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特表2022-530654ポリシラザンを含むコーティングを備えた医薬品包装
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-30
(54)【発明の名称】ポリシラザンを含むコーティングを備えた医薬品包装
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/32 20060101AFI20220623BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20220623BHJP
   B65D 23/08 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C03C17/32 A
A61J1/05 311
B65D23/08 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564503
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(85)【翻訳文提出日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 US2020030174
(87)【国際公開番号】W WO2020223179
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】62/841,446
(32)【優先日】2019-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】アルリギ,テレーズ フランソワーズ
(72)【発明者】
【氏名】ドン,ホアユン
(72)【発明者】
【氏名】ヘイズ,リチャード アレン
(72)【発明者】
【氏名】マッカーシー,ケヴィン ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ニウ,ウェイジュン
(72)【発明者】
【氏名】ワーグナー,フレデリック クリスティアン
【テーマコード(参考)】
3E062
4C047
4G059
【Fターム(参考)】
3E062AA20
3E062AB20
3E062AC06
3E062JA08
3E062JB30
3E062JC01
3E062JD08
4C047AA02
4C047AA05
4C047BB01
4C047BB24
4C047BB30
4C047BB32
4C047BB35
4C047CC03
4G059AA04
4G059AC16
4G059FA07
4G059FB03
(57)【要約】
本開示は、ポリシラザンを含むコーティングを備えた医薬品包装、およびその製造方法に関する。本開示の1つ以上の実施の形態において、医薬品包装は、第一面およびその第一面と反対の第二面を有するガラス容器を含むことがある。その第一面は、ガラス容器の外面であることがある。この医薬品包装は、ガラス容器の第一面の少なくとも一部の上に位置付けられたコーティングをさらに備えることがある。そのコーティングはポリシラザンを含むことがある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品包装において、
第一面および該第一面と反対の第二面を有するガラス容器であって、該第一面は、該ガラス容器の外面である、ガラス容器、および
前記ガラス容器の第一面の少なくとも一部の上に位置付けられたコーティングであって、1種類以上のポリシラザンを含むコーティング、
を備えた医薬品包装。
【請求項2】
前記ポリシラザンの内の1つ以上が有機部分を含む、請求項1記載の医薬品包装。
【請求項3】
前記コーティングが、少なくとも15質量%の前記1種類以上のポリシラザンを含む、請求項1または2記載の医薬品包装。
【請求項4】
前記コーティングの少なくとも一部が少なくとも5原子%の窒素を含む、請求項1から3いずれか1項記載の医薬品包装。
【請求項5】
前記コーティングがポリシランをさらに含む、請求項1から4いずれか1項記載の医薬品包装。
【請求項6】
前記コーティングがポリシロキサンをさらに含む、請求項1から5いずれか1項記載の医薬品包装。
【請求項7】
前記コーティングがポリシランおよびポリシロキサンをさらに含む、請求項1から6いずれか1項記載の医薬品包装。
【請求項8】
前記コーティングが、1マイクロメートル以下の厚さを有する、請求項1から7いずれか1項記載の医薬品包装。
【請求項9】
前記コーティングが、前記ガラス容器の第一面の少なくとも一部と直接接触している、請求項1から8いずれか1項記載の医薬品包装。
【請求項10】
前記コーティングを有する前記ガラス容器の第一面の前記一部が、約0.7以下の摩擦係数を有する、請求項1から9いずれか1項記載の医薬品包装。
【請求項11】
前記コーティングを有する前記ガラス容器の第一面の前記一部が、30分間に亘る少なくとも約250℃の温度での熱処理後に、約0.7以下の摩擦係数を維持する、請求項1から10いずれか1項記載の医薬品包装。
【請求項12】
前記医薬品包装を通る光透過率が、約400nmから約700nmの各波長について、未被覆の医薬品包装を通る光透過率の約55%以上である、請求項1から11いずれか1項記載の医薬品包装。
【請求項13】
前記医薬品包装が、30分間に亘る少なくとも約250℃の温度での熱処理後に、約400nmから約700nmの各波長について、前記未被覆の医薬品包装を通る光透過率の約55%以上の前記医薬品包装を通る光透過率を維持する、請求項1から12いずれか1項記載の医薬品包装。
【請求項14】
医薬品包装において、
第一面および該第一面と反対の第二面を有するガラス容器であって、該第一面は、該ガラス容器の外面であるガラス容器、および
前記ガラス容器の第一面の少なくとも一部の上に位置付けられたコーティングであって、シラザン単量体単位またはシラザン単量体単位を含むプレポリマーから形成されたコーティング、
を備えた医薬品包装。
【請求項15】
前記シラザン単量体単位またはシラザン単量体単位を含むプレポリマーの内の1つ以上が有機部分を含む、請求項14記載の医薬品包装。
【請求項16】
前記コーティングが、少なくとも15質量%の前記1種類以上のポリシラザンを含む、請求項14または15記載の医薬品包装。
【請求項17】
被覆された医薬品包装を製造する方法において、
ガラス容器の外面の第一面上にコーティング前駆体混合物を堆積させる工程であって、該コーティング前駆体混合物は、1種類以上のシラザン単量体単位またはシラザン単量体単位を含むプレポリマーを含む工程、および
前記コーティング前駆体混合物を加熱して、前記ガラス容器の外面上にコーティングを形成する工程であって、該コーティングは、1種類以上のポリシラザンを含む工程、
を有してなる方法。
【請求項18】
前記コーティング前駆体混合物の加熱が、乾式加熱である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記1種類以上のポリシラザンが有機部分を含む、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
前記コーティングが、少なくとも15質量%の前記1種類以上のポリシラザンを含む、請求項17から19いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2019年5月1日に出願された米国仮特許出願第62/841446号の米国法典第35編第120条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、広く、ガラス物品に関し、より詳しくは、医薬品包装などの被覆されたガラス物品に関する。
【背景技術】
【0003】
歴史的に、医薬品を包装するための好ましい材料として、気密性、光学的透明度、および他の材料と比べて優れた化学的耐久性のために、ガラスが使用されてきた。具体的には、医薬品包装に使用されるガラスは、その中に収容されている医薬組成物の安定性に影響を及ぼさないように適切な化学的耐久性を持つべきである。多くの医薬品用途のための適切な化学的耐久性を有するガラスとしては、化学的耐久性が実証された経歴があるASTM基準の「タイプIB」に入るガラス組成物が挙げられる。
【0004】
しかしながら、そのような用途へのガラスの使用は、ガラスの機械的性能により制限される。医薬産業において、ガラスの破損は末端消費者にとっての安全性の懸念である。何故ならば、破損したパッケージおよび/またはパッケージの内容物により、末端消費者が負傷するかもしれないからである。充填ライン上でガラスが破損すると、充填ラインからの隣接した密封包装内に含まれている割れたガラスの破片や不完全包装のために、薬物の代償を伴う損失またさらには潜在的なリコールも引き起こされる。さらに、壊滅的ではない破損(すなわち、ガラスにひびが入るが、破損していない場合)によって、内容物が無菌性を失うことがあり、これは転じて、費用のかかる製品リコールをもたらすかもしれない。
【0005】
詳しくは、ガラス製医薬品包装の製造と充填に使用される速い処理速度により、包装の表面に摩耗などの機械的損傷が生じることがある。何故ならば、その包装は、処理装置、取扱装置、および/または他の包装と接触するからである。この機械的損傷は、ガラス製医薬品包装の強度を著しく低下させ、ガラスに亀裂が生じる可能性を上昇させ、潜在的に、包装内に収容されている医薬品の無菌性が損なわれる、または包装を完全に破損してしまう。
【0006】
ガラス包装の機械的耐久性を改善する手法の1つは、ガラス包装を熱的および/または化学的に焼入れすることである。熱的焼入れは、形成後の急冷中に表面圧縮応力を生じさせることによって、ガラスを強化する。この技術は、平らな形状を有するガラス物品(窓など)、厚さが約2mmを超えるガラス物品、および熱膨張が大きいガラス組成物にうまくいく。しかしながら、医薬ガラス包装は、典型的に、形状が複雑であり(バイアル、管状、アンプルなど)、壁が薄く(時には約1~1.5mmの間)、低膨張ガラスから製造され、ガラス製医薬品包装が従来の熱的焼入れによる強化に適さなくなる。化学的焼入れも、表面圧縮応力の導入によってガラスを強化する。この応力は、その物品を溶融塩浴中に浸すことによって導入される。ガラスからのイオンが溶融塩からのより大きいイオンにより置換されるので、ガラスの表面に圧縮応力が生じる。化学的焼入れの利点は、複雑な形状や、薄い試料に使用することができ、ガラス基体の熱膨張特性に比較的鈍感であることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した焼入れ技術は、強化されたガラスの鈍い衝撃に耐える能力を改善するが、これらの技術は、製造中、出荷中および取扱中に生じることがある、引っ掻き傷などの摩耗に対するガラスの抵抗を改善するのにはそれほど効果がない。そのような欠陥により、ガラスがより破損を受けやすくなるであろう。したがって、機械的損傷に対する抵抗性が改善された代替ガラス物品が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つ以上の実施の形態において、医薬品包装は、第一面およびその第一面と反対の第二面を有するガラス容器を含むことがある。その第一面は、ガラス容器の外面であることがある。この医薬品包装は、ガラス容器の第一面の少なくとも一部の上に位置付けられたコーティングをさらに備えることがある。そのコーティングは1種類以上のポリシラザンを含むことがある。
