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特表2022-530939リチウムイオン固体電解質及びその製造方法
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  • 特表-リチウムイオン固体電解質及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン固体電解質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20220628BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220628BHJP
   C01B 33/113 20060101ALI20220628BHJP
   C01B 33/00 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/0562
C01B33/113 Z
C01B33/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560350
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(85)【翻訳文提出日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 CN2019129039
(87)【国際公開番号】W WO2020258803
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】201910563541.8
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521440725
【氏名又は名称】上海空間電源研究所
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI INSTITUTE OF SPACE POWER‐SOURCES
(74)【代理人】
【識別番号】100124659
【弁理士】
【氏名又は名称】白洲 一新
(72)【発明者】
【氏名】タン,ウェイピン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,ジンゼ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,チン
(72)【発明者】
【氏名】ジュ,ライ
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ヨンミン
(72)【発明者】
【氏名】ジャ,ディ
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ショウミン
(72)【発明者】
【氏名】テン,ウンセイ
(72)【発明者】
【氏名】チン,ユーファー
【テーマコード(参考)】
4G072
5H029
【Fターム(参考)】
4G072AA35
4G072AA50
4G072BB05
4G072GG01
4G072HH24
4G072JJ30
4G072LL14
4G072MM02
4G072MM08
4G072MM14
4G072MM23
4G072MM38
4G072RR12
4G072UU30
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ12
5H029HJ02
5H029HJ14
(57)【要約】
本発明は、固体リチウム電池の分野に属するリチウムイオン固体電解質およびその製造方法に関するものであり、固体電池の固体電解質として使用するのに適した新しいタイプのLi超イオン伝導体Li1+xZr2P3-xSixO12(0≦x≦3)を提供するものである。10-3S/cmを超えるイオン伝導率を有し、電気化学的安定性が優れており、副反応がなく、同時に空気環境における安定性も優れており、固体電池製造時の加工性もよく、電極材料との機械的、化学的互換性も優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Li1+xZr2P3-xSixO12(ここで、0≦x≦3)であることと、その固体電解質がLi超イオン伝導体であることとを特徴とするリチウムイオン固体電解質。
【請求項2】
固体電解質がLi3Si2Zr2PO12であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン固体電解質。
【請求項3】
(1)Na超イオン伝導体粉末とLi塩とを混合した後、Li塩が溶融状態になるまで加熱撹拌した後、室温まで降温し、Li超イオン伝導体/リチウム溶融塩混合物を得るステップと、
(2)前記ステップ(1)で得られたLi超イオン伝導体/リチウム溶融塩混合物を蒸留水またはアルコールと混合し、蒸留水/アルコールでリチウム溶融塩を溶解した後、濾過し、フィルターケークを洗浄し、Li超イオン伝導体粉末を得、このLi超イオン伝導体粉末をアルコールまたは蒸留水で繰り返し洗浄し、精製されたLi超イオン伝導体粉末を得るステップと、
(3)前記ステップ(2)で得られた精製Li超イオン伝導体粉末を熱処理してリチウムイオン固体電解質を得るステップとからなる、
リチウムイオン固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(1)において、Na超イオン伝導体粉末の化学式がNa1+xZr2P3-xSixO12(ここで、0≦x≦3)あることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記Na超イオン伝導体粉末が、Na3Si2Zr2PO12、Na4Zr2(SiO4)3、NaZr2(PO4)3、Na3Hf2Si2PO12、Na3La(PO4)2、Na1.3Ti1.7Al0.3(PO4)3、Na3V2(PO4)3、またはNa2.96Nb0.04Zr1.96Si2PO12であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)において、リチウム塩が、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、水酸化リチウムの1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(1)における加熱温度が、リチウム塩の融点以上50~150度の範囲内であることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(1)における加熱