(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-05
(54)【発明の名称】プロドラッグ組成物中の薬物濃度を定量化する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/34 20060101AFI20220628BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220628BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20220628BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20220628BHJP
C12Q 1/527 20060101ALI20220628BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220628BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C12Q1/34
G01N27/62 X ZNA
G01N27/62 V
C07K7/08
C12Q1/37
C12Q1/527
G01N33/15 Z
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021565898
(86)(22)【出願日】2020-05-06
(85)【翻訳文提出日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 US2020031605
(87)【国際公開番号】W WO2020227364
(87)【国際公開日】2020-11-12
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】500034653
【氏名又は名称】ジェンザイム・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】キム・アルヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ビン・ワン
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA09
2G045DA36
2G045FB01
2G045FB06
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ79
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4B063QR18
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4H045AA10
4H045AA30
4H045BA16
4H045BA17
4H045EA50
4H045FA20
(57)【要約】
プロドラッグ組成物中に存在する薬物の量を定量化する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ヒアルロン酸-リンカー-ペプチド(xHA-L-P)プロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する方法であって:
該xHA-L-Pプロドラッグ製剤のサンプルを;
ヒアルロノグルコシダーゼと接触させて、オリゴマーのヒアルロン酸-リンカー-ペプチド薬物(oHA-L-P)を生成する工程;
該oHA-L-Pを第2の酵素と接触させて、該薬物のペプチド消化産物を生成する工程;および
該ペプチド消化産物を検出して、該xHA-L-Pプロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
ペプチド消化産物は、約2アミノ酸長~約100アミノ酸長の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ペプチド消化産物は、約3アミノ酸長~約75アミノ酸長の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ペプチド消化産物は、約4アミノ酸長~約50アミノ酸長の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ペプチド消化産物は、約6アミノ酸長~約30アミノ酸長の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ペプチド消化産物は、約15アミノ酸長~約20アミノ酸長の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ペプチド消化産物は、約1アミノ酸長、約2アミノ酸長、約3アミノ酸長、約19アミノ酸長またはこれらの任意の組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ペプチド消化産物を検出する工程は、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS-MS)、液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析法(LC-HRMS)、紫外(UV)吸光度および蛍光検出法のうち1つまたはこれらの組合せからなる群から選択される方法により実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ヒアルロノグルコシダーゼはヒアルロニダーゼ(HAアーゼ)である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
HAアーゼは、HAアーゼ1、HAアーゼ2、HAアーゼ3、HAアーゼ4、HAアーゼ5およびHAアーゼ6からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
HAアーゼはHAアーゼ1またはHAアーゼ2である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
HAアーゼはHAアーゼ2である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ヒアルロノグルコシダーゼはヒアルロン酸(HA)リアーゼEC4.2.2.1である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
oHA-L-Pを、エンドプロテイナーゼと接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
エンドプロテイナーゼは、Glu-C、Asp-N、Lys-C、Arg-C、トリプシンおよびキモトリプシンからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
エンドプロテイナーゼはAsp-Nである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
内部標準の使用をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
内部標準は、1つまたはそれ以上の重同位体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
存在する薬物の量は、検量線を使用して決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
圧力サイクラー中で、xHA-L-Pをヒアルロノグルコシダーゼと接触させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
圧力は、約5KPSI、約10KPSIまたは約15KPSIである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
圧力サイクラー中で、oHA-L-Pを第2の酵素と接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
圧力は、約35KPSI、約40KPSIまたは約45KPSIである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
架橋ヒアルロン酸-リンカー-ペプチド(xHA-L-P)プロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する方法であって:
該xHA-L-Pプロドラッグ製剤のサンプルを、ヒアルロノグルコシダーゼと接触させて、オリゴマーのヒアルロン酸-リンカー-ペプチド薬物(oHA-L-P)を生成する工程;
該oHA-L-Pをエンドプロテイナーゼと接触させて、該薬物のペプチド消化産物を生成する工程;および
該ペプチド消化産物を検出して、該xHA-L-Pプロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する工程
を含む、前記方法。
【請求項27】
ペプチド消化産物を検出する工程は、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS-MS)、液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析法(LC-HRMS)、紫外(UV)吸光度および蛍光検出法のうち1つまたはこれらの組合せからなる群から選択される方法により、実行される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ヒアルロノグルコシダーゼは、HAアーゼ1またはHAアーゼ2である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
ヒアルロノグルコシダーゼは、HAリアーゼEC4.2.2.1である、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
エンドプロテイナーゼは、Glu-C、Asp-N、Lys-C、Arg-C、トリプシンおよびキモトリプシンからなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
エンドプロテイナーゼはAsp-Nである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
内部標準の使用をさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
内部標準は、1つまたはそれ以上の重同位体を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
存在する薬物の量は、検量線を使用して決定される、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
xHA-L-Pは、圧力サイクラー中で、ヒアルロノグルコシダーゼと接触させられる、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
圧力は、約5KPSI、約10KPSIまたは約15KPSIである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
oHA-L-Pは、圧力サイクラー中で、エンドプロテイナーゼと接触させられる、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
圧力は、約35KPSI、約40KPSIまたは約45KPSIである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
架橋ヒアルロン酸-リンカー-ペプチド(xHA-L-P)プロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する方法であって:
該xHA-L-Pプロドラッグ製剤のサンプルをHAリアーゼEC4.2.2.1と接触させて、オリゴマーのヒアルロン酸-リンカー-ペプチド薬物(oHA-L-P)を生成する工程;
該oHA-L-PをAsp-Nと接触させて、該薬物のペプチド消化産物を生成する工程;および
該ペプチド消化産物を検出して、該xHA-L-Pプロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する工程
を含む、前記方法。
【請求項42】
