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特表2022-530627ナノチタン酸バリウム粉末及びその製造方法、セラミック誘電体層及びその製作方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-30
(54)【発明の名称】ナノチタン酸バリウム粉末及びその製造方法、セラミック誘電体層及びその製作方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20220623BHJP
   C04B 35/468 20060101ALI20220623BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20220623BHJP
   H01C 7/02 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C01G23/00 C
C04B35/468
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01C7/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563689
(86)(22)【出願日】2019-08-14
(85)【翻訳文提出日】2021-10-25
(86)【国際出願番号】 CN2019100604
(87)【国際公開番号】W WO2020215535
(87)【国際公開日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】201910338161.4
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521467401
【氏名又は名称】▲蘇▼州宝▲順▼美科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SUZHOU BAO SHUN MEI TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 305, Building 11, West North District, Nanopolis Suzhou Jinji Lake Avenue99, Suzhou Industrial Park Suzhou, Jiangsu 215123, China
(71)【出願人】
【識別番号】521467412
【氏名又は名称】瞿海▲鋒▼
【氏名又は名称原語表記】QU, Haifeng
【住所又は居所原語表記】Room 301, Building 9 Lane 88, Guiping Road Shanghai 200233, China
(71)【出願人】
【識別番号】521467423
【氏名又は名称】▲盧▼威
【氏名又は名称原語表記】LU, Wei
【住所又は居所原語表記】Room 305, Building 11, West North District, Nanopolis Suzhou Jinji Lake Avenue99, Suzhou Industrial Park Suzhou, Jiangsu 215123, China
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】瞿海▲鋒▼
【テーマコード(参考)】
4G047
5E001
5E034
5E082
【Fターム(参考)】
4G047CA07
4G047CB05
4G047CC02
4G047CD01
4G047CD04
4G047CD07
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E034AC02
5E082AB03
5E082FF05
5E082FG26
(57)【要約】
ナノチタン酸バリウム粉末及びその製造方法、セラミック誘電体層及びその製作方法であって、当該ナノチタン酸バリウム粉末の製造方法は、より低い温度のナノ二酸化チタン水分散液を、より高い温度の水酸化バリウム水溶液と急速に混合し、得られた混合系の温度を両者の高速混合により水酸化バリウム水溶液の温度に比べて少なくとも2℃低くし、ここで、ナノ二酸化チタン水分散液の質量濃度は20%以上であることと、混合系を高圧水熱合成反応させ、反応生成物を洗浄と乾燥し、ナノチタン酸バリウム粉末を得ることと、を含む。当該ナノチタン酸バリウム粉末を、セラミック誘電体層の製作に良く使用することができる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノチタン酸バリウム粉末の製造方法であって、
より低い温度のナノ二酸化チタン水分散液をより高い温度の水酸化バリウム水溶液と急速に混合し、得られた混合系の温度を両者の急速な混合により、前記水酸化バリウム水溶液の温度に比べて少なくとも2℃低くし、ここで、前記ナノ二酸化チタンの水分散液の質量濃度は20%以上であることと、
前記混合系を高圧水熱合成反応させ、得られた反応生成物を洗浄と乾燥し、ナノチタン酸バリウム粉末を得ることと、を含む、
ことを特徴とするナノチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項2】
