(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(54)【発明の名称】親水性β-シクロデキストリン誘導体で包接錯体を形成する方法及びそれらの組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/69 20170101AFI20220629BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220629BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220629BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220629BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220629BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20220629BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20220629BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20220629BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220629BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220629BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220629BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220629BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220629BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
A61K47/69
A61K45/00
A61P31/04
A61P43/00 113
A61P9/12
A61P33/00
A61P39/06
A61P17/04
A61P17/00
A61P31/12
A61P43/00 111
A61P43/00 112
A61P3/02 101
A61K8/73
A61Q11/00
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564764
(86)(22)【出願日】2020-04-29
(85)【翻訳文提出日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 US2020030535
(87)【国際公開番号】W WO2020223393
(87)【国際公開日】2020-11-05
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521475428
【氏名又は名称】タカ ユーエスエイ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】マッゴーワン タカコ モウリ
(72)【発明者】
【氏名】ヒル サラ キャサリン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076BB31
4C076CC03
4C076CC18
4C076CC21
4C076CC32
4C076CC34
4C076CC35
4C076CC47
4C076EE39A
4C076FF32
4C076FF63
4C083AD251
4C083CC02
4C083DD15
4C083DD17
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD31
4C083DD39
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4C083EE11
4C083EE31
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4C084MA63
4C084NA03
4C084NA05
4C084ZA42
4C084ZA89
4C084ZB33
4C084ZB35
4C084ZB38
4C084ZC01
4C084ZC12
4C084ZC13
4C084ZC22
(57)【要約】
本記載の発明は、活性薬剤とβ-シクロデキストリンの包接錯体、それらの調製方法の改良、該錯体の特性化方法、及び化粧品組成物または医薬組成物としての該錯体の製剤化を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンホストの空洞へのゲスト化合物の組み込みを改良するための方法であって:
(a)前記ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)の空洞内で真空を確立すること、
(b)前記ゲスト化合物を加えることであって、前記ゲスト化合物は、実質的に溶媒を含まないものである、前記加えること、
(c)前記ゲスト化合物を前記空洞に組み込むこと、及び
(d)活性薬剤・ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン包接錯体を形成することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記溶媒が、水性溶媒または有機溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゲスト化合物が、前記シクロデキストリン分子の空洞に、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%包接され得る、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ゲスト化合物の前記HPBCDに対するモル比が、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1~約1:300、すなわち、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:11、約1:12、約1:13、約1:14、約1:15、約1:16、約1:17、約1:18、約1:19、約1:20、約1:21、約1:22、約1:23、約1:24、約1:25、約1:26、約1:27、約1:28、約1:29、約1:30、約1:31、約1:32、約1:33、約1:34、約1:35、約1:36、約1:37、約1:38、約1:39、約1:40、約1:41、約1:42、約1:43、約1:44、約1:45、約1:46、約1:47、約1:48、約1:49、約1:50、約1:51、約1:52、約1:53、約1:54、約1:55、約1:56、約1:57、約1:58、約1:59、約1:60、約1:61、約1:62、約1:63、約1:64、約1:65、約1:66、約1:67、約1:68、約1:69、約1:70、約1:71、約1:72、約1:73、約1:74、約1:75、約1:76、約1:77、約1:78、約1:79、約1:80、約1:81、約1:82、約1:83、約1:84、約1:85、約1:86、約1:87、約1:88、約1:89、約1:90、約1:91、約1:92、約1:93、約1:94、約1:95、約1:96、約1:97、約1:98、約1:99、約1:100であり得る、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ゲスト化合物が、親油性活性薬剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ゲスト化合物が、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、降圧剤、抗原虫剤、抗酸化剤、鎮痒剤、抗皮膚萎縮剤、抗ウイルス剤、腐食剤、カルシウムチャネル遮断薬、サイトカイン調節剤、プロスタグランジンアナログ、化学療法剤、刺激剤、TRPCチャネル阻害剤、及びビタミンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
さらに、治療量の前記活性薬剤包接錯体と医薬的に許容される担体を混合すること、及び医薬組成物を形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記医薬組成物が、
(a)接触に基づく副作用を、前記活性薬剤単独と比較して減少させるため、または
(b)前記非錯化活性薬剤のバイオアベイラビリティと比較した場合のバイオアベイラビリティを改善するため、または
(c)前記非錯化活性薬剤単独の安定性と比較した場合の前記活性薬剤の安定性を改善するため、または
(d)前記非錯化活性薬剤単独の浸透と比較した場合の前記活性薬剤の浸透を改善するため、
(e)前記非錯化活性薬剤単独の保持と比較した場合の前記活性薬剤の標的組織における保持を改善するため、または
(f)前記非錯化活性薬剤単独の毒性と比較した場合の前記活性薬剤の毒性を減少させるため、または
(g)少量の製剤量で、インビボでの位置に最小有効濃度の前記活性薬剤を送達するために有効である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
さらに、ポリマーを用いて前記組成物を製剤化することを含む、請求項7に記載の方法であって、
(a)前記組成物が、遅効性を特徴とするか、または、
(b)前記組成物が、制御放出を特徴とするか、または、
(c)前記組成物が、持続放出を特徴とする、前記方法。
【請求項10】
さらに、化粧品量の前記活性薬剤包接錯体と化粧品的に許容される担体を混合すること、及び化粧品組成物を形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記化粧品組成物が、
(a)接触に基づく副作用を、前記活性薬剤単独と比較して減少させるため、または
(b)前記非錯化活性薬剤のバイオアベイラビリティと比較した場合のバイオアベイラビリティを改善するため、または
(c)前記非錯化活性薬剤単独の安定性と比較した場合の前記活性薬剤の安定性を改善するため、または
(d)前記非錯化活性薬剤単独の浸透と比較した場合の前記活性薬剤の浸透を改善するため、
(e)前記非錯化活性薬剤単独の保持と比較した場合の前記活性薬剤の標的組織における保持を改善するため、または
(f)前記非錯化活性薬剤単独の毒性と比較した場合の前記活性薬剤の毒性を減少させるため、または
(g)少量の製剤量で、インビボでの位置に最小有効濃度の前記活性薬剤を送達するために有効であり得る、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
さらに、ポリマーを用いて前記組成物を製剤化することを含む、請求項10に記載の方法であって、
(a)前記組成物が、遅効性を特徴とするか、または、
(b)前記組成物が、制御放出を特徴とするか、または、
(c)前記組成物が、持続放出を特徴とする、前記方法。
【請求項13】
さらに、前記活性薬剤・ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン包接錯体にデンドリマーを形成させることを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮出願第62/881,130号(2019年7月31日出願)及び米国仮出願第62/841,017号(2019年4月30日出願)に対する優先権の利益を主張する。各出願の内容は、参照により全体として組み込まれる。
【0002】
本記載の発明は、親油性物質の担体としてのシクロデキストリン包接錯体に関する。
【背景技術】
【0003】
シクロデキストリン(CD)は、デンプンの酵素分解によって生成される化学的及び物理的に安定した高分子の群である。それらは水溶性であり、本質的に生体適合性であり、外表面が親水性であり、空洞は親油性である。それらは、α-(1,4)結合によって連結されたグルコピラノース単位の椅子型配座のために、完全な円柱ではなく、円すい台または円環(環状)の形状を有する(Gidwani B,Vyas A.Biomed Res Int.2015;198268、引用Merisko-Liversidge E,et al.Eur J Pharm Sci.2003 Feb;18(2):113-20)。CDは、6つ以上のグルコピラノース単位からなり、シクロアミロース、シクロマルトース、及び初期の研究者にちなんで、シャルディンガーデキストリンとしても知られている(Del Valle EMM.Process Biochem.2004;39(9):1033-1046、引用Villiers A.Compt Rendu 1891;112:536;Eastburn SD,Tao BY.Biotechnol Adv 1994;12:325-39)。
【0004】
CDは、天然及び誘導シクロデキストリンとして分類される。天然シクロデキストリンは、3つの周知の工業的に生産された(メジャー及びマイナー)環状オリゴ糖を含む。最も一般的な天然CDは、それぞれ6、7、及び8個のグルコピラノース単位からなるα、β、及びγである(同上、引用Nash RA.Cyclodextrins.In:Wade A,Weller PJ,editors.Handbook of pharmaceutical excipients.London:Pharm.Press & Am.Pharm.Assoc.;1994.p.145-8)が、天然にδ-、ζ-、ξ-及びさらにはη-シクロデキストリン(9~12残基)が存在する証拠がある(同上、引用Hirose T,Yamamoto Y.日本国特許JP55480(2001))。
【0005】
シクロデキストリンの主な利益は、いくつかの化合物と包接錯体を形成する能力にある(同上、引用Hedges RA.Chem Rev 1998;98:2035-44、Lu X,Chen Y.J Chromatogr A 2002;955:133-40、Baudin C,et al.Int J Environ Anal Chem 2000;77:233-42.Kumar R,et al.Bioresour Technol 2001;28:209-11、Koukiekolo R,et al.Eur J Biochem 2001;268:841-8)。X線構造から、CDでは、二級ヒドロキシル基(C2及びC3)が環の広い方の端に位置し、一級ヒドロキシル基(C6)が他端に位置し、無極性のC3及びC5水素ならびにエーテル様酸素が、円環状分子の内側にあると思われる。これにより、外側が水に溶解することができる親水性であり、疎水性マトリックスを提供する無極性の空洞を有する、「ミクロ不均一環境」と呼ばれる分子となる(同上、引用Szetjli J.TIBTRCH 1989;7:171-4)。
【0006】
この空洞の結果として、CDは、多種多様な疎水性ゲスト分子と包接錯体を形成することが可能である。1つまたは2つのゲスト分子は、1つ、2つ、または3つのシクロデキストリンによって捕捉され得る(同上)。
【0007】
シクロデキストリンの特性
3つの主要なタイプのCD、すなわち、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、及びγ-シクロデキストリンは、第1世代または親シクロデキストリンと呼ばれる。β-シクロデキストリンは、最も入手しやすく、最も低価格であり、一般に最も有用であると考えられている(同上)。γ-シクロデキストリンは、β-シクロデキストリンよりも水溶液にはるかに溶けやすく、比較的優れた錯化能を有する(Loftsson T,Brewster ME.Pharma Tech Eur.1997;9:26-35)。主要なシクロデキストリンの主な特性を、表1に示す(Del Valle EMM.Process Biochem.2004;39(9):1033-1046)。
【表1】
【0008】
天然のシクロデキストリンは、水溶解度が限られており、親油性薬物との錯体形成により、多くの場合、固体の薬物・シクロデキストリン錯体が沈殿する。例えば、β-シクロデキストリンの水への溶解度は、室温でわずか約19mg/mLである。この低水溶解度は、少なくとも部分的に、シクロデキストリンの結晶格子における強い分子内水素結合に関連している。水素結合を形成するヒドロキシル基のいずれかを、メトキシ基等の疎水性部分で置換したとしても、β-シクロデキストリンの水溶解度は増す(Loftsson T,Brewster ME.Pharma Tech Eur.1997;9:26-35)。
【0009】
溶液中のシクロデキストリンの研究は、多数の結晶構造研究によって裏付けられている。シクロデキストリンは、シクロデキストリン及びゲスト化合物のタイプに応じて、2つの主要なタイプの結晶充填、すなわち、チャネル構造及びかご型構造で結晶化する(Del Valle EMM.Process Biochem.2004;39(9):1033-1046)。
【0010】
これらの結晶構造は、錯体中でのシクロデキストリンが、すべてのグルコピラノース単位が4C1椅子型配座で、予想される「円形の」構造を採用していることを示す。さらに、逆平行二重らせんを形成する線状マルトヘキサオースを用いた研究では、α-シクロデキストリンは、環化による立体ひずみ(互いに直接結合していない原子の電子間の反発による分子の位置エネルギーの増加を意味する)が最も少ない形状であり、γ-シクロデキストリンは、最も歪んでいることが示されている(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53)。
【0011】
これらの天然に存在するシクロデキストリンとは別に、多くのシクロデキストリン誘導体が合成されている。これらの誘導体は通常、シクロデキストリンの一級及び二級ヒドロキシル基のアミノ化、エステル化またはエーテル化によって生成される。置換基に応じて、シクロデキストリン誘導体の溶解性は通常、それらの親シクロデキストリンの溶解性とは異なる。事実上、すべての誘導体は、疎水性の空洞容積が変化しており、これらの修飾は、溶解性、光または酸素に対する安定性を改善し、ゲスト分子の化学的活性を制御するのに役立つ(同上、引用Villiers A.Compt Rendu 1891;112:536)。
【0012】
さらに、これらの操作は高い頻度で多数の異性体生成物を生じるため、化学修飾により結晶性シクロデキストリンが非晶質混合物に変換される場合があり、水溶解度及び複雑さが増す(Loftsson T,Brewster ME.Pharma Tech Eur.1997;9:26-35、引用Pitha J,et al.Intl J Pharm.(1986)29:73-82)。例えば、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの異性体混合物は、β-シクロデキストリンの塩基可溶化溶液を、プロピレンオキシドと反応させることによって得られる。2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの水溶解度は、60g/100mLを超える(同上、引用Fromming K-H,Szejtli.Cyclodextrins in Pharmacy;Kluwer Academic Publishers,Dordrecht,The Netherlands,1994、Pitha J,et al.Intl J Pharm.(1986)29:73-82)。モル置換、すなわち、グルコピラノース1単位と反応した平均プロピレンオキシド分子数、及びβ-シクロデキストリン分子上のヒドロキシプロピル基の位置の両方が、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン混合物の錯化特性に影響を与える(同上)。
【0013】
現在入手可能な多くのシクロデキストリンの製薬上の安全性が検討されている(同上、引用Irie T,Uekama K.J Pharm Sci 1997;86:147-162;Fromming K-H,Szejtli.Cyclodextrins in Pharmacy;Kluwer Academic Publishers,Dordrecht,The Netherlands,1994、Duchene D,Wouessidjewe D.Pharmaceutical and Medical Applications of Cyclodextrins,in S.Dumitriu,Ed.,Polysaccharides in Medical Applications;Marcel Dekker,New York,USA,1996:575-602)。親α-、β-及びγ-シクロデキストリン、ならびにそれらの親水性誘導体(例えば、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン及びマルトシル-β-シクロデキストリン)の局所及び経口投与は、ほとんどの状況で安全であると考えられる。親水性のシクロデキストリンは、親油性の生体膜に浸透しにくく、これは、経口、皮膚、または眼のバイオアベイラビリティがごくわずかであることを意味する(同上、引用Hirayama F,Uekama K.Methods of Investigating and Preparing Inclusion Compounds,in D.Duchene,Ed.,Cyclodextrins and Their Industrial Uses;Editions de Sante,Paris,France,1987:131-172)。従って、これらの材料は、真の薬物担体を象徴する。γ-シクロデキストリン、及び親水性β-シクロデキストリン誘導体(例えば、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン及び恐らくはスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン)は、確認された静脈内安全性に基づいて非経口剤形で使用され得る。β-シクロデキストリン及びその親油性、水溶性、メチル化誘導体は、非経口剤形で使用することはできない。β-シクロデキストリンの限られた水溶性のため、この化合物は腎臓に沈着し、これが腎臓毒性を誘導する可能性があり、親油性のシクロデキストリンが、界面活性剤様の効果を発揮し、赤血球を含めた生体膜を不安定にする(同上)。
【0014】
シクロデキストリンは、構成要素としてよく使用される。最大20個の置換基が、β-シクロデキストリンに位置選択的に結合している(特定の原子で他の可能な原子よりも結合形成に有利に働くプロセスを意味する)。均一なシクロデキストリン誘導体の合成には、位置選択的試薬、反応条件の最適化、及び生成物の良好な分離が必要である。最もよく研究されている反応は、OH基での求電子攻撃である。ハロゲン化アルキル、エポキシド、アシル誘導体、イソシアネート、及びC-OH結合のスルホン酸クロリド開裂としての無機酸誘導体によるエーテル及びエステルの形成もよく研究されており、アジドイオン、ハロゲン化物イオン、チオール、チオ尿素、及びアミン等の化合物による求核攻撃が含まれる。これには、電子吸引基による酸素原子の活性化が必要である(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53)。
【0015】
それらが他のシクロデキストリンに共有結合または非共有結合で特異的に連結する能力のため、シクロデキストリンは、超分子複合体の構築のための構成要素として使用され得る。それらが有機ホスト分子と包接錯体を形成する能力は、超分子スレッドを構築する可能性を与える。このようにして、カテナン、ロタキサン、ポリロタキサン、及びチューブ等の分子構造を構築することができる。他の方法では調製することができないかかる構成要素は、例えば、分子とエナンチオマーの複雑な混合物の分離に使用され得る(Del Valle EMM.Process Biochem.2004;39(9):1033-1046、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53)。
【0016】
包接錯体の形成
シクロデキストリンの最も注目すべき特徴は、それらが非常に広範囲の固体、液体及び気体化合物と、分子錯体形成により、固体包接錯体(ホスト・ゲスト錯体)を形成する能力である(同上、引用Villiers A.Compt Rendu 1891;112:536)。これらの錯体では、ゲスト分子は、シクロデキストリンホスト分子の空洞内に保持される。錯体形成は、ホストの空洞とゲスト分子間の寸法の適合である(同上、引用Munoz-Botella S,et al.Ars Pharm 1995;36:187-98)。シクロデキストリン分子の親油性の空洞は、適切なサイズの非極性部分が入り込んで包接錯体を形成することができる微小環境を提供する(同上、引用Loftsson T,Brewster ME.J Pharm Sci 1996;85:1017-25)。包接錯体の形成中に共有結合が切断されることも形成されることもない(同上、引用Schneiderman E,Stalcup AM.J Chromatogr B 2000;745:83-102)。錯体形成の主な推進力は、空洞からのエンタルピーに富む水分子の放出である。水分子が、溶液中に存在する疎水性のより高いゲスト分子で置き換わり、無極性-無極性会合及びシクロデキストリンの環ひずみの減少を達成し、より安定した低エネルギー状態をもたらす(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53)。
【0017】
ホストシクロデキストリン内のゲスト分子の結合は、固定されているのでも永続的でもなく、動的平衡である。結合の強さは、「ホスト・ゲスト」錯体が、どの程度適合するか、及び表面原子間の特定の局所的相互作用に依存する。錯体は、溶液中で形成される場合または結晶状態で形成される場合があり、通常は水が最適な溶媒である。包接錯体形成は、共溶媒系かつ任意の非水溶媒の存在下で達成することができる。シクロデキストリンの構造は、これらの分子に、同じ分子量範囲の非環状炭水化物によって示されるものとは著しく異なる幅広い化学的性質を与える(同上)。
【0018】
シクロデキストリンへの包接は、ゲスト分子がホストの空洞内で一時的に固定されるかまたは閉じ込められるため、ゲスト分子の物理化学的特性に大きな影響を及ぼし、他の方法では達成することができない有益な修飾をゲスト分子に引き起こす(同上、引用Schmid G Trends Biotechnol 1989;7:244-8)。これらの特性とは、高度に不溶性のゲストの溶解性向上、酸化、可視光またはUV光及び熱の分解の影響に対して不安定なゲストの安定化、揮発性及び昇華の制御、非相溶化合物の物理的分離、クロマトグラフィー分離、異臭、不快臭のマスキングによる味覚の改善、ならびに薬物及びフレーバーの制御放出である。従って、シクロデキストリンは、食品(同上、引用Fujishima N,et al.日本国特許JP136,898(2001))、医薬品(同上、引用Bhardwaj R,et al.J Pharm Sci Technol 2000;54:233-9)、化粧品(同上、引用Holland L,et al.PCT国際出願WO67,716(1999))、環境保護(同上、引用Lezcano M,et al.J Agric Food Chem 2002;50:108-12)、生物変換(同上、引用Dufosse L,et al.Biotechnol Prog 1999;15:135-9)、包装及び繊維産業(同上、引用Hedges RA.Chem Rev 1998;98:2035-44)に使用される。
【0019】
シクロデキストリンへの分子封入の潜在的なゲストのリストは非常に多様であり、直鎖または分岐鎖脂肪族、アルデヒド、ケトン、アルコール、有機酸、脂肪酸、芳香族化合物、気体、及び極性化合物、例えば、ハロゲン、オキシ酸及びアミン等の化合物を含む(同上、引用Schmid G.Trends Biotechnol 1989;7:244-8)。複数の反応性ヒドロキシル基が利用できるため、シクロデキストリンの機能は、化学修飾によって大幅に向上する。修飾により、シクロデキストリンの用途が拡大する。CDは、該分子の第一及び/または第二面で様々な機能性化合物を置換することによって修飾される。例えば、修飾CDは、置換官能基が分子認識において機能するため、酵素模倣物として有用である。修飾CDは、天然のCDよりもエナンチオ選択性が高いため、同じ特性が標的薬物送達及び分析化学に使用される(同上、引用Villiers A.Compt Rendu 1891;112:536)。
【0020】
シクロデキストリンがゲスト分子と包接錯体を形成する能力は、2つの重要な要因の関数である。第一は立体であり、ゲスト分子またはゲスト内のある特定の重要な官能基のサイズと比較したシクロデキストリンの相対サイズに依存する。ゲストが間違ったサイズの場合、それはシクロデキストリンの空洞内に正しく適合しない。第二の重要な要因は、系の様々な成分(シクロデキストリン、ゲスト、溶媒)間の熱力学的相互作用である。錯体を形成するためには、ゲストをシクロデキストリンに引き込むのに有利な正味のエネルギー推進力が必要である(同上)。
【0021】
シクロデキストリンの空洞の高さは3つのタイプすべてで同じであるが、グルコース単位の数によって空洞の内径及びその容積が決まる。これらの寸法に基づいて、α-シクロデキストリンは通常、低分子量の分子または化合物を脂肪族側鎖と錯化することができ、β-シクロデキストリンは、芳香族化合物及びヘテロ環を錯化し、γ-シクロデキストリンは、より大きな分子、例えば、大員環及びステロイドを収容することができる(同上)。
【0022】
一般に、包接錯体を形成するように平衡を移すのに役立つ4つのエネルギー的に有利な相互作用が存在する:(1)無極性シクロデキストリンの空洞からの極性の水分子の移動、(2)移動した水がより大きなプールに戻る際に形成される水素結合数の増加、(3)疎水性ゲストと水性環境間の反発相互作用の減少、及び(4)ゲストが無極性のシクロデキストリンの空洞に入る際の疎水性相互作用の増加(同上)。
【0023】
錯体を形成するこの初期平衡は、極めて迅速(多くの場合数分以内)であるが、最終平衡に達するにははるかに長い時間がかかり得る。シクロデキストリンの空洞内に入ると、ゲスト分子は立体配座の調整を行い、存在する弱いファンデルワールス力を最大限に活用する(同上)。
【0024】
包接錯体の解離は、周囲の環境の水分子数の大幅な増加によって通常は推進される比較的迅速なプロセスである。得られる濃度勾配は、平衡を左に移動させる。体のような高度に希薄で動的な系では、ゲストは、錯体を再形成するための別のシクロデキストリンを見つけるのが困難であり、溶液中では遊離のままである(同上)。
【0025】
平衡
シクロデキストリン分子の中央の空洞には、グルコース残基の骨格炭素及びエーテル酸素が並んでいる。それ故、それは親油性である。空洞の極性は、エタノール水溶液の極性と類似していると推定される(同上、引用Fromming KH,Szejtli J.Cyclodextrins in pharmacy.Topics in inclusion science.Dordrecht:Kluwer Academic Publishers;1994)。それは、適切なサイズの薬物分子が入り、包接され得る親油性の微小環境を提供する。通常、1つの薬物分子が1つのシクロデキストリン分子と錯体を形成する。
【0026】
薬物・シクロデキストリン錯体の安定性または平衡定数(Kc)もしくは解離定数(Kd)の測定は、これが包接時の化合物の物理化学的特性の変化の指標であるために重要である。K値を決定するためのほとんどの方法は、ゲスト分子、例えば、薬物分子の物理化学的特性の変化を、シクロデキストリンで滴定し、その後濃度依存性を分析することに基づく。K値に関する情報を提供するためのこの方法で滴定することができる加成性としては、水溶解度(同上、引用Hirayama F,Uekama K.Methods of investigating and preparing inclusion compounds.In:Duchene D,editor.Cyclodextrins and their industrial uses.Paris:Editions de Sante;1987.p.131-72;Higuchi T,Connors KA.Adv Anal Chem Instrum 1965;4:117-212、Sigurdardottir AM,Loftsson T.Int J Pharm 1995;126:73-8、Hussain MA,et al.J Pharm Sci 1993;82:77-9)、化学反応性(同上、引用Loftsson T.Drug Stabil 1995;1:22-33;Masson M,et al.Int J Pharm 1998;164:45-55)、モル吸収係数及び他の光学特性(例えば、旋光分散)、相溶解度測定(同上、引用Liu F,et al.Pharm Res 1992;9:1671-2)、核磁気共鳴化学シフト、pH測定法、熱量滴定、凝固点降下(同上、引用Suzuki M,et al.Chem Pharm Bull 1993;41:1616-20)、及び液体クロマトグラフィーのクロマトグラフ保持時間が挙げられる。ゲストまたはホストの両方の変更を使用して平衡定数を生成することは可能であるが、ゲストの特性が、通常は最も容易に評価される。
【0027】
錯体形成
シクロデキストリン包接は、化学量論的分子現象であり、通常、1つのゲスト分子のみがシクロデキストリン分子の空洞と相互作用して捕捉される。いくつかの低分子量分子の場合、複数のゲスト分子が空洞に収まる可能性があり、いくつかの高分子量分子の場合は、複数のシクロデキストリン分子がゲストに結合する可能性がある。原則として、該分子の一部のみが、錯体を形成するために空洞に適合する必要がある。その結果、特に高分子量または低分子量のゲストでは、1対1のモル比が常に達成されるとは限らない。様々な非共有結合力、例えば、ファンデルワールス力、疎水性相互作用及び他の力は、安定錯体の形成に関与する(同上)。
【0028】
錯体は、活性物質の特性、平衡動力学、他の製剤成分及びプロセスならびに所望の最終剤形に依存する様々な技術によって形成され得る。しかしながら、これらプロセスの各々は、熱力学の推進を助ける少量の水に依存している。使用される方法の中には、単純な乾式混合、溶液及び懸濁液中での混合とその後の適切な分離、ペーストの調製ならびにいくつかの熱機械的技術がある(同上)。
【0029】
結晶形では、シクロデキストリン結晶の表面分子のみが錯化に利用可能である。溶液中では、より多くのシクロデキストリン分子が利用可能になる。加熱は、シクロデキストリンの溶解性及びゲストの溶解性を高め、これが、錯体形成の確率を上げる。ゲスト化合物が可溶性の形態または分散した微粒子のいずれかである場合、錯化はより迅速に生じる(同上)。錯体は、過剰量の薬物をシクロデキストリン水溶液に加えることによって調製され得る(Loftsson T,Brewster ME.Pharma Tech Eur.1997;9:26-35)。生じた懸濁液は平衡化され(所望の温度で最大1週間)、その後濾過または遠心分離され、透明な薬物・シクロデキストリン錯体溶液が形成される。錯体形成における律速段階は、多くの場合、薬物分子の相間転移であり、このプロセスを短縮することは、超音波処理とその後の沈殿による過飽和溶液の形成により可能な場合がある。固体錯体の調製の場合、蒸発または昇華、例えば、噴霧乾燥または凍結乾燥によって薬物・シクロデキストリン水溶液から水が除去される(同上)。
【0030】
温度は、シクロデキストリン錯体に複数の影響を与える。加熱は、錯体の溶解性を高めることができるが、同時に錯体を不安定にもする。多くの場合、これらの影響のバランスをとる必要がある。錯体の熱安定性は、ゲストごとに異なるため、ほとんどの錯体が50℃~60℃で分解し始める一方、いくつかの錯体は特に、ゲストが強く結合している場合や、錯体が高度に不溶性である場合は高温で安定である(Del Valle EMM.Process Biochem.2004;39(9):1033-1046)。
【0031】