時間が2~100hであることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ(2)において洗浄を行う際に、メタノール、エタノール又は脱イオン水を用いることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ステップ(3)における熱処理温度が300~900℃、好ましくは300~700℃であり、熱処理時間が2~10hであることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン固体電解質の技術分野に属するリチウムイオン固体電解質およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は現在、エネルギー密度が最も高いエネルギー貯蔵デバイスであるが、エネルギー密度が次第に上限に達し、しかもエネルギー密度の向上によりリチウムイオン電池の安全性問題が日増しに顕著になっている。固体電池はリチウムイオン電池よりも更にエネルギー密度の高い、更に安全なエネルギー貯蔵デバイスとして期待されている。固体電解質の性能は、固体電池の性能を決定する最も重要な要素である。
【0003】
従来技術では、硫黄系と逆ペロブスカイト構造の固体電解質の電子伝導度は10-2S/cmを達成できたが、次のような問題があった。
1 化学的安定性が悪いこと。
2 電気化学的安定性が悪いこと。
3 加工性能が悪いこと。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明が解決しようとする課題は、従来技術の欠点を克服し、化学的安定性、電気化学的安定性および取り扱い性の優れたかつ高いイオン伝導度(10-3S/cmより大きい)を有するリチウムイオン固体電解質およびその製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
リチウムイオン固体電解質であって、当該固体電解質は、リチウム(Li)超イオン伝導体であって、化学式Li1+xZr2P3-xSixO12(ここで、0≦x≦3)好ましくはLi3Si2Zr2PO12である。
リチウムイオン固体電解質の製造方法であって、当該方法のステップは以下のものを含む。
【0006】
(1)Liイオンを含む溶液中にNa超イオン伝導体粉末を投入し、加熱撹拌し、加熱撹拌過程にNaイオンとLiイオンとが交換反応が発生し、混合物を得るステップと、
(2)前記ステップ(1)で得られた混合物を濾過し、ケークを洗浄してLi超イオン伝導体粉末を得た後、このLi超イオン伝導体粉末をアルコール又は蒸留水で繰り返し洗浄し、精製されたLi超イオン伝導体粉末を得るステップと、
(3)前記ステップ(2)で得られた精製Li超イオン伝導体粉末を熱処理してリチウムイオン固体電解質を得るステップ。
【0007】
前記ステップ(1)において、Na超イオン伝導体粉末の化学式はNa1+xZr2P3-xSixO12(0≦x≦3)であり、好ましくはNa3Si2Zr2PO12、Na4Zr2(SiO4)3、Na3Zr2(PO4)3、Na3Hf2Si2PO12、Na3La(PO4)2、Na1.3Ti1.7Al0.3(PO4)3、Na3V2(PO4)3、Na2.96Nb0.04Zr1.96Si2PO12である
【0008】
前記ステップ(1)において、Liイオンを含む溶液の溶媒がイオン性液体であり、イオン性液体がC6H11BF4N2、C8H20BF4NO、C7H16BF4N、C8H11F6N3O4S2、C8H16F6N2O4S2、C6H11F2N3O4S2またはC9H20F2N2O4S2である。Liイオンを生成するリチウム塩は、LiClO4、LiPF6、LiNO3、LiCl、LiBF4、LiTFSI、LiBOB、LiDFOBまたはLiFSIである。
【0009】
前記ステップ(1)において、加熱温度は50~400℃、撹拌時間は2~100hであることが好ましい。
前記ステップ(2)において、洗浄を行う際には、メタノール、エタノール又は脱イオン水を用いることが好ましい。
前記ステップ(3)において、熱処理温度が300~900℃であって、好ましくは300~700℃であり、熱処理時間が2~10hであることが好ましい。
【0010】
リチウムイオン固体電解質の製造方法であって、当該方法のステップは以下のものを含む。
(1)Na超イオン伝導体とLi塩とを混合した後、Li塩が溶融状態になるまで加熱撹拌し、加熱撹拌過程においてNaイオンとLiイオンとの交換反応を起こし、室温まで低下させ、Li超イオン伝導体/リチウム溶融塩混合物を得るステップと、
(2)ステップ(1)で得られたLi超イオン伝導体/リチウム溶融塩混合物と蒸留水/アルコールとを混合し、蒸留水/アルコールでリチウム溶融塩を溶解除去した後、濾過し、濾過ケーキを洗浄し、Li超イオン伝導体粉末を得、このLi超イオン伝導体粉末をアルコールまたは蒸留水で繰り返し洗浄し、精製されたLi超イオン伝導体粉末を得るステップと、
(3)ステップ(2)で得られた精製Li超イオン伝導体粉末を熱処理してリチウムイオン固体電解質を得るステップ。
【0011】
前記ステップ(1)において、Na超イオン伝導体粉末の化学式はNa1+xZr2P3-xSixO12(ここで、0≦x≦3)であり、好ましくはNa3Si2Zr2PO12、Na4Zr2(SiO4)3、Na3Zr2(PO4)3、Na3Hf2Si2PO12、Na3La(PO4)2、Na1.3Ti1.7Al0.3(PO4)3、Na3V2(PO4)3、Na2.96Nb0.04Zr1.96Si2PO12である。
【0012】
前記ステップ(1)において、リチウム塩は、一定の高温で融解可能なリチウム塩であればよく、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、水酸化リチウム等の無機リチウム塩又はこれらの混合物を用いることができる。
前記ステップ(1)において、加熱温度は、選択されたリチウム塩の融点によって決定され、融点以上の50~150度の範囲で選定するのは一般的である。撹拌時間は、Li/Na交換の程度に応じて決定される。一般的には100h以下で、好ましくは2~100hである。
前記ステップ(2)において、洗浄を行う際には、メタノール、エタノール又は脱イオン水を用いることが好ましい。
前記ステップ(3)において、熱処理温度が300~900℃、好ましくは300~700℃であり、熱処理時間が2~10hである。
【発明の効果】
【0013】
(1)本発明の固体電解質に対するイオン伝導率は10-3S/cmより大きく、電気化学的安定性が良好で、副反応がなく、同時に固体電池の製造過程における加工性が良く、電極材料との機械的、化学的互換性が良い。
