(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-08
(54)【発明の名称】方向性凝固を用いて粒子フリーかつ窒素フリーのシリコンインゴットを製造するための方法およびるつぼ、シリコンインゴット並びにるつぼの使用方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021566107
(86)(22)【出願日】2020-05-05
(85)【翻訳文提出日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2020062408
(87)【国際公開番号】W WO2020225244
(87)【国際公開日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】102019206489.2
(32)【優先日】2019-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ライマン クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】トレンパ マティーアス
(72)【発明者】
【氏名】シュワンケ スタンスラウス
(72)【発明者】
【氏名】クラナート クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】フリードリヒ ヨッヘン
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB01
4G072BB11
4G072BB12
4G072GG03
4G072HH01
4G072JJ01
4G072MM08
4G072MM38
4G072MM40
(57)【要約】
本発明は、方向性凝固によって粒子フリーかつ窒素フリーのシリコンインゴットを製造するための方法およびるつぼに関し、るつぼが提供され、当該るつぼの内面は、全面または少なくとも一部の領域にSi
xN
yを含むコーティングを有し、当該コーティングは、窒素およびSi
xN
y粒子のシリコンへの侵入を低減または回避するためにSiO
xを含む保護層で被覆されている。また、本発明は、窒素またはSi
xN
y粒子を実質的に含まないシリコンインゴットに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性凝固を用いて粒子フリーかつ窒素フリーのシリコンインゴットを製造するための方法であって、
a)るつぼを用意し、前記るつぼの内面は、全面または少なくとも一部の領域においてSi
xN
yを含むコーティングを有し、前記コーティングは、窒素およびSi
xN
y粒子のシリコンへの侵入を低減または回避するために、SiO
xを含む保護層で被覆されており、
b)前記るつぼにシリコン原料を充填し、
c)前記シリコン原料を前記るつぼ内で溶融してシリコン融液を形成し、
d)前記シリコン融液を方向性凝固させることで、粒子フリーかつ窒素フリーのシリコンを形成する、方法。
【請求項2】
前記保護層を、SiO
xを含む懸濁液の噴霧法、ブラッシング法、散布法および/または浸漬法によってSi
xN
yを含む前記コーティングに塗布し、このようにして製造されたSiO
xを含む湿気のある前記保護層を乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記懸濁液が、5~90重量%のSiO
x、特にコロイド状のSiO
x、および95~10重量%の懸濁剤、好ましくはアルコールまたは水、特に好ましくは脱イオン水を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記保護層を、Siを含む懸濁液の噴霧法、ブラッシング法、散布法、および/または浸漬法によってSi
xN
yを含む前記コーティングに塗布し、このようにして製造されたSiを含む湿気のある前記保護層を乾燥および/または酸化させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記懸濁液は、好ましくは5~90重量%のSi及び95~10重量%の懸濁剤、好ましくはアルコールまたは水、特に好ましくは脱イオン水を含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
Si層を空気雰囲気または酸素を豊富に含む不活性ガス雰囲気下で、800~1400℃の温度、好ましくは1050~1200℃の温度で酸化して、SiO
x層を形成することを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化の持続時間が0.5時間から12時間の範囲内であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
SiO
xまたはSiを含む前記懸濁液を塗布する際に、前記るつぼまたはSi
xN
