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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-01
(54)【発明の名称】尿素の触媒的製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 273/08 20060101AFI20220624BHJP
   C07C 275/02 20060101ALI20220624BHJP
   C07C 231/02 20060101ALI20220624BHJP
   C07C 233/03 20060101ALI20220624BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220624BHJP
【FI】
C07C273/08
C07C275/02
C07C231/02
C07C233/03
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564157
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(85)【翻訳文提出日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2020061614
(87)【国際公開番号】W WO2020221690
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】102019111058.0
(32)【優先日】2019-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514088943
【氏名又は名称】ティッセンクルップ インダストリアル ソリューションズ アクツィエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Industrial Solutions AG
(71)【出願人】
【識別番号】501186597
【氏名又は名称】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】ThyssenKrupp Allee 1 45143 Essen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】マケンヤ,エフゲニー
(72)【発明者】
【氏名】エル・ハワリー,タレク
(72)【発明者】
【氏名】グロッツバッハ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】テンハンバーグ,ニルス
(72)【発明者】
【氏名】ライトナー,ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】クランカーマイヤー,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】シューマッハ,ハンナ
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC53
4H006AC57
4H006BA23
4H006BA48
4H006BB11
4H006BB25
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE14
4H006BE20
4H006BE41
4H006BV11
4H039CA99
4H039CL25
(57)【要約】
本発明は、尿素の製造方法に関し、a)触媒反応においてギ酸メチルまたはギ酸アンモニウムが中間体として形成され、二酸化炭素、水素およびアンモニアに基づきホルムアミドを調製すること、b)形成したホルムアミドを、または、形成したホルムアミドをアンモニアと組み合わせて、触媒存在下、反応させて尿素を調製することを含み、二酸化炭素の供給源が、化学的および/または物理的に結合した二酸化炭素を含む液体であり、スクラビング液を用いてCO2を除去するための合成ガスをガススクラビングすることにより得られるメタノール相または水性アンモニア水から選択される。本発明に従う方法は、アンモニア合成と組み合わせることができ、アンモニア合成プロセスにおいてわずかな変更のみが必要とされる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)触媒反応においてギ酸メチルまたはギ酸アンモニウムを中間体として形成することにより、二酸化炭素、水素、アンモニアに基づきホルムアミドを調製すること、
b)得られたホルムアミドを、または、アンモニアと得られたホルムアミドとを、触媒存在下反応させて尿素を調製すること
を含む、尿素の製造方法であって、
二酸化炭素の供給源が、化学的および/または物理的に結合した二酸化炭素を含む液体であり、スクラビング液を用いてCO2を除去するための合成ガスをガススクラビングすることにより得られるメタノール相または水性アンモニア水から選択され、
a1)前記スクラビング液はメタノール相であるか、または、CO2が化学的および/または物理的に結合した二酸化炭素を含む前記スクラビング液から脱離され、かつ、メタノール相に吸収されてCO2を含むメタノール相を与え、そして、CO2を含むメタノール相は、触媒存在下で水素含有流と反応してギ酸メチルを生成し、得られたギ酸メチルはアンモニア含有流と反応してホルムアミドを生成するか、または、
a2)前記スクラビング液はアンモニア水溶液であり、CO2は前記スクラビング液中の炭酸塩の形態で少なくとも部分的に結合しているので、化学的および/または物理的に結合したCO2を含むこのスクラビング液を、触媒および任意に有機溶媒の存在下で水素含有流と反応させてギ酸アンモニウムを生成するか、または、ギ酸アンモニウムおよびホルムアミドを生成し、得られたギ酸アンモニウムは熱処理によってホルムアミドに変換される、製造方法。
【請求項2】
前記合成ガスが、アンモニア合成のための合成ガスであり、および/または、
前記ガススクラビングが、蒸気改質および/または後続の水-ガスシフト反応から得られる合成ガス上で実施される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
用いられる合成ガスが、任意にアンモニア合成のための合成ガスとの混合物中において、コークス炉ガス、爆風炉ガス、コンバーターガス、またはセメントからのオフガスから選択される全部または少なくとも一部の任意に選択される処理ガスを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
メタノールまたはアンモニア水溶液が、CO2除去のためのガススクラビング用のスクラビング液として使用される、請求項1~3のいずれか一項に記載の工程。
【請求項5】
前記合成ガスからCO2を除去するための前記合成ガスの前記ガススクラビングを、スクラビング液としてのアンモニア水溶液によって、20~50barの圧力、および/または、100℃未満、好ましくは30~70℃の範囲で行うか、または、
前記合成ガスからCO2を除去するための前記合成ガスの前記ガススクラビングを、スクラビング液としてのメタノールによって、20~50barの圧力、および/または、-20℃以下の温度まで冷却したメタノールで行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
使用される前記水素含有流が、
前記ガススクラビング後の合成ガスの副流(当該副流は、任意に実施される合成ガスメタン化の前または後に取り出すことができる)、
前記ガススクラビング前の合成ガスの副流、
アンモニア合成および/または尿素合成またはそれらの組合せの生成物の処理から得られる水素
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
使用される水素含有流が、尿素合成の生成物の処理から得られる水素である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
アンモニア含有流および/またはアンモニア水溶液として使用されるアンモニアが、アンモニア合成における合成ガスから得られるアンモニアであり、
尿素合成の生成物の処理から得られる任意のアンモニアが、前記アンモニア含有流および/または前記アンモニア水溶液にさらに使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
ルテニウム触媒、特にはルテニウム-ホスフィン錯体が、
尿素を生成するための得られたホルムアミドの反応の触媒として、または、尿素を生成するための得られたホルムアミドとアンモニアとの反応の触媒として、および/または、
変形a1)において、ギ酸メチルを生成するための、CO2含有メタノール相と水素含有流との反応の触媒として、および/または、
変形a2)において、ギ酸アンモニウムを生成するための、または、ギ酸アンモニウムおよびホルムアミドを生成するための、CO2含有アンモニア水溶液および水素含有流の反応の触媒として用いられる、および/または、変異体a2においてアンテニウム水溶液と水素含有流との反応の触媒として
用いられる、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ルテニウム-ホスフィン錯体が、少なくとも1つのモノホスフィン、1つのジホスフィン、1つのトリホスフィンまたは3つ以上のホスフィン基を有する1つの化合物を含み、
当該ホスフィンが、式PR123を有し、式中、それぞれの場合にR1、R2およびR3が互いに独立して、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアリール、または、置換もしくは非置換のヘテロアリールであり、
好ましくはR1がアルキルであり、RおよびR3が互いに独立して置換もしくは非置換のヘテロアリールおよび/または置換もしくは非置換のアリール、特にフェニルである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ルテニウム-ホスフィン錯体が、ルテニウム-トリホスフィン錯体であり、
当該トリホスフィンが、下記一般式I:
【化1】
(式中、
1~R6は、互いに独立して、置換もしくは非置換のアリール、または、置換もしくは非置換のヘテロアリール、好ましくは置換もしくは非置換のフェニルであり、
7は、水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールである。)
を有し、
前記トリホスフィンは、より好ましくは1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン(トリホスホ)である、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ルテニウム-ホスフィン錯体が、下記一般式II:
【化2】
[式中、Aは下記一般式I:
【化3】
(式中、
1~R6は互いに独立して、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール、好ましくは置換または非置換のヘテロアリールであり、
7が、水素、シクロアルキルまたはアリールであり、
各々の場合においてLが、互いに独立して一座配位子であり、2つの一座配位子Lが1つの二座配位子で置換されるか、または、3つの一座配位子Lが1つの三座配位子で置換されることが可能であり、前記一座、二座または三座配位子は好ましくは、トリメチレンメタン(tmm)、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトン酸、酢酸、ヒドリド、ハロゲン化物、フェノキシド、COまたはそれらの組合せから選択され、前記ルテニウム-ホスフィン錯体は好ましくは、[Ru(triphos)(tmm)]である)
のトリホスフィンである]
を有する、請求項9~11のいずれか一項に記載の製造方法:
【請求項13】
変形a1)においてギ酸メチルを形成するための、前記CO2含有メタノール相と前記水素含有流との反応、および/または、変形a2)において、ギ酸アンモニウムを形成する、もしくは、ギ酸アンモニウムおよびホルムアルデヒドを形成するための、前記CO2含有アンモニア水溶液と前記水素含有流との反応が、ルテニウム-ホスフィン錯体を触媒として、任意に、助触媒としての酸、好ましくはルイス酸と組み合わせて実施される、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
尿素を形成する前記得られたホルムアミドの触媒反応、または、尿素を形成する前記得られたホルムアミドとアンモニアとの触媒反応が、50~250℃の範囲、好ましくは120~200℃の範囲、より好ましくは140~170℃の範囲の温度で、および/または、周囲圧力~150barの範囲、好ましくは2bar~60barの範囲、より好ましくは5~40barの範囲の圧力で行われる、請求項1~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
尿素を形成する前記得られたホルムアミドの触媒反応、または、尿素を形成する前記得られたホルムアミドとアンモニアとの触媒反応が、非極性または極性の非プロトン性有機溶媒、好ましくはトルエンまたはジオキサン、特に1,4-ジオキサン、または、液体または超臨界アンモニアの中で行われる、請求項1~14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
変形a1)におけるギ酸メチルを形成する前記CO2含有メタノール相と前記水素含有流との触媒反応が、20~150℃の範囲、好ましくは60~140℃の範囲、より好ましくは80~120℃の範囲の温度で、および/または、40bar~220barの範囲、好ましくは80bar~200barの範囲の圧力で行われ、および/または、
ギ酸メチルとアンモニアからホルムアミドとの前記反応が、20~100℃、好ましくは60~80℃の範囲の温度、および/または、大気圧~70barの範囲、好ましくは大気圧~45barの範囲の温度で行われ、および/または、
変形a2)におけるギ酸アンモニウムを形成するおよび/またはギ酸アンモニウムおよびホルムアミドを生成する化学結合CO2含有アンモニア水溶液と水素含有流との触媒反応が、60~180℃の範囲、好ましくは90~110℃の範囲の温度で、および/または、35bar~210barの範囲、好ましくは40bar~195barの範囲、より好ましくは80bar~190barの範囲の圧力で行われ、および/または、
ホルムアミドを形成する前記ギ酸アンモニウムの熱処理が、100~185℃の範囲の温度で行われる、請求項1~15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
ホルムアミドを形成するギ酸メチルとアンモニア含有流との反応において同様に形成された前記メタノールが、前記方法において、前記スクラビング液またはメタノール含有液に再利用される、請求項1~16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記方法がアンモニア合成と結合し、
前記アンモニア合成が、水-ガスシフト反応による蒸気改質による合成ガスの調製、CO2の除去のためのスクラビング液による合成ガスのガススクラビング、精製した合成ガスのメタン化、および、任意に圧縮された合成ガスによるアンモニアの調製を含み、
