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特表2022-531269異常ヘモグロビン症の治療の有効性を予測するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(54)【発明の名称】異常ヘモグロビン症の治療の有効性を予測するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20220629BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220629BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20220629BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220629BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220629BHJP
   A61K 31/33 20060101ALI20220629BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220629BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220629BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20220629BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220629BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALN20220629BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P7/00
A61K35/15 Z
A61K45/00
A61K38/19
A61K31/33
C12Q1/06 ZNA
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/113 Z
G01N33/53 K
C12N5/0789
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564630
(86)(22)【出願日】2020-04-29
(85)【翻訳文提出日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2020087766
(87)【国際公開番号】W WO2020221291
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/085116
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520042939
【氏名又は名称】博雅▲輯▼因(北京)生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】EDIGENE INC.
【住所又は居所原語表記】Life Science Park,Floor 2,Building 2,22 KeXueYuan Road,Changping District,Beijing 102206 China
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】方 日国
(72)【発明者】
【氏名】于 玲玲
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 卉慧
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QQ79
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS32
4B063QX01
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA17
4C084DA19
4C084ZA511
4C084ZB262
4C084ZC751
4C086BC58
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA06
4C086ZA51
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA51
(57)【要約】
本発明は、a)修飾されたCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞の第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビンを生成する能力を評価することを含み、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、BCL11A機能を低下させるように修飾されている、評価ステップ;及び、b)個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団を個体に投与することを含む治療ステップを含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療するための方法に関する。同時に、本発明はまた、個体の異常ヘモグロビン症を治療するための方法、修飾されたCD34陽性HSPCの第2の集団を使用する治療のために異常ヘモグロビン症に罹患している個体を選択するための方法、及び異常ヘモグロビン症に罹患している個体が、個体に由来し、BCL11Aの機能を低下させるように修飾された修飾CD34陽性HSPCの第2の集団を使用する治療に適するかまたは適しないかを決定する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)修飾されたCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞(「CD34陽性HSPC」)の第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、BCL11A機能を低下させるように修飾されている(「修飾されたEV細胞」)、評価ステップ;及び、
b)前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップ
を含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療するための方法。
【請求項2】
個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップを含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療する方法であって、
評価ステップによる機能評価に基づいて前記個体を治療のために選択し、前記評価ステップは、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下した(「修飾されたEV細胞」)、前記方法。
【請求項3】
異常ヘモグロビン症に罹患している個体に、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)による治療に適するかどうかを決定する方法であって、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成した場合、前記個体が治療に適し、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成しない場合、前記個体が、前記修飾されたTR細胞による治療には適しない、前記方法。
【請求項4】
前記評価ステップは、
a)前記個体の骨髄または末梢血サンプルからCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたEV細胞」)を得ること、
b)単離されたEV細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第1の集団(「修飾されたEV細胞」)を得ること、及び
c)修飾されたEV細胞の分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記治療ステップは、
a)前記個体の骨髄中のCD34陽性HSPCが末梢血に入るように動員して末梢血中のCD34陽性HSPCの量を増加させること、
b)前記個体の末梢血からCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたTR細胞」)を得ること、
c)単離されたTR細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を得ること、及び
d)有効量の修飾されたTR細胞を前記個体に投与することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
1)前記評価ステップには、
a)前記個体の骨髄または末梢血サンプルからCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたEV細胞」)を得ること、
b)単離されたEV細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第1の集団(「修飾されたEV細胞」)を得ること、及び
c)修飾されたEV細胞の分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、
2)前記治療ステップには、
a)前記個体のCD34陽性HSPCが末梢血に入るように動員すること、
b)前記個体の末梢血からCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたTR細胞」)を得ること、
c)単離されたTR細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を得ること、及び
d)有効量の修飾されたTR細胞を前記個体に投与することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記修飾されたEV細胞は、遺伝子修飾することによって修飾されたものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記単離されたEV細胞を修飾することは、単離されたEV細胞を遺伝子修飾することを含む、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、RNA編集、RNA干渉(RNAi)技術からなる群から選択される技術により、単離されたEV細胞を遺伝子修飾する、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾されたEV細胞の能力を評価し、前記ステップは、1)赤血球集団を得るように分化を可能にする条件下で、修飾されたEV細胞を培養すること、及び2)前記赤血球によって生成されるγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルを決定することを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾されたEV細胞の能力を評価することは、γ-グロビンのmRNAのレベルを決定することを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾されたEV細胞の能力を評価することは、胎児ヘモグロビン(HbF)のタンパク質のレベルを決定することを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記個体は、評価ステップの前に動員または前処理を経ていない、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記評価ステップは、前記治療ステップの前に少なくとも1回繰り返される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記修飾されたTR細胞は、遺伝子修飾することによって修飾されたものである、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記単離されたTR細胞を修飾することは、単離されたTR細胞を遺伝子修飾することを含む、請求項5~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、RNA編集、RNA干渉(RNAi)技術からなる群から選択される技術により、単離されたTR細胞を遺伝子修飾する、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記治療ステップにおけるCD34陽性HSPCの動員は、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)および/またはプレリキサフォル(plerixafor)を使用して前記個体を治療することを含む、請求項5~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記治療ステップは、前記修飾されたTR細胞を投与する前に前記個体を前処理することをさらに含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記前処理は、化学療法、モノクローナル抗体療法、または全身放射線療法を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記前処理は、化学療法を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記化学療法は、ブスルファン、シクロホスファミド、およびフルダラビンからなる群から選択される1つ以上の化学療法剤を前記個体に投与することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記単離されたTR細胞は、修飾する前に1日以上培養され、請求項5~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
個体に投与する前に、前記修飾されたTR細胞を1日以上培養する、請求項5~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
修飾されたTR細胞を個体に投与する前に、前記修飾されたTR細胞を凍結条件下で少なくとも24時間保存する、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
凍結条件下で保存する前に、修飾されたTR細胞を1日以上培養する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記異常ヘモグロビン症は、鎌状赤血球症、鎌状赤血球形質、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンC形質、ヘモグロビンS/C症、ヘモグロビンD症、ヘモグロビンE症、サラセミア、酸素親和性が増加したヘモグロビン関連障害、酸素親和性が低下したヘモグロビン関連障害、不安定なヘモグロビン症、およびメトヘモグロビン血症からなる群から選択される、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記異常ヘモグロビン症は、β-サラセミアと鎌状赤血球貧血からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記異常ヘモグロビン症は、β0またはβ+サラセミアである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記個体がヒトである、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記治療ステップは、前記評価ステップの直後に実行される、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願及び相互参照)
本出願は、2019年4月30日に提出されたPCT出願PCT/CN2019/085116の優先権を享有することを主張する。その内容は、その全体が参照により本出願に取り込まれる。
【0002】
(ASCIIテキストファイルの配列表の提出)
ASCIIテキストファイルとして提出された次の内容は、参照によりその全体が本出願に組み込まれる:コンピュータ可読形式の配列表(CRF)(ファイル名:FD00222PCT-PD01017-Sequence listing_ST25、記録日:2020年4月22日、サイズ:11KB)。
【0003】
本出願は、異常ヘモグロビン症の治療における遺伝子編集技術の有効性を予測するためのコンパニオン予測方法に関する。この予測方法は、疾患を治療する前に患者のCD34陽性造血幹細胞を事前に分離し、遺伝子編集技術を使用してBCL11A赤血球エンハンサー部位を破壊し、ガンマグロビンと胎児ヘモグロビン発現のアップレギュレーションの程度を評価し、異常ヘモグロビン症の治療における遺伝子編集されたBCL11A赤血球エンハンサーの有効性を事前に予測し、疾患の治療を支援する。
【背景技術】
【0004】
異常ヘモグロビン症(hemoglobinopathy)は、異常なヘモグロビン分子構造またはグロビンペプチド鎖の異常な合成によって引き起こされる一組の遺伝性血液疾患である。異常ヘモグロビン症の2つの主な疾患タイプは、β-サラセミアと鎌状赤血球貧血である。β-サラセミアの発症メカニズムは、βグロビンペプチド鎖の遺伝子変異に起因し、ほとんどの患者は点変異であるが、少数の患者は大きいフラグメントの遺伝子欠失である。遺伝子欠失と特定の点変異により、βグロビンペプチド鎖の一部の合成が完全に阻害される可能性があり、このタイプはβ0ラセミアと呼ばれる。少数の点変異により、β鎖の合成部分は阻害され、それでもペプチド鎖合成の一部が保持され、このタイプはβ+サラセミアと呼ばれる。組み合わせによって異なる臨床症状が示される可能性がある。β-グロビン発現の欠如または減少により、血液内の過剰なα鎖は赤血球に沈着して封入体を形成し、赤血球膜の表面に付着する。これによって、赤血球膜の特性が変化し、細胞が硬くなり、変形能が低下し、慢性溶血性貧血になり、さらに骨髄組成の変化を引き起こす。β-サラセミアと同様に、鎌状赤血球貧血は、常染色体劣性遺伝病に属するが、β-サラセミアとの違いは、当該貧血症の変異部位が単一であることであり、これは、βグロビンの単一の塩基変異により、正常なβ遺伝子の6番目のコドンがGAG(グルタミン酸をコードする)からGTG(バリン)に変異したからである。変異ホモ接合体の状態では、正常なαグロビンと異常なβグロビンは、HbSと呼ばれる四量体複合体を形成し、この四量体は、酸素を持つ能力が正常なヘモグロビンの能力の半分であり、脱酸素状態で凝集してポリマーになる。形成されたポリマーの配向方向は、膜と平行で細胞膜に緊密に接触しているため、ポリマーの数がある程度になると、細胞膜は通常の凹型から鎌型に変える。鎌状赤血球は変形能に乏しく、破砕しやすくて溶血を起こし、血管の閉塞、損傷、壊死などを引き起こす(D.Rund,et al.New England Journal of Medicine.2005,718-739)。
【0005】
βサラセミア及び鎌状赤血球貧血の現在の標準的な治療法には、鉄除去剤による鉄除去を伴う長期の大量輸血療法及び同種造血幹細胞移植治療技術が含まれる。しかし、鉄除去剤による鉄除去を伴う長期の大量輸血療法は鉄過剰症につながり、患者の脾臓、肝臓、心臓、腎臓などの重要な臓器で大量の鉄が沈着することによって引き起こされる臓器の損傷は、サラセミア患児の主な死因の1つである。同種造血幹細胞移植はβサラセミアと鎌状細胞貧血を治療することができるが、HLA完全適合型の割合が低く、移植後のGVHD(Graft-Versus-Host Disease、移植片対宿主病)、免疫拒絶反応による死亡のため、現在の治療技術は、治療を受ける患者の膨大なニーズを満たすことが困難である。異種造血幹細胞治療技術の問題を解決するために、遺伝子修飾された自己造血幹細胞に基づく導入遺伝子療法および遺伝子編集療法が出現した。その中で、遺伝子編集療法の治療スキームは、CRISPR/Cas9、Zinc Finer Nulease(ZFN)、TALENなどの遺伝子編集ツールを使用して、患者の自己供給造血幹細胞を編集し、胎児ヘモグロビン(Fetal Hemoglobin,HbF)の発現を増加させ、その後、遺伝子修飾された自己供給造血幹細胞を患者に注入し、患者の総ヘモグロビンを正常レベルに戻し、疾患の治療という目標を達成することである。
【0006】
βサラセミアや鎌状赤血球貧血を治療するための遺伝子編集療法の主なメカニズムは、人体に自然に存在する生物学的現象、すなわちヘモグロビンスイッチ(Globin Switch)を使用することである。成人ヘモグロビン(Adult Hemoglobin(HbA))は、2つのαグロビンと2つのβグロビンで構成される四量体複合体であるが、胎児が母親の体内にある時及び出生後120日以内に人体のヘモグロビンは、2つのαグロビンと2つのγグロビンからなる四量体複合体であるHbFであり、強い酸素運搬能力と弱い酸素放出能力が特徴であり、胎児が母親から栄養素を得るのに寄与する。しかし、胎児出生の120日後、人体の赤血球はHbFからHbAに切り替わり、正常なヘモグロビンHbAを発現し始める(Marina et al,Molecular Therapy.2017;Megan D,et al.Blood.2015)。クリニックには、βサラセミアや鎌状赤血球貧血に変異があるが、臨床症状は軽度か全くない患者がいる。これは、HbFの発現を阻害する遺伝子にも変異があり、これらの遺伝子の発現が低下し、最終的には、患者の遺伝性高胎児ヘモグロビン血症(Hereditary persistence of fetal hemoglobin,HPFH)を引き起こし、β-グロビンの欠失または減少によって引き起こされる赤血球の全体的なヘモグロビンレベルの低下を補償し、全体的なヘモグロビンを通常のレベルに近づけるか、通常のレベルに戻す(Vinjamur DS,et al.Br.J.Haematol.2018)。
【0007】
したがって、遺伝子編集方法を通じて赤血球中の胎児ヘモグロビンの発現を増加させるための適切な遺伝子標的を見つける方法は、まったく新しい治療戦略になった。しかしながら、人体では、HbFとHbAの発現は動的平衡状態にあり、トレードオフの比較的定常状態であり、その調節メカニズムは非常に複雑である。研究によると、β-グロビンの上流40~60kbの間に約16kbの長さのLCR(Locus control region,遺伝子座制御領域)があり、この領域には、HbFおよびHbAの発現の調節に関与するDNaseの5つの高感度部位が含まれている。さらに、GATA-1、BCL11A、FOG1、NuRD、LRF、MYB、KLF1、TAL1、E2A、LMO2、LDB1など、造血系の発達、及び赤血球の分化と成熟に関与するいくつかの重要な転写因子がこの領域に緊密に組み合わされており、共同でHbFとHbAの発現の調節に関与している(G.Lettre,et al.PNAS.2008,11869-11874;Marina et al,Molecular Therapy.2017;Megan D,et al.Blood.2015)。現在、見つかった適切な標的は、BCL11A赤血球エンハンサー(+58)の位置であり、この領域を遺伝子編集によって修飾し、BCL11A遺伝子の発現をダウンレギュレートすることによってγグロビンとHbFの発現に対するBCL11A遺伝子の阻害を解除し、γグロビンとHbFの発現を増加させると同時に、他の系統の分化と発達に影響を与えることはなく、一部の臨床的に無症状の患者もこの部位に変異を持ち、HPFHを引き起こしたのである(U. Manuela,et al.PNAS.2008;P.Liu,et al.Nature Immunology.2003;D.E.Bauer.Science.2013;V.G.Sankaran,et al.Science.2008;Matthew C,et al.Nature.2015)。
【0008】
