(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-01
(54)【発明の名称】眼損傷用医薬品の調製におけるルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20220624BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220624BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220624BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20220624BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61P27/02
A61P9/10
A23L33/105
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560375
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(85)【翻訳文提出日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 CN2019101567
(87)【国際公開番号】W WO2020199460
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】201910271900.2
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521440910
【氏名又は名称】ベイジン チェンイー インベストメント カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BEIJING CHENGYI INVESTMENT CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ハオ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シュエシィァン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD42
4B018MD48
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA11
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA28
4C086MA35
4C086MA36
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA52
4C086MA58
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZA36
(57)【要約】
眼損傷用医薬品の調製におけるルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの使用は、医薬品技術分野に属する。青色光による眼損傷を治療するための医薬品の調製におけるルテオリン-7-O-グルコシド及び/又はルテオリン-7-O-グルクロニドの使用。青色光に誘発される網膜色素上皮細胞の損傷のインビトロの薬力学的スクリーニングモデルによって、ルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドが青色光による網膜色素上皮細胞の損傷を回避するように保護する効果を有することが実証される。従って、ルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドは、アイケア健康製品又は食品にも応用されることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼損傷を予防又は治療するための医薬品の調製における、式(I)で示されるルテオリン-7-O-グルコシド及び/又は式(II)で示されるルテオリン-7-O-グルクロニドの使用。
【化1】
【請求項2】
前記眼損傷がヒト網膜の損傷である、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ヒト網膜の損傷がヒト網膜色素上皮細胞である、ことを特徴とする請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記眼損傷が青色光により引き起こされる眼損傷である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項5】
前記青色光が短波青色光であり、前記短波青色光の波長が400~500nmである、ことを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記青色光は、携帯電話、タブレット、テレビ、及びコンピューターのディスプレーから発せられる青色光を含む、ことを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬品は、経口製剤及び眼科用外用製剤を含み、
前記経口製剤は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、軟膏剤、又は経口液剤を含み、
前記眼科用外用製剤は、点眼液、眼科用ゲル剤、又は眼科用軟膏剤を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項8】
経口製剤において、前記ルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの含有量が5質量%~50質量%であり、
