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特表2022-531343低多分散性ポリアクリロニトリルから炭素繊維を調製するためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(54)【発明の名称】低多分散性ポリアクリロニトリルから炭素繊維を調製するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/18 20060101AFI20220629BHJP
   D01F 9/22 20060101ALI20220629BHJP
   D01D 5/06 20060101ALI20220629BHJP
【FI】
D01F6/18 E
D01F9/22
D01D5/06 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564827
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(85)【翻訳文提出日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 US2020030983
(87)【国際公開番号】W WO2020223614
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】62/842,138
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】モスコヴィッツ, ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】テイラー, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】タッカー, エイミー
(72)【発明者】
【氏名】グラッデン, エリック
(72)【発明者】
【氏名】ハーモン, ビリー
【テーマコード(参考)】
4L035
4L037
4L045
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB04
4L035BB60
4L035BB61
4L035BB66
4L035BB88
4L035BB89
4L035BB91
4L035FF01
4L035GG02
4L035HH04
4L035HH10
4L035MB02
4L037CS02
4L037CS03
4L037FA01
4L037PA53
4L037PC09
4L037PC10
4L037PC11
4L037PS02
4L037UA09
4L045AA03
4L045BA03
4L045DA08
4L045DA32
4L045DA41
(57)【要約】
本開示は、特にポリマー溶液を紡糸することによって1つ以上の炭素繊維前駆体繊維を作製するためのプロセスに関し、この場合、ポリマーは、約5~約60のジェット延伸で凝固浴において2以下の多分散性(PDI)を有する。作製された1つ以上の炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維、典型的には複合材料の製造に使用される炭素繊維を作製するために使用され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の炭素繊維前駆体繊維を作製するためのプロセスであって、ポリマー溶液を紡糸し、前記ポリマーは、約5~約60のジェット延伸で凝固浴において2以下の多分散性(PDI)を有し、これにより、前記1つ以上の炭素繊維前駆体繊維を作製する工程を含む、プロセス。
【請求項2】
前記ジェット延伸は、約10~約20、典型的には約10~約15である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ジェット延伸は、約35~約50、典型的には約40~約50である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ポリマーは、1.7以下、典型的には1.6以下の多分散性(PDI)を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ポリマーは、ポリアクリロニトリル系ポリマーである、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ポリマーは、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、イタコン酸(ITA)、ビニル系エステル、典型的には、メタクリレート(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、ビニルアセテート(VA)、エチルアクリレート(EA)、ブチルアクリレート(BA)、エチルメタクリレート(EMA)、及び他のビニル誘導体、典型的には、ビニルイミダゾール(VIM)、アクリルアミド(AAm)、及びジアセトンアクリルアミド(DAAm)、並びにこれらの混合物からなる群に由来する繰り返し単位と、これらからなる群から選択される1つ以上のコモノマーと、を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記凝固浴は、20重量%~85重量%の1つ以上の溶媒、典型的には75重量%~85重量%の1つ以上の溶媒を含み、残りは非溶媒である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記1つ以上の溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、エチレンカーボネート(EC)、塩化亜鉛(ZnCl2)/水及びチオシアン酸ナトリウム(NaSCN)/水からなる群から選択される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記凝固浴の温度は、0℃~80℃、典型的には0℃~20℃である、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記紡糸は、1000本のキャピラリー以上の紡糸口金サイズを有する紡糸口金を用いて行われる、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記ポリマー溶液の紡糸は、エアギャップ紡糸によって達成される、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
1~50mm、典型的には2~10mmの垂直エアギャップが、前記紡糸口金と前記凝固浴との間に提供される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
凝固を終了して作製される前記1つ以上の炭素繊維前駆体繊維の断面直径は、55μm以下、典型的には20μm以下である、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記ポリマーは、少なくとも60,000g/モル、典型的には80,000g/モル~1,000,000g/モル、より典型的には100,000g/モル~400,000g/モルの分子量(M)を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記ポリマーは、RAFT薬剤を使用する制御された/リビングラジカル重合によって合成される、請求項1~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記ポリマー溶液中のポリマーの濃度は、前記溶液の総重量に基づいて、少なくとも10重量%、典型的には約16重量%~約28重量%、より典型的には約19重量%~約24重量%である、請求項1~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
1)請求項1~16のいずれか一項に記載のプロセスに従って炭素繊維前駆体繊維を作製する工程と、
2)工程1)で作製された前記炭素繊維前駆体繊維を1つ以上の延伸及び洗浄浴を通して延伸し、これにより、実質的に溶媒を含まない延伸された炭素繊維前駆体繊維を形成する工程と、
3)工程2)の前記延伸された炭素繊維前駆体繊維を酸化して安定化炭素繊維前駆体繊維を形成し、次いで前記安定化炭素繊維前駆体繊維を炭化し、これにより炭素繊維を作製する工程と、
を含む、炭素繊維を作製するためのプロセス。
【請求項18】
前記ジェット延伸は、約15~約60、典型的には約15~約50、より典型的には約15~約35である、請求項1~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記ジェット延伸は、約20~約60、約25~約60、約30~約60、又は約35~約60である、請求項1~18のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年5月2日に出願された米国仮特許出願第62/842,138号の優先権を主張し、その全内容は、本参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、低多分散性ポリアクリロニトリル系ポリマーからの炭素繊維前駆体繊維の調製に関する。記載されたプロセスによって調製された炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維、典型的には複合材料の製造に使用される炭素繊維を作製するためのプロセスに組み込まれ得る。
【背景技術】
【0003】
炭素繊維は、高い強度及び剛性、高い耐化学薬品性、並びに低い熱膨張などのそれらの望ましい特性のため、多種多様な用途に使用されてきた。例えば、炭素繊維は、同等特性の金属構成要素よりも著しく軽い重量を持ちながら、高い強度と剛性とを組み合わせている構造部品へ成形することができる。炭素繊維は、とりわけ航空宇宙及び自動車用途向けの複合材料における構造構成要素として、ますます使用されつつある。特に、炭素繊維が樹脂又はセラミックマトリックス中の強化材料として機能する複合材料が開発されてきた。
【0004】
