(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-30
(54)【発明の名称】ストリップ鋳造システムのためのメルト給送
(51)【国際特許分類】
B22D 35/00 20060101AFI20220623BHJP
B22D 11/06 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
B22D35/00 B
B22D11/06 330B
B22D11/06 340A
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021578108
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(85)【翻訳文提出日】2022-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2020068713
(87)【国際公開番号】W WO2021001495
(87)【国際公開日】2021-01-07
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513100910
【氏名又は名称】スペイラ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Speira GmbH
【住所又は居所原語表記】Aluminiumstrasse 1, 41515 Grevenbroich, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】カイ=フリードリヒ カルハウゼン
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ボック
(72)【発明者】
【氏名】マンフレート ランゲン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】マルク バドフスキー
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004DA13
4E004DA23
4E004SA10
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの鋳造炉(3)と、鋳造ギャップ(21)を有する少なくとも1つの回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)とを備える、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金用のストリップ鋳造システム(1)であって、少なくとも1つの回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)は、ロール対(22、23)、ローラ対、キャタピラ対またはベルト対(25、26)として設計され、ストリップ鋳造システム(1)は、金属メルト(5)を鋳造炉(3)から鋳造ギャップ(21)に搬送する少なくとも1つのアクティブ手段(4)を有する、ストリップ鋳造システム(1)に関する。一方で、鋳造ギャップ(21)への金属メルト(5)の体積流れの調整の改善を可能にし、生産性を改善し、ストリップ品質の改善を可能にし、同時に、安全性の向上を可能にするという、ストリップ鋳造システム(1)を提供する目的は、ストリップ鋳造システム(1)は、鋳造ギャップ(21)の直前に配置された鋳造領域(6)を有し、鋳造領域(6)は、少なくとも1つの側で回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)によって境界を定められ、鋳造領域(6)は、鋳造領域(6)にメルトプール(52)が形成され、そこから金属メルト(5)が鋳造ギャップ(21)中に流入するかまたは引き込まれるように設計され、鋳造炉(3)は、配管系(41、42、43)によって鋳造領域(6)に連結されており、ストリップ鋳造システム(1)は、金属メルト(5)を鋳造領域(6)中に給送する手段(46)を備え、その手段(46)は、鋳造領域(6)に形成されたメルトプール(52)の表面の下方で、金属メルト(5)を鋳造領域(6)に給送できるということから、本発明に従って達成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの鋳造炉(3)と、鋳造ギャップ(21)を有する少なくとも1つの回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)とを備える、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金用のストリップ鋳造システム(1)であって、前記少なくとも1つの回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)は、ロール対(22、23)、ローラ対、キャタピラ対またはベルト対(25、26)として設計され、前記ストリップ鋳造システム(1)は、金属メルト(5)を前記鋳造炉(3)から前記鋳造ギャップ(21)に搬送する少なくとも1つのアクティブ手段(4)を有する、前記ストリップ鋳造システム(1)であって、
前記ストリップ鋳造システム(1)は、前記鋳造ギャップ(21)の直前に配置された鋳造領域(6)を有し、前記鋳造領域(6)は、少なくとも1つの側で前記回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)によって境界を定められ、前記鋳造領域(6)は、前記鋳造領域(6)にメルトプール(52)が形成され、そこから金属メルト(5)が前記鋳造ギャップ(21)に流入するかまたは引き込まれるように設計され、前記鋳造炉(3)は、配管系(41、42、43)によって前記鋳造領域(6)に連結されており、前記ストリップ鋳造システム(1)は、前記金属メルト(5)を前記鋳造領域(6)中に給送する手段(46)を備え、前記手段(46)は、前記鋳造領域(6)に形成された前記メルトプール(52)の表面の下方で、前記金属メルト(5)を前記鋳造領域(6)に給送できることを特徴とする、ストリップ鋳造システム(1)。
【請求項2】
金属メルト(5)を搬送する前記少なくとも1つのアクティブ手段(4)は、前記金属メルトを加圧する手段(4)および/または前記金属メルトをポンプ輸送する手段(4)を備えることを特徴とする、請求項1に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項3】
金属メルト(5)を搬送する前記少なくとも1つのアクティブ手段(4)は、圧力炉(4)、具体的には、低圧炉(4)を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項4】
前記鋳造炉(3)は低圧炉(4)として構成されることを特徴とする、請求項1から3の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項5】