ペプチド消化産物は、約2アミノ酸長~約100アミノ酸長の間、約3アミノ酸長~約75アミノ酸長の間、約4アミノ酸長~約50アミノ酸長の間、約6アミノ酸長~約30アミノ酸長の間、約15アミノ酸長~約20アミノ酸長の間であるか、または約1アミノ酸長、約2アミノ酸長、約3アミノ酸長、もしくは約19アミノ酸長である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
ペプチド消化産物を検出する工程は、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS-MS)、液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析法(LC-HRMS)、紫外(UV)吸光度および蛍光検出法のうち1つまたはこれらの組合せからなる群から選択される方法により、実行される、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
内部標準の使用をさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
内部標準は、1つまたはそれ以上の重同位体を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
存在する薬物の量は、検量線を使用して決定される、請求項41に記載の方法。
【請求項47】
xHA-L-Pは、圧力サイクラー中で、HAリアーゼEC4.2.2.1と接触させられる、請求項41に記載の方法。
【請求項48】
圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
圧力は、約5KPSI、約10KPSIまたは約15KPSIである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
oHA-L-Pは、圧力サイクラー中で、Asp-Nと接触させられる、請求項41に記載の方法。
【請求項51】
圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
圧力は、約35KPSI、約40KPSIまたは約45KPSIである、請求項51に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2019年5月7日に出願された米国仮特許出願第62/844,579号に基づく優先権を主張し、その開示全体を参照によって本明細書に組み入れる。
【0002】
本発明は、プロドラッグ組成物中に存在する薬物の量を定量化する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
この10年間で、平均すると毎年17種の新規なペプチドが臨床試験に入り、承認率(第1相から上市まで)は小分子の2倍になっており(非特許文献1;非特許文献2)、150種を超えるペプチド薬物候補が、現在開発中である(非特許文献3)。
【0004】
しかし、ペプチド薬物の開発には特有の課題がある。例えば、ペプチド薬物は、in vivoでタンパク質切断を受け、急速に排除される。一つには生体膜の透過性が低いため、経口送達は依然として困難である。これらの欠点に対処する試みが、環状ペプチド形成(例えば、ラクタム化およびクリック環化による)、炭化水素ステープル化、脂質付加、およびポリマー薬物コンジュゲートの開発のような構造の制約を組み入れることによってなされてきた。
【0005】
ペプチド薬物の一例は、グルカゴン受容体およびGLP1受容体を標的とする二重受容体アゴニストであるSAR42589で、これは2型糖尿病患者における血糖管理および体重減少、ならびに健常な志願者における体重減少を促進することができる(非特許文献4)。しかしながら、SAR425899はin vivoクリアランスが急速であるため、1日1回の投与が必要である。
【0006】
ヒアルロン酸(HA)は、ヒアルロナンとも呼ばれ、β-1-3およびβ-1-4のグリコシド結合により連結されたd-グルクロン酸とN-アセチル-d-グルコサミンとの繰り返し二糖単位から構成される天然の非スルフェート直鎖状多糖である(非特許文献5)。HAは皮膚における重要な構造要素であり、複数の細胞表面受容体の相互作用に関与している。HAは免疫抑制および抗血管新生の活性を有し、脳組織、硝子軟骨および滑膜関節液の中に存在する。HAは、その実体積の1000倍までの大量の水を吸収することができる、強親水性の特徴、および生物組織中で高分子量であることが理由で、身体の中で重要な構造的および機能的役割を果たす。
【0007】
HAは、その生体適合性および生分解性が理由で、生物医学的なおよび薬学的な用途において多くの用途が見出されてきた。しかしながら、HAは溶解性が高く、in vivoで急速な分解挙動をする極めて劣った機械的性質を見せることが多い。このため、HAは、化学修飾され、および/または架橋されて、機械的性質、粘度、溶解性、分解、および生物学的性質を含むその性質が改善されてきた。HA誘導体が作り出され、組織工学用の足場において、声帯体積増大(vocal fold augmentation)のような軟部組織手術において、薬物送達、siRNAの細胞内送達、創傷治癒において、および外科的処置におけるデバイスとして、利用されてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Dharanipragada(2013)Future Medicinal Chemistry 5(7):831頁
【非特許文献2】KasparおよびReichert(2013)Drug Discovery Today 18:807~817頁
【非特許文献3】LauおよびDunn(2018)Bioorganic & Medicinal Chemistry 26:2700~2707頁
【非特許文献4】Tillnerら(2019)Diabetes Obes.Metab.21:120,doi:10.1111/dom.13494、Epub 2018年9月16日
【非特許文献5】Khunmaneeら(2017)J.Tissue Engineering 第8巻(doi:doi.org/10.1177/2041731417726464)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
架橋ヒアルロン酸(xHA)は、水性環境中で数百万ダルトンのヒドロゲルを形成し、薬物(例えば、ペプチド薬物)に連結されて、in vivoで薬物を安定化することができる。しかしながら、ヒドロゲル中に負荷された薬物の量を定量化すること、およびヒドロゲルからの薬物の放出速度を定量化することは両方とも困難である。溶解しているペプチドの基本的な定量化に通常適用されるUV簡易測定は、ヒドロゲルに適用することができない。なぜなら、そのような分析には、ヒドロゲル複合体に連結される薬物が十分に溶解している必要があるからである。
【0010】
高温または高pHを使用する、リンカーの加速された加水分解およびペプチド薬物の放出のための代替の方法は、ペプチド薬物の部分分解をもたらし、このため、定量するのが困難な不均質な混合物が産生される。したがって、架橋HAヒドロゲルへのプロドラッグ組成物の薬物負荷を定量化するために分析的定量化方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
架橋HA(xHA)ヒドロゲルへの薬物負荷量を決定するという分析的な課題に対処するために、例えば、xHAヒドロゲルのペプチド負荷量決定を可能にするために、薬物負荷(例えば、バイオポリマーのペプチドプロドラッグ負荷)を重量/重量パーセントとして測定する正確な定量化を可能にする新規な方法が発見された。本明細書に記載される方法は、(例えば、タンパク質消化または加水分解などによって)より小さい成分に分解することができる任意の小分子(例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドなど)に適用することができる薬物負荷量決定に対して高選択的であり、プロドラッグ、例えば、バイオポリマーを含有するプロドラッグの薬物負荷量決定に広く適用することができる。本明細書に記載される方法は、例えば、in vivoで薬物の用量送達を管理するのに、および製造中にプロドラッグのバッチ間で薬物負荷の品質管理をするのに有用である。本明細書に記載される方法は、in vivoでの半減期を長くした薬物、例えばペプチド薬物、例えば、数分から数日へと長くなった半減期を有するペプチド薬物のような薬物の製造を可能にする。
【0012】
本明細書に記載される方法は、当技術分野において公知の、NMRに基づく方法のような従来の方法に勝る種々の利点をもたらす。例えば、NMRに基づく方法は、本明細書に記載される方法より時間がかかり、スループットが低い。NMRに基づく方法は、ミリグラム単位の材料が必要であるが、本明細書に記載される新規な方法は、ナノグラム単位の材料しか必要としない。さらに、NMRに基づく方法のダイナミックレンジは本明細書に記載される新規な方法のダイナミックレンジより狭い。加えて、NMRに基づく方法は、本明細書に記載される新規な方法より、混入ペプチドによる干渉の影響を受けやすい。
【0013】
新規な方法は、二重酵素消化の後に消化産物の定量化を使用して、ヒドロゲルへの薬物負荷(例えば、ペプチド薬物負荷)を正確に定量化することができるという発見に基づき、本明細書において提供される。本方法のある特定の実施形態では、架橋ヒアルロン酸-リンカー-ペプチド(xHA-L-P)を酵素と一緒にインキュベートして架橋ヒアルロン酸を消化する。続いて、タンパク質分解酵素を適用して、結合しているペプチドを消化し、タンパク質分解性消化産物を産生する。続いて、ペプチドに相当するタンパク質分解性消化産物が定量化される。
【0014】
本方法のある特定の例示的な実施形態では、架橋ヒアルロン酸リンカーペプチドコンジュゲート(xHA-L-P)が秤量され、緩衝液にヒドロゲルとして懸濁される。ヒドロゲルは酵素的に分解されて、可溶性の、オリゴマーのヒアルロン酸-リンカー-ペプチド(oHA-L-P)になる。得られたoHA-L-Pのオリゴマーは不均質な混合物として存在し、この混合物は、ペプチド、リンカーおよび長さの異なるオリゴマーのヒアルロン酸からなる。このオリゴマーのヒアルロン酸の不均質性は、質量分析法に基づく定量化には望ましくないが、より特異的でないUVまたは蛍光に基づくアッセイには適用することができる。したがって、質量分析法に基づく参照アッセイでは、第2の酵素的(例えば、タンパク質内分解的)消化工程を導入して、ペプチド薬物を消化し、均質なペプチド消化産物(例えば、19アミノ酸のC末端ペプチド消化産物、DFIEWLKAGGPSSGAPPPS-NH
2(
図3))を産生する。次いで、ペプチド産物は、例えば、液体クロマトグラフィー/高分解能質量分析法(LC/MS)のようなアッセイを使用して、検出し、定量化することができる。
【0015】
一態様において、架橋ヒアルロン酸-リンカー-ペプチド(xHA-L-P)プロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する方法が提供される。この方法は、xHA-L-Pプロドラッグ製剤のサンプルを、ヒアルロノグルコシダーゼ、例えば、ヒアルロニダーゼ(HAアーゼ)またはヒアルロン酸(HA)リアーゼと接触させて、オリゴマーのヒアルロン酸-リンカー-ペプチド薬物(oHA-L-P)を生成する工程、oHA-L-Pを酵素と接触させて、当該薬物のペプチド消化産物を生成する工程、および当該ペプチド消化産物を検出して、当該xHA-L-Pプロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する工程を含む。
【0016】
ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物は、約2アミノ酸長から約100アミノ酸長の間、約3アミノ酸長から約75アミノ酸長の間、約4アミノ酸長から約50アミノ酸長の間、約6アミノ酸長から約30アミノ酸長の間、約15アミノ酸長から約20アミノ酸長の間であるか、または約19アミノ酸長である。ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物は、約1アミノ酸長、約2アミノ酸長または約3アミノ酸長である。
【0017】
ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物を検出する工程は、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS-MS)、液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析法(LC-HRMS)、紫外(UV)吸光度および蛍光検出法のうち1つまたはこれらの組合せからなる群から選択される方法により、実行される。