アクリロニトリル由来の炭素繊維は、一般に、重合、紡糸、延伸及び/又は洗浄、酸化、並びに炭化を含む一連の製造工程又は段階によって作製される。ポリアクリロニトリル(PAN)ポリマーは、現在炭素繊維の最も幅広く使用されている前駆体である。重合段階中に、アクリロニトリル(AN)は、任意選択的に1つ以上のコモノマーと共に、PANポリマーへと変換される。
【0005】
炭素繊維の90%超がPANポリマーに由来するため、炭素繊維、特に大きいトウの炭素繊維のより速い生産、低費用、及び/又はより簡易な製造を目的として、下流のプロセスに影響を与えるポリマー特性の制御可能なパラメータを特定することが重要である。PANポリマーの「ドープ」を炭素繊維前駆体繊維(「白色繊維」とも呼ばれる)に紡糸する場合、重要な課題は、粘性ドープ溶液の加工性である。一般に、紡糸、特にエアギャップ紡糸で使用されるジェット速度及び紡糸口金の設計などの条件は、このような条件に耐えるポリマーの能力によって制限される。例えば、エアギャップにおけるフィラメント強度の制限、ウェットフェーシング(wetfacing)を防止する能力の制限、及び3,000本超のフィラメントのエアギャップ紡糸に典型的なより高いキャピラリー密度でのフィラメント間の干渉の傾向があるため、エアギャップ紡糸によって一度に3,000本超のフィラメントを紡糸することが課題であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、特に大きいトウ(3,000本超のフィラメント)のエアギャップ紡糸の場合、浴のウェットフェーシング及びフィラメント間の干渉なしに、より高いトウの数でのジェット延伸に耐える能力を有し、キャピラリーにおけるL/Dが低い紡糸口金を再設計して、紡糸口金ヘッドの圧力を下げる機会をもたらす炭素繊維前駆体繊維を調製するためのプロセスに対する継続的な必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的及び以下の詳細な説明から明らかにされる他の目的は、全体で、又は一部において、本開示のプロセスによって応じられる。
【0008】
第1の態様では、本開示は、1つ以上の炭素繊維前駆体繊維を作製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
ポリマー溶液を紡糸し(ポリマーは、約5~約60のジェット延伸で凝固浴において2以下の多分散性(PDI)を有する)、これにより、1つ以上の炭素繊維前駆体繊維を作製する工程を含む。
【0009】
第2の態様では、本開示は、炭素繊維の作製プロセスに関し、このプロセスは、
1)本明細書に記載のプロセスに従って炭素繊維前駆体繊維を作製する工程と、
2)工程1)で作製された炭素繊維前駆体繊維を1つ以上の延伸及び洗浄浴を通して延伸し、これにより、実質的に溶媒を含まない延伸された炭素繊維前駆体繊維を形成する工程と、
3)工程2)の延伸された炭素繊維前駆体繊維を酸化して安定化炭素繊維前駆体繊維を形成し、次いで安定化炭素繊維前駆体繊維を炭化し、これにより炭素繊維を作製する工程と、
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で使用される場合、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、又は「その(the)」は、特に明記しない限り、「1つ以上」又は「少なくとも1つ」を意味し、互いに交換して使用することができる。
【0011】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises)」は、「から本質的になる(consists essentially of)」及び「からなる(consists of)」を含む。用語「含む(comprising)」は、「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」を含む。
【0012】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される技術的な用語及び科学的な用語の全ては、本明細書が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0013】
本明細書で使用される場合、特に指示がない限り、用語「約」又は「およそ」は、当業者によって決定される特定の値についての許容可能なエラーを意味し、これは、値がどのように測定又は決定されるかに部分的に依存する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、1、2、3、又は4標準偏差内を意味する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、所与の値又は範囲の50%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、又は0.05%以内を意味する。
【0014】