前記ストリップ鋳造システム(1)は垂直型ストリップ鋳造システム(1)であることを特徴とする、請求項1から4の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項6】
前記ストリップ鋳造システム(1)は、前記鋳造ギャップ(21)への前記金属メルトの体積流れおよび/または前記鋳造ギャップ(21)内のメルトレベルの高さを調整する手段を有することを特徴とする、請求項1から5の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項7】
前記鋳造領域(6)は少なくとも1つのサイドダム(62)を有し、前記少なくとも1つのサイドダム(62)は、金属メルト(5)のための給送開口部(46)を少なくとも1つ有することを特徴とする、請求項1から6の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項8】
前記鋳造領域(6)は、金属メルト(5)のための給送開口部(46)を少なくとも2つ、好ましくは、3つ有することを特徴とする、請求項1から7の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項9】
少なくとも1つの鋳造炉(3)と、鋳造ギャップ(21)を有するロール対(22、23)、ローラ対、キャタピラ対またはベルト対(25、26)として設計される少なくとも1つの回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)とを備える、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金用のストリップ鋳造システム(1)において、金属メルト(5)を前記鋳造ギャップ(21)に給送する方法、具体的には、請求項1から8の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)を用いて実行される方法であって、
前記金属メルト(5)は、前記鋳造ギャップ(21)の直前に配置された鋳造領域(6)中にアクティブに搬送され、前記鋳造領域(6)は、少なくとも1つの側で前記回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)によって境界を定められ、前記鋳造領域(6)は、前記鋳造領域(6)にメルトプール(52)が形成され、そこから金属メルト(5)が前記鋳造ギャップ(21)に流入するかまたは引き込まれるように設計され、前記金属メルト(5)は、前記鋳造領域(6)に形成された前記メルトプール(52)の表面の下方で、前記鋳造領域(6)にアクティブに給送されることを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの鋳造炉(3)は、前記金属メルト(5)を搬送するために加圧されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属メルト(5)は、少なくとも部分的に重力(G)の方向に逆らって搬送されることを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの鋳造炉と、鋳造ギャップを有する少なくとも1つの回転式チル鋳型、具体的には、ロール対、ローラ対、キャタピラ対またはベルト対とを備える、ストリップ鋳造システムに関する。本発明はさらに、ストリップ鋳造システムにおいて金属メルトを鋳造ギャップに給送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ストリップ鋳造システムによるストリップ鋳造は、インゴット鋳造、再加熱および熱間圧延による金属ストリップの従来の生産に対する、経済的かつエネルギー効率のよい代替手法である。ストリップ鋳造では、金属メルトから直接的に、最終寸法に近い高温のストリップが生産される。そのために、鋳造領域または鋳造済みストリップの形成される凝固領域が、鋳造プロセス中に連続的に移動および冷却されるバリアによって少なくとも1つの長手方向側で境界を定められるストリップ鋳造システムで、金属メルトが鋳造される。そのバリアは、凝固しつつあるストリップと共に走行し、そうすることで、いわゆる回転式チル鋳型が提供される。回転式チル鋳型は高い鋳造速度および凝固速度を可能にする。工業生産では、このような回転式チル鋳型には、いくつかの構成、例えば、鋳造ホイールプロセスまたは単ロールプロセスがある。金属ストリップの必要な幅およびさらなる効率改善のために、互いに対向するように配置された2つの冷却回転バリアを用いるプロセスが、具体的には、アルミニウムおよび鋼のストリップ鋳造の領域で確立された。それらのバリア間には鋳造ギャップが形成される。具体的には、水平方向または傾斜方向の2ロールプロセス(双ロール鋳造)による鋳造圧延が、特にアルミニウム業界で確立された。鋼業界では垂直型プロセスも使用される。その場合、金属メルトは、具体的には、内部冷却されたローラ対またはロール対中に投入され、例えば、まず、2つのローラ間またはロール間の鋳造ギャップで凝固し、次いで、形成され、ストリップとして引き出され、巻き取られる。一方、通常、水平方向に動作される2チェーンプロセス(双ベルト鋳造またはハゼル(Hazelett)プロセス)が確立された。そのプロセスでは、2つの冷却(ダムブロック)チェーンの対向する側面によって回転式チル鋳型が形成され、それらチェーン間に鋳造ギャップが形成され、そこで金属メルトが凝固する。さらに、銅からほぼ構成される冷却ブロックがチェーンセグメントに配置される、キャタピラチル鋳型(ブロック鋳造)の形態の回転式チル鋳型も使用される。これらは通常、水平に対してわずかに傾斜している。
【0003】
既知のストリップ鋳造プロセスの課題は、生産されるストリップの幅全体にわたってばらつきのある凝固先端(独:Erstarrungsfront,英:solidification front)が生じる可能性があり、そのことから製品の特性が一様でなくなる恐れがあることである。例えば、表面の不具合、合金元素の偏析または一様でない結晶粒構造が起こることがある。局部的に凝固されなかった金属メルトでさえ、鋳造ギャップを通過でき、それゆえ、ストリップの引裂き、そのため、プロセスの中断につながる。それら問題のある作用はストリップ幅が大きくなるほど重大になるが、ストリップ幅は高いプロセス効率のために特に関係する。したがって、回転式チル鋳型の鋳造ギャップまたは凝固ゾーン中へのメルトの均一な供給は、全てのストリップ鋳造プロセスにとって非常に重要である。したがって、従来、通常はより高い鋳造炉から開放型チャネルシステムを介して案内される金属メルトは、鋳造ギャップの前に開放型タンディッシュ(中間容器)内で静穏にされる。ここで、金属メルトは、まず、タンディッシュに集められ、次いで、タンディッシュから鋳造ギャップに重力によって給送される。同時に、チル鋳型の直前の鋳造領域におけるメルトプールのレベルは、タンディッシュを介して、例えば、タンディッシュの底部に設けられたストッパによって、調整することができる。
【0004】