yを含む前記コーティングが10℃~200℃の温度、好ましくは20℃~100℃の温度を有することを特徴とする、請求項2~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
SiO
xが、以下の特性のうち少なくとも1つを有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
・鉄の含有量が0ppm~5ppm、好ましくは0.5~2ppmであること、
・アルミニウムの含有量が0ppm~20ppm、好ましくは0.5~15ppmであること、
・鉄およびアルミニウム以外の金属の含有量が0ppm~5ppm、好ましくは0.5~2ppmであること、
・粒子径d50が0.05~100μm、好ましくは0.5~50μmであること、
・粒子径d90が0.01~200μm、好ましくは0.05~100μmであること。
【請求項10】
前記るつぼが、SiC、C、BN、pBN、Si
xN
y、SiO
x、およびこれらの混合物ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含む又はから構成されていることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
Si
xN
yを含む前記コーティングが、以下の特性の少なくとも1つを有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
・Si
xN
yの含有量が最大100重量%、好ましくは60重量%~100重量%、特に好ましくは80重量%~100重量%であること、
・厚さが10μm~2500μm、好ましくは100μm~1000μm、特に好ましくは300μm~600μmであること、
・平方平均粗さ値R
qが1μm~100μm、好ましくは5μm~20μmであること、
・前記るつぼの底部の接着強度が0.5MPa~5MPa、好ましくは1MPa~3MPaであること、
・空隙率が0.5%~60%、好ましくは1%~40%であること。
【請求項12】
Si
xN
yを含む前記コーティングが、Si
xN
yを含む懸濁液を前記るつぼの内面に塗布し、このようにして製造された湿気のあるSi
xN
yを含む前記コーティングを乾燥させることによって、製造されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
Si
xN
yを含む懸濁液が、好ましくは、以下の成分を有する組成物を有することを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
10重量%~60重量%のSi
xN
y、
30重量%~80重量%の有機溶媒または水、
0重量%~30重量%のシリコン、
0.5重量%~10重量%の分散剤、
0.01重量%~0.2重量%の消泡剤、および
0.05重量%~2重量%の有機バインダー、
ただし、各成分の配合率は100重量%までである。
【請求項14】
・Si
xN
yを含む懸濁液を、噴霧法、ブラッシング法、散布法、および/または浸漬法によって塗布し、および/または、
・Si
xN
yを含む懸濁液を塗布する際に、前記るつぼの温度が10℃~200℃、好ましくは20℃~100℃であり、および/または、
・Si
xN
yを含む懸濁液を、前記るつぼの少なくとも1つのさらなる内面に、好ましくは前記るつぼのすべての内面に追加的に塗布することを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ステップa)の後及びステップb)の前に、少なくとも1つのシードプレートを前記るつぼの底部に配置することを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのシードプレートは、単結晶シリコンもしくは多結晶シリコンから構成されるか、または含み、前記少なくとも1つのシードプレートは、好ましくは、結晶成長の方向において、前記シードプレートに垂直な配向(100、110または111)を有することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのシードプレートが、特に10×10cm、20×20cm、30×30cmの正方形、特に100cm×10cm、100cm×20cm、100×30cmの長方形、または特に直径が200もしくは300mmの円形であること、および/または、前記少なくとも1つのシードプレートが、1~10cmの厚さを有することを特徴とする、請求項11または12に記載の方法。
【請求項18】
方向性凝固によって粒子フリーかつ窒素フリーのシリコンインゴットを製造するためのるつぼであって、前記るつぼの内面は、全面または少なくとも一部の領域にSi
xN
yを含むコーティングを有し、その上に、窒素およびSi
xN
y粒子の侵入を低減または回避するためのSiO
xを含む保護層がシリコン中に蒸着されていることを特徴とする、るつぼ。
【請求項19】
SiO