また、本明細書に記載される任意の数値範囲は、そこに包含される全ての部分的な範囲を含むことを意図することが理解されよう。例えば、範囲「1~10」は、列挙された最小値である1と、列挙された最大値である10との間及びそれを含む全ての部分的な範囲を含むことを意図する、即ち、1以上の最小値及び10以下の最大値を有する。開示されている数値範囲は連続しているため、最小値と最大値との間の全ての値が含まれる。特に明記しない限り、本出願で指定された様々な数値範囲は概算値である。
【0015】
本開示の第1の態様は、1つ以上の炭素繊維前駆体繊維を作製するためのプロセスに関し、このプロセスは、ポリマー溶液を紡糸し、このポリマーは、約5~約60のジェット延伸で凝固浴において2以下の多分散性(PDI)を有し、これにより、1つ以上の炭素繊維前駆体繊維を作製する工程を含む。
【0016】
本明細書で使用される場合、用語「前駆体繊維」は、十分な熱を加えると、重量で、約90%以上、特に95%以上の炭素含有量を有する炭素繊維に変換することができるポリマー材料を含む繊維を指す。このような繊維は、「白色繊維」としても知られている。
【0017】
本明細書に記載のプロセスで使用されるポリマー溶液は、ポリアクリロニトリル系ポリマー、典型的には2以下の多分散性(PDI)を有するポリアクリロニトリル系ポリマーと、前述のポリマーのための溶媒と、を含む。
【0018】
ポリアクリロニトリル系ポリマーは、ホモポリマーであり得る、又はコモノマーに由来する繰り返し単位を含み得る。このような繰り返し単位は、これらに限定されないが、とりわけ、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、及びイタコン酸(ITA)などのビニル系酸、メタクリレート(MA)、エチルアクリレート(EA)、ブチルアクリレート(BA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソプロピルアセテート、ビニルアセテート(VA)、及びビニルプロピオネートなどのビニル系エステル、ビニルイミダゾール(VIM)、アクリルアミド(AAm)、及びジアセトンアクリルアミド(DAAm)などのビニルアミド、塩化アリル、臭化ビニル、塩化ビニル、及び塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、メタリルスルホン酸ナトリウム(SMS)、及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(SAMPS)などのビニル化合物のアンモニウム塩及びスルホン酸のナトリウム塩などの適切なコモノマー由来であり得る。
【0019】
一実施形態では、ポリマーは、アクリロニトリルに由来する繰り返し単位と、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、イタコン酸(ITA)、ビニル系エステル、典型的には、メタクリレート(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、ビニルアセテート(VA)、エチルアクリレート(EA)、ブチルアクリレート(BA)、エチルメタクリレート(EMA)、及び他のビニル誘導体、典型的には、ビニルイミダゾール(VIM)、アクリルアミド(AAm)、及びジアセトンアクリルアミド(DAAm)、及びこれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のコモノマーと、を含む。
【0020】
コモノマーの比(アクリロニトリルの量に対する1つ以上のコモノマーの量)は特に限定されない。しかしながら、適切なコモノマーの比は、0~20%、典型的には1~5%、より典型的には1~3%である。
【0021】
ポリマーは、商業的供給源から入手することができる、又は当業者に知られている任意の重合方法に従って合成することができる。例示的な合成方法には、溶液重合、分散重合、沈殿重合、懸濁重合、乳化重合、及びこれらの変形例、例えば、RAFT重合などが含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
ポリマーを合成するための1つの適切な方法は、アクリロニトリル(AN)モノマー及び本明細書に記載のコモノマーを、ポリマーが可溶性である溶媒中で混合し、これにより溶液を形成することを含む。溶液は、室温を超える温度(即ち、25℃超)まで加熱される。加熱後、重合反応を開始させるために開始剤が溶液に添加される。重合が完了するとすぐに、未反応ANモノマーは、(例えば、高真空下の脱気によって)取り除かれ、結果として生じたPANポリマー溶液は冷却される。この段階で、ポリマーは、溶液形態又はドープ形態である。
【0023】
適切な溶媒の例としては、これらに限定されないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、エチレンカーボネート(EC)、塩化亜鉛(ZnCl)/水、及びチオシアン酸ナトリウム(NaSCN)/水が挙げられる。
【0024】
別の適切な方法では、本明細書に記載のアクリロニトリル(AN)モノマーとコモノマーは、得られるポリマーが難溶性又は不溶性である媒体、典型的には水性媒体中で重合することができる。この方法では、得られるポリマーは、媒体との不均一な混合物を形成することになる。その後、ポリマーは濾過及び乾燥される。このような方法が使用される場合、乾燥されたポリマーは、本明細書に記載の1つ以上の溶媒などの適切な溶媒に溶解される。
