(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(54)【発明の名称】酸化グラフェン繊維の製造方法および得られた繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 9/12 20060101AFI20220629BHJP
D01D 5/06 20060101ALI20220629BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20220629BHJP
【FI】
D01F9/12
D01D5/06 105Z
C01B32/198
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564184
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(85)【翻訳文提出日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 CN2020088500
(87)【国際公開番号】W WO2020221361
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】201910362369.X
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517359004
【氏名又は名称】青島大学
【氏名又は名称原語表記】QINGDAO UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】308 Ningxia Road, Shinan district, Qingdao, Shandong266073,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲スイ▼ 坤艷
(72)【発明者】
【氏名】夏 延致
(72)【発明者】
【氏名】潘 娜
(72)【発明者】
【氏名】林 敏
(72)【発明者】
【氏名】范 ▲ウェン▼▲シン▼
(72)【発明者】
【氏名】崔 慧琳
(72)【発明者】
【氏名】李 玉▲ユー▼
【テーマコード(参考)】
4G146
4L037
4L045
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB06
4G146AB07
4G146AC17B
4G146AD11
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4G146DA07
4L037CS04
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4L045AA02
4L045BA24
4L045BA27
4L045DA02
4L045DA32
4L045DA34
4L045DA36
4L045DC01
(57)【要約】
本発明は、酸化グラフェン繊維の製造方法および得られた繊維を開示する。ここで、湿式紡糸法により高分子電解質を紡糸原液に調製し、凝固浴として凝固槽内に酸化グラフェンを加え、紡糸原液を凝固浴中に注ぎ、拡散反応、巻き取り、洗浄、乾燥を実行して、前記酸化グラフェン繊維を得る。前記製造方法は、設備が簡単で、コストが低く、紡糸性が良く、大量生産に適切であり、同時に、製造された繊維は、多層繊維壁を有し、同時に、前記繊維は、良好な引張強度と超高比表面積を有し、触媒、吸着、柔軟性センサー、断熱材および組織工学の分野で幅広い応用を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェン繊維の製造方法であって、
前記方法は、
高分子電解質を水に加えて、紡糸原液を得る段階1と、
酸化グラフェンを水に加え、選択的に攪拌および/または超音波を実行して、凝固浴を得る段階2と、
段階1で得られた紡糸原液を段階2で得られた凝固浴中に注ぎ、巻き取り、洗浄および乾燥処理を実行して、前記酸化グラフェン繊維を得る段階3とを含むことを特徴とする、酸化グラフェン繊維の製造方法。
【請求項2】
段階1において、前記高分子電解質は、正に帯電した高分子電解質であり、好ましくは、キトサンオリゴ糖、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリメタクリル酸-N,N-ジメチルアミノエチル(PDMAEMA)のうちの一つまたは複数から選択されることを特徴とする
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
段階1において、前記高分子電解質の分子量は、2000~10000Daであり、好ましくは、2000~6000Daであることを特徴とする
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