BCL11A赤血球エンハンサー部位に対する臨床試験が実施されており、つまり、遺伝子編集技術によって開発された自家造血幹細胞移植によるβ-サラセミアおよび鎌状赤血球貧血の治療の臨床Phase 1/2試験が実施されている(Clinicaltrials.gov、コードはNCT03655678、NCT03745287、NCT03432364である)。しかしながら、患者間の個人差により、HbFに対するBCL11A遺伝子の調節の程度は、患者によって影響が異なる。たとえば、BCL11A遺伝子がすでに特定の患者で非常に低い発現状態にあると仮定すると、BCL11A遺伝子によるHbF発現の阻害が解除されたことを示し、患者を治療するためにHbFを増加させるようにBCL11A赤血球エンハンサーをさらに編集することは失敗する可能性がある。そして患者が骨髄と免疫系を取り除くために化学療法を受けた場合、これは予測できない潜在的な害を引き起こすことになる。また、γグロビンとHbF胎児ヘモグロビンの発現を調節するメカニズムは非常に複雑であり、特定の遺伝子やいくつかの遺伝子の発現を検出することによって治療法の有効性を事前に予測することは困難である。したがって、BCL11A遺伝子によるγグロビンとHbF発現のアップレギュレーションの程度と可能性を事前に予測することは、遺伝子編集された自己造血幹細胞治療において緊急に解決する必要がある重要な問題である。
【発明の概要】
【0009】
本願は、HbFに対するBCL11A遺伝子の調節の程度を事前評価する戦略を使用し、異常ヘモグロビン症の治療における遺伝子編集技術の有効性を予測するためのコンパニオン診断方法を開発し、BCL11A赤血球エンハンサー部位の遺伝子編集によるγグロビンとHbF発現の増加程度を事前に予測し、患者細胞におけるBCL11Aの発現の低下または機能の低下による該療法の失効または有効性の低下のリスクを軽減でき、臨床治療プロセスにおける患者の分級診断および治療に役立つように、BCL11Aの高発現および/またはγグロビンとHbFの調節に対して主要な役割を果たす患者を優先的に選択して治療し、コンパニオン診断と遺伝子編集自己造血幹細胞を用いた新しい治療スキームを開発し、既存技術の空白を埋め、遺伝子編集技術自己造血幹細胞による異常ヘモグロビン症の治療のための新しい治療戦略の迅速な発展を促進し、臨床応用のニーズを満たしている。
【0010】
本願は、異なるドナーからの末梢血に由来する造血幹細胞の動員がBCL11A赤血球エンハンサーの同じ部位の効率的な遺伝子編集後、赤血球分化後、γグロビンmRNAおよびHbFタンパク質のレベルが異なる程度に増加したことを実験を通じて初めて証明し、これは、個体差がγグロビンとHbFタンパク質の発現に対するBCL11Aの阻害能力と程度に影響を与えていることを示している。さらに、同じドナーからの末梢血由来造血幹細胞の動員は、異なるバッチの実験でBCL11A赤血球エンハンサーの同じ部位で高効率の遺伝子編集を通して、赤血球の分化後、γグロビンmRNAとHbFタンパク質のレベルは安定して同様に増加する。さらなる実験結果によって明らかに、同じバッチでγグロブリンとHbFタンパク質の発現がより高いドナーは、別の実験バッチでγグロブリンとHbFタンパク質の発現もより高く、その逆も同様である。最後に、本願は、コンパニオン診断+遺伝子編集された自己造血幹細胞BCL11A赤血球エンハンサー部位による異常ヘモグロビン症の治療のための新しい治療スキームと戦略を初めて提案する。
【0011】
一態様では、本願は、
(a)修飾されたCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞(「CD34陽性HSPC」)の第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、BCL11A機能を低下させるように修飾されている(「修飾されたEV細胞」)、評価ステップ;及び、
(b)前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップ
を含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療するための方法を提供する。
【0012】
一態様では、本願は、
(a)修飾されたCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞(「CD34陽性HSPC」)の第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、BCL11A機能を低下させるように修飾されている(「修飾されたEV細胞」)、評価ステップ;及び、
(b)前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップ
を含む、個体における胎児ヘモグロビンの発現を増強するための方法を提供する。
【0013】
一態様では、本願は、
(a)修飾されたCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞(「CD34陽性HSPC」)の第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、BCL11A機能を低下させるように修飾されている(「修飾されたEV細胞」)、評価ステップ;及び、
(b)前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップ
を含む、個体におけるヘモグロビンが機能するための方法を提供する。
【0014】
一態様では、本願は、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップを含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療する方法を提供し、
ここで、評価ステップによる機能評価に基づいて前記個体を治療のために選択し、前記評価ステップは、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下した(「修飾されたEV細胞」)。
【0015】
一態様では、本願は、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)による治療のために異常ヘモグロビン症に罹患している個体を選択する方法を提供し、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、ここで、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成した場合、前記個体を治療のために選択する。
【0016】
一態様では、本願は、異常ヘモグロビン症に罹患している個体が、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を使用する治療に適するかどうかを決定する方法を提供し、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、ここで、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成した場合、前記個体が治療に適する。
【0017】
一態様では、本願は、異常ヘモグロビン症に罹患している個体が、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を使用する治療に適しないことを決定する方法を提供し、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、ここで、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成しない場合、前記個体が、前記修飾されたTR細胞による治療に適しない。
【0018】
上記の実施形態において、分化後に必要なレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成するための修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団の能力を評価することとは、修飾されてBCL11Aの機能を低下させたCD34陽性HSPCの分化後にγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成するレベルが、この修飾なしのCD34陽性HSPCの分化後に生成するγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルより、少なくとも約12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、120%増加しているかどうかを評価することをいう。
【0019】
修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団の分化後に生成したγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルは、この修飾なしのCD34陽性HSPCの分化後に生成したγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルより少なくとも約12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、120%増加している場合、前記個体が、前記修飾されたTR細胞による治療に適する。
【0020】
上記方法の一部の実施形態において、前記修飾されたCD34陽性HSPCの分化後に生成したγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビンのレベルは、修飾されていないCD34陽性HSPCの分化後に生成したγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビンのレベルの150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、またはそれ以上のレベルである。
【0021】
上記方法の一部の実施形態において、前記修飾されたCD34陽性HSPCの分化後に生成した胎児ヘモグロビンは、6.5g/dL、7.0g/dL、7.5g/dL、8.0g/dL、8.5g/dL、9.0g/dL、9.5g/dL、10g/dL、10.5g/dL、11.0g/dL末梢血を超え、またはそれ以上のレベルである。いくつかの実施形態において、前記修飾されたCD34陽性HSPCの分化後に生成した胎児ヘモグロビンは、約9.0~18g/dL、例えば、10~17g/dL、11~15g/dLまたは12~16g/dL末梢血である。
【0022】
上記方法の一部の実施形態において、前記必要なレベルのγ-グロブリンは、修飾されていないCD34陽性HSPCと比較して、修飾されたCD34陽性HSPCが約50%、60%、70%、80%、90%、100%、120%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%を超え、またはそれ以上のレベルのγ-グロブリンmRNAを生成する。
【0023】
上記方法の一部の実施形態において、前記評価ステップは、
a)前記個体の骨髄または末梢血サンプルからCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたEV細胞」)を得ること、
b)単離されたEV細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第1の集団(「修飾されたEV細胞」)を得ること、及び
c)修飾されたEV細胞の分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む。上記方法の一部の実施形態において、前記治療ステップは、
a)前記個体の骨髄中のCD34陽性HSPCが末梢血に入るように動員して末梢血中のCD34陽性HSPCの量を増加させること、
b)前記個体の末梢血からCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたTR細胞」)を得ること、
c)単離されたTR細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を得ること、及び
d)有効量の修飾されたTR細胞を前記個体に投与することを含む。
【0024】
一態様では、本願は、
1)
a)前記個体の骨髄または末梢血サンプルからCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたEV細胞」)を得ること、
b)単離されたEV細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第1の集団(「修飾されたEV細胞」)を得ること、及び
c)修飾されたEV細胞の分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップと、
2)
a)前記個体のCD34陽性HSPCが末梢血に入るように動員すること、
b)前記個体の末梢血からCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたTR細胞」)を得ること、
c)単離されたTR細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を得ること、及び
d)有効量の修飾されたTR細胞を前記個体に投与することを含む治療ステップと
を含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療する方法を提供する。
【0025】
一態様では、本願は、
1)
a)前記個体の骨髄または末梢血サンプルからCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたEV細胞」)を得ること、
b)単離されたEV細胞を遺伝子修飾(例えば、CRISPR方法による遺伝子修飾)して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第1の集団(「修飾されたEV細胞」)を得ること、及び
c)修飾されたEV細胞の分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップと、
2)
a)前記個体のCD34陽性HSPCが末梢血に入るように動員すること、
b)前記個体の末梢血からCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたTR細胞」)を得ること、
c)単離されたTR細胞を遺伝子修飾(例えば、CRISPR方法による遺伝子修飾)して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を得ること、及び
d)有効量の修飾されたTR細胞を前記個体に投与(例えば、1回の静脈内注射を含む静脈内注射)することを含む治療ステップと
を含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療する方法を提供する。
【0026】
上記方法の一部の実施形態において、単離されたEV細胞を生成するためにCD34陽性HSPCの単離に使用される骨髄または末梢血サンプルは少量であり、例えば、骨髄サンプリング量は20ml以下、例えば、5~20ml、5~10mlであり、末梢血サンプリング量は30ml以下、例えば、10~30ml、15~20mlである。
【0027】
上記方法の一部の実施形態において、単離されたTR細胞を生成するためにCD34陽性HSPCの単離に使用される骨髄または末梢血サンプルは大量であり、例えば、50ml以上、例えば、50~300ml、100~200mlである。
【0028】
上記方法の一部の実施形態において、前記CD34陽性HSPC細胞は、個体の骨髄または末梢血から単離されて得ることができる。いくつかの実施形態では、前記単離方法は、磁気ビーズ単離を含む。上記方法のいくつかの実施形態では、前記方法は、単離されたEV細胞を遺伝子修飾することを含む。上記の方法のいくつかの実施形態において、前記遺伝子修飾は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、RNA編集、RNA干渉(RNAi)技術のうちのいずれか一つの方法またはそれらの組み合わせにより、単離されたEV細胞を遺伝子修飾することを含む。上記方法のいくつかの実施形態において、60495197番目から60495346番目までのヒト2番染色体の領域のBCL11A遺伝子を修飾することによってBCL11Aの機能を低下させる。上記方法のいくつかの実施形態において、CD34陽性HSPC細胞をCRISPR/Cas技術によって遺伝子修飾し、BCL11Aの機能を低下させる。上記方法のいくつかの実施形態において、CD34陽性HSPC細胞をBCL11A機能阻害剤によって修飾し、BCL11A機能を低下させる。いくつかの実施形態において、前記BCL11A機能阻害剤は、ヌクレアーゼ(ZFNおよびTALENなど)、ペプチド核酸、アンチセンスRNA、siRNA、miRNA、及びshRNAなどの、BCL11A遺伝子の転写および/または発現を阻害するタンパク質または核酸分子である。いくつかの実施形態では、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域の遺伝子の転写および/または発現を阻害するタンパク質または核酸分子である。いくつかの実施形態では、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域の遺伝子の転写および/または発現を干渉、阻害、または破壊するタンパク質または核酸分子である。いくつかの実施形態において、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域を干渉、阻害、または破壊するヌクレアーゼ(ZFNおよびTALENなど)、ペプチド核酸、アンチセンスRNA、siRNA、miRNAである。
【0029】
上記方法の一部の実施形態において、評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾EV細胞の能力を評価し、前記ステップは、1)赤血球集団を得るように分化を可能にする条件下で、修飾されたEV細胞を培養すること、及び2)前記赤血球によって生成されるγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルを決定することを含む。
【0030】
上記方法の一部の実施形態において、評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾EV細胞の能力を評価することは、γ-グロビンのmRNAレベルを決定することを含む。上記方法の一部の実施形態において、評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾EV細胞の能力を評価することは、胎児ヘモグロビン(HbF)のタンパク質レベルを決定することを含む。上記方法の一部の実施形態において、前記個体は、評価ステップの前にCD34陽性HSPC細胞動員または前処理を経ていない。たとえば、個体は、評価ステップの前に、ブスルファン(Busulfan)やフルダラビン(Fludarabine)などの骨髄およびリンパ液除去薬を注射していない。上記方法のいくつかの実施形態では、前記評価ステップは、前記治療ステップの前に少なくとも1回繰り返される。
【0031】
単離されたTR細胞を修飾する方法は、単離されたEV細胞を修飾する方法と同じであっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、単離されたTR細胞を修飾する方法は、単離されたEV細胞を修飾する方法と同じであり得る。上記の方法のいくつかの実施形態において、単離されたTR細胞を遺伝子修飾する。上記の方法のいくつかの実施形態において、前記遺伝子修飾は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、RNA編集、RNA干渉(RNAi)技術のうちのいずれか一つの方法またはそれらの組み合わせにより、単離されたTR細胞を遺伝子修飾することを含む。上記の方法のいくつかの実施形態において、60495197番目から60495346番目までのヒト2番染色体の領域のBCL11A遺伝子を修飾することによってBCL11Aの機能を低下させる。上記方法のいくつかの実施形態において、CD34陽性HSPC細胞をCRISPR/Cas技術によって遺伝子修飾し、BCL11Aの機能を低下させる。上記方法のいくつかの実施形態において、CD34陽性HSPC細胞をBCL11A機能阻害剤によって修飾し、BCL11A機能を低下させる。いくつかの実施形態において、前記BCL11A機能阻害剤は、ヌクレアーゼ(ZFNおよびTALENなど)、ペプチド核酸、アンチセンスRNA、siRNA、miRNA、及びshRNAなどの、BCL11A遺伝子の転写および/または発現を阻害するタンパク質または核酸分子である。いくつかの実施形態では、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域の遺伝子の転写および/または発現を阻害するタンパク質または核酸分子である。いくつかの実施形態では、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域の遺伝子の転写および/または発現を干渉、阻害、または破壊するタンパク質または核酸分子である。いくつかの実施形態において、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域を干渉、阻害、または破壊するヌクレアーゼ(ZFNおよびTALENなど)、ペプチド核酸、アンチセンスRNA、siRNA、miRNAである。
【0032】
一部の実施形態において、治療ステップには、個体の骨髄を動員して、骨髄から大量の造血幹細胞が生成して末梢血循環系に放出されることが含まれる。CD34陽性HSPCの動員は、CD34陽性HSPC細胞を収集する前に(例えば、4~10日、5~8日、6~7日)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)および/またはプレリキサフォル(plerixafor)を前記個体に投与することを含む。
【0033】
上記方法の一部の実施形態において、前記治療ステップは、前記修飾されたTR細胞を投与する前に前記個体を前処理することをさらに含む。前処理は、骨髄除去及び/またはリンパ液除去の処理を含み得る。一部の実施形態において、前記前処理は、化学療法、モノクローナル抗体療法、または全身放射線療法を含む。一部の実施形態において、前記化学療法は、ブスルファン、シクロホスファミド(Cyclophosphamide)、およびフルダラビンからなる群から選択される1つ以上の化学療法剤を前記個体に投与することを含む。
【0034】
上記方法の一部の実施形態において、前記治療ステップは、2x106以上、5x106以上、1x107以上、2x107以上の細胞/kg体重の修飾されたTR細胞を個体に投与(例えば、1回の静脈内注射を含む静脈内注射)することを含む。
【0035】
一部の実施形態において、単離されたTR細胞は、修飾する前に1日以上培養され、その後、単離されたTR細胞を修飾する。一部の実施形態において、個体に投与する前に、前記修飾されたTR細胞を1日以上(例えば、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日)培養する。一部の実施形態において、修飾されたTR細胞を個体に投与する前に、修飾されたTR細胞を凍結条件下で少なくとも24時間保存する。一部の実施形態において、凍結条件下で保存する前に、修飾されたTR細胞を1日以上(例えば、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日)を培養する。
【0036】
上記方法の一部の実施形態において、前記異常ヘモグロビン症は、鎌状赤血球症、鎌状赤血球形質、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンC形質、ヘモグロビンS/C症、ヘモグロビンD症、ヘモグロビンE症、サラセミア、酸素親和性が増加したヘモグロビン関連障害、酸素親和性が低下したヘモグロビン関連障害、不安定なヘモグロビン症、およびメトヘモグロビン血症からなる群から選択される。一部の実施形態において、前記異常ヘモグロビン症は、β-サラセミアと鎌状赤血球貧血からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、前記異常ヘモグロビン症は、β0またはβ+サラセミアである。
【0037】
上記方法の一部の実施形態において、前記個体はヒトである。一部の実施形態において、前記個体は35歳未満のヒトである。一部の実施形態において、前記個体は男性である。一部の実施形態において、前記個体は女性である。一部の実施形態において、前記個体は、心臓、肝臓、肺、または脾臓の合併症のないヒトである。一部の実施形態において、治療前の前記個体のヘモグロビンレベルは、5.0g/dL、6.0g/dL、7.0g/dL、8.0g/dL、9.0g/dL末梢血以下である。上記の方法のいくつかの実施形態では、前記治療ステップは、前記評価ステップの直後に実行される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】Cas9 mRNAコーディング遺伝子(配列番号1)およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊する2つのsgRNA、すなわち、sgRNA-1とsgRNA-2をそれぞれエレクトロポレーションにより、5人の異なるサラセミア患者と2人の健康なドナーの動員末梢血由来の造血幹細胞に形質転換し、4日後、「Synthego ICE Analysis」オンラインソフトウェア解析により、インデルス生成効率の統計分析が行われことを示す図である。
