(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(54)【発明の名称】神経変性障害を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/715 20060101AFI20220629BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220629BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220629BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220629BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220629BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220629BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20220629BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220629BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220629BHJP
C12N 15/85 20060101ALN20220629BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20220629BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220629BHJP
【FI】
A61K31/715
A61P25/28 ZNA
A61P25/00
A61P25/16
A61K31/7088
A61K35/76
A61K47/61
A61K48/00
C12N15/12
C12N15/85 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564246
(86)(22)【出願日】2020-04-29
(85)【翻訳文提出日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 US2020030409
(87)【国際公開番号】W WO2020223310
(87)【国際公開日】2020-11-05
(32)【優先日】2019-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516241599
【氏名又は名称】トーマス・ジェファーソン・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー ジェイ エス.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB21
4C076BB25
4C076CC01
4C076CC41
4C084AA13
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4C086EA20
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4C086ZC75
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4C087CA12
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA15
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、または純粋自律神経不全症の治療を必要とする対象においてそれを治療する方法に関する。レビー小体型認知症、多系統萎縮症、または純粋自律神経不全症を治療するための組成物も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レビー小体型認知症の治療を必要とする対象においてレビー小体型認知症を治療する方法であって、
GM1またはその誘導体を含む組成物を対象に投与する工程
を含む、方法。
【請求項2】
GM1またはその誘導体が、注射によって、経口的に、または鼻腔内に、投与される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
注射が腹腔内である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
GM1またはその誘導体が、コンジュゲートされているまたは操作されている、請求項1記載の方法。
【請求項5】
組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
GM1またはその誘導体が、ナノ粒子またはエキソソーム中で投与される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
GM1を含む組成物が、レビー小体型認知症が進行した後に対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
GM1を含む組成物が、レビー小体型認知症の初期段階で対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
多系統萎縮症の治療を必要とする対象において多系統萎縮症を治療する方法であって、
GM1またはその誘導体を含む組成物を対象に投与する工程
を含む、方法。
【請求項10】
GM1またはその誘導体が、注射によって、経口的に、または鼻腔内に、投与される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
注射が腹腔内である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
GM1またはその誘導体が、コンジュゲートされているまたは操作されている、請求項9記載の方法。
【請求項13】
GM1またはその誘導体が、ナノ粒子またはエキソソーム中で投与される、請求項9記載の方法。
【請求項14】
組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項15】
GM1を含む組成物が、多系統萎縮症が進行した後に対象に投与される、請求項9記載の方法。
【請求項16】
GM1を含む組成物が、多系統萎縮症の初期段階で対象に投与される、請求項9記載の方法。
【請求項17】
純粋自律神経不全症の治療を必要とする対象において純粋自律神経不全症を治療する方法であって、
GM1またはその誘導体を含む組成物を対象に投与する工程
を含む、方法。
【請求項18】
GM1またはその誘導体が、注射によって、経口的に、または鼻腔内に、投与される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
注射が腹腔内である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
GM1またはその誘導体が、コンジュゲートされているまたは操作されている、請求項17記載の方法。
【請求項21】
GM1またはその誘導体が、ナノ粒子またはエキソソーム中で投与される、請求項17記載の方法。
【請求項22】
組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項23】
GM1を含む組成物が、純粋自律神経不全症が進行した後に対象に投与される、請求項17記載の方法。
【請求項24】
GM1を含む組成物が、自律神経不全症の初期段階で対象に投与される、請求項17記載の方法。
【請求項25】
疾患または障害の治療を必要とする対象において疾患または障害を治療する方法であって、
該疾患または障害が、シヌクレイン遺伝子変異を有する遺伝型のパーキンソン病、脳内の異常なαシヌクレイン沈着に関連するリソソーム蓄積障害、サンフィリッポ症候群および関連するムコ多糖症、異常なシヌクレイン蓄積を伴うGlcCerase(GBA)変異からなる群より選択され、
GM1またはその誘導体を含む組成物を対象に投与する工程
を含む、方法。
【請求項26】
GM1またはその誘導体が、注射によって、経口的に、または鼻腔内に、投与される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
注射が腹腔内である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
GM1またはその誘導体が、コンジュゲートされているまたは操作されている、請求項25記載の方法。
【請求項29】
GM1またはその誘導体が、ナノ粒子またはエキソソーム中で投与される、請求項25記載の方法。
【請求項30】
組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項31】
GM1を含む組成物が、前記疾患または障害が進行した後に対象に投与される、請求項25記載の方法。
【請求項32】
GM1を含む組成物が、前記疾患または障害の初期段階で対象に投与される、請求項25記載の方法。
【請求項33】
GM1が合成である、請求項1~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
GM1がブタまたはヒツジGM1である、請求項1~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
GM1がブタ脳またはヒツジ脳に由来する、請求項1~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
疾患または障害の治療を必要とする対象において疾患または障害を治療する方法であって、
該疾患または障害が、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、純粋自律神経不全症、シヌクレイン遺伝子変異を有する遺伝型のパーキンソン病、脳内の異常なαシヌクレイン沈着に関連するリソソーム蓄積障害、サンフィリッポ症候群および関連するムコ多糖症、異常なシヌクレイン蓄積を伴うGlcCerase(GBA)変異からなる群より選択され、
シアリダーゼNeu3をコードする核酸を対象に投与する工程
を含む、方法。
【請求項37】
核酸が、操作されたウイルス、プラスミドまたは非ウイルスベクターに含まれる、請求項36記載の方法。
【請求項38】
操作されたウイルスがアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
シアリダーゼNeu3の発現がニューロン特異的プロモータの制御下にある、請求項36記載の方法。
【請求項40】
核酸が、SEQ ID NO:2と、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるヌクレオチド配列を含む、請求項36記載の方法。
【請求項41】
操作されたウイルスが頭蓋内定位注射によって対象に投与される、請求項37記載の方法。
【請求項42】
核酸が、ナノ粒子またはエキソソーム中で投与される、請求項36記載の方法。
【請求項43】
核酸が、前記疾患または障害が進行した後に対象に投与される、請求項36記載の方法。
【請求項44】
核酸が、前記疾患または障害の初期段階で対象に投与される、請求項36記載の方法。
【請求項45】
疾患または障害の治療を必要とする対象において疾患または障害を治療する方法であって、
該疾患または障害が、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、純粋自律神経不全症、シヌクレイン遺伝子変異を有する遺伝型のパーキンソン病、脳内の異常なαシヌクレイン沈着に関連するリソソーム蓄積障害、サンフィリッポ症候群および関連するムコ多糖症、異常なシヌクレイン蓄積を伴うGlcCerase(GBA)変異からなる群より選択され、
B3GalT4をコードする核酸を対象に投与する工程
を含む、方法。
【請求項46】
核酸が、操作されたウイルス、プラスミドまたは非ウイルスベクターに含まれる、請求項45記載の方法。
【請求項47】
操作されたウイルスがアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項46記載の方法。
【請求項48】
B3GalT4の発現があるいはニューロン特異的プロモータの制御下にある、請求項45記載の方法。
【請求項49】
核酸が、SEQ ID NO:1と、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるヌクレオチド配列を含む、請求項45記載の方法。
【請求項50】
操作されたウイルスが頭蓋内定位注射によって対象に投与される、請求項45記載の方法。
【請求項51】
核酸が、ナノ粒子またはエキソソーム中で投与される、請求項45記載の方法。
【請求項52】
核酸が、前記疾患または障害が進行した後に対象に投与される、請求項45記載の方法。
【請求項53】
核酸が、前記疾患または障害の初期段階で対象に投与される、請求項45記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、2019年4月29日に出願された米国仮特許出願第62/840,235号に対する35 U.S.C.§119(e)の下での優先権を主張する権利を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
パーキンソン病(PD)は、黒質緻密部(SNc)のドーパミン(DA)産生ニューロンの喪失、主に尾状核および被殻のDAレベルの低下、不溶性α-シヌクレイン凝集体(すなわち、レビー小体およびレビー神経突起)の蓄積、ならびに臨床症状の緩やかに進行する悪化を特徴とする神経変性障害である。PDに対する現在の薬物療法は、疾患の運動徴候および症状の多くを改善するが、PDの進行を決定的に遅らせるまたは停止させる薬物はまだ同定されていない。臨床的進行を変えることができる疾患修飾療法が切実に必要とされているが、そのような療法を見出す試みは、疾患修飾療法によって標的とされるべきPDにおけるDAニューロン変性に寄与する病原性プロセスに関する不確実性のために部分的に制限されてきた。パーキンソン病は、異常なα-シヌクレイン代謝、蓄積、および凝集を特徴とする、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、および他のよりまれな疾患を含むいくつかの神経変性疾患のうちの1つである。
【0003】
PD、レビー小体型認知症、多系統萎縮症および純粋自律神経不全症などの神経変性障害のための疾患修飾療法が依然として必要とされている。本出願は、この必要性に対処する。
【発明の概要】
【0004】
本明細書に記載されるように、本発明は、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、または純粋自律神経不全症を含むシヌクレイノパチーを治療するための組成物および方法に関する。
【0005】
一局面では、本発明は、レビー小体型認知症の治療を必要とする対象においてレビー小体型認知症を治療する方法を含む。本方法は、GM1またはその誘導体を含む組成物を対象に投与する工程を含む。
【0006】
別の局面では、本発明は、多系統萎縮症の治療を必要とする対象において多系統萎縮症を治療する方法を含む。本方法は、GM1またはその誘導体を含む組成物を対象に投与する工程を含む。
【0007】
別の局面では、本発明は、純粋自律神経不全症の治療を必要とする対象において純粋自律神経不全症を治療する方法を含む。本方法は、GM1またはその誘導体を含む組成物を対象に投与する工程を含む。
【0008】
別の局面では、本発明は、疾患または障害の治療を必要とする対象において疾患または障害を治療する方法を含み、疾患または障害は、シヌクレイン遺伝子変異を有する遺伝型のパーキンソン病、脳内の異常なαシヌクレイン沈着に関連するリソソーム蓄積障害、サンフィリッポ症候群および関連するムコ多糖症、異常なシヌクレイン蓄積を伴うGlcCerase(GBA)変異からなる群より選択される。本方法は、GM1またはその誘導体を含む組成物を対象に投与する工程を含む。
【0009】
