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特表2022-531143無機粒子を含有する熱伝導率が向上した液体分散体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(54)【発明の名称】無機粒子を含有する熱伝導率が向上した液体分散体
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20220629BHJP
   C10M 105/50 20060101ALI20220629BHJP
   C10M 139/04 20060101ALI20220629BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20220629BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20220629BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20220629BHJP
   C10N 10/08 20060101ALN20220629BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220629BHJP
   C10N 40/14 20060101ALN20220629BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/50
C10M139/04
C09K5/14 E
C10N10:06
C10N10:12
C10N10:08
C10N30:00 Z
C10N40:14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563190
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(85)【翻訳文提出日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2020061300
(87)【国際公開番号】W WO2020216824
(87)【国際公開日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】19170752.0
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】リー-チュン リウ
(72)【発明者】
【氏名】パウル ブランドル
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA13C
4H104AA17C
4H104AA18C
4H104AA21C
4H104BJ03C
4H104CD01A
4H104CD04A
4H104EA02A
4H104EA08C
4H104FA03
4H104FA04
4H104FA06
4H104LA20
4H104PA11
(57)【要約】
本発明は、Al、AlN、Si、SiC、WSおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理無機粒子と少なくとも1つの液体フッ素化化合物とを含む液体分散体、その製造方法、および油潤滑剤または伝熱流体の熱伝導率を向上させるための該分散体の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al、AlN、Si、SiC、WSおよびそれらの混合物からなる群から選択される無機粒子と、少なくとも1つの液体フッ素化化合物とを含む液体分散体であって、前記無機粒子は、オルガノシラン、シラザン、非環式または環式ポリシロキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で表面処理されている、液体分散体。
【請求項2】
10s-1のせん断速度で25℃で測定した場合に、前記分散体の動的粘度が10000mPa・s未満である、請求項1記載の液体分散体。
【請求項3】
前記分散体の熱伝導率が、少なくとも0.06W/m・Kである、請求項1または2記載の液体分散体。
【請求項4】
前記分散体の熱伝導率が、前記分散体中に存在する前記液体フッ素化化合物またはそのような化合物の混合物の熱伝導率よりも少なくとも20%高い、請求項1から3までのいずれか1項記載の液体分散体。
【請求項5】
前記分散体が、1重量%~30重量%の前記無機粒子と、70重量%~99重量%の前記液体フッ素化化合物とを含む、請求項1から4までのいずれか1項記載の液体分散体。
【請求項6】
前記表面処理剤が、フッ素原子を含むオルガノシランである、請求項1から5までのいずれか1項記載の液体分散体。
【請求項7】
前記液体フッ素化化合物が、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロハロフルオロエーテル、ハイドロクロロフルオロカーボンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から6までのいずれか1項記載の液体分散体。
【請求項8】
10s-1のせん断速度で25℃で測定した場合に、前記液体フッ素化化合物が、2000mPa・s未満の動的粘度を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の液体分散体。
【請求項9】
前記無機粒子が、10μm未満の平均粒子径d50を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の液体分散体。
【請求項10】
前記液体分散体が、少なくとも0.04mm/secの熱拡散率および2.0MJ/(m・K)未満の比熱を有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の液体分散体。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の液体分散体の製造方法であって、
(i)オルガノシラン、シラザン、非環式または環式ポリシロキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で表面処理された、Al、AlN、Si、SiC、WS、TiOおよびそれらの混合物からなる群から選択される無機粒子を提供するステップと、