【0018】
ある特定の例示的な実施形態では、ヒアルロノグルコシダーゼは、HAアーゼ1、HAアーゼ2、HAアーゼ3、HAアーゼ4、HAアーゼ5およびHAアーゼ6からなる群から選択されるHAアーゼである。他の例示的な実施形態では、ヒアルロノグルコシダーゼは、HAアーゼ1またはHAアーゼ2である。さらに他の例示的な実施形態では、ヒアルロノグルコシダーゼは、HAアーゼ2である。ある特定の例示的な実施形態では、ヒアルロノグルコシダーゼは、HAリアーゼEC4.2.2.1である。
【0019】
ある特定の例示的な実施形態では、oHA-L-Pを、エンドプロテイナーゼ、例えば、Glu-C、Asp-N、Lys-C、Arg-C、トリプシンまたはキモトリプシンと接触させる。ある特定の例示的な実施形態では、エンドプロテイナーゼは、Asp-Nである。
【0020】
ある特定の例示的な実施形態では、本方法は、内部標準の使用をさらに含む。ある特定の例示的な実施形態では、内部標準は、1つまたはそれ以上の重同位体を含む。
【0021】
ある特定の例示的な実施形態では、存在する薬物の量は、検量線を使用して決定される。
【0022】
ある特定の例示的な実施形態では、xHA-L-Pを、圧力サイクラー(pressure cycler)中で、ヒアルロノグルコシダーゼと接触させる。ある特定の例示的な実施形態では、圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い。ある特定の例示的な実施形態では、圧力は、約5KPSI、約10KPSIまたは約15KPSIである。
【0023】
ある特定の例示的な実施形態では、oHA-L-Pを、圧力サイクラー中で、第2の酵素と接触させる。ある特定の例示的な実施形態では、圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い。ある特定の例示的な実施形態では、圧力は、約35KPSI、約40KPSIまたは約45KPSIである。
【0024】
別の態様において、架橋ヒアルロン酸-リンカー-ペプチド(xHA-L-P)プロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する方法が提供される。この方法は、xHA-L-Pプロドラッグ製剤のサンプルを、ヒアルロノグルコシダーゼと接触させて、オリゴマーのヒアルロン酸-リンカー-ペプチド薬物(oHA-L-P)を生成する工程、oHA-L-Pをエンドプロテイナーゼと接触させて、当該薬物のペプチド消化産物を生成する工程、および当該ペプチド消化産物を検出して、当該xHA-L-Pプロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する工程を含む。
【0025】
ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物を検出する工程は、LC-MS、LC-MS-MS、LC-HRMS、UV吸光度および蛍光検出法のうち1つまたはこれらの組合せからなる群から選択される方法により、実行される。
【0026】
ある特定の例示的な実施形態では、ヒアルロノグルコシダーゼは、HAアーゼ1またはHAアーゼ2である。ある特定の例示的な実施形態では、ヒアルロノグルコシダーゼは、HAリアーゼEC4.2.2.1である。
【0027】
ある特定の例示的な実施形態では、エンドプロテイナーゼは、Glu-C、Asp-N、Lys-C、Arg-C、トリプシンおよびキモトリプシンからなる群から選択される。
【0028】
ある特定の例示的な実施形態では、エンドプロテイナーゼはAsp-Nである。
【0029】
ある特定の例示的な実施形態では、本方法は、内部標準の使用をさらに含む。ある特定の例示的な実施形態では、内部標準は、1つまたはそれ以上の重同位体を含む。
【0030】
ある特定の例示的な実施形態では、存在する薬物の量は、検量線を使用して決定される。
【0031】
ある特定の例示的な実施形態では、xHA-L-Pを、圧力サイクラー中で、ヒアルロノグルコシダーゼと接触させる。ある特定の例示的な実施形態では、圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い。ある特定の例示的な実施形態では、圧力は、約5KPSI、約10KPSIまたは約15KPSIである。
【0032】
ある特定の例示的な実施形態では、oHA-L-Pを、圧力サイクラー中で、エンドプロテイナーゼと接触させる。ある特定の例示的な実施形態では、圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い。ある特定の例示的な実施形態では、圧力は、約35KPSI、約40KPSIまたは約45KPSIである。
【0033】
別の態様において、架橋ヒアルロン酸-リンカー-ペプチド(xHA-L-P)プロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する方法が提供される。この方法は、xHA-L-Pプロドラッグを、ヒアルロニダーゼ2と接触させて、オリゴマーのヒアルロン酸-リンカー-ペプチド薬物(oHA-L-P)を生成する工程、oHA-L-PをAsp-Nと接触させて、当該薬物のペプチド消化産物を生成する工程、および当該ペプチド消化産物を検出して、当該xHA-L-Pプロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する工程を含む。
【0034】
ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物は、約2アミノ酸長から約100アミノ酸長の間、約3アミノ酸長から約75アミノ酸長の間、約4アミノ酸長から約50アミノ酸長の間、約6アミノ酸長から約30アミノ酸長の間、約15アミノ酸長から約20アミノ酸長の間であるか、または約19アミノ酸長である。ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物は、約1アミノ酸長、約2アミノ酸長または約3アミノ酸長である。
【0035】
ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物を検出する工程は、LC-MS、LC-MS-MS、LC-HRMS、UV吸光度および蛍光検出法のうち1つまたはこれらの組合せからなる群から選択される方法により、実行される。
【0036】
ある特定の例示的な実施形態では、本方法は、内部標準の使用をさらに含む。ある特定の例示的な実施形態では、内部標準は、1つまたはそれ以上の重同位体を含む。
【0037】
ある特定の例示的な実施形態では、存在する薬物の量は、検量線を使用して決定される。
【0038】
ある特定の例示的な実施形態では、xHA-L-Pを、圧力サイクラー中で、ヒアルロニダーゼ2と接触させる。ある特定の例示的な実施形態では、圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い。ある特定の例示的な実施形態では、圧力は、約5KPSI、約10KPSIまたは約15KPSIである。
【0039】
ある特定の例示的な実施形態では、oHA-L-Pを、圧力サイクラー中で、Asp-Nと接触させる。ある特定の例示的な実施形態では、圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い。ある特定の例示的な実施形態では、圧力は、約35KPSI、約40KPSIまたは約45KPSIである。
【0040】
別の態様において、架橋ヒアルロン酸-リンカー-ペプチド(xHA-L-P)プロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する方法が提供される。この方法は、xHA-L-PプロドラッグをHAリアーゼEC4.2.2.1と接触させて、オリゴマーのヒアルロン酸-リンカー-ペプチド薬物(oHA-L-P)を生成する工程、oHA-L-PをAsp-Nと接触させて、当該薬物のペプチド消化産物を生成する工程、および当該ペプチド消化産物を検出して、当該xHA-L-Pプロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を決定する工程を含む。
【0041】
ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物は、約2アミノ酸長から約100アミノ酸長の間、約3アミノ酸長から約75アミノ酸長の間、約4アミノ酸長から約50アミノ酸長の間、約6アミノ酸長から約30アミノ酸長の間、約15アミノ酸長から約20アミノ酸長の間であるか、または約19アミノ酸長である。ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物は、約1アミノ酸長、約2アミノ酸長または約3アミノ酸長である。
【0042】
ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物を検出する工程は、LC-MS、LC-MS-MS、LC-HRMS、UV吸光度および蛍光検出法のうち1つまたはこれらの組合せからなる群から選択される方法により、実行される。
【0043】
ある特定の例示的な実施形態では、本方法は、内部標準の使用をさらに含む。ある特定の例示的な実施形態では、内部標準は、1つまたはそれ以上の重同位体を含む。
【0044】
ある特定の例示的な実施形態では、存在する薬物の量は、検量線を使用して決定される。
【0045】
ある特定の例示的な実施形態では、xHA-L-Pを、圧力サイクラー中で、HAリアーゼEC4.2.2.1と接触させる。ある特定の例示的な実施形態では、圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い。ある特定の例示的な実施形態では、圧力は、約5KPSI、約10KPSIまたは約15KPSIである。
【0046】
ある特定の例示的な実施形態では、oHA-L-Pを、圧力サイクラー中で、Asp-Nと接触させる。ある特定の例示的な実施形態では、圧力サイクラー中の圧力は、大気圧より高い。ある特定の例示的な実施形態では、圧力は、約35KPSI、約40KPSIまたは約45KPSIである。
【0047】
本発明の前述のおよび他の特徴ならびに利点は、添付の図面と併せて、以下の実例となる実施形態の詳細な説明からより深く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】活性ペプチド薬物(即ち、1日1回のGLP-1/GCC受容体アゴニストであるSAR425899)を不活性なプロドラッグ形態からin vivoでゆっくりと放出するポリマー担体および自己切断型リンカーを表す図である。
【
図2】切断可能なリンカーを介して高分子量架橋ヒアルロン酸ヒドロゲルに結合している、ある特定の例示的な実施形態による週1回のGLP-1/GCGアゴニスト(即ち、SAR425899)の複雑性およびサイズを表す図である。D-セリンは、SAR425899(HdSQGTFTSDLSKQK(γE-パルミテート)ESKAAQDFIEWLKAGGPSSGAPPPS-NH
2)の2位のアミノ酸である。
【
図3】SAR425899を、エンドプロテイナーゼAsp-Nを用いて消化して消化産物を産生し、消化産物は定量化に使用するためのC末端ペプチドを含むことを概略的に表す図である。D-セリンは、SAR425899(HdSQGTFTSDLSKQK(γE-パルミテート)ESKAAQDFIEWLKAGGPSSGAPPPS-NH
2)の2位のアミノ酸である。検量線は、タンパク質分解性消化産物に対応する、合成の非標識のC末端ペプチドを使用して生成され、重同位体標識したC末端ペプチドが、内部標準として適用される。100mM炭酸水素アンモニウム中Asp-N(Sigma-Aldrich)1.20~0.4μg(比1:100)を用いて、37℃で終夜、またはPressure Bio Cyclerを使用して大気圧から40KPSIの間をサイクル時間1分で交互に繰り返しながら37℃で1時間、ペプチド20~40μgを消化した。
【
図4】xHA-L-Pを、ヒアルロノグルコシダーゼ(ヒアルロニダーゼ(HAアーゼ))を使用して消化し、次にAspNを用いて消化し、その後、反応停止することを示す図である。加水分解を37℃で24時間実行して、結合している任意のインタクトなペプチドを放出させた。LC/MS分析の前に内部標準(IS)を添加した。AspNは、HA消化産物の存在下で、緩衝液中でSAR425899を完全に消化した。放出されたインタクトなペプチドの、C末端ペプチドに対する比は0.0006であった。
