(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-07
(54)【発明の名称】加圧水型原子炉の管理方法および応分の管理システム
(51)【国際特許分類】
G21C 17/00 20060101AFI20220630BHJP
G21D 3/00 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
G21C17/00 100
G21D3/00 B
G21D3/00 H
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021564977
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(85)【翻訳文提出日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2019061669
(87)【国際公開番号】W WO2020224764
(87)【国際公開日】2020-11-12
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519462218
【氏名又は名称】フラマトム・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】モロコフスキー,ビクトル
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075AA05
2G075BA03
2G075CA02
2G075FB18
2G075GA18
(57)【要約】
【課題】多数の制御目標を同時に考慮し平衡化することのできる加圧水型原子炉の管理方法を提供する。
【解決手段】 加圧水型原子炉(2)を管理する方法において、加圧水型原子炉(2)が炉心(6)と、原子炉冷却材を保持する炉心(6)用冷却回路(10)とを含み、原子炉の状態が、多数の測定可能な状態変数によって特徴付けされ、炉心の反応度が、多数の起動変数によって制御されかつ原子炉毒作用により影響され、起動変数の所与の時間依存軌跡(Ta)について、状態変数についての応分の軌跡(Ts)が、状態変数の測定された現在の値、計算された毒作用値および反応度収支等式に基づいて予測される、方法であって、将来の時間間隔について起動変数の多数の無作為に変動させられた起こりうる軌跡(Ta)を反復的に考慮するステップを含み、起動変数の各軌跡(Ta)には、起動変数、プロセス変数および/またはこれらから導出された変数の予め設定された条件または値によって特徴付けされる多数の事象または不利な炉心状態についての重み付けまたはペナルティ値を含む値表に基づいて、性能指数(Σ)が割り当てられ、起動変数軌跡(Ta)は、性能指数(Σ)が局所的極値を有するような形で選択され、対応するアクチュエータが相応して移動させられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧水型原子炉(2)を管理する方法において、
前記加圧水型原子炉(2)が、炉心(6)と、原子炉冷却材を保持する前記炉心(6)用冷却回路(10)とを含み、
前記原子炉の状態が、多数の測定可能な状態変数によって特徴付けされ、前記炉心の反応度が、多数の起動変数によって制御されかつ原子炉毒作用により影響され、
起動変数の所与の時間依存軌跡(Ta)について、前記状態変数についての応分の軌跡(Ts)が、前記状態変数の測定された現在の値、計算された毒作用値および反応度収支等式に基づいて予測される、
方法であって、
将来の時間間隔について前記起動変数の多数の無作為に変動させられた起こりうる軌跡(Ta)を反復的に考慮するステップを含み、
起動変数の各軌跡(Ta)には、前記起動変数、プロセス変数、および/またはこれらから導出された変数の予め設定された条件または値によって特徴付けされる多数の事象または不利な炉心状態についての重み付けまたはペナルティ値を含む値表に基づいて、性能指数(Σ)が割り当てられ、
前記起動変数軌跡(Ta)が、性能指数(Σ)が局所的極値を有するような形で選択され、
対応するアクチュエータが相応して移動させられる、
方法。
【請求項2】
前記プロセス変数が、熱原子炉出力(PR)、原子炉冷却材温度(ACT)、生蒸気圧力(P)および/または炉心出力密度のアキシャルオフセット(AO)、または等価の数量のうちの単数または複数のものを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加圧水型原子炉(2)が、さらに、好ましくは制御バンクとして統合された、前記炉心(6)内に挿入可能な多数の制御棒(44)と、前記原子炉冷却材のホウ素濃度を設定するためのボレート化および希釈システムとを含み、前記起動変数が制御棒の位置または運動および/またはボレート化動作および/または希釈動作に特徴的なものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記起動変数軌跡(Ta)の前記変動が、前記原子炉出力についての所与の負荷計画および/または前記炉心の所与の毒作用の制約の下で実現される、請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記状態変数の前記測定された現在値が、実時間で更新される、請求項1から4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記計算アルゴリズムが、乱数発生器を使用する、請求項1から5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記考慮対象の将来の時間間隔が、1時間よりもはるかに長く、典型的には24時間前後の規模を有する、請求項1から6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の方法が実装されるコンピュータ化された管理モジュールを伴う、原子炉用の管理システムにおいて、前記計算された最適な起動変数軌跡(Ta)が、対応するアクチュエータを制御するために使用される、管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくは原子力発電所内の加圧水型原子炉を管理する方法に関する。
本発明は同様に、応分の管理システムにも関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉は、広い時間スケール内の高度の動力学を有する複雑な非線形系であり、その包括的制御は些細なものではない。