(ii)前記無機粒子を少なくとも1つの液体フッ素化化合物と混合するステップと、
(iii)任意に、ステップ(ii)で製造された得られた前記分散体を、高せん断エネルギー粉砕装置を使用して粉砕するステップと
を含む、液体分散体の製造方法。
【請求項12】
前記高せん断粉砕装置が、遊星式およびブレード式ミキサー、ホモジナイザー、ロータ・ステータ機器、メディアミル、ジェットミル、湿式ジェットミルから選択される、請求項11記載の液体分散体の製造方法。
【請求項13】
油潤滑剤の成分、例えば、トランスミッションフルード、エンジンオイル、ギアオイル、作動油、潤滑グリース、バッテリシステムまたは他の電気機器における伝熱流体の成分としての、請求項1から10までのいずれか1項記載の液体分散体の使用。
【請求項14】
油潤滑剤および/または伝熱流体の熱伝導率を向上させるための、請求項1から10までのいずれか1項記載の液体分散体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子と液体フッ素化化合物とを含む液体分散体、その製造方法、および油潤滑剤または伝熱流体の熱伝導率を高めるための該分散体の使用に関する。
【0002】
炭化水素およびシリコーン流体、例えばオイルは、電気モータの固定子と回転子との間、さらには電力リード線を電気的に絶縁することができる。さらにオイルは、エンジンおよびモータを潤滑にして寿命を延長し、故障を防ぐ。モータオイルは、例えばベアリングや他の金属表面といった、相対的に運動して互いに密接に接触する表面を潤滑にし、モータの効率およびモータの寿命を改善する。さらにオイルは、モータ内で発生する熱を排出して作動温度を下げるのに役立ち得る。
【0003】
可動部品のない電気デバイスの場合でも、特に高電圧または高電流用途では、静的構成要素からの熱伝達およびその電気絶縁が重要な課題となる。これらのデバイスの冷却を支援するために追加の機器が必要になる場合がある。適切な粘度を有する、電気絶縁および熱伝導のための新規の材料が必要である。
【0004】
オイルのような有機混合物の熱伝導率を高めるための実施可能な方法の1つに、そのような混合物に、AlN、BNなどのような高熱伝導性粒子を添加することが挙げられる。
【0005】
中国特許出願公開第102924924号明細書には、100部のメチルシリコーンオイルと40~200部のカップリング剤で処理された400~1000部の熱伝導性フィラーとを含むペースト状の熱伝導性シリコーングリースが開示されている。熱伝導性フィラーは、アルミナ、AlN、BN、SiCおよび他の材料から選択することができる。カップリング剤は、好ましくは、HMDSまたはメチルトリメトキシシランのようなシランである。中国特許出願公開第102924924号明細書に記載されているペーストは、非常に高粘度である。
【0006】
中国特許出願公開第108440968号明細書には、5~30部の、例えばシランで表面処理された窒化アルミニウム(AlN)粒子と、100~150部のビニル末端ジメチルシリコーンオイルと、20~60部のハイドロジェン系シリコーンオイルとを含む熱伝導性混合物が開示されている。
【0007】
ハロオレフィンの液体の低分子量ポリマーであって、特にフッ素を高い割合で含むものは、難燃性であり、炭化水素油とは対照的に優れた化学的および熱的安定性を有することが知られている。そのためフッ素系潤滑剤は、自動車、電気機器、建設用機械、産業用機械、およびこれらの機械を構成する部品など、様々な種類の機械の潤滑剤として広く使用されている。したがって、米国特許第2975220号明細書には、潤滑剤、作動液などとして適した、フッ化ビニリデンの重合によって製造された液体の低分子量ポリマーが記載されている。
【0008】
国際公開第0175955号には、化学的および熱的に安定な不燃性のフッ素化炭化水素またはエーテル溶媒をベースとする洗浄用組成物が開示されている。
【0009】
L. Zeiningerらは、Chemistry Open 2018, 7, 282-287において、フッ素化炭化水素置換基を有するアミドまたはエステルで表面処理されたTiOおよびFeのナノ粒子、ならびに該表面処理粒子とパーフルオロ(メチルシクロヘキサン)の分散体の製造について説明している。この論文には、TiOまたはFe以外の無機粒子は記載されていない。さらにこの論文は、そのような分散体の熱伝導率の向上、潤滑剤としての使用または熱的管理における使用に関するものではない。
【0010】
英国特許出願公開第2557759号明細書には、炭化ホウ素、窒化ホウ素、グラファイト、ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などの表面処理されていない様々な無機ナノ粒子を基材流体に分散させることで、これらの基材流体、例えばフッ素系流体(HFE 7000)の熱伝達特性を改善できることが開示されている。
【0011】
米国特許出願公開第2010187469号明細書には、液体フッ素化エーテルと、Alなどの表面処理されていない金属酸化物粒子とを含む熱伝達性組成物が開示されている。
【0012】
A.A.M. Redhwanらは、international communications in heat and mass transfer, Pergamon, New York, vol. 76 (2016), pages 285-293において、ハイドロフルオロカーボン(HFC)およびハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)冷媒におけるAlなどの表面処理されていないナノ粒子の分散体を開示している。
【0013】
したがって、多くの表面処理されていない無機粒子を使用して、フッ素化流体の熱伝達特性を改善することができる。しかし、そのような粒子と流体との適合性は、しばしば限定的である。結果として、無機粒子はしばしば凝集する傾向にあり、それにより、粒子が大きくなったり、流体の粘度が望ましくなく増加したり、さらにはそのような粒子が沈殿したりする。
【0014】
