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特表2022-530767官能化グラフェン及び官能化グラフェンを含むコーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-01
(54)【発明の名称】官能化グラフェン及び官能化グラフェンを含むコーティング
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/44 20060101AFI20220624BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20220624BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220624BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20220624BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220624BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220624BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20220624BHJP
   C09C 3/12 20060101ALI20220624BHJP
   C09C 3/04 20060101ALI20220624BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20220624BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20220624BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220624BHJP
   B05D 1/24 20060101ALI20220624BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20220624BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C09C1/44
C23C26/00 A
C09D201/00
C09D163/00
C09D7/63
C09D7/61
C09D7/62
C09C3/12
C09C3/04
B05D7/00 K
B05D7/00 C
B05D1/02 Z
B05D7/24 303A
B05D7/24 303E
B05D1/24
B05D3/04 A
B05D3/04 Z
B05D3/12 Z
B05D7/24 303C
B05D7/24 302U
B05D7/24 303B
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021563345
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(85)【翻訳文提出日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 GB2020051010
(87)【国際公開番号】W WO2020217061
(87)【国際公開日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】1905720.7
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521464640
【氏名又は名称】タルガ テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TALGA TECHNOLOGIES LIMITED
【住所又は居所原語表記】The Bradfield Centre 184 Cambridge Science Park Cambridge Cambridgeshire CB40GA (GB)
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アネジャ カランヴィル
(72)【発明者】
【氏名】ボーム シヴァサンブ
(72)【発明者】
【氏名】ボーム ヘネガマ リヤナジ マリカ
【テーマコード(参考)】
4D075
4J037
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AB07
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4D075BB16X
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4J038KA07
