(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(54)【発明の名称】親水性マイクロウェルおよび疎水性間隙空間を有する微細加工装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20220629BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20220629BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12Q1/04
B01J19/00 321
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564749
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(85)【翻訳文提出日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 US2020031168
(87)【国際公開番号】W WO2020223697
(87)【国際公開日】2020-11-05
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517368062
【氏名又は名称】アイソレーション バイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100124659
【氏名又は名称】白洲 一新
(72)【発明者】
【氏名】ホロック,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】グレイザー,マーク
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4G075
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA08
4B029BB02
4B029CC01
4B029GA03
4B029GB01
4B029GB04
4B063QA01
4B063QQ06
4B063QR75
4B063QR84
4B063QS39
4B063QX01
4G075AA39
4G075AA65
4G075BB10
4G075DA02
4G075EB50
4G075EE23
4G075FA05
4G075FB06
(57)【要約】
疎水性素材から作成された微細加工チップを加工する方法が提供される。微細加工チップは、それぞれが底面と側壁を持つ複数のマイクロウェルおよびマイクロウェル間の間隙空間を含む上面を有する。最初に、微細加工チップは表面処理され、マイクロウェルの底面と側壁、および間隙空間の表面が親水性にされる。次いで間隙空間の表面が処理され、疎水性にされる。親水性マイクロウェルおよび疎水性間隙空間を持つ微細加工チップも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ底面と側壁とを有する複数のマイクロウェルと、当該マイクロウェル間の間隙空間とを含む上面を有し、疎水性素材から成る微細加工チップを加工する方法であって、
(a) 微細加工チップを処理し、マイクロウェルの底面と側壁の表面および間隙空間とを親水性とするステップと、
(b) 間隙空間表面を選択的に処理し、これを疎水性とするステップとを含む微細加工チップを加工する方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)が、前記微細加工チップをプラズマで処理するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(a)が、前記微細加工チップをコロナ放電と、オゾンと、銅促進酸化とのいずれか一つで処理するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(a)が、前記微細加工チップのマイクロウェルの底面と側壁と、間隙空間の表面に小分子または高分子の親水性層を形成するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(a)が、光化学的表面加工を含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(b)が、ある物体が前記間隙空間の表面と接触し、前記間隙空間の表面に疎水性を与えるステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(b)が、前記間隙空間の表面の最上層を選択的に除去するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(b)の前に、
(c) 親水性液体を微細加工装置に塗布し、複数のウェルのそれぞれの少なくとも一部をその液体で満たすステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(c)により間隙空間上に液体の一部が保持される方法であって、前記ステップ(c)の後に、かつ、前記ステップ(b)の前に、
