IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ レスメド・リミテッドの特許一覧

特表2022-530992呼吸治療システムのための音響コンポーネントの識別
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-05
(54)【発明の名称】呼吸治療システムのための音響コンポーネントの識別
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20220628BHJP
【FI】
A61M16/00 370Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021565028
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(85)【翻訳文提出日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 AU2020050435
(87)【国際公開番号】W WO2020220091
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】2019901502
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500046450
【氏名又は名称】レスメド・プロプライエタリー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【弁理士】
【氏名又は名称】池本 理絵
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ホーリー,リアム
(57)【要約】
呼吸治療デバイス(7040)と関連付けられたプロセッサが、空気経路コンポーネントの識別などのために音響技法を適用する。このデバイスは、出口から空気回路沿いに患者インターフェースに供給される加圧気を生成するように構成された圧力生成器を含み得る。このデバイスは、空気回路内の音を表す音信号を生成するように構成されたセンサを含み得る。このデバイスは、流れ生成器からの音の反射を空気回路に沿って低減するように構成された減衰構造体を含み得る。コントローラなどのプロセッサは、患者インターフェース及び/又は空気回路を識別するように音信号を処理するように構成され得る。この処理は、整合及び平均化などによって音響シグネチャを検出してまとめ、及び/又は音信号のスペクトルを平坦化し得る。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出口から空気回路沿いに患者インターフェースへと供給される加圧空気を生成するように構成された圧力生成器と、
前記空気回路内の前記圧力生成器の音を表す音信号を生成するように構成されたセンサと、
前記空気回路に沿って前記圧力生成器からの音の反射を低減するように構成された減衰構造体と、
前記患者インターフェース及び/又は前記空気回路を識別するべく前記音信号を処理するように構成されたコントローラと
を備える、呼吸治療を生み出すためのデバイス。
【請求項2】
前記減衰構造体は、前記空気回路と前記圧力生成器のハウジングの空洞との間で音響インピーダンスを変化させるように構成されたパススルー減衰導管によって形成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記減衰構造体は、前記パススルー減衰導管を通る通路の断面を、該断面が、前記パススルー減衰導管の内面の形状により、前記通路の経路に沿って拡大するように画定する、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記断面は、前記空気回路の患者インターフェース端から遠ざかるにつれて徐々に拡大する、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記デバイスは、少なくとも前記出口及び前記空気回路によって形成される導波管を備え、前記減衰構造体が、前記導波管に沿って前記センサと前記出口との間に配置され、前記センサが、前記導波管に沿って前記減衰構造体と前記空気回路との間に配置される、請求項1~4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記減衰構造体がホーンによって形成される、請求項1~5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記ホーンが円錐形状を有する、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
呼吸治療デバイスと関連付けられたプロセッサにおいて、呼吸治療デバイスに結合された空気経路のコンポーネントを識別するための方法であって、
ケプストラムを得るために、前記空気経路内の音を表す音信号のスペクトルを平坦化することを含む、該音信号を処理することと、
音響シグネチャを前記ケプストラムから分離することと、
前記音響シグネチャを、それぞれのコンポーネントに対応する1組の所定の音響シグネチャと比較することと、
前記音響シグネチャと前記1組との比較に基づいて前記コンポーネントを識別することと
を含む方法。
【請求項9】
前記平坦化することは、前記音信号の対数スペクトルから、ローパスフィルタリングされたバージョンの音信号の対数スペクトルを除去することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記除去することが引き算することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
複数の音響シグネチャを生成するために、前記処理及び分離することを少なくとも1回繰り返すことと、
前記複数の音響シグネチャを組み合わせて複合音響シグネチャにすることと
をさらに含み、前記比較することが、前記複合音響シグネチャを前記1組の所定の音響シグネチャと比較するものである、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記組み合わせることは、前記複数の音響シグネチャのうちの1つ以上を前記複合音響シグネチャと整合させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組み合わせることは、前記複数の音響シグネチャを平均化することを含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記コンポーネントが患者インターフェースであり、前記繰り返すことが、前記患者インターフェースを装着した患者の呼吸サイクルと同期する、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記組み合わせることは、前記複数の音響シグネチャ間の遅延の小さなばらつきに対して堅牢である、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記識別することに基づいて、前記呼吸治療デバイスの圧力生成器を作動させるための制御パラメータを調整することをさらに含む、請求項8~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
出口から空気回路沿いに患者インターフェースへと供給される加圧空気を生成するように構成された圧力生成器と、
前記空気回路内の前記圧力生成器の音を表す音信号を生成するように構成されたセンサと、
前記音信号のスペクトルを平坦化することを含む処理を、ケプストラムを得るために行い、音響シグネチャを該ケプストラムから分離し、該音響シグネチャを、それぞれのコンポーネントに対応する1組の所定の音響シグネチャと比較し、前記音響シグネチャと前記1組との比較に基づいて前記患者インターフェース及び/又は前記空気回路を識別するように構成されたコントローラと
を備える呼吸治療を生み出すためのデバイス。
【請求項18】
前記圧力生成器からの音の反射を前記空気回路に沿って低減するように構成された減衰構造体をさらに備える、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記減衰構造体は、前記空気回路と前記圧力生成器のハウジングの空洞との間で音響インピーダンスを変化させるように構成されたパススルー減衰導管によって形成される、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記減衰構造体がホーンによって形成される、請求項18又は19に記載のデバイス。
【請求項21】
前記ホーンが円錐形状を有する、請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
前記コントローラは、前記識別された患者インターフェース及び/又は空気回路に基づいて、前記圧力生成器を作動させるための制御パラメータを調整するようにさらに構成される、請求項17~21のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項23】
呼吸治療デバイスと関連付けられたプロセッサにおいて、前記呼吸治療デバイスに連結された空気経路のコンポーネントを識別するための方法であって、
ケプストラムを得るために該空気経路内の音を表す音信号を処理することと、
音響シグネチャを該ケプストラムから分離することと、
複数の音響シグネチャを生成するために、前記処理及び分離を少なくとも1回繰り返すことと、
前記複数の音響シグネチャを組み合わせて複合音響シグネチャにすることと、
該複合音響シグネチャを、それぞれのコンポーネントに対応する1組の所定の音響シグネチャと比較することと、
前記音響シグネチャと前記1組との比較に基づいて前記コンポーネントを識別することと
を含む方法。
【請求項24】
前記組み合わせることは、前記複数の音響シグネチャのうちの1つ以上を前記複合音響シグネチャと整合させることを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記組み合わせることは、前記複数の音響シグネチャの平均化を含む、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記コンポーネントが患者インターフェースであり、前記繰り返すことが、前記患者インターフェースを装着した患者の呼吸サイクルと同期している、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記組み合わせることは、前記複数の音響シグネチャ間の遅延のばらつきに対して堅牢である、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記処理することは、前記音信号のスペクトルを平坦化することを含む、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記平坦化することは、前記音信号の前記対数スペクトルから、ローパスフィルタリングされた対数スペクトルを引き算することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記識別することに基づいて、前記呼吸治療デバイスの圧力生成器を作動させるための制御パラメータを調整することをさらに含む、請求項23~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
呼吸治療デバイスのコントローラのプロセッサによって実行されると、請求項8~16及び請求項23~30のいずれか一項に記載の方法を前記プロセッサに実行させるコンピュータ可読命令を符号化された状態で有する、コンピュータ可読媒体。
【請求項32】
出口から空気回路沿いに患者インターフェースへと供給される加圧空気を生成するように構成された圧力生成器と、
前記空気回路内の前記圧力生成器の音を表す音信号を生成するように構成されたセンサと、
ケプストラムを得るために前記音信号を処理し、音響シグネチャを該ケプストラムから分離し、複数の音響シグネチャを生成するために、前記処理及び分離することを少なくとも1回繰り返し、該複数の音響シグネチャを複合音響シグネチャにまとめ、該複合音響シグネチャを、それぞれのコンポーネントに対応する1組の所定の音響シグネチャと比較し、前記音響シグネチャと前記1組との比較に基づいて前記患者インターフェース及び/又は前記空気回路を識別するように構成されたコントローラと
を備える呼吸治療を生み出すためのデバイス。
【請求項33】
前記圧力生成器からの音の反射を前記空気回路に沿って低減するように構成された減衰構造体をさらに備える、請求項32に記載のデバイス。
【請求項34】
前記減衰構造体が、前記空気回路と前記圧力生成器のハウジングの空洞との間で音響インピーダンスを変化させるように構成されたパススルー減衰導管によって形成される、請求項33に記載のデバイス。
【請求項35】
前記減衰構造体がホーンによって形成される、請求項33又は34に記載のデバイス。
【請求項36】
前記ホーンは円錐形状を有する、請求項35に記載のデバイス。
【請求項37】
前記複数の音響シグネチャを組み合わせるために、前記コントローラは、前記複数の音響シグネチャのうちの1つ以上を前記複合音響シグネチャと整合させるように構成されている、請求項32~36のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項38】
前記複数の音響シグネチャを組み合わせるために、前記コントローラが、前記複数の音響シグネチャを平均化するように構成されている、請求項36又は37に記載のデバイス。
【請求項39】
前記コントローラが、前記識別された患者インターフェース及び/又は空気回路に基づいて、前記圧力生成器を作動させるための制御パラメータを調整するようにさらに構成されている、請求項32~38のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1 関連出願の相互参照
