(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(54)【発明の名称】浸透圧不均衡を用いて膜にナノ細孔を挿入するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20220629BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20220629BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021562303
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(85)【翻訳文提出日】2021-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2020061423
(87)【国際公開番号】W WO2020216885
(87)【国際公開日】2020-10-29
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】バロール,ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】バト,アシュウィニ
(72)【発明者】
【氏名】カーマン,ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ドーワート,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ウソク
(72)【発明者】
【氏名】カレワールド-ラム,ハンナ
(72)【発明者】
【氏名】コマディナ,ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ウメダ,カイル
(72)【発明者】
【氏名】ワーン,ユーファーン
【テーマコード(参考)】
2G060
4B063
【Fターム(参考)】
2G060AA06
2G060AA15
2G060AD06
2G060AG03
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(57)【要約】
ウェルを覆う膜にナノ細孔を挿入するためのシステムおよび方法が本明細書に記載される。膜を、流体をウェル内に駆動するために膜にわたる浸透勾配を確立することによって外側に湾曲することができ、これによりウェル内の流体の量を増加させ、膜を外側に湾曲させる。そして、ナノ細孔挿入を、湾曲した膜上で開始することができる。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ細孔を膜に挿入する方法であって、
第1のオスモル濃度を有する第1の緩衝液によってウェルのウェルリザーバを充填することであって、前記ウェルが作用電極を含み、前記ウェルがフローセル内のウェルのアレイの一部である、充填することと、
前記ウェルリザーバ内に前記第1の緩衝液を封入するために、前記ウェル上に膜を形成することと、
前記膜が前記第1の緩衝液と第2の緩衝液との間にあるように、第2のオスモル濃度を有する前記第2の緩衝液を前記膜の上に流すことであって、前記第1の緩衝液が前記第2の緩衝液よりも高いオスモル濃度を有する、流すことと、
前記第2の緩衝液からの流体が前記膜にわたって前記第1の緩衝液に拡散するにつれて、前記膜を外側に向けて前記作用電極から離れるように湾曲させることと、
前記外側に湾曲した膜にナノ細孔を挿入することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記第1のオスモル濃度から差し引かれた前記第2のオスモル濃度が負であり、少なくとも10mOsm/kgの大きさを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のオスモル濃度から差し引かれた前記第2のオスモル濃度が負であり、少なくとも50mOsm/kgの大きさを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のオスモル濃度から差し引かれた前記第2のオスモル濃度が負であり、少なくとも100mOsm/kgの大きさを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のオスモル濃度から差し引かれた前記第2のオスモル濃度が負であり、少なくとも150mOsm/kgの大きさを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記膜が脂質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記膜がトリブロックコポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記膜を形成するステップが、溶媒に溶解した膜材料を前記ウェル上に流すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の緩衝液を流すステップが、前記ウェル上に膜材料の層を残すように前記第2の緩衝液によって前記フローセル内の前記膜材料および溶媒を置換することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記膜材料の層が、前記膜材料の層上の前記第2の緩衝液の前記流れを通して薄くなって前記膜になる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記膜材料の層が、前記作用電極を使用して前記膜材料の層に電圧刺激を加えることによって薄くなって前記膜になる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の緩衝液が、複数のナノ細孔を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
各ナノ細孔が、ナノ細孔と、前記ナノ細孔につながれたポリメラーゼと、前記ポリメラーゼに会合した核酸とを含む分子複合体の一部である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ細孔を前記膜に挿入するステップが、前記ナノ細孔を含む第3の緩衝液を前記膜上に流すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第3の緩衝液が、前記第2の緩衝液と同じオスモル濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第3の緩衝液が、前記第2の緩衝液とは異なるオスモル濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記膜へのナノ細孔挿入を検出するために、前記作用電極を用いて電気信号を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
膜にナノ細孔を挿入するためのシステムであって、
ウェルのアレイを含むフローセルであって、各ウェルがウェルリザーバおよび作用電極を含む、フローセルと、
第1のオスモル濃度を有する第1の緩衝液を含む第1の流体リザーバと、
第2のオスモル濃度を有する第2の緩衝液を含む第2の流体リザーバであって、前記第1の緩衝液が前記第2の緩衝液よりも高いオスモル濃度を有する、第2の流体リザーバと、
溶媒に溶解した膜材料を含む第3の流体リザーバと、
第3の緩衝液および複数のナノ細孔を含む第4の流体リザーバと、
前記フローセル、前記第1の流体リザーバ、前記第2の流体リザーバ、および前記第3の流体リザーバと流体連通するように構成されたポンプと、
コントローラであって、
前記第1の緩衝液を前記フローセル内に圧送して、前記第1の緩衝液を少なくとも1つのウェルリザーバに充填し、
前記溶媒に溶解した前記膜材料を前記フローセル内に圧送して、前記第1の緩衝液を前記ウェルリザーバ内に残しながら前記第1の緩衝液を前記フローセルから移動させ、
前記第2の緩衝液を前記フローセル内に圧送して、前記膜材料および溶媒を前記フローセルから移動させて前記ウェル上に膜材料の層を残し、
前記膜材料の層の上の前記第2の緩衝液の流れを促すことによって、および/または前記膜材料の層に電圧を印加することによって、前記膜材料の層を薄くして膜にし、
前記薄くされた膜を外側に向けて前記作用電極から離れるように湾曲させるための期間待機し、
前記複数のナノ細孔を有する前記第3の緩衝液を前記フローセルに圧送して、ナノ細孔を前記外側に湾曲した膜に挿入する
ようにプログラムされたコントローラと
を備える、システム。
【請求項19】
前記コントローラが、前記作用電極を用いて電気信号を測定することによって前記膜へのナノ細孔挿入を検出するようにさらにプログラムされている、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記第1のオスモル濃度から差し引かれた前記第2のオスモル濃度が負であり、少なくとも10mOsm/kgの大きさを有する、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記第1のオスモル濃度から差し引かれた前記第2のオスモル濃度が負であり、少なくとも50mOsm/kgの大きさを有する、請求項18に記載のシステム。
【請求項22】
前記第1のオスモル濃度から差し引かれた前記第2のオスモル濃度が負であり、少なくとも100mOsm/kgの大きさを有する、請求項18に記載のシステム。
【請求項23】
前記第1のオスモル濃度から差し引かれた前記第2のオスモル濃度が負であり、少なくとも150mOsm/kgの大きさを有する、請求項18に記載のシステム。
【請求項24】
前記期間が予め決定される、請求項18に記載のシステム。
【請求項25】
前記期間が、前記膜の湾曲を検出するために前記作用電極を用いて電気信号を測定するようにさらにプログラムされた前記コントローラによって決定される、請求項18に記載のシステム。
【請求項26】
前記電気信号が、前記膜の静電容量および/または抵抗を含む、請求項25に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ナノ細孔ベースの配列決定チップは、DNA配列決定に使用されることができる分析ツールである。これらのデバイスは、アレイとして構成された、非常に多数のセンサセルを組み込むことができる。例えば、配列決定チップは、例えば1000行×1000列のセルを有する100万個のセルのアレイを含むことができる。アレイのセルのそれぞれは、膜と、内径において1ナノメートルオーダーの細孔サイズを有するプロテイン細孔と、を含むことができる。そのようなナノ細孔は、ヌクレオチドの迅速な配列決定において有効であることが示されている。
【0002】
電位が、伝導性流体に浸されたナノ細孔にわたって印加されると、ナノ細孔にわたるイオンの伝導に起因する小イオン電流が存在することができる。電流のサイズは、細孔サイズと、ナノ細孔内に配置された分子のタイプと、に影響を受けやすい。分子は、特定のヌクレオチドに結合された特定のタグとなり得る。したがって、核酸の特定の位置でのヌクレオチドの検出が可能となる。分子の抵抗を測定する方法として、ナノ細孔を含む回路における電圧または他の信号が(例えば、積分コンデンサにて)測定されることができ、それによって、ナノ細孔内にどのような分子があるかを検出することが可能となる。
【0003】
1つの課題は、膜と、膜内に配置された単一細孔とを有するアレイ内のセルの収率を増加させることであった。典型的には、アレイ内の利用可能なセルの一部のみが単一細孔を有する膜を有し、配列決定に適している。
【0004】
したがって、膜に細孔を挿入する能力を改善し、膜および単一細孔を有するセルの収率を改善することが望ましい。
【発明の概要】
【0005】
様々な実施形態は、膜へのナノ細孔の挿入に関連する技術およびシステムを提供する。
【0006】
一実施形態によれば、ナノ細孔を膜に挿入する方法が提供される。この方法は、作用電極を備えるウェルであって、フローセル内のウェルのアレイの一部であるウェルのウェルリザーバを第1のオスモル濃度を有する第1の緩衝液によって充填することと、前記ウェルリザーバ内に前記第1の緩衝液を封入するために、ウェル上に膜を形成することと、第2のオスモル濃度を有する第2の緩衝液を、膜が第1の緩衝液と第2の緩衝液との間にあるように膜の上に流すことであって、第1の緩衝液が第2の緩衝液よりも高いオスモル濃度を有する、流すことと、第2の緩衝液からの流体が膜にわたって第1の緩衝液に拡散するにつれて、膜を外側に向けて作用電極から離れるように湾曲させることと、外側に湾曲した膜にナノ細孔を挿入することと、を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、第1のオスモル濃度から差し引かれた第2のオスモル濃度は、負であり、少なくとも10mOsm/kgの大きさを有する。いくつかの実施形態では、第1のオスモル濃度から差し引かれた第2のオスモル濃度は、負であり、少なくとも50mOsm/kgの大きさを有する。いくつかの実施形態では、第1のオスモル濃度から差し引かれた第2のオスモル濃度は、負であり、少なくとも100mOsm/kgの大きさを有する。いくつかの実施形態では、第1のオスモル濃度から差し引かれた第2のオスモル濃度は、負であり、少なくとも150mOsm/kgの大きさを有する。
【0008】
いくつかの実施形態では、膜は脂質を含む。いくつかの実施形態では、膜は、トリブロックコポリマーを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、膜を形成するステップは、溶媒に溶解した膜材料をウェル上に流すことを含む。いくつかの実施形態では、第2の緩衝液を流すステップは、フローセル内の膜材料および溶媒を第2の緩衝液によって取り替え、ウェル上に膜材料の層を残すことを含む。いくつかの実施形態では、膜材料の層は、膜材料の層の上の第2の緩衝液の流れを通して薄くなって膜になる。いくつかの実施形態では、膜材料の層は、作用電極を使用して膜材料の層に電圧刺激を加えることによって薄くなって膜になる。
【0010】
いくつかの実施形態では、第2の緩衝液は、複数のナノ細孔を含む。いくつかの実施形態では、各ナノ細孔は、ナノ細孔、ナノ細孔につながれたポリメラーゼ、およびポリメラーゼと会合した核酸を含む分子複合体の一部である。
【0011】
いくつかの実施形態では、ナノ細孔を膜に挿入するステップは、ナノ細孔を含む第3の緩衝液を膜の上に流すことを含む。いくつかの実施形態では、第3の緩衝液は、第2の緩衝液と同じオスモル濃度を有する。いくつかの実施形態では、第3緩衝液は、第2緩衝液とは異なるオスモル濃度を有する。
【0012】
いくつかの実施形態では、この方法は、膜へのナノ細孔挿入を検出するために、作用電極を用いて電気信号を測定することをさらに含む。
【0013】
別の実施形態によれば、ナノ細孔を膜に挿入するためのシステムが提供される。システムは、各ウェルがウェルリザーバおよび作用電極を備えるウェルのアレイを備えるフローセルと、第1のオスモル濃度を有する第1の緩衝液を含む第1の流体リザーバと、第2のオスモル濃度を有する第2の緩衝液を含む第2の流体リザーバであって、第1の緩衝液が第2の緩衝液よりも高いオスモル濃度を有する、第2の流体リザーバと、溶媒に溶解した膜材料を含む第3の流体リザーバと、第3の緩衝液および複数のナノ細孔を含む第4の流体リザーバと、フローセル、第1の流体リザーバ、第2の流体リザーバ、および第3の流体リザーバと流体連通するように構成されたポンプと、コントローラであって、少なくとも1つのウェルリザーバを第1の緩衝液によって充填するために第1の緩衝液をフローセル内に圧送し、溶媒に溶解した膜材料をフローセル内に圧送して第1の緩衝液をウェルリザーバ内に残しながら第1の緩衝液をフローセルから移動させ、第2の緩衝液をフローセル内に圧送して膜材料および溶媒をフローセルから移動させて膜材料の層をウェルの上に残し、膜材料の層の上の第2の緩衝液の流れを促すことによって、および/または膜材料の層に電圧を印加することによって膜材料の層を薄くして膜にし、薄くされた膜を外側に向けて作用電極から離れるように湾曲させるための期間を機し、複数のナノ細孔を有する第3の緩衝液をフローセル内に圧送してナノ細孔を外側に湾曲した膜に挿入する、ようにプログラムされたコントローラと、を含む。いくつかの実施形態では、コントローラは、作用電極を用いて電気信号を測定することによって膜へのナノ細孔挿入を検出するようにさらにプログラムされる。
【0014】
いくつかの実施形態では、第1のオスモル濃度から差し引かれた第2のオスモル濃度は、負であり、少なくとも10mOsm/kgの大きさを有する。いくつかの実施形態では、第1のオスモル濃度から差し引かれた第2のオスモル濃度は、負であり、少なくとも50mOsm/kgの大きさを有する。いくつかの実施形態では、第1のオスモル濃度から差し引かれた第2のオスモル濃度は、負であり、少なくとも100mOsm/kgの大きさを有する。いくつかの実施形態では、第1のオスモル濃度から差し引かれた第2のオスモル濃度は、負であり、少なくとも150mOsm/kgの大きさを有する。
【0015】
いくつかの実施形態では、期間は予め決定される。いくつかの実施形態では、期間は、膜の湾曲を検出するために作用電極を用いて電気信号を測定するようにさらにプログラムされたコントローラによって決定される。いくつかの実施形態では、電気信号は、膜の静電容量および/または抵抗である。
【0016】
他の実施形態は、本明細書に説明される方法に関連付けられたシステムおよびコンピュータ可読媒体に関する。
【0017】
本発明の実施形態の特性および利点の良好な理解は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ナノ細孔セルのアレイを有するナノ細孔センサチップの実施形態の平面図である。
【