(d) 前記間隙空間上に保持された液体部分を除去することを含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(d)が、制御蒸発を含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(d)が、ソフトブレードを使用し前記間隙空間表面をスワイプするステップを含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(d)が、吸収材を用い、吸収により前記間隙空間上に保持された液体を除去するステップを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップ(b)が、有機溶媒を前記間隙空間表面上に噴霧するステップを含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップ(b)が、前記間隙空間の表面に疎水性高分子層を形成するステップを含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項15】
それぞれが内表面を持つ複数のマイクロウェルとマイクロウェル間の間隙空間とを含む上面を有し、疎水性素材から成る微細加工チップを加工する方法であって、
(a)親水性液体を微細加工チップに塗布し、それにより複数のウェルのそれぞれの少なくとも一部を親水性液体で満たすステップと、
(b)前記親水性液体の一部が間隙空間上に残存している場合、前記間隙空間からその親水性液体部分を除去するステップと
(c)マイクロウェルの内面を親水性に転換するステップと、を含む微細加工チップを加工する方法。
【請求項16】
前記親水性液体が、水溶性高分子を含む水溶液であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記水溶性高分子が、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)を含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
微細加工装置であって、1cm
2当たり少なくとも750のマイクロウェルの表面密度をもつマイクロウェルのアレイを画定する上面を有し、各マイクロウェルは底面と側壁を有し、当該上面のマイクロウェル間には間隙空間を有し、当該微細加工装置は疎水性基材から作成され、当該マイクロウェルの内表面は親水性に加工され、当該マイクロウェル間の間隙空間は疎水性である微細加工装置。
【請求項19】
少なくとも1cm
2当たり750のマイクロウェルの表面密度を持つマイクロウェルのアレイを画定する上面を有し、各マイクロウェルは底面と側壁を有し、当該マイクロウェル間の間隙空間を有し、疎水性素材から作成され、当該マイクロウェルの内表面は親水性で、当該マイクロウェル間の間隙空間は疎水性である微細加工装置を用い、
試料を微細加工装置に負荷し、それにより当該マイクロウェルのアレイの少なくとも一つのマイクロウェルが少なくとも一つの細胞とある量の栄養素を含むステップと、
膜を当該微細加工装置に貼付し、当該マイクロウェルのアレイの少なくとも一つのマイクロウェルに少なくとも一つの細胞と栄養素を保持するステップと、
追加の栄養素を供給することなく、当該マイクロウェルのアレイの少なくとも一つのマイクロウェルの中の少なくとも一つの細胞から複数の細胞を培養するステップと、
当該複数の細胞を分析し、興味の対象である生物学的存在の有無を決定するステップと、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
この出願は、2019年5月2日に提出された米国仮出願No.62/842,456に対して優先権を主張するものであり、上記特許出願の開示の全体を参照により本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
微小流体装置は創薬業界で、また細胞培養などのさまざまな生物学分野で実験改良のために活用されている。微量分析システムの利点には、サンプルサイズの縮小、正確な微環境制御、および単一の装置での並列操作が含まれ、ハイスループット解析を実行できる。
【0003】
微小流体装置の流路と反応室のマイクロスケールサイズのため、そうした装置における流量を操作するためにはしばしば複雑な周辺機器が必要とされる。毛細管微小流体は、微小流路の化学処理された界面により生み出される毛管効果を利用することにより周辺機器なしに、あらかじめ設定されたやり方で液体を提供できる。しかし、精密リソグラフィーとチャネル表面の処理が必要なことがある。
【0004】
高密度のマイクロウェルのアレイを備え、マイクロチャネルの相互接続のないプラットフォームでは、ウェルのアレイに負荷し、ウェル内容を相互に隔離しておくことは困難な場合がある。特に、プラットフォームが、例えば、疎水性プラスチックなど疎水性素材で製造されている場合、水溶液をマイクロウェルのアレイに負荷することはマイクロウェル内の表面張力および閉じ込められた空気で妨げられる可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一つの態様において、それぞれ底面と側壁とを有する複数のマイクロウェルと、当該マイクロウェル間の間隙空間とを含む上面を有し、疎水性素材から成る微細加工チップを加工する方法を開示する。当該方法が、(a)微細加工チップを処理し、マイクロウェルの底面と側壁の表面および間隙空間を親水性とするステップと、(b)間隙空間表面を選択的に処理し、これを疎水性とするステップとを含む微細加工チップを加工することを含む。
【0006】