xを含む前記保護層の厚さが10~2000μm、特に好ましくは50~1000μmであることを特徴とする、請求項18に記載のるつぼ。
【請求項20】
SiO
xを含む前記保護層は、平方平均粗さ値R
qが1~250μm、好ましくは5~150μmであることを特徴とする、請求項18または19に記載のるつぼ。
【請求項21】
SiO
xを含む前記保護層は、Si
xN
y層をコーティングした後、20~80%、好ましくは30%~70%の空隙率を有することを特徴とする、請求項18~20のいずれか1項に記載のるつぼ。
【請求項22】
前記るつぼの底部に少なくとも1枚のシードプレートを有することを特徴とする、請求項16~21のいずれか1項に記載のるつぼ。
【請求項23】
前記少なくとも1つのシードプレートが、単結晶もしくは多結晶シリコンから構成されるか、または含み、前記少なくとも1つのシードプレートは、好ましくは、結晶成長の方向において前記シードプレートに垂直な配向(100、110または111)を有することを特徴とする、請求項22に記載のるつぼ。
【請求項24】
前記少なくとも1つのシードプレートが、特に10×10cm、20×20cm、30×30cmの正方形、特に100cm×10cm、100cm×20cm、100×30cmの長方形、または特に直径200もしくは300mmの円形であること、および/または、前記少なくとも1つのシードプレートが、1~10cmの厚さを有することを特徴とする、請求項22または23に記載のるつぼ。
【請求項25】
窒素濃度<1E16 at/cm
3、好ましくは<5E15 at/cm
3、特に好ましくは<1E15 at/cm
3の窒素濃度を有する、シリコンインゴット。
【請求項26】
Si
xN
y粒子密度<10/cm
3、好ましくは<5/cm
3のSi
xN
y粒子密度を有することを特徴とする、請求項25に記載のシリコンインゴット。
【請求項27】
請求項1~17のいずれか1項に記載の方法に従って製造可能であることを特徴とする、請求項25または26に記載のシリコンインゴット。
【請求項28】
前記シリコンインゴットが、単結晶、準単結晶または多結晶シリコンから構成されることを特徴とする、請求項25~27のいずれか1項に記載のシリコンインゴット。
【請求項29】
方向性凝固によってシリコンインゴットを製造するための、請求項18~24のいずれか1項に記載のるつぼの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性凝固用いて粒子フリーかつ窒素フリーのシリコンインゴットを製造するための方法およびるつぼに関し、るつぼが提供され、当該るつぼの内面は、表面全体または少なくとも一部の領域においてSixNy(特にSi3N4)を含むコーティングを有し、当該コーティングは、窒素およびSixNy粒子のシリコンへの侵入を低減または回避するためのSiOx(1≦x≦2)を含む保護層で被覆される。また、本発明は、窒素またはSixNy粒子を実質的に含まないシリコンインゴットに関する。
【0002】
単結晶シリコンは、その物理的特性から、ミラー基板への使用に非常に適している。ここで、方向性凝固法は、約90×60×20cm3(長さ×幅×高さ)のミラー基板などの部品を製造するための大きなシリコンブロックを製造する方法として考えることができる。この方法はこれまで、ほとんどが太陽光電池用の多結晶または準単結晶のシリコンブロックを製造するために使用されてきた。他方、チョクラルスキー法やフローティングゾーン法などの広く普及しているシリコン単結晶の製造方法は、結晶の大きさが限られているため、当初より除外される。
【0003】
方向性凝固によって準単結晶シリコンブロックを製造する技術を確立した(準モノ技術)。ここでは、単結晶シリコンプレートをるつぼの底部に配置し、そこからるつぼ内で単結晶ブロックを凝固させる。準単結晶という用語は、シリコンブロックの最外周のエッジ部分に多結晶の成長が起こることに由来する。
【0004】
しかしながら、プロセスに関連する問題として、窒素及び炭素によるシリコン融液の汚染が挙げられる。窒素は、化学的溶解や機械的侵食によってシリコン融液からSixNyるつぼのコーティング(SixNy粒子)に導入される。炭素の多くは、炉内の大気を介してシリコン融液に混入する。いずれの場合も、シリコン融液中で溶解度が限界を超えると、SiC又はSixNy粒子が形成され、結晶化の過程で結晶に取り込まれる。さらに、SiC及びSixNyの析出物は、拡散プロセスの結果、凝固したシリコン中に形成され得る。経験上、そのような粒子の直径は、数マイクロメートルから約50μmの範囲である。加えて、SiCフィラメントまたはSixNyニードルは、その断面は粒子と同様の範囲であり、その長さは数ミリメートルになる。これらの粒子は、部品表面の調整(研磨)の際に、表面から引き剥がされたり、穴のような窪みを残したりして、表面におけるスクラッチ構造の原因となる。
【0005】