図2】ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの特性を評価するために使用されることができるナノ細孔センサチップにおけるナノ細孔セルの実施形態を示している。
【
図3】ヌクレオチドの配列決定を、ナノ細孔ベースの、合成による配列決定(Nano-SBS)技術を使用して行うナノ細孔セルの実施形態を示している。
【
図4】ナノ細孔セルにおける電気回路の実施形態を示している。
【
図5】ACサイクルの明期および暗期中にナノ細孔セルから取得されたデータポイントの例を示している。
【
図6-1】
図6Aは、実施形態にかかる方法の時間t
1において、初期ナノ細孔が、ナノ細孔ベースの配列決定チップのセル内のウェルにわたって広がる脂質二重層に挿入されることを示している。
図6Bは、時間t
2において、ウェル溶液よりも低オスモル濃度の第1の電解液がウェルの外部のリザーバに流入し、ウェルから外部のリザーバに水を流入させることを示している。
図6Cは、時間t
3において、脂質二重層の形状が初期ナノ細孔を排出するのに十分な程度に変化したことを示している。
【
図6-2】
図6Dは、時間t
4において、置換ナノ細孔と、初期ウェル溶液のオスモル濃度と同一または類似のオスモル濃度とを有する第2の電解質溶液が、ウェルの外部のリザーバに流入し、セルに外部のリザーバから水を流入させることを示している。
図6Eは、時間t
5において、脂質二重層の形状がその元の構成に実質的に回復したことを示している。
図6Fは、時間t
6において、置換細孔が脂質二重層に挿入されたことを示している。
【
図7】実施形態にかかる、膜内のナノ細孔を置換するためのプロセスのフローチャートである。
【
図8】本開示の特定の態様にかかるフローシステムである。
【
図9A】細孔置換法を適用せずに、ナノ細孔ベースの配列決定チップのセルについての2つの独立したk
fc値測定値の間の関係をプロットしたグラフである。
【
図9B】2つの測定値間に実施形態にかかる細孔置換法を適用した、ナノ細孔ベースの配列決定チップのセルについての2つの独立したk
fc値測定値間の関係をプロットしたグラフである。
【
図10A】ナノ細孔の排出および置換を伴わない配列決定セルについてADCカウントを経時的にプロットしたグラフである。
【
図10B】実施形態にかかるナノ細孔の排出および置換を伴う配列決定セルについてのADCカウントを経時的にプロットしたグラフである。
【
図11】本開示の特定の態様にかかるコンピュータシステムである。
【
図12A】浸透圧不均衡が使用されてウェルの内側または外側を覆う膜を湾曲させる方法を示している。
【
図12B】浸透圧不均衡が使用されてウェルの内側または外側を覆う膜を湾曲させる方法を示している。
【
図12C】浸透圧不均衡が使用されてウェルの内側または外側を覆う膜を湾曲させる方法を示している。
【
図14】浸透圧ポテンシャルデルタが多数の実験に基づいて観察された様々な種類の収率を有する一般的な傾向をまとめたものである。
【
図15】細孔収率に対するΔosmoの効果を示す様々な実験データを示している。
【
図16】細孔収率に対するΔosmoの効果を示す様々な実験データを示している。
【
図17】細孔収率に対するΔosmoの効果を示す様々な実験データを示している。
【
図18】細孔収率に対するΔosmoの効果を示す様々な実験データを示している。
【0019】
用語
特に定義されない限り、ここに使用される技術用語および科学用語は、当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。ここに説明されるそれらと同様の、または、等価な、方法、デバイス、および材料は、開示される技術の実践において使用されることができる。以下の用語は、頻繁に使用される特定の用語の理解を促進するために提供され、本開示の範囲を限定することを意味しない。ここに使用される略語は、化学および生体学の分野におけるそれらの一般的な意味を有する。
【0020】
「ナノ細孔」とは、膜内に形成された、または、さもなければ提供された、細孔、チャネル、または通路を指す。膜は、脂質二重層などの有機膜、または、高分子材料製の膜などの合成膜、とすることができる。ナノ細孔は、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)もしくは電界効果トランジスタ(FET)回路などの、センシング回路、または、そのようなセンシング回路に接続された電極に隣接して、または、これに近接して配置されることができる。いくつかの例では、ナノ細孔は、約0.1ナノメートル(nm)から約1000nmオーダーの、特徴的な幅または直径を有する。いくつかの実装では、ナノ細孔は、プロテインであってよい。
【0021】
「核酸」とは、デオキシリボヌクレオチド、または、リボヌクレオチド、および、一本鎖型または二本鎖型のいずれかの、それらのポリマーを指す。この用語は、既知のヌクレオチド類似体、または、修飾された骨格鎖残基もしくは連鎖を含む核酸を包含する。これらは、合成物質、天然に存在するもの、および、天然に存在しないものである。これらは、参照核酸と同様の結合特性を有する。これらは、参照ヌクレオチドと同様の様式にて代謝される。そのような類似体の例としては、ホスホロチオエート、ホスホラミダイト、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、およびペプチド核酸(PNAs)が含まれるが、これらに限定されない。特に示されない限り、特定の核酸配列はまた、暗に、それらの保存的に修飾された変異体(例えば、縮重コドン置換体)、および、相補的配列、同様に、明示された配列を包含する。具体的には、縮重コドン置換体は、1つまたはそれ以上の選択された(または、全ての)コドンの第三番目が、混合基および/またはデオキシイノシン残基と置換された配列を生成することにより達成されることができる(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991)、Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985)、Rossoliniら、Mol.Cell.Probes8:91-98(1994))。核酸という用語は、遺伝子、相補的デオキシリボ核酸(cDNA)、伝令リボ核酸(mRNA)、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと、互いに交換可能に使用されることができる。
【0022】
用語「ヌクレオチド」は、天然に存在するリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドモノマーを指すことに加えて、(相補的塩基に対する混成などの)ヌクレオチドが使用されている特定のコンテキストに関して、そのコンテキストがさもなければ明確に示さない限りは、機能的に等価な誘導体および類似体を含む、それらの関連する構造変異体を指すものと理解されることができる。
【0023】
用語「タグ」とは、原子もしくは分子、または、原子もしくは分子の集合体とすることができる、検出可能な部分を指す。タグは、光学的な、電気化学的な、磁気的な、または静電性(例えば、誘導性、または、容量性)シグニチャを提供することができる。このシグニチャは、ナノ細孔の助力によって検出されることができる。典型的には、ヌクレオチドがタグに結合されると、このタグは、「タグ付けされたヌクレオチド」と呼ばれる。タグは、リン酸塩部分を介してヌクレオチドに結合されることができる。
【0024】
用語「テンプレート」とは、DNA合成のために、DNAヌクレオチドの相補鎖にコピーされた一本鎖核酸分子を指す。いくつかの場合では、テンプレートは、mRNAの合成中にコピーされたDNAの配列を指すことができる。
【0025】
用語「プライマ」とは、DNA合成のための開始ポイントを提供する、短い核酸配列を指す。DNAポリメラーゼなどの、DNA合成において触媒として作用する酵素は、DNAの複製のために、新たなヌクレオチドをプライマに加えることができる。
【0026】
用語「ポリメラーゼ」とは、ポリヌクレオチドの、テンプレートに向けられた合成を行う酵素を指す。この用語は、ポリペプチド全体と、ポリメラーゼ活性を有するドメインと、の双方を包含する。DNAポリメラーゼは当業者によく知られており、これらに限定されないが、ピロコッカス・フリオサス、テルモコッカス・リトラリス、およびサーモトガ・マリティマ、または、それらの修飾されたバージョンから切り離された、または、これらから派生したDNAポリメラーゼを含む。これらは、逆転写酵素などの、DNA依存性ポリメラーゼおよびRNA依存性ポリメラーゼの双方を含む。DNA依存性DNAポリメラーゼの少なくとも5つのファミリーが知られているが、大部分は、ファミリーA、BおよびCに分類される。様々なファミリー間の配列類似性はほとんどまたは全くない。ファミリーAポリメラーゼのほとんどは、ポリメラーゼ、3’から5’のエキソヌクレアーゼ活性と、5’から3’のエキソヌクレアーゼ活性と、を含む、複数の酵素機能を含むことができる、一本鎖型プロテインである。ファミリーBポリメラーゼは、典型的には、ポリメラーゼおよび3’から5’のエキソヌクレアーゼ活性と、同様に、補助要素と、を伴う単一の触媒ドメインを有する。ファミリーCポリメラーゼは、典型的には、重合化と、3’から5’のエキソヌクレアーゼ活性と、を伴うマルチサブユニットプロテインである。大腸菌(E.coli)では、DNAポリメラーゼI(ファミリーA)、DNAポリメラーゼII(ファミリーB)、およびDNAポリメラーゼIII(ファミリーC)の3つのタイプのDNAポリメラーゼが見つかっている。真核細胞では、DNAポリメラーゼα、δ、およびεの3つの異なるファミリーBポリメラーゼが、核の複製において関与している。ファミリーAポリメラーゼの1つであるポリメラーゼγが、ミトコンドリアDNA複製のために使用される。他のタイプのDNAポリメラーゼとしては、ファージポリメラーゼが含まれる。同様に、RNAポリメラーゼとしては、典型的には、真核性RNAポリメラーゼI、II、およびIII、ならびに、細菌性RNAポリメラーゼ、同様に、ファージおよびウイルスポリメラーゼ、が含まれる。RNAポリメラーゼは、DNA依存性およびRNA依存性とすることができる。
【0027】
用語「明期」とは、一般に、AC信号を通して印加された電界により、タグ付けされたヌクレオチドのタグがナノ細孔内に押し込められる期間を指す。用語「暗期」とは、一般に、AC信号を通して印加された電界により、タグ付けされたヌクレオチドのタグがナノ細孔から押し出される期間を指す。ACサイクルは、明期と、暗期と、を含むことができる。異なる実施形態では、ナノ細孔セルを明期(または、暗期)にするために、ナノ細孔セルに適用される電圧信号の極性を、異ならせることができる。
【0028】
用語「信号値」とは、配列決定セルから出力される配列決定信号の値を指す。特定の実施形態によれば、配列決定信号は、1つまたはそれ以上の配列決定セルの回路におけるポイントにて測定され、および/または、そこから出力された電気的信号である。例えば、信号値は、電圧または電流である(または、これを表す)。信号値は、電圧および/または電流の直接測定の結果を表すことができ、および/または、間接測定値を表してもよい。例えば、信号値は、電圧または電流が指定値に到達するまでにかかる、測定された期間とすることができる。信号値は、ナノ細孔の抵抗率と相互に関連し、(挿通された、および/または、挿通されていない)ナノ細孔の抵抗率および/またはコンダクタンスが導かれることができる、いずれかの測定可能な量を表すことができる。別の例としては、信号値は、例えば、ポリメラーゼを用いて核酸に加えられたヌクレオチドに結合された蛍光体からの光の強度に対応することができる。
【0029】
用語「オスモル濃度」はまた、浸透圧濃度としても知られており、溶質濃度の測定単位を指す。オスモル濃度は、溶液の単位体積ごとの溶質粒子のオスモル数を測定する。オスモルは、溶液の浸透圧に寄与する溶質のモル数の測定単位である。オスモル濃度は、溶液の浸透圧の測定と、浸透圧濃度が異なる2種類の溶液を分離する半透膜(浸透作用)にわたって溶媒がどのように分散するかの決定と、を可能にする。
【0030】
用語「オスモライト」とは、溶液内に溶解されると、その溶液のオスモル濃度を上げる、いずれかの溶解可能な化合物を指す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
特定の実施形態によれば、本明細書に開示される技術およびシステムは、脂質二重層膜などの膜中の細孔の除去および挿入に関する。ナノ細孔ベースの配列決定チップを用いたDNA配列決定などの用途では、膜二重層を再形成する必要なしにポリメラーゼ-細孔複合体を除去および置換する能力は、分析物スループットの向上を可能にすることができる。しかしながら、主に静水圧力または起電力を伴うものなどの標準的な細孔除去方法は、典型的には、膜の崩壊または破壊を引き起こす。そして、これらの膜の改質は、いくつかの追加のステップを含み、プロセスの複雑さを増大させ、効率を低下させる。
【0032】
これらの問題に対処するために、本明細書で提供される方法が使用されて、膜(例えば、脂質二重層)の形状を、膜内に挿入された細孔がもはや安定ではなく、自発的に排出される点まで非破壊的に変化させることができる。この膜の変形は、膜の片側の溶液を元の溶液とは異なるオスモル濃度を有する新たな溶液と交換することによって達成される。細孔が排出された後、溶液の元の浸透圧条件が回復されることができ、膜を破損させることなくその元の形状に戻すことができる。そして、新たな細孔が膜に挿入されて、除去された細孔を置き換えることができる。本方法の体積および濃度スケールのために、排出された細孔が除去された同じ膜に再挿入される可能性は、無視できるほど小さくすることができる。本明細書に開示される細孔交換技術は、一般に単一分子センサアレイのスループット、特にナノ細孔ベースの配列決定チップのスループットを高めるために使用されることができる。
【0033】
ナノ細孔システム、回路、および配列決定操作の例がまず説明される。続いて、DNA配列決定セルにおいてナノ細孔を置き換える技術例が説明される。本発明の実施形態は、多くの方法にて実装されることができる。これらの方法は、プロセス、システム、およびコンピュータ可読記憶媒体上に具現化されるコンピュータプログラム製品、および/または、プロセッサに接続されたメモリ上に記憶された、および/または、このメモリにより提供された命令を実行するよう構成されているプロセッサ、を含む。
【0034】
I.ナノ細孔ベースの配列決定チップ
図1は、ナノ細孔セル150のアレイ140を有するナノ細孔センサチップ100の実施形態の平面図である。ナノ細孔セル150のそれぞれは、ナノ細孔センサチップ100のシリコン基板上に集積された制御回路を含む。いくつかの実施形態では、グループのそれぞれが、特性評価のために、異なるサンプルを受け取ることができるように、ナノ細孔セル150のグループをそれぞれ分離するために側壁136がアレイ140に含まれている。ナノ細孔セルのそれぞれは、核酸の配列を決定するために使用されることができる。いくつかの実施形態では、ナノ細孔センサチップ100は、カバープレート130を含む。いくつかの実施形態では、ナノ細孔センサチップ100はまた、コンピュータプロセッサなどの他の回路と相互作用する複数のピン110も含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、ナノ細孔センサチップ100は、マルチチップモジュール(MCM)、または、システムインパッケージ(SiP)などの同じパッケージに複数のチップを含む。チップは、例えば、メモリ、プロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、データコンバータ、高速I/Oインターフェース、などを含むことができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、ナノ細孔センサチップ100は、本明細書に開示される、プロセスの様々な実施形態を実行する(例えば、自動的に実行する)ための様々な構成要素を含むことができる、ナノチップワークステーション120に接続される(例えば、ドッキングされる)。これらのプロセスは、例えば、脂質懸濁液、または、他の膜構造懸濁液、分析物溶液、および/または、他の液体、懸濁液、または固体を供給するための、ピペットなどの、分析物デリバリメカニズムを含むことができる。ナノチップワークステーションの構成要素は、ロボティックアーム、1つまたはそれ以上のコンピュータプロセッサ、および/またはメモリをさらに含むことができる。複数のポリヌクレオチドが、ナノ細孔セル150のアレイ140上にて検出されることができる。いくつかの実施形態では、ナノ細孔セル150のそれぞれは、個別のアドレス化が可能である。
【0037】
II.ナノ細孔配列決定セル
ナノ細孔センサチップ100におけるナノ細孔セル150は、多くの異なる方法にて実装されることができる。例えば、いくつかの実施形態では、異なるサイズおよび/または化学構造のタグが、配列決定される核酸分子における異なるヌクレオチドに結合される。いくつかの実施形態では、異なるポリマーでタグ付けされたヌクレオチドを、テンプレートと混成することにより、相補鎖が、配列決定される核酸分子の、そのテンプレートに合成されてもよい。いくつかの実装では、核酸分子と、結合されたタグと、の双方は、ナノ細孔を通って移動し、ナノ細孔を通過するイオン電流は、ナノ細孔内にあるヌクレオチドを、そのヌクレオチドに結合されたタグの特定のサイズおよび/または構造により、示すことができる。いくつかの実装では、タグのみがナノ細孔内に移される。ナノ細孔内の異なるタグはまた、多くの異なる方法でも検出されることができる。
【0038】
A.ナノ細孔配列決定セル構造
図2は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの特性を評価するために使用されることができる、