この方法の実施形態のいくつかにおいて、前記ステップ(a)が、前記微細加工チップをプラズマで処理することを含む。この方法の実施形態のいくつかにおいて、前記ステップ(a)が、前記微細加工チップをコロナ放電と、オゾンと、銅促進酸化とのいずれか一つで処理するステップを含む。
【0007】
この方法の実施形態のいくつかにおいて、前記ステップ(a)が、前記微細加工チップのマイクロウェルの底面と側壁と、間隙空間との表面に、例えば、光化学的表面改質により小分子または高分子の親水性層を形成するステップを含む。
【0008】
この方法の実施形態のいくつかにおいて、前記ステップ(b)が、前記間隙空間の表面と接触し、前記間隙空間の表面に疎水性を与えるステップを含む。
本発明の実施形態のいくつかにおいて、前記ステップ(b)が、前記間隙空間の表面の最上層を選択的に除去するステップを含む。
【0009】
本発明の実施形態のいくつかにおいて、前記ステップ(b)の前に、さらに(c)親水性液体を微細加工装置に塗布し、複数のウェルのそれぞれの少なくとも一部をその液体で満たすステップを含む。前記ステップ(c)により、前記間隙空間上にその液体の一部が保持される方法であって、前記ステップ(c)の後に、かつ前記ステップ(b)の前に、(d)前記間隙空間に保持された液体部分を除去することを含む。保持された液体の除去は、制御蒸発により、あるいは柔らかいブレードを使用し前記間隙空間表面をスワイプするステップにより、あるいは吸収剤を使用し、前記間隙空間上に残った液体を吸収によって除去するステップにより達成され得る。
【0010】
本発明の実施形態のいくつかにおいて、前記ステップ(b)が、有機性溶媒を前記間隙空間上に噴霧することを含む。他の実施形態において、前記ステップ(b)は前記間隙空間表面上に疎水性高分子層を形成することを含む。
本発明のもう一つの実施態様において、それぞれが内表面を持つ複数のマイクロウェルとマイクロウェル間の間隙空間とを含む上面を有し、疎水性素材から成る微細加工チップを加工する方法であって、(a)親水性液体を微細加工チップ上に塗布し、それにより複数のウェルのそれぞれの少なくとも一部を親水性液体で満たすステップと、(b)前記親水性液体の一部が間隙空間上に残存する場合は、前記間隙空間からその親水性液体部分を除去するステップと、(c)マイクロウェルの内表面を親水性に転換するステップと、を含む。この親水性液体は水溶性可溶性高分子、例えば、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)などを含む水溶液であり得る。
【0011】
本発明の更なる態様として、1cm2当たり少なくとも750マイクロウェルの表面密度を有するマイクロウェルのアレイを画定する上面を有し、各マイクロウェルは底面と側壁を有し、当該上面のマイクロウェルの間には間隙空間を有する、微細加工装置を開示しているが、当該微細加工装置は疎水性基材から作成され、当該マイクロウェルの内表面は親水性に加工され、この微当該マイクロウェルの間隙空間は疎水性である。
【0012】
本発明の更なる態様として、微細加工装置を用い、興味の対象である少なくとも一つの生物学的存在を培養しスクリーニングする方法を提供するが、その微細加工装置は少なくとも1cm2当たり750マイクロウェルの表面密度を有するマイクロウェルのアレイを画定する上面があり、ここにおいて各マイクロウェルは、底面と側壁、マイクロウェル間の間隙空間を有し、微細加工装置は疎水性素材より作成され、ここでマイクロウェルの内表面は親水性でマイクロウェルの間の間隙空間は疎水性である。この方法は、資料を微細加工装置に負荷し、マイクロウェルのアレイの少なくとも一つのマイクロウェルが少なくとも一つの細胞とある量の栄養素を含むようにすること、膜を微細加工装置に被せ、少なくとも一つの細胞と栄養素をマイクロウェルのアレイの少なくとも一つのマイクロウェルに保持すること、追加の栄養素を供給することなく、少なくとも一つの細胞からの複数の細胞をマイクロウェルのアレイの少なくとも一つのマイクロウェルで培養すること、および複数の細胞を分析し興味の対象となっている生物学的存在の有無を画定すること、とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
当業者は、図面が主に例示の目的のためのものであり、本明細書に記載されている発明の主題の範囲を限定することは意図されていないことを理解するであろう。図面は必ずしも原寸に比例してはいない。ある例では、さまざまな特徴を理解することを容易にするため、本明細書で開示されている発明の主題のさまざまな態様が図面において誇張され、あるいは拡大されて表示されている場合がある。図面においては、同様の参照符号は概ね同様の機能(例えば、機能的に類似および/または構造的に類似する要素)を意味する。
【0014】
【
図1】いくつかの実施形態に記載の微細加工装置またはチップを説明する透視図である。
【
図2A-2C】それぞれ、いくつかの実施形態に記載の微細加工装置またはチップの寸法を説明する上面図、側面図、端面図である。
【
図3A-3B】それぞれいくつかの実施形態に記載の微細加工装置またはチップを説明する分解組立図および上面図である。
【
