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特表2022-531260セルロースケーシング、それを得る方法、及び前記のケーシングに詰められた製品
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  • 特表-セルロースケーシング、それを得る方法、及び前記のケーシングに詰められた製品 図1
  • 特表-セルロースケーシング、それを得る方法、及び前記のケーシングに詰められた製品 図2
  • 特表-セルロースケーシング、それを得る方法、及び前記のケーシングに詰められた製品 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(54)【発明の名称】セルロースケーシング、それを得る方法、及び前記のケーシングに詰められた製品
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/60 20160101AFI20220629BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20220629BHJP
   A23L 5/44 20160101ALI20220629BHJP
   A21D 13/38 20170101ALN20220629BHJP
【FI】
A23L13/60 A
A23L29/262
A23L5/44
A21D13/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564591
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(85)【翻訳文提出日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 ES2020070266
(87)【国際公開番号】W WO2020221947
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】P201930380
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513107595
【氏名又は名称】ビスコファン,エセ.アー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イオン・イニャキ・ガルシア・マルティネス
(72)【発明者】
【氏名】アルフォンソ・ラスキン・オンガイ
(72)【発明者】
【氏名】ホアナ・ヒメネス・フエンテス
(72)【発明者】
【氏名】カルロス・マリア・ロンゴ・アレソ
【テーマコード(参考)】
4B018
4B032
4B041
4B042
【Fターム(参考)】
4B018LB06
4B018MA01
4B018MC01
4B032DB01
4B032DE04
4B032DE10
4B032DK01
4B032DK05
4B032DK16
4B032DK29
4B032DK40
4B032DK51
4B032DK67
4B032DL05
4B032DP66
4B041LC02
4B041LD10
4B041LE06
4B041LE10
4B041LH11
4B041LK04
4B041LK05
4B041LK26
4B041LK44
4B041LP01
4B041LP05
4B041LP12
4B041LP25
4B042AC02
4B042AD03
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK02
4B042AK09
4B042AK11
4B042AK20
4B042AP02
4B042AP13
4B042AP21
(57)【要約】
本発明は、その中に詰められた製品に色を移すことができるセルロースケーシング(それが補強されているか否かにかかわらず)に関する。これらのケーシングは、加工中に詰められた製品に移りうる食用色素を含む。本発明はまた、前記のケーシング及び前記ケーシングに詰められた製品を得る方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その組成が再生セルロース及びアナトーを含み、アナトーがノルビキシンを含む、内層;及び、前記内層と同心の、再生セルロースを含む外層、の2層のセルロースを含む、詰められた製品のためのケーシングであって、
前記ケーシングはノルビキシンを含み、前記アナトーの50質量%~100質量%が、ケーシングの前記内層及び外層によって構成される領域の内側の半分のなかに分布している、ケーシング。
【請求項2】
前記アナトーが0.05%(W/WTセルロース)~20%(W/WTセルロース)で含まれている、請求項1に記載のケーシング。
【請求項3】
前記再生セルロースが、補強された再生セルロースである、請求項1又は2に記載のケーシング。
【請求項4】
以下のステップ:
a)油性ビキシン溶液をビスコースに添加するステップ;
b)少なくとも2つの同心サーキットを含むヘッドを備えた押出機において、ステップa)の生成物を内側のサーキットにおいて、かつ、ビスコースを外部サーキットにおいて押し出すステップ;
c)ステップa)の後、又はステップb)の後に、ビキシンをノルビキシンへ加水分解するステップ。
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のケーシングを得るための方法。
【請求項5】
ステップa)において、油性ビキシン溶液が、0.05%(W/Wビスコース)~25%(W/Wビスコース)を構成する量で添加される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ビキシン溶液が0.05%(W/Wビスコース)~3%(W/Wビスコース)の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ビキシン溶液が3%(W/Wビスコース)~8%(W/Wビスコース)の範囲にあることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
ビキシン溶液が8%(W/Wビスコース)~25%(W/Wビスコース)の範囲にあることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項9】
加水分解のステップc)が、ステップb)の後に、ステップb)で得られた生成物を、0.1質量%~10質量%の濃度のアルカリ性化合物の溶液の浴に入れることによって行われることを特徴とする、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
アルカリ性化合物が、NaOH及びKOHから選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
加水分解のステップc)が、ステップa)の後、押出しのステップb)より前のステップにおいて行われ、そこでビキシンが0.5分~24時間のあいだビスコースと混合されることを特徴とする、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記の混合の時間が30分~6時間であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