本出願は、2019年5月2日に出願されたオーストラリア仮出願第2019901502号の恩恵を主張する。本明細書中、同文献の開示内容全体を引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0002】
2 技術の背景
2.1 技術の分野
本技術は、呼吸関連疾患の検出、診断、治療、予防及び改善のうち1つ以上に関する。本技術はまた、医療デバイス又は装置と、その使用とに関する。例えば、本技術のデバイスは、治療の生成を目的としたかかるデバイスのコンポーネント(構成要素)の識別及び/又は制御などのための音響技術を与えうる。
【背景技術】
【0003】
2.2 関連技術の説明
2.2.1 ヒトの呼吸器系及びその疾患
身体の呼吸器系は、ガス交換を促進させる。鼻及び口は、患者の気道への入口を形成する。
【0004】
これらの気道は、一連の分岐する管を含み、これらの管は、肺の奥深くに進むほど狭く、短くかつ多数になる。肺の主要な機能はガス交換であり、吸入した空気から酸素を静脈血中へ移動させ、二酸化炭素を反対方向に移動させる。気管は、右及び左の主気管支に分かれ、これらの主気管支はさらに分かれて、最終的に終末細気管支となる。気管支は、伝導のための気道を構成するものであり、ガス交換には関与しない。気道がさらに分割されると呼吸細気管支となり、最終的には肺胞となる。肺の肺胞領域においてガス交換が行われ、この領域を呼吸領域と呼ぶ。以下を参照されたい:「Respiratory Physiology」、by John B. West、Lippincott Williams & Wilkins, 9th edition published 2012。
【0005】
一定範囲の呼吸器疾患が存在している。特定の疾患は、特定の発症(例えば、無呼吸、呼吸低下、及び過呼吸)によって特徴付けることができる。
【0006】
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、睡眠時の上部気道の閉鎖又は閉塞などの事象によって特徴付けられる呼吸障害である。これは異常に小さい上気道と、舌の領域の筋緊張の通常の喪失、睡眠時の軟口蓋及び後口咽頭壁の正常損失の組み合わせの結果である。この症状により、罹患患者は典型的には30~120秒の間持続する期間に、ときには一晩に200~300回、呼吸を停止する。その結果、日中の眠気が過度になり、心血管疾患及び脳損傷の原因になり得る。この症候は一般的な疾患であり、特に中年の過体重の男性に多いが、患者に自覚症状は無い。米国特許第4,944,310号(Sullivan)を参照されたい。
【0007】
このような状態を治療又は改善するために、一定範囲の治療が用いられている。さらに、その他の点では健常人も、呼吸器疾患の予防治療を有利に利用することができる。しかし、これらにおいては、複数の欠陥がある。
【0008】
2.2.2 療法
多様な療法(例えば、持続的気道陽圧(CPAP)治療法、高流量(HFT)治療法、非侵襲的換気(NIV)及び侵襲的換気(IV))が上記の呼吸器疾患の1つ以上の治療のために用いられている。
【0009】
2.2.3 治療システム
これらの治療は、呼吸治療システム又はデバイスによって提供され得る。このようなシステム及びデバイスは、疾患を治療することなく診断するためにも、用いられ得る。
【0010】
呼吸治療システムは、呼吸治療デバイス(RTデバイス)と、空気回路と、加湿器と、患者インターフェースと、データ管理とを含みうる。
【0011】
2.2.3.1 患者インターフェース
患者インターフェースは、例えば気道入口への空気流れを提供することにより呼吸装具へのインターフェースを装着者へ提供するために、用いることができる。空気流れは、鼻及び/又は口へのマスク、口への管、又は患者気管への気管切開管を介して提供され得る。適用される療法に応じて、患者インターフェースは、例えば患者の顔の領域とのシールを形成でき、これにより、療法実行のための雰囲気圧力と共に充分な分散の圧力において(例えば雰囲気圧力に対して約10cmHOの陽圧において)ガス送達を促進する。酸素送達などの他の治療形態において、患者インターフェースは、約10cmHOの陽圧において気道へのガス供給の送達を促進するのに充分な密閉を含まない場合がある。
【0012】
2.2.3.2 呼吸治療(RT)デバイス
呼吸圧力治療(RPT)デバイスなどの呼吸治療(RT)デバイスは、例えば気道入口への空気送達流れを生成することにより、上記した複数の治療のうち1つ以上の送達に用いることができる。この空気流れは、加圧され得る。RPTデバイスの例を挙げると、CPAPデバイス及び人工呼吸器がある。呼吸治療(RT)デバイスは、場合によっては、高流量の呼吸治療を提供する高流量治療(HFT)デバイスでありうる。
【0013】
空気圧生成器は、広範な用途(例えば、工業規模通気システム)において公知である。しかし、医療用途のための空気圧生成器は、より一般的な空気圧生成器(例えば、医療機器の信頼性要件、サイズ要件及び重量要件)では満足できない特定の要件を有する。
【0014】
RPTデバイスの例としては、レスメド社製S9睡眠治療システム、ResMed Stellar(登録商標)シリーズの成人用及び小児用人工呼吸器ならびにResMed Astral(登録商標)150人工呼吸器といった人工呼吸器が挙げられる。
【0015】
2.2.3.3 加湿器
空気流れの送達を加湿無しで行った場合、気道の乾燥に繋がり得る。加湿器をRTデバイス及び患者インターフェースと共に用いた場合、加湿ガスが生成されるため、鼻粘膜の乾燥が最小化され、患者気道の快適性が増加する。加えて、より冷涼な気候においては、概して患者インターフェースの周囲の顔領域へ温風を付加すると、冷風の場合よりも快適性が高まる。
【0016】
2.2.3.4 通気技術
いくつかの形態の呼吸治療システムは、吐き出された二酸化炭素を押し出すための通気部を含み得る。この通気部により、患者インターフェースの内部空間(例えば、プレナムチャンバ)から患者インターフェースの外部(例えば、周囲)へのガス流れが可能になる。
【0017】
2.2.3.5 感知及びデータ管理
患者、介護者、臨床医、保険会社、又は技術者は、患者に関連するものか、治療に使用される個々のコンポーネントに関連するものか、治療システム全体に関連するものかを問わず、呼吸治療に関連するデータの収集を希望し得る。患者に呼吸治療を提供する際に、治療関連データを収集し、収集したデータを活用することにより、1人以上の関係者が恩恵を受けることができる多数の状況が存在する。
【0018】
特に、呼吸治療システムの一部のコンポーネントは、効果的な治療のために他のコンポーネントよりも高頻度で交換する必要がある。例えば、シリコーン製シール形成部を備える患者インターフェースが、数か月(例えば3か月)で患者によって交換され得るのに対し、RTデバイスは、数年(例えば3年)ごとに交換又はアップグレードすることができる。比較的高頻度で交換されるコンポーネント(例えば、患者インターフェース)の場合には、患者又は介護者が、コンポーネントの交換時期に関する通知を確実かつ正確に、低コストで受ける際に課題に直面する。コンポーネントを交換するとき、患者又は介護者は、治療システムが新しいコンポーネントを最大限に活用できるように、治療システムにおける1つ以上の設定(例えば、RTデバイスにおけるソフトウェア設定)を変更する必要がありうる。そのため、呼吸治療システムのコンポーネントを識別できることが、治療を最適化するため、及び交換時期について患者や介護者に知らせるための両方で重要である。
【0019】
これまで、呼吸治療の分野では、コンポーネントの識別に関して様々な解決策が採用又は提案されてきた。例えば、センサ/トランスデューサが、環境条件、患者に関する情報、コンポーネントの識別、治療実施条件などに関するデータを収集するために大量の形態で使用され、提案されてきた。実際、多くのRTデバイスが、流量センサ、圧力センサ、湿度センサ、温度センサなど、1つ以上のセンサを備える。かかるセンサによって生成された信号は、呼吸治療システム内の患者インターフェースなど特定のコンポーネントの識別情報など、治療関連データを生成するために分析できる。
【0020】
ただし、センサ/トランスデューサが、典型的には、一連の追加コンポーネントを必要とすることが、多くの形態での採用を妨げうる。例えば、センサ/トランスデューサによって収集されたデータは、保存及び/又は分析するのに、例えばセンサからメモリ及び/又はプロセッサに伝達される必要がある。このこと及び上記のセンサにより、設計、テスト、及び/又は製造にかかる医療デバイスメーカのコストがさらに増し、かつ/又は患者にとってのコストと煩雑性が増えるかもしれない。
【0021】
加えて、患者インターフェースなど、頻繁に交換されるコンポーネントに高価な電気的及び/又は機械的な機能を組み込むことは、最も費用対効果の高い治療を提供することに対して不利になり、廃棄物の増加によって環境面で持続不能になる可能性もある。
【0022】
さらに、センサ及び/又はトランスデューサに関連して提案されている多くの策は、データが保存及び/又は分析される場所から離れた場所にセンサを設置することが提案されると、実装の煩雑性やコストがさらに増えることが多いという点で制限がある。例えば、患者インターフェースがセンサを備える場合には、RTデバイスとの電気的接続が必要となり、実装の煩雑性及び/又はコストがさらに増えるかもしれない。
【0023】
また、RTデバイスの設計者が数多くの選択肢と対峙し、競合他社のデバイスや、同じメーカでも製造時期が異なるデバイスと比較して、異なる策に想到することが多い。その結果、提供される関連電気コネクタが特定のRTデバイスにしか接続できないことがありうる。これは、特定の消費者層にとって不利益となり得る非互換性を生み出すという意図しない影響をもたらすか、及び/又は消費者の選択肢を減らすことになるかもしれない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
3 技術の簡単な説明
本技術は、呼吸器疾患の診断、改善、治療、又は予防において用いられる医療機器の提供に関連し、これらの医療機器は、向上した快適性、コスト、有効性、使い易さ、患者エンゲージメント(patient engagement)、及び製造可能性のうち1つ以上を有する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本技術の第1の態様は、呼吸器疾患の診断、改善、治療又は予防に用いられる装置に関連する。
【0026】
本技術の別の態様は、呼吸障害の診断、改善、治療又は予防において用いられる方法に関連する。
【0027】
本技術の一態様は、音響手段によって、呼吸治療システムのコンポーネントを識別するように構成された改良呼吸治療デバイスに関連するものである。特に、開示されたデバイスは、システムコンポーネントからの音響反射を分析して、それらのコンポーネントを、「音響シグネチャ(acoustic signature)」からこれまでよりも正確に識別するように構成された構造及びプロセスを備える。この改良は、空気回路のデバイス端からの音の後方反射を低減する1つ以上の構造を実装することによって少なくとも部分的に達成され、これにより、例えば、異なる患者インターフェースタイプの音響シグネチャの識別性が向上しうる。この改良は、音響シグネチャに変換する前などに、対数スペクトルなどの音信号のスペクトルを「平坦化」する信号処理によっても、少なくとも部分的に達成することができる。
【0028】
本技術のいくつかの具現例は、呼吸治療を発生させるデバイスを含むことができる。このデバイスは、出口から空気回路沿いに患者インターフェースへと供給される加圧空気を生成するように構成された圧力生成器を含むことができる。このデバイスは、空気回路内の圧力生成器の音を表す音信号を生成するように構成されたセンサを含むことができる。このデバイスは、空気回路に沿って圧力生成器からの音の反射を低減するように構成された減衰構造体を含むことができる。デバイスは、コントローラを含むことができる。コントローラは、患者インターフェース及び/又は空気回路を識別するように音信号を処理するように構成することができる。
【0029】
いくつかの実装形態においては、この減衰構造体が、空気回路と圧力生成器のハウジングの空洞との間で音響インピーダンスを変化させるように構成されたパススルー減衰導管によって形成することができる。この減衰構造体は、パススルー減衰導管を通る通路の断面を画定するか、その通路の断面によって画定することができ、その断面は、パススルー減衰導管の内面の形状により、その通路の経路に沿って拡大するようになっている。この断面は、空気回路の患者インターフェース端から遠ざかり得るにつれて徐々に拡大する。このデバイスは、少なくとも出口及び空気回路によって形成される導波管を含むことができ、減衰構造体は、導波管に沿ってセンサと出口との間に配置することができ、センサは、導波管に沿って減衰構造体と空気回路との間に配置することができる。この減衰構造体は、ホーンによって形成できる。このホーンは、円錐形状を有しうる。
【0030】
本技術のいくつかの実装形態としては、呼吸治療デバイスと関連付けられたプロセッサにおいて、この呼吸治療デバイスに連結された空気経路のコンポーネントを識別する方法が挙げられる。この方法は、ケプストラムを得るために、空気経路内の音を表す音信号を処理することを含むことができる。この処理は、音信号のスペクトルを平坦化することを含むことができる。この処理は、ケプストラムから音響シグネチャを分離することを含むことができる。この処理は、この音響シグネチャを、それぞれのコンポーネントに対応する1組の所定の音響シグネチャと比較することを含むことができる。この処理は、この音響シグネチャとこの1組との比較に基づいてコンポーネントを識別することを含むことができる。
【0031】
