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特表2022-530491ラウドスピーカの音響共鳴を吸収するラウドスピーカシステム、方法および装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(54)【発明の名称】ラウドスピーカの音響共鳴を吸収するラウドスピーカシステム、方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/28 20060101AFI20220622BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20220622BHJP
   H04R 1/22 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
H04R1/28 310B
H04R1/02 101B
H04R1/22 310
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563646
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(85)【翻訳文提出日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 US2020029109
(87)【国際公開番号】W WO2020219441
(87)【国際公開日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】62/837,561
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521466563
【氏名又は名称】ポーク オーディオ, リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】オース スコット
(72)【発明者】
【氏名】アクセルソン イェンス-ペーター ビー
【テーマコード(参考)】
5D017
5D018
【Fターム(参考)】
5D017AD12
5D018AA08
(57)【要約】
ポート付きラウドスピーカをチューニングするとともに望ましくない音響共鳴を減少させるラウドスピーカシステム(700,800)および方法がポートノイズを減少させ、望ましくないポート共鳴をなくし、しかも固有音フィルタ(Eigen Tone Filter:ETF)構造体を収容したエンクロージャ付きの比較的高能率のラウドスピーカシステム内における再生音の精度および忠実度を向上させる。EFT構造体は、ラウドスピーカベント内に配置されていてベントの「開管」音響共鳴を吸収する1本の筒または1組の筒720,820を有する。開管音響共鳴は、望ましくなく、しかも、補正されなければ使用時にラウドスピーカのミッドレンジ性能を妨害する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポート付きラウドスピーカ(例えば、700または800)をチューニングするとともに望ましくない音響共鳴を減少させる一方でポートノイズを減少させ、望ましくないポート共鳴をなくし、しかも比較的能率の高いラウドスピーカシステム内における再生音の精度および忠実度を向上させる方法であって、
少なくともミッドレンジまたはミッドバスドライバを支持した第1のバッフルを含むポート付きラウドスピーカエンクロージャを用意するステップを含み、前記エンクロージャは、中心軸線を備えた第1のベントルーメンを経て周囲環境にポート連結された内容積部を有し、
前記第1のベントルーメン内に前記ルーメン中心軸線と整列した状態で固有音フィルタ構造体(“ETF”)720,820を配置するステップを含み、前記ETFは、前記ラウドスピーカが作動しているときに前記ベントルーメンの「開管」音響共鳴を吸収するよう構成されまたはチューニングされたETF筒内容積部および開口部を備えた1本以上の筒を有し、
前記吸収された開管共鳴は、実質的に減衰され、それにより前記ラウドスピーカの前記ミッドレンジ性能が向上する、方法。
【請求項2】
前記ETFを配置する前記ステップは、第1および第2の軸方向に整列したETF筒セグメントを配置するステップを含み、前記ETF筒内容積部は、前記ベントルーメンの「開管」音響共鳴を吸収するよう構成されまたはチューニングされた開口部と流体連通状態にある、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ETFを配置する前記ステップは、第1のセグメント長さを備えた第1のETF筒セグメントを、第2のセグメント長さを備えた第2のETF筒セグメントと実質的に同軸状整列状態に配置するステップを含み、前記第1のETF筒セグメント長さは、前記ベントルーメンの開管共鳴を含む周波数帯内にある第1の選択されたETFポート信号ノッチ周波数でほぼ四分の一波長である値を有するよう選択されている、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記第2のETF筒セグメント長さは、これまた前記ベントルーメンの開管共鳴を含む周波数帯内にある第2の選択されたETFポート信号ノッチ周波数でほぼ四分の一波長である値を有するよう選択されている、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ETF筒の寸法を選択する(すなわち、「チューニングする」)前記方法ステップは、繰り返しプロセスである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ラウドスピーカシステムの「ストックポート」データは、望ましくない開管共鳴エネルギーを有する周波数範囲(例えば、500Hzから750Hzまでの範囲)を識別するようプロットされ、