尿素の調製のための二酸化炭素の供給源として、前記CO2含有スクラビング液が使用される、請求項1~17のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項19】
使用される前記水素含有流が、前記スクラビング後の前記合成ガスの副流を含み、
前記副流が、任意に行われる合成ガスメタン化の前、その間、またはその後、好ましくはその前に取り出すことが可能であり、
水素が、前記アンモニア合成および/または尿素合成またはそれらの組み合わせの生成物の処理から得られ、および/または、
使用されるアンモニアの供給源が、前記アンモニア合成において形成されるアンモニアを含む、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記アンモニア合成のための方法が、一次改質器における蒸気改質および下流の二次改質器、および/または、高温シフト段階および低温シフト段階による二段階水-ガスシフト反応を含む、請求項18または19に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素の触媒的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸のジアミドである尿素は最も重要なバルク化学物質の1つであり、主に肥料として使用される。そのため、窒素含量が高い(46wt%)。微生物が産生し土中に広く存在するウレアーゼという酵素によって、容易に加水分解され、アンモニアとCO2が放出される。
【0003】
さらに、尿素はメラミンなどの有機物、ならびに、合成樹脂および繊維の原料の重要な構成単位である。ウシの飼料添加物として、ならびに、薬品および火薬の製造において、繊維産業においても使用される。ここ数十年、尿素はディーゼル排気ガスのNOx低減のための還元剤としても重要性を増している。
【0004】
現在、尿素の工業的製造は、アンモニア(NH3)および二酸化炭素(CO2)から150bar付近および180℃付近での高圧合成のみに基づいている。2つの反応物は一般にアンモニアプラントに由来し、アンモニアプラントは通常尿素プラントの近傍に位置している。アンモニアは、窒素および水素から工業的に得られ、反応物質は合成ガスの形態で使用され、そこから硫黄化合物または二酸化炭素などの破壊物質が除去される。
【0005】
尿素合成の1つの重要なアプローチは、カルバメート経路と呼ばれるものに基づいている。この場合、出発物質として必要な二酸化炭素は、アンモニア合成のために生成された合成ガスから分離することによって得られる。操作の過程で、あらかじめ分離したCO2を液体アンモニアと結合させる。合成の第一段階では、主にカルバミン酸アンモニウムが合成される。反応の過程で尿素も少量形成され、アンモニア、CO2、尿素、カルバミン酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムおよび水から構成される複雑な混合物を生成する。これはカルバメート縮合器と呼ばれる装置で行われる。反応混合物は、カルバメート縮合器から尿素反応器へと向かい、そこで実際の尿素生成反応が起こる。
【0006】
カルバメートは非常に腐食性の高い媒体であるため、特に高温および高圧下では、工程の多くの箇所で特定の耐食鋼が必要となる。この目的に適した特殊鋼として、Safurex(登録商標)という名称で市販されているものがある。Safurex(登録商標)スチールは、機器の内装材や配管などの部材として活用されている。このスチールの取得/利用は極めて高価であり、工場の設備コストを大幅に増大させる。高圧回路では、鋼線だけでなく、高圧および高温操作が装置にとって大きな課題となっており、最終的にはこれらの装置の取得価格に反映されている。これらの欠点は、本発明によって克服することができる。
【0007】
置換尿素誘導体は、COおよびCO2または他のカルボニル化剤を用いて、種々の経路を経て触媒的に調製することができる。CO2による置換尿素誘導体の合成は、例えば、P.Munshi et al.、Tetrahedron Lett.2003,44,2725-2727に記載されている。他のカルボニル化剤による合成は、例えばA.Basha、Tetrahedron Lett.1988,29,2525-2526において報告されている。
【0008】
アンモニアは3つの活性水素をもち、塩基性が著しく異なるので、尿素を調製するためにアンモニアを用いる場合には、置換尿素のアミンの取込みに関し、さらなる課題が生じる。したがって、尿素の触媒的合成を報告する文献は、比較的少数しかなく、例えば、F.Barzagli et al.、Green Chem.2011、13、1267-1274、M.M.Taqui Khan et al.、J.Mol.Catal.1988,48,25-27、およびD.C.Butler et al.、Inorg.Chem.Commun.1999,2,305-307が挙げられる。
【0009】
本発明者らは、従来のプロセスに関する上述の欠点を克服するべく、出発材料としてのホルムアミドに基づく尿素の触媒的合成のためのプロセスを提供することを検討した。
【0010】
メタンアミドまたはギ酸アミドとも呼ばれるホルムアミドの工業的生産は、現在ではほとんど2つの合成経路のみに基づいており、どちらも一酸化炭素をC1出発物質とし、かつ、ナトリウムメトキシドを触媒として用いる。第一の経路は、一酸化炭素(CO)によるアンモニア(NH3)の直接的カルボニル化の経路である(等式1)。
CO + NH → HCONH2 (等式1)
【0011】
第2の経路は、触媒としてナトリウムメトキシドを使用した、一酸化炭素とメタノールとの反応を伴い、ギ酸メチルを得た後、アンモニア分解を伴う(等式2~3)。この反応で遊離したメタノールはリサイクルされる。
CO + CHOH → HCOOCH3 (等式2)
HCOOCH3 + NH → HCONH2 + CH (等式3)
【0012】
どちらの経路もCOを用いるが、COは、一方では非常に価値の高い反応物質であり、他方、毒性の強い反応物質でもあり、産生も決定的に複雑である。
【0013】
COの利用に代わる方法は、二酸化炭素(CO2)を利用することである。C1ケミストリーのためのCO2の利用は、特に安全および経済の観点から非常に魅力的である。CO2は、純粋または純粋に近い状態でプロセスガスから分離される蒸気改質作業からの生成物の1つである。排ガスおよび改質ガスの両方から、化学的純度の状態で単離することができる。
【0014】
しかしながら、CO2の物理的利用に伴う課題は、CO2の熱力学的安定性にある。当該分子は化学反応の大部分で不活性である。しかしながら、特殊な場合は、特定の触媒によってCO2を活性化することができる。
【0015】
WO 2013/014160 A1は、TiO2上で金1%から構成される触媒を用いて、メタノール中のアンモニア、二酸化炭素および水素からホルムアミドを形成すること、ならびに、TiO2またはAl23上で金1%から構成される触媒を用いて、メタノール中の二酸化炭素および水素からギ酸メチルを生成することを記載している。
【0016】
US 2012/071690 A1には、ギ酸アンモニウム中間体を介したホルムアミドの製造が記載されている。ギ酸アンモニウム中間体は、二酸化炭素よび水素および第三級アミンから、触媒(好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウムおよび/またはイリジウムを含み、ギ酸の付加物および第三級アミンを構成する)によって形成される。その後、この付加物は単離され、アンモニアまたはアミンによってホルムアミドに変換される。
【0017】
DE 102012019441 A1には、反応物質であるメタノール、アンモニア、二酸化炭素および水素からのイリジウム触媒によるホルムアミドの製造が記載されている。
【0018】
1988年のDTIC文書AD-A199 861において、Vaskaらは、触媒[Ir(Cl)(CO)(Ph3P)2]によるアンモニア、二酸化炭素および水素からのホルムアミドの生成について記載している。
【0019】
CO2の触媒活性化を介したホルムアミドの産生のための方法は、従来技術から既知である。これらの方法は、ホルムアミドの収率が比較的少ないという欠点を有する。さらに、使用される触媒は迅速に失活する。さらには、数日の反応時間が必要な場合もある。
【0020】
アンモニアは尿素合成における通常の出発物質である。さらに、CO2は即座に入手可能な供給原料(feedstock)である。CO2に基づく尿素合成への触媒経路の探索では、スキーム1に示すように、出発点はホルムアミドを介した中間体としての2段階プロセスであると考えられた:
【化1】
【0021】
ホルムアミドからの置換尿素の合成は、例えばS.Kotachi、Y.Tsuji、T.Kondo、Y.Watanabe、J.Chem.Soc.、Chem.Commun.1990,549-550のような文献に記載されているが、ホルムアミドと、好ましくはアンモニアとの反応から尿素が生成することは、新規かつ困難なC-N結合生成を示す。熱力学的安定性のためのCO2使用に関する課題は、先に記載した。
【0022】
要約すると、尿素合成のための既存の溶液は、あらゆる点で満足できるものではない。その結果、従来の尿素合成の欠点を回避する代替的な尿素合成が必要とされている。供給原料は、必ずではないが、アンモニア合成に由来し続けるであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】P.Munshi et al.、Tetrahedron Lett.2003,44,2725-2727
【非特許文献2】A.Basha、Tetrahedron Lett.1988,29,2525-2526
【非特許文献3】F.Barzagli et al.、Green Chem.2011、13、1267-1274
【非特許文献4】M.M.Taqui Khan et al.、J.Mol.Catal.1988,48,25-27、およびD.C.Butler et al.、Inorg.Chem.Commun.1999,2,305-307
【非特許文献5】Vaska et al.、DTIC文書AD-A199 861、1988年
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】WO 2013/014160 A1
【特許文献2】US 2012/071690 A1
【特許文献3】DE 102012019441 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明が基礎とする目的は、尿素を生産するための、好ましくは、アンモニアプラントに由来する供給原料に基づく代替プロセスを提供することであり、これは、産業用途に適しており、例えば、生成される物質の攻撃性(aggressiveness)ならびに圧力および温度条件などに関連して、プラントに課される要件を低減させることができる。特に、プロセスは、通常のアンモニア合成プラントに簡単に統合することが可能であるべきであり、これは、尿素合成のための供給原料は、アンモニアプラントのプロセス流(process stream)から取り出すことができ、アンモニア合成プロセスにわずかな変更のみを必要とするものでなければならないことを意味する。主な要因は、アンモニアプラントの既存プロセス設計への介入が極めて少ないことである。
【0026】
この目的は、請求項1に記載の方法により本発明に従って達成される。
【0027】
当該目的は、より具体的には、以下:
a)二酸化炭素、水素およびアンモニアに基づいてホルムアミドを調製し、触媒反応においてギ酸メチルまたはギ酸アンモニウムを中間体として形成すること、
b)得られたホルムアミドまたはアンモニアと得られたホルムアミドとを、触媒存在下、反応させて尿素を調製すること
を含む尿素の製造方法によって達成され、当該製造方法において、
二酸化炭素の供給源が、化学的および/または物理的に結合した二酸化炭素を含む液体であり、スクラビング液を用いてCO2を除去するための合成ガスをガススクラビングすることによって得られる、メタノール相またはアンモニア水溶液から選択され、
a1)前記スクラビング液がメタノール相であるか、または、CO2は、化学的および/または物理的に結合した二酸化炭素を含むスクラビング液から脱離され、かつ、メタノール相に吸収されてCO2含有メタノール相を提供し、および、前記CO2含有メタノール相が、CO2含有流として触媒存在下で水素含有流と反応してギ酸メチルを形成し、得られたギ酸メチルは、アンモニア含有流と反応してホルムアミドを形成するか、または
a2)前記スクラビング液がアンモニア水溶液であり、CO2が、前記スクラビング液中の炭酸塩の形態で少なくとも部分的に結合しているため、化学的および/または物理的に結合したCO2を含有するこのスクラビング液を、触媒および任意に有機溶媒の存在下で水素含有流と反応させてギ酸アンモニウムを形成するか、または、ギ酸アンモニウムとホルムアミドとを形成し、得られたギ酸アンモニウムは熱処理によってホルムアミドに変換される。
【0028】
本発明の重要な点は、尿素を製造するための本発明のプロセスが、アンモニア合成のプロセス流を供給原料に利用することができ、特に、例えば蒸気改質において発生する、合成ガス中に含まれる水素を、必要とされるアンモニアプロセスにおける最小限の介入のみで、損失なく利用可能にすることができるように設計されていることである。
【0029】
ここで提案する解決に関し、3段階尿素合成の反応物/供給源、すなわちCO2、H2およびNH3は、アンモニアプラントの従来のプロセス設計においてすでに利用可能であり、アンモニア合成におけるわずかな介入のみが必要であることは強調されるべきである。これとは対照的に、COに基づく従来のホルムアミド合成は、アンモニアプロセスの完全な再計画を必要とするであろう。もう1つの重要な点は、ホルムアミド合成中に水素が失われず、ホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの反応で再び水素が放出されて尿素を形成するので、尿素合成後にアンモニア合成のために再び利用可能にすることができるという事実である。
【0030】
本発明のさらなる実施形態は、従属請求項から明らかである。本発明は、以下の文中で詳細に説明される。
【0031】
本発明の尿素の製造方法は、以下:
a)触媒反応においてギ酸メチルまたはギ酸アンモニウムを中間体として形成することにより、二酸化炭素、水素およびアンモニアに基づきホルムアミドを調製すること、および
b)触媒存在下、得られたホルムアミドまたは得られたホルムアミドとアンモニアとの反応により尿素を調製すること
を含み、
炭酸ガスおよび任意にアンモニアの供給源が、化学的および/または物理的に結合した二酸化炭素を含む液体であり、スクラビング液を使用してCO2の除去のための合成ガスをガススクラビングすることによって直接的または間接的に得られるメタノール相またはアンモニア水溶液から選択される。
【0032】
本発明の方法は、尿素の工業的製造に特に適している。本発明の方法は、好ましくは連続的な方法である。
【0033】
本発明の方法に使用される供給原料(feedstock)/供給源は、特に、二酸化炭素、水素およびアンモニアであり、これらは好ましくはアンモニア合成の方法から得られる。
【0034】
二酸化炭素および任意にアンモニアに使用される供給源は、化学的および/または物理的に結合した二酸化炭素を含むスクラビング液であり、当該スクラビング液を使用してCO2を除去するための合成ガスのガススクラビングによって得られる。
【0035】