可塑剤の浴を通す最終ステップを含むことを特徴とする、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
加水分解のステップが、ステップb)の後、可塑化させる浴のステップの前に、ステップb)で得られた生成物を加水分解酵素の浴に浸すことによって実施されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
加水分解酵素が2g/L~10g/Lであることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ケーシングを折り畳む又は波形にするステップによって特徴づけられ、ここで、加水分解のステップが、ステップb)の後、前記の折り畳みステップにおいて、0.1質量~10質量%の濃度のアルカリ性化合物を含む折り畳み組成物を適用することによって実施される、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記アルカリ性化合物がKOH及びNaOHから選択されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項3~17のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、詰められた製品のためのケーシング。
【請求項19】
請求項1、2、又は17のいずれか一項に記載のケーシングに詰められた製品。
【請求項20】
前記製品がソーセージである、請求項19に記載の詰められた製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それが補強(強化)されているかどうかにかかわらず、その中に詰められた製品に色を移すことができるセルロースケーシングに関する。これらのケーシングは、加工中に詰められた製品に移ることができる食品着色料を含む。本発明はまた、そのケーシング及び前記ケーシングに詰められた製品を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソーセージ及びその他の詰められた製品(stuffed product)の製造業者は、自社の製品に、消費者にとって魅力的な外観を付与する必要がある。色は非常に重要な側面であり、ソーセージにおいて得られる色は、使用するエマルション及び肉の種類、加工条件、並びに燻煙(スモーキング)処理を受けているかどうかに応じて異なる。
【0003】
たとえば、伝統的にソーセージは、ガス状の自然の煙を適用することによって、又は木材からの液体のスモークを噴霧すること又はそれに浸漬することによって着色されてきた。燻煙の条件及び種類に応じて、ソーセージは、非常に明るいベージュの色調から非常に暗い色調、ほとんど黒までの範囲にわたる茶色を伴って得られる。
【0004】
いくつかのマーケットでは、食品着色料を適用してソーセージの表面を着色するのが通例である。たとえば、フィリピンでは、非常に濃い赤色のソーセージの消費が非常に広く行き渡っており、これは、アルラレッド(Allura Red)(E-129)合成染料を適用することによって達成される。赤色に加えて、米国やオーストラリアなどの他のマーケットでは、サンセットイエロー(Sunset Yellow)(E-110)合成染料の適用によって、オレンジ色のソーセージも得られる。しかし、合成染料を使用することの主な欠点の1つは、ソーセージの表面に移ったときに、合成染料が表面を通り抜けてソーセージの表面から中心に向かって移動する傾向があることである。そのような移動は望ましくなく、なぜなら、消費者は、凝固したタンパク質表面のスキン部分のみが着色されており、ソーセージの内部は着色されていないことを好むからである。
【0005】
さらに、これらの合成染料の混合物が使用される場合、そのような移動は、異なる速度及び異なる程度で起こり得るので、クロマトグラフィー効果を生み出し、その断面においてソーセージが異なる色の輪を有することになりうる。これらの合成色の使用に関する別の制限は、多くの国において肉製品の着色へのそれらの使用が認可されていないことである。
【0006】
一方、ブラジルでは、赤橙色を得るために、一度調理して皮をむいたソーセージを水溶性形態のアナトーの溶液(ノルビキシン)中に浸漬することが非常に好まれている。得られる着色は、染料の濃度、浸漬時間、及びその温度に応じて異なる。この水溶性染料は、酸性媒体、通常はリン酸溶液中への第二の浸漬によってソーセージの表面に固定される。
【0007】
この方法には多くの欠点があり、例えば、染料を適用するための設備(なかでも、タンク、コンベヤーベルト、フィルター)に投資する必要、維持及びエネルギーコストなどがあり、それにさらに、アナトー及び他の成分の消費、及びそれ相応の痕跡を含む廃水を処理するコストを追加しなければならない。さらに、ソーセージは、ある日から別の日まで同じ滞留時間及び着色能力を確保することが難しいため、簡単に認識できる色の違いを有する。
【0008】
同様に、チリでは、「スレーニャ」とよばれるタイプのソーセージが市販されており、これも赤橙色を有しているが、この場合は水溶性アナトーを肉のエマルションに添加することによるものであり、それは、詰められた製品の内部の望ましくない着色をもたらす。肉のエマルション全体のこの着色は、ソーセージの表面着色よりも高いコストを伴い、なぜなら、それははるかに大量のアナトーを適用する必要があり、それはまた、製品に望ましくない味を付与する。このやり方のもう一つのマイナス点は、それがソーセージに非常に不自然な外観を与え、なぜならソーセージの内部全体が人工的な色を有しており、それが消費者の不信及び不快を引きおこす。
【0009】
最後に、より先へ進んだマーケットの消費者の間では、合成染料の使用を避け、それらを天然由来の染料、例えばアナトーの種子から抽出される染料であり且つネイティブアメリカンによって遠い昔から使用されてきたアナトーに置き換える強い傾向があることに留意すべきである。
【0010】
いくつかの特許は、詰められた製品のケーシングを着色する方法を記載しており、これは次に、詰める(充填する)及び調理するプロセスのあいだに前記の染料をソーセージの表面に移すことができる。
【0011】
前記の着色ケーシングを製造するための最も一般的な方法は、染料溶液を含むタンクにセルロースゲルを通すことによるセルロースゲルの含浸である。米国特許第2,477,767号明細書及び米国特許第2,477,768号明細書(Remerら)に記載されているとおりである。この方法には、米国特許第2,521,101号明細書(Thorら)に記載されているように、染料含浸の不均一性の問題があった。米国特許第2,521,101号明細書では、セルロースゲルを乾燥させる前に、pH7.5~9.5に調整された浴中で染料及びグリセリンを適用するなどの、生産性を向上させる簡単な方法を用いて均一に着色されたケーシングを得ることが提案されている。透明なケーシングを再び製造する必要がある場合の収量損失を回避するために、グリセリン及び染料のタンク(これは移動可能な容器である)の前にグリセリンタンクを使用し、グリセリン及び染料のタンクは、着色されたケーシングを製造する場合にのみ配置される。その方法では、透明なケーシングを製造する場合に、グリセリン及び染色のタンクを空にし、それを洗浄し、きれいなグリセリンを入れる必要がなく、それにより生産時間を節約できる。着色されたケーシングを製造する必要がある場合は、その移動可能なグリセリン及び染料のタンクを、グリセリンタンクと乾燥機の間に再び配置する。色はより均一であるが、ほとんどの染料においてpHによって生じる色の変化を考慮する必要があるので、そのタンクのpHにおいて所望の色が得られる適切な混合物を使用するべきである。オレンジとチェリーのケーシングの例がその特許に示されており、それらのケーシングが色をソーセージに均一に移す。