水は、最も一般的に使用される溶媒であり、錯化反応がその中で行われる。シクロデキストリンが溶媒に溶けやすいほど、より多くの分子が錯化に利用可能になる。溶媒がシクロデキストリンと錯体を形成する場合、ゲストは、溶媒をシクロデキストリンの空洞から移動させることが可能でなければならない。水は、例えば、極めて容易に移動する。無溶媒錯体が望ましい場合は、溶媒は、容易に除去されなければならない。多成分ゲストの場合、成分の1つが溶媒として機能し、ゲストとして包接され得る。すべてのゲストが容易に水に溶解するわけではなく、錯化が極めて遅くなるか、不可能になる。かかる場合、有機溶媒を使用してゲストを溶解することができる。該溶媒は、シクロデキストリンと十分に錯化しないものであるべきであり、蒸発によって容易に除去されるべきである。エタノール及びジエチルエーテルが、かかる溶媒の好例である(同上)。
【0032】
水の量が増加すると、シクロデキストリン及びゲストの両方の溶解性が増し、錯化が起こりやすくなる。しかしながら、水の量がさらに増加すると、シクロデキストリン及びゲストが非常に希釈され、より濃度の高い溶液の場合ほど容易には接触しない可能性がある。従って、水の量を、錯化を十分に速い速度で引き起こすように十分低く保つことが望ましい(同上)。
【0033】
いくつかの高分子量化合物、例えば、油は、シクロデキストリンと相互作用するよりは、それら自体で会合する傾向がある。かかる場合、より多くの水を十分に混合することで、油分子の分散及び分離、または油分子の互いからの単離を良好にすることができる。これらの油分子がシクロデキストリンと接触すると、それらは、より少ない水が存在した場合に形成するよりも安定な錯体を形成する(同上)。
【0034】
揮発性のゲストは、特に熱が使用された場合、錯化中に失われる可能性がある。揮発性の高いゲストの場合、これは、密閉反応器を使用するか、または揮発性のゲストを混合容器に還流で戻すことによって防ぐことができる(同上)。
【0035】
共沈、中和ならびに混練及び粉砕技術を含めた他の方法もまた、固体薬物・シクロデキストリン錯体の調製に適用され得る(Loftsson T,Brewster ME.Pharma Tech Eur.1997;9:26-35、引用Hirayama F,Uekama K.Methods of Investigating and Preparing Inclusion Compounds,in D.Duchene,Ed.,Cyclodextrins and Their Industrial Uses;Editions de Sante,Paris,France,1987:131-172)。混練法では、薬物を、水難溶性シクロデキストリン、例えば、β-シクロデキストリンの水性スラリーに添加する。該混合物を、多くの場合高温で完全に混合してペーストを得、これをその後乾燥する(同上、引用Hirayama F,Uekama K.Methods of Investigating and Preparing Inclusion Compounds,in D.Duchene,Ed.,Cyclodextrins and Their Industrial Uses;Editions de Sante,Paris,France,1987:131-172)。この技術は、100℃を超える温度で真空下操作することができる市販のミキサーを使用して、一段階で達成することができるようにしばしば変更され得る。該混練法は、水難溶性薬物の固体シクロデキストリン錯体を調製するための費用効果の高い手段である(同上)。
【0036】
共沈は、実験室で最も広く使用されている方法である(Del Valle EMM.Process Biochem.2004;39(9):1033-1046)。シクロデキストリンを水に溶解し、該シクロデキストリン溶液を攪拌しながらゲストを加える。ゲストがより高い温度に耐えることができる場合、β-シクロデキストリンの濃度は約20%の高さにすることができる。十分に高い濃度が選択された場合、当該シクロデキストリン・ゲスト錯体の溶解性は、錯化反応がすすむにつれ、または冷却が適用されるにつれて超過する。多くの場合、シクロデキストリンとゲストの溶液は、沈殿が生じる前に攪拌しながら冷却する必要がある。該沈殿は、デカント、遠心分離または濾過によって回収され得る。沈殿物は、少量の水または他の水混和性溶媒、例えば、エチルアルコール、メタノールまたはアセトンで洗浄され得る(同上)。沈殿剤として使用される有機溶媒は、錯化を妨げる可能性があり、このアプローチの魅力を低下させる(Loftsson T,Brewster ME.Pharma Tech Eur.1997;9:26-35)。
【0037】
共沈法の主な欠点は、スケールアップにある。シクロデキストリンの溶解性は限られているため、大量の水を使用する必要がある。タンクの容量、加熱及び冷却のための時間及びエネルギーは、重要な原価要素になり得る。錯体を収集した後に得られる母液の処理及び廃棄もまた懸念となり得る。多くの場合、母液をリサイクルすることでこれを軽減することができる(Del Valle EMM.Process Biochem.2004;39(9):1033-1046,引用Loftsson T,et al.Eur J Pharm Sci 1993;1:95-101、Pitha J,Hoshino T.Int J Pharm 1992;80:243-51)。さらに、非イオン性界面活性剤はジアゼパムのシクロデキストリン錯化を低減し、保存剤は、様々なステロイドのシクロデキストリン錯化を低減することが示されている(同上、引用Loftsson T,et al.Drug Devel Ind Pharm 1992;18(13):1477-84)。一方、エタノール等の添加剤は、固体または半固体状態での錯体形成を促進する可能性がある(同上、引用Furuta T,et al.Supramol Chem 1993;1:321-5)。イオン化していない薬物は、通常、そのイオン対応物よりも安定なシクロデキストリン錯体を形成するため、塩基性薬物の錯化効率は、当該錯化水性媒体にアンモニアを添加することによって高められ得る。例えば、ヒドロキシプロピル-シクロデキストリンによるパンクラチスタチンの可溶化は、水酸化アンモニウムの添加により最適化された(同上、引用Torres-Labandeira JJ,et al.J Pharm Sci 1990;80:384-6)。
【0038】
スラリー錯化では、錯体を形成するためにシクロデキストリンを完全に溶解する必要はない。シクロデキストリンは、50~60%もの高さの固形分で水に加えて攪拌することができる。当該水相は、溶液中のシクロデキストリンで飽和される。ゲスト分子は、溶液中のシクロデキストリンと錯体を形成し、当該シクロデキストリン錯体が水相を飽和状態にするにつれ、該錯体は、該水相中で結晶化または沈殿する。該シクロデキストリン結晶は溶解し、該水相を飽和状態にし続けて錯体を形成し、該水相中で沈殿または結晶化し、当該錯体は、共沈法と同じ方法で回収され得る。錯化を完了するために必要な時間は可変であり、ゲストによる。必要な時間を決定するためにアッセイを行う必要がある。一般に、スラリー錯化は、周囲温度で行われる。多くのゲストでは、錯化の速度を上げるためにいくらかの熱を加える場合があるが、加熱が多すぎると、錯体を不安定にする可能性があり、錯化反応が完全に生じない可能性があるため、注意が必要である。この方法の主な利点は、必要な水の量及び反応器のサイズの減少である(同上)。
【0039】
ペースト錯化は、スラリー法の変形である。ごく少量の水を加えてペーストを形成し、これを乳鉢と乳棒を使用して、または大規模にニーダーを使用してシクロデキストリンと混合する。必要な時間は、ゲストによって決まる。得られた複合体は、直接乾燥される場合もあれば、少量の水で洗浄し、濾過または遠心分離で回収される場合もある。ペーストが乾燥し、微粉の代わりに硬い塊を形成することがある。これは、ゲスト及びペーストに使用された水の量に左右される。一般に、その硬い塊を完全に乾燥して粉砕することにより、該錯体の粉末形状を得ることができる(同上)。
【0040】
高湿度での混合及び加熱は、追加の水をほとんどまたは全く使用しない。水の量は、シクロデキストリン及び添加するゲストの水和水の量から、無水ベースで最大20~25%の水にまで及び得る。この量の水は、通常、共沈法またはスラリー法の濾過ケーキに見られる。ゲストとシクロデキストリンを完全に混合し密閉容器に入れる。該密閉容器及びその内容物を、約100℃に加熱し、その後、該内容物を取り出して乾燥する。加える水の量、混合の程度、及び加熱時間は、ゲストごとに最適化する必要がある(同上)。
【0041】
押し出しは、加熱及び混合方法の変形であり、連続システムである。シクロデキストリン、ゲスト及び水は、予め混合してもよいし、または押出機に加えながら混合してもよい。混合の程度、加熱の量及び時間は押出機のバレルで制御することができる。水の量に応じて、押し出された錯体を冷却しながら乾燥してもよいし、または該錯体をオーブンに入れて乾燥してもよい。押し出しは、連続プロセスであるという利点及び極めて少量の水を使用するという利点を有する。発生する熱のために、いくつかの熱に不安定なゲストは、この方法を使用すると分解する(同上)。
【0042】
いくつかのゲストは、シクロデキストリンにゲストを加え、それらを乾式混合するだけで錯化され得る。これは、油または液体のゲストに最適である。必要な混合時間は可変であり、ゲストによる。一般に、この方法は周囲温度で行われ、ペースト法の変形である。主な利点は、洗浄ステップを使用しない限り、水を加える必要がないことである。その不利な点は、スケールアップでのケーキングのリスクであり、混合が十分に徹底されず、不完全な錯化及び、多くのゲストでは、必要な時間の長さにつながる(同上)。
【0043】
イオン性薬物の固体錯体は、中和法によって調製される場合があり、この場合、該薬物は、酸性(塩基性薬物の場合)または塩基性(酸性薬物の場合)のシクロデキストリン水溶液に溶解される。次に、適切なpH調整によって該薬物の溶解度を下げ(すなわち、イオン化されていない薬物の生成)、溶液から当該錯体を追い出す。固体の薬物・シクロデキストリン錯体は、薬物とシクロデキストリンの物理的混合物を粉砕し、その後該混合物を密閉容器にて60℃~90℃まで加熱することによっても形成され得る(Loftsson T,Brewster ME.Pharma Tech Eur.1997;9:26-35、引用Nakai Y,et al.Chem Pharm Bull 1991;39:1532-1535)。
【0044】
複合体はまた、噴霧乾燥することもできる。粒子が大きくなりすぎてアトマイザーまたはスプレーノズルを塞がないように、沈殿を制御する必要がある。揮発性のゲストの場合、損失を減らすために、乾燥条件のいくらかの最適化が必要である。噴霧乾燥は、揮発性が高く熱に不安定なゲストを乾燥するのに実行可能な手段ではない(Del Valle EMM.Process Biochem.2004;39(9):1033-1046)。
【0045】
放出
錯体が生じて乾燥すると、一般に、それは非常に安定であり、乾燥条件下の周囲温度では長い保存可能期間を示す。錯化したゲストを別のゲストで置き換えるには、加熱が必要である。多くの場合、水がゲストを置換する。錯体が水中に配置された場合、2つのステップが錯化したゲストの解放に関与する。第一に、錯体が溶解する。第二のステップは、錯化したゲストが水分子によって移動した場合の放出である。遊離及び錯化シクロデキストリン、ゲストならびに溶解した及び未溶解の錯体間で平衡が確立する。複数のゲスト成分またはシクロデキストリンタイプを含む錯体の場合、ゲスト分子は、必ずしも元のゲスト混合物と同じ比率で放出されるわけではない。各ゲストの錯体は、異なる溶解性及び当該錯体からの放出速度を有し得る。成分ごとに放出速度が異なる場合は、ゲストの配合を変更することにより、意図した放出パターンを得ることが可能である(同上)。
【0046】
シクロデキストリンの用途
シクロデキストリン及びそれらの誘導体の特性は、それらを分析化学、農業、製薬領域、ならびに食品及び洗面用製品での用途に適したものにする(同上、引用Singh M,et al.Biotechnol Adv 2002;20:341-59)。
【0047】
化粧品、パーソナルケア及び洗面道具
シクロデキストリンの使用は、包接化合物からの芳香の制御放出により、香水、室内芳香剤及び洗剤の揮発性抑制に有益であることが証明されている。この部門におけるシクロデキストリンの主な利点は、安定化、臭気制御、及び液体成分の固形への変換におけるプロセスの改善である。用途としては、練り歯磨き、スキンクリーム、液体及び固体柔軟剤、ペーパータオル、ティッシュ及び脇下シールドが挙げられる。ゲストとCDの相互作用は、揮発のために乗り越える際のより高いエネルギー障壁を生み出し、ひいては、長続きする芳香を生み出す(同上、引用Prasad N,et al.欧州特許1,084,625;1999)。芳香はCDに封入され、得られる包接化合物は、リン酸カルシウムと錯化され、入浴剤の製造において芳香を安定化させる(同上、引用Tatsuya S.日本国特許11,209,787;1999)。Holland et al.(1999)は、CDを含む化粧品組成物を調製し、長続きする芳香を創出した(同上、引用Holland L,et al.PCT国際出願WO67,716;1999)。CDベースの組成物は、体臭を低減するための様々な化粧品にも使用されている(同上、引用Trinh J,et al.米国特許5,897,855;1999)。この部門でのCDの主な利点は、安定化、臭気制御、液体成分の固形への変換におけるプロセスの改善、リップスティックにおけるフレーバー保護及びフレーバー送達、水溶性及び油の熱安定性の向上である(同上、引用Buschmann HJ,Schollmeyer E.J Cosmet Sci 2002;53:575-92)。他の用途の一部としては、練り歯磨き、スキンクリーム、液体及び固体柔軟剤、ペーパータオル、ティッシュ及び脇下シールドでの使用が挙げられる(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53)。
【0048】
タルカムパウダー等の皮膚用製品にCD錯化芳香を使用することで、長期間にわたる蒸発及び酸化による損失に対して芳香が安定化する。当該製品の抗微生物効果もまた向上する(同上、引用Hedges RA.Chem Rev 1998;98:2035-44)。サイズが12mm未満の乾燥CD粉末は、おむつ、月経用品、ペーパータオル等の臭気制御に使用され、臭気のあるメルカプタンの揮発性の低減のためのヘアケア製品にも使用される。ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン界面活性剤は、単独で、または他の成分と組み合わせて、抗微生物活性を改善する(同上、引用Woo RAM,et al.米国特許5,942,217;1999)。CDを使用した食器用洗剤及び洗濯洗剤組成物は、洗浄した物品の臭気をマスクすることができる(同上、引用Foley PR,et al.PCT国際出願WO01 23,516;2000;Angell WF,France,PA.PCT国際出願WO01 18,163;2001)。シリカベースの練り歯磨きに使用されるCDは、シクロデキストリンの錯化によってトリクロサン(抗菌剤)の利用可能性を高め、トリクロサンの利用可能性の約3倍の向上をもたらす(同上、引用Loftsson T,et al.J Pharm Sci 1999;88:1254-8)。CDの空洞は、UVフィルターと皮膚の間の相互作用を制限するため、CDは、1:1の比(日焼け止め/ヒドロキシプロピルβ-CD)で日焼け止めローションの調製に使用され、当該調製物の副作用を減少させる。同様に、CDをセルフ・タンニングエマルジョンまたはクリームに組み込むことにより、性能及び保存可能期間が改善される。おまけに、その日焼けは、従来のジヒドロキシアセトン製品によって生じる黄色及び赤みを帯びた色合いよりも自然に見える(同上、引用Scalia S,et al.J Pharm Pharmacol 1999;51:1367-74)。
【0049】
食品及びフレーバー
シクロデキストリンは、フレーバー保護またはフレーバー送達のための食品配合に使用される。それらは、脂肪、フレーバー及び色を含めた様々な分子と包接錯体を形成する。ほとんどの天然及び人工フレーバーは、揮発性の油または液体であり、シクロデキストリンとの錯化は、フレーバー保護に使用される従来の封入技術に代わる有望な手段を提供する。シクロデキストリンは、例えば、ミルク、バター及び卵等の製品からコレステロールを除去するための加工助剤としても使用される。シクロデキストリンは、ペストリー生地及び肉製品に対して食感を改善する効果があると報告されている。他の用途は、苦味、悪い臭い及び味を減らし、長期保存に供した場合にフレーバーを安定化させるためのそれらの能力から生じる。マヨネーズ、マーガリンまたはバタークリーム等のエマルジョンは、α-シクロデキストリンで安定化され得る。β-シクロデキストリンを使用して、ミルクからコレステロールを除去し、低コレステロールの乳製品が製造され得る(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53、Hedges RA.Chem Rev 1998;98:2035-44)。
【0050】
シクロデキストリンは、分子封入剤として機能し、食品を加工する多くの厳密な冷凍、解凍及び電子レンジ加熱法全体にわたってフレーバーを保護する。分子封入剤としてのβ-CDは、他の封入剤と比較して、フレーバーの質及び量をより大きな程度まで及びより長い期間保存されるようにし、食品を長持ちさせる(同上、引用Loftsson T, Brewster ME.J Pharm Sci 1996;85:1017-25)。日本では、シクロデキストリンは、20年超にわたって食品用の「加工デンプン」として承認されており、生鮮食品の臭気をマスクし、魚油を安定化させる働きをしている。一部のヨーロッパ諸国、例えば、ハンガリーでは、γ-シクロデキストリンが、その低毒性のため、ある特定の用途での使用に対して承認されている(同上)。
【0051】
CDを、甘味料、例えば、アスパルテームと錯化することで、味が安定化及び改善される。それはまた、他の甘味料、例えば、ステビオシド、グリチルリチン及びルブソシドの苦い後味を除去する。CDによるフレーバーの強化は、アルコール飲料、例えば、ウイスキー及びビールに対しても請求されている(同上、引用Parrish MA.Cyclodextrins-a review.England:Sterling Organics;1988;Newcastle-upon-Tyne NE3 3TT)。柑橘果汁の苦味は、リモノイド(主にリモニン)及びフラボノイド(主にナリンギン)の存在によって生じる業界の主要な問題である。架橋シクロデキストリンポリマーは、包接錯体によってこれらの苦味成分を除去するのに有用である(同上)。
【0052】
加工助剤におけるCDの最も一般的な使用は、動物性食品、例えば、卵、乳製品からのコレステロールの除去である。CD処理された材料は、コレステロールの80%の除去を示す。遊離脂肪酸もまた、CDを使用して脂肪から除去することができ、ひいては、脂肪のフライ特性が向上する(例えば、煙の形成の減少、発泡の減少、褐色化及び表面の油残渣の堆積の減少)(同上、引用Hedges RA.Chem Rev 1998;98:2035-44)。酵素的褐変を引き起こすフェノール化合物を除去するため、果物及び野菜ジュースもまたCDで処理される。ジュースでは、ポリフェノールオキシダーゼが、無色のポリフェノールを着色化合物に変換し、CDを加えると、錯化によりポリフェノールオキシダーゼがジュースから除去される。Sojo et al.(1999)が、o-ジフェノールのバナナポリフェノールオキシダーゼによる酸化に対するシクロデキストリンの影響を調べたところ、シクロデキストリンが、阻害剤としてだけでなく活性化剤としても作用することを発見した(同上、引用Sojo MM,et al.J Agric Food Chem 1999;47:518-23)。Sung(1997)は、1~4%のCDと刻んだ根生姜を混合することにより、褐変も腐敗もなく、真空中、低温で4週間以上それを保存することができることを立証した(同上、引用Sung H.Republic of Korea KR9,707,148;1997)。
【0053】
フラボノイド及びテルペノイドは、抗酸化特性及び抗微生物特性を有するが、それらの極めて低い水溶解度及び苦味のために食品としては利用することができない。Sumiyoshi(1999)は、シクロデキストリン錯化によるこれら植物成分(フラボノイド及びテルペノイド)の特性の改善について論じた(同上、引用Sumiyoshi H.Nippon Shokuhin Shinsozai Kenkyukaishi 1999;2:109-14)。CDは、様々な方法で食品の調製に使用される。例えば、高度に分岐したCDは、小麦粉系の製品、例えば、麺、パイ生地、ピザシート及び餅に使用され、生地に弾力性及び柔軟性を与える(同上、引用Fujishima N,et al.日本国特許JP136,898;2001)。それらはまた、リンゴジュースの調製におけるtrans-2-ヘキサナリン(trans-2-hexanalin)を含む抗微生物性食品保存剤の調製、ならびに生薬及び健康食品の調製のための薬用キノコの加工にも使用される(同上、引用Takeshita K,Urata T.日本国特許JP29,054;2001)。CDは、徐放性粉末フレーバー及び菓子製品の調製に使用され、顧客から高く評価されている特性であるフレーバーを長期間保持するためにチューインガムにも使用されている(同上、引用Mabuchi N,Ngoa M.日本国特許JP128,638;2001)。
【0054】
医薬品
原薬は、細胞膜に容易に送達されるためにある程度の水溶性を有さなければならないが、膜を通過するように十分に疎水性である必要がある。シクロデキストリンのユニークな特性の1つは、生体膜を通した薬物送達を高める能力である(同上)。シクロデキストリン分子は比較的大きく(分子量はほぼ1000~1500超に及ぶ)、水和した外面を有し、通常の条件下では、シクロデキストリン分子は、かなり困難にしか生体膜を通過しない(同上、引用Fromming KH,Szejtli J.Cyclodextrins in pharmacy.Topics in inclusion science.Dordrecht:Kluwer Academic Publishers;1994、Rajewski RA,Stella VJ.J Pharm Sci 1996;85:1142-68)。シクロデキストリンは、疎水性薬物分子を溶液中に保持し、それらを生体膜の表面、例えば、皮膚、粘膜または眼角膜に送達することによって真の担体として作用し、そこでそれらが膜に分配すると一般に認識されている。比較的親油性の膜は、親水性シクロデキストリン分子に対する親和性が低いため、該分子は、水性の膜の外側、例えば、水性媒体系(例えば、水中油型クリームまたはヒドロゲル)、唾液または涙液に残る。従来の浸透促進剤、例えば、アルコール及び脂肪酸は、生物学的障壁の脂質層を破壊する。一方、シクロデキストリンは、生物学的障壁の表面での薬物の利用可能性を高めることにより、浸透促進剤として機能する。例えば、シクロデキストリンは、水性皮膚製剤(同上、引用Uekama K,et al.J Pharm Pharmacol 1992;44:119-21)、水性洗口溶液(同上、引用Kristmundsdottir T,et al.Int J Pharm 1996;139:63-8)、経鼻薬物送達システム(同上、引用Kublik H,et al.Eur J Pharm Biopharm 1996;42:320-4)、及びいくつかの点眼液(同上、引用Loftsson T,Stefansson E.Drug Devel Ind Pharm 1997;23:473-81、van Dorne H.Eur J Pharm Biopharm 1993;39:133-9、Jarho P,et al.Int J Pharm 1996;137:209-17)で良好に使用されている。
【0055】
医薬活性薬剤の大部分は水に十分に溶解せず、不溶性薬物の従来の製剤システムは、有機溶媒、界面活性剤、及び極端なpH条件の組み合わせを含むが、これらは多くの場合、刺激または他の有害反応を引き起こす。シクロデキストリンは刺激物ではなく、明白な利点、例えば、活性化合物の安定化、薬物分子の揮発性の低減、ならびに悪臭及び苦味のマスキングをもたらす(同上)。
【0056】
医薬品分野では、シクロデキストリンに対する用途が数多く存在する。例えば、α-またはβ-シクロデキストリンの添加は、いくつかの水難溶性物質の水溶性を増加させる。場合によっては、これがバイオアベイラビリティの向上をもたらし、薬理作用を高め、薬物の投与量を減少させることができる(同上)。
【0057】
包接錯体は、揮発性生成物の取扱を容易にすることもできる。これは、異なる薬物投与方法、例えば、錠剤の形態での投与方法につながり得る。シクロデキストリンは、物質の安定性を改善して、加水分解、酸化、熱、光、及び金属塩に対する耐性を高めるために使用される。シクロデキストリンに刺激性製品を包接することで、経口経路の場合の胃粘膜を保護し、皮膚経路の場合の皮膚損傷を軽減することもできる。さらに、シクロデキストリンを適用して、苦味または刺激性の味及び悪臭のある薬物の影響を低減することができる(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53、Hedges RA.Chem Rev 1998;98:2035-44、Irie T,Uekama K.Adv Drug Deliv Rev 1999;36:101-23、Zhao T,et al.Antisense Res 1995;5:185-92)。
【0058】
投与されたシクロデキストリンは、デンプン分解酵素に対して優れた耐性があるが、α-アミラーゼによって極めて低い速度で分解されることもある(同上)。サイズ及び柔軟性の違いにより、α-シクロデキストリンが最も遅く、γ-シクロデキストリンが最も速く分解する化合物である。分解は、唾液や膵臓のアミラーゼによってではなく、結腸細菌叢の微生物由来のα-アミラーゼによって行われる。吸着試験により、シクロデキストリンの2~4%のみが小腸に吸着され、残りは分解され、グルコースとして取り込まれることが明らかになった。これは、シクロデキストリンの経口投与で見られる低毒性を説明し得る(同上、引用Szetjli J.TIBTRCH 1989;7:171-4)。
【0059】
農業及び化学工業
シクロデキストリンは、除草剤、殺虫剤、殺黴剤、忌避剤、フェロモン及び成長調整物質を含めた、多種多様な農薬と錯体を形成する。シクロデキストリンは、種子の発芽を遅らせるために適用され得る。β-シクロデキストリンで処理された穀物では、種子のデンプン供給物を分解するアミラーゼのいくつかが阻害される。最初は植物の成長が遅くなるが、後に植物の成長の改善によりこれが大きく補償され、収穫が20~45%増加する(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53)。最近の開発は、植物におけるシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)の発現を含む(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53、Hedges RA.Chem Rev 1998;98:2035-44)。
【0060】
化学工業では、シクロデキストリンは、異性体及びエナンチオマーの分離、反応の触媒、様々な加工の補助及び廃棄物の除去または無害化に広く使用されている。シクロデキストリンは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)またはガスクロマトグラフィー(GC)によるエナンチオマーの分離に広く使用されている。これらのカラムの固定相は、固定化シクロデキストリンまたは誘導超分子構造を含む。他の分析への適用は、分光分析に見出され得る。核磁気共鳴(NMR)試験では、それらはキラルシフト剤として機能することができ、円偏光二色性では、スペクトルを変化させる選択的(キラル)剤として機能することができる。電気化学では、それらは汚染化合物をマスクするために使用することができるため、より正確な測定が可能になる(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53)。
【0061】
触媒反応におけるCDの1つの用途は、それらが酵素模倣物として機能する能力である。これらは、該分子の第一または第二面の様々な官能性化合物を置換することによって、または反応基を加えることによって、天然に存在するCDを修飾することで形成される。これらの修飾CDは、CDの置換基に起因する分子認識現象のため、酵素模倣物として有用である(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53)。この能力は、疎水性の空洞内での基質の結合と、CDに連結した触媒基によって開始されるその後の反応に起因する。該CD触媒のキレート効果により、かかる修飾CDは、遊離溶液に対して反応速度をほぼ1000倍向上させる。CDは、かかる用途でエナンチオマー特異性(キラル生成物の一方のエナンチオマー(他方の鏡像である分子)が化学反応で優先的に生成される程度を意味する)を示すことができる(同上、引用Villiers A.Compt Rendu 1891;112:536)。最初のキモトリプシン模倣物は、β-CDを修飾することによって生成され、活性エステルの加水分解及びアミン結合の形成の速度を3.4倍向上させた(同上、引用Ekberg B,et al.Carbohydr Res 1989;192:111-7、Morozumi T,et al.J Mol Catal 1991;70:399-406)。触媒目的の修飾β-CDは、フェノールの選択的ヒドロキシエチル化及びヒドロキシメチル化に使用された。化学修飾が触媒活性を大幅に促進し、得られたCD誘導体がトランスアミン模倣物として機能し、フェニルピルビン酸からフェニルアラニンへの変換を触媒することが認められた。Atwood(1990)は、Mn(III)ポルフィリンの還元における修飾α-シクロデキストリンの使用について説明した(同上、引用Atwood JL.Inclusion phenomenon and molecular recognition.New York:Plenum;1990)。
【0062】
CDの立体(空間的配置を意味する)効果のため、CDは、エナンチオ選択性を高めることにより生体触媒プロセスにおいても重要な役割も果たす。プロキラルなゲスト分子との包接錯体の形成後、エナンチオ選択面の一方からのみ、試薬による優先的な攻撃が行われ、より高いエナンチオ選択性をもたらす。例えば、Kamal et al.(1991)によって、担体タンパク質であるウシ血清アルブミンによるラセミアリールプロピオン酸エステルの加水分解は、低エナンチオ選択性(50~81%ee)をもたらしたが、この反応にβ-CDを添加すると、エナンチオ選択性を高めた(80~99%ee)だけでなく、加水分解速度も早めたことが報告された(同上、引用Kamal A,et al.Tetrahedron:Asymmetry 1991;2:39)。Rao et al.(1990)は、パン酵母をキラル触媒として使用したニトリルオキシドまたはアミンのC≡C三重結合への付加環化反応中のキラル認識が、CDの添加によって改善され、酵母のエナンチオ選択性が最大70%増加することを示した(同上、引用Rao KR,et al.Tetrahedron Letters 1990;31:892-9)。
【0063】
シクロデキストリンは、有機不純物の可溶化、土壌、水及び大気からの有機汚染物質及び重金属の濃縮及び除去の観点から、環境科学において主要な役割を果たすことができる(同上、引用Gao S,Wang L.Huanjing Kexue Jinzhan 1998;6:80-6)。例えば、CDは、汚染物質の安定化作用、封入及び吸着を高めるために水処理に適用される(同上、引用Wu C,Fan J.Shuichuli Jishu 1998;24:67-70)。シクロデキストリンを使用して、毒性の強い物質を、包接錯体の形成によって工場排水から除去することができる。殺虫剤トリクロルフォンの母液では、結晶化できないトリクロルフォンをβ-CD錯体に変換することができ、1回の処理で有毒物質の90%が除去される(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53;Hedges RA.Chem Rev 1998;98:2035-44)。環境的に受け入れがたい芳香族化合物、例えばフェノール、p-クロロフェノール及びベンゼンを含む廃水は、β-CDによる処理後には、これら芳香族炭化水素のレベルが初期のレベルから大幅に低下している。シクロデキストリンは、有機化学工業からのガス状排出物を除くために使用される(同上、引用Szetjli J.Chem Rev 1998;98:1743-53、Hedges RA.Chem Rev 1998;98:2035-44)。CDの溶解性向上現象は、土壌改善の試験に使用される。Reid et al.(1999)は、CD及びその誘導体を使用した汚染物質のバイオアベイラビリティの測定用の土壌試験を論じた(同上、引用Reid BJ,et al.PCT国際出願WO99 54,727;1999)。CDの錯化により、3種のベンズイミダゾールタイプの殺黴剤(チアベンダゾール、カルベンダジム及びフベリダゾール)の水溶性も高まり、さらに土壌に利用可能になった。CDは、生分解及びバイオレメディエーションのための炭化水素の溶解度を高めるその能力に加えて、毒性も低下させ、微生物及び植物の成長を促進する。β-シクロデキストリンは、成長速度に影響を与えるすべてのタイプの炭化水素の分解を促進し、バイオマス収量の向上ならびに炭素源及びエネルギー源としての炭化水素の良好な利用をもたらした。低コスト、生体適合性及び効果的な分解により、β-シクロデキストリンは、バイオレメディエーションプロセスに有用なツールになる(同上、引用Bardi L,et al.Enzyme Microb Technol 2000;27:709-13)。
【0064】
接着剤、コーティング及び他のポリマー
シクロデキストリンは、一部のホットメルト及び接着剤の粘着性及び接着性を高める。それらはまた、添加剤及び発泡剤をホットメルト系と相溶させる。会合性増粘エマルジョンタイプのコーティング、例えば、ペイントにおけるポリマー分子間の相互作用は、粘度を増加させる傾向があり、CDを使用してこの望ましくない効果に対抗することができる(同上)。
【0065】
上記にかかわらず、シクロデキストリンホストへのゲスト分子の包接の影響は、いまだ予想がつかない。例えば、様々なシクロデキストリン錯体が小分子薬物のバイオアベイラビリティを高めることが報告されているが、シクロデキストリン包接錯体はまた、ホストのバイオアベイラビリティに影響を与えないか、または実際にある特定のゲスト化合物のバイオアベイラビリティを低下させることが報告されている(Carrier RL,et al.J Control Release.2007 Nov 6;123(2):78-99)。シクロデキストリンと不安定化合物との相互作用も、いくつかの成果をもたらすことができる。シクロデキストリンは、分解を遅らせる場合もあれば、反応性に影響を与えない場合も、薬物の分解を促進する場合もある(Loftsson T,Brewster ME.J Pharm Sci.1996 Oct;85(10):1017-25)。さらに、包接錯体形成に関係する熱力学量が予測できないこともまた報告されている(Steffen A,Apostolakis J.Chem Cent J.2007 Nov 15;1:29)。
【0066】
本記載の発明は、改良されたβ-シクロデキストリン包接錯体、該包接錯体の作製方法、ならびに該包接錯体を含む医薬及び化粧品組成物を提供する。
【発明の概要】
【0067】
1つの態様によれば、本記載の発明は、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンホストの空洞へのゲスト化合物の組み込みを改良するための以下を含む方法を提供する:(a)ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)の空洞内で真空を確立すること、(b)ゲスト化合物を加えることであって、該ゲスト化合物は、実質的に溶媒を含まないものである、該加えること、(c)該ゲスト化合物を該空洞に組み込むこと、及び(d)活性薬剤・ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン包接錯体を形成すること。いくつかの実施形態によれば、該溶媒は、水性溶媒または有機溶媒である。
