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特表2022-531407セルロースナノフィブリルの懸濁液の製造方法
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  • 特表-セルロースナノフィブリルの懸濁液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(54)【発明の名称】セルロースナノフィブリルの懸濁液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/02 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
C08B15/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021565061
(86)(22)【出願日】2020-05-04
(85)【翻訳文提出日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2020062284
(87)【国際公開番号】W WO2020221934
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】1904639
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509265302
【氏名又は名称】アンスティテュ・ポリテクニック・ドゥ・グルノーブル
(71)【出願人】
【識別番号】521478577
【氏名又は名称】サントル・テクニーク・ドゥ・ランドゥストリ・デ・パピール・カルトン・エ・セルロース
(71)【出願人】
【識別番号】521477189
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・グルノーブル・アルプ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・ブラ
(72)【発明者】
【氏名】フルール・ロール
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・プチ-コニル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリ・メイエ
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090AA05
4C090BA34
4C090BC01
4C090BD36
4C090CA26
4C090CA34
4C090DA31
(57)【要約】
本発明は、セルロース繊維の水性懸濁液からセルロースナノフィブリルの懸濁液を製造するための方法100であって、以下の工程:・セルロース繊維の水性懸濁液の、少なくとも1つの官能化剤による反応器中での化学的処理110の工程であって、前記化学的処理がセルロース繊維を高めの、実際に厳密に1.0mmol/gより高い変性率で官能化するように構成された工程、及び・二軸押出機における官能化セルロース繊維の水性懸濁液の機械的処理120の工程であって、前記押出機の各スクリューが、少なくとも2つのフィブリル化セグメントを含む工程、を含む方法に関する。この最適化された方法によって、高い乾燥物含量を有する良質のセルロースナノフィブリルの懸濁液を、先行技術の方法よりも少ないエネルギー消費で製造することが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維の水性懸濁液からセルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液を製造するための方法(100)であって、以下の工程:
・セルロース繊維の水性懸濁液の、少なくとも1つの官能化剤による化学的処理(110)の工程であって、前記化学的処理(110)が、セルロース繊維を1.0mmol/gより高い変性率で官能化するように構成されている、工程、及び
・二軸押出機による、セルロース繊維の水性懸濁液の機械的処理(120)の工程であって、前記押出機の各スクリュー(1、2)が、少なくとも2つのフィブリル化セグメント(11、12、13、21、22、23)を含む、工程、
を含み、
前記官能化剤がオゾンを含む、
方法。
【請求項2】
化学的処理(110)が、1.0mmol/gから3.0mmol/gの変性率でセルロース繊維を官能化するように構成される、請求項1に記載の方法(100)。
【請求項3】
押出機の各スクリュー(1、2)が、2から6のフィブリル化セグメント(11、12、13、21、22、23)を含む、請求項1または2に記載の方法(100)。
【請求項4】
機械的処理(120)が、官能化セルロース繊維の水性懸濁液に、二軸押出機中を最大2回通過させることを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項5】
化学的処理(110)の後及び機械的処理(120)の前に、官能化セルロース繊維の水性懸濁液を濃縮する工程(115)又は希釈する工程(115’)から選択される工程を含み、この工程(115又は115’)は、官能化セルロース繊維の水性懸濁液の濃度が、二軸押出機の入口で、10から50質量%の乾燥物となるように構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項6】
化学的処理(110)の後及び機械的処理(120)の前に、セルロース繊維の水性懸濁液を洗浄する工程(114)を含み、前記洗浄工程は、官能化剤の残留物を官能化セルロース繊維の水性懸濁液から除去するように構成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項7】
前記洗浄の工程(114)が、濃縮の工程(115)又は希釈の工程(115’)から選択される工程に先行する、請求項5または6に記載の方法(100)。
【請求項8】
二軸押出機の各スクリュー(1、2)の少なくとも2つのフィブリル化セグメント(11、12、13、21、22、23)が、互いに異なる剪断速度及び累積変形を発生するように構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項9】
押出機のスクリュー(1、2)が、各フィブリル化セグメント(11、12、13、21、22、23)の少なくとも一方の側にコンベヤセグメント(14、15、16、17、24、25、26、27)を備えている、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項10】
2つのスクリュー(1、2)の少なくとも一方の少なくとも1つのフィブリル化セグメント(11、12、13、21、22、23)が、正(direct)ねじ溝を有する部分(111、121、131、211、221、231)及び逆ねじ溝を有する部分(112、122、132、212、222、232)のうちの少なくとも1つを備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項11】
オゾンが、セルロースの乾燥物の質量が10~35質量%の濃度でセルロース繊維の水性懸濁液と混合され、変性率が1.2mmol/gより高い、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項12】