【0012】
この方法は、米国特許第3,438,071号明細書(Clarkら)の発明によって後に改良され、その特許は染料及びグリセリンを含むタンクのレベルを制御するための簡単なシステムを記載している。この目的のために、追加の貯蔵タンクが配置され、それに、セルロースゲルが通過するタンクが接続され、レベルの低下に応じて自動的に追加のタンクがセルロースゲルを供給する。これが、より均一な色調をもつケーシングを得ることを可能にする。
【0013】
しかし、このセルロースゲル含浸法は、天然のアナトー染料をその油溶性形態(ビキシン)又はその水溶性形態(ノルビキシン)のいずれかで適用することを意図している場合には適していない。化学親和力の欠如、又はその大きな分子サイズにより、セルロースゲルはこれらの形態のアナトー染料を実質的に吸収しないか、又はそれを吸収する場合であっても、アナトー染料がソーセージに移ることは非常に困難である。このため、セルロースケーシングにアナトーを適用することを試みる場合、ケーシングの内部をコーティングするために、いわゆる「バブル」又は「スラグコーティング」法が一般的に使用されてきた。
【0014】
両方の色素(ノルビキシン及びビキシン)を別々に、セルロースケーシングを内部コーティングするための用いた場合、良好な結果をもたらさない。
【0015】
この発見はスペイン国特許第2075813号明細書(Gatoら)に開示されており、同明細は、水溶性アナトー染料ノルビキシン、及び別の油溶性成分(これは別のアナトー染料であるビキシンであることができる)によって形成されたコーティングで内部コーティングされたセルロースケーシングについて記載しており、そのコーティングがそれらのケーシングを用いて作られる詰め物製品の加工時に均一に移る。得られたケーシングと、それらを使用してソーセージ及び同様の肉製品に赤橙色の着色を与える方法の両方が、その特許において特許請求の範囲に記載されている。この場合、コーティングはケーシングを得るための通常のプロセスのなかでオフラインで実施しなくてはならないステップであり、このことは、それが安価な方法ではないことを意味している。
【0016】
米国特許第5,955,126号明細書(Jonら)は、ビキシン、水溶性フィルム形成剤(好ましくはヒドロキシプロピルセルロース)、ポリリン酸塩、及び任意選択で場合によって抗酸化剤からなる組成物、並びに前記の組成物でコーティングされたケーシングを記載している。「バブル」又は「スラグコーティング」法による好ましい適用に加えて、ケーシングの折り畳み工程中に内側へのスプレーによって染料組成物を適用する可能性が記載されている。その分割である米国特許第6,143,344号明細書(Jonら)は、ASTM D-1316-87における定義にしたがって3ミクロン以下の「目の細かさ(grid fineness)」(染料の分散度の尺度)をもつ、水溶性及び/又はアルコール可溶性のフィルム形成剤中のビキシンの分散物として定義される染料組成物を特許請求の範囲に記載している。両方の出願の方法はまた、欧州特許出願公開第1250853号明細書(DuCharmeら)にも記載されている。この場合、ビキシンはコーティングとして適用され、組成物がフィルム形成剤を有するのでこのコーティングが得られる。それらのすべての実施形態において、彼らは、詰め物製品と接触している内面上にビキシンを得ることを試みている。
【0017】
米国特許出願公開第2003/0039724号明細書(DuCharmeら)は、燻液(液体スモーク)及び/又は天然赤色染料、例えばビキシン、任意選択により場合により抗酸化剤、任意選択で場合により剥離剤でコーティングすることによって、赤みがかったすすけた色に着色されたセルロースケーシングの製造を記載している。この場合、好ましい適用方法はまた「バブル」又は「スラグコーティング」である。前記の出願において、押出工程の直前に、発明に係る染料組成物をビスコースに適用する可能性が述べられている。染料はケーシング内に閉じ込められ、したがって詰め物製品へは移らないことが予想されるが、ケーシングの表面上にある液体ヒューム及びいくらかの適切な赤色の天然染料は詰め物製品に移すことができると考えられるが、それは詰め物製品がケーシングの表面に接触しており、それらが高温にさらされる場合である。
【0018】
最後に、カナダ国特許第713510号明細書(A. H. Cameron)は、詰める前の時点において、カラメルを伴う染料溶液をスプレーして、ケーシングが折りたたまれたら、それがケーシングの内側に適用される方法に言及している。
【0019】
上述した様々な発明にもかかわらず、今日、アナトー染料をそのいずれかの形態で詰め物製品に移すことができるセルロースケーシングは市場にない。折り畳み工程中に行われる染料組成物の噴霧方法は、染料がプリーツ折り目に蓄積して、ソーセージの表面上により強い痕跡を生じさせるという事実によって、非常に不均一な色分布をもたらす。
【0020】
「バブル」法又は「スラグコーティング」法によって製造された製品についても、程度は低いものの、移された色の不均一性という同じ問題がある。しかし、この技術の主な問題はその高い適用コスト、特に50mm未満の直径における高い適用コストであり、なぜなら、それは「オフライン」適用、例えば、米国特許第5,955,126号明細書の図1に示されているものを必要とするからである。
【0021】
それが、前述したように、詰められた製品のメーカーからの強い需要にもかかわらず、アナトー染料を均一なやり方でソーセージに移すことができる市販のセルロースケーシング製品がない理由である。
【0022】
<本発明の説明>
アナトー又はビジャ(bija)は、アマゾン盆地原産の種であるアナトー又はオレラナ(Bixa orellana L.)から得られる染料である。それは、種子を取り巻く赤みがかった果肉から得られ、多くの食品、例えば、チーズ、マーガリン、バター、米、魚の燻製を着色するために使用されている。アナトーは、粗抽出物に付けられた名称であり、これは以下の2つの可食色素:水溶性であり、そのためアナトーの水溶性抽出物中に最も豊富であるノルビキシン、及び主な染料としてビキシンを含む油溶性アナトー染料、を含む。それらの両方ともカロテノイド色素であり、そのため光及び酸素の影響を受ける可能性があり、それによって共役二重結合構造が変化する可能性がある。ビキシンはノルビキシンのモノメチルエステルであり、したがってノルビキシンは、アルカリ鹸化によってビキシンから得ることができる。
