(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(54)【発明の名称】システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20220622BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20220622BHJP
G02C 7/04 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
A61F2/16
C08F8/00
G02C7/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563279
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(85)【翻訳文提出日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 EP2020061507
(87)【国際公開番号】W WO2020216928
(87)【国際公開日】2020-10-29
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522145638
【氏名又は名称】エイエムオー・アイルランド
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】シュラウプ,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ドーベルマン-マラ,ラース
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムステッター,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】リードミュラー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター,ハラルド
【テーマコード(参考)】
2H006
4C097
4J100
【Fターム(参考)】
2H006BB06
2H006BC07
4C097AA25
4C097BB01
4C097DD01
4C097EE01
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4J100AL08P
4J100BA02P
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4J100BC01H
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4J100HE20
4J100JA33
4J100JA34
4J100JA51
(57)【要約】
本発明は、一般的に、人工レンズ、好ましくは患者の眼内に配置される、好ましくは眼内レンズを照射する二光子、または多光子のためのシステム、および人工レンズ、好ましくは患者の眼内に配置される、好ましくは眼内レンズの偏光性、および/または屈折率を局所的に調整するための方法に関する。方法は、特に、非破壊的な方法で二または多光子プロセスを通して偏光性を調整することによる光学プロファイルの製作に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工レンズを照射するためのシステムであって、システムは、
前記人工レンズ(3)に、光学部(16)で集束され、第1の波長、および/または第1の波長とは異なる第2の波長の照射ビーム(2)を照射する二光子または多光子用の1つまたは2つ以上の照射源(1)、
1つまたは2つ以上の照射源(1)に連結され、前記人工レンズ(3)にわたって前記照射ビーム(2)を走査するように構成されたスキャナ(4)、および
1つまたは2つ以上の照射源(1)、およびスキャナ(4)に連結された入力ユニット(6)を含み、入力ユニット(6)は、入力データ(8)に基づいて前記人工レンズ(3)にわたって前記照射ビーム(2)を走査することによって前記人工レンズ(3)を処置するためのデータを入力するように構成され、
第1の波長は、前記人工レンズの前記処置に基づいて、前記人工レンズの偏光性を局所的に減少するために600nmから800nmの間であり、
第2の波長は、前記人工レンズの前記処置に基づいて、前記人工レンズ(3)の偏光性を局所的に減少するために400nmから590nmの間である、
前記システム。
【請求項2】
人工レンズ(3)が、コンタクトレンズまたは眼内レンズである、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
人工レンズ(3)が患者の眼内に配置される、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
入力データ(8)が、前記人工レンズ(3)のレンズデータ(10)、および/または前記人工レンズ(3)の前記処置のための処置計画に関する処置計画データ(12)を含む、請求項1~3の一項または二項以上に記載のシステム。
【請求項5】
レンズデータ(10)が、前記人工レンズ(3)の放射吸収特性に関するデータを含み、システムは、二光子または多光子吸収プロセスに基づいて、前記人工レンズが偏光性を局所的に変化させるように第1の波長、および/または第2の波長を調整するように構成される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記患者の前記眼内の前記照射ビーム(2)の焦点の位置を決定するための位置決めシステム(20)をさらに含み、
位置決めシステム(20)は、スキャナ(4)に連結され、スキャナによる前記人工レンズ(3)にわたる前記照射ビーム(2)の走査は、眼内の前記照射ビームの前記焦点の位置に基づく、請求項2から5の一項または二項以上に記載のシステム。
【請求項7】
システムは、眼に対する前記人工レンズ(3)、および照射ビームの出口の位置および/または向きを決定するように構成され、
スキャナ(4)による前記人工レンズ(3)にわたる前記照射ビーム(2)の走査は、眼に対する前記人工レンズ(3)の位置、および/または向きに基づく、請求項2~6の一項または二項以上に記載のシステム、
【請求項8】
請求項1~7の一項または二項以上に記載のシステムであって、
(i)1つまたは2つ以上の照射源(1)、および(ii)スキャナ(4)の、一方または両方に連結された温度管理ユニット(14)をさらに含み、
温度管理ユニット(14)は、前記照射ビーム(2)の照射ビーム特性、および前記人工レンズ(3)の人工レンズ特性に基づいて、前記走査による前記人工レンズ(3)の前記処置中に前記人工レンズ(3)の一部の温度を決定するように構成され、
システムは、温度の前記決定に基づいて、(i)1つまたは2つ以上の照射源(1)、および(ii)スキャナ(4)の、一方または両方を制御するように構成される、
前記システム。
【請求項9】
温度管理ユニット(14)が、前記人工レンズ(3)の前記処置中の前記温度を予測するように構成され、前記入力データ(8)が予測された温度を含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記患者の前記眼を固定位置に保つように構成されたアイインタフェースシステム(18)をさらに含む、請求項2~9の一項または二項以上に記載のシステム。
【請求項11】
二または多光子吸収プロセスに基づいて、高分子光学材料で形成された本体を含む人工レンズの偏光性を調整するためのプロセスであって、プロセスは以下のステップ:
前記レンズを提供すること;および
請求項1~10の一項または二項以上に記載のシステムを使用することにより前記レンズの照射を通して前記レンズの偏光性を調整し、その結果、人工レンズの非照射高分子光学材料に関してUV/Visスペクトルに有意差をもって高分子光学材料を変化させることを含む、
前記プロセス。
【請求項12】
人工レンズの偏光性の前記調整が、600nmから800nmの間の波長を有する照射ビームを人工レンズに照射することにより偏光性を減少させ、その結果、人工レンズの非照射高分子光学材料に関してUV/Visスペクトルに有意差、すなわち300nmから400nmの範囲でのピーク吸収の損失をもって高分子光学材料を変化させることを含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
人工レンズの偏光性の前記調整が、400nmから590nmの間の波長を有する照射ビームを人工レンズに照射することによって偏光性を増加させ、その結果、人工レンズの非照射高分子光学材料に関してUV/Visスペクトルに有意差、すなわち300nmから400nmの範囲でのピーク吸収の増加をもって高分子光学材料を変化させることを含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
人工レンズの前記高分子光学材料が、二光子または多光子プロセスの影響下で、[2π+2π]環状付加によってシクロブタン環を形成することにより二量体化することができる非芳香族二重結合を含む共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む、請求項11または12に記載のプロセス。
【請求項15】
人工レンズの前記光学材料が、すでに二量体化された光活性ユニットとともに二光子または多光子プロセスの影響下で、[2π+2π]環状付加によってシクロブタン環を形成することにより二量体化することができる非芳香族二重結合を含む共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む、請求項11~14の一項または二項以上に記載のプロセス。
【請求項16】
人工レンズの前記高分子光学材料が、二光子または一般的に多光子プロセスの影響下で分離することができる唯一の光活性ユニットとして共有結合した二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む、請求項11または13に記載のプロセス。
【請求項17】
請求項11~14の一項または二項以上に記載のプロセスであって、
[2π+2π]環状付加によってシクロブタン環を形成することにより二量体化することができる非芳香族二重結合を含む共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む提供される人工レンズが、第1の波長の照射ビームで照射され、前記照射が、前記光活性ユニットの二量体化を引き起こし、それにより、前記人工レンズの偏光性を減少させ、それにより、提供される人工レンズを改変し、改変された人工レンズが、前記[2π+2π]環状付加に由来する部分的または完全に二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含み、
任意で、前記二量体化された光活性ユニットを部分的に切断することにより前記改変された人工レンズの偏光性を局所的に増加させるために、前記改変された人工レンズに第2の波長の照射ビームを照射する、
前記プロセス。
【請求項18】
提供される人工レンズが、第2の波長の照射ビームで照射され、前記照射が前記二量体化された光活性ユニットの分離を引き起こし、それにより、前記人工レンズの偏光性を増加させ、それにより、提供される人工レンズを改変し、改変された人工レンズが、再び二量体化することができる光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含み、
任意で、前記光活性ユニットを部分的に二量体化することにより前記改変された人工レンズの偏光性を局所的に減少させるために、前記改変された人工レンズに第1の波長の照射ビームを照射する、請求項16に記載のプロセス。
【請求項19】
提供される人工レンズが、第1の波長の照射ビームで照射され、前記照射が前記光活性ユニットの二量体化を引き起こし、それにより、前記人工レンズの偏光性を減少させ、それにより、提供される人工レンズを改変し、改変された人工レンズが、前記[2π+2π]環状付加に由来するより多くの二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含むか、または
提供される人工レンズが、第2の波長の照射ビームで照射され、前記照射が前記二量体化された光活性ユニットの分離を引き起こし、それにより、前記人工レンズの偏光性を増加させ、それにより、提供される人工レンズを改変し、改変された人工レンズが[2π+2π]環状付加によってシクロブタン環を形成することにより二量体化することができるより多くの光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む、請求項15に記載のプロセス。
【請求項20】
請求項1~10の一項または二項以上に記載のシステム、および前記システムに適した少なくとも1つの人工レンズを含む部品のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、人工レンズ、好ましくは患者の眼内に配置される、好ましくは眼内レンズを照射する、二光子、または多光子のためのシステム、および人工レンズ、好ましくは患者の眼内に配置される、好ましくは眼内レンズの偏光性、および/または屈折率を局所的に調整するための方法に関する。方法は、特に、非破壊的な方法で、二または多光子プロセスを通して偏光性を調整することによる光学プロファイルの製作に関する。
【背景技術】
【0002】
材料特性の光誘導性の変化は、微細加工、3D印刷、ナノ構造、または二光子リソグラフィのようないくつかの技術分野に適用される。これにより、光重合、光誘導性材料劣化、または光化学的架橋などの、さまざまなプロセスが発生する可能性がある。これらのプロセスの結果、照射される材料の特性が変化する。これにより、機械的特性、溶解性、透明度、屈折率などが変化する可能性がある。
3D印刷(通常はフォトリソグラフィー的なアプローチ)においては、フェムト秒レーザーを使用し、特定のアレイを重合し得る。これは、光重合反応により行い得る。この調合物を硬化可能とするために、光増感剤を加え得る。これにより、一般的な3D印刷技術では可能であり得ない、μmの解像度での印刷が可能になり得る。マルチビームアレイを使用して、製造速度を増加し得る。
ナノ構造は、生物医学分野でも使用されている。眼の治療分野では、構造化アプリケーションを使用して、眼科ポリマー(コンタクトレンズや眼内レンズ(IOL)のような)、および眼の組織(たとえば、US2018243082A1を参照)を改変する。IOLを処置する場合、通常、例えば、UV光を吸収することにより材料中の光増感剤が利用される。2つまたは3つ以上の光子プロセスにより、IOLの表面に影響を与えることなく、内部材料のボクセルをターゲットにし得る。照射されると、光増感剤は光を吸収し、周囲の材料にエネルギーを供給し得る。WO2017221068A1においては、放出された光はハイドロゲル材料に熱の形で提供される。これにより、ポリマーが劣化し、屈折率が変化することになり得る。別のアプローチは、フェムト秒レーザー照射による材料内の非視力低下微結晶の形成である。微結晶のより高い分子オーダーは、US2010228345A1に示されるように、材料内の密度の局所的な増加をもたらし、結果として屈折率の局所的な増加の結果となり得る。
【0003】
US2009143858は、0.05nJ~1000nJのパルスエネルギーを有する集束した可視または近赤外レーザーを用いて、破壊的な方法で光学的ポリマー材料の選択された領域を照射し、結果として屈折光学構造体を形成することを含む、光学的ポリマー材料の屈折率を改変する方法を説明している。前記屈折光学構造体は、散乱損失をほとんどまたは全く示さず、使用されている非照射光学ポリマー材料と比較してラマンスペクトルに有意差を示さずに、屈折率が変化することを特徴とする。
US2016081852は、眼の屈折特性を変更する方法を説明しており、この方法には、眼の角膜の内部組織に光増感剤を適用すること、光増感剤は角膜の内部組織の架橋を促進し、角膜の内部組織の架橋剤を活性化するように角膜を照射すること、および眼の屈折特性が変化するように角膜を変更することが含まれている。
US2008004610は、特定の屈折率調整可能レンズ、および屈折計による処置中の屈折率測定を説明している。説明されている調整は、破壊的な方法である。
【0004】
白内障は、光の通過を妨げ得る眼のレンズが曇ることである。白内障のほとんどの症例は、老化プロセスに関連している。しかしながら、子供が白内障を伴って生まれるか、または早い年齢でそれを発症し得る。さらにまた、白内障は、眼の怪我、炎症、またはいくつかの他の眼病の後に発症し得る。世界保健機構の調査によると、現在、世界中で5000万人以上が白内障を患っており、白内障が全世界の失明症例の約半分の原因となっている。白内障は外科的に除去し得るものの、多くの国では外科的サービスが利用できず、白内障は依然として失明の主たる原因である。平均余命の予測につれて、白内障を患っている人々の数は増えている。したがって、白内障は先進国および発展途上国の両方で、悪視力の重要な原因である。白内障発症の包括的な予防はまだ知られていない。
手術で白内障を処置すると、視力は正常に回復し得る。混濁したレンズは、ここで取り外され、人工レンズに置き換えられる。
人工レンズは、あらゆる最新のレンズとして、小さな切開部を通して生得のレンズの除去後、残っている水晶体嚢、または水晶体嚢がない場合は溝に移植される。
【0005】
IOLの移植に関する典型的な問題は、最適な視力を考慮する限り、得られた結果がほとんどの症例において最適とは言えないことである。IOL移植前の眼の生体測定データは、その中でも角膜の曲率半径、および眼球の長さは、望ましい精度で決定できない。手術中のIOLの位置決め、創傷治癒による予測不能な影響、および白内障手術後数週間から数か月以内に発生するIOLの術後移動を予測することは現在困難である。白内障手術前のIOLパワーを予測するために使用される様々なアプローチと公式があるが、適切な解決策はまだ発見されていない。
【0006】
白内障手術の結果を扱う臨床試験では、患者の80%以上が所望の屈折から1ジオプトリー(D)以内であることが示されている。それにもかかわらず、多くは屈折異常を有し、そのために、最適化された視力を提供するためにある程度の矯正が必要となる。白内障手術後の屈折異常は、屈折異常の大きさが減少したとはいえ、実質的に避けられないことが示されている。例えば、眼の軸方向の長さが平均よりも大幅に長いまたは短い場合など、眼の特定の状況が存在する場合にも問題が発生し得る。小児の症例は、一般的に屈折パワー予測に関連する合併症を起こしやすい。製造公差による眼内レンズのパワー誤差も、特に高パワーIOLの場合、全体の誤差の一因となり得る。ここで、適用可能なISO11979規格では、25.00Dを超えるIOLの場合は角膜面において±0.33D、30.00Dを超えるIOLの場合は±0.66Dもの公差が許容されることに注意すべきである。
【0007】
屈折異常は、目で光を集束させる能力の誤差として定義され、視力が減少する頻繁な理由である。遠くの物体を見るときに屈折異常を有さない眼は正視である。
遠くの物体を見るときに屈折異常を持つ眼は、非正視であると言われる。
屈折異常は、球面と円筒面に分類し得る。眼の光パワーが大きすぎたり小さすぎたりして網膜に光を集束させることができない場合、球面異常が発生する。2つの子午線の曲率が異なる場合、円筒面異常が発生する。屈折異常を患っている人は霧視を有する。
【0008】
近眼(near-sightedness)または近眼(short-sightedness)とも呼ばれる近視(myopia)は、眼が弛緩状態にあるときに、平行光が網膜の前に結像を生成する眼の屈折欠陥に関する。近視の人は、近くの物体ははっきりと見えるが、遠くの物体はぼやけて見える。近視では、眼球が長すぎるか、または角膜が急勾配すぎる、つまり、眼球の長さにとって工学部のパワーが高すぎるのである。その結果、画像は網膜上ではなく眼内の硝子体内で集束する。
遠眼(farsightedness)または遠眼(long-sightedness)としても知られる遠視(hyperopia)は、目の不完全さに起因する視力の欠陥に関する。眼球の特定の長さにとって光学部のパワーが低すぎることが、近くの物体に焦点を合わせることができない原因となり得る。極端な症例では、人は任意の距離にある物体にも焦点を合わし得ない。物体が眼に向かって移動するとき、眼は、画像を網膜上に焦点を合わせ続けようと、その光パワーを増加させる必要がある。遠視のように、角膜とレンズのパワーが不十分な場合、画像はぼやけて見える。
乱視は、眼の光学部が点物体を網膜上に鮮明に焦点の合った画像へと焦点を合わせることができないために視力がぼやけ得る光学的欠陥である。角膜またはレンズの不規則またはトーリックな曲率が乱視の原因であり得る。2つの異なる子午線の曲率屈折の程度に違いがある。換言すれば、目は異なる平面に異なる焦点を有する。例えば、像は水平面においては網膜上に明確に焦点が合うが、垂直面においては網膜の前に合い得ない。特定の方向の輪郭がぼやけて見え得るが、直角方向の輪郭は明確に見え得る。乱視を患っている人々が細かい詳細物を見るのは困難であり得る。場合により、垂直線(例えば、壁)が患者に対して傾いて見え得る。乱視の光学部は、補正光学部を有する、眼鏡、ハードコンタクトレンズ、またはコンタクトレンズにより、しばしば矯正され得る。
【0009】
白内障には約6種の異なる形態があり、白内障につながる可能性のある20以上の原因が特定されている。白内障と診断されると、現在、薬物処置は不可能である。唯一の現在の処置法は、生得のレンズの交換、それに続く人工IOLを移植することである。今日の標準的治療は、折りたたみ式IOLである。