図2】Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊する2つのsgRNA、すなわち、sgRNA-1とsgRNA-2をそれぞれエレクトロポレーションにより、5人の異なるサラセミア患者と2人の健康なドナーの動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞に形質転換して赤血球分化をし、18日後に、赤血球分化の効率を表すものとして、ヒトCD71とヒトCD235aとの2つの膜タンパク質の発現比を検出したことを示す図である。対照群は、遺伝子編集されていない細胞を表し、sgRNA-1とsgRNA-2はそれぞれ2つのsgRNA遺伝子編集がされた細胞を表す。
図3】Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊する2つのsgRNA、すなわち、sgRNA-1とsgRNA-2をそれぞれエレクトロポレーションにより、5人の異なるサラセミア患者と2人の健康なドナーの動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞に形質転換して赤血球分化をし、18日後に、HBG(γ-グロビン)遺伝子mRNAの発現を蛍光定量PCRによって検出したことを示す図である。対照群は、遺伝子編集されていない細胞を表す。実験群は、それぞれ2つのsgRNA遺伝子編集がされた細胞を表す。Nは3回の実験の繰り返しを表す。HBG遺伝子とGAPDH遺伝子は正規化された。
図4A図4Aは、Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊するsgRNA-2をエレクトロポレーションにより2人の異なる健康なドナーの動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞の3つのバッチの実験に形質転換し、4日後、「Synthego ICE Analysis」オンラインソフトウェア解析により、インデルス効率の統計解析が行われことを示す図である。図4Bは、Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊するsgRNA-2をエレクトロポレーションにより10人のサラセミア患者の動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞の複数のバッチの実験に形質転換し(患者ドナー1は3つのバッチ、患者ドナー6、患者ドナー9、及び患者ドナー10はそれぞれ2つの独立したバッチ)、2日後、「Synthego ICE Analysis」オンラインソフトウェア解析により、インデルス生成効率の統計解析が行われことを示す図である。
図4B図4Aは、Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊するsgRNA-2をエレクトロポレーションにより2人の異なる健康なドナーの動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞の3つのバッチの実験に形質転換し、4日後、「Synthego ICE Analysis」オンラインソフトウェア解析により、インデルス効率の統計解析が行われことを示す図である。図4Bは、Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊するsgRNA-2をエレクトロポレーションにより10人のサラセミア患者の動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞の複数のバッチの実験に形質転換し(患者ドナー1は3つのバッチ、患者ドナー6、患者ドナー9、及び患者ドナー10はそれぞれ2つの独立したバッチ)、2日後、「Synthego ICE Analysis」オンラインソフトウェア解析により、インデルス生成効率の統計解析が行われことを示す図である。
図5】Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊するsgRNA-2をエレクトロポレーションにより2人の異なる健康なドナーの動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞の3つのバッチの実験に形質転換して赤血球分化をし、18日後に、赤血球分化の効率を表すものとして、ヒトCD71とヒトCD235aとの2つの膜タンパク質の発現を検出したことを示す図である。対照群は、遺伝子編集されていない細胞を表し、実験群はsgRNA-2遺伝子編集がされた細胞を表す。
図6】Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊するsgRNA-2をエレクトロポレーションにより10人のサラセミア患者の動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞の複数のバッチの実験に形質転換して赤血球分化をし、18日後に、赤血球分化の効率を表すものとして、ヒトCD71とヒトCD235aとの2つの膜タンパク質の発現を検出したことを示す図である。対照群は、遺伝子編集されていない細胞を表し、実験群はsgRNA-2遺伝子編集がされた細胞を表す。
図7】Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊するsgRNA-2が1人目の健康なドナーの動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞の3つのバッチをエレクトロポレーションにより形質転換して赤血球分化実験をし、分化して18日後に、BCL11A、HBG(γ-グロビン)などの遺伝子mRNAの発現を蛍光定量PCRによって検出したことを示す図である。対照群は、遺伝子編集されていない細胞を表す。実験群は、sgRNA-2遺伝子編集がされた細胞を表す。N=3回の実験を繰り返した。HBG遺伝子とBCL11A遺伝子はそれぞれGAPDH遺伝子と正規化された。
図8】Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊するsgRNA-2が2人目の健康なドナーの動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞の3つのバッチをエレクトロポレーションにより形質転換して赤血球分化実験をし、分化して18日後に、BCL11A、HBG(γ-グロビン)などの遺伝子mRNAの発現を蛍光定量PCRによって検出したことを示す図である。対照群は、遺伝子編集されていない細胞を表す。実験群は、sgRNA-2遺伝子編集がされた細胞を表す。N=3回の実験を繰り返した。HBG遺伝子とBCL11A遺伝子はそれぞれGAPDH遺伝子と正規化された。
図9A図9Aは、Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊するsgRNA-2が10人のサラセミア患者の動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞の複数のバッチをエレクトロポレーションにより形質転換して赤血球分化実験をし、分化して18日後に、分化した赤血球におけるHbFの発現比をフローサイトメトリーで検出したことを示す図である。対照群は、遺伝子編集されていない細胞を表す。実験群は、sgRNA-2遺伝子編集がされた細胞を表す。図9Bは、異なるサラセミア患者由来の実験群HbF+%と対照群HbF+%の倍数の統計解析を示す図である。
図9B図9Aは、Cas9 mRNA、およびBCL11Aの赤血球エンハンサーを破壊するsgRNA-2が10人のサラセミア患者の動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞の複数のバッチをエレクトロポレーションにより形質転換して赤血球分化実験をし、分化して18日後に、分化した赤血球におけるHbFの発現比をフローサイトメトリーで検出したことを示す図である。対照群は、遺伝子編集されていない細胞を表す。実験群は、sgRNA-2遺伝子編集がされた細胞を表す。図9Bは、異なるサラセミア患者由来の実験群HbF+%と対照群HbF+%の倍数の統計解析を示す図である。
図10】サラセミア患者1由来の実験群HbF+%と対照群HbF+%の倍数の統計解析を示す図である。nは3回の実験を示す。
図11】異常ヘモグロビン症を治療するためのBCL11A赤血球エンハンサー部位の遺伝子編集の新しい治療スキームの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本出願は、BCL11Aの機能を低下させることにより、例えば、ゲノム編集技術によって造血幹細胞のBCL11A赤血球エンハンサー部位を破壊し、遺伝子編集された造血幹細胞の赤血球分化を実行し、γグロビンと胎児ヘモグロビンの発現のアップレギュレーションの程度を評価することにより、遺伝子編集技術が、βサラセミアや鎌状赤血球貧血などの異常ヘモグロビン症の治療に有効かどうか、または有効性の高さを予測することができる。
【0040】
具体的には、本願は、
(a)修飾されたCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞(「CD34陽性HSPC」)の第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、第1の集団の修飾されたCD34陽性HSPCが個体に由来し、BCL11A機能を低下させるように修飾されている(「修飾されたEV細胞」)、評価ステップ;及び、
(b)前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップ
を含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療するための方法を提供する。上記方法の実施形態において、該第1の集団および/または第2の集団は、60495197番目から60495346番目までのヒト2番染色体の領域のBCL11A遺伝子を修飾する(例えば、CRISPR/Cas技術によって遺伝子修飾をし、配列番号3~配列番号25から選択されるいずれかの配列を含むsgRNAを前記CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞に導入してBCL11A遺伝子を編集することを含む)ことによってBCL11Aの機能を低下させる。
【0041】
一態様では、本願は、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップを含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療する方法を提供し、ここで、評価ステップによる機能評価に基づいて前記個体を治療のために選択し、前記評価ステップは、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、第1の集団の修飾されたCD34陽性HSPCが個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下した(「修飾されたEV細胞」)。上記方法の実施形態において、該第1の集団および/または第2の集団は、60495197番目から60495346番目までのヒト2番染色体の領域のBCL11A遺伝子を修飾する(例えば、CRISPR/Cas技術によって遺伝子修飾をし、配列番号3~配列番号25から選択されるいずれかの配列を含むsgRNAを前記CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞に導入してBCL11A遺伝子を編集することを含む)ことによってBCL11Aの機能を低下させる。
【0042】
一態様では、本願は、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)による治療のために異常ヘモグロビン症に罹患している個体を選択する方法を提供し、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、ここで、第1の集団の修飾されたCD34陽性HSPCが前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、前記第1の集団の修飾されたCD34陽性HSPCが必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成した場合、前記個体を治療のために選択する。上記方法の実施形態において、該第1の集団および/または第2の集団は、60495197番目から60495346番目までのヒト2番染色体の領域のBCL11A遺伝子を修飾する(例えば、CRISPR/Cas技術によって遺伝子修飾をし、配列番号3~配列番号25から選択されるいずれかの配列を含むsgRNAを前記CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞に導入してBCL11A遺伝子を編集することを含む)ことによってBCL11Aの機能を低下させる。
【0043】
一態様では、本願は、
1)
a)前記個体の骨髄または末梢血サンプルからCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたEV細胞」)を得ること、
b)単離されたEV細胞を遺伝子修飾(例えば、CRISPR方法による遺伝子修飾)して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第1の集団(「修飾されたEV細胞」)を得ること、及び
c)修飾されたEV細胞の分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップと、
2)
a)前記個体のCD34陽性HSPCが末梢血に入るように動員すること、
b)前記個体の末梢血からCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたTR細胞」)を得ること、
c)単離されたTR細胞を遺伝子修飾(例えば、CRISPR方法による遺伝子修飾)して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を得ること、及び
d)有効量の修飾されたTR細胞を前記個体に投与(例えば、1回の静脈内注射を含む静脈内注射)することを含む治療ステップと
を含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療する方法を提供する。上記方法の実施形態において、該第1の集団および/または第2の集団は、60495197番目から60495346番目までのヒト2番染色体の領域のBCL11A遺伝子を修飾する(例えば、CRISPR/Cas技術によって遺伝子修飾をし、配列番号3~配列番号25から選択されるいずれかの配列を含むsgRNAを前記CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞に導入してBCL11A遺伝子を編集することを含む)ことによってBCL11Aの機能を低下させる。
【0044】
上記方法の一部の実施形態において、単離されたEV細胞を生成するためにCD34陽性HSPCの単離に使用される骨髄または末梢血サンプルは少量であり、例えば、骨髄サンプリング量は20ml以下、例えば、5~20ml、5~10mlであり、末梢血サンプリング量は30ml以下、例えば、10~30ml、15~20mlである。
【0045】
上記方法の一部の実施形態において、単離されたTR細胞を生成するためにCD34陽性HSPCの単離に使用される骨髄または末梢血サンプルは大量であり、例えば、50ml以上、例えば、50~300ml、100~200mlである。
【0046】
上記方法の一部の実施形態において、前記CD34陽性HSPC細胞は、個体の骨髄または末梢血から単離されて得ることができる。いくつかの実施形態では、前記単離方法は、磁気ビーズ単離を含む。例えば、超常磁性MACS MicroBeads(MACSマイクロ磁気ビーズ)を用いて骨髄または末梢血中の細胞を特異的に標識し、磁気標識後、これらの細胞を強力で安定した磁場に配置された選別カラム(選別カラムのマトリックスは、高勾配磁場を築く)に通す。磁気標識された細胞はカラムに残り、標識されていない細胞は流出する。選別カラムを磁場から外すと、カラム内に残った磁気標識された細胞は溶出でき、これによって、標識された細胞集団と標識されていない細胞集団の両方を取得することができる。具体的な実施形態において、Ficoll液体密度勾配遠心分離法を使用して、異なる成分の比重に差があり、低速密度勾配遠心分離により、血液中の異なる細胞層を分離することができる。赤血球と顆粒球の密度は成層液体の密度より高く、ficоll液体に会ったら、赤血球はすぐにひも状に凝縮してチューブの底に蓄積する。成層液体の密度に相当する単核細胞のみが血漿層と成層液体、すなわち、造血幹細胞が存在する白い膜層との間に濃縮される。後続の磁気ビーズ選別によってCD34陽性HSPC細胞を取得することができる。
【0047】
一態様では、本願は、異常ヘモグロビン症に罹患している個体が、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を使用する治療に適するかどうかを決定する方法を提供し、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、ここで、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成した場合、前記個体が治療に適する。
【0048】
一態様では、本願は、異常ヘモグロビン症に罹患している個体が、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を使用する治療に適しないことを決定する方法を提供し、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、ここで、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成しない場合、前記個体が、前記第2の集団の修飾されたCD34陽性HSPC(「修飾されたTR細胞」)による治療に適しない。
【0049】
「造血幹細胞」とは、強力な増殖能、多方向分化能、及び自己再生能を有する細胞集団のことである。造血幹細胞は、さまざまな血球を分化・補充するだけではなく、幹細胞の特性と数量を自己再生により維持することもできる。造血幹細胞は分化および増殖能力が異なり、異質である。多能性造血幹細胞は最も原始的であり、最初に定方向多能性造血幹細胞、例えば、顆粒球、赤血球、単核、及び巨核球‐血小板を生成できる骨髄造血幹細胞、及びBリンパ球とTリンパ球を生成できるリンパ幹細胞など、に分化する。この二種の幹細胞は、造血幹細胞の基本的な特徴を持っていながらわずかに分化し、それぞれ「骨髄成分」とリンパ球の発生に関与するので、定方向多能性造血幹細胞と呼ばれる。これらはさらに造血前駆細胞に分化する。この細胞は原始的な血球でもあるが、造血幹細胞の多くの基本的な特徴を失っている。例えば、多方向分化能力を失って、1系統または密接に関連する2系統の細胞にしか分化できなくなったり、繰り返し再生する能力を失い、数量を補うために造血幹細胞の増殖分化に依存するしかなくなったり、増殖の可能性が限られており、数回しか分割することができなくなったりする。造血前駆細胞が分化して生成できる血液細胞株の数に応じて、また単能性造血前駆細胞(1つの血液細胞株のみに分化する)とオリゴ能性造血前駆細胞(2~3つの血液細胞株に分化できる)に分けられる。本発明の用語の「造血幹細胞/前駆細胞」と「造血幹細胞」とは、取り替えて使用することができ、多能性造血幹細胞、定方向多能性造血幹細胞、及び造血前駆細胞を含み、異質性の異なる造血幹細胞の総称である。
【0050】
本出願に記載の「CD34陽性造血幹/前駆細胞」は、CD34陽性HSPC(hematopoietic stem/progenitor cell、HSPC)と略され、表面にCD34マーカーを発現し、造血機能を持っている幹細胞および前駆細胞の集団を指す。たとえば、フローサイトメトリーと蛍光標識された抗CD34抗体を使用して、CD34陽性の造血幹細胞/前駆細胞を検出およびカウントできる。
【0051】
具体的な実施形態において、CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞は、造血起源の細胞を含む生物(個体)から単離されるまたは得られる。「単離」とは、元の環境から取り出すことを意味する。たとえば、細胞は、その自然な状態で通常に付随するコンポーネントの一部またはすべてから分離されている場合、その細胞は単離されている。
【0052】
造血幹細胞/前駆細胞は、大腿骨、寛骨、肋骨、胸骨および他の骨を含む成人の未分画または分画された骨髄から取得または単離することができる。造血幹細胞および前駆細胞は、針と注射器を使用して寛骨から直接取得または分離するか、血液から取得できる。通常、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)などの造血幹細胞動員剤で前処理した後の血液から得られる。造血幹細胞および前駆細胞の他の供給源には、臍帯血、胎盤血、および動員された個体の末梢血が含まれる。
【0053】
個体(骨髄や末梢血など)から細胞集団を単離して取得した後、それらをさらに精製して、CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞を取得することができる。例えば、単離された細胞集団における成熟した系統指向性細胞は、免疫化によって、例えば、一連の「系統」抗原(例えば、CD2、CD3、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD19、CD56、CD123、およびCD235a)に結合した抗体を使用して固体マトリックスを標記してから、CD34陽性抗原に結合した抗体で元の造血幹細胞と前駆細胞を単離することによって除去することができる。様々な細胞源から造血幹細胞および前駆細胞を精製するためのキットが市販されており、特定の実施形態において、これらのキットは、本発明の方法と共に使用することができる。
【0054】
「CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞」は、CD34陽性細胞が豊富な細胞集団の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞集団を表すことができる。
【0055】
「修飾された」細胞とは、生物学的または化学的方法によって分子レベルまたは細胞レベルで変化した細胞を指す。例えば、単離されたCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞(「CD34陽性HSPC」)は、遺伝子編集方法、例えば、ZFN、TALEN、CRISPR、RNA編集またはRNAi技術によってBCL11A遺伝子或いはそのコーティングRNAを破壊し、BCL11Aの機能が低下した修飾されたEV細胞または修飾されたTR細胞を生成する。また、ヌクレアーゼ(ZFNおよびTALENなど)、ペプチド核酸、アンチセンスRNA、siRNA、miRNA、及びshRNAなどのBCL11A機能阻害剤により、BCL11A遺伝子の機能を阻害し、単離されたCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞(「CD34陽性HSPC」)に対する修飾を実現し、修飾されたEV細胞または修飾されたTR細胞を生成することができる。
【0056】
CD34陽性
本明細書の「EV細胞」は、本明細書で評価(Evaluation、EV)に使用される細胞を表し、「TR細胞」は、本明細書で治療(Treatment、TR)に使用される細胞を表す。
【0057】
造血幹細胞の「動員(mobilization)」とは、造血微小環境内の造血幹細胞が、動員剤の影響を受けた後、特定の骨髄微小環境から末梢循環に移動するプロセスを指す。
【0058】