いくつかの実装形態においては、平坦化することが、この音信号の対数スペクトルから、ローパスフィルタリングされた音信号を除去することを含むことができる。除去することは、減算を含むことができる。この方法はさらに、複数の音響シグネチャを生成するために、この処理及び分離を少なくとも1回繰り返すことを含むことができる。この方法はさらに、複数の音響シグネチャを組み合わせて複合音響シグネチャにすることを含むことができる。比較することは、この複合音響シグネチャを、この1組の所定の音響シグネチャと比較することでよい。組み合わせることは、複数の音響シグネチャのうち1つ以上を複合音響シグネチャと整合させることを含むことができる。組み合わせることは、複数の音響シグネチャを平均化することを含むことができる。このコンポーネントは、患者インターフェースでよく、繰り返すことは、患者インターフェースを装着した患者の呼吸サイクルと同期させることができし得る。組み合わせることは、複数の音響シグネチャ間での遅延のわずかなばらつきに対してロバストになりうる。この方法は、識別に基づいて、呼吸治療デバイスの圧力生成器を作動させるための制御パラメータを調整することを含みうる。
【0032】
本技術のいくつかの具現例は、呼吸治療を発生させるデバイスを含むことができる。このデバイスは、出口から空気回路沿いに患者インターフェースへと供給される加圧空気を生成するように構成された圧力生成器を含むことができる。このデバイスは、空気回路内の圧力生成器の音を表す音信号を生成するように構成されたセンサを含むことができる。デバイスは、コントローラを含むことができる。コントローラは、ケプストラムを得るために音信号を処理するように構成され得る。この処理は、音信号のスペクトルを平坦化することを含むことができる。コントローラは、このケプストラムから音響シグネチャを分離するように構成することができる。コントローラは、この音響シグネチャを、それぞれのコンポーネントに対応する1組の所定の音響シグネチャと比較するように構成することができる。コントローラは、この音響シグネチャとこの1組との比較に基づいて患者インターフェース及び/又は空気回路を識別するように構成することができる。
【0033】
いくつかの実装形態においては、デバイスが、空気回路に沿って圧力生成器からの音の反射を低減するように構成された減衰構造体を含むことができる。この減衰構造体は、空気回路と圧力生成器のハウジングの空洞との間で音響インピーダンスを変化させるように構成されたパススルー減衰導管によって形成することができる。この減衰構造体は、ホーンによって形成することができる。ホーンは円錐形状を有することができる。コントローラは、識別された患者インターフェース及び/又は空気回路に基づいて、圧力生成器を作動させるための制御パラメータを調整するようにさらに構成することができる。
【0034】
本技術のいくつかの実装形態としては、呼吸治療デバイスと関連付けられたプロセッサにおいて、呼吸治療デバイスに連結された空気経路のコンポーネントを識別する方法が挙げることができる。この方法は、ケプストラムを得るために、空気経路内の音を表す音信号を処理することを含むことができる。この方法は、ケプストラムから音響シグネチャを分離することを含むことができる。この方法は、複数の音響シグネチャを生成するために処理及び分離を少なくとも1回繰り返ことを含むことができる。この方法は、この複数の音響シグネチャを組み合わせて複合音響シグネチャにすることを含むことができる。この方法は、複合音響シグネチャを、それぞれのコンポーネントに対応する1組の所定の音響シグネチャと比較することを含むことができる。この方法は、この音響シグネチャとこの1組との比較に基づいてコンポーネントを識別することを含むことができる。
【0035】
いくつかの実装形態においては、この組み合わせることが、この複数の音響シグネチャのうちの1つ以上を複合音響シグネチャと整合させることを含むことができる。この組み合わせることは、複数の音響シグネチャの平均化を含み得る。このコンポーネントは、患者インターフェースであり得る。この繰り返すことは、患者インターフェースを装着した患者の呼吸サイクルと同期させることができる。この組み合わせることは、この複数の音響シグネチャ間での遅延のばらつきに対してロバストになりうる。この処理は、音信号のスペクトルを平坦化することを含むことができる。この平坦化することは、音信号の対数スペクトルから、ローパスフィルタリングされた対数スペクトルを引き算することを含むことができる。この方法は、識別に基づいて、呼吸治療デバイスの圧力生成器を作動させるための制御パラメータを調整することを含むことができる。
【0036】
本技術のいくつかの実装形態は、コンピュータ可読媒体であって、呼吸治療デバイスのコントローラのプロセッサによって実行されたときに、本明細書に記載された方法(複数可)又はその態様のうちのいずれか1つ以上をプロセッサに実行させるコンピュータ可読命令を符号化された状態で有するコンピュータ可読媒体を含み得る。
【0037】
本技術のいくつかの具現例は、呼吸治療を発生させるデバイスを含むことができる。このデバイスは、出口から空気回路沿いに患者インターフェースへと供給される加圧空気を生成するように構成された圧力生成器を含むことができる。このデバイスは、空気回路内の圧力生成器の音を表す音信号を生成するように構成されたセンサを含むことができる。デバイスは、コントローラを含むことができる。コントローラは、ケプストラムを得るために音信号を処理するように構成することができる。コントローラは、このケプストラムから音響シグネチャを分離するように構成することができる。このコントローラは、複数の音響シグネチャを生成するために処理及び分離を少なくとも1回繰り返すように構成することができる。このコントローラは、この複数の音響シグネチャを複合音響シグネチャに連結するように構成することができる。このコントローラは、この複合音響シグネチャを、それぞれのコンポーネントに対応する1組の所定の音響シグネチャと比較するように構成することができる。コントローラは、この音響シグネチャとこの1組との比較に基づいて患者インターフェース及び/又は空気回路を識別するように構成することができる。
【0038】
いくつかの実装形態においては、デバイスが、空気回路に沿って圧力生成器からの音の反射を低減するように構成された減衰構造体を含むことができる。この減衰構造体は、空気回路と圧力生成器のハウジングの空洞との間で音響インピーダンスを変化させるように構成されたパススルー減衰導管によって形成することができる。この減衰構造体は、ホーンによって形成することができる。ホーンは円錐形状を有し得る。この複数の音響シグネチャを組み合わせるために、このコントローラは、この複数の音響シグネチャのうちの1つ以上をこの複合音響シグネチャと整合させるように構成することができる。この複数の音響シグネチャを組み合わせるために、このコントローラは、複数の音響シグネチャを平均化するように構成することができる。このコントローラは、識別された患者インターフェース及び/又は空気回路に基づいて、圧力生成器を作動させるための制御パラメータを調整するようにさらに構成することができる。
【0039】
本明細書中に記載される方法、システム、デバイス及び装置により、プロセッサにおける機能(例えば、特定目的用コンピュータのプロセッサ、呼吸モニター及び/又は呼吸治療装置の機能)の向上が可能になる。さらに、記載の方法、システム、デバイス及び装置により、呼吸状態(例えば、睡眠障害呼吸)の自動管理、監視及び/又は治療の技術分野における向上が可能になる。
【0040】
もちろん、上記態様の一部は、本技術の下位態様を形成しうる。また、下位態様及び/又は態様のうち多様な1つを多様に組み合わせることができ、本技術のさらなる態様又は下位態様も構成することができる。
【0041】
本技術の他の特徴は、以下の詳細な説明、要約、図面及び特許請求の範囲中に含まれる情報に鑑みれば明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
4 図面の簡単な説明
本技術を、添付図面中に非限定的な例示の目的で示す。図面中、類似の参照符号は、以下の類似の要素を含む。
【0043】
4.1 治療システム
図1A】患者インターフェース3000を装着している患者1000を含むシステムを示す。このシステムは、鼻枕の形態をとり、RPTデバイス4000から供給される陽圧の空気を受容する。RPTデバイス4000からの空気は、加湿器5000によって加湿され、空気回路4170に沿って患者1000へと移動する。同床者1100も図示される。患者は、仰臥位睡眠位置において睡眠している。
図1B】患者インターフェース3000を装着している患者1000を含むシステムを示す。このシステムは、鼻マスクの形態をとり、RPTデバイス4000から供給される陽圧の空気を受容する。RPTデバイスからの空気は、加湿器5000によって加湿され、空気回路4170に沿って患者1000へと移動する。
図1C】患者インターフェース3000を装着している患者1000を含むシステムを含む。患者インターフェース3000は、フルフェイスマスクをとり、陽圧の空気供給をRPTデバイス4000から受容する。RPTデバイスからの空気は、加湿器5000によって加湿され、空気回路4170に沿って患者1000へと移動する。患者は、側臥位睡眠位置において睡眠している。4.2 呼吸システム及び顔の解剖学的構造
図2】鼻及び口腔、喉頭、声帯ひだ(複数)、食道、気管、気管支、肺、肺胞嚢、心臓及び横隔膜を含むヒト呼吸系の概要を示す。4.3 患者インターフェース
図3】本技術の一形態による鼻マスクの形態の患者インターフェースの例を示す。4.4 RPTデバイス
図4A】本技術の一形態による例示的な呼吸圧力治療(RPT)デバイス4000の分解図を示す。
図4B】本技術の一形態に従ったRPTデバイスの空気回路の概略図である。上流と下流の方向が示されている。4.5 加湿器
図5A】本技術の1つの形態による加湿器の等角図を示す。
図5B】本技術の1つの形態による加湿器の等角図を示し、加湿器リザーバ5110が加湿器リザーバドック5130から取り外された様子を示す。4.6 呼吸波形
図6】睡眠時のヒトの典型的な呼吸波形のモデルを示す。水平軸は時間であり、垂直軸は呼吸流量である。パラメータ値は変動しうるため、典型的な呼吸は、以下のおおよその値を持ちうる。 すなわち、一回換気量、Vt、0.5L、吸入時間、Ti、1.6秒、ピーク吸気流量、Qpeak、0.4L/秒、呼気時間、Te、2.4s、ピーク呼気流量、Qpeak、-0.5L/秒である。呼吸の全持続時間Ttotは約4秒である。人間は典型的には、1分あたり呼吸を約15回行い(BPM)、換気Ventは約7.5L/minである。典型的なデューティサイクル、TiとTtotの比は約40%である。4.7 音響分析
図7】本技術の一態様による、呼吸治療システムの概略図である。
図8図7の呼吸治療システムのインパルス応答関数の例を含むグラフである。
図9図7の呼吸治療システムにおける様々な送風機速度での様々なマスク例のケプストラムを含むグラフである。
図10】後方反射成分を含むケプストラムを含むグラフである。
図11】本技術の一態様による、呼吸治療システムの概略図である。
図11A】本技術のいくつかの実装形態におけるパススルー減衰導管例の形状を示す。
図11B】本技術のいくつかの実装形態におけるパススルー減衰導管例の形状を示す。
図12】本技術の一態様に係る呼吸治療システムの空気経路のコンポーネントを識別する方法を示すフローチャートである。
図13】整列前後の音響シグネチャを示す2つのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
5 本技術の実施例の詳細な説明
本技術についてさらに詳細に説明する前に、本技術は、本明細書中に記載される異なりうる特定の実施例に限定されるのではないことが理解されるべきである。本開示中に用いられる用語は、本明細書中に記載される特定の実施例を説明する目的のためのものであり、限定的なものではないことも理解されるべきである。
【0045】
以下の記載は、1つ以上の共通の特性及び/又は特徴を共有しうる多様な実施例に関連して提供される。任意の1つの実施例の1つ以上の特徴は、別の実施例又は他の実施例の1つ以上の特徴と組み合わせることが可能であることが理解されるべきである。加えて、これらの実施例のうちのいずれかにおける任意の単一の特徴又は特徴の組み合わせは、さらなる実施例を構成することができる。
【0046】
5.1 治療法
一形態において、本技術は、呼吸器疾患の治療方法を含む。本方法は、患者1000の気道の入口へ陽圧を加えるステップを含む。
【0047】
5.2 治療システム
一形態において、本技術は、呼吸器疾患の治療のためのシステムを含む。呼吸治療(RT)システムは、加湿器5000、空気回路4170、及び患者インターフェース3000を介して患者1000に陽圧の空気供給を送達させるためのRPTデバイス4000を備えうる。
【0048】
5.3 患者インターフェース
例示的な非侵襲的患者インターフェース3000が図3も示されており、以下の機能様態を含む。すなわち、シール形成構造3100、プレナムチャンバ3200、位置決め及び安定化構造3300、通気部3400、空気回路4170への接続のための一形態の接続ポート3600、及び前額支持部3700である。いくつかの形態において、機能様態が、1つ以上の物理的コンポーネントによって提供され得る。いくつかの形態において、1つの物理的コンポーネントは、1つ以上の機能様態を提供し得る。使用時において、シール形成構造3100は、気道への陽圧での空気供給を促進するように、患者の気道の入口を包囲するように配置される。
【0049】
本技術の一形態による患者インターフェース3000は、周囲に対して陽圧で、例えば、少なくとも4cmHO、又は少なくとも10cmHO、又は少なくとも20cmHO、又は少なくとも25cmHOの空気供給を提供できるように構築及び配置される。
【0050】
5.3.1 シール形成構造
本技術の一形態において、シール形成構造3100は、目標シール形成表面領域を提供し、クッション機能をさらに提供することができる。目標シール形成領域は、シール形成構造3100において密閉が発生し得る領域である。密閉が実際に発生する領域(すなわち、実際の密閉面)は、一定範囲の要素(例えば、顔面上の患者インターフェースの配置位置、位置決め及び安定化構造における張力、及び患者の顔の形状)に応じて、所与の治療セッションにおいて患者によって日々変化することができる。
