(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-01
(54)【発明の名称】尿素の触媒合成のための触媒
(51)【国際特許分類】
C07C 273/08 20060101AFI20220624BHJP
C07C 275/02 20060101ALI20220624BHJP
C01B 3/08 20060101ALI20220624BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20220624BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220624BHJP
【FI】
C07C273/08
C07C275/02
C01B3/08 Z
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564156
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(85)【翻訳文提出日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2020061615
(87)【国際公開番号】W WO2020221691
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】102019111060.2
(32)【優先日】2019-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514088943
【氏名又は名称】ティッセンクルップ インダストリアル ソリューションズ アクツィエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Industrial Solutions AG
(71)【出願人】
【識別番号】501186597
【氏名又は名称】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】ThyssenKrupp Allee 1 45143 Essen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】グロッツバッハ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】テンハンバーグ,ニルス
(72)【発明者】
【氏名】エル・ハワリー,タレク
(72)【発明者】
【氏名】マケンヤ,エフゲニー
(72)【発明者】
【氏名】ライトナー,ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】クランカーマイヤー,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】シューマッハ,ハンナ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA06
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA36C
4G169BA42A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD06A
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169BE02A
4G169BE02B
4G169BE03A
4G169BE06A
4G169BE11A
4G169BE14A
4G169BE19A
4G169BE26A
4G169BE27A
4G169BE27B
4G169BE29A
4G169BE36A
4G169BE42A
4G169BE45A
4G169BE48A
4G169CB25
4G169CB77
4G169CB81
4G169DA02
4G169DA05
4G169FA01
4G169FC06
4G169FC07
4G169FC10
4H006AA02
4H006AC57
4H006BA23
4H006BA48
4H006BB25
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC19
4H006BC34
4H006BE14
4H039CA99
4H039CL25
(57)【要約】
本発明は、触媒の存在下でのホルムアミドまたはホルムアミドのアンモニアによる変換を含む、尿素の触媒合成のための触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の使用に関するものであり、それにより尿素および水素を形成する。ルテニウム-ホスフィン錯体を触媒として使用することにより、ホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアからの尿素の触媒生成が初めて提供され、穏やかな条件下で、実質的に副生成物の形成なしに合成が可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素の触媒合成のための触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の使用。
【請求項2】
尿素の触媒合成が、触媒の存在下でホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの反応を含み、尿素および水素を形成する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ルテニウム-ホスフィン錯体が、少なくとも1つのモノホスフィン、1つのジホスフィン、1つのトリホスフィン、または3を超えるホスフィン基を有する1つの化合物を含み、モノホスフィンは、式PR
1R
2R
3(ここで、R
1、R
2およびR
3は、互いに独立して、それぞれ、置換または非置換アルキル、置換または非置換アリールまたは置換または非置換ヘテロアリールであり、ここで、好ましくは、R
1はアルキルであり、R
2およびR
3は互いに独立して、置換または非置換ヘテロアリールおよび/または置換または非置換アリール、より具体的にはフェニルである)を有する、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
ルテニウム-ホスフィン錯体が、カルベン、アミン、アミド、ホスファイト、ホスホアミダイト、リン含有エーテルまたはエステル、スルフィド、トリメチレンメタン、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトネート、アセテート、水素化物、ハロゲン化物、フェノキシド、COまたはそれらの組合せから選択される1以上の非ホスフィン配位子をさらに有し、そして、好ましくは、トリメチレンメタン、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトネート、アセテート、水素化物、ハロゲン化物、フェノキシド、COまたはそれらの組合せから選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
