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特表2022-531542可動結紮ドアを有する歯列矯正ブラケット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-07
(54)【発明の名称】可動結紮ドアを有する歯列矯正ブラケット
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/28 20060101AFI20220630BHJP
   A61C 7/14 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A61C7/28
A61C7/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557675
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(85)【翻訳文提出日】2021-10-29
(86)【国際出願番号】 US2020058667
(87)【国際公開番号】W WO2021162760
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】16/787,972
(32)【優先日】2020-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591054048
【氏名又は名称】ティーピー・オーソドンティクス・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】TP ORTHODONTICS INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】ケースリング,アンドリュー・シー
(72)【発明者】
【氏名】ゴンサレス,リカルド
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052JJ04
(57)【要約】
自己結紮式の歯列矯正ブラケットが歯の歯冠の取り付けられるように適合される結合ベースを有する。ボディ部材がベースの前側表面に取り付けられ、前面から前方に延在する。ベースがボディの前面を基準としてトルク角を画定する。歯肉側突出部および咬合側突出部がボディ部材から前方に延在する。これらの突出部がアーチワイヤスロット表面を有し、アーチワイヤスロット表面が、ボディ部材の前面の一部分と共に、アーチワイヤスロットを画定する。突出部内に画定される第1および第2のチャンネルが同一平面上にあり、トルク角に実質的に等しい、ボディ部材の前面を基準とした一定の角度のところに配置される。ドアが第1および第2のチャンネルの一方の中に配置される。ドアが開位置と閉位置との間で移動可能であり、それによりアーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを選択的に可能にしたりまたは防止したりする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己結紮式の歯列矯正ブラケットであって、前記自己結紮式の歯列矯正ブラケットが:
前側表面、および歯の歯冠に取り付けられるように適合される裏側表面、を有する結合ベースと;
前記結合ベースの前記前側表面に取り付けられてそこから前記ボディ部材の前面まで前方に延在するボディ部材であって、前記ボディ部材の前記前面が基準面を画定し、前記結合ベースが前記基準面を基準としたトルク角を画定する、ボディ部材と;
前記ボディ部材を通って近心遠心方向に延在する整直トンネルと;
前記ボディ部材の前記前面から前方に延在する歯肉側突出部および咬合側突出部であって、前記歯肉側突出部がその一方の側にアーチワイヤスロット表面を有し、前記咬合側突出部がその一方の側にアーチワイヤスロット表面を有し、前記アーチワイヤスロット表面が対向する関係で互いから離間され、その結果、前記アーチワイヤスロット表面が、前記突出部の前記アーチワイヤスロット表面の中間にある前記ボディ部材の前記前面の部分と共に、アーチワイヤスロットを画定する、歯肉側突出部および咬合側突出部と;
前記咬合側突出部内に画定される第1のチャンネルおよび前記歯肉側突出部内に画定される第2のチャンネルであって、前記チャンネルが同じ平面内で互いに位置合わせされ、前記平面が、前記トルク角に実質的に等しい、前記基準面に対しての一定の角度のところに配置される、第1のチャンネルおよび第2のチャンネルと;
前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルの少なくとも一方の中に配置されるドアであって、前記ドアが開位置と閉位置との間で移動可能であり、その結果、前記ドアが前記開位置にあるとき、前記ドアが前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルのもう一方から離間され、前記アーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを可能にし、前記ドアが前記閉位置にあるとき、前記ドアが前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルの両方の中に位置し、前記アーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを防止する、ドアと
を備える自己結紮式の歯列矯正ブラケット。
【請求項2】
各アーチワイヤスロット表面が、水平方向の整直停止部、および前記整直停止部に対して一定の角度のところに配置される傾斜停止部を備える、請求項1に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項3】
前記歯肉側突出部および前記咬合側突出部上の前記整直停止部が互いに平行であり、互いに対向し、前記歯肉側突出部および前記咬合側吐出部上の前記傾斜停止部が概して互いに平行であり、互いに対向する、請求項2に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項4】
前記歯肉側の整直停止部および前記咬合側の整直停止部が最小のスロット高さHminだけ分離され、前記歯肉側のアーチワイヤスロット表面および前記咬合側アーチワイヤスロット表面がそれぞれ歯肉側の根元および咬合側の根元のところで前記ボディ部材の前記前面と交差し、前記歯肉側の根元から閉じた前記ドアの舌側表面までの距離が距離D1を画定し、前記咬合側の根元から閉じた前記ドアの前記舌側表面までの距離が距離D2を画定し、D1およびD2の小さい方がHminより大きい、請求項3に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項5】