【
図5】SAR425899プロドラッグを、Asp-Nを用いて消化すると、液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)で検出可能なC末端ペプチド消化産物を産生することを示す図である。SAR425899プロドラッグは、xHA-リンカー-SAR425899であり;SAR425899は、HdSQGTFTSDLSKQK(E-パルミテート)ESKAAQDFIEWLKAGGPSSGAPPPS-NH
2である。Asp-Nを用いてHA-リンカー-SAR425899を消化した、C末端ペプチド消化産物は、LC/MCにより検出することが可能であり、適度な収率を示した。
【
図6】SAR425899プロドラッグ切断の定量化を概略的に表す図である。標識ペプチド内部標準(IS)とは、
13C
15N-Lysで標識したC末端ペプチドのことである。1mg/mLのHA-リンカー-ペプチド200μLを、100mM炭酸水素アンモニウム中の100U/mLのヒアルロン酸リアーゼEC4.2.2.1(Sigma-Aldrich)30μLを用いて37℃で24時間消化した。続いてAsp-Nによる消化を実行した。
【
図7A】HA消化産物は主要なマトリックス効果を生み出さなかったことを示す図である。
図7Aは、HAアーゼ1を用いて消化したHAに、C末端のAsp-Nによる消化産物を添加したものを示す。
【
図7B】HA消化産物は主要なマトリックス効果を生み出さなかったことを示す図である。
図7Bは、HAアーゼ2を用いて消化したHAに、C末端のAsp-Nによる消化産物を添加したものを示す。
【
図7C】HA消化産物は主要なマトリックス効果を生み出さなかったことを示す図である。
図7Cは、緩衝液中でAsp-Nを用いて消化したインタクトなSAR425899を示す対照である。
【
図7D】HA消化産物は主要なマトリックス効果を生み出さなかったことを示す図である。
図7Dは、HAアーゼ1を用いて消化したHAに、インタクトなSAR425899ペプチドを添加したものを示す。次いでAsp-Nによる消化を実行した。
【
図7E】HA消化産物は主要なマトリックス効果を生み出さなかったことを示す図である。
図7Eは、HAアーゼ2を用いて消化したHAに、インタクトなSAR425899ペプチドを添加したものを示す。次いでAsp-Nによる消化を実行した。
【
図7F】HA消化産物は主要なマトリックス効果を生み出さなかったことを示す図である。
図7Fは、緩衝液中でAsp-Nを用いて消化したインタクトなSAR425899を示す対照である。C末端ペプチドを添加した2つのHAアーゼ消化物およびその対照について、ならびにSAR425899を添加した2つのHAアーゼ消化物およびAsp-Nを用いて消化したその対照について、C末端ペプチドの強度のレベルは同じであることが観察された。
【
図8A】HAアーゼ2は、HAアーゼ1と比較して、その後のAsp-Nによる消化を改善したことを示す図である。
図8Aは、HAアーゼ1を用いて消化し、その後Asp-Nを用いて消化したHA-リンカー-SAR425899を示す。
【
図8B】HAアーゼ2は、HAアーゼ1と比較して、その後のAsp-Nによる消化を改善したことを示す図である。
図8Bは、HAアーゼ2を用いて消化し、その後Asp-Nを用いて消化したHA-リンカー-SAR425899を示す。C末端のAsp-Nによる消化産物は、956.99m/zでのピークによって示されている。
【
図9】
図9A~
図9Bは、消化産物の定量化を示す図である。
図9Aは、10ng/mLから10μg/mLまでの標準的なC末端ペプチド曲線について、許容される線形性が認められたことを示す。
図9Bは、Asp-Nによる消化物に由来するC末端ペプチドの極めて良好な断片化を示し、このため、多重反応モニタリング(MRM)法に適したものとなる。
【
図10】HAアーゼ/Asp-Nによる消化の完全性の査定を概略的に表す図である。C末端ペプチドが検出され、プロセスの収率を示す。インタクトなペプチドが検出され、その後の加水分解によるペプチド放出を示す。インタクトなタンパク質はわずか0.05%しか検出されなかった。これは、100%に近い、目的とする完全な消化プロセスであることを示している。
【
図11】
図11A~
図11Bは、マトリックス中でHAアーゼを用いて消化した架橋ヒアルロン酸(xHA)、および緩衝液中でHAアーゼを用いて消化したxHAを示す図である。
図11Aは生データを示す。
図11Bは、マトリックス中の曲線および緩衝液中の曲線のグラフ表示である。優れた線形性が認められた。曲線勾配は互いから3.1%離れていた。したがって、マトリックス効果は重要ではなく、緩衝液曲線は定量的な分析に適用することが可能である。
【
図12】
図12A~
図12Bは、内部標準の強度がマトリックス効果を示さなかったことを表す図である。緩衝液曲線およびマトリックス曲線において整合的な結果が得られた。
【
図13】
図13A~13Bは、HA-リンカー-ペプチドの三重反復の定量化を示す図である。良好な再現性が認められた(CVは7.4%であった)。希釈係数を適用すると、総ペプチドパーセンテージは18%であることが分かった。
【
図14】PがSAR425899であるxHA-L-Pの3バッチのペプチド(P)負荷を示す図である。優れた線形性が、マトリックス効果なしに認められた。全プロセス反復に良好な再現性が認められた。これらの結果は、直交NMR(orthogonal NMR)によって得られた結果と一致していた。
【
図15】穏やかな加水分解条件を使用して得られた結果を表す図である。その結果としては、酵素消化の速度が有意に増加した。ペプチドの加水分解による放出のために対照として意図されたリンカー-ペプチドには、高レベルの合成不純物が認められた。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、ポリマーに負荷された薬物の量を決定する新規な定量化方法の開発に基づいている。ある特定の実施形態では、本方法は、架橋ヒアルロン酸-リンカー-ペプチド薬物(xHA-L-P)のサンプル中に存在するヒアルロン酸(HA)を切断して、オリゴマーのヒアルロン酸-リンカー-ペプチド薬物(oHA-L-P)の不均質な混合物を形成する工程を含む。次いで、oHA-L-Pを、タンパク質分解により消化して、例えば、液体クロマトグラフィー、質量分析法、UV吸収、および蛍光に基づくアッセイなどのような当技術分野において周知の方法を使用して検出および定量化することができる均質なペプチド消化産物を得ることができる。特に例示的な実施形態では、xHA-L-P(例えば、SAR425899プロドラッグ)を含む組成物が提供され、この場合、「P」はペプチド薬物SAR425899であり、「L」は自己切断型クロスリンカーであり、「xHA」は架橋ヒアルロン酸である(
図2)。
【0050】
本明細書で使用する場合、「プロドラッグ」という用語は、その薬理学的な効果を発揮する前に生体内変換を受ける化合物を指すものとする。したがって、プロドラッグは、親分子中の望ましくない性質を変えるため、または排除するために一過的に使用される特化した無毒性の保護基を含有する、生物学的に活性な部分とみなすことができる。典型的なプロドラッグは、物理化学的または薬物動態学的な性質を改善し、通常、加水分解的切断によりin vivoで容易に除去し得る一過性担体基と所与の活性物質との一時的な結合を含有する担体連結プロドラッグ、即ち、担体基の切断が、活性化基が露出した後にのみ効果的になるカスケードプロドラッグであり得る。
【0051】
SAR425899のような薬物の物理化学的または薬物動態学的な性質をin vivoで増強するために、そのような薬物は、担体(例えばxHA)とコンジュゲートすることができる。薬物が担体および/またはリンカーと一過的に結合している場合、そのような系は、一般に、担体が連結したプロドラッグと指定される。IUPACに規定されている定義によれば、担体が連結したプロドラッグとは、物理化学的または薬物動態学的な性質を改善し、通常、加水分解的切断により、in vivoで容易に除去することができる一過性担体基と所与の活性物質との一時的な結合を含有するプロドラッグである。
【0052】
本明細書に記載される、担体が連結したプロドラッグに使用されるリンカーは、任意の既知の切断可能なリンカーまたは切断不可能なリンカー、例えば、酵素不安定性リンカー(enzyme labile linker)(例えば、酸切断可能なリンカー、還元性リンカー(例えば、ジスルフィドリンカー)、およびβ-グルクロニドリンカーなど)、光切断可能なリンカー、チオエーテルリンカー、マレイミドカプロイルリンカー、ペプチドリンカー(例えば、ジペプチドリンカー)、およびクロスリンカーなどとすることができる。好適なリンカーは、例えば、Sigma-Aldrich、Millipore Sigma、およびCreative Biolabsなどのような種々の供給元から市販されている。
【0053】
ある特定の例示的な実施形態では、本明細書に記載される、担体が連結したプロドラッグに使用されるリンカーは、一過性(例えば、自己切断可能)であり、それは、生理学的条件下で、非酵素的、加水分解的に分解性(切断可能)であり、半減期が、例えば、1時間~3カ月の範囲であることを意味する。
【0054】
本明細書で使用する場合、「生理学的条件」とは、薬物が放出されることが意図される身体の特定の環境に関しての、温度およびpHなどを指す。例えば、血漿中での放出なら、pHが7.35~7.45の間、温度が約37℃(例えば、約36℃~約38℃の間)で起こり、リソソーム中での放出なら、pHが約6.5~約4.5の間、温度が約37℃で起こることになる。
【0055】
ある特定の例示的な実施形態では、薬物(例えば、ペプチド薬物)は、自己切断型リンカーを介して、ヒドロゲル担体、例えばxHAヒドロゲル担体に一過的に連結される。「ヒドロゲルプロドラッグ」および「ヒドロゲルに連結されたプロドラッグ」という用語は、ヒドロゲルに一過的に連結されている生物学的に活性な薬剤のプロドラッグを指し、同義で使用される。
【0056】
「薬物」「ペプチド薬物」「生物学的に活性な分子」「生物学的に活性な部分」「生物学的に活性な薬剤」および「活性薬剤」などの用語は、ウイルス、細菌、真菌、植物、動物、およびヒトを含むがこれらに限定されない生物の任意の物理的または生化学的性質に影響を及ぼすことができる任意の物質を指す。特に、本明細書で使用する場合、生物学的に活性な分子は、ヒトもしくは他の動物における疾患の、診断、治癒、軽減、治療もしくは予防を目的とする任意の物質、または他には、ヒトもしくは動物の身体的もしくは精神的な健康を増強するための任意の物質を含む。ある特定の例示的な実施形態では、「薬物」「生物学的に活性な分子」「生物学的に活性な部分」「生物学的に活性な薬剤」および「活性薬剤」などの用語は、例えば、SAR425899のようなペプチド薬物を指す。
【0057】
薬物の「遊離型」とは、ヒドロゲルコンジュゲートプロドラッグ(例えば、SAR425899プロドラッグ)から放出された後のような、未修飾の、薬理学的に活性な形態の薬物(例えば、SAR425899)を指す。
【0058】
本明細書で使用する場合、「抗がん治療剤」または「抗がん剤」という用語は、新生細胞もしくは腫瘍細胞もしくはがん細胞の成長および/または増殖に不利益であり、悪性腫瘍を低減、阻害または破壊するように作用し得る分子を指す。
【0059】
本明細書で使用する場合、「細胞増殖阻害剤」という用語は、細胞成長および増殖を阻害する分子を指す。
【0060】
本明細書で使用する場合、「細胞傷害性ヌクレオシド」という用語は、内因性ヌクレオシドを模倣することによって細胞傷害効果を発揮する核酸塩基またはヌクレオシド類似体を指す。
【0061】
本明細書で使用する場合、「チューブリン結合剤」という用語は、チューブリン系に直接結びつく分子を指す。
【0062】
本明細書で使用する場合、「ホルモン」という用語は、多細胞生物において腺によって産生され、循環系によって標的の遠隔器官に輸送されて、生理機能および/または挙動を制御する、シグナル伝達分子のクラスの任意のメンバーを指す。「ホルモン拮抗薬」とは、ホルモン受容体に作用する特定の種類の受容体拮抗薬である。
【0063】
本明細書で使用する場合、「抗血管新生剤」という用語は、血管新生の生理学的プロセス(これにより、既存の血管から新生血管が形成される)を阻害する分子を指す。
【0064】
本明細書で使用する場合、「酵素阻害剤」という用語は、特定の酵素の機能を阻害する分子を指す。
【0065】