ルテニウム-ホスフィン錯体が、ルテニウム-トリホスフィン錯体であり、トリホスフィンが一般式Iを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用:
【化1】
[ここで、R
1~R
6は、互いに独立して、置換または非置換アリールまたは置換または非置換ヘテロアリールであり、好ましくは置換または非置換フェニルであり、そして、R
7は、水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールであり、トリホスフィンは、より好ましくは1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン(Triphos)である]。
【請求項6】
ルテニウム-ホスフィン錯体が、以下の一般式IIを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用:
【化2】
[ここで、Aは、一般式Iのトリホスフィンを表し、
【化3】
ここで、R
1~R
6は、互いに独立して、置換または非置換アリールまたは置換または非置換ヘテロアリールであり、好ましくは置換または非置換フェニルであり、そして、R
7は、水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールであり、
そして、Lは、それぞれの場合に互いに独立して、単座配位子であり、2つの単座配位子Lが1つの二座配位子によって置換されることが可能であり、または3つの単座配位子Lが1つの三座配位子によって置換されることが可能であり、そして、単座、二座、三座配位子は、好ましくは、トリメチレンメタン、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトネート、アセテート、水素化物、ハロゲン化物、フェノキシド、COまたはそれらの組合せから選択され、ルテニウム-ホスフィン錯体は好ましくは[Ru(triphos)(tmm)]である]。
【請求項7】
ルテニウム-ホスフィン錯体の濃度が、ホルムアミドのモル量に基づいて、0.05モル%~10モル%、好ましくは0.25モル%~5モル%、より好ましくは0.5モル%~2モル%の範囲である、請求項2~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
触媒合成または反応が、50~250℃の範囲、好ましくは120~200℃の範囲、より好ましくは140~170℃の範囲の温度で実施される、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
触媒合成または反応が、周囲圧力~150バール、好ましくは2バール~60バール、より好ましくは5~40バールの範囲の圧力で実施される、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
ホルムアミドに基づく当量で使用されるアンモニアの量が、1~300当量、好ましくは4当量~100当量、より好ましくは29~59当量の範囲である、請求項2~9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
触媒合成または反応の反応時間が、1分~24時間、好ましくは3~15時間、より好ましくは6~10時間の範囲である、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
触媒合成または反応が1以上の有機溶媒または1以上のイオン性液体中で行われ、溶媒は、好ましくは環状および非環状エーテル、置換および非置換芳香族、アルカンおよびハロゲン化炭化水素からなる群から選択され、より好ましくは環状エーテルまたは置換または非置換芳香族が挙げられ、そして、溶媒は、非常に好ましくはジオキサン、より好ましくは1,4-ジオキサン、トルエンおよびTHFから選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
触媒合成、より具体的にはホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの反応が、均一または不均一触媒反応であり、好ましくは均一触媒反応である、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
触媒合成、より具体的にはホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの触媒反応が、連続的またはバッチ式で行われる、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
触媒合成または反応における助触媒としての酸が、尿素収率の改善をもたらすことができる、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素の触媒合成のためのルテニウム触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸のジアミドである尿素は、最も重要なバルク化学物質の1つであり、主に肥料として使用される。そのようなものとして、それは高い窒素含有量(46重量%)を有する。これは、微生物によって産生され、土壌中に広く存在するウレアーゼによって容易に加水分解され、アンモニアおよびCO2を放出する。
【0003】
さらに、尿素は、メラミンのような有機生成物、ならびに合成樹脂および繊維の原料のための重要な構成要素である。それは、牛飼料添加物として、および薬物および爆発物の製造において、ならびに繊維産業においても使用される。近年、尿素は、ディーゼル排ガスのNOx還元のための還元剤としても重要性を増している。
【0004】
尿素は、約150バールおよび約180℃でアンモニア(NH3)および二酸化炭素(CO2)からの高圧合成において、工業的にほとんど排他的に製造される。2つの反応物は、一般にアンモニアプラントに由来し、アンモニアプラントは、通常、尿素プラントのすぐ近くに位置する。
【0005】
この高圧合成では、予め分離されたCO2を液状アンモニアと会合させる。合成の第1段階では、カルバミン酸アンモニウムが主に合成される。尿素も少量生成し、アンモニア、CO2、尿素、カルバミン酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水からなる複合体混合物を生成する。これは、カルバメート凝縮器と呼ばれる装置内で行われる。反応混合物は、尿素反応器のためのカルバメート凝縮器を出て、そこで実際の尿素形成反応が起こる。カルバメートは高度に腐食性の媒体であるので、プロセスの多くの点で特に耐食性の鋼が必要とされ、これは極めて高価であり、プラントの資本コストを大幅に増大させる。鋼だけでなく、高圧及び高温動作も、高圧回路内の装置に大きな課題を課し、これは、最終的にこれらの装置の取得コストに反映される。
【0006】