【0009】
本開示の1つ以上の追加の実施の形態において、医薬品包装は、第一面およびその第一面と反対の第二面を有するガラス容器を含むことがある。その第一面は、ガラス容器の外面であることがある。この医薬品包装は、ガラス容器の第一面の少なくとも一部の上に位置付けられたコーティングをさらに備えることがある。そのコーティングは、シラザン単量体単位から形成された重合体またはシラザン単量体単位を含むプレポリマーを含むことがある。
【0010】
本開示のさらに1つ以上の追加の実施の形態において、被覆された医薬品包装は、ガラス容器の外面の第一面上にコーティング前駆体混合物を堆積させる工程、およびそのコーティング前駆体混合物を加熱して、ガラス容器の外面上にコーティングを形成する工程を含むことがある方法によって、製造されることがある。そのコーティング前駆体混合物は、1種類以上のシラザン単量体単位またはシラザン単量体単位を含むプレポリマーを含むことがあり、そのコーティングは、1種類以上のポリシラザンを含むことがある。
【0011】
ガラス物品を被覆するために使用できるコーティング、被覆ガラス物品、およびそれを製造する方法とプロセスの追加の特徴と利点が、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載された実施の形態を実施することによって認識されるであろう。
【0012】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、様々な実施の形態を記載しており、請求項の主題の性質と特徴を理解するための概要または骨子を提供する意図であることを理解すべきである。添付図面は、様々な実施の形態のさらなる理解を与えるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。その図面は、ここに記載された様々な実施の形態を示しており、説明と共に、請求項の主題の原理と作動を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、低摩擦コーティングを有するガラス容器の断面図
図2】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、単層低摩擦コーティングを有する図1のガラス容器の拡大断面図
図3】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、2つの表面間の摩擦係数を決定するための試験治具の説明図
図4】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、被覆ガラス容器のXPS深さプロファイルを示すグラフ
図5】ここに示され、記載された1つ以上の実施の形態による、被覆ガラス容器のラマン分光法を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここで、その例が図面に示されている、コーティング、コーティングを有するガラス物品、およびその製造方法の様々な実施の形態を詳しく参照する。そのような被覆ガラス物品は、制限なく、医薬品包装などを含む様々な包装用途に使用するのに適したガラス容器であることがある。被覆ガラス物品は、本開示に記載されたような被覆医薬品包装を称することがあることを理解すべきである。1つ以上の実施の形態において、コーティングおよび/または被覆医薬品包装は、最初のコーティング施用および硬化後、脱パイロジェン過程中に利用されるものなどの高温に暴露されたときに、熱安定性である。例えば、ここに記載された被覆ガラス物品は、熱処理後に低い摩擦係数を十分に維持することがある、および/または、そのような熱処理後に実質的に黄変しないことがある。これらの医薬品包装は、医薬組成物を収容しても、しなくてもよい。1つ以上の実施の形態において、コーティングは1種類以上のポリシラザンを含むことがある。いくつかの実施の形態において、コーティング全体がポリシラザンであることがある。1つ以上の実施の形態において、コーティングは、0.7未満など、素のガラスの摩擦係数より小さい摩擦係数を有するものなどの、低摩擦コーティングであることがある。現在開示されている1つ以上の実施の形態において、ポリシラザンを含むコーティングは、医薬品包装上のコーティングに利用できる他の高分子材料と比べて、望ましい機能性および/または性質を有することがある。例えば、ポリシラザンを含むまたはからなるコーティングは、他の部類の高分子から作られたコーティングと比べて、減少した摩擦係数、シランカップリング剤を使用せずに改善された付着、および/または施用中の非毒性溶媒中の溶解度を提供することがある。
【0015】
コーティング、コーティングを有するガラス物品、およびその形成方法の様々な実施の形態が、添付図面を具体的に参照して、ここにさらに詳しく記載される。ここに記載されたコーティングの実施の形態はガラス容器の外面に施されているが、記載されたコーティングは、非ガラス材料を含む多種多様な材料上、および制限なく、ガラスディスプレイパネルなどを含む容器以外の基体上のコーティングとして使用してもよいことを理解すべきである。
【0016】
一般に、コーティングは、医薬品包装として使用されることがある容器などのガラス物品の表面に施されることがある。そのコーティングは、低下した摩擦係数および増加した損傷抵抗などの有益な特性を被覆ガラス物品に与えることがある。低下した摩擦係数は、ガラスに対する摩擦損傷を軽減することによって、ガラス物品に改善された強度と耐久性を与えることがある。さらに、コーティングは、例えば、脱パイロジェン、凍結乾燥、オートクレーブ処理などの医薬品の包装に利用される包装工程および事前包装工程中に経験するものなどの、高温および他の条件への暴露後に、上述した改善された強度および耐久性の特徴を維持することがある。したがって、コーティングおよびコーティングを有するガラス物品は、脱パイロジェンに利用される条件などの条件で、熱安定性であることがある。
【0017】
図1は、被覆ガラス物品、詳しくは、被覆ガラス容器100の断面を概略示している。被覆ガラス容器100は、ガラス本体102およびコーティング120を備える。ガラス本体102は、外面108(すわち、第一面)と内面110(すなわち、第二面)との間に延在するガラス容器壁104を有する。ガラス容器壁104の内面110は、被覆ガラス容器100の内容積106を規定する。コーティング120は、ガラス本体102の外面108の少なくとも一部の上に位置している。ここに用いられているように、コーティングは、基板とその基板上に位置付けられたコーティングとの間に中間層が存在する場合など、基板と直接接触していないが、基板「上に位置付けられる」ことがある。いくつかの実施の形態において、コーティング120は、ガラス本体102の実質的に全外面108上に位置することがある。図1に示されたような、いくつかの実施の形態において、コーティング120は、外面108でガラス本体102と直接接触している(すなわち、結合されている)ことがある。コーティング120は、外面122およびガラス本体102とコーティング120の界面にあるガラス本体接触面124を有する。いくつかの追加の実施の形態において、コーティング120は、ガラス本体102の内部を(部分的または完全に)覆うように延在することがある。
【0018】
1つ以上の実施の形態において、被覆ガラス容器100は医薬品包装である。例えば、ガラス本体102は、バイアル(vial)、アンプル(ampoule)、アンプル(ampul)、アンプル(ampule)、瓶、フラスコ、バイアル(phial)、ビーカー、バケツ、カラフェ、バット、注射器本体などの形状にあることがある。被覆ガラス容器100は、どのような組成物を収容するために使用されてもよく、1つの実施の形態において、医薬組成物を収容するために使用されることがある。医薬組成物は、病気の医療診断、治療、処置、または予防に使用する目的のどのような化学物質を含んでもよい。医薬組成物の例としては、以下に限られないが、薬(medicines)、薬物(drugs)、薬剤(medications)、薬剤(medicaments)、治療薬(remedies)などが挙げられる。その医薬組成物は、液体、固体、ゲル、懸濁液、粉末などの形態にあることがある。
【0019】
ここで、図1および2を参照すると、1つの実施の形態において、コーティング120は、ここでは「単層構造」と称されることもある単一層構造を有する。例えば、コーティング120は、ポリシラザンのみの実質的に均一な組成、または1種類以上の追加の成分と混合されたポリシラザンを有することがある。コーティング120に2種類以上の成分が含まれる場合、コーティング120は、混合されるが、完全には均一ではないことがある。例えば、1つ以上の実施の形態において、その混合物の1種類以上の化学成分は、コーティング120の界面(例えば、ガラス本体102または外面122との界面)で集まることがある。そのような実施の形態において、化学成分の局所濃度は、コーティング120の異なる区域上で異なるであろう。しかしながら、ここに用いられている「混合された」という用語は、少なくとも2種類の化学成分の少なくともある程度の分散を有する層を称し、完全には均一ではない層を含むことを理解すべきである。一般に、混合層は、コーティング前駆体混合物中に含まれる2種類以上の化学成分の混合物として堆積される。
【0020】
ここに延べたように、コーティング120は、1種類以上のポリシラザンを含む。一般に、ポリシラザンは、ケイ素と窒素を含む高分子であり、これが高分子骨格を形成する。この骨格は、交互にケイ素と窒素を含み、時々、各窒素原子が3つまでのケイ素原子と結合され、またその逆も同様であり、環構造を形成することがある。このポリシラザンは、高分子骨格に結合した1つ以上の有機官能基をさらに含むことがある。ポリシラザンは、1つ以上の実施の形態において、[RSi-NRと表されることがあり、式中、R、R、およびRの各々は、水素原子または有機官能基であることがあり、nは反復単量体単位の数である。R、R、およびRが水素である実施の形態において、ペルヒドロポリシラザンまたはポリペルヒドリドシラザンと称されることがある、無機分子が形成される。ペルヒドロポリシラザンの例示の構造が、化学構造#1に示されている。
【0021】
【化1】
【0022】
1つ以上の実施の形態において、前記コーティングは、高分子鎖、環、三次元架橋、またはこれらの組合せを含むポリシラザンから作られることがある。例えば、ケイ素原子および窒素原子が交互になった環が、複雑な幾何学的配置に結合されることがあり、その配置は、巨大分子の形状に影響を及ぼすであろう。
【0023】
追加の実施の形態において、代表構造[RSi-NRにおけるR、R、およびRの1つ以上は有機部分であり、その場合、そのようなポリシラザンは、オルガノポリシラザンと称されることがある。このポリシラザン中の有機部分は、ポリシラザンの構造および性質に影響を及ぼすことがある。存在する有機部分の量および種類の調整は、有機部分の選択および含まれる有機部分の量により行われることがある。例えば、そのような実施の形態の1つは、1,1-ジメチルシラザン単量体単位または短鎖重合体から形成されたポリシラザンである。下記の化学構造#2は、ポリ(1,1-ジメチルシラザン)短鎖重合体を示し、ここで、代表構造[RSi-NRにおいて、RおよびRはメチル基であり、Rは水素であり、nは、短鎖重合体の反復単量体単位の数である。追加の実施の形態において、R、R、またはRのいずれも、アルキル基(環構造を有するものを含む、直鎖または分岐鎖の、メチル、エチル、プロピル、またはそれより大きいアルキル基など)、または二重結合、芳香環、および/またはヘテロ原子を含有するものなどの他のヒドロカルビル基であってよい。ヘテロ原子は、有機構造における非炭素および水素原子を称する。いくつかの実施の形態において、ポリシラザンは、ハロゲン原子を含まない。