オゾンによる化学的処理(110)が、セルロースの乾燥物の質量が0.01~5質量%の濃度で、鉄塩を含む触媒の存在下で行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項13】
化学的処理(110)の前に、セルロース繊維の水性懸濁液が、乾燥物にして40%に実質的に等しい濃度を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項14】
化学的処理(110)の前に、セルロース繊維の水性懸濁液と酸とを混合することを含む化学的前処理(104)を含み、前記化学的前処理(104)は、セルロース繊維の水性懸濁液が厳密に4未満のpHを有するように構成される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項15】
化学的処理の工程(110)が、機械的処理の工程(120)に先行し、反応器中で実施され、セルロース繊維は機械的処理の工程(120)の前に官能化されている、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維の水性懸濁液からの、セルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液の製造の分野に関する。これは、包装、塗料、紙、または医薬の分野に特に有利な用途を有する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは地球上で最も豊富な高分子であり、化石由来の製品にとって代わるための確固とした利点を有する。実際、セルロースは、生物由来の、再生可能な、持続可能な、さらに生体適合性の材料である。ナノメートルのスケールで見ると、セルロース繊維は、さらなる特性を有して非常に魅力的となっている。セルロースナノフィブリルまたはセルロースマイクロフィブリル(CNFは「セルロースナノファイバー」の意味であり、MFCは「マイクロフィブリル化セルロース」の意味である)のフィルムは透明であり、且つ高い機械特性を有する。CNFはまた、バリア特性、例えば、油脂、酸素、芳香、または汚染物質に対するバリア性も有する。CNFの工業生産は2011年に開始されたが、製造コスト(高いエネルギー消費、原料、化学物質のコスト)のため、また(生産される懸濁液の乾燥物の濃度が低いことによる)輸送コストにより、生産量は依然として少ない。実際、セルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液は、現在、2%から5%の乾燥物、または98%から95%の水からなる濃度で製造されている。2%の懸濁液はゲル状であり、水分を除去することが非常に困難である。したがって、輸送される原料のほとんどが水であり、同様に保管の問題も生じる。
【0003】
セルロースマイクロ/ナノフィブリルは、多くの場合、セルロース繊維の酵素的または化学的な前処理の後に、機械的処理によってマイクロ/ナノフィブリルの単離を可能することで製造される。化学的または酵素的な前処理は、OH基を変性させることで繊維間の水素結合を弱め、よってCNFの分離を容易とするために必要である。使用する前処理により、様々な品質のCNFを得ることができる。化学的前処理により、より高品質でより小さいCNFを製造することができる。多くの研究が、近年Rolら(Rol, F.; Belgacem, M. N.; Gandini, A.; Bras, J. Recent Advances in Surface-Modified Cellulose Nanofibrils. Prog. Polym. Sci. 2018)によって説明されている通り、ナノフィブリル化のためのセルロースの化学変性について行われてきた。TEMPO酸化(Isogai, A.; Saito, T.; Fukuzumi, H. TEMPO-Oxidized Cellulose Nanofibers. Nanoscale 2011, 3 (1), 71-85)、カルボキシメチル化(Naderi, A.; Lindstrom, T.; Sundstrom, J. Carboxymethylated Nanofibrillated Cellulose: Rheological Studies. Cellulose 2014, 21 (3), 1561-1571)、及びカチオン化(Saini, S.; Yucel Falco, C.; Belgacem, M. N.; Bras, J. Surface Cationized Cellulose Nanofibrils for the Production of Contact Active Antimicrobial Surfaces. Carbohydr. Polym. 2016, 135, 239-247)が、最も利用されている前処理である。セルロースの化学的前処理は官能化CNFをもたらし、これらのCNFはさらなる特性を備えて、後の変性に使用することが可能になる。例えば、カチオン化CNFが抗菌性を有する一方で、リン酸エステル化CNF(Ghanadpour, M.; Carosio, F.; Larsson, P. T.; Wagberg, L. Phosphorylated Cellulose Nanofibrils: A Renewable Nanomaterial for the Preparation of Intrinsically Flame-Retardant Materials. Biomacromolecules 2015, 16 (10), 3399-3410)は難燃特性を有することが知られている。
【0004】
官能化CNFは過ヨウ素酸酸化によっても製造することができる。過ヨウ素酸酸化によってセルロース繊維上にアルデヒド基が生成され、これによりナノフィブリル化の改善及び別の分子のグラフト化が可能となる。例えば、Larssonら(Larsson, P. A.; Berglund, L. A.; Wagberg, L. Highly Ductile Fibres and Sheets by Core-Shell Structuring of the Cellulose Nanofibrils. Cellulose 2013, 21 (1), 323-333)は、過ヨウ素酸酸化及び水素化ホウ素ナトリウム還元の後にCNFを単離した。良質なCNFが、過ヨウ素酸酸化に次いで亜塩素酸酸化を行うことによっても製造できる(Liimatainen, H.; Visanko, M.; Sirvio, J. A.; Hormi, O. E. O.; Niinimaki, J. Enhancement of the Nanofibrillation of Wood Cellulose through Sequential Periodate-Chlorite Oxidation. Biomacromolecules 2012, 13 (5), 1592-1597)。Sirvioら(Sirvio, J. A.; Anttila, A.-K.; Pirttila, A. M.; Liimatainen, H.; Kilpelainen, I.; Niinimaki, J.; Hormi, O. Cationic Wood Cellulose Films with High Strength and Bacterial Anti-Adhesive Properties. Cellulose 2014, 21 (5), 3573-3583)は、カチオン性CNFを、過ヨウ素酸酸化、その後のジラード試薬との反応によって製造してきた。しかるに、過ヨウ素酸酸化が、近年、セルロース繊維のナノフィブリル化のために開発され、これによって高品質CNFの製造が可能である。しかしながら、この方法の工業化は、前記プロセスの所要期間(数日)及び使用される毒性製品のため、現実的ではないと思われる。