尿素への代替経路は、アンモニアとホスゲン(D.Roedaら、Int.JAppl.Radiat.Isot.1980、31、549-551参照)、シアン化物(A.M.Emranら、Int.J.Appl.Radiatlsot.1983、34、1013-1014参照)、または酸化剤としての硫黄またはセレンの存在下での一酸化炭素との反応である(例えば、K.Kondoら、Angew.Chem.1979、91、761-761参照)。しかしながら、これらの経路は非常に毒性の高い反応物質の使用を必要とし、化学量論量の副生成物を生成する。従って、尿素への触媒経路が非常に望ましい。
【0007】
置換尿素誘導体は、COおよびCO2または他のカルボニル化剤を使用して、様々な経路を介して触媒的に調製することができる。COの手段による置換尿素誘導体の合成は例えば、D.J.Diazら、Eur.J.Org.Chem.2007、2007、4453-4465に記載されている。CO2の手段による置換尿素誘導体の合成は、例えば、P.Munshiら、Tetrahedron Lett.2003,44,2725-2727に記載されている。他のカルボニル化剤との合成は、例えば、A.Basha、Tetrahedron Lett.1988,29,2525-2526に報告されている。
【0008】
しかしながら、アンモニアは3つの潜在的に活性な水素を有し、有意に異なる塩基性を有するので、アンモニアを使用して尿素を調製する場合、置換尿素のためのアミンの組み込みに関して、さらなる課題が存在する。その結果、尿素の触媒合成に関する報告書は比較的少なく、例えば、M.M.Taqui Khan、S.B.Halliqudi、S.H.R.Abdi、S.Shukla、J.Mol.Catal.1988,48,48、25-27;D.C.Butler、D.J Cole-Hamilton、Inorg.Chem.Commun.1999,2,2、305-307;F.Barzagliら、Green Chem.2011、13、1267-1274;A.R.Elman、V.I.Smirnov、J.Environ.Sci.Eng.2011,5,1006-1012を含む。
【0009】
アンモニアは、尿素の合成における通常の出発物質である。さらに、CO
2は、尿素合成のための容易に入手可能な供給原料である。CO
2に基づく尿素の合成への触媒経路の探索において、意図される出発点はスキーム1に示されるように、中間体としてのホルムアミドを介する2段階法であった:
【化1】
【0010】
ホルムアミドからの置換尿素の合成は例えば、S.Kotachi、Y.Tsuji、T.Kondo、Y.Watanabe、J.Chem.Soc.Chem.Commun.1990,549-550に記載されており、ホルムアミドとアンモニアとの反応からの尿素の形成は、新規かつ困難なC-N結合形成を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Int.JAppl.Radiat.Isot.1980、31、549-551
【非特許文献2】Int.J.Appl.Radiatlsot.1983、34、1013-1014
【非特許文献3】Angew.Chem.1979、91、761-761
【非特許文献4】Eur.J.Org.Chem.2007、2007、4453-4465
【非特許文献5】Tetrahedron Lett.2003,44,2725-2727
【非特許文献6】Tetrahedron Lett.1988,29,2525-2526
【非特許文献7】J.Mol.Catal.1988,48,48、25-27
【非特許文献8】Inorg.Chem.Commun.1999,2,2、305-307
【非特許文献9】Green Chem.2011、13、1267-1274
【非特許文献10】J.Environ.Sci.Eng.2011,5,1006-1012
【非特許文献11】J.Chem.Soc.Chem.Commun.1990,549-550。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の基礎となる目的は、従来の非触媒処理の上述の欠点を克服するために、より具体的には出発材料としてのホルムアミドに基づく合成のために、尿素の触媒合成のための触媒を提供することである。より詳細には、尿素合成のための適切な触媒を提供することによる目的は、例えばカルバミン酸アンモニウムのような副生成物の形成を減少させるか、または完全に回避することである。この反応は極めて穏やかな圧力及び温度条件下で行うことができ、触媒は高い触媒生産性を有するべきである。触媒との合成に必要な設備は、極めて簡単かつ安価でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、本発明者らは、特定の触媒系を使用することによってこれを達成した。従って、特定のルテニウム触媒を使用する尿素の合成のためのシステムが提供される。合成に使用した出発物質は、特にホルムアミド、またはホルムアミドおよびアンモニアであった。
【0014】
したがって、この目的は、請求項1に記載の使用によって達成される。本発明による使用のさらなる好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0015】
本発明で使用される触媒の結果として、より具体的にはホルムアミドまたはホルムアミドおよびアンモニアから、触媒的に温和な条件下で尿素を調製することができ、水素が副産物として形成される。ホルムアミドが添加されたアンモニアの不在下で反応される場合、COがさらに形成される。事実上、副産物は形成されない。反応で遊離した水素は、ホルムアミドの合成に再使用することができる。
【0016】
本発明およびその好ましい実施形態は、以下に詳細に説明される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、尿素の触媒合成のための触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の使用に関し、ここで、合成は、好ましくは触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の存在下でのホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの反応を含み、尿素および水素を形成する。
【0018】
尿素の触媒合成のための触媒として本発明におけるルテニウム-ホスフィン錯体を使用する場合、合成は、好ましくは触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の存在下でホルムアミドとアンモニアとの反応を含み、尿素および水素を形成する。本発明におけるルテニウム-ホスフィン錯体を尿素の触媒合成のための触媒として使用する場合、別の合成は触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の存在下でのホルムアミドの反応を含み、尿素および水素を形成し、この代替の場合にCOと共に形成される。別の変形では、触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の存在下での触媒合成または反応のためにホルムアミドのみが出発物質として使用され、尿素を形成し、特に、NH3は反応混合物に添加されない。したがって、合成に使用される出発物質は、ホルムアミド、または好ましくはホルムアミドおよびアンモニアである。