【0024】
【化2】
【0025】
追加の実施の形態において、ポリシラザンは、化学構造#3に示された構造を有することがある。そのようなポリシラザンは、少なくとも3つの異なる単量体単位を含むポリオルガノシラザンである。化学構造#3の式におけるX、Y、およびZの量は変わることがある。
【0026】
【化3】
【0027】
制限なく、ここに検討されている例示のシラザン単量体単位または短鎖重合体単位としては、1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、2,2,4,4,6,6-ヘキサメチルシクロトリシラザン、1,3-ジエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリビニルシクロトリシラザン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジフェニルジシラザン、および1,3-ジメチル-1,1,3,3-テトラフェニルジシラザンが挙げられる。いくつかの実施の形態において、2つ以上のシラザン単量体単位または短鎖重合体単位を利用してシラザンの共重合体を形成することがあり、この共重合体は、この中の実施の形態に記載されているように、純粋なポリシラザンの材料、または他の材料と混合されたポリシラザンの材料であってよいことを理解すべきである。
【0028】
1つ以上の実施の形態において、コーティング120のポリシラザンは、著しくはまたは全く劣化しない熱安定性のポリマーであり、約30分に亘り、少なくとも約250℃、少なくとも約260℃、少なくとも約280℃、またさらには少なくとも約300℃など、脱パイロジェンに適した温度に曝露されたときに、ガラス表面に付着したままである。ここに記載されたようなポリシラザンは、1種類以上のシラザンから形成されたポリマーを含む。追加の実施の形態において、ポリシラザンは、シラザンの短鎖重合体を含むプレポリマーから形成されることがある。プレポリマーは、コーティング120中にポリシラザンを形成するためにさらに重合される部分的に重合された物質を称する。現在記載されているような、ポリシラザンを含むコーティング120は、他の非シラザン単量体または短鎖重合体とともに1種類以上のシラザン単位を含む共重合体も含む。例えば、ポリシラザンは、単量体単位としての単一のシラザン種から形成された単独重合体、2種類以上のシラザン種から形成された共重合体(ランダムとブロックの両方)、またはここに記載されたように、他の単量体種を追加に含みつつ、あるポリシラザン骨格構造を含む共重合体であることがある。
【0029】
ポリシラザンは、単量体またはプレポリマー、もしくはその組合せを利用する、加熱による硬化または他の方法など、重合手段によって形成されることがある。追加の実施の形態において、硬化は、室温での静置により自己誘発されることがある。
【0030】
コーティング120は、少なくとも5質量%、少なくとも10質量%、少なくとも15質量%、少なくとも20質量%、少なくとも30質量%、少なくとも40質量%、少なくとも50質量%、少なくとも60質量%、少なくとも70質量%、少なくとも80質量%、少なくとも90質量%、少なくとも95質量%、少なくとも98質量%、少なくとも99質量%、またさらには少なくとも99.9質量%のポリシラザンを含むことがあり、このポリシラザンは、シラザン単量体またはプレポリマーから生じることがある。シラザンのどの単一種から生じるコーティングの部分も、ポリシラザンの総質量の少なくとも5質量%、少なくとも10質量%、少なくとも15質量%、少なくとも20質量%、少なくとも30質量%、少なくとも40質量%、少なくとも50質量%、少なくとも60質量%、少なくとも70質量%、少なくとも80質量%、少なくとも90質量%、少なくとも95質量%、少なくとも98質量%、少なくとも99質量%、またさらには少なくとも99.9質量%であってよい。
【0031】
追加の実施の形態において、コーティング120は、シランおよび/またはシロキサンなどの他の化学成分との混合物中にポリシラザンを含むことがある。コーティング120のポリシラザンは、1つ以上のシランまたはシロキサンと直接結合していることがある。理論で束縛されないが、ポリシラザンをシロキサン(ポリシロキサンを含む)、シラン(ポリシランを含む)、またはその両方と混合すると、摩擦係数、熱安定性などのコーティングの性質が改善されるであろうと考えられる。1つ以上の実施の形態において、コーティング120は、10質量%以下、20質量%以下、30質量%以下、40質量%以下、50質量%以下、60質量%以下、70質量%以下、80質量%以下、90質量%以下、または95質量%以下のポリシラザン、またはシラザン単量体単位またはプレポリマーから生じた材料を含むことがある。いくつかの実施の形態において、コーティング120は、少なくとも10質量%、少なくとも20質量%、少なくとも30質量%、少なくとも40質量%、少なくとも50質量%、少なくとも60質量%、少なくとも70質量%、少なくとも80質量%、少なくとも90質量%、少なくとも95質量%のポリシラン、またはシラン単量体単位またはプレポリマーから生じた材料を含むことがある。いくつかの実施の形態において、コーティング120は、少なくとも10質量%、少なくとも20質量%、少なくとも30質量%、少なくとも40質量%、少なくとも50質量%、少なくとも60質量%、少なくとも70質量%、少なくとも80質量%、少なくとも90質量%、少なくとも95質量%のポリシラザン、またはシロキサン単量体単位またはプレポリマーから生じた材料を含むことがある。ポリシラン、ポリシロキサン、またはポリシラザンの割合は、一般に、コーティング溶液中に存在するシラン、シロキサン、および/またはシラザンの質量比によって決まるであろう。
【0032】
検討されているポリシラザン含有コーティングは、制限なく、Huntington Specialty Materialsから市販されているHSクラス配合物(HS-900、HS-907、HS-908、HS-924など)、Merck KGaAから市販されているDurazaneクラス配合物、Merckから市販されているAquamica NL110A-20、Kadko,Inc.から得られるKadkoポリシラザンコーティング、およびシンガポールのGyeonから市販されているQ2シリーズコーティングから形成されることがある。
【0033】
1つ以上の実施の形態において、コーティング120は、1種類以上のポリシロキサンを含む。いくつかの実施の形態において、シリコーン樹脂はそのポリシロキサンを形成することがある。このシリコーン樹脂は、RSi(X)の一般式を有する分岐したカゴ状オリゴシロキサンにより形成された高度に分岐した三次元ポリマーであることがあり、式中、Rは、非反応性置換基、通常は、メチルまたはフェニルであり、XはOHまたはHである。理論で束縛する意図はないが、樹脂の硬化が、Si-O-Si結合が形成される、Si-OH部分の縮合反応により生じると考えられる。このシリコーン樹脂は、M-樹脂、D-樹脂、T-樹脂、およびQ-樹脂を含む、4つの可能性のある官能性シロキサン単量体単位の内の少なくとも1つを有することがあり、ここで、M-樹脂は、一般式RSiOを有する樹脂を称し、D-樹脂は、一般式RSiOを有する樹脂を称し、T-樹脂は、一般式RSiOを有する樹脂を称し、Q-樹脂は、一般式SiOを有する樹脂(石英ガラス)を称する。いくつかの実施の形態において、樹脂は、DおよびT単位(DT樹脂)またはMおよびQ単位(MQ樹脂)から作られる。他の実施の形態において、他の組合せ(MDT、MTQ、QDT)も使用される。
【0034】
1つ以上の実施の形態において、コーティング120は、シランから形成された1種類以上のポリシランを含む。異なるシランの組合せが利用されることがある。1つ以上の実施の形態において、シランは、芳香族化学組成物であることがある。ここに用いられているように、芳香族化学組成物は、ベンゼン系および関連する有機部分の特徴である六炭素環を1つ以上含有する。この芳香族シラン化学組成物は、以下に限られないが、ジアルコキシシラン化学組成物、その加水分解物、またはそのオリゴマー、もしくはトリアルコキシシラン化学組成物、その加水分解物、またはそのオリゴマーなどのアルコキシシランであることがある。いくつかの実施の形態において、その芳香族シランは、アミン部分を含むことがあり、アミン部分を含むアルコキシシランであることがある。別の実施の形態において、芳香族シラン化学組成物は、芳香族アルコキシシラン化学組成物、芳香族アシルオキシシラン化学組成物、芳香族ハロゲンシラン化学組成物、または芳香族アミノシラン化学組成物であることがある。別の実施の形態において、芳香族シラン化学組成物は、アミノフェニル、3-(m-アミノフェノキシ)プロピル、N-フェニルアミノプロピル、または(クロロメチル)フェニル置換アルコキシ、アシルオキシ、ハロゲン、またはアミノシランからなる群より選択されることがある。例えば、芳香族アルコキシシランは、以下に限られないが、アミノフェニルトリメトキシシラン(「APhTMS」と呼ばれることがある)、アミノフェニルジメトキシシラン、アミノフェニルトリエトキシシラン、アミノフェニルジエトキシシラン、3-(m-アミノフェノキシ)ピロピルトリメトキシシラン、3-(m-アミノフェノキシ)プロピルジメトキシシラン、3-(m-アミノフェノキシ)プロピルトリエトキシシラン、3-(m-アミノフェノキシ)プロピルジエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルジメトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルジエトキシシラン、その加水分解物、もしくはそのオリゴマー化化学組成物であることがある。
【0035】
