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特表2022-530555心臓同期不全及び心臓の非共同運動の特徴づけ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(54)【発明の名称】心臓同期不全及び心臓の非共同運動の特徴づけ
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/053 20210101AFI20220622BHJP
   A61N 1/365 20060101ALI20220622BHJP
   A61B 5/33 20210101ALI20220622BHJP
   A61B 5/366 20210101ALI20220622BHJP
   A61B 5/339 20210101ALI20220622BHJP
【FI】
A61B5/053
A61N1/365
A61B5/33 110
A61B5/366
A61B5/339
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564767
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(85)【翻訳文提出日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 EP2020062149
(87)【国際公開番号】W WO2020221903
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】1906064.9
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521475462
【氏名又は名称】ペーサーツール アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】オードラン、ハンス ヘンリック
【テーマコード(参考)】
4C053
4C127
【Fターム(参考)】
4C053KK02
4C053KK07
4C127AA02
4C127AA06
4C127BB05
4C127GG01
4C127GG02
4C127GG05
4C127HH12
4C127HH13
(57)【要約】
【課題】患者の可逆性心臓同期不全を識別する方法を開示する。
【解決手段】方法は、左心室内の圧力増加率での急速な増加に関するイベントの測定を用い、方法は以下を含む:左心室内の圧力増加率での急速な増加に関するイベントと第一基準時間との間の第一時間遅延を計算する、第一時間遅延は、一つ以上のセンサーから受信したデータでの特徴的な反応を識別することによって、心臓の各収縮で識別可能な左心室内の圧力増加率での急速な増加に関するイベントが起こるときを測定するように一つ以上のセンサーから受信したデータを用い、左心室内の圧力増加率での急速な増加に関する識別された特徴的な反応の測定された時間と第一基準時間との間の第一時間遅延を判定するように同一センサーまたは一つ以上のセンサーとは別の一つ以上のセンサーからの信号を処理する、ことによって計算される;心臓の電気的興奮を表す生体電位を測定する;左心室内の圧力増加率での急速な増加に関する識別された特徴的な反応の測定された時間と第一基準時間との間の第一時間遅延と心臓の電気的興奮の持続期間を比較する。第一時間遅延が心臓の電気的興奮の設定分画より長い場合、患者での心臓同期不全の存在が識別される。ペーシングがその後患者に適用され、ペーシングに続く左心室内の圧力増加率での急速な増加に関する識別された特徴的な反応とペーシングに続く第二基準時間との間の第二時間遅延を計算し、第二時間遅延は、ペーシングに続く左心室内の圧力増加率での急速な増加に関する識別された特徴的な反応のタイミングを測定するように少なくとも一つのセンサーを用い、ペーシングに続く左心室内の圧力増加率での急速な増加に関する識別された特徴的な反応の判定された時間とペーシングに続く第二基準時間との間の第二時間遅延を判定するように一つ以上のセンサーからの信号を処理する、ことによって計算され、第一時間遅延と第二時間遅延を比較し、第二時間遅延が第一時間遅延より短い場合に、心筋の共同運動の開始OoSへの遅延の短縮を識別し、これは心臓の全てのセグメントが能動的または受動的に硬化し始める点までの時間が短縮したことを示し、したがって、患者の可逆性心臓同期不全の存在を識別する。
【選択図】 図5D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の可逆性心臓同期不全を識別する方法であって、左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連するイベントの測定を用い、前記方法は以下を含む:
左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連するイベントと第一基準時間との間の第一時間遅延を計算する、ここで、前記第一時間遅延は、
一つ以上のセンサーから受信したデータにおいて特徴的反応を識別することにより、心臓の各収縮において識別可能である、左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連するするイベントが起こるときの時間を測定するために、一つ以上のセンサーから受信したデータを用い、
左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応の測定された時間と前記第一基準時間との間の第一時間遅延を判定するために、前記一つ以上のセンサーと同一センサーまたは前記一つ以上のセンサーの他のセンサーの一つ以上、からの信号を処理する、
ことにより計算される;
心臓の電気的興奮を表す生体電位を測定する;
左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応の測定された時間と第一基準時間との間の前記第一時間遅延を、心臓の電気的興奮の持続期間と比較する;および、
前記第一時間遅延が心臓の電気的興奮の設定分画より長い場合、患者における心臓の同期不全の存在を識別し、
患者にペーシングを適用し、
ペーシングに続く左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応とペーシングに続く第二基準時間との間の第二時間遅延を計算し、ここで第二時間遅延は、
ペーシングに続く左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応のタイミングを測定するために、少なくとも一つのセンサーを用い、
左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応の判定された時間とペーシングに続く第二基準時間との間の第二時間遅延を判定するために、一つ以上のセンサーからの信号を処理する、
ことによって計算され、
前記第一時間遅延と前記第二時間遅延を比較し、ここで、
前記第二時間遅延が前記第一時間遅延より短い場合、心筋の共同運動の開始(OoS)への遅延の短縮化を識別し、これは心臓の全てのセグメントが能動的または受動的に硬化し始める点までの時間が短縮されることを示し、よって患者における可逆性心臓同期不全の存在を識別する。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記圧力増加率の急速な増加は、動脈弁の開弁および/または最大圧に先立って、左心室内の圧力の二次導関数における最終ピークに関連する、ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記第一および第二基準時間は異なるマーカー点に関し、ここで、前記第一時間遅延と前記第二時間遅延を比較する工程は、さらに、
前記第一基準時間と第二基準時間との間の時間遅延を補正する、
ことを含むこと特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の方法であって、前記心臓の電気的興奮を表す生体電位を測定する工程は、さらに以下を含む:
心電図 ECGを作成するために患者の表面生体電位を測定する;
ECGから測定されたQRS信号の開始、オフセット、又は全持続期間の点から基準時間を判定する;および、
QRS波の持続期間を判定する、ここで、左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連するイベントの測定された時間と前記第一基準時間との間の前記第一時間遅延を、前記心臓の電気的興奮の持続期間と比較する工程は、さらに、
前記左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連するイベントの測定された時間と前記第一基準時間との間の前記第一時間遅延を、前記QRS波の持続期間と比較し、
前記第一時間遅延が前記QRS波の持続期間の設定分画より長い場合、患者における同期不全の存在を識別する、
ことをさらに含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の方法であって、更に以下を含む方法:
患者の心臓に変更されたペーシングを適用する;
変更されたペーシングに続く左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的な反応と変更されたペーシングに続く第三基準時間との間の第三時間遅延を計算する、ここで第三時間遅延は、
変更されたペーシングに続く左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応のタイミングを測定するために、少なくとも一つのセンサーを用い、
変更されたペーシングに続く左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応の判定された時間と変更されたペーシングに続く第三基準時間との間の第三時間遅延を判定するために、一つ以上のセンサーからの信号を処理する、
ことにより計算される;
前記第二時間遅延と前記第三時間遅延を比較する;および、
前記第三時間遅延が前記第二時間遅延より短い場合、前記方法が、前記第三時間遅延をもたらす変更ペーシングが、患者において可逆性かつ、第二時間遅延をもたらす変更ペーシングよりより少ない同期不全となることを識別する、ことを含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から5に記載の何れかの方法であって、さらに、
心臓再同期療法用または変更されたペーシングのペーシング治療用に最適ペーシングモードおよび電極数および電極位置を選択する、ことを含む方法。
【請求項7】
請求項1から6に記載の何れかの方法であって、さらに、
心電図 ECGを作成するために患者の表面生体電位を測定すること;および
ECGから測定されたQRS信号の開始、オフセットまたは全持続期間の点から前記第一および/または第二基準時間を判定する、
ことを含む方法。
【請求項8】
請求項1から7に記載の何れかの方法であって、前記一つ以上のセンサーは加速度計を含み、前記方法は、
患者の中にある、または患者の表面につなげられた、前記加速度計からのデータを受信し;および、
加速度データの、開始、オフセット、および全持続期間、および/またはテンプレートマッチの点から前記第一および第二基準時間を判定する、
ことを含む方法。
【請求項9】
請求項1から8に記載の何れかの方法であって、左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応の時間を測定するための前記一つ以上のセンサーは、加速度計、ピエゾ抵抗センサー、光ファイバーセンサー、振動および/または圧力波を感知するいずれかのセンサー、超音波センサー、または磁気センサーを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、前記一つ以上のセンサーは、左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応に対応する心音を検出するように構成される、ことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1から10に記載の何れかの方法であって、前記方法はさらに以下を含む:
皮膚表面電極を通して電流を注入する;
前記電極間のインピーダンスを測定する;および、
複素インピーダンス波形および振幅波形を作成する、ここで、
左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応は、心臓の筋肉が収縮し、血液が心臓から駆出されるときの時間であり、
左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応の時間が、複素インピーダンスと振幅波形が重なりそれるところであると判定される、
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記方法は、心筋の共同運動の開始時間を識別し、心筋の共同運動の開始の識別を表す何れか他のセンサーと組み合わせてインピーダンスの何れかの表示を用いる、ことを含む方法。
【請求項13】
請求項1から12に記載の何れかの方法であって、前記一つ以上のセンサーが左心室に設置された圧力センサーを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応は、圧力曲線軌跡の時間導関数または圧力曲線軌跡それ自体のいずれかにおける、タイムドメインまたはいずれかの軌跡と比較して前進または遅延の軌跡、における圧力上昇ピークである、ことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法であって、前記左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応は、圧力信号の第一調波の上でフィルタリングされた圧力信号における、圧力底をこえる圧力上昇の開始である、ことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1から15に記載の何れかの方法であって、左心室内の圧力増加率における急速な増加に関連する識別された特徴的反応は、S波速度の開始、収縮期加速ピーク(pSac)、S波ストレイン率の開始、心室全体の駆出の開始、動脈弁開弁、動脈流の開始、心筋壁速度、ストレイン、または心臓の超音波測定を基にした共同運動の開始を測定する測定値、を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1から16に記載の何れかの方法であって、ペーシングのAV遅延は、AP-VPがAP-RVsおよびAP-QRSの最短より短いように計算される、ことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、前記ペーシングのAV遅延は0.7×(AP×RVs)、またはAP-QRSが既知の場合、AV遅延は0.8×(AP-QRS)である、ことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1から18に記載の何れかの方法であって、患者の心臓における心臓再同期療法用の最適な電極数および位置を判定することを含み、以下を含む方法を介して行う:
患者の心臓の少なくとも一部の3Dモデルから、または心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを得るための心臓の一般的3Dモデルを用いて、複数のノードを含む、心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを作成する;
前記心臓の少なくとも一部の3Dメッシュと患者の心臓の画像を位置合わせする;
患者の少なくとも二つの電極の位置に対応する、追加ノードを3Dメッシュ上に配置する;
前記少なくとも二つの電極の位置に対応する3Dメッシュ上のノード間で電気的興奮の伝播速度を計算する;および
前記3Dメッシュのノードの全てに前記伝播速度を外挿し;
前記3Dメッシュの各ノードに心筋の並行興奮の程度を計算し;
既定の閾値より上の心筋の並行興奮の計算された程度を有する、3Dメッシュ上のノードを基に、患者の心臓における最適な電極の数および位置を判定する、
ことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1から19に記載の何れかの方法であって、ペーシング中での心臓の並行興奮の程度を判定することを含み、以下を含む方法を介して行う:
ベクトル心電図 VCG、または、心電図 ECG、右心室ペーシング RVpおよび左心室ペーシング LVpから波形を計算する;
合成二心室ペーシング BIVP波形を、RVpおよびLVpのVCGを合計することにより、またはRVpおよびLVpのECGを合計することにより作成する;
実際のBIVPから対応するECGまたはVCG波形を計算する;
合成BIVP波形と実際のBIVP波形を比較する;および
RVpとLVpからの電気的興奮が重なり、合成および実際のBIVP曲線がそれ始める時間点を判定することにより、融合までの時間を計算する、
ここで、融合までの時間における遅延は、電気的興奮の波前面同士が重なる前に多大な量の組織が興奮することを示し、これにより高い程度の並行興奮を示す、
ことを特徴とする方法。
【請求項21】
患者の可逆性心臓同期不全を測定する手段として、心筋の共同運動の開始 OoSを検出するシステムであって、前記システムは以下を含む:
心筋の共同運動の開始に起因するイベントの時間を測定するための一つ以上のセンサー;
心臓の電気的興奮を表す生体電位を測定するための一つ以上のセンサー、
患者にペーシングを適用するよう構成された少なくとも一つの電極;および
データ処理モジュール、ここで前記データ処理モジュールは以下を行うよう構成される:
心筋の共同運動の開始に起因するイベントの時間を測定するために、前記一つ以上のセンサーと同一センサーまたは前記一つ以上のセンサーの他のセンサーの一つ以上を用いる、ここで前記イベントの時間は、
心筋の共同運動の開始に起因するイベントの測定された時間と基準時間との間の第一時間遅延を判定するための少なくとも一つ以上のセンサーからの信号を処理し、
心筋の共同運動の開始に起因するイベントの測定された時間と基準時間との間の第一時間遅延を心臓の電気的興奮の持続期間と比較する、