図1のナノ細孔センサチップ100におけるナノ細孔セル150などの、ナノ細孔センサチップにおける例示的なナノ細孔セル200の実施形態を示している。ナノ細孔セル200は、誘電体層201および204から形成されたウェル205と、ウェル205上に形成された脂質二重層214などの膜と、脂質二重層214上の脂質二重層214によりウェル205から分離されたサンプルチャンバ215と、を含むことができる。ウェル205は、多量の電解質206を含むことができ、サンプルチャンバ215は、溶解性プロテインナノ細孔膜貫通分子錯体(PNTMCs)などの、ナノ細孔を含むバルク電解質208と、対象分析物(例えば、配列決定される核酸分子)と、を保持することができる。
【0039】
ナノ細孔セル200は、ウェル205の底にある作用電極202と、サンプルチャンバ215内に配置された対向電極210と、を含むことができる。信号源228は、電圧信号を、作用電極202と対向電極210との間に印加することができる。単一のナノ細孔(例えば、PNTMC)は、電圧信号により引き起こされるエレクトロポレーションプロセスにより、脂質二重層214内に挿入されることができ、それによって、ナノ細孔216を脂質二重層214内に形成する。アレイ内の個別の膜(例えば、脂質二重層214または他の膜構造)は、化学的にも電気的にも互いに接続されないものとすることができる。したがって、アレイにおけるナノ細孔セルのそれぞれは、対象分析物に作用し、さもなければ不浸透性の脂質二重層を通してイオン電流を変調するナノ細孔に関連付けられた、単一のポリマー分子に固有のデータを生成する、独立した配列決定マシンとすることができる。
【0040】
図2に示すように、ナノ細孔セル200は、シリコン基板などの基板230上に形成されることができる。誘電体層201は、基板230上に形成されることができる。誘電体層201を形成するために使用される誘電材料としては、例えば、ガラス、酸化物、窒化物、などを含むことができる。電気的刺激を制御することと、ナノ細孔セル200から検出される信号を処理することと、のための電気回路222は、基板230上、および/または、誘電体層201内に形成されることができる。例えば、複数のパターン化された金属層(例えば、金属1から金属6)が、誘電体層201内に形成されることができ、複数のアクティブデバイス(例えば、トランジスタ)が、基板230上に作られることができる。いくつかの実施形態では、信号源228は、電気回路222の一部として含まれる。電気回路222は、例えば、アンプ、積分器、アナログ-デジタルコンバータ、ノイズフィルタ、フィードバック制御ロジック、および/または様々な他の構成要素、などを含むことができる。電気回路222は、メモリ226に接続されたプロセッサ224にさらに接続されることができ、ここで、プロセッサ224は、配列決定データを分析し、アレイにおいて配列決定されたポリマー分子の配列を決定することができる。
【0041】
作用電極202は、誘電体層201上に形成されることができ、ウェル205の底の一部を少なくとも形成することができる。いくつかの実施形態では、作用電極202は、金属電極である。非ファラデー性伝導について、作用電極202は、例えば、白金、金、窒化チタン、および黒鉛などの、腐食および酸化に耐性のある金属または他の材料製とすることができる。例えば、作用電極202は、白金が電気めっきされた白金電極とすることができる。別の例では、作用電極202は、窒化チタン(TiN)製作用電極とすることができる。作用電極202は、多孔質とすることができ、それによって、その表面積が広くなり、作用電極202に関連付けられた静電容量をもたらす。ナノ細孔セルの作用電極は、別のナノ細孔セルの作用電極から独立することができるため、作用電極は、本開示ではセル電極と呼ばれることができる。
【0042】
誘電体層204は、誘電体層201の上に形成されることができる。誘電体層204は、ウェル205を取り囲む壁を形成する。誘電体層204を形成するために使用される誘電材料としては、例えば、ガラス、酸化物、一窒化シリコン(SiN)、ポリイミド、または他の好適な疎水性絶縁材料などを含むことができる。誘電体層204の上面は、シラン処理されることができる。シラン処理は、誘電体層204の上面の上方に疎水層220を形成することができる。いくつかの実施形態では、疎水層220は、約1.5ナノメートル(nm)の厚さを有する。
【0043】
誘電体層壁204により形成されたウェル205は、作用電極202の上方に多量の電解質206を含む。多量の電解質206は中和されることができ、以下のうちの1つまたはそれ以上を含むことができる:塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マンガン(MnCl2)、および塩化マグネシウム(MgCl2)。いくつかの実施形態では、多量の電解質206は、約3ミクロン(μm)の厚さを有する。
【0044】
また、
図2に示すように、膜が誘電体層204の上方に形成されることができ、この膜は、ウェル205にわたって広がる。いくつかの実施形態では、この膜は、疎水層220の上方に形成された脂質単層218を含む。この膜が、ウェル205の開口に到達すると、脂質単層208は、ウェル205の開口にわたって広がる脂質二重層214に変遷することができる。脂質二重層は、例えば、ジフィタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジ-O-フィタニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DoPhPC)、パルミトイル-オレオイル-ホスファチジルコリン(POPC)、ジオレオイル-ホスファチジル-メチルエステル(DOPME)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン、1,2-ジ-O-フィタニル-sn-グリセロール、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-350]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-550]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-750]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-1000]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-ラクトシル、GM1ガングリオシド、リゾホスファチジルコリン(LPC)またはその任意の組み合わせから選択されるリン脂質を含み、またはそれらから構成されることができる。
【0045】
示されるように、脂質二重層214は、例えば単一のPNTMCによって形成された単一のナノ細孔216によって埋め込まれている。上述したように、エレクトロポレーションによって単一のPNTMCを脂質二重層214に挿入することによって、ナノ細孔216が形成されることができる。ナノ細孔216は、対象分析物の少なくとも一部位、および/または、小さいイオン(例えば、Na+、K+、Ca2+、Cl-)を、脂質二重層214の2つの側の間に通すのに十分な大きさとすることができる。
【0046】
サンプルチャンバ215は、脂質二重層214の上方にあり、特性評価対象分析物の溶液を保持することができる。溶液は、バルク電解質208を含む水溶液であり、最適なイオン濃度に中和され、ナノ細孔216を開いたままにするために最適なpHにて維持されることができる。ナノ細孔216は、脂質二重層214を横断し、バルク電解質208から作用電極202へのイオンフローの唯一の経路を提供する。ナノ細孔(例えば、PNTMC)および対象分析物に加えて、バルク電解質208は、次の1つまたはそれ以上をさらに含むことができる:塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マンガン(MnCl2)、および塩化マグネシウム(MgCl2)。
【0047】
対向電極(CE)210は、電気化学的な電位センサとすることができる。いくつかの実施形態では、対向電極210は、複数のナノ細孔セルの間にて共有されており、したがって、共通電極と呼ばれることができる。いくつかの場合では、共通電位および共通電極は、全てのナノ細孔セルに、または、少なくとも特定のグルーピング内の全てのナノ細孔セルに共通することができる。共通電極は、共通電位を、ナノ細孔216に接触しているバルク電解質208に印加するよう構成されることができる。対向電極210および作用電極202は、脂質二重層214にわたって電気的刺激(例えば、電圧バイアス)を提供するために、信号源228に接続されることができ、脂質二重層214の電気的特性(例えば、抵抗、静電容量、およびイオン電流フロー)を感知するために使用されることができる。いくつかの実施形態では、ナノ細孔セル200はまた、参照電極212も含むことができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、較正の一部として、ナノ細孔セルの形成中に、様々なチェックが行われる。ナノ細孔セルが形成されると、例えば、所望に作動しているナノ細孔セル(例えば、セル内の1つのナノ細孔)を識別するために、さらなる較正ステップが行われることができる。そのような較正チェックは、物理的チェック、電圧較正、オープンチャネル較正、および単一のナノ細孔を有するセルの識別を含むことができる。
【0049】
D.ナノ細孔配列決定セルの検出信号
ナノ細孔センサチップ100におけるナノ細孔セル150などの、ナノ細孔センサチップにおけるナノ細孔セルは、合成(Nano-SBS)技術による、単一分子ナノ細孔ベースの配列決定を使用する、並列配列決定を可能とすることができる。
【0050】
図3は、Nano-SBS技術を使用する、ヌクレオチドの配列決定を行うナノ細孔セル300の実施形態を示している。Nano-SBS技術では、配列決定されるテンプレート332(例えば、ヌクレオチド酸分子または別の対象分析物)およびプライマが、ナノ細孔セル300のサンプルチャンバ内のバルク電解質308内に導入されることができる。例として、テンプレート332は、円形または線形とすることができる。核酸プライマは、4つの異なるポリマーでタグ付けされたヌクレオチド338が加えられることができるテンプレート332の一部位に混成されることができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、酵素(例えば、DNAポリメラーゼなどのポリメラーゼ334)が、相補鎖をテンプレート332に合成することにおける使用のために、ナノ細孔316に関連付けられている。例えば、ポリメラーゼ334は、ナノ細孔316に共有結合されることができる。ポリメラーゼ334は、ヌクレオチド338の一本鎖核酸分子をテンプレートとして使用する、プライマ上への組み込みにおいて、触媒として作用することができる。ヌクレオチド338は、A、T、G、またはCの、4つの異なるタイプのうちの1つであるヌクレオチドを用いるタグ種(「タグ」)を含むことができる。タグ付けされたヌクレオチドがポリメラーゼ334と正しく複合化されると、脂質二重層314および/またはナノ細孔316にわたって印加される電圧によって生成される電場の存在下で生成される力などの電気力によって、タグがナノ細孔内に引き込まれる(例えば、ロードされる)ことができる。タグの末端は、ナノ細孔316のバレル内に配置されることができる。ナノ細孔316のバレル内に保持されたタグは、そのタグの明確な化学構造および/またはサイズにより、固有のイオン封鎖信号340を生成することができ、それによって、タグが結合する添加塩基を電子的に識別することができる。
【0052】
本明細書で使用される場合、「ロードされた」または「挿通された」タグは、0.1ミリ秒(ms)から10000msなどの、適切な期間にわたって、ナノ細孔内にまたはその付近に配置されるおよび/または残る。いくつかの場合では、タグは、ヌクレオチドから解放される前に、ナノ細孔内にロードされる。いくつかの例では、ヌクレオチド組み込みイベント後に解放された後に、ロードされたタグがナノ細孔を通過する(および/または、ナノ細孔により検出される)確率は、90%から99%など、好適に高い。
【0053】
いくつかの実施形態では、ポリメラーゼ334がナノ細孔316に接続される前には、ナノ細孔316のコンダクタンスは、約300ピコシーメンス(300pS)などに高い。ナノ細孔においてタグがロードされると、タグの明確な化学構造および/またはサイズにより、固有のコンダクタンス信号(例えば、信号340)が生成される。例えば、ナノ細孔のコンダクタンスは、約60pS、80pS、100pS、または120pSとすることができ、これらのそれぞれは、4つのタイプのタグ付けされたヌクレオチドのうちの1つに対応する。そして、ポリメラーゼは、異性化およびリン酸転移反応を経て、ヌクレオチドを、成長中の核酸分子内に組み込み、タグ分子を解放することができる。
【0054】
いくつかの場合では、タグ付けされたヌクレオチドのいくつかは、核酸分子(テンプレート)の現在の位置とマッチしない(相補的塩基)場合がある。核酸分子との塩基対になっていない、タグ付けされたヌクレオチドもまた、ナノ細孔を通過することができる。これらの、対になっていないヌクレオチドは、正しく対になっているヌクレオチドが、ポリメラーゼに関連付けられたままとなる時間スケールよりも短い時間スケール内に、ポリメラーゼにより排斥されることができる。対になっていないヌクレオチドに向けられたタグは、ナノ細孔を迅速に通過することができ、短い期間(例えば、10ms未満)にわたって検出されることができる。一方、対になっているヌクレオチドに向けられたタグは、ナノ細孔内にロードされ、長い期間(例えば、少なくとも10ms)にわたって検出されることができる。したがって、対になっていないヌクレオチドは、ヌクレオチドがナノ細孔内にて検出される時間の少なくとも一部に基づいて、下流プロセッサにより識別されることができる。
【0055】
ロードされた(挿通された)タグを含むナノ細孔のコンダクタンス(または、抵抗に等価)は、信号値(例えば、ナノ細孔を通過する電圧または電流)を介して測定され、それによって、タグ種の識別、したがって、現在の位置にあるヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、(例えば、タグがナノ細孔を通って移動する方向が反転されないように)直流(DC)信号が、ナノ細孔セルに印加される。しかしながら、直流を使用して、ナノ細孔センサを長い期間にわたって作動させることは、電極の組成を変え、ナノ細孔にわたるイオン濃度を不均衡なものとし、ナノ細孔セルの寿命に悪影響を及ぼす可能性がある他の好ましくない効果を有することができる。交流(AC)波形を印加することは、電子移動を減らし、これらの好ましくない効果を回避し、以下に説明されるような、特定の利点を有することができる。ここに説明される、タグ付けされたヌクレオチドを利用する核酸配列決定方法は、印加されるAC電圧との親和性が十分にあり、したがって、それらの利点を達成するために、AC波形が使用されることができる。
【0056】
AC検出サイクル中に電極を再充電することができることは、通電反応において分子的特徴が変わる電極(例えば、銀を含む電極)、または、通電反応における分子的特徴が変わる電極である犠牲電極が使用される場合に好適とすることができる。直流信号が使用される場合、電極は、検出サイクル中に消耗する可能性がある。再充電することは、電極が小型である場合(例えば、電極が、1平方ミリメートルごとに少なくとも500の電極を有する電極のアレイを提供するほど十分小さい場合)に問題である可能性がある、完全に消耗するなどの、電極が消耗限度に到達することを防ぐことができる。電極寿命は、いくつかの場合では、電極の幅と共に伸び、少なくとも部分的に電極の幅に依存する。
【0057】
ナノ細孔を通過するイオン電流を測定するための好適な条件は、当業者に知られており、それらの例が本明細書に提供される。測定は、膜および細孔にわたって印加される電圧を用いて実行されることができる。いくつかの実施形態では、使用される電圧は、-400mVから+400mVの範囲にある。使用される電圧は、好適には、-400mV、-300mV、-200mV、-150mV、-100mV、-50mV、-20mV、および0mVから選択される下限と、+10mV、+20mV、+50mV、+100mV、+150mV、+200mV、+300mV、および+400mVから独立して選択される上限と、を有する範囲にある。使用される電圧は、より好適には、100mVから240mVの範囲、最も好適には、160mVから240mVの範囲とすることができる。増加した印加電位を使用したナノ細孔により、異なるヌクレオチド間の識別を増加させることができる。AC波形と、タグ付けされたヌクレオチドとを使用する核酸配列決定は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2013年11月6に出願された、「Nucleic Acid Sequencing Using Tags」と題された、米国特許出願公開第2014/0134616号明細書に記載されている。米国特許出願公開第2014/0134616号明細書に記載されているタグ付けされたヌクレオチドに加えて、配列決定は、例えば、アデニン、シトシン、グアニン、ウラシル、およびチミンの5つの共通する核酸塩基の(S)-グリセロールヌクレオシドトリホスフェート(gNTPs)などの糖部分または非環式部分が少ないヌクレオチド類似体を使用して行われることができる(Horhotaら、Organic Letters、8:5345-5347[2006])。
【0058】
C.ナノ細孔配列決定セルの電気回路
図4は、ナノ細孔セル400などの、ナノ細孔セル内の電気回路400(
