(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-04
(54)【発明の名称】眼疾患に対するADENO随伴ウイルス連ウイルスベクター媒介遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20220627BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220627BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20220627BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220627BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220627BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220627BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/35
A61P27/02
A61K48/00
A61K35/76
A61K38/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2020554887
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(85)【翻訳文提出日】2020-10-06
(86)【国際出願番号】 US2019046904
(87)【国際公開番号】W WO2020222858
(87)【国際公開日】2020-11-05
(32)【優先日】2019-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517296293
【氏名又は名称】オクジェン アイエヌシー.
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】アルムガム,ラサッパ
(72)【発明者】
【氏名】ウパディヤイ ,アルン
(72)【発明者】
【氏名】ハイダー,ネーナ ビー.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084BA44
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA331
4C087BC83
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
本発明は、眼の状態および/または疾患を治療するための組成物および方法を提供する。特に、本発明の組成物および方法は、眼の状態および/または疾患の処置のための遺伝子治療に関する。本発明の1つの特定の局面は、(i)治療遺伝子、前記眼の状態または疾患の発現に関連する欠陥遺伝子の機能的対応物、またはそれらの組み合わせ;および(ii)前記眼の状態または疾患を処置するための標的眼領域の細胞に前記遺伝子を送達するために適合された送達ビヒクルであって、アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型を含む送達ビヒクルを含む、組換えDNAを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む組換えDNAであって、対象における眼の状態または疾患を改善するための組換えDNA;
(i)以下からなる群から選択される遺伝子
(a)前記対象における眼の状態または疾患を改善することができる治療遺伝子、
(b)前記眼の状態または疾患の発現に関連する欠陥遺伝子の機能的対応物、及び
(c)それらの組み合わせ、
(ii)前記眼の状態または疾患を治療するために、前記眼領域の細胞に前記遺伝子を送達するように適合された送達ビヒクルであって、前記送達ビヒクルがアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型を含み、
ここで、前記組換えDNAが前記対象の眼領域にトランスフェクトされると、前記対象における前記眼の状態または疾患を改善する、
組換えDNA。
【請求項2】
前記治療遺伝子が、以下からなる群から選択される請求項1に記載の組換えDNA;
(a)ヒト核ホルモン受容体(hNHR)遺伝子またはその断片であって、hNHR遺伝子がNr2e3、NR1C3、NR1D1、RORA、NUPR1、NR2C1、およびLXRaからなる群から選択される、
(b)以下からなる群から選択されるペプチドをコードする成長因子または血管新生モジュレーター遺伝子;
(i)抗vegf、
(ii)水晶体上皮由来増殖因子、
(iii)ツムスタチン
(iv)トランスフェリン-ツムスタチン融合タンパク質、
(v)繊維芽細胞増殖因子、
(vi)血小板由来増殖因子ファミリー、
(vii)血管内皮増殖因子サブファミリー、
(viii)上皮成長因子ファミリー、
(ix)繊維芽細胞増殖因子ファミリー、
(x)トランスフォーミング増殖因子-βスーパーファミリー、
(xi)アンジオポエチン様ファミリー、
(xii)ガレクチン類、
(xiii)インテグリンスーパーファミリー、
(xiv)肝細胞増殖因子、
(xv)アンギオポエチン、
(xvi)エンドセリン、
(xvii)低酸素誘導因子、
(xviii)インスリン様成長因子、
(xix)サイトカイン、及び
(xx)マトリックスメタロプロテイナーゼ遺伝子またはその断片、及び
(c)それらの組み合わせ。
【請求項3】
前記欠陥遺伝子によって発現される前記眼の状態または疾病が、以下の群から選択される請求項1に記載の組換えDNA;
(i)レーバー先天性黒内障(LCA)(CRX、AIPL1、TULP1、CABP4、RPE65、CEP290など)、
(ii)網膜色素変性症(RP)(CRX、NRL、Nr2e3、PRPH2、RHO、ROM1、RPE65、ABCA4、MERTK、NRL、PDE6A、PDE6B、SAG、TULP1、その他)、
(iii)錐体杆体ジストロフィー(AIPL1、CRX、PRPH2、ABCA4、CNGB3、RAB28、CACNA1F、RPGR等)、
(iv)黄斑変性症(PRPH2、ELOV4、ANCA4、RPGR、その他)、
(v)先天性停止性夜盲症(GNAT1, PDE6B, RHO, CABP4, GRK1, SAG, CANA1F等)、
(vi)シナプス疾患(CACNA2D4、CACNA1F、XLRS等)、
(vii)バルデ・ビードル症候群(BBS2、BBS4、BBS6、CEP290等)、
(viii)ジュベール症候群(CEP290)、
(ix)シニア・ローケン症候群(CEP290)、及び
(x)アッシャー症候群(MYO7A、USH2A他)。
【請求項4】
前記送達ビヒクルが、アデノ随伴ウイルス(AAV)逆位末端配列(ITR)を含む、請求項1に記載の組換えDNA。
【請求項5】
前記AAV ITRがAAV2 ITRを含む、請求項4に記載の組換えDNA。
【請求項6】
(i)プロモーター、(ii)エンハンサー、(iii)ポリアデニル化部分、または(iv)それらの組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の組換えDNA。
【請求項7】
前記ポリアデニル化部分が、サルウイルス40(SV40)ポリアデニル化(PolyA)領域、ウシ成長ホルモン(bGH)PolyA領域、またはそれらの組み合わせを含む、請求項6に記載の組換えDNA。
【請求項8】
サイトメガロウイルス(CMB)プロモーターまたはエンハンサー、伸長因子1a(EF1a)、ニワトリβアクチン(CBA)プロモーター、CAGプロモーター、またはそれらの組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の組換えDNA。
【請求項9】
請求項1に記載の組換えDNAを含むプラスミド。
【請求項10】
以下を含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター;
(1)以下からなる群から選択される治療遺伝子
(a)ヒト核ホルモン受容体(hNHR)遺伝子またはその断片であって、hNHR遺伝子がNr2e3、NR1C3、NR1D1、RORA、NUPR1、NR2C1、およびLXRaから選択される、
(b)以下からなる群から選択されるペプチドをコードする増殖因子若しくは血管新生モジュレーター遺伝子;
(i)抗vegf:
(ii)水晶体上皮由来増殖因子;
(iii)ツムスタチン(tumstatin);
(iv)トランスフェリン・ツムスタチン融合タンパク質;
(v)線維芽細胞増殖因子;
(vi)血小板由来増殖因子ファミリー;
(vii)血管内皮増殖因子サブファミリー;
(viii)上皮成長因子ファミリー;
(ix)線維芽細胞増殖因子ファミリー;
(x)トランスフォーミング増殖因子-βスーパーファミリー(例えば、TGF-β1;アクチビン;ホリスタチンおよび骨形成タンパク質);
(xi)アンジオポエチン様ファミリー;
(xii)ガレクチン類;
(xiii)インテグリンスーパーファミリー、ならびに色素上皮由来因子;
(xiv)肝細胞増殖因子;
(xv)アンギオポエチン;
(xvi)エンドセリン;
(xvii)低酸素誘導因子;
(xviii)インスリン様成長因子;
(xix)サイトカイン;
(xx)マトリックスメタロプロテイナーゼ遺伝子またはその断片,
(c)これらの組み合わせ。
(2)眼の状態または疾患の発現に関連する欠陥遺伝子の少なくとも1つの機能的対応物であって、前記欠陥遺伝子によってあらわれる前記眼の状態または疾患が(A)レーバー先天性黒内障(LCA)と、(b)網膜色素変性症(RP)と、(c)錐体杆体ジストロフィーと、(d)黄斑変性症と、(e)先天性静止性夜盲と、(f)シナプス疾患と、(g)バーデビードル症候群と、(h)ジュベール症候群と、(i)シニア・ローケン症候群(CEP290)と、および(j)アッシャー症候群である、機能的対応物、又は
(3)これらの組み合わせ。
【請求項11】
天然に存在するアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型カプシドタンパク質をさらに含む、請求項10に記載のrAAVベクター。
【請求項12】
前記天然に存在するAAV血清型が、AAV1、AAV2、AAV5、およびAAV8からなる群より選択される、請求項11に記載のrAAVベクター。
【請求項13】
前記hNHR遺伝子が、Nr2e3、Nr1d1、Rora、Nupr1、Nr2c1、およびLXRからなる群より選択される、請求項10に記載のrAAVベクター。
【請求項14】
前記NR2E3遺伝子が、全長Nr2e3タンパク質またはその断片をコードする、請求項13に記載のrAAVベクター。
【請求項15】