【0023】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第2,477,767号明細書
【特許文献2】米国特許第2,477,768号明細書
【特許文献3】米国特許第2,521,101号明細書
【特許文献4】米国特許第3,438,071号明細書
【特許文献5】スペイン国特許第2075813号明細書
【特許文献6】米国特許第5,955,126号明細書
【特許文献7】米国特許第6,143,344号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第1250853号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2003/0039724号明細書
【特許文献10】カナダ国特許第713510号明細書
【特許文献11】米国特許第5,955,126号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、上述したアナトー組成物の内部コーティングを備えたセルロースケーシングによって提示される欠点を克服することである。アナトーで被覆された従来技術のケーシングとは対照的に、本発明は、その内層がアナトーで緊密に含浸され、実質的に均一に、前記ケーシング内に詰められた肉に色を移すことができるセルロースケーシングを提供する。
【0026】
アナトーを含むケーシングの内層は、様々な厚さ及び/又は濃度のアナトーを有することがあり、このことが、詰められた製品(stuffed product)に移した後に様々な色合いになることを引きおこすことになる。その層中のアナトーの量が少ない場合、色の移りも少なくなり、得られる色は、詰められた製品を軽く燻煙を施したことによって得られるのと同様の、薄茶色又はベージュの色調になる。その濃度が高くなると、移りが多くなり、詰められた製品の色調は実質的に赤橙色になる。詰められた製品の最終的に得られる色は、数ある要因の中でも、肉のエマルション及び調理条件に応じて変わる。
【0027】
本発明のケーシング中のアナトーは、内層全体にわたって分配されている。
【0028】
本発明の第1の側面は、その組成が再生セルロース及びアナトーを含み、そのアナトーがノルビキシンを含む内層;及び、前記内層と同心の、再生セルロースを含む外層、の2層のセルロースを含む詰められた製品(stuffed product)のケーシングであって、そのケーシングはノルビキシンを含み、アナトーの50質量%~100質量%が、ケーシングの前記の内層及び外層によって構成される領域の内側の半分のなかに分配されている、ケーシングに関する。
【0029】
本発明において、「内層」という用語は、ケーシングの2つの層の間、又は1つの層と詰められた製品との間にある任意の層をいう。
【0030】
本発明において、「再生セルロース」という用語は、セルロースキサンテートなどのいくつかのセルロース誘導体の溶液から得られるセルロースをいう。いくつかのセルロース誘導体の溶液は現在の技術水準で知られている方法のいずれかによってビスコースに変換され、そのビスコースが押し出し加工されて、再生セルロースが得られる。
【0031】
本発明において、「アナトー」という用語は、ビキシン化合物及びノルビキシン化合物の組を指し、アナトーのパーセント割合をいう場合、それは、ケーシング中のビキシン化合物及びノルビキシン化合物のパーセント割合の合計をいう。ビキシンの加水分解が完全である場合、アナトーはノルビキシンのみを指す。
【0032】
本発明において、WTセルロースという用語は、ケーシング中、特にケーシング中に存在する全ての層のなかの再生セルロースの総質量を指す。
【0033】
本発明の第2の側面は、本発明のケーシングを得るためのプロセス(方法)である。
【0034】
本発明のプロセスにおいて、再生セルロースのさまざまな層は、ビスコースの押出し加工によって得られる。油性ビキシン溶液が内層の1つに添加され、ビキシンは後のステップにおいて加水分解される。
【0035】
本発明は、ビスコースをノルビキシンと混合するときの問題を回避し、なぜなら、混合物が凝固時に激しい脱水を起こして、その水が水溶性染料の多くの部分を運びうるからである。混合物にノルビキシンを含ませる場合に生じうるその後の洗浄もまた、染料のさらなる損失を引き起こし、その結果、最終的なケーシング中に残る染料の量は、詰められた製品に十分な色を移す目的のためには不十分になる。さらに、染料がプロセス流体を大きく汚染する。
【0036】
水に溶けない油性溶液中のビキシンは、洗浄水を汚染しない。一方、それがノルビキシンへ変換されることが好ましく、それにより、ケーシングに詰められた肉の調理プロセスのあいだに、水溶性染料が効率的に移動して、本発明の目的のために十分な量の色を移す。驚くべきことに、本発明のプロセスは、製造プロセスのあいだにビキシンを全体的又は部分的にノルビキシンに変えるという事実にもかかわらず、それはケーシングの内層に閉じ込められたままであり、凝固-再生浴又は洗浄水を著しく汚染することはない。
【0037】
したがって、本発明の第2の側面は、本発明において定義されたケーシングを得るためのプロセスに関し、そのプロセスは以下のステップを含む。
a)油性ビキシン溶液をビスコースに添加するステップ;
b)少なくとも2つの同心サーキット(concentric circuits)を含むヘッドを備えた押出機において、ステップa)の生成物を内側のサーキットに、ビスコースを外部サーキットに押し出すステップ;
c)ステップa)の後、又はステップb)の後、ビキシンをノルビキシンへと加水分解するステップ。
【0038】
本発明において、「油性ビキシン溶液」という用語は、ビキシンの油性溶液、又は溶液、懸濁液、又はエマルションを指す。これらの油性ビキシン溶液は、0.1%~20%のビキシンを含む。
【0039】
本発明において、(W/Wビスコース)は、ビキシン層を形成するために使用される、ビキシン油性溶液の質量及びビスコースの質量の間の比を指す。
【0040】
少なくとも2つの同心サーキットを含む本発明のステップb)において、ヘッドは、2つ、3つ、4つ、又は5つあるいはそれより多い同心サーキットを有することが理解される。
【0041】
本発明で定義されたプロセスによって得られる、詰められた製品のケーシング(stuffed product casing)もまた、本発明の一つの側面である。
【0042】
本発明の別の側面は、詰められた製品の製造における本発明のケーシングの使用である。
【0043】
本発明の別の側面は、本発明のケーシングに詰められた製品である。最後の側面は、本発明のケーシング内に詰められた製品を得るための方法であり、その方法は、以下のステップ:
a)詰められる肉の混合物を本発明のケーシングに詰めるステップ;
b)詰められた混合物を調理するステップ;
c)ケーシングを取り除くステップ、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、例1で得られた多層ケーシングの壁の断面を示している。左の部分は、9.9μmの厚さを有する無着色外層であり、中央部分は、4.9μmの厚さを有するアナトーで着色された内層であり、右の部分は、9.9μmの厚さを有する無着色の内層である。