【0005】
オゾンもまたセルロース繊維上にカルボニル基を生成することができ、工業的にはより優れた選択肢のようである。実際、オゾンは、安価で、無毒で、大規模に利用可能であり、且つ紙パルプの白色化のために既に使用されている。特許文献US2015/0167243A1には、オゾンと酵素との混合物を使用する、セルロースナノファイバーを調製するための革新的なエネルギー効率の良い方法が提案されている。セルロースの重合度の低下及び少なくとも8%のエネルギー消費の低減が報告されている。別の特許文献WO2014/029909には、セルロース繊維の一次膜もまた、ホモジナイザーまたはマイクロフルイダイザーでのナノフィブリル化の前に、オゾン処理によって除去できることが開示されている。また、特許文献US7,700,764B2により、マイクロフィブリル多糖、例えばセルロースを、オゾンまたは過酸化水素の形態の酸化剤(0.1~5質量%)及び遷移金属、例えば鉄(酸化剤の質量に基づいて最大20質量%)を用いて製造する方法が公知である。より最近では、Beheshti Tabarら(Beheshti Tabar, I.; Zhang, X.; Youngblood, J. P.; Mosier, N. S. Production of Cellulose Nanofibers Using Phenolic Enhanced Surface Oxidation. Carbohydr. Polym. 2017, 174, 120-127)は、リグニン由来のフェノール性化合物の存在下で酵素とオゾンを用いて、セルロース繊維表面にカルボニル基を生成させることにより、CNFを単離した。このように、オゾンは、工業的に実施可能な、新たに奨励される前処理のようである。この反応は、室温で、高い乾燥繊維含量で行うことができ、有毒な生成物を伴わない。
【0006】
さらにまた、最近では、高い乾燥繊維含量と最適なエネルギー効率でセルロースナノフィブリルを製造するために、二軸押出機を使用することが提案されている(特に特許文献WO2011/051882(A1)を参照)。Hoら(Ho, T. T. T.; Abe, K.; Zimmermann, T.; Yano, H. Nanofibrillation of Pulp Fibers by Twin-Screw Extrusion. Cellulose 2014, 22 (1), 421-433)は、コンベヤスクリューと混合部品の組み合わせを用いることにより、非処理繊維から、33~45質量%の乾燥物含量を有するCNFを、初めて製造した。より最近では、Rolら(Rol, F.; Karakashov, B.; Nechyporchuk, O.; Terrien, M.; Meyer, V.; Dufresne, A.; Belgacem, M. N.; Bras, J. Pilot Scale Twin Screw Extrusion and Chemical Pretreatment as an Energy Efficient Method for the Production of Nanofibrillated Cellulose at High Solid Content. ACS Sustain. Chem. Eng. 2017)は、超微粉砕機の代わりに二軸押出機を使用することにより、生成されるCNFの品質を低下させずにエネルギーを63%削減できることを示している。最後に、Baatiら(Baati, R.; Magnin, A.; Boufi, S. High Solid Content Production of Nanofibrillar Cellulose via Continuous Extrusion. ACS Sustain. Chem. Eng. 2017)は、円錐型マイクロ押出機を用いる、低エネルギー消費のTEMPO CNF製造を報告している。
【0007】
特開2017-025123号公報には、セルロース繊維の水性懸濁液の化学的処理、化学的処理されたセルロース繊維の乾燥、これら繊維の熱水中への懸濁、次いでこれら繊維の機械的処理による分散を含む、セルロースナノフィブリルの懸濁液を得るための方法が開示されている。しかしながら、この方法は、実施するには依然として複雑であり、乾燥及びこれに続く再懸濁はエネルギーコストがかかり、生成されるCNFの懸濁液の品質は限られている。
しかしながら、CNFの製造を最適化する必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US2015/0167243A1
【特許文献2】WO2014/029909
【特許文献3】US7,700,764B2
【特許文献4】WO2011/051882(A1)
【特許文献5】特開2017-025123号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Rol, F.; Belgacem, M. N.; Gandini, A.; Bras, J. Recent Advances in Surface-Modified Cellulose Nanofibrils. Prog. Polym. Sci. 2018
【非特許文献2】Isogai, A.; Saito, T.; Fukuzumi, H. TEMPO-Oxidized Cellulose Nanofibers. Nanoscale 2011, 3 (1), 71-85
【非特許文献3】Naderi, A.; Lindstrom, T.; Sundstrom, J. Carboxymethylated Nanofibrillated Cellulose: Rheological Studies. Cellulose 2014, 21 (3), 1561-1571
【非特許文献4】Saini, S.; Yucel Falco, C.; Belgacem, M. N.; Bras, J. Surface Cationized Cellulose Nanofibrils for the Production of Contact Active Antimicrobial Surfaces. Carbohydr. Polym. 2016, 135, 239-247
【非特許文献5】Ghanadpour, M.; Carosio, F.; Larsson, P. T.; Wagberg, L. Phosphorylated Cellulose Nanofibrils: A Renewable Nanomaterial for the Preparation of Intrinsically Flame-Retardant Materials. Biomacromolecules 2015, 16 (10), 3399-3410
【非特許文献6】Larsson, P. A.; Berglund, L. A.; Wagberg, L. Highly Ductile Fibres and Sheets by Core-Shell Structuring of the Cellulose Nanofibrils. Cellulose 2013, 21 (1), 323-333