図4】いくつかの実施形態に記載の微細加工装置の断面図の概略図で、この微細加工装置はマイクロウェルを含むが、ここでマイクロウェルの内表面は親水性、そしてマイクロウェル間の間隙空間は疎水性である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の目的は、マイクロウェルのアレイとマイクロウェル間の間隙空間とを画定する上面を有する微細加工装置(またはチップ)を提供することであり、この微細加工装置は疎水性高分子素材で作成され、ここでそのマイクロウェルの内表面は親水性、マイクロウェル間の間隙空間は疎水性である。各マイクロウェルは底面と側壁を有する。「底面」という用語は、本明細書においては、マイクロウェルが微細加工装置の厚さ方向において有限の深さを有し、微細加工装置全体を通る穴ではないことを示すために使用されている。底面と側壁とはそれらの間に明確な境界がある場合もあるが、また明確な境界なしに滑らかに結合する場合もありうる。本発明のもう一つの目的は、疎水性素材から成る微細加工チップを加工する方法を提供し、マイクロウェルの内表面が親水性、マイクロウェル間の間隙空間が疎水性に留まるようにすることである。これらの特性は、マイクロウェルへの負荷、その密封、マイクロウェルにおける細胞保持、並びに下流操作、例えば、マイクロウェルから試料を採取、移動することなどを大幅に単純化するであろう。
【0016】
いくつかの実施形態において、高密度細胞培養プラットフォームは微細加工装置(または「チップ」)であり得る。本明細書で使用される場合、微細加工装置またはチップはマイクロウェル(または実験単位)のアレイを画定する場合がある。例えば、「高密度」のマイクロウェルを備える微細加工チップはcm2当たり約150マイクロウェルからcm2当たり約160,000マイクロウェル以上を含み得る(例えば、1cm2当たり少なくとも150マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも250マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも400マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも500マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも750マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも1,000マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも2,500マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも5,000マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも7,500マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも10,000マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも50,000マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも100,000マイクロウェル、1cm2当たり少なくとも160,000マイクロウェル)。微細加工チップの基板は、1cm2当たり約10,000,000以上のマイクロウェルまたは場所を含む場合がある。例えば、マイクロウェルのアレイは、少なくとも96の場所、少なくとも1,000の場所、少なくとも5,000の場所、少なくとも10,000の場所、少なくとも50,000の場所、少なくとも100,000の場所、少なくとも500,000の場所、少なくとも1,000,000の場所、少なくとも5,000,000の場所、少なくとも10,000,000の場所を含む場合がある。マイクロウェルのアレイは格子状パターンを形成し、別々の領域または区域にまとめ得る。マイクロウェルの寸法はナノスケール(例えば、直径約1から100ナノメートル)からミクロスケールまでに渡りうる。例えば、各マイクロウェルは、直径約1μmから約800μm、直径約25μmから約500μm、または直径約30μmから約100μmのことがある。マイクロウェルは直径約1μm以下、約5μm以下、約10μm以下、約25μm以下、約50μm以下、約100μm以下、約200μm以下、約300μm以下、約400μm以下、約500μm以下、約600μm以下、約700μm以下、約800μm以下の場合がある。例示的実施形態において、マイクロウェルの直径は約100μm以下、または50μm以下であり得る。マイクロウェルは深さ約25μmから約100μm、例えば、約1μm、約5μm、約10μm、約25μm、約50μm、約100μmの場合がある。これはまたより深い場合もあり得、例えば、約200μm、約30μm、約400μm、約500μmのことがある。隣接するマイクロウェルの間の間隙は約2μmから約500μm、または約30μmから約100μmにわたり得る。
【0017】
微細加工チップは2つの主要表面を持ち得る。上面と底面であり、ここでマイクロウェルは上面において開口部を有する。マイクロウェルのそれぞれは、任意の形状、例えば、円形、六角形、正方形、またはその他の形状を有する開口部または横断面を持ち得る。各マイクロウェルは側壁を含み得る。開口部または横断面が円形でないマイクロウェルの場合、本明細書に説明されているマイクロウェルの直径とは、相当面積を有する円形の有効径を表す。例えば、10x10ミクロンの辺長を有する正方形のマイクロウェルの場合、相当面積(100平方ミクロン)を持つ円の直径は11.3ミクロンである。各マイクロウェルは単数または複数の側壁を含む場合がある。その側壁は直線、斜め、および/または湾曲状の断面形状を持つ場合がある。各マイクロウェルは底面を有し、これは平坦、円形、あるいは他の形態であり得る。微細加工チップ(その上にマイクロウェルを伴う)は高分子、例えば環状オレフィン重合体から精密射出成形またはエンボス加工などの他の行程を介して作成され得る。シリコンやガラスなどの他の構成材料も利用可能である。チップは実質的に平面的な主要表面を持つ場合がある。