熱出力および冷却材温度という周知の制御以外に、原子炉の制御装置は、所与の限界内のみでの運転を可能にする運転上の安全性、燃焼の均一化、燃焼補償、毒作用の補償、出力密度分布の均一化、柔軟な発電の支援、運転経済性などの多くの他の側面を処理する。
【0003】
世界中の原子炉の管理は現在、制御技術に基づいている。
しかしながら、このタスクのために使用される従来の制御技術は、その適用限界に達している。
このアプローチが有する主要な問題点としては、複合システムの逆問題を解く試み、原子炉毒物質の複雑で長時間スケールの動態およびそれらの空間分布、ならびに利用可能な動作主体の数よりも有意に多い制御目標数、がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、加圧水型原子炉を制御または管理する方法を提供すること、および多数の制御目標を同時に考慮し平衡化することのできる応分の管理システムを提供することにある。
該方法および該応分のシステムは、異なる種類の既存のまたは新規の原子炉にとって実装および設定が容易なものである。
これらは、実時間制御または管理の能力を有するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると、前記目的は、請求項1に係る方法によって達成される。
対応する管理システムは、請求項8で規定されている。
【0006】
したがって、請求項1は、加圧水型原子炉を管理する方法において、
加圧水型原子炉が、炉心と、原子炉冷却材を保持する炉心用冷却回路とを含み、
原子炉の状態が、多数の測定可能な状態変数によって特徴付けされ、炉心の反応度が、多数の起動変数によって制御されかつ原子炉毒作用により影響され、
起動変数の所与の時間依存軌跡について、状態変数についての応分の軌跡が、状態変数の測定された現在の値、所与のまたは計算された毒作用値および反応度収支等式に基づいて予測される、
方法であって、
好ましくは1時間よりはるかに長く、典型的には24時間前後の規模を有する将来の時間間隔について起動変数の多数の無作為に変動させられた起こりうる軌跡を、反復的に考慮するステップを含み、
起動変数の各軌跡には、起動変数、プロセス変数、および/またはこれらから導出された変数の、予め設定された条件または値によって特徴付けされる多数の事象または不利な炉心状態についての重み付けまたはペナルティ値を含む値表に基づいて、性能指数が割り当てられ、
起動変数軌跡は、性能指数が局所的極値を有するような形で選択され、
アクチュエータが相応して移動させられまたは設定される、
方法を規定している。
【0007】
基本的概念のさらなる実施形態および進展は、従属請求項中および以下の説明の中で規定されている。
【0008】
請求対象の方法および応分のデバイス/システム(「炉心ガバナ」の異名をもつ)は、制御技術に代って、コンピュータによる変分法(すなわち汎関数の最大値および/または最小値を求める)を使用する。
制御技術に基づく原子炉制御装置とは異なり、提案される炉心ガバナは、実時間でコマンドを制御するだけでなく、好ましくは24時間という次の大きなタイムスパンにわたる制御動作についての包括的な計画をもコンパイルし、好ましくはそれを視覚化する。
多義の逆問題の解を求める代りに、本発明に係る炉心ガバナは、些細な順問題を何度も解き、各反復において制御動作についての計画を変動させ、所与の値表に基づいて性能指数を用いて最善の動作を探求する。
制御技術とは異なり、コンピュータによる変分法は、数および性質とは無関係に同時に全ての目標を組込む単一の性能指数を処理することから、制御目標数に制限が全く無い。
【0009】
典型的な原子炉において、本発明が適切な形で平衡化し最適化することのできるこのような相反する目標の例としては、以下のものが含まれる。
-アキシャルオフセット(AO)の管理
-棒の運動の最小化
-ホウ酸消費量の最小化
-脱塩水消費量の最小化
-燃焼補償
-均一な燃焼
【0010】
さらに、本発明は以下のことを提供し得る。
-全ての重要な炉心特性の長時間、好ましくは24時間にわたる予測及び表示
-キセノンおよびサマリウム毒作用の監督および予測
-100%までの急速出力上昇能力の監視および/または保証
-起こりうる全ての変化、例えば異なる負荷または炉心再構成のための些細な調整
-些細なパラメータ化
-起こりうる全ての加圧水型原子力発電所タイプに対する応用可能性
【0011】
この根本的に新しいアプローチの対応する利点は、以下のことに関連するものである。
-安全性
-利用可能性
-操縦性(柔軟性ある運転)
-計画効率
-透明性
-操作性
-人間工学
-予測可能性
【0012】
これにより、炉心の高度な負荷追従制御および他の制御体制を含めた、送電網サービスの完全自動化が可能となる。
しかしながら、原子炉運転の半自動または手動モードも同様に支援される。
詳細には、アクチュエータの運動は、手動式、半自動式または全自動式で行なうことができる。
【0013】
提案される方法は、実時間よりはるかに高速のコンピュータ計算を必要とし提供する。
一連の好ましくは24時間の軌跡を、瞬時に計算しなければならない。
提案されたアルゴリズムが、好ましくは24時間の最適化タイムフレーム内で、好ましくは例えば各200msについての反応度収支のみを処理することから、現代のコンピュータの出力はこれに十分なものである。
提案される方法は、このために単純な算術を必要とする。
炉心内の空間分布は、アキシャルオフセット(AO)だけが問題となるため、好ましくは、2点モデルにおいて考慮される。
2点モデルは、当該目的のために完全に十分なものであり、極めてわずかな計算能力しか必要としない。
【0014】
提案される方法は、アルゴリズムがそれ自体未修正のままに留まることから、異なる加圧水型原子力発電所に対し容易に適応可能である。
原則として、アルゴリズムのパラメータのみ、更新する必要がある。
順問題のみが解かれることになるため、これらのパラメータは全て物理的で、各原子炉について周知である。
実際、これらのパラメータの大部分は、単純に反応度係数である。
【0015】
提案される管理アルゴリズムの挙動は、値表中の定数値および値関数の修正によって、簡単に修正されることができる。
値表の補足によって、簡単に新しい特徴を埋め込むことができる。
そうすることで、性能指数アルゴリズムも同様に補足されるはずである。