合成ガスとして利用されるのは、好ましくは、気体および/または液体の炭化水素の蒸気改質および後続の水-ガスシフト反応から得られる合成ガスであり、この合成ガスは、例えば、アンモニア合成のために使用されるタイプである。合成ガスはアンモニア合成のために発生する合成ガスであることが好ましい。CO2スクラビングまでは、合成ガスを形成する作業は、通常のアンモニア合成と同じであることが好ましく、二次改質器を含む蒸気改質と、後続の水-ガスシフト反応とによって行われ、この反応は、一般に高温COシフトおよび低温COシフトの2段階で行われる。
【0036】
詳細には、蒸気改質において、たとえば自然ガスまたは他の炭化水素などの炭素質物質を、例えば、任意の事前精製(prepurification)によって蒸気と一次改質器で反応させ、炭素質物質を大部分CO、CO2および水素に変換する。二次改質器として既知の下流装置(ここで、使用する場合は、蒸気改質手順の一部と考えられる)において、残留炭素質物質はプロセスエアーの添加により反応させることができ、プロセスエアーも窒素を導入する。このようにして、所望のH2/N2比を確立することもできる。
【0037】
後続の水-ガスシフト反応において、一酸化炭素および蒸気は、二酸化炭素および水素に変換される。水-ガスシフト反応は、高温シフト段階および低温シフト段階として、2段階で行われることが多い。得られた合成ガス中の主成分は、水素、窒素および二酸化炭素である。考えられる不純物には、一酸化炭素、アルゴンおよび少量の炭化水素が含まれる。
【0038】
この種の合成ガスを生成するための適切なプロセスは当業者に基地であり、この点に関しては、例えば、A.Nielsen、I.Dybkjaer、Ammonia-Catalysis and Manufacture、Springer Berlin 1995、chapter 6、p.202-326; M.Appl、Ammonia.Principles and Industrial Practice, WILEY-VCH Verlag GmbH 1999が全体的に参照され得る。
【0039】
蒸気改質により合成ガスを供給するための標準的経路のほか、蒸気改質(混合物としての)により合成ガスに代えて、またはそれに加えて、コークス炉ガス、爆風炉ガスまたはセメント工場からのオフガスから選択されたガスを合成ガスとして使用することができ、適宜、当該ガスは処理に供される。ガスの起源に応じて、ガススクラビングの前にガスを処理することが有用な場合がある。任意の処理は、例えば、気体から1つ以上の破壊性成分を除去すること、および/または、水-ガスシフト反応によりCO2含量を上昇させることを伴ってもよい。コークス炉ガス、爆風炉ガスまたはセメント工場からのオフガスから選択された任意の処理ガスは、CO2供給源として、および、おそらくCO2、COおよび他の酸素含有成分の処理および除去後のアンモニア合成にも適している。
【0040】
通常のアンモニア合成では、この合成ガスはCO2を除去するためにスクラビング液によってガススクラビングに供される。CO2を大幅に除去したガス流はメタン化に供され、アンモニア合成の触媒毒を構成する合成ガス中の残留COおよびCO2がメタンに変換される。メタン化から出るガスは、実質的に水素と窒素とを3:1の比で含み、いくらかのメタンを含み、依然として前記ガス中に存在する水を除去した後、アンモニア合成そのものに使用することができる。
【0041】
すでに観察されているように、本発明に従う方法では、アンモニア合成に関連して、操作体制の変更は、CO2スクラビングの状況においてのみ必要である可能性がある。以下の本文に記載されているのは、本発明の方法のためにCO2含有流体を得るために、合成ガスからCO2を除去するための賢明な実施形態である。
【0042】
CO 2 含有メタノール相
合成ガスからのCO2除去/吸収に使用されるスクラビング液は、特に好ましい一実施形態では、スクラビング液としてのメタノール相である。メタノール相は好ましくはメタノールである。あるいは、メタノール相は、メタノールだけでなく、水または有機溶媒などの少量の不純物をも含むことができるが、好ましくは10vol%未満、好ましくは1vol%未満の量である。後続の反応の過程で、不純物が副産物になるか、または、変換が減少することがあるので、これらの理由から、できるだけ広範囲に避けるべきである。
【0043】
特に適したプロセスの一つは、ガススクラビングのためにメタノールをスクラビング液として用いる、Lugi社とLinde社のRectisol法として知られているものである。CO2をメタノールに効果的に吸収させるためには、特に冷メタノールを用いる。メタノールまたはメタノール相は、ガススクラビング前に、0℃未満、好ましくは-20℃未満の温度まで、例えば-20℃から-50℃、好ましくは-30℃から-40℃の範囲に冷却する。これは約-33℃の温度に達するNH3圧迫冷凍機を用いて行うことができ、経済的な手法を構築する。しかしながら、メタノールをさらに低温に冷却することは、適切な施設を使えば、より良い結果を得ることができる。ただし、これは採算性と比較検討しなければならない。ガススクラビングの過程で、メタノールは再び約-20℃まで昇温するが、例えば、一般的には0℃未満のままであり、リサイクル後に再び冷却しなければならない。合成ガスからスクラビング液(メタノール相またはメタノール相)中にCO2を除去するためのガススクラビングは、例えば20~50バールの範囲の圧力で行うことができる。
【0044】
ガススクラビング後に得られたスクラビング液はメタノール相であり、これには物理的に吸収されたCO2が含まれており、以下に述べるホルムアミド合成に至るまで再生することなく通すことができる。
【0045】
別の実施形態では、合成ガスからCO2を除去/吸収するために別のスクラビング液を使用することができ;この場合、ガススクラビング後、CO2を脱着によって当該含有スクラビング液から除去し、吸収によってメタノール相に移さなければならない。合成ガスからCO2を除去するためのガススクラビング用に従来技術で知られている任意のスクラビング液は、記載されているように、直接的に使用することが合理的であるメタノール相およびアンモニア水溶液とは別に、使用することができる。
【0046】
通常のスクラビング液の例は、プロピレンカーボネート(Fluor DanielからのFluor溶媒プロセス)、ジメチルエーテルとポリエチレングリコールとの混合物(Union CarbideからのSelexol(登録商標))、アルカノールアミン類(一般には水溶液の形態)、例えば、モノエタノールアミン(MEA)、ジグリコールアミン(DGA)、トリエタノールアミン(TEA)およびメチルジエタノールアミン(MDEA)、例えば、アンモニア水溶液および炭酸カリウム水溶液である。
【0047】
この代替的な実施形態のために、採用されるスクラビング液は、好ましくは、少なくとも1つの活性化剤と混合した、水性MDEAであり、例えばMEAまたはジエタノールアミン(DEA)、N-メチルアミノエタノール(モノメチル-MEA)またはピペラジンなどである。ここでは、活性化MDEA(aMDEA;このプロセスは現在OASE whiteと呼ばれている)と呼ばれるものが好ましく、このプロセスは、モノメチル-MEAまたはピペラジンの付加を伴う水性MDEAを構成し、BASFによって販売されている。もう一つの好ましいスクラビング液は、炭酸カリウム水溶液(UOPからのベンフィールドスクラブ)である。
【0048】
ガススクラビング後に得られるスクラビング液は、この代替の実施形態に従うスクラビング液に基づいて、化学的および/または物理的に結合した二酸化炭素を含有し、メタノール相ではないスクラビング液である。したがって、この液体中に含まれるCO2はスクラビング液から脱離し、放出されたCO2は(好ましくは、後述するホルムアミド合成に必要な程度に)、メタノール相に吸収されてCO2含有メタノール相を提供する。
【0049】
CO2の脱離は、例えば、温度の上昇、気圧の低下および/または気相中のCO2分画の低下に基づいて、標準的な方法により行うことができる。具体的には、溶液を完全に煮沸し、膨張または減圧ポンプの使用によって圧力を下げ、相を通ってストリッピングガスまたはストリッピング蒸気を通すことによって達成され得る。
【0050】
脱離および吸収操作後に得られた液は、物理的に吸収されたCO2を充填したメタノール相であり、物理的に吸収されたCO2を含有する上記メタノール相に原則、実質的に相当し、スクラビング液として直接的に採用可能であり、これは更なる処理段階が同一であることを意味する。
【0051】
次いで、上記2つの実施形態に従うCO2含有メタノール相は、a)の工程の変形a1)において、触媒存在下で水素含有流と、CO2含有流として反応させてギ酸メチルを形成し(以下(等式4)参照)、得られたギ酸メチルをアンモニア含有流と反応させてホルムアミドを生成する(以下(等式5)参照)。次いで、得られたホルムアミドを、工程b)において、触媒の存在下でアンモニアと反応させて、尿素を得る(以下(等式6)参照)。適用にあたって設定された等式は、化学量論を考慮に入れていない。
【0052】
以下の等式(4)~(7)は合成を示し、Cat.は触媒を示す。
【化2】
【0053】
等式4に従う、メタノール相においてギ酸メチルを生成するCO 2 とH 2 との反応
等式4の反応はメタノール相またはメタノール溶液中で進行する。ここでメタノールは溶媒として、および、反応物として同時に作用する。CO2含有流からの二酸化炭素と、メタノール相における水素含有流からの水素とが、触媒存在下で反応すると、ギ酸メチル(ギ酸メチルエステルともいう)を形成する。
【0054】
等式4の触媒反応およびこの反応に適した触媒は、当業者に既知である。文献から既知の触媒をこの反応に使用することができ、例えば、WO2013/014160 A1に記載されているように、金、特には、担持されていない金、または、TiO2もしくはAl23などの担体上の金であり、例えば、銅触媒、コバルト触媒またはイリジウム触媒であり、例えば、DE 102012019441 A1に記載されているような少なくとも二座ホスフィン配位子を含むIr触媒、または、Vaska et al.,DTIC文献AD-A199-861、1988に記載されている触媒[Ir(Cl)(CO)(Ph3 P)2]である。適sita触媒は、US 2012/071690 A1にも記載されている。
【0055】
ルテニウム-ホスフィン錯体などのルテニウム触媒は、例えば、当量4の反応のための触媒として適している。したがって、たとえばルテニウム-ホスフィン錯体のようなルテニウム触媒を、CO2含有メタノール相と水素含有流との反応の触媒として用いて、変形a1)においてギ酸メチルを形成することができ)。ジメトキシメタンは、反応条件に応じて、一般に少量ではあるが、副生成物として形成され得る。
【0056】
この反応の触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の例については後述する。
【0057】
ギ酸メチルを提供する、メタノール相中の二酸化炭素と水素との触媒反応において、触媒、より具体的にはルテニウム-ホスフィン錯体は、均一触媒としてまたは固定化触媒として使用され得る。触媒、例えば、ルテニウム-ホスフィン錯体との触媒反応は、固定床反応器に固定化された触媒を用いて、または、流動床反応器中で溶解された触媒を用いて、均一にまたは不均一に行われ得る。
【0058】
メタノール相での二酸化炭素と水素との触媒反応でギ酸メチルを生じる反応は連続的に、あるいは、バッチ状に行われ、連続的な操作が好ましい。触媒反応は好ましくは、オートクレーブまたは圧力反応器で行われる。バッチ操作にはオートクレーブが適している。連続操作には圧力反応器が適している。
【0059】
この反応のための既知触媒に適した反応条件は当業者に知られている。以下の文章は、特に、ルテニウム-ホスフィン錯体を触媒として用いる場合の適切な反応条件の詳細を述べている。以下の段落がルテニウム-ホスフィン錯体を明示していない場合には、ルテニウム-ホスフィン錯体だけでなく、他の適当な触媒を用いる場合にも有効である。
【0060】
メタノール相中の二酸化炭素と水素との触媒反応における触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の濃度は、CO2のモル量に基づき、例えば、0.1mmol%~5.0mol%、好ましくは1.0mmol%~1.0mol%、より好ましくは2.0mmol%~0.1mol%の範囲にある。
【0061】
さらに、特にルテニウム-ホスフィン錯体を触媒として使用する場合、メタノール相中の二酸化炭素と水素との触媒反応が、好ましくは酸の存在下で起こり、ギ酸メチルを与える。この酸は触媒および基質を活性化する助触媒として作用し、反応収率を向上させる可能性がある。
【0062】
この酸は、プロトン酸(ブレンステッド酸)またはルイス酸であってよく、ルイス酸が好ましい。この酸は有機酸であっても無機酸であってもよい。
【0063】
ルイス酸は、電子対受容体、すなわち、別の分子(ルイス塩基)が提供する電子対を受容することができ、前記電子対といわゆるルイス付加体を形成する、不完全な希ガス配置を有する分子またはイオンであると理解される。
【0064】
ルイス酸およびプロトン酸などの賢明な酸の例としては、有機アルミニウム化合物、たとえばアルミニウムトリフラート(アルミニウムトリス(トリフルオロメタンスルホン酸)、Al(OTf)3 (Tf = -SOCF3))およびアルミニウムトリアセテート、有機ボロン化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、Bi(OTf)3、2,4,6-トリメチル安息香酸、スルホン酸、例えばp-トルエンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミド(HNTf2)など、スカンジウム化合物、例えばスカンジウムトリフラートなど、例えばNafion(登録商標)NR50の商品名で入手可能な、少なくとも1つのスルホ基を含む過フッ化共重合体、またはそれらの組合せである。
【0065】
ルテニウム-ホスフィン錯体の酸に対するモル比は、例えば、1:800~1:1、好ましくは1:80~1:5、より好ましくは1:50~1:10の範囲であってよい。
【0066】
触媒の存在下での二酸化炭素と水素との触媒反応はメタノール相中で起こる。この場合、メタノールは同時に、反応物および溶媒として作用する。メタノール相は好ましくはメタノールである。あるいはメタノール相は、メタノールだけでなく、水または有機溶媒などの少量の不純物を含んでもよいが、好ましくは10vol%未満、好ましくは1vol%未満の量である。
【0067】
メタノール相では、ルテニウム-ホスフィン錯体は、少なくとも部分的に溶液中に存在することが好ましい。メタノール中の二酸化炭素と水素との触媒反応は均一な触媒反応であることが好ましい。均質な触媒作用により、より穏やかな反応条件およびより高い選択性が可能になり得る。
【0068】
メタノールは、溶媒としても使用されるので、非常に高い過剰量で使用される。CO2に対するH2の化学量論的な過剰が好ましい。例えば、触媒反応の場合、p(CO2):p(H2)の比は、2:1~1:10の範囲にあることが賢明であり、好ましくは1:1~1:5の範囲にあり、より好ましくは1:1.1~1:3であり、ここでpは23℃におけるそれぞれの反応物の分圧である。p(CO2):p(H2)の適当な比の具体例は、例えば1:2または2:3である。
【0069】