異常ヘモグロビン症(hemoglobinopathy)は、異常なヘモグロビン分子構造またはグロビンペプチド鎖の異常な合成によって引き起こされる一組の遺伝性血液疾患である。その臨床症状として、溶血性貧血、メトヘモグロビン血症、またはヘモグロビン酸素親和性の増加または減少による組織低酸素症または代償性赤血球増加によるチアノーゼが挙げられる。
【0059】
「ヘモグロビン」は、グロビンとヘムからなる結合タンパク質である。グロビン分子には2対のペプチド鎖があり、1対はα鎖、もう1対は非α鎖であり、β、γ、δ、ξ(α鎖に似た構造を有する)及びεの5種類がある。ヒトヘモグロビンは、2対(4つ)のヘモグロビンモノマー(各ペプチド鎖が1つのヘムに接続されてヘモグロビンモノマーを形成する)が特定の空間的関係に従って結合し、HbA(またはHbA1、α2β2)、HbA2(α2δ2)およびHbF(α2γ2)などの四量体を構成する。その中で、HbF(α2γ2)は胎児ヘモグロビンの四量体である。
【0060】
本明細書で使用する「BCL11A」は転写因子であり、レトロウイルスの結合部位としてマウスで最初に発見され、Evi9と名付けられた。その後、この遺伝子はヒトゲノムでも発見され、2番染色体の短腕2p13部位に位置付けられる。
【0061】
修飾によりBCL11Aの機能が低下することは、遺伝子修飾(例えば、DNAレベルおよび/またはRNAレベルの遺伝子編集)などの修飾、またはBCL11A機能阻害剤(例えば、BCL11A遺伝子に対するヌクレアーゼ(ZFNおよびTALENなど)、ペプチド核酸、アンチセンスRNA、siRNA、miRNA、shRNA)を添加することによって、BCL11A遺伝子を破壊、発現および/または転写を阻害、弱体化、遮断、干渉することである。
【0062】
本出願で使用されたように、「CRISPR/Cas」は遺伝子編集技術であり、例えば、CRISPR/Cas9システムのような、自然に存在するまたは人工的に設計された様々なCRISPR/Casシステムを含むが、これらに限られていない。自然に存在するCRISPR/Casシステム(Naturally occurring CRISPR/Cas system)は、細菌と古細菌が長期的な進化中に形成した適応性免疫防御であり、侵入するウイルスおよび外因性DNAと対抗することができる。例えば、CRISPR/Cas9の作動原理は、crRNA(CRISPR-derived RNA)が塩基対を通してtracrRNA(trans-activating RNA)と結合してtracrRNA/crRNA複合体を形成し、この複合体は、ヌクレアーゼCas9タンパク質をガイドしてcrRNAとペアになっている配列標的部位で二本鎖DNAを切断する。tracrRNAとcrRNAを人工的に設計することにより、ガイド作用を有するsgRNA(single guide RNA)を改変形成し、Cas9がDNAを部位特異的に切断することをガイドするようにすることができる。RNA指向性dsDNA結合タンパク質として、Cas9エフェクターヌクレアーゼは、RNA、DNA、およびタンパク質に共局在化することができるため、巨大な改変可能性を有する。CRISPR/Casシステムには、クラス1、クラス2、またはクラス3のCasタンパク質が使用可能である。本発明の一部の実施形態では、前記方法にはCas9が使用される。その他の適用されるCRISPR/Casシステムは、WO2013176772、WO2014065596、WO2014018423、US8,697,359、PCT/CN2018/112068、PCT/CN2018/112027に記載されているシステムと方法を含むが、これらに限られていない。
【0063】
上記方法のいくつかの実施形態では、前記方法は、単離されたEV細胞を遺伝子修飾することを含む。上記の方法のいくつかの実施形態において、前記遺伝子修飾は、
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、RNA編集、RNA干渉(RNAi)技術のうちのいずれか一つの方法またはそれらの組み合わせにより、単離されたEV細胞を遺伝子修飾することを含む。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態において、BCL11aエンハンサーは、遺伝子修飾(例えば、(ZFN、TALEN、CRISPR、RNA編集またはRNAi)から選択される)方法によって破壊される(例えば、BCL11aの発現または機能を亢進する核酸配列に影響を与える)。前記BCL11aエンハンサーについては、例えば、Bauer et al.、Science [Science]、Vol.342、2013、第253~257頁を参照されたい。前記BCL11aエンハンサーの1つの例は、BCL11a遺伝子のエクソン2とエクソン3との間の核酸配列である(例えば、hg38に記録された位置+55:Chr2:60497676-60498941;+58:Chr2:60494251-60495546;+62:Chr2:60490409-60491734に位置するか、またはそれに対応する)。前記BCL11aエンハンサーの1つの例は、BCL11a遺伝子のエクソン2とエクソン3との間の核酸配列の+62領域である。前記BCL11aエンハンサーの1つの例は、BCL11a遺伝子のエクソン2とエクソン3との間の核酸配列の+58領域である(BCL11A遺伝子58K部位150bp配列:ctgccagtcctcttctaccccacccacgcccccaccctaatcagaggccaaacccttcctggagcctgtgataaaagcaactgttagcttgcactagactagcttcaaagttgtattgaccctggtgtgttatgtctaagagtagatgcc)(配列番号2)。いくつかの実施形態において、BCL11aエンハンサーは、BCL11a遺伝子のエクソン2とエクソン3との間の核酸配列の+55領域である。
【0065】
上記方法のいくつかの実施形態において、60495197番目から60495346番目までのヒト2番染色体の領域のBCL11A遺伝子を修飾することによってBCL11Aの機能を低下させる。上記方法のいくつかの実施形態において、CD34陽性HSPC細胞をCRISPR/Cas技術によって修飾し、BCL11Aの機能を低下させる。いくつかの実施形態において、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域の遺伝子の転写および/または発現を阻害するタンパク質または核酸分子である。いくつかの実施形態では、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域の遺伝子の転写および/または発現を干渉、阻害、または破壊するタンパク質または核酸分子である。いくつかの実施形態において、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域を干渉、阻害、または破壊するヌクレアーゼ(ZFNおよびTALENなど)、ペプチド核酸、アンチセンスRNA、siRNA、miRNAである。上記方法のいくつかの実施形態において、前記造血幹細胞の2番染色体の60495219番目から60495336番目までのBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊してBCL11A機能を低下させる。上記方法のいくつかの実施形態において、前記遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術、RNA編集技術、RNAi技術である。上記方法のいくつかの実施形態において、遺伝子編集技術は、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術である。上記方法のいくつかの実施形態において、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列は、配列番号3~配列番号25から選択されるいずれかの配列と相補的である。
【0066】
上記方法のいくつかの実施形態において、配列番号3~配列番号25から選択されるいずれかの配列を含むsgRNAを前記CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞に導入してBCL11A遺伝子を編集し、BCL11Aの機能を低下させる。上記方法のいくつかの実施形態において、前記sgRNAは、2’-O-メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものである。上記方法のいくつかの実施形態において、前記化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’-O-メチル類縁体による修飾である。上記方法のいくつかの実施形態において、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒にCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞に導入する。上記方法のいくつかの実施形態において、エレクトロポレーションによってsgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に造血幹細胞に導入する。上記方法のいくつかの実施形態において、前記エレクトロポレーション条件は、200~600V、0.5~2msである。
【0067】
細胞の「分化」とは、同じ供給源からの細胞が、異なる形態学的構造および機能的特徴を有する細胞群を徐々に生成するプロセスを指す。
【0068】
造血幹細胞から赤血球への「分化」には、造血幹細胞期、赤血球前駆細胞期、赤血球前駆細胞(初代赤血球から後期赤血球)の増殖および分化期、網状赤血球の増殖および成熟過程、ならびに網状赤血球が末梢血から放出され、成熟して赤血球になる段階を含む。造血幹細胞期:造血幹細胞は主に骨髄、脾臓、肝臓、その他の造血組織に存在することが現在知られている。末梢血にも少量に循環している。赤血球前駆細胞期:赤血球前駆細胞(progenitor cell)期では、細胞は造血幹細胞と赤血球前駆細胞の間の細胞群である。造血幹細胞は、骨髄造血微小環境の影響下で赤血球前駆細胞に分化する。造血微小環境には、微小血管系、神経系、および造血間質が含まれる。体液性因子とサイトカインは、造血幹細胞の分化に特別な効果と影響を及ぼす。原始赤血球、初期の若い赤血球、中期の若い赤血球、後期の若い赤血球を含む赤血球前駆細胞期および網状赤血球期を経て成熟した赤血球に到達する。
【0069】
細胞成熟の過程は、ヘモグロビンが増加し、細胞核の活性が減少する過程である。細胞が成熟するにつれて、有核赤血球のヘモグロビン含有量は増加し続け、RNA含有量は減少し続ける。赤血球中のヘモグロビンの増加により、細胞核は活性を失い、DNAまたはRNAを合成しなくなる。実験により、これはヘモグロビンが核膜の細孔を通って核に入り、ヌクレオヒストン(nucleohistones)に作用して染色体の不活性化と核凝縮の促進をもたらすからであることが確認されている。後期の未成熟赤血球は分裂を続ける能力を失い、その後、細胞核は濃縮されて脱出し、単核マクロファージに飲み込まれるか、脾臓に断片化して溶解し、細胞核のない網状赤血球になる。ヘモグロビンは、成熟した赤血球の段階ではもはや合成されない。細胞内ヘモグロビン濃度の上昇は細胞核の活性を失わせるという理論によれば、成熟中の赤血球の分裂数と細胞の最終的なサイズは、ヘモグロビン合成の速度と一定の関係がある。細胞が成熟するにつれて、赤血球細胞の直径は徐々に減少し、細胞の体積も徐々に減少する。これは、細胞内でヘモグロビン、基質タンパク質、及びさまざまな酵素を合成するために使用される一部の細胞小器官(ミトコンドリア、ゴルジ体、ポリソームなど)が徐々に減少し、細胞小器官も徐々に変性して消失するからである。遺伝子活性は、赤血球成熟の過程でのグロビンの発現によって支配される。グロビンは原始赤血球のタンパク質の0.1%しか占めておらず、網状赤血球では95%に達している。ヒトグロビンの合成は主にHbA(α2β2)、少量のHbA2(α2δ2)およびHbF(α2γ2)であることが知られている。赤血球の増殖時間は、指向性放射性核種標識細胞の増殖サイクルDNA合成能力を指標として推定できる。原始赤血球の増殖時間は約20時間、初期赤血球の増殖時間は約16時間、中期の若い赤血球の時間は25~30時間であり、後期の若い赤血球はDNAを合成する能力がなく、非増殖性の細胞である。したがって、正常な赤血球前駆細胞は骨髄から生成され、増殖と分化後、新しい網状赤血球が骨髄から脱出するまでに約3~5日かかる。その後、網状赤血球は脾臓に1~2日間留まり、成熟を続けて膜の脂質組成を変化させ、血液循環に入る。
【0070】
「必要なレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)の能力」とは、修飾されないEV細胞が分化して生成するγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビンのレベルと比較して、EV細胞が修飾されて分化した後に生成するγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビンのレベルが増加し、例えば、少なくとも0.2倍、0.3倍、0.4倍、0.5倍、1.0倍、1.5倍、2.0倍、2.5倍、3.0倍、3.5倍、4.0倍、4.5倍、5倍、5.5倍、6.0倍またはそれ以上増加することを意味する。例えば、本出願のいくつかの実施形態において、γ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビンの必要なレベルは、修飾されないCD34陽性HSPCと比較して、修飾されたCD34陽性HSPCが、120%、130%、140%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、またはそれ以上のレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビンを生成する。
【0071】
上記の実施形態において、分化後に必要なレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成するための修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団の能力を評価することとは、修飾されてBCL11Aの機能を低下させたCD34陽性HSPCの分化後にγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成するレベルが、この修飾なしのCD34陽性HSPCの分化後に生成するγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルより、少なくとも約12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、120%増加しているかどうかを評価することをいう。
【0072】
上記方法の一部の実施形態において、前記必要なレベルの胎児ヘモグロビンは、6.5g/dL、7.0g/dL、7.5g/dL、8.0g/dL、8.5g/dL、9.0g/dL、9.5g/dL、10g/dL、10.5g/dL、11.0g/dL末梢血を超え、またはそれ以上のレベルである。
【0073】
上記方法の一部の実施形態において、前記必要なレベルのγ-グロブリンは、修飾されていないCD34陽性HSPCと比較して、修飾されたCD34陽性HSPCが約50%、60%、70%、80%、90%、100%、120%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%を超え、またはそれ以上のレベルのγ-グロブリンmRNAを生成する。
【0074】
上記のγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルは、CD34陽性HSPCから分化した非核赤血球が全分化細胞集団の総数の10%以上(例えば、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%)を占めた後に、例えば、γ-グロブリンmRNAまたはヘモグロビン(HbF)検出を介して検出することにより、修飾されてBCL11Aの機能を低下させるCD34陽性HSPCの分化後に生成したγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルが、この修飾なしのCD34陽性HSPCの分化後に生成したγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルより少なくとも約12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、120%増加しているかどうかを比較することができる。
【0075】
いくつかの実施形態において、前記修飾されてBCL11Aの機能を低下させたCD34陽性HSPCは、60495197番目から60495346番目までのヒト2番染色体の領域のBCL11A遺伝子を修飾する(例えば、CRISPR/Cas技術によって遺伝子修飾をし、配列番号3~配列番号25から選択されるいずれかの配列を含むsgRNAを前記CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞に導入してBCL11A遺伝子を編集することを含む)ことによってBCL11Aの機能を低下させる。
【0076】
上記方法の一部の実施形態において、評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾EV細胞の能力を評価し、前記ステップは、1)赤血球集団を得るように分化を可能にする条件下で、修飾されたEV細胞を培養すること、及び2)前記赤血球によって生成されるγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルを決定することを含む。
【0077】
上記方法の一部の実施形態において、評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾EV細胞の能力を評価することは、γ-グロビンのmRNAレベルを決定することを含む。上記方法の一部の実施形態において、評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾EV細胞の能力を評価することは、胎児ヘモグロビン(HbF)のタンパク質レベルを決定することを含む。上記方法の一部の実施形態において、前記個体は、評価ステップの前にCD34陽性HSPC細胞の動員または前処理を経ていない。
【0078】
いくつかの実施形態では、前記CD34陽性HSPC細胞の動員は、G-CSFおよび/またはMozobilTM(Genzyme社)または他の造血幹細胞動員剤を被験者に投与することを含む。
【0079】
上記方法のいくつかの実施形態では、前記評価ステップは、前記治療ステップの前に少なくとも1回、例えば、2、3、4、5回またはそれ以上繰り返される。
【0080】
単離されたTR細胞は、修飾単離されたEV細胞と同じまたは異なる方法を使用して修飾することができる。上記方法のいくつかの実施形態では、単離されたTR細胞を遺伝子修飾する。上記方法の一部の実施形態において、前記方法は、単離されたTR細胞を遺伝子修飾することを含む。上記の方法のいくつかの実施形態において、前記遺伝子修飾は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)のうちのいずれか一つの方法またはそれらの組み合わせにより、単離されたTR細胞を遺伝子修飾することを含む。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態において、単離されたEV細胞またはTR細胞のBCL11aエンハンサーは、遺伝子修飾(例えば、(ZFN、TALEN、CRISPR、RNA編集またはRNAi)から選択される)方法によって破壊される(例えば、BCL11aの発現または機能を強化する核酸配列に影響を与える)。前記BCL11aエンハンサーについては、例えば、Bauer et al.、Science [Science]、Vol.342、2013、第253~257頁を参照されたい。前記BCL11aエンハンサーの1つの例は、BCL11a遺伝子のエクソン2とエクソン3との間の核酸配列である(例えば、hg38に記録された位置+55:Chr2:60497676-60498941;+58:Chr2:60494251-60495546;+62:Chr2:60490409-60491734に位置するか、またはそれに対応する)。前記BCL11aエンハンサーの1つの例は、BCL11a遺伝子のエクソン2とエクソン3との間の核酸配列の+62領域である。前記BCL11aエンハンサーの1つの例は、BCL11a遺伝子のエクソン2とエクソン3との間の核酸配列の+58領域である。いくつかの実施形態において、BCL11aエンハンサーは、BCL11a遺伝子のエクソン2とエクソン3との間の核酸配列の+55領域である。
【0082】
上記方法のいくつかの実施形態において、60495197番目から60495346番目までのヒト2番染色体の領域のBCL11A遺伝子を修飾することによってBCL11Aの機能を低下させる。上記方法のいくつかの実施形態において、CD34陽性HSPC細胞をCRISPR/Cas技術によって修飾し、BCL11Aの機能を低下させる。いくつかの実施形態において、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域の遺伝子の転写および/または発現を阻害するタンパク質または核酸分子である。いくつかの実施形態では、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域の遺伝子の転写および/または発現を干渉、阻害、または破壊するタンパク質または核酸分子である。いくつかの実施形態において、前記BCL11A機能阻害剤は、ヒト2番染色体の60495197番目から60495346番目までの領域を干渉、阻害、または破壊するヌクレアーゼ(ZFNおよびTALENなど)、ペプチド核酸、アンチセンスRNA、siRNA、miRNAである。
【0083】
上記方法のいくつかの実施形態において、前記造血幹細胞の2番染色体の60495219番目から60495336番目までのBCL11Aゲノム領域を遺伝子編集技術によって破壊してBCL11A機能を低下させる。上記方法のいくつかの実施形態において、前記遺伝子編集技術は、ジンクフィンガーヌクレアーゼに基づく遺伝子編集技術、TALEN遺伝子編集技術またはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術、RNA編集技術、RNAi技術である。上記方法のいくつかの実施形態において、前記遺伝子編集技術は、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術である。上記方法のいくつかの実施形態において、前記BCL11Aゲノム標的ヌクレオチド配列は、配列番号3~配列番号25から選択されるいずれかの配列と相補的である。
【0084】
次の表に、配列番号3から配列番号25に示すsgRNAが標的とするヒト2番染色体上のゲノム配列位置と、各sgRNAによって引き起こされるCas9切断の切断部位を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
配列番号3:BCL11Aのエンハンサー‐1と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-1と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
cacaggctccaggaagggtt
配列番号4:BCL11Aのエンハンサー‐2と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-2と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
atcagaggccaaacccttcc
配列番号5:BCL11Aのエンハンサー‐3と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-3と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
ctaacagttgcttttatcac
配列番号6:BCL11Aのエンハンサー‐4と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-4と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
ttgcttttatcacaggctcc