ETFパイプセグメントは、ETF820により前記望ましくない開管共鳴エネルギーを減少させまたは「ノッチアウト」するよう寸法決めされるとともに形作られている(または「チューニングされている」)、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、前記四分の一波長周波数(例えば、100mmETFの場合、f=343/(0.1×4)=857.5Hz)を除去して初期周波数チューニング推定値を求める方法ステップをさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、フォーム材料を前記ETF材料中に加えて前記ETF内の空気速度を減速させる作用効果を判定する方法ステップをさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ラウドスピーカシステム(例えば、700または800)であって、
少なくともミッドレンジまたはミッドバスドライバを支持した第1のバッフルを有するポート付きラウドスピーカエンクロージャを含み、
前記エンクロージャは、第1のベントルーメンにより周囲環境にポート連結された内容積部を有し、前記第1のベントルーメンは、固有音フィルタ構造体(“ETF”)720,820を含み、前記ETFは、前記ベントルーメンの「開管」音響共鳴を実質的に吸収して減少させるよう前記ラウドスピーカベントルーメン内に配置された少なくとも第1の筒セグメントを有する、ラウドスピーカシステム。
【請求項10】
前記ETFは、第1および第2の同軸状に整列したETF筒セグメントを有し、ETF筒内容積部は、前記ベントルーメンの前記「開管」音響共鳴を吸収するよう構成されまたはチューニングされた開口部と流体連通状態にある、請求項9記載のラウドスピーカシステム。
【請求項11】
前記ETFは、第1のセグメント長さを備えた第1のETF筒セグメントを有し、該第1のETF筒セグメントは、第2のセグメント長さを備えた第2のETF筒セグメントと実質的に同軸状整列関係をなし、前記第1のETF筒セグメント長さは、前記ベントルーメンの開管共鳴を含む周波数帯内にある第1の選択されたETFポート信号ノッチ周波数でほぼ四分の一波長である値を有するよう選択されている、請求項10記載のラウドスピーカシステム。
【請求項12】
前記第2のETF筒セグメント長さは、これまた前記ベントルーメンの開管共鳴を含む周波数帯内にある第2の選択されたETFポート信号ノッチ周波数でほぼ四分の一波長である値を有するよう選択されている、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記ETFを搭載したラウドスピーカシステム800は、少なくとも1つのラウドスピーカドライバ(例えば、ウーファ、ミッドウーファおよびツイータ)を支持するとともに方向づけるフロントバッフルおよびETF組立体(例えば、820)を支持したボトムバッフルを有するポート付きラウドスピーカエンクロージャ810を含み、
前記ポート付きタワー型ラウドスピーカエンクロージャ810は、ベントまたはポート830により周囲環境にポート連結された内容積部を備え、前記ベントまたはポートは、ベントルーメン中心軸線を備えた円筒形内側ベントルーメン840を備え、前記ETF組立体820は、前記ベントルーメン軸線と同軸状整列関係をなして前記ベントルーメン840内に支持され、前記ETF組立体820は、前記ラウドスピーカの使用時、前記ベントルーメン840の「開管」音響共鳴を吸収するよう前記ラウドスピーカベントルーメン内に配置された1本の筒または1組の筒もしくはアブソーバ(850,860)を含み、
前記ETF組立体820(図3および図8Bに見える)は、近位側の閉鎖端キャップおよびPower Port(商標)型ディフューザ内に嵌め込まれた反対側の遠位側の下方に突き出た端キャップを含むとともにその中間箇所のところに、前記第1および前記第2の軸方向に整列したETF筒セグメントまたはアブソーバ(850,860)の前記内容積部と前記ベントルーメン840との流体連通を可能にする円周方向スロットまたは側壁隙間を含む、請求項12記載のラウドスピーカシステム。
【請求項14】
前記ベントまたはポート830は、前記エンクロージャ810の内部と周囲環境との流体連通を可能にするとともにおよび前記エンクロージャ810の内部および周囲環境の各々とETF組立体820用の前記ETF筒の前記内容積部との流体連通を可能にするチューニング済みポートを構成し、
前記ETF筒組立体の近位、内側または上側端部は、好ましくはアブソーバ要素を収容した丸形または「弾丸先端」形の端キャップ870を支持し、前記ETF筒組立体は、その中間箇所のところに、前記第1および前記第2の軸方向に整列したETF筒セグメントの前記内容積部と前記ベントルーメン840との流体連通を可能にする円周方向スロットまたは側壁隙間を含み、前記第1および前記第2の軸方向に整列したETF筒セグメントまたはアブソーバ(850,860)は、好ましくは、関心のある周波数について四分の一波長に実質的に等しい軸方向長さを有する、請求項13記載のラウドスピーカシステム。
【請求項15】
前記第1および前記第2の軸方向に整列したETF筒セグメントまたはアブソーバ(850,860)は、好ましくは、IDが38mmの場合、494Hzについて150mmに実質的に等しい軸方向長さを有する、請求項14記載のラウドスピーカシステム。
【請求項16】
前記第1および前記第2の軸方向に整列したETF筒セグメントまたはアブソーバ(850,860)は、好ましくは、IDが38mmの場合、756Hzについて100mmに実質的に等しい軸方向長さを有する、請求項14記載のラウドスピーカシステム。
【請求項17】
前記固有音フィルタ構造体(“ETF”)720,820は、前記ベントポートルーメンと実質的に同軸状に整列しかつ25mmから38mmまでの範囲にあるよう選択された内径を有する、請求項9記載のラウドスピーカシステム。
【請求項18】
前記固有音フィルタ構造体(“ETF”)は、第1および第2の軸方向に整列したETF筒セグメントまたはアブソーバ(850,860)を有し、前記ETF筒セグメントまたはアブソーバ相互間には円周方向スロットまたは側壁隙間(例えば、855)が設けられ、前記ETF筒セグメント相互間の前記側壁隙間長さは、前記アブソーバの直径の1倍から1.25倍までの範囲にあるよう選択されている(したがって、例えば、25mm径のETF筒セグメントの場合、前記ETF筒セグメント相互間の前記隙間またはスロットの軸方向長さは、20~25mmであるよう選択されている)、請求項18記載のラウドスピーカシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音の再生に関し、特に、ラウドスピーカシステムの設計におけるある特定の音響の原理の応用に関する。