【非特許文献7】Liimatainen, H.; Visanko, M.; Sirvio, J. A.; Hormi, O. E. O.; Niinimaki, J. Enhancement of the Nanofibrillation of Wood Cellulose through Sequential Periodate-Chlorite Oxidation. Biomacromolecules 2012, 13 (5), 1592-1597
【非特許文献8】Sirvio, J. A.; Anttila, A.-K.; Pirttila, A. M.; Liimatainen, H.; Kilpelainen, I.; Niinimaki, J.; Hormi, O. Cationic Wood Cellulose Films with High Strength and Bacterial Anti-Adhesive Properties. Cellulose 2014, 21 (5), 3573-3583
【非特許文献9】Beheshti Tabar, I.; Zhang, X.; Youngblood, J. P.; Mosier, N. S. Production of Cellulose Nanofibers Using Phenolic Enhanced Surface Oxidation. Carbohydr. Polym. 2017, 174, 120-127
【非特許文献10】Ho, T. T. T.; Abe, K.; Zimmermann, T.; Yano, H. Nanofibrillation of Pulp Fibers by Twin-Screw Extrusion. Cellulose 2014, 22 (1), 421-433
【非特許文献11】Rol, F.; Karakashov, B.; Nechyporchuk, O.; Terrien, M.; Meyer, V.; Dufresne, A.; Belgacem, M. N.; Bras, J. Pilot Scale Twin Screw Extrusion and Chemical Pretreatment as an Energy Efficient Method for the Production of Nanofibrillated Cellulose at High Solid Content. ACS Sustain. Chem. Eng. 2017
【非特許文献12】Baati, R.; Magnin, A.; Boufi, S. High Solid Content Production of Nanofibrillar Cellulose via Continuous Extrusion. ACS Sustain. Chem. Eng. 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、セルロース繊維の水性懸濁液からセルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液を製造する最適化された方法を提案することである。
本発明の別の目的は、エネルギーをほとんど消費しない一方で、高い乾燥物含量を有する品質のセルロースマイクロ/ナノフィブリルの製造を可能にする方法を提案することである。より濃縮度の高いCNF/CMFの懸濁液を製造すると、依然として応用範囲を拡張する一方で、輸送コストは制限される。実際、ある種の用途にとっては、多量の水の存在及び懸濁液の「凍結」挙動が障害となりうる。
【0011】
さらに、毒性がほとんどなく、且つ安価な製品を使用する製造方法も求められている。
本発明の他の目的、特徴、及び利点は、以下の説明及び添付の図面を検討するにつれ明らかになる。別の利点を導入可能であることが理解される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、一実施態様によれば、本発明は、セルロース繊維の水性懸濁液からセルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液を製造する方法であって、以下の工程:

・セルロース繊維の水性懸濁液の、少なくとも1つの官能化剤による化学的処理の工程であって、前記化学的処理が、セルロース繊維を高い変性率で、実際のところ1.0mmol/gよりも厳密に高い変性率で官能化するように構成されている工程、及び
・二軸押出機による、セルロース繊維の水性懸濁液の機械的処理の工程であって、前記押出機の各スクリューが、少なくとも2つのフィブリル化セグメント(混合)を含む工程、
を含む方法を提供する。
前記官能化剤は、オゾンを含み、好ましくはオゾンから構成される。
【0013】
この方法は、化学的処理と機械的処理の少なくとも2つの処理を組み合わせて、セルロースマイクロ/ナノフィブリルを製造する。
この方法の最適化は、下記:
・セルロースマイクロフィブリル間及びこうしたフィブリル間の各セルロース繊維内の、水素結合を減弱させることを目的とした化学的処理によって得られる最小変性率、及び
・各スクリューが少なくとも2つのフィブリル化セグメントを含む二軸押出機の使用
の組み合わせに基づく。
【0014】
この最適化された方法によって、高い乾燥物含量を有し(本発明の方法によって得られた懸濁液の乾燥物の濃度は、既存の工業的方法に対して10倍である)、一方では従来技術の方法よりもエネルギー消費の少ない(5~70%のエネルギー消費の低減が、本発明の方法によって有利に得られる)、優れた品質のセルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液を製造することができる。
【0015】
上述の利点を得るために、二軸押出機における官能化セルロース繊維の水性懸濁液の通過は、有利には1回であり、最大で2回でも必要かつ十分であり得る。
【0016】
この方法は、個別に又は組み合わせて採用される、本明細書中で以下に記載される特徴のいくつかに従って、さらに最適化することができる。特に、本明細書中で以下に記載の通り、これらの特徴の所定の組み合わせ、例えばこれらの特徴のうち2つの所定の組み合わせにより、これらの特徴間の相乗効果によって、これら個別の効果の並置を超える最適化が可能である。
【0017】
本発明の実施態様の詳細な検討を始める前に、関連してまたは代替的に使用できる可能性のある任意の特徴を以下に挙げる。
・化学的処理は、1.3mmol/gより高い変性率でセルロース繊維を官能化するように構成することができ;
・化学的処理は、3.0mmol/g未満の変性率でセルロース繊維を官能化するように構成することができ;
・化学的処理は、1.0mmol/gと3.0mmol/gの間、好ましくは1.3mmol/gと2.1mmol/gの間の変性率でセルロース繊維を官能化するように構成することができ;
・押出機の各スクリューは、2~6個、好ましくは3~5個のフィブリル化セグメントを備えていてよい。これらの最後2つの技術的特徴による方法は、乾燥物濃度の高い品質の、一方ではエネルギー消費のほとんどない、セルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液の製造を可能にする。より詳細には、これらの最後2つの技術的特徴が、特にこれらの好ましい実施態様において互いに組み合わされる場合には、相乗効果を奏して、これらの技術的特徴が互いとは別々に考慮された場合に達成可能となる最適化のレベルの合計を超える、最適化のレベルを達成することが可能となり;