上記の局面または本明細書に描出される本発明の任意の他の局面の様々な態様では、GM1またはその誘導体は、注射によって、経口的に、または鼻腔内に、投与される。特定の態様では、注射は腹腔内である。
【0010】
特定の態様では、GM1またはその誘導体は、コンジュゲートされているまたは操作されている。
【0011】
特定の態様では、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0012】
特定の態様では、GM1またはその誘導体は、ナノ粒子またはエキソソーム中で投与される。
【0013】
特定の態様では、GM1を含む組成物は、レビー小体型認知症が進行した後に対象に投与される。特定の態様では、GM1を含む組成物は、レビー小体型認知症の初期段階で対象に投与される。
【0014】
特定の態様では、GM1を含む組成物は、多系統萎縮症が進行した後に対象に投与される。特定の態様では、GM1を含む組成物は、多系統萎縮症の初期段階で対象に投与される。
【0015】
特定の態様では、GM1を含む組成物は、純粋自律神経不全症が進行した後に対象に投与される。特定の態様では、GM1を含む組成物は、自律神経不全症の初期段階で対象に投与される。
【0016】
特定の態様では、GM1を含む組成物は、疾患または障害が進行した後に対象に投与される。特定の態様では、GM1を含む組成物は、疾患または障害の初期段階で対象に投与される。
【0017】
特定の態様では、GM1は合成である。特定の態様では、GM1は、ブタまたはヒツジGM1である。特定の態様では、GM1は、ブタ脳またはヒツジ脳に由来する。
【0018】
別の局面では、本発明は、疾患または障害の治療を必要とする対象において疾患または障害を治療する方法を含み、疾患または障害は、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、純粋自律神経不全症、シヌクレイン遺伝子変異を有する遺伝型のパーキンソン病、脳内の異常なαシヌクレイン沈着に関連するリソソーム蓄積障害、サンフィリッポ症候群および関連するムコ多糖症、異常なシヌクレイン蓄積を伴うGlcCerase(GBA)変異からなる群より選択される。本方法は、シアリダーゼNeu3をコードする核酸を対象に投与する工程を含む。
【0019】
別の局面では、本発明は、疾患または障害の治療を必要とする対象において疾患または障害を治療する方法を含み、疾患または障害は、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、純粋自律神経不全症、シヌクレイン遺伝子変異を有する遺伝型のパーキンソン病、脳内の異常なαシヌクレイン沈着に関連するリソソーム蓄積障害、サンフィリッポ症候群および関連するムコ多糖症、異常なシヌクレイン蓄積を伴うGlcCerase(GBA)変異からなる群より選択される。本方法は、B3GalT4をコードする核酸を対象に投与する工程を含む。
【0020】
上記の局面または本明細書に描出される本発明の任意の他の局面の様々な態様では、核酸は、操作されたウイルス、プラスミドまたは非ウイルスベクターに含まれる。特定の態様では、操作されたウイルスはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0021】
特定の態様では、シアリダーゼNeu3の発現は、ニューロン特異的プロモータの制御下にある。特定の態様では、B3GalT4の発現は、ニューロン特異的プロモータの制御下にある。
【0022】
特定の態様では、核酸は、SEQ ID NO:2と、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるヌクレオチド配列を含む。特定の態様では、核酸は、SEQ ID NO:1と、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるヌクレオチド配列を含む。
【0023】
特定の態様では、操作されたウイルスは、頭蓋内定位注射によって対象に投与される。
【0024】
特定の態様では、核酸は、ナノ粒子またはエキソソーム中で投与される。
【0025】
特定の態様では、核酸は、疾患または障害が進行した後に対象に投与される。特定の態様では、核酸は、疾患または障害の初期段階で対象に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明の好ましい態様の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むとよりよく理解されるであろう。本発明を例示する目的で、現在好ましい態様が図面に示されている。しかしながら、本発明は、図面に示された態様の正確な配置および手段に限定されるわけではないことが理解されるべきである。
【0027】
【
図1A】
図1A~1Cは、自発的前肢使用および線条体ドーパミンレベルに対する早期開始GM1投与(AAV-A53T α-シヌクレイン注射の24時間後に開始)の保護効果を示す。
図1Aは、AAV-A53T α-シヌクレイン注射後3週間目に、生理食塩水処置動物(N=15)が注射と同側の肢の使用を優先し、この応答がウイルス注射後6週間目に引き続き観察されたことを示す。AAV-A53T α-シヌクレイン注射の24時間後にGM1投与を開始した動物(N=21)では、やはり注射と同側の肢の使用が注射後3週間目に優先されたが、GM1の使用を継続すると、この応答はウイルス注射後6週間で減少した。****ベースライン(Bx)に対してP<0.0001;***P=0.0005;^^^Bxに対してP=0.0003;^^3週間目に対してP=0.0055。
図1Bは、線条体DAレベルが、生理食塩水処置動物に比べてGM1処置動物で有意に高かったことを示す(**P=0.0072)。
図1Cは、線条体DOPAC/DA比が、GM1処置動物に比べて生理食塩水処置動物で有意に高かったことを示す(**P=0.0040)。
【
図2A】
図2A~
図2Cは、早期開始GM1投与がα-シヌクレインの発現または線条体への輸送に影響を及ぼさなかったことを示す。
図2A~2Bは、AAV-A53T α-シヌクレイン注射の1週間後に評価した場合、線条体α-シヌクレインのレベルが生理食塩水処置動物(N=6)とGM1処置動物(N=6)で差がなく、AAV-A53T α-シヌクレイン形質導入または線条体へのα-シヌクレインの輸送に対するGM1の影響がないことを示唆することを示す。代表的なウェスタンブロット(Protein Simple Wesシステムを使用して得られた)をクロッピング後に示す(ブロットの全長画像を
図8として提示する)。
図2Cは、AAV-A53T α-シヌクレイン注射の1週間後の二重標識免疫蛍光が、SNcのTH+ニューロンにおけるα-シヌクレイン蓄積において生理食塩水処置動物とGM1処置動物との間で差を示さなかったことを示す。
【
図3-1】
図3A~3Dは、早期開始GM1投与がSNcドーパミン作動性ニューロンの喪失から部分的に保護したことを示す。
図3Aは、TH+細胞の数に対する早期開始GM1投与(N=17)の有意な保護効果があったことを示す(***P=0.0002)。
図3Bは、生理食塩水処置動物(N=13)と比較して、SNc中のニッスル染色細胞の数に対する早期開始GM1投与の有意な保護効果があったことを示す(***生理食塩水処置動物に対してP=0.0004)。
図3Cは、SNc中のTH+細胞の免疫組織化学染色が、生理食塩水処置動物における有意な細胞喪失を示したことを示す。
図3Dは、GM1処置動物におけるTH+細胞の部分的な保存を示す。
【
図4-1】
図4A~4Dは、遅延開始GM1投与(AAV-A53T α-シヌクレイン注射の3週間後に開始)が運動機能を部分的に回復させ、線条体ドーパミンレベルを部分的に保護することを示す。
図4Aは、AAV-A53T α-シヌクレイン注射後3週間目に、生理食塩水処置動物(N=11)が、注射と同側の肢を使用する有意な優先傾向を示し、ウイルス注射後8週間目にバイアスが引き続き観察されたことを示す(****ベースライン(Bx)に対してP<0.0001)。
図4Bは、遅延開始GM1群(N=17)において、動物はまた、ウイルス注射後3週間目に注射と同側の肢を使用する有意な優先傾向を示した(****Bxに対してP<0.0001)が、GM1使用(3週間の試験の直後に開始)の5週間後には、肢使用の非対称性が有意に減少した(*3週間目に対してP=0.0075)ことを示す。
図4Cは、線条体DAレベルが、生理食塩水処置動物(N=11)に比べてGM1処置動物(N=17)で有意に高かったことを示す(**生理食塩水処置動物に対してP=0.0013)。
図4Dは、DOPAC/DA比がGM1処置動物(N=17)でより低かったが、生理食塩水処置動物(N=11)と比較して有意に減少しなかったことを示す。
【
図5-1】
図5A~5Dは、遅延開始GM1投与がSNcドーパミン作動性ニューロンの喪失から部分的に保護したことを示す。
図5Aは、TH+細胞の数に対する遅延開始GM1投与(N=17)の有意な保護効果があったことを示す(**P=0.0013)。
図5Bは、生理食塩水処置動物(N=12)と比較して、SNc中のニッスル染色細胞の数に対する遅延開始GM1投与の有意な保護効果があったことを示す(***生理食塩水処置動物に対してP=0.0008)。
図5Cは、SNc中のTH+細胞の免疫組織化学染色が、生理食塩水処置動物における有意な細胞喪失を示したことを示す。
図5Dは、SNc中のTH+細胞がGM1処置動物においてTH+細胞の部分的な保存を示したことを示す。
【
図6A】
図6A~6Dは、GM1処置が線条体におけるα-シヌクレイン陽性凝集体の数およびサイズを減少させることを示す。
図6Aは、早期開始GM1処置動物(N=6)(明灰色のバー)と比較して生理食塩水処置動物(N=6)(暗灰色のバー)における線条体α-シヌクレイン陽性凝集体のサイズ分布が有意に異なり(コルモゴロフ・スミルノフD=0.2945、P<0.0001)、生理食塩水処置群と比較して早期GM1群ではより多数のより小さなサイズの凝集体およびより少数のより大きなサイズの凝集体に明確にシフトしたことを示す。
図6Bは、遅延GM1処置群(N=8)(明灰色のバー)における線条体α-シヌクレイン陽性凝集体のサイズ分布もまた、生理食塩水処置群(N=7)(暗灰色のバー)における凝集体のサイズ分布と有意に異なり(コルモゴロフ・スミルノフD=0.154、P<0.0001)、GM1群と比較して生理食塩水処置群ではより大きなサイズの凝集体の数が多かったことを示す。
図6Cは、生理食塩水処置動物(左)および早期開始GM1処置動物(右)の線条体におけるα-シヌクレイン免疫組織化学染色の顕微鏡写真を示す。凝集体のサイズは、GM1処置動物において著明に小さい。矢印は大きなα-シヌクレイン陽性凝集体を示す。
図6Dは、生理食塩水処置動物(左)および遅延開始GM1処置動物(右)の線条体におけるα-シヌクレイン免疫組織化学染色の顕微鏡写真を示す。凝集体のサイズは遅延開始GM1処置動物においてより小さいが、効果は早期開始GM1動物ほど劇的ではなかった。矢印は大きなα-シヌクレイン陽性凝集体を示す。
【
図7】
図7A~7Bは、AAV-A53T-α-シヌクレイン注射の8週間後の生理食塩水処置動物(
図7A)および遅延開始GM1処置動物(
図7B)におけるSer129リン酸化α-シヌクレインの可視化のためのSN切片の免疫組織化学染色を示す。GM1処置動物と比較して、生理食塩水処置動物ではより多くのSer129リン酸化α-シヌクレイン染色が存在し、GM1処置動物と比較して、生理食塩水処置動物では染色がより強く見え、より多くのニューロンを満たすようであった。
【
図8】
図2に提示される画像の全長Wes免疫ブロットを示す。
【
図9】GM1の存在下でのGFP-α-Synの取り込みの減少を示す。GM1ガングリオシド(100μM)を培地に添加しておよび添加せずに、GFPタグ付き野生型ヒトα-Synを安定に発現するMN9D細胞からの馴化培地(CM)を、正常な分化SH-SY5Y細胞に24時間適用した。GFP-α-Synは対照SH-SY5Y細胞に取り込まれ、GM1の存在下ではGFP-α-Synの取り込みが減少した。
【
図10】初期症候性段階(AAV-A53Tベクター注射の2週間後)で、不溶性pSer29シヌクレイン(プロテイナーゼK消化後)が生理食塩水処置動物のSNに高発現されるという所見を示す。AAV-A53T注射の24時間後に開始して、GM1(30mg/kg/日)を2週間投与した動物では、生理食塩水処置動物と比較して、不溶性pSer129を発現するSNニューロンがより少なく、ニューロンあたりのpSer129発現が減少した。不溶性pSer129のレベルをシヌクレイン凝集の指標とすると、これらのデータは、GM1の存在下でのインビボでのシヌクレインのリン酸化および凝集の減少を示唆する。
【
図11】シヌクレイノパチーが進行しているが実質的な細胞死が起こる前の初期症候性段階(ベクター注射の2週間後)で、ベクリン1のタンパク質発現(***P=0.0004)がGM1処置動物(N=8/群)に比べて生理食塩水処置動物では有意に増加したという知見を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
詳細な説明
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が関連する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または等価の任意の方法および材料を本発明の試験の実施に使用することができるが、好ましい材料および方法を本明細書で説明する。本発明の説明および特許請求において、以下の用語を使用する。
【0029】
本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、限定することを意図していないことも理解されるべきである。
【0030】
冠詞「1つの(a)」「1つの(an)」は、本明細書では、冠詞の文法的対象の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「要素」は、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0031】
量、持続時間などの測定可能な値を指す場合に本明細書で使用される「約」は、指定された値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、なお一層好ましくは±0.1%の変動を包含することを意図しており、そのような変動は開示される方法を実施するのに適している。
【0032】
「切断」という用語は、核酸分子の骨格などにおける共有結合の切断を指す。切断は、ホスホジエステル結合の酵素的または化学的加水分解を含むがこれらに限定されるわけではない様々な方法によって開始され得る。一本鎖切断および二本鎖切断の両方が可能である。二本鎖切断は、2つの異なる一本鎖切断事象の結果として起こり得る。DNA切断は、平滑末端または付着末端のいずれかの生成をもたらし得る。特定の態様では、融合ポリペプチドは、切断された二本鎖DNAを標的化するために使用され得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「保存的配列修飾」という用語は、アミノ酸配列を含む抗体の結合特性に有意に影響を及ぼさないまたは変化させないアミノ酸修飾を指すことを意図する。そのような保存的修飾には、アミノ酸の置換、付加および欠失が含まれる。修飾は、部位特異的突然変異誘発およびPCR媒介突然変異誘発などの当技術分野で公知の標準的な技術によって本発明の抗体に導入することができる。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されたものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が含まれる。したがって、抗体のCDR領域内の1つまたは複数のアミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーからの他のアミノ酸残基で置き換えることができ、改変された抗体は、本明細書に記載の機能アッセイを使用して抗原に結合する能力について試験することができる。
【0034】