本明細書で使用する場合、「遺伝子制御因子」という用語は、遺伝子の転写に、プラスにもマイナスにも影響することができる分子を指す。
【0066】
本明細書で使用する場合、「細胞傷害性治療剤」という用語は、細胞の機能を阻害する、もしくは妨げる、および/または細胞の破壊を引き起こす物質を指す。「細胞傷害性薬剤」という用語は、化学療法剤、酵素、抗生物質、ならびに低分子毒物、または細菌、真菌、植物もしくは動物起源の酵素的に活性な毒物およびそれらの断片および/もしくは変異体のような毒物、ならびに以下に開示されている種々の抗腫瘍剤もしくは抗がん剤を含むものとする。一部の実施形態では、細胞傷害性薬剤は、タキソイド、ビンカ類、DM1もしくはDM4のようなマイタンシノイドまたはマイタンシノイド類似体、小薬物、レプトマイシン誘導体、アウリスタチンまたはドラスタチン類似体、プロドラッグ、トポイソメラーゼII阻害剤、DNAアルキル化剤、抗チューブリン剤、CC-1065またはCC-1065類似体である。
【0067】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、生理学的に適合性のある、全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、ならびに抗菌剤および抗真菌剤などを指す。好適な担体、希釈剤および/または添加剤の例としては、水、アミノ酸、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液;ヒスチジン、アルギニン、グリシン、プロリン、グリシルグリシンのようなアミノ酸および誘導体;無機塩のNaCl、塩化カルシウム;デキストロース、グリセリン、エタノール、スクロース、トレハロース、マンニトールのような糖または多価アルコール;およびポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロクサマー188のような界面活性剤;などのうち1つまたはそれ以上、ならびにそれらの組合せが挙げられる。多くの場合、糖、多価アルコールまたは塩化ナトリウムのような等張化剤を組成物中に含むのが好適であり、製剤はまた、トリプタミンのような抗酸化剤、およびTween20のような安定化剤を含有することもできる。
【0068】
本明細書で使用する場合、「ヒアルロン酸」「HA」および「ヒアルロナン」という用語は、互換的に使用され、β-1-3およびβ-1-4のグリコシド結合により連結されたd-グルクロン酸とN-アセチル-d-グルコサミンとの繰り返し二糖単位から構成される非スルフェート直鎖状多糖(例えば、→4)-β-d-GlcpA-(1→3)-β-d-GlcpNAc-(1→)を指す。HAは様々な分子量で生じる。高分子量HA(HMWHA)は約1×106Daより大きく、低分子量HA(LMWHA)は約0.8~約8×105Daである。オリゴマーのHAは、通常、約6×103Da未満である。
【0069】
HAは、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)、Novozymes(Blair、NE)およびStanford Chemicals(Lake Forest、CA)のような供給元から市販されている。FDAの承認を受けたHAには、以下に限定されないが、Hyalovet(Boehringer Ingelheim Vetmedica、獣医学的使用として承認)、Hylira(Hawthorn)、Hylase(ECR)、Hylartin V(Zoetis、獣医学的使用として承認)、Hyvisc(Anika Therapeutics、獣医学的使用として承認)、Legend(Bayer Animal Health、獣医学的使用として承認)、NexHA(Vetoquinol、獣医学的使用として承認)、Orthovisc(DePuy Mitek)、ProVisc(Alcon)、Shellgell(Cytosol Opthalmics)、Solesta(Salix)、Supartz(Bioventus)、Synacid(Intervet、獣医学的使用として承認)、Healon5(Abbott Medical Optics)、Healon GV(Abbott)、Healon Endocoat(Abbott Medical Optics)、Healon(Abbott)、Euflexxa(Ferring Pharmaceuticals)、Equron(Zoetis、獣医学的使用として承認)、Coease(Abbott Medical Optics)、Bionect(Cipher)、Amvisc(Chiron)、Synvisc(Genzyme)、Gel-One(Zimmer Biomet)、およびHyaglan(Fidia Pharma)が含まれる。
【0070】
HAの機械的性質を改善し、in vivoでの持続時間を延長するために、HAポリマー鎖を共有結合的に架橋し三次元網目構造とすることによりヒドロゲルを形成することができる(例えば、Agerup、BergおよびAkermark(2005)BioDrugs 19:23;Edsmanら(2011)Cartilage 2:384を参照)。架橋HA(xHA)ヒドロゲルの機械的および物理的な性質は、修飾および架橋の程度に依存する(La Gatta、Schiraldi、PapaおよびDe Rosa(2011)Polymer Degradation and Stability 96:603)。
【0071】
本明細書で使用する場合、「架橋剤」および「クロスリンカー」という用語は、共有結合および/または非共有結合のうち少なくとも1つによってヒアルロン酸と反応し得る化学剤を包含するものとする。非共有結合の非限定的な例としては、イオン結合、疎水性相互作用、水素結合およびファンデルワールス力(分散引力、双極子-双極子相互作用および双極子誘起相互作用)が挙げられる。
【0072】
「架橋された」という用語は、本明細書で使用する場合、架橋剤を介して共有結合および/または非共有結合しているヒアルロン酸の2つ以上のポリマー鎖を指すものとする。そのような架橋は、単一ポリマー鎖内で、または2つ以上の鎖間で、ラクトン、無水物、またはエステルが形成される、分子間のまたは分子内の脱水とは区別される。とはいえ、分子内架橋もまた、本明細書に記載される組成物中で起こり得ることも企図される。架橋剤は、2つ以上の分子(即ちヒアルロン酸鎖)の間に共有結合および/または非共有結合を作り出す少なくとも2つの官能基を含有する。本開示の一態様において、架橋剤は、架橋が進行することができるように、ヒアルロン酸の官能基に対する相補的官能基を含む。
【0073】
HAの物理的な架橋は、種々のpH、温度、イオン強度条件、および物理化学的相互作用、例えば、疎水性相互作用、水素結合、電荷相互作用、またはステレオコンプレックス形成を使用して実現することができる。特に、温度反応性のヒドロゲルは、様々な用途のために広範に試験されてきた。HAを修飾して熱に感受性のHAヒドロゲルを製造するために頻繁に使用される一般的な熱ゲル化ポリマーには、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、プルロン酸、メチルセルロース、およびポリエチレングリコール(PEG)が含まれる。
【0074】
HAを架橋してヒドロゲルを形成する方法には、以下に限定されないが、-COOH基を修飾する方法、-OH基を修飾する方法、-NHCOCH3基を修飾する方法、ならびにシッフ塩基架橋、ジアルデヒドヒアルロン酸(CHO-HA)、チオール修飾、ディールス・アルダー反応、および酵素媒介性連結を使用する化学的架橋方法が含まれる。
【0075】
HAヒドロゲルを架橋する方法は、Kenneら(2013)Carb.Polymers 91:410;およびKhunmanee、前掲;Hoare TR、Kohane DS、Hydrogels in drug delivery:progress and challenges.Polymer 2008;49(8):1993~2007頁;Gupta D、Tator CH、Shoichet MS、Fast-gelling injectable blend of hyaluronan and methylcellulose for intrathecal,localized delivery to the injured spinal cord.Biomaterials 2006;27(11):2370~2379頁;Fang,J-Y、Chen,J-P、Leu,Y-L、Temperature-sensitive hydrogels composed of chitosan and hyaluronic acid as injectable carriers for drug delivery.Eur J Pharm Biopharm 2008;68(3):626~636頁;およびHa DI、Lee SB、Chong MSら、Preparation of thermo-responsive and injectable hydrogels based on hyaluronic acid and poly(N-isopropylacrylamide)and their drug release behaviors.Macromol.Res.2006;14(1):87~93頁に記載されており、これらの各々は、あらゆる目的からその全体を参照によって本明細書に組み入れる。
【0076】
架橋HAは、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)およびStanford Chemicals(Lake Forest、CA)のような供給元から市販されている。
【0077】
本明細書で使用する場合、「ヒドロゲル」という用語は、大量の水を吸収することができる、三次元の、親水性または両親媒性のポリマー網目を指すものとする。その網目は、ホモポリマーまたはコポリマーから構成され、共有結合の化学的または物理的(イオン性、疎水性相互作用、絡み合い)架橋が存在するため、不溶性である。その架橋は、網目構造および物理的統合性をもたらす。ヒドロゲルには水との熱力学的相溶性を示し、このため、ヒドロゲルは水性媒体中で膨潤することが可能である。網目の鎖は、孔が存在し、これらの孔のかなりの割合が1nm~1000nmの間の大きさになるように結合している。
【0078】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される方法は、1つまたはそれ以上の酵素および/または化合物を利用して、xHAを切断する。例えば、xHA-L-P中に存在するxHAを切断して、oHA-L-Pを形成する。
【0079】
xHAを切断するのに好適な酵素には、以下に限定されないが、細菌のβ-エンドグリコシダーゼ、細菌のβ-エキソグリコシダーゼ(例えば、β-グルクロニダーゼ、およびβ-N-アセチル-ヘキソサミニダーゼなど)、真核生物のβ-エンドグリコシダーゼ(例えば、エンド-β-n-アセチルヘキソサミニダーゼ、およびβ-エンドグルクロニダーゼなど)、真核生物のβ-エキソグリコシダーゼ(例えば、β-エキソグルクロニダーゼ、およびエキソ-β-N-アセチルグルコサミニダーゼなど)、ヒアルロニダーゼ、およびヒアルロノグルコシダーゼなどが含まれる。
【0080】
xHAを切断する非酵素的な方法には、以下に限定されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、超音波分解、熱分解、酸化体(例えば、スーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素、一重項酸素、ヒドロキシルラジカル、一酸化窒素、ペルオキシ亜硝酸アニオン、次亜塩素酸アニオン、炭酸ラジカルアニオン、およびジクロリドラジカルアニオンなど)による分解、マイクロ波照射、UV照射、γ-照射、およびHgランプ照射などが含まれる。(Sternら(2007)Biotechnol.Adv.25:537を参照、これは、あらゆる目的からその全体を参照によって本明細書に組み入れる。)
【0081】
他の実施形態では、本明細書に記載される方法は、1つまたはそれ以上のヒアルロノグルコシダーゼ、例えば、ヒアルロニダーゼ(HAアーゼ)を利用して、xHAを切断する。例えば、xHA-L-P中に存在するxHAを切断して、oHA-L-Pを形成する。ある特定の例示的な実施形態では、2つ、3つ、4つ、または5つ以上のHAアーゼの組合せを使用して、xHAを切断する。他の実施形態では、単一のHAアーゼを使用して、xHAを切断する。
【0082】