追加の実施の形態において、利用されたシランは、脂肪族化学組成物であることがある。ここに用いたように、脂肪族化学組成物は、以下に限られないが、アルカン、アルケン、およびアルキン等の開鎖構造を有する化学組成物などの非芳香族である。例えば、いくつかの実施の形態において、前記シランは、アルコキシシランである化学組成物を含むことがあり、以下に限られないが、ジアルコキシシラン化学組成物、その加水分解物、またはそのオリゴマー、もしくはトリアルコキシシラン化学組成物、その加水分解物、またはそのオリゴマーなどの脂肪族アルコキシシランであることがある。いくつかの実施の形態において、その脂肪族シランは、アミン部分を含むことがあり、アミノアルキルトリアルコキシシランなどの、アミン部分を含むアルコキシシランであることがある。1つの実施の形態において、脂肪族シラン化学組成物は、3-アミノプロピル、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル、ビニル、メチル、N-フェニルアミノプロピル、(N-フェニルアミノ)メチル、N-(2-ビニルベンジルアミノエチル)-3-アミノプロピル置換アルコキシ、アシルオキシ、ハロゲン、またはアミノシラン、その加水分解物、もしくはそのオリゴマーからなる群より選択されることがある。アミノアルキルトリアルコキシシランとしては、以下に限られないが、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(ここでは「GAPS」と称されることがある)、3-アミノプロピルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジエトキシシラン、その加水分解物、およびそのオリゴマー化された化学組成物が挙げられる。他の実施の形態において、その脂肪族アルコキシシラン化学組成物は、アルキルトリアルコキシシランまたはアルキルジアルコキシシランのように、アミン部分を含有しないことがある。そのようなアルキルトリアルコキシシランまたはアルキルジアルコキシシランとしては、以下に限られないが、ビニルトリメトキシシラン、ビニルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、その加水分解物、またはそのオリゴマー化された化学組成物が挙げられる。
【0036】
1つ以上の実施の形態において、コーティング120は、ポリシラザンに加え、1種類以上の熱安定性ポリマーを含む。検討されるポリマーとしては、制限なく、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリフェニル、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾキサゾール、ポリビスチアゾール、フルオロポリマー、シリコーン樹脂、および有機または無機充填剤の有無にかかわらない多環芳香族複素環ポリマーが挙げられる。例えば、その教示がここに引用される、米国特許第9763852号明細書に開示されたポリマーを、コーティング120中の現在開示されているポリシラザンと組み合わせて使用してもよい。
【0037】
現在開示されている実施の形態によれば、コーティング120は、少なくとも1原子パーセント(原子%)、少なくとも2原子%、少なくとも3原子%、少なくとも4原子%、少なくとも5原子%、少なくとも6原子%、少なくとも7原子%、少なくとも8原子%、少なくとも9原子%、少なくとも10原子%、少なくとも12原子%、少なくとも14原子%、少なくとも16原子%、少なくとも18原子%、または少なくとも20原子%の量で窒素を含むことがある。そのような決定は、コーティング120の全厚さに亘る窒素含有量のXPSデータを解析することによって行うことができる。例えば、窒素に関する原子濃度データ点を平均して、コーティング120中の窒素の全体の原子パーセントを決定することができる。
【0038】
追加の実施の形態において、コーティング120の少なくとも一部は、少なくとも1原子%、少なくとも2原子%、少なくとも3原子%、少なくとも4原子%、少なくとも5原子%、少なくとも6原子%、少なくとも7原子%、少なくとも8原子%、少なくとも9原子%、少なくとも10原子%、少なくとも12原子%、少なくとも14原子%、少なくとも16原子%、少なくとも18原子%、または少なくとも20原子%の量で窒素を含むことがある。この決定は、XPSデータにより、コーティング120の任意の1つの厚さでの窒素の最大原子濃度を見つけることによって行うことができる。
【0039】
1つ実施の形態において、コーティング120は、未硬化のコーティング前駆体混合物として施され、続いて、硬化されることがある。「コーティング前駆体混合物」は、シラザンまたはガラス本体102に施されている硬化したポリシラザン材料の他の前駆体を含有する溶液を称する。いくつかの実施の形態において、そのコーティング前駆体混合物は、ポリマー前駆体(例えば、ポリシラザンの単量体またはプレポリマー)とともに1種類以上の有機溶媒を含む。そのコーティング前駆体混合物は、施用と被覆ガラス容器100の硬化後に(例えば、吹きつけ塗りまたは浸漬被覆と、その後の加熱による)、コーティング120中の成分になる材料を含有する1種類以上の化学成分を含むことがある。すなわち、前駆体の原子の少なくともいくつかは、形成されるコーティングの原子になる。追加の実施の形態において、コーティング前駆体混合物中にプレポリマーまたさらには完全には重合したポリシラザンが含まれることがある。
【0040】
再び図1および2を参照すると、コーティング120は、コーティング120が単層を構成する1つの堆積工程において施されることがある。堆積は、浸漬過程によることがある、またはコーティング120は、吹きつけまたは他の適切な手段により施され、必要に応じて、乾燥されることがある。ここに記載されたコーティング120の適切な堆積方法の記載が、ここに全てが引用される、「Glass Articles with Low-Friction Coatings」と題する米国特許出願第13/780740号明細書に見つかるであろう。追加の実施の形態において、多重堆積が利用されることがある。例えば、多重コーティング前駆体混合物堆積が行われ、次いで、硬化されることがあり、または硬化は、各堆積工程の後に行われることがあり、よって、硬化した層の上に、前駆体の第2のコーティングが施される。堆積技術は、ガラス物品の形状に依存するであろうことを理解すべきである。
【0041】
コーティング前駆体混合物の堆積後、制御された空気流または上昇した温度など、受動的な乾燥工程、または能動的な乾燥工程のいずれかにより、コーティング前駆体混合物の有機溶媒の少なくとも一部が放出される。次いで、被覆されたガラス容器100は、熱への曝露により硬化されることがある。ここに記載されたように、「硬化」は、コーティング上の材料を前駆体材料から中間または最終材料に変える任意の過程(通常は加熱による)を称する。例えば、いくつかの実施の形態は、金属酸化物前駆体から成分を放出し、金属酸化物を形成する加熱による硬化を利用する。そのような硬化は、200℃から300℃など、ポリシラザンを重合するのに十分な温度で、被覆されたバイアルを加熱する工程を含むことがある。硬化条件は、利用される前駆体材料の種類に依存するであろう。理論で束縛されないが、硬化工程により、コーティング前駆体混合物のどの残留する溶媒も放出されると考えられる。いくつかの実施の形態において、硬化は、少なくとも300℃、少なくとも400℃、少なくとも500℃、またさらには少なくとも600℃など、より高い温度であることがある。
【0042】
いくつかの実施の形態において、硬化加熱が必要ないことがあることを理解すべきである。。追加の実施の形態において、ポリシラザンを硬化させるために、乾燥加熱が使用されることがある。乾燥加熱は、ほぼ大気湿度で行われる、または少なくとも水分が能動的に添加されない、加熱を称することがある。追加の実施の形態において、硬化環境は、窒素ガス硬化過程が利用される場合など、湿度が十分にないことがある。これは、蒸気を利用するいくつかの公知のポリシラザン硬化過程とは対照的である。乾燥加熱は、硬化したコーティング中の有機官能基の存在を促進させるであろうし、それに対して、蒸気処理は、ポリシラザンの水との反応を促進させるであろうし、これにより、Hおよび/またはNHが放出され、シロキサン網状構造が形成されるであろうと考えられる。
【0043】
ガラス本体102に施されるコーティング120は、約100μm以下、約10μm以下、約8μm以下、約6μm以下、約4μm以下、約3μm以下、約2μm以下、またさらには約1μm以下の厚さを有することがある。いくつかの実施の形態において、コーティング120の厚さは、約800nm以下、約600nm以下、約400nm以下、約300nm以下、約200nm以下、またさらには約100nm以下であることがある。他の実施の形態において、コーティング120は、約90nm未満の厚さ、約80nm未満の厚さ、約70nm未満の厚さ、約60nm未満の厚さ、約50nm未満の厚さ、またさらには約25nm未満の厚さであることがある。実施の形態において、コーティング120は、少なくとも約10nm、少なくとも約15nm、少なくとも約20nm、少なくとも約25nm、少なくとも約30nm、少なくとも約35nm、少なくとも約40nm、またさらには少なくとも約45nmの厚さを有することがある。例示の実施の形態は、約20nmから約50nm、約25nmから約45nm、または約30nmから約40nmの厚さを有することがある。理論で束縛されないが、比較的薄いコーティング(すなわち、20nm未満)はガラスを適切には保護せず、バイアルとバイアルとの接触中にガラス表面に浅割れ目を生じることがあると考えられる。それに加え、そのような比較的薄いコーティングは、脱パイロジェン過程に耐えられないであろう。他方で、比較的厚いコーティング(すなわち、50nm超)は、より容易には損傷を受けるであろうし、コーティング中の摩耗痕跡がバイアルとバイアルとの接触から現れるであろう。比較的厚いコーティングの場合、摩耗痕跡は、ガラス中ではなく、コーティング中の変形であると考えられることに留意のこと。ここに記載されたように、摩耗痕跡は、痕跡または傷(scuff)を残す、コーティング上の摩耗により生じた目に見える痕跡である。いくつかの実施の形態において、摩耗痕跡は、ガラスの浅割れ目および/または比較的高い摩擦係数(例えば、0.7以上)を表すことがある。1つ以上の実施の形態において、所望のコーティング厚は、ガラス容器に施される溶媒/ポリマー混合物中の単量体またはプレポリマーの量を微調整することによって達成されることがある。
【0044】
いくつかの実施の形態において、コーティング120は、ガラス本体102の全体に亘り均一な厚さではないことがある。例えば、被覆されたガラス容器100は、コーティング120を形成する1種類以上の被覆溶液にガラス本体102を接触させる過程のために、いくつかの区域においてより厚いコーティング120を有することがある。いくつかの実施の形態において、コーティング120は、不均一な厚さを有することがある。例えば、コーティングの厚さは、被覆されたガラス容器100の異なる領域に亘り異なることがあり、これにより、選択された領域における保護が促進させることがある。
【0045】
医薬品包装の他のポリマー系コーティングに対して、現在開示されているポリシラザンコーティングのいくつかの非限定的な利点が観察されるであろう。そのような利点の1つは、ポリシラザンとガラスの表面シラノールとの間のより強力な物理的相互作用および化学結合による、ガラス表面上の改善された付着であろう。対照的に、ポリイミドコーティングは、コーティングの付着を向上させるために、カップリング剤としてのアミノ官能化アルコキシシランが必要なことがあり、これにより、費用と加工の難点が増す。それに加え、またはそれに代えて、ポリシラザンを形成する前駆体は、低沸点の様々な環境に優しい有機溶媒中に可溶性であろうが、ポリイミドコーティングなどの、他のコーティング系の前駆体は、トルエン/DMF中のポリアミド酸Novastrat 800、およびNMP中のPMDA-ODA(ポリ(4,4’-オキシジフェニレン-ピロメリトイミド))のポリアミド酸前駆体など、沸点が非常に高い溶媒中に溶かされる必要があるであろう。例えば、現在開示されている実施の形態にとって、酢酸tert-ブチル、トルエン、または酢酸n-プロピルが適切な溶媒であろう。
【0046】