本発明によって対処される課題は、例えば自動車のバッテリシステム向けに、油潤滑剤および伝熱流体での使用に適した良好な熱伝達特性を有する化学的および熱的に安定な液体系を提供することである。このような系は、これらの流体に均一な温度プロファイルを確立できることが望ましい。特に本発明は、比較的高含有量の高熱伝導性フィラーを含む比較的低粘度の化学的および熱的に安定な、好ましくは可燃性の液体系を提供するという課題に関する。ここで、「安定な」という用語は、例えばこのような系の使用または保管時に沈殿や粘度増加がこのような系に起こりにくいことを意味する。このような比較的低い粘度を達成するには、熱伝導性フィラーを微細に分散させることが望ましく、つまり、平均粒子径が比較的小さいことが望ましい。
【0015】
本発明は、Al、AlN、Si、SiC、WSおよびそれらの混合物からなる群から選択される無機粒子と、少なくとも1つの液体フッ素化化合物とを含む液体分散体であって、無機粒子は、オルガノシラン、シラザン、非環式または環式ポリシロキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で表面処理されている、液体分散体を提供する。
【0016】
本発明の必須部分は、液体フッ素化化合物の存在である。
【0017】
液体フッ素化化合物
本発明の文脈における「フッ素化化合物」という用語は、少なくとも1つのフッ素原子を含む有機化合物を指す。
【0018】
本発明で言及されるフッ素化化合物は、25℃および1気圧で液体である。そのような液体フッ素化化合物は、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロハロフルオロエーテル(HHFE)およびハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)ならびにそれらの混合物を含むことができる。
【0019】
液体フッ素化化合物は、好ましくは、非イオン性の、部分的にフッ素化された炭化水素を含み、該炭化水素は、直鎖状、分岐状または環式であってよく、任意に、窒素または酸素などの、1つ以上のカテナリーヘテロ原子をさらに含んでもよい。
【0020】
液体フッ素化化合物は、部分的にフッ素化されたアルカン、アミン、エーテル、および芳香族化合物からなる群から選択することができる。液体フッ素化化合物は、好ましくは非官能性であり、すなわち、酸、塩基、酸化剤、還元剤または求核試薬に対して反応性である重合性の官能基を有していない。
【0021】
好ましくは、液体フッ素化化合物中のフッ素原子数は、この化合物中の水素原子数よりも多い。
【0022】
本発明で言及される液体フッ素化化合物は、好ましくは不燃性であり、これは本明細書において、ASTM D3278-89に準拠して試験した場合に約60℃を超える引火点を有すると定義される。
【0023】
不燃性であるためには、フッ素原子数と、水素原子数と、炭素原子数との間の関係を、好ましくは、フッ素原子数が水素原子数と炭素-炭素結合の数との合計以上であるという点で関連付けることができる:
F原子数≧H原子数+C-C結合の数
【0024】
液体フッ素化化合物は、部分的または不完全にフッ素化されており、すなわち、分子内に少なくとも1つの脂肪族または芳香族水素原子を含むことが好ましい。このような化合物は、一般に熱的および化学的に安定している。本発明で使用される液体フッ素化化合物は、典型的には3~20個の炭素原子を含み、任意に、二価酸素または三価窒素原子などの1つ以上のカテナリーヘテロ原子を含むことができる。有用な液体フッ素化化合物には、環式および非環式フッ素化アルカン、アミン、エーテルおよびそれらの任意の混合物が含まれる。
【0025】
好ましくは、フッ素原子数は、水素原子数および炭素-炭素結合の数の組み合わせの合計以上である。フッ素化化合物は、任意に、1つ以上の塩素原子を含むことができる。
【0026】
本発明の液体分散体に適した液体フッ素化化合物の1つのクラスは、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、すなわち、炭素、水素およびフッ素、ならびに任意にカテナリー二価酸素および/または三価窒素のみを有する化合物である。そのような化合物は非イオン性であり、直鎖状または分岐状、環式または非環式であり得る。そのような化合物は、式C2n+2-m (I)の化合物であり、ここで、nは、約3~20であり、mは、1~41であり、1つ以上の非隣接CF基は、カテナリー酸素または三価窒素原子で置き換えることができる。好ましくは、フッ素原子数は、水素原子数以上であり、より好ましくは、フッ素原子数は、水素原子数およびフッ素原子の炭素-炭素結合の数の組み合わせの合計以上である。
【0027】
好ましくは、C3~16の骨格を有するハイドロフルオロカーボンが使用される。炭素骨格は、直鎖状、分岐状、環式、またはこれらの組み合わせであってよい。有用なHFCには、炭素に結合した水素およびフッ素原子の総数に対して約5モルパーセントを超えるフッ素置換、または約95モルパーセント未満のフッ素置換を有するが、他の原子(例えば、塩素)の置換を実質的に有しない化合物が含まれる。有用なHFCは、以下の一般式:C2n+2-m (I)の化合物から選択することができ、ここで、nは、少なくとも3であり、mは、少なくとも1である。この種の代表的な化合物には、CFCHCFH、CFHCFCHF、CHFCFCFH、CFHCHCFH、CFHCFHCFH、CFCFHCF、CFCHCF、CHF(CFCFH、CFCFCHCHF、CFCHCFCHF、CHCHFCFCF、CFCHCHCF、CHFCFCFCHF、CFCHCFCH、CHFCH(CF)CF、CHF(CF)CFCF、CFCHCHFCFCF、CFCHFCHCFCF3、CFCHCFCHCF、CFCHFCHFCFCF、CFCHCHCFCF、CHCHFCFCFCF、CFCFCFCHCH、CHCFCFCFCF、CFCHCHFCHCF、CHFCFCFCFCF、CHFCFCFCFCF、CHCF(CHFCHF)CF、CHCH(CFCF)CF、CHFCH(CHF)CFCF、CHFCF(CHF)CFCF、CHFCFCF(CF、CHF(CFCFH、(CFCHCHCF、CHCHFCFCHFCHFCF、HCFCHFCFCFCHFCFH、HCFCFCFCFCFCFH、CHFCFCFCFCFCHF、CHCF(CFH)CHFCHFCF、CHCF(CF)CHFCHFCF、CHCF(CF)CFCFCF、CHFCFCH(CF)CFCF、CHFCFCF(CF)CFCF、CHCHFCHCFCHFCFCF、CH(CFCH、CHCH(CFCF、CFCHCH(CFCF、CHFCFCHF(CFCF、CFCFCFCHFCHFCFCF、CFCFCFCHFCFCFCF、CHCH(CF)CFCFCFCH、CHCF(CF)CHCFHCFCF、CHCF(CFCF)CHFCFCF、CHCHCH(CF)CFCFCF、CHFCF(CF)(CFCHF、CHCFC(CFCFCH、CHFCF(CF)(CFCF;CHCHCHCHCFCFCFCF、CH(CFCH、CHFCF(CF)(CFCHF、CHFCF(CF)(CFCHF、CHCHCH(CF)CFCFCFCF、CHCF(CFCF)CHFCFCFCF、CHCHCHCHFC(CFCF、CHC(CFCFCFCFCH、CHCHCHCF(CF)CF(CF、およびCHFCFCFCHF(CFCFが含まれる。