【0068】
該方法の1つの実施形態によれば、該ゲスト化合物は、該シクロデキストリン分子の空洞に、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%包接され得る。別の実施形態によれば、ゲスト化合物のHPBCDに対するモル比は、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1~約1:300、すなわち、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:11、約1:12、約1:13、約1:14、約1:15、約1:16、約1:17、約1:18、約1:19、約1:20、約1:21、約1:22、約1:23、約1:24、約1:25、約1:26、約1:27、約1:28、約1:29、約1:30、約1:31、約1:32、約1:33、約1:34、約1:35、約1:36、約1:37、約1:38、約1:39、約1:40、約1:41、約1:42、約1:43、約1:44、約1:45、約1:46、約1:47、約1:48、約1:49、約1:50、約1:51、約1:52、約1:53、約1:54、約1:55、約1:56、約1:57、約1:58、約1:59、約1:60、約1:61、約1:62、約1:63、約1:64、約1:65、約1:66、約1:67、約1:68、約1:69、約1:70、約1:71、約1:72、約1:73、約1:74、約1:75、約1:76、約1:77、約1:78、約1:79、約1:80、約1:81、約1:82、約1:83、約1:84、約1:85、約1:86、約1:87、約1:88、約1:89、約1:90、約1:91、約1:92、約1:93、約1:94、約1:95、約1:96、約1:97、約1:98、約1:99、約1:100であり得る。別の実施形態によれば、該ゲスト化合物は、親油性活性薬剤である。別の実施形態によれば、該ゲスト化合物は、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、降圧剤、抗原虫剤、抗酸化剤、鎮痒剤、抗皮膚萎縮剤、抗ウイルス剤、腐食剤、カルシウムチャネル遮断薬、サイトカイン調節剤、プロスタグランジンアナログ、化学療法剤、刺激剤、TRPCチャネル阻害剤、及びビタミンからなる群から選択される。
【0069】
別の実施形態によれば、該方法は、さらに、治療量の該活性薬剤包接錯体と医薬的に許容される担体を混合すること、及び医薬組成物を形成することを含む。別の実施形態によれば、該医薬組成物は、(a)接触に基づく副作用を、該活性薬剤単独と比較して減少させるため、または(b)非錯化活性薬剤のバイオアベイラビリティと比較した場合のバイオアベイラビリティを改善するため、または(c)非錯化活性薬剤単独の安定性と比較した場合の該活性薬剤の安定性を改善するため、または(d)非錯化活性薬剤単独の浸透と比較した場合の該活性薬剤の浸透を改善するため、(e)非錯化活性薬剤単独の保持と比較した場合の該活性薬剤の標的組織における保持を改善するため、または(f)非錯化活性薬剤単独の毒性と比較した場合の該活性薬剤の毒性を減少させるため、または(g)少量の製剤量で、インビボでの位置に最小有効濃度の該活性薬剤を送達するために有効である。別の実施形態によれば、該方法は、さらに、ポリマーを用いて該医薬組成物を製剤化することを含み、該組成物は、遅効性(slow release)を特徴とするか、または、該組成物は、制御放出を特徴とするか、または、該組成物は、持続放出(sustained release)を特徴とする。
【0070】
別の実施形態によれば、該方法は、さらに、化粧品量の該活性薬剤包接錯体と化粧品的に許容される担体を混合すること、及び化粧品組成物を形成することを含む。別の実施形態によれば、該化粧品組成物は、(a)接触に基づく副作用を、該活性薬剤単独と比較して減少させるため、または(b)非錯化活性薬剤のバイオアベイラビリティと比較した場合のバイオアベイラビリティを改善するため、または(c)非錯化活性薬剤単独の安定性と比較した場合の該活性薬剤の安定性を改善するため、または(d)非錯化活性薬剤単独の浸透と比較した場合の該活性薬剤の浸透を改善するため、(e)非錯化活性薬剤単独の保持と比較した場合の該活性薬剤の標的組織における保持を改善するため、または(f)非錯化活性薬剤単独の毒性と比較した場合の該活性薬剤の毒性を減少させるため、または(g)少量の製剤量で、インビボでの位置に最小有効濃度の該活性薬剤を送達するために有効である。別の実施形態によれば、該方法は、さらに、ポリマーを用いて該化粧品組成物を製剤化することを含み、該組成物は、遅効性(slow release)を特徴とするか、または、該組成物は、制御放出を特徴とするか、または、該組成物は、持続放出(sustained release)を特徴とする。いくつかの実施形態によれば、該方法は、さらに、該活性薬剤・ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン包接錯体にデンドリマーを形成させることを含む。
【0071】
本発明のこれら及び他の利点は、以下の詳細な説明及び添付の図面を参照することにより、当業者には明らかとなろう。
【0072】
本特許または出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(複数可)を含む本特許または特許出願公開の複写は、要請及び必要な料金の支払により特許庁より提供される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】ヒトの皮膚の解剖学的構造の図を示す。Mayo Foundation for Medical Education and Researchより。
【
図2】透明層、顆粒層、胚芽層、及び基底細胞層を含む、角質層の下の表皮の層を示す。
【
図3A】UV-Visを活性薬剤及び分解産物の同定及び定量に使用した。図に示す通り、ベンゾカインは、272nm及び296nmにピーク最大値を示す。HPBCD・ベンゾカイン錯体は、260nm、290nm、及び310nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。
【
図3B】UV-Visを活性薬剤及び分解産物の同定及び定量に使用した。図に示す通り、CBDは、221nm、233nm、239nm及び278nmにピーク最大値を示す。HPBCD・CBD錯体は、221nm、227nm、233nm、及び278nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。
【
図3C】UV-Visを活性薬剤及び分解産物の同定及び定量に使用した。図に示す通り、ミノキシジルは、230nm、250nm、260nm、280nm及び290nmにピーク最大値を示す。HPBCD・ミノキシジル錯体は、255nm及び280nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。
【
図3D】UV-Visを活性薬剤及び分解産物の同定及び定量に使用した。図に示す通り、ナイアシンアミドは、235nm及び255nmにピーク最大値を示す。HPBCD・ナイアシンアミド錯体は、240nm、265nm、及び295nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。これは、シクロデキストリン分子がナイアシンアミドの顕著な活性領域に干渉しないこと、ひいては、UVをこの錯体の分析に使用することができることを示している。
【
図3E】UV-Visを活性薬剤及び分解産物の同定及び定量に使用した。図に示す通り、ピクノジェノールは、230nm、280nm及び310nmにピーク最大値を示す。HPBCD・ピクノジェノール錯体は、225nm、240nm、275nm及び305nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。
【
図3F】UV-Visを活性薬剤及び分解産物の同定及び定量に使用した。図に示す通り、タマヌオイルは、215nm、269nm及び296nmにピーク最大値を示す。HPBCD・タマヌオイル錯体は、206nm、212nm、218nm、262nm及び366nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。
【
図3G】UV-Visを活性薬剤及び分解産物の同定及び定量に使用した。図に示す通り、テトラヒドロクルクミンは、209nm、218nm及び278nmにピーク最大値を示す。HPBCD・テトラヒドロクルクミン錯体は、225nm及び280nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。
【
図4】単一の融解ピークを約135℃に有するナイアシンアミド(緑色)、約100℃でピークに達するブロードな融解曲線を有するHPBCD(赤)、及びナイアシンアミドの融解ピークを示さないが、100℃付近でピークに達するブロードな融解曲線を有するHPBCD・ナイアシンアミド包接錯体(青)の示差走査熱量測定(DSC)曲線の重ね合わせを示す。
【
図5】識別可能な融解ピークを有さないタマヌオイル(赤)、約106℃に融解ピークを有するHPBCD(緑)、及び約110℃に融解ピークを有するHPBCD・タマヌ包接錯体(青)の示差走査熱量測定(DSC)曲線の重ね合わせを示す。
【
図6】約65℃に鋭い融解ピークを有する結晶性カンナビジオール(CBD)(緑)、約106℃の最小値を有するHPBCDの融解曲線(赤)、及び約110℃にブロードな融解ピークを有するHPBCD・CBD包接錯体(青)の示差走査熱量測定(DSC)曲線の重ね合わせを示す。錯体のスペクトルでは、より小さい融解ピークが認められ、これは、シクロデキストリンの空洞の外に出ているCBD分子の部分に相当し、立体障害のために60℃付近にシフトしている。
【
図7】約106℃に単一の融解ピークを有するテトラヒドロクルクミン(緑)、約104℃に最小値を有するブロードな融解曲線を有するHPBCD(赤)、及び約110℃でピークに達するブロードな融解曲線を有するHPBCD・テトラヒドロクルクミン包接錯体(青)の示差走査熱量測定(DSC)曲線の重ね合わせを示す。88℃付近に小さい融解ピークが存在し、これは、シクロデキストリンの空洞の外に出ているテトラヒドロクルクミンの部分に相当する。
【
図8】ベンゾカイン(緑)、HPBCD(青)及びHPBCD・ベンゾカイン包接錯体のDSC曲線の重ね合わせを示す。
【
図9】ミノキシジル(赤)、HPBCD(緑)、及びHPBCD・ミノキシジル包接錯体(青)のDSC曲線の重ね合わせを示す。
【
図10】ピクノジェノール(緑)、HPBCD(青)、及びHPBCD・ピクノジェノール錯体(赤)のDSC曲線の重ね合わせを示す。
【
図11】Aは、HPBCD・ベンゾカイン錯体の溶解プロファイルを、該化合物を乾式造粒時に使用して示す。高い方のpH値で、わずかに高いパーセンテージの活性物質が溶解した。この溶解プロファイルは、ゼロ次放出のようなバーストを示す。ゼロ次放出は、活性物質の放出が初期薬物濃度とは無関係であることを意味する。Bは、該錯体の濃度曲線を示す。HPBCD・ベンゾカイン錯体の分析用の波長は290nmであった。
【
図12】Aは、HPBCD・CBD錯体の溶解プロファイルを、該化合物を乾式造粒時に使用して示す。高い方のpH値で、わずかに高いパーセンテージの活性物質が溶解した。この溶解プロファイルは、特徴的形態の持続放出プロファイルを採用している。持続放出とは、薬物が長期間にわたって放出され、そのパーセンテージが時間とともにわずかに低下することを意味する。このタイプのプロファイルもまた、ゼロ次と見なすことができる。Bは、該錯体の濃度曲線を示す。HPBCD・CBD錯体の分析用の波長は233nmであった。
【
図13】Aは、HPBCD・ミノキシジル錯体の溶解プロファイルを、該化合物を乾式造粒時に使用して示す。低い方のpH値で、かなり高いパーセンテージの活性物質が溶解した。この溶解プロファイルは、ゼロ次放出のようなバーストを示す。Bは、該錯体の濃度曲線を示す。HPBCD・ミノキシジル錯体の分析用の波長は280nmであった。
【
図14】Aは、HPBCD・ナイアシンアミド錯体の溶解プロファイルを、該化合物を乾式造粒時に使用して示す。低い方のpH値で、高いパーセンテージの活性物質が溶解した。この溶解プロファイルは、ゼロ次放出のようなバーストを示す。Bは、該錯体の濃度曲線を示す。HPBCD・ナイアシンアミド錯体の分析用の波長は265nmであった。
【
図15】Aは、HPBCD・ピクノジェノール錯体の溶解プロファイルを、該化合物を乾式造粒時に使用して示す。溶解した活性物質のパーセンテージは、低い方及び高い方のpH値でほとんど同じであった。この溶解プロファイルは、ゼロ次放出のようなバーストを示す。Bは、該錯体の濃度曲線を示す。HPBCD・ピクノジェノール錯体の分析用の波長は225nmであった。
【
図16】Aは、HPBCD・タマヌオイル錯体の溶解プロファイルを、該化合物を乾式造粒時に使用して示す。高い方のpH値で、高いパーセンテージの活性物質が溶解した。この溶解プロファイルは、特徴的形態の持続放出プロファイルを採用している。持続放出とは、薬物が長期間にわたって放出され、そのパーセンテージが時間とともにわずかに低下することを意味する。このタイプのプロファイルもまた、ゼロ次と見なすことができる。Bは、該錯体の濃度曲線を示す。HPBCD・タマヌオイル錯体の分析用の波長は212nmであった。
【
図17】Aは、HPBCD・テトラヒドロクルクミン錯体の溶解プロファイルを、該化合物を乾式造粒時に使用して示す。溶解した活性物質のパーセンテージは、低い方及び高い方のpH値で同様であった。低い方のpHでは、溶解した活性物質のパーセンテージは、時間とともにやや減少し、持続放出プロファイルに類似した。この溶解プロファイルは、ゼロ次放出のようなバーストを示す。ゼロ次放出は、活性物質の放出が初期薬物濃度とは無関係であることを示す。Bは、該錯体の濃度曲線を示す。HPBCD・テトラヒドロクルクミン錯体の分析用の波長は225nmであった。
【
図18】成分S及びLのA
L型相溶解度図である。Sの溶解度の直線的な増加は、Higuchi and Connors[Phase-solubility techniques,Adv.Anal.Chem.Instr.4, 117-122,(1965)]によってAL型に分類され、Sの溶解度が、Lの存在によって増加することを示す。A型の図は、SとLの間の可溶性錯体の形成を示す。A
L型の図の傾きが1より大きい場合、少なくとも1つの成分は、1より大きい濃度を有する。傾きが1未満とは、成分SとLの間の化学量論が1:1であることを示す。
【
図19】HP-B-CD及びナイアシンアミドの相溶解度図である。これは、溶解度の直線的な増加を示しており、Higuchi and Connorsの分類によってA
L型に分類される。これは、HPBCDとナイアシンアミドの間の可溶性錯体の形成を示す。このグラフの傾きは1未満(傾き=4.44x10
-1)であり、これは該錯体の化学量論が1:1であることを示す。錯体形成の結合定数(Kc)は、79.856x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=217nmのUVで測定した。
【
図20】HPBCD及びCBDの相溶解度図である。これは、溶解度の直線的な増加を示しており、Higuchi and Connorsの分類によってAL型に分類される。これは、HPBCDとCBDの間の可溶性錯体の形成を示す。このグラフの傾きは1未満(傾き=2.97x10
-1)であり、これは該錯体の化学量論が1:1であることを示す。錯体形成の結合定数(Kc)は、42.247x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=280nmのUVで測定した。
【
図21】HPBCD及びピクノジェノールの相溶解度図である。これは、溶解度の直線的な増加を示しており、Higuchi and Connorsの分類によってA
L型に分類される。これは、HPBCDとピクノジェノールの間の可溶性錯体の形成を示す。このグラフの傾きは1より大きく(傾き=15.87x10
-1)、これは該錯体の化学量論が1:1ではないことを示す。錯体形成の結合定数(Kc)は、270.358x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=280nmのUVで測定した。
【
図22】HPBCD及びテトラヒドロクルクミンの相溶解度図である。これは、溶解度の直線的な増加を示しており、Higuchi and Connorsの分類によってAL型に分類される。これは、HPBCDとテトラヒドロクルクミンの間の可溶性錯体の形成を示す。このグラフの傾きは1より大きく(傾き=12.84x10
-1)、これは該錯体の化学量論が1:1ではないことを示す。錯体形成の結合定数(Kc)は、452.113x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=280nmのUVで測定した。
【
図23】HPBCD及びタマヌオイルの相溶解度図である。この図は、溶解度の直線的な増加を示しており、Higuchi and Connorsの分類によってAL型に分類される。これは、HPBCDとタマヌオイルの間の可溶性錯体の形成を示す。このグラフの傾きは1より大きく(傾き=14.83x10
-1)、これは該錯体の化学量論が1:1ではないことを示す。錯体形成の結合定数(Kc)は、307.039x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=266nmのUVで測定した。
【
図24】HPBCD及びミノキシジルの相溶解度図である。この図は、溶解度の最初の直線的な増加と、その後のプラトーの形成を示す。このプラトーは、ミノキシジルの完全な可溶化を示しており、これは、追加量のHPBCDでは変化しない。この図は、それでもやはり、Higuchi and Connorsの分類ではA型と見なされる。このグラフは直線ではないため、その傾きは、化学量論の正確な指標とはならない。このグラフの直線部分の傾きを使用して、結合定数を計算した(傾き=11.249)。錯体形成の結合定数(Kc)は、109.757x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=290nmのUVで測定した。
【
図25】HPBCD及びベンゾカインの相溶解度図である。この図は、溶解度の最初の直線的な増加と、その後のプラトーの形成を示す。このプラトーは、ベンゾカインの完全な可溶化を示しており、これは、追加量のHPBCDでは変化しない。この図は、それでもやはり、Higuchi and Connorsの分類ではA型と見なされる。このグラフは直線ではないため、その傾きは、化学量論の正確な指標とはならない。このグラフの直線部分の傾きを使用して、結合定数を計算した(傾き=33.256)。錯体形成の結合定数(Kc)は、103.100x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=305nmのUVで測定した。
【
図26】反応速度(k)を決定するためのゼロ次速度過程の反応に関する濃度対時間の標準的なグラフを示す。ゼロ次反応の分解速度は、試薬の濃度に依存しない。従って、反応速度(k)=-d[C]/dtであり、ここで、[C]は試薬の濃度の低下を示し、tは時間を示す。時間t=0での初期濃度(C0)と時間t=t後の濃度(Ct)の間の反応速度式を積分すると、式Ct=C0-ktが得られる。この一次方程式を
図1に従って、xの縦軸に濃度及びyの横軸に時間でプロットした場合、このグラフの傾きは、-kに等しい。
【
図27】HPBCD・ピクノジェノールの25℃の脱イオン水溶液の濃度対時間の分解のグラフを示す。これは、3つのモル濃度のリン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。
【
図28】HPBCD・ナイアシンアミドの25℃の脱イオン水溶液の濃度対時間の分解のグラフを示す。これは、3つのモル濃度のリン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。
【
図29】HPBCD・タマヌオイルの25℃の脱イオン水溶液の濃度対時間の分解のグラフを示す。これは、3つのモル濃度のリン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。
【
図30】HPBCD・テトラヒドロクルクミンの25℃の脱イオン水溶液の濃度対時間の分解のグラフを示す。これは、3つのモル濃度のリン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。
【
図31】HPBCD・ミノキシジルの25℃の脱イオン水溶液の濃度対時間の分解のグラフを示す。これは、3つのモル濃度のリン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。
【
図32】HPBCD・ベンゾカインの25℃の脱イオン水溶液の濃度対時間の分解のグラフを示す。これは、3つのモル濃度のリン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。
【
図33】HPBCD・CBDの25℃の脱イオン水溶液の濃度対時間の分解のグラフを示す。これは、3つのモル濃度のリン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。
【
図34】HPBCDのFTIRスペクトルである。700~1200cm-1の領域は、C-O-C変角、C-C-O伸縮、及びα-1,4結合を含む骨格振動に起因するピークを示す。1200~1500cm
-1の領域は、C-H及びO-H変角に起因するピークを示す。1650cm
-1の小さいブロードなピークは、シクロデキストリン分子の空洞内に捕捉された水分子の結晶水に起因するH-O-H変角ピークである。2850~3000cm
-1の領域は、C-H伸縮であり、3300cm
-1の強いブロードなピークは、O-H伸縮である。
【
図35】ベンゾカイン(赤)、HPBCD(緑)及びHPBCD・ベンゾカイン包接錯体(青)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、ベンゾカイン分子がシクロデキストリンの空洞に入ったことを示す。ベンゾカインの3200~3500cm
-1領域のN-Hアミン基伸縮ピーク、ならびにベンゼン環由来の芳香族ピーク(3000cm
-1及び1300~1500cm
-1)が消失し、HPBCDの空洞内への該分子のこの部分の挿入を示している。
【
図36】CBD(赤)、HPBCD(緑)、及びHPBCD・CBD包接錯体(青)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。CBD分子のかなりの部分がシクロデキストリンの空洞の外に出ている。700~1200cm
-1の領域は、C-O-C変角、C-C-O伸縮、及びHPBCDのα-1,4結合を含む骨格振動に起因するピークを示し、該錯体のスペクトルはこの領域を反映している。HPBCD対CBDのモル比1:1では、CBD分子の1つの環のみがシクロデキストリンの空洞に入ることができるため、CBD分子の大部分がHPBCDの外に出ている。
【
図37】ミノキシジル(緑)、HPBCD(青)、及びHPBCD・ミノキシジル包接錯体(赤)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、ミノキシジル分子がシクロデキストリンの空洞に完全に組み込まれたことを示す。ミノキシジルのアミノピリミジン及びピペリジン環由来の芳香族ピーク(1200~1700cm
-1)は、この錯体のスペクトルには存在せず、HPBCDの空洞内への挿入を示している。HPBCD対ミノキシジルのモル比2:1では、ミノキシジル分子の両方の環をHPBCDの2つの分子に組み込むことができるため、シクロデキストリンの空洞の外側にはミノキシジル分子はない。1650cm
-1(H-O-H変角)の小さいブロードなピークは、結晶水のピークであり、HPBCD・ミノキシジル錯体の空洞内に捕捉された水分子がいくつかあることを示す。この包接錯体のスペクトルに新たなピークが存在しないことは、ホストとゲスト分子間の非共有相互作用を示している。
【
図38】ナイアシンアミド(緑)、HPBCD(青)、及びHPBCD・ナイアシンアミド包接錯体(赤)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、ナイアシンアミド分子がシクロデキストリン部分の空洞に入ったことを示す。ピリジン環由来の芳香族ピーク(1200~1500cm
-1)は、この錯体のスペクトルには存在せず、HPBCDの空洞内への該分子のこの部分の挿入を示している。1695cm-1(C=O伸縮)、1610cm
-1(N-H変角)及び1600cm
-1(N-H変角)での錯体のスペクトルのピークは、シクロデキストリンの空洞の外側にあるナイアシンアミド分子のアミド部分に相当する。
【
図39】ピクノジェノール(緑)、HPBCD(青)、及びHPBCD・ピクノジェノール包接錯体(赤)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、ピクノジェノール分子がシクロデキストリンの空洞に入ったことを示す。HPBCD対ピクノジェノールのモル比3:1では、プロシアニジンまたはプロアントシアニジン分子の3つの環を3つのシクロデキストリン分子の空洞内に組み込むことができる。ピクノジェノールのプロシアニジン及びプロアントシアニジン部分に由来する第四の環は、HPBCDの空洞の外側にある。
【
図40】タマヌオイル(緑)、HPBCD(青)、及びHPBCD・タマヌオイル包接錯体(赤)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、タマヌオイルがシクロデキストリンの空洞に入ったことを示す。タマヌオイルは、C16及びC18脂肪酸のオレイン酸、リノール酸、パルミチン酸及びステアリン酸で構成されている。HPBCD対タマヌオイルのモル比3:1では、該脂肪酸の炭素鎖のほとんどをシクロデキストリンの空洞内に組み込むことができる。2915cm
-1(C-H伸縮)及び2865cm
-1(C-H伸縮)での錯体のスペクトルのピークは、HPBCDの空洞の外に出ている脂肪酸の部分に由来する-CH2結合の非対称伸縮振動である。該脂肪酸のカルボン酸頭部基もまた、シクロデキストリンの空洞の外にあり、該錯体のスペクトルにおけるカルボニルのピークは、1750cm
-1(C=O伸縮)で生じる。
【
図41】テトラヒドロクルクミン(緑)、HPBCD(青)、及びHPBCD・テトラヒドロクルクミン包接錯体(赤)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、テトラヒドロクルクミン分子がシクロデキストリンの空洞に入ったことを示す。ベンゼン環由来の芳香族ピーク(1100~1400cm
-1)及び強いカルボニルピーク(1600cm
-1)は、この錯体のスペクトルには存在せず、HPBCDの空洞内への該分子のこれらの部分の挿入を示している。HPBCD対テトラヒドロクルクミンのモル比3:1では、テトラヒドロクルクミン分子の両方の環、及びカルボニル基をHPBCDの3つの分子に組み込むことができる。
【
図42】ナイアシンアミドの較正基準の代表的なHPLCクロマトグラフを示す。各クロマトグラムのy軸は、吸光度の強度の測定値である(単位はmAU、すなわち、ミリ吸光度単位)。x軸は、時間(分)を単位としており、各ピークの保持時間(tR)を特定するために使用される。
【
図43】タマヌオイルの較正基準の代表的なクロマトグラフを示す。主ピークはオレイン酸である。各クロマトグラムのy軸は、吸光度の強度の測定値である(単位はmAU、すなわち、ミリ吸光度単位)。x軸は、時間(分)を単位としており、各ピークの保持時間(tR)を特定するために使用される。
【
図44】テトラヒドロクルクミン(TC)の較正基準の代表的なクロマトグラフを示す。各クロマトグラムのy軸は、吸光度の強度の測定値である(単位はmAU、すなわち、ミリ吸光度単位)。x軸は、時間(分)を単位としており、各ピークの保持時間(tR)を特定するために使用される。
【
図45】カンナビジオール(CBD)の較正基準の代表的なクロマトグラフを示す。各クロマトグラムのy軸は、吸光度の強度の測定値である(単位はmAU、すなわち、ミリ吸光度単位)。x軸は、時間(分)を単位としており、各ピークの保持時間(tR)を特定するために使用される。
【
図46A】経皮の棒グラフであり、これは、ナイアシンアミド(分子量、122.127g/mol)またはナイアシンアミド・HBPCD包接錯体のいずれかを含む栄養クリームの送達用量(μg/cm
2)対経過時間(時間)のプロットである。
【
図46B】フラックスの棒グラフであり、これは、ナイアシンアミド(分子量、122.127g/mol)またはナイアシンアミド・HBPCD包接錯体のいずれかを含む栄養クリームのフラックス対経過時間(時間)のプロットである。フラックスは、μg/cm
2/時間の単位での値を有し、該送達用量を時間(8、24、または48時間)で除することによって得られる。
【
図46C】皮膚保持の棒グラフであり、これは、送達用量(μg/cm
2)対時間(時間)のプロットである。これは、ナイアシンアミド(分子量、122.127g/mol)またはナイアシンアミド・HBPCD包接錯体のいずれかを含む栄養クリームの表皮及び真皮における48時間後の活性物質の量(μg/cm
2)を示す。
【
図47A】経皮の棒グラフであり、これは、カンナビジオール(「CBD」、分子量314.464g/mol)またはカンナビジオール・HBPCD包接錯体のいずれかを含む痛み止めクリームの送達用量(μg/cm
2)対経過時間(時間)のプロットである。
【
図47B】フラックスの棒グラフであり、これは、カンナビジオール(「CBD」、分子量314.464g/mol)またはカンナビジオール・HBPCD包接錯体のいずれかを含む痛み止めクリームのフラックス対経過時間(時間)のプロットである。フラックスは、μg/cm2/時間の単位での値を有し、該送達用量を時間(8、24、または48時間)で除することによって得られる。
【
図47C】皮膚保持の棒グラフであり、これは、送達用量(μg/cm
2)対時間(時間)のプロットである。これは、カンナビジオール(「CBD」、分子量314.464g/mol)またはカンナビジオール・HBPCD包接錯体のいずれかを含む痛み止めクリームの表皮及び真皮における48時間後の活性物質の量(μg/cm
2)を示す。
【
図48A】経皮の棒グラフであり、これは、タマヌオイルまたはタマヌオイル・HBPCD錯体のいずれかを含む瘢痕低減クリームの送達用量(μg/cm
2)対経過時間(時間)のプロットである。オレイン酸(分子量282.417g/mol)はタマヌオイルの主成分であるため、それを分析対象として選択した。
【
図48B】フラックスの棒グラフであり、これは、タマヌオイルまたはタマヌオイル・HBPCD錯体のいずれかを含む瘢痕低減クリームのフラックス対経過時間(時間)のプロットである。オレイン酸(分子量282.417g/mol)はタマヌオイルの主成分であるため、それを分析対象として選択した。フラックスは、μg/cm
2/時間の単位での値を有し、該送達用量を時間(8、24、または48時間)で除することによって得られる。
【
図48C】皮膚保持の棒グラフであり、これは、送達用量(μg/cm
2)対時間(時間)のプロットである。これは、タマヌオイルまたはタマヌオイル・HBPCD錯体のいずれかを含む瘢痕低減クリームの表皮及び真皮における48時間後の活性物質の量(μg/cm2)を示す。オレイン酸(分子量282.417g/mol)はタマヌオイルの主成分であるため、それを分析対象として選択した。
【
図49A】経皮の棒グラフであり、これは、テトラヒドロクルクミン(「TC」、分子量、372.417g/mol)またはテトラヒドロクルクミン・HBPCD包接錯体のいずれかを含むブライトニングクリームの送達用量(μg/cm
2)対経過時間(時間)のプロットである。
【
図49B】フラックスの棒グラフであり、これは、テトラヒドロクルクミン(「TC」、分子量、372.417g/mol)またはテトラヒドロクルクミン・HBPCD包接錯体のいずれかを含むブライトニングクリームのフラックス対経過時間(時間)のプロットである。フラックスは、μg/cm
2/時間の単位での値を有し、該送達用量を時間(8、24、または48時間)で除することによって得られる。
【
図49C】皮膚保持の棒グラフであり、これは、送達用量(μg/cm
2)対時間(時間)のプロットである。これは、テトラヒドロクルクミン(「TC」、分子量、372.417g/mol)またはテトラヒドロクルクミン・HBPCD包接錯体のいずれかを含むブライトニングクリームの表皮及び真皮における48時間後の活性物質の量(μg/cm2)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の言及を含む。従って、例えば、「ペプチド」への言及は、1つ以上のペプチド及び当業者に既知のその均等物等への言及である。
【0075】
本明細書で使用される、「約」という用語は、それが使用されている数の数値のプラスマイナス20%を意味する。従って、例えば、約50%は、端点を含めた40%~60%の範囲、すなわち、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、または50%を意味する。
【0076】
「活性物質」という用語は、意図された化粧品の効果または治療効果に関与する本記載の発明の組成物の含有物、成分または構成要素を指す。
【0077】
治療薬と連動して使用される場合の「投与すること」とは、標的器官、組織または細胞内もしくは上に直接治療薬を与えるまたは適用すること、あるいは対象に治療薬を投与することを意味し、それによって該治療薬は、それが標的とする器官、組織、細胞、または対象に良い影響を与える。従って、本明細書で使用される、「投与すること」という用語は、CDまたはその組成物と連動して使用される場合、これらに限定されないが、標的器官、組織または細胞内もしくは上にCDを提供すること、あるいは、例えば、静脈内注射によって患者に全身的にCDを提供することを含むことができ、それによって該治療薬が標的器官、組織、または細胞に達する。「投与すること」は、非経口、経口または局所投与によって、吸入によって、または他の既知の技術と組み合わせたかかる方法によって達成され得る。
【0078】
本明細書で使用される、「動物」、「患者」、及び「対象」という用語には、ヒト及び非ヒト脊椎動物、例えば、野生動物、家畜及び農場動物が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態によれば、「動物」、「患者」、及び「対象」という用語は、ヒトを指す場合がある。いくつかの実施形態によれば、「動物」、「患者」、及び「対象」という用語は、非ヒト哺乳類を指す場合がある。
【0079】
本明細書で使用される、特定の状態の治療を「必要とする対象」という句は、その状態を有する、その状態を有すると診断された、またはその状態を発症するリスクがある対象である。いくつかの実施形態によれば、かかる治療を「必要とする対象」という句はまた、該句の文脈及び使用が別段の指示をしない限り、(i)本記載の発明の組成物を投与されるであろう患者、(ii)本記載の発明の組成物を投与されている患者、または(iii)本記載の発明の組成物の少なくとも1つを受けたことがある患者を指すためにも使用される。
【0080】
「水性」という用語は、当該医薬組成物が溶媒として水を含み、1つ以上のさらなる溶媒も任意に存在し得るという意味に理解されるべきである。
【0081】
本明細書で使用される、「結合」という用語及び他の文法形式は、化学物質間の長期的な引力を意味する。結合特異性は、特定のパートナーに結合すること、及び他の分子に結合しないことの両方を含む。機能的に重要な結合は、低から高までの範囲の親和性で生じる可能性があり、設計要素は、望ましくない相互作用を抑制し得る。翻訳後修飾もまた、相互作用の化学及び構造を変更し得る。「無差別結合」は、ある程度の構造的可塑性を伴う可能性があり、その結果、異なるパートナーへの結合に重要な残基の異なるサブセットが生じ得る。「相対的結合特異性」は、生化学系において、分子がその標的またはパートナーと差別的に相互作用し、それによって個々の標的またはパートナーの同一性に応じてそれらに明確に影響を与えるという特徴である。