図2図2は、2層ケーシングの壁の断面を示している。左の部分は18μmの厚さの無着色の外層であり、右の部分は6.9μmの厚さの着色された内層である。
図3図3は、以下の2つの再生セルロースケーシングの移りうる染料の吸収スペクトルを示す:(1)対照(コントロール)、(2)例4にしたがう2%KOHでのセルロースゲルの処理。
【発明を実施するための形態】
【0045】
<好ましい実施形態の説明>
上で述べたように、本発明の第1の側面は、以下の2層のセルロース:
その組成が以下を含む内層:再生セルロース及びアナトー。ここで、アナトーはノルビキシンを含む;及び
上記の内層と同心の、再生セルロースを含む外層、
を含む、詰められた製品のためのケーシングであって、
ここで、ケーシングはノルビキシンを含み、アナトーの50質量%~100質量%がケーシングの前記の内層及び外層によって構成される領域の内側半分内に分布している、ケーシングに関する。
【0046】
好ましい実施形態では、アナトーは、0.05%(W/WTセルロース)~20%(W/WTセルロース)、より好ましくは、0.2%(W/WTセルロース)~5%(W/WTセルロース)で含まれる。
【0047】
好ましくは、ケーシングは、内側のアナトーコーティングを有しない。
【0048】
好ましい実施形態では、再生セルロースは、補強された再生セルロースである。本発明において、「補強された再生セルロース」という用語は、天然又は合成セルロース系繊維で、又は機械的特性を向上させる薬剤で処理された再生セルロース系繊維で補強された再生セルロースをいう。好ましい実施形態では、セルロースは紙で補強されている。特定の実施形態では、ケーシングは、3つの同心層、すなわち、内側のビスコース層、中間の長繊維紙層、及び3番目の外側のビスコース層を有する。特に長繊維紙はアバカ(マニラアサ)である。
【0049】
好ましい実施形態では、本発明のケーシングの層の数は、2~3から選択される。
【0050】
言及したように、本発明の第2の側面は、本発明において定義したケーシングを得るためのプロセスに関し、そのプロセスは以下のステップを含む:
a)油性ビキシン溶液をビスコースに添加するステップ;
b)少なくとも2つの同心サーキット(circuit)を含むヘッドを備えた押出機において、ステップa)の生成物を内部サーキットにおいて、ビスコースを外側のサーキットにおいて押し出すステップ;
c)ステップa)の後又はステップb)の後にビキシンをノルビキシンへと加水分解するステップ。
【0051】
好ましい実施形態では、ステップa)においてビスコースに添加される油性ビキシン溶液の量は、0.05%(W/Wビスコース)~25%(W/Wビスコース)である。より好ましい実施形態では、ステップa)においてビスコースに添加される油性ビキシン溶液の量は、5%(W/Wビスコース)~20%(W/Wビスコース)である。
【0052】
好ましい実施形態では、ビキシンをノルビキシンへ加水分解するステップは、ステップa)の後、ステップb)の押し出しの前のステップで実施される。この新しいステップにおいて、ビキシンをビスコースと0.5分~24時間混合する。より好ましくは30分~6時間である。最も好ましくは、その混合は、静的又は動的のいずれかで、機械的な混合システムによって均一なやり方で行われる。
【0053】
別の好ましい実施形態において、ビキシンをノルビキシンへ加水分解するステップは、工程b)において得られた生成物をアルカリ性化合物での処理にかけることにより、ステップb)の後に実施される。より好ましくは、その処理は、0.1%~10%の質量濃度範囲のアルカリ性化合物の溶液中に漬けることである。より好ましくは、アルカリ性化合物は、NaOH、KOH、アミン、又は水酸化アンモニウムであり、より好ましくは、その溶液は、0.1質量%~10質量%のNaOH又はKOHの濃度で構成される。より好ましくは、その時間は0.5~5分であり、温度は40℃~70℃である。特に、それは2%KOH溶液で、40℃~90℃の温度において、1~5分間である。
【0054】
本発明において、「アルカリ性化合物」という用語は、水酸化物、アルカリ又アルカリ土類金属の炭酸塩又は炭酸水素塩、水酸化アンモニウム又はその塩、あるいはアミンをいう。好ましくは、アルカリ性化合物は、とりわけ、NaOH、KOH、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、及びNHOHから選択される。特にそれはKOHである。
【0055】
この方法のステップa)は、40℃未満、好ましくは20℃~40℃の温度でかなり行われ、20℃~25℃の温度がより好ましい。
【0056】
ステップa)における油性ビキシン溶液の量は、好ましくは、0.05%~25%の量である。ケーシングに詰められたソーセージにおいてベージュ又は薄茶色を得ることを意図している場合は、より好ましくは0.05%~3%であり、黄色みがかった橙色を望む場合は3%~8%、あるいは、より赤橙色の色調を得ることを目的としている場合は、8%~25%である。
【0057】
好ましくは、このプロセスは、本発明の実施形態のいずれかにおいて、可塑化浴を通す最終ステップを含む。好ましくは、可塑化浴はグリセリンを含む。
【0058】
好ましい実施形態では、加水分解ステップは、ステップb)の後、可塑化浴ステップの前に、ステップb)で得られた生成物を加水分解酵素の浴に浸すことによって実施される。特に、酵素はリパーゼ酵素である。好ましくは、酵素は2g/L~10g/Lである。より好ましくは、3g/L~5g/Lである。好ましくは、浴への浸漬は30分~180分続ける。好ましくは、浴は30℃~40℃の温度である。
【0059】
一般に、ケーシングを得るためのプロセスにおいて、ケーシングを折り畳むか、又は波形にするステップがある。この段階では、通常、ケーシングの可塑性を高める成分、または続いてのソーセージからのケーシングの剥離及び分離を容易にする成分、例えば、カルボキシメチルセルロースすなわちCMCを含む水溶液を内部に噴霧する。
【0060】
本発明において、特定の実施形態において、前記の折り畳み組成物に、好ましくはKOH、NaOH、アミン、又はNHOHから好ましくは選択されるアルカリ性化合物を組み込むことができ、それらが本発明のケーシングの内層に存在するビキシンを水溶性のノルビキシンへと加水分解する。波形ケーシングは、前記の反応を加速させるために最高で90℃の温度で保存することができるが、好ましくは、それらは、20~40℃の温度で数分~数ヶ月保存することができる。これらの折り畳み組成物中のアルカリ性化合物の濃度は、0.1質量%~10質量%、より好ましくは0.5~3%の値をとることができる。
【0061】
述べたとおり、本発明の別の側面は、詰められた製品の製造における本発明のケーシングの使用であり、本発明の最後の態様は、本発明のケーシングに詰められた製品である。どちらの場合も、特定のやり方において、詰められた製品はソーセージである。
【0062】
詰められた製品を得る方法の最後の特定の実施形態では、ケーシングを除いた詰められた製品を、ケーシングを取り除いた後、酸性溶液、好ましくはリン酸溶液中に浸漬する。好ましくは、30秒~5分である。リン酸溶液は、好ましくは質量で5%~10%の濃度である。