【0051】
5.3.2 プレナムチャンバ
プレナムチャンバ3200は、使用時に密閉が形成される領域において平均的な人の顔の表面外形に対して相補的である形状の周囲を有する。使用時において、プレナムチャンバ3200の周辺縁部は、顔の隣接する表面に近接して位置決めされる。顔との実際の接触は、シール形成構造3100によって提供される。シール形成構造3100は、使用時においてプレナムチャンバ3200の縁部全体の周りに延びうる。いくつかの形態において、プレナムチャンバ3200及びシール形成構造3100は、単一の均質的材料ピースから形成される。音響生成器8500は、プレナムチャンバ3200の一部として、又はプレナムチャンバ3200のシェルを通じて形成することができる。
【0052】
5.3.3 位置決め及び安定化構造
本技術の患者インターフェース3000のシール形成構造3100は、使用時において位置決め及び安定化構造3300によって密閉位置において保持できる。
【0053】
5.3.4 通気部
一形態において、患者インターフェース3000は、吐き出されたガス(例えば、二酸化炭素)の押し出しを可能にするように構成及び配置された通気部3400を含む。
【0054】
特定の形態において、通気部3400は、プレナムチャンバ内の圧力が雰囲気に対して正であるときにプレナムチャンバ3200の内部から雰囲気への連続的通気の流れを可能にするように構成される。通気部3400は、使用時においてプレナムチャンバ内の治療圧力を維持しつつ、通気流量の大きさが呼気されたCO2の患者による再呼吸を低減できるだけの充分な大きさになるように構成される。本技術による一形態の通気部3400は、複数の穴(例えば、約20個~約80個の穴、又は約40個~約60個の穴、又は約45個~約55個の穴)を含む。
【0055】
通気部3400は、プレナムチャンバ3200内に配置され得る。あるいは、通気部3400は、結合解除構造(例えば、スイベル(swivel))内に配置される。
【0056】
5.3.5 接続ポート
接続ポート3600は、空気回路4170への接続を可能にし、任意選択で、統合された音響生成器8500を含みうる。
【0057】
5.4 RPTデバイス
本技術の一態様による呼吸圧力治療(RPT:respiratory pressure device)デバイス4000は、図4Aの分解図に示されており、機械、空気圧式、及び/又は電気部品を含み、1つ以上のアルゴリズム4300を実行するように構成される。RPTデバイス4000は、例えば本文書中のいずれかに記載の呼吸状態のうち1つ以上の治療のために患者の気道へ送達される空気の流れを生成するように構成することができる。
【0058】
一形態において、RPTデバイス4000は、少なくとも4cmHO又は少なくとも10cmHO又は少なくとも20cmHO又は少なくとも25cmHOの陽圧を維持しつつ、空気流れを-20L/分~+150L/分の範囲で送達できるように構築及び配置される。
【0059】
RPTデバイスは、外部ハウジング4010を持ちうる。外部ハウジング4010は、上部4012及び下部4014の2つの部分によって形成される。さらに、外部ハウジング4010は、1つ以上のパネル(単数又は複数)4015を含むことができる。RPTデバイス4000は、RPTデバイス4000の1つ以上の内部コンポーネントを支持するシャーシ4016を含む。RPTデバイス4000は、ハンドル4018を含むことができる。
【0060】
RPTデバイス4000の空気圧式経路は、1つ以上の空気経路アイテム及びマフラー4120を含むことができる(例えば、入口空気フィルタ4112、入口マフラー4122、空気を陽圧で供給することが可能な圧力生成器4140(例えば、送風機4142)、出口マフラー4124及び1つ以上のトランスデューサ4270(例えば、圧力センサ及び流量センサ))。
【0061】
空気経路アイテムのうち1つ以上は、空気圧ブロック4020と呼ばれる取り外し可能な一体構造内に配置することができる。空気圧ブロック4020は、外部ハウジング4010内に配置され得る。一形態において、空気圧ブロック4020は、シャーシ4016によって支持されるか又はシャーシ4016の一部として形成される。
【0062】
RPTデバイス4000は、電源4210、1つ以上の入力デバイス4220、中央コントローラ4230、治療デバイスコントローラ4240、圧力生成器4140、1つ以上の保護回路4250、メモリ4260、トランスデューサ4270、データ通信インターフェース4280、及び1つ以上の出力デバイス4290を有することができる。電気部品4200は、単一のプリント回路基板アセンブリ(PCBA:Printed Circuit Board Assembly)4202上に取り付けられ得る。一代替形態において、RPTデバイス4000は、1つよりも多くのPCBA4202を含むことができる。
【0063】
5.4.1 RPTデバイス機械及び空気圧式コンポーネント
RPTデバイスは、以下のコンポーネントのうち1つ以上を一体ユニット中に含むことができる。一代替形態において、以下のコンポーネントのうち1つ以上が、それぞれの別個のユニットとして配置しうる。
【0064】
5.4.1.1 圧力生成器
本技術の一形態において、流れのような下流空気流れの生成又は陽圧における空気の供給のための圧力生成器4140は、制御可能な送風機4142である。送風機は、空気供給の送達を例えば約120リットル/分までの速度で、約4cmHO~約20cmHOの範囲の陽圧で、又は他の形態において約30cmHOまでの範囲で行うことができる。送風機については、以下の特許又は特許出願のうちいずれか1つに記載されており、それらは、米国特許第7,866,944号、米国特許第8,638、014号、米国特許第8,636,479号及びPCT特許出願公開WO2013/020167である。なお、上記文献全体を引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0065】
圧力生成器4140は、治療デバイスコントローラ4240の制御下にある。
【0066】
他の形態において、圧力生成器4140は、ピストン駆動ポンプ、高圧源(例えば、加圧空気リザーバ)へ接続された圧力調節器、又はベローズ(bellows)とすることができる。
【0067】
5.4.1.2 メモリ
本技術の一形態によれば、RPTデバイス4000は、メモリ4260(例えば、不揮発性メモリ)を含む。いくつかの形態において、メモリ4260は、電池駆動式スタティックRAMを含み得る。いくつかの形態において、メモリ4260は、揮発性RAMを含むことができる。
【0068】
メモリ4260を、PCBA4202上に配置しうる。メモリ4260は、EEPROM又はNANDフラッシュの形態をとりうる。
【0069】
追加的に又は代替的に、RPTデバイス4000は、取り外し可能なメモリ4260(例えば、セキュアデジタル(SD:Secure Digital)規格に従って作製されたメモリカード)を含む。
【0070】
本技術の一形態において、メモリ4260は、非一時的コンピュータ可読記憶媒体として機能する。この記憶媒体上に、本明細書中に記載の1つ以上の方法を表現するコンピュータプログラム命令又はプロセッサ制御命令(例えば、1つ以上のアルゴリズム4300)が格納される。
【0071】
5.4.1.3 データ通信システム
本技術の一形態において、データ通信インターフェース4280が設けられ、中央コントローラ4230へ接続される。データ通信インターフェース4280は、遠隔外部通信ネットワーク4282及び/又はローカル外部通信ネットワーク4284へ接続可能でありうる。遠隔外部通信ネットワーク4282は、遠隔外部デバイス4286へ接続可能であり得る。ローカル外部通信ネットワーク4284は、ローカル外部デバイス4288へ接続可能であり得る。
【0072】
一形態において、データ通信インターフェース4280は、中央コントローラ4230の一部である。別の形態において、データ通信インターフェース4280は、中央コントローラ4230と別個であり、集積回路又はプロセッサを含みうる。
【0073】
一形態において、遠隔外部通信ネットワーク4282はインターネットである。データ通信インターフェース4280は、インターネットへ接続するために、(例えば、イーサネット又は光ファイバーを介して)有線通信を用いることができるか又は無線プロトコル(例えば、CDMA、GSM、LTE)を用いることができる。
【0074】
一形態において、ローカル外部通信ネットワーク4284は、1つ以上の通信規格(例えば、ブルートゥース(登録商標)又はコンシューマー赤外線プロトコル)を用いる。
【0075】
一形態において、遠隔外部デバイス4286は、1つ以上のコンピュータ(例えば、ネットワーク化コンピュータのクラスタ)である。一形態において、遠隔外部デバイス4286は、物理的コンピュータではなく仮想コンピュータでありうる。いずれの場合も、このような遠隔外部デバイス4286は、適切に権限を付与された人間(例えば、臨床医)からのアクセスが可能でありうる。
【0076】
ローカル外部デバイス4288は、パーソナルコンピュータ、スマートフォンやタブレットデバイスなどのモバイルコンピューティングデバイス、又はリモートコントロールでありうる。
【0077】
5.4.2 RPTデバイスアルゴリズム
上記したように、本技術のいくつかの形態において、中央制御装置4230は、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体(例えば、メモリ4260)中に格納されたコンピュータプログラムとして表現された1つ以上のアルゴリズム4300を実施するように構成され得る。このアルゴリズム4300は、モジュールと呼ばれるグループにグループ付けられることが一般的である。
【0078】
5.5 加湿器
5.5.1 加湿器の概要
本技術の一形態においては、RTシステムが、患者に送達させるための空気の絶対湿度を周囲空気の絶対湿度と比較して変えるための加湿器5000を、RPTデバイス4000と空気回路4170(図4Aに図示)との間に備える。典型的には、加湿器5000は、患者気道へ送達される前に空気流れの(周囲空気に相対する)絶対湿度を増加させかつ温度を増加させるために用いられる。
【0079】
加湿器5000は(例えば、図5Aに図示のよう)、加湿器リザーバ5110と、空気流れを受容する加湿器入口5002と、加湿された空気流れを送達させるための加湿器出口5004とを含むことができる。図5A及び図5Bに示すようないくつかの形態において、加湿器リザーバ5110の入口及び出口はそれぞれ、加湿器入口5002及び加湿器出口5004でありうる。加湿器5000は、加湿器ベース5006をさらに含むことができる。加湿器ベース5006は、加湿器リザーバ5110を受容するように適合されることができ、加熱要素5240を含むことができる。
【0080】
5.5.2 加湿器のコンポーネント
5.5.2.1 水リザーバ
1つの配置によれば、加湿器5000は、空気流れの加湿のために蒸発させるべき一定量の液体(例えば、水)を収容又は保持するように構成された水リザーバ5110を含み得る。水リザーバ5110は、少なくとも呼吸治療セッション期間(例えば、一晩の睡眠)にわたって適切な加湿を提供するための所定の最大量の水を収容するように構成することができる。典型的には、リザーバ5110は、数百ミリリットルの水(例えば、300ミリリットル(ml)、325ml、350ml又は400ml)を収容するように構成される。他の形態において、加湿器5000は、外部水源(例えば、建物の水供給システム)から水供給を受容するように構成することができる。
【0081】
一態様によれば、水リザーバ5110は、空気流れがRPTデバイス4000を通過する際にRPTデバイス4000からの空気流れを加湿するように、構成される。一形態において、水リザーバ5110は、空気流れがリザーバ5110中の一定量の水と接触しつつ、空気流れのリザーバ5110中の蛇行経路の移動を促進するように構成することができる。
【0082】
一形態によれば、リザーバ5110は、例えば図5A及び図5Bに示すように横方向において加湿器5000から取り外し可能である。
【0083】
リザーバ5110は、例えばリザーバ5110がその通常の動作方向(例えば、任意のアパチャを通じて及び/又はそのサブコンポーネント間に)から変位及び/又は回転した時にリザーバ5110からの液体放出を抑制するようにも構成することができる。加湿器5000によって加湿すべき空気流れは加圧されていることが多いため、リザーバ5110は、漏洩及び/又は流れインピーダンスを通じた空気圧の損失を防止するようにも構成することができる。
【0084】
5.5.2.2 伝導性部
1つの配置によれば、リザーバ5110は、加熱要素5240からリザーバ5110中の一定量の液体への効率的な熱伝達を可能にするように構成された伝導性部(conductive portion)5120を含む。一形態において、伝導性部5120はプレートとして配置され得るが、他の形状も適切でありうる。伝導性部5120の全体又は一部は、アルミニウムなどの熱伝導性材料(例えば、厚さ約2mm(例えば、1mm、1.5mm、2.5mm又は3mm))、別の熱伝導金属また何らかのプラスチックによって構成することができる。いくつかの場合において、適切な熱伝導性が、適切なジオメトリのより低伝導性の材料により達成することができる。
【0085】
5.5.2.3 加湿器リザーバドック
一形態において、加湿器5000は、加湿器リザーバ5110を受容するように構成された(図5Bに示すような)加湿器リザーバドック5130を含み得る。いくつかの配置において、加湿器リザーバドック5130は、ロック機能を含み得る(例えば、リザーバ5110を加湿器リザーバドック5130内に保持するように構成されたロックレバー5135)。
【0086】
5.5.2.4 水位インジケータ