前記NR2E3遺伝子が配列番号1を含む、請求項13に記載のrAAVベクター。
【請求項16】
前記NR2E3遺伝子が、配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項113に記載のrAAVベクター。
【請求項17】
前記Nr1d1遺伝子が、全長NR1D1タンパク質またはその断片をコードする、請求項10に記載のrAAVベクター。
【請求項18】
前記NR1D1遺伝子が配列番号5を含む、請求項17に記載のrAAVベクター。
【請求項19】
前記NR1D1遺伝子が、配列番号5に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項17に記載のrAAVベクター。
【請求項20】
前記RORA遺伝子が全長Roraタンパク質またはその断片をコードする、請求項10に記載のrAAVベクター。
【請求項21】
前記RORA遺伝子が配列番号7を含む、請求項20に記載のrAAVベクター。
【請求項22】
前記RORA遺伝子が配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項21に記載のrAAVベクター。
【請求項23】
前記NR1C3遺伝子が、全長Nr1c3タンパク質またはその断片をコードする、請求項10に記載のrAAVベクター。
【請求項24】
前記NR1C3遺伝子が配列番号3を含む、請求項23に記載のrAAVベクター。
【請求項25】
前記NR1C3遺伝子が、配列番号3に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項23に記載のrAAVベクター。
【請求項26】
前記NR2C1遺伝子が、全長Nr2c1タンパク質またはその断片をコードする、請求項10に記載のrAAVベクター。
【請求項27】
前記NR2C1遺伝子が配列番号11を含む、請求項26に記載のrAAVベクター。
【請求項28】
前記NR2C1遺伝子が、配列番号11に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項26に記載のrAAVベクター。
【請求項29】
前記NUPR1遺伝子が、全長Nupr1タンパク質またはその断片をコードする、請求項10に記載のrAAVベクター。
【請求項30】
前記NUPR1遺伝子が配列番号9を含む、請求項29に記載のrAAVベクター。
【請求項31】
前記NUPR1遺伝子が配列番号9に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項29に記載のrAAVベクター。
【請求項32】
前記LXRa遺伝子が、全長LXRaタンパク質またはその断片をコードする、請求項10に記載のrAAVベクター。
【請求項33】
前記LXRa遺伝子が配列番号13を含む、請求項32に記載のrAAVベクター。
【請求項34】
前記LXRa遺伝子が、配列番号13に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項32に記載のrAAVベクター。
【請求項35】
配列番号71, 72、73、74を有するキャプシドタンパク質をさらに含む、請求項10に記載のrAAVベクター。
【請求項36】
前記NHR遺伝子がヒトNHR遺伝子で請求項10に記載のrAAVベクター。
【請求項37】
請求項10に記載の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む医薬組成物。
【請求項38】
眼の状態または眼疾患を治療するための方法であって、そのような治療を必要とする対象の眼組織に、前記対象を治療するための、請求項10に記載の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む組成物の治療有効量を投与することを含み、前記眼組織が、網膜組織、脈絡膜組織、および硝子体組織からなる群より選択される、方法。
【請求項39】
前記組成物が、薬理学的に許容される担体をさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記組成物が、前記対象に2回以上投与される、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
約10
8~約10
14のウイルス粒子が対象に投与される、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記眼の状態または眼の疾患が、レーバー先天性黒内障(LCA)、網膜色素変性症(RP)、促進エス‐コーン(S-cone)症候群、ゴールドマンファブレ(Goldmann Favre)症候群、ロッドコーンジストロフィー バルデ・ビードル症候群、色覚異常(アクロマトプシア)、ベスト病(卵黄様黄斑変性)、バルデ・ビードル症候群、脈絡膜血症、黄斑変性症、スタルガルト病、X連鎖網膜炎(XLRS)、X連鎖網膜色素変性症(XLRP)、アッシャー(Usher)症候群、錐体杆体ジストロフィー、乾燥-加齢関連黄斑変性症、湿潤‐加齢関連黄斑変性症、またはそれらの組み合わせを含む、請求項38に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2019年4月27日に出願された米国仮出願第62/839,672号の優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は、眼の状態および/または疾患を治療する際の遺伝子治療のための組成物および方法に関する。
特に、本発明は以下を含む組換えDNAに関する;
(i)以下からなる群から選択される遺伝子;
(a)前記被験体における眼の状態または疾患を改善することができる治療遺伝子、
(b)前記眼の状態または疾患の発現に関連する欠陥遺伝子の機能的対応物、および
(c)それらの組み合わせ、および
(ii)前記眼の状態または疾患を治療するために、眼領域の細胞に前記遺伝子を送達するように適合された送達ビヒクルであって、該送達ビヒクルは、アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型を含む。
本発明はまた、前記同じものを含むプラスミド及び以下の遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターに関し、該遺伝子は以下の群から選択される;
(a)前記対象における眼の状態または疾患を改善することができる治療遺伝子、
(b)前記眼の状態または疾患の発現に関連する欠陥遺伝子の機能的対応物、および
(c)それらの組み合わせからなる群。
【背景技術】
【0003】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は遺伝子導入ベクターとして大きな関連性を持つ。実際、アデノ随伴ウイルスベクターは、現在、遺伝子治療のために最も頻繁に使用されるウイルスベクターの一つである。最近まで、AAVはウイルスについての広範な知識の欠如のために、あまり関心が持たれていなかった。特に、AAVは非病原性であるため、医学分野では広く研究されていなかった。現在までに12種類のヒト血清型のAAV(AAV血清型1[AAV-1]~AAV-12)およびヒト以外の霊長類由来の100以上の血清型が同定されている。興味深いことに、このウイルスの病原性の欠如は、遺伝子治療応用のための送達ビヒクルとして理想的な候補となる。
【0004】
様々な臨床状態の治療に遺伝子治療を用いることは、多大な関心を集めている。
遺伝子治療の大部分は鎌状赤血球貧血や嚢胞性繊維症を標的とする一方で、他の非遺伝的に誘導される臨床状態(例えば、癌)もまた、遺伝子治療で試験されている。
【0005】
最近、遺伝子治療製品であるLuxturnaTMが、RPE65変異関連レーバー先天性黒内障(LCA)、LCA-2の治療薬としてFDAの承認を受けた。この突然変異は、これまでに同定された網膜変性に関係する250以上の遺伝子突然変異の1つを表している。それでもなお、他の種類のLCA、網膜色素変性症、促進エス‐コーン(S-cone)症候群、ゴールドマンファブレ(Goldmann Favre)症候群、ロッドコーンジストロフィー(rod-cone dystrophy)、バルデ・ビードル(Bardet-Biedl)症候群、色覚異常(Achromatopsia)、ベスト(Best)病(卵黄様黄斑変性症)、バルデ・ビードル(Bardet-Biedl)症候群、脈絡膜症、黄斑変性症、スタルガルト(Stargardt)病、X‐連鎖網膜炎(X-Linked retininoschisis:XLRS)、X‐連鎖網膜色素変性症(X-Linked retinitis pigmentosa:XLRP)、アッシャ(Usher)症候群、錐体杆体ジストロフィー(cone-rod dystrophy)、乾燥‐加齢(Dry-Age)関連黄斑変性症、湿潤‐加齢(wet-Age)関連黄斑変性症、のような眼の状態若しくは疾患の遺伝子治療は認可されていない。
【0006】
伝統的な薬学的方法でさえ、これらの眼の状態または疾患の多くを処置するために利用可能ではなく、そしてこれらは、この満たされていない医学的必要性に対処するために、新規な治療薬の展開を必要とする。したがって、網膜変性に関連する様々な眼疾患および/または状態を治療するための新規な治療方法および組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、遺伝子治療を用いて様々な眼の疾患または状態を治療するための組成物および方法を提供する。
本発明の1つの特定の局面は、以下を含む組換えDNAを提供する:
(i)以下からなる群から選択される遺伝子:
(a)治療遺伝子、
(b)眼の状態または疾患の発現に関連する欠陥遺伝子の機能的対応物、および
(c)それらの組合せ;
(ii)(i)の遺伝子を、眼の状態または疾患を治療するための標的眼領域の細胞に送達するために適合された送達ビヒクルであって、アデノ随伴ウイルス(AAV)血清型を含む送達ビヒクル。
【0008】
いくつかの実施形態では、遺伝子(i)が前記送達ビヒクル内にパッケージングまたはカプセル化される。さらに他の実施形態では、送達ビヒクルがAAVの逆位末端配列(ITR)(「AAV ITR」)を含む。さらに他の実施形態では、AAV ITRはAAV2 ITRである。
【0009】
他の実施形態では、治療用遺伝子は以下からなる群から選択される:
(a)ヒト核ホルモン受容体(hNHR)遺伝子がNr2e3、NR1C3、NR1D1、RORA、NUPR1、NR2C1、およびLXRaからなる群から選択される、ヒト核ホルモン受容体(hNHR)遺伝子またはその断片;
(b)以下からなる群から選択されるペプチドをコードする成長因子若しくは血管新生モジュレーター遺伝子:
(i)抗vegf:
(ii)水晶体上皮由来増殖因子;
(iii)ツムスタチン(tumstatin);
(iv)トランスフェリン・ツムスタチン融合タンパク質;
(v)線維芽細胞増殖因子;
(vi)血小板由来増殖因子ファミリー;
(vii)血管内皮増殖因子サブファミリー;
(viii)上皮成長因子ファミリー;
(ix)線維芽細胞増殖因子ファミリー;
(x)トランスフォーミング増殖因子-βスーパーファミリー(例えば、TGF-β1;アクチビン;ホリスタチンおよび骨形成タンパク質);
(xi)アンジオポエチン様ファミリー;
(xii)ガレクチン類;
(xiii)インテグリンスーパーファミリー、ならびに色素上皮由来因子;
(xiv)肝細胞増殖因子;
(xv)アンギオポエチン;
(xvi)エンドセリン;
(xvii)低酸素誘導因子;
(xviii)インスリン様成長因子;
(xix)サイトカイン;
(xx)マトリックスメタロプロテイナーゼ遺伝子またはその断片,
(c)これらの組み合わせ。
【0010】
さらに他の実施形態では、欠陥遺伝子の機能的対応物が、次のような、網膜変性に関連する遺伝子を含む;レーバー先天性黒内障(LCA)(例えば、CRX、AIPL1、TULP1、CABP4、RPE65、CEP290、および当業者に公知の他の遺伝子); 網膜色素変性症(RP)(例えば、CRX、NRL、Nr2e3、PRPH2、RHO、ROM1、RPE65、ABCA4、MERTK、NRL、PDE6A、PDE6B、SAG、TULP1および当業者に公知の他の遺伝子);錐体‐杆体ジストロフィー(例えば、AIPL1、CRX、PRPH2、ABCA4、CNGB3、RAB28、CACNA1F、RPGRおよび当業者に公知の他の遺伝子);黄斑変性(例えば、PRPH2、ELOV4、ANCA4、RPGRおよび当業者に公知の他の遺伝子);先天性停止性夜盲症(congenitalstationary night blindness)(例えば、GNAT1、PDE6B、RHO、CABP4、GRK1、SAG、CANA1F、および当業者に公知の他の遺伝子); シナプス疾患(例えば、CACNA2D4、CACNA1F、XLRS、および当業者に公知の他の遺伝子);バルデ・ビードル(Bardet-Biedl)症候群(例えば、BBS2、BBS4、BBS6、CEP290、および当業者に公知の他の遺伝子); ジュベール(Joubert)症候群(例えば、CEP290および当業者に公知の他の遺伝子); シニアー‐ローケン(Senior-Loken)症候群(例えば、CEP290および当業者に公知の他の遺伝子);ならびにアッシャー(Usher)症候群(例えば、MYO7A、USH2A、および当業者に公知の他の遺伝子)。
【0011】
さらに他の実施形態では、治療遺伝子、および疾患関連欠陥遺伝子の機能的対応物は患者に、同時に、または任意の順序で次々に異なる時点で;または同時に組み合わせて;または単一もしくは複数回投与のいずれかで、個別に投与することができる。
【0012】
本発明のベクターおよび組換えDNAを産生するために使用され得る遺伝子のいくつかは、配列番号1~69において奇数の配列で示される。
SEQ ID NO:1~69の奇数番号配列の遺伝子配列(例えば、オリゴヌクレオチド配列)は、SEQ ID NO:2~70に示される偶数番号配列またはSEQ ID NO:2~70に示される偶数番号配列の少なくとも活性部分において、提供される対応するタンパク質配列を産生する限り、変化し得ることが理解されるべきである。
【0013】
いくつかの実施形態では、遺伝子が同定されたそのタンパク質の全長または断片をコードすることができる。さらに他の実施形態では、これらの遺伝子が遺伝子の全領域または機能領域にわたって、全長野生型対応遺伝子と少なくとも約90%、しばしば少なくとも約95%の配列同一性を有し、関連する活性を示す。本発明の有用な遺伝子の配列は、バイオテクノロジー情報(NCBI)国立センターの遺伝子データバンクなどの当業者に容易に入手可能である。
【0014】
さらに他の実施形態では、組換えDNAが(i)プロモーター、(ii)エンハンサー、(iii)ポリアデニル化部分、または(iv)それらの組み合わせをさらに含む。場合によっては、ポリアデニル化部分がサルウイルス40(SV40)ポリアデニル化(PolyA)領域、ウシ成長ホルモン(bGH)PolyA領域、またはそれらの組み合わせを含む。
【0015】
さらに他の実施形態において、組換えDNAは、サイトメガロウイルス(CMB)プロモーターまたはエンハンサー、伸長因子1a(EF1a)、ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーター、CAGプロモーター、またはそれらの組み合わせをさらに含む。
【0016】
本発明の別の態様は、本明細書中に記載される組換えDNAを含むプラスミドを提供する。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、以下を含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを提供する:
(i)治療遺伝子が以下からなる群から選択される治療遺伝子:
(a)ヒト核ホルモン受容体(hNHR)遺伝子がNr2e3、NR1C3、NR1D1、RORA、NUPR1、NR2C1、およびLXRaからなる群から選択される、ヒト核ホルモン受容体(hNHR)遺伝子またはその断片;
(b)成長因子及び/又は血管新生調節因子、例えば抗vegf、水晶体上皮由来成長因子、ツムスタチン;トランスフェリン・ツムスタチン蛋白質融合体;線維芽細胞成長因子ファミリー;血小板由来成長因子ファミリー;血管内皮成長因子サブファミリー;線維芽細胞成長因子ファミリー;形質転換成長因子-βスーパーファミリー(例えば、TGF-β1、アクチビン、ホリスタチン及び骨形成蛋白質);アンジオポエチン様ファミリー;ガレクチンファミリー;インテグリンスーパーファミリー並びに色素上皮由来因子;肝細胞成長因子;アンジオポエチン;エンドセリン;低酸素誘導因子;インスリン様成長因子;サイトカイン;及びマトリックスメタロプロテイナーゼ遺伝子又はその断片; 及び
(c)それらの組み合わせ、及び
(ii)レーバー先天性黒内障(LCA)(例えば、CRX、AIPL1、TULP1、CABP4、RPE65、CEP290など); 網膜色素変性症(RP)(例えば、CRX、NRL、Nr2e3、PRHO、ROM1、RPE65、ABCA4、NRL、PDE6A、SAG、TULP1など);錐体ジストロフィー(例えば、AIPL1、CRX、PRPH2、ABCA4、RAB28、CACNA1F、RPGRなど);黄斑変性(例えば、PRPH2、ELOV4、ANCA4、RPGRなど);先天性静止夜盲症(例えば、GNAT1、PDE6B、RHO、GRK1 CANA1Fなど;シナプス疾患(CACNA2D4、CACNA1F、XLRSなど); バルデ・ビードル(Bardet-Biedl)症候群(BBS2、BBS4、BBS6、CEP290など); ジュベール(Joubert)症候群(例えばCEP290); シニア・ローケン症候群(例えばCEP290);ウシェル症候群(例えばMYO7A、USH2Aなど); のような、眼の状態または疾患の兆候に関連する欠陥遺伝子の機能的対応物、又は
(iii)これらの組み合わせ。
【0018】
いくつかの実施形態では、rAAVベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型カプシドタンパク質をコードする天然(すなわち、野生型または「正常機能型」)遺伝子をさらに含む。いくつかの例において、天然に存在するAAV血清型は、AAV1(配列番号71)、AAV2(配列番号72)、AAV5(配列番号73)、およびAAV8(配列番号74)からなる群より選択される。
【0019】
1つの特定の実施形態において、NHR遺伝子は、Nr2e3、Nr1d1、Rora、Nupr1、Nr2c1、およびLXRからなる群より選択される。いくつかの例では、Nr2e3遺伝子が完全長Nr2e3タンパク質またはその断片をコードする。1つの特定の実施形態において、Nr2e3遺伝子は、配列番号1を含む。さらに別の実施形態では、Nr2e3遺伝子が配列番号1に対して少なくとも約80%、典型的には少なくとも約85%、しばしば少なくとも約90%、最も多くの場合少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0020】
さらにいくつかの実施形態では、Nr1d1遺伝子が全長Nr1d1タンパク質またはその断片をコードする。さらに別の実施形態では、Nr1d1遺伝子は配列番号5を含む。いくつかの例では、Nr1d1遺伝子が配列番号5に対して少なくとも約80%、典型的には少なくとも約85%、しばしば少なくとも約90%、最も多くの場合少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0021】
さらにいくつかの実施形態では、RORA遺伝子が全長RORAタンパク質またはその断片をコードする。1つの特定の実施形態において、RORA遺伝子は、配列番号7を含む。いくつかの例において、RORA遺伝子は、配列番号7に対して少なくとも約80%、典型的には少なくとも約85%、しばしば少なくとも約90%、最も多くの場合少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0022】
他の実施形態では、NR1C3遺伝子が全長NR1C3タンパク質またはその断片をコードする。いくつかの実施形態では、NR1C3遺伝子は配列番号3を含む。さらに他の実施形態では、NR1C3遺伝子が配列番号3に対して少なくとも約80%、典型的には少なくとも約85%、しばしば少なくとも約90%、最も多くの場合少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0023】
さらなる実施形態では、NR2C1遺伝子が全長NR2C1タンパク質またはその断片をコードする。さらに別の実施形態では、NR2C1遺伝子は配列番号11を含む。さらに他の実施形態では、NR2C1遺伝子が配列番号11に対して少なくとも約80%、典型的には少なくとも約85%、しばしば少なくとも約90%、最も多くの場合少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0024】
さらに他の実施形態では、NUPR1遺伝子が全長NUPR1タンパク質またはその断片をコードする。さらに他の実施形態では、NUPR1遺伝子は配列番号9を含む。さらに、他の実施形態では、NUPR1遺伝子が配列番号9に対して少なくとも約80%、典型的には少なくとも約85%、しばしば少なくとも約90%、最も多くの場合少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0025】
