(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-08
(54)【発明の名称】コロナウイルススパイクタンパク質の改変されたS1サブユニット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/50 20060101AFI20220701BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20220701BHJP
C07K 14/165 20060101ALI20220701BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220701BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220701BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220701BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220701BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220701BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220701BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220701BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220701BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220701BHJP
A61K 39/215 20060101ALI20220701BHJP
【FI】
C12N15/50
C12N15/10 200Z
C07K14/165 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
A61P11/00
A61P31/14
A61P37/04
A61K39/215
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566318
(86)(22)【出願日】2020-05-06
(85)【翻訳文提出日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 EP2020062526
(87)【国際公開番号】W WO2020229248
(87)【国際公開日】2020-11-19
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】505258715
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Boehringer Ingelheim Vetmedica GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】クレーマー-キュール アニカ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン トーマス ミン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ハンス-クリスティアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA71
4C085CC08
4C085CC21
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4C085GG08
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
本発明はとりわけ、アミノ酸267位のシステインへの突然変異を含む、組換えトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片に関する。さらに、本発明は、そのようなスパイクタンパク質を有するトリコロナウイルスを含む、免疫原性組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
S1サブユニットの少なくとも一部が、限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルス由来であり、アミノ酸267位がシステインである、トリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【請求項2】
アミノ酸267位におけるシステインへの突然変異を含む、組換えトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【請求項3】
トリコロナウイルスがIBV(感染性気管支炎ウイルス)である、請求項1または2に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【請求項4】
アミノ酸267位のシステインが突然変異により導入されている、請求項1に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【請求項5】
アミノ酸267位のシステインまたはアミノ酸267位におけるシステインへの前記突然変異が、トリコロナウイルスの拡張された細胞または組織指向性を導く、請求項1~4のいずれか1項に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【請求項6】
トリコロナウイルスが、DF-1(Douglas Foster)、PBS-12、PBS-12SF(PBS-12無血清)、BHK21(ベビーハムスター腎臓)、HEK293T(ヒト胚性腎臓)、Vero(Verda Reno)、MA104、RK13(ウサギ腎臓)、LMH(レグホンオス肝細胞癌)、MDCK(Madin-Darbyイヌ腎臓)、MDBK(Madin-Darbyウシ腎臓)、PK15(ブタ腎臓)、PK2A(ブタ腎臓)、SF9、SF21およびSF+(スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda))からなるリストから選択される少なくとも1種の細胞系において感染および/または複製する、請求項1~5のいずれか1項に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【請求項7】
配列番号1のアミノ酸配列が、スパイクタンパク質における位置番号付けを決定するのに使用される、請求項1~6のいずれか1項に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【請求項8】
アミノ酸267位がスパイクタンパク質のS1サブユニット内にある、請求項1~7のいずれか1項に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【請求項9】
スパイクタンパク質がIBV Beaudette株由来でない、請求項3~8のいずれか1項に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【請求項10】
スパイクタンパク質が、Arkansas、Brazil、California、Connecticut、Delaware、Dutch、Florida、Georgia、Gray、Holte、Iowa、Italy-02、JMK、LDT3、Maine、H52、H120、M41、Pennsylvania、PL84084、Qu、QX、Q1、SE17、バリアント2および4/91からなるリストから選択される遺伝子型または血清型または株を有するIBV由来である、請求項3~9のいずれか1項に記載のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【請求項11】
IBVスパイクタンパク質またはその断片が、GI-2~27、GII-1、GIII-1、GIV-1、GV-1、GVI-1からなる遺伝子型のリストから選択される、請求項3~10のいずれか1項に記載のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【請求項12】
IBVスパイクタンパク質またはその断片が、配列番号2、3、4、5、6、7、8、77に示されるアミノ酸配列、またはこれらに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%もしくは99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、またはそれを含む、請求項3~11のいずれか1項に記載のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【請求項13】
S1サブユニットの前記少なくとも一部が、Arkansas、Brazil、California、Connecticut、Delaware、Dutch、Florida、Georgia、Gray、Holte、Iowa、Italy-02、JMK、LDT3、Maine、H52、H120、M41、Pennsylvania、Pennsylvania、PL84084、Qu、QX、Q1、SE17、バリアント2および4/91からなる遺伝子型または血清型または株のリストから選択されるIBV由来である、請求項3~12のいずれか1項に記載のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【請求項14】
限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルスまたはIBVが、胚含有鶏卵および/または初代ニワトリ腎臓細胞における感染および/または複製に限定される、請求項1および3~13のいずれか1項に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のスパイクタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列。
【請求項16】
請求項15に記載のヌクレオチド配列を含むプラスミド。
【請求項17】
請求項16に記載のプラスミドを含む細胞。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか1項に記載のスパイクタンパク質またはその断片を含むウイルス粒子。
【請求項19】
請求項1~14のいずれか1項に記載のスパイクタンパク質もしくはその断片を含むトリコロナウイルス、または請求項3~14のいずれか1項に記載のスパイクタンパク質を含むIBV(感染性気管支炎ウイルス)。
【請求項20】
トリコロナウイルスまたはIBVが弱毒化されている、請求項19に記載のトリコロナウイルスまたはIBV。
【請求項21】
- 請求項18に記載のウイルス粒子、または
- 請求項19に記載のトリコロナウイルスもしくはIBV
を含む細胞。
【請求項22】
- 請求項1~14のいずれか1項に記載のスパイクタンパク質、または
- 請求項18に記載のウイルス粒子、または
- 請求項19に記載のトリコロナウイルスもしくはIBV
を含む免疫原性組成物。
【請求項23】
請求項1~14のいずれか1項に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、拡張された細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルスの生成または製造のための方法。
【請求項24】
請求項1~14のいずれか1項に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、細胞または組織培養物においてトリコロナウイルスを培養するための方法。
【請求項25】
コロナウイルススパイクタンパク質が、請求項3~14のいずれか1項に記載のIBV(感染性気管支炎ウイルス)スパイクタンパク質である、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
請求項22に記載の免疫原性組成物を対象に投与するステップを含む、そのような対象を免疫化するための方法。
【請求項27】
それを必要とする対象においてIBVにより引き起こされる臨床徴候を処置または防止する方法であって、治療有効量の請求項22に記載の免疫原性組成物を対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項28】
それを必要とする対象において、同じ種の免疫化されていない対照群の対象と比較して線毛運動障害を低減させる方法であって、治療有効量の請求項22に記載の免疫原性組成物を対象に投与するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、37 C.F.R. 1.821 - 1.825による配列表を含む。本出願に添付の配列表は、これにより参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
トリコロナウイルス感染性気管支炎ウイルス(IBV)は、ニドウイルス目(Nidovirales)コロナウイルス科(Coronaviridae)のプロトタイプのガンマコロナウイルスである。感染性気管支炎ウイルスは主として、ニワトリの上部呼吸器上皮に感染し、一般的には二次細菌病原体によって併発する呼吸器疾患を引き起こす(Cook et al. 2012. Avian Pathol. 41:239-250)。いくつかのIBV株はさらに、尿細管、卵管および消化管の一部にも発症し、これらの器官系における病理学的な病変および臨床徴候をもたらす。このウイルスは、市販および裏庭のニワトリの両方において世界的に存在する。ゲノムの変動性の高さにより、IBVは、広範の遺伝子型、血清型および保護型(protectotype)に区別される。IBVは、現在、家禽産業において最も経済的に関連のあるウイルス病原体であると考えられている。
【0003】
感染性気管支炎ウイルスは、27.6kbの一本鎖プラス鎖RNAゲノムを有するエンベロープ型ウイルスである(Cavanagh 2007. Vet. Res. 38:281-297)。前記ウイルスゲノムの最初の3分の2は、大きなコード領域を含み(遺伝子1とも指定される)、これは、2つのオープンリーディングフレーム1aおよび1bに分割され、これらは、RNA複製、編集および転写に関与する少なくとも15の非構造タンパク質をコードする。ウイルスゲノムの最後の3分の1は、構造タンパク質である、スパイクタンパク質(S、遺伝子2によりコードされる)、エンベロープタンパク質(E、遺伝子3cによりコードされる)、膜タンパク質(M、遺伝子4によりコードされる)およびヌクレオカプシドタンパク質(N、遺伝子6によりコードされる)をコードする。タンパク質S、EおよびMは、ウイルスエンベロープの一部であり、一方、タンパク質Nは、ウイルスRNAとともにリボヌクレオタンパク質コアを形成する。コロナウイルススパイクタンパク質は、宿主種の指向性を決定する(Kuo et al. 2000. J. Virol. 74:1393-1406)。これは、二量体または三量体の膜貫通タンパク質であり、タンパク質分解により2つのサブユニット、S1およびS2に切断される。グリコシル化S1ドメインは、スパイクタンパク質の「頭部」を形成し、宿主細胞表面上の2,3-結合シアル酸と相互作用する受容体結合ドメインを含む(Promkuntod et al. 2014. Virology. 448:26-32)。S2ドメインは、外部ドメインの残りの部分(「ストーク」)、膜貫通ドメインおよび細胞質に位置する内部ドメインを含む。
【0004】
現在まで広く使用されている生弱毒化IBVワクチン株H52およびH120は、Massachusetts IBV株を胚含有鶏卵において連続的に継代することにより、1960年代にオランダで開発された(Bijlenga et al. 2004; Avian Pathol. 33:550-557)。前記ワクチン株はまた、生成のために胚含有鶏卵内で培養しなければならない。今日において、IBVワクチン(不活化ワクチンおよび生ワクチンの両方)は、未だに胚含有鶏卵内で培養されており、これは厄介かつ高価である。
これまでのところ記載されている、唯一の細胞系適応IBVは、IBV株Beaudetteであり、これは、Vero細胞およびBHK細胞において効率的に複製する。Casais et al 2003 (J. Virol. 77; 9084-9089)は、拡張した細胞系指向性を他のIBV(M41)に移行することが可能であった、Beaudetteスパイクの外部ドメイン配列を使用して組換えIBVを作製することにより、BeaudetteのSタンパク質が、細胞系指向性の決定因子であることを示している。国際公開第2011/004146号は、Beaudette由来のS2サブユニットが、拡張した組織指向性の原因となっていることを開示している。Beaudette由来のへパラン流酸結合部位である、S2サブユニット内の配列は、細胞系指向性の拡張の原因であることが特定されている。さらに、Bickerton et al 2018 (Journal of Virology 92 (19))は、8アミノ酸のBeaudette特異的なモチーフを開示している。しかし、BeaudetteスパイクS2サブユニットを有する組換えIBVは、ワクチンとしては適切ではない。Ellis et al 2018 (J. Virol. 92(23))は、M41またはQX由来の異種性S1サブユニットを、BeaudetteスパイクS2サブユニットと組み合わせて有するキメラスパイクを有する組換えBeaudetteが、S1同種性暴露に対する十分な保護を付与するものではないことを記載している。また、Beaudette野生型は、Massachusetts血清型に属する他の認可ワクチンと同様に、同種性暴露に対する保護を提供しない(Hodgson et al 2004: J Virol 78:13804-13811またはGeilhausen et al 1973: Archiv fur die gesamte Virusforschung 40: 285-290)。
【0005】
Fang et al 2005 (Biochemical and Biophysical Reaearch Communication 336; pages 417 to 423)は、Vero細胞における増殖のためのBeaudetteの適応は、49のアミノ酸改変をもたらし、26はスパイクタンパク質中に位置していたことを開示している。
合わせると、スパイクタンパク質を異種性Beaudetteスパイクタンパク質に交換することにより、拡張された細胞または組織指向性を有するIBVワクチンを提供することは、十分な有効性を提供するIBVワクチンをもたらすものではなく、Beaudetteスパイク配列は、Massachusetts血清型株の暴露に対する保護に限定されており、さらなる遺伝子型に対する交差保護は見られない。さらに、Beaudetteにおいて同定された、先行技術のモチーフおよび部位は、拡張された細胞培養または組織指向性および保護の有効性の両方を示すIBVワクチンには移行されていない(指向性の拡張とワクチン有効性の間の相互参照は示されていない)。
結果として、ワクチン有効性に影響を及ぼすことなく、生成のための拡張された細胞または組織指向性を可能にする、IBVまたはIBVワクチンに移行された、単一のアミノ酸または短いモチーフが必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の態様を記載する前に、本明細書中および添付の特許請求の範囲で使用されている、単数形形態「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに異ならない限り、複数の言及を含むことは理解されなければならない。したがって、「1の抗原(an antigen)」に対する言及は、複数の抗原を含み、「ウイルス(virus)」への言及は、1種または複数のウイルスおよび当技術分野の当業者に公知の等価物等に対する言及である。特に断らない限り、本明細書で使用する全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料を本発明の実施または試験に使用してもよいが、好ましい方法、デバイスおよび材料はここに記載されている。本明細書で言及する全ての刊行物は、本発明と関連して使用する可能性のある、刊行物に報告されている細胞系、ベクターおよび方法論を記載する目的のために、参照により本明細書に組み込まれる。本発明が、先行発明によるそのような記載に先立つ権利を有するものではないという承認であるとみなされるべきものは本明細書中に存在しない。
【0007】
組成物
本発明は、先行技術に固有の問題を解決し、当技術分野の状態に顕著な進歩を提供する。
一般的に、本発明は、S1サブユニットの少なくとも一部が、限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルス由来であり、アミノ酸267位がシステインである、トリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片を提供する。
さらに、本発明は、アミノ酸267位におけるシステインへの突然変異を含む、組換えトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片を提供する。
一般的に、本発明はまた、S1サブユニットの少なくとも一部が、限定的な細胞または組織指向性を有するIBV由来であり、アミノ酸267位がシステインである、IBVスパイクタンパク質またはその断片を提供する。
さらに、本発明は、アミノ酸267位におけるシステインへの突然変異を含む、組換えIBVスパイクタンパク質またはその断片を提供する。
【0008】
好都合なことに、試験データは、コロナウイルス株(例えば、H52、QX SP2013-01478およびCR88 IBV株等の株)は、スパイクタンパク質内の単一の位置である、267位をシステインに改変した後に、拡張された細胞または組織指向性を有することを示している。
「コロナウイルス」という用語は、当技術分野の当業者には周知である。一般的には、コロナウイルスは、ニドウイルス目、コロナウイルス科、コロナウイルス亜科(Coronavirinae)のウイルスである。コロナウイルスは、エンベロープ型ウイルスであり、螺旋型の対称性のヌクレオカプシドを有する、一本鎖プラス鎖RNAを有する。「コロナウイルス」という用語は、感染性気管支炎ウイルスの全ての株、遺伝子型、保護型および血清型を含む。トリコロナウイルスの例は、感染性気管支炎ウイルス(IBV)、ホロホロチョウコロナウイルス(GfCoV)およびシチメンチョウコロナウイルス(TCoV;シチメンチョウ腸炎ウイルスおよびブルーコム病ウイルス)である。
【0009】
「IBV」という用語は、当技術分野の当業者に周知である感染性気管支炎ウイルスを指す。「IBV」という用語は、感染性気管支炎ウイルスの全ての株、遺伝子型、保護型および血清型を含む。
「突然変異」という用語は、ウイルスRNAコードタンパク質中の、前記コードタンパク質の変更をもたらす改変を含む。さらに、「突然変異」という用語は、一般的に、遺伝子操作された突然変異を含む。突然変異という用語は、置換(1つまたはいくつかのヌクレオチド/塩基対の置換)、欠失(1つ、いくつか、または全てのヌクレオチド/塩基対の除去)、および/または挿入(1つまたはいくつかのヌクレオチド/塩基対の付加)に関するが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、突然変異は、単一の突然変異であっても、またはいくつかの突然変異であってもよく、したがって、使用される「突然変異」という用語はしばしば、単一の突然変異およびいくつかの突然変異の両方に関する。しかし、突然変異という用語は、当技術分野の当業者に周知であり、当技術分野の当業者は、容易に突然変異を作製することができる。
【0010】
「スパイク」という用語は、当技術分野の当業者に周知の、トリコロナウイルスまたはIBVの特定のタンパク質を指す。前記スパイクタンパク質は、抗体および保護免疫応答の主要な誘発因子である。さらに、スパイク(S)タンパク質は、宿主細胞上の細胞受容体に結合し、また、宿主細胞膜との、ウイルス-細胞膜融合を媒介することにより、トリコロナウイルスまたはIBVの細胞侵入を促進する。さらに、これは、ウイルス株の組織および細胞指向性を決定する。
「タンパク質」、「アミノ酸」および「ポリペプチド」という用語は、互換的に使用される。「タンパク質」という用語は、天然に存在するアミノ酸ならびにその誘導体から構成されるアミノ酸の配列を指す。天然に存在するアミノ酸は、当技術分野において周知であり、生化学の標準的な教科書に記載されている。アミノ酸配列内において、アミノ酸はペプチド結合により連結されている。さらに、アミノ酸配列の2つの末端は、カルボキシル末端(C末端)およびアミノ末端(N末端)と称する。「タンパク質」という用語は、本質的に精製されたタンパク質または、加えて他のタンパク質を含むタンパク質調製物を含む。さらに、前記用語はまた、タンパク質断片にも関する。さらに、これは、化学修飾されたタンパク質を含む。そのような修飾は、人工的な修飾であっても、または天然に存在する修飾、例えばリン酸化、グリコシル化、およびミリスチル化等であってもよい。
【0011】
267位の突然変異
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の一態様では、アミノ酸267位におけるシステインは、突然変異により導入される。「導入された」という語句は、突然変異が遺伝子操作により(人工的に、例えば人の介入によって)導入されていることを意味する。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、突然変異はアミノ酸置換、欠失または挿入である。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位における疎水性アミノ酸をシステインに突然変異させるか、またはアミノ酸267位におけるフェニルアラニンまたはロイシンをシステインに突然変異させる。
拡張された細胞または組織指向性
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位におけるシステインまたは、アミノ酸267位におけるシステインへの前記突然変異は、トリコロナウイルスまたはIBVの拡張された細胞または組織指向性を導く。
「細胞または組織」という用語は、当技術分野の当業者には公知である。細胞という用語は、細胞系、例えば本明細書の他の箇所に列挙した細胞系ならびに初代細胞を含む。組織という用語は、本明細書の他の箇所に列挙するような、組織由来の細胞、例えば、肺または肝臓由来の初代ニワトリ胚細胞、または初代ニワトリ線維芽細胞を含む。前記用語は、生物の体外で培養されている細胞または組織(細胞)の増殖を含む。「培養」という用語は、当技術分野の当業者には公知の規定された培養条件外の細胞(例えば細胞系細胞または初代細胞または組織細胞)の増殖に関する。
【0012】
「拡張された指向性」という用語は、本発明のトリコロナウイルスまたはIBVが、細胞(例えば細胞系)または組織細胞(腎臓由来の初代ニワトリ胚細胞に加えて)中で増殖し得ることを意味している。対照的に、コロナウイルスワクチン(例えばIBVワクチン)または非細胞培養適応野生型コロナウイルスまたはIBV’s(細胞系適応IBV Beaudette株が記載されている)は、胚含有鶏卵または腎臓由来の初代ニワトリ胚細胞(適応後)でのみ増殖し得る。したがって、拡張された細胞または組織指向性を有する本発明のコロナウイルス(例えば、IBV)は、腎臓由来の初代ニワトリ胚細胞以外の1種または複数の細胞系または組織細胞において感染および/または複製する能力を有する。好ましくは、拡張された細胞または組織指向性を有する本発明のコロナウイルス(例えばIBV)は、本明細書に列挙する1種または複数の細胞系において感染および/または複製する能力を有する。したがって、例えば、拡張された細胞または組織指向性を有するコロナウイルスまたはIBVは、PBS-12SF、EB66またはHEK 293T細胞において感染および/または複製する能力を有する。
【0013】
「限定的な指向性」という用語は、トリコロナウイルスまたはIBVが、もしあったとしても、腎臓由来の初代ニワトリ胚細胞上でのみ増殖できることを意味する。したがって、限定的な細胞または組織指向性を有するコロナウイルスまたはIBVは、例えば、PBS-12SF、EB66またはHEK 293T細胞において、感染および/または複製する能力を持たない。
好都合なことに、試験データは、IBV株、例示的にはH52およびCR88等が、スパイクタンパク質中の単独の位置である、267位をシステインに改変した後、拡張された細胞または組織指向性を有することを示している。さらに、267位におけるシステインへの改変は遺伝的に安定であることが示されている。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVは、肺または肝臓由来の初代ニワトリ胚細胞または初代ニワトリ線維芽細胞、ニワトリ胚線維芽細胞系、アヒル胚幹細胞系、ヒト胚性腎臓細胞系、ベビーハムスター腎臓細胞系、アフリカミドリザル腎臓細胞系、ウサギ腎臓細胞系、イヌ腎臓細胞系、ニワトリ肝臓細胞系、ウシ腎臓細胞系、ブタ腎臓細胞系および昆虫細胞系からなるリストから選択される少なくとも1種の細胞系または細胞において感染および/または複製している。
【0014】
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、トリコロナウイルスは、DF-1(Douglas Foster)、EB66(アヒル胚幹細胞系)、PBS-12、PBS-12SF(PBS-12無血清)、BHK21(ベビーハムスター腎臓)、HEK 293T(ヒト胚性腎臓)、Vero(Verda Reno)、MA104、RK13(ウサギ腎臓)、LMH(レグホンオス肝細胞癌)、MDCK(Madin-Darbyイヌ腎臓)、MDBK(Madin-Darbyウシ腎臓)、PK15(ブタ腎臓)、PK2A(ブタ腎臓)、SF9、SF21およびSF+(スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda))からなるリストから選択される少なくとも1種の細胞系において感染および/または複製している。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVは、DF-1、EB66、PBS-12、PBS-12SF、BHK、HEK 293T、Vero、MA104およびRK13からなるリストから選択される少なくとも1種の細胞系において感染および/または複製している。
【0015】
好ましくは、IBVは、EB66、PBS-12SFまたはHEK293T細胞系において感染および/または複製している。
言及する全ての細胞系は、当技術分野の当業者には周知であり、市販されている、および/または公的に入手可能である。例示的にはMDCK細胞は、American Tissue Culture Collectionに受託番号ATCC CCL-34またはATCC CRL-2285で寄託されている。例示的には、DF-1細胞は、American Tissue Culture Collectionに受託番号ATCC CRL-12203で寄託されている)。例示的には、PBS-12SF細胞は、American Tissue Culture Collectionに受託番号ATCC PTA-8565で寄託されているか、またはRRIDにCVCL_1K17で寄託されている。例示的には、BHK-21細胞は、American Tissue Culture Collectionに受託番号ATCC CCL-10で寄託されている。HEK 293T細胞は、例示的には、American Tissue Culture Collectionに受託番号ATCC CRL-3216で寄託されている。Vero細胞は、例示的には、American Tissue Culture Collectionに受託番号ATCC CCL-81で寄託されている。MA104および細胞は、例示的には、American Tissue Culture Collectionに受託番号ATCC CRL-2378で寄託されている。RK13細胞は、例示的には、American Tissue Culture Collectionに受託番号ATCC CCL-37で寄託されている。
【0016】
アミノ酸267位の番号付け
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位の番号付けは、IBV H52、IBV H120またはM41のスパイクタンパク質のアミノ酸267位を指す。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位の番号付けは、IBV H52のスパイクタンパク質のアミノ酸267位を指す。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位の番号付けは、例示的には配列番号1に示すスパイクタンパク質のアミノ酸267位を指す。
【0017】
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、配列番号1のアミノ酸配列は、スパイクタンパク質中の位置番号付けを決定するために使用される。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、スパイクタンパク質のアミノ267位を決定するために、アミノ酸配列を、配列番号1のアミノ酸配列に整列させる。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位は、スパイクタンパク質のS1サブユニット内にある。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位は、IBV CR88のスパイクタンパク質のアミノ酸269位に対応する。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位は、IBV QXのスパイク配列のアミノ酸270位に対応する。
【0018】
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位は、IBV Q1のスパイク配列のアミノ酸271位に対応する。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位は、IBVバリアント2のスパイク配列のアミノ酸270位に対応する。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位は、IBV Brazilのスパイク配列のアミノ酸274位に対応する。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、アミノ酸267位は、IBV Ark99のスパイク配列のアミノ酸274位に相当する。
【0019】
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、スパイクタンパク質は、以下からなる群から選択される次のアミノ酸の1つ以上を有する、
- 264位がアスパラギンである、および/または
- 265位がスレオニンである、および/または
- 269位がロイシンである、および/または
- 271位がアスパラギンである、および/または
- 272位がフェニルアラニンである。
前記アミノ酸位置の番号付けは、例示的には配列番号1に示すスパイクタンパク質中のアミノ酸位置を指す。
スパイク