段階1において、前記紡糸原液において、高分子電解質の質量パーセント濃度は、5~60%であり、好ましくは、5~40%であり、より好ましくは、5~20%または5~10%であることを特徴とする
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
段階2において、前記凝固浴において、酸化グラフェンの質量パーセント濃度は、0.2~1%であり、好ましくは、0.2~0.5%であることを特徴とする
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
段階1において、紡糸原液を得た後、そのpHを2~6に選択的に調整し、好ましくは、そのpHを3.5~5に選択的に調整することを特徴とする
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
段階3において、繊維を得た後、それを多価陽イオン塩溶液中に選択的に浸漬することを特徴とする
請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記多価陽イオン塩溶液の濃度は、1~10%であり、好ましくは、3~8%または5%であることを特徴とする
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
酸化グラフェン繊維であって、
好ましくは、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法によって得られ、好ましくは、前記酸化グラフェン繊維は、中空構造を示し、より好ましくは、繊維壁は、単層または多層であり、最も好ましくは、多層繊維壁を有することを特徴とする、酸化グラフェン繊維。
【請求項10】
酸化グラフェン繊維であって、
前記酸化グラフェン繊維は、中空構造を示し、かつ単層または多層の繊維壁を有し、前記酸化グラフェン繊維の構成成分は、酸化グラフェンと高分子電解質とを含むことを特徴とする、酸化グラフェン繊維。
【請求項11】
前記高分子電解質は、正に帯電した高分子電解質であり、好ましくは、キトサンオリゴ糖、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリメタクリル酸-N,N-ジメチルアミノエチルから選択されることを特徴とする
請求項10に記載の酸化グラフェン繊維。
【請求項12】
前記酸化グラフェン繊維の繊維壁は、多層であることを特徴とする
請求項10に記載の酸化グラフェン繊維。
【請求項13】
前記酸化グラフェン繊維において、酸化グラフェンと高分子電解質とは、静電を介して錯化されることを特徴とする
請求項10に記載の酸化グラフェン繊維。
【請求項14】
前記酸化グラフェン繊維は、多層繊維壁であり、内側から外側に向かって、各層の繊維壁の孔径が徐々に大きくなり、勾配構造を示すことを特徴とする
請求項10に記載の酸化グラフェン繊維。
【請求項15】
製品であって、
前記製品は、請求項10に記載の酸化グラフェン繊維を含むか、または請求項10に記載の酸化グラフェン繊維から製造されることを特徴とする、製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェン繊維に関し、具体的には、酸化グラフェン繊維の製造に関し、特に、多層繊維壁を有する酸化グラフェン繊維の製造方法および得られた繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界には層状構造が豊富にあり、分子断片間の様々な弱い相互作用により、様々な生物が自発的に組み合わせて蓄積し、多層空間構造を形成し、最終的に、貝殻や樹木輪等の生物学的機能が繰り返しの多い多層パターンに配置されることを実現する。自然に啓発されて、科学者は、多層構造材料の詳細なバイオニック設計と製造およびその理論的研究を実施した。
【0003】
多層構造材料の製造は、現在主にLBL法に基づき、LBLは、元々高分子電解質の陰イオンと陽イオンとの間の静電錯化作用に基づいて、多層の薄膜材料を層ごとに交互に構築し、その後、水素結合、電荷移動、分子認識等の弱い力にまで拡大した。
【0004】
多層構造材料の製造も、マイクロ流体技術によって達成できる。熱伝達が速いため、反応温度や有効反応時間等の反応条件を正確に制御でき、マイクロ流体により、多層および複雑な構造の繊維の構築を実現できる。
【0005】
グラフェンは、炭素原子のsp2混成方法によって結合して形成された単一原子層の厚さを有する2次元ナノウォーター炭素材料であり、優れた力学、電気学、熱学、磁気学等の性能を有し、現在の研究のホットスポットと焦点となっている。グラフェン繊維は、1次元の限られた空間にグラフェンナノシートを組み合わせたもので、ナノウォータースケールでのグラフェンの優れた特性をマクロスケールに継承し、グラフェンの応用分野を大幅に拡大し、グラフェンを用いて多層繊維を製造することで機能性多層繊維を得ることができる。