前記より低い温度のナノ二酸化チタン水分散液を前記より高い温度の水酸化バリウム水溶液に加えて急速に混合し、前記混合系を得る、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ二酸化チタン水分散液の温度は70℃以下であり、急速混合の前に、前記水酸化バリウム水溶液の温度は90℃以上であるように制御する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ナノ二酸化チタン水分散液において、ナノ二酸化チタンは体積計でメジアン粒径≦30nmである、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合系において、BaイオンとTi原子のモル比は1~4:1である、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記水酸化バリウム水溶液の質量濃度は20%以上である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記高圧水熱合成反応は、温度が100~250℃で、圧力が7MPaより小さく、時間が1時間以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造される、
ことを特徴とするナノチタン酸バリウム粉末。
【請求項9】
セラミック誘電体層の製作方法であって、
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法に従ってナノチタン酸バリウム粉末を製造することと、
前記ナノチタン酸バリウム粉末をフレークにして焼成し、セラミック誘電体層を得ることと、を含む、
ことを特徴とするセラミック誘電体層の製作方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製作方法によって製作される、
ことを特徴とするセラミック誘電体層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ材料合成技術に関し、具体的にナノチタン酸バリウム粉末及びその製造方法、セラミック誘電体層及びその製作方法に関し、特にナノチタン酸バリウム粉末の工業化生産方法及びそれを原料として製作されるセラミック誘電体層に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノチタン酸バリウム(BaTiO)は、高誘電率、低誘電損失、高抵抗率、及び優れた絶縁性能と高い耐圧強度を持つため、電子セラミック工業に広く応用され、多層セラミックコンデンサ(MLCC)、正温度係数サーミスタ(PTC)、ダイナミックランダムメモリ(DRAM)などの電子部品を製造する基礎材料である。
【0003】
セラミック誘電体層の均一性と緻密性を高め、空隙率を低減することは、電子部品の静電容量を改善するための有効な手段である。Horsfieldモデルによれば、異なる粒径のチタン酸バリウム粒子を混合し、粒径が小さいチタン酸バリウム粒子を、粒径が比較的大きいチタン酸バリウム粒子間に形成されたギャップに充填し、充填密度を高めることが望ましい。一方、粒径が小さいチタン酸バリウム粉末を使用すると、セラミック誘電体層においてより小さな結晶粒、より多くの粒界を形成し、セラミック誘電体層の性能を向上させるのに役立つ。しかしながら、現在、市販のチタン酸バリウム粉末粒子の粒径は、ほとんどが100nm以上であり、小粒子のナノチタン酸バリウム粉末は比較的まれである。
【0004】
現段階でナノチタン酸バリウム粉末を製造する主流プロセスは、固相焼結法と液相合成法に大きく分けられることができる。固相焼結法は、チタン酸バリウムを構成する金属元素(TiとBa)の酸化物又は酸性塩を混合し、細かく磨いた後、約1100℃の高温で▲か▼焼し、固相反応により必要な粉末を形成する。固相焼結法のプロセスは比較的簡単であるが、生産されたチタン酸バリウム粉末の粒子粒径が大きく、粒径分布が集中していないほか、純度が低く、性能が不安定な欠陥があり、ナノチタン酸バリウム粉末に対するセラミック誘電体層の需要を満たすことができない。
【0005】
液相合成法はさらに、ゾル-ゲル法、水熱法などに分けられることができる。ここで、水熱法は特に、高圧反応釜などの密閉システムにおいて、分散したTiO細粒子を含むBa(OH)水溶液を水熱処理し、一定の温度と水の自生圧力で、常圧条件では得られない特殊な物理化学環境を提供し、結晶度が高く、純度が高く、サイズが小さい粉末を形成する。しかし、水熱法の反応システムでは、常にTiOの質量濃度を非常に低い範囲に制御する必要があり、TiOの濃度が高すぎることによる粒子凝集などの問題を避けるために、一般的に15%を超えない。しかし、低濃度であれば、TiOの分散液の体積が大きすぎるので、反応時間が長くなり、エネルギー消費が増加し、設備の生産率が非常に低い。また、実際の工業生産では、大量の溶媒による不均一な温度制御などの要因もチタン酸バリウム粉末の均一性に悪影響を及ぼす。
【0006】
上記の状況に鑑みて、二酸化チタン濃度が高い場合には、セラミック誘電体層の要求を満たす高品質のナノチタン酸バリウム粉末が依然として得られ、収率が高いナノチタン酸バリウム粉末の工業化生産プロセスを開発することが期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の欠陥に対して、本発明は、ナノチタン酸バリウム粉末の製造方法を提供し、高濃度の二酸化チタン水分散液を原料として用いて、非常に高い収率を持つだけでなく、工業化生産のニーズを満たすことができ、得られたナノチタン酸バリウム粉末は粒径が小さく、粒径分布が狭く、純度が高く、結晶粒成長が良いという利点があり、セラミック誘電体層の品質要求を満たす。