本発明は、また、上述のスパイクタンパク質またはその断片を提供し、ここで、スパイクタンパク質またはその断片は、感染性気管支炎ウイルス(IBV)、ホロホロチョウコロナウイルス(GfCoV)、シチメンチョウコロナウイルス(TCoV;シチメンチョウ腸炎ウイルスおよびブルーコム病ウイルス)、ネコ感染性腹膜炎ウイルス(FIPV)、ネコ腸内コロナウイルス(FECV)、感染性胃腸炎ウイルス(TGEV)、ブタ呼吸器コロナウイルス(PRCoV)、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、ブタ赤血球凝集脳脊髄炎ウイルス(PHEV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63)、ヒトコロナウイルスHKU1(HCoV-HKU1)、ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)、イヌコロナウイルス(CCoV)、イヌ呼吸器コロナウイルス(CRCoV)、マウス肝炎ウイルス(MHV)、ウシコロナウイルス(BCV)からなる群から選択される。したがって、本発明はまた、コロナウイルススパイクタンパク質またはその断片を提供し、ここで、S1サブユニットの少なくとも一部は、限定的な細胞または組織指向性を有するコロナウイルス由来であり、アミノ酸267位はシステインであり、スパイクタンパク質は、感染性気管支炎ウイルス(IBV)、ホロホロチョウコロナウイルス(GfCoV)、シチメンチョウコロナウイルス(TCoV;シチメンチョウ腸炎ウイルスおよびブルーコム病ウイルス)、ネコ感染性腹膜炎ウイルス(FIPV)、ネコ腸内コロナウイルス(FECV)、感染性胃腸炎ウイルス(TGEV)、ブタ呼吸器コロナウイルス(PRCoV)、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、ブタ赤血球凝集脳脊髄炎ウイルス(PHEV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63)、ヒトコロナウイルスHKU1(HCoV-HKU1)、ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)、イヌコロナウイルス(CCoV)、イヌ呼吸器コロナウイルス(CRCoV)、マウス肝炎ウイルス(MHV)、ウシコロナウイルス(BCV)からなる群から選択される。さらに、本発明はまた、アミノ酸267位におけるシステインへの突然変異を含む、組換えコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片を提供し、ここで、スパイクタンパク質は、感染性気管支炎ウイルス(IBV)、ホロホロチョウコロナウイルス(GfCoV)、シチメンチョウコロナウイルス(TCoV、シチメンチョウ腸炎ウイルスおよびブルーコム病ウイルス)、ネコ感染性腹膜炎ウイルス(FIPV)、ネコ腸内コロナウイルス(FECV)、感染性胃腸炎ウイルス(TGEV)、ブタ呼吸器コロナウイルス(PRCoV)、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、ブタ赤血球凝集脳脊髄炎ウイルス(PHEV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63)、ヒトコロナウイルスHKU1(HCoV-HKU1)、ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)、イヌコロナウイルス(CCoV)、イヌ呼吸器コロナウイルス(CRCoV)、マウス肝炎ウイルス(MHV)、ウシコロナウイルス(BCV)からなる群から選択される。
【0020】
本発明によるトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、トリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片は、感染性気管支炎ウイルス(IBV)、ホロホロチョウコロナウイルス(GfCoV)およびシチメンチョウコロナウイルス(TCoV、シチメンチョウ腸炎ウイルスおよびブルーコム病ウイルス)からなる群から選択される。
【0021】
本発明によるトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、トリコロナウイルスは、IBV(感染性気管支炎ウイルス)である。
IBV株は、血清型および遺伝子型によって分類し得る。血清型分類は、中和抗体によるウイルスの処置を伴い、遺伝子型分類は、一般的に、S1(スパイク)タンパク質の配列を試験することを伴う。しかし、異なるIBV株は、当技術分野の当業者には周知である。感染性気管支炎ウイルスは、最初に1930年代に米国で発見された。
同定された第1のIBV血清型は、Massachusettsであり、1956年に異なるIBV血清型が発見されるまで、唯一の血清型であり続けた。現在、ArkansasおよびDelawareを含むいくつかのさらなる血清型が、最初に同定されたMassachusetts型に加えて、米国で同定されている。今日では、IBV Massウイルスは、世界の多くの国で同定し得る。
【0022】
IBV株Beaudetteは、Massachusetts型のものであり、ニワトリ胚において少なくとも150継代後に得られた。IBV株Beaudetteは、元々BeaudetteおよびHudsonにより単離され(J. Am. Vet. Med. A. 90, 51-60, 1937)、ニワトリ胚において継代した。Beaudette以外の、他のMassachusetts型IBV株は、H120、H52およびM41である。H120株は、胚含有鶏卵において120回継代された。
IBV QXは、元々中国で単離されたIBVの毒性フィールド単離物として記載されている。しかしながら、前記ウイルスは、欧州にまで広がり、西欧、主にオランダにおいて、また、ドイツ、フランス、ベルギー、デンマークおよび英国においても同定された。さらに、QX遺伝子型または血清型は、アジアおよびアフリカのいくつかの国で記載されている。
【0023】
「Italien-02」または「Italy-02」と指定された株は、イタリアにおいて1990年代に単離された。これらの単離物の1つの配列解析は、2002年に公開された(NCBI-BLAST、番号AJ457137)。しかし、研究により、このItalien-02株は、欧州において広がっていること、およびIBVバリアント株4/91とは異なって、英国、スペイン、フランスおよびオランダの最も主要な遺伝子型の1つになっていることが示された。
1996年以来、Q1とも称する、新しい感染性気管支炎ウイルス(IBV)遺伝子型が、中国において広がっており、2011年にイタリアで初めて報告された。Q1は、死亡率、腎臓病変および前胃炎(proventriculitis)の増加と関連している。
さらに、株D274、B1648/D8880、D1466、V1397およびArkansasが同様に欧州において同定された。
【0024】
任意のIBV株をどこで入手するかは、当技術分野の当業者の一般的な知識の範囲内である。IBV株は、市販で購入しても、科学的な機関から入手しても、または相補的DNAとして合成的に合成してもよく、これは、IBV株が、配列決定されており、配列は公開されており、したがって利用可能であるためである。さらに、IBV株は、フィールドから単離してもよい。IBV株を単離し、IBV株を特徴付ける方法は、当技術分野の当業者に周知である。Valter Leonardo de Quadros 2011 (Dissertation, Das Infektiose Bronchitis Virus (IBV): Molekularbiologische Untersuchungen zur Diagnostik und zum Vorkommen sowie zur Pathogenitat des Genotyps IBV QX in spezifisch pathogenfreien (SPF) Broilern, Freie Universitat Berlin)、Worthington et al. 2009 (Avian Pathology 37(3), 247-257)、Liu et al. 2009 (Virus Genes 38: 56-65)、Dolz et al. 2006 (Avian Pathology 35 (2): 77-85)、Farsang et al. 2002 (Avian Pathology 31: 229-236)およびFeng et al. 2014 (Virus Genes 49: 292-303)は、異なるIBV株を単離し、区別する方法を記載している。
IBV株は、典型的に、スパイクタンパク質のS1サブユニットのコード配列によって区別される(Valastro et al. 2016. Infect Genet Evol. 39:349-364)が、その完全なヌクレオチド配列または特定のタンパク質、例えばスパイクタンパク質、ヌクレオカプシドタンパク質、エンベロープ(E)タンパク質または膜(M)糖タンパク質によっても区別され得る。スパイクタンパク質は、IBVの宿主指向性および抗原性を決定するため、IBV遺伝子型は、スパイクタンパク質のサブユニット1のコード配列により分類される。あるいは、IBV株は、その血清型により区別し得る。血清型分類は、血清型特異的な抗体使用する、ウイルスの血清学的なアッセイを伴う。
【0025】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の他の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、次からなるリストから選択される遺伝子型または血清型または株のIBV由来である:Arkansas(例えば、Arkansas99)、Brazil(例えば、BR-1、BR-2、23/2013、IBV/Brasil/351/1984)、California(例えば、California1734/04、California99)、Connecticut、Delaware(例えば、Delaware98)、Dutch(例えば、D207、D212、D274、D3128、D3896、D8880、D1466)、Florida、Georgia(例えば、Georgia GA-07、GA-08、GA-12、GA-13)、Gray、Holte、Iowa(例えば、Iowa97およびIowa69)、Italy02)、JMK、LDT3、Maine(例えば、Maine209)、Massachusetts(例えば、M41、H52、H120:Beaudetteを除く)、Pennsylvania(例えば、Pennsylvania1220/98、Pennsylvania Wolg/98)、PL84084、Qu(例えば、Qu-mv)、QX(例えば、GB341/96)、Q1、SE17、バリアント2(例えば、IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016)および4/91(793B、CR88)。
【0026】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、Beaudette株由来ではない。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、Massachusetts(非Beaudette)、4/91、QX、Q1、Italy02、Arkansas、Conneticut、Georgia、LDT3、PL84084、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型または株のリストから選択されるIBV由来である。
「非Beaudette」という語句は、Beaudetteを除くことと同等に使用される。したがって、「Massachusetts(非Beaudette)」という語句は、Massachusetts株、例えば、M41、H52およびH120に由来するスパイクタンパク質またはその断片は含まれるが、Beaudette株由来のスパイクタンパク質またはその断片は除かれることを意味する。
【0027】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、Massachusetts(非Beaudette)、4/91、QX、Q1、Arkansas、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型のリストから選択されるIBV由来である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、Massachusetts(非Beaudette)および4/91からなる遺伝子型または血清型のリストから選択されるIBV由来である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、Massachusetts株は、H120、H52、Spain/98/308、IBMA5-1、SD/97/01、Spain/96/334およびM41-M21883からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、4/91株は、Spain/98/328、Spain/92/35、IR-3654-VM、FR-CR88061-88、FR-85131-85、UK-1233-95、UK/3/91、Spain/00/336、UK/7/91、4/91-病原性、4/91弱毒化およびIB4-91からなるリストから選択される。
【0028】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、QX株は、FR-L1450T-05、FR-L1450L-05、NL-L1449T-04、NL-L1449K-04、IBV/Ck/SP/170/09、IBV/Ck/SP/79/08、IBV/Ck/SP/248/09、HBN、IBVQX、LX4、BJQ、CK/CH/LGD/03、SP2013-01470、SP2013-014171、SP2013-01478およびGB341/96からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、Q1株は、CK/CH/LDL/98I、CK/CH/LSD/08-10、J2、Q1、AR08ER22、AR08BA21、12.185、12.124、12.216およびChile-295-10からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、Italy02株は、Spain/99/316、Italy-02、UK-L633-04、It-497-02、Spain/05/866、Spain/04/221、Spain/00/337、Spain/155/09およびSpain/03/08からなるリストから選択される。
【0029】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、Arkansas株は、Ark99、ArkGA、ArkDPI、AL/5364/00、ARKDPI11、AL/0803/01、AL/7149/00、ArkDPI101、AL/1221/01、AL/1793/01およびAL/4614/98からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、バリアント2株は、IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016、Eg/CLEVB-2/IBV/012、D1344/2/4/10_EG、TR8およびIB VAR2-06からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、Brazil株は、BR-1、BR-2、23/2013およびIBV/Brasil/351/1984からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、Massachusetts(非Beaudette)、QXまたは4/91遺伝子型または血清型のIBV由来である。
【0030】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、Massachusetts(非Beaudette)遺伝子型または血清型のIBV由来である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、QX遺伝子型または血清型のIBV由来である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、4/91遺伝子型または血清型のIBV由来である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、IBV株は、H52、H120、QX SP2013-01478またはCR88である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、IBVスパイクタンパク質またはその断片は、配列番号2、3、4、5、6、7、8、77に示す配列、またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%または99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、またはこれを含む。
【0031】
「同一性」または「配列同一性」という用語は、当技術分野では公知であり、2つ以上のポリペプチド配列間または2つ以上のポリヌクレオチド配列間、すなわち参照配列と、参照配列と比較される所与の配列との間の関係を指す。配列同一性は、そのような配列のストリング間の一致によって決定される、最高の配列類似度が得られるように、配列を最適に整列した後、所与の配列を参照配列と比較することによって決定される。そのような整列時に、配列同一性は、位置ごとに確認され、例えば、その位置において、ヌクレオチドまたはアミノ酸残基が同一である場合、配列は「同一」である。そのような位置同一性の総数を、次いで参照配列中のヌクレオチドまたは残基の総数で割り、%配列同一性を得る。配列同一性は、公知の方法、非限定的にはComputational Molecular Biology, Lesk, A. N., ed., Oxford University Press, New York (1988)、Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Smith, D.W., ed., Academic Press, New York (1993)、Computer Analysis of Sequence Data, Part I, Griffin, A.M., and Griffin, H. G., eds., Humana Press, New Jersey (1994)、Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinge, G., Academic Press (1987)、Sequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J., eds., M. Stockton Press, New York (1991)およびCarillo, H., and Lipman, D., SIAM J. Applied Math., 48: 1073 (1988)に記載されているものを含む方法によって容易に算出することができ、前記文献の教示は、参照により本明細書に組み込まれる。配列同一性を決定するための好ましい方法は、試験配列間の一致が最も大きくなるように設計されている。配列同一性を決定するための方法は、所与の配列間の配列同一性を決定する、公的に利用可能なコンピュータープログラムに体系化されている。そのようなプログラムの例としては、例えば、GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al., Nucleic Acids Research, 12(1):387 (1984))、BLASTP、BLASTNおよびFASTA(Altschul, S. F. et al., J. Molec. Biol., 215:403-410 (1990)が挙げられるが、これらに限定されない。BLASTXプログラムは、NCBIおよび他の入手源(BLAST Manual、Altschul, S. et al., NCVI NLM NIH Bethesda, MD 20894、Altschul, S. F. et al., J. Molec. Biol., 215:403-410 (1990)、これらの教示は参照により本明細書に組み込まれる)から公的に利用可能である。これらのプログラムは、所与の配列および参照配列の間の、最高レベルの配列同一性を得るために、デフォルトのギャップ重みを使用して最適に配列を整列する。例示として、参照ヌクレオチド配列に対して、例えば少なくとも、85%、好ましくは90%、さらに好ましくは95%の「配列同一性」を有するヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドは、所与のポリヌクレオチド配列が、参照ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチド当たり、15まで、好ましくは10まで、さらにより好ましくは5までの点突然変異を含んでいてよいことを除いては、所与のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、参照配列と同一であることを意図している。言い換えれば、参照ヌクレオチド配列に対して、少なくとも85%、好ましくは90%、よりさらに好ましくは95%の同一性を有するヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドにおいて、参照配列中の15%まで、好ましくは10%、さらにより好ましくは5%のヌクレオチドは、欠失されているか、または他のヌクレオチドに置換されていても、または参照配列中の全ヌクレオチドの15%まで、好ましくは10%、さらにより好ましくは5%の数のヌクレオチドが、参照配列に挿入されていてもよい。参照配列のこれらの突然変異は、参照ヌクレオチド配列の5’末端または3’末端位置、またはこれらの末端位置の間の他の箇所において、参照配列のヌクレオチド間に個々に、または参照配列内の1つまたは複数の連続的な基のいずれかにおいて、散在して生じ得る。同様に、参照アミノ酸配列に対して、少なくとも、例えば85%、好ましくは90%、さらにより好ましくは95%の配列同一性を有する所与のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、所与のポリペプチド配列が、参照アミノ酸配列のそれぞれ100アミノ酸当たり、15まで、好ましくは10まで、さらにより好ましくは5までのアミノ酸変更を含んでいてよいことを除いては、前記ポリペプチドの所与のアミノ酸配列が参照配列に同一であることを意図している。言い換えれば、参照アミノ酸配列と、少なくとも85%、好ましくは90%、より好ましくは95%の配列同一性を有する所与のポリペプチド配列を得るためには、参照配列の15%まで、好ましくは10%まで、さらにより好ましくは5%までのアミノ酸残基を欠失するか、または他のアミノ酸で置換してもよく、または、参照配列中のアミノ酸残基の総数の15%まで、好ましくは10%まで、さらにより好ましくは5%までの数のアミノ酸を参照配列に挿入してもよい。参照配列のこれらの変化は、参照アミノ酸配列のアミノ末端またはカルボキシ末端位置、またはこれらの末端位置の間の他の箇所において、参照配列の残基間に個々に、または参照配列内の1つまたは複数の連続的な基のいずれかにおいて、散在して生じ得る。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的なアミノ酸置換により異なる。しかし、保存的な置換は、配列同一性を決定する際に一致として含まれない。
【0032】
「同一性」、「配列同一性」および「パーセント同一性」という用語は、本明細書において互換的に使用される。本発明の目的のために、2つのアミノ酸配列または2つ核酸配列のパーセント同一性を決定するためには、配列は最適な比較目的のために整列される(例えば、第2のアミノ酸または核酸配列との最適な整列のために、第1のアミノ酸または核酸の配列にギャップを導入してもよい)ことがここで定義される。対応するアミノ酸またはヌクレオチド位置におけるアミノ酸またはヌクレオチド残基を次いで比較する。第1の配列におけるある位置が、第2の配列の対応する位置と同一のアミノ酸またはヌクレオチド残基により占められている場合、前記分子はその位置において同一である。2つの配列間のパーセント同一性は、配列が共有する同一の位置の数の関数(すなわち、%同一性=同一の位置の数/位置の総数(すなわち重複している位置)x100)である。好ましくは、2つの配列は同じ長さである。
【0033】
配列比較は、比較されている2つの配列全体にわたって、または2つの配列の断片にわたって行ってよい。典型的には、比較は、比較されている2つの配列の全長にわたって行ってよい。しかし、配列同一性は、例えば、20、50、100またはそれ以上の連続的なアミノ酸残基の領域にわたって行ってよい。
当業者は、2つの配列間の相同性を決定するために、異なるコンピュータープログラムが利用可能であることに気づくであろう。例えば、配列の比較および2つの配列間のパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成し得る。好ましい実施形態では、2つのアミノ酸または核酸配列の間のパーセント同一性は、Blosum 62マトリクスまたはPAM250マトリクスのいずれか、および16、14、12、10、8、6または4のギャップ重みおよび1、2、3、4、5または6の長さ重みを使用して、Accelrys GCGソフトウェアパッケージ内のGAPプログラムに組み込まれたNeedleman and Wunsch(J. Mol. Biol. (48): 444-453 (1970))アルゴリズム(http://www.accelrys.com/products/gcg/において利用可能)を使用して決定される。当業者は、これらの異なるパラメーター全てが僅かに異なる結果をもたらすが、2つの配列の全体的なパーセンテージ同一性は、異なるアルゴリズムを用いた場合に有意に変わることはないことを理解するであろう。
【0034】
本発明のタンパク質配列または核酸配列は、例えば、他のファミリーメンバーまたは関連配列を同定するために、公開データベースに対する検索を行うための「クエリー配列」としてさらに使用し得る。そのような検索は、Altschul, et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10のBLASTNおよびBLASTPプログラム(バージョン2.0)を使用して行うことができる。BLASTタンパク質検索は、本発明のタンパク質分子に相同のアミノ酸配列を得るために、BLASTPプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて行い得る。比較目的のためのギャップ化整列を得るために、Gapped BLASTは、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25(17): 3389-3402に記載されているように利用し得る。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する際、各プログラム(例えば、BLASTPおよびBLASTN)のデフォルトパラメーターを使用し得る。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/においてNational Center for Biotechnology Informationのホームページを参照されたい。
【0035】
本明細書で使用される場合、「配列番号Xの配列に同一」という用語は、それぞれ「配列番号Xの長さにわたって配列番号Xの配列に対して同一」であるという用語、または「配列番号Xの全長にわたって配列番号Xの配列に同一」であるという用語と等価であることは特に理解される。この文脈において、「X」は、「配列番号X」が、本明細書中に言及する配列番号のいずれかを表すようになっている、1~84から選択される任意の整数である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、IBVスパイクタンパク質またはその断片は、配列番号2に示すアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%、または99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、またはこれを含む。
【0036】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、IBVスパイクタンパク質またはその断片は、配列番号3に示すアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%または99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、またはこれを含む。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、IBVスパイクタンパク質またはその断片は、配列番号4に示すアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%または99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、またはこれを含む。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、IBVスパイクタンパク質またはその断片は、配列番号5に示すアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%または99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、またはこれを含む。
【0037】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、IBVスパイクタンパク質またはその断片は、配列番号6に示すアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%または99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、またはこれを含む。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、IBVスパイクタンパク質またはその断片は、配列番号7に示すアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%または99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、またはこれを含む。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、IBVスパイクタンパク質またはその断片は、配列番号8もしくは77に示すアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%または99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、またはこれを含む。
【0038】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、IBVスパイクタンパク質またはその断片は、GI-2~27、GII-1、GIII-1、GIV-1、GV-1、GVI-1からなる遺伝子型のリストから選択される。
Valastro et al 2016 (Infection, Genetics and Evolution 39; 349-364)は、IBV株の割り当てについての系列命名法と組み合わせた系統発生学ベースの分類システムを記載している。6の遺伝子型(GI~GVI)は、共に32の異なるウイルス系列を含むように定義される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片はGI-1遺伝子型由来ではない。GI-1遺伝子型は、Massachusetts遺伝子型/血清型に関連している。
本発明によるトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルス由来の前記S1サブユニットの少なくとも一部は、感染性気管支炎ウイルス(IBV)、ホロホロチョウコロナウイルス(GfCoV)およびシチメンチョウコロナウイルス(TCoV、シチメンチョウ腸炎ウイルスおよびブルーコム病ウイルス)からなる群から選択される。
【0039】
本発明によるトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルス由来の前記S1サブユニットの少なくとも一部は、IBV(感染性気管支炎ウイルス)由来である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、前記S1サブユニットの少なくとも一部は、Arkansas(例えば、Arkansas99)、Brazil(例えば、BR-1、BR-2、23/2013、IBV/Brasil/351/1984)、California(例えば、California1734/04、California99)、Connecticut、Delaware(例えば、Delaware98)、Dutch(例えば、D207、D212、D274、D3128、D3896、D8880、D1466)、Florida、Georgia(例えば、GeorgiaGA-07、GA-08、GA-12、GA-13)、Gray、Holte、Iowa(例えば、Iowa97およびIowa69)、Italy02、JMK、LDT3、Maine(例えば、Maine209)、Massachusetts(例えば、M41、H52、H120;Beaudetteを除く)、Pennsylvania(例えば、Pennsylvania1220/98、Pennsylvania Wolg/98)、PL84084、Qu(例えば、Qu-mv)、QX(例えば、GB341/96)、Q1、SE17、バリアント2(例えば、IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016)および4/91(793B、CR88)からなる遺伝子型または血清型または株のリストから選択されるIBV由来である。
【0040】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、前記S1サブユニットの少なくとも一部は、Massachusetts(非Beaudette)、4/91、QX、Q1、Italy02、Arkansas、Conneticut、Georgia、LDT3、PL84084、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型または株のリストから選択されるIBV由来である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、前記S1サブユニットの少なくとも一部は、Massachusetts(非Beaudette)、4/91、QX、Q1、Arkansas、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型のリストから選択されるIBV由来である。
【0041】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、Massachusetts株は、H120、H52、Spain/98/308、IBMA5-1、SD/97/01、Spain/96/334およびM41-M21883からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、4/91株は、Spain/98/328、Spain/92/35、IR-3654-VM、FR-CR88061-88、FR-85131-85、UK-1233-95、UK/3/91、Spain/00/336、UK/7/91、4/91-病原性、4/91弱毒化、およびIB4-91からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、QX株は、FR-L1450T-05、FR-L1450L-05、NL-L1449T-04、NL-L1449K-04、IBV/Ck/SP/170/09、IBV/Ck/SP/79/08、IBV/Ck/SP/248/09、HBN、IBVQX、LX4、BJQ、CK/CH/LGD/03およびGB341/96からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、Q1株は、CK/CH/LDL/98I、CK/CH/LSD/08-10、J2、Q1、AR08ER22、AR08BA21およびChile-295-10からなるリストから選択される。