「疾患」は、動物が恒常性を維持することができず、疾患が改善されない場合、動物の健康が悪化し続ける動物の健康状態である。対照的に、動物における「障害」は、動物が恒常性を維持することができるが、動物の健康状態は障害が存在しない場合よりも好ましくない、健康状態である。未処置のままである場合、障害は必ずしも動物の健康状態のさらなる低下を引き起こさない。
【0035】
「有効量」または「治療有効量」は、本明細書では互換的に使用され、特定の生物学的結果を達成するために有効な、または治療的もしくは予防的利益を提供する、本明細書に記載の化合物、製剤、材料、または組成物の量を指す。そのような結果には、当技術分野で適切な任意の手段によって決定される抗腫瘍活性が含まれ得るが、これらに限定されるわけではない。
【0036】
「コードする」とは、定義されたヌクレオチドの配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)または定義されたアミノ酸の配列のいずれかを有する生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として働く、遺伝子、cDNAまたはmRNAなどのポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特定の配列の固有の特性、ならびにそれから生じる生物学的特性を指す。したがって、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物系においてタンパク質を産生する場合、その遺伝子はタンパク質をコードする。ヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通常は配列表に提供されるコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖の両方が、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると称され得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、「内因性」は、生物、細胞、組織または系からの、またはそれらの内部で産生される任意の物質を指す。
【0038】
本明細書で使用される場合、「外因性」という用語は、生物、細胞、組織または系から導入されるか、またはそれらの外部で産生される任意の物質を指す。
【0039】
本明細書で使用される「発現」という用語は、特定のヌクレオチド配列の、そのプロモータによって駆動される転写および/または翻訳として定義される。
【0040】
「発現ベクター」は、発現されるヌクレオチド配列に機能的に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のための十分なシス作用性エレメントを含み、発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって、またはインビトロ発現系において供給され得る。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドを組み込んだコスミド、プラスミド(例えば、裸の、またはリポソームに含まれる)ならびにウイルス(例えば、センダイウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などの当技術分野で公知のすべてのものが含まれる。
【0041】
本明細書で使用される「相同」とは、2つのポリマー分子間、例えば2つの核酸分子間、例えば2つのDNA分子もしくは2つのRNA分子間、または2つのポリペプチド分子間のサブユニット配列の同一性を指す。2つの分子の両方におけるサブユニット位置が同じ単量体サブユニットによって占められている場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれの位置がアデニンによって占められている場合、それらはその位置で相同である。2つの配列間の相同性は、一致する位置または相同な位置の数の直接関数であり、例えば、2つの配列中の位置の半分(例えば、10サブユニットの長さのポリマーにおける5つの位置)が相同である場合、2つの配列は50%相同であり、位置の90%(例えば、10のうちの9)が一致するかまたは相同である場合、2つの配列は90%相同である。
【0042】
本明細書で使用される「同一性」は、2つのポリマー分子間、特に2つのアミノ酸分子間、例えば2つのポリペプチド分子間のサブユニット配列の同一性を指す。2つのアミノ酸配列が同じ位置に同じ残基を有する場合、例えば、2つのポリペプチド分子のそれぞれの位置がアルギニンによって占められている場合、それらはその位置で同一である。2つのアミノ酸配列がアラインメントの同じ位置に同じ残基を有する同一性または程度は、しばしばパーセンテージとして表される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、一致するまたは同一の位置の数の直接関数であり、例えば、2つの配列中の位置の半分(例えば、10アミノ酸長のポリマーにおける5つの位置)が同一である場合、2つの配列は50%同一であり、位置の90%(例えば、10のうちの9)が一致するかまたは同一である場合、2つのアミノ酸配列は90%同一である。
【0043】
本明細書で使用される場合、「使用説明書」は、本発明の組成物および方法の有用性を伝えるために使用することができる刊行物、記録、図、または任意の他の表現媒体を含む。本発明のキットの使用説明書は、例えば、本発明の核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器に貼付されてもよく、または核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器と共に出荷されてもよい。あるいは、使用説明書および化合物が受領者によって協働して使用されることを意図して、使用説明書は容器とは別に出荷されてもよい。
【0044】
「単離された」とは、天然の状態から改変されたまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きている動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離され」ていないが、その天然状態の共存物質から部分的または完全に分離された同じ核酸またはペプチドは「単離され」ている。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在し得るか、または例えば宿主細胞などの非天然環境に存在し得る。
【0045】
本明細書で使用される「修飾された」という用語は、本発明の分子または細胞の変化した状態または構造を意味する。分子は、化学的、構造的、および機能的方法を含む多くの方法で修飾され得る。細胞は、核酸の導入を介して修飾され得る。
【0046】
本明細書で使用される「調節する」という用語は、治療または化合物の非存在下での対象における応答のレベルと比較して、および/または他の点では同一であるが未治療の対象における応答のレベルと比較して、対象における応答のレベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は、天然のシグナルまたは応答を障害し、および/または影響を及ぼし、それによって対象、好ましくはヒトにおいて有益な治療応答を媒介することを包含する。
【0047】
本発明の文脈において、一般的に存在する核酸塩基の以下の略語を使用する。「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、「U」はウリジンを指す。
【0048】
特に明記されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重バージョンであり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列という語句はまた、タンパク質をコードするヌクレオチド配列があるバージョンではイントロン(1つまたは複数)を含み得る範囲で、イントロンを含み得る。
【0049】
「機能的に連結された」という用語は、調節配列と異種核酸配列との間の、後者の発現をもたらす機能的連結を指す。例えば、第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係に置かれている場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と機能的に連結されている。例えば、プロモータがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモータはコード配列に機能的に連結されている。一般に、機能的に連結されたDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を連結する必要がある場合、同じリーディングフレーム内にある。
【0050】
組成物の「非経口」投与には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、または注入技術が含まれる。
【0051】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドの鎖として定義される。さらに、核酸はヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書で使用される核酸およびポリヌクレオチドは交換可能である。当業者は、核酸が、単量体「ヌクレオチド」に加水分解され得るポリヌクレオチドであるという一般的な知識を有する。単量体ヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解され得る。本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドは、限定されることなく、組換え手段、すなわち、通常のクローニング技術およびPCR(商標)などを使用した組換えライブラリまたは細胞ゲノムからの核酸配列のクローニング、ならびに合成手段を含む、当技術分野で利用可能な任意の手段によって得られるすべての核酸配列を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0052】
本明細書で使用される場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は互換的に使用され、ペプチド結合によって共有結合したアミノ酸残基で構成される化合物を指す。タンパク質またはペプチドは少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならず、タンパク質またはペプチドの配列を含むことができるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドは、ペプチド結合によって互いに結合した2つまたはそれ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を含む。本明細書で使用される場合、この用語は、例えば、当技術分野で一般にペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーとも称される短鎖と、多くの種類がある、当技術分野で一般にタンパク質と称される長鎖の両方を指す。「ポリペプチド」には、例えば、とりわけ、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組合せが含まれる。
【0053】
本明細書で使用される「プロモータ」という用語は、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始するのに必要な細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列として定義される。
【0054】
本明細書で使用される場合、「プロモータ/調節配列」という用語は、プロモータ/調節配列に機能的に連結された遺伝子産物の発現に必要な核酸配列を意味する。いくつかの例では、この配列はコアプロモータ配列であり得、他の例では、この配列はまた、遺伝子産物の発現に必要なエンハンサ配列および他の調節エレメントを含み得る。プロモータ/調節配列は、例えば、組織特異的方法で遺伝子産物を発現するものであり得る。
【0055】
「構成的」プロモータは、遺伝子産物をコードまたは指定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合、細胞のほとんどまたはすべての生理学的条件下で遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列である。
【0056】
「誘導性」プロモータは、遺伝子産物をコードまたは指定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合、実質的にプロモータに対応する誘導物質が細胞内に存在する場合にのみ、遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列である。
【0057】
「組織特異的」プロモータは、遺伝子をコードするかまたは遺伝子によって指定されるポリヌクレオチドと機能的に連結された場合、実質的に細胞がプロモータに対応する組織型の細胞である場合にのみ、細胞内で遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0058】
「対象」という用語は、免疫応答が誘発され得る生物(例えば、哺乳動物)を含むことを意図する。本明細書で使用される「対象」または「患者」は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物であり得る。非ヒト哺乳動物には、例えば、家畜およびペット、例えばヒツジ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコおよびマウス哺乳動物が含まれる。好ましくは、対象はヒトである。
【0059】
「標的部位」または「標的配列」は、結合分子が、結合が起こるのに十分な条件下で特異的に結合し得る核酸の一部を定義するゲノム核酸配列を指す。
【0060】
本明細書で使用される「治療的」という用語は、治療および/または予防を意味する。治療効果は、疾患状態の抑制、寛解、または根絶によって得られる。
【0061】
本明細書で使用される「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」という用語は、外因性核酸が宿主細胞に移入または導入されるプロセスを指す。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞は、外因性核酸でトランスフェクト、形質転換または形質導入された細胞である。細胞は、初代対象細胞およびその子孫を含む。
【0062】
「導入遺伝子」という用語は、動物、特に哺乳動物、より具体的には生きている動物の哺乳動物細胞のゲノムに人工的に挿入された、または挿入されようとしている遺伝物質を指す。
【0063】
疾患を「治療する」とは、この用語が本明細書で使用される場合、対象が経験する疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を低下させることを意味する。
【0064】
本明細書で使用される「転写制御下」または「機能的に連結された」という語句は、RNAポリメラーゼによる転写の開始およびポリヌクレオチドの発現を制御するために、プロモータがポリヌクレオチドに対して正しい位置および向きにあることを意味する。
【0065】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、単離された核酸を細胞の内部に送達するために使用することができる物質の組成物である。線状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物に関連するポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスを含むがこれらに限定されるわけではない多数のベクターが当技術分野で公知である。したがって、「ベクター」という用語は、自律複製するプラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、例えば、ポリリジン化合物、リポソームなどの、細胞への核酸の移入を促進する非プラスミドおよび非ウイルス化合物を含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例には、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0066】