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4J038PB07
4J038PB09
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4K044BA01
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4K044BA11
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(57)【要約】
本発明は、官能化グラフェンを製造する方法に関し、該方法は、グラフェンが実質的に乾燥した状態にあるとき、化学リンカーでグラフェンを官能化するステップを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能化グラフェンを製造する方法であって、グラフェンが実質的に乾燥した状態にあるとき、化学リンカーで前記グラフェンを官能化するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記グラフェンは、粉末の形態で提供される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グラフェンは、酸化物を含まず、部分的に酸化されたグラフェン、又は制限された酸素含有量(<5%)のグラフェンである、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、好ましくはスプレーによって、前記官能化グラフェンに湿潤剤及び/又は分散剤を加えるステップを含む、ことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記化学リンカーは液体の形態である、ことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記グラフェンには前記化学リンカーがスプレーされる、ことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記グラフェンの官能化は、不活性雰囲気下又は空気中で行われる、ことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記官能化グラフェンを乾燥させる、ことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記グラフェンは、流動床、乾式/湿式ミル、又は機械式ミキサーで官能化される、ことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記化学リンカーは、オルガノシラン、好ましくは非加水分解オルガノシランを含む、ことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記請求項のいずれか1項の方法に従って製造された官能化グラフェン組成物であって、前記官能化グラフェン組成物は、0.1~10重量%の化学リンカーとグラフェンとを含む、ことを特徴とする官能化グラフェン組成物。
【請求項12】
前記組成物は、0.1~5重量%の湿潤剤を含む、ことを特徴とする請求項11に記載の官能化グラフェン組成物。
【請求項13】
前記組成物は、0.1~10重量%の分散剤を含む、ことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の官能化グラフェン組成物。
【請求項14】
金属顔料とバインダーとを含むコーティング組成物中の金属顔料の含有量を低減する方法であって、コーティング組成物中の前記金属顔料の一部を置き換えるか又は低減するステップと、
前記金属顔料を、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の方法で得られた充填剤及び官能化グラフェン又は請求項11~請求項13の前記官能化グラフェン組成物で置き換えるステップとを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項15】
コーティング組成物であって、
バインダーと、
金属顔料と、
充填剤と、
前記コーティング組成物中の前記金属顔料の一部を少なくとも部分的に置き換えるための官能化グラフェンと、を含み、前記官能化グラフェンは、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の方法で得られた前記官能化グラフェン、又は請求項11~請求項13のいずれかに記載の官能化グラフェン組成物である、ことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項16】
前記コーティング組成物は、
0.5~10重量%の前記官能化グラフェンと、
5~90重量%の前記金属顔料と、
