(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-11
(54)【発明の名称】粒子状炭素材料の臭気低減方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20220704BHJP
【FI】
C01B32/05
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549266
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(85)【翻訳文提出日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2020054636
(87)【国際公開番号】W WO2020169809
(87)【国際公開日】2020-08-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513191653
【氏名又は名称】サンコール インダストリーズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】SUNCOAL INDUSTRIES GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ヴィットマン、 トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ポドシュン、 ジェイコブ
(72)【発明者】
【氏名】シュマウクス、 ゲルド
(72)【発明者】
【氏名】ルエデル、 ウルフ
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC23B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD37
4G146BA32
4G146BC03
4G146BC23
4G146BC32A
4G146BC32B
4G146BC50
(57)【要約】
本発明は、粒子状炭素材料の臭気を低減するための方法、およびそれによって得られる材料、ならびにその使用に関する。
【選択図】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭気が低減された微粒子状炭素材料の製造方法であって、
液体に全部又は一部が溶解された出発原料の析出によって得られる微粒子状炭素材料が準備され、
該微粒子状炭素材料が、続いてガス雰囲気中で加熱されることによって第2のプロセス工程で処理され、それによって臭気低減微粒子状炭素材料が得られ、
第2のプロセス工程において、プロセス温度は、さらなる処理温度および/または利用温度よりも、最大で50℃低く、かつ最大で50℃高く、
前記プロセス温度が、最高温度を超えず、且つ最低温度を下回らない、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記さらなる処理温度が、少なくとも150℃で、かつ180℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記さらなる処理温度および/または利用温度が、第1の処理工程の温度未満であり、該処理温度が、第1の処理工程の温度を超えないことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のプロセス工程において、リグニン系出発材料の安定化は水熱炭化条件で行われ、前記第2のプロセス工程において、前記安定化の温度は水熱炭化条件で超過されないことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記微粒子状炭素材料は、前記第1の処理工程の後に少なくとも5m
2/gのBETを有することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のプロセス工程の間のBETの低下が30%未満であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
第2のプロセス工程において、臨界温度からプロセス温度へのpKMの加熱は、30℃/分未満の制御された加熱速度で行われることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記プロセス温度でのpKMの処理は、プロセス雰囲気下で行われることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記pKMが針葉樹ベースまたは広葉樹ベースである先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の方法によって得られる、臭気が低減された微粒子状炭素材料。