図1は、微細加工チップの概略図を示し、その縁は一般にチップ上の行と列の方向に並行である。
【0018】
微細加工チップ上の高密度マイクロウェルは少なくとも一つの生物学的存在(例えば、少なくとも一つの細胞)を含む試料を受容するために使用可能である。「生物学的存在」という用語は、有機体、細胞、細胞成分、細胞産物、およびウィルスを含み得るがこれらに限定はされず、「種」という用語は分類の単位を記述するために使用される場合があり、操作的分類単位(OTU)、遺伝子型、系統型、表現型、生態型、歴史、行動または相互作用、産物、変異型、および進化的に有意の単位を含むが、これらに限定されない。微細加工チップ上の高密度マイクロウェルは、さまざまな実験、例えば、さまざまな種の細菌や好気性、嫌気性、および/または通性好気性微生物などのその他の微生物(または細菌)の増殖または培養などを行うために使用され得る。マイクロウェルは哺乳類細胞などの真核細胞を用いる実験を行うために使用される場合がある。また、マイクロウェルは、さまざまなゲノム実験またはプロテオーム実験を行うために使用でき、細胞産物または構成要素、またはその他の化学的もしくは生物学的物資または存在、例えば、細胞表面(例、細胞膜または壁)、代謝産物、ビタミン、ホルモン、神経伝達物質、抗体、アミノ酸、酵素、タンパク質、単糖類、ATP,脂質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸(例、DNAまたはRNA)、化学物資、例えば、色素、酵素基質などを含む場合がある。
【0019】
いくつかの実施形態において、高密度細胞培養プラットフォームは、液滴ベースであり得、例えば、微細加工チップ上の実験単位としてのウェルのアレイの代わりに、個別の液滴の集団が細胞、培養基、およびその他の細胞培養のための構成要素を保持するために使用され得る。液滴生成方法は、特にチップ上細胞選別機タイプの機器類と組み合わせたとき、複雑な環境試料から微生物を増殖させ、スクリーニングするために使用され得る。液滴は数百Hzで作成され得、これは、数時間で数百万の液滴が作成され得ることを意味する。単純なチップベースの装置が、液滴を生成するために使用される場合があり、液滴は、単一細胞を含むように操作しうる。細胞懸濁液を含む液滴を生成するシステムは、一つまたは少数の細胞を含む場合がある。液滴は乳濁液、二重乳濁液、ヒドロゲル、泡、および複合粒子などであり得る。例えば、水性液滴を、混和できない液体の中に懸濁し、お互いから離れ、どの面にも接触したり、汚染しなかったりするようにする場合がある。水滴の容積は、10flから1μLの間であり得、高度単分散液滴は数ナノメートルから500μmまで作成しうる。液滴ベースのマイクロ流体システムは、小液滴を生成、操作、および/またはインキュベーションするために使用される場合がある。細胞の生存と増殖は、バルク溶液における実験の管理と類似する場合がある。液滴の蛍光スクリーニングは、チップ上で、例えば、1秒当たり500滴の速度でなされ得る。液滴は、新しい液滴を生成するため、または液滴に加える試薬を作成するために融合させ得る。液滴は一列でマイクロチャンネルを通過し、分光法で、例えば、液滴から発せられる蛍光を検出する蛍光検出器を使用して、検査可能であり、ある基準(例、ある波長で蛍光を発する)を満たすと判定されるこうした液滴は、ダイバージョンを介して分岐流路へと選択可能であり、そこから液滴は貯留、または回収され得る。ダイバージョンすなわち流れの切り替えは弁、ポンプ、外部電場の適用等により達成し得る。
【0020】
さまざまな実施形態において、ある細胞は古細菌、細菌、あるいは真核細胞(例、真菌)である場合がある。例えば、ある細胞は、好気性、嫌気性、あるいは通性好気性微生物のような微生物である場合がある。ウィルスはバクテリオファージである場合がある。他の細胞構成要素/産物は、タンパク質、アミノ酸、酵素、単糖類、アデノシン3リン酸(ATP),脂質、核酸(例、DNAおよびRNA),ヌクレオシド、ヌクレオチド、細胞膜/壁、鞭毛、線毛、細胞小器官、代謝産物、ビタミン、ホルモン、神経伝達物質、抗体などを含む場合があるが、これらに限定はされない。
【0021】
細胞の培養のために、栄養素がしばしば提供される。栄養素は定められている場合(例、化学的に定められている、あるいは合成培養基)もあり、あるいは定められていない場合(例、基礎または複合培地)もある。栄養素は実験室調製された、および/または市販用に製造された培養基(例、2つ以上の化学物質の混合)を含むことも、あるいはこれらの構成要素であることもある。栄養素は、液体栄養培養液(例、普通ブイヨン)を含むこともその構成要素であることもあり、例としてはマリンブロス、溶原生ブロス(例、LBブロス)、等がある。栄養素は、固形培地および/または市販の製造された寒天プレート、例えば血液寒天培地を形成するため、寒天を混ぜた液体培地を含むこともその構成要素であることもある。