【実施例
【0063】

以下の例は、本発明の例示に過ぎず、その限定的な意味で解釈されるべきではない。
【0064】
全ての例において、調製したサンプルの色を移す能力を定量化するための方法は以下の通りである。
【0065】
方法
本発明の例で調製したサンプルの色を移す能力の定量化のために、以下の方法を使用した。
【0066】
L,a,bテスト
Hunter(ハンター)L,a,b値は、製品のカラースケールを定量化するための標準的な方法である。この方法は、明るさ(明度)、色調、及び彩度の違いを示す。Lパラメータは、色の明るさ(明度)を示し、値100が白に対応し、値0が黒に対応する。パラメータaは、赤から緑へのグラデーションを示し、aが増加するにしたがってより赤みがかった色を表す。パラメータbは、黄色から青へのグラデーションを示し、それが増加するしたがって、色がより黄色になることを示す。
本発明の例では、ハンターL,a,bカラースケールを使用して、セルロースケーシング及びケーシングが除去されたソーセージの色を測定して、前記のケーシングが移した色を定量化した。ケーシングの場合は、測定は、2つの重ねた層について白色タイルの上に置いて行った。ソーセージの場合は、それらを透明なプラスチックフィルムで覆い、比色計を直接それらの上に置いて測定を行った。プラスチックフィルムは、比色計の汚染と汚れを防ぐ。得られた値は、5回の測定の平均値だった。 X-riteブランドのモデルCi62S比色計を使用した。
【0067】
取り除き可能な色
この方法により、セルロースケーシングの色を移す能力を定量化することができる。本発明の例では、この方法を使用して、再生されたビスコースフィルム及びセルロースケーシングの色を移す能力を決定した。この方法は、250mlのKOHの0.008%w/v溶液(これは1gの2%KOH溶液を250mlに希釈することによって調製する)を入れたエーレンマイヤーフラスコにサンプルを入れることを含む。続いて、そのエーレンマイヤーフラスコを溶液が沸騰するまでホットプレートの上におき、5分間そのまま保つ。冷却後、サンプルを取り出し、480nmにおいてその上清の吸光度を測定する。本発明の例の測定では、Perkin Elmerブランドの分光光度計モデルUS/VIS Lambda 365を使用した。吸光度が高ければ高いほど、アナトー濃度が高く、したがって、サンプルの色を移す能力がより高くなる。
【0068】
例1
この例では、欧州特許第2160091B1明細書(deGarciaら)に記載されているとおりに、押出機を使用して着色されたケーシングを調製した。
【0069】
セルロースはビスコースから再生した。ビスコースは、6%NaOHに相当するアルカリ含有量を有していた。
【0070】
3層のケーシングを作り、そのケーシングの内層、この場合は中央層のビスコース中にビキシンを注入した。
【0071】
この例を実施するために、ビキシンは、Imbarexブランドのオイル中の懸濁液のもの、アナトーオイル懸濁液(annatto oil suspension)10% AOS.10を選択した。
【0072】
染料を、押出機の中央層を通して押し出されるビスコース中に注入した。この目的のために、イワキダイアフラムポンプ モデルEWNB11VCER及びダイナミックミキサーを使用した。
【0073】
ビスコースに注入した量は、中央層のビスコースに対して18.4質量%であり、全ビスコースに対して3.68%であり、これは全セルロースに基づいて4.84%のアナトーになる。注入は押出の時間の15分前に行った。
【0074】
ケーシング内のプロセス流体は、一目で染料で汚染されていることは検出されなかった。
【0075】
得られたケーシングに、「ホットドッグ」を製造するための典型的な肉エマルションを詰め、それを、表1に記載しているように、燻煙なしのサイクルで調理し、続いてそのソーセージからケーシングを剥がし、そして驚くべきことに、ケーシングからソーセージへの色移りが起こり、ベージュの表面色のソーセージが得られ、それはわずかに強い燻煙で得られたものと同様のものだった。
【0076】
【表1】
【0077】
この結果は、色が移る現象は、ケーシングと肉のエマルションの表面接触によるだけでなく、これまで知られていなかった別の現象が関与していることを示している。この現象を調べるために、ケーシング壁の横断面を作成し、その構造を光学顕微鏡で調べた。図1は、3つの同心層、すなわち、外側(画像の左側)の無着色の9.9μmの厚さの層、中央の着色された4.9μmの厚さの層、及び内側(画像の右側)の9.9μmの厚さの層の存在を示している。
【0078】
さらに、中央の層に閉じ込められていないことが観察され、ビキシンは油溶性なので中央の層に閉じ込められていることが予測されるが、内層及び外層への染料の色の拡散があり、それは再生セルロースと同じくらい親水性のマトリックスを通って移動することができる水溶性の形態のアナトー(ノルビキシン)だけでありうる。
【0079】
例2
この例では、二層ケーシングを押し出すことによって色の移りを最大化することを目的としている。すなわち、それは2つの同心層、すなわち、アナトー染料を含まない外側の層と、アナトーを含む内側を有し、それが詰められた製品に色を移す。図2は、顕微鏡下でのケーシングの壁の断面を示しており、ここでは、着色されていない外側の18μmの厚さの層(左側の部分)と着色された内側の6.9μmの厚さの層(右側の部分)が見られる。さらに、さまざまなケーシングを、その内層中の異なる濃度のビキシンを用いて調製している。
この例のために選択したビキシンは、Imbarex アナトーオイル懸濁液10% AOS.10であり、例1のものと同じである。例1と同じポンプ及び混合装置を使用して、押出機の内層から押し出されるビスコース中にその染料を注入した。
【0080】
注入量は、内層から押し出されたビスコースに対して6質量%、8質量%、10質量%、12質量%、15質量%、及び18質量%であり、全ての押し出されたビスコースに対して0.36%、0.48%、0.60%、0.72%、0.90、及び1.08%であり、これは全てのセルロースに基づいてそれぞれ0.47%、0.63%、0.79%、0.95%、1.18%、及び1.42%のビキシンになる。ビキシンとビスコースの接触時間は30分まで長くした。
例1と同様に、ケーシングは問題なく巻き上げることができ、コンパクトなコイルが得られ、波形を付けた後、着色されていないケーシングで得られたものと同様の特性で、扱いやすい製品が得られた。そして、例1のように、ケーシング内のプロセス液体は、染料で汚染されていることが一目では検出されなかった。
【0081】
得られた6つのケーシングと着色されていないもう1つのケーシング(ネガティブコントロール)に、「ホットドッグ」の製造用の典型的な肉エマルションを詰め、その後ソーセージからケーシングを剥がし、方法の節に記載しているように色L,a,bを測定した。
【0082】
得られた結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