ことによって測定され;
前記第一時間遅延が心臓の電気的興奮の設定分画より長い場合、患者における心臓同期不全の存在を識別する、
患者の心臓にペーシングを適用する;
ペーシングに続く心筋の共同運動の開始に起因するイベントとペーシングに続く基準時間の間の第二時間遅延を計算する、ここで第二時間遅延は、
ペーシングに続く心筋の共同運動の開始に起因するイベントを測定するために少なくとも一つのセンサーを用い、および
ペーシングに続く心筋の共同運動の開始に起因するイベントの判定された時間とペーシングに続く基準時間との間の第二時間遅延を判定するために、少なくとも一つのセンサーからの信号を処理する、ことによって計算される;
前記第一時間遅延と前記第二時間遅延を比較する;および、
前記第二時間遅延が第一時間遅延より短い場合、患者における可逆性心臓同期不全の存在を識別する。
【請求項22】
命令を含むコンピュータープログラム製品であって、前記命令が実行されるとき、コンピューターシステムが請求項1から20に記載の何れかの方法を実行し、任意でコンピューターシステムが請求項21で定義されたシステムである、ことを特徴とするコンピュータープログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の心臓のdyssynchrony(同期不全、非同期)と、その結果起こる心臓のdyssynergy(非共同運動)とを見分ける方法及びシステムに関する。このため、本発明は、患者が患う同期不全による心不全に関して使用することができ、より具体的には、再同期療法に反応すると思われる患者の識別に適用でき、及び任意に、心臓を刺激する電極の設置に最適な位置の決定に適用できる。
【背景技術】
【0002】
心臓再同期療法(CRT)は、広がったQRS波や(左又は右)脚ブロック、心不全等の様々な症状を患う患者を治療するために、国際医療学会により提供される認められた医療基準及びガイドラインによって一貫して提供される。QRS波がどのくらい広いか、どの種の脚ブロックを患っているか、心不全の程度等、CRTを利用する前に生じる特異的状況に関して、医療ガイドライン間で幾つかの小さな差異がある。
【0003】
CRTは、死亡率及び罹患率の低減と関連付けられるが、全ての患者がそのような治療の恩恵を得られるわけではない。事実、一部の患者は治療後の悪化を経験し、また厳しい合併症を経験する患者や、その両方を経験する患者もいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これに関して、CRTへのノンレスポンダーの数を減らす統合的な戦略の提供と潜在的レスポンダーの治療を最適化することは有用であり、これにより治療の効果が高まる。、
【課題を解決するための手段】
【0005】
第一の態様に鑑み、本発明は、心筋の共同運動の開始に起因するイベントの測定を使用して、心筋の共同運動の開始までの遅延の短縮を検出することにより患者の可逆性の心臓同期不全を識別する方法を提供し、前記方法は以下を含む:
心筋の共同運動の開始に起因するイベントと基準時間との間の第一時間遅延を計算する、ここで、前記第一時間遅延は、
心筋の共同運動の開始に起因するイベントの時間を測定するように、一つ以上のセンサーから受信したデータを用い、
前記心筋の共同運動の開始に起因するイベントの測定された時間と前記基準時間との間の前記第一時間遅延を判定するように、前記センサーと同一センサー、または前記一つ以上のセンサーの他のセンサーの一つ以上、からの信号を処理する、
ことにより、計算される;
心臓の電気的興奮を表す生体電位を測定する;
前記心筋の共同運動の開始に起因するイベントの測定された時間と前記基準時間との間の前記第一時間遅延を、心臓の電気的興奮の持続期間と比較する;、および、
前記第一時間遅延が、心臓の電気的興奮の設定分画よりも長い場合、患者における心臓同期不全の存在を識別し、
ペーシングを患者の心臓に適用し、
ペーシングに続く心筋の共同運動の開始に起因するイベントとペーシングに続く基準時間との間の第二時間遅延を計算し、ここで前記第二時間遅延は、
ペーシングに続く心筋の共同運動同期の開始に起因するイベントを測定するように少なくとも一つのセンサーを用い、
前記心筋の共同運動の開始に起因するイベントの判定された時間と前記ペーシングに続く基準時間との間の前記第二時間遅延を判定するように一つ以上のセンサーからのシグナルを処理する、
ことにより計算され、
前記第一時間遅延と前記第二時間遅延とを比較し、および、
前記第二時間遅延が前記第一時間遅延よりも短い場合、患者における可逆性の心臓同期不全の存在を識別する。
【0006】
別の言い方をすれば、第一の態様は、左心室内の圧力増加率における急速な増加に関するイベントの測定を使用して、患者の可逆性の心臓同期不全を識別する方法を提供し、前記方法は以下を含む:
左心室内の圧力増加率における急速な増加に関するイベントと基準時間との間の第一時間遅延を計算する、ここで前記第一時間遅延は、
一つ以上のセンサーから受信したデータにおける特徴的反応を識別することによって、心臓の各収縮において識別可能である、左心室内の圧力増加率における急速な増加に関するイベントが起こる時間、を測定するように、一つ以上のセンサーから受信したデータを用い、
左心室内の圧力増加率における急速な増加に関する識別された特徴的反応の測定された時間と第一基準時間との間の第一時間遅延を判定するように、前記センサーと同一センサーまたは前記一つ以上のセンサーの他のセンサーの一つ以上からの信号を処理する、
ことにより計算される;
心臓の電気的興奮を表す生体電位を測定する;
左心室内の圧力増加率における急速な増加に関する識別された特徴的反応の測定された時間と第一基準時間との間の前記第一時間遅延を、心臓の電気的興奮の持続期間と比較する;および、
前記第一時間遅延が、心臓の電気的興奮の設定分画よりも長い場合、患者における心臓同期不全の存在を識別し、
ペーシングを患者の心臓に適用し、
ペーシングに続く左心室内の圧力増加率における急速な増加に関する識別された特徴的反応とペーシングに続く第二基準時間との間の第二時間遅延を計算し、ここで前記第二時間遅延は、
ペーシングに続く左心室内の圧力増加率における急速な増加に関する識別された特徴的反応のタイミングを測定するように、少なくとも一つのセンサーを用い、
左心室内の圧力増加率における急速な増加に関する識別された特徴的な反応の判定された時間と、ペーシングに続く第二基準時間との間の第二時間遅延を判定するように、一つ以上のセンサーからの信号を処理する、
ことにより計算され、
前記第一時間遅延と前記第二時間遅延とを比較し、
前記第二時間遅延が前記第一時間遅延よりも短い場合、心臓の全てのセグメントが能動的又は受動的に硬化し始める時点までの期間が短くなったことを示す、心筋の共同運動の開始への遅延の短縮を識別し、これにより患者における可逆性の心臓同期不全の存在を識別する。
【0007】
以下更に説明するように、この方法によって、既存の技術の使用では不可能な心臓同期不全の評価が可能となり、心臓再同期療法に関連することを含む、患者の改善された評価を可能とする。心筋の共同運動の開始に起因する測定値、例えば電気的興奮の測定を介して測定される、を用いて心臓同期性を特徴づけることによって、又は、心臓内の機械的活動を反映するイベントを測定することによって、ペーシングゾーンの識別を最適化することによってのような、共同運動の開始を短縮化する戦略を考案することが可能となる。なお、この態様の方法が、少なくとも一つのセンサーからのデータを使用して実行され、従って方法の工程が身体の外部でデータを使用して実行されることに注意されたい。身体の外部で処理されるデータは、他の目的で身体からすでに得られているデータを含んでもよい。このデータは、非侵襲的および埋め込み型センサーの両方を含む、心臓を測定するために一般的に使用されるセンサーを含む、任意の適切な既知の種類の少なくとも一つのセンサーを使用して得られ、後で更に論じるように圧力センサー、ECG電極、加速度計及び超音波センサーが例として含まれる。また、心臓同期不全の識別を、ペーシングの前後の両方で既に測定されたデータを使用して実現できるため、本明細書で考慮される方法は、既存のデータにも等しく適用可能であり、そのようなデータが心臓同期不全の特徴かどうかを判定しうる。
【0008】
心筋の共同運動の開始は、心臓の全てのセグメントが、受動的又は能動的に硬化して全体の力の発生が増加する時点に関する。これは、最も早期の電気機械的間隔の後、且つ等容期中、且つ大動脈弁の開弁の前に起こる。これは、例えば、心臓内の指数関数的な圧力上昇の始まり、心臓における圧力変化率の急速な増加、フィルタリングされた圧力信号における圧力の底を超える圧力上昇の始まり、二次導関数のピーク又はローパスフィルタ(4Hz未満程度)にかけられた圧力トレースにおける圧力上昇の開始によって、幾つかの測定値に反映される。そのピーク又は開始は、大動脈弁の開弁又は最大圧力の前の最後のピーク又は開始であるべきである。この時点は直接測定することは難しいが、共同運動の開始の結果としてイベントが起こる時間を測定することによって、そのような時間の間接的な測定値を得ることも可能である。可逆性の心臓同期不全において、心筋の共同運動の開始までの時間の減少は、ペーシングで見られる。従って、心臓をペーシングし、(間接的測定により)共同運動の開始の時間への影響結果を測定することによって、可逆性の心臓同期不全を識別することが可能であり、ひいてはCRT治療に対して良好に反応しうる人々を識別することが可能である。
【0009】
指数関数的な圧力上昇について論じるときに、当業者は、測定圧力データの文脈におけるその意味を理解するだろう。このため、非同期性収縮(ここで、心臓のセグメントが受動的に伸展される)に起因する初期の小さな圧力上昇はありうるが、指数関数的な圧力上昇は、例えば、駆出前の圧力上昇増加率において識別可能な変化がある最後の時点を反映することが分かるだろう。そのような圧力上昇は、圧力変化に段階的な変化がある場合圧力トレースに含まれる周波数が増大するため、例えば、周波数範囲において測定しうる。これは、周波数スペクトルの低次調波を超えて起こり、共同運動の開始が、低次調波がローパスフィルタ又はバンドパスフィルタでフィルタリングされたときの証拠となりうる。例えば、4-40Hzでのフィルタリングにより、非共同運動と関連付けられる低くゆっくりとした周波数が除去され、共同運動の開始は、大動脈弁の開弁又は最大圧力に繋がる又はその直前の、圧力増加の開始として見られる。この圧力上昇の開始は、左心室における圧力上昇のピーク二次導関数に類似する。これらの測定値の両方とも共同運動の開始を反映する。
【0010】
同様に、圧力変化率における急速な増加も、圧力変化率が駆出の前に最大率で増加し始める時点を示すため、同じような形でよく理解できる。これは、例えば、大動脈弁の開弁又は最大圧力の前の左心室の圧力の、圧力の二次導関数における最終ピークに反映されうる。
【0011】
第一及び第二基準時間は、測定されたデータ内の異なるマーカー点に関しうる。例えば、第一基準時間は、ペーシングされていないトレースにおけるQRS曲線の始まりとして捉えうる。第二基準時間は、ペーシングの開始の時間として捉えうる。この場合、第一時間遅延と第二時間遅延とを比較する工程は、第一基準時間と第二基準時間との間の時間遅延を補正することを更に含む。これにより、異なる基準点に起因する内在の差に適応しながら、異なる測定値を比較することができる。
【0012】
心臓の電気的興奮を表す生体電位を測定する工程は、患者の表面生体電位を測定して、心電図 ECGを作成し、ECGから測定されたQRS信号の開始、オフセット又は全持続期間の点から基準時間を判定することを更に含んでもよい。そして、QRS波の持続期間を判定しうる。心筋の共同運動の開始に起因するイベントの測定された時間と基準時間との間の第一時間遅延を、心臓の電気的興奮の持続期間と比較する工程は、心筋の共同運動の開始に起因するイベントの測定された時間と基準時間との間の第一時間遅延を、QRS波の持続期間と比較することと、第一時間遅延がQRS波の持続期間の設定分画よりも長い場合、患者における同期不全の存在を識別すること、とを更に含んでもよい。
【0013】
患者における潜在的な可逆性の同期不全を識別する場合には、この方法は、心臓のペーシングを変更すること、および、時間遅延が変更されたペーシング法で減少するかどうかを判定する追加の時間遅延の測定を繰り返すことを更に含んでもよい。具体的には、この方法は、変更されたペーシングを患者の心臓に適用すること、および、変更されたペーシングに続く心筋の共同運動の開始に起因するイベントを測定するように少なくとも一つのセンサーを用いることによって変更されたペーシングに続く心筋の共同運動同期の開始に起因するイベントと変更されたペーシングに続く基準時間との間の第三時間遅延を計算すること、を更に含んでもよい。そして、一つ以上のセンサーからの信号は、変更されたペーシングに続く心筋の共同運動の開始に起因するイベントの判定された時間と変更されたペーシングに続く基準時間との間の第三の時間遅延を判定するように処理されうる。そして、第二の時間遅延と、第三の時間遅延とを比較し、第三の時間遅延が、第二の時間遅延より短い場合、患者における可逆性の心臓同期不全を識別しうる。任意の数の代替えペーシング(及びそれに伴う時間遅延)をこのように評価して、時間遅延を短縮できるかどうかを判定し、ひいては可逆性の同期不全が存在するかどうかを判定しうる。
【0014】
この方法は、心臓再同期療法又はペーシング療法のために最適なペーシングモード及び電極の数及び位置を選択することを含んでもよい。例えば、これは、あるペーシング部位を他の部位と比較、且つ、電極数を他の電極数と比較することによってなされる。これは、試験し比較すべき位置を与えうる電極間の距離、の測定値によって示唆されることができ、心臓の所定ゾーンへの測地線又は線形距離若しくは電気的時間分離若しくは電気的遅延、又は解剖学的位置、又はそれらの任意の組み合わせ、のいずれかによってよい。以下に述べるように、再び並行性の測定値を計算してもよい。患者特異的な又は他の解剖学的モデルを可視化に使用してもよい。
【0015】
この方法は、心電図 ECGを作成するために患者の表面生体電位を測定することと、ECGから測定されたQRS信号の開始、オフセット又は全持続期間の点から基準時間を判定すること、とを含んでもよい。
【0016】
任意に、一つ以上のセンサーは、加速度計又はピエゾ抵抗センサーを含み、これにより、方法は、患者の内部又は表面に接続されうる加速度計又はピエゾ抵抗センサーからのデータを受信することと、加速度データ又はピエゾ抵抗センサーデータの開始、オフセット、全持続期間の点及び加速度データ又はピエゾ抵抗センサーデータのマッチされたテンプレートの時点から基準時間を判定すること、とを含んでもよい。
【0017】
幾つかの例において、心筋の共同運動の開始に起因するイベントの時間を測定する一つ以上のセンサーは、加速度計を含み、これは、上述の加速度計であってもよい。心筋の共同運動の開始によるイベントの時間を測定する一つ以上のセンサーは、超音波センサーを含んでもよい。
【0018】
一つ以上のセンサーは、心筋の協調運動の開始に起因するイベントに対応する心音を検出するように構成されてもよい。
【0019】
この方法は、皮膚の表面の電極を介して電流を注入することと、心臓及びその血管の内部又はそれに近い電極間のインピーダンスを測定することと、複素インピーダンス波形及び振幅波形を作成することとに関してよく、ここで、心筋の共同運動の開始に起因するイベントが、心臓の筋肉が短縮化して血液が心臓から駆出される時間であり、心筋の同期の開始に起因するイベントの時間が、複素インピーダンス及び振幅波形が重なり、それる(波形が互いに重なった後互いから離れる)ところで判定される。このため、一つ以上のセンサーは、皮膚の表面の電極と、身体内部の電極とを含んでもよい。
【0020】
一つ以上のセンサーは、左心室に配置されるカテーテルに搭載された圧力センサー(ピエゾ抵抗センサー、光ファイバーセンサー等)であってもよく、その場合、心筋の共同運動の開始によるイベントは、圧力カテーテルの使用によって、タイムドメインにおける圧力上昇ピーク、軌跡の進行、又は圧力曲線軌跡の時間導関数又は圧力曲線軌跡それ自体のいずれかにおける任意の軌跡と比較した軌跡遅延等として検出可能なイベントを含んでもよい。
【0021】
幾つかの例において、外部又は内部の超音波プローブを利用して心臓組織の動きを測定する場合、心筋の共同運動の開始に起因するイベントは、S波速度の開始、S波ストレインレートの開始、心室全体の駆出の開始、大動脈弁の開弁、大動脈血流の開始、心筋壁速度、ストレイン(ひずみ)又は共同運動の開始を測定する任意の他の測定の一つを含む。
【0022】
効果的なペーシングを提供するために、好ましくは、心房ペース-心室ペース時間(AP-VP)が心房ペース-右心室センシング(AP-RVs)及び心房ペース-QRS波の開始(AP-QRSオンセット)の最も短いものよりも短くなるように、ペーシングの房室遅延(AV-遅延)が計算されるように、房室(AV)遅延を計算すべきである。ペーシングのAV-遅延は、0.7×(AP-RVs)として計算されてよく、または、AP-QRSオンセットが既知の場合には0.8×(AP-QRSオンセット)として計算されてよく、または、心房刺激によるヒス・プルキンエ系を介して起こる内在伝導がおこらないように計算される他の方法で計算されてよい。
【0023】
この方法は、ペーシングの追加の位置及び/又は追加の電極を利用して、変更されたペーシングを患者の心臓に適用することと、変更されたペーシングの有効性を評価する更なる工程を含んでもよい。そのような更なる工程は、ペーシングに続く心筋の共同運動の開始に起因するイベントを測定するように少なくとも一つのセンサーを用い、心筋の共同運動の開始に起因するイベントの判定された時間とペーシングに続く基準時間との間の追加の時間遅延を判定するように少なくとも一つのセンサーからの信号を処理することにより、変更されたペーシングに続く心筋の共同運動の開始に起因するイベントとペーシングに続く基準時間との間の追加の時間遅延を計算することを含んでよい。そして、方法は、追加の時間遅延と、第二時間遅延とを比較することと、追加の時間遅延が第二時間遅延よりも短い場合、患者における修正されたペーシングによる少ない心臓同期不全の存在を識別することとを含んでもよい。
【0024】
第二の態様に鑑み、本発明は、上述の方法を実行するシステムを提供する。したがって、システムは、患者の可逆性の心臓同期不全を測定する手段として、心筋の共同運動の開始を検出するためのものであり、前記システムは:
心筋の共同運動の開始に起因するイベントの時間を測定する一つ以上のセンサー;
心臓の電気的興奮を表す生体電位を測定する一つ以上のセンサー;
ペーシングを患者に適用するように構成された少なくとも一つの電極;および
データ処理モジュール
を含み、前記データ処理モジュールは:
心筋の共同運動に起因するイベントの時間を測定するように、前記センサーと同一センサー、または前記一つ以上のセンサーの他のセンサーの一つ以上を使用し、前記イベントの時間は、
心筋の共同運動の開始に起因するイベントの測定された時間と基準時間との間の第一時間遅延を判定するように少なくとも一つのセンサーからの信号を処理し、
心筋の共同運動の開始に起因するイベントの測定された時間と基準時間との間の第一時間遅延と心臓の電気的興奮の持続期間を比較し、
前記第一遅延時間が心臓の電気的興奮の設定分画より長い場合、患者における心臓同期不全の存在を識別する、
ことによって測定され;
ペーシングに続く心筋の共同運動の開始に起因するイベントとペーシングに続く基準時間との間の第二時間遅延を計算し、前記第二時間遅延は、
ペーシングに続く心筋の共同運動の開始に起因するイベントを測定するように少なくとも一つ以上のセンサーを使用し、および
心筋の共同運動の開始に起因するイベントの判定された時間とペーシングに続く基準時間との間の第二時間遅延を判定するようにセンサーの少なくとも一つからの信号を処理する、
ことによって計算され;および
前記第一時間遅延と前記第二時間遅延を比較し、
前記第二時間遅延が前記第一時間遅延より短い場合、患者における可逆性の心臓同期不全の存在を識別する、
ように構成される。
【0025】
システムは、上述のような任意の特徴のいずれか又は全てを含む方法を実行するように構成されうる。このため、センサーは、上述したようなものでよく、プロセッサーは、上に設定された工程を行うように構成されうる。システムは、必要な機能を有するプロセッサーと共に必要に応じてセンサーを含むキットとして提供される。このキットは、任意に、必要なデータを得るために患者に設置されたセンサーを含んでもよく、あるいは必要に応じて患者に使用するように整えられたキットであってもよい。
【0026】
システムは、いずれかの基準、及び、接続された少なくとも一つのセンサーの表示を有する心臓モデルの可視化のためのスクリーンを備えてもよい。
【0027】
第三の態様に鑑み、本発明は、実行されると、コンピューターシステムが第一の態様の方法及び任意に上述の他の特徴を行うように構成するようにする命令を含むコンピュータープログラム製品を提供する。このコンピューターシステムは、第二の態様のシステムであってもよく、上で設定された方法工程を行うように構成された一つ以上のセンサー及びプロセッサーを含んでもよい。
【0028】
このため、このコンピュータープログラム製品の命令は、コンピューターシステムが以下のようにするように構成してよい:
心筋共同運動の開始に起因するイベントと基準時間との間の第一時間遅延を計算する、ここで、前記第一時間遅延は、
心筋の共同運動の開始に起因するイベントの時間を測定するように一つ以上のセンサーから受信したデータを用い、
心筋の共同運動に起因する測定された時間と基準時間の間の前記第一時間遅延を判定するように、同一のセンサー、または前記一つ以上のセンサーの他のセンサーの一つ以上、からの信号を処理する、
ことにより計算される;
心臓の電気的興奮を表す生体電位を測定する;
心筋の共同運動の開始に起因するイベントの測定された時間と基準時間との間の第一時間遅延と心臓の電気的興奮の持続期間を比較する;および
前記第一時間遅延が心臓の電気的興奮の設定分画より長い場合、患者における心臓同期不全の存在を判定し、
ペーシングを患者の心臓に適用し、
ペーシングに続く心筋の共同運動の開始に起因するイベントを測定するように少なくとも一つのセンサーを用い、
心筋の同期の共同運動に起因するイベントの判定された時間とペーシングに続く基準時間との間の第二の時間遅延を判定するように、一つ以上のセンサーからの信号を処理することにより、
ペーシングに続く心筋の同期の開始に起因するイベントとペーシングに続く基準時間との間の第二の時間遅延を計算し、
前記第一の時間遅延と前記第二の時間遅延とを比較し、
前記第二の時間遅延が前記第一の時間遅延よりも短い場合、患者における可逆性の心臓同期不全の存在を識別する。
【0029】
上述の方法、システム及びコンピュータープログラム製品は、心臓の並行興奮のレベルに応じて電極の数及び位置を決定することに関連して以下に論じる方法、システム及びコンピュータープログラム製品との組み合わせから更なる恩恵が得られる。以下の態様も、それら自体で新規性及び進歩性を有することが分かる。
【0030】
第四の態様に鑑み、本発明は、患者の心臓における心臓再同期療法のための最適な電極の数及び位置を決定する方法を提供し、前記方法は以下を含む:
複数のノードを有する、心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを、患者の心臓の少なくとも一部の3Dモデルから、または、心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを得るための心臓の一般的3Dモデルを用いて、作成する;
前記心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを、患者の心臓の画像に位置合わせする;
患者における少なくとも二つの電極の位置に対応して、3Dメッシュ上に追加のノードを配置する;
前記少なくとも二つの電極の位置に対応する3Dメッシュのノード間の電気的興奮の伝播速度を計算する、
前記伝播速度を、3Dメッシュのノードの全てに外挿する;
3Dメッシュの各ノードに対する心筋の並行興奮の程度を計算する、
既定の閾値を超える心筋の計算された並行興奮の程度を有する3Dメッシュのノードに基づき、患者の心臓での最適な電極の数及び位置を決定する。
【0031】
この方法によれば、患者の心臓のモデルを使用することによって、電極の設置のための一つ以上の最適ゾーンを特定することが可能となる。これは、患者を治療するための電極の最適位置を決定するために、第一の態様の方法の一部として行いうる。事実上、この方法は、並行興奮の程度がより高い心臓の領域をマッピングすることによって、電極が最も影響を与えることが期待される「ホットスポット」を見つけうる。この方法を使用して、最適なペースメーカー構成を決定しうる。この方法は、並行興奮の程度が最も高い領域を判定することを含むことができ、既定の閾値を、最も高いと判定された並行興奮の程度に基づき設定しうる。あるいは、方法は、例えば、4つ以上の提案されたノード等、識別が必要な領域の設定最小数に基づき閾値を設定することによって、並行興奮の程度が適度に高い複数の可能性のある領域を見つけることを含んでもよい。使用者は、その後、それにより識別された領域の中から選択できる。あるいは、方法は、モデルに電極を追加し、並行興奮の程度に基づき各電極に対する追加される恩恵を判定するために、追加された各電極に対する並行興奮の程度を計算することを含んでよい。
【0032】
任意に、計算された最も高い心筋の並行興奮の程度を伴う3Dメッシュのノードに基づき患者の心臓における最適な電極位置を決定する工程は、開始から曲線の判定されたピークまでの伝播の最も高い加速度を伴う3Dメッシュのノードを決定することを更に含む。
【0033】
心臓のモデルは、既に存在するモデルであってもよいし、および/又は、本方法とは別の他の目的のために得られている3Dモデル等の既に存在するデータを使用して構築してもよい。あるいは、この方法は、CT及び/又はMRI測定を含む非侵襲的測定によって等、3Dモデルを構築するのに必要なデータを得ることを含んでもよい。この方法は、測地線伝播速度の計算のために、MRIスキャン及び/又は心エコー図を使用して、患者の心臓の少なくとも一部の3Dモデルに、特徴を与えることを含んでもよい。
【0034】
この方法は、患者の心臓の心エコー図及び/又はCT及び/又はMRIスキャンから、患者の心臓の少なくとも一部の3Dモデルを作成することを含んでもよい。
【0035】
3Dモデルから心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを作成する工程は、患者の心臓の少なくとも一部の3Dモデルの表面に、メッシュモデルを当てはめることを含んでもよい。
【0036】
任意に、電気的興奮の測地線伝播速度を計算する工程は、患者の心臓の少なくとも一部の3Dメッシュの追加のノード間の測地線距離を、少なくとも二つの電極からの電気的測定値と組み合わせて利用することを更に含む。
【0037】
測地線伝播速度を3Dメッシュのノードの全てに外挿する工程は、所定の時間で興奮した3Dメッシュの領域をノードの測地線伝播速度を利用して計算するように、興奮後の所定の時間での、心臓全体における電気的興奮の時間伝播を可視化することを含んでもよい。
【0038】
この方法は、シミュレーションにおいて使用するために、判定された組織特徴を反映させるように3Dモデルをアップデートすることを含んでもよい。
【0039】
提案された電極位置が決定した後、更なる電極の設置を決定するために、この方法は、電極に対応する3Dメッシュの追加のノードから、最大の測地線距離及び/又は電気的距離及び/又は両方の組み合わせで3Dメッシュのノードを計算することを含んでもよい。
【0040】
並行興奮速度を計算する工程は、計算の一部とすべきである、心臓の少なくとも一部の3Dメッシュ上にマークすること、および、組織特性速度を使用することを含み、、電極から伝播する際の時間をx軸に面積をy軸にプリントアウトしてもよい。
【0041】
幾つかの例において、電極は、表面生体電位を取得するように構成された表面電極であり、少なくとも二つの電極の位置に対応する3Dメッシュのノード間の電気的興奮の伝播速度を計算する工程は、心臓の3Dメッシュ上の電気伝播を計算する逆解法を用いること、および、測地線距離とともに電気伝播を使用するモデルにおける伝播速度を計算することを含んでもよい。
【0042】
この方法は、任意の適切な測定又は計算方法により、心臓の並行興奮の程度を判定することを含むことができる。一つの好ましい方法を以下に説明する。この方法は、それ自体で新規性及び進歩性を有すると考えられ、従って、第五の態様に鑑み、本発明は、ペーシングが行われている心臓の並行興奮の程度を判定する方法を提供し、前記方法は以下を含む:
右心室ペーシング RVp、及び左心室ペーシング LVpからの、ベクトル心電図 VCG、又は心電図 ECG、又は心臓電位図 EGMの波形を計算する;
RVp及びLVpのVCGを合計することによって、又は、RVp及びLVpのECGを合計することによって、合成両室ペーシング BIVP波形ペーシングを作成する;
実際のBIVPから、対応するECG又はVCGの波形を計算する;
合成BIVPの波形と、実際のBIVPの波形とを比較する;
RVp及びLVpからの興奮が重なって合成BIVPの曲線及び実際のBIVPの曲線がそれ始める(離れ始める)時点を判定することによって、融合までの時間を計算する、
ここで、融合までの時間における遅延は、より多くの量の組織が電気的興奮の波前面が接する前に興奮することを示し、それにより、より高い並行興奮の程度を示す。
【0043】
この方法は、それ自体で、心臓の「並行性」の測定値を見出す手段として使用しうる。あるいは、第一の態様の方法と組み合わせてもよく、任意に、心臓の並行興奮の程度を判定することによって、最適な電極位置を検証するのに使用しうる。
【0044】
第六の態様に鑑み、本発明は、患者の心臓における心臓再同期療法のための最適な電極の数及び位置を決定するシステムを提供し、前記システムは以下を含む:
患者の心臓の少なくとも一部の3Dモデルに基づいた複数のノードを備える、心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを作成する3Dメッシュ作成モジュールであって、複数のノードが、患者における少なくとも二つの電極の位置に対応する追加のノードを含む、3Dメッシュ作成モジュール;
患者の心臓の少なくとも一部の画像を与えるイメージングモジュール;
患者の心臓の少なくとも一部の画像を、患者の心臓の少なくとも一部と並べあわせるように構成されたアライニングモジュール;
患者上における少なくとも二つの電極からデータを受信する電極データ受信モジュールであって、電極が追加のノードによって3Dモデル上に表示される、電極データ受信モジュール;および
データ処理モジュールであって、
3Dメッシュのノード間の電気的興奮の伝播速度を計算し、
伝播速度を、3Dメッシュのノードの全てに外挿し、
3Dメッシュの各ノードに対する心筋の並行興奮の程度を計算し、
既定の閾値を超える心筋の並行興奮の計算された程度を有する3Dメッシュのノードに基づき患者の心臓における最適な電極の数及び位置を決定する、
ように構成されたデータ処理モジュール。
【0045】
このシステムは、上述の任意の特徴のいずれか又は全てを含む第四の態様の方法を実行するように構成されてもよい。更なるシステム態様において、上述の第五の態様の方法を実行するように構成されたシステムが提供される。このため、電極は、上述のようなものでよく、データ処理モジュールは、上述のような工程を行うように構成されてもよい。このシステムは、必要な機能を有するデータ処理モジュールと共に必要に応じて電極を含むキットとして提供しうる。このキットは、任意に、患者に設置された電極を含んでもよく、あるいは必要に応じて患者に使用するように配置されたキットであってもよい。
【0046】
少なくとも二つの電極は表面電位電極であってもよく、および/又は、少なくとも二つの電極は患者の心筋内に設置されてもよい。
【0047】
第七の態様に鑑み、本発明は、実行されると、コンピューターシステムを、第四の態様の方法及び任意に上述の他の特徴を行うようにする命令を含むコンピュータープログラム製品を提供する。このコンピューターシステムは、第六の態様のシステムであってもよく、上で設定された方法工程を行うように構成されうる電極及びデータ処理モジュールを含んでもよい。
【0048】
このため、このコンピュータープログラム製品の命令は、コンピューターシステムに以下のようにさせる:
患者の心臓の少なくとも一部の3Dモデルを提供する;
3Dモデルから、心臓の少なくとも一部の3Dメッシュであって複数のノードを備える、3Dメッシュを作成する;
心臓の少なくとも一部の3Dメッシュを、患者の心臓の画像に並べあわせる;
患者における少なくとも二つの電極の位置に対応する追加のノードを3Dメッシュ上に配置する;
少なくとも二つの電極の位置に対応する3Dメッシュのノード間の電気的興奮の伝播速度を計算する;
伝播速度を、3Dメッシュのノードの全てに外挿する;
3Dメッシュの各ノードに対する心筋の並行興奮の程度を計算する;および、
心筋の並行興奮の計算された最も高い程度をもつ3Dメッシュのノードに基づき、患者の心臓における最適な電極の数及び位置を決定する。
【0049】
更なるコンピュータープログラム製品態様において、本発明は、実行されると、コンピューターシステムを、第五の態様の方法及び任意に上述の他の特徴を行なうようにする命令を含むコンピュータープログラム製品を提供する。このコンピューターシステムは、上述のシステムであってもよく、上で設定された方法工程を行うように構成されうる電極及びデータ処理モジュールを含んでもよい。
【0050】
このため、このコンピュータープログラム製品の命令は、コンピューターシステムに以下のようにさせる:
右心室ペーシング RVp及び左心室ペーシング LVpからの、ベクトル心電図 VCG又は心電図 ECGの波形を計算する;
RVp及びLVpのVCGを合計することによって、又は、RVp及びLVpのECGを合計することによって、合成両室ペーシング BIVP波形ペーシングを作成する;、
実際のBIVPから、対応するECG又はVCGの波形を計算する;、
合成BIVPの波形と、実際のBIVPの波形とを比較する;
RVp及びLVpからの興奮が重なって合成BIVPの曲線及び実際のBIVPの曲線がそれ始める時点を決定することによって、融合までの時間を計算する、
ここで、融合までの時間における遅延は、より多くの量の組織が電気的興奮の波前面が接する前に興奮されることを示し、それにより、より高い並行興奮の程度を示す。
【0051】
以下、添付の図面を参照し、単なる例として、所定の好ましい実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1A図1Aは、正常な心臓の表示を示す。
図1B図1Bは、心房電極及び両室電極が植込まれてCRTが施される心臓を示す。
図2図2は、図1Bの電極の位置の表示と共に心臓の3D表面幾何学モデルを例示する。
図3図3は、心臓のバイオインピーダンスを測定するシステム例である。
図4A図4Aは、インピーダンス及び/又は加速度の測定同様、共同運動の開始の表示の測定を示す。
図4B図4Bは、共同運動の開始の時間の心エコー図を示す。
図5A図5Aは、左心室内に位置付けられた圧力カテーテルが、どのように心室圧及び圧力波形の導関数を測定するのに利用できるかを例示する。
図5B図5Bは、その後の測定のための、心臓内のソノマイクロメトリー結晶の設置を示す。
図5C図5Cは、図5Bの測定配置から圧力の二次導関数におけるピークを測定することにより、共同運動の開始を判定することを示す。
図5D図5Dは、ペーシングの位置の変化による、dP/dtピークまでの時間の変化を例示する。
図6図6は、心臓の収縮中に経験する生理的状態の例示を示す。
図7A図7Aは、フィルタリング測定されたトレースに由来する様々な信号を示す。
図7B図7Bは、フィルタリングされた波形からの様々な他のトレースを示す。
図8A図8Aは、共同運動の開始又はそれを示す信号を判定するために、トレースをどのように利用するかの様々な例の一つを示す。
図8B図8Bは、共同運動の開始又はそれを示す信号を判定するために、トレースをどのように利用するかの様々な例の一つを示す。
図8C図8Cは、共同運動の開始又はそれを示す信号を判定するために、トレースをどのように利用するかの様々な例の一つを示す。
図9図9は、心室の3Dメッシュを含む、心臓の3Dモデルを作成する方法を示す。
図10図10は、患者の心臓と3Dモデルを並べあわせることに関連するx線の使用を例示する。