垂直型2ローラプロセスを実行する、このようなストリップ鋳造システムは、例えば、特許文献1から知られている。回転式チル鋳型を用いる水平型プロセスの場合は、タンディッシュを有するこのようなストリップ鋳造システムが、例えば、特許文献2に記載されている。
【0005】
しかし、それら既知の方法の欠点の一つは、鋳造ギャップへの金属メルトの給送の調整は制御が難しく、あまり動的でないことである。また他方では、システム障害の際に、金属メルトが鋳造ギャップの方向に重力によって流れ続け、そうなると、安全性の課題が生じる場合がある。金属メルトは酸化する傾向もある。具体的には、アルミニウムメルトは、特に、プロセス関連の温度が高いときに、表面で酸素と接触して非常に迅速に酸化し、比較的安定した酸化物層を形成する。したがって、従来のプロセスでは、金属メルトは、このような酸化物層をタンディッシュに形成することがある。しかし、プロセス関連の一定しない案内によって、これが繰り返し壊れることがあり、酸化物または酸化物層上に堆積した他の不純物が金属メルトの下で乱流によって混ざる。しかし、このことは、Mg、SiまたはCrなどの合金元素がさらに取り込まれた酸化物の塊状の非金属介在物を、生産される金属ストリップに生じさせる。このような介在物は、ストリップの品質を有意に低下させ、形成能などを悪化させる。これを避けるために、金属メルトを高価な不活性ガスの使用下で遮蔽して酸化から保護することが知られている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、鋳造ギャップへの金属メルトの体積流れの制御の改善、生産性の改善およびストリップ品質の改善を可能にし、同時に、安全性を高めることができる、ストリップ鋳造システムを提供することである。さらに、対応する方法も提案しよう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/000487号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0 433 204(A1)号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の教示によれば、その目的は、本発明によるストリップ鋳造システムにおいて、ストリップ鋳造システムが金属メルトを鋳造炉から鋳造ギャップに搬送する少なくとも1つのアクティブ手段を有することから達成される。
【0009】
金属メルトを鋳造炉から鋳造ギャップに搬送するアクティブ手段は、パッシブ手段、例えば、専ら重力を用いるパッシブ手段とは対照的に、金属メルトを搬送するためにエネルギーを利用するように構成され、そうすることで、アクティブ手段を介して金属メルトの搬送を制御できる手段であると理解される。金属メルトを搬送するアクティブ手段は、例えば、機械的、電気的または電磁的にエネルギーを金属メルトに伝達する。例えば、ポンプを使用して、ポンプの駆動仕事を金属メルトの運動エネルギーに変換するか、または圧力を加えることによってエネルギーを金属メルトに伝達し、それを金属メルトの運動エネルギーに変換することができる。金属メルトを搬送するアクティブ手段は、例えば、少なくとも部分的に重力の方向に逆らって金属メルトを移動させるのに適している。
【0010】
金属メルトが上記または下記で言及される場合は、具体的には、アルミニウムまたはアルミニウム合金のメルトを指す。
【0011】
金属メルトを搬送するためにアクティブ手段を使用することによって、鋳造ギャップへの金属メルトの体積流れを非常に精密かつ直接的に制御できることが認識された。重力によってパッシブに金属メルトを鋳造ギャップに給送する、従来の給送システムでは、間接的な調整だけが可能である。したがって、速く稼働するプロセスで実際の調整を可能にするためには、送出を伴うタンディッシュなどのパッシブ手段の場合は応答時間が長すぎる。具体的には、従来のようにタンディッシュに金属メルトを中間貯蔵すると、例えば、一定の時間のずれがある状態でしか、鋳造ギャップの前のメルトプールのレベルの変化に応答できないことが確実になる。一方で、例えば重力に逆らう超過圧力によって、金属メルトが本発明に従ってアクティブに搬送される場合、金属メルトの体積流れを非常に精密に調整することができる。その結果、金属メルトは、制御された連続凝固プロセスに給送できる。金属メルトは、具体的には、非常に静穏にかつ制御された方式で案内でき、具体的には、給送プロセス中に酸化物層が壊れることを避け、それゆえ、メルト中への不純物の侵入を避けることができる。したがって、酸化物層の形成を避けるための高価な不活性ガスの使用を省略できる。タンディッシュを設けることができるが、従来のメルト給送において、概して金属メルトを静穏にするために設けられるタンディッシュは、好ましくは、省略することができる。さらに、安全性の理由から、ストリップの速度が、概して、ストリップの最も高温の点によって許容できる程度にゆっくりと調節されるので、本発明によるストリップ鋳造システムの生産性を、従来のストリップ鋳造システムと比べて高くすることができる。
【0012】
それゆえ、本発明によるストリップ鋳造システムは、最終寸法に近い、高品質の金属ストリップ、具体的には、アルミニウム合金ストリップの生産を可能にする。金属メルトを搬送するアクティブ手段は、ストリップ鋳造システムを動作させるときの安全性を改善することもできる。
【0013】
本発明によるストリップ鋳造システムの回転式チル鋳型は、例えば、冒頭で記載した従来の方法の一つの回転式チル鋳型とすることができる。それゆえ、具体的には、回転式チル鋳型は、ロール対、ローラ対、キャタピラ対またはチェーン対とすることができる。例えば、軸に平行に互いに隣接して配置される、垂直型双ロール鋳造機のロール対、軸に平行に互いの上方に配置される、水平型または傾斜型の双ロール鋳造機のロール対、機械枠によって保持されるかまたは筐体に配置される、互いの上方を循環する2鋳造チェーン(例えば、ハゼル)またはキャタピラチル鋳型である。上述のように、回転式チル鋳型は鋳造ギャップを有する。鋳造ギャップは、1.6m超の幅を有する特に幅広の金属ストリップも生産できるように、例えば、最大2.5m幅とすることができ、したがって、考えられるストリップ幅はローラ幅、すなわち、約2.5mに近いものにすることができる。鋳造ギャップは、例えば、1~6mmの高さとすることができ、そうすることで、相当する厚さの金属ストリップを生産することができる。さらに、金属メルトが回転式チル鋳型と接触して、具体的には少なくとも20K/s、好ましくは50K/sの冷却速度で冷却されることが有利である。金属メルトを搬送するアクティブ手段を用いること、具体的には、それゆえ、金属メルトの給送の可能な限り精密な調整によって、有意により高い冷却速度、特に好ましくは、少なくとも100K/sおよび/または最大8000K/sの冷却速度を設定することもできる。凝固速度が高いので、材料特性に悪影響を及ぼす偏析プロセスをさらに低減することができる。鋳造金属ストリップが鋳造ギャップを出るときのストリップ速度は、0.06~3.0m/sの範囲に調節できる。
【0014】