前記歯肉側のアーチワイヤスロット表面および前記咬合側のアーチワイヤスロット表面が最小のスロット高さHminだけ分離され、前記歯肉側のアーチワイヤスロット表面および前記咬合側のアーチワイヤスロット表面がそれぞれ歯肉側の根元および咬合側の根元のところで前記ボディ部材の前記前面と交差し、前記歯肉側の根元から閉じた前記ドアの前記舌側表面までの距離が距離D1を画定し、前記咬合側の根元から閉じた前記ドアの前記舌側表面までの距離が距離D2を画定し、D1およびD2の小さい方がHminより大きい、請求項1に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項6】
前記第1および前記第2のチャンネルのうちのもう一方が前記チャンネルの前記突出部内に形成されるベッドおよび一対のアングル部材によって画定され、前記一対のアンブル部材の各々が側壁およびタブを有し、各側壁が前記ベッドに取り付けられ、そこから前方に延在し、各タブが前記ベッドから離間される位置で前記側壁のうちの一方に取り付けられ、そこから近心遠心方向に延在し、前記ドアが前記タブの下で捕捉される、請求項1に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項7】
各タブの一方の端部が傾斜表面を有し、前記タブの前記傾斜表面が、前記ドアの縁部の方に延在するV形のノッチを画定するように互いの方を向く、請求項6に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項8】
自己結紮式の歯列矯正ブラケットであって、前記自己結紮式の歯列矯正ブラケットが:
前側表面、および歯の歯冠に取り付けられるように適合される裏側表面、を有する結合ベースと;
前記結合ベースの前記前側表面に取り付けられてそこから前記ボディ部材の前面まで前方に延在するボディ部材と;
前記ボディ部材の前記前面から前方に延在する歯肉側突出部および咬合側突出部であって、前記歯肉側突出部がその一方の側にアーチワイヤスロット表面を有し、前記咬合側突出部がその一方の側にアーチワイヤスロット表面を有し、前記アーチワイヤスロット表面が対向する関係で互いから離間され、その結果、前記アーチワイヤスロット表面が、前記突出部の前記アーチワイヤスロット表面の中間にある前記ボディ部材の前記前面の部分と共に、アーチワイヤスロットを画定する、歯肉側突出部および咬合側突出部と;
前記咬合側突出部内に画定される第1のチャンネルおよび前記歯肉側突出部内に画定される第2のチャンネルであって、前記チャンネルが同じ平面内で互いに位置合わせされる、第1のチャンネルおよび第2のチャンネルと;
前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルの少なくとも一方の中に配置されるドアであって、前記ドアが開位置と閉位置との間で移動可能であり、その結果、前記ドアが前記開位置にあるとき、前記ドアが前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルのもう一方から離間され、前記アーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを可能にし、前記ドアが前記閉位置にあるとき、前記ドアが前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルの両方の中に位置し、前記アーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを防止する、ドアと
を備え、
前記第1および前記第2のチャンネルのうちのもう一方が前記チャンネルの前記突出部内に形成されるベッドおよび一対の離間されるアングル部材によって画定され、前記一対のアンブル部材の各々が側壁およびタブを有し、各側壁が前記ベッドに取り付けられ、そこから前方に延在し、各タブが前記ベッドから離間される位置で前記側壁のうちの一方に取り付けられ、そこから近心遠心方向に延在し、前記ドアが前記タブの下で捕捉され、各タブの一方の端部が傾斜表面を有し、前記タブの前記傾斜表面が、前記ドアの縁部の方に延在するV形のノッチを画定するように互いの方を向く
自己結紮式の歯列矯正ブラケット。
【請求項9】
前記ドアの舌側に形成される戻り止めと、前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルのうちの少なくとも一方に形成されるソケットと、をさらに備え、前記ソケットが、前記ドアの開位置時に前記戻り止めに解除可能に係合可能であり、それにより前記第1および第2のチャンネルの前記少なくとも一方の中で前記ドアの一部分を保持する、請求項8に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項10】
前記戻り止めが前記アーチワイヤスロットの方向に移動するために前記ソケットに解除可能に係合可能であるが、前記戻り止めが前記ブラケットから離れる方向において前記ソケットから解放されることが防止される、請求項9に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項11】
前記第1および前記第2のチャンネルのうちのもう一方の前記突出部内に形成される窪みをさらに備え、前記戻り止めが、前記ドアが閉じられているときに前記窪みに解除可能に係合可能であり、それにより前記第1および前記第2のチャンネルのうちの前記もう一方の中で前記ドアの一部分を保持する、請求項9に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項12】
前記第1および前記第2のチャンネルのうちの前記もう一方の前記突出部の中に停止面をさらに備え、前記停止面が、前記ブラケットから離れる方向において前記戻り止めが前記窪みから外れて移動するのを防止するために、前記ドアに係合される、請求項11に記載の歯列矯正ブラケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、その開示の全体が本明細書に組み込まれている、2020年2月11日に出願した米国特許出願第16/787,972号の利益および優先権を主張するものである。
【0002】
[0002]本開示は、概して、アーチワイヤを歯に接続するための歯列矯正装置を対象とし、より詳細には、ブラケット内にアーチワイヤを挿入したりまたはブラケット内のアーチワイヤを取り外したりするための前側が開いているアーチワイヤスロットを有する歯列矯正ブラケットを対象とする。アーチワイヤスロットに対しての開口部が可動ドアによって開けられたり閉じられたりされ得る。
【背景技術】
【0003】
[0003]本開示の歯列矯正ブラケットの構造を説明するために、本明細書では、歯科の方向を示す用語の以下の定義を使用する。
[0004]近心側-歯列弓の前側に沿い、歯列弓の前側の方を向く
[0005]遠心側-歯列弓の裏側に沿い、歯列弓の裏側の方を向く