図11図11は、3Dモデルの並べ合わせにおいて使用する撮影されたx線画像を示す。
図12図12は、3Dでの冠状静脈洞の再構築を示す。
図13A図13Aは、幾何学モデルに変換された心臓モデルを例示する。
図13B図13Bは、3Dでの他の幾何学心臓モデルを例示する。
図14図14は、電気的興奮の時間伝播の可視化である。
図15図15は、頂点間の距離のために心臓モデルを較正する既知のサイズの物体の使用を示す。
図16図16は、心臓のリクルートされた領域の測定を外挿するための右心室のペーシングを例示する。
図17図17は、心臓の自然なペーシングに基づく分離時間を使用した、図16と同様のプロセスを示す。
図18A図18Aは、複合測定の計算を示す。
図18B図18Bは、測地線距離の追加を示すと共に電位電極設置のための領域をハイライトした、複合測定の計算を示す。
図19図19は、測地線速度の計算の例を示す。
図20図20は、ノードからの電気的興奮の伝播の表示を含む心臓モデルである。
図21図21は、心臓モデルに関連した心エコーパラメーターを示す。
図22図22は、瘢痕組織を参照して組織特徴を可視化する。
図23図23は、心臓モデルにおけるリクルートされた領域を表すリクルートメントカーブを示す。
図24A図24は、心臓モデルにおけるリクルートされた領域を表すリクルートメントカーブを示す。
図24B図24は、心臓モデルにおけるリクルートされた領域を表すリクルートメントカーブを示す。
図24C図24は、心臓モデルにおけるリクルートされた領域を表すリクルートメントカーブを示す。
図25A図25Aは、右心室ペーシング(RVp)を行う電極に対して作り出されたベクトル心電図(VCG)を示す。
図25B図25Bは、合成VCG LVP+RVpと実際のVCG BIVPとの比較を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0053】
概して、第一の態様は、非同期性心不全に関し、より具体的には、心臓再同期療法(CRT)等の療法に反応すると思われる患者の特定、及び心臓内での電極の設置に最適な位置の決定に関する。CRTは、同期不全に関連する心不全を低減することを目的としている。
【0054】
同期不全は、正常な興奮及び/又は収縮のパターンからの、興奮及び/又は収縮のパターンの逸脱である。正常な興奮パターンは、正常な共同運動収縮パターンに続く正常なECG及びQRS波をもつ正常な心臓に典型的にみられる。しかしながら、正常な興奮及び収縮のパターンは心臓の一部で起こることがあり、心臓の他の部分に同期不全が存在しているにもかかわらず起こることがある。同期不全は、典型的に、電気的および機械的同期不全として説明することができる。しかしながら、より具体的且つ本発明者らによって提案されるように、同期不全は、機械的非共同運動につながる電気的同期不全として特徴付けられる。
【0055】
電気的同期不全
同期不全は、電気的同期不全として分類することができる。例えば、そのような場合において、右脚ブロック(RBBB)が存在するときに、左心室において興奮のパターンが正常に見えることがあり、同様に、左脚ブロック(LBBB)があるときに、右心室において興奮のパターンが正常に見えることがある。しかしながら、正常な興奮が脚ブロックの存在においてブロックされて、心臓の筋肉(心筋)の興奮の下流に、伝導系内から興奮するときよりも遅い伝播を伴う細胞から細胞による興奮を強いる。
【0056】
そのような電気的興奮の遅延は、興奮が遅延している部位における心筋の収縮の遅延に繋がる。この収縮のパターンは、MRIや心エコー法でのイメージングや、心臓壁内に埋設された超音波結晶を利用する等、幾つかの方法で同期不全であると特徴付けられる。同期不全性収縮は、典型的に、電気的興奮及び収縮の局所的タイミングの違いによって特徴付けられる。
【0057】
同期不全の程度は、筋節の総量と比較したときの、興奮した(収縮している)心筋の筋線維(サルコメア)の量によって決まる。これに関して、壁の表面に向かう方向性伝播は厚い壁と比較したときに薄い壁において制限されるため、厚い心臓壁の前期興奮は、薄い心臓壁の前期興奮よりも、程度の低い同期不全として示されることがある。この結果、薄い壁の表面までの距離よりも長い、興奮源からの所定の距離において、より少ないサルコメアの興奮となる(壁の厚さの影響)。
【0058】
壁の横断内の興奮源は、同期不全の程度に大きな影響を有しうる。心筋の厚い部分の中心でのサルコメアの興奮は、そのセグメントにおける全ての方向における興奮を可能として、その結果、その厚い部分の外縁からの興奮(この結果、並行して起こる興奮が少なくなり、順次起こる興奮が多くなる)よりも低い同期不全となる(すなわち、順次連続して起こる興奮が少なくなり、並行して起こる同期興奮が多くなる)
【0059】
同様に、心筋壁のその縁での興奮は、壁の長さ内の興奮源の影響により、その壁の中心からの興奮(すなわち、より並行での興奮)よりも、連続して起こる興奮が多くなる。
【0060】
QRS時間
QRS時間は、心臓興奮の電気ベクトルの合計である。QRS波の持続時間は、心臓の脱分極の持続期間を反映する。ペーシングを用いると、脱分極は心筋が完全に脱分極するまでペーシング部位に対して分散するため、そのペーシング部位が脱分極の持続期間を決める。RV中隔は心臓を双方向に興奮させ、中隔の興奮が心臓の自由壁に達すると、興奮が左右に向かう。これは、RV心尖部でも言えることである。しかしながら、心尖からの興奮が、中隔及び左右の自由壁内への興奮という三方向となりうることに気付くだろう。このようにして、中隔の興奮に伴い、RVの興奮と同時にRV自由壁に達すると、左心室の興奮が左心室の位置で開始する。最終的に完全に興奮した心室が、QRS時間を決める。二方向の興奮では、QRSは、RV又はLVのいずれでも、自由壁からの一方向の興奮での場合よりも狭くなる。中隔内での全ての方向及び左右への二方向に広がる中隔の中壁での興奮は、ペーシングした際のより狭いQRS波又は心臓の最も期間の短い興奮に反映される。これは更に、内因性興奮と比較することによって、ヒス・プルキンエ系からの出口が自由壁よりなのか又は中隔よりなのか、及び、RV中隔ペーシングでの場合よりも短いのかを判断できる。
【0061】
RV及びLVの自由壁の興奮に伴うQRS持続期間も同様のはずであるが、しかしながら、ペーシングがそれぞれの部位の基部からなのか中壁からなのかによって決まる。
【0062】
EGM又はVCGで融合までの時間および並行性を解析するときには、これを考慮する必要がある。瘢痕やバリアによって阻止されない場合、最も短いリクルートメントが中隔及び左側自由壁から起こるであろう。最も短いリクルートメントは、QRSが最も短い部位におけるRVからのペーシングがあった時に起こるであろう。この位置からRVをペーシングすると、QRSは、調和したLVの位置が見出されたときに、最も狭くなる可能性を有する。融合までの時間は、Stimを左右間のQRSの差に修正する際のRV中隔ペーシングからの最も短いQRSの50%に近づける必要がある。
【0063】
電気的測定及び組織伝播速度の添加値に伴う問題
電気的測定は、瘢痕領域において遅延することにより部分的に妨げられ、電極間および電極での測定値が、心臓の筋肉の全体的電気的特性を表さず、むしろそれが測定された領域の特性を表しうる。長い間隔は、2つの電極間又は一方の電極の領域内に伝導ブロックがあることを示しうるが、そのブロックが組織内のどこに位置しているのかは明らかにしない。
【0064】
典型的な左脚ブロックにおいて、電気的ブロックの領域は、伝導系の近位側に見出されることがあるが、瘢痕及び非特異的心室内伝導遅延(IVCD)が存在する場合には、ブロックは心筋内又は伝導系の遠位部にある。
【0065】
線維化(びまん性疾患)の存在は、特異的伝導組織及び非特異的伝導組織の両方において伝導を遅延しうる。しかしながら、電極間の距離の知識がなければ、電極間の組織伝播速度を計算することは不可能である。
【0066】
電極間の伝播速度が異なる場合、それは、異なる部位間の伝導ブロックの領域を明らかにしうる。電極間において測地線距離を測定すると、測地線速度も測定することができ、心臓伝導障害や、遠位側又は近位側のブロックであるか、及び/又はびまん性疾患(線維化、アミロイドーシス++等)を明らかにできる。
【0067】
機械的非共同運動
興奮に関わらず、各サルコメアは、主にサルコメアのプレストレッチ及び負荷に応じて、既知の生理的状態に従って収縮する。単離されたサルコメアの活動はサルコメア機能と称され、心臓の筋肉全体の活動は心機能と称される。心機能の測定は以前より徹底的に研究され説明されてきたが、これまで、CRTに対するレスポンダーを判定するのに有用ではない。
【0068】
心筋機能(収縮性)は、多くの形で説明されてきた。典型的には、収縮性は、エラスタンス曲線又はEmaxによって表される圧容積関係を用いて説明されてきた。心筋機能はまた、心位相の時間間隔に対して、単独で又は組み合わせられて(心機能指標又はTei-indexとして)説明されてきた。この心機能は、心位相時間間隔やdP/dtmax並びに負荷非依存性のエラスタンス曲線Emaxを用いた圧容積関係等の様々な侵襲的測定によって定量化できる。そのような心機能の測定は、心エコー図検査やMRIを用いて非侵襲的に定量化することもできる。
【0069】
dP/dtmaxの測定は、(特に両室ペーシングにおける)再同期療法の効果を判定するための心機能の測定に使用される。
【0070】
再同期化は、刺激のための複数の電極、又は内在性の伝導を同時興奮に利用する際には追加の電極、の利用である。しかしながら、dP/dtmax測定は、負荷及び心拍数に依存し、LVPのみと比較してBIVPでは変化しない。
【0071】
このように、それ自体におけるdP/dtmaxの測定は、再同期化を反映しないが、その代わり前負荷及び心拍数(収縮性の異容性又は同容性調節)のような収縮性のうちの複数の要因に依存する心機能における変化を反映する。同様に、再同期化は心機能(収縮性の異容性又は同容性調節)を変化しないが、心筋の興奮の同期化をもたらし、その結果再び、異容性又は同容性調節機序を介して収縮性を変化させる1回排出量、後負荷及び前負荷の変化を起こしうる。
【0072】
経時的に変化するエラスタンスE(t)曲線の最大値、Emaxは同期不全を反映しない。しかしながら、同期不全を伴うE(t)maxと同期不全を伴わないE(t)maxの間の時間のオフセットが、同期不全を伴う共同運動の開始の遅延を反映する。
【0073】
従って、心機能の測定は、理想的には、心臓の負荷状態と同期不全の両方から独立した数であるべきである。圧・容積関係や力・収縮頻度関係等の心機能の測定は、同期不全における差を反映しない。
【0074】
反対に、同期不全の測定は、収縮性における変化を反映すべきでなく、同期不全における変化のみを反映すべきである。これもまた、上述したような心機能の既知の測定には当てはまらない。
【0075】
共同運動とは、並行に収縮するサルコメアに対して使用される用語であるが、非共同運動は、サルコメアが順次収縮する状況を説明するのに使用しうる。そのような非共同運動は、各サルコメアが依然として同程度の収縮性を有する場合でも、筋線維(順次収縮するサルコメアからなる)がその根本的可能性まで働きを発展することができないようにする。そのような筋線維の収縮性を測定するためには、繊維内の各サルコメアの収縮性を表すように、その筋線維の全てのサルコメアが、収縮の全可能性に達するために、実際に並行に働いていることを知る必要があるだろう。
【0076】
心臓伝導系は、ヒス・プルキンエネットワークからなる。このネットワークは、各心内腔への左右の脚枝に分かれ、両方の枝が、細かい心内膜網へと広がるプルキンエ線維に分かれる。心臓伝導系の主な機能の一つは、両心室の心サルコメアをほぼ同時に興奮させることである。これが並行なサルコメアの興奮に繋がり、ひいては心室の協調運動性収縮を起こす。
【0077】
多くの潜在的な理由のために、心腔内のサルコメアの領域が興奮しないことがある(又は受動的である)。これらのサルコメアには、隣接するセグメントに生じる力を受動的に受け、従ってその後伸展する、あるいは締まる。そのような受動的なセグメントは、収縮するセグメントと共同運動において動かず、従って非共同運動性となる。
【0078】
他のセグメントが興奮(脱分極)した後に収縮している一方で、あるセグメントは電気的に興奮(脱分極)しないので非共同運動性となりうる。そのような状況は、すでにまとめたように同期不全と称される。同期不全の程度は、電気的興奮の不均一性によって決まる。順次起こる興奮が多ければ多いほど(すなわち、同期不全の程度がより大きいほど)、電気的不均一性は大きくなる。逆に、興奮が並行に起こるとき、不均一性は低い。
【0079】
しかしながら、非共同運動が、不均一な電気的興奮(サルコメアの順次興奮に繋がる)以外の原因を有する場合、それは同期不全ではない。むしろ、同期不全は、興奮の電気的タイミング(時)が異常(不良)となっており、それが心臓の一部の領域における筋肉収縮の遅延に繋がり、すなわち、サルコメアが協調(共同運動)しない(非)。
【0080】
機械的測定に伴う問題
電気的測定は、電極を留置するものにとって簡単に利用できるが、機械的機能はそうではない。心機能の標準的な測定は、同期不全を検出するために非同期性心臓においてはうまくいかない。
【0081】
正常な心機能をもつ正常な心臓において、dP/dtmaxは、RVPで低下し、内在の心臓リズムで速やかに回復する。しかしながら、期外刺激への反応を試験するとき、増強は妨げられず、機能が変化していないことを示す。心機能は、ペーシングの短い時間の間、または一度のペーシングされた心拍でさえ変化しない。しかしながら、dP/dtmaxの測定値は変化する。より速い率でペーシングすると、RVをペーシングしているか否かに関わらずdP/dtmaxは増加する。
【0082】
心拍位相間隔は、心機能の変化も明らかにしうる。しかしながら、これは、非同期性心臓における心機能の測定に適切ではない可能性がある。
【0083】
心拍位相の術語体系が同期不全及び再同期化の文脈での使用において不正確なのは何故か
典型的に、心筋収縮は、収縮における反応が異なる状況下で、2つの特定の状況に分類される。乳頭筋標本において、等張性収縮は、一定の負荷での所定の速度の心臓の筋肉の短縮を示し、最大短縮速度(Vmax)は、筋肉の性能を示す。等尺性収縮は、高い負荷での短縮のない収縮を示し、力(F)の発生が筋肉の能力の測定となる。そして、そのような乳頭筋におけるVmax及びFmaxとしてその機能を説明することが可能である。
【0084】
心臓の収縮期は、Wiggers図で示されるように、これを反映し、心拍位相を、等尺性の乳頭筋収縮をまねると想定される等容性収縮と、等張性の乳頭筋収縮をまねると想定される急速な駆出及び収縮期に分類する。機能(変力性)がより良好であればIVC間隔の短縮が起こり、機能が乏しいとIVC間隔は長くなることは、当業者にとって知られていることである。時間間隔は、心機能としても称される心臓の変力状態を反映しうる。また、収縮中、幾何学形状変化が起きて空洞内の容積を変化させ、この期間中僧帽弁が不十分であり更なる容積低下させるため、等容期は厳密に等容性ではないことも知られている。
【0085】
同期不全があると、異なる時間に腔内で収縮の開始が起こり、拡張期/弛緩期にまだあっても、いくつかの領域を収縮させ、一方で埋め合わせるために他の領域を伸展させる。低圧で最初にこれが起こると、ポテンシャルエネルギー及び短縮が浪費されて、仕事負荷を遅れて収縮するセグメントに移すことによって埋め合わせることが必要となる。協働しない収縮とその結果としての遠隔での伸展を伴う初期位相が、初期非共同運動により支配された位相であり、大動脈弁の開弁前に筋線維間において力のバランスに達すると、共同運動する。もう一度筋線維及び領域がリクルートされ興奮されると、筋線維が短縮の速度を増加させる代わりに力を発生し始める等容性の状態、に達するまで壁の硬化が起こる。同期不全に伴う遅い電気伝播とその結果としての非共同運動により遅延した共同運動の開始のこの時、圧力が増加し始め、共同運動の開始と共に、大動脈弁の開弁まで圧力上昇が指数関数的となる。
【0086】
共同運動の開始は、指数関数的な圧力上昇に続くイベントの全てに反映され、その開始を直接測定できないが、指数関数的な圧力上昇が、共同運動の増加により吸収されるより、より多くの力がリクルートされることを示し、一方で非共同運動の影響が失われる。大動脈弁の開弁は、ここで、繊維の能力で大体一定の力で、益々多くの線維がその収縮周期を完了するので圧力生成がもはや圧力を維持できなくなるまで、繊維を短縮させる。しかしながら、ここで、大動脈弁が閉弁した後も、線維はなお収縮して拡張期への圧減衰を遅延させる。
【0087】
非同期心臓の等容性収縮期(IVC)は、線維の等尺性収縮を暗示しているわけではなく、異なる用語を与えるべきである。この期は、収縮期中、筋線維に貯められたポテンシャルエネルギーを効果的に運動エネルギーへと変換することに関し、これは同期不全の結果としての非共同運動によって妨害され遅延される。また、力及び負荷は、同期不全を伴うこの期中、領域で異なる。
【0088】
更に、電気機械結合間隔は、明確な間隔ではなく、興奮が遅延するとともに不均一になり、心臓の電気的興奮の開始後であっても線維を拡張期に留まらせる。
【0089】
等容性弛緩期(IVR)中、弛緩はある程度までしか起こらず、一部の線維は短縮し続け、収縮期がIVRと重なるともに、IVRが拡張期の開始と重なる。従って、Wiggersの電気機械結合、IVC、収縮期、IVR及び拡張期の図の間隔は、非同期性心臓の周期に対して有効ではない。
【0090】
再同期化
同期不全は、疾患として、更に、並行興奮の回復又は電気的不均一の低減により、可逆性のその性質において定義される。そのような回復は、複数の部位でペーシングを与えることによって実現しうる。しかしながら、同期不全は、複数又は単一の部位でのペーシングで促進することもある。
【0091】
従って、介入(例えば、CRT)が同期不全を増大させるのか低下させるのか(以下に説明するように並行性における増減)及び/又は非共同運動を増大させるのか低減するのか(共同運動の開始の遅れ)を特徴化するように、どのようにして同期不全の可逆性の疾患を検出し評価するかを決定することは、CRT中に同期不全が実際に促進する状況を避けることに有用である。
【0092】
心臓の興奮は、心筋の心筋細胞の脱分極に繋がり、興奮した部位において収縮が起こる。並行性は、心筋の並行興奮の程度を説明するために導入された用語である。
【0093】