【0019】
別段に示さない限り、尿素の触媒合成のための触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の使用に関する説明は、上記で示したように好ましい変形および代替の変形の両方を指す。添加されたアンモニアに関する詳細は、好ましい変形のみに言及することが理解されるであろう。
【0020】
本発明の触媒を用いたホルムアミドとアンモニアとの反応による尿素の調製は、以下の式によって説明することができる:
【化2】
【0021】
ルテニウム-ホスフィン錯体は、1以上のホスフィン配位子を含む。ホスフィンは、単純なホスフィン(モノホスフィン)、2つのホスフィン基を有する化合物(ジホスフィン)、3つのホスフィン基を有する化合物(トリホスフィン)、または3を超えるホスフィン基を有する化合物であってもよい。
【0022】
ホスフィンは、特に、三価有機リン化合物である。ホスフィンは、より詳細には第三級ホスフィンであるか、または2、3またはそれ以上の第三級ホスフィン基を有する。ホスフィンは、化合物PR1R2R3であり、ここで、R1、R2およびR3は、互いに独立して、それぞれ有機基を表す。置換基R1、R2およびR3は、好ましくは互いに独立して、置換または非置換アルキル、置換または非置換アリールまたは置換または非置換ヘテロアリールである。
【0023】
アルキル基、アリール基およびヘテロアリール基の適切かつ好ましい例、ならびに対応する置換基群の置換基の適切な例も以下に特定され、これらは、明示的に除外されない限り、これらの基または置換基に対する本出願における参照のすべての例として有効である。アルキル基、アリール基およびヘテロアリール基の例は、それらが基の置換基として存在する場合、これらの基の例でもある。
【0024】
ここでのアルキルにはシクロアルキルも含まれる。また、アルキルの例は、直線状および分岐状のC1-C8アルキルであり、好ましくは直線状および分岐C1-C6アルキル、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピルまたはブチルおよびC3-C8シクロアルキルである。
【0025】
置換アルキルは、1以上の置換基、例えばハロゲン化物、例えばクロリドまたはフルオリド、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、アルコキシ、例えばC1-C6アルコキシ、好ましくはC1-C4アルコキシ、またはアリールオキシを有する可能性がある。置換されていないアルキルが好ましい。
【0026】
アリールの例は、300g/mol未満の分子量を有するホモ芳香族化合物、好ましくはフェニル、ビフェニル、ナフタレニル、アントラセニルおよびフェナントレニルから選択される。
【0027】
ヘテロアリールの例は、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアゾリル、ピリダジニル、1,3,5-トリアジニル、キノリニル、イソキノリニル、キノキサリニル、イミダゾリル、ピラゾリル、ベンゾイミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリジニル、ピロリル、カルバゾリル、インドリルおよびイソインドリルであり、ここで、ヘテロアリールは、選択されたヘテロアリールの環中の任意の所望の原子を介してホスフィンのリン基に結合され得る。好ましい例は、ピリジニル、ピリミジニル、キノリニル、ピラゾリル、トリアゾリル、イソキノリニル、イミダゾリルおよびオキサゾリジニルであり、ここで、ヘテロアリールは、選択されたヘテロアリールの環中の任意の所望の原子を介してホスフィンのリン基に結合され得る。
【0028】
置換アリールおよび置換ヘテロアリールは、1つ、2つまたはそれ以上の置換基を有していてもよい。アリールおよびヘテロアリールに好適な置換基の例は、アルキル、好ましくはC1-C4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピルまたはイソプロピル、ペルフルオロアルキル、例えば-CF3、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、アルコキシ、例えばC1-C6アルコキシ、好ましくはC1-C4アルコキシ、アリールオキシ、アルケニル、例えばC2-C6アルケニル、好ましくはC3-C6アルケニル、シリル、アミンおよびフルオレンである。好ましくは、非置換アリール、より具体的にはフェニル、および非置換ヘテロアリールである。
【0029】
1つの好ましい実施形態によれば、ルテニウム-ホスフィン錯体中のホスフィンはPR1R2R3であり、ここで、R1、R2およびR3は、互いに独立して、置換もしくは非置換ヘテロアリールもしくは置換もしくは非置換アリール、より詳細にはフェニル、例えばトリ(ヘテロアリール)ホスフィンもしくはトリ(アリール)ホスフィンであるか、または、PR1R2R3であって、ここで、R1がアルキルであり、R2およびR3が互いに独立して置換もしくは非置換ヘテロアリールおよび/または置換もしくは非置換アリール、より詳細にはフェニル、例えばジ(ヘテロアリール)アルキルホスフィンもしくはジ(アリール)アルキルホスフィンである。
【0030】
より好ましくはルテニウム-ホスフィン錯体中のホスフィンは、2つのホスフィン基(ジホスフィン)を有する化合物、3つのホスフィン基(トリホスフィン)を有する化合物、または3を超えるホスフィン基を有する化合物であり、ホスフィンはより好ましくはトリホスフィンである。2以上のホスフィン基を有するホスフィンは、好ましくは上記のように2以上の同一または異なったホスフィンPR1R2R3から誘導され、ホスフィンの少なくとも1つの置換基はホスフィンの1つ以上の他の置換基に連結されて、架橋単位として、2、3またはそれ以上の価数を有するアルキレン基のような連結基を形成する。置換基および好ましい置換基/ホスフィンに関する上記の詳細は、2以上のホスフィン基を有する化合物についても同様に有効である。
【0031】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、ルテニウム-ホスフィン錯体は、2以上のホスフィン基、少なくとも1つのジホスフィンもしくはトリホスフィン、または3を超えるホスフィン基を有する化合物がルテニウムの配位球中に配位子として存在することを意味する、2以上のホスフィン基を含有する。
【0032】
ルテニウムとホスフィン基との間の結合は、反応中に少なくとも一時的に形成される(例えば、共有結合または配位結合)。なお、ルテニウム-ホスフィン錯体の存在下での本発明による反応の場合、反応混合物中の全てのホスフィン/ホスフィン基がルテニウムに必ずしも結合しているわけではない。実際、ホスフィンは過剰で使用されてもよく、これは、未結合のホスフィン/ホスフィン基も反応混合物中に存在してもよいことを意味する。特に、3を超えるホスフィン基を有する化合物が使用される場合、一般的にはリン原子の全てが反応に触媒的に関与するわけではないが、それでもなお、これらの化合物も本発明内の好ましい化合物である。
【0033】