他の実施形態では、LXRa遺伝子が全長LXRaタンパク質またはその断片をコードする。場合によっては、LXRa遺伝子は配列番号13を含む。さらに他の例では、LXRa遺伝子が配列番号13に対して少なくとも約80%、典型的には少なくとも約85%、しばしば少なくとも約90%、最も多くの場合少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0026】
さらに他の実施形態では、rAAVが本明細書に記載され、配列番号1~69の奇数番号の配列、特に配列番号15~69の奇数番号の配列に例示される疾患欠陥遺伝子の完全または機能保存コピーを含む。いくつかの実施形態では、これらの遺伝子が同定されたそのタンパク質の全長または断片をコードする。さらに他の実施形態では、これらの遺伝子が全長野生型対応遺伝子に対して少なくとも約80%、典型的には少なくとも約85%、しばしば少なくとも約90%、最も多くの場合少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0027】
さらに他の実施形態では、rAAVベクターが配列番号71、72、73、または74を有するキャプシドタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む。
【0028】
特定の一実施形態では、NHR遺伝子はヒトNHR(hNHR)遺伝子である。
【0029】
本発明の別の態様は、本明細書に開示される組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む医薬組成物を提供する。
【0030】
本発明の別の態様は眼の状態または眼疾患を処置するための方法を提供し、この方法はこのような処置を必要とする被験体の眼組織に、この被験体を処置するために本明細書中に開示される組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む組成物の治療有効量を投与する工程を包含し、ここで、この眼組織は、網膜組織、脈絡膜組織、および硝子体組織からなる群より選択される。
【0031】
ある実施形態において、rAAVベクターを含む組成物は、薬理学的に許容される製剤中に適切に分散される。
【0032】
さらに他の実施形態では、投与は2回以上行われる。
【0033】
さらに他の実施形態では、対象に投与されるウイルス粒子の量が約105~約1020、典型的には約106~約1019、しばしば約107~約1015、より頻繁には約108~約1014の範囲である。
【0034】
他の実施形態では、眼症状または眼疾患がレーバー(Leber)先天性黒内障(LCA)、網膜色素変性症、促進S-コーン症候群、ゴールドマンファブレ(Goldmann Favre)症候群、ロッドコーンジストロフィーバルデ・ビードル(Bardet-Biedl)症候群、色覚障害(Achromatopsia)、ベスト(Best)病(卵黄様黄斑変性症)、バルデ・ビードル(Bardet-Biedl)症候群、脈絡膜症、黄斑変性症、シュタルガルト(Stargardt)病、X‐連鎖網膜炎(X-Linked retininoschisis:XLRS)、X‐連鎖網膜色素変性症(X-Linked retinitis pigmentosa:XLRP)、アッシャ(Usher)症候群、錐体杆体ジストロフィー(cone-rod dystrophy)、乾燥‐加齢(Dry-Age)関連黄斑変性症、湿潤‐加齢(wet-Age)関連黄斑変性症、を含む。
【0035】
本発明のさらに別の局面は、(1)配列番号71、72、73、または74に対して少なくとも約90%、典型的には少なくとも約95%、しばしば少なくとも約98%、より頻繁には少なくとも約99%、および最も頻繁には100%の配列同一性を有するオリゴヌクレオチドを、(2)配列番号1~69の奇数番号配列のいずれか1つに対して少なくとも90%、典型的には少なくとも約95%、しばしば少なくとも約98%、より頻繁には少なくとも約99%、および最も頻繁には100%の配列同一性を有するオリゴヌクレオチドとの組み合わせて含む組換えDNAまたはベクターを提供する。
本発明の範囲は、(i)および(ii)のオリゴヌクレオチドの任意の組み合わせを含むことを理解されたい。
オリゴヌクレオチド(i)および(ii)の例示的な組み合わせは、配列番号:1~69(例えば、配列番号:1、3、5、7、...69など)の任意の奇数番号配列を有する配列と配列番号:71、配列番号:1~69(例えば、配列番号:1、3、5、7、...69など)の任意の奇数番号配列を有する配列と配列番号:72、配列番号:1~69(例えば、配列番号:1、3、5、7、...69など)の任意の奇数番号配列を有する配列と配列番号:73、および配列番号:1~69(例えば、配列番号:1、3、5、7、...69など)の任意の奇数番号配列を有する配列と配列番号:74を含むが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態では、組換えDNAが(ii)の2つ以上のオリゴヌクレオチド、すなわち、配列番号1~69の奇数配列番号の2つ以上を含むことができる。
用語「配列番号1~69の奇数配列番号のうちの1つ」および「配列番号1~69の奇数配列のうちの1つ」は本明細書中で互換可能に使用され、そして配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、。61、63、65、67、または69を意味する。同様に、用語「配列番号2~70の偶数配列番号のうちの1つ」および「配列番号2~70の偶数配列のうちの1つ」は、本明細書中で互換可能に使用され、そして配列番号2、4、6、8、10、12、。60、62、64、66、68、または70を意味することを理解されたい。
いくつかの実施形態において、組換えDNAまたはベクターはまた、(a)プロモーター、(b)エンハンサー、(c)ポリアデニル化部分、または(d)それらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、組換えDNAまたはベクターは
図1に例示されるものを含み、ここで、AAV部分は配列番号71~74のいずれか1でありえ、そしてh/Nr2e3は配列番号1~69における奇数番号の配列のいずれか1つで置換され得る。このように、組換えDNAおよびベクターの多種多様な組み合わせが、本発明の範囲内に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、a)AAV2 ITR; b)サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー; c)ニワトリβアクチン(CBA)プロモーター; d)キメライントロン; e)ヒトNr2e3タンパク質(44692ダルトン)をコードするクローン化cDNA;および f)SV40ポリアデニル化(PolyA)領域を含む、ヒトNr2e3遺伝子発現カセットを含む、1つの特定のアデノ随伴ウイルス血清型5-ベースのベクターの概略図である。
【0037】
【
図2】
図2はcoR/coAがコ・リプレッサーまたはコ・アクチベーターであるNr2e3網膜変性に影響を及ぼす潜在的機序の模式図であり、ESCSは促進S-コーン(Enhanced S cone)症候群、GFSはゴールドマンファブレ(Goldmann Favre)症候群、adRPは常染色体優性網膜色素変性症、灰色および錐体光受容体の桿体光受容体は青色、緑色、および赤色である。
【0038】
【
図3】
図3は、潜在的Nr2e3媒介療法の概略図である。Nr2e3は、網膜色素変性症(RP)における網膜変性に寄与する鍵となる遺伝子ネットワークを潜在的に再設定する。RP‐網膜色素変性; PR‐光受容体細胞;遺伝子ネットワーク:M‐代謝;I‐炎症;O‐酸化ストレス;P‐光受容体遺伝子;S‐細胞生存。
【0039】
【
図4-1】
図4は、Nr2e3rd7/rd7マウスにおいて、Nr1d1の遺伝子送達が汎網膜斑点形成、網膜形成異常および機能を抑制することを示すデータである。パネル(A-F)は、対照およびrd7注射網膜の眼底写真である:(A)B6(非注射)、(B)rd7(非注射)、(C)GFP注射、(D)GFP.Nr2e3B6注射、(E)GFP.Nr1d1AKR/J注射、(F)GFP.Nr1d1B6注射。(G-J)DAPI染色(青色)は、rd7新生児網膜へのエレクトロポレーション30日後の網膜形態の欠陥の救出を示す。(G)GFP対照、(H)Nr2e3B6注射、(I)GFP対照、(J)Nr1d1AKR/J注射。L:左、R:右、GCL:神経節細胞層、INL:内核層、ONL:外核層。スケールバー=50mm。(K, L)GFP(青色)またはGFP.Nr1d1AKR/J(赤色)の注射の4ヶ月後の動物からの代表的な暗所視(K)および明所視(L)網膜電図。
【0040】
【
図5】
図5は、光伝達遺伝子Opn1swおよびGnat2がNr1d1送達時にrd7網膜で救済されることを示すグラフである。定量的リアルタイムPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、Nr1d1送達がrd7網膜における光伝達遺伝子Opn1swおよびGnat2のダウンレギュレーション(平均値± SD、n = 3、p<0.05)を、前臨床モデルにおいてほぼ正常レベルまでもたらすことを示す。
【0041】
【
図6】
図6は、AAV2.8-mNr2e3新生児分娩がrd7関連網膜変性を予防することを示す写真である。A. rd7の眼底; B.組織学、ヘマトキシリン/エオシン染色、C.免疫組織化学コーン(緑色および青色オプシン)およびロッド(ロドプシン)発現は、AAV-Nr2e3後の変性の予防を示す。動物は出生後(P)0で注射し、3か月で評価した。N > 5.
【0042】
【
図7】
図7はAAV2.8-mNr2e3処理rd7網膜を示すグラフであり、7つの遺伝子ネットワークにおいて40以上の遺伝子においてホメオスタシス状態の再設定を示す。7つの異なるNr2e3調節遺伝子ネットワークに属する約75遺伝子のリアルタイムPCR評価は、40以上の遺伝子が処理した網膜と未処理の網膜で異なって調節されることを示す。図は、1.5以上の倍数分散変化を有する遺伝子を示す。ネットワーク: P.光伝達、S:細胞生存、A:細胞死、I:免疫/炎症、N:神経保護、O:酸化ストレス、E: ERストレス、M:代謝。
【0043】
【
図8】
図8は、AAV2.8-mNr2e3送達を示す写真であり;rd7関連網膜変性を逆転させる。A. rd7の眼底; B.組織学、ヘマトキシリン/エオシン染色、C.免疫組織化学コーン(緑色および青色オプシン)およびロッド(ロドプシン)発現は、網膜下AAV2.8-Nr2e3送達後の変性の逆転を示す。動物をP21に注射し、3か月後に評価した。N > 5.