したがって、求められる表面品質で上述のシリコン部品、特にミラー基板を製造するためには、シリコン材料中のこれらの粒子/析出物を非常に小さく保つか(nmの範囲)、又は完全に避けなければならない。
【0006】
この問題を解決するための技術的なアプローチが、すでにPV業界で知られている。例えば、適切なガス管理システムを介してシリコン融液の表面にアルゴンの向流を構築することができ、この向流によってガス状の一酸化炭素(CO)のシリコン融液への侵入を抑えることができ、よってSiC析出物の形成を抑えることができる(WO2009100694A1)。しかしながら、この方法では炭素の導入を完全には回避することができないため、融液または結晶中にSiCが形成されるリスクが常に一定程度残る。
【0007】
さらに、電磁場を使用することで融液の対流に影響を与えることができることが知られており、SiCまたはSixNyの析出が起こる前の短時間で、シリコン結晶成長フロントの前にある窒素または炭素の過飽和を分解し、汚染された融液量をより少なくする(DE102010041061B4)。SiC及びSi3N4の析出を回避するためのこの間接的な方法は、非常に効果的である一方で、簡単ではなく、比較的高価であり、また、幾何学的な理由から、あらゆる結晶化炉に適用することはできない。加えて、準モノプロセスでは、融液の過剰な対流により、るつぼの底部にあるシードプレートが、強くあるいは不均一に融解しないように注意しなければならず、この技術に電磁攪拌(electromagnetic stirring)を使用することが困難である。
【0008】
しかしながら、これらの対策は、SixNyコーティングとシリコン融液との接触による窒素/SixNy粒子の導入を阻止するものではない。
【0009】
これに基づき、本発明の目的は、窒素およびSixNy粒子を実質的に含まないシリコンインゴットを製造するための方法を提供することであった。
【0010】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法、請求項18の特徴を有するるつぼ、および請求項25の特徴を有するシリコンインゴットを用いて達成される。請求項29は、本発明による使用を規定するものである。
【0011】
本発明によれば、方向性凝固を用いて粒子フリーかつ窒素フリーのシリコンインゴットを製造するための方法が提供される。
a)るつぼを用意し、前記るつぼの内面は、全面または少なくとも一部領域にSixNyを含むコーティングを有し、前記コーティングは、窒素およびSixNy粒子のシリコンへの侵入を低減または回避するために、SiOx(1≦x≦2)を含む保護層で被覆されており、
b)前記るつぼにシリコン原料を充填し、
c)前記シリコン原料を前記るつぼ内で溶融してシリコン融液を形成し、
d)前記シリコン融液を方向性凝固させることで、粒子フリーかつ窒素フリーのシリコンを形成する。
【0012】
驚くべきことに、SixNyるつぼのコーティングの表面に追加の保護層を適用することによって、窒素およびSixNy(特にSi3N4)の侵入を阻止、又は少なくとも大幅に減少できることが発見された。この保護層は、既存のSixNy層に噴霧される水性懸濁液中の高純度のナノまたはマイクロメートルサイズのSiOx粒子、特にSiO2粒子から構成され、実質的に構成され、または含む。噴霧のパラメータは、下層のSixNy層、特にSi3N4層が損傷を受けないように選択される。
【0013】
SiOx保護層は、シリコン融液とSixNyコーティングとの直接の接触を防ぐことで、融液の移動によるシリコンとSixNyとの化学溶解反応、およびSixNyコーティングの直接の侵食を防ぐ。凝固後、SiOx層はその濡れた状態での挙動により、シリコンブロックとの強固な結合を形成する。ブロックとるつぼとの分離面は、SiOx層とSixNy層との境界、SixNy層内、SixNy層とるつぼとの界面のいずれかになる(使用するSixNy層の接着性によって異なる)。
【0014】
保護層を、SiOxを含む懸濁液の噴霧法、ブラッシング法、散布法および/または浸漬法によってSixNyを含むコーティングに塗布し、このようにして製造されたSiOxを含む湿気のある保護層を乾燥させることが好ましい。懸濁液は、好ましくは、5~90重量%のSiOx、特にコロイド状のSiOx、及び95~10重量%の懸濁剤を含み、好ましくはアルコールまたは水、特に好ましくは脱イオン水を含む。
【0015】
さらに好ましい実施形態では、保護層を、Siを含む懸濁液の噴霧法、ブラシッング法、散布法、および/または浸漬法によってSixNyを含むコーティングに塗布し、このようにして製造されたSiを含む湿気のある保護層を乾燥および/または酸化させる。ここでの懸濁液は、好ましくは、5~90重量%のSi及び95~10重量%の懸濁剤を含み、好ましくはアルコールまたは水、特に好ましくは脱イオン水を含む。空気雰囲気または酸素を豊富に含む不活性ガス雰囲気下で、800~1400℃の温度、好ましくは1050~1200℃の温度でSi層を酸化し、SiOx層を形成することが好ましい。酸化の持続時間は、好ましくは0.5時間から12時間の範囲内である。