特に好ましいのは、ルテニウム-トリホスフィン錯体であり、ここで、トリホスフィン中のリン原子間の架橋単位はアルキルまたはアルキレン単位であり、一方、さらなる配位子は、リン上で、置換の有無にかかわらずヘテロアリールであり、または置換の有無にかかわらずアリールである。
【0034】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、ルテニウム-トリホスフィン錯体は、一般式Iのトリホスフィンを含み、
【化3】
【0035】
ここで、R1~R6は、互いに独立して、置換または非置換アリールまたは置換または非置換ヘテロアリール、好ましくは置換または非置換アリールであり、そして、R7は、水素または有機成分、好ましくはアルキル、シクロアルキルまたはアリールである。アリールおよびヘテロアリールのための好適な置換基の例は上記に記載されており、アルキル、特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、アルコキシ、例えばメトキシ、およびペルフルオロアルキル、例えば-CF3が好ましい。置換または非置換アリールは、好ましくは非置換アリール、より具体的にはフェニルである。置換または非置換ヘテロアリールは、好ましくは非置換ヘテロアリールである。
【0036】
R1~R6置換基は、同一であっても異なっていてもよく、好ましくは同一である。より好ましくは、R1~R6は、置換または非置換フェニルである。置換アリール、より具体的には置換フェニルは、例えば、オルトおよび/またはパラ位に1個、2個またはそれ以上の置換基を有していてもよい。好適な置換基の例は上述されており、アルキル、特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、アルコキシ、例えばメトキシ、またはペルフルオロアルキル、例えば-CF3が好ましい。特に好ましくは、R7はアルキルであり、より好ましくはメチルまたはエチルであり、より好ましくはメチルである。
【0037】
ルテニウム-ホスフィン錯体のための1つの特に好ましいホスフィン配位子は、以下の構造を有する1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン(Triphos)である:
【化4】
【0038】
前述のホスフィン配位子又は配位子類に加えて、ルテニウム-ホスフィン錯体は、例えば、カルベン、アミン、アミド、ホスファイト、ホスホアミダイト、リン含有エーテルまたはエステル、スルフィド、トリメチレンメタン、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトネート、アセテート、水素化物、ハロゲン化物、例えば、塩化物、フェノキシドまたはCOのような1つ以上のさらなる配位子(非ホスフィン配位子)を有してもよく、特にルテニウム-ホスフィン錯体が前述のジホスフィン、トリホスフィンまたは3を超えるホスフィン基を有する化合物を含む場合にはそうである。
【0039】
1以上のさらなる配位子は好ましくは、トリメチレンメタン、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトネート、アセテート、水素化物、ハロゲン化物、フェノキシド、CO、またはそれらの組み合わせから選択され、特に好ましくはトリメチレンメタン(tmm)である。これらのリガンドはルテニウムと不安定な結合を有し、したがって、触媒反応シーケンス中に反応種によって容易に置換されることができる。さらに、触媒前駆体は、これらのリガンドで安定化されることができる。
【0040】
1つの好ましい実施形態において、ルテニウム-ホスフィン錯体は、以下の一般式IIを有する:
【化5】
【0041】
ここで、Aは上で定義した一般式Iのトリホスフィンであり、Lは、それぞれ独立して単座配位子であり、2つの単座配位子Lは1つの二座配位子で置換されるか、または3つの単座配位子Lは1つの三座配位子で置換されることができる。単座、二座、または三座配位子Lの例は上記のさらなる配位子(非ホスフィン配位子)であり、この場合、これらは好ましくはトリメチレンメタン、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトネート、アセテート、水素化物、ハロゲン化物、フェノキシド、CO、またはこれらの組み合わせから選択され、特に好ましくはトリメチレンメタン(tmm)である。配位子tmmは、例えば三座配位子である。
【0042】
1つの特に好ましいルテニウム-トリホスフィン錯体は、以下の構造を有し:
【化6】
【0043】
ここで、置換基Rはそれぞれの場合において、互いに独立して、置換もしくは非置換アリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、好ましくは置換もしくは非置換アリールであり、Lはそれぞれの場合において、互いに独立して、単座配位子であり、2つの単座配位子Lは1つの二座配位子によって置換されることが可能であり、または3つの単座配位子Lは1つの三座配位子によって置換されることが可能である。アリールおよびヘテロアリールのための好適な置換基の例は上述されており、アルキル、特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、アルコキシ、例えばメトキシ、およびペルフルオロアルキル、例えば-CF3が好ましい。置換または非置換アリールは、好ましくは非置換アリール、より具体的にはフェニルである。置換または非置換ヘテロアリールは、好ましくは非置換ヘテロアリールである。
【0044】
置換基Rは同一であっても異なっていてもよく、好ましくは同一である。より好ましくは、Rは、置換または非置換フェニルである。置換フェニルは、特にオルトおよび/またはパラ位に、1、2またはそれ以上の置換基を有していてもよい。好適な置換基の例は上記に示されており、アルキル、特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、アルコキシ、例えばメトキシ、およびペルフルオロアルキル、例えば-CF3が好ましい。トリホスフィンリガンドは、より好ましくはトリホス(Triphos)である。
【0045】
単座、二座、または三座配位子Lの例は、上記のさらなる配位子(非ホスフィン配位子)であり、これらの配位子は好ましくは、トリメチレンメタン、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトネート、アセテート、水素化物、ハロゲン化物、フェノキシド、COまたはそれらの組み合わせから選択され、特に好ましくはトリメチレンメタン(tmm)である。
【0046】
1つの特に好ましいルテニウム-ホスフィン錯体は、以下の構造式を有する[Ru(triphos)(tmm)]である:
【化7】
【0047】
上記で同定されたルテニウム-ホスフィン錯体は公知であり、公知の方法に従って当業者によって調製されてもよく、および/または商業的に入手可能である。[Ru(triphos)(tmm)]は、例えば、T.vom Steinら、ChemCatChem 2013,5,439-441に記載されている。
【0048】