【0044】
【
図9】
図9は、rd7臨床表現型のAAV5-mNr2e3救済を示す写真である。パネルAは、正常(B6)、ならびにrd7および3および4ヶ月(M:月)を示す。パネルBは、3M非注射rd7網膜および同じ網膜で網膜下および硝子体内投与経路での注射後1Mを示す。GFPの存在が観察され、AAV5-Nr2e3の網膜への送達が示される。
【0045】
【
図10】
図10は、rd7形態のAAV5-mNr2e3救済を示す写真である。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色ならびに青色および緑色オプシン発現は、rd7マウスにおける渦巻きおよび光受容体細胞の解像度を示す。硝子体内(IV)、網膜下(SR)、神経節細胞層(GCL)、内核層(INL)、外核層(ONL)。
【0046】
【
図11】
図11は、rd7の臨床的および組織学的表現型のAAV-mNr2e3救済を示す写真である。rd7マウスにおけるAAV5-Nr2e3のA. intravitreal(硝子体内)およびB. subretinal(網膜下)注入の光干渉断層撮影(OCT)。網膜全体の画像は、緑の線で示される各走査のフレーム位置を示す。AAV5-Nr2e3注入前と1Mの同じフレームで撮影したスキャンの右パネル。赤い矢印は注入前のスキャンに存在し、注入後1Mのスキャン(PI)で分解された渦巻きを示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
遺伝的不均一性は、眼疾患または眼疾患をもたらすものを含む多くのメンデルの単一遺伝子障害に対して観察される。環境の影響はわずかな寄与をもたらすが、表現型の転帰の変異は一般に、対立遺伝子の不均一性または遺伝的修飾因子遺伝子、変異遺伝子とは異なる対立遺伝子変異に起因し、これらは疾患の重症度の増加または減少のいずれかによって疾患の発症、進行、および転帰に影響を及ぼしうる。
【0048】
本発明の1つの態様は、眼の疾患または障害の処置および予防において使用するための、光受容体のシグナル伝達経路および/または機能を改変または回復する遺伝子治療のための組成物および方法を提供する。例えば、本発明の1つの特定の実施形態は、ヒト核ホルモン受容体Nr2e3(AAV5-hNr2e3)遺伝子治療を含む、Nr2e3突然変異関連劣性網膜変性疾患の治療のためのアデノ随伴ウイルス血清型5カプシドに関する。
【0049】
数百を超える遺伝子の突然変異は遺伝性網膜変性に関連する(例えば、sph.uth.edu/retnet/を参照のこと)。核内受容体遺伝子、Nr2e3の突然変異は、様々な表現型の特徴を有する常染色体劣性網膜変性患者で同定されている。分子的に明確になる以前の臨床診断は、この遺伝病に与えられた多数の学名につながった。主に検眼鏡検査に基づき、網膜色素変性症、集塊性色素性網膜症、嚢胞様黄斑症と網膜分離症を伴う硝子体網膜変性症に分類した。非症候性網膜色素変性症(RP)の原因遺伝子型の報告から、劣性網膜変性に関連するNr2e3変異の有病率を推定できる可能性がある。劣性RPの0.25%からアジア人集団の3%近くまで様々である。したがって、それは局所的に依存する。また、いかなる推定値も、異なる疾患発現セットを有し、現在では本明細書で提案される遺伝子増強/置換戦略の標的とはならないであろう常染色体優性Nr2e3患者を含まないことに注意しなければならない。
【0050】
ヒトNr2e3における常染色体劣性突然変異の統一的な表現型の特徴は長波長および中波長(L/M)錐体網膜機能が低下し、桿体光受容体機能がほとんどまたは全くない短波長錐体(S錐体)の過剰および過敏症を含む共通の機序である。疾患機序は1990年に臨床検査により同定され、その後の多くの報告で確認された。Nr2e3遺伝子と原因変異は2000年に発見された。いかなる理論にも拘束されることなく、独特の生理学的特徴は錐体増殖の発生異常に起因するが、疾患は静止状態ではなく、重度の視力障害に至る進行性の網膜変性を伴うと考えられている。
【0051】
核内ホルモン受容体(NHR)は発症、代謝、概日周期、およびエネルギー恒常性を含む基本的な生物学的過程を調節することにより、細胞恒常性の調節に重要な役割を果たす。Nr2e3、Nr1d1、Rora、Nr2c1などのNHRは網膜疾患の重要なモジュレーターであることが示されている。核内受容体サブファミリー2、グループE、メンバー3(Nr2e3)は光受容体特異的核内受容体(PNR)として初めて報告され、様々な桿体および錐体特定遺伝子の遺伝子発現を調節するために、リガンドまたは補助因子活性化のいずれかを介して機能する。Nr2e3は光受容体の適切な発生および維持を調節するために、発生、代謝、細胞生存、アポトーシスおよびエネルギーホメオスタシスを含むいくつかの重要な生物学的遺伝子ネットワークの調節に関与している。
【0052】
網膜変性7(C57BL6/Jrd7/rd7、rd7)マウスは機能的Nr2e3を欠き、Nr2e3関連網膜疾患9に対する治療法を研究し評価するためのモデルとして役立つ。rd7マウスは、S‐錐体の有意な増加と桿体および錐体光受容体細胞の進行性変性を示す。複数の研究により、網膜疾患を改善する治療法としてのNr2e3遺伝子増強の有効性が実証されている。AAV5-mNr2e3を硝子体内(IVT)および網膜下経路で投与したrd7マウスは、網膜変性の臨床的、組織学的、および分子的救済を示す。さらに、Nr2e3の作用メカニズムは、いくつかの発生、細胞および代謝遺伝子ネットワークの鍵となる調節因子として機能することである。
【0053】
本発明の1つの特定の組成物は、a)AAV2 ITR; b)サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー; c)ニワトリβアクチン(CBA)プロモーター; d)キメライントロン; e)ヒトNr2e3タンパク質(44692ダルトン)をコードするクローン化cDNA;およびf)SV40ポリアデニル化(PolyA)領域を含むヒトNr2e3遺伝子発現カセットを含むアデノ随伴ウイルス血清型5型ベクターである。
図1参照。
配列番号1は、既知の正常ヒトNr2e3配列(NCBI: NM_014249.3)に対応するDNAの配列を示す。hNr2e3タンパク質の非コード領域は197~1429である。Nr2e3のタンパク質配列を配列番号2に示す。
【0054】
本発明の1つの特定の組成物(実施例のセクションを参照のこと)はNHRを利用する遺伝子治療のために開発された産物であり、これは、発達、代謝、概日周期、およびエネルギー恒常性を含む基本的な生物学的過程を調節することによって、細胞恒常性を調節する際に重要な役割を果たすことが長い間知られている。本発明の1つの特定の実施形態はRPならびに他の変性疾患(例えば、AMD)を含む眼または網膜の疾患または障害を処置するための、NHR遺伝子(例えば、Nr2e3、Nr1d1、およびRora)を含む組成物に関する。
1つの特定の実施形態において、NHR遺伝子は、Nr2e3、RPのサブセットを含む網膜変性疾患の処置のための遺伝子治療剤として使用され得るアデノ随伴ウイルスベクターにおいて発現されるNHR遺伝子から構成される。
しかし、本発明の範囲は、配列番号1~69の奇数番号の配列に列挙されるような、本明細書中に開示される他の遺伝子を含む、組換えDNA、オリゴヌクレオチド、および組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含むことが理解されるべきである。
【0055】
本発明の組成物はまた、眼の疾患または障害に関連する他の治療適応症において使用され得る。Nr2e3は、NHRファミリーの二重アクチベーター/リプレッサーおよびメンバーであり、他の転写因子とともに、桿体および錐体光受容体細胞の細胞運命および分化を調節することが示されている。特に、Nr2e3は網膜前駆細胞の錐体細胞増殖を調節し、桿体特定遺伝子を活性化しつつ錐体遺伝子を抑制することにより、有糸分裂後分化桿体光受容体の桿体分化を促進する(図 2)。
Nr2e3は、網膜前駆細胞を調節して適切な数の青色錐体を産生させ、また適切な桿体細胞分化を誘導する際の重要な因子の1つであることが示されている。Nr2e3の送達は、機能保持Nr2e3を欠損するマウスモデルにおいて、網膜変性に関連する臨床的、形態学的、および機能的欠陥を効率的に改善した。また、分子レベルおよび機能レベルでの救済のメカニズムは、少なくとも部分的にはNr2e3指向性転写ネットワーク内の鍵遺伝子の再調節を介していることが実証されている。いかなる理論にも拘束されることなく、これらの研究は、Nr2e3が、乳児リフサム病(IRD)の受容体疾患を少なくとも部分的または完全に救助できることを示唆すると考えられている。IRDは、乳児フィタン酸蓄積症とも呼ばれ、ゼルウェーガースペクトラム内の稀な常染色体劣性先天性ペルオキシソーム生合成障害である。このペルオキシソーム障害は、典型的には生後1年以内に全身性と眼の両方の特徴を呈する。夜盲は主な眼所見であり、少なくとも一部は成人型と同様の視神経萎縮を有する。
【0056】
本明細書に開示される遺伝子治療、特にNHR遺伝子治療のための組成物および方法は、一連の遺伝的に多様なIRDおよび他の変性網膜疾患にわたって網膜の完全性および機能を回復させることができる治療を提供する。NHR遺伝子治療は、網膜組織において天然に発現される特定のNHRの標的送達および発現を包含する。多くの遺伝的欠陥を救済することが示されており、促進S錐体症候群、ゴールドマンファブレ(Goldman Favre)症候群およびRP、ならびに網膜および黄斑変性の他の形態などのまれなIRDに対する視力温存療法につながる可能性がある。
【0057】
本発明の組成物および方法を使用する遺伝子治療は、網膜における疾患状態を改変し得る。従って、本発明の組成物および方法は、広範な適用性を有する治療選択肢を提供する。1つの特定の実施形態において、治療用NHRsは、網膜恒常性を回復させ、遺伝的遺伝子突然変異によって引き起こされる欠陥を救済することができる鍵となる遺伝子ネットワークの調節を通して、疾患進行を修飾する能力について同定されている。遺伝子修飾因子の使用は、単一遺伝子置換療法と比較して、様々な網膜変性疾患を治療する強力かつ著しく広範な手段を表す。単一遺伝子置換療法は稀な網膜疾患において非常に有望であることが示されているが、それらは非常に特異的であり、遺伝的欠陥を引き起こす多数の疾患を改善することができない。一方、NHRsは網膜細胞の発症、成熟、代謝、視覚周期機能および生存を調節する上で重要な役割を果たす。例えば、Olivaresら、Scientific Reports,2017,690(Scientific Reports|7:690||DOI:10.1038/s41598-017-00788-3)を参照のこと
【0058】
疾患の転帰は、修飾因子対立遺伝子と同様に一次突然変異の結果である。Nr2e3は、網膜の発症および機能におけるいくつかの重要な経路のマスター調節因子であると考えられている。Nr2e3は一次突然変異の存在下で鍵となる遺伝子ネットワークのホメオスタシス状態を再設定することにより、潜在的に疾患を予防し、減弱させる(
図3)。
【0059】