(2)本発明は、Na超イオン伝導体(NASICON)構造を利用してリチウム超イオン伝導体を合成することを提案し、リチウムイオンを含む溶媒または溶融塩にNASICONを入れて、Naとリチウムイオンの交換反応を発生させることにより、NASICONのような構造を持つLISICONリチウムイオン伝導体を形成させることができる。
(3)固体のナトリウムイオン伝導体(NASICON)を合成した後、リチウムイオンの溶媒または溶融塩中でナトリウム/リチウムイオンのイオン交換反応を行い、リチウムイオン伝導体(LISICON)を合成させることができる。得られたリチウムイオン伝導体は、ナトリウムイオン伝導体の構造が受け継がれ、ナトリウムイオン伝導体の以上のイオン伝導性を示し、リチウム金属に対して良好な安定性を示し、優れたリチウムイオン固体電解質となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】Na3Si2Zr2PO12とイオン液体交換したLi3Si2Zr2PO12のXRDスペクトルである。
図2】Na3Si2Zr2PO12と溶融塩交換したLi3Si2Zr2PO12のXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面および実施形態に関連して本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0016】
リチウムイオン固体電解質であって、固体電解質がLi3Si2Zr2PO12である。
リチウムイオン固体電解質の製造方法であって、当該方法のステップは以下のものを含む。
(1)C8H11F6N3O4S2を5.74g含有する含有するイオン液体に0.71gのNa3Si2Zr2PO12を入れ、そのうち、イオン液体は溶媒であり、その後100℃まで加熱して10h撹拌し、加熱撹拌過程にNaイオンとLiイオンとを交換反応させて混合物を得たステップと、
(2)前記ステップ(1)で得られた混合物を濾過した後、ケークを脱イオン水で洗浄し、Li超イオン伝導体を得たステップと、
(3)前記ステップ(2)で得られたLi超イオン伝導体を300℃で5時間熱処理し、リチウムイオン固体電解質Li3Si2Zr2PO12を得たステップ。
得られたリチウムイオン固体電解質Li3Si2Zr2PO12のXRDスペクトルとNa3Si2Zr2PO12のスペクトルが図1に示されている。
得られたリチウムイオン固体電解質Li3Si2Zr2PO12のイオン伝導率は6.7x10-3S/cmである。
【実施例2】
【0017】
リチウムイオン固体電解質であって、固体電解質がLi3Si2Zr2PO12である。
リチウムイオン固体電解質の製造方法であって、当該方法のステップは以下のものを含む。
(1)LiNO3 10gにNa3Si2Zr2PO12を1g添加し、十分に粉砕混合して均一な混合物を形成したステップと、
(2)前記ステップ(1)の混合物を350℃まで加熱し、20h保温した後、室温まで冷却したステップと、
(3)前記ステップ(2)で得られた混合物に脱イオン水を加え、LiNO3が十分に溶解した後、濾過し、得られたケークを蒸留水で3回洗浄し、前記ステップ(3)で得られたLi超イオン伝導体を100度で10時間乾燥し、Li固体電解質を得たステップと、
(4)前記ステップ(3)で得られたLi固体電解質を300℃で5時間熱処理し、重結晶化のリチウムイオン固体電解質Li3Si2Zr2PO12を得たステップ。
得られたリチウムイオン固体電解質Li3Si2Zr2PO12のXRDスペクトルとNa3Si2Zr2PO12のスペクトルが図2に示されている。
得られたリチウムイオン固体電解質Li3Si2Zr2PO12のイオン伝導率は、7x10-3S/cmである。

図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2021-09-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)Na超イオン伝導体粉末とLi塩とを混合した後、Li塩が溶融状態になるまで加熱撹拌した後、室温まで降温し、Li超イオン伝導体/リチウム溶融塩混合物を得るステップと、
(2)前記ステップ(1)で得られたLi超イオン伝導体/リチウム溶融塩混合物を蒸留水またはアルコールと混合し、蒸留水/アルコールでリチウム溶融塩を溶解した後、濾過し、フィルターケークを洗浄し、Li超イオン伝導体粉末を得、このLi超イオン伝導体粉末をアルコールまたは蒸留水で繰り返し洗浄し、精製されたLi超イオン伝導体粉末を得るステップと、
(3)前記ステップ(2)で得られた精製Li超イオン伝導体粉末を熱処理してリチウムイオン固体電解質を得るステップとからなる、
リチウムイオン固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(1)において、Na超イオン伝導体粉末の化学式がNa1+xZr2P3-xSixO12(ここで0≦x≦3)あることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記Na超イオン伝導体粉末が、Na3Si2Zr2PO12、Na4Zr2(SiO4)3、NaZr2(PO4)3、Na3Hf2Si2PO12、Na3La(PO4)2、Na1.3Ti1.7Al0.3(PO4)3、Na3V2(PO4)3、またはNa2.96Nb0.04Zr1.96Si2PO12であることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(1)において、リチウム塩が、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、水酸化リチウムの1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(1)における加熱温度が、リチウム塩の融点以上50~150度の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)における加熱時間が2~100hであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(2)において洗浄を行う際に、メタノール、エタノール又は脱イオン水を用いることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(3)における熱処理温度が300~900℃、好ましくは300~700℃であり、熱処理時間が2~10hであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【国際調査報告】