[0006]頬側/唇側-歯列弓に対して垂直であり、頬または唇の方を向く(簡潔さのため、前側方向または前方方向としても称される)
[0007]舌側-歯列弓に対して垂直であり、舌の方を向く(簡潔さのため、裏側方向または後ろ方向とも称される)
[0008]傾斜-近心遠心方向におけるブラケットまたは歯の傾き
[0009]トルク-唇側舌側方向におけるブラケットまたは歯の傾き
[0010]咬合側/切歯側-歯の咬合面の方を向く
[0011]歯肉側-歯茎の方を向く(簡潔さのため、歯肉-咬合/切歯方向が垂直方向と称される可能性がある)
[0012]下顎側-下顎の方を向く
[0013]上顎側-上顎の方を向く
[0014]整直-近心遠心方向における歯の歯根の傾き
[0015]例えば、参照によりその開示が本明細書に組み込まれている米国特許第6,682,345号のように、近心遠心方向に延在する二重トンネルまたは二重アーチワイヤスロットを有する歯列矯正ブラケットを提供することが知られている。このような既知のブラケットは唇側-頬側で開いているアーチワイヤスロットを有することができ、このアーチワイヤスロットが、アーチワイヤとの協働時にアーチワイヤとブラケットとの間に加えられる選択的な力が存在する場合に、歯冠傾斜移動を可能にする。後方トンネルまたは整直トンネル内のアーチワイヤが、外側アーチワイヤスロットまたは前方アーチワイヤスロット内の長方形アーチワイヤ(または、円形を含めた任意の他のプロフィール形状のアーチワイヤ)と協働するとき、トルク付与および近心遠心方向の軸の制御の両方を可能にすることができる。米国特許第4,842,512号を参照されたい。このブラケットの問題は、唇側-頬側で開いているアーチワイヤスロット内でアーチワイヤを保持するための結紮糸を必要とすることである。結紮糸は、アーチワイヤを定位置で保持するためにブラケット上のタイウイングに巻き付く小さい可撓性バンドである。結紮糸が、エラストマ材料、プラスチック、または金属のワイヤまたはバンドで作られ得る。
【0004】
[0016]結紮糸を使用することにより生じる問題は、ブラケットのアーチワイヤスロット内でアーチワイヤを保持することにおいて結紮糸に依存する必要性を排除する自己結紮式の歯列矯正ブラケットによって対処されている。自己結紮式のブラケットは、結紮糸がエラストマであるかまたはワイヤの形態であるかのいずれの場合でも、結紮糸の不具合時に直面するようないかなる問題も排除することを意図される。さらに、自己結紮式のブラケットは、結紮糸によって誘発される望ましくない抗力を低減する。自己結紮式のブラケットは、通常、アーチワイヤをそのスロット内に閉じ込める可動構成要素を有する。例えば、結紮用ラッチばね部材(ligating latch spring member)を有する自己結紮式のブラケットが米国特許第5,711,666号に開示されている。
【0005】
[0017]他の自己結紮式のブラケットが、そこを強制的に通過させる形でアーチワイヤをアーチワイヤスロットの中に入れるのを可能にするために湾曲するかまたは曲がる可撓性部材を使用するが、これらの可撓性部材は、通常使用時にアーチワイヤを解放するのを防止するのに十分なスティフネスを有することを意図される。ブラケットに組み込まれる曲がる結紮糸を有するこれらのブラケットの例として米国特許第6,582,226号および米国特許第6,663,385号がある。
【0006】
[0018]別の自己結紮式のブラケットが米国特許第9,339,353号に示されている。このブラケットは、ブラケットのアーチワイヤスロット内に配置されるアーチワイヤに係合されることを意図される一対の弾性アーム部材を有する可動ロックシャッターを有する。ロックシャッターが、アーチワイヤスロットのベースまたは根元に向かう方向の能動的な力(active force)をアーチワイヤに加える。これは本開示のブラケットとは対照的であり、可動ドアがアーチワイヤとの相互作用において受動的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0019]一態様では、本開示が、外側アーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを可能にしたりまたは防止したりするための可動ドアを有する自己結紮式の歯列矯正ブラケットに関連する。本開示のブラケットが、前側表面および裏側表面を備える結合ベースを有する。結合ベースの裏側表面が、歯の歯冠(前側または外側を向く表面)ボディに取り付けられるように適合される。ボディ部材がベースの前側表面に取り付けられ、ベースからボディ部材の前面まで前方に延在する。ボディ部材の前面が基準面を画定する。結合ベースおよび基準面がそれらの間にトルク角を画定する。しかし、トルク角はアーチワイヤスロット自体の底部に組み込まれてもよい。垂直方向において離間される歯肉側突出部および咬合側突出部がボディ部材の前面から延在する。アーチワイヤスロット表面が突出部上に形成され、一方の突出部がその下側にアーチワイヤスロット表面を有し、もう一方の突出部がその上側にアーチワイヤスロット表面を有し、その結果、アーチワイヤスロット表面が少なくとも部分的に対向する関係となる。アーチワイヤスロット表面が、突出部のアーチワイヤスロット表面の中間にあるボディ部材の前面の部分と共に、アーチワイヤスロットを画定する。
【0008】
[0020]第1のチャンネルが咬合側突出部内に画定され、第2のチャンネルが歯肉側突出部内に画定される。チャンネルが同じ平面内で互いに位置合わせされる。第1および第2のチャンネルのこの平面が、トルク角に実質的に等しい、基準面に対しての一定の角度のところに配置される。ドアが第1および第2のチャンネルのうちの一方のチャンネル内に配置される。ドアが、開位置と閉位置との間で摺動するなどの形で、可動である。ドアが開位置にあるとき、ドアが第1および第2のチャンネルのうちのもう一方のチャンネルから離間され、それにより、アーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを可能にする。ドアが閉位置にあるとき、ドアが第1および第2のチャンネルの両方に中に位置し、アーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを防止する。
【0009】