図2の電気回路222の各部位を含むことができる)の実施形態を示している。上述したように、いくつかの実施形態では、電気回路400は、ナノ細孔センサチップにおける複数のナノ細孔セルまたは全てのナノ細孔セルの間にて共有されることができ、したがって、共通電極とも呼ばれることができる対向電極410を含む。共通電極は、電圧源V
LIQ420に接続することにより、共通電位を、ナノ細孔セルにおける脂質二重層(例えば、脂質二重層214)に接触しているバルク電解質(例えば、バルク電解質208)に印加するよう構成されることができる。いくつかの実施形態では、AC非ファラデーモードが利用され、AC信号(例えば、矩形波)を用いて電圧V
LIQを変調し、それをナノ細孔セルにおいて脂質二重層に接触しているバルク電解質に印加する。いくつかの実施形態では、V
LIQは、±200から250mVの大きさと、例えば、25と400Hzとの間の周波数と、を有する矩形波である。対向電極410と脂質二重層(例えば、脂質二重層214)との間のバルク電解質は、例えば、100μF以上の大型のコンデンサ(図示せず)によりモデル化されることができる。
【0059】
図4はまた、作用電極402(例えば、作用電極202)と、脂質二重層(例えば、脂質二重層214)と、の電気的性状を表す電気的モデル422をも示す。電気的モデル422は、脂質二重層に関連付けられた静電容量をモデル化するコンデンサ426(C
二重層)と、ナノ細孔に関連付けられた可変抵抗をモデル化する抵抗器428(R
細孔)とを含、これらは、ナノ細孔における特定のタグの存在に基づいて変化することができる。電気的モデル422はまた、二重層静電容量(C
二重層)を有し、作用電極402とウェル205との電気的性状を表すコンデンサ424をも含む。作用電極402は、他のナノ細孔セルにおける作用電極から独立した明確な電位を印加するよう構成されることができる。
【0060】
パスデバイス406は、脂質二重層と、作用電極とを電気回路400に接続する、または、この接続を断つために使用されることができるスイッチである。パスデバイス406は、制御線407により制御されることができ、ナノ細孔セルにおける脂質二重層にわたって印加される電圧刺激を有効または無効にする。脂質が堆積して脂質二重層を形成する前には、ナノ細孔セルのウェルが密封されていないために、これら2つの電極間のインピーダンスが非常に低い場合があり、したがって、短絡状況を回避するために、パスデバイス406は、開いた状態に維持されることができる。脂質溶媒がナノ細孔セルに堆積して、ナノ細孔セルのウェルが密封された後に、パスデバイス406は、閉じることができる。
【0061】
回路400は、オンチップ積分コンデンサ408(ncap)をさらに含むことができる。積分コンデンサ408は、積分コンデンサ408が電圧源VPRE405に接続されるように、リセット信号403を使用してスイッチ401を閉じることにより、予め充電することができる。いくつかの実施形態では、電圧源VPRE405は、900mVなどの大きさの特定の基準電圧を提供する。スイッチ401を閉じると、積分コンデンサ408は、電圧源VPRE405の基準電圧レベルまで、予め充電することができる。
【0062】
積分コンデンサ408を予め充電した後で、積分コンデンサ408の電圧源VPRE405からの接続が断たれるように、リセット信号403を使用してスイッチ401を開くことができる。この時点にて、電圧源VLIQのレベルに依存して、対向電極410の電位は、作用電極402(および、積分コンデンサ408)の電位のそれよりも高いレベルとすることができ、その逆もしかりである。例えば、電圧源VLIQからの矩形波の正相(例えば、AC電圧源信号サイクルの明期または暗期)中は、対向電極410の電位は、作用電極402の電位よりも高いレベルにある。電圧源VLIQからの矩形波の負相(例えば、AC電圧源信号サイクルの暗期または明期)中は、対向電極410の電位は、作用電極402の電位よりも低いレベルにある。したがって、いくつかの実施形態では、積分コンデンサ408は、明期の間に、電圧源VPRE405の予め充電した電圧レベルから、より高いレベルまで、さらに充電し、また、暗期の間に、対向電極410と作用電極402との間の電位差により、より低いレベルまで放電することができる。他の実施形態では、充電および放電は、それぞれ、暗期および明期に行われる。
【0063】
積分コンデンサ408は、アナログ-デジタルコンバータ(ADC)435の、1kHz、5kHz、10kHz、100kHzよりも高くすることができ、またはこれらの値よりも高くすることができるサンプリングレートに依存して、一定期間にわたって充電することができるかまたは放電することができる。例えば、1kHzのサンプリングレートでは、積分コンデンサ408は、約1msの期間にわたって充電/放電することができ、そして、電圧レベルを、積分期間の終わりにADC435によりサンプリングして変換することができる。特定の電圧レベルが、ナノ細孔における特定のタグ種に対応し、したがって、テンプレート上の現在の位置にあるヌクレオチドに対応する。
【0064】
ADC435によりサンプリングされた後に、積分コンデンサ408は、積分コンデンサ408が再度電圧源VPRE405に接続されるように、リセット信号403を使用してスイッチ401を閉じることにより、予め充電することができる。積分コンデンサ408を予め充電するステップと、積分コンデンサ408が充電または放電する一定期間にわたって待機するステップと、ADC435により、積分コンデンサの電圧レベルをサンプリングして変換するステップは、配列決定プロセスを通してのサイクルのそれぞれにおいて繰り返されることができる。
【0065】
デジタルプロセッサ430は、例えば、正規化、データバッファリング、データフィルタリング、データ圧縮、データの削減、イベントの抽出、または、ナノ細孔セルのアレイから、様々なデータフレームへのADC出力データのアセンブリングのために、ADC出力データを処理することができる。いくつかの実施形態では、デジタルプロセッサ430は、塩基の決定などの下流の処理をさらに行う。デジタルプロセッサ430は、(例えば、グラフィック処理ユニット(GPU)、FPGA、ASIC、などでの)ハードウェアとして、または、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせとして、実装されることができる。
【0066】
したがって、ナノ細孔にわたって印加される電圧信号は、ナノ細孔の特定の状態を検出するために使用されることができる。ナノ細孔の可能性のある状態の1つは、タグが結合されたポリリン酸塩が、ナノ細孔のバレルからなくなる際の、オープンチャネル状態であり、これはまた、本明細書では挿通されていないナノ細孔の状態とも呼ばれる。ナノ細孔の他の4つの可能性のある状態は、それぞれ、4つの異なるタイプのタグが結合されたポリリン酸塩ヌクレオチド(A、T、G、またはC)のうちの1つがナノ細孔のバレル内に保持されている際の状態に対応する。ナノ細孔のさらに別の可能性のある状態は、脂質二重層が破れた際の状態である。
【0067】
積分コンデンサ408上の電圧レベルが一定期間後に測定されると、ナノ細孔の異なる状態は、異なる電圧レベルの測定値をもたらすことができる。これは、積分コンデンサ408上の電圧減衰(放電による下降、または、充電による上昇)の速度(すなわち、時間プロットに対する積分コンデンサ408上の電圧のスロープの傾き)が、ナノ細孔抵抗(例えば、抵抗器R細孔428の抵抗)に依存するためである。とりわけ、異なる状態において、ナノ細孔に関連付けられた抵抗が、分子の(タグの)明確な化学構造により異なるため、電圧減衰の、異なる、対応する速度が観察されることができ、ナノ細孔の異なる状態を識別するために使用されることができる。電圧減衰曲線は、RC時定数τ=RCの指数関数曲線とすることができ、ここで、Rは、ナノ細孔(すなわち、R細孔抵抗器428)に関連付けられた抵抗であり、Cは、Rと同時に、膜(すなわち、C二重層コンデンサ426)に関連付けられた静電容量である。ナノ細孔セルの時定数は、例えば、約200から500msとすることができる。減衰曲線は、二重層の詳細な実装により、指数関数曲線とは正確に合わない場合があるが、減衰曲線は、指数関数曲線と同様であり、単調なものであり、したがって、タグの検出を可能にすることができる。
【0068】
いくつかの実施形態では、オープンチャネル状態において、ナノ細孔に関連付けられた抵抗は、100MOhmから20GOhmの範囲にある。いくつかの実施形態では、タグが、ナノ細孔のバレルの内側にある状態において、ナノ細孔に関連付けられた抵抗は、200MOhmから40GOhmの範囲内とすることができる。他の実施形態では、ADC435への電圧が電気的モデル422における電圧減衰により依然として変化するため、積分コンデンサ408は省略されている。
【0069】
積分コンデンサ408上の電圧の減衰の速度は、異なる方法にて決定されることができる。上記説明したように、電圧減衰の速度は、一定期間中の電圧減衰を測定することにより決定されることができる。例えば、積分コンデンサ408上の電圧は、まずADC435により、時間t1において測定されることができ、続いて、電圧は、再度、ADC435により、時間t2において測定される。時間曲線に対する積分コンデンサ408上の電圧のスロープがより急である場合、電圧差はより大きく、電圧曲線のスロープがより急でない場合、電圧差はより小さい。したがって、電圧差は、積分コンデンサ408上の電圧の減衰の速度、したがって、ナノ細孔セルの状態を決定するための測定基準として使用されることができる。
【0070】
他の実施形態では、電圧減衰の速度は、電圧減衰の選択された量に対して必要な期間を測定することにより決定される。例えば、電圧が、降下するために必要な時間、または、第1の電圧レベルV1から第2の電圧レベルV2に上昇するために必要な時間が測定されることができる。電圧のスロープが、時間曲線に対してより急である場合、必要な時間はより短く、電圧のスロープが、時間曲線に対して急でない場合、必要な時間はより長い。したがって、測定された必要な時間は、積分コンデンサncap408上の電圧の減衰の速度、したがって、ナノ細孔セルの状態を決定するための測定基準として使用されることができる。当業者であれば、例えば、電圧または電流の測定などの信号値測定技術を含む、ナノ細孔の抵抗を測定するために使用されることができる様々な回路を理解するであろう。
【0071】
いくつかの実施形態では、電気回路400は、オンチップにて作られる、パスデバイス(例えば、パスデバイス406)と、追加コンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap))と、を含まず、それによって、ナノ細孔ベースの配列決定チップのサイズの削減を促進する。膜(脂質二重層)の薄いという特性により、膜(例えば、コンデンサ426(C二重層))に関連付けられた静電容量は、追加的なオンチップ静電容量を必要とすることなく、それ単体で、必要なRC時定数を作るために十分なものとすることができる。したがって、コンデンサ426は、積分コンデンサとして使用することができ、電圧信号Vpreにより予め充電することができ、続いて、電圧信号Vliqにより放電または充電することができる。電気回路において、さもなければ、オンチップにて作られる、追加コンデンサと、パスデバイスとの排除は、ナノ細孔配列決定チップにおける単一のナノ細孔セルの取付面積を大きく減らすことができ、それによって、より多くのセルを含むように(例えば、ナノ細孔配列決定チップにおいて、数百万のセルを有するように)ナノ細孔配列決定チップのスケーリングを促進する。
【0072】
D.ナノ細孔セルにおけるデータのサンプリング
核酸の配列決定を行うために、積分コンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap)またはコンデンサ426(C二重層))の電圧レベルは、タグ付けされたヌクレオチドが、核酸に加えられている間に、ADC(例えば、ADC435)によりサンプリングして変換することができる。例えば、印加される電圧が、VLIQがVPREよりも低くなるようなものであれば、対向電極と、作用電極とを通して印加されているナノ細孔にわたる電界により、ヌクレオチドのタグは、ナノ細孔のバレル内に押し込まれることができる。
【0073】
1.挿通
挿通イベントは、タグ付けされたヌクレオチドがテンプレート(例えば、一片の核酸)に結合され、そのタグが、ナノ細孔のバレルに出入りして移動する場合である。この移動は、挿通イベント中に複数回生じることができる。タグがナノ細孔のバレル内にある場合、ナノ細孔の抵抗は、より高くすることができ、ナノ細孔を通って流れることができる電流は、より小さくすることができる。
【0074】
配列決定中、タグは、ACサイクルによってはナノ細孔内になくともよく(オープンチャネル状態と呼ばれる)、この場合、ナノ細孔の抵抗がより小さいために、電流は最大である。タグがナノ細孔のバレル内に引き込まれると、ナノ細孔は、明モードとなる。タグがナノ細孔のバレルから押し出されると、ナノ細孔は、暗モードとなる。
【0075】
2.明期および暗期
ACサイクル中、積分コンデンサ上の電圧は、ADCによって複数回サンプリングすることができる。例えば、一実施形態では、AC電圧信号が、例えば約100Hzでシステム全体に印加され、ADCの取得速度は、セル当たり約2000Hzとすることができる。したがって、約20のデータポイント(電圧測定値)が、ACサイクル(AC波形のサイクル)ごとに取得されることができる。AC波形の1つのサイクルに対応する複数のデータポイントは、セットと呼ばれることができる。ACサイクルに対する1セットのデータポイントでは、例えば、タグがナノ細孔のバレル内に押し込められた場合の明モード(期間)に対応することができる、VLIQがVPREよりも低い場合に、サブセットが取得されることができる。別のサブセットは、例えば、VLIQがVPREよりも高い場合に、タグがナノ細孔のバレルから印加された電界により押し出された場合の暗モード(期間)に対応することができる。
【0076】
3.測定電圧
データポイントのそれぞれについて、スイッチ401を開くと、例えば、VLIQがVPREよりも高い場合に、VPREからVLIQへの上昇として、または、VLIQがVPREよりも低い場合に、VPREからVLIQへの降下として、VLIQでの充電/放電の結果として、積分コンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap)またはコンデンサ426(C二重層))における電圧は、減衰するように変化する。作用電極が帯電することにより、最終的な電圧値は、VLIQから逸脱することができる。積分コンデンサ上の電圧レベルの変化の速度は、ナノ細孔を含むことができ、したがって、ナノ細孔において分子(例えば、タグ付けされたヌクレオチドのタグ)を含むことができる、二重層の抵抗の値によって統制されることができる。電圧レベルは、スイッチ401が開いた後の所定の時間において測定されることができる。
【0077】
スイッチ401は、データ取得の速度において作動することができる。スイッチ401は、典型的にはADCによる測定の直後に、データの二回取得の間の比較的短い期間にわたって閉じることができる。スイッチは、VLIQの各ACサイクルの各サブ期間(明または暗)の間に複数のデータポイントが取得されることを可能にする。スイッチ401を開いたままである場合、積分コンデンサ上の電圧レベル、したがって、ADCの出力値は、十分に減衰しており、その状態にてとどまっている。その代わりに、スイッチ401を閉じている場合、積分コンデンサは、再度、予め充電され(VPREまで)、別の測定の用意ができている状態となる。したがって、スイッチ401は、各ACサイクルの各サブ期間(明または暗)にわたって複数のデータポイントの取得を可能にする。そのような複数回の測定は、固定のADCによる(例えば、平均化されてもよい、測定数が多いことによる8ビットから14ビット)より高い解像度を可能にすることができる。複数回の測定はまた、ナノ細孔内に挿通された分子についての運動情報を提供することができる。タイミング情報は、挿通が行われる期間の決定を可能にすることができる。これはまた、核酸鎖に加えられた複数のヌクレオチドの配列が決定されているか否かの決定を補助するために使用されることができる。
【0078】
図5は、ナノ細孔セルから、ACサイクルの明期および暗期中に取得されたデータポイントの例を示している。
図5では、データポイントの変化が、説明を目的として強調されている。作用電極または積分コンデンサに印加された電圧(V
PRE)は、例えば、900mVなどの一定のレベルにある。ナノ細孔セルの対向電極に適用された電圧信号510(V
LIQ)は、矩形波として示されるAC信号であり、この場合、デューティサイクルは、例えば、約40%などの、50%以下のいずれかの好適な値とすることができる。
【0079】
明期520中、(例えば、タグ上の電荷および/またはイオンの流れに起因して)作用電極および対向電極において印加された異なる電圧レベルにより引き起こされた電界により、タグがナノ細孔のバレル内に押し込められることができるように、対向電極に適用された電圧信号510(VLIQ)は、作用電極に印加された電圧VPREよりも低い。スイッチ401を開くと、ADCの前のノードでの(例えば、積分コンデンサでの)電圧が降下する。電圧データポイントが取得された後に(例えば、指定期間後に)、スイッチ401を閉じることができ、測定ノードでの電圧が上昇し、VPREに再び戻る。複数の電圧データポイントを測定するこのプロセスは、繰り返すことができる。このようにして、複数のデータポイントが、明期中に取得されることができる。
【0080】
図5に示すように、V
LIQ信号の符号の変化後の明期における第1のデータポイント522(第1のポイントデルタ(FPD)とも呼ばれる)は、後続のデータポイント524よりも低くすることができる。これは、ナノ細孔内にタグがなく(オープンチャネル)、したがって、それは低い抵抗および高い放電率を有するためとすることができる。いくつかの例では、第1のデータポイント522は、