次いで、金属ストリップは、例えば、コイルに巻き取られ、後続の冷間圧延スタンドの冷間圧延ステップに給送できるか、または中間の巻き取りなしに直接的に、直列で熱間圧延および/もしくは冷間圧延することもできる。さらに、金属ストリップは、ストリップ鋳造と冷間圧延との間で高温貯蔵することができる。
【0015】
鋳造炉は、金属メルトの一時的な貯蔵のための容器として構成できるか、または金属メルトを融解するための融解炉として構成できる。具体的には、鋳造炉は、加熱および/または調整することができる。
【0016】
ストリップ鋳造システムのさらなる構成では、金属メルトを搬送する少なくとも1つのアクティブ手段は、金属メルトを加圧する手段および/またはそれをポンプ輸送する手段を備える。
【0017】
加圧する手段は、金属メルトを鋳造炉から鋳造ギャップに搬送するために、金属メルトを加圧するように設計された手段として理解される。例えば圧力チャンバの形態の金属メルト用貯蔵タンクにおいて、例えば、メルトプールの表面を加圧することができる。したがって、加圧する手段は、例えば、圧力チャンバを備える。圧力チャンバは、具体的には、予熱済みまたは加熱可能な、閉鎖式、すなわち、耐圧性のチャンバであり、チャンバ内で金属メルトを提供および加圧できる。具体的には、圧力チャンバは低圧炉によって設けることができ、低圧炉では、金属メルトを加熱し、例えば、加圧によって立管に押し込むことができる。その構成は、特に静穏で緩やかなメルトの案内、ならびに、例えば、メルトプールの表面に対する設定した超過圧力による、金属メルトの体積流れの単純な調整を可能にする。
【0018】
その代わりにまたはそれに加えて、金属メルトをポンプ輸送する手段を提供することができる。そのために、金属メルトをポンプ輸送する手段として、例えば、金属ポンプを備えることができる。金属ポンプは、金属メルトなどを機械的に、例えば、スクリューによって搬送することができる。電磁金属ポンプは、好ましくは、可能な限り静穏かつ一様に金属メルトを搬送するために使用される。
【0019】
例えば電源異常による、ストリップ鋳造機の障害の際には、さらなる金属メルトが運ばれることはなく、稼働し続けることを避けることもできる。
【0020】
ストリップ鋳造システムのさらなる構成によれば、金属メルトを搬送する少なくとも1つのアクティブ手段は、圧力炉、具体的には、低圧炉を備える。
【0021】
圧力炉は、具体的には、加圧できる加熱可能なチャンバを提供する、閉鎖式の炉である。チャンバに低い圧力が加えられる場合は、低圧炉である。低圧の使用は、金属メルトの安全かつ静穏な案内および調整を可能にする。例えば、低圧炉は、0.1から1.0バールでの加圧を可能にするように構成される。金属メルトの可能な限り滑らかな搬送には0.3から0.6バール、または、鋳造ギャップへの金属メルトのより速い給送には0.5から1.0バールの加圧が好ましい。
【0022】
有利なことに、例えば、低圧チル鋳造に使用される市販の低圧炉またはそれに対応して寸法を変更したものを使用できる。圧力炉または低圧炉が立管も有する場合は、具体的には加圧異常の際に、金属メルトが立管を通って自動的に圧力チャンバ中に戻ることができるので、特に安全なストリップ鋳造システムが提供される。
【0023】
鋳造炉は、金属メルトを搬送するアクティブ手段とは別個に設計することができる。しかし、ストリップ鋳造システムの次の構成に従って鋳造炉が低圧炉として構成される場合は、特に単純かつ経済的なストリップ鋳造システムになる。その際に、例えば、金属メルトを搬送するさらなるアクティブ手段を省略することができる。より単純な実施形態は、体積流れの調整が単純化され、それゆえ改善されること、およびストリップ鋳造システムの安全性が高められることも可能にする。
【0024】
ストリップ鋳造システムの次の構成では、ストリップ鋳造システムは垂直型ストリップ鋳造システムである。本発明に従って提供される、鋳造ギャップへの金属メルトの給送は、鋳造領域または鋳造ガセットが鋳造ギャップの上方に配置された、垂直に位置合わせされたストリップ鋳造システムにとって特に有利に使用できることが分かった。具体的には、垂直型ストリップ鋳造システムの場合は、上方から鋳造ギャップへの金属メルトの従来の給送が、上流のタンディッシュにおいて酸化物の調整されない形成をもたらし、タンディッシュからの流出によってその酸化物が調整されずに鋳造ギャップに侵入できる。タンディッシュの出口が、おそらくメルトプールの湯面の下方に一端を有する浸漬管として設計された場合でも、やはり乱流が起こる可能性があり、そうなると、酸化物は制御された方式ではタンディッシュから排出されない。そのことは、具体的にはアルミニウムメルトの場合に問題となるが、上記で提案した金属メルトの案内を伴う垂直型ストリップ鋳造システムを用いて避けることができる。
【0025】
ストリップ鋳造システムのさらなる構成では、ストリップ鋳造システムは、鋳造ギャップへの金属メルトの体積流れおよび/または鋳造ギャップ内のメルトレベルの高さを調整する手段を有する。
【0026】
金属メルトを搬送するアクティブ手段を介した金属メルトの給送は、有利なことに、鋳造ギャップへの金属メルトの体積流れの精密かつ速い調整を可能にするために使用できることが認識された。例えば、圧力を加えることによって金属メルトが重力に逆らって移動される場合、体積流れを非常に精密に制御できる。そのとき、金属メルトの体積流れは、圧力測定値および対応する圧力調整によって、非常に精密に設定および調整できる。例えば、制御ループがコンピュータを有することができ、そのコンピュータは、例えば、所望のストリップ鋳造速度のための圧力および必要な体積流れの既知または決定済みの対応関係に従って、最適な動作のために圧力を調整するように構成される。例えば、圧力チャンバまたは低圧炉内の圧力を測定するために圧力センサを設けることができる。例えば、鋳造領域または鋳造ガセットの金属メルトの充填レベルを測定することによって、体積流れを調整することも可能である。例えば、鋳造領域または鋳造ガセットにおける金属メルトの充填レベルおよび圧力チャンバ内の圧力を測定することができる。このような組み合わせられた測定が、より速い制御ループがセットアップされることを可能にする。そのために、例えば、鋳造領域または鋳造ガセットは、少なくとも1つの充填レベルセンサを有することができ、低圧炉は、少なくとも1つの圧力センサを有することができる。具体的には、例えば、既存の圧力センサを低圧炉に使用することもできる。充填レベルまたは金属メルトのレベルは、例えば、非接触渦電流距離センサ、誘導プローブ、光学処理、接触プローブまたは浸漬センサを用いて検出できる。そのレベルは、好ましくは、レーザ測定によって判定され、例えば、鋳造領域は、レーザ距離センサを少なくとも1つ有することができる。
【0027】
それゆえ、タンディッシュを介した鋳造ギャップの給送のための間接的な調整だけが考えられるか、または応答時間が長いせいで非常に遅い調整が考えられる、従来の給送システムとは対照的に、アクティブかつ速い体積流れの調整を実装することができる。垂直型ストリップ鋳造プロセスは、具体的には、非常に迅速に稼働するので、具体的には、それらプロセスにとって速い調整は非常に重要である。
【0028】