【0028】
本発明の液体分散体を形成するのに特に有用な液体フッ素化化合物の好ましい1つのクラスには、一般式(R-O)-R (II)のハイドロフルオロエーテル(HFE)が含まれ、式(II)に関して、kは、1~10、好ましくは1~3の数であり、RおよびRは、同一であるかまたは互いに異なり、アルキル、アリール、およびアルキルアリール基ならびにそれらの誘導体からなる群から選択される。RおよびRのうち少なくとも一方は、少なくとも1つのフッ素原子を含み、好ましくは、RおよびRのうち少なくとも一方は、少なくとも1つの水素原子を含む。RおよびRは、直鎖状、分岐状、環式または非環式であってよく、任意に、RおよびRのうちの一方または双方は、三価窒素または二価酸素などの1つ以上のカテナリーヘテロ原子を含むことができる。好ましくは、フッ素原子数は、水素原子数以上であり、より好ましくは、フッ素原子数は、水素原子数および炭素-炭素結合の数との組み合わせの合計以上である。RまたはR、あるいはその双方は、任意に、1つ以上の塩素原子を含むことができる。そのようなハイドロフルオロエーテルの例には、HCFOCFOCFH、HCFOCFCFOCFH、HCOCH、HCFOCFOCOCFHおよびそれらの混合物が含まれる。
【0029】
より好ましくは、本発明の液体分散体は、式R-O-R (III)のフッ素化化合物を含み、ここで、RおよびRは、アルキル、アリール、およびアルキルアリール基ならびにそれらの誘導体からなる群から選択され、Rは、少なくとも1つのフッ素原子を含み、Rは、フッ素原子を含まなくてもよい。より好ましくは、Rは、非環式の分岐状または直鎖状アルキル基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、i-ブチル、またはt-ブチルであり、Rは、好ましくは、3~約14個の炭素原子を有する環式または非環式、分岐状または直鎖状のアルキル基のフッ素化誘導体、例えば、n-C、i-C、n-C、i-C、n-C13、シクロ-C11、n-C15、n-C17である。Rは、任意に、三価窒素または二価酸素原子などの1つ以上のカテナリーヘテロ原子を含むことができる。最も好ましくは、RおよびR、またはRおよびRは、フッ素化化合物が少なくとも3つの炭素原子を有し、かつ化合物中の水素原子の総数が最大でフッ素原子数に等しくなるように選択される。さらにより好ましくは、RおよびR、またはRおよびRは、フッ素化化合物が少なくとも3つの炭素原子を有し、かつフッ素原子数が水素原子数および炭素-炭素結合の数との組み合わせの合計以上となるように選択される。
【0030】
式(III)の特に好ましい液体フッ素化化合物には、n-COCH、(CFCFOCH、n-COCH、(CFCFCFOCH、n-COC、n-COC、(CFCFCFOC、(CFCOCH、(CFCOC、n-C11OC、n-C11OCH、n-C13OC、n-C13OCH、n-C15OC、n-C15OCH、n-C17OC、n-C17OCHおよびそれらの混合物が含まれる。
【0031】
式(III)の液体フッ素化化合物中のRおよびR置換基の双方はまた、フッ素原子を含むことができる。そのようなハイドロフルオロエーテルの例には、COCH、C13OCFH、HCOCH、COCHFおよびそれらの混合物が含まれる。
【0032】
有用な液体フッ素化化合物には、ハイドロハロフルオロエーテル(HHFE)も含まれる。本発明では、HHFEは、フッ素、非フッ素ハロゲン(すなわち、塩素、臭素、および/またはヨウ素)および水素原子を含むエーテル化合物と定義される。HHFEの重要なサブクラスは、パーフルオロアルキルハロエーテル(PFAHE)である。PFAHEは、パーフルオロアルキル基と、炭素に結合した水素原子およびハロゲン原子を有するハロアルキル基とを有するエーテル化合物と定義され、ハロゲン原子の少なくとも1つは、塩素、臭素、またはヨウ素である。有用なPFAHEには、式(IV):R-O-C (IV)に示される一般構造によって表されるものが含まれ、ここで、Rは、好ましくは少なくとも約3個の炭素原子、最も好ましくは3~10個の炭素原子、および任意に窒素または酸素などのカテナリーヘテロ原子を含むパーフルオロアルキル基であり、Xは、臭素、ヨウ素、および塩素からなる群から選択されるハロゲン原子であり、「a」は、好ましくは約1~10であり、「b」は、少なくとも1であり、「c」は、0~約2の範囲であってよく、「d」は、少なくとも1であり、b+c+d=2a+1である。そのようなPFAHEは、国際公開第99/14175号に記載されている。有用なPFAHEには、c-C11OCHCl、(CFCFOCHCl、(CFCFOCHCI、CFCFCFOCHCI、CFCFCFOCHCl、(CFCFCFOCHCl、(CFCFCFOCHCl、CFCFCFCFOCHCl、CFCFCFCFOCHCI、(CFCFCFOCHClCH、CFCFCFCFOCHClCH、(CFCFCF(C)OCHCl、(CFCFCFOCHBr、およびCFCFCFOCHIが含まれる。
【0033】
有用なフッ素化溶媒には、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)も含まれる。本発明では、HCFCは、炭素に結合したフッ素、塩素、および水素原子で置換された炭素骨格を含む化合物と定義される。本発明において有用なHCFCには、CFCHCl、CHCClF、CFCFCHCl、およびCCIFCFCHCIFが含まれる。