メタノール相中の二酸化炭素および水素の触媒反応は、特にルテニウム-ホスフィン錯体を触媒として使用する場合、好ましくは室温(例えば、20℃)~150℃の範囲、より好ましくは60~140℃または80~120℃の範囲の温度で起こり、最良の結果は約100℃で達成される。
【0070】
メタノール相における二酸化炭素と水素との触媒反応は、特にルテニウム-ホスフィン錯体を触媒として用いる場合には、好ましくは40barから220barの範囲、より好ましくは80barから200barの範囲の圧力で起こり、最良の結果は約100barから180barで得られる。
【0071】
メタノール相における二酸化炭素と水素との触媒反応の適切な反応時間は、他の反応パラメータに応じて変化する可能性がある。反応時間を、例えば3~20時間、好ましくは12~18時間の範囲に設定することが賢明である。
【0072】
触媒、例えば触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体など、および任意に酸の存在下での、メタノール相での二酸化炭素と水素との反応は、ギ酸メチルと水とを形成し、当該反応の場合、特に得られる生成物はギ酸メチル含有反応混合物であり、これは通常、未反応のH2とCO2とを排出した後、アンモニア分解に用いて等式5のようにホルムアミドを形成する。
【0073】
未反応のH2とCO2との排出のため、ガス成分(H2およびCO2)をできるだけ広範囲にギ酸メチル含有反応混合物から除去するため、まず、特に、圧力および任意に温度を低下させ、次いでアンモニアを添加する。気体成分が単離される圧力は、結合プロセス段階(coupled process stages)の優勢な圧力に依存する。
【0074】
使用されるH2とCO2の比に応じて、圧力を徐々に下げるか、または、膨張させる価値がある。最初の膨張の場合、主にH2またはH2/N2が分離され、一部のCO2も同様に除去される。この流れはリサイクルできる。最後の膨張段階は、ストリッピングガスによるストリッピングによって適切な場合に補助され、一次改質器内での燃焼または廃棄により適している。徐々に膨張する利点は、分離されたガスが依然として圧力下にあるため、リサイクルに適していることである。
【0075】
未反応のH2およびCO2を除去したギ酸メチル含有反応液は、例えば、以下の2つのプロセスレジームを経て等式5に従ってアンモニア分解に使用することができる。得られたギ酸メチルは反応混合物から除去することができ、別の反応においてアンモニアと反応させることができる。除去は、単に、例えば、蒸留によって達成することができ、この場合、ギ酸メチルは、最低沸点を有する成分である。代替の実施形態において、得られたギ酸メチルは、反応混合物から事前に除去することなく、アンモニアと直接反応させることができる。この場合、アンモニアは、得られたギ酸メチルを含む反応液中に簡単に導入され、触媒反応に続いて、未反応のCO2およびH2反応物が放出される。
【0076】
メタノール中の二酸化炭素と水素との触媒反応で生成したギ酸メチルは、続いてアンモニアによるアンモニア分解に供され、ホルムアミドを形成する。ギ酸メチルとアンモニアとの反応に関する以下の観察は、これがギ酸メチル含有反応混合物を用いて行われるのか、上記のように反応混合物から除去されたギ酸メチルを用いて行われるのかに関わらず妥当である。
【0077】
等式5に従う、ギ酸メチルとNH 3 とがホルムアミドを生成する反応
等式4に従ってギ酸メチルを形成した後、等式5に示すように、アンモニアと反応させてホルムアミドを形成することによりアンモニア分解に供する。この場合、求核置換が起こり、メタノールが放出される。放出されたメタノールは再利用されるので、ホルムアミドが主な反応生成物となる。既に述べたように、ジメトキシメタンは、通常少量ではあるが、副産物として形成されることがある。
【0078】
等式5による反応は技術常識である。反応条件は当業者に公知である。ホルムアミドを形成するギ酸メチルとアンモニアとの反応は一般に定量的であり、当業者には公知である。COおよびMeOHから出発する従来のホルムアミド合成においても同様に行われる。ギ酸メチルとアンモニアとの反応でホルムアミドを生じる反応は、触媒を必要としないが、触媒の使用は排除されない。
【0079】
ギ酸メチルとアンモニアとの反応によりホルムアミドおよびメタノールを与える反応は、例えば、室温(例えば20℃)~100℃の範囲、より好ましくは、60~80℃の温度で行うことができる。反応は、例えば、1bar(または大気圧)から70bar、好ましくは1bar(または大気圧)から45barの範囲の圧力で行うことができる。
【0080】
反応後、メタノールと反応物は蒸留により除去される。残留物としてホルムアミドが残る。
【0081】
ホルムアミドを形成するための、ギ酸メチルとアンモニア含有流との反応において形成されるメタノールは、好ましくは、スクラビング液またはプロセス中のメタノール含有液に再び使用され得る。
【0082】
等式6に従う尿素を形成するホルムアミドとアンモニアとの反応、または、尿素を形成するホルムアミドの反応
得られたホルムアミドを、触媒の存在下、等式6に従ってアンモニアと反応させると、最終的に、尿素および水素が形成される。水素を再利用できる可能性は、本発明の方法の特別な利点である。反応で放出される水素は、反応で使用される圧力で得られる。ホルムアミド合成、または、アンモニア合成に戻すことができる。
【0083】
代替の実施形態では、アンモニアを添加しなくとも、得られるホルムアミドを触媒の存在下で反応させて、尿素および水素を形成することができる。この場合も同様に、再利用可能な水素が形成される。
【0084】
それに応じて、尿素の触媒合成は、好ましくは、ルテニウム-ホスフィン錯体のような触媒の存在下でホルムアミドとアンモニアとの反応を含み、尿素および水素を形成する。あるいは、尿素の触媒合成は、ルテニウム-ホスフィン錯体のような触媒の存在下でのホルムアミドの反応を含み、尿素および水素を形成し、この代替物の場合にもCOが形成される。代替の変形において、触媒存在下での触媒合成/反応の出発物質としてホルムアミドのみを用いて尿素を形成し、特に、反応混合物にはNH3を添加しな。したがって、合成に用いられる出発物質は、ホルムアミドまたは、好ましくは、ホルムアミドおよびアンモニアである。
【0085】
特に指定のない限り、触媒合成に関する解明は、上記に示されているように、好ましい変形および代替の変形の両方を指す。付加されたアンモニアに関する詳細は、好ましい変形のみに関するものであることが理解されるであろう。
【0086】
水素をホルムアミド合成に戻す場合には、尿素合成の圧力がホルムアミド合成の圧力よりわずかに高くなければならず、この場合は、等式4(上記参照)に従う反応のためである。その場合、生成デュオホルムアミド-尿素は、自己供給反応物質に対して定常状態にあり:等式6に従った尿素合成から、またはアンモニアを添加しない代替合成から放出される水素は、等式4/5に従ったホルムアミド合成に用いられる。アンモニア合成ガス(N2/H2)は、起動時にのみ、または、H2ロスを補うために必要である。
【0087】
水素をアンモニア合成に戻すと、水素は合成の高圧ループに直接的に、あるいはN2の有無にかかわらず合成ガスコンプレッサーの任意の所望の吸引段階に導入される。必要であれば、それに応じて尿素合成の圧力を適応させる。コンプレッサー(合成ガス)の吸引段階は、例えば32、66、109および195barの圧力を有してもよい。
【0088】
適した触媒を、得られたホルムアミドとアンモニアとの反応のための触媒として使用して、等式6に従って尿素を形成することができるか、または、得られたホルムアミドの反応のための触媒として使用して尿素を形成することができる。1つの好ましい実施形態は、得られたホルムアミドまたは得られたホルムアミドとアンモニアとの反応のための触媒として、ルテニウム触媒、より具体的にはルテニウム-ホスフィン錯体を使用して、尿素を形成する。
【0089】
この反応のための触媒として特に好適なルテニウム-ホスフィン錯体の例が、以下に記載される。
【0090】
以下の文章では、特にルテニウム-ホスフィン錯体を触媒として用いる場合の適切な反応条件の詳細を述べる。後続の段落がルテニウム-ホスフィン錯体と明確に関係しない場合には、ルテニウム-ホスフィン錯体だけでなく、他の適当な触媒を用いたときにも有効である。
【0091】
触媒、より特にルテニウム-ホスフィン錯体は、ホルムアミドの触媒反応において均一な触媒として、または、ホルムアミドもしくはホルムアミドおよびアンモニアの固定化触媒として使用され、尿素を提供することができる。相間移動触媒作用をもつ2相系も可能である。触媒との触媒反応、特にルテニウム-ホスフィン錯体との触媒反応は、例えば固定床反応器に固定化された触媒、または、流動床反応器中で溶解された触媒を用いて、均一にまたは不均一に行われ得る。
【0092】
ホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの触媒反応は連続的に、またはバッチ状に行われ、連続的な操作が好ましい。触媒反応は、オートクレーブまたは圧力反応器で行うことが望ましい。バッチ操作にはオートクレーブが適している。連続操作には圧力反応器が適している。
【0093】
ホルムアミドまたは好ましくはホルムアミドとアンモニアとの触媒反応は、追加的に、助触媒としての酸の存在下で任意に実施されてもよく、対象の酸はブレンステッド酸またはルイス酸であってもよい。この酸は有機酸であっても無機酸であってもよい。この酸は触媒および/またはホルムアミドのさらなる活性化につながる可能性があり、反応の収率を向上させる可能性がある。
【0094】
賢明なブレンステッド酸またはルイス酸の例は、有機アルミニウム化合物、例えばトリフラートアルミニウム(トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム)およびトリアセテートアルミニウムなど、有機ボロン化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランなど、スルホン酸、例えばp-トルエンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(HNTf2)など、スカンジウム化合物、例えばスカンジウムトリフラートなど、少なくとも1つのスルホ基を含むペルフルオロ共重合体(Nafion(登録商標)NR50の商品名で入手可能な種類の)、または、これらの組合せである。
【0095】
尿素を与えるホルムアミドとアンモニアとの触媒反応、または、尿素を与えるホルムアミドの触媒反応は、例えば、50~250℃の範囲、好ましくは120~200℃の範囲、より好ましくは140~170℃の範囲の温度で起こる。
【0096】
尿素を提供する、ホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの触媒反応は、例えば、周囲圧力から150barの範囲、好ましくは2barから60barの範囲、より好ましくは5barから40barの範囲の圧力(反応圧力)で行われる。好ましい変形の場合、反応は、液体または超臨界アンモニアが存在する条件下(臨界圧(NH3)=113bar;臨界温度(NH3)=132.5℃)で、任意に起こり得、これは溶媒として作用し得る。
【0097】
好ましい変形において、反応に使用されるアンモニアの量は、ホルムアミドに基づく当量(eq)で、例えば、1~300eq、好ましくは4eq~100eq、より好ましくは29~59eqの範囲であり得る。
【0098】
好ましい一実施態様において、反応は、5~40bar、より詳細には10~30barの範囲の圧力において、ホルムアミドに基づく約29~59eqのアンモニアによって生じる。この場合に特に好まれる溶媒は、ジオキサン、より具体的には1,4-ジオキサン、またはトルエンである。
【0099】
したがって、この反応は、アンモニアの化学量論的過剰によって生じることが好ましい。これにより尿素の収率の向上が可能となる。
【0100】
ホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの触媒反応に適した反応時間は、他の反応パラメータに応じて変化する可能性がある。反応の反応時間は、例えば、1分~24時間または30分~24時間、好ましくは3~15時間、より好ましくは6~10時間の範囲で賢明に設定される。
【0101】
本発明の方法において、ホルムアミドまたは好ましくはホルムアミドとアンモニアとの反応は、溶媒、より具体的には有機溶媒の非存在下または存在下で実施され得る。溶媒が存在しない場合、液体または好ましくは超臨界アンモニアの形態で任意の過剰のアンモニアが溶媒として作用することがある。
【0102】
1つの好ましい実施形態において、反応は、溶媒、より具体的には有機溶媒中で実施される。1つの溶媒または2以上の溶媒の混合物を用いることができ、好ましくは1つの溶媒の使用である。
【0103】
溶媒は、好ましくは有機溶媒、より具体的には非プロトン性有機溶媒である。溶媒は極性または非極性であり、非極性有機溶媒が好ましい。溶媒は、好ましくは、使用される触媒、好ましくはルテニウム-ホスフィン錯体がその中に少なくとも部分的に溶解され得るように選択される。
【0104】
溶媒は、好ましくは、環状および非環状エーテル、置換および非置換芳香族、アルカンおよびハロゲン化炭化水素、例えばジ-およびトリクロロメタンなどからなる群から選択され、例えば、溶媒は、ハロゲン化炭化水素、環状エーテルおよび置換または非置換芳香族、好ましくは環状エーテルおよび置換または非置換芳香族から好ましくは選択される。芳香族の例は、ベンゼン、または、1以上の芳香族置換基(例えばフェニル)および/または脂肪族置換基(例えばC1-C4アルキル)を有するベンゼンである。特に好ましい溶媒は、ジオキサン、より具体的には1,4-ジオキサン、トルエンおよびテトラヒドロフラン(THF)である。しかしながら、ジクロロメタンまたはトリクロロメタンも有利に使用され得る。
【0105】
溶媒として、イオン性液体も同様に使用することが任意に可能である。イオン性液体は当業者に既知である。これらは100℃以下の温度のような低温で液体の塩である。イオン性液体のカチオンは、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、グアニジニウム、ウロニウム、チオウロニウム、ピペリジニウム、モルホリニウム、アンモニウムおよびホスホニウムから選択され、このカチオンは、好ましくは1以上のアルキル基によって置換され得る。イオン性液体のアニオンは、例えば、ハロゲン化物、テトラフルオロボレート、トリフルオロアセテート、トリフラート、ヘキサフルオロホスフェート、ホスフィネート、トシレート、または有機イオン(例えばイミドもしくはアミドなど)から選択される。
【0106】
触媒、より具体的にはルテニウム-ホスフィン錯体は、好ましくは、溶媒中の溶液中に少なくとも部分的にまたは完全に存在する。尿素を与える、ホルムアミドまたはホルムアミドとアンモニアとの触媒反応は、均質な触媒反応であることが望ましい。ここで、触媒および反応物は溶液中、言い換えれば同じ相に存在する。均一な触媒はより穏やかな反応条件と、より高い選択性と、より高いターンオーバー数(TON)と、および/または、ターンオーバー頻度(TOF)を可能にする可能性がある。
【0107】
溶媒または溶媒混合物を用いる場合、1以上の溶媒の濃度は、例えば、Ru-ホスフィン錯体1mmol当たり、例えば5~500mL、好ましくは10~300mL、より好ましくは50~250mLの範囲にある。
【0108】