共同運動(synergy)が、サルコメアが協働して収縮することをいう一方で、非共同運動(dyssynegy)とは、サルコメアが協働しないことをいう。前に説明したように、サルコメアの順次興奮は、非共同運動に見られるように、サルコメアの順次収縮に繋がり、一方、サルコメアの並行した同時興奮は、共同運動で見られるように、サルコメアの協働に繋がる。非共同運動は、時間における異なる点で起こる収縮によって特徴づけられ、連続的(心筋全体に亘って収縮が起こるまで、隣接する組織が特定のパターンで次々と収縮を始めることを意味する)、又は、所定のパターンにおいて隣接する組織のその後の興奮に続いて心筋の異なる部分が並行して収縮する(これによりここでも最終的に心筋全体に広がる)ことを意味する非連続の何れかである。
【0094】
このようにして、非共同運動は、機械的活動及びサルコメアの並行性の程度がより低い(サルコメアの順次興奮と比較した並行興奮したセグメントを考慮している)ことをいうと言えるかもしれない。一方で、リクルートメントに関する電気的興奮は、電気的活動のことをいう。再同期化により、これら結果の両方は、電気的活動の回復及びより高いリクルートメントが機械的活動の回復及びより多くの共同運動(並行興奮)になるように関連している。
【0095】
正常で健康な心拍の場合、電気的興奮は、短期間の間に起こり、狭いQRS波により表される。興奮は、マイクロスケールで、心臓内の複数の部位において順次および非連続で起こり、プルキンエ系によって促進される。この結果、短いタイムフレームのうちに腔内の複数の部位で並行に(共同運動を伴う)急速な収縮の開始が起こる。
【0096】
張力(サルコメアの収縮により生じる)が心臓の全ての興奮したセグメント(複数の領域)間で均衡化すると、支配的に並行収縮が急速に確立される。この心筋の共同運動の開始が、大動脈弁の開弁及び駆出に先んじた、心室内での指数関数的な圧力上昇を促進し、それに続く心イベントを促進する。
【0097】
興奮が、刺激伝導系の外部で起こると、興奮プロセスは、正常な心拍と比較して、更に一層遅延し非同期となる。非同期心拍では、電気的興奮は、より遅い率で順次起こり且つ連続して起こって、順次の非共同運動性収縮に繋がる。収縮が順次起こると、収縮するセグメントは短くなり、そしてまだ興奮していないセグメントを受動的に伸展する。そのような収縮が起こると、セグメントの収縮に起因するポテンシャルエネルギーが、低い心室内圧で浪費され、まだ興奮していないセグメントを伸展するためのみに使われる。このプロセスは、伸展したセグメント(まだ興奮していないセグメント)と収縮する(興奮した)セグメントとの間の張力が均衡化するまで続く。この均衡化は、すでに伸展したセグメントの興奮によって促進される。そのような張力の均衡により、サルコメアの短縮収縮が妨げられ、サルコメアの収縮が、等張性収縮(すなわち、一定の張力で短縮速度を発生させる収縮)から等尺性収縮(すなわち、筋肉の長さを変化させずに力を発生させる収縮)へと変化し、その結果より多くのサルコメアが共同運動して収縮するため、これが心筋の共同運動の開始を規定する。そのような心筋の共同運動の開始によって、サルコメアの収縮力を指数関数的な圧力増加に変換することができる。この遅延した指数関数的な圧力増加は、大動脈弁の開弁及び駆出に先立ち、そしていずれの心イベントもこれに続く。
【0098】
前に述べたように、同期不全の測定が同期不全のみを反映し、心機能等の他の測定ではないことが望ましい。
【0099】
心筋での直接の心室のペーシングは、その後興奮がもはや伝導系に従わず、従って正常な収縮のパターンに繋がらないため、同期不全を誘導しうる。潜在的に、伝導系の外部で起こるあらゆる種類のペーシングが、同期不全を誘導する可能性があり、その結果かなりの程度で非共同運動となる。一旦患者でペーシングを開始したら、これらの影響を測定できることが重要である。ペーシングは、同期不全及び非共同運動の両方のモデルとしてみなすことができる。
【0100】
同期不全により起こる非共同運動は、心室内の圧力増加を遅延し、これにより心筋の共同運動の開始および従って駆出、並びに続く収縮期の短縮及びそれに続くあらゆるイベントの遅延に繋がる。しかしながら、共同運動の開始の遅延は、同期不全がなくても心臓機能の低下や僧帽弁閉鎖不全、心筋線維化および瘢痕でも起こりうるが、その程度は、同期不全により生じた場合とは異なる。同期不全と、共同運動の開始遅延の他の原因とが混在している場合でも、共同運動の開始の短縮は、再同期化の結果としてのみ起こる(しかし、混在する原因の割合に応じた程度に限られる)。
【0101】
同期不全は再同期化で修正しうるが、他の心疾患はそうとは言えない。再同期化で、本発明者らは、最大圧力増加(又は心筋の共同運動)の開始までの時間の短縮を示した。これに関して、心筋の共同運動の開始までの時間間隔を反映するいずれの測定も、再同期化で短縮され、及びそのような時間角の測定は、常にQRSや他の関連する特徴に関係するであろう。
【0102】
潜在的に可逆性の同期不全において、共同運動の開始は、QRS波の最後又はその後に見られる。遅延した共同運動の開始は、QRS波の幅が広くなることに似ており、従ってこれは同期不全の存在を示す。しかしながら、共同運動の開始までの時間が正常に近いことを伴う幅が広くなったQRS波では、同期不全は存在せず、遅延はむしろ潜在的に可逆性の同期不全以外の要因によって起こされる。可逆性の同期不全の存在を検出することによって、患者がCRTに反応する可能性があるか(反応するであろうか)を判定しうるが、共同運動の開始の遅延が存在しない場合、患者は、CRTに反応する可能性が低いか、CRTの望ましくない影響を経験する可能性がある。
【0103】
CRT刺激に使用される電極の位置決め及び電極の数は、共同運動の開始の遅延を最大限に短縮することを目指すべきである。同期性と、並行性と、心筋の共同運動の開始との間の関係性を規定し、且つ、内在の又はペーシングされたリズム中の最大圧力増加の遅れ(又はこの感覚でいずれか他のセンサーが検出した遅延)を利用することによって、CRTへの好ましい反応に結果としてなる(左右)心室の電極を設置する部位を予測することが可能である。
【0104】
幅の広がったQRSが存在するとき、その結果の機械的非共同運動は、再同期化が起こりうる前に決定される必要があり、そして電気的再同期化を達するための電気的興奮の最適な並行性を考慮する。心臓再同期療法の証拠となる、共同運動の開始までの時間が短縮されたことを確認するために、機械側で再び検証が必要となる。このようにして、治療が誰に有益となるかを特定し同期不全の患者への治療を最適化するために、心臓の機械的イベント及び電気的イベントを考慮する必要がある。
【0105】
非共同運動の原因が同期不全の場合、浪費された仕事、移動された負荷及び非共同運動は、再同期化で回復できる。非共同運動の原因が同期不全ではない場合、これは再同期化で回復できない。従って、患者がCRTに反応しそうかどうかを示すために、そのような非共同運動が確かに同期不全により起こされていること見分けることが有益となる。
【0106】
同期不全の可逆性の疾患をどのように検出・評価するかを決定することにより、介入(例えば、CRT)が同期不全を増大させるのか低減するのか(以下に説明するように並行性における増減)及び/又は非共同運動を増大させるのか低減するのか(協調の開始の遅れ)を特徴づけすることが可能である。
【0107】
従って、疾患としての同期不全の根底にある背景因子の存在を見分けることによって、CRTを、そのような治療に対して最も反応しそうな患者にのみ適用することを確実にし、非共同運動の原因が電気的同期不全ではない患者に対してCRTを提供すること(これは、そのような不全(非共同運動)を促進するだけのこともある)を避けることが可能である。
【0108】
しかしながら、上記概略のように、再同期化を、心機能ドメインにおいて測定することはできない。それどころか、本発明者らによって、同期不全が、そのような従来の心機能の測定においては反映されていない心筋組織の並行収縮の欠如に関連していると判断された。同等に、再同期化は、心機能を増大させるのではなく、むしろ心筋の興奮の同期化に結果としてなり、そして同期不全なしでの心機能を反映するために、心筋のサルコメアが共同運動においてその最適近くで働くことを可能にする。
【0109】
同期不全が多いと、心筋は、収縮のパターンを並行収縮からより順次収縮へと変化させる。心臓の電気的興奮の内在パターンが変化すると、同期不全も増大する。これは、刺激伝導組織(脚枝)におけるペーシング又は脚ブロックによるものとみることができる。
【0110】
QRS波の時間持続期間、すなわち、ミリ秒でのQRS幅は、どれだけ急速に心室の興奮が起こるかに対応する。いずれの遅延の原因も、心筋の伝導特性によるか、伝導ブロック(同期不全)又は低い電気伝播速度(心筋の疾患)の何れかによるものか、あるいは両方の組み合わせでありうる。同期不全がどのように心臓の電気的興奮と関係しているか、それがどのようにその後心臓の筋肉の収縮が左心室からの血液の駆出に繋がるときの遅延に繋がるかを決定することによって、そのような機能をCRTで回復できるかどうかを判断し、それにより患者がそのような療法に反応しそうかどうかを判断することが可能である。
【0111】
本明細書で説明する測定において、バイオインピーダンスは、筋肉収縮(期)が駆出(インピーダンス)に繋がる点を測定する。複素インピーダンスは、所定の状況下で、筋肉収縮を反映する傾向が高く、絶対値インピーダンスは、所定の状況下で、高い程度で心腔内の容積の変化を反映する。電極は血液中に沈められる際に、それらは血液プールに電極特性を与え、同様に、電極が右心室内部に設置されると、右心室の血液プールにそのような電極特性を与える。従って、右心室血液量は、心臓の左側に設置された電極への延長された電極領域として働く。これにより、電流が身体の表面電極間に注入されると、右側電極と左側電極との間のインピーダンスフィールドにおける変化が、電極間の容積変化と筋肉密度とを反映する。共同運動が開始されると、血液の容量が排出量の駆出で枯渇しはじめ、心筋が厚くなるのに伴って筋肉密度が増加する。インピーダンスの曲線を時間に対してプロットすると、複素インピーダンスは筋肉密度が増加すると共に増加し、対して絶対値インピーダンスは容量枯渇と共に低下する。従って、曲線が互いに対して逸脱するときの時間が共同運動の開始を反映し、共同運動の開始の遅延と共に遅延すると言えるかもしれない。
【0112】
上述のように、同期不全は、組織の興奮を順次からより並行となるように変更することによって修正できる。これは、ある部位において選択的に心臓の筋肉等の伝導組織又は刺激伝導組織を刺激することにより実現できる。
【0113】
一つの心室が収縮すると、等容性の圧力がPmaxまで増加し、一方で、容積変化と共に収縮が起こると、圧力は一定を維持するが、収縮速度はその圧力及び生じた力に応じて増加する。共同運動に伴い、サルコメアが収縮して、エネルギーが循環内へ血液量を駆出する運動エネルギーに急速に移行する。この収縮の開始によって、血液の容量が、心室内部において等容性の状態を維持し、その結果、無駄な仕事なく圧力がPmaxまで指数関数的に増加する。
【0114】
しかしながら、非共同運動において見られるように収縮が順次起こると、心筋は伸展するが他の部分は短縮するので、室内の血液の容量は移行し、それが圧力増加よりも速度の短縮化を発生させる。これは、室壁内の張力が均衡化するまで起こり、遅延した駆出まで、遅延した等容性状態、共同運動性収縮及び指数関数的な圧力増加を伴うエネルギー移行を可能とする。
【0115】
従って、心室での指数関数的な圧力上昇は、共同運動の開始 OoSにつながり、その時間は、指数関数的な圧曲線の圧力上昇ピーク dP/dtピーク、によってよく規定される。心筋の共同運動の開始はdP/dtピークの近くで起こると言われ、したがってdP/dtピークはその心筋の共同運動の開始の時間を検出するのに使用できる。
【0116】
決定されたイベントの検出の一貫した方法を提供することによって、その決定されたイベントから心筋の共同運動の開始へのバイアスが一定となる。このようにして、検出されたイベントと心筋の共同運動の開始の実際のイベントとの間の相対的なタイミングの差は、測定されたイベントと実際のイベントとの間のオフセットに関わらず、類似している。
【0117】
例えば、dP/dtピークまでの時間は、左心室内における圧力カテーテルで侵襲的に容易に測定でき、これは心筋の共同運動の開始への遅延する固定されたタイミング遅延で起こる。同様に、大動脈弁の開弁及び閉弁、駆出の開始、大動脈内の流れ、dP/dtのネガティブピーク等の、dP/dtピークまでの時間に関連するいずれのイベントを、代わりのものとして利用できる。これは、同様の測定と比較して、(心筋の共同運動の開始の)実際のイベントへの同じバイアスで起こりうる。従って、そのような測定を心筋の共同運動の開始の時間を示すデータを提供するために使用できる。
【0118】
非共同運動及び/又は同期不全に伴い、圧力増加における遅延となる。この遅延の間、サルコメアにためられたポテンシャルエネルギーが、低圧で収縮するサルコメアにおいて浪費される。その負荷は、遅れて収縮するサルコメアに移り、ここでポテンシャルエネルギーが、はじめ圧力へと変換され、その後大動脈弁が開弁すると運動エネルギーへと変換される。そのような場合、dP/dtピークは、QRS波の持続期間に対して遅れるため、大動脈弁の開弁及び閉弁等のこれに関連する全てのイベントが遅延する。QRS波持続期間に対するdP/dtピークまでの時間を測定することによって、実際にはdP/dtピーク/QRSの測定値を計算することによって、同期不全が存在しているか否かを判断、またそれにより患者がレスポンダー又はノンレスポンダーのいずれでありそうかを判断することが可能である。相対的に長い間隔、例えば、dP/dtピークまでの時間がQRS波持続期間の100%よりも長い場合、それは同期不全が存在し非共同運動の原因であることを示し、逆にdP/dtピークまでの時間が短い、例えば、QRS波持続時間の85%未満の場合、それは非共同運動が遅延した電気的興奮(長いQRS時間)によるものではないことを示す。
【0119】
再同期療法にともなう時間間隔の短縮は、並行性がベースラインと比較して増加する(並行/順次 比率が増加する)時、この間隔を短縮する。QRSの85%未満の短い間隔は、同期不全が存在しないことを示し、再同期療法は、dP/dtピークまでの時間が再同期療法で大きく短縮されない限り、限定されたものとなりうる。
【0120】
逆に、心筋の共同運動の開始までの遅延が短いことは、同期不全が存在せず(又は少なく)、むしろQRS持続期間の増加が非共同運動に転換されないことを示す。短いQRS持続期間及び比較的遅延した心筋の共同運動の開始は、電気的同期不全ではなく心筋の疾患に関連した非共同運動により起こりうる。非共同運動が電気的同期不全によるものでない場合、再同期化はこれを変化せず、ペーシングが必要な場合は、刺激伝導組織をペーシングすることで、dP/dtピークまでの時間を変化せず(例えば、既知の選択的ヒス束ペーシングの使用)、同期不全の誘導及びそれによる非共同運動を回避するための治療の選択となるはずである。しかしながら、複数の点でペーシングを適用したい場合、共同運動の開始までの時間が最も短くなるペーシング部位を選択すべきである。
【0121】
共同運動の開始までの時間を測定する様々な方法が見分けられており、基準時間が既知の場合、一定のバイアスを有する共同運動の開始を反映するいずれの時間測定も、同じ基準時間且つ異なる条件下での同じ測定値との比較のために使用することができ、これは、比較される測定間でバイアスが一定であるので、そのバイアスを除くことができるからである。そのような測定は、本明細書で概略するような基礎理論が理解されれば、同期不全の存在の判断や再同期化の効果を判定するのに使用できる。これらの測定を提供するセンサーの例を以下に示す。
【0122】
従って、関連する入手可能な測定値を使用して心筋の共同運動の開始点を判定することによって、心筋の興奮の同期性を測定しうる。そして、心筋の共同運動に対する再同期療法の結果を、異なる電極及びセンサーを使用する直接的な電気的及び機械的測定を採用することによって測定しうる。
【0123】
例えば、電流を注入したり生体電位/特徴又は複素インピーダンスを測定したりするように、身体の表面、心臓又はそれらの間の任意の位置に直接接触する電極を用いて、様々な電気的測定をモニターできる。等しく、機械的イベントの様々な測定が、圧力センサー、加速度計、心音図、超音波、磁気センサーや、心臓の動きの間接的測定等様々なセンサーを使用して実現しうる。センサー及び電極の接続によって、患者からの信号及び時間間隔の測定値の可視化が可能となる。
【0124】
これらの電極又はセンサーからの信号を処理し、比較して、共同運動又は非共同運動の程度を判断することができる。これらの測定に基づき、患者をノンレスポンダー又はレスポンダーとして分類でき(すなわち、患者がCRTの恩恵を得られるかどうか)、またCRTに対する反応又は非反応の程度を測定できる。
【0125】
具体的には、心臓同期不全を測定する手段として、心筋の共同運動の開始を検出するシステム、装置及び方法が提供される。そして、例えば両室ペーシング(BIVP)、ヒス束ペーシング(His)及び/又はいずれか他のペーシング等、最適なペーシング様式を選択しうる。CRT又はペーシング療法のために、最適な電極位置(LV冠状静脈、His、心内膜、又は他の任意の位置)を選択しうる。
【0126】
再同期化の可能性
共同運動の開始までの内因性の時間が電気的遅延(QRS持続期間)と同じ長さである時、再同期化の可能性が存在すると言える。これは、共同運動の開始までの内因性の時間が複数の部位からのペーシングにより短縮化されるとき確認され、再同期化の可能性が明らかであると言える。共同運動の開始までの時間は内因性伝導(すなわち、電気的遅延がない)で最も短いので、再同期化の可能性は同期不全の存在を規定し、ペーシングにより共同運動の開始のための時間の更なる短縮が実現できなければ、再同期化の可能性が存在しないと言える。
【0127】
心臓同期不全の評価
正常な心臓の描写を、図1Aに示す。典型的には、CRTを受ける心臓には、図1Bに示すように心房電極及び両室電極102を植込むことができる。それらには、プログラム可能なペースメーカー101が接続される。
【0128】