[0021]アーチワイヤスロット表面が垂直方向において分離しており、ここでは、アーチワイヤスロット表面の平面が垂直方向において最も接近する形で離間されてアーチワイヤスロットの高さHminを画定する。一実施形態では、各アーチワイヤスロット表面が、水平方向の整直停止部(uprighting stop)と、整直停止部に対して一定の角度のところに配置される傾斜停止部とを備える。歯肉側突出部および咬合側突出部上の整直停止部が互いに対角線上で反対側に配置され、歯肉側突出部および咬合側突出部上の傾斜停止部が互いに対角線上で反対側に配置される。この実施形態の最小スロット高さHminが、歯肉側の整直停止部の平面と咬合側の整直停止部の平面との間にある。つまり、整直停止部の間のスロット高さが傾斜停止部の平面の間のスロット高さより小さい。さらに、歯肉側および咬合側のアーチワイヤスロット表面が根元のところでボディ部材の前面と交差する。咬合側の根元から閉じたドアの舌側表面までの距離が距離D1を画定し、歯肉側の根元から閉じたドアの舌側表面までの距離が距離D2を画定する。D1およびD2のより小さい方がHminより大きい。この構成では、一般的にいうと、アーチワイヤスロットの深さが高さより大きい。これにより、長方形アーチワイヤをアーチワイヤスロット内で角度をつけてつまり斜めにして受けることが可能となり、つまりアーチワイヤの縁部がアーチワイヤスロットの壁に平行にならず、それに対して垂直にもならない。しかし、長方形アーチワイヤが斜めの関係であっても、アーチワイヤスロットが、アーチワイヤの突出する角部を閉じているドアに干渉させないようにするのに十分な深さを有する。
【0010】
[0022]本開示の歯列矯正ブラケットはさらに、第1および第2のチャンネルのうちのもう一方が上記チャンネルの突出部内に形成されるベッドおよび一対のアングル部材によって画定される、ことを特徴とする。各アングル部材が側壁およびタブを有する。側壁がベッドに取り付けられ、そこから唇側に延在する。タブがベッドから離間される位置で側壁に取り付けられ、そこから近心遠心方向に延在し、それによりタブの下でドアを捕捉する。タブの一方の端部が傾斜表面を有する。タブの2つの傾斜表面がV形のノッチを画定するように互いの方を向き、このV形のノッチがドア操作ツールをドアの縁部の方に通過させる。これによりドアを閉位置から開位置まで移動させることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】[0023]閉位置にある可動ドアを有する、上顎右犬歯のための本開示の歯列矯正ブラケットを示す斜視図である。
図2】[0024]図1のブラケットを示す正面図である。
図3】[0025]図1のブラケットを示す右側端面図である。
図4】[0026]図1のブラケットを示す背面図である。
図5】[0027]図1のブラケットを示す左側端面図である。
図6】[0028]図1のブラケットを示す上面図である。
図7】[0029]図1のブラケットを示す底面図である。
図8】[0030]図2の線8-8に沿う断面図である。
図9】[0031]図2の線9-9に沿う断面図である。
図10】[0032]図3の線10-10に沿う断面図である。
図11】[0033]可動ドアを示す斜視図である。
図12】[0034]可動ドアを示す正面図である。
図13】[0035]図12の線13-13に沿う断面図である。
図14】[0036]図12の線14-14に沿う断面図である。
図15】[0037]通常はステージIIIの治療の終了時である、アーチワイヤスロット内にある長方形アーチワイヤを示している、結合ベースおよびボディ部材の一部を省略した、図1のブラケットの一部分を示す部分断面の左側端面図である。
図16】[0038]アーチワイヤスロット内にある円形アーチワイヤを有する、ステージIの治療の開始時の上顎右犬歯のためのブラケットを示す概略正面図である。
図17】[0039]ステージIIの治療の終了時の、傾斜しているときのブラケットを示す、図16と同様の図である。
図18】[0040]ステージIIIの治療の開始時の、アーチワイヤスロット内にある長方形アーチワイヤおよび整直トンネル内にある円形アーチワイヤを嵌め込んだ状態のブラケットを示す、図16と同様の図である。
図19】[0041]ステージIIIの治療終了時の整直したブラケットを有する、図18と同様の図である。
図20】[0042]ステージIIIの治療の開始時の前方アーチワイヤスロット内にある長方形アーチワイヤの初期の係合状態を示している、整直トンネル内にある円形補助アーチワイヤを嵌め込んだ状態の図1のブラケットの左側端面図である。
図21】[0043]ステージIIIの治療の中間の、前方アーチワイヤスロット内にある長方形アーチワイヤの係合状態を示している、図20と同様の左側端面図である。
図22】[0044]歯の整直およびトルク付与が完全に実現された状態の、ステージIIIの治療の終了時の、アーチワイヤスロット内にある長方形アーチワイヤの係合状態を示している、図20と同様の左側端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[0045]本開示は、アーチワイヤを歯に接続するための歯列矯正ブラケットを対象とする。ブラケット10の第1の実施形態が図1~10に全体的に示される。ブラケット10が、前側表面14および裏側表面16を有する結合ベース12を有する。結合ベース12がある程度プレート状の部材であるが、歯の歯冠に結合されるように適合されており、したがって通常は平坦ではない。代わりに、前側表面14がわずかに凸形であり、使用時に歯に結合されるように適合される対応する凹形の裏側表面16を有する。この結合ベースは、一体パッドを有さない溶接可能ブラケットでも使用され得る。
【0013】
[0046]ブラケット10が、18のところに全体的に示されるボディ部材をさらに有する。ボディ部材18が結合ベース12の前側表面14に取り付けられ、そこから前面20まで前方に延在する。ボディ部材が、ボディ部材を通って延在する円周方向に閉じている水平方向および垂直方向の通路またはルーメンを有する。これらの通路またはルーメンには、水平方向の整直トンネル22および概して垂直方向の補助スロット24が含まれる。図3および5で最良に見ることができるように、整直トンネル22が、ボディ部材18により3つの側で画定され、結合ベース12の前側表面14により4つの側で画定される。同様に、図6~10で最良に見ることができるように、補助スロット24が、ボディ部材18により3つの側で画定され、結合ベース12の前側表面14により4つの側で画定される。
【0014】
[0047]ボディ部材18の前面20が図3のAのところに示される基準面を画定する。基準面Aを結合ベース12の裏側表面16上の位置まで動かすことにより、基準面Aに平行である平面Bが得られる。平面Cが結合ベース12の縁部に概して平行なものとして示される。平面Bと結合ベースの平面Cとの間の角度がトルク角Tを画定する。本実施形態では、トルク角が12°であるが、特定の所望の治療のために必要に応じて異なる大きさであってもよい。
【0015】
[0048]歯列矯正ブラケット10が、互いに垂直方向に離間される関係でボディ部材18に取り付けられる歯肉側突出部26および咬合側突出部28をさらに有する。突出部26、28がボディ部材18の前面20から前方に延在する。歯肉側突出部26が、その一方の側に形成されるアーチワイヤスロット表面30を有する。咬合側突出部28が、その一方の側に形成される同様のアーチワイヤスロット表面32を有する。アーチワイヤスロット表面が互いに対向する関係であり、その結果、アーチワイヤスロット表面30、32が、突出部26、28のアーチワイヤスロット表面30、32の中間にあるボディ部材18の前面20の部分と共に、アーチワイヤスロット34を画定する。