コーティング120を施すことのできる、医薬品包装のガラス容器は、様々な異なるガラス組成物から形成されることがある。そのガラス物品の特定の組成物は、そのガラスが所望の組の物理的性質を有するように、特定の用途にしたがって選択されるであろう。1つ以上の実施の形態によれば、ガラスは、アルカリホウケイ酸ガラスなど、化学的耐久性および低い熱膨張を示すことが知られている組成物であることがある。別の実施の形態によれば、ASTM基準E438-92によるタイプI、クラスBのガラスから形成されることがある。
【0047】
前記ガラス容器は、約25×10-7/℃から80×10-7/℃の範囲の熱膨張係数を有するガラス組成物から形成されることがある。例えば、ここに記載されたいくつかの実施の形態において、ガラス本体102は、イオン交換による強化に適したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物から形成される。そのような組成物は、一般に、SiO2、Al23、少なくとも1種類のアルカリ土類酸化物、およびNa2Oおよび/またはK2Oなどの、1種類以上のアルカリ酸化物の組合せを含む。これらの実施の形態のいくつかにおいて、そのガラス組成物は、ホウ素およびホウ素を含有する化合物を含まないことがある。いくつかの他の実施の形態において、そのガラス組成物は、例えば、SnO2、ZrO2、ZnO、TiO2、As23などの1種類以上の追加の酸化物を微量でさらに含むことがある。これらの成分は、清澄剤として、および/またはそのガラス組成物の化学的耐久性をさらに向上させるために、加えられることがある。別の実施の形態において、ガラス表面は、SnO2、ZrO2、ZnO、TiO2、As23などを含む金属酸化物コーティングを含むことがある。
【0048】
ここに記載されたいくつかの実施の形態において、ガラス本体102は、イオン交換強化などによって強化されており、ここでは、「イオン交換ガラス」と称される。例えば、ガラス本体102は、約300MPa以上、またさらには約350MPa以上の圧縮応力を有することがある。いくつかの実施の形態において、その圧縮応力は、約300MPaから約900MPaの範囲にあることがある。しかしながら、いくつかの実施の形態において、ガラス中の圧縮応力は、300MPa未満または900MPa超であってもよいことを理解すべきである。いくつかの実施の形態において、ガラス本体102は、20μm以上の層の深さを有することがある。これらの実施の形態のいくつかにおいて、その層の深さは50μm超、またさらには75μm以上であることがある。さらに他の実施の形態において、その層の深さは100μmまでまたはそれより大きいことがある。前記イオン交換強化は、約350℃から約500℃の温度に維持された溶融塩浴中で行われることがある。所望の圧縮応力を達成するために、ガラス容器(未被覆)は、その塩浴中に、約30時間未満、またさらには約20時間未満に亘り浸漬されることがある。例えば、1つの実施の形態において、ガラス容器は、約8時間に亘り450℃の100%のKNO3塩浴中に浸漬される。
【0049】
1つの特に典型的な実施の形態において、ガラス本体102は、Corning,Incorporatedに譲渡された、「Glass Compositions with Improved Chemical and Mechanical Durability」と題する、2012年10月25日に出願された係属中の米国特許出願第13/660894号明細書に記載されたイオン交換可能なガラス組成物から形成されることがある。
【0050】
しかしながら、ここに記載された被覆ガラス容器100は、制限なく、イオン交換可能なガラス組成物およびイオン交換可能ではないガラス組成物を含む他のガラス組成物から形成されてもよいことを理解すべきである。例えば、いくつかの実施の形態において、ガラス容器は、例えば、SchottタイプIBホウケイ酸ガラスなどのタイプIBガラス組成物から形成されることがある。
【0051】
ここに記載されたいくつかの実施の形態において、前記ガラス物品は、加水分解耐性に基づいて、USP(米国薬局方)、EP(ヨーロッパ薬局方)、およびJP(日本薬局方)などの規制当局により記載された医療用ガラスの基準を満たすガラス組成物から形成されることがある。USP 660およびEP 7によれば、ホウケイ酸ガラスは、タイプIの基準を満たし、非経口包装に日常的に使用されている。ホウケイ酸ガラスの例としては、以下に限られないが、Corning(登録商標)Pyrex(登録商標)7740、7800およびWheaton 180、200、および400、Schott Duran、Schott Fiolax、KIMAX(登録商標)N-51A、Gerrescheimer GX-51 Flintなどが挙げられる。ソーダ石灰ガラスは、タイプIIIの基準を満たし、溶液または緩衝剤を製造するために後で溶かされる乾燥粉末の包装に許容される。タイプIIIのガラスは、アルカリに反応しにくいことが実証されている液体製剤を包装するのにも適している。タイプIIIのソーダ石灰ガラスの例に、Wheaton 800および900がある。脱アルカリ化されたソーダ石灰ガラスは、より高レベルの水酸化ナトリウムおよび酸化カルシウムを有し、タイプIIの基準を満たす。これらのガラスは、タイプIのガラスほど浸出に対して耐性はないが、タイプIIIのガラスよりは耐性がある。タイプIIのガラスは、その保管寿命に亘りpH7未満のままである製品に使用できる。その例に、硫酸アンモニウム処理されたソーダ石灰ガラスがある。これらの医療用ガラスは、様々な化学組成を有し、20~85×10-7/℃の範囲の線熱膨張係数(CTE)を有する。
【0052】
ここに記載された被覆ガラス物品がガラス容器である場合、被覆ガラス容器100のガラス本体102は、様々な形態を取ることがある。例えば、ここに記載されたガラス本体を使用して、バイアル、アンプル、カートリッジ、注射器本体および/または医薬組成物を貯蔵するための任意の他のガラス容器などの被覆ガラス容器100を形成することができる。さらに、被覆前にガラス容器を化学強化する能力を利用して、そのガラス容器の機械的耐久性をさらに改善することができる。したがって、少なくとも1つの実施の形態において、そのガラス容器は、コーティングを施す前に、イオン交換強化されることがあることを理解すべきである。あるいは、米国特許第7201965号明細書に記載されているような、熱焼入れ、火炎研磨、および積層などの他の強化方法を使用して、被覆前にガラスを強化しても差し支えない。
【0053】
被覆ガラス容器が、被覆されたままの状態にあるとき(すなわち、該当する場合、硬化以外のどのような追加の処理も行わずに、コーティングの施用後)、または制限なく、洗浄、凍結乾燥、脱パイロジェン、オートクレーブ処理などを含む、医薬品充填ラインで行われる処理と類似または同一の処理などの1つ以上の加工処理後に、被覆ガラス容器の様々な性質(すなわち、摩擦係数、水平圧縮強度、4点曲げ強度)を測定してよい。
【0054】
脱パイロジェンは、パイロジェンが物質から除去される過程である。医薬品包装などのガラス物品の脱パイロジェンは、試料がある期間に亘り高温に加熱される熱処理をその試料に施すことによって行うことができる。例えば、脱パイロジェンは、制限なく、20分、30分、40分、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、および72時間を含む、約30秒から約72時間の期間に亘り、約250℃と約380℃の間の温度にガラス容器を加熱する工程を含むことがある。この熱処理後、ガラス容器は室温まで冷却される。医薬産業に通常用いられる従来の脱パイロジェン条件の1つは、約30分に亘る約250℃の温度での熱処理である。しかしながら、より高い温度が利用される場合、熱処理の時間が減少するであろうと考えられる。ここに記載されたような被覆ガラス容器は、ある期間に亘り高温に暴露されることがある。ここに記載された加熱の高温および期間は、ガラス容器を脱パイロジェン化するのに十分であってもなくてもよい。しかしながら、ここに記載された加熱の高温および期間のいくつかは、ここに記載された被覆ガラス容器などの被覆ガラス容器を脱パイロジェン化するのに十分であることを理解すべきである。例えば、ここに記載されたように、被覆ガラス容器は、約30分の期間に亘り、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、または約400℃の温度に暴露されることがある。脱パイロジェン過程は30分以外の時間も有することがあり、30分は、本開示に亘り、例えば、規定の脱パイロジェン条件への曝露後の摩擦係数試験など、比較目的のための脱パイロジェン温度について使用されることが認識されている。
【0055】
ここに用いたように、凍結乾燥条件(すなわち、フリーズ・ドライ)は、試料が、タンパク質を含有する液体で充填され、次に、-100℃などの低温で凍結され、その後、真空下において-15℃などの温度で20時間などの時間に亘り水の昇華が行われる過程を称する。
【0056】
ここに用いたように、オートクレーブ処理条件は、100℃での10分間などの期間に亘る試料の蒸気パージであって、その後、試料が121℃の環境に暴露される20分間の滞留時間が行われ、その後、121℃での30分間の熱処理が行われる、蒸気パージを称する。オートクレーブ処理は、蒸気を利用する硬化過程などの硬化過程とは異なることを理解すべきである。
【0057】
前記コーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数(μ)は、同じガラス組成物から形成された未被覆ガラス容器の表面の摩擦係数より低いことがある。摩擦係数(μ)は、2つの表面間の摩擦の定量的測定であり、表面粗さ、並びに以下に限られないが、温度および湿度などの環境条件を含む、第1と第2の表面の機械的性質と化学的性質の関数である。ここに用いたように、被覆ガラス容器100の摩擦係数測定は、第1のガラス容器(約16.00mmと約17.00mmの間の外径を有する)の外面と、その第1のガラス容器と実質的に同一の第2のガラス容器の外面との間の摩擦係数として報告され、ここで、第1と第2のガラス容器は、同じ本体と同じコーティング組成物(施された場合)を有し、製造前、製造中、および製造後に同じ環境に暴露されてきた。この中に特に明記のない限り、摩擦係数は、ここに記載されたように、バイアル上バイアル試験治具で測定された30Nの垂直荷重で測定された最大摩擦係数を称する。しかしながら、特定の印加荷重で最大摩擦係数を示す被覆ガラス容器は、より小さい荷重で同じまたは良好な(すなわち、より低い)最大摩擦係数も示すであろうことを理解すべきである。例えば、被覆ガラス容器が、50Nの印加荷重の下で0.5以下の最大摩擦係数を示す場合、その被覆ガラス容器は、25Nの印加荷重の下で0.5以下の最大摩擦係数も示すであろう。最大摩擦係数を測定するために、試験の始めまたはその近くでの極大は排除される。何故ならば、試験の始めまたはその近くでのそのような極大は、静摩擦係数を表すからである。この中の実施の形態に記載されたように、互いに対する容器の速度が約0.67mm/sである摩擦係数を測定した。
【0058】