【0008】
本発明は、上記の製造方法を用いて製造されるナノチタン酸バリウム粉末を提供する。当該ナノチタン酸バリウム粉末は、粒径が小さく、粒径分布が狭く、純度が高く、結晶粒成長が良いという利点があり、セラミック誘電体層の要求を満たすことができる。
【0009】
本発明は、上記ナノチタン酸バリウム粉末を最初に製造することを含むセラミック誘電体層の製作方法を提供し、当該製作方法は、セラミック誘電体層の均一性と緻密性を高め、空隙率を低減することができる。
【0010】
本発明は、上記の製作方法を用いて製作されるセラミック誘電体層を提供し、当該セラミック誘電体層は、より高い均一性、緻密性、及び低い空隙率を有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、ナノチタン酸バリウム粉末の製造方法を提供し、前記方法は、
ナノ二酸化チタン水分散液を水酸化バリウム水溶液と急速に混合し、得られた混合系の温度を両者の急速な混合により水酸化バリウム水溶液の温度に比べて少なくとも2℃低くし、ここで、ナノ二酸化チタン水分散液の質量濃度は20%以上であることと、
当該混合系を高圧水熱合成反応させ、得られた反応生成物を洗浄と乾燥し、ナノチタン酸バリウム粉末を得ることと、を含む。
【0012】
現在、水熱法を用いてナノチタン酸バリウム粉末を合成する場合、チタン源としてのTiOの濃度が高いと、ナノチタン酸バリウム粒子間の凝集現象が非常に深刻になりやすいが、TiOの濃度が低すぎると、生産効率が低下すぎ、製品の粒径が大きいなどの問題がある。この現状に対して、本発明は解決策を提供し、高濃度(質量濃度≧20%)のナノ二酸化チタン水分散液を原料として、まず、ナノ二酸化チタン水分散液を水酸化バリウム水溶液と急速に混合し、次に高圧水熱合成を実施することで、高圧水熱合成反応過程での溶媒(一般的には脱イオン水)の使用量を低減させ、生産効率を向上させるだけでなく、チタン酸バリウムナノ粒子の粒径を制御でき、より狭い粒径分布を得ることができ、また、ナノチタン酸バリウム粉末の高純度と結晶粒の良好な成長を確保することもでき、結果として性能の優れたナノチタン酸バリウム粉末製品が得られる。
【0013】
本発明では、ナノ二酸化チタン水分散液と水酸化バリウム水溶液との間の急速な混合、或いはチタン源とバリウム源の急速な混合は、混合系の温度低下の程度によって具現され、即ち、両者の急速な混合によって直接引き起こされる明らかな温度低下によって具現され、混合過程において外部冷却などの手段による明らかな温度低下を含まない。両者の急速な混合過程では、加熱装置を用いて加熱していても、2つの温度の液体の急速な混合のため、加熱装置は、混合前の水酸化バリウム水溶液の温度に達する温度を適時に維持するのに十分ではないので、混合系の温度が水酸化バリウム水溶液の温度よりも著しく低くなる。
【0014】
明らかに、このようなシステム温度の低下は主に、ナノ二酸化チタン水分散液の量と初期温度、ナノ二酸化チタン水分散液の添加速度と混合速度、そしてシステム加熱装置の電力と熱伝導の影響を受ける。従来の電気加熱又は熱媒体伝熱方式の加熱電力が限られていることを考慮して、初期温度T1のナノ二酸化チタン水分散液を、初期温度T2の水酸化バリウム水溶液に急速に加えると、温度の低下を補うために不足し、混合系温度T3は2℃以上低下し、添加速度と混合速度が遅い場合のみ、加熱電力はシステム温度の低下を2℃以内に補うことができる。また、混合速度が足りないと、システム中の各所の温度が均一でないだけでなく、システム中のナノ二酸化チタン水分散液の分布が不均一になり、製品の一貫性に影響を及ぼす。よって、本発明は、システム温度低下の定義を用いて添加速度と混合速度の速さを判断する。
【0015】
具体的に、両者の急速な混合を実現するために、工業生産において、水酸化バリウム水溶液を加熱撹拌釜に置いて、ナノ二酸化チタン水分散液をポンプ又は他の液体供給方式を介して加熱撹拌釜に注入し、高速撹拌と分散を補うことができ、或いは2つの液体を、計測可能な液液混合装置を介してオンラインの連続混合を実現することなどができる。実際には、一定の温度で液体と液体の高速混合を実現することができる全ての生産方式は、本発明の技術的手段の実施に利用されてもよい。
【0016】
もちろん、添加又は混合の速度は、混合系の不均一な温度による後続のチタン酸バリウム粒子の成長サイズの一貫性に影響を及ぼすことを避けるために、混合溶液全体の温度が早く平衡になることを保証しなければならない。実際の工業生産では、一般的に代表的な監視点を複数選択して混合過程中の温度変化をテストすることができ、各監視点の温度は2℃以上低下し、低下範囲はほぼ同じであることが適切である。
【0017】
さらに、後続のチタン酸バリウム粒子の成長サイズの一貫性を確保するために、混合系の温度と混合前の水酸化バリウム水溶液の間の温度差も大きすぎるべきではなく、一般的に2~20℃に制御され、通常は2~10℃に制御される。このようにして、温度の急速な低下による水酸化バリウムの析出も効果的に回避できる。
【0018】
説明すべきものとして、ナノ二酸化チタン水分散液において、ナノ二酸化チタンは非常に高い濃度(≧20%)を持っているので、ナノチタン酸バリウム粉末の高収率を実現するために、バリウムイオンとチタン原子のモル比及びバリウム源とチタン源の間の急速な混合を確保するために、水酸化バリウム水溶液にも高濃度のバリウムイオンを含む必要がある。通常、水酸化バリウム水溶液において、水酸化バリウムの濃度は飽和濃度に近いことが好ましく、例えばバリウム源の濃度は20%以上で、さらに50%以上に達することができ、よって、水酸化バリウムを水に十分に溶解させることを確保するために、水酸化バリウム水溶液の温度を90℃以上に、一般的に90~110℃に制御すれば、バリウム源とチタン源の比率を確保することができる。