【0016】
[0049]各アーチワイヤスロット表面30、32が2つのセグメントを有し、つまり、支点のところで交差する水平方向の整直停止部および傾いている傾斜停止部を有する。したがって、図2で最良に見ることができるように、歯肉側スロット表面30が水平方向の整直停止部30Aおよび傾いている傾斜停止部30Bを有する。停止部30A、30Bが支点30Cのところで互いに交差する(図5)。同様に、咬合側スロット表面32が、支点32Cのところで交差する水平方向の整直停止部32Aおよび傾いている傾斜停止部32Bを有する(図3)。図3で最良に見ることができるように、歯肉側の整直停止部30が、根元30Rのところでボディ部材18の前面20と交差する。咬合側の整直停止部32Aが根元32Rのところでボディ部材18の前面20と交差する。
【0017】
[0050]整直停止部30Aおよび32Aが互いに平行であり、水平状態で互いに対向することが分かるであろう。傾斜停止部30Bおよび32Bが同様に互いに全体的に平行であり、互いに対向する。図2で見ることができるように、整直停止部30Aおよび32Aによって画定される平面が距離Hminだけ分離される。傾斜停止部30Bおよび32Bによって画定される平面が距離Hmaxだけ分離される。典型的なブラケットでは、Hminが0.056cm(0.022インチ)に等しくてよく、対してHmaxが0.071cm(0.028インチ)に等しくてよい。必要とされるアーチワイヤのサイズに応じて他の寸法が使用されてもよい。
【0018】
[0051]図8および10で最良に見ることができるように、咬合側突出部28が中に形成される第1のチャンネル36を有する。第1のチャンネルがベッドによって画定され、一対のアングル部材がこのベッドに取り付けられ、この一対のアングル部材の各々が側壁およびタブを有する。この実施形態では、ベッドが第1のショルダ38および第2のショルダ40によって形成される。第1のアングル部材が、第1のショルダ38に取り付けられてそこから前方に延在する第1の側壁42を有する。第1のタブ44が、第1のショルダ38から離間される位置で第1の側壁42に取り付けられる。第1のタブ44が第1の側壁42から近心遠心方向に延在する。第2のアングル部材が、第2のショルダ40に取り付けられてそこから前方に延在する第2の側壁46を有する。第2のタブ48が、第2のショルダ40から離間される位置で第2の側壁46に取り付けられる。第2のタブ48が、第2の側壁46から近心遠心方向に延在する。第1のタブ44および第2のタブ48が互いの方に延在するが、この実施形態では、第1のタブ44および第2のタブ48が互いに接触しないことに留意されたい。この構成はタブ44とタブ48との間に隙間を残す。第1のチャンネル36が、ショルダ38、40と、側壁42、46と、タブ44、48との間の空間として画定される。
【0019】
[0052]第1のチャンネル36のベッド部分が、図8で見ることができるように、ショルダ38、40の間に形成されるソケット50を有する。ソケット50がキャッチ52により底部の境界を画定される。キャッチが傾いているランプ表面54に接合される。ランプ54およびキャッチ52が第1のチャンネルの底部から第1のチャンネル36の中に可動ドア82を挿入するのを可能にするが、チャンネルからドア82を取り外すのを防止する。これは後でより詳細に説明される。咬合側突出部28がその下側端部のところに一対のタイウイング56を有する。
【0020】
[0053]図8および9で最良に見ることができるように、歯肉側突出部26が中に形成される第2のチャンネル58を有する。第1のチャンネル36と同様に、第2のチャンネル58が第2のベッドによって画定され、第3および第4のアングル部材が第2のベッドに取り付けられ、第3および第4のアングル部材の各々が側壁およびタブを有する。この実施形態では、第2のチャンネルのベッドが第3のショルダ60および第4のショルダ62によって形成される。第3のアングル部材が、第3のショルダ60に取り付けられてそこから前方に延在する第3の側壁64を有する。第3のタブ66が、第3のショルダ60から離間される位置で第3の側壁64に取り付けられる。第3のタブ66が第3の側壁64から近心遠心方向に延在する。第4のアングル部材が、第4のショルダ62に取り付けられてそこから前方に延在する第4の側壁68を有する。第4のタブ70が、第4のショルダ62から離間される位置で第4の側壁68に取り付けられる。第4のタブ70が第4の側壁68から近心遠心方向に延在する。第3のタブ66および第4のタブ70が互いの方に延在するが、この実施形態では、第3のタブ66および第4のタブ70が互いに接触しないことに留意されたい。この構成はタブ66とタブ70との間に隙間を残す。これが、後で説明される可動ドア82へのアクセスを実現する。第2のチャンネル58が、第3のショルダ60および第4のショルダ62と、第3の側壁64および第4の側壁68と、第3のタブ66および第4のタブ70との間の空間として画定される。
【0021】
[0054]第2のチャンネル58のベッド部分が、図8で見ることができるように、第3のショルダ60と第4のショルダ62との間に形成される窪み72を有する。窪み72が停止面74により頂部の境界を画定される。この停止面が後で説明する可動ドア82の挿入を制限する。窪み72が、第2のチャンネル58に入るおよび第2のチャンネル58から出る可動ドアの計画的な挿入および取り外しを可能にするがチャンネルからのドア82の計画的ではないつまり意図されない取り外しを防止する、傾いているつまり角度のついている下側縁部を有する。これは後でより詳細に説明される。
【0022】
[0055]図1、2、および6で最良に見ることができるように、各々の第3のタブ66および第4のタブ70の上側端部などの一方の端部がそれぞれ傾斜表面76および78を有する。角度表面76、78が、アーチワイヤスロット表面30から離れている方のタブの端部上にある。傾斜表面76、78が互いの方を向き、一体にV形のノッチを画定する。V形のノッチが、探針などの操作ツールを可動ドア82の上側端部まで通過させるかまたは誘導する傾向を有する。これが、施術者が迅速かつ好都合に可動ドアを握持して閉位置から開位置まで摺動させるのを支援する。V形のノッチが、咬合側突出部28内に形成されるタイウイング80の中へ部分的に延在する。
【0023】