ここに記載された実施の形態において、前記ガラス容器(被覆と未被覆の両方)の摩擦係数は、バイアル上バイアル試験治具により測定される。試験治具200が、図3に概略示されている。その治具内に配置された2つのガラス容器の間の摩擦力を測定するためにも、同じ装置を使用してもよい。バイアル上バイアル試験治具200は、交差形態(すなわち、互いに垂直)に配置された第1のクランプ212および第2のクランプ222を備える。第1のクランプ212は、第1のベース216に取り付けられた第1の固定アーム214を備える。第1の固定アーム214は、第1のガラス容器210に付着し、第1のガラス容器210を第1のクランプ212に対して静止状態に保持する。同様に、第2のクランプ222は、第2のベース226に取り付けられた第2の固定アーム224を備える。第2の固定アーム224は、第2のガラス容器に付着し、それを第2のクランプ222に対して静止状態に保持する。第1のガラス容器210の長軸および第2のガラス容器220の長軸が、互いに対して約90°の角度で、x-y軸により規定される水平面上に位置するように、第1のガラス容器210が第1のクランプ212上に配置され、第2のガラス容器220が第2のクランプ222上に配置される。
【0059】
第1のガラス容器210は、接触点230で第2のガラス容器220と接触して配置される。x-y軸により規定される水平面に垂直な方向に、垂直力が印加される。この垂直力は、静止重または静止した第1のクランプ212上にある第2のクランプ222に印加された他の力により印加してよい。例えば、錘が第2のベース226上に配置されることがあり、第1のベース216が安定表面上に置かれることがあり、それゆえ、接触点230で第1のガラス容器210と第2のガラス容器220との間に測定可能な力を生じさせる。あるいは、力は、UMT(ユニバーサル機械式試験機)装置などの機械式装置で印加してもよい。
【0060】
第1のクランプ212または第2のクランプ222は、第1のガラス容器210および第2のガラス容器220の長軸と45°の角度にある方向に、互いに対して動かすことができる。例えば、第1のクランプ212は静止状態に保持されることがあり、第2のクランプ222は、第2のガラス容器220がx軸の方向に第1のガラス容器210を横断して動くように動かされることがある。同様の設定が、The Journal of Adhesion、78:113-127,2002の「Scratch Resistant Polyimide Coatings for Alumino Silicate Glass surfaces」にR.L.De Rosa等により記載されている。摩擦係数を測定するために、第2のクランプ222を動かすのに要する力および第1と第2のガラス容器210、220に印加される垂直力がロードセルにより測定され、摩擦係数が、摩擦力と垂直力の割合として計算される。その治具は、25℃および50%の相対湿度の環境で作動される。
【0061】
ここに記載された実施の形態において、前記コーティングを有する被覆ガラス容器の部分は、先に記載されたバイアル上バイアル試験治具で測定して、同様の被覆ガラス容器に対して、約0.7以下の摩擦係数を有する。他の実施の形態において、その摩擦係数は、約0.6以下、またさらには約0.5以下であることがある。いくつかの実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分は、約0.4以下、またさらには約0.3以下の摩擦係数を有する。約0.7以下の摩擦係数を有する被覆ガラス容器は、一般に、摩擦損傷に対して改善された耐性を示し、その結果、改善された機械的性質を有する。例えば、従来のガラス容器(コーティングを持たない)は、0.7超の摩擦係数を有するであろう。
【0062】
ここに記載されたいくつかの実施の形態において、前記コーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、同じガラス組成物から形成された未被覆ガラス容器の表面の摩擦係数よりも少なくとも20%小さい。例えば、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、同じガラス組成物から形成された未被覆ガラス容器の表面の摩擦係数よりも、少なくとも20%小さい、少なくとも25%小さい、少なくとも30%小さい、少なくとも40%小さい、またさらには少なくとも50%小さいことがある。
【0063】
いくつかの実施の形態において、前記コーティングを有する被覆ガラス容器の部分は、30分の期間に亘る、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、または約400℃の温度への暴露後に約0.7以下の摩擦係数を有することがある。他の実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分は、30分の期間に亘る、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、または約400℃の温度への暴露後に約0.7以下(すなわち、約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、またさらには約0.3以下)の摩擦係数を有することがある。いくつかの実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、30分間の約250℃(または約260℃)の温度への暴露後に、約30%を超えて増加しないであろう。他の実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、30分の期間に亘る、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、または約400℃の温度への暴露後に、約30%を超えて(すなわち、約25%、約20%、約15%、またさらには約10%しか)増加しないであろう。他の実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、30分の期間に亘る、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、または約400℃の温度への暴露後に、約0.5を超えて(すなわち、約0.45、約0.4、約0.35、約0.3、約0.25、約0.2、約0.15、約0.1、またさらには約0.05しか)増加しないであろう。いくつかの実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、30分の期間に亘る、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、または約400℃の温度への暴露後に、全く増加しないであろう。
【0064】
いくつかの実施の形態において、前記コーティングを有する被覆ガラス容器の部分は、10分に亘る約70℃の温度の水浴中に浸漬された後に、約0.7以下の摩擦係数を有することがある。他の実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分は、5分、10分、20分、30分、40分、50分、またさらには1時間に亘る約70℃の温度の水浴中に浸漬された後に、約0.7以下(すなわち、約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、またさらには約0.3以下)の摩擦係数を有することがある。いくつかの実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、10分に亘る約70℃の温度の水浴中に浸漬された後に、約30%を超えて増加しないであろう。他の実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、5分、10分、20分、30分、40分、50分、またさらには1時間に亘る約70℃の温度の水浴中に浸漬された後に、約30%を超えて(すなわち、約25%、約20%、約15%、またさらには約10%しか)増加しないであろう。いくつかの実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、5分、10分、20分、30分、40分、50分、またさらには1時間に亘る約70℃の温度の水浴中に浸漬された後に、全く増加しないであろう。
【0065】
いくつかの実施の形態において、前記コーティングを有する被覆ガラス容器の部分は、凍結乾燥条件への暴露後に、約0.7以下の摩擦係数を有することがある。他の実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分は、凍結乾燥条件への暴露後に、約0.7以下(すなわち、約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、またさらには約0.3以下)の摩擦係数を有することがある。いくつかの実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、凍結乾燥条件への暴露後に、約30%を超えて増加しないであろう。他の実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、凍結乾燥条件への暴露後に、約30%を超えて(すなわち、約25%、約20%、約15%、またさらには約10%しか)増加しないであろう。いくつかの実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、凍結乾燥条件への暴露後に、全く増加しないであろう。
【0066】
いくつかの実施の形態において、前記コーティングを有する被覆ガラス容器の部分は、オートクレーブ処理条件への暴露後に、約0.7以下の摩擦係数を有することがある。他の実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分は、オートクレーブ処理条件への暴露後に、約0.7以下(すなわち、約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、またさらには約0.3以下)の摩擦係数を有することがある。いくつかの実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、オートクレーブ処理条件への暴露後に、約30%を超えて増加しないであろう。他の実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、オートクレーブ処理条件への暴露後に、約30%を超えて(すなわち、約25%、約20%、約15%、またさらには約10%しか)増加しないであろう。いくつかの実施の形態において、そのコーティングを有する被覆ガラス容器の部分の摩擦係数は、オートクレーブ処理条件への暴露後に、全く増加しないであろう。
【0067】
ここに記載された被覆ガラス容器は、水平圧縮強度を有する。ここに記載されたような、その水平圧縮強度は、そのガラス容器の長軸に対して平行に向けられた2つの平行なプラテンの間に被覆ガラス容器100を水平に配置することによって測定される。次に、ガラス容器の長軸に対して垂直な方向にプラテンにより、被覆ガラス容器100に機械的荷重が印加される。そのガラス容器は、プラテン上に置かれる前に、2インチ(約5cm)のテープで包まれ、張り出し部分は、切り取られるか、または容器の底部の周りに折り重ねられる。次に、その容器は、試料の周りにホチキスで留められた索引カード内に位置付けられる。バイアル圧縮の荷重速度は0.5インチ/分(約1.27cm/分)であり、プラテンが0.5インチ/分(約1.27cm/分)の速度で互いに向かって動くことを意味する。この水平圧縮強度は、25℃±2℃および50%±5%の相対湿度で測定される。いくつかの実施の形態において、医薬品充填ラインの条件をシミュレーションするために、脱パイロジェン後の1時間以内(そして24時間以内)に水平圧縮試験を行うことが望ましい。この水平圧縮強度は破壊荷重の測定であり、水平圧縮強度の測定は、選択された垂直圧縮荷重での破損確率として与えることができる。ここに用いたように、ガラス容器が試料の少なくとも50%において水平圧縮下で潰れたときに、破損が起こる。それゆえ、水平圧縮は、一群の試料について与えられる。いくつかの実施の形態において、被覆ガラス容器は、未被覆バイアルよりも少なくとも10%、20%、または30%大きい水平圧縮強度を有することがある。