範囲: 本開示全体を通して、本発明の様々な局面を範囲形式で提示することができる。範囲形式での説明は、単に便宜および簡潔さのためのものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈されるべきではないことが理解されるべきである。したがって、範囲の説明は、すべての可能な部分範囲およびその範囲内の個々の数値を具体的に開示したと見なされるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6を具体的に開示していると見なされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0067】
説明
本発明は、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、純粋自律神経不全症、シヌクレイン遺伝子変異を有する遺伝型のパーキンソン病、脳内の異常なαシヌクレイン沈着に関連するリソソーム蓄積障害(サンフィリッポ症候群および関連するムコ多糖症などの障害を含む)、異常なシヌクレイン蓄積を伴うGlcCerase(GBA)変異を含むがこれらに限定されるわけではないシヌクレイノパチーの治療を必要とする対象において、シヌクレイノパチーを治療するための組成物および方法に関する。
【0068】
一局面では、本発明は、レビー小体型認知症の治療を必要とする対象においてレビー小体型認知症を治療する方法であって、GM1またはその誘導体を含む組成物を対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0069】
別の局面では、本発明は、多系統萎縮症の治療を必要とする対象において多系統萎縮症を治療する方法であって、GM1またはその誘導体を含む組成物を対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0070】
別の局面では、本発明は、純粋自律神経不全症の治療を必要とする対象において純粋自律神経不全症を治療する方法であって、GM1またはその誘導体を含む組成物を対象に投与する工程を含む方法を提供する。いくつかの態様では、投与は全身性である。
【0071】
いくつかの態様では、GM1またはその誘導体の投与は全身性である。いくつかの態様では、GM1またはその誘導体は、注射によって、経口的に、または鼻腔内に、投与される。いくつかの態様では、注射は腹腔内である。
【0072】
いくつかの態様では、GM1またはその誘導体は、ナノ粒子を介して投与される。
【0073】
いくつかの態様では、GM1またはその誘導体は、コンジュゲートされているまたは操作されている。
【0074】
いくつかの態様では、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0075】
いくつかの態様では、GM1を含む組成物は、レビー小体型認知症が進行した後に対象に投与される。いくつかの態様では、GM1を含む組成物は、多系統萎縮症が進行した後に対象に投与される。いくつかの態様では、GM1を含む組成物は、純粋自律神経不全症が進行した後に対象に投与される。
【0076】
特定の局面では、本発明は、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、純粋自律神経不全症、シヌクレイン遺伝子変異を有する遺伝型のパーキンソン病、脳内の異常なαシヌクレイン沈着に関連するリソソーム蓄積障害(サンフィリッポ症候群および関連するムコ多糖症などの障害を含む)、異常なシヌクレイン蓄積を伴うGlcCerase(GBA)変異からなる群より選択されるシヌクレイノパチーを治療する方法を提供する。本方法は、シアリダーゼNeu3をコードする核酸を対象に投与する工程を含む。シアリダーゼNeu3をコードする核酸の投与は、実際に、対象におけるGM1レベルを増加させる。いくつかの態様では、核酸は、操作されたウイルス、プラスミドまたは非ウイルスベクターに含まれる。いくつかの態様では、操作されたウイルスはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。いくつかの態様では、シアリダーゼNeu3の発現は、ニューロン特異的プロモータの制御下にある。いくつかの態様では、操作されたウイルスは、頭蓋内定位注射によって対象に投与される。
【0077】
特定の局面では、本発明は、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、純粋自律神経不全症、シヌクレイン遺伝子変異を有する遺伝型のパーキンソン病、脳内の異常なαシヌクレイン沈着に関連するリソソーム蓄積障害(サンフィリッポ症候群および関連するムコ多糖症などの障害を含む)、異常なシヌクレイン蓄積を伴うGlcCerase(GBA)変異からなる群より選択されるシヌクレイノパチーを治療する方法を提供する。本方法は、B3GalT4をコードする核酸を対象に投与する工程を含む。B3GalT4をコードする核酸の投与は、実際に、対象におけるGM1レベルを増加させる。いくつかの態様では、核酸は、操作されたウイルス、プラスミドまたは非ウイルスベクターに含まれる。いくつかの態様では、操作されたウイルスはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。いくつかの態様では、B3GalT4の発現は、ニューロン特異的プロモータの制御下にある。いくつかの態様では、操作されたウイルスは、頭蓋内定位注射によって対象に投与される。
【0078】
理論に拘束されることを望むものではないが、PDおよび他のシヌクレイノパチーに寄与する1つの潜在的な発症機序は、α-シヌクレインの異常な代謝、蓄積および凝集に寄与し得る、ならびにPDにおけるDAニューロンおよび他のシヌクレイノパチーにおける他のニューロン型の全体的な脆弱性および変性に寄与し得る、ガングリオシドの合成および発現の調節不全を含み得る。ガングリオシドは、セラミドアンカー、オリゴ糖、および1つまたは複数のシアル酸残基を担持するスフィンゴ糖脂質である。脳内の主要なガングリオシド種は、GM1、GD1a、GD1b、およびGT1bであり、すべて血漿および細胞内膜の脂質組成に寄与する。GM1および他のガングリオシドは、脂質ラフトと呼ばれる膜シグナル伝達ドメインの成分であり、これに関して、GM1は、ニューロンの発生および細胞の生存を指示し、多種多様な細胞機能を調節するためのシグナル伝達の調節に寄与する。さらに、PDに関連する少なくとも4つのタンパク質(LRRK2、パーキン、PINK1、およびα-シヌクレイン)は、脂質ラフトと会合し、(他のラフトマーカと共に)GM1とある程度共局在することが見出されており、GM1-ラフト会合の変化がこれらのタンパク質に依存する細胞機能に影響を及ぼし得ることを示唆する。形質膜で発揮される効果に加えて、GM1は細胞内でも作用し、正常な細胞機能および生存に重要な他のプロセスの中でも、Ca2+の恒常性、ミトコンドリア機能、およびリソソームの完全性に影響を及ぼす。リソソーム機能不全は神経変性をもたらす可能性があり、α-シヌクレイン蓄積の増加はリソソーム機能不全に結び付いている。前臨床試験は、GM1による処置が、種々のタイプの病変後に神経栄養性または神経保護性であり得、有意な生化学的および行動的回復をもたらし得ることを示している。特に、GM1は、PDの神経毒(MPTP)誘発モデルにおいて、損傷したSNc DAニューロンを救済し、線条体DAレベルを増加させ、残存DAニューロンのDA合成能力を増強した。PD患者におけるGM1の臨床試験はまた、GM1の使用による症状の進行の遅延の証拠を提供した。GM1およびPDに関連する前向きな前臨床所見および臨床所見にもかかわらず、GM1がその潜在的な神経保護効果を発揮する機序は依然として不明確である。
【0079】
α-シヌクレインの線維化および凝集は、PDの病態生理学への重要な寄与因子であると考えられ、α-シヌクレイン含有細胞質封入体はこの疾患の組織学的特徴である。α-シヌクレインの蓄積および凝集(すなわち、シヌクレイノパチー)はまた、PD以外のシヌクレイノパチーおよびサンフィリッポ症候群(ムコ多糖症III型)などの様々な蓄積障害にわたって起こる。PDおよび疾患のこの局面を再現する他のシヌクレイノパチーの動物モデルの最近の開発は、様々なプロモータの制御下でヒトα-シヌクレインを発現するトランスジェニック動物において、またはSNc DAニューロンへの、または他の脳領域の他のニューロン型への直接のα-シヌクレインのウイルスベクター送達を使用して達成されている。特に、いくつかの試験は、ヒト変異体A53T α-シヌクレインのSNc標的化AAV駆動過剰発現後のマウス、ラット、および非ヒト霊長動物におけるPD関連の進行性神経病理学的特性(不溶性α-シヌクレイン凝集体の発生を含む)および行動特性を実証している。インビトロでのGM1へのα-シヌクレインの結合は、存在するGM1の量に依存して、原線維形成を阻害し、α-シヌクレインのA53T変異体に対するGM1の同様の効果を有する。さらに、インビトロでのGM1とα-シヌクレインとの相互作用は、アセチル化α-シヌクレインの原線維凝集に対する完全な耐性をもたらし、GM1に富む膜への結合が単量体α-シヌクレインを病原性凝集から保護することができる可能性を提起した。AAV-A53T α-シヌクレインラットモデルを使用して、インビボでのGM1ガングリオシド投与がα-シヌクレイン毒性ならびにPD関連の病理学的変化および行動障害の発症から保護することができる程度を調べるための試験を実施した。
【0080】
ベクター
本発明では、ベクターが提供される。特定の態様では、ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。特定の態様では、ベクター(例えばAAVベクター)は、GM1ガングリオシド生合成に関与するB3GALT4遺伝子をコードする。
【0081】
デペンドウイルス属(Dependovirus)に属するパルボウイルスであるAAVは、遺伝子治療用途に特によく適するようにするいくつかの特徴を有する。例えば、AAVは、非分裂細胞を含む広範囲の宿主細胞に感染することができる。さらに、AAVは様々な種からの細胞に感染することができる。重要なことに、AAVは、いかなるヒトまたは動物の疾患にも関連しておらず、組み込み時に宿主細胞の生理学的特性を変化させないようである。最後に、AAVは広範囲の物理的および化学的条件で安定であり、それは生産、貯蔵、および輸送の要件に役立つ。
【0082】
約4,700ヌクレオチド(AAV-2ゲノムは4,681ヌクレオチドからなり、AAV-4ゲノムは4,767ヌクレオチドからなる)を含む線状一本鎖DNA分子であるAAVゲノムは、一般に、逆方向末端反復配列(ITR)によって各末端に隣接する内部非反復セグメントを含む。ITRは約145ヌクレオチド長であり(AAV-1は143ヌクレオチドのITRを有する)、複製起点として、およびウイルスゲノムのパッケージングシグナルとして役立つことを含む複数の機能を有する。
【0083】
ゲノムの内部非反復部分は、AAV複製(rep)領域およびキャプシド(cap)領域として公知の2つの大きなオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。これらのORFは、完全なAAVビリオンの複製、構築、およびパッケージングを可能にする複製およびキャプシド遺伝子産物をコードする。より具体的には、少なくとも4つのウイルスタンパク質のファミリーがAAV rep領域:Rep 78、Rep 68、Rep 52、およびRep 40から発現され、これらはすべて見かけ分子量から名付けられている。AAVキャップ領域は、少なくとも3つのタンパク質:VP1、VP2、およびVP3をコードする。
【0084】
AAVはヘルパー依存性ウイルスであり、すなわち、機能的に完全なAAVビリオンを形成するためにヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはワクシニアウイルス)との同時感染を必要とする。ヘルパーウイルスとの同時感染がない場合、AAVは、ウイルスゲノムが宿主細胞染色体に挿入されるかまたはエピソーム形態で存在するが、感染性ビリオンは産生されない潜在状態を確立する。ヘルパーウイルスによるその後の感染は、組み込まれたゲノムを「救済」し、それを複製してウイルスキャプシドにパッケージングすることを可能にし、それによって感染性ビリオンを再構成する。AAVは異なる種からの細胞に感染することができるが、ヘルパーウイルスは宿主細胞と同じ種でなければならない。したがって、例えば、ヒトAAVは、イヌアデノウイルスに同時感染したイヌ細胞で複製する。
【0085】
異種核酸配列を含む感染性組換えAAV(rAAV)を産生するために、適切な宿主細胞株を、異種核酸配列を含むがAAVヘルパー機能遺伝子repおよびcapを欠くAAVベクターでトランスフェクトすることができる。次いで、AAVヘルパー機能遺伝子を別個のベクター上に提供することができる。また、複製可能なヘルパーウイルス(例えばアデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはワクシニアなど)を提供するのではなく、AAV産生に必要なヘルパーウイルス遺伝子(すなわち、補助機能遺伝子)のみをベクター上に提供することができる。
【0086】
集合的に、AAVヘルパー機能遺伝子(すなわち、repおよびcap)ならびに補助機能遺伝子は、1つまたは複数のベクター上に提供され得る。次いで、ヘルパーおよび補助機能遺伝子産物を宿主細胞で発現させることができ、それらは異種核酸配列を含むrAAVベクターに対してトランスで作用する。次いで、異種核酸配列を含むrAAVベクターは、野生型(wt)AAVゲノムであるかのように複製され、パッケージングされて、組換えビリオンを形成する。患者の細胞が、得られたrAAVビリオンに感染すると、異種核酸配列が入り、患者の細胞内で発現される。患者の細胞は、repおよびcap遺伝子、ならびに補助機能遺伝子を欠くため、rAAVはそれらのゲノムをさらに複製することもパッケージングすることもできない。さらに、repおよびcap遺伝子の供給源がなければ、wtAAVは患者の細胞中で形成され得ない。
【0087】
11の公知のAAV血清型、AAV-1~AAV-11がある(Mori,et al.,2004,Virology 330(2):375-83)。AAV-2は、ヒト集団において最も一般的な血清型である;ある試験では、一般集団の少なくとも80%がwt AAV-2に感染していると推定された(Berns and Linden,1995,Bioessays 17:237-245)。AAV-3およびAAV-5もヒト集団で一般的であり、感染率は最大60%である(Georg-Fries,et al.,1984,Virology 134:64-71)。AAV-1およびAAV-4はサル分離株であるが、どちらの血清型もヒト細胞に形質導入することができる(Chiorini,et al.,1997,J Virol 71:6823-6833;Chou,et al.,2000,Mol Ther 2:619-623)。6つの公知の血清型のうちで、AAV-2が最もよく特徴付けられている。例えば、AAV-2は、広範囲のインビボ形質導入実験で使用されており、マウス(米国特許第5,858,351号;米国特許第6,093,392号)、イヌ筋肉;マウス肝臓(Couto,et al.,1999,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:12725-12730;Couto,et al.,1997,J.Virol.73:5438-5447;Nakai,et al.,1999,J.Virol.73:5438-5447;およびSnyder,et al.,1997,Nat.Genet.16:270-276);マウス心臓(Su,et al.,2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13801-13806);ウサギ肺(Flotte,et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:10613-10617);ならびにげっ歯動物光受容体(Flannery et al.,1997,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:6916-6921)を含む多くの異なる組織型を形質導入することが示されている。