[0056]図11~14が可動ドア82を示す。ドアが、概して、図12の正面図の平行四辺形形状を有する。概略U形の切欠部84、86がドアの端部縁部に形成される。これらの切欠部が、施術者がドアを開けたり閉じたりするための操作ツールに対してドア82を係合させるのを支援する。ドア82の舌側が、ドアの内部表面から突出する戻り止め88を有する。戻り止め88が、第1のチャンネル36の第1のショルダ38と第2のショルダ40との間の空間の中に嵌め込まれる。ドア82が閉じているとき、戻り止め88がやはり、第2のチャンネル58の第3のショルダ60と第4のショルダ62との間の空間に嵌め込まれる。ドア82およびブランケットボディ12の工場での組み立て時、図で見ることができるように、ドア82がその下側端部から第1のチャンネル36の中に挿入され得る。戻り止め88がチャンネル36に入るとき、戻り止め88がラン部表面54に当たることになり、わずかに曲がることにより戻り止めがソケット50に入ることが可能となる。ソケット50の底部にあるキャッチ52が、戻り止めを引き抜くことをおよびひいては第1のチャンネルからドアを引き抜くことを防止する形で戻り止め88に係合される角度を有することになる。ドア82が持ち上げられる閉位置まで移動すると、戻り止め88が第2のチャンネル内の窪み72の中まで摺動する。窪み72の縁部が戻り止め88の解除可能に係合されるように成形されている。窪みが誤って開ける方向の力に逆らうように戻り止め88を保持することになるが、探針などの操作ツールを使用して施術者によりドア82に対して加えられ得る下向きの力などの、開ける方向の力が計画的に加えられるときには戻り止めを解放することなる。
【0024】
[0057]注目すべきこととして、第1のチャンネル36および第2のチャンネル58が互いに同一平面上にある。これにより、可動ドア82が開位置と閉位置との間で容易に摺動することが可能となる。開位置では、ドアが第1のチャンネル38および第2のチャンネル58のうちの一方の中に配置されるが、第1および第2のチャンネルのもう一方から離間される。完全な開位置にあるとき、戻り止め88がソケット50内に配置され、ドアがアーチワイヤスロット34から離れており、アーチワイヤスロット34へのおよびそこからのアクセスを可能にする。ドア82が持ち上げられた閉位置にあるとき、ドアが第1のチャンネル36および第2のチャンネル58の両方に位置し、ここでは、ドアがアーチワイヤスロット34の開いている側を閉鎖し、アーチワイヤスロット34へのおよびそこからのアクセスを防止する。
【0025】
[0058]やはり注目すべきこととして、第1のチャンネル36および第2のチャンネル58によって画定される平面が基準面Aを基準とした角度D(図5)のところに配置される。角度Dは、図3および5で見ることができるように、トルク角Tに実質的に等しい。これは、非ゼロのトルク角T(角度Aに平行ではない)を有するブラケット内でドア82がボディ部材18の前面20に対して角度Dのところに配置されることになる。このジオメトリは有利である。その理由は、長方形アーチワイヤがアーチワイヤスロット34内に配置されることが可能となり、その結果、アーチワイヤがアーチワイヤスロット表面を基準として角度をつけられ、つまり斜めになる、からである。さらに、ドア82がこのような斜めのアーチワイヤに干渉することがなく、つまりこのような斜めのアーチワイヤに力を加えることがない。さらに、アーチワイヤスロット34の深さがこの効果を増大させ、有利には、アーチワイヤを基準として各ブラケット10の移動自由度を可能にする。図3で見ることができるように、アーチワイヤスロット34の深さが距離D1およびD2によって画定される。D1が、ドア82の舌側表面から根元位置30Rまでの距離である。同様に、D2が、ドア82の舌側表面から根元位置32Rまでの距離である。D1およびD2は、これらの2つの距離のうちの小さい方を高さHminより大きくするように、選択される。一般的にいって、これはアーチワイヤスロット34が、高い位置にある場合より深くなることである。これは、ドア82が受動的な状態を維持する傾向を有することになり、その結果、歯が舌側に位置合わせされるときに、閉じられているドアがアーチワイヤスロット34内のアーチワイヤに力を一切加えなくなるような傾向を有するようになる。
【0026】
[0059]ブラケット10の使用、動作、および機能は以下の通りである。アーチワイヤスロット34が水平方向の整直停止部30A、32Aおよび傾いている傾斜停止部30B、32Bを有すること留意されたい。これらの停止部はTip-Edge(登録商標)(TP Othodontics,Inc.の商標)のテクニックの使用を可能にする。Tip-Edge(登録商標)のテクニックは、共にTP Othodontics,Inc.に譲渡された、参照によりその開示が本明細書の組み込まれている米国特許第5,125,832号および米国特許第6,682,345号に完全に説明されている。
【0027】
[0060]歯列矯正医または施術者が、各々の複数のブラケット10の結合ベース12の裏側表面16を複数の歯の歯冠に結合し、臼歯のところでのアーチワイヤの端部の固着を可能にする。通常の治療計画はステージIで開始され、ここでは、図16に表されるように、円形アーチワイヤ90が各ブラケット10のアーチワイヤスロット34内に配置される。ニッケル-チタンまたは他の適切な材料で構成され得るアーチワイヤ90はステージIおよびIIの治療を通してその初期の直線状態に戻ろうとすることから、ブラケット10の傾斜力(tipping force)を加えることになり、それによりブラケット10(および、ブラケットを結合しているところの対応する歯)が、傾斜停止部30B、32Bによって許容される程度で傾斜することになる。ステージIIの終了時の傾斜したブラケットが図17に示される。
【0028】
[0061]ステージIIIの開始が図18および20に示される。長方形アーチワイヤ92がアーチワイヤスロット34内に配置され、円形アーチワイヤ94が整直トンネル22内に配置される。上述のアーチワイヤスロットを備えるつまりHmax=0.071cm(0.028インチ)でありHmin=0.056cm(0.022インチ)である実施形態では、長方形アーチワイヤの寸法が例えば、0.546cm(0.215インチ)の高さおよび0.071cm(0.028インチ)の幅を有することができる。しかし、他の寸法を有するアーチワイヤも使用され得る。図18に示されるようにブラケットが傾斜している場合、最大のアーチワイヤスロット高さHmaxが長方形アーチワイヤ92にとって利用可能となり、アーチワイヤスロット34を基準としてアーチワイヤが傾斜しているかまたは斜めになっている場合でもアーチワイヤ92が固着したりまたはアーチワイヤ92に力が加えられたりすることなく長方形アーチワイヤ92がアーチワイヤスロット34内に嵌め込まれることになる。図20を参照されたい。円形アーチワイヤ94が、図19の向きの方にブラケット10を回転させるような整直力(uprighting force)を加えることになり、これが整直停止部30A、32Aによって制限される。
【0029】