図5に示すように、V
LIQレベルを超えることができる。これは、信号をオンチップコンデンサに接続する二重層の静電容量により引き起こされることができる。データポイント524は、挿通イベントが生じた後に、すなわち、タグがナノ細孔のバレル内に押し込められた後に取得されることができ、この場合、ナノ細孔の抵抗、したがって、積分コンデンサの放電の速度は、ナノ細孔のバレル内に押し込められた特定のタイプのタグに依存する。データポイント524は、以下に説明されるように、C
二重層424において積み上げられた電荷により、測定のそれぞれに対して若干減少することができる。
【0081】
暗期530中、対向電極に印加された電圧信号510(VLIQ)は、いずれかのタグがナノ細孔のバレルから押し出されるように、作用電極に印加された電圧(VPRE)よりも高い。スイッチ401を開くと、電圧信号510(VLIQ)の電圧レベルはVPREよりも高いために、測定ノードにおける電圧が上昇する。電圧データポイントが取得された後に(例えば、指定期間後に)、スイッチ401を閉じることができ、測定ノードにおける電圧が降下し、VPREに再び戻る。複数の電圧データポイントを測定するこのプロセスは、繰り返すことができる。したがって、第1のポイントデルタ532と、後続のデータポイント534とを含む複数のデータポイントが、暗期中に取得されることができる。上述したように、暗期中、いずれかのヌクレオチドタグがナノ細孔から押し出され、したがって、正規化における使用に加えて、いずれかのヌクレオチドタグについての最小限の情報が取得される。
【0082】
図5はまた、明期540中、対向電極に印加された電圧信号510(V
LIQ)が、作用電極に印加された電圧(V
PRE)よりも低くても、挿通イベントが生じない(オープンチャネル)ということを示している。したがって、ナノ細孔の抵抗は低く、積分コンデンサの放電の速度は高い。結果として、第1のデータポイント542と、後続のデータポイント544とを含む、取得されるデータポイントは、低電圧レベルを示す。
【0083】
明期または暗期中に測定される電圧は、ナノ細孔の一定の抵抗の(例えば、1つのタグがナノ細孔内にある間に、所与のACサイクルの明モード中に行われる)測定のそれぞれに対して、おおよそ同じであると予期される場合がある。しかし、これは、二重層コンデンサ424において電荷(C
二重層)が蓄積される場合には当てはまらないこともある。この電荷の蓄積によって、ナノ細孔セルの時定数を長くすることができる。結果として、電圧レベルがシフトされることができ、したがって、あるサイクルにおけるデータポイントのそれぞれについて、測定された値を減少させる。したがって、
図5に示すように、サイクル内では、データポイントが、データポイントから別のデータポイントへと若干変わる場合がある。
【0084】
測定に関するさらなる詳細は、例えば、「Nanopore-Based Sequencing With Varying Voltage Stimulus」と題された米国特許出願公開第2016/0178577号明細書、「Nanopore-Based Sequencing With Varying Voltage Stimulus」と題された米国特許出願公開第2016/0178554号明細書、「Non-Destructive Bilayer Monitoring Using Measurement Of Bilayer Response To Electrical Stimulus」と題された米国特許出願第15/085,700号、および、「Electrical Enhancement Of Bilayer Formation」と題された米国特許出願第15/085,713号に見ることができ、これらの開示は、全ての目的のために、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0085】
4.正規化および塩基の呼び出し
ナノ細孔センサチップの使用可能なナノ細孔セルのそれぞれについて、核酸を配列決定するためのプロダクションモードが実行されることができる。配列決定中に取得されるADC出力データは、より高い精度を提供するために正規化されることができる。正規化は、サイクルシェイプ、ゲインドリフト、電荷注入オフセット、およびベースラインシフトなどのオフセット効果からなることができる。いくつかの実装では、挿通イベントに対応する、明期サイクルの信号値は、サイクルに対して、単一の信号値(例えば、平均値)が取得されるように平坦化されることができ、または、イントラサイクル減衰(サイクルシェイプ効果の1つのタイプ)を減らすように、測定された信号に対して調整が行われることができる。ゲインドリフトは、一般に、信号全体に広がり、100sから1,000sの秒のオーダーにて変化する。例として、ゲインドリフトは、溶液の変化(細孔抵抗)、または、二重層静電容量の変化によりトリガされることができる。ベースラインシフトは、約100msの時間スケールを伴って生じ、作用電極における電圧オフセットに関する。ベースラインシフトは、明期から暗期に、配列決定セルにおける荷電平衡を維持する必要性の結果としての、挿通からの有効整流比の変化により促すことができる。
【0086】
正規化後、実施形態は、挿通されたチャネルに対する電圧のクラスタを決定することができ、各クラスタは、異なるタグ種、したがって異なるヌクレオチドに対応する。クラスタは、所与のヌクレオチドに対応する所与の電圧の確率を決定するために使用されることができる。別の例としては、クラスタは、異なるヌクレオチド(塩基)同士を識別するためのカットオフ電圧を決定するために使用されることができる。
【0087】
III.ナノ細孔の除去および置換
上述したように、ナノ細孔と会合したテンプレートとの各複合体が使用されて、目的の特定の核酸分子の配列情報を提供することができる。さらなる異なる分子を同じセルアレイで配列決定するために、配列決定チップのナノ細孔複合体が置換されることができる。これを達成するための1つの方法は、各セルの膜の破壊を含み、その結果、セル内のナノ細孔がチップから除去されることができ、新たな膜が形成されることができ、置換ナノ細孔複合体が新たな膜に挿入されることができる。しかしながら、これらのステップは、シーケンシングプロセスを複雑にし、装置および方法のスループットおよび効率に大きく影響する。
【0088】
本明細書に記載の代替プロセスは、シーケンシングチップ内の脂質二重層膜の非破壊的操作を含む。半透性脂質二重層膜の両側の相対オスモル濃度を制御することによって、膜にわたる水の浸透流が形成されることができることが見出された。この水流、および結果として生じる膜に隣接するリザーバの容積の変化は、膜を実質的に平坦な構成から、例えば内側に湾曲した形状に変化させる。膜の二重層の性質は、膜が内側に湾曲し、厚くなるにつれて失われる可能性があり、二重層のこの喪失は、膜内のタンパク質細孔の位置決めに不安定性を導入する可能性がある。したがって、膜全体に浸透圧不均衡を導入し、膜の形状を変化させることによって、膜が構造的完全性を失うことなく、膜内のナノ細孔が自発的排出によって膜から除去されることができる。続いて浸透圧均衡を回復させることによって、膜は、その元の実質的に平面形状および二重層構成に戻ることができる。そして、この二重層構成は、再度タンパク質細孔安定性を助長し、置換ナノ細孔は、受動的または能動的にその中に挿入されることができる。
【0089】
A.ナノ細孔置換の説明
図6Aは、ナノ細孔ベースの配列決定チップのセルのウェル602にわたって広がる平面脂質二重層膜601を示している。初期ナノ細孔603が脂質二重層に挿入される。二重層は、ウェルを外部リザーバ604から分離する。初期時間t
1において、ウェル内の塩/電解質溶液のオスモル濃度[E
W]は、外部リザーバのオスモル濃度[E
R]と実質的に同一である。他の実装では、2つの浸透圧は、異なっていてもよいが、初期ナノ細孔603を排出するのに十分に異なっていなくてもよい。
【0090】
図6Bは、第1の電解液が外部リザーバに流入する後の時間t
2におけるセルを示している。第1の電解液は、初期外部リザーバオスモル濃度[E
R]およびウェルオスモル濃度[E
W]よりも大きいオスモル濃度[E
S1]を有する。第1の電解液の流れは外部リザーバのオスモル濃度を増加させるため、浸透圧不均衡が脂質二重層膜の両側の溶液間に導入される。この不均衡は、浸透の推進力を提供し、水がウェルからリザーバまで膜にわたって拡散し、ウェルおよびリザーバのオスモライト濃度を平衡化する。
【0091】
図6Cは、水の浸透拡散がウェル内の液体体積を減少させた後の時間t
3におけるセルを示している。この体積の変化は、脂質二重膜601に歪みを生じさせ、ウェルに向かって内側に湾曲することによって膜の形状を変化させる。内側への移動は、ウェルに広がる少なくともいくつかの部分において、膜がもはや脂質二重層ではない程度まで膜の肥厚をもたらすことができる。これは、ひいては、
図6Cに示すように、初期ナノ細孔603を膜から失わせ、細孔を外部リザーバに排出させることができる。排出後、初期ナノ細孔は、一般に、セルにもはや近接しないように、より大きな体積の外部リザーバに拡散する。
【0092】
図6Dは、後の時間t
4におけるセルを示しており、この時点で第2の電解液は外部リザーバに流入する。第2の電解液は、複数の置換ナノ細孔605を含むことができる。いくつかの実装では、置換ナノ細孔を含まないが膜の湾曲を低減することができる中間溶液が流れることができる。
【0093】
第2の電解液中の置換ナノ細孔の濃度は、置換ナノ細孔がセルに近接している可能性が、初期ナノ細孔がセルに近接する可能性よりも有意に高くなるように十分に高くすることができる。示されるように、第2の電解液は、第1の電解液のオスモル濃度[ES1]よりも小さいオスモル濃度[ES2]を有する。第2の電解液の流れは外部リザーバのオスモル濃度を減少させるため、膜の両側の溶液間に別の浸透圧不均衡が導入される。この第2の浸透不均衡は、浸透のための別の推進力を提供し、水は、膜にわたってリザーバからウェル内に反対方向に拡散して、ウェルおよびリザーバの電解質濃度を平衡化する。
【0094】
図6Eは、水の浸透拡散がウェル内の液体体積を増加させた後の時間t
5におけるセルを示している。ウェルの体積のこの変化は、膜上の以前の歪みを緩和し、膜がウェルに広がるその元の平面形状に復元することを可能にする。この移動は、ウェルにわたる全てのまたはほとんどの位置において膜が再び脂質二重層になることをもたらすことができ、それによってナノ細孔が膜に再び挿入されることを可能にする。
【0095】
図6Fは、置換ナノ細孔がウェルに広がる平面脂質二重層膜に挿入された後の時間t
6におけるセルを示している。膜へのナノ細孔の挿入は、受動的であってもよく、または能動的であってもよい。能動的な例として、挿入は、膜にわたるエレクトロポレーション電圧の印加によって誘導されることができる。
【0096】
B.ナノ細孔置換のためのプロセス
図7は、分子を分析するためのナノ細孔ベースの配列決定チップのセル内の脂質二重層に挿入されたナノ細孔を置換するためのプロセス700の実施形態を示している。改良された技術は、平面脂質二重層膜の上方に第1の電解質流を適用し、電解質流は、平面脂質二重層の下方(すなわち、セルのウェル内)の電解質溶液のオスモル濃度とは異なるオスモル濃度を有する。第1の電解質流は、膜からの初期ナノ細孔またはナノ細孔複合体の排出を促進する。この技術は、膜の上方に第2の電解質流をさらに適用し、電解質流は、膜の下方の電解液のオスモル濃度と同様または同一のオスモル濃度を有する。第2の電解質流はまた、複数の置換ナノ細孔を含むことができ、第2の電解質溶液の流れは、平面脂質二重層膜への置換ナノ細孔の挿入を促進することができる。
【0097】
開示された技術は、配列決定される分析物の処理量の増加を可能にすることを含む多くの利点を有する。開示された技術は、水の膜貫通流を可能にするが、イオンまたは他のオスモライトの流れに対する透過性に限定されない他の半透過性膜(例えば、脂質二重層以外)に適用されることができることも理解される。例えば、開示された方法およびシステムは、ポリマーである膜と共に使用されることができる。いくつかの実施形態では、膜は、コポリマーである。いくつかの実施形態では、膜は、トリブロックコポリマーである。開示された技術は、ナノ細孔ベースの配列決定チップの要素ではない膜に適用されることができることも理解される。
【0098】
いくつかの実施形態では、膜は、ナノ細孔ベースの配列決定チップの要素である。いくつかの実施形態では、
図1に示されるようなナノ細孔ベースの配列決定チップ100が
図7のプロセスのために使用される。いくつかの実施形態では、
図7のプロセスに使用されるナノ細孔ベースの配列決定チップは、
図2の複数のセル200を含む。
【0099】
任意のステップ701において、核酸配列決定が行われる。配列決定は、上述したデータサンプリング方法および技術を用いて行うことができる。いくつかの実施形態では、核酸配列決定は、4種類のタグ結合ポリホスフェートヌクレオチドの挿通に対応するナノ細孔状態を検出するために使用される
図4においてモデル化された電気システムによって実行される。
【0100】
ステップ702において、第1の電解液がセルのウェルの外部のリザーバ(すなわち、第1の電解質リザーバ)に流される。第1の電解液が流れる前に、外部リザーバは、典型的には、ウェルチャンバ(すなわち、第2の電解質リザーバ)内の溶液のオスモル濃度(すなわち、第2の初期オスモル濃度)と同一または同様のオスモル濃度(すなわち、第1の初期オスモル濃度)を有する。第1の電解液は、第1または第2の電解質リザーバとは異なる電解質またはオスモライトの濃度を有する。一実施形態では、第1の電解液は、流動前の第1の電解質リザーバのオスモル濃度よりも大きいオスモル濃度を有する。代替実施形態では、第1の電解液は、流動前の第1の電解質リザーバのオスモル濃度よりも小さいオスモル濃度を有することが理解される。いずれの場合も、第1の電解液の流れは、外部リザーバのオスモル濃度を第1の初期オスモル濃度から初期オスモル濃度とは異なる新たなオスモル濃度に変化させるように作用する。
【0101】
第1の電解質リザーバ、第2の電解質リザーバ、および第1の電解液のそれぞれは、独立して1つ以上のオスモライトを有することができる。第1および第2の電解質リザーバならびに第1の電解液のうちの2つ以上は、類似または異なるオスモライトを含むことができる。本発明において使用するためのオスモライトは、これらに限定されないが、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マンガン(MnCl2)、および塩化マグネシウム(MgCl2)などのイオン塩、グリセロール、エリスリトール、アラビトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マンニシドマンニトール、グリコシルグリセロール、グルコース、フルクトース、スクロース、トレハロース、およびイソフルオロシドなどのポリオールおよび糖、デキストラン、レバン、およびポリエチレングリコールなどのポリマー、ならびにグリシン、アラニン、α-アラニン、アルギニン、プロリン、タウリン、ベタイン、オクトピン、グルタミン酸、サルコシン、γ-アミノ酪酸、およびトリメチルアミンN-オキシド(TMAO)(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Fisherらの米国特許出願公開第20110053795号明細書も参照されたい)などのいくつかのアミノ酸およびその誘導体を含む。一実施形態では、溶液は、イオン性塩であるオスモライトを含む。当業者は、本発明における使用に適したオスモライトである他の化合物を理解するであろう。別の態様では、本発明は、2つ以上の異なるオスモライトを含む溶液を提供する。
【0102】
第1および第2の電解質リザーバ(すなわち、それぞれ第1および第2の初期オスモル濃度)の初期浸透圧は、例えば、限定ではないが、100mMから1M、例えば、100mMから400mM、125mMから500mM、160mMから625mM、200mMから800mM、または250mMから1Mの範囲内とすることができる。第1および第2の電解質リザーバは、200mMから500mM、例えば、200mMから350mM、220mMから380mM、240mMから420mM、260mMから460mM、または290mMから500mMの範囲内の初期浸透圧を有することができる。下限に関して、第1および第2の電解質リザーバは、100mMよりも大きい、125mMよりも大きい、160mMよりも大きい、200mMよりも大きい、250mMよりも大きい、400mMよりも大きい、500mMよりも大きい、625mMよりも大きい、または800mMよりも大きい初期浸透圧を有することができる。上限に関して、第1および第2の電解質リザーバの初期浸透圧は、1M未満、800mM未満、625mM未満、500mM未満、400mM未満、250mM未満、200mM未満、160mM未満、または125mM未満とすることができる。
【0103】