【0019】
ナノ二酸化チタン水分散液の温度は、水酸化バリウム水溶液より低く、両者の急速な混合過程での温度低下程度を確保するために、ナノ二酸化チタン水分散液の温度が70℃を超えないほうがよく、一般的には室温で70℃まで保存されることを理解するのは難しいことではない。
【0020】
本発明では、混合系の調製は、大気環境で行うことができる。もちろん、副反応の発生を避けるために、混合系の調製は、不活性雰囲気で、例えば窒素、アルゴンの保護で行ってもよく、本発明はここでは特に限定されない。
【0021】
前述したように、上記混合系の調製は、ナノ二酸化チタン水分散液を水酸化バリウム水溶液に加えて実現することができ、水酸化バリウム水溶液をナノ二酸化チタン水分散液に加えて実現することもでき、また、並流混合の形態でナノ二酸化チタン水分散液と水酸化バリウム水溶液を混合して実現することもできる。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、ナノ二酸化チタン水分散液を急速に水酸化バリウム水溶液に加え、得られた混合系の温度を水酸化バリウム水溶液の温度に比べて少なくとも2℃低くさせる。このような形態で混合系を調製することは、高温の水酸化バリウム水溶液の供給、輸送に関係なく、プロセスと装置に対する要求が低く、より実現しやすい。
【0023】
本発明で使用されるナノ二酸化チタン水分散液は、ナノ二酸化チタン粉末を水に分散させることによって形成される。好ましくは、ナノ二酸化チタン水分散液において、ナノ二酸化チタンは体積計でメジアン粒径D50は30nm以下である。
【0024】
本発明は、ナノ二酸化チタン粉末又はナノ二酸化チタン水分散液のソースについては特に限定されず、市販又は自体で製造することができる。例えば特許出願201610879270.3又は201610879701.6に記載されたプロセスに従って、ナノ二酸化チタン粉末を製造して、それを比例的に水に分散させ、ナノ二酸化チタン水分散液を得ることができる。
【0025】
二酸化チタン水分散液の濃度を合理的に制御することは、合成過程中のナノチタン酸バリウム粉末の凝集などの問題を回避するのに役立つので、一般的にナノ二酸化チタン水分散液の質量濃度を20~50%に制御する。発明人の研究によると、質量濃度がこの区間にあれば、分散性が良いナノチタン酸バリウム粉末を得るだけでなく、この区間内にナノ二酸化チタン水分散液の質量濃度を変えると、ナノチタン酸バリウム粉末の平均粒径は大きく変化しない。
【0026】
理想的な状態では、BaとTiのモル比が1である場合、両者を十分に反応させてチタン酸バリウムを生成し、原料の残留を避けることができる。理解できるものとして、過剰なチタン源又はバリウム源は、チタン酸バリウムの合成に向ける方向に反応を進行することに有利であり、例えば過剰なBaは、反応生成物における二酸化チタン不純物の含有量を低減するのに役立つ。しかし、バリウムの大量の残余は、バリウム源の浪費をもたらすだけでなく、反応生成物を収集する時、空気に接触すると、炭酸バリウム不純物を導入する可能性もある。水熱反応効率及び経済的要因を総合的に考慮して、一般的にBaイオンとTi原子の間のモル比を1~4:1に制御することにより、最終に得られたナノチタン酸バリウム粉末はより高い純度を有し、また、二酸化チタンの完全な反応を確保することができる。
【0027】
本発明の高圧水熱合成反応条件は、現在の水熱法によってチタン酸バリウムを合成するプロセスを参照してもよい。本発明の具体的な実施過程において、通常、高圧水熱合成反応は、温度が100~250℃で、圧力が7MPaより小さいように制御される。具体的に、調製された混合系を高圧反応釜に転移させ、密封後に昇温し、100~250℃で反応させる。
【0028】
本発明は高濃度のナノ二酸化チタン水分散液を原料として使用し、従来の高圧水熱合成プロセスに比べて反応時間を大幅に短縮することができ、一般に、高圧水熱合成反応が完了するまでに約1時間、例えば1~24時間かかる。
【0029】
本発明の具体的な実施過程では、ナノチタン酸バリウム粉末に対する実際の需要に応じて、対応する高圧水熱合成反応条件を合理的に設定することができ、例えば、反応温度、反応時間などの条件を変えることにより、異なる粒径及び/又は異なる正方晶相(又は立方晶相)比重を有するナノチタン酸バリウム粉末を得る。
【0030】
高圧水熱合成反応が完了した後、温度を下げて反応生成物を収集し、洗浄と乾燥などの処理を経て、高品質のナノチタン酸バリウム粉末を得ることができる。本発明の具体的な実施過程において、脱イオン水、又は脱イオン水とエタノールを使用して、反応生成物を1回以上洗浄し、次いで濾過及び60~90℃での乾燥を経て、ナノチタン酸バリウム粉末を得る。
【0031】
本発明は、上記製造方法を用いて製造されるナノチタン酸バリウム粉末を提供する。
【0032】