【0042】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、Italy02株は、Spain/99/316、Italy-02、UK-L633-04、It-497-02、Spain/05/866、Spain/04/221、Spain/00/337、Spain/155/09およびSpain/03/08からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、Arkansas株は、Ark99、ArkGA、ArkDPI、AL/5364/00、ARKDPI11、AL/0803/01、AL/7149/00、ArkDPI101、AL/1221/01、AL/1793/01およびAL/4614/98からなるリストから選択される。
【0043】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、バリアント2株は、IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016、Eg/CLEVB-2/IBV/012、D1344/2/4/10_EG、TR8およびIB VAR2-06からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、Brazil株は、BR-1、BR-2、23/2013およびIBV/Brasil/351/1984からなるリストから選択される。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、前記S1サブユニットの少なくとも一部は、Massachusetts(非Beaudette)、QXおよび4/91からなる遺伝子型または血清型のリストから選択されるIBV由来である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、前記S1サブユニットの少なくとも一部は、Massachusetts(非Beaudette)IBV遺伝子型または血清型由来である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、前記S1サブユニットの少なくとも一部は、QX IBV遺伝子型または血清型由来である。
【0044】
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、前記S1サブユニットの少なくとも一部は、4/91 IBV遺伝子型または血清型由来である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、前記S1サブユニットの少なくとも一部は、IBV株H120、H52、QX SP2013-01478またはCR88由来である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、前記S1サブユニットの少なくとも一部は、IBV株H120またはH52由来である。
本発明によるトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、S1サブユニットの少なくとも一部は、限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルスまたはIBVのS1サブユニット配列由来の少なくとも1、5、10、15、20、25、50、100、150、200、250、300、350、400または500の連続的なアミノ酸であるか、またはそれに対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列である。
【0045】
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、S1サブユニットの少なくとも一部は、本明細書に記載のトリコロナウイルスまたはIBVのS1サブユニット配列由来の少なくとも1、5、10、15、20、25、50、100、150、200、250、300、350、400または500の連続的なアミノ酸であるか、またはそれに対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列である。
本発明によるIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、限定的な細胞または組織指向性を有するIBV由来の前記S1サブユニットの少なくとも一部は、配列番号2、3、4、5、6、7、8、77に示すアミノ酸配列の、少なくとも1、5、10、15、20、25、50、100、150、200、250、300、350、400または500の連続的なアミノ酸、またはそれに対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列を有する。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、限定的な細胞または組織指向性を有するコロナウイルスまたはIBVは、胚含有鶏卵および/または初代ニワトリ腎臓細胞における感染および/または複製に限定されている。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、限定的な細胞または組織指向性を有するコロナウイルスまたはIBVは、EB66細胞において感染および/または複製していない。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、限定的な細胞または組織指向性を有するコロナウイルスまたはIBVは、PBS-12SFおよび/またはHEK 293T細胞において感染および/または複製していない。
【0046】
断片
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質の断片は、少なくとも500、750、1000または1077アミノ酸の長さを有する。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質の断片は、少なくとも1000アミノ酸の長さを有する。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質の断片は、N末端から少なくとも500、750、1000または1075アミノ酸の長さを有する。
【0047】
「N末端」という用語は、当技術分野の当業者には周知である。N末端はまた、アミノ末端、NH2末端、N末末端またはアミン末端とも称する。タンパク質がメッセンジャーRNAから翻訳される際、N末端からC末端へと作製される。したがって、N末端は、前記アミン基(-NH2)を含むアミノ酸鎖(タンパク質またはポリペプチド)の開始部である。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片の別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質の断片は、スパイクタンパク質の外部ドメインである。
「外部ドメイン」という用語は当技術分野の当業者には周知である。スパイクタンパク質は、異なる機能性部分、シグナル配列、外部ドメイン、膜貫通ドメインおよび内部ドメインを(N末端からC末端へと)含む。したがって、シグナル配列の切断後、スパイクタンパク質のN末端は、外部ドメインから開始する。IBVスパイク外部ドメインは、約1075アミノ酸の長さを有し、IBV株によって数アミノ酸の長さが異なる。
【0048】
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質の別の特定の態様では、アミノ酸267位におけるシステインまたはアミノ酸267位におけるシステインへの突然変異は、遺伝学的に安定である。好都合なことに、アミノ酸267位におけるシステインまたはアミノ酸267位におけるシステインへの突然変異は、遺伝学的に安定であり、経時的に(継代を超えて)安定のままであることが試験データにより示されている。
「遺伝学的に安定」という用語は、アミノ酸267位におけるシステインまたはアミノ酸267位におけるシステインへの突然変異が、経時的に(継代を超えて)安定のままであることを意味する。好ましくは、アミノ酸267位における前記システインまたはアミノ酸267位におけるシステインへの突然変異は、本発明による前記トリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質を有するIBVの細胞培養または組織培養中における少なくとも3継代後、より好ましくは少なくとも6継代後、さらにより好ましくは少なくとも9継代後、さらにより好ましくは少なくとも12継代後、最も好ましくは15継代後に依然として存在している。
【0049】
ヌクレオチド配列およびプラスミド
さらに、本発明は、本明細書に記載のスパイクタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列を提供する。
さらに、本発明は、本明細書に記載のヌクレオチドを含むプラスミドを提供する。
「核酸」または「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」という用語は、DNA分子、RNA分子、cDNA分子または誘導体を含むポリヌクレオチドを指す。前記用語は、一本鎖ならびに二本鎖のポリヌクレオチドを包含する。本発明の核酸は、単離されたポリヌクレオチド(すなわち、天然の環境から単離された)および遺伝子改変された形態を包含する。さらに、天然に存在する修飾ポリヌクレオチド、例えばグリコシル化またはメチル化されたポリヌクレオチド、または人工的に修飾されたポリヌクレオチド、例えばビオチン化されたポリヌクレオチドを含む化学修飾ポリヌクレオチドも含まれる。さらに、「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、互換可能であり、任意の核酸を指す。「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語はまた、5種の生物学的に生じる塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の核酸塩基を有するヌクレオチドから構成される核酸も特に含む。
「プラスミド」という用語は、細菌宿主細胞内で細菌染色体とは独立して複製する細胞質DNAを指す。本発明の特定の態様では、「プラスミド」および/または「移入プラスミド」および/または「ドナープラスミド」という用語は、例えば組換えウイルスまたはウイルスベクターに挿入するための発現カセットの構築のために有用な組換えDNA技術のエレメントを指す。別の特定の態様では、「プラスミド」という用語は、DNAワクチン接種目的に有用なプラスミドを特定するために使用し得る。
【0050】
細胞
さらに、本発明は、本明細書に記載のプラスミドを含む細胞を提供する。前記細胞は、真核生物または原核生物の細胞であってよい。
ウイルス粒子、トリコロナウイルスおよびIBV
さらに、本発明は、本明細書に記載のスパイクタンパク質またはその断片を含むウイルス粒子を提供する。
さらに、本発明は、本明細書に記載のスパイクタンパク質またはその断片を含む、トリコロナウイルスを提供する。
さらに、本発明は、本明細書に記載のスパイクタンパク質を含むIBV(感染性気管支炎ウイルス)を提供する。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVの別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVは弱毒化されている。
「弱毒化」という用語は、野生型単離物と比較して、病原性が低下している、病原体を指す。本発明において、弱毒化IBVは、IBV感染の臨床徴候を引き起こさないが、標的動物において免疫応答を誘発することができるように、毒性が低下しているものであるが、弱毒化IBVに感染した動物において、非弱毒化IBVに感染しており、弱毒化ウイルスの投与を受けていない動物の「対照群」と比較して、発生率または重症度において臨床徴候が低減していることを意味していてもよい。本文脈において、「低減する/低減した」という用語は、上で定義する非弱毒化IBVに感染した対照群と比較した、少なくとも10%、好ましくは25%、さらにより好ましくは50%。さらにより好ましくは60%、さらにより好ましくは70%、さらにより好ましくは80%、さらにより好ましくは90%、さらにより好ましくは95%、および最も好ましくは100%の低減を意味する。したがって、弱毒化IBV株は、改変生IBVを含む免疫原性組成物への組み込みに適切なものである。
【0051】
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVの別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVは不活化されている。
任意の慣用的な不活化方法を、本発明の目的のために使用してもよい。したがって、不活化は、当技術分野の当業者に公知の化学的および/または物理的な処理によって行ってもよい。好ましい不活化方法は、環状化二元エチレンイミン(BEI)の添加を含み、これは、2-アミノエチルブロミド臭化水素酸塩(BEA)の溶液の添加を含み、これが二元エチレンイミンへと環状化されている。好ましいさらなる化学的な不活化剤としては、Triton X-100、デオキシコール酸ナトリウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、β-プロピオラクトン、チメロサール、フェノールおよびホルムアルデヒド(ホルマリン)が挙げられるが、これらに限定されない。しかしながら、不活化はまた、中和ステップを含んでいてもよい。好ましい中和剤は、チオ硫酸ナトリウム、および亜硫酸水素ナトリウム等を含むが、これらに限定されない。
【0052】
好ましいホルマリン不活化条件としては、約0.02%(v/v)~2.0%(v/v)、より好ましくは約0.1%(v/v)~1.0%(v/v)、さらにより好ましくは約0.15%(v/v)~0.8%(v/v)、さらにより好ましくは約0.16%(v/v)~0.6%(v/v)、および最も好ましくは約0.2%(v/v)~0.4%(v/v)のホルマリン濃度が挙げられる。インキュベーション時間は、IBVの抵抗性に依存する。一般的に、不活動プロセスを、適当な培養系において、IBVの増殖が全く検出されなくなるまで行う。
好ましくは、本発明の不活化IBVは、好ましくは本明細書中で上述した濃度を用いて、ホルマリン不活化されている。
【0053】
本発明の不活化IBVは、公知の技術、例えばNature, 1974, 252, 252-254 or Journal of Immunology, 1978, 120, 1109-13に記載されている技術を使用してリポソームに組み込み得る。本発明の別の実施形態では、本発明の不活化IBVは、適切な生物学的化合物、例えばポリサッカライド、ペプチド、またはタンパク質等、またはその組合せにコンジュゲートされていてもよい。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVの別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVは、遺伝子操作されている。
「遺伝子操作されている」という用語は、「逆遺伝学」アプローチを使用して突然変異させたトリコロナウイルスまたはIBVを指す。好ましくは、本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVは、遺伝子操作されている。逆遺伝学技術は、合成組換えウイルス性RNAの調製を伴う。しかし、「逆遺伝学」技術は、当技術分野の当業者には周知である。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVの別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVは組換え体である。
【0054】
本明細書で使用される場合、「組換え」という用語は、対応するRNAゲノム(またはRNA配列、cDNA配列またはタンパク質)に天然には存在しない任意の改変を有するRNAゲノム(またはRNA配列、cDNA配列またはタンパク質)に関する。例えば、RNAゲノム(またはRNA配列、cDNA配列またはタンパク質)は、例えば人の介入によって人工的に導入された、挿入、欠失、逆位、再配置または点突然変異を含む場合に、「組換え」とみなされる。したがって、RNAゲノム配列(またはRNA配列、cDNA配列またはタンパク質)は、天然で関連している配列(またはRNA配列、cDNA配列またはタンパク質)の全てまたは一部と関連していない。ウイルスと関連して使用される「組換え」という用語は、ウイルスゲノムの人工的な操作により生成されるウイルスを意味する。「組換えウイルス」という用語は、遺伝子改変されたウイルスを包含する。
本発明によるトリコロナウイルスまたはIBVの別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVはキメラである。
「キメラ」という用語は、他のコロナウイルスまたはIBV由来の1つまたは複数のヌクレオチド配列を含むトリコロナウイルスまたはIBVを指す。好ましくは、前記用語は、他のIBV株由来の1つまたは複数のヌクレオチド配列を含むIBVウイルスを指す。
【0055】
本発明によるIBVの別の特定の態様では、IBVは以下からなるリストから選択される遺伝子型または血清型または株を有するIBV由来である。Arkansas(例えば、Arkansas99)、Brazil(例えば、BR-1、BR-2、23/2013、IBV/Brasil/351/1984)、California(例えば、California1734/04、California99)、Connecticut、Delaware(例えば、Delaware98)、Dutch(例えばD207、D212、D274、D3128、D3896、D8880、D1466)、Florida、Georgia(例えば、Georgia GA-07、GA-08、GA-12、GA-13)、Gray、Holte、Iowa(例えば、Iowa97およびIowa69)、Italy02、JMK、LDT3、Maine(例えば、Maine209)、Massachusetts(M41、H52、H120、Beaudette)、Pennsylvania(例えば、Pennsylvania1220/98、Pennsylvania Wolg/98)、PL84084、Qu(例えば、Qu-mv)、QX(例えば、GB341/96)、Q1、SE17、バリアント2(例えば、IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016)および4/91(793B、CR88)。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、IBVは、Massachusetts、4/91、QX、Q1、Italy02、Arkansas、Conneticut、Georgia、LDT3、PL84084、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型または株のリストから選択される。
【0056】
本発明によるIBVの別の特定の態様では、IBVは、Massachusetts、4/91、QX、Q1、Arkansas、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型のリストから選択される。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、Massachusetts株は、H120、H52、Spain/98/308、IBMA5-1、SD/97/01、Beaudette、Spain/96/334およびM41-M21883からなるリストから選択される。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、4/91株は、Spain/98/328、Spain/92/35、IR-3654-VM、FR-CR88061-88、FR-85131-85、UK-1233-95、UK/3/91、Spain/00/336、UK/7/91、4/91-病原性、4/91弱毒化およびIB4-91からなるリストから選択される。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、QX株は、FR-L1450T-05、FR-L1450L-05、NL-L1449T-04、NL-L1449K-04、IBV/Ck/SP/170/09、IBV/Ck/SP/79/08、IBV/Ck/SP/248/09、HBN、IBVQX、LX4、BJQ、CK/CH/LGD/03およびGB341/96からなるリストから選択される。
【0057】
本発明によるIBVの別の特定の態様では、Q1株は、CK/CH/LDL/98I、CK/CH/LSD/08-10、J2、Q1、AR08ER22、AR08BA21およびChile-295-10からなるリストから選択される。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、Italy02株は、Spain/99/316、Italy-02、UK-L633-04、It-497-02、Spain/05/866、Spain/04/221、Spain/00/337、Spain/155/09およびSpain/03/08からなるリストから選択される。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、Arkansas株は、Ark99、ArkGA、ArkDPI、AL/5364/00、ARKDPI11、AL/0803/01、AL/7149/00、ArkDPI101、AL/1221/01、AL/1793/01およびAL/4614/98からなるリストから選択される。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、バリアント2株は、IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016、Eg/CLEVB-2/IBV/012、D1344/2/4/10_EG、TR8およびIB VAR2-06からなるリストから選択される。
【0058】
本発明によるIBVの別の特定の態様では、Brazil株は、BR-1、BR-2、23/2013およびIBV/Brasil/351/1984からなるリストから選択される。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、Massachusettsまたは4/91遺伝子型または血清型のIBV由来である。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、Massachusetts遺伝子型または血清型のIBV由来である。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、4/91遺伝子型または血清型のIBV由来である。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、IBV株は、H120、H52またはCR88である。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、IBV株はH120またはH52である。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、IBVは、配列番号2、3、4、5、6、7、8、77に示すアミノ酸配列、またはそれに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%または99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、これを含むIBVスパイクタンパク質またはその断片を有する。
【0059】
本発明によるIBVの別の特定の態様では、IBVは、拡張された細胞または組織指向性を有する。
本発明によるIBVの別の特定の態様では、IBVは、本明細書に記載の少なくとも1種の細胞系または細胞において感染および/または複製している。好ましくは、前記IBVは、本明細書に記載の少なくとも1種の細胞系において感染および/または複製している。
さらに、本発明は、
-本明細書に記載のウイルス粒子または
-本明細書に記載のトリコロナウイルスまたはIBV
を含む細胞を提供する。
本発明による細胞の別の特定の態様では、細胞は、初代ニワトリ胚細胞、ニワトリ胚線維芽細胞系、アヒル胚幹細胞系、ヒト胚性腎臓細胞系、ベビーハムスター腎臓細胞系、アフリカミドリザル腎臓細胞系、ウサギ腎臓細胞系、イヌ腎臓細胞系、ニワトリ肝臓細胞系、ウシ腎臓細胞系、ブタ腎臓細胞系および昆虫細胞系からなるリストから選択される細胞系または細胞である。
【0060】
本発明による細胞の別の特定の態様では、細胞は、DF-1(Douglas Foster)、EB66(アヒル胚幹細胞系)、PBS-12、PBS-12SF(PBS-12無血清)、BHK21(ベビーハムスター腎臓)、HEK 293T(ヒト胚性腎臓)、Vero(Verda Reno)、MA104、RK13(ウサギ腎臓)、LMH(レグホンオス肝細胞癌)、MDCK(Madin-Darbyイヌ腎臓)、MDBK(Madin-Darbyウシ腎臓)、PK15(ブタ腎臓)、PK2A(ブタ腎臓)、SF9、SF21およびSF+(スポドプテラ・フルギペルダ)から選択される細胞系である。
本発明による細胞の別の特定の態様では、細胞は、DF-1、EB66、PBS-12、PBS-12SF、BHK、HEK 293T、Vero、MA104およびRK13からなるリストから選択される細胞系である。
本発明による細胞の別の特定の態様では、初代ニワトリ胚細胞は、線維芽細胞または、肝臓もしくは肺組織に由来する細胞である。
さらに、本発明は、免疫原性組成物であって、
-本明細書に記載のスパイクタンパク質、または
-本明細書に記載のウイルス粒子、または
-本明細書に記載のトリコロナウイルスまたはIBVを含む、組成物を提供する。
【0061】
したがって、本発明はまた、トリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片を含む、トリコロナウイルスまたはIBVを含む免疫原性組成物を提供し、ここで、S1サブユニットの少なくとも一部は、限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルスまたはIBV由来であり、アミノ酸267位はシステインである。さらに、本発明はまた、アミノ酸267位におけるシステインへの突然変異を含む、組換えトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはその断片を含むトリコロナウイルスまたはIBVを含む免疫原性組成物を提供する。さらに、配列番号1のアミノ酸配列はスパイクタンパク質中の位置番号付けを決定するために使用される。好ましくは、スパイクタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列と整列される。
さらに、本発明は、
-本明細書に記載のスパイクタンパク質、または
-本明細書に記載のウイルス粒子、または
-本明細書に記載のコロナウイルスまたはIBV
を含む、ワクチンを提供する。
【0062】
さらに、本発明は、拡張された細胞または組織指向性を有する改変生ワクチンであって、
-本明細書に記載のスパイクタンパク質、または
-本明細書に記載のウイルス粒子、または
-本明細書に記載のコロナウイルスまたはIBV
を含む、ワクチンを提供する。
「免疫原性組成物」という用語は、前記免疫原性組成物を投与する宿主において、免疫学的応答を誘発する、少なくとも1種の抗原を含む組成物を指す。そのような免疫学的応答は、本発明の免疫原性組成物に対する細胞性および/または抗体媒介性免疫応答であってもよい。好ましくは、免疫原性組成物は、免疫応答を誘発し、より好ましくは、IBV感染の臨床兆候の1種または複数に対して保護免疫を付与する。宿主は、「対象」とも記載される。好ましくは、本明細書で記載または言及される宿主または対象は、トリまたは家禽である。
通常、「免疫学的応答」は、次の効果の1種または複数を含むがこれらに限定されない、本発明の免疫原性組成物に含まれる抗原に特異的に対する、抗体、B細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞および/または細胞障害性T細胞および/またはガンマデルタT細胞の生成または活性化。好ましくは、宿主は保護的な免疫学的応答または治療的応答のいずれかを示すであろう。
【0063】
「保護的な免疫学的応答」または「保護免疫」は、感染した宿主が通常示す臨床徴候の低減または欠損、より迅速な回復時間および/または感染力期間の低下、または感染した宿主の組織または体液または排泄物中の病原体力価の低下のいずれかによって表されるであろう。
宿主が、新しい感染に対する耐性が増強され、および/または疾患の臨床重度が低減するように保護的な免疫学的応答を示す場合、免疫原性組成物は「ワクチン」と記載される。
「改変生」または「弱毒化」という用語は本明細書において互換的に使用される。
本発明による免疫原性組成物またはワクチンの別の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは、薬学的に許容される担体を含む。
「薬学的に許容される担体」という用語は、任意および全ての溶媒、分散媒、コーティング、安定剤、希釈剤、保存剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、吸着遅延化剤、アジュバント、免疫刺激物質およびその組合せを含む。
「希釈剤」は、水、生理食塩水、デキストロース、エタノール、およびグリセロール等を含んでいてもよい。等張剤は、とりわけ、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトールおよびラクトースを含んでいてもよい。安定剤は、とりわけ、アルブミンおよびエチレンジアミン四酢酸のアルカリ塩を含む。
【0064】
本発明による免疫原性組成物またはワクチンの別の特定の態様では、薬学的に許容される担体は、リン酸緩衝食塩水である。
好ましくは、免疫原性組成物は、スクロースゼラチン安定剤をさらに含む。
好ましくは、薬学的に許容される担体は、キトサンである。
キトサンは、甲殻類(例えば、エビ、カニ)、昆虫および他の無脊椎動物のキチン由来の天然の脱アセチル化ポリサッカライドである。近年、Rauw et al. 2009 (Vet Immunol Immunop 134:249-258)により、キトサンが生ニューカッスル病ワクチンの細胞性免疫応答を亢進したこと、ならびにその保護効果を促進したことが示されている。さらに、Wang et al., 2012 (Arch Virol (2012) 157:1451-1461)により、生弱毒化インフルエンザワクチンにおいて使用するためのアジュバントとしての、キトサンの潜在的な能力を明らかにする結果が示されている。
【0065】
好ましくは、免疫原性組成物は、1種または複数の他の免疫調節剤、例えばインターロイキン、インターフェロンまたは他のサイトカインをさらに含んでいてもよい。本発明の文脈において有用なアジュバントおよび添加剤の量および濃度は、当業者により容易に決定し得る。
【0066】
いくつかの態様では、本発明の免疫原性組成物は、アジュバントを含む。本明細書で使用される場合、「アジュバント」は、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム、サポニン、例えばQuil A、QS-21(Cambridge Biotech Inc.,Cambridge MA)、GPI-0100(Galenica Pharmaceuticals,Inc.、Birmingham、AL),油中水エマルジョン、水中油エマルジョン、水中油中水エマルジョンを含む。前記エマルジョンは、特に、軽質流動パラフィン油(European Pharmacopea type)、イソプレノイド油、例えばスクアランまたはスクアレン、アルケン、特にイソブテンまたはデセンの多量体化から生じる油、酸または直鎖アルキル基を含むアルコールのエステル、より具体的には植物油、オレイン酸エチル、プロピレングリコールジ-(カプリル酸/カプリン酸)、グリセリルトリ-(カプリル酸/カプリン酸)またはジオレイン酸プロピレングリコール、分枝脂肪酸またはアルコールのエステル、特にイソステアリン酸エステルをベースとしていてもよい。油は、乳化剤とともに使用され、エマルジョンを形成する。乳化剤は、好ましくは非イオン性界面活性剤、特に必要に応じてエトキシル化されている、ソルビタンのエステル、マンニドのエステル(例えば、オレイン酸無水マンニトール)、グリコールのエステル、ポリグリセロールのエステル、プロピレングリコールのエステル、およびオレイン酸、イソステアリン酸、リシノール酸またはヒドロキシステアリン酸のエステル、およびポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンコポリマーブロック、特にPluronic製品、特にL121である。Hunter et al., The Theory and Practical Application of Adjuvants (Ed.Stewart-Tull, D. E. S.)、JohnWiley and Sons, NY, pp51-94 (1995)およびTodd et al., Vaccine 15:564-570 (1997)を参照されたい。例示的なアジュバントは、“Vaccine Design, The Subunit and Adjuvant Approach” edited by M. Powell and M. Newman, Plenum Press, 1995の第147頁に記載されているSPTエマルジョンおよび同文献の第183頁に記載されているエマルジョンMF59である。
【0067】
アジュバントのさらなる例は、アクリル酸またはメタクリル酸のポリマーおよびマレイン酸無水物およびアルケニル誘導体のコポリマーから選択される化合物である。好都合なアジュバント化合物は、特に糖またはポリアルコールのポリアルケニルエーテルと架橋している、アクリル酸またはメタクリル酸のポリマーである。これらの化合物は、カルボマーという用語で公知である(Phameuropa Vol. 8, No. 2, June 1996)。当技術分野の当業者はまた、少なくとも3つの、好ましくは8つ以下のヒドロキシル基を有する、少なくとも3つのヒドロキシル基の水素原子が、少なくとも2つの炭素原子を有する不飽和脂肪族基により置換されている、ポリヒドロキシル化化合物と架橋しているそのようなアクリルポリマーを記載している、米国特許第2,909,462号も参照し得る。好ましい基は、2~4つの炭素原子を含むもの、例えばビニル、アリルおよび他のエチレン性不飽和基である。不飽和基は、それ自体が他の置換基、例えばメチルを含んでいてもよい。Carbopol(BF Goodrich、Ohio、USA)の名称で販売されている製品は特に適当である。それらは、アリルスクロースまたはアリルペンタエリスリトールと架橋している。とりわけ、Carbopol 974P、934Pおよび971Pが言及され得る。最も好ましいのは、Carbopol 971Pの使用である。マレイン酸無水物とアルケニル誘導体とのコポリマーの中には、コポリマーEMA(Monsanto)が含まれ、これはマレイン酸無水物およびエチレンのコポリマーである。これらのポリマーを水中に溶解することにより、免疫原性、免疫学的またはワクチン組成物自体が組み込まれるアジュバント溶液を得るために、好ましくは生理学的なpHに中和される酸性溶液がもたらされる。
【0068】