【0082】
本明細書で使用される、「バイオアベイラビリティ」という用語及びその様々な文法形式は、活性成分または活性部分がインビボでの作用部位で利用可能になる速度及び程度を意味する。バイオアベイラビリティ/バイオイクイバレンスは、いくつかのインビボ及びインビトロ法によって実証され得る。インビボまたはインビトロ試験の要件を満たすために使用される方法の選択は、試験の目的、利用可能な分析方法、及び製剤の性質に依存する。使用される方法は、試験する製品の、それぞれに見合ったバイオアベイラビリティの測定またはバイオイクイバレンスの確立が可能である必要がある。
【0083】
以下のインビボ及びインビトロアプローチは、精度、感度、及び再現性の高い順に、製剤のバイオアベイラビリティまたはバイオイクイバレンスを判断するのに許容可能であると見なされる。(1)(i)活性成分もしくは活性部分、及び適切な場合はその活性代謝産物(複数可)の全血、血漿、血清、もしくは他の適切な体液中の濃度が、時間の関数として測定される、ヒトでのインビボ試験。このアプローチは、体内での全身への分布のための血流への該活性部分の送達を目的とした剤形に特に適用可能である。または(ii)ヒトのインビボバイオアベイラビリティデータと相関し、これを予測するインビトロ試験、あるいは(2)該活性部分の尿中排せつ、及び適切な場合はその活性代謝産物(複数可)が時間の関数として測定される、ヒトでのインビボ試験。測定が行われる間隔は、通常、除去率の測定が可能な限り正確になるように、可能な限り短くする必要がある。製剤の性質に応じて、このアプローチは、パラグラフ(1)(i)に記載の剤形のカテゴリーに当てはまり得る。この方法は、尿中排せつが顕著な除去のメカニズムでない場合には適切ではない。(3)該活性部分、及び適切な場合はその活性代謝産物(複数可)の適切な急性薬理作用が、十分な精度、感度、及び再現性で測定され得る場合に、かかる作用が時間の関数として測定される、ヒトでのインビボ試験。このアプローチは、体液または排せつ物中の該部分、及び適切な場合はその活性代謝産物(複数可)の濃度の測定に適切な方法が利用できないが、適切な急性薬理作用の測定にはある方法が利用可能な場合にのみ、パラグラフ(1)(i)に記載の剤形のカテゴリーに当てはまる。このアプローチは、全身への分布のための血流への該活性部分の送達を目的としない剤形に特に適用可能であり得る。(4)バイオアベイラビリティを測定する目的で製剤の安全性及び有効性を確立する十分に管理された臨床試験、またはバイオイクイバレンスを実証する目的で適切に設計された比較臨床試験。このアプローチは、バイオアベイラビリティを測定するためまたはバイオイクイバレンスを実証するための一般的なアプローチの中で最も精度、感度、及び再現性が低い。全身への分布のための血流への該活性部分の送達を目的とした剤形の場合、このアプローチは、本セクションのパラグラフ(1)(i)及び(2)に概説されるアプローチのうちの1つが使えるように分析方法が開発できない場合にのみ、本セクションのパラグラフ(1)(ii)、(1)(iii)、及び(3)に記載のアプローチが利用可能でない場合に許容できると見なされ得る。このアプローチはまた、該活性部分を局所的に送達することを目的とした剤形、例えば、皮膚、目、及び粘膜に対する局所製剤、吸収されることを目的としていない経口剤形、例えば、制酸薬または放射線不透物質、ならびに薬理活性の開始及び持続期間が定義されている場合には吸入により投与される気管支拡張剤のバイオアベイラビリティを測定するためまたはバイオイクイバレンスを実証するためには十分に正確であると見なされ得る。(5)ヒトのインビボバイオアベイラビリティを保証する現在利用可能なインビトロ試験(例えば、溶解速度試験)。
【0084】
本明細書で使用される、「生体適合性」という用語は、一般にレシピエントに対して無毒であり、該対象に対して重大な悪影響を及ぼさず、さらに、材料の任意の代謝産物または分解生成物が該対象に対して無毒である該材料を指す。通常、「生体適合性」の物質は、臨床的に意義のある組織の刺激、損傷、中毒反応、または生体組織に対する免疫学的反応を引き起こさない。
【0085】
本明細書で使用される、「生分解性」という用語は、可溶性種に侵食されるか、または生理学的条件下で、それ自体が対象に対して非毒性(生体適合性)であり、該対象によって代謝され、除去され、または排せつされることが可能なより小さい単位または化学種に分解する材料を指す。
【0086】
本明細書で使用される、「担体」という用語は、生物に重大な刺激を引き起こさず、本記載の発明の組成物の活性化合物の生物活性及び特性を無効にしない材料を示す。担体は、治療される哺乳類への投与に適したものにするために、十分に高純度で、十分に低毒性でなければならない。担体は、不活性であってもよいし、または薬効、化粧品的利点またはその両方を有していてもよい。「賦形剤」、「担体」、または「媒体」という用語は、同義で使用され、本明細書に記載の医薬的に許容される組成物の製剤化及び投与に適した担体材料を指す。本明細書で有用な担体及び媒体としては、非毒性であり、他の成分と相互作用しない当技術分野で既知の任意のかかる材料が挙げられる。
【0087】
「キラル」という用語は、互いに鏡像であるため、重ね合わせることができず、それ故キラリティーの特性を有する非対称分子を示すために使用される。かかる分子はまた、エナンチオマーとも呼ばれ、光学活性を特徴とする。
【0088】
「キラリティー」という用語は、その鏡像に重ね合わせることができない剛性物体(または点もしくは原子の空間的配置)の幾何学的特性を指す。かかる物体は、第2種の対称要素(鏡面、σ=S1、反転中心、i=S2、回映軸、S2n)を有さない。該物体がその鏡像に重ね合わせることができる場合、その物体は、アキラルであると示される。
【0089】
「キラリティー軸」という用語は、その鏡像に重ね合わせることができない空間的配置をもたらすように、一連のリガンドがその周りに保持される軸を指す。例えば、アルケンabC=C=Ccdの場合、キラル軸は、C=C=C結合によって定義され、オルト置換ビフェニルでは、C-1、C-1’、C-4及びC-4’がキラル軸上にある。
【0090】
「キラリティー中心」という用語は、その鏡像に重ね合わせることができない空間的配置で一連のリガンドを保持する原子を指す。キラリティー中心は、非対称炭素原子の概念を任意の要素の中心原子に一般化したものと見なすことができる。
【0091】
「キロプチック(chiroptic)」または「キロプチカル(chiroptical)」という用語は、キラル物質を調べるための光学的手法(異方性照射の屈折、吸収または放出を使用して)を指す(例えば、固定波長での旋光度、旋光分散(ORD)、円偏光二色性(CD)及び発光の円偏光(CPL)の測定)。
【0092】
「キロトピック(chirotopic)」という用語は、キラル環境内に存在する原子(または分子モデル内の点、基、面等)を指す。アキラルな環境内に存在するものは、アキロトピック(achirotopic)と呼ばれている。
【0093】
本明細書で使用される、「接触」という用語及びその様々な文法形式は、触れている状態もしくは状況または密接もしくは部分的な近接の状態もしくは状況を指す。
【0094】
「制御放出」という用語は、製剤からの薬物放出の方法及びプロファイルが制御される任意の薬物含有製剤を指すことを意図している。これには、即時放出及び非即時放出製剤が含まれ、非即時放出製剤としては、持続放出及び遅延放出製剤が挙げられるが、これらに限定されない。制御放出システムは、原薬を、一定時間所定の速度で送達することができる。(Langer,R.,“New methods of drug delivery,”Science,249:1527-1533(1990)、及びLanger,R.,“Drug delivery and targeting,”Nature,392(Supp.):5-10(1998)に概説されている)。一般に、放出速度はシステムの設計によって決まり、環境条件、例えば、pHにほとんど依存しない。これらのシステムはまた、長期間(数日または数年)にわたって薬物を送達することができる。制御放出システムは、従来の薬物療法に勝る利点を提供する。例えば、標準的な剤形の摂取または注射後、当該薬物の血中濃度は上昇し、ピークに達し、その後低下する。各薬物は、治療域を有するため、それを超えると有毒であり、それを下回ると効果がなく、薬物レベルの振動は、無効性と毒性の交互の周期を引き起こし得る。制御放出製剤は、薬物を単回投与で所望の治療域に維持する。制御放出システムの他の潜在的利点としては、(i)特定の体の区画に薬物を局所送達し、それによって全身の薬物レベルを低下させること、(ii)体内で急速に破壊される薬剤の保存、(iii)フォローアップ治療の必要性の低減、(iv)快適さの向上、及び(v)服薬順守の改善が挙げられる。(Langer,R.,“New methods of drug delivery,”Science,249:at 1528)。
【0095】
ポリマー材料は一般に、次のメカニズムによって薬物を放出する:(i)拡散、(ii)化学反応、または(iii)溶媒活性化。最も一般的な放出メカニズムは、拡散である。このアプローチでは、薬物は、固体ポリマー内に物理的に捕捉され、これがその後体内に注射される場合もあれば、埋め込まれる場合もある。該薬物は、その後、該ポリマーシステムの初期位置から該ポリマーの外面に移行し、次いで体内に移行する。拡散律速システムには2つのタイプが存在する。すなわち、薬物コアがポリマーフィルムで囲まれ、これがほぼ一定の放出速度をもたらすリザーバ型、及びポリマーシステムを介して薬物が均一に分布するマトリックス型である。薬物はまた、化学的メカニズム、例えば、ポリマーの分解、またはポリマー骨格からの該薬物の切断によっても放出され得る。溶媒への曝露もまた薬物放出を活性化し得る。例えば、該薬物は、ポリマー鎖によって固定され、環境流体に曝露されると、外側のポリマー領域が膨潤し始め、該薬物が外側に移動できるようになるか、または、浸透圧を受けて水が薬物・ポリマーシステムに浸透する可能性があり、細孔の形成を引き起こし、薬物放出をもたらす。かかる溶媒制御システムは、pHに依存しない放出速度を有する。いくつかのポリマーシステムは、必要に応じてより多くの薬物を放出するために外部から活性化され得る。ポリマーシステムからの放出速度は、ポリマー材料の性質(例えば、拡散律速システムに関する結晶化度または細孔構造、化学的に制御されたシステムに関する結合の不安定性またはモノマーの疎水性)ならびにシステムの設計(例えば、厚さ及び形状)によって制御することができる。(Langer,R.,“New methods of drug delivery,”Science,249:at 1529)。
【0096】
ポリエステル、例えば、乳酸-グリコール酸コポリマーは、バルク(均一)侵食を示し、マトリックス内部の大幅な分解を引き起こす。放出の制御を最大化するため、システムにとっては、その表面のみが分解することが多くの場合望ましい。表面侵食システムの場合、薬物放出速度はポリマーの侵食速度に比例する。これにより、過量放出の可能性が排除され、安全性が向上する。放出速度は、システムの厚さ及び総薬物含有量の変化によって制御することができるため、装置の設計が容易になる。表面侵食を達成するには、ポリマーマトリックス表面での分解速度が、マトリックスのバルクへの水の浸透速度よりもはるかに速いことが必要である。理論的には、該ポリマーは疎水性であるべきであるが、モノマーをつなぐ、水に不安定な結合を有するべきである。例えば、無水物結合は不安定のため、ポリ無水物が有望なポリマーのクラスであることが提案された。ポリ無水物コポリマーのモノマー比を変えることにより、1週間~数年続く表面侵食型のポリマーを設計し、合成し、ニトロソ尿素を局所的に脳に送達するために使用した。((Langer,R.,“New methods of drug delivery,”Science,249:at 1531引用、Rosen et al,Biomaterials 4,131(1983)、Leong et al,J.Biomed.Mater.Res.19,941(1985)、Domb et al,Macromolecules 22,3200(1989)、Leong et al,J.Biomed.Mater.Res.20,51(1986),Brem et al,Selective Cancer Ther.5,55(1989)、Tamargo et al,J.Biomed.Mater.Res.23,253(1989))。
【0097】
いくつかの異なる表面侵食型ポリオルトエステルシステムが合成されている。添加剤をポリマーマトリックス内に配置し、これにより、該表面に該マトリックスの他の部分とは異なる速度で分解を生じさせる。かかる分解パターンは、これらのポリマーが、pHに応じて極めて異なる速度で侵食され、該添加剤が該マトリックスのバルクを表面のpHとは異なるpHに維持するために生じ得る。添加剤の種類と量を変えることにより、放出速度が制御され得る。((Langer,R.,“New methods of drug delivery,”Science,249:at 1531引用。Heller,et al,in Biodegradable Polymers as Drug Delivery Systems,M.Chasin and R.Langer,Eds(Dekker,New York,1990),pp.121-161))。制御放出薬物送達システムで使用されるポリマー材料としては、ポリ(α-ヒドロキシ酸)、アクリルポリマー、ポリ無水物、及び他のポリマー、例えば、ポリカプロラクトン、エチルセルロース、ポリスチレン等が挙げられる。
【0098】
本明細書で使用される、「化粧品組成物」という用語は、対象またはその任意の部分に、洗浄、美化、魅力の促進、または外観の変更のために擦りこまれる、注がれる、振りかけられる、もしくは噴霧される、その中に導入される、または適用されることを意図した組成物、あるいは任意のかかる物品の成分としての使用を目的とした物品を指すが、かかる用語は、石鹸を含まない。
【0099】
本明細書で使用される、「化粧品的に許容される担体」という用語は、化粧品の局所投与に従来の方法で使用可能な実質的に非毒性の担体を指し、それを伴う化合物は、安定した状態を保ち、生物学的に利用可能である。
【0100】
本明細書で使用される、「共有結合している」という用語は、原子間の引力及び反発力が安定的に平衡化される原子間の電子の共有を特徴とする化学結合の形態を指す。
【0101】
本明細書で使用される、「クリーム」という用語は、水中油型または油中水型のいずれかの粘稠な液体または半固体エマルジョンを指す。本明細書で使用される、「エマルジョン」は、分散相及び分散媒の両方が非混和性液体であり、分散液体が分散媒の液体の本体全体に小球で分布しているコロイド系を指す。安定した基本的なエマルジョンは、少なくともこれらの2つの液体及び乳化剤を含む。一般的なタイプのエマルジョンは、油が分散液体であり、水溶液、例えば、水が分散媒である水中油型、及び反対に、水溶液が分散相である油中水型である。非水性のエマルジョンを調製することも可能である。水中油型のクリームとしては、ハンドクリーム及びファンデーションクリームが挙げられる。油中水型のクリームとしては、コールドクリーム及びエモリエントクリームが挙げられる。本明細書で使用される、「エモリエント」という用語は、二相系の油脂(ある液体が別の液体全体に小さい液滴の形で分散されることを意味する)を指す。エモリエントは、角質層に閉塞性の油膜を形成し、皮膚の深層における蒸発による乾燥を防ぐことによって皮膚を軟化する。従って、エモリエントは、保護剤及び薬剤として使用され、皮膚を軟化し、より柔軟にする。エモリエントはまた、疎水性化合物を送達するための媒体としての機能も果たす。化粧品の製造に使用される一般的なエモリエントとしては、バター、例えば、アロエバター、アーモンドバター、アボカドバター、ココアバター、コーヒーバター、大麻種子バター、コクムバター、マンゴーバター、モーラバター、オリーブバター、サルバター、シアバター、グリセリン、及び油、例えば、アーモンド油、アロエベラ油、杏仁油、アボカド油、ババス油、ブラッククミン種子油、ルリヂサ種子油、ブラジルナッツ油、ツバキ油、ヒマシ油、ヤシ油、エミュー油、月見草種子油、アマニ油、ブドウ種子油、ヘーゼルナッツ油、大麻種子油、ホホバ油、ククイナッツ油、マカダミアナッツ油、メドウフォーム種子油、鉱油、ニーム種子油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、桃仁油、落花生油、プラムカーネル油、ザクロ種子油、ケシ油、カボチャ種子油、ヌカ油、ローズヒップ種子油、ベニバナ油、シーバックソーン油、ゴマ油、シアナッツ油、大豆油、ヒマワリ油、タマヌオイル、ロート油、クルミ油、麦芽油が挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
「遅延放出」という用語は、本明細書では、その従来の意味で、製剤の投与とそこからの薬物の放出との間に時間遅延がある製剤を指すために使用される。「遅延放出」は、長期間にわたる薬物の段階的放出を伴っても伴わなくてもよく、ひいては、「持続放出」であってもなくてもよい。
【0103】
本明細書で使用される、「デンドリマー」という用語は、樹状のアームまたは枝からなる特定の均質及び単分散構造のナノサイズの放射対称性の分子を指す。デンドロマー(Dendromer)は、小分子または線状ポリマーコアの周りに構築された対称分岐単位を含む。デンドリマーは、1つの反応基及び2つの休眠基を含むモノマー分子と反応する多官能のコア分子から外側に成長する。該分子の新たな外周は、さらなるモノマーとの反応のために活性化され得る。
【0104】
本明細書で使用される、「誘導体」という用語は、同様の構造の別の化合物から1つ以上のステップで製造され得る化合物を意味する。化合物の「誘導体(複数可)」は、該化合物の所望の機能の少なくともある程度を保持している。従って、「誘導体」の代替語は「機能的誘導体」であり得る。誘導体は、化合物の化学修飾、例えば、アキル化(akylation)、アシル化、カルバミル化、ヨウ素化または化合物を誘導体化する任意の修飾を含み得る。かかる誘導体化分子としては、例えば、遊離アミノ基が誘導体化されてアミン塩酸塩、p-トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t-ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基またはホルマール基を形成した分子が挙げられる。遊離のカルボキシル基を誘導体化して、塩、エステル、アミド、またはヒドラジドを形成することができる。遊離ヒドロキシル基を誘導体化して、O-アシルまたはO-アルキル誘導体を形成することができる。ヒスチジンのイミダゾール窒素を誘導体化して、N-im-ベンジルヒスチジンを形成することができる。
【0105】
「示差走査熱量測定(DSC)」は、固体サンプルの相転移中に吸収または放出される熱量を測定することにより、相転移を検出するのに有用な熱分析技術である。
【0106】
用量効果曲線。薬物の効果の強さ(y軸)は、投与された薬物の用量(X軸)の関数としてプロットすることができる。(Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,Ed.Joel G.Hardman,Lee E.Limbird,Eds.,10th Ed.,McGraw Hill,New York(2001),p.25,50)。これらのプロットは、用量効果曲線と呼ばれる。かかる曲線は、その成分ごとにより単純な曲線に分解され得る。これらの濃度と効果の関係は、4つの特徴的な変数、すなわち、効力、傾き、最大効果、及び個人差を有すると見なすことができる。
【0107】
濃度軸に沿った用量効果曲線の位置は、薬物の効力の発現である。同上。例えば、薬物が経皮吸収によって投与される場合、薬物を吸収する皮膚の能力は限られているため、極めて強力な薬物が必要である。
【0108】
用量効果曲線の傾きは、薬物の作用機序を反映する。曲線の傾きは、臨床効果を達成するために有用な用量の範囲に影響する。
【0109】
「最大または臨床効果」という用語は、薬物によって生成され得る最大作用を指す。最大効果は、主に、該薬物及びその受容体・エフェクター系の特性によって決まり、該曲線のプラトーに反映される。臨床に用いる場合は、薬物の投与量は、望ましくない効果によって制限され得る。
【0110】
生物学的変動。変化する強度の影響は、特定の濃度または薬物で様々な個体に起こり得る。従って、特定の強度の効果を生み出すには、ある範囲の濃度がすべての対象で必要になり得る。
【0111】
最後に、様々な個体は、効力、最大効果、及び傾きの違いに対して適切な補正が行われた場合、同じ濃度の薬物に対する反応の大きさの点で異なり得る。
【0112】
薬物の作用の持続時間は、濃度が最小有効濃度(MEC)を超えている期間によって決定される。ある用量の薬物の投与後、その効果は通常、特徴的な時間的パターンを示す。薬物効果対時間のプロットは、薬物効果の時間特性及びその治療ウィンドウとの関係を示す。薬物濃度が所望の効果のためのMECを超える前には遅延期が存在する。反応の開始後、該効果の強度は、該薬物が吸収され分配され続けている間増加する。これがピークに達した後、薬物の除去により、該効果の強度が低下し、薬物濃度がMECを下回るとこれは消失する。治療ウィンドウは、許容できない毒性なしに有効性を提供する濃度範囲を反映する。一般に、さらなる薬物の投与を施し、経時的に該治療ウィンドウ内に濃度を維持することができる。「製剤」及び「組成物」という用語は、本明細書では同義で使用され、すべての活性成分及び不活性成分を含む本記載の発明の生成物を指す。
【0113】
本明細書で使用される、「全層皮膚」という用語は、表皮及び真皮の全層を含む皮膚を指す。
【0114】
本明細書で使用される、「ゲル」という用語は、水性またはアルコール性基剤中の高分子量ポリマーから調製された粘着性のゼリー状の半固体または固体を指す。アルコールゲルは、乾燥性及び冷却性であるが、非アルコールゲルは、より潤滑性であり、例えば、鱗屑性病変の乾燥に適している。それらの、特にアルコールを含むゲルからの乾燥効果に起因して、ゲルは皮膚炎及び裂皮を引き起こし得る。デンプン及びアロエは、ゲル状の化粧品の製造に一般に使用される薬剤である。
【0115】
本明細書で使用される、「親水性」という用語は、極性物質、例えば、水に対して親和性を有する材料または物質を指す。
【0116】
本明細書で使用される、「疎水性」という用語は、非極性物質または中性物質に対して親和性を有する材料または物質を指す。
【0117】
本明細書で使用される、「包接錯体」という用語は、2つ以上の分子からなる実体を指し、この場合、物理的な力のみを使用して、ホスト分子が完全にまたは部分的にゲスト分子を含む。共有結合は関与しない。シクロデキストリンは、典型的なホスト分子であり、様々なゲスト分子及び化合物を含むことができる。包接錯体に挿入された化合物は、シクロデキストリンに「錯化された」と見なされる。包接錯体の一部ではない化合物は、「単独」または「非錯化」であると見なされる。
【0118】
本明細書で使用される、「刺激物」という用語は、刺激物濃度に基づいて、充血(通常、当該領域の発赤または熱によって示される、該領域または身体部分の溢血を意味する)、炎症、及び乾燥を誘発するように皮膚に局所的に作用する材料を指す。刺激剤としては、アルコール、芳香アンモニア精、ベンゾインチンキ、樟脳、トウガラシ、及びコールタール抽出物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
「単離された」という用語は、本明細書では、材料、例えば、限定されないが、化合物、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を指すために使用され、それは、(1)それに通常付随するまたはそれと相互作用する天然に存在する環境に見られる成分を実質的または本質的に含まない。「実質的に含まない」または「本質的に含まない」という用語は、本明細書では、かなりもしくは有意に含まないこと、または約95%超、96%、97%、98%、99%または100%含まないことを指すために使用される。単離された材料は、任意に、その天然の環境では該材料とともに見出されない材料を含む。あるいは(2)該材料がその天然の環境にある場合、該材料は、意図的な人の介入によって、合成的に(非天然に)組成物に変更されている及び/またはその環境に見られる材料には天然ではない細胞(例えば、ゲノムまたは細胞内小器官)内の場所に配置されている。該合成材料を得るための変更は、その天然の状態内で、またはその天然の状態から取り出された該材料に対して行われ得る。
【0120】
本明細書で使用される、「異性体」という用語は、同数及び同種の原子を有し、それ故同じ分子量を有するが、化学構造が異なる2つ以上の分子のうちの1つを指す。異性体は、原子の結合性が異なる場合(構造異性体)、または同じ原子結合性を有するが、空間における原子の配置もしくは構成のみが異なる場合(立体異性体)がある。立体異性体としては、E/Z二重結合異性体、エナンチオマー、及びジアステレオマーが挙げられ得るが、これらに限定されない。適切に置換された場合に立体異性を与えることができる構造部分としては、オレフィン、イミンまたはオキシムの二重結合、四面体炭素、硫黄、窒素またはリン原子、及びアレン基が挙げられるが、これらに限定されない。エナンチオマーは、重ね合わせることができない鏡像である。等量の光学形態の化合物の混合物は、ラセミ混合物またはラセミ体として知られている。ジアステレオマーは、鏡像ではない立体異性体である。本発明は、本明細書に記載のいずれかの化合物の各々の純粋な立体異性体を提供する。かかる立体異性体としては、エナンチオマー、ジアステレオマー、またはEもしくはZアルケン、イミンまたはオキシム異性体が挙げられ得る。本発明はまた、ラセミ混合物、ジアステレオマー混合物、またはE/Z異性体混合物を含めた立体異性体混合物も提供する。立体異性体は、純粋な形で合成することができる(Nogradi,M.;Stereoselective Synthesis,(1987)VCH Editor Ebel,H.及びAsymmetric Synthesis,Volumes 3-5,(1983)Academic Press,Editor Morrison,J.)か、または、それらは、様々な方法、例えば、結晶化及びクロマトグラフィー技術により分割することができる(Jaques,J.;Collet,A.;Wilen,S.;Enantiomer,Racemates,and Resolutions,1981,John Wiley and Sons及びAsymmetric Synthesis,Vol.2,1983,Academic Press,Editor Morrison,J)。さらに、本記載の発明の化合物は、エナンチオマー、ジアステレオマー、異性体として存在する場合もあり、または該化合物の2つ以上がラセミ混合物またはジアステレオマー混合物を形成するように存在する場合もある。
【0121】
本明細書で使用される、「局所投与」という句は、局所的な薬理作用を生じ得る体内の特定の場所での治療薬の投与を指す。器官、細胞または組織等の場所への生物活性剤の局所送達はまた、それらの局所部位または組織における生物活性剤の治療上有用な長期間の存在ももたらし得る。これは、生物活性剤が分配され、代謝され、それらの場所から排除される生物活性剤の経路は、一般的な体循環に送達された生物活性剤の薬物動態的持続期間を定義する経路とは異なり得るためである。
【0122】
本明細書で使用される、「局所的薬理作用」という用語は、ある特定の位置、すなわち、ある特定の位置、場所、領域または部位に近接して限定される薬理作用を指す。本明細書で使用される、「主に局所的薬理作用」という句は、全身投与と比較して、局所投与で達成される少なくとも1~3桁ある特定の位置に限定される薬物の薬理作用を指す。
【0123】
本明細書で使用される、「長期」放出という用語は、治療レベルの活性成分を少なくとも7日間、好ましくは、約30~約60日間送達するように構築及び配置される埋め込みを指す。
【0124】
「最小有効濃度」、「最小有効用量」、または「MEC」という用語は、同義で使用され、ほとんどの患者において所望の薬理作用を生み出すために必要な薬物の最小濃度を指す。
【0125】
本明細書で使用される、「最大耐量」という用語は、許容できない毒性を生じない薬物の最高用量を指す。
【0126】
「旋光度」という用語は、偏光面が1つ以上の不斉炭素原子またはキラリティー中心を含む分子を通過する際、偏光面の方向が右または左に変化することを指す。回転方向は、右の場合、プラス記号(+)またはd-で示され、左の場合は、マイナス(-)または/-で示される。右回りの配置(D)を有する分子は、通常右旋性、すなわち、D(+)であるが、左旋性、すなわち、L(-)の場合もある。左回りの配置(L)を有する分子は、通常左旋性、すなわち、L(-)であるが、右旋性、すなわち、D(+)の場合もある。この特性を持つ化合物は、光学活性であると言われ、光学異性体と呼ばれる。偏光面の回転量は分子によって異なるが、任意の2つの異性体では、方向は逆であるが同じである。
【0127】
本明細書で使用される、「非経口」という用語は、薬物または薬剤が胃または「消化管」を通過せずに体内に入り、ひいては肝臓の初回通過効果に遭遇しない投与経路を指す。例としては、限定されないが、注射による体内への導入(すなわち、注射による投与)が含まれ、これには、例えば、皮下(すなわち、皮膚の下で注射)、筋肉内(すなわち、筋肉への注射)、静脈内(すなわち、静脈への注射)、髄腔内(すなわち、脊髄の周りまたは脳のくも膜下の空間への注射)、脳室内注射、大槽内注射、または注入技術が含まれる。非経口的に投与される組成物は、針を使用して送達される。
【0128】
本明細書で使用される、「粒子」という用語は、本明細書に記載のHPBCDと錯化された少なくとも1つの活性薬剤を全体的または部分的に含み得る極小の成分を指す。「マイクロ粒子」という用語は、本明細書では、一般に、約10nm~2000ミクロン(2ミリメートル)のサイズを有する様々な実質的に球形の構造を指すために使用され、マイクロカプセル、マイクロ粒子、ナノ粒子、ナノカプセル、ナノスフェア、及び粒子、すなわち、一般には、約2000ミクロン(2ミリメートル)未満の粒子を含む。該粒子は、コーティングに囲まれたコア内に該包接錯体を含み得る。該包接錯体はまた、該粒子全体に分散される場合もあれば、該粒子に吸着される場合もある。該粒子は、ゼロ次放出、一次放出、二次放出、遅延放出、持続放出、即時放出等、及びそれらの任意の組み合わせを含めた、任意の次数の放出速度のものであり得る。該粒子は、侵食性、非侵食性、生分解性、もしくは非生分解性材料またはそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない、薬学及び医学の分野で日常的に使用される材料のいずれかをさらに含み得る。該粒子は、溶液中にまたは半固体状態で包接錯体を含むマイクロカプセルでもよい。該粒子は、実質的には任意の形状でよい。
【0129】
本明細書で使用される、「浸透」という用語及びその様々な文法形式は、皮膚を介した物質の送達を指す。
【0130】
本明細書で使用される、「浸透促進剤」という用語は、皮膚を介した物質の送達を促進することが知られている薬剤を指す。
【0131】
「経皮吸収」とは、皮膚の外側から、血流内を含めた皮膚の下の位置への物質の吸収である。ヒトの皮膚の表皮は、吸収率に非常に関係がある。角質層の通過は、経皮吸収の律速段階を示す。例えば、薬物の経皮吸収に関与する主なステップは、濃度勾配の確立を含み、これが皮膚を通る薬物移動の推進力、媒体から皮膚への薬物の放出、すなわち、分配係数、及び皮膚層を通る薬物拡散、すなわち、拡散係数を与える。これらの要因の相互関係は、次式で要約される:
J=CvehxKm.D/x [式1]
式中、J=吸収速度
Cveh=媒体中の薬物濃度
Km=分配係数
D=拡散係数。
【0132】
物質の経皮吸収速度に影響を与える多くの要因が存在する。主にそれらは、次の通りである:(i)濃度。物質の濃度が高いほど、吸収速度は大きくなる。(ii)薬物が適用される皮膚表面積のサイズ。物質が適用される皮膚の接触面積が広いほど、吸収速度は大きくなる。(iii)解剖学的適用部位。皮膚は、体の様々な領域で厚さが異なる。より厚く、より無傷の角質層は、物質の吸収速度を低下させる。顔面野の角質層は、例えば、掌の皮膚よりもはるかに薄い。顔の皮膚の構造及び角質層の薄さは、経皮吸収に最適化された体の領域を提供し、局所的及び全身的に体中に活性薬剤を送達することを可能にする。(iv)水分補給。水分補給(皮膚の水分含量を増やすことを意味する)は、角質層の膨潤を引き起こし、これが透過性を高める。(v)皮膚温度の上昇は透過性を高める。ならびに(vi)化合物の組成及び媒体の組成もまた、物質の吸収性を決める。局所的に適用されるほとんどの物質は、基剤または媒体に組み込まれる。局所適用に選択される媒体は、吸収に大きく影響し、それ自体が皮膚に有益な効果を有し得る。媒体の選択及び皮膚を通過するその移動速度を決める要因は、当該物質の分配係数、分子量及び水溶性である。角質層のタンパク質部分は、水溶性物質に対して最も透過性があり、角質層の液体部分は、脂溶性物質に対して最も透過性がある。従って、液体及び水溶性の両方を有する物質は、角質層をより容易に通過することができる。Dermal Exposure Assessment:Principles and Applications,EPA/600/8-91/011b,January 1992,Interim Report-Exposure Assessment Group,Office of Health and Environmental Assessment,U.S.Environmental Protection Agency,Washington,D.C.20460を参照されたい。
【0133】
「医薬組成物」という用語は、本明細書では、標的の状態または疾患を予防するため、強度を低下させるため、治癒するため、またはその他の方法で治療するために使用される組成物を指すために使用される。
【0134】
「医薬的に許容される」という用語は、当該製剤または組成物の他の成分と適合し、そのレシピエントに有害ではない担体、希釈剤または賦形剤を指すために使用される。該担体は、治療される対象への投与に適したものにするために、十分に高純度で、十分に低毒性でなければならない。該担体はさらに、活性薬剤の安定性及びバイオアベイラビリティを維持するべきである。例えば、「医薬的に許容される」という用語は、動物、より具体的にはヒトでの使用に関して、連邦政府もしくは州政府の規制機関によって承認されていること、または米国薬局方もしくは他の一般に認められている薬局方に記載されていることを意味し得る。
【0135】
