068】
付加製造方法は、通常、3Dプリンターを使用して行われる。
【0069】
SLS 3Dプリンターは、例えば、EOS Corporationから商標名EOSINT(登録商標)Pとして入手できる。
【0070】
MJF 3Dプリンターは、例えば、Hewlett-Packard Companyから商標名Multi Jet Fusionとして入手できる。
【0071】
粉末を使用して、例えばImpossible Objectsが開発したCBAMプロセスにおいて連続繊維複合材を作製することもできる。
【0072】
一実施形態によれば、層を印刷する工程は、粉末材料(M)の電磁放射、例えば電磁ビーム源などの高出力レーザー源による粉末材料(M)の選択的焼結を含む。
【0073】
3D物体/物品/部品は、基材上、例えば水平基材上及び/又は平面基材上に構築され得る。基材は、全ての方向、例えば水平方向又は垂直方向に移動可能であり得る。3D印刷プロセス中、未焼結ポリマー材料の連続層が焼結ポリマー材料の前の層の最上部上に焼結されるために、基材を例えば下げることができる。
【0074】
一実施形態によれば、本プロセスは、支持構造体を製造することを含む工程を更に含む。この実施形態によれば、3D物体は、支持構造体上に構築され、支持構造体及び3D物体は、両方とも同じAM方法を用いて製造される。支持構造体は、複数の状況において有用であり得る。例えば、とりわけこの3D物体が平面でない場合、成形された3D物体のゆがみを回避するために、支持構造体は、印刷された又は印刷中の3D物体に十分な支持を提供するのに有用であり得る。これは、印刷された又は印刷中の3D物体を維持するために使用される温度がポリマー成分、例えばPASポリマーの再凝固温度よりも低い場合に特に当てはまる。
【0075】
3Dプリンターは、両方とも所定の特定の温度に維持される焼結チャンバ及び粉末床を含み得る。
【0076】
印刷される粉末材料(M)は、粉末のガラス転移温度(Tg)より高く及び溶融温度(Tm)より低い処理温度(Tp)に予熱することができる。粉末材料(M)の予熱は、レーザーが未融合粉末の層の選択された領域の温度を融点まで上昇させることをより容易にする。レーザーは、インプットによって指定される場所においてのみ材料の融合を引き起こす。レーザーエネルギー曝露は、典型的には、使用中のポリマーに基づいて且つポリマー劣化を回避するために選択される。
【0077】
本発明者らは、変性されたPASを含む本発明の粉末材料(M)の印刷が、非変性PASを含む粉末材料(M)の処理温度よりも低い処理温度(Tp)で行うことができることに気付いた。これは、エネルギー消費にプラスの影響を与えることから有利である。
【0078】
物品及び用途
本発明は、本発明の付加製造方法から得られる、本明細書に記載のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)を含む物品、部品、又は複合材料、並びに石油及びガス用途、自動車用途、電気及び電子用途、又は航空宇宙及び消費財における前記物品、部品、又は複合材料の使用にも関する。
【0079】
自動車用途に関しては、前記物品は、受け皿(例えば油受け)、パネル(例えば、クォーターパネル、トランク、フードを含むがこれらに限定されない外装体パネル;並びに、ドアパネル及びダッシュパネルを含むがこれらに限定されない内装体パネル)、サイドパネル、ミラー、バンパー、バー(例えばトーションバー及びスウェイバー)、ロッド、サスペンション構成部品(例えば、サスペンションロッド、板バネ、サスペンションアーム)、並びにターボチャージャー構成部品(例えばハウジング、ボリュート、圧縮機ホイール、及びインペラー)、パイプ(例えば燃料、冷却剤、空気、ブレーキ液を運ぶため)であってよい。石油及びガスの用途に関しては、前記物品は、ダウンホール掘削管、化学注入管、海底アンビリカル及び油圧制御ラインなどの採掘構成部品であってよい。前記物品は、携帯用電子デバイス構成部品であってもよい。
【0080】
一実施形態によれば、本発明の付加製造プロセスから得られる複合材料は、連続繊維強化熱可塑性複合材料である。繊維は、炭素、ガラス、又は有機繊維(アラミド繊維など)から構成することができる。
【0081】
本発明は、付加製造、好ましくは選択的レーザー焼結(SLS)、複合材料に基づく付加製造技術(「CBAM」)、又はマルチジェットフュージョン(MJF)を使用する三次元(3D)物体の製造のための、本明細書に記載の粉末材料(M)の使用にも関する。
【0082】
本発明は、付加製造、好ましくは選択的レーザー焼結(SLS)、複合材料に基づく付加製造技術(「CBAM」)、又はマルチジェットフュージョン(MJF)のための粉末材料(M)を製造するための、上述した少なくとも1種のポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーを含むポリマー成分(P)の使用にも関する。
【0083】
本発明はこれから以下の実施例に関連して説明されるが、その目的は例示に過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例
【0084】
原材料
Ryton(登録商標)QA200Nは、Solvay Specialty Polymers USAから商業的に入手可能なポリ(アリーレンスルフィド)である。