さらに適当なアジュバントは、とりわけ、RIBIアジュバントシステム(Ribi Inc.)、ブロックコポリマー(CytRx、Atlanta GA)、SAF-M(Chiron、Emeryville CA)、モノホスホリル脂質A、アブリジン脂質-アミンアジュバント、大腸菌(E.coli)由来の熱不安定性エンテロトキシン(組換えまたは他の方法)、コレラ毒素、IMS1314またはムラミルジペプチドまたは天然に存在する、または組換えのサイトカインまたはそのアナログまたは内在性サイトカイン放出の刺激物質を含むが、これらに限定されない。
アジュバントは、用量当たり約100μg~約10mgの量、好ましくは用量当たり約100μg~約10mgの量、より好ましくは用量当たり約500μg~約5mgの量、よりさらに好ましくは用量当たり約750μg~約2.5mgの量、最も好ましくは用量当たり約1mgの量で添加し得ることが予期される。あるいは、アジュバントは、最終産物の約0.01~50体積%の濃度、好ましくは約2体積%~30体積%の濃度、より好ましくは約5体積%~25体積%の濃度、さらにより好ましくは約7体積%~22体積%の濃度、最も好ましくは10体積%~20体積%の濃度であってよい。
【0069】
本発明による免疫原性組成物またはワクチンの別の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは、必要としている対象においてIBVにより引き起こされる臨床徴候の処置および/または予防に有効である。「処置および/または予防」、「臨床徴候」および「必要としている」という用語は他の箇所で定義されている。
本発明による免疫原性組成物またはワクチンの別の特定の態様では、前記免疫原性組成物またはワクチンは、単回用量の投与用に製剤化される。
単回用量についての体積は本明細書中の他の箇所で定義されている。
本発明の免疫原性組成物の単回投与は、そのような免疫原性組成物またはワクチンのそのような単回投与後に有効であることがさらに示されている。
本発明による免疫原性組成物またはワクチンの別の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは、皮下、筋肉内、経口、卵内(in ovo)、スプレー、飲料水または点眼剤により投与される。
本発明による免疫原性組成物またはワクチンの別の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは、用量当たり1~10log10EID50のIBVを含む。
【0070】
本発明による免疫原性組成物またはワクチンの別の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは、用量当たり2~5log10EID50のIBVを含む。
本発明による免疫原性組成物またはワクチンの別の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは、用量当たり2~4log10EID50のIBVを含む。
製造、培養および改変方法
さらに、本発明は、本明細書に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、トリコロナウイルスの細胞または組織指向性を変更する方法を提供する。
さらに、本発明は、本明細書に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、トリコロナウイルスの細胞または組織指向性を拡張する方法を提供する。
さらに、本発明は、本明細書に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、拡張された細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルスの生成または製造方法を提供する。
さらに、本発明は、本明細書に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、細胞または組織培養においてトリコロナウイルスを培養する方法を提供する。
さらに、本発明は、前記トリコロナウイルスのスパイクタンパク質におけるアミノ酸267位を改変することを含む、トリコロナウイルスを改変する方法を提供する。
【0071】
さらに、本発明は、トリコロナウイルススパイクタンパク質におけるアミノ酸267位を突然変異させる方法であって、
a) トリコロナウイルススパイクヌクレオチドまたはタンパク質配列を供給すること、
b) 参照配列との整列により、スパイクタンパク質における267位を同定すること、
c) ステップb)のスパイクタンパク質の267位をシステインに突然変異させること、
d) ステップc)の突然変異スパイクタンパク質を得ること
を含む、方法を提供する。
さらに、本発明は、トリコロナウイルスのトリコロナウイルススパイクタンパク質のアミノ酸267位を突然変異させる方法であって、
a) トリコロナウイルスを供給すること、
b) 参照配列との整列によって、スパイクタンパク質における267位を同定すること、
c) ステップb)のスパイクタンパク質の267位をシステインに突然変異させること、
d) ステップc)の突然変異トリコロナウイルスを得ること、
を含む、方法を提供する。
【0072】
「得る」という用語は、前記スパイクタンパク質またはその断片の回収、単離、精製および/または製剤化(例えば、仕上げ、不活化および/または混合)を含む。「回収」という用語は、改変スパイクタンパク質を有する前記トリコロナウイルスまたはIBVをトランスフェクション、または感染した細胞または細胞系から収集または回収することを指す。当技術分野で公知の任意の慣用的な方法、例えば任意の分離方法を使用してもよい。当技術分野で周知の方法は、遠心分離または濾過、例えば特定の孔径を有する半透性膜を用いた濾過を含む。「単離」という用語は、改変スパイクタンパク質を有する前記トリコロナウイルスまたはIBVの単離ステップを含む。トランスフェクションまたは感染した細胞または細胞系からの単離方法は、当技術分野の当業者には公知である。これらの方法は、物理学的および/または化学的な方法を含み、凍結融解サイクル、超音波での処理等が含まれるがこれらに限定されない。前記改変スパイクタンパク質を有する前記トリコロナウイルスまたはIBVの単離物からの「精製」の方法は、当技術分野の当業者には公知であり、例えば、Protein purification methods - a practical approach (E.L.V. Harris and S. Angel, eds., IRL Press at Oxford University Press)に記載されている方法による。それらの方法としては、遠心分離および/または濾過、沈殿化、サイズ排除(ゲル濾過)クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、金属キレートクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー共有結合クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー等による分離が含まれるが、これらに限定されない。ベクターは、精製された純粋な形態、または他の細胞性物質または培養培地等を含まないか、もしくは実質的に含まずに得ることができる。前記単離および/または精製の後、抗原は少なくとも80%、好ましくは80%~90%、より好ましくは90%~97%、最も好ましくは97%~混入物を全く含まない完全な純粋形態までの純度を示す。
【0073】
さらなる態様によれば、本明細書中で使用される「得る」は、また、最終製剤化プロセスの一部として、さらなる仕上げステップ、例えば緩衝剤の添加、不活化、および中和ステップ等を含んでいてもよい。
本発明による方法の別の特定の態様では、スパイクタンパク質またはその断片は、アミノ酸267位においてシステインを有する。
本発明による方法の別の特定の態様では、アミノ酸267位におけるシステインは突然変異によって導入されている。
本発明による方法の別の特定の態様では、前記突然変異は、置換、欠失または挿入である。
本発明による方法の別の特定の態様では、アミノ酸267位において、フェニルアラニンまたはロイシンはシステインに改変または突然変異されている。
【0074】
本発明による方法の別の特定の態様では、トリコロナウイルスは、本明細書に記載のIBVである。
したがって、本発明は、本明細書に記載のトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、IBVの細胞または組織指向性を変更する方法を提供する。
したがって、本発明は、本明細書に記載のIBVスパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、IBVの細胞または組織指向性を拡張する方法を提供する。
したがって、本発明は、本明細書に記載のIBVスパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、拡張された細胞または組織指向性を有するIBVの生成または製造の方法を提供する。
したがって、本発明は、本明細書に記載のIBVスパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、細胞または組織培養においてIBVを培養する方法を提供する。
したがって、本発明は、前記IBVのスパイクタンパク質のアミノ酸267位を改変することを含む、IBVを改変する方法を提供する。
【0075】
したがって、本発明は、IBVスパイクタンパク質におけるアミノ酸267位を突然変異させる方法であって、
a) IBVスパイクヌクレオチドまたはタンパク質配列を供給すること、
b) スパイクタンパク質の267位を参照配列との整列により同定すること、
c) ステップb)のスパイクタンパク質の267位をシステインに突然変異させること、
d) ステップc)の突然変異スパイクタンパク質を得ることを含む、
方法を提供する。
したがって、本発明は、IBVのIBVスパイクタンパク質のアミノ酸267位を突然変異させる方法であって、
a) IBVを供給し、
b) スパイクタンパク質の267位を参照配列との整列により特定すること、
c) ステップb)のスパイクタンパク質の267位をシステインに突然変異させること、
d) ステップc)の突然変異IBVを得ることを含む、
方法を提供する。
【0076】
本発明による方法の別の特定の態様では、コロナウイルススパイクタンパク質は、本明細書に記載のIBV(感染性気管支炎ウイルス)スパイクタンパク質である。
本発明による方法の別の特定の態様では、アミノ酸267位におけるシステイン、またはアミノ酸267位におけるシステインへの前記突然変異は、拡張された細胞または組織指向性を導く。
本発明による方法の別の特定の態様では、トリコロナウイルスまたはIBVは、本明細書に記載の細胞系または細胞において感染および/または複製している。
本発明による方法の別の特定の態様では、アミノ酸267位の番号付けは本明細書に記載するように行われる。
キット
組成物は、所望により、活性成分を含む1つまたは複数の単位剤形を含み得るパックまたはディスペンサーデバイスで提示され得る。前記パックは、例えば、金属またはプラスチックホイルを含んでいてよく、例えばブリスターパックであり得る。前記パックまたはディスペンサーデバイスは、投与のため、好ましくは対象、特に家禽への投与のための使用説明書を伴っていてもよい。そのような容器は、医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を管理する政府機関により規定された形態の、注意書を伴っていてもよく、前記注意書は、投与のための製造、使用または販売の、機関による承認を反映している。
本発明は、本明細書に記載するウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチンを含むキットを提供する。
本発明によるキットの一の特定の態様では、キットは、トリ疾患の処置および/または予防のための使用説明書、または家禽の疾患の処置および/または予防のための使用説明書、またはIBの処置および/または予防のための使用説明書をさらに含む。
本発明によるキットの一の特定の態様では、キットは、ワクチンを前記動物に投与することができるディスペンサーをさらに含む。
【0077】
処置方法
さらに、本発明は、対象を免疫化する方法であって、そのような対象に本明細書に記載する免疫原性組成物を投与することを含む、方法を提供する。
「免疫化」という用語は、免疫化する対象への免疫原性組成物の投与により、そのような免疫原性組成物に含まれる抗原に対する免疫学的応答を引き起こすことによる、活性免疫化に関する。
好ましくは、免疫化は、群における特定のトリコロナウイルスまたはIBV感染の発生率の低下または、特定のトリコロナウイルスまたはIBV感染により引き起こされるか、またはそれに伴う臨床徴候の重症度の低減をもたらす。
【0078】
さらに、本明細書に記載する免疫原性組成物を用いて、必要としている対象を免疫化することにより、トリコロナウイルスまたはIBV感染による対象の感染の防止がもたらされる。よりさらに好ましくは、免疫化は、IBV感染に対する、有効な長期間持続性の免疫学的応答をもたらす。前記期間は、1カ月超、好ましくは2カ月超、好ましくは3カ月超、より好ましくは4カ月超、より好ましくは5カ月超、より好ましくは6カ月超持続することは理解されるであろう。免疫化が免疫化した全ての対象において有効ではない場合があることは理解されるべきである。しかし、前記用語は、群の対象の有意な割合が有効に免疫化されていることは必要としている。
【0079】
好ましくは、この文脈において、対象の群は、トリコロナウイルスまたはIBV感染により通常引き起こされるか、またはそれに伴う臨床徴候を通常、すなわち免疫化なしでは発症させることが予測される。群の対象が有効に免疫化されているかどうかは、当技術分野の当業者により、容易に決定し得る。好ましくは、所与の群の対象の少なくとも33%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、および最も好ましくは100%における臨床徴候が、発生率または重症度において、免疫化されていないか、または本発明の前に利用可能であった免疫原性組成物により免疫化されているかのいずれかであり、次いで特定のトリコロナウイルスまたはIBVにより感染されている対象と比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%、さらにより好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、および最も好ましくは100%低下している場合に、免疫化は有効であるとする。
さらに、本発明は、必要としている対象において、IBVにより引き起こされる臨床徴候を処置または防止する方法であって、治療有効量の、本明細書に記載する免疫原性組成物またはワクチンを対象に投与することを含む、方法を提供する。
実施例に示すように、本明細書に提供する免疫原性組成物またはワクチンは、対象において、IBVにより引き起こされる臨床徴候を処置または防止する上で有効であることが証明されている。したがって、試験データは、アミノ酸267位におけるアミノ酸のシステインへの改変は、ワクチンの有効性に対して全く影響を及ぼさないことを示している。
【0080】
「処置または防止する」という用語は、群における特定のIBV感染の発生率を低下させること、または特定のIBV感染により引き起こされるか、またはそれに伴う臨床徴候の重症度の低減を指す。したがって、「処置または防止する」という用語はまた、有効量の、本明細書に提供する免疫原性組成物の投与を受けた対象群において、そのような免疫原性組成物の投与を受けていない対照群と比較して、特定のIBVに感染した、群における対象の数の減少(=特定のIBV感染の発生率の低下)、または通常、IBV感染に伴うか、またはそれにより引き起こされる臨床徴候の重症度の低減、または特定のIBVによる感染後のウイルス脱落の減少、または特定のIBVによる感染後の産卵鶏の産卵低下の防止または低減を指す。
「処置または防止する」は、一般的に、有効量の本発明の免疫原性組成物を、そのような処置/予防から利益を得るであろう、必要としている対象、または対象の群に投与することを伴う。「処置」という用語は、対象または群の少なくともいくらかの対象が、そのようなIBVに感染しており、そのような対象がすでに、そのようなIBV感染により引き起こされるか、またはそれに伴う何らかの臨床徴候を示している際の、有効量の免疫原性組成物の投与を指す。「予防(prophylaxis)」という用語は、そのような対象がIBVに感染するよりも前に、またはそのような少なくとも対象または、対象群の対象がいずれも、そのようなIBVによる感染により引き起こされるか、またはそれに伴う臨床徴候をいずれも全く示さない場合の、対象への投与を指す。「予防」および「防止する(preventing)」という用語は本出願において互換的に使用される。
【0081】
本明細書で使用される場合、「有効量」という用語は。対象において免疫応答を引き起こすか、または引き起こすことができる、抗原の量を指すが、これに限定されない。そのような有効量は、群における特定のIBV感染の発生率を低下させるか、または特定のIBV感染の臨床徴候の重症度を低減することができる。
好ましくは、処置されていないか、本発明よりも前に利用可能であった免疫原性組成物により処置されたが、次いで特定のIBVに感染している対象と比較して、臨床徴候は、発生率または重症度において、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%、さらにより好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、および最も好ましくは少なくとも100%低減している。
【0082】
本明細書で使用される場合、「臨床徴候」という用語は、IBVからの対象の感染の兆候を指す。感染の臨床徴候は、選択した病原体に依存する。そのような臨床徴候の例としては、呼吸促迫、腎炎、卵管炎、異常産卵、羽毛の逆立ち、抑欝、成長速度の低下、および食欲低下が挙げられるが、これらに限定されない。呼吸促迫の徴候は、息切れ、咳、くしゃみ、気管ラ音、鼻汁および眼漏、気管病変および気管における線毛運動障害を含む呼吸器徴候を含む。腎炎の徴候は、腎臓病変および水性下痢を含む。異常産卵の徴候は、産卵減少、卵のサイズの低下、殻の劣化、内部の卵の品質の低下、アルブミンが薄い卵および卵管中の線毛運動障害を含む。しかし、臨床徴候は、生体動物から直接観察可能である臨床徴候も含むが、これに限定されるものではない。生体動物から直接観察可能である臨床徴候の例としては、鼻汁および眼漏、咳、息切れ、くしゃみ、気管ラ音、羽毛の逆立ち、結膜炎、体重減少、成長速度の低下、食欲低下、脱水、水性下痢、跛行、嗜眠、消耗および不始末等が挙げられる。
好ましくは、処置した対象においては、処置されていないか、または本発明より前に利用可能であった免疫原性組成物により処置されているかのいずれかであるが、次いで特定のIBVに感染した対象と比較して、発生率または重症度において低減した臨床徴候は、線毛運動障害の低減、ラ音の低減、産卵低下の低減、腎臓病変の低減、水性下痢の低減、体重減少の低減、ウイルス負荷量の低下、ウイルス脱落の低下またはそれらの組合せを指す。
【0083】
本明細書で使用される場合、「必要としている」または「必要の」という用語は、投与/処置が、本発明による免疫原性組成物の投与を受ける対象の、健康または臨床徴候の増強もしくは改善、または健康に対する他の任意の正の薬効を伴っていることを意味する。
さらに、本発明は、必要としている対象において、同一種の非免疫化対照群と比較して、線毛運動障害を低減する方法であって、前記対象に、治療有効量の本明細書に記載する免疫原性組成物またはワクチンを投与することを含む、方法を提供する。
実施例に示すように、本明細書に提供する免疫原性組成物またはワクチンは、線毛運動障害を低減するのに有効であることが証明されている。
「線毛運動障害」という用語は、気管における線毛の運動の減少を指す。したがって、線毛運動障害は、線毛の運動のための気管輪の内部裏打ちを調べることにより決定し得る。気管における線毛の運動を決定する方法は、当技術分野の当業者の一般的な知識の範囲内である。
好ましくは、線毛の運動は、同一種の非免疫化対照群と比較して、暴露または感染の10日後、より好ましくは暴露または感染の5日後、より好ましくは暴露または感染の4日後、より好ましくは暴露または感染の3日後、および最も好ましくはIBVによる暴露または感染の1または2日後から減少しない。
【0084】
「線毛運動障害の低減」という用語は、線毛運動障害が、同一種の非免疫化対照群の対象と比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%、さらにより好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、および最も好ましくは100%低減していることを意味する。線毛運動障害の低減を測定する方法は、当技術分野の当業者の一般的な知識の範囲内である。
さらに、本発明は、対象を免疫化する方法で使用するための、本明細書に記載の免疫原性組成物またはワクチンを提供し、前記方法は、治療有効量の前記免疫原性組成物またはワクチンを対象に投与することを含む。
さらに、本発明は、必要としている対象において、IBVにより引き起こされる臨床徴候を処置または防止する方法において使用するための、本明細書に記載の免疫原性組成物またはワクチンを提供し、前記方法は、治療有効量の前記免疫原性組成物またはワクチンを対象に投与することを含む。
【0085】
さらに、本発明は、必要としている対象において、同一種の非免疫化対照群の対象と比較して、線毛運動障害を低減するための方法において使用するための、本明細書に記載の免疫原性組成物またはワクチンを提供し、前記方法は、治療有効量の前記免疫原性組成物またはワクチンを対象に投与することを含む。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、前記対象はトリである。
「トリ」という用語は、当技術分野の当業者には周知である。「トリ」という用語は、家禽を含む全ての鳥を包含する。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、前記対象は家禽である。
「家禽」という用語は、当技術分野の当業者には周知である。「家禽」という用語は、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、キジ、ホロホロチョウ、ガチョウおよびアヒルを含む。さらに、「ニワトリ」という用語は、ブロイラー、産卵鶏、および両方についてのブリーダーとも称する、生殖ストックを含む。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、前記対象は、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラまたはキジから選択される。
【0086】
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、前記対象はニワトリである。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは1回投与される。
単回用量は1回のみ投与されることは理解されている。実施例に示すように、本明細書で提供する免疫原性組成物は、必要としている対象に対する単回用量の投与後に、有効であることが証明されている。
家禽当たりの用量体積は、ワクチン接種の経路および家禽の年齢に依存する。
典型的には、点眼ワクチンは、任意の年齢において、用量当たり1~100μlの体積で投与される。好ましくは、点眼ワクチンについての単回用量は、約5μl~70μl、より好ましくは約20μl~50μlの総体積を有し、単回用量20μl、25μl、30μl、35μl、40μl、45μlまたは50μlが好ましい。最も好ましくは、点眼ワクチンについての単回用量は、約30μl~50μlの総体積を有し、単回用量30μl、35μl、40μl、45μlまたは50μlが好ましい。
【0087】
スプレーワクチンは、日齢家禽については、25~1000μlの体積に用量を含んでいてもよい。好ましくは、スプレーワクチンについての単回用量は、約50μl~5000μl、より好ましくは約75μl~2000μl、より好ましくは約100μl~1000μl、さらにより好ましくは約200μl~900μl、さらにより好ましくは約300μl~800μl、およびさらにより好ましくは約400μl~700μlの総体積を有し、単回用量400μl、425μl、450μl、475μl、500μl、525μl、550μl、575μl、600μl、625μl、650μl、675μlまたは700μlが好ましい。最も好ましい単回容量は、400μl、450μl 500μl、550μl、600μl、650μlまたは700μlの総体積を有する。
卵内ワクチン接種のためのワクチンは、50~100μl、好ましくは50μlの体積中に用量を含んでいてもよい。好ましくは、卵内ワクチンについての単回容量は、約10μl~250μl、より好ましくは約15μl~200μl、さらにより好ましくは約20μl~150μl、さらにより好ましくは約30μl~100μl、さらにより好ましくは約30μl~75μlの総体積を有し、単回用量30μl、35μl、40μl、45μl、50μl、55μl、60μl、65μl、70μlまたは75μlが好ましい。最も好ましい単回容量は、40μl、45μl、50μl、55μlまたは60μlの総体積を有する。
【0088】
筋肉内または皮下ワクチン接種のためのワクチンまたは、飲料水ワクチンの一用量は、30μl~1000μlの体積に用量を含んでいてもよい。好ましくは、単回容量は、約30μl~1000μl、より好ましくは約50μl~500μl、より好ましくは約75μl~250μl、およびさらにより好ましくは約100μl~200μlの総体積を有しており、単回用量100μl、110μl、120μl、125μl、130μl、135μl、140μl、145μl、150μl、160μl、170μl、175μl、180μl、190μl、155μlまたは200μlが最も好ましい。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは2回以上投与される。
しかしながら、免疫原性組成物は、2回以上投与されてもよいが、1回目の投与は、2回目(追加免疫)の投与に先立って投与される。
2回投与レジメンの好ましい態様では、免疫原性組成物の1回目および2回目の投与は、共に同量で投与される。好ましくは、各投与は、上で特定した好ましい量である。1回目および2回目の投与レジメンに加えて、代替的な実施形態はさらなる後続の投与を含む。例えば、3回目、4回目または5回目の投与をこれらの態様で行ってもよい。好ましくは、後続の3回目、4回目、および5回目の投与レジメンは、1回目の投与と同じ用量で投与され、投与間の時間フレームは、上記の1回目と2回目の投与間のタイミングと一致している。
【0089】
好ましくは、ワクチンの1回目の投与は、下記の方法により、最初の3週齢内、より好ましくは1週齢内、最も好ましくは1日齢で行う。2回目の投与は、最初の20週齢内、好ましくは16~18週齢内、より好ましくは6~12週齢内に行ってよい。例示的には、最初の(1回目)ワクチン接種は、1~10日齢において行い、2回目のワクチン接種(追加免疫)は、生ワクチンまたは不活化ワクチンを用いて、6~12または16~18週齢において行う。より好ましくは、最初の(1回目)ワクチン接種は、1日齢において行い、2回目のワクチン接種(追加免疫)は、生ワクチンまたは不活化ワクチンを用いて、6~12または16~18週齢において行う。
卵内ワクチン接種を用いる場合、好ましくは、1回目の投与は、胚が15~19日齢、好ましくは17、18または19日齢、最も好ましくは18日齢である際に行う。2回目の投与は、最初の3週齢、好ましくは最初の10日齢内に行ってもよい。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、前記免疫原性組成物またはワクチンは、皮下、筋肉内、経口、卵内、スプレー、飲料水または点眼剤によって投与される。
【0090】
免疫原性組成物は、好ましくは、局所または全身に投与される。慣用的に使用される適切な投与経路は、経口または非経口投与、例えば鼻腔内、静脈内、皮内、経皮、筋肉内、腹腔内、皮下ならびに吸入、卵内、スプレー、飲料水、または点眼剤によるものである。しかし、化合物の性質および作用機構に応じて、免疫原性組成物は、他の経路によっても投与し得る。例えば、そのような他の経路としては、皮内、静脈内、血管内、動脈内、腹腔内、髄腔内、気管内、皮内、心臓内、小葉内(intralobally)、葉内、髄質内、肺内、直腸内、および膣内が挙げられる。しかし、最も好ましくは、免疫原性組成物は、皮下、筋肉内、経口、卵内で、スプレー、飲料水または点眼剤によって投与される。
生IBVワクチンは、好ましくは、個々に点眼剤、鼻腔内、筋肉内または皮下投与される。
より好ましくは、大量適用方法、例えば飲料水およびエアロゾルスプレーワクチンが使用される。また、以下にさらに記載するような胚ワクチン(卵内ワクチンとも称する)としてのワクチンの使用も好ましい。
例えば、ブロイラー、特に高レベルのMDAを有するブロイラーは、1日齢、または1~3週齢でワクチン接種してもよい。産卵ストックまたは生殖ストックは、最初に1~10日齢にワクチン接種し、7~12または16~18週齢において前記ワクチンにより追加免疫を行ってもよい。
【0091】
卵内投与
上記に概説するように、本発明はまた、卵内経路を介して安全に投与することができ、同時に保護免疫応答を誘発することができる、IBVワクチンを提供する。卵内投与は、当技術分野の当業者には周知されており、当技術分野の当業者は、容易に卵内投与を行うことができる。ワクチンの卵内投与は、卵内に含まれている状態での、ワクチンのトリ胚への投与を伴う(卵内ワクチン接種についての概説については、Ricks et al., Advances in Vet. Med. 495-515, 1999を参照のこと)。ワクチンは、当技術分野で記載されている(Sharma; Am. J. Vet. Res. 45 1619-1623,1984)ように、卵の任意の適切なコンパートメント(例えば、尿膜液、卵黄嚢、羊膜、気室または胚中)に投与し得る。好ましくは、ワクチンは殻(気室)膜または絨毛尿膜の下方に投与される。
好ましくは、ワクチンは胚形成の最終段階、一般的にはインキュベーション期間の最後の四半期、好ましくは孵化の3~4日前に胚含有卵に注射される。好ましくは、投与は、胚が15~19日齢、好ましくは17日、18日または19日齢、最も好ましくは18日齢にある際に行われる。次いで、ワクチン接種した胚含有卵を孵化のためにインキュベーターに移す。卵内投与のプロセスは、先行技術に記載されているように、ロボット注射プロセスを用いて自動化してもよい。
【0092】
一般的に、家禽の孵化後ワクチン接種のための慣用的なワクチンは、卵内ワクチン接種には使用することができないが、これは、後期胚は、試験したほとんどのワクチンウイルスに対して高度に感染しやすいためである。しかし、国際特許出願である、国際公開第01/64244号は、非常に低い用量で適用するのであれば、IBVワクチンを卵内投与に使用し得ることを記載している。さらに、Wakenell et al. 1986(Am. J. Vet. Res., 47 933-938)は、組織培養中でIBワクチンウイルスを継代することによって、ウイルスが胚に対して非病原性になったことを記載している。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは点眼剤を介して投与される。
典型的には、孵化後投与用の生ワクチンは、用量当たり101~108EID50(50%卵感染用量)の濃度、好ましくは用量当たり102~105EID50の濃度、より好ましくは単位用量当たり102~104EID50の濃度、さらにより好ましくは、用量当たり102~103EID50の濃度の弱毒化IBVを含む。
卵内投与用の生ワクチンは、典型的には、102~107EID50/胚、好ましくは102~103EID50/胚の量の弱毒化IBVを、50~100μl、好ましくは50μlの体積中に含む。
【0093】
好ましくは、本発明の免疫原性組成物は、本発明のIBVを、用量当たり約1~約10log10EID(卵感染用量)50/mlの量で、好ましくは用量当たり約2~約8log10EID50の量で、好ましくは用量当たり約2~約7log10EID50の量で、より好ましくは用量当たり約2~約6log10EID50の量で、さらにより好ましくは用量当たり約2~約5log10EID50の量で、さらにより好ましくは用量当たり約2~約4log10EID50の量で、最も好ましくは用量当たり約2~約3log10EID50の量で含む。より好ましくは、本発明の免疫原性組成物は、本発明のIBVを、用量当たり約1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5またはlog10EID50の量で含む。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは、用量当たり1~10log10EID50のIBVを含む。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは、用量当たり2~5log10EID50のIBVを含む。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは、用量当たり2~4log10EID50のIBVを含む。
【0094】
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは、1週齢以内、最初の3日齢以内、最初の2日齢以内、または最初の1日齢以内に投与される。
好ましくは、免疫化される対象は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21日齢である。より好ましくは、前記免疫化される対象は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14日齢である。最も好ましくは、前記免疫化される対象は、1、2、3、4、5、6または7日齢である。
しかし、数日齢の対象のワクチン接種後、家禽の免疫系がIBV感染に対する免疫性を構築するには数日間を要することは、理解されるべきである。したがって、好ましくは、対象は誕生の最初の24時間以内に免疫化される。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、免疫原性組成物またはワクチンは、1日齢以内に対象に投与される。実施例に示されるように、本明細書に提供する免疫原性組成物は、1日齢の家禽に投与した場合に安全であり、かつ有効であることが証明されている。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、前記結果は、同一種の非処置対照群の対象と比較して、線毛運動障害の防止または低減、ラ音の防止または低減、産卵低下の防止または低減、腎臓病変の防止または低減、水性下痢の防止または低減、体重減少の防止または低減、ウイルス負荷の低下、ウイルス脱落の減少、またはその組合せからなる群から選択される有効性パラメーターの改善をもたらす。
【0095】
「処置および/または予防」という用語は、他の箇所で定義されており、「予防(prhophylaxis)」および「防止すること(preventing)」または「防止(prevention)」という用語は本出願において互換的に使用される。さらに「脱落」という用語も他の箇所で定義されている。
「低減すること(reducing)」、「低減した(reduced)」、「低減(reduction)」または「低下(lower)」という用語は、有効性パラメーター(線毛運動障害、ラ音、産卵低下、腎臓病変、水性下痢、体重減少、ウイルス負荷、ウイルス脱落)が、同一種の非免疫化対照群の対象と比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%、さらにより好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、および最も好ましくは100%低減することを意味する。有効性パラメーターの改善を測定する方法は、当技術分野の当業者の一般的な知識の範囲内である。