・官能化セルロース繊維の水性懸濁液は、二軸押出機の入口における乾燥物の質量で、10~30%、好ましくは10~20%、さらに好ましくは実質的に20%に相当する濃度を有し;
・得られたセルロースマイクロ・ナノフィブリルの懸濁液は、乾燥物の質量で、10~30%、好ましくは10~20%、さらに好ましくは実質的に20%に相当する濃度を有し;
・機械的処理は、二軸押出機中の官能化セルロース繊維の水性懸濁液の最大2回の通過、好ましくは1回の通過で構成することができ;
・化学的処理の後に、また機械的処理の前の、官能化セルロース繊維の水性懸濁液を濃縮する工程又は希釈する工程から選択される工程であって、この工程は、
二軸押出機の入口で乾燥物の質量にして10~30%、好ましくは10~20%、さらに好ましくは20%に実質的に等しい濃度の官能化セルロース繊維の水性懸濁液の濃度を得るように構成される。この特徴に従った方法は、下記の両方:
- 二軸押出機を通る材料の満足な通過を、特に押出機におけるその通過中に材料の過熱をほとんど起こさず、且つ材料が詰まる危険性を回避することによって得ること;及び
- 二軸押出機の出口で、特に輸送効率の点で、また工業的後処理の可能性の点でも、満足のいく乾燥物濃度を得ること;
を可能にする。かくして、最適化された中間物が有利に達成され;
・化学的処理の後及び機械的処理の前に、セルロース繊維の水性懸濁液を洗浄する工程を実施することができ、前記洗浄の工程が、官能化されたセルロース繊維の水性懸濁液から官能化剤の残留物を除去するように構成され;
・洗浄の工程は、濃縮の工程又は希釈の工程から選択される工程に先行することができ;
・二軸押出機の各スクリューの少なくとも2つのフィブリル化セグメント、好ましくは少なくとも3つのフィブリル化セグメントは、互いに異なる剪断速度及び累積変形を生成するように構成することができ、好ましくは剪断速度は互いに2倍以上相違し;
・押出機の各スクリューは、各フィブリル化セグメントの少なくとも片側に、好ましくは各フィブリル化セグメントの両側にコンベヤセグメントを備えてよく、好ましくは、各コンベヤセグメントは正ねじ溝を有し、各フィブリル化セグメントは逆ねじ溝を有し;
・各フィブリル化セグメントは、二軸押出機内を通過する材料に、コンベヤセグメントによって引き起こされる変形よりも実質的に10倍高い変形を引き起こすように構成してよく;
・2つのスクリューの少なくとも一方の、少なくとも1つのフィブリル化セグメント、好ましくは各フィブリル化セグメントは、正ねじ溝を有する部分と逆ねじ溝を有する部分のうちの少なくとも1つ、さらには1つのみを備えてよく;
・二軸押出機の2つのスクリューは、互いに同一であり;
・機械的処理は、0~20℃の温度で実施することができ;
・機械的処理は、100~500rpmのスクリュー回転速度で実施することができ;
・機械的処理は、化学薬品の添加が全くないことが好ましく;
・オゾンは、セルロースの乾燥物の質量にして10~35%、好ましくは10~15%の濃度のセルロース繊維の水性懸濁液と混合してさえ添加してよく、変性率は1.2mmol/gより高く、好ましくは1.3mmol/gより高く;
・オゾンによる化学的処理は、鉄塩、好ましくは硫酸鉄を含む触媒の存在下で、セルロースの乾燥物の質量にして0.01~5質量%、好ましくは0.02~3質量%の濃度で実施することが可能である。従って、変性率は有利に増加し;
・化学的処理の前に、セルロース繊維の水性懸濁液は、乾燥物の質量で実質的に40%に等しい濃度を有してよく;
・さらにまた、この方法は、化学的処理の前に、セルロース繊維の水性懸濁液を酸、好ましくは硫酸と混合することを含む化学的前処理を含むことができる。前記化学的前処理は、セルロース繊維の水性懸濁液が厳密に4未満、好ましくは3.2~3.3のpHを有するように構成してよく;
・化学的処理の工程は、機械的処理の工程に先行し、反応器内で実施してよく、セルロース繊維は、機械的処理の工程の前に官能化される。
【0018】
本発明の目的及び対象ならびに特徴及び利点は、以下に添付の図面を伴って示される、本発明の実施態様の詳細な説明においていっそう明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施態様による方法のフローチャートを示す。
図2図2は、本発明による方法の好ましい実施態様に従って実施される、二軸押出機の、並置された2つのスクリューの正面図を示す。
図3図3は、図2に示される2つのスクリューのうち一方の正面図を示す。
図4図4Aから図4Cは、図3に示されるスクリューの様々なフィブリル化セグメントの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面は例として与えられたものであり、本発明を限定するものではない。これらは、本発明の理解を容易にすることを意図した概略的なブロック図を形成しており、必ずしも実用化の規模に合わせたものでない。
図1において、点線で囲まれた方法の工程は、任意に過ぎない。
【0021】
「セルロース」または「セルロース繊維」なる語は、植物組織の細胞壁の主要構成成分を成し、その支持と剛性に関与する多糖類を意味する。セルロースは、木材(これが主原料である)、綿(その繊維はほぼ純粋なセルロースである)、亜麻、麻、及びその他の植物から採取される。これはまた、いくつかの藻類及びいくつかの菌類の構成成分でもある。
【0022】
「セルロースマイクロ/ナノフィブリル」または「マイクロ/ナノセルロース」なる語は、マイクロメートルサイズの要素(繊維の断片)を含み、ナノ物体(すなわち、その寸法の少なくとも1つが1~100ナノメートルである物体)の数が少なくとも50%である不均一なナノ材料を意味する。このナノ材料は、単離されたセルロースマイクロ/ナノフィブリルの集合体の形態、あるいは、セルロース原料、セルロース、またはセルロース繊維由来のマイクロ/ナノフィブリルのビームの形態を有する。セルロースマイクロ/ナノフィブリルについては、多数の同義語:ナノフィブリル化セルロース(「セルロースナノフィブリル」の意味でNFCまたはCNF)、マイクロフィブリル化セルロース、ナノフィブリル化セルロース、ナノファイバーセルロース、マイクロフィブリル化セルロース(「セルロースマイクロフィブリル」の意味でMFCまたはCMF)、セルロースマイクロファイバーまたはセルロースマイクロフィブリルが広く用いられている。ここで、「セルロースマイクロ/ナノフィブリル」又は「マイクロ/ナノセルロース」なる語は、これら同義語のいずれか又は全てを包含する。セルロースマイクロ/ナノフィブリルは、ナノメートル単位で定義される少なくとも1つの寸法を有する。それらは一般に、数ナノメートルの直径、典型的には10~60nmの直径を有し、数マイクロメートルの長さ、典型的には500~5000nmの長さを有する。例えば、セルロースナノフィブリルは、その非常に高い剛性により、いくつかの複合材料のマトリックス中の強化材として使用されることを意図した材料を形成する。
【0023】
「変性率」なる語は、特に共有結合によって支持体上に固定化された、生物学的材料の割合、または最初の化学基に対して付加または変性された基の割合を意味する。本発明の一実施態様によれば、グラフト化材料はカルボニル(そのうちアルデヒド及び/またはケトン)を含むことができ、支持体はセルロース繊維を含むことができる。
【0024】