ネガティブコントロール対して有意な色の移りが観察され、ケーシングの内層に注入されたビキシンの濃度が増加するにつれて、前記の色の強度が大きくなる。濃度が高ければ高いほど、L値が低下して、ソーセージの色が濃くなり、a値が大きくなり、ソーセージがより赤くなり、かつ、b値が大きくなり、これは、ソーセージがより黄色くなったことを示している。aとbの値が同時に増加することは、染料濃度が高いほど、ソーセージ全体がオレンジ色になっていることを示している。
【0085】
続いて、本発明のケーシングを用いて調製されたソーセージの赤い色調を増すことを可能にする方法を適用した。この目的のために、ここでの例の18%ビキシンを用いて調製した、ケーシングを取り除いたソーセージを取り、20℃において1分間、5%リン酸溶液に浸漬した(その溶液の調製には、PANREACの85%のリン酸を用いた)。酸の作用がソーセージの色を赤くし、一部の消費者に好まれる色をもたらす。
【0086】
ソーセージの色L,a,bは、方法の節で説明したようにして測定した。得られた結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
リン酸によるソーセージの処理は、L値を大きく変化させず、すなわち、ソーセージはその明るさを維持するが、a値の増大を引きおこしてソーセージがより赤くなり、かつb値の低下を引きおこし、これは、ソーセージはより黄色がうすくなったことを示しており、これらの値を一緒にすると、サンプル2で調製したソーセージはより赤みがかった色を示している。
【0089】
例3
この例では、内層のビスコースの質量に対して12%のビキシンを含む例2のサンプルをとり、供給者であるSensientからの0.06%カーマイン25%L-ODを添加してよりバラ色の色調を付与した典型的なエマルションを用いてホットドッグを調製した。サンプル1は染料を含まないケーシングを用いて調製し、サンプル2及び3は例2からの前述したケーシングを用いて調製したが、サンプル3の場合、ケーシングを裏返し、ケーシングの着色されていない外層が肉エマルションに直接接触するようにした。ソーセージは燻煙なしにオーブンサイクルで調理したが、染料の拡散を高めるためにより高い相対湿度を用い、それは表4に記載したとおりである。
【0090】
【表4】
【0091】
続いて、方法の節で説明したようにして、ソーセージの色L,a,bを測定した。得られた結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
サンプル2及び3では、ソーセージへの染料の移動が起こるが、これはケーシングが裏返されている場合にはずっと少ないことが観察され、それは未着色のセルロース層を通って移動する染料とソーセージが接触することが困難であるからである。色の移りのこの違いは、本発明の目的のための最も有効なケーシングは、ケーシングの内側半分中に染料の大部分があるものであることを示している。
【0094】
例4
この例4で調製されたセルロースケーシングは、ビキシンとビスコースの間の異なる接触時間を示している。この例では、選択されたビキシンは、製造者PronexからのBixinex油溶性10%液体(NBX 36)である。この染料を、押出機の内層を通して押し出されるビスコース中に注入した。サンプル1においては、ビキシンは、押し出しの時間の15分前にビスコース中に注入し、その注入量は、内層のビスコースに対して14質量%であり、かつ押し出されたビスコース全体に対して0.98%であって、これは全乾燥セルロースに基づいて1.29%のビキシンにあたる。サンプル2では、ビキシン染料は、押し出しの時間の4.5時間前にビスコース中に注入し、その注入量は、内層のビスコースに対して13.2質量%であり、かつ全ての押し出されたビスコースに対して0.94質量%であり、これは全ての再生されたセルロースに基づいて1.23%のビキシンにあたる。前の例のように、ケーシング内のプロセス液体は、染料で汚染されていることは一目では検出されなかった。
【0095】
両方のケーシングに「ホットドッグ」の製造用の典型的な肉エマルションを詰め、続いてソーセージをケーシングからはがし、方法の節において説明したようにそれらの色L,a,bを測定した。表6は、得られた結果を示している。
【0096】
【表6】
【0097】
色を移す能力の増大は、より長い時間ビスコースと接触しているサンプル2で観察される。接触時間が長くなれば長くなるほど、L値は小さくなり、ソーセージは色がより濃くなり、a値が大きくなりってソーセージはより赤くなり、かつb値が大きくなり、これは、ソーセージがより黄色になっていることを示しており、これらの値をまとめると、サンプル2から調製したソーセージは、より橙色を示す。
【0098】
例5
この例では、KOH溶液を用いた、押出しの後処理の効果を研究している。
【0099】
この例では、選択されたビキシンアナトーは、Imbarexアナトーオイル懸濁液 10% AOS.10である。この染料を、押出機の内層を通して押し出されるビスコース中に注入した。
【0100】
2つのサンプルを調製し、両方において、ビキシンを、押し出しの時間の10分前にビスコース中に注入し、その注入量は、内層のビスコースに対して12質量%、押し出されたビスコースの全体に対して1.2%であり、それは全ての乾燥セルロースに基づいて1.58%のビキシンにあたる。サンプル1、すなわち対照(コントロール)は、標準的な方法でさまざまなプロセスタンクを通した。代わりに、サンプル2は、可塑化タンクより前に配置した追加のタンクを通した。前記のタンクは、65℃の温度で、2質量%のKOH溶液を含んでいた。セルロースゲルを通す時間は2~3分だった。このアルカリ処理を施した後、水を入れたタンクを通して余分なKOHを除去し、次に可塑化タンクを通した。一見したところ、得られたケーシングは対照よりも強いオレンジ色の色調であることが観察された。前の例のように、2つのサンプルのどちらでも、ケーシング内のプロセス液体が染料で汚染されていないことが一目で検出された。
【0101】
25cmのケーシングフィルムを取り、その一つの側を長手方向に切断し、そして250mlの0.008%質量/体積KOHを入れたエーレンマイヤーフラスコに入れた。そのエーレンマイヤーフラスコを5分間煮沸し、上澄みを冷却した後、スペクトルを可視光下で測定した。この結果は、KOHタンク中での処理(サンプル2)がされたケーシングが変化して、それが400~600nmの波長範囲における吸光度の増大を引き起こし、これはこのケーシングが大きな色を移す能力を有していることを示している(図3)。
【0102】
両方のケーシングに、「ホットドッグ」製造用の典型的な肉エマルションを詰めた。続いて、そのソーセージからケーシングをはがし、方法の節で説明したようにしてソーセージの色L,a,bを測定した。表7に得られた結果を示している。
【0103】
【表7】
【0104】
色を移す能力の増大は、65℃において150秒間、2%KOH溶液で処理したサンプル2で観察される。この処理はL値の低下をもたらし、すなわち、ソーセージの色が濃くなり、a値が増大してソーセージがより赤くなり、かつb値が低下して、これは、ソーセージがより黄色であることを示し、これらの値を一緒にすると、サンプル2を用いて調製されたソーセージはより橙色を示す。