ストリップ鋳造システムの次の構成によれば、ストリップ鋳造システムは鋳造ギャップの直前に配置された鋳造領域を有する。
【0029】
鋳造領域は、回転式チル鋳型の直前に配置され、概して回転式チル鋳型によって境界を定められる。鋳造領域は、例えば、鋳造ガセットおよび/または分配器ノズル(独:Verteilerduese,英:distributor nozzle)である。鋳造領域は鋳造ガセットとして設計でき、鋳造領域または鋳造ガセットは、回転式チル鋳型および少なくとも1つのサイドダム、好ましくは2つのサイドダムによって形成され、それらサイドダムは、回転式チル鋳型の両側に対向して取り付けられる。鋳造領域にはメルトプールが形成されており、金属ストリップの製造中は、メルトプールから、金属メルトがロールギャップに流入するかまたは引き込まれる。垂直型ストリップ鋳造システムの場合は、鋳造領域または鋳造ガセットは、鋳造ギャップの実質的に上方に配置され、回転式チル鋳型の上側領域によって境界を定められる。水平型または傾斜型のストリップ鋳造システムの場合は、鋳造領域は、鋳造ギャップから横方向に、具体的には、鋳造ギャップに対してわずかに上に配置される。
【0030】
鋳造領域または鋳造ガセットは、回転式チル鋳型の全幅にわたる特に均一の金属メルトの分配、および鋳造領域に形成されたメルトプールを介した鋳造ギャップへの金属メルトの連続給送を可能にする。
【0031】
具体的には水平型または傾斜型のストリップ鋳造システムの場合、分配器ノズルを設けることもでき、その分配器ノズルを介して、金属メルトを鋳造ギャップ中に給送し、鋳造ギャップの全幅にわたって分配することができる。例えば、分配器ノズルは鋳造ギャップの直前で閉じられており、そうすることで、金属メルトは短時間だけ空気にさらされるかまたは全くさらされない。その場合、鋳造領域は、例えば、回転式チル鋳型および分配ノズル(独:Verteilduese,英:distribution nozzle)の端部によって、または分配器ノズルのみによって、実質的に形成され、そうすることで、追加のサイドダムを完全にまたは部分的に省略することができる。
【0032】
ストリップ鋳造システムのさらなる構成では、鋳造炉は、配管系によって鋳造領域に連結されている。具体的には、鋳造炉は、配管系によって、鋳造ガセットおよび/または分配器ノズルに連結されている。
【0033】
従来使用されていた開放型のチャネルシステムとは対照的に、配管系の形態の鋳造炉と鋳造領域との間の閉鎖式の連結は、金属メルトが鋳造領域に案内されるときに、金属メルトの表面における調整されない酸化を確実になくす。配管系は、鋳造炉から鋳造領域への金属メルトの特に静穏な調整できる案内も可能にする。配管系がやはり実質的に気密および/またはガス密の配管系である場合、金属メルトの調整されない酸化をさらに良好に避けることができる。さらに、閉鎖管の使用によって、金属メルトは、安全性の観点から有利なことに、少なくとも部分的に重力に逆らって案内することができる。好ましくは、ストリップ鋳造システムまたは配管系は、少なくとも1つの加熱可能な管および/または少なくとも1つのセラミック管、特に好ましくは、少なくとも1つの加熱可能なセラミック管を備える。それゆえ、金属メルトの早過ぎる凝固を避けることができる。配管系は、さらに好ましくは、加熱可能な管、具体的には、加熱可能なセラミック管のみを有する。
【0034】
ストリップ鋳造システムの次の構成によれば、ストリップ鋳造システムは、金属メルトを鋳造領域に給送する手段を備え、その手段を介して、鋳造領域に形成されたメルトプールの表面の下方で、金属メルトを鋳造領域に供給できる。
【0035】
メルトプールの表面の下方で金属メルトを鋳造領域中に給送できるように、金属メルトを鋳造領域中に給送する手段が構成される場合は、メルトプールの表面はさらに静穏に維持できる。そのことはメルトプールの表面が壊れることを防止する。一方で、これは、酸化物の調整されない形成を防止できる。他方で、表面の乱流または表面の動きを避けることができるので、酸化物の調整されない混合を事実上避けることもできる。これは、形成された酸化物層が制御されない形式で吸収および混合されることを防止できる。
【0036】
ストリップ鋳造システムのさらなる構成では、鋳造領域は少なくとも1つのサイドダムを有し、その少なくとも1つのサイドダムは、金属メルトのための給送開口部を少なくとも1つ有する。具体的には、鋳造領域はここでは鋳造ガセットである。
【0037】
金属メルトがサイドプレートを介してメルトプールに給送されると、メルトプールの表面の乱れおよび乱流を減らすかまたは避けることができることが示された。有利には、少なくとも1つの給送開口部が、ストリップ鋳造システムの進行中の動作の間に、鋳造ガセットに形成されたメルトプールの表面の下方にくるように配置される場合でも、メルトプールの表面の貫通、メルトプールの表面の乱れまたは乱流を特に首尾よく避けることができる。給送のこの形態は、具体的には垂直型ストリップ鋳造システムの場合に、特に有利であることが証明された。
【0038】
ストリップ鋳造システムのさらなる構成では、鋳造領域は、金属メルトのための給送開口部を少なくとも2つ、好ましくは、3つ有する。それゆえ、具体的には、鋳造領域における金属メルトのさらに一様な分配を実現できる。具体的には、鋳造ギャップに平行な明らかな温度勾配の形成は、メルトプールにおいて避けることができ、鋳造ギャップにおける金属メルトの特に均一な凝固を実現できる。水平型または傾斜型のストリップ鋳造システムの場合、少なくとも2つ、好ましくは、3つの給送開口部は、好ましくは、鋳造領域のベースに配置でき、その場合、金属メルトは、実質的に重力の方向に逆らって下方から、鋳造領域に給送できる。少なくとも2つの給送開口部は、さらに好ましくは、幅方向において実質的に鋳造領域の両端に配置される。第3の給送開口部が、例えば、他の2つの給送開口部の間で中央に配置される。
【0039】
これにより、鋳造ギャップに金属メルトを特に均一に給送すること、および鋳造ギャップに一定速度で均質な等温の金属メルトを提供することが可能になる。
【0040】
鋳造領域は、メルトプールの表面上の酸化物形成を避けるように、不活性ガスで充填することもできる。
【0041】
第2の教示によれば、上記で述べた目的は、金属メルトが鋳造ギャップ中にアクティブに搬送されるストリップ鋳造システムにおいて、金属メルトを鋳造ギャップに給送する本発明による方法において達成される。本発明に従って金属メルトがアクティブに、例えば、重力に逆らう超過圧力によって搬送される場合は、金属メルトの体積流れは、非常に精密に調整することができる。その結果、金属メルトは、制御された連続凝固プロセスに給送できる。金属メルトは、具体的には、非常に静穏にかつ制御された方式で案内でき、具体的には、給送プロセスにおける酸化物層が壊れることを避け、それゆえ、メルト中への不純物の侵入を避けることができる。金属メルトは、例えば、湯の動きによってメルトプールの表面が貫通されることも乱されることもないように、メルトプール中に給送できる。
【0042】
具体的には、本方法は、本発明によるストリップ鋳造システムを用いて実行できる。
【0043】