性能指数は、異なる寄与の単なる合計であることから、この補足は些細なものである。
【0016】
本発明のこれらのおよび他の態様は、以下の段落からより容易に明らかになるものであり、これらの段落では、本発明の例示的実施形態が添付図面を参照しながら論述されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】加圧水型原子炉および本発明に係るその管理アーキテクチャの図式的概観を提供する。
【
図2】本発明に係る「炉心ガバナ」機能のための管理アルゴリズムの図式的概観を提供する。
【
図3】状態変数によってスパンされた、加圧水型原子炉のための状態空間の視覚化である。
【
図4】起動変数によってスパンされた、加圧水型原子炉のための起動空間の視覚化である。
【
図5】原子力発電所のための負荷計画の線図である。
【
図6】
図2に係る「炉心ガバナ」上で実行中のアルゴリズムにおいて使用するための例示的値表を示す。
【
図7】
図6に係る値表中で使用するための例示的価値関数を示す。
【
図8】
図6に係る値表中で使用するための別の例示的価値関数を示す。
【
図9】
図2に係る「炉心ガバナ」のディスプレイ上に示された例示的出力スクリーンである。
【
図10】
図2に係る「炉心ガバナ」のための好ましいアルゴリズムについてのフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、加圧水型原子炉2および本発明に係る管理アーキテクチャを伴う原子力発電所4の簡略化された図式的概観を提供している。
本発明に係る炉心管理は、以下の説明から明らかであるように、従来の古典的制御理論を応用しないものの、管理アーキテクチャは、制御アーキテクチャと呼ぶことともできるものである。
【0019】
例示的実施形態において、原子力発電所4は、加圧水型原子炉(PWR)2を含む。
PWRは、原子炉圧力容器(RPV)8の内部に核分裂性核物質を伴う炉心6を含む。
運転中、原子炉圧力容器8内部の核熱は、原子炉冷却材ポンプ(RCP)12の駆動力の下で一次冷却回路10内を循環する一次冷却媒体(または冷却材)へと伝達される。
取付けられた蒸気発生器14内で、一次冷却媒体の熱は、二次冷却回路16内を循環する二次冷却媒体へと伝達され、こうして二次冷却媒体を蒸発させる。
冷却された一次冷却媒体は、その後、再び炉心6内へと導かれる。
【0020】
こうして生産された生蒸気は、発電機20に結合された蒸気タービン18を駆動し、こうして、結び付けられた送電網22内に補給すべき電気を発生させる。
蒸気タービン18の下流側で、弛緩した蒸気は、凝縮器24の中で凝縮され、その後再び給水として、給水ポンプ26を用いて蒸気発生器14まで導かれる。
二次冷却回路16内部の給水タンク28が、補償槽として作用し得る。
【0021】
蒸気タービン18内に入る蒸気の流量は、蒸気補給ライン32内のタービンバルブ30(ここでは簡略化のため1つだけが示されているが、通常は複数のものが並列で存在する)によって調整可能である。
いくつかの特殊なケース(プラントの操業開始、タービントリップ、所内負荷運転への切換え、など)においては、蒸気タービン18に入らず、バイパス流量を設定するためにバイパスバルブ36(ここでは簡略化のため1つだけが示されているが、通常は複数のものが並列で存在する)を含むバイパスライン34を介して直接凝縮器24に導かれる余剰の蒸気が存在する。
タービンバルブ30およびバイパスバルブ36の位置は、タービン制御装置40およびバイパス制御装置42を含む結び付けられた制御システムによって制御される。
制御ループ内に入る測定されたパラメータには、蒸気補給ライン32内部の生蒸気圧力p、蒸気タービン18の回転速度n、および/または発電機20によって出力された電力Pが含まれ得る。
【0022】
原子炉2の管理は、その炉心6内に挿入可能である多数の制御棒44を介して可能である。
通常、加圧水型原子炉(PWR、DWR、WWERなど)内の制御棒は、制御アセンブリの形に統合される。
単一のアセンブリの複数の棒は、単一の棒駆動メカニズムによって駆動され、単一の燃料アセンブリの内部で共に移動する。
詳細には4つ(PWR、DWR)または6つ(WWER)の対称的に位置設定されたアセンブリが、1つの制御グループを構成する。
これらのグループは、通常、さらに2つのバンクへと統合される。
小さい方のバンクP(PowerのP)が、原子炉出力を制御するために使用され、大きいバンクH(HeavyのH)は、原子炉の運転停止専用であり、正常運転中は活性ゾーンから完全に引き抜かれている。
ドイツ型およびフランス型などのいくつかの高度の制御概念においては、Hバンクは、同様に、活性ゾーン内の出力密度分布を調整するためにも使用される。
この目的で、Hバンクは、活性ゾーンの上部部分内にわずかに挿入され、いわゆる出力密度アキシャルオフセット(AO)制御装置によってわずかに移動させられ得る。
標準的吸収棒以外に、いくつかのフランス型原子炉は、特殊な「グレイ棒」を有する。
グレイ棒の吸収能力は、通常の(ブラック)棒よりも低い。
グレイ棒は、完全引抜き状態または完全挿入状態という2つの運転位置しか有さず、原子炉出力の大幅な段階で削減するために使用される。
図1に示されている例示的実施形態においては、PバンクおよびHバンクが見られる。
【0023】
典型的には、Pバンク位置用に結び付けられた制御システムは、原子炉の操業開始に使用されるφ-制御機構としても知られる中性子束制御装置46、および出力運転を担当する平均冷却材温度(ACT)制御装置48を含む。
φ-制御機構は、典型的に炉外計装50によって測定される炉心6内部の中性子束φについての測定値に依存する。
ACT制御機構は、一次冷却媒体の温度についての測定値、詳細には、炉心6との関係における流入物温度T1および流出物温度T2から導出される平均冷却材温度(ACT)に依存する。
PWRおよびDWRとは異なり、WWERプラントは、この時点で、平均原子炉冷却材温度ACTではなく生蒸気圧力Pを制御する。
しかしながら、本発明に係る管理概念は、この事実によるさらなる影響を全く受けることがない。
【0024】
さらに、炉心6内部の反応度は、一次冷却回路10内のホウ素濃度の調整によって影響される。
このために、簡略化のためここでは明示的に示されていない理由から、いわゆる体積制御システム(VCS)を介して、一次冷却回路10に取付けられた、一方ではホウ酸用(ホウ素濃度を増大させる)そして他方では脱塩水用(ホウ素濃度を減少させる)のための補給システムが存在する。