図2に見られるように、前記電極102の位置は、心臓の3D表面幾何学モデル上に表すことができ、それにより、電極に対する測定ゾーンを表すカラーマップを伴う心臓モデル表示が示される。そして、心臓の各領域における測定値の一定の大きさの線、及び、カラーゾーン内部の電極の位置を可視化するために、心臓モデルの表面上に輪郭マップを投射しうる。各色は、測定値を表し、色の異なる程度が、スケール(尺度)から分かるように、その測定値の異なる程度を表す。例えば、一対の電極間で測定された心内インピーダンスに関する測定値を、このようにしてそのようなモデル上に可視化しうる。
【0129】
まず、システムは、心臓の任意の腔及び/又は血管内部に設置されたペーシングワイヤと、電流を注入するための表面電極とに接続するように設けられたバイオインピーダンス測定システムを有する。複素インピーダンス、位相及び振幅の測定によって、心筋の共同運動の開始の時間の特徴化が可能となる。
【0130】
バイオインピーダンスを測定するためのシステムの例を図3に示す。図1Bに示すような植込まれたCRT電極をともなう、心臓におけるインピーダンス(誘電)測定のための測定セットアップが示されている。電流を皮膚表面電極1及び2を介して注入することができ、インピーダンスを、電極間で又は電極とパッチとの間で測定できる。複数の電極を、複素インピーダンスの測定に含めることができる。その後、インピーダンスを処理ユニット301において処理し、デジタル信号へと変換し、そのデジタル信号が更に、複素インピーダンス波形の表示のために任意のデジタル信号処理ユニット302に転送される。計算されたインピーダンス波形は、共同運動の開始の計算のために利用したり、既知の波形からの類似性又は逸脱のために既知の波形と比較したりしうる。注入された電流の複数の周波数は、インピーダンス位相軌跡相互作用の最適化のために、振幅位相関係性及び方向性変化を最適化するように調整される。
【0131】
電極は、電流の注入のために、身体の表面上に、例えば、心臓の軸線(僧帽弁口の中心からLV心尖まで)に対して垂直に設置しうる。電流の注入は、心臓内部に配置された電極から行ってもよい。
【0132】
システムは、上述のような共同運動の開始の測定値を提供するように一つ以上のセンサーを更に備えてよい。例えば、加速度計又はピエゾ抵抗センサー又は光ファイバーセンサーを、身体表面上に設けたり、心臓内でカテーテル内部(His電位を検出するためのアブレーションカテーテル等)に埋設したりして、心臓音や大動脈弁の開弁又は閉弁を検出しうる。超音波センサーを使用して、同様の測定値を得てもよい。タイムドメインでの圧力上昇ピークを検出、及び/又は、軌跡の進行を検出するために、圧力トランスデューサーを、右又は左心室内部のカテーテルに設置してもよい。トランスデューサーは、圧力曲線軌跡の時間導関数又は圧力曲線軌跡それ自体のいずれかにおける任意の軌跡と比較した遅延を測定してもよい。加えて、および/又は代替えとして、ECGを作成する表面電極を設けてもよい。
【0133】
そして、センサーにより与えられたデータを、心臓同期不全の測定値として、ペーシングの開始と心筋の共同運動の開始との間のオフセットの程度を計算するように、処理し、使用する。
【0134】
例えば、ハードウェア及び/又はソフトウェアに実装された回路を、心臓興奮及び収縮が駆出に繋がる時間に対応する、上述のセンサーの一つ以上からの信号及び/又は測定値を受信するために使用する。
【0135】
そして、回路は、心臓が脱分極化し始めたとき並びに完全に脱分極化したときの時点に対応する、心臓のECG信号を追加的に受信しうる。ECGは、基準時間として使用でき、その結果得られる信号は、表面ECGにおいて見られるように、心臓の内因性興奮の開始/オフセット、及び/又は、ペーシングの開始に関連付けることができる。そのような情報は、ペーシングの開始、及び/又は、ECGの開始/オフセットに対する時間間隔を与えるための基準として利用しうる。
【0136】
心筋の共同運動の開始への遅延を測定する方法としての測定のそのような利用を、図4Aに示す。図4Aは、インピーダンス、及び/又は、加速度又はピエゾ抵抗センサー信号で測定される共同運動の開始の任意の表示の測定を示す。
【0137】
測定されたインピーダンスは、心臓の筋肉の収縮に対応する複素インピーダンス(位相)と、心臓内の血液量に対応する振幅で表される。このようにして、インピーダンス信号の振幅は、振幅信号における変化が心室内血液量における変化と並行するため、左心室内部の容積変化の代替物として使用しうる。インピーダンスの位相は、変化が筋肉容積及び心臓内血液量における変化と並行するため、筋肉収縮の代替物として使用される。
【0138】
基準点から、インピーダンス曲線が重なってそれるまでの時間(1)は、共同運動の開始の表示として測定しうる。そのような点は、筋肉が短縮化し血液が心臓から駆出されるときに起こる。患者の身体内部の(又はその表面に接続された)加速度センサーからの加速度は、所定の基準点後の加速の開始を判定するのに使用できる(4)。心拍毎及び刺激部位でそれ自体が再生される安定した加速度信号の一部は、共同運動の開始の表示として使用しうる。例えば、共同運動の開始を判定するのに使用された加速度信号の一部は、心音、大動脈弁の開弁又は閉弁のいずれにも対応しうる。
【0139】
更に、ECG信号は、QRS信号の開始、オフセット又は期間全体のいずれかからの基準点として使用でき(3)、等しく加速度信号は、開始、オフセット又は期間全体からの基準(2)としてしようできる(2)。上述のように、そのような測定はいずれも、電極に対して、カラーコードされたゾーン及びスケールを使用する心臓ジオメトリの表面上に更に可視化できる。
【0140】
理解されるように、心筋加速度の測定として、心音図検査を使用するとき、または心拍によって誘導される体の振動の測定から等、他の測定を共同運動の開始に関連付けて利用しうる。例えば、身体内部又は外部からのエコー図検査、超音波検査及び心臓超音波を、共同運動の開始を測定するために、心筋壁速度、ストレイン又は各周期で繰り返される任意の他の測定の測定に利用できる。具体的には、S波速度の開始、S波ストレインレートの開始、心室全体の駆出の開始、大動脈弁の開弁、大動脈血流の開始のうち少なくとも一つを測定しうる。
【0141】
図4Bは、組織速度を示すための心エコー図装置において処理された組織ドップラー軌跡を示し、これにより、S波、pSacおよび短縮の開始までの時間としてのような測定における、共同運動の開示までの時間の心エコー表示を示す。心エコー図は、中隔及び側部組織速度、加速度及び変位の表示であってもよい。速度軌跡は、それらが等容性収縮(IVC)、収縮期流速(S)及び等容性弛緩(IVR)を表す心周期(Wiggers図)の部分に応じて割り当てられた文字を有する。微分速度は加速度に変換されるが、積分速度は偏位に変換される。S波の開始及び収縮期加速度ピークは、共同運動の開始を反映し、上述のように基準から共同運動の開始の時間を判定するのに使用できる。続くイベントは、いずれも同じ目的に使用できる。ストレイン又はストレインレートを計算するとき、測定を同様の形で行うことができる。他の例においては、図5Aに見られるように、上述のシステムを使用して、ペーシングスパイク及び/又はQRSオンセット/オフセット及び/又はQRS波の安定部からdP/dtピークまでの時間、又は圧力カテーテルまたは圧力トレース又は圧力センサーからのフィルタ処理した信号を利用した圧力曲線の安定部の形態で、心筋同期不全を測定しうる。
【0142】
図5Aに見られるように、心臓には、ペーシングリード502に接続されたペーシング電極501が提供されてよい。左心室圧センサーカテーテル503は、大動脈504を通じて左心室圧センサー505へと提供されてよい。このようにして、図5Aに見られるように、左心室内部に配置された圧力カテーテルを、心室圧及び圧力波形の導関数の測定に用いることができる。QRS曲線の開始等の基準(5)から、LV圧力導関数曲線dP/dtのピーク(1)までの時間を測定することによって、共同運動の開始の表示を与え、またdP/dt/QRSピークまでの時間の測定値を効果的に与えられる。様々な他の測定値も図5Aに示し、またそれらが3D心臓モデル上にどのように表示されるかも示す。
【0143】
図5B及び5Cは、ある動物試験から測定されたこの共同運動の開始の判定の例を示し、心筋におけるセグメントの張力が発達して伸展が終わる際の共同運動の開始を示す。図5Bは、ソノマイクロメトリ結晶510及び心外膜ソノマイクロメトリ結晶511の概略表示での心臓のモデルを示し、ソノマイクロメトリ結晶および心外膜ソノマイクロメトリ結晶は、例えば、図5Cにプロットした4つの異なる心筋セグメント長の軌跡520に見られるような、心臓内の様々な位置における心筋セグメント長の軌跡を測定するのに使用される。これらは、図5Cにおいて、比較の目的で、ECGトレース及び圧力の二次導関数とともにプロットされている。共同運動の開始の時間 OoS(すなわち、セグメントがもはや伸展しない時点)を反映した測定時間が、左心室内の圧力の二次導関数におけるピークを反映していることが分かる。これは、左心室内の圧力変化の変化率が最大である(すなわち、圧力変化率における急速な増加の表示)ときであり、これは心筋の同期収縮によるものである。
【0144】
圧力曲線は、同じ基準時間(5)を有する任意の圧力曲線と比較することができ、曲線間のオフセット時間(2)、あるいは同じ基準を有する2つの比較できる曲線の異なるタイミングの間でのオフセット時間(2)、すなわち時間遅延4から時間遅延3をひく計算をすることによって、を測定できる。そのような比較の例が、図5Dに見られ、ここで、dP/dtピークまでの時間の減少が、異なる電極位置で見られる。再び、任意の測定を、電極に対して、カラーコードされたゾーン及びスケールを用いて、心臓ジオメトリの表面上に可視化できる。そのような測定は、上述の非侵襲測定よりも確かであることが分かる。
【0145】
図5Dはまた、何故機械的興奮の既知の測定が同期性及びその後のCRTの潜在的有効性を判断するのに適切でないのかも示す。図から分かるように、位置1及び位置2の両方におけるペーシングで、機械的興奮の開始が類似した時点51で起きている。しかしながら、共同運動の開始、すなわち、圧力が指数関数的に増加し始め、圧力導関数率における急速な増加がある時点(図5Dから分かるように)が、位置1においては顕著に遅延して時点52においてのみ起こり、一方で位置2においてはこれが時点51の直後に起こっている。この圧力変化率における急速な増加は、以前見られたものと比較して速い率で圧力変化が増加し始める時点を反映し、圧力導関数の最大値の前に起こる。この時点は、最大圧力又は大動脈弁の開弁に先立って、二次圧力導関数の最終ピークに反映されうる。
【0146】
そのような遅延は、例えば、収縮する心筋の隔離された部分での同期不全によるものであり、心筋の受動的な伸展を起こし、それが比較的低い圧力増加に反映されうる。このようにして、電気機械的遅延(EMD)等の機械的興奮の典型的な測定値は、局部的興奮の短縮化開始までの時間の測定値であり、心筋の隣接領域の働きを示すのみである。更に、非同期心臓において、EMDは、心臓内部で変化する場合があり、これもまた、運動障害等の他の問題によって心臓の至る所で変化しうる。
【0147】
対照的に、共同運動の開始は、心臓全体的なマーカーであり、セグメントの短縮が一度停止し、指数関数的な圧力上昇が開始し(共同運動の開始)、それに直接続くイベントが起こるまで、より多くのセグメントが電気的に興奮するので、活動力が増加するときの現象を反映する。
【0148】
典型的に心周期において、電気機械的遅延及び等容性収縮を前駆出時間と呼び、EMD及びIVCを別々にしようとするであろう。IVCは、短縮無しでの収縮がある(すなわち、容量が一定である)こととして特徴付けられる。同期不全では、EMDと等容性収縮との間には大きな重なりがあり、等容性収縮期間中、短縮が起こり、従ってこの期間の典型的生理的特徴が失われる。従って、前駆出期間は、EMD及びIVCなので、非同期心臓と比較して正常とは非常に異なる。
【0149】
心臓の収縮中に経験した生理的状態の例示が、図6に見られる。この図に示すように、共同運動の開始は、代表的ECGに関連して示されており、QRS波において表される心臓の電気的脱分極の開始及びオフセットを示す。
【0150】
上述のように、心臓の筋肉の興奮は、電気機械的結合を必要とする。電流は、刺激伝導系内部では高速で、伝導性筋肉組織内部では低速で、心臓の筋肉を流れる。伝導ブロックがあると、刺激組織では、伝播は遅延し、もはや刺激伝導組織によってではなく、心臓組織(筋肉、結合組織、脂肪及び線維組織)それ自体の伝導特性によって決定される伝導パターンを伴って非同期性になる。
【0151】
電気的興奮は、心臓組織の脱分極(例えば、ECG曲線又はペーシングアーチファクトから測定される)に繋がる電気的刺激の開始からQRS波のオフセットまで規定される。電気機械的遅延は、ペーシングの開始と局部収縮の開始との間(また、局部の電気的興奮と機械的興奮との間)に見られる。しかしながら、図6においてよく見られるように、そのような測定は、心筋が全体として収縮し始めて急速な力を発生させる時点を反映していない。しかしながら、むしろ、早期に興奮した筋肉組織が負荷無しで収縮し始め、それにより小さい力の発達で短縮化して、心室の容量を維持するために弛緩した組織を伸展させる。より電気的に興奮した組織が短縮するのに伴い、より弛緩した組織が伸展し、結果として伸展した組織での張力が増加し、したがって負荷が増加する。一度電気的興奮が心臓全体に伝播し、より多くの筋肉が短縮化すると、伸展させる組織が無くなり、短縮及び非共同運動が停止して、大動脈弁が開弁して筋肉を再び短縮させるまで、指数関数的な圧力増加を伴う共同運動の開始と共に力が発達する。
【0152】
共同運動の開始は、筋肉の短縮が心筋の収縮を同時に停止して、心臓内の一定の容積で力を増加させ始めるこの時点に関連する。これは、最も早い局所EMDと最も遅いまたはより遅い局所EMDとの間のある点で起こり、この位相において早かったり遅かったりするが、むしろ同期不全の程度を反映する。本質的に、この点は測定が難しいが、この点は、多くの測定、例えば(これらに限定はされないが)、圧力の導関数ピーク、大動脈弁の開弁、圧力の負の次数の導関数ピークに反映される。そのような測定値は、共同運動の開始までの時間において一定の関係性を有するため、そのようなイベントの時間の測定が、共同運動の開始を直接反映し、従って、共同運動の開始の測定値として使用しうる。従って、時間における共同運動の開始の表示を測定するためにそのような測定を用いることにより、異なるペーシング方法、及び、共同運動の開始までの時間を減少させるそれらの有効性を比較することが可能である。ペーシングの異なる方法と比較して短縮が起こる場合、より少ない同期不全が存在し、時間遅延がより長くなると、より多くの同期不全が存在する。
【0153】
センサー測定の結果に基づき、適用すべきより効果的なペーシング方法を決定することが可能な場合もある。例えば、ハードウェア及び/又はソフトウェアに実装された第二回路が、ペーシング戦略において幾つの電極を含めるべきか及びそれらをどの位置に設置すべきか、また更にどのペーシング戦略に従うべきかを判断するアルゴリズムを備えてもよい。例えば、最も効果的なペーシングは、CRTペーシング、His束ペーシング、両室ペーシング、複数点又は複数部位ペーシング、又は心内膜ペーシング、若しくはペーシングの提案されたアルゴリズムの形態で述べられたそれらの組み合わせにより実現しうる。例えば、内因興奮での心筋の共同運動の開始が短い場合、Hisペーシングが望ましい可能性がある。
【0154】
スクリーンを、接続されたセンサーの任意の決まった基準及び表示を伴う心臓モデルの可視化のために追加的に設けてもよい。そのようなシステムは、dP/dtピークまでの時間、駆出までの時間、大動脈弁の開弁までの時間、大動脈弁の閉弁、dP/dtmin及び/又は駆出の終了の正確な測定の方法によってのような、上述の心筋の共同運動の開始の間接的な測定により心臓同期不全の正確な測定を可能としうる。このようにして、心筋の共同運動の開始までの時間の短縮を、前述した、いずれかの直接的に測定したパラメーターの対応する短縮で可視化し、それにより同期不全の存在を示しうる。等しく、適用されたペーシング手段を、同期不全が存在しないと判断されるときに置き換えてもよい。例えば、同期不全が存在しない場合に心筋の共同運動の開始の間接的測定としてインピーダンス位相及び振幅を測定するとき、再同期化での収縮の変化が起こらないため、インピーダンス曲線は異なる位置でのペーシングで変化しない。
【0155】
理解されるように、所定の制限を測定に適用してその測定から意味のあるデータを抽出できるようにすべきであり、測定は、既知の時点と比較すべきである。例えば、以下の条件の少なくとも一つが当てはまる場合、測定は、ペーシング中にのみ行うことができる。
1)QRSの開始前に心室刺激が起こる
2)QRSの開始に対してタイミングが修正される
3)心房ペーシングから心室センシングまでの間隔(AP-RVs)が既知である
【0156】
効果的なペーシングを提供するために、AP-VPがAP-RVs及びAP-QRSのうち最も短いものよりも短くなるように、房室(AV)遅延を好ましくは、計算すべきである。好ましくは、AP-VPは0.7×(AP×RVs)と等しくなるように計算すべきであり、あるいはAP-QRSの開始が既知の場合には、AV-遅延間隔は好ましくは0.8×(AP-QRS)とすべきである。
【0157】
測定は、内在伝導での心室ペーシング中に行いうるが、QRS波の開始がペーシングよりも前ではなく、QRSオンセット-VP間隔が測定において修正されない場合のみである。
【0158】
測定は、内在伝導による融合が存在しないときに心室ペーシングで心房細動中に行うことができる。しかしながら、心房細動中、ペーシングは、ペーシングが起きるときにQRS波が内在伝導と融合せず完全にペーシングされるように、妥当な期間中に見られる最も短いRRインターバルよりも短い率で好ましくは、起こるべきである。
【0159】
1つのセンサーを利用して行われる測定は、既知の補正率を使用してセンサー間の差を較正しない限り、同様のセンサーとのみ比較されるべきである。時間における基準の検出は同様であるべきであり、比較として同様の時間基準の可能な限り最も良い表示となるように慎重に選択されるべきである。ペーシング刺激は、最初はネガティブで、その後幾つかの構成においてポジティブとなることがあり、同様に、最初はポジティブで、その後他の構成においてネガティブとなることがある。信号の開始は、信号の極性を無視した時間におけるバイアスのかかっていない基準を表し、最大ピークは2つの基準間で時間的に異なるかもしれず、比較した際にこれが、異なる極性での信号の最良の検出である場合、最大値を最小値と比較すべきである。内在QRS波においてとして、内在興奮が検出されると、QRS波のオンセットを正確に規定することが難しい場合がある。そのような場合、等電位線からの最も早期のオフセットを選択すべきである。