一実施形態では、外部リザーバ内の溶液の濃度は、約10nMから3Mの間である。別の実施形態では、外部リザーバ内の溶液の濃度は、約10mM、約20mM、約30mM、約40mM、約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mM、約110mM、約120mM、約130mM、約140mM、約150mM、約160mM、約170mM、約180mM、約190mM、約200mM、約210mM、約220mM、約230mM、約240mM、約250mM、約260mM、約270mM、約280mM、約290mM、約300mM、305mM、約310mM、約315mM、約320mM、約325mM、約330mM、約335mM、約340mM、約345mM、約350mM、約355mM、約360mM、約365mM、約370mM、約375mM、約380mM、約385mM、約390mM、約395mM、約400mM、約450mM、約500mM、約550mM、約600mM、約650mM、約700mM、約750mM、約800mM、約850mM、約900mM、約950mM、約1M、約1.25M、約1.5M、約1.75M、約2M、約2.25M、約2.5M、約2.75M、または約3Mである。他の実施形態では、ウェル内の溶液の濃度は、約305mM,約310mM、約315mM、約320mM、約325mM、約330mM、約335mM、約340mM、約345mM、約350mM、約355mM、約360mM、約365mM、約370mM、約375mM、約380mM、約385mM、約390mM、約395mM、約400mM、約450mM、約500mM、約550mM、約600mM、約650mM、約700mM、約750mM、約800mM、約850mM、約900mM、約950mM、または約1Mである。1つの追加の実施形態では、外部リザーバ内の溶液の濃度は、約300mMであり、ウェル内の溶液の濃度は、約310mM、約320mM、約330mM、約340mM、約350mM、約360mM、約370mM、約380mM、約390mM、または約400mMからなる群から選択される。他の実施形態では、溶液の濃度は、(i)外部リザーバ内300mMおよびウェル内310mM、(ii)外部リザーバ内300mMおよびウェル内320mM、(iii)外部リザーバ内300mMおよびウェル内330mM、(iv)外部リザーバ内300mMおよびウェル内340mM、(v)外部リザーバ内300mMおよびウェル内350mM、(vi)外部リザーバ内300mMおよびウェル内360mM、(vii)外部リザーバ内300mMおよびウェル内370mM、(viii)外部リザーバ内300mMおよびウェル内380mM、(ix)外部リザーバ内300mMおよびウェル内390mM、ならびに(x)外部リザーバ内300mMおよびウェル内400mMからなる群から選択される。
【0104】
第1の電解液のオスモル濃度の外部リザーバのオスモル濃度に対する比は、例えば、限定ではないが、1.05から1.5、例えば、1.05から1.3、1.08から1.35、1.13から1.4、1.17から1.45、または1.21から1.5の範囲内とすることができる。第1の電解液のオスモル濃度の外部リザーバのオスモル濃度に対する比は、1.12から1.4、例えば、1.12から1.28、1.15から1.31、1.17から1.34、1.2から1.37、または1.22から1.4の範囲内とすることができる。下限に関して、第1の電解液のオスモル濃度の外部リザーバのオスモル濃度に対する比は、1.05よりも大きく、1.08よりも大きく、1.17よりも大きく、1.21よりも大きく、1.3よりも大きく、1.35よりも大きく、1.4よりも大きく、または1.45よりも大きくすることができる。上限に関して、第1の電解液のオスモル濃度の外部リザーバのオスモル濃度に対する比は、1.5未満、1.45未満、1.4未満、1.35未満、1.3未満、1.21未満、1.17未満、1.13未満、または1.08未満とすることができる。
【0105】
任意のステップ703では、第1の電解液の流れが継続されるべきかまたは繰り返されるべきかが判定される。このステップにおける判定を行うために、異なる基準が使用されることができる。いくつかの実施形態では、ステップ702は、所定の回数実行されるべきであり、ステップ703は、ステップ702が実行された回数を所定の回数と比較する。いくつかの実施形態では、ステップ702は、所定の期間にわたって実行されることになり、ステップ703は、ステップ702が実行された累積時間を所定の期間と比較する。いくつかの実施形態では、外部リザーバ内の溶液のオスモル濃度、または外部リザーバを出る流出物のオスモル濃度の測定が行われる。外部リザーバまたは流出オスモル濃度が所定の値に到達していない場合、ステップ702が繰り返されることができる。いくつかの実施形態では、外部リザーバ内または外部リザーバを出る溶液のオスモル濃度が、外部リザーバに入る溶液(すなわち、第1の電解液)のオスモル濃度の所定のパーセンテージ範囲内になるまで、ステップ702が繰り返される。
【0106】
第1の電解液中の電解質の濃度は、ステップ702の反復ごとに同一、類似、または異なることができる。より低いまたはより高い濃度の電解質が、1回または複数回のさらなるサイクルに適用されることができる。例えば、ステップ702が繰り返されるたびに、[ES1]/[EW]比が所定の目標比まで増加するまで、塩電解液の濃度が初期電解質濃度または溶液オスモル濃度(すなわち、ステップ702の最初の反復の条件)から最終電解質濃度または溶液オスモル濃度(すなわち、ステップ702の最後の反復の条件)まで漸進的に増加されることができる。この比は、システムを出る外部リザーバ流体のオスモル濃度測定値を使用することによって推定されることができる。電解液の流れ(ステップ702)が繰り返される場合、プロセス700は、ステップ703からステップ702に進むことができる。そうでない場合、プロセス700は、ステップ704に進むことができる。
【0107】
ステップ704において、第2の電解液がセルのウェルの外部のリザーバに流される。第2の電解液は、第1の電解液中の電解質の濃度とは異なる電解質、すなわちオスモライトの濃度を有する。第2の電解液のオスモル濃度はまた、第1の電解液のオスモル濃度よりも第2の初期オスモル濃度(すなわち、ウェルチャンバ内の電解液の初期オスモル濃度)に近い。換言すれば、第2の電解液オスモル濃度と第2の初期オスモル濃度との差は、第1の電解液オスモル濃度と第2の初期オスモル濃度との差よりも小さい。一実施形態では、第2の電解液は、第1の電解液のオスモル濃度よりも小さいオスモル濃度を有する。代替実施形態では、第2の電解液は、第1の電解液のオスモル濃度よりも大きいオスモル濃度を有することが理解される。いずれの場合も、第2の電解液の流れは、外部リザーバのオスモル濃度が初期ウェルリザーバのオスモル濃度に近付くように、外部リザーバのオスモル濃度を変化させるように作用する。第2の電解液は、1つまたはそれ以上の浸透圧電解質を有することができ、そのそれぞれは、独立して上述した浸透圧電解質のいずれかとすることができる。
【0108】
第2の電解液は、複数の置換ナノ細孔を含むことができる。複数の置換ナノ細孔のそれぞれは、複数の置換ナノ細孔複合体のうちの1つの一部とすることができる。置換ナノ細孔複合体は、例えば、ポリメラーゼおよびテンプレートを含むことができる。各置換ナノ細孔複合体のテンプレートは、置換される最初のナノ細孔複合体に存在していたテンプレートとは異なることができる。初期および置換ナノ細孔、または初期および置換ナノ細孔複合体のナノ細孔は、それぞれ独立して、例えば、限定ではないが、外膜タンパク質G(OmpG)、細菌アミロイド分泌チャネルCsgG;マイコバクテリウム・スメグマチス・ポリンA(MspA);α-ヘモリシン(α-HL);OmpG、CsgG、MspA、またはα-HLのうちの少なくとも1つと少なくとも70%の相同性を有する任意のタンパク質;またはそれらの任意の組み合わせとすることができる。
【0109】
第1の電解液のオスモル濃度と第2の電解液のオスモル濃度との比は、例えば、限定ではないが、1.05から1.5、例えば、1.05から1.3、1.08から1.35、1.13から1.4、1.17から1.45、または1.21から1.5の範囲内とすることができる。第1の電解液のオスモル濃度と第2の電解液のオスモル濃度との比は、1.12から1.4、例えば、1.12から1.28、1.15から1.31、1.17から1.34、1.2から1.37、または1.22から1.4の範囲内とすることができる。下限に関して、第1の電解液オスモル濃度の第2の電解液オスモル濃度に対する比は、1.05よりも大きく、1.08よりも大きく、1.17よりも大きく、1.21よりも大きく、1.3よりも大きく、1.35よりも大きく、1.4よりも大きく、または1.45よりも大きくすることができる。上限に関して、第1の電解液オスモル濃度の第2の電解液オスモル濃度に対する比は、1.5未満、1.45未満、1.4未満、1.35未満、1.3未満、1.21未満、1.17未満、1.13未満、または1.08未満とすることができる。
【0110】
ウェル溶液のオスモル濃度に対する、またはステップ702において第1の電解液を流す前の外部リザーバのオスモル濃度(すなわち、第1の初期オスモル濃度)に対する第2の電解液のオスモル濃度の比は、例えば、限定ではないが、0.85から1.15、例えば、0.85から1.03、0.88から1.06、0.91から1.09、0.94から1.12、または0.97から1.15の範囲内とすることができる。第2の電解液のオスモル濃度の第1の初期オスモル濃度に対する比は、0.94から1.06、例えば、0.94から1.02、0.95から1.03、0.96から1.04、0.97から1.05、または0.98から1.06の範囲内とすることができる。下限に関して、第1の初期オスモル濃度に対する第2の電解液のオスモル濃度の比は、0.85よりも大きく、0.88よりも大きく、0.91よりも大きく、0.94よりも大きく、0.97よりも大きく、1よりも大きく、1.03よりも大きく、1.06よりも大きく、1.09よりも大きく、または1.12よりも大きくすることができる。上限に関して、第1の初期オスモル濃度に対する第2の電解液のオスモル濃度の比は、1.15未満、1.12未満、1.09未満、1.06未満、1.03未満、1未満、0.97未満、0.94未満、0.91未満、または0.88未満とすることができる。
【0111】
任意のステップ705では、第2の電解液の流れが継続されるべきかまたは繰り返されるべきかが判定される。このステップにおける判定を行うために、異なる基準が使用されることができる。いくつかの実施形態では、ステップ704は、所定の回数実行され、ステップ705は、ステップ704が実行された回数を所定の回数と比較する。いくつかの実施形態では、ステップ704は、所定の期間にわたって実行されることになり、ステップ705は、ステップ704が実行された累積時間を所定の期間と比較する。いくつかの実施形態では、外部リザーバ内の溶液のオスモル濃度、または外部リザーバを出る流出物のオスモル濃度の測定が行われる。外部リザーバまたは流出オスモル濃度が所定の値に到達していない場合、ステップ704が繰り返されることができる。いくつかの実施形態では、外部リザーバ内または外部リザーバを出る溶液のオスモル濃度が、外部リザーバに入る溶液(すなわち、第2の電解液)のオスモル濃度の所定のパーセンテージ範囲内になるまで、ステップ704が繰り返される。いくつかの実施形態では、外部リザーバ内または外部リザーバを出る溶液のオスモル濃度が、ウェルチャンバ内の溶液(すなわち、第2のリザーバ)のオスモル濃度の所定のパーセンテージ範囲内になるまで、ステップ704が繰り返される。
【0112】
第1の電解液中の電解質の濃度は、ステップ704の反復ごとに同一、類似、または異なることができる。より低いまたはより高い濃度の電解質が、1回または複数回のさらなるサイクルに適用されることができる。例えば、ステップ704が繰り返されるたびに、[ES2]/[EW]比が所定の目標比まで減少するまで、塩電解液の濃度が初期電解質濃度または溶液オスモル濃度(すなわち、ステップ704の最初の反復の条件)から最終電解質濃度または溶液オスモル濃度(すなわち、ステップ704の最後の反復の条件)まで漸進的に減少されることができる。この比は、システムを出る外部リザーバ流体のオスモル濃度測定値を使用することによって推定されることができる。電解液の流れ(ステップ704)が繰り返される場合、プロセス700は、ステップ705からステップ704に進むことができる。そうでない場合、プロセス700は、ステップ706に進むことができる。
【0113】
プロセス700の任意のステップ706において、第2の電解液の複数の置換ナノ細孔のうちの1つがセルの膜に挿入される。異なる技術が使用されて、ナノ細孔ベースの配列決定チップのセルにナノ細孔を挿入することができる。いくつかの実施形態では、ナノ細孔は、受動的に、すなわち外部刺激を使用せずに挿入される。いくつかの実施形態では、撹拌または電気刺激(例えば、0mVから1.0V、50ミリ秒から3600秒、1/2刻みの電圧)が脂質二重層膜にわたって適用され、脂質二重層の破壊を引き起こし、脂質二重層へのナノ細孔の挿入を開始させる。いくつかの実施形態では、膜にわたって印加される電圧は、交流(AC)電圧である。いくつかの実施形態では、膜にわたって印加される電圧は、直流(DC)電圧である。セルの膜にわたって印加されるエレクトロポレーション電圧は、一般に、ナノ細孔ベースの配列決定チップの全てのセルに印加されることができ、または電圧は、チップの1つ以上のセルに特異的に標的化されることができる。
【0114】
プロセス700の任意のステップ707において、核酸配列決定が行われる。配列決定は、上述したデータサンプリング方法および技術を用いて行うことができる。いくつかの実施形態では、ステップ706において挿入された置換ナノ細孔複合体に関連するテンプレートは、ステップ704の第1の電解液流の結果として排出された初期ナノ細孔複合体に関連するテンプレートとは異なる。この場合、ステップ707の配列決定動作が使用されて、ステップ701の配列決定動作によって分析されたものとは異なる核酸配列を分析することができる。これは、配列決定チップの効率を高めることができ、配列決定ナノ細孔の置き換えにより、チップの個々のセルを複数の異なる核酸分子の配列決定に使用することが可能になる。
【0115】
C.ナノ細孔交換のためのフローシステム
図7のプロセス700は、異なる種類の流体(例えば、液体または気体)がウェルの外部のリザーバを通って流れるステップ(例えば、ステップ701、702、704および707)を含む。有意に異なる特性(例えば、オスモル濃度、圧縮性、疎水性、および粘度)を有する複数の流体は、ナノ細孔ベースの配列決定チップ(例えば、
図1のチップ100など)の表面上のセンサセル(例えば、
図2のセル200など)のアレイ上に流されることができる。いくつかの実施形態では、プロセス700を実行するシステムは、外部リザーバに出入りする異なる流体の流れを誘導および/または監視するフローシステムを含む。
【0116】
図8は、
図7のプロセス700と共に使用するためのフローシステム800の実施形態を示している。フローシステムは、ウェル802のアレイの外部にある第1の電解質リザーバ801を含む。各ウェルについて、内部ウェルチャンバ(すなわち、第2の電解質リザーバ)は、挿入された初期ナノ細孔またはナノ細孔複合体を含む膜803によって第1の電解質リザーバから分けられることができる。プロセス700のステップ701において、フローシステム800を使用して核酸配列決定を行うことができる。この核酸配列決定の一部として、1つまたはそれ以上の流体が第1の電解質リザーバ801の中にまたはそれを通って流されることができる。これらの1つまたはそれ以上の流体は、最初に、第1の電解質リザーバの外部の1つまたはそれ以上の貯蔵容器(例えば、
図8の第1の貯蔵容器804)に保持されることができる。1つまたはそれ以上の貯蔵容器のそれぞれは、1つまたはそれ以上のチャネル、管、またはパイプ(例えば、第1のチャネル805)を介して第1の電解質リザーバと独立してまたは一緒に流体接続することができる。第1の貯蔵容器804から第1のチャネル805を通って第1の電解質リザーバ801への流体の移送は、1つまたはそれ以上のポンプ(例えば、ポンプ806)の作用によるものとすることができる。各ポンプは、例えば、容積式ポンプまたはインパルスポンプとすることができる。制御回路812は、例えば、第1の貯蔵容器804から第1のチャネル805を通って第1の電解質リザーバ801への流体の移送を制御するためにポンプ806に制御信号を送るために、ポンプ806と通信可能に結合されることができる。流体は、第1のリザーバ801の実質的に全幅にわたって第1のリザーバ801に入ることができ、または第1の電解質リザーバ801内の流れを導くチャネル(例えば、蛇行チャネル)を通って第1のリザーバ801に入ることができる。
【0117】
フローシステム800はまた、プロセス700のステップ702の第1の電解液を保持するために使用されることができる第2の貯蔵容器807を含むことができる。第2の貯蔵容器807は、チャネル、管またはパイプ(例えば、第2のチャネル808)を介して第1の電解質リザーバと流体接続することができる。第2の貯蔵容器807から第2のチャネル808を通って第1の電解質リザーバ801への流体の移送は、1つまたはそれ以上のポンプの作用によるものとすることができる。ステップ702において第2の貯蔵容器807から流体を移送するために使用される1つまたはそれ以上のポンプのうちの1つまたはそれ以上は、ステップ701において第1の貯蔵容器804から流体を移送するために使用される1つまたはそれ以上のポンプと同じとすることができる。例えば、
図8に示すように、ポンプ806が使用されて、第1のチャネル805および第2のチャネル808の共通の共有部分を通して流体を圧送することができる。
【0118】
いくつかの実施形態では、1つまたはそれ以上の弁(例えば、弁809および810)が使用されて、貯蔵容器のうちの1つまたはそれ以上から出る流体の流れを制御する。例えば、プロセス700がステップ701からステップ702に進むと、核酸配列決定に関連する流体の流れが停止し、第1の電解液の流れを開始するように、第1の弁809を完全に閉じることができ、第2の弁807を開くことができる。別の例として、プロセス700がステップ701から702に進むと、貯蔵容器804および807から第1の電解質リザーバ801に入る流体の比を調整するように、第1の弁809の開口部を狭くすることができ、および/または第2の弁807の開口部を拡張することができる。制御回路812は、例えば、第1の電解質リザーバ801に入る貯蔵容器804および807からの流体の比を調整するために、第1の弁809および/または第2の弁810に制御信号を送るために、第1の弁809および第2の弁810と通信可能に結合されることができる。