【0068】
ここで、図1および3を参照すると、摩耗したガラス容器にも水平圧縮強度の測定を行うことができる。具体的には、試験治具200の作動により、被覆ガラス容器100の強度を弱める表面引っ掻き傷または摩耗などの損傷が被覆ガラス容器の外面122に生じることがある。次に、そのガラス容器に、先に記載された水平圧縮手順が行われ、ここで、その容器は2つのプラテンの間に置かれ、引っ掻き傷はプラテンに対して平行に外側に向いている。その引っ掻き傷は、バイアル上バイアル試験治具により印加された選択された垂直圧力および引っ掻き傷の長さにより特徴付けることができる。特に明記のない限り、水平圧縮手順のための摩耗したガラス容器の引っ掻き傷は、30Nの垂直荷重により生じた20mmの引っ掻き傷の長さにより特徴付けられる。プラテンに対して90°±5°の角度で引っ掻き傷を有することが望ましいであろう。
【0069】
前記被覆ガラス容器は、熱処理後に水平圧縮強度について評価することができる。その熱処理は、30分の期間に亘る、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、または約400℃の温度への暴露であることがある。いくつかの実施の形態において、その被覆ガラス容器の水平圧縮強度は、上述した熱処理などの熱処理に暴露され、次に、先に記載されたように、摩耗された後に、約20%、30%、またさらには40%を超えて低下しない。1つの実施の形態において、その被覆ガラス容器の水平圧縮強度は、30分の期間に亘る、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、または約400℃の熱処理が施され、次に、摩耗された後に、約20%を超えて低下しない。
【0070】
ここに記載された被覆ガラス物品は、30分の期間に亘り少なくとも250℃(または260℃、または280℃、または300℃)の温度に加熱した後に、熱安定性であることがある。ここに用いた「熱安定性」という句は、そのガラス物品に施されたコーティングが、高温への暴露後に、その被覆ガラス物品の機械的性質、具体的には、摩擦係数および水平圧縮強度が、たとえあるとしても、最小しか影響を受けないように、暴露後にガラス物品の表面上に実質的に完全なままであることを意味する。これは、そのコーティングが、高温暴露後にガラスの表面に付着したままであり、摩耗、衝撃などの機械的傷害からそのガラス物品を保護し続けることを示す。
【0071】
ここに記載された実施の形態において、被覆ガラス物品は、その被覆ガラス物品が、規定の温度に加熱され、その温度で規定時間に亘り維持された後に、摩擦係数の基準および水平圧縮強度の基準の両方を満たす場合、熱安定性であると考えられる。その摩擦係数の基準が満たされたか否かを判定するために、図3に示された試験治具および30Nの印加荷重を使用して、受け取った状態(すなわち、いずれの熱暴露の前)で、第1の被覆ガラス物品の摩擦係数が決定される。第2の被覆ガラス物品(すなわち、第1の被覆ガラス物品と同じガラス組成物および同じコーティング組成物を有するガラス物品)が、所定の条件下で熱暴露され、室温に冷却される。その後、図3に示された試験治具を使用して、第2のガラス物品の摩擦係数を決定して、30Nの印加荷重により被覆ガラス物品を摩耗して、約20mmの長さを有する摩耗部(すなわち、「引っ掻き傷」)を生じる。第2の被覆ガラス物品の摩擦係数が0.7未満であり、摩耗区域の第2のガラス物品のガラスの表面が、どのような観察可能な損傷も有さない場合、ひいては、コーティングの熱安定性を決定する目的のための摩擦係数の基準が満たされていれる。ここに用いた「観察可能な損傷」という用語は、ガラス物品の摩耗区域のガラスの表面が、LEDまたはハロゲン光源により100倍の倍率でNomarskiまたは微分干渉コントラスト(DIC)分光顕微鏡で観察した場合、摩耗区域の0.5cmの長さ当たり6未満しかガラスのひびを含まないことを意味する。ガラスのひびまたはガラスの浅割れ目の標準定義が、G.D.Quinn、「NIST Recommended Practice Guide: Fractography of Ceramics and Glasses」、NIST special publication 960-17(2006)に記載されている。
【0072】
水平圧縮強度の基準が満たされたか否かを判定するために、30Nの荷重下で図3に示された試験治具内で第1の被覆ガラス物品を摩耗して、20mmの引っ掻き傷を形成する。次に、第1の被覆ガラス物品に、ここに記載されたように、水平圧縮試験を行い、第1の被覆ガラス物品の残留強度を決定する。第2の被覆ガラス物品(すなわち、第1の被覆ガラス物品と同じガラス組成物および同じ被覆組成物を有するガラス物品)を、所定の条件下で熱暴露し、室温に冷却する。その後、30Nの荷重下で、図3に示された試験治具内で、第2の被覆ガラス物品を摩耗させる。次に、第2の被覆ガラス物品に、ここに記載されたように、水平圧縮試験を行い、第2の被覆ガラス物品の残留強度を決定する。第2の被覆ガラス物品の残留強度が、第1の被覆ガラス物品と比べて約20%を超えて減少していない(すなわち、破壊荷重が、20%を超えて減少しない)場合、ひいては、コーティングの熱安定性を決定する目的のために、水平圧縮強度の基準が満たされている。
【0073】
ここに記載された実施の形態において、前記被覆ガラス容器は、その被覆ガラス容器を少なくとも約30分の期間に亘り少なくとも約250℃(または260℃または280℃)の温度に暴露した後に、摩擦係数の基準と水平圧縮強度の基準が満たされた場合、熱安定性である(すなわち、その被覆ガラス容器は、約30分の期間に亘り少なくとも約250℃(または260℃または280℃)の温度で熱安定性である)と考えられる。熱安定性は、約250℃(または260℃または280℃)から約400℃までの温度で評価されることもある。例えば、いくつかの実施の形態において、被覆ガラス容器は、約30分の期間に亘り少なくとも約270℃またさらには約280℃の温度で前記基準が満たされた場合、熱安定性であると考えられる。さらに他の実施の形態において、被覆ガラス容器は、約30分の期間に亘り少なくとも約290℃またさらには約300℃の温度で前記基準が満たされた場合、熱安定性であると考えられる。さらなる実施の形態において、被覆ガラス容器は、約30分の期間に亘り少なくとも約310℃またさらには約320℃の温度で前記基準が満たされた場合、熱安定性であると考えられる。さらに他の実施の形態において、被覆ガラス容器は、約30分の期間に亘り少なくとも約330℃またさらには約340℃の温度で前記基準が満たされた場合、熱安定性であると考えられる。さらに他の実施の形態において、被覆ガラス容器は、約30分の期間に亘り少なくとも約350℃またさらには約360℃の温度で前記基準が満たされた場合、熱安定性であると考えられる。いくつかの他の実施の形態において、被覆ガラス容器は、約30分の期間に亘り少なくとも約370℃またさらには約380℃の温度で前記基準が満たされた場合、熱安定性であると考えられる。さらに他の実施の形態において、被覆ガラス容器は、約30分の期間に亘り少なくとも約390℃またさらには約400℃の温度で前記基準が満たされた場合、熱安定性であると考えられる。
【0074】
ここに開示された被覆ガラス容器は、ある温度範囲に亘り熱安定性であることもあり、その被覆ガラス容器は、その範囲の各温度で摩擦係数の基準と水平圧縮強度の基準を満たすことによって熱安定性であることを意味する。例えば、ここに記載された実施の形態において、被覆ガラス容器は、少なくとも約250℃(または260℃または280℃)℃から約400℃以下の温度まで熱安定性であることがある。いくつかの実施の形態において、被覆ガラス容器は、少なくとも約250℃(または260℃または280℃)から約350℃の範囲おいて熱安定性であることがある。いくつかの他の実施の形態において、被覆ガラス容器は、少なくとも約280℃から約350℃以下の温度まで熱安定性であることがある。さらに他の実施の形態において、被覆ガラス容器は、少なくとも約290℃から約340℃まで熱安定性であることがある。別の実施の形態において、被覆ガラス容器は、約300℃から約380℃の温度の範囲で熱安定性であることがある。別の実施の形態において、被覆ガラス容器は、約320℃から約360℃の温度の範囲で熱安定性であることがある。
【0075】
ここに記載された被覆ガラス容器は4点曲げ強度を有する。ガラス容器の4点曲げ強度を測定するために、被覆ガラス容器100の前駆体であるガラス管を測定に利用する。そのガラス管は、前記ガラス容器と同じ直径を有するが、ガラス容器の底面またはガラス容器の口を含まない(すなわち、その管をガラス容器に成形する前)。次に、そのガラス管に4点曲げ応力試験を行って、機械的に破損させる。その試験は、10mm/分の荷重速度で3インチ(約7.5cm)だけ間隔があけられた内側接触部材および9インチ(約22.5cm)だけ間隔があけられた外側接触部材により、50%の相対湿度で行われる。
【0076】
その4点曲げ応力測定は、被覆され、摩耗された管に行われることもある。試験治具200の操作により、摩耗バイアルの水平圧縮強度の測定に記載されたように、管の強度を弱める表面引っ掻き傷などの摩耗をその管に生じさせることがある。次に、そのガラス管に4点曲げ応力試験を行って、機械的に破損させる。この試験は、その引っ掻き傷が試験中に張力下に置かれるように配置されている間に、10mm/分の荷重速度で9インチ(約22.5cm)だけ間隔があけられた外側プローブおよび3インチ(約7.5cm)だけ間隔があけられた内側接触部材を使用して、25℃および50%の相対湿度で行われる。
【0077】
いくつかの実施の形態において、摩耗後の、コーティングを有するガラス管の4点曲げ強度は、同じ条件下で摩耗した未被覆ガラス管に関する機械的強度よりも、平均で、少なくとも10%、20%、またさらには50%高い機械的強度を示す。
【0078】
いくつかの実施の形態において、被覆ガラス容器100が30Nの垂直力で同一のガラス容器により摩耗された後、その被覆ガラス容器100の摩耗区域の摩擦係数は、同じ地点で30Nの垂直力により同一のガラス容器による別の摩耗後に約20%を超えて増加しない、または全く増加しない。他の実施の形態において、被覆ガラス容器100が30Nの垂直力で同一のガラス容器により摩耗された後、その被覆ガラス容器100の摩耗区域の摩擦係数は、同じ地点で30Nの垂直力により同一のガラス容器による別の摩耗後に約15%またさらには10%を超えて増加しない、または全く増加しない。しかしながら、被覆ガラス容器100の全ての実施の形態がそのような性質を示す必要はない。
【0079】