本方法のさらなる構成では、少なくとも1つの鋳造炉が、金属メルトを搬送するために加圧される。例えば、鋳造炉のメルトプールの表面を加圧できる。好ましくは、鋳造炉は、金属メルトが加熱され、例えば、圧力を加えることで立管に押し込まれる、低圧炉である。この構成は、特に静穏で緩やかなメルトの案内、ならびに、例えば、設定した超過圧力による、金属メルトを搬送する金属メルトの体積流れの単純な調整を可能にする。
【0044】
本方法の次の構成では、金属メルトは、少なくとも部分的に重力の方向に逆らって搬送される。重力の方向に逆らって少なくとも部分的に金属メルトを案内することは、特に制御可能かつ調整可能な金属メルトの体積流れを可能にする。さらに、システム障害の際に、金属メルトは、例えば、重力方向に立管および/または鋳造炉中に戻ることができ、そうすることで、金属メルトは流れ続けず、作業の安全性を向上させることができる。
【0045】
本方法のさらなる構成に従って鋳造ギャップの前にメルトプールが形成されるかまたは形成されることになる場合、ならびに、実質的に空気および/またはガスを排除して金属メルトが鋳造炉からメルトプールに案内される場合は、金属メルトの調整されない酸化をさらに首尾よく避けることができる。例えば、ストリップ鋳造システムは、鋳造ギャップの直前に配置された鋳造ガセットおよび/または分配器ノズルを有し、鋳造炉は配管系によって鋳造ガセットおよび/または分配器ノズルに連結されており、配管系は、実質的に完全に金属メルトで満たされるかまたは満たされることになる。「実質的に完全に」とは、ここでは、避けられない不純物が存在する可能性があることを指している。
【0046】
本方法のさらなる構成によれば、金属メルトは、メルトプールの表面の下方で、メルトプール中に給送される。例えば、メルトプールは、鋳造ギャップの前に形成されるかまたは形成されることになり、金属メルトは、このメルトプールにその表面の下方で給送される。これは、金属メルト中への酸化物の調整されない混合をもたらすことがある、メルトプールの表面が貫通されかつ/または渦を巻かれることが防止される。
【0047】
金属メルトは、有利なことに、横向きにおよび/または下方からメルトプールに給送することもできる。好ましくは、金属メルトは、メルトプールまたは鋳造ギャップ中に連続して、すなわち、具体的には、タンディッシュに金属メルトを一時的に貯蔵することなく、給送される。
【0048】
本発明のさらなる構成および利点は、本発明のいくつかの例示的な実施形態の以下の詳細な説明から、具体的には、図面と組み合わせて、説明することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】本発明による垂直型ストリップ鋳造システムの例示的な実施形態の概略断面図を示す。
【
図2】
図1の例示的な実施形態の鋳造領域の斜視図を示す。
【
図3】本発明によるものではない水平型ストリップ鋳造システムのさらなる例示的な実施形態の概略断面図を示す。
【
図4】本発明による水平型ストリップ鋳造システムのさらなる例示的な実施形態の概略断面図を示す。
【
図5】本発明による水平型ストリップ鋳造システムのさらなる例示的な実施形態の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、鋳造ギャップ21を有する回転式チル鋳型2と鋳造炉3とを備えるストリップ鋳造システム1を示す。回転式チル鋳型2は2つのロール22、23から形成され、ストリップ鋳造システム1は、金属メルト5を鋳造炉3から鋳造ギャップ21に搬送するアクティブ手段4を有する。ストリップ鋳造システム1は、ここでは、垂直型ストリップ鋳造システム1である。本実施例では、金属メルト5を搬送するアクティブ手段4は、金属メルト5を加圧する手段4を備え、それによりアクティブ手段4によって鋳造炉3から鋳造ギャップ21に金属メルト5をアクティブに搬送できる。本実施例では、鋳造炉3は、アクティブ手段4として、具体的には、低圧炉4として構成される。例示的なストリップ鋳造システム1は、鋳造ギャップ21の直前に配置された鋳造領域6を有し、鋳造領域6は、鋳造ガセット6として構成され、鋳造ギャップ21の上方に配置される。鋳造炉3、4は、加熱可能なセラミック管42、43を備える配管系42、43によって鋳造ガセット6に連結されている。さらに、鋳造ガセット6はサイドダム62を2つ有し、サイドダム62は金属メルト5のための給送開口部46を有する。給送開口部46は、ここでは、金属メルト5を鋳造ガセット6中に給送する手段46として設けられ、手段46を介して、金属メルト5を、鋳造領域に形成されたメルトプール52の表面の下方で、鋳造領域6に給送できる。このように、例示的なストリップ鋳造システム1は、金属メルト5を鋳造領域6に給送する手段46を備え、手段46は、鋳造領域6に形成されたメルトプール52の表面の下方で、金属メルト5を鋳造領域6に給送することができる。その場合、金属メルト5は、例えば、アルミニウムメルト5である。
【0051】
低圧炉3、4において、例えば、空気またはガスの供給源32を介して、例えば、0.1~1.0バール、好ましくは、0.5バールおよび0.6バールで、メルトプール53の表面が加圧される場合、金属メルト5は、重力Gの方向に逆らって、立管43および加熱管41を介して鋳造領域6に搬送される。これにより、メルトプール52の表面が表面の動きまたは金属メルトの乱流によって貫通されることも乱されることもない、特に静穏で緩やかな、メルトプール52へのメルトの案内を可能にする。金属メルト5が重力に逆らって搬送されるため、例示的なストリップ鋳造システム1は、システム障害の際に金属メルト5が低圧炉3、4中に、具体的には立管43を通って戻るので、非常に安全になるように構成される。さらに、鋳造ギャップへの金属メルトの体積流れの簡単な調整が可能になる。そのために、例示的なストリップ鋳造システム1は、鋳造ギャップ21内の金属メルト5の体積流れおよび/または鋳造ギャップ21内のメルトレベルの高さを調整する、制御ループの形態の手段を有する。また、そのために、制御ループは、鋳造領域6の充填レベルまたはメルトプール52のレベルを測定する充填レベルセンサ61からの測定値を利用し、低圧炉3、4内の圧力を測定する圧力センサ31も利用する。例えば、充填レベルセンサ61によってメルトプール52の充填レベルの低下が検出される場合、例えば、充填レベルを最適の充填レベルに戻すために、制御された手法で低圧炉3、4内の圧力を上昇させることができる。それゆえ、重力ベースの従来の給送システムとは対照的に、速い応答時間でアクティブにかつ精密に例示的なストリップ鋳造システム1を調整することができる。
【0052】
図2は、
図1の例示的な垂直型ストリップ鋳造システム1の鋳造領域6を示す斜視図である。例示的なストリップ鋳造システム1の回転式チル鋳型2は、2つのロール22、23によって形成される。鋳造領域6は、ここでは、鋳造ガセット6として設計され、回転式チル鋳型2のロール22、23および2つサイドダム62によって形成される。その場合、サイドダム62が給送開口部46を有し、給送開口部46を介して、鋳造領域に形成されたメルトプール52の表面の下方で、金属メルト5を鋳造領域6に給送できる。メルトの上方に位置するタンディッシュからの浸漬管を用いて働く従来の方法と比較すると、酸化物の生成およびメルト中への制御されていない酸化物の侵入など記載の弊害が起こる、タンディッシュを省略できる。