触媒、より具体的には触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の反応中の濃度は、例えば、ホルムアミドのモル量に基づいて、0.05モル%~10モル%、好ましくは0.25モル%~5モル%、より好ましくは0.5モル%~2モル%の範囲に位置し得る。
【0109】
尿素を形成する反応の後、気体成分を除去する。これは放出された水素と過剰なアンモニアに関するものである。この場合の圧力を極端に高く保たれるべきであり、結果的に圧力の低下は避けるべきである。ここで気温は所望される通りであってもよいが、より多くのH2/NH3が排出されるように、高温が好ましい。過剰なNH3が存在する場合には、回収段階で水素から分離されてもよい。尿素合成の圧力、したがって放出される水素の圧力は、前述したように、放出される水素の意図された使用に依存する。当該ガスのより効果的な除去のために、場合により、ホルムアミド合成からの窒素(例えば、ストリッピング剤としての)を使用することが可能である。
【0110】
アンモニアを反応物として加えた変形の場合、尿素合成からの気体混合物(H2 /NH3)は、アンモニア合成において慣習的なものと同様の方法で処理される。除去されたNH3は尿素および/またはホルムアミド合成で再利用され、窒素の有無にかかわらず除去された水素は、窒素がストリッピング剤として使用されたかどうかに応じて合成ガスへと処理される。尿素を与えるホルムアミドとアンモニアとの反応において、水素が再び放出され、アンモニア合成またはホルムアミド合成のために再使用することができるという事実は、本発明の方法の特別な利点である。
【0111】
尿素、触媒、過剰なホルムアミドおよび微量のアンモニア、ならびに、おそらく溶媒を含む液体反応残渣は、加工のために渡される。図4に関連して、個々の可能な処理段階について、以下でより詳細に説明する。
【0112】
CO 2 含有アンモニア水溶液
変形a2)における代替の実施形態では、ホルムアミドはギ酸メチルを経由せず、代わりにギ酸アンモニウムを中間体として経由して合成される。
【0113】
この代替の実施態様の場合、アンモニア水溶液、好ましくは希アンモニア水溶液が、CO2の除去のための合成ガスのガススクラビング用のスクラビング液として使用され、したがって、CO2は、対応するカルバミン酸塩および炭酸塩混合物の形態で少なくとも部分的に、スクラビング液中に結合される(下記等式7参照)。ここでCO2とNH3は互いに、さらに水と反応して溶解塩の複雑な混合物を形成し、それに加えて前記塩がさらに化合物を含む可能性があるので、これは単純化された等式であることを指摘しておくべきである。この反応はCO2スクラビングで起こり、この場合、スクラビング培地の再生は不要であり、含有スクラビング液はさらなる合成のために直接的に使用できることを強調すべきである。
2 + HO + NH
NH4 HCO3 + (NH2CO3 + HNCOONH4 + HO (等式7)
【0114】
等式7に従った反応生成物のうち、カルバミン酸アンモニウムのみがさらなる変換に望ましくない。しかしながら、温度が上昇すると(約50~60℃以降)、カルバミン酸アンモニウムは水で加水分解されて炭酸アンモニウムを形成する。よって、カルバミン酸アンモニウムが少ないことが予想されるため、アンモニア溶液は、希釈度が非常に高いことが好ましい。
【0115】
スクラビング液として使用されるアンモニア水溶液は、好ましくは、5~60重量%の範囲のアンモニア分画を有する。ここでは、希アンモニア水溶液を使用し、アンモニア分画が30重量%以下であることが好ましい。好ましい一実施態様では、合成ガスからスクラビング液(アンモニア水溶液)中へのCO2の除去のための、合成ガスのガススクラビングが、20~50barの圧力および/または100℃未満、好ましくは30~70℃の範囲の温度で実施される。
【0116】
したがって、化学的および物理的に結合したCO2を含むこのスクラビング液を、触媒および、おそらくは有機溶媒の存在下、または、触媒および酸(ルイス酸など)、および、例えば、おそらくは有機溶媒の存在下、水素含有流とCO2含有流とを反応させてギ酸アンモニウムを形成するか、または、ギ酸アンモニウムおよびホルムアミドを形成する(下記(等式8)参照)。この場合、アンモニア、二酸化炭素および水素の触媒反応によりギ酸アンモニウムが生成するか、または、ホルムアミドとギ酸アンモニウムとが生成する。生成したギ酸アンモニウムは熱処理によりホルムアミドに変換される(下記等式9参照)。特に高圧および高温で反応が行われるので、炭酸塩やカルバミン酸塩などの塩類はアンモニア溶液中で分解し、CO2を放出する。検出可能な分解は約60~70℃の低温で始まる。
【化3】
【0117】
使用した操作パラメータに応じて、生成するギ酸アンモニウムとホルムアミドとの比率が異なり、ある反応条件下(低温など)ではギ酸アンモニウムのみが形成されることも可能である。熱(T)にさらされると、ギ酸アンモニウムは水を除去し、下記等式9に従ってホルムアミドを生成する。したがって、原則として、ホルムアミドは唯一の反応生成物である。
【化4】
【0118】
等量8に従う、ギ酸アンモニウムおよび任意にホルムアミドを形成するアンモニア水溶液中のCO 2 とH 2 との反応
等式8に従う反応はアンモニア水溶液中で進行する。得られたスクラビング液は、炭酸塩の形で少なくとも部分的にCO2とNH3とを含み、触媒および任意に有機溶媒の存在下で、または、触媒および酸(より具体的にはルイス酸)、および任意に有機溶媒の存在下で、水素含有流と反応させる。当該反応によって、ギ酸アンモニウム、および、場合によってホルムアミドが形成される。
【0119】
等式8に従う反応のための触媒としては、上記に既に列挙されているように、適切な触媒および触媒タイプが使用され得る。1つの好ましい実施形態は、ギ酸アンモニウムおよび任意にホルムアミドを与えるためのNH3、CO2およびH2の反応の触媒として、ルテニウム触媒、より具体的には、ルテニウム-ホスフィン錯体が用いられる。特に、ルテニウム-ホスフィン錯体を触媒として使用する場合、酸、より具体的にはルイス酸を共触媒として併用することが好ましい。
【0120】
この反応のための触媒として特に好適なルテニウム-ホスフィン錯体の例は、以下に記載される。
【0121】
以下の文章では、特に、ルテニウム-ホスフィン錯体を触媒として用いる場合の適切な反応条件の詳細を示す。以下のパラグラフにはルテニウム-ホスフィン錯体を明示していない限り、それらは、ルテニウム-ホスフィン錯体だけでなく、他の適当な触媒を用いた場合にも有効である。
【0122】
触媒、例えばルテニウム-ホスフィン錯体は、アンモニア、二酸化炭素および水素の触媒反応のための、均一な触媒として、または、固定化触媒として使用され、ギ酸アンモニウムを提供するか、またはホルムアミドおよびギ酸アンモニウムを提供することができる。相間移動触媒作用をもつ2相系も可能である。触媒、例えばルテニウム-ホスフィン錯体との触媒反応は、例えば固定床反応器に固定化された触媒、または、流動床反応器中で溶解した触媒を用いて、均一にまたは不均一に行われ得る。
【0123】
アンモニウムを提供するか、または、ホルムアミドとギ酸アンモニウムとを提供する、アンモニア、炭酸ガスおよび水素の触媒反応は連続的に、あるいはバッチ状に行われ、連続的な操作が好ましい。触媒反応は、オートクレーブまたは圧力反応器で行うことが好ましい。バッチ操作にはオートクレーブが適している。連続操作には圧力反応器が適している。
【0124】
触媒(例えば、触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体など)の反応における濃度は、NH3のモル量に基づき、例えば0.01mmol%~1.0mol%、好ましくは0.1mmol%~0.5mol%、より好ましくは1.0mmol%~0.1mol%の範囲にある。
【0125】
アンモニア、二酸化炭素および水素の触媒反応は、触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体の存在下、または、触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体および助触媒としての酸の存在下、行われる。ギ酸アンモニウムを形成するか、または、ホルムアミドとギ酸アンモニウムを形成する、アンモニア、二酸化炭素および水素の触媒反応は、ルテニウム-ホスフィン錯体および酸の存在下で好ましくは起こる。ここで酸は、触媒と反応物とを活性化する助触媒として働き、反応の収率を向上させる。
【0126】
当該酸はプロトン酸(ブレンステッド酸)またはルイス酸(ルイス酸)であってもよく、ルイス酸が好ましい。当該酸は、有機酸であっても無機酸であってもよい。
【0127】
賢明な酸の例は、有機アルミニウム化合物、例えばトリフラートアルミニウム(トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム)、Al(OTf)3 (Tf=-SO2 CF3)およびアルミニウムトリアセテートなど、有機ボロン化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランなど、Bi(OTf)3、2,4,6-トリメチル安息香酸、スルホン酸、例えばp-トルエンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミド(HNTf2)、スカンジウム化合物、例えばスカンジウムトリフラートなど、(例えばNafion(登録商標)NR50の商品名で入手可能な種類の)少なくとも1つのスルホ基を有する過フッ化共重合体、または、それらの組合せである。
【0128】
ルテニウム-ホスフィン錯体の酸に対するモル比は、使用される場合、例えば1:800~1:1、好ましくは1:80~1:5、より好ましくは1:50~1:10の範囲にあってもよい。
【0129】
アンモニア、二酸化炭素および水の触媒反応は、アンモニア水溶液中で起こり、水も同様に任意に少なくとも1つの有機溶媒を含む。アンモニア水溶液は好ましくは、水性または水性-有機溶液である。アンモニアは水に非常によく溶解する。物理的には、二酸化炭素は水にほとんど溶解しない。2つの成分は互いに、および、水と反応して、溶解した塩(たとえば炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、その他の化合物)の複合混合物を形成する。
【0130】
水性媒体、または少なくとも1つの有機溶媒を有する水性媒体は、水、または、好ましくは、水と少なくとも1つの有機溶媒との混合物であり得る。有機溶媒は、好ましくは、使用されるルテニウム-ホスフィン錯体がその中に少なくとも部分的に溶解され得るように選択される。適切な有機溶媒の例は、環状および非環状エーテル、ケトン、ニトリル、芳香族、アルカン、ハロゲン化炭化水素およびアルコールである。具体例は、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、アクリロニトリル、アセトニトリル、アセトンおよびトルエンである。
【0131】
有機溶媒の添加は、触媒の溶解度、したがってギ酸アンモニウムの収率を上昇させ、それによってホルムアミドの形成を促進する。しかしながら、この場合、特に後続の段階でホルムアミドが生成するので、ホルムアミドの形成は重要ではない。さらに、反応の過程で形成されるギ酸アンモニウムは、ほとんど排他的に水相に位置し、これは、有機溶媒(二相系)による有機相も存在する場合、反応生成物の分離を容易にする。
【0132】
少なくとも1つの有機溶媒を使用する場合、水の有機成分に対する比は、種々の比で変化させることができる。この場合、容積に基づく水の、少なくとも1つの有機溶媒に対する比は、例えば100:1~1:100、好ましくは1:10~5:1、より好ましくは1:5~3:1、非常に好ましくは1:2~2:1、例えば1:1である。
【0133】
1つの好ましい実施形態において、少なくとも1つの有機溶媒がアンモニア水溶液に添加され、前記有機溶媒は水と混和性である。この有機溶媒は好ましくは、極性かつ非プロトン性の溶媒である。有機溶媒は、好ましくは、エーテル、より具体的には環状エーテル、例えばジオキサンなど、より具体的には1,4-ジオキサン、および、テトラヒドロフラン、ニトリル、例えばアクリロニトリルおよびアセトニトリルなど、および、ケトン、例えばアセトンなどからなる群から選択される。
【0134】
代替の好ましい実施形態では、水と混和しない少なくとも1つの有機溶媒がアンモニア水溶液に添加され、したがって、水相および有機相から構成される2相系が形成される。非極性有機溶媒は一般的にこの目的に適している。かかる有機溶媒の例は、トルエン、エステル、ケトンのような芳香族であり、イオン性液体でもある。イオン性液体はここでは有機溶媒であると見なされている。二相系が形成される場合、活発な攪拌および/または相間移動触媒(例えばドデシル硫酸ナトリウムなど)の使用により、二相間の十分な物質移動を保証するよう注意すべきである。
【0135】
触媒、より具体的にはルテニウム-ホスフィン錯体は、好ましくは、少なくとも1つの有機溶媒を任意に含むアンモニア水溶液中の溶液中に少なくとも部分的に存在する。アンモニア、二酸化炭素および水素の触媒反応は好ましくは、均一な触媒反応である。均一触媒はより穏やかな反応条件と、可能性のある、より高い選択性と、より高いターンオーバー数(TON)および/またはターンオーバー頻度(TOF)とを可能にするかもしれない。
【0136】
反応物の物質量比は広い範囲内で変動する可能性がある。反応の化学量論に基づくと、反応物NH3 :CO2 :H2の物質量比は1:1:1である。CO2およびH2は、NH3を超過し、H2はCO2を超過して使用することが好ましく、ギ酸アンモニウムおよび/またはホルムミドの収率を上げるために使用される。例えば、アンモニア、二酸化炭素および水素の反応については、p(NH3):p(CO2):p(H2)の比が1:(1~10):(1~20)の範囲、好ましくは1:(1.5~10):(2~20)の範囲、より好ましくは1:(2~5):(3~12)の範囲であることが賢明であり、ここで、pは、常温(23℃)でのそれぞれの反応物の分圧である。たとえば、適切な比p(NH3):p(CO2):p(H2) は8:32:80(すなわち1:4:10)である。
【0137】
アンモニア、二酸化炭素および水素の触媒反応は、好ましくは60~180℃の範囲、より好ましくは90~110℃の範囲の温度で起こる。
【0138】
アンモニア、二酸化炭素および水素の触媒反応は、好ましくは35bar~210barの範囲、より好ましくは40bar~195barの範囲、非常に好ましくは80bar~190barの範囲の圧力で行われる。
【0139】
アンモニア、二酸化炭素および水素の触媒反応に適した反応時間は、他の反応パラメータに応じて変化する可能性がある。当該反応の反応時間は賢明には、例えば1分~24時間、好ましくは30分~15時間の範囲にある。
【0140】
等式8に従って触媒反応で形成されるギ酸アンモニウムは中間体であり、その形成は水によってさらに促進される。等式9による熱処理は、水の脱離および所望の生成物であるホルムアミドの形成を導く。反応は約120℃の低温で比例して起こることがあり、そのためギ酸アンモニウム生成物は、相対的にわずかではあるが、等式8に従って反応中にホルムアミドへの比例反応をすでに起こしている可能性がある。高温では変換はより完全である。低温では、事実上ホルムアミドが生成せず、結果としてギ酸アンモニウムのみが生成することも可能である。水は、二相系を用いる場合、生成物を有機相から水相へと絶えず輸送することによってギ酸アンモニウムの形成を促進する。