【0119】
フローシステム800はまた、第1の電解質リザーバ801を出る流体のオスモル濃度を監視するための検出器811を含むことができる。いくつかの実施形態では、検出器811は、流体のオスモル濃度を監視し、電解液の流れを制御するための制御回路に通信可能に接続される。いくつかの実施形態では、第1の電解質リザーバ内の流体のオスモル濃度を測定するために、別の検出器(図示せず)が第1の電解質リザーバ内に配置される。他の実施形態では、フローシステムは、オスモル濃度検出器を有しない。
【0120】
プロセス700のステップ703において、検出器811が使用されて、貯蔵容器807から第1の電解質リザーバ801への第1の電解液の流れが継続されるべきか、または繰り返されるべきかを判定することができる。例えば、検出器811は、オスモル濃度測定値を報告することができ、この測定値と予め選択されたオスモル濃度値との比較が使用されて、プロセス700がステップ703からステップ702またはステップ704に進むかどうかを判定することができる。いくつかの実施形態では、プロセス700がステップ702に進む場合、第1の弁809および第2の弁810は、新たなステップ702の反復において第1の電解質リザーバ801に流入する流体の比を調整するように制御される。例えば、第2の貯蔵容器807内の第1の電解液のオスモル濃度が第1の貯蔵容器804内の溶液のオスモル濃度よりも大きい場合、ステップ702が繰り返されるたびに、第1の弁809の開口部が狭められることができ、および/または第2の弁807の開口部が拡張されることができる。このようにして、第1の電解質リザーバ801に入る塩電解液の濃度は、[E801]/[E802]比が所定の目標比まで増加するまで、初期電解質濃度または溶液オスモル濃度(すなわち、ステップ702の最初の反復の条件)から最終電解質濃度または溶液オスモル濃度(すなわち、ステップ702の最後の反復の条件)まで徐々に増加させることができる。
【0121】
いくつかの実施形態では、第1の電解質リザーバ801に入る貯蔵容器804および807からの流体の比は、弁の代わりにポンプを使用して調整される。例えば、第1の電解質リザーバ801内のオスモル濃度を徐々に増加させるために、貯蔵容器804から流体を移送するポンプの流量が減少されることができ、および/または貯蔵容器807から第1の電解液を移送するポンプの流量が増加されることができる。
【0122】
プロセス700のステップ704において第1電解質リザーバ801に流された第2電解液は、フローシステム800の1つまたはそれ以上の貯蔵容器内に保持されることもできる。いくつかの実施形態では、第2の電解液は、プロセス700のステップ701の核酸配列決定中に使用される1つまたはそれ以上の流体と同一である。いくつかの実施形態では、第2の電解液は、第1の貯蔵容器804内にある。いくつかの実施形態では、第2の電解液は、第1の貯蔵容器804または第2の貯蔵容器807以外の貯蔵容器内にある。第2の電解液の貯蔵容器は、上述した種類および構成のチャネル、管、パイプ、ポンプ、または弁のいずれか1つ以上を介して第1のリザーバと流体接続することができる。いくつかの実施形態では、プロセス700がステップ703からステップ704に進むと、第1の電解液の流れを停止し、第2の電解液の流れを開始するように、第1の弁809を完全に開き、第2の弁810を閉じる。いくつかの実施形態では、プロセス700がステップ703から704に進むと、第1の電解質リザーバ801に入る貯蔵容器804および807からの流体の比を調整するように、第1の弁809の開口部を拡張し、および/または第2の弁807の開口部を狭くする。
【0123】
フローシステム800の検出器811はまた、プロセス700のステップ705において使用されて、第1の電解質リザーバ801への第2の電解液の流入が継続されるべきか、または繰り返されるべきかを判定することもできる。例えば、検出器811は、オスモル濃度測定値を報告することができ、この測定値と予め選択されたオスモル濃度値との比較が使用されて、プロセス700がステップ705からステップ704またはステップ706に進むかどうかを判定することができる。いくつかの実施形態では、プロセス700がステップ704に進む場合、第1の弁809および第2の弁810は、新たなステップ704の反復において第1の電解質リザーバ801に流入する流体の比を調整するように制御される。例えば、第2の貯蔵容器807内の第1の電解液のオスモル濃度が第1の貯蔵容器804内の第2の電解溶のオスモル濃度よりも大きい場合、ステップ704が繰り返されるたびに、第1の弁809の開口部が拡張されることができ、および/または第2の弁807の開口部が狭められることができる。
【0124】
このようにして、第1の電解質リザーバ801に入る塩電解液の濃度は、[E801]/[E802]比が所定の目標比まで減少するまで、初期電解質濃度または溶液オスモル濃度(すなわち、ステップ704の最初の反復の条件)から最終電解質濃度または溶液オスモル濃度(すなわち、ステップ704の最後の反復の条件)まで徐々に減少されることができる。いくつかの実施形態では、第1の電解質リザーバ801に入る貯蔵容器804および807からの流体の比は、弁の代わりにポンプを使用して調整される。例えば、第1の電解質リザーバ801内のオスモル濃度を徐々に減少させるために、貯蔵容器804から第2の電解液を移送するポンプの流量が増加されることができ、および/または貯蔵容器807から第1の電解液を移送するポンプの流量が減少されることができる。
【0125】
D.ナノ細孔置換の例
本発明の実施形態は、以下の非限定的な例を考慮してよりよく理解されるであろう。
【0126】
それぞれが380mMのグルタミン酸カリウム(KGlu)緩衝液を含む外部リザーバおよびウェルリザーバを備えた配列決定チップのセルの膜に、初期のα-溶血素ナノ細孔をエレクトロポレーションした。次に、ストレプトアビジン結合オリゴ(dT)40タグを300mMのKGlu緩衝液中の外部リザーバに流した。陽性対照として、チップ内の各単一細孔セルの遊離捕捉率(kfc)の2つの独立した測定を行った。遊離捕捉率は、所与の細孔について単位時間当たりに発生するタグ挿入事象の数を指す。2つの測定は、同じセルに対して異なる時間に行われ、孔の排出または新たな挿入はない。
【0127】
図9Aは、これらの測定からの結果をプロットしたグラフ900を示している。
図9Aのグラフのx軸およびy軸は、k
fc測定値を示し、各データポイントは、個々のセルおよびナノ細孔についての2つの測定値間の関係を表す。細孔は、測定間で変化しないため、理想的な結果は、全て破線のy=x線上にある点を生成する。この理想的な線からのデータポイント位置の僅かな偏差は、例えばデータ取得ノイズなどの標準的な実験誤差を示す。示されるように、測定値は、一般に、以下に説明されるように、本発明の実施形態を使用して細孔交換を受けるセルの測定値とは対照的に線にしたがう。
【0128】
次いで、380mMのKGluの第1の電解液を配列決定チップの外部リザーバに流し、続いて300mMのKGluの第2の電解液を流した。第2の電解質溶液は、置換α-ヘモライジンナノ細孔および置換ストレプトアビジン結合オリゴ(dT)40タグを含有していた。置換ナノ細孔をチップのセル膜に受動的に挿入し、置換タグと複合化させて置換ナノ細孔複合体を形成させた。チップ内の各セルについてkfcの別の測定を行い、これらの新たな測定値を電解液を流す前に行った測定値と比較した。
【0129】
図9Bは、これらの測定結果をプロットしたグラフ901を示している。ここでもx軸およびy軸は、k
fc測定値を示し、
図9Bの各データポイントは、個々のセルについて電解液が流れる前後に行われた測定値間の関係を表す。グラフから、理想的なy=x線からのデータポイント位置の平均偏差は、
図9Aのプロットよりも
図9Bのプロットの方が著しく大きいことが分かる。これは、電解質溶液の流れの後にセルが異なる特性を有し、これらの異なる特性が実験誤差または測定誤差またはノイズによって引き起こされるのではなく、初期ナノ細孔およびナノ細孔複合体の置換ナノ細孔およびナノ細孔複合体による置換によって引き起こされることを示している。したがって、
図9Aおよび
図9Bは、本発明の実施形態を使用して細孔が排出され、新たな細孔が挿入されたことを示す。
【0130】
細孔交換事象の有無はまた、
図10Aおよび
図10BのデータトレースなどのADC出力のデータトレースにおいても実証されることができる。
【0131】
図10Aは、細孔交換が誘導されなかった配列決定セルによって測定された経時的な(y軸にプロット)ADCカウント(x軸にプロット)のグラフ1001を示している。グラフに見られるのは、明開チャネル1002および暗開チャネル1003の出力の電圧測定値を示す太いバンドである。時間1004において、第1の電解液を配列決定セルの外部リザーバに流し、第1の電解液は外部リザーバの初期オスモル濃度とは異なるオスモル濃度を有するが、オスモル濃度の差はシーケンシングセルのナノ細孔の排出を促進するほど大きくはなかった。
【0132】
時間1004の直後の時間では、外部リザーバの新たなオスモル濃度と配列決定セルのウェルリザーバとの間の小さな浸透圧不均衡が、配列決定セルの膜の構成の僅かな変化を引き起こした。この僅かな変化は、明開チャネル1002の出力と暗開チャネル1003の出力との間の分離1005の増加をもたらした。時間1006では、第2の電解液を外部リザーバに流し、第2の電解液は、第1の電解液のオスモル濃度よりも配列決定セルのウェルリザーバの初期オスモル濃度に近いオスモル濃度を有した。この第2の電解液流の結果として、明開チャネル1002の出力と暗開チャネル1003の出力との間の分離1005は、時間1004の前に観察されたものと同様の量に回復した。
【0133】
図10Bは、細孔交換が誘導された配列決定セルによって測定された経時的なADCカウントのグラフ1011を示している。時間1014では、第1の電解液を配列決定セルの外部リザーバに流し、第1の電解液は、外部リザーバの初期オスモル濃度とは異なるオスモル濃度を有し、オスモル濃度の差は、配列決定セルのナノ細孔の排出を促進するのに十分な大きさであった。時間1014の直後の時間では、ナノ細孔の排出は、明開チャネル1012と暗開チャネル1013との間の分離1015の崩壊をもたらし、分離の欠如は、挿入されたナノ細孔の欠如を示していた。
【0134】
時間1016では、第2の電解液を外部リザーバに流し、第2の電解液は、第1の電解液よりも配列決定セルのウェルリザーバの初期オスモル濃度に近いオスモル濃度を有していた。この第2の電解液の流れの結果として、配列決定セルの膜の構成は、その元の構成に復元され、再び細孔挿入を助長した。時間1017では、置換細孔が膜に挿入され、明開チャネル1012の出力と暗開チャネル1013の出力との間の分離1015が再導入され、分離は挿入されたナノ細孔の存在を示した。したがって、
図10Bはまた、
図10Aとは対照的に、本発明の実施形態を使用して細孔が排出され、新たな細孔が挿入されたことを示す。
【0135】
IV.細孔挿入のための浸透圧不均衡
上述したように膜からナノ細孔を除去することに加えて、膜にわたる浸透圧不均衡が使用されて、米国特許出願公開第2017/0369944号明細書に記載されているようにナノ細孔の安定性および寿命を増加させ、国際公開第2018/001925号パンフレットに記載されているように膜を形成することもでき、そのそれぞれはあらゆる目的のためにその全体が参照により組み込まれる。さらにまた、後述するように、浸透圧不均衡が使用されて膜への細孔挿入を促進することもできる。
【0136】
いくつかの実施形態では、膜への細孔挿入、またはより一般にはタンパク質挿入の前に膜にわたる浸透圧不均衡(すなわち、脂質二重層またはトリブロックコポリマー単層または二重層)を確立することは、膜への細孔挿入の確率を変える(すなわち、増加させる)ことができる。本明細書で使用される場合、浸透ポテンシャル、オスモル濃度、および浸透圧モル濃度という用語は、浸透圧不均衡を説明するために使用されることができ、これらの用語は、本明細書全体を通して互換的に使用されることができる。用語は関連しているが、それらは単位が異なる。例えば、浸透ポテンシャルは、オスモル濃度(M)に理想気体定数(R)、絶対温度(T)およびファントホッフ係数(i)を乗算したものとして定義されることができる。オスモル濃度は、溶媒1リットル当たりの溶質粒子の数として定義される。オスモル濃度は、溶媒1キログラム当たりの溶質粒子の数として定義される。
【0137】
図12A~
図12Cに示すように、膜1204にわたる浸透圧不均衡は、ウェルリザーバ1200を第1の浸透ポテンシャル、オスモル濃度または浸透圧(すなわち、10mOsm/kg刻みで50から2000mOsm/kg)を有する第1の溶液(すなわち、緩衝液Xまたは緩衝液Y)1202によって充填し、例えば、膜材料(すなわち、脂質またはトリブロックコポリマー)を溶媒1206中でウェルリザーバ1200上に流すことによって、ウェルリザーバ1200上に脂質二重層または膜1204を形成することによってウェルリザーバ1200を密封し、次いで、膜1204上に第1の浸透ポテンシャルとは異なる浸透ポテンシャルを有する第2の浸透ポテンシャル(すなわち、10mOsm/kg刻みで50から2000mOsm/kg)を有する第2の溶液1208を流して、膜1204にわたる浸透ポテンシャルデルタまたは勾配を確立することによって確立されることができる。
【0138】
第1の溶液と第2の溶液との間の浸透ポテンシャルの差は、膜にわたって水を膜のcis側(ウェルリザーバの外側)または膜のトランス側(ウェルリザーバ内)のいずれかに移動させる。水の移動は、トランス側(ウェルリザーバ)の体積を増加または減少させる。これは、最終的に、
図12Bおよび
図12Cに示すように、外側に膨張するかまたは内側に収縮する膜をもたらす。結果として生じる膜面積の変化、膜形状の変化、膜に対する応力の変化、および/または膜の安定性または構造(すなわち、厚さおよび/または抵抗)の変化は、細孔が膜にどのように挿入されるか、または膜からどのように排出されるかに影響を及ぼすことができる。例えば、膜の表面積を増加させると、一般に、速度またはポレーションおよび/またはポレーション収率が増加すると予想される。同様に、膜の不安定性を増大させることは、孔がそれ自体を膜に挿入することをより容易にすることができるが、孔がそれ自体を膜から排出することもより容易にすることができる。膜を薄くすることはまた、孔が膜にそれ自体を挿入する能力を高めるのを助ける傾向があり、膜の表面積を増加させることは、多くの場合、結果として生じる薄くされた膜の量の増加に関連することができる(すなわち、特定の量の材料から作られた膜は、材料がより大きな領域にわたって広がるにつれて薄くなる傾向がある)。膜の薄さおよび/または不安定性は、膜の抵抗を測定することによって電気的に特徴付けられることができる。
【0139】
多くの細孔は、細孔の長手方向軸を横方向に二等分する線(細孔チャネルの軸に沿って延在する)に関してサイズおよび形状が非対称であるため、細孔の一部が、通常は細孔が挿入される側(すなわち、比較的狭い細孔ステムは膜に挿入される一方で、比較的広い細孔キャップは挿入後に膜の上方に存在する)である膜の片側の上に延在することが一般的である。細孔のサイズおよび形状のこの非対称性は、細孔が外側に湾曲した膜にそれ自体を挿入して挿入されたままになる傾向がある一方で、内側に湾曲した膜の場合、同じ細孔が挿入されたままではなく膜からそれ自体を排出する傾向がある理由を部分的に説明することができる。
【0140】
膜組成(すなわち、膜を形成するために使用される脂質またはトリブロックコポリマーの種類)および/またはナノ細孔の構造の変化は、孔挿入を促進するための最適なΔosmoに影響を及ぼすことができる。
【0141】
例えば、
図12Aは、第1の溶液1202および第2の溶液1208が本質的に同一であり、同じ浸透ポテンシャルを有する場合を示し、これは、例えば、オスモル濃度または浸透圧に関して特定されることができる。2つの溶液間の浸透ポテンシャルが同じである場合、膜にわたる水の移動はなく、その結果、膜は、外側または内側に湾曲しないが、代わりに比較的安定した応力のない構成である。いくつかの実施形態では、2つの異なる溶液の浸透ポテンシャルは、最初は同じとすることができるが、経時的に、膜に対して透過性である特定の溶質が膜を通過し、溶液の浸透ポテンシャルを変化させることができることに留意されたい。
【0142】
図12Bは、ウェルリザーバ1200内の第1の溶液1202が第2の溶液1208よりも高い浸透ポテンシャルを有する実施形態を示している。この場合、水は、膜1204にわたって第2の溶液1208から第1の溶液1202に拡散し、それによって第1の溶液1202の体積を増加させ、膜1204をウェルリザーバ1200から外側に湾曲させる。
【0143】
図12Cは、ウェルリザーバ1200内の第1の溶液1202が第2の溶液1208よりも低い浸透ポテンシャルを有する実施形態を示している。この場合、水は、膜1204にわたって第1の溶液1202から第2の溶液1208へと拡散し、それによって第1の溶液1202の体積を減少させ、膜1204をウェルリザーバ1200に向かって内側に湾曲させる。
【0144】
いくつかの実施形態では、
図12Bに示すように、膜1204を外側に湾曲させることは、例えば、細孔が膜のcis側から導入される場合、ポレーション速度および/または単一細孔収率(単一細孔を有する膜の数をウェルの数で割ったもの)を増加させることによって細孔挿入を容易にすることができる。いくつかの実施形態では、ポレーションはまた、細孔がトランス側から挿入されたときに膜1204の外側への湾曲によって促進され、これは、1つまたはそれ以上の細孔がウェルリザーバ1200に配置された第1の溶液1202に含まれることを意味することができる。細孔挿入の増加は、外側に湾曲した膜1204によって提示される表面積の増加、および/または膜1204の完全性の不安定化、および/または膜1204の薄膜化の増加に起因することができる、および/または関連することができる。