【0025】
合わせてBODEとしても公知であるホウ酸および脱塩水の補給量、ひいては一次冷却回路10内のホウ素濃度は、BODE補給ライン60、62内の応分の補給ポンプ52、54および制御バルブ56、58を介して調整可能である。
補給ポンプ52、54および制御バルブ56、58は、BODE制御装置64によって設定される。
【0026】
図1の例示的実施形態において、「負荷ガバナ」66と呼ばれる上級管理モジュールは、スクリーン80内および
図5中で視覚化されているように送電網オペレータから負荷計画を受信し、そこには将来の電力需要計画が、通常は来る24時間について、通常は15分毎の時間の関数として示されている。
原子力発電所オペレータは、この負荷計画を編集し発出することができる。
発出された負荷計画を用いて、負荷ガバナ66は、電力についての設定点を、実時間でタービン制御装置40に提供する。
さらに、負荷ガバナ66は、ACT(またはp)制御装置48を介してPバンクのフィードフォワード制御を行なう。
【0027】
炉心ガバナ68と呼ばれる関連する上級管理モジュールが、負荷ガバナ66から有効な負荷計画を、そして炉内計装70から現在の出力密度を受信する。
この情報および出力履歴から導出された現在の原子炉の毒作用およびその空間分布についてのその独自の情報を用いて、炉心ガバナ68は、以下でさらに詳細に説明するように、将来、好ましくは来る24時間についての全ての重要な炉心プロセス変数の予測を行なう。
これらの軌跡は、炉心ガバナ68のスクリーン82上に示されることになる。
これらの軌跡の原点(t=0)は、以下で説明した通りのBODE補給システムに作用するBODE制御装置64について、およびHバンクについての現在の設定を示している。
【0028】
包括的な視点から見ると、所与の時間における
図1の実施形態における原子炉2の状態は、本質的に以下の3つの測定可能なおよび独立したプロセス変数または状態変数によって特徴付けされ得る。
1.核分裂出力(PR)
2.原子炉冷却材温度(ACT)、またはWWERの場合には、生蒸気圧力(p)
3.炉心出力密度のアキシャルオフセット(AO)
【0029】
詳細には、核分裂出力は、核分裂反応によって生成される熱出力である。
それは、一方では測定された冷却材温度上昇(原子炉冷却材の出口および入口温度間の差)および公知の冷却材流量から、そして他方では炉内中性子検出器によって測定される中性子束から導出可能である。
【0030】
平均原子炉冷却材温度ACTは、原子炉冷却材の入口および出口温度の平均を表わす。
代替的には、WWERの場合、一次冷却材温度の代りに二次冷却回路16内の生蒸気圧力pを独立プロセス変数として取り上げることができる。
【0031】
アキシャルオフセットAOは、上部炉心半分と下部炉心半分の間の核分裂出力の正規化された差異を表わす。
それは、通常、炉内中性子束計装によって測定される。
炉内計装の無い原子力発電所は、この目的で炉外束測定を使用する。
【0032】
したがって、所与の時間における原子炉2の状態を、
図3で視覚化されているような前記状態変数によってスパンされた3次元状態空間内の点または状態ベクトルによって表わすことができる。
このとき、状態変数の時間的推移は、前記状態空間内の軌跡Tsによって表わされる。
換言すると、軌跡Tsは、時間の関数として状態空間内の原子炉状態の座標を含む。
【0033】
これら3つの独立した状態変数以外に、原子炉毒作用および炉心内のその空間分布が、反応度に対して有意な寄与を提供する炉心の状態の重要な特性である。
核分裂出力、冷却材温度およびアキシャルオフセットとは異なり、原子炉毒作用は、アクチュエータを用いて直接制御できない。
これはむしろ、主として過去24時間由来の炉心運転履歴の結果としてもたらされ、明らかに原子炉の制御中考慮に入れるべきものである。
【0034】
同様にして、
図1の実施形態において原子炉2の状態を独立して管理する3つの主要な起動変数が存在する。
1.Pバンクの位置
2.一次冷却回路10、そして場合によってはグレイ棒内のホウ素濃度
3.原子炉が可動Hバンクを有する場合、Hバンクの位置
【0035】
一部の特別なフランス型原子炉は、さらに、通常の(ブラック)棒よりも吸収度の低いいわゆるグレイ棒を有する。
グレイ棒には、可能な位置が2つしかない。
すなわち、完全に引抜かれた位置または完全に挿入された位置である。
グレイ棒の利点は、軸方向出力密度分布を変形せず、したがってボレート化/希釈などの炉心内のアキシャルオフセット(OA)を変更しないことにある。
このような理由から、グレイ棒は、ボレート化/希釈と共に単一の起動変数とみなすことができる。
【0036】
ホウ素濃度は、BODE補給ポンプ52、54および制御バルブ56、58を上述のようにBODE制御装置64を介して起動させることによって調整可能である。
【0037】
したがって、起動変数の現在値は、
図4で視覚化されているように、起動変数の3次元空間内の点またはベクトルによって表わされ得る。
状態空間についての以上の説明と同様に、このいわゆる起動空間内の軌跡Taは、起動変数の時間的推移を表わしている。
【0038】
いずれの所与の時点においても、起動変数は原則として、物理的に実現可能な限度内で任意の値に設定可能である。
したがって、起動空間内の軌跡Taは、自由に選択可能であり、起動変数の実用的な最大値および最小値によって、ならびに原子炉の保護および制限システムが与える限界によってのみ制限される。
【0039】
しかしながら、状態空間内の軌跡Tsは、現在の原子炉毒作用および二次冷却回路による現在の熱除去と共に起動変数の軌跡Taによって左右される。
したがって、軌跡Tsは、内在する原子炉の物理特性に起因して、「自動的に自己調整する」。
管理物理特性の固有の非線形性のため、依存性は複雑なものであり得、これには主に複合毒作用効果に起因して遅延応答が関与し得る。
この意味合いにおいて、起動空間を「一次」空間とみなし、状態空間を従属する「二次」空間とみなしてよい。
【0040】
それでもなお、単純で周知の反応度収支等式(恒常な原子炉出力Σρ=0である場合)により、例えば来る24時間といった一定のタイムスパンについて起動変数の所与の軌跡Taに基づいて原子炉の状態変数の軌跡Tsを予測することが可能である。
換言すると、起動空間内の所与の軌跡Taについて、状態空間内の応分の軌跡Tsは、原則として、反応度収支等式に基づく単純な予測装置モジュールを用いて予測可能である。
【0041】