【0141】
触媒反応が水中または水と水混和性有機溶媒の混合物中で行われる場合、ギ酸アンモニウムの熱処理のために水を絶えず除去してホルムアミドを生成するのが一般的である。水不混和性有機相が存在する場合には、有機相を再び処理するか、分離することを提供することが一般的である。有機相はホルムアミドの形成を促進する。
【0142】
触媒反応は水相と有機相から構成される2相系で起こることが望ましい。適当な有機相の例はトルエンである。得られたギ酸アンモニウムはほとんど水相にのみ蓄積する。すでに形成されたホルムアミドも水相に非常に多く蓄積する。水相を分離し、熱分解反応に用いることができる。熱分解反応を行う前に、水相は、例えば、同伴する有機溶媒を除去するために、精製のために、抽出またはデカンティングによって任意に処理され得る。水相は好ましくは、触媒反応の間、連続的に分離される。
【0143】
等式9に従う、ホルムアミドを形成するギ酸アンモニウムの熱処理
ギ酸アンモニウムが等式8に従って形成された後、ギ酸アンモニウムは温度上昇に供され、等式9に示すように、分解してホルムアミドと水が形成されるため(熱除去)、ホルムアミドは原則として唯一の反応生成物である。この反応は技術常識であり、触媒を必要としない。
【0144】
等式9に従う、ギ酸アンモニウムのホルムアミドおよび水への熱分解は、例えば、100℃~185℃、好ましくは130℃超~185℃、およびより好ましくは150℃~180℃の範囲の温度で起こる。熱分解は好ましくは、周囲圧力で行われる。
【0145】
熱分解には、二つの基本的なプロセスレジームが考えられる。1つの実施形態において、得られたギ酸アンモニウムは、事前に単離せずに、この反応の間、またはその後、水の蒸留除去によって反応混合物を濃縮しながら、単一段階反応において熱的に切断することができる。
【0146】
代替的かつ好ましい実施形態では、熱分解の前に、触媒、副生成物および/または溶媒などの破壊性物質を除去する目的で、触媒反応から得られる反応混合物の処理を行う。これは、以下に記載される変形AおよびBによって得られる反応混合物の性質に応じて起こり、単離/精製された水相を与える。
【0147】
触媒反応を水相と有機相との二相系で行うと、水相は有機相(変形A)から分離される。上記で説明したように、この分離は連続的に起こることが好ましい。
【0148】
触媒反応が水中で、または水と有機溶媒の混合物(一相系)中で実施される場合、水性反応混合物は、水非混和性有機溶媒、例えば、トルエンでの抽出によって精製することができ(変形B)、結果として有機相が単離する。この中間体抽出も同様に連続的に行われ、精製された水相を得てもよい。
【0149】
変形Aまたは変形Bに従って得られ、かつ、得られたギ酸アンモニウムおよび任意にギ酸合成においてすでに形成されたホルムアミドを含む単離または精製された水相は、ギ酸アンモニウムをホルムアミドに変換するために熱分解に供される。一般的には、蒸留、熱分解反応中および/または熱分解反応後に反応混合物から水を除去する。
【0150】
好ましい一実施態様では、ギ酸アンモニウムの熱分解は反応蒸留によって起こる。この場合、方法工程a)から得られた反応混合物、または好ましくは、変形Aまたは変形Bに従って得られ、かつ、得られたギ酸アンモニウムおよび任意にギ酸合成において既に形成されたホルムアミドを含む単離または精製された水相を、ギ酸アンモニウムの熱分解のための反応性蒸留に供する。まず、この場合には蒸留によって水が除去され、それによって平衡がホルムアミドに有利にシフトする。次に、ホルムアミド生成物を、任意に減圧下で整流させることができる。しかしながら、ホルムアミドを全く蒸留せず、水分を除去した後、さらに処理することなく尿素合成に残留物を用いることも考えられる。
【0151】
等式6に従う、尿素を形成するホルムアミドとアンモニアとの反応、または、尿素を形成するホルムアミドの反応
続いて、得られたホルムアミドを、工程b)に従って、触媒の存在下、アンモニアと反応させて、尿素を得る(上記等式6を参照)。あるいは、続いて、得られたホルムアミドを、工程b)に従って、触媒の存在下、反応させて、尿素を得る(アンモニアの添加なし)。等式6に従う反応、または、代替プロセス方式に従う反応、および得られた反応混合物の処理は、CO2含有メタノール相に基づいて代替の実施態様において前記とまったく同じ方法で行われるので、この点に関して、上述の記載を参考にしてもよい。
【0152】
触媒としてのルテニウム-ホスフィン錯体
上述のように、ルテニウム触媒、より具体的にはルテニウム-ホスフィン錯体は、触媒の存在下で行われる以下の反応に適した触媒である:
- ホルムアミドとアンモニアとの反応による尿素および水素の形成(等式6)、または、アンモニアを添加しないホルムアミドの反応による尿素および水素の形成、
- 変形a1)に従う、CO2含有メタノール相と水素含有流との反応によるギ酸メチルの形成(等式4)
- 変形a2)に従う、CO2含有アンモニア水溶液および水素含有流との反応によるギ酸アンモニウムの形成またはギ酸アンモニウムおよびホルムアミドの形成(等式8)。
【0153】
ルテニウム-ホスフィン錯体は、3つの反応のうち1つ、2つ、あるいはすべてに使用される。反応に用いられるルテニウム-ホスフィン錯体は同じであっても、異なっていてもよいことが理解されるであろう。
【0154】
ルテニウム-ホスフィン錯体は、1つ以上のホスフィン配位子を含む。ホスフィンは、単純なホスフィン(モノホスフィン)、2つのホスフィン基を有する化合物(ジホスフィン)、3つのホスフィン基を有する化合物(トリホスフィン)、または3つ以上のホスフィン基を有する化合物であり得る。
【0155】
ホスフィンは、特に三価有機リン化合物である。ホスフィンは、特に三級ホスフィンであるか、2つ、3つまたはそれ以上の三級ホスフィン基を有する。ホスフィンは、例えば、R1、R2とR3が互いに独立して、それぞれが有機ラジカルを表す化合物PR123である。置換基R1、R2およびR3は好ましくは、互いに独立して置換または非置換アルキル、置換または非置換アリール、置換または非置換ヘテロアリールである。
【0156】
以下に同定するのは、アルキル基、アリール基およびヘテロアリール基の適当で好ましい例であり、また、対応する置換基の置換基の適当な例であり、明示的に除外されない限り、これらの基または置換基に対する本発明の適用における全ての参考文献の例として有効である。アルキル基、アリール基およびヘテロアリール基の例もまた、それらが基の置換基として存在する場合のこれらの基の例である。
【0157】
ここでのアルキルにはシクロアルキルも含まれる。また、例えば、直線状および分岐状のC1 -C8アルキルであり、好ましくは直線状および分岐C1-C6アルキル、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピルまたはブチルおよびC3-C8シクロアルキルである。
【0158】
置換アルキルは、ハロゲン化物、例えば、塩化物またはフッ化物など、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、アルコキシ、例えばC1-C6アルコキシ、好ましくはC1-C4アルコキシ、またはアリールオキシの1つ以上の置換基を有してもよい。非置換アルキルが好ましい。
【0159】
アリールの例は、300g/mol未満の分子量を有するホモ芳香族化合物、好ましくはフェニル、ビフェニル、ナフタレニル、アントラセニルおよびフェナントレニルから選択される。
【0160】
ヘテロアリールの例は、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアゾリル、ピリダジニル、1,3,5-トリアジニル、キノリニル、イソキノリニル、キノキサリニル、イミダゾリル、ピラゾリル、ベンズイミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリジル、ピロリル、カルバゾリル、インドリルおよびイソインドリルであり、ここでヘテロアリールは選択されたヘテロアリールの環中の任意の所望の原子を介してホスフィンのリン基に結合され得る。好ましい例は、ピリジニル、ピリミジニル、キノリニル、ピラゾリル、トリアゾリル、イソキノリニル、イミダゾリルおよびオキサゾリジニルであり、ここで、ヘテロアリールは、選択されたヘテロアリールの環中の任意の所望の原子を介してホスフィンのリン基に結合され得る。
【0161】
置換アリールおよび置換ヘテロアリールは、1、2またはそれ以上の置換基を有し得る。アリールおよびヘテロアリールに適した置換基の例は、アルキル、好ましくはC1 -C4 -アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピルまたはイソプロピル、アルコキシ、例えばメトキシ、ペルフルオロアルキル、例えば-CF3、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、アルコキシ、例えばC1 -C6アルコキシ、好ましくはC1 -C4アルコキシ、アリールオキシ、アルケニル、例えばC2 -C6アルケニル、好ましくはC3 -C6アルケニル、シリル、アミンおよびフルオレンである。非置換のアリール、より特にフェニル、および非置換のヘテロアリールが好ましい。
【0162】
1つの好ましい実施態様によれば、ルテニウム-ホスフィン錯体中のホスフィンはPR123であり、この場合、R1、R2およびR3は互いに独立して置換または非置換のヘテロアリールまたは置換または非置換アリールであり、より詳細にはフェニル、例えばトリ(ヘテロアリール)ホスフィンまたはトリ(アリール)ホスフィンであり、あるいは、PR123であり、R1はアルキルであり、R2およびR3は互いに独立して置換または非置換のヘテロアリールおよび/または置換または非置換アリールであり、より詳細にはフェニル、例えばジ(ヘテロアリール)アルキルホスフィンまたはジ(アリール)アルキルホスフィンである。
【0163】
より好ましくは、ルテニウム-ホスフィン錯体中のホスフィンは、2つのホスフィン基を有する化合物(ジホスフィン)、3つのホスフィン基を有する化合物(トリホスフィン)または3つ以上のホスフィン基を有する化合物であり、ホスフィンはより好ましくはトリホスフィンである。2つ以上のホスフィン基を有するホスフィンは、上記のように2つ以上の同一または異なるホスフィンPR123に由来することが望ましく、ホスフィンの少なくとも1つの置換基がホスフィンの1つ以上の他の置換基と結合して、2、3またはそれ以上の原子価を有するアルキレン基などの結合基を架橋単位として形成する。置換基および好ましい置換基/ホスフィンに関する上記詳細は、複数のホスフィン基を有する化合物についても同様に有効である。
【0164】
1つの好ましい実施態様によれば、ルテニウム-ホスフィン錯体は、1つ以上のホスフィン基を含み、このことは、ルテニウムの配位球中のリガンドとして、2つ以上のモノホスフィン、少なくとも1つのジホスフィンもしくはトリホスフィン、または3つ以上のホスフィン基を有する化合物が存在することを意味する。
【0165】
ルテニウムとホスフィン基の間の結合は、反応の間に少なくとも一時的に形成され、たとえば共有結合または配位結合である。なお、ルテニウム-ホスフィン錯体の存在下での本発明による反応の場合、反応混合物中の全てのホスフィン/ホスフィン基がルテニウムに必ずしも結合しているわけではない。実際、ホスフィンは過剰に使用されてもよく、これは、非結合のホスフィン/ホスフィン基も反応混合物中に存在してよいことを意味する。特に、3超のホスフィン基を有する化合物を使用する場合、一般的には、リン原子の全てが反応に触媒的に関与するわけではないが、これらの化合物も本発明内の好ましい化合物である。
【0166】
特に好ましいのは、トリホスフィン中のリン原子間の架橋単位がアルキルまたはアルキレンユニットであるルテニウム-トリホスフィン錯体であり、他方、さらなる配位子はリン上の置換の有無にかかわらずヘテロアリールであるか、またはリン上の置換の有無にかかわらずアリールである。
【0167】
1つの好ましい実施形態によると、ルテニウム-トリホスフィン錯体は、一般式Iのトリホスフィンを含む。
【化5】
【0168】
ここで、R1~R6は互いに独立して、置換または非置換のアリールあるいは置換または非置換のヘテロアリール、好ましくは置換または非置換のアリールであり、R7は水素または有機成分、好ましくはアルキル、シクロアルキルまたはアリールである。アリールおよびヘテロアリールに適した置換基の例としては、上記の通りであり、好ましくはアルキル、より具体的にはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、メトキシ等のアルコキシ、または-CF3等のパーフルオロアルキルである。置換または非置換アリールは、好ましくは非置換アリール、より具体的にフェニルである。置換ヘテロアリールまたは非置換ヘテロアリールは、好ましくは、非置換ヘテロアリールである。
【0169】
置換基R1~R6は同一であっても異なっていてもよく、好ましくは同一である。より好ましくは、R1~R6は互いに独立して、置換または非置換フェニルである。置換されたアリール、より具体的には置換されたフェニルは、例えば、オルト位および/またはパラ位において、1つ、2つまたはそれ以上の置換基を有し得る。適当な置換基の例としては、上記のとおりであり、好ましくはアルキル、より具体的にはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、メトキシ等のアルコキシ、または-CF3等のパーフルオロアルキルである。特に好ましくは、R7はアルキル、より好ましくはメチルまたはエチル、より具体的にはメチルである。
【0170】
ルテニウム-ホスフィン錯体にとりわけ好ましいホスフィン配位子の1つは、1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン(トリホス)であり、これは以下の構造を有する。
【化6】
【0171】
前述のホスフィンリガンドまたはリガンドの他に、1つ以上のさらなるリガンド(非ホスフィンリガンド)を有してもよく、特に、ルテニウム-ホスフィン錯体が上記のジホスフィン、トリホスフィンまたは3つ以上のホスフィン基を有する化合物を含む場合、例えば、カルベン、アミン、アミド、ホスファイト、ホスホアミダイト、リン含有エーテルまたはエステル、スルフィド、トリメチレンメタン、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトネート、酢酸、ヒドリド、ハロゲン化物、例えば塩化物など、フェノキシドまたはCOである。
【0172】
1以上のさらなるリガンドは、好ましくは、トリメチレンメタン、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトネート、アセテート、ヒドリド、ハロゲン化物、フェノキシド、COまたはそれらの組合せから選択され、特に好ましくはトリメチレンメタン(tmm)である。これらのリガンドはルテニウムに対して比較的不安定な結合を有し、活性化因子/共触媒の補助なしに、触媒反応の過程で反応物質種によって容易に置換することができる。さらに、触媒前駆体は、これらのリガンドで安定化することができる。
【0173】
1つの好ましい実施形態において、ルテニウム-ホスフィン錯体は、以下の一般式IIを有する:
(A)Ru(L) 一般式II
【0174】