本明細書で使用する場合、「ヒアルロニダーゼ」とは、N-アセチルグルコサミンとグルクロネートとの間の(1->4)-結合(EC3.2.1.35)または(1->3)-結合(EC3.2.1.36)を切断して、HAの分解を触媒するヒアルロノグルコシダーゼを指す。
【0083】
ヒアルロニダーゼには3つの一般的クラスがある:1.哺乳動物タイプのヒアルロニダーゼ(EC3.2.1.35)。これは、四糖類および六糖類を主要な最終産物とするエンド-ベータ-N-アセチルヘキソサミニダーゼである。加水分解活性およびトランスグリコシダーゼ活性の両方を有し、ヒアルロナンおよびコンドロイチン硫酸(CS)、特にC4-SおよびC6-Sを分解することができる;2.細菌のヒアルロニダーゼ(EC4.2.99.1)。これは、ヒアルロナンを分解し、程度の差はあるが、CSおよびDSを分解する。主として二糖最終産物を産生するベータ脱離反応によって機能するエンド-ベータ-N-アセチルヘキソサミニダーゼである;ならびに3.ヒアルロニダーゼ(EC3.2.1.36)。これは、ヒル、他の寄生生物、および甲殻類に由来し、ベータ1-3結合の加水分解により、四糖および六糖の最終産物を生成するエンド-ベータ-グルクロニダーゼである。
【0084】
哺乳動物のヒアルロニダーゼは、さらに2つの群:中性活性酵素および酸活性酵素に分類することができる。ヒトゲノムには、6つのヒアルロニダーゼ様遺伝子、HYAL1、HYAL2、HYAL3、HYAL4、HYALP1およびPH20/SPAM1がある。HYALP1はで偽遺伝子であり、HYAL3は既知のいずれの基質に対しても酵素活性を有することが示されていない。HYAL4は、コンドロイチナーゼであり、ヒアルロナンに対する活性を欠いている。HYAL1(別名はLUCA1、MPS9およびNAT6)は、典型的な酸活性酵素であり、PH20は、典型的な中性活性酵素である。HYAL1およびHYAL2のような酸活性ヒアルロニダーゼは、中性pHで触媒活性を欠く。例えば、HYAL1は、in vitropH4.5を超えると触媒活性がない(Frostら(1997)Anal.Biochemistry)。HYAL2は、酸活性酵素であり、in vitroで比活性が極めて低い。
【0085】
HYAL5は、元来マウスにおいて発見された、血漿、および先体がインタクトな精子の先体膜に位置するHAアーゼであり、先体反応の最中に放出される。HYAL6は、やはりマウスにおいて発見されたHAアーゼである。
【0086】
化学グレードのHAアーゼは、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)、Millipore Sigma(Burlington、MA)、およびCalzyme Laboratories(San Luis Obispo、CA)のような供給元から市販されている。FDAの承認を受けたHAアーゼには、以下に限定されないが、Amphadase(ウシのヒアルロニダーゼ;新薬承認申請(NDA)No.021665;Amphastar Pharmaceuticals)、Hydase(ウシのヒアルロニダーゼ;NDA No.021716;Akorn Inc.)、Hylenex(組換えヒトヒアルロニダーゼ;NDA No.021859;Halozyme);Vitrase(ヒツジのヒアルロニダーゼ;NDA No.021640;Bausch and Lomb)、およびWydase(ウシのヒアルロニダーゼ;NDA No.006343;Baxter Healthcare)が含まれる。
【0087】
本明細書において使用するために好適な追加のHAアーゼは:ワールドワイドウェブのサイト:brenda-enzymes.org/enzyme.php?ecno=3.2.1.35;Karl MeyerおよびMaurice M.Rapportの「Hyaluronidases」の章、Advances in Enzymology-and Related Areas of Molecular Biology、第13巻199~236頁(doi.org/10.1002/9780470122587.ch6);SternおよびJedrzejas、Chem.Rev.2006、106、818~839頁、Hyaluronidases:Their Genomics,Structures,and Mechanisms of Action;SternおよびJedrzejas、Chem.Rev.2008、108、5061~5085頁;Yoshidaら(2013)「KIAA1199,A deafness gene of unknown function,is a new hyaluronan binding protein involved in hyaluronan depolymerization.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.110、5612~5617頁;Nagaokaら、2015 Regulation of Hyaluronan(HA)Metabolism Mediated by HYBID、doi:10.1074/jbc.M115.673566、最初に、オンラインで2015年10月30日に発表;Yoshinoら、2018 Biochemical and Biophysical Research Communications第505巻、第1号、2018年10月20日;Yamaguchiら、2019(Matrix Biol.(2019)78~79頁、139~146頁、TMEM2:A missing link in hyaluronan catabolism identified?;に記載されており、これらの各々は、あらゆる目的からその全体を参照によって本明細書に組み入れる。
【0088】
「ヒアルロニダーゼリアーゼ」「ヒアルロン酸リアーゼ」「HAリアーゼ」「EC4.2.2.1」または「HAリアーゼ4.2.2.1」は、ヒアルロナン鎖をベータ-D-GalNAc-(1->4)-ベータ-D-GlcA結合で切断し、最終的に多糖を消化して3-(4-デオキシ-ベータ-D-グルカ-4-エヌロノシル)-N-アセチル-D-グルコサミンにするヒアルロノグルコシダーゼ(即ち、細菌の炭素-酸素リアーゼ)を指す。ヒアルロン酸リアーゼは、細菌およびストレプトマイセス属(Streptomyces)から単離することができ、N-アセチル-ベータ-D-グルコサミン残基とD-グルクロン酸残基との間のベータ1,4-グリコシド結合の、加水分解ではなく脱離反応を触媒するため、他の供給源由来のヒアルロニダーゼとは作用様式において異なる。
【0089】
他の実施形態では、本明細書に記載される方法は、1つまたはそれ以上のタンパク質分解酵素、例えば、加水分解によりペプチド結合を切断することによってタンパク質分解を触媒する酵素を利用して、ペプチドを切断する。例えば、xHA-L-P中に存在するPを切断して、oHA-L-Pを形成する。好適なプロテアーゼには、以下に限定されないが、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、およびアスパラギンペプチドリアーゼなどが含まれる。プロテアーゼが活性となる最適pHにより分類される、好適なプロテアーゼには、以下に限定されないが、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、および塩基性プロテアーゼが含まれる。ある特定の例示的な実施形態では、2つ、3つ、4つ、または5つ以上のタンパク質分解酵素の組合せを使用してペプチドを切断する。他の実施形態では、単一のタンパク質分解酵素を使用してペプチドを切断する。
【0090】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される方法は、1つまたはそれ以上の酵素および/または化合物を利用して、遊離薬物またはプロドラッグとして存在する、例えば、遊離SAR425899として、またはSAR425899プロドラッグとして存在するペプチド薬物を切断し、当該薬物またはプロドラッグのペプチド消化産物を生成する。
【0091】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される方法は、1つまたはそれ以上のエンドプロテイナーゼを利用して、遊離薬物またはプロドラッグとして存在する、例えば、遊離SAR425899として、またはSAR425899プロドラッグとして存在するペプチド薬物を切断し、当該薬物またはプロドラッグのペプチド消化産物を生成する。適切なエンドプロテイナーゼを選ぶために使用する基準は、次のとおりとした:1)高度に特異的な断片の生成が可能な限り少ないこと;2)リシンに連結したグルタメート-パルミテートを含有しないC末端の断片を生成すること;および3)一般的な市販の酵素を使用すること。
【0092】
好適なエンドプロテイナーゼには、以下に限定されないが、Glu-C、Asp-N、Lys-C、Arg-C、トリプシンおよびキモトリプシンが含まれる。ある特定の例示的な実施形態では、エンドプロテイナーゼであるAsp-Nが、本明細書に記載される方法に使用される。種々の好適なエンドプロテイナーゼは、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)、New England Biolabs(Ipswich、MA)、Thermo Scientific(Lenexa、KS)、およびPromega(Fitchburg、WI)のような会社から市販されている。
【0093】
ある特定の実施形態では、圧力サイクラーを使用して、xHAおよび/またはoHAの消化時間を改善する(例えば、短縮する)ことができる。ある特定の実施形態では、xHAおよび/またはoHAの消化は、圧力サイクラー中で、約5KPSI~約80KPSIの間の範囲のサイクル圧力下、例えば、約5KPSI、約10KPSI、約15KPSI、約20KPSI、約25KPSI、約30KPSI、約35KPSI、約40KPSI、約45KPSI、約50KPSI、約55KPSI、約60KPSI、約65KPSI、約70KPSI、約75KPSIまたは約80KPSIで実行することができる。
【0094】
ある特定の実施形態では、圧力サイクラーを1つまたはそれ以上のヒアルロノグルコシダーゼ(例えば、HAアーゼ)と共に使用して、約50KPSI未満、約40KPSI未満、約30KPSI未満、または約20KPSI未満の圧力で、xHAを消化する。ある特定の実施形態では、圧力サイクラーを1つまたはそれ以上のヒアルロノグルコシダーゼ(例えば、HAアーゼ)と共に使用して、約5KPSI、約10KPSIまたは約15KPSIの圧力で、xHAを消化する。ある特定の実施形態では、圧力サイクラーを1つまたはそれ以上のヒアルロノグルコシダーゼ(例えば、HAアーゼ)と共に使用して、約10KPSIの圧力で、xHAを消化する。
【0095】
ある特定の実施形態では、圧力サイクラーを1つまたはそれ以上の酵素(例えば、エンドプロテイナーゼ、タンパク質分解酵素、Glu-C、Asp-N、Lys-C、Arg-C、トリプシン、またはキモトリプシンなど)と共に使用して、約80KPSI未満、約70KPSI未満、約60KPSI未満、または約500KPSI未満の圧力で、ペプチドを消化する。ある特定の実施形態では、圧力サイクラーを1つまたはそれ以上の酵素(例えば、エンドプロテイナーゼ、タンパク質分解酵素、Glu-C、Asp-N、Lys-C、Arg-C、トリプシン、またはキモトリプシンなど)と共に使用して、約35KPSI、約40KPSIまたは約45KPSIの圧力で、ペプチドを消化する。ある特定の実施形態では、圧力サイクラーを1つまたはそれ以上の酵素(例えば、エンドプロテイナーゼ、タンパク質分解酵素、Glu-C、Asp-N、Lys-C、Arg-C、トリプシン、またはキモトリプシンなど)と共に使用して、約40KPSIの圧力でペプチドを消化する。
【0096】
ある特定の実施形態では、圧力サイクラーは、ペプチド、xHA、および/またはoHAの消化時間を、非加圧条件下での消化と比較して、少なくとも約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約23時間、または約24時間以上短縮する。
【0097】