【0002】
〔関連出願の参照〕
本願は、2019年4月23日に出願された共通所有権者の関連米国特許仮出願第62/837561号の優先権主張出願であり、この米国特許仮出願を参照により引用し、その開示内容全体を本明細書の一部とする。本願はまた、以下の共通所有権者の特許出願と関連がある。
(a)1994年8月23日に出願された米国特許出願第08/294,412号(現米国特許第5,517,573号)、
(b)2003年9月12日に出願された米国特許出願第10/660,727号(現米国特許第7,039,212号)、および
(c)2003年1月7日に出願された米国特許出願第10/337,347号(現米国特許第7,162,049号)であり、これら米国特許出願もまた参照により引用し、これらの記載内容全体を本明細書の一部とする。
【背景技術】
【0003】
ベント(通気)式ボックス型ラウドスピーカシステムは、所与のキャビネット容積から大きな低周波効率を得る手段として少なくとも70年間にわたって普及している。1970年代においてティール・アンド・スモール(Thiele and Small)の研究成果によりベント式ラウドスピーカシステムを理解して分析する上での著しい技術進歩があった。それ以来、容易に入手できるコンピュータプログラムがベント式ラウドスピーカ設計を容易に最適化することができるようにした。しかしながら、実用上の検討事項により、理論において最適化されたこれら設計が現実に実現されるのがあるいは意図したように機能するのが阻まれる場合が多い。
【0004】
ベント式ラウドスピーカシステムと関連して、一般的な使用において2つの基本的な方式が存在し、これらは、ダクト形ポート(例えば、図1Aに示されているような)およびパッシブラジエータである。パッシブラジエータ方式には幾つかの利点があるが、ダクト形ポートは、一般に、安価のゆえ、実現容易性のゆえおよび一般的に必要とされるスペースが少ないことに起因して、より普及していた。
【0005】
しかしながら、ダクト形ポート方式には数々の欠点がある。これらは、主として、高い低周波音圧レベルの調整に必要な大きな空気体積の運動時、ポートによって発生する場合のある望ましくないノイズおよびこれに付随する種々のロスと関連がある。例えば、当業者には周知のように、ベント式ラウドスピーカシステムは、エンクロージャ(例えば、符号100)中の空気の体積、ポートによって提供される音響質量およびエンクロージャ内の空気のコンプライアンスによって定まる比同調周波数fPを有する。一般に、同調周波数fPが低いことが高性能ラウドスピーカにとって望ましい。先行技術(共通所有権者の米国特許第7,162,049号明細書に記載されている)によれば、ポート中の大きな音響質量か大きなエンクロージャ容積に起因して生じる大きなコンプライアンスかのどちらかが当該低同調周波数fPを達成する上で必要とされる。ポートの音響質量は、ポート内に入っている空気の質量に正比例するが、ポートの断面積に関しては反比例する。これは、低同調周波数fPを達成するためには断面積の小さな長いポートが用いられるべきであることを示唆している。しかしながら、小さな断面積は、低周波数で高い音圧レベルを再現するのに必要な大きな空気体積とは相容れない。例えば、ポートの直径が小さすぎる場合またはそうではなくても不適切に設計されている場合、非線形挙動、例えば空気乱流に起因したチャッフィング(chuffing)またはポートノイズの結果として、特に高い作動レベルにおいて低周波数での可聴周波数歪みおよび効率低下が生じる場合がある。加うるに、ポート内における空気運動に起因する粘性抵抗の結果として、低周波数での効率低下が一段と生じる場合がある。ポートの断面積を増大させることにより、乱流およびロスを減少させることができるが、同調周波数が所与の場合、適正な音響質量を維持するためにはこれに比例してポートの長さを増大されなければならない。しかしながら、長さの必要な増大は、実現が望めない。
【0006】
ポートの長さおよび断面積が増大すると別の問題もまた生じることがある。オルガンパイプ共鳴がダクトの長さに反比例する周波数で開口ダクト内に生じる。これらオルガンパイプ共鳴は、かかるオルガンパイプ共鳴がある特定の周波数範囲内で起こるときに可聴周波数歪みを容易に生じさせる場合がある。例えば、長さが9インチ(22.86cm)のダクトは、ほぼ700Hzで高い可聴周波数の原共鳴を呈し、長さ3インチ(7.62cm)に過ぎないダクトは、ほぼ2,100Hzで非常に低い可聴周波数の原共鳴を呈することになる。事実、ベント式ラウドスピーカシステムの設計で用いられる典型的なやり方は、オルガンパイプ共鳴の可聴性が低くしかもエンクロージャ内に取り付けられたトランスデューサの範囲内にある可能性の低い高い周波数でオルガンパイプ共鳴が起こるような短いポートの使用である。加うるに、大きな断面積は、エンクロージャ内で生じるミッドレンジ周波数のエンクロージャの外部への望ましくない伝達を招く場合がある。これはまた、ラウドスピーカシステムにより生じる直接音との干渉に起因して周波数応答バリエーションの形態の可聴周波数歪みをもたらす場合がある。
【0007】
したがって、ベント式ラウドスピーカシステムのポートの設計には両立しがたい要件がある。大きな断面積は、非線形乱流に起因した可聴ノイズおよびロスを回避するのに必要であるが、これにより、実用的なサイズ面での制約の範囲内で低い同調周波数に必要な音響質量を達成するのが困難になる。当業者であれば精通しているように、乱流およびロスの減少させたポートを構成するために種々の方式が採用された。図1Aに示された例を参照すると、断面図で見て、ラウドスピーカエンクロージャ100がトランスデューサ102およびポート104を有し、ポート104は、乱流を減少させるためにこのポートの一端部または両端部のところがラッパ状に広げられている。ラッパ状に広げられたポート104は、一端部または両端部のところでポート断面積を増大させ、それにより出口のところでの空気の粒子速度を減速させることによって乱流を減少させるよう働く。これは、長さが所与の場合、ポートの中間区分の小さな断面積および高い音響質量を考慮に入れている。しかしながら、必要なラッパ状広がりの端部106,108は、有効であるためには、極めて大径であると言え、しかも、これら自体、音響質量にそれほど貢献することなくポート全長を著しく増大させる場合がある。ラッパ状広がり部の断面積の増大により、ラウドスピーカキャビネットの内部からの望ましくないミッドレンジ周波数の伝達量が増大する場合があり、不適切に選択されたラッパ状広がり度が実際には乱流を増大させる場合がある。