ルテニウム-ホスフィン錯体は、反応のために反応混合物中、インサイツで調製することもできる。インサイツでのルテニウム-ホスフィン錯体の製造は、触媒前駆体、ホスフィン、より具体的にはトリホスフィン、および任意にさらなる配位子から可能である。このために採用された触媒前駆体の例は、Ru(acac)3、Ru(cod)(メチルアリル)2、Ru(nbd)(メチルアリル)2およびRu(エチレン)2(メチルアリル)2であり、ここでacac=アセチルアセトネート、cod=1,5-シクロオクタジエンおよびnbd=ノルボルナジエン(norbornadiene)である。
【0049】
ルテニウム-ホスフィン錯体は、ホルムアミドまたはホルムアミドおよびアンモニアの尿素を与える触媒反応において、均一触媒として、または固定化触媒として使用することができ、尿素を与える。相間移動触媒作用を有する二相系も可能である。ルテニウム-ホスフィン錯体との触媒反応は、例えば、固定床反応器中の固定化触媒または流動床反応器中の溶解触媒を用いて、均質にまたは不均質に実施することができる。
【0050】
尿素の触媒合成、より詳細にはホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアの触媒反応は、連続的またはバッチ式で実施することができ、連続操作が好ましい。触媒合成または触媒反応は、好ましくはオートクレーブまたは加圧反応器中で行われる。オートクレーブはバッチ操作に適している。連続運転には圧力リアクターが適している。
【0051】
尿素の触媒合成、より具体的にはホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの触媒反応は、任意に、追加的に助触媒としての酸の存在下で実施されてもよく、問題の酸はブレンステッド酸またはルイス酸であってもよい。酸は、有機酸であっても無機酸であってもよい。この酸は、触媒および/またはホルムアミドのさらなる活性化をもたらし得、そして反応の収率を改善し得る。
【0052】
便宜的なブレンステッド酸またはルイス酸の例は、アルミニウムトリフラート(アルミニウムトリス(トリフルオロメタンスルホン酸))およびトリアセテートアルミニウムのような有機アルミニウム化合物、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランのような有機ホウ素化合物、p-トルエンスルホン酸のようなスルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホンイミド(HNTf2))、スカンジウムトリフラートのようなスカンジウム化合物、少なくとも1つのスルホ基を含む過フッ素化コポリマー、例えばNafion(登録商標)NR50の商品名で入手可能な種類のもの、またはそれらの組み合わせである。
【0053】
尿素の触媒合成、より具体的には、ホルムアミドの触媒反応、またはホルムアミドとアンモニアとの触媒反応により尿素を与える反応は、例えば、50~250℃の範囲、好ましくは120~200℃の範囲、より好ましくは140~170℃の範囲の温度で起こる。
【0054】
尿素の触媒合成、より詳細にはホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの接触反応による尿素の生成は、例えば周囲圧力~150バールの範囲、好ましくは2バール~60バールの範囲、より好ましくは5~40バールの範囲の圧力(反応圧力)で行われる。好ましい変形では、反応が溶剤として作用することができる液状または超臨界アンモニアが存在する条件下(臨界圧力(NH3)=113バール;臨界温度(NH3)=132.5℃)で任意に行うことができる。
【0055】
好ましい変形では、ホルムアミドに基づく当量(eq)での反応に使用されるアンモニアの量は、例えば1~300当量、好ましくは4当量~100当量、より好ましくは29~59当量の範囲であり得る。
【0056】
1つの好ましい実施形態において、反応は、ホルムアミドに基づいて、約29~59当量のアンモニアを用いて、5~40バール、好ましくは10~30バールの範囲の圧力で行われる。この場合に特に有利に使用される溶剤は、ジオキサン、特に1,4-ジオキサン、またはトルエンである。
【0057】
したがって、反応は、好ましくは化学量論的に過剰なアンモニアを用いて行われる。これにより、尿素の収率を向上させることができる。
【0058】
尿素の触媒合成、より具体的にはホルムアミドまたは好ましくはホルムアミドとアンモニアとの触媒反応のための好適な反応時間は、他の反応パラメーターに依存して変化し得る。反応の反応時間は、例えば1分~24時間または30分~24時間、好ましくは3~15時間、より好ましくは6~10時間の範囲にあるのが便宜である。
【0059】
本発明の使用において、尿素の触媒合成、より具体的には、ホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの触媒反応は、溶媒の非存在下または存在下で、より具体的には有機溶媒の存在下で実施され得る。溶媒の非存在下では、液体または好ましくは超臨界アンモニアの形態の任意の過剰のアンモニアが溶媒として作用し得る。
【0060】
1つの好ましい実施形態において、尿素の触媒合成、より具体的には触媒反応は、溶媒中、より具体的には有機溶媒中で実施される。1つの溶媒または2以上の溶媒の混合物を使用することができ、1つの溶媒の使用が好ましい。
【0061】
溶媒は、好ましくは有機溶媒、より具体的には非プロトン性有機溶媒である。溶媒は、極性であっても非極性であってもよく、非極性有機溶媒が好ましい。溶媒は、好ましくは使用されるルテニウム-ホスフィン錯体がその中に少なくとも部分的に溶解され得るように選択される。
【0062】
溶媒は、好ましくは環状および非環状エーテル、置換および非置換芳香族、アルカンおよびハロゲン化炭化水素、例えばトリクロロメタン、ならびにアルコールからなる群から選択され、溶媒は、好ましくはハロゲン化炭化水素、環状エーテルおよび置換または非置換芳香族、好ましくは環状エーテルおよび置換または非置換芳香族から選択される。芳香族類の例は、ベンゼン、または、1個以上の芳香族置換基(例えば、フェニル)および/または脂肪族置換基(例えば、C1-C4アルキル)を有するベンゼンである。特に好ましい溶媒は、ジオキサン、より具体的には1,4-ジオキサン、トルエン、およびテトラヒドロフラン(THF)である。しかしながら、ジクロロメタンまたはトリクロロメタンも有利に使用することができる。
【0063】
溶媒として、任意に、イオン性液体を使用することも可能である。イオン性液体は当業者に知られている。これらは、低温、例えば100℃以下の温度で液体である塩である。イオン性液体のカチオンは、例えばイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、グアニジニウム、ウロニウム、チオウロニウム、ピペリジニウム、モルホリニウム、アンモニウムおよびホスホニウムから選択され、このカチオンは、好ましくは1以上のアルキル基によって置換され得る。イオン性液体のアニオンは、例えばハロゲン化物、テトラフルオロボレート、トリフルオロアセテート、トリフラート、ヘキサフルオロホスフェート、ホスフィネート、トシレート、またはイミドもしくはアミドのような有機イオンから選択される。