本明細書で使用する場合、「ペプチド消化産物」とは、酵素により生成されるペプチド薬物(例えば、遊離薬物またはプロドラッグ)の任意の一部または部分を指し、インタクトなペプチド薬物より小さい。ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物は、50未満のアミノ酸長、例えば、約2~約100の間のアミノ酸長、約3~約75の間のアミノ酸長、約2~約50の間のアミノ酸長、約4~約50の間のアミノ酸長、約5~約40の間のアミノ酸長、約6~約30の間のアミノ酸長、もしくは約15~約20の間のアミノ酸長、またはこれらの範囲内の任意の値もしくは部分範囲のアミノ酸長である。ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約61、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、約90、約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、約99、または約100のアミノ酸長である。
【0098】
特定の実施形態では、ペプチド消化産物は、約19アミノ酸長である。他の特定の実施形態では、ペプチド消化産物は、約1アミノ酸長、約2アミノ酸長または約3アミノ酸長である。さらに他の特定の実施形態では、ペプチド消化産物は、約4~約50の間のアミノ酸長である。さらに他の特定の実施形態では、ペプチド消化産物は、約15~約20の間のアミノ酸長である。
【0099】
ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド消化産物は、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS-MS)、液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析法(LC-HRMS)、ナノ-LC-MS-MS、高速液体クロマトグラフィー-タンデムMS(HPLC-MS-MS)、ナノHPLC-MS-MS、超高性能(ultra-performance)液体クロマトグラフィー-タンデムMS(UPLC-MS-MS)、ナノUPLC-MS-MS、超高速液体クロマトグラフィー-タンデムMS(UHPLC-MS-MS)、ナノUHPLC-MS-MS、紫外(UV)分光法または蛍光分光法などのようなペプチド同定法を使用して検出される。
【0100】
ある特定の例示的な実施形態では、本明細書に記載される方法は、クロマトグラフィー法、例えば、液体クロマトグラフィーのような分離プロセスを利用する。一実施形態によれば、ペプチド消化産物の検出は:(i)高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)、(ii)陰イオン交換、(iii)陰イオン交換クロマトグラフィー;(iv)陽イオン交換;(v)陽イオン交換クロマトグラフィー;(vi)イオン対逆相クロマトグラフィー;(vii)クロマトグラフィー;(viii)一次元電気泳動;(ix)多次元電気泳動;(x)サイズ排除;(xi)親和性;(xii)逆相クロマトグラフィー;(xiii)キャピラリー電気泳動クロマトグラフィー(「CEC」);(xiv)電気泳動;(xv)イオン移動度分離;(xvi)電界非対称イオン移動度分離または分光分析(field asymmetric ion mobility separation or spectrometry「FAIMS」);(xvii)キャピラリー電気泳動;および(xviii)超臨界流体クロマトグラフィーによって実行される。
【0101】
ペプチド消化産物の量は、ペプチド前駆体イオン、1つまたはそれ以上の断片イオンおよび保持時間からなる多重反応モニタリング(MRM)トランジションの測定によって決定することができる。この測定は、例えば、三連四重極型機器で実行される。シグネチャーもまた、保持時間とインタクトなペプチドの正確な高分解能質量分析との組合せによって得ることができる。これらの定量化方法は、通常、標識した内部標準および外部の合成ペプチドの検量線を必要とする。
【0102】
ある特定の例示的な実施形態では、ペプチド薬物に対応する標識ペプチド、例えば、SAR425899のC末端のAsp-Nによる消化産物に対応する標識したC末端ペプチドを含む内部標準が使用される。内部標準は、通常、既知のペプチド配列を有し、既知量で用意される。一部の実施形態では、標準は、1つまたはそれ以上の重同位体、例えば、13Cまたは15Nで標識される。
【0103】
本明細書に記載されるペプチド消化産物のプロファイリング方法は、ヒドロゲルプロドラッグ製剤中に存在する薬物の量を測定するのに有用である。本明細書に記載される方法はまた、バッチ間再現性査定を実行するためにも有用である。
【0104】
本明細書で使用する場合、「サンプル」とは、ペプチド薬物を(例えば、プロドラッグ形態で)含有する任意の組成物を指す。例示的なサンプルには、以下に限定されないが、医薬組成物、および溶出媒体または放出媒体などが含まれる。ある特定の実施形態では、サンプルはヒドロゲルである。他の実施形態では、サンプルは水性である。
【0105】
本明細書に記載される定量化方法において使用されるサンプルは、経口、舌下、粘膜、皮内、皮下、静脈内、筋肉内、非経口または吸入による投与のための液体製剤のような治療用組成物とすることができる。
【0106】
他の実施形態では、サンプルは、ナノ粒子、カプセル、フィルムもしくは錠剤、またはヒドロゲル(例えば、xHAヒドロゲル)のようなゲルなどの基剤を含む。本明細書に記載される定量化方法は、例えば、ナノ粒子中もしくはカプセル中、またはフィルム中もしくはヒドロゲル(例えば、xHAヒドロゲル)中のような基剤中のペプチド薬物の量を定量するのに有用である。放出は、基剤、例えばxHAヒドロゲルの内部から、または基剤の外部(例えば、表面)からとすることができる。一実施形態では、放出プロファイルは、ペプチド薬物の完全放出を実行することによってアッセイし、次いで、ある期間にわたり、または異なる培養条件もしくは溶液条件(例えば、様々な温度またはpHなど)などで、制御放出をアッセイする。制御放出アッセイにおいて放出されるペプチド薬物の量は、通常、完全放出条件下で放出されるペプチド薬物の量と比較した際の分率またはパーセンテージとして報告される。
【0107】
本明細書で使用する場合、「溶出媒体」、「溶出媒体(複数)」、「放出媒体」および「放出媒体(複数)」とは、in vitroでの薬物放出情報を得るために使用される組成物を指す。溶出媒体または放出媒体は、例えば、サンプル中のペプチド薬物の放出および/または安定性を決定するためのサンプルの品質管理試験に有用である。好適な溶出媒体または放出媒体を選ぶ際に、ペプチド薬物の分析標的プロファイル(例えば、遅延放出、一定放出、および持続放出など)および/またはペプチド薬物の溶解性プロファイルを決定することは有用である。溶出媒体の選択のレビューについては、MartinおよびGray(2011年夏)Journal of Validation Technologyを参照されたい。
【0108】
本明細書で使用する場合、「放出速度」とは、in vitro放出試験において、ペプチド薬物がヒドロゲルプロドラッグ製剤から周囲媒体の中へと流れ込む速度を指す。例示的な一実施形態では、最初に、組成物を適切なin vitro放出媒体の中に懸濁させることによって、組成物を放出試験用に製造する。これは、一般に、基剤(例えば、ヒドロゲル)を遠心分離して沈殿させた後で緩衝液を交換し、穏やかな条件を使用して基剤を再構成することによって実行される。ある特定の実施形態では、アッセイは、適切な温度制御装置の中で37℃にてサンプルを懸濁することによって開始される。サンプルは通常、様々な時点で除去される。
【0109】
当業者には容易に理解されるであろうが、本明細書に記載される方法の他の好適な変更および翻案が、好適な均等物を使用して、本明細書に開示されている実施形態の範囲から逸脱することなくなされることがある。ここに、ある特定の実施形態を詳細に説明してきたが、同様のことが、以下の実施例を参照することによってより明確に理解されるであろう。以下の実施例は、説明する目的のみで含まれており、限定を意図するものではない。
【0110】
[実施例I]
プロドラッグ製剤中に存在するペプチド薬物の定量化
SAR425899は、グルカゴン受容体およびGLP1受容体を標的とする二重受容体アゴニストである。クリアランスが急速であるため、1日1回の投与が必要である。投与の頻度を低減するために、1日1回のSAR425899ペプチド薬物の候補(
図1)を、自己切断型リンカーを介してポリマー担体(架橋ヒアルロン酸(xHA))に結合させて、活性なペプチド薬物が、不活性なプロドラッグ(
図2)から緩効性放出するようにした。SAR425899プロドラッグは、自己切断可能リンカー(L)を介して、SAR425899リポペプチド(P)に結合している架橋ヒアルロン酸(xHA)を含む。
【0111】
ヒドロゲルのペプチド負荷量の決定は、投与および品質管理のために必要である。架橋ヒアルロン酸は、水性環境中で数百万ダルトンのヒドロゲルを形成する。溶解しているペプチドの基本的な定量化に通常適用されるUV簡易測定は、ヒドロゲルに適用することができない。なぜなら、この分析には、ヒドロゲル-リンカー-ペプチドが十分に溶解している必要があるからである。リンカーは自己切断型であるが、生理学的条件下での完全な切断は、意図的に極めて緩慢であり、したがって、完全放出が達成されたという確実性を必要とする分析的定量化方法には適していない。
【0112】
この分析的な課題に対処し、ペプチド負荷量決定を可能にするために、バイオポリマーのプロドラッグ中のペプチド薬物負荷を重量/重量パーセントとして測定する正確な定量化を可能にする新規な方法が開発された。バイオポリマー-リンカー-ペプチド薬物は、原則として、切断または加水分解することができる任意の小分子(例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドなど)薬物に適用することができ、この方法は、バイオポリマーを含有するプロドラッグの薬物負荷量決定に広く適用することができる。
【0113】
この方法は、二重酵素消化の後にペプチドに相当する消化産物を定量化することに基づいている。最初に、架橋ヒアルロン酸-リンカー-ペプチド(xHA-L-P)を、架橋ヒアルロン酸を消化する酵素で消化する。次に、タンパク質分解酵素を適用して、結合しているペプチドを消化し、タンパク質分解性消化産物を産生する。続いて、このタンパク質分解性消化産物(ペプチドに相当する)を定量化する。
【0114】
xHA-L-Pは、秤量され、緩衝液中ヒドロゲルとして部分的に溶解する。ヒドロゲルは酵素的に分解されて、複数の可溶性のオリゴマーのヒアルロン酸-リンカー-ペプチド(oHA-L-P)になる。得られたoHA-L-Pのヒアルロン酸オリゴマーは不均質な混合物であり、ペプチド、リンカーおよび長さの異なるオリゴマーのヒアルロン酸からなる。このオリゴマーのヒアルロン酸の不均質性は、定量化には望ましくなく、この理由のため、第2の酵素的(例えば、タンパク質分解の)消化工程を導入し、ペプチド薬物の部分を消化して、均質な19アミノ酸のC末端ペプチド消化産物であるDFIE.....PPPS-NH
2(
図3)を産生する。このC末端ペプチドを、LC/HRMSを使用して、検出し、定量化する。
【0115】
前もってヒアルロノグルコシダーゼ処置をせずに、Asp-Nを使用してプロドラッグを消化すると、おそらく架橋ヒアルロン酸によるAsp-N活性の立体障害が原因で、C末端ペプチドの収率は低かった(
図5)。リンカーの加水分解は、定量化のためのペプチド放出方法としては実用的でないと判断した。
【0116】
HAの消化方法を開発した(
図6)。続くエンドプロテイナーゼ(例えば、Asp-N)による消化に好適な消化条件を使用した。HAを消化することができる複数種の酵素(例えば、HAアーゼ)を試験した。
【0117】
架橋ヒアルロン酸の消化は、遊離SAR425899のAsp-Nによる消化を妨げず(
図7A~
図7F)、続くAsp-Nでの消化によるC末端ペプチド消化産物の収率を有意に増加させることが示された(
図8A~
図8B)。実際、Asp-Nタンパク質分解酵素は、SAR425899ペプチドに対して100%に近い消化効率をもたらしたことが判明した。
【0118】
Asp-Nは、SAR425899を、緩衝液中で、およびHA消化産物の存在下で完全に消化することが示された(
図4)。消化は、HA-リンカー-ペプチドについて、HAアーゼによる消化、次にAsp-Nを用いる消化、および反応停止を三重反復で実行した。その後の加水分解を37℃で24時間実行して、任意の結合しているインタクトなペプチドを放出し、LC/MS分析の前に内部標準(IS)を添加した。C末端ペプチドに対する放出されたインタクトなペプチドの比は0.0006であった。
【0119】
二重消化は、HA-リンカー-ペプチドについて、HAアーゼを用いての2×24時間、次にAsp-Nを用いる消化、および反応停止を三重反復で実行した。その後の37℃での加水分解を24時間実行して、任意の結合しているインタクトなペプチドを放出し、LC/MS分析の前にISを添加した。インタクトなペプチドは観察されなかった。