【0096】
「ウイルス負荷」または「ウイルス力価」という用語は、活性ウイルス感染の重症度の尺度であり、当技術分野の当業者に公知の方法により決定し得る。「ウイルス力価」という用語は、ウイルス製剤の体積当たりの感染ユニットの尺度である。ウイルス力価は、生物学的手段のエンドポイントであり、並行して行われた試験の特定の割合が効果を有する希釈と定義されている(Reed and Muench, 1938)。決定は、ウイルスタンパク質に結合する抗体のようなウイルスタンパク質の検出、およびRT-PCRのような増幅方法によるウイルスRNAのさらなる検出、あるいはそれらの検出に基づくものであってよい。核酸増幅方法による血漿中のウイルス粒子関連ウイルスRNAのモニタリングは、レトロウイルス疾患の状態および進行を評価し、そして、予防および治療介入の効果を評価するためのパラメーターとして広く使用されている。例示的には、ウイルス負荷またはウイルス力価は、発症体液におけるウイルスの生存量、例えば血漿1mL当たりのRNAコピー数を評価することにより算出し得る。
【0097】
「線毛運動障害」という用語は、当技術分野の当業者に周知である。気管の表面は、固有上皮細胞に被覆されており、前記細胞は、線毛と称する無数の運動性毛髪様構造に裏打ちされている。「線毛運動障害」という用語は、線毛の減少または損失および/または線毛活性の損失または部分的な損失を含む。線毛運動障害は、当技術分野の当業者によって、さらなる面倒なく決定し得る。
「ラ音」という用語は、当技術分野の当業者には周知である。しかし、「ラ音」という用語は、気管ラ音を包含し、気管支から発する音を指す。ラ音は、容易に当技術分野の当業者により決定し得る。
「産卵低下」という用語は、当技術分野の当業者には周知である。「産卵低下」という用語は、卵産生の減少を含む。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、処置または防止は、同一種の非処置対照群の対象と比較して、線毛運動障害の防止または低減をもたらす。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、処置または防止は、同一種の非処置対照群の対象と比較して、腎臓病変の防止または低減をもたらす。
本発明による方法または使用の一の特定の態様では、処置または防止は、同一種の非処置対照群の対象と比較して、産卵低下の防止または低減をもたらす。
本発明はさらに、治療的使用のための、本明細書に記載のウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチンを提供する。
【0098】
本発明はさらに、免疫原またはワクチンとして使用するための、本明細書に記載のウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチンを提供する。
本発明はさらに、医薬として使用するための、本明細書に記載のウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチンを提供する。
本発明はさらに、医薬の製造のための、本明細書に記載のウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチンの使用を提供する。
本発明はさらに、対象におけるIBV感染の処置および/または防止のための、本明細書に記載のウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチンの使用を提供する。
【0099】
条項
以下の条項も、本明細書において記載される。
1.S1サブユニットの少なくとも一部が、限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルス由来であり、アミノ酸267位がシステインである、トリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
2.アミノ酸267位におけるシステインへの突然変異を含む、組換えトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
3.S1サブユニットの少なくとも一部が、限定的な細胞または組織指向性を有するIBV由来であり、アミノ酸267位がシステインである、IBVスパイクタンパク質またはその断片。
4.アミノ酸267位におけるシステインへの突然変異を含む、組換えIBVスパイクタンパク質またはその断片。
突然変異267
5.アミノ酸267位のシステインが突然変異により導入される、条項1または3のトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
6.突然変異がアミノ酸置換、欠失または挿入である、条項2、4または5のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
【0100】
7.アミノ酸267位の疎水性アミノ酸がシステインに突然変異される、またはアミノ酸267位のフェニルアラニンもしくはロイシンがシステインに突然変異される、条項2および4~6のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
拡張された細胞または組織指向性
8.アミノ酸267位のシステインまたはアミノ酸267位におけるシステインへの前記突然変異が、トリコロナウイルスまたはIBVの拡張された細胞または組織指向性に導く、条項1~7のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
9.トリコロナウイルスまたはIBVが、肺もしくは肝臓由来の初代ニワトリ胚細胞、または初代ニワトリ線維芽細胞、ニワトリ胚性線維芽細胞系、アヒル胚性幹細胞系、ヒト胚性腎臓細胞系、ベビーハムスター腎臓細胞系、アフリカミドリザル腎臓細胞系、ウサギ腎臓細胞系、イヌ腎臓細胞系、ニワトリ肝臓細胞系、ウシ腎臓細胞系、ブタ腎臓細胞系および昆虫細胞系からなるリストから選択される少なくとも1種の細胞系または細胞において感染および/または複製する、条項1~8のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
【0101】
10.トリコロナウイルスまたはIBVが、DF-1(Douglas Foster)、EB66(アヒル胚性幹細胞系)、PBS-12、PBS-12SF(PBS-12無血清)、BHK21(ベビーハムスター腎臓)、HEK293T(ヒト胚性腎臓)、Vero(Verda Reno)、MA104、RK13(ウサギ腎臓)、LMH(レグホンオス肝細胞癌)、MDCK(Madin-Darbyイヌ腎臓)、MDBK(Madin-Darbyウシ腎臓)、PK15(ブタ腎臓)、PK2A(ブタ腎臓)、SF9、SF21およびSF+(スポドプテラ・フルギペルダ)からなるリストから選択される少なくとも1種の細胞系において感染および/または複製する、条項1~9のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
11.トリコロナウイルスまたはIBVが、DF-1、EB66、PBS-12、PBS-12SF、BHK、HEK293T、Vero、MA104およびRK13からなるリストから選択される少なくとも1種の細胞系において感染および/または複製する、条項1~10のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
アミノ酸267位の番号付け
12.アミノ酸267位の番号付けが、IBV H52、IBV H120またはM41のスパイクタンパク質におけるアミノ酸267位を指す、条項1~11のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
【0102】
13.アミノ酸267位の番号付けが、IBV H52のスパイクタンパク質におけるアミノ酸267位を指す、条項1~12のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
14.アミノ酸267位の番号付けが、配列番号1に例示的に与えられるスパイクタンパク質におけるアミノ酸267位を指す、条項1~12のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
15.配列番号1のアミノ酸配列が、スパイクタンパク質における位置番号付けを決定するのに使用される、条項1~12のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
16.スパイクタンパク質におけるアミノ267位を決定するために、アミノ酸配列が配列番号1のアミノ酸配列に対して整列される、条項1~12のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
17.アミノ酸267位がスパイクタンパク質のS1サブユニット内にある、条項1~16のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
【0103】
18.スパイクタンパク質が、以下の
- 264がアスパラギンであり、かつ/または
- 265がスレオニンであり、かつ/または
- 269がロイシンであり、かつ/または
- 271がアスパラギンであり、かつ/または
- 272がフェニルアラニンである、
からなる群から選択されるアミノ酸のうち1種または複数を有する、条項1~17のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
スパイク
19.トリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片が、感染性気管支炎ウイルス(IBV)、ホロホロチョウコロナウイルス(GfCoV)およびシチメンチョウコロナウイルス(TCoV、シチメンチョウ腸炎ウイルスおよびブルーコム病ウイルス)からなる群から選択される、条項1および2および5~18のいずれか1つのトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【0104】
20.トリコロナウイルスがIBV(感染性気管支炎ウイルス)である、条項1および2および5~19のいずれか1つのトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
21.スパイクタンパク質が、Arkansas(Arkansas99など)、Brazil(BR-1、BR-2、23/2013、IBV/Brasil/351/1984など)、California(California1734/04、California99など)、Connecticut、Delaware(Delaware98など)、Dutch(D207、D212、D274、D3128、D3896、D8880、D1466など)、Florida、Georgia(Georgia GA-07、GA-08、GA-12、GA-13など)、Gray、Holte、Iowa(Iowa97およびIowa69など)、Italy02、JMK、LDT3、Maine(Maine209など)、Massachusetts(M41、H52、H120など、Beaudetteを除く)、Pennsylvania(Pennsylvania1220/98、Pennsylvania Wolg/98など)、PL84084、Qu(Qu-mvなど)、QX(GB341/96など)、Q1、SE17、バリアント2(IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016など)および4/91(793B、CR88)からなるリストから選択される遺伝子型または血清型または株を有するIBV由来である、条項3~20のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【0105】
22.スパイクタンパク質がBeaudette株由来でない、条項3~21のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
23.スパイクタンパク質またはその断片が、Massachusetts(Beaudetteでない)、4/91、QX、Q1、Italy02、Arkansas、Conneticut、Georgia、LDT3、PL84084、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型または株のリストから選択されるIBV由来である、条項3~22のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
24.スパイクタンパク質またはその断片が、Massachusetts(Beaudetteでない)、4/91、QX、Q1、Arkansas、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型のリストから選択されるIBV由来である、条項3~23のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
25.スパイクタンパク質またはその断片が、Massachusetts(Beaudetteでない)および4/91からなる遺伝子型または血清型のリストから選択されるIBV由来である、条項3~24のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【0106】
26.Massachusetts株が、H120、H52、Spain/98/308、IBMA5-1、SD/97/01、Spain/96/334およびM41-M21883からなるリストから選択される、条項24のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
27.4/91株が、Spain/98/328、Spain/92/35、IR-3654-VM、FR-CR88061-88、FR-85131-85、UK-1233-95、UK/3/91、Spain/00/336、UK/7/91、4/91-病原性、4/91弱毒化およびIB4-91からなるリストから選択される、条項24のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
28.QX株が、FR-L1450T-05、FR-L1450L-05、NL-L1449T-04、NL-L1449K-04、IBV/Ck/SP/170/09、IBV/Ck/SP/79/08、IBV/Ck/SP/248/09、HBN、IBVQX、LX4、BJQ、CK/CH/LGD/03、SP2013-01470、SP2013-014171、SP2013-01478およびGB341/96からなるリストから選択される、条項24のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【0107】
29.Q1株が、CK/CH/LDL/98I、CK/CH/LSD/08-10、J2、Q1、AR08ER22、AR08BA21、12.185、12.124、12.216およびChile-295-10からなるリストから選択される、条項24のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
30.Arkansas株が、Ark99、ArkGA、ArkDPI、AL/5364/00、ARKDPI11、AL/0803/01、AL/7149/00、ArkDPI101、AL/1221/01、AL/1793/01およびAL/4614/98からなるリストから選択される、条項24のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
31.Italy02株が、Spain/99/316、Italy-02、UK-L633-04、It-497-02、Spain/05/866、Spain/04/221、Spain/00/337、Spain/155/09およびSpain/03/08を含むリストから選択される、条項24のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
32.バリアント2株が、IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016、Eg/CLEVB-2/IBV/012、D1344/2/4/10_EG、TR8およびIB VAR2-06からなるリストから選択される、条項24のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【0108】
33.Brazil株が、BR-1、BR-2、23/2013、およびIBV/Brasil/351/1984からなるリストから選択される、条項24のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
34.スパイクタンパク質またはその断片が、Massachusetts(Beaudetteでない)、4/91またはQX遺伝子型または血清型のIBV由来である、条項3~24のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
35.IBV株が、H52、H120、QX SP2013-01478またはCR88である、条項3~24のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
36.IBVスパイクタンパク質またはその断片が、配列番号2、3、4、5、6、7、8、77に示されるアミノ酸配列、またはこれらに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%もしくは99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、またはそれを含む、条項3~35のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【0109】
37.IBVスパイクタンパク質またはその断片が、GI-2~27、GII-1、GIII-1、GIV-1、GV-1、GVI-1からなる遺伝子型のリストから選択される、条項3~36のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
38.スパイクタンパク質またはその断片がGI-1遺伝子型由来でない、条項3~37のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
39.限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルス由来のS1サブユニットの前記少なくとも一部が、感染性気管支炎ウイルス(IBV)、ホロホロチョウコロナウイルス(GfCoV)およびシチメンチョウコロナウイルス(TCoV、シチメンチョウ腸炎ウイルスおよびブルーコム病ウイルス)からなる群から選択される、条項1および5~38のいずれか1つのトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
40.限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルス由来のS1サブユニットの前記少なくとも一部が、IBV(感染性気管支炎ウイルス)由来である、条項1および5~38のいずれか1つのトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
【0110】
41.S1サブユニットの前記少なくとも一部が、Arkansas(Arkansas99など)、Brazil(BR-1、BR-2、23/2013、IBV/Brasil/351/1984など)、California(California1734/04、California99など)、Connecticut、Delaware(Delaware98など)、Dutch(D207、D212、D274、D3128、D3896、D8880、D1466など)、Florida、Georgia(Georgia GA-07、GA-08、GA-12、GA-13など)、Gray、Holte、Iowa(Iowa97およびIowa69など)、Italy02、JMK、LDT3、Maine(Maine209など)、Massachusetts(M41、H52、H120など、Beaudetteを除く)、Pennsylvania(Pennsylvania1220/98、Pennsylvania Wolg/98など)、PL84084、Qu(Qu-mvなど)、QX(GB341/96など)、Q1、SE17、バリアント2(IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016など)および4/91(793B、CR88)からなる遺伝子型または血清型または株のリストから選択されるIBV由来である、条項3および5~40のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【0111】
42.S1サブユニットの前記少なくとも一部が、Massachusetts(Beaudetteでない)、4/91、QX、Q1、Italy02、Arkansas、Conneticut、Georgia、LDT3、PL84084、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型または株のリストから選択されるIBV由来である、条項3および5~41のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
43.S1サブユニットの前記少なくとも一部が、Massachusetts、4/91、QX、Q1、Arkansas、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型のリストから選択されるIBV由来である、条項3および5~41のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【0112】
44.Massachusetts株が、H120、H52、Spain/98/308、IBMA5-1、SD/97/01、Spain/96/334およびM41-M21883からなるリストから選択される、条項43のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
45.4/91株が、Spain/98/328、Spain/92/35、IR-3654-VM、FR-CR88061-88、FR-85131-85、UK-1233-95、UK/3/91、Spain/00/336、UK/7/91、4/91-病原性、4/91弱毒化およびIB4-91からなるリストから選択される、条項43のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
46.QX株が、FR-L1450T-05、FR-L1450L-05、NL-L1449T-04、NL-L1449K-04、IBV/Ck/SP/170/09、IBV/Ck/SP/79/08、IBV/Ck/SP/248/09、HBN、IBVQX、LX4、BJQ、CK/CH/LGD/03およびGB341/96からなるリストから選択される、条項43のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【0113】
47.Q1株が、CK/CH/LDL/98I、CK/CH/LSD/08-10、J2、Q1、AR08ER22、AR08BA21およびChile-295-10からなるリストから選択される、条項43のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
48.Arkansas株が、Ark99、ArkGA、ArkDPI、AL/5364/00、ARKDPI11、AL/0803/01、AL/7149/00、ArkDPI101、AL/1221/01、AL/1793/01およびAL/4614/98からなるリストから選択される、条項43のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【0114】
49.バリアント2株が、IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016、Eg/CLEVB-2/IBV/012、D1344/2/4/10_EG、TR8およびIB VAR2-06からなるリストから選択される、条項43のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
50.Brazil株が、BR-1、BR-2、23/2013およびIBV/Brasil/351/1984からなるリストから選択される、条項43のIBVスパイクタンパク質またはその断片。
51.S1サブユニットの前記少なくとも一部が、Massachusetts(Beaudetteでない)、QXおよび4/91からなる遺伝子型または血清型のリストから選択されるIBV由来である、条項3および5~43のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
52.S1サブユニットの前記少なくとも一部が、IBV株H120、H52、QX SP2013-01478またはCR88由来である、条項3および5~43のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【0115】
53.S1サブユニットの少なくとも一部が、限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルスまたはIBVのS1サブユニット配列、またはこれらに対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列由来の少なくとも1、5、10、15、20、25、50、100、150、200、250、300、350、400もしくは500個の連続するアミノ酸である、条項1および3および5~52のいずれか1つのトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片。
54.S1サブユニットの少なくとも一部が、条項36~50のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVのS1サブユニット配列、またはこれらに対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列由来の少なくとも1、5、10、15、20、25、50、100、150、200、250、300、350、400もしくは500個の連続するアミノ酸である、条項1および3および5~52のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
55.限定的な細胞または組織指向性を有するIBV由来のS1サブユニットの前記少なくとも一部が、配列番号2、3、4、5、6、7、8、77に示されるアミノ酸配列、またはこれらに対して少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列の少なくとも1、5、10、15、20、25、50、100、150、200、250、300、350、400もしくは500個の連続するアミノ酸を有する、条項3および5~52のいずれか1つのIBVスパイクタンパク質またはその断片。
【0116】
56.限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルスまたはIBVが、胚含有鶏卵および/または初代ニワトリ腎臓細胞における感染および/または複製に限定される、条項1および3および5~55のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
57.限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルスまたはIBVが、EB66細胞においては感染および/または複製しない、条項1および3および5~56のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
58.限定的な細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルスまたはIBVが、PBS-12および/またはHEK293T細胞においては感染および/または複製しない、条項1および3および5~56のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
断片
59.トリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質の断片が、少なくとも500、750、1000または1077アミノ酸の長さを有する、条項1~58のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
【0117】
60.トリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質の断片が、少なくとも1000アミノ酸の長さを有する、条項1~59のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質またはそれらの断片。
61.アミノ酸267位のシステインまたはアミノ酸267位におけるシステインへの突然変異が遺伝的に安定である、条項1~60のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBVスパイクタンパク質。
62.条項1~61のいずれか1つのスパイクタンパク質またはその断片をコードするヌクレオチド配列。
63.条項62のヌクレオチド配列を含むプラスミド。
64.条項63のプラスミドを含む細胞。
65.条項1~61のいずれか1つのスパイクタンパク質またはその断片を含むウイルス粒子。
66.条項1~61のいずれか1つのスパイクタンパク質またはその断片を含むトリコロナウイルス。
【0118】
67.条項3~61のいずれか1つのスパイクタンパク質を含むIBV(感染性気管支炎ウイルス)。
68.トリコロナウイルスまたはIBVが弱毒化されている、条項66または67のトリコロナウイルスまたはIBV。
69.トリコロナウイルスまたはIBVが遺伝子操作されている、条項66~68のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBV。
70.トリコロナウイルスまたはIBVが組換え体である、条項66~69のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBV。
71.トリコロナウイルスまたはIBVがキメラである、条項66~70のいずれか1つのトリコロナウイルスまたはIBV。
【0119】
72.IBVが、Arkansas(Arkansas99など)、Brazil(BR-1、BR-2、23/2013、IBV/Brasil/351/1984など)、California(California1734/04、California99など)、Connecticut、Delaware(Delaware98など)、Dutch(D207、D212、D274、D3128、D3896、D8880、D1466など)、Florida、Georgia(Georgia GA-07、GA-08、GA-12、GA-13など)、Gray、Holte、Iowa(Iowa97およびIowa69など)、Italy02、JMK、LDT3、Maine(Maine209など)、Massachusetts(M41、H52、H120、Beaudette)、Pennsylvania(Pennsylvania1220/98、Pennsylvania Wolg/98など)、PL84084、Qu(Qu-mvなど)、QX(GB341/96など)、Q1、SE17、バリアント2(IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016など)および4/91(793B、CR88)からなる株のリストから選択される遺伝子型を有するIBV由来である、条項67~71のいずれか1つのIBV。
73.IBVが、Massachusetts、4/91、QX、Q1、Italy02、Arkansas、Conneticut、Georgia、LDT3、PL84084、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型のリストから選択される、条項67~72のいずれか1つのIBV。
【0120】
74.IBVが、Massachusetts、4/91、QX、Q1、Arkansas、バリアント2およびBrazilからなる遺伝子型または血清型のリストから選択される、条項67~73のいずれか1つのIBV。
75.Massachusetts株が、H120、H52、Spain/98/308、IBMA5-1、SD/97/01、Beaudette、Spain/96/334およびM41-M21883からなるリストから選択される、条項74のIBV。
76.4/91株が、Spain/98/328、Spain/92/35、IR-3654-VM、FR-CR88061-88、FR-85131-85、UK-1233-95、UK/3/91、Spain/00/336、UK/7/91、4/91-病原性、4/91弱毒化およびIB4-91からなるリストから選択される、条項74のIBV。
77.QX株が、FR-L1450T-05、FR-L1450L-05、NL-L1449T-04、NL-L1449K-04、IBV/Ck/SP/170/09、IBV/Ck/SP/79/08、IBV/Ck/SP/248/09、HBN、IBVQX、LX4、BJQ、CK/CH/LGD/03およびGB341/96からなるリストから選択される、条項74のIBV。
【0121】
78.Q1株が、CK/CH/LDL/98I、CK/CH/LSD/08-10、J2、Q1、AR08ER22、AR08BA21およびChile-295-10からなるリストから選択される、条項74のIBV。
79.Italy02株が、Spain/99/316、Italy-02、UK-L633-04、It-497-02、Spain/05/866、Spain/04/221、Spain/00/337、Spain/155/09およびSpain/03/08からなるリストから選択される、条項74のIBV。
80.Arkansas株が、Ark99、ArkGA、ArkDPI、AL/5364/00、ARKDPI11、AL/0803/01、AL/7149/00、ArkDPI101、AL/1221/01、AL/1793/01およびAL/4614/98からなるリストから選択される、条項74のIBV。
81.バリアント2株が、IS/1494/06、IBV/Ck/EG/CU/4/2014、ガンマCoV/Ck/Poland/G052/2016、Eg/CLEVB-2/IBV/012、D1344/2/4/10_EG、TR8およびIB VAR2-06からなるリストから選択される、条項74のIBV。
82.Brazil株が、BR-1、BR-2、23/2013およびIBV/Brasil/351/1984からなるリストから選択される、条項74のIBV。
83.スパイクタンパク質またはその断片が、Massachusettsまたは4/91遺伝子型または血清型のIBV由来である、条項67~74のいずれか1つのIBV。
【0122】
84.IBV株がH120、H52またはCR88である、条項67~74のいずれか1つのIBV。
85.IBVが、配列番号2、3、4、5、6、7、8、77に示されるアミノ酸配列、またはこれらに対して少なくとも80%、85%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、99.95%、99.98%もしくは99.99%の配列同一性を有する配列からなるか、またはそれを含むIBVスパイクタンパク質またはその断片を有する、条項67~84のいずれか1つのIBV。
86.IBVが拡張された細胞または組織指向性を有する、条項67~85のいずれか1つのIBV。
87.IBVが、条項9~11のいずれか1つの少なくとも1種の細胞系または細胞において感染および/または複製する、条項67~86のいずれか1つのIBV。
88.