「二軸押出機」なる語は、シース内に平行に取り付けられた、2本の共貫通スクリュー(相互貫通、共回転であってさえもよい)を備えた押出機を意味する。押出の方法は、スクリュー/シース系内で、完成品または半製品を連続的に製造すること、または、材料を変形させることからなる。単軸押出なる語は、円筒形のシース内で回転するスクリューが1本の場合に用いられ、ツインスクリュー二軸押出なる語は、断面が8角形であるシース内で回転する、一般的に平行な2つのスクリューがある場合に用いられる。二軸押出機には、同方向回転押出機及び逆方向回転押出機という2つの大きな系列がある。本発明の場合には、二軸押出機は、スクリューの回転が同一方向である同方向回転押出機の系列に属する。本発明の場合、二軸押出機は、より詳細には、2本の相互貫通スクリューを備えている。この構造は、各スクリューに半ば独立した「C」字型チャンバーを規定し、且つ、異なるチャンバー間の材料の交換を最大限に制限する。「フィブリル化セグメント」なる語は、スクリュー/シース系内で、シース内のこのセグメント周辺を通過する材料に剪断力を与えることによって、完成品または半製品を連続的に製造するため、あるいは材料を変形させるための、混合部品で構成された二軸押出機のスクリューのセグメントを意味する。
【0025】
「コンベヤセグメント」なる語は、二軸押出機の入口から出口に向かう方向に従って、シース内の材料を通過させるコンベヤ部品で構成された、二軸押出機のスクリューのセグメントを意味する。
【0026】
「正ねじ溝を有する部分またはサブセグメント」なる語は、二軸押出機内における材料の二軸押出機の出口への搬送を有利にするように構成された二軸押出機のスクリューのフィブリル化セグメントの部分またはサブセグメントを意味する。
【0027】
「逆ねじ溝を有する部分またはサブセグメント」なる語は、二軸押出機内における材料の二軸押出機の入口への搬送を有利にするように構成された二軸押出機のスクリューのフィブリル化セグメントの部分またはサブセグメントを意味する。
【0028】
各フィブリル化セグメント、並びにフィブリル化セグメントの各部分またはサブセグメントは、これらを備えるスクリューの縦軸に沿って並置された、複数の部品、コンベヤ部品または処理部品、例えば混合ディスクを備えていてよい。特に、ディスクの角度構成は、セグメント、セグメントの部分、またはサブセグメント内を通過する材料に誘発される剪断速度を規定する。
【0029】
二軸押出機内を通過中の材料の「変形」なる語は、二軸押出機のディスクまたはセグメントの局所剪断速度に、このディスクまたはこのセグメント中における材料の滞留時間を乗じることからなる測定値を意味する。
【0030】
「未満」及び「より高い」なる語は、それぞれ「以下」及び「以上」を意味する。等価性は、「厳密に~未満」及び「よりも厳密に高い」なる語の使用によって除外される。また、「等しい、未満、より高い」なる表現は、特に比較する値の大きさの尺度及び測定の不確実性に応じて、所定の許容誤差を勘案し得る比較を意味する。実質的に等しい、未満の、またはより高い値は、本発明の解釈の範囲に含まれる。
【0031】
所与の値に対して「実質的に等しい/より高い/未満である」パラメータとは、このパラメータが、所与の値に対して、この値の20%前後、さらには10%前後の近似で、この値に等しい/より高い/未満であることを意味する。2つの所与の値の間に「実質的に含まれる」パラメータとは、このパラメータが、少なくとも所与の小さい方の値の前後20%、さらには前後10%の近似であり、最大で所与の大きい方の値の前後20%、さらには前後10%の近似であることを意味する。
【0032】
本発明は、特定の化学的処理及びこれに続く二軸押出機での機械的処理による、セルロースマイクロ/ナノフィブリルの製造方法、より詳細には工業的製造方法に関する。より詳細には、本発明による製造方法100により、セルロース繊維の水性懸濁液からセルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液の製造が可能になる。
【0033】
最も広義には、また図1を参照すると、この方法は、反応器内での、セルロース繊維の水性懸濁液の化学的処理の工程110、及び官能化セルロース繊維の水性懸濁液の機械的処理の工程120を含む。
【0034】
化学的処理110は、少なくとも1つの官能化剤によって行われ、高めの変性率で、実際のところ1.0mmol/gより厳密に高い変性率で、好ましくは1.3mmol/gより高い変性率でセルロース繊維を官能化するように構成される。官能化剤は、オゾンを含んでも、またはオゾンで構成されてもよい。さらにまた、化学的処理110は、変性率が2.0mmol/g未満、好ましくは1.9mmol/g未満であるように構成してよい。繊維の官能化が、繊維上にアルデヒド、好ましくはケトンをグラフト化させることからなる場合、アルデヒドの含有量は、規格NF T 2-004に従った銅指数法によって測定することができる。
【0035】
工業的には、官能化セルロース繊維の水性懸濁液の押出機への供給を、一方の反応器から他方に切り替えることによって、1つ以上の二軸押出機への連続的な供給が可能となるように、複数の反応器を実装してよい。
【0036】
機械的処理120は、化学的処理110による官能化セルロース繊維の水性懸濁液の、二軸押出機への導入によって行われる。より詳細には、官能化セルロース繊維の水性懸濁液は、化学的処理110が行われる反応器から抽出され、押出機の入口から上流に位置する特定のホッパーに導入される。図2及び3を参照すると、二軸押出機の各スクリュー1、2は、少なくとも2つのフィブリル化セグメント11、12、13、21、22、23を、好ましくは9個未満、さらには6個のフィブリル化セグメントを備える。機械的処理120は、さらに、例えば水冷回路を使用することにより、特定の温度条件下で実施される。より詳細には、水循環路は、押出機のシース内に作ることができる。このように、二軸押出機は、60℃未満、好ましくは0~20℃、例えば、実質的に10℃に等しい温度で維持される。さらにまた、機械的処理は、100~500rpm、例えば実質的に400rpmに等しいスクリューの回転速度で実施される。ここで、二軸押出機を使用することにより、現在の工業的方法の機械的処理と比較して5~70%、より詳細には10~60%の、セルロースナノフィブリルの製造のためのエネルギー消費を低減することが可能となる。さらにまた、二軸押出機は、輸送中の材料とシースを通して注入される少なくとも1つの試薬との混合を可能にし、また一般的にそのために使用されるが、機械的処理120では、ここで好ましくは、化学薬品の添加ないことが有利である。
【0037】
図1に示すように、本発明による製造方法は、他の任意の工程を含むことができる。
【0038】
これらの任意の工程の第1は、化学的前処理104を含む。この前処理104の工程は、前処理110の工程に先行する。前処理104の工程は、セルロースの水性懸濁液を、好ましくはpH4未満、さらには厳密に4未満、好ましくは3.2~3.3とするように構成される。このために、セルロース繊維の水性懸濁液と酸、好ましくは硫酸との混合物が含まれる。しかしながら、オゾンによる処理は、これが中性pH又は塩基性pHの懸濁液に対して実施される場合を含めて操作可能である。
【0039】