【0016】
SiOxまたはSiを含む懸濁液を塗布する際、SixNyを含むるつぼまたはコーティングは10℃~200℃の温度、好ましくは20℃~100℃の温度であることが好ましい。
【0017】
保護層のSiOxは、以下の特性のうち少なくとも1つを有することが好ましい。
・鉄の含有量が0ppm~5ppm、好ましくは0.5~2ppmであること、
・アルミニウムの含有量が0ppm~20ppm、好ましくは0.5~15ppmであること、
・鉄とアルミニウム以外の金属の含有量が0ppm~5ppm、好ましくは0.5~2ppmであること、
・粒子径d50が0.05~100μm、好ましくは0.5~50μm、特に好ましくは1~30μmであること、
・粒子径d90が0.01~200μm、好ましくは0.05~100μm、特に好ましくは0.1~50μmであること。
【0018】
粒子径は、確立されているレーザー散乱法やレーザー回折法を用いて測定することができる。
【0019】
可能な限り高密度の層を形成するためには、SiOxの粒子径が非常に小さくなるように選択されなければならない。このようにして初めて、保護層を介した窒素の拡散に対する十分なバリア効果を得ることができる。また、単層での配置では拡散に対する十分なバリア効果が得られないため、SiOxの単層で構成された保護層では、十分なバリア効果を得られないことがわかった。
【0020】
るつぼは、SiC、C、BN、pBN、SixNy、SiOx、およびこれらの混合物並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含む、又はから構成されていることが好ましい。
【0021】
さらに好ましい実施形態では、SixNyを含むコーティングが、以下の特性の少なくとも1つを有する。
・SixNyの含有量が最大100重量%、好ましくは60重量%~100重量%、特に好ましくは80重量%~100重量%であること、
・厚さが10μm~2500μm、好ましくは100μm~1000μm、特に好ましくは300μm~600μmであること、
・平方平均粗さ値Rqが1μm~100μm、好ましくは5μm~20μmであること、
・るつぼの底部の接着強度が0.5MPa~5MPa、好ましくは1MPa~3MPaであること、
・空隙率が0.5%~60%、好ましくは1%~40%であること。
【0022】
平方平均粗さ値R
qは以下のように求められる。
l
n = プロファイルラインの長さ、z = 粗さプロファイルのz方向の値(DIN EN ISO 4287:2010-07に従って決定)。
【0023】
接着力は、E DIN EN ISO 4624:2014-06:接着力を評価するためのプルオフテスト、またはDIN EN ISO 2409:2013-06:クロスカットテストに従って決定することができる。空隙率は、DIN-ISO 9277に従って、水銀ポロシメトリーまたはBET測定によって決定することができる。
【0024】
SixNyを含むコーティングは、SixNyを含む懸濁液をるつぼの内面の全面または少なくとも一部の領域に塗布し、このようにして得られた湿気のあるSixNyを含むコーティングを乾燥させることで製造されるのが好ましい。
【0025】
SixNyを含む懸濁液は、好ましくは、以下の成分を有する組成物を有する。
10重量%~60重量%のSixNy、
30重量%~80重量%の有機溶媒または水、
0重量%~30重量%のシリコン、
0.5重量%~10重量%の分散剤、
0.01重量%~0.2重量%の消泡剤、および
0.05重量%~2重量%の有機バインダー、
ただし、各成分の配合率は100重量%までである。
【0026】
SixNyを含む懸濁液は、噴霧法、ブラッシング法、散布法、および/または浸漬法によって塗布されることが好ましい。SixNyを含む懸濁液を塗布する際、るつぼは、好ましくは10℃~200℃、より好ましくは20℃~100℃の温度であることが好ましい。
【0027】
本発明に係る方法のさらに好ましい変形例では、ステップa)の後及びステップb)の前に、少なくとも1つのシードプレートが、特にベースプレートとしてるつぼに導入される。これは、るつぼの底部に垂直な方向にシリコンを核形成するために使用される。このシードプレートは、好ましくは、単結晶または多結晶シリコンから形成され、すなわち、単結晶もしくは多結晶シリコンから構成されるか、または単結晶もしくは多結晶シリコンを含む。このシードプレートの材料は、好ましくは、結晶成長の方向において、シードプレートに垂直な配向(100、110または111)を有する。
【0028】
シードプレートの寸法は、可能な最大面積に関し、るつぼの表面によって規定される。