【0008】
乱流およびロスを減少させるために用いられるもう1つの従来方法が図1Bに示されており、図1Bは、トランスデューサ102および多数のポート204,206を備えたラウドスピーカエンクロージャ200の断面図である。多数のポート204,206を用いると、数個のポートの断面積の合計を利用することによって、乱流およびロスが減少する。しかしながら、単一ポートの場合と同様、多数ポートの各々長さは、全断面の増大を考慮に入れて長くされなければならない。例えば、2つの同一のポートが用いられる場合、これらポートは両方とも、同一音響質量および同一同調周波数を達成するために同一断面の単一ポートのほぼ2倍の長さであることが必要になろう。上述したように、これにより、非現実的な長さ要件および大きな可聴周波数オルガンパイプ共鳴が生じる場合がある。
【0009】
乱流およびロスならびに上述したポートの設計と関連した他の問題点を減少させるために他の技術も用いられる。これら技術としては、丸形またはフランジ付き端部を備えたポート、オルガンパイプ共鳴を減少させるための幾何学的形状および折り畳みまたは他の回旋による長いポートを実現する多くの方法が挙げられる。
【0010】
共通所有権者の米国特許第5,517,573号明細書(以下、「第´573号特許明細書」という)および同第5,809,154号明細書は、乱流およびロスを減少させた状態でコンパクトな空間内に所要の音響質量を達成するための改良型ポート設計法を開示しており、これら米国特許を参照により引用し、これらの記載内容全体を本明細書の一部とする。図1Cは、第´573号特許明細書の図7を再現したものである。これら米国特許明細書に記載された方法では、単一のダクトの一端部または両端部のところにディスクを用いてポートの両端部のところの漸増する断面積を効果的に生じさせる。幾つかの好ましい実施形態では、ポート構造の効率をさらに高めるためにフローガイドもまた用いられる。この方法は、キャビネットの内側からのミッドレンジ周波数の伝達を抑制するという利点および所要の音響質量を、これまたロスを減少させるよりコンパクトな形態で提供するという利点を有するが、かかるコンパクトな形態はまた、ある特定の形態では、可聴周波数オルガンパイプ共鳴と関連した問題を生じさせる場合があり、これら難題は、共通所有権者の米国特許第7,162,049号明細書(これまた、参照により引用し、その記載内容を本明細書の一部とする)から取った図1C図1D、および図1Fに示されている他のポート付きキャビネット形態で取り組まれた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7,162,049号明細書
【特許文献2】米国特許第5,517,573号明細書
【特許文献3】米国特許第5,809,154号明細書
【特許文献4】米国特許第7,162,049号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図1A図1Fのベント式ラウドスピーカは、これらの低周波同調周波数を上回る増大した出力をもたらすよう開発された。これらベント式設計例の1つの不都合な点は、ベントが低周波システムと関連した所望の一次ヘルムホルツ共鳴を優に上回る音響共鳴を呈することである。これら共鳴は、聞こえる場合が多く、しかもミッドレンジにおいてシステムの周波数および時間と関連した共鳴に影響を及ぼす。これら共鳴の振幅を除去しまたは減少させると、システムのミッドレンジ性能が向上する。また、ポートノイズの可聴性を減少させることが要望されている。かかる先行技術の方法ならびにこれら問題を軽減し、例えばポートの断面積を減少させる構造および方法により、副次的な影響、例えば乱流(およびポートノイズ)の乱流を増大させる空気速度の増大が生じる。ポートノイズまたはチャッフィングの電気的補正は、ベントが関連のエレクトロニクスによって直接駆動されず、システム内のトランスデューサによって駆動されるので可能ではない。
【0013】
したがって、ポート付きラウドスピーカをチューニングするとともに望ましくない音響共鳴を減少させる一方で、ポートノイズを減少させ、望ましくないポート共鳴をなくし、しかも比較的能率の高いラウドスピーカシステム内の再生音の精度および忠実度を向上させる有効なシステムおよび方法が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、ポート付きラウドスピーカをチューニングするとともに望ましくない音響共鳴を減少させる有効なシステムおよび方法がポートノイズを減少させ、望ましくないポート共鳴をなくし、しかも能率が比較的高いラウドスピーカシステム内の再生音の精度および忠実度を向上させる。
【0015】
本発明のラウドスピーカシステムおよびエンクロージャは、エンクロージャの内容積部と外部周囲環境とを流体連通させるルーメンを備えたベントを有し、ベントのルーメンは、このベント内に配置されていてベントの「開管」音響共鳴を吸収する1本の固有音フィルタ(“ETF”)筒または1組のETF筒を含む。この開管音響共鳴は、一般的には望ましくなく、しかもラウドスピーカのミッドレンジ性能を妨害しまたは低下させる。
【0016】