配列番号7:BCL11Aのエンハンサー‐5と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-5と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
ttttatcacaggctccagga
配列番号8:BCL11Aのエンハンサー‐6と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-6と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
tttatcacaggctccaggaa
配列番号9:BCL11Aのエンハンサー‐7と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-7と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
tgggtggggtagaagaggac
配列番号10:BCL11Aのエンハンサー‐8と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-8と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
gggcgtgggtggggtagaag
配列番号11:BCL11Aのエンハンサー‐9と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-9と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
ttagggtgggggcgtgggtg
配列番号12:BCL11Aのエンハンサー‐10と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-10と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
attagggtgggggcgtgggt
配列番号13:BCL11Aのエンハンサー‐11と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-11と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
gattagggtgggggcgtggg
配列番号14:BCL11Aのエンハンサー‐12と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-12と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
tctgattagggtgggggcgt
配列番号15:BCL11Aのエンハンサー‐13と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-13と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
ctctgattagggtgggggcg
配列番号16:BCL11Aのエンハンサー‐14と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-14と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
cacgcccccaccctaatcag
配列番号17:BCL11Aのエンハンサー‐15と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-15と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
ttggcctctgattagggtgg
配列番号18:BCL11Aのエンハンサー‐16と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-16と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
tttggcctctgattagggtg
配列番号19:BCL11Aのエンハンサー‐17と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-17と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
gtttggcctctgattagggt
配列番号20:BCL11Aのエンハンサー‐18と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-18と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
ggtttggcctctgattaggg
配列番号21:BCL11Aのエンハンサー‐19と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-19と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
aagggtttggcctctgatta
配列番号22:BCL11Aのエンハンサー‐20と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-20と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
gaagggtttggcctctgatt
配列番号23:BCL11Aのエンハンサー‐21と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-21と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
actcttagacataacacacc
配列番号24:BCL11Aのエンハンサー‐22と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-22と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
cttcaaagttgtattgaccc
配列番号25:BCL11Aのエンハンサー‐23と呼ばれるsgRNA(単にenhancer-23と呼ばれることもある)sgRNAコード配列:
ctcttagacataacacacca
【0087】
上記の23個のsgRNA切断部位の解析により、これらのsgRNAによって引き起こされるCas9切断の切断部位は、BCL11A遺伝子の60495219番目から60495336番目のゲノム領域に集中していることがわかった。
【0088】
一般的に言えば、sgRNAのガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、CRISPR複合体の標的配列への配列特異的結合を指示するのに十分な標的配列との相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である。一部の実施形態では、適切なアラインメントアルゴリズムを使用して最適なアラインメントを行う場合、ガイド配列およびそれに対応する標的配列間の相補程度は約80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97.5%以上、99%以上またはそれ以上であってもよい。最適なアラインメントは、配列をアラインするための任意の適切なアルゴリズムを使用して決定でき、その非限定的な例には、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wimschアルゴリズム、Burrows-Wheeler Transformに基づいたアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、ClustalW、ClustaiX、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies,ELAND((Illumina,San Diego,CA)、SOAP(soap.genomics.org.cnで入手可能)、及びMaq(maq.sourceforge.netで入手可能)が含まれる。一部の実施形態では、ガイド配列の長さは、約10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、20以上、21以上、22以上、23以上、24以上、25以上、26以上、27以上、28以上、29以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、60以上、65以上、70以上、75以上、またはそれ以上のヌクレオチドであってもよい。一部の実施形態では、ガイド配列の長さは、約75未満、70未満、65未満、60未満、55未満、50未満、45未満、40未満、35未満、30未満、25未満、20未満、15未満、12未満、またはそれより少ないヌクレオチドであってもよい。CRISPR複合体と標的配列の配列特異的結合をガイドするガイド配列の能力は、任意の適切な測定方法により評価することができる。例えば、対応する標的配列を有する宿主細胞に、CRISPR複合体を形成するには十分なCRISPRシステムのコンポーネント(テストされるガイド配列を含む)を提供してもよく、例えば、CRISPR配列コンポーネントをコードするベクターを使用してトランスフェクションし、そして標的配列内の優先的な切断(例えば、本明細書に記載のSurveyorにより測定する)を評価することで行うことができる。同様に、標的ポリヌクレオチド配列の切断は、試験管内で、標的配列、CRISPR複合体(テストされるガイド配列と、ガイド配列と異なる対照ガイド配列とを含む)のコンポーネントを提供し、標的配列へのテストと対照ガイド配列の結合または切断率を比較して評価することができる。また、当業者に既知の他の測定方法を使用して上記測定と評価を行うことができる。
【0089】
いくつかの実施形態において、遺伝子編集過程において使用されるsgRNAは、好ましくは化学修飾されたものである。「化学修飾されたsgRNA」とは、sgRNAについて行った特定の化学修飾であり、例えば、その5’末端および3’末端の3つの塩基にある2’-O-メチル類縁体による修飾および/またはヌクレオチド間の3’チオによる修飾である。
【0090】
化学修飾されたsgRNAは、以下の2つの利点を有する。第一に、sgRNAは一本鎖RNAであり、半減期が非常に短いため、細胞に入ると急速に分解する(最長12時間)が、Cas9タンパク質とsgRNAとが結合して遺伝子編集の役割を発揮するには少なくとも48時間がかかる。そのため、化学修飾されたsgRNAは細胞に入った後、安定して発現し、Cas9タンパク質に結合した後、効率的にゲノムを遺伝子編集してIndelsを生成することができる。第二に、未修飾のsgRNAは細胞膜を透過する能力が低く、細胞または組織に効果的に入って対応する機能を発揮することができない。化学修飾されたsgRNAは細胞膜を透過する能力が一般的に強化されている。本発明において、本分野で常用の化学修飾方法を使用することができ、sgRNAの安定性(半減期を延長する)と細胞膜への侵入能力を向上させることができる限り、いずれも使用できる。実施例に使用されている具体的な化学修飾の他に、例えば、Deleavey GF1,Damha MJ. Designing chemically modified oligonucleotides for targeted gene silencing. Chem Biol.2012 Aug 24;19(8):937-54、およびHendel et al. Chemically modified guide RNAs enhance CRISPR-Cas genome editing in human primary cells. Nat Biotechnol. 2015 Sep;33(9):985-989の文献に報告された化学修飾方法など、その他の修飾方法を含む。
【0091】
一部の実施形態では、前記sgRNA、及び/またはCas9をコードするヌクレオチド(例えば、mRNA)をエレクトロポレーションによって造血幹細胞に導入する。例えば、250~360V、0.5~1ms;250~300V、0.5~1ms;250V、1ms;250V、2ms;300V、0.5ms;300V、1ms;360V、0.5ms;または360V、1msのエレクトロポレーション条件で造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとをエレクトロポレーションによって一緒に造血幹細胞に導入する。一部の実施形態では、前記sgRNAをエレクトロポレーションによってCasを発現する造血幹細胞に導入する。
【0092】
一部の実施形態では、前記Cas9をコードするヌクレオチドはmRNAであり、例えば、ARCAキャップを含むmRNAである。一部の実施形態では、前記Cas9をコードするヌクレオチドはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターにある。一部の実施形態では、前記Cas9をコードするヌクレオチドは、例えば、配列番号26の配列を含む。一部の実施形態では、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとは同一のベクターにある。
【0093】
上記方法の一部の実施形態において、配列番号3~配列番号25から選択されるいずれかの配列を含むsgRNAを前記CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞に導入してBCL11A遺伝子を編集することによってBCL11Aの機能を低下させる。上記方法のいくつかの実施形態において、前記sgRNAは、2’-O-メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものである。上記方法のいくつかの実施形態において、前記化学修飾は、前記sgRNAの5’末端の最初の1つ、2つ、及び/または3つの塩基及び/または3’末端の最後の1つの塩基の2’-O-メチル類縁体による修飾である。上記方法のいくつかの実施形態において、前記sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に前記CD34陽性造血幹細胞/前駆細胞に導入する。上記方法のいくつかの実施形態において、エレクトロポレーションによってsgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとを一緒に造血幹細胞に導入する。上記方法のいくつかの実施形態において、前記エレクトロポレーションの条件は、200~600V、0.5~2msである。
【0094】
上記方法の一部の実施形態において、治療ステップにおいてCD34陽性HSPCを動員することは、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)および/またはプレリキサフォル(plerixafor)によって前記個体を治療することを含む。
【0095】
上記方法の一部の実施形態において、前記治療ステップは、前記修飾されたTR細胞を投与する前に前記個体を前処理することをさらに含む。
【0096】
一部の実施形態において、前記前処理は、化学療法、モノクローナル抗体療法、または全身放射線療法を含む。一部の実施形態において、前記化学療法は、ブスルファン、シクロホスファミド、およびフルダラビンからなる群から選択される1つ以上の化学療法剤を前記個体に投与することを含む。
【0097】
上記の方法のいくつかの実施形態において、修飾されたEV細胞集団は、インビトロで培養されて、γ-グロビンまたは胎児ヘモグロビンを発現する赤血球前駆細胞または成熟赤血球にさらに分化する。
【0098】
いくつかの実施形態において、前記赤血球前駆細胞は、成熟赤血球の前にγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビンを発現することができる前駆細胞である。
【0099】
上記の方法のいくつかの実施形態において、造血幹細胞赤血球増殖および分化培地は、修飾されたEV細胞集団に対して造血幹細胞赤血球増殖および分化を実施するために使用され、前記造血幹細胞赤血球増殖および分化培地は、基礎培地、および成長因子の組成物を含み、前記成長因子の組成物は、幹細胞成長因子(SCF)、インターロイキン3(IL-3)およびエリスロポエチン(EPO)を含む。いくつかの実施形態において、赤血球分化脱核培地を使用して造血幹細胞の赤血球分化脱核を行うことをさらに含み、前記赤血球分化脱核培地は、基礎培地、成長因子、及びプロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬および/または阻害剤を含む。いくつかの実施形態において、前記赤血球分化脱核培地における成長因子は、エリスロポエチン(EPO)を含み、前記プロゲステロン受容体とグルココルチコイド受容体の拮抗薬および/または阻害剤は、下記化合物(I)~(IV)から選択されるいずれか1つまたは2つ以上である。
【0100】
【化1】
【0101】
一部の実施形態では、前記造血幹細胞赤血球増殖および分化培地は、基礎培地と成長因子添加剤とを含み、前記基礎培地は、無血清の基礎培地から選択することができ、例えば、STEMSPANTM SFEM II(STEM CELLS TECHNOLOGY Inc.)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)が挙げられ、必要に応じて、ITS(Thermofisher)、L-gulutamin(Thermofisher)、ビタミンC、および/またはウシ血清アルブミンを補充する。成長因子添加剤は、IL-3、SCF、およびEPOの1つまたは複数の組み合わせから選択される。
【0102】
上記の方法のいくつかの実施形態において、修飾されたEV細胞集団を5~10日間、例えば6~10日、7~10日増殖および分化して、赤芽球(erythroblast)、有核赤血球、未成熟赤血球および網赤血球などのような赤血球前駆細胞を得る。次に、赤血球前駆細胞は、約4~14日間、例えば、約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14日間の分化(または分化脱核)で処理して成熟した赤血球を得る。
【0103】
いくつかの実施形態において、修飾されたEV細胞集団を、必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する成熟赤血球に分化させるステップは、
a)ヒト末梢血(骨髄造血幹細胞動員の有無にかかわらず)または骨髄からCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞(単離されたCD34陽性HSPC)を得ること、
b)BCL11Aの機能を低下させるように上記のCD34陽性HSPCを遺伝子修飾すること、
c)追加の成長因子を無血清培地(Serum-free medium(SFME))に添加し、5~10日、例えば、5日、6日、7日、8日、9日、10日、増殖および分化した後、HSPCを赤血球前駆細胞に分化させること、
d)追加の成長因子を無血清培地(Serum-free medium(SFME))に添加し、約4~14日(例えば、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日またはそれ以上)分化した後、成熟した赤血球を得ることを含み得る。いくつかの実施形態において、前記造血幹細胞の赤血球分化脱核培地は、基礎培地、成長因子、および化学的小分子添加剤を含み、前記基礎培地は無血清基礎培地であり、例えば、STEMSPANTM SFEM II(STEM CELLS TECHNOLOGY Inc.)やIMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)であってもよく、必要に応じてさらにITS(Thermofisher)、L-gulutamin(Thermofisher)、ビタミンC及び/またはウシ血清アルブミンを追加してもよい。成長因子および化学的小分子添加剤は、EPO、ヒトトランスフェリン、及び/または化学的小分子ミフェプリストン(mifepristone)を含む。
【0104】
修飾されたCD34陽性HSPC(EV細胞集団)は分化してγ-グロビンmRNAまたはヘモグロビン(HbF)を生成し、生成されたγ-グロビンmRNAまたはヘモグロビン(HbF)は当技術分野の従来の方法によって検出することができる。例えば、修飾されたCD34陽性HSPC(EV細胞集団)から分化した非核赤血球が全分化細胞集団の総数の10%以上(例えば、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%)を占めた後に、当技術分野の従来の方法により、生成したγ-グロブリンmRNAまたはヘモグロビン(HbF)のレベルを検出することができ、修飾されてBCL11Aの機能を低下させるCD34陽性HSPCの分化後に生成したγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルが、この修飾なしのCD34陽性HSPCの分化後に生成したγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルより増加しているかどうかを比較することができる。少なくとも約12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、120%増加している場合、本発明の方法を使用して治療できることを表す。一般的に使用される任意の基礎培地は、上記の造血幹細胞赤血球増殖分化培地及び造血幹細胞赤血球分化脱核培地で使用できる。例えば、STEMSPANTM SFEM II((STEM CELLS TECHNOLOGIESから購入)や、Thermo Fisherから購入したIMDM、DF12、Knockout DMEM、RPMI 1640、Alpha MEM、DMEMなど、一般的に使用される基礎培地が挙げられる。また、上記の基礎培地には、必要に応じて、ITS(主にインスリン、ヒトトランスフェリン、及びセレン元素を含む)、L-グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンなど他の成分をさらに添加することができる。例えば、IMDM培地に、ITS、2mM L-グルタミン、10~50μg/mlのビタミンC、及び0.5~5質量%のBSA(ウシ血清アルブミン)を添加することができる。また、上記DF12には、同じ濃度のITS、L-グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができる。Knockout DMEMには、同じ濃度のITS、L-グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができ、RPMI 1640には、同じ濃度のITS、L-グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができ、Alpha MEMには、同じ濃度のITS、L-グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができ、DMEMにも同じ濃度のITS、L-グルタミン、ビタミンC、及びウシ血清アルブミンを添加することができる。ここで、各基礎培地に追加されるITSの濃度として、インスリン濃度が0.1mg/ml、ヒトトランスフェリンが0.0055mg/ml、セレン元素が6.7×10-6mg/mlであってもよい。また、追加されるITSの各成分の濃度も、実際のニーズに合わせて調整できる。ITSはThermofisherから購入でき、必要に応じて適切な最終使用濃度に調整できる。
【0105】
上記の方法のいくつかの実施形態において、修飾されたTR細胞集団は、個体に投与される前に、エクスビボまたはインビトロで増殖されない。特定の実施形態において、前記修飾されたTR細胞は、治療試薬を除去するために洗浄され得、そしてそれらをエクスビボで増殖させることなく患者に投与され得る。いくつかの実施形態において、修飾されたTR細胞は、有意なエクスビボ細胞分裂が起こる前、または有意なエクスビボ細胞分裂に必要な時間の前に、患者に投与される。いくつかの実施形態において、修飾されたTR細胞は、修飾された後に個体に投与される前に、1日以上培養される。いくつかの実施形態において、修飾されたTR細胞は、修飾されてから2、4、6、12、24、または48時間以内に患者に投与される。
【0106】