加湿器リザーバ5110は、図5A図5Bに示すような水位インジケータ5150を含むことができる。いくつかの形態において、水位インジケータ5150は、加湿器リザーバ5110中の水の量についての1つ以上の示度(indication)を患者1000又は介護者などのユーザへ提供し得る。水位インジケータ5150から提供されるこれら1つ以上の示度は、最大の示度、所定量の水の示度、その任意の一部の示度を含み得る(例えば、25%、50%、又は75%、又は例えば200ml、300ml又は400mlの量))。
【0087】
5.5.2.5 加湿器トランスデューサ(複数可)
加湿器5000は、上記したトランスデューサ4270の代わりに又は上記したトランスデューサ4270に加えて1つ以上の加湿器トランスデューサ(センサ)5210を含むことができる。加湿器トランスデューサ5210は、空気圧センサ5212、空気流量トランスデューサ5214、温度センサ5216、又は湿度センサ5218のうち1つ以上を含むことができる。加湿器トランスデューサ5210は、1つ以上の出力信号を生成しうる。これらの出力信号は、コントローラ(例えば、中央コントローラ4230及び/又は加湿器コントローラ5250)へ通信することができる。いくつかの形態において、加湿器トランスデューサは、出力信号をコントローラ5250へ通信しつつ、加湿器5000の外部に(例えば、空気回路4170内に)配置することができる。
【0088】
5.6 空気回路
本技術の一態様による空気回路4170は、使用時において加圧空気流れが2つのコンポーネント(例えば、加湿器5000及び患者インターフェース3000)間に移動するように構築及び配置された導管又はチューブである。
【0089】
詳細には、空気回路4170は、加湿器5000の出口5004及び患者インターフェース3000のプレナムチャンバ3200と流体連通しうる。
【0090】
5.7 トランスデューサ(単数又は複数)
RTシステムは、RTシステム、その患者、及び/又はその環境に関連する任意の数のパラメータのうちの1つ以上を測定するように構成された1つ以上のトランスデューサ(センサ)4270を備え得る。トランスデューサは、トランスデューサが測定するように構成された1つ以上のパラメータを表す出力信号を作り出すように構成することができる。
【0091】
この出力信号は、電気信号、磁気信号、機械信号、視覚信号、光学信号、音信号など、当技術分野で公知である任意の数の他の信号のうちの1つ以上でありうる。
【0092】
トランスデューサは、RTシステムの他の部品と一体化することができ、RPTデバイスにトランスデューサが内蔵されているのが1つの例示的な配置である。トランスデューサは、RTシステムの実質的に「スタンドアローン」の部品であってよく、トランスデューサがRPTデバイスの外部にあるのが例示的な配置であろう。
【0093】
トランスデューサは、その出力信号を、RPTデバイス、ローカル外部デバイス、又はリモートの外部デバイスなど、RTシステムの1つ以上の部品に伝達するように構成することができる。外部トランスデューサは、例えば、患者インターフェースや、スマートフォンなどの外部演算装置に配置することができる。外部トランスデューサは、例えば空気回路上に配置してもよいし、あるいは空気回路の一部を形成してもよい(例えば、患者インターフェース)。
【0094】
1つ以上のトランスデューサ4270は、空気の特性を示す信号(例えば、流量、圧力又は温度)を生成するように、構築及び配置することができる。空気は、RPTデバイスから患者への空気流れ、患者から大気への空気流れ、周囲の空気、又はその他でありうる。信号は、RPTデバイスと患者との間の空気圧経路における空気流れなど、特定の地点における空気流れの性質を表しうる。本技術の一形態においては、1つ以上のトランスデューサ4270が、加湿器5000の下流など、RPTデバイスの空気圧経路に所在しうる。
【0095】
5.7.1 圧力センサ
本技術の一態様によれば、1つ以上のトランスデューサ4270は、空気圧経路と流体連通して所在する圧力センサを備える。適切な圧力センサの一実施例として、HONEYWELL製ASDXシリーズからのトランスデューサがある。別の適切な圧力センサとして、GENERAL ELECTRICからのNPAシリーズからのトランスデューサがある。一実施形態において、圧力センサは、加湿器5000の出口5004に隣接する空気回路4170に所在する。
【0096】
圧力センサ(マイクロフォン)4270が、空気回路4170内の圧力の変化を表す音信号を生成するように構成されている。マイクロフォン4270からの音信号は、以下に説明するアルゴリズム4300のうちの1つ以上によって構成されるとおり、音響処理及び分析のために中央コントローラ4230によって受信することができる。マイクロフォン4270は、音に対する感度を高めるために空気経路に直接露出するようにでき、可撓性膜材料の薄層の裏側に封入することもできる。この膜は、マイクロフォン4270を熱及び/又は湿気から保護するように機能しうる。
【0097】
5.8 音響分析
本技術の1つ以上の態様によれば、音響分析は、呼吸器疾患、又は呼吸器疾患の治療のためのシステムに関連する1つ以上のパラメータを決定する目的で使用することができる。
【0098】
本技術の態様に係る音響分析は、治療費の削減、より質の高い治療の提供、治療システムの使いやすさの改善、廃棄物の削減、低コストでのデジタル接続の提供など、先行技術を上回る1つ以上の利点を有しうる。
【0099】
本文書の残りの文脈の中で明らかとなるとおり、本文書における「音響(acoustic)」、「音(sound)」、「ノイズ(noise)」という用語は、それらが聞こえるかどうかに関係なく、空気振動を含むものと一般に意図される。そのため、本文書の「音響」、「音」、「ノイズ」という用語は、別段の記載がない限り、超音波領域又は亜音速領域における空気振動を含むものと意図される。
【0100】
開示された音響分析技術のいくつかの実装形態は、ケプストラム分析を実施し得る。ケプストラムは、例えば、デシベルスペクトルのフォワードフーリエ変換の対数スペクトルの逆フーリエ変換とみなしうる。この操作により、インパルス応答関数(IRF)及び音源の畳み込みを加算演算へ実質的に変換することができ、これにより、その後、音源を容易に考慮するか又はIRFデータを分析のために分離させるように音源を除去することができる。ケプストラム分析の技術については、下記文献中に詳細な記載がある科学文献(名称:「The Cepstrum: A Guide to Processing」(Childersら、Proceedings of the IEEE, Vol. 65, No. 10,Oct 1977))、及びRandall RB、Frequency Analysis, Copenhagen: Bruel & Kjaer, p. 344 (1977, revised ed. 1987)。呼吸治療システムコンポーネント特性へのケプストラム分析の適用について、PCT公開第WO2010/091462(名称:「Acoustic Detection for Respiratory Treatment Apparatus」)中に記載があり、同文献全体は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0101】
ケプストラム分析は、畳み込みの性質から理解され得る。fとgとの畳み込みは、f*gと表記することができる。この演算は、2つの関数(f及びg)の積が反転してシフトした後の積分でありうる。そのため、次のような積分変換の一種である。
【数1】
【0102】
上式で記号tが使われているが、時間領域を表す必要はない。しかしその文脈では、畳み込み式を、瞬間tにおける関数f(τ)の加重平均として記述することができ、加重は、単に量tだけシフトされたg(-τ)によって与えられる。tが変わると、この重み付け関数は、入力関数の異なる部分を強調する。
【0103】
呼吸治療システムの空気圧経路など、時間不変線形音響系システム(time-invariant linear acoustic system)の入力に出力を関連付けることのできる数学的モデルは、畳み込みに基づくことができる。空気回路4170内のマイクロフォン4270によって生成された音信号は、時間(t)の関数としてのシステムインパルス応答関数(IRF)で「畳み込まれた」入力音信号として見なされる。
y(t)=s(t)*h(t) (2)
【0104】
式中、y(t)は、マイクロフォン4270によって生成された出力音信号であり、s(t)は、呼吸治療デバイス4000の圧力生成器4140において、又はそれによって生成された音などの入力音信号であり、h(t)は、音源からマイクロフォン4270までのシステムIRFである。システムIRF h(t)は、単位インパルス入力(unit impulse input)に対するシステム応答と考えうる。
【0105】
等式(2)を、音信号y(t)のフーリエ変換(例えば、離散フーリエ変換(「DFT」)や高速フーリエ変換(「FFT」))を音痴いて周波数領域に変換し、畳み込み定理を考慮すると、次の等式が得られる。
Y(f)=S(f)H(f) (3)
【0106】
式中、Y(f)はy(t)のフーリエ変換(スペクトル)であり、S(f)はs(t)のフーリエ変換であり、H(f)はh(t)のフーリエ変換である。言い換えれば、時間領域における畳み込みが、周波数領域では乗算になる。
【0107】
乗算が加算に変換されるように、等式(3)に対数演算が適用され得る。
Log{Y(f)}=Log{S(f)}+Log{H(f)} (4)
【0108】
等式(4)は、逆フーリエ変換(IFT)(例えば、逆DFT又は逆FFT)によって時間領域に変換して戻され、複素数値の「ケプストラム(Cepstrum)」(スペクトルY(f)の対数の逆フーリエ変換)になる。
【数2】
【0109】
横座標(abscissa)のτはケフレンシ(quefrency)と称される実数値の変数で、測定単位は秒である。そのため、時間領域では畳み込みである効果が、スペクトルの対数では加法的になり、ケプストラムやケフレンシ領域でもそのままとなる。特に、出力ケプストラム(output cepstrum)
【数3】
は、入力信号s(t)のケプストラム
【数4】
と、システムIRF h(t)のケプストラム
【数5】
という2つの加算成分からなる。
【0110】
ケフレンシ領域のデータ値を調べるなど、ケプストラム分析のデータを検討することにより、RTシステムに関する情報が提供され得る。例えば、システムのケプストラムデータを、そのシステムのケプストラムデータの以前のベースライン又は既知のベースラインと比較することにより、差などの比較を用いて、様々な機能又は目的の自動制御を実施するのに使用できるシステムの相違点又は類似点を認識することができる。
【0111】
5.8.1 コンポーネントの識別
上記したように、呼吸治療システムは典型的には、RPTデバイス、加湿器、空気送達導管及び患者インターフェースを含みうる。多様な異なる形態の患者インターフェースが、所与のRPTデバイスと共に用いられ得る(例えば、鼻枕、鼻プロング、鼻マスク、鼻及び口(口腔鼻)マスク又はフルフェイスマスク)。さらに、異なる形態の空気送達導管を用いうる。一般的な形態であっても、患者インターフェースの形態の種々のモデル(例えば、種々の鼻マスク)では、サイズ及び/又は形状など、設計仕様に違いがあり得る。患者インターフェースへの治療送達の制御向上のために、治療パラメータ(例えば、患者インターフェース中の圧力及び通気流れ)の測定又は推定が有利でありうる。治療圧力の推定を用いるシステムでは、患者が使用しているコンポーネントの種類を知ることにより、治療圧力の推定精度を高められるため、治療の効果を高めることができる。そのことを把握するために、いくつかのRPTデバイスにおいて、患者がシステムコンポーネントの種類(例えば、使用されている患者インターフェース)(例えば、ブランド、形態、モデル等)を選択することを可能にするメニューシステムが含まれる。患者がコンポーネントの種類を入力すると、RPTデバイスコントローラは、選択されたコンポーネントと最適に協働するRPTデバイスの適切な動作パラメータを選択することができる。
【0112】
本技術は、RTシステムのコンポーネントを識別するために、音響分析に基づいてRPTデバイスとRTシステムの周辺コンポーネントとの間の連携を促進するための改良を既知のデバイスに提供し得る。本明細書において、コンポーネントの「識別(identification)」とは、RTシステムで使用され得る他の異なる(例えば、空気圧的に異なる)コンポーネントの種類と区別するようにそのコンポーネントの種類を識別することを意味する。その後、かかる識別により、RTデバイスのコントローラによってその空気圧制御(例えば、治療制御)において適用できる空気圧的特性など、識別と関連付けられたデータへのアクセスが許可することができる。通常は「マスク」と称されない患者インターフェースが存在するものの、以降の内容では、簡略化のために、「マスク」が「患者インターフェース」と同義で使用されている。
【0113】
本技術の第1の実施形態は、呼吸治療システム内のコンポーネント(複数可)を識別するためのデバイス、装置、及び/又は方法を備える。これらのコンポーネントは、マスク及び導管でありうる。この実施形態は、導管に接続されているマスクに加え、使用中の導管の長さも識別できる。この技術は、識別時に患者がマスクを着用しているかどうかに関係なく、マスク及び導管を識別できる。
【0114】
本技術は、上記のとおりに配置されたマイクロフォン4270によって生成された音信号の解析を実施しうる。
【0115】
本技術に含まれる分析方法によれば、その他のシステムノイズ及び応答(例を非限定的に挙げると、送風機音)からの音響マスクの反射の分離が可能になる。その結果、異なるマスクの音響反射(これは、マスクの形状、構成及び材料によって決まることが多い)間の差を特定することが可能になり、ユーザ又は患者の介入を要求しないことなど、異なるマスクを特定することが可能になる。
【0116】
マスクを識別する方法例は、マイクロフォン4270によって生成された出力音信号y(t)を、ナイキストレート以上など、例えば20kHzの所望サンプリングレートでサンプリングすることである。ケプストラム
【数6】