本発明のこのETF搭載ラウドスピーカシステムおよびエンクロージャは、幾つかの利点を有し、かかる利点としては、(a)ETFシステム(“ETF”)が受動型であり、したがって、電気またはデータ信号処理(“DSP”)を稼働させる必要がないということ、(b)ETFが比較的安価であり、数個の単純な部品で作られること、(c)ETFシステムアブソーバをチューニングすると、ベント共鳴、キャビネット共鳴を吸収することができ、またはこれら両方を行うことができること、(d)二重筒ETFシステムを用いた場合、個々のアブソーバを別々にチューニングすると、互いに異なる共鳴を取り扱うことができること、(e)ETFは、ラウドスピーカエンクロージャの外部から見え、したがって、内部の解決策と比較してマーケティング上の利点を有すること、および(f)ETF搭載ラウドスピーカシステムおよびエンクロージャが使用時、可聴周波数ポートノイズを減少させることが挙げられる。
【0017】
ETF搭載ラウドスピーカシステムおよびエンクロージャは、両端が開口した空気柱が音響共鳴を呈し、その波長が空気柱の長さに加えた端部補正を見越した幾分かの量を加えたものの2倍であるということを観察した後に開発された。同様に、一端が閉鎖された空気柱は、波長が空気柱の長さに端部補正を加えたものの4倍である共鳴を呈する。長さがほぼ半分の閉鎖空気柱の開口端を開口空気柱の中心の近くに配置することによって、閉鎖空気柱が開口空気柱の共鳴周波数のところでアブソーバ(吸収体)として働くことが観察された。
【0018】
本出願人のプロトタイプの開発作業中、これら開口端空気柱のうちの2つを面と面を合わせて配置でき、これら開口部が開口端空気柱の中心の近くに位置することが注目された。この形態の利点は、多く存在することが観察された。1つには、2つの空気柱が1つの空気柱よりも表面積が大きいので大きな吸収率が可能である。2つ目として、空気柱を同心状に配置することができ、その結果、一次空気柱中の流れが断面積の変化によって乱される度合いが小さい。さらに3つ目として、吸収空気柱を一次空気柱内に容易に配置することができ、と言うのは、これら吸収空気柱を、次に、端部のところまたは主空気柱の外側の特徴部に取り付けることができるからである。また、閉鎖空気柱の端部をテーパさせることにより、アブソーバのクオリティ(Q)が低下し、それにより、主要空気柱内の共鳴の質を良好に適合させるようETFアブソーバをチューニングすることが可能である。プロトタイプのテーパはまた、端部のところの主空気柱内の乱流を減少させることが観察されたが、その理由は、これらプロトタイプが空気力学的だからである。他のプロトタイプでは、フォーム、ファイバおよび他の音響抵抗要素は、クオリティ(Q)もまた改変しまたこれに影響を及ぼすよう構成された状態でアブソーバ中に挿入された。これらの音響抵抗要素は、閉鎖(すなわち、底)端部のところで良好に働くことが観察されたが、良好な全体的性能は、アブソーバが開口部のところに配置された状態で得られ、その形態では、望ましくない副次的結果の量を少なくした状態で良好な性能を提供する最も容易なチューニング方法が提供された。
【0019】
本発明のETF搭載ラウドスピーカシステムおよびエンクロージャは、ラウドスピーカ用の丸形ベントの状態で試作されたが、本発明の原理および方法は、他の形状のベントで役立つよう改造可能であるのが良い。アブソーバもまた、丸形である必要はない。
【0020】
2つの好ましい実施形態が試作中に開発された。一方は、典型的なブックシェルフ型ラウドスピーカの実施形態である。他方は、Power Port(商標)型床置き(タワー)ベント構造を備えたラウドスピーカの実施形態である。Power Port(商標)型ベント構造の場合、ETFアブソーバは、見栄えのする高能率かつ経済的な実施形態を提供するためにベースのディフューザ部分内に設けられるのが良い。
【0021】
ETFアブソーバのための端部補正は、主空気柱の端部補正よりも小さい傾向があり、したがって、2つのアブソーバ相互間には隙間が存在するはずであり、Power Port(商標)型ベント構造の場合、主空気柱は、単純な筒部分を越えて延び、アブソーバ組立体は、主空気柱用の組立体よりも長くなる傾向がある。これにより、ETFアブソーバ組立体を主空気柱の端部のところでまたは主空気柱の外部でフレア部に好都合にも取り付けることができる。
【0022】
2つのETFアブソーバ相互間の開口部は、アブソーバの効率に影響を及ぼす。開口部が小さすぎる場合、アブソーバの効率が低下する。1:1.25の直径と長さの比が好ましい(すなわち、ETFアブソーバ筒の直径IDとこれら相互間のETF筒隙間の長さの比、例えば、アブソーバの直径=25mm、アブソーバ相互間の隙間=20~25mmである)。
【0023】
アブソーバの寸法は、アブソーバの有効性に影響を及ぼす。断面積が大きいことは、吸収率が良好であるということに等しい。アブソーバは、主空気柱の断面積からの差し引きを行うので、所望の吸収率を達成するのに必要なほどアブソーバを小さく保つことが最適であるのが通例である。アブソーバ断面積と主空気柱断面積の0.15:0.2の比は、最も良く働くように思われる。
【0024】
主空気柱のヘルムホルツチューニング(ベントfP)は、アブソーバ組立体の挿入長さにつれて変化し、と言うのは、主空気柱の断面積は、アブソーバ組立体の断面積だけ減少するからである。補償するために主空気柱のサイズを増大させるだけで事足りる。
【0025】
アブソーバをチューニングして、必ずしも主空気柱によっては引き起こされない周波数を吸収することが可能である。例えば、ラウドスピーカキャビネット内に存在する共鳴(モード)は、多くの場合、ベントを通って出て、適正にチューニングされていればETFアブソーバによって吸収可能である。これは、プロトタイプで実証された。
【0026】
本発明の上記特徴および利点ならびに別の特徴および利点は、特に添付の図面と関連して本発明の特定の実施形態についての以下の詳細な説明を考慮すると明らかになろう。なお、種々の図の同一の参照符号は、同一のコンポーネントを示すために利用されている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A】先行技術によるポート付きラウドスピーカシステムおよび方法を示す図である。
図1B】先行技術によるポート付きラウドスピーカシステムおよび方法を示す図である。
図1C】先行技術によるポート付きラウドスピーカシステムおよび方法を示す図である。
図1D】先行技術によるポート付きラウドスピーカシステムおよび方法を示す図である。