【0022】
栄養素は選択培地を含むことも、その構成要素であることもある。例えば、選択培地はある種の生物学的存在のみ、あるいはある性質(例、抗生物質抵抗性、またはある代謝産物の合成)を有する生物学的存在のみの増殖のために使用される場合がある。栄養素は、鑑別培地を含む場合もあり、その構成要素であることもあり、あるタイプの生物学的存在を他のタイプの生物学的存在から、またはその他のタイプの生物学的存在から、特定の指示薬(例、中性赤、フェノール赤、エオシン、またはメチレン青)の存在下における生化学的特性を用いて区別する。
【0023】
栄養素は、自然環境からの抽出成分または自然環境由来の培養基を含む場合もあり、その構成要素である場合もある。例えば、栄養素は、特定のタイプの生物学的存在にとって自然な環境、異なる環境、または複数の環境由来のことがあり得る。環境には、一つまたはそれ以上の生物学的組織(例、結合織、筋肉、神経組織、上皮組織、植物表皮、血管組織、基本組織など)、生物学的液体またはその他の生物学的生成物(例、羊水、胆汁、血液、脳脊髄液、耳垢、浸出液、糞便物質、胃液、間質液、細胞内液、リンパ液、乳、粘液、瘤胃内容、唾液、皮脂、精液、汗、尿、膣分泌液、吐物、など)、微生物懸濁液、空気(例えば、異なる気体内容を含む)、超臨界二酸化炭素、土壌(例えば、鉱物、有機物質、気体、液体、有機体などを含む)、堆積物(例、農業、海洋、など)、有機生命体(例、植物、昆虫、その他の小有機体と微生物)、死んだ有機物質、飼料(例、イネ科植物、マメ科植物、貯蔵牧草、作物残渣など)、鉱物、油、油脂製品(例、動物、野菜、石油化学)、水(例、天然由来淡水、飲料水、海水など)、および/または下水(例、汚水、商業排水、産業排水、および/または農業排水、および表面流出水)を含むが、これらに限定はされない。
【0024】
図1は、いくつかの実施形態に記載の微細加工装置またはチップを説明する透視図である。チップ100は、上面102に射出成形された特性を持つ顕微鏡スライド形式で形成された基盤を含む。この特性には、4つの別個のマイクロウェルアレイ(またはマイクロアレイ)104並びにエジェクターマーク106を含む。各マイクロアレイのマイクロウェル113(間隙空間114で隔てられている)は、格子状パターンで配列し、チップ100の縁の周りおよびマイクロアレイ104の間にはウェルのない縁がある。
図4は、本発明の微細加工装置またはチップの一部の概略横断図を示し、ここでマイクロウェル113の内表面(側壁と底面)は親水性、マイクロウェル間の間隙空間114は疎水性である。
【0025】
図2A-2Cはそれぞれ、いくつかの実施形態に記載のチップ100の寸法を説明する上面図、側面図、端面図である。
図2Aでは、チップ100の上面は、約25.5mm×75.5mmである。
図2Bでは、チップ100の端面は約25.5mm×0.8mmである。
図2Cでは、チップ100の側面は約75.5mm×0.8mmである。
【0026】
微細加工装置に試料が負荷された後、膜が微細加工装置の少なくとも一部に被せられる場合がある。
図3Aは微細加工装置300の分解組立図で、いくつかの実施形態に記載の
図3Bの上面から見て示した図である。装置300は例えば、土壌細菌を容れるウェルのアレイ302を持つチップを含む。膜304はウェルのアレイ302の上面に置かれる。ガスケット306は膜304の上に置かれる。フィルホール310を有するカバー308は、ガスケット306の上に置かれる。最後にシールテープ312がカバー308に被せられる。
【0027】
膜は、一つまたはそれ以上の実験単位またはマイクロウェルを含め、微細加工装置の少なくとも一部をカバーし得る。例えば、微細加工装置に試料が負荷された後、少なくとも一枚の膜が、マイクロウェルの高密度アレイの少なくとも一つのマイクロウェルに被せられる。複数の膜が微細加工装置の複数部分に被せられ得る。例えば、別々の膜が、マイクロウェルの高密度アレイの別々のサブセクションに被せられ得る。
【0028】
膜は微細加工装置に結合、付着、部分的に付着、貼付、密封、および/または部分的に密封されマイクロウェルの高密度アレイの少なくとも一つのマイクロウェルの中の少なくとも一つの生物学的存在を保持し得る。例えば、膜はラミネート加工を用い、微細加工装置に可逆的に貼付される場合がある。マイクロウェルの高密度アレイの少なくとも一つのマイクロウェルの中の少なくとも一つの生物学的存在にアクセスするために、膜は、穴を開け、剥がし、取り外し、部分的に取り外し、除去し、および/または部分的に除去される場合がある。
【0029】
少なくとも一つの実験単位、ウェル、またはマイクロウェルの中の細胞集団の一部は、(例えば、吸着を介して)膜に付着しうる。もしそうなら、少なくとも一つの実験単位、ウェル、またはマイクロウェルの細胞集団のその一部は膜に付着したままであるため、少なくとも一つの実験単位、ウェル、またはマイクロウェルの細胞集団は膜を剥がすことにより採取し得る。
【0030】
膜は不透過性、半透過性、選択的透過性、特異的透過性、および/または部分的透過性であり得、少なくとも一つの栄養素をマイクロウェルの高密度アレイの少なくとも一つのマイクロウェルへ拡散させることができる。例えば、膜は、天然素材および/または合成素材を含み得る。膜は、ヒドロゲル層および/または濾紙を含み得る。いくつかの実施形態において、マイクロウェルに少なくともいくつか、またはすべての細胞を保持するのに十分小さい細孔径を持つ膜が選択される。哺乳類細胞の場合、細孔径は数ミクロンで、まだ細胞を保持できる場合がある。しかし、いくつかの実施形態において、細孔径は、0.2μm以下、例えば、0.1μmの場合がある。不透過性の膜はゼロに近い細孔径を持つ。膜は、決まった細孔径のある場合も、ない場合もある、複雑な構造を有する場合があることが理解されている。