【0064】
ルテニウム-ホスフィン錯体は、好ましくは溶媒中の溶液中に少なくとも部分的にまたは完全に存在する。尿素の触媒合成、より具体的には、ホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの触媒反応で尿素を与える反応は、好ましくは均一触媒反応である。ここで、触媒および反応体は、溶液中、換言すれば同じ相中に存在する。均一系触媒作用は、より穏やかな反応条件およびおそらくより高い選択性ならびにより高いターンオーバー数(TON)および/またはターンオーバー頻度(TOF)を可能にし得る。
【0065】
1以上の溶媒の濃度は、例えばRu-ホスフィン錯体1mmol当たり5~500mL、好ましくは10~300mL、より好ましくは50~250mLの範囲に位置する。
【0066】
反応における触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の濃度は、例えばホルムアミドのモル量に基づいて、0.05モル%~10モル%、好ましくは0.25モル%~5モル%、より好ましくは0.5モル%~2モル%の範囲に位置し得る。
【0067】
調製の間、ルテニウム-ホスフィン錯体は、一般に空気および水分に敏感であるので、それらは、好ましくは大部分が空気および水分の非存在下で調製され、そのために、Schlenk技術およびグローブボックス中での操作のような従来の方法が使用される。反応装置、例えばガラス装置、および使用される試薬は、必要に応じて、従来の技術に従って乾燥され、および/または空気が除去される。
【0068】
ホルムアミドまたはアンモニアとホルムアミドとの触媒反応は、触媒の酸化を最小限に抑えるので、必ずしも必要はないが、不活性ガス雰囲気中でまたは非常に大部分が酸素を排除して有効に行われる。窒素は、この目的に適した不活性ガスの一例である。酸素を排除することは、反応中に遊離した水素をNH3設備に戻し、そこで尿素および/またはNH3を製造するために使用する場合にとりわけ有効である。NH3合成に使用される触媒は酸素に敏感であるので、追加の酸素の導入は避けなければならない。
【0069】
本発明による反応において形成される水素には種々の可能な用途がある:それは実際にはエネルギーのために、またはアンモニア合成プラント、例えばアンモニア-尿素錯体のアンモニアプラントにおけるような下流プラントにおける要素として使用することができ、ここで、これらの化合物は統合された系で製造される。
【0070】
一般的に言えば、ホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの上記の触媒反応から得られた反応混合物は、形成された尿素を回収し、残りの反応物、触媒および場合により溶媒を再循環させるために処理される。この目的のために、気液分離、濾過等のような、先行技術および産業において慣用の処理工程を実施することが可能である。したがって、処理において得られる生成物流は、主に水素およびアンモニアからなる気体流、および、尿素、触媒、ホルムアミドの残渣、および任意の溶媒を含む液体流を含む。ガス流は、高温で得られた反応混合物から回収することができ、これは、ガスを再び圧縮する必要がないので、その後の再使用に有利である。圧縮気体は、一般に、例えば尿素および/またはNH3の合成のためのような、気体の考えられる使用において必要とされる。
【0071】
処理のために、加圧された反応混合物は、好ましくは反応混合物から圧力を排出することなく、気液分離に供される。この分離は、反応混合物の事前の冷却の有無にかかわらず行うことができる。
【0072】
この処理は、一般に形成された水素および気体形態の未反応アンモニアの除去を含み、これは一般にアンモニアプラントで行われ;残りの液体残渣を0℃未満の温度に冷却し;次いで、残渣を濾過または遠心分離して、尿素を固体として得る。次いで、固体形態で得られた尿素を、一般に溶媒で洗浄することによって、触媒およびホルムアミドの残留物から遊離させ、次いで、造粒に供する。本特許出願における顆粒化は、特に示さない限り、任意の形態の圧縮を指す。
【0073】
本発明による使用の利点は、尿素からビウレットが形成されないことであり、微量の尿素を含有する処理残渣を、所望に応じてリサイクルすることができることを意味する。
【0074】
ガスは、従来の方法で反応混合物から単離することができる。ガス(水素/アンモニア)のより効果的な単離のために、場合により、ストリッピング剤として窒素のようなガスを使用することが可能である。反応混合物が窒素でストリッピングされる結果、気体成分をより効果的に排出することができる。得られたガス流の処理により、アンモニアを単離することができ、そして、それを尿素合成に戻すか、またはホルムアミド合成に使用することができる。残された窒素/水素混合物は、合成ガス補給としてアンモニア合成またはホルムアミド合成に戻すことができる。
【0075】
気体を除去した後に得られる液体反応残渣は、典型的には、尿素、触媒、過剰のホルムアミドおよび微量のアンモニア、ならびに場合によっては溶媒を含有する。反応残渣に含まれる尿素は、室温でも一部析出する。沈殿を最大にするために、反応残渣を低温に冷却することが有利である。反応残渣を、好ましくは0℃未満、より好ましくは少なくとも-10℃未満または少なくとも-20℃未満、例えば約-30℃まで冷却する。これらの低温では、尿素が非常に大きく沈殿する。また、-30℃未満の温度へのより大きな冷却も可能であるが、その場合には、改善された収率に対して冷却コストのような経済的要素を計る必要がある。
【0076】
その後、固体を、例えば濾過または遠心分離によって反応残渣から除去する。除去された固体は、主として尿素および微量の溶媒、ホルムアミドおよび触媒を含有する。次いで、得られた固体を、溶媒で洗浄することによって洗浄し、顆粒化に付して、尿素を最終生成物として得ることができる。
【0077】
固体が反応残渣から分離されたときに残る液体残渣(この液体残渣は一般に濾液または遠心分離物である)は、一般に固体を洗浄するために使用される洗浄溶液と組み合わせられる。得られた混合物は、典型的には溶媒、触媒、ホルムアミド残渣および微量の尿素を含有する。得られた混合物は、単に反応に戻し、そして、ホルムアミド、好ましくはアンモニアの反応のために補給または出発物質と合わせることができる。上記のように、尿素からはビウレットは形成されず、したがって、微量の尿素を含有する混合物は、所望に応じてリサイクルされ得る。
【0078】
あるいは、溶媒による固体の下流の洗浄からの過剰な溶媒は、蒸留によって得られた混合物から除去され得、十分な品質の場合にはリサイクルされ得る。除去後、ホルムアミドを反応に戻すことができる。触媒は、任意にプロセスにおいて再使用されてもよい。触媒を失活させる場合には、尿素と触媒とを互いに分離し、触媒を再生するために、残りの残渣を事前に再結晶させてもよい。
【実施例】
【0079】
[Ru(triphos)(tmm)]の合成