5~90重量%の前記バインダーと、
前記充填剤と、を含むことを特徴とする請求項15に記載のコーティング組成物。
【請求項17】
前記バインダーは、樹脂と硬化剤とを含む、ことを特徴とする請求項15又は請求項16に記載のコーティング組成物。
【請求項18】
前記樹脂は、エポキシ樹脂を含み、前記硬化剤は、アミノ、アミド、ヒドロキシル、カルボン酸、無水物、イソシアネート、フェノール及びチオールの官能基のいずれかを含む、ことを特徴とする請求項17に記載のコーティング組成物。
【請求項19】
前記金属顔料は、亜鉛又は亜鉛合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金、酸化鉄又は前記金属又は導電性金属酸化物顔料の1つ又は複数の混合物を含む、ことを特徴とする請求項15から請求項18のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項20】
前記充填剤は、CaCO、タルク、マイカ、二酸化チタン、不活性充填剤、又はそれらの混合物を含む、ことを特徴とする請求項15から請求項19のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項21】
被覆物品であって、前記物品は、請求項15から請求項20のいずれか1項に記載のコーティング組成物で形成されたコーティング層を含む、ことを特徴とする被覆物品。
【請求項22】
前記コーティング層は、1~150ミクロンの乾燥膜厚を有する、ことを特徴とする請求項21に記載の被覆物品。
【請求項23】
前記物品は、金属基板、自動車、航空機、電気又は家庭電化製品、海洋構造物、船舶又は乾ドックを含む、ことを特徴とする請求項21又は請求項22に記載の被覆物品。
【請求項24】
被覆物品を製造する方法であって、前記方法は、請求項15~請求項20のいずれか1項に記載の組成物を前記物品の表面に塗布するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項25】
コーティング層における金属顔料の代替物としての、請求項1~請求項10のいずれか1項に従って製造された官能化グラフェンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能化グラフェンを製造する方法、官能化グラフェン組成物、コーティング組成物中の金属顔料の含有量を低減する方法、官能化グラフェンを含むコーティング組成物、コーティング組成物で形成されたコーティング層を含む被覆物品、被覆物品を製造する方法、コーティング層における金属顔料の代替物としての官能化グラフェンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ系コーティングは、船舶及び海洋産業で、有機プライマーとして最も一般的に使用され、通常、使用時のコーティングの耐食性を向上させるために、亜鉛又はアルミニウムなどの金属顔料を含む。亜鉛含有量の高いコーティング(製造前と製造後の両方)は非常に優れた腐食保護を示す傾向があるが、例えば、溶接作業中の飛散及びZnOヒュームの発生を防ぐために、亜鉛含有量を低減することが必要になることが多い。大量の亜鉛を組み込むと、脆いコーティングが形成されることも知られており、これは、コーティング及び被覆構造の耐用年数を減少させるため、望ましくない。エポキシ/亜鉛コーティングを備えた構造の耐用年数は、コーティングの亜鉛含有量によって制限され、通常の状況下では、亜鉛含有量を低減すると、被覆構造の耐用年数が短くなることも理解される。さらに、亜鉛は両性元素であるため、酸性環境と塩基性環境の両方で優先的に腐食し、他の多くの金属顔料と比較して大幅に速い速度で腐食する。したがって、亜鉛を含むエポキシコーティングを備えた構造の耐用年数は、短くなる可能性がある。さらに、水系エポキシ/亜鉛プライマーの場合、亜鉛の一部が酸素と反応して酸化亜鉛を形成するため、大量の亜鉛が必要とされる。これは、被覆構造を製造するコストを増加させるだけでなく、これらの水系システムの有効性を制限する。
【0003】
本発明の実施形態の目的は、低減された量の金属顔料を含む腐食防止コーティングを提供することである。本発明の実施形態の目的は、また、コーティングの腐食保護性及び機械的特性(接着特性を含む)を低下させることなく、金属顔料含有量を低減させることである。本発明の実施形態の別の目的は、下層構造を長期間腐食から保護することができる腐食保護コーティングを提供することである。本発明の実施形態のさらなる目的は、被覆構造を製造するための環境に優しく、軽量で費用効果の高い方法を提供することである。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1態様によれば、官能化グラフェンを製造する方法が提供され、該方法は、グラフェンが実質的に乾燥した状態にあるとき、化学リンカーでグラフェンを官能化するステップを含む。