【0034】
本発明の液体分散体に使用される液体フッ素化化合物は、好ましくは、最大1000g/モル、より好ましくは最大800g/モル、さらにより好ましくは最大500g/モルの分子量を有する。
【0035】
本発明による液体分散体に適した液体フッ素化化合物は、好ましくは、10s-1のせん断速度で25℃で測定した場合に、2000mPa・s未満、より好ましくは1000mPa・s未満、さらにより好ましくは1000mPa・s未満の動的粘度を有する。
【0036】
無機粒子
本発明の液体分散体に含まれる無機粒子は、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si)、炭化ケイ素(SiC)、二硫化タングステン(WS)およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0037】
Alの場合、対応するヒュームド金属酸化物粒子、すなわちパイロジェニックプロセスから得られる金属酸化物粒子が使用される場合が好ましい。このようなプロセスでは、金属化合物は、水素と酸素との反応によって生成された火炎中で反応する。このようにして得られた粉末は、「パイロジェニック」または「ヒュームド」金属酸化物と呼ばれる。反応により、まず高度に分散した一次粒子が形成され、これが反応のさらなる過程で合体してアグリゲートを形成する。これらの粉末のアグリゲートの大きさは、一般に0.2~1μmの範囲である。これらの粉末は、適切な粉砕によって部分的に破壊され、本発明に有利なナノメートル(nm)範囲の粒子に変換され得る。
【0038】
沈降金属酸化物または金属酸化物ゾル、例えば沈降シリカ、沈降アルミナ、沈降二酸化チタン、シリカゾル、アルミナゾルまたは二酸化チタンゾルなどの他の種類の金属酸化物を使用することも可能である。
【0039】
AlNは、ガス状の窒素もしくはアンモニアの存在下での酸化アルミニウムの炭素熱還元によって、またはアルミニウムの直接窒化によって合成することができる。
【0040】
窒化ケイ素(Si)は、粉末ケイ素を窒素環境で1300℃~1400℃の間で加熱することにより、四塩化ケイ素およびアンモニアからジイミド法により、または窒素雰囲気中で二酸化ケイ素を1400~1450℃で炭素熱還元することにより製造することができる。
【0041】
炭化ケイ素(SiC)は、高温で炭素の存在下で砂(SiO)を熱処理することによって製造することができる。
【0042】
WSは、酸化タングステンを、この形態で直接供給されるかまたはその場で生成される硫化物または水硫化物の供給源で処理することを含むいくつかの合成方法によって製造することができる。他の経路は、タングステン(VI)の硫化物、例えば(RN)WS)またはWSの熱分解を伴う。
【0043】
無機粒子は、好ましくは、10μm未満、より好ましくは2μm未満、より好ましくは20nm~1μm、さらにより好ましくは50nm~800nm、さらにより好ましくは100nm~700nmのメディアン粒子径d50を有する。メディアン粒子径は、本発明による分散体において動的光散乱法(DLS)により直接測定することができる。無機粒子は、孤立した個々の粒子の形態、および/またはアグリゲート粒子の形態であってよい。アグリゲート粒子の場合、メディアン粒子径は、アグリゲートのサイズを意味する。
【0044】
表面処理剤
本発明による液体分散体中に存在する無機粒子は、表面処理される。この表面処理、特に疎水化表面処理により、無機粒子と疎水性液体フッ素化化合物との適合性を向上させることができる。
【0045】
本発明の液体分散体に使用される表面処理された無機粒子は、対応する未処理の無機粒子を表面処理剤で表面処理することによって得ることができる。
【0046】
無機粒子は、オルガノシラン、シラザン、非環式または環式ポリシロキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で表面処理される。
【0047】
好ましいオルガノシランの一種は、一般式
R’(RO)Si(C2n+1) (Va)、およびR’(RO)Si(C2n-1) (Vb)
のアルキルオルガノシランであり、ここで、
R=アルキル、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、ブチルであり、
R’=アルキルまたはシクロアルキル、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、ブチル、シクロヘキシル、オクチル、ヘキサデシルであり、
n=1~20であり、
x+y=3であり、
x=0~2であり、かつ
y=1~3である。
【0048】
アルキルオルガノシランのうち特に好ましいのは、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシランである。
【0049】
表面処理に使用されるオルガノシランは、ClやBrなどのハロゲンを含むことができる。以下の種類のハロゲン化オルガノシランが特に好ましい:
- 一般式XSi(C2n+1) (VIa)およびXSi(C2n-1) (VIb)のオルガノシラン、
ここで、X=Cl、Brであり、n=1~20である;
- 一般式X(R’)Si(C2n+1) (VIIa)およびX(R’)Si(C2n-1) (VIIb)のオルガノシラン、
ここで、X=Cl、Brであり、
R’=アルキル、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、ブチル、シクロアルキル、例えば、シクロヘキシルであり、
n=1~20である;
- 一般式X(R’)Si(C2n+1) (VIIIa)およびX(R’)Si(C2n-1) (VIIIb)のオルガノシラン、
ここで、X=Cl、Brであり、
R’=アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、ブチル、シクロアルキル、例えばシクロヘキシルであり、
n=1~20である。
【0050】
ハロゲン化オルガノシランのうち特に好ましいのは、ジメチルジクロロシランである。
【0051】
使用されるオルガノシランは、アルキルまたはハロゲン置換基以外のもの、例えばフッ素またはいくつかの官能基を含むこともできる。好ましく使用されるのは、一般式(R’’)(RO)Si(CHR’ (IX)の官能化オルガノシランであり、