第2の任意の工程は、官能化セルロース繊維の水性懸濁液114を洗浄する工程からなる。したがって、この第2の任意の工程は、化学的処理110の工程の後に行われる。また、これは、機械的処理120の工程の前に行われる。実際のところ、機械的処理120によってナノフィブリル化が行われると、生成したセルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液の洗浄を可能にしたであろう、希釈及び濃縮の工程を連続して行うことはもはや不可能である。したがって、洗浄の工程114は、セルロースマイクロ/ナノフィブリルが生成される前、または機械的処理120の前に実施されねばならない。この洗浄の工程114は、所定の対象用途、特に医薬又は化粧品用途の目的のためには、必要であり、あるいは少なくとも推奨され得る。逆に、別の対象用途のためには、この洗浄工程114を実施しないことが好ましい場合もある。洗浄工程114は、実施される場合には、官能化セルロース繊維の水性懸濁液から、化学的処理110中に使用された官能化剤の残留物を除去するように構成されることが好ましい。これは、さらに、例えば化学的前処理104の任意の工程に起因する別の残留物を前記懸濁液から除去するように構成されてもよい。
【0040】
化学的処理110の後及び機械的処理120の前に、官能化セルロース繊維の水性懸濁液を濃縮する工程115又は希釈する工程115’から選択される任意の工程を実施してよい。この工程115、115’は、二軸押出機の入口における乾燥物の質量で、10~50%、好ましくは10~40%、さらには10~30%、さらには10~20%、さらに好ましくは実質的に20%に等しい濃度の官能化セルロース繊維の水性懸濁液を得るように構成することができる。一実施例によれば、洗浄工程114は、濃縮工程115又は希釈工程115’から選択される工程に先行してよい。
【0041】
官能化セルロース繊維の水性懸濁液は、乾燥物の質量にして10~30%、好ましくは10~20%、さらに好ましくは実質的に20%に等しい濃度を有してよい。二軸押出機の入口に導入されるのは、乾燥物の質量によって濃度が制御された、この懸濁液である。これらの制御された濃度では、二軸押出機を通る物質の、その入口から出口までの通過は、特に、通過中の物質の過熱をわずかしか起こさないという点で、また物質のブロッキングの危険性を全く持たないか、または少なくとも危険性が限定される点で、満足のいくものである。しかるに、二軸押出機の出口に、二軸押出機に導入された官能化セルロース繊維の懸濁液の濃度と同等の、特に同一の、乾燥物含量を有するセルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液が得られる。これらの濃度では、本発明による方法が、生産コスト、貯蔵コスト、輸送コスト、及び用途の点で否定し難い利点を有し、セルロースナノフィブリルの生産の工業化のための優れた代替策であるようであるとの結果が得られる。
【0042】
本発明の好ましい実施態様によれば、化学的処理110は、1.3mmol/gより高い変性率でセルロース繊維を官能化するように構成され、押出機の各スクリュー1、2は3から5のフィブリル化セグメントを含む。この好ましい実施態様による方法は、高い乾燥物含量を有する品質のセルロースナノフィブリルを、一方ではわずかなエネルギー消費で製造することを可能にする。実際のところ、本発明者らは、本発明のこの好ましい実施態様において、これら技術的特徴の組み合わせが、これらの特徴それぞれを互いと別々にとらえて加算した効果を超える効果を誘発することを観察した。したがって、本発明のこの好ましい実施態様には、先験的に予見することは不可能であったと思われる相乗効果が存在する。
【0043】
特に、セルロース繊維を官能化する別の方法が、機械的処理120の工程を約7回連続して実施する必要性をもたらすのに対し、本明細書で以上に記載されるような、化学的処理110と機械的処理120との組み合わせによれば、二軸押出機における官能化セルロース繊維の水性懸濁液のまさに最初の通過時から、高品質のセルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液を得ることが可能である。しかしながら、こうした通過の数回の実施を、依然として検討してよい。特に、2回目の通過は排除されない。明らかに、二軸押出機における通過回数の低減はエネルギーの節約に貢献し、こうした観点から2回の通過よりも1回の通過が好ましい。
【0044】
図2は、実験用二軸押出機の2本のスクリューが互いに貫通している状態を示している。図示の2本のスクリューは互いに同一である。
【0045】
図2及び図3に示すように、フィブリル化セグメント11、12、13、21、22、23は、好ましくは互いに異なる。より詳細には、これらは、互いに異なる剪断速度及び累積変形を有する。例えば、剪断速度は、互いに2倍以上相違してよい。あるいはまた、フィブリル化セグメントは互いに同一であってもよい。
【0046】
さらに、各フィブリル化セグメントは、フィブリル化セグメントに押出機内を通過する材料を保持するように、二軸押出機の上流から下流に向かって互いに対して相対的に配置された、正ねじ溝を有するサブセグメント及び次いで逆ねじ溝を有するサブセグメントを備えていてよい。しかるに、各フィブリル化セグメントにおける材料の通過時間は、前記セグメントの出口における官能化セルロース繊維のより十分なナノフィブリル化のために、有利に増加する。
【0047】
図2及び図3に示されるような各スクリューの構成は、3つのフィブリル化セグメントが互いに異なることを示す。より詳細に、図4Aから図4Cを参照すれば、以下の通りである。
・第1フィブリル化セグメント11、21は、互いに同一の10枚のディスクを含み、2つの隣接するディスクが実質的に30°に等しい角度オフセットを有するように連続して共に配置された第1サブセグメント111、211を備えていてよい。この第1サブセグメント111、211は、3枚の追加のディスクを含み、やはり2枚ごと(two by two)に実質的に30°に等しい角度オフセットを有するように、しかし第1サブセグメント111、211によって生成される正ねじ溝に対して逆ねじ溝を生成するように配置された第2サブセグメント112、212で補完されていてよく;
・第2フィブリル化セグメント12、22は、合計15枚のディスクを含む2つのサブセグメントを含んでいてよい。第1サブセグメント121、221は、2枚ごとに実質的に30°に等しい角度オフセットで正ねじ溝に配置された7枚の第1ディスクと、2枚ごとに実質的に60°に等しい角度オフセットを有する正ねじ溝に配置された4枚の中間ディスクとを含む。第2サブセグメント122、222は、2枚ごとに実質的に60°に等しい角度オフセットで逆ねじ溝として配置された4枚の最後のディスクを含み;
・第3フィブリル化セグメント13、23は、合計20枚のディスクを含む2つのサブセグメントを含んでよい。第1サブセグメント131、231は、2枚ごとに実質的に60°に等しい角度オフセットで正ねじ溝に配置された4枚の第1ディスクと、2枚ごとに実質的に90°に等しい角度オフセットで正ねじ溝に配置された12枚の中間ディスクとを含む。第2サブセグメント132、232は、2枚ごとに実質的に60°に等しい角度オフセットで逆ねじ溝に配置された4枚の最後のディスクを含む。
【0048】
今日、スクリューのこうした構成は、円錐スクリューの使用とは互換性がないようであることに留意されたい。
【0049】
図2及び図3に示される通り、各フィブリル化セグメントは、両側にコンベヤセグメント14、15、16、17、24、25、26、27を備えている。コンベヤセグメントは、二軸押出機内を通過する材料を、押出機の入口から第1のフィブリル化セグメントへ、第1のフィブリル化セグメントから第2のフィブリル化セグメントへ、第2のフィブリル化セグメントから第3のフィブリル化セグメントへ、第3のフィブリル化セグメントから二軸押出機の出口へ、それぞれ搬送するように構成される。各コンベヤセグメントは、例えば、エンドレススクリューの形態で構成することができる。さらにまた、各コンベヤセグメントは、二軸的押出機内を通過中の材料に、フィブリル化セグメントによって引き起こされる変形よりも実質的に10倍小さい変形を誘発するように構成することができる。