【0005】
このようにグラフェンを官能化することにより、官能化グラフェンを、混合比に関係なく、あらゆる樹脂システムに「レディミックス」成分として組み込むことができる。また、溶媒の使用を回避するか、少なくとも大幅に最小限に抑える。したがって、溶媒の取り扱いとその廃棄に関する問題も同様に回避される。グラフェンの凝集は、腐食速度を増加させる可能性のあるベアメタルとのガルバニックカップルの形成をもたらすことが知られている。グラフェンを化学リンカーで官能化することにより、例えば、樹脂及び/又は硬化剤のようなバインダーと結合することができ、これは、グラフェンが効果的に分散し、バインダー内で凝集しないことを確保するのに役立っている。さらに、官能化は、グラフェンを溶媒に分散させるのではなく、実質的に乾燥した状態でグラフェンを使用して行われるため、グラフェンを官能化するために必要な化学リンカーの量を低減することで、コストを削減することができる。
【0006】
グラフェンは、グラフェンナノプレートレットを含んでもよい。グラフェンナノプレートレットは、粉末の形態で提供されてもよい。
【0007】
グラフェンは、酸化物を含まないグラフェン又は「純粋な」グラフェンであってもよい。又は、グラフェンは、部分的に酸化されたグラフェン又は制限された酸素含有量(<5%)のグラフェンであってもよい。還元ステップの後には残留酸化物が必然的に残るため、これらには、酸化グラフェンから還元されたグラフェンは含まれない。酸化グラフェン(GO)又は還元型酸化グラフェン(RGO)の代わりに酸化物を含まないグラフェンを使用することにより、酸化物を含まないグラフェンが組み込まれているコーティングの腐食保護及び機械的特性が向上すると理解されている。さらに、GO及びRGOと比較して、官能化された酸化物を含まないグラフェンをコーティングに組み込むことで、より多くの金属顔料を置き換えることができると考えられる。
【0008】
化学リンカーは、液体の形態で提供されてもよい。液体は、有機溶媒、有機溶媒系溶液、水又は水系溶液であってもよい。官能化グラフェンを水性又は水系コーティング組成物に組み込む場合、水性又は水系溶液中に化学リンカーを提供することが好ましい。一方、官能化グラフェンを溶媒系コーティング組成物に組み込む場合、溶媒系システムに化学リンカーを提供することが好ましい。
【0009】
化学リンカーは、少なくとも2つの官能基を含んでもよい。1つの官能基はグラフェンのエッジ原子と反応できる可能性がある。好ましくは、グラフェンのエッジ原子と反応する官能基は、グラフェンプレートレット間に立体障害を提供することでシステムの安定化を補助するアミノ基である。この化学結合は、グラフェンの濡れ性を改善し、優先的な熱力学的スタッキングモード(ABA、ABBなど)を防ぐのにも役立っている。
【0010】
第2の官能基は、コーティング組成物中のバインダーと反応することができる可能性がある。第2の官能基は、アミノ、ヒドロキシル、カルボン酸又はエポキシ基を含んでもよい。いくつかの実施形態では、化学リンカーは、オルガノシランを含む。特に、化学リンカーは、アミノシラン、又はAPTESなどのアミノアルコキシシランを含んでもよい。オルガノシラン、アミノシラン又はアミノアルコキシシランは、加水分解されていない可能性がある。
【0011】
グラフェンには、化学リンカーをスプレーしてもよい。液体媒体(水又は溶媒)でグラフェンを官能化する代わりに、化学リンカーをグラフェンにスプレーすることにより、グラフェンを官能化するために必要な化学リンカーの量を低減することができる。スプレーは、グラフェンナノプレートレットが凝集するリスクを低減し、これにより、その後コーティング組成物に組み込むと、このように形成されたコーティングの腐食保護及び機械的特性が低下することも理解される。
【0012】
いくつかの実施形態では、該方法は、好ましくはスプレーによって、グラフェンを官能化する前に、湿潤剤及び/又は分散剤を加えるステップを含んでもよい。この段階における湿潤剤及び/又は分散剤の添加は、官能化グラフェンがバインダーに、そして最終的にはコーティングに組み込まれる場合、官能化中にグラフェンフレークの良好な湿潤性及び分散を確保するのに役立っている。
【0013】
湿潤剤と分散剤を同時に加えることができるが、まず、湿潤剤を加え、次に、分散剤を加えることが好ましい。
【0014】
湿潤剤及び/又は分散剤は、溶媒又は水系であってもよい。湿潤剤及び/又は分散剤は、-NH、-OH、-O=C-NH、-(NH及び-(NHの官能基のいずれかを含んでもよい。アミノ、ヒドロキシル、カルボアミド、ジアミン及びトリアミン官能基を含む湿潤剤及び/又は分散剤は、グラフェンのエッジ電子との反応に非常に適しており、その結果、コーティングに含まれる金属顔料の量が少ない場合でも、腐食保護の改善が得られる。
【0015】