【0145】
いくつかの実施形態では、
図12Cに示すように、膜1204を内側に湾曲させることは、セクションIIIにおいてさらに上述したように、膜1204からの孔の排出を促進することができ、これは、2つ以上の挿入された孔を有する膜から孔を除去するのに有用とすることができる。
【0146】
いくつかの実施形態では、膜1204を形成するために膜材料/溶媒溶液1206を洗い流した直後に細孔挿入ステップを開始することができるように、第2の溶液1208は、細孔を含むことができる。これは、細孔を有する膜を形成するのにかかる時間を短縮することができるが、膜材料/溶媒を洗い流して膜1204を薄くするためにかなりの体積の第2の溶液1208が必要な場合、より多くの細孔材料の使用または浪費をもたらす可能性がある。
【0147】
他の実施形態では、膜材料/溶媒溶液1206は、材料コストおよび貴重な試薬の使用を低減するために細孔を含まなくてもよい第2の溶液1208の1回以上の洗い流しを使用して除去される。薄膜化が終了すると、次いで、第2の溶液1208と同じ浸透ポテンシャルを有することができる細孔を有する緩衝溶液が導入されることができる。この技術は、より長くかかる可能性があるが、より少ない細孔材料の使用を必要とする可能性がある。
【0148】
図13は、上述した様々な浸透ポテンシャル差の効果をまとめたものであり、cis側の溶液の浸透ポテンシャルを基準浸透ポテンシャルとし、cis側の溶液の浸透ポテンシャルからトランス側の溶液の浸透ポテンシャルを差し引くことによって浸透ポテンシャル差(すなわち、オスモル濃度差またはオスモル濃度差)(Δosmo=osmo(cis)-osmo(トランス))が算出される。このフレームワークの下で、トランス側溶液の浸透ポテンシャルがcis側溶液の浸透ポテンシャルよりも大きい場合、浸透ポテンシャルデルタは負であり、これは、水を膜1304にわたってウェルリザーバ1300に流入させ、これにより膜1304を外側に湾曲させる。cis側およびトランス側の双方の浸透ポテンシャルが等しい場合、浸透ポテンシャルデルタはゼロであり、膜1304は、平坦なままであるか、またはウェルリザーバ1300に出入りする水の正味の流れがないために応力のない状態にある。トランス側溶液の浸透ポテンシャルがcis側溶液の浸透ポテンシャルよりも小さい場合、浸透ポテンシャルデルタは正であり、水を膜1304にわたってウェルリザーバ1300から流出させ、膜1304を内側に湾曲させる。
【0149】
膜が外側に湾曲した後、または膜が外側に湾曲する過程にある間に、ナノ細孔を含有する溶液が膜の上に導入されて、ポレーション手順を開始することができる。例えば、いくつかの実施形態では、最初に浸透圧緩衝液を使用して湾曲した膜が確立され、次いで、ナノ細孔を有する緩衝液が導入されて浸透圧緩衝液を洗い流すことができる。いくつかの実施形態では、ナノ細孔を有する緩衝液は、浸透圧緩衝液と同じ浸透ポテンシャルを有することができるが、ポレーションステップ中の湾曲量を増加または減少させるために、浸透圧緩衝液よりも高いまたは低い浸透ポテンシャルを有することもできる。他の実施形態では、膜を湾曲させるために使用される浸透圧緩衝液はまた、ポレーションステップが膜湾曲ステップと同時に起こることができるようにナノ細孔を含むことができる。
【0150】
図14は、浸透ポテンシャルデルタが、多数の実験に基づいて観察された様々な種類の収率に及ぼす一般的な傾向をまとめたものであり、そのいくつかが以下により詳細に記載される。
図14に示すように、外側に湾曲した膜をもたらす負の浸透ポテンシャルデルタは、より高い単一細孔収率およびより高い潜在的細孔収率をもたらし、細孔は、特性評価されることができ(すなわち、単一の細孔、複数の細孔、および潜在的な細孔)、膜は、例えば、ウェルの作用電極からの電気信号の分析に基づいて特性評価されることができる(すなわち、二重層、原始二重層、短絡(膜なし))。浸透ポテンシャルデルタがより負でなくなるかまたはより正になるにつれて、単一細孔収率および潜在細孔収率は、一般に減少する傾向がある。
【0151】
図15および
図16は、特定の条件下で、ポレーション中の-180osmo/LのΔosmoが、正のΔosmo(80osmo/L)またはより低い負のΔosmo(-100osmo/L)においてポレーションステップを実施するよりも有意に高い潜在的細孔収率および単一細孔収率をもたらすことを示すいくつかの実験データを示している。
【0152】
図17および
図18は、より広い範囲の異なるΔosmoを試験した追加の実験データを示している。
図17は、-146osmo/Lから220osmo/LへのΔosmoの効果を示し、
図18は、-175osmo/Lから5osmo/LへのΔosmoの効果を示している。このデータは、一般に、上述したようにはるかに大きなデータセットの蒸留であった
図14に提示された傾向を裏付ける。
【0153】
いくつかの実施形態では、ポレーション中のΔosmoは、少なくとも-10、-20、-30、-40、-50、-60、-70、-80、-90、-100、-110、-120、-130、-140、-150、-160、-170、-180、-190、-200、-210、-220、-230、-240、-250、-260、-270、-280、-290、-300mOsm/kgである(ここで、少なくとも-10は、-10、-11、-12などを意味する)。換言すれば、いくつかの実施形態では、ポレーション中のΔosmoは負であり、10mOsm/kg刻みで少なくとも10から500mOsm/kgの絶対値を有する。他の実施形態では、Δosmoは負であり、10から2000mOsm/kg、または10から1500mOsm/kg、10から1000mOsm/kg、または10から900mOsm/kg、または10から800mOsm/kg、または10から700mOsm/kg、または10から600mOsm/kg、または10から500mOsm/kg、または10から400mOsm/kg、または10から300mOsm/kg、または10から200mOsm/kg、または50から500mOsm/kg、または50から400mOsm/kg、または50から300mOsm/kg、または50から200mOsm/kg、または100から500mOsm/kg、または100から400mOsm/kg、または100から300mOsm/kg、または100から200mOsm/kgの絶対値を有する。これらの負のΔosmo値は、細孔溶液がcis側に導入される実施形態では特に適している。
【0154】
いくつかの実施形態では、Δosmoは、よりも大きいオスモル濃度を有する側に対するよりも小さいオスモル濃度を有する側の割合またはパーセンテージとして表されることができる。例えば、-20%Δosmoは、cis側のオスモル濃度がトランス側のオスモル濃度の80%であることを意味する。cis側がゼロのオスモル濃度を有する純水である場合、Δosmoは、-100%となる(cis側は、トランス側のオスモル濃度の0%である)。いくつかの実施形態では、Δosmoは、約-5、-10、-15、-20、-25、-30、-35、-40、-45、-50、-55、-60、-65、-70、-75、-80、-85、-90、-95、または100パーセントである。いくつかの実施形態では、Δosmoは、少なくとも約-5、-10、-15、-20、-25、-30、-35、-40、-45、-50、-55、-60、-65、-70、-75、-80、-85、-90、または-95パーセントである。いくつかの実施形態では、Δosmoは、約-5、-10、-15、-20、-25、-30、-35、-40、-45、-50、-55、-60、-65、-70、-75、-80、-85、-90、-95、または-100パーセント未満である。いくつかの実施形態では、Δosmoは、この段落で上述した通りであるが、負のパーセンテージではなく正のパーセンテージを有する。
【0155】
他の実施形態では、細孔がトランス側から挿入される(すなわち、細孔がウェルに充填され、次いで、膜がウェルの開口部の上に形成される)場合、Δosmoは正とすることができ、cis側細孔挿入について上述したものと同じ絶対値を有することができる。いくつかの実施形態では、負のΔosmoは、細孔がトランス側から挿入される場合であっても、依然として細孔形成の速度または量を増加させることができるが、これは、湾曲した膜が、湾曲の方向にかかわらず、二重層領域内の溶媒をより少なくすることができ、細孔形成のより高い確率をもたらすことができるからである。同様に、正のΔosmoはまた、細孔がcis側から挿入される場合にポレーションを増加させることができる。
【0156】
V.コンピュータシステム
本明細書で言及されるコンピュータシステムのいずれも、任意の適切な数のサブシステムを利用することができる。そのようなサブシステムの例が、コンピュータシステム1110における
図11に示されている。いくつかの実施形態では、コンピュータシステムは、単一のコンピュータ装置を含み、サブシステムは、そのコンピュータ装置の構成要素とすることができる。他の実施形態では、コンピュータシステムは、複数のコンピュータ装置を含み、それらのそれぞれは、内部構成要素を有するサブシステムである。コンピュータシステムは、デスクトップおよびラップトップコンピュータ、タブレット、携帯電話、および他のモバイルデバイスを含むことができる。
【0157】
図11に示されるサブシステムは、システムバス1180を介して相互接続されている。プリンタ1174、キーボード1178、記憶デバイス(単一または複数)1179、ディスプレイアダプタ1182に接続されているモニタ1176、などの追加的なサブシステムが示されている。I/Oコントローラ1171に接続される周辺デバイスおよび入力/出力(I/O)デバイスは、I/Oポート1177(例えば、ユニバーサルシリアルバス(USB)、FireWire(登録商標))などの、当業者にとって公知のいずれかの多数の手段を用いて、コンピュータシステムに接続されることができる。例えば、I/Oポート1177または外部インターフェース1181(例えば、Ethernet(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)など)は、コンピュータシステム1110を、インターネットなどのワイドエリアネットワーク、マウス入力デバイス、またはスキャナに接続するために使用されることができる。システムバス1180を介した相互接続は、セントラルプロセッサ1173が、サブシステムのそれぞれと通信し、システムメモリ1172または記憶デバイス(単一または複数)1179(例えば、ハードドライブなどの固定ディスク、または、光ディスク)からの複数の命令の実行、ならびにサブシステム間の情報の交換の制御を可能にする。システムメモリ1172および/または記憶デバイス(単一または複数)1179は、コンピュータ可読媒体を具現化することができる。別のサブシステムは、カメラ、マイクロフォン、加速度計などのデータ収集デバイス1175である。ここに説明されるデータのいずれは、1つの構成要素から別の構成要素に出力されることができ、ユーザに出力されることができる。
【0158】
コンピュータシステムは、例えば、外部インターフェース1181により、内部インターフェースにより、または、1つの構成要素から別の構成要素に接続および取り外されることができる、リムーバブル記憶デバイスを介して、共に接続された複数の同じ構成要素またはサブシステムを含むことができる。いくつかの実施形態では、コンピュータシステム、サブシステム、または装置は、ネットワークを経由して通信する。そのような例では、1つのコンピュータは、クライアントと見なされることができ、別のコンピュータは、サーバと見なされることができ、それらのそれぞれは、同じコンピュータシステムの一部とすることができる。クライアントおよびサーバは、それぞれ、複数のシステム、サブシステム、または構成要素を含むことができる。
【0159】
実施形態の様々な態様が、ハードウェア回路(例えば、APSICまたはFPGA)を使用する、および/または、一般にモジュラでのまたは統合されたプログラマブルプロセッサによるコンピュータソフトウェアを使用する、制御ロジックの形態で実装されることができる。本明細書で使用される場合、プロセッサは、単一のコアプロセッサ、同じ集積チップ上のマルチコアプロセッサ、または、単一の回路基板、もしくは、ネットワーク化されたもの、ならびに専用のハードウェア上の、複数の処理ユニットを含むことができる。本明細書に提供される開示および教示に基づいて、当業者は、ハードウェア、および、ハードウェアならびにソフトウェアの組み合わせを使用する、本発明の実施形態のそれぞれを実装する他の様式および/または方法を知り、理解するであろう。
【0160】
本出願に説明されるソフトウェア構成要素または機能のいずれも、例えば、Java(登録商標)、C、C++、C#、オブジェクティブC、Swiftなどの、任意の好適なコンピュータ言語、または、従来の技術もしくはオブジェクト指向の技術を使用する、例えば、PerlまたはPythonなどのスクリプト言語を使用して、プロセッサにより実行されるソフトウェアコードとして実装されることができる。ソフトウェアコードは、記憶および/または伝送のために、コンピュータ可読媒体上の一連の命令またはコマンドとして記憶されることができる。好適な非一時的コンピュータ可読媒体は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、ハ-ドドライブもしくはフロッピ-ディスクなどの磁気的媒体、または、コンパクトディスク(CD)もしくはDVD(デジタルバ-サタイルディスク)などの光学的媒体、フラッシュメモリなどを含むことができる。コンピュータ可読媒体は、そのような記憶または伝送デバイスの任意の組み合わせとすることができる。
【0161】
そのようなプログラムはまた、符号化され、インターネットを含む、様々なプロトコルに準拠する有線ネットワーク、光ネットワーク、および/または無線ネットワークを介した伝送に適合されたキャリア信号を使用して、伝送されることができる。そのため、コンピュータ可読媒体は、そのようなプログラムを用いて符号化されたデータ信号を使用して作成されることができる。プログラムコードを用いて符号化されたコンピュータ可読媒体は、互換性のあるデバイスを用いてパッケージ化されることができる、または、他のデバイスとは別個に提供されることができる(例えば、インターネットを介してダウンロードされることができる)。任意のそのようなコンピュータ可読媒体は、単一のコンピュータ製品(例えば、ハードドライブ、CD、もしくはコンピュータシステム全体)上に、もしくは、その内部に与えられることができる、または、システムもしくはネットワーク内の異なるコンピュータ製品上にもしくはその内部に存在することができる。コンピュータシステムは、本明細書に記載される結果のいずれかをユーザに提供するための、モニタ、プリンタ、または他の好適なディスプレイを含むことができる。
【0162】
本明細書に記載の方法のいずれも、ステップを実行するように構成されることができる1つまたはそれ以上のプロセッサを含むコンピュータシステムを使用して、全体的にまたは部分的に実行されることができる。したがって、実施形態のそれぞれは、潜在的にステップのそれぞれまたはステップのグループのそれぞれを行う異なる構成要素を用いて、本明細書に記載される方法のいずれかのステップを行うよう構成されているコンピュータシステムを対象とすることができる。本明細書における方法のステップは、順序立てられたステップとして提示されているが、同時に、または、異なる時に、または、異なる順序で行われることができる。追加的に、これらのステップの部分は、他の方法からの他のステップの部分と共に使用されることができる。また、1つのステップの全て、または、その部分は、任意とすることができる。追加的に、これらの方法のいずれかのステップのいずれかは、これらのステップを行うためのシステムのモジュ-ル、ユニット、回路、または他の手段を用いて行われることができる。
【0163】
特定の実施形態の具体的な詳細は、本発明の実施形態の精神および範囲から逸脱することなく、いずれかの好適な様式にて組み合わされることができる。しかしながら、本発明の他の実施形態は、各個別の態様、または、それら個別の態様の具体的な組み合わせに関連する具体的な実施形態を対象とすることができる。
【0164】
前述の実施形態は、理解を明確にする目的のために若干詳細に説明したが、本発明は、提供されたそれらの詳細に限定されない。本発明を実施するための多くの代替的な方法がある。開示された実施形態は、説明のためであり、限定するものではない。本発明の例示的な実施形態の上記説明は、図示および説明を目的として提示されている。これらは、包括的なものとなることも、または、本発明を記載された正確な形式に限定することも意図されておらず、上記の教示を踏まえ、多くの変更例および変形例が可能である。
【0165】
「a」、「an」、または「the」という記載は、具体的にそうでないことを示さない限り、「1つまたはそれ以上」を意味することが意図される。「or」の使用は、具体的にそうでないことを示さない限り、「排他的論理和」でなく、「包含的論理和」を意味することが意図される。「第1の」構成要素への言及は、第2の構成要素が設けられることを必ずしも必要としない。さらに、「第1の」または「第2の」構成要素への言及は、単に構成要素を区別するためのものであり、明確に規定されない限り、言及された構成要素を特定の位置または順序に限定するものではない。「基づいて」という用語は、「少なくとも部分的に基づいて」を意味することが意図される。
【0166】
本明細書に説明される全ての特許、特許出願、出版物、および説明文は、全ての目的のためにそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。従来技術と認められるものはない。
【国際調査報告】