【0053】
図3は、鋳造ギャップ21を有する回転式チル鋳型2を備える、本発明によるものではないストリップ鋳造システム1を示す。その回転式チル鋳型2は、2つの(ダムブロック)チェーン25、26および鋳造炉3によって形成され、ストリップ鋳造システム1は、金属メルト5を鋳造炉3から鋳造ギャップ21に搬送するアクティブ手段4を有する。ここでは、ストリップ鋳造システム1は水平型または傾斜型のストリップ鋳造システム1である。その例では、金属メルト5を搬送するアクティブ手段4は、金属メルト5をポンプ輸送する電磁式金属ポンプ4の形態の手段4を備え、それにより、金属メルト5は鋳造炉3から分配器ノズル63中に下方から搬送される。鋳造領域6は、例えば、閉鎖式の分配器ノズル63によって形成される。
【0054】
図4は、鋳造炉3と、鋳造ギャップ21を有する回転式チル鋳型2とを備える、本発明によるさらなるストリップ鋳造システム1を示す。回転式チル鋳型2は2つのロール22、23によって形成され、ストリップ鋳造システム1は、金属メルト5を鋳造炉3から鋳造ギャップ21に搬送するアクティブ手段4を有する。ここでは、ストリップ鋳造システム1は水平型または傾斜型のストリップ鋳造システム1である。金属メルト5は、金属ポンプ4を介して下方から給送開口部46を通して鋳造領域6中にアクティブに搬送される。ここでは、鋳造領域6にメルトプール52が形成される。
【0055】
図5は、例示的なストリップ鋳造システムを示し、鋳造領域6は金属メルトのための給送開口部46を少なくとも3つ備える。2つの給送開口部46が、幅方向において実質的に鋳造領域6の両端に配置される。3つ目の給送開口部46が他の2つの給送開口部46の間で中央に配置される。金属メルト5は、鋳造炉3から金属ポンプ4を介して、下方から給送開口部46を通して鋳造領域6中にアクティブに搬送される。
図6に示すように、炉からの給送は、管41を介して複数のストランドに分岐でき、それに垂直な複数の管を通して複数の給送開口部46を介して鋳造領域6に、具体的には、鋳造ガセットおよび/または分配器ノズルに、重力Gの方向に逆らって給送できる。それゆえ、例えば、同じ温度および速度で、同時に複数の点で、メルトを分配システム中に給送することができるため、均質で等温のメルトが出口の全幅にわたって鋳造ギャップ21に流入することを実現できる。
【0056】
ストリップ鋳造システム1の記載した例示的な実施形態はそれぞれ、鋳造領域6中へのまたは鋳造ギャップ21へのアルミニウムメルト5の均一な給送を可能にし、それにより、鋳造圧延プロセスを安定させ、生産性を改善し、材料の不具合を避けることができる。このことは、例えば、鋳造ロールギャップ21に金属メルト5がメルトプール52の表面下で給送されることによって実現でき、そうなると、既存のメルトプール52の表面は、湯の動きによって貫通されることも乱されることもない。これにより、流入する金属メルト5の酸素との接触が避けられ、形成される酸化物の総量が減少する。さらに、例えば、メルトプール52の表面上には、損なわれていない静穏な酸化物層54があり、その酸化物層54は、メルト中に混合されず、メルトプール52をさらなる酸化から保護する。これにより、生産されるストリップへの非金属介在物が防止される。
【0057】
これは、ストリップ鋳造システム1が局部的なメルト貫通のリスクなしに最適速度で動作できることを意味する。ストリップの品質は、全幅にわたって一定になるように維持できる。このように、鋳造ギャップの幅全体にわたる一様でない凝固が避けられるので、例えば、鋳造ギャップを通るメルトの局部的な貫通を避けることができる。これにより、表面の瑕疵、ストリップの亀裂または鋳造製品の破損も防止することができる。
【0058】
さらに、下方からまたは横から投入されるメルトは、鋳造幅全体に、すなわち、鋳造ギャップの幅全体にわたって、個々のストランドにおいて分配でき、そうすることで、鋳造ギャップへの均質の流入が均一温度および/または均一速度で実現できる。これにより、局部的なメルト貫通のリスクを低下させることによって、ストリップ幅全体にわたる製品特性の均一性を改善し、システムの生産性をさらに向上させることができる。
【0059】
記載した例示的な実施形態は、労働安全上の理由で有利なこともある。システムの溶融領域で問題が起こると、搬送システムをオフに切り替えることができ、システムの残りのメルトは、重力Gによって立管42を通って炉中にただちに落下して戻る。鋳造領域中にはメルトのさらなる流れがない。
【手続補正書】
【提出日】2021-08-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの鋳造炉と、鋳造ギャップを有する少なくとも1つの回転式チル鋳型、具体的には、ロール対、ローラ対、キャタピラ対またはベルト対とを備える、ストリップ鋳造システムに関する。本発明はさらに、ストリップ鋳造システムにおいてアルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルトを鋳造ギャップに給送する方法に関する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
垂直型2ローラプロセスを実行する、このようなストリップ鋳造システムは、例えば、特許文献1から知られている。回転式チル鋳型を用いる水平型プロセスの場合は、タンディッシュを有するこのようなストリップ鋳造システムが、例えば、特許文献2に記載されている。タンディッシュのない供給源を有する、マグネシウム用のストリップ鋳造システムが、特開2016-147298(A)号および米国特許出願公開第2011/033332(A1)号からそれぞれ知られている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
したがって、本発明の目的は、鋳造ギャップへのアルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルトの体積流れの制御の改善、生産性の改善およびストリップ品質の改善を可能にし、同時に、安全性を高めることができる、ストリップ鋳造システムを提供することである。さらに、対応する方法も提案しよう。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
金属メルトが上記または下記で言及される場合は、アルミニウムまたはアルミニウム合金のメルトを指す。
【手続補正5】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの鋳造炉(3)と、鋳造ギャップ(21)を有する少なくとも1つの回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)とを備える、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金用のストリップ鋳造システム(1)であって、前記少なくとも1つの回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)は、ロール対(22、23)、ローラ対、キャタピラ対またはベルト対(25、26)として設計され、前記ストリップ鋳造システム(1)は、