Nr2e3は、RPに影響する細胞生存、代謝、炎症および光伝達などの複数の転写ネットワークを調節する。Nr2e3とNr1d1は、同じ遺伝子ネットワークの多くを調節する補助因子である。Roraは、光受容体細胞の消失が失明につながるAMDにおいて保護的対立遺伝子を提供することが前臨床的に実証されている。Nr2e3は、Nr1d1とRoraの両方の発現を調節する。このように、核内受容体は網膜の正常な発達と機能を調節するために重複したネットワークで働く。これらの受容体は数百の遺伝子および多数のネットワークの遺伝子発現に影響を及ぼし、そのようなものは、網膜疾患および変性の強力な修飾因子である可能性がある。
【0060】
現在いくつかの遺伝子置換臨床試験が進行中であるが、これらの治療は少数の既知のRP遺伝子のみを扱い、全てのRP患者の約40%では不可能である原発性突然変異の同定に依存している。さらに、RP疾患の重症度および進行は、突然変異が存在する遺伝的背景によって大きく影響される。対照的に、本発明の組成物および方法は、Nr2e3の遺伝子配列全体が使用され得るので、実質的に全てのRP患者を処置する際に適用可能である。
【0061】
Nr1d1, 重要なNHR遺伝子、は、分化、代謝および概日リズムのような多くのプロセスを調節する。最近、様々な前臨床研究により、網膜におけるNr1d1の役割が実証された。Nr1d1は、網膜の発症および機能の重要な転写調節因子であるNr2e3、CRXおよびNRLと複合体を形成する。重要なことは、Nr1d1が、Nr2r3タンパク質に直接結合し、相乗的に作用して光受容体特異的遺伝子の転写を調節することである。従って、Nr1d1遺伝子を使用することによって、本発明の組成物および方法は、Nr2e3関連網膜変性の効果を改変するために使用され得る(
図4および5)。
【0062】
IRDsは家族内で遺伝し、進行性疾患、重度の視覚障害および失明に至る遺伝子突然変異によって引き起こされる。これらの病態を治療することは、潜在的な治療遺伝子標的の容積が少ないため、重大な課題であった。遺伝子補充療法は変異遺伝子に対して正常な網膜機能の持続的な回復効果をもたらす有望なアプローチであるが、このような治療法は一度に1つの遺伝子にしか対処できず、その有効性を制限する。RPに関連する200を超える既知の遺伝子のそれぞれにおける遺伝子欠陥のための特注遺伝子治療を開発することは、高額であるばかりでなく、遺伝子の送達に影響を及ぼすサイズ、クラス、または局在化のために不可能である可能性がある。すべての遺伝子および疾患の発現が遺伝子治療に適しているわけではなく、遺伝子突然変異が未知のままである患者の約40%については、治療選択肢がほとんどないか、または全くない。
【0063】
対照的に、本発明の組成物および方法は変異遺伝子の知識を必要とすることなく、RPの複数の形態を改善することができ、実質的にすべてのRP患者のための治療の実現可能性を提供する。
【0064】
RPは、4,000人毎に約1人に影響を及ぼす不均一な多面的IRDのグループである。現在、RPに対する治癒はなく、RPの40%以上は遺伝的に診断できない。RPは不均一で、発症年齢、進行速度、さらには遺伝的病因においても大きく異なっているが、光受容体(PR)細胞変性の一般的な病態が発症する。RPに加えて、特に乾燥AMDの治療を含む多数の他の網膜変性疾患に有効な治療は可能でない。
【0065】
本発明の別の実施形態は、脈絡膜血管新生(CNV)などの眼疾患または障害を治療するためのトランスフェリン遺伝子の使用を含む。CNVとは、偽黄色腫弾性線条、血管様線条、ヒストプラスマ症、点状内部脈絡膜症および湿潤加齢黄斑変性症(AMD)などの疾患において重度の視力喪失につながりうる脈絡膜血管系の制御不能な増殖を指す。湿潤AMDはドルーゼン(補体成分、脂質、およびアポリポ蛋白)の沈着が、限局性虚血領域を引き起こし、低酸素症をもたらす場合に起こる。低酸素は、脈絡膜内皮細胞を活性化してマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を分泌する血管内皮増殖因子(VEGF)の分泌の増加につながると考えられている。メタロプロテイナーゼは、細胞外マトリックスを分解し、それによって内皮細胞の増殖と網膜への移動を可能にする。MMPの影響により、最終的には新たな血管、すなわちCNVが発生し、網膜剥離や出血、血液や脂質の漏出による網膜下病変の形成を引き起こす可能性がある。いったん明らかになると、CNVは、先進工業国の高齢者集団における視力喪失の主要な原因である。
【0066】
CNVの治療は、現在、患者集団の一部に限定されており、血管透過性亢進および新しい血管形成におけるVEGFの有害な役割を抑制することに焦点を当てている。しかし、VEGFは、創傷治癒、光受容体生存、脈絡膜毛細血管床の維持などの生理学的活性においても建設的な鍵となる役割を果たしている。現在、ラニビズマブ:Ranibizumab(LucentisTM)、アフリベルセプトAflibercept(EyleaTM)およびペガプタニブ:pegaptanib(MacugenTM)は、CNVを治療するために、現在までに承認されている唯一の2つの治療薬である。これらの薬剤は、VEGFを阻害する。ラニビズマブは一般にCNVの治療においてペガプタニブよりも有効であることが示されている。ラニビズマブはVEGF-Aのすべてのアイソフォームに結合し、血管透過性および増殖を含むVEGF活性を阻害する。2つの言及された治療剤の他に、ラニビズマブの親全長抗体であるベバシズマブ(Avastin(商標))もまた、CNVのオフラベル処置として探求されている。
【0067】
CNVの治療におけるこれらの治療法の成功にもかかわらず、活性化内皮細胞における細胞死の欠如、および創傷治癒のようなVEGF関連生理活性の潜在的障害を含む、これらの治療法に固有の欠点がある。さらに、ラニビズマブの使用は、ヒトにおける硝子体内投与後の血栓塞栓性イベント発生率の増加を含む全身リスクにつながる。硝子体内ベバシズマブはまた、虚血発作、血圧上昇、脳血管障害、および死亡と関連している。また、CNV患者を対象とした臨床試験において、ラニビズマブの奏効率はCNV患者で約40%に過ぎず、文字数の増加はわずか7.2であった。
【0068】
いくつかの実施形態では、本発明の組換えDNAおよび/または組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターがトランスフェリン-ツムスタチンタンパク質をコードする融合遺伝子を含む。このような組成物は例えば、CNVおよび他の眼疾患または障害を処置するための遺伝子治療において使用され得る。本発明のrAAVベクターはまた、本明細書中に開示される種々の治療遺伝子の1つ以上と組み合わせて、眼の状態または疾患の発現に関連する欠陥遺伝子の種々の機能的対応物をコードする融合遺伝子を含み得ることが理解されるべきである。欠陥遺伝子の機能的対応物のいくつかは、配列番号1~69の奇数番号の配列に開示されている。
【0069】
いくつかの実施形態において、本発明の遺伝子治療は眼の状態または疾患を改善、予防、または処置するために、特定のタンパク質(例えば、配列番号2~70における偶数の配列)のレベルを増加させるために使用される。本明細書で使用される場合、タンパク質(例えば、核ホルモン受容体)、下流シグナル伝達成分(例えば、フォトトランスデューシン)、または光受容体のレベルまたは活性の「増加」は、RT-PCR、ウェスタンブロット、トランス活性化アッセイ、またはエレクトロレチノグラフィーなどの当技術分野で公知の方法によって測定することができる。
発現レベルまたは活性の増加は、処置前の発現レベルまたは活性と比較した場合、1%、2%、5%、10%、25%、50%、75%、1倍、2倍、5倍、または10倍の増加、または処置を受けていない眼疾患または障害に罹患している被験体における発現レベルまたは活性とすることができる。同様に、および本明細書に記載されるように、タンパク質(例えば、核ホルモン受容体)、下流シグナル伝達成分(すなわち、フォトトランスデューシン)、または光受容体のレベルまたは活性の「低下」はRT-PCR、ウェスタンブロット、トランス活性化アッセイ、または網膜電図などの当技術分野で公知の方法によって測定することができ、RT-PCRまたはトランス活性化アッセイなどの当技術分野で公知の方法によって測定することができる。発現レベルまたは活性の減少は、治療前の発現レベルまたは活性と比較した場合、1%、2%、5%、10%、25%、50%、75%、1倍、2倍、5倍、または10倍に減少され得るか、または治療を受けていない眼疾患または障害に罹患している被験体における発現レベルまたは活性に減少され得る。
【0070】
対象は任意の哺乳動物(例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ)、ならびに家畜または食物消費のために成長させた動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、およびヤギ)であり得る。好ましい態様において、哺乳動物はヒトである。
【0071】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物が、コーン光受容体特異的トランスデューシンの発現または活性を低下させ、コーン光受容体特異的トランスデューシンは、Gnat2を含む。あるいはまたはさらに、本発明の組成物は、S-コーン特異的オプシンの発現または活性を減少させ、ここで、S-コーン特異的オプシンはOpn1swを含む。
【0072】
治療が特定のタンパク質のレベルを増加または減少させるかどうかは、眼の臨床状態または疾患がそれぞれそのタンパク質のレベルの減少または増加によるものであるかどうかに依存することを認識すべきである。一般に、眼の状態または疾患は、目的の遺伝子によって発現される「正常」または非突然変異タンパク質のレベルの減少による。
【0073】
ヒトNr1d1の適切な核酸配列は、配列番号5またはその断片に記載されている。ヒトNr2e3の適切な核酸配列は、配列番号1またはその断片に記載されている。ヒトRoraの適切な核酸配列は、配列番号7またはその断片に記載される。ヒトNupr1の適切な核酸配列は、配列番号9またはその断片に記載される。ヒトNr2c1の適切な核酸配列は、配列番号11またはその断片に記載される。様々な遺伝子の他の核酸配列は配列番号1~69の奇数番号の配列に、それぞれ配列番号2~70の偶数番号の配列の対応するタンパク質と共に記載されている。
【0074】
本発明を含む組成物は、アデノ随伴ウイルスに基づく遺伝子送達を介して投与することができる。しかし、遺伝子またはオリゴヌクレオチドはまた、エレクトロポレーション、生分解性ナイルレッドポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)ナノ粒子ベースの遺伝子送達、小分子ベースの遺伝子送達、裸のDNA送達、またはゲノム編集システム(例えば、CRISPR)を介して投与され得る。
【0075】