前記被覆容器の透明度および色は、分光光度計を使用して、400~700nmの波長範囲内のその容器の光透過率を測定することによって評価されることがある。その測定は、光線が、最初に容器に入るときと、次いで、容器を出るときの2回、コーティングを通過するように、光線が容器に対して垂直に向けられるように行われる。いくつかの実施の形態において、その被覆ガラス容器を通る光透過率は、約400nmから約700nmの波長について、未被覆ガラス容器を通る(この容器の2つの壁を通る)光透過率の約55%以上であることがある。ここに記載されたように、ここに記載された熱処理などの熱処理前または熱処理後に、光透過率を測定することができる。例えば、約400nmから約700nmの各波長について、光透過率は、未被覆ガラス容器を通る透過率の約55%以上であることがある。他の実施の形態において、前記被覆ガラス容器を通る光透過率は、約400nmから約700nmの波長について、未被覆ガラス容器を通る光透過率の約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、またさらには約90%以上である。
【0080】
ここに記載されたように、光透過率は、ここに記載された熱処理などの環境処理の前、または環境処理の後に測定することができる。例えば、約30分の期間に亘る、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、または約400℃の熱処理後、もしくは凍結乾燥条件への暴露後、またはオートクレーブ処理条件への暴露後、前記被覆ガラス容器を通る光透過率は、約400nmから約700nmの波長について、未被覆ガラス容器を通る光透過率の約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、またさらには約90%以上である。
【0081】
いくつかの実施の形態において、被覆ガラス容器100は、どの角度で見たときにも、ヒトの裸眼にとって無色透明と知覚されることがある。いくつかの他の実施の形態において、コーティング120は、コーティング120が、着色された高分子を含む場合などに、知覚可能な色合いを有することがある。
【0082】
いくつかの実施の形態において、被覆ガラス容器100は、接着剤ラベルを受け取れるコーティング120を有することがある。すなわち、被覆ガラス容器100は、接着剤ラベルがしっかりと貼り付けられるように、その被覆表面上に接着剤ラベルを受け取ることがある。しかしながら、接着剤ラベルの貼付け能力は、ここに記載された被覆ガラス容器100の全ての実施の形態にとっての要件ではない。
【実施例
【0083】
コーティングを有するガラス容器の様々な実施の形態が、以下の実施例によってさらに明白になるであろう。それらの実施例は、事実上は説明的であり、本開示の主題を制限すると理解すべきではない。
【0084】
実施例1
ガラスバイアル(組成において、イオン交換済みアルカリアルミノケイ酸塩)を、シラザン、シロキサン、およびシランを含む混合ポリシラザンコーティングで被覆した。詳しくは、3つの市販のポリシラザン溶液:HS-900、HS-907、およびHS-908(各々、Huntington Specialty Materialsから入手できる)を利用して、バイアルを被覆し、試験した。バイアルを被覆するために、未被覆のバイアルを20分間に亘り320℃で加熱し、次いで、室温に戻した。HS-900、HS-907、およびHS-908溶液は、追加の溶媒を添加せずに、商業的に提供されたまま使用してもよい。コーティングは、浸漬被覆によりバイアルの外部に施した。浸漬速度は10mm/sであり、保持時間は5秒であり、戻り速度は2mm/sであった。浸漬後、バイアルを1時間に亘り室温で保持し、次いで、30分間に亘り250℃でオーブン(湿度を加えずに)内で硬化させた。
【0085】
多くの従来のポリシラザン硬化過程は、蒸気硬化を利用するが、この実施例において、乾燥硬化を利用したことに留意すべきである。乾式加熱を利用すると、窒素の量が増加したコーティングが促進されるであろうと考えられる。コーティングの有機性を、X線光電子分光法(XPS)およびラマン分析法で評価した。図4は、HS-908被覆バイアルのXPS深さプロファイル(硬化後であるが、硬化後熱処理は行わず)を示す。深さは、SiOのスパッタ速度から相関された履歴データに基づくので、深さは近似であることを理解すべきである。それに加え、図5は、任意の熱処理前と熱処理後のHS-908被覆バイアルに関するラマンシフトを示す。このラマンシフトは、いくつかの有機基が存在することを実証している。
【0086】
被覆し、硬化したバイアルに、35分間に亘る320℃または9時間に亘る335℃など、追加の熱処理を行った。そのような熱処理後であって、任意の熱処理(硬化過程を含まない)の前に、平均摩擦係数を測定した。下記の表1は、HS-900、HS-907、およびHS-908から製造されたコーティングについて、様々な熱処理後に測定された平均摩擦係数(30Nまたは5Nの力による)を示す。表1は、さらに、コーティングの測定厚さ(任意の熱処理前の)を示す。HS-908に、表1に示された多数の試験を行った。HS-908で被覆された試料は、概して、最低の摩擦係数を示した。しかしながら、HS-907およびHS-908が被覆された試料は全て、0.7より十分に低い最大摩擦係数を有することが観察された。
【0087】
【表1】
【0088】
HS-900、HS-907、およびHS-908の配合物(硬化せず)をF-NMRにより分析もした。これにより、試料のコーティングはフッ素を含んでいないことが示された。
【0089】
被覆と1時間に亘る室温での静置、30分間に亘る250℃での硬化、および9時間に亘る335℃での加熱後、バイアルを目視で検査した。コーティングは透明であり、裸眼にとって無色であった。
【0090】
ここで、ここに記載された低摩擦コーティングを有するガラス容器は、低摩擦コーティングを施した結果として、機械的損傷に対する改善された耐性を示し、それゆえ、そのガラス容器の機械的耐久性は向上していることを理解すべきである。この特性のために、そのガラス容器は、制限なく、医薬品包装材料を含む様々な用途に使用するのに適切なものとなる。
【0091】
請求項の主題の精神および範囲から逸脱せずに、ここに記載された実施の形態に様々な改変および変更を行えることが、当業者に明白であろう。それゆえ、本明細書は、ここに記載された様々な実施の形態の改変および変更を、そのような改変および変更が付随の特許請求の範囲およびその同等物の範囲に入るという条件で、包含することが意図されている。
【0092】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0093】
実施形態1
医薬品包装において、
第一面および該第一面と反対の第二面を有するガラス容器であって、該第一面は、該ガラス容器の外面である、ガラス容器、および
前記ガラス容器の第一面の少なくとも一部の上に位置付けられたコーティングであって、1種類以上のポリシラザンを含むコーティング、
を備えた医薬品包装。
【0094】
実施形態2
前記ポリシラザンの内の1つ以上が有機部分を含む、実施形態1に記載の医薬品包装。
【0095】
実施形態3
前記コーティングが、少なくとも15質量%の前記1種類以上のポリシラザンを含む、実施形態1または2に記載の医薬品包装。
【0096】
実施形態4
前記コーティングの少なくとも一部が少なくとも5原子%の窒素を含む、実施形態1から3のいずれかに記載の医薬品包装。
【0097】
実施形態5
前記コーティングがポリシランをさらに含む、実施形態1から4のいずれかに記載の医薬品包装。
【0098】
実施形態6
前記コーティングがポリシロキサンをさらに含む、実施形態1から5のいずれかに記載の医薬品包装。
【0099】
実施形態7
前記コーティングがポリシランおよびポリシロキサンをさらに含む、実施形態1から6のいずれかに記載の医薬品包装。
【0100】
実施形態8
前記コーティングが、1マイクロメートル以下の厚さを有する、実施形態1から7のいずれかに記載の医薬品包装。
【0101】
実施形態9
前記コーティングが、前記ガラス容器の第一面の少なくとも一部と直接接触している、実施形態1から8のいずれかに記載の医薬品包装。
【0102】
実施形態10
前記コーティングを有する前記ガラス容器の第一面の前記一部が、約0.7以下の摩擦係数を有する、実施形態1から9のいずれかに記載の医薬品包装。
【0103】
実施形態11
前記コーティングを有する前記ガラス容器の第一面の前記一部が、30分間に亘る少なくとも約250℃の温度での熱処理後に、約0.7以下の摩擦係数を維持する、実施形態1から10のいずれかに記載の医薬品包装。
【0104】
実施形態12
前記医薬品包装を通る光透過率が、約400nmから約700nmの各波長について、未被覆の医薬品包装を通る光透過率の約55%以上である、実施形態1から11のいずれかに記載の医薬品包装。
【0105】
実施形態13
前記医薬品包装が、30分間に亘る少なくとも約250℃の温度での熱処理後に、約400nmから約700nmの各波長について、前記未被覆の医薬品包装を通る光透過率の約55%以上の前記医薬品包装を通る光透過率を維持する、実施形態1から12のいずれかに記載の医薬品包装。
【0106】
実施形態14
医薬品包装において、
第一面および該第一面と反対の第二面を有するガラス容器であって、該第一面は、該ガラス容器の外面であるガラス容器、および
前記ガラス容器の第一面の少なくとも一部の上に位置付けられたコーティングであって、シラザン単量体単位またはシラザン単量体単位を含むプレポリマーから形成されたコーティング、
を備えた医薬品包装。
【0107】
実施形態15
前記シラザン単量体単位またはシラザン単量体単位を含むプレポリマーの内の1つ以上が有機部分を含む、実施形態14に記載の医薬品包装。
【0108】
実施形態16
前記コーティングが、少なくとも15質量%の前記1種類以上のポリシラザンを含む、実施形態14または15に記載の医薬品包装。
【0109】
実施形態17
被覆された医薬品包装を製造する方法において、
ガラス容器の外面の第一面上にコーティング前駆体混合物を堆積させる工程であって、該コーティング前駆体混合物は、1種類以上のシラザン単量体単位またはシラザン単量体単位を含むプレポリマーを含む工程、および
前記コーティング前駆体混合物を加熱して、前記ガラス容器の外面上にコーティングを形成する工程であって、該コーティングは、1種類以上のポリシラザンを含む工程、
を有してなる方法。
【0110】
実施形態18
前記コーティング前駆体混合物の加熱が、乾式加熱である、実施形態17に記載の方法。
【0111】
実施形態19
前記1種類以上のポリシラザンが有機部分を含む、実施形態17または18に記載の方法。
【0112】
実施形態20
前記コーティングが、少なくとも15質量%の前記1種類以上のポリシラザンを含む、実施形態17から19のいずれかに記載の方法。
【符号の説明】
【0113】
100 被覆ガラス容器
102 ガラス本体
104 ガラス容器壁
106 内容積
108 ガラス本体の外面
110 ガラス本体の内面
120 コーティング
122 コーティングの外面
124 ガラス本体接触面
200 試験治具
210 第1のガラス容器
212 第1のクランプ
214 第1の固定アーム
216 第1のベース
220 第2のガラス容器
222 第2のクランプ
224 第2の固定アーム
226 第2のベース
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】