【請求項11】
少なくとも5m
2/gのBET表面積を有し、50 phrの臭気低減pKMを用いて加圧無加硫により得られたゴム物品の気孔率が、50 phrのリグノブーストリグニンを用いて加圧無加硫により得られたゴム物品の気孔率と比較して、50 phrのN550を用いて加圧無加硫により得られたゴム物品の気孔率よりも緻密であることを特徴とする請求項7に記載の臭気低減粒子状炭素物品。
【請求項12】
ジメチルスルフィドおよびグアヤコールの含有量が1mg/kg未満であることを特徴とする請求項7に記載の無臭微粒子状炭素材料。
【請求項13】
請求項7~9のいずれか1項に記載の、または請求項1~6に記載の方法によって得られる無臭微粒子状炭素材料の、ポリマーブレンド、特にエラストマーブレンド中の添加剤としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状炭素材料の臭気を低減するための方法、およびそれによって得られる材料、ならびにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子状炭素材料は、多くの用途分野で使用されている。これらは、黒色染料としての使用から、ポリマー、例えばエラストマー、熱可塑性プラスチックまたは熱可塑性エラストマーにおける充填剤としての使用までにわたる。このような炭素系材料は例えば、比較的高い炭素含有量を有するカーボンブラック材料であり得る。他の粒子状炭素材料は、再生可能な原料から得られる。このような粒子状炭素材料はカーボンブラックと比較してわずかに低い炭素含有量を有するが、高度の官能化のために興味深い特性を示す。再生可能な原料をベースとする微粒子状炭素材料の製造のための特に興味深い出発材料は、完全にまたは部分的に溶解することができる出発材料、例えば、糖、デンプンまたはリグニンである。再生可能な原材料をベースとするこのような完全にまたは部分的に溶解した出発材料は、沈殿プロセスによって微粒子状炭素材料に変換することができる。溶液中で粒子状炭素材料を製造するための沈殿プロセスは、当業者に十分に知られている。
【0003】
例えば、リグニン系微粒子状カーボン物質は、塩基(例えば、水酸化ナトリウム溶液)に溶解したリグニンから、酸性ガス(例えば、CO2またはH2S)の導入による沈殿によって、または酸H2SO4の添加によって得られる。この先行技術の例は、国際公開第2006/031175号パンフレット、国際公開第2006/038863号パンフレット、または国際公開第2009/104995号パンフレットに提示されている。
【0004】
さらに、リグニン系微粒子状炭素材料は、塩基例えば水酸化ナトリウム溶液に溶解したリグニンから、温度を、例えば水熱炭化条件まで上昇させることによって、同時に安定化させながら沈殿させることによって得ることができる。この先行技術の例は、WO 2016/020383またはWO 2017/085278に記載されている。
酸性ガスの導入による、酸の添加による、または温度上昇による沈殿の方法も組み合わせることができる。
【0005】
微粒子状炭素材料の製造において、特定のプロセスパラメータの適合は特に、得られるべき粒子サイズ(すなわち、一次粒子から構成される、得られるべき凝集体のサイズ)、ならびに表面パラメータ、特に、一次粒子サイズの尺度としても使用される比表面積の設定に影響を及ぼす可能性を開く。同じことは、例えば、BET測定またはSTSA測定などの表面積を測定する方法によって定量化することができる。この場合、BET測定は外面と内面の合計を決定し、一方、STSA決定は、単に外面を決定する。適切な測定方法は例えば、ASTM D 6556-14に示されている。
【0006】
一次粒子の平均サイズまたは比表面積の大きさは、粒子状炭素材料、例えば、粒子状炭素材料をエラストマーと配合し、続いて架橋することによって製造されるゴム物品を使用することによって製造される材料の特性に影響を及ぼすことが知られている。例えば、ゴム物品の摩耗挙動は、より高いまたはより低いBET表面積を有する粒子状炭素材料が使用されるかどうかに応じて異なる。引張強さなどの機械的性質についても同様の状況である。BET表面積の高い値は、高い引張強度値と低い摩耗と相関する。ここで、微粒子状カーボン材料を用いる場合、高品質のゴム物品を得るためには、比表面積が少なくとも5m2/g、好ましくは少なくとも8m2/g、より好ましくは少なくとも10m2/g、さらに好ましくは少なくとも15m2/g以上であることがしばしば要求される。