【0031】
一つの態様において、本発明は、本明細書に説明されているように微細加工チップを加工する方法を提供する。このチップはプラスチックのような疎水性素材で作成される。このチップは上面に、各マイクロウェルが底面と側壁を有する複数のマイクロウェルとマイクロウェル間の間隙空間を含む上面を有する。この方法は、最初に微細加工チップを処理し、マイクロウェルの底面と側壁、および間隙空間を親水性(親水性処理ステップ)とし、次いで選択的に間隙空間の表面を処理してこれを疎水性(疎水性処理ステップ)とすることを含む。
【0032】
疎水性高分子材料から作成されている未処理チップでは、水性試料は単純にはマイクロウェルに入らない場合がある。代わりに、液体はマイクロウェル間の間隙空間に留まり得る。マイクロウェルの内表面を親水性とし、間隙空間の疎水性を保つと、液体試料をマイクロウェルに負荷することはより容易となり得る。
【0033】
微細加工チップの全上面(ウェル内部空間と間隙空間を含め)を親水性とするために、微細加工チップは酸素を含むガス(空気または純酸素)の存在下で、例えば、30W以上の出力、1分以上の処理時間でプラズマ処理することができる。こうした処理は、特定の高分子組成及びプラズマ処理に応じてカルボン酸、アルデヒド、アミン、その他を含む高分子上に親水性官能基を生成する。代わりに微細加工チップには、オゾン処理(例えば、1L/min, 60℃のステージで25分間)、UV/オゾン(UVO)処理、コロナ放電、または銅促進酸化を行うことができる。いくつかの実施形態において、金属酸化物の薄層はチップ全体に渡り沈着させ得る。例としては、酸化チタンまたは酸化アルミニウムがあり、これらは物理的沈着(スパッタ法)を含め、いくつかの方法で容易に沈着可能である。
【0034】
いくつかの実施形態において、親水性処理ステップは、微細加工チップのマイクロウェルの底面と側壁および間隙空間の表面に小分子または高分子の親水性層を形成することを含む。例えば、プラズマ化学気相堆積法および/または光化学的表面改質を使用しうる。そうした小分子または高分子の層は、プラズマ、オゾンまたはその他の処理法で処理された新鮮な「活性」表面の上に形成され得る。例えば、環状オレフィン共重合体(COC)表面は、銅で触媒された過酸化により加工され、表面水酸基(これはさらに加工されハイブリッド表面を生じ得る)を導入し得る。CarvalhoらのACS Applied Materials and Interfaces, 2017, 9, 16644を参照のこと。もう一つの例として、COC表面の親水性を高めるため、ポリ(エチレングリコール)メタクリル樹脂(PEGMA)が、2段階逐次法を用い、光グラフトされ得、この2段階逐次法には、共有結合した表面イニシエータを、次いでこれらのイニシエータからPEGMAのグラフト重合を形成することが含まれる。StachowiakらのJ. Sep. Sci. 2007, 30, 1088を参照のこと。
【0035】
いくつかの実施形態において、疎水性処理ステップはある物体を間隙空間の表面と接触させ、間隙空間の表面に疎水性を与えることを含む。その物体はPDMSスタンプの基盤を含み得る。PDMSスタンプは残存する非重合ジメチルシロキサン、またはその他のシラン分子(例えば、オクタデシルトリメトキシシラン(ODTMS))を有する平坦面(微細加工チップの間隙空間と接触するため)を含む場合がある。微細加工チップの上面(しかしマイクロウェルの内表面とではない)と接触するとすぐに、非重合ジメチルシロキサンまたはその他のシランは間隙空間の活性化表面の水酸基またはカルボキシル基に反応し得、その結果、間隙空間の上面に形成された疎水性シラン層が形成される。一つの実施形態において、疎水性シリコン接着剤を含む膜を使用して、微細加工チップの上面に貼付し、次に剥がし、後にマイクロウェルの間の間隙空間上の残存重合および/または非重合PDMSの薄層を残すことができる。
【0036】
金属酸化物の薄層がチップ(ウェルおよび間隙空間に)にすでに沈着されている場合には、PDMSスタンプを利用して、次いでオクタデシルホスホン酸(ODPA)のような疎水性ホスホン酸を間隙空間に移動させることができる。ホスホン酸は、酸化アルミニウムおよび酸化チタンに強くかつ選択的に結合することが示されている。
【0037】
いくつかの実施形態において、疎水性処理ステップは、また間隙空間表面の最上層を選択的に除去することによっても達成し得る。例えば、トルエンのような有機溶媒を使用して間隙空間の最上部薄層を部分的にエッチング処理することができる。この溶媒は、PDMSスタンプに浸み込ませることができ、エッチングの程度は浸み込ませた溶媒の量並びにPDMSスタンプと微細加工チップの接触時間によって制御することができる。
【0038】
他の実施形態において、間隙空間の薄層を取り除くことができ、そして間隙空間はその下にある疎水性基質に戻すことができるように、化学的エッチングと遊離砥粒研磨のハイブリッドである化学的機械的研磨を使用する。このプロセスは高速で回転できる非常に平らな研磨パッドと組み合わせて、研磨性および腐蝕性の化学的スラリーを使用する。研磨パッドの平らな面は微細加工パッドの上面に押し付けて保持することができ、腐蝕性化学物質を利用して微細加工チップの間隙空間から望む深さの素材を除去し得る。