典型的にはポリヌクレオチド(例えば、組換えDNAまたはrAAVベクター)は投与前に精製および/または単離される。具体的には本明細書中で使用される場合、「単離された」または「精製された」核酸分子は化学的に合成される場合、他の化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。精製された化合物(例えば、組換えDNAまたはrAAVベクター)は、目的の化合物の少なくとも60重量%(乾燥重量)である。好ましくは、調製物が少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%の目的化合物である。例えば、精製された化合物は、重量で少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、98%、99%、または100%(w/w)の所望の化合物であるものである。純度は任意の適切な標準的な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、または質量分析によって測定される。精製または単離されたポリヌクレオチド(リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA))は、その天然に存在する状態でそれに隣接する遺伝子または配列を含まない。精製はまた、ヒト被験体(例えば、感染性因子または毒性因子を欠く)への投与のために安全である滅菌の程度に定義される。
【0076】
同様に、「実質的に純粋な」とは、それに天然に付随する成分から分離されたヌクレオチドを意味する。典型的には、ヌクレオチドが、それらが少なくとも60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、または99重量%である場合、実質的に純粋であり、タンパク質およびそれらが天然に会合している天然に存在する有機分子を含まない。
【0077】
特定のポリヌクレオチド配列の「保存的に改変された変異」は、同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、またはポリヌクレオチドがアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同一の配列を指す。遺伝暗号の縮重のために、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のポリペプチドをコードする。例えば、コドンCGU、CGC、CGA、CGG、AGA、およびAGGはすべてアミノ酸アルギニンをコードする。従って、アルギニンがコドンによって特定されるあらゆる位置において、コドンは、コードされるポリペプチドを変化させることなく、記載される対応するコドンのいずれかに変化され得る。ポリペプチドをコードする本明細書中に記載されるあらゆるポリヌクレオチド配列はまた、あらゆる可能なサイレント変異を記載する。 このような核酸変異は、「保存的に修飾された変異」の1つの種である「サイレント置換」または「サイレント変異」である。従って、サイレント置換は、アミノ酸をコードするあらゆる核酸配列の暗黙の特徴である。当業者は、核酸中の各コドン(通常はメチオニンの唯一のコドンであるAUGを除く)を修飾して、標準的な技術によって機能的に同一の分子を得ることができることを認識するのであろう。
【0078】
同様に、アミノ酸配列中の1つまたはいくつかのアミノ酸における「保存的アミノ酸置換」は、非常に類似した特性を有する異なるアミノ酸で置換され、また、特定のアミノ酸配列またはアミノ酸をコードする特定の核酸配列に非常に類似しているとして容易に同定される。任意の特定の配列のこのような保存的に置換された変異体は、本発明の特徴である。コードされた配列中の単一のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸(典型的には5%未満、より典型的には1%未満)を改変、付加または欠失させる個々の置換、欠失または付加は「保存的に改変された変異」であり、ここで、改変は、化学的に類似したアミノ酸でのアミノ酸の置換を生じる。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当該分野で周知である。例えば、Creighton(1984)Proteins, W.H. Freeman and Company(参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
【0079】
「単離された核酸」とは、核酸が由来する生物の天然に存在するゲノムにおいてそれに隣接する遺伝子を含まない核酸を意味する。
この用語は例えば、(a)天然に存在するゲノムDNA分子の一部であるが、それが天然に存在する生物のゲノム中の分子のその部分に隣接する核酸配列の両方によって隣接されないDNA;(b)得られる分子が任意の天然に存在するベクターまたはゲノムDNAと同一でないような様式で、ベクターまたは原核生物のゲノムDNAに組み込まれる核酸;(c)cDNA、ゲノム断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって産生される断片、または制限断片のような別個の分子;ならびに(d)ハイブリッド遺伝子の一部である組換えヌクレオチド配列(すなわち、融合タンパク質をコードする遺伝子)を包含する。本発明による単離された核酸分子は、合成的に産生された分子、ならびに化学的に改変されたおよび/または改変された骨格を有する任意の核酸をさらに含む。例えば、単離された核酸は、精製されたcDNAまたはRNAポリヌクレオチドである。
【0080】
「核酸分子」という語句は、主に物理的核酸を指し、「核酸配列」という語句は、核酸分子のヌクレオチドの線形リストを指すが、2つの語句は互換的に使用することができる。
【0081】
製剤または製剤成分の用語「有効量」および「治療有効量」とは、単独でまたは組み合わせて、所望の効果を提供するのに十分な量の製剤または成分を意味し、例えば、「有効量」とは被験体における眼疾患を低減または予防するために必要とされる、単独でまたは組み合わせての化合物の量を意味する。最終的には、主治医または獣医師が適切な量と用法・用量を決定する。
【0082】
本明細書中で使用される用語「処置する」および「処置」は、有害な状態、障害、または疾患(例えば、眼疾患)に罹患した臨床的に症候性の個体への薬剤または製剤の投与をいい、その結果、症状の重症度および/または頻度の減少をもたらし、症状および/またはその根底にある原因を排除し、そして/または損傷の改善または改善を容易にする。
【0083】
用語「予防する」および「予防」は特定の有害な状態、障害、または疾患に感受性または素因がある臨床的に無症候性の個体への薬剤または組成物の投与を指し、したがって、症状の発生および/またはそれらの基礎にある原因の予防に関する。
【0084】
「コード配列」または選択されたポリペプチドを「コードする」配列は、適切な調節配列の制御下に置かれた場合、in vivoで(DNAの場合)転写され、(mRNAの場合)ポリペプチドに翻訳される核酸分子である。コード配列の境界は、5'(アミノ)末端の開始コドンおよび3'(カルボキシ)末端の翻訳停止コドンによって決定される。転写終結配列が、コード配列の3'側にあってもよい。
【0085】
「ベクター」とはプラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオンなどの任意の遺伝的要素を意味し、これらは適切な制御要素と関連する場合に複製が可能であり、かつ遺伝子配列を細胞に伝達することができる。従って、その用語は、クローニングおよび発現媒体、加えてウイルスベクターを含む。
【0086】
「組換えベクター」は、インビボで発現することができる異種核酸配列を含むベクターを指す。
【0087】
用語「導入遺伝子」は、細胞に導入され、所望の治療結果をもたらす適切な条件下で転写、翻訳、および/または発現され得るポリヌクレオチドをいう。
【0088】
ウイルス力価に関連して使用される「ゲノム粒子(gp)」または「ゲノム当量」とは、感染性または機能性に関わらず、組換えAAV DNAゲノムを含むビリオンの数を指す。特定のベクター調製物中のゲノム粒子の数はClarkら、Humに記載されているような手順によって測定することができる。Gene Ther., 1999, 10, pp. 1031-1039;およびVeldwijk et al., Mol. Ther., 2002, 6, pp. 272-278(これらの全ては、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0089】
用語「トランスフェクション」は、細胞による外来DNAの取り込みを指すために使用され、外因性DNAが細胞膜内に導入された場合、細胞は「トランスフェクト」されている。多くのトランスフェクション技術が当技術分野で一般に知られている。例えば、Grahamら、1973, Virology, 52:456, Sambrookら、1989, Molecular Cloning, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York, Davisら、1986, Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier, and Chuら、1981, Gene 13:197を参照されたい。このような技術は、1つ以上の外因性DNA部分を適切な宿主細胞に導入するために使用され得る。
【0090】
用語「異種」は、通常は結合されない、かつ/または通常は特定の細胞と伴っていない配列を意味する。したがって、核酸構築物またはベクターの「異種」領域は、天然で、他の分子と伴って見出されない他の核酸分子内のまたはそれに付着した核酸の部分である。例えば、核酸構築物の異種領域は、天然で、該コード配列と伴っては見出されない配列に隣接するコード配列を含み得る。異種コード配列の別の例は、コード配列自体が天然に見出されない構築物(例えば、天然遺伝子とは異なるコドンを有する合成配列)である。同様に、細胞中に通常存在しない構築物で形質転換された細胞は、本発明の目的のために異種であると考えられる。対立遺伝子変異または天然に存在する突然変異事象は、本明細書中で使用されるように、異種DNAを生じない。
【0091】
DNA「制御配列」という用語は、複製、転写、および/または翻訳に必要な配列を指し、したがって、この用語は、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製起点、内部リボソーム侵入部位(「IRES」)、エンハンサーなどを総称する。しかしながら、選択されたコード配列が適切な宿主細胞において複製、転写および翻訳され得る限り、これらの制御配列の全てが常に存在する必要はないことに注意すべきである。
【0092】
「プロモーター」という用語は、DNA調節配列を含むヌクレオチド領域を指し、調節配列はRNAポリメラーゼに結合し、下流(3'方向)コード配列の転写を開始することができる遺伝子に由来する。転写プロモーターは、「誘導性プロモーター」(プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現が分析物、補因子、調節タンパク質などによって誘導される場合)、「抑制性プロモーター」(プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現が分析物、補因子、調節タンパク質などによって誘導される場合)、および「構成性プロモーター」を含むことができる。
【0093】