本明細書で使用される、「医薬的に許容される塩」という用語は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等なく、ヒト及び下等動物の組織と接触して使用するのに適するとともに、合理的な利益/リスク比と釣り合う塩を指す。医薬で使用される場合、該塩は、医薬的に許容されるべきであるが、医薬的に許容されない塩が、その医薬的に許容される塩の調製に便宜上使用される場合もある。かかる塩としては、次の酸から調製されるものが挙げられるが、これらに限定されない:塩酸、臭化水素酸、硫黄、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン-2-スルホン酸、及びベンゼンスルホン酸。また、かかる塩は、カルボン酸基のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、例えば、ナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩として調製され得る。「医薬的に許容される塩」は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等なく、ヒト及び下等動物の組織と接触して使用するのに適するとともに、合理的な利益/リスク比と釣り合う塩を意味する。医薬的に許容される塩は、当技術分野で周知である。例えば、P.H.Stahl,et al.は、医薬的に許容される塩を、“Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use”(Wiley VCH,Zurich,Switzerland:2002)で詳細に説明している。該塩は、適切な有機酸を用いて遊離塩基官能基を反応させることによって、本発明に記載の化合物の最終的な単離及び精製の過程で、インサイチュで調製される場合もあれば、別々に調製される場合もある。代表的な酸付加塩としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イセチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、重炭酸塩、p-トルエンスルホン酸塩及びウンデカン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。また、塩基性窒素含有基は、ハロゲン化低級アルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル、及びブチルの塩化物、臭化物、及びヨウ化物、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジブチル、及び硫酸ジアミル等の硫酸ジアルキル、長鎖ハロゲン化物、例えば、デシル、ラウリル、ミリスチル、及びステアリルの塩化物、臭化物、及びヨウ化物、臭化ベンジル及び臭化フェネチル等のハロゲン化アリールアルキル等の薬剤で四級化される場合もある。水もしくは油溶性または分散性生成物がそれによって得られる。医薬的に許容される酸付加塩を形成するために使用され得る酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸及びリン酸等の無機酸、ならびにシュウ酸、マレイン酸、コハク酸及びクエン酸等の有機酸が挙げられる。塩基性付加塩は、適切な塩基、例えば、医薬的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩もしくは重炭酸塩を用いて、あるいはアンモニアまたは有機一級、二級もしくは三級アミンを用いてカルボン酸含有部分を反応させることによって、本発明に記載の化合物の最終的な単離及び精製の過程で、インサイチュで調製され得る。医薬的に許容される塩としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属に基づくカチオン、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びアルミニウム塩等、ならびにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミン等を含めた非毒性四級アンモニア及びアミンカチオンが挙げられるが、これらに限定されない。塩基付加塩の形成に有用な他の代表的な有機アミンとしては、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジン等が挙げられる。医薬的に許容される塩はまた、当技術分野で周知の標準的な手順を使用して、例えば、アミン等の十分に塩基性の化合物を、生理学的に許容されるアニオンを与える適切な酸と反応させることによって得てもよい。カルボン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウムもしくはリチウム)またはアルカリ土類金属(例えば、カルシウムもしくはマグネシウム)塩もまた作製され得る。
【0136】
「ポリマー」という用語は、多くの繰り返しサブユニットからなる巨大分子または高分子を指す。「モノマー」という用語は、他の分子に化学的に結合してポリマーを形成し得る分子を指す。本明細書で使用される、「コポリマー」という用語は、複数種のモノマーから得られるポリマーを指す。
【0137】
本明細書で使用される、「プロセス」という用語は、製剤を製造するために使用される一連の操作、動作及び制御を指す。
【0138】
本明細書で使用される、「パルス放出」という用語は、薬物のバーストが1つ以上の所定の時間間隔で放出される任意の薬物含有製剤を指す。
【0139】
本明細書で使用される、「精製」という用語及びその様々な文法形式は、異物、外来、または好ましくない要素から単離するまたは取り除くプロセスを指す。
【0140】
本明細書で使用される、「ラセミ体」という用語は、互いの光学効果を中和する2つの光学活性成分の等モル混合物を指し、従って、光学的に不活性である。
【0141】
「放出」という用語及びその様々な文法形式は、以下のプロセスの組み合わせによる、活性薬物成分の溶解及び溶解または可溶化された種の拡散を指す:(1)シクロデキストリンの水和、(2)シクロデキストリンへの溶液の拡散、(3)薬物の溶解、及び(4)溶解した薬物のシクロデキストリンからの拡散。
【0142】
本明細書で使用される、「保持率」または「RR」という用語は、所与の期間に同じ薬物を保持する患者の割合を指す。薬物保持率は、治療の有効性及び安全性を評価するためのツールである。
【0143】
本明細書で使用される、「同じ」という用語は、種類、量が一致すること、すなわち、特徴または状態が変わらないことを指す。
【0144】
本明細書で使用される、「同様」という用語は、全般的な類似性を有することを指す。
【0145】
本明細書で使用される、「皮膚」という用語は、いくつかの層からなる体内で最大の器官を指す。これは生物学的恒常性に重要な役割を果たし、表皮及び真皮で構成される。角質層から始まるいくつかの層で構成される表皮は、皮膚の最外層であり、皮膚の最内層は、深部真皮である。皮膚は、体温調節、代謝機能(ビタミンD代謝)、及び免疫機能を含めた複数の機能を有する。
図1は、皮膚の解剖学的構造の図を示す。
【0146】
ヒトの場合、通常の皮膚の厚さは1~2mmであるが、体の様々な部分でかなりのばらつきがある。表皮と真皮の相対的比率も様々であり、片方または両方の層が厚くなっている領域に非常に厚い皮膚が見られる。例えば、真皮が特に厚い背中の肩甲骨間(肩甲骨の間)の領域では、皮膚の厚さが5mmを超える場合があるが、まぶたでは、0.5mm未満の場合がある。一般に、皮膚は、体の背面または伸筋表面の方が腹面または屈筋表面よりも厚い。しかしながら、これは手及び足には当てはまらない。掌及び足底の皮膚は、肩甲骨内領域を除くいかなる背面よりも厚い。掌及び足底は、特徴的に厚い表皮を厚い真皮に加えて有する。
【0147】
全身の皮膚表面は、多数の微細な溝が横切り、これらが一定の方向に走り、互いに交差して小偏菱形または長方形の領域の境界を示す。これらの溝は、真皮の表面の同様の溝に対応しているため、断面では、表皮と真皮の境界線が波打っているように見える。掌及び足底の非常に厚い皮膚では、これらの領域が平行に走る溝によって分離される細長い小稜を形成し、指先では、これらの小稜が複雑なループ、渦巻き(輪生)及びらせんに配置され、これらが各個人に特徴的な指紋を与える。これらの小稜は、表皮が最も厚い領域ではより顕著である。
【0148】
外部に表皮小稜がある場合、当該真皮表面に「乳頭間突起」と呼ばれる、対応するより細い突起が存在する。各乳頭間突起の両側の真皮乳頭は、表皮に不規則に突出している。掌及び足底、ならびに皮膚の他の繊細な部分では、真皮乳頭は多数あり、高く、多くの場合分岐しており、高さが異なる(0.05mm~0.2mm)。腹部や顔面等、機械的な要求が少なく、表皮が薄い場合、乳頭は低く、数が少ない。
【0149】
表皮は、環境に対する身体的緩衝帯を提供する。それは、外傷から保護し、毒素及び微生物を排除し、半透膜を提供して、必須の体液を保護エンベロープ内に保つ。従来、表皮はいくつかの層に分割されており、そのうちの2層は、生理学的に最も重要な層を表す。基底細胞層、または胚芽層は、主要な新生細胞源であるために重要である。創傷治癒の過程で、ほとんどの場合、これが有糸分裂する領域である。角質層及び顆粒層を含む表皮上層は、正常な表皮バリア機能の他の形成部である。
【0150】
角質層は、無血管の多層構造であり、環境に対するバリアとして機能し、経表皮水分蒸散を防ぐ。最近の研究では、酵素活性が角質層における酸外套の形成に関与していることが示された。総合して、酸外套及び角質層は、皮膚を水及び他の極性化合物に対して低透過性にし、間接的に微生物の侵入から皮膚を保護する。健常者の通常の皮表pHは、4~6.5であり、体の皮膚の領域によって異なる。この低pHが、皮膚バリア機能を強化する酸外套を形成する。
【0151】
角質層の下の表皮の他の層は、透明層、顆粒層、胚芽層、及び基底細胞層を含む。各々が、特殊な機能を備えた生細胞を含む(
図2)。例えば、表皮のメラノサイトによって生成されるメラニンは、肌の色の原因となる。ランゲルハンス細胞は、免疫処理に関与する。
【0152】
毛包、脂腺及び汗腺、指の爪、ならびに足指の爪を含めた皮膚付属器官は、表皮に由来し、真皮に突出しており、毛包ならびに脂腺及び汗腺は、真皮を貫通しない創傷(中間層創傷と呼ばれる)の迅速な再上皮化に関して上皮細胞に寄与する。脂腺は、皮膚を滑らかにし、皮膚の柔らかさ及び柔軟性を保つ分泌に関与する。それらは顔面に最も多く、掌及び足底でまばらである。汗腺の分泌は、皮膚のpHを制御して真皮の感染を防ぐ。汗腺、真皮血管、及び皮膚の小筋肉(鳥肌に関与する)が体表面の温度を制御する。皮膚の神経終末は、痛み、触覚、熱、及び冷受容器を含む。これらの神経終末の喪失は、外力に対する組織の耐性を低下させることにより、皮膚の損傷のリスクを高める。
【0153】
基底膜は、表皮と真皮の分離も接続もする。基底膜の表皮細胞が分裂すると、一方の細胞が残り、他方は顆粒層を通って表面の角質層に移行する。該表面では、該細胞が死んでケラチンを形成する。該表面の乾燥したケラチンは鱗屑と呼ばれる。角化症(ケラチンの厚い層)は、多くの場合踵に見られ、当該患者が糖尿病の場合、脂腺及び汗腺の機能の喪失を示す。加齢に伴う基底膜の萎縮、基底膜と真皮の分離は、高齢者の皮膚裂傷の原因の1つである。
【0154】
真皮(dermis)、または真皮(true skin)は、表皮を支持し、これに栄養分を与える血管構造である。さらに、真皮には、痛み、圧力、熱、及び冷たさに関する信号を伝達する感覚神経終末が存在する。真皮は、表層真皮及び深部真皮の2層に分けられる。
【0155】
表層真皮は、細胞外マトリックス(コラーゲン、エラスチン、及び基底質)からなり、血管、リンパ、上皮細胞、結合組織、筋肉、脂肪、及び神経組織を含む。真皮の血管供給は、表皮に栄養を与え、体温を調節する役割を果たす。線維芽細胞は、皮膚に膨圧を与える皮膚のコラーゲン及びエラスチン成分を生成する役割を果たす。フィブロネクチン及びヒアルロン酸は、線維芽細胞から分泌される。真皮の構造的完全性は、皮膚の正常な機能及び若々しい外観に関与する。
【0156】
深部真皮は皮下脂肪の上に位置する。それは、より大きな血管網及びコラーゲン繊維を含んで引っ張り強さを与える。それはまた、黄色の、主にコラーゲンで構成される弾性線維結合組織からなる。線維芽細胞もこの組織層に存在する。血管に富んだ真皮は、皮下組織または筋肉よりも長期間圧力に耐える。皮膚のコラーゲンは、皮膚に靭性を与える。皮膚の創傷、例えば、裂皮または膿疱は、表皮、基底膜、及び真皮を巻き込む。通常、皮膚の損傷は急速に治癒する。
【0157】
以下の4つの一般的な効果のうちの1つ以上を引き出すための物質が皮膚に適用される:皮膚表面の効果、角質層内の効果、表皮及び真皮への浸透を必要とする効果、または治療的全身濃度を生じるために十分な量の所与の物質を表皮及び真皮を通して血管系に送達することによって得られる全身的な効果。
【0158】
「可溶性」及び「溶解性」という用語は、特定の流体(溶媒)に溶解しやすいという特性を指す。「不溶性」という用語は、特定の溶媒への溶解性が最小であるかまたは限られている材料の特性を指す。溶液中では、溶質(または溶解物質)の分子は、溶媒の分子間に均一に分布する。「懸濁液」とは、微細に分割された種が別の種と組み合わされた分散体(混合物)であり、前者は非常に細かく分割されて混合されているため、急速には沈降しない。日常生活では、最も一般的な懸濁液は、液体中での固体の懸濁液である。使用され得る許容される媒体及び溶媒の中には、水、リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。本明細書で使用される、「溶解性」という用語は、化合物の総量(例えば、錯化及び非錯化の両形態での化合物の量を含む)に関する溶解性を意味する。
【0159】
ヨーロッパ薬局方によると、15~25℃の範囲の化合物の水への溶解性は次のように定義されている:
【表2】
【0160】
本明細書で使用される、「可溶化剤」という用語は、溶質の溶解を可能にする物質を指す。
【0161】
「溶液」とは、一般に、2種以上の物質の均一混合物と見なされる。それは高い頻度で液体であるが、必ずしもそうではない。溶液中では、溶質(または溶解物質)の分子は、溶媒の分子間に均一に分布する。
【0162】
本明細書で使用される、「溶媒和物」という用語は、溶質分子への溶媒分子の結合によって形成される複合体を指す。
【0163】
本明細書で使用される、「溶媒」という用語は、別の物質(「溶質」と呼ばれる)を溶解して均一に分散した混合物(溶液)を形成することができる物質を指す。
【0164】
本明細書で使用される、「分層皮膚」という用語は、表皮及び一部の真皮を含む皮膚を指す。
【0165】
本明細書で使用される、「安定性」という用語及びその様々な文法形式は、その物理的、化学的、微生物学的、治療的及び毒物学的仕様の範囲内にとどまる特定の製剤の能力を指す。
【0166】
特に明記しない限り、包接錯体に関連して「実質的に純粋」とは、約15%以下の不純物を含む包接錯体の調製を意図し、該不純物とは、化合物とHPBCDの包接錯体以外の化合物を意図する。実質的に純粋な調製物としては、約15%未満の不純物を含む調製物、例えば、約15%未満、約12%未満、約10%未満、約8%未満、約5%未満、約3%未満、約2%未満、約1%未満及び約0.5%未満のいずれか1つの不純物を含む調製物が挙げられる。
【0167】
本明細書で使用される、「置換される」という用語は、化学反応の結果として、ある元素またはラジカルの別の元素またはラジカルとの交換を指す。「置換基」は、化学反応の結果として、分子内の別の原子またはラジカルを置き換える原子またはラジカルである。本記載の発明では、特に明記しない限り、多置換度が企図される。
【0168】
本明細書で使用される、「界面活性剤(surfactant)」または「界面活性剤(surface-active agent)」という用語は、通常は有機化合物であり、少なくとも部分的に両親媒性の、すなわち、典型的には疎水性尾基及び親水性極性頭部基を含む薬剤を指す。界面活性剤は、一般に親水性基の性質によって分類される。代替的に、HLB(親水性・親油性バランス)、すなわち、界面活性剤の親水性(「水を好む」)基及び疎水性(「水を嫌う」)基の関係に関する経験的表現は、値の範囲を狭めるために親水性基の重量パーセントを5で割ったものである。HLB値が大きいほど、界面活性剤の水溶性は大きい。例えば、モル基準で、例えば、100%親水性分子(例えば、ポリエチレングリコール)は、HLB値20を有する。極性を増加させるポリオキシエチレン鎖長の増加は、HLB値を増加させ、極性鎖長が一定の場合は、アルキル鎖長または脂肪酸基の数が増えると、極性及びHLB値が減少する。油中水型エマルジョン(w/o)には、低HLBの界面活性剤が必要である。水中油型(o/w)エマルジョンには、多くの場合、より高いHLBの界面活性剤が必要である。例えば、Triton-X45のHLB値は9.8であるが、水に分散し(可溶ではない)、Triton X-35(HLB=7.8)及びTriton X-100(HLB=13.4)のブレンドは水溶性である。HLB値は加算的であり、必要なHLB値を達成するために、各界面活性剤のHLB値の加重平均を使用することができる。
【0169】
本明細書で使用される、「影響を受けやすい」という用語は、リスクがあることを指す。
【0170】
「持続放出(sustained release)」(「持続放出(extended release)」とも呼ばれる)という用語は、本明細書では、その従来の意味で使用され、長期間にわたる薬物の徐放を提供し、かつ、好ましくは、必ずしもそうではないが、長期間にわたって実質的に一定の血中薬物レベルをもたらす製剤を指す。
【0171】
本明細書で使用される、「症状」という用語は、特定の疾患または障害から生じ、それに付随し、その兆候の役割を果たす現象を指す。
【0172】
賦形剤に関して本明細書で使用される、「工業グレード」という用語は、仕様及び/または機能性、不純物、ならびに不純物プロファイルが異なる可能性がある賦形剤を指す。
【0173】
本明細書で使用される、「治療薬」または「活性薬剤」という用語は、意図された治療効果に関与する本記載の発明の組成物の含有物、成分または構成要素を指す。
【0174】
本明細書で使用される、「治療成分」という用語は、集団のパーセンテージにおける特定の疾患の兆候の進行を排除、低減、または防止する治療有効投与量(すなわち、投与の用量及び頻度)を指す。一般に使用される治療成分の例はED50であり、これは、集団の50%で特定の疾患の兆候に対して治療上有効である特定の投与量を示す。
【0175】
本明細書で使用される、「治療効果」という用語は、治療の結果を指し、その結果は、望ましくかつ有益であると判断される。治療効果は、直接もしくは間接的に、疾患の兆候の阻止、軽減、または排除を含み得る。治療効果はまた、直接もしくは間接的に、疾患の兆候の進行の阻止、軽減、または排除を含み得る。
【0176】
本明細書で使用される、「局所」という用語は、適用点での、またはそのすぐ下での本発明の組成物の投与を指す。本明細書で使用される、「局所投与」及び「局所適用」という用語は、同義で使用され、CD包接錯体を、上皮表面を含めた組織または細胞の1つ以上の表面へ送達することを指す。該組成物は、液体であれば、注入、滴下、または噴霧することによって適用される場合があり、軟膏、ローション、クリーム、ゲル等であれば、摩擦によって適用される場合があり、粉末であれば、振りかけることによって適用される場合があり、液体またはエアロゾル組成物であれば、噴霧することによって適用される場合があり、または他の任意の適切な手段によって適用される場合もある。局所投与は一般に、全身的な効果ではなく局所的な効果を与える。
【0177】
以下の4つの一般的な効果のうちの1つ以上を引き出すための物質が皮膚に一般的に適用される:皮膚表面の効果、角質層内の効果、表皮及び真皮への浸透を必要とする効果、または治療的全身濃度を生じるために十分な量の所与の物質を表皮及び真皮を通して血管系に送達することによって得られる全身的な効果。皮膚表面の効果の一例は、膜の形成である。膜の形成は、保護的(例えば、日焼け止め)及び/または閉塞性(例えば、皮膚表面からの水分の損失を減少させることによって保湿効果を提供するため)であり得る。角質層内の効果の一例は、皮膚の加湿である。これは、乾燥した外側の細胞に表面の膜によって水分補給すること、または脂質に富んだ細胞間薄層への水のインターカレーションを含み得る。角質層はまた、局所適用された物質が、皮膚成分への分配または皮膚成分との結合に起因して蓄積するリザーバ相またはデポとしても機能する場合がある。
【0178】
一般に、短期の浸透は皮膚の毛包及び脂腺器官を介して生じる一方、長期の浸透は細胞を介して生じることが認められている。生存能力のある表皮及び真皮への物質の浸透は、達成が困難な場合があるが、それが一度生じると、真皮への該物質の継続的な拡散が、真皮の微小循環へのその移行、及びその後の全身循環への移行につながる可能性がある。しかしながら、実質的な局所的送達を提供する送達システムを処方することは可能である。
【0179】
医学的には、皮膚の表面または一部の他の表面に適用される局所的手段、すなわち、多くの外用薬は、皮膚上であり、それらが皮膚に直接適用されることを意味する。外用薬はまた、吸入、例えば、喘息薬の場合もあれば、皮膚以外の組織の表面に適用される場合もあり、例えば、結膜に適用される点眼薬、耳に入れる点耳薬、または歯の表面に適用される薬の場合もある。
【0180】
本明細書で使用される、「経皮フラックス」という用語は、真皮バリアを通過する物質の吸収速度を指す。フラックスは、該バリアを隔てた濃度差に比例する。
【0181】
本明細書で使用される、「治療する」、「治療される」、または「治療すること」という用語は、治療的治療及び/または予防的(prophylactic)または予防的(preventative)手段の両方を指し、その目的は、望ましくない生理的状態、障害もしくは疾患を予防もしくは減速する(減少させる)こと、または有益もしくは所望の臨床結果を得ることである。本発明において、有益または所望の臨床結果としては、検出可能か検出不可能かにかかわらず、症状の緩和、該状態、障害もしくは疾患の程度の減少、該状態、障害もしくは疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、該状態、障害もしくは疾患の発症の遅延もしくは進行の減速、該状態、障害もしくは疾患の状態の改善、及び寛解(部分もしくは完全)、または該状態、障害もしくは疾患の改善もしくは改良が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で使用される、「治療する」または「治療すること」という用語は、さらに、以下の1つ以上を達成することを指す:(a)該障害の重症度を軽減すること、(b)治療中の該障害(複数可)に特徴的な症状の発症を制限すること、(c)治療中の該障害(複数可)に特徴的な症状の悪化を制限すること、(d)以前に該障害(複数可)を有していた患者の該障害(複数可)の再発を制限すること、及び(e)該障害(複数可)の症状を以前に示した患者の症状の再発を制限すること。治療には、許容できないレベルの副作用なしに臨床的に重要な反応を引き出すことが含まれる。治療にはまた、治療を受けない場合の予測生存期間と比較して、生存期間を延長することも含まれる。
【0182】
本明細書で使用される、「ファンデルワールス力」という用語は、ガス、液化及び固化ガス、ならびにほとんどすべての有機液体及び固体において中性分子を互いに引き付ける比較的弱い電気力を指す。
【0183】
本明細書で使用される、「粘度」という用語は、流体を流動させる傾向がある力に抵抗する流体の特性を指す。粘度は、流体の流れに対する抵抗の尺度である。該抵抗は、流体の層が互いに滑ろうとするときに生じる分子間摩擦によって引き起こされる。粘度は、動的(または絶対)粘度及び動粘性率の2つのタイプのものであり得る。絶対粘度または絶対粘度係数は、内部抵抗の尺度である。動的(または絶対)粘度は、流体によって単位距離だけ離れた状態に維持された場合に、一方の水平面を他方に対して単位速度で移動するために必要な単位面積あたりの接線力である。動粘度は通常、ポアズ(P)またはセンチポアズ(cP)で表され、1ポアズ=1g/cm2、及び1cP=0.01Pである。動粘性率は、絶対粘度または動粘度の密度に対する比である。動粘度率は通常、ストークス(St)またはセンチストークス(cSt)で表され、1St=10-4m2/s、及び1cSt=0.01Stである。
【0184】
本明細書で使用される、成分の「重量%」または「重量パーセント(weight percent)」または「重量パーセント(percent by weight)」または「wt/wt%」は、特に反対の記載がない限り、成分の重量の該成分を含む組成物の総重量に対するパーセンテージで表される比を指す。
【0185】
CD及びCD包接錯体
本発明のいくつかの実施形態によれば、本明細書の包接錯体及び製剤に用いるシクロデキストリンは、水溶性の非置換または置換ベータ-シクロデキストリン(BCD)である。いくつかの実施形態によれば、ベータ-シクロデキストリンは、メチルベータ-シクロデキストリン(MBCD)、ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HPBCD)、及びスルホブチルエーテルベータ-シクロデキストリン(SBEBCD)からなる群から選択される。いくつかの実施形態によれば、該ベータ-シクロデキストリンは、ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリンである。いくつかの実施形態によれば、該ベータ-シクロデキストリンは、置換ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリンである。いくつかの実施形態によれば、シクロデキストリンの混合物もまた使用され得る。例えば、活性化合物及び2つまたは3つまたは4つ以上のシクロデキストリンの混合物を含む製剤も提供する。
【0186】
いくつかの実施形態によれば、該シクロデキストリンは、以下の商品名CAVASOL(登録商標)W6 HP(Wacker Chemic AG,Munich,Germany)、CAVASOL(登録商標)W6 HP TL(Wacker Chemie AG,Munich,Germany)、CAVAMAX(登録商標)W6 Pharma(Wacker Chemie AG,Munich,Germany)、CAVASOL(登録商標)W7 HP(Wacker Chemie AG,Munich,Germany)、CAVASOL(登録商標)W7 HP Pharma(Wacker Chemic AG,Munich,Germany)、CAVASOL(登録商標)W7 HP TL(Wacker Chemie AG,Munich,Germany)、CAVASOL W7 M(Wacker Chemie AG,Munich,Germany)、CAVASOL(登録商標)W7 M Pharma(Wacker Chemie AG,Munich,Germany)、CAVASOL(登録商標)W7 M TL(Wacker Chemie AG,Munich,Germany)、CAVASOL(登録商標)W8 HP(Wacker Chemie AG,Munich,Germany)、CAVASOL(登録商標)W8 HP Pharma(Wacker Chemie AG,Munich,Germany)、KLEPTOSE(登録商標)HPB(Roquette Pharma,Geneva,IL)、及びCAPTISOL(登録商標)(Cyclex Pharmaceuticals,Inc.Lenexa,KS)で販売されているシクロデキストリンを含むが、これらに限定されない商業的供給源から入手することができる。
【0187】
例示的な小分子化合物のクラスとしては、限定されないが、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、降圧剤、抗原虫剤、抗酸化剤、鎮痒剤、抗皮膚萎縮剤、抗ウイルス剤、腐食剤、カルシウムチャネル遮断薬、サイトカイン調節剤、プロスタグランジンアナログ、化学療法剤、刺激剤、TRPCチャネル阻害剤、及びビタミンが挙げられる。
【0188】
本明細書で使用される、「抗真菌剤」という用語は、真菌の成長を阻害する、または真菌を破壊する能力を有する化学物質群のいずれかを意味する。抗真菌剤としては、アンホテリシンB、カンジシジン、デルモスタチン、フィリピン、ファンギクロミン、ハチマイシン、ハマイシン、ルセンソマイシン、メパルトリシン、ナタマイシン、ナイスタチン、ペチロシン、ペリマイシン、アザセリン、グリセオフルビン、オリゴマイシン、ネオマイシン、ピロルニトリン、シッカニン、ツベルシジン、ビリジン、ブテナフィン、ナフチフィン、テルビナフィン、ビホナゾール、ブトコナゾール、クロルダントイン、クロルミダゾール、クロコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、エニルコナゾール、フェンチコナゾール、フルトリマゾール、イソコナゾール、ケトコナゾール、ラノコナゾール、ミコナゾール、オモコナゾール、オキシコナゾール、セルタコナゾール、スルコナゾール、チオコナゾール、トルシクラート、トリンデート(Tolindate)、トルナフテート、フルコナゾール、イトラコナゾール、サペルコナゾール、テルコナゾール、アクリゾルシン、アモロルフィン、ビフェナミン、ブロモサリチルクロルアニリド、ブクロサミド、プロピオン酸カルシウム、クロルフェネシン、シクロピロックス、クロキシキン、コパラフィネート、ジアムタゾール、エキサラミド、フルシトシン、ハレタゾール、ヘキセチジン、ロフルカルバン、ニフラテル、ヨウ化カリウム、プロピオン酸、ピリチオン、サリチルアニリド、プロピオン酸ナトリウム、スルベンチン、テノニトロゾール、トリアセチン、ウジョチオン(Ujothion)、ウンデシレン酸、及びプロピオン酸亜鉛が挙げられるが、これらに限定されない。
【0189】
「イミダゾール」(1,3-ジアザシクロペンタ-2,4-ジエン)という用語は、以下の構造を有する5員の芳香族ヘテロ環を指す:
【化1】
【0190】
これは、2つの窒素原子のどちらにも位置し得る水素原子に起因する2つの等価の互変異性型で存在する。
【0191】
非結合電子対を有するイミダゾールのN-3窒素原子は、sp2混成窒素原子としては非常に塩基性である。イミダゾリウムイオンと呼ばれ、共鳴によって安定化されるその共役酸は、以下に示すように、pKa約7.0を有する。その結果、イミダゾールは、生理的条件下、すなわち、中性pHに近い水性条件下で、その共役塩基と共役酸の形態の間で容易に相互変換する。さらに、N-1の完全または部分的な脱プロトン化によって強化することができるイミダゾールのルイス塩基性は、それを生体系で発生するものを含めた多くの金属イオンの優れたリガンドにする。
【化2】
【0192】
タンパク質に最も一般的に見られる20の内因性アミノ酸の1つであるヒスチジンは、その側鎖にイミダゾール環を含み、これがイミダゾール自体としては中程度の塩基性及び上記の金属イオンに対して親和性を示す。これらの特性により、ヒスチジン残基は多くの酵素、受容体及びその他のタンパク質の正常な機能に不可欠である。例えば、ヒスチジン残基は、多くの酵素の活性部位でのプロトン移動の促進剤として機能する。ヒスチジン残基はまた、ヘモグロビンによる酸素の協同的結合及び放出においていくつかの重要な役割も果たす。ヒスチジンの脱炭酸は、重要な神経伝達物質であるヒスタミンを提供する。この場合、イミダゾール部分はヒスタミン受容体への結合に不可欠である。
【0193】
合成イミダゾールは、多くの殺真菌剤、抗原虫剤及び降圧剤に含まれる。イミダゾールはまた、茶葉及びコーヒー豆に含まれるテオフィリン分子の一部でもあり、中枢神経系を刺激する。イミダゾール及び過酸化水素源を含む点眼剤の防腐系は、真菌及び細菌に対して有効であることが示されている(U.S.6,565,894)。
【0194】
既知のイミダゾールの例としては、ヒスチジン、抗菌剤ビホナゾール、ブトコナゾール、クロルイミダゾール(chlorimidazole)、クロルダントイン、クロコナゾール、クロトリマゾール、デモコナゾール(democonazole)、エベルコナゾール、エコナゾール、エルビオール、エニルコナゾール、フェンチコナゾール、フルトリマゾール、イソカナゾール(isocanazole)、ケトコナゾール、ラノコナゾール、ロムバゾール(lombazole)、ミコナゾール、ネチコナゾール、NND-502、オモコナゾール、オキシコナゾール、パルコナゾール(parconazol)、セルタコナゾール、スルコナゾール、チアベンダゾール、及びチオコナゾール、ならびにトロンボキサンシンターゼ阻害剤7-(1-イミダゾリル)ヘプタン酸、オザグレル、及び1-ベンジルイミダゾールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0195】
他の含窒素5員芳香族ヘテロ環は、イミダゾールのアナログと見なすことができる。「イミダゾールアナログ」という用語は、本明細書では、イミダゾール及び関連する少なくとも2つの窒素原子を環内に含む5員の芳香族ヘテロ環を描写するために使用される。かかるヘテロ環は、1,2,4-トリアゾール、1,3,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール、テトラゾール及びピラゾール、ならびにチアジアゾール及びオキサジアゾールが例示されるが、これらに限定されない。いくつかのトリアゾールは、特に、アルバコナゾール、CAS RN214543-30-3、フルコナゾール、ゲナコンゾール(genaconzole)、ヒドロキシイトラコナゾール、イサブコナゾール、イトラコナゾール、プラミコナゾール、ラブコナゾール、サペルコナゾール、SYN 2869、T 8581、TAK 456、テルコナゾール、ビブナゾール、ボリコナゾール、プラミコナゾール、及びポサコナゾール等の殺真菌剤として有用である。
【0196】
例えば、ミコナゾールは、一般に、真菌感染症、例えば、足白癬及び陰金、ならびに膣内イースト菌感染症を治療するために皮膚または粘膜に局所的に適用され、クリーム、ローション、粉末、スプレー液、及びスプレー粉末として皮膚塗布用に市販されている。ミコナゾールは、以下の構造のイミダゾールである:
【化3】
【0197】
ミコナゾールの抗真菌活性(及び他のアゾール抗真菌剤の活性)は、特に、シトクロムP450依存性ラノステロール14α-デメチラーゼ酵素を阻害することによる、エルゴステロール合成の阻害に起因すると考えられる。
【0198】
以下の構造を有するイミダゾール抗真菌剤であるケトコナゾール:
【化4】
は、脂漏性皮膚炎の治療に有効であることが分かっている。男性のアンドロゲン型脱毛症に対するミノキソジル2%とケトコナゾール2%のシャンプーのある非盲検試験では、両群で同等の成長が見られ、両方とも非薬用シャンプー単独よりも優れた成長を達成したと報告されている。同様の結果が、局所ケトコナゾール2%をプラセボと比較したマウスモデルでも見られた。ケトコナゾールは、女性の多毛症の治療にも使用されており、ある程度の成功を収めている。作用機序はわかっていない。
【0199】
本明細書で使用される、「抗ヒスタミン剤」という用語は、体内のヒスタミンを弱め、アレルギー反応(枯草熱等)及び風邪の症状を治療するために使用される様々な化合物のいずれかを指す。本記載の発明の文脈で使用可能な抗ヒスタミン薬の非限定的な例としては、クロルフェニラミン、ブロムフェニラミン、デクスクロルフェニラミン、トリポリジン(tripolidine)、クレマスチン、ジフェンヒドラミン、プロメタジン、ピペラジン、ピペリジン、アステミゾール、ロラタジン及びテルフェナジンが挙げられる。
【0200】
降圧剤:血圧は、心臓が動脈に血液を送り出すときに動脈の壁を押す血液の力である。そのレベルは、年齢、性別、身体活動レベル及び情動変化によって異なる。本明細書で使用される、「高血圧」という用語は、高い全身血圧、すなわち、心血管障害または他の有害事象を誘発する可能性のあるレベルまでの一時的または持続的な全身血圧の上昇を指す。世界保健機関(World Health Organization)によると、「高血圧」は、140/90mmHgよりも持続的に高い収縮期/拡張期圧として定義されている。降圧剤が高血圧を低下させるために使用される。降圧剤には多くの異なるタイプがあり、それらは、様々な方法で作用し、血圧を下げる。非限定的な例としては、ACE阻害剤(例えば、エナラプリル、リシノプリル、ペリンドプリル)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(例えば、ロサルタン、バルサルタン)、カルシウムチャネル遮断薬(上記参照)、利尿薬(例えば、アミロリド、フロセミド、インダパミド)、ベータ遮断薬(例えば、アテノロール、メトプロロール、プロプラノロール、アルファ遮断薬(例えば、ドキサゾシン、プラゾシン)、中枢作用性降圧薬(例えば、メチルドパ、クロニジン)、血管拡張薬(例えば、ヒドララジン、ミノキシジル(Loniten(登録商標)))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0201】
本明細書で使用される、「抗原虫剤」という用語は、主として原虫症の治療に使用される、原虫の成長を阻害するまたは原虫を破壊する能力を有する化学物質群のいずれかを意味する。抗原虫剤の例としては、ピリメタミン(Daraprim(登録商標))スルファジアジン、及びロイコボリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0202】
本明細書で使用される、「鎮痒剤」という用語は、かゆみを軽減、排除または防止する物質を指す。鎮痒剤としては、メトジラジン及びトリメプラジンの医薬的に許容される塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0203】