眼科用外用製剤において、前記ルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの含有量が0.1質量%~20質量%である、ことを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
アイケア健康製品又は食品における式(I)で示されるルテオリン-7-O-グルコシド及び/又は式(II)で示されるルテオリン-7-O-グルクロニドの使用。
【化2】
【請求項10】
前記アイケア健康製品又は食品において、前記ルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの含有量が0.1質量%~20質量%である、ことを特徴とする請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本願は、2019年04月04日に、中国特許庁に出願された出願番号が201910271900.2、発明名称が「眼損傷用医薬品の調製におけるルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの使用」である中国特許出願に基づく優先権を主張し、その全内容は援用により本出願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は医薬品技術分野に属し、具体的には眼損傷用医薬品の調製におけるルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
目は、外界からの光の刺激を受けて視覚を生み出す人体の器官である。目の角膜と水晶体は透明な構造であり、これらの2つの構造の集光効果により網膜に光が集束し、視細胞を刺激して視覚を生み出す。有害な光もこの経路を通って目に入る可能性があり、目のドライ、目の疲れ、目の損傷、くまや目のしわなどの問題を引き起こす恐れがある。
【0004】
現在、我々は携帯電話、フラットスクリーン、テレビ、さまざまなディスプレーを含むスクリーンに囲まれた環境に生きている。これらのスクリーンの背景光源は、強力な電子流によって励起されたものであり、スクリーン光源には異常な高エネルギーの青色光が含まれる。このような短波長の光は、人間の目のレンズを透過して網膜に到達することが可能であり、網膜の視細胞が構造の特殊な細胞膜を有し、この細胞膜に脂肪酸がたくさん含まれ、青色光に照射されすぎると、特に過酸化反応やフリーラジカルの蓄積を発生しやすくなり、網膜色素上皮細胞(retinal pigment epithelium,RPE)アポトーシスを促進し、視力を損傷する。
【0005】
現在、網膜損傷に対する医薬品がたくさんある。例えば、特許公開CN108938687Aには、網膜損傷性疾患を予防又は治療するための医薬品の調製におけるハマビシ(Tribulus terrestris L.)の使用が開示され、過酸化水素(H2O2)に誘発される酸化ストレスによるヒト網膜色素上皮細胞損傷に対するハマビシ抽出物の保護作用が掲示されている。特許公開CN106880626Aには、酸化ストレス状態での網膜色素上皮細胞に対するケンペロールの保護作用が開示されている。特許CN106074585Aには、網膜光損傷マウスモデルに対するジンセノサイドRb1とRdの組み合わせの介入効果が開示され、その結果は、該薬組成物が網膜色素上皮細胞の酸化ストレスに拮抗し、網膜損傷に関連する免疫炎症を効果的に抑制し、網膜変性疾患を大幅に改善することができることを示している。
【0006】
ルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドは先行技術で知られている化合物であり、elsholtzia bodinieri vaniot又はsowthistle-leaf ixerisから抽出される。ルテオリン-7-O-グルクロニドは、心血管疾患を治療し、微小循環を改善し、血中脂質を低下させる効果を有する。ルテオリン-7-O-グルコシドは、抗B型肝炎ウイルス及び認知症の治療効果を有する。ルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドは、原料が入手容易であり、この2つの化合物の新たな用途を開発することが重要である。
【発明の概要】
【0007】
上記事情に鑑みて、本発明は、ルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの新規な用途、具体的には、眼損傷を予防又は治療するための医薬品の調製における化合物ルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの使用、を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、眼損傷を予防又は治療するための医薬品、アイケア健康製品及び食品の調製における式(I)で示されるルテオリン-7-O-グルコシド又は式(II)で示されるルテオリン-7-O-グルクロニドの使用を提供する。
【0009】
【0010】
好ましくは、前記眼損傷がヒト網膜の損傷である。
【0011】
好ましくは、前記ヒト網膜の損傷がヒト網膜色素上皮細胞である。
【0012】
好ましくは、前記眼損傷が青色光により引き起こされる眼損傷である。
【0013】
好ましくは、前記青色光が短波青色光であり、前記短波青色光の波長が400~500nmである。
【0014】
好ましくは、前記青色光には、携帯電話、タブレット、テレビ、及びコンピューターのディスプレーから出した青色光が含まれる。
【0015】
好ましくは、前記医薬品には、経口製剤、又は眼科用外用製剤が含まれる。
【0016】
前記経口製剤には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、軟膏剤、又は経口液剤が含まれる。
【0017】