【0105】
例6
例5のサンプル1のケーシングから、4つの異なる添加剤を含む折り畳まれたサンプルを、当技術分野で知られている方法に従って調製した。折り畳み添加剤は、折り畳み操作中にケーシングの内側に噴霧される組成物である。その主な機能は、ケーシングにより大きな可塑性をもたらして、その機械的特性を大幅に低下させることなく折り畳みステップを克服することである。さらに、「容易な剥離」添加剤といわれる、剥離工程でケーシングを詰められた製品から分離しやすくする折り畳み添加剤を適用することは当技術分野では一般的である。これらの組成物は通常、ソーセージの剥離を助ける主な薬剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を有している。表8は、本実施例で使用される折り畳み組成物のタイプを示している。
【0106】
【表8】
【0107】
添加剤1は、CMCを含まず、ソーセージの剥離を促進する機能をもたない組成物であり、通常、詰め物製品の製造業者によってではなく、最終消費者によって剥離されることを目的とするケーシングに使用される。添加剤1Aの組成物は、H. Chiuによる米国特許第3,981,046号明細書の例IXに記載されているように、30%のプロピレングリコール及び70%の水を含む。組成物Bにおいては、KOHを0.5%の濃度に達するまで前記の添加剤に添加した。それに対して、添加剤2は、詰め物製品の製造業者によるソーセージの機械的剥離を助けるためのCMCを有する典型的な組成物である。添加剤2Aの組成物は、H. Chiuによる米国特許第3,898,348号の例IIIに記載されているように、1.42%のCMC、1.5%のポリソルベート80、57.08%のプロピレングリコール、及び40%の水を含む。同様に、組成物Bにおいては、KOHを0.5%の濃度に達するまで前記の添加剤に添加した。
【0108】
4つの添加剤を用いた折り畳み条件は標準的なものであり、折り畳み操作における性能の違いも、得られた波形製品の特性の違いも観察されなかった。サンプルを包装し、室温で保存した。
【0109】
折り畳んでから2週間後、その4つのケーシングに、例1で説明した「ホットドッグ」の製造用の典型的な肉エマルションを詰め、次にソーセージをケーシングから剥がし、方法の節に記載したようにしてL,a,bの色を測定した。表9は、得られた結果を示している。
【0110】
【表9】
【0111】
それぞれの対照と比較すると、サンプル1B及び2Bの色を移す能力の増大が観察され、その折り畳み組成物は0.5%のKOHを含んでいた。前記の組成物は、L値の低下、すなわち、ソーセージがより濃い色であり、a値の増大、すなわちソーセージはより赤く、そしてb値の低下、すなわちソーセージがより黄色であることを示し、これらの値を一緒にすると、サンプル1B及び2Bを用いて調製したソーセージはより橙色を示している。
【0112】
例7
この例では、ケーシングに対する加水分解酵素の効果が研究されている。リパーゼ酵素(加水分解酵素)は、エステル基を加水分解して、ビキシンをノルビキシンへの変換を引き起こす能力について試験がされる。この例では、選択したビキシンはImbarex アナトーオイル懸濁液10% AOS.10だった。この染料を、押出機の内層を通して押し出されるビスコース中に注入した。2つのサンプルを調製し、その両方に、ビキシン染料を押し出しの時間の15分前にビスコース中に注入し、その注入量は内層のビスコースに対して14質量%、押し出されたビスコースの組に対して1.4%であり、それは全乾燥セルロースに基づいて1.84%のビキシンになる。サンプル1、すなわち対照(コントロール)を、通常のやり方で様々なプロセスタンクを通した。それに代わり、サンプル2は、可塑化タンクの前に配置した追加のタンクを通した。そのタンクは5g/Lの濃度のリパーゼ酵素溶液を含み、35℃の温度である。そのセルロースゲル処理時間は120分だった。ゲルをこの酵素処理にかけた後、それを、水を入れたタンクを通してリパーゼ酵素の残留物を洗い落し、次に可塑化タンクを通した。得られたケーシングは対照よりも濃い橙色の色調を有していた。前の例のように、2つのサンプルのどちらにおいても、ケーシング内のプロセス液体が染料で汚染されていないことが、一目で検出された。
【0113】
両方のケーシングに「ホットドッグ」の製造用の典型的な肉エマルションを詰め、続いてソーセージをケーシングから剥がし、方法の節で説明したようにそれらの色L,a,bを測定した。表10は、得られた結果を示す。
【0114】
【表10】
【0115】
色を移す能力の増大は、35℃において120分間、5g/Lのリパーゼの溶液を用いた酵素処理をうけたケーシングであるサンプル2で観察される。この処理は、L値の低下、すなわちソーセージが色濃いこと、a値の増大、すなわちソーセージがより赤くなること、及びb値の増大、これはソーセージがより黄色であることを示す、をもたらし、これらの値を一緒に考慮すると、サンプル2を用いた調製されたソーセージはより橙色を示している。
【0116】
例8
この例では、一般に「フィブラス」(Fibrous)といわれる、紙で補強(強化)されたセルロースケーシングが調製されている。これらのケーシングは、通常、3つの同心層、すなわち、内側のビスコース層、中間の長繊維紙(通常はアバカ)の層、及び3番目の外側のビスコース層を有している。押し出し工程において、紙は管状に成形され、前記の紙を組み込んだ外側及び内側のビスコースが押し出される。ビスコースを含浸した後、そのチューブを凝固再生タンク、洗浄及び可塑化タンクを通し、最後にそれを乾燥させてコイルに巻き付ける。この製品は、コイル又は波形で、詰め物の製造業者に直接供給することができる。この例では、選択したビキシンアナトーは、製造業者であるPronexからのBixinex油溶性10%液体(NBX 36)である。製造業者であるAhlstromから提供されたAbaca管状紙に、内側と外側のビスコースを含浸させた。全ビスコースの12.5%がケーシングの内層を構成し、残りの87.5%がケーシングの外層を構成していた。ビキシンを、押し出しの時間の45分前に内層のビスコース中に注入し、その注入量は、前記の内層ビスコースに対して10質量%であり、そして押し出されたビスコース全体に対して1.25%であり、これは総再生セルロースに基づいて1.64%のビキシンになる。
【0117】
続いて、標準的なケーシング及びここでの例で得られたケーシングに、モルタデッラ(mortadella)の典型的な肉エマルションを詰めた。その詰めた生成物を燻煙なしのサイクルで調理し、次にケーシングをはぎ取り、ケーシングからモルタデッラへの色の移りが起こっているかどうかを観察した。モルタデッラの色L,a,bを、方法の節で説明したようにして測定した。表11は、得られた結果を示している。
【0118】
【表11】
【0119】
標準の「フィブラス」ケーシングに関して、有意な色の移りが観察され、それはL値の低下、並びにa値及びb値の増大に反映されている。モルタデッラはその表面に魅力的な橙色を有していた。これより前の全ての例のように、詰められた製品へのアナトー染料の移りは検出されないが、それは製品の耐用年数を通して表面に残る。
図1
図2
図3
【国際調査報告】