式中、Aは、上記のように定義された一般式Iのトリホスフィンであり、Lは、各々の場合に互いに独立して一座配位子であり、2つの一座配位子Lが1つの二座配位子に置換されるか、または3つの一座配位子Lが1つの三座配位子に置換されることができる。単座、二座または三座配位子Lの例は、上記のさらなる配位子(非ホスフィン配位子)であり、その場合、それらは、好ましくは、トリメチレンメタン、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトネート、アセテート、ヒドリド、ハロゲン化物、フェノキシド、CO、またはそれらの組合せから選択され、特に好ましくは、トリメチレンメタン(tmm)である。リガンドtmmは、例えば、三座配位子である。
【0175】
特に好ましいルテニウム-トリホスフィン錯体の1つは、以下の構造を有する:
【化7】
【0176】
各場合の置換基Rが互いに独立して置換または非置換のアリールあるいは置換または非置換のヘテロアリール、好ましくは置換または非置換のアリールであり、各場合において置換基Lは互いに独立して単座配位子であり、2つの単座配位子Lが1つの二座配位子で置換されることが可能であり、または3つの単座配位子Lが1つの三座配位子で置換されることが可能である。アリールおよびヘテロアリールに適した置換基の例としては、好ましくはアルキル、より具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、例えばメトキシなどのアルコキシ、および例えば-CF3などのパーフルオロアルキルである。置換または非置換アリールは、好ましくは非置換アリール、より具体的にはフェニルである。置換ヘテロアリールまたは非置換ヘテロアリールは、好ましくは非置換ヘテロアリールである。
【0177】
置換基Rは同一であっても異なっていてもよく、同一であることが好ましい。より好ましくは、各出現において独立してRが置換または非置換フェニルである。置換フェニルは、特にオルト位および/またはパラ位において、1つ、2つまたはそれ以上の置換基を有し得る。適当な置換基の例は、上記のとおりであり、アルキル、特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、例えばメトキシなどのアルコキシ、および、例えば-CF3などのパーフルオロアルキルである。トリホスフィンリガンドは、より好ましくはトリホスである。
【0178】
単座、二座または三座配位子Lの例は、上記のさらなる配位子(非ホスフィン配位子)であり、これらの配位子は、好ましくはトリメチレンメタン、シクロペンタジエニル、アリル、メチルアリル、エチレン、シクロオクタジエン、アセチルアセトネート、アセテート、ヒドリド、ハロゲン化物、フェノキシド、CO、またはそれらの組合せから選択され、特に好ましくはトリメチレンメタン(tmm)である。
【0179】
特に好ましいルテニウム-ホスフィン錯体の1つは、以下の構造式を有する[Ru(トリホス)(tmm)]である:
【化8】
【0180】
上記で同定されたルテニウム-ホスフィン錯体は既知であり、既知の方法に従って当業者が調製することができ、かつ/または、市販されている。[Ru(Triphos)(tmm)]は、例えば、T.vom Stein et al.、ChemCatChem 2013、5、439-441に記載されている。
【0181】
上記のような等式4、等式6または等式8による触媒反応において、互いに独立して、ルテニウム-ホスフィン錯体は、均一触媒として、または固定化触媒として使用され得る。ルテニウム-ホスフィン錯体との触媒反応は、例えば固定床反応器に固定化された触媒を用いて、または流動床反応器中で溶解した触媒を用いて、均一にまたは不均一に行われ得る。
【0182】
上記の等式4、等式6または等式8による触媒反応は、互いに独立して連続的にまたはバッチ状に行われ、連続的な操作が好ましい。触媒反応は、オートクレーブまたは圧力反応器で行うことが望ましい。バッチ操作にはオートクレーブが適している。連続走査には圧力反応器が適している。
【0183】
プロセスのアンモニアプラントへの統合
上記で説明したとおり、蒸気改質によるアンモニア合成のための合成ガスの供給のための標準的経路以外に、コークス炉ガス、爆風炉ガスまたはセメント工場のオフガスから選択した、任意に処理したガスを、代わりにまたは追加的に(蒸気改質による合成ガスへの混合物として)使用することが可能であるが、しかしながら、好ましくは、アンモニア合成のための合成ガスである。
【0184】
上記で既に観察されたように、1つの好ましい実施形態において、本発明の方法は、通常のアンモニア合成と組み合わされる。このアンモニア合成は、蒸気改質による合成ガスの生成を含み、一般にこの順で、より具体的には、一次改質器および下流の二次改質器での反応、水‐ガスシフト反応(高温シフト段階と低温シフト段階として一般的に2段階で行われる)、CO2の除去のためのスクラビング液による得られた合成ガスのガススクラビング、精製合成ガスのメタン化、および、従来方法での合成ガスによるアンモニアの生成を含む。メタン化後、合成ガスは一般的に次のアンモニア合成のために圧縮される。
【0185】
尿素を調製するための本発明の方法において、アンモニア合成は、二酸化炭素、水素およびアンモニア反応物の供給源として使用される。上記で観察されたように、合成ガスのスクラビングから得られたCO2含有スクラビング液は二酸化炭素供給源として利用される。
【0186】
水素含有流の形態での水素の供給源として、ガススクラビングによって精製された合成ガスの副流を使用することが可能であり(当該ガススクラビング後)、その場合、合成ガスの任意のメタン化;ガススクラビング前の合成ガスの副流(粗合成ガス);尿素合成の生成物の処理から得られる水素;またはそれらの組合せの前に副流を取り出すことができる。水素の供給源として、代替的にまたは追加的に、アンモニア合成の生成物の処理から得られた水素を使用することが、任意に可能である。
【0187】
上述したように、ガススクラビング前の合成ガスの除去は、ホルムアミド合成の圧力が低く、特に約35bar未満の場合にのみ有用である。他の場合には、高度に圧縮されたガスを取り出すことが必要であり、これは必然的に1つ以上の圧縮器段階/圧縮段階を通過する。この場合、合成ガス中の微量のCO/CO2がホルムアミド合成で反応するので、水素の喪失はないと考えられる。ホルムアミド合成からのリサイクル流から残留CO2を除去するには、3つの解決策(またはその組合せ)が考えられる:
1.ガススクラビング後の水素含有副流は、合成ガスの任意のメタン化の前に、好ましくは取り出される。
2.オフガスがホルムアミド合成からスクラビングに戻る。この場合、追加ガス流は圧縮を必要とするため、圧縮のための操作コストはおそらく高くなる。
3.同じスクラビング媒体を使用し、両方のスクラブからの流れを組み合わせて、オフガスをCO2から放出することを目的とした追加のスクラビング。CO2から放出されたこの流れは、任意に、尿素プラントからの水素を含む流れにより、合成ガスに加工されることもある。
【0188】
上述のように、尿素合成において生成した水素を水素源として利用する可能性は、特に、本発明の利点である。ガススクラビング前の合成ガスの水素含有副流が、使用される水素の少なくとも一部として使用される実施形態は、ガススクラビングに供されていない合成ガスに関する。ガススクラビング前の合成ガスの水素を含む副流は、COおよびCOをも含む粗合成ガスである。これを用いると、粗合成ガスの一部は精製を必要とせず、この量でCO2スクラビングやCO2結合にかかる負担を減らすことができる。このための前提条件については前述した。スクラビングを行うことなく取り出し、その後圧縮することが可能な場合、ホルムアミド合成の圧力は35bar未満とする。
【0189】
アンモニア合成により得られたアンモニアは、アンモニア含有流および/またはアンモニア水溶液の形態でアンモニアの供給源として使用される。アンモニアの供給源として、任意に、尿素合成の生成物の処理から得られたアンモニア、または、他の外部供給源を、例えば、さらなるアンモニアプラントから使用することが可能である。
【0190】
本発明の触媒的尿素合成に必要とされる従来のアンモニア操作方式に対するわずかな変更は、以下でより詳細に説明される。CO2のスクラビングまでは、従来のアンモニア合成と同じように操作を進める。操作方法は、CO2のスクラビング段階でのみ変更される場合がある。物理的に吸収されたCO2(たとえばレクチゾール法による)を含有するメタノールベースのスクラビング液、または、化学的に吸収されたCO2を含有し、アンモニア水をベースにしたスクラビング液は、尿素合成に必要な程度まで再生されることなくホルムアミド合成に渡される。メタノールの場合、反応の間、溶媒が再生される。反応中に放出された過剰のMeOH(等式4および等式5)を処理して戻す。アンモニア水の場合には、当該含有溶液は少なくとも大部分が消費される。
【0191】
ガススクラビングによって精製された合成ガスおよび/または粗合成ガスはさらに細分化され、その副流が転換され、水素供給源としてホルムアミド合成に渡される(上記の関連備考参照)。代替的または追加的に、尿素合成において形成される水素は、水素供給源として利用され得る。特に好ましくは、尿素合成で生成した水素の利用であり、化学量論によればホルムアミド合成に十分な水素を生成し、さらに、尿素合成が走っていないか、または定常状態で走っていない場合、尿素合成における可能性のある生産関連の水素損失を補うために、精製合成ガスおよび/または合成ガスの副流が利用されることがある。精製合成ガスの分割は、例えば、メタン化の前、または、合成ガスの圧縮後に、ホルムアミド合成で選択されたパラメータに応じて行われ得る。アンモニア合成後のH2回収からの高水素含有気体も同様にホルムアミド合成に渡される可能性がある。続いて、合成されたアンモニアは反応(2)のためにホルムアミド合成に渡されるか、あるいは、任意に、アンモニア水の製造に利用されるが、同じ目的で用いられる。
【0192】
ホルムアミド合成の「生成物流」は、メタノール相に基づく変形の場合、ホルムアミド自体だけでなく、水、合成ガスからの窒素およびメタノールも含む。水を分離し、水処理施設に渡すか、廃棄する。
【0193】
再処理後、メタノールは、例えば、スクラビング(レクチゾール)に再利用され得る。メタノールは粗合成ガス中にも水が存在し同調しているため、水を除去するためにはメタノールの処理が必要である。さらに、反応では水が形成される。メタノールがスクラブビングにおいて再利用されるときには、水はかく乱物質であるため、水を除去するためのメタノールの再処理は必要である。高含水量では、水/メタノール混合物は、採用する温度に応じて、凍結さえも可能である。窒素は、例えば、尿素合成からの水と結合し、合成ガスへと処理することができる。この合成ガス分画は、原則としてホルムアミド合成のために合成ガスから取り出される量に相当する。合成ガスのこの分画は、追加処理の有無にかかわらず、メタン化前の残りの合成ガスと組み合わせることができる。なぜなら、このガスはより低い圧力で発生し、圧縮されなければならないからである。メタン化および合成ガス部分の再導入の正確な位置は、ホルムアミド合成の圧力および尿素合成の圧力に依存しており、理論的には任意である。
【0194】
合成ガスの取り出しに関する上記の観察結果が参照される。
【0195】
以下、本発明は、例示的な実施形態を参照して記載され、図を参照してより詳細に説明される。具体的な例示的な実施形態は、特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定することを意図するものではない。これらの図においては、以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0196】
図1図1は、アンモニア合成と組み合わせた、本発明の尿素製造プロセスの具体例のブロックダイアグラムを示す;
図2図2は、メタノール経路(ギ酸メチル)によるホルムアミド合成の変形の反応スキームを示す;
図3図3は、水経路(ギ酸アンモニウム)によるホルムアミド合成の変形の反応スキームを示す;
図4図4は、尿素の処理の例のブロックダイアグラムを示す。
【0197】
図1は、本発明の尿素生成プロセスの一例のブロックダイアグラムを示し、これはアンモニア合成と組み合わせられている。この場合、蒸気改質に由来し、アンモニア合成を目的とする合成ガスは、水素、窒素および一酸化炭素を含む。合成ガスは、一酸化炭素を二酸化炭素に変換するために、水-ガスシフト反応(水-ガス変換反応)の供される。その後、合成ガスから二酸化炭素を除去するためにガススクラブが行われる。ガスは、スクラビング液によって洗浄され、スクラビング液は、ガススクラブの間、化学的および/または物理的に結合した二酸化炭素を含むようになる。
【0198】
この例示的な実施形態では、ガススクラビングは、メタノール(レクチゾール)であるスクラビング液で行われる。ガススクラビングの間、メタノールは二酸化炭素を含むようになる。得られた流れは、触媒的ホルムアミド合成(ギ酸メチル中間体)のためのCO2含有流として使用される。触媒的ホルムアミド合成は、上記のとおり図1では模式的にしか示されておらず;(中間段階の単離の有無にかかわらず)1段階または2段階で実施され、中間体としてギ酸メチルを形成し、次いで最終生成物としてホルムアミドを形成することができる。この変形のための反応スキームを図2に示す。得られたホルムアミドは反応物として尿素合成に渡される。
【0199】
別の実施形態は、破線で表される。この場合、ガスは、ピペラジンを含むメチルジエタノールアミン水溶液をスクラビング液としてスクラブする(aMDEAスクラビング)。代わりに、当業者に既知の従来のスクラビング液、例えば炭酸カリウム水溶液を使用してもよい(ベンフィールドスクラビング)。CO2は二酸化炭素含有スクラビング液からのCO2脱離によって脱離され、放出されたCO2はメタノールに吸収され、CO2含有メタノール相を与える。先に述べたレクチゾールスクラビングと同様に、得られた流れは触媒的ホルムアミド合成のためのCO2含有流として使用される。そのためには、MeOHへの吸収の前後で、CO2の圧力を上昇させる必要がある。
【0200】
別の実施形態では、示されていないが、ガスはアンモニア水溶液でスクラブされる(NH3 -H2Oスクラビング)。この場合、CO2は、洗浄液中の炭酸塩およびカルバメートの形態で物理的に結合し、直接的にCO2含有流として触媒ホルムアミド合成に用いられる(ギ酸アンモニウム中間体)。この変形の場合には、触媒的ホルムアミド合成を(中間体の単離の有無にかかわらず)1段階または2段階で行い、中間体としてギ酸アンモニウムを形成し、続いて最終産物としてホルムアミドを形成することができる。アンモニア水溶液と後続の尿素合成に基づく代替変形の反応スキームを図3に示す。
【0201】
水素含有流として、水素および窒素を含む合成ガスの副流をガススクラビングの前または後に転換し、ホルムアミドの形成に用いることができる(図1ではガススクラビング後かつメタン化前)。合成ガスの残りはメタン化に供され、メタンの形成により、合成ガスからさらに一酸化炭素および/または二酸化炭素を除去する。加圧後、合成ガスはアンモニア合成に使われる。アンモニア合成で回収された反応混合物をNH3およびH2の回収のために処理する。得られたアンモニアおよび得られた水素を、ホルムアミド合成に使用することもできる。ホルムアミド合成で少量のH2が失われれば、得られた水素はNH3合成に戻されるか、ホルムアミド合成のための補給流として使われ得る。合成ガスの取り出しの他の変形については、上述した。