前記眼科用外用製剤には、点眼液、眼科用ゲル剤、又は眼科用軟膏剤が含まれる。
【0018】
好ましくは、経口製剤において、前記ルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの含有量が5質量%~50質量%である。
【0019】
眼科用外用製剤において、前記ルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの含有量が0.1質量%~20質量%である。
【0020】
本発明は、アイケア健康製品又は食品における、式(I)で示されるルテオリン-7-O-グルコシド又は式(II)で示されるルテオリン-7-O-グルクロニドの使用を提供する。
【0021】
【0022】
好ましくは、前記アイケア健康製品又は食品において、前記ルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの含有量が0.1質量%~20質量%である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、眼損傷を予防又は治療するための医薬品の調製における、式(I)で示されるルテオリン-7-O-グルコシド又は式(II)で示されるルテオリン-7-O-グルクロニドの使用を提供する。細胞傷害活性の実験は、ルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドがヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19に対して細胞傷害活性を持たないことを示しており、優れた薬剤安全性を有することを示している。薬力学的活性実験は、ルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドが青色光によって誘発されるARPE-19細胞の損傷を予防及び改善する効果を有することを示している。ルテオリン-7-O-グルコシドが青色光によって誘発されるヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19の損傷を予防及び改善する薬力学作用機構の1つは、細胞の活性酸素のレベル及びアポトーシスのレベルを低下させることで、青色光によるヒト網膜色素上皮細胞の損傷を改善し、視力障害を改善することである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1-A】
図1-Aは、ヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19に対するルテオリン-7-O-グルコシドの細胞傷害活性の実験結果図(n=3)である。
【
図1-B】
図1-Bは、ヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19に対するルテオリン-7-O-グルクロニドの細胞傷害活性の実験結果図(n=3)である。
【
図2-A】
図2-Aは、青色光によって誘発されるヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19の損傷に対するルテオリン-7-O-グルコシドの薬力学実験結果図(n=3)である。
【
図2-B】
図2-Bは、青色光によって誘発されるヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19の損傷に対するルテオリン-7-O-グルクロニドの薬力学実験結果図(n=3)である。ここで、##P<0.01は対照群を表し、**P<0.01、***P<0.001はモデル群を表す。
【
図3】
図3は、青色光によって誘発されるヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19の損傷に対するルテオリン-7-O-グルコシドの薬力学の作用機構の結果図であり、
図3中のAは、DHE染色によって検出されたさまざまな治療群の細胞内のROS含有量の変化の比較図であり、
図3中のBは、DHE染色によって検出された青色光照射後のさまざまな治療群の細胞内の蛍光強度の変化の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、眼損傷を予防又は治療するための医薬品、アイケア健康製品及び食品の調製における式(I)で示されるルテオリン-7-O-グルコシド及び/又は式(II)で示されるルテオリン-7-O-グルクロニドの使用を提供する。
【0026】
【0027】
本発明では、式(I)で示されるルテオリン-7-O-グルコシド又は式(II)で示されるルテオリン-7-O-グルクロニドは、特に制限がなく、本分野でよく知られる2つの化合物を使用すればよい。本発明実施例においては、前記ルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドは、いずれも中国薬品生物製品検定所から購入した。
【0028】
本発明においては、前記眼損傷がヒト網膜の損傷であることが好ましい。前記ヒト網膜の損傷がヒト網膜色素上皮細胞であることが好ましい。前記眼損傷が青色光により引き起こされる眼損傷であることが好ましい。前記青色光が短波青色光であることが好ましい。前記短波青色光の波長が400~500nmであることが好ましい。前記青色光には、好ましくは、携帯電話、タブレット、テレビ、及びコンピューターのディスプレーから発せられる青色光が含まれる。前記短波青色光は、眼内の黄斑部の毒素の量を増やし、人々の眼底の健康を深刻に脅かす恐れがある。また、青色光は、失明を誘発する恐れもある。
【0029】