【0007】
しかしながら、例えば、再生可能な原料、特にリグニン系粒子状炭素材料に基づく全部または部分的に溶解した出発物質の沈殿によって得られる公知の粒子状炭素材料の欠点は、粒子状炭素材料自体から発散する不快な臭気であり、粒子状炭素材料の処理中に放出され、および/または粒子状炭素材料を含有する材料から発散する。これは、非常に興味深い粒子状炭素材料の潜在的な用途を厳しく制限する。
【0008】
リグニン系粒子状炭素材料の臭気低減方法は、従来技術において公知である。これらは一方では、例えば抽出法(WO 2013/101397)、酵素触媒反応(DE 10 2006 057566)、酸化性成分での処理と続いて洗浄(DE 10 1013 001678)によるリグニンの前精製、他方では例えば、黒液の処理、蒸発プロセス、還元剤もしくは酸化剤での処理、または塩素化反応ならびに高温処理によるリグニンの前精製に依存する。しかしながら、このような方法は比較的大量の材料の処理を必要とするか、または化学薬品の使用を必要とし、これは、設備の量および財政的支出の両方の点で不利である。
【0009】
したがって、粒子状炭素材料の工程中に放出される、および/または粒子状炭素材料を含有する材料から放出されるなど、粒子状炭素材料から放出される臭気を、さらなるプロセス化学薬品を使用することなく、好ましくは既に得られた粒子状炭素材料の工程によって、標的化された低減を可能にする方法を提供することが望ましい。このようにして、コストおよび設備の量を低減することができ、同時に、処理される材料の量がより少なくなる。しかしながら、このような方法の別の要件は臭気低減処理中に、比表面積のような微粒子状炭素材料の所望の特性が失われないことである。
【0010】
さらに、微粒子状炭素材料は既に貴重な製品であるので、材料損失は高すぎてはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、上記の粒子状炭素材料を提供するためのそのような方法を示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、請求項1に規定された方法および請求項7に規定された製品によって、ならびに請求項10に規定された使用によって達成される。本発明の好ましい実施形態およびさらなる態様は、さらなる特許請求の範囲および以下の詳細な説明に示される実施形態から生じる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による方法の一例の可能な温度プロファイルを概略的に示す図である。
【
図2】本発明の出発原料および熱処理された微粒子状炭素原料のBET表面積を、処理中に到達する最高温度に依存して示す図である。
【
図3-4】本発明の方法を実施する前後の、微粒子状炭素材料で製造された、圧力なしで加硫されたエラストマーコンパウンドの表面品質を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方法は、再生可能な原料に基づく出発原料から製造される微粒子状炭素材料の容易な臭気低減を可能にする。
【0015】
例えば、本発明による方法の特徴は、第1のプロセス工程において、微粒子状炭素材料(以下、pKM)が得られ、その臭気が第2のプロセス工程において低減され、それによって、臭気低減pKMが得られることである。このpKMは、例えば沈降リグニンであり得るが、pKM、特に水熱炭化に追加的に供されたリグニン系のものが好ましい。
【0016】
好ましくは、出発物質の全部または一部を液体に溶解することができる。より好ましくは、出発物質が50%を超える糖、デンプンまたはリグニンからなる。
【0017】
以下、第1のプロセス工程の好ましい実施形態について説明する。本発明において、この第1のプロセス工程が第2のプロセス工程の直前に実行されるかどうか、またはこの第1の工程が時間に関して第2の工程よりかなり前に実行されるかどうかは重要ではない(したがって、例えば、第1の工程からのpKMは、別々に生成され、次いで、第2の工程に供される前に格納される)。
【0018】
好ましくは、pKmが完全にまたは部分的に溶解した出発物質の沈殿によって、第1のプロセス工程において得られる。出発物質が50%を超えるリグニンからなる場合、pKMは好ましくは酸性ガスの導入により、および/または酸の添加により、および/または水熱炭化(HTC)条件での沈殿および同時安定化により、液体中に完全にまたは部分的に溶解したリグニンの沈殿によって得られる。