[0062]この回転が起きるとき、利用可能なスロット高さがHmaxからHminの方に移る形で変化する。その結果、ブラケットをさらに閉じることが、長方形アーチワイヤ92の対向する角部によって妨害されることになる位置に到達することになる。図21の小さい矢印によって示されるようにこれらの角部で接触が実現される。円形アーチワイヤ94が継続して整直力を加え、この整直力がアーチワイヤスロット34の垂直方向の寸法つまり高さを継続して閉鎖するように作用し、これにより二次的なトルク付与による結合が行われ、この結合の確立時に図21の大きい矢印の方向のトルクが発生する。この時点から、トルクおよび整直力が同時に加えられることになる。これが、ブラケットにより長方形アーチワイヤ92の垂直方向の寸法が完全に閉鎖されるまで、継続し、それにより図22および19に示されるように水平方向の整直停止部30A、32Aと面一となる。
【0030】
[0063]図21~22が、ブラケットのトルク角に実質的に等しい角度で第1および第2のチャンネル内に配置される可動ドアを有する本開示の利点を示す。角度をつけられるドアが、結紮糸を用いる場合に起こり得るようなアーチワイヤの固着を引き起こすことなく、ステージIIIの開始時にアーチワイヤスロット34内で使用される斜めの長方形アーチワイヤ92を受け入れ、ここではアーチワイヤの力を加える傾向を一切有さない。
【0031】
[0064]可動ドアによってもたらされる別の重要な利益は、アーチワイヤによって押圧される能動的な(positive)堅固な表面であり、これにより「チューブ」構造が作られ、ブラケットに施される治療法の恩恵を完全に受けるためのより強いトルク付与が実現される。エラストマの結紮糸は数時間後にその弾性を失い、固まった状態となり、それによりブラケットのアーチワイヤスロットに接触させてアーチワイヤを保持するためのエネルギーが制限され、それにより歯を所望の最終位置まで移動させることがより受動的となる。エラストマの結紮糸は交換しなければならず、新しい結紮糸が歯を移動させるのを開始するためのエネルギーを提供するのは短期間のみである。さらに、弾性がやはり失われ、結紮糸が固まった状態となる。本開示のブラケットを用いる場合、ドアの舌側がアーチワイヤによって押圧され得る表面を提供し、それにより、ブラケットに組み込まれた所定の最終位置まで歯を移動させる。特定の歯が舌側において位置がずれてしまう場合、適切な位置にするためには、頬側/唇側方向において歯にトルクを加えることが必要となる。これは以下のように考えられ得る。アーチワイヤが外側のアーチワイヤ内に配置され得、その結果、アーチワイヤが頬側/唇側方向における所望の前方方向にトルクを歯に加える傾向を有する。しかし、外側アーチワイヤの前側が開いている場合、アーチワイヤを前方方向に押圧するための構造が存在しない。アーチワイヤが開いているスロットから外れる傾向を有することになる。言及したように、弾性の結紮糸はアーチワイヤがスロットから出ることに対しての抵抗をある程度実現することになるが、エラストマの結紮糸によるこのような抵抗は非常に一時的である。対照的に、閉鎖している可動ドアの内部表面は、外側スロット内のアーチワイヤによって押圧され得る堅固な固定表面を提供し、それにより歯を所望の位置まで付勢する。
【0032】
[0065]本明細書で説明される本明細書の好適な実施形態に対しての種々の変更形態および修正形態が当業者には明らかであることを理解されたい。このような変更形態および修正形態は、本明細書で開示される本発明の精神および範囲から逸脱することなく作られ得る。例えば、ベースが基本的に単一の厚さを有するものとして本明細書で示されるが、ベースが段差付きの構成を形成する複数の層を有してもよい。つまり、歯の歯冠に取り付けられることになる裏側表面を有する底部層または底部パッドと、底部層の前側にあるが底部層より小さいペリメータを有するより小さい外側層または外側パッドとが存在してよい。ボディ部材がベースの外側層に取り付けられ、アーチワイヤスロットが、ベースの外側層の前側表面により後方縁部上の境界を確定される。それでも、底部層の前側表面上のこのような外側層または外側パッドもベースの一部としてみなされ得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【手続補正書】
【提出日】2021-11-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己結紮式の歯列矯正ブラケットであって、前記自己結紮式の歯列矯正ブラケットが:
前側表面、および歯の歯冠に取り付けられるように適合される裏側表面、を有する結合ベースと;
前記結合ベースの前記前側表面に取り付けられてそこから前記ボディ部材の前面まで前方に延在するボディ部材であって、前記ボディ部材の前記前面が基準面を画定し、前記結合ベースが前記基準面を基準としたトルク角を画定する、ボディ部材と;
前記ボディ部材を通って近心遠心方向に延在する整直トンネルと;
前記ボディ部材の前記前面から前方に延在する歯肉側突出部および咬合側突出部であって、前記歯肉側突出部がその一方の側にアーチワイヤスロット表面を有し、前記咬合側突出部がその一方の側にアーチワイヤスロット表面を有し、前記アーチワイヤスロット表面が対向する関係で互いから離間され、その結果、前記アーチワイヤスロット表面が、前記突出部の前記アーチワイヤスロット表面の中間にある前記ボディ部材の前記前面の部分と共に、アーチワイヤスロットを画定する、歯肉側突出部および咬合側突出部と;
前記咬合側突出部内に画定される第1のチャンネルおよび前記歯肉側突出部内に画定される第2のチャンネルであって、前記第1のチャンネルが、ベッド、ならびに前方に延在する側壁および前記側壁から延在するタブを有する対向部材をさらに備え、前記対向部材が近心遠心方向において互いの方を向き、それらの間に隙間を有し、前記第2のチャンネルが、ベッド、ならびに前方に延在する側壁および前記側壁から延在するタブを有する対向部材をさらに備え、前記対向部材が近心遠心方向において互いの方を向き、それらの間に隙間を有し、前記チャンネルが同じ平面内で互いに位置合わせされ、前記平面がトルク角に実質的に等しい前記基準面に対して一定の角度のところに配置される、第1のチャンネルおよび第2のチャンネルと;
前記対向する側壁の間においておよびその前記ベッドと前記タブとの間において、前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルの少なくとも一方の中に配置されるドアであって、前記ドアが開位置と閉位置との間で移動可能であり、その結果、前記ドアが前記開位置にあるとき、前記ドアが前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルのもう一方から離間され、前記アーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを可能にし、前記ドアが前記閉位置にあるとき、前記ドアが、それぞれの前記対応する側壁の間においておよびそのそれぞれの前記ベッドと前記タブとの間において、前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルの両方の中に位置し、前記アーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを防止する、ドアと