本発明においては、前記医薬品には、好ましくは、経口製剤及び眼科用外用製剤が含まれる。前記経口製剤には、好ましくは、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、軟膏剤又は経口液剤が含まれる。経口製剤においては、前記ルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの含有量が5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、15質量%であることが最も好ましい。前記眼科用外用製剤には、好ましくは、点眼液、眼科用ゲル剤又は眼科用軟膏剤が含まれる。眼科用外用製剤においては、前記ルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの含有量が0.1~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、5質量%であることが最も好ましい。前記経口製剤及び眼科用外用製剤は、さらに許容される添加物及び/又は添加剤を含む。本発明においては、前記経口製剤及び眼科用外用製剤の製造方法は、特に制限がなく、本分野でよく知られる経口製剤及び眼科用外用製剤の通常の方法で調製すればよい。
【0030】
青色光に引き起こされたヒト網膜色素上皮細胞の損傷に対するルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドの保護作用に基づいて、本発明は、さらに、アイケア健康製品又は食品における式(I)で示されるルテオリン-7-O-グルコシド又は/式(II)で示されるルテオリン-7-O-グルクロニドの使用を提供する。
【0031】
【0032】
本発明においては、前記アイケア健康製品又は食品において、前記ルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの含有量が0.1質量%~20質量%であることが好ましい。本発明では、前記健康製品及び食品の製造方法は、特に制限がなく、本分野でよく知られる健康製品及び食品の製造方法を使用すればよい。
【実施例】
【0033】
以下では、実施例を参照しながら、本発明に提供される眼損傷用医薬品の調製におけるルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの使用について、詳しく説明するが、それが本発明の保護範囲を制限することに理解されるべきではない。
【0034】
実施例1
ヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19に対するルテオリン-7-O-グルコシド又はルテオリン-7-O-グルクロニドの細胞傷害活性の研究
【0035】
ARPE-19細胞(中国広州金諾生物技術有限公司から購入)を、10%ウシ胎児血清と1%二重抗体(ペニシリン-ストレプトマイシン)とを含むRPMI-1640低糖型細胞培養液(培養液は2g/L D-グルコース、0.3g/L L-グルタミン、及び2g/L 重炭酸ナトリウムを含有する)に播種し、3日ごとに1回、培地を交換して用意した。
【0036】
指数増殖期の細胞を取り、1×104細胞/mLの濃度で完全培地100μLを各ウェルに加え、37℃、5%CO2の加湿雰囲気で24時間加湿培養した。細胞が壁に完全に付着した後、終濃度が12.5μmol/L、25μmol/L、50μmol/L、100μmol/Lとなるようにルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドをそれぞれ加え、24時間培養した。
【0037】
3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2-H-テトラゾリウムブロミド(MTT)法により、細胞生存率を測定した。各ウェルに5mg/mLのMTT20μLを加え、CO2インキュベーターにおいて4時間培養した。すべての操作は光から保護して行われた。そして、気をつけながら96ウェルプレートの溶媒を150μLのジメチルスルホキシド(DMSO)に交換し、振とうして結晶を溶解した。マイクロプレートリーダーを使用し、490nmでARPE-19細胞の吸光度を測定し、細胞生存率=(実験群OD値-ブランク群OD値)/(対照群OD値-ブランク群OD値)×100%より、細胞生存率を計算した。
【0038】
結果は、
図1に示した。ルテオリン-7-O-グルコシド(
図1-A)とルテオリン-7-O-グルクロニド(
図1-B)は、12.5~100μmol/Lの濃度範囲において、細胞生存率がそれぞれ95.6±5.1%から99.5±5.8%までの間、と94.2±4.7%から96.5±5.4%までの間にあった。その結果は、上記の測定濃度において、ルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドがヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19に対して細胞傷害活性を持たないことを示し、2つの化合物が良好の安全性を有することを示している。
【0039】
実施例2
青色光によって誘発されるヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19の損傷に対するルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドの薬力学活性の研究
【0040】
ARPE-19細胞を10%ウシ胎児血清と1%二重抗体(ペニシリン-ストレプトマイシン)とを含むRPMI-1640低糖型細胞培養液に播種し、3日ごとに1回、培地を交換して用意した。
【0041】