ここで、
R’’=アルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル、またはハロゲン、例えば、ClもしくはBrであり、
R=アルキル、例えば、メチル、エチル、プロピルであり、
x+y=3であり、
x=0~2であり、
y=1~3であり、
m=1~20であり、
R’=メチル、アリール(例えば、フェニルまたは置換フェニル基)、ヘテロアリール、-C、OCF-CHF-CF、-C13、-O-CF-CHF、-NH、-N、-SCN、-CH=CH、-NH-CH-CH-NH、-N-(CH-CH-NH2、-OOC(CH)C=CH、-OCH-CH(O)CH、-NH-CO-N-CO-(CH、-NH-COO-CH、-NH-COO-CH-CH、-NH-(CHSi(OR)、-S-(CHSi(OR)、-SH、-NR(R=アルキル、アリールであり、R=H、アルキル、アリールであり、R=H、アルキル、アリール、ベンジル、CNRであり、ここで、R=H、アルキルであり、R=H、アルキルである)である。
【0052】
官能化オルガノシランのうち特に好ましいのは、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランである。
【0053】
特に好ましくは、本発明の液体分散体中に存在する表面処理無機粒子の製造に使用される表面処理剤は、フッ素原子を含むオルガノシランである。このようなフッ素化オルガノシランの例は、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン[(CHO)SiC]、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン[(CHO)SiC13]、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン[(CO)SiC13]である。
【0054】
一般式R’RSi-NH-SiRR’ (X)のシラザンが表面処理剤として適しており、ここで、R=アルキル、例えば、メチル、エチル、プロピルであり、R’=アルキル、ビニルである。最も好ましいシラザンは、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)である。
【0055】
オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D6)などの環式ポリシロキサンも表面処理剤として適している。最も好ましくは、環式ポリシロキサンのうち、D4が使用される。
【0056】
別の有用な種類の表面処理剤は、一般式(XI):
【化1】
のポリシロキサンまたはシリコーンオイルであり、ここで、
Y=H、CH、C2n+1(n=1~20である)、Si(CH(a=2~3であり、b=0または1であり、a+b=3である)であり、
X=H、OH、OCH、C2m+1(m=1~20である)であり、
R、R’=アルキル、例えば、C2o+1(o=1~20である)、アリール、例えば、フェニルおよび置換フェニル基、ヘテロアリール、(CH-NH(k=1~10である)、Hであり、
u=2~1000であり、好ましくは、u=3~100である。
【0057】
最も好ましくは、ポリシロキサンおよびシリコーンオイルのうちポリジメチルシロキサンが、本発明による液体分散体の製造のための表面処理剤として使用される。そのようなポリジメチルシロキサンは、通常、162~7500g/モルのモル質量、0.76~1.07g/mlの密度、および0.6~1000000mPa・sの粘度を有する。
【0058】
液体分散体
本発明の文脈における「液体」という用語は、25℃および1気圧の圧力で液体である物質の状態を指す。
【0059】
本発明の液体分散体は、好ましくは1重量%~30重量%、より好ましくは2重量%~25重量%、さらにより好ましくは5重量%~20重量%の無機粒子と、70重量%~99重量%、より好ましくは75重量%~98重量%、さらにより好ましくは80重量%~95重量%の液体フッ素化化合物とを含む。
【0060】
本発明による液体分散体は、無機粒子および液体フッ素化化合物以外のものを含むことができる。
【0061】
本発明による液体分散体は、この液体分散体の成分としての使用に適した、任意の種類の潤滑油基油、鉱油、合成または天然油、動物または植物油を含むことができる。本発明の液体分散体に使用される基油には、例えば、群I、群II、群III、群IVおよび群Vとして知られるAPI(米国石油協会)のベースストックのカテゴリーから選択される従来のベースストックが含まれる。群IおよびIIのベースストックは、粘度指数(すなわちVI)が120未満の鉱油材料(パラフィン系およびナフテン系油など)である。群Iは、群IIとはさらに区別され、後者には90%を超える飽和物質が含まれており、前者には、90%未満の飽和物質(つまり、10%を超える不飽和物質)が含まれている。群IIIは、VIが120以上で、飽和レベルが90%以上の最高レベルの鉱物基油と見なされる。好ましくは、本発明の液体分散体に含まれる基油は、API群IIおよびIIIの基油からなる群から選択される。最も好ましくは、潤滑剤組成物は、API群IIIの基油を含む。群IVの基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)である。群Vの基油は、エステルおよび群I~IVの基油に含まれないその他の基油である。これらの基油は、個別に使用することも、混合物として使用することもできる。
【0062】
本発明による液体分散体は、有機溶媒を含むことができる。使用可能な有機溶媒には、炭化水素溶媒、例えば、芳香族溶媒、例えば、トルエン、ベンゼンおよびキシレン、飽和炭化水素、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカンが含まれ、これらは、直鎖形態または分岐形態で存在し得る。これらの溶媒は、個別に使用することも、混合物として使用することもできる。
【0063】