平均冷却材温度(ACT)の周知の制御以外に、原子炉制御タスクには、所与の限界内のみでの運転を可能にする運転安全性、燃焼の均一化、燃焼補償、毒作用の補償、出力密度分布の均一化、柔軟な電力生産の支援、運転経済性などの他の多くの側面が含まれている。
したがって、制御目標の数は、通常、起動変数の数よりもはるかに多い。
この側面のため、すでに言及した制御すべきシステムの非線形性および複雑な動態、ならびに、即発中性子についての10μsから始まって遅発中性子および熱伝達プロセスについての数秒超、毒作用効果についての数十時間超、そして、燃料減損についての数年に至るまでの異なる作用時間スケールの莫大な範囲の広さと合わさって、従来の制御理論は、不適切なものになっている。
多重入出力(MIMO)などの特殊な方法でさえ、不適切に思われる。
【0042】
上述の問題を克服するため、本発明は、数値変分法を使用する、以上で説明した軌跡表現に基づく全く異なるアプローチを提案するものである。
【0043】
要約すると、本発明に係る管理スキームは、好ましくは所与の原子炉出力計画の下で、予め設定された将来の大きな時間間隔(24時間の規模)について多数の起動変数の多数の無作為に変動させられた起こりうる軌跡Taを反復的に考慮するステップを含んでおり、ここで、起動変数の各軌跡Taには、起動変数、プロセス変数および/またはこれらから導出された変数の、予め設定された条件または値によって特徴付けされる多数の事象または不利な炉心状態についての重み付けまたはペナルティ値を含む値表に基づいて、性能指数Σが割当てられる。
その後、応分のアクチュエータを設定するために使用される起動変数の実際の軌跡Taは、性能指数Σが局所極値を有するような形で選択される。
【0044】
本発明に係る炉心ガバナ68のこの一般的作動原理は、
図1に示されている原子炉2の当該実施形態について
図2で概略的に視覚化されており、
図10は、炉心ガバナ68についての好ましいアルゴリズムを示している。
【0045】
炉心ガバナ68は、[状態変数の所与の現在値セット、(負荷ガバナ66から受信した)来る24時間についての電力の所与の負荷計画について、および(炉心ナビゲータによって提案される)Hバンクの軌跡について]、例えば来る24時間といった所与の将来のタイムフレームについて状態変数、そして場合によってはそれらから導出される他の変数の軌跡Tsを予測する炉心予測装置と呼ばれるモジュールを含む。
詳細には、すでに言及された状態変数、熱原子炉出力PR、アキシャルオフセットAO、および原子炉冷却材温度ACT以外に、他の変数の時間的推移を導出し予測することができる。
反応度収支等式を用いて、Pバンクの軌跡を予測することができる。
さらに、炉心予測装置は、炉心の反応度に有意な影響を及ぼす炉心6内部のキセノン(Xe)およびサマリウム(Sm)などの原子炉毒物質の積算濃度および空間分布を予測する。
要約すると、炉心予測装置は、所与の負荷計画、計算された毒作用、そして可動Hバンク(存在する場合)およびグレイ棒(存在する場合)の位置およびホウ素濃度などの緩徐動作主体についての提案された軌跡Taからの状態変数およびPバンク位置の対応する軌跡Tsを導出する。
【0046】
さらに、炉心ガバナ68は、炉心ナビゲータと呼ばれるモジュールを含む。
炉心ナビゲータは、一定程度の自由度を有するホウ素濃度、Hバンク(存在する場合)およびグレイ棒(存在する場合)という緩徐動作主体についての提案およびその最適化を担当する。
【0047】
炉心ナビゲータは、原子炉毒作用を考慮に入れて、起動変数の現在の軌跡Taおよび状態変数の応分の軌跡Tsを考慮して、単一の性能指数Σを割当てることによって、現在の軌跡を査定することができる。
この割当ては、
図6に一例が示されている値表に基づいている。
値表は、起動変数、プロセス変数、および/またはこれらから導出された変数の予め設定された条件または値により特徴付けされる多数の事象または不利な炉心状態についての重み付けまたはペナルティ値を含んでいる。
これに関連して、「条件」または「値」なる用語は、広義で理解されるべきものである。
【0048】
明解さおよび描写性を理由として、1つのスカラー量であるそれぞれのペナルティ値は、貨幣価値として、例えばユーロ単位の価格として示され得る(
図6)。
詳細には、バンクの運動の数は最小化されるものとし、こうして各バンクステップに一定の値を割当てることができる。
同様にして、BODEシステムによるボレート化および希釈作用には、ペナルティ値が割当てられる。
より一層重要なこととして、状態変数および/または起動変数から導出可能な一定のパラメータまたは変数は、運転安定性の理由から所与の帯域(原子炉保護および原子炉制限システムによって与えられた最小値および/または最大値)を超えてはならない。
したがって、所与の境界または(予備)限界(動的に調整可能なもの)の超過および類似の事象には、比較的高いペナルティ値が割当てられる。
【0049】
図7および8は、このような予め設定された条件のいくつかの例を示す。
図7は、大きいAOについてのペナルティを示す。
すなわち、ペナルティ値は、AOの予め設定された関数である。
頂点は、オペレータステーションのキーボードおよび/またはマウスを用いて予め設定され得る。
図8は、大きい出力密度についてのペナルティを示す。
ここでは頂点は手動で予め設定され得、または原子炉制限システムから連続的に受信され得る。性能指数についての単一の寄与は同様に、原子炉制限システムによって生成される動的限界にも左右され得る。このような動的限界についての軌跡は、炉心予測装置によって計算され得る。
【0050】
当然のことながら、
図6に示されているペナルティ値の所与のリストおよび
図7および8に示されているペナルティ関数は、単なる一例にすぎない。概して、リストは拡張および/または補正可能である。この場合、性能指数アルゴリズムも同様に適応させられるべきである。性能指数Σ(全体的価格)は好ましくは、個別のペナルティ値(個別価格)の単純な合計であることから、この適応は些細なことである。
【0051】
炉心ナビゲータは、ランダム発生器を用いて周期的に、ボレート化/希釈についての軌跡、およびHバンク(存在する場合)およびグレイ棒(存在する場合)の動きを変動させる。
ボレート化および希釈ならびに棒の運動は、離散的事象である(
図9参照)ことから、それらの修正は、これらの動作ならびに対応する振幅の無作為変更の「オン」および「オフ」フロントの時間シフトのように見える可能性がある。