ここに、IOLは、眼房の液体に浸漬し得る。IOLの光学的な有効部分は、典型的に、5mmから最大7mmの間の直径を有する。特定のモデルによって、弾性ループまたはブラケットがIOLの光学部の端部に取り付けられる。触覚と呼ばれるこれらのループは、レンズを水晶体嚢の中心に配置し、IOLを所定の位置に保持することを可能にする。IOLの全体の直径は約12mmであり、その厚みは屈折パワーに依存し、普通は0.7mmから最大2mmの間で変動する。IOLの重量は50mgのオーダーである。
【0010】
折り畳み式IOLを製造するために使用し得るポリマーは、2つのサブグループに分類し得る。IOLは、(1)アクリルまたはメタクリル、または(2)シリコーンベースのポリマー製であり得る。さらに、疎水性および親水性材料をIOLに使用し得る。親水性材料は、約10~30%の水吸収を利用して柔らかくなり得る一方、疎水性材料は、水吸収せずに柔らかくなるように設計し得る。IOLの多くのバリエーション、およびさまざまな光学プロファイル(多焦点、トーリック、焦点深度拡張型など)を備えた多くのIOLが研究され、市販されている。しかしながら、現在、IOLが約束された結果を提供するために必要な精度で生体認証データを決定することは困難である。
【0011】
光学材料として使用できるシリコン含有ポリマーの例は、WO2018149857に説明されている。
光学材料として使用できるアクリレート含有またはメタクリレート含有ポリマーの例は、WO2017032442、WO2017032443、WO2017032444、WO2018149850、WO2018149852、WO2018149853、WO2018149855、およびWO2018149856に説明されている。
【0012】
例えばクマリン間の[2+2]環状付加反応は、光で行うことができる。1つのクマリンは光化学的に励起され、その範囲内の基底状態分子と反応することができる。ヤブロンスキー図によると、光子の吸収により、有機分子が励起した一重項状態になる。これは、項間交差を介して三重項状態に変換可能である。蛍光によってポピュレーションを減少できる一重項状態とは対照的に、三重項状態は無放射減衰によってのみポピュレーションを減少することができる。したがって、クマリンのような有機分子における三重項状態の寿命は、一重項状態よりもはるかに長い。したがって、クマリンの分子間[2+2]環状付加反応では、その長寿命が、他の分子との多数の衝突と高い特殊な移動度を可能にし、環状二量化反応の可能性を高めるので、三重項状態とそのポピュレーションは、最も適したものである[T.Wolffetal,Phys.Chem.Chem.Phys.,2004,6,368-376]。
【0013】
生体認証データの測定による誤差は別として、手術施術(operation)/手術治療(surgery)後の屈折を正確に予測することはほとんど不可能である。これは主に、白内障手術後数週間または数か月以内の治癒過程で発生し得る予測不能な影響によるものである。これらの影響には、例えば、角膜の頂点とIOLの有効な主表面との間の概念的な距離である、偽水晶体前房深度の影響が含まれる。さらに、角膜形状の変化が、治癒過程で発生し得る。これらの変化の正確な値は、眼の独自性、IOLタイプ、ならびに外科医、および使用器具を含む、さまざまな要因に依存し得る。IOLの仕様の不確実性も、正しい屈折を予測することを困難にし得る。
創傷治癒後、処置、つまりIOLの光学プロファイルの調整を、個別に適用し得る、または、IOLで処置された患者が理想的な視力を得るために処方眼鏡が必要となり得る。
あるいは、患者は、生得のレンズの理想的な視力矯正視力に適合するコンタクトレンズを必要とし得る。術前のIOL屈折パワー予測において、現在克服できない欠点があるため、本開示によるシステムおよび方法の目的は、IOLが作られている有機分子の偏光性を変化させることによって、すでに移植されたIOLの光学プロファイルを非侵襲的に調整するための解決策を提供することである。さらに、本開示によるシステムおよび方法の目的は、(患者の眼内に配置され得る、または、され得ない)人工レンズを作成、および/または改変する、特に二光子(または一般的に多光子)プロセスを使用することにより、特に人工レンズの偏光性を改変するための解決策を提供することである。
多光子励起は、光子の同時吸収を可能にするために高強度を必要とする非線形現象である。二光子励起の場合、励起は励起光の強度の二乗に比例する確率で起きる。一方、顕微鏡の対物レンズによって集められた励起光は、焦点面からの距離の二乗に反比例する光強度を有する。
【0014】
N.Yonezawaetal,Bull.Chem.Soc.Jpn.,1984,57,1608-1611は、熱が、光反応から形成された環状二量体の収率に悪影響を与える熱的シクロ復帰反応を誘発することが示されていると説明している。
【発明の概要】
【0015】
本発明者らは、上述の目的が、本出願のシステムおよびプロセスによって、個別に、または任意の組み合わせのいずれかで達成され得ることを見出した。
本発明は、人工レンズを照射するためのシステムに関し、システムは以下を含む:
前記人工レンズに、光学部で集束され、第1の波長、および/または第1の波長とは異なる第2の波長を持つ照射ビームを照射する二光子または多光子用の1つまたは2つ以上の照射源、
1つまたは2つ以上の照射源に連結され、前記人工レンズに渡って前記照射ビームを走査するように構成されたスキャナ、および
1つまたは2つ以上の照射源およびスキャナに連結された入力ユニットを含み、入力ユニットは、入力データに基づいて前記人工レンズに渡って前記照射ビームを走査することによって前記人工レンズを処置するためのデータを入力するように構成され、
第1の波長は、前記人工レンズの前記処置に基づいて、前記人工レンズの偏光性を局所的に減少するために600nmから800nmの間であり、第2の波長は、前記人工レンズの前記処置に基づいて、前記人工レンズの偏光性を局所的に増加するために400nmから590nmの間である。
【0016】
本発明はさらに、好ましくは患者の眼内に配置される人工レンズを照射するためのシステムに関し、システムは以下を含む:
前記人工レンズに、光学部で集束され、600nmから800nmの間の波長の照射ビームを照射する二光子または多光子用の1つまたは2つ以上の照射源、
1つまたは2つ以上の照射源に連結され、前記人工レンズに渡って前記照射ビームを走査するように構成されたスキャナ、および
1つまたは2つ以上の照射源およびスキャナに連結された入力ユニットを含み、入力ユニットは、入力データに基づいて前記人工レンズに渡って前記照射ビームを走査することによって前記人工レンズを処置するためのデータを入力するように構成され、
前記波長は、前記人工レンズの前記処置に基づいて、前記人工レンズの偏光性を局所的に減少するためである。
【0017】
本発明はさらに、好ましくは患者の眼内に配置される人工レンズを照射するためのシステムに関し、システムは以下を含む:
前記人工レンズに、光学部で集束され、400nmから590nmの間の波長の照射ビームを照射する二光子または多光子用の1つまたは2つ以上の照射源、
1つまたは2つ以上の照射源に連結され、前記人工レンズに渡って前記照射ビームを走査するように構成されたスキャナ、および
1つまたは2つ以上の照射源およびスキャナに連結された入力ユニットを含み、入力ユニットは、入力データに基づいて前記人工レンズに渡って前記照射ビームを走査することによって前記人工レンズを処置するためのデータを入力するように構成され、
前記波長は、前記人工レンズの前記処置に基づいて、前記人工レンズの偏光性を局所的に増加するためである。
【0018】
図1および2に、前述のシステムの概略図を示す。
図1は、人工レンズ、例えば、患者の眼内に配置されていないコンタクトレンズまたは眼内レンズの照射のためのシステムの概略図である。照射源(1)により放出された照射ビーム(2)は、スキャナ(4)により偏向され、光学部(16)により集束されて、人工レンズ(3)の偏光性の所望の調整を実行する。位置決めシステム(20)は、人工レンズ(3)内の焦点の作動位置を決定する。人工レンズ(3)のパワーと既存の光学プロファイルとともに、位置情報は人工レンズ(3)に関する入力データ(8)の一部である。レンズデータ(10)および処置計画データ(12)については、以下でさらに説明する。温度管理ユニット(14)は、照射前、および/または照射中の人工レンズ(3)の材料の温度を予測、および/または測定する。
【0019】
図2は、患者の眼内に配置される眼内レンズの照射のためのシステムの概略図である。
図2は、患者の眼内に配置される眼内レンズの照射のためのシステムの概略図である。照射源(1)により放出された照射ビーム(2)は、スキャナ(4)により偏向され、光学部(16)により集束されて、患者の眼内の人工レンズ(3)の偏光性の所望の調整を実行し、前記光学部(16)は、患者の眼を固定位置に保つアイインタフェースシステム(18)にリンクされている。位置決めシステム(20)は、人工レンズ(3)内の焦点の作動位置を決定する。人工レンズ(3)のパワーと既存の光学プロファイルとともに、位置情報は人工レンズ(3)に関する入力データ(8)の一部である。レンズデータ(10)および処置計画データ(12)については、以下でさらに説明する。温度管理ユニット(14)は、照射前、および/または照射中の人工レンズ(3)の材料の温度を予測、および/または測定する。
【0020】
本発明はさらに、二または多光子吸収プロセスに基づいて、高分子光学材料で形成された本体を含む人工レンズの偏光性を調整するためのプロセスに関し、プロセスは以下のステップを含む:
前記レンズを提供すること;および
前述の、または、好ましくは以下に説明する本発明によるシステムを使用することによって前記レンズの照射を通して前記レンズの偏光性を調整し、その結果、人工レンズの非照射高分子光学材料に関してUV/Visスペクトルに有意差をもって高分子光学材料を変化させること。
【0021】
本発明はさらに、患者の眼内に配置される重合光学材料を含む眼内レンズの偏光性を局所的に調整するための方法に関し、方法は以下を含む:
眼内レンズの偏光性を局所的に減少させるために、600nmから800nmの間の波長を有する照射ビームに眼内レンズを曝すこと、または
眼内レンズの偏光性を局所的に増加させるために、400nmから590nmの間の波長を有する照射ビームに眼内レンズを曝すこと。
【0022】
本発明はまたさらに、前記患者の眼内の眼内レンズの屈折率を改変することにより、患者の視力を矯正するための方法に関し、以下を含む:
患者の視力矯正の程度を特定し、測定すること;
患者の視力を矯正するために前記眼内レンズに書き込む屈折構造の位置およびタイプを決定すること;および
その後、前記眼内レンズを、600nmから800nmの間の波長を有する二光子または多光子照射に曝露して、眼内レンズの偏光性を局所的に減少させるか、または前記眼内レンズを曝露すること、または
その後、前記眼内レンズを、400nmから590nmの間の波長を有する二光子または多光子照射に曝露して、眼内レンズの偏光性を局所的に増加させること。
【0023】
本発明はさらに、前述の、または好ましくは以下に説明するシステム、および前記システムに適した少なくとも1つの人工レンズを含む部品のキットに関する。
【0024】
発明の詳細な説明
本開示を通して、別の本体/要素/部品(および潜在的にさらなる本体/要素/部品)に連結されるシステムの本体/要素/部品に関する任意の参照は、他の本体/要素/部品に直接および/または間接的に連結される1つの本体/要素/部品を伴い得ることに留意されたい。
【0025】
前記開示内のレンズまたは人工レンズは、コンタクトレンズまたは眼内レンズであると定義する。本発明による眼内レンズは、眼の生得のレンズが損傷したときに、それを置き換えるために使用される移植可能なレンズである。
レンズのタイプは制限されず、コンタクトレンズまたは眼内レンズを含み得る。最も好ましくは、このような人工レンズは眼内レンズ(IOL)であり、これは、例えば、後房眼内レンズまたは前房眼内レンズであり得る。
眼内レンズのタイプに、何ら制限はない。例えば、偽水晶体眼内レンズ、または有水晶体眼内レンズであり得る。前者のタイプは、眼の生得の透明なレンズと置き換えて、通常、取り去った白内障のレンズと置き換える。後者のタイプは、既存のレンズを補うために使用され、永久矯正レンズとして機能し、眼の屈折異常を矯正するために前房または後房に移植される。本発明により処置される人工レンズは、1つまたは2つ以上の光学、および1つまたは2つ以上の触覚要素を、例えば、含み得て、1つまたは2つ以上の光学要素はレンズとして機能し、1つまたは2つ以上の触覚要素は、1つまたは2つ以上の光学要素に取り付けられ、1つまたは2つ以上の光学要素を眼の所定の位置に保持する。本発明により処置される人工レンズは、1つまたは2つ以上の光学要素、および1つまたは2つ以上の触覚要素が単体の材料から形成されている(ワンピースデザイン)か、または別々に作られ後に結合される(マルチピースデザイン)かによって、ワンピースデザイン、またはマルチピースデザインであり得る。
【0026】
人工レンズ、好ましくはIOLは、重合光学材料を含み得て、それにより、前記レンズの光学特性は、システムによって非侵襲的に変化し得る。システムを使用して、具体的には多光子プロセスに基づいて、偏光性、故に屈折率が変化し得る。
好ましくは、人工レンズ(コンタクトレンズまたはIOL)は、以下でさらに好ましく説明する通り、重合光学材料を含み、それにより、IOLの光学特性は、システムによって非侵襲的に変化し得る。
特に好ましくは、人工レンズ(コンタクトレンズまたはIOL)は、以下でさらに好ましく説明する通り、重合光学材料からなる。典型的に、レンズの光学部は直径5mm~7mmで、厚みは典型的に0.2mmから2.0mmの間である。
【0027】
本出願において、入力データとは、以下の説明でさらに詳細に説明するように、眼科要求を書き込みプロセスのための制御コマンドに変換することとして定義される処置計画を作成するために使用されるすべての種類のデータである。書き込みプロセス中に、光学パターンは人工レンズ中への照射によって書き込まれる。
用語「制御コマンド」は、前に定義した、または好ましくは以下に説明するように、書き込みのプロセスを直接制御するコマンドを指す。制御コマンドは、例えば、スキャナの動きを制御し得る。
本説明内で使用される用語「スキャナ」は、本発明による入力ユニットの一部ではない。本明細書に記載の「スキャナ」は、照射ビームの動きを制御する本発明によるシステムの要素である。
眼科要求とは、本発明によるシステムおよびプロセスを通して人工レンズ内に作成されなければならない所望の光学プロファイルを指す。
【0028】
光学プロファイルとは、人工レンズを移植する前または後に、患者の検査結果に応じて外科医が定義する必要な変化であり、例えば、球面全視度変化、トーリックプロファイル、EDOFプロファイル、または、2-、3-、または多焦点プロファイルなどであるが、これらに限定されない。あるいは、光学プロファイルは、コンタクトレンズの光学特性調整である。
光学パターンとは、人工レンズのすべてのボクセルにおいて屈折率の変化をもたらす、偏光性の必要な変化である。
【0029】
前に定義した入力データは、共通入力データ、個別入力データ、または処理中入力データを含むことを意図している。
共通入力データは、体系的理由によりデフォルトで使用される一般的なデータを含むことを意図している。このような共通入力データの例は、以下に説明する。
個別入力データは、眼科要求にのみ関連する全てのデータである。このような個別入力データの例は、以下に説明する。
処理中入力データは、書き込みプロセス中に作成および使用されるデータである。
【0030】
本説明内で使用される用語「位置決めシステム」は、眼内のレーザー焦点の位置を決定する。
本説明内で使用される位置決めシステムの一部としての用語「評定システム」は、システムおよび患者の眼に対する人工レンズの位置を決定する。
用語「照射ビーム」出口は、照射ビームが本発明によるシステムの光学部を離れる位置を定義する。
本発明によるシステムの一部として本明細書で使用される用語「光学部」は、人工レンズ上の照射源(焦点)の空間分布を制御するために必要なすべての光学機器を含む。焦点の重要なパラメータには、横方向焦点サイズ(またはビームウエスト)と焦点距離(またはレイリー長)が含まれる。光学部は、ビームエキスパンダ、開口絞り、シャッタ、および、特に顕微鏡対物、または単玉非球面レンズなどの集束光学部などの、焦点を決定する光学ビーム経路に沿ったすべての要素を含む。
焦点体積内での照射は、人工レンズの大部分、また、あるいは前記人工レンズの非照射部分の偏光性/屈折率に関する偏光性/率における変化を特徴とする屈折光学構造をもたらす。
換言すれば、偏光性/屈折率の変化を使用して、以下に説明する、または好ましくは説明する、人工レンズ内にパターン化された所望の屈折構造を形成することができる。
【0031】
眼内レンズ材料の剥離、除去または破壊が照射領域内で観察されないように、屈折率の変化を示し、散乱損失をほとんど、またはまったく示さない屈折構造を提供することが好ましい。前述の照射領域は、球形、非球面、トロイダル、または円筒形の補正を提供できる、2または3次元の領域または体積で満たされた屈折構造の形をとることができる。実際、任意の光学構造を形成して、両方の物理的方向において屈折パワー補正を行うことができる。さらに、光学構造は、単一のレンズ要素として機能するように以下でさらに説明する人工レンズ内で、垂直に積み重ねたり、または別々の平面に書き込むことができる。
多光子励起は、焦点の近くでのみ、好ましくは超短レーザーパルスを使用することによって発生する。平均パワーは、サンプル損傷しきい値によって制限され、このようなしきい値は、前後に定義する共通入力データの一部である。
【0032】
前述の、または好ましくは以下に説明する通り、システムは、屈折異常などの視覚障害を除去するために、移植されたIOLの光学特性/プロファイルの術後および非侵襲的調整を有利に可能にする。さらに、人工レンズ(例えば、コンタクトレンズ、または例えば眼内レンズを患者の眼に挿入する前)を製造するとき、システムは、球面、非球面、トロイダル、または円筒形の補正を提供できる屈折構造、および/または、レンズの作成が完了してもレンズの柔軟性を維持することを特に可能とするように、人工レンズの穏やかな作成を有利に可能にする。人工レンズの偏光性は、前記人工レンズの光学特性/プロファイルの調整を可能とする、または人工レンズの異なる平面における光学特性の調整を可能とする、二光子(または一般的には多光子)プロセスに基づいて改変される。さらにまた、二光子または多光子プロセスに基づく偏光性の改変により、400nm~590nmの波長で処置した場合のレンズの柔軟性の維持を改善できる。前記人工レンズは、好ましくはIOLである。
【0033】
システムパラメータの選択および最適化の基準:
本発明の1つの究極的目的は、医師によって規定される移植後IOLの局所的屈折率改変を生成し、患者の視力を改善することである。屈折率改変の手順の重要な基準は、望ましい結果を得るために必要な総処置時間である。このような手順は、実行可能であると認識するのに数分以上かかるべきではないと一般的に認識されている。最先端技術の局所的屈折率改変が可能なシステムには、IOLアプリケーションの実際の処置時間を取得するためのアプローチが含まれていない。
【0034】
システムのトレードオフおよび制限についての検討:
移植後の人工レンズ一般、または特にIOLを調整できる実用的な高性能システムの場合、サブコンポーネント間に多くの相互依存性とトレードオフが存在するので、そのサブコンポーネントはシステムとして扱われる必要があり、それ故に連帯的に最適化される必要があることが認識されている。サブコンポーネントには、照射源、光学部、スキャナ、および処置計画が含まれる。
任意のシステム/パラメータの最適化の重要な要件は、人工レンズの処置がコンタクトレンズである場合はレンズ材料の、人工レンズの処置がIOLである場合はレンズ材料、およびその要素(例えば、網膜)をあわせた眼の、安全限界内に留まることである。このような要件は、前述の共通入力データの基礎を構築する。特に、照射源、好ましくはパルスレーザー源からの放射の2つの主な損傷メカニズムが識別可能である:レンズ材料、および/または眼の温度が、同じ体積に対し繰り返されるパルスのために続いて加熱される、単一パルス損傷(絶縁破壊、およびアバランシェ破壊)、および、熱損傷。例えば:パルス照射源の平均パワーが加熱に関し、そのために、レンズ材料、および/または眼の潜在的な損傷に関する。そのため、照射源の平均パワーがレンズ材料、および/または眼の過熱のしきい値未満に保たれている間は、パルスエネルギーおよびパルス繰返し率は、パルスエネルギーの反比例積であり、1秒あたりのパルス数(=繰返し率の逆数)は、平均パワーに等しい。
平均パワーは、パルスエネルギーに1秒あたりのパルス数を掛けたもの)として定義され、ワット(W)で表わされる。
照射量は束密度(W/cm2)と等しい)。
放射露光量は流束量(J/cm2)と等しい)。
【0035】
1つの総体的目的は、移植後のIOL調整の処置時間を最小にすることである。理論的には、より頻繁なパルス(=より高い繰返し率)で増々高いパルスエネルギーを適用できるが、典型的に1ワットの平均パワーを超えると、過熱によりIOL材料および網膜に危険な状態が発生し始める。したがって、安全な動作限界内に留まるために、数分で全IOL体積の処置を完了する間に、好ましい放射露光量を定義することができる。好ましい放射露光量は≦5kJ/cm2、特に好ましくは<1kJ/cm2、そして、非常に特に好ましくは<0.3kJ/cm2である。この説明した放射露光量は、以下でさらに説明する通り、本発明によるプロセスおよび方法にさらに適用される。