指数増殖期の細胞を取り、5×104細胞/mLの濃度で、24ウェル細胞培養プレートに各ウェルあたり500μL播種し、37℃、5%CO2において加湿培養した。細胞が壁に完全に付着した後、25μmol/LのN-レチニリデン-N-レチニルエタノールアミン(A2E)を含むDMEM培養液を交換し、続いて2時間培養した後で、上澄みを捨て、PBSで3回洗浄し、終濃度が12.5μmol/L、25μmol/L、50μmol/Lとなるようにルテオリン-7-O-グルコシドとルテオリン-7-O-グルクロニドをそれぞれ加え、連続的に6時間培養し、その後、青色光装置(50W LED青色光ライトボード、青色光の光強度3230~3540Lux)に置き、4時間照射した。光照射終了後、再び37℃、5%CO2インキュベーターに入れ、続いて24時間培養した。培養終了後、各ウェルに100μLの終濃度0.5mg/mLのMTT溶液を加え、遮光しながら4時間培養し、その後、上澄みを捨て、各ウェルに500μLのDMSOを加えてホルマザンを完全に溶解させ、490nmで複数ウェルマイクロプレートリーダーでOD値を測定し、細胞生存率=(実験群OD値-ブランク群OD値)/(対照群OD値-ブランク群OD値)×100%より、細胞生存率を計算した。
【0042】
A2Eは、光毒性があり、主に430nm波長の光を吸収し、酸素フリーラジカルを生成して細胞膜や細胞内リソソーム膜の損傷を引き起こし、青色光による損傷に対する感度を高めることがよく知られている。A2Eは、青色光による損傷の実験に用いられる典型的なモデリング薬である。A2Eを用いて青色光による損傷モデルを構築する。
【0043】
結果は、
図2に示した。ルテオリン-7-O-グルコシド(
図2-A)とルテオリン-7-O-グルクロニドの薬剤介入群(
図2-B)は、12.5~50μmol/Lの濃度範囲において、細胞生存率がそれぞれ64.8±6.4%から89.6±2.9%までの間と、62.4±8.3%から84.5±5.2%までの間にあり、かつ濃度依存性を有する。A2Eで前処理されたARPE-19細胞の青色光照射後のモデル群(49.5±10.3%)に比べ、異なる濃度のルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドの作用群は、いずれも有意差(P<0.01、P<0.001)がある。その結果は、ルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドが青色光によって誘発されるARPE-19細胞の損傷を予防又は改善する薬力学的作用を有することを示している。
【0044】
実施例3
青色光に誘発されるヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19の損傷に対するルテオリン-7-O-グルコシドの薬力学の作用機構の研究
【0045】
ARPE-19細胞の単層を播種し、細胞濃度5×104細胞/ウェルで、24ウェルプレートで培養し、実施例2のように処理した後、PBSで2回洗浄し、20μmol/L濃度の活性酸素種(Reactive oxygen species,ROS)の蛍光プローブジヒドロエチジウム(Dihydroethidium、DHE)染色液を加えて染色し、37℃で20分間インキュベートし、細胞に入らなかったDHEプローブを十分に除去するように、PBSで2回洗浄した後、倒立顕微鏡により観察してイメージングし、励起波長が540nmであり、発光波長が590nmであった。
【0046】
細胞を24ウェルプレート(5×104細胞/ウェル)に播種し、前述のように処理した。その後、固定液を加え、30分間インキュベートした。次に、PBSで細胞を3回洗浄し、濃度が20μg/mLである生細胞の染色液(Hoechst 33342)を加えて染色し、室温で遮光しながら15分間インキュベートした。PBSで細胞を洗浄した後、倒立顕微鏡下でイメージングし、励起波長が365nmであり、発光波長が460nmであった。
【0047】
ROSは、細胞酸化ストレスを評価するための重要な指標の1つである。
図3のAに示すように、この実験では、DHE染色を使用して細胞内ROSの含有量を検出したことより、A2Eで前処理されたARPE-19細胞に青色光を照射した後(モデル群)、蛍光強度が増加し、細胞内ROSの含有量が有意に増加したが、ルテオリン-7-O-グルコシドで介入した後、細胞内蛍光強度が用量の増加とともに有意に減少したことが分かる。これは、ルテオリン-7-O-グルコシドが青色光の損傷に誘発された細胞内ROSの蓄積を低減できることを示している。
図3のBに示すように、A2Eで前処理されたARPE-19細胞に青色光を照射した後、細胞核が明らかに凝縮固縮を発生し、かつ蛍光強度が増加したが、ルテオリン-7-O-グルコシドで介入した後、細胞状態が有意に良好となった。これは、ルテオリン-7-O-グルコシドが青色光によって誘発されるアポトーシスを改善できることを示している。ルテオリン-7-O-グルコシドが青色光によって誘発されるヒト網膜色素上皮細胞ARPE-19の損傷を予防及び改善する薬力学の作用機構の1つは、細胞の活性酸素のレベル及びアポトーシスのレベルを低下させることで、青色光によるヒト網膜色素上皮細胞の損傷を改善し、視力障害を改善することである。
【0048】
このように、ルテオリン-7-O-グルコシド及びルテオリン-7-O-グルクロニドは、いずれも青色光によるヒト網膜色素上皮細胞の損傷を予防及び改善する効果を有し、青色光による眼損傷の治療、予防又は改善のために用いることができる。
【0049】
上記の実施例の説明は、本発明の方法及び要旨を理解するために用いられたもので過ぎない。当業者にとって、本発明の原理から逸脱することなく、本発明について幾つの改良及び修飾を加えることもできるが、それらの改良及び修飾も本発明の範囲に含まれることに留意する必要がある。それらの実施例の様々な修正は、当業者にとって自明なものである。本明細書で定義される一般原理は、本発明の思想、及び範囲から逸脱することなく、他の実施例で実現することもできる。従って、本発明は、本明細書に示されるそれらの実施例に限られていることではなく、本明細書に開示される原理及び新規の特徴に対応する最も広い範囲と一致する。
【国際調査報告】