炉心ナビゲータは、同様に、一部の動作を消去するかまたは新たな動作を創出し、既存の動作を一定のタイムスパンで分離されたより小さい振幅または持続時間の2つの動作に分割するか、または2つの隣接する動作を単一の動作に合併する試みを行なうこともできる。
各々のこのような反復サイクルにおいて、炉心予測装置は、Pバンクの軌跡を相応して補正し、原子炉状態変数についての軌跡Tsを計算する。
ここでもまた、各々の反復ステップにおいて、炉心ナビゲータは、このように修正された軌跡を計算し、この軌跡に対して単一の性能指数Σを割当てる。
炉心ナビゲータは、修正された軌跡が現在のものよりも優れた性能指数Σを提供する場合に、修正を受諾する。
この場合、修正された軌跡は、現在のものに置換する。
そうでなければ、修正は破棄され、現在の軌跡の新しい無作為変動が試行される。
【0052】
一般的に言うと、ボレート化/希釈についての実際の軌跡、およびHバンク(存在する場合)およびグレイ棒(存在する場合)の動きは、性能指数Σが局所極値を有するような形で選択される。
この最適化アルゴリズムは、常時バックグラウンドで周期的に実行され毎秒数千回もの反復を行ない、オペレータには、炉心ガバナ68のスクリーン82上で、連続的にゆっくりと変化する画像として現われる(
図9)。
【0053】
バックグラウンドで可能なかぎり最高の速度で実行する上述の高速最適化プロセスと並列で、いわゆる実時間プロセスが実行される。
実時間プロセスは、好ましくは200msの時間ステップで実行され、
図9に係るオペレータスクリーン82上の全ての軌跡を左へシフトさせる。
200ms毎に全ての軌跡は左へ200msだけシフトされ、水平軸上の時間スケールは不動の状態にとどまる。
実行時間は、オペレータには左への全ての軌跡の低速連続クリープとして現われる。
この低速クリープを通して、炉心ナビゲータによって提案されるボレート化/希釈などの動作ならびにHバンク(存在する場合)およびグレイ棒(存在する場合)の動きは、時として、「現時点」ラインに達することになる。
この時点で、対応する動作が実行のために提案されることになる。
実行は、手動式、半自動式(許可ボタン)または全自動式に行なわれることができる。
同時に、全ての軌跡の出発点(t=0)は、原子炉出力PR、冷却材温度ACTおよびアキシャルオフセットAOの測定値を用いて更新されることになる。
「現時点」ラインから左側のスクリーンセグメントは、過去からの測定値を示す。
手動または半自動モードで、提案された動作がオペレータによって無視される場合、炉心予測装置は迅速に全ての軌跡を相応して更新することになり、上述のその標準アルゴリズムはそのために十分なものであり、特別なアルゴリズムは全く不要である。
同様にして、負荷計画は、送電網オペレータまたはプラントオペレータによっていつでも更新可能である。
上述のアルゴリズムは、このような再送出に対処するのに十分なものであり、付加的なアルゴリズムは全く不要である。
運転中の値表の起こりうる手動式変更についても同様であり、上述のアルゴリズムはそれ自体でこのような変更に対処するのに十分なものである。
【0054】
要約すると、さまざまな制約の下で状態Aから状態Bに原子炉を移す制御動作を発見するという多義的でかつ数学的に過剰決定された制御問題(逆問題)を解こうとする代りに、本発明に係る方法は、無作為に修正された制御動作を試行し、最高/最低(定義および符号に応じた)の性能指数が割り当てられたものを選択することによって、応分の順問題を何回も反復する。
【0055】
換言すると、炉心ガバナ68は、例えば来る24時間といった所与の最適化タイムフレームについて、起動変数(例えば棒の運動、ボレート化および希釈動作)の起こりうる軌跡Taを考慮し、各々の起こりうる軌跡Taについて性能指数Σを計算する。
軌跡Taを修正し反復して、炉心ガバナ68は、最高/最低の性能指数Σを与える最良の軌跡Taを探し、この最良の発見された軌跡Taを、好ましくは対応する状態軌跡Tsと共に表示し、実時間で制御動作を提案する。
したがって、性能指数Σは、組合わされた欠点を自動的に重み付けまたは平衡化する、組合わされた欠点の定量化された全体値としてみなされ得る。
作動原理は、人工頭脳の分野に属し、ストリートナビゲータまたはチェスコンピュータの基礎にあるものと類似している。
【0056】
システムは、好ましくは、好適な入力および出力デバイスで補完される。
図9に示されている炉心ガバナ68の見本の出力スクリーンが、炉心予測装置により来る24時間について予測された状態変数の軌跡Ts、および炉心ナビゲータによって提案されたアクチュエータについての軌跡Taを表示する。
【0057】
以下の段落では、システムの初期化も同様に網羅するいくつかの実装の詳細が、
図1および2に基づく特定の実施形態について開示されている。
【0058】
好ましいアルゴリズムは、
図10に示されている。
1.
予測は、好ましくは来る24時間について時間の関数としての電力を示す
図5の負荷計画で始まる。
負荷計画は、送電網オペレータ22に由来するものであり、負荷ガバナ66内に記憶される。
負荷計画は、いつでも送電網オペレータによって再送出され得、プラントオペレータによる起こりうる変更の発出後に、運転のために有効となる。
送電網オペレータがプラントオペレータに負荷計画を提供しない場合、プラントオペレータは自ら独自の「最良の推定計画」をコンパイルすることができる。
電気的出力が来る24時間以内に低下するか増大するかまたは一定にとどまるかのいずれであれ、非常に大まかな計画でも有用である。
2.
負荷計画を用いて、プラントの効率ηおよび熱出力と電力の間の遅延τを考慮に入れて、炉心予測装置モジュール90は、来る24時間についての原子炉の熱出力PR
thの軌跡を計算する。
予測装置モジュール92は、出力反応度(ドップラ)ρp=Γ
PR・PR
thについての軌跡を予測する。
3.
予測装置モジュール96は、核分裂出力および核分裂率についての軌跡を計算する。
PR
fiss=PR
th-P
decay
R
fiss=P
fiss/E
fiss
4.
核分裂率の軌跡を用いて、モジュール98は、XeおよびSm濃度およびそれらの反応度ρ
poisonについての軌跡を計算する。
5.
出力反応度ρpおよび毒物質反応度ρ
poisonについての軌跡を用いて、公知の特性を有するACT制御装置48によって制御されるACTを考慮に入れて、予測装置モジュール94は、Pバンクについての軌跡を計算する。
この計算は、反応度収支等式Σρ=0に基づいている。
6.