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)を前記鋳造炉(3)から前記鋳造ギャップ(21)に搬送する少なくとも1つのアクティブ手段(4)を有する、前記ストリップ鋳造システム(1)であって、
前記ストリップ鋳造システム(1)は、前記鋳造ギャップ(21)の直前に配置された鋳造領域(6)を有し、前記鋳造領域(6)は、少なくとも1つの側で前記回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)によって境界を定められ、前記鋳造領域(6)は、前記鋳造領域(6)に
アルミニウムメルトプールまたはアルミニウム合金メルトプール(52)が形成され、そこから
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)が前記鋳造ギャップ(21)に流入するかまたは引き込まれるように設計され、前記鋳造炉(3)は、配管系(41、42、43)によって前記鋳造領域(6)に連結されており、前記ストリップ鋳造システム(1)は、前記
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)を前記鋳造領域(6)中に給送する手段(46)を備え、前記手段(46)は、前記鋳造領域(6)に形成された前記
アルミニウムメルトプールまたはアルミニウム合金メルトプール(52)の表面の下方で、前記
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)を前記鋳造領域(6)に給送できることを特徴とする、ストリップ鋳造システム(1)。
【請求項2】
金属メルト(5)を搬送する前記少なくとも1つのアクティブ手段(4)は、前記金属メルトを加圧する手段(4)および/または前記金属メルトをポンプ輸送する手段(4)を備えることを特徴とする、請求項1に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項3】
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)を搬送する前記少なくとも1つのアクティブ手段(4)は、圧力炉(4)、具体的には、低圧炉(4)を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項4】
前記鋳造炉(3)は低圧炉(4)として構成されることを特徴とする、請求項1から3の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項5】
前記ストリップ鋳造システム(1)は垂直型ストリップ鋳造システム(1)であることを特徴とする、請求項1から4の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項6】
前記ストリップ鋳造システム(1)は、前記鋳造ギャップ(21)への前記
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルトの体積流れおよび/または前記鋳造ギャップ(21)内のメルトレベルの高さを調整する手段を有することを特徴とする、請求項1から5の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項7】
前記鋳造領域(6)は少なくとも1つのサイドダム(62)を有し、前記少なくとも1つのサイドダム(62)は、
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)のための給送開口部(46)を少なくとも1つ有することを特徴とする、請求項1から6の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項8】
前記鋳造領域(6)は、
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)のための給送開口部(46)を少なくとも2つ、好ましくは、3つ有することを特徴とする、請求項1から7の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)。
【請求項9】
少なくとも1つの鋳造炉(3)と、鋳造ギャップ(21)を有するロール対(22、23)、ローラ対、キャタピラ対またはベルト対(25、26)として設計される少なくとも1つの回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)とを備える、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金用のストリップ鋳造システム(1)において、
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)を前記鋳造ギャップ(21)に給送する方法、具体的には、請求項1から8の何れか一項に記載のストリップ鋳造システム(1)を用いて実行される方法であって、
前記
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)は、前記鋳造ギャップ(21)の直前に配置された鋳造領域(6)中にアクティブに搬送され、前記鋳造領域(6)は、少なくとも1つの側で前記回転式チル鋳型(2、22、23、25、26)によって境界を定められ、前記鋳造領域(6)は、前記鋳造領域(6)に
アルミニウムメルトプールまたはアルミニウム合金メルトプール(52)が形成され、そこから
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)が前記鋳造ギャップ(21)に流入するかまたは引き込まれるように設計され、前記
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)は、前記鋳造領域(6)に形成された前記
アルミニウムメルトプールまたはアルミニウム合金メルトプール(52)の表面の下方で、前記鋳造領域(6)にアクティブに給送されることを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの鋳造炉(3)は、前記
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)を搬送するために加圧されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記
アルミニウムメルトまたはアルミニウム合金メルト(5)は、少なくとも部分的に重力(G)の方向に逆らって搬送されることを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【国際調査報告】