このような方法は当業者に公知であり、WO 2006/031175またはWO 2006/038863またはWO 2009/104995(沈殿)またはWO 2016/020383またはWO 2017/085278(沈殿および同時安定化)に記載されている。
第1のプロセス工程の後、pKMが少なくとも5m2/g、好ましくは少なくとも8m2/g、より好ましくは少なくとも10m2/g、さらに好ましくは少なくとも15m2/g以上のBET表面積を有することが好都合であることが判明した。有利には、BET表面積は200m2/g以下、好ましくは180m2/g以下である。
【0019】
有利には、pKMのBET表面積がそのSTSA表面積から最大20%、好ましくは最大15%、より好ましくは最大10%だけ逸脱する。したがって、pKMは多孔質でないことが好ましい。
【0020】
加えて、pKMは、好ましくは50~80質量%(質量%)、より好ましくは60~80未満質量%の炭素含有量(灰を含まない乾燥物質を基準にして)を示す。したがって、pKMは、その炭素含有量によってカーボンブラックとは異なる原料である。沈殿または安定化(例えば、HTC)と組み合わせた沈殿によってpKMを好ましくは生成すると、カーボンブラックと比較してより低い炭素含有量は同時に、高含有量の官能基が粒子上に存在することを確実にする。このことは、pKMのその後の使用に有利であり得る。
【0021】
第2のプロセス工程の好ましい実施形態は、以下でさらに説明される:
本発明によれば、pKMは、第2のプロセス工程において、ガス雰囲気中で臭気低減pKMに変換される。
【0022】
有利には、第2のプロセス工程が大気下ではなく、プロセス雰囲気下で行われる。
【0023】
プロセス雰囲気は、例えば、
- 15体積%未満、好ましくは10体積%未満、より好ましくは5体積%未満、特に好ましくは3体積%未満の酸素含有量を有する不活性ガスの手段によって富化された空気、および/または
- 500mbar未満、好ましくは200mbar未満、より好ましくは100 mbar未満の圧力を有する減圧空気、を意味すると理解される。
【0024】
有利には、不活性気体で富化された空気からなる処理雰囲気の酸素含量が少なくとも0.1体積%、好ましくは少なくとも0.5体積%、特に好ましくは少なくとも1体積%である。
【0025】
本発明の意味における適切な不活性ガスは特に、窒素、二酸化炭素、過熱水蒸気、または第2のプロセス工程中にpKMから放出されるガスである。第2のプロセス工程中にpKMから放出されるガスは例えば、一酸化炭素、水素なども含むが、本明細書では不活性ガスと呼ばれる。圧力はすでに上述したように、方法大気として不活性気体で富化された空気を使用する場合の可能性または要件に従って選択することができる。設備面では、周囲圧力または単にわずかに負圧または過剰な圧力、例えば±10 mbarでプロセスを実行するのが最も容易である。
【0026】
第2のプロセス工程は、好ましくは第2のプロセス工程におけるpKMの質量損失が20%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%以下であるように制御される(例えば、温度プロファイル、最高温度、プロセス雰囲気を選択することによって、任意に圧力を選択することによって)。臭気物質の含有量を減少させるために、本発明による方法の第2のプロセス工程の間に、一定の質量の損失が必要とされる。この質量損失は、通常、少なくとも1%以上、好ましくは少なくとも2%以上、場合によっては5%以上である。これにより、あまり多くの材料が失われないことが保証され、達成され、他方、所望の臭気低減が達成される。次いで、例えばエラストマーにおける充填剤としての使用のための処理されたpKMの適切性も保証することができる。
【0027】
第2のプロセス工程のプロセス雰囲気の選択にかかわらず、第2のプロセス工程におけるプロセス温度は最低温度を超えるべきであり、最高温度を超えてはならない。最高温度は300℃、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。最低温度は150℃、好ましくは160℃、より好ましくは170℃、場合によっては180℃である。pKMが第2のプロセス工程におけるプロセス温度でプロセス雰囲気中に保持される保持時間は、広い範囲にわたって選択することができる。好適な値は、1秒以上5時間以下である。好ましくは、保持時間は60分以下、より好ましくは30分以下、最も好ましくは15分以下、場合によっては10分未満である。