処置計画が、広範すぎて、過熱に関するレーザーの安全性の限界を超える場合は、処置を中断して、処置の影響を受ける人工レンズの材料および組織すべての冷却を可能とすることができる。冷却後、評定システムは、人工レンズ内で処置されたボクセルを光学パターンと比較し、処置を続行することができる。
【0036】
システムを通して、および前述の要件で前記人工レンズの光学特性/プロファイルを調整するプロセスは、前述の処置計画によって行われる。処置計画に従い、例えば、トーリック、球形、多焦点、またはEDOF(焦点深度拡張)のプロファイルをレンズに書き込むことができる。アルゴリズムを利用して、例えば、トーリック、球形、多焦点、またはEDOF(焦点深度拡張)プロファイル用プロファイルに書き込み得る。
【0037】
所望の光学プロファイルの情報を、共通および個別入力データと組み合わせることにより、必要な光学パターン、および、前述のまたは好ましくは以下に説明するシステムの照射源、光学部およびスキャナの制御コマンドを計算することができる。個別入力データとは、例えば、前記人工レンズ材料のボクセルあたりの特定の屈折率変化に必要なレーザーエネルギーなどのレンズデータ、および、処置計画データの一部である患者の眼内の人工レンズの正確な位置および向きとしてのさらなる患者データである。
制御コマンドは、書き込みプロセス中に、例えば、IR温度測定による患者の眼の温度データなどの処理中入力データ、例えばOCT(光干渉断層撮影)により取得される照射ビーム、人工レンズ、または眼の処理中位置決めデータ、および/または、シャインプルーフ画像から取得される屈折データにより、更新および改変できる。
【0038】
入力データのさらなる態様において、入力データは、前記人工レンズの、好ましくは前記眼内レンズのレンズデータ、および/または、前記人工レンズの前記処置のための処置計画に関する処置計画データを含む。例えば、レンズデータには、人工レンズのそれぞれの体積または部分の位置の関数としての人工レンズの偏光性および/または屈折率、形状、視度、円柱および球、および/または前記寸法中のその個々の異常の、1つまたは2つ以上に関するデータが含まれ得る。したがって、偏光性は、現在の偏光性(または屈折率)、および処置を介して得られる偏光性(または屈折率)に応じて、人工レンズの1つまたは2つ以上の平面内の特定の位置または体積で増加または減少し得る。
さらに、またはあるいは、レンズデータには、人工レンズの寸法(例えば、直径および/または厚み)、レンズ形状、視度、円柱、球、および/または前記寸法中のその個々の異常の、1つまたは2つ以上に関するデータ、および、人工レンズ、好ましくは眼内レンズに含まれる材料に関するデータが含まれ得る。
好ましくは、レンズデータには、人工レンズまたはIOLの1つまたは2つ以上の寸法(例えば、直径および/または厚み)に関するデータ、または、人工レンズのそれぞれの体積または部分の位置の関数としての人工レンズの偏光性および/または屈折率、レンズ形状、視度、円柱、球、および/または前記寸法中のその個々の異常の、1つまたは2つ以上に関するデータ、および、個別入力データセットの一部である人工レンズが含む材料に関するデータが含まれる。
人工レンズ、好ましくは眼内レンズが含む好ましい材料を以下に説明する。
【0039】
処置計画の計算は、いくつかの例では、以下を含む処置計画データの1つまたは2つ以上をもたらす制御コマンドを生成し得る:
人工レンズにわたる第1および/または第2の波長の照射ビームの前記走査のための走査手順の走査手順制御指令データ(例えば、走査パターン、および/または走査シーケンス、および/または走査速度、および/または走査パターンの走査継続時間、および/または走査シーケンスの走査継続時間、および/または第1および/または第2の波長の照射ビームのパルスのパルス継続時間(例えば、ナノ秒、またはピコ秒、またはフェムト秒パルス)、および/または第1および/または第2の波長の照射ビームの照射ビームプロファイル、および/または放射(光子)密度、および/または放射強度、および/または放射パワー、および/または放射波長)、前記露光中の人工レンズの現在および/または予測温度の温度データなどの処理中入力データ、前記露光に基づいて得られる人工レンズの屈折率/偏光性の屈折率/偏光性データ、人工レンズの特定の場所/座標に得られる屈折率/偏光性のマッピングに関して特に得られる屈折率/偏光性、切開の寸法の切開寸法データ、および患者の眼の寸法および/または形状に関する眼のデータ、眼に対する人工レンズの位置および/または向きに関する位置決めデータ、および患者および/または患者の特定の眼の識別に関する登録データなどの個別入力データ。
【0040】
好ましくは、走査手順の走査手順制御指令データは、以下でさらに説明するように、走査パターン、および/または走査速度、および/またはパルスのパルス継続時間、および/または放射強度である。
次に、本明細書で定義されるレンズデータおよび/または処置計画データにより照射ビームのパラメータを調整して、必要に応じて、人工レンズの偏光性/屈折率を正確に(局所的に)変化させ得る。
好ましくは、照射ビームのパラメータは、前述または好ましくは本明細書で説明する通り、レンズデータおよび/または処置計画データにより調整される。
【0041】
当業者は、この点に関して、照射ビームの被写界深度(レイリー長)が人工レンズに書き込まれる光学部構造の所望の厚みに一致するときに、最適な照射焦点条件に達することをよく認識している。
当業者は、この点に関して、照射ビームの被写界深度(レイリー長)が人工レンズの局所的厚みに一致適合するときに、最適な照射焦点条件に達することをよく認識している。
【0042】
さらなる態様において、レンズデータは、前記人工レンズの放射吸収特性(例えば、光の波長に依存し得る吸収および/または光減衰係数)に関するデータを含み、システムは多光子吸収プロセスに基づいて偏光性を局所的に変化させるために、前記人工レンズの第1の波長および/または第2の波長を調整するように構成される。例えば、人工レンズに使用される材料に基づいて、特定の波長または波長範囲を入力して、人工レンズの偏光性を正確に局所的変化させ得る。
【0043】
前述のおよび以下にさらに説明する本発明によるシステムの一部として、入力ユニットは、コンタクトレンズの処置のためのサンプルホルダー上にあり得る、または、眼内レンズの非侵襲的調整のために患者の眼内にあり得る人工レンズを処置するために、前述のこれらの入力データを入力するように構成される。
したがって、本発明はさらに、前述のまたは後述のシステムに関し、入力データは、前記人工レンズのレンズデータ、および/または前記人工レンズの前記処置のための処置計画に関する処置計画データを含む。
したがって、本発明はさらに、前述のまたは後述のシステムに関し、レンズデータは、前記人工レンズの放射吸収特性に関するデータを含み、システムは、多光子吸収プロセスに基づいて、前記人工レンズが偏光性を局所的に変化させるように第1の波長および/または第2の波長を調整するように構成される。
【0044】
本発明によるシステムの一部としての1つまたは2つ以上の照射源は、ナノ秒パルス、好ましくはピコ秒パルス、より好ましくはフェムト秒パルスを生成するために利用され得る1つまたは2つ以上のパルスレーザーを含み得る。好ましくは、1つの照射源が使用される。特に好ましくは、1つまたは2つ以上の照射源は、フェムト秒パルスを生成するために使用される1つまたは2つ以上のパルスレーザーを含む。特に好ましくは、1つのパルスレーザーを使用して、本発明によるシステム、または本発明によるプロセスおよび方法の照射として使用されるフェムト秒パルスを生成する。
【0045】
本発明の一態様において、1つまたは2つ以上の照射源は、第1および第2の波長を有するレーザービームをそれぞれ放出するように調整可能なレーザーを含む。これは、単一のレーザーを使用して、必要に応じて、眼内レンズの偏光性/屈折率を(局所的に)増加または減少し得るため、特に有利であり得る。
様々なパルスレーザータイプが、本発明によるシステム内の前記照射源に適する。MHzレーザーならびにkHzレーザーが適しており、特有の利点を有する。例えば、MHzレーザーシステムはより低いパルスエネルギーで動作するが、集束レーザースポットはμmスケール(<1μm~数μm)に保つことができるため、例えば、回折構造を生成するために、3次元すべてで正確なローカルインデックスの改変に使用できる。好ましいMHz照射源は、0.1~10nJの範囲のパルスエネルギーを持つ80MHzレーザーである。
一方、kHzレーザーは、典型的に0.1~10μJのより高いパルスエネルギーで動作するため、レンズ材料に損傷を与えないために、たとえば10~100μmのより大きなスポットサイズが必要である。ただし、レーザースポットサイズが大きいということは、被写界深度が深く(=レイリー長が長い)、人工レンズ材料の厚みと同じかそれを超える可能性があることを意味する。このような長いレイリー長の場合、IOL内で層ごとに屈折率を改変不可能で、焦点の周りの線に沿って均一にしか改変し得ないかもしれない。好ましいkHz照射源は、100~500kHzの繰返し率を持つレーザーである。
前述の、または好ましくは前述の照射源の平均パワーは、好ましくは300から600mWの間、特に好ましくは400から500mWの間である。
【0046】
本発明のさらなる態様において、第1および第2の波長それぞれに与えられた範囲外の波長を有する照射ビームを生成するために、照射源と同じレーザー源が供給レーザーの周波数を2倍にすることにより使用されるか、または光パワー増幅器が使用されるか、または別のレーザー源が使用される。
【0047】
本発明によるシステムの一部としての照射源は、好ましくは、チタンサファイアレーザー(例えば、ChameleonUltraIIbyCoherent,SantaClara,CA,USA)などの、約680~1080nmの範囲の可変波長を提供できる波長可変レーザーを含む。システムはまた、光パラメトリック発振器(例えば、frequencydoubledChameleonCompactOPO-VisbyCoherent,SantaClara,CA,USA)を含み得る。
【0048】
本発明によるシステムの一部としての照射源は、特に好ましくは、光パラメトリック増幅器に加えてフェムト秒励起レーザーを含む。前記励起レーザーは、0.1~700kHzの繰返し率で、パルス<350fsにおいて、1030nmで平均パワー>10ワットを放出する。前記励起レーザーの放射は、光パラメトリック増幅器に向けられ、そこで励起レーザー出力は周波数が倍増され、光学的に混合され、結果として600nm~800nmの波長範囲の最終的な調整可能な出力となる。好ましい繰返し率は、50から600kHzの間である。特に好ましい繰返し率は、100から500kHzの間である。
本発明によるシステムの一部としての照射源は、特に好ましくは、光パラメトリック増幅器と組み合わせて、1030nmで平均パワー>10ワットのフェムト秒励起レーザーを含み、これは、1~700kHzの繰返し率で、照射パルス<350fsを放出している。前記ポンプレーザーの放射は、1つまたは複数の第二高調波ステージを持つ光パラメトリック増幅器に向けられ、結果として400nm~590nmの波長範囲の最終的な光出力となる。好ましい繰返し率は、50から600kHzの間である。特に好ましい繰返し率は、100から500kHzの間である。
【0049】
前述の、または好ましくは前述のレーザータイプは、直径数ミリメートルの平行光学ビームを生成し、それは次に光学部およびスキャナに向けられる。光学ビームの品質(M2の単位で測定)は、理想的には1.0から1.5の間、より理想的には1.0から1.3の間である。
【0050】
多光子励起は、焦点の近くでのみ発生し、好ましくは、前述の超短レーザーパルスを使用することによって発生する。平均パワーは、サンプル損傷しきい値によって制限され、このようなしきい値は、前に定義した共通入力データの一部である。
二光子誘導環状二量化反応の理想的なパラメータは、システムからのパルス継続時間および繰返し率、さらに説明するか、または好ましくは以下に説明するように、環状二量化することができる人工レンズ材料の特有の時定数との関係にリンクしており、これは簡潔に言えば、分子のS1状態の寿命(~数ns)、長命の三重項状態の寿命(多nsから>μs)、および特有の熱拡散時間(~1μs)である。
長命の三重項状態の寿命を考慮すると、パルスの間隔がより長いことが利点である。光化学的に活性なグループにおける三重項状態の寿命(多nsから>μs)は、80MHzシステムの繰返し率(12.5ns)よりもはるかに長い。したがって、次のパルスが開始される前にほとんどの三重項状態がクリアされるので、前述の、または好ましくは前述のkHzレーザーを使用することは有利である。この効果により、以下でさらに好ましく説明する通り、人工レンズ材料の環状二量化反応の効率が有意に増加する結果をもたらす。
特有の熱拡散時間により参照される線形吸収による焦点内の温度上昇は、典型的な~80MHzパルスの間隔よりも約80倍遅い、マイクロ秒以内に緩和される。したがって、温度上昇は大きい。これは、kHzパルスには当てはまらない。ここで、熱拡散時間は、典型的な100kHzパルスの間隔よりも10倍速い。したがって、一定のレーザーフルエンスで照射すると、レーザー加熱による局所的な温度上昇は、より高い繰返し率でより顕著である。
【0051】
本発明によるシステム内の照射ビームの第1の波長は、(局所的に)IOLの偏光性(したがって屈折率)を減少させるために、600nmから800nmの間、好ましくは650nmから750nmの間、より好ましくは670nmから720nmの間、より好ましくは680から710の間である。
本発明によるシステム内の照射ビームの第2の波長は、(局所的に)IOLの偏光性(したがって屈折率)を増加させるために、400nmから590nmの間、好ましくは500nmから580nmの間、より好ましくは530nmから570nmの間である。
これにより、偏光性は局所的に特に正確に変化し得る。
【0052】
人工レンズの偏光性を(局所的に)変化させることに基づき、前記レンズの屈折率を(局所的に)変化させ得る。この相関関係の詳細は、以下に説明する。
後述の実施例の1つで説明するように、典型的なレーザーパラメータは、波長680nm、パルス継続時間180fs、平均パワー500mWである。
【0053】
本発明によるシステム内の光学部:
光学部の主な機能は、照射源から放出されスキャナによって制御される照射ビームを人工レンズに集束させることである。前述の通り重要な考慮事項は、共通入力データの一部として前述した通り、レーザーの安全要件および材料の損傷により与えられる制限内に留まりつつ、処置時間を最小限におさえるためのスポットサイズと焦点深度である。光学部の最も重要な特性は、その有効焦点距離(EFL)および集束光学部の入口開口部での照射ビームの直径に加え、その開口数(NA)により与えられる。さらに、本発明によるシステム内のすべての光学要素は、光学ビームの品質を実質的に低下させないために、回折限界または近回折限界特性に対し選択されるべきである。
スポットサイズにより得られる空間解像度が決まるので、眼科のニーズが異なれば、必要なスポットサイズも異なる。理想的には、処置時間を最小限に抑えながら材料損傷の可能性を低く抑えるために、スポットサイズは1から100μmの間、より理想的には50から100μmの間である。
【0054】
本発明によるシステム内のスキャナ:
本発明によるシステム内で使用されるスキャナには、ガルバノスキャナ、ピエゾスキャナ、回転スキャナまたは音響光学変調器が含まれ得て、またそれは、空間光変調器、デジタルマイクロミラーデバイスまたはステレオリソグラフィ装置などのデジタルであり得る。好ましくは、本説明による本発明のシステムの一部としてのスキャナは、ガルバノスキャナ、ピエゾスキャナ、回転スキャナ、音響光学変調器、空間光変調器、デジタルマイクロミラーデバイス、またはステレオリソグラフィ装置から選択される。好ましいガルバノスキャナは、シングルピボットポイントスキャナである。
好ましくは、スキャナは、50mm/sを超える走査速度で動作するように構成される。これにより、処置時間を短く保つことができる。原則として、処置時間は数分を超えるべきではなく、処置セッションあたり、好ましくは10分未満、好ましくは5分未満、特に好ましくは3分未満である。
処置領域は、人工レンズの体積とサイズとして定義し得る。典型的に、前記レンズの光学部は直径5mm~7mmで、厚みは典型的に0.2mm~2.0mmである。
【0055】
人工レンズの全体積に対応しながら、全体的な照射露光量を低くおさえ、処置時間を短くするために、最適な放射露光量は、<1kJ/cm2であり、より理想的には<0.3kJ/cm2である。
【0056】
特に好ましくは、照射ビームの照射エネルギーを拡散させるためにランダム走査パターン、またはインターリーブ走査線が使用される。。
走査は3つのモードで実行できる。ボトムアップスキャンでは、各スポットで特定の滞留時間を持って、レーザーはスポットからスポットへと移動する(bottom-up,spot-to-spot)。あるいは、ボトムアップスキャンにおいては、レーザーは互いに重なり合うスポットに留まり得る(bottom-up,spotoverlay)。あるいは、レーザーは任意のスポットに留まることなく一定速度で移動することができる(flyby,constantvelocity)。
図3は、前述の走査手順の概略図(1500)を示す。
走査パターンの一態様では、IOLは、瞳孔を通して照らすことにより、前述の、または好ましくは前述の通り、照射源で走査される。走査時に水晶体嚢に包含されるIOLは、従来の手術手順を使用して、角膜の切開部を通して事前に挿入される。この態様では、IOLの全体積が走査され、走査はボトムアップ方式で実行され(すなわち、角膜からさらに離れたIOLの部分が最初に走査される)、このようにして、光学プロファイルが作成され、光路における屈折率の不必要な変化を避ける。
【0057】
前述の通り、走査プログラムを選択する際の重要な考慮事項は、人工レンズ、および/または患者の眼の局所的な加熱を最小限にすることであり、したがって、走査プログラムではさまざまな変数が使用される。切開、および瞳孔サイズなどの解剖学的特徴、ならびに開口数やレーザーパルス特性などの光学的特徴を考慮して、特定の走査速度とシーケンスを用いてレーザープログラムが作成される。この実施例では、レンズ座標と目の座標の間の関係が自動的に考慮される。
図4は、患者の眼内のレンズを照射するときを考慮した、前述の走査プログラム中で使用される前記変数の概略図(1600)を示す。
【0058】
走査プログラム、および/または処置計画のパラメータは、好ましくは、第1および第2の波長、走査速度およびシーケンス、眼に対するレンズの位置(例えば、カルテシアン座標において)、走査手順、得られる屈折率変化(光学パターン)、対物レンズの開口数、切開、瞳孔および/またはレンズの光学直径(いくつかの実施例では約6mm)、レーザービームのパルス継続時間(形状、強度、およびx-y位置決め)、レーザーを操作するときのレーザーの安全性、および、レンズと眼の位置に関する芯出しである。
【0059】
レーザーで生成された光子は、本発明によるシステムの一態様においては、好ましくは、ミラー(例えば、光学部1として)を通して、例えば、後続のスキャナおよび集束光学部用にビームを作成するビームエキスパンダに導かれる。ビームエキスパンダを通過した後、光子はスキャナ(例えば、ガルバノスキャナ、またはピエゾスキャナ、または回転スキャナ、または音響光学変調器、または空間光変調器、またはデジタルマイクロミラーデバイスまたはステレオリソグラフィー装置を使用してデジタルで)に向けられる。
スキャナを通過した後、レーザービームは仕切りミラーなどの別の光学部を通り移動する。この態様において、分割ミラーは、ビームを、人工レンズ照射用の主画像ビームと、ビーム特性の監視、ならびに位置決めフィードバック用のビームに分割する。分割ミラーの後、光学ビームは、画像グループまたは集束光学部により人工レンズに集束される。一態様において、画像グループは、高開口数(μmレベルの空間解像度用)を得るための顕微鏡対物レンズ、またはμJレベルのより高いパルスエネルギーを可能にするための低NA光学部を含む。
【0060】
前述の、または好ましくは前述のシステムは、システムの1つのさらなる態様において、前記照射ビームを前記人工レンズに顕微鏡対物レンズにより集束させるための、スキャナに結合された顕微鏡対物レンズをさらに含み、顕微鏡対物レンズは0.1から0.8の間の、好ましくは0.2から0.5の間の、より好ましくは0.2から0.4の間の開口数を有する。このような開口数を有する顕微鏡対物レンズを提供することにより、特に眼内レンズを処置するために使用されるビームの集束および分解能特性に関して、高い照射ビーム品質を可能にし得る。
顕微鏡対物レンズは、例えば、色収差の補正が可能な典型的なレンズ構成を含む。顕微鏡対物レンズは、好ましくは、アイインタフェースシステムに、以下でさらに説明するように、典型的には患者の眼を固定位置に保つ吸引システムにリンクされている。
前述の本発明によるシステム内で使用される対物レンズのさらなる態様において、対物レンズは、照射ビームを人工レンズに集束させるためのOlympusLUCPLFLN対物レンズである。
したがって、本発明はさらに、前記照射ビームを前記人工レンズに顕微鏡対物レンズにより集束させるための、スキャナに結合された顕微鏡対物レンズをさらに含む前述のシステムに関し、顕微鏡対物レンズは0.1から0.8の間の、好ましくは0.2から0.5の間の、より好ましくは0.2から0.4の間の開口数を有する。
【0061】
代替の集束光学部/画像グループは、好ましくは50~150mm内の有効焦点距離、および好ましくは、0.025~0.1の開口数を持つ単一非球面レンズで構成される。