【0050】
化学的処理110の工程は、以下により詳細に説明される。これにより、水性懸濁液のセルロース繊維の官能化が、上述の変性率で可能になる。
【0051】
これは、官能化剤として、酸化剤、特にオゾンを、適用可能な場合には鉄塩、好ましくは硫酸鉄を含む触媒の存在下で使用することからなる。これは、オゾン化反応である。その後、セルロース繊維は、カルボニルのグラフト化によって官能化される。触媒、特に鉄塩の使用によって、化学的処理110の間にセルロース繊維の変性率を高めることが可能になり、よって、機械的処理120の後続工程の間に消費されるエネルギーをさらに低減し、本発明の方法によって得られるセルロースマイクロ/ナノフィブリルの懸濁液の品質を向上させることが可能になる。より詳細には、オゾンは、セルロースの乾燥物の質量の10~35%、好ましくは10~15%のオゾン濃度でセルロースの水性懸濁液と混合され、適用可能な場合には、鉄塩が、セルロースの乾燥物の質量の0.01~5%、好ましくは0.02~3%の濃度で存在する。典型的には、セルロース繊維の水性懸濁液は、化学的処理110の前に、乾燥物40%に実質的に等しい濃度を有する。このように、化学的処理110は、水の消費を制限することを可能にする、高い乾燥物濃度を有する懸濁液に対して実施される。さらに、オゾンはほぼ無毒且つ安価な製品であり、その使用によれば有害な化学廃棄物を低減することができ、オゾン化は工業的に利用可能なプロセスである。特に、オゾンは、オゾン発生器で生成され、その後、化学的処理110が行われる反応器に、パイプによって、(酸素との混合物として)注入してよい。化学的処理110に必要な時間は、反応器に注入されるオゾンの流量によって支配される。
【0052】
現在実施されている工業的方法が乾燥物2%の濃度の懸濁液から実施されるという事実により、本発明による化学的処理110が乾燥物5%または50%、さらには40%の濃度の懸濁液から実施されるということは、それ自体が生産性の向上を表す。
【0053】
本発明による方法の一実施態様を、以下に説明する。
【0054】
この例によれば、乾燥物40質量%のセルロース繊維の水性懸濁液は、繊維乾燥物の質量に対して10~25%、好ましくは11~18%の濃度のオゾンと、繊維乾燥物の質量に対して0.01~5%、好ましくは0.01~2%の濃度の触媒FeSO4と混合される。化学的処理110は、1.0mmol/gより高い、好ましくは1.3mmol/gより高い変性率を得るように構成される。化学的処理110に続いて、セルロース繊維の水性懸濁液は、洗浄され114、次いで、その濃度が、乾燥物の質量で10~30%、好ましくは15~20%となるように希釈される。かくして得られたセルロース繊維の水性懸濁液を、逆ねじ溝を有するサブセグメントを備えた3~5のフィブリル化セグメントを含む二軸押出機中に、0~20℃の温度及び100~500rpmのスクリュー回転速度に維持することによって、挿入する。その後、従来の酵素処理に対する消費エネルギーの低減は、実質的に20%に等しい。
【0055】
本発明は、本明細書中に上述された実施態様に限定されず、特許請求の範囲に包含される全ての実施態様に及ぶ。
【0056】
本明細書中に上述された二軸押出機は、工業用押出機ではなく、むしろ、本発明による方法の実現可能性を証明し、それによって達成しうることを示すために開発された実験室用押出機である。特に、工業用押出機は、特にフィブリル化セグメントを形成するために一緒に組み立てられるサブセグメントを含まずともよく、むしろ、例えば互いに取り外し不可能な交互のコンベヤセグメントとフィブリル化セグメントを含み、前記コンベヤセグメントが正ねじ溝を有し、フィブリル化セグメントが逆ねじ溝を有する。代替的または追加的に、正ねじ溝を有するコンベヤセグメントは、各フィブリル化セグメントの両側に配置することができる。本発明による方法の実施に使用することができる工業用押出機は、例えば、Clextral社により品番BC-21として開発され販売されているものである。
【0057】
さらにまた、前記化学的処理及び機械的処理は、本明細書中に連続的であると上述されている。これは、そうでない場合もある。代替的又は追加的に、セルロース繊維の水性懸濁液それ自体が押出機内を通過している間に、オゾンを直接押出機に注入することが検討される。その際、化学的処理と機械的処理とは、少なくとも部分的には同時進行で行われる。
【0058】
化学的処理の前及び/または化学的処理中のセルロース繊維の水性懸濁液、さらには官能化セルロース繊維の水性懸濁液は、乾燥物の質量で10%より高い、さらに20%より高い、さらに30%より高い濃度を有し得る。さらにまたは代替的に、この濃度は、乾燥物の質量で50%未満、さらには40%未満としてよい。乾燥物の質量で制御された濃度のセルロース繊維の懸濁液を、二軸押出機の入口に導入することができる。
【0059】
セルロース繊維、特に官能化されたセルロース繊維の水性懸濁液は、二軸押出機の入口において、乾燥物の質量で10%より高い、さらに20%より高い、さらに30%より高い濃度を有することができる。さらにまたは代替的に、この濃度は、乾燥物の質量で50%未満、さらには40%未満とすることができる。セルロース繊維、特に官能化されたセルロース繊維の水性懸濁液は、二軸押出機の入口において、乾燥物の質量で10~50%、好ましくは20~40%、さらに好ましくは30~40%の濃度を有することができる。この濃度が高いほど、水分含量が制限され、また、二軸押出機の出口における乾燥物濃度が、特に輸送効率の点で、のみならず工業的後処理の可能性の点でも、より満足のいくものとなる。懸濁液の濃度が20%より高いと、二軸押出機での機械的処理が容易になる。この濃度の最大値によれば、押出機内を輸送中に材料の過熱及び材料がブロッキングしうる危険性を制限することが可能である。最大値が低いほど、この材料の過熱及びこのブロッキングしうる危険性が、より制限されるす。
【0060】
二軸押出機、より詳細にはシースは、60℃未満、好ましくは10~30℃、さらには10~20℃、例えば実質的に20℃に等しい温度で維持してよい。機械的処理は、好ましくは100~1200rpmのスクリュー回転速度で実施することができる。
【0061】
機械的処理後に得られる懸濁液は、乾燥物の質量で10~50%、好ましくは10~40%、さらには20~40%の濃度を有してよい。
【0062】
さらにまた、本方法は、化学的処理110と機械的処理120との間に乾燥の工程を含まずともよい。より詳細には、本方法はさらに、官能化セルロース繊維の水性懸濁液の水中の割合を、懸濁液の総質量に対して30質量%未満、さらには20質量%未満となるように低減する、乾燥工程を含まないものであってよい。同等に、本方法は、化学的処理110から機械処理120まで、官能化セルロース繊維の水性懸濁液の水中の割合を、懸濁液の総質量に対して20%より高く、さらに30%より高く維持する、乾燥工程を含むことが可能である。
【0063】
化学的処理110の前に、本方法からは、カルボキシメチル化によるセルロース繊維の前処理を免除することができる。かくして、追加の前処理によって引き起こされ得るセルロース繊維の劣化を依然として制限しつつ、本方法は、簡便化される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
【国際調査報告】