本発明の液体分散体はまた、配合物での使用に適した任意の種類の添加剤を含むことができる。これらの添加剤には、粘度指数向上剤(PAMA、OCP、PIBなど)、流動点降下剤、分散剤(スクシンイミドなど)、解乳化剤、消泡剤、耐摩耗添加剤(ZDDP、ホスフェート、ジチオホスフェート、ジチオカバメートなど)、極圧添加剤(硫化i-ブテン、ジ-i-ブテン脂肪酸エステル、またはチアジアゾールなど)、潤滑添加剤、摩擦調整剤(アルキルジメチルホスホネート、グリセリンモノオレエート、ビス(2-ヒドロキシエチル)アルキルアミン、フェノール系もしくはアミン系酸化防止剤、界面活性剤(スルホネート、フェネートなど)、着色剤、腐食防止剤(コハク酸部分エステルなど)、黄色金属不活性化剤(yellow metal deactivator;トリアゾールなど)および/または臭気剤が含まれる。
【0064】
本発明による液体分散体は、好ましくは比較的低い粘度を有する。したがって、本発明の液体分散体の動的粘度は、10s-1のせん断速度で25℃で測定した場合に、好ましくは10000mPa・s未満、より好ましくは5000mPa・s未満、最も好ましくは1000mPa・s未満、特に好ましくは500mPa・s未満である。動的粘度は、粘度計またはレオメータを用いて測定することができる。
【0065】
本発明の液体分散体中に熱伝導性無機粒子が存在することにより、この液体分散体の熱伝導率が向上する。したがって、本発明の液体分散体は、液体フッ素化化合物を含むその液体成分と比較した場合、典型的には比較的高い熱伝導率を有する。したがって、液体分散体の熱伝導率は、分散体中に存在する液体フッ素化化合物またはその混合物の熱伝導率よりも、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは40%、さらにより好ましくは50%高い。
【0066】
本発明による液体分散体の熱伝導率は、好ましくは少なくとも0.06W/m・K、より好ましくは少なくとも0.07W/m・K、さらにより好ましくは少なくとも0.08W/m・K、さらにより好ましくは少なくとも0.09W/m・Kである。
【0067】
本発明による液体分散体の熱拡散率は、好ましくは少なくとも0.04mm/sec、より好ましくは少なくとも0.05mm/sec、さらにより好ましくは少なくとも0.06mm/sec、さらにより好ましくは0.06mm/sec~0.12mm/secである。
【0068】
本発明の液体分散体の比熱は、好ましくは2.0MJ/(m・K)未満、より好ましくは1.9MJ/(m・K)未満、さらにより好ましくは1.8MJ/(m・K)未満、さらにより好ましくは1.7MJ/(m・K)未満、最も好ましくは1.0MJ/(m・K)~1.7MJ/(m・K)である。
【0069】
本発明の液体分散体の熱伝導率、熱拡散率、および比熱は、ホットディスク法により、TPS 3500(製造元Hot Disc AB)などのホットディスク熱分析装置を用いて、周囲温度、例えば23℃で測定することができる。
【0070】
液体分散体を得るための方法
本発明は、本発明の液体分散体の製造方法であって、
(i)オルガノシラン、シラザン、非環式または環式ポリシロキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で表面処理された、Al、AlN、Si、SiC、WSおよびそれらの混合物からなる群から選択される無機粒子を提供するステップと、
(ii)無機粒子を少なくとも1つの液体フッ素化化合物と混合するステップと、
(iii)任意に、ステップ(ii)で製造された得られた分散体を、高せん断エネルギー粉砕装置を使用して粉砕するステップと
を含む、液体分散体の製造方法を提供する。
【0071】
本発明の方法のステップ(i)は、好ましくは、Al、AlN、Si、SiC、WSおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理されていない無機粒子を、オルガノシラン、シラザン、非環式または環式ポリシロキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で処理することにより行われる。
【0072】
このステップ(i)では、未処理の無機粒子に、オルガノシラン、シラザン、非環式または環式ポリシロキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤を周囲温度(約25℃)で噴霧することが好ましく、その後、この混合物を、50℃~400℃の温度で1~6時間の期間にわたって熱処理する。
【0073】
ステップ(i)における無機粒子の表面処理の代替的方法は、無機粒子を蒸気形態の表面処理剤で処理し、次いでこの混合物を、50℃~800℃の温度で0.5~6時間の期間にわたって熱処理することによって行うことができる。
【0074】
熱処理は、例えば窒素などの保護ガス下で行うことができる。表面処理は、噴霧装置を備えた加熱可能なミキサーおよび乾燥機で、連続式またはバッチ式で行うことができる。適切な装置は、例えば、プラウシェアミキサーもしくはプレート、サイクロン、または流動床乾燥機であり得る。
【0075】
使用される表面処理剤の量は、無機粒子の種類および施与する表面処理剤の種類に大きく依存する。しかし通常は、無機粒子の量に対して1重量%~15重量%、好ましくは2重量%~10重量%の表面処理剤が使用される。
【0076】
本発明による方法のステップ(ii)における無機粒子と少なくとも1つのフッ素化炭化水素との混合は、溶解機などの任意の適切な混合装置を使用して行うことができる。好ましくは、無機粒子と液体フッ素化化合物との混合物は、少なくとも10回転/分(rpm)の回転速度で、より好ましくは少なくとも100rpmの速度で撹拌される。好ましくは、ステップ(ii)は、周囲温度、例えば25℃で行われる。
【0077】
本発明の方法の任意のステップ(iii)において、方法のステップ(ii)で製造された得られた分散体は、高せん断エネルギー粉砕装置を使用して粉砕される。
【0078】
本発明による方法において使用される高せん断粉砕装置は、5μm未満の数平均粒子径d50、より好ましくは1μm未満のd50、より好ましくは800nm未満のd50を有する本発明の分散体を提供するのに十分なエネルギーを供給することができる。この粉砕プロセス中に、アグロメレートやアグリゲートなどの大きな粒子を小さな粒子に分解することができ、その結果、粒子径が全体的に低下する。好ましくは、分散体を伴って作動する粉砕装置は、粉砕中に約10-4cal/cm以上、より好ましくは10-4~10-3cal/cmのエネルギーを供給する。