したがって、本発明はさらに、好ましくは50~150mm以内の有効焦点距離、および好ましくは、0.025~0.1の開口数を有する単一非球面レンズで構成される集束光学部/画像グループをさらに含む、前述のシステムに関する。
【0062】
前述のシステムは、または、好ましくは前述のシステムは、1つのさらなる態様において、前記患者の前記眼内の前記照射ビームの前記焦点の位置を決定するための位置決めシステムをさらに含み、位置決めシステムは、スキャナに結合され、前記眼内レンズにわたる前記照射ビームのスキャナによる走査は、眼内の前記照射ビームの前記焦点の位置に基づく。位置決めシステムは、光干渉断層撮影システム、共焦点顕微鏡、またはシャインプルーフカメラなどの評定システムを含み得る。位置決めシステムは、直接的、または間接的にスキャナに結合され得る。共焦点顕微鏡が使用されるいくつかの実施例では、共焦点顕微鏡はスキャナに直接結合され得る。
前述の評定システムは、眼および前記眼内レンズに応じてレーザー焦点の位置を決定するために、眼の局所データを位置決めシステムに提供するために使用される。
共焦点顕微鏡の場合、部分的に透明なミラーを使用してビデオ画像を可能にする。
【0063】
前述の、または好ましくは前述のシステムは、好ましくは、眼および照射ビームの出口に対する前記眼内レンズの位置、および/または向きをさらに決定するように構成され、前記眼内レンズにわたる前記照射ビームのスキャナによる走査は、眼に対する前記眼内レンズの位置、および/または向きに基づく。眼内レンズの位置が眼に対して中心に配置され得ないので、これは特に有利であり得て、眼内レンズを照射ビームで処置するときに、芯ずれが考慮に入れられ得る。
【0064】
IOLの位置に関しては、少なくとも2つの座標系が関連していると考え得る:眼の座標系、および眼内のレンズの座標系で、両者は互いに中心に配置され得ないからである。
IOLの位置に関しては、少なくとも2つの座標系が関連していると考え得る:眼のx、y、z座標、および眼内のレンズのx、y、z座標で、両者が互いに中心に配置され得ないからである。
【0065】
一態様において、評定システムは、個別入力データを作成する。これらの個別入力データは、例えば、眼内の人工レンズのレンズ位置、および/または向きについての、およびレーザービーム出口に関するデータ、および/または眼、および/または人工レンズの光パワーマッピングを含有する。これらのデータは、光学パターンの計算、または処置の継続に使用される。
さらに、評定システムが書き込みプロセス中に入力データを作成することが可能である。これらの処理中入力データは、例えば、眼内の人工レンズのレンズ位置、および/または向きについての、およびレーザービーム出口に関するデータ、および/または眼、および/または人工レンズの光パワーマッピングを含有する。これらのデータは、光学パターンの生成に使用される制御コマンドの処理中の改変に使用される。
したがって、本発明はさらに、前記患者の前記眼内の前記照射ビームの焦点の位置を決定するための位置決めシステムをさらに含む前述のシステムに関し、位置決めシステムは、スキャナに連結され、スキャナによる、前記人工レンズにわたる前記照射ビームの走査は、眼内の前記照射ビームの前記焦点の位置に基づく。
したがって、本発明はさらに、前述のシステムに関し、システムは、眼に対する前記人工レンズ、および照射ビームの出口の位置、および/または向きを決定するように構成され、スキャナによる、前記人工レンズにわたる前記照射ビームの走査は、眼に対する前記人工レンズの位置、および/または向きに基づく。
【0066】
前述のシステムは、または、好ましくは前述のシステムは、1つのさらなる態様において、(i)1つまたは2つ以上の照射源、および(ii)スキャナの一方または両方に連結された温度管理ユニットをさらに含み、温度管理ユニットは、前記照射ビームの照射ビーム特性、および前記人工レンズの人工レンズ特性に基づいて、前記走査による前記人工レンズの前記処置中に前記人工レンズの一部の温度を決定するように構成され、システムは、温度の前記決定に基づいて、(i)1つまたは2つ以上の照射源、および(ii)スキャナの一方または両方を制御するように構成される。これにより、照射ビームによる処置に基づいて、眼、および/または人工レンズが有害な影響を受けないことを確実にすることが可能になり得る。
さらに、温度管理ユニットは、好ましくは、前記人工レンズの前記処置中の前記温度を予測するように構成され、前記入力データは、予測された温度を含む。これにより、照射ビームによる処置に基づいて、眼、および/または人工レンズが有害な影響を受けないことを確実にする予防措置を講じることが可能になり得る。
あるいは、温度管理ユニットは、眼の温度を記録し、測定したデータを校正データを含む共通データと相関させて、眼の真の温度を計算する赤外線カメラである。
別の態様において、屈折率の温度依存性は、温度制御のために使用される。これらの実施例において、システムは屈折パワーマッピングデバイスを含む。測定した屈折パワーマップの偏差、および予測される屈折パワーマップの書き込みの進捗に基づいて、レンズ内の温度を処理中に計算することができる。
【0067】
別の態様において、発光スペクトルの温度依存性は、温度制御のために使用される。これらの実施例において、システムはUV-Vis分光計を含む。測定した発光ピーク波長、および/またはピーク幅の偏差に基づいて、焦点内の温度を処理中に計算することができる。
したがって、本発明はさらに、(i)1つまたは2つ以上の照射源、および(ii)スキャナの一方または両方に連結された温度管理ユニットを含む前述のシステムに関し、
温度管理ユニットは、前記照射ビームの照射ビーム特性および前記人工レンズの人工レンズ特性に基づいて、前記走査による前記人工レンズの前記処置中に前記人工レンズの一部の温度を決定するように構成され、
システムは、温度の前記決定に基づいて、(i)1つまたは2つ以上の照射源、および(ii)スキャナの一方または両方を制御するように構成される。
したがって、本発明はさらに、前述のシステムに関し、温度管理ユニットは、前記人工レンズの前記処置中の前記温度を予測するように構成され、前記入力データは予測された温度を含む。
【0068】
前述の、または好ましくは前述のシステムは、1つのさらなる態様において、前記患者の前記眼を固定位置に保つように構成されたアイインタフェースシステムをさらに含む。アイインタフェースシステムは、処置中に患者の眼の位置を固定するための吸引システムを含み得る。
患者は、寝た、または直立した状態で、システムに「ドッキング」され得る。
したがって、本発明はさらに、前記患者の前記眼を固定位置に保つように構成されたアイインタフェースシステムを含む前述のシステムに関する。
【0069】
前述のシステムは、または、好ましくは前述のシステムは、1つのさらなる態様において、(i)1つまたは2つ以上の照射源に制御コマンドを送信すること、(ii)スキャナに制御コマンドを送信すること、および(iii)光学パターンを作成するために必要な制御コマンドデータをスキャナに入力すること、のうち1つまたは2つ以上のための無線または有線の受信機、および/または送受信機を含む。
したがって、1つまたは2つ以上の照射源、および/またはスキャナは、遠隔制御し得る。さらに、またはあるいは、レンズデータ、および処置計画データの一方または両方に関するデータは、システムの外部に保存され得て、必要に応じて必要なときにシステムに提供され得る。いくつかの実施例において、1つまたは2つ以上の照射源を少なくとも制御するため、および/または制御信号を1つまたは2つ以上の照射源、および/またはスキャナに送信するときのいかなる遅延を低減(または回避)するためにスキャナを制御するために、有線の受信機または送受信機を提供することが好ましい場合がある。
別の実施例において、受信機/送受信機は、処置計画データおよびレンズデータを中央演算ユニットに送信し、中央演算ユニットは、光学パターンを計算し、これを入力データとして受信機に送り返し、受信機はそれをシステムに提供する。
【0070】
前述のシステムは、または、好ましくは前述のシステムはさらに、1つのさらなる態様において、人工レンズの前記処置中に前記人工レンズの屈折パワーを局所的に測定するためのデバイスを含む。これにより、1つまたは2つ以上の照射源、スキャナ、および入力データへの調整を、処置プロセス中に行い得る。
前述のシステムは、または、好ましくは前述のシステムはさらに、1つのさらなる態様において、人工レンズの前記処置中に前記人工レンズの屈折率を局所的に測定するための屈折計を含む。これにより、1つまたは2つ以上の照射源、スキャナ、および入力データへの調整を、処置プロセス中に行い得る。
【0071】
光子を提供するシステムのさらなる要素は、任意で、すべての機器が組み込まれているカバー、システム、およびすべてのサブシステムに十分なエネルギーを提供するパワーユニット、および吸引システム、および/または冷却装置のようなサブシステムである。
上述の要素に加えて、コントローラ、ファームウェア、グラフィックユーザーインタフェース(GUI)、ならびに処置アルゴリズムが提供され得る。システムに接続するために、ブルートゥース(登録商標)、Wi-Fi、またはRS-232のような他のポートを介して接続性を確立し得る。
【0072】
図5に、患者(136)の眼内に配置される眼内レンズの照射のためのシステム(100)のさらなる概略図を示す。システム(100)は、一般的に、少なくとも1つの、好ましくは2つの異なる波長を生成することができる少なくとも1つのフェムト秒レーザー源(102、104)を含むレーザーシステムに関する。システム(100)はさらに、焦点またはZシフター光学部(106)、スキャナ(110)(ガルバノスキャナ、ピエゾスキャナ、回転スキャナ、音響光学変調器、空間光変調器、デジタルマイクロミラーデバイス、またはステレオリソグラフィ装置)、およびレーザーパルスを所定の領域に供給する光学部(108)を含む。システム(100)は、患者(136)の眼内に配置された眼内レンズを形成する光化学的活性ユニットを含むポリマー材料の標的領域に供給されるエネルギーと同じレベルを成すことができ得る。システムはさらに、
図5において、患者(136)の眼を固定するためのアイインタフェース(112)を含む。
図5において、レーザーシステムは、対応するデバイスファームウェア(118)、およびフロントエンドグラフィカルユーザーインタフェース(GUI)(120)を組み込んだコンピュータコントローラ(116)に接続されている。アルゴリズム(122)は、処置計画システムにおいて眼内レンズを形成する光化学的活性ユニットを含むポリマー材料の標的領域に供給されるエネルギーのレベルを計算するために使用される。システムパラメータ、およびプロセス処置計画(134)は、GUI(120)を介して監視される。患者(136)からの入力と調整、例えば、レンズデータ(130)、および屈折率形成計画(132)は、GUI(120)を介して入力し得る。レーザー源、サブシステム、および身体固定(124)は、カバー(128)で密封された電力(126)に接続された単一モジュールに統合され得る。
【0073】
図6および7は、本明細書に説明する本発明によるシステムの要素の概略図を示す。
照射源(202)で生成された光子は、
図6の実施例において、ミラー(光学システム1、例えばビームシェイパ(204)、フォーカスシフタ/Zシフタ(206)を通ってスキャナ(208)(例えば、ガルバノスキャナ、またはピエゾスキャナ、または回転スキャナ、または音響光学変調器、または空間光変調器SLMを用いたデジタル)に導かれる。スキャナ(208)に取り付けられているのは、顕微鏡対物レンズ(光学システム2)、および患者インタフェース(210)である。
【0074】
図7に示す通り、Zシフタ(302)は、第1のレンズ(304)、第2のレンズ(306)、および第3のレンズ(308)を含む。次に、照射ビームは、複数のミラー(312)、(314)、および(316)を含むスキャナ(310)に移動し、これにより、IOL上の照射ビームのx-y方向の位置を変化することができる。スキャナ(310)を通過した後、照射ビームは、画像グループ(320)を通過する前に、撮像用分割ミラー(318)を通って移動する。システムはさらに、照明ユニット(322)、および患者インタフェース(324)を含む。
【0075】
本出願はさらに、二または多光子吸収プロセスに基づいて高分子光学材料で形成された本体を含む人工レンズの偏光性を(好ましくは前記レンズの1つまたは2つ以上の特定の位置で)調整するためのプロセスを説明し、プロセスは、以下のステップ:前記レンズを提供すること;および、本開示全体を通して説明されるか、または好ましくは説明されるシステムを使用することによって前記レンズの偏光性を調整し、その結果、人工レンズの非照射高分子光学材料に関してUV/Visスペクトルに有意差をもって高分子光学材料を変化させること、を含む。前記人工レンズは、好ましくは、以下に説明する、または好ましくは説明する、重合光学材料を含むコンタクトレンズ、またはIOLである。前述の、または好ましくは後述の、本発明による偏光性を調整するための前記プロセスは、人工レンズ材料の非破壊的な方法で実行される。
紫外可視分光法、または紫外可視分光光度法(UV-VisまたはUV/Vis)は、当業者に既知である。これは、紫外線の一部、および隣接する可視スペクトル領域全体の吸収分光法、または反射分光法を指す。好適なUV/Vis分光計は市販されている。UV/Vis分光計の選択は、当初の人工レンズのUV/Visスペクトルと、本発明により作られる前記照射される人工レンズのUV/Visスペクトルとの比較にとって重要ではない。結果を比較できるように、両測定が当業者に既知の同等の条件下で行われる限り。好適な分光計は、PerkinElmerのUV/Vis分光計Lambda900である。
【0076】
次に、人工レンズは、いくつかの実施例において、その後、患者の眼内に挿入され得る。いくつかの実施例において、レンズには、レンズが患者の眼内に配置される間にレンズの偏光性を調整し得るような、眼内レンズが含まれ得る。
前述のプロセス内で、人工レンズの偏光性の前記調整は、600nmから800nmの間の波長を有する照射ビームを人工レンズに照射することによって偏光性を減少させ、その結果、人工レンズの非照射高分子光学材料に関してUV/Visスペクトルに有意差、すなわち300nmから400nmの範囲でのピーク吸収の損失をもって高分子光学材料を変化させることを含む。
したがって、本発明はさらに、前述のプロセスに関し、人工レンズの偏光性の前記調整は、600nmから800nmの間の波長を有する照射ビームを人工レンズに照射することによって偏光性を減少させ、その結果、人工レンズの非照射高分子光学材料に関してUV/Visスペクトルに有意差、すなわち300nmから400nmの範囲でのピーク吸収の損失をもって高分子光学材料を変化させることを含む。
【0077】
前述のプロセス内で、人工レンズの偏光性の前記調整は、400nmから590nmの間の波長を有する照射ビームを人工レンズに照射することによって偏光性を増加させ、その結果、人工レンズの非照射高分子光学材料に関してUV/Visスペクトルに有意差、すなわち300nmから400nmの範囲でのピーク吸収の増加をもって高分子光学材料を変化させることを含む。
したがって、本発明はさらに、前述のプロセスに関し、人工レンズの偏光性の前記調整は、400nmから590nmの間の波長を有する照射ビームを人工レンズに照射することによって偏光性を増加させ、その結果、人工レンズの非照射高分子光学材料に関してUV/Visスペクトルに有意差、すなわち300nmから400nmの範囲でのピーク吸収の増加をもって高分子光学材料を変化させることを含む。
【0078】
したがって、本発明はさらに、二または多光子吸収プロセスに基づいて、高分子光学材料で形成された本体を含む人工レンズの偏光性を(好ましくは前記レンズの1つまたは2つ以上の特定の位置で)調整するためのプロセスに関し、プロセスは以下のステップを含む:
前記レンズを提供すること;および
以下を含むシステムを使用することにより、前記レンズの偏光性を調整すること:
前記人工レンズに、光学部で集束され、第1の波長、および/または第1の波長とは異なる第2の波長の照射ビームを照射する二光子または多光子用の1つまたは2つ以上の照射源、
1つまたは2つ以上の照射源に連結され、前記人工レンズにわたって前記照射ビームを走査するように構成されたスキャナ、および
1つまたは2つ以上の照射源およびスキャナに連結された入力ユニット、ここで、入力ユニットは、入力データに基づいて前記人工レンズにわたり前記照射ビームを走査することによって前記人工レンズを処置するためのデータを入力するように構成され、
第1の波長は、前記人工レンズの前記処置に基づいて、前記人工レンズの偏光性を局所的に減少するために600nmから800nmの間であり、その結果、人工レンズの非照射高分子光学材料に関してUV/Visスペクトルに有意差、すなわち300nmから400nmの範囲でのピーク吸収の損失をもって高分子光学材料を変化させ、
第2の波長は、前記人工レンズの前記処置に基づいて、前記人工レンズの偏光性を局所的に増加するために400nmから590nmの間であり、その結果、人工レンズの非照射高分子光学材料に関してUV/Visスペクトルに有意差、すなわち300nmから400nmの範囲でのピーク吸収の増加をもって高分子光学材料を変化させる。
【0079】
人工レンズの偏光性を減少、および/または増加させるために使用される特定の波長は、どの特定の材料、または組成物が人工レンズに使用され得るかに依存し得る。本開示を通して説明する高分子光学材料のいずれか1つまたは2つ以上は、レンズを作成、および/または提供するために使用され得る。
以下に説明する特殊なポリマーが好ましくは利用され、人工レンズ、好ましくは、二光子または多光子プロセスが適用される場合は、偏光性、よって、屈折率を変化させる能力を利用して後で光学特性を(非侵襲的に)変化し得るIOLの製作に適する。
以下に説明する前記特殊なポリマーは、好ましくは、本発明によるシステムで処置するために利用され、および/または、好ましくは、本発明によるプロセス中で使用される。
【0080】
二光子、または多光子プロセスは、前に詳細に説明したようにシステムを利用することによって作成される。
照射源、好ましくはパルスレーザーの適用可能な波長の領域は、前述の通り、600nm~800nm、好ましくは650nm~750nm、特に好ましくは670nm~720nm、非常に特に好ましくは680~710nmの範囲であり、偏光性を減少させ、よって、前記人工レンズの屈折率を減少させる。
照射源、好ましくはパルスレーザーの適用可能な波長の領域は、前述の通り、400nm~590nm、好ましくは500nm~580nm、特に好ましくは530nm~570nmの範囲であり、偏光性を増加させ、よって、前記人工レンズの屈折率を増加させる。
これにより、偏光性は局所的に特に正確に変化され得る。
【0081】
以下では、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの光学材料、好ましくはコンタクトレンズ、またはIOLの高分子光学材料が、前記材料の偏光性を局所的に低下させるための、600nm~800nm、好ましくは650nm~750nm、特に好ましくは670nm~720nm、および非常に特に好ましくは680~710nmの波長の領域についてさらに、および好ましく説明する。
この調整を適用するために、高分子光学材料は、1.45~1.60の範囲の屈折率を有する。
人工レンズ(コンタクトレンズ、またはIOL)の高分子光学材料は、任意で、紫外線遮断剤またはブルーライト吸収剤を含有することができる。
【0082】
前記調整のための本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの前記高分子光学材料は、共有結合した光活性ユニットを、好ましくは少なくとも2重量%~100重量%、好ましくは5重量%~90重量%、最も好ましくは7重量%~80重量%の量で含むポリマーマトリックスを含む。
前記ポリマーマトリックス内の光活性ユニットは、同じであることも異なっていることもある。
前記調整のための人工レンズ、および/またはIOLの高分子光学材料のポリマーマトリックスは、ホモポリマー、またはコポリマー、好ましくはコポリマーからのマトリックスであることがある。
【0083】
光活性ユニットを含むポリマーマトリックスは、シリコン含有ポリマー、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、またはそれらの混合物からのマトリックスであることがある。
【0084】
光活性ユニットとは、二光子、または多光子プロセスの影響下で、前述の、または好ましくは前述の、適用可能な波長の領域で光化学的に活性である光化学的活性ユニットを意味する。
光活性ユニットは、好ましくは、二光子、または多光子プロセスの影響下で、[2π+2π]環状付加によってシクロブタン環を形成することにより二量体化することができる非芳香族二重結合、好ましくは、炭素-炭素二重結合を含む。
したがって、本発明はさらに、高分子光学材料で形成された本体を含む人工レンズの偏光性を(好ましくは前記レンズの1つまたは2つ以上の特定の位置で)調整するためのプロセスに関し、人工レンズの前記光学材料は、二光子または多光子プロセスの影響下で、[2π+2π]環状付加によってシクロブタン環を形成することにより二量体化することができる非芳香族二重結合、好ましくは、炭素-炭素二重結合を含む共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む。この態様において、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの高分子光学材料内の光活性ユニットは、同じであることも異なっていることもあるが、前記高分子光学材料内では唯一の光活性ユニットであり、前述、またはさらに好ましくは以下に説明する通り、二光子または多光子プロセスの影響下で、[2π+2π]環状付加によってシクロブタン環を形成することにより二量体化することができる非芳香族二重結合、好ましくは、炭素-炭素二重結合を含むという点で分類される。