【0202】
上記のように、尿素合成からの水素は好ましくは、ホルムアミド(図1の破線矢印として示されている)の生成のための水素含有流として使用され、尿素合成が実施されていない場合、および/または、尿素合成における水素損失を補償するために、合成ガスの副流は、補足的に利用することができる。
【0203】
ホルムアミドを形成するためのギ酸メチルとアンモニアとの反応において同様に形成されたメタノールは、スクラビング液またはメタノール相のためのプロセスにおいて再使用される。スクラビング液からの過剰なMeOHとともに再処理し、スクラビングに戻される。
【0204】
反応の具体例は、後で以下に述べる。
【0205】
尿素合成の後、尿素、ホルムアミド、溶媒、触媒(CAT)、アンモニア(NH3)および水素(H2)を含む生成物の処理が行われる。尿素合成で得られる生成物の可能な処理の詳細は、図4において以下で説明される。尿素合成の生成物の処理から得られた水素は、H2とNH3回復および任意のH2/N2の処理の後、合成ガスに使用される。つまり、ホルムアミドおよびアンモニアから尿素を生成する際に形成された水素を操作に戻すことができる。H2/NH3回復で得られたアンモニアは、同様に、操作中の多数の時点で再利用することができる。
【0206】
図2は、「メタノール経路」を経て、ギ酸メチルを介してホルムアミドを提供するホルムアミド合成の変形の模式的反応スキームを示し、ホルムアミドから尿素を与える反応を示し、反応回路および生成物回路を伴う等式4、等式5および等式6に相当する。示された反応は上記に詳細に記載されている。
【0207】
図3は、「水性経路」を経て、ギ酸アンモニウムを介してホルムアミドを提供するホルムアミド合成の変形の模式的反応スキームを示し、ホルムアミドから尿素を与える反応を示し、反応回路および生成物回路を伴う等式8、等式9および等式6に相当する。示された反応は上記に詳細に記載されている。
【0208】
図4は、尿素合成で得られた生成物の処理の可能性の一例のブロックダイアグラムを示す。図4では、例示的に、尿素合成に関し、8barの圧力および150℃の温度が規定されている。体温は著しく低くてもよいが、圧力も著しく高くてもよい。
【0209】
尿素が産生された後、温度が下がることがあり(熱統合)、そうでなければ、高圧フラッシュが発生する。高温は、高圧でも水素およびアンモニアがより多く分離されるので、有利である。圧の変化はできるだけ回避されるべきである。上述のように、水素およびアンモニアは、任意に、ストリッピングガスとして窒素を使用して、母液からガス形態でストリッピングされる。この混合ガスは、アンモニア合成で通常行われるものと同様の方法で処理される。尿素、溶媒、触媒、ホルムアミドおよび微量のアンモニアを含む液体反応残渣は、慣用の方法に従ってさらに処理される。母液を約-30℃に冷却し、濾過に供する。冷却の過程で、尿素の優勢な分画は母液から沈殿する。残留物は、尿素ならびに微量の溶媒、ホルムアミドおよび触媒を含む。これらの微量物質は、新鮮な、任意に冷却した溶媒で洗浄することによって除去され、尿素および微量の溶媒を含有する残渣は、尿素を得るために顆粒化に供される。
【0210】
あるいは、尿素を除去した後、濾液をNH3およびホルムアミド(消費された量)の新鮮な成分と混合し、直接的に尿素合成に戻すこともできる。理想的には、濾過によって単離された尿素が洗浄されるときに残る溶媒は、触媒の損失を回避するために、濾液と組み合わせられ、濃縮される。蒸留によって除去された溶媒は、洗浄のために再使用することができ、濃縮溶液を尿素合成に戻すことができる。
【0211】
残留物の処理(新鮮な冷却溶媒による洗浄、触媒の除去など)は別の回路で別々に行われてよく、この経路も閉鎖されている。回収した成分は、時間間隔をおいて主流(例えば、尿素、触媒またはホルムアミド;図4の破線矢印)に混合してもよい。洗浄に使用した洗浄液をろ液と組み合わせる。得られた混合物は溶媒、触媒、ホルムアミドおよび微量の尿素を含む。この混合物は、任意に減圧下で、蒸発により濃縮される。蒸留によって除去された溶媒および濃縮された溶液は、上で解明されたように再利用される可能性があり、これが最も賢明なアプローチである。代わりに、十分な品質であれば、ホルムアミド、溶媒および蒸留液をプロセスに戻すことができる。残留物は、尿素と触媒とを互いに分離するために再結晶される。そのプロセスで触媒を再利用することができる。
【0212】
実施例
[Ru(triphos)(tmm)]の合成
35mLのSchlenkチューブに、トルエン20mL中[Ru(cod)(メチルアリル)] (cod = 1,5-シクロオクタジエン)319mg (1.00mmol)および1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン624mg (1.17mmol)を充填した。反応混合物を撹拌し、110℃で2時間加熱し、室温まで冷却し、減圧下で濃縮した。ペンタン15mLで処理した後、沈殿錯体を単離し、ペンタン(3×10mL)で洗浄し、一晩、減圧乾燥し、淡黄色粉末として[Ru(triphos)(tmm)]を得た(0.531g、0.678mmol、収率68%)。同一性は、1H、13C APT、31P NMRスペクトルにより確認した。
【0213】
実施例1~9
Ru(triphos)(tmm)によるホルムアミドおよびアンモニアからの尿素合成
尿素は以下式に従って合成した:
【化8】
【0214】
ガラスインサートと磁気撹拌ロッドとを装着した10mLオートクレーブで、高圧バッチ実験を行った。1,4-ジオキサン2mLとNH30.6gとを用いた場合、反応圧は高温状態(反応温度)で約30bar、低温状態(室温)での圧は約8~10barであった。使用する前に、オートクレーブを少なくとも30分間排出し、アルゴンで繰り返し充填した。触媒[Ru(triphos)(tmm)](7.8mg、0.01mmol)をアルゴン雰囲気下でSchlenk管に量り、1,4-ジオキサン(2.0mL)に溶解した。ホルムアミド(40μL、1.00mmol)の添加後、反応混合物をアルゴン対流下でカニューレ付きオートクレーブに移した。オートクレーブに液体NH3(0.5~1.0g)を導入し、オートクレーブを封止した。反応混合物を撹拌し、それぞれの反応時間、アルミニウム円錐中でそれぞれの反応温度まで加熱した。常温に冷却した後、オートクレーブに空気を入れて注意深く放置した。メシチレンを内標準物質とし、溶媒を減圧で除去した後、1Hおよび13C吸光分光法により、得られた反応液を分析し、収率を求めた。
【0215】
実験を何回も繰り返し、触媒装填、溶媒、反応温度、反応時間は下表1のように変化させた。表1は、得られた尿素の収率も示す。
【0216】
触媒装填
は、使用されるホルムアミドの量(mol)に対する、使用される触媒のモル%での量である。
【0217】
【表1】
【0218】
実施例10
尿素合成のためのRu(triphos)(tmm) のインサイチュー調製
触媒前駆体[Ru(cod)(メチルアリル)2]とトリホスから触媒Ru(トリホス)(tmm)をインサンチューで生成した。
【0219】
このため、1mol%の[Ru(cod)(メチルアリル)2]、1.3mol%のトリホス、1mmolのホルムアミド、2mLの1,4-ジオキサンおよび0.6gのNH3を150℃で10時間反応させた。
【0220】
圧力は冷却状態で約8bar、150℃で約30barであった。尿素の収率は51%であった。
【0221】
実施例11
アンモニア非存在下でのホルムアミドからの尿素合成
1mol%の[Ru(Triphos)tmm]、ホルムアミド1mmolおよび1,4-ジオキサン2mLを150℃および15barで10時間反応させた。尿素の収率は7%であった。
【0222】
実施例12~18
リン上のリガンドの関数としてのRu-ホスフィン錯体の触媒活性
ホルムアミドおよびアンモニアからの尿素合成における種々のRu-ホスフィン錯体の触媒活性を、りん上のリガンドの関数として試験した。表2は、試験した錯体(触媒)、反応条件および得られた収率を示す。実験では、反応温度における反応圧力は約30bar、冷却状態での圧力は例15を除き約8barであった。
【0223】
下記構造を有するルテニウム-トリホスフィン錯体を試験した:
【化9】
【0224】
置換基Rの性質を下表2に示す。3個のリン原子上の置換基Rのすべてが同じではない場合、第1のP原子上の置換基RはR1、第2のP原子上ではR2、第3のP原子上ではR3と同定する。たとえば、実施例16の錯体は2つのホスフィン基上に2つのフェニル基を有し、3番目のホスフィン基は2つのイソプロピル基を有する。
【0225】
ルテニウム-トリホスフィン錯体はさらに三座配位子トリメチレンメタンを有する。
【0226】
表で報告されている圧力は、室温(約23℃)に関するものである。オートクレーブを室温で充填した後、反応温度と反応圧に移した。
【0227】
【表2】
【0228】
実施例19~21
ルテニウム上の追加的リガンド(非ホスフィン配位子)の関数としてのRu-ホスフィン錯体の触媒活性
ホルムアミドとアンモニアからの尿素合成における種々のRu-ホスフィン錯体の触媒活性を、ルテニウム上の非ホスフィン配位子の関数として試験した。表3は、試験した錯体(触媒)、反応条件および得られた収率を示す。実験では、圧力は反応温度で約30bar、冷却状態(室温)での圧力は約8~10barであった。実施例19は実施例12に相当する。
【0229】
下記構造を有するルテニウム-トリホスフィン錯体を試験した:
【化11】
【0230】
3つのリガンドLを下表3に示し、1つのリガンドLはL1、2つ目のリガンドLはL2、3つ目のリガンドLはL3である。実施例19では、三座配位子トリメチレンメタン(tmm)によって三つの配位子Lが一緒に形成される。表で報告されている圧力は室温(約23℃)に関するものである。オートクレーブを室温で充填した後、反応温度と反応圧に移した。
【0231】
【表3】
【0232】
実施例22~28
触媒濃度の関数としてのRu-ホスフィン錯体の触媒活性
触媒濃度の関数としての触媒活性を、以下の反応条件について試験した:
触媒: [Ru(triphos)(tmm)]、ホルムアミド1mmol、1,4-ジオキサン2mL、NH30.6g、150℃、10時間、触媒濃度は変化させた。反応圧力は反応温度で約30bar、冷却状態での圧力は約8~10barであった。
【0233】
表4は、これらの反応条件下で使用された触媒濃度(ホルムアミドに基づくモル%)、および得られた収率を示す。
【0234】
【表4】
【0235】
触媒濃度の関数としての触媒活性を、以下の反応条件についてさらに試験した:
触媒:[Ru(トリホス)(tmm)]、ホルムアミド1mmol、1,4-ジオキサン2mL、室温(23℃付近)で4barNH3、150℃、20時間、触媒濃度は変化させた。
【0236】
表5は、これらの反応条件下で使用された触媒濃度(ホルムアミドに基づくモル%)、および得られた収率を示す。
【0237】
【表5】
【0238】
実施例29~35
溶媒濃度の関数としてのRu-ホスフィン錯体の触媒活性
溶媒濃度の関数としての触媒活性を、以下の反応条件について試験した:
触媒:1mol% [Ru(トリホス)(tmm)]、ホルムアミド1mmol、NH30.6g、150℃、10時間、溶媒濃度は変化させた。反応圧力は反応温度で約30bar、冷却状態での圧力は約8~10barであった。溶媒は1,4-ジオキサンであった。
【0239】
表6は、これらの反応条件下で用いた1,4-ジオキサンの量を、ml (V(1,4-ジオキサン) [mL])および得られた収率で示す。
【0240】
【表6】
【0241】
例36
アンモニア合成のために生成された合成ガスは、合成ガス生成圧力約36bar、温度約40℃~60℃で合成ガスから二酸化炭素を除去するために、アンモニア分率が約5~60wt%、好ましくは約5~30wt%のアンモニア水溶液を用いて、吸収器内でガススクラビングに付される。アンモニア水による粗製合成ガスからのCO2除去は一般的な方法であり、例えばUS 2018/0282265 A1にも記載されている。
【0242】
さらに処理することなく、化学的および物理的に結合した二酸化炭素の得られた溶液または懸濁液を、ガススクラビングによって精製された合成ガスの副流、または、水素供給源としての未精製の合成ガスの副流(粗合成ガス)と、別個の反応器中で混合する。少なくともおよそ、混合物中、p(NH3):p(CO2):p(H2)比が8:32:80(p=室温(23℃)での分圧)で維持されるように混合が行われる。
【0243】
ルテニウム・ホスフィン錯体[Ru(Triphos)(tmm)]から構成される触媒溶液をトルエン1mL当たり触媒0.7μmolの濃度のトルエンに溶かし、触媒の物質量に基づきAl(OTf)325当量を加えた液または酸としてナフィオンを加えた液を触媒溶液とする。得られた混合物は2相系(水/トルエン)を形成し、約100℃、約180barの圧力で12時間反応させる。アンモニウムフォーマットに基づくTONは、例えば6941である。
【0244】
反応の後、水相を単離する。次に水相を176℃、周囲圧力で熱分解処理し、そこに含まれるギ酸アンモニウムを83%程度までホルムアミドに変換する。熱分解処理の間またはその後に蒸留により水を除去する。得られたホルムアミド生成物を次いで、精製のために整えることができる。
【0245】
例37
アンモニア合成のために発生した合成ガスをガススクラビングに供し、CO2を除去する。この目的のために、二酸化炭素を合成ガスから除去するのは、レクチゾール法と呼ばれる方法である。レクチゾール法は、メタノールをスクラビング媒体とした物理的ガス精製法で、一般的な合成ガス発生圧力は約36bar、温度は約-40~-20℃である。吸収器の温度については、ここでは-40~-30℃の数字が好ましい。得られた物理的に結合した二酸化炭素のメタノール溶液は、任意の低温統合とポンプとによって、さらに処理することなく、増加した圧力がもたらされる。次に、当該含有メタノール溶液を、ガススクラビングにより精製された合成ガスの副流、または、水素供給源としての未精製の合成ガスの副流(粗合成ガス)と、別々の反応器中で混合し、メタノール中の溶液中の触媒と混合して、等式4および等式5に従って反応シークエンスを行う。工業操作を模倣するべく、メタノール2mL中のルテニウム-ホスフィン錯体[Ru(Triphos)(tmm)] (メタノール換算0.5μmol、0.001mol%)およびルイス酸としてのトリフラートアルミニウム(Al(OTf)3(メタノール換算12.5μmol、0.025mol%)を、10mLオートクレーブ中、室温でCO2と混合したため、反応混合物の圧力は約40bar(合成ガス発生圧力)であった。水素または水素-窒素混合物(モル比3:1、アンモニア合成ガスを模倣)をオートクレーブに通し、オートクレーブ内の全圧を120barにした。混合物を温度100℃、得られた圧力約180barで18時間反応させ、ギ酸メチルを含む反応混合物を形成した。触媒充填に応じて、ギ酸メチルのターンオーバー数(TON)は4000に達する。
【0246】
反応混合物を冷却し、圧を下げ、気体反応物を除去した。ギ酸メチルを含む混合物をNH3(室温で全圧8bar)と混合し、60℃の温度(反応圧約27bar)で1時間撹拌した。放出されたメタノールは、その後ホルムアミド生成物から蒸留により除去することができる。ギ酸メチルとアンモニアとの反応でホルムアミドを生じる反応は事実上定量的である。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】