「作動可能に連結された」という用語は、構成要素が、通常の機能を果たすように構成されている要素の配列を意味し、したがって、コード配列に作動可能に連結された制御配列はコード配列の発現に影響を及ぼすことができる。制御配列がその発現を指示するように機能する限り、コード配列と連続している必要はないことを理解されたい。例えば、介在する非翻訳であるが転写される配列が、プロモーター配列とコード配列との間に存在することができ、該プロモーター配列は、依然として当該コード配列に「作動可能に連結された」とみなすことができる。
【0094】
「調節する」という語は、作用または結果の量または強さを変化させる(例えば、増強、増強、予防、減少、減少、または排除する)ことを意味する。
【0095】
「改善する」および「軽減する」という用語は、本明細書では互換的に使用され、低減または軽量化することを意味する。例えば、疾患または疾患の症状をより重篤にしないようにすることによって、疾患または障害の症状を改善することができる。
【0096】
用語「治療的」、「有効量」および「治療的有効量」は、本明細書において互換的に使用され、対象における症状の予防、発症の遅延または改善、または所望の生物学的結果の達成などの所望の応答を提供するのに十分な量の組成物または薬剤を指す。
【0097】
特定の眼の状態または疾患を「治療する」または「治療する」には(1)眼の状態または疾患を予防すること、すなわち、その眼の状態または疾患の発症を予防すること、またはその疾患に曝露される可能性があるか、またはその疾病に罹患しやすいが、まだ眼の状態または疾患の症状を経験または表示しない被験体において、その眼の状態または疾患をより低強度で引き起こすこと、(2)眼の状態または疾患を阻害すること、すなわち、その眼の状態または疾患の発症を停止または逆転させること、または(3)眼の状態または疾患の症状を緩和すること、すなわち、被験体が経験する症状の数を減少させること、ならびに眼の状態または疾患に関連する細胞病理を変化させることが含まれる。
【0098】
本発明は、本明細書に開示される特定の製剤または製法パラメータに限定されないことを理解されたい。本明細書に記載されたものと類似または同等の多くの方法および材料を本発明の実施に使用することができるが、簡潔および明瞭にするために、本明細書に記載される代表的な材料、方法、およびプロトコルは、ほんの少数である。
【0099】
本発明は、(i)眼の疾患または状態を処置するための治療遺伝子、(ii)眼の疾患または状態を引き起こす欠陥遺伝子の正常遺伝子、(iii)またはその両方を含むrAAVを利用する。これらの遺伝子は、本明細書中に開示され、そして配列番号1~69中の奇数番号の配列に示されるものを含む。
【0100】
本明細書中に記載される構築物は、当業者に公知のいくつかのrAAV遺伝子送達技術のいずれかを使用して、眼の状態または疾患の処置を必要とする被験体に送達される。例えば、遺伝子は被験体に直接送達され得るか、または代わりに、ex vivoで、適切な細胞(例えば、被験体に由来する細胞)に送達され得、そして細胞は、被験体に再移植される。
【0101】
種々のAAVベクター系が、遺伝子送達のために開発されている。AAVベクターは、当該分野で周知の技術を使用して容易に構築され得る。U.S. Pat.番号5,173,414 および5,139,941;国際公開番号WO 92/01070(1992年1月23日公開)およびWO 93/03769(1993年3月4日公開); Lebkowskiら、Molec. Cell.Biol.(1988)8:3988-3996; Vincentら、Vaccines 90(1990)(Cold Spring Harbor Laboratory Press); Carter, B. J. Current Opinion in Biotechnology(1992)3:533-539; Muzyczka, N. Current Topics in Microbiol.&Immunol.(1992)158:97-129; Kotin, R. M. Human Gene Therapy (1994)5:793-801; Shelling and Smith, Gene Therapy (1994)1:165-169;およびZhou et al., J. Exp.Med (1994)179:1867-1875。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態は、Nr1d1、Nr2e3、Rora、Nupr1、またはNr2c1の生物学的に活性な断片または変異体をコードする核酸に関する。生物学的に活性な断片または改変体は「機能的等価物」であり、この用語は、当該分野で十分に理解される。
【0103】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド、プロモーター、ならびに転写および翻訳停止シグナルを含む組換え発現ベクターに関する。種々のヌクレオチドおよび制御配列を一緒に連結して、1つ以上の便利な制限部位を含み得る組換え発現ベクターを産生し得、このような部位におけるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの挿入または置換を可能にする。あるいは、ポリヌクレオチドがポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む核酸構築物を発現のための適切なベクターに挿入することによって発現され得る。発現ベクターの作製において、コード配列が発現のための適切な制御配列と作動可能に連結されるように、コード配列はベクター中に位置する。
【0104】
本発明のさらなる目的、利点、および新規な特徴は限定することを意図しない以下の実施例を検討することにより、当業者に明らかになるのであろう。実施例では、実施に建設的に縮小された手順を現在の時制で説明し、実験室で実施された手順を過去の時制で説明する。
【実施例】
【0105】
実施例1:
AAV2.8-mNr2e3遺伝子増強療法の、rd7マウスにおける網膜変性の予防:
新生児rd7マウスにおけるAAV2.8-mNr2e3遺伝子送達が、網膜変性を予防した。P0で注射し、3か月齢で評価したrd7網膜は、眼底、形態、オプシン遺伝子の発現の変化で測定したように、持続的な救済を示した(
図6)。無処置とAAV2.8-Nr2e3(1x10
9ゲノムコピー(gc)/0.5μl/眼)のファンダウス画像の比較分析は、パン網膜のスポット数、ロゼット数、および渦状紋数の削減など、治療動物における疾患表現型タイプの削減を示した。網膜切片の組織学と免疫化学は、網膜形成異常の完全な逆転と、未処置眼と対照的に処置眼における網膜層の正常な形態学的特徴の回復を示した。免疫化学はまた、光受容体層におけるブルーオプシン、グリーンオプシン、およびロドプシンタンパク質の均一で均質な発現を示した。救済のメカニズムが網膜の恒常性状態の再確立を通していることを示す7つのNr2e3調節遺伝子ネットワークにおいて、40以上の遺伝子の再建が観察された(
図7)。
【0106】
実施例2:
AAV2.8-Nr2e3の、rd7疾患の初期中間段階における網膜変性の救済:
rd7網膜変性の初期中間段階におけるAAV2.8-Nr2e3遺伝子送達が、網膜疾患を逆転させた。P21に注射し、3カ月齢で評価したrd7網膜は、網膜斑点と網膜異形成の逆転を示した(図 8)。眼底および組織学的検査では、網膜の斑点および渦状紋の消失について、未治療の網膜と比較して治療眼における網膜形成異常の完全な逆転が認められた。免疫化学により、ブルーオプシン、グリーンオプシン、およびロドプシンタンパク質の均一で均質な発現、ならびに正常な光受容体層の形態の回復が確認された。
【0107】
実施例3:
AAV5-mNr2e3の、疾患の初期-中間段階での網膜下注射および硝子体内(IVT)注射後のrd7マウスにおける網膜変性の逆転:
AAV5-mNr2e3構築物を、HEK-293細胞の標準的なトリプルプラスミド(ネズミNr2e3、ヘルパー、Rep2/Cap5)トランスフェクションおよび密度勾配超遠心処理を使用する精製を使用して作製した。以下の実施例4 を参照。
AAV5.mNr2e3(1x10
9gc/0.5μl/眼)は、中間段階で網膜形成不全と疾患発現が起こった3か月齢rd7マウスに投与した。
生後3ヵ月時の投与は、患者が治療を受ける可能性がある病期とより密接に似たものとなった。本試験では、投与経路(IVT対網膜下)の影響も分娩および有効性について評価した。予備的データは、IVTと網膜下経路の両方によるAAV5-mNr2e3療法が、臨床的(網膜スポットの消失)および組織学的(渦状紋とロゼットの消失)発現を効果的に逆転させ、rd7マウスにおけるオプシン発現が確認されたことを示した(
図9、10、11)。緑色蛍光タンパク質(GFP)発現は、網膜への遺伝子送達を確認した。データの分析に基づくと、IVTと網膜下投与経路との間のAAV5-mNr2e3の有効性は、定量的ではないもの、類似しているようであった。これらのデータは、Nr2e3がヒトにおけるNr2e3関連劣性網膜変性疾患を治療するための強力な遺伝子治療薬となり得ることを実証する。
【0108】
実施例4:
AAV5-mNr2e3構築物を、HEK-293細胞の標準的なトリプルプラスミド(ネズミNr2e3、ヘルパー、Rep2/Cap5)トランスフェクションおよび密度勾配超遠心処理を使用する精製を使用して生成した。簡潔には、hNr2e3導入遺伝子カセットプラスミドを設計し、合成し、そして細菌細胞中で産生した。プラスミドの同定、および種々の調節エレメント(AAV2-ITR、CMVエンハンサー、ウサギグロブリン遺伝子由来のCBAプロモーターおよびキメライントロン、ならびにSV40ポリA)の完全性について特徴付けを行った。Rep配列は、野生型AAV2血清型から選択し、cap遺伝子配列は、AAV5野生型血清型から選択した。ヘルパープラスミドを用いて、接着性HEK-293細胞におけるAAV5産生のための種々の因子を提供した。簡単に述べると、HEK-293細胞をCellstack(商標)培養皿上で増殖させ、ヘルパー、rep/capおよび導入遺伝子プラスミドでトランスフェクトした。産生後、細胞を溶解し、密度勾配超遠心分離プロセスを用いて生成物を精製した。精製産物中の導入遺伝子コピー数(vg/mL)をqPCR方法を用いて決定した。精製産物を-70℃で保存し、前臨床in vitroおよびin vivo POC試験に使用した。
【0109】
本発明の上記の検討は、例証および説明のために示されている。上記は、本発明を本願において開示した形態に限定するものではない。本発明の説明は、1つまたは複数の実施形態および特定の変形および修飾の説明を含んでいるが、他の変形および修飾は、例えば、本開示を理解した後、当業者の技術および知識の範囲内であり得るように、本発明の範囲内である。権利請求されるものに対する、代替の、交換可能な、および/または均等な構造、機能、範囲、または工程を含めて、許される範囲内で別の実施形態を含む権利を得るように意図される。上記は、そのような代替の、交換可能なおよび/または均等な構造、機能、範囲、または工程が本願に開示されているか否かに係わらない。また、いかなる特許可能な主題も公に供する意図はない。本明細書中に引用される全ての参考文献は、その全体が参考として援用される。
【配列表】
【国際調査報告】