【0025】
重合に適した開始剤(ラジカル開始剤又は触媒とも呼ばれる)としては、これらに限定されないが、とりわけ、アゾ-ビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチル)バレロニトリル(ABVN)などのアゾ系化合物、及びとりわけ、ジラウロイルペルオキシド(LPO)、ジ-tert-ブチルペルオキシド(TBPO)、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート(IPP)などの有機過酸化物が挙げられる。ラジカル開始剤は、典型的には、アクリロニトリルの量に対して、約0.6重量%~約1.8重量%の量で使用される。
【0026】
反応温度は、一般に、室温より高い(即ち、25℃超)。適切には、反応は、約30℃~約85℃、典型的には約40℃~約85℃、より典型的には約58℃~約72℃の温度で維持される。
【0027】
一実施形態では、ポリマーは、可逆的付加/開裂連鎖移動、即ちRAFTの薬剤を使用する制御/リビングラジカル重合によって合成される。
【0028】
当業者に知られているように、リビング重合は、ラジカル重合中に全てのモノマーが消費された後にのみ連鎖停止が起こる重合プロセスを指す。このタイプの重合反応では、より多くのモノマーが反応に加えられると、伸張が継続することができる。理想的には、全ての鎖は反応の開始時に始動され、同様の速度で成長する。不可逆的な連鎖移動又は終了はない。始動が伸張に関して迅速である場合、分子量分布は非常に狭く、反応にモノマーを更に加えることによって鎖を延長することができる。しかしながら、典型的なラジカル重合では、全ての鎖を同時に活性化することはできない。したがって、薬剤は、休止段階を形成することによって伸張とその速度を制御するために使用される。伸張を可逆的に非活性化又は活性化することにより、活性鎖と休止鎖との間の迅速な平衡を達成することができ、これにより、狭い分子量分布が得られることができるように同様の速度で鎖成長を制御することができる。このような重合プロセスは、制御/リビングラジカル重合と呼ばれ、伸張を制御するために使用される薬剤は、可逆的付加/開裂連鎖移動、即ちRAFTの薬剤と呼ばれる。
【0029】
RAFT薬剤は当業者に知られており、四塩化炭素(CCl)、四臭化炭素(CBr)、ブロモトリクロロメタン(BrCCl)、ペンタフェニルエタン、ドデシルメルカプタンなどの1つ以上の-SH官能基(メルカプタン又はチオールとも呼ばれる)を有する化合物、及び1つ以上の-(C=S)-S-及び/又は-S-S-官能基を有する化合物、例えば、Longgui Tangらの米国特許第9,957,645号明細書及び米国特許第10,189,985号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているRAFT薬剤などを含むが、これらに限定されない。
【0030】
ポリマー溶液中のポリマーの濃度(紡糸「ドープ」とも呼ばれる)は、特に限定されないが、溶液の総重量に基づいて、少なくとも10重量%、典型的には約16重量%~約28重量%、より典型的には約19重量%~約24重量%であり得る。
【0031】
ポリマー溶液のpHは、特に限定されない。pHは、例えば、ポリマー溶液に適切な酸又は塩基を加えることによって、当業者に知られている方法に従って紡糸を助けるように調整することができる。
【0032】
本開示に従って使用されるポリマーを作製するために使用され得る異なる重合反応の異なる終結メカニズムのために、ポリマーの分子鎖は、異なる長さ又は異なる分子量を有する。本開示のプロセスで使用されるポリマーは、少なくとも60,000g/モル、典型的には80,000g/モル~1,000,000g/モル、より典型的には100,000g/モル~400,000g/モルであり得る分子量(M)を有する。
【0033】
このように、ポリマーの分子量は、分布をもたらす。この分布は、その多分散性指数(PDI)によって定義できる。一般に、PDIは、比M/Mとして定義でき、この場合、Mは、重量平均分子量であり、Mは、数平均分子量である。或いは、PDIは、比M/Mとして定義でき、この場合、Mは、Z平均分子量又はサイズ平均分子量である。M,M,Mは、当業者に知られている方法を使用して決定することができる。例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用することができる。特に明記されていない限り、PDIは、比M/Mを指す。
【0034】
本開示のプロセスで使用されるポリマーは、2以下の多分散性(PDI)を有する。一実施形態では、ポリマーは、1.7以下、典型的には1.6以下のPDIを有する。
【0035】
ポリマー溶液の紡糸は、例えば、湿式紡糸又はエアギャップ紡糸など、当業者に知られている任意の方法によって達成することができる。
【0036】