【0006】
しかしながら、マイクロ流体によって構築された多層構造繊維は、パーティション繊維としか呼ばれず、そのサイズは、マイクロナノスケールに制限され、繊維の直径は、100~200μmであり、長さは、数メートル以内であり、層数は、最大3層であり、層と層との間に間隔がないため、マクロスケールの意味での多層構造繊維の製造は、まだ達成することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題を克服するために、本発明者らは、集中的な研究を行って、製造コストが低く、大量生産に適した、単純なプロセスおよび環境保護を備えた多層構造の酸化グラフェン繊維の製造方法を提供し、同時に、得られた酸化グラフェン繊維の繊維壁は、単層または多層であり、それにより本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、酸化グラフェン繊維の製造方法を提供し、具体的には以下のいくつかの態様で具体化される。
(1)酸化グラフェン繊維の製造方法であって、前記方法は、
高分子電解質を水に加えて、紡糸原液を得る段階1と、
酸化グラフェンを水に加え、選択的に攪拌および/または超音波を実行して、凝固浴を得る段階2と、
段階1で得られた紡糸原液を段階2で得られた凝固浴中に注ぎ、巻き取り、洗浄および乾燥処理を実行して、前記酸化グラフェン繊維を得る段階3とを含む、前記酸化グラフェン繊維の製造方法。
【0009】
(2)段階1において、前記高分子電解質は、正に帯電した高分子電解質であり、好ましくは、キトサンオリゴ糖、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリメタクリル酸-N,N-ジメチルアミノエチル(PDMAEMA)のうちの一つまたは複数から選択され、例えば、キトサンオリゴ糖である、前記(1)に記載の製造方法。
【0010】
(3)段階1において、前記高分子電解質の分子量は、2000~10000Daであり、好ましくは、2000~6000Daである、前記(1)または(2)に記載の製造方法。
【0011】
(4)段階1において、前記紡糸原液において、紡糸原液の総質量に基づいて計算して、高分子電解質の質量パーセント濃度は、5~60%であり、好ましくは、5~40%であり、より好ましくは、5~20%であり、例えば、5~10%である、前記(1)~(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
【0012】
(5)ここで、段階2において、前記凝固浴において、凝固浴の総質量に基づいて計算して、酸化グラフェンの質量パーセント濃度は、0.2~1%であり、好ましくは、0.2~0.5%である、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の製造方法。
【0013】
(6)段階1において、紡糸原液を得た後、そのpHを2~6に選択的に調整し、好ましくは、そのpHを3.5~5に選択的に調整する、前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の製造方法。
【0014】
(7)段階3において、繊維を得た後、それを多価陽イオン塩溶液中に選択的に浸漬する、前記(1)~(6)のいずれか1項に記載の製造方法。
【0015】
(8)多価陽イオン塩溶液の総質量に基づいて計算して、前記多価陽イオン塩溶液の濃度は、1~10%であり、好ましくは、3~8%であり、例えば、5%である、前記(1)~(7)のいずれか1項に記載の製造方法。
【0016】
本発明の第2の態様は、酸化グラフェン繊維を提供し、好ましくは、前記(1)~(8)のいずれか1項に記載の製造方法によって得られ、好ましくは、前記酸化グラフェン繊維は、中空構造を示し、より好ましくは、繊維壁は、単層または多層であり、例えば、多層繊維壁を有する。
【0017】
本発明で提供される酸化グラフェン繊維は、中空構造を示し、かつ単層または多層の繊維壁を有し、前記酸化グラフェン繊維の構成成分は、酸化グラフェンと高分子電解質とを含む。
【0018】
別の好ましい例において、前記高分子電解質は、正に帯電した高分子電解質であり、好ましくは、キトサンオリゴ糖、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリメタクリル酸-N,N-ジメチルアミノエチルから選択される。
【0019】
別の好ましい例において、前記酸化グラフェン繊維の繊維壁は、多層である。
【0020】
別の好ましい例において、前記酸化グラフェン繊維において、酸化グラフェンと高分子電解質とは、静電作用により錯化される。
【0021】
別の好ましい例において、前記酸化グラフェン繊維は、多層繊維壁であり、内側から外側に向かって、各層の繊維壁(またはカプセル壁)の孔径が徐々に大きくなり、勾配構造を示す。