しかしながら、複数のシードプレートをるつぼ内に配置することもできるように、より小さな面積のシードプレートが選択されることが好ましい。本発明に係るシードプレートは、好ましくは、正方形の形状(例えば、10×10cm、20×20cm、30×30cm)、長方形(100cm×10cm、100cm×20cm、100×30cm)、または円形(直径200または300mm)のいずれかであることが好ましい。次いで、複数のシードプレートは、るつぼの底部を可能な限り覆うようにする。さらに好ましい実施形態では、複数のシードプレートをるつぼの底部に格子状に配置する。例えば、円形のシードプレートの場合は、200または300mmの直径を有する3×3の格子状または4×4の格子状として配置する。
【0029】
少なくとも1枚のシードプレートの厚さは、好ましくは1~10cm、特に好ましくは3~7cmの範囲である。
【0030】
また、本発明によれば、方向性凝固を用いて粒子フリーかつ窒素フリーのシリコンインゴットを製造するためのるつぼであって、当該るつぼの内面は、全面または少なくとも一部の領域にSixNyを含むコーティングを有し、その上に、窒素やSixNy粒子の侵入を低減または回避するためのSiOxを含む保護層がシリコン中に蒸着されていることを特徴とするるつぼが提供される。
【0031】
本発明によれば、SiOx層は一定の厚さの範囲になければならず、実質的に、炉/結晶成長プロセスのそれぞれにおけるSiOx層の溶解/浸食速度に依存することがわかった。
【0032】
当該層の塗布が薄すぎると、Si融液とSixNy層との接触のために、完全に侵食され、有利な効果を得ることができない。また、当該層の塗布が厚すぎると、上述の固着やSiOx及びシリコンの膨張係数の違いにより、冷却時にシリコンブロックに亀裂が発生することがある。結晶化プロセス後の層の厚さは、200~500μmが理想的であることがわかった。したがって、当初塗布された層の厚さは、200~500μm+当該プロセスで侵食された層の厚さの範囲内とする必要がある。したがって、SiOxを含む保護層は、10~2000μm、特に好ましくは50~1000μmの厚さを有することが好ましい。
【0033】
さらに好ましい実施形態では、SiOxを含む保護層が、1~250μm、好ましくは5~150μmの平方平均粗さ値Rqを有する。
【0034】
さらに、SiOxを含む保護層は、SixNy層をコーティングした後の空隙率が20~80%、好ましくは30~70%であることが好ましい。
【0035】
また、本発明によれば、窒素濃度<1E16 at/cm3、好ましくは<5E15 at/cm3、特に好ましくは<1E15 at/cm3の窒素濃度を有するシリコンインゴットが提供される。
【0036】
シリコンブロックは、好ましくはSixNy粒子密度が<10/cm3、好ましくは<5/cm3のSixNy粒子密度を有する。
【0037】
シリコンインゴットは、好ましくは、請求項1~9のいずれか1項に記載の上述の方法で製造することができる。
【0038】
インゴットは、単結晶、準単結晶、あるいは多結晶シリコンから構成されるか、または実質的に構成されることが好ましい。
【0039】
本発明による主題は、ここに示された特定の形態に限定されることなく、以下の図および例を用いてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、本発明に係るシリコンインゴットの窒素濃度をインゴットの高さ方向に渡って示した図である。
【0041】
図1は、本発明に係るシリコンインゴットの窒素濃度をインゴットの高さ方向に渡って示す図を使用しており、それぞれがインゴットの中心で測定されている。
【0042】
例示的な実施形態
第1の例示的な実施形態では、一連の実験室における結晶化実験を実施した(Siの初期重量1.1kg、インゴットの寸法は直径100mm、高さ60mm)。まず、SiO
2保護層なしでリファレンスを成長させた。その結果、FTIRで測定したインゴット内の窒素濃度は、ここでは[N]≧1E16 at/cm
3(
図1参照)となり、窒素の溶解限界の範囲内にあるため、析出物の形成につながった。
【0043】
非常に薄いSiO2保護層(2U)を塗布する場合、ブロックの大部分の濃度はすでにFTIR測定法の検出限界である1E15 at/cm3を下回る。~2E15 at/cm3の値は、ブロックの端部でのみ測定することができ、これはSiO2層の溶解を示す。厚みを増すと(4Uまたは8U)、FTIRを用いて実質的に窒素を測定することができず、すなわち常に1E15 at/cm3以下であり、Si3N4の析出が確実に回避される。さらに、Si3N4粒子が溶融物に混入していないと推定することができる。そうでなければ、Si3N4粒子が窒素溶解度に達するまで溶解し、したがって窒素が検出されるはずであるからである。20Uの厚さを有するSiO2コーティングの場合、SiO2層及びSiブロックの異なる熱膨張のために、ブロック下部に亀裂が発生した。
【0044】
SiO
2層を用いた実験と比較して、
図1ではさらに強制的な溶融対流を用いた実験を行った。しかしながら、窒素の値は、沈殿物の形成が窒素の侵入を完全には回避できないことを示している。
【国際調査報告】