湿式紡糸では、ドープは濾過され、紡糸口金(典型的には金属製)の穴から直接ポリマー用の液体凝固浴に押し出されフィラメントを形成する。紡糸口金の穴は、繊維の望ましいフィラメント数を決定する(例えば、3K炭素繊維の場合は、3,000本のキャピラリー、又は穴)。しかしながら、エアギャップ紡糸では、紡糸口金と凝固浴との間に1~50mm、通常は2~10mmの垂直エアギャップが提供される。この紡糸法では、ポリマー溶液を濾過し、紡糸口金から空気中で押し出し、次いで押し出されたフィラメントを凝固浴で凝固させる。一実施形態では、紡糸は、1000本のキャピラリー以上の紡糸口金サイズを有する紡糸口金を用いて行われる。
【0037】
一実施形態では、ポリマー溶液の紡糸は、エアギャップ紡糸によって達成される。
【0038】
本プロセスに使用される凝固液は、溶媒と非溶媒との混合物である。ポリマー用の溶媒は、典型的には完全にポリマーを溶解することができる任意の化合物も指す。本明細書で使用される場合、非溶媒とは、ポリアクリロニトリル系ポリマーを溶解しない任意の化合物も指す。
【0039】
溶媒と非溶媒の比、及び浴温度は特に制限されず、凝固において押し出された新生フィラメントの望まれる凝固速度を実現するために、公知の方法に従って調節することができる。しかしながら、一実施形態では、凝固浴は、20重量%~85重量%の1つ以上の溶媒、典型的には75重量%~85重量%の1つ以上の溶媒を含み、残りは非溶媒である。
【0040】
水又はアルコールが、典型的には非溶媒として使用される。適切な溶媒としては、本明細書に記載の溶媒が挙げられる。一実施形態では、1つ以上の溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、エチレンカーボネート(EC)、塩化亜鉛(ZnCl2)/水及びチオシアン酸ナトリウム(NaSCN)/水からなる群から選択される。
【0041】
一実施形態では、凝固浴の温度は、0℃~80℃、典型的には0℃~20℃である。
【0042】
本明細書で使用される場合、ジェット延伸(Φ)は、ドープ押し出し速度(V)に対する第1のローラーの巻き取り速度(V)の比を指し、以下の関係によって定義される:
Φ = V/V
【0043】
第1のローラーの巻き取り速度(V)は、紡糸口金の直後の第1のローラーの線速度であり、メートル/分(m/分)で表される。本明細書で使用される場合、同じくメートル/分で表されるドープ押し出し速度(V)は、以下の関係によって定義される:
= (4Q)/(πD
(式中、Qは、フィラメント当たりの体積流量(m/分単位)であり、Dは、各紡糸口金のキャピラリーの直径(メートル単位)である)。本開示で使用されるジェット延伸は、第1のローラーの後の下流プロセスで行われる可能性がある他のタイプの延伸を含まない。V又はVのいずれかを変更することにより、様々なジェット延伸を実現できる。例えば、Vを一定に保つと、最大ジェット延伸は、最大巻き取り速度によって決定される。当業者は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、プロセスで使用されるジェット延伸を得るために、前述のパラメータのいずれかを調整する方法を理解するであろう。
【0044】
一実施形態では、ジェット延伸は、約10~約20であり、典型的には約10~約15である。別の実施形態では、ジェット延伸は、約35~約50、典型的には約40~約50である。
【0045】
更に別の実施形態では、ジェット延伸は、約15~約60、典型的には約15~約50、より典型的には約15~約35である。いくつかの実施形態では、ジェット延伸は、約20~約60、約25~約60、約30~約60、又は約35~約60である。
【0046】
一実施形態では、凝固を終了して作製される1つ以上の炭素繊維前駆体繊維の断面直径は、55μm以下、典型的には20μm以下である。
【0047】
本明細書に記載のプロセスによる炭素繊維前駆体繊維の作製に続いて、前述の前駆体繊維は、炭素繊維を作製するためのプロセスで使用することができる。
【0048】
したがって、第2の態様では、本開示は、炭素繊維を作製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
1)本明細書に記載のプロセスに従って炭素繊維前駆体繊維を作製する工程と、
2)工程1)で作製された炭素繊維前駆体繊維を1つ以上の延伸及び洗浄浴を通して延伸し、これにより、実質的に溶媒を含まない延伸された炭素繊維前駆体繊維を形成する工程と、
3)工程2)の延伸された炭素繊維前駆体繊維を酸化して安定化炭素繊維前駆体繊維を形成し、次いで安定化炭素繊維前駆体繊維を炭化し、これにより炭素繊維を作製する工程と、
を含む。
【0049】
本明細書に記載のプロセスに従って作製された炭素繊維前駆体繊維は、実質的に溶媒を含まない延伸された炭素繊維前駆体繊維を形成するために延伸工程にかけられる。
【0050】
炭素繊維前駆体繊維の延伸は、例えばローラーによって、1つ以上の延伸及び洗浄浴を通して紡糸された前駆体繊維を搬送することによって行われる。炭素繊維前駆体繊維は、1つ以上の洗浄浴を通って運ばれ、過剰な溶媒が除去され、熱(例えば40℃~100℃)水浴中で延伸されて、繊維径制御の第1の工程としてフィラメントに分子配向が付与される。その結果、実質的に溶媒を含まない炭素繊維前駆体繊維が延伸される。