【0022】
本発明の第3の態様は、製品を提供し、前記製品は、本発明の第2の態様に記載の酸化グラフェン繊維を含むか、または本発明の第2の態様に記載の酸化グラフェン繊維から製造される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の範囲内で、本発明の上記の各技術的特徴と以下(例えば、実施例)に具体的に説明される各技術的特徴との間を、互いに組み合わせることにより、新しいまたは好ましい技術的解決策を構成することができることに理解されたい。スペースに限りがあるため、ここでは繰り返さない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1の製造された酸化グラフェン繊維のマクロ写真を示す。
【
図2】実施例1の製造された酸化グラフェン繊維の電子顕微鏡写真の一つである(主に層状構造を示す)。
【
図3】酸化グラフェン(GO)、キトサンオリゴ糖(CS)および実施例1(GO/CS)で得られた繊維のXRDグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施例および実験例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの説明を通じて、本発明の特徴および利点は、より明確になるであろう。
【0026】
本発明の一態様は、酸化グラフェン繊維の製造方法を提供し、ここで、前記方法は、
高分子電解質を水に加えて、紡糸原液を得る段階1と、
酸化グラフェンを水に加え、選択的に攪拌および/または超音波を実行して、凝固浴を得る段階2と、
段階1で得られた紡糸原液を段階2で得られた凝固浴中に注ぎ、巻き取り、洗浄および乾燥処理を実行して、前記酸化グラフェン繊維を得る段階3とを含む。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記高分子電解質は、正に帯電した高分子電解質である。
このようにして、高分子電解質と酸化グラフェン(それぞれ反対される正電荷と負電荷を有する)との間の静電作用を使用して、両者を錯化させ、高分子電解質錯化膜を形成することができ、次に、浸透圧の駆動作用下で、高分子電解質は、自発的に錯化膜を通過し、酸化グラフェンの方向に向かって拡散し続け、再び酸化グラフェンと新しい錯化膜を錯化する。溶液は、上記の錯化-拡散-再錯化のプロセスを自発的に連続的に繰り返し、単層または多層構造を有する繊維を制御することができる。
【0028】
さらに好ましい実施形態において、前記高分子電解質は、キトサンオリゴ糖、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリメタクリル酸-N,N-ジメチルアミノエチルのうちの一つまたは複数から選択され、例えば、キトサンオリゴ糖である。
【0029】
本発明において、得られた多層構造を有する繊維は、吸着、ろ過および組織工学の分野で幅広い応用を有する。
【0030】
その原因は、次のとおりである。(1)高分子電解質と酸化グラフェンとは、それぞれ正電荷と負電荷とを有し、両者が錯化反応を形成しても、分子鎖には、反応に関与しない電荷を有する官能基がまだあり、有機染料と反応できる潜在的な結合部位になり、従って、これらの結合部位は、正または負に帯電したイオン性染料と静電的に相互作用して、吸着を実現することができる。(2)製造された繊維がろ過性能を有する理由は、繊維自体が多層構造であり、各層の孔径の大きさが異なり、内側から外側に向かって勾配構造を示すため、繊維は、表層から内層まで様々な粒子サイズに従って徐々に層状にろ過することにより、使用要件を満たし、流体中の混合ダストは、表層からフィルター材料に入り、大きい粒子サイズの粒子は、表層によって遮断され、中程度の粒子サイズの粒子は、中央に吸着され、細かい粒子サイズの粒子は、内層によってブロックされる。(3)電気学の分野への繊維の応用は、酸化グラフェンの還元後に得られたグラフェンが良好な導電性を有するためである。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によれば、段階1において、前記高分子電解質の分子量は、2000~10000Daである。
【0032】
さらに好ましい実施形態において、段階1において、前記高分子電解質の分子量は、2000~6000Daである。
【0033】