本発明に従って使用されてもよい分散剤の例として、DisperBYK 2010、DisperBYK 2012、Disperbyk 2025、Anti terra 250、DisperBYK 190、Disperbyk 199、BYK 093、BYK 2025、BYK 1640、及びCARBOWETR GA-100 (Evonik)などの水系分散剤、及びBYK 9077などの溶媒系分散剤が挙げられる。溶媒系システムに好ましい分散剤は、BYK 9076などの高分子量コポリマーのアルキルアンモニウム塩である。
【0016】
湿潤剤は、ポリエーテル変性ポリシロキサン又は変性ポリアクリレート、例えば、BYK 333及びBYK 3550を含んでもよい。
【0017】
グラフェンの官能化は、不活性雰囲気下で行われてもよい。これは、純粋なグラフェンが酸化されないようにするか、少なくとも官能化グラフェンを含むコーティングの腐食保護特性に悪影響を与える可能性のある酸化のリスクを最小限に抑えるのに役立っている。部分的に酸化されたグラフェン又は制限された酸素グラフェンが使用される場合、不活性雰囲気下で官能化することは、酸素含有量が5%を超えないことを確保するのに役立っている。
【0018】
官能化グラフェン組成物を乾燥させてもよい。官能化グラフェンを、周囲条件下で乾燥させてもよいし、熱処理を施してもよい。熱処理を、150℃の温度を超えないようにしてもよい。いくつかの実施形態では、官能化グラフェンを乾燥させるステップは、不活性雰囲気下、例えば、窒素雰囲気下で行われてもよい。これは、特に官能化グラフェンが熱処理される場合に、グラフェンが酸化されるリスクを防止するか、少なくとも低減するのに役立っている。
【0019】
グラフェンを官能化するステップは、流動床、乾式/湿式ミル、又は機械式ミキサーで行われてもよい。
【0020】
本発明の第2態様によれば、本発明の第1態様に従って製造された官能化グラフェンを含む官能化グラフェン組成物が提供され、官能化グラフェン組成物は、0.1~10重量%の化学リンカー及びグラフェンを含む。いくつかの実施形態では、官能化グラフェン組成物は、0.5~5重量%の化学リンカーを含んでもよい。
【0021】
官能化グラフェン組成物は、本発明の第1態様に従って製造された官能化グラフェンを指し、必要に応じて、本発明の第1態様による方法に関連して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0022】
官能化グラフェン組成物は、0.1~10重量%の分散剤を含んでもよい。特に、組成物は、0.1~5重量%の分散剤を含んでもよい。いくつかの実施形態では、組成物は、0.5~5重量%の分散剤を含んでもよい。
【0023】
官能化グラフェン組成物は、0.1~5重量%の湿潤剤を含んでもよい。特に、組成物は、0.5~5重量%の湿潤剤を含んでもよい。
【0024】
本発明の第3態様によれば、金属顔料とバインダーとを含むコーティング組成物中の金属顔料の含有量を低減する方法が提供され、該方法は、コーティング組成物中の金属顔料の一部を置き換えるか又は省略するステップと、金属顔料を、本発明の第1態様による方法で得られた充填剤及び官能化グラフェン又は本発明の第2態様の官能化グラフェン組成物で置き換えるステップと、を含む。
【0025】
本発明の第3態様による方法は、本発明の第1態様に従って製造された官能化グラフェン、及び本発明の第2態様による官能化グラフェン組成物を指し、必要に応じて、本発明の第1及び第2態様に関連して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0026】
本発明の第4態様によれば、コーティング組成物が提供され、コーティング組成物は、
バインダーと、
金属顔料と、
充填剤と、
コーティング組成物中の金属顔料の一部を少なくとも部分的に置き換えるための官能化グラフェンと、を含み、官能化グラフェンは、本発明の第1態様による方法で得られた官能化グラフェン、又は本発明の第2態様による官能化グラフェン組成物である。
【0027】
コーティング組成物への官能化グラフェンの導入することにより、コーティング組成物中の金属顔料の含有量を少なくとも50重量%低減することができ、さらに、このように形成されたコーティングの腐食保護及び機械的特性を改善することができることが見出された。さらに、官能化グラフェンを組み込むことにより、バリア及び機械的特性が改善された高密度のコーティングネットワークを得ることができると同時に、このように形成されたコーティングの総重量を低減することができる。
【0028】
本発明の第4態様によるコーティング組成物は、本発明の第1態様に従って製造された官能化グラフェン、及び本発明の第2態様による官能化グラフェン組成物を指し、必要に応じて、本発明の第1及び第2態様による方法に関連して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0029】