は、サンプリングされた出力信号から計算され得る。その後、このケプストラムの反射成分を、このケプストラムの入力信号成分から分離できる。ケプストラムの反射コンポーネントは、入力音声信号のマスクからの音響反射を含むため、マスクの「音響シグネチャ(acoustic signature)」又は「マスクシグネチャ(mask signature)」と呼ばれる。その後、音響シグネチャを、任意の適切なタイプのデータ記憶構造など、既知のマスクを含むシステムから取得された以前に測定された音響シグネチャの既定又は所定のデータベースと比較できる。任意選択的に、適切な類似性の決定のために、一定の判定基準が設定され得る。1つの例示的実施形態において、上記比較を、測定及び保存された音響シグネチャ間の相互相関における単一の最大データピークに基づいて完了することができる。しかし、このアプローチは、いくつかのデータピークの比較による向上も可能とすることができ、あるいは、これらの比較は、ケプストラムの特徴の抽出された一意の集合について完了される。
【0117】
代替として、同じ方法を用いて、RPTデバイスから受信中の音とマスクからの反射との間の遅延を求めることにより、導管の長さを決定できる。この遅延は、導管の長さに比例できる。加えて、管径の変化は、反射信号の振幅を拡大又は縮小しうるため、したがって識別可能である。かかる評価は、現在の反射データを以前の反射データと比較することによって行われる。直径の変化は、反射した信号(すなわち、反射データ)からの振幅の変化の割合と見なされうる。
【0118】
図7は、本技術の一態様に係るRTシステム7000の概略図である。図7に示すこの例示的実施形態においては、(長さLの)導管7010が、スピーカからの音など、RPTデバイス7040によって生み出される音や、代替として、送風機(例えば、モータ及び/又はインペラ)の動作ノイズのみの音響導波管として効果的に機能する。この例示的実施形態においては、入力信号が、RPTデバイス7040の発する音である(すなわち、スピーカからの音は伴わない)。この入力信号(例えば、インパルス)は、導管7010の一端に位置付けられたマイクロフォン7050に入り、導管7010内の空気経路に沿ってマスク7020に移動し、(導管とマスクとを含む)空気経路の特徴によって導管7010に沿って反射して戻り、もう一度マイクロフォン7050に入る。そのため、システムIRF(入力インパルスによって作り出された出力信号)には、入力信号成分と反射成分とが含まれている。RTシステム7000の主たる特徴は、音が空気経路の一端から反対端まで移動するのにかかる時間である。マイクロフォン7050がRPTデバイス7040からの入力信号を受信し、その後しばらくして、導管7010によってフィルタリングされた入力信号を受信し、マスク7020(及び潜在的には、例えば、マスク7020が患者に装着されているときのヒトの呼吸器系など、そのマスクに取り付けられた他のシステム7030)によって反射及びフィルタリングされるため、この間隔は、システムIRFにおいて顕在化される。これは、導管7010のマスク端からの反射と関連付けられたシステムIRFのコンポーネント(反射成分)が、比較的短い遅延の後にマイクロフォン7050に到着する入力信号と関連付けられたシステムIRFのコンポーネント(入力信号成分)に対して遅延することを意味する。(実用上、この短い遅延は無視でき、ゼロ時間は、マイクロフォン7050が最初に入力信号に反応した時に近似できる)。この遅延は2L/c(式中、Lは導管の長さ、cは導管内での音の速度)に等しい。
【0119】
システム7000のもう1つの特徴は、空気経路で損失が生じやすいため、導管の長さが十分であれば、システムIRFの反射成分が始まるまでに、システムIRFの入力信号成分が無視できる量まで減衰するということである。このことが該当する場合には、入力信号成分を、システムIRFの反射成分から分離できる。一例として、図8は、入力信号がRPTデバイスの送風機4142に由来し得る治療システム例からのかかる1つのシステムIRFの例を示す。代替として、この入力信号は、空気経路のデバイス端にあるスピーカから発せられた音を含みうる(RPTデバイス7040によって生成された音を伴うことも伴わないこともある)。図8は、システムIRFの反射成分8020が、システムIRFの入力信号成分8010から、2L/cに等しい遅延を伴って現れる様子を示す。
【0120】
先述の等式(2)、(4)、及び(5)と関連付けられたシステムIRFのケプストラム
【数7】
は、システムIRF h(t)と概ね同じ性質を有する。すなわち、ケプストラム
【数8】
は、2L/cのケフレンシ付近に集中した反射成分と、ケフレンシのゼロ付近に集中した入力信号成分とを備える。本技術では、ケプストラム分析が、例えば、出力ケプストラムデータの位置及び振幅の検査により、(入力信号成分
【数9】
を含むが、これに限定されない)出力ケプストラム
【数10】
の反射成分を他のシステムアーチファクトから分離するように構成されている。
【0121】
この分離は、入力信号s(t)が非定常ランダム(例えばインパルス)又は定常ランダムである場合に達成され得る。つまり、ケプストラムの入力信号成分
【数11】
は、ゼロケフレンシの周りに集中することになる。例えば、この入力信号は、マイクロフォンの測定期間中に一定の速度で作動するRPTデバイスによって生み出された音であり得る。この音は、「周期定常的(cyclostationary)」と形容され得る。すなわち、この音は定常ランダムであり、その統計は周期的である。つまり、出力信号y(t)が、任意の時点において入力信号及びシステムIRFのすべての以前の値の関数であるため、システムIRFの入力信号成分及び反射成分が、出力信号y(t)の全測定時間にまたがって「不鮮明(smeared)」であり得る(等式(2)を参照)。ただし、上記のケプストラム分析は、この畳み込み混合から出力ケプストラム
【数12】
の反射成分を分離する目的で実施され得る。
【0122】
図9は、図7のシステムなど、3つの異なるマスクを用いて実装され、入力信号が、RPTデバイス送風機によって生み出された音である治療システムの測定から取得された様々なケプストラム例の実部を描いている。本実施例における各マスクは、10krpm及び15krpmという2つの異なる送風機動作速度でテストされた。これらの実施例においてはこれらの速度が使用されたが、特に、生じた音がマイクロフォン7050によって検出可能な場合には、他の送風機速度でもこの手法が実施され得る。
【0123】
図9では、全6つのケプストラムにおいて、12ミリ秒(12ms)のケフレンシ付近から反射成分が始まる様子が明確に確認できる。この治療システム例においては2メートルの導管が使用されており、音の速度が343m/sであることから、この位置は予想どおり(2L/c)である。図9のグラフは、マスクからのケプストラムを、上から下の順序で示している。
-10krpmでテストしたResMed Ultra Mirage(登録商標)、
-15krpmでテストしたResMed Ultra Mirage(登録商標)、
-10krpmでテストしたResMed Mirage Quattro(登録商標)、
-15krpmでテストしたResMed Mirage Quattro(登録商標)、
-10krpmでテストしたResMed Swift II(登録商標)、及び
-15krpmでテストしたResMed Swift II(登録商標)。
【0124】
導管を長くすることにより、マスクからの反射の到達遅延も大きく増やされ得る。図9と比較すると、この遅延増は、導管長の近似値を生成する前述の計算に準拠している。
【0125】
本技術によれば、図9のケプストラムにおいて中心に描かれているデータなど、反射成分と関連付けられたデータが、以前に識別された1組のマスク反射成分、又はマスク反射成分のメモリもしくはデータベースに含まれているような1組の所定の音響シグネチャから取得された同様のデータと比較され得る。かかる組には、以前に識別されたかかるマスク反射成分のうちの1つ以上からのデータが含めることができる。
【0126】
例えば、テスト中のマスクの反射成分(「マスク署名」)は、マイクロフォンによって生成された出力信号のケプストラムから分離することができる。このマスク署名は、既知のマスクの識別を確認するなどの目的で、装置のデータテンプレートとして記憶された既知のマスクの以前のマスク署名又は所定のマスク署名の反射成分と比較することができる。その方法の1つが、テスト中のマスクのマスク署名と、すべての既知のマスク又はデータテンプレート用に以前に記憶されたマスク署名との相互相関を計算することである。最も高いピークを有する相互相関がテスト中のマスクに対応している可能性が高く、ピークの位置は導管の長さに比例するはずである。
【0127】
しかしながら、相関点を増やすことにより、本技術の識別ステップの精度も高まり得る。そのため、さらなるデータポイントを利用することができる。任意選択的に、テストデータ及び既知のデータセットを用いた最小二乗アルゴリズムを成分の識別において実施することができる。さらに、いくつかの実施形態においては、ニューラルネットワークやサポートベクターマシンといった人工知能/機械学習の構造及び戦略に基づき得るさらなる特徴抽出及び認識技法を利用することができる。また、成分の識別精度を高めるために、他の情報源も、かかる構造や戦略への入力として含められ得る。具体例として、患者の特性、治療データ、以前に識別された成分などの履歴情報、地理的な位置、及び様々なコンポーネントの販売数などの関連市場データが挙げられる。
【0128】
音響コンポーネントの識別を複雑化する要因の1つが、導管7010のデバイス側からの音響「後方反射(back-reflection)」である。これらの後方反射は、マスク7020から反射した音が導管7010に沿って戻った後に、導管7010と、導管7010が接続されているRPTデバイス/加湿器7040の内部空洞との間の音響インピーダンスが変化した結果、導管7010のデバイス端から生じる。かかる後方反射は、マスクの音響シグネチャに混乱効果を及ぼすことができる。例えば、識別中のコンポーネントの寸法が、マイクロフォン7050とRPTデバイス/加湿器7040内部の断面の任意の不連続部との間の距離と同様の物理的規模のときには、コンポーネントからの反射が、出力信号において、後方反射の応答に重畳することができる。
【0129】
図10に、この効果を示すグラフが描かれている。トレース1050は、マイクロフォンから識別対象コンポーネントに伝わる音、及びそのコンポーネントからマイクロフォンに反射して戻る音と関連付けられたケフレンシで明確なピーク1060を含む出力ケプストラムである。ケプストラムトレース1050は、(a)マイクロフォンからコンポーネントに伝わる音、(b)コンポーネントから導管を下って導管の送風デバイス端に戻る反射、及び(c)送風デバイス端からマイクロフォンへの後方反射と集合的に関連付けられたケフレンシにおける明確な谷(trough)1070も含む。
【0130】
場合によっては、後方反射を特徴付け、反射成分から逆畳み込みすることにより、コンポーネントの識別精度を上げられる可能性がある。代替として、後方反射を設計によって低減又は最小化することができれば、コンポーネントの識別精度を上げられる可能性がある。後者の場合は、治療導管によって形成される導波管に治療圧力を供給できるように、送風機端から患者インターフェースまでの開通路を維持する必要があることによって複雑になる。
【0131】
図11に示すかかる一実装形態1105においては、マイクロフォン1150に最も近く、患者の呼吸気道1130から遠位にある導管1110の端部が、後方反射を低減するように構成された減衰構造体(dampening structure)1160を備える。かかる減衰構造体の構造は、(治療用の)空気流及び音を通す通路を有するように概してオープンであり得るため、パススルー(音響)減衰導管と見なされうる。かかるパススルー減衰導管は、その構造を通る通路の断面を画定する内面を有する遷移性の導管通路であってよく、その断面は、内面の形状により、導管通路の音響又は気流の経路に沿って、例えば直線的に拡大する。図示のとおり、構造体1160は、マイクロフォンが導管に沿って構造体と患者インターフェースとの間に来るように、マイクロフォンと送風機との間の導管に沿って配置され得る。図11の構造体1160の実施例は、その直径が導管1110の直径と同じであり得る導管1110のデバイス端部から、例えば識別されるコンポーネントから離れる方向に横断面又は横方向寸法(例えば、直径)が徐々に増大するRPTデバイス/加湿器1140の内部空洞内へと延在するホーンとして示されている。この点において、構造体1160の断面は、その内面形状から、断面が患者回路の患者インターフェース端から遠ざかるにつれて拡大する。音響導波管の音響インピーダンスが、導波管の内部横方向寸法(例えば直径)に関連するので、ホーン構造体1160は、吸収材とは異なり、導管1110とRPTデバイス/加湿器1140の空洞との間の音響インピーダンスの変化を緩やかにすることによって後方反射を最小化する。ホーン構造体1160は、図11及び図11Aに示すような円錐形状であってよく、図11Bの例のように金管楽器のベルのようにホーンの形状が湾曲していてもよい。構造体1160の効果は、システムコンポーネント1120の音響シグネチャにおける後方反射成分を低減することにより、システムコンポーネントの識別性を高めることである。
【0132】
ケプストラムは、サンプリングされた出力信号y(t)の有限の時間窓にわたって計算できる。窓が長いほど、音響シグネチャと入力信号成分との間できれいな分離が生じ得る。しかしながら、空気経路の音響特性は、使用中に患者によって評価される場合など、呼吸サイクル中の圧力、及び/又は呼吸サイクル中の流量、及び/又は呼吸サイクル中の湿度の変化などの要因によって時間とともに変化し得るため、この窓は、途中で空気経路特性の大きな変化が予想されるほど長くすべきでない。一例においては、窓の持続時間は200msである。
【0133】
等式(5)のIFTを実行してケプストラム
【数13】