ここで、高分子電解質の数平均分子量が2000Da未満の場合、酸化グラフェンと錯化反応を起こすと、高分子電解質と酸化グラフェンとの間の結合部位が少ないため、絡み合いが足りなくて、膜形成を支持して繊維を形成するのに十分ではなく、最終的には複合物沈殿粒子を形成する。同時に、前記高分子電解質の数平均分子量が10000Daを超える場合、高分子電解質と酸化グラフェンとが静電錯化反応によって形成される複合層の構造は、緊密であり、高分子電解質は、通過できず、拡散プロセスがブロックされ、最後に中空構造を形成できない。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、段階1において、前記紡糸原液において、紡糸原液の総質量に基づいて計算して、高分子電解質の質量パーセント濃度は、5~60%である。
【0035】
さらに好ましい実施形態において、段階1において、前記紡糸原液において、紡糸原液の総質量に基づいて計算して、高分子電解質の質量パーセント濃度は、5~40%である。
【0036】
さらに好ましい実施形態において、段階1において、前記紡糸原液において、紡糸原液の総質量に基づいて計算して、高分子電解質の質量パーセント濃度は、5~20%であり、例えば、5~10%である。
【0037】
ここで、発明者らは、多数の実験を通じて、紡糸原液中の高分子電解質の濃度が得られた酸化グラフェン繊維の層の数に重要な影響を与えることを発見し、具体的には、紡糸原液中の高分子電解質の濃度を増加させると、繊維が単層から多層に変化することができ、濃度が増加するにつれて多層繊維の層の数が増加し、このようにして、本発明の前記方法を用いて、層の数が制御できる多層中空繊維を得ることができ、即ち、n層の中空繊維を得ることができ、ここで、nは、≧2の正整数であり、好ましくは、n≧4の正整数であり、より好ましくは、≧6の正整数であり、例えば、2~20であり、好ましくは、4~20である。
【0038】
本発明の好ましい実施形態によれば、段階2において、前記凝固浴において、凝固浴の総質量に基づいて計算して、酸化グラフェンの質量パーセント濃度は、0.2~1%である。
【0039】
さらに好ましい実施形態において、段階2において、前記凝固浴において、凝固浴の総質量に基づいて計算して、酸化グラフェンの質量パーセント濃度は、0.2~0.5%である。
【0040】
ここで、高分子電解質を高濃度(5~60%)で制御し、酸化グラフェンを比較的に低濃度(0.2~1%)で制御し、このようにして、両者は、イオン濃度の違いにより浸透圧を形成し、浸透圧下で高分子電解質は、酸化グラフェンに拡散し、静電作用により結合して、繊維を得る。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によれば、段階1において、紡糸原液のpHを選択的に2~6に調整する。
【0042】
ここで、高分子電解質は、一定の酸性度係数pKaを有するため、反応系のpHを調節することにより、電荷密度を変更することができ、従って、高分子電解質と酸化グラフェンとの間の静電錯化程度に影響する。具体的には、酸性度係数pKaから離れるほど、電荷密度が大きくなり、高分子電解質と酸化グラフェンとの間の結合力が強くなり、得られた錯化膜の構造が緊密になり、逆に、酸性度係数pKaに近いほど、電荷密度が低くなり、高分子電解質と酸化グラフェンとの間の結合力が弱くなり、得られた錯化膜の構造が緩くなる。
【0043】
さらに好ましい実施形態において、段階1において、紡糸原液のpHを選択的に3.5~5に調整する。
【0044】
従って、酸性pH環境下で、より緩いカプセル壁を有する多層繊維が得られ、従って、より優れた吸着性能を繊維に与える。
【0045】
本発明の好ましい実施形態によれば、段階3において、繊維を得た後、それを塩化カルシウム等の多価陽イオン塩溶液中に選択的に浸漬する。
【0046】
ここで、多価陽イオン塩中に浸漬した後、陽イオン塩と分子鎖との間に架橋が発生して、繊維の架橋密度および機械的強度を変化させることができる。
【0047】
さらに好ましい実施形態において、前記多価陽イオン塩溶液の濃度は、1~10%であり、好ましくは、3~8%であり、例えば、5%である。
【0048】
本発明の別の態様は、第1の態様に記載の方法によって得られた酸化グラフェン繊維を提供する。
【0049】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記酸化グラフェン繊維は、中空構造を示す。
【0050】
さらに好ましい実施形態において、繊維壁は、単層または多層であり、例えば、多層繊維壁であり、好ましくは、各層は、多孔質状を示す。
このようにして、中空の多層酸化グラフェン繊維が得られる。
【0051】
さらに好ましい実施形態において、多層構造である場合、各層の孔径の大きさが異なり、好ましくは、内側から外側に向かって、各層のカプセル壁の孔径が徐々に大きくなり、勾配構造を示す。
【0052】
このようにして、繊維は、表層から内層まで様々な粒子サイズに従って徐々に層状にろ過することにより、使用要件を満たし、流体中の混合ダストは、表層からフィルター材料に入り、大きい粒子サイズの粒子は、表層によって遮断され、中程度の粒子サイズの粒子は、中央に吸着され、細かい粒子サイズの粒子は、内層によってブロックされる。