【0051】
延伸工程2)は、例えば、乾燥ロール上で、実質的に溶媒を含まない延伸された炭素繊維前駆体繊維を乾燥することを更に含み得る。乾燥ロールは、直列に及び蛇行形態に配置された複数の回転可能なロールからなることができ、ロール上をフィラメントが、ロールからロールへ順次、及び十分な張力下で通過して、ロール上でフィラメントに延伸又は緩和をもたらす。ロールの少なくともいくつかは、内部を又はロールを通って循環する、加圧スチーム、又はロールの内部の電気加熱素子によって加熱される。仕上げオイルは、フィラメントが下流プロセスにおいて互いに粘着することを防ぐために、乾燥前に延伸繊維に対して塗布することができる。
【0052】
本明細書に記載のプロセスの工程3)において、工程2)の延伸された炭素繊維前駆体繊維を酸化して安定化炭素繊維前駆体繊維を形成し、続いて安定化炭素繊維前駆体繊維を炭化して炭素繊維を作製する。
【0053】
酸化段階の間に、延伸された炭素繊維前駆体繊維、典型的にはPAN繊維は、それぞれが150~300℃、典型的には200~280℃、より典型的には220~270℃の温度を有する1つ以上の特殊なオーブンを通して張力をかけた状態で供給される。加熱された空気が各オーブンに供給される。したがって、一実施形態では、工程3)の酸化は、空気環境で行われる。延伸された炭素繊維前駆体繊維は、4~100fpm、典型的には10~80fpm、より典型的には20~70fpmの速度で1つ以上のオーブンを通って運ばれる。
【0054】
酸化プロセスでは、空気由来の酸素分子が繊維と結合してポリマー鎖が架橋を開始し、これにより繊維密度が1.3g/cm~1.4g/cmに増加する。酸化プロセスでは、繊維に加えられる張力は、一般に0.8~1.35、典型的には1.0~1.2の延伸比で延伸又は収縮される繊維を制御するものである。延伸比が1である場合には、延伸はない。延伸比が1よりも大きい場合には、適用される張力は、繊維が延伸されることを引き起こす。このような酸化されたPAN繊維は、不溶融性のはしご型芳香族分子構造を有し、いつでも炭化処理できる状態である。
【0055】
炭化は、炭素分子の結晶化をもたらし、その結果として90パーセント超の炭素含有量を有する完成した炭素繊維を生成する。酸化又は安定化された炭素繊維前駆体繊維の炭化は、1つ以上の特別に設計された炉内の不活性(無酸素)雰囲気で行われる。一実施形態では、工程3)の炭化は、窒素環境で行われる。酸化された炭素繊維前駆体繊維は、それぞれが300℃~1650℃、典型的には1100℃~1450℃の温度に加熱された1つ以上のオーブンを通過する。
【0056】
一実施形態では、酸化された繊維は、不活性ガス(例えば窒素)に曝されながら約300℃~約900℃、典型的には約350℃~約750℃の加熱温度に曝されるプレ炭化炉を通され、続いて不活性ガスに曝されながら、約700℃~約1650℃、典型的には約800℃~約1450℃のより高い温度に加熱された炉を通されることよって炭化される。繊維への張力は、プレ炭化及び炭化プロセス全体でかけることができる。プレ炭化において、適用される繊維張力は、延伸比が0.9~1.2、典型的には1.0~1.15の範囲内にあるように制御するのに十分なものである。炭化において、用いられる張力は、0.9~1.05の延伸比を与えるのに十分なものである。
【0057】
マトリックス樹脂と炭素繊維との間の接着は、炭素繊維強化ポリマー複合材料における重要な基準である。そのため、炭素繊維の製造中に、この接着を強化するために酸化及び炭化後に表面処理を行うことができる。
【0058】
表面処理は、炭化された繊維を、重炭酸アンモニウム又は次亜塩素酸ナトリウムなどの、電解質を含む電解浴を通して引っ張ることを含むことができる。電解浴の化学物質は、繊維の表面をエッチング又は粗くし、これにより界面繊維/マトリックス結合に利用可能な表面積を増加させて反応性化学基を追加する。
【0059】
次に、炭素繊維は、サイズコーティング(例えば、エポキシ系コーティング)が繊維に対して塗布される、サイジング処理にかけることができる。サイジング処理は、繊維を、液体コーティング材料を含むサイズ浴を通過させることによって実施することができる。サイジング処理は、ハンドリング中に、並びに乾燥布帛及びプレプレグなどの、中間形態への加工中に炭素繊維を保護する。サイジング処理はまた、けばを減少させ、加工性を向上させ、繊維とマトリックス樹脂との間の界面剪断強度を高めるために、フィラメントを個々のトウで一緒に保持する。
【0060】
サイジング処理後に、コートされた炭素繊維は、乾燥させられ、次いでボビンに対して巻き付けられる。
【0061】
当業者は、望まれる構造及びデニールのフィラメントを得るためには他の処理条件(紡糸溶液及び凝固浴の組成、浴の総量、延伸、温度、及びフィラメント速度など)が関係することを理解するであろう。本開示のプロセスは、連続的に行うことができる。
【0062】
本明細書に記載のプロセスに従って作製される炭素繊維は、ASTM D4018試験方法による引張強さ及び引張弾性率などの機械的特性によって特徴付けることができる。