コーティング組成物は、0.5~10重量%の官能化グラフェンを含んでもよいが、他の実施形態では、コーティング組成物は、0.5~5重量%の官能化グラフェンを含んでもよい。いくつかの実施形態では、コーティング組成物は、1~2重量%の官能化グラフェンを含んでもよい。
【0030】
コーティング組成物は、5~90重量%のバインダーを含んでもよい。いくつかの実施形態では、コーティング組成物は、5~50重量%のバインダーを含んでもよい。例えば、バインダーの含有量は、20~40重量%であってもよい。バインダーは、樹脂及び硬化剤を含んでもよい。樹脂は、有機樹脂であってもよい。特に、樹脂は、エポキシ樹脂を含んでもよく、硬化剤は、アミノ、アミド、ヒドロキシル、カルボン酸、無水物、イソシアネート、フェノール及びチオールの官能基のいずれかを含んでもよい。いくつかの実施形態では、官能化グラフェンは、リンカーの機能性に応じて、硬化剤又はバインダーと事前に混合されてもよい。
【0031】
コーティング組成物は、5~90重量%の金属顔料を含んでもよい。特に、コーティング組成物は、5~50重量%、5~40重量%、5~30重量%、5~20重量%、又は5~10重量%の金属顔料を含んでもよい。金属顔料は、亜鉛又は亜鉛合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金、クロム又はクロム合金、酸化鉄又はリン酸塩、又は前記金属又は導電性金属酸化物顔料の1つ又は複数の混合物を含んでもよい。
【0032】
充填剤は、CaCO、雲母、二酸化チタン、タルク、不活性充填剤、又はそれらの混合物を含んでもよい。コーティング組成物に官能化グラフェンが存在することは、コーティング組成物を、亜鉛などの金属顔料の量を低減するように変更できることを意味する。ただし、コーティングの完全性を維持するために、コーティング組成物から除去/省略された金属顔料の量及び官能化グラフェンの存在を補償するように充填剤含有量を調整する必要がある。
【0033】
官能化グラフェンは、金属顔料及び充填剤と事前に混合されてもよい。混合物は、また、均一な金属/グラフェンの事前混合を確保するために、湿潤剤及び/又は分散剤を用いて適切な溶媒に事前に分散してもよい。次に、混合物を樹脂及び/又は硬化剤に加えてもよい。
【0034】
本発明の第5態様によれば、被覆物品が提供され、該物品は、本発明の第3態様によるコーティング組成物で形成されたコーティング層を含む。
【0035】
本発明の第5態様による被覆物品は、本発明の第4態様によるコーティング組成物を指し、必要に応じて、本発明の第4態様によるコーティング組成物に関連して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0036】
コーティング層は、1~150ミクロンの乾燥膜厚を有してもよい。特に、コーティング層は、15~150ミクロンの乾燥膜厚を有してもよい。コーティング層は、プライマーであってもよい。特に、コーティング層は、船舶プライマーであってもよい。
【0037】
該物品は、金属基板、自動車、航空機、電気又は家庭電化製品、海洋構造物、船舶又は乾ドックを含んでもよい。例えば、物品は、船体、海洋構造物、又は海洋再生可能エネルギー構造であってもよい。
【0038】
本発明の第6態様によれば、被覆物品を製造する方法が提供され、該方法は、本発明の第4態様による組成物を物品の表面に塗布するステップを含む。組成物は、スプレー、ローラーコーティング、ブラッシング、又はスクリーン印刷によって塗布され、最初に必要な表面処理を含む。
【0039】
本発明の第6態様による方法は、本発明の第4態様によるコーティング組成物、及び本発明の第5態様による被覆物品を指し、必要に応じて、本発明の第4態様によるコーティング組成物及び本発明の第5態様による被覆物品に関して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0040】
本発明の第7態様によれば、本発明の第1態様に従って製造された官能化グラフェンは、金属顔料及びバインダーを含むコーティング層における金属顔料の代替物として使用される。
【0041】
本発明の第7態様による使用は、本発明の第1態様による官能化グラフェンを指し、必要に応じて、本発明の第1及び第2態様に関連して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0042】
本発明の第8態様によれば、表面修飾グラフェンを製造する方法が提供され、該方法は、グラフェンが実質的に乾燥した状態にあるときに、化学リンカーでグラフェンを表面修飾するステップを含む。本発明の第8態様による方法は、本発明の第1態様に関連して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0043】