本発明によって提供されるナノチタン酸バリウム粉末は、非常に小さい粒径を有し、その平均粒径は100nm以下であり、5~50nmにも達することができ、当該ナノチタン酸バリウム粉末の粒径は基本的に正規分布であり、計算された相対標準偏差は25%以下であるので、当該チタン酸バリウム粉末の粒子は非常に均一で、粒径分布は狭く、ナノチタン酸バリウム粉末のXRD図では、2θ角が44°~46°の間の回折ピークは、明らかな分裂がない単一ピークとして現れるので、結晶粒成長が完全で、結晶形が良いであると意味し、Ba/Ti比はいずれも約1であり、当該ナノチタン酸バリウム粉末は非常に高い純度を持つと意味する。よって、本発明で提供されるナノチタン酸バリウム粉末は非常に高い品質を有し、セラミック誘電体層の製作要求を満たすことができる。
【0033】
本発明は、セラミック誘電体層の製作方法を提供し、以下のステップを含み、
まず、前述の製造方法に従ってナノチタン酸バリウム粉末を製造し、次にナノチタン酸バリウム粉末をフレークにして焼成し、セラミック誘電体層を得る。
【0034】
具体的に、まず、必要に応じて異なる粒径のナノチタン酸バリウム粉末を製造し、次に異なる粒径のナノチタン酸バリウム粉末を比例的に混合し、例えば平均粒径が75nmと29nmの2つのナノチタン酸バリウム粉末を混合してもよく、又は、単一(平均)粒径のナノチタン酸バリウム粉末を原料としてもよく、また、又は、本発明の製造プロセスによって得られたナノチタン酸バリウム粉末を、粒径が100nmよりも大きいチタン酸バリウム粉末と混合して、密充填を実現してもよい。
【0035】
上記混合は、セラミック誘電体層の従来の混合プロセスを用いてもよく、例えば、異なる粒径のナノチタン酸バリウム粉末を、遊星ボールミルで450回転/分の速度で10時間湿式粉砕し、水又はエタノールを分散剤として用いて、最後に、得られたスラリーを約80℃の温度で乾燥させる。
【0036】
上記のフレーク状成形と焼成は、セラミック誘電体層の従来の製造プロセスを用いてもよく、例えば、混合後のチタン酸バリウム粉末とポリビニルアルコール水溶液を粉砕して混合し、プレス機と金型を用いてシートに押さえ、脱バインダーし、1100℃以上で焼結してセラミックを形成し、セラミック誘電体層を得る。
【0037】
本発明はまた、上記製作方法を用いて製作されるセラミック誘電体層を提供する。上記高品質のナノチタン酸バリウム粉末を原料として使用するので、セラミック誘電体層の高緻密性及び低空隙率を保証することができ、セラミック誘電体層に穴や亀裂が生じることを避け、MLCCなどのデバイスの小型化、薄型化、高性能の開発ニーズをより良く満たすことができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明で提供されるナノチタン酸バリウム粉末の製造方法は、まず、高濃度のナノ二酸化チタン水分散液を水酸化バリウム水溶液と急速に混合してから、高圧水熱合成を実施し、既存の水熱合成法によってナノチタン酸バリウム粉末を製造する場合、二酸化チタン濃度が高すぎるとチタン酸バリウム粒子が凝集し、及び二酸化チタン濃度が低すぎると、生産効率が低く、製品品質が悪いという問題を解決する。本発明の製造方法を用いて、ナノ二酸化チタンの濃度が非常に高いため、工業生産効率が著しく向上し、また、得られたナノチタン酸バリウム粉末は次のような利点がある。
1)粒径が小さい:平均粒径は100nm未満であり、5~50nmに達することもできる。
2)粒径が均一で、粒径分布が狭い:粒径分布の相対標準偏差は25%以内である。
3)結晶粒の成長が完全で、結晶形が良好である:XRD図では、2θ角は44°~46°の間の回折ピークは、明らかな分裂がない単一ピークとして現れる。
4)純度が高い:Ba/Ti比はいずれも約1であり、ほとんどが0.990~0.999の間である。
【0039】
本発明で提供されるナノチタン酸バリウム粉末は、上記製造方法を用いて製造される。当該ナノチタン酸バリウム粉末は、粒径が小さく、粒径分布が狭く、結晶形が良く、純度が高いという利点があるため、セラミック誘電体層の使用要求を満たすことができる。
【0040】
本発明で提供されるセラミック誘電体層の製作方法は、前述のナノチタン酸バリウム粉末の製造方法を含む。上記高品質のナノチタン酸バリウム粉末をフレークにして焼成するため、セラミック誘電体層厚度の高緻密性と低空隙率を確保するのに役立ち、セラミック誘電体層に穴や亀裂が生じるのを避けることができる。
【0041】
本発明で提供されるセラミック誘電体層は、前述のナノチタン酸バリウム粉末を原料として使用するので、当該セラミック誘電体層の厚さの高均一性、高緻密性及び低空隙率を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の実施例1~10で使用したナノ二酸化チタンを1%の質量濃度で脱イオン水に分散させて測定した粒径分布曲線である。
図2】本発明の実施例1~10で使用したナノ二酸化チタンを10%の質量濃度で脱イオン水に分散させて測定した粒径分布曲線である。
図3】本発明の実施例1~10で使用したナノ二酸化チタンを50%の質量濃度で脱イオン水に分散させて測定した粒径分布曲線である。
図4】本発明の実施例1において製造されたナノチタン酸バリウム粉末の透過型電子顕微鏡写真である。
図5】本発明の実施例1において製造されたナノチタン酸バリウム粉末の粒径分布図である。
図6】本発明の実施例1において製造されたナノチタン酸バリウム粉末のXRDパターンである。
図7】本発明の実施例2において製造されたナノチタン酸バリウム粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図8】本発明の実施例2において製造されたナノチタン酸バリウム粉末の粒径分布図である。
図9】本発明の実施例2において製造されたナノチタン酸バリウム粉末のXRDパターンである。