【0085】
過酸化水素30%w/w水溶液はFischerから購入した。
純度99%の酢酸はVWRから購入した。
【0086】
合成実施例
PASポリマー#1(本発明)
4枚傾斜型撹拌機と、凝縮器と、加熱用の二重ジャケットと、シリンジポンプとを備えた1L反応器内で、窒素雰囲気下、Ryton(登録商標)QA200N(200g、1.0当量)を酢酸(400mL)中に懸濁させた。
【0087】
得られた懸濁液を室温で撹拌し、過酸化水素30%w/w(6.0g、0.03当量)をシリンジポンプから15分間かけて添加した。
【0088】
温度を70℃まで上げ(二重ジャケットを75℃に設定)、反応混合物をこの温度で3時間撹拌した。撹拌速度は300rpmに設定した。次いで、Quantofix過酸化物試験スティックを使用した上清みの分析により、過酸化物が存在しないことを確認した。
【0089】
その後、反応混合物を室温まで冷却してから濾過した。回収した固形物を室温で酢酸で2回洗浄した(2×100mL)。その後、固体をロータリーエバポレーターで20mbarの圧力及び50℃の温度で2時間乾燥させた。その後、回収した固形物を真空(約20mbar)下、120℃で7時間乾燥させた。
【0090】
得られた生成物は式(I)のポリ(フェニレンスルフィド)であり、j=0、n=96%、n+n=4%である。したがって、これらの条件下では、Ryton(登録商標)QA200Nの硫化物部位の4モル%がスルホキシド部位及びスルホン部位へと酸化された。
【0091】
ポリマー成分の特性評価
DSC/融解熱
DSC分析は、ASTM D3418に従ってDSC Q200-5293 TA装置で行い、データは、2回の加熱と1回冷却の手法によって収集した。使用したプロトコルは以下の通りである:20.00℃/分で30.00℃から350.00℃までの1回目の加熱サイクル;5分間等温;20.00℃/分で350.00℃から30.00℃までの1回目の冷却サイクル;20.00℃/分で30.00℃から350.00℃までの2回目の加熱サイクル。溶融温度(T)は1回目と2回目の加熱サイクルの間に記録され、溶融結晶化温度(Tmc)は冷却サイクル中に記録され、ガラス転移温度(T)は2回目の加熱サイクル中に記録され、溶融エンタルピー(ΔH)は、2回目の加熱サイクル中に記録される。
【0092】
ポリマー成分の粉砕-粉末材料の調製
Ryton(登録商標)QA200N(比較)及びPASポリマー#1(本発明)を、ローターアトリッションミル(Retsch Rotor Mill SR300)での粉砕によって粉末に変換し、特性評価した。結果は表1に示されている。
【0093】
その後、粉末をドラムローリングにより0.3%ヒュームドシリカ(Cabot CorporationからのCab-O-Sil(登録商標)M-5)と混合し、No.120メッシュの張力をかけたふるい絹(孔径147μm)を通してふるいにかけた。
【0094】
PSD
粒子サイズ(d10、d50、及びd90 は、ウェットモード(128チャネル、0.0215~1408μm)のMicrotrac S3500分析器上でのレーザー散乱技術による平均3回の実施により最終粉末で決定した。使用した溶媒は、屈折率1.38のイソプロパノールであり、粒子は1.59の屈折率を有すると仮定した。超音波モードが可能にされ(25W/60秒)、流量は、55%に設定された。結果を以下の表2に示す。
【0095】
BET表面積及びかさ密度
最終粉末のBET表面積(マルチポイント)は、TriStar II Plusバージョン3.01の表面積及び細孔分析器で、ISO 9277に準拠した窒素(N2)ガス吸着によって決定した。粉末のかさ密度は、ASTM D1895の方法Aにより決定した。結果を以下の表2に示す。
【0096】
【0097】
【0098】
印刷
以下の印刷設定を使用して、EOSINT(登録商標)P800 SLSプリンター上で印刷を行った:ハッチレーザー出力17ワット、輪郭レーザー出力8.5ワット、レーザー速度2.65m/秒、及び印刷完了後の冷却速度10℃/分未満。粉末材料は、ASTMタイプI引張棒へと焼結した。
【0099】
印刷された棒の特性評価
ASTMタイプI引張棒を、ASTM D638に従って試験した。表3に報告されている結果は5本の棒の平均である。
【0100】
結果
【0101】
【0102】
未変性PPSであるRyton(登録商標)QA200Nを含む粉末(比較粉末)は、最初に263℃の処理温度で印刷したが、これはカーリングが生じた。そのため、比較粉末の処理温度は、カーリングを回避するために275℃に調整した。本発明のPASポリマー#1に基づく粉末は、263℃の処理温度で印刷され、カールは起こらなかった。
【0103】
本発明の粉末は、比較の粉末よりも優れた印刷特性及び最終的に得られる印刷部品の特性(機械的及び部品の美観)を示した。印刷中、本発明の粉末は、印刷全体を通して滑らかな床表面を示した。これは、印刷完了の成功と許容可能な部品をもたらす安定した印刷を得るために重要である。
【0104】
本発明の粉末から印刷された棒は滑らかな表面を示した。
【0105】
本発明の粉末の使用することで、未変性のRyton(登録商標)QA200Nよりも優れた機械的特性(引張強さと破断点引張伸びの両方)を有する部品が得られた。
【国際調査報告】