- 条項65のウイルス粒子、または
- 条項66~87のいずれか1つのトリコロナウイルスもしくはIBV
を含む細胞。
【0123】
89.細胞が、初代ニワトリ胚細胞、ニワトリ胚性線維芽細胞系、アヒル胚性幹細胞系、ヒト胚性腎臓細胞系、ベビーハムスター腎臓細胞系、アフリカミドリザル腎臓細胞系、ウサギ腎臓細胞系、イヌ腎臓細胞系、ニワトリ肝臓細胞系、ウシ腎臓細胞系、ブタ腎臓細胞系および昆虫細胞系からなるリストから選択される細胞系または細胞である、条項88の細胞。
90.細胞が、DF-1(Douglas Foster)、EB66(アヒル胚性幹細胞系)、PBS-12、PBS-12SF(PBS-12無血清)、BHK21(ベビーハムスター腎臓)、HEK293T(ヒト胚性腎臓)、Vero(Verda Reno)、MA104、RK13(ウサギ腎臓)、LMH(レグホンオス肝細胞癌)、MDCK(Madin-Darbyイヌ腎臓)、MDBK(Madin-Darbyウシ腎臓)、PK15(ブタ腎臓)、PK2A(ブタ腎臓)、SF9、SF21およびSF+(スポドプテラ・フルギペルダ)からなるリストから選択される細胞系である、条項88または89の細胞。
91.細胞が、DF-1、EB66、PBS-12、PBS-12SF、BHK、HEK293T、Vero、MA104およびRK13からなるリストから選択される細胞系である、条項88または89の細胞。
【0124】
92.初代ニワトリ胚細胞が、線維芽細胞、または肝臓もしくは肺組織由来の細胞である、条項89の細胞。
93.
- 条項1~61のいずれか1つのスパイクタンパク質、または
- 条項65のウイルス粒子、または
- 条項66~87のいずれか1つのトリコロナウイルスもしくはIBV
を含む免疫原性組成物。
94.
- 条項1~61のいずれか1つのスパイクタンパク質、または
- 条項65のウイルス粒子、または
- 条項66~87のいずれか1つのコロナウイルスもしくはIBV
を含むワクチン。
95.
- 条項1~61のいずれか1つのスパイクタンパク質、または
- 条項65のウイルス粒子、または
- 条項66~87のいずれか1つのコロナウイルスもしくはIBV
を含む、拡張された細胞または組織指向性を有する改変された生ワクチン。
【0125】
96.免疫原性組成物またはワクチンが、薬学的に許容される担体を含む、条項93~95のいずれか1つの免疫原性組成物またはワクチン。
97.薬学的に許容される担体がリン酸緩衝食塩水である、条項96の免疫原性組成物またはワクチン。
98.免疫原性組成物またはワクチンが、それを必要とする対象においてIBVにより引き起こされる臨床徴候の処置および/または予防に有効である、条項93~97のいずれか1つの免疫原性組成物またはワクチン。
99.免疫原性組成物またはワクチンが、1~10log10EID50のIBVを含む、条項93~98のいずれか1つの免疫原性組成物またはワクチン。
100.免疫原性組成物またはワクチンが、2~5log10EID50のIBVを含む、条項93~99のいずれか1つの免疫原性組成物またはワクチン。
101.免疫原性組成物またはワクチンが、2~4log10EID50のIBVを含む、条項93~100のいずれか1つの免疫原性組成物またはワクチン。
【0126】
102.条項1~61のいずれか1つのトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、トリコロナウイルスの細胞または組織指向性を変化させるための方法。
103.条項1~61のいずれか1つのトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、トリコロナウイルスの細胞または組織指向性を拡張させるための方法。
104.条項1~61のいずれか1つのトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、拡張された細胞または組織指向性を有するトリコロナウイルスの生成または製造のための方法。
105.条項1~61のいずれか1つのトリコロナウイルススパイクタンパク質またはその断片の使用を含む、細胞または組織培養物においてトリコロナウイルスを培養するための方法。
106.前記トリコロナウイルスのスパイクタンパク質におけるアミノ酸267位を改変するステップを含む、トリコロナウイルスを改変するための方法。
【0127】
107.
a)トリコロナウイルススパイクヌクレオチドまたはタンパク質配列を用意するステップ、
b)参照配列との整列化により、スパイクタンパク質における267位を特定するステップ、
c)ステップb)のスパイクタンパク質の267位をシステインに突然変異させるステップ、
d)ステップc)の突然変異されたスパイクタンパク質を得るステップ
を含む、トリコロナウイルススパイクタンパク質におけるアミノ酸267位を突然変異させるための方法。
108.スパイクタンパク質またはその断片がアミノ酸267位にシステインを有する、条項102~106のいずれか1つの方法。
109.アミノ酸267位のシステインが突然変異により導入される、条項106~108のいずれか1つの方法。
110.突然変異がアミノ酸置換、欠失または挿入である、条項109の方法。
111.フェニルアラニンまたはロイシンが、267位のアミノ酸においてシステインに改変または突然変異される、条項106~111のいずれか1つの方法。
112.トリコロナウイルスが、条項67~87のいずれか1つのIBVである、条項102~111のいずれか1つの方法。
【0128】
113.コロナウイルススパイクタンパク質が、条項3~61のいずれか1つのIBV(感染性気管支炎ウイルス)スパイクタンパク質である、条項102~112のいずれか1つの方法。
114.アミノ酸267位のシステインまたはアミノ酸267位におけるシステインへの前記突然変異が、拡張された細胞または組織指向性に導く、条項102~113のいずれか1つの方法。
115.トリコロナウイルスまたはIBVが、条項9~11のいずれか1つの少なくとも1種の細胞系または細胞において感染および/または複製する、条項102~114のいずれか1つの方法。
116.アミノ酸267位の番号付けが、条項12~18のいずれか1つに従って行われる、条項106~115のいずれか1つの方法。
キット条項
117.条項65~88および93~101のいずれか1つのウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチンを含むキット。
【0129】
118.キットが、トリの疾患の処置および/もしくは予防のための使用説明書、または家禽類の疾患の処置および/もしくは予防のための使用説明書、またはIBの処置および/もしくは予防のための使用説明書をさらに含む、条項117のキット。
119.キットが、前記動物にワクチンを投与することができるディスペンサーをさらに含む、条項117または118のキット。
処置方法条項
120.条項93~101のいずれか1つの免疫原性組成物またはワクチンを対象に投与するステップを含む、そのような対象を免疫化するための方法。
121.それを必要とする対象においてIBVにより引き起こされる臨床徴候を処置または防止する方法であって、治療有効量の条項93~101のいずれか1つの免疫原性組成物またはワクチンを対象に投与するステップを含む、方法。
122.それを必要とする対象において、同じ種の免疫化されていない対照群の対象と比較して線毛運動障害を低減させる方法であって、治療有効量の条項93~101のいずれか1つの免疫原性組成物またはワクチンを対象に投与するステップを含む、方法。
123.対象を免疫化するための方法であって、治療有効量の前記免疫原性組成物またはワクチンを対象に投与するステップを含む、方法において使用するための、条項93~101のいずれか1つの免疫原性組成物またはワクチン。
【0130】
124.それを必要とする対象においてIBVにより引き起こされる臨床徴候を処置または防止する方法であって、治療有効量の前記免疫原性組成物またはワクチンを対象に投与するステップを含む、方法において使用するための、条項93~101のいずれか1つの免疫原性組成物またはワクチン。
125.それを必要とする対象において、同じ種の免疫化されていない対照群の対象と比較して線毛運動障害を低減させる方法であって、治療有効量の前記免疫原性組成物またはワクチンを対象に投与するステップを含む、方法において使用するための、条項93~101のいずれか1つの免疫原性組成物またはワクチン。
126.前記対象がトリである、条項120~125のいずれか1つの方法または使用。
127.前記対象が家禽類である、条項120~126のいずれか1つの方法または使用。
128.前記対象が、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、またはキジからなるリストから選択される、条項120~127のいずれか1つの方法または使用。
129.前記対象がニワトリである、条項120~128のいずれか1つの方法または使用。
【0131】
130.免疫原性組成物またはワクチンが1回投与される、条項120~129のいずれか1つの方法または使用。
131.免疫原性組成物またはワクチンが2回以上の用量で投与される、条項120~129のいずれか1つの方法または使用。
132.前記免疫原性組成物またはワクチンが、皮下に、筋肉内に、経口で、卵内に、噴霧により、飲料水により、または点眼により投与される、条項120~131のいずれか1つの方法または使用。
133.前記免疫原性組成物またはワクチンが点眼により投与される、条項120~132のいずれか1つの方法または使用。
134.免疫原性組成物またはワクチンが、用量1回あたり1~10log10EID50のIBVを含む、条項120~133のいずれか1つの方法または使用。
135.免疫原性組成物またはワクチンが、用量1回あたり2~5log10EID50のIBVを含む、条項120~134のいずれか1つの方法または使用。
136.免疫原性組成物またはワクチンが、用量1回あたり2~4log10EID50のIBVを含む、条項120~135のいずれか1つの方法または使用。
【0132】
137.免疫原性組成物またはワクチンが、生後1週齢以内、生後3日齢以内、生後2日齢以内、または生後1日齢以内に対象に投与される、条項120~136のいずれか1つの方法または使用。
138.免疫原性組成物またはワクチンが、生後1日齢以内に対象に投与される、条項120~137のいずれか1つの方法または使用。
139.前記方法が、同じ種の処置されていない対照群の対象と比較して、線毛運動障害の防止もしくは低減、ラ音の防止もしくは低減、産卵低下の防止もしくは低減、腎臓病変の防止もしくは低減、水様性下痢の防止もしくは低減、体重減少の防止もしくは低減、ウイルス量の低下、ウイルス排出の低減またはそれらの組合せからなる群から選択される有効性パラメーターの改善をもたらす、条項120~138のいずれか1つの方法または使用。
140.処置または防止が、同じ種の処置されていない対照群の対象と比較して、線毛運動障害の防止または低減をもたらす、条項120~139のいずれか1つの方法または使用。
【0133】
141.処置または防止が、同じ種の処置されていない対照群の対象と比較して、腎臓病変の防止または低減をもたらす、条項120~140のいずれか1つの方法または使用。
142.処置または防止が、同じ種の処置されていない対照群の対象と比較して、産卵低下の防止または低減をもたらす、条項120~141のいずれか1つの方法または使用。
143.治療での使用のための、条項65~87および93~101のいずれか1つのウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチン。
144.免疫原またはワクチンとしての使用のための、条項65~87および93~101のいずれか1つのウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチン。
145.医薬としての使用のための、条項65~87および93~101のいずれか1つのウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチン。
146.医薬の製造のための、条項65~87および93~101のいずれか1つのウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチンの使用。
147.対象におけるIBV感染の処置および/または予防のための、条項65~87および93~101のいずれか1つのウイルス粒子、トリコロナウイルス、IBV、免疫原性組成物またはワクチンの使用。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【
図1】RT-qPCRによるウイルス負荷の検出により評価される、H52 rIBV野生型ウイルスと比較したH52 rIBV S F267Cの卵中動態。データポイントは、各タイムポイントの5つの試料の平均を表す。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図2】Eb66(登録商標)細胞におけるH52 rIBV S F267Cの継代。RT-qPCR CT値は、各継代の感染(t=0)および回収(t=72)のタイムポイントにおいて決定する。P1~P5は、以前の継代のウイルスストックの1/10希釈による感染によって作製する。P6およびP7は、以前の継代の1/1000希釈の接種により作製する。試験は、1回目の継代については、MOI0.001で繰り返し、類似の結果が得られる。
【
図3】EB66(登録商標)細胞におけるH52 rIBV S F267Cの複製動態。細胞にウイルスの3回目のEB66(登録商標)-増殖継代からのTCID50力価に基づいて、MOI0.001でrIBVを感染させる。核酸は、0、8、24、48および72hpiにおいて単離し、IBV-特異的なRT-qPCRにより解析する。各データポイントは、3回の独立した試験の平均ct値を表す。エラーバーは、平均標準誤差(SEM)を示す。
【
図4】EB66(登録商標)細胞におけるH52 rIBV S F267Cの複製動態。タイムポイント0、8、24、48および72hpiにおける試料を、TCID50滴定により解析する。1回の実験結果を示す。
【
図5】M41暴露に対するH52 rIBV S F267Cによる保護についての線毛運動障害スコア付けの概略。1匹の動物の10の輪についての10の個々のスコアの合計を算出し、グラフ中の1つの点により表す。最大線毛運動障害は、スコア40に相当し、線毛運動障害なしをスコア0で表す。平均および有意性を、GraphPad Prismおよび通常の一元配置分散分析試験を用いて算出する(p<0.0001)。
【
図6】H52 rIBV S F267Cの有効性試験についての暴露後7日間の腎臓組織のRT-qPCR結果の概略。各個体の鳥を1つのドットで示す。
【
図7】免疫蛍光分析により決定するPBS-12SF細胞におけるH52 rIBV S F267Cの複製。3回の独立した試験の1回を示す。
【
図8】上清からの核酸抽出およびそれに続くRT-qPCR解析により決定する、PBS-12SF細胞におけるH52 rIBV S F267Cの複製。2回の独立した試験の1回を示す。
【
図9】免疫蛍光分析により決定するHEK 293T 細胞におけるH52 rIBV S F267Cの複製。3回の独立した試験の1回を示す。
【
図10】RT-qPCRによるウイルス負荷の検出により評価される、CR88 rIBV野生型ウイルスと比較したCR88 rIBV S L269Cの卵中動態。データポイントは、各タイムポイントの5つの試料の平均を表す。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図11】Eb66(登録商標)細胞におけるCR88 rIBV S L269Cの継代。RT-qPCR CT値は、各継代の感染(t=0)および回収(t=72)のタイムポイントにおいて決定する。CR88 rIBV野生型は、陰性対照として含める。P2、P5およびP8についてのCR88 rIBV S L269Cデータを示す。同一の継代試験に含まれているCR88 rIBVは、継代が1回少なく、最初の継代(P1)および最後の継代(P7)である。各継代は、前の継代の1/100希釈を感染させることにより作製する。
【
図12】EB66(登録商標)細胞におけるCR88 rIBV S L269Cの複製動態。細胞は、ウイルスの3回目のEB66(登録商標)-増殖継代からのTCID
50力価に基づいてMOI0.001で、rIBVを感染させる。0、8、24、48および72hpiで核酸を単離し、IBV-特異的なRT-qPCRにより分析する。各データポイントは、3回の独立した試験の平均ct値を表す。エラーバーは、平均標準誤差(SEM)を示す。
【
図13】EB66(登録商標)細胞におけるCR88 rIBV S L269Cの複製動態。タイムポイント0、8、24、48および72hpiにおける試料をTCID50滴定により解析する。1回の試験の結果を示す。
【
図14】793B暴露に対するCR88 rIBV S L269C による保護についての線毛運動障害スコア付けの概略。1匹の動物の10の輪についての10の個々のスコアの合計を算出し、グラフ中の1つの点により表す。最大線毛運動障害は、スコア40に相当し、線毛運動障害なしをスコア0で表す。平均および有意性を、GraphPad Prismおよび通常の一元配置分散分析試験を用いて算出する(*p<0.02、**p<0.007)。
【
図15】CR88 rIBV S L269Cの有効性試験についての暴露後7日間の腎臓組織のRT-qPCR結果の概略。各個体の鳥を1つの点で示す。
【
図16】RT-qPCRによるウイルス負荷の検出により評価される、IBV QX、H52 rIBVおよびCR88 rIBVと比較したH52 rIBV QX S L270CおよびCR88 rIBV QX S L270Cの卵中動態。データポイントは、各タイムポイントの5つの試料の平均を表す。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図17】Eb66(登録商標)細胞におけるCR88 rIBV QX S L270Cの継代。RT-qPCR CT値は、各継代の感染(t=0)および回収(t=72)のタイムポイントにおいて決定する。
【
図18】Eb66(登録商標)細胞におけるH52 rIBV QX S L270Cの継代。RT-qPCR CT値は、各継代の感染(t=0)および回収(t=72)のタイムポイントにおいて決定する。
【
図19】EB66(登録商標)細胞におけるH52 rIBV QX S L270CおよびCR88 rIBV QX S L270Cの複製動態。細胞は、ウイルスの3回目のEB66(登録商標)-増殖継代からのTCID
50力価に基づいてMOI0.001で、rIBVを感染させる。0、8、24および48hpiで核酸を単離し、IBV-特異的なRT-qPCRにより解析する。各データポイントは、それぞれ3つ組で行った、3回の独立した試験の平均ct値を表す。エラーバーは、平均標準誤差(SEM)を示す。
【
図20】D388 QX暴露に対するCR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cによる保護についての線毛運動障害スコア付けの概略。1匹の動物の10の輪についての10の個々のスコアの合計を算出し、グラフ中の1つの点により表す。最大線毛運動障害は、スコア40に相当し、線毛運動障害なしをスコア0で表す。平均および有意性を、GraphPad Prismおよび通常の一元配置分散分析試験を用いて算出する(***p<0.001、****p<0.0001)。
【
図21】CR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cの有効性試験についての暴露後7日間の腎臓組織のRT-qPCR結果の概略。各個体の鳥を1つの点で示す。
【発明を実施するための形態】
【0135】
配列概略
配列番号1 IBV H52スパイクタンパク質
配列番号2 F267C突然変異を有するIBV H52スパイクタンパク質
配列番号3 L269C突然変異を有するIBV CR88スパイクタンパク質
配列番号4 L270C突然変異を有するIBV QXスパイクタンパク質
配列番号5 L271C突然変異を有するIBV Q1スパイクタンパク質
配列番号6 L270C突然変異を有するIBVバリアント2スパイクタンパク質
配列番号7 L274C突然変異を有するIBV BR-Iスパイクタンパク質
配列番号8 L274C突然変異を有するIBV Arkスパイクタンパク質
配列番号9 pUC57-s H52 rIBVドナープラスミド
配列番号10 pUC57-s H52 rIBV S F267Cドナープラスミド
配列番号11 IBV CR88スパイク配列
配列番号12 pUC57-s CR88 mIBVドナープラスミド
配列番号13 pGEM-T IBV CR88スパイクプラスミド
配列番号14 pUC57-s CR88 rIBV S L269Cドナープラスミド
配列番号15 L269C突然変異を有するpGEM-T IBV CR88スパイク
配列番号16~64 プライマー
配列番号65 IBV QXスパイクタンパク質
配列番号66 pGEM-T IBV QX S L270Cプラスミド
配列番号67 pUC57-s CR88 rIBVドナープラスミド
配列番号68 pUC57-s CR88 rIBV QX S L270Cドナープラスミド
配列番号69 pUC57-s H52 rIBV QX S L270Cドナープラスミド
配列番号70~75 プライマー
配列番号76 IBV ArkDPIスパイクタンパク質
配列番号77 L274C突然変異を有するIBV ArkDPIスパイクタンパク質
配列番号78 pUC57-s IBV ArkDPI S L274C
配列番号79 pUC57-s H52 rIBV ArkDPI S Ecto L274Cドナープラスミド
配列番号80~84 プライマー
【実施例】
【0136】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を示す。これらの実施例は、例示に過ぎず、本発明の範囲または根底の原理を限定するものではないことは理解される。
(実施例1)
スパイクタンパク質のアミノ酸267位がシステインに突然変異されている組換えIBV H52の作製
組換えIBVの作製のために、van Beurden et al. (Virol J. 2017;14(1):109)に記載されている標的化RNA組換えの方法を適用する。
【0137】
ドナープラスミド構築
pUC57-s IBV-5-1b-S-SIR-3Tドナープラスミドは、以降本明細書においてpUC57-s H52 rIBVドナープラスミド(配列番号9)と称し、pUC57-s H52 rIBV S F267C(配列番号10)と称する、H52スパイク(配列番号1)S1サブユニットのアミノ酸267位がフェニルアラニンからシステインに突然変異しているH52スパイク(配列番号2)を有するH52 rIBVドナープラスミドの構築の鋳型として使用する。野生型配列の突然変異は、Q5(登録商標)Site-Directed Mutagenesis Kit(NEB)を、プライマーPO1942およびPO1943(表1)を用いて、キットプロトコールに従って、アニーリング温度58℃および伸長時間5分30秒で使用することにより達成される。陽性クローンは、EcoRVおよびXhoI制限消化および、プライマーPO618およびPO633(表1)を用いてSanger配列決定により流すことによって特定する。その後、スパイクおよびドナー領域配列の統合性を、表1の配列番号19~配列番号40のプライマーを用いた配列決定により確認する。
【0138】
【0139】
標的化RNA組換えおよび組換えIBVのレスキュー
H52マウス化(m)IBVヘルパーウイルスおよび組換えIBVは、van Beurden et al. (Virol J. 2017;14(1):109)に記載されているように作製する。簡潔には、H52 rIBV S F267Cの作製のために、LR7細胞をH52 mIBVによって感染させ、pUC57-s H52 S F267C ドナープラスミド(配列番号10)から作製したin vitro転写物により電気穿孔し、次いで8日齢の胚含有SPF鶏卵(VALO BioMedia)に注射する。8日間までのインキュベーション後、全ての卵の尿膜腔液を、MagMAX(商標)Core Nucleic Acid Purification Kit(ThermoFisher)およびKingFisher(商標)Duo Prime Purification System(ThermoFisher)によるRNA単離後に、Platinum(商標)Taq DNA Polymerase(ThermoFisher)を用いたSuperScript(商標)III One-Step RT-PCR Systemを使用して、組換えIBVのレスキューについて個別に解析する。H52 IBV 1abおよびH52 IBV Sスパイクに結合するプライマーPO1323およびPO1324(表2)を、組換えIBVをmIBVから区別するのに使用する。陽性試料を、プライマーPO618およびPO633(表2)を用いて、Platinum(商標)Taq DNA Polymeraseを用いたSuperScript(商標)III One-Step RT-PCR Systemの後、QIAquick PCR purificationおよび同一のプライマーを用いたSanger配列決定を使用することによって、意図するスパイクF267C突然変異の存在を確認するためにさらに解析する。最高希釈のLR7細胞を接種した卵の陽性尿膜腔液を、8日齢のSPF卵におけるエンドポイント希釈のために使用する。核酸単離および試料解析は、上述のように行う。同一の手法を、2回目のエンドポイント希釈に適用する。その後、1つの陽性試験尿膜腔液を10日齢の胚含有SPF鶏卵における増殖のために使用する。尿膜腔液を、1xPBS中で1:1000に希釈し、卵当たり100μlを注射し、これを次いで37.5℃および湿度60%でインキュベーションする。尿膜腔液を接種後、48時間において回収し、プールしてデブリを除き、-80℃において保存する。
【0140】
【0141】
組換えIBVのin vitroおよび卵中特徴付け
胚感染用量50%(EID50)の決定