図10】本発明の実施例3において製造されたナノチタン酸バリウム粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図11】本発明の実施例3において製造されたナノチタン酸バリウム粉末の粒径分布図である。
図12】本発明の実施例3において製造されたナノチタン酸バリウム粉末のXRDパターンである。
図13】本発明の比較例1において製造されたナノチタン酸バリウム粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図14】本発明の比較例1において製造されたナノチタン酸バリウム粉末のXRDパターンである。
図15】本発明の比較例2において製造されたナノチタン酸バリウム粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図16】本発明の比較例2において製造されたナノチタン酸バリウム粉末のXRDパターンである。
図17】本発明の比較例3において製造されたナノチタン酸バリウム粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図18】本発明の比較例3において製造されたナノチタン酸バリウム粉末のXRDパターンである。
図19】異なる粒径のナノチタン酸バリウム粉末を異なる比率で混合して焼結することによって得られたチタン酸バリウム誘電体セラミックシートのXRDパターンである。
図20図19の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の実施例の目的、技術的解決策及び利点をより明確にするために、以下では、本発明の実施例における図面を組み合わせて、本発明の実施例における技術的解決策を明確完全に説明する。明らかに、説明した実施例は、本発明の実施例の全てではなく、一部である。本発明の実施例に基づいて、当業者は創造的な労働がない前提で取得される他のすべての実施例は、本発明の保護の範囲に属する。
【0044】
以下の実施例と比較例では、以下の検出技術を使用してナノチタン酸バリウム粉末又は二酸化チタン粉末の特性をテストし、判定する。
1、Malvernレーザー粒度計(Zetasizer Nano ZS)を使用してサンプルの分散粒度をテストし、ナノ二酸化チタンの水での体積分布分散粒径分布図を得、これにより、体積計でメジアン粒径D50を得る。
2、走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡を用いてサンプルの表面形態を観察し、約200個の粒子の粒径を統計し、チタン酸バリウムの一次粒子の平均粒径を得る。
3、相対標準偏差は、標準偏差と測定された平均値の比率であり、originソフトウェアによって提供される。
4、X線回折計(D8 Advance)を用いて、ステップ長が0.02°、積分時間が2sのパラメータで20~80°の範囲でX線回折パターンを収集し、TopasソフトウェアでRietveid法を用いて構造を精密化して格子定数比(c/a)を計算し、ここで、格子定数比が1に近いほど、結晶構造が立方晶相に近くなり、逆に正方晶相に近いなると意味し、正方晶相と立方晶相の含有量は、標準サンプルを使用せずに定量分析によって計算される。
5、BET法を用いて材料の比表面積を解析する。
6、ICP-MSを用いてチタン酸バリウム粉末のバリウムとチタンの比率を検出する。
【0045】
実施例1
室温下、二酸化チタンナノ粉末を脱イオン水に分散し、質量濃度48%のナノ二酸化チタン水分散液200gを得、
窒素の保護で、三口フラスコに710gの水酸化バリウムと700mLの脱イオン水を加え、溶解するまで90℃で攪拌し、
水酸化バリウムが析出しない場合、ナノ二酸化チタン水分散液を三口フラスコに急速に加えて、混合系の温度が2~5℃低下するのを測定し、急速に加える間に急速に攪拌し、添加が完了した後、約半時間攪拌を続け、均一に分散した混合系を得、
混合系を反応釜に移し、密封し、120℃で約16時間加熱し、冷却後に反応生成物を取り出し、脱イオン水で生成物を数回洗浄し、80℃で数時間乾燥させ、ナノチタン酸バリウム粉末を得る。
【0046】
本実施例で使用されるナノ二酸化チタン粉末は、体積計でD50≦10nmであり、1%、10%及び50%の濃度で脱イオン水に分散させて測定した粒径分布曲線はそれぞれ図1図2及び図3に示される。
【0047】
実施例2
高圧水熱合成反応の温度を160℃に変更し、他の条件は実施例1と同じであり、ナノチタン酸バリウム粉末を得る。
【0048】
実施例3
高圧水熱合成反応の温度を220℃に変更し、他の条件は実施例1と同じであり、ナノチタン酸バリウム粉末を得る。
【0049】
実施例4
高圧水熱合成反応の時間を4時間に変更し、他の条件は実施例1と同じであり、ナノチタン酸バリウム粉末を得る。
【0050】
実施例5
高圧水熱合成反応の時間を24時間に変更し、他の条件は実施例1と同じであり、ナノチタン酸バリウム粉末を得る。
【0051】
実施例6
脱イオン水の体積を変えずに、二酸化チタンの質量を元の半分に減らすことで、二酸化チタンと水酸化バリウムのモル比を変更し、他の操作ステップと条件はいずれも実施例1と同じである。
【0052】
実施例7~8
実施例7~8の製造プロセスは実施例2とほぼ同じであり、相違点は、実施例7のナノ二酸化チタン水分散液の質量濃度が36%であり、実施例8のナノ二酸化チタン水分散液の質量濃度が24%であることのみである。
【0053】
実施例9~10