【0088】
AAV-2の広範な組織向性を利用して、組織特異的導入遺伝子を送達し得る。例えば、AAV-2ベクターは、以下の遺伝子を送達するために使用されている:ウサギ肺への嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子遺伝子(Flotte,et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:10613-10617);マウス肝臓、イヌおよびマウス筋肉への第NIII因子遺伝子(Burton,et al.,1999,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:12725-12730)および第IX因子遺伝子(Nakai,et al.,1999,J.Virol.73:5438-5447;Snyder,et al.,1997,Nat.Genet.16:270-276;米国特許第6,093,392号)(米国特許第6,093,392号);マウス筋肉へのエリスロポエチン遺伝子(米国特許第5,858,351号);マウス心臓への血管内皮成長因子(VEGF)遺伝子(Su,et al.,2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13801-13806);ならびにサルニューロンへの芳香族1アミノ酸脱炭酸酵素遺伝子。特定のrAAV送達導入遺伝子の発現は、実験動物において治療効果を有する;例えば、第IX因子の発現は、血友病Bのイヌモデルにおいて表現型の正常性を回復させることが報告された(米国特許第6,093,392号)。さらに、マウス心筋へのrAAV送達NEGFの発現は新生血管形成をもたらし(Su,et al.,2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13801-13806)、パーキンソン病サルの脳へのrAAV送達AADCの発現はドーパミン作動性機能の回復をもたらした。
【0089】
哺乳動物の細胞への関心対象のタンパク質の送達は、最初に関心対象のタンパク質をコードするDNAを含むAAVベクターを作製し、次いでベクターを哺乳動物に投与する工程によって達成される。したがって、本発明は、関心対象のポリペプチド(1つまたは複数)をコードするDNAを含むAAVベクターを含むと解釈されるべきである。本発明が与えられれば、この/これらのポリペプチドをコードするDNAを含むAAVベクターの作製は、当業者には明らかであろう。
【0090】
特定の態様では、本発明のrAAVベクターは、いくつかの必須DNAエレメントを含む。特定の態様では、これらのDNAエレメントは、少なくとも2コピーのAAV ITR配列、プロモータ/エンハンサエレメント、転写終結シグナル、関心対象のタンパク質またはその生物学的に活性な断片をコードするDNAに隣接する任意の必要な5'または3'非翻訳領域を含む。本発明のrAAVベクターはまた、関心対象のタンパク質のイントロンの一部を含み得る。また、任意で、本発明のrAAVベクターは、関心対象の変異ポリペプチドをコードするDNAを含む。
【0091】
特定の態様では、ベクターは、多くの異なる細胞型において異種遺伝子の発現を高レベルに駆動することができる無差別プロモータを含むプロモータ/調節配列を含む。そのようなプロモータには、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモータ/エンハンサ配列、ラウス肉腫ウイルスプロモータ/エンハンサ配列などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。特定の態様では、本発明のrAAVベクター中のプロモータ/調節配列は、CMV前初期プロモータ/エンハンサである。しかしながら、異種遺伝子の発現を駆動するために使用されるプロモータ配列はまた、誘導性プロモータ、例えば、限定されないが、ステロイド誘導性プロモータであってもよく、または組織特異的プロモータ、例えば、限定されないが、筋肉組織特異的である骨格α-アクチンプロモータおよび筋肉クレアチンキナーゼプロモータ/エンハンサなどであってもよい。
【0092】
特定の態様では、本発明のrAAVベクターは転写終結シグナルを含む。任意の転写終結シグナルが本発明のベクターに含まれ得るが、特定の態様では、転写終結シグナルはSV40転写終結シグナルである。
【0093】
特定の態様では、本発明のrAAVベクターは、関心対象のポリペプチド、または関心対象のポリペプチドの生物学的に活性な断片をコードする単離されたDNAを含む。本発明は、公知または未知の関心対象のポリペプチドの任意の哺乳動物配列を含むと解釈されるべきである。したがって、本発明は、ヒトポリペプチドと実質的に同様の方法で機能する、ヒト以外の哺乳動物由来の遺伝子を含むと解釈されるべきである。好ましくは、関心対象のポリペプチドをコードする遺伝子を含むヌクレオチド配列は、関心対象のポリペプチドをコードする遺伝子と約50%相同、より好ましくは約70%相同、さらにより好ましくは約80%相同、最も好ましくは約90%相同である。
【0094】
さらに、本発明は、野生型タンパク質配列の天然に存在するバリアントまたは組換え由来の変異体であって、本発明の遺伝子治療方法において、それらによってコードされるポリペプチドを完全長ポリペプチドと同程度に治療上有効にするか、または完全長ポリペプチドよりもさらに治療上有効にする、バリアントまたは変異体を含むと解釈されるべきである。
【0095】
本発明はまた、ポリペプチドの生物学的活性を保持するバリアントをコードするDNAを含むと解釈されるべきである。そのようなバリアントには、タンパク質またはポリペプチドが、本明細書に記載の方法における使用に対するその適合性を高めるさらなる特性、例えば、限定されないが、血漿中のタンパク質の安定性の増強およびタンパク質の比活性の増強をもたらすバリアントを有するように、組換えDNA技術を使用して修飾された、または修飾され得るタンパク質またはポリペプチドが含まれる。類似体は、保存的アミノ酸配列の相違によって、または配列に影響を及ぼさない修飾によって、またはその両方によって天然に存在するタンパク質またはペプチドと異なり得る。例えば、タンパク質またはペプチドの一次配列を変化させるが、通常はその機能を変化させない、保存的アミノ酸変化が行われ得る。
【0096】
本発明は、実験例に例示される特定のrAAVベクターに限定されない;むしろ、本発明は、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-9などに基づくベクターを含むがこれらに限定されるわけではない任意の適切なAAVベクターを含むと解釈されるべきである。
【0097】
治療効果を提供するのに有効な量で、疾患または障害を有する哺乳動物を治療する方法も本発明に含まれる。本方法は、関心対象のポリペプチドをコードするrAAVベクターを哺乳動物に投与する工程を含む。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0098】
典型的には、単回注射で投与される哺乳動物あたりのウイルスベクターゲノムの数は、約1×108~約5×1016の範囲である。好ましくは、単回注射で投与される哺乳動物あたりのウイルスベクターゲノムの数は、約1×1010~約1×1015である;より好ましくは、単回注射で投与される哺乳動物あたりのウイルスベクターゲノムの数は、約5×1010~約5×1015である;最も好ましくは、単回注射で哺乳動物に投与されるウイルスベクターゲノムの数は、約5×1011~約5×1014である。
【0099】
本発明の方法が、複数部位の同時注射、または数時間(例えば、約1時間未満から約2または約3時間)にわたる異なる部位への注射を含むいくつかの複数部位注射を含む場合、投与されるウイルスベクターゲノムの総数は、単一部位注射方法に列挙されたものと同一であり得るか、またはその分数もしくは倍数であり得る。
【0100】
単一部位注射での本発明のrAAVベクターの投与のために、特定の態様では、ウイルスを含む組成物を対象の臓器(例えば、限定されないが、対象の肝臓)に直接注射する。
【0101】
哺乳動物への投与のために、rAAVベクターを薬学的に許容される担体、例えば約7.8のpHのHEPES緩衝生理食塩水に懸濁し得る。他の有用な薬学的に許容される担体には、グリセロール、水、生理食塩水、エタノール、ならびにリン酸塩および有機酸の塩などの他の薬学的に許容される塩溶液が含まれるが、これらに限定されるわけではない。これらおよび他の薬学的に許容される担体の例は、Remington's Pharmaceutical Sciences(1991,Mack Publication Co.,New Jersey)に記載されている。
【0102】
本発明のrAAVベクターはまた、例えば、乾燥塩製剤中のベクターの凍結乾燥調製物、ベクター/塩組成物の懸濁用の滅菌水、ならびにベクターの懸濁および哺乳動物への投与のための説明書を含む、キットの形態で提供され得る。
【0103】
特定の態様では、ベクターはAAV-2ベクターである。特定の態様では、ベクターは、AAV骨格およびヒトB3GALT4遺伝子を含む。特定の態様では、ベクターは、SEQ ID NO:1に記載のヌクレオチド配列を含む。特定の態様では、ベクターは、SEQ ID NO:1と、少なくとも70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である。特定の態様では、ベクターは、AAV骨格およびNeu3(シアリダーゼ)遺伝子を含む。特定の態様では、ベクターは、SEQ ID NO:2に記載のヌクレオチド配列を含む。特定の態様では、ベクターは、SEQ ID NO:2と、少なくとも70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である。
【0104】
【0105】
AAV-Syn-hB3GATL4-SynEGFP(SEQ ID NO:1)のアノテーション:左逆方向末端反復配列1~141、シナプシンプロモータI:262~817、hB3gALT4:832~1968、SV40ポリ(A):1993~2221、シナプシンプロモータII:2282~2837、EGFP CDS:2884~3601、BGHポリアデニル化配列:3730~3957、右逆方向末端反復配列4042~4182、アンピシリン耐性(bla)ORF 5099~5956、pUC起点6107~6774。
【0106】
【0107】
AAV-Syn-hNEU3-SynEGFP(SEQ ID NO:2)のアノテーション:左逆方向末端反復配列:1~141、シナプシンプロモータI:262~817、hNEU3:833~3190、SV40ポリ(A):3260~3488、シナプシンプロモータII:3549~4104、EGFP CDS:4151~4868、BGHポリアデニル化配列:4997~5224、右逆方向末端反復配列5309~5449、アンピシリン耐性(bla)ORF 6366~7223、pUC起点7374~8041。
【0108】
薬学的組成物および製剤
GM1またはその誘導体を含む組成物も提供される。組成物の中には、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、または純粋自律神経不全症、シヌクレイン遺伝子変異を有する遺伝型のパーキンソン病、脳内の異常なαシヌクレイン沈着に関連するリソソーム蓄積障害(サンフィリッポ症候群および関連するムコ多糖症などの障害を含む)、異常なシヌクレイン蓄積を伴うGlcCerase(GBA)変異を含むがこれらに限定されるわけではないシヌクレイノパチーの治療を必要とする対象(例えば患者)におけるシヌクレイノパチーの治療などのための、投与のための薬学的組成物および製剤がある。GM1は、動物由来(例えばブタ、ウシ、ヒツジ、ヒトなど)または合成由来(例えば人工、合成、操作、コンジュゲートなど)を含むがこれらに限定されるわけではない、当業者に公知の任意の供給源に由来し得る。特定の態様では、GM1は動物の脳に由来する。GM1は、オリゴ糖部分および脂質部分を含むGM1分子全体またはGM1オリゴ糖部分のみであり得る。
【0109】
薬学的組成物および製剤は、一般に、1つまたは複数の任意の薬学的に許容される担体または賦形剤を含む。いくつかの態様では、組成物は、少なくとも1つのさらなる治療薬を含む。
【0110】
「薬学的製剤」という用語は、その中に含まれる活性成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形態であり、製剤が投与される対象に対して許容できないほどに毒性であるさらなる成分を含まない調製物を示す。「薬学的に許容される担体」は、対象に対して非毒性である、活性成分以外の薬学的製剤中の成分を指す。薬学的に許容される担体には、緩衝剤、賦形剤、安定剤または防腐剤が含まれるが、これらに限定されるわけではない。いくつかの局面では、担体の選択は、一部には、特定の組成物によっておよび/または投与方法によって決定される。したがって、種々の適切な製剤が存在する。例えば、薬学的組成物は防腐剤を含み得る。適切な防腐剤には、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、および塩化ベンザルコニウムが含まれ得る。いくつかの局面では、2つまたはそれ以上の防腐剤の混合物が使用される。防腐剤またはその混合物は、典型的には全組成物の約0.0001重量%~約2重量%の量で存在する。担体は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に記載されている。薬学的に許容される担体は、一般に、用いられる投与量および濃度でレシピエントに非毒性であり、以下のものを含むが、これらに限定されるわけではない:リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール、メチルもしくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノールおよびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンもしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンもしくはリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、およびグルコース、マンノースもしくはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);ならびに/またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン界面活性剤。
【0111】
いくつかの局面では、緩衝剤が組成物に含まれる。適切な緩衝剤には、例えばクエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸カリウム、ならびに他の様々な酸および塩が含まれる。いくつかの局面では、2つまたはそれ以上の緩衝剤の混合物が使用される。緩衝剤またはその混合物は、典型的には全組成物の約0.001重量%~約4重量%の量で存在する。投与可能な薬学的組成物を調製するための方法は公知である。例示的な方法は、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Lippincott Williams&Wilkins;21st ed.(May 1,2005)にさらに詳細に記載されている。
【0112】