【0053】
さらに、前記繊維は、良好な引張強度と超高比表面積を有し、触媒、吸着、柔軟性センサー、断熱材和組織工学の分野で幅広い応用を有する。
【0054】
本発明は、有益な効果を含む。
(1)本発明に記載の製造方法は、単純であり、常温および常圧下で繊維の製造を完了することができ、製造プロセスにおいて、常温および常圧下で実施され、プロセスパラメータは、容易に制御することができ、より高い生産小売りを有する。
(2)本発明に記載の製造方法によって単層構造または数層構造の繊維を製造することができ、さらに重要なことは、繊維の孔径勾配および層数は、必要に応じて任意に調節および制御することができる。
(3)本発明に記載の製造方法によって得られた繊維は、良好な引張強度、超高比表面積を有し、触媒、吸着、ろ過および電気学の分野で幅広い応用を有する。
【0055】
実施例
以下、本発明は、具体的な実施例と併せてさらに説明される。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。以下の実施例において、具体的条件を示さない実験方法は、通常従来の条件または製造業者によって提案された条件に従う。特に明記されない限り、パーセンテージと部数とは、重量パーセンテージと重量部数とで計算される。
【0056】
実施例1
20:1の質量比に従って、それぞれ分子量が2000Daであるキトサンオリゴ糖、酸化グラフェンを秤量し、準備する。
秤量されたキトサンオリゴ糖を脱イオン水で溶解し、質量パーセント濃度が10%である紡糸原液(即ち、キトサンオリゴ糖の質量パーセント濃度は、10%である)を得る。
秤量された酸化グラフェンを水に加え、磁気的に攪拌し、超音波で質量パーセント濃度が0.5%である凝固浴を調製する。
紡糸原液を注射器で凝固浴中に注ぎ、拡散反応を行った後、巻き取り、洗浄、乾燥により、前記酸化グラフェン繊維を得る。
ここで、実施例1で得られた繊維のマクロ図は、
図1に示され、直径は、約1.5~3.5mmであり、平均直径は、約2.5mmである。
同時に、得られた繊維に走査電子顕微鏡検出を行い、結果は、
図2に示され、繊維壁が多層構造であることが分かる。
ここで、繊維の各層の繊維壁を拡大した後、明確な細孔のような構造が見られ、各層の孔径の大きさが異なり、好ましくは、内側から外側に向かって、各層のカプセル壁の孔径が徐々に大きくなり、勾配構造を示す。
【0057】
実施例2
実施例1のプロセスを繰り返し、違いは、キトサンオリゴ糖の濃度が20%であることである。
得られた繊維を電子顕微鏡で検出したところ、繊維が中空多層の多層構造であることが分かった。
【0058】
実施例3
実施例1のプロセスを繰り返し、違いは、キトサンオリゴ糖の濃度が30%であることである。
得られた中空多層繊維を電子顕微鏡で検出したところ、繊維が中空の多層構造であることが分かった。
【0059】
実施例4
実施例1のプロセスを繰り返し、違いは、キトサンオリゴ糖の分子量が3000Daであり、得られた中空多層腔繊維を電子顕微鏡で検出したところ、繊維が中空の多層構造であることが分かった。
【0060】
比較例
比較例1
実施例1のプロセスを繰り返し、違いは、凝固浴中の酸化グラフェンの質量パーセント濃度が非常に低く、わずか0.05%であることである。
結果によると、酸化グラフェン濃度が非常に低い場合、沈殿物が形成されることが分かった。キトサンオリゴ糖と酸化グラフェンとの間の絡み合いが不十分で、結合部位が不十分であるため、沈殿物のみが形成され、膜を支持するには不十分である。
【0061】
実験例
実験例1.XRD検出
実施例1で得られた繊維についてXRD検出を行い、結果を
図3に示す。
図3には、酸化グラフェン(GO)、キトサンオリゴ糖(CS)および実施例で得られた繊維(GO/CS)のXRD曲線が含まれる。
図3から、得られた繊維(GO/CS)において、酸化グラフェンに属する2θ=10.57°の吸収ピークが消失し、対応的に、繊維中のGOの特徴的なピーク値が2θ=7.9°に現れることが分かる。ブラッグ方程式の計算によると、GOの層間間隔は、8.4オングストロームから8.72オングストロームに増加し、この結果は、繊維において、キトサンオリゴ糖が酸化グラフェン(GO)のシート中に挿入されることを示す。
【0062】
以上、好ましい実施形態および例示的な例を組み合わせて、本発明を詳細に説明した。しかしながら、これらの具体的な実施形態は、本発明の例示的な解釈にすぎず、本発明の保護範囲に対するいかなる制限も構成しないことを述べる必要がある。本発明の精神および保護範囲を超えることなく、本発明の技術的内容およびその実施形態に対して、様々な改善、同等の置換または修飾を行うことができ、これらは、すべて本発明の保護範囲に含まれる。本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲に従う。
【国際調査報告】