実施例9~10の製造プロセスは実施例2とほぼ同じであり、相違点は、実施例9において、710gの水酸化バリウムと1000mLの脱イオン水を三口フラスコに加えて、溶解するまで70℃で攪拌し、実施例10において、710gの水酸化バリウムと300mLの脱イオン水を三口フラスコに加えて、溶解するまで110℃で攪拌することのみである。
【0054】
実施例11~12
実施例11~12の製造プロセスは実施例2とほぼ同じであり、相違点は、実施例11におけるナノ二酸化チタンは、体積計でメジアン粒径D50が約18nmであり、実施例12におけるナノ二酸化チタンは、体積計でメジアン粒径D50が約27nmであることのみである。
【0055】
前述の実施例1~12においてナノチタン酸バリウム粉末を合成する反応条件は、具体的に表1を参照し、得られたナノチタン酸バリウム粉末の性能試験結果は表2を参照する。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1で得られたナノチタン酸バリウム粉末の透過型電子顕微鏡(SEM)写真、粒径分布図及びXRDパターンはそれぞれ図4図5及び図6に示され、実施例2で得られたナノチタン酸バリウム粉末の走査型電子顕微鏡写真、粒径分布図及びXRDパターンはそれぞれ図7図8及び図9に示され、実施例3で得られたナノチタン酸バリウム粉末の走査型電子顕微鏡写真、粒径分布図及びXRDパターンはそれぞれ図10図11及び図12に示され、他の実施例の特性評価結果は図4図12を参照する。
【0059】
表2における比表面積と粒径データと、透過型電子顕微鏡写真又は走査型電子顕微鏡写真、粒径分布図の組み合わせによれば、本発明の実施例1~12における製造方法を用いて、得られたナノチタン酸バリウム粉末の平均粒径は100nmを超えず、5~50nmにも達することができ、且つ粒度分布が均一で、粒子粒径はほぼ正規分布を呈し、粒子分散が良好で、粒子の凝集が見られない。さらに計算すると、粒子粒径の相対標準偏差はいずれも23%を超えないので、本発明で提供される製造方法を用いると、粒径が小さくて均一なナノチタン酸バリウム粉末を得ることができる。
【0060】
XRD回折パターンをさらに組み合わせると、実施例1~12で得られたナノチタン酸バリウム粉末の2θ角が44°~46°の間の回折ピークは明らかな分裂のない単一ピークとして現れ、それぞれ格子定数比(c/a)を計算し、いずれも約1.0000であり、ほとんどが1.0000~1.0070の間に集中しているので、ナノチタン酸バリウム粉末の結晶粒の成長が完全で、結晶形が良く、主に立方晶相又はすべてが立方晶相であると意味する。
【0061】
表2のBa/Ti比データによれば、実施例1~12で得られたナノチタン酸バリウム粉末は、Ba/Ti比がいずれも約1であり、ほとんどが0.990~0.999の間に集中しているので、当該ナノチタン酸バリウム粉末は非常に高い純度を持つ。
【0062】
これから分かるように、本発明で提供される製造方法により、粒径が小さく、粒径分布が均一で、結晶成長が完全で、純度が高い高品質のナノチタン酸バリウム粉末が得られる。
【0063】
さらに、実施例1~3の試験結果によれば、水熱合成反応の温度を上げると、ナノチタン酸バリウム粉末の粒子粒径が大きくなり、立方晶相の含有量が減少して正方晶相の含有量が増加することがわかる。
【0064】
実施例1と4、実施例3と5の試験結果の比較によれば、水熱合成反応の時間を延長すると、ナノチタン酸バリウム粉末の粒子粒径が増加し、また、正方晶相の比重が増加し、立方晶相の比重が減少することもある。
【0065】
実施例2、7及び8の試験結果によれば、ナノ二酸化チタン水分散液の質量濃度、又は混合系における二酸化チタンの質量濃度を変えることは、ナノチタン酸バリウム粉末の粒子粒径及び正方晶相(又は立方晶相)の比重にも影響を及ぼす。概して、ナノ二酸化チタン水分散液の質量濃度は減少し、ナノチタン酸バリウム粉末の粒子粒径はわずかに減少したが、減少幅は明らかではなく、正方晶相の比重もわずかに減少したが、同じように減少幅は大きくない。例えば、ナノ二酸化チタン水分散液の質量濃度を48%から24%に低減すると、ナノチタン酸バリウム粉末の平均粒径は29nmから25nmに減少し、正方晶相の含有量を37.9%から37.5%に減少する。
【0066】
実施例1、11及び12の試験結果によれば、ナノ二酸化チタン水分散液における二酸化チタンのメジアン粒径を増加させると、ナノチタン酸バリウム粉末の粒子粒径は大きくなり、さらに正方晶相の比重は増加し、立方晶相の比重は減少する。
【0067】
これから推測できるものとして、本発明で提供される製造方法により、高濃度(20%~50%)のナノ二酸化チタン水分散液を原料として使用し、高圧水熱合成反応の前に、まずチタン源とバリウム源の急速混合を行うことで、既存の水熱合成プロセスによってナノチタン酸バリウムを製造する技術において、二酸化チタンの低濃度によるチタン酸バリウム粒子が大きいなどの欠点、及び、二酸化チタン濃度の高濃度による粒子凝集のせいで、粒径が小さいチタン酸バリウムが得られない欠点を克服することができ、粒径分布範囲が狭く、結晶粒成長が完全で、純度が高い高品質ナノチタン酸バリウム粉末を得ることができる。
【0068】
比較例1
比較例1の製造プロセスは実施例2とほぼ同じであり、相違点は、混合系を調製するとき、ナノ二酸化チタン粉末の質量が変わらないが(即ちバリウムイオンとチタン原子のモル比が変わらない)、ナノ二酸化チタンの質量濃度が8%であることのみである。
【0069】