製剤は水溶液を含み得る。製剤または組成物はまた、それぞれの活性が互いに悪影響を及ぼさない場合、治療される特定の適応症、疾患、または状態に有用な複数の活性成分、好ましくは組成物に相補的な活性を有するものを含み得る。そのような活性成分は、意図される目的のために有効な量で組み合わせて適切に存在する。したがって、いくつかの態様では、薬学的組成物は、他の薬学的に活性な剤または薬物をさらに含む。いくつかの態様における薬学的組成物は、治療有効量または予防有効量などの、疾患または状態を治療または予防するために有効な量を含む。いくつかの態様における治療または予防の有効性は、治療対象の定期的な評価によってモニターされる。所望の投与量は、組成物の単回ボーラス投与によって、組成物の複数回ボーラス投与によって、または組成物の持続注入投与によって送達することができる。
【0113】
製剤には、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、肺投与、経皮投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、口腔内投与、舌下投与、または坐剤投与用のものが含まれる。いくつかの態様では、組成物は非経口投与される。本明細書で使用される「非経口」という用語は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸投与、膣内投与、および腹腔内投与を含む。いくつかの態様では、組成物は、静脈内注射、腹腔内注射、または皮下注射による末梢全身送達を用いて対象に投与される。いくつかの態様における組成物は、いくつかの局面では選択されたpHに緩衝され得る、滅菌液体調製物、例えば、等張水溶液、懸濁液、エマルジョン、分散液、または粘性組成物として提供される。液体調製物は通常、ゲル、他の粘性組成物、および固体組成物よりも調製が容易である。さらに、液体組成物は、特に注射によって投与するのにいくぶんより便利である。他方で、粘性組成物は、特定の組織とのより長い接触期間を提供する適切な粘度範囲内に製剤化することができる。液体または粘性組成物は担体を含むことができ、担体は、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。
【0114】
GM1または誘導体は、ナノ粒子製剤として、またはエキソソーム中で投与することができる。ナノ粒子には、リポソーム、ペグ化リポソーム、官能化ポリマーソーム、ポリマーミクロスフェア、またはナノミセルが含まれるが、これらに限定されるわけではない。ナノ粒子は、一般に脳を標的とするか、または脳の特定の部位でGM1または誘導体を標的とし、送達するものであり得る。天然に存在するまたは製造されたエキソソームは、好ましくは鼻腔内送達経路または経口送達経路を介して脳に送達するためのGM1ガングリオシドまたは誘導体の送達ビヒクルとして使用することができる。エキソソームは、脳内の特定の細胞型を標的とするように官能化され得る。
【0115】
滅菌注射溶液は、適切な担体、希釈剤、または賦形剤、例えば、滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロースなどと混合して溶媒中に組成物を組み込むことによって調製することができる。組成物は、所望の投与経路および調製物に応じて、湿潤剤、分散剤または乳化剤(例えばメチルセルロース)、pH緩衝剤、ゲル化または増粘添加剤、防腐剤、香味剤、および/または着色剤などの補助物質を含有することができる。いくつかの局面では、標準的なテキストを参考にして適切な調製物が調製され得る。
【0116】
抗菌防腐剤、抗酸化剤、キレート剤、および緩衝剤を含む、組成物の安定性および無菌性を高める様々な添加剤を添加することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、およびソルビン酸によって確実にすることができる。注射用薬学的形態の持続的吸収は、吸収を遅延させる剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらされ得る。
【0117】
インビボ投与に使用される製剤は一般に無菌である。無菌性は、例えば、滅菌濾過膜を通して濾過することによって容易に達成され得る。
【0118】
本発明の実施には、別段の指示がない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来技術を使用し、これらは十分に当業者の技術範囲内である。そのような技術は、文献において、例えば「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,fourth edition(Sambrook,2012);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait,1984);「Culture of Animal Cells」(Freshney,2010);「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir,1997);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller and Calos,1987);「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel,2002);「Polymerase Chain Reaction:Principles,Applications and Troubleshooting」,(Babar,2011);「Current Protocols in Immunology」(Coligan,2002)において詳細に説明されている。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの生成に適用可能であり、したがって、それら自体、本発明を作製および実施する際に考慮され得る。特定の態様のための特に有用な技術を以下の項で論じる。
【実施例】
【0119】
実験例
以下の実験例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。これらの例は、例示のみを目的として提供されており、特に明記されない限り、限定することを意図しない。したがって、本発明は、決して以下の例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提供される教示の結果として明らかになるありとあらゆる変形例を包含すると解釈されるべきである。
【0120】
さらなる説明なしに、当業者は、前述の説明および以下の例示的な例を使用して、本発明の化合物を作製および利用し、特許請求される方法を実施することができると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい態様を具体的に指し示すものであり、決して本開示の残りの部分を限定すると解釈されるべきではない。
【0121】
方法
ベクター
AAV-A53T αシヌクレインベクター設計の完全な詳細は、Koprich et al.Mol Neurodegener 5:43(2010)に見出すことができる。簡潔には、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサ配列とハイブリダイズしたニワトリβアクチン(CBA)プロモータによって駆動されるヒトA53T αシヌクレイン発現を有する1/2血清型(キャプシドはAAV1およびAAV2血清型タンパク質を1:1の比で発現する)のキメラアデノ随伴ベクター(AAV)を使用した。ウッドチャック転写後調節エレメント(WPRE)およびウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(bGH-ポリA)も、形質導入後の転写をさらに増強するために組み込んだ。ベクター(AAV1/2-A53Tおよび空ベクター対照)は、GeneDetect Ltd.,Auckland,New Zealandによって作製された。WPRE領域に対するプライマーを用いた定量的PCR(Applied Biosystems 7900 QPCR)によってウイルス力価を決定し、したがって、送達されるゲノムを含有する溶液中のAAVの機能性の物理的粒子の数を示した。
【0122】
動物およびベクター送達
すべての動物手順は、Thomas Jefferson Universityの施設内動物管理・使用委員会によって承認され、National Institutes of Health Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsに従って実施された。手術時に250g~300gの成体雄性Sprague-Dawleyラット(Envigo)を、12時間の明/暗サイクルの間、食餌および水を自由に摂取できるようにしてケージあたり3匹収容した。すべての手術は、ケタミン(100mg/kg、i.p.)とキシラジン(10mg/kg、i.p.)の混合物を用いた全身麻酔下で実施した。動物を麻酔したら、頭部を剃毛し、ベタジン溶液およびアルコールで外科的に前処理した後、Kopf定位フレームに入れ、切歯バーを水平ゼロより約3.5mm下に設定して、平らな頭蓋骨位置を達成した。頭蓋骨の上部の皮膚を正中線に沿って切断し、開創した。ブレグマ由来の頭蓋骨下の座標AP:-5.3、L:2.2、D:7.5を使用して、片側のSN上に小さな穿頭孔を作成し、AAV-A53T-シヌクレインまたは空ベクター対照ウイルスをロードしたハミルトンシリンジに取り付けた36ゲージ針を脳内にゆっくり下げ、電動シリンジポンプを使用して0.2μl/分の速度でSN上に2.0μlを注入した。注入完了後5分間の待機期間後、針をゆっくりと引き抜き、皮膚創傷を閉じ、術後鎮痛薬(メロキシカム1mg/kg)を投与した。
【0123】
一部のラットを、AAV-A53T-シヌクレイン手術の24時間後から開始して6週間継続する毎日のGM1ガングリオシド(ブタ脳由来のGM1、30mg/kg、i.p.、Qilu Pharmaceutical Co.,Ltd.)または同様の体積の生理食塩水注射を受けるように無作為に割り当てた(早期開始群)。他の動物は、AAV-A53T-シヌクレイン手術の3週間後から開始して5週間継続する毎日のGM1ガングリオシド(ブタ脳由来のGM1、30mg/kg、i.p.、Qilu Pharmaceutical Co.)または同様の体積の生理食塩水注射を受けるように無作為に割り当てた(遅延開始群)。以下の情報に基づいて30mg/kgの用量を選択した:この用量のGM1は、マウスのMPTP病変モデルにおいて有効であることが以前に認められた;この用量は、様々な中枢および末梢病変モデルにわたる多数のげっ歯動物試験で再生応答を刺激するのに有効であることが示された。試験の終了時に、動物を安楽死させ、新鮮な脳を迅速に取り出し、両側から2~3個の線条体試料を切りだし、その後の分析のために直ちに凍結した。脳の残りの部分(前交連の交叉のレベルで始まる線条体を含む)を4%パラホルムアルデヒドで浸漬固定した。
【0124】
行動試験
探索行動中の前肢の使用を、円筒試験を用いて分析した。試験装置は、肢の使用をあらゆる角度から可視化するために、薄暗い部屋で鏡の前に配置した直径約33cmおよび高さ50cmの透明なプレキシガラス円筒からなった。各セッションは、動物の実験群に対して盲検の観察者によるその後の分析のためにビデオ録画した。ビデオテープ上の側性を明確に決定するために、各試験セッションの開始前にAAV-A53T-αシヌクレイン注射の側とは反対側の足にマークを付けた。試験は、暗サイクルの開始前の夕方に実施した。各試験セッションで、動物を静かに円筒に入れ、動きを10分間ビデオ録画した。前肢の使用を、同側、対側(AAV-A53T-αシヌクレイン注射側に対して)、および両方の足との円筒壁上の重量を支える接触をスコア化することによって評価した。円筒壁上の足配置の20の観察結果を採点した。
【0125】
動物が静止位置に戻り、再び立って円筒壁に触れた後に生じた場合にのみ、壁上の肢の配置を採点した。同側(ipsi)および対側(contra)の足の接触の割合を、それぞれ[(同側+1/2両方)/合計観察数]*100および[(対側+1/2両方)/合計観察数]*100として計算した。円筒試験は、早期開始GM1群については手術前(ベースライン)ならびに手術後3週間および6週間目に、遅延開始GM1群については手術後3週間および8週間目に実施した。
【0126】
線条体ドーパミンおよび代謝産物レベルの測定
線条体試料を0.4M過塩素酸中で10秒間低温超音波処理し、4℃、13,000rpmで10分間遠心分離した。上清を取り出し、内部標準(イソプロテレノール、4ng)を含有するMilli-Q超純水(抵抗率18.2MΩ・cm)で1:4に希釈した。希釈した試料を再び4℃、13,000rpmで5分間遠心分離した。試料を氷上に保持した後、HPLCシステムに組み込まれた冷蔵(4℃)オートサンプラにロードした。電気化学検出(ガラス状炭素電極を有するDecade Elite電気化学検出器)を備えたALEXYS UHPLCシステム(Antec Scientific)を分析に使用した。分離は、Aquity UPLCカラム1.0×100mm BEH C18 1.7μm(Waters Corporation)を使用して37℃で達成した。移動相(pH3.0)は、100mMリン酸、100mMクエン酸、0.1mM EDTA.Na2、600mg/Lオクタンスルホン酸ナトリウム塩、および8%アセトニトリルからなった。ポンプ流量は50μl/分であった。0mVの基準電極に対する600mVの酸化電位で分析物を検出した。Clarityソフトウェア(v7.4.1)(DataApex)を使用してデータを取得し、処理した。ピーク高さを内部標準曲線と比較して、各試料中のDAおよび代謝産物の濃度を決定した。
【0127】
免疫組織化学および立体細胞計数
固定組織ブロックを凍結保護のために30%スクロースに浸漬し、スライド式ミクロトーム(線条体切片は30μmの切片厚さ;SN切片は40μmの切片厚さ)で凍結切片にした。SNの吻側-尾側範囲を通る切片を収集し、SNからの6切片ごとに、立体細胞計数のために使用されるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫組織化学用に処理した。それぞれの場合におよそ前交連の交叉のレベルからの3つの線条体切片をα-シヌクレイン免疫組織化学用に処理した。免疫組織化学のために、切片を洗浄し、0.2%Triton X-100を含有するPBSで透過処理した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、0.2%Triton X-100を含有するPBS中の3%過酸化水素を使用してクエンチした。
【0128】
次いで、切片を、10%正常ヤギ血清および2%BSAを含有するPBS/triton X-100中でブロックし、続いて、一次抗体インキュベーション(TH(ウサギ抗TH、1:2,000、Pel-Freez);α-シヌクレイン(マウス抗α-シヌクレインクローン211;1:2000、Millipore))を4℃で一晩行った。翌日、切片をPBSで洗浄し、ビオチン化二次抗体(THについてはヤギ抗ウサギ1:4000;α-シヌクレイン1:2000についてはヤギ抗マウス1:2000、VECTOR Laboratories)中でインキュベートした後、さらに洗浄し、アビジンビオチン複合体(VECTASTAIN Elite ABCシステム、VECTOR Laboratories)中でインキュベートした。反応生成物を3,3'-ジアミノベンジジン(DAB)(Immpact DAB、VECTOR Laboratories)で可視化した。次いで、切片をマウントし、脱水し、清澄化し、カバーガラスを被せた。THの可視化のために染色した、立体細胞計数に使用する切片を、カバーガラスを被せる前にクレシルバイオレットで対比染色した。StereoInvestigatorソフトウェア(MBF Bioscience)およびLudl電動ステージを備えたOlympus BX-60顕微鏡を使用して、脳の両側のSNc中のTHおよびクレシルバイオレット染色ニューロンの数の立体推定値を得た。スライドをコード化し、盲検で分析した。SNcを低倍率(4倍)下で輪郭を描き、195μm×85μmを測定するグリッドを領域上にランダムに配置した。次いで、60μm2を測定する計数枠を使用して細胞を高出力(100倍)で計数した。核が明確に識別可能であり、細胞が計数枠内にあり、計数枠の左境界または下境界に接触しなかった場合にのみ、細胞を計数した。このプロセスを所与の動物について一連の各切片について繰り返し、合計7~8切片/動物を分析した。ニッスル染色細胞を、同じサンプリングパラメータを使用して同じ切片において同時に計数した。細胞数は、Gundersen CE<0.1で許容可能と考えられた。