を備える自己結紮式の歯列矯正ブラケット。
【請求項2】
各アーチワイヤスロット表面が、水平方向の整直停止部、および前記整直停止部に対して一定の角度のところに配置される傾斜停止部を備える、請求項1に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項3】
前記歯肉側突出部および前記咬合側突出部上の前記整直停止部が互いに平行であり、互いに対向し、前記歯肉側突出部および前記咬合側吐出部上の前記傾斜停止部が概して互いに平行であり、互いに対向する、請求項2に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項4】
前記歯肉側の整直停止部および前記咬合側の整直停止部が最小のスロット高さHminだけ分離され、前記歯肉側のアーチワイヤスロット表面および前記咬合側アーチワイヤスロット表面がそれぞれ歯肉側の根元および咬合側の根元のところで前記ボディ部材の前記前面と交差し、前記歯肉側の根元から閉じた前記ドアの舌側表面までの距離が距離D1を画定し、前記咬合側の根元から閉じた前記ドアの前記舌側表面までの距離が距離D2を画定し、D1およびD2の小さい方がHminより大きい、請求項3に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項5】
前記歯肉側のアーチワイヤスロット表面および前記咬合側のアーチワイヤスロット表面が最小のスロット高さHminだけ分離され、前記歯肉側のアーチワイヤスロット表面および前記咬合側のアーチワイヤスロット表面がそれぞれ歯肉側の根元および咬合側の根元のところで前記ボディ部材の前記前面と交差し、前記歯肉側の根元から閉じた前記ドアの前記舌側表面までの距離が距離D1を画定し、前記咬合側の根元から閉じた前記ドアの前記舌側表面までの距離が距離D2を画定し、D1およびD2の小さい方がHminより大きい、請求項1に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項6】
各タブの一方の端部が傾斜表面を有し、前記タブの前記傾斜表面が、前記ドアの縁部の方に延在するV形のノッチを画定するように互いの方を向く、請求項に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項7】
自己結紮式の歯列矯正ブラケットであって、前記自己結紮式の歯列矯正ブラケットが:
前側表面、および歯の歯冠に取り付けられるように適合される裏側表面、を有する結合ベースと;
前記結合ベースの前記前側表面に取り付けられてそこから前記ボディ部材の前面まで前方に延在するボディ部材と;
前記ボディ部材の前記前面から前方に延在する歯肉側突出部および咬合側突出部であって、前記歯肉側突出部がその一方の側にアーチワイヤスロット表面を有し、前記咬合側突出部がその一方の側にアーチワイヤスロット表面を有し、前記アーチワイヤスロット表面が対向する関係で互いから離間され、その結果、前記アーチワイヤスロット表面が、前記突出部の前記アーチワイヤスロット表面の中間にある前記ボディ部材の前記前面の部分と共に、アーチワイヤスロットを画定する、歯肉側突出部および咬合側突出部と;
前記咬合側突出部内に画定される第1のチャンネルおよび前記歯肉側突出部内に画定される第2のチャンネルであって、前記第1のチャンネルが、ベッド、ならびに前方に延在する側壁および前記側壁から延在するタブを有する対向部材をさらに備え、前記対向部材が近心遠心方向において互いの方を向き、それらの間に隙間を有し、前記第2のチャンネルが、ベッド、ならびに前方に延在する側壁および前記側壁から延在するタブを有する対向部材をさらに備え、前記対向部材が近心遠心方向において互いの方を向き、それらの間に隙間を有し、前記チャンネルが同じ平面内で互いに位置合わせされる、第1のチャンネルおよび第2のチャンネルと;
前記対向する側壁の間においておよびその前記ベッドと前記タブとの間において、前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルの少なくとも一方の中に配置されるドアであって、前記ドアが開位置と閉位置との間で移動可能であり、その結果、前記ドアが前記開位置にあるとき、前記ドアが前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルのもう一方から離間され、前記アーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを可能にし、前記ドアが、前記閉位置にあるとき、前記ドアが、それぞれの前記対応する側壁の間においておよびそのそれぞれの前記ベッドと前記タブとの間において、前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルの両方の中に位置し、前記アーチワイヤスロットへのおよびそこからのアクセスを防止する、ドアと
を備え、
各タブの一方の端部が傾斜表面を有し、前記タブの前記傾斜表面が、前記ドアの縁部の方に延在するV形のノッチを画定するように互いの方を向く
自己結紮式の歯列矯正ブラケット。
【請求項8】
前記ドアの舌側に形成される戻り止めと、前記第1のチャンネルおよび前記第2のチャンネルのうちの少なくとも一方に形成されるソケットと、をさらに備え、前記ソケットが、前記ドアの開位置時に前記戻り止めに解除可能に係合可能であり、それにより前記第1および第2のチャンネルの前記少なくとも一方の中で前記ドアの一部分を保持する、請求項に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項9】
前記戻り止めが前記アーチワイヤスロットに向かう方向に移動するために前記ソケットに解除可能に係合可能であるが、前記戻り止めが前記ブラケットから離れる方向において前記ソケットから解放されることが防止される、請求項に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項10】
前記第1および前記第2のチャンネルのうちのもう一方の前記突出部内に形成される窪みをさらに備え、前記戻り止めが、前記ドアが閉じられているときに前記窪みに解除可能に係合可能であり、それにより前記第1および前記第2のチャンネルのうちの前記もう一方の中で前記ドアの一部分を保持する、請求項に記載の歯列矯正ブラケット。
【請求項11】
前記第1および前記第2のチャンネルのうちの前記もう一方の前記突出部の中に停止面をさらに備え、前記停止面が、前記ブラケットから離れる方向において前記戻り止めが前記窪みから外れて移動するのを防止するために、前記ドアに係合される、請求項10に記載の歯列矯正ブラケット。
【国際調査報告】