【0085】
あるいは、ポリマーマトリックスは、すでに二量体化された光活性ユニットとともに、前述のまたは後述の前記光活性ユニットを含む。したがって、ポリマーマトリックスは、二量体化することができる光活性ユニットを依然として含み得る。高分子光学材料(ポリマーマトリックス)は、部分的に二量体化し得る。
【0086】
本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの光学材料、好ましくはコンタクトレンズまたはIOLの高分子光学材料の前記態様において、そのような材料は、前述の第1または第2の波長の領域のいずれかで照射され、偏光性を減少または増加させ、よって、前記高分子光学材料を含む前記人工レンズの屈折率を減少または増加させることが可能である。このような高分子光学材料により、人工レンズの偏光性が調整可能となる。
したがって、本発明はさらに、高分子光学材料で形成された本体を含む人工レンズの偏光性を(好ましくは前記レンズの1つまたは2つ以上の特定の位置で)調整するためのプロセスに関し、人工レンズの前記光学材料は、すでに二量体化された光活性ユニットとともに、二光子または多光子プロセスの影響下で、[2π+2π]環状付加によってシクロブタン環を形成することにより二量体化することができる非芳香族二重結合、好ましくは、炭素-炭素二重結合を含む共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む。この態様において、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの高分子光学材料内の光活性ユニットは、同じであったり異なっていることがあるが、前記高分子光学材料内では唯一の光活性ユニットであり、前述、または好ましくは以下に説明する通り、二光子または多光子プロセスの影響下で、[2π+2π]環状付加によってシクロブタン環を形成することにより二量体化することができる非芳香族二重結合、好ましくは、炭素-炭素二重結合を含むか、または前記光活性ユニットはそれらの二量体化された光活性ユニットである、という点で分類される。
【0087】
本発明によるプロセスで使用される人工レンズの高分子光学材料内の光活性ユニットは、特に好ましくは、二光子、または多光子プロセスの影響下で、[2π+2π]環状付加によってシクロブタン環を形成することにより二量体化することができる少なくとも1つの芳香族環系と結合した、非芳香族炭素-炭素二重結合を含む。
好ましくは、非芳香族二重結合、および非芳香族二重結合と結合した芳香族環系は、前に説明した通り、光活性ユニットの一部として縮合環系、好ましくは二環式または三環式環系、特に好ましくは二環式環系を形成する。
【0088】
本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの高分子光学材料内の光活性ユニットの一部として前に説明した非芳香族炭素二重結合と結合したこのような縮合環系の例は、クロメン-2-オン、クロメン-2-チオン、チオケオメン-2-オン、チオクロメン-2-チオン、キノリン-2-オン、キノリン-2-チオン、ベンゾ[b]フラン、ベンゾ[b]チオフェン、ベンゾ[b]ピロール、インデン、1,2-ジヒドロナフタレン、6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アヌレン、(Z)-5,6,7,8-テトラヒドロベンゾ[8]アヌレンである。
【0089】
[2π+2π]環状付加は、以下のスキーム1により視覚化できる。
図8は、ポリ(M-14)の特定の[2π+2π]環状付加反応を示し;前記代表的な材料は、実施例1および2においてさらに説明する。スキーム1は、逆環化をさらに視覚化する。
図9は、逆環化によるポリ(M-14)二量体の特定の切断を示し、実施例3および5においてさらに説明する。
スキーム1:
【化1】
Rpは、リンカーを介して縮合環系に共有連結するポリマー/コポリマー骨格を意味する;
X’-X’は、CH=CH、CR’=CH、CH=CR’、またはCR’=CR’とは互いに無関係である;
Y’は、O、S、NR’、CH
2、CHR’、C(R’)
2である;
Y’がO、S、またはNR’の場合、mは1であり、Y’がCH
2、CHR’、およびC(R’)
2からそれぞれの場合において独立して選択される場合、mは1、2、3、または4である;
Z’は、C=O、またはC=Sである;
nは、0、または1である;
R’は、有機置換基である。
【0090】
本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの光学材料として使用することができるシリコン含有ポリマーの例は、WO2018149857に説明されている。
本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの光学材料として使用することができるアクリレート含有、またはメタクリレート含有ポリマーの例は、WO2017032442、WO2017032443、WO2017032444、WO2018149850、WO2018149852、WO2018149853、WO2018149855、WO2018149856に説明されている。
すべての引用は参照により組み込まれる。
【0091】
本発明の1つの好ましい態様において、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む高分子光学材料は、式(1)による重合モノマーを含み、
【化2】
【0092】
ここで、使用される記号は次の通りである:
uは、0、または1であり、
Yは各事例で同じか、または異なり、O、S、NR0、またはX1であり、
X1は、CH2、CHR0、C(R0)2、[CH2]2、[CHR0]2、[C(R0)2]2、[CH2]3、[CHR0]3、[C(R0)2]3、[CH2]4、[CHR0]4、または[C(R0)2]4であり;
Zは各事例で同じか、または異なり、O、またはSであり;
X1は、O、S、またはSO2であり;
aは、0、または1であり;
Spは、アルカンジイル、アルケンジイル、またはアルキンジイルであり、1つまたは2つ以上のR基で置換し得て;
【0093】
R0は、1~10個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基であり;
R1、R2、R3、およびR4は、H、F、Cl、Br、I、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基、1~20個のC原子を有する部分的に、または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルキル基、および5~40個の環原子を持つアリールまたはヘテロアリール基から選択され、互いに無関係であり;
R5、R6、R7、R8、およびR9は、それぞれの場合において、F、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐、非ハロゲン化、部分的または完全にハロゲン化されたアルキル基、3~6個のC原子を有する非ハロゲン化、部分的にまたは完全にハロゲン化されたシクロアルキル基、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐、非ハロゲン化、部分的または完全にハロゲン化されたアルコキシ基、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐、非ハロゲン化、部分的または完全にハロゲン化されたチオアルキル基からなる群から独立して選択され;
【0094】
X11は、O、S、O-SO2、SO2-O、C(=O)、OC(=O)、C(=O)O、S(C=O)、および(C=O)Sからなる群から選択され;
cは、0、または1であり;
R10、R11、R12は、H、F、部分的または完全にハロゲン化され得る1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基、および6~14個のC原子を有するアリール基から選択され、互いに無関係であり;
Rは各事例で同じか、または異なり、F、OH、1~10個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基、1~10個のC原子を有する部分的または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルキル基、1~10個のC原子を有する直鎖または分岐アルコキシ基、および1~10個のC原子を有する部分的または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルコキシ基から選択される。
【0095】
本発明の1つの好ましい態様において、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む高分子光学材料は、式(2)による重合モノマーを含み、
【化3】
【0096】
ここで、使用される記号は次の通りである:
uは、0、または1であり、
Yは各事例で同じか、または異なり、O、S、NR0、またはX1であり、
X1は、CH2、CHR0、C(R0)2、[CH2]2、[CHR0]2、[C(R0)2]2、[CH2]3、[CHR0]3、[C(R0)2]3、[CH2]4、[CHR0]4、または[C(R0)2]4であり;
Zは各事例で同じか、または異なり、O、またはSであり;
X1は、O、S、またはSO2であり;
aは、0、または1であり;
Spは、アルカンジイル、アルケンジイル、またはアルキンジイルであり、1つまたは2つ以上のR基で置換し得て;
【0097】
R
0は、1~10個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基であり;
R
1、R
2、R
3、およびR
4は、H、F、Cl、Br、I、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基、1~20個のC原子を有する部分的に、または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルキル基、および5~40個の環原子を持つアリールまたはヘテロアリール基から選択され、互いに無関係であり;
R
5、R
6、R
7、R
8、およびR
9は、それぞれの場合において、F、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐、非ハロゲン化、部分的または完全にハロゲン化されたアルキル基、3~6個のC原子を有する非ハロゲン化、部分的にまたは完全にハロゲン化されたシクロアルキル基、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐、非ハロゲン化、部分的または完全にハロゲン化されたアルコキシ基、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐、非ハロゲン化、部分的または完全にハロゲン化されたチオアルキル基からなる群から独立して選択されるが、
R
5、R
6、R
7、R
8、またはR
9のいずれかが式(2-1)に対応する場合、*は式(2)の残りの部分へのリンクを示し、
【化4】
R
10、R
11、R
12は、H、F、部分的または完全にハロゲン化され得る1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基、および6~14個のC原子を有するアリール基から選択され、互いに無関係であり;
【0098】
X11は、O、S、O-SO2、SO2-O、C(=O)、OC(=O)、C(=O)O、S(C=O)、および(C=O)Sからなる群から選択され;
cは、0、または1であり;
Rは各事例で同じか、または異なり、F、OH、1~10個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基、1~10個のC原子を有する部分的または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルキル基、1~10個のC原子を有する直鎖または分岐アルコキシ基、および1~10個のC原子を有する部分的または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルコキシ基から選択される。
【0099】
ハロゲン化とは、好ましくは、フッ素化、塩素化、または臭素化、特に好ましくは、フッ素化を意味する。
1~10個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基とは、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のC原子を有するアルキル基、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、イソブチル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-、2-または3-メチルブチル、1,1-、1,2-、または2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、エチルヘキシル、n-ノニル、またはn-デシルを意味する。1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基には、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、およびn-エイコシルなどの11、12、13、14、15、16、17、18、19、および20個のC原子を有する任意のアルキル基を含む1~10個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基のすべての例が含まれる。
【0100】
用語、部分的にハロゲン化されたアルキル基とは、アルキル基の少なくとも1つのH原子が、F、Cl、Br、またはIにより置き換えられることを意味する。好ましくは、アルキル基は部分的にフッ素化され、これは、アルキル基の少なくとも1つのH原子がFにより置き換えられることを意味する。
用語、完全にハロゲン化されたアルキル基とは、アルキル基の全てのH原子が、F、Cl、Br、および/またはIにより置き換えられることを意味する。好ましくは、アルキル基は完全にフッ素化され、これは、アルキル基の全てのH原子がFにより置き換えられることを意味する。好ましい完全にフッ素化されたアルキル基は、トリフルオロメチルである。
用語、ハロゲン化される、または、好ましくは、フッ素化されるは、ハロゲン化シクロアルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、またはハロゲン化チオアルキル基などの他の基に加えて対応する。
【0101】
3~6個のC原子を有するシクロアルキル基には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルが含まれ、これらは、前に説明したように、部分的または完全にハロゲン化またはフッ素化され得る。
【0102】
1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルコキシ基とは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個のC原子を有するO-アルキル基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソ-プロポキシ、n-プロポキシ、イソ-ブトキシ、n-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、1-、2-または3-メチルブチルオキシ、1,1-、1,2-または2,2-ジメチルプロポキシ、1-エチルプロポキシ、n-ヘキシルオキシ、n-ヘプチルオキシ、n-オクチルオキシ、エチルヘキシルオキシ、n-ノニルオキシ、n-デシルオキシ、n-ウンデシルオキシ、n-ドデシルオキシ、n-トリデシルオキシ、n-テトラデシルオキシ、n-ペンタデシルオキシ、n-ヘキサデシルオキシ、n-ヘプタデシルオキシ、n-オクタデシルオキシ、n-ノナデシルオキシ、およびn-エイコシルオキシを意味し、部分的または完全にハロゲン化され得るか、または好ましくは、部分的または完全にフッ素化され得る。好ましい完全にフッ素化されたアルコキシ基はトリフルオロメトキシである。
【0103】
1~20個のC原子を有する直鎖または分岐チオアルキル基は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個のC原子を有するS-アルキル基、例えば、チオメチル、1-チオエチル、1-チオ-イソ-プロピル、1-チオ-n-プロポイル、1-チオ-イソ-ブチル、1-チオ-n-ブチル、1-チオ-tert-ブチル、1-チオ-n-ペンチル、1-チオ-1-、-2-、または-3-メチルブチル、1-チオ-1,1-、-1,2-、または-2,2-ジメチルプロピル、1-チオ-1-エチルプロピル、1-チオ-n-ヘキシル、1-チオ-n-ヘプチル、1-チオ-n-オクチル、1-チオ-エチルヘキシル、1-チオ-n-ノニル、1-チオ-n-デシル、1-チオ-n-ウンデシル、1-チオ-n-ドデシル、1-チオ-n-トリデシル、1-チオ-n-テトラデシル、1-チオ-n-ペンタデシル、1-チオ-n-ヘキサデシル、1-チオ-n-ヘプタデシル、1-チオ-n-オクタデシル、1-チオ-n-ノナデシル、および1-チオ-n-エイコシルを意味し、部分的または完全にハロゲン化され得るか、または好ましくは、部分的または完全にフッ素化され得る。好ましい完全にフッ素化されたチオエーテル基は、トリフルオロメチルチオエーテルである。
【0104】
好ましいアルキル、およびアルコキシ基は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のC原子を有する。
【0105】
本発明の文脈におけるアリール基は、6~40個の環原子を含有し、本発明の文脈におけるヘテロアリール基は、少なくとも1つのヘテロ原子を含む5~40個の環原子を含有する。ヘテロ原子は、好ましくは、N、O、および/またはSから選択される。アリール基またはヘテロアリール基は、ここでは、単純な芳香族サイクル、すなわちフェニル、または単純なヘテロ芳香族サイクル、例えば、ピリジニル、ピリミジニル、チオフェニルなど、または、縮合(アネレート)アリールまたはヘテロアリール基、例えば、ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、キノリニル、またはイソキノリニルのいずれかを意味すると理解される。
【0106】
アリール基またはヘテロアリール基は、好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ベンズアントラセン、クリセン、ペリレン、フルオランテン、ナフタセン、ペンタセン、ベンゾピレン、ビフェニル、ビフェニレン、テルフェニル、トリフェニレン、フルオレン、スピロビフルオレン、ジヒドロフェナントレン、ジヒドロピレン、テトラヒドロピレン、シスまたはトランスインデノフルオレン、シスまたはトランスインデノカルバゾール、シスまたはトランスインドロカルバゾール、トルクセン、イソトルクセン、スピロトルクセン、スピロイソトルクセン、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、イソベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、ピロール、インドール、イソインドール、カルバゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントリジン、ベンゾ-5,6-キノリン、ベンゾ-6,7-キノリン、ベンゾ-7,8-キノリン、フェノチアジン、フェノキサジン、ピラゾール、インダゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、ナフトイミダゾール、フェナントリイミダゾール、ピリドイミダゾール、ピラジンイミダゾール、キノキサリンイミダゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、ナフトキサゾール、アントロキサゾール、フェナントロキサゾール、イソキサゾール、1,2-チアゾール、1,3-チアゾール、ベンゾチアゾール、ピリダジン、ヘキサアザトリフェニレン、ベンゾピリダジン、ピリミジン、ベンゾピリミジン、キノキサリン、1,5-ジアザアントラセン、2,7-ジアザピレン、2,3-ジアザピレン、1,6-ジアザピレン、1,8-ジアザピレン、4,5-ジアザピレン、4,5,9,10-テトラアザペリレン、ピラジン、フェナジン、フェノキサジン、フェノチアジン、フルオルビン、ナフチリジン、アザカルバゾール、ベンゾカルボリン、フェナントロリン、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-オキサジアゾール、1,2,5-オキサジアゾール、1,3,4-オキサジアゾール、1,2,3-チアジアゾール、1,2,4-チアジアゾール、1,2,5-チアジアゾール、1,3,4-チアジアゾール、1,3,5-トリアジン、1,2,4-トリアジン、1,2,3-トリアジン、テトラゾール、1,2,4,5-テトラジン、1,2,3,4-テトラジン、1,2,3,5-テトラジン、プリン、プテリジン、インドリジン、およびベンゾチアジアゾールに由来する。