図1E】先行技術によるポート付きラウドスピーカシステムおよび方法を示す図である。
図1F】先行技術によるポート付きラウドスピーカシステムおよび方法を示す図である。
図2】本発明の構造および方法に従って、ブックシェルフ形ラウドスピーカシステムの非パワーポートセグメントの断面側面図であり、エンクロージャ内のETF搭載ラウドスピーカシステムベントまたはポートを示す図である。
図3】本発明の構造および方法に従って、タワー型ラウドスピーカシステムのポート搭載セグメントの断面側面図であり、タワーエンクロージャ内のETF搭載ラウドスピーカシステムベントまたはポートを示す図である。
図4A】本発明の構造および方法にかかる図2のETF搭載ブックシェルフ形システムベントまたはポートの斜視図である。
図4B】本発明の構造および方法にかかる図2のETF搭載ブックシェルフ形システムベントまたはポートの斜視図である。
図5A】本発明の構造および方法にかかる図3のETF搭載タワーシステムベントまたはポートの斜視図である。
図5B】本発明の構造および方法にかかる図3のETF搭載タワーシステムベントまたはポートの斜視図である。
図6】本発明の構造および方法に従って、図2図4Aおよび図4BのETF形態をエンクロージャ内に組み込んだブックシェルフ形ラウドスピーカシステムの断面斜視図である。
図7】本発明の方法に従って図6の通常(非ETF)および改良(ETF付きのポート)ブックシェルフ形ラウドスピーカシステムの周波数応答および性能を示す周波数応答プロット図である。
図8A】本発明の構造および方法に従って図3図5Aおよび図5BのETF搭載タワーシステムベントまたはポートの断面側面図である。
図8B】本発明の構造および方法に従って図3図5Aおよび図5BのETF搭載タワーシステムベントまたはポートの断面側面図である。
図8C】本発明の構造および方法に従って図3図5Aおよび図5BのETF搭載タワーシステムベントまたはポートの断面側面図である。
図9図8A図8Cの本発明の方法に従って通常(非ETF)および改良(ETF付きポート)タワー型ラウドスピーカシステムの周波数応答および性能を示す周波数応答プロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図2図9を参照すると、本発明によれば、ポート付きラウドスピーカをチューニングするとともに望ましくない音響共鳴を減少させる能率の高いシステムおよび方法が望ましくないポート共鳴をなくすとともに能率が比較的高いラウドスピーカシステム内の再生音の精度および忠実度を向上させる。
【0029】
本発明のETF搭載ラウドスピーカシステム(例えば、700または800)およびエンクロージャがエンクロージャの内容積部と外部周囲環境との流体連通を可能にするルーメンを備えたベントを含み、ベントの開放内部ルーメンは、ベントの「開管」音響共鳴を吸収するようベント内に配置された1本または1組の固有音フィルタ(Eigen Tone Filter:ETF)筒を有する。この開管音響共鳴は、典型的には望ましくなく、ラウドスピーカのミッドレンジ性能を妨害しまたはこれを低下させる。上述したように、ETF搭載ラウドスピーカシステムおよびエンクロージャは、図1A図1Fの先行技術と比較して以下の幾つかの利点を有し、これら利点は次の通りである。
1)ETFシステム(例えば、720A,720Bまたは820)は、受動型であり、したがって、電気またはディジタル信号処理(“DPS”)を稼働させる必要はない。
2)ETFシステム(例えば、720A,720Bまたは820)は、比較的安価であり、数個の単純な部品で作られる。
3)ETFシステムのアブソーバ筒は、ベント共鳴、キャビネット共鳴またはこれら両方を吸収するよう寸法決めされる(例えば、「チューニングされる」)ことが可能である。
4)二重筒ETFシステムの場合、個々のアブソーバを互いに異なる共鳴を取り扱うよう別々にチューニングすることができる。
5)ETFシステムは、ラウドスピーカエンクロージャの外部から見え、したがって、内部の解決策と比較してマーケティング上の利点を有する。
6)ETF搭載ラウドスピーカシステム(例えば、700,800)およびエンクロージャは、可聴周波数ポートノイズを減少させる。
【0030】
ETF搭載ラウドスピーカシステム(例えば、700,800)は、両端が開口した空気柱が音響共鳴を呈し、その波長が空気柱の長さに加えた端部補正を見越した幾分かの量を加えたものの2倍であるということを観察した後に開発された。同様に、一端が閉鎖された空気柱は、波長が空気柱の長さに端部補正を加えたものの4倍である共鳴を呈する。長さがほぼ半分の閉鎖空気柱の開口端を開口空気柱の中心の近くに配置することによって、閉鎖空気柱が開口空気柱の共鳴周波数のところでアブソーバとして働くことが観察された。
【0031】
本出願人のプロトタイプの開発作業中、これら開口端空気柱のうちの2つを面と面を合わせて配置でき、これら開口部が開口端空気柱の中心の近くに位置することが注目された。この形態の利点は、多く存在することが観察された。1つには、2つの空気柱が1つの空気柱よりも表面積が大きいので大きな吸収率が可能である。2つ目として、空気柱を同心状に配置することができ、その結果、一次空気柱中の流れが断面積の変化によって乱される度合いが小さい。さらに3つ目として、吸収空気柱を一次空気柱内に容易に配置することができ、と言うのは、これら吸収空気柱を、次に、端部のところまたは主空気柱の外側の特徴部に取り付けることができるからである。また、閉鎖空気柱の端部をテーパさせることにより、アブソーバのクオリティ(Q)が低下し、それにより、主要空気柱内の共鳴の質を良好に適合させるようETFアブソーバをチューニングすることが可能である。プロトタイプのテーパはまた、端部のところの主空気柱内の乱流を減少させることが観察されたが、その理由は、これらプロトタイプが空気力学的だからである。他のプロトタイプでは、フォーム、ファイバおよび他の音響抵抗要素は、クオリティ(Q)もまた改変しまたこれに影響を及ぼすよう構成された状態でアブソーバ中に挿入された。これらの音響抵抗要素は、閉鎖(すなわち、底)端部のところで良好に働くことが観察されたが、良好な全体的性能は、アブソーバが開口部のところに配置された状態で得られ、その形態は、望ましくない副次的結果の量を少なくした状態で良好な性能を提供する最も容易なチューニング方法を提供した。変形例として、音響抵抗要素をアブソーバ内のどこか別の場所に配置しても良い。