本明細書で使用される、「抗酸化剤」という用語は、酸化または酸素もしくは過酸化物によって促進される反応を阻害する物質を指す。本記載の発明の文脈で使用可能な抗酸化剤の非限定的な例としては、アスコルビン酸(ビタミンC)及びその塩、脂肪酸のアスコルビルエステル、アスコルビン酸誘導体(例えば、リン酸アスコルビルマグネシウム、リン酸アスコルビルナトリウム、ソルビン酸アスコルビル)、トコフェロール(ビタミンE)、トコフェロールソルベート、トコフェロールアセテート、他のトコフェロールエステル、ブチル化ヒドロキシ安息香酸及びそれらの塩、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸(商品名Trolox(商標)で市販されている)、没食子酸及びそのアルキルエステル、特に没食子酸プロピル、尿酸ならびにその塩及びアルキルエステル、ソルビン酸及びその塩、リポ酸、アミン(例えば、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、アミノ-グアニジン)、スルフヒドリル化合物(例えば、グルタチオン、N-アセチルシステイン及びその誘導体)、ジヒドロキシフマル酸及びその塩、ピドロ酸グリシン、アルギニンピロレート(arginine pilolate)、ノルジヒドログアヤレチン酸、バイオフラボノイド、ポリフェノール、例えば、レスベラトロール、及びそのアナログ、例えば、trans-レベラトロール、クルクミン、リジン、メチオニン、プロリン、スーパーオキシドジスムターゼ、シリマリン、茶抽出物、ブドウの皮/種子抽出物、メラニン、ならびにローズマリー抽出物が挙げられる。
【0204】
「抗皮膚萎縮活性物質」という用語は、落屑の自然なプロセスを促進または維持することによって表皮層を補充または若返らせるのに有効な物質を指す。本記載の発明の文脈で使用することができる抗しわ及び抗皮膚萎縮活性物質の非限定的な例としては、レチノイン酸、そのプロドラッグ及びその誘導体(例えば、cis及びtrans)及びアナログ、サリチル酸及びその誘導体、含硫黄D及びLアミノ酸(例えば、システイン、メチオニン)ならびにそれらの誘導体(例えば、N-アセチルシステイン)及び塩、チオール、例えば、エタンチオール、アルファ-ヒドロキシ酸、例えば、グリコール酸、及び乳酸、フィチン酸、リポ酸、リゾホスファチジン酸、ならびに皮膚剥離剤(例えば、フェノール等)が挙げられる。
【0205】
本明細書で使用される、「抗ウイルス剤」という用語は、主としてウイルス性疾患の治療に使用される、ウイルスの複製を阻害する、またはウイルスを破壊する能力を有する化学物質群のいずれかを意味する。抗ウイルス剤としては、アシクロビル、シドフォビル、シタラビン、ジデオキシアデノシン、ジダノシン、エドクスジン、ファムシクロビル、フロクスウリジン、ガンシクロビル、イドクスウリジン、イノシンプラノベクス、ラミブジン、MADU、ペンシクロビル、ソリブジン、スタブジン、トリフルリジン、バラシクロビル、ビダラビン、ザルシタビン、アセマンナン、アセチルロイシン、アマンタジン、アミジノマイシン、デラビルジン、ホスカルネット、インジナビル、インターフェロン(例えば、IFN-アルファ)、ケトキサール、リゾチーム、メチサゾン、モロキシジン、ネビラピン、ポドフィロトキシン、リバビリン、リマンタジン、リトナビル2、サキナビル、スタリマイシン(Stailimycin)、スタトロン、トロマンタジン、ジドブジン(AZT)及びキセナゾン酸(Xenazoic Acid)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0206】
本明細書で使用される、「腐食剤」という用語は、化学作用によって上皮組織を破壊または侵食することが可能な物質を指す。腐食剤は、死んだ皮膚細胞を取り除くために使用することができる。例えば、強力な角質溶解効果を有する天然由来の酸であるベータ-ヒドロキシ酸は、問題のある肌、ざ瘡またはピーリングに有用である。
【0207】
カルシウムチャネル遮断薬。カルシウムチャネル遮断薬は、心臓及び血管の筋細胞の電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)に作用する。カルシウムチャネルを遮断することにより、刺激時の細胞内のカルシウムレベルの大幅な増加を防ぎ、これはその後、筋収縮の減少につながる。心臓では、1拍ごとに利用可能なカルシウムの減少が、心収縮性の低下をもたらす。血管では、カルシウムが減少すると血管平滑筋の収縮が少なくなり、ひいては血管径が増加する。結果として生じる血管拡張は、総末梢抵抗を減少させる一方、心収縮性の減少は、心拍出量を減少させる。血圧は、ある程度心拍出量及び末梢抵抗によって決まることから、血圧が低下する。
【0208】
カルシウムチャネル遮断薬は、交感神経系からの入力に対する心臓の反応性を低下させない。血圧調節は、交感神経系によって(圧受容器反射を介して)行われるため、カルシウムチャネル遮断薬は、β遮断薬よりも効果的に血圧を維持することができる。しかしながら、カルシウムチャネル遮断薬は、血圧の低下をもたらすため、圧受容器反射は、多くの場合交感神経作用の反射的増加を開始し、心拍数及び収縮性の増加につながる。血圧の低下はまた、血管平滑筋におけるVDCCの拮抗作用の直接効果を反映している可能性が高く、血管拡張を引き起こす。これらの影響を最小限に抑えるために、β遮断薬をカルシウムチャネル遮断薬と組み合わせてもよい。
【0209】
L型VDCC阻害剤は、カルシウム流入遮断薬であり、その主な薬理作用は、L型電位依存性カルシウムチャネルを介した細胞へのカルシウムの流入を防止または遅延させることである。L型カルシウムチャネル阻害剤の例としては、以下が含まれるが、これらに限定されない:ジヒドロピリジンL型遮断薬、例えば、ニソルジピン、ニカルジピン及びニフェジピン、AHF(例えば、4aR,9aS)-(+)-4a-アミノ-1,2,3,4,4a,9a-ヘキサヒドロ-4aH-フルオレン,HCl)、イスラジピン(例えば、4-(4-ベンゾフラザニル)-1,-4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-3,5-ピリジンジカルボン酸メチル1-メチルエチルエステル)、カルシセプチン(Calciseptin)/カルシセプチン(calciseptine)(例えば、(Dendroaspis polylepis polylepis)から単離されたもの、シルニジピン(例えば、同様にFRP-8653、ジヒドロピリジン型阻害剤)、ジルアンチゼム(Dilantizem)(例えば(2S,3S)-(+)-cis-3-アセトキシ-5-(2-ジメチルアミノエチル)-2,3-ジヒドロ-2-(4-メトキシフェニル)-1,5-ベンゾチアゼピン-4(5H)-オン塩酸塩)、ジルチアゼム(例えば、ベンゾチアゼピン-4(5H)-オン、3-(アセチルオキシ)-5-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-2,3-ジヒドロ-2-(4-メトキシフェニル)-,(+)-cis-,一塩酸塩)、フェロジピン(例えば、4-(2,3-ジクロロフェニル)-1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-3,5-ピリジンカルボン酸エチルメチルエステル)、FS-2(例えば、Dendroaspis polylepis polylepis毒からの分離株)、FTX-3.3(例えば、Agelenopsis apertaからの分離株)、硫酸ネオマイシン(例えば、C23H46N60.13.3H2SO4)、ニカルジピン(例えば、1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(3-ニトロフェニル)メチル-2-[メチル(フェニルメチル)アミノ]-3,5-ピリジンジカルボン酸エチルエステル塩酸塩、同様にYC-93、ニフェジピン(例えば、1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(2-ニトロフェニル)-3,5-ピリジンカルボン酸ジメチルエステル)、ニモジピン(例えば、4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(3-ニトロフェニル)-3,5-ピリジンジカルボン酸2-メトキシエチル1-メチルエチルエステル)または(イソプロピル2-メトキシエチル1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(m-ニトロフェニル)-3,5-ピリジンジカルボキシレート)、ニトレンジピン(例えば、1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(3-ニトロフェニル)-3,5-ピリジンジカルボン酸エチルメチルエステル)、S-ペタシン(例えば、(3S,4aR,5R,6R)-[2,3,4,4a,5,6,7,8-オクタヒドロ-3-(2-プロペニル)-4a,5-ジメチル-2-オキソ-6-ナフチル]Z-3’-メチルチオ-1’-プロペノエート)、フロレチン(例えば、2’,4’,6’-トリヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオフェノン、同様に3-(4-ヒドロキシフェニル)-1-(2,4,6-トリヒドロキシフェニル)-1-プロパノン、同様にb-(4-ヒドロキシフェニル)-2,4,6-トリヒドロキシプロピオフェノン)、プロトピン(例えば、C2OH19NO5.Cl)、SKF-96365(例えば、1-[b-[3-(4-メトキシフェニル)プロポキシ]-4-メトキシフェネチル]-1H-イミダゾール,HCl)、テトランジン(例えば、6,6’,7,12-テトラメトキシ-2,2’-ジメチルベルバマン)、(.+-.)-メトキシベラパミルまたは(+)-ベラパミル(例えば、5-[N-(3,4-ジメトキシフェニルエチル)メチルアミノ]-2-(3,4-ジメトキシフェニル)-2-イソ-プロピルバレロニトリル塩酸塩)、及び(R)-(+)-Bay K8644(例えば、R-(+)-1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-5-ニトロ-4-(2-(トリフルオロメチル)フェニル]-3-ピリジンカルボン酸メチルエステル)。上記の例は、L型電位依存性カルシウムチャネルに特異的であり得るか、またはより幅広い範囲の電位依存性カルシウムチャネル、例えば、N、P/Q、R及びT型を阻害し得る。
【0210】
失明を引き起こす可能性のある眼疾患群である緑内障を治療するための例示的な薬物としては、ブリモニジン/チモロール(Combigan(登録商標)として販売されている眼科用アルファ-2-アゴニスト及び眼科用ベータ遮断薬の組み合わせ)、ドルゾラミド/チモロール(ベータ遮断薬、緑内障の治療用にCospot(登録商標)として販売されている)、ならびにLevobunolol(眼科用ベータ遮断薬、緑内障のためのLevobunolol(登録商標)として販売されている)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0211】
プロスタグランジンアナログ。プロスタグランジンは、体内で必須脂肪酸から酵素的に得られる脂質化合物群のファミリーである。すべてのプロスタグランジンは、5炭素環を含めた20個の炭素原子を含む。プロスタグランジンは、筋肉の収縮、炎症の媒介、カルシウム移動、ホルモン調節及び細胞増殖制御が挙げられるがこれらに限定されない多種多様な効果を有する。プロスタグランジンは、血管平滑筋細胞(収縮または拡張を引き起こす)、血小板(凝集または脱凝集を引き起こす)、及び脊髄神経細胞(痛みを引き起こす)を含めた様々な細胞に作用する。緑内障及び眼内圧亢進の患者に使用するための眼圧(IOP)低下薬としてのプロスタグランジンF2αアナログの使用の研究中に、それらの増毛特性を科学者が偶然見出した。例えば、ラタノプロスト[(1R,2R,3R,5S)3,5-ジヒドロキシ-2-[(3R)-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンチル]シクロペンチル]-5-ヘプテノエート]は、PfizerからXalatan(登録商標)として販売されている。Johnstoneに対して発行された米国特許第6,262,105号参照。ビマトプロスト(シクロペンタンN-エチルヘプテンアミド-5-cis-2-(3α-ヒドロキシ-5-フェニル-1-trans-ペンテニル)-3,4-ジヒドロキシ,[1α,2β,3α,5α]は、Allergan,Inc.of Irvine,Calif.から、緑内障の治療用の0.03%点眼剤Lumigan(登録商標)として、また、局所的に適用された際にまつげの外観を改善するためのLatisse(登録商標)として販売されている。イソプロピル(Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-3,5-ジヒドロキシ-2-[(1E,3R)-3-ヒドロキシ-4-[(α,α,α-トリフルオロ-m-トリル)オキシ]-1-ブテニル]シクロペンチル]-5-ヘプテノエート、またはトラバプロスト(Travaprost)(TRAVATAN(登録商標)Alcon)は、0.004%の点眼剤として入手可能である。タフルプロストの化学名は、1-メチルエチル(5Z)-7{(1R,2R,3R,5S)-2-[(1E)-3,3-ジフルオロ-4-フェノキシ-1-ブテニル}-3,5-ジヒドロキシシクロペンチル]-5-ヘプテノエート(タフルプロスト、Zioptan(登録商標)として販売)であり、プロスタグランジンF2αのフッ素化アナログである。及び16-フェノキシテトラノルPGF2αシクロプロピルアミド(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、U.S.7,645,800、7,514,474、7,649,021、7,632,868、7,517,912参照)。
【0212】
本明細書で使用される、「化学療法剤」という用語は、疾患の治療または制御に有用な化学物質を指す。本記載の発明の文脈で使用可能な化学療法剤の非限定的な例としては、テモゾロミド、ブスルファン、イホスアミド(ifosamide)、メルファラン、カルムスチン、ロムスチン、メスナ、5-フルオロウラシル、カペシタビン、ゲムシタビン、フロクスウリジン、デシタビン、メルカプトプリン、ペメトレキセド二ナトリウム、メトトレキサート、ビンクリスチン、ビンブラスチン、酒石酸ビノレルビン、パクリタキセル、ドセタキセル、イキサベピロン、ダウノルビシン、エピルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、アムルビシン、ピラルビシン、ミトキサントロン、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、コルヒチン、トポテカン、イリノテカン、ゲムシタビン、シクロスポリン、ベラパミル、バルスポドル(valspodor)、プロベネシド、MK571、GF120918、LY335979、ビリコダール、テルフェナジン、キニジン、ペルビレインA及びXR9576が挙げられる。
【0213】
本明細書で使用される、「サイトカイン」という用語は、他の細胞に様々な影響を与える細胞によって分泌される小さい可溶性タンパク質を指す。サイトカインは、成長、発達、創傷治癒、及び免疫反応を含めた、多くの重要な生理的機能を仲介する。それらは、細胞膜にあるそれらの細胞特異的受容体に結合することによって作用し、これにより、細胞内で別個のシグナル伝達カスケードが開始され、最終的には標的細胞の生化学的及び表現型の変化につながる。一般に、サイトカインは局所的に作用する。それらとしては、多くのインターロイキン及びいくつかの造血成長因子を包含するI型サイトカイン、インターフェロン及びインターロイキン-10を含めたII型サイトカイン、TNFα及びリンホトキシンを含めた腫瘍壊死因子(「TNF」)関連分子、インターロイキン1(「IL-1」)を含めた免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバー、ならびに多種多様な免疫機能及び炎症機能に重要な役割を果たす分子のファミリーであるケモカインが挙げられる。同じサイトカインが、細胞の状態に応じて該細胞に異なる影響を与える場合もある。サイトカインは、多くの場合、他のサイトカインの発現を調節し、そのカスケードを始動させる。サイトカイン療法の欠点は、サイトカインの以下の基本的な特性に起因する:(i)サイトカインは、多面発現性である。これは、いくつかのプロセスに並行して影響を与えることを意味する。(ii)サイトカインは、重複性があることも分かっている。これは、ある特定のサイトカイン活性を遮断することによって達成される効果が、他のサイトカインによって補償され得ることを意味する(ただし、不完全寛解の場合、または不寛容の場合に、生物学的因子を別のサイトカイン阻害薬に置き換えることができるため、これが有益な場合もある)。(iii)サイトカイン・ネットワークは、調節されたバランスの取れたシステムであり、その変更は免疫反応の障害につながる可能性がある。例示的なサイトカイン調節剤としては、エタネルセプト、アダリムマブ、インフロキシマブ(infloximab)、セルトリズマブ及びゴリムマブ(TNFα)、リロナセプト、カナキヌマブ(IL-1)、シルツキシマブ(IL-6)、ウステキヌマブ(IL-12及びIL-23)、イキセキズマブ、セクキヌマブ(IL-17、IL17A)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0214】
一過性受容器電位カチオン(TRPC)チャネルは、細胞型間で広く発現しており、受容器を介したCa2+シグナル伝達において重要な役割を果たし得る。TRPC3チャネルは、ホスホリパーゼC共役受容体に応答して活性化されるCa2+伝導チャネルであることが分かっている。TRPC3チャネルは、細胞内イノシトール1,4,5-三リン酸受容体(InsP3R)と直接相互作用することが示されており、チャネルの活性化はInsP3Rへの結合によって媒介される。
【0215】
動脈血流の増加、血管収縮の抑制または血管拡張の誘発に有用な薬剤は、TRPチャネルを阻害する薬剤である。これらの阻害剤は、TRPチャネルアンタゴニストである化合物を包含する。かかる阻害剤は、活性阻害剤またはTRPチャネル活性阻害剤と呼ばれる。本明細書で使用される、「活性阻害剤」という用語は、TRPチャネルの活性を妨害または防止する薬剤を指す。活性阻害剤は、TRPチャネルがUTP等のアゴニストに結合する能力を妨げ得る。活性阻害剤は、TRPチャネル上の活性化結合部位との相互作用をめぐって、天然に存在するTRPチャネルの活性化因子と競合する薬剤であり得る。代替的に、活性阻害剤は、活性化結合部位とは異なる部位でTRPチャネルに結合し得るが、その際に、例えば、活性化結合部位に伝達されるTRPチャネルのコンフォメーション変化を引き起こす場合があり、それにより、天然の活性化因子の結合を排除する。代替的に、活性阻害剤は、TRPチャネルの上流または下流の成分を妨げ得るが、それは、TRPチャネルの活性を妨げる。この後者のタイプの活性阻害剤は、機能的アンタゴニストと呼ばれる。活性阻害剤であるTRPチャネル阻害剤の非限定的な例は、塩化ガドリニウム、塩化ランタン、SKF96365及びLOE-908である。
【0216】
本明細書で使用される、「ビタミン」という用語は、ほとんどの動物の栄養に微量で必須の様々な有機物質のいずれかを指し、特に代謝過程の調節において補酵素及び補酵素の前駆体として作用する。本発明の文脈で使用可能なビタミンの非限定的な例としては、ビタミンA及びそのアナログ及び誘導体:レチノール、レチナール、レチニルパルミテート、レチノイン酸、トレチノイン、イソトレチノイン(レチノイドと総称される)、ビタミンE(トコフェロール及びその誘導体)、ビタミンC(L-アスコルビン酸ならびにそのエステル及び他の誘導体)、ビタミンB3(ナイアシンアミド及びその誘導体)、アルファヒドロキシ酸(例えば、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸等)及びベータヒドロキシ酸(例えば、サリチル酸等)が挙げられる。
【0217】
いくつかの実施形態によれば、HPBCDと錯化された高度に親油性の活性薬剤は、親油性薬剤単独と比較して、改善された水への溶解性を特徴とし得る。いくつかの実施形態によれば、HPBCDで形成された活性薬剤包接錯体を含み、ポリマーとともに製剤化された組成物は、遅効性(slow release)を特徴とし得る。いくつかの実施形態によれば、HPBCDで形成された活性薬剤包接錯体を含み、ポリマーとともに製剤化された組成物は、制御放出を特徴とし得る。いくつかの実施形態によれば、HPBCDで形成された活性薬剤包接錯体を含み、ポリマーとともに製剤化された組成物は、持続放出(sustained release)を特徴とし得る。
【0218】
いくつかの実施形態によれば、HPBCDで形成された活性薬剤包接錯体を含む組成物は、活性薬剤単独と比較して、改善された溶解性を特徴とし得る。いくつかの実施形態によれば、該化合物の溶解性は、20℃の脱イオン水中にシクロデキストリンとの包接錯体として存在する場合、非錯化活性薬剤と比較して、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約40倍、少なくとも約50倍、少なくとも約60倍、少なくとも約70倍、少なくとも約80倍、少なくとも約90倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約300倍、少なくとも約400倍、少なくとも約500倍、少なくとも約1,000倍、少なくとも約2,000倍、またはそれ以上増加し得る。
【0219】
いくつかの実施形態によれば、HPBCDで形成された活性薬剤包接錯体を含む組成物は、接触に基づく副作用の減少を特徴とし得る。
【0220】
いくつかの実施形態によれば、HPBCDで形成された活性薬剤包接錯体のバイオアベイラビリティは、非錯化活性薬剤のバイオアベイラビリティ、安定性またはその両方と比較して改善され得る。いくつかの実施形態によれば、HPBCDで形成された活性薬剤包接錯体の安定性は、非錯化活性薬剤の安定性と比較して改善され得る。いくつかの実施形態によれば、HPBCDで形成された活性薬剤包接錯体のバイオアベイラビリティ及び安定性は、非錯化活性薬剤のバイオアベイラビリティ、安定性またはその両方と比較して改善され得る。
【0221】
いくつかの実施形態によれば、HPBCDで形成された活性薬剤包接錯体を含む組成物は、非錯化活性薬剤の浸透と比較して、改善された浸透を特徴とし得る。いくつかの実施形態によれば、HPBCDで形成された活性薬剤包接錯体を含む組成物は、非錯化活性薬剤単独の保持と比較して、改善された保持を特徴とし得る。
【0222】
いくつかの実施形態によれば、活性薬剤包接錯体の毒性は、非錯化活性薬剤の毒性と比較して低減され得る。いくつかの実施形態によれば、HPBCD包接錯体を含む組成物の送達は、少量の製剤量しか送達することができない場所にMECで送達可能であり得る。これには、CNS送達及び眼球送達(眼に隣接するまたは眼上の部位、眼組織内の部位への送達、または眼内の硝子体内送達を意味する)が含まれるが、これらに限定されない。
【0223】
いくつかの実施形態によれば、活性薬剤・HPBCD包接錯体における活性薬剤の局所有効濃度は、同じ条件下での非錯化形態の投与が可能な濃度または体積と比較して増加する。
【0224】
製剤
「医薬的に許容される担体」という句は、当技術分野で認められている。それは、本発明の包接錯体が安定した状態を保ち、生物学的に利用可能である薬剤の投与に従来使用可能な任意の実質的に非毒性の担体を意味するために使用される。該医薬的に許容される担体は、治療される対象への投与に適したものにするために、十分に高純度で、十分に低毒性でなければならない。それはさらに、活性薬剤の安定性及びバイオアベイラビリティを維持するべきである。該医薬的に許容される担体は、液体でも固体でもよく、活性薬剤及び所与の組成物の他の成分と組み合わせた場合に、所望のバルク、コンシステンシー等を提供するように計画された投与方法を考慮して選択される。例示的な担体としては、対象薬剤をある器官、または体内の部分から別の器官、または体内の部分に運搬または輸送することに関与する液体もしくは固体充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒または封入材料が挙げられる。各担体は、製剤の他の成分に適合するという意味で「許容され」なければならず、また患者に有害であってはならない。医薬的に許容される担体としての機能を果たし得る材料のいくつかの例としては、糖、例えば、ラクトース、グルコース及びスクロース、デンプン、例えば、トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプン、セルロース、及びその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース、粉末トラガカント、麦芽、ゼラチン、タルク、賦形剤、例えば、ココアバター及び座剤ワックス、油、例えば、落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びダイズ油、グリコール、例えば、プロピレングリコール、ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール、エステル、例えば、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチル、寒天、緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム、アルギン酸、パイロジェンフリーの水、等張食塩水、リンゲル液、エチルアルコール、リン酸緩衝液、ならびに医薬製剤に使用される他の非毒性の適合性物質が挙げられる。適切な医薬担体は、参照により全体として本明細書に組み込まれるE.W.Martinによる“Remington’s Pharmaceutical Sciences”に記載されている。いくつかの実施形態によれば、医薬的に許容される担体は、無菌のパイロジェンフリーの水である。いくつかの実施形態によれば、医薬的に許容される担体は、乳酸リンゲル液(lactated Ringer’s solution)としても知られる乳酸リンゲル液(Ringer’s Lactate)である。
【0225】
いくつかの実施形態によれば、a)シクロデキストリンホスト、及びb)シクロデキストリンの空洞内の親油性ゲスト化合物、またはその塩、及びc)担体を含む包接錯体を含む製剤を提供する。いくつかの実施形態によれば、該担体は、医薬的に許容される担体である。いくつかの実施形態によれば、該担体は、化粧品的に許容される担体である。いくつかの実施形態によれば、該担体は、液体、固体または半固体の形態であり得る。該担体が液体の場合、それは、水性溶媒でも有機溶媒でも、または任意の量でのそれらの組み合わせでもよい。いくつかの実施形態によれば、該担体は、錯化剤、充填剤、希釈剤、造粒剤、崩壊剤、滑沢剤、流動促進剤、pH調整剤、張度調整剤、補助剤、染料、ポリマー系フィルムコーティング、及び結合剤からなる群から選択される。いくつかの実施形態によれば、該担体は、注射用水、微結晶性セルロース、グルコース、ラウリル硫酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コロイド状シリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、アルミニウムマグネシウムシリケート、ラクトース、メタノール、エタノール、プロパノール、及びアセトンのうちの1つ以上である。複数の担体を使用してもよく、本明細書に提供する担体の組み合わせが意図される。
【0226】
いくつかの実施形態によれば、該包接錯体は、シクロデキストリン分子の空洞内に部分的または完全に包接される親油性化合物またはその塩を含み得る。いくつかの実施形態によれば、該化合物は、シクロデキストリン分子の空洞内に完全に包接される。いくつかの実施形態によれば、該化合物は、シクロデキストリン分子の空洞内に部分的に包接される。いくつかの実施形態によれば、該化合物は、シクロデキストリン分子の空洞内に少なくとも85%包接される。いくつかの実施形態によれば、該化合物は、シクロデキストリン分子の空洞内に少なくとも90%包接される。いくつかの実施形態によれば、該化合物は、シクロデキストリン分子の空洞内に少なくとも95%包接される。該包接錯体のいくつかの実施形態によれば、該化合物のシクロデキストリンに対するモル比は、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1~約1:300、すなわち、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:11、約1:12、約1:13、約1:14、約1:15、約1:16、約1:17、約1:18、約1:19、約1:20、約1:21、約1:22、約1:23、約1:24、約1:25、約1:26、約1:27、約1:28、約1:29、約1:30、約1:31、約1:32、約1:33、約1:34、約1:35、約1:36、約1:37、約1:38、約1:39、約1:40、約1:41、約1:42、約1:43、約1:44、約1:45、約1:46、約1:47、約1:48、約1:49、約1:50、約1:51、約1:52、約1:53、約1:54、約1:55、約1:56、約1:57、約1:58、約1:59、約1:60、約1:61、約1:62、約1:63、約1:64、約1:65、約1:66、約1:67、約1:68、約1:69、約1:70、約1:71、約1:72、約1:73、約1:74、約1:75、約1:76、約1:77、約1:78、約1:79、約1:80、約1:81、約1:82、約1:83、約1:84、約1:85、約1:86、約1:87、約1:88、約1:89、約1:90、約1:91、約1:92、約1:93、約1:94、約1:95、約1:96、約1:97、約1:98、約1:99、約1:100である。
【0227】
本明細書に記載の包接錯体(例えば、化合物とシクロデキストリンの包接錯体)とともに使用される添加剤は、例えば、1つ以上の賦形剤、1つ以上の抗酸化剤、1つ以上の安定剤、1つ以上の保存剤(例えば、抗菌性保存剤等)、1つ以上のpH調整剤及び/または緩衝剤、1つ以上の等張化剤(tonicity adjusting agents)、1つ以上の増粘剤、1つ以上の懸濁剤、1つ以上の結合剤、1つ以上の粘度向上剤、1つ以上の甘味剤等を、単独で、または1つ以上のさらなる医薬品とともに含む。ただし、該さらなる成分は、医薬的に許容されるものである。いくつかの実施形態によれば、該製剤は、本明細書に記載の2つ以上のさらなる成分(例えば、2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上のいずれかのさらなる成分)の組み合わせを含み得る。
【0228】
いくつかの実施形態によれば、該添加剤は、加工剤ならびに薬物送達改良剤及び向上剤、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、単糖、二糖、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストロース、ポリビニルピロリジノン、低融点ワックス、イオン交換樹脂等、及びそれらの任意の2つ以上の組み合わせを含む。他の適切な医薬的に許容される賦形剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Pub.Co.,New Jersey 18th edition(1996),Handbook of Pharmaceutical Excipients,Pharmaceutical Press and American Pharmacists Association,5th edition(2006)、及びRemington:The Science and Practice of Pharmacy,Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia,20th edition(2003) and 21st edition(2005)に記載されている。
【0229】
医薬的に許容される酸化防止剤の例としては、水溶性抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等、油溶性抗酸化剤、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロシキトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロール等、及び金属キレート剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等が挙げられる。
【0230】
適切な担体、賦形剤、及び希釈剤のいくつかの例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウムアルギネート、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、トラガカント、ゼラチン、シロップ、メチルセルロース、メチル及びプロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、水、ならびに鉱油が挙げられる。該製剤は、さらに、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、保存剤、甘味剤または香味剤を含むことができる。該組成物は、当技術分野で周知の手順を使用して患者に投与した後に、活性成分の迅速、持続、または遅延放出を提供するように製剤化され得る。
【0231】
特定の投与方法は、適応症によって異なる。特定の投与経路及び用法の選択は、最適な臨床反応を得るために、臨床医に知られている方法に従って、臨床医によって調整または用量設定されるべきである。投与される活性薬剤の量は、意図された治療の利点を提供するのに十分な量である。投与される用量は、治療される対象の特徴、例えば、治療される具体的な哺乳類またはヒト、年齢、体重、健康、もしあれば併用療法の種類、及び治療の頻度に依存し、当業者によって(例えば、臨床医によって)容易に決定され得る。
【0232】
本記載の発明の活性薬剤及び適切な担体を含む製剤は、錠剤、カプセル、カシェ、ペレット、丸剤、粉末及び顆粒が挙げられるがこれらに限定されない固体剤形、溶液、粉末、エマルジョン液、懸濁液、半固体、軟膏、ペースト、クリーム、ゲル、ゼリー、及びフォームが挙げられるがこれらに限定されない局所剤形、ならびに溶液、懸濁液、エマルジョン、及び乾燥粉末が挙げられるがこれらに限定されない非経口剤形であることができ、有効量の本記載の発明のポリマーまたはコポリマーを含む。該活性成分は、医薬的に許容される希釈剤、充填剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、疎水性媒体、水溶性媒体、乳化剤、緩衝剤、保湿剤、湿潤剤、可溶化剤、保存剤等とともにかかる製剤に含まれ得ることも当技術分野では既知である。投与の手段及び方法は当技術分野で既知であり、当業者は、様々な薬理学的参考文献を指針として参照することができる。例えば、Modern Pharmaceutics,Banker & Rhodes,Marcel Dekker,Inc.(1979)、及びGoodman & Gilman’s The Pharmaceutical Basis of Therapeutics,6th Edition,MacMillan Publishing Co.,New York(1980)を参考にすることができる。
【0233】
本記載の発明の医薬組成物は、例えば、注射による、例えば、ボーラス注入または持続注入による非経口投与用に製剤化され得る。該医薬組成物は、所定の期間にわたって皮下に持続注入することによって投与され得る。注射用製剤は、単位剤形で、例えば、アンプル中または複数回投与容器中に、保存剤とともに提供され得る。該医薬組成物は、油性または水性媒体の懸濁液、溶液またはエマルジョン等の形態をとることができ、また、調合剤、例えば、懸濁剤、安定剤及び/または分散剤を含み得る。
【0234】