いくつかの実施形態において、修飾されたTR細胞を個体に投与する前に、修飾されたTR細胞は、少なくとも24時間、凍結条件下で保存される。いくつかの実施形態において、修飾されたTR細胞は、凍結条件下で保存する前に、1日以上培養される。修飾されたTR細胞は、無血清基礎培地に基づいて細胞生存率を維持するサイトカインを補充した培地で1日以上(例えば、1日から3日)培養することができる。前記サイトカインとして、SCF(幹細胞因子、Stem Cell Factor)、TPO(トロンボポエチン、Thrombopoietin)、FLT-3L(FMS様チロシンキナーゼ3リガンド、FMS-like Tyrosine Kinase 3 Ligand)、IL-6(インターロイキン-6、Interleukin-6)が挙げられる。例えば、幹細胞増殖培地(Stem Cell Growth Medium)(CellGenix)で1日以上(例えば、1日から3日)培養することができる。
【0107】
いくつかの実施形態において、単離されたTR細胞を、修飾前に1日以上培養し、次いで、単離されたTR細胞を修飾する。
【0108】
上記方法の一部の実施形態において、前記異常ヘモグロビン症は、鎌状赤血球症、鎌状赤血球形質、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンC形質、ヘモグロビンS/C症、ヘモグロビンD症、ヘモグロビンE症、サラセミア、酸素親和性が増加したヘモグロビン関連障害、酸素親和性が低下したヘモグロビン関連障害、不安定なヘモグロビン症、およびメトヘモグロビン血症からなる群から選択される。一部の実施形態において、前記異常ヘモグロビン症は、β-サラセミアと鎌状赤血球貧血からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、前記異常ヘモグロビン症は、β0またはβ+サラセミアである。
【0109】
上記方法の一部の実施形態において、前記個体はヒトである。上記の方法のいくつかの実施形態では、前記治療ステップは、前記評価ステップの直後に実行される。
【0110】
本明細書で使用される場合、「治療」という用語は、疾患症状の改善または除去を達成することを含むがこれらに限定されない、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを指す。効果は予防的であり得、疾患またはその症状の完全または部分的な予防として表され、および/または効果は治療的であり得、症状の改善または除去を達成することによって、または疾患および/または病気副作用に対する部分的または完全な治癒を提供することとして表される。本明細書で使用される場合、「治療」には、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の治療が含まれ、(a)個体の発症を予防すること;(b)疾患を阻害する、すなわちその発症を阻止すること;(c)疾患、例えば、疾患の寛解、例えば、疾患の症状の完全または部分的な除去、および(d)個人を病気前の状態に戻す、例えば、血液系を再構築することが含まれる。本願において、「治療」は、必ずしも疾患または病状もしくはその関連症状の完全な根絶または治癒を意味するものではなく、疾患または病状の1つまたは複数の測定可能な症状の最小限の改善または緩和を包含する。上記の特定の方法において、治療は、造血再構成の改善または個体の生存を含む。
【0111】
例示的な実施形態:
1、a)修飾されたCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞(「CD34陽性HSPC」)の第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、BCL11A機能を低下させるように修飾されている(「修飾されたEV細胞」)、評価ステップ;及び、
b)前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップ
を含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療するための方法。
【0112】
2、個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップを含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療する方法であって、
評価ステップによる機能評価に基づいて前記個体を治療のために選択し、前記評価ステップは、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下した(「修飾されたEV細胞」)、前記方法。
【0113】
3、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)による治療のために異常ヘモグロビン症に罹患している個体を選択する方法であって、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成した場合、前記個体を治療のために選択する、前記方法。
【0114】
4、異常ヘモグロビン症に罹患している個体が、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を使用する治療に適するかどうかを決定する方法であって、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成した場合、前記個体が治療に適する、前記方法。
【0115】
5、異常ヘモグロビン症に罹患している個体が、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を使用する治療に適しないことを決定する方法を提供し、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成しない場合、前記個体が、前記修飾されたTR細胞による治療に適しない、前記方法。
【0116】
6、前記評価ステップは、
a)前記個体の骨髄または末梢血サンプルからCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたEV細胞」)を得ること、
b)単離されたEV細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第1の集団(「修飾されたEV細胞」)を得ること、及び
c)修飾されたEV細胞の分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む、実施形態1~5のいずれか1項に記載の方法。
【0117】
7、前記治療ステップは、
a)前記個体の骨髄中のCD34陽性HSPCが末梢血に入るように動員して末梢血中のCD34陽性HSPCの量を増加させること、
b)前記個体の末梢血からCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたTR細胞」)を得ること、
c)単離されたTR細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を得ること、及び
d)有効量の修飾されたTR細胞を前記個体に投与することを含む、実施形態1~6のいずれか1項に記載の方法。
【0118】
8、1)
a)前記個体の骨髄または末梢血サンプルからCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたEV細胞」)を得ること、
b)単離されたEV細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第1の集団(「修飾されたEV細胞」)を得ること、及び
c)修飾されたEV細胞の分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップと、
2)
a)前記個体のCD34陽性HSPCが末梢血に入るように動員すること、
b)前記個体の末梢血からCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたTR細胞」)を得ること、
c)単離されたTR細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を得ること、及び
d)有効量の修飾されたTR細胞を前記個体に投与することを含む治療ステップと
を含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療する方法。
【0119】
9、前記修飾されたEV細胞は、遺伝子修飾することによって修飾されたものである、実施形態1~8のいずれか1項に記載の方法。
【0120】
10、前記単離されたEV細胞を修飾することは、単離されたEV細胞を遺伝子修飾することを含む、実施形態6~8のいずれか1項に記載の方法。
【0121】
11、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、RNA編集、RNA干渉(RNAi)技術からなる群から選択される技術により、単離されたEV細胞を遺伝子修飾する、実施形態9または10に記載の方法。
【0122】
12、前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾されたEV細胞の能力を評価し、前記ステップは、1)赤血球集団を得るように分化を可能にする条件下で、修飾されたEV細胞を培養すること、及び2)前記赤血球によって生成されるγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルを決定することを含む、実施形態1~11のいずれか1項に記載の方法。
【0123】
13、前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾されたEV細胞の能力を評価することは、γ-グロビンのmRNAレベルを決定することを含む、実施形態1~12のいずれか1項に記載の方法。
【0124】
14、前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾されたEV細胞の能力を評価することは、胎児ヘモグロビン(HbF)のタンパク質レベルを決定することを含む、実施形態1~12のいずれか1項に記載の方法。
【0125】
15、前記個体は、評価ステップの前に動員または前処理を経ていない、実施形態1~14のいずれか1項に記載の方法。
【0126】
16、前記評価ステップは、前記治療ステップの前に少なくとも1回繰り返される、実施形態1~15のいずれか1項に記載の方法。
【0127】
17、前記修飾されたTR細胞は、遺伝子修飾することによって修飾されたものである、実施形態1~16のいずれか1項に記載の方法。
【0128】
18、前記単離されたTR細胞を修飾することは、単離されたTR細胞を遺伝子修飾することを含む、実施形態7~16のいずれか1項に記載の方法。
【0129】
19、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、RNA編集、RNA干渉(RNAi)技術からなる群から選択される技術により、単離されたTR細胞を遺伝子修飾する、実施形態17または18に記載の方法。
【0130】
20、前記治療ステップにおけるCD34陽性HSPCの動員は、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)および/またはプレリキサフォル(plerixafor)を使用して前記個体を治療することを含む、実施形態7~19のいずれか1項に記載の方法。
【0131】
21、前記治療ステップは、前記修飾されたTR細胞を投与する前に前記個体を前処理することをさらに含む、実施形態1~20のいずれか1項に記載の方法。
【0132】
22、前記前処理は、化学療法、モノクローナル抗体療法、または全身放射線療法を含む、実施形態21に記載の方法。
【0133】
23、前記前処理は、化学療法を含む、実施形態22に記載の方法。
【0134】
24、前記化学療法は、ブスルファン、シクロホスファミド、およびフルダラビンからなる群から選択される1つ以上の化学療法剤を前記個体に投与することを含む、実施形態23に記載の方法。
【0135】
25、前記単離されたTR細胞は、修飾する前に1日以上培養され、実施形態7~24のいずれか1項に記載の方法。
【0136】
26、個体に投与する前に、前記修飾されたTR細胞を1日以上培養する、実施形態7~25のいずれか1項に記載の方法。
【0137】
27、修飾されたTR細胞を個体に投与する前に、前記修飾されたTR細胞を凍結条件下で少なくとも24時間保存する、実施形態1~26のいずれか1項に記載の方法。
【0138】
28、凍結条件下で保存する前に、修飾されたTR細胞を1日以上培養する、実施形態27に記載の方法。
【0139】
29、前記異常ヘモグロビン症は、鎌状赤血球症、鎌状赤血球形質、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンC形質、ヘモグロビンS/C症、ヘモグロビンD症、ヘモグロビンE症、サラセミア、酸素親和性が増加したヘモグロビン関連障害、酸素親和性が低下したヘモグロビン関連障害、不安定なヘモグロビン症、およびメトヘモグロビン血症からなる群から選択される、実施形態1~28のいずれか1項に記載の方法。
【0140】
30、前記異常ヘモグロビン症は、β-サラセミアと鎌状赤血球貧血からなる群から選択される、実施形態29に記載の方法。
【0141】
31、前記異常ヘモグロビン症は、β0またはβ+サラセミアである、実施形態30に記載の方法。
【0142】
32、前記個体がヒトである、実施形態1~31のいずれか1項に記載の方法。
【0143】
33、前記治療ステップは、前記評価ステップの直後に実行される。実施形態1~32のいずれか1項に記載の方法。
【0144】
上記のすべての実施形態のいくつかの特定の実施形態において、分化後に必要なレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成するための修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団の能力を評価することとは、修飾されてBCL11Aの機能を低下させたCD34陽性HSPCの分化後にγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成するレベルが、この修飾なしのCD34陽性HSPCの分化後に生成するγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルより、少なくとも約12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、120%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%増加しているかどうかを評価することをいう。
【0145】
本願はさらに下記の実施形態に係る。
1、(a)修飾されたCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞(「CD34陽性HSPC」)の第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、BCL11A機能を低下させるように修飾されている(「修飾されたEV細胞」)、評価ステップ;及び、
(b)前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップ
を含む、個体の異常ヘモグロビン症を治療するための方法に使用される薬剤の製造における修飾されたTR細胞の使用。
【0146】
2、個体の異常ヘモグロビン症を治療するための方法に使用される薬剤の製造における修飾されたTR細胞の使用であって、前記方法は、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を前記個体に投与することを含む治療ステップを含み、
評価ステップによる機能評価に基づいて前記個体を治療のために選択し、前記評価ステップは、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下した(「修飾されたEV細胞」)、前記使用。
【0147】
3、異常ヘモグロビン症に罹患している個体に、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)による治療に適するかどうかを決定する方法に使用される製品の製造における修飾されたEV細胞の使用であって、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成した場合、前記個体が治療に適し、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成しない場合、前記個体が、前記修飾されたTR細胞による治療には適しない、前記使用。
【0148】
4、前記評価ステップは、
a)前記個体の骨髄または末梢血サンプルからCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたEV細胞」)を得ること、
b)単離されたEV細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第1の集団(「修飾されたEV細胞」)を得ること、及び
c)修飾されたEV細胞の分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む、実施形態1~3のいずれか1項に記載の使用。
【0149】
5、前記治療ステップは、
a)前記個体の骨髄中のCD34陽性HSPCが末梢血に入るように動員して末梢血中のCD34陽性HSPCの量を増加させること、
b)前記個体の末梢血からCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたTR細胞」)を得ること、
c)単離されたTR細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を得ること、及び
d)有効量の修飾されたTR細胞を前記個体に投与することを含む、実施形態1~4のいずれか1項に記載の使用。
【0150】
6、1)前記評価ステップには、
a)前記個体の骨髄または末梢血サンプルからCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたEV細胞」)を得ること、
b)単離されたEV細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第1の集団(「修飾されたEV細胞」)を得ること、及び
c)修飾されたEV細胞の分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む、
2)前記治療ステップには、
a)前記個体のCD34陽性HSPCが末梢血に入るように動員すること、
b)前記個体の末梢血からCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたTR細胞」)を得ること、
c)単離されたTR細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を得ること、及び
d)有効量の修飾されたTR細胞を前記個体に投与することを含む、実施形態1~5のいずれか1項に記載の使用。
【0151】
7、前記修飾されたEV細胞は、遺伝子修飾することによって修飾されたものである、実施形態1~6のいずれか1項に記載の使用。
【0152】
8、前記単離されたEV細胞を修飾することは、単離されたEV細胞を遺伝子修飾することを含む、実施形態4~6のいずれか1項に記載の使用。
【0153】
9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、RNA編集、RNA干渉(RNAi)技術からなる群から選択される技術により、単離されたEV細胞を遺伝子修飾する、実施形態7または8に記載の使用。
【0154】
10、前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾EV細胞の能力を評価し、前記ステップは、1)赤血球集団を得るように分化を可能にする条件下で、修飾されたEV細胞を培養すること、及び2)前記赤血球によって生成されるγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルを決定することを含む、実施形態1~9のいずれか1項に記載の使用。
【0155】
11、前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾EV細胞の能力を評価することは、γ-グロビンのmRNAレベルを決定することを含む、実施形態1~10のいずれか1項に記載の使用。
【0156】
12、前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾EV細胞の能力を評価することは、胎児ヘモグロビン(HbF)のタンパク質レベルを決定することを含む、実施形態1~10のいずれか1項に記載の使用。
【0157】
13、前記個体は、評価ステップの前に動員または前処理を経ていない、実施形態1~12のいずれか1項に記載の用途。
【0158】
14、前記評価ステップは、前記治療ステップの前に少なくとも1回繰り返される、実施形態1~13のいずれか1項に記載の使用。
【0159】
15、前記修飾されたTR細胞は、遺伝子修飾することによって修飾されたものである、実施形態1~14のいずれか1項に記載の使用。
【0160】
16、前記単離されたTR細胞を修飾することは、単離されたTR細胞を遺伝子修飾することを含む、実施形態5~14のいずれか1項に記載の使用。
【0161】
17、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、RNA編集、RNA干渉(RNAi)技術からなる群から選択される技術により、単離されたTR細胞を遺伝子修飾する、実施形態15または16に記載の使用。
【0162】
18、前記治療ステップにおけるCD34陽性HSPCの動員は、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)および/またはプレリキサフォル(plerixafor)を使用して前記個体を治療することを含む、実施形態5~17のいずれか1項に記載の使用。
【0163】
19、前記治療ステップは、前記修飾されたTR細胞を投与する前に前記個体を前処理することをさらに含む、実施形態1~18のいずれか1項に記載の使用。
【0164】
20、前記前処理は、化学療法、モノクローナル抗体療法、または全身放射線療法を含む、実施形態19に記載の使用。
【0165】
21、前記前処理は、化学療法を含む、実施形態20に記載の使用。
【0166】
22、前記化学療法は、ブスルファン、シクロホスファミド、およびフルダラビンからなる群から選択される1つ以上の化学療法剤を前記個体に投与することを含む、実施形態21に記載の使用。
【0167】
23、前記単離されたTR細胞は、修飾する前に1日以上培養され、実施形態5~22のいずれか1項に記載の使用。
【0168】
24、個体に投与する前に、前記修飾されたTR細胞を1日以上培養する、実施形態5~23のいずれか1項に記載の使用。
【0169】
25、修飾されたTR細胞を個体に投与する前に、前記修飾されたTR細胞を凍結条件下で少なくとも24時間保存する、実施形態1~24のいずれか1項に記載の使用。
【0170】
26、凍結条件下で保存する前に、修飾されたTR細胞を1日以上培養する、実施形態25に記載の使用。
【0171】
27、前記異常ヘモグロビン症は、鎌状赤血球症、鎌状赤血球形質、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンC形質、ヘモグロビンS/C症、ヘモグロビンD症、ヘモグロビンE症、サラセミア、酸素親和性が増加したヘモグロビン関連障害、酸素親和性が低下したヘモグロビン関連障害、不安定なヘモグロビン症、およびメトヘモグロビン血症からなる群から選択される、実施形態1~26のいずれか1項に記載の使用。
【0172】
28、前記異常ヘモグロビン症は、β-サラセミアと鎌状赤血球貧血からなる群から選択される、実施形態27に記載の使用。
【0173】
29、前記異常ヘモグロビン症は、β0またはβ+サラセミアである、実施形態28に記載の使用。
【0174】
30、前記個体がヒトである、実施形態1~29のいずれか1項に記載の使用。
【0175】
31、前記治療ステップは、前記評価ステップの直後に実行される。実施形態1~30のいずれか1項に記載の使用。
【0176】