Pバンクのこのように計算された軌跡のいくつかの部分が、棒挿入制限システムにより許可されて(将来の時間周期については限界についての予測された軌跡が使用されなければならない)、帯域を離れた場合、モジュール104は、反応度収支等式Σρ=0を用いて対応する時間間隔についてグレイ棒の挿入/引抜きによってかまたはボレート化/希釈によって棒の運動を置換する。
100%までの高速出力上昇能力が望まれる場合、それは、引抜かれるPバンクの制限によって保証され得る。
この場合、特殊なモジュールが、現在の出力から100%までの高速出力上昇に必要とされるPバンクの反応度についての軌跡を計算し、相応してPバンクの引抜きを制限する。
100%の出力上昇保証は、予測間隔全体にわたって、またはその一部について活動化され得る。
7.
原子炉熱出力PR
th、原子炉核分裂出力PR
fissならびにPおよびHバンクの位置についての軌跡に基づいて、炉心の上半分および下半分における熱出力P
U、P
D、アキシャルオフセットAOおよび原子炉毒物質Xe
U、Xe
D、Sm
U、Sm
Dの2点分布についての第一近似軌跡は、モジュール100により計算されることになる。
この第一近似は、軌跡の初期化のためにだけ必要とされる。
さらなる周期的運転中、この中間計算は省略されることになる。
8.
モジュール100によって計算されたアキシャルオフセットAOの軌跡についての第一近似を用いて、炉心ナビゲータのモジュール102は、Hバンクの軌跡についての第1の提案を行なう。
この第一近似は、軌跡の初期化のためにだけ必要とされる。
さらなる周期的運転中、この中間計算は省略されることになる。
9.
モジュール104は、モジュール102により計算されたHバンク軌跡の第一近似を考慮に入れて、ボレート化、希釈およびグレイ棒の挿入についての軌跡を更新する。
この更新は、軌跡の初期化のためにだけ必要とされる。
さらなる周期的運転中、この中間計算は省略されることになる。
10.
原子炉熱出力PR
th、原子炉核分裂出力PR
fissならびにPおよびHバンクの位置についての軌跡に基づいて、炉心の上半分および下半分における熱出力P
U、P
D、アキシャルオフセットAOおよび原子炉毒物質Xe
U、Xe
D、Sm
U、Sm
Dの2点分布についての軌跡は、モジュール106により計算されることになる。
【0059】
今や全ての軌跡が初期化され、修正プロセスを開始することができる。
第1の修正ルーチンは、実行時間に対する更新である。
1.
好ましくは200msである各更新サイクルにおいて、全ての軌跡が200msだけ左へシフトされることになる。
測定可能なプロセス変数および起動変数の原点は、現在の測定値にしたがって更新されることになる。
2.
モジュール90、92、96、98、94および106は、現在測定されているプロセス変数およびPバンク位置に応じて対応する軌跡を更新するために呼出されることになる。
【0060】
第2の修正ルーチンは、Hバンク、ボレート化、希釈およびグレイ棒についての軌跡の最適化を目標としており、恒久的にバックグラウンドで実行される。
それは、可能なかぎり高速で実行し、好ましくは毎秒100回の最適化サイクルを行なう高速非実時間周期的ルーチンである。
1.
炉心ナビゲータのモジュール108は、Hバンク、ボレート化、希釈およびグレイ棒の軌跡の小さい無作為修正を行なう。
ボレート化および希釈ならびに棒の運動は離散的事象である(
図9参照)ことから、それらの修正は、これらの動作ならびに対応する振幅の無作為変更の「オン」および「オフ」フロントの無作為時間シフトのように見える可能性がある。
炉心ナビゲータは、同様に、一部の動作を消去するかまたは新たな動作を創出し、既存の動作を一定のタイムスパンで分離されたより小さい振幅または持続時間の2つの動作に分割するか、または2つの隣接する動作を単一の動作に合併する試みを行なうこともできる。
2.
モジュール94は、反応度収支等式Σρ=0を用いてPバンクの軌跡を更新し、モジュール106は、P
U、P
D、AOおよびXe
U、Xe
D、Sm
U、Sm
Dについての軌跡を更新する。
3.
モジュール110は、
図6の値表を用いて現在のおよび修正された軌跡セットについての性能指数を計算する。
修正された軌跡が現在のものより優れた性能指数を生み出す場合、現在の軌跡は、修正された軌跡により置換されることになり、そうでない場合には、修正は破棄される。
その後に新しい修正の試みが開始されることになる。
【0061】
再送出動作は、負荷計画の離散的修正を導く。
モジュール90は、電力についての現在の有効な軌跡をゆっくりと連続的に新しいものに再整形することができる。
このような変換には数分間かかる可能性があり、現在の軌跡から開始してそれを負荷ガバナの新規要求に合わせて連続的に再整形する。
この低速変換により、追加の特別なアルゴリズムを導入することなく、両方の周期的実行ルーチンが全ての軌跡を再形成することが可能になる。
【0062】
同様に、軌跡を初期化するための代替的可能性も存在する。
炉心ガバナ68の始動またはリセットの直後に、来る24時間にわたる全ての軌跡の定常状態が仮定されることになり(現在測定されている状態変数および動作変数に応じた恒常な軌跡)、両方の周期的ルーチンが開始されることになる。
周期的ルーチンを実行する間のモジュール90による電力についての有効な軌跡の低速再整形は、全ての軌跡を再整形することになる。
この場合、Hバンク、ボレート化、希釈およびグレイ棒についての軌跡は明示的に初期化されることはなく、モジュール108の億兆回の無作為動作の中で創出されることになる。
この場合、モジュール100、102および104は省略され得る。
【0063】
全ての軌跡の実行時間および後続する左へのクリープ(
図9)に起因して、炉心ナビゲータによって提案されるボレート化/希釈ならびにHバンク(存在する場合)およびグレイ棒(存在する場合)の運動などの動作は、時として「現時点」ラインに達することになる。
その時点で、対応する動作が実行のために提案されることになる。
実行は手動式、半自動式(許可ボタン)または全自動式で行なうことができる。
【0064】
手動または半自動モードにおいて、提案された動作がオペレータにより破棄される場合、炉心予測装置は迅速に全ての軌跡を相応して更新することになり、上述の標準アルゴリズムはそのために十分なものであり、特別なアルゴリズムは全く不要である。
【0065】
状態変数、動作変数および全体的性能指数の全ての軌跡を含めた、来る24時間についてのこのように計算された全体的計画は、炉心ガバナ68のスクリーン82上に絶えず表示される。