ウイルスストックのアリコートを融解し、1xPBS中に10倍希釈し、希釈ごとに5つの8日齢胚含有鶏卵の尿膜腔に100μlを接種することにより、50%胚感染用量(EID50)を決定する。卵を36.5℃、湿度60%で、接種後7日間までインキュベーションする。24時間後に死亡胚を有する卵を試験から除く。接種後7日目において死亡胚を有する他の卵は全て陽性とみなす。生存胚を有する卵は全て接種後7日目において、底部から光を当て(candled)、矮小化を特定し、これを陽性とみなす。EID50/mlを、Reed and Muench(Am J Epidemiol, 1938; 27(3):493-497)の式を用いて算出する。
【0142】
組織培養感染用量50%(TCID50)
Eb66(登録商標)細胞生存率を、ゲートを6~13μmに設定して、BioRad TC20およびトリパンブルーを用いて分析した。96ウェル当たり、EX-CELL(登録商標)EBx(商標)GRO-I無血清培地+2.5mM L-グルタミン中の2x106個の生存Eb66(登録商標)細胞/mlを接種の1日前に播種し、37℃および7.5%CO2においてインキュベーションする。Eb66(登録商標)細胞培地におけるウイルスの10倍の連続希釈を行い、希釈ごとに100μl(希釈ごとに少なくとも4反復)を、培養培地を除いた後に、Eb66(登録商標)細胞に添加する。尿膜腔液を感染のために使用する場合は、希釈前に0.45μmのポアサイズを通過させる。感染細胞を72時間インキュベーションした後、免疫蛍光染色により、陽性ウェルを特定する。培地を全てのウェルから吸引し、これを次いで1xPBSで洗浄した後、細胞固定のためにウェル当たり100μlのエタノールを室温で10分間添加した後、細胞を風乾させる。細胞を1xPBS中に1:250に希釈した、初代ニワトリ抗IBV Mass血清(Boehringer Ingelheim)100μlとともに、室温で45分間インキュベーションする。一次抗体を除いた後、各ウェルを1xPBSで3回洗浄する。二次Alexa Fluor 488 ヤギ抗ニワトリIgG抗体(ThermoFisher Scientific、1xPBS中1:500希釈)100μlを添加し、暗所で45分間、室温にてインキュベーションする。二次抗体を除いた後、各ウェルを1xPBSで3回洗浄し、最後の洗浄液を細胞上に残す。陽性のウェルを蛍光顕微鏡により特定して記録し、Reed and Muench(Am J Epidemiol,1938; 27(3):493-497)の式を用いてTCID50/mlを算出する。
【0143】
卵中複製動態
8日齢の胚含有鶏卵に、102EID50のrIBVおよびそれぞれの対照を接種する。卵をインキュベーションの0、8、24、34、48および72時間後に、1日1回光を当て、胚死亡率を記録する。試料およびタイムポイントごとに、5つの事前選択した卵を除き、少なくとも2時間4℃に移す。次いで、尿膜腔液を回収し、-80℃で保存する。解析のために、試料を融解し、CaおよびMgを含まない1xPBS中で1:10に希釈し、核酸をHamilton Starletピペットロボットを使用して、担体を添加して、QIAamp DNA Blood Mini kit(Qiagen)を用いて抽出する。抽出した核酸をCallison et al. (J Virol Methods. 2006;138(1-2):60-5)から適用させたプロトコールを使用してIBV RNAの相対量について、RT-qPCRにより解析する。簡潔には、同一のプライマーおよびプローブを使用して、熱プロファイルを、TaqMan(登録商標)Fast Virus 1-Step Master Mix(ThermoFisher)およびABI(商標)7900HT Fast Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific)の使用に適用させる。全ての核酸試料を、参照としてIBV H52の10倍希釈系列を使用して3つ組で分析する。
【0144】
類似の卵中複製動態がH52 rIBV野生型およびH52 rIBV S F267Cについて観察される(
図1)。これは、スパイクの267位におけるフェニルアラニンのシステインへの突然変異が、野生型rIBVと比較して、突然変異rIBVの卵中複製効率について不利益がないことを示している。
Eb66(登録商標)細胞におけるrIBVの継代
Eb66(登録商標)細胞は、EX-CELL(登録商標)EBx(商標)GRO-I無血清培地+2.5mM L-グルタミン中、4x10
5細胞/mlの密度で、総体積5mlでT25フラスコ中に播種し、rIBVおよび対照を感染させる。培養物は、72時間、37℃、7.5%CO
2で、100rpmで振盪させながらインキュベーションする。培養物を回収し、-80℃で保存する。1、2、5、6および7回目の継代について、ウイルス複製をRT-qPCRにより評価する。このために、懸濁液250μlを接種(タイムポイント0時間)および回収(タイムポイント72時間)の直後に、核酸単離のために取り除く。核酸は、MagMAX(商標)Core Nucleic Acid Purification Kit(ThermoFisher)およびKingFisher(商標)Duo Prime Purification System(ThermoFisher)を用いて単離する。RT-qPCRは、上述のように行う。
【0145】
H52 rIBV S F267Cが細胞中で複製できるかどうかを分析するために、Eb66(登録商標)細胞に、尿膜腔液ストックの1/10希釈を接種する。ウイルスの増殖は、1回目および以後の継代における72時間後のct値の低下により検出する。次の継代のためにウイルスを希釈するため、ct値は、接種物の回収時に測定したct値と比較して上昇しており、その後、ウイルス複製により72時間の培養の間に再び低下する。複製は、接種を前の継代の1/1000希釈で行う、より後の継代である6回目および7回目においてよりさらに顕著になる(
図2)。結果は、7回の継代にわたる、Eb66(登録商標)細胞におけるH52 rIBV F267Cの複製を明確に示している。したがって、IBVが、7回の継代後に、拡張された細胞培養/組織指向性を未だに有することから、267位におけるシステインへの改変が遺伝学的に安定であることは、明らかである。
さらに、尿膜腔液ストック(10
6.33TCID
50/ml、10
7.22EID
50/ml)およびEb66(登録商標)継代P1(10
4.67TCID
50/ml)、P5(10
5.33TCID
50/ml)およびP7(10
6TCID
50/ml、10
5.84EID
50/ml)についての感染力価を決定する。Eb66(登録商標)継代プロセス間のH52 rIBV S F267Cの効率的な複製およびSPF卵中における感染力の維持が確認されている。したがって、F267C突然変異は、卵中の複製能を妨げることなく細胞系における複製を可能にしている。
【0146】
Eb66(登録商標)細胞複製動態
Eb66(登録商標)細胞から回収した3回目の継代物を使用して、Eb66(登録商標)細胞における複製動態を行う。Eb66(登録商標)細胞を、継代について記載するように播種およびインキュベーションし、TCID
50力価に基づいてMOI0.001で感染させる。試料を、接種直後ならびに8、24、48および72hpi(感染後時間)に採取する。試料を継代試験について記載されているようにウイルスRNA含有量について分析する(
図3)。さらに、試料を、TCID
50アッセイにより、その感染力について分析する(
図4)。効率的な複製を両方の方法を使用して検出し、複製のプラトー相は、感染後48時間の早さで到達する。結果的に、Eb66(登録商標)細胞における複製サイクルは、胚含有鶏卵におけるものと同等に効率的である
【0147】
ワクチン有効性の決定
受精SPF卵を、99.7°Fおよび湿度50%で、卵設定器中で、1時間ごとに1回回転させて、18時間インキュベーションする。インキュベーション18日目において、卵に光を当て、受精卵を孵化場に移し、99°Fおよび湿度70%で孵化までインキュベーションする。臨床徴候および変形を示さないヒヨコを無作為的に各処置群に割り当て、別個のアイソレーターに移す。3羽のヒヨコは厳密な陰性対照(SNC)群として機能し、5匹のヒヨコを暴露対照(CC)群に、Eb66(登録商標)-適応組換えIBVでワクチン接種した後、暴露される群に少なくとも10羽を登録する。動物は、アニマルウェルフェア推奨のために、現地および国家の要求にしたがった収容条件で維持する。照明レジメンは、1日当たり16時間の照明に調整する。餌および水は自由に供給する。アイソレーターに移した後、ヒヨコ(1日齢)を、点眼剤(総体積50μl、片眼当たり25μl)により、ヒヨコ当たり103 EID50を用いてワクチン接種し、一方、SNCおよびCC群は、未処置のままである。ワクチン接種後21日目において、CC群およびワクチン接種群のヒヨコを点眼剤(総体積50μl、片眼当たり25μl)により、ヒヨコ当たり同種の暴露株103~104 EID50を用いて暴露させる。暴露後7日目において、全てのヒヨコを安楽死させ、腎臓を取り除き、IBV-特異的RT-qPCR分析のために、RNAlater Stabilization Solution(ThermoFisher)中で、4℃で保存する。さらに、気管を取り除き、暖かい細胞培養培地を含む50mlチューブに移す。その後、気管から結合組織を除き、細胞培養培地を流す。気管を切片厚さ0.6~0.8mmに設定したMcIlwain組織チョッパーを用いて気管輪に切断する。気管当たり、上部3つの輪、中央部4つの輪および下部の3つの輪を、光学顕微鏡により線毛運動について分析し、線毛運動障害についてスコア付けする(表3参照)。輪は、内部輪の50%より多くが活発な線毛運動を示す場合、正常として記録する(スコア2以下)。輪は、線毛の50%未満が運動している場合、陽性として記録する(スコア3および4)。動物は、10の輪のうち9以上が正常な線毛活性を示す場合に保護されているとみなす。
【0148】
IBV特異的RT-qPCR分析のために、腎臓組織片を室温に加温し、別個に2ml Precellysチューブに移し、これをそれぞれ培地およびPBSで充填する。腎臓をPrecellys(登録商標)組織ホモジナイザー(Bertin Instruments)を、1x20秒、6800rpmで使用して均質化する。後鼻孔ワブ(wab)を2ml 1xPBS中に溶出する。核酸をMagMAX(商標)Core Nucleic Acid Purification Kit(ThermoFisher)およびKingFisher(商標)Duo Prime Purification System(ThermoFisher)を使用して溶出物200μlおよび組織均質物からそれぞれ単離する。RT-qPCRは、StepOnePlus(商標)Real-Time PCR System(ThermoFisher)を使用する以外は、卵中動態について上述するように行う。
【0149】
【0150】
試験の目的は、Eb66(登録商標)細胞中で8回継代した、細胞培養適応したH52 rIBV S F267Cが、病原性M41株による暴露に対する保護を付与することができることを示すことである。全てのニワトリを、臨床徴候について毎日観察し、ワクチン接種または暴露後に記録されている臨床徴候はない。1日齢におけるH52 rIBVおよびH52 rIBV S F267Cによるワクチン接種のための逆滴定により、それぞれ、10
3.2EID
50/動物および10
2.87EID
50/動物(標的10
3EID
50/動物)の力価、およびワクチン接種後21日目におけるIBV M41による暴露についての10
3 EID
50/動物(標的10
3EID
50/動物)の力価が決定される。線毛運動障害は、表3に記載するように、スコア付けされ、結果は
図5に示す。
各動物についての10の個々のスコアの合計の平均線毛運動障害値および保護率を表4に概略する。厳密な陰性対照の全ての動物は、全て正常な線毛運動(100%保護)を示し、一方、暴露対照群の動物は全て線毛運動障害について陽性である(0%保護)。対照的に、H52 rIBVによりワクチン接種した動物の93%は保護されており、Eb66(登録商標)-継代H52 rIBV S F267Cによりワクチン接種した動物も同等に保護されている。
【0151】
【表4】
さらに、H52 rIBV S F267Cによりワクチン接種した動物の腎臓におけるウイルス負荷は、H52 rIBVと同等に、M41暴露対照と比較して効率的に減少している(
図6)。まとめると、Eb66(登録商標)細胞中で増殖したH52 rIBV S F267Cは、病原性M41暴露に対して、H52 rIBV野生型と同程度に効率的に保護を行う。さらに、267位におけるシステインへの改変は、遺伝学的に安定である。
【0152】
rIBVによるPBS-12SF細胞の感染
PBS-12SF細胞への感染能を、H52 rIBV S F267Cおよび陰性対照としてのH52 rIBVの尿膜腔液ストックについて解析する。PBS-12SF細胞を、OptiPRO SFM(ThermoFisher Scientific)+10% GlutaMAX(ThermoFisher Scientific)培地中で、次の日に80~90%コンフルエントに達成するように、12ウェルプレート中に播種する。細胞を37℃および5%CO2でインキュベーションする。感染前に、尿膜腔液ウイルスストックを0.45μmポアサイズのフィルターを通過させる。PBS-12SF細胞に、ウェル当たり、10
5.74EID
50の各ウイルスを4時間、37℃および5%CO
2で感染させた後、上清を除いて新鮮な培地をさらなるインキュベーションのために添加する。72時間後、上清を除き、細胞を1xPBSにより洗浄し、TrypLE Select(ThermoFisher Scientific)50μlを添加して細胞を剥離させる。細胞を上清中で懸濁し、80~90%コンフルエントのPBS-12SF細胞(P2)を含むT25フラスコに移し、これを72時間インキュベーションする。再び上清および細胞を回収し、80~90%コンフルエントのPBS-12SF細胞を含むT75フラスコに移し、これを72時間インキュベーションする(P3)。上清を回収する。細胞をトリプシン処理によって剥離し、新鮮な培地中で1:3の比率で12ウェルプレート中に播種し、次の日までインキュベーションする。培地を吸引し、細胞を1xPBSにより洗浄し、氷冷100%エタノールを用いて固定し、風乾させる。次いで、細胞を1xPBSにより再水和した後、初代ニワトリ抗IBV Mass血清(Boehringer Ingelheim)を1:200の希釈で添加し、室温で45分間インキュベーションする。抗体を除いた後、細胞を洗浄し、二次Alexa Fluor 488ヤギ抗ニワトリIgG抗体(ThermoFisher Scientific、1xPBS中1:500希釈)を暗所、室温で45分間添加する。最後に、細胞を1xPBSにより3回洗浄し、蛍光顕微鏡により解析する(
図7)。感染細胞は、H52 rIBV S F267Cについては検出される一方、H52 rIBV野生型により感染した細胞および非感染陰性対照は、予期される通り陰性のままである。さらに、継代1回目、2回目および3回目のそれぞれの後に、上述のように核酸抽出およびRT-qPCRのために上清250μlを保存する。継代プロセスにわたるct値(ウイルスの複製および増殖に相当する)の連続的な低下がH52 rIBV S F267Cについては観察できるが、H52 rIBV野生型についてのct値は予期される通り上昇する(
図8)。
【0153】
まとめると、これらのデータは、H52スパイクの267位におけるフェニルアラニンのシステインへの単一突然変異は、ウイルスをPBS12-SF細胞中で複製可能にするものであり、一方、H52野生型ウイルスはこの能力を欠いている。
【0154】
rIBVによるHEK-293T細胞の感染
HEK 293T細胞への感染能を、H52 rIBV S F267Cおよび陰性対照としてのH52 rIBVの尿膜腔液ストックについて解析する。293T細胞を、DMEM(Lonza)+10%FCS(SAFC)+L-グルタミン(Lonza)+1%P/S(Gibco)培地中で、次の日に80~90%コンフルエントに達成するように、12ウェルプレート中に播種する。細胞を37℃および5%CO
2でインキュベーションする。感染前に、尿膜腔液ウイルスストックを0.45μmポアサイズのフィルターを通過させる。HEK 293T細胞をウェル当たり約10
6 EID
50の各ウイルスを感染させる。72時間後、上清を除き、細胞を1xPBSにより洗浄し、TrypLE Select(ThermoFisher Scientific)50μlを添加して細胞を剥離させる。細胞を上清中で懸濁し、80~90%コンフルエントのHEK 293T細胞および新鮮な培地5mlを含むT25フラスコに移し、これを72時間インキュベーションする(P2)。再び上清および細胞を回収し、80~90%コンフルエントのHEK 293T細胞および新鮮な培地10mlを含むT75フラスコに移し、これを72時間インキュベーションする(P3)。上清を回収する。細胞をトリプシン処理によって剥離し、新鮮な培地中で1:3の比率で12ウェルプレート中に播種し、次の日までインキュベーションする。培地を吸引し、細胞を1xPBSにより洗浄し、氷冷100%エタノールを用いて固定し、風乾させる。次いで、細胞を1xPBSにより再水和した後、初代ニワトリ抗IBV Mass血清(Boehringer Ingelheim)を1:200の希釈で添加し、室温で45分間インキュベーションする。抗体を除いた後、細胞を洗浄し、二次Alexa Fluor 488ヤギ抗ニワトリIgG抗体(ThermoFisher Scientific、1xPBS中1:500希釈)を暗所、室温で45分間添加する。最後に、細胞を1xPBSにより3回洗浄し、蛍光顕微鏡により解析する(
図9)。感染細胞は、陽性対照ならびにH52 rIBV S F267Cについては検出される一方、H52 rIBV野生型により感染した細胞および非感染陰性対照は、予期される通り陰性のままである。
【0155】
まとめると、これらのデータは、H52スパイクの267位におけるフェニルアラニンのシステインへの単一突然変異は、ウイルスをHEK 293T細胞中で複製可能にするものであり、一方、H52野生型ウイルスはこの能力を欠いている。
結論実施例1:前記データは、IBVのスパイク配列の267位(番号付けについての参照配列は配列番号1である)におけるシステインへの突然変異は、拡張された細胞培養および組織指向性をもたらすものであることを示している。スパイクタンパク質にF267C突然変異を有するH52組換えIBVは、異なる細胞系、例えばEB66、PBS-12SFおよびHEK 293T細胞において効率的に培養することができる。前記IBVは、他の細胞系においても同様に培養できることが想定される。さらに、前記突然変異は、ウイルスの卵中複製に対して影響を及ぼさず、かつ卵中およびin vitroにおける複製動態は同等である。最終的に、ワクチンの有効性は、細胞系における継代の後においても維持されており、卵中培養を必要とせずに、代わりに細胞系を使用するIBVワクチンの開発が成功する基礎となっている。
【0156】
(実施例2)
スパイクタンパク質のアミノ酸269位がシステインに突然変異している組換えIBV CR88の作製
IBVスパイクの267位におけるシステインへの変化が、他の遺伝子型または血清型にも適応し得るかどうかを決定するために、CR88 IBV株のスパイクアミノ酸配列(配列番号11)を、H52スパイクアミノ酸配列(配列番号1)と整列させ、IBV CR88スパイクについて、H52スパイクのアミノ酸267位に対応する位置を決定し、これはCR88スパイクの269位のロイシンと決定された。
IBV CR88マウス化ドナープラスミドの構築
CR88マウス化(m)IBVドナープラスミドを作製するために、ドナー配列を、市販の業者により合成し、CR88ゲノムの5’UTRの497塩基を、1ab領域(752塩基)およびCR88 IBVスパイクをコードする最初の72塩基の3’部分に融合し、MHVスパイク外部ドメインの3753塩基が続き、CR88 IBVスパイクの末端の210塩基が続き、以降の配列はゲノムの3’末端まで続く。さらに、SacI制限部位およびT7プロモーターの配列をドナー領域の5’末端に、ならびに100xpolyA配列、3’末端における線状化のためのNot I制限部位を続けてそれぞれ付加する。アセンブリした配列の5634位におけるAからCへのサイレント突然変異をXhoI制限部位を作製するために導入する。合成した配列をpUC57-simpleに挿入し、pUC57-s CR88 mIBVドナープラスミド(配列番号12)を得る。
【0157】
CR88 mIBVのレスキュー
CR88 mIBVは、いくつかの変更により、H52 mIBV(van Beurden et al. Virol J. 2017;14(1):109)と同様にレスキューされ、ウイルス尿膜腔液ストックを、超遠心分離により濃縮した後、電気穿孔のためにウイルスRNAを単離する。ウイルス尿膜腔液18mlをTNE(Tris、NaCl、EDTA)緩衝剤中の2ml 20%スクロースクッションを通し、50,000xgで2時間遠心分離する。上清を廃棄し、ペレットをTNE緩衝剤150μlに再懸濁した後、QIAamp viral RNA mini kit(Qiagen)によりRNAを単離する。さらに、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)をBHK細胞の代わりに、電気穿孔(2パルス 250V/300μF、10秒中断)に使用し、1.25%DMSOを電気穿孔混合物に添加する。
ドナープラスミド構築
隣接配列を有するCR88スパイク核酸配列を、市販の業者により合成し、pGEM-T(配列番号13)中にクローニングする。これをIBV CR88スパイク(配列番号11)のアミノ酸269位におけるロイシンをシステイン(配列番号3)に変化させるための、部位特異的突然変異誘発のための鋳型として使用する。このために、製造者のプロトコールにしたがって、QuikChangeMulti Site-Directed Mutagenesis Kit(Agilent Technologies)および対応するオンラインツールにより設計したプライマーPO1886(表5)を使用する。陽性クローンを、制限消化により特定し、プライマーPO618およびPO1410(表5)を用いたSanger配列決定により、所望の突然変異の存在について解析する。pUC57-s CR88 rIBV S L269Cドナープラスミド(配列番号14)の作製のために、突然変異CR88スパイク配列(配列番号15)を含むpGEM-T CR88 S L269CプラスミドをPacI、XhoIおよび PvuIにより消化する。スパイクに相当するバンドをゲルから切り出し、QIAquick gel extraction kit(Qiagen)により精製する。さらに、CR88 mIBVドナープラスミド(配列番号12)をPacI、XhoIおよびKpnIにより消化し、ドナープラスミド骨格を得る。最高の分子量を有するバンドをゲルから切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen)により精製する。精製したスパイクインサートおよびCR88ドナープラスミド骨格をT4 DNAライゲース(ThermoFisher Scientific)を使用して16℃で一晩ライゲーションする。ライゲーション混合物により、NEB 5-αコンピテント大腸菌(NEB)を熱ショックにより形質転換する。GeneJET Plasmid Miniprep Kit(ThermoFisher Scientific)の後、陽性クローンを制限消化により特定し、プライマーPO618、PO1014(表5)を用いるSanger配列決定により標的化した突然変異について特徴付けを行う。
【0158】
標的化RNA組換えおよび組換えIBVのレスキュー
CR88 rIBV S L269Cのレスキューのために、LR7細胞にCR88 mIBVを感染させ、NotI線状化pUC57-s CR88 S L269Cドナープラスミドから作製したin vitro転写物を用いて電気穿孔し、次いで8日齢の胚含有SPF鶏卵(VALO BioMedia)に注射する。8日までのインキュベーションの後、全ての卵の尿膜腔液を、MagMAX(商標)Core Nucleic Acid Purification Kit (ThermoFisher)およびKingFisher(商標)Duo Prime Purification System(ThermoFisher)によるRNA単離後に、Platinum(商標)Taq DNA Polymerase(ThermoFisher)を用いたSuperScript(商標)III One-Step RT-PCR Systemを使用して、組換えIBVのレスキューについて個別に分析する。CR88 IBV 1abおよびCR88 IBV Sスパイクに結合するプライマーPO1728およびPO1729(表5)を、組換えIBVをmIBVから区別するのに使用する。最高希釈のLR7細胞を接種した卵の陽性尿膜腔液を8日齢胚含有SPF卵のエンドポイント希釈に使用する。核酸単離は、上述のように行う。試料は、Callison et al. (J Virol Methods. 2006;138(1-2):60-5)から適応させたプロトコールにしたがって、RT-qPCRにより解析する。簡潔には、同一のプライマーおよびプローブを使用して、熱プロファイルを、TaqMan(登録商標)Fast Virus 1-Step Master Mix (ThermoFisher)およびStepOnePlusまたはABI7900 HT Fast Real-Time PCR Systems(Thermo Fisher Scientific)の使用に適用させる。その後、高希釈の1つの陽性試験尿膜腔液を8日齢胚含有SPF鶏卵における増殖のために使用する。尿膜腔液を、1xPBS中で1:100に希釈し、卵当たり100μlを注射し、これを次いで37.5℃および湿度60%でインキュベーションする。尿膜腔液を接種後48時間において回収し、デブリを除き、-80℃において保存する。
【0159】
【0160】
組換えIBVのin vitroおよび卵中特徴付け
CR88 rIBV S L269Cについての胚感染用量50%(EID
50)および組織培養感染用量50%(TCID