上記のすべての実施形態のいくつかの特定の実施形態において、分化後に必要なレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成するための修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団の能力を評価することとは、修飾されてBCL11Aの機能を低下させたCD34陽性HSPCの分化後にγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成するレベルが、この修飾なしのCD34陽性HSPCの分化後に生成するγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルより、少なくとも約12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、120%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%増加しているかどうかを評価することをいう。
【実施例
【0177】
実施例1:造血幹細胞のBCL11Aエンハンサーの遺伝子編集
本実施例は、CRISPR/Cas9システムを使用してサラセミア(以下、サラセミアと呼ぶ)患者および健康なドナーの動員末梢血に由来するCD34陽性造血幹細胞BCL11A赤血球エンハンサー部位を遺伝子編集することに係る。
「CRISPR RGEN TOOLS」ソフトウェアを使用して、BCL11A(+58)部位をターゲットとするsgRNAを設計し、2つの化学修飾されたsgRNAを合成した。配列情報は次のとおりである。sgRNA-1:ctaacagttgcttttatcac(配列番号5)、sgRNA-2:atcagaggccaaacccttcc 配列番号4。Cas9 mRNAコード配列の情報は次の通りである。
【0178】
gacaagaagtacagcatcggcctggacatcggcaccaactctgtgggctgggccgtgatcaccgacgagtacaaggtgcccagcaagaaattcaaggtgctgggcaacaccgaccggcacagcatcaagaagaacctgatcggagccctgctgttcgacagcggcgaaacagccgaggccacccggctgaagagaaccgccagaagaagatacaccagacggaagaaccggatctgctatctgcaagagatcttcagcaacgagatggccaaggtggacgacagcttcttccacagactggaagagtccttcctggtggaagaggataagaagcacgagcggcaccccatcttcggcaacatcgtggacgaggtggcctaccacgagaagtaccccaccatctaccacctgagaaagaaactggtggacagcaccgacaaggccgacctgcggctgatctatctggccctggcccacatgatcaagttccggggccacttcctgatcgagggcgacctgaaccccgacaacagcgacgtggacaagctgttcatccagctggtgcagacctacaaccagctgttcgaggaaaaccccatcaacgccagcggcgtggacgccaaggccatcctgtctgccagactgagcaagagcagacggctggaaaatctgatcgcccagctgcccggcgagaagaagaatggcctgttcggcaacctgattgccctgagcctgggcctgacccccaacttcaagagcaacttcgacctggccgaggatgccaaactgcagctgagcaaggacacctacgacgacgacctggacaacctgctggcccagatcggcgaccagtacgccgacctgtttctggccgccaagaacctgtccgacgccatcctgctgagcgacatcctgagagtgaacaccgagatcaccaaggcccccctgagcgcctctatgatcaagagatacgacgagcaccaccaggacctgaccctgctgaaagctctcgtgcggcagcagctgcctgagaagtacaaagagattttcttcgaccagagcaagaacggctacgccggctacattgacggcggagccagccaggaagagttctacaagttcatcaagcccatcctggaaaagatggacggcaccgaggaactgctcgtgaagctgaacagagaggacctgctgcggaagcagcggaccttcgacaacggcagcatcccccaccagatccacctgggagagctgcacgccattctgcggcggcaggaagatttttacccattcctgaaggacaaccgggaaaagatcgagaagatcctgaccttccgcatcccctactacgtgggccctctggccaggggaaacagcagattcgcctggatgaccagaaagagcgaggaaaccatcaccccctggaacttcgaggaagtggtggacaagggcgcttccgcccagagcttcatcgagcggatgaccaacttcgataagaacctgcccaacgagaaggtgctgcccaagcacagcctgctgtacgagtacttcaccgtgtataacgagctgaccaaagtgaaatacgtgaccgagggaatgagaaagcccgccttcctgagcggcgagcagaaaaaggccatcgtggacctgctgttcaagaccaaccggaaagtgaccgtgaagcagctgaaagaggactacttcaagaaaatcgagtgcttcgactccgtggaaatctccggcgtggaagatcggttcaacgcctccctgggcacataccacgatctgctgaaaattatcaaggacaaggacttcctggacaatgaggaaaacgaggacattctggaagatatcgtgctgaccctgacactgtttgaggacagagagatgatcgaggaacggctgaaaacctatgcccacctgttcgacgacaaagtgatgaagcagctgaagcggcggagatacaccggctggggcaggctgagccggaagctgatcaacggcatccgggacaagcagtccggcaagacaatcctggatttcctgaagtccgacggcttcgccaacagaaacttcatgcagctgatccacgacgacagcctgacctttaaagaggacatccagaaagcccaggtgtccggccagggcgatagcctgcacgagcacattgccaatctggccggcagccccgccattaagaagggcatcctgcagacagtgaaggtggtggacgagctcgtgaaagtgatgggccggcacaagcccgagaacatcgtgatcgaaatggccagagagaaccagaccacccagaagggacagaagaacagccgcgagagaatgaagcggatcgaagagggcatcaaagagctgggcagccagatcctgaaagaacaccccgtggaaaacacccagctgcagaacgagaagctgtacctgtactacctgcagaatgggcgggatatgtacgtggaccaggaactggacatcaaccggctgtccgactacgatgtggaccatatcgtgcctcagagctttctgaaggacgactccatcgacaacaaggtgctgaccagaagcgacaagaaccggggcaagagcgacaacgtgccctccgaagaggtcgtgaagaagatgaagaactactggcggcagctgctgaacgccaagctgattacccagagaaagttcgacaatctgaccaaggccgagagaggcggcctgagcgaactggataaggccggcttcatcaagagacagctggtggaaacccggcagatcacaaagcacgtggcacagatcctggactcccggatgaacactaagtacgacgagaatgacaagctgatccgggaagtgaaagtgatcaccctgaagtccaagctggtgtccgatttccggaaggatttccagttttacaaagtgcgcgagatcaacaactaccaccacgcccacgacgcctacctgaacgccgtcgtgggaaccgccctgatcaaaaagtaccctaagctggaaagcgagttcgtgtacggcgactacaaggtgtacgacgtgcggaagatgatcgccaagagcgagcaggaaatcggcaaggctaccgccaagtacttcttctacagcaacatcatgaactttttcaagaccgagattaccctggccaacggcgagatccggaagcggcctctgatcgagacaaacggcgaaaccggggagatcgtgtgggataagggccgggattttgccaccgtgcggaaagtgctgagcatgccccaagtgaatatcgtgaaaaagaccgaggtgcagacaggcggcttcagcaaagagtctatcctgcccaagaggaacagcgataagctgatcgccagaaagaaggactgggaccctaagaagtacggcggcttcgacagccccaccgtggcctattctgtgctggtggtggccaaagtggaaaagggcaagtccaagaaactgaagagtgtgaaagagctgctggggatcaccatcatggaaagaagcagcttcgagaagaatcccatcgactttctggaagccaagggctacaaagaagtgaaaaaggacctgatcatcaagctgcctaagtactccctgttcgagctggaaaacggccggaagagaatgctggcctctgccggcgaactgcagaagggaaacgaactggccctgccctccaaatatgtgaacttcctgtacctggccagccactatgagaagctgaagggctcccccgaggataatgagcagaaacagctgtttgtggaacagcacaagcactacctggacgagatcatcgagcagatcagcgagttctccaagagagtgatcctggccgacgctaatctggacaaagtgctgtccgcctacaacaagcaccgggataagcccatcagagagcaggccgagaatatcatccacctgtttaccctgaccaatctgggagcccctgccgccttcaagtactttgacaccaccatcgaccggaagaggtacaccagcaccaaagaggtgctggacgccaccctgatccaccagagcatcaccggcctgtacgagacacggatcgacctgtctcagctgggaggcgac。(SEQ ID NO:1)
【0179】
sgRNAに対する化学修飾は、sgRNAの5’末端の最初の3つの塩基及び3’末端の最後の3つの塩基の2’-O-メチル類縁体による修飾およびヌクレオチド間の3’チオ修飾である。下記の化学式に示すように、左側は化学修飾されたsgRNAであり、右側は修飾されていないsgRNAである。Cas9 mRNAとsgRNAは、米国Trilink Biotechnologies社から購入した。
【0180】
【化2】
【0181】
サラセミア患者5名と健常ドナー2名の動員末梢血からCD34陽性造血幹細胞を分離した(動員末梢血サンプルは、南方春冨(児童)血液病研究院より提供される)。BTX ECM830エレクトロポレーション装置では「300V 1ms」エレクトロポレーション条件を選択し、合成したCas9 mRNA、及び化学修飾合成したsgRNA-1とsgRNA-2をそれぞれ5人の患者と2人の健康なCD34陽性造血幹細胞にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの4日後、CD34陽性造血幹細胞のゲノムを抽出し、sgRNA切断部位の左側に453bp、右側に450bp、全長903bpの断片を増幅用に選択し、Sangerシーケンシングを行った。
フォワードプライマー:cacctcagcagaaacaaagttatc(配列番号26)
リバースプライマー:gggaagctccaaactctcaa(配列番号27)
「Synthego ICE Analysis」オンラインソフトウェアを使用してシーケンシング結果を解析し、Indels生成効率の統計解析を生成した。「Synthego ICE Analysis」オンラインソフトウェアは、Indels効率をオンラインで解析するソフトウェアであり、Sangerシーケンシングの結果を基に、Indelsにより引き起こされたダブルピーク変異の効率を解析した。次のウエブサイトを参照されたい。
https://www.synthego.com/products/bioinformatics/crispr-analysis
【0182】
図1に示すように、その結果は、本実施例で合成された2つのsgRNAが、異なるサラセミア患者と健康なドナーの動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞を遺伝子編集できることを示している。その中で、sgRNA-1の遺伝子編集効率は30%から70%の間であり、Indels効率はドナーによって大きく異なる。それに対して、sgRNA-2は、細胞をより効率的かつ安定的に編集してIndelsを生成し、BCL11A赤血球エンハンサーを破壊し、5人の患者ドナーと2人の健康なドナーに対して60~80%の遺伝子編集効率を達成できる。
【0183】
実施例2:γグロビンmRNAおよび赤血球分化関連タンパク質の発現
この実験は、動員後のサラセミア患者と健康なドナーの末梢血に由来する造血幹細胞が遺伝子編集されて分化後のγグロビン(HBG遺伝子)mRNAの発現を検証した。
【0184】
2.1 赤血球の分化
300V 1msのエレクトロポレーション条件を選択し、Cas9 mRNAとsgRNA-1、およびCas9 mRNAとsgRNA-2をエレクトロポレーションして5人のサラセミア患者と2人の健康なドナーの動員末梢血由来の造血幹細胞に導入し、対照群細胞にはエレクトロポレーションステップはなかった。そして、次の「二段階法」分化スキームを使用して赤血球分化実験を行った。
「二段階法」分化の第1のステップは、造血幹細胞の赤血球増殖および分化培地を使用して、CD34+造血幹前駆細胞を誘導して赤血球前駆細胞への分化を誘導し、次に造血幹細胞の赤血球分化脱核培地を使用して赤血球前駆細胞から成熟した赤血球への分化を誘導する。
造血幹細胞赤血球増殖および分化培地における基礎培地はStemSpanTM SFEM IIであり、成長因子は、50~200ng/ml SCF、10~100ng/ml IL-3、1~10U EPO/mlであり、培養条件は、CD34+造血幹前駆細胞を1.0×105細胞/mlの細胞密度で、造血幹細胞の赤血球増殖および分化培地を使用して培養し、7日間分化した後、CD34+造血幹前駆細胞が赤血球前駆細胞に分化した。
造血幹細胞赤血球分化脱核培地の基礎培地はSTEMSPANTM SFEM IIであり、成長因子は、1~10U EPO、100~1000μg/mlヒトトランスフェリンであり、化学的小分子は0.5~10μmのミフェプリストン(Mifepristone)であり、前のステップで培養した赤血球前駆細胞を1.0×106細胞/mlの細胞密度で造血幹細胞赤血球の分化脱核培地で11日間分化させた後、赤血球前駆細胞が分化成熟して成熟赤血球になった。
図2に示すように、赤血球によって発現される細胞表面膜タンパク質CD71およびCD235aの発現をテストし、CD71とCD235a二重陽性の比率を使用して、CD34+造血幹前駆細胞の赤血球への分化の効率を示した。実験群には、sgRNA-1とsgRNA-2及び対照群はいずれも効率的に赤血球に分化でき、CD71とCD235aの発現率はともに約80%以上、分化効率が高く、これは、sgRNA-1とsgRNA-2の編集効果が比較的良いことを示している。
【0185】
2.2造血幹細胞から分化した赤血球におけるγグロビン(HBG)遺伝子のmRNA発現の検出
図3に示すように、細胞のmRNAは、実施例2.1で造血幹細胞から分化した成熟赤血球から抽出され、cDNAに逆転写され、HBG遺伝子のmRNA発現を蛍光定量的PCRによって検出した。
実験結果は次のことを示している。
1)サラセミア患者と健康なドナーからの動員サンプルに由来するCD34陽性造血幹細胞では、BCL11Aの赤血球エンハンサー部位を遺伝子編集することで、γグロビン(HBG)と胎児ヘモグロビンHbFに対するBCL11Aの阻害を解除し、sgRNA-1とsgRNA-2の2つの実験群の細胞では、γグロビン(HBG)のmRNA発現レベルがいずれも増加している。
2)具体的には、
a.患者1の場合、sgRNA-1は約4.2倍に増加し、sgRNA-2は約3.8倍に増加した。
b.患者2の場合、sgRNA-1は約1.8倍に増加し、sgRNA-2は約2倍に増加した。
c.患者3の場合、sgRNA-1は約2.1倍に増加し、sgRNA-2は約3.1倍に増加した。
d.患者4の場合、sgRNA-1は約4倍に増加し、sgRNA-2は約5.8倍に増加した。
e.患者5の場合、sgRNA-1は約1.6倍に増加し、sgRNA-2は約2.2倍に増加した。
f.健康なドナー1の場合、sgRNA-1は約3.0倍に増加し、sgRNA-2は約6.1倍に増加した。
g.健康なドナー2の場合、sgRNA-1は約1.7倍に増加し、sgRNA-2は約1.7倍に増加した。
【0186】
上記のデータから分かるように、異なるドナー(患者と健康な人)で、sgRNA-1またはsgRNA-2であるかどうかにかかわらず、BCL11A赤血球エンハンサーを編集し、γグロビン(HBG)及び胎児ヘモグロビンHbFに対するBCL11Aの阻害を解除したが、ドナーによってはγグロブリン(HBG)の増加の程度も異なる。
また、sgRNA-1とsgRNA-2は、γグロビン(HBG)の増加程度では差があるが、γグロビン(HBG)の増加程度が低いドナーと比較して、γグロビン(HBG)の増加程度がより高いドナーには、sgRNA-1とsgRNA-2は同じ傾向にあり、一貫性と安定性が高い。たとえば、患者ドナー1の場合、sgRNA-1とsgRNA-2は両方とも約4倍に増加したが、患者ドナー2では、sgRNA-1とsgRNA-2はどちらも約2倍しか増加しなかった。健康なドナー1の場合、sgRNA-1とsgRNA-2は両方とも3.0~6.0倍増加したが、健康なドナー2ではsgRNA-1とsgRNA-2はいずれも2倍未満増加した。
【0187】
実施例3:遺伝子編集効率検出のためのマルチバッチ検証試験
3.1健康なドナーの動員末梢血由来
本実験は、CRISPR/Cas9システムを使用して2人の健康なドナーの動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞のBCL11A赤血球エンハンサー部位を効率的に遺伝子編集したマルチバッチ検証試験に係る。
実施例1および実施例2の結果から分かるように、Cas9 mRNAおよびsgRNA-2は、BCL11A赤血球エンハンサー部位を効率的かつ安定的に編集できるだけでなく、遺伝子編集効率は60~80%であり、sgRNA-よりも高い。さらに、γグロビン(HBG)および胎児ヘモグロビンHbFに対するBCL11Aの阻害を除去した後、sgRNA-2はsgRNA-1よりもγグロビン(HBG)のmRNAレベルをより高く増加させた。したがって、本実施例では、sgRNA-2を後続の実験の好ましいターゲットとして選択した。
BTX ECM830エレクトロポレーション装置では「300V 1ms」エレクトロポレーション条件を選択し、合成したCas9 mRNA、及び化学修飾合成したsgRNA-1とsgRNA-2を2人の健康なドナーのCD34陽性造血幹細胞にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの4日後、CD34陽性造血幹細胞のゲノムを抽出し、sgRNA切断部位の左右に各約450bp、全長903bpの断片を増幅用に選択し、Sangerシーケンシングを行った。シーケンシングプライマーおよび遺伝子編集効率解析方法については、実施例1を参照されたい。実験結果を図4Aに示す。
その実験結果は、エレクトロポレーション条件下で、本実施例で合成されたsgRNA-2が、異なるドナーの動員末梢血に由来するCD34陽性造血幹細胞を首尾よく効率的に遺伝子編集でき、Indelsを効率よく生成でき、2人の健康なドナーに対する3つのバッチの実験では、遺伝子編集効率が70~80%に達したことを示している。その中で、「3つのバッチの実験」とは、健康なドナーごとに、末梢血動員のサンプルを1つ取得し、CD34陽性造血幹細胞を単離したが、該細胞について、3回の独立した遺伝子編集実験を行ったことを意味する。
【0188】
3.2サラセミア患者の動員末梢血由来
BTX ECM830エレクトロポレーション装置では「300V 1ms」エレクトロポレーション条件を選択し、Cas9 mRNA、及び化学修飾合成したsgRNA-2を10人のサラセミア患者の動員末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞にエレクトロポレーションした。対照群細胞にはエレクトロポレーションはなかった。2日後、ゲノムを抽出し、sgRNA切断部位の左右に各約450bp、全長903bpの断片をPCR増幅用に選択し、PCR生成物に対してSangerシーケンシングを行った。シーケンシングプライマーおよび遺伝子編集効率解析方法については、実施例1を参照されたい。実験結果を図4Bに示す。
その実験結果は、該エレクトロポレーション条件下で、本実施例で合成されたsgRNA-2が、異なるサラセミア患者の動員末梢血に由来するCD34陽性造血幹細胞を首尾よく効率的に遺伝子編集でき、Indelsを効率よく生成でき、10人のサラセミア患者に対する複数のバッチの実験では、遺伝子編集効率が60~80%またはそれ以上に達したことを示している。その中で、これら10人のサラセミア患者のそれぞれから末梢血動員の1つのサンプルを取得し、遺伝子編集実験のためにCD34陽性造血幹細胞を単離した。これらの細胞について、患者ドナー1に対して3回の独立した遺伝子編集実験を行い、患者ドナー6、9、及び10の3人のドナーに対して2回の独立した遺伝子編集実験を行い、残りの患者ドナーに対して1回の遺伝子編集実験を実施した。
【0189】
実施例4:造血幹細胞の分化後のγグロビンmRNAおよび胎児ヘモグロビンHbFの発現
本実施例は、健康なドナーの動員末梢血に由来する造血幹細胞の赤血球分化後のBCL11A遺伝子及びγグロビンmRNAの発現を検出することに係る。
4.1 赤血球の分化
4.1.1 健康なドナー
300V 1msのエレクトロポレーション条件を選択し、Cas9 mRNAとsgRNA-2をエレクトロポレーションして2人の健康なドナーの動員末梢血由来の造血幹細胞に導入し、対照群細胞にはエレクトロポレーションステップはなかった。そして、次の「二段階法」分化スキームを使用して3つのバッチの赤血球分化実験を行った。
二段階法による分化は、造血幹細胞の赤血球増殖および分化培地を使用して分化させ、そして造血幹細胞の赤血球分化脱核培地を使用して分化させることである。
造血幹細胞赤血球増殖および分化培地としては、基礎培地はStemSpanTM SFEM IIであり、成長因子は、50~200ng/ml SCF、10~100ng/ml IL-3、1~10U EPO/mlであり、培養条件は、造血幹細胞の赤血球増殖および分化培地を使用して造血幹細胞1.0×105cells/mlを培養し、7日間増殖した。
造血幹細胞赤血球分化脱核培地としては、基礎培地はSTEMSPANTM SFEM IIであり、成長因子は、1~10U EPO、100~1000μg/mlヒトトランスフェリンであり、化学的小分子は0.5~10μmのミフェプリストン(Mifepristone)であり、前のステップで培養した1.0×106cells/mlの細胞を造血幹細胞赤血球の分化脱核培地で11日間分化させた。
図5に示すように、CD71とCD235aの発現をFACS方法で検出した。実験群と対照群はいずれも効率的に赤血球に分化でき、CD71とCD235aの発現率はともに約85%以上、分化効率が高く、効果はよかった。その中で、「3つのバッチの赤血球分化実験」とは、健康なドナーごとに、末梢血動員のサンプルを1つ取得し、CD34陽性造血幹細胞を単離したが、これらの細胞について、3回の独立した遺伝子編集実験を行い、それぞれ3回の赤血球分化実験を行ったことを意味する。
【0190】
4.1.2 サラセミア患者
300V 1msのエレクトロポレーション条件を選択し、Cas9 mRNAとsgRNA-2をエレクトロポレーションして10人のサラセミア患者の動員末梢血由来の造血幹細胞に導入し、対照群細胞にはエレクトロポレーションステップはなかった。そして、4.1.1の「二段階法」分化スキームを使用して複数のバッチの赤血球分化実験を行った。