画像は、ゆっくりと左へクリープし、連続的にそれ自体を改善する。性能指数は同様に表示されることになり、この連続的改善を例示する。
【0066】
炉心ガバナは、その主要な機能以外に、来る24時間についての柔軟な運転に関する発電所の可能性を調査することを可能にする。
この目的で、マウスによりプロットの頂点を移動させて、負荷ガバナのスクリーン上の負荷計画の変更を試みることができる。
コンピュータの性能に応じて数秒または数分以内に、全ての状態変数を描写する全ての軌跡に対するこの試験的変更の影響を観察することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
2 加圧水型原子炉(PWR)
4 原子力発電所
6 炉心
8 原子炉圧力容器
10 一次冷却回路
12 原子炉冷却材ポンプ
14 蒸気発生器
16 二次冷却回路
18 蒸気タービン
20 発電機
22 送電網
24 凝縮器
26 給水ポンプ
28 給水タンク
30 タービンバルブ
32 蒸気補給ライン
34 バイパスライン
36 バイパスバルブ
40 タービン制御装置
42 バイパス制御装置
44 制御棒
46 中性子束制御装置
48 平均冷却温度(PWR、DWR)または生蒸気圧力(WWER)制御装置
50 炉外計装
52 補給ポンプ
54 補給ポンプ
56 制御バルブ
58 制御バルブ
64 BODE制御装置
66 負荷ガバナ
68 炉心ガバナ
70 炉内計装
80 負荷ガバナのスクリーン
82 炉心ガバナのスクリーン
90 原子炉熱出力用予測装置モジュール
92 出力(ドップラ)反応度用予測装置モジュール
94 平均冷却材温度およびPバンクの位置用の予測装置モジュール
96 核分裂出力用予測装置モジュール
98 原子炉毒作用(Xe、Sm)用予測装置モジュール
100 炉心内の出力密度および毒物質密度用の第1の予測装置モジュール
102 Hバンクの位置の第1の提案用のナビゲータモジュール
104 BODEおよびグレイ棒用のナビゲータモジュール
106 炉心内の出力密度および毒物質密度用の第2の予測装置モジュール
108 Hバンク、BODEおよびグレイ棒についての軌跡をランダム化するナビゲータモジュール
110 性能指数を計算するナビゲータモジュール
ACT 平均冷却材温度
AO アキシャルオフセット
BODE ホウ酸/脱塩水(BOric acid/DEmineralized water)
DWR Druck Wasser Reaktor(加圧水型原子炉)(独語)
PR 原子炉出力
PWR 加圧水型原子炉
Ta 起動変数の軌跡
Ts 状態変数の軌跡
WWER 水-水型原子炉(旧ソ連型PWR)
Σ 性能指数
【手続補正書】
【提出日】2020-05-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧水型原子炉(2)を管理する方法において、
前記加圧水型原子炉(2)が、炉心(6)と、原子炉冷却材を保持する前記炉心(6)用冷却回路(10)とを含み、
前記原子炉の状態が、多数の測定可能な状態変数によって特徴付けされ、前記炉心の反応度が、多数の起動変数によって制御されかつ原子炉毒作用により影響され、
起動変数の所与の時間依存軌跡(Ta)について、前記状態変数についての応分の軌跡(Ts)が、前記状態変数の測定された現在の値、計算された毒作用値および反応度収支等式に基づいて予測される、
方法であって、
時間の関数として電力を示す負荷計画を受信するステップと、
将来の時間間隔について前記起動変数の多数の無作為に変動させられた起こりうる軌跡(Ta)を反復的に考慮するステップ
であって、起動変数軌跡(Ta)の前記変動が前記原子炉出力についての所与の負荷計画の制約の下で実現されるステップと、
を含み、
起動変数の各軌跡(Ta)には、前記起動変数、プロセス変数、および/またはこれらから導出された変数の予め設定された条件または値によって特徴付けされる多数の事象または不利な炉心状態についての重み付けまたはペナルティ値を含む値表に基づいて、性能指数(Σ)が割り当てられ、
前記起動変数軌跡(Ta)が、性能指数(Σ)が局所的極値を有するような形で選択され、
対応するアクチュエータが相応して移動させられる、
方法。
【請求項2】
前記プロセス変数が、熱原子炉出力(PR)、原子炉冷却材温度(ACT)、生蒸気圧力(P)および/または炉心出力密度のアキシャルオフセット(AO)、または等価の数量のうちの単数または複数のものを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加圧水型原子炉(2)がさらに、好ましくは制御バンクとして統合された、前記炉心(6)内に挿入可能な多数の制御棒(44)と、前記原子炉冷却材のホウ素濃度を設定するためのボレート化および希釈システムとを含み、前記起動変数が制御棒の位置または運動および/またはボレート化動作および/または希釈動作に特徴的なものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記起動変数軌跡(Ta)の前記変動が、前記原子炉出力についての所与の負荷計画および/または前記炉心の所与の毒作用の制約の下で実現される、請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記状態変数の前記測定された現在値が実時間で更新される、請求項1から4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記計算アルゴリズムが乱数発生器を使用する、請求項1から5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記考慮対象の将来の時間間隔が、1時間よりもはるかに長く、典型的には24時間前後の規模を有する、請求項1から6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の方法が実装されるコンピュータ化された管理モジュールを伴う、原子炉用の管理システムにおいて、前記計算された最適な起動変数軌跡(Ta)が、対応するアクチュエータを制御するために使用される、管理システム。
【手続補正書】
【提出日】2022-01-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項4
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項4】
前記起動変数軌跡(Ta)の前記変動が
、前記炉心の所与の毒作用の制約の下で
さらに実現される、請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【国際調査報告】