を計算する前に、対数スペクトルLog{Y(f)}から対数スペクトルLog{Y(f)}の移動平均を差し引くなど、ローパスフィルタリングされた対数スペクトルLog{Y(f)}をそれ自体から差し引くと、対数スペクトルの全体的な形状が平坦化し得、入力信号s(t)のランダム性に対する音響シグネチャの分離の感度が低下し得る。すなわち、かかる平坦化により、入力信号s(t)が特にランダムな性質のものでなくても、原点(τ=0)付近の出力ケプストラム
【数14】
に入力信号成分
【数15】
が集中する。この集中により、所与の入力信号に対する出力ケプストラム
【数16】
において、システムIRFの反射成分(音響シグネチャ)からの入力信号成分
【数17】
の分離性が高まる。平坦化プロセスにおいて導管の共振周波数が除去されないように、注意してフィルタを設定する必要がある。例えば、フィルタのカットオフポイントは、導管の共振がフィルタによって大幅に除去され、平坦化プロセスによって維持されるように十分に低く(又は移動平均の窓が十分に長く)あるべきである。代替実施形態においては、等式(5)でIFTを実行してケプストラム
【数18】
を計算する前に、対数スペクトルLog{Y(f)}がハイパスフィルタリングされ得る。
【0134】
複数の出力ケプストラム
【数19】
が複数の窓にわたって計算され得、それぞれのケプストラムから抽出された音響シグネチャが単一の複合音響シグネチャにまとめられてから、以前に測定された音響シグネチャ(例えば、テンプレートデータ)と比較され得る。いくつかの実施形態においては、このまとめ(組み合わせ)は、複数の音響シグネチャの平均化である。かかるまとめは、複合音響シグネチャに対するノイズの影響を低減する傾向がある。
【0135】
空気経路の音響特性に対する呼吸サイクルの可変効果と、ひいては窓間での音響シグネチャの可変性とを最小化するために、窓のタイミングを、吸気流量のピーク又は呼気終了時の一時停止など、呼吸サイクルの特定ポイントと一致(同期)するように合わせうる。回転機械が署名に及ぼす影響を軽減又は強調するために、同様の方法で、窓がRTデバイスの特定シャフト回転速度と同期され得る。いくつかの実施形態においては、音響分析が、ベアリングの故障など、機械の状態の診断又は予知を含むことができる。
【0136】
かかる「呼吸同期型(breathing-synchromized)」実施形態においてさえ、窓間の空気経路可変性の他の源が、ケフレンシ領域における各音響シグネチャの相対的な遅延に影響を及ぼし得る。音響シグネチャのまとめ方によっては、複合音響シグネチャが不鮮明になったりぼやけたりして、その示差性に影響しうる。
【0137】
そのため、いくつかの実装形態においては、複数の音響シグネチャ間の遅延(ケフレンシ軸に沿った相対的なシフト)の小さなばらつきに強い組み合わせ方法が選択され得る。かかる一実施形態においては、新たに計算された音響シグネチャが、1つずつ複合音響シグネチャに組み込まれて、新たに計算された各音響シグネチャから複合音響シグネチャを段階的に構築していく。この組み込みを実現するために、新たに計算された各音響シグネチャを複合音響シグネチャと比較して、複合音響シグネチャに対する遅延を推定することができる。推定された相対遅延は、新たに計算された音響シグネチャを複合音響シグネチャに組み込む前に、その音響シグネチャを推定された遅延分だけシフトさせることによって補償することができる。かかる実施形態においては、最大の負のピークなどの音響シグネチャの際立った特徴の位置を見つけることによって遅延を推定することができる。代替実装形態においては、その音響シグネチャを複合音響シグネチャと相関させ、相関のピークを特定することによって遅延を推定できる。音響シグネチャの遅延推定及び補償は、音響シグネチャの整合(alignment)と称することができる。平均化による組み合わせの場合には、シフトした各音響シグネチャが、組み合わせた署名で以て平均化することができる。
【0138】
他の組み合わせ技法は、ウェーブレット変換ベースの組み合わせなど、遅延の小さなばらつきに対して堅牢な複合音響シグネチャを作り出せる。
【0139】
図12は、本技術の一態様による、呼吸治療システムの空気経路のコンポーネントを識別する方法1200を示すフローチャートである。方法1200は、等式(5)に関連して上述したような呼吸同期型窓の経過中などに、出力信号y(t)から出力ケプストラム
【数20】
を計算するステップ1210で開始することができる。ステップ1210は、上記のとおり、出力ケプストラム
【数21】
を計算する前に任意選択で対数スペクトルLog{Y(f)}を平坦化する。
【0140】
続いてステップ1220で、ステップ1210で計算されたケプストラムから反射成分(音響シグネチャ)が分離される。次のステップ1230では、音響シグネチャが、上記のとおり、ケフレンシ領域の小さなシフトに対して堅牢な方法で複合音響シグネチャに組み込まれる。(このループを通過する最初のパスでは、ステップ1230が、単純に音響シグネチャを複合音響シグネチャとして指定するだけである)。
【0141】
その後、ステップ1240が、複合音響シグネチャを構成するのに十分な音響シグネチャが組み込まれたかどうかをチェックする。そうでなければ(「N」)、方法11000はステップ1260に進み、次の呼吸同期型窓を待った後、ステップ1210に戻って新しいケプストラムを計算する。そうであれば(「Y」)、ステップ1250は、複合音響シグネチャを、既知のコンポーネントを含むシステムから取得された、以前に測定された音響シグネチャのデータベースの署名データセットなど、既定の署名データセット又は所定の署名データセットと比較して、現在のコンポーネントを識別する。次に、方法1200は終了する。
【0142】
図13には、2つのグラフが記載されている。上のグラフ1300は、窓間で管の長さが変化したときの、1組の未整合音響シグネチャを示している。下のグラフ1350は、上記の最大の負のピーク実施形態による整合後の同じ組の音響シグネチャを示している。整合により、1組の未整合音響シグネチャよりも明確に定義された1組の複合音響シグネチャが得られることが確認され得る。
【0143】
図12に関連して説明した信号処理分析は、先述のとおり、ファームウェア、ハードウェア、及び/又はソフトウェアを用いるなどして、コントローラ又はプロセッサによって実施できる。かかるコントローラは、マスク及び導管を識別し得る。患者インターフェースの同一性に関連するこの識別情報又はデータはその後、さらなるコントローラ、プロセッサ、システム、又はコンピュータに中継したり、コントローラによって使用したりできる。この情報はその後、呼吸治療システムによって呼吸治療を実施する際に、治療設定や、RPTデバイスの制御を目的とした他の設定の調整時に利用できる。
【0144】
例えば、上記の技術は、CPAP装置などの呼吸治療システムのコントローラの一部として実施できる。かかる実装は、CPAP装置のユーザ又は臨床医が、特定のマスクと併用するために装置の設定を手動で入力又は調整する必要性を軽減するのに役立ちうる。したがって本技術のいくつかの実施形態においては、かかるシステムが、自動的に識別された患者インターフェース又はマスクの構成に従って調整された設定で以て装置を自動的に設定するため、CPAP装置に必要な入力や設定をユーザが行うことなくマスクを交換することさえでき得る。場合によっては、上記の自動化されたプロセスによって得られた識別情報で以てユーザに促して、ユーザがその識別情報の確認を入力するだけで済むようにしたり、それによりセットアップのためにRTデバイスのユーザインターフェース上で多数の患者インターフェース項目をスクロールする必要性を回避又は軽減したりすることにより、セットアップが簡略化できる。
【0145】
加えて、いくつかの実施形態においては、特定のマスクの同一性に関する情報が、製造者、医師、臨床医に選択的に送信されて患者のトラブルシューティングの支援に使用されるようにし得る。かかるデータは、例えば、Bluetooth(登録商標)及び/又はWiFi(登録商標)などの無線通信プロトコルによって送信できる。
【0146】
加えて、いくつかの実施形態においては、特定のマスクの同一性に関する情報は、マスクの調整実施に関するチュートリアルなど、特定のマスクに関連するパーソナライズされたコーチング又はトレーニングコンテンツを手動又は自動で展開するなどのアクションを誘発する目的で使用できる。かかる内容は、治療デバイスの画面や対応モバイルデバイスアプリケーション、又は電子メールやSMSメッセージなど他の通信手段を介してユーザに伝達しうる。
【0147】
代替として、本技術のいくつかの実施形態においては、コントローラが、テストケプストラムデータを、患者の使用中に記録されたテンプレートケプストラムデータと比較するなどして、患者が現在マスクを着用しているかどうかを、音響反射の性質に基づいて検出するように構成できる。同様に、本技術は、システムの漏れ及び/又はねじれを含むマスクの技術的問題の有無を判断する目的で実施され得る。これは、現在のテストケプストラムデータと、マスクが良好に動作し、患者の顔に正しく装着されていた(例えば、漏れがない)ときに記録されたケプストラムデータを比較することによっても検出しうる。
【0148】
いくつかの実施形態においては、コンポーネントの識別中に、上記の速度よりも大きい送風機速度が具現化され得る。例えば、一部の導管は、ノイズを低減し得る性質を有する材料を使用できる。かかるシステムでは、システムの音響損失が変動しうる。測定された信号によって検出された損失が増大した場合(例えば、振幅の減少)、音損失の影響を克服するために、音源又はノイズ源のデシベルが高められ得る。これは、テスト測定プロセス中に送風機の速度を上げることによって達成できる。加えて、空気経路に含まれる他の要素が音響損失を増大させうる。これらの要素としては、加湿器、ノイズバッフル、バルブなどが挙げられ得る。繰り返しになるが、これらのコンポーネントに起因する損失は、ノイズ源のレベル又は振幅を大きくすることによっても克服され得る。典型的には、入力信号の適切な音量レベルは、約20dBa以上でありうる。
【0149】
マイクロフォン4270の周波数範囲は、コンポーネントの識別に必要な幾何学的分解能に従って選択できる。小寸法についての情報を分解するには、典型的には生成された音信号において高い周波数コンポーネントが必要となる。呼吸治療用の典型的な空気回路は、基本周波数が100Hz未満の管共振を呈するが、基本周波数の整数倍である10kHz以上の高調波がスペクトルに現れる。マイクロフォン4270の周波数範囲は、高調波間隔と関連付けられた期間が対数スペクトルの逆フーリエ変換に存在する十分な共振高調波を感知できるだけの大きさとなるように選択できる。そのため、一実施形態においては、マイクロフォン4270が、少なくとも10kHzの周波数上限を有する。
【0150】
先述のとおり、いくつかの実施形態は、スピーカなどの音源を利用して、サウンドインパルス又はホワイトノイズを生成することができる。これは、ノイズを生成しない非常に静かな送風機を備えた呼吸治療システムに特に有効でありうる。例えば、ResMed(登録商標)RPTデバイスを概して6krpm未満の速度で使用するとき、送風機は非常に静かである。この状況下では、入力信号を作り出すための音源として送風機の音だけを使用しても、一部のコンポーネントの識別に不十分でありうる。この問題は、空気経路に追加音源を含めることによって克服されうる。これは、マスクを導管に最初に取り付けたときなど、測定期間中に有効化されうる。追加音源はスピーカであり得るが、他の発音体も利用できる。例えば、選択的に有効化及び無効化(例えば、システムの空気経路に対して機械的に適用及び除去)されるリードなどの簡素な音響生成器が、RPTデバイスからの空気の流れを受けて振動するように構成できる。これが、サウンドインパルスを選択的に生み出す働きをしうる。代替として、作動したRPTデバイスのバルブが追加音源となりうる。
【0151】
加えて、スピーカなどの音源を、送風機によって生み出された音スペクトルのギャップを埋める目的で使用できる。例えば、特定のスペクトルを有するように設計された信号を生成して、送風機の音とスピーカの音とを加えて白色のスペクトルを生成する目的で、スピーカが使用され得る。これにより、システムの検出精度を向上できるだけでなく、治療デバイスのユーザが体感する音の知覚品質も向上できる。
【0152】
いくつかの実施形態においては、マスクが、一意の音響応答特性を有するように設計できる。例えば、各マスクの音響反射データを容易に区別できるように、マスク又は導管内に独特の音共振器又は独特の特徴的寸法が設計できる。
【0153】
いくつかの実施形態においては、ケプストラム分析ではなく、自己相関(すなわち、パワースペクトルの逆フーリエ変換)を実施できる。
【0154】
本技術のさらなる実施形態においては、型の識別に加え、特定のマスク特性を識別する目的で、音響反射を分析できる。例えば、マスク又は導管の特性を識別する目的で、システム応答データが利用できる。これらの特徴としては、直径、構成材料、空洞の容積、マスク及び導管の全体構成などが挙げられる。
【0155】
5.9 用語集
本技術の開示目的のため、本技術の特定の形態において、以下の定義のうち1つ以上が適用できる。本技術の他の形態において、別の定義も適用できる。
【0156】
5.9.1 一般
空気:本技術の特定の形態において、空気は大気を意味し、本技術の他の形態において、空気は、他の呼吸可能なガスの組み合わせ(例えば、酸素を豊富に含む大気)を意味しうる。
【0157】
雰囲気:本技術の特定の形態において、「雰囲気」という用語は、(i)呼吸治療システム又は患者の外部、及び(ii)呼吸治療システム又は患者を直接包囲するものを意味するものとしてとられるべきである。
【0158】
例えば、加湿器に対する雰囲気湿度とは、加湿器を直接包囲する空気の湿度であり得る(例えば、患者が睡眠をとっている部屋の内部の湿度)。このような雰囲気湿度は、患者が睡眠をとっている部屋の外部の湿度と異なる場合がある。
【0159】
自動的な気道陽圧(APAP:Automatic Positive Airway Pressure)療法:SDB発症の通知の存在又は不在に応じて、例えば、呼吸間に最小限界と最大限界との間で治療圧力を自動的に調節することが可能なCPAP療法。