【0032】
本発明のETF搭載ラウドスピーカシステムおよびエンクロージャは、ラウドスピーカ用の丸形ベントの状態で試作されたが、本発明の原理および方法は、他の形状のベントで役立つよう改造可能であるのが良い。アブソーバもまた、丸形である必要はない。
【0033】
2つの実施例が図2図9に示されている。一方は、ETF搭載ブックシェルフ形ラウドスピーカシステム700である(図2および図6に最も良く示されている)。他方の実施形態は、ETF搭載Power Port(商標)を備えた床置き(タワー)型ラウドスピーカシステム800(図3および図8A図8Cに最も良く示されている)である。ETF搭載Power Port(商標)の場合、ETFアブソーバ組立体820は、ベースのディフューザ部分内に設けられるのが良い。これは、好都合であって費用を節約する。
【0034】
再び図2および図6ならびにさらに図4Aおよび図4Bを参照すると、本発明のETF搭載ラウドスピーカシステムのブックシェルフサイズの実施形態700は、少なくとも1つのラウドスピーカドライバ(例えば、ミッドウーファおよびツイータ)を支持するとともに方向づけるフロントバッフルおよびETF組立体(例えば、720A)を支持したリヤバッフルを有するポート付きラウドスピーカエンクロージャ710を含む。ポート付きラウドスピーカエンクロージャ710は、ベントまたはポート730により周囲環境にポート連結された内容積部を備え、ベントまたはポート730は、ベントルーメン中心軸線を備えた円筒形内部ベントルーメン740を備えている。ETF組立体720Aは、ベントルーメン軸線と同軸整列関係をなしてベントルーメン740内に支持されており、このETF組立体は、ラウドスピーカの使用時にベントルーメン740の「開管」音響共鳴を吸収するようラウドスピーカベントルーメン内に配置された1本または1組の筒またはアブソーバ(750,760)を有する。ETF組立体720A(図6に見える)は、近位側の閉鎖端キャップおよびこれと反対側の遠位側の後方に突き出た端キャップを含むとともにその中間箇所のところに、第1および第2の軸方向に整列したETF筒セグメントまたはアブソーバ(750,760)の内容積部とベントルーメン740との流体連通を可能にする円周方向スロットまたは側壁隙間を含む。ベントまたはポート730は、エンクロージャ710の内部と周囲環境との流体連通を可能にするチューニング済みポートを備えているので、ベントまたはポート730もまた、エンクロージャおよび周囲環境の各々とETF組立体720A用のETFアブソーバの内容積部との流体連通を可能にする。図2図4Aおよび図4Bは、ETF筒の両端部が好ましくはアブソーバ要素を収容した丸形または「弾丸先端」形の端キャップを支持しているという点でブックシェルフ形システム700に用いられるETF組立体(例えば、720B)の僅かに異なる実施形態を提供している。図2に戻ってこれを参照すると、ETF組立体720Bは、近位側の閉鎖端キャップおよびこれと反対側の遠位側の後方に突き出た端キャップを含むとともにその中間箇所のところに、第1および第2の軸方向に整列したETF筒セグメントまたはアブソーバの内容積部とベントルーメン740との流体連通を可能にする円周方向スロットまたは側壁隙間を含む。第1および第2の軸方向に整列したETF筒セグメントまたはアブソーバ(750,760)の各々は、関心のある周波数についてほぼ四分の一波長である軸方向長さを有する(例えば、562Hzについては155mm、789Hzについては122mmであり、これは、図7に示された変化をもたらしている)。
【0035】
本発明に基づいて開発された方法では、ETF筒のための寸法を選択する(すなわち、「チューニングする」)ことは、繰り返しプロセスであった。ブックシェルフ形ラウドスピーカシステム700の実施例では、図7にプロットされた「ストックポート」データは、550Hzから800Hzまでの範囲にある望ましくないエネルギー量を示している。この望ましくないエネルギーをブックシェルフ形スピーカシステムETF700Aにより減少させまたは「ノッチアウト(notch out)」するため、ETF筒セグメントは、適正に寸法決めされるとともに形作られる(または「チューニングされる」)必要がある。詳細な実施例が以下に提供されている(タワーシステム800向き)。
【0036】
次に図3図8A図8Cを参照するとともにさらに図5Aおよび図5Bを参照すると、本発明のETF搭載ラウドスピーカシステムの床置き型またはタワーサイズ型実施形態は、同様に、少なくとも1つのラウドスピーカドライバ(例えば、ウーファ、ミッドウーファおよびツイータ)を支持するとともに方向づけるフロントバッフルおよびETF組立体(例えば、820)を支持したボトムバッフルを有するポート付きラウドスピーカエンクロージャ810を含む。ポート付きタワー型ラウドスピーカエンクロージャ810は、ベントまたはポート830を経て周囲環境にポート連結された内容積部を備え、ベントまたはポート830は、ベントルーメン中心軸線を備えた円筒形内側ベントルーメン840を備えている。ETF組立体820は、ベントルーメン軸線と同軸状整列関係をなしてベントルーメン840内に支持され、ETF組立体820は、ラウドスピーカの使用時、ベントルーメン840の「開管」音響共鳴を吸収するようラウドスピーカベントルーメン内に配置された1本の筒もしくはアブソーバまたは1組の筒もしくはアブソーバ(850,860)を含む。ETF組立体820(図3および図8Bに見える)は、近位側の閉鎖端キャップおよびPower Port(商標)型ディフューザ内に嵌め込まれた反対側の遠位側の下方に突き出た端キャップを含むとともにその中間箇所のところに、第1および第2の軸方向に整列したETF筒セグメントまたはアブソーバ(850,860)の内容積部とベントルーメン840との流体連通を可能にする円周方向スロットまたは側壁隙間を含む。
【0037】