当該ナノチタン酸バリウム粉末の具体的な物性試験結果は表3を参照し、そのSEM写真及びXRDパターンはそれぞれ図13及び図14に示される。計算により、平均粒径は33nmであり、実施例2で得られた結果(29nm)よりも大きい。二酸化チタン水分散液の濃度を下げると、得られたナノチタン酸バリウム粉末の平均粒径が大きくなると意味する。なお、ナノ二酸化チタン水分散液の濃度は8%だけであるので、ナノチタン酸バリウム粉末の生産効率は低い。
【0070】
比較例2
比較例2の製造プロセスは実施例2とほぼ同じであり、相違点は、混合系を調製するとき、水酸化バリウム水溶液を入れた三口フラスコにナノ二酸化チタン水分散液をゆっくり注入し、注入しながら急速に攪拌して混合し、注入過程中の混合液の温度を90±2℃の範囲で維持することのみである。
【0071】
当該ナノチタン酸バリウム粉末の具体的な物性試験結果は表3を参照し、そのSEM写真及びXRDパターンはそれぞれ図15及び図16に示される。
【0072】
計算により、平均粒径は37nmであり、実施例2(29nm)より明らかに高い。二酸化チタン水分散液をゆっくり注入すると、ナノチタン酸バリウム粉末の平均粒径が大きくなると意味する。
【0073】
比較例3
窒素の保護で、三口フラスコに710gの水酸化バリウム及び700mLの脱イオン水を加え、90℃で溶解するまで攪拌し、水酸化バリウムが析出しない場合、市販の5~10nm二酸化チタン粉96gを三口フラスコに加え、加えながら急速に攪拌して混合し、均一に分散した混合系を得て、半時間攪拌を続け、混合系を反応釜に移し、密封し、約120℃で約16時間加熱し、冷却後に反応釜から取り出し、脱イオン水とエタノールで生成物を数回洗浄し、約80℃で数時間乾燥させて、ナノチタン酸バリウム粉末を得る。
【0074】
当該ナノチタン酸バリウム粉末の具体的な物性試験結果は表3を参照し、そのSEM写真及びXRDパターンはそれぞれ図17図18に示される。
【0075】
比較例3と実施例2の試験結果を比較して、特に比較例3のSEM写真から明らかに分かるように、ナノ二酸化チタンを原料として直接使用すると(質量濃度100%のナノ二酸化チタン水分散液を原料として使用するに相当)、当該ナノ二酸化チタン粉末が非常に小さい粒径(5~10nm)を持っていても、得られたナノチタン酸バリウムの粒子凝集現象は非常に深刻であり、直接応用することができなく、特に、密充填を実現することができないので、セラミック誘電体層の原料として用いることができない。
【0076】
【表3】
【0077】
実施例13~18
実施例2と実施例3で得られたナノチタン酸バリウム粉末を、異なる比率で混合、フレーク状成形及び焼成し、セラミック誘電体層を得、具体的な方法は、
比率によって異なる粒径のチタン酸バリウム粉末を計量して、遊星ボールミルで450回転/分の速度で10時間粉砕し、得られたスラリーを80℃で乾燥させることである。
【0078】
セラミックシートの製作:単一粉末と調合粉末をそれぞれ5%のポリビニルアルコール水溶液と研磨して均一に混合し、プレス機と金型を用いて8MPaで直径12.7mm、厚さ約1mmの円片に押さえ、円片を550℃まで加熱し、4時間保温して脱バインダーし、1150℃まで加熱し続けて、2時間保温して焼結し、セラミックを形成し、セラミックシートの表面に金メッキされた電極の誘電特性をテストする。
【0079】
得られたセラミック誘電体層の密度と誘電率を検出するために、Agilent LCR測定器(4294A)を使用する。異なる比率で得られたセラミック誘電体層の密度及び誘電特性を表4に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
表4の試験結果から分かるように、本発明の実施例で得られたナノチタン酸バリウム粉末を異なる比率で混合、フレーク状成形及び焼成することにより、得られたセラミック誘電体層は、いずれも非常に高い密度と小さな空隙率を有し、良好な誘電特性を有している。特に、異なる(平均)粒径のナノチタン酸バリウム粉末を適切な比率で混合することは、セラミック誘電体層の密度をより高くし、誘電特性をより良くすることができる。
【0082】
図19は、実施例13、15、16及び18で得られたセラミック誘電体層のXRDパターンである。図19によれば、実施例13、15、16及び18のセラミック誘電体層は、いずれも良好な結晶構造を有していることが明らかになっている。図19における2θが約45°でのピークを拡大し、即ち図20に示すように、2つの粒径を混合して焼成する実施例15及び16は、単一粒径で焼成する実施例13及び18よりも明らかな二重ピーク構造を有しており、顕著な正方晶相チタン酸バリウムの特徴を有している。これは、異なる粒径のチタン酸バリウム粒子を適切な比率で混合、フレーク状成形、▲か▼焼することで、正方晶相がより良いチタン酸バリウムセラミック誘電体層を得ることができると意味する。
【0083】
最後に説明すべきものとして、上記の各実施例は、本発明の技術的手段を説明するためにのみ使用され、これに限定されるものではない。上記の各実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者は、依然として上記の各実施例に記載された技術的手段を修正し、又はその一部又は全部の技術的特徴を均等に置換することができ、これらの修正又は置換は、対応する技術的手段の本質を本発明の各実施例の技術的手段の範囲から逸脱させないと理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【国際調査報告】