【0028】
好ましくは第2のプロセス工程のプロセス温度が50℃以下、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、特に好ましくは20℃以下、特に10℃以下であり、さらなる処理温度および/または利用温度を超えるが、最低温度未満ではなく、最高温度を超えないように選択される。
【0029】
好ましくは、第2のプロセス工程のプロセス温度がさらなる処理温度および/または利用温度よりも少なくとも50℃、好ましくは少なくとも40℃、より好ましくは少なくとも30℃、特に好ましくは少なくとも20℃、特に少なくとも10℃低いように選択される。
【0030】
さらなる処理温度は、臭気低減pKMが他の材料と混合された場合に生成物にさらに加工される温度であることを意味する。例えば、臭気低減pKMがゴムコンパ化合物に組み込まれる場合、さらなる処理温度は例えば、ゴムコンパ化合物が架橋される温度、例えば、硫黄架橋が使用される場合、150℃~180℃の間の温度であることを意味する。
【0031】
利用温度は、臭気低減pKMを含有する生成物が使用される温度であることを意味する。例えば、臭気を低減したpKMをEPDMベースの製品に使用する場合、利用温度は、例えば150℃以下である。例えば、臭気低減pKMをFKM系製品に用いる場合、利用温度は例えば、250℃以下である。
【0032】
さらなる処理温度および/または利用温度が第1の処理工程の温度未満である場合、処理温度は好ましくは第1の処理工程の温度を超えず、より好ましくは下回り、特に好ましくは少なくとも1℃下回り、さらに好ましくは少なくとも5℃下回る。
【0033】
好ましい実施形態では第1のプロセス工程におけるリグニン系出発材料の安定化が水熱炭化条件で行われ、第2のプロセス工程において、水熱炭化条件での安定化の温度は好ましくは超過されず、より好ましくは到達されず、特に好ましくは少なくとも1℃まで下がり、より好ましくは少なくとも5℃まで下がる。
【0034】
第2のプロセス工程において、pKMは、保持時間の間だけでなく、プロセス雰囲気下で処理され、加熱および冷却もプロセス雰囲気下で行われることが有利であることが証明されている。
【0035】
第2のプロセス工程を改善するための本質的な点は、加熱速度とプロセス温度との組み合わせである。一方、冷却速度は自由に選ぶことができる。好ましくは、臨界温度を超えるプロセス温度へのpKMの加熱が制御された方法でのみ行われる。臨界温度に達するまで、加熱速度は自由に選択することができる(すなわち、ここでは、例えば、加熱を非常に速くすることができる)。しかし、臨界温度からは加熱速度の制御が重要である。臨界温度を超える制御されていない加熱、特に望ましくない高い質量損失およびBET表面積の大きな損失では、不利な効果が生じることが示されている。臨界温度から30℃/分未満、特に20℃/分以下の加熱速度が特に有利であることが判明している。加熱速度の好ましい範囲は、5℃/分~10℃/分など、1℃/分~20℃/分の範囲である。処理の最高温度が250℃以上である場合、加熱速度がこの温度範囲、例えば0.1℃/分~5℃/分などで特に低い場合が好ましいことが判明した。
【0036】
臨界温度は、第1のプロセス工程においてどの出発物質がpKMに変換されたか、および第1のプロセス工程がどのように設計されたかによって異なる。臨界温度は、通常、80℃~250℃、より好ましくは100℃~230℃である。
pKMが第1のプロセス工程において針葉樹リグニンから、例えば、水熱炭化条件下での複合安定化を伴う沈殿によって得られる場合、第2のプロセス工程における臨界温度は、好ましくは150℃~230℃、より好ましくは180℃~220℃である。
【0037】
第1のプロセス工程におけるpKMが硬材リグニンから、例えば、水熱炭化条件下での複合安定化と組み合わせた沈殿によって得られた場合、第2のプロセス工程における臨界温度は、好ましくは130℃~200℃、より好ましくは140℃~180℃である。
【0038】
pKMが第1のプロセス工程において針葉樹リグニンから、例えば、水熱炭化条件下での安定化と組み合わせた沈殿によって得られた場合、第2のプロセス工程、例えば、250℃以下の最高処理温度で、約5m2/g以下のBET表面積の損失と同時に、単に10%以下の質量損失を達成することができる(すなわち、pKMが40m2/gのBET表面積を有する場合、それが最高の35m2/gまで低下する)。同時に、臭気試験は、不快な臭気の有意な減少を示した。この低下は臭気が低下したpKMで充填されたゴム物品の製造中、ならびに第2のプロセス工程を受けなかったpKMを有するものと比較して、ゴム物品について見出された(例えば、臭気が低下したpKMについて見出された)。