ベントまたはポート830は、エンクロージャ810の内部と周囲環境との流体連通を可能にするチューニング済みポートを備えているので、ベントまたはポート830もまた、エンクロージャおよび周囲環境の各々とETF組立体820用のETFパイプの内容積部との流体連通を可能にする。図5Aおよび図5Bは、タワー型システム800に用いられるETF組立体820の僅かに異なる実施形態を提供しており、ETF筒の近位側、内部または上側の端部が好ましくはアブソーバ要素(図示せず)を収容した丸形または「弾丸先端」形の端キャップ870を支持した状態を示している。図3に戻ってこれを参照すると、ETF組立体820は、近位側の閉鎖端キャップおよびこれと反対側の遠位側の下方に突き出た端キャップを含むとともにその中間箇所のところに、第1および第2の軸方向に整列したETF筒セグメントの内容積部とベントルーメン840との流体連通を可能にする円周方向スロットまたは側壁隙間を含む。第1および第2の軸方向に整列したETF筒セグメントまたはアブソーバ(850,860)の各々は、好ましくは、38mmIDの場合、関心のある周波数について四分の一波長にほぼ等しい軸方向長さを有する(例えば、494Hzについては150mm、756Hzについては100mm)。
【0038】
本発明に基づいて開発された方法では、ETF筒のための寸法を選択する(すなわち、「チューニングする」)ことは、繰り返しプロセスであった。タワー型ラウドスピーカシステム800の実施例では、図9にプロットされた「ストックポート」データは、500Hzから750Hzまでの範囲にある望ましくないエネルギー量を示している。この望ましくないエネルギーをタワー型スピーカシステムETF820により減少させまたは「ノッチアウト(notch out )」するため、ETF筒セグメントは、適正に寸法決めされるとともに形作られる(または「チューニングされる」)必要がある。20℃における音速を当初343m/sであると推定するとともに100mmを用いると、f=343/(0.1×4)=857.5Hzの四分の一波長周波数が得られる。38mmETF筒は、0.3×38=11.4mmを端部補正に加え(幾つかの引用文献に従って)、それにより上記をf=343/(0.1114×4)=769.7Hzに変更する。これは、完全に開口した筒ではないので、本出願人は、この初期の周波数チューニング推定値が100%正確ではない可能性がある。約38mmフォームを100mmETF内に追加することは、筒のQを幾分落ととともにETF内の空気速度を幾分減速させ、それにより図9にプロットされた「ETF付きのポート」データに示されているような測定済みの最小差曲線中の756Hzへの変更を考慮に入れていると考えられる。同様に、150mmチューニングは、端部補正なしでf=343/(0.15×4)=571.7Hz、端部補正を行った場合にはf=343/(0.1614×4)=531.3Hzであり、したがって、約76フォームを150mmETFに追加した後、周波数はf=494Hzとなる。当業者には理解されるように、このチューニングは、予備かつ正確な計算の余地があるようには思われない。と言うのは、長さと1/4波長周波数との間には直接的な1:1の関係がないからである。
【0039】
ETF筒組立体(例えば、820)は、端部補正が主空気柱よりも小さい傾向があるので、2つのアブソーバ(例えば、850,860)相互間には隙間が存在する必要があり、図3に示されたPower Port(商標)型実施形態の場合、すなわち、単純な筒部分を越えて延びる一次空気柱の場合、アブソーバ組立体820は、主空気柱用の組立体よりも長い傾向がある(例えば、図5Aおよび図5Bに示されている)。これにより、アブソーバ組立体820を主空気柱の端部のところでまたは主空気柱の外部でフレア部に好都合にも取り付けることができる。
【0040】
2つの軸方向に整列したETF筒または筒形状アブソーバ(例えば、850,860)相互間の円周方向スロットまたは側壁隙間開口部(例えば、755,855)は、ETF組立体820を有するアブソーバの効率に影響を及ぼす。スロットまたは側壁隙間開口部(例えば、755,855)が小さすぎる場合、ETFアブソーバ筒の共鳴吸収能率が低下する。好ましくは、アブソーバ相互間の隙間長さおよびアブソーバの直径は、筒直径がこれらアブソーバ相互間の隙間の長さの1~1.25倍であるように選択される(したがって、例えば、アブソーバの直径=25mmの場合、アブソーバ相互間の軸方向隙間長さ=20~25mm)。
【0041】
アブソーバ筒のサイズは、アブソーバの能率に影響を及ぼす。断面積が大きいことは、吸収率が良好であるということに等しい。アブソーバが主空気柱(例えば、ベントまたはポート830)の断面積からの差し引きを行うので、現時点においては、アブソーバを所望の吸収度を達成するのに必要なほど小さく保つことが最適であると考えられる。アブソーバ断面積と主空気柱(またはベントルーメン)断面積の0.15:0.2の比は、プロトタイプ改造例において最も良く働くと判定された。主空気柱(例えば、ベントルーメン730または830)のヘルムホルツチューニングは、アブソーバ組立体の挿入長さにつれて変化する。と言うのは、主空気柱の断面積は、アブソーバ組立体の断面積だけ減少するからである。これを補償するためには主空気柱(例えば、ベントルーメン740または840)のサイズを増大させるだけで事足りる。
【0042】
ETF組立体アブソーバをチューニングして主空気柱(またはベントルーメン740または840)により必ずしも生じるわけではない周波数を吸収することが可能である。例えば、ラウドスピーカキャビネット内に存在する共鳴(モード)は、多くの場合、ベントを通って出て、そして適正にチューニングされていれば、アブソーバによって吸収可能である。これは、プロトタイプで実証された。
【0043】
新規な改良型システムおよび方法の好ましい実施形態を説明したが、本明細書において記載した教示を考慮すると、当業者には他の改造、変形および変更が想到されることが考えられる。したがって、理解されるべきこととして、かかる全ての変形例、改造例および変更例は、本発明の範囲に含まれるものと考えられる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
【国際調査報告】