6~14個のC原子を持つアリールは、好ましくは、フェニル、ナフチル、またはアントリルからなる群から選択されるアリール基、特に好ましくはフェニルである。
【0107】
本発明の1つの特に好ましい態様において、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む高分子光学材料は、式(3)による重合モノマーを含有し、
【化5】
ここで、X
1、a、R
5~R
9、およびR
10~R
12は、前述の意味を有する。
【0108】
本発明の1つの特に好ましい態様において、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む高分子光学材料は、式(4)による重合モノマーを含有し、
【化6】
ここで、
uは0、YはX
1、X
11は、O-SO
2、SO
2-O、OC(=O)、C(=O)O、S(C=O)、および(C=O)Sからなる群から選択され、cは1であり、
および、X
1、X
1、a、Sp、R
0、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、およびRは、前述の意味を有する。
【0109】
本発明の1つの特に好ましい態様において、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む高分子光学材料は、式(5)による重合モノマーを含有し、
【化7】
ここで、
uは0、YはX
1、X
11は、O-SO
2、SO
2-O、OC(=O)、C(=O)O、S(C=O)、および(C=O)Sからなる群から選択され、cは1であり、
および、X
1、X
1、a、Sp、R
0、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、およびRは、前述の意味を有する。
【0110】
R5、R6、R7、R8およびR9は、H、F、Cl、Br、I、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルコキシ基、1~20個のC原子を有する部分的または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルキル基、1~20個のC原子を有する部分的または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルコキシ基、および、5~40個の環原子を持つアリールまたはヘテロアリール基から選択され、好ましくは、互いに無関係であり、R5~R9から選択される少なくとも1つの基が、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルキルまたはアルコキシ基であり、部分的または完全にハロゲン化されて、式(1)または(3)による化合物になり得る。
R5、R6、R7、R8およびR9は、H、F、Cl、Br、I、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルコキシ基、1~20個のC原子を有する部分的または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルキル基、1~20個のC原子を有する部分的または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルコキシ基、および、式(2)、(4)、または(5)による化合物用に5~40個の環原子を持つアリールまたはヘテロアリール基から選択され、好ましくは、互いに無関係である。
【0111】
式(1)、(2)、(3)、(4)、または(5)の化合物において、Spは、好ましくは非置換である。
式(1)、(2)、(3)、(4)、または(5)の化合物において、R11およびR12は、好ましくはHである。
式(1)、(2)、(3)、(4)、または(5)の化合物において、R10は、好ましくはHまたはメチルである。
式(1)、または(2)の化合物において、R5は、好ましくはHである。
式(1)、または(2)の化合物において、R6は、好ましくはHである。
式(1)、または(2)の化合物において、R8は、好ましくはHである。
【0112】
式(1)、または(2)の化合物において、R9は、好ましくは、部分的または完全にフッ素化され得る1~6個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル、またはアルコキシ基であり、X1、a、R5~R8、およびR10~R12は、前述の、または好ましくは前述の通りの意味を有する。
式(1)、または(2)の化合物において、R7は、好ましくは、部分的または完全にフッ素化され得る2~8個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基であり、X1、a、R5~R6、R9,およびR10~R12は、前述の、または好ましくは前述の通りの意味を有する。
式(2)、(4)、または(5)の化合物において、R1、R2、R3、およびR4は、好ましくはHである。
式(2)、または(4)の化合物において、R5、R6、R7、R8、およびR9は、H、F、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルキル基、1~20個のC原子を有する直鎖または分岐アルコキシ基、1~20個のC原子を有する部分的または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルキル基、1~20個のC原子を有する部分的または完全にハロゲン化された直鎖または分岐アルコキシ基から選択され、好ましくは、互いに無関係である。
式(4)の化合物において、R5、R6、R7、R8、およびR9はすべて好ましくはHであるか、または、R5、R6、R7、R8、およびR9のうちの1つまたは2つはF、または、部分的または完全にフッ素化され得る1~8個のC原子を有するアルキル基であり、他の置換基はHである。
式(5)の化合物において、R5、R6、R7、R8、およびR9は、前述の、または好ましくは前述の通り、式(2-1)に存在する1つの置換基のほかには、すべて好ましくはHである。
【0113】
本発明のさらなる態様において、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズのポリマーマトリックスを含む高分子光学材料は、化合物(M-1)~(M-68)、および(A-01)~(A-16)から選択される重合モノマーを含有する:
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【0114】
本発明のさらなる態様において、ポリマーマトリックスを含む高分子光学材料は、化合物(M-12)、(M-14)、(M-15)、(M-18)、(M-53)、(M-55)、(M-67)、(A-01)~(A-16)から選択される重合モノマーを含有する。
【0115】
本発明のさらに非常に好ましい態様において、本発明によるプロセス中で使用される高分子光学材料のポリマーマトリックスは、前述の、または好ましくは前述の光活性ユニットを含む重合モノマーを含むコポリマーマトリックス、または、前述の式(1)~(5)の重合化合物、または重合化合物(M-1)~(M-68)、および(A-01)~(A-16)、および当技術分野で既知のさらなる重合モノマーである。
【0116】
人工レンズ(例えば、コンタクトレンズまたはIOL)用の高分子光学材料を構築する前に前述、または好ましくは前述の光活性ユニットを含むモノマーと共重合するモノマーの例は、スチレン、エトキシエチルメタクリレート(EOEMA)、メチルメタクリレート(MMA)、メチルアクリレート、n-アルキルアクリレート(2~20個のC原子を含むn-アルキル基)、n-アルキルメタクリレート(2~20個のC原子を含むn-アルキル基)、i-アルキルアクリレート(3~20個のC原子を含むi-アルキル基)、i-アルキルメタクリレート(3~20個のC原子を含むi-アルキル基)、エトキシエトキシエチルアクリレート(EEEA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、テトラヒドロフリルメタクリレート(THFMA)、グリシジルメタクリレート(GMA)、16-ヒドロキシヘキサデシルアクリレート、16-ヒドロキシヘキサデシルメタクリレート、18-ヒドロキシオクタデシルアクリレート、18-ヒドロキシオクタデシルメタクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート(EGPEA)、ヘプタフルオロブチルアクリレート、ヘプタフルオロブチルメタクリレート、ヘキサフルオロブチルアクリレート、ヘキサフルオロブチルメタクリレート、ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、ペタンフルオロプロピルアクリレート、ペンタフルオロプロピルメタクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、トリフルオロエチルアクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート、ビスフェノールAジアクリレート-1EO/フェノール(BPADA)、2-[3’-2’H-ベンゾトリアゾール-2’-イル)-4’-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート(BTPEM)、またはエチレングリコールジメタクリレートからなる群から選択し得る。
【0117】
人工レンズ(例えば、コンタクトレンズまたはIOL)用の高分子光学材料を構築する前に前述、または好ましくは前述の光活性ユニットを含むモノマーと共重合するモノマーの好ましい例は、メチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、8-メチルノニルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、またはそれらの混合物から選択される。
【0118】
好適なUV吸収剤は、2-(3-(t-ブチル)-4-ヒドロキシ-5-(5-メトキシ-2-ベンゾトリアゾリル)フェノキシ)エチルメタクリレート、3-(3-(t-ブチル)-4-ヒドロキシ-5-(5-メトキシ-2-ベンゾトリアゾリル)フェノキシ)プロピルメタクリレート、3-(3-t-ブチル-5-(5-クロロベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル)プロピルメタクリレート3-(3-(tert-ブチル)-4-ヒドロキシ-5-(5-メトキシ-2H-ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール-2-イル)フェノキシ)プロピルメタクリラート、2-(2-ヒドロキシ-5-ビニルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、アリル-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-アリル-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、4-メタクリロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-(2’-ヒドロキシ-3’-メタリル-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン、4-アクリロイルエトキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリラート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリルアミドフェニル)-5-メトキシベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリルアミドフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシプロピルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロイルプロピル-3’-tert-ブチル-フェニル)-5-メトキシ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3-(tert-ブチル)-4-ヒドロキシ-5-(5-メトキシ-2H-ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール-2-イル)フェノキシ)エチルメタクリラート、2-[3’-tert-ブチル-2’-ヒドロキシ-5’-(3’’-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]-5-クロルベンゾトリアゾール、2-{2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-[3’-メタクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}-5-メトキシ-2H-ベンゾトリアゾール、2-[3’tert-ブチル-5’-(3’’-ジメチルビニルシリルプロポキシ)-2’-ヒドロキシフェニル]-5-メトキシベンゾトリアゾール、2-(tert-ブチル)-6-(5-クロロ-2H-ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール-2-イル)-4-ビニルフェノール、2-(2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(2-メチルプロップ-2-エニル)フェノール、2-(3-アセチル-2-アミノフェノキシ)エチルメタクリラート、2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリラート、またはこの化合物の組み合わせである。
【0119】
好ましいUV吸収剤は、2-[3’-2’H-ベンゾトリアゾール-2’-イル)-4’-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート(BTPEM)、2-(3-(t-ブチル)-4-ヒドロキシ-5-(5-メトキシ-2-ベンゾトリアゾリル)フェノキシ)エチルメタクリレート、3-(3-(t-ブチル)-4-ヒドロキシ-5-(5-メトキシ-2-ベンゾトリアゾリル)フェノキシ)プロピルメタクリレート、3-(3-t-ブチル-5-(5-クロロベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル)プロピルメタクリレートの群から選択され、式(1)、(2)、(3)、(4)、または(5)によるモノマーとともに重合し得る。
【0120】
人工レンズ(コンタクトレンズまたはIOL)の高分子光学材料を構築する式(1)、(2)、(3)、(4)、または(5)の重合モノマーを含むコポリマー中に使用するのに好適な架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、エチレングリコールジアクリレート、1,3-プロパンジオールジアクリラート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,8-オクタンジオールジアクリレート、1,11-ウンデカンジオールジアクリレート、1,12-ドデシルジアクリレート、1,15-ペンタデカンジオールジアクリレート、1,16-ヘキサデカンジオールジアクリレート、1,18-オクタデカンジオールジアクリレート、1,3-プロパンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,8-オクタンジオールジメタクリレート、1,11-ウンデカンジオールジメタクリレート、1,12-ドデシルジメタクリレート、1,15-ペンタデカンジオールジメタクリレート、1,16-ヘキサデカンジオールジメタクリレート、1,18-オクタデカンジオールジメタクリレートの群から選択される。
【0121】
屈折率を増加する必要がある場合は、偏光性を変化させることができる1つまたは2つ以上のポリマーでできた人工レンズ(コンタクトレンズまたはIOL)に、別の波長領域を適用し得る。400~590nm、好ましくは500~580nm、最も好ましくは530~570nmを使用し得る。
【0122】
以下において、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの光学材料、好ましくはコンタクトレンズまたはIOLの高分子光学材料が、前記材料の偏光性を局所的に増加させるために、400nm~590nm、好ましくは500nm~580nm、特に好ましくは530nm~570nmの波長の領域についてさらに、および好ましく説明する。
この調整を適用するために、高分子光学材料は、1.45~1.60の範囲の屈折率を有する。
前記調整のための人工レンズ(コンタクトレンズまたはIOL)の高分子光学材料は、任意で、前述の紫外線遮断剤またはブルーライト吸収剤を含有することができる。
前記調整のための本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの前記高分子光学材料は、共有結合した二量体化された光活性ユニットを、好ましくは少なくとも2重量%~100重量%、好ましくは5重量%~90重量%、最も好ましくは7重量%~80重量%の量で含むポリマーマトリックスを含む。
前記ポリマーマトリックス内の二量体化された光活性ユニットは、同じであったり異なっていることがある。
前記調整のための人工レンズ、および/またはIOLの高分子光学材料のポリマーマトリックスは、ホモポリマー、またはコポリマー、好ましくは、コポリマーからのマトリックスであることがある。
前記二量体化された光活性ユニットを含む前記ポリマーマトリックスは、シリコン含有ポリマー、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、またはそれらの混合物からのマトリックスであることがある。
【0123】
二量体化された光活性ユニットとは、二光子または多光子プロセスの影響下で、前述の、または好ましくは前述の、400nm~590nmの波長の領域で光化学的に活性である光化学的活性ユニットを意味する。
【0124】
前記調整のためのレンズ、および/またはIOLの高分子光学材料のポリマーマトリックスは、二光子、または一般的に多光子プロセスの影響下で分離することができる二量体化された光活性ユニットを含む。
したがって、本発明はさらに、高分子光学材料で形成された本体を含む人工レンズの偏光性を(好ましくは前記レンズの1つまたは2つ以上の特定の位置で)調整するためのプロセスに関し、人工レンズの前記高分子光学材料は、二光子または一般的に多光子プロセスの影響下で分離することができる唯一の光活性ユニットとして共有結合した二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む。
【0125】
好ましくは、二量体化された光活性ユニットは、二光子または一般的に多光子プロセスの影響下で切断されるであろうシクロブタン環を含む。
あるいは、二量体化された光活性ユニットは、特に好ましくは、二光子または一般的に多光子プロセスの影響下で切断することができるシクロブタン環を含む。
したがって、本発明はさらに、高分子光学材料で形成された本体を含む人工レンズの偏光性を(好ましくは前記レンズの1つまたは2つ以上の特定の位置で)調整するためのプロセスに関し、人工レンズの前記高分子光学材料は、二光子または一般的に多光子プロセスの影響下で切断することができる唯一の光活性ユニットとしてシクロブタン環を含む共有結合した二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む。
シクロブタン環を含む前記二量体化された光活性ユニットの切断は、前述のスキーム1において視覚化される。
【0126】
本発明の1つの好ましい態様において、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む高分子光学材料は、前述の、または好ましくは前述の式(1)、(2)、(3)、(4)または(5)による重合モノマーに由来する。
本発明のさらなる態様において、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズの二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む高分子光学材料は、前述の化合物(M-1)~(M-68)、および(A-01)~(A-16)から選択される重合モノマーに由来する。
【0127】
本発明のさらに非常に好ましい態様において、本発明によるプロセス中で使用される高分子光学材料のポリマーマトリックスは、前述の、または好ましくは前述の二量体化された光活性ユニットを含む重合モノマーを含むコポリマーマトリックスであるか、または、前述の式(1)~(5)の重合化合物に由来するか、または重合化合物(M-1)~(M-68)、および(A-01)~(A-16)、および当技術分野で既知のさらなる重合モノマーに由来する。
モノマー、UV吸収剤、および架橋剤の例は前述しており、前述の、または好ましくは前述の二量体化された光活性ユニットを含むこの高分子光学材料に適宜適用される。
【0128】
本発明によるプロセス中で使用される人工レンズを製造する間、部分的または完全に二量体化された光活性ユニットを含む前記ポリマーマトリックスは、前述の、または好ましくは前述のように、[2π+2π]環状付加によりシクロブタン環を形成することによって二量体化することができる光活性ユニットの一光子吸収、または二光子、または一般的に多光子吸収を介して形成され得る。