【0160】
興奮がペーシングされると、ペーシングスパイクの開始からQRSオンセットまでに時間遅延があるように、ペーシング刺激から興奮の開始までに遅延がある。測定値をQRSオンセットからの時間基準と比較、又は、測定値を伴うQRS波をペーシングスパイクからの時間基準と比較するとき、例えば同じ時間遅延をペーシングしていない測定値に加えることによって、そのような時間遅延を考慮すべきである。遅延は、典型的に、適用されるペーシングの種類に基づき計算される。例えば、遅延は、10~20msの範囲内となりうる。
【0161】
まとめとして、時間基準又はセンサーが測定間で異なる場合、異なる時間基準又はセンサー間のオフセットを、比較用の測定において考慮すべきである。
【0162】
このようにして、測定前に、測定において補正する必要があるかもしれない伝導系を介した興奮が起きないことを確実にする必要がありうる。共同運動の開始の測定は、既に述べたように、再同期化の可能性の判断のための表面ECGオフセットとの比較のためだけに心室をペーシングするわけではないときにのみ意味を持つ。
【0163】
上述の方法を用いて共同運動の開始を測定することによって、CRT療法の可能性を秘めた患者を識別することが可能である。ここで示唆するように、電気機械的興奮及び遅延や、力発生の開始、局所的電気機械的遅延等の従来の測定は利用できない。論じたように、機械的興奮は心臓全体に亘って広い時間幅で起こるので、いつ電気機械的遅延を測定するかを正確に知ることは難しい。そのような問題は、電気機械的遅延を測定する全ての既知の方法で起こりうる。
【0164】
例えば、大動脈弁の開弁を用いて電気機械的遅延の分離された測定値を測定した場合、多くのそれに関連する問題がありうる。そのような場合としては早期にLVをペーシングしてRVからの内在興奮を可能としLVのペースから測定する場合、そして、もしLVペーシングが遅いと、大動脈弁の開弁をLVによってでなくRV興奮によって判断するであろうし、LVから大動脈弁の開弁までの時間が短くなるであろう。これは、心臓の生理的機能を改善する際にペーシングの有効性の誤測定を与える。
【0165】
むしろ、正常な伝導系を介した興奮のタイミングを知ることによって、ペーシングが起こる前に行われた測定を補正することが可能である。例えば、内在興奮がペーシングの前に起こる場合には、内在性の開始から測定し、ペーシングから興奮までの間隔を追加して、ペーシングの際の他の測定との比較を可能とすべきである。
【0166】
共同運動の開始の判断のためのフィルタ処理されたトレース
本発明者らによって、心拍位相の特徴が左心室圧トレースの第2調波の後の周波数スペクトルにあることが更に分かっており、ここで高調波は、1/ペーシングされた周期率により表される。低圧での早期収縮(すなわち、同期不全と関連付けられる収縮)は、高周波圧力成分を生成しない。しかしながら、共同運動の開始と共に起こる圧力の急速な増加は、LVPトレースの高周波要素に結果としてなる。このため、第2以上の調波に対するゼロ点でのx軸の交差は、同期要素のみをとらえ、従って、QRSオンセット又はペーシングの開始と比較するための測定基準として使用できる。同様に、非共同運動(早期収縮で特徴づけられる)は、高周波成分を生成しない。
【0167】
初期負荷(L0)に対する収縮負荷の開始とともに、収縮速度は、急速に増加する(Vmax)。収縮と共に、負荷は、Vが0となる時点でLmaxまで増加する。張力が洞性波に続き、共同運動性張力は洞性エンベロープを超えて増加する。
【0168】
図7aに見ることができるように、LVPのフィルタリングは、心拍数を反映する第一調波における背景にあるベースの洞性波を説明する。続く第2以上の調波は、洞性波を特徴的圧力波形に形作る情報を含む。高周波数(40-250Hz)成分は、収縮の開始と共に開始し、中間範囲周波数(4-40Hz)は、共同運動の開始から大動脈弁の開弁まで増加する。本発明者らは、上述のフィルタ処理された圧力範囲が0をまたぐと、ちょうどピークdP/dtに結び付き、従って共同運動の開始を表しうることを発見している。力の増加及び洞性波形を超える指数関数的な圧力増加を伴う共同運動は、共同運動の開始と共に開始し、大動脈弁の開弁と共に停止する。
【0169】
高周波成分は、振動として評価でき、左心室から、固形液及び組織を介して、大動脈及び周囲組織へと伝わる。従って、大動脈圧(AoP)波形又は心房圧波形から高圧成分をフィルタリングすること、又は、加速度計又は他のセンサーを使用して振動を検出することは、測定されたトレース/曲線上の同様の位置、例えばトレースがゼロを交差するとき、で測定が振動の開始、波形の所定の特性若しくはテンプレート波形から起こる限り、共同運動を反映する。
【0170】
図7bは、様々なフィルタリングされた波形からの様々な他のトレースを示し、それらが、それぞれが心筋の共同運動の開始OoSに関連するTdの様々な測定値を与えるためにどのように使用されるかを示す。これらの測定値の一つを取り、それがペーシングでどのように変化するかを測定することによって、Tdの特定の測定値と、心筋の共同運動の開始の実際のイベントとの間の一定の遅延による患者における同期不全の存在を識別することが可能である。
【0171】
図8a、8b及び8cに見られるように、共同運動の開始に関する更なる情報が、様々な測定信号のフィルタリングから推定しうる。
【0172】
図8aを起点として、上述の各位相を、トレース上に注釈している。最初に、ECGトレース上に見られるペーシングの開始と、LV圧の増加の開始との間に遅延がある。
【0173】
その後、既に広範囲に亘って述べたように、心筋の受動的な伸展のために機械的力がゆっくりと増加し始めるとき、非共同運動がある。左心室圧の低周波数成分(心拍数の第2~第4調波未満)が、非共同運動に典型的である。非共同運動を伴うと、心臓の特定の領域において高い率でサルコメアのクロスブリッジ形成に伴う活性力の開始があり、それがサルコメア(及び筋原線維)の短縮を起こし、それが心臓のまだ収縮していないセグメント及び領域の伸展に繋がり、結果として(低周波成分による)圧力が少し増加するだけである。
【0174】
共同運動の開始は、圧力の増加の増加率に反映される、比較的一定の容量での力の急速な増加に反映される。全てのセグメントの興奮及び共同運動があると、負荷が増加するので、等尺性(及び等容性)に近づくとき、(高周波成分で)圧力が急速に増加する。これは、例えば、非共同運動収縮による初期の(比較的)ゆっくりとした圧力増加と共同運動収縮の指数関数的な増加との間での左心室圧の増加率における識別可能な変化において見ることができる。これは、左心室圧の増加率における段階的な変化において見ることができ、および/又は、データの更なる後処理によって識別しうる。例えば、この変化は、圧力変化において段階的な変化があるときに圧力トレースに含まれる周波数が増加するため、その周波数範囲において測定できる。これは、周波数スペクトルの低次の調波を越えて起こり、OoSは、低次の調波をローパスフィルタ又はバンドパスフィルタでフィルタリングしたときに明らかとなりうる。例えば、バンドパス4-40Hzでのフィルタリングにより、非共同運動と関連付けられる低くゆっくりとした周波数が除去され、共同運動の開始は、大動脈弁の開弁又は最大圧力に繋がる又はその直前の圧力増加の開始として見られる。代わりに又は加えて、これは、左心室における圧力上昇の二次導関数ピークに見られる。
【0175】
圧力増加率におけるこの変化は、脱分極のため又は弾性モデルがその最大近傍に達したために、受動的に伸展されたセグメントの張力が増加する一方で増加する指数関数的なクロスブリッジ形成によるものである。等尺性又または伸張性収縮を伴う急速なクロスブリッジ形成は、圧力曲線周波数スペクトルにおける高周波成分に繋がり、共同運動の開始を反映する。心周期のこの位相は、第1又は第2調波よりも高いハイパスフィルタでLVPをフィルタリングした際に見られる。フィルタ処理され特徴のある波形は、共同運動の開始から0と交差するまで線形に近い増加を有し、大動脈弁の開弁まで直線的増加を続ける。直線的増加の線は、共同運動の期間を反映し、位相の中間でゼロと交差し、これが上述のdP/dtピークに相当し、共同運動の開始は、この線が、フィルタ処理された圧力曲線の底の上又はその天底で上昇し始める位置において反映される。
【0176】
その後、大動脈弁の開弁と共に駆出が起こることによって、比較的一定の圧力でLV容積が減少する。トレースの他の例が図8bに見られ、図8cにおいてそれぞれの位相上に示すように注釈されている。図8cはまた、大動脈圧の高周波フィルタも示し、OoS(同期の開始)の測定値として使用しうる地点での高周波ドメインにおけるピークも示す。
【0177】
心臓並行性を使用した電極の位置決め
心臓並行性の程度(すなわち、心筋の並行興奮の程度)を測定することによって、心臓同期性を特徴づけすると共に、心筋の並行興奮がより多く得られて心臓同期不全を低減する(再同期化)解剖学的なペーシングゾーンを識別することが可能である。そのような測定を利用してCRTを手引きおよび最適化できる。
【0178】
まず、心臓並行性の程度を測定するために、リクルートメントカーブを作成し、時間に対して、ペーシングに続いて電極からリクルートされる心臓の部分を示す。そのようなグラフから、並行性の程度を判断しうる。
【0179】
図9の方法10を参照し、工程11において、左心室、右心室及び左心室、右心室の遅く増強される領域の3Dメッシュを作成するために、MRIスキャン又はCTスキャン等の医療画像を使用して心臓の3Dモデルを作成する。工程11でのそれらの後で増強される領域。代わりに、この方法は、工程12のように、一般的な心臓モデル、又は、セグメント化されたCT/MRIスキャンから導入した心臓モデルメッシュを使用してもよい。そして、工程11又は12のいずれかの3Dモデルを、アイソセンタ1001で、患者の心臓を伴う患者のx線画像に対して位置合わせする。3Dモデルと患者の心臓を位置合わせするそのような方法の一つが、図10において見られる。図11に見られるように、少なくとも二つのX線画像1001、1002を、互いに対して既知の角度で撮影し、3D心臓ジオメトリ1004を作成するために蛍光透視パネル及びアイソセンタ1001に対して位置合わせする。図12に見られるように、それら少なくとも二つのx線画像を使用して、3Dの冠状静脈洞を再構築しうる。アイソセンタ1001で、患者の心臓とともに蛍光透視パネルと互いに対して既知の角度を使用し、冠状静脈洞を再構築し、工程11又は12のいずれかの3D心臓モデルの上に重ねる。
【0180】
図13a及び13bに見られるように、心臓モデル1004(一般的心臓モデル又はMRIスキャンに基づく特定の心臓モデルのいずれか)は、表面(図13a)又は容積(図13b)を表す三角形状ネットワーク(複数の頂点)接続された複数のノード(頂点)1005からなる幾何学モデルに変換しうる。そして、電極1006を心臓に植込み、植込み中又は植込み後に、植込まれた電極の位置を反映するように心臓のジオメトリ上に追加のノードがマークされる。ノード間において、電極の一つが刺激された(ペーシングされた)ときに患者の電極により測定された電気的間隔を反映する間隔が入力される。当業者であれば理解するように、電極がすでに患者内に植込まれており、その後電極が配置された点に配置されたノードを含むように、その後心臓モデルが更新されることが想定される。数学的補間(例えば、逆距離加重法)を行って、すでに測定値をもつノードの間でノードに対して値を割り当てることができる。このようにして、モデルにおける電気的興奮を反映するように、モデルにおける全てのノードが、測定値に基づく値と計算された値をもつ。電気的興奮の計算は、新たな測定を電極間で行った際に更新したり、瘢痕及び/又は線維化及び/又は電気伝播に対する他のバリアの領域の特定により修正したりできる。全てのノードの計算値は、モデル内の全てのノード間の電気的興奮が少なくとも部分的に説明されるように行われる。
【0181】
そして得られるジオメトリは、複数のノード間で測定されそれらに割り当てられた電気的時間間隔を有する複数のノードを含む。全てのノード間の測地線距離が計算され較正されると、電気的興奮の測地線伝播速度を計算しうる。そして伝播速度が、心臓ジオメトリに存在する全てのノードに入力される(工程14)。
【0182】
工程15において、複数のノード又は電極1006からの伝播を計算することができ、図14に見られるように、心臓モデルメッシュの各頂点の速度を考慮した、着色された等時線1007として、心臓全体に亘る電気的興奮の時間伝播の可視化になる。
【0183】
患者の各ノード間の測地線距離を計算しうる。図15を参照し、頂点間の距離に対して心臓モデルを較正し、それをスケール内でカラーゾーンとして心臓ジオメトリの表面上に表示できる又は投影できるように、既知のサイズの物体121を蛍光透視スクリーン上で使用してよい。そのようにして、一般的な心臓モデルに基づき作成された心臓ジオメトリを、既知の尺度で、各患者に特異的に適合させるができる。
【0184】
図16に見られるように、一つのノード1006でペーシングをし、他方のノードでセンシングを行うことによって、心臓のリクルートされた領域の測定値を外挿しそのような測定値をカラーゾーン/等時線として表すことが可能である。例えば、図16に見られるように、右心室をペーシングしうる。ペーシングからの、そして他の電極におけるセンシング(RVpLV)からの時間遅延を使用して、時間測定を既知の頂点に合わせることができる。頂点間の既知の測地線距離を利用することによって、その測定値を心臓ジオメトリの他の頂点に外挿して、所定の時点における追加のリクルートされた領域の等時線を作成することが可能である。従って、これらの等時線は、患者の特定の心臓から植込まれた電極を介して得られた測定値に基づき、モデル又は患者特有の冠状静脈洞の再構築に投射される。これによって、数値の可視化のための患者特有の心臓ジオメトリが可能となり、頂点の既知の値及び頂点間の何れかの数を用いることを考慮するさらなる計算を可能にする。
【0185】
図17に見られるように、分離時間を使用して同様のプロセスを行うことができる。この場合、心臓は、能動的にペーシングされず、むしろ等時線は、分離時間(SepT)に基づき、すなわち電極1006が、心臓の自然なペーシングにより興奮したときに、心臓ジオメトリ上に作成される。
【0186】
上述の測定の一つ以上の組み合わせを使用することによって、追加的な複合測定を構築し、患者の心臓の幾何学モデル上にそれらを表すことが可能である。
【0187】
例えば、図18aに見られるように、SepT+RVpLVsに基づく計算を計算しうる。ここで、そのような測定値を、「電気的位置」と称し、この値の計算によって、右心室の心尖において右心室電極で得られた測定値に対する、心臓の所定の領域(心尖、前部、側部等)に関連した心臓モデルの異なる色表示を提供する。
【0188】
図18bのように、測地線距離を更に追加することによって、最適な電気的且つ解剖学的位置を考慮しうる。そのような測定値によって、スケール上の最高値を有する結果が、電極の潜在的に最適な(OptiPoint)位置を表す。そのような位置は、最も効果のある現在の電極から最も離れた領域を表す。電極のそのような設置は、右心室の心尖部に位置付けられた電極と共に興奮させると、高い並行性を実現する。最も高いOptiPoint値に対応する位置を、潜在的な電極の配置領域として、図18bのように心臓モデル上にハイライトされる。
【0189】
図19に見られるように、電極間の測地線距離と組み合わせた、一つの電極のペーシングから他方の電極におけるセンシングまでの時間間隔の測定値によって、測地線速度を計算することができる。そのような測地線速度は、逆加重補間アルゴリズム/計算への入力を与えて、モデルにおける全ての頂点に速度値を与えうる。このようにして、速度値を、ノードが取り付けられていない全ての残りの頂点に外挿することができ、それにより、心臓組織の特徴を示すことができる。例えば、各頂点には、ターゲットノードとソースノードとの間の測地線距離、並びに、隣接する頂点の数を考慮した逆距離加重補間を用いて計算された特定の速度に対する値を割り当てうる。そして、これらの値を使用して、速度値を、ノードが取り付けられていない頂点に外挿できる。
【0190】
上述のように各頂点における速度が補間されると、図20に見られるように、ノードからの電気的興奮の伝播を心臓モデル上に表示しうる。これにより、電気的興奮の伝播を、心臓のモデルのカラースケール上の等時線として組織の特徴に基づいて可視化することができる。そのような時間伝播は、時間変化に対して面積変化を示し、単一又は複数のノード1006から可視化できる。
【0191】
更に、セグメント化を使用した心エコーデータを、心臓モデル上に移行し、心臓モデルの組織特徴を変更し高めることに使用しうる。例えば、図21に示すように、アメリカ心臓協会(AHA)の左心室のセグメントモデルまたは類似物を使用して、心エコーパラメーターを、心臓モデルにおけるセグメントに割り当て、心臓ジオメトリの頂点に移行しうる。そのような割り当ては、既存の心臓モデルの既存の頂点に適用でき、従って、フローチャート2100に見られるように、ジオメトリのノードの全てを更に分類するために使用しうる。
【0192】
同様に、心臓ジオメトリに組織特徴を割り当てるために、3D MRIスキャンにより識別可能なもののような心臓の筋肉の瘢痕組織2201を使用しうる。これは更に図22において可視化され、ここで、瘢痕の領域が心臓ジオメトリに投影され、各頂点に速度値が割り当てられて、組織特徴を高める。そのような分類を利用して、速度モデルを変更し、追加の組織特徴で識別されている頂点に対して新たな速度値を割り当てることができる。
【0193】