50)をH52 rIBV S F267Cについて記載するように決定する。さらに、卵中およびin vitro複製動態および継代をH52 rIBV S F267Cについて記載するように行った。
類似の卵中複製動態が、CR88 rIBV野生型およびCR88 rIBV S L269Cについて観察される(
図10)。これは、H52 rIBV S F267CおよびH52 rIBV野生型について示されているように、CR88 rIBV S L269Cのスパイクにおけるシステイン突然変異が、野生型rIBV CR88と比較して、突然変異rIBV卵中複製について不利益がないことを示している。
【0161】
CR88 rIBV S L269Cが細胞中で複製できるかどうかを分析するために、Eb66(登録商標)細胞に、尿膜腔液ストックの1/100希釈を接種する。ウイルスの増殖は、1回目および以後の継代における72時間後のct値の低下により検出する。次の継代のためにウイルスを希釈するため、ct値は、接種物の回収時に測定したct値と比較して上昇しており、その後、ウイルス複製により72時間の培養の間に再び低下する。CR88 rIBV S L269Cの複製は、感染直後の0時間のタイムポイントと比較して、72時間のタイムポイントについて、ct値を低下させることにより、継代プロセスにわたって明確に可視化できる。対照的に、CR88 rIBV野生型陰性対照のct値は、解析した継代および継代プロセス中の最初の接種物の希釈においてこのウイルスが複製しないことが確認されている(
図11)。結果は、7回の継代にわたる、Eb66(登録商標)細胞におけるCR88 rIBV L269Cの複製を明確に示しており、一方野生型ウイルスは複製することができず、これによりスパイクにおけるL269C突然変異が拡張された細胞または組織指向性に重要であることが強調されている。CR88 rIBV S L269Cについての効率的な複製もまた、RT-qPCR(
図12)およびEb66(登録商標)細胞における複製動態試験におけるTCID
50決定(
図13)により検出される。
【0162】
さらに、尿膜腔液ストック(103TCID50/ml、108EID50/ml)およびEb66(登録商標)継代P1(103.5TCID50/ml、105.84EID50/ml)、P5(105.3TCID50/ml)およびP8(106TCID50/ml、106EID50/ml)についての感染力価を決定する。Eb66(登録商標)継代プロセス間のCR88 rIBV S L269Cの効率的な複製およびSPF卵中における感染力の維持が確認されている。したがって、L269C突然変異は、卵中の複製能を妨げることなく細胞系において複製を可能にしている。
【0163】
ワクチン有効性の決定
IBV 793Bによる暴露に対するCR88 rIBV S L269Cの有効性についての試験を、H52 rIBV S F269Cについて上述されているように行う。試験の目的は、Eb66(登録商標)細胞中で1回継代した、細胞培養適応したCR88 rIBV S L269Cが、病原性793B株に対する保護を付与することができることを示すことである。全てのニワトリを、臨床徴候について毎日観察し、ワクチン接種または暴露後に記録されている臨床徴候はない。1日齢におけるCR88 rIBV S L269Cによるワクチン接種のための逆滴定により、それぞれ、10
3.6EID
50/動物(標的10
3EID
50/動物)の力価、およびワクチン接種後21日目におけるIBV 793Bによる暴露についての10
4.1EID
50/動物(標的10
4EID
50/動物)の力価が決定される。線毛運動障害は、表3に記載するように、スコア付けされ、結果は
図14に示し、表6に概略する。厳密な陰性対照の全ての動物は、正常な線毛運動を示し、一方、暴露対照群の動物の5匹のうち4匹は、線毛運動障害について陽性である。対照的に、CR88 rIBV S L269Cによりワクチン接種した動物の80%は保護されている。
【0164】
【0165】
さらに、ウイルスRNA負荷は、暴露対照と比較してCR88 rIBV S L269Cによりワクチン接種した動物の腎臓において有意に低下している(
図15)。まとめると、Eb66(登録商標)細胞において増殖したCR88 rIBV S L269Cは、病原性793B暴露に対して効率的に保護する。スパイク突然変異L269Cは、細胞における増殖に対してウイルスを適応させるが、in vivo有効性は維持されている。
結論実施例2:前記データは、また、CR88スパイク配列の269位に対応するスパイクの267位(番号付けについての参照配列は配列番号1である)におけるシステインへの突然変異は、組換えIBV CR88における拡張された細胞または組織指向性をもたらすものであることを示している。さらに、前記突然変異は、ウイルスの卵中複製に対して影響を及ぼさない。最終的に、ワクチン有効性は、細胞系における継代の後においても維持されており、卵中培養を必要とせずに、代わりに細胞系を使用してIBVワクチンの開発が成功する基礎となっている。
【0166】
(実施例3)
スパイクタンパク質のアミノ酸270がシステインに突然変異されているQXスパイク遺伝子により、CR88またはH52スパイク遺伝子が置換されているキメラ組換えIBV CR88またはH52の作製
細胞培養指向性を達成するためのスパイクの267位におけるシステインへの変化をさらなるIBV遺伝子型に移入し得るかどうかをさらに詳述するため、QXスパイクアミノ酸(配列番号65)配列をH52スパイクアミノ酸(配列番号1)に整列し、IBV QXスパイクについて、H52スパイクのアミノ酸267位に相当する位置を決定し、これは、QXスパイクの270位におけるロイシンと決定された。
【0167】
アミノ酸270位におけるシステインへの突然変異を有するQXスパイクの細胞への感染能を解析するために、CR88スパイクまたはH52スパイクをそれぞれコードする配列が、スパイクタンパク質の270位においてシステインを有するQXスパイクをコードする配列に置換されている(配列番号4)組換えIBV CR88および組換えIBV H52を作製する。このために、H52 mIBV およびCR88 mIBVの構築およびレスキューのステップを実施例1および2に記載しているように行う。
QXスパイク遺伝子のクローニングおよび突然変異
QXスパイク配列をプライマーPO1367およびPO1347(表7)を使用したワンステップRT-PCR(SuperScript(登録商標)III One-Step RT-PCR、Platinum(登録商標)Taq)を使用して、IBV QXウイルスRNAから増幅し、pGEM-T vector System(Promega)を使用してクローニングする。これは、NEBaseChangerを用いて設計したプライマーPO2163およびPO2164(表7)を使用した部位特異的突然変異誘発のための鋳型として機能し、プラスミドpGEM-T IBV QX S L270C(配列番号66)を作製する。所望の突然変異を保有するプラスミドを有するクローンを特定するために、陽性制限消化を行った後に、突然変異に隣接する領域に位置するプライマーPO1398およびPO633を用いたSanger配列決定を行う(表7)。
【0168】
【0169】
ドナープラスミド構築
pUC57-s H52 rIBV QX S L270Cドナープラスミド(配列番号69)を、NEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Cloning Kit(NEB)およびプライマー設計用のオンラインツールを使用して構築する。このために、pUC57-s H52 rIBVドナープラスミド(配列番号9)を、プラスミドを線状化し、H52スパイクおよび隣接配列を取り除くために、H52スパイクコード配列に近接した制限部位EcoRV、PmlIおよびBlpIを使用して消化する。QIAquick gel extraction kit(Qiagen)を使用して、H52スパイクコード配列を含まないpUC57-s IBV H52骨格に相当するバンドを精製する。QX S L270C核酸コード配列および隣接する5’および3’IBV H52配列をQ5(登録商標)High-Fidelity DNA Polymerase(NEB、プライマーについては表8を参照)を使用する3回の別個のPCR反応において増幅する。PCR産物は、QIAquick gel extraction(Qiagen)により精製し、キットプロトコールにしたがってNEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Cloning Kit(NEB)を使用してGibson Assemblyに使用し、pUC57-s H52 rIBV QX S L270C(配列番号69)ドナープラスミドを作製する。
【0170】
pUC57-s CR88 rIBV QX S L270Cドナープラスミド(配列番号68)を、NEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Cloning Kit(NEB)およびプライマー設計用のオンラインツールを使用して構築する。2つのPCR断片を作製し、1つは、鋳型としてpUC57-s CR88 rIBV(配列番号67)を使用してCR88骨格について、1つはQ5 PCRのための鋳型として、pGEM-T IBV CR88 S L270C(配列番号66)を使用して突然変異QXスパイクL270Cについて表8のプライマーを使用して作製する。PCR産物は、QIAquick gel extraction kit(Qiagen)を使用してゲル精製した後、キットプロトコールにしたがってGibson assemblyに使用し、pUC57-s CR88 rIBV QX S L270Cドナープラスミド(配列番号68)を作製する。
【0171】
【0172】
pUC57-s CR88 rIBV QX S L270CおよびpUC57-s H52 rIBV QX S L270Cのアセンブリの成功は、それぞれNheIおよびNotIまたはEcoRV、BlpIおよびPmlIによるプラスミド制限消化によって特定し、表9のプライマーによる配列決定により特徴付ける。
【表9】
【0173】
標的化RNA組換えおよび組換えIBVのレスキュー
CR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cのレスキューのために、LR7細胞をそれぞれCR88 mIBVまたはH52 mIBVによって感染させ、それぞれNotIまたはMssI線状化pUC57-s CR88 rIBV QX S L270CまたはpUC57-s H52 rIBV QX S L270Cドナープラスミドから作製したin vitro転写物により電気穿孔し、次いで8日齢の胚含有SPF鶏卵(VALO BioMedia)に注射する。8日間までのインキュベーション後、いくつかの卵の尿膜腔液を、MagMAX(商標)Core Nucleic Acid Purification Kit(ThermoFisher)およびKingFisher(商標)Duo Prime Purification System(ThermoFisher)によるRNA単離後に、Platinum(商標)Taq DNA Polymerase(ThermoFisher)を用いたSuperScript(商標)III One-Step RT-PCR Systemを使用して、組換えIBVのレスキューについて個別に分析する。QXスパイク配列に結合するプライマーPO1398およびPO633(表7)を、組換えウイルスを特定するのに使用する。最高希釈のLR7細胞を接種した卵の陽性尿膜腔液(胚性死または陽性RT-PCR結果により定義される)を8日齢胚含有SPF卵のエンドポイント希釈に使用する。核酸単離は、上述のように行う。試料は、Callison et al. (J Virol Methods. 2006;138(1-2):60-5)から適応させたプロトコールにしたがって、RT-qPCRにより解析する。簡潔には、同一のプライマーおよびプローブを使用して、熱プロファイルを、TaqMan(登録商標)Fast Virus 1-Step Master Mix(ThermoFisher)およびStepOnePlusまたはABI7900 HT Fast Real-Time PCR Systems(Thermo Fisher Scientific)の使用に適用させる。その後、好ましくは高希釈の1つの陽性試験尿膜腔液を8日齢胚含有SPF鶏卵における増殖のために使用する。尿膜腔液を、1xPBS 中で1:100に希釈し、卵当たり100μlを注射し、これを次いで37.5℃および湿度60%でインキュベーションする。尿膜腔液を接種後、48時間において回収し、デブリを除き、-80℃において保存する。
【0174】
組換えIBVのin vitroおよび卵中特徴付け
CR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cについての胚感染用量50%(EID50)および組織培養感染用量50%(TCID50)をH52 rIBV S F267Cについて記載されているように決定する。さらに、卵中およびin vitro複製動態および継代をH52 rIBV S F267Cについて記載されているように行った。
【0175】
48時間後、卵中複製動態においてわずかに異なる類似のピークct値が、CR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cについて観察される(
図16)。CR88 rIBV QC L270Cは、CR88 rIBVおよびIBV QX野生型と非常に類似した複製をするが、H52 rIBV QX s L270Cは、H52 rIBVにより類似した複製をする。これは、CR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cのスパイクにおけるシステイン突然変異が、他のrIBVおよび野生型IBVと比較して、突然変異rIBVの卵中複製効率について不利益がないことを示している。
【0176】
CR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cが細胞中で複製できるかどうかを分析するために、EB66(登録商標)細胞に、尿膜腔液ストックの1/100希釈を接種する。ウイルスの増殖は、ウイルスRNAの単離および続くRT-qPCR解析により解析する。CR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cの複製は、感染直後の0時間のタイムポイントと比較して、72時間のタイムポイントについて、平均ct値を低下させることにより、継代プロセスにわたって明確に可視化できる(
図17および
図18)。次の継代のためにウイルスを希釈するため、ct値は、接種物の回収時に測定したct値と比較して上昇しており、その後、ウイルス複製により72時間の培養の間に再び低下する。CR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cについての効率的な複製はまた、Eb66(登録商標)細胞における複製動態試験において、RT-qPCRにより検出される(
図19)。両方のウイルスは、48時間後に、ピークCT値を有する類似の複製パターンを示す。
【0177】
さらに、CR88 rIBV QX S L270Cの尿膜腔液ストック(108EID50/ml)およびEb66(登録商標)継代P2(106TCID50/ml、108.17EID50/ml)、P6(106TCID50/ml、107.83EID50/ml)およびP9(106TCID50/ml、108.5EID50/ml)についての感染力価を決定する。さらに、H52 rIBV QX S L270Cの尿膜腔液ストック(108EID50/ml)およびEb66(登録商標)継代P3(104.5TCID50/ml、108.13EID50/ml)およびP6(105.5TCID50/ml、108.13EID50/ml)についての感染力価を決定する。Eb66(登録商標)継代プロセス間のCR88 rIBV QX S L270Cの効率的な複製およびSPF卵中における感染力の維持が確認されている。したがって、L270C突然変異は、卵中の複製能を妨げることなく細胞系において複製を可能にしている。
【0178】
ワクチン有効性の決定
IBV D388 QXによる暴露に対するCR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cの有効性についての試験を、H52 rIBV S F269Cについて上述されているように行う。試験の目的は、EB66(登録商標)細胞中で6回継代した、細胞培養適応したCR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cが、病原性D388 QX株に対する保護を付与することができることを示すことである。全てのニワトリを、臨床徴候について毎日観察する。ワクチン接種または暴露後に記録されている臨床徴候はない。1日齢におけるCR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cによるワクチン接種のための逆滴定により、それぞれ、10
4.2EID
50/動物および10
3.3EID
50/動物(標的10
3EID
50/動物)の力価、および、ワクチン接種後21日目におけるIBV D388 QXによる暴露についての10
3.5EID
50/動物(標的10
3EID
50/動物)の力価が決定される。線毛運動障害は、表3に記載するように、スコア付けされ、結果は
図20に示し、表6に概略する。厳密な陰性対照の全ての動物は、正常な線毛運動を示し、一方、暴露対照群の動物は全て、線毛運動障害について陽性である。対照的に、CR88 rIBV QX S L270CまたはH52 rIBV QX S L270Cによりワクチン接種した動物の78%および91%が保護されている。
【0179】
【0180】
さらに、ウイルスRNA負荷は、暴露対照動物と比較してCR88 rIBV QX S L270CまたはH52 rIBV QX L270Cによりワクチン接種した動物の腎臓において有意に低下している(
図21)。まとめると、EB66(登録商標)細胞において増殖したCR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cは、病原性D388 QX暴露に対して効率的に保護する。スパイク突然変異L270Cは、細胞における増殖に対してウイルスを適応させるが、in vivo有効性は維持されている。
結論実施例3:前記データは、また、IBV QXスパイクの270位に対応するスパイクの267位(番号付けについての参照配列は配列番号1である)におけるシステインへの突然変異は、拡張された細胞または組織指向性をもたらすものであることを示している。さらに、システイン突然変異を有するスパイクの組織培養指向性は、同種の遺伝的背景に限定されておらず、これはQX L270CスパイクがCR88およびH52遺伝的背景に挿入されており、CR88 rIBV QX S L270CおよびH52 rIBV QX S L270Cが、細胞中において効率的に複製し、病原性IBV D388 QX暴露に対して効率的に保護するためである。
【0181】
(実施例4)
スパイクタンパク質のアミノ酸274がシステインに突然変異されているARKDPIスパイク外部ドメインコード配列により、H52スパイク外部ドメインコード配列が置換されているキメラ組換えIBV H52の作製
細胞培養指向性を達成するためのスパイクの267位におけるシステインへの変化をさらなるIBV遺伝子型に移行し得るかどうかをさらに詳述するため、ArkDPIスパイクアミノ酸(配列番号76)配列をH52スパイクアミノ酸配列(配列番号1)に整列し、IBV ArkDPIスパイクについて、H52スパイクのアミノ酸267位に相当する位置を決定し、これは、ArkDPIスパイクの274位におけるロイシンと決定された。
アミノ酸274位におけるシステインへの突然変異を有するArkDPIスパイクの細胞への感染能を解析するために、H52スパイクをコードする配列が、ArkDPIスパイクタンパク質の274位においてシステインを有するArkDPIスパイクをコードする配列に置換されている(配列番号77)組換えIBV H52を作製する。このために、H52 mIBVの構築およびレスキューのステップを実施例1に記載されているように行う。
【0182】
ドナープラスミド構築
pUC57-s ArkDPIスパイクL274Cプラスミド(配列番号78)を、市販の業者により合成する。pUC57-s H52 rIBV ArkDPI S Ecto L274Cドナープラスミド(配列番号79)を、NEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Cloning Kit(NEB)およびプライマー設計用のオンラインツールを使用して構築する。このために、pUC57-s H52 rIBVドナープラスミド(配列番号9)を、プラスミドを線状化し、H52スパイクおよび隣接配列を取り除くために、H52スパイクコード配列に近接した制限部位EcoRV、PmlIおよびBlpIを使用して消化する。QIAquick gel extraction kit(Qiagen)を使用して、H52スパイクコード配列を含まないpUC57-s IBV H52骨格に相当するバンドを精製する。ArkDPI S Ecto L274C核酸コード配列および隣接する5’および3’IBV H52配列をQ5(登録商標)High-Fidelity DNA Polymerase(NEB、プライマーについては表11を参照)を使用する3回の別個のPCR反応において増幅する。PCR産物は、QIAquick gel extraction(Qiagen)により精製し、キットプロトコールにしたがってNEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Cloning Kit(NEB)を使用してGibson Assemblyに使用し、pUC57-s H52 rIBV ArkDPI S Ecto L274C(配列番号79)ドナープラスミドを作製する。
【0183】
【表11】
pUC57-s H52 rIBV ArkDPI S Ecto L274Cのアセンブリの成功は、BlpIおよびXhoIによるプラスミド制限消化により特定する。
【0184】
標的化RNA組換えおよび組換えIBVのレスキュー
H52 rIBV ArkDPI S Ecto L274Cのレスキューのために、LR7細胞をH52 mIBVによって感染させ、MssI線状化pUC57-s H52 rIBV ArkDPI S Ecto L274Cドナープラスミドから作製したin vitro転写物により電気穿孔し、次いで8日齢の胚含有SPF鶏卵(VALO BioMedia)に注射する。8日までのインキュベーション後、いくつかの卵の尿膜腔液を、MagMAX(商標)Core Nucleic Acid Purification Kit(ThermoFisher)およびKingFisher(商標)Duo Prime Purification System(ThermoFisher)によるRNA単離後に、Platinum(商標)Taq DNA Polymerase(ThermoFisher)を用いたSuperScript(商標)III One-Step RT-PCR Systemを使用して、組換えIBVのレスキューについて個別に分析した。ArkDPIスパイク配列に結合するプライマーPO1317およびPO633(表12)を、組換えウイルスのレスキューを特定するのに使用する。最高希釈のLR7細胞を接種した卵の陽性尿膜腔液(胚性死または陽性RT-PCR結果により定義される)を8日齢胚含有SPF卵のエンドポイント希釈に使用する。核酸単離は、上述のように行う。試料は、Callison et al. (J Virol Methods. 2006;138(1-2):60-5)から適応させたプロトコールにしたがって、RT-qPCRにより解析する。簡潔には、同一のプライマーおよびプローブを使用して、熱プロファイルを、TaqMan(登録商標)Fast Virus 1-Step Master Mix(ThermoFisher)およびStepOnePlusまたはABI7900 HT Fast Real-Time PCR Systems(ThermoFisher Scientific)の使用に適用させる。その後、好ましくは高希釈の1つの陽性試験尿膜腔液を8日齢胚含有SPF鶏卵における増殖のために使用する。尿膜腔液を、1xPBS中で1:100に希釈し、卵当たり100μlを注射し、これを次いで37.5℃および湿度60%でインキュベーションする。尿膜腔液を接種後、48時間において回収し、デブリを除き、-80℃において保存する。
【0185】
【0186】
組換えIBVのin vitro特徴付け
H52 rIBV ArkDPI S Ecto L274Cについての胚感染用量50%(EID50)および組織培養感染用量50%(TCID50)をH52 rIBV S F267Cについて記載されているように決定する。さらに、in vitro複製動態および継代をH52 rIBV S F267Cについて記載されているように行う。
H52 rIBV ArkDPI S Ecto L274Cが細胞中で複製できるかどうかを分析するために、EB66(登録商標)細胞に、1回目の継代の尿膜腔液ストックの1/10希釈および以後の継代の1/10または1/100希釈を接種する。ウイルスの増殖は、ウイルスRNAの単離および続くRT-qPCR解析により解析する。H52 rIBV ArkDPI S Ecto L274Cの複製は、感染直後の0時間のタイムポイント(21.09)と比較して、72時間のタイムポイント(11.59)について、平均ct値を低下させることにより、3回の継代後に明確に可視化できる。
【0187】
結論実施例4:前記データは、また、IBV ArkDPIスパイクの274位に対応するスパイクの267位(番号付けについての参照配列は配列番号1である)におけるシステインへの突然変異は、拡張された細胞または組織指向性をもたらすものであることを示している。さらに、システイン突然変異を有するスパイクの組織培養指向性は、同種の遺伝的背景に限定されておらず、これはArkDPI L274Cスパイク外部ドメインがH52遺伝的背景に挿入されており、H52 rIBV ArkDPI S Ecto L274Cが、細胞中において効率的に複製するためである。
【配列表】
【国際調査報告】