【0039】
したがって、本発明による方法は、所望の臭気最小化と、所望の材料特性の同時の広範な保存と、低質量損失との間の良好なバランスを達成することができる。プロセス化学薬品の使用も複雑な方法も必要ではない。また、本発明による処理の最高温度は比較的低い範囲にあり、これは、コストおよびプロセス制御の両方の点で有利である。
【0040】
このような処置を行うために使用される装置は、当業者に周知である。好ましくは、第2のプロセス工程がロータリーキルン中で、または流動床中で実施される。より好ましくは、第2のプロセス工程が、研削または分級(例えば、ガスジェットミル、ターボロータミルまたは空気分級機)、と組み合わせることができる。
【0041】
既に上述したように、本発明により得られるpKMは、好ましくはリグニンに基づいて得られ、好ましくは沈殿又は例えば水熱炭化条件での組み合わせ安定化による沈殿により得られ、このpKMは、ゴムコンパウンドに使用するために提案されている。本発明において、本発明に従って製造された臭気低減されたpKMは、特に所望のゴム物品が無圧加硫によって製造されるエラストマー化合物における使用に適していることが示された。ここで、先行技術に従って製造されたpKMを含有するゴム物品は、加硫中の臭気の発生および得られた加硫物の臭気を示すだけでなく、機械的性質を著しく低下させる望ましくない多孔率も示す。ここで、本発明による方法は、この欠点を克服することを可能にする。臭気の発現はおそらく、製品製造後の限られた期間の貯蔵によって許容可能なレベルまで減少され得るが、多孔率によって影響される製品では、原則として許容できない。これは、本発明の文脈においてさらに回避することができる。
【0042】
本発明において、本発明に従って製造された臭気低減pKMは極性または疎水性に関しても改変され、例えば、先行技術に従って製造されたpKMよりも疎水性または低極性エラストマー化合物における使用により適合性であることも示された。
【0043】
有利には、臭気低減微粒子状炭素材料が上述の方法によって得られる。したがって、本発明はまた、好ましくは本発明による方法によって得られる、臭気低減pKMを提供する。
【0044】
臭気低減pKMは例えば、以下の点で従来技術の材料とは異なる:
- 最低5m2/gのBETを有しており、
- 50phrの臭気低減されたpKMを使用することによって製造されたゴム物品の臭気は、50phrのリグノブーストリグニンを使用することによって製造されたゴム物品の臭気よりも、50 phrのN550を使用することによって製造されたゴム物品の臭気に匹敵する。
【0045】
好ましくは、臭気低減pKMは、1mg/kg以下、好ましくは0.5mg/kg以下、より好ましくは0.1mg/kg未満、さらに好ましくは0.05mg/kg未満、特に0.01mg/kg未満のジメチルスルフィド含有量を有する。
【0046】
好ましくは、臭気低減pKMは、0.1mg/kg以下、好ましくは0.05mg/kg以下、より好ましくは0.01mg/kg未満、さらに好ましくは0.005mg/kg未満、特に0.001mg/kg未満のグアヤコール含有量を有する。
【0047】
好ましくは、臭気低減pKMは、5mg/kg未満のナフタレン含有量(DIN EN 16181:2017-11/ドラフト)を有する。好ましくは、BGを除く18 EPA-PAK(DIN EN 16181:2017-11/ドラフト)の合計が5mg/kg未満である。好ましくは、ベンゾ(a)アントラセン、クリセン、ベンゾ(b)フルオロアンテン、ベンゾ(k)フルオロアンテン、ベンゾ(a)ピレン、インデノール(1,2,3-cd)ピレン、ジベンゾル(a,h)アントラセン、ベンゼン(ghi)ペリレン、ベンゾ(e)ピレンおよびベンゾ(j)フルオロアンテンの含有量は検出されない(<0.1mg/kg)(DIN EN 16181:2017-11/ドラフト)。
【0048】
臭気低減pKMは、例えば、先行技術の材料とは、以下の点で異なる:
- 5m2/g以上のBETを有し、
- 50phrの臭気を減少させたpKMを使用することによる無圧加硫によって製造されるゴム物品の多孔度は、50phrのリグノブーストリグニンを使用することによる無圧加硫によって製造されるゴム物品の多孔度と比較して、50phrのN550を使用することによる無圧加硫によって製造されるゴム物品の多孔度に匹敵する。