経口投与の場合、該医薬組成物は、活性薬剤(複数可)を当技術分野で周知の医薬的に許容される担体と混合することによって容易に製剤化され得る。かかる担体によって、本開示の活性物質を、治療を受ける患者による経口摂取用に、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等に製剤化することが可能になる。経口使用のための医薬品は、固体賦形剤を加え、得られる混合物を任意に粉砕し、必要に応じて適切な補助剤を添加した後に顆粒混合物を錠剤または糖衣錠コアを得るように加工することによって得ることができる。適切な賦形剤としては、ラクトース、スクロース、マンニトール、及びソルビトールが挙げられるがこれらに限定されない糖等の充填剤、セルロース調製物、例えば、限定されないが、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられるが、これらに限定されない。必要に応じて、崩壊剤、例えば、限定されないが、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、例えば、アルギン酸ナトリウムを加えることができる。
【0235】
糖衣錠コアは、適切なコーティングとともに提供され得る。この目的のため、任意に、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル、ポリエチレングリコール、及び/または二酸化チタン、ラッカー溶液、ならびに適切な有機溶媒または溶媒混合物を含むことができる濃縮された糖溶液が使用され得る。染料または顔料を、識別のため、または活性化合物の用量の異なる組み合わせを特徴付けるために、錠剤または糖衣錠のコーティングに添加することができる。
【0236】
経口的に使用され得る医薬品としては、ゼラチン製の押込嵌めカプセル、ならびにゼラチン及び可塑剤、例えば、グリセロールまたはソルビトールからなるメモリ付き(scaled)軟カプセルが挙げられるが、これらに限定されない。押込嵌めカプセルは、充填剤、例えば、ラクトース、結合剤、例えば、デンプン、及び/または滑沢剤、例えば、タルクもしくはステアリン酸マグネシウム、ならびに、任意に安定剤の混合物内に活性成分を含むことができる。軟カプセルでは、該活性化合物は、適切な液体、例えば、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールに溶解または懸濁され得る。さらに、安定剤を加えることができる。経口投与用のすべての製剤は、かかる投与に適した投与量であるべきである。
【0237】
頬側投与の場合、該組成物は、従来の手法で製剤化される、例えば、錠剤またはロゼンジの形態をとることができる。
【0238】
吸入による投与の場合、本記載の発明による使用のための組成物は、適切な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスを使用して加圧されたパックまたはネブライザーからエアロゾルスプレーの体裁の形態で便宜上送達され得る。加圧エアロゾルの場合、投与量の単位は、計量された量を送達するためのバルブを提供することによって測定することができる。例えば、吸入具または注入器で使用するためのゼラチンのカプセル及びカートリッジは、該化合物と適切な粉末基剤、例えば、ラクトースまたはデンプンとの粉末混合物を含むように製剤化することができる。
【0239】
既述の製剤に加えて、本記載の発明の組成物は、デポー製剤としても製剤化され得る。かかる長時間作用型製剤は、埋め込み(例えば、皮下もしくは筋肉内)または筋肉内注射によって投与され得る。
【0240】
デポー注射は、約1~約6ヶ月またはそれ以上の間隔で投与され得る。従って、例えば、該組成物は、適切なポリマーもしくは疎水性材料(例えば、許容される油中エマルジョンとして)またはイオン交換樹脂とともに製剤化される場合もあれば、やや溶けにくい誘導体として、例えば、やや溶けにくい塩として製剤化される場合もある。
【0241】
本明細書に開示する任意の1つまたは複数の活性薬剤を含む医薬組成物はまた、適切な固相もしくはゲル相担体または賦形剤を含むこともできる。かかる担体または賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、及びポリマー、例えば、ポリエチレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0242】
非経口投与の場合、医薬組成物は、例えば、医薬的に許容される非経口媒体を伴って、溶液、懸濁液、エマルジョンまたは凍結乾燥粉末として製剤化され得る。かかる媒体の例は、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及び5%ヒト血清アルブミンである。リポソーム及び非水性媒体、例えば、不揮発性油もまた使用され得る。該媒体または凍結乾燥粉末は、等張性を維持する添加剤(例えば、塩化ナトリウム、マンニトール)及び化学安定性を維持する添加剤(例えば、緩衝剤及び保存剤)を含み得る。該製剤は、一般に使用される技術で滅菌される。
【0243】
該包接錯体はまた、特に、眼疾患、皮膚疾患、肺疾患、または下部消化管疾患等、治療標的が局所適用によって容易にアクセス可能な領域または器官を含む場合に、局所投与用に製剤化され得る。適切な局所製剤は、これらの領域または器官の各々用に容易に調製される。下部消化管用の局所適用は、肛門座剤製剤または適切な浣腸製剤で達成され得る。局所的に適用される経皮パッチもまた使用され得る。
【0244】
本記載の発明は、局所、筋肉内、皮下、舌下、静脈内、腹腔内、鼻腔内、気管内、皮内、粘膜内、海綿体内、直腸内、洞内、胃腸、管内、髄腔内、脳室内、肺内、膿瘍内、関節内、心膜下、腋窩内、胸膜腔内、皮内、頬内、経粘膜、経皮、吸入によるもの、ネブライザーによるもの、及び皮下注射によるものを含めたすべての投与経路に関する。代替的に、該医薬組成物は、個体から除去される様々な手段によって細胞に導入され得る。かかる手段としては、例えば、微粒子銃、リポソームによるものまたは他のナノ粒子装置によるものが挙げられる。
【0245】
前述の実施形態によれば、該医薬組成物は、限られた期間に一度、または長期間にわたる維持療法として、例えば、状態が改善、治癒するまで、または対象の生涯にわたって投与され得る。限られた期間は、1週間、2週間、3週間、4週間、及び最大1年間の可能性があり、端点を含めたかかる値の間の任意の期間を含む。いくつかの実施形態によれば、該医薬組成物は、約1日、約3日間、約1週間、約10日間、約2週間、約18日間、約3週間、または端点を含めた任意のこれらの値の間の任意の範囲の間投与され得る。いくつかの実施形態によれば、該医薬組成物は、1年超、約2年、約3年、約4年、またはそれ以上投与され得る。
【0246】
いくつかの実施形態によれば、該包接錯体は、さらなる治療薬及び/またはさらなる治療法とともに投与され得る。該包接錯体及び該さらなる治療薬の投与頻度は、投与を行う医師の判断に基づいて、治療の間に調整され得る。別々に投与される場合、該包接錯体及び該さらなる治療薬は、異なる投与頻度または間隔で投与され得る。例えば、該包接錯体を毎週投与することができると同時に、該さらなる治療薬をより高いまたは低い頻度で投与することができる。いくつかの実施形態では、該包接錯体及び/または該さらなる治療薬の持続連続放出製剤が使用され得る。持続放出を達成するための様々な製剤及び装置が当技術分野で既知である。本明細書に記載の投与形態の組み合わせを使用することができる。いくつかの実施形態では、該包接錯体を毎日投与することができるとともに、該さらなる治療薬を毎月投与することができる。いくつかの実施形態では、該包接錯体を毎週投与することができるとともに、該さらなる治療薬を毎月投与することができる。
【0247】
前述の実施形態によれば、該組成物または医薬組成物は、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、またはそれ以上投与され得る。
【0248】
同様に提供するのは、本明細書に記載の包接錯体及び製剤を含む単位剤形である。これらの単位剤形は、単一または複数の単位剤形で適切な包装に保存することができ、さらに滅菌及び密封もされ得る。
【0249】
言及されるすべての雑誌論文、特許、及び他の刊行物は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0250】
値の範囲が与えられる場合、文脈が別途明確に指示しない限り、下限値の単位の10分の1までの、その範囲の上限値と下限値の間の各介在値、及びその表示範囲の任意の他の表示値または介在値が、本発明に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限値及び下限値は、該より小さい範囲内に独立して含まれる場合もあり、また、表示範囲内の任意の具体的な除外限度に依存して、本明細書に包含される。表示範囲が該上下限の一方または両方を含む場合、含まれる上下限のどちらかまたは両方を除外する範囲もまた本発明に含まれる。
【0251】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。本明細書に記載のものと同様もしくは同等の任意の方法及び材料もまた本発明の実施または試験において使用され得るが、例示的な方法及び材料を記載している。本明細書で言及するすべての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれ、該刊行物の引用に関連した方法及び/または材料を開示ならびに説明する。
【実施例】
【0252】
実施例1:HPBCD包接錯体の物理的特性
包接錯体の形成。必要量の乾燥HPBCDを室温で計量する。真空を確立する。溶媒(水性または有機)を実質的に含まない活性物質を、真空下でHPBCDに加える。
【0253】
分析方法。UV-Visを活性薬剤及び分解産物の同定及び定量に使用した。Agilent Cary 60 UV-Vis分光光度計を、ダブルビーム、Czerny-Turner単色光分光器、1.5nm固定スペクトルバンド幅、フルスペクトルキセノンパルスランプ及び波長範囲190~1100nmで分析に使用した。走査速度4800nm/秒を採用し、サンプルを3連でランした。分析の波長はサンプルごとに異なり、それらのスペクトルに基づいて各活性物質に特異的に選択した。すべての天然活性物質は、200プルーフのエタノールに溶解した。すべてのHPBCD錯体及び天然のHPBCDは、脱イオン水に溶解した。
【0254】
相溶解度試験。HPBCDが各活性薬剤(以下「活性物質」)の溶解性に与える影響を、USP緩衝液pH4中、相溶解度法によって調べる。その分子量に基づいて、適切な量のHPBCDを溶液に加える。0~7mM濃度のHPBCDのpH4溶液を調製し、必要な温度(25、30、35℃)に維持する。該活性物質を、上記で試験管内に調製した溶液に過剰量加える。パラフィンを使用して試験管を密封し、インキュベーターの振盪機に格納する。該溶液中の活性物質の濃度を、HPLCを使用して4時間間隔で測定する。
【0255】
分解及びCDが分解速度に与える影響。活性物質を、濃度に応じて適量の水に溶解し、所望の温度を維持する。1NのHClを同じ温度で維持する。必要量のHClを該活性物質溶液に加える。所定の時間間隔でこれらの溶液から取り出したサンプルを中和してさらなる分解を止め、HPLCを使用して分析する。溶液中のHPBCDの存在下での分解速度を決定する。適量のHPBCDを活性薬剤とともに水に加え、HPBCD濃度1、5、及び10mg/mlを得る。試験を、0.1N(pH1)、0.05N(pH1.3)、0.025N(pH0.6)のHCl濃度で、異なる3つの温度(25、30、35℃)で行う。
【0256】
含量均一性。調製された錯体中の該活性物質の含量均一性を、活性物質回収試験により検討する。ここでは、既知量の該活性物質及び活性物質・HPBCD錯体を10mlの移動相に溶解し、透明溶液を得る。その溶液をさらに移動相及び緩衝液で希釈し、その後HPLCを使用して分析する。
【0257】
熱分析。熱量測定試験は、変調示差走査熱量測定装置(MDSC)を使用して行う。正確に計量したサンプルを、Tzeroアルミニウムパンに密封する。空の密封Tzeroアルミニウムパンを参照として使用する。両方のパンを、10℃/分の速度にて、60分ごとに+/-1.59の変調で、40℃~250℃まで、20ml/分の窒素ガス流下で加熱する。純粋な活性物質、賦形剤、製剤及び物理的混合物の熱分析を行う。データ分析をUniversal Analysisソフトウェアを使用して行い、融点、融解エンタルピーを測定する。
【0258】
X線回折。X線回折(XRD)パターンを調べ、活性物質・CD錯化が該化合物に構造変化を引き起こしたかどうかを検証する。この試験では、走査型X線回折計を使用する。X線回折パターンは、活性物質、HPBCD、薬物・HPBCD錯体、及び薬物・HPBCDの物理的混合物について得る。使用する放射線は、銅Kαフィルターによって、波長1.54Åで35kV及び30mAにて生成する。スライドガラスを分析するサンプルで覆い、2θ度5°~40°の範囲にわたって走査し、走査速度毎分1度及びステップ走査0.02を使用した。
【0259】
赤外分光法。MAGNA-IR760分光光度計(Thermo Scientific,USA)を使用して、すべてのサンプル粉末の赤外線(IR)スペクトルを取得する。デシケーターに保管したIRグレードの臭化カリウム(KBr)粉末をバックグラウンド材料として使用する。微量の各サンプルを純粋なKBrとともに乳鉢と乳棒を使用して練和して均一混合物を形成し、その後圧縮して半透明フィルムを形成する。各フィルムを、透過法で400~4000cm-1の領域で走査(64走査)する。Essential FTIRソフトウェアを使用して、活性物質とCD間の任意の結合の形成に起因するスペクトルの吸収ピークの任意のシフトまたは消失を検出する。
【0260】
走査電子顕微鏡法。走査電子顕微鏡法(SEM)を行い、純粋な材料及び二成分混合物の表面モルフォロジー及びテクスチャを観察する。SEM写真は、JEOL走査型電子顕微鏡モデル5900LVを使用して撮影する。サンプルは、SEM画像化用の両面カーボンテープ31にマウントする。低真空(LV)モードを使用してサンプルの帯電を防止する。分析は、1000倍の倍率を使用して行う。
【0261】
粒径。本明細書で使用される、「D値」または「質量分割径」という用語は、サンプル中のすべての粒子を質量の昇順で並べた場合に、サンプルの質量を特定のパーセンテージに分割する直径を指す。目的の直径未満の質量パーセンテージは、「D」の後に表される数値である。例えば、D10径は、サンプル質量の10%がより小さい粒子からなる直径であり、D50は、サンプル質量の50%がより小さい粒子からなる直径である。D50は、サンプルを質量で等分するため、「質量中央径」としても知られている。D90径は、サンプル質量の90%がより小さい粒子からなる直径である。D値は、サンプル質量の直径での除算に基づいており、粒子またはサンプルの実際の質量を知る必要はない。D値は、質量の比率のみに関係するため、相対質量で十分である。これにより、サンプルの計量を必要とせずに光学的測定システムを使用することができる。各粒子について得られる直径値から、次の関係に従って相対質量を割り当てることができる:
【0262】
球の質量=ττ/6d3p
【0263】
pがすべての粒子に対して一定であると仮定し、この方程式からすべての定数を消すと:相対質量=d3、すなわち、各粒子の直径を三乗するとその相対質量が得られる。これらの値を合計して、測定したサンプルの全相対質量を計算することができる。これらの値を次いで昇順に並べ、合計がサンプルの全相対質量の10%、50%または90%に達するまで繰り返し加算する。これらの各々に対応するD値は、必要な質量パーセンテージに達するように加算された最後の粒子の直径である。
【0264】
溶解試験。本明細書で使用される、「溶解速度」という用語は、単位時間あたりに溶解する薬物の量を指す。「固有溶解速度」という用語は、一定条件の表面積、回転速度、溶解媒体のpH及びイオン強度の下での純粋なAPIの溶解速度である。固有溶解速度は、様々な結晶相及びそれらの溶液媒介相変態に関連する熱力学的パラメータの決定、溶解過程の物質移動現象の調査、pH溶解速度プロファイルの決定、及び難溶性化合物の可溶化における異なるpH値及び界面活性剤の存在の影響の評価に適用される。
【0265】
活性物質(280mg)及び様々な活性物質・HPBCD混合物(280mgの薬物に相当)を、インビトロ溶解試験用のUSP装置IIを使用して分析した。溶解試験は、37.2℃にて回転速度75RPMで、pH1、2、及び4の場合は250mlの容量で、pH5.5の緩衝液の場合は900mlで、胃腸液の状態を模倣して行う。5mLのアリコートを溶解媒体から取り出し、等量の新たな媒体を時間=5、10、15、20、25、30、45、60、90、120、及び180分で交換する。採取したサンプルは、孔径0.45μmのフィルターを使用して濾過し、さらに緩衝液及び移動相で希釈して、HPLC分析中の活性物質の分解を防ぐ。
【0266】
「薬物負荷(%)」及び「薬物負荷容量」という用語は、同義で使用され、HPBCD包接錯体中の薬物/活性薬剤の重量の包接錯体の総重量に対する、パーセンテージで表される比を指す。これは、包接錯体の薬物含量を反映する。
【0267】
実施例2:ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HPBCD)包接錯体の特性
ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HPBCD、分子量1375.37g/mol)を錯化剤として使用して、皮膚への、及び皮膚を超えるいくつかの活性化合物の送達及び浸透を高めた。HPBCDは、β-シクロデキストリンの部分置換ポリ(ヒドロキシプロピル)エーテルであり、米国薬局方28/国民医薬品集23及びヨーロッパ薬局方の両方のモノグラフで承認された賦形剤である。
【0268】
活性物質:HBPCDモル比1:1(例えば、ナイアシンアミド、CBD、及びベンゾカイン)、1:2(例えば、ミノキシジル)、または1:3(例えば、タマヌオイル、TC、ピクノジェノール)での各活性物質とHBPCDの包接錯体を調製した。必要量の乾燥HPBCDを室温で計量し、真空を確立した。溶媒(有機または水性)を実質的に含まない各活性物質を、真空下でHPBCDに加えた。浸潤も分離も見られなかった。
【0269】
分析方法。UV-Visを活性薬剤及び分解産物の同定及び定量に使用した。
【0270】
図3Aに示す通り、ベンゾカインは、272nm及び296nmにピーク最大値を示す。HPBCD・ベンゾカイン錯体は、260nm、290nm、及び310nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。これは、シクロデキストリン分子がベンゾカインの活性領域に干渉しないこと、ひいては、UVをこの錯体の分析に使用することができることを示している。
【0271】
図3Bに示す通り、CBDは、221nm、233nm、239nm及び278nmにピーク最大値を示す。HPBCD・CBD錯体は、221nm、227nm、233nm、及び278nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。これは、シクロデキストリン分子がCBDの顕著な活性領域に干渉しないこと、ひいては、UVをこの錯体の分析に使用することができることを示している。
【0272】
図3Cに示す通り、ミノキシジルは、230nm、250nm、260nm、280nm、及び290nmにピーク最大値を示す。HPBCD・ミノキシジル錯体は、255nm及び280nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。これは、シクロデキストリン分子がミノキシジルの活性領域に干渉しないこと、ひいては、UVをこの錯体の分析に使用することができることを示している。
【0273】
図3Dに示す通り、ナイアシンアミドは、235nm及び255nmにピーク最大値を示す。HPBCD・ナイアシンアミド錯体は、240nm、265nm、及び295nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。これは、シクロデキストリン分子がナイアシンアミドの顕著な活性領域に干渉しないこと、ひいては、UVをこの錯体の分析に使用することができることを示している。
【0274】
図3Eに示す通り、ピクノジェノールは、230nm、280nm及び310nmにピーク最大値を示す。HPBCD・ピクノジェノール錯体は、225nm、240nm、275nm及び305nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。これは、シクロデキストリン分子がピクノジェノールの顕著な活性領域に干渉しないこと、ひいては、UVをこの錯体の分析に使用することができることを示している。
【0275】
図3Fに示す通り、タマヌオイルは、215nm、269nm及び296nmにピーク最大値を示す。HPBCD・タマヌオイル錯体は、206nm、212nm、218nm、262nm及び366nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。これは、シクロデキストリン分子がタマヌオイルの活性領域に干渉しないこと、ひいては、UVをこの錯体の分析に使用することができることを示している。
【0276】
図3Gに示す通り、テトラヒドロクルクミンは、209nm、218nm及び278nmにピーク最大値を示す。HPBCD・テトラヒドロクルクミン錯体は、225nm及び280nmにピーク最大値を示す。HPBCDは、241nmに小さいブロードなピークを有する。これは、シクロデキストリン分子がテトラヒドロクルクミンの活性領域に干渉しないこと、ひいては、UVをこの錯体の分析に使用することができることを示している。
【0277】
示差走査熱量測定。示差走査熱量測定を使用して、錯化していない状態の活性物質の量を測定した。示差走査熱量測定(DSC)は、固体サンプルの相転移中に吸収または放出される熱量を測定することにより、相転移を検出するのに有用な熱分析技術である。DSCで、活性物質とHPBCD間で形成される包接錯体の特性化に関する融点データを提供した。
【0278】
DSC分析は、TA Trios DSC機器を使用して行った。調べたサンプルは、HPBCD、活性物質、及び活性物質・HPBCD包接複合体であった。分析用に計量した各サンプルは、2.00mg~4.00mgであった。
【0279】
シクロデキストリン(CD)は、大きな炭水化物分子である。CDの結晶性の欠如のため、DSCスペクトルは、水分の損失に起因して100℃付近に特徴的なブロードなピークを示す。大気中の水分はCDの外側部分に容易に結合する。皮膚透過性研究で使用したすべての複合体は、シクロデキストリンのヒドロキシプロピルベータアナログ(HP-B-CDと略される)を使用した。
【0280】
ゲスト分子が結晶性を有する場合、そのDSCスペクトルに鋭い融解ピークが存在する。ゲストがホストの空洞に完全に組み込まれている場合は結晶化度が低下し、得られるスペクトルは、シクロデキストリンのスペクトルと非常によく似るはずである。ゲストがホスト内に部分的に包接される場合、CDの空洞の外に出ているゲスト分子の部分に対応する小さい融解ピークが存在する。
【0281】
HPBCDの中央の空洞サイズは約6.0~6.5ダルトンである。いくつかの大きな分子、例えば、CBDまたはテトラヒドロクルクミン(TC)では、錯化後にシクロデキストリンの空洞から突出する分子の部分が存在する。
【0282】
各包接錯体は、水溶性である。
【0283】
これらの結果を以下に記載するとともに、
図4~10に示す。
【0284】
ナイアシンアミド(分子量122.127g/mol):
図4は、単一の融解ピークを約135℃に有するナイアシンアミド(緑色)、約100℃でピークに達するブロードな融解曲線を有するHPBCD(赤)、及びナイアシンアミドの融解ピークを示さないが、100℃付近でピークに達するブロードな融解曲線を有するHPBCD・ナイアシンアミド包接錯体(青)のDSC曲線の重ね合わせを示す。ナイアシンアミドは比較的小さい分子であるため、CDホストの空洞内に完全に収まる。従って、この錯体のスペクトルは、天然のHP-B-CDのスペクトルと極めてよく似ている。これらのスペクトルの重ね合わせは、シクロデキストリン内への完全な包接を示す。
【0285】
タマヌオイル(分子量873.4g/mol):
図5は、識別可能な融解ピークを有さないタマヌオイル(赤)、約106℃に融解ピークを有するHPBCD(緑)、及び約112.5℃に融解ピークを有するHPBCD・タマヌ包接錯体(青)のDSC曲線の重ね合わせを示す。油であるため、タマヌオイルは、明確な結晶性を欠いている。従って、そのスペクトルは、鋭い融解ピークを生じないが、210~250℃の範囲でいくつかの特徴的現象が生じている。これらの特徴的なピークは、タマヌオイル・HPBCD錯体のスペクトルでは消失した。従って、この油の完全な包接が達成された。
【0286】
カンナビジオール(CBD)(分子量314.464g/mol):
図6は、約65℃に鋭い融解ピークを有する結晶性CBD(緑)、約106℃の最小値を有するHPBCDの融解曲線、及び約110℃にブロードな融解ピークを有するHPBCD・CBD包接錯体(青)のDSC曲線の重ね合わせを示す。CBD分子のサイズが大きいため、CBDの一部しかHP-B-CDの空洞内に収まっていない。この錯体のスペクトルでは、より小さい融解ピークが認められ、これは、空洞の外に出ているBBDの部分に相当し、立体障害のために60℃付近にシフトしている。
【0287】
テトラヒドロクルクミン(分子量、372.417g/mol):
図7は、約106℃に単一の融解ピークを有するテトラヒドロクルクミン(緑)、約104℃に最小値を有するブロードな融解曲線を有するHPBCD(赤)、及び約110℃にブロードな融解ピークを有するHPBCD・テトラヒドロクルクミン包接錯体(青)のDSC曲線の重ね合わせを示す。88℃付近に小さい融解ピークが存在し、これは、シクロデキストリンの空洞の外に出ているテトラヒドロクルクミンの部分に相当する。それはこの分子の一部に過ぎないため、また、シクロデキストリンとの錯化がこの分子の結晶性を減少させ、この分子に立体障害を付与するために、104℃付近のテトラヒドロクルクミンの融解ピーク全体からシフトしている。
【0288】
ベンゾカイン(分子量165.19g/mol)。
図8は、90℃付近に極めて鋭い融解ピーク及び230℃で完全に分解する前に180℃付近でより小さくよりブロードなピークを示すベンゾカイン(緑)、ブロードな融解曲線を有するHPBCD(青)、及びHPBCD・ベンゾカイン包接錯体(赤)のDSC曲線の重ね合わせを示す。シクロデキストリンとの錯化後、このベンゾカインの融解ピークは消失し、シクロデキストリンの空洞内への完全な包接を示している。これはまた、230℃でのベンゾカインの分解の回避も示しており、シクロデキストリンの錯化によりこの分子の安定性が向上したことを示す。
【0289】
ミノキシジル(分子量209.251g/mol)。
図9は、180C付近に極めて鋭い融解ピークを示すミノキシジル(赤)、ブロードな融解曲線を有するHPBCD(緑)、及びHPBCD・ミノキシジル包接錯体(青)のDSC曲線の重ね合わせを示す。シクロデキストリンとの錯化後、このミノキシジルの融解ピークは消失し、シクロデキストリンの空洞内への完全な包接を示している。
【0290】
ピクノジェノールPinus pinaster、樹皮抽出物(分子量1155.03g/mol)。抽出物であるため、ピクノジェノールはいくつかの分子で構成される。それは65~75%のプロアントシアニジンからなり、フェノール酸を含む。ダイマー型のプロアントシアニジンの構造式は、C
30H
26O
12で、分子量は578.52g/molである。プロシアナジン(Procyanadin)A1及びA2の構造式は、C
30H
24O
12で、分子量は576.51g/molである。
【化5】
ダイマーB型プロアントシアニジン(4→8)。
【化6】
プロシアニジンA1
【化7】
プロシアニジンA2
【0291】
重量がタイプBとタイプAの組み合わせであると仮定すると、ピクノジェノールの推定分子量は1155.03g/mol(578.52+576.51)である。
【0292】
図10は、ピクノジェノール(緑)、ブロードな融解曲線を有するHPBCD(青)、及びHPBCD・ピクノジェノール包接錯体(赤)のDSC曲線の重ね合わせを示す。植物抽出物であり、それ故いくつかの異なる分子で構成されるピクノジェノールは、明確な結晶性を有さない。従って、そのスペクトルに鋭い融解ピークは存在しない。しかしながら、それは100℃及び112℃の付近に最小値を有する極めてブロードな曲線を示し、210℃で分解が生じる。シクロデキストリンとの錯化後、シクロデキストリンの空洞の外に出ているピクノジェノールの部分に起因して、195℃付近に中央値を有する小さく極めてブロードなこぶが存在する。分解が240℃付近まで発生し始めないことから、錯化はまた、ピクノジェノールの安定性を高める。
【0293】
以下の表2は、脱イオン水溶液に溶解した、表示されるHPBCD錯体のpHを示す。
【表3】
【0294】
安定性試験。HPBCDが各活性薬剤の保存可能期間の安定性に与える影響を、所定の温度で11週間調べる。実時間安定性を、-17℃、5℃及び25℃で観察し、促進安定性を40℃で観察した。促進安定性の場合、40℃での1日は、1週間に相当するため、このデータは77週間を表す。HPBCD錯体及び活性薬剤を5ドラムのガラスバイアルに1グラムの重量で入れる。これらのバイアルをその後温度制御されたオーブンまたは冷蔵庫/冷凍庫に入れる。これらの化合物を毎日確認し、あらゆる目に見える変化を記録する。
【0295】
【0296】
【0297】
【0298】
【0299】
【0300】
【0301】
【0302】
【0303】
【0304】
HPBCD・ベンゾカイン錯体の溶解試験を、乾式造粒時の化合物を使用して行った。高い方のpH値で、わずかに高いパーセンテージの活性物質が溶解した。この溶解プロファイル(
図11A)は、ゼロ次放出のようなバーストを示す。ゼロ次放出は、活性物質の放出が初期薬物濃度とは無関係であることを意味する。通常、ゼロ次放出は、非崩壊性剤形、例えば、局所または経皮送達システム、及び低溶解性の薬物の経口制御放出システムから得られる。この錯体の濃度曲線(
図11B)を作成し、得られた式を使用して、放出された薬物のパーセンテージを計算した。HPBCD・ベンゾカイン錯体の分析用の波長は290nmであった。
【0305】
HPBCD・CBD錯体の溶解試験を、乾式造粒時の化合物を使用して行った。高い方のpH値で、わずかに高いパーセンテージの活性物質が溶解した。この溶解プロファイル(
図12A)は、特徴的形態の持続放出プロファイルを採用している。持続放出とは、薬物が長期間にわたって放出され、そのパーセンテージが時間とともにわずかに低下することを意味する。このタイプのプロファイルもまた、ゼロ次放出と見なされ得る。通常、ゼロ次放出は、非崩壊性剤形、例えば、局所または経皮送達システム、及び低溶解性の薬物の経口制御放出システムから得られる。CBDは水に完全に不溶であることから、これは、シクロデキストリンとの錯化により、ある割合の活性物質が水系に溶解され得ることを示す。この錯体の濃度曲線(
図12B)を作成し、得られた式を使用して、放出された薬物のパーセンテージを計算した。HPBCD・CBD錯体の分析用の波長は233nmであった。
【0306】
HPBCD・ミノキシジル錯体の溶解試験を、乾式造粒時の化合物を使用して行った。低い方のpH値で、かなり高いパーセンテージの活性物質が溶解した。この溶解プロファイル(
図13A)は、ゼロ次放出のようなバーストを示す。ゼロ次放出は、活性物質の放出が初期薬物濃度とは無関係であることを意味する。通常、ゼロ次放出は、非崩壊性剤形、例えば、局所または経皮送達システム、及び低溶解性の薬物の経口制御放出システムから得られる。この錯体の濃度曲線(
図13B)を作成し、得られた式を使用して、放出された薬物のパーセンテージを計算した。HPBCD・ミノキシジル錯体の分析用の波長は280nmであった。
【0307】
HPBCD・ナイアシンアミド錯体の溶解試験を、乾式造粒時の化合物を使用して行った。低い方のpH値で、高いパーセンテージの活性物質が溶解した。この溶解プロファイル(
図14A)は、ゼロ次放出のようなバーストを示す。ゼロ次放出は、活性物質の放出が初期薬物濃度とは無関係であることを意味する。通常、ゼロ次放出は、非崩壊性剤形、例えば、局所または経皮送達システム、及び低溶解性の薬物の経口制御放出システムから得られる。この錯体の濃度曲線(
図14B)を作成し、得られた式を使用して、放出された薬物のパーセンテージを計算した。HPBCD・ナイアシンアミド錯体の分析用の波長は265nmであった。
【0308】
HPBCD・ピクノジェノール錯体の溶解試験を、乾式造粒時の化合物を使用して行った。溶解した活性物質のパーセンテージは、低い方及び高い方のpH値でほとんど同じであった。この溶解プロファイル(
図15A)は、ゼロ次放出のようなバーストを示す。ゼロ次放出は、活性物質の放出が初期薬物濃度とは無関係であることを示す。通常、ゼロ次放出は、非崩壊性剤形、例えば、局所または経皮送達システム、及び低溶解性の薬物の経口制御放出システムから得られる。この錯体の濃度曲線(
図15B)を作成し、得られた式を使用して、放出された薬物のパーセンテージを計算した。HPBCD・ピクノジェノール錯体の分析用の波長は225nmであった。
【0309】
HPBCD・タマヌオイル錯体の溶解試験を、乾式造粒時の化合物を使用して行った。高い方のpH値で、高いパーセンテージの活性物質が溶解した。この溶解プロファイル(
図16A)は、特徴的形態の持続放出プロファイルを採用している。持続放出とは、薬物が長期間にわたって放出され、そのパーセンテージが時間とともにわずかに低下することを意味する。このタイプのプロファイルもまた、ゼロ次放出と見なされ得る。通常、ゼロ次放出は、非崩壊性剤形、例えば、局所または経皮送達システム、及び低溶解性の薬物の経口制御放出システムから得られる。タマヌオイルは水に完全に不溶であることから、これは、シクロデキストリンとの錯化により、ある割合の活性物質が水系に溶解され得ることを示す。この錯体の濃度曲線(
図16B)を作成し、得られた式を使用して、放出された薬物のパーセンテージを計算した。HPBCD・タマヌオイル錯体の分析用の波長は212nmであった。
【0310】
HPBCD・テトラヒドロクルクミン錯体の溶解試験を、乾式造粒時の化合物を使用して行った。溶解した活性物質のパーセンテージは、低い方及び高い方のpH値で同様であった。興味深いことに、低い方のpHでは、溶解した活性物質のパーセンテージは、時間とともにやや減少し、持続放出プロファイルに類似した。この溶解プロファイル(
図17A)は、ゼロ次放出のようなバーストを示す。ゼロ次放出は、活性物質の放出が初期薬物濃度とは無関係であることを示す。通常、ゼロ次放出は、非崩壊性剤形、例えば、局所または経皮送達システム、及び低溶解性の薬物の経口制御放出システムから得られる。この錯体の濃度曲線(
図17B)を作成し、得られた式を使用して、放出された薬物のパーセンテージを計算した。HPBCD・テトラヒドロクルクミン錯体の分析用の波長は225nmであった。
【0311】
薬物負荷(%) HPBCD包接錯体の薬物負荷容量を表11に示す。
【0312】
【0313】
実施例3.相溶解度試験
図18は、成分S及びLの相溶解度図を示すA
L型相溶解度図である。Sの溶解度の直線的な増加は、Higuchi and Connors[Phase-solubility techniques,Adv.Anal.Chem.Instr.4,117-122,(1965)]によってAL型に分類され、Sの溶解度が、Lの存在によって増加することを示す。A型の図は、SとLの間の可溶性錯体の形成を示す。A
L型の図の傾きが1より大きい場合、少なくとも1つの成分は、1より大きい濃度を有する。傾きが1未満とは、成分SとLの間の化学量論が1:1であることを示す。錯体形成の結合定数(Kc)は、式(1)から計算することができ、式中、S
tは、溶解したSの濃度を表す:
【0314】
【0315】
図19は、HP-B-CD及びナイアシンアミドの相溶解度図を示す。これは、溶解度の直線的な増加を示しており、Higuchi and Connorsの分類によってA
L型に分類される。これは、HPBCDとナイアシンアミドの間の可溶性錯体の形成を示す。このグラフの傾きは1未満(傾き=4.44x10