【0039】
いくつかの実施形態において、疎水性処理ステップの前に、微細加工装置上の微細加工チップのマイクロウェルを最初に親水性液体で満たし、マイクロウェルの内表面がそれ以上処理されることを防ぐことができる。このマイクロウェルを満たすステップは微細加工チップの上面に液体の貯留層を広げるスライドガラスを用いることにより行うことができる。このステップは、間隙空間上に保持された液体を導入する場合がある。このような不要な液体は、柔らかいブレードを用い、間隙空間表面をスワイプすることにより除去できる。この柔らかいブレードの素材は、表面のいかなる形状にも適合するように十分柔軟で、液体を引き付け、間隙空間から押しのけるのに十分な親水性である必要があるが、ウェルの液体のすべてを吸収してしまうほど親水性である必要はない。
【0040】
あるいは、または代替として、不要の液体は吸収材で除去することもできる。その素材は、表面のいかなる形状にも適合するように十分柔軟で、間隙空間から液体を除去するのに十分な吸収機能を有する必要がある。しかし、これはウェルのすべての液体を除去してしまうほど吸収性であってはならない。
【0041】
さらに追加として、または代替として、間隙空間に残存している不要の液体は、制御された蒸発によって、すなわち、間隙空間が乾燥するが、十分な量の液体が依然としてマイクロウェルに保持されるように制御された湿度で微細加工チップの周囲の密閉環境を提供することにより除去することができる。
【0042】
マイクロウェルが液体で保護されると、微細加工チップをスタンプと直接接触させる以外の疎水性素材を移行させる方法を使用して、微細加工チップの間隙空間上に疎水性を提供することができる。ある意味で、液体で満たされたマイクロウェルは、マイクロウェルのマスクとして機能する。例えば、有機溶媒を微細加工チップの表面に噴霧して、間隙空間上に以前に形成されていた親水性層をエッチングで戻すことができる。シランを含む溶液または懸濁液もまた、微細加工チップの上面に噴霧して間隙空間上に疎水性フィルムを形成することができる。
【0043】
その他の高分子および小分子もまた、親水性の表面を疎水性フィルムで包埋するために、「から移植する」または「へ移植する」技術を用いることによって、間隙空間に噴霧、プリント、あるいはリソグラフ技術でパターン化することができる。CVDまたはiCVD(開始剤支援化学蒸着法)を使用して、間隙空間上に高分子薄膜を沈着させることもできる。間隙空間の処理後、マイクロウェルの液体は除去可能である。
【0044】
別のアプローチにおいて、微細加工チップの上面全体に対する最初の疎水性処理ステップは省略し得る。代わりに親水性液体がまず微細加工チップ上に塗布され、複数のウェルのそれぞれの少なくとも一部を親水性液体で満たすようにする。間隙空間上に親水性液体の一部が残っている場合は、そうした不要の親水性液体は間隙空間から除去される(例えば、上記に説明されている方法を使用して)。最後にマイクロウェルの内表面が親水性に転換される。マイクロウェルを満たす親水性液体は、適切な濃度の界面活性剤を含み得、これにより界面活性剤の極性尾部基は疎水性ウェルの表面に吸着し、親水性頭部基はこれによりウェルの表面に親水性を提供する。液体は蒸発させ得、界面活性剤がウェル内表面に残る。界面活性剤の濃度は、ウェルの中にのみ利用可能な界面活性剤が連続的な塗膜を形成できることを保証するのに十分低いが、間隙空間の残余界面活性剤は実質的効果をもたらさないであろう。他の実施形態において、親水性液体は、ポリビニルアルコールなどの可溶性高分子を含み得る。水が乾燥消失したとき、ポリビニルアルコールはマイクロウェルの内表面を覆う薄膜を形成する可能性がある。間隙空間上に残るポリビニルアルコールの量は連続性のフィルムを形成するのに十分ではなく、従って間隙空間の疎水性性質を根本的に変えることはない。更に他の実施形態において、親水性液体は、アクリル酸などの重合可能な化合物、および放射線照射あるいはその他の条件で活性化され得る重合開始剤などを含み得る。マイクロウェル内で重合化を開始、実行して、マイクロウェルの内表面上に薄い親水性フィルムを形成することができる。
【0045】
代替の実施形態において、薄いフィルムマスクを微細加工チップの上面上に配置することが可能であり、このマスクは、微細加工チップ上の間隙空間が覆われるように、微細加工チップのマイクロウェルの寸法と相対的位置に適合する貫通孔を有する。一方マイクロウェルは露出される。その後、露出したマイクロウェルは、酸素プラズマ、リソグラフィー、親水性素材の吹付塗装、およびマイクロウェルの内表面を親水性とするための本明細書に説明されている他の技術で処理することができる。次に、薄いフィルムマスクは除去され、その結果、親水性マイクロウェルおよび疎水性間隙空間を有する微細加工チップが得られる。
【0046】
広く知られているように、発明の精神または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されているように、発明に対して多くの変形および/または加工を行うことができることは当業者に理解されるであろう。従って、現在の実施形態は、全ての点において例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
【国際調査報告】