【0049】
臭気低減pKMは例えば、先行技術の材料とは、以下の点で異なる:
- 最低5m2/gのBETを有しており、
- クラーソンリグニン含有量が少なくとも90%であり、
- HS-GC/MSにおいて160℃で測定した不快臭に関連する物質、例えばジメチルジスルフィドの割合は、30%未満、好ましくは25%未満に減少している。
【実施例】
【0050】
実施例1
第1工程:
pKM (原料A)は、水熱炭化条件での安定化によって針葉樹リグニンから得た。
第2工程:
40m2/gのBET(ASTM D 6556-14に従って測定)を有する10kgの原料Aを、250℃で3時間、ドライキャビネット中で処理した。乾燥キャビネット中の酸素含有量は加熱中、保持時間中、および窒素ですすぐことによる冷却中に、10体積%未満に減少した。加熱速度は、150℃の温度から1K/分であった。30m2/gのBETを有する9.6kgの臭気低減pKM(原料B)が得られた。
原料Aおよび原料Bを、160℃でヘッドスペースGC/MSで測定した。以下の結果が得られた:
【0051】
【0052】
原料AおよびBは、硫黄含有化合物の低下にもかかわらず、それらの硫黄元素含有量において有意に異ならない。元素組成では、単に、本発明の方法に従って処理された原料Bの炭素含有量が増加した。原料Bは、また、固定炭素含有量の9%の増加を示した。
【0053】
【0054】
実施例2
40m2/gのBETを有する実施例1からの原料A(pKM)、30m2/gのBETを有する実施例1からの原料B(臭気低減pKM)、および30m2/gのBETを有する第3のpKM(原料C)を、充填剤としてSBRマトリクス中にブレンドした。加硫後、引張試験で応力‐歪曲線の経過を記録した。引張強さの結果を表yに示す。
【0055】
【0056】
エラストマ化合物への混合物の製造および加硫物の製造は、以下の手段方法により以下の配合に従って行った:
【0057】
【0058】
混合物は、以下の方法によって調製した:
混合物は、ハーケレオミックス3000測定混練機(接線ロータ形状)を用いて、70%の充満度で調製した。速度制御によって混合温度を一定に保った。混合時間は約20分であった。加硫は、160℃で、レオメーターで決定された最適t90時間+板厚1mm毎に1分に従って行った。
【0059】
実施例3:
40m2/gのBETを有する実施例1からの原料A(pKM)および30m2/gのBETを有する実施例1からの原料B(臭気低減pKM)を、充填剤としてEPDMマトリクス中にブレンドした。加硫後、引張試験で応力‐歪曲線の経過を記録した。結果を表xに示す:
【0060】
【0061】
【0062】
混合物は、以下の方法によって調製した:
混合物は、W&P TypeGK1.5Eミキサー(インターメッシュローター形状)を用いて、充填レベル70%、ミキサー温度40℃、速度40rpmで調製した。
【0063】
加硫は、レオメーターで決定された最適t90時間に従って160℃で焼成することによって行った。
【0064】
加圧なし加硫のために、厚さ6mmのコンパウンドスキンから、体積ダイカッターを用いて、2つの試験片を製造し加熱キャビネット中で160℃で30分間加硫した。収集後、1つの試験片を直ちに切り開き、臭気および多孔性について評価し、第2の試験片を切り開き、室温に冷却した後に評価した。
製造時の無圧加硫では材料が一般に、含有空気を大部分除去するダイス内の圧力に曝される押出プロセスを受けるので、実際の製造時の多孔率はこの実験室的方法で決定されたものよりもさらに低いと推定することができる。
原料Aを用いて製造されたゴム物品は、以下の多孔率を有していた。
原料Bを用いて製造されたゴム物品は、以下の多孔率を有していた。
【0065】
実施例4
第1工程:
pKM (原料D)は、水熱炭化条件での安定化によって針葉樹リグニンから得た。
【0066】
第2工程:
31.1m2/gのBETを有する原料Dを、種々の温度で本方法に供した。窒素をプロセス雰囲気として選択した。原料Dは、表に示す熱処理温度で処理した。加熱速度の制御なし(自然に)または臨界温度150℃から10K/10分の加熱速度で加熱を行った(150から 10K/10分)。さらに、臭気低減pKMのBETを示す。
【0067】
【0068】
この実施例は、加熱速度の制御なしの温度上昇がBETに有意な影響を及ぼすことなく、200℃の熱処理温度まで達成され得ることを示す。この実施例はさらに、加熱速度の制御に伴う温度上昇が、BETに有意な影響を及ぼすことなく、150℃の臨界温度から400℃の温度まで実施され得ることを示す。
【国際調査報告】