【0129】
α-シヌクレインおよびα-シヌクレイン陽性凝集体の分析
α-シヌクレイン発現のための免疫ブロット法を、Wesウェスタンブロットシステム(ProteinSimple)を使用して実施した。組織溶解物を、プロテアーゼ阻害剤を添加した標準RIPA緩衝液中で調製し、製造業者の推奨に従って12~230KDaのWes分離モジュールを用いて分離した。α-シヌクレインレベルを、抗α-シヌクレイン抗体(Syn204)(カタログ番号2647S、Cell Signaling)を用いてアッセイし、β-アクチンレベル(抗β-アクチン抗体、NB600-503、Novus Biologicals)に対して正規化した。最近のインビトロ試験は、GM1およびα-シヌクレインが、単量体α-シヌクレインを潜在的に病原性の凝集から保護するように相互作用することを示唆している。本発明者らは、生理食塩水またはGM1で処置したAAV-A53T動物の線条体におけるα-シヌクレイン陽性凝集体のサイズを測定することによって、インビボでのGM1処置がα-シヌクレインの凝集に影響を及ぼし得る程度を調べた。α-シヌクレイン陽性腫脹/凝集体のサイズを、1つの冠状断面(およそ前交連の交叉のレベル)から3つの視野(1つは内側、1つは中央、および1つは外側)で測定した。Nikon Eclipse Ni顕微鏡で40倍対物レンズを使用して写真を捕捉し、5μm2を超える面積を有するα-シヌクレイン陽性構造体を凝集体と見なし、Nikon NIS Elements ARソフトウェアを使用して測定した。データは、測定した3つの線条体領域における凝集体サイズの分布として提示される。
【0130】
免疫ブロット法
低い試料濃度での感度および再現性を高めるために、キャピラリ電気泳動および免疫検出(ProteinSimple)に基づくWes自動ウェスタンブロットシステムを使用して、α-シヌクレインおよびβ-アクチンの発現を分析するための免疫ブロット法を実施した。組織溶解物を、プロテアーゼ阻害剤(Halt Protease and Phosphatase Inhibitor Cocktail、Thermo Fisher Scientific)を添加したRIPA緩衝液中で調製し、Micro BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)を使用して定量化した。各試料について、標的タンパク質および対照タンパク質によって生成される化学発光シグナルの干渉を最小限に抑えるために、個々のキャピラリにおいて、等しい試料量からの標的(α-シヌクレイン)および対照(β-アクチン)シグナルのアッセイを可能にする2つのキャピラリウェルを充填するのに十分な体積のマスターミックスを調製した。組織試料溶解物(4μg/ウェル)、0.1倍試料緩衝液および5倍蛍光混合物(200mM DTT、5倍試料緩衝液、5倍蛍光標準)を合わせ、70℃で10分間変性させることによって、試料溶解物マスターミックスを調製した。各試料について、等量の変性溶解物マスターミックスを12~230KDaのWes分離モジュールプレートの2つのキャピラリウェルに充填し、製造業者の推奨に従って分離した。α-シヌクレインレベルを、1:25に希釈した抗α-シヌクレイン抗体(Syn204)(カタログ番号2647S、Cell Signaling)を用いてアッセイし、β-アクチンレベルを、1:50に希釈した抗β-アクチン抗体(NB600-503、Novus Biologicals)を用いてアッセイした。HRPコンジュゲート抗マウス(カタログ番号042-205)および抗ウサギ二次抗体ならびにルミノール検出試薬(カタログ番号DM-001)をProteinSimpleから入手した。α-シヌクレインおよびβ-アクチンの発現レベルを、Compass Software(Protein Simple)のガウス分布関数を用いて、α-シヌクレインおよびβ-アクチンの化学発光シグナルの曲線下面積を計算することによって決定した。最後に、α-シヌクレインシグナルをβ-アクチンシグナルに対して正規化し、提示した。Wesウェスタン免疫ブロット画像を、Compass Software(ProteinSimple)を使用して調製した。
【0131】
分析からの動物の除外
AAV1/2-A53T α-シヌクレイン注射によって生成された病変の成功の証拠がないため、全手術群から合計9匹の動物を分析から除外した。技術的理由または処理に利用可能な十分な組織の欠如のために、早期開始A-53T-α-シヌクレイン/生理食塩水群からの2匹の動物および早期開始A-53T-α-シヌクレイン/GM1群からの4匹の動物を立体細胞計数の分析から除外した。また、技術的理由または処理に利用可能な十分な組織の欠如のために、遅延開始A-53T-α-シヌクレイン/生理食塩水群からの1匹の動物を円筒試験分析およびDOPACレベルの分析から除外した;遅延開始A-53T-α-シヌクレイン/GM1群からの2匹の動物を立体細胞計数の分析およびDOPACレベルの分析から除外した。
【0132】
統計分析
すべての統計を、GraphPad Prismソフトウェア(v7)を使用して行った。値を平均±SEMとして示す。実験群間の比較は、スチューデントのt検定を使用して、または比較が3つ以上の群を含む場合、一元配置分散分析、続いてボンフェローニの多重比較検定を用いた事後比較を使用して実施した。すべての分析は両側であった。生理食塩水処置動物およびGM1処置動物からのα-シヌクレイン凝集体サイズのサンプルが同じ分布に由来するか否かを試験するために、ノンパラメトリックコルモゴロフ・スミルノフ検定を使用した(すなわち、H0:2つのサンプルは共通の分布に由来する;Ha:2つのサンプルは共通の分布に由来しない)。すべての場合に、統計学的有意性をP<0.05に設定した。
【0133】
実施例1-早期開始GM1投与は運動行動および線条体DAレベルを部分的に保護する
円筒試験を使用して、AAV-A53T α-シヌクレインを形質導入された動物における自発的前肢使用を評価した。処置の有意な主効果があり、GM1処置動物において保護効果が観察された(F(5、102)=16.59、P<0.0001)。AAV-A53T α-シヌクレインを投与し、続いて生理食塩水を6週間投与した動物は、足使用の有意な非対称性を発症し、ウイルス注射側に対して同側の前足が円筒と接触する優先傾向があった。AAV-A53T α-シヌクレイン注射後3週間目に、生理食塩水処置動物は既に同側肢使用率の有意な増加を示し、これはウイルス注射後6週間目にも引き続き観察された(平均±SEM:ベースライン:48.1±1.9%;3週間目:74.2±2.7%、6週間目:72.9±2.9%)(
図1A)。AAV-A53T α-シヌクレイン注射の24時間後からGM1投与を開始した動物では、肢使用の非対称性(同側肢使用率)がやはりAAV-A53T α-シヌクレイン注射後3週間目および6週間目に増加したが、この増加は3週間目にのみベースラインと有意に異なっていた(平均±SEM:ベースライン:50.1±1.8%;3週間目:67.1±3.7%、6週間目:56.0±2.5%)(
図1A)。肢使用の非対称性の量は、6週間目の生理食塩水処置動物と比較して、6週間目のGM1処置動物では有意に少なかった(P<0.0001)(
図1A)。AAV空ベクター注射を受けた動物は、肢使用に有意な変化がなかった(同側肢使用率:ベースライン:48.8±2.3%;3週間目:53.7±4.2%;6週間目:58.5±4.1%;(F(2、9)=2.521、P=0.1173)。
【0134】
AAV-A53T α-シヌクレイン注射の6週間後、生理食塩水処置動物における注射と同側の線条体DAレベルは、注射と反対側(すなわち、非注射側)のDAレベルの47.8±4.5%であった。手術の24時間後にGM1投与を開始した動物では、注射と同側の線条体DAレベルは、注射と反対側のDAレベルの64.0±3.5%であった(t(34)=2.858、生理食塩水処置動物に対してP=0.0072)(
図1B、表1)。生理食塩水処置動物における注射と同側のDOPAC/DA比は対側(非注射側)の154.5±9.2%であったが、GM1処置動物では、注射と同側のDOPAC/DA比は対側(非注射側)の112.3±9.5%であった(t(34)=3.092、生理食塩水処置動物に対してP=0.0040)(
図1C)。AAV空ベクターの注射は線条体DAレベルに有意な効果を及ぼさなかった(非注射側:10.57±0.47μg/g湿重量;注射側:11.04±0.69μg/g湿重量、N=9、P=0.5775)。
【0135】
(表1)線条体ドーパミン(DA)およびジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC)レベルに対するAAV-A53T-α-シヌクレインおよびGM1ガングリオシド投与の効果
aAAV-A53T/生理食塩水に対してP=0.0026;
bAAV-A53T/生理食塩水に対してP=0.004;^2つの試料がグラブス検定によって極端な外れ値であると判定され、分析から除外された。
【0136】
AAV-A53T α-シヌクレイン注射の24時間後から開始したGM1投与で観察されたプラスの効果は、AAVベクターによるA53T α-シヌクレイン遺伝子の形質導入およびα-シヌクレインタンパク質の発現を妨げるGM1によって説明することができない。AAV-A53T α-シヌクレイン注射後1週間で評価した場合、線条体α-シヌクレインのレベルは生理食塩水処置動物とGM1処置動物で差がなく、A53T α-シヌクレインの形質導入または線条体への輸送に対するGM1の影響は示唆されなかった(正規化OD:それぞれ、0.014±0.004および0.017±0.007、t(12)=0.4412、P=0.6669)(
図2A~2B)。AAV-A53T α-シヌクレイン注射の1週間後のSNcの免疫組織化学的評価も、生理食塩水処置動物とGM1処置動物との間で、TH+ニューロンにおけるα-シヌクレイン蓄積に差がないことを示した(
図2C~2D)。
【0137】
実施例2-早期開始GM1投与は、SNニューロンをα-シヌクレイン誘発毒性から部分的に保護する
PD関連病理の状況におけるGM1の潜在的な保護的役割を調べるために、GM1投与がA53T α-シヌクレインを過剰発現する黒質DAニューロンの生存に影響を及ぼす程度を調べた。SNc中のTH+細胞の数は、注射と同側で有意に減少した:AAV-A53T-α-シヌクレイン注射は、対側(非注射側)と比較して、TH+ニューロンの60.0±2.3%の喪失をもたらした(
図3A~3B)。早期開始GM1投与を受けた動物は、非注射側と比較して、43.7±2.7%のTH+ニューロンの喪失があった(t(28)=4.379、P=0.0002)(
図3A~3B;表2)。同様に、SNc中のクレシルバイオレット染色細胞の数は、AAV-A53T-α-シヌクレイン注射およびGM1処置によって有意に影響を受けた。AAV-A53T-α-シヌクレイン注射は、対側と比較して、クレシルバイオレット染色ニューロンの54.9±1.8%の喪失を引き起こした。GM1処置動物では、対側と比較して、クレシルバイオレット染色ニューロンを41.9±2.5%しか喪失しなかった(t(28)=3.997、P=0.0004)(表2)。AAV空ベクターの注射は、SNニューロンに有意な効果を及ぼさなかった:TH+ニューロンの数は非注射側の95.4±1.1%であった;クレシルバイオレット染色ニューロンの数は非注射側の95.6±1.3%であった。
【0138】
(表2)黒質緻密部ドーパミンニューロンに対するAAV-A53T-a-シヌクレインおよびGM1ガングリオシド投与の効果
aAAV-A53T/生理食塩水に対してP=0.0008;
bAAV-A53T/生理食塩水に対してP=0.002;
cAAV-A53T/生理食塩水に対してP=0.0017;
dAAV-A53T/生理食塩水に対してP=0.0006。
【0139】
実施例3-遅延開始GM1投与は運動行動を部分的に回復させ、線条体DAレベルを保護する
AAV-A53T α-シヌクレインを投与し、続いて生理食塩水を8週間投与した動物も、足使用の有意な非対称性を発症し、ウイルス注射と同側の前足が円筒と接触する優先傾向があった(
図4A)。AAV-A53T α-シヌクレイン注射後3週間目に試験した場合、生理食塩水処置動物は、前述の動物で見られたものと同様の同側肢使用率の有意な増加を示し、これはウイルス注射後8週間目にも引き続き観察された(平均±SEM;ベースライン:50.9±2.4%;3週間目:74.5±3.8%、8週間目:81.4±4.5%)(
図4A)。GM1処置群に有利な有意な処置効果があった(F(5、84)=19.14、P<0.0001)。GM1群に割り当てられた動物は、生理食塩水群と同等のベースライン同側肢使用率(50.0±2.0%)、および3週目にやはり生理食塩水群で観察されたものと同等の同側前肢使用率の増加(74.9±2.8%)を有していた。その後、これらの動物は、次の5週間にわたって毎日GM1投与を受け、8週目に再び試験した場合、GM1処置を受ける直前の3週目の成績と比較して、同側前肢使用率の有意な減少(すなわち、対側肢使用の増加)(61.5±2.7%)を示した(3週目に対してP=0.0075)(
図4B)。
【0140】
AAV-A53T α-シヌクレイン注射後8週間目に、生理食塩水処置動物における脳のウイルス注射側の線条体DAレベルは、対側(非注射側)のDAレベルの32.3±5.0%であった。手術の3週間後にGM1投与を開始した動物では、脳のウイルス同側(注射側)の線条体DAレベルは、対側のDAレベルの55.0±3.9%であった(t(29)=3.565、生理食塩水処置動物に対してP=0.0013)(
図4C)。生理食塩水処置動物における注射側のDOPACレベルは対側の69.4±7.4%であり、一方、GM1処置動物では、注射側のDOPACレベルは非注射側の82.0±8.4%であり、増加したが生理食塩水処置動物と統計的に有意に異ならなかった(
図4D)。生理食塩水処置動物における注射と同側のDOPAC/DA比は対側の181.1±25.4%であり、一方、GM1処置動物では、注射と同側のDOPAC/DA比は対側の150.0±10.9%であったが、この差は統計的に有意ではなかった。
【0141】
実施例4-遅延開始GM1投与は、SNニューロンをα-シヌクレイン誘発毒性から部分的に保護する
GM1の遅延開始投与がA53T α-シヌクレインを過剰発現する黒質DAニューロンの生存に影響を及ぼし得る程度を調べた。SNc中のTH+細胞の数は、注射と同側で有意に減少した:AAV-A53T-α-シヌクレイン注射は、対側(非注射側)と比較して、TH+ニューロンの63.3±3.0%の喪失をもたらした。遅延開始GM1投与を受けた動物は、対側と比較して、50.6±2.1%のTH+ニューロンの喪失があった(t(27)=3.58、P=0.0013)(
図5A~5B;表2)。SNc中のクレシルバイオレット染色細胞の数もまた、AAV-A53T-α-シヌクレイン注射および遅延開始GM1処置によって有意に影響を受けた。AAV-A53T-α-シヌクレイン注射は、対側と比較して、クレシルバイオレット染色ニューロンの58.2±2.6%の喪失を引き起こした。遅延開始GM1処置動物では、対側と比較して、クレシルバイオレット染色ニューロンを45.5±2.1%しか喪失しなかった(t(27)=3.796、P=0.0008)(表2)。
【0142】
実施例5-α-シヌクレイン凝集はGM1投与によって減少する
以前のインビトロ試験は、GM1とα-シヌクレイン(野生型とA53T変異の両方)が病原性凝集を潜在的に阻害する方法で相互作用することを示唆しているので、AAV-A53T過剰発現動物へのGM1投与は、α-シヌクレイン凝集の減少、したがってより小さなサイズの凝集体をもたらすと仮定された。したがって、線条体におけるα-シヌクレイン陽性腫脹/凝集体のサイズに対する早期または遅延開始GM1投与の効果を調べた。GM1処置と比較して生理食塩水処置(AAV-A53T投与の24時間後に開始)における線条体α-シヌクレイン陽性凝集体のサイズ分布は有意に異なり(コルモゴロフ・スミルノフD=0.2945、P<0.0001)、生理食塩水群と比較してGM1群では、より多数のより小さなサイズの凝集体およびより少数のより大きなサイズの凝集体に明確にシフトした(