図6に示すように、分化して18日後に、CD71とCD235aの発現を検出した。実験群と対照群はいずれも効率的に赤血球に分化でき、サラセミア患者によって赤血球の分化効率には差があり、CD71とCD235aの二重陽性の比率は約60~95%である。これは、その分化効率が高く、効果がよいことを示している。
その中で、これら10人のサラセミア患者のそれぞれから末梢血動員の1つのサンプルを取得し、CD34陽性造血幹細胞を単離した。ここで、患者ドナー1のCD34陽性造血幹細胞に対して3回の独立した遺伝子編集実験を行い、及び3回の独立した赤血球分化実験を行った。患者ドナー6、9、及び10のCD34陽性造血幹細胞に対してそれぞれ2回の独立した遺伝子編集実験および2回の赤血球分化実験を行った。残りの6人の患者ドナーに対して1回の遺伝子編集実験および1回の赤血球分化実験を行った。
【0191】
4.2 健康なドナーに由来の造血幹細胞から分化した赤血球におけるγグロビン(HBG)遺伝子のmRNA発現の検出
図7と8に示すように、細胞のmRNAは、実施例4.1.1で造血幹細胞から分化した成熟赤血球から抽出され、cDNAに逆転写され、BCL11AやHBGなどの遺伝子のmRNA発現を蛍光定量的PCRによって検出した。
実験結果は次のことを示している。
1)健康なドナー1の場合、3つのバッチの結果は、造血幹細胞のBCL11A赤血球エンハンサーを編集した後、実験群のBCL11A遺伝子の発現がダウンレギュレーションされ、対照群の発現の約40~80%であり、γグロビン(HBG遺伝子)の遺伝子発現が有意に向上し、3つのバッチでの増加は、対照群の増加の約6~10倍であることを示している。結果には、一貫性と安定性が高い。
2)健康なドナー2の場合、3つのバッチの結果は、造血幹細胞のBCL11A赤血球エンハンサーを編集した後、実験群のBCL11A遺伝子の発現がダウンレギュレーションされ、対照群の発現の約40~80%であり、γグロビン(HBG遺伝子)の遺伝子発現が有意に向上し、3つのバッチの繰り返し実験での増加は、対照群の増加の約1.5~3.5倍であることを示している。その結果にも一貫性と安定性が高い。
この実験の結果は、異なるドナーについて、BCL11Aの赤血球エンハンサーのsgRNAおよびCas9 mRNAをターゲットとしてエレクトロポレーションした後、BCL11A遺伝子発現のダウンレギュレーション比が両方とも20~60%であることをさらに証明している。ただし、γグロブリンの発現増加には大きな違いがある。健康なドナー1の場合、γグロビンの発現は6~10倍に増加し、健康なドナー2のγグロビンの発現は1.5~3.5倍に増加した。その中で、「3つのバッチの赤血球分化実験」とは、健康なドナーごとに、末梢血動員のサンプルを1つ取得し、CD34陽性造血幹細胞を単離したが、これらの細胞について、3回の独立した遺伝子編集実験を行い、それぞれ3回の赤血球分化実験を行い、BCL11A遺伝子とγグロビン(HBG遺伝子)のmRNAレベル発現を検出したことを意味する。
【0192】
4.3 サラセミア患者に由来の造血幹細胞から分化した赤血球における胎児ヘモグロビンHbF発現の検出
図9A、9B、及び10に示すように、実施例4.1.2で造血幹細胞から分化した成熟赤血球を使用して、フローサイトメトリーにより細胞中の胎児ヘモグロビンHbFの陽性発現比を検出した。
実験結果は次のことを示している。
1)編集されていない対照群と比較して、編集されたCD34陽性造血幹細胞から分化して得られた赤血球におけるHbFの発現が増加した。
2)異なるサラセミア患者では、HbF発現の増加の程度に有意差がある。患者ドナー1の3つのバッチの実験と患者ドナー7のHbF発現は、対照群の約1.3倍であり、患者ドナー2のHbF発現は、対照群の約2.3倍である。同じサラセミア患者での異なるバッチの実験は、HbF発現の程度が非常に類似していることを示している。患者ドナー1の実験の2つのバッチは、HbF発現が対照群の約1.3倍であり、患者ドナー9のHbF発現が対照群の約1.4倍であり、患者ドナー10のHbF発現が対照群の約1.5~1.6倍であることを示している。
3)患者ドナー1における実験群のHbF発現は、対照群の1.29±0.12倍であった。 したがって、遺伝子編集後のHbF発現レベルが対照群と比較して少なくとも約12%増加した場合、つまり1標準偏差の値であれば、このサラセミア患者に有効であると考えられる。
【0193】
実施例5:BCL11A赤血球エンハンサーの遺伝子編集による異常ヘモグロビン症の治療
実施例2.2、実施例4.2、及び実施例4.3の結果から簡単に分かるように、異なるドナーでは、BCL11Aの赤血球エンハンサーのCas9 mRNAおよび同じのsgRNAのエレクトロポレーション後、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFの発現の増加には有意な差があった。その主な理由としては、本願の背景技術で説明されているように、成熟赤血球におけるγグロビンと胎児ヘモグロビンHbFbの発現を調節および阻害するメカニズムが複雑であり、遠隔調節領域のLCRが関与するだけでなく、また、BCL11A、MYB、KLF1などの複数の転写因子が組み合わさって、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFを調節するためのスイッチとして機能する複合体を形成する(G. Lettre、et al.PNAS.2008,11869-11874;Marina etal.,Molecular Therapy.2017;Megan D,et al.Blood.2015)。これは、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFに対するBCL11Aの阻害効果に有意な個体差があることを意味する。
また、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFの調節メカニズムは複雑であるが、同じ個体の場合、胎児期から出生して成年まで、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFの調節メカニズムは比較的に定常である。つまり、γグロビンおよび胎児ヘモグロビンHbFに対するBCL11A遺伝子の阻害の程度および効果は基本的に変化しない(PaikariA et al.Br J Haematol.2018;Lettre G et al.Lancet.2016;G.Lettre et al.PNAS.2008,11869-11874;Marina et al,Molecular Therapy.2017;Megan D,et al.Blood.2015)。これは実施例4.2および4.3の結果からさらに確認されている。同じドナーについて、BCL11A赤血球エンハンサー部位を遺伝子編集し、赤血球に分化し、γグロビン(HBG遺伝子)のmRNA発現および胎児ヘモグロビンHbFを検出して分析した複数のバッチの実験では、それらの増加程度は一貫して安定している。
【0194】
したがって、本願の実験結果と現象と組み合わせると、BCL11A赤血球エンハンサーの遺伝子編集による異常ヘモグロビン症の治療という現在の治療戦略には明らかに潜在的な欠陥がある。つまり、先行技術は、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFに対するBCL11Aの調節の程度と効果を予測していない。患者が高用量の骨髄除去薬と自己造血幹細胞移植を受けた後、治療スキームが無効になるか、効果が有意ではない可能性が非常に高く、患者に大きな害を及ぼす可能性がある。それに対して、本願は効果的な予測方法を提供する。つまり、異なる個人では、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFの増加程度と効果は異なり、その結果も一貫して安定している。同じ個体の造血幹細胞の実験の異なるバッチでは、遺伝子編集後、BCL11Aの発現がダウンレギュレートされ、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFの増加の程度と効果は一貫して安定している。遺伝子編集後、胎児ヘモグロビンHbFが少なくとも約12%増加することができるなら、該治療スキームがサラセミア患者に効果的であると考えられる。
【0195】
図11に示すように、該実験結果に基づいて、本願は、遺伝子編集されたBCL11A赤血球エンハンサー、すなわち、コンパニオン診断+遺伝子編集された自己造血幹細胞療法を使用した異常ヘモグロビン症の新しい治療法を提出する。
【0196】
コンパニオン診断:遺伝子編集されたBCL11A赤血球エンハンサーを使用して異常ヘモグロビン症の患者を治療する前に、該治療スキームの有効性を事前に予測できる。つまり、患者から少量の骨髄または末梢血を事前に抽出し、CD34陽性造血幹細胞を分離し、BCL11A赤血球エンハンサー部位を遺伝子編集した後、編集した細胞を成熟赤血球に分化させ、一連の指標を使用してγグロビン(HBG遺伝子)と胎児ヘモグロビンHbFの発現レベルを評価し、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFの発現の増加程度が高い患者を優先治療対象として選択する。これによって、該治療スキームの有効性の可能性が高くなる。その中で、編集されていない対照群と比較して、実験群の胎児ヘモグロビンHbFの発現は少なくとも約12%増加した場合しか、治療を受けている患者は臨床的に利益を得る可能性がない。なぜなら、ヘモグロビン含有量が90g/Lに達した患者は輸血依存性がなくなれると臨床的に考えられているから、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFの発現の増加程度がより高い患者を治療に選択すると、輸血依存性がなくなる可能性がより高い。一方、90g/Lの患者は輸血を必要としなくなることができるが、それでも軽度の貧血(90~110g/L)を示し、骨の発達にも影響を与える可能性がある(正常な男性のヘモグロビン含有量は120~160g/Lの範囲であり、女性は110~150g/Lである)。γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFの発現の増加程度がより高い患者を治療に選択すると、患者が完全に回復する可能性もより高くなる。したがって、異常ヘモグロビン症を治療するために遺伝子編集されたBCL11A赤血球エンハンサーを使用する治療戦略の目標は、患者の総ヘモグロビンの発現量を可能な限り高くし、正常な人の基準に到達させることであり、その効果はより有意であり、患者はより大きい利益を得ることができる。また、本願で開発された予測方法は、少量の骨髄または末梢血を抽出するだけでよく、プロセスは簡単である。患者は、骨髄に造血幹細胞を大量に産生させるために複雑な手順を経て動員剤を受ける必要がなく、スクリーニング期間中にブスルファンやフルダラビンなどの骨髄除去薬やリンパ除去薬を大量に注射することはなく、患者の健康は保証される。
【0197】
遺伝子編集された自己造血幹細胞による治療:本願で開発されたコンパニオン診断法は、最終的に治療に含まれる異常ヘモグロビン症の被験者を決定するために使用される。次に、遺伝子編集された自己造血幹細胞治療プロセスに入る。1.被験者には、骨髄動員のために顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)または/およびplerixafor(デケモカイン受容体CXCR4のアンタゴニスト)を投与し、骨髄に大量の造血幹細胞を生成させて末梢血循環系に放出する。2.動員が完了した後、遺伝子編集細胞治療製品の製造プロセスに入り、まず、CD34磁気ビーズのラベリングとソーティングによってCD34陽性造血幹細胞を取得して培養する。次に、Cas9とsgRNAをエレクトロポレーションして、BCL11A赤血球エンハンサー部位を編集する。最後に、細胞を凍結保存し、品質管理と安全性の評価段階に入り、リリース基準に達した後、患者に再注入するように準備できる。3.製品の準備とリリースが正常に行われた後、臨床医は被験者に入院を通知し、前処理の化学療法(骨髄除去薬ブスルファン(Busulfan)または/および、リンパ除去薬シクロホスファミド(cyclophosphamide)とフルダラビン(fludarabine))を投与する。ただし、異なる臨床機関が異なる前処理スキームを採用する可能性があり、ブスルファンなどの骨髄除去薬のみを使用する臨床機関もあり、シクロホスファミドやフルダラビンなどの骨髄除去およびリンパ除去薬を使用する臨床機関もある。前処理が完了した後、遺伝子編集された自己造血幹細胞を、2×106以上の活性CD34陽性細胞/kgの投与量で1回のみの静脈注射によって再注入する。4.注射が完了した後、安全性、耐容性、および有効性の指標を評価するために、少なくとも2年間被験者をフォローアップする。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本願によれば、本出願の方法は、以下の利点を有する。第一に、本願は、異なる個体において、遺伝子編集された造血幹細胞が、BCL11Aの発現をダウンレギュレートした後、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFの増加程度と影響が異なり、同じ個体では、遺伝子編集された造血幹細胞がBCL11Aの発現をダウンレギュレートした後、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFの増加程度と影響は一貫して安定していることを初めて発見し、先行技術の空白を埋めた。第二に、本願は、BCL11A赤血球エンハンサーの遺伝子編集後の胎児ヘモグロビンHbFの増加程度の有効性しきい値を初めて設定し、すなわち、編集後のHbFが少なくとも約12%増加する場合、患者が治療を受けた後、症状が大幅に改善する可能性があり、輸血の頻度を減らしたり、輸血をなくしたりする可能性がある。第三に、本願で開発されたコンパニオン診断方法は操作が簡単であり、スクリーニング期間(患者のスクリーニング期間は通常2~3か月続く)にある治療の予定の患者から少量の骨髄または末梢血を抽出し、CD34陽性造血幹細胞を単離し、BCL11A赤血球エンハンサーを遺伝子編集し、赤血球分化させ、γグロビンおよび胎児ヘモグロビンHbFの増加の程度を検出するだけでよい。評価プロセス全体は完了するのに3~4週間しかかからず、γグロビンおよび胎児ヘモグロビンHbFに対するBCL11A遺伝子の調節効果の個体差によって引き起こされる治療方法の失敗または効果が有意ではないリスクが回避される。第四に、本願で開発された方法は、遺伝子編集技術による異常ヘモグロビン症の治療スキームでの患者の層別化および分級治療に有益である。すなわち、γグロビンと胎児ヘモグロビンHbFの増加程度がより高い患者は、優先治療レベルにある。第五に、本願は、コンパニオン診断と遺伝子編集された自己造血幹細胞療法を組み合わせて、遺伝子編集による異常ヘモグロビン症の治療の安全性と有効性を改善する斬新な治療スキームを提出している。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
【配列表】
2022531269000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-05-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体の異常ヘモグロビン症を治療するための個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)であって、当該集団を
評価ステップによる機能評価に基づいて前記個体を治療のために選択し、前記評価ステップは、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下した(「修飾されたEV細胞」)、前記集団
【請求項2】
異常ヘモグロビン症に罹患している個体に、前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団(「修飾されたTR細胞」)による治療に適するかどうかを測定する方法であって、前記方法は、修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含む評価ステップを含み、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が前記個体に由来し、修飾されてBCL11A機能を低下させており(「修飾されたEV細胞」)、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成した場合、前記個体が治療に適し、前記修飾されたCD34陽性HSPCの第1の集団が必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成しない場合、前記個体が、前記修飾されたTR細胞による治療には適しない、前記方法。
【請求項3】
前記評価ステップは、
a)前記個体の骨髄または末梢血サンプルからCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたEV細胞」)を得ること、
b)単離されたEV細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第1の集団(「修飾されたEV細胞」)を得ること、及び
c)修飾されたEV細胞の分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する能力を評価することを含み、及び/又は
前記治療のステップは、
a)前記個体の骨髄中のCD34陽性HSPCが末梢血に入るように動員して末梢血中のCD34陽性HSPCの量を増加させること、
b)前記個体の末梢血からCD34陽性HSPCを単離して、単離されたCD34陽性HSPC集団(「単離されたTR細胞」)を得ること、
c)単離されたTR細胞を修飾して、BCL11A機能が低下した修飾CD34陽性HSPC細胞の第2の集団(「修飾されたTR細胞」)を得ること、及び
d)有効量の修飾されたTR細胞を前記個体に投与することを含む、
請求項1に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項2に記載する方法。
【請求項4】
前記修飾されたEV細胞は、遺伝子修飾することによって修飾されたものであり、及び/又は
単離されたEV細胞を修飾することは、単離されたEV細胞を遺伝子修飾することを含み、好ましくは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、RNA編集、RNA干渉(RNAi)技術からなる群から選択される技術により、単離されたEV細胞を遺伝子修飾する、請求項1又は3のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項2若しくは3に記載する方法。
【請求項5】
前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロブリンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾されたEV細胞の能力を評価し、前記評価ステップは、1)赤血球集団を得るように分化を可能にする条件下で、修飾されたEV細胞を培養すること、及び2)前記赤血球によって生成されるγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)のレベルを決定することを含む、請求項1、3又は4のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項2~4のいずれか1項に記載する方法。
【請求項6】
前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾されたEV細胞の能力を評価することは、γ-グロビンのmRNAのレベルを決定することを含み、及び/又は
前記評価ステップでは、分化後に必要なレベルのγ-グロビンまたは胎児ヘモグロビン(HbF)を生成する修飾されたEV細胞の能力を評価することは、胎児ヘモグロビン(HbF)のタンパク質のレベルを決定することを含む、
請求項1、3、4又は5のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項2~5のいずれか1項に記載する方法。
【請求項7】
前記個体は、評価ステップの前に動員または前処理を経ていな及び/又は、
前記評価ステップは、前記治療のステップの前に少なくとも1回繰り返される、
請求項1、3、4、5又は6のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項2~6のいずれか1項に記載する方法。
【請求項8】
前記修飾されたTR細胞は、遺伝子修飾することによって修飾されたものである、請求項1、3、4、5、6又は7のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項2~7のいずれか1項に記載する方法。
【請求項9】
単離されたTR細胞を修飾することは、単離されたTR細胞を遺伝子修飾することを含
好ましくは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、RNA編集、RNA干渉(RNAi)技術からなる群から選択される技術により、単離されたTR細胞を遺伝子修飾する、
請求項3~8のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項3~8のいずれか1項に記載する方法。
【請求項10】
前記治療のステップにおけるCD34陽性HSPCの動員は、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)および/またはプレリキサフォル(plerixafor)を使用して前記個体を治療することを含む、請求項3~9のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項3~9のいずれか1項に記載する方法。
【請求項11】
前記治療のステップは、前記修飾されたTR細胞を投与する前に前記個体を前処理することをさらに含
好ましくは、前記前処理は、化学療法、モノクローナル抗体療法、または全身放射線療法を含み、
更に好ましくは、前記前処理は、化学療法を含み、
更に好ましくは、前記化学療法は、ブスルファン、シクロホスファミド、およびフルダラビンからなる群から選択される1つ以上の化学療法剤を前記個体に投与することを含む、
請求項1又は3~10のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項2~10のいずれか1項に記載する方法。
【請求項12】
単離されたTR細胞は、修飾する前に1日以上培養され、
好ましくは、個体に投与する前に、前記修飾されたTR細胞を1日以上培養する、
請求項3~11のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項3~11のいずれか1項に記載する方法。
【請求項13】
修飾されたTR細胞を個体に投与する前に、前記修飾されたTR細胞を凍結条件下で少なくとも24時間保存する、
好ましくは、凍結条件下で保存する前に、修飾されたTR細胞を1日以上培養する、
請求項1又は3~12のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項2~12のいずれか1項に記載する方法。
【請求項14】
前記異常ヘモグロビン症は、鎌状赤血球症、鎌状赤血球形質、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンC形質、ヘモグロビンS/C症、ヘモグロビンD症、ヘモグロビンE症、サラセミア、酸素親和性が増加したヘモグロビン関連障害、酸素親和性が低下したヘモグロビン関連障害、不安定なヘモグロビン症、およびメトヘモグロビン血症からなる群から選択され、
好ましくは、前記異常ヘモグロビン症は、β-サラセミアと鎌状赤血球貧血からなる群から選択され、
更に好ましくは、前記異常ヘモグロビン症は、β0またはβ+サラセミアである、
請求項1又は3~13のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項2~13のいずれか1項に記載する方法。
【請求項15】
前記治療のステップは、前記評価ステップの直後に実行される、請求項1又は3~14のいずれか1項に記載の修飾されてBCL11A機能を低下させたCD34陽性HSPCの第2の集団又は請求項2~14のいずれか1項に記載する方法。
【国際調査報告】