【0120】
消化は、HA-リンカー-ペプチドについて、HAアーゼを用いての14日間、次にAsp-Nを用いる消化を三重反復で実行した。1日の消化と比較して、C末端ペプチドの増加は観察されなかったが、C末端ペプチドの異性体が、通常のC末端ペプチドよりわずかに早く溶離しているのが観察された。
【0121】
反応生成物のLC/MSを次のように実行した。観察された吸着問題を防ぐために、サンプルおよび標準を、25%アセトニトリル(ACN)、0.1%ギ酸(FA)の中で製造した。Luna OmegaC18カラム100×2.1mm、100A(品番OOD-4742-AN)(S/N H16-168886)を備えたAccela 1250LCシステムを50℃で操作して、分離を実行した。
【0122】
移動相A:0.1%ギ酸水溶液Mo;移動相B:ACN0.1%ギ酸;流速は400μL/分とした。勾配は7分で5%~50%B、99%Bで30秒間保持、5%Bで2.5分間平衡化。20%Bで開始した勾配も適用し、実行可能であった。
【0123】
溶離液を、Orbitrap ELITEの中に、標準的なHESI ESI源を使用し、陽イオンモードで操作して導入した。60000@m/z400のOrbitrap分解能を適用した。m/z範囲350~1500。
【0124】
インタクトなペプチドは残留せず、全てのペプチドが消化産物に変換されたことが判明した。
【0125】
【表1】
表1.xHAを、HAアーゼ-1を用いて消化、C末端ペプチド(Asp-Nによる消化産物に対応)を添加、LC/MSにより分析(実験#1);xHAを、HAアーゼ-1を用いて消化、全長ペプチドを添加、Asp-Nを用いて消化、LC/MSにより分析(実験#2);xHAを、HAアーゼ-2を用いて消化、Asp-Nによる消化物に対応するC末端ペプチドを添加、LC/MSにより分析(実験#3);xHAを、HAアーゼ-2を用いて消化、全長ペプチドを添加、Asp-Nを用いて消化、LC/MSにより分析(実験#4);対照-全長ペプチドを添加、Asp-Nを用いて消化、LC/MSにより分析(実験#5);xHA-リンカー-ペプチドを、HAアーゼ-1を用いて消化、次いでAsp-Nを用いて消化、LC/MSにより分析(実験#6);xHA-リンカー-ペプチドを、HAアーゼ-2を用いて消化、次いでAsp-Nを用いて消化、LC/MSにより分析(実験#7)。
【0126】
連続した二重消化の後のC末端ペプチドの高収率は、幾つかの方法で示された(
図10)。二重消化を進行させ、その後、全ての酵素活性を煮沸によって反応停止した。続いて、リンカーを介してヒアルロン酸に結合したままである可能性がある任意のインタクトなペプチドの放出を、加水分解を37℃で進行させることにより、実行した。インタクトなペプチドは、全く観察されない、または極めてわずかな量しか観察されず、二重消化の結果、全てのペプチド薬物分子がほぼ完全に消化されたことを示していた。別の実験において、2週間にわたる加水分解による放出をした後に、Asp-Nを用いて消化をしても、産生されたC末端ペプチドの量は、二重消化手順より多くなかった。方法の適格性評価の一環として、得られたxHA-L-Pのバッチは18%のペプチド負荷を有しており、これは幾つかのロットについて20%前後の負荷を示すとして得られた結果と一致していたことが、分析的に示された(化学的理論に縛られるものではないが、20%という低めの量は、凍結乾燥した材料の、水の吸収に起因するものであった)。凍結乾燥したヒドロゲルが水を吸収すると、結果的に、秤量された量は、水の追加が原因で、含有するペプチドのパーセンテージがより低くなる。このため、ペプチドのパーセンテージは20%~18%になり得る。対策としては、秤量される材料が湿度の高い空気条件に曝露されないように注意を払うことである。
【0127】
ペプチドを含有していなかった架橋HAを消化し、マトリックスとして使用した。この消化産物(マトリックス)に、SAR425899のC末端のAsp-Nによるペプチド消化産物に対応する合成の非標識C末端ペプチドを添加し、希釈系列を生成した。重同位体標識したC末端ペプチドを内部標準として適用した。曲線を、25%ACNおよび0.1%ギ酸の緩衝液中で作製した同等の曲線と比較した。
【0128】
両曲線をLC/MS分析により分析して、傾きが互いの15%以内であるかどうかを判定した。これは緩衝液の検量線を許容するための最低基準である。
【0129】
本明細書に記載される方法を使用するペプチドの定量化には再現性があった。HA-リンカーペプチドの3つのアリコートを秤量し、HAアーゼおよびAsp-Nを用いて消化した。消化産物を25%ACNに調整し、次いで、さらに100倍に希釈し、その後、重同位体標識した内部標準(H-IS)を添加することによってさらに2倍希釈した。2倍希釈工程で、10μg/mLから20ng/mLまでの10ポイントの標準曲線を作製した。H-ISを1:1vol:vol添加することによって曲線をさらに2倍希釈した。
【0130】
この方法はマトリックスに堅実に適応した(
図7A~
図7F)。緩衝液中のC末端ペプチドの検量線は、架橋ヒアルロン酸(xHA)の消化物によって生成された抽出マトリックス中の検量線と同様の傾きを示した(
図9A、9B、11A、11B、12A、12B、13Aおよび13B)。xHAの消化によって生成されたマトリックスは、Asp-Nの消化効率を妨げなかったことも確認された。
【0131】
複数種の市販のヒアルロニダーゼを試験し、HAアーゼ2が優位であると判定した。さらに、C末端ペプチドは、気相衝突誘発性断片化(collision induced fragmentation:CID)を受けると、ほぼ完全な断片系列を生成したこと、およびこれらの断片は、初期研究に適用した高分解能質量分析に基づく方法(LC/HRMSによる定量化)の代替として、多重反応モニタリング定量化法MRM(LC/MSMRM)の開発に好適な強度を示したことが実証された。
【0132】
UVまたは蛍光検出法の前提条件は、分析物が可溶性であることである。xHA-L-Pは可溶性ではない。一方で、oHA-L-Pは水溶性であり、したがって、UVまたは蛍光の分析に利用できる。しかしながら、xHA-L-PからoHA-L-Pを産生するのに必要な消化のためには、ヒアルロノグルコシダーゼ、例えば、ヒアルロニダーゼまたはHAリアーゼを、その混合物中に導入する。ヒアルロノグルコシダーゼ、例えば、ヒアルロニダーゼまたはHAリアーゼは、それ自体がUVを吸収するタンパク質である。したがって、ヒアルロノグルコシダーゼは、最初の消化工程の後で除去され、その後、直接UV検出を行うことになる。この方法は、制御された分析用の開発/製造環境には、なお一層適しているであろう。
【0133】
PがSAR425899であるxHA-L-Pの別々の3バッチのペプチド負荷量を決定した(
図14)。優れた線形性が、マトリックス効果なしに認められた。全プロセス反復に良好な再現性が達成され、その結果は、直交NMRを使用して得られた結果と一致していた。本明細書に記載される方法は、広く適用可能であり、製剤の最適化を補助するために適用されている。本明細書に記載される方法は、広範囲のポリマーおよびペプチド薬物を使用する、切断可能なリンカーおよび切断不可能なリンカーの両方のケースに適用できる。
【0134】
まとめ
HA-リンカー-SAR425899、SAR425899、および断片/消化産物の分析のためのLC/MS法が開発された。SAR425899はAsp-Nによって完全に切断され、定量化のためのC末端ペプチド断片が放出されることが実証された。HA-リンカー-SAR425899はAsp-Nによる初期切断が実証されたが、その消化は、適度なLC/MS反応に基づくと、不完全である可能性があった。
【0135】
複数種のHAアーゼを試験した。HAリアーゼ(Sigma-Aldrich)EC4.2.2.1は、Asp-Nによる消化産物の収率を有意に増加させたことが示された。同位体標識したC末端ペプチドを導入し、付着問題が解決された後に、その線形性の範囲が示された。消化効率を評価する諸実験を行った。マトリックス曲線の試験は、マトリックス効果はなく、傾きがわずか3%の差の良好なマトリックス曲線対緩衝液曲線のアライメントを示した。三重反復の秤量、処理および分析は、7.5%CVの良好な再現性を示した。
【0136】
あるサンプルロット中のペプチドの総パーセンテージは18%であることが分かった(サンプルの含水量は、特に複数回の凍結融解(室温)サイクル後は不明であった)。
【0137】
[実施例II]
プロドラッグ製剤中に存在するペプチド薬物の定量化のための圧力サイクラー
SAR425899プロドラッグ中に負荷された薬物の量を、プロドラッグの水和および変性による新規な圧力サイクラープロセスを使用して決定した。消化反応は、AspNを用いるSAR425899の消化を試験した(100%の反応が1時間で達成された)。圧力サイクラーを使用して24時間から2時間へのxHA消化時間の短縮を可能にする条件が確認された。
【0138】
HAアーゼは、極めて高い圧力に感受性があるようであった。したがって、10KPSIの最高圧力を適用し、より高い酵素濃度を使用した。最適条件下、2時間の圧力サイクラーの補助による消化で、より高いoHA-L-P消化物濃度が観察された。
【0139】
16サンプルを同時にアッセイした(50~150μL/サンプル)。圧力上昇/低下の速度を制御した。圧力プロファイルの形状(正弦波/方形波など)を観察した。サンプルの温度を、内蔵電熱器を使用して制御した。使用した最高圧力は40KPSIであった。典型的なアッセイは、大気圧から10~40KPSIまでを1Hzサイクルで適用し、1時間の持続時間で行った。
【0140】
37℃で毎分1回の40kPSI圧力サイクル下でのoHA-L-PのAspNによる消化は、37℃で大気圧でのoHA-L-Pの12時間のAspNによる消化と同程度に有効であると判定した。全ての実験を、Pressure Biosciences Barocycler(モデル2320EXT、South Easton、MA)を使用して行った。
【0141】
37℃で、40KPSI圧力と大気圧との間を1分間隔で1時間サイクルすることを使用するAspNによる消化は、37℃で大気圧下での12時間と同様の消化効率をもたらしたことが確定した。同様に、HAアーゼ(EC4.2.2.1)を、10KPSI圧力と大気圧との間を1分のサイクル時間で2時間サイクルすることを使用して消化した。これにより、観察されたオリゴマーに基づくと、37℃で大気圧下での24時間の消化のような結果が得られた。
【0142】
全般に、新規な各酵素を、温度および圧力、圧力プロファイル、適用される圧力の頻度および持続時間に関して最適化した。
【0143】
サンプル純度および主要不純物の判定を分析した(
図15)。穏やかな加水分解条件下でのインタクトなペプチドの放出を確認した(4℃、14日間、または37℃、24時間)。両方の放出方法が、LC/MSによる不純物分析に十分な材料を産生し、0.01%以下であった。放出しても不純物を産生しないことが実証された。
【0144】
リンカー-ペプチドの対照を、t=0および全放出時間で分析した。t=0で高レベルの不純物がリンカー-ペプチドに観察された。不純物分析は、放出されたペプチドのLC/MSをアッセイすることによって実行した。
【0145】
総合的結論
LC/MS法による定量化の完成および実行が成功した。完全なAspNによる消化を生み出す消化条件が実証された。マトリックスは問題ではないことが分かった。方法の良好な再現性および線形性が実証された。
【0146】
LC/MSによって得られた結果は、直交性NMR法によって得られた結果と一致していた。第二世代圧力サイクラーを使用する方法は、総分析時間を有意に短縮した。この方法は、参照方法として、および製剤最適化研究を補助するための両方に適用される。不純物の放出および分析の方法が確立した。例えば、放出条件が確立され、不純物が検出され、同定された。
【0147】
均等物
本開示は、その趣旨または本質的特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化することができる。したがって、上記の実施形態は、あらゆる点で、本開示を限定するものではなく、説明するものと考えられるべきである。したがって、本開示の範囲は、上記の説明ではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、したがって、特許請求の範囲の意味および均等範囲の中にある全ての変更は、本明細書に包含されるものとする。
【配列表】
【国際調査報告】