【0079】
このような高せん断粉砕装置は、遊星式およびブレード式ミキサー、ホモジナイザー、ロータ・ステータ機器、メディアミル、ジェットミル、湿式ジェットミルから選択することができる。好ましくは、ステップ(iii)は、湿式ジェットミルを使用して行われる。この場合、粉砕チャンバ内の圧力は、好ましくは少なくとも500バール、より好ましくは少なくとも800バール、さらにより好ましくは1000バールである。
【0080】
本発明の方法のステップ(iii)は、不要である場合がある。
【0081】
液体分散体の使用
本発明はさらに、油潤滑剤の成分、例えば、トランスミッションフルード、エンジンオイル、ギアオイル、作動油、潤滑グリース、バッテリシステムまたは他の電気機器における伝熱流体の成分としての、本発明による液体分散体の使用を提供する。
【0082】
特に本発明は、油潤滑剤および/または伝熱流体の熱伝導率を向上させるための本発明の液体分散体の使用を提供する。
【0083】
本発明の液体分散体は、特に電気機器に用いられる、伝熱流体の成分であり得る。そのような伝熱流体、特に冷却液体は、高い比熱容量を有することが望ましく、特に高出力バッテリの熱管理システムでの使用に適していることが望ましい。本発明の分散体は、電気バッテリ、電気モータ、電気変圧器、電力変換器、電気コンデンサ、流体充填送電線、流体充填電力ケーブル、およびコンピュータなどの電気機器の伝熱流体に使用することができる。そのような伝熱流体の例は、国際公開第2013115925号および国際公開第2014106556号に記載されている。
【0084】
実験の部
測定方法
熱伝導率、熱拡散率、比熱
熱伝導率、熱拡散率および比熱を、ホットディスク法により、7577型の測定センサを備えたホットディスク熱分析装置TPS 3500(製造元Hot Disc AB)を用いて23℃で測定した。
【0085】
粘度
動的粘度を、レオメータMCR 301(製造元:Anton Paar)により測定した。
【0086】
粒子径
無機粒子の平均粒子径d50を、Zetasizer装置(製造元:Malvern Panalytical)を用いて動的光散乱法により測定した。
【0087】
表面処理済みのAlの製造
イソプロピルアルコール中のトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン(Dynasylan(登録商標)F8261、製造元:Evonik Resource Efficiency GmbH)の50重量%溶液を、周囲温度(23℃)で、噴霧装置を用いて、粉末形態の未処理のAEROXIDE(登録商標)Alu 65(親水性フュームドAl、BET=約65m/g、製造元:Evonik Resource Efficiency GmbH)に噴霧した。使用したシランの量は、使用したAl粉末の量に対して3重量%であった。表面処理済みのAlを空気循環式オーブンにて60℃で3時間乾燥させ、さらなる処理を行わずに分散体の製造に使用した。
【0088】
表面処理済みのAlNの製造
イソプロピルアルコール中のトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン(Dynasylan(登録商標)F8261、製造元:Evonik Resource Efficiency GmbH)の50重量%溶液を、周囲温度(23℃)で、噴霧装置を用いて、粉末形態の未処理の窒化アルミニウム(AlN、平均粒子径:80nm)に噴霧した。使用したシランの量は、使用したAlN粉末の量に対して3重量%であった。表面処理済みのAlNを空気循環式オーブンにて60℃で3時間乾燥させ、さらなる処理を行わずに分散体の製造に使用した。
【0089】
液体分散体の製造
分散体1(比較例)
表面処理されていないAlN粉末を、DISPERMAT(登録商標)溶解機(製造元:VMA-Getzmann GmbH)を用いて撹拌しながら、ハイドロフルオロエーテルC15OC(Novec(商標)7500、製造元:3M)と混合した。AlNの量は、使用したフッ素化液体の量に対して5重量%であった。次に、混合した液体を、湿式ジェットミルJN20(製造元:JOKOH)内で粉砕チャンバの圧力を1200バールにして粉砕した。粉砕後、この液体分散体を、相変化なく希釈することができる。この分散体は、25℃で少なくとも数週間保管しても安定していた。分散後に、粒子径分布、粘度、および熱伝導率を測定し、その結果を表1にまとめた。
【0090】
分散体2(本発明による)
製造した表面処理済みのAlN粉末を、DISPERMAT(登録商標)溶解機(製造元:VMA-Getzmann GmbH)を用いて撹拌しながら、ハイドロフルオロエーテルC15OC(Novec(商標)7500、製造元:3M)と混合した。AlNの量は、使用したフッ素化液体の量に対して5重量%であった。この分散体は低粘度であり、さらなる粉砕は不要であった。この分散体は、25℃で少なくとも数週間保存しても安定していた。得られた分散体の粒子径分布、粘度、および熱伝導率を測定し、その結果を表1にまとめた。
【0091】
分散体3(本発明による)
製造した表面処理済みのAl粉末を、DISPERMAT(登録商標)溶解機(製造元:VMA-Getzmann GmbH)を用いて撹拌しながら、ハイドロフルオロエーテルC15OC(Novec(商標)7500、製造元:3M)と混合した。表面処理済みのAlの量は、使用したフッ素化液体の量に対して5重量%であった。この分散体は低粘度であり、さらなる粉砕は不要であった。この分散体は、25℃で少なくとも数週間保存しても安定していた。得られた分散体の粒子径分布、粘度、および熱伝導率を測定し、その結果を表1にまとめた。
【0092】
表1から分かるように、熱伝導性フィラーとフッ素化液体C15OCとを含む液体分散体1~3は、純粋なフッ素化液体と比較して非常に高い熱伝導率を示す(すべての場合で50%超の増加)。そのような分散体の動的粘度は比較的低いままである。表面処理済みの無機粒子を使用することで(分散体2および3)、粒子とフッ素化液体との適合性を向上させることができる。したがって、低粘度の分散体1および2を得るために、高エネルギー粉砕は必要ない。
【0093】
【表1】
【国際調査報告】