35mLのシュレンク管に、トルエン20mL中の[Ru(cod)(メチルアリル)](cod=1,5-シクロオクタジエン)319mg(1.00mmol)および1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン624mg(1.17mmol)を充填した。反応混合物を撹拌し、110℃で2時間加熱し、室温に冷却し、減圧下で濃縮した。ペンタン15mLで処理した後、沈殿している錯体を単離し、ペンタン(3×10mL)で洗浄し、減圧下で一晩乾燥させて、[Ru(triphos)(tmm)]を淡黄色粉末(0.531g、0.678mmol、収率68%)として得た。同定は、1H、13C APT、31P NMRスペクトルにより確認した。
【0080】
実施例1~9
Ru(triphos)(tmm)によるホルムアミドおよびアンモニアからの尿素の合成
尿素は、以下の式に従って合成した:
【化8】
【0081】
高圧バッチ実験を、ガラスインサートおよび磁気撹拌棒を取り付けた10mLステンレス鋼オートクレーブ中で行った。2mlの1,4-ジオキサンおよび0.6gのNH3を使用した場合、反応圧力は高温状態(150℃反応温度)で約30バールであり、低温状態(室温)での圧力は約8~10バールであった。使用前に、オートクレーブを少なくとも30分間排気し、アルゴンで繰り返し満たした。触媒[Ru(triphos)(tmm)](7.8mg、0.01mmol)を、アルゴン雰囲気下でシュレンク管中に秤量し、1,4-ジオキサン(2.0mL)に溶解した。ホルムアミド(40μL、1.00mmol)の添加後、反応混合物を、アルゴン向流下でカニューレを用いてオートクレーブに移した。液体NH3(0.5g~1.0g)をオートクレーブに導入し、オートクレーブを密封した。反応混合物を撹拌し、それぞれの反応時間、アルミニウムコーン中でそれぞれの反応温度に加熱した。室温に冷却した後、オートクレーブを空気で慎重に放置した。溶媒を減圧留去した後、得られた反応液を、内標準物質としてメシチレンを用いて1H及び13C NMR分光法により分析し、ホルムアミドに対する尿素の収率を測定した。
【0082】
以下の表1に示すように、触媒負荷量、溶媒、反応温度および反応時間を変化させながら、実験を何度も繰り返した。得られた尿素の収率も表1に示す。
【0083】
触媒負荷は、使用されるホルムアミドの量(モルで)に対する、モル%で使用される触媒の量である。
【表1】
【0084】
実施例10
尿素合成のためのインサイツでのRu(triphos)(tmm)の調製
触媒前駆物質[Ru(cod)(メチルアリル)2]とトリホス(triphos)から触媒Ru(triphos)(tmm)をインサイツで形成した。
【0085】
このために、1モル%の[Ru(cod)(メチルアリル)2]、1.3モル%のトリホス(triphos)、1mmolのホルムアミド、2mlの1,4-ジオキサンおよび0.6gのNH3を150℃で10時間反応させた。圧力は低温状態では約8バールであり、150℃では約30バールであった。尿素の収率は51%であった。
【0086】
実施例11
アンモニア非存在下でのホルムアミドからの尿素の合成
1モル%の[Ru(triphos)tmm]、1mmolのホルムアミドおよび2mLの1,4-ジオキサンを、150℃および15バールで10時間反応させた。尿素の収率は7%であった。
【0087】
実施例12~18
リン上の配位子の関数としてのRu-ホスフィン錯体の触媒活性
ホルムアミドおよびアンモニアから尿素を合成する際の種々のRu-ホスフィン錯体の触媒活性を、リン上のリガンドの機能として試験した。表2は、研究された錯体(触媒)、反応条件および得られた収率を示す。実験において、反応圧力は、反応温度で約30バールであり、低温状態の圧力は、実施例15を除いて約8バールであった。
【0088】
以下の構造を有するルテニウム-トリホスフィン錯体を研究した:
【化9】
【0089】
置換基Rの性質を以下の表2に示す;ここで、3つのリン原子上の置換基Rの全てが同じではない場合、第1のP原子上の置換基RはR1として、第2のP原子上の置換基RはR2として、そして第3のP原子上の置換基RはR3として同定される。例えば、実施例17の錯体は2つのホスフィン基上に2つのフェニル基を有し、第3のホスフィン基は2つのイソプロピル基を有する。
【0090】
ルテニウム-トリホスフィン錯体は、さらに三座配位子トリメチレンメタンを有する。
【0091】
表に報告した圧力は、室温(約23℃)に関する。オートクレーブを室温で充填し、次いで反応温度および反応圧力にした。
【表2】
【0092】
実施例19~21
ルテニウム上の追加の配位子の関数としてのRu-ホスフィン錯体の触媒活性(非ホスフィン配位子)
ホルムアミドとアンモニアから尿素を合成する際の種々のRu‐ホスフィン錯体の触媒活性を、ルテニウム上の非ホスフィン配位子の関数として試験した。表3は、研究された錯体(触媒)、反応条件および得られた収率を示す。実験では、圧力は反応温度で約30バールであり、低温状態(室温)の圧力は、約8~10バールであった。実施例19は、実施例12に対応する。
【0093】
以下の構造を有するルテニウム-トリホスフィン錯体を研究した:
【化10】
【0094】
3つのリガンドLを下の表3に示す。1つのリガンドLはL
1、2つ目のリガンドLはL
2、3つ目のリガンドLはL
3である。実施例19では、3つの配位子Lが三座配位子トリメチレンメタン(tmm)によって一緒に形成される。表に報告した圧力は、室温(約23℃)に関する。オートクレーブを室温で充填し、次いで反応温度および反応圧力にした。
【表3】
【0095】
実施例22~28
触媒濃度の関数としてのRu-ホスフィン錯体の触媒活性
触媒濃度の関数としての触媒活性を、以下の反応条件について試験した:
触媒:[Ru(triphos)(tmm)]、1mmolのホルムアミド、2mlの1,4-ジオキサン、0.6gのNH3、150℃、10時間であり、触媒濃度を変化させた。反応圧力は、反応温度で約30バールであり、低温状態の圧力は、約8~10バールであった。
【0096】
表4は、これらの反応条件下で使用された触媒濃度(ホルムアミドに対してモル%で)、および得られた収率を示す。
【表4】
【0097】
触媒濃度の関数としての触媒活性を、以下の反応条件について追加的に試験した:
触媒:[Ru(triphos)(tmm)]、1mmolのホルムアミド、2mlの1,4-ジオキサン、4バールのNH3、室温(約23℃)、150℃、20時間であり、触媒濃度を変化させた。
【0098】
表5は、これらの反応条件下で使用された触媒濃度(ホルムアミドに対してモル%で)、および得られた収率を示す。
【表5】
【0099】
実施例29~35
溶媒濃度の関数としてのRu-ホスフィン錯体の触媒活性
溶媒濃度の関数としての触媒活性を、以下の反応条件について試験した:
触媒:1モル%[Ru(triphos)(tmm)]、1mmolのホルムアミド、0.6gのNH3、150℃、10時間であり、溶媒濃度を変化させた。反応圧力は、反応温度で約30バールであり、低温状態の圧力は、約8~10バールであった。溶媒は、1,4-ジオキサンであった。
【0100】
表6は、これらの反応条件下で使用した1,4-ジオキサンの量(V(1,4-ジオキサン)[mL])および得られた収率を示す。
【表6】
【国際調査報告】