工程16において、計算された速度モデルからの各時点における(興奮したサルコメアの)追加のリクルートされた領域を複数の電極から計算でき、図23及び24に見られるように、モデルの全領域又は限定された領域が等時線で覆われるまでの各時間ステップにおける追加領域、及び、時間=0から時間=x+1までのその伝播を考慮して、心臓モデルにおける時間伝播に基づき、その電極に対するリクルートメントカーブを、描くことができる。言い換えると、リクルートメントカーブは、リクルートメントの領域または容量の変化の測定値をy軸に、時間スケールをx軸にとり、心臓モデルにおけるリクルートされた領域又は容量を表す。リクルートメントカーブは、複数の特徴、例えば、期間、傾き、ピーク、数式、テンプレートマッチング、によって特徴づけできる。
【0194】
所定のノードに対するリクルートメントカーブを考えることで、図23に見られ且つ工程17に説明するように、放物線を、リクルートメントカーブに適合しうる。これにより、加速度、ピーク及び伝播速度のピーク値までの時間を各リクルートメントカーブから抽出でき、また、完全なリクルートメントまでの時間(すなわち、全心臓モデルがリクルートされるまでの時間)が抽出できる。ピーク伝播速度までの時間が短いほど、すなわち伝播加速度が高いほど、より多くの並行性が見られ、同様に完全なリクルートメントまでの時間が短いほどより大きいピーク値が見られる。ピークリクルートメントが総リクルートメント時間の50%で優先的に起こるように最適な曲線特性を設けうる。より多くの並行性(すなわち、興奮前面が接するとき興奮の総面積が最も多くなる)を作り出す電極が選ばれる。
【0195】
図24AからCに見られるように、伝播曲線は、電極位置の変化や瘢痕の存在により変化しうる。比較のために、幾つかのリクルートメントカーブを示し、それぞれがどのように異なるかを示す。そのような比較に基づき、ペーシングに対して最も理想的な反応が得られる電極を選びうる。
【0196】
センシングされた興奮のパターンが遅すぎる組織内の伝播を示す、または、測地線速度が閾値未満である、または瘢痕の存在において十分な平衡性興奮を提供できない場合、そのような症状は再同期療法の恩恵を得られる同期不全を表さないため、CRT装置の植込みは行われるべきではない。
【0197】
電極のそれぞれからのペーシングにより、心臓のペーシング中に発生する電気力の大きさ及び方向を記録するベクトル心電図(VCG)が作られる。試験される各位置に対して、各電極及び2つの電極の組み合わせでペーシングが行われ、各状況に対してVCGが作られる。図25Bの例に見られるように、VCG RVpが右心室ペーシング(RVp)を行う電極に対して作り出され、VCG LVpが左心室ペーシング(LVp)を行う電極に対して作られうる。そして、合成VCG LVP+RVpを、作られた2つのVCGの合計から計算でき、両室ペーシングが行われるとき電極の組み合わせから実際のVCGが得られ、結果となるVCG BIVPを収集する。
【0198】
そして、図25Aに見られるように、合成VCG LVP+RVpと実際のVCG BIVPとを比較し、互いからそれる曲線軌跡の時点を記録し、ペーシングの開始からその時点までの間隔を、融合時間間隔までの時間として計算する。図25Bに示す例は、2Dで表示されているが、当業者であれば、精度を向上するためにこの比較が3Dで行われてもよいことは理解できるであろう。
【0199】
ペーシング刺激と、曲線軌跡がそれる時点との間の時間間隔は、融合までの時間(すなわち、心臓組織における複数組織からの電気伝播が接するまでの時間)を表す。曲線軌跡がそれる時点までの期間が長いことは、心筋のより多くの並行興奮を示す。従って、合成VCGと実際のVCGとの間の曲線軌跡がそれる時点までの時間を出来るだけ長くすべきである。融合までの時間は、同期性(並行興奮)の程度を判断するために、独立して、又はQRS幅に対して計算されてよい。
【0200】
同様の方法は、1つ又は複数の次元で、電位図(EGM)及び心電図(ECG)により行うことができる。電極刺激部位の追加で曲線軌跡がそれるまでの時間間隔を短縮化できない又はそれるまでの時間が増加する場合、電極を刺激部位及び電極の数に追加するように、電極を追加することの追加の恩恵が得られる。
【0201】
この方法により、追加の電極をペーシングするこの新しい状態とこの電極をペーシングしない状態とを比較することで、ある電極を追加することの付加効果を分析することができる。新しい電極が融合までの時間を減らさない場合、これは、この電極の追加によって、それがないときよりも早い段階で融合を促進することなく組織の捕捉及び興奮を可能とする。よって、電極の追加により融合までの時間が低下しない場合、より多くの並行興奮が起こる。
【0202】
上述のリクルートメントカーブは、電極のための位置を示唆するが、作成したVCGを更に使用してそれらを検証しうる。これに関して、VCG及びリクルートメントカーブは、互いを反映する電気的興奮の測定値である。これらの測定値が一致しているとき、それは、示唆される電極位置に対する正当性及びモデルに対する正当性を与える。この点において、作成されたリクルートメントカーブに基づき電極の位置に対して良好な位置が見出されると、この位置の正当性をVCGに基づき検証する。当業者であれば理解するように、これらの測定値は必ずしも組み合わせて使用されるだけではなく、リクルートメントカーブのそれぞれ又はそれる点の決定は、いずれも適切な電極位置を決定するために別々に使用しうる。これらの測定値のいずれも、並行性、心筋の並行興奮の程度、を反映しているため、心筋の並行興奮をより多くして心臓同期不全を低減する(再同期化)解剖学的なペーシングゾーンを特定するために単独で利用しうる。そのような測定を利用することによって、CRTを導き最適化しうる。
【0203】
電気的興奮の程度を測定するために、植込まれた電極を使用することに加えて又は代えて、逆解ECGも利用しうる。患者に適用した表面電極から得られるデータを利用することによって、心臓モデルが上述のような解剖学的に正しい位置に位置付けられ、心臓モデルに対する相対的な電極位置が正しく既知である場合、逆解アプローチを使用して電気的興奮のマップを心臓モデル上に外挿することが可能である。
【0204】
そのような場合、心臓ジオメトリにおける各ノードの興奮は最初に興奮した領域からの距離に対して相対的に見られるため、そのモデルに関して速度の計算を行うことができる。そして、この速度を使用してリクルートメントカーブを計算できる。一つの電極からペーシングを行う場合でも、異なる電極からの興奮の計算と同様に、興奮を計算できる。これらの測定が、伝播速度計算及びリクルートメントカーブの基礎を形成できる。
【0205】
そのような場合、体表面電極を使用して、表面電位を収集することによって、並行性(すなわち、心筋の並行興奮の程度)を決定する。そして、そのような表面電位は、既に述べたように、患者の心臓の実際の位置とともに配置されるように合わせられた心臓モデル上に外挿しうる。これにより、心臓の逆解法ECG興奮マップを作成され、伝播速度、そして同期不全の存在を判断するために、その興奮マップを上述のように操作しうる。
【0206】
そのような逆解法ECGを得るために、システムには、複数の表面生体電位(ECG)を取得するための表面電極を設けうる。システムは、瘢痕を含む瘢痕組織を含みうる心臓のセグメント化されたモデル上の電気伝播を計算するために、逆解法を提供するように構成しうる。(患者の心臓に並べあわせられた心臓モデルからの)測地線距離を、電気伝播と組み合わせて利用することによって、システムは、測地線距離と組み合わせた心臓の電気的興奮波前面の逆解に基づき、心臓モデルにおける伝播速度を計算するように構成しうる。測地線速度が心臓モデルにおける各頂点に割り当てられると、時間伝播及び並行性を、モデルにおける任意の且つ複数の部位から測定できる。
【0207】
更に、表面電位を、心臓モデル上の一つ又は複数の点からの伝播速度を計算するために利用される特徴として、心臓モデルに組み込んでよい。心臓に植込まれた電極からの直接的な測定に関連して述べたように、これにより、複数の異なる点の差異を計算するために、複数の伝播速度曲線が作成できるようになる。そのような複数の伝播速度曲線間の比較を使用して、電極を設置するための好ましい位置の表示として、より良好な加速度、ピーク速度又は伝播時間をもつ位置を選択することが可能である。
【0208】
方法例
本明細書に記載のシステム及び方法は、推定上非同期心不全のある患者の再同期化ペースメーカー(CRT)での治療前及び治療中の両方で使用してよく、1)CRTに良好に反応しそうな(明白な再同期化の可能性が存在する)患者を識別する根底にある背景因子の存在を識別し、2)ペーシングリード/電極を設置するための最適な位置を識別するために使用しうる。
【0209】
患者は、現在、適応基準が記載された国際ガイドラインに基づきCRTペースメーカーの植込みを勧められる。これらの基準は、大規模臨床試験における対象患者基準および心不全の症状、駆出率(心臓機能)の低下及び120-150msを超えるQRS波(好ましくは左脚ブロック)の広がりからなる他の事象に基づく。しかしながら、現在、CRTで治療するための一つ以上の症状をもつ患者のうち50-70%のみが実際に治療に反応する。これらノンレスポンダーの理由は複数あるが、リード位置、根底にある背景因子(同期不全)、瘢痕、線維化及び電極位置が最も顕著な理由である。非同期心不全を示す根底にある背景因子の検出を改善することによって、治療の最適化(個々の患者に特化した療法を可能とする)のために、(診断能力内での)レスポンダーの選択を向上することが可能である。
【0210】
まず、患者がCRTに反応するかどうか、及び、標準的な対象患者基準をもつ患者にその背景因子が存在するか否かを判定する根底にある背景因子(再同期化の可能性)を検出し判定することが望ましい。背景因子が存在する場合にはCRTペースメーカーの植込みを進めるべきであるが、背景因子が存在しない場合には適用される他のガイドラインに従うべきである。
【0211】
根底にある背景因子が存在する場合、あるいは根底にある背景因子がまだ識別されていない場合でも、瘢痕及び線維化を考慮した並行性の測定値に基づき、リードのための最適な位置を発見しうる。並行性の測定は、心臓の内部(例えば、心臓の静脈又は心腔内)において、電極をもつガイドワイヤ又はリードにより行われる。そして、電極の設置のための最適な位置が示唆される。
【0212】
各ノードからの測定された並行性を考慮して決定された最適な位置に応じてリードが最適な位置に設置されると、(心筋の共同運動の開始の直接的又は間接的な測定のいずれかによって)反応を確認、あるいは、その位置を拒否することが可能である。
【0213】
所望の反応が確認された場合には、CRTペースメーカーを植込むべきである。反応が確認されない場合には、最終確認前に、並行性のマッピング及び測定を改良すべきである。反応が確認できない場合、植込みを中止し、代わりの植込みのために既知のガイドラインに従うべきである。
【0214】
本明細書に記載の方法及びシステムの全てが、併せて使用しうること、また同様に別々に使用されることが想定される。これに関して、同期不全の存在及び再同期化の可能性を検出し、最適なリード位置を選択することなく再同期化を確認することが可能であり、同様に、根底にある背景因子及び再同期化を確認することなく最適なリード位置を選択することが可能である。
【0215】
従って、患者からの信号及び測定時間間隔の可視化を可能とする電極への接続を含むシステムを提供しうる。代わりに又は加えて、センサー及び電極を含み、心臓モデルの可視化及び心臓モデルジオメトリに基づく計算を可能とするシステムを提供しうる。上述のシステムの両方は、手術室内において組み合わせることができる。
【0216】
上述のシステム及び方法の実施を、手術中の実施例を用いて更に説明する。
【0217】
まず、患者が手術室内に運び込まれ、センサー及び電極が患者の体表面に固定される。
【0218】
心筋の共同運動の開始(OoS)までの遅延を判断するために、一つ以上の追加センサーを利用しうる。例えば、圧力センサー、ピエゾ抵抗センサー、光ファイバーセンサー、加速度計、超音波及びマイクロフォンのうち一つ以上を利用しうる。追加センサーからの測定値は、リアルタイムで取られ、現地で処理されうる。心筋の共同運動の開始までの遅延が、QRS波に対して短い、又は、絶対値において短い(例えば、120msよりも短い又はQRS時間の80%よりも短い)場合、CRT装置の植込みを行うべきではない。心筋の共同運動の開始までの遅延を測定して、QRS波に対して長い又は絶対値において長い(例えば、120msよりも長い又はQRS時間の80%よりも長い)場合には、CRT装置の植込みを行うべきである。
【0219】
体表面電極を使用して、上述のような心臓の逆解ECG興奮マップのための表面電位を収集して伝播速度を判断することで同期不全の存在を判断することによって、並行性(心筋の並行興奮の程度)を判断しうる。加えて又は代えて、患者の心臓内部に植込まれた電極を使用して、電気的興奮マップを作成し、それにより同期不全の存在を判断してもよい。センシングされた興奮のパターンが示す組織内の伝播が遅すぎる場合、又は、瘢痕組織の存在下で十分な並行興奮を与えることができない場合、CRT装置の植込みは行うべきではない。
【0220】
そして、患者は、手術の準備がなされ、滅菌ドレープがかけられる。手術を通常通り開始し、リードを、左鎖骨下方の皮膚切開及び鎖骨下静脈の穿刺により患者の心臓内に設置する。その後リードを、右心房及び右心室内の正しい位置に移動する。
【0221】
そして、同期不全を、右心室をペーシングすることによって導入し、上述のように心筋の共同運動の遅延を測定するときに確認できる。心筋の共同運動の開始の遅延を判断するために、センサーを、左心室内又は右心室内に設置しうる。このようにして、心筋の共同運動の開始までの遅延を計算するために、以前利用したものと同じ計算を行いうる。
【0222】
リードを設置すると、冠状洞にカニューレを挿入し、2つの平面での血管造影を行って、冠状静脈を可視化する。
【0223】
冠状静脈を可視化すると、先端に電極をもつ細いガイドワイヤ、又は、マッピング目的のための一つ又は複数の電極をもつ任意のカテーテルを挿管できる。そして、時間間隔の測定値を使用して、内在興奮、組織特徴及び静脈特徴のうち一つ以上を特徴づけする。そして、冠状静脈の解剖学的構造を、ソフトウェアにおいて再構築し、測定値を、その再構築された冠状静脈洞に対する心臓モデル内の位置に割り当てる。
【0224】
そして、並行性の最も高い値をもつ電極位置をハイライトするために、身体の外部で行われる方法において、このデータを、並行性を計算するために使用する。これらの測定値に基づき、外科医は、電極をもつ左心室(LV)リードを所望の位置/静脈に位置決めするようアドバイスされる。同様のアドバイスが、右心室(RV)リードを再位置決めするために与えられる。より高い並行性の程度を実現するために、取得された測定値及びその処理に基づき、他の且つ/又は更なる電極を含めるようにアドバイスをすることもできる。他の電極とは、利用可能なもの(心内膜の外科的アクセス)以外の電極位置を指し、更なる電極は、複数の電極(二つより多い)の使用を指す。
【0225】
上述の結果、冠状静脈枝が二つの平面において見られ、左心室リードの設置のために適切な静脈を選択する。
【0226】
LV電極を配置するとき、RV及びLVの両方をペーシングする際の心筋の共同運動の開始までの遅延を判定するためにセンサーを使用してよい。LVリードを異なる位置に再配置することによって、異なる電極を分析しうる。心筋の共同運動までの遅延の測定は、圧力センサー、ピエゾ抵抗センサー、光ファイバーセンサー、加速度計、超音波のうち一つ以上を使用するか、又は、バイオインピーダンス(RVリード及びLVリードに接続されている場合)を測定することによって行われうる。心筋の共同運動までの遅延が、少なくとも例えば内在測定値の100%未満まで短縮化されない場合、又は、バイオインピーダンスの測定値が奇異な動きによって再同期化が起こっていないことを示す場合、提案されたリード位置を破棄すべきである。QRSオンセットから測定される内在値は、ペーシングの開始から心室捕捉までの時間を含まないため、定義上、刺激から測定される値よりも短い。従って、内在興奮がある場合に測定される時間間隔は110%に近似する。このため、QRS波から測定される共同運動の開始までの内在の遅延は、ペーシングスパイク開始から人工的にペーシングを行ったときに起こる電気的組織捕捉までの時間を反映した値に、例えば15msを加算することによって較正できる。
【0227】
RV、LV、又はその両方をペーシングする際、VCGを再構築でき、また融合までの時間を計算できる。既に測定された並行性を確認するために、融合までの時間を更に使用しうる。表面電極を逆モデル化に使用して、融合までの時間を測定することができる。測定された融合までの時間と、測定された並行性とが一致しない場合、そのような不一致の原因を更に検証すべきである。
【0228】
複数の電極をもつLVリードを、医師の裁量で使用することも可能である。複数の電極の使用は、並行性を測定する際に使用でき、並行性の増加が分かると、そのような並行性の増加を、融合までの時間を使用し、心筋の共同運動の開始までの遅延を測定することによって確認できる。
【0229】
リードが所望の位置に設置され、心筋の共同運動の開始までの遅延が、初期内在値の(例えば)110%未満であり且つ両室でペーシングされたQRS波の(例えば)100%未満の場合、CRTを植込み、デバイスジェネレーターを接続して皮下ポケット内に植込むことができる。リードが心筋を捕捉しないと分かった場合、又は、その位置が科学的実証データ又は測定された間隔(QLV)に基づき最適下限であると判断された場合、デバイスジェネレーターを接続する前に、そのリードを再位置決めして再試験する。そして、皮膚切開を縫合して閉じる。
【0230】
上述のシステムは、信号増幅器又はアナログ-デジタル変換器(ECG、電位図及びセンサー信号)と、デジタル変換器(センサー信号)と、プロセッサー(コンピューター)と、ソフトウェアと、x線へのコネクター(dicomサーバー又はPACSサーバーと直接通信することによる、又は、フレームグラバー及びアングルセンサーと間接的に通信することによる)とを含む総合システムにおいて具現化しうる。使用者の裁量で、異なるセンサーと共にシステムを使用することが可能である。更に、他の問題を解決するためにもシステムを使用しうる。例えば、このシステムは、心筋の共同運動の開始までの遅延の追加測定により、His領域の特定や、His束におけるペーシングリードの設置に利用しうる。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21
図22
図23
図24A
図24B
図24C
図25A
図25B
【国際調査報告】