【0063】
本開示のプロセス及び材料は、以下の非限定的な実施例によって更に説明される。
【実施例
【0064】
実施例1
4つのポリアクリロニトリル系ポリマー溶液が、ベンチスケールの紡糸ラインで評価された。ポリマー溶液を以下の表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
絶対重量平均分子量(M)及び多分散性(PDI)は、270低角度光散乱(LALS)及び直角光散乱(RALS)検出器を備えたViscotek GPCmaxゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を介して決定された。更に、粘度計と2502屈折率(RI)検出器を直列に接続した。カラムは、45℃に設定されたMalvern I-MBHMW-3078混合ベッドカラムであり、移動相はDMFにおける0.02M LiBr、流速は1.0mL/分であった。各注入は、100μLであった。データは、Viscotek OMNISECバージョン5.0ソフトウェアを使用して分析した。
【0067】
粘度測定は、ブルックフィールド粘度計で、同心円筒形状を使用して、45、55、及び65℃、0.3ラジアン/秒で実行した。試料サイズは、11~12グラムの範囲であり、15分の安定化後に測定値が記録された。
【0068】
DHR-2レオメーターの測定は、40mm、1度のコーンを使用して実行した。周波数掃引は、628~0.628ラジアン/秒及び2%の歪みで行った。フロー掃引は、0.003Hz~100Hzで実行した。
【0069】
この実施例では、トウの「完全な一掃(full wipeout)」又は壊滅的な破損(catastrophic failure)に到達するために必要なジェット延伸が、各ポリマー溶液について決定された。トウの「完全な一掃」又は壊滅的な破損は、フィラメントが結合し、トウ全体が、凝固浴に沈められたターニングバー(turning bar)に到達しない地点であると見なされた。凝固浴は、15℃の温度で約78~79%のDMSOに設定された。キャピラリー寸法が3:1(L/D)である100本のフィラメントのエアギャップ紡糸口金が、6mmのエアギャップ距離で使用された。各試行では、第1のローラー、又はゴデットの速度は、5.8m/分で開始し、体積流量は、最初に1.72~1.8cc/分の範囲に調整され、約5.7~6.0のジェット延伸を目標にした。次いで、約1m/分から14.36m/分(最大)の工程間隔でゴデットの速度を上げ、続いて0.1cc/分の間隔で計量ポンプ速度を下げることにより、ジェット延伸を増加させた。繊維がジェット延伸で「完全に一掃」されたと見なされたとき(即ち、10%を超えるフィラメントが破断したとき)、実行が停止された。
【0070】
作製された前駆体繊維は、光学画像及び走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析された。
【0071】
フィラメントの直径は、SEMにて3つのフィラメントの平均をとることによって計算され、結果はそれぞれのジェット延伸条件とともに表2にまとめられる。表2は、破断時の最大ジェット延伸(それぞれの試料ごと)も示している。
【0072】
【表2】
【0073】
低いジェット延伸条件及びそれぞれの高いジェット延伸条件での前駆体フィラメントの断面のSEM分析は、低い延伸条件でポリマー1~3から作製された前駆体フィラメントにマクロボイド(macrovoid)があり、一方、ポリマー4から作製された前駆体フィラメントは、マクロボイドがないように見えたことを示した。しかしながら、高い延伸条件では、ポリマー1及び3の溶液は、マクロボイドの形成を軽減するように見えるが、ポリマー2は、構造内でより小さくより頻繁なボイドを形成するように見える。理論に拘束されることを望まないが、フィラメントの直径が凝固に役割を果たす可能性があり、マクロボイドを軽減する能力は、より高い延伸条件でのこれらのフィラメントのより小さい直径によるものであると考えられる。
【0074】
重要なことに、表4に示されるように、PDIが2未満のポリマー1及び3は、最大約40(それぞれ42.29及び39.04)のジェット延伸に耐えることができるが、2未満のPDIを有さないポリマー2及び4は、完全な一掃状態で最大約25(それぞれ24.17及び20.30)のジェット延伸にしか耐えることができなかった。始動の開始粘度が類似又は等しいことを考えると、ジェットの延伸性におけるこの特性の違いは、より高い全体的な延伸、より速い生産、より低い費用、又はより大きなトウのより簡易な製造などの様々な方法で利用できる。ポリマー1及び3の溶液によって例示されるように、低いPDIの溶液は、約20のジェット延伸で安定であり、これにより、より小さい下流延伸がより少ない費用でより高い性能を達成できることを可能にし得ることは明らかである。更に、2以下のPDIを有するポリマーを使用することで、紡糸口金ヘッドでの圧力がより低くなるように、キャピラリーにおけるより低いL/Dを有する紡糸口金を再設計する機会を提供することができる。
【国際調査報告】