本発明の第9態様によれば、本発明の第8態様に従って製造された表面修飾グラフェンを含む表面修飾グラフェン組成物が提供される。本発明の第9態様の表面修飾グラフェン組成物は、本発明の第2態様に関連して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0044】
本発明の第10態様によれば、金属顔料とバインダーとを含むコーティング組成物中の金属顔料の含有量を低減する方法が提供され、該方法は、コーティング組成物中の金属顔料の一部を置き換えるか又は省略するステップと、金属顔料を、本発明の第8態様による方法で得られた充填剤及び表面修飾グラフェン又は本発明の第9態様の官能化グラフェン組成物で置き換えるステップと、を含む。本発明の第10態様による方法は、必要に応じて、本発明の第1及び第2態様に関連して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0045】
本発明の第11態様によれば、コーティング組成物が提供され、該コーティング組成物は、
バインダーと、
金属顔料と、
充填剤と、
コーティング組成物中の金属顔料の一部を少なくとも部分的に置き換えるための表面修飾グラフェンと、を含み、表面修飾グラフェンは、本発明の第1態様による方法で得られた官能化グラフェン、又は本発明の第2態様による官能化グラフェン組成物である。
【0046】
本発明の第11態様によるコーティング組成物は、必要に応じて、本発明の第1、第2及び第4態様による方法に関連して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0047】
本発明の第12態様によれば、被覆物品が提供され、該物品は、本発明の第11態様によるコーティング組成物で形成されたコーティング層を含む。本発明の第12態様による被覆物品は、必要に応じて、本発明の第4態様によるコーティング組成物に関連して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0048】
本発明の第13態様によれば、被覆物品を製造する方法が提供され、該方法は、本発明の第11態様による組成物を物品の表面に塗布するステップを含む。本発明の第13態様による方法は、必要に応じて、本発明の第4態様によるコーティング組成物及び本発明の第5態様の被覆物品に関連して記載されたいずれか又は全ての特徴を含んでもよい。
【0049】
本発明の第14態様によれば、本発明の第8態様に従って製造された官能化グラフェンは、金属顔料及びバインダーを含むコーティング層における金属顔料の代替物として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
本発明をより明確に理解するために、その1つ又は複数の実施形態を、一例として、添付図面を参照して説明する。
図1】先行技術に従って亜鉛エポキシコーティングを製造する反応スキームを示す。
図2】官能化グラフェン及び低減された量の亜鉛でエポキシコーティングを製造する本発明による反応スキームを示す。
図3】官能化グラフェンを使用した場合と使用しない場合の、亜鉛含有エポキシコーティングの1500時間後の塩水噴霧試験結果を示す。
図4】官能化グラフェンを使用した場合と使用しない場合の、亜鉛含有エポキシコーティングの1500時間後のさらなる塩水噴霧試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0051】
亜鉛含有量を低減させたコーティングの反応スキーム
【0052】
従来技術に従って亜鉛エポキシコーティングを製造する反応スキームを図1に示す。前述のように、亜鉛含有量の高いコーティングは、通常、優れた腐食保護を示すが、特にコーティングの亜鉛含有量によって耐用年数が制限されるエポキシ/亜鉛コーティングに関しては、耐用年数が短くなる場合が多い。図2は、図1に示したものよりも改善された反応スキームを示す。図2に示す反応スキームでは、官能化グラフェンを亜鉛、エポキシ樹脂、及びポリアミン硬化剤と混合して、官能化グラフェンを含む亜鉛エポキシコーティングを生成する。エポキシコーティングネットワークにグラフェンを組み込むことで、腐食保護に悪影響を与えることなく、エポキシコーティング中の亜鉛顔料の含有量を低減することができる(図1及び2を参照)。図2は、さらに、官能化グラフェンが樹脂/硬化剤の架橋構造と化学的に結合していることを示す。これにより、亜鉛エポキシコーティングのバリア保護特性を向上させるだけでなく、機械的特性が改善された、より高密度のコーティングネットワークを形成する。これらは全て、従来技術の亜鉛エポキシコーティングシステム(図1)が経験する耐用年数の問題を最小限に抑えると同時に、亜鉛含有量の低減による製造コストの削減及びコーティング重量の削減などの他の利点を提供する。
【0053】