図6A~6C)。生理食塩水群で測定された最大凝集体サイズは52.5μm
2であり、一方、GM1処置動物で測定された最大凝集体サイズは28.8μm
2であった。生理食塩水処置動物と比較して、遅延開始GM1投与動物における凝集体サイズ分布の測定でも同様の結果が得られた。GM1処置と比較して生理食塩水処置(AAV-A53T投与の3週間後に開始)における線条体α-シヌクレイン陽性凝集体のサイズ分布が有意に異なり(コルモゴロフ・スミルノフD=0.154、P<0.0001)、GM1群と比較して生理食塩水群では、より大きなサイズの凝集体がより多かった(
図6B~6D)。生理食塩水群で測定された最大凝集体サイズは66.9μm
2であり、一方、GM1処置動物で測定された最大凝集体サイズは29.3μm
2であった。AAV-A53T投与の24時間後にGM1投与を開始した動物と比較して、AAV-A53T投与の3週間後にGM1投与を開始した動物は、中間サイズの凝集体(約7~12μm
2)の数がより多かったが、早期開始GM1群と同様に、生理食塩水群よりも大きなサイズの凝集体はより少なかった。Ser129リン酸化α-シヌクレインの蓄積は定量化しなかったが、GM1処置動物および生理食塩水処置動物のSNにおけるSer129リン酸化α-シヌクレイン陽性ニューロンおよび神経突起の免疫組織化学可視化は、生理食塩水処置動物と比較して、GM1処置動物では細胞質Ser129リン酸化α-シヌクレイン染色の強度が低く、核凝集体がより少ない/より小さいことを示した(
図7A~7B)。
【0143】
実施例6-考察
GM1ガングリオシドは、線条体DAレベルおよび行動に有益な効果を有しており、PDの神経毒(主にMPTP)モデルにおいてSNc DAニューロンを変性から保護した。GM1はまた、症候性効果を有することが示されており、長期間の使用により、PD患者における症候の進行を遅らせ得る。本結果は、GM1投与がまた、SNcニューロンにおけるヒト変異型α-シヌクレイン(A53T)の標的過剰発現を特徴とするPDモデルにおいて、黒質線条体DA系に対して神経保護効果および潜在的に神経修復効果を発揮できることを実証する。MPTPマウスまたはPDの非ヒト霊長動物モデルにおいて神経保護的であることが認められている他の化合物が、α-シヌクレインモデルまたは臨床に翻訳されるこの前臨床的成功を収めていないことを考慮すると、これらのデータは特に興味深い。MPTPモデルで有望な神経保護効果を示したGDNF、ニュールツリン、CoQ10、CEP-1347、GPI-1485、ピオグリタゾン、エキセナチドなどの化合物が、臨床試験では明確な疾患修飾効果を実証することができなかった理由はいくつか考えられるが、毒素モデルが疾患の重要な局面を忠実に再現しないという仮定に基づいて、PDのMPTP(および他の毒素ベースの)モデルの妥当性および翻訳可能性が疑問視されている。しかしながら、臨床的な翻訳の失敗は、前臨床モデルの欠陥と同程度に、試験された化合物の特定の特徴に起因する可能性がある。ここで、これらの他の化合物とは異なり、GM1はマウスおよび非ヒト霊長動物MPTPモデルにおいて神経保護的であり、PDのコア分子特徴(すなわち、異常なα-シヌクレインの蓄積に関連する毒性)に基づいてDAニューロンの変性および機能障害を再現するAAV-α-シヌクレインモデルにおいて神経保護的であり、これらの前臨床的成功は初期臨床試験でのプラスの効果に翻訳されたことが示される。本試験では、AAV-A53T α-シヌクレイン注射後3週間目の円筒試験で行動の欠陥が観察された。この試験ではこの3週間の期間で動物を安楽死させなかったが、ここで使用したのと全く同じベクターおよびベクター濃度を使用したこのモデルの以前の詳細な特徴付けは、3週間目に観察された円筒試験の欠陥が、SN DAニューロンまたは線条体DAレベルの有意な喪失の非存在下であるが、線条体における中程度のジストロフィ軸索形態の存在下で現れることを示した。AAV-A53T α-シヌクレイン注射の24時間後からGM1で処置した動物は、AAV-A53T α-シヌクレイン注射後3週間目および6週間までに試験した場合、注射とは反対側の前肢の使用の減少を既に示し始めており、この効果は統計学的に有意になり、同側/対側の前肢使用の比はベースライン(AAV-A53T α-シヌクレイン注射の前)で観察されたものに近似していた。6週間目に、GM1処置動物はまた、生理食塩水処置動物よりも線条体DAレベルが有意に高かった。結果はまた、早期開始GM1処置がα-シヌクレインの発現または輸送を妨げないことを示した。これらの結果は、早期開始GM1療法が、AAVベクターによるA53T α-シヌクレインの形質導入およびα-シヌクレインの発現/輸送を妨げずに、α-シヌクレインの蓄積から始まる病理学的過程を妨げたことを示唆する。かなり興味深いのは、遅延開始GM1処置が、AAV-A53T α-シヌクレイン注射後3週間目に観察された行動の欠陥を有意に逆転させ得るという所見であった。他の研究者によって示唆されているように、3週目の時点で見られる行動の欠陥は、比較的解剖学的に無傷な黒質線条体経路のA53T α-シヌクレイン誘導性機能障害の結果である。この時点でGM1療法を開始すると、α-シヌクレイン蓄積の病理学的過程が始まった場合でも、SNc DAニューロンの変性および線条体DAの喪失に対してある程度の保護を与えることができ、AAV-A53T α-シヌクレイン注射後8週間目に観察されたように、3週間目に観察された前肢使用の欠陥を逆転させることができた。このモデルにおけるGM1の神経保護効果の根底にある機構は、この時点では完全には知られていない。GM1を投与した動物では、α-シヌクレインの凝集が減少したことが観察され、予備的な観察結果は、GM1がα-シヌクレインのリン酸化も減少させ、毒性形態のα-シヌクレインの蓄積を潜在的に減少させ得ることを示している。Ser129でのα-シヌクレインのリン酸化はα-シヌクレインの原線維形成を促進し、PD脳のレビー小体に沈着したα-シヌクレインの大部分はSer129で広範囲にリン酸化される。A53T α-シヌクレインおよび野生型α-シヌクレインは、不溶性の毒性原線維凝集体を形成することができ、変異型α-シヌクレインは、野生型αシヌクレインよりも凝集および毒性を生じやすい可能性がある。AAV-A53T α-シヌクレイン注射後のGM1の早期開始および遅延開始使用の両方が、線条体で測定されたα-シヌクレイン凝集体のサイズを減少させることが観察された。インビトロ試験は、らせん状α-シヌクレインとGM1のシアル酸部分および炭水化物部分の両方との間の相互作用に起因する、GM1とα-シヌクレインとの間の直接的な会合、ならびにGM1とのこの会合がフィブリル化を阻害したことを示している。PDにおけるSN中のGM1および他の複合ガングリオシドの発現減少、ならびにPD SNにおけるDA作動性ニューロンのガングリオシド生合成に関与する遺伝子の発現減少。理論に拘束されることを望むものではないが、PD SNにおけるガングリオシド、特にGM1のレベル低下は、毒性のα-シヌクレインの蓄積を促進する可能性があり、GM1の投与は、α-シヌクレインの毒性凝集を少なくとも部分的に阻害し、SN DAニューロンにある程度のレベルの保護を提供するために、この重要なスフィンゴ脂質の十分な量を提供し得ると考えられる。この可能性は、GM1および他のa系列ガングリオシドを欠くB4galnt1ノックアウトマウスを用いた試験によって支持され、この試験は、GM1を欠くノックアウトマウスにおけるα-シヌクレイン凝集量の増加を、GM1および半合成GM1誘導体LIGA-20の投与によって少なくとも部分的に減少させ得ることを報告した。
【0144】
本試験で観察されたGM1の神経保護効果の根底にある別の可能性のある機構は、オートファジーおよびリソソーム機能に対するGM1の影響を含み得る。オートファジー-リソソーム経路の機能障害は、PD病理に寄与することが示唆されている。A53T-α-シヌクレインの過剰発現はオートファジーを抑制し、病原性A53T-α-シヌクレインは不十分にしかプロセシングされず、シャペロン媒介オートファジーによって除去される。オートファジーが損なわれた条件下では、GM1は、インビボまたはインビトロのいずれかで、オートファジーマーカの発現を増加させ、オートファジーを増強した。内因性ガングリオシドの枯渇は、リソソーム機能の低下およびオートファジーの抑制をもたらし、レビー小体病の細胞モデルにおいてα-シヌクレインおよびP123H β-シヌクレインの両方の蓄積を引き起こした。本試験では、α-シヌクレイン凝集の促進およびDA作動性細胞の喪失に寄与するA53T-α-シヌクレインの過剰発現によってオートファジープロセスが損なわれ、GM1処置がリソソーム機能を増強し、α-シヌクレインのオートファジークリアランスを増加させた可能性がある。このモデルにおけるGM1の神経保護効果に関してこの潜在的な機構を調べるために、さらなる試験が現在必要とされている。
【0145】
この試験に使用したAAV-A53T α-シヌクレインモデルは、黒質線条体DA系の特異的で進行性の変性を生じさせると以前に記載されたのと同じモデルであった。AAV-A53T α-シヌクレイン注射後の初期時点では動物を安楽死させなかったため、病態の進行性は検証されなかった。しかし、モデルを確立した初期のパイロット試験では、注射後最初の3週間にわたって前肢使用の非対称性の着実な増加が検出された。免疫組織化学によるリン酸化Ser 129 α-シヌクレイン発現の限定的な検討を行ったが、リン酸化Ser 129 α-シヌクレインのレベルの系統的評価に利用可能な十分な組織がなかった。同様に、不溶性リン酸化α-シヌクレイン凝集体の存在は直接評価されなかった。線条体α-シヌクレイン凝集体は、AAV媒介A53T-α-シヌクレイン過剰発現を有するラットにおいてSer129で広範囲にリン酸化されることが示されているが、本試験では、線条体中の全α-シヌクレイン陽性凝集体のみを評価し、Ser129リン酸化α-シヌクレイン陽性凝集体は別途に分析しなかった。
【0146】
本結果は、以前にPDのMPTPモデルで神経保護的であることが示されたGM1ガングリオシドが、PDのAAV-A53T α-シヌクレイン過剰発現モデルにおいても神経保護効果を有することを示した。神経毒モデルよりもPDに病理学的に関連すると推定されるこのモデルにおける神経保護効果は、PD患者におけるGM1の臨床結果と一致しており、GM1の長期使用は潜在的な疾患修飾効果の証拠をもたらした。PDにおける基礎疾患過程に直接影響を及ぼし、神経細胞死および症状の進行を遅らせることができる治療の開発は、依然としてPD集団の満たされていない必要性のままである。以前の研究および現在の結果に基づいて、GM1はそのような治療である可能性を引き続き有しており、DAニューロンを死滅から保護し、損傷しているが生存可能なニューロンを救済して機能を回復させる可能性があり、したがってPDに対するGM1の継続的な臨床開発が指示される。
【0147】
実施例7:GM1処置はα-Synの細胞転移を減少させる
最近、α-Synの細胞間転移がシヌクレイノパチーの進行における重要な因子であり得ることが認識されるようになった。α-Synの細胞間転移は、遊離α-Synまたはα-Sy含有エキソソームとして起こり得る。本明細書では、GM1が隣接細胞によるα-Syn放出および/または取り込みに影響を及ぼし得る程度を評価するために予備試験を実施した。GFPでタグ付けされたヒトWT α-Synを安定に発現するMN9Dドーパミン作動性細胞を約90%の集密度まで培養し、無血清培地に48時間移して馴化培地(CM)を生成し、これを収集し、1000rpmで10分間遠心し、滅菌40μmフィルタを通して濾過した。正常なSH-SY5Y細胞(ATCC)を8ウェルチャンバスライドに置床し、10μMのレチノイン酸中で7日間分化させた。滅菌CMまたは通常培地を使用して、各ウェル中の培地の50%を交換した。細胞を、100μM GM1の存在下または非存在下にCM中で24時間増殖させ、4%パラホルムアルデヒド中で10分間固定し、GFP免疫蛍光を使用してGFPの可視化を増強するために処理した。GFP-α-Synを対照SH-SY5Y細胞に取り込ませたが、GM1の存在下で培養した細胞ではGFP-α-Synのレベルが低下していた(
図9)。これらの結果は、GM1の存在下では、エキソソーム中に放出された放出α-Synおよび/または放出された遊離α-Synの細胞取り込みが減少することを示唆する。
【0148】
実施例8:GM1はインビボでα-Synのリン酸化および凝集に影響を及ぼす
これまでの試験は、GM1投与がα-Syn mRNAまたはタンパク質発現自体を減少させることを示唆していない。しかしながら、GM1投与は、インビボでのα-Synリン酸化および凝集に影響を及ぼし得る。いくつかの試験では、インビトロでGM1とα-Synとが相互作用し、原線維形成の欠如およびらせん折り畳み傾向の増加をもたらし、凝集に対するGM1媒介保護をもたらすことが報告されている。これがインビボで起こり得る程度は、本発明者らの試験の前には実証されていない。データはまた、Ser129リン酸化が、PDにおけるα-Synの毒性蓄積および神経変性に関連し、α-Synを過剰発現するラットにおいて他のシヌクレイノパチーおよびpSer129陽性凝集体が増加することを示唆する。本明細書では、GM1がα-Syn関連の神経毒性を減少させる能力の根底にある機構は、GM1投与がインビボでα-Synリン酸化、したがって凝集および毒性を減少させることであることが提案された。これを実証するために、本明細書の他の箇所に記載されているように、AAV1/2-A53Tの黒質(SN)への片側投与のためにラットを準備した。AAV投与の24時間後から開始して、一部の動物には生理食塩水の毎日のi.p.注射を行い、他の動物にはGM1(30mg/kg)の毎日のi.p.注射を行った。生理食塩水またはGM1投与の開始の2週間後に動物を安楽死させた。その後、脳を切片化し、SN切片をプロテイナーゼKで処理し、次いで、pSer129 α-Syn免疫蛍光のために処理した。結果は、生理食塩水で処置した動物と比較して、2週間のGM1投与を受けた動物のSNではpSer129 α-Syn陽性細胞が有意に少なく、細胞あたりのpSer129 α-Synが少ないことを示した(
図10)。
【0149】
実施例9:α-シヌクレイン過剰発現モデルにおけるインビボでのリソソーム機能/オートファジープロセシングへのGM1の効果の評価
ヒトPDでは、α-Syn陽性凝集体の存在は、オートファゴソームおよびリソソーム機能障害のマーカの蓄積に関連しており、α-Syn凝集体のリソソーム媒介クリアランスの障害を示唆する。様々な貯蔵障害の病理学的表現型は、α-Synの蓄積および凝集の増加を含み、このα-Synの蓄積および凝集の増加はリソソームの機能障害に関連している。また、AAV-A53Tラットにおいて過剰なα-Synによって誘導されるDAニューロン変性は、オートファジー活性およびリソソーム機能のマーカの進行性低下に関連する。SNへのAAV-A53T投与の2週間後に、GM1処置がSNのベクリン1レベルの増加を逆転させたことが観察され、オートファゴソームの可能性のある初期蓄積および/またはGM1によって逆転される可能性があるオートファゴソームクリアランスの問題を示唆した(
図11)。
【0150】
他の態様
本明細書中の変数の任意の定義における要素のリストの記述は、列挙される要素の任意の単一の要素または組合せ(もしくは部分的組合せ)としてのその変数の定義を含む。本明細書における態様の記述は、任意の単一の態様としての、または任意の他の態様もしくはその部分との組合せでのその態様を含む。
【0151】
本明細書で引用されるありとあらゆる特許、特許出願、および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。特定の態様を参照して本発明を開示してきたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の他の態様および変形が当業者によって考案され得ることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、すべてのそのような態様および等価の変形を含むと解釈されることを意図している。
【配列表】
【国際調査報告】