-1)であり、これは該錯体の化学量論が1:1であることを示す。錯体形成の結合定数(Kc)は、79.856x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=217nmのUVで測定した。
【0316】
図20は、HPBCD及びCBDの相溶解度図を示す。この図は、溶解度の直線的な増加を示しており、Higuchi and Connorsの分類によってAL型に分類される。これは、HPBCDとCBDの間の可溶性錯体の形成を示す。このグラフの傾きは1未満(傾き=2.97x10
-1)であり、これは該錯体の化学量論が1:1であることを示す。錯体形成の結合定数(Kc)は、42.247x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=280nmのUVで測定した。
【0317】
図21は、HPBCD及びピクノジェノールの相溶解度図を示す。これは、溶解度の直線的な増加を示しており、Higuchi and Connorsの分類によってA
L型に分類される。これは、HPBCDとピクノジェノールの間の可溶性錯体の形成を示す。このグラフの傾きは1より大きく(傾き=15.87x10
-1)、これは該錯体の化学量論が1:1ではないことを示す。錯体形成の結合定数(Kc)は、270.358x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=365nmのUVで測定した。
【0318】
図22は、HPBCD及びテトラヒドロクルクミンlの相溶解度図を示す。これは、溶解度の直線的な増加を示しており、Higuchi and Connorsの分類によってAL型に分類される。これは、HPBCDとテトラヒドロクルクミンの間の可溶性錯体の形成を示す。このグラフの傾きは1より大きく(傾き=12.84x10
-1)、これは該錯体の化学量論が1:1ではないことを示す。錯体形成の結合定数(Kc)は、452.113x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=280nmのUVで測定した。
【0319】
図23は、HPBCD及びタマヌオイルの相溶解度図を示す。この図は、溶解度の直線的な増加を示しており、Higuchi and Connorsの分類によってAL型に分類される。これは、HPBCDとタマヌオイルの間の可溶性錯体の形成を示す。このグラフの傾きは1より大きく(傾き=14.83x10
-1)、これは該錯体の化学量論が1:1ではないことを示す。錯体形成の結合定数(Kc)は、307.039x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=266nmのUVで測定した。
【0320】
図24は、HPBCD及びミノキシジルの相溶解度図を示す。この図は、溶解度の最初の直線的な増加と、その後のプラトーの形成を示す。このプラトーは、ミノキシジルの完全な可溶化を示しており、これは、追加量のHPBCDでは変化しない。この図は、それでもやはり、Higuchi and Connorsの分類ではA型と見なされる。このグラフは直線ではないため、その傾きは、化学量論の正確な指標とはならない。このグラフの直線部分の傾きを使用して、結合定数を計算した(傾き=11.249)。錯体形成の結合定数(Kc)は、109.757x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=290nmのUVで測定した。
【0321】
図25は、HPBCD及びベンゾカインの相溶解度図を示す。この図は、溶解度の最初の直線的な増加と、その後のプラトーの形成を示す。このプラトーは、ベンゾカインの完全な可溶化を示しており、これは、追加量のHPBCDでは変化しない。この図は、それでもやはり、Higuchi and Connorsの分類ではA型と見なされる。このグラフは直線ではないため、その傾きは、化学量論の正確な指標とはならない。このグラフの直線部分の傾きを使用して、結合定数を計算した(傾き=33.256)。錯体形成の結合定数(Kc)は、103.100x10
-2M
-1であることが分かり、式(1)を使用して計算された。吸光度は、λ=305nmのUVで測定した。
【0322】
実施例4.分解試験
【0323】
ゼロ次反応の分解速度は、試薬の濃度に依存しない。従って、反応速度(k)=-d[C]/dtであり、ここで、[C]は試薬の濃度の低下を示し、tは時間を示す。時間t=0での初期濃度(C0)と時間t=t後の濃度(Ct)の間の反応速度式を積分すると、式Ct=C0-ktが得られる。この一次方程式を
図26に従って、xの縦軸に濃度及びyの横軸に時間でプロットした場合、このグラフの傾きは、-kに等しい。
【0324】
3つのモル濃度のリン酸(0.025M、0.05M、及び0.1M H
3PO
4)を、HPBCD・ピクノジェノールの脱イオン水溶液に25℃で加えた。選択した時点で吸光度を測定し、濃度を計算した。この分解のグラフ(
図27)は、リン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。各H
3PO
4濃度とHPBCD・ピクノジェノール錯体の反応の速度定数を計算し、表12に含めた。分析用の波長は275nmであった。
【0325】
【0326】
3つのモル濃度のリン酸(0.025M、0.05M、及び0.1M H
3PO
4)を、HPBCD・ナイアシンアミドの脱イオン水溶液に25℃で加える。選択した時点で吸光度を測定し、濃度を計算した。この分解のグラフ(
図28)は、リン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。各H
3PO
4濃度とHPBCD・ナイアシンアミド錯体の反応の速度定数を計算し、表13に含めた。分析用の波長は265nmであった。
【0327】
【0328】
3つのモル濃度のリン酸(0.025M、0.05M、及び0.1M H
3PO
4)を、HPBCD・タマヌオイルの脱イオン水溶液に25℃で加える。選択した時点で吸光度を測定し、濃度を計算した。この分解のグラフ(
図29)は、リン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。各H
3PO
4濃度とHPBCD・タマヌオイル錯体の反応の速度定数を計算し、表14に含めた。分析用の波長は266nmであった。
【0329】
【0330】
3つのモル濃度のリン酸(0.025M、0.05M、及び0.1M H
3PO
4)を、HPBCD・テトラヒドロクルクミンの脱イオン水溶液に25℃で加える。選択した時点で吸光度を測定し、濃度を計算した。この分解のグラフ(
図30)は、リン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。各H
3PO
4濃度とHPBCD・テトラヒドロクルクミン錯体の反応の速度定数を計算し、表15に含めた。分析用の波長は280nmであった。
【0331】
【0332】
3つのモル濃度のリン酸(0.025M、0.05M、及び0.1M H
3PO
4)を、HPBCD・ミノキシジルの脱イオン水溶液に25℃で加える。選択した時点で吸光度を測定し、濃度を計算した。この分解のグラフ(
図31)は、リン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。各H
3PO
4濃度とHPBCD・ミノキシジル錯体の反応の速度定数を計算し、表16に含めた。分析用の波長は280nmであった。
【0333】
【0334】
3つのモル濃度のリン酸(0.025M、0.05M、及び0.1M H
3PO
4)を、HPBCD・ベンゾカインの脱イオン水溶液に25℃で加える。選択した時点で吸光度を測定し、濃度を計算した。この分解のグラフ(
図32)は、リン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。各H
3PO
4濃度とHPBCD・ベンゾカイン錯体の反応の速度定数を計算し、表17に含めた。分析用の波長は260nmであった。
【0335】
【0336】
3つのモル濃度のリン酸(0.025M、0.05M、及び0.1M H
3PO
4)を、HPBCD・CBDの脱イオン水溶液に25℃で加える。選択した時点で吸光度を測定し、濃度を計算した。この分解のグラフ(
図33)は、リン酸の存在下でのゼロ次速度過程の反応を示す。各H
3PO
4濃度とHPBCD・CBD錯体の反応の速度定数を計算し、表18に含めた。分析用の波長は278nmであった。
【0337】
【0338】
実施例5-含量均一性
【0339】
HPBCD錯体中の活性物質の含量均一性を、活性物質回収試験により検討した。ここでは、既知量の活性物質及び活性物質・HPBCD錯体を10mlの移動相に溶解し、透明溶液を得た。その溶液をさらに移動相及び緩衝液で希釈し、その後HPLCを使用して分析した。表19~25は、各々のHPBCD錯体に関するこの分析の結果を示す。
【0340】
【0341】
【0342】
【0343】
【0344】
【0345】
【0346】
【0347】
実施例6 FTIR試験
【0348】
図34は、HPBCDのFTIRスペクトルを示す。700~1200cm-1の領域は、C-O-C変角、C-C-O伸縮、及びα-1,4結合を含む骨格振動に起因するピークを示す。1200~1500cm
-1の領域は、C-H及びO-H変角に起因するピークを示す。1650cm
-1の小さいブロードなピークは、シクロデキストリン分子の空洞内に捕捉された水分子の結晶水に起因するH-O-H変角ピークである。2850~3000cm
-1の領域は、C-H伸縮であり、3300cm
-1の強いブロードなピークは、O-H伸縮である。
【0349】
図35は、ベンゾカイン(赤)、HPBCD(緑)、及びHPBCD・ベンゾカイン包接錯体(青)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、ベンゾカイン分子がシクロデキストリンの空洞に入ったことを示す。ベンゾカインの3200~3500cm
-1領域のN-Hアミン基伸縮ピーク、ならびにベンゼン環由来の芳香族ピーク(3000cm
-1及び1300~1500cm
-1)が消失し、HPBCDの空洞内への該分子のこの部分の挿入を示している。1690cm
-1(C=O伸縮)、1600cm
-1(C-C伸縮)、1520cm
-1(C-H変角)、及び1290cm-1(C-O-C伸縮)での錯体のスペクトルのピークは、シクロデキストリンの空洞の外側にあるベンゾカイン分子のエチルエステル部分に相当する。1650cm
-1(H-O-H変角)の小さいブロードなピークは、結晶水のピークであり、HPBCD・ベンゾカイン錯体の空洞内に捕捉された水分子がいくつかあることを示す。この包接錯体のスペクトルに新たなピークが存在しないことは、ホストとゲスト分子間の非共有相互作用を示している。
【0350】
図36は、CBD(赤)、HPBCD(緑)、及びHPBCD・CBD包接錯体(青)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。CBD分子のかなりの部分がシクロデキストリンの空洞の外に出ている。700~1200cm
-1の領域は、C-O-C変角、C-C-O伸縮、及びHPBCDのα-1,4結合を含む骨格振動に起因するピークを示し、該錯体のスペクトルはこの領域を反映している。HPBCD対CBDのモル比1:1では、CBD分子の1つの環のみがシクロデキストリンの空洞に入ることができるため、CBD分子の大部分がHPBCDの外に出ている。2800~3550cm
-1の錯体のスペクトル領域は、HPBCD及びCBDの両方に特徴的なピークを示す。3520cm
-1(O-H伸縮)及び3400cm
-1(O-H伸縮)のピークは、CBDのベンゼン環から出るヒドロキシル基に由来し、3300cm
-1(O-H伸縮)の小さいブロードなピークは、HPBCDに由来する。2800cm-1で始まり、2980cm
-1で終わる4つ組のピークは、-CH2結合の非対称伸縮振動であり、これは、CBD分子のベンゼン環に結合したC5鎖に由来する。HPBCDスペクトルの1650cm
-1(H-O-H変角)の小さいブロードなピークは、結晶水のピークである。錯体のスペクトルでこのピークがないことは、このHPBCD・CBD錯体の空洞内に捕捉された水分子がないことを示す。1620cm
-1、1580cm
-1、1510cm
-1及び1440cm
-1(C-C伸縮)の中程度の鋭いピークは、CBDのベンゼン環に由来する芳香環の伸縮振動である。1240~1400cm
-1の錯体のスペクトル領域の小さいブロードなピークは、環のC-H及びO-H変角に起因するピークを示す。1210cm
-1(C-O伸縮)の鋭いピークは、CBDのベンゼン環から出るヒドロキシル基に起因する。900cm
-1(C-H変角)の小さい鋭いピークは、HPBCDの空洞の外にあり、CBD分子の環に結合したアルケン結合に由来する。この包接錯体のスペクトルに新たなピークが存在しないことは、ホストとゲスト分子間の非共有相互作用を示している。
【0351】
図37は、ミノキシジル(緑)、HPBCD(青)、及びHPBCD・ミノキシジル包接錯体(赤)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、ミノキシジル分子がシクロデキストリンの空洞に完全に組み込まれたことを示す。ミノキシジルのアミノピリミジン及びピペリジン環由来の芳香族ピーク(1200~1700cm
-1)は、この錯体のスペクトルには存在せず、HPBCDの空洞内への挿入を示している。HPBCD対ミノキシジルのモル比2:1では、ミノキシジル分子の両方の環をHPBCDの2つの分子に組み込むことができるため、シクロデキストリンの空洞の外側にはミノキシジル分子はない。1650cm
-1(H-O-H変角)の小さいブロードなピークは、結晶水のピークであり、HPBCD・ミノキシジル錯体の空洞内に捕捉された水分子がいくつかあることを示す。この包接錯体のスペクトルに新たなピークが存在しないことは、ホストとゲスト分子間の非共有相互作用を示している。
【0352】
図38は、ナイアシンアミド(緑)、HPBCD(青)、及びHPBCD・ナイアシンアミド包接錯体(赤)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、ナイアシンアミド分子がシクロデキストリン部分の空洞に入ったことを示す。ピリジン環由来の芳香族ピーク(1200~1500cm
-1)は、この錯体のスペクトルには存在せず、HPBCDの空洞内への該分子のこの部分の挿入を示している。1695cm-1(C=O伸縮)、1610cm
-1(N-H変角)及び1600cm
-1(N-H変角)での錯体のスペクトルのピークは、シクロデキストリンの空洞の外側にあるナイアシンアミド分子のアミド部分に相当する。HPBCDスペクトルの1650cm
-1(H-O-H変角)の小さいブロードなピークは、結晶水のピークである。錯体のスペクトルでこのピークがないことは、このHPBCD・ナイアシンアミド錯体の空洞内に捕捉された水分子がないことを示す。この包接錯体のスペクトルに新たなピークが存在しないことは、ホストとゲスト分子間の非共有相互作用を示している。
【0353】
図39は、ピクノジェノール(緑)、HPBCD(青)、及びHPBCD・ピクノジェノール包接錯体(赤)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、ピクノジェノール分子がシクロデキストリンの空洞に入ったことを示す。HPBCD対ピクノジェノールのモル比3:1では、プロシアニジンまたはプロアントシアニジン分子の3つの環を3つのシクロデキストリン分子の空洞内に組み込むことができる。ピクノジェノールのプロシアニジン及びプロアントシアニジン部分に由来する第四の環は、HPBCDの空洞の外側にある。1700cm
-1(C=C伸縮)、1600cm
-1(C-C伸縮)及び1510cm
-1(C-C伸縮)の錯体のスペクトルのピークは、ベンゼン及びジヒドロピラン環の芳香族伸縮に相当する。1300cm
-1(C-O伸縮)及び1250cm
-1(C-O伸縮)のピークは、ベンゼン環から出るアルコール基に相当する。HPBCDスペクトルの1650cm
-1(H-O-H変角)の小さいブロードなピークは、結晶水のピークである。錯体のスペクトルでこのピークがないことは、このHPBCD・ピクノジェノール錯体の空洞内に捕捉された水分子がないことを示す。この包接錯体のスペクトルに新たなピークが存在しないことは、ホストとゲスト分子間の非共有相互作用を示している。
【0354】
図40は、タマヌオイル(緑)、HPBCD(青)、及びHPBCD・タマヌオイル包接錯体(赤)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、タマヌオイルがシクロデキストリンの空洞に入ったことを示す。タマヌオイルは、C16及びC18脂肪酸のオレイン酸、リノール酸、パルミチン酸及びステアリン酸で構成されている。HPBCD対タマヌオイルのモル比3:1では、これらの脂肪酸の炭素鎖のほとんどをシクロデキストリンの空洞内に組み込むことができる。2915cm
-1(C-H伸縮)及び2865cm
-1(C-H伸縮)での錯体のスペクトルのピークは、HPBCDの空洞の外に出ている脂肪酸の部分に由来する-CH2結合の非対称伸縮振動である。この脂肪酸のカルボン酸頭部基もまた、シクロデキストリンの空洞の外にあり、この錯体のスペクトルにおけるカルボニルのピークは、1750cm
-1(C=O伸縮)で生じる。1650cm
-1(H-O-H変角)の極めて小さいブロードなピークは、結晶水のピークであり、HPBCDの空洞内に捕捉された水分子のほとんどが、この錯体においてタマヌオイルで交換されたことを示す。HPBCDの3300cm
-1(O-H伸縮)の強いブロードなピークは、錯体でははるかに小さくブロードであり、これは、この脂肪酸の-OH基とHPBCD環の-OH基の間に弱い相互作用を示す可能性がある。
【0355】
図41は、テトラヒドロクルクミン(緑)、HPBCD(青)、及びHPBCD・テトラヒドロクルクミン包接錯体(赤)のFTIRスペクトルの重ね合わせを示す。この包接錯体のスペクトルは、HPBCDのスペクトルを反映しており、これは、テトラヒドロクルクミン分子がシクロデキストリンの空洞に入ったことを示す。ベンゼン環由来の芳香族ピーク(1100~1400cm
-1)及び強いカルボニルピーク(1600cm
-1)は、この錯体のスペクトルには存在せず、HPBCDの空洞内への該分子のこれらの部分の挿入を示している。HPBCD対テトラヒドロクルクミンのモル比3:1では、テトラヒドロクルクミン分子の両方の環、及びカルボニル基をHPBCDの3つの分子に組み込むことができる。1300cm
-1(C-O-C伸縮)、1290cm
-1(C-O-C伸縮)、810cm
-1(C-H伸縮)及び800cm
-1(C-H伸縮)の錯体のスペクトルのピークは、ベンゼン環から出るメトキシ基に相当し、1510cm
-1(C-C伸縮)のピークは、シクロデキストリンの空洞の外側にあるテトラヒドロクルクミン分子の炭素結合の小部分に相当する。HPBCDスペクトルの1650cm
-1(H-O-H変角)の小さいブロードなピークは、結晶水のピークである。錯体のスペクトルにおけるこのブロードなピークの1620cm
-1へのシフトは、この空洞内に捕捉された水分子とテトラヒドロクルクミンのアルコール基の間に水素結合が存在することを示す。この包接錯体のスペクトルに新たなピークが存在しないことは、ホストとゲスト分子間の非共有相互作用を示している。
【0356】
実施例6.ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン製剤の浸透試験
HPBCDを含む4種のクリーム製剤を、4種の活性成分(「活性物質」)の各々を使用して開発した。これら4種のクリームは:
i.タマヌオイルを活性成分とする瘢痕低減クリーム。
ii.カンナビジオール(CBD)を活性成分とする痛み止めクリーム。
iii.ナイアシンアミド(NA)を活性成分とする栄養クリーム。
iv.テトラヒドロクルクミン(TC)を活性成分とするブライトニングクリームである。
【0357】
8種の製剤を調製した。これらは、HPBCD錯化活性物質を加えた4種のクリーム及び非錯化活性物質(HPBCDを加えない)を含む4種のクリームで構成した。3組のクリームは、単一の活性成分、すなわち、CBD、NA、及びTCを、それぞれ、痛み止め、栄養、及びブライトニングクリームに対して有する。4組目には、炭素18個の脂肪酸であるリノール酸(LA)、オレイン酸(OA)、及びステアリン酸(SA)、ならびに炭素16個の脂肪酸であるパルミチン酸(PA)からなるタマヌオイルを含めた。
【0358】
半固体クリーム製剤は、(INCI)セテアリルアルコール、ベヘントリモニウムクロリド、及びポリクオタニウム-37を含む4%Jeesperse ICE-T CCPS(乳化剤)、(INCI)ベンジルアルコール、安息香酸及びソルビン酸を含む1%Jeecide AA(保存剤)、活性物質、及び100%になるまでの水の、熱を加えずにエマルジョンを生成する単純な乳化により調製した。「(INCI)」という用語は、化粧品原料国際命名法を表す。INCI名は、すべての消費者向けパーソナルケア製品の成分表示に義務付けられている。HBPCDで錯化した活性物質及び非錯化活性物質を加えた。錯化CBD及びタマヌオイルは、組成物の10%w/wに相当し、TC及びナイアシンアミドは、組成物の3%w/wに相当した。
【0359】
【0360】
活性物質を含むクリーム組成物のpH及び粘度を以下の表27に示す。
【0361】
【0362】
皮膚への浸透及び送達
試験製剤はクリームである。これは、クリームの媒体が皮膚に残り、活性物質のみが浸透するためである。
【0363】
試験装置:
皮膚透過性は、特注のフランツ型鉛直拡散セル(FDC)を使用して評価した。この装置の基本構成は、(a)放出された活性物質が透過する膜に試験製剤を適用するためのドナーコンパートメント、(b)レセプターウェルにマウントした約2.5cmx2.5cmの正方形の皮膚片、(b)その皮膚片の下側と均一に接触させるようにレセプター液(保存剤として0.1%w/wアジ化ナトリウム及び≦4%ウシ血清アルブミン(BSA)(または≦4%w/wのHPBCD、PEG400もしくはBrij020)を含むPBS)で完全に満たしたレセプターウェルまたはコンパートメントを含む。液体サンプルは、レセプター液から分析用に取り出すことができる。
【0364】
この膜は、66歳の白人男性の後肢から採取した分層ヒト死体皮膚(厚さ250μ~300μ)であった。この死体皮膚は、死後24時間以内に採取し、急速冷凍した。膜を、使用前に解凍し、洗浄し、目視検査に供した。
【0365】
皮膚の完全性は、経表皮交流電気抵抗(TEER)(インピーダンス)を分析することによって調べた。PBSの150μlのアリコートを各拡散セルのドナーウェルに導入した。10分後、とがっていない電極プローブをそのドナーウェルに入れた。次に、第二の電極を、このFDCのレセプターチャンバーのサンプルポートを介してレセプター液に挿入した。次に、100Hzで100mVの二乗平均平方根(「RMS」)の交流(「AC」)信号を、波形発生器を使用して皮膚全体に印加した。インピーダンスをデジタルマルチメータで測定し、結果をkΩで記録した。平均から逸脱した膜を退けた。
【0366】
皮膚送達及び浸透試験を活性物質の製剤ごとに六(6)連で行った。非閉塞条件下で皮膚の表面に有限用量を適用した。投与量は、10μl(18mg/cm2)であった。この用量を、とがっていないガラス棒を使用して広げた。
【0367】
レセプターチャンバーを、外部磁気撹拌子ドライブを備えたブロックあたり最大15個のフランツセルを収容する乾燥ブロックに挿入した。レセプターウェルをボルテックスすることなく約300rpmで撹拌した。レセプターウェルの温度を32±0.5℃に維持し、皮膚表面温度は30±1.0℃に維持した。
【0368】
レセプターウェルは、8時間、24時間及び48時間の3時点でサンプリングした。300μlを取り出し、96ウェルプレートにロードし、分析まで4~8℃で保存した。サンプルは、収集から5日以内に分析した。これらサンプルの分析前のさらなる調製はなかった。
【0369】
保持サンプリング
最後の時点で、膜を200μLの水-EtOH(50-50)と5分間接触させて洗浄し、KimWipe(登録商標)でこれをふき取った。その膜を3回テープストリップして角質層を剥離し、その後廃棄した。表皮-真皮層を60℃のホットプレート上で1分間分離した(必要な場合)。表皮を、3mLの抽出液で穏やかに攪拌しながら、40℃にて24時間抽出した。真皮を、3mlの抽出液で穏やかに攪拌しながら、40℃にて24時間抽出した。
【0370】
各活性物質の経皮フラックスは、0.01%NaN3(保存剤)及び最大4%のウシ血清アルブミン(BSA)またはHPBCD、PEG400、もしくはBrij98を含むpH7.4の脱気等張リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の活性物質の濃度を4、8、及び24時間で測定することによって計算した。表皮における活性物質の保持及び真皮への活性物質の送達は、活性物質を各層から個別に24時間でジメチルスルホキシド(DMSO)を使用して抽出することによって測定した。
【0371】
分析方法
活性物質は、Agilent G6120LC-MS検出器またはG4212Bダイオードアレイ検出器を備えたAgilent1260にて、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS)またはUV検出によって定量化した。(タマヌオイルの主成分であるオレイン酸成分は、タマヌオイルの個々の脂肪酸に分解することなく定量化した。
【0372】
移動相の調製
移動相A:移動相Aは、1.0mlのギ酸(Fisher A117-50)を2Lの媒体ボトルに移して調製した。次に、1LのLC/MSグレードの水(Fisher:W6-4)をメスシリンダーで計量し、その内容物を2Lの媒体ボトルに移した。この混合物を含む媒体ボトルを、内容物が完全に混合するまで振盪した。移動相Aを、分析の過程において1週間未満保管した。
【0373】
移動相B:移動相Bは、そのまま使用する100%LC/MSグレードのメタノール(Fisher A456-4)で構成したか、または0.1体積%のギ酸(Fisher:A117-50)を含むメタノールで構成した。後者の組み合わせの場合、移動相は、1.0mlのギ酸を2Lの媒体ボトルに移して調製した。次に、1LのLC/MSグレードのメタノールをメスシリンダーで計量し、その内容物を2Lの媒体ボトルに移した。この混合物を含む媒体ボトルを、内容物が完全に混合するまで振盪した。移動相Bを、分析の過程において1週間未満保管した。
【0374】
較正基準の調製
個々の較正基準は、活性物質ごとに調製した。活性物質の原液は、最初に4mgの活性物質を化学天秤でガラスバイアル内に計量することにより調製した。このバイアルをこの天秤で風袋引きし、次いで4mlの希釈液(NAについては水、CBD、TC及びオレイン酸用にはジメチルスルホキシド(DMSO))をピペッターでガラスバイアルに導入した。バイアルを再計量し、化学天秤から取り出し、蓋をした。蓋をしたバイアルをボルテックスし、超音波処理槽を使用して、活性物質が完全に溶解するまで超音波処理した。次に、希釈液での5倍段階希釈により較正基準を調製した。基準Cal3~Cal7を使用して検量線を作成した。各較正基準の活性物質の濃度を以下の表28に示す:
【0375】
【0376】
【0377】
ナイアシンアミド(
図42)、タマヌオイル(
図43)、テトラヒドロクルクミン(TC)(
図44)及びカンナビジオール(CBD)(
図45)の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)較正基準の代表的なクロマトグラフを示す。各クロマトグラムのy軸は、吸光度の強度の測定値である(単位はmAU、すなわち、ミリ吸光度単位)。x軸は、時間(分)を単位としており、各ピークの保持時間(tR)を特定するために使用される。タマヌオイルのクロマトグラムの主ピークはオレイン酸のものである。
【0378】
計算
LC-MSまたはUV試験が完了した後、サンプルを、ChemStationソフトウェア(Agilent)を使用して分析した。活性物質のピークのAUCを記録し、較正基準のAUC値及び既知の濃度値から展開した検量線を使用して、抽出媒体の希釈後にμg/ml値に変換した。これらのμg/mL単位の値は、様々な時点で皮膚から抽出された量である。次に、これらの濃度にレセプターの容積(3.3mL)または皮膚抽出量(3.0mL)を掛け、その後、レセプター液に曝露した皮膚の表面積(0.55cm2)で除し、最終累積量をμg/cm2で得た。レセプター液の時点が8時間を超える場合、このμg/cm2の値を、サンプル量を新たな緩衝液に置き換えることによって生じた希釈を補うために、取り出したサンプルのアリコート量に対して補正した。
【0379】
皮膚の完全性試験の結果を表30に示す。皮膚のインピーダンス値は、使用する特定の皮膚部分によって異なる。
【0380】
【0381】
経皮のグラフは、送達用量(μg/cm2)対経過時間(時間)のプロットである。示した送達用量は、6回の反復の結果の平均と平均値の標準誤差である。この経皮のグラフは、所与の時点で皮膚に存在する活性物質の量(μg/cm2)を示す。
【0382】
フラックスは、μg/cm2/時間の単位での値を有し、該送達用量を時間(8、24、または48時間)で除することによって得られる。フラックスの棒グラフ(フラックス対経過時間(時間)のプロット)は、所与の時間に皮膚を通過する活性物質の量を示す(μg/cm2/時間での値)。
【0383】
皮膚保持の棒グラフは、送達用量(μg/cm2)対時間(時間)のプロットである。それは、48時間後の表皮及び真皮の活性物質量を示す(μg/cm2)。
【0384】
送達用量ゼロを示すグラフの任意の部分は、活性物質が皮膚上に残っており、浸透していないことを示す。任意のかかるサンプルでは、実際には少量が通過していたが、それがバックグラウンドノイズのレベル未満であったため含めなかった。
【0385】
ナイアシンアミド(分子量、122.12g/mol)またはナイアシンアミド・HBPCD包接錯体のいずれかを含む栄養クリーム
活性物質ナイアシンアミドの経皮、フラックス、及び皮膚保持のグラフを
図46A、46B及び46Cに示す。ナイアシンアミドの高い水溶性に一部起因して、データはかなりばらつきがあった。
図46Aに示す経皮のグラフ及び
図46Bのフラックスのグラフは、非錯化クリームでは、より多くの活性物質が皮膚を通って送達されることを示す(8~48時間)。錯化ナイアシンアミドは、シクロデキストリンが存在するためにより大きく、皮膚を通して一定の速度で8時間~48時間送達される。理論にとらわれるわけではないが、シクロデキストリンは、活性物質の皮膚への放出を遅らせることが可能である。
【0386】
図46Cの皮膚保持のグラフは、皮膚を通るフラックスが低くかつ全送達用量が低くても、シクロデキストリン錯体で真皮に送達されるナイアシンアミドの量は、非錯化ナイアシンアミドの場合と同じであることを示す。従って、シクロデキストリンによる錯化は、包接活性物質ナイアシンアミドの浸透深さを増すのに有効である。
【0387】
カンナビジオール(「CBD」、分子量314.464g/mol)またはカンナビジオール・HBPCD包接錯体(comples)(この単語は間違いないですか???)のいずれかを含む痛み止めクリーム
CBD分子のサイズは比較的大きい。カンナビジオールのデータは、ナイアシンアミドのものよりもばらつきが少なかった(DixonのQテストで削除された1つの外れ値を除く)。これは、CBDの難水溶性に起因する可能性が最も高い。
【0388】
CBDの経皮(
図47A)、フラックス(
図47B)及び皮膚保持(
図47C)の棒グラフの各々は、0~8時間まで、皮膚を貫通するものとして検出されたCBD量がないことを示している。たとえあったとしても、その通過量は、少なすぎてバックグラウンドノイズからは検出できなかった。
【0389】
このデータは、24時間及び48時間の時点で、非包接CBDよりも多くのCBD・シクロデキストリン包接錯体が、経皮的に検出されたこと(
図47A)及び皮膚を通って流動したこと(
図47B)を示す。
【0390】
このデータはまた、表皮において48時間後に、シクロデキストリン・CBDクリームで、非包接CBDクリームに対して実質的に多くの活性物質が検出されたことも示す。
【0391】
上記のデータに基づいて、発明者らは、親油性材料(例えば、CBD)をシクロデキストリンで錯化することにより、当該活性物質が皮膚に浸透する能力が高まり、表皮及び皮膚の上層に有効な活性物質の量が増加すると結論付ける。
【0392】
真皮における錯化CBDの検出量は、非錯化CBDの検出量とほとんど同じであった。この結果は、シクロデキストリンによる錯化の予想される持続放出能力に起因し得る。
【0393】
タマヌオイル(分子量873.4g/mol)またはタマヌオイル・HPBCD包接錯体のいずれかを含む瘢痕低減クリーム
オレイン酸(分子量282.417g/mol)はタマヌオイルの主成分であるため、それをタマヌオイル・シクロデキストリン錯体クリーム及び非錯化タマヌオイルクリームの分析に選択した。
【0394】
経皮(
図48A)、フラックス(
図48B)及び皮膚保持(
図48C)のデータは、8時間、24時間、または48時間のいずれにおいても、オレイン酸量が経皮的には、実質的にないことを示している。少量は検出されたが、バックグラウンドノイズ未満であったため含めなかった。これは、オレイン酸/タマヌオイルの大部分が皮膚の上に残っていることを意味した。
【0395】
48時間後、経皮(
図48A)及び皮膚保持(
図48C)のデータは、表皮での活性物質の検出量は、非錯化タマヌオイル(オレイン酸)の方が多かったのに対し、真皮での活性物質の検出量は、タマヌオイル・シクロデキストリン錯体の方が多かったことを示す。皮膚保持の棒グラフ(
図48C)は、非錯化タマヌオイルの場合、表皮及び真皮でのオレイン酸検出量がほとんど等しいのに対し、錯化タマヌオイルの場合は、真皮でのオレイン酸検出量は、表皮より実質的に多いことを示す。錯化タマヌオイルが表皮に少なかったという事実は、シクロデキストリンホストにより、このオイルが単に表面に膜を形成する代わりに、皮膚に十分に浸透するようになることを示す。
【0396】
このデータは、シクロデキストリンとの錯化が、油の浸透深さを増加させ得ること、及びシクロデキストリン錯体が、皮膚のより深い層により多くの活性物質を送達し得ることを示す。
【0397】
テトラヒドロクルクミン(「TC」、分子量、372.417g/mol)またはテトラヒドロクルクミン・HBPCD包接錯体のいずれかを含むブライトニングクリーム
テトラヒドロクルクミンは、本試験で調べた最も大きな分子である。
【0398】
テトラヒドロクルクミンの経皮的検出量は、すべての分析時点(8時間、24時間、48時間、表皮、及び真皮(
図49A)において、錯化TCの方が非錯化TCより大きい。従って、シクロデキストリンによる錯化は、この大きな親油性材料の透過性及び浸透性を増加させる。
【0399】
フラックスデータ(
図49B)は、シクロデキストリン・TC錯体の場合は、最初の8時間以内に大量の活性物質が皮膚を通過したのに対し、最初の8時間以内に皮膚に浸透した非錯化TCはなかったことを示す。このフラックスは、シクロデキストリン・TC錯体では、8~24時間でいくらか減速し、その後24~48時間で再び増加した。
【0400】
皮膚保持データ(
図49C)は、TCが皮膚のすべての層で保持されていることを示す。表皮では、非錯化TCに対して錯化TCが多く保持されている。真皮でもまた、非錯化よりも高濃度の錯化TCが保持されている。
【0401】
全体として、発明者らは、シクロデキストリンによる錯化が、皮膚に局所的に適用した場合の活性成分のバイオアベイラビリティを高めると結論付ける。
【0402】
本発明を、その特定の実施形態を参照して説明してきたが、当業者には、本発明の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更が行われてもよく、均等物が置き換えられてもよいことを理解されたい。また、特定の状態、材料、物質の組成物、プロセス、プロセスステップ(複数可)を、本発明の客観的趣旨及び範囲に採用するために、多くの修正が行われ得る。すべてのかかる修正は、本明細書に添付の特許請求の範囲内であることが意図される。
【国際調査報告】