本発明によるプロセスが眼に適用される場合、二光子(または、一般的に多光子)吸収を使用し得る。
本発明によるプロセス中で使用される部分的または完全に二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む高分子光学材料を含む人工レンズを製造するために、特殊な波長フィルタを持つUVランプ、上に明示した波長の1つを持つUVLED、または上に明示した波長を持つレーザーなどの任意の照射手段を介して、二光子(または一般的に多光子)吸収、または1光子吸収を使用し得る。
本発明によるプロセス中で使用される部分的または完全に二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む高分子光学材料を含む人工レンズを製造するために、特殊な波長フィルタを持つUVランプ、上に明示した波長の1つを持つUVLED、または上に明示した波長を持つレーザーなどの任意の照射手段を介して、1光子吸収が好ましく使用される。
【0129】
本発明によるプロセス中で使用される部分的または完全に二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む高分子光学材料を含む人工レンズの製造のために、フィードレーザーの周波数を2倍にすることにより前述の本発明によるシステムについて説明したのと同じ照射源を使用し得るか、または光パワー増幅器を使用し得るか、または別の照射源を使用し得る。好ましくは、別の照射源が、前記人工レンズの製造のために使用される。
【0130】
本発明は、二または多光子吸収プロセスに基づいて、高分子光学材料で形成された本体を含む人工レンズの偏光性を調整するためのプロセスにさらに関し、プロセスは以下のステップを含む:
前記人工レンズを提供すること;および
前述の、または好ましくは前述のシステムを使用することにより、前記レンズの照射を通して前記レンズの偏光性を調整すること、
ここで、提供される人工レンズは、前述の、または好ましくは前述のように、[2π+2π]環状付加によりシクロブタン環を形成することによって二量体化することができる非芳香族二重結合を含む共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含み、
そして、
前記提供される人工レンズは、第1の波長の照射ビームで照射され、前記照射は、前記光活性ユニットの二量体化を引き起こし、それにより、前記人工レンズの偏光性を減少させ、それにより、提供される人工レンズを改変し、改変された人工レンズが、前記[2π+2π]環状付加に由来する部分的または完全に二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含み、任意で、前記二量体化された光活性ユニットを部分的に切断することによって前記改変された人工レンズの偏光性を局所的に増加させるために、前記改変された人工レンズに第2の波長の照射ビームを照射する。
【0131】
本発明は、二または多光子吸収プロセスに基づいて、高分子光学材料で形成された本体を含む人工レンズの偏光性を調整するためのプロセスにさらに関し、プロセスは以下のステップを含む:
前記人工レンズを提供すること;および
前述の、または好ましくは前述のシステムを使用することにより、前記レンズの照射を通して前記レンズの偏光性を調整すること、
ここで、提供される人工レンズは、前述の、または好ましくは前述の二光子または一般的に多光子プロセスの影響下で分離することができる唯一の光活性ユニットとして共有結合した二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含み、
提供される人工レンズは、第2の波長の照射ビームで照射され、前記照射が前記二量体化された光活性ユニットの分離を引き起こし、それにより、前記人工レンズの偏光性を増加させ、それにより、提供される人工レンズを改変し、改変された人工レンズが、再び二量体化することができる光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含み、任意で、前記光活性ユニットを部分的に二量体化することによって前記改変された人工レンズの偏光性を局所的に減少させるために、前記改変された人工レンズに第1の波長の照射ビームを照射する。
【0132】
本発明は、二または多光子吸収プロセスに基づいて、高分子光学材料で形成された本体を含む人工レンズの偏光性を調整するためのプロセスにさらに関し、プロセスは以下のステップを含む:
前記人工レンズを提供すること;および
前述の、または好ましくは前述のシステムを使用することにより、前記レンズの照射を通して前記レンズの偏光性を調整すること、
ここで、提供される人工レンズは、前述の、または好ましくは前述のように、すでに二量体化された光活性ユニットとともに二光子または多光子プロセスの影響下で、[2π+2π]環状付加によりシクロブタン環を形成することによって二量体化することができる非芳香族二重結合を含む共有結合した光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含み、および、
提供される人工レンズが、第1の波長の照射ビームで照射され、前記照射が前記光活性ユニットの二量体化を引き起こし、それにより、前記人工レンズの偏光性を減少させ、それにより、提供される人工レンズを改変し、改変された人工レンズが、前記[2π+2π]環状付加に由来するより多くの二量体化された光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含むか、または、
提供される人工レンズが、第2の波長の照射ビームで照射され、前記照射が前記二量体化された光活性ユニットの分離を引き起こし、それにより、前記人工レンズの偏光性を増加させ、それにより、提供される人工レンズを改変し、改変された人工レンズが[2π+2π]環状付加によってシクロブタン環を形成することにより二量体化することができるより多くの光活性ユニットを含むポリマーマトリックスを含む。
【0133】
本発明はさらに、患者の眼内に配置される、前述の、または好ましくは前述の高分子光学材料を含む眼内レンズの偏光性を局所的に調整するための方法に関し、方法は以下を含む:
好ましくは、前述のシステム、および/またはプロセスを使用して、眼内レンズの偏光性を局所的に減少させるために、600nmから800nmの間の波長を有する照射ビームに眼内レンズを曝すこと、または、
眼内レンズの偏光性を局所的に増加させるために、400nmから590nmの間の波長を有する照射ビームに眼内レンズを曝すこと。
【0134】
本発明はさらに、患者の眼内に配置される、前述の、または好ましくは前述の高分子光学材料を含む眼内レンズの偏光性を局所的に調整するための方法に関し、方法は以下を含む:
好ましくは、前述のシステム、および/またはプロセスを使用して、眼内レンズの偏光性を局所的に減少させるために、600nmから800nmの間の第1の波長を有する第1の照射ビームに眼内レンズを曝すこと、および、
眼内レンズの偏光性を局所的に増加させるために、400nmから590nmの間の第2の波長を有する第2の照射ビームに眼内レンズを曝すこと。
【0135】
本発明はさらに、患者の眼内に配置される、前述の、または好ましくは前述の高分子光学材料を含む眼内レンズの偏光性を局所的に調整する方法に関し、前記眼内レンズを曝すことは、眼内レンズのレンズデータに関する、特に高分子光学材料に関する入力データ、および/または、前記照射ビームに前記眼内レンズを曝すことに基づく眼内レンズの処置のための処置計画に関する処置計画データに基づいて、眼内レンズにわたり前記照射ビームを走査することを含む。
【0136】
本発明はさらに、患者の眼内に配置される、前述の、または好ましくは前述の高分子光学材料を含む眼内レンズの偏光性を局所的に調整するための方法に関し、
レンズデータは、眼内レンズの1つまたは2つ以上の寸法(例えば、直径、および/または厚み)、材料、特に、前述の、または好ましくは前述の眼内レンズに含まれる高分子光学材料、眼内レンズの屈折率、および、眼内レンズの特定の場所/座標に対する屈折率のマッピングに関するデータを含む。
【0137】
本発明はさらに、患者の眼内に配置される、前述の、または好ましくは前述の高分子光学材料を含む眼内レンズの偏光性を局所的に調整するための方法に関し、処置計画データは以下の1つまたは2つ以上を含む:
眼内レンズにわたる前記照射ビームの前記走査のための走査手順の走査手順制御指令データ(例えば、走査パターン、および/または走査シーケンス、および/または走査速度、および/または走査パターンの走査継続時間、および/または走査シーケンスの走査継続時間、および/または第1および/または第2の波長の照射ビームのパルスのパルス継続時間、および/または前記照射ビームの照射ビームプロファイル、および/または放射(光子)密度、および/または放射強度、および/または放射パワー、および/または放射波長)、
前記露光中の眼内レンズの現在および/または予測温度の温度データ
前記露光に基づいて得られる眼内レンズの屈折率、眼内レンズの特定の位置/座標に対して得られる屈折率のマッピングに関して特に得られる屈折率の屈折率データ、
切開の寸法の切開寸法データ、
患者の眼の寸法、および/または形状に関する眼のデータ、
眼に対する眼内レンズの位置、および/または向きに関する位置決めデータ、および
患者、および/または患者の特定の眼の識別に関する登録データ。
【0138】
本発明はさらに、患者の眼内に配置される、前述の、または好ましくは前述の高分子光学材料を含む眼内レンズの偏光性を局所的に調整するための方法に関し、前記照射ビームに前記眼内レンズを曝すことは、眼内レンズの第2の体積を曝す前に眼内レンズの第1の体積を曝すことを含み、第1の体積は、第2の体積よりも患者の眼の角膜からさらに離れている。
【0139】
本発明はさらに、患者の眼内に配置される、前述の、または好ましくは前述の高分子光学材料を含む眼内レンズの偏光性を局所的に調整するための方法に関し、(第1の)波長は、650nmから750nmの間、好ましくは670nmから720nmの間、より好ましくは680nmから710nmの間である。
本発明はさらに、患者の眼内に配置される、前述の、または好ましくは前述の高分子光学材料を含む眼内レンズの偏光性を局所的に調整するための方法に関し、(第2の)波長は、500nmから580nmの間、好ましくは530nmから570nmの間である。
上記の節において、方法の最初のステップは、前記眼内レンズを提供することであり得る。
【0140】
実施例において、前記照射ビームへ前記眼内レンズを曝すことは、眼内レンズの第2の体積、および/または平面、および/または位置に曝す前に、眼内レンズの第1の体積、および/または平面、および/または位置に曝することを含み、第1の体積、および/または平面、および/または位置は、第2の体積、および/または平面、および/または位置よりも患者の眼の角膜からさらに離れており、照射シーケンスにおいて遅い時点で照射される体積、および/または平面、および/または位置は、早い時点で照射される体積、および/または平面、および/または位置よりも角膜に近くにあり得る。前記体積は、これにより、眼内レンズの1つまたは2つ以上の平面に関連し得る。
【0141】
前記レンズデータおよび処置計画データは、好ましくは前述されており、前述の通り患者の眼内に配置される、前述の、または好ましくは前述の高分子光学材料を含む眼内レンズの偏光性を局所的に調整する方法に好ましく使用されるシステムの一部である。
【0142】
本発明はまたさらに、前記患者の眼内の、前述の、または好ましくは前述の高分子光学材料を含む眼内レンズの屈折率を改変することにより患者の視力を矯正するための方法に関し、
患者の視力矯正の程度を特定し、測定すること;
患者の視力を矯正するために前記眼内レンズに書き込む屈折構造の位置およびタイプを決定すること;および
好ましくは、前記眼内レンズを前記照射に曝露するための前述のシステム、および/またはプロセスを使用することにより、その後、前記眼内レンズを、600nmから800nmの間の波長を有する二光子または多光子照射に曝露して、眼内レンズの偏光性を局所的に減少させること、および/または
その後、前記眼内レンズを、400nmから590nmの間の波長を有する二光子または多光子照射に曝露して、眼内レンズの偏光性を局所的に増加させることを含む。
【0143】
上に概説した通り、偏光性が変化することにより、以下でより詳細に説明する通り、屈折率が変化することになる。
真空中の光の速度c
0は基本定数であり、真空中の電磁波の速度を説明する。マクスウェルの方程式の解から、真空中の光の速度は電気定数ε
0と磁気定数μ
0に関連付けることができる。これらは、基本定数でもある。
【数1】
透明媒体を通過するときの光の速度c
mは、真空中よりも遅い。電気定数は誘電率εで、磁気定数は透磁率μで置き替える必要がある。
【数2】
【0144】
比誘電率(relativepermittivity)ε
r(誘電率(dielectricconstant)とも呼ばれる)は、電気定数に対する誘電率を与える無次元の材料依存量である。したがって、真空の比誘電率はε
r=1であり、2つの上記式を比較することによっても確認できる。次に、比誘電率にε
0を乗じることにより実際の誘電率を計算する。
【数3】
ここで、χ
eは材料の電気感受率であり、ε
rに密接に関連する値で、以下に定義される。
【数4】
【0145】
比誘電率は、誘電体とも呼ばれる材料が、電界に置かれた場合に、電界強度がどのように低下するかを説明する。比誘電率は、電界に応じて分極する材料の能力により決定され、それによって材料内の総電界が低減する。ほとんどの材料の比誘電率は1から100の間であるが、10000までのεrを持つ誘電体が知られている。いくつかの例を挙げると、ポリスチレン、セルロース、および水の比誘電率は、それぞれ2.5、4.5、および81である。空気の比誘電率は、適切な近似値に相当する1と見なすことができる。一般的に、適用される界の周波数、湿度、温度、およびその他のパラメータにより変動することがあるので、比誘電率は一定ではない。非線形媒体では、誘電率は電界の強度に依存することがある。したがって、εrの古い用語「誘電率(dielectricconstant)」は不明瞭であり、もはや使用すべきではない。
【0146】
磁場の場合、値μ
0、μ
r、およびμが、対応する電場の値と類似して定義される。透磁率は、
【数5】
であり、磁化率は、以下である。
【数6】
定義上、真空の比透磁率はμ
r=1である。比透磁率は磁場の強さにより変動し、一般的に周波数の関数である。物質の比透磁率は、負の値になることもある。反磁性物質(μ
r<1)、常磁性物質(μ
r>1)、強磁性物質(μ
r>>1)は区別する。ポリマーのようなほとんどの有機物質は反磁性であり、それらの比透磁率は1に非常に近い。
【0147】
屈折率nは、その媒体の屈折特性を特徴付ける材料定数である。すでに前に紹介した通り、屈折率は、所与の媒体中の光の速度に対する真空中の光の速度の比である。その結果、真空は、1の屈折率を有する。水の屈折率は、1.333である。市販のガラス製品の屈折率は、1.4~1.9の範囲である。ほとんどの有機ポリマーの屈折率は1.4から1.6の間であり、特別に改変された高屈折率ポリマーは、1.7を超える屈折率を有する。屈折率は一般的に光の周波数に依存し、散乱と呼ばれる現象である。乾燥した空気の屈折率(n
air≒1.0003)は、1からわずかに異なるだけなので、空気に対して適切な近似値に相当する測定を行うことができる。技術光学においては、屈折率n
0が使用される。これは、以下に定義される。
【数7】
【0148】
以下の関係が得られる。
【数8】
電磁スペクトルの可視部分における周波数での有機ポリマーの場合、μ
r≒1なので、式はさらに簡略化して以下となる。
【数9】
【0149】
これは、ポリマー/コポリマーの屈折率が、その比誘電率ε
rが変動すると変化することを意味する。比誘電率、および、それによってポリマー/コポリマーの屈折率をどのように改変できるかを理解するには、光波が物質と相互作用するときに何が起こるかを詳しく調べる必要がある。電界、この場合は光波の電気成分、
【数10】
が媒体に作用する場合、双極子モーメント
【数11】
を誘導する。極性
【数12】
は、単位体積あたりの電気双極子密度として定義される。
【数13】
ベクトル
【数14】
のノルムは、極性電荷の面密度σ
pである。
【数15】
【0150】
極性ベクトル
【数16】
と外部電界ベクトル
【数17】
は、同じ方向を指す。極性電荷
【数18】
により誘導される電界の電束の線は、誘電体の正から負の表面電荷へ伸びる。したがって、誘電体内部の電束線は、外部電界
【数19】
のそれとは反対方向へ伸びる。電場内の極性
【数20】
は、以下により与えられる。
【数21】
【0151】
電気感受率は以前定義した。2種類の極性を区別する必要がある:変位極性と配向極性である。変位極性は、中性原子または分子の電荷が相互に変位することにより生じる。外部電場によってその正規の形状から歪むこと、つまり、電場が電気双極子モーメントを誘導することは、原子や分子の電子雲のように、電荷分布の相対的な傾向である。配向極性は、電場線に沿って永久双極子を配向することにより生じる。これらの双極子は、電場が印加される前から媒体に存在していた。可視スペクトル範囲では、電子の配向極性のみが考慮される。可視光の周波数は、約10
14Hz~10
15Hzの範囲で、比較的高い。したがって、原子の変位、および永久双極子の配向により引き起こされる全体的な極性に寄与する要因は非常に小さいため、無視することができる。電子のみが、急速に振動する電場に「追従」することができる。変位極性にとっては、等式
【数22】
が、単位体積あたりの粒子数xと極性の関係を提供する。この等式における比例定数αは、電気分極率と呼ばれる。分極率は分子パラメータである。量子粒子は互いに強固に接続されているのではなく、第1の近似では弾性なる力により静止位置にむしろ結合されている。したがって、ニュートンの法則F=‐kxが適用できる。外部電界
【数23】
は、そのような電荷QにQ・Eの力を及ぼす。この力は、距離x=F/k=QE/kだけ電荷を偏向させる。この変位が、以下の誘導双極子モーメントを引き起こす。
【数24】
【0152】
比較すると、αはε
rに比例しなければならないことが容易にわかる。
【数25】
これは、所与の媒体を含む分子の偏光性を変更すると、その媒体の屈折率が変化することを意味する。
【0153】
本発明中に説明する態様のバリエーションは、本発明の範囲内であることを指摘したい。本発明中に開示する任意の特徴は、明示的に除外されない限り、同じ目的、または同等の、または同様の目的を果たす代替の特徴と交換し得る。したがって、本発明中に開示する任意の特徴は、特に明記しない限り、一般的なシリーズの例として、または同等のまたは同様の特徴として考えるべきである。
本発明のすべての特徴は、特定の特徴、および/またはステップが相互に排他的でない限り、任意の方法で互いに組み合わせ得る。これは、本発明の好ましい特徴に特に合致する。同様に、必須ではない組み合わせの特徴は、個別に使用し得る(組み合わせてではない)。
特徴の多く、特に本発明の好ましい態様のそれらは、それ自体が発明であり、単に本発明の態様のいくつかと見なされるべきではないことも指摘すべきである。これらの特徴については、任意の本願発明に加えて、またはその代替として、独立した保護を求め得る。
【0154】
本発明に開示する技術的教示は、抽象化され、他の例と組み合わされ得る。
間違いなく、多くの他の効果的な代替案が熟練者の心に浮かぶであろう。本発明は、説明する態様に限定されず、当業者に明らかであり、本明細書に添付する特許請求の範囲内にある改変を包含することが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【
図1】
図1は、例えば、患者の眼内に配置されないコンタクトレンズまたは眼内レンズなどの人工レンズの照射のためのシステムの概略図である。
【
図2】
図2は、患者の眼内に配置される眼内レンズの照射のためのシステムの概略図である。
【
図3】
図3は、走査手順の概略図(1500)を示す。
【
図4】
図4は、患者の眼内のレンズを照射するときを考慮した、走査プログラム中で使用される前記変数の概略図(1600)を示す。
【
図5】
図5は、患者の眼内に配置される眼内レンズの照射のためのシステムのさらなる概略図を示す。
【
図6】
図6は、患者の眼内に配置される眼内レンズの照射のためのシステムの要素の概略図を示す。
【
図7】
図7は、患者の眼内に配置される眼内レンズの照射のためのシステムの要素の概略図を示す。
【
図8】
図8は、ポリ(M-14)の特定の[2π+2π]環状付加反応を示す。
【
図9】
図9は、逆環化によるポリ(M-14)二量体の特定の切断を示す。
【
図11】
図11は、例えば、実施例14用の、照射設定を示す。
【0156】
【
図12】
図12は、実施例2として実験セクションでさらに説明した、単一光子プロセスの波長の関数としての吸収を示す。
【
図13】
図13は、実施例3で説明した、単一光子プロセスの波長の関数としての吸収を示す。
【
図14】
図14は、実施例5で説明した、加えたエネルギーの関数としての、単一光子プロセスの屈折率の変化を示す。
【
図15】
図15は、実施例5で説明した、加えたエネルギーの関数としての、単一光子プロセスの屈折率の変化を示す。
【
図16】
図16は、実施例7でさらに説明した、単一光子プロセスの波長の関数としての吸収を示す。
【
図17】
図17は、実施例7の溶液を用いて、実施例8で説明した、単一光子プロセスの波長の関数としての吸収を示す。