官能化グラフェンの製造及びその後のコーティング組成物製造成分を含むそのような改善された反応スキームの一実施形態を、以下でさらに詳細に説明する。
【0054】
官能化グラフェンの製造
純粋で酸化物を含まないグラフェンナノプレートレット(GNP)は、GNP(94wt%)を粉末の形態でレーディゲ・プラウシェアミキサーに導入することによって官能化した。GNP粉末は、実質的に乾燥した状態であり、湿気がない。次に、ミキサーを作動させ、GNP粉末が霧化又は解凝集し始めると、BYK 333湿潤剤(2wt%)、次にBYK 9076分散剤(2wt%)、次にAPTES(4wt%)をスプレーして、官能化GNP粉末を生成する。GNP粉末の官能化に続いて、完全な官能化を確保し、存在する可能性のある残留液体を追い出すために、50~100℃の熱処理を施す。熱処理は、官能化された純粋なGNPが酸化されるリスクを最小限に抑えるために、空気中又は窒素雰囲気下でミキサー内で行われる。
【0055】
コーティング組成物の製造
官能化されたGNP粉末は、コーティング組成物の他の粉末成分、即ち亜鉛及びCaCOと混合される。次に、これらの粉末成分を、キシレンの存在下でビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)エポキシ樹脂及びポリアミド硬化剤と混合し、該混合物を2000RPMで5分間撹拌する。次に、混合物は、鋼基板にスプレーコーティングされる。次に、コーティングされた鋼基板を室温で硬化させ(即ち、通気乾燥の場合は1.5時間、完全硬化の場合は7日)、60ミクロンの乾燥膜厚を有するコーティングを形成する。例示的な組成物E1~E2を、比較例C1及びC2と共に以下の表1に示す。
【0056】
E1-E2コーティングは、上記方法に従って製造した。比較例C1とC2は、市販の亜鉛系エポキシコーティング組成物、即ち、Hempelによる「Hempadur Avanguard 750」(C1)と、Jotunによる「Barrier ZEP」(C2)である。
表1
【0057】
コーティングされた基材C1及びE1には、それぞれのコーティングの耐食性を決定するために、1500時間の塩水噴霧試験(ASTM B117)を施した。塩水噴霧試験の結果(図3に示す)は、E1コーティングの亜鉛含有量が50%少なく、層の厚さが薄いにもかかわらず、E1コーティングがC1コーティングと比較して優れた耐食性を示すことを示す。
【0058】
コーティングされた基材C2及びE2にも、それぞれのコーティングの耐食性を決定するために、1500時間の塩水噴霧試験(ASTM B117)を施した。該塩水噴霧試験の結果(図4に示す)は、E2コーティングの亜鉛含有量が50%少ないにもかかわらず、E2コーティングもC2コーティングと比較して優れた耐食性を示すことを示す。
【0059】
図2に示すような改善された反応スキームによって、本発明は、強化された耐食性/保護及び機械的特性を提供しながら、コーティング組成物中の金属含有量(特に亜鉛)を低減するのに役立つ。さらに、金属含有量を低減することは、環境の持続可能性の改善(即ち、金属顔料は、海洋環境に有毒である可能性のある腐食生成物を犠牲的にもたらし、そのため、亜鉛が豊富なエポキシが船舶の水中部分で好まれない)、耐用年数の延長(つまり、金属顔料は最終的に腐食するが、グラフェンは不活性のままである)、コーティングの厚さ/重量/コスト削減の実現の可能性を含む多くの追加の利点を促進する。さらに、改善された反応スキームによって生成されたコーティング組成物の他の潜在的な利点には、グラフェン強化及びより高密度の架橋によるコーティング接着の強化、ならびに耐衝撃性及び耐摩耗性の改善が含まれてもよい。
【0060】
本発明の上述の1つ又は複数の実施形態は、単に例として記載されている。添付の特許請求の範囲によって提供される保護の範囲から逸脱することなく、多くの変形例が可能である。
【0061】
例えば、本発明は、例えば、シャーウィンウィリアムズ(MacropoxyR L524、MacropoxyR C123、Spec M155)、PPG(即ち、SigmaZinc 19、SigmaCover 522 MIO、SigmaCover 522)、Jotun(即ち、Barrier77、90、及びZEP9)、International Paints(即ち、IntergardR 263、InterzincR 75V、InterzincR 52、Intergard 343HS、IntersealR 670HS、InterzonR 5140、IntershieldR 300)、及びHempel(即ち、Hempadur Zinc 17360、Hempadur 1555 E、Zinc Rich Epoxy Primer 178US)からのものを含む他の一連の市販の2成分製品にも適用可能である。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】