【0160】
持続的気道陽圧(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)療法:治療圧力が患者の呼吸サイクルを通じてほぼ一定である呼吸圧療法。いくつかの形態において、気道への入口における圧力は、息の吐き出し(exhalation)時において若干上昇し、吸入(inhalation)時において若干低下する。いくつかの形態において、圧力は、患者の異なる呼吸サイクル間において変動する(例えば、部分的な上気道閉塞の兆候の検出に応答して増加され、部分的な上気道閉塞の通知の不在時において低減される)。
【0161】
流量(Flow rate):単位時間あたりに送出される空気の瞬時の量(又は質量)。流量とは、瞬間の量を指し得る。場合によっては、流量について言及した場合、スカラー量(すなわち、大きさのみを有する量)を指す。他の場合において、流量について言及した場合、ベクトル量(すなわち、大きさ及び方向両方を持つ量)を指す。流量には、符号Qが付与され得る。「流量」を簡略的に「流れ(flow)」又は「空気の流れ(airflow)」と呼ぶ場合もある。
【0162】
漏洩:「漏洩」という用語は、意図しない空気流れとしてとられる。一実施例において、漏洩は、マスクと患者の顔との間のシールが不完全であることに起因して発生し得る。別の実施例において、漏洩は、周囲に対するスイベルエルボー(swivel elbow)において発生し得る。
【0163】
患者:呼吸器疾患に罹患しているか又はしていない人。
【0164】
圧力:単位面積あたりの力。圧力は、多様な単位で表現され得る(例えば、cmHO、g-f/cm、及びヘクトパスカル)。1cmHOは、1g-f/cmに等しく、およそ0.98ヘクトパスカルである。本明細書において、他に明記無き限り、圧力はcmHOの単位で付与される。
【0165】
呼吸圧力治療(RPT:Respiratory Pressure Therapy):雰囲気に対して典型的には陽圧である治療圧力における空気供給の気道入口への付加。
【0166】
シール(seal):名詞(「シール」)として用いられる場合は構造を指し得、動詞(「密閉(する)」)として用いられる場合はその効果を指しうる。2つの要素を、別個の「シール」要素自体を必要とすることなく両者間において「シール」するか又は「密閉」効果を得るように、構築及び/又は配置しうる。
【0167】
5.9.2 患者インターフェース
プレナムチャンバ:マスクプレナムチャンバは、空間の容積を少なくとも部分的に封入する壁を有する患者インターフェースの一部を意味するものとしてとられ、容積中の空気は、加圧されて使用時において気圧を超える。シェルは、マスクプレナムチャンバの壁の一部を形成しうる。
【0168】
シェル:シェルは、屈曲、引っ張り及び圧縮剛性を有する曲線状の比較的肉薄構造を意味するものとしてとられる。例えば、マスクの曲線状構造壁は、シェルであり得る。いくつかの形態において、シェルは小面を持ち(faceted)うる。いくつかの形態において、シェルは気密であり得る。いくつかの形態において、シェルは気密でない場合もある。
【0169】
通気部(Vent):(名詞):マスク又は導管の内部の周囲空気への空気流れを可能にする構造であり、吐き出されたガスの臨床的に有効な洗い流しを可能にする。例えば、臨床的に有効な洗い流しにおいては、約10リットル/分~約100リットル/分の流量がマスク設計及び治療圧力に応じて用いられうる。
【0170】
5.10 他の注意事項
本特許文書の開示の一部は、著作権保護が与えられる内容を含む。著作権所有者は、何者かが本特許文書又は本特許開示をファックスにより再生しても、特許庁の特許ファイル又は記録に現れているものであれば異論は無いが、その他の目的については全ての著作権を保持する。
【0171】
他に文脈から明確に分かる場合及び一定の範囲の値が提供されていない限り、下限の単位の1/10、当該範囲の上限と下限の間、及び記載の範囲の他の任意の記載の値又は介入値に対する各介入値は本技術に包含されることが理解される。介在範囲(intervening range)中に独立的に含まれるこれらの介在範囲の上限及び下限が記載の範囲における制限を特に超えた場合も、本技術に包含される。記載の範囲がこれらの制限のうち1つ又は双方を含む場合、これらの記載の制限のいずれか又は双方を超える範囲も、本技術に包含される。
【0172】
さらに、本明細書中に値(単数又は複数)が本技術の一部として具現される場合、他に明記無き限り、このような値が近似され得、実際的な技術的実行が許容又は要求する範囲まで任意の適切な有効桁までこのような値を用いることが可能であると理解される。
【0173】
他に明記しない限り、本明細書中の全ての技術用語及び科学用語は、本技術が属する分野の当業者が一般的に理解するような意味と同じ意味を持つ。本明細書中に記載の方法及び材料に類似するか又は等しい任意の方法及び材料を本技術の実践又は試験において用いることが可能であるが、限られた数の例示的な方法及び材料が本明細書中に記載される。
【0174】
特定の材料が構成要素の構築に好適に用いられるものとして記載されているが、特性が類似する明白な代替的材料が代替物として用いられる。さらに、それとは反対に記載無き限り、本明細書中に記載される任意及び全ての構成要素は、製造可能なものとして理解されるため、集合的に又は別個に製造され得る。
【0175】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲において用いられるように、単数形である「a」、「an」及び「the」は、文脈から明らかにそうでないことが示されない限り、その複数の均等物を含む点に留意されたい。
【0176】
本明細書では、「約」という用語が、基準量に対して30%程度、好ましくは20%程度、より好ましくは10%程度変化する量を表すのに使用されている。数字を修飾するために「約」という語を使うのは、その数字が正確な値と解釈されるべきではないことを明示しているに過ぎない。
【0177】
本明細書中に記載される公開文献は全て、これらの公開文献の対象である方法及び/又は材料の開示及び記載を、参考のために引用することにより本明細書の一部をなすものとする。本明細書中で議論した公開文献は、本出願の出願日前のその開示内容のみのために提供するものである。本明細書中のいずれの内容も、本技術が先行技術のためにこのような公開文献に先行していない、認めるものと解釈されるべきではない。さらに、記載の公開文献の日付は、実際の公開文献の日付と異なる場合があり、個別に確認が必要であり得る。
【0178】
「comprises」及び「comprising」という用語は、要素、構成要素又はステップを非排他的な意味合いで指すものとして解釈されるべきであり、記載の要素、構成要素又はステップが明記されていない他の要素、構成要素又はステップと共に存在、利用又は結合され得ることを示す。そのため、文脈によって別段求められない限り、本明細書を通じて、「備える」という語は、記載されたステップもしくは要素、又はステップもしくは要素のグループを含むということを示唆するが、他のステップもしくは要素、又はステップもしくは要素のグループを除外することを示唆しないものと理解される。本明細書で使用されている「含む」という用語も、その用語に続く要素/特徴を少なくとも含むが、他を排除しないことも意味するオープンな用語である。このように、「含む」は、「備える」と同意かつ同義である。
【0179】
本明細書に概説した様々な方法又はプロセスは、各種オペレーティングシステム又はプラットフォームのいずれかを用いる、1つ以上のプロセッサで実行可能なソフトウェアとしてコード化され得る。加えて、かかるソフトウェアは、いくつかの適切なプログラミング言語及び/又はプログラミングツールもしくはスクリプトツールのいずれかを使用して記述され得ることに加え、フレームワーク又は仮想マシン上で実行される実行可能な機械語コード又は中間コードとしてコンパイルもされ得る。
【0180】
この点において、様々な発明概念は、1つ以上のコンピュータ又は他のプロセッサで実行されると、上述した技術の様々な実施形態を実施する方法を実行する1つ以上のプログラム又はプロセッサ制御命令で以て符号化されたプロセッサ可読媒体又はコンピュータ可読記憶媒体(もしくは複数のかかる記憶媒体)(例えば、コンピュータメモリ、1つ以上のフロッピーディスク、コンパクトディスク、光ディスク、磁気テープ、フラッシュメモリ、フィールドプログラマブルゲートアレイもしくは他の半導体デバイス内の回路構成、又は他の非一時的な媒体もしくは有形コンピュータ記憶媒体)として具現化され得る。このコンピュータ可読媒体(単数及び複数)は可搬性であり得、その上に記憶されたプログラム又はプログラムを1つ以上の異なるコンピュータ又は他のプロセッサにロードして、上述した本技術の様々な態様を実施することができる。
【0181】
本明細書では、「プログラム」又は「ソフトウェア」という用語が、一般的な意味で使用されており、上述したような実施形態の様々な態様を実施するためにコンピュータ又は他のプロセッサをプログラムする目的で採用できる任意のタイプのコンピュータコード又は任意の集合のコンピュータ実行可能な命令を指す。加えて、ある態様によれば、実行されると本技術の方法を実行する1つ以上のコンピュータプログラムは、単一のコンピュータ又はプロセッサ上に所在する必要はなく、本技術の様々な態様を実装するために、多数の異なるコンピュータ又はプロセッサにモジュール方式で分散して存在し得るものと理解されるべきである。例えば、本技術のいくつかのバージョンは、本明細書に記載されているコンピュータ可読媒体又はプロセッサ可読媒体のいずれかへのアクセス権を有するサーバを含み得る。このサーバは、通信ネットワーク、インターネット、又はインターネットなどのネットワークを経て、媒体のプロセッサ制御命令又はプロセッサ実行可能な命令を、スマート携帯電話やスマートスピーカなどの電子デバイスにダウンロードするリクエストを受信するように構成され得る。そのため、この電子デバイスも、その媒体の命令を実行するために、かかる媒体を含み得る。同様に、本技術は、サーバが、本明細書に記載された媒体のいずれかにアクセスする方法として実装され得る。本方法(複数可)は、媒体のプロセッサ実行可能な命令をネットワークを介して電子デバイスへダウンロードせよとのリクエスト、及び該リクエストに応答して媒体の命令を電子デバイスへ送信せよとのリクエストをサーバにおいて受信することを含み得る。任意選択的に、このサーバは、媒体の命令を実行するためにその媒体にアクセスしうる。
【0182】
コンピュータ実行可能な命令は、プログラムモジュールなど、1つ以上のコンピュータ又は他のデバイスによって実行される多くの形態であり得る。一般に、プログラムモジュールは、特定のタスクを実行するか、又は特定の抽象データタイプを実装するルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造などを含み得る。典型的にはプログラムモジュールの機能は、様々な実施形態において必要に応じて組み合わせたり、分散させたりできる。
【0183】
また、データ構造は、任意の適切な形式でコンピュータ可読媒体に記憶され得る。図示の簡略化のために、データ構造は、そのデータ構造内の位置を通じて関係を有するフィールドを有するものとして示され得る。かかる関係は、各フィールドの記憶装置に、それらのフィールド間の関係を伝えるコンピュータ可読媒体内の位置を割り当てることによっても同様に実現され得る。しかしながら、データ構造のフィールド内の情報間の関係を確立するために、データ要素間の関係を確立するポインタやタグなどのメカニズムを使用するなど、任意の適切なメカニズムを使用できる。
【0184】
本明細書中の技術について、特定の実施例を参照して述べてきたが、これらの実施例は本技術の原理及び用途を例示したものに過ぎないことが理解されるべきである。例えば、本明細書では、音響生成器及び音響モニタリング技法が、RPTデバイス(複数可)使用及びコンポーネント(複数可)に関する特定の実施例で説明されているが、かかる音響生成器及び音響モニタリング技法は、制御された空気の流れを、患者インターフェースを通じて治療流量レベルで提供する高流量治療(HFT)デバイスなど任意の呼吸治療(RT)デバイスのコンポーネント(複数可)で同様に実施されうるものと理解される。そのため、HFTデバイスは、圧力制御されたRPTデバイスと似ているが、流量制御用のコントローラを有して構成されている。かかる実施例においては、音響生成器を、HFTデバイスによって生成された高流量治療と関連付けられたガス特性を測定するように構成でき、HFTデバイスの患者回路、その導管カプラ、及び/又は患者インターフェースのガス流をサンプリングするために統合できる。そのため、HFTデバイスは、音響生成器が実装されたHFTデバイスによって生成された音響/音信号を受信するために、本明細書に記載された音響分析のための処理技法に加え、音響受信機も任意選択的に含みうる。
【0185】
本明細書におけるいくつかの場合において、用語及び記号は、本技術の実施に不要な特定の詳細を示し得る。例えば、「first(第1の)」及び「second(第2の)」(など)という用語が用いられるが、他に明記無き限り、これらの用語は任意の順序を示すことを意図しておらず、別個の要素を区別するために用いられる。さらに、本方法におけるプロセスステップについての記載又は例示を順序付けて述べる場合があるが、このような順序は不要である。当業者であれば、このような順序が変更可能であり及び/又はその態様を同時に又はさらに同期的に行うことが可能であることを認識するであろう。
【0186】
よって、本技術の意図及び範囲から逸脱することなく、例示的な実施例において多数の変更例が可能であり、また、他の配置構成が考案され得ることが理解されるべきである。
【符号の説明】
【0187】
【表1A】

【表1B】

【表1C】

【表1D】

【表1E】
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図11A
図11B
図12
図13
【国際調査報告】