【
図18】
図18は、重合したM18を含む実施例9のバルクポリマーについて実施例10で説明した、加えたエネルギーの関数としての、単一光子プロセスの屈折率の変化を示す。
【
図19】
図19は、重合したM18を含む実施例9のバルクポリマーの架橋済み二量体について実施例10で説明した、加えたエネルギーの関数としての、単一光子プロセスの屈折率の変化を示す。
【
図20】
図20は、実施例15による照射時間の増加に伴う蛍光スペクトルを示す。
【
図21】
図21は、実施例17で説明した、照射波長の関数としての420~430nmでの蛍光スペクトルのピークを示す。
【
図22】
図22は、実施例19による放射露光量の関数としての屈折率変化(Δn)を示す。
【
図23】
図23は、実施例20による放射露光量の関数としての屈折率変化(Δn)を示す。
【
図24】
図24は、実施例20の実験の過程で光学材料に書き込まれた屈折率プロファイルから選択した例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0157】
本発明を、それによりそれを制限する意図なく、以下の実施例により詳細に例示する。
以下の実施例もまた、本開示に包含され、本発明の態様、および一般的な開示に完全にまたは部分的に組み込まれ得る。
単一光子実験におけるUV/Visスペクトルの操作は、溶解したサンプルを含有するキュベットをサンプルホルダーに置き、その後キュベットを照射することにより実行する。UV/Visスペクトルの変化は、例えば、(PerkinElmerの)UV/Vis分光計Lambda900を使用して、UV/Vis測定により経時的に監視する。
以下で説明する通り、単一光子実験における屈折率の操作は、サンプルをサンプルホルダーに置き、好ましくは30秒間照射することにより行う。結果としての屈折率の変化は、屈折率測定により経時的に監視する。屈折率の変化は、多波長屈折計(Schmidt&HaenschのATR-L)で測定する。
単一光子実験により、本発明によるプロセス中で使用される人工レンズ用の説明した高分子光学材料が、特定の第1および第2の波長の照射を通して初期偏光性を局所的に変化させて、例えば、前述または後述の通り、[2π+2π]環状付加または逆環化を起こさせることが可能であることを示す。
あるいは、人工レンズは、実施例14~19で以下にさらに説明する通り、多光子(例えば、二光子)プロセスに基づいて処置し得る。
実施例
実施例1
【0158】
ポリ(M-14)の作成:
1gのM-14を最初に10mLのクロロホルムに溶解する。次に、溶液を脱気し、1、33mgのAIBNを加える。次に、混合物を60℃で14時間撹拌する。その後、ポリマーを250mLのメタノール中に沈殿させる。次に、得られたポリマー、ポリ(M-14)を乾燥する。
実施例2
【0159】
第2の実施例においては、10mLのTHF中に75、4mgのポリ(M-14)の溶液を作成する。それを500倍に希釈する。希釈した溶液を、石英ガラスキュベット(32/GL14/S/Q/10、STARNA製、パス長10mm)に充填する。UV/Visスペクトルを、(PerkinElmerの)UV/Vis分光計Lambda900を使用することにより取得する。サンプルを340nmで交互に照射し、UV/Visスペクトルを取得する。結果を
図12に表し、前記単一光子プロセスの波長の関数としての吸収を示す。
図12には3つの等吸収点がある。これは、制御された転換を示す。前記転換が示す光化学反応は、[2π+2π]環状付加でありであり、
図8に示す通り架橋ポリマーとなる。光活性ユニットの二量体化は、332nmでの下降信号により示される。260nm~275nmの範囲で信号強度が増加している。
【0160】
反応混合物を乾燥させ、NMRで分析する。
1HNMR(500MHz,CDCl3)δ7.45,7.17,7.08~7.03,7.01~6.96,6.84,6.75,6.61,6.52,4.96,4.72,4.06,3.95~3.87,2.58,2.54~2.47,2.36,1.76,1.71~1.56,1.49~1.44,1.37~1.24,1.14,0.93~0.84
前記1HNMRスペクトルにおける、4.72、および4.96ppmでの一重項は、前記光化学[2π+2π]環状付加反応を介して形成されたシクロブタン環に割り当てる。この2つの信号は、シンとアンチ、おのおの頭-頭、および頭-尾の配置で構成される光二量体の混合物の形成に起因する。NMR信号および結論は、文献[Raoetal.,Chem.Ber.,1973,106(2),388]と一致する。
実施例3
【0161】
第3の実施例においては、実施例2によって作成された、照射済みポリ(M-14)を使用する。UV/Visスペクトルを取得する。サンプルを275nmで照射し、UV/Visスペクトルを交互に取得する。結果を
図13に表し、前記単一光子プロセスの波長の関数としての吸収を示す。
前記実験は、代表的な高分子光学材料が二量体化された光活性ユニットを切断することが可能であることを示している。
架橋ポリ(M-14)内のシクロブタン部分の量が減少する。前記切断のメカニズムを
図9に示す。バックコンバージョンは、332nmでの増加信号により示される。
【0162】
反応混合物を乾燥させ、NMRで分析する。
1HNMR(500MHz,CDCl
3)δ7.67,7.40,7.20~7.14,6.86,4.11~4.00,2.69~2.62,2.36,1.87~1.78,1.65,1.53~1.41,1.40~1.26,1.14,0.91
さらに見られるように、光誘導された光化学[2π+2π]環状付加反応を介して形成されたシクロブタン環に先に割り当てた、実施例2の
1HNMRスペクトルで証明される4.74および4.98ppmでの一重項は消滅し、
図9に示すように切断を立証している。
実施例4
【0163】
第4の実施例においては、コポリマーマトリックスを有する高分子光学材料を作成する。
【0164】
2、00gのM-14、10、36mgの2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート、220、00mgのポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(平均Mn250)、247、60mgのn-ブチルメタクリレートの溶融混合物を最初に脱気する。その後、25、57mgの1,1’-(3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン)ビス[2-(1,1-ジメチルエチル)ペルオキシドを加える。混合物を濾過して1mm厚のシート型に入れる。当業者が適切であると考える条件で重合を熱的に起こす。重合プロセスが終了した後、ポリマーを離型し、厚み1mmのポリマーシートを得る。
実施例5
【0165】
第5の実施例においては、実施例4により作成した高分子光学材料の円筒形ブランクをシートから打ち抜く。屈折率の決定には、加熱ステージを持つ多波長屈折計を使用する。測定前に、ブランクをデバイス内で80℃に加熱して、材料から応力を開放する。屈折率の測定は、この実施例においては、546nm、かつ35℃で行う。屈折計の外側で、
図10に示す装置内で、ブランクを340nmで照射する。サンプルを屈折計に戻し、80℃まで加熱し、546nm、かつ35℃で屈折率を測定する。
図14は、加えたエネルギーの関数としての、前記単一光子プロセスの屈折率の変化を示す。
加えるエネルギーが増加すると、照射された高分子光学材料の屈折率は減少する。これは、
図8に示す架橋反応が原因である。
図8に示す環状付加反応により、低偏光性の光活性ユニット(シクロブタン環)が得られ、屈折率が減少する。
340nmで照射したサンプルは、本明細書に記載されている手順でさらに使用するが、照射波長は275nmである。
【0166】
図15に示す影響は、シクロブタン部分の切断またはバックコンバージョンが原因である(
図9参照のこと)。これにより、偏光性が高くなり、屈折率が増加する。
図15は、加えたエネルギーの関数としての、前記単一光子プロセスの屈折率の変化を示す。
【0167】
図10は、単一光子実験のためにLEDシステムを使用する前述の照射設定に関するシステム(400)を示す。
システム(400)は、照射源(402)、ビームコリメータ(404)、およびサンプル(406)を取り付けるサンプルホルダー(408)を含む。
この実施例5において、照射源(402)は、ThorlabsのMountedLEDM340L4-340nm,53mWである。
【0168】
実施例6~10を、上で概説した実施例1~5と同様に実施する。
実施例6
ポリ(M-18)の作成:
1gのM-18を10mLのクロロホルムに溶解する。溶液を脱気し、1、33mgのAIBNを加える。混合物を60℃で14時間撹拌する。ポリマーを250mLのメタノール中に沈殿させる。得られたポリマー、ポリ(M-18)を乾燥する。
実施例7
【0169】
第7の実施例においては、25mLのTHF中に12.67mgのポリ(M-18)の溶液を作成する。それを20倍に希釈する。希釈した溶液を、石英ガラスキュベットに充填する。UV/Visスペクトルを取得する。サンプルを340nmで交互に照射し、UV/Visスペクトルを取得する。結果を
図16に示す。
図16は、前記単一光子プロセスの波長の関数としての吸収を示す。
実施例8
【0170】
第8の実施例においては、実施例7による、照射済みポリ(M-18)のサンプルを使用する。UV/Visスペクトルを取得する。サンプルをさらに275nmで照射し、UV/Visスペクトルを交互に取得する。結果を
図17に示す。
図17は、前記単一光子プロセスの波長の関数としての吸収を示す。
実施例9
【0171】
第9の実施例においては、コポリマーマトリックスを有する第2の高分子光学材料を作成する。
2、00gのM-18、9、08mgの2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート、65、8mgのエチレングリコールジアクリレート、211、7mgの2-ヒドロキシエチルメタクリレート、および173、92mgの2-メタクリル酸オクタデシルエステルの溶融混合物を脱気する。その後、26.42mgの1,1’-(3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン)ビス[2-(1,1-ジメチルエチル)ペルオキシドを加える。混合物を濾過して1mm厚のシート型に入れる。当業者が適切であると考える条件で重合を熱的に起こす。重合プロセスが終了した後、ポリマーを離型し、厚み1mmのポリマーシートを得る。
実施例10
【0172】
第10の実施例においては、実施例9により作成した眼科材料の円筒形ブランクをシートから打ち抜く。屈折率の決定には、加熱ステージを持つ多波長屈折計を使用する。測定前に、サンプルをデバイス内で80℃に加熱して、材料から応力を開放する。屈折率の測定は、546nmかつ35℃で行う。交互に、サンプルを340nmで照射し、サンプルを屈折計に戻し、80℃まで加熱し、屈折率を546nm、かつ35℃で測定する。結果を
図18に示す。したがって、
図18は、加えたエネルギーの関数としての、前記単一光子プロセスの屈折率の変化を示す。
340nmで照射したサンプルは、本明細書に記載されている手順でさらに使用するが、照射波長は275nmである。
図19に示す影響は、シクロブタン部分の切断またはバックコンバージョンが原因である(
図9参照のこと)。
図19は、加えたエネルギーの関数としての、前記単一光子プロセスの屈折率の変化を示す。
実施例11-13
【0173】
以下の実施例11~13は、以下の表に示す量の重合モノマーM-58、M-56、またはM-15を含むコポリマーマトリックスを有し、実施例9に説明する処方に基づく高分子光学材料の単一光子プロセスにおける照射時の屈折率変化を示す:
【表1】
【0174】
二光子/多光子吸収をともなう照射の例:
実施例14
実施例14内で使用する実験デバイスを、
図11に示す。
図11における二光子実験用システム(410)には、パルスレーザー放射を生成するように構成された照射源として、波長可変レーザー(412)(Ti:Sapphirelaser(ChameleonUltraIIbyCoherent,SantaClara,CA,USA)を組み込んでいる。照射ビームは、ビームシェイパ(414)内で拡大する。
レーザー光源(412)により生成されたパルスレーザー放射は、次に、顕微鏡対物レンズ(416)(OlympusのLUCPLFLN)に送られ、集束したレーザー放射の出力となる。
屈折率が変化する高分子光学材料(サンプル418)の領域を、サンプルホルダー(420)を配置するために使用するボイスコイル駆動リニアステージ(422)(PIMag(登録商標))を介して目標に向ける。
【0175】
本明細書のポリマーサンプル(418)は、以下に説明する高分子光学材料の直径6.0mmのフラットボタンである。
前記ポリマーサンプルのすべてのポリマーは、少なくとも架橋剤を含有するコポリマーである。コポリマーマトリックスを含む高分子光学材料の製造に使用される主なモノマーは、各ボタン材料について次表にまとめてある。
【化21】
【0176】
照射プロセス中、ポリマーサンプル(418)として前述したポリマー材料の前記フラットボタンを、サンプルホルダー(420)内の固定位置に配置する。カップリングジェル(Vidisic[Bausch&Lomb])をボタンに塗布する。サンプルホルダー(420)を水平に取り付け、レーザーパルスを、高開口数の顕微鏡対物レンズを使用して前記材料に集束させる。屈折率成形体は、表面のほぼ近くで作成する。これは、「ボトムアップ(bottom-up)」、および「スポットトゥースポット(spot-to-spot)」の手順に似ている。
サンプルホルダー(420)は、前述の通り、ボイスコイルリニアステージ(422)により駆動する。これはスキャナの動きに似ている。
典型的なレーザーパラメータは、波長680nm、パルス継続時間180fs、平均パワー500mWである。変動するパラメータは、走査速度とレイヤのライン間の間隔xである。3つのパラメータを調整して、均一な固体屈折率成形体を作成する。屈折率の変化は、多波長屈折計(Schmidt&HaenschのATR-L)で測定する。
【0177】
二光子レーザー実験の結果は、一光子実験の電磁エネルギー入力に依存する屈折率の屈折率図と相関する。
実施例15
【0178】
第15の実施例においては、4mLのアセトニトリル中に288mgのポリ(M-14)(実施例1)の溶液を作成する。溶液を、石英ガラスキュベット(32/GL14/S/Q/10、STARNA製、パス長10mm)に充填する。ポリ(M-14)の液体溶液を入れたキュベットに、NA0.1顕微鏡対物レンズを使用して、波長680nmで1μJパルスを100kHzの繰返し率で照射する。溶液の二光子生成蛍光は、前述の通りパルス照射源を使用する照射時間の関数として測定される。蛍光は、350~1050nmの感度で、ファイバー結合および回折格子ベースの分光計を使用して、照射ビームに対して90度の幾何配置で測定する。照射時間の増加に伴う蛍光スペクトルを
図20に集計する。光活性ユニットの二光子誘導[2π+2π]環状二量化反応は、400から500nmの間の下降信号により示される。ポリ(M-14)における非蛍光二量体への転換により、発光ピークが減少する。
反応混合物を乾燥させ、クロロホルム-dのNMRにより分析する。4.74および4.98ppmでの一重項は、前記二光子誘導光化学[2π+2π]環状付加反応を介して形成されたシクロブタン環に割り当てる。NMRスペクトルは実施例2のNMRスペクトルと相関する。単一光子、および二光子誘導光化学[2π+2π]環状付加反応はどちらも、同じ製造物を得る。
実施例16
【0179】
第16の実施例では、実施例14によって作成した照射済みポリ(M-14)を、石英ガラスキュベット(32/GL14/S/Q/10、STARNA製、パス長10mm)中でアセトニトリル溶液(4mL)として使用する。溶液に、NA0.1顕微鏡対物レンズを使用して、波長532nmで1μJパルスを100kHzの繰返し率で照射する。基質内のシクロブタン部分の量は、二光子誘導光化学[2π+2π]逆環化反応に起因してレーザー照射中に経時的に減少する。
反応混合物を乾燥させ、クロロホルム-dのNMRにより分析する。先に実験14における二光子誘導光化学[2π+2π]環状付加反応を介して形成されたシクロブタン環に割り当てた4.74および4.98ppmでの一重項は、消滅する。二光子誘導光化学[2π+2π]逆環化の結果は、実施例3の単一光子誘導光化学[2π+2π]逆環化実験と相関する。
実施例17
【0180】
第17の実施例においては、4mLのアセトニトリル中に288mgの実施例1のポリ(M-14)の溶液を作成する。溶液を、石英ガラスキュベット(32/GL14/S/Q/10、STARNA製、パス長10mm)に充填する。この実施例において、溶液からの二光子生成蛍光は、前述の通りパルス照射源を使用して照射波長の関数として測定される。ポリ(M-14)の液体溶液を入れたキュベットに、NA0.1顕微鏡対物レンズを使用して、1μJパルスを100kHzの繰返し率で照射する。蛍光は、350~1050nmの感度で、ファイバー結合および回折格子ベースの分光計を使用して、照射ビームに対して90度の幾何配置で測定する。420~430nmでの蛍光スペクトルのピークが照射波長ごとに決定され、照射波長の関数として
図21にプロットする。
図21に見られるように、二光子誘導蛍光は680nmあたりで高い値を有し、照射波長の増加とともに減少する。励起は、一光子励起が最大化した波長(340nm)の約2倍で最大化している。この観察は、二光子吸収プロセスにとって典型的である。
実施例18
【0181】
第18の実施例においては、コポリマーマトリックスを有する高分子光学材料を作成する。4.1gのM-14、21mgの2-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]エチルメタクリレート、143.6mgの1,18-オクタデカンジオールジアクリレート、506.7mgの2-ヒドロキシエチルメタクリレートの溶融混合物を最初に脱気する。
その後、52mgの1,1’-(3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン)ビス[2-(1,1-ジメチルエチル)ペルオキシドを加える。混合物を濾過して1mm厚のシート型に入れる。当技術分野で既知の条件で、重合を熱的に起こす。重合プロセスが終了した後、ポリマーを離型し、厚み1mmのポリマーシートを得る。前記光学材料の円筒形ブランクをシートから打ち抜く。
実施例19
【0182】
第19の実施例においては、実施例18によって作成した光学材料の円筒形ブランクを使用する。光学材料の二光子誘導光化学架橋反応を、
図11に示す設定で、上述の通り2つの異なる照射源を使用して示す。
図22において「kHz」で分類した1つの照射源は、680nmで動作し、100kHzの繰返し率でμJパルスを放出するフェムト秒レーザーである。
図22において「MHz」で分類した第2の照射源は、680nm波長で動作し、80MHzの繰返し率でnJパルスを放出するフェムト秒レーザーである。円筒形のブランクを、400mWの平均パワーで処置する。照射処置に続いて、各測定について、サンプル全体の光路長差を光位相敏感カメラで測定する。照射区域内の材料の屈折率を、前記光路長差、およびサンプルの厚みから推定する。
図22に示す屈折率変化(Δn)は、照射区域と非照射区域を比較することにより得られる。
放射露光量(=加えたエネルギー)の低値から高値の後続のデータポイントは、照射継続時間が増加するため、照射処置の累積効果を示す。この累積効果により、医師の要件を、対応する処置計画に正確に変換することができる。
【0183】
図22は、kHzとMHzの照射源の間のシステム全体の効率の違いも示す。すべてのシステム設定が同一の場合、kHzシステムは書き込み速度が大幅に増加し、それ故に、より短くより望ましい処置時間となる。この結果は、二光子誘導光化学[2π+2π]環状二量化反応がkHzシステムにとってより効率的であることを示し、これは、上述の励起状態寿命から導き出された結論と一致している。
実施例20
【0184】
この実施例においては、実施例18によって作成した光学材料の円筒形ブランクを使用する。光学材料の二光子誘導光化学架橋反応を、異なる照射波長を使用して示す。使用する放射源は、666から722nmの間で調整可能なフェムト秒レーザーであり、100kHzの繰返し率でμJパルスを放出する。
図11に示す設定を使用する。各測定では、光学材料上の1mmx6mmの領域を、同一の全体的な放射露光量で400mWの平均パワーで処置する。照射区域内の材料の屈折率を、前記光路長差、およびサンプルの厚みから推定する。
図23に示す屈折率変化(Δn)は、照射区域と非照射区域を比較することにより得る。
図23に示すデータは、680~720nmの範囲を効率的に使用して、光学材料内に屈折率の改変を作成することができることを呈した。
【0185】
図24に、この実験の過程で光学材料に書き込まれた屈折率プロファイルの選択した例を示す。この実施例においては、照射源は、710nmで5-μJパルスで100kHzの繰り返し率で動作する。光学スキャナを使用して、光学材料上の0.6mmx6mmの長方形の領域に、空間的に重なり合う光学パルスを照射する。データは、10倍の倍率で、顕微鏡に取り付けた位相敏感カメラシステムで収集する。位相敏感カメラは、30μmの横方向分解能で光学位相差を記録する。記録した値を、その後、サンプルの厚みを考慮して屈折率変化に変換する。
図24は、照射領域の屈折率が、周囲の非